孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  底を打った経済 石油を求めるアメリカとの関係改善の流れ 国内野党勢力との対話再開

2022-11-30 22:44:11 | ラテンアメリカ
(【10月2日 日経】マドゥロ大統領夫妻 2月・カラカス 政治的・経済的窮地を乗り切りつつあるようにも)

【反米左派ポピュリスト政権が招いた経済破綻 国民は貧困へ】
ベネズエラの反米左派チャベス前大統領、後任のマドゥロ大統領は政治的には野党・反対勢力を弾圧し、経済的には想像を絶するパイパーインフレーションを引き起こし、多くの国民を食事にも事欠く貧困と国外への難民へと追いやる失政を重ねてきました。

****ベネズエラを事実上のデフォルトに追い込んだ「ポピュリズム」の恐怖****
日本はそこから何を学ぶ?
(中略)日本では「ハイパー・インフレ(国際会計基準で3年間で累積100%以上の物価上昇を指す)」と言われても今一つピントこないのだが、南米ベネズエラでは今年(2019年)1月のインフレ率が268万パーセントに上ったと議会が発表した。また国際通貨基金(IMF)は、ベネズエラの今年のインフレ率を「1000万パーセント」と推定している。そう、見間違いではない。1年で物価が「10万倍」になると見ているのだ。(中略)

この凄まじいIMFのインフレ推定値については、そもそもインフレ予測など不可能であり数字に意味はないとする専門家の意見や、現政権を倒したい米国寄りの政治的な意図があるとして批判する向きもある。当のベネズエラ政府は、2015年から経済指標の開示をやめてしまっている。(中略)

国連の高等難民弁務官事務所(UNHCR)の発表では、周辺国にすでに人口の1割に相当する300万人を超すベネズエラ人が事実上の難民として流出している。国のシステムが破綻して機能不全に陥っていることは、何よりもそれが雄弁に物語っているだろう。

「中南米の優等生」から破綻国への転落
(中略)今のベネズエラは殺人発生率世界一だ。暴動に汚職、凶悪犯罪が多発する。個人で気ままに旅行するには危険すぎる国となってしまった。

昨年、マドゥロ大統領が対立候補を排除して強行した選挙で再選されたが、野党が再選挙を要求。グアイド国民議会議長が自ら暫定大統領就任を宣言したことで国際社会の対応が割れ、内戦が起こるのではと懸念されるなど、混沌とした情勢が続いている。

ベネズエラは世界一原油リッチな国だ。オリノコ川流域に豊富に存在するタール状の「超重質油」が技術進化で石油資源として利用できるようになり、これがカウントされたことで原油埋蔵量がサウジアラビアを抜いたのだ。

資源大国として潤っていたため都市のインフラも整備され、他の中南米諸国と比べれば政治も安定して中産階級も育っていた。かつては「中南米の優等生」だったのである。

では何故この資源大国で、食料や生活必需品や薬が慢性的に不足して栄養失調や飢餓まで報告される深刻な危機が進行しているのか。

あまり日本では報道されないが、ベネズエラの事例は誤ったポピュリスト政策がいかに一国のシステムを比較的短い間に破綻させ得るか、という教訓に満ちている。

ベネズエラの貧困世帯は2013年から2015年までのたった2年間で人口の3割から7割に膨れ上がり、それが今では9割だというカラカスの大学による試算もある。

特に悲劇なのは、社会格差の是正を期待した民衆の大歓声を浴びて迎えられた政権が、極端なナショナリズムや排他主義、短視眼的なバラマキなど問題解決には程遠い政策で、大多数の国民―とりわけ支持基盤の貧困層―をより深い貧困と不幸に突き落としてしまったことだ。

ポピュリスト政権が行ったこと
ベネズエラの外貨収入の95%近くを稼ぐのは原油。いわば、ベネズエラの「めしのタネ」だ。原油は70年代から国有化されているが、以前は国営ベネズエラ石(PDVSA)は政治的には中立で、自立した経営が認められていた。優秀な人材も多かったと言われる。

ベネズエラ西のマラカイボ地域の油田は良質だが、古くて生産量は先細り。一方オリノコ川流域には巨大な原油が埋蔵されているが、超重質油の比重が高くて、そのままでは国際市場で競争できない。そこで90年代に積極的に外資が導入され、最新技術で超重質油をアップグレードしたり新規の油田を探鉱・開発するプロジェクトが進められた。

いわばリスクの高い投資プロジェクトを外資に負わせる形で国家資源の開発を図ったわけである。この結果、2000年代の始めにはベネズエラの原油生産量の3分の1が外資となっていた。

そこに、「外国石油資本と結びついて特権を得る富裕層と対決する」という分かりやすい階級闘争に訴えて1998年に当選したのが、故ウゴ・チャベス前大統領だった。中南米ではスペイン植民地時代の負の遺産で歴史的に社会不平等が大きく、多数を占める貧困層を中心にポピュリズムが浸透しやすい構図がある。チャベス氏自身は中産階級の出身だったが、元軍人でカリスマもあり、貧困層から圧倒的な支持を得た。

反対勢力による激しいゼネストを封じ込み、2万人近い従業員を親チャベス派に総入れ替えするなどして2003年までにはPDVSAを完全掌握。原油利益の大半を「ミシオン(使命)」と呼ばれる貧困者対策などの社会事業の原資として吐き出させることに成功する。

さらに外資メジャーとやっていた事業については、国営公社が6割以上の権益を持つよう2006年から再交渉を義務付け、エクソンモービルやコノコ・フィリップス、フランスのトタール、イタリアのエニなどの資産を事実上接収した。

その結果、何が起きたかーー。
貧困層の救済や社会的な不公平を是正するという目的自体は、本来正しかったはずだ。しかし、チャベス政権の政策は、国家の「めしのタネ」、国家戦略上極めて重要な原油産業を、金のガチョウを殺してしまうように自らの手で潰してしまったのだ。

PDVSAの利益の多くが社会事業に回され、既存油田のメンテナンスや新規油田開発の為の投資は原油収入のわずか0.1%まで削減された。またそれまでは外資メジャーが肩代わりしていた油田開発や重質油のアップグレード技術への投資も国営化によって止まってしまった(後に、ロシアや中国からの投資を受け入れ)。

先述の通りベネズエラの原油は古い油田や重質油が中心だから、メンテや新規投資を怠ったらどんどん国際競争力をなくしてしまう。案の定、ベネズエラの原油生産量は目に見えて低下し、コストが高い超重質油の比率が上昇した。

近年石油業界の経験のない軍人がPDVSA総裁と石油相に就任したが、組織混乱による人材不足も加わり、現在の日量100万バレルはピークの3分の1でしかない。当然、外貨収入もどんどん目減りしていった。

原油価格だけが原因ではない
本格的な危機が始まったのは原油価格が急落した2014年からだから、原因はひとえに石油価格ではないのかという議論もあるが、それだけでは説明できない。

例えばベネズエラには以前、原油価格下落に備えて、価格が高い間に余剰資金を備蓄しておく安定化基金があった。しかしチャベス政権が法改正をして、基金への振り込み義務を無効にしてしまったのだ。

石油収入を基金にして外貨建てで運用し、その運用利益だけを歳入に回しているノルウェーなどと比べれば、財政規律の違いは歴然だ。原油価格が急落した時、バッファーを持ち合わせなかった現マドゥロ政権は、大量の紙幣を刷ってハイパーインフレの負のサイクルに突き進んでいった。

一方、物不足は原油価格下落以前から始まっていた。チャベス政権が食料や日用品の価格統制を始めたためだ。これも元々は貧困層の救済策であったはずというところが悲しいのだが、結果としては採算割れの事業を強いられた業者が次々に製造や販売から撤退し、食料や商品が商品棚から消えてしまったのだ。

さらに原油価格が急落してからは、政府がデフォルトを防ぐことを優先して民間セクターの輸入を大幅に制限したため、生活必需品不足が一段と深刻化した。

トイレットペーパーや石鹸を買うのに何週間もあちこちの店を探し回って何時間も行列をするのは日常のこと。学校に行くためのバス便や子供に飲ませるミルクや病院での薬やあらゆる備品も不足している。

最近のインフレには賃上げが追いつかず、食料や最低限の生活物資を購入するのも困難になっている。今年(2019年)1月から最低賃金は月に1万8000ボリバルと以前の3倍に引き上げられたが、一般の人が利用する非公式為替レートでは7ドルにもならない。一方、玉ねぎ1キロの値段は4000ボリバル、洗剤は5000ボリバルはする。

カラカス市の六千人以上を対象にした大学機関の調査では、市民の平均体重が2016年は7キロ、2017年には11キロ減少したという。国連食糧農業機関は、人口の12%に相当する370万人が栄養失調だと発表した。外貨収入や海外に脱出する術のない貧困層を中心に、国民の負担は極めて大きい。(後略)【2019年2月28日 小出 フィッシャー 美奈氏 マネー現代】
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【底を打った経済 やや安定化】
そんな経済破綻状態のベネズエラでしたが、今年に入るとやや経済が持ち直してきたようです。

****ベネズエラが超インフレ抑制で進展、左派政権ながら経済を緊縮****
2018年にインフレ率が13万パーセント超のハイパーインフレを記録したベネズエラで、昨年9月以来、前月比の物価上昇率が1桁台に収まっている。

今年5月の前年同月比上昇率は167%で依然、世界でも高いとは言え、消息筋やアナリスト5人によると、国内銀行への外貨供給拡大や国内銀行に対する融資拡大制限、公的支出削減、増税などを通じ通貨ボリバル相場の安定を狙うマドゥロ政権の戦略が成功している。

石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるベネズエラにとって、石油高騰も財政難の助けになった。外貨収入が増え、中銀が今年上半期の国内銀行への週次のドル供給を2倍にすることができた。(中略)

ただ、公的支出削減によって公務員の昇給は抑制が続き、公的部門と民間部門の労働者の賃金格差は拡大。資本主義国では珍しくないが、社会主義政権では異例とも言えるこうした一連の施策は、消息筋によれば、2020年に経済方面の経験がないままに経済・財務・貿易相に就任したロドリゲス副大統領が、近隣国エクアドルの元反米左派政権の当時の当局者らから指南を受けたという。【8月2日 ロイター】
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【ロシアのウクライナ侵攻で変わった国際環境 石油が欲しいアメリカは関係改善へ】
一方、国際的政治環境、特にアメリカとの関係も、ロシアのウクライナ侵攻によって“ロシア産に代わる石油が欲しい”アメリカ・バイデン政権の思惑から、改善に向かっています。

****米はベネズエラ原油輸入探る ロシア産代替****
ロシア産原油を禁輸したバイデン米政権が、代替調達先として南米の産油国ベネズエラからの輸入再開を模索している。反米左派マドゥロ政権に科してきた制裁を緩和することになるため国内外から批判が高まるが、石油業界は「決定」を見越して前のめりだ。

バイデン政権高官が今月5日、突然ベネズエラを訪問し、同国のマドゥロ大統領と会談した。目的はベネズエラ産原油の輸入再開を協議するためだったとされ、ホワイトハウスのサキ報道官は「訪問目的はエネルギー安全保障を含むさまざまな問題を協議することだった」と大筋で認めた。

独裁を強めたマドゥロ氏を退陣に追い込むため、米政府はトランプ政権時代の2019年に「国営ベネズエラ石油」(PDVSA)に制裁を発動。ベネズエラの主要な外貨獲得手段である原油の輸入を制限した。

米政府の〝方針転換〟にマドゥロ氏は7日、協議が「敬意にあふれて友好的、非常に外交的だった」と評価。8日には、ベネズエラ当局に拘束されていたPDVSAの米国子会社元幹部ら米国民2人が釈放され、ベネズエラ政府の協議進展への期待をうかがわせた。

一方で、バイデン政権には批判が相次いだ。米議会上院のメネンデス外交委員長(民主党)は声明で「(ベネズエラの)政権支配層が原油の利益で私腹を肥やす行為に強く反対する」と非難。野党・共和党のルビオ上院議員は「取るに足りない量の原油と引き換えに、ホワイトハウスはベネズエラで自由を求める人々を見捨てる提案をした」とツイッターに書き込んだ。

米政府がベネズエラの暫定大統領として認定するグアイド氏も「制裁解除は、ベネズエラにおける民主主義と自由への移行に向けた進展を条件としなければならない」と不快感を示す。

批判を受けてバイデン政権は軌道修正に入り、サキ氏は「現時点では積極的に対話していない」とトーンダウン。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、ベネズエラ当局が拘束を続けている他の米国人に言及し、制裁緩和は「マドゥロ氏による具体的な措置」次第だとした。

政権の躊躇をよそに石油業界は動き出した。ロイター通信によると、米石油大手シェブロンは禁輸緩和に向け現地合弁企業での準備をスタート。4月にも自社製油所にベネズエラ産原油を出荷する目算だという。
ただ、低迷するベネズエラの原油生産の急速な回復は見込めない。国民の国外脱出が相次いだことで技術者が不足し、制裁の影響で設備の老朽化に整備が追いついていないからだ。

米メディアなどによると、ベネズエラの原油生産量は1990年代には日量約320万バレルだったが、今年2月は日量約75万5千バレルにとどまる。米政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員、ライアン・バーグ氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)に対し、「PDVSAが簡単に(原油の)栓を開けられると思うのはひどい間違いだ」と指摘している。(住井亨介)【3月27日 産経】
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その後もアメリカとの関係改善の流れは続いています。

****ベネズエラが拘束米国人7人解放 米収監の大統領親族2人と交換****
米政府は1日、南米ベネズエラが同国で拘束していた米国人7人を解放したと発表した。交換として米側も米国で収監していたマドゥロ大統領の親族2人を釈放した。バイデン政権は反米路線を維持するマドゥロ政権との対立緩和を模索している。(後略)【10月2日 共同】
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****米政府がシェブロンにベネズエラでの限定操業許可、政治対話再開で****
米政府は26日、ベネズエラ向けの経済制裁の一部を緩和し、石油大手シェブロンに対してベネズエラでの操業を限定的に許可したと発表した。米国がかねて求めていたベネズエラの反米左翼マドゥロ政権と野党連合の対話が再開されたためだ。

シェブロンはベネズエラの新油田開発を支援することは禁じられるが、石油売却資金を国営石油会社PDVSAの債務返済に充当する手助けや、同国の原油を輸出可能なグレードに精製するための支援が認められる。

これにより、西側諸国の対ロシア制裁の影響で需給がひっ迫している国際原油市場にある程度の新規供給が生み出されることになる。(中略)

米財務省は、今回のシェブロンへの限定的な操業許可について、当初の有効期間は半年で、その後毎月自動更新される仕組みだと説明した。ただいつでも許可を撤回する権利は留保されるという。【11月28日 ロイター】
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【アメリカの意向を受けて国内反体制派との対話も】
こうしたアメリカとの関係改善の流れを受けて、マドゥロ大統領は(米政府がベネズエラの暫定大統領として認定する)国内反体制派グアイド氏との対話も再開へ向けて動きだしました。

****ベネズエラ大統領、野党と対話再開へ 米の制裁緩和受け=関係筋****
ベネズエラのマドゥロ大統領が、米国が支持する野党側との協議再開を発表する見通しであることが分かった。米政府が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いたことが背景にある。米政府当局者やその他の関係者が明らかにした。

バイデン米政権は、ベネズエラで操業を続ける唯一の米石油会社シェブロンがマドゥロ政権と協議を再開することを一時的に認めた。ただ、同社に対する限定的な操業許可の更新の是非はまだ最終判断していない。(中略)

米政府は3月にここ数年で最も高位の代表団をベネズエラの首都カラカスに派遣し、マドゥロ大統領らと会談したばかり。ベネズエラ側は拘束していた米国人2人を釈放した。(中略)

野党指導者のグアイド氏を暫定大統領として承認した米国は、対ベネズエラ制裁を大幅に解除する可能性について、両陣営による交渉の進展次第との立場を示している。【5月18日 ロイター】
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****ベネズエラ政府と反対勢力がオスロ・フォーラム出席へ、交渉に希望****
ベネズエラ政府と反対勢力の代表がともに、21・22日に開催される「オスロ・フォーラム」に出席する。ノルウェー外務省が20日明らかにしたもので、両者の交渉再開に希望が開かれる形となった。

「オスロ・フォーラム」は紛争仲介に特化した国際イベント。近年600万人超の国外退去を招いているベネズエラの経済・政治危機について話し合うため、ノルウェーが仲介している。

ベネズエラのマドゥロ政権は昨年10月、反対勢力との交渉からわずか2カ月で撤退。(中略)【6月21日 ロイター】
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11月26日にはグアイド氏側との対話も再開しました。

****ベネズエラ対話再開、国連に海外資産凍結の段階的解除管理を要請****
ベネズエラの反米左翼マドゥロ政権と、バイデン米政権が「暫定大統領」と認めるグアイド前国会議長が率いる野党連合の対話が26日、メキシコで1年以上ぶりに再開した。双方はトランプ前米政権による制裁で凍結された海外資産の人道支援目的の段階的解除に向け、国連に管理を要請した。対話に参加した代表団が発表した。

メキシコ市で行われた対話はノルウェーが仲介。ロイターは先月に消息筋の話として、凍結されたベネズエラの資産が30億ドルを超えると伝えていた。

ブリンケン米国務長官はSNSで対話再開について、「ベネズエラが民主主義を取り戻すための重要な一歩だ」と歓迎。「対話が合意をもたらし、自由で公正な2024年大統領選につながることを期待する」とした。マドゥロ氏もSNSで「われわれは常に対話に向けて努力していく」と表明した。

海外資産は国内の電力網安定や教育インフラ改善、今年の豪雨と洪水被害への対処に充てることが意図されている。ベネズエラの両勢力の間では来年の大統領選のほか、多数の政治犯の処遇なども課題になっているが、今回は協議の対象にしない見込み。【2月28日 ロイター】
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グアイド前国会議長としてはアメリカがマドゥロ政権との関係改善で動き出したことで“はしごを外された”感もありますが、それまでにマドゥロ政権を追い込めなかった力不足の結果でもあります。

ただ、石油が欲しいバイデン政権の思惑はともかく、「関係改善」「国内の対話再開」で、マドゥロ政権が犯してきた政治的弾圧、国民を貧困・難民に追いやった経済失政の罪が消える訳でもありません。
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コンゴ民主共和国  未だに続く「資源の呪い」 スマホ・EVを支える「コバルト生産の闇」という現実

2022-11-29 23:36:11 | アフリカ
(コンゴ民主共和国のコバルト鉱山で働く少年【2021年11月27日 クーリエ・ジャポン】)

【民族対立、鉱物資源の利権をめぐって争い続ける武装勢力】
このブログでも何度か取り上げているアフリカ中部コンゴ民主共和国で多くの武装勢力が横行する混乱は相変わらずのようです。

国連PKO部隊も展開してはいますが、武装勢力に有効に対応できず、更には住民暴動の標的にもなっています。(8月5日ブログ“コンゴ PKO部隊基地が撤退を求める現地住民に襲撃され被害”など)

****武装勢力が進撃、避難民さらに増加 コンゴ民主共和国****
コンゴ民主共和国東部では先週、反政府武装勢力「M23(3月23日運動)」の進撃が続いた。
M23は、北キブ州の州都ゴマからわずか20キロ北のキブンバで軍と戦闘を繰り広げた末、キブンバを制圧したと今月9日に発表した。

匿名の軍関係者はAFPに対し、M23は普通の武装勢力が持っているはずのない武器を持っており、プロの軍隊のようだったと語った。

15日の午後、M23が近づいているといううわさが流れ、キブンバの南にあるカニャルチニャの避難民キャンプに大勢の人が新たに流入。先週末時点で同キャンプにいる人は約4万人に上った。

主にコンゴのツチ人が構成するM23は、2012年にゴマを一時支配下に置いて注目を集めたが、その後放逐され、活動は沈静化していた。

しかし、M23の戦闘員を軍に受け入れるという2009年の合意をコンゴ民主共和国の政府が順守していないなどとして、昨年戦闘を再開した。

12日から13日にはコンゴ東部の安定化を目指す東アフリカ共同体の軍事作戦で約100人のケニア兵が空路ゴマに到着。ケニア部隊の司令官はゴマを守り抜くと述べた一方、戦闘よりも政治的解決とM23の武装解除を優先するとも述べた。

