孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  イラン核問題を最重視するネタニヤフ首相、オバマ大統領とも意見の違い

2009-05-31 13:06:50 | 国際情勢

(2002年 ロマン・ポランスキー監督 「戦場のピアニスト」
“flickr”より By elycefeliz
http://www.flickr.com/photos/elycefeliz/2657685261/)

【入植活動を継続】
3月31日に右派リクードのネタニヤフ元首相を首相とする、そして極右政党わが家イスラエルのリーベルマン党首を外相とする新内閣が成立した時点で予想されたことではありますが、イスラエルの中東和平に対する頑なで消極的な対応がやはり目に付きます。

5月21日、ネタニヤフ首相は、エルサレムは「イスラエルの永遠の首都で、決して分割しない」と強調、「イスラエルが全体を統治してこそ、3宗教(ユダヤ、キリスト、イスラム各教)の聖地への自由な行き来を保障できる」とエルサレム分割反対の強硬姿勢を改めて示しました。【5月22日 時事】

5月24日、リーベルマン外相は、パレスチナ自治政府が求めるヨルダン川西岸全域からの撤退について、「われわれは(ヨルダン川西岸などを占領下に置いた第3次中東戦争以前の)1967年の境界まで戻るべきと圧力を掛けられているが、これは紛争終結につながらない」としてこれを拒否、撤退すれば占領地以外のイスラエル領内も危険にさらされるとの認識を示しました。【5月24日 時事】

同じ24日、ネタニヤフ首相は、米国が中止を求めているヨルダン川西岸への入植活動を続ける意向を示しました。首相は、3月31日の首相再任以来初めて「パレスチナ国家」に言及しましたが、国際社会が中東和平を進める上で不可欠だとしているこの原則への支持表明にまでは踏み込みませんでした。【5月25日 AFP】

【「両国の歴史上、最大の意見の不一致」】
ネタニヤフ首相は5月18日、オバマ米大統領との初の会談を行いました。
オバマ大統領はイランの核開発問題で年末までに交渉進展を見極める意向を表明、ネタニヤフ首相もパレスチナとの和平交渉を「直ちに開始したい」と述べるなど、お互いの立場に配慮した形は示しましたが、両者の隔たりは埋められませんでした。

オバマ大統領は「この機会をとらえない理由はない」と、「2国家共存」案の受け入れを迫り、同時に「難しいが重要な問題」として、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地の建設中止も求めましたが、ネタニヤフ首相はパレスチナ国家の樹立については明言を避けました。
ネタニヤフ首相は、パレスチナ和平交渉よりイランの核問題を重視しており、国内政治の混乱もあって、支持基盤である右派陣営の「立場」を貫く必要性に迫られてもいたと報じられています。

****イスラエル:ネタニヤフ首相、イランの核を優先する姿勢****
「私は『2国家』とは言っていない」。
ロイター通信によると、ネタニヤフ首相は和平交渉を巡る会談内容について、自国の記者団にこう強調した。オバマ大統領は記者会見でイスラエル、パレスチナの「2国家共存」を改めて支持したが、首相は「パレスチナ人が自ら統治し、彼らと平和に暮らしたい」と述べるにとどめ、「国家」をあいまいにした。
イランの核問題を最重視するネタニヤフ政権は、パレスチナ問題を中東安定の要とするオバマ政権のように、交渉進展を優先していない。ネタニヤフ首相は最近、国防費削減などを盛り込んだ予算案をいったん提示しながら、政権内の猛反発に遭って撤回。「圧力に弱い」などと非難を浴び、右派陣営には「和平問題でも妥協するのではないか」との懸念が芽生えていた。【5月19日 毎日】
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イスラエルが懸念するイラン核問題については、
“オバマ大統領はイスラエルが求めた交渉期限の設定はしなかったものの「永遠に話し合うことはない」とも述べ、年末までを区切りとする考えを示した。さらに「イランが協議継続を言い訳に行動を起こさない状況にはしない」と述べ、制裁強化に踏み切る可能性も示した。
ネタニヤフ首相は「すべての選択肢がある、との大統領の声明を歓迎する」と述べ、核施設攻撃という軍事的手段も排除していないとの考えを示した。もっとも大統領自身は「さまざまな措置」とは述べたが、ブッシュ前政権時代の常套句ともなった「すべての選択肢」との文言は使っておらず、核施設攻撃には慎重な構えを崩していない。交渉進展をどう定義するかも詰まっておらず、交渉の行方によっては両者の軋轢(あつれき)が深まることも予想される。”【5月20日 産経】と報じられています。

オバマ政権は、パレスチナ国家建設に向けた実質的努力をすることが、イランに対して国際的影響力を持つ最善のの方法と考えています。
また、アメリカ国内では、イランが核兵器を持たないことを明らかにして、その厳格な査察が可能なら、民間レベルでのウラン濃縮については認めてもいい・・・といった考え方も出てきています。(米上院外交委員会報告書)
いかなる形でのウラン濃縮も認めないイスラエルと、この点でも隔たりが生まれています。
こうしたパレスチナ国家、イラン核問題に関して、「両国の歴史上、最大の意見の不一致」が起こる可能性あるとも言われています。【6月3日号 Newsweek日本語版より】

【オバマ大統領 中東和平構想】
オバマ米大統領は28日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会談。
大統領は会談後、記者団に対し、イスラエルは2003年の中東和平案(ロードマップ)に基づき「入植地建設を中止する義務」があると強調。入植地拡大をやめるよう要求しました。
また、「停滞する和平交渉を軌道に戻さなければならない。私は(イスラエルとパレスチナ国家の)『2国家共存』を強く信じている」と強調。そのためには「双方が履行義務を果たさなければならない」と指摘しています。

オバマ大統領はイスラエルと周辺アラブ諸国の関係正常化を図り、中東地域の包括和平を進めたい意向とされ、6月4日のエジプト訪問時に、自らの中東和平構想を明らかにする方針だとされています。

【「戦場のピアニスト」】
先日、TVで放映されていた映画「戦場のピアニスト」を観ました。
ナチス・ドイツの迫害によって死へ追いやられる多数のポーランドのユダヤ人、その過酷な運命のなかで奇跡的に生き延びたピアニストの体験を映画化したものです。
ユダヤ人であるというだけで“無意味”に殺されていく理不尽な悲劇に、改めて、イスラエルが自国の存立を危うくするものに頑なまでにこだわる思いも少し感じるところがありました。

ただ、陳腐な言い方ではありますが、憎しみ・不信・敵愾心からは決して安心も平和も生まれないというのは事実でしょう。
多くのアラブ国家に囲まれたイスラエルが恒久的に安全に存続しうる唯一の道は、憎しみの連鎖を断ち切り、信頼の関係を築くことにしかないように思えます。

映画では、主人公の命を救ったのはユダヤ人同胞から憎まれ恐れらていたユダヤ人警察官であり、ナチス将校でした。
数多いホロコーストを扱った映画のなかで、この映画が多くの人から高い評価を得たのは、ユダヤ人=被害者、ユダヤ人対異民族という画一的な図式から抜け出していたからのように思えます。

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台湾  加速する中台関係緊密化の流れ

2009-05-30 10:54:57 | 国際情勢

(カナダ建国100周年を記念して1967年に開催されたモントリオール万博の台湾パビリオン “Republic of China”として参加、晴天白日旗が掲げられています。
国連総会で、アルバニア提案の「国府追放、北京政府招請」案(アルバニア決議)が可決され、「中国」の代表権を喪失したのが71年。台湾は国連から“脱退”しました。
台湾は、来年の上海万博に“台北世界貿易センター”として台湾館を出すそうです。
“flickr”より By jiadoldol
http://www.flickr.com/photos/jiadoldol/109956829/)

【緊張する朝鮮半島】
東アジアは朝鮮半島と中台関係という、ふたつの不安定要素を抱えていますが、朝鮮半島事情は北朝鮮の核実験強行によって緊張が高まっています。

韓国は、3月の北朝鮮ミサイル発射を受けて「大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)」への全面参加を内定していましたが、その後正式手続きは見送ってきていました。
PSIは03年にブッシュ米前大統領の提唱で発足。航空機や船舶の臨検、輸出管理体制などの協力強化を目指しており、日本も加わっています。
PSIを主導する米国は、06年に北朝鮮が核実験を実施した後、韓国に正式参加を求めていましたが、韓国は南北関係に配慮し、合同訓練への参観団派遣など部分参加にとどめていました。

そして今回、盧武鉉前大統領自殺で揺れるなか、PSI全面参加を正式決定しました。
北朝鮮はこれに「宣戦布告とみなす」と反発。「わが軍隊はこれ以上、休戦協定の拘束を受けない。朝鮮半島は戦争状態に戻り、わが革命武力は軍事行動に移ることになる」と、敵対行為があれば軍事攻撃も辞さないとする声明を発表し、局地的衝突も懸念される緊張状態になっています。

また、北朝鮮は25日の核実験以降6発の短距離ミサイルを発射していますが、長距離ミサイル発射も準備していると報じられています。

****北朝鮮、長距離ミサイル発射準備か CNN報道****
米CNNテレビは29日、複数の米国防総省筋の話として、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射準備をしている可能性があると伝えた。米国の偵察衛星が、北朝鮮の弾道ミサイル発射場で「車両の動き」を撮影したという。こうした動きは、北朝鮮が4月にテポドン2の改良型と見られる長距離弾道ミサイルを発射したときと類似している、としている。【5月30日 朝日】
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【「台湾の地位は未確定】】
緊張する朝鮮半島とは逆に、中台関係のほうは関係改善を加速させています。
台湾の地位という根本的政治問題には触れずに、経済的関係強化のみを差し当たり目ざすのが台湾・馬政権の方針ですが、今月はじめには、日本の交流協会台北事務所の斎藤正樹代表が行った「台湾の地位は未確定」という発言が波紋を広げました。

