(4月ミャンマー旅行のヤンゴンで見かけたイスラムの葬列)
【課題解決の基礎になる国勢調査】
ミャンマーで31年ぶりの国勢調査が行われました。
****人口900万人少なかった=ミャンマー国勢調査****
ミャンマー政府は30日、今年3~4月に31年ぶりに実施した国勢調査の暫定結果を発表した。人口は5141万人余りで、従来の推計値より900万人程度少なかった。1983年の前回国勢調査では約3530万人だった。
ミャンマーの人口はこれまで83年の調査などに基づき推計約6000万人とされてきたが、AFP通信によると、キン・イー移民・人口問題相は推計値を下回ったのは、出生率の低下が原因である可能性を指摘した。【8月30日 時事】
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国連との合意を基に、資金的には国際支援を仰ぐことで実施が可能となったようです。
****ミャンマーで来年国勢調査=「問題は資金」―国連人口基金****
ミャンマーで1983年を最後に実施されていない国勢調査が30年以上の空白を経て2014年に行われる見通しとなった。
国連とミャンマー政府が最近、実施の方針で合意したものだが、来日した国連人口基金(UNFPA)のオショティメイン事務局長は31日、「問題は資金だ」と懸念が残っていることを訴えた。
国勢調査に必要な資金は5800万ドル(約58億円)。事務局長によると、英国やノルウェー、スイス、オーストラリアが一部の支援を表明しているが、まだ半分にも満たない。【2013年5月31日】
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【少数民族問題では出口も見えつつあるような・・・】
ミャンマーで国勢調査がこれまで実施されなかったのは、長年、国軍と少数民族武装勢力との内戦が続いてきたことなどが指摘されています。(今回もカチンなど一部紛争地域は戸別調査ができず、推計値となっているようです。)
ミャンマーには多くの少数民族・反政府武装勢力が存在しますので、政府との関係についてはそれぞれ濃淡がありますが、最近はおおむね収束の方向にあるようです。
****ミャンマー政府、連邦制導入で少数民族と合意****
ミャンマーで昨年11月から続く同国政府と少数民族勢力代表の停戦交渉で、少数民族側が最重要課題に掲げる「自治権を認める連邦制導入」について、ミャンマー政府が合意したことが16日、分かった。
交渉筋が明らかにした。ミャンマー全土での双方の停戦に向けた最大の懸案が解消された形で、早ければ9月中とされる停戦合意成立に向け、大きな進展となる。
交渉筋によると、政府と18の少数民族勢力の交渉代表が15日、ヤンゴン市内で協議。交渉の最大のネックだった少数民族側の要求を政府側が受け入れた。
自治の範囲や少数民族側の武装維持など、その他の課題は停戦合意後に協議するとし、双方とも停戦を優先させた。
政府側には、来年の総選挙を前に、民政移管後の同国最大の懸案とされた和平問題で前進をアピールする狙いもあるとみられる。【8月17日 読売】
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今回の国勢調査は、どの民族が何人存在するかを明らかにすることで、ミャンマーの抱える最大の課題のひとつである少数民族問題の基礎的数字を提供するものでもあります。
【深まる宗教対立】
少数民族問題が収束の方向にある一方で、近年ミャンマー社会を揺るがしているもうひとつの大きな課題である宗教対立の方は好転していません。
多数派である仏教徒と少数派イスラム教徒の衝突が、折に触れて噴き出すミャンマーですが、特に、西部ラカイン州のイスラム教徒ロヒンギャについては、そもそも彼らはバングラデシュからの不法移民であり、ミャンマー国民ではないとの仏教徒側の認識もあって、多くの犠牲者・難民を出す状況となっています。
****ミャンマー:ラカイン州避難民14万人、帰還めど立たず****
来日した国連世界食糧計画(WFP)ミャンマー事務所長のドム・スカルペリ氏(47)が毎日新聞のインタビューに応じ、仏教徒とイスラム教徒の対立が続く西部ラカイン州で避難民約14万人の帰還のめどが立っていないことを明らかにした。
スカルペリ氏は「互いの不信感を取り除くには今後も長い時間がかかる。避難民は焼かれた家を再建できていない」と話した。
同州では2012年6月以降、多数派の仏教徒と少数派のイスラム教徒・ロヒンギャ族の衝突が激化し、多数の死者が出ている。
スカルペリ氏によると、3月には州都シットウェにあるWFP事務所が襲撃されるなど治安が回復しておらず、政府による仲介も効果が出ていないという。
慢性的な栄養不良で成長が遅れている5歳未満の子供も多く、WFPは政府とともに食糧支援を強化する方針だ。
また北部カチン州では、昨年5月に政府と少数民族カチン族の武装組織「カチン独立軍(KIA)」が停戦に合意したが、スカルペリ氏は「まだ紛争は続いている」と述べた。
WFPは約5万人の避難民に食糧支援を行っており、政府は今年8月に改めて停戦合意できるように準備を進めているという。
日本は昨年、WFPミャンマー事務所の活動に20億円を拠出するなど最大の支援国で、スカルペリ氏は「日本の支援のおかげで我々の活動は成り立っている」と述べた。【7月4日 毎日】
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前出の連邦制導入合意にはカチン族も含まれているのでしょうか?