今回の危機で、コンゴ民主共和国は隣国ルワンダがM23を支援していると非難。ルワンダ政府はこれを否定しているが、AFPが8月に内容を確認した国連への未公表報告書では、ルワンダのM23への関与が指摘されていた。

一方のルワンダは、1994年のルワンダ大虐殺の後に国外に出たフツ人と結託しているとコンゴ民主共和国を批判しているが、コンゴ側はこれを否定し、両国関係は悪化している。 【11月21日 AFP】AFPBB News
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ルワンダ大虐殺の原因となったフツ・ツチの対立は、コンゴに舞台を移して未だに続いています。

コンゴで内戦・武装勢力の活動が絶えない背景のひとつが豊富な地下資源。まさに「資源の呪い」です。

****コンゴの紛争 背景には鉱物資源****
それにしても、なぜ、これだけ長きにわたって紛争と性暴力が絶えないのか。

アフリカで2番目に大きな国土を持つコンゴ民主共和国は、9つの国と国境を接し、まさに大陸の中心部にあります。1998年から5年近く続いた内戦では、周辺国も介入して「アフリカ大戦」とも呼ばれ、400万人以上が戦闘や飢餓で死亡しました。

内戦終結後も、東部では、いくつもの武装グループが激しい戦闘を繰り広げています。
紛争の原因になっているのが、世界有数の埋蔵量を誇る金やダイヤモンド、それに携帯電話などに使われるレアメタルといった鉱物資源です。武装グループは、こうした鉱物資源の利権をめぐって争い続けています。(後略)【2018年 NHK】
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話が横道にそれますが、多くの周辺国・関係国を巻き込んで400万人以上が戦闘や飢餓で死亡したとされる「アフリカ大戦」・・・ほんの20年程前の出来事ですが、日本や欧米でどれだけ認知されているのか?
ウクライナで戦争が起きると大騒ぎしますが、アフリカで何百万人が死のうが日本や欧米では気にもかけていない・・・というのが「現実」です。

なお、コンゴの戦争が「アフリカ大戦」と呼ばれるほどに拡大したのも「資源」の存在が周辺国・関係国を呼び込んだせいです。

【EVの心臓ともいえるリチウムイオン電池の生産に欠かせない鉱物、コバルトをめぐる人権侵害】
コンゴに存在する「豊富な資源」・・・そのひとつがコバルト。
コバルトは現代社会の必需品スマホや、将来社会をリードすると思われるEV(電気自動車)に使用されるリチウムイオン電池に不可欠な鉱物です。スマホ1台に約8グラム含まれるとも言われています。

そのことは、コンゴの現状と日本や欧米先進国の社会が無関係ではないことを示しています。

コンゴは、コバルトの世界生産の約7割を占めており、スマホや「クリーン」なEVの普及で、その需要は急増しています。世界銀行グループの報告書では、電池などエネルギー技術にかかわるコバルト需要は2050年には、2018年に比べて約4.6倍に増えると試算されています。

****EVは地球に優しくても人間に優しくない一面をもつ――コバルト生産の闇****
電気自動車が普及するにつれ、リチウムイオン電池の原料であるコバルトへの関心が高まっている。
しかし、世界一の産出国であるコンゴ民主共和国では、コバルト生産をめぐる児童労働などの人権侵害が深刻である。こうした闇は、脱炭素への関心が高いが故に、国際的にはないものと扱われている。
 
いまや「脱炭素(カーボンニュートラル)」の一つの柱として世界的なトレンドになりつつある電気自動車(EV)は、地球には優しいかもしれないが、人間には必ずしも優しくない一面がある。

児童労働によって成り立つEV
(中略)ただし、脱炭素で注目されるEVも万能ではなく、そこには影もある。
とりわけ深刻なのが、EVの心臓ともいえるリチウムイオン電池の生産に欠かせない鉱物、コバルトをめぐる人権侵害だ。

世界全体のコバルト生産の60~70%を占める中部アフリカのコンゴ民主共和国では、コバルト開発で児童労働が蔓延しており、搾取や暴行だけでなく劣悪な環境での死亡事故さえ頻繁に発生しており、この問題は2017年に国連の国際労働機関(ILO)でも議論されている。

コンゴの闇の奥
ところが、脱炭素が大きなムーブメントを生むなか、コンゴの問題はないものとして扱われやすい。他の分野でエシカルを強調する国・企業も、その例外ではない。

その典型例は、コバルト開発にかかわる多くの企業が2019年12月に訴えられた裁判だった。その対象には、アップル、グーグル、マイクロソフト、デル、テスラなどの名だたる欧米企業だけでなく、浙江華友コバルトなど中国企業も含まれていた。

この裁判は、大企業に対する訴訟を支援するアメリカの民間団体インターナショナル・ライツ・アドボケート(IRA)が起こしたもので、IRAはコンゴ人の14家族の代理人として、同国でコバルト開発にかかわる海外企業が「子どもを違法に就労させただけでなく、安全確保を怠り、事故で死亡させた」として提訴した。

訴状によると、こうした企業は法令に違反して子どもを雇用し、食事も十分に与えず、賃金は1日2〜3ドルしか支払っていなかったという。これらの鉱山では安全対策もおざなりで、しばしば死亡事故も発生している。

訴えられた企業の一つグーグルは英BBCの取材に対して「あらゆる原材料を倫理的に調達し、グローバルなサプライチェーンから児童労働を削減することに努めている」とコメントしている。

残念ながらコンゴ民主共和国では、それ以外の資源の採掘でも海外企業のからむ人権侵害が数多く指摘されているが、温暖化対策の切り札として注目されるコバルトの開発にはサステナブルやエシカルといったイメージがともないやすいだけに、その影も大きくなる。

人権保護の観点から企業活動の監視を行なうイギリスのNGO、開発における権利と説明責任(RAID)の責任者アンネク・ファン・ワンデンバーグ氏は「コバルトは地球温暖化対策に欠かせない資源だが、数百万台のEVに必要なリチウムイオン電池の不名誉になるような、搾取的な労働条件から目を背けるべきでない」と指摘する。

国際的に黙認される人権侵害
もちろんコンゴでも児童労働は法的に規制されている。
 
しかし、アフリカでは政府と癒着する企業による人権侵害が見過ごされやすく、とりわけコンゴ民主共和国はこれが目立つ国の一つだ。そのため、法令でいくら児童労働などを規制していても、企業に対する監督などはほぼザルで、問題が指摘される企業への是正勧告などもほとんど行われていない。

それどころか、海外企業の利益を守るため、コンゴ政府が深刻な人権弾圧を行なうことさえある。

コンゴでは海外の巨大企業とローカルな採掘者の間で、境界線などをめぐってしばしばトラブルが発生し、時には暴力的な衝突にまで発展してきた。この背景のもとで2019年、同国最大のコバルト鉱山にコンゴ軍が展開し、海外企業と対立するローカルな採掘者1万人以上を居住地から追い払い、この過程で多くの死傷者が出たと報告されている。

コバルト生産をめぐる深刻な人権侵害は、コンゴ国内の腐敗だけでなく、グローバルな黙認によっても成り立っている。

深刻な人権侵害をともなって生産された資源の調達には、規制がかかることもある。コンゴの場合、先進国はコンゴ産の金、スズ、タンタル、タングステンなどの輸入を規制している。

しかし、コンゴ産コバルトに関しては、輸入規制が適用されていない。脱炭素のトレンドが加速するとともにコバルトの重要性が増すなか、その輸入規制を各国は後回しにしているといえる。いわば脱炭素のために人権侵害が黙認される状況のもとでコバルトは生産され、それを用いたリチウムイオン電池はEVだけでなくスマートフォンやPCに利用されているのである。

「誰一人取り残さない」とのギャップ
念のためにいっておけば、EV普及を批判するつもりはない。脱炭素の目標そのものは重要だし、さらにいえば仮に先進国が「人権」を理由にコンゴ産コバルトの輸入を規制しても、それは結果的にこうした問題に頓着しない中国企業の独占を許すだけという判断が働けば、先進国がこの問題に深入りしないのは「現実的」とも呼べる。

とはいえ、コバルト生産にかかわる企業の多くがSDGsに協賛し、エシカル消費やサステナビリティの旗振りをしているだけに、そのギャップが際立つこともまた確かだ。ちなみにSDGsの理念は「誰一人取り残さない」である。

脱炭素が目指すのは、石炭・石油・天然ガスといった化石燃料に依存する、産業革命以来の生産・消費構造の大転換だ。その産業革命の発祥の地イギリスでは当時、蒸気機関を動かすための石炭の採掘現場で子どもが低賃金で1日10時間以上働くことが当たり前で、10歳未満の就労が初めて禁じられたのは1878年の工場法改正でだった。

テクノロジーに比べて、人間そのものの進歩は極めてペースが遅いといえるかもしれない。【2021年11月23日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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【欧米企業にとってかわる中国企業 その人権意識の希薄さ】
上記記事にもあるように、コンゴでも進出が著しいのが中国企業ですが、そこでは多くの問題が。

****コンゴの鉱業都市、中国企業の採掘拡大で「消滅」の危機****
「われわれはだまされた」──。コンゴ民主共和国南東部コルウェジに住むアルフォンス・フワンバ・ムトンボさんは、コバルトの露天掘り採掘場を見下ろすがれきだらけの場所に立ち、こう言った。

一帯はかつて、大通りに小ぎれいな住宅が並ぶ活気あふれる場所だった。それが今や、ムトンボさんの大切な家は、破壊された民家の残骸に囲まれ、そばにコンクリート壁を挟んで巨大な採掘場が広がっている。

鉱山を所有する中国企業は採掘拡大を目指しており、ムトンボさんが暮らす地区の住民の多くが補償を受け取って退去に応じた。だがムトンボさんは立ち退きを拒み、さらに良い条件を引き出そうと何とか耐えている。

ムトンボさんは、居住区の行く末について幻想を抱いているわけではない。「ここはいつか消滅する」

■誰もいなくなった
コルウェジの人口は50万人以上。地下には、銅やコバルト、金を産出する世界有数の鉱床があり、コンゴ経済の原動力となっている。

同市はすでに周囲を坑道で取り囲まれており、露天掘りの巨大採掘場や作業用の道路が目立つ荒涼とした風景が広がっている。さらに採掘は市内でも徐々に行われるようになり、数千人が立ち退きを余儀なくされ、不当な処遇への不満も聞かれる。

コンゴの鉱山関係の記録によると、コルウェジ市内の大半に採掘許可が下りている。(後略) 【11月29日 AFP】
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****中国人上司にぶたれ、罵られ… コンゴ人労働者を搾取するEV産業の“深すぎる闇”****
希少鉱物コバルトの主要生産地であるコンゴ民主共和国で、鉱山の多くを所有する中国企業の人権侵害が深刻な問題になっている。コンゴの労働者は「せめて人間扱いしてほしい……」と悲痛な声をあげる。(中略)

また昨年、世界に流通したコバルトの約70%がコンゴ民主共和国産だった。(中略)バッテリーやEVメーカーには、コバルトの調達量を減らした企業もあるが、BMIによると、今後10年でEV部門向けコバルトの販売量は4〜5倍になるという。また、世界銀行はコバルトの生産需要が2050年までに585%増加すると試算する。

コバルトの需要増加は、鉱山の大部分を擁するコンゴ南部の住民にとっては朗報のはずだ。だが、英企業監視NGO「RAID」と現地の弁護士団体「司法救援センター」が11月に発表した報告書は、「多くの多国籍鉱業企業とその下請け業者は低賃金で労働者を雇い、彼らを恒常的な貧困に陥れている」と指摘する。

RAIDの代表アネク・ファン・バウデンベルフは言う。 「コバルトはグリーンエネルギーへの移行に不可欠な鉱物です。しかし、だからといって労働搾取を見逃すわけにはいきません。こうした問題は、何百万台のEVに必要なリチウムイオン電池の負の側面だと言えるでしょう」

中国企業が来てから「差別」が始まった
コンゴ最大級の工業用鉱山テンケ・フングルーメ鉱山(TFM)に隣接するコルベジは、コンゴのコバルト産出の一大中心地だ。居住区の一部は、銅やコバルトのために露天掘りされた巨大なクレーターの縁に作られている。(中略)

中国企業がコンゴの鉱山事業に参入したのは15年ほど前のことだった。コンゴ南部のコバルト鉱山や銅鉱山の半数が、かつてこの地で隆盛を誇った欧米企業に代わり、いまは中国企業の傘下にある。

この変化とともに、虐待や人種差別を受けるようになった、とコンゴ人労働者は口をそろえる。侮辱され、ときには殴られ、同じ仕事をしている中国人労働者よりも賃金は安い。待遇のひどさを中国人監督者に訴えても、彼らは聞く耳を持たず、安全よりもコバルト生産が優先されていると労働者たちは訴える。

「私たちは中国企業から本当にひどい扱いを受けています。私も顔を4回、平手打ちにされました」とTFMの労働者ムタンバは言う。

TFM鉱山で働くあるコンゴ人は、2時間ほどの会議に参加したところ、使用言語がずっと中国語だったため内容がまったく理解できなかったと話す。現地後に訳されたのは最後の2分だけだった。

「会議の間、私たちは恥をかき、おろおろするばかりでした。コンゴ人が中国人から受けている扱いは信じられないほどひどいものです。奴隷ではなく、人間として敬意を持って扱ってほしい。中国企業に訴えたいのは、ただそれだけです」

取材した鉱山労働者らは、自分たちが受けた仕打ちに強い憤りを感じながらも、抗議する力もないと語った。「ありえない労働条件ですが、この仕事を辞めるわけにもいかない。どこに行っても、他の仕事は見つかりません」

TFM鉱山の資産の大部分を所有する中国企業CMOCの広報担当は、「当社は複数の国際的な労働協定と現地の労働法を遵守しています」とコメント。さらに、2016年に同鉱山を買収して以降、コンゴに毎年平均2億9600万ポンド(約450億5600万円)を収めて同国の発展に貢献してきたとして、次のように付け加えた。

「弊社は、全従業員に健康的で安全かつ適正な労働環境を提供することに尽力しています。とりわけ重要なのは、従業員の権利の保護です」

巨大企業が責任を回避するからくり
コバルトと銅の採掘はコンゴ政府の重要な収入源だ。同産業は、仕事がほとんどない地域で数万人の雇用を生み出し、多くの労働者に高賃金をもたらしてもいる。しかし一部鉱山では、労働者の大部分が下請け業者を介して雇用されている。TFMの場合、その割合は70%近くになる。

下請け業者を介して雇用されている労働者の立場はきわめて不安定だ。多くの場合、彼らは短期契約か、雇用契約がまったくない状態で働かされる。限定的な手当に低賃金という待遇で、解雇の脅威が常につきまとう。(後略)【2021年11月27日 クーリエ・ジャポン】
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大企業が直接関与している部分では、まだ監督の目もありえますが、経済協力開発機構(OECD)の報告書などによると、コンゴのコバルト生産のおよそ2~3割が零細の手掘りによるもので、その多くは鉱山会社の敷地内ではあるものの採掘人らが無許可で掘っているだけだったり、鉱山以外の場所で違法に手掘りしていたりします。

こうした現場は当局の監視が届きにくく、安全性がないがしろにされて死傷事故が多発しているほか、児童労働も行われています。

こうした児童労働、人権侵害、労働災害などの「コバルト生産の闇」を“ないもの”として無視することで、私たちのスマホを駆使する便利な生活、EVによる脱炭素でグリーンな社会が成立しているというやりきれない現実です。
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中国で拡散した「異例」の体制・習主席批判 更なる拡大は疑問 イランで続く体制批判

2022-11-28 23:17:43 | 中国
(中国上海市中心部で新型コロナウイルス対策に抗議する人たち(共同) 撮影:2022年11月27日【11月28日 ニッポン放送NEWS ONLINE】 掲げられている「白紙」は言論統制への批判で、自由を求める象徴)

【異例の共産党・習主席批判】
ここ数日で一番印象的な出来事は、中国で「ゼロコロナ」への不満から、上海や北京などで「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」とのシュプレヒコール、白い紙を持って「私たちには今、自由がない」「PCR検査はいらない、自由が欲しい」などと叫んだ若者・・・といった、これまでの中国では表だって見られなかった共産党支配体制への抗議が表面化したことです。

これまでの抗議行動の対象は地方政府や企業などで、共産党支配体制や習近平主席への批判は見られませんでした。

****「習近平は退陣せよ」極めて異例の抗議行動、上海や北京など中国各地で相次ぐ…ゼロコロナに反発****
新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込める中国政府の「ゼロコロナ」政策に対する国民の反発が強まり、26〜27日に上海市や北京市など中国各地で抗議行動が相次いだ。

SNS上では、住民らが習近平シージンピン国家主席の退陣を要求する場面の動画が拡散している。中国の街頭で最高指導者が直接批判されるのは極めて異例で、抗議はさらに広がる可能性がある。

上海の大規模な抗議行動は、中心部の「ウルムチ中路」で起きた模様だ。新疆ウイグル自治区ウルムチ市で24日夜起きたマンション火災の犠牲者追悼のために住民らが集まったとみられる。この火災では、地元当局の封鎖措置のために住民の退避や消火活動が遅れたと指摘され、反発が広がっていた。

動画では、若者らが「習近平は退陣せよ」「共産党は退陣せよ」とシュプレヒコールを上げた。27日午前2時過ぎに現場近くにいた女性によると、周辺は車両通行止めとなり、大量に動員された警官が抗議の参加者を取り囲んでいたという。

現場の周辺には歴史的建造物やカフェが多く、普段は散策を楽しむ人々でにぎわうが、27日午後には、多くの警官が人々に目を光らせ、花を手向けようとする若者を制止していた。

首都・北京市では27日夜、市中心部に100人を超す若者らが集まった。多数の警官が警戒にあたる中、若者らは「自由が必要だ」「上海頑張れ」と気勢を上げ、行き交う車がクラクションを長く鳴らして賛意を示していた。若者らが労働歌「インターナショナル」や中国国歌を歌って抗議の意を示した。

抗議に参加した会社員の男性(25)は「人権や自由を犠牲にした『ゼロコロナ』政策には、もう我慢がならない」と憤っていた。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、北京市では26日にも、複数の地域の住民が封鎖された居住区から出てデモを行ったという。

AFP通信は27日、習氏の母校・清華大学でも多くの学生が抗議の声を上げたと報じている。SNS上では、全国各地の大学で学生らの抗議が伝えられている。

習政権はこれまで、強権手法で体制批判を抑え込んできたが、反発が表面化し始めている。

官製メディアは各地の抗議行動について報じていない。国内のSNSでは抗議に関する動画や書き込みが次々と削除されており、習政権は、不満の高まりが各地で連動することを強く警戒している。

中国本土では、26日の新規の市中感染者数が約3万9500人となり、最多を更新した。感染者は増加傾向が続いており、習政権が、住民の不満の背景にある厳しい移動制限を大幅に緩和するのは困難とみられる。【11月28日 読売】
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【「天安門事件」当時とは全く異なる政治・社会状況】
確かに「異例」の事態であり、習近平政権にとっては大きな政治的ダメージではありますが、更に抗議行動が拡大して天安門事件のような悲劇を生むのでは・・・といった危惧に関しては、個人的には「そこまでのものにはならないのでは・・・」という印象を持っています。

当局側は抗議行動を全面的に力で封じ込めることで「火に油を注ぐ」ような事態を避け、様子を見ながら事態の鎮静化を促す方針のようです。

****「自由が欲しい」北京など中国各地で一斉に反“ゼロコロナ”抗議デモ 上海のデモ現場は「一晩で交差点が塀に…」****
(中略)
抗議活動は上海市内の中心部でも連日行われ、当局は一部の市民を拘束するなどして排除に乗り出しました。
けさ、デモが行われた場所を訪れると。
記者 「一夜にして交差点が塀で囲われてしまいました」(後略)【11月28日 TBS NEWS DIG】
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****上海デモ現場で2人逮捕****
中国・上海で新型コロナウイルス感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策に対する抗議が週末に行われたが、その現場で28日、2人が警察に逮捕された。AFP記者が目撃した。