****台湾の世論真っ二つ 日本代表「地位未確定」発言*****
日本政府の台湾窓口、交流協会台北事務所の斎藤正樹代表(大使に相当)の「日本がサンフランシスコ平和条約で台湾の領有権を放棄した後、台湾の地位は未確定」との発言が波紋を広げている。与党・国民党から解任要求が出る一方、野党・民進党は斎藤代表の擁護に回るなど、世論を二つに割る事態に発展している。
「52年の日華平和条約で、台湾の主権が中華民国(台湾)に戻った事実はすでに確認されている」。馬英九(マー・インチウ)総統は5日、斎藤代表の発言に総統として初めて反論した。
「台湾は中華民国の一部」という前提に立ち、斎藤発言を問題視した馬政権と国民党に対し、台湾の独自性をうたう民進党にとって「台湾の地位未定論」は逆に好ましい主張だ。斎藤代表の発言は台湾の与野党に格好のケンカの材料を与えた形になった。
4日、国民党議員団は斎藤代表を「歓迎されざる人物」と認定するよう馬政権に要求する決議を採択。一方、民進党議員は5日に外交部に陳情に押しかけ「斎藤発言は正しい」と訴えた。新聞の投書欄では連日、賛否両論が多数掲載されている。
中国外務省の馬朝旭報道局長も5日、「台湾は中国の不可分の領土で、帰属未定論は絶対受け入れられない」と述べて台湾での論争に「参戦」。日本政府に申し入れを行ったことを明らかにした。
日本が統治した台湾の戦後帰属は一切語らないというのが日本政府の伝統的立場だ。その意味で「地位未確定」と断定的に語った斎藤代表の発言は勇み足だった。反響の大きさから斎藤代表は馬総統と同席する予定だった8日の式典出席を取り消すなど、対外的な活動を当面控える方針だ。【5月6日 朝日】
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どいう思惑での発言なのか、敢えて問題を惹起しようとの確信犯的発言なのかはわかりません。
もちろん、“正論”として評価する向きもあるでしょう。

立場によっていろんな解釈がある問題ですが、それはともかく、台湾内には、中国への傾斜を加速させる現状に危機感を感じる野党・民進党を中心とする人々も多く、民進党は5月17日、対中融和政策に抗議する大規模なデモ(主催者発表の参加者は約60万人)を台北と台湾南部の高雄で行いました。
民進党の蔡英文主席は「馬英九政権は台湾の経済を主権と引き換えにしている。台湾の運命と未来は中国の手に握られている」と中台関係の急速な接近に警鐘を鳴らしています。【5月17日 毎日】

【加速する中台接近】
しかし、中台接近の動きは止まらないのが実情です。
中国江蘇省南京で4月26日に行われた中国と台湾の窓口機関トップによる会談は、中台直行チャーター便の定期便化や金融監督メカニズムの設立などで合意しました。
台湾・故宮博物院の参観者も、3月、台湾人を除き長年最多を誇ってきた日本人を初めて中国人が抜き、観光面でも中国傾斜を印象づけました。【4月28日 毎日】

5月には、台湾が長年求めていたWHO総会オブザーバー参加が38年ぶりに実現しました。
これまで台湾の参加に反対していた中国が、容認する方向に転換したことによる実現です。
参加名称が「中華民国」「台湾」ではなく、主権問題を棚上げする形の「中華台北」となったことについては、馬英九総統は「妥協の結果であり、最善の選択ではない」とする一方、「今回は貴重な機会だ。参加しなければ(国際社会から)排除され続ける」と指摘しています。【5月20日 毎日】

中国・上海で10年5月に開幕する「上海万博」に、台湾が「台北世界貿易センター」の名義でパビリオン「台湾館」を出展する見通しとなっています。万博事務局がパビリオン出展を正式招待し、台湾側がこれに応じたとのこと。台湾が万博に正式に招かれたのは、日本と台湾に外交関係があった1970年に開かれた大阪万博以来、40年ぶりとなります。【5月25日 産経】

中国との関係改善を追い風にアジア圏をターゲットにした国際ハブ空港の建設構想も、台湾で本格化しています。
“既存の台湾桃園国際空港を大幅拡張して関税などで優遇される自由貿易地域(FTZ)に指定し、部品の集結、製品化、受発注、出荷までを空港で完結させる「航空都市」の建設だ。アジア経済圏のほぼ中心に位置する台湾ならではの構想だが、成功には中国の巨大市場との一層の結びつきが不可欠。こうした“中国依存”を不安視する向きもあり、台湾世論は対中傾斜の是非で揺れている。【5月30日 産経】


【「互いに否定しあわない方向に向かっている」】
こうした流れを総括する形で、就任1年を迎えた馬英九総統は20日、台北の総統府で海外メディアと会見し、経済を中心に深まる中台関係について「緊密化は避けられない」と述べ、更に関係を強化する方針を示しています。
また、中台関係が「互いに否定しあわない方向に向かっている」と変化を指摘。「一方的な統一の押し付け」が見られなくなった中国の柔軟姿勢を評価しました。【5月20日 毎日】

統一問題については、「今後も経済に重点を置き、1期目も(仮に当選した場合)2期目も統一を話し合うつもりはない」と断言しています。【5月20日 時事】
ただ、「もし、再選されれば(恒久的な平和への合意に向けて)協議する可能性も排除しない」として、将来的に中国との交渉が安全保障分野に拡大する可能性も否定しなかったそうです。【5月21日 産経】
台湾の帰属問題にも言及して、馬総統は「(国際法上も)台湾は中華民国の一部であり、台湾の主権は中華民国にある」と強調。「台湾の児童がこうした認識を学習することを望む」と話し、帰属問題を学校教育の場でより明確に学習させていく考えを示しています。【5月21日 産経】

台湾・馬政権の思惑どおりに進むかは中国の考えにもよります。
中国は、野党・民進党の穏健派取り込みを図っているとの動きもあるようです。

****中国 民進党の分断狙う? 穏健派重鎮を熱烈歓迎****
台湾の野党・民進党の重鎮で、高雄市長の陳菊氏が21日から中国を訪問、陳氏の動向を22日付の中国各紙は大きく報じた。長く対立してきた中国当局と民進党だが、同党最高幹部クラスの初訪問に際し、中国側は入国手続きを免除するなど異例の待遇で迎えた。陳氏は民進党の中では穏健派とされており、中国側には同派を取り込むことで民進党勢力を分断させたいとの政治的思惑があるようだ。【5月23日 産経】
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今回、中国側は台湾側の事情に配慮して、政治的な話題に一切触れない対応をしたそうですが、こうした配慮がいつまで続くか・・・。
一定に経済依存が深まると、中国側が敢えて政治問題を正面に出さずとも、中国の意向に台湾側が配慮せざるを得ないといった関係も生まれてきます。
巨大な引力を持つ中国への接近については、ある程度そうした“覚悟”が必要とも思えます。



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北朝鮮核実験  安保理の制裁決議案、ロシアが日米案支持

2009-05-29 22:21:50 | 国際情勢

(北朝鮮核実験による地震波を説明する韓国係官
韓国は「大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)」への全面参加を決定、これに北朝鮮は「宣戦布告とみなす」と反発、局地的衝突も懸念される緊張状態になっています。
“flickr”より By kotaji
http://www.flickr.com/photos/kotaji/3565668693/)

【制裁決議日米案】
北朝鮮が今月25日に、06年10月に続く2度目の核実験を実施したことに対し、国連安全保障理事会での制裁決議の検討が行われています。

****対北「銀行取引禁止」など5項目…安保理新決議で米提案****
北朝鮮の核実験に対する国連安全保障理事会の新たな制裁決議案に、米国が、北朝鮮との銀行取引禁止や融資、援助の禁止などの金融制裁を盛り込むよう提案していたことが、27日、明らかになった。
外交筋によると、米国は26日の安保理常任理事国に日韓を加えた7か国の大使級会合で、新決議案に加えるべき要素として、〈1〉武器禁輸〈2〉北朝鮮船舶などの貨物検査の義務化〈3〉貨物検査の実施状況の報告〈4〉北朝鮮との銀行取引禁止〈5〉人道目的を除く融資、無償援助の禁止--の5項目を提案した。

日本政府も独自の制裁決議草案をまとめた。関係筋によると、草案は、2006年の核実験後に採択された制裁決議1718の内容を基にしており、金融資産の凍結対象になる個人・団体を拡大。厳格な条件を付けたうえで、北朝鮮に出入りする船舶などへの貨物検査の強化も盛り込む。ただ、貨物検査の義務化については、海上自衛隊を運用する法的根拠の整備の必要性や北朝鮮の「暴発」を招く懸念から米国よりも慎重な態度を取っている、とされる。

外交筋によると、フランスも27日、これらと別に「厳しい内容」の制裁を盛り込んだ草案を作成した。
日本政府は、日米韓3か国で調整した後、米国以外の常任理事国と協議に入る。日本は来週前半の決議採択を目指すが、調整にはなお時間がかかりそうだ。【5月28日 読売】
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その後、日本と米国は両国の草案をすり合わせて決議案にし、英国、フランス、中国、ロシア、韓国の5カ国に提示しています、この日米案は、決議1718(06年10月採択)で規定した貨物検査を義務化、武器禁輸の範囲を大型武器から一般武器へ拡大、団体の資産凍結の範囲拡大と新たに個人の資産凍結--などが柱となっています。
安保理議長国ロシアは同案支持を日米に伝えてきているそうです。
中国は、貨物検査の義務化について支持を明確にしていません。

【ロシア 日米に協調】
今回の流れで目立つのはロシアの対応です。
かねてより、中国とともに、ロシアは北朝鮮に配慮した対応をとってきましたが、今回の核実験に関しては、従来になく厳しい対応を見せています。

事件が行われた25日当日に、ロシア外務省は、「安全保障と安定を脅かす」と指摘し、「国連決議1718に明確に違反する」と非難する声明を発表しました。
27日には、“ロシアは、北朝鮮の核実験を受け、軍事的措置を含む予防的な対応をとっている。インタファクス通信が27日、関係筋の話として報じた。関係筋はこの対応について、朝鮮半島で核戦争が勃発した場合に必要になると述べたという。部隊の移動は含んでいない。”【5月27日 ロイター】と報じられています。

ロシアは安保理議長国でもありますが、27日には、新決議での制裁盛り込みを容認する姿勢を示しています。
****北朝鮮安保理決議は制裁的性格に 核実験受け、ロシア外交筋*****
タス通信によると、ロシア外務省筋は27日、北朝鮮の核実験を受け国連安全保障理事会で検討されている新決議は北朝鮮に対する「制裁的性格を帯びたものになる」と述べた。安保理議長国のロシアが、新決議での制裁盛り込みを容認する姿勢を示したことで、安保理の5常任理事国に日本、韓国を加えた7カ国が目指す週内の新制裁決議採択に弾みがつくことになりそうだ。【5月27日 共同】
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もっとも、ロシアのラブロフ外相は27日、世界の主要国は北朝鮮に対して「処罰のための処罰」を行うべきではなく、6カ国協議再開に向けて努力すべきだ、との考えを示しています。