“3月には州都シットウェにあるWFP事務所が襲撃される・・・・”という背景には、後出記事にあるように、多数派仏教徒側の「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との強い反発があります。
【「ロヒンギャ族との回答は認めない」】
今回の国勢調査は、仏教徒側が「ロヒンギャはミャンマー国民ではない」とするロヒンギャ問題を刺激する形にもなっています。
****国勢調査、民族対立の火種 ミャンマーで約30年ぶり*****
ミャンマーで30日、約30年ぶりの国勢調査が始まった。
人口動向の正確な把握は経済発展に向けた政策立案に欠かせないが、民族問題を抱えるミャンマーでは調査自体が対立の火種になる危険をはらむ。西部ラカイン州では調査のあり方をめぐる暴動も起きている。
最大都市ヤンゴンでは30日、各地区で調査員を務める学校教師らが家々を回り始めた。国勢調査は政治的な混乱などで1983年を最後に途絶えた。(中略)
ただ、135の民族を抱えるとされるミャンマーでは、民族に関する調査をめぐり異論が絶えない。
一昨年、多数派の仏教徒ラカイン族とイスラム教徒ロヒンギャ族が衝突して約200人が死亡した西部ラカイン州。
州都シットウェーではロヒンギャ族の扱いをめぐり、ラカイン族の僧侶や住民による調査ボイコット運動が起きた。
運動を担うラカイン族住民組織のタントゥンさん(56)は「ロヒンギャという回答が調査票に残れば民族の存在を認めることにつながる」と主張。政府が同調しなければ国勢調査には応じないと訴えた。
■国際機関へ暴動も
シットウェー市内の店舗や住宅には、調査拒否の意思を示すために仏教徒の旗が掲げられた。
今月26日、国際NGOの米国人女性職員が団体事務所に掲げられたラカイン族の家主による仏教旗を外したところ、一部の住民が目撃。これを契機に国際援助機関に対する暴動に発展した。
翌27日も市中心部にある国際機関の事務所前には仏教旗を掲げた数十人の群衆が集結。別の組織の事務所の窓ガラスは投石によって大半が割られた。駆けつけた警官隊が排除に向けて威嚇射撃。情報省によるとラカイン族の少女(11)が被弾して死亡した。
国連やNGOの外国人職員61人、現地職員86人が警察施設やホテルに避難し、一部はチャーター機などでヤンゴンに退避した。
28日に事態は沈静化したが、ラカイン族による暴動の背景には「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との強い反発がある。
タントゥンさんによると、政府は30日、国勢調査について「ロヒンギャ族との回答は認めない」と約束、ラカイン族のボイコット運動は収束した。
これに関し、現地の英国大使館は「調査は公正かつ脅迫を受けずに、すべての人が参加できる形でなされるべきだ」との声明を出した。今後国際社会の批判が高まる可能性がある。【3月31日 朝日】
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「ロヒンギャ族との回答は認めない」・・・・5141万人余りという今回調査結果のなかで、ロヒンギャの人々はどのような扱いになっているのでしょうか?
このラカイン州の混乱に、テイン・セイン大統領は政府主導での解決に意欲を見せています。
****ミャンマー宗教対立、大統領が政府主導解決に意欲 ****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は3日、国民向けのラジオ演説で、西部ラカイン州での宗教対立について「地域の治安確保に私自身が努力する」と述べ、政府主導の解決に意欲を示した。
ラカイン州では2012年以降、仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族との武力衝突が続き200人以上が死亡している。
ラカイン州とバングラデシュとの国境でも緊張が高まっており、大統領は演説で「対立は国際問題にもなりかねない」と危機感をにじませた。
政府は6月、国軍幹部の少将をラカイン州首相に指名し事態の収拾に乗り出した。ミャンマーでは今月に入り、中部マンダレーでも仏教徒とイスラム教徒との衝突で死者が出ている。【7月3日 日経】
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しかし、ラカイン州のロヒンギャ問題については、まずロヒンギャの法的地位を明確にする必要があります。
大統領はかつてロヒンギャへの市民権付与を検討する旨を発言していたかと思いますが、その話はその後どうなったのでしょうか?