記者がそのうちの一人の逮捕理由を警官に尋ねると、「われわれの取り決めに従わなかったためだ」と答え、地元の警察署に問い合わせるよう告げた。

27日に大規模なデモが行われたウルムチ通りでは、28日朝までに警察の封鎖が解かれ、交通が再開された。ただ、配備された警察官の人数は減ったものの、通りの両側には青いついたてがずらりと並べられている。

警察は人々を呼び止め、携帯電話で撮影した写真を削除するよう命じていた。通りの看板を撮影した男性と警察官が議論する一幕も見られた。 【11月28日 AFP】
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1989年の天安門事件の当時を知る者からすると、今回のような行動が起きたことだけでも「中国の若者は天安門事件の経緯を要らず、共産党政権の怖さを知らないからできるのだろうけど・・・」といった印象。

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天安門事件は、民主化を求めて天安門広場に集まった若者を中心とするデモ隊を中国共産党政権が戦車まで投入して、抑え込んだ事件です。武力行使により多数の死傷者を出しましたが、その人数はいまだに分かりません。

天安門事件は中国国内ではなかったことになっています。ですから、今の中国の若い人の多くは天安門事件を知らないのではないでしょうか。

今回、中国各地に広がっている抗議デモは、天安門事件を知らないからこそ起こせるのかもしれません。中国共産党政権の恐ろしさに実感がないのかもしれませんね。

天安門事件を知っている世代は、中国共産党政権に歯向かうと殺される危険があるという意識がありますから、恐ろしくて抗議デモなどできないと思いますよ。【11月28日 辛坊治郎氏 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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ただ、警察当局の抑制された「圧力」を跳ね返して、抗議行動が更に拡大・激化するというのは、考えづらいところです。

民主化・政治改革を求める天安門事件当時の学生には、自分たちの思いは政権中枢にきっと届くという「希望」があり、そのために長期にわたって抗議を続ける「熱気」もありました。

実際、趙紫陽総書記のように学生の前に姿を表し、その訴えに理解を示す政治家が権力中枢にも存在していました。

また、当時の人民解放軍は地方ごとの「軍閥」的な色彩も残っており、「改革」路線を支持する軍組織もあるのでは・・・その結果、内戦みたいなものになるのでは・・・といった危機感(体制にとっては不安定感)もありました。

しかし、今の時代にそうした「期待」や「熱気」は・・・・どうでしょうか? 不満をぶつける一夜の騒動はあり得ても、それ以上のものは・・・

軍・警察も完璧に習近平支配体制に組みこまれており、そこには微塵の揺らぎもありません。昨夜の抗議行動では「(警察は)共産党の手先になるのをやめろ!」といった声もあったようですが・・・。

SNS社会では、抗議の声が一気に拡散するのは助長しますが、やはり抵抗組織がないところでは抗議行動は長続きしません。

なお、“爆発寸前の不満をそらすため、権力者が国民の関心を外に向けるのは常道といえる。石平氏は「習政権が国内の混乱を収拾するため、予定より早く台湾統一の動きを早める危険性が出てくるだろう」と指摘した。”【11月28日 夕刊フジ】といった指摘も。

【イラン 覚悟の体制批判】
中国以上に体制批判の抗議行動が長期化し、当局側の弾圧も熾烈なものになっているのがイラン。

****デモ弾圧続けるイラン、サッカー元代表選手を逮捕…「政権へのプロパガンダ広めた」****
イランのファルス通信などによると、サッカーイラン元代表のウォリア・ガフーリ選手(35)が24日、「代表チームを侮辱し、政権に対するプロパガンダを広めた」として逮捕された。イランで続く抗議デモへの支持を示してきたことが影響したとみられる。

ガフーリ選手の逮捕は、ワールドカップ(W杯)カタール大会で、イラン代表が21日の初戦で国歌斉唱をせず、デモへの連帯を示したとの見方が広がるなかで行われた。抗議活動の拡大を警戒した政権側による警告との見方も出ている。25日のウェールズとの第2戦では、代表選手の多くが国歌を歌った。

イランでは9月中旬に女性の髪を隠すスカーフの着用が不適切だとして拘束されたクルド人女性が死亡したことをきっかけに、抗議デモが拡大した。

女性の出身地の西部クルディスタン州を含むクルド人居住地域を中心に、今も各地でデモと治安当局による厳しい弾圧が続く。クルド人居住地域では、先週だけで死者が50人を超えたとする人権団体の報告がある。

同州出身のクルド人のガフーリ選手は21日、「クルドの人々を殺すのをやめて」とツイッターに書き込んだほか、弾圧の犠牲者の遺族を見舞うなど、抗議活動に寄り添う姿勢を示していた。【11月25日 読売】
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ハメネイ最高指導者の親族からの批判も。

****イラン最高指導者の姪、体制との断交を世界に呼びかけ****
イランの最高指導者ハメネイ師の姪で著名人権活動家のファリデー・モラドハニさんが諸外国政府に向けて、女性の髪を隠すスカーフのかぶり方が不適切だとして拘束された女性が死亡したことを巡り抗議デモを弾圧するイラン政府とは一切の関係を断つよう訴えている。

ファリデーさんの兄でフランス在住の反体制派マフムードさんが25日、ファリデーさんの動画メッセージをユーチューブに投稿したのをきっかけに、動画が拡散した。

イランの人権活動家通信(HRANA)は23日、マフムードさんの話としてファリデーさんが当局に拘束・収監されたと伝えていた。ファリデーさんの拘束は今年2度目。ファリデーさんはエンジニアで、ハメネイ師のきょうだいと結婚した父親も著名な反体制派の人物。父親は最近亡くなった。

動画は「人殺しで子ども殺しのこの体制を支持するのをやめるよう、あなたがたの政府に呼びかけてほしい」と訴え、「この体制は宗教のいかなる原理にも忠実ではなく、武力と権力維持以外の統治を知らない」と主張。「今こそイランから各政府代表を引き揚げ、各国・地域からイランの体制代表を追放する時だ」と呼びかけている。

HRANAによると、イラン全土で2カ月以上続く抗議デモでは、26日時点で未成年63人を含む450人が殺害され、1万8173人が拘束されている。【11月28日 ロイター】
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クルド人サッカー元代表選手のガフーリ氏にしても、ハメネイ師の姪ファリデー氏にしても、やがて自身に当局の手が及ぶことは覚悟のうえでの抗議でしょう。

専制政治体制に抗議の声をあげるというのはそういう覚悟を必要とするものであり、そうした者が牽引する形で一般の人々の抗議も拡散継続するのでしょう。
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ウクライナをめぐるロシアの国内外情勢 ウクライナによる投降兵士射殺情報やロシアによる子供連れ去り

2022-11-27 21:50:02 | ロシア
(25日、モスクワ郊外の大統領公邸で、ウクライナでの軍事作戦に参加した兵士の母親らと会談するロシアのプーチン大統領【11月26日 毎日】)

【国内動揺をなだめるのに腐心するプーチン大統領】
プーチン大統領は9月下旬に予備役兵を対象にした30万人規模の動員を発表しましたが、対象外の市民に招集令状が届くなど、強引な手法が明らかになりました。

政権は、30万人の動員は完了し、追加の動員は計画していないとしていますが、年明けにも大規模な追加動員が始まるとの見方も出ています。

そうした中、穴の空いた防弾チョッキやさびだらけの自動小銃が支給されたなどと告発するSNSの投降も相次ぎ、国民に政府や軍への不安や不満が広がっています。

「本当だろうか?」と信じがたいような情報も。

****ロシア予備役500人超死亡 手で塹壕掘り、砲撃で大隊全滅―ウクライナ***
ロシアの複数の独立系メディアは6日までに、ロシアが一方的に「併合」したウクライナ東部ルガンスク州で、動員令によって招集されたロシア軍予備役の1個大隊がほぼ全滅したと伝えた。500人以上が戦死した可能性が高いとされる。

大隊は、ロシア中部ボロネジ州の予備役で編成されていた。生存者や親族の証言を総合すると、11月1日に「領土防衛隊」として前線の15キロ手前に到着し、深夜に前線へ展開。隊員らは塹壕(ざんごう)を掘るよう命じられたが、スコップは多くて「30人に1本」しかなく、手で掘らざるを得なかったという。【11月7日 時事】
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ロシア軍はウクライナで苦戦が続き、深刻な兵力不足に悩まされているとみられており、プーチン政権としては動員兵の命が軽んじられている”とのイメージが国民に広まるのは避けたいところです。

プーチン大統領は25日、ウクライナ侵略に参加している兵士の母親ら17人とモスクワ郊外で面会、家族らの意見を聞く姿勢をアピールしています。

****プーチン大統領、兵士らの母親と面会 ほとんどが職業軍人の母親ら…監視団体「プロパガンダに過ぎない」****
ロシアのプーチン大統領は25日、ウクライナ侵攻に関わる兵士らの母親と面会しました。動員兵の待遇などへの不満が高まる中、家族らの意見を聞く姿勢をアピールした形です。

プーチン大統領「あなた方が忘れられたと感じないように、私たちはあらゆる努力をしていきます」

プーチン大統領との面会には兵士らの母親17人が招かれ、「息子を亡くした」という母親らがウクライナ侵攻への支持などを表明しました。

予備役の動員を巡っては、先月末、目標の30万人が集まったとして国防省が完了を発表しましたが、金銭が支払われなかったり、短期間の訓練で前線に送られて死亡した、などの情報が独立系メディアを通じて広がり、家族の間に不安と不満が募っていました。

しかし、今回の面会に招かれたのはほとんどが動員兵ではなく職業軍人の母親らで、「動員」の監視団体「母と妻の協議会」は、「面会はプロパガンダに過ぎない」と批判しています。【11月26日 日テレ NEWS】
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息子を亡くしたという母親に対しては、「交通事故で約3万人が死亡し、アルコールが原因の死亡も同数だ」「人はみないずれ死ぬ。問題はどう生き、どう死ぬかだ」と。(なるほど・・・と納得するか、冗談じゃないと怒るかは、人によるでしょう)

息子らへの軍服の支給が不十分だと母親が訴えると、「服の供給は改善されたと聞いている。最新の情報だ」と対策を講じていると回答。

別の母親が食事の待遇改善を訴えると、「問題はほぼ解決したようだが、すべてが順調ではない。確認しよう」と約束したそうです。

もちろん、事前のシナリオがあっての問答ですが、それにしてもプーチン大統領にとってはつらい時間だったかも。

【報じられているほど“不甲斐ない”訳でもなさそうなロシア軍】
上記のような状況を含め、ウクライナ支援の側に立つ日本では、ロシア軍に関してはその劣勢、窮状、まともではない様子が多々報じられていますが、ただ、「本当にロシア軍はそんなに不甲斐ないのか?」と慎重に判断することは必要かも。

ウクライナ軍反攻の成果と大々的に報じられているロシア軍ヘルソン撤退にしても、軍事的にはロシア軍の見事な作戦だったと評価されてもいます。

****へルソン撤退は「敗走」ではなく、ロシアの珍しく見事な「作戦成功」と軍事専門家****
<ヘルソン撤退はプーチンにとって大きな打撃であることは確かだが、軍事的に見れば賢明な選択で、実施も過去の「敗走」とは大違いだった>

11月9日、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相はウクライナ南部ヘルソン州の州都へルソンからロシア軍を撤退させる方針を表明し、11日には撤退完了を発表した。この動きはセルゲイ・スロビキン総司令官の提案によるものとされるが、複数の専門家たちは、今回の撤退の動きからはロシア軍の「弱さ」よりむしろ「軍事戦略の進化」が伺えたと分析している。

米海軍分析センター(CNA)でロシア研究プログラムの軍事アナリストを務めるマイケル・コフマンはキーウ・インディペンデント紙のインタビューに対し、ヘルソンから撤退するというロシアの戦略には「困惑させられた」ものの、一方でロシアは過去の失敗から学んでいるように見えると述べた。

(中略)「(今回は)組織だった撤退であり、イジュームで見られたような多くの死傷者や装備品の放棄を伴う「敗走」ではない。ロシアは残る兵力と装備の大部分を撤退させることに成功したようだ」

つまり今回のヘルソン撤退は、ロシア軍が進化していることを示しているとコフマンは指摘する。ロシアの軍事作戦の「変化」を強く示唆する、いくつもの重要な過去との違いがあるからだ。

軍全体の指揮系統にも進化が
米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問も本誌の取材に対し、ヘルソンのロシア軍部隊は、あまり激しい戦闘が起きていなかったイジュームを守っていた部隊よりもよく統制されていたと語った。

軍の指揮系統も、現在の方が優れているようだ。(中略)これによってロシア軍はドニプロ川の西岸で壊滅するリスクを避け、東岸地域の守りを固めるために兵力を再配分することが可能になった。

ヘルソンはウラジーミル・プーチン大統領が始めたウクライナ侵攻において、ロシア軍が唯一、占領できた州都だった。それを手放すことはプーチンにとって政治的な打撃ではあるが、軍事的な視点から見れば賢明な選択であり、その実行もうまくいったとカンシアンは言う。「その証拠に、捕虜になったロシア兵も失われた装備もほとんどなかった」

「しかも今回の『成功』は、橋や船が絶え間なく攻撃を受ける中で大きな川を渡らなければならないという、きわめて困難な軍事的状況下で成された」(後略)【11月18日 Newsweek】
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東岸地域の守りを固めるロシア軍に対し、ウクライナ軍が渡河作戦で攻撃することは非常に難しいとも言われています。

【国際的な支援は心もとないロシア 身内からも停戦要求】
もっとも、ロシア軍が兵員や武器の供給に窮しているのは間違いないでしょう。
国内ではまかないきれない兵器・物資に関し、イラン・北朝鮮の協力を仰いでいます。

****イラン無人機、ロシアで生産へ 数百機、秘密合意と米紙報道****
米紙ワシントン・ポストは19日、イランで開発された無人機(ドローン)をロシア国内で生産することで両国が合意したと伝えた。

今月上旬にイランで開かれた会合で秘密裏に合意をまとめ、数カ月以内に数百機の生産を開始できるよう主要部品などの移送に向けて動いているという。ロシアはウクライナへの攻撃でイラン製無人機を多用している。

米安全保障当局者らの話として伝えた。ロシアは自国で無人機を生産して備蓄を増やし、精密誘導弾の不足を補えるようになる。ロシアとイランの安保協力強化を示す動きで、生産に至れば戦局にも影響しそうだ。国際社会の反発も予想される。【11月20日 共同】
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ロシア国内でのドローン量産によって「戦争が長期化する可能性がある」とも指摘されています。

****北朝鮮、軍需工場に砲弾の追加生産を指示、ロシア輸出用か****
北朝鮮国防省は先月末、軍需工場に砲弾の追加生産の指示を下した。ウクライナへの侵略戦争を行っているロシアへの輸出用の可能性がある。(中略)

急な生産指示に人手が足りず、勤務経験のある人を3〜4ヶ月の期間で再雇用するほどだという。工場内では「長期保管するための砲弾ではないようだ」という話が飛び交っているという。

北朝鮮国防省は今年9月と今月、「ロシアに兵器や弾薬を輸出したことはなく、今後もそのようにする計画もない」との内容の談話を発表している。また、ロシア政府も今月9日、北朝鮮がロシアに武器を供給しているとの報道を否定している。

しかし、米国は、北朝鮮がロシアに武器輸出を行っていることを示す情報があるとしている。北朝鮮はまた、武器以外にも、現在ロシアが占領しているウクライナ東部のドンバス地域に、自国の労働者を送り込む予定だと伝えられている。【11月21日 デイリーNK】
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「軍事大国」ロシアとしては、外国に兵器を頼るというのは忸怩たるものがあるでしょうが、(欧米の支援を受けるウクライナに対し)頼る相手が(国際的に孤立している)イラン・北朝鮮というのは甚だ心もとないところ。

中国は言葉の上でいくらロシアを支持したとしても、習近平主席はプーチン大統領の“泥船”に乗り込むつもりは毛頭ないでしょう。武器などの実質的な支援は期待できません。

ロシアが国際的には“身内”の支持も失いつつあることは多くの報道のとおり。

****ロシア主導会議でプーチン氏にウクライナ停戦要求 露の求心力低下****
ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO、旧ソ連6カ国で構成)は23日、アルメニアの首都エレバンで首脳会議を開いた。

プーチン露大統領にウクライナとの停戦を求める声が上がったほか、アルメニアのパシニャン首相がロシアやCSTOに不満を述べ、共同宣言への署名を拒否する一幕もあった。ウクライナ侵略で進んだロシアの求心力の低下と、CSTOの足並みの乱れが改めて示唆された形だ。

ベラルーシのルカシェンコ大統領はウクライナ情勢について「停戦交渉を始めるべきだ」と指摘。「メディアには最近、ロシアがウクライナで敗戦すればCSTOは崩壊するとの論調がある」とし、「CSTOは存続し続けるが、団結が必要だ」と述べた。ウクライナ侵略がCSTO諸国を動揺させていることを暗に認めたものだ。

カザフスタンのトカエフ大統領も「ウクライナ情勢は和平を模索するときが来ている」と訴えた。

会議では一方、パシニャン氏が「過去2年間でアルメニアはアゼルバイジャンから3回攻撃を受けた」と主張。「わが国のCSTO加盟がアゼルバイジャンに攻撃を思いとどまらせなかったのは遺憾だ」「攻撃はロシアの停戦維持部隊の存在下で行われた」と指摘した上で、「こうした状況では共同宣言に署名できない」と述べた。

「逆風」にさらされた形のプーチン氏は、CSTOが「第二次世界大戦での勝利という共通の記憶」で結びついているとし、「ロシアはCSTO諸国に必要な支援を提供し、同盟の強化に全力で貢献する」と強調。パシニャン氏との個別会談でも「われわれは信頼と深いルーツを持つ同盟国だ」と述べるなど、CSTOの結束を維持したい考えを鮮明にした。

タス通信によると、ペスコフ露大統領報道官は会議後、「アルメニアはCSTOを離脱しない」と指摘。同盟が揺らいでいるとの観測の打ち消しに追われた。

アルメニアとアゼルバイジャンの間では2020年秋、係争地ナゴルノカラバフ自治州を巡る大規模紛争が発生。ロシアの仲介で停戦が成立したが、アルメニアは同州の実効支配地域の多くを失った。アルメニアとアゼルバイジャン間では今年9月にも衝突が発生し、CSTOはアルメニアの介入要請を事実上拒否。ロシアが友好国アゼルバイジャンとの対立を避けたとされ、アルメニアはロシアへの不満を強めていた。

9月にはCSTO加盟国であるキルギスとタジキスタンの間でも大規模な武力衝突が発生。一連の衝突の背景には、CSTOへのロシアの影響力の低下があるとの見方も出ている。

CSTOはロシアとベラルーシ、アルメニア、カザフ、キルギス、タジクの6カ国で構成。ただ、ウクライナ侵略ではベラルーシを除く各国がロシアから一定の距離を置く動きを強めるなど、足並みの乱れが指摘されてきた。【11月24日 産経】
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国外からの「もういい加減してしてほしい」といった声は、おそらく国内的にもあるでしょう。
一方のウクライナしても、欧米の「支援疲れ」は常に指摘されるところ。国内の市民生活も困窮を極めています。

そうした内外の声に押される形で、ロシア・ウクライナが停戦交渉に・・・という可能性はなくないところです。
今は、両者とも(少なくと表面的には)強気姿勢を崩していませんが。
(ただ、ロシアにしても、ウクライナにしても、国内の強硬派主戦論を抑えることは容易ではないでしょう)

【ウクライナ側の戦争犯罪に関する情報も】
ロシア軍による住民殺害・拷問などの戦争犯罪は多々報じられていますが、「ウクライナ側だって・・・」と拡散したのが投降したロシア兵士を殺害する動画。