一方、メドべージェフ大統領は27日、北朝鮮批判を明らかにしています。
****露大統領も北を批判****
北朝鮮の核実験について、ロシアのメドべージェフ大統領は27日、韓国の李明博大統領と電話会談し、「北東アジアの緊張を高める行動であり、国連安保理決議に明らかに違反している」との見解で一致した。インタファクス通信などが伝えた。ロシアの大統領が今回の問題で北を批判したのは初めてとみられる。【5月28日 産経】
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【“信頼できるパートナー”】
こうしたロシアの姿勢は、「ロシア極東の安全にとってより深刻な脅威ととらえていることに加え、米国や日本に対しロシアが信頼できるパートナーだと見せたい意思もある」・・・とか。

****ロシア:北朝鮮核実験に強硬姿勢 「深刻な脅威」ととらえ*****
北朝鮮の核実験を巡り、ロシアの強硬姿勢が目立っている。ロシアは戦略核軍縮条約の交渉進展を優先課題に米政権との関係改善を目指しているほか、日本に対してもプーチン首相の訪日で見せたように関係強化に動いている。核実験で自国の安全が脅かされるとの判断に加え、日米との信頼関係構築に向けた機運に水を差したくないとの意向が背景にあるとみられている。
ロシアのシンクタンク「米国カナダ研究所」のクレメニュク副所長は、ロシアの北朝鮮に対する今回の強硬対応について「ロシア極東の安全にとってより深刻な脅威ととらえていることに加え、米国や日本に対しロシアが信頼できるパートナーだと見せたい意思もある」と分析する。
北朝鮮が、国連安保理の議長国を務めるロシアにこれまでのように日米をなだめる役割を期待した可能性もあるが、「そうだとすれば北朝鮮は完全に見誤った。議長国の責任はきわめて重い」と同副所長は指摘する。
 
4月の北朝鮮のミサイル発射でロシア外務省は「人工衛星の可能性もある」と性急な判断を避ける姿勢を見せたが、今回の核実験ではその日のうちに「明白な国連決議違反」と非難する声明を発表。27日には北朝鮮の駐露大使を呼んで深刻な懸念を伝えた。週内に予定していたバサルギン地域発展相の訪朝についても延期とした。

ただ、外務省のネステレンコ報道官は28日の会見で、「決議に反対する理由はない」と述べる一方、「制裁という言葉は使うべきではない」と慎重さも見せた。外務省の一部や専門家から「北朝鮮を孤立させるべきではない」と強硬姿勢に自重を求める声も出ており、最終的な立場は固まっていないとの見方もある。

今回、北朝鮮は韓国との「休戦協定に拘束されない」と表明するなどこれまでにない対応を見せ、中国やロシアを含めた6カ国協議の枠組みでは制御できないことが明白になった。北朝鮮問題でロシアは、6カ国協議の枠組みを維持することを最重要課題としてきただけに、新たな対応を迫られることに当惑しているようにも見える。【5月28日 毎日】
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【注目される中国の対応】
一方、中国は北朝鮮核実験に「断固反対」を表明し、6カ国協議の軌道に戻るよう要求しています。
北朝鮮と国境を接する中国にとって、将来的に核兵器を保有する統一朝鮮が誕生するシナリオは東アジア唯一の核保有国・中国の優勢と安全を損なうとの判断があります。
しかし、同時に“中国は中朝国交樹立60周年にあたる今年、北朝鮮と決定的な関係悪化を望んでいないのも事実だ。北朝鮮の核実験を非難しながら、隣国関係を維持していく必要もある。当面、中国は特使派遣などで北朝鮮と意思疎通を図り、国際社会との橋渡しをしていくことになりそうだ。”【5月25日 毎日】とも報じられています。
ロシアが日米との協調を示すなかで、“責任ある大国”としての中国の対応が注目されます。



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パキスタン  イスラム武装勢力との戦闘激化 大量難民発生、テロ攻撃も

2009-05-28 20:53:14 | 国際情勢

(5月10日 戦闘が激化するミンゴラから、母親を荷車に乗せて避難するパキスタン住民
“flickr”より By Cecilia...
http://www.flickr.com/photos/jennvaca/3519812291/)

【「今日は合同演習じゃないからね!」】
【5月27日号 Newsweek日本語版】に、ある1コマ風刺漫画が掲載されています。
ロケット砲を抱えてたてこもるタリバンと戦車のかげで対峙するパキスタン軍。
そのパキスタン軍の1人がマイクでタリバン側に言っています。
「今日は合同演習じゃないからね!」

アフガニスタン国境地帯でタリバンと戦っているパキスタン兵士が聞いたら怒るでしょうが、かねてから、イスラム原理主義武装勢力に対するパキスタン軍はどこまで本気なのか・・・という疑問が投げかけられてきました。
特に、パキスタン軍の中枢に位置する三軍統合情報部(ISI)は、かつてタリバンを生み出した組織であり、いまでもそうした勢力に繋がっている者が多くいると見られています。

ムシャラフ前大統領は、アメリカからの強い要請でイスラム武装勢力と決別して、アフガニスタン国境エリアの部族支配地域などに勢力をひろげるこれら武装勢力との戦いに乗り出しました。
その後、戦闘と和平を繰り返してきましたが、前述のような事情で、「どこまで本気なのか・・・」という疑問もありました。

しかし、先の和平協定に乗じてタリバンなどの武装勢力が首都イスラマバードの100キロ圏内に進出したことを受け、パキスタン軍は4月26日にローアー・ディール、同28日にブネル、今月8日にスワト渓谷とそれぞれ掃討作戦を開始し、現在も激しい戦闘が行われています。
冒頭に紹介した漫画は、そのあたりを揶揄したものです。

英BBC放送が今月15日までにまとめた調査では、北西辺境州と対アフガニスタン国境沿いの部族地域のうち、政府当局が完全に支配を維持している領域は38%にすぎず、24%はタリバンなど武装勢力に支配されていると報告されています。【5月15日 時事】

【アメリカの要請 核ジャックへの不安】
パキスタン政府が今回掃討作戦を本格化させた背景には、やはりアメリカからの強い圧力があると見られています。

****パキスタン:政府軍と武装勢力の戦闘地域、拡大の一途******
こうした中、主要都市がある東部や南部に戦火が広がれば、「内戦になる」(5日付英字紙「ザ・ニューズ」)との懸念が出始めた。武装勢力が闘争理由にする「ジハード(聖戦)」思想に対決姿勢を強めるイスラム勢力も現れたほか、南部カラチでは武装勢力の大半と同じ民族のパシュトゥン人の排斥運動が深刻化し、民族対立があおられている。

ザルダリ政権が4月、武装勢力との対話路線を捨てて戦闘強化に急転換した背景には、オバマ米大統領がパキスタンへの経済・民生支援拡充を打ち出す一方で武装勢力の掃討活動強化を求めていることがある。
ただ、政府軍筋によると、軍側に犠牲が出る地上戦を避けて空爆中心の攻撃が続いており、これが武装勢力の拡散を招いて戦域が拡大している。さらに、「政府軍が劣勢になれば、米国は政府軍支援を理由にアフガンから部隊を越境させる」との観測も政府内に流れ、戦闘強化につながっているという。
戦地取材を続ける地元ジャーナリストのナシル・ダワル氏は、「戦域は毎日広がっている。特に国境地域は、(国際社会が約束した)経済援助を実行できない治安状況になっている」と警告する。【5月13日 毎日】
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イラクから撤退しアフガニスタンでの戦いに軸足を移しつつあるアメリカは、タリバンやアルカイダ勢力の安全地帯となっているパキスタンのアフガニスタン国境エリアでの帰趨がアフガニスタンの戦況を左右するという考えで、この地域への越境攻撃を強め、パキスタン政府へも武装勢力掃討を要請してきましたが、ここにきて“パキスタンの核は大丈夫なのか?武装組織側に渡ることはないのか?”という疑念がアメリカ側では強まっています。

“専門家らは、タリバンが核弾頭を発射できる体制を掌握する可能性はほぼゼロとみているが、武装勢力がパキスタンの情勢不安に乗じ、対テロ当局が恐れる「汚い爆弾」を作るための放射性物質を盗み出す可能性は現実的なリスクとして存在する。(中略)
専門家の間では、特に2つの「リスクシナリオ」が懸念されている。
1つ目のシナリオは、もしタリバンが核弾頭保管場所の近くまで勢力を拡大し、軍部が核兵器を動かす必要性を感じた場合、移送中に強奪される可能性が高まるというもの。
クーシスト氏は「パキスタン軍は核兵器の移送手段を綿密に考えていると主張する。しかし、核物質を移動させれば、常にそこがウィークポイントになる」と述べた。
2つ目のシナリオは、タリバンやアルカイダの支持者が核施設の関係者として紛れ込み、濃縮ウランや放射性物質を盗み出すというもの。人物の審査に絶対確実と言える方法はないため、可能性としてはこちらの方が高い。”【5月17日 ロイター】

更に、科学国際安全保障研究所(ISIS)が公表したパキスタン核施設の衛星写真が示すように、パキスタン政府が核兵器開発を増強しているらしいことも、パキスタンへの支援への慎重論が米議会で強まっている背景にあります。
アメリカ側には、この核開発に武装勢力との戦いを後押しするアメリカからの資金が流用されているとの懸念があります。
核開発の拡大は、武装組織による「核ジャック」の可能性を高めることになります。

アメリカ側のこうした不安・懸念を払拭するためにも、パキスタンとしては武装勢力掃討を本格化させる必要があるのでは・・・と思われます。

【避難民登録238万人】
****タリバン勢力下の都市ミンゴラ、パキスタン軍が50%以上を掌握****
パキスタン軍は26日も、同国北西部スワト渓谷の中心都市ミンゴラをめぐり、イスラム原理主義組織タリバンと激しい戦闘をくり広げている。一方、軍のタリバン掃討作戦によって同地に残された人びとについて、人道危機の懸念も高まっている。
パキスタン軍によるタリバン掃討作戦は5週目に入っているが、軍当局はミンゴラの50%を掌握したとしている。
パキスタン軍広報担当のAthar Abbas少将は記者会見で、「ミンゴラの半分以上は軍の統制下にある。武装勢力に逃げ道はない状態だ」と述べる一方で、「強硬派の残存勢力が抵抗している」とも語った。
ミンゴラのほかにも、北西部ローアー・ディールでは戦闘が続いているものの、ブネル地区では、地区の90%が武装勢力から解放されたという。【5月27日 AFP】
*******************

一方で、この戦闘は多くの避難民を生んでいます。
上記記事によると、“国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今月2日以来、238万人が避難民として登録されたという。ロン・レドモンド広報担当官は、ここ数年で「最も急速に避難民が増加した例」の1つだとしている。国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチのブラッド・アダムス氏も、「戦闘の続くスワト渓谷に残された人びとは、パキスタン軍が外出禁止令を直ちに解除しない限り、人道危機に直面するだろう」と指摘する。”といった状況にあります。

パキスタン政府を後押しするアメリカは、クリントン米国務長官が19日、パキスタン北西辺境州の国内避難民対策として、オバマ政権が約1億1000万ドル(約105億円)の人道支援をパキスタン政府に供与すると発表しました。
“米政府は、パキスタンで、イスラム原理主義組織タリバンに対する「国民感情の変化」が起きていることを歓迎すると述べ、パキスタン軍のタリバン掃討作戦から避難した民間人に人道支援を提供した。”【5月20日 AFP】ともありますが、“タリバンに対する「国民感情の変化」”が何を指しているのかはよくわかりません。
前出記事で紹介されている、「ジハード(聖戦)」思想に対決姿勢を強めるイスラム勢力出現や、パシュトゥン人排斥運動の深刻化などを指しているのでしょうか。

【テロ攻撃の警告】
当然ながら、武装勢力側のテロ攻撃も激しさを増しています。
パキスタン東部ラホール中心部の治安当局関連施設近くで27日、車を使った自爆テロがあり、現地からの報道によると、少なくとも24人が死亡し、300人以上が負傷しています。
現場近くの警察署なども爆発で損壊したほか、軍情報機関の三軍統合情報部(ISI)の建物も被害を受けたようです。

犯行声明を出したタリバン側は、都市部での新たなテロ攻撃を予告しています。

****自爆テロ、タリバンが犯行声明=新たな攻撃を警告-パキスタン****
パキスタン東部のラホールで27日、警察施設が自爆攻撃を受け、少なくとも23人が死亡したテロで、同国のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」は28日、英BBC放送に電話で犯行を認めた。
TTPのスポークスマン、ハキムッラー・メフスード副官はこの中で、攻撃は北西部のスワト地区で軍が行っている武装勢力掃討への報復だと主張した。
副官はさらに、「イスラマバード、ラワルピンディ、ラホール、ムルタンの住民は街を去るべきだ」と述べ、都市部での新たなテロを警告した。【5月28日 時事】 
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イスラム武装勢力と和解すればタリバンが支配を拡大し、アメリカからの圧力もかかる、戦闘に転じると国内はテロ地獄へ、そして大量の難民・・・なんとも難しい舵取りが求められる国です。

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新型インフルエンザ  日本の反応へ奇異の目 シンガポールでは“あえて感染させろ”との提案

2009-05-27 20:42:55 | 世相

(“flickr”より By Mike Licht, NotionsCapital.com
http://www.flickr.com/photos/notionscapital/3492454645/)

【第一波は峠を越したか・・・】
全世界で100人以上の死者、1万3000人近い感染者を出した新型インフルエンザは、“ひとまず”第一波のピークを過ぎたような感があります。
メキシコ市は21日に制圧宣言を出しました。

****メキシコ市、新型インフル制圧を宣言****
メキシコからの報道によると、新型の豚インフルエンザによるメキシコ国内の死者の4割が集中した首都メキシコ市は21日、「ウイルスは制圧された」と宣言し、警戒レベルを4段階のうち2番目に低い「黄」から、最も低い「緑」に下げた。過去7日間、市内で新たな感染例が出なかったことを理由にした。
メキシコのメディアによると、エブラール市長は「21日からメキシコ市は百%正常化する」と述べた。ただ、学校の念入りな清掃など教育現場での予防措置は7月まで続けるという。

メキシコ保健省によると、21日現在、メキシコで確認された感染者は4008人で、うちメキシコ市が1578人。人口10万人あたり17.8人が感染した計算だ。死者は全国で78人、メキシコ市はうち42%を占める33人。同市は、薬の備蓄や感染予防のため休業した民間企業への補償などで、約45億ペソ(約330億円)を費やしたという。【5月22日 朝日】
*******************

また、アメリカについても、米疾病対策センター(CDC)が“米国での流行が一段落”したことを発表しています。
****米の流行一段落、秋の第2波懸念 新型インフルでCDC*****
米疾病対策センター(CDC)のアン・シュキャット博士は26日の会見で、米国での新型の豚インフルエンザの流行について「注目すべきことや優先すべきことが変わる時期にさしかかっていると思う」と述べた。米国での流行が一段落し、「第2波」が心配される秋に向けた備えに軸足を移しているとの認識を示したものだ。

CDCの25日までのまとめでは、米国内の感染者(推定例を含む)は6764人に達し、入院者も300人以上だが、ニューヨークなどを除き、新たな感染者の増加が鈍り始めたとして同博士は「今後8~10週間は、南半球の状況を見極め、米国での秋の流行への備えを強めるべき時期だ」と述べた。
世界の死者数は世界保健機関(WHO)の26日のまとめでは92人だが、各地の報道や発表を総合するとメキシコ、米国、カナダで死者が増え、計100人に達した模様だ。【5月27日 朝日】
*************************

【パラノイア? 潔癖症?】
日本国内の状況も、感染者が集中した兵庫・大阪は落ち着きを取り戻しているようです。
こうしたなかで、日本の“過剰反応”とも見えるような騒動ぶりを奇異な目で見る論調が、各国から伝わっています。

****「マスクに手洗い、日本は偏執狂」 NYタイムズ神戸発ルポ*****
22日付の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は、新型インフルエンザの流行で日本は混乱状態にあるとの神戸発のルポを掲載し、日本は日ごろから「強迫観念的な清潔さ」を追求し、特に外国発の感染症の流行には「パラノイア(偏執狂)の国」と伝えた。
記事では「他国と同様に感染者の症状は軽度で死者もいないが、日本の対応は危機状態のよう」と述べ、学校閉鎖や日用品の買いだめ、マスクの売り切れ、感染を心配して一切の外出を控える母子の様子を驚き交じりに取り上げている。
また、日本人の潔癖症を「宗教的なまでに学校で手洗いを教え、衛生的な砂場で遊び、下着からボールペンに至るまで抗菌性と推定される」と皮肉を込めて解説し、他国より感染者数が多いのも「より積極的な検査をしているためでは」との専門家の疑念も伝えた。【5月23日 産経】
********************

“パラノイア”かどうかはともかく、“潔癖症”なところはあるかも。
それと、情報に全国民が一斉に同一方向に過剰なまでに反応するのも、ひとつの国民性なのかも。
北朝鮮の“飛翔体”のときも、地方の役場の職員が慌てふためいて走り回る様には、“そこまで慌てなくても・・・”という感じもしました。
日本経済の落ち込みが大きいのも、輸出依存体質という話だけでなく、“経済危機”という情報への国民の一斉の反応の結果、過剰に弱気な“マインド”が形成されるということがあるのでは・・・とも思えます。
不安感を煽るだけのマスコミの論調にも問題があるのでしょうが。

季節性インフルエンザでは毎年国内だけで数百人規模の死者が出ています。
安全性についての判断や危機管理においては、単に“安全か否か”“危険があるか否か”ではなく、“どの程度のリスクがあるのか?”“対応策をとったときのコストはどれくらいか?”といった“リスクの程度”の量的把握も必要になります。
今回の対応についても、幼稚園・保育園や介護施設の休業による犠牲も相当出ています。
“第2派”への対策を含め、今後の対応についての検討課題があるように思えます。

【シンガポールの“割り切り”】
シンガポールでも、連日TVで日本の「騒ぎぶり」が話題になっているそうですが、現在の弱毒性の段階で感染を国内で敢えて広げることで国民に免疫をもたせ、将来的な強毒性への変異に備えるべき・・・という意見があるとか。

****マーライオンの目 あえて感染させろ!?*****
シンガポールでは、新型インフルエンザ(H1N1型)の感染者がまだ見つかっていないうえ、ウイルスの毒性も、当初言われたほど高くないとされたことで、最初は警戒を強めたものの、最近では一般の人はほとんど気にしていない様子。逆に地元テレビでは連日、日本でのマスク姿があふれる通勤風景や、ネットオークションで防護マスクが50万円で売られているなど、「騒ぎぶり」が取り上げられている。

そんななか、先日、地元紙ストレーツ・タイムズに載った国立神経科学研究所のリー・ウエイ・リン教授の寄稿が話題となった。教授は、「比較的弱い段階のウイルスをシンガポール国内に入れることで人々に感染させ、免疫を作ることはできる。そうすれば、ウイルスが変異し毒性が強まっても集団免疫で大発生を防げる」として、あえて感染させるよう提案したのだ。
新型インフルエンザへの警戒レベルを下げたとはいえ、さすがにこれには当局も驚いたようで、保健省の医療サービス部長が早速、紙面で「かつては子供に水疱瘡(ぼうそう)の免疫をつけるため、感染した子供と一緒に過ごさせることもあったが、H1N1ウイルスは水疱瘡ウイルスとは違う。わざと感染させるのは間違いだ」とあわてて反論した。
かつて新型肺炎(SARS)で多くの犠牲者を出しただけに当局者にすれば、国民と一緒に日本の騒動を面白がっているわけにいかないようだ。【5月27日 産経】
************************

さすがに政府は否定しているようですが、“シンガポールならありえるかも・・・”という印象もあります。
今回の新型インフルエンザ対策でも、4月30日には、過去1週間にメキシコに渡航歴のある入国者や帰国者について、症状がなくても自宅やホテルに1週間隔離する措置を導入しています。
全く話は違いますが、世界的金融危機・不況のなかでの外国人労働者の解雇について“こういうときのために外国人労働者を調整弁として入れているのだから、調整のため解雇することのどこが悪い”と政府トップが公言して憚らない国でもあります。

確かに、合理的と言えば言えなくもないのですが、“そこまでやるかな・・・”と引いてしまうところもあります。
強毒性への変異へ備えることが重要課題であることは間違いないのですが・・・。
シンガポールは同じアジアの国ですが、情緒的に右往左往する日本とは異質の“割り切り”みたいなものがあります。
個人的には、あまり馴染めないところですが。

そんなシンガポールでも27日、最初の感染者が確認されました。

*****シンガポールで初の新型インフルエンザ感染を確認*****
シンガポール政府は27日、同国で22歳の女性が新型インフルエンザに感染していることが判明したと発表した。シンガポールで感染例が確認されたのは初めて。【5月27日 ロイター】
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リン教授の提案が国民的関心を呼ぶのでしょうか。

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ミャンマー  ASEAN批判、軟禁期限、中国の対応

2009-05-26 21:55:50 | 国際情勢

(ミャンマー・ラカイン州の州都シットウェは、ベンガル湾に注ぐカラダン川の河口にひらけた港湾都市。
写真はのどかな美しい風景ですが、中国の援助で港湾の整備が進んでいます。
中国のインド洋進出の橋頭堡のひとつとも見られています。
また、シットウェから中国・雲南省までミャンマーを斜めに縦断するパイプライン工事と天然ガスの採掘も07年に始まっています。
“flickr”より By jmhullot
http://www.flickr.com/photos/jmhullot/3337729364/)

ミャンマーの民主化運動の象徴であるスー・チーさんの裁判は、5月20日ブログ「スー・チーさんの公判、来週にも結審か 来年総選挙に向けて」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090520)でも取り上げたように、軍事政権のペースで進められています。

【「内政干渉」と批判 タイも反論】
この事態にASEAN議長国のタイは19日、ASEANとして“強い関心(あるいは懸念)”を示す声明を発表し、合わせて、「ミャンマー政府の名誉と信用が揺らいでいる」と指摘し、暗に軍事政権に自制を求めました。
ただ、“タイのチャワノン外務次官は同日までに「ミャンマーへの制裁は問題解決に結びつかない」と述べ、タイとして制裁措置などに踏み切る考えのないことを強調した。”【5月19日 毎日】というように、強く軍事政権を非難するEUなどに比べ、内政不干渉を原則とするASEAN・タイの対応に温度差がある点のほうが強調される報道でした。

ミャンマー軍事政権は、このASEANの“強い懸念”も気に入らなかったようで、タイを名指し非難していますが、タイも“異例の強い調子で”反論しているとか。
制裁を否定する“内政不干渉”の枠組みの中での発言ですから、ミャンマー軍事政権に大した影響を与えるものではありませんが、ASEAN議長国として、タイには言うべきことはしっかり言ってもらいたいものです。

****ミャンマー:スー・チーさん裁判へのASEANの批判に反発*****
ミャンマー軍事政権は25日、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(63)の裁判に「強い懸念」を表明した東南アジア諸国連合(ASEAN)の声明に対し、「内政干渉だ」と強く反発する声明を発表した。
「ミャンマー政府の名誉と信用が揺らいでいる」と指摘し、暗に自制を求めた19日のASEANの声明に対し、軍事政権は「事実に反し、ミャンマーと、発表した(ASEAN議長国の)タイの名誉を損なう」と、タイを名指しで批判した。
これに対しタイのカシット外相は記者団に「国際社会はタイの政情不安にも懸念を示した。声明は内政干渉ではない」と反論。「タイもフィリピンもインドネシアも軍事政権を経験してきた。ミャンマー政府は(ASEAN各国と同様に)、民主化しなければならない」と異例の強い調子で求めた。 【5月25日 毎日】
***************************

【「あと半年延長することができる」】
スー・チーさんの自宅軟禁期限は明日27日で切れますが、当然のごとく、軍事政権側は延長の考えを示しています。

****ミャンマー軍政、スー・チーさんの軟禁期限延長の法的権利を主張******
ミャンマーの軍事政権は26日、同国の民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんの自宅軟禁期限が27日に終わることをめぐり、期限をさらに6か月延長する法的権利があると述べた。
米国人を自宅に許可なく入れ自宅軟禁の条件に違反したとして、ミャンマーの軍事政権に起訴されたスー・チーさんの審理で、軍政側は外交官や報道陣に向けて声明を発表。スー・チーさんは4年半自宅軟禁下にあり、「法律によると、(関係当局は)軍政の許可を得て、合計5年となる、あと半年延長することができる」と主張した。
スー・チーさんの弁護団は5年間の軟禁期限は27日に切れると主張している。自宅軟禁とは別で、裁判で有罪となれば、最長5年の禁固刑が科される可能性がある。【5月26日 AFP】
*************************

進められている裁判で、“最長5年の禁固刑が科される可能性”が強い状況では、自宅軟禁期限の問題はあまり実質的意味合いはないようにも思えます。

【“スー・チー”カード】
総選挙を前に、国民的人気の高いスー・チーさんを解放することは考えにくいところですが、更に、国際的な“駆け引き”の道具としても、厳しい状況です。
今世界を騒がせている北朝鮮の“核”カードと同様に、ミャンマー軍事政権はこれまで国際的非難が高まると、スー・チーさんの軟禁について緩和をにおわせるような形でその批判をかわすといった“スー・チー”カードを行使してきました。
今後とも、この“スー・チー”カードを容易に放棄するとは思えません。

【ミャンマーと中国】
こうしたミャンマーをめぐる枠組みを大きく変えることができる要素としては、国際的非難の渦中にあるミャンマーを実質的に政治・経済的に支えている中国の方針転換ぐらいではないでしょうか。
中国とミャンマーの関係は必ずしも一様ではなく、時代によって変化しています。

かつて中国は反政府勢力のビルマ共産党を支援しており、文化大革命の頃は、ミャンマーで反中国人暴動が起きたのを口実に、中国軍がミャンマー北部に侵攻し、ミャンマー軍と戦闘になったこともあります。
その後も、中国式の改革解放路線を勧める中国と親密になったり、疎遠になったりと、変遷はありましたが、最近では、アメリカが軍事政権非難を強めながら、一方で、北朝鮮問題と同様に、アジアのことについては中国に「責任ある大国」としての指導力を求める流れのなかで、中国とミャンマーの関係は深いものなっています。

中国にとっては、ミャンマーは歴史的にも自国勢力圏という意識もあるでしょうが、より具体的にはミャンマーの抱える石油・ガスなどの資源獲得という要素があります。

【「真珠の首飾り」】
更に、地政学的にも、海軍力を強化し国際的な軍事影響力を強めたい中国にとって、インド洋に面したミャンマーは重要な意味合いを持っています。

先日、TVのNHKスペシャルで、インドの軍事力増強・インド洋への進出について放映していましたが、同じ問題を中国側からとらえたのが次の記事です。

****中国、インド洋に勢力拡大 周辺国の港湾整備、橋頭堡か****
中国がインド洋で影響圏の拡大を進めていることが、24日までに明らかになった。ミャンマーからパキスタンまで、ライバルのインドを包囲する形で港湾施設を建設し、将来的には中国海軍の“橋頭堡(きょうとうほ)”とする海洋戦略の一環とみられる。しかし、インドをにらむ中国の「真珠の首飾り」(西側外交筋)構築は、南アジアを自国の勢力圏とみなしてきたインドを刺激しかねない。
 ≪真珠の首飾り≫
中国は2007年からスリランカ南岸ハンバントタの港湾整備に十数億ドルを融資している。軍事的協力関係の深いパキスタンでも、南西部グワダルの港湾建設費の7割以上を負担したとされる。バングラデシュ・チッタゴン、ミャンマー・シットウェの港湾やミャンマーから雲南省に抜ける交通網の整備も支援。ベンガル湾に位置するミャンマー領のココ諸島、西部のラムリー島などに海上交通を監視できる通信施設があるとのうわさは根強い。
これらの港湾施設について、中国側は一貫して「商業目的」と主張している。しかし、22年に完成予定のハンバントタ港は、軍艦艇も燃料補給や修理に利用できる。ホルムズ海峡まで約400キロに位置するグワダル港は水深も深く、「(ここを押さえれば)戦略的に中国の利となる」(中国紙)という。
20日付の英紙デーリー・テレグラフ(電子版)は「公式には民間船舶だけを扱うことになっているが、将来、海軍基地として利用するというオプションを中国政府に与えている」「これらの施設は中国の海軍力を従来の沿海地域からインド洋に拡大させるかもしれない」と指摘している。

インド洋で「真珠の首飾り」のように連なる港湾施設は、海洋戦略を本格化させつつある中国にとって石油輸送路の確保というエネルギー安全保障の目的に加えて、「インド軍などの通信傍受や艦艇の動きを把握できるという軍事的側面を持つ」と米外交関係者は指摘した。中国が海賊対策のための艦艇をソマリア沖に派遣した目的も、「戦略的利益を持つインド洋にある」(香港誌)。(後略)【5月25日 産経】
***********************

中国の「真珠の首飾り」にとって、ミャンマーのシットウェの港湾やミャンマーから雲南省に抜ける交通網、ココ諸島、西部のラムリー島などの海上交通を監視できる通信施設・・・など、ミャンマーの存在は不可欠の要素です。
こうしたことを考えると、中国がミャンマーに対して強い圧力をかけるという構図は、現時点ではあまり可能性が少ないように思えます。

ただ、中国の影響拡大に伴い反中感情も強まっているようです。
中国としても、反中感情と軍事政権への不満が結びついた社会不安は望まないところでしょうから、ミャンマー社会の安定化に向けた対応はあろうかと思います。

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日本の紛争地との関わり方  PRT、PKO講師、地雷除去

2009-05-25 21:17:38 | 国際情勢

(スリランカ、早朝、地雷のチェック作業を行う兵士 “flickr”より By stefb
http://www.flickr.com/photos/82659643@N00/295119482/)

昨日、日本の国際社会との関わり方、いわゆる国際貢献のあり方に関する三つの記事を目にしました。
直接的な軍事行動については自ら制約を課している日本ですが、紛争に苦しむ多くの国々との単なる資金援助を超えた連携が求められているなか、今後力を入れていくべき方向を考えるとき参考になるものもあるかも。

【アフガニスタン PRT】
一つ目は、アフガニスタンにおける「地方復興チーム」(PRT)への参加のニュース。
PRTは、軍と文民が協力して地域復興にあたる枠組みです。
地域ごとに拠点を設け、軍が治安維持や警察支援などを担い、文民が教育や保健分野の復興支援に当たります。
アフガニスタンでは米英独など14カ国が26カ所で活動しています。

ただ、PRTについては、現地で活動しているNGO団体からは、「軍と無関係ということで住民の信頼を得ている。結局軍の支援活動であるPRTが行われると、NGO活動も軍の“ひもつき”と見られ、反政府勢力側からの妨害など、NGO活動ができなくなってしまう。」との批判もあります。
また、その実態についても、住民の立場にたった活動というより、バラマキ的な宣伝活動にすぎないことが多いとの批判もあります。

また、アフガニスタンではたとえPRTの文民活動とは言え、相当の危険が伴うとも思われます。
なお、今回の日本のPRT参加は“文民要員4人”という、ごく限られた形のもののようです。

****アフガニスタン:日本の政府職員を地方復興チームに派遣へ*****
北大西洋条約機構(NATO)加盟国がアフガニスタン各地で展開する軍民一体の「地方復興チーム」(PRT)に参加するため、日本政府の文民要員4人が近く中西部・チャグチャランに派遣される。現地では国際協力機構(JICA)の職員らが技術協力をしているが、政府職員の派遣は初めて。自衛隊派遣の見通しが立たない中、アフガン政策について、オバマ米政権が軍事だけでなく民生支援も重視する方向に転換したのを受け、文民派遣で米国を後押しする狙いがある。
昨年秋、日本はチャグチャランでPRTを展開するリトアニア軍から文民派遣を要請された。外務省は今春、「治安が比較的安定しており、実績を積みたい」と同省職員の派遣を決めた。4人は6月上旬までに順次現地入りし、教育やインフラの整備に取り組む。

日本とPRTの接点は07年1月にさかのぼる。安倍晋三首相(当時)がNATO本部を訪ね、自衛隊派遣を念頭にPRTとの連携を表明。自衛隊派遣こそ断念したものの、現在、首都カブールのNATO文民代表部に連絡調整員を配置し、7カ国が11カ所で展開するPRTに資金を拠出している。
インド洋での給油支援活動や元兵士の武装解除(DDR)など、日本はアフガン問題で米国を後方支援してきた。PRTへの派遣も、新戦略への国際協調を望むオバマ大統領の呼びかけに応えた格好だ。現地情勢に詳しい自民党の松浪健四郎外交部会長は「これまで支援が行き渡らなかった地域への貢献の第一歩」と評価する。

日本の文民支援に政府職員が加わることで、情勢に変化が生じる可能性もある。現地の対米感情は悪化しており、軍民一体のPRTは、アフガン旧支配勢力のタリバンによる攻撃の口実となりかねない。元外交官で民主党の山口壮「次の内閣」副防衛相は「米国追随ではなく『対話』を促すなど、米国ができない方策を示すことが日本の役割」と指摘する。【5月24日 毎日】
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【PKO訓練への講師派遣】
二つ目は、アフリカ連合向けのPKO訓練への講師派遣のニュース。

****PKO訓練:カイロで始まる AU向けに日本などが実施****
アフリカ連合(AU)向けに日本や国連などが行う平和維持活動(PKO)訓練が24日、カイロで始まった。アフリカ16カ国の軍幹部や文官ら25人が参加、約2週間に渡り、シナリオ演習などで実務的なPKO活動のノウハウを学ぶ。
日本が国連、AUと共同でこの種の訓練を行うのは初めて。独自の紛争対処能力を高めたいAUの要請に応えた。日本からは、元東ティモール国連事務総長特別代表の長谷川祐弘・法政大教授と、榊枝宗男陸将補が講師を務める。
長谷川教授は「多様化するPKOに必要な包括的対処への理解を深めてもらうのが目的」と述べ、榊枝陸将補は「発砲せず負傷者も出さない日本のPKO活動の知見を紹介したい」と語った。【5月24日 毎日】
***************************

“発砲せず負傷者も出さない日本のPKO活動”に関するノウハウがあるのであれば、是非活用してもらいたいものでが、正直なところ、“講師を勤められるほど日本はPKO実績があるのだろうか?”という素朴な疑問も感じました。
“発砲を必要とするような事態になったときどう対応するのか?”・・・PKO活動について必ずしも日本国内の世論がまとまっていない状態ですが、日本人自身が意識しないうちに、講師を勤められるほどの実績が積まれているとしたら、それはまた別の問題になるようにも思えます。

こうした訓練に参加する者は、やがて各国の指導層になるエリートでしょうから、そうした者との人的つながりをつくることは意味のあることでしょう。
武力行使に関する日本の考え方の理解にもつながるかも。

【スリランカ 地雷除去】
三つ目は、内戦の終結したスリランカにおける地雷除去に関するニュース。

****スリランカ、地雷除去協力で日本に期待 潘国連事務総長*****
スリランカを訪問した国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は24日、移動の機中で朝日新聞の単独会見に応じた。30万人近い国内避難民の帰還に向け、旧戦闘地域での地雷除去が急務だとして、スリランカの主要援助国である日本の協力に期待を示した。
潘氏は、地雷の早期除去について、国連による早急な支援に意欲を示すとともに、この分野で経験のある「日本など主要国」の積極的な参加を求めた。スリランカの人道状況の改善に向けた日本の外交努力が足りない、という国際人権団体などからの批判については「明らかな誤解だ」と否定。明石康・日本政府代表の仲介努力を評価した上で、「日本からは数々の有益な助言をもらった。感謝している」と述べた。(後略)【5月24日 朝日】
********************************

これは比較的馴染みやすい活動に思われます。
カンボジアなどにおける民間の地雷除去活動を見聞きすることもありますが、なぜ日本政府が率先して、より大規模に行わないのかという疑問を感じていました。
また、その作業についても、もっと安全で効率的な方法はないのだろうか?とも思います。

政府主導で大規模・効率的な地雷除去作業にあたる・・・というのは、現地のニーズに応える、また、感謝される活動ではないでしょうか?

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インド  IT選挙と毛派の「領土」

2009-05-24 13:42:51 | 国際情勢

(インドのスラムで暮らす子供達に教育機会を与える活動などをしているNPOが運営する学校 
“flickr”より By brian glanz
http://www.flickr.com/photos/brianglanz/3303155124/)

【強い首相”へ変身】
インド総選挙は先日もとりあげたように、与党が予想された以上に大勝しました。
注目された左派・地方政党の「第3勢力」は大幅に議席を減らし、その挑戦は不発に終わりました。
“ダリッドの女王”ことマヤワティ党首率いる大衆社会党も、新政権への閣外協力に転じたようです。

****インド:第2期シン体制始動 下院過半数、安定政権に*****
「インド国民会議派」主導の与党連合「統一進歩同盟」の新連立政権が22日発足し、シン首相体制は2期目のスタートを切る。与党連合は下院(定数545)で過半数の274議席を得て、安定政権となる。地方政党の「大衆社会党」などが閣外協力を申し出ており、これらを合わせると、3分の2以上の絶対多数には届かないものの、計322議席となる見込み。(中略)
一方、大幅に議席を減らしたインド人民党主導の野党連合「国民民主連合」は、従来の枠組みを維持。注目された地方政党主体の「第3勢力」は、大衆社会党などが新政権への閣外協力に転じたため、「核」を失ってバラバラとなり、全国政党への対立軸にはならなかった。【5月22日 毎日】
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昨日、イラクのマリキ首相について、“弱い指導者”からの最近の変身を取り上げましたが、インドのシン首相も、会議派の象徴であるガンジー家の“雇われ首相”から、国民の信任を勝ち取った“強い首相”への変身しているようです。
そして、マリキ首相とは異なり、単に“強気”というだけでなく、経済成長という実績に加え、その政権基盤は強固なものとなっています。

****印シン政権2期目スタート 「強い首相」に変身****
権謀術数が渦巻く政界には、およそふさわしくない人物だ。
マンモハン・シン首相(76)。英オックスフォード大で経済学の博士号を取った、もとは経済学者だ。おとなしく控えめ。権力欲が彼を5年前に首相の座へと導いたわけでもない。実務肌であることも手伝って「弱い指導者」と揶揄(やゆ)されもした。それが、1期目の政権運営の末に、下院選挙で国民の信任を勝ち得たことで「強い首相」へと変身した。(中略)
その「キング」も、会議派の象徴であるガンジー家の“雇われ首相”にすぎなかった。しかも下院優位の議会にあって上院議員だ。本来なら会議派の総裁、ソニア・ガンジー氏が首相に就くはず。しかし、イタリア人ということもあり、1990年代に、財務相としてインドの社会主義経済からの脱却と経済自由化に貢献したシン氏に首相の実務を委ねた。
政権1期目には、3年連続で9%を超える高い経済成長率を維持するなど実績を挙げた。だが、左派共産党などを政権内に抱え、大胆な経済改革を思うように進められず「決断力に欠ける」という批判も浴びた。
そうした評価は、昨年夏の出来事によって変わる。左派勢力が米印原子力協力協定に反対して閣外協力を解消し、政権は窮地に陥った。しかし、シン首相は「経済成長を支えるエネルギーを確保するためには協定の発効が必要だ」という信念を貫く。そして、左派勢力に固執することなく、さっさと別の政党を取り込み協定発効にこぎつけた。「政治的に無力」とのイメージを打ち破りタフさを見せつけた瞬間だった。(後略)【5月23日 産経】
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ただ、シン首相は今年1月には心臓手術を受け健康問題を抱えていますので、「将来の首相」と目されるラフル・ガンジー氏を入閣させ、任期途中でラフル氏に首相職を譲ることも・・・という話もありました。
その、今回選挙で国民の高い人気を示したラフル・ガンジー氏は入閣を辞退し、次の選挙で会議派の単独過半数を実現し、首相就任を目指すものとみられています。
このあたりは、今後のシン首相の健康状態次第でしょう。

インドの経済市場は今回選挙結果を歓迎しており、株価急騰で取引停止になる状況です。
****インド、株価急騰で取引停止 総選挙与党圧勝受け*****
インドのムンバイ証券取引所は18日、午前9時55分の取引開始直後に株価が急騰。10%を超えて上昇したため、市場の混乱を防ぐためのサーキット・ブレーカーが作動し、取引を停止。その後、いったん再開したものの買いの動きが収まらず、同取引所は終日取引を停止すると発表した。
16日に開票された総選挙で与党・国民会議派が圧勝したことを受け、投資家の買い注文が殺到した。総選挙では、共産党など左翼勢力が大きく後退。「国営企業株の売却や規制緩和などの経済改革が進展する」との期待が市場で高まっている。【5月18日 朝日】
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【IT選挙】
ところで、“IT大国”インドでは、“世界最大の民主選挙”も電子投票で行われました。
****インド:総選挙で「IT大国」アピール******
約7億人の有権者を抱えるインドの下院総選挙は今回初めて全選挙区で電子投票が実施された。16日の開票作業もスムーズに行われ、IT(情報技術)大国ぶりを見せつけた。
過去の選挙で相次いだ投票箱の強奪や中身のすり替えなどの不正行為や開票ミスを防止するのが目的で、選管が99年から順次導入。投票機械は電気がない地域でも蓄電池で作動し、字の読めない有権者向けに候補者の所属する政党のシンボルマークが書かれたボタンを押して投票する仕組み。選管幹部のシン氏(48)は「公平公正な選挙が実現でき、世界最大の民主国として胸を張れる」と自賛した。【5月16日 毎日】
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それだったら、1ヶ月近くかけて地域ごと5回に分けて投票を行うこともないのでは・・・という感もありますが、いろいろ事情もあるのでしょう。
124議席を選ぶ第1回投票だけで、約18万カ所の投票所に設置された約31万台の電子投票機が使用され、約90万人が選挙監視のために動員されたと言いますので、物理的に“全国一斉”は難しいのかも。
あるいは、インドの選挙は一種の“お祭り”みたいなものとも言われますので、敢えて“お祭り”を短くすることもないのかも。

【警察も警察署の外にでようとしない】
いずれにせよ、その“IT大国”ぶりは“さすが”の感がありますが、一方でインドという国は、そうした“IT大国”とか驚異的経済成長とは全く似つかわしくない、絶対的貧困・気の遠くなるような格差の国でもあります。
政治的にも、多くの州でインド共産党毛沢東主義派の武装勢力が跋扈し、警察さえ手がだせない・・・という実態があります。
総選挙についても妨害行動がありましたが、先日もこんなニュースが。

****インド 毛派が警官襲撃、16人が死亡******
インド西部マハラシュトラ州で21日、パトロール中の警察官が待ち伏せしていた武装集団に銃撃され、警察官16人が死亡した。武装集団はインド共産党毛沢東主義派とみられている。現場は、同州ガッチロリの高速道路で、警察官が道路上に倒れていた木々を片づけようと車を降りたところ、100人近い武装集団に銃撃されたという。爆発物が使われたとの情報もある。【5月22日 朝日】
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マハラシュトラ州はムンバイを抱える西部の州ですが、毛派の活動は東部の州が中心で、それらの州では都市部以外は毛派の「領土」となっているとも言われます。
インド人口約11億人のうち、8億3600万人は1日当たり所得が0.45ドルに満たないなかで、その貧困層の8割近くが毛派支配下の州に集中しています。

【5月20日号 Newsweek日本語版】に“極左ゲリラの「領土」を行く”という記事が掲載されています。
インド東部のジャルカンド州に住む記者の妹夫婦が、毛派を自称する者から1000ドル以上の「保護料」を請求された件に関するものです。
武装勢力によって警察署が襲われることも珍しくなく、地元の警察は“めったに警察署の外にでようとしない”状態ですから、警察は全く頼れません。
支払いを拒むと“腕を切断されたり、耳や鼻をそぎおとされたり”・・・。
従前の毛派は70年代後半に消滅し、90年代入って登場した現在の毛派については、「最近の毛派はイデオロギーを純粋に追求しているとは思えない」「実態は一般市民を“人間の盾”とって悪事を働く犯罪組織と変わらない場合が多い」とも。

武装勢力が跋扈する背景には極度の貧困がありますが、貧困解消のため道路をつくろうとしても毛派の攻撃によって破壊されてしまうそうです。
もっとも、「州政府の政治家や高官は都市に住んでいるので、貧しい村々の経済開発に熱心でないのだ」との指摘も。
「強い首相」シン首相がなすべき課題は大きいようです。

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イラク  再び増える爆弾テロ 押し進むマリキ首相

2009-05-23 14:42:03 | 国際情勢

(バスラでの駐留米軍による無反動砲カールグスタフの発射訓練 さすがプロの写真はロケット弾まで写し出します。
戦闘機やミサイルなど兵器の写真は、マニア以外が見ても、ときに魅力的だったりします。
この無反動砲もリングが出来るなんて面白いですが、狙われる身、肉体が飛び散る身にとってはどうでもいいことです。“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3524513138/)

【6月末 米軍、都市部から撤退】
オバマ大統領は2月、現在14万人強のイラク駐留米軍のうち、戦闘部隊が来年の10年8月末までに、残りの部隊も11年末までに撤退する方針を発表しています。
それに先立ち、米イラク地位協定では米戦闘部隊は今年6月末まで都市部から撤収することにもなっています。
(ただし、アルカイダ系武装勢力の根拠地で今なお治安が改善していない北部主要都市モスルについては、イラク・米軍双方とも、6月以降の米軍残留の可能性について言及しています。)

なお、イギリスは、主にイラク軍の訓練を目的に残留していた英軍4100人の任務を6月までに終了し、7月末には完全撤退する協定をイラク政府と結んでいましたが、4月30日に予定よりも1か月前倒しで、正式にイラクから完全撤退しています。

こうした米軍撤退のスケジュールが進むなかで、このところ爆弾テロが増加しており、改善していたイラク治安について不安視する見方も出てきています。

****バグダッドで爆弾テロ、35人死亡、72人負傷
イラクの首都バグダッドで20日夜(日本時間21日未明)、路上に止められていた車が爆発し、ロイター通信によると、少なくとも35人が死亡、72人が負傷した。現場はバグダッド北西部のシーア派住民が多い地区の繁華街で、事件当時、買い物やレストランでの夕食に訪れていた市民で込み合っていた。

イラク駐留米軍は6月30日を期限に都市部の治安権限をイラク側に全面的に移譲するが、4月29日にバグダッド最大のシーア派地区サドル・シティーでの連続爆弾テロで51人が死亡するなど、4月にはテロが急増し、フランス通信(AFP)によると、昨年9月以降最悪となる死者355人、負傷者700人を記録した。
5月になっても主にシーア派住民を狙ったテロが頻発しており、米軍の都市部撤退完了後に宗派抗争が再燃したり、治安が再び悪化したりすることを懸念する声が出ている。

マリキ首相は一連のテロについて、国際テロ組織アルカーイダ系のイスラム教スンニ派過激派武装組織の指導者、アブオマル・バグダーディー容疑者が4月にイラク治安部隊に拘束されたことに対する報復であり、好転した治安を根底から脅かすものではないと強気の姿勢を示している。
バグダーディー容疑者は、アルカーイダ系組織が中心となって樹立を宣言した「イラク・イスラム国」の指導者とされるが、武装組織側は、同容疑者のものと主張する音声テープをネットで流すなど、拘束したとする政府の発表を否定。これに対し、政府は18日、同容疑者の取り調べの様子とする映像を公表し、拘束は事実であると改めて強調していた。【5月21日 産経】
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上記テロ以外にも、21日午前にはバグダッドと北部キルクークで自爆テロがあり、計19人が死亡しています。
また、6日には、バグダッドのドーラ地区にあるラシード市場で自動車爆弾による攻撃があり、少なくとも10人が死亡し、女性を含む37人が負傷しています。
バグダッドではここ数週間、このような多くの市民が集まる場所を狙った爆弾攻撃が相次いでいます。
特に、シーア派が狙われる例が多く、かつて反米武装闘争をしていたアルカイダ系のスンニ派武装組織が活発化しているとみられています。米軍の都市部からの撤退スケジュールを睨んで揺さぶりをかけているとも。

【強気のマリキ首相】
治安に再び影が忍び寄るなか、イラク最高裁は18日、次の国民議会選挙の投票日を来年1月30日とする裁定を下しました。
今年1月には地方選挙が大きな混乱なく行われましたが、次の総選挙が平和的に実施され、安定した政権ができるかどうかは、米国が来年8月までに予定する戦闘部隊の撤退日程にも影響します。【5月19日 朝日より】

その総選挙で勝利を狙っているのが、地方選挙でも大勝したマリキ現首相です。
マリキ首相はもともと国内の有力派閥と深い繋がりがないため、各派からの反発も少なく、アメリカも操りやすいということで、首相に就任できたと言われています。
その就任当初は「弱い」政治家と言われていたマリキ首相ですが、最近では「強気になってきた」とも言われ、その強権体質が批判されることもあります。
米軍撤退によって更に巨大な権力を手にすることにもなります。

アメリカとの関係では、必ずしも“操られる”関係だけではなくなっています。
昨年11月のアメリカとの地位協定交渉においては、完全撤退の期限を「11年末まで」と明示することに当初アメリカは抵抗していましたが、結局、「米軍をイラクから追い出した強い指導者」とのイメージを打ち出したいマリキ首相の思惑もあって、アメリカ側が譲歩したかたちとなっています。
マリキ首相は“国連決議の期限切れ”を背景にアメリカ側との交渉に“粘り腰”で臨み、撤退期限の規定以外にも、米軍の軍用車をイラク側が調べる権限、非番の米兵・民間軍事会社社員らによる犯罪を調査する特別委員会の設置、米軍による家宅捜索にはイラク当局の許可が必要など、一定の譲歩をアメリカ側から引き出すことに成功しました。

最近では、4月26日、駐留米軍による作戦でイラク人2人が死亡したのは「すべての軍事作戦はイラク政府の合意に基づき実施する」と定めた地位協定に違反するとして、米軍に責任者の身柄を司法当局に引き渡すよう求める声明を出しています。
マリキ首相は声明で米軍側を「犯罪」だと非難しています。
イラク駐留米軍の地位協定で、違反の指摘は今回が初めてです。
米軍側は、作戦はイラク側の事前承認を得ており、協定違反はないと反論しています。【4月27日 読売】
(なお、この件に関しては、“イラク国防省の広報官は、米軍の作戦を政府の承認なしに認めた疑いがあるとしてイラク軍の高官2人を逮捕したと述べており、イラク政府と米軍との間で情報の行き違いがあった可能性もある。”【4月27日 共同】という報道もあります。)

【国内和解進展に懸念】
マリキ首相の「強気」は国内にも向けられており、“総選挙に向けてライバルつぶしにいそしんでいる”【4月22日 Newsweek 日本語版】とか、“少数派をますます顧みなくなっている”【5月27日 Newsweek 日本語版】とか言われています。
先述の地位協定交渉においても、少数派のスンニ派勢力の賛成を取り付けるため、スンニ派部族らでつくる自警組織「覚醒評議会」メンバーのイラク治安部隊への編入――などの要求を認めた経緯がありますが、その実行は進んでいないようです。
石油収入配分にいてもクルド人勢力との問題があります。
(今月10日にイラク政府は、クルド人自治区の油田から原油の輸出を開始することを発表していますが、これがイラク政府とクルド側の間のなんらかの妥協成立を意味するのかどうかはよくわかりません。)

アメリカも米軍撤退後のイラク国内諸派の抗争再燃は懸念しており、4月7日バグダッドを訪問してマリキ首相と会談したオバマ大統領は、共同会見で「イラク諸派が政治的手段で意見の食い違いを解決するのを強く支持する」と発言し、和解を求めています。
首相は「民主化を含め、たくさんのことを達成した。治安の改善が継続することを大統領に確約した」と述べていますが、どうでしょうか・・・。

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アメリカ  水責めなどの“過酷な尋問”をめぐり、オバマ大統領とチェイニー氏が論戦

2009-05-22 21:53:57 | 世相

(水責めのデモンストレーション 拷問に反対する催しですから、実演している恐そうな方も、実際は拷問に反対する優しい方なのです・・・多分。
“flickr”より By isa e
http://www.flickr.com/photos/isa_e/2023183793/)

【“自国の価値観と理想”】
オバマ大統領は就任直後の1月、テロ容疑者に対する「水責め」などを禁じる大統領令に署名。
4月16日には、司法省法律顧問がCIAに渡した、「水責め」などを裏付ける覚書(2002~05年の文書4件)の公開に踏み切りました。
一方、ブッシュ政権時のチェイニー副大統領は、水責め等の正当性を主張しています。

****対テロ政策めぐり火花=オバマ大統領とチェイニー氏-米****
キューバ・グアンタナモ米軍基地のテロ容疑者収容所閉鎖の是非など米国の対テロ政策をめぐり、オバマ大統領とチェイニー前副大統領が21日、それぞれ演説して火花を散らした。オバマ大統領は、前政権の政策が米国の価値を傷つけ、結果的にテロリストを増殖させたと主張。一方、チェイニー氏は第二の同時テロを防いだと正当性を強調した。

国立公文書館で演説したオバマ大統領は「最も大切な米国の価値観を守ることが、平時も戦時も、国の安全を守る上で最高の資産となる」と強調。収容所での処遇や中央情報局(CIA)による過酷な尋問が「法の支配を損ない、米国に対する世界の支持を失った」と指摘した。
一方、直後にワシントン市内で講演したチェイニー氏は「当時、情報機関に合法的な権限を与え、テロを防ぐ有益な情報を得ることができた」と成果を訴えた。【5月22日 時事】
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オバマ大統領は4月20日にCIA本部を訪れ「米国が特別なのは、脅威にさらされている厳しい時代にあっても、われわれが自国の価値観と理想を積極的に支持するためだ」とコメント。
法の順守は国際テロ組織アルカイダなどへの対応を一層困難にするものの、米国が最終的に勝利し、歴史的に評価されるだろうとの見解を示しています。【4月21日 CNN】
また、4月29日、就任100日目あたって行った記者会見で、テロ容疑者に対して行われた「水責め」を正当化するためブッシュ前大統領が用いた法解釈は「間違い」で、水責め行為は「拷問だ」と明言しています。【4月30日 AFP】

チェイニー前副大統領は5月10日、米CBSテレビの番組で、過酷な尋問によって国際テロ組織アルカイダのテロ容疑者から引き出した情報によって、「数千人、数十万人の米国民の命を救ったと、全面的に確信している」と述べ、ブッシュ前政権が容認した水責めなどの尋問手法を「後悔はしていない。まったく正しいことだったと思っている」「容疑者の抵抗を打ち破るために必要不可欠のものだった」と正当化しています。【5月11日 AFP】

【「セ氏5度以上」】
“水責め”の具体的な方法についてはあまり記載されていませんが、“ホルダー米司法長官は3月2日、ワシントン市内で講演し、国際テロ組織アルカイダのテロ容疑者らに自供させるため、口や鼻に大量の水を注ぎ込む過酷な尋問法「水責め」について「拷問であり、わたしが長官である限り、これを正当化したり容認することはない」と約束した。”【3月3日 産経】とあり、大体“水責め”という言葉から連想するような内容だったようです。

その回数などについては、
****米CIAの尋問、アルカイダ被告に水責め183回****
米中央情報局(CIA)が、9.11米同時多発テロ事件の主犯格の1人とされる国際テロ組織アルカイダのハリド・シェイク・モハメド被告に対する尋問で、183回に及ぶ水責めを行っていたと、20日の米ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。
また、同じくアルカイダ幹部として拘束されたアブ・ズベイダ容疑者には83回の水責めが行われたという。

同紙は2005年の米司法省関連の覚書を引用し、この2人に行われたとされる水責めを使った尋問の回数が、これまでに報道されていたよりもずっと多かったことを示した。また、元CIA職員のジョン・キリアコウ氏が2007年に、ズベイダ容疑者に行った水責めは、同容疑者に知っていることをすべてを自白することに同意させるために行った35秒間だけだったと、報道機関などに語っていた点も指摘した。(後略)【4月20日 AFP】
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なお、アルカイダ幹部として拘束されたアブ・ズベイダ容疑者は、ただの物資調達係りだったようです。【4月29日 Newsweek日本語版】

アブ・ズベイダ容疑者の尋問については“手錠をかけられたまま、1週間睡眠を奪われ、壁に叩きつけられ(ただし、「非常に硬い壁ではなく、回数も20~30回以下」)、何度も冷水(ただし、「セ氏5度以上」)を浴びせられた・・・とのことです。【4月29日 Newsweek日本語版】
「 」書きは、公開された覚書にある、CIAからのお伺いに対して司法省法律顧問が行った拷問禁止規定に抵触しないための法的助言です。
水責めには、「セ氏5度以上」の冷水をホースやバケツで浴びせる・・・という内容も含むようです。
“口や鼻に大量の水を注ぎ込む”方法よりは、はるかに人道的な方法です。
逃げられない者の顔面に強い水圧で長く浴びせれば同じかもしれませんが。

【虫責め】
アブ・ズベイダ容疑者は虫嫌いだったようで、それを知ったCIAは“狭くて暗い箱に閉じ込め、昆虫を体に這わせる”という“虫責め”についても司法省にお伺いをたてています。
司法省の回答は「毒虫を入れると通告すれば不当な脅迫だが、何も告げず、無害な虫と一緒に閉じ込めるだけなら問題ない」というものでした。こうした尋問方法は「妥当な判断力を持つ人間を深刻な肉体的苦痛に直面させることにはならない」ということです。

いささか滑稽な問答ですが、虫嫌いの私からすれば“拷問”以外のなにものでもありません。
結局、この“虫責め”は実行されなかったそうです。【4月29日 Newsweek日本語版】

【美学の問題】
映画やTVドラマのヒーローが悪人の頭に拳銃をつきつけ「三つ数えるまでに、話せ」と迫る類のシーンはよく見かけ、多くの視聴者はそれを受け入れています。
もっとも多くの場合、怯えた悪人は秘密を話し、頭を打ち抜かれることもありませんし、銃には実際には弾が入っておらず、撃つつもりもなかった・・・という流れになりますが。
悪人が話さず、実際に頭を打ち抜いたら、世間が認める“ヒーロー”たりうるかは疑問です。

非人道性を批判することは容易ですが、テロの危機も考えられる場面で、“拷問”あるいは“過酷な尋問”をどのように評価するかは迷うところもあります。
水責め尋問は逆効果だった・・・という話には、ほっとするところがあります。

****アル・カーイダ水責め尋問「逆効果だった」…FBI元捜査官****
米上院司法委員会は13日、ブッシュ前政権下での「過酷な尋問」に関する公聴会を開き、国際テロ組織アル・カーイダ幹部を取り調べた連邦捜査局(FBI)の元捜査官は「水責めなどの尋問手法は逆効果だった」と証言した。
チェイニー前副大統領などは、過酷な尋問は「次なるテロの阻止に役立った」と主張しており、当事者の証言は尋問論議に一石を投じそうだ。
この元捜査官は、2002年3月に逮捕されたアル・カーイダ幹部のアブ・ズベイダ容疑者を尋問したアリ・スーファン氏。
証言によると、元捜査官は信頼関係の構築などを基本とする通常の方法で尋問し、アル・カーイダ最高幹部ハリド・シェイク・ムハンマド容疑者(逮捕済み)が米同時テロに関与していたなどの有力情報を自白させた。
ところが、中央情報局(CIA)に委託された民間取調官が続いて尋問を担当した際、水責めを行った結果、ズベイダ容疑者は口を閉ざしたとされる。元捜査官は「過酷な尋問は非効果的だ。アル・カーイダ打倒の取り組みに有害となる」と主張した。【5月15日 読売】
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“過酷な尋問”の効果の有無にかかわらず、「米国が特別なのは、脅威にさらされている厳しい時代にあっても、われわれが自国の価値観と理想を積極的に支持するためだ」「最も大切な米国の価値観を守ることが、平時も戦時も、国の安全を守る上で最高の資産となる」と、毅然とすることは勇気のいることです。
個人的にはそのような姿勢を評価しますが、日本において世間のみながそれを受け入れてくれるかどうかについては自信がありません。

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