孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  保守化する社会 反ESG運動、中絶・LGBT・アファーマティブ・アクションへの規制強化

2023-06-30 23:14:38 | アメリカ

(米連邦最高裁が人工妊娠中絶の合憲判決を覆す判断を示してからちょうど1年となった6月24日、米最高裁前で意見をぶつけあう中絶擁護派と反対派【6月26日 ロイター】)

【少子高齢化・経済苦境で進む「保守化」 アメリカも「日本病」に?】
多くの先進国が少子高齢化に苦慮するなかで、アメリカはこれまでは移民が多いこともあって、あまり少子化・高齢化が目立ちませんでしたが、近年は他の先進国同様に少子高齢化が進行しているようです。

そうした人口構成の変化、更にインフレなどの厳しい経済状況を反映して、社会の雰囲気がいわゆる「保守化」する傾向にあります。

****ギャラップ「世論調査」で米国人の価値観・心情の変化が明らかに…少子高齢化で「日本病」に罹る可能性****
米国でもますます進む少子高齢化
米疾病管理予防センター(CDC)は6月1日、「米国の2022年の出生率は前年に比べ横ばいだった」と発表した。

2022年の出生率は1.7人。現在の人口を維持するためには、2.1人が必要とされている。出生数は366万1220人で2021年より約3000人減少したが、新型コロナのパンデミック2年目に当たる2021年の出生数は7年ぶりに増加していた。

米国の出生率は今後も減少することが懸念されている。

住居費や学費の高騰などのせいで、米国の若者の3分の1が親と同居するようになっているからだ。日本や南欧など親との同居率が高い国は出生率が低い傾向があり、米国でもこれらの国と同様の現象が生ずるとの指摘が出ている(5月29日付日本経済新聞・28日付ウェブ版)。

2010年以降、米国では高齢化も進んでいる。主な要因は、ベービーブーマー(1946年から1959年までに生まれた世代)の大部分が65歳を超えたことだ。

国勢調査によると、65歳以上が占める割合(高齢化率)は2010年が12.8%、2020年が16.8%。1990年以降、12%台で安定的に推移してきたことにかんがみれば、驚きの変化だ。

米国の高齢化に歯止めがかかっていた理由には、移民の存在がある。しかし近年は、移民に対する風当たりが強くなっており、高齢化はますます進むことになるだろう。

米国もいわゆる「日本病」に…兆候は「保守傾向」
少子高齢化は米国の社会にどのような影響を与えるのだろうか。

英誌「エコノミスト」(6月3日号)は「少子高齢化が進めば、社会から『流動性知能』が失われる恐れがある」と警告を発している。

流動性知能とは、問題をまったく新しい方法で解決する力のことであり、心理学者によれば、若者が多く保有している。これに対し、高齢者はリスクを取ることに抵抗が強く、革新的なアイデアを採用することが少ない。少子高齢化社会ではイノベーションが起きにくく、経済は停滞するというわけだ。

このような指摘は日本では当たり前の感があるが、米国もいわゆる「日本病」に罹ってしまうリスクが生じているのだ。

既にその兆候は現れている。米国人が社会問題に対してより保守的になっていることが、米国の世論調査・コンサル企業ギャラップの世論調査で明らかになった。

ギャラップは6月8日、毎年5月に実施している価値観・信条に関する調査の結果を発表した。昨年まではリベラルと保守がほぼ並んでいたが、今年は保守が38%、リベラルが29%だった。

注目すべきは、自身を「社会的保守」とする共和党支持者が、昨年60%から74%に急増していることだ。州別に見ると、共和党が主導する州の人口が増加している一方、民主党が主導する州の人口は減少している。米国の保守化がさらに進む可能性がある。

年齢別に見ると、「社会的保守」と回答した割合は中年層で高く、30歳から64歳までの平均が12%上昇したことも今年の調査の特色の1つだ。

保守化を追い風にして次々と可決される法案
15年前、オバマ元大統領を勝利に導いた当時の若い有権者(ミレニアル世代)は現在40歳前後になっているが、歳を重ねた彼らの多くは右傾化したと言われている(6月12日付クーリエ・ジャポン)。

「貧すれば鈍する」ではないが、その理由は日々の生活の厳しさだろう。

米国では高額な配達料を節約するため、注文した商品を自ら飲食店に取りに行く客が増えているという(6月9日付ビジネスインサイダー)。

「弱り目に祟り目」ではないが、住宅所有者のホームエクイティ(住宅価格からローン残高を差し引いた持ち家の正味価値)は、今年第1四半期に前年比0.7%低下。2012年以来初の年間ベースでの減少となった。マイホームの資産価値を元手に生活費をやりくりしている多くの米国人にとって大きな痛手だ。

社会の保守化を追い風にして、共和党が主導する州では中絶やトランスジェンダーの権利を制限する法案の可決が相次いでいる。

米国の性的少数者の権利を推進する団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン」は6月6日、創立以来初の全国規模の非常事態を宣言した。LGBTQ(性的少数者)の生活を規制することが狙いの法案が各地の州議会で次々と可決されているとするものだ。

反ESG(環境・社会・企業統治)運動も米国で広がっている。

フロリダ州で今年初め、ESG活動を制限する「反ESG法」が成立した。それを皮切りに、共和党が主導する州では同様の動きが生じており、来年秋の大統領選挙では争点の1つになることが予想されている(5月24日付日本経済新聞)。

バイデン政権は銃規制強化を訴えているが、過去1年をみてみると、規制を緩和する州法が規制を強化する州法より多かったことがわかっている(5月25日付日本経済新聞)。

人口動態の変化に伴い、米国社会の保守化は着実に進んでいる。国際社会はこのことにもっと大きな関心を払うべきではないだろうか。【6月24日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【トランプ政治支持の背景に保守化の流れ】
大きな政治的流れで言えば、トランプ前大統領を誕生させたのも、そしてそのトランプ氏に関するあまたの疑惑・問題にもかかわらず、その支持が一向に衰えないことの背景に、上記のような「保守化」があると推測されます。

*****バイデン氏、僅差で支持率リード トランプ氏との再対決想定****
米NBCテレビは25日、2024年大統領選で再選を目指す民主党のバイデン大統領(80)と、共和党の候補指名争いで首位に立つトランプ前大統領(77)の再対決を想定した世論調査でバイデン氏が4ポイントリードしたと伝えた。

世論調査は16〜20日に実施され、回答した有権者の49%がバイデン氏、45%がトランプ氏を支持した。支持率の差は誤差の範囲内としており、拮抗しているとみられる。

私邸への機密文書持ち出しで8日に起訴されたトランプ氏の共和党内の支持率は4月の46%から51%に上昇。党内で捜査への反発が広がり、追い風になっている。【6月26日 共同】
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バイデン大統領が問題山積のトランプ前大統領を引き離せず、誤差の範囲で拮抗しているのは、単に高齢が不安視されているということだけでなく、やはり上記のような「保守化」の流れが影響してのことでしょう。

人種的には白人比率が低下するなかで、社会に不満を持つ白人層の利益代弁に特化しつつあるような共和党に未来はないのでは・・・と、十年から数年前は思っていたのですが、上記のように社会全体が保守化する流れにあっては、むしろリベラルを掲げる民主党に厳しくなっているのかも。