****「ウクライナ軍が露兵殺害」動画が波紋 捕虜か偽装降伏か****
投降した10人超のロシア兵をウクライナ兵が現場で射殺したとされる動画が交流サイト(SNS)で拡散され、国連が調査に乗り出すなど波紋を広げている。

ロシアは「無抵抗の捕虜を殺害した戦争犯罪だ」とウクライナを非難。一方、ウクライナは22日、「ロシア兵は降伏を偽装してウクライナ兵を攻撃した」とし、ロシア側に違法行為があったと反論した。

問題の動画は二つあり、ともに18日にSNS上に投稿された。一つ目は、建物から両手を上げて出てきたロシア兵の部隊が地面に伏せる様子を地上から撮影。動画の後半で叫び声が上がり、銃声が収められていた。

二つ目は、同じ場所でロシア兵が血を流して倒れている様子を空中から撮影したもの。撮影場所はウクライナが11月中旬に奪還した東部ルガンスク州の集落マキエフカとされた。

ロシアは18日、「違法な捕虜殺害だ」と主張し、戦争犯罪として訴追手続きを進めると表明。一方、ウクライナも動画について捜査を開始すると発表した。

ロイター通信は21日、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の広報官が「動画を調査している」と述べたと報道。タス通信も22日、「迅速な調査が必要だ」とするハク国連事務総長副報道官の記者会見での発言を伝えた。

ウクライナ検察当局は22日、ロシア兵は降伏を装ってウクライナ兵を攻撃したために射殺されたと指摘。偽装降伏は国際法違反だとして、刑事訴追手続きを開始したと発表した。

ロイターによると、OHCHRはこれに先立つ15日、「ロシアとウクライナの双方で捕虜への拷問が行われている」との見解を発表。ロシアは拷問を否定し、ウクライナは違法行為があれば関係者を処分するとの方針を示している。【11月23日 産経】
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【ロシアは子供連れ去りも】
ロシア側については住民殺害・拷問以外に、子供の連れ去りも。

****は「キャンプ」、ロシアがウクライナの子供を強制連行…帰らぬ2人の我が子に母「毎日涙」****
ロシアが9月末に一方的に併合したウクライナの東・南部4州で、ウクライナ人の子供が「キャンプ」や「リハビリ」の名目でロシアに強制連行され、行方不明になる事例が相次いでいる。

南部ザポリージャ州エネルホダルの女性薬剤師(41)は、10歳と12歳の息子2人がキャンプに参加したまま約1か月戻らずにいる。本紙のSNS取材に「毎日、涙に暮れている」と焦りをにじませた。

この女性は10月、街を占領しているロシア側の当局が企画した露南部クラスノダール地方での「サマーキャンプ」に2人を預けた。「地下シェルターで過ごしてきた子供たちに、ビタミン豊富な食事や休息を与えてあげたい」と思ったからだ。ザポリージャ原子力発電所が立地するエネルホダルは8月以降、砲撃が続いていた。

キャンプには、エネルホダルや周辺の村から約500人が参加し、バス10台で出発。10月15日から6日間という説明だったが、1週間後、当局から「子供は当面戻らない。ロシアの学校に通わせるので衣類を送るように」と通告された。女性は「子供を取り戻したいがロシアに行く手段もない」と無力感をにじませた。

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今月14日のビデオ演説で強制連行の規模を「特定されているだけで子供1万1000人」としている。子供の強制連行には、幼いうちにロシアの価値観を植え付け、ウクライナ人としてのアイデンティティーを喪失させる狙いなどが指摘されている。エネルホダルのドミトロ・オルロフ市長はSNS取材に、「子供たちは人質に取られた」との見解を示した。【11月20日 読売】
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こうした報道を目にすると、戦争は1日も早く終わらせた方がいいという単純な結論になります。
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米中の影響力競争のなかで、「グローバル・サウス」への働きかけを強めるアメリカ・バイデン政権

2022-11-26 22:42:35 | 国際情勢
(握手するフィリピンのマルコス大統領とハリス米副大統領(21日、マニラ)【11月21日 日経】 ドゥテルテ時代に比べたらずいぶん和やか)

【アメリカなど西側の懸念「グローバル・サウスが中国、ロシアに取り込まれつつある」】
国連の場で、ウクライナに侵攻するロシアを非難するいくつかの決議を行うことで明らかになった事実は、必ずしも欧米の主張に同調せず採決を棄権する国々がかなり多いということです。

いわゆる「グローバル・サウス」という、アフリカ・アジア・ラテンアメリカなどの途上国・新興国です。
今後の国際政治の流れにおいて、この「グローバル・サウス」と呼ばれる国々の動向が重要になります。

****中国・ロシアの脅威以上に懸念されるのは、「グローバル・サウス」の国々が中ロと連携すること 細谷雄一/峯村健司****

(中略)
細谷(慶應義塾大学教授・細谷雄一氏)
(中略)その一方でロシアや中国のような権威主義体制が、軍事的な威嚇と経済的なインセンティブ――中国のBRI(一帯一路)やロシアの天然資源など――を組み合わせることによって、自分たちとの提携による利益をアピールするわけです。

残念ながら、国際社会においては、価値の共有や正義感よりも軍事的な恐怖心や経済的な自己利益のほうが、国家の行動を決めるインセンティブとしては強いんですね。

峯村(米中関係に精通するジャーナリスト峯村健司氏)
たしかに、一部の途上国にとっては、中国のカネやロシアの資源のほうが魅力的でしょうね。

細谷 そこでもっとも懸念されるのは、ロシアや中国の脅威それ自体よりも、むしろ「グローバル・サウス」と呼ばれる地域の国々が中国やロシアに近づいていくことです。

峯村 アフリカ、アジア、南米など、今のところまだ欧米側にも中露側にも属していない国が、外交的圧力と経済的インセンティブによって中露と連携するわけですね。

細谷 そうやってグローバル・サウスが中国やロシアとの連携を深めていくと、欧米の民主主義諸国は、グローバルな国際社会におけるマイノリティーになります。すると、国連をはじめとする国際機関における議論でも、民主主義諸国は一部の特権的な白人中心の富裕国のように見なされ、その主張への共感が広がらないでしょう。

峯村 アメリカの政治学者、ラリー・ダイアモンド氏の統計では、2019年、冷戦後初めて世界の人口ベースで民主主義国が過半数を割っています。すでに民主主義がマイノリティーとなっており、中国やロシアなど権威主義的な国家が影響力を持つようになるわけですね。

細谷 ええ。それが、ウクライナ危機の下で欧米諸国が議論するときの最大の懸念です。グローバル・サウスが中国、ロシアに取り込まれつつあり、NATOが国際社会でマイノリティーになりつつある。マドリード・サミットでも、そのことが何度も指導者たちの口から出ていました。

それによって国際的な不正義がますます拡大し、国際社会がかつてわれわれが経験したことのないようなジャングルになってしまう。まさに19世紀的な国際秩序への回帰であり、剥き出しのパワーポリティクスですよね。
われわれはそれに対して、ウクライナでの戦争によって生じた傷以上に、深刻な懸念を抱くべきだと思います。【10月29日 幻冬舎plus】
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【アメリカも中国に対抗 太平洋島しょ国への関与強化】
そこで、アメリカも中国・ロシアに対抗して、「グローバル・サウス」取り込みに乗り出しています。

中国との安全保障協力に関する協定を調印したソロモン諸島に代表されるように、中国は太平洋島しょ国への影響力を強めており、この地域はアメリカ(その同盟国のオーストラリア)と中国の影響力競争のホットスポットになっています。

中国の攻勢に対抗するように、9月、アメリカは太平洋島しょ国の首脳との会合を開催しました。

****米と太平洋の島国のサミット閉幕 米は「中国への対抗」明記した戦略も発表****
ワシントンで行われたアメリカと太平洋島しょ国の首脳会合は、29日、閉幕しました。バイデン政権は同時に中国への対抗を明記した新たな戦略を発表しています。(中略)

14の太平洋の島しょ国が参加した首脳会合で、バイデン大統領は経済協力支援として日本円でおよそ1200億円の拠出を表明し、こう強調しました。

アメリカ バイデン大統領 「アメリカと世界の安全保障は太平洋諸島にかかっています。私は本当にそう思っています」

首脳会合に合わせ、バイデン政権は「太平洋パートナーシップ戦略」を発表。中国を名指しして、「この地域の平和や繁栄、安全保障を損なうおそれがある」と批判し、島しょ国との関係を強化していく方針を明記しました。

具体的には、中国が安全保障協定を結んだソロモン諸島にアメリカの大使館を開設するほか、沿岸警備隊が各国で訓練を行うなど連携を深めます。

首脳会合は「領土と主権を損なう、あらゆる試みに反対する」と明記したパートナーシップ宣言にすべての国が署名し、閉幕しました。【9月30日 TBS NEWS DIG】
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「グローバル・サウス」の側からすれば、こういう米中の競合を利用して、双方からならべく多くのものを引き出そう・・・という話にもなります。

****ソロモン諸島警察に中国から放水車 豪から銃も****
南太平洋の島国ソロモン諸島は4日、中国から放水車を寄贈され、警察の装備を強化した。3日前にはオーストラリアからも銃を提供されている。

ソロモン諸島をめぐり、米豪は影響力拡大を図る中国をけん制して外交上の駆け引きを行っている。

マナセ・ソガバレ首相が4日に首都ホニアラで行った式典で、中国はソロモン諸島の警察に放水車2台、バイク30台、多目的スポーツ車20台を寄贈。李明中国大使は、ソガバレ政権の要請に応じたもので、「ソロモン諸島の法と秩序の執行に貢献」を果たすはずだと述べた。

豪連邦警察も2日、銃身の短いライフル60丁と車両13台を寄贈している。ソロモン諸島が今年4月、中国と安全保障協定を締結したためにオーストラリアとの関係は緊張。豪政府は先月、ソガバレ氏を迎えて両国の関係改善に動いていた。

今回の寄贈をめぐり、ソロモン諸島の野党党首マシュー・ウェール氏は懸念を表明。AFPに対し、「外的脅威はどう見てもないのに、なぜこうした強力な銃を導入するのか。わが国は再び軍国主義への道を歩んでいるのだろうか」と疑問を呈し、「もしそうなら、われわれは自国民に対して武装することになる」との考えを示した。 【11月5日 AFP】
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【米中のはざまでASEAN諸国はバランス重視 アメリカはフィリピンとの関係強化へ】
そして、東南アジア。
11月23日にカンボジアで開催されたASEAN拡大国防相会議も、中国の攻勢に対抗するアメリカの姿勢を示す場のひとつでした。

****ASEAN拡大国防相会議で日本とアメリカがロシアを非難した「もう1つの理由」****
ASEAN拡大国防相会議、ウクライナめぐり日本とアメリカがロシアを非難 〜東南アジアでロシアを非難する場を持ったことがポイント
(中略)
前嶋(上智大学教授で政治学者の前嶋和弘氏))
(アメリカは)今回のASEANの場で、結果はわかっていたのですが、強くロシアを非難しました。そしてロシア側は「そんなことはない。アメリカが悪いのだ。手を出しているのだ」という話になるわけです。

こうなることはわかっていて、予定調和的ではあるのですが、これをやることも重要です。ロシアは反発するのだけれど、「これだけのことをしているあなたたちが悪いでしょう」と言う機会を「東南アジアで持った」ことがポイントなのです。(中略)

アメリカ・ヨーロッパ・日本側とロシア・中国側 〜そのどちらにもつかない国をいかに西側にプラスするか
前嶋)アメリカ・ヨーロッパ・日本側と、ロシア・中国……中国は微妙な立場ですが。そのどちらにもつかない国が多いのです。冷戦時代と違うのはそこなので、1つ1つを切り崩していって、いかにアメリカ・ヨーロッパ・日本側にプラスするかが重要になります。

飯田)いかにこちら側に来させるか。
前嶋)国連もそうですが、アジア、アフリカでの会議はとても重要です。特にアフリカ辺りは「どっちつかず」でいた方が、中国も助けてくれるという感じなのです。(後略)【11月24日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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ASEAN側からすれば、米中の間でバランスをとることが重要になってきます。

ASEAN加盟国のひとつインドネシアは経済的には中国と近く、軍事・防衛の分野では米国との強い結びつきを持つ国です。米中の競争の渦中で“一方の影響力を示す「色」には敏感”になっているとも。

“インドネシアは中国の融資を受け、首都ジャカルタと近隣都市バンドンの郊外を結ぶ約142キロの高速鉄道を建設。9月時点での総事業費は約72億ドル(約1兆円)を超える一大インフラ建設プロジェクトだ。合弁会社「インドネシア中国高速鉄道(KCIC)」によると、車両は中国製だが、インドネシア風に変えたところもある。車体にはインドネシア固有種「コモドドラゴン」をモチーフにしたうろこ状のデザインを施した。「インドネシアのものに見えるようにしなければならない」。関係者は強調する。”【日系メディア】

アメリカが働きかけを強めている国のひとつがフィリピン。
フィリピン・マルコス大統領は中国とも波風たてず、アメリカとも関係を強化する「2方面」外交を基本としています。

****比、ロシア製戦闘ヘリ購入中止は対米関係重視? マルコス新大統領のしたたか外交****
<国際情勢が緊迫するなかで、東南アジアのリーダーが決断した選択は──>
フィリピンがロシア製の戦闘ヘリコプター16機の導入を断念したことが明らかになった。
フィリピンの国防相を務めたデルフィン・ロレンザーナ氏は26日夜、ロシア製戦闘ヘリMi―17(ミル17)16機の購入契約が取り消されたことを明らかにしたという。AP通信が7月27日に伝えた。

16機のMI―17導入はドゥテルテ前大統領が政権末期に決裁したもので、導入総額は127億フィリピンペソ(約308億6500万円)で、2019年のドゥテルテ前大統領とロシアのプーチン大統領との会談で大筋合意に達していたという。

導入断念の背景には2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻という要素が大きく占め、この今の時期にロシア製軍装備を導入することは国際社会の反発、特に同盟国である米政府によるフィリピンへの制裁発動を懸念した結果であるとの見方が有力だ。

曖昧戦術の2方面政策
フィリピンは6月30日に就任したフェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン)新大統領による新政権がスタートしたばかりで、7月25日にマルコス新大統領は初めての施政方針演説を行った。(中略)

わずかに言及された外交・安全保障問題では中国との間で島嶼や環礁の領有権問題が存在する南シナ海(フィリピン名・西フィリピン海)に触れて「フィリピンの領土を1平方ミリメートルといえども譲らない」としたうえで「領土保全と国家主権に関する現在、将来の安全保障上の脅威に備えるため国軍の構造を変える必要がある」として1935年に制定された国防法の改正を求めた。

フィリピンは安保では米の同盟国として中国には強い姿勢で臨んでいるが、中国海警局の船舶による度重なる南シナ海でのフィリピン船舶への航路妨害、放水などの挑発には乗らず、対抗措置も中国への抗議に留まるという「曖昧戦術」に終始している。

その一方で経済面では中国が一方的に唱えている「一帯一路」構想の一環として続ける経済支援、インフラ整備、投資の促進などに依存している。

こうした「曖昧戦術」による「2方面」外交の舵取りがフィリピンのしたたかな姿勢へとつながっている。ただ、これはドゥテルテ前大統領時代の政治を踏襲したもので、マルコス新大統領の政権としての新鮮味には欠けているといわざるを得ない状態だ。(後略)【7月28日 大塚智彦氏 Newsweek】
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そうした中で、最近はややアメリカとの関係強化の側面が目立ちます。
中国からの経済支援に期待したドゥテルテ前大統領は在任中、一度も訪米せず、激しい言葉での対米批判も間だちましたが、マルコス大統領は9月22日、国連総会に出席するため訪問中のニューヨークで会談し、南シナ海の自由な航行と上空飛行に対する支持を表明し、両国関係改善の姿勢をみせました。

****米・フィリピン大統領が初会談、南シナ海の自由航行・飛行を支持****
バイデン米大統領とフィリピンのマルコス大統領は(9月)22日、国連総会に出席するため訪問中のニューヨークで会談し、南シナ海の自由な航行と上空飛行に対する支持を表明した。同海域での影響力拡大を図る中国に対抗する狙い。両首脳が対面で会談するのは今回が初めてとなる。

ホワイトハウスは会談後の声明で「両首脳は南シナ海の領有権問題を巡って協議し、航行および上空飛行の自由、紛争の平和的解決への支持を表明した」と述べている。

また両首脳は、二国間同盟の重要性も改めて確認。ホワイトハウスは「バイデン大統領は、フィリピンの防衛に対する米国の確固たるコミットメントを再確認した」とした。【9月23日 ロイター】
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一方、中国との間では中国のロケットの一部とみられる残骸をめぐるトラブルが発生。

****海上に中国ロケットの残骸?フィリピン海軍“回収しようとしたら妨害されて奪われた”中国側は否定***
フィリピン海軍は、中国のロケットの一部とみられる残骸を南シナ海で回収しようとしたところ、中国海警局の船に妨害され、奪われたと発表しました。

フィリピン海軍によりますと、南シナ海のパグアサ島の周辺海域で20日、不審な金属片の浮遊物が発見されました。軍が浮遊物をロープでえい航して回収しようとしていたところ、中国海警局の船が進路を妨害した上、ロープを切って浮遊物を強奪したということです。

一方、これについて中国政府は先ほど、「双方が現場で友好的な協議をした結果、フィリピン側はその場で中国側に浮遊物を返還した。中国側はフィリピン側に謝意を示し、強奪などの状況はなかった」と反論しています。

フィリピン近海では、今月に入って中国が先月打ち上げた大型ロケット「長征5号B」の一部とみられる残骸が相次いで見つかっています。【11月21日 TBS NEWS DIG】
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同時期フィリピンを訪問したアメリカ・ハリス副大統領は中国漁船の進出が著しいパラワン島を訪問し、フィリピンへの協力姿勢をアピールしています。

****「違法漁業が脅威に」 米副大統領がフィリピンの島訪問、中国けん制****
東南アジアを歴訪中のハリス米副大統領は22日、南シナ海に面するフィリピン西部・パラワン島を訪問した。「違法な漁業などが地域の生態系や経済の直接的な脅威となっている」と演説し、同海域で覇権的な動きを強める中国を念頭に、けん制する姿勢を示した。

ハリス氏は、同島を訪問した米政府当局者としては最高位。演説の前に同島中部の漁村などを訪れ、村長らと面会した。約1500世帯が暮らす村では中国漁船による違法操業などの影響で漁獲量が減少し、深刻な問題となっているという。

ハリス氏はフィリピン海上警備隊らの前で演説し、「地域の人たちは、フィリピンが管轄する水域に外国船が侵入し、違法に魚を激減させ、海の生態系を破壊するその影響を目の当たりにしてきた」と指摘。「地域の経済や生態系、人々の生活を守るために、私たちは国際法と規範を維持しなければならない」と訴えた。

フィリピンは今年6月、同島付近の自国の排他的経済水域(EEZ)に100隻を超える中国の漁船が長期にわたって違法に集結したと批判している。ハリス氏は特定の国名をあげなかったが、「主権や領土保全の尊重、インド太平洋と南シナ海での自由な航行や飛行といった原則を守らなければならない」と述べた。

米国は22日、違法漁業を取り締まるフィリピンの海洋法執行機関の装備充実などに750万ドル(約10億6300万円)の支援をすることも発表した。【11月22日 毎日】
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****南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意****
(中略)
相互防衛条約の下での協力を改めて確認
こうしたなか、ハリス米副大統領が(11月)20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。

マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた。

この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。

ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意だ」(後略)【11月22日 Newsweek】
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2014年に結ばれた米フィリピンの防衛協力強化協定に基づき、米軍はフィリピンの5カ所で一時的な駐留が認められていますが、マルコス・ハリス両氏は今後、この拠点を増やすことで合意しました。

ただ、マルコス大統領は同時に「全ての友人であり、誰の敵でもない」と、独自外交を続ける方針を繰り返し強調しています。17日には訪問先のバンコクで中国の習近平国家主席とも会談、。来年1月には訪中する方針です。

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イラン  国内の厳しい人権危機のなかで、“政治”に揺れるW杯出場チーム

