(ケニア・ナイロビで結婚式を挙げるカップル(2013年9月3日撮影) 【3月29日 AFP】)
【「連れて帰った女性はみんな妻だ」「それが、アフリカだ」】
日本は、細部においては云々とか、その本質においては云々といった議論は別にして、大体において欧米的価値観を受け入れていますので、一夫一婦制についても殆ど議論はありません。
ただ、世界的に見ると、必ずしも全ての地域で受け入れられている訳でなく、アフリカやイスラム教地域などでは一夫多妻制も存在しています。
有名なところでは、南アフリカ・ズマ大統領は2年前に4人目の奥さんを迎えています。(現在何人お持ちなのかは知りません)
アフリカにおいてバランスのとれた経済発展と民主化の“優等生”とも評されていたケニアでは、一夫多妻制を合法化する議論が進んでいるそうです。
****ケニアで一夫多妻制法案を可決、男性議員が妻の拒否権削除****
ケニア議会は前週20日、女性議員らが憤怒し議場を後にする中、男性が希望するだけ多くの女性と結婚することを認める法案を可決した。
21日の報道によると、現行の結婚に関する法律を改定し、複婚に関する慣習法を正式に法制化した。最初に提出された改定案は、妻に夫の選択を拒否できる権利を付与していたが、男性議員らが超党派でこの条項の削除を推進した。
首都ナイロビのラジオ局、キャピタルFMによれば、ジュネット・モハメド議員は議会で「アフリカ女性と結婚するとき、その女性は第2の妻、第3の妻がやって来るつもりでいなければならない。それが、アフリカだ」と述べた。
アフリカの多くの地域と同様、ケニアでも伝統的な地域社会やイスラム教徒の社会では、一夫多妻制は一般的で、一夫多妻婚の比率は人口の5分の1を占めている。
現地紙デーリー・ネーションによると、ケニアの公正法務委員会のサミュエル・チェプコンガ委員長は「男性が女性を連れて家に帰れば、第2、第3の妻とみなされる。慣習法の下では自分の妻に、第2、第3の妻を連れて帰ることを知らせる必要はない。連れて帰った女性はみんな妻だ」と語った。
議会多数派の指導者でイスラム教徒のアデン・デュアレ議員は、一夫多妻制はイスラム教の信仰の一部だが「キリスト教徒の兄弟たちにも旧約聖書を見てほしい。ダビデ王やソロモン王は、第2の妻と結婚するのに誰にも相談などしていない」と聖書の逸話を引用し、キリスト教徒であっても妻に断らずに第2の妻を迎えられることを正当化した。
深夜の審議で激論が交わされた後、女性議員らは憤激し、議場を後にした。
キャピタルFMによると、女性議員のソイパン・チュヤ氏は議会で「男性たちが、言葉による女性の反撃を何よりも恐れていることを、私たちは分かっている」と述べた上で「けれど結局は、あなたがたが家長であれば、他の相手──それが2人でも3人でも──を連れてくる。であれば、せめて妻や子どもたちにそれを知らせることに同意するのは、男性としての義務だ」と主張した。
ケニアでは女性の複婚は認められていない。今後、法案の成立には大統領の署名が必要とされる。【3月24日 AFP】
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ケニアは宗教的には“プロテスタントが38%、ローマ・カトリックが28%、イスラム教が6%、伝統宗教が22%、その他が6%”【ウィキペディア】とキリスト教徒が多い国ですが、伝統的慣習として、特に複数の妻を養える富裕層の間で一夫多妻制が存在しているそうです。
一夫多妻制は、社会の生産力が低く、特に社会進出が制約されている女性が自立して生活していくことが困難であった時代を背景としたもので、やがては一夫一婦制へ、更に言えば、将来的には婚姻制度の意義も薄れ“個人”を中心とした社会に変化していくのでは・・・・と、私個人としては思っています。
それはともかく、署名を迫られている大統領もキリスト教的価値観とアフリカ的価値観のはざまで難しい立場にあるようです。
****ジレンマもたらす一夫多妻制法案、ケニア****
ケニアでは今月、議会が一夫多妻制を合法化する法案を可決したことを受けて、現代的な価値観やキリスト教の信仰と慣習がぶつかり、激しい論争が巻き起こっている。
法案の反対派は、キリスト教徒が大多数を占める同国の家族観を脅かすと訴え、また女性議員らは女性の権利を脅かしているとして、ウフル・ケニヤッタ大統領に対し法案に署名しないよう働き掛けている。
先週の決議の際、抗議のため議場を後にした多くの女性議員らの一人は、男性議員らのあからさまな性差別を非難し、「大統領には、署名して法案を成立させてしまうのではなく、議会に差し戻すよう促したい」と語った。