「ロヒンギャ族との回答は認めない」といった対応がまかりとおるのであれば、ロヒンギャをミャンマーから排除しない限り混乱は続きます。
ただ、ミャンマーを追われてもロヒンギャには行く場所がありません。バングラデシュも不法侵入者扱いですし、タイなど他の国々もロヒンギャの流入を拒否しています。
【憎悪に駆り立てられる人々】
ひとの心の中に存在する差別・不信感というものは消し去ることが難しく、ことあるごとに問題を引き起こします。
****ミャンマー:疑心暗鬼生む…火のないところに立つ煙?****
ミャンマーでは「火のないところに煙は立たぬ」ということわざは通用しない。根拠(火)のないところからでも、うわさが立つ。
◇宗教暴動…きっかけは「でっち上げのレイプ事件」
今月初め、中部マンダレーで仏教徒とイスラム教徒の住民が衝突する宗教暴動が再燃。今は情勢は沈静化したが、現地はなお夜間外出禁止令下にある。
発端はうわさだった。喫茶店に勤める仏教徒女性がイスラム教徒の経営者らにレイプされたというもので、事件がインターネット上に流れると、翌日の今月1日、武装した仏教徒の襲撃が始まった。
両教徒それぞれ1人が死亡、数十人が負傷し多数の住居や宗教施設が破壊された。
内務省は20日になって国営紙で「レイプ事件は(警察に告訴した女と背後の人物たちの)でっち上げだった」と発表した。
それによると、喫茶店に女性店員は存在しなかった。仏教徒の女が、喫茶店の経営者を恨む人物の誘いに乗り、報酬目当てに被害者を演じた。
事件はイスラム教徒を中心に十数人が登場する難解な構図で、発表内容には不可解な点が多い。仏教徒女性は通常イスラム教徒と結婚すれば改宗するが、被害者を演じた女は仏教徒だという。
イスラム教徒とみられる「主犯の男」は「逃亡」したが26日に隣国タイで拘束。ただ今も名前以外は何も分からない。
宗教暴動は軍政の重しが外れた「民主化」と共に噴き出した。異教徒への敵意をあおるうわさや言動が未成熟なメディア、規制の緩んだネットを通じて拡散し、憎悪をあおるという図式を繰り返す。
最初の宗教暴動は2012年6月、西部ラカイン州で起きた。その時も仏教徒女性へのレイプ事件が発端だった。イスラム教徒の「主犯の男」は逮捕後、刑務所で自殺したと発表された。
テインセイン大統領の指示で発足した調査委員会は、200人以上の死者と14万もの避難民を出した一連の暴動について精査はしたが、レイプ事件には触れなかった。
◇事件の情報すぐブログで拡散、騒乱の引き金に
今回のケースも核心部分が「闇」のままだという点では同じだ。
内務省は「女がレイプされた痕跡はなかった」と結論付けたが、当初、女の告訴はすぐにニュースサイト(ブログ)に載り、暴動への引き金を引いた。
その後ブログには当局者しか撮れないとみられる、暴動で落命したイスラム教徒の生々しい遺体写真が載り、騒乱に拍車をかけた。
宗教暴動は、大統領が警告するように「民主化にとって最大の脅威」だ。国軍が秩序回復のため出動し、全権が国軍に委譲される事態もあり得る。「民主化の逆行」を、少なからぬ国民が懸念する。
今回のレイプでっち上げは個人的な怨恨(えんこん)にとどまる事件だったのかもしれない。今のタイミングで暴動を起こす政治的な意図も判然としない。
だがブログへの事件のリークなど警察当局者の関与が疑われ、陰謀論を一笑に付すことはできない。
問題は、こうした不透明感が疑心暗鬼を生み、人々を憎悪に駆り立てていることだ。
来年後半に総選挙、大統領選挙を控え、その前哨戦として今年後半にも国会議員補欠選挙が予定される。
「政治の季節」に入り、宗教暴動が政治利用されないか、不安がかすめる。【7月30日 毎日】
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警察当局者も関与した陰謀かどうかはわかりませんが、仏教徒側にイスラム教徒への不信感を煽る勢力が存在することは、以前のブログでも何回か触れたところです。
彼らは、このままでは仏教国ミャンマーがイスラム教徒によって乗っ取られてしまう・・・・と主張しています。
通常「仏教国」と言われるミャンマーですが、イスラム教徒は言われている以上に相当に多いという話に驚いたこともあります。(前回調査では4%)
国勢調査結果で、イスラム教徒の数が予想以上に多い場合、仏教徒側の不安・憎悪を更に刺激するおそれもあるのでは・・・・。