2022-11-25 22:55:04 | イラン
(21日イングランド戦 イランの選手たちは試合前の国歌斉唱で口を閉ざしたままだった【11月22日 東スポ】)
(25日ウェールズ戦 試合開始前、国歌を歌うイランイレブン【11月25日 時事】)

【「スポーツと政治は別物」とは言うものの】
サッカーW杯カタール大会に関しては、日本チームの大活躍で盛り上がっていますが、これまでも取り上げたようにカタール国内の外国人労働者や性的マイノリティに関する扱いには大きな問題があります。

そのことをW杯に絡めて云々することは、日本では「スポーツに政治を持ち込むべきではない。スポーツと政治は別物」という考えで嫌われます。

欧米では、いろんな機会に個人の考えを表明することは是とされることが多く、スポーツ大会参加者が政治的な意思表示をすることは珍しくありません。国民も政治的な視点からイベントの是非を評価することも日本よりは多く見られます。

今日そのあたりのことを論じるつもりはありませんが、ひとつ言えるのは紛争の真っただ中にある国おいては、多くの事柄が政治的立場と繋がってくるため、「スポーツと政治は別物」と言うような余裕はありません。
「どちらの側に立っているのか」を問われます。

【抗議デモで死者400人超、子どもを含む1万4000人が拘束 深刻な人権危機】
11月22日ブログ“イラン・トルコで激しさを増す国内外のクルド人勢力への弾圧・攻撃 国を持たない民族の悲劇か”でも少し触れたように、イランでは頭髪を覆うヒジャブ(スカーフ)の被り方が不適切として拘束された女性が警察の暴力を受けて死亡したのではないかという疑惑(イラン政府は否定)から9月に始まった抗議デモが長期化し、単にヒジャブの問題だけではく、「自由」を求める運動、イスラムによる宗教的強権支配体制への批判にも発展しています。

****イランのデモ、民衆蜂起の様相=イスラエル軍情報部門トップ****
イスラエル軍の情報部門トップは21日、イランで広がる抗議デモについて、民衆蜂起の様相を呈し始めているの見方を示した。一方、現時点で政権存続に「現実的な脅威はない」とも語った。

イランでは今年9月、顔を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして22歳の女性が警察に拘束されて死亡した。事件をきっかけに抗議活動が続いている。

イランと長年対立するイスラエル軍のアーロン・ハリバ参謀本部諜報局長は、テルアビブ大学国家安全保障研究所で、「抗議行動は既に民衆蜂起の領域に達していると思う」と指摘。「いくつかの出来事を見ると、発生時間、国家機関や国家の象徴が受けた被害、死者数など、政権にとって大いに問題となる異次元の何かが起きている」と語った。

「現時点で政権に対する現実的な危険はないと考える」とした上で、「社会行動の予測は参謀本部諜報局の責任で行うものではない」とも述べた。【11月22日 ロイター】
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イラン当局は厳しい弾圧姿勢で抗議デモに臨んでおり、イランの人権活動家通信(HRANA)によると、この抗議行動に関連して、11月19日時点で未成年者58人を含む抗議者410人が死亡したとされています。情報統制が厳しいイランの国内事情はよくわかりませんので、実際の犠牲者はもっと多い可能性もあります。(以上、22日ブログからの再録に加筆)

国際的にもイラン当局のデモ弾圧に厳しい批判が起きています。

****国連人権理、イランの人権侵害巡り調査団設置 デモ弾圧で****
国連人権理事会は24日、イランの人権状況について特別会合を開き、9月以降広がる抗議デモへの弾圧など、同国の人権侵害を巡る調査団を設置する動議を可決した。賛成が25カ国、反対が6カ国、棄権が16カ国だった。

イランでは、イスラム教徒の女性の髪を隠すスカーフの着用法が不適切だとして拘束されたクルド人女性が死亡したことに対する抗議デモが広がっている。

ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官はイラン当局に対して、抗議デモを鎮圧するための「不当な」武力行使を止めるよう要請。イランは深刻な人権危機に直面しており、子どもを含む1万4000人が拘束されていると懸念を示し、イラン政府は国連の現地訪問を受け入れていないと指摘した。

イラン当局による取り締まりは、クルド人が多く住む西部地域で特に厳しくなっており、国連によると先週は40人の死亡が報告された。【11月25日 ロイター】
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【イランチーム イングランド戦では国歌斉唱せず】
こうした実弾が飛び交い、多くの市民の血が流れる厳しい状況の中でW杯に参加したイランチームでしたが、試合前の国歌が流れる際に、選手たちが国歌を歌わない様子が話題にもなりました。

イラン政治体制に批判的な立場からは、現在のイラン国歌はイランのものではなく、(現行政治体制の)イスラム共和国のものだと指摘する声もあるようです。

(蛇足ながら、こうしたイランのアイデンティティとイスラムを峻別する考えは、以前イランを観光した際にも聞きました。国際的にはイランは厳格なイスラム国家とみなされていますが、「イランはイスラムではない」と。その考えは、本来のイランの伝統・文化はペルシャ帝国以来受け継がれているものであり、イスラムは近年に持ち込まれたものに過ぎないというもののようです)

国歌を歌わないというイランチームの選択は、国内で続く反政府デモに連帯を示した形と見られています。
DFエフサン・ハジサフィ選手は20日の記者会見で、デモ参加者を念頭に「私たちは応援し、共感している。人びとが期待するような変化を望む」と述べたとも報じられています。

“試合後、イランのカルロス・ケイロス監督は「W杯の規定に沿い、ゲームの精神に則っている。(選手たちは)自由に抗議することができる」とコメント。選手からは今回の行動を支持する声が目立っている。”【11月22日 東スポWEB】

しかし、イランの国営テレビは、選手が試合前に国歌斉唱のために整列する場面を放映しませんでした。

【イラン国内には大敗を喜ぶ声も】
試合は、イランが2―6でイングランドに大敗しましたが、イラン国内にはイランチーム自体が“政権寄り”だと見なし、その敗北を喜ぶ声もあるとか。

(ただし、そうした声が一般的なものかどうかはわかりません。少なくとも敬虔なイスラム教徒が多い地方部では現体制が支持されており、体制批判は少ないと思われます。逆にテヘランなど都市部では現体制に批判的な傾向が強く、激しい抵抗運動が行われています)

****イングランドに喫した「大敗」を、イラン国民が大喜び...何が起きているのか****
<純粋にサッカーを楽しみ、自国の代表チームを応援できる状況ではない現在のイラン。自国の敗北を喜ぶ複雑な心境とは?>

イラン代表チームが蹴散らされる姿に、イランの市民が歓喜した。11月21日、ワールドカップ(W杯)カタール大会1次リーグの初戦で、イランはイングランドと対戦。ドーハのハリファ国際スタジアムで行われた試合で、イングランドが試合を決定づける3点目のゴールを決めた瞬間、イランの首都テヘランのシャハラン地区で人々が歓声を挙げる様子が動画に収められた。

ロンドンを拠点とするペルシャ語放送局、イラン・インターナショナルが、この時の様子を映した動画をツイッターに投稿した。この試合では結局、イングランドがさらに3得点を挙げ、6対2でイランに圧勝している。

なぜテヘラン市民たちは、自国の代表チームの敗北を喜んだのか。それは、代表チームがW杯で戦う一方で、イラン国内で続いている女性たちを中心とする激しい抗議デモが関係している。

今回のデモのきっかけは、22歳の女性マフサ・アミニの死だ。アミニは今年9月13日、頭髪を適切に覆っていないなどの理由でイランの道徳警察に拘束され、3日後に死亡した。

この出来事に抗議するデモが拡大すると、当局は厳しい取り締まりを開始。人権擁護団体「イランの人権活動家」によれば、治安部隊による暴力的な取り締まりで、抗議デモの死者数は既に少なくとも419人に上っている。

さらにデモ開始以来、イラン国内でのサッカー試合は当局の決定によって、全て非公開になっている。

代表チームは国民より政権寄り?
W杯の対イングランド戦の会場では、抗議デモのスローガンである「女性、生命、自由」という文字や弾圧の犠牲になったデモ参加者の名前を記したTシャツを身に着けたり、プラカードを掲げるイランサポーターの姿が見られた。

ただそうした中で、代表チームは政権寄りで、今回の抗議デモへの連帯を示してこなかったと国民からは見られているようだ。

それもあって、冒頭の動画のようにチームの失点を喜ぶ声が上がったものと思われる。また動画には、歓声とともに「独裁者に死を」と唱える声も収められている。

この試合の前のセレモニーでイラン国歌が流れた際にも、サポーターらはブーイングを浴びせた。ただ、ピッチ上のイラン代表選手たちは口をつぐんだままだった。

故国での抗議デモへの連帯を示すため、国歌斉唱を拒否するかどうかはチーム全員で決めると、代表選手の1人のアリレザ・ジャハンバフシュは試合に先立って語っていた。

「散髪」のゴールパフォーマンスを
主将のエフサン・ハジサフィは試合前、抗議デモへの支持を表明した。「何よりもまず、家族を失ったイランの人々にお悔やみを述べたい」と、ハジサフィは記者会見の冒頭で発言した。「私たちの国の状況は正しいものではなく、国民は不満を感じていると認めなければならない」

さらに今回のW杯をめぐっては、イランの出場禁止をFIFA(国際サッカー連盟)に求める声や、選手に抗議デモへの連帯表明を促す声が上がっていた。

頭髪を覆うヒジャブの着用強制に対する抵抗の象徴的な行動として、イランをはじめとする各地で女性たちが髪を切っていることを受け、イラン出身の両親を持つロンドン生まれのイギリス人俳優・コメディアン、オミッド・ジャリリは、イランと戦うチームの選手たちに、ゴールパフォーマンスで髪を切るしぐさをするよう呼び掛けた。

「ごくささやかな行為で世界に巨大な影響を与えるチャンスがあると、イングランド代表選手に言いたい」。イラン対イングランド戦の開始前、ジャリリはツイッターに投稿した動画でそう訴えた。

「(イランと同じグループBの)イングランド、ウェールズ、アメリカの代表選手はゴールを決めたら、髪をはさみで切るしぐさをしてほしい。そんな簡単なジェスチャーで、イランの女性や少女に大きなメッセージを送ることができる」【11月23日 Newsweek】
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前述のように、自国チームの敗北を喜ぶ声が一般的なものかどうかはやや疑問ですが、そうした声もあるようです。

イランの現状からすれば、「スポーツと政治は別物」ではなく、世界が注目するW杯こそがイランの現状を発信する、多くの市民が弾圧によって血を流す現状を改善する“絶好の機会”ということになります。

逆に、その機会を利用しないことは、結果的に市民に銃を向ける当局の姿勢を暗黙の内に認めることにもなる・・・。

【国歌斉唱拒否という重い選択 帰国後の処分の可能性も ウェールズ戦では対応一変】
自国の代表チームの敗北を喜ぶ市民もいるという状況で、国歌を歌わないという選択をしたイランチームの選択も重いものがあります。帰国後どのような処分がなされるのか・・・

選手だけでなく、反政府的プラカードを持ちこんだ観客も映像で面が割れており、帰国後処分される危険も。

****W杯で命懸けの国歌斉唱拒否に出たイラン選手の運命****
<サッカーW杯の国歌斉唱という檜舞台でイラン・チームは口をつぐんで歌わなかった。帰国すれば逮捕、国歌にブーイングしたイラン人観客たちも危ないという。改めて知るイラン体制の恐ろしさ>

FIFAワールドカップでは11月21日、イラン対イングランド戦がおこなわれたが、試合に先立つ国歌演奏中に、口をつぐんで歌わなかったイラン代表選手は、帰国後に重大な結果に直面するおそれがある。(中略)

ソーシャルメディア上のイラン人たちは、この国歌はイランのものではなく、実際には(イラン・)イスラム共和国のものだと指摘し、そのふたつを明確に区別している。

ニューヨークタイムズ紙のツイートによれば、イランのサッカーファンたちは、カタール・ドーハのハリファ国際スタジアム内に「イランに自由を」「女性、生命、自由」などと書かれたプラカードを持ちこんだという。スタジアムの外には、イラン革命前のパーレビ朝の旗を持ちこもうとして入場を許されなかったファンたちもいた。

W杯を中断させたかったイラン
(中略)イラン当局は、12月18日まで続くワールドカップの期間中、国内の抗議活動に言及しないことを事前に要請した。

別の報道では、イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していたが、ホスト国カタールの反応を考えて思いとどまったと伝えられている。

ニューヨーク州立大学オルバニー校で国際法と人権について研究するデイビッド・E・グウィン教授が本誌に語ったところによれば、現在進行中の抗議活動は、イランの厳しい経済状況と結びついており、国歌斉唱を拒んだイラン選手だけでなくその家族も、「拘束や逮捕を含めた重大な結果に直面するおそれがある」。

「イラン政府は、とりわけ公共の場での抗議活動を鎮圧しようと、断固たる姿勢と容赦のなさを示してきた」とグウィンは語る。「選手たちの公的な立場は、とくにワールドカップを闘っているあいだは、彼らを守ってくれるかもしれないが、そうした立場ゆえに、選手たちは政権にとって大きな不安要素にもなる。イラン政府は、著名人が前面に出て火に油を注ぐことを望んでいない」

スタンドにいた人たちも危険にさらされる可能性がある。そうした観戦者の多くは、さまざまな形態のメディアを通じて世界中に顔が伝えられている。

「イランの治安組織である革命防衛隊は、そうした人──とくにプラカードを掲げていた人--──の身元を突き止め、経歴を掘り下げて、拘束や逮捕を正当化しようとする」とグウィンは語る。「有名ではないので選手より重要性は低いかもしれないが、少なくとも帰国後は監視下に置きたいと考えるだろう」【11月22日 時事】
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“イラン当局は、ワールドカップを中断させるためにテロ攻撃の実施を検討していた”・・・いささか眉唾ものですが、それはともかく、当局側が神経を尖らせているのは間違いないでしょう。

今日(25日)行われた、ウェールズ戦ではイラン選手は試合前の国歌斉唱で肩を組んで歌ったそうです。

当局からの「圧力はなかった」とのことですが、常識的に考えて「圧力がないはずはないだろう」という感も。「両親、兄弟がどうなってもいいのか?」ぐらいの脅しがあっても不思議ではないようにも。

****イラン、国歌を歌う 「圧力受けていない」―W杯サッカー****
25日に行われた1次リーグB組のウェールズ―イランで、イランの選手が試合前の国歌斉唱で肩を組んで歌った。21日のイングランド戦では沈黙し、イラン国内の情勢と関連して注目された。

イランでは9月、イスラム法に基づく頭部を覆うスカーフ着用義務に違反したとして警察に拘束された女性が死亡。抗議デモが続き、多数の死者が出ている。イラン代表が国歌を歌わなかったのはデモへの支持を表すためとみられた。

イングランド戦では国歌が流れる間サポーターからブーイングを受けたが、ウェールズ戦ではスタンドも一緒に歌い、涙ぐむような人もいた。
24日の試合前日会見でFWタレミは「政治的なことは話したくはないが、私たちはいかなる圧力も受けていない」と語った。【11月25日 時事】
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“ウェールズ戦ではスタンドも一緒に歌い、涙ぐむような人もいた”・・・雰囲気がそうさせるのでしょうか? 逆に、雰囲気次第ではブーイング?  よくわかりません。

まあ、ウェールズ戦、試合に勝ててよかった。イラン政府のご機嫌も少しはなおった?
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米中  「融和」的な首脳会談の一方で、米政権が仕掛ける「半導体戦争」 中国の技術革新止まる?

2022-11-24 22:00:33 | 国際情勢
(【2021年12月9日 日経ビジネス】)

【米中首脳会談 「安定した低空飛行」】
アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は、11月14日、インドネシアのバリ島で会談を行いました。対面での米中首脳会談は、3年5カ月ぶりでした。

米中の対立・競争が激化するなかで行われた会談でしたが、予想されたように特段目新しい話は報じられておらず、とにもかくにも両国トップが対面で話すことに意味があったという感じ。敢えて言えば、信頼醸成のひとつでしょうか。

****米中「安定した低空飛行」維持の見通し 首脳会談開催で対話環境整う****
◇青山瑠妙 早稲田大大学院教授

中国共産党大会と米中間選挙が終わったタイミングで米中首脳会談が開催でき、前向きなイメージを打ち出せたことには重要な意味がある。

8月のペロシ米下院議長の訪台後に中断していた気候変動問題などの交渉も再開する見通しになり、衝突回避に向け対話できる環境が整った。

対立の流れを変えるには至らなかったが、少なくともバイデン米政権1期目の残り2年は米中が「安定した低空飛行」を維持できる見通しがついたのではないか。

習近平国家主席個人の外交成果をアピールできたことは中国にプラスとなった。特に台湾問題で、台湾を領土とみなす中国の立場に異を唱えない「一つの中国」政策を米国が少しずつ変えることに不安を抱いていた。会談でバイデン大統領から「一つの中国」政策の堅持を引き出せたのは中国の成果だ。

習指導部にとっては3期目発足後初の首脳会談だった。共産党の歴史を振り返ると、新体制後に他国と敵対的になった場合、体制が変わるまでその方向が続く特徴がある。米側はこの機をとらえ外交努力を続け、前向きな結果につなげた。

米国は中国との競争を管理しつつ関係安定化に道筋をつけた。17日に中国との首脳会談を控える日本も中国に対して言うべきことは言いつつ安定した関係を築くよう努めることが重要だ。【11月15日 毎日】
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【習近平主席にとっては、「大国としての役割」を意識させた“融和劇”は成果】
また、核の使用や核による威嚇に懸念を示す「ロシア牽制」を交渉材料に「大国」米中の協力の重要性を意識させる一定の“融和劇”を演出できたことは、中国・習近平氏にとって大きな成果となったとの見方もあります。

****習近平がバイデンから得た大戦果とは?ロシア一人負けの米中融和劇****
(中略)
米中会談の評価はドイツのケース(11月4日 ショルツ首相訪中、習近平主席と会談)にも重なり、ウクライナでロシアが核を使用することに対する中国の懸念と米中の協力姿勢が交換されたようにも見えた。

ただこの会談で注目すべきは、米中双方が「大国としての役割」を意識させたことだ。米中の協力が国際社会の利益でもあるという視点が各所にちりばめられていたのだ。これは中国側が繰り返してきた「対立よりも大局を」という呼びかけに、ある程度アメリカも応えたと理解できる。(中略)

中国側が長文で会談の中身を報じたのに対してアメリカ側の発表はそっけないものだったが、そのことも会談の成果が中国側に大きかったことを示している。世界のメディアも概ねそうしたとらえ方をしたのではないだろうか。

例えば、インドのNDTVは、「3年ぶり米中首脳会談でバイデン大統領と習近平国家主席はウクライナに対し核兵器を使用しないよう足並みをそろえてロシアに警告しました。長時間に及んだこの首脳会談では、両国の緊張関係を衝突に発展させてはならないという認識で一致しました」と伝えている。(中略)

ドイツZDFにいたっては、「両大国は経済面と軍事面でライバルであり関係は損なわれています。しかし会談では予想を超える歩み寄りもありました」と、会談の成果の大きさに焦点を当てたのである。

もちろん、会談が和やかに終わったからといって米中の対立が一気に解消されるわけではない。両国はすでに構造的にも対立が避けられないライバル関係にあり、米議会は対中強硬姿勢で一致し、世論もそれを後押ししているのだ── 【11月24日 富坂聰氏 MAG2NEWS】
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【バイデン政権が仕掛ける「半導体戦争」 日本など同盟国にも足並みをそろえることを要請】
“(融和劇の一方で)両国はすでに構造的にも対立が避けられないライバル関係にあり、米議会は対中強硬姿勢で一致し、世論もそれを後押ししている”ということの表れが、バイデン米政権が10月7日に発表した、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置です。

****米、半導体製造装置巡る対中輸出規制を大幅拡大へ****
バイデン米政権は7日、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を発表した。これには米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置が含まれた。

商務省はこれまでに半導体製造装置メーカーであるKLA、ラム・リサーチ、アプライド・マテリアルズに文書で輸出制限を通知しており、新たな措置はこれに基づくもの。一部の措置は即時適用されるという。