これに対し賛成派は、法案はケニアの多くの地域で今も多くみられる一夫多妻の慣習を単に成文化するにすぎないと主張している。同国の日刊紙スタンダードによると、特に複数の妻を養える富裕層の間で一夫多妻制が普及しており、180万人の女性と70万人の男性が一夫多妻関係にあると推定されるという。
ある一般の27歳の大卒女性は、法律がどうであれ、大半のケニアの女性は夫が他(の女性)にも目を向けることを受け入れている、「そんなに気にしてはいない。(一夫多妻制が)合法化されようとされまいと、ケニアの男性はどうせ2人以上の女性と法的であろうとなかろうと結婚するのだから」と語った。
ケニヤッタ大統領はこれまでのところ、この問題について自身の立場を表明することは拒否している。同大統領は自らもキリスト教徒で、その信仰とアフリカ的価値を支持する気持ちの板挟みで難しい選択を迫られることになる。【3月29日 AFP】
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【ICCはアフリカを標的にしている】
ケニヤッタ大統領は現在、欧米的「民主主義」を代弁する国際刑事裁判所(ICC)によって訴追を受ける身です。
キリスト教的価値観はともかく、欧米的スタンダードというところには反発もあるのかも。
欧米諸国から“優等生”と見られていたケニアですが、やや評価を落としたのは、2007年の大統領選直後の暴動でした。
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07年12月の大統領選では一騎打ちとなったキバキ大統領とオディンガ首相の両陣営が対立。「不正選挙」を主張したオディンガ氏支持派がキバキ大統領の出身民族を襲撃するなどして暴動が起き、1200人以上が死亡、50万人以上が国内避難民となった。
両派は、国連の仲介で08年4月にオディンガ氏を新設の首相ポストにすえた連立政権を発足させた。ケニア政府はその後、「真実正義和解委員会」を設置して調査を行い、暴動に関与した疑いがある約20人の人物リストを作成。調査結果は国際刑事裁判所(ICC)に渡され、判断が委ねられていた。【2010年12月16日 毎日】
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当初はオディンガ氏の大差リードが伝えられていましたが、最終的にキバキ大統領の逆転勝利が発表された経緯もあって、選挙後の一連の暴動では、オディンガ氏支持のルオ人やカレンジン人が、キバキ大統領の出身部族キクユ人の住民を襲うことが多かったのですが、ナイバシャ、ナクル両都市の暴動では、ナタなどで武装したキクユ人がルオ人を襲撃。これに怒った別の都市キスムのルオ人が暴徒化するなど、報復の連鎖が全土に広がりました。
キクユ人で初代大統領ジョモ・ケニヤッタ氏の息子でもあるケニヤッタ氏はこの選挙ではキバキ大統領を支持し、08年の大連立内閣では副首相に就任、その後2013年3月の大統領選では、第一回投票でオディンガ氏を僅差で下して当選しています。
しかし、オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)検察局は2010年12月、07年末のケニア大統領選後に発生した暴動を首謀し「人道に対する罪」を犯したとして、ケニヤッタ副首相兼財務相(当時)ら同国現職閣僚を含む6人の召喚状発行をICC裁判部に請求しました。
このため、現職大統領がICCから訴追される事態になっています。
2013年9月には、ケニヤッタ氏と同様に訴追されたルト現副大統領の公判が開始しています。
当然にケニヤッタ氏などは無罪を主張していますが、アフリカ諸国においても“アフリカだけを標的にしている”とのICCの対応への不満もあります。
****安保理:ケニア正副大統領の決議案、ICC審理延期廃案に****
国連安全保障理事会は(2013年11月)15日、ケニアの正副大統領に対する国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の審理延期を求める決議案の採決を行ったが、賛成7、棄権8で採択に必要な賛成9に達せず、廃案となった。
アフリカ諸国はICCがアフリカを標的にしていると批判しており、廃案を受けて改めて反発を強めている。
ICCに関するローマ条約により、安保理は訴追手続きの1年間延期を決定できる。2007年の大統領選直後の暴動を巡り、ICCはケニアのケニヤッタ大統領とルト副大統領を「人道に対する罪」で訴追しており、今回の決議案は非常任理事国のルワンダが主導した。
ルワンダのガサナ国連大使は採決後、「安保理がケニアとアフリカを見捨てた日と歴史上に書きとどめよう」と発言した。常任理事国の対応も分かれ、中露が賛成、米英仏は棄権にまわった。