【「意識高い系」的な環境・人種・性差別問題重視に対する反動として先鋭化する「反ESG」の動き】
保守化を端的に示すのが、上記記事にある“反ESG(環境・社会・企業統治)運動”の拡大です。
いわゆる「意識高い系」的な環境・人種・性差別などの問題で社会正義を重んじる考えに対する反発・反作用でしょうか。

****米国で先鋭化する「反ESG」の動き 日本企業などにも波及****
環境や社会問題への取り組みを重視する「ESG」(環境、社会、企業統治)。日本でも投資や企業の経営方針に取り入れる動きが進むが、先行した米国では激化する党派対立の火種になっている。

脱炭素や多様性の動きに逆行する「反ESG」が、保守派の野党・共和党の新たな旗印となり、2024年の大統領選でも主要な争点の一つになりそうだ。影響は国外にも飛び火している。

「我々の年金システムにESGは必要ない」「保守派を差別する『ウオーク』(Woke)な銀行はいらない」。大統領選に向けた共和党候補の指名争いに参戦した南部フロリダ州のデサンティス知事は5月30日、出馬表明後に初めて開いた中西部アイオワ州での集会で声を張り上げた。

「ウオーク」は、環境や人種、性差別などの問題で社会正義を重んじる人々を保守派がやゆする文脈で使われる。日本語では「意識高い系」に似た意味がある。

「ウオークな政治イデオロギー」と反発
フロリダ州では5月、デサンティス氏の主導で「反ESG法」が成立した。

「投資は収益の最大化を優先すべきだ」との立場から、州関連の年金基金の運用や地方債の発行、州政府の物品やサービスの調達などでESGを考慮することを事実上禁じる内容だ。州と取引する金融機関には、ESGへの取り組みを評価する外部格付けの使用も認めない。

ESGは「『ウオーク』な政治イデオロギーだ」と異を唱え、一掃を目指す初めての州法で、7月に施行される。

「反ESG」で先陣を切ったのは南部テキサス州だった。アボット州知事(共和党)の指示の下、州政府は22年夏、化石燃料にかかわる企業への投資を抑制している金融機関のリストを公表。名前が載った米資産運用最大手ブラックロックなどに対し、年金基金との取引停止をちらつかせて投資方針の撤回を迫った。

テキサス州の経済を支えてきた石油・天然ガス産業の保護が背景にあるが、ESGの考え方はバイデン政権の民主党寄りだとみなされてきたことも影響した。

保守派による「反ESG」の動きは全米レベルで先鋭化している。
米連邦議会の上下両院は今年2~3月、企業年金の運用にESG投資を組み入れることを認めた労働省規則の「無効化」を求める決議を賛成多数で可決した。

下院多数派の共和党が主導。上院は民主党が多数派を占めるが、地元に化石燃料産業を抱える議員が造反した。環境や人権などの価値観を重視するバイデン大統領は、政権発足後、初となる拒否権を行使して成立を阻止した。

バイデン氏は「ESGの要素が市場、産業、ビジネスに重大な影響を与える証拠は豊富にある」と述べ、ESG推進を維持する姿勢を明確にした。

ただ、デサンティス氏は、全米18州の共和党知事とともに「反ESG」同盟を結成し、バイデン政権や金融機関への圧力を強めている。(後略)【6月7日 毎日】
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【人工中絶、LGBT、そして「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置)】
「保守化」の流れが影響する具体的な問題としては、人工中絶、LGBT、そして今日話題になっている大学入試における「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正措置)などがあります。

人工中絶に関しては、周知のように昨年、トランプ前政権によって保守化したアメリカ連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶の権利を覆した判断を示し大きな社会問題となりました。(中絶の問題は最高裁判断以前からアメリカ社会を二分して(日本の常識では信じられないような暴力行為を伴う)激しい対立が続いていました)

ただ、女性を中心に共和党支持者にも最高裁判断を是認しない向きも少なくなく、バイデン政権・民主党サイドからすれば、争点になれば有利な問題でもあります。実際、最高裁判断後の中間選挙で大敗必至とされた民主党が予想に反して善戦したのは、この問題が争点になったことが大きな理由でした。

そうしたこともあって、バイデン政権は次期大統領選挙に向けて、この問題を再び争点にしたい構えです。

****アメリカの妊娠中絶の是非をめぐる国民世論の対立 来年の大統領選でも争点になる見通し****
アメリカ連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶の権利を覆した判断から1年を迎えました。中絶の是非をめぐる国民世論の対立は根深くなる一方で、来年の大統領選挙でも大きな争点になりそうです。

首都ワシントンで24日、中絶擁護派の集会が開かれ、参加者は「権力が女性の身体のことを決めている」「国の非常事態だ」などと中絶規制の動きを批判しました。

中絶反対派も集会を開き、出席したペンス前副大統領が「命の尊厳を全ての州で取り戻すまで決して手を緩めない」と述べると会場からは大きな歓声が上がりました。

アメリカでは中絶は憲法上の権利として認められていましたが、1年前の6月24日、連邦最高裁がその判決を50年ぶりに覆したことで規制の動きが急速に広がっていて、来年の大統領選挙でも重要な争点となります。

AP通信によりますと、共和党が地盤の州を中心に14の州で中絶が禁止され、中にはレイプによる妊娠でも中絶を認めない厳しい規制を導入した州もある一方で、民主党が強い20州では中絶権を保護するなど党派性が際立っています。(ANNニュース)【6月25日 ABEMA TIMES】
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****「女性の権利と健康を守る唯一の方法」バイデン米大統領、中絶の権利法制化を議会に強く要求****
アメリカの最高裁判所が人工妊娠中絶の権利を認める判断を覆してから24日で1年となります。バイデン大統領は、中絶の権利を法制化するよう議会に強く求めました。

バイデン大統領「女性の権利と健康を守る唯一の方法は、議会が(中絶の権利を保障する)法案を通すことだ。議会は(以前の)最高裁判決で守られていたものを取り戻すべきだ」

アメリカのシンクタンクによりますと、最高裁の判断が覆されて以降、中絶を全面禁止した州は13州にのぼります。

バイデン大統領は23日、「全米各地で壊滅的な影響を目の当たりにしてきた」などと最高裁の判断を批判し、中絶の権利の法制化を議会に強く求めました。(後略)【6月24日 日テレNEWS】
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柳の下に2匹目のドジョウはいるのか・・・

近年、その権利が認められてきたLGBTに関しても、共和党系の知事の州などで、その反動とも見える規制強化が進行しています。

保守派を中心に、LGBTなど性的少数者をめぐる教育について、子どもに特定の思想を吹き込み、他の思想を認めないこと(洗脳)だと決めつけて反対する声も根強く、フロリダ州知事デサンティス氏はそうした声を代表しています。

トランスジェンダー(出生時の性と自認する性が一致しない人)に対する医療行為にメディケイド(低所得者向け医療保険)からの給付を禁じる法律も保守系の州で相次いでいます。

この問題は司法で争われており、フロリダ州の連邦地方裁判所は21日、トランスジェンダーに対する医療行為にメディケイド(低所得者向け医療保険)からの給付を禁じた同州の措置を無効としました。

ジェンダー・アファーミング・ケア(ジェンダーを尊重する医療)を禁止する州法はアラバマ州、アーカンソー州、インディアナ州、オクラホマ州でも差し止められています。

LGBTの人々の間では、規制強化の動きへの不安が広がっています。

****性的少数者らNYでパレード 否定意見に「不安」も****
米ニューヨーク中心部のマンハッタンで25日、LGBTなどの性的少数者らが誰にでも平等な社会や差別のない未来の実現を訴えてパレードを行った。米国では性的少数者に否定的な保守派と擁護するリベラル派の対立が深まっており、「今後が不安だ」と吐露する参加者の姿もあった。

色とりどりの衣装に身を包んだ参加者は踊りながら行進し、ありのままの自分をさらした。NYタイムズ紙によると、パレード参加者は7万5千人、観客は200万人。

パートナーと参加したブランドンさん(45)は、性的少数者への否定的な意見について「本当の自分を見せることにどんな罪があるのか」と不安を口にした。【6月26日 共同】
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そして「アファーマティブ・アクション」

****最高裁判断、大統領「強く反対」 米大学の人種優遇「違憲」****
米大学の入学選考で黒人などを優遇する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を巡り連邦最高裁は29日、憲法が定める「法の下の平等」に反するとして違憲だと判断した。米メディアによると、最高裁は1978年に合憲としていた。

バイデン大統領は「数十年続いてきた判例を覆した。強く反対する」と演説し、教育省に対応措置を取るよう命じた。

公民権運動が高まった60年代に多様性を確保するため導入された差別是正の措置が制限され、大学は選考方法の見直しを迫られる。同様の措置は政府や企業が職員を雇用する際に取り入れており、影響が広がりそうだ。

違憲判断は、最高裁の9人の判事のうちロバーツ長官ら保守派6人による多数派意見だった。ロバーツ長官は大学が「能力ではなく、肌の色が基準になるとの誤った結論を下してきた。憲法はそのような選択を容認しない」と指摘。リベラル派のソトマイヨール判事は「長年の判例と大きな進展を後退させることになる」と懸念を示した。【6月30日 共同】
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韓国  福島原発「処理水」の海洋放出で「塩騒動」も 韓国政府は沈静化に躍起 連想される「狂牛病」

2023-06-29 23:11:58 | 東アジア

(ソウル市内のスーパーで19日、消費者の買いだめによって商品棚の塩は売り切れ状態【6月19日 東京】)

【好転する日韓関係のなかでの「塩騒動」】
日韓関係の好転は政府間・国民レベルの両方で進行しています。

今日1日に目にしたニュースだけでも
“韓日が通貨スワップ協定の再開で合意 8年ぶり=融通枠100億ドル”【6月29日 聯合ニュース】
“5月の訪韓外国人86.7万人 日本人18.4万人で6カ月連続最多”【6月29日 聯合ニュース】
“韓国で日本産ビールのシェアが急成長、中国産・オランダ産が危機感=韓国ネット「イエスジャパン」”【6月29日 レコードチャイナ】
“韓国焼酎「ソジュ」と“バトル”? 若者の間でハイボールが人気 “日韓関係の改善が後押し””【6月29日 TBS NEWS DIG】

そうしたなかで今後大きな問題になりそうなのが(と言うか、すでに問題化しているのが)東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出の問題。

韓国ではその危険性が強烈に(敢えて、「異常に」とか「過度に」とか決めつけることはしませんが)意識され、海水を天日で干して作る塩に買いだめ客が殺到して値上がり・不足しているというニュースを最近よく目にします。

****韓国 塩がない!背景に処理水 海洋放出を前に海水を使う「塩」を買いだめする人が オンライン通販では16万円する塩も****
処理水をめぐってお隣・韓国では、塩が買いだめされ、品切れが相次ぐ事態となっています。何が起きているのでしょうか。(中略)

ソウル市内の大手スーパー。ある異変が…。店の棚からなくなったのは、海水を天日で干して作る塩です。
キムチ作りなどに使われ、韓国の食卓に欠かせないのですが、小売店では品切れが続出。私たちが問い合わせた10店舗すべてで売り切れとなっていました。

ソウル市民 「あったら買っておこうと思って」

韓国のスーパーの棚から消えた塩。背景には、日本政府のある決定がありました。
韓国YTNテレビ 「放流が目前に迫り、塩をあらかじめ買っておこうとする人が増えています」

東京電力福島第一原発の処理水。日本政府が夏ごろまでに予定している海洋放出を前に、海水を使う「塩」を買いだめする人が増えたというのです。

ネット上では高額で転売され、通販サイトでは原発事故以前に製造したとされる塩が、30キロ当たりおよそ16万5000円で売られていました。客 「塩が品切れになっていると聞いて、心配になった」

日本政府が安全性を強調する中、処理水の放出に反対する人が8割を超える韓国。最大野党は勢いを増します。

最大野党「共に民主党」 イ・ジェミョン代表 「日本は福島の『核廃水』を、自分たちの国家的な利益のために海に捨てます」

しかし、過激な発言を繰り返す野党には“問題を政治利用している”との批判もあり、大手紙は「相次ぐスキャンダルを覆い隠す最高の材料」にしていると指摘します。

さらに、韓国・原子力学会は声明を発表し、処理水の放出について…。
韓国 原子力学会(声明) 「韓国の海と水産物に及ぼす影響は、無視できる水準」

そして、こう警告します。
韓国 原子力学会(声明) 「政治的目的などで科学的な事実を歪曲しながら過度な恐怖を助長することは、韓国の水産業界と飲食業界の被害を自ら増やす自殺行為になる」

韓国政府も「原発事故以降に行ってきた塩の検査で、放射性物質は検出されていない」と説明しています。【6月22日 TBS NEWS DIG】
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天日干しの塩が問題となったのは「この4〜6月は平年より雨の降った日が多かった。そのせいで生産量が前年より3割も減った」(塩の生産業者団体)【6月21日 日テレNEWS】という生産サイドの事情もあるようです。

また、キムチ作りに大量に使用するという韓国特有の需要サイドの事情も。
そのため、いったん「品不足」という情報が流れると、その理由にかかわらず、消費者の「買いだめ」行動が発生するのは、日本のオイルショック時のトイレットペーパー騒動やコロナ禍のマスク騒動でも見られたところです。

ですから、今の「塩騒動」の全部が、「韓国国民が「処理水」問題で塩に殺到している」という訳でもないでしょう。
ただ、「処理水」問題が大きく作用しているのは間違いないです。そしてそれを煽るような言動も。

日韓関係の改善を進める尹政権は、国民に科学的根拠に基づく冷静な対応を求めています。

****韓国の処理水批判が過激化、根拠なく「日本の沖は放射能に汚染」と主張…塩買い占めの動きも拡大****
東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出を巡り、韓国の最大野党が国民の不安をあおる根拠のない主張を続け、物議を醸している。塩の買い占めが起きるなど影響が出ており、尹錫悦ユンソンニョル政権は冷静な対応を国民に呼びかけている。

左派系最大野党「共に民主党」の李在明イジェミョン代表は22日、北東部・江陵カンヌンを訪れ、水産業者らと面会し、「(海洋放出は)あってはならない行為だ。止めなければならない」と訴えた。李氏は抗議集会では「(処理水は)核廃水と呼ぶべきだ」などと主張する。

同党の議員は「日本の沖は放射能に汚染されている」と根拠のない主張を展開し、海洋放出によって韓国の漁業も汚染の影響を受けると訴える。尹才甲ユンジェガプ議員は今月20日から、国会前でハンガーストライキを始めた。

日韓関係の改善を進める尹政権は5月、専門家で作る視察団を福島に派遣。この調査結果と、近く公表される国際原子力機関(IAEA)の結論に基づき、科学的に安全性を評価するとしている。

同党は、尹政権が日本に弱腰で、「国民を守ろうとしていない」と批判し、デモでは「尹錫悦を審判しなければならない」と繰り返す。来年4月の総選挙を見すえ、世論の政権批判につなげる思惑だ。

こうした根拠のない主張は消費行動に影響を及ぼし始めている。海洋放出前に塩を買い占める動きが広まり、韓国の天日塩の約8割を生産する南部・全羅南道チョルラナムド新安では、春先には20キロ・グラムあたり2万5000ウォン(約2700円)程度だった塩の取引価格が最近、2〜3倍になった。聯合ニュースは22日、処理水の報道が増えたため、消費者の「魚離れ」が始まったと報じた。

尹政権は丁寧な説明を続けることで偽情報を排除し、国民の不安を払拭ふっしょくしたい考えだ。今月15日以降、平日は毎日、処理水に関する記者会見を開催している。22日の会見では、海洋水産省次官が天日塩の「買い占め」騒動に対し、「今年の生産量は平年を大きく上回り、供給不足にならない」と沈静化を図った。

尹政権は、検査体制を強化し、海水の放射性物質の調査地点を92か所から約200か所に増やすことを決定。流通前に魚介類の放射性物質を検査できる体制を整備する方針だ。【6月23日 読売】
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【国民不安の沈静化に追われる韓国政府】
日本政府も漁業者団体などとの交渉・説明に尽力していますが、日本政府以上に韓国尹政権はこの「処理水」問題で厳しい状況に立たされており、また、具体的対応に追われています。

話を進める前に「処理水」について整理しておくと

****処理水****
ALPS処理水とは?
東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。

トリチウムについても安全基準を十分に満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。
薄めた後のトリチウムの濃度は、国の定めた安全基準の40分の1(WHO飲料水基準の約7分の1)未満になります。

安全基準を満たした上で、放出する総量も管理して処分するので、環境や人体への影響は考えられません。

ALPS処理水に含まれるトリチウムとは?
トリチウムは水素の仲間(三重水素)で、日々自然に発生しているものです。そのため、水道水や雨水、私たちの体の中にも含まれており、「自然界にも広く存在する放射性物質」です。

トリチウムは、世界中の多くの原子力施設から海に放出されていますが、施設周辺からは、トリチウムが原因とされる影響は見つかっていません。【日本外務省HP】
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政府と東電は、処理水を海水で100倍以上に薄めたうえで、海底トンネルを通じて1キロ先の沖で放出する計画です。実施時期は夏頃としています。

夏頃の海洋放出に向けて準備は進んでいますが、肝心の関係者の了解はまだ得られていません。

****処理水放出に向け着々と準備進む福島第一原発 残る課題は関係者の理解【福島県】****
福島第一原発の処理水についてです。 海底トンネルの掘削で使った重機を引き上げ、海へ放出するためのトンネルの工事が完了しました。 

政府が夏ごろにも予定する放出開始時期が迫る一方で、漁業者の懸念は払拭できていないのが現状です。 

(中略)トンネルの掘削や処理水を希釈する設備などの工事はほぼ完了し、現在、試運転が進められています。 政府が予定する夏ごろの放出開始まで時間が過ぎていくなか、課題は国内外の関係者の理解です。
5月には韓国の専門家らが第一原発を視察。 一方で漁業関係者は政府に対し…。

■相馬双葉漁業協同組合 今野智組合長 「処理水の海洋放出方針に関して、組合員の強い懸念を直接お伝えしました。海洋放出について組合は強く反対しております」 そして、6月22日。全国の漁業組合が加盟する全漁連が、西村経済産業大臣に改めて反対の意思を伝えました。(後略)【6月26日 福島中央テレビ】
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韓国における「処理水」への不安は、塩に殺到する消費者や下記のような状況を見ると、必ずしも「反日」からのものでもなく、おかしな言い方ですが“本気で不安に感じている”ようにも思えます。
それを政治的・経済的に扇動・利用しようとする者がいるのも事実ですが。

****汚染水放出でがん保険必要? 不当な勧誘に厳しく対応=韓国金融当局****
韓国の金融委員会と金融監督院は29日、東京電力福島第1原発の処理済み汚染水の海洋放出計画に乗じた一部保険会社の不当な勧誘行為に厳しく対応する方針を明らかにした。

金融当局によると、汚染水の放出により韓国でも放射線が拡散し、将来的にがん発症率が上昇する可能性があるとして、一部の保険会社ががん保険への加入を勧める電話営業を行っていたことが判明した。当局はこれを受け、当該会社に不健全な営業行為の即時中止を求めた。

金融当局は「非科学的な事実に基づいて消費者の不安をあおる営業行為がないかどうかを綿密に監視し、金融消費者保護法違反が確認されれば厳しい措置を取る」としている。【6月29日 聯合ニュース】
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国民の不安沈静化を目指す韓国政府の取り組みも必死の感も。ここでしくじると、これまでの日韓関係改善の動きの倍返しで政権が揺らぎますので。

****韓国、政府が直接買い上げた塩の販売を開始 2トンの塩、わずか3時間で売れる 福島原発の処理水放出を前に****
福島第一原発の処理水が今年夏にも海洋放出されるのを前に、韓国で塩の需要が高まっています。事態の安定化を図るため、韓国政府は29日から、政府が直接買い上げた塩の販売を始めました。

福島第一原発の処理水の海洋放出を前に、韓国では塩を入手しようとする市民が増え、需要が急激に高まり、スーパーなどで品薄となる事態が相次いでいました。こうした事態の安定化を図るため、韓国政府は29日から、スーパーなどで政府が直接買い上げた塩の販売を始めました。

市場価格よりも安く販売するとしていて、韓国メディアによりますと、29日に販売が行われたスーパーでは、店頭で売られていた別の塩に比べて3割以上安かったということです。(中略)

このスーパーでは、20キロ入りの塩が100袋、つまり2トンの塩が販売開始から、わずか3時間で売れたということです。

韓国政府は29日から来月11日までの間に、あわせて400トンの塩を販売することにしています。【6月29日 日テレNEWS】
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****韓国首相「福島汚染水、科学的に処理されれば飲むこともできる」*****
韓国の韓悳洙(ハン・ドクス)首相は12日、福島第一原子力発電所の汚染水放流問題について「完全に科学的に処理がなされたものであれば韓国の基準、世界保健機関(WHO)の飲用基準は1万ベクレル(Bq)」だとし「基準に合うなら飲むことができる」と答弁した。

韓首相は12日午後、国会の対政府質問に出席し、進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の金成柱(キム・ソンジュ)議員から「安全が検証されたら(汚染水を)飲みますか」という質問を受けてこのように答弁した。

また韓首相は「大韓民国政府は日本政府に対しては無条件に全部良いという(と一部で主張しているが)、そういうのはデマ」と述べた。

韓首相は、金成柱議員から「なぜ日本の顔色ばかりうかがうのかという不満がある」という質問を受けて「科学に基づかず、安全ではない福島汚染水の放流は賛成できない」と答弁した。

その上で「大韓民国は一度も、国際原子力機関(IAEA)が良いと言えばそれは安全だとか、無条件で受け入れると述べたことはない」と発言した。

さらに韓首相は「科学に根拠を置かない虚偽事実の流布は韓国の水産業従事者らを苦しめるもの」だとし「そういう内容を持ち出して利害当事者らに被害を及ぼすことこそ、扇動だと非難しても別に間違っていない」と語った。【6月14日 朝鮮日報】
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【「怪談」狂牛病に揺れた韓国 その教育効果は?】
また、韓国のある学者が「処理された水を持ってくれば、薄めて飲む」というメッセージをオンラインで掲載し、話題になっているといった話題も。

****福島の処理水「私なら1、2杯ためらわず飲む」…韓国学者“逆張り”発言のわけ*****
(中略)この学者は、韓国で30年近く学生に放射性医薬品学を教えてきた忠北(チュンプク)大学薬学部のパク・イルヨン教授。今月3日、生物学研究情報センター(BRIC)のホームページの公開掲示板にメッセージを書き込んだ。 

その中でパク教授は「私がやってもいいし、誰でもいい。放出濃度の希釈水を飲んで、国民の食卓を安心させることがとても必要な時だ」と主張している。 

パク教授は、放射性医薬品学の専門家で、病院で使われる放射性医薬品の特性と人体への影響を研究してきた。 パク教授によると、日本政府が提示した放出濃度である1リットル当たり1500ベクレルの水1リットルを飲む場合、その中の三重水素によって受ける危険度を計算すると実効線量は0.000027mSv(ミリシーベルト)になる。これはバナナ1本を食べる時にカリウム同位元素として体内に取り込まれる実効線量の4分の1だという。 

そのうえで「日本政府の発表通りで多核種除去設備ALPSでその他の核種を除去した処理水を1リットル当たり1500ベクレルになるよう希釈した水なら飲める。私は1、2杯ちゅうちょなく飲む」と強調した。 

また、韓国政府が日本からデータと試料を受け取って自ら分析すると強く出るべきだったとも強調する。「そうしてこそ国民がそのデータを信頼できる」と指摘し、日本と東京電力には透明な資料公開が必要だと訴えた。(後略) 【06月13日 KOREA WAVE】
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処理水の不安に駆れる韓国国民、風評被害以外については政府・東電の安全性に関する説明を一定に信用している日本国民・・・・私個人も、あまり真剣に安全性について考えたことはありませんが、それは「まあ、政府も無茶なことはしないだろう」という一種の信頼感でしょうか。

日本は広島・長崎の原爆を、そして福島の事故を経験し、被爆の危険・恐怖については一番身近に感じていますが、一方で、そのことはその被害の「実体」について一定の共通認識・情報を保有することにもなって、「いたずらに訳のわからないものを怖がる」というものでもありません。(それが正しい対応なのかどうかは異論もあるでしょう。)

「いたずらに訳のわからないものを怖がる」韓国国民ということでは、2008年春の米国産輸入牛肉をめぐる異様な「狂牛病騒ぎ」を連想します。

****【ソウルからヨボセヨ】狂牛病虚報の教育効果****
2008年春、韓国社会を揺るがせた米国産輸入牛肉をめぐる狂牛病騒ぎの大きなきっかけになったのが韓国MBCテレビの“虚報”だった。看板のドキュメンタリー番組「PD手帳」が「緊急取材」と銘打って、よたよたと倒れる牛の姿とともに「韓国人が人間狂牛病にかかる確率は94%」などと報じたからだ。

まず女子中高生たちにパニックが起き、それが大規模な反米・反政府デモとなって広がり、当時の李明博(イ・ミョンバク)政権は倒れかかった。

あれから13年。そのMBC「PD手帳」が「緊急取材」として今度は「福島汚染水放流問題」を放送した(11日)。「韓国人は放射能の影響を受けやすい!」などとまた扇動するのだろうか?と思って熱心に見させてもらった。
 
韓国では、日本政府による処理水の海洋放出決定でまたまた反日ムードが高まっているので、反日好きのテレビは当然、日本政府への疑問や批判が中心になる。そのため韓国側の反対運動のほか日本での反対の声を精力的に伝えていた。

ただ一方で「科学的には問題ない」という韓国の専門家の冷静な見方も紹介されていた。過去の狂牛病騒ぎの“教育効果”として、太平洋海流が韓国沿岸の魚に与える放射能の影響の有無などを感情ではなく科学的にしっかりと検証してほしい。(黒田勝弘)【2021年5月15日 産経】
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しかし、あまり“教育効果”が発揮されていない面も

****TV出演した共に民主・汚染水対策委員長「狂牛病に数十万人が感染」…実際は27年間で232人****
韓国野党・共に民主党の「福島汚染水海洋投棄阻止対策委員長」を務めている魏聖坤(ウィ・ソンゴン)議員が「狂牛病にかかった人は数十万人になる」と主張した。 

魏聖坤議員は26日、TV朝鮮の時事番組『これが政治だ』の「福島原発汚染水放出関連緊急討論会」に出演した。  福島原発汚染水の危険性に関する討論は、15年前の「狂牛病問題」に関する話にまで及んだ。  

与党側の討論パネルとして出演した成一鍾(ソン・イルジョン)議員=国民の力=が「(生後)30カ月の牛の肉を食べて狂牛病にかかった人は世界で1人でも出たのか」と質問すると、魏聖坤議員は「いないはずがない。数え切れないほど多い」「データを持ってくることができる」と答えた。  

魏聖坤議員はさらに、「そんなことも知らないくせに、今まで狂牛病『怪談』と言っていたのか」「数十万人いる。この両班たち(狂牛病患者たち)は」とも言った。  

(中略)1995年にこの病気が初めて報告されて以降、集計された全世界の感染者数は232人だ。これは、魏聖坤議員が言った「数十万人」とは大きな差がある。  

(中略)この発言が問題になると、魏聖坤議員はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に「事実関係を訂正する」「『数十万人』という表現は狂牛病にかかった『牛』が多いという意味で使った言葉」と投稿した。  

ただし、「成一鍾議員の『人間狂牛病にかかった事例はない』という発言は事実ではない」「2008年の狂牛病ろうそく集会を『怪談』と見下すことに強い遺憾の意を表明する」と述べた。  

その一方で、「では狂牛病にかかった牛の数は数十万頭なのか」というTV朝鮮の質問に、魏聖坤議員室の関係者は「確認した結果、19万頭と把握された」と答えた。 【6月28日 朝鮮日報】
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米・印首脳会談  中国への対抗を背景に深化する米印関係

2023-06-28 22:36:21 | 南アジア(インド)

【6月22日 NHK】 6月21日「国際ヨガの日」、ニューヨークの国連本部の広場で行われたヨガのイベントに参加するインド・モディ首相。

****国連でヨガ、参加国籍最多 135カ国、ギネス認定****
国連が定めた「国際ヨガの日」の21日、ニューヨークの国連本部でヨガのイベントが開かれた。計135カ国の外交官ら数百人が庭園に集まり、国際ヨガの日を提案したインドのモディ首相も参加した。このイベントは「最も多くの国籍の参加者によるヨガレッスン」としてギネス世界記録に認定された。

訪米中のモディ氏は「ヨガの力で平和な世界と友好のための橋を架けよう」とあいさつした。国連総会のコロシ議長らと共に、芝生に敷いた黄色のヨガマットの上で、インストラクターの指示に従ってさまざまなポーズを取った。【6月22日 共同】
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【中国に対する警戒感で思惑が一致する米印】
モディ首相、もちろんこのイベントのためにNYを訪問した訳でなく、バイデン米大統領との会談という重要目的のためです。

モディ首相、バイデン大統領、ともに中国を念頭にかなり気合の入った会談になったようです。

****米・印首脳会談で異例の演出 “台頭”中国をけん制****
アメリカのバイデン大統領は22日、国賓で訪米中のインドのモディ首相と会談しました。両首脳は異例の演出で台頭する中国をけん制しました。

モディ首相は、インドの首相としては14年ぶりに国賓として訪問し、ホワイトハウスでは、インド系アメリカ人などおよそ7000人が出席する歓迎式典が行われました。

両首脳は、「力による現状変更や一方的な行動に強く反対する」などとする共同声明を発表し、中国の影響力に対抗する姿勢を強調しました。

モディ首相はアメリカ議会での演説で「アメリカは最重要パートナーだ」と述べ、議場からたびたび「モディ」コールが起きました。【6月23日 FNNプライムオンライン】
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アメリカ・中国派は安全保障や経済、技術などの各分野で対立・競争が激化していますが、アメリカは海洋進出を強める中国に対抗するために、日米豪印の協力枠組みである「クアッド」などを通じ、インドとの協力を重視しています。

経済面でが中国と強いつながりがあるインド(中国はアメリカに次ぐ2番目の貿易相手国)にとっても、国境を巡って長く対立が続く中国は最大の脅威です。、2020年にも両軍兵士が衝突して双方に死傷者が出ましたが、その後も衝突・小競り合いが絶えません。

今年に入ってからは、それぞれ相手国の記者に対する滞在ビザが更新されないという緊張感が高まる事態にもなっています。

ウクライナ問題・ロシア制裁に関するインドの独自の立場、あるいはヒンズー至上主義を進めるモディ首相のもとでのインド国内の人権問題への懸念・・・といった問題もありますが、インド・アメリカ双方、中国に対する警戒感で思惑が一致しているとことが、今回会談の背景にあります。

会談の成果としては、主にテクノロジーと防衛の協力が報じられています。

****米印が首脳会談、テクノロジーと防衛の協力で合意 中国の影響力念頭****
米国のバイデン大統領は22日、国賓として訪米中のインドのモディ首相とホワイトハウスで会談した。会談ではテクノロジーと防衛での協力で合意。両国関係の強化を通じ、地域で脅威を増す中国に対抗するというバイデン氏の意向が浮き彫りになった。

モディ氏をホワイトハウスに迎えるに当たり、バイデン氏は米印両国が同じ民主主義国家として価値観を共有しているとの認識を表明。

法の下の平等や表現の自由、宗教的多元主義、国民の多様性に言及し、「こうした核心的な原則は、両国が歴史を通じて困難に直面する中でも持ちこたえ、進化してきた。それが我々を強く、深い存在とし、未来に向けた力ともなってきた」と述べた。

米国は、インドとの国防貿易を過去15年間で大幅に拡大してきた。米当局者らはインドが兵器の調達先を多様化していると指摘。ロシアなど1国への依存から脱却しようとしているとの見方を示す。

22日の発表の中で、インドはドローン(無人機)「MQ9Bシー・ガーデイアン」の購入を約束した。これは中国が軍事的脅威を増す中、米印両国の国防関係が深まることを意味する。

バイデン、モディ両氏は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)とインド国有のヒンドゥスタン・エアロノーティクスが、インドでのジェットエンジンの共同製造で合意したことにも言及した。

この他、米国が主導する宇宙探査の国際協力合意「アルテミス合意」にインドが参加するとも発表。また米半導体大手マイクロン・テクノロジーが27億5000万ドル(約3900億円)を投じて半導体の組み立て工場と試験施設をインドに新設するとの約束も明らかにされた。

両氏は9月にインドで開催予定の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の議題についても話し合った。【6月23日 CNN】
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“アメリカとしてはインドの首相を迎え、インドとの関係強化を見せつけることで、中国やロシアを牽制することができる。その見返りに、インド側は手堅く技術や資金を得るという関係”・・・ということで、双方にメリットが大きかったようです。

****アメリカとインドの首脳会談 それぞれの「思惑」*****
近畿大学教授で元NHKニューデリー支局長の広瀬公巳氏が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ホワイトハウスで行われたアメリカとインドの首脳会談について解説した。

アメリカとインドの首脳会談における両国の狙い
アメリカのバイデン大統領は6月22日、ホワイトハウスでインドのモディ首相と会談を行った。会談後、インドのモディ首相は両国が「未来に向けた強力な協力関係を築いている」と述べた。
アメリカは中露を牽制することができ、インドはロシアから滞り始めている武器をアメリカから調達できる

飯田)アメリカとインドの首脳会談ですが、どうご覧になりますか?
広瀬)アメリカとしてはインドの首相を迎え、インドとの関係強化を見せつけることで、中国やロシアを牽制することができます。その見返りに、インド側は手堅く技術や資金を得るという関係だと思います。(中略)

例えば今回、焦点になっている防衛協力では、インドはご存知のように国連のロシア非難決議に加わりませんでしたが、これはインドの武器の調達元が主にロシアであることが大きな理由だったわけです。(中略)

アメリカから防衛協力を得られるのであれば、ロシアから滞り始めている武器の調達を補うことができるのです。

クリーンエネルギーの分野でもアメリカの協力で中国に追いつくことができるインド 〜テスラの投資で「メイク・イン・インディア」も3つ達成できる
広瀬)クリーンエネルギーの分野でも、インドとアメリカは途上国と先進国という形で対立することがありました。同じ途上国として、インドと中国が共同戦線を張ることさえあった。(中略)

クリーンエネルギーの分野では、インドは中国に水を開けられていますけれど、脱炭素化に向けてアメリカの協力が得られれば、中国に追いついていくことができます。(中略)

今回、モディ首相はテスラのイーロン・マスクさんとも会談しました。テスラは電気自動車など、インドでの事業を拡大する方針ですが、インドにとっては大型の投資を受け入れ、クリーンエネルギーも推進できる。しかも国内の製造業の力を上げる、いわゆる「メイク・イン・インディア」も3つ一気に達成できるので、インド側としては願ったりかなったりという話です。

ディール外交によって武器やエネルギーなど、欲しいものを着実に手に入れるインド
飯田)インドの非同盟外交も変わりつつあると指摘されていますが、広瀬さんはどうご覧になりますか?

広瀬)インドは中国との間に国境紛争を抱えていますので、アメリカとの関係は重要になります。もう少し深く見ると、インドは外交とビジネスをミックスさせる、いわゆるディール外交によって、武器やエネルギーなど欲しいものを着実に、強(したた)かに手に入れています。(中略)

2020年にトランプ大統領がインドを訪問した際、アメリカはインド海軍に潜水艦をレーダー探知する哨戒ヘリを提供しています。これはインド洋で活動を活発化させる中国に対し、睨みを利かせることにもなりますので、強かな外交をしている感じがありますね。(後略)【6月25日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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【深化する米印の協力関係】
アメリカは、2007年のジョージ・W・ブッシュ大統領、インドのシン首相の時代から、核拡散防止条約(NPT)枠外の核保有国インドにアメリカ製核燃料の再処理を認めることで、日本とEUにしか与えていない厚遇をインドに示すなど、インドの重要性を意識し、インド取り込みに務めてきた流れがあります。

ここにきて、中国の脅威という共通認識のもとで、両国の協力体制は一段と深化したように見えます。

****インド・アメリカ急接近 歴史的転換の首脳会談****
6月22〜25日までインドのモディ首相が訪米し、米国のバイデン大統領との間でさまざまなことに合意した。特に注目されるのは安全保障面だ。今回の合意には、米印関係が次の段階に入ったことを示す、多くの合意が含まれている。大きく3つに分けて解説したい。

なぜエンジンの共同生産が重要なのか
まず、注目されるのは、米国製の戦闘機用のエンジンの技術をインドに提供して、米印共同で生産することにしたことだ。これは、インドとロシアだけでなく、グローバルサウスにおける印中の競争に影響を与える可能性がある。

インドが保有する武器の約半分はロシア製だ。特に、ロシア製は、戦闘機や戦車といった戦闘の正面に立つ武器(正面装備とよばれる)に多い。

武器は高度で精密な機械なのに、乱暴な使われ方をする。だからすぐ壊れる(中略)そのため、修理部品が必要になる。正面装備は弾薬も必要だ。

だから、インドが保有する武器の中でロシア製が多いということは、インドがロシアからの修理部品や弾薬の補給に依存していることを示している。

しかもインドの場合、戦闘機や戦車の約半分が修理中である。もし、インドが今すぐに中国やパキスタンと大規模な戦争になるなら、急ぎ、ロシアから修理部品と弾薬を送ってもらわないと戦えない。その点で、インドの安全保障をロシアは握っているのである。

しかし、インドは、そのようなロシア依存の弊害を感じてきた。2度の事件があったからだ。
1回目は、ソ連が崩壊した時。インドは修理部品と弾薬の供給を断たれてしまい、旧ソ連の軍需工場跡地に軍人たちを派遣して、探し回らせる羽目になった。そして、2回目は、ロシアがウクライナに侵攻を開始した時である。つまり今だ。

ロシアは、自ら多くの武器・弾薬を消費してしまった。中国から武器製造の部品を輸入したり、北朝鮮やイランにまで弾薬の供給を依頼している。インドに輸出した分も、払い戻させているようだ。だから、ロシアからインドへ輸出する分はない。このままでは、インドが保有するロシア製の武器は、いずれ動かなくなってしまうのである。

そこで、インドは他国に依存せず、武器を国産化することにした。ロシア製の武器の部品の中で、どうしても必要な部品を100以上特定し、自ら製造する取り組みを進めている。

だが、それだけでは不足だ。国産の戦闘機や戦車をもっと採用することにした。 ところが、国産といっても、実際には、すべての部品を国産化できているわけではなく、むしろ多くの重要な部品を輸入して合体させる必要がある。

その例が、国産戦闘機テジャズのエンジンである。 今回、米国が合意したのは、このテジャズのエンジンに関する技術を、米国がインドに提供し、共同生産するというものだ。

国産技術を高めたいインドと、インドに対するロシアの影響力を削ぎたい米国の利害が、一致したのである。  

ところが、このエンジンの共同生産の影響は、それだけではない。実は、インドの武器生産技術は徐々に高まっており、輸出につながっているのだ。  

例えば、先ほどの国産戦闘機テジャズは、スリランカやマレーシアなどが採用を検討している。軽戦闘機であるから、飛行場などの設備があまり豪華でなくても運用できる。値段は安いのである。  

そうすると、このテジャズが輸出される先は、比較的お金のない国々である。豪華な米国製の武器を買う国々ではなく、もっと安い武器を探している国だ。それは、主に、中国製の武器を購入している国々である。

つまり、インドと中国の競争になる。  インドが勝てば、中国が武器を通じて示してきた影響力を削ぐことになるのだ。だから、重要なのである。

米海軍艦艇をインドの港で修理
さらに今回の米印の合意には興味深い記述がある。それは、米海軍艦艇および航空機を、インドの港で整備・修理できるようにするというものだ。

整備・修理の拠点を持つということは、米海軍がより容易にインド洋に展開することを意味する。  

インドは、米ソ冷戦時代、米海軍に対して警戒感を隠さなかった。(中略)そして、2000年代後半からは、中国海軍のインド洋進出が活発になり、状況は大きく変わった。

中国は、インドの周辺国に武器を輸出し、その訓練などを名目にインストラクターを派遣するなどして、存在感を示し始めた。  そして、港湾施設などインフラ建設を通じて、インドの周辺国で影響力を拡大した。さらに、ソマリア海賊対処に参加するようになると、海賊対処を名目に潜水艦まで派遣するようになった。今では常時6~8隻程度の中国艦艇がインド洋に展開している状態になっている。  

こうして、インドの米海軍に対する警戒感はなくなり、米印両国は、中国に対抗するために連携するようになっていったのである。今回の合意で、インドの港で整備・修理する米海軍艦艇・航空機は増えていくだろう。  

修理・整備ができれば、より多くの艦艇・航空機がインド洋に配備されるはずである。米海軍はインド洋や東南アジアを担当する第1艦隊創設を検討しているから、その基盤になっていくことが予想されるのである。

印中国境にも米国の関与
それだけではないのである。実は今回の米印合意には、印中国境における軍事協力について交渉を開始することも、書かれているのである。

これは、安全保障補給協定(Security of Supply arrangement)と、国防調達円滑化協定(Reciprocal Defense Procurement agreement)と呼ばれるもので、要するに、戦争などの緊急事態において、米国の武器をインドに提供するための協定である。  

これが印中国境を念頭に置いた協定といえるのは、先例があるからである。印中国境では、2020年に印中両軍が衝突して、インド側だけで死者20人、負傷者76人、合計96人もの死傷者がでて以来、中国軍がハイテク兵器を次々配備して、緊張状態が続いている。  

中国は、極超音速ミサイル、ステルス戦闘機、最新型の地対空ミサイル(S-400)、巡航ミサイル搭載爆撃機などを、他の地域から印中国境に再配置している。(中略)

この時、インドは緊急予算を承認し、各国から必要な装備品を買いそろえたのである。そして、それに応じたのが米国だった。  

米国は、この地域が冬場マイナス30度になるため、極寒用の戦闘服などを何万着もインドに供給した。またインドが購入契約していた装備品、ウクライナに供与されたことでも知られるM777超軽量砲と、命中率の高い誘導砲弾、高高度でも飛べる戦闘ヘリコプターや輸送ヘリコプターなどを、急ぎ納入したのである。  

今回、米印間が協議している協定は、こういった事態において、米国がインドに対して、武器の提供をし易くする協定だ。  

2020年から緊張状態が続く中、昨年夏、米印は印中国境から200キロメートルのところで、昨年冬には100キロメートルのところで、共同演習を実施した。

今年4月には、第二次世界大戦のとき、中国全土を爆撃する拠点になった軍基地に、米軍のB-1爆撃機を派遣し、米印共同演習を実施した(その演習には日本もオブザーバーを派遣し、日米印共同演習となった)。  

米国は、印中国境における関与を強めている。これは、これまでにない、動きなのである。  

印中国境におけるインド軍の防衛力が向上すれば、中国は、他の地域から、部隊や武器を、印中国境に移動させるかもしれない。台湾や日本に対して使われるはずだった武器が、印中国境に移動していくことになる。  

だから、印中国境の情勢は、東シナ海の情勢、日本の安全保障とつながる部分でもある。そういった動きが、米印間で起きている以上、それは、日本にとっても注目の情勢といえよう。【6月27日 WEDGE】
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ただ、印中国境の問題はかなり厄介です。
中国はアメリカとの世界的競争に関心を移し、その結果大規模核軍拡に踏み切った。インドに対し通常戦力で大幅に劣るパキスタンは、中国の支援を得て、最小限抑止から全段階的抑止に舵を切ろうとしている。

インドは、中国とパキスタンの双方の核威嚇に対抗するために一定の核軍拡が必要となる。
しかし、そうなると当然パキスタンも核軍拡に走るので、中国の核軍拡が3カ国全てに核軍拡のスパイラルを起こす・・・というシナリオが想像されます。(「中国核軍拡で危惧される中印パ3国の核軍拡スパイラル」【6月28日 WEDGE】

懸念されているインド国内の人権問題については、モディ首相は会見で記者から「インド政府が宗教少数派を差別しているとの報告がある」と指摘されると、「インドは民主主義(の国)だ」と語気を強め、差別などを否定するといった一幕も。インド国内で差別はないと言えるか・・・という話になると、長くなるのでまた別機会に。
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アフガニスタン  最高指導者の女性人権に関する宣言は? 日本のジェンダーギャップ状況

2023-06-27 23:22:35 | 女性問題

(記念撮影に臨む主要7カ国(G7)男女共同参画・女性活躍担当相会合の出席閣僚ら。右から4人目が小倉将信男女共同参画担当相=25日、栃木県日光市(時事)【6月27日 HUFFPOST】)

【タリバンの最高指導者  女性は「自由で尊厳のある人間」としての地位を回復し、「伝統的な抑圧」から解放される】
タリバン支配のアフガニスタンにおける教育や就労などで女性の権利が著しく侵害されていることは再三取り上げてきました。

タリバン内部にも女性問題で意見の対立があることも、4月19日ブログ“アフガニスタン 女子教育再開をめぐりタリバン政権内に意見対立も”で取り上げました。
最終的には最高指導者アクンザダ師がどのような判断をするのか・・・というところでしょう。

そのタリバンの最高指導者アクンザダ師が、女性は「伝統的な抑圧」から解放されると宣言したとか。

****女性「抑圧しない」と宣言=タリバン指導者、柔和姿勢強調―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師は25日、イスラム教に基づく統治でも、女性は「自由で尊厳のある人間」としての地位を回復し、「伝統的な抑圧」から解放されると宣言した。AFP通信が報じた。

女性抑圧政策を国際社会から批判される中、柔和な姿勢をアピールする狙いとみられる。

アクンザダ師はイスラム教の「イードアルアドハー(犠牲祭)」を前に声明を発表。「社会の半分を占める女性の地位向上に向け、必要な措置が既に取られた」と主張した。【6月27日 時事】 
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この宣言の意味合いについては、上記記事は“柔和な姿勢をアピール”としていますが、“アクンザダ師は声明で教育問題に触れず、批判を無視した形だ。 ”【6月27日 共同】という評価も。

確かに、「必要な措置が既に取られた」ということで、「もう十分にやっている。批判される筋合いはない」という宣言にも思えます。

****タリバン「女性尊厳回復」声明 最高指導者、批判を無視****
(中略)タリバン暫定政権は、日本の中学・高校に当たる女子の中等教育と大学教育の停止を継続。各国は「女性への抑圧」だと懸念し、暫定政権を承認していない。アクンザダ師は声明で教育問題に触れず、批判を無視した形だ。
 
声明はイスラム教の「犠牲祭」の祝日を前に公表した。女性の地位向上のための取り組みとして、強制結婚を減らす対策や女性の相続権の保障などを挙げた。【6月27日 共同】
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“柔和な姿勢をアピール”ではなく“開き直り宣言”と理解すべきものでしょうか。

【国連 「ジェンダー・アパルトヘイト」と批判 支援予算減額】
タリバンの女性への対応は、これまでも欧米・国連から厳しく批判されていますが、国連特別報告者はジェンダーのアパルトヘイトに相当する恐れがあると報告しています。

****タリバンの女性処遇、「ジェンダー・アパルトヘイト」の可能性=国連****
アフガニスタンの人権状況に関する国連特別報告者リチャード・ベネット氏は19日、ジュネーブで行われた国連人権理事会で、同国で実権を掌握しているタリバンによる女性と少女の処遇は、ジェンダーのアパルトヘイトに相当する恐れがあると報告した。

ベネット氏は「タリバンの思想と規則の根幹には、女性に対する重大で組織的かつ制度的差別が存在する。これは、タリバンがジェンダー・アパルトヘイトに責任がある可能性を示している」と述べた。

国連は、ジェンダーまたは性別を理由に個人に対して行われる経済的・社会的性差別」をジェンダー・アパルトヘイトと定義している。

また、ベネット氏は記者団に「われわれはジェンダー・アパルトヘイトをさらに追及する必要性を強調した。現時点では国際犯罪となっていないが、そうなる可能性がある」と指摘。「現在、アパルトヘイトは人種を対象としているが、これをアフガンの状況に当てはめて人種の代わりに性別を適用すれば、その方向に向けた強い示唆となるとみられる」と述べた。

2021年8月に実権を掌握したタリバンは、高校や大学通学の阻止など、女性の権利と自由を極度に制限している。【6月20日 ロイター】