3社は文書の存在を確認しており、具体的には、14ナノメートル未満のプロセスを用いる先端半導体を製造する中国の工場に半導体製造装置を輸出することが原則禁じられた。

今回の一連の措置は、中国への技術移転に関する米国の政策において、1990年代以降で最大の転換となる可能性がある。措置適用となれば、米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場および半導体設計業者への支援が強制的に打ち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性がある。

ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)の技術・サイバーセキュリティ専門家、ジム・ルイス氏は、今回の措置は冷戦最盛期の厳格な規制を想起させるとし、「中国は半導体製造を諦めないだろうが、新たな措置により大幅に遅れる」と述べた。

政府高官は前日、今回の措置の多くは海外企業が中国に先端半導体を販売したり、中国企業に対し独自の先端半導体の製造が可能な装置を提供したりすることを防ぐのが目的とする一方、同盟国が同様の措置を実施するという確約を取り付けたわけではなく、引き続き協議していると語った。

一方、ある当局者は「われわれが実施している一方的な規制は、他の国々が参加しなければ、時間とともに効果を失うと認識している」とし、「また、海外の競争相手が同様の規制を受けなければ、米国の技術的なリーダーシップを損なう危険性がある」とした。

アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所の国防政策専門家、エリック・セイヤーズ氏は、今回の措置は単に競争の場を公平にしようとする動きではなく、中国の進歩を阻もうとするバイデン政権による新たな動きを反映しているとした。

今回の措置を受け、半導体製造装置メーカーの株価が下落した。

米当局は米国および同盟国の企業に対し新たな措置の免除が認められるライセンスも提供しており、韓国の半導体メモリー生産大手SKハイニックスは中国工場の操業継続に向けてライセンスを申請した。【10月8日 ロイター】
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10月12日には、バイデン米大統領は外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表、その中で中国を「国際秩序を変える意図と能力を持つ唯一の競争相手」と位置付け、同盟・友好国と共に長期的に対抗していく姿勢を鮮明にしています。

****米安保戦略、中国との競争優先 ロシア危険視****
米政府は12日、外交・安保政策の指針をまとめた「国家安全保障戦略」を発表した。国際社会で唯一の競争相手と見なす中国に勝つことを優先課題とした上で、「危険な」ロシアの抑制にも取り組むとした。
 
同戦略の発表はロシアによるウクライナ侵攻の影響で遅れていた。米政府は、2020年代は紛争を抑制する上でも、気候変動という共通の大きな脅威に立ち向かう上でも、「米国と世界にとって決定的な10年になる」と説明。米国は「中国に対する持続的な競争力の維持を優先しつつ、依然として極めて危険なロシアを抑制していく」とした。

中国については、「インド太平洋地域に強力な影響圏を構築して世界屈指の大国となる野望を持っている」と指摘し、「国際秩序をつくり変える意図を持ち、その目標を推進する経済力、外交力、軍事力、技術力を強めている唯一の競争相手」と位置付けた。 【10月13日 AFP】
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その後、半導体に関しては以下のようにも。

“米半導体製造装置のKLA、中国への供給を一部停止=新規制で関連企業ジレンマ―独メディア”【10月12日 レコードチャイナ】
“半導体企業は米国の対中弾圧で巨額の時価総額を失う―米メディア【10月13日 レコードチャイナ】
“米国が中国系米国人の半導体事業従事を規制、中国の半導体企業にさらに打撃―台湾メディア”【10月15日 レコードチャイナ】
“半導体装置メーカー・ASML、米国の従業員に中国向けサービス停止を指示―台湾メディア”【10月16日 レコードチャイナ】
“米国の対中半導体規制は「ブーメラン」に?―中国メディア”【10月22日 レコードチャイナ】

アメリカ・バイデン政権は日本やオランダなど半導体製造装置に関係する同盟国に協調を働きかけています。

****対中半導体輸出規制に同盟国も足並み、近く合意へ=米高官****
バイデン米政権は、先端半導体製造装置の対中輸出を制限する米国の新規制に足並みをそろえることで同盟国と近く合意する見通し。商務省高官が27日明らかにした。

商務省は今月、半導体製造装置の対中輸出規制の適用対象を大幅に拡大する一連の包括的な措置を発表した。

ただ、米企業だけでなく東京エレクトロンやオランダのASMLホールディングなども半導体製造装置を生産していることから、主要同盟国に同様の装置輸出規制を導入するよう説得できなかったとして批判を浴びた。

エステベズ商務次官(産業安全保障担当)は米シンクタンクCNASのインタビューで、日本やオランダをはじめとする同盟国による同様の規制導入について「近く合意できる見通し」と述べた。

広範囲にわたる新規制のどの部分について同盟国の合意を得られるかとの問いには、半導体と製造装置を含む「全範囲を検討している」と答えた。

規制には米国の半導体製造装置を使って世界各地で製造された特定の半導体チップを中国が入手できないようにする措置も含まれた。エステベズ氏は、各国が自国で同様の制度を導入すれば、米国のルールから免除される可能性があると述べた。【10月28日 ロイター】
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今や兵器生産にも高性能半導体が欠かせず、中国にとって半導体は石油と同じくらい重要なものとなっており、アメリカはそこを押さえる「半導体戦争」を仕掛けています。

*****「中国の技術革新は少なくとも5年は止まる」“半導体戦争”アメリカ輸出規制の衝撃**** 
半導体は確保必至の戦略的物資
アメリカ政府内では当初、キーウへの猛攻が始まれば陥落まで3日も持たないだろうと囁かれていた。しかし、ロシアの大軍はピタリと止まった。ウクライナ軍はアメリカが供給した携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」で反撃を開始し、ロシア軍によるキーウへの本格攻撃をすんでのところで阻止したのだ。

しかし、長引く侵攻で、「ジャベリン」のアメリカ国内の在庫枯渇が問題視されるようになった。新規の製造がままならない。その大きな理由が半導体不足だという。「

ジャベリン」システム一つにつき、250個以上の半導体が使用されているという。半導体はもはや単なる部品ではなく、確保しなければならない戦略的物資となっているのだ。

世界的に注目が集まっているこの半導体と米中間の覇権争いに着目した著書が10月にアメリカで出版され、大きな話題を呼んでいる。本のタイトルは『CHIP WAR』。直訳するとその名も「半導体戦争」だ。
著者でタフツ大学准教授のクリス・ミラーさんに話を聞いた。

中国にとって半導体は石油と同じくらい重要
――半導体を巡る米中の攻防に注目して本を執筆しようと考えたきっかけは何か?

軍事技術について研究していくうちに、半導体が過去数十年にわたる軍事技術の中核的存在であることが分かったのです。さらに驚くことに、中国は石油を輸入するのと同じくらい、半導体を輸入するのに資金を投じていたことがわかったのです。

世界情勢を読み解くうえで、私の考えを根本的に変える発見でした。半導体を中心に据えなければ、実は過去75年間の世界の動静を理解できないということが分かったのです。まさにこの期間の軍事力や大国の栄枯盛衰は、すべて先端半導体へのアクセスと生産に関係していたのです。

――アメリカ商務省は10月7日、先端半導体技術を巡り、中国との取引を幅広く制限する措置を発表したが、どのような意味があるのか?

この新しい規制は、中国が先端半導体や、その製造に必要な部品の輸入を困難にさせ、高度な技術力の獲得を大幅に遅らせることを目的としています。

アメリカは、次世代の軍事システムには、先端半導体とそれが可能にするコンピューティングパワーが不可欠になるとの結論に至っています。

中国は、軍事技術の面で近年驚くべき速さで革新を遂げていますが、先端半導体関連の輸出制限を講じることで、アメリカは技術面での優位性を保てると考えているのです。中国が今後も先端半導体をアメリカや日本などの国から輸入する。そんな現状の依存関係を維持することこそ、アメリカの戦略なのです。(中略)

製造装置の世界市場を牛耳るのは日米蘭の5社
――中国は先端半導体の国産化に莫大な予算をつぎ込んでいますが、アメリカによる輸出規制は中国の技術革新を阻止できるか?

先端半導体を製造するために何が必要か考えてみてください。製造装置から製造過程で必要な薬剤まで、国産で製造することは不可能なのです。

最先端半導体の製造分野を見てみると、アメリカ企業3社とオランダ企業1社、日本企業1社が大きな役割を担っていることがわかります。この5社の技術がなければ最先端半導体を製造することはまずできないでしょう。

少なくとも今後5年は、中国がこの分野で大きな進歩を遂げるとはとても思えません。その先は何とも言えませんが、私の予想では、10年後の中国はまだ最先端技術に追いつくのに苦労しているのではないかと思います。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

TechInsights(テックインサイツ)発表における2021年世界半導体製造装置の売上高上位5社ランキングによれば、1位はアメリカのApplied Materials社、2位にオランダのASML社、3位アメリカのLam Research社と続き、4位には日本の東京エレクトロンが入っている。5位はアメリカのKLA社だ。そして実にこの上位5社が製造装置市場全体の約70%を独占しているのだ。

中国は、半導体分野では最終的な組み立てや検査では世界シェアを有しているものの、先端半導体の製造に欠かせない製造装置の分野では、ほとんど市場シェアを持っていない。

アメリカがそこをうまくついた輸出規制なのだ。アメリカのレモンド商務長官は、製造装置市場で大きな存在感を放つ日本やオランダにも協力を促している。

インタビューの最後に、半導体戦争に最終的に勝利するのは誰なのか聞くと、「未知数」としながら、「かなりの自信を持って言えるのは。中国が主導的地位を築くことは非常に難しくなった」とミラー氏は語った。【11月24日 FNNプライムオンライン】
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当然ながら、中国からの「報復」が想定されます。アメリカに足並みをそろえる日本も「覚悟」が必要になります。

****号砲は鳴った 米中半導体戦争に日本も備えるべし****
10月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙コラムニストのラナ・フォルファーが、バイデン政権の最近の中国に対する半導体輸出規制は、中国の戦略に対する反応であると論じ、中国のあり得べき報復に備えてサプライチェーンの強化を図るべきことを強調している。

バイデン政権の最近の半導体に関する対中輸出規制については、中国に対する経済戦争の布告だという説もあるが、米国は中国に単に反応、それも遅く反応しただけである。

中国が「中国製造2025計画」をもってサプライチェーンのデカップリングへの道を開いたことを想起すべきである。これは7年前に公表され、2、3年のうちに西側の技術、特にチップから自立する欲求が明示されていた。中国は技術開発に深く根差した軍産複合体であり、成長してその地域的な経済の軌道に他の諸国を取り込む余地を有する市場である。

現在、高性能チップの軍事と民間の使用を分離することがほぼ不可能な時代にあって、これらの製品を最大の敵対国に届け続けるのかという問題がある。チップ・セクターの米国企業と従業員は中国から出国しつつある。しかし、チップを使う米国のブランド企業は、政府に何処までデカップリングは進むのかを問い始めている。

その答えは、新規制にどの位例外が認められるのかによる。中国が次にどう出るかにもよる。中国はレアアースの輸出を制限するかも知れない。レアアースは国防産業や電気自動車で使われる。

中国は自動車に使われる中国製の非高性能チップの輸出を制限出来ることだろう。これを米国で製造あるいは同盟国から大量に調達するには少なくとも2年はかかると見られる。中国は色々な電子部品の輸出を削減し広範囲の品目のインフレを促進するこかもしれない。

結論は、供給源の重層化である。一つは、非高性能チップや部品のインドや東欧での生産増強であろう。企業は在庫は悪であるとの考えを再考すべきだろう。リスク計算には、より大きな在庫コスト、積み上げに要する時間と運転資本、新たなサプライチェーンに枢要な物品を分配し補充する価格が組み込まれなければならない。

政府はチップだけでなく食料、医薬品、エネルギー、PPE(個人用防護具)を含む最も枢要なサプライチェーンのリストを精緻なものにする作業を続けなければならない。商務省がこの情報蒐集を主導するべきである。(後略)【11月24日 WEDGE】
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カタール  天然ガス争奪戦 日本が失った分が欧州と中国へ 米・露・中、ガスをめぐり得したのは・・・

2022-11-23 23:35:28 | 資源・エネルギー
(【11月22日 TBS NEWS DIG】)

【天然ガス供給余力があるカタール 欧州・ロシア・中国など世界が注目】
丁度今頃、カタールではW杯日本-ドイツ戦ということで、日本中の視線が中東カタールに集まっている時間ですが、W杯関連(サッカー以外の人権問題なども含め)以外でも最近カタールに関するニュースを目にします。

ウクライナ絡みで欧州で価格高騰などで問題になっている天然ガスに関するニュースです。

確かにカタールは天然ガス生産国ではありますが、世界第6位ということでずば抜けた生産量ではありません。
そのカタールが注目されるのは、“供給余力がある”ということによるものみたいです。

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今年になってEU首脳の“カタール詣で”が顕著だ。3月イタリア首相、5月スロベニア大統領、8月ギリシャ首相、9月ドイツ首相などなど。

みな、ロシアから来なくなった天然ガスの代替をカタールに求める。これによって価格は上昇しているわけだが、そもそもなぜカタールなのだろうか。天然ガスの生産量は、1位アメリカ、2位ロシア、3位イラン、4位中国、5位カナダ、そして6位がカタールだ。

立教大学 蓮見雄 教授 「カタールは供給余力があるということ。アメリカは最大の生産国ですが自分の所で大量に使ってしまいますから・・・」

ロシアはもちろん、イランも制裁対象国で、買うわけにはいかない。中国はアメリカ同様、自国で消費する。ということでEU首脳はカタール詣でとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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カタールに注目しているのは欧州ばかりではないようです。 ロシア、中国も。

****ロシア大統領、カタールとガス安定で協力 サッカーW杯に祝辞****
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、 プーチン大統領がカタールのタミム首長と電話会談を行い、世界のガス市場の安定確保に向けてカタールと緊密に協力する意向を示したことを明らかにした。

プーチン大統領はまた、20日開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)の開催国であるカタールに祝辞を述べた。国際サッカー連盟(FIFA)は、ウクライナ侵攻を受けてロシアの国際大会への出場を禁止している。【11月19日 ロイター】
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石油のOPECプラスのように、生産国が協調して高値を維持しようという話でしょうか。
一方、自国生産分では足りない中国は・・・。

****カタール、中国と天然ガス供給27年契約締結 「史上最長期間」*****
カタール国営エネルギー企業「カタールエナジー」は21日、中国と天然ガス供給で「史上最長期間」となる27年契約を締結したと発表した。欧州がロシア産ガスの代替調達先を求めて奔走する中、カタールはアジアとの関係を強化している。
 
同社によると、中国石油化工(シノペック)に対し、新たに開発されたノースフィールドイースト輸出基地から年間400万トンの液化天然ガスを供給する。

エネルギー担当国務相であり、カタールエナジー最高経営責任者のサアド・シェリダ・カアビ氏は「LNG業界史上最長期間となるガス供給契約」だと述べた。

日本、中国、韓国をはじめとするアジア諸国は、カタール産天然ガスの主要な輸出先となっている。ロシアのウクライナ侵攻開始以降は、欧州諸国も取引を模索しているが、ドイツなどはアジア諸国とは異なり長期契約には消極的であるため、交渉は難航している。

ノースフィールドイースト輸出基地は、カタールのLNG生産拡大プロジェクトの中心的存在。生産量は2027年までに60%超増加し、1億2600万トンに達すると見込まれている。同輸出基地からの供給契約を結んだのは、中国が初めて。 【11月21日 AFP】
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【日本が失ったカタールからの輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に】
ドイツが長期契約に消極的とのことですが、将来的な脱炭素の流れ、現在の高値状態を考えると、長期契約に二の足を踏むのは日本も同様です。

日本にとってもカタールは重要なガス供給国ですが、欧州各国の“カタール詣で”や長期契約問題などで、ガス確保に苦戦しているとのこと。(その点、中国はカネに糸目をつけず・・・といったところでしょうか)

日本が失った分が欧州と中国に向かっている・・・という状況のようです。

****「すべて売り切れ…調達はすでに戦時状態」エネルギー世界争奪戦 大丈夫か⁈ニッポン*****
ワールドカップが始まり世界の熱い視線が集まる中東・カタール。しかし、サッカー以外でも今、カタールが注目の的になっている。

ウクライナ戦争を機に始まったヨーロッパのエネルギー危機。ロシアから来なくなった液化天然ガス(LNG)の新たな輸出国として注目されているのが、カタールなのだ。このカタールのLNG争奪戦は日本にとっても他人事ではない。今回はエネルギー争奪戦の世界地図を読み解いた。

■「日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」
天然ガスはパイプラインで送る場合を除いて、マイナス162度で液化して輸送する。この液化天然ガス(LNG)を、産出国カタールで積んだタンカーが、どこに移動したか映し出した航路画像がある。

カタールを出たタンカーの一部は、紅海を通ってヨーロッパへ・・・。別の一部はインド洋を通ってアジア諸国へ向かう。が、日本に向かう船は殆ど無い。このタンカーの航路を調査している、シンガポールのエネルギー調査会社に話を聞いた。

『VORTEXA』LNG部門責任者 フェリックス・ブース氏
「カタールの日本へのLNG輸出量は全体の11〜12%だったが、今年は4%にまで減少した。(カタールが売却先を公開しないので)中東から東アジアに向かう船の最新情報を見ている。

最大のポイントは、船のほとんどが日本に向かっておらず、中国、韓国、台湾に向かっていることだ。今年1月以降、日本の、カタールからのLNG輸入量は非常に少なくなり、わずかなものしか入ってこない。

カタールから中国とヨーロッパへの輸出量の増加分を見てみると、日本の輸入量の減少分と同じだ。つまり日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」

更に今までヨーロッパは、パイプラインで天然ガスをロシアから輸入していたため、LNGの施設なども充実しておらず、限られた量しか買えなかったが、今後はロシア産を買うわけにもいかず、施設を作っているため、カタールからの輸入は増える。また、中国は来年以降も買い手になる。そのため日本のLNG購入は来年以降更に厳しくなるとブース氏は言う。

実は日本の大手の会社は1997年以来、カタールから年間550万トンのLNGを購入する契約を結んでいた。この契約が去年切れ、日本は契約を更新しなかった。

理由は契約が20年以上という長期契約と、他国に転売しないという条件を飲めなかったためだ。もちろん今年の状況を予測出来るはずもなかったが、他にも長期契約できない事情があった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「去年の11月というと、COP26がグラスゴーで開かれ、世界の脱炭素の潮流がピークに達した時だった。企業にもコンプライアンスが求められる中で、今後20年炭素を出すエネルギー源を使うのかっていうことと、原子力発電所の再稼働も持ち上がっていた…。そういう時にLNGの20年30年という契約をするのはどうなのかなと…」

さらに価格の面でも疑問はあった。日本の平均購入価格は、スポット購入額より高めだったが、去年の夏以降LNG価格が高騰。契約更新の11月には、スポット価格が何倍にも跳ね上がっていた。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「天然ガスの価格というのは今が非常に異常な状態でして、エネルギー危機の状態。いくつかのクライシスが起きている中の3番目のクライシス。これを去年の更新の時期には予見できなかった」

かくして日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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【ロシア侵攻に備えて検討されていた流れ】
カタールのガスを欧州に・・・・という方向性は、ロシアのウクライナ侵攻の可能性が議論され始めた今年1月にはすでに示されていたものです。当然、どこからか引きはがして・・・ということになります。

****カタール、有事に欧州へガス供給も 米国の力添えは必要=消息筋****
液化天然ガス(LNG)の主要産出国カタールは、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国がロシア経済制裁を発動し、報復でロシアが欧州向けガス供給を中断する事態になれば、一部のカタール産ガスの供給先を欧州向けに変更することが期待されている。

事情に詳しい筋によると、米ワシントンで来週、タミム首長とバイデン大統領がこの問題を協議するが、カタールにとっては、同国ガスの購入契約者への説得で米国の力添えが必要になるという。

米政権は欧州向けのガス供給元確保が必要になった場合に備え、ここ数週間、カタールなど主要エネルギー産出国に接触してきた。

消息筋は「2011年の福島の原発事故の際のような世界的なエネルギー供給の大混乱が起きた場合」は「カタールが力になれるかもしれない」と指摘。カタールには欧州に振り向けられる余剰分がある程度あるとした。

ただ、産出量のほとんどは長期契約に向けられているため、そうした余剰分はあまり多くないとし、「短期的な解決策としてガスを欧州に振り向ける場合は、大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になるだろう」と語った。

カタールはLNG輸出をより長期的に大きく拡大させていきたい意向。消息筋は、欧州連合(EU)がエネルギーの安全保障を確かにし、将来的な供給混乱を回避できるようにしたいなら、EUがLNGの長期契約締結を考えることが必要だと指摘した。【1月27日 ロイター】
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欧州はガス確保に関して、アメリカの協力を仰いでいました。

****欧州、ガス確保で米の支援仰ぐ ロシア産の代替探し****
欧州の政府関係者がロシア産天然ガスの代替となる供給源探しで米国の支援を仰いでいる。ウクライナ情勢の緊迫化に伴い、ロシアからのガス供給が滞る事態に備える狙いがある。
 
ロシアは10万人を超える軍部隊をウクライナ国境付近に集結させている。こうした中、エネルギー分野の欧州連合(EU)当局者は米当局者と協議を重ねており、代替供給の確保に向けてアゼルバイジャンやカタールといったガス生産国を訪れている。(後略)【1月28日 WSJ】
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そしてアメリカはカタールをNATO非加盟の主要同盟国に指定する形で、同国を取り込んでいます。

****バイデン米政権、カタールを同盟国に指定、大型の航空機取引も成立****
(中略)ホワイトハウスが公表したバイデン大統領と(カタールの)タミーム首長の会談要旨によると、両者は湾岸と中東地域の安全と繁栄の促進や、世界のエネルギー安定供給、アフガニスタン人への支援、貿易・投資協力の強化に関して相互の利益を確認した。その上で、50年にわたる戦略的な友好関係に基づき、カタールを非NATO主要同盟国に指定するに至ったとしている。【2月2日 JETRO】
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“日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった”というのは、こうした国際政治の流れに沿う形にもなっています。

【アメリカ・ロシア・中国の天然ガスをめぐるゲーム 勝ったのは・・・】
この天然ガスをめぐる争奪戦は、アメリカ、ロシア、中国という「大国」間の激しいパワーゲームの舞台ともなっています。

ウクライナの戦況同様に劣勢にあるのがロシア、この機に乗じて大儲けしているのがアメリカ、ロシアとの距離を考えながら着々と有利に進めるのが中国・・・といった構図のようです。

****「結果的にアメリカを利しているというのはロシアからすると忸怩たる思い」*****
今年になってEU首脳の“カタール詣で“が顕著だ。(中略)結果カタールの貿易黒字額は今年春以降跳ね上がっている。だが、実はこの天然ガスの高騰で笑顔がこぼれる国はカタールばかりではなかった・・・。

アメリカだ。アメリカは天然ガスの生産量は世界一だが、輸出量は大きくなかった。ところが今回のエネルギー危機によって、今年上半期の輸出量は実に約3億1700万立方メートル。これは世界一の数字だ。つまりアメリカは世界最大のLNG輸出国となった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「アメリカはシェールガス革命によって、ヘンリーハブ(天然ガス指標価格)がお安い。液化コスト、輸送コストを乗せても、世界市場を狙っていける。ただこれからどのくらい伸びるかは、意見が分かれる(中略)今ガスの価格が高いから輸出できるけれど、価格が安定してからも供給を続けられるかどうか。二の足を踏むんじゃないか・・・。カタールと並んでアメリカの動向がエネルギー価格において重要」

化石燃料をやめようとする世界の潮流があり、比較的CO2の排出が少ない天然ガスは“つなぎのエネルギー”として必要だ。結局エネルギー市場でも、アメリカが世界をリードしくいくのだろう。この状況をプーチン大統領はどう思っているのだろうか…。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「結果的にアメリカを利しているというのは、ロシアからすると忸怩たる思いがある。ただロシアのエネルギーを市場から排除することが世界のインフレを高める。そこにプーチン大統領の政治的狙いっていうのがあって…。とにかくインフレが高まれば、ウクライナに対する支援疲れであったり、早く戦争をやめて欲しいっていう国際世論が、ウクライナ側への圧力となったりする。そういう政治的揺さぶりのためにエネルギーを武器にしている」

プーチン氏には自国の経済的損失などより、西側を混乱させる政治的思惑が優先される。確かに経済合理性を考えられるなら戦争など始めるはずもない。

■「ロシアは資源大国じゃなくなる」
アメリカはプーチン氏のエネルギー戦略に乗じて潤っているようだが、中国もまたロシアとの絶妙な距離感で、美味しい思いをしている。

立教大学 蓮見雄 教授
「わかりやすく言えば、漁夫の利ですよ。ロシアはエネルギーを買ってもらわなきゃならないから安くても売る。“シベリアの力”というパイプラインを使うんですが、ヨーロッパ向けと比べるとせいぜい4分の1くらい。(中略)“シベリアの力2“を作る話もあるが、これもロシア側が相当負担するだろうし、売れても安い・・・。

基本的には中国に頼るしかない。ロシアは資源大国じゃなくなるリスクもある。資源開発の技術が禁輸になってる。西側の開発会社は撤退したし、LNGも自分じゃ作れないし、深いところも掘れない。」

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「クリミア併合後に合意したのが“シベリアの力”で、中国は欧州の10分の1の価格でガスを買っていた。国際的に孤立したロシアが頭を下げて長期契約した。それが8年前。それで今度も“シベリアの力2”をロシアが持ちかけてるんですが、今になっても中国は一言もそれを言わない」

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「ヨーロッパを揺さぶる目先のエネルギー戦略のために、中国への依存を必要以上に高めている。中ロも外から見ると“反米”で連携しているように見えるが、力関係は明らかにロシアが中国に頭を下げている。この従属関係はロシアにも不本意であると思う」

■中国が6割を握っている
ロシアは自らエネルギー大国として世界の市場から退場した。ではエネルギーを背景にどこの国が世界の覇権を握っていくのか。果たして日本の未来はどうなるのか…

資源エネルギー庁の資料では、日本の商社のこんな言葉が紹介されている。「2026年までに開始できる(LNGの)長期契約はすべて売り切れてしまっている。エネルギーの調達はすでに戦時状態だ」 
蓮見教授は気になる問題点を口にした。

立教大学 蓮見雄 教授
「日本はロシアとサハリン2との契約を続けたが、生産自体ができるのかどうかが問題。そうすると本気で再生可能エネルギーに取り組まなければならないということになるが、日本もヨーロッパもそうですが、太陽光パネルにしても発電機にしても、すべて鉱物資源が必要になるんです。そしてその鉱物資源の6割を中国が握っているんです。

そうすると再生可能エネルギーを進めるためには資源をどう確保するのか…今後本気になって考えなければならないんです」(BS-TBS 『報道1930』 11月21日放送より)【11月22日 TBS NEWS DIG】
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イラン・トルコで激しさを増す国内外のクルド人勢力への弾圧・攻撃 国を持たない民族の悲劇か

2022-11-22 23:41:29 | 中東情勢
(トルコ軍の空爆による死者を悼む(クルドの)人々(21日、シリア北東部ハサカ県)【11月22日 日経】)

【国を持たない最大の民族】
****クルド人****
トルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布する。人口は3,500万~4,800万人といわれている。

中東ではアラブ人・トルコ人・ペルシャ人(イラン人)の次に多い。宗教はその大半がイスラム教に属する。

トルコ 約2480万人 イラン 約480~660万人 イラク 約400~600万人 シリア 約90~280万人(後略)【ウィキペディア】
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人口は3,500万~4,800万人ながらも現在国家を形成していないことから「国家を持たない最大の民族」とも呼ばれています。

主な居住地であるトルコ・イラク北部・イラン北西部・シリア北東部等におけるクルド人の現状は様々です。
その中で、政治的に一定の独自性を持つのがイラクの「自治政府」です。

****独立から自治に傾斜する「国を持たない最大の民族」****
(イラクにおいては)独立を強く主張するバールザーニー率いるクルド民主党(KDP)に対してターラバーニーのクルディスタン愛国連合(PUK)は自治による緩いつながりを主張する。

イラクのクルド人たちは本音では独立を願いながらも、開発援助などを含むイラク政府の支援を「ベネフィット」とみなして受け入れ、独立ではなく自治政府を選択する。

トルコでは政府の厳しい弾圧により、オジャランが作ったクルディスタン労働者党(PKK)が武装闘争から対話路線へ移行。クルド国家設立から国家横断的な自治を基本とする連邦化に向け、2005年に「クルディスタン共同体同盟(KCK)」が設立された。KCKにはシリアの民主統一党(PYD)、イランのクルディスタン自由生活党(PJAK)などが参加している。

強いリーダーが存在しないシリアやイランではオジャランの系譜の影響力が強い。シリアにおいては、内戦の武力対立収束の枠組みに直接関係しなかったPYDの影響力が強まっている。

イランではクルディスタン民主党(KDPI)と農民中心のマルクス主義的組織「コマラ」の連合がPJAKに対抗する図式だ。ただ、いずれも外部勢力の影響下にあり、イランのクルド人の運動としては脆弱である。

本書はこのように、各国の運動を比較分析することで、1つの国家にはなり切れないクルド民族という「国家主体」の現実を教えてくれる。(後略)【5月14日 東洋経済ONLINE 渡邊啓貴氏 書評「クルド問題 非国家主体の可能性と限界」 今井宏平著】
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【反政府デモが続くイラン クルド人居住地域への弾圧を強化 イラクのクルド自治区への攻撃も】
“国家を持たない”非国家主体クルド人勢力とトルコ・イランといった国家主体の衝突が厳しさを増しています。

イランでは頭髪を覆うヒジャブ(スカーフ)の被り方が不適切として拘束された女性が警察の暴力を受けて死亡したのではないかという疑惑(イラン政府は否定)から9月に始まった抗議デモが長期化し、単にヒジャブの問題だけではく、「自由」を求める運動、イスラムによる宗教的強権支配体制への批判にも発展しています。

****イランのデモ、民衆蜂起の様相=イスラエル軍情報部門トップ****
イスラエル軍の情報部門トップは21日、イランで広がる抗議デモについて、民衆蜂起の様相を呈し始めているの見方を示した。一方、現時点で政権存続に「現実的な脅威はない」とも語った。

イランでは今年9月、顔を覆うスカーフを適切に着用していなかったとして22歳の女性が警察に拘束されて死亡した。事件をきっかけに抗議活動が続いている。

イランと長年対立するイスラエル軍のアーロン・ハリバ参謀本部諜報局長は、テルアビブ大学国家安全保障研究所で、「抗議行動は既に民衆蜂起の領域に達していると思う」と指摘。「いくつかの出来事を見ると、発生時間、国家機関や国家の象徴が受けた被害、死者数など、政権にとって大いに問題となる異次元の何かが起きている」と語った。

「現時点で政権に対する現実的な危険はないと考える」とした上で、「社会行動の予測は参謀本部諜報局の責任で行うものではない」とも述べた。【11月22日 ロイター】
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イラン当局は厳しい弾圧姿勢で抗議デモに臨んでおり、イランの人権活動家通信(HRANA)によると、この抗議行動に関連して、11月19日時点で未成年者58人を含む抗議者410人が死亡したとされています。情報統制が厳しいイランの国内事情はよくわかりませんので、実際の犠牲者はもっと多い可能性もあります。

地域的に見ると、当局の弾圧が際立つのがイラン西部のクルド人が多く居住する地域。
発端となった女性がクルド系だったこともあって、日頃からイラン政府に不満を持つクルド人が激しい抗議行動を展開しているため、当局側の弾圧姿勢も本格化しているようです。

****イラン、クルド系地域で大規模弾圧 革命防衛隊投入か****
イラン西部の少数派クルド系住民が多く住む地域で、当局による大規模な弾圧が起きているもようだ。人権団体が20日、明らかにした。治安部隊が多数投入され、激しい銃撃音や悲鳴が聞こえる動画などが19日夜から20日にかけてインターネットに相次いで投稿されたという。

イランでは、服装規定違反を理由に道徳警察に逮捕されたクルド系女性の死をめぐる抗議デモが2か月以上続いている。人

権団体によると、これまでに全31州中25州で、取り締まりの過程で計378人が死亡、6人に死刑判決が下された。当局は著名人やスポーツ関係者、ジャーナリストらの一斉摘発も実施。国営イラン通信は20日、頭髪を覆うスカーフを公の場で外してデモへの連帯を示した有名女優2人が逮捕されたと報じた。

全国に拡大したデモに最初に火が付いたのが、クルド系地域だ。西アゼルバイジャン州の都市マハバードでは、弾圧の犠牲者の葬儀後に人々が道路を封鎖して座り込みを行う映像や、治安部隊の暴力に抗議する労働者によるストライキの情報が伝えられていた。

ノルウェーを拠点とする人権団体ヘンガウは、マハバードに「武装治安部隊」が派遣され、「住宅街で激しい銃撃が行われている」とツイッターで報告。精鋭部隊「革命防衛隊」の隊員を乗せてマハバード上空を飛ぶヘリコプターだとする映像を公開した。

人権団体イラン・ヒューマン・ライツは、19日夜から20日にかけて撮影された、銃声が響き渡る市内の様子とされる動画や、銃撃音とともに悲鳴が鮮明に記録されている音声ファイルを公開。「(当局によって)電力が遮断され、銃撃音が聞こえる。死傷者が出ているとの未確認情報もある」と報告した。

イラン多数派のペルシャ系住民はイスラム教シーア派に属するが、クルド人はスンニ派。マハバードは、第2次世界大戦直後の1946年にソビエト連邦の支援でクルド人が樹立した未承認独立国家「マハバード共和国」の中心都市で、クルド系住民にとっては特に思い入れのある地だ。結局、この共和国は1年足らずでイラン当局に制圧された。

人権団体ヘンガウは、西部クルディスタン州のディバンダーレやサケズ、サナンダジについても、当局が民間人に発砲するなど「危機的」な状況が伝えられているとしている。【11月21日 AFP】
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イラン当局はインターネットも遮断したようで、その弾圧の実態、何が起きているのかはますますわかりづらくなっています。

****イランで大規模ネット遮断、クルド勢力弾圧の懸念高まる****
スカーフ着用を巡り警察に拘束された女性が死亡した事件に対する抗議デモが続くイランで21日、携帯電話からのインターネット接続が広くできない状態となった。独立系のインターネット監視団体「ネットブロックス」が明らかにした。

クルド人居住地域の反政府勢力鎮圧のため当局がインターネットを遮断しているとの懸念が人権団体の間で高まっている。(中略)

また、サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で同日、イラン代表の選手らはドーハで迎えた初戦のイングランド戦前、国歌を斉唱しなかった。国内の抗議デモへの連帯を示す動きとみられるが、イランの国営テレビは、選手が試合前に国歌斉唱のために整列する場面を放映しなかった。【11月22日 ロイター】
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更にイラン革命防衛隊はテロリスト拠点が存在するとして、イラクのクルド自治区へのミサイル攻撃も実施しています。

****イラン革命防衛隊が、イラク・クルド自治区のテロリスト拠点をミサイル攻撃****
イランイスラム革命防衛隊が、イラク北部クルド人自治区に潜伏している分離主義テロリストに対する2回目の砲撃・ミサイル攻撃を行いました。(中略)

革命防衛隊陸軍は、今年9月24日にもこれらのテロ組織に対して何度も警告を発した末、彼らの拠点に対する大規模な攻撃を行い、「テロ活動を停止しない限り、無人機やミサイルによる攻撃を継続するだろう」と通告しています。(中略)

革命防衛隊陸軍のパークプール司令官は、「イスラム戦士らの作戦は、イラクのクルド人自治区に潜伏している分離主義テロリストや反革命派集団の完全な武装解除まで継続されるだろう」と強調しています。【11月14日 Pars Today】
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【トルコ イスタンブール爆発事件をクルド人勢力によるものと断定し、シリアのクルド人勢力拠点を攻撃】
一方、トルコではかねてよりエルドアン政権はクルド人勢力PKKをテロ組織として厳しく取り締まってきましたが、
イスタンブール中心部で13日に起きた爆発事件(6~8人が死亡、81人が負傷)について、PKKが関与したテロと断定しています。

****「クルド組織のテロ」と断定=シリア国籍の女拘束―イスタンブール爆発****
トルコの最大都市イスタンブールの繁華街イスティクラル通りで起きた爆発で、トルコ治安当局は14日、爆発物を現場に残して去ったシリア国籍の女の身柄を、イスタンブール市内で拘束したと発表した。

犯行声明は確認されてないが、ソイル内相は爆発について「反政府武装組織クルド労働者党(PKK)が関与したテロ」と断定した。

爆発は13日午後、人混みの中で発生し、9歳前後の女児を含む少なくとも6人が死亡、81人が負傷した。死者はいずれもトルコ人。地元メディアによると、負傷者にはシリア人やロシア人、セルビア人、モロッコ人が含まれている。

治安当局によると、女はアフラム・バシル容疑者で、取り調べの中で「PKKの情報要員として、違法な手段でシリア北部からトルコに入った」と供述したとされる。バシル容疑者のほか、事件への関与が疑われる40人以上の身柄を確保したという。

ソイル氏は、クルド人が暮らすシリア北部のアインアルアラブから「攻撃の指示が下されたとみられる」と説明。「近い将来、われわれは彼ら(PKK)への反応を示す」と訴え、シリア北部に報復攻撃を行うことも示唆した。【11月14日 時事】
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容疑者女性が自ら「PKKの情報要員として、違法な手段でシリア北部からトルコに入った」と話したのか、トルコ当局がそのような答えを何らかの手段で迫ったのか・・・そこらはわかりません。

PKKもシリアのクルド人勢力PYDも事件への関与を否定しています。

いずれにしても、エルドアン政権はシリア北部のクルド人勢力PYDを国内クルド人反政府勢力PKKに協力する分派組織として敵視し、これまでもシリア北部に軍事介入を行ってきましたが、今回事件を受けて、事件の背後にPYDが存在するとして「報復」空爆を実行しています。

****トルコ軍空爆で31人死亡=シリア北部、対テロ報復「新たな作戦」****
トルコ国防省は20日、同国と敵対するクルド人勢力が活動するシリアとイラクの北部で「新たな空爆作戦」を19日から20日にかけて行ったと発表した。

在英のシリア人権監視団によると、この空爆でクルド人主体の「シリア民主軍(SDF)」(PYDの軍事組織YPGが主体)戦闘員やシリアのアサド政権軍の兵士ら少なくとも31人が死亡した。

国防省の声明によると、イスタンブールで13日に起きたテロ事件の報復で、トルコへの越境テロ攻撃を防ぐのが狙い。「武器庫や訓練施設など89の標的を破壊し、多数のテロリストを無力化した」と説明している。アカル国防相は「成功裏に行われた」と強調した。【11月20日 時事】 
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人権監視団のラミ・アブドルラフマン代表はAFPに、トルコ軍が北部アレッポ県と北東部ハサケ県にあるSDFの拠点と、ラッカ県とハサケ県のシリア政権軍の拠点をそれぞれ空爆したと述べた。

SDFによれば、2014年にイスラム過激派組織「イスラム国」に占領され、翌15年にSDFが奪還・解放したトルコ国境に近い要衝アインアルアラブ(クルド名:コバニ)も空爆された。

トルコは、SDFの主要構成部隊であるクルド人民兵組織「クルド人民防衛部隊」をPKKの分派とみなしている。PKKとYPGはともにイスタンブールの事件への関与を否定している。 【11月20日 AFP】
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【トルコとクルド人勢力の報復の連鎖 エルドアン大統領は地上攻撃も示唆 自制を求めるロシア】
トルコの空爆に対し、報復としてシリア側からの砲撃(おそらくクルド人勢力によるもの)があり、トルコ側に死者2名が出ています。

****シリアがトルコ南部砲撃、2人死亡 トルコとクルド勢力応酬続く****
トルコ政府は21日、南部ガジアンテップ県にシリア側から砲撃があり、子どもを含む2人が死亡したと発表した。トルコ軍は20日以降、シリアのクルド勢力に空爆を実施しており、その報復とみられる。両者による応酬が今後、激化する可能性がある。

トルコ当局によると、シリア国境付近のカルカムシュで、学校や家などが迫撃砲で攻撃されたという。20日にも南部キリス県にシリア側から攻撃があり、8人の治安部隊員が負傷した。

ソイル内相は21日、今後「最も強力な方法」で反撃すると主張。エルドアン大統領は同日、地上軍による侵攻も検討する考えを示した。

トルコ軍は20日以降、最大都市イスタンブールで起きた爆弾テロの報復として、非合法組織「クルド労働者党(PKK)」と関係があるシリアのクルド勢力の拠点を攻撃。トルコ国防省はこれまでに184人の「戦闘員」を殺害したとしている。在英民間組織「シリア人権観測所」はこれまでに約70人がシリア側で死傷したとしている。【11月22日 毎日】
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この事態に、エルドアン大統領は地上軍を投入して3回目の軍事進攻も辞さない構えです。

****トルコ大統領、シリアへの地上侵攻を警告****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は21日、先にシリアおよびイラクへの空爆を実施したのに続き、シリアでの地上作戦も辞さないと警告した。

エルドアン氏は、サッカーW杯カタール大会の開会式に出席後、帰国便の機内で記者団に対し、今回の作戦は空爆に限らないとし、「わが国の領土で治安を乱す者には代償を払わせる」と語った。

トルコは、13日にイスタンブールで起きた爆発で6人が死亡したことについて、反政府武装組織「クルド労働者党」の犯行だと非難。報復のため19日夜から20日にかけてシリアとイラク北部で複数の町を空爆した。
英国を拠点とするNGO「シリア人権監視団」によると、この空爆で少なくとも37人が死亡、70人が負傷した。

トルコは、標的にしたクルド人の拠点はトルコ国内で「テロ」攻撃を行うために使用されていたと主張している。(後略)【11月22日 AFP】AFPBB News
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シリアにおいては、アサド政権をロシアが、反体制派をトルコがそれぞれ支援する立場ですが、一応ロシア・トルコ両国は内戦状態の安定化に向けて協調する関係にもあります。

そのロシアは、トルコに自制を求めています。
“トルコはシリアで「自制」を ロシアが要請へ”【11月22日 AFP】

【「非国家主体」の限界】
政権が十分に機能していないイラク、内戦状態が続くシリアに対して隣国イラン・トルコはシリア・イラクの国家主権をほとんど無視したような軍事介入・攻撃を行っており、その標的にされているのがイラク・シリアのクルド人勢力です。

主権を侵害されたシリア・イラクの側も少数民族クルド人への攻撃であれば、一定に黙認・容認できる問題・・・ということなのでしょうか。

このあたりは国家を持たないクルド人「非国家主体」の限界でもあります。
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カタールW杯の「闇」 外国人労働者の人権侵害問題など 国家に搾取される北朝鮮労働者も投入

2022-11-21 23:10:17 | 中東情勢
(2022年11月12日にベルリンで開催された独ブンデスリーガのヘルタ・ベルリとFCケルンの試合では、スタジアムで観戦する大勢のファンが、「ボイコット・カタール」というバナーを掲げた【11月16日 クーリエ・ジャポン】)

【カタールを選んだのは「悪い選択だった」(ブラッターFIFA元会長)】
サッカーのワールドカップ(W杯)がカタールで開幕しましたが、初めての中東イスラム圏での開催ということで、議論が大きくなっています。

問題点は、施設建設に携わった外国人労働者の労働環境、同性愛に対する不寛容、飲酒の禁止、更に選定時の賄賂の問題。

最初に“結論じみたこと”を言ってしまえば、「今頃、こんなこと言っても遅すぎる。全部以前から指摘されていた事柄で、本来は選定前に問題とすべき話。あるいは選定時にFIFAに認識を問うべき話。今となっては中止もできないでしょう」といったところでしょうか。

飲酒の問題は「文化」の問題ですから、現地の方針に従うべきものでしょう。
賄賂の話は、カタールだけの問題ではないでしょう。W杯やオリンピックみたいな巨大イベントで「カネ」が動くのはある意味常識。東京オリンピックだって・・・。

もちろん、だからといって「問題にしない」なんて言いません。カタールの問題というより、こういう巨大イベントのあり方を再度見直す必要があります。

カタール固有の問題としては、外国人労働者の労働環境、同性愛に対する不寛容・・・一言で言えば、人権に関する問題です。そこには中東イスラム圏との価値観の違いではすまされないものも。

****カタールW杯 劣悪な労働環境、飲酒制限 イスラム圏で初開催****
サッカーのワールドカップ(W杯)が20日に開幕するカタールは、出稼ぎ外国人を劣悪な環境下で働かせたとして批判されてきた。イスラム圏でのW杯開催は初めて。LGBTQ(性的少数者)への対応や飲酒制限も議論の的になった。

英BBC放送(電子版)によると、カタールは2010年のW杯開催決定以降、7つのスタジアムの建設にバングラデシュやインド、ネパールなどの外国人労働者3万人を動員した。国際人権団体は16年、旅券を取り上げて不衛生な住居をあてがい、強制的に労働させていると非難した。

カタールは真夏、セ氏40度を超える猛暑になる。17年前には炎天下での労働を制限する制度ができたが、その後も給料の不払いなどの問題は続いたといわれる。

英紙ガーディアンは21年、開催決定以降に6500人の外国人労働者が死亡したと報じた。カタール政府は「すべてがW杯に関連するものではなく、高齢などによるものが大半だ」とし、14年から20年の間に労働に関連して死亡したのは3人だとしている。

ロイター通信によると10月末、観戦に訪れるファンの宿泊施設の周辺に住む労働者数千人が居住先から締め出された。突然通告されてシャツも持たずに追い出された人もいたという。

欧米メディアの報道を受け、国際サッカー連盟(FIFA)は参加する各チームに「スポーツにイデオロギー(政治宣伝)や政治的争いを持ち込まず、サッカーに集中するように」と要請。

これに対し、イングランドなど欧州10カ国のサッカー協会が労働者の人権状況の改善をFIFAに求めるなど反発が広がった。

カタールのW杯大使は最近、同性愛は「精神の傷」だとし、訪れる外国人は「この国のルールを受け入れるべきだ」と述べ、欧米メディアは批判的に報じた。

カタールでは公共の場での飲酒は禁じられており、開催期間中の飲酒もスタジアム周辺などに限定される見通しだ。いずれもイスラム教の教えが影響したものとみられる。

カタールは否定しているが、開催地を選ぶ投票の際には賄賂の授受があったとの見方も絶えない。当時、FIFAの会長だったブラッター氏は、カタールを選んだのは「悪い選択だった」と述べている。【11月16日 産経】
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外国人労働者に関しては、カタール政府は「労働に関連して死亡したのは3人だ」としているものの、実際にはカタール政府がW杯の業務関連死と認めていない事例も多いとみられ、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは10月、「数千人の死者について調査が実施されていない」と批判しています。

カタールを含め、中東各国における外国人労働者の人権への意識・配慮の欠如、もっとストレートに言えば「人間扱いしない」差別意識は、フィリピン・インドネシアなど南アジア・東南アジアからの家政婦などの出稼ぎ労働でも常に問題とされてきたところです。

犠牲になった外国人労働者はインド、バングラデシュ、ネパール、スリランカ、パキスタンなどがあげられています。

【超現代的な競技場や豪華ホテル建設には、「搾取」の象徴たる北朝鮮労働者も参加】
そうした劣悪環境での労働災害といった話以外に、全く別の「外国人労働者問題」の存在も指摘されています。

****W杯開催カタールの「北朝鮮コネクション」****
<競技場などの建設現場での人権侵害が問題視されているが、そこには北朝鮮の労働者も含まれる。北朝鮮にとっては制裁回避と外貨獲得の手段。カタールにとっては使い勝手のいい存在だった>

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会が11月20日に開幕した。世界各地から観戦に訪れる大勢の人はおそらく知らないだろうが、彼らがイベントを楽しむ超現代的な競技場や豪華ホテルは、北朝鮮の労働者を駆り出して建設されたものだ。

4年に1度開催されるサッカー界最大の祭典の裏には、建設現場での劣悪な生活・労働環境と政府による搾取という醜い現実が潜んでいる。

北朝鮮にとって、国外への労働者派遣は国際社会の制裁を回避し、外貨を獲得する格好の手段だ。一方でカタールにとっては、北朝鮮の労働者は使い勝手のいい存在だった。

カタールがW杯開催地に決定したのは、賄賂などの腐敗行為の結果だと言われている。開催準備期間中、同国の印象はさらに悪化した。特に問題視されたのが、独特の労働契約制度「カファラ」だ。

現代の奴隷制とされるカファラの下では、雇用主が出稼ぎ労働者に対してほぼ絶対的な権限を持つ。近年、国際社会の圧力を受けて改革されたが、虐待・搾取横行の下地になっている現実は変わらない。

カタールの国際労働基準無視に乗じた国の1つが北朝鮮だ。英紙ガーディアンは2014年、カタールの首都ドーハ近郊のルサイルの建設現場4カ所で、北朝鮮人が働いていると報じた。同地に誕生したルサイル・スタジアムは、今回のW杯の決勝戦会場だ。

カタール政府が国連安全保障理事会に提出した報告書によれば、2016年1月時点で同国に在留する北朝鮮人労働者は約2500人。その数は2019年3月までに70人に減少した。

労働者の国外派遣は北朝鮮にとって、国連安保理決議で禁止された核・ミサイル開発の資金を稼ぎ、国内エリート層の懐柔に必要な外国製の贅沢品を賄う手段だ。北朝鮮人の出稼ぎ労働者の給与は政府管理下の口座に振り込まれる仕組みで、本人に支払われるのはそのごく一部だという。

「北朝鮮政府は国外労働者の賃金の最大90%を徴収し、それによる年間収入は数億ドルに上る」と、バイデン米政権は今年5月に発表した報告書で指摘している。

中国では最大10万人が
ガーディアン紙による告発があった2014年当時、カタール政府は国内で北朝鮮人労働者約2800人が働いていると認めた。その一方で「記録上、賃金や待遇に関する苦情は皆無だ」と主張している。

北朝鮮の労働者の搾取は、かなり前からはびこっている。
国連安保理は2017年、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を断つための制裁決議を採択。その一環として、2019年12月22日までに自国にいる北朝鮮の労働者・監督者を送還することを、各国に義務付けた。

この点で、カタールは大きな違反はしていない。国連安保理への報告書によれば、同国で働く北朝鮮人は昨年1月までにゼロになった。

だが残念なことに、制裁は成功とは言い切れない。中国とロシアが当初の賛同にもかかわらず、取り決めを無視していることが大きな原因だ。

米国務省が7月に発表した「2022年人身取引報告書」によると、中国には今も、北朝鮮人労働者推定2万~10万人が公式命令で派遣されている。ロシアや中国の人権状況を考えれば、北朝鮮の搾取体制の存続に、両国が加担するのも不思議ではない。

4年前のW杯ロシア大会決勝戦は世界各地で35億人以上が視聴した。アメリカや同盟国は、今回のW杯を北朝鮮政府の犯罪行為と北朝鮮国民が強いられる苛酷な現実に対して、国際社会の注目を集める機会として活用すべきだ。
北朝鮮の人々の生活に確かな変化を生み出すことは可能だ。私たちは、もう一刻も無駄にしてはならない。【11月21日 Newsweek】
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「北朝鮮政府は国外労働者の賃金の最大90%を徴収し、それによる年間収入は数億ドルに上る」ということは以前からも指摘されているところです。究極の搾取というか、奴隷労働です。

【北朝鮮労働者のロシア・中国への派遣】
北朝鮮労働者の海外派遣に関しては、ロシア・中国への派遣が報じられています。

****北朝鮮のウクライナ派遣「労働者」は軍人? ロシアへの後方支援!****
北朝鮮はウクライナ情勢では国際社会に向けて外務省のホームページを通じて一貫してロシア支持を表明している。(中略)
 
世界で唯一一貫してロシア支持を表明している北朝鮮がいつ、どの時点で、どのような形でウクライナ事態に介入するのか注目していたが、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相は13日にウクライナ東部を実効支配している親ロシア派の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の両外相に書簡を送り、「両国の独立を認定した」ことを通報し、関係強化を打ち出していた。

北朝鮮が親露派が支配した地域を国家として承認したことに絡み、ロシアのマツェゴラ駐北朝鮮大使がロシア紙「イズベスチヤ」とのインタビューで「北朝鮮の建設労働者が戦火で破壊された二つの地域での復旧作業で重要な役割を担える」と述べたのはそれから5日後である。

マツェゴラ大使はウクライナ東部で破壊されたインフラ施設の復旧作業にあたって「勤勉で忍耐強い北朝鮮の労働者が大きな助けになる」と述べ、ウクライナ東部の工場で製造された部品を北朝鮮の企業に供給する計画もあり、北朝鮮側もこの計画に「大きな関心を寄せている」と発言していた。ロシア大使が公言したところをみると、ロシアと北朝鮮との間ですでに合意済なのであろう。(中略)

北朝鮮の労働者派遣は国連安全保障理事会が2017年12月に大陸間弾道ミサイル「火星15型」を発射した懲罰として海外にいる北朝鮮労働者を全員2019年12月までに全員強制送還することを規定した制裁決議「2397号」の明らかな違反である。

北朝鮮はウクライナ政府の批判と国交断絶通告について北朝鮮の国家承認は「国連憲章で認められた主権国家の固有の合法的権利である」との見解を明らかにし、「ウクライナが北朝鮮の主権行使を誹謗する権利も資格もない」と反発し、日本や国連安保理パネル委員会の警告に対しても「親善の対外政策理念に基づき正義と国益に沿い、友好的に接する国との関係を発展、強化させる。我々は他人の眼を気にしない」と反論し、批判を意に介さず、労働者を派遣するようだ。

北朝鮮がドネツクやルガンスクに派遣する「労働者」は民間人でも、通常の労働者でもない。おそらく国防省傘下の軍後方総局から派遣される軍人が主であろう。現職のままか、あるいは一旦除隊させて派遣される可能性が大だ。

国防省の中には軍事建設局や技術総局、対外事業局などがあるが、特に軍後方総局には建物の補修や設備等の任務を管掌する部(建設部、資材部、保管部)をはじめ輸送業務を管理、運用する部(輸送部、道路部、水上部)から病院などで医療業務を指導、管掌する部など様々な部がある。約40万人から成る道路建設軍団と呼ばれる部隊も存在する。

北朝鮮では軍人は高層マンションから病院、デパート、学校、空港、遊園地などレジャー施設、農業から水産業まであらゆる経済分野に関与している。

北朝鮮人権情報センター(NKDB)のデーターによれば、海外派遣が禁じられる前の2015年1月から3月までロシアで雇用許可を得ていた北朝鮮の労働者は約4万7364人に及んでいた。内訳は美装工、石工、コンクリート工、外装工、塗装工らが中心だった。この他に伐採工も派遣されていたが、駐朝ロシア大使が言うように勤勉で忍耐強く、休みも取らず、1日20時間も働いていた。(中略)

「労働者」だけでも仮に4万~5万人派遣すれば、師団の数が1万1千人ぐらいだとすれば、4個師団以上となる。両地域の奪還を目指すウクライナ軍にとっては手強い存在となる。

北朝鮮のドネツク州とルガンスク州への「労働者」派遣はロシアからの要請であることは疑いの余地もないが、北朝鮮「労働者」の駐屯はロシアの実行支配を一層強固にすることになるのでロシアの北朝鮮への見返りもそれ相応のものと推測される。【7月19日 辺真一氏 YAHOO!ニュース】
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これまではロシア極東地域への派遣が多かったと思われます。
“勤勉で忍耐強く、休みも取らず、1日20時間も・・・”云々というのは通常の場合の話(もちろん、労働を強制されての話ですが)。

コロナ規制で帰国もかなわず、更に極東からウクライナ東部の「戦場」に送り込まれるとなると、北朝鮮労働者だか軍人だかは知りませんが、穏やかではないようです。

****ロシア派遣の北朝鮮兵士に不穏な空気…上官に反抗、逃亡も****
北朝鮮当局が、ロシアに建設労働者として派遣した兵士らに不穏な空気があるのを察知し、監視を強化しているもようだ。

北朝鮮がロシアに派遣した労働者の数は2万人と言われているが、その一部は現に軍籍のある兵士たちだ。たとえば、首都・モスクワには朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第7総局所属の兵士らが派遣されているが、兵役期間はとっくに過ぎているのに、コロナ対策で国境を封鎖した北朝鮮政府により帰国が認められず、建設現場などで働き続けてきた。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)はウラジオストクの情報筋の話として、北朝鮮の幹部が、こうした兵士らの動向を監視し、資料を収集していると報じた。

RFAはこれに先立ち、北朝鮮はロシアにいる労働者らをウクライナ東部の新ロシア派支配地域に再派遣する計画を進めており、それを望まない労働者らの脱北が相次いでいると伝えていた。今回の兵士らに対する監視強化も、こうした動きが背景にあるようだ。

建設会社の内部では、軍人同士が相互監視を行っているが、不平不満を口にする者がいれば、説得にかかるという。
 コロナ前なら即時帰国の措置が取られていたが、今はコロナ鎖国で帰国そのものができない上に、下手に脅迫でもすれば脱北されるのではないかとの不安から。強く出られないのだ。血気盛んな30代の軍人労働者は、上官の指示に強く反発し、むしろ上官の方が彼らを慌ててなだめる有様だ。

北朝鮮は兵士を労働者として海外派遣する場合、思想的に徹底的に武装され、故郷に家族がいる――つまりは「人質」がいるなど、逃亡のおそれの有無を熟慮している。また、一般労働者よりも上意下達で動く兵士を優先的に派遣してきたとも言われる。

だがそのような統制も、ウクライナ東部という「戦地」への派遣が現実味を帯びるにつれ、揺らいできているのかもしれない。

極東にいる軍人建設労働者はテリョン貿易会社所属で、軍事対外事業局を通じて派遣されているが、ハバロフスクの情報筋によると、同社は現地のルバ、ヤブストロイなどの建設会社と契約を結び、7カ所の建設現場に労働者を送り込んでいる。

いずれの部隊も、労働者の管理に頭を痛めている。長時間労働に加え、退屈な海外生活、ホームシックなどで不平不満を露骨に口にしているからだ。作業班は6〜70人からなるが、本社の指示に従おうとしないため、当局は協議体を立ち上げ、労働者の動向監視を行っている。【10月20日 高英起デイリーNKジャパン編集長 YAHOO!ニュース】
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****中国に派遣「制裁破り」の北朝鮮労働者、少なくとも10万人…PCRで発覚****
北朝鮮から中国に派遣された労働者の数は、約8万人と言われていたが、実際はそれを遥かに上回ることが明らかになった。(中略)

丹東市の防疫当局は(中略)全居住者を対象にしてPCR検査を行ったが、この時の身分照会により、北朝鮮労働者の数が8万人に達することが明らかになったということだ。(中略)

丹東だけで8万人に達することが判明した北朝鮮労働者だが、吉林省の延吉、琿春などを含めると、少なくとも10万人を超えるものと思われる。

国連安全保障理事会の制裁決議により、国連加盟国が北朝鮮の労働者を新規雇用することは禁じられている。しかし北朝鮮は、技能実習制度や渡江証や訪問証と呼ばれるノービザ滞在ができる臨時のパスポートを労働者に持たせて派遣する手法を使い、制裁破りの労働者派遣を行っている。もちろん、中国当局の黙認なしではできないことだろう。

また一方では、コロナによる国境封鎖で北朝鮮に帰国できず、契約期間を超えて中国に滞在していた労働者を帰国させ、新しい人員と入れ替える計画が進められている。【11月15日 デイリーNKジャパン】
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話をカタールのW杯に戻すと、最大の問題は、今後試合が進めば、いま議論になっているような問題はどこかに吹き飛んでしまい、「ガンバレ日本」一色になってしまうことでしょう。特に日本は「政治とスポーツは別物」という認識が強いので。
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