03年の開設以来、ICCによる訴追20件はすべてアフリカが対象となっている。【2013年11月16日 毎日】
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ケニヤッタ大統領はICCに最大限協力するとは言っていましたが、実際のところは・・・・。
ケニヤッタ大統領の公判は実施が難しい状況になっています。
****ケニア大統領:公判延期へ 脅迫で証人が証言取りやめ****
国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)が現職大統領を裁く初のケースとして注目されていたケニヤッタ・ケニア大統領(52)の2月の公判が無期限に延長される公算が大きくなっている。
刑事裁は近く、主任検察官の要請で延長を認める見通しだが、事実上の訴追中断になると危惧されている。脅迫などで証人が証言を取りやめたのが原因で、物証集めも難航。外部で一国の首脳を裁こうという国際刑事裁の限界が表れたとも言えそうだ。
捜査にあたるベンスダ主任検察官は先月19日に公判延期を刑事裁に要請した。重要な証人の一人が昨年、証言拒否の意向を伝えていた。また、昨年12月には別の証人が偽証したことを告白。主任検察官は「公判を維持する証拠が不十分で時間が必要だ」と述べた。
大統領支持派による証人への脅迫は常態化していると言われ、証言拒否につながった可能性がある。刑事裁は昨年8月、証人に賄賂を渡し証言をやめさせようとしたケニアの男に逮捕状を出した。
大統領の公判は元々、昨年11月だったが、9月に発生したテロ事件などに配慮して今年2月に延期。今回は無期限延期になる。報道によると、公判が可能だとしても今年5月以降になる見通し。
刑事裁は、ケニヤッタ大統領とともに起訴され、昨年9月から公判が始まったルト副大統領のケースは予定通り13日から公判を再開する。
主任検察官は「ケニアのケースを訴追する意思は強固だ」としている。主任検察官は延期期間中、再出廷するよう証人を説得するほか、新たな証拠獲得に向け捜査する。
しかし、検察官が求めているケニヤッタ大統領らの資産情報の提供をケニアが拒否するなど物証集めも難航しているのが実情だ。
ケニヤッタ大統領の支持派は、公判延期要請を歓迎し公判中止を求めている。
これに対して、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「深い困惑」を表明。被害者団体はケニア政府が国際刑事裁に非協力的な態度を取っていると非難し、証人に頼り過ぎず、携帯電話の通話記録など、物証を重視するよう主任検察官に求めた。
ケニアでは2007年の大統領選後の暴動で1000人以上が死亡。当時、政党幹部だったケニヤッタ大統領とルト副大統領が暴動を指揮したとして主任検察官は人道に対する罪などで、12年1月に両者を起訴した。【1月9日 毎日】
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ケニヤッタ大統領本人がICCに反発するのは当然として、アフリカ諸国には欧米的価値観を反映したICCが、その価値観を上から目線でアフリカに押し付けている・・・という不満・反発もあるように思えます。
冒頭の一夫多妻制をめぐる議論も、背景に欧米的価値観への反発といったものがあるのでは・・・とも思われます。
【クジラの話】
ついでに、日本的価値観と世界標準のとかい離を示す話題。
****日本の調査捕鯨は条約違反 国際司法裁判所****
反捕鯨国のオーストラリアが、日本による南極海での調査捕鯨は国際捕鯨取締条約に違反するとして中止を求めた訴訟で、国際司法裁判所(オランダ・ハーグ)のトムカ裁判長は31日、日本の調査捕鯨は「研究目的ではない」と述べ、条約違反と認定、今後実施しないよう命じた。
国際司法裁判所は一審制で控訴は認められておらず、日本は判決に従う考え。1987年から続けてきた南極海での調査捕鯨は中止に追い込まれる見込みだ。【3月31日 産経】
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何を食べて、何を食べないかは、その国の文化であると思いますし、牛・豚を殺すのは問題ないが、クジラはかわいそう・・・という議論もいかがなものかとは思います。
それを“野蛮”だなんだと言われると・・・アフリカの気持ちの少し似ているかも。
ただ、現在ほとんどの日本人はクジラを食べていませんので、あまりこの問題で意固地になる必要もないのでは・・・多くの国が止めてほしいと言うのであれば止めてもいいのでは・・・とも思っています。
給食のクジラは美味しくなかったし・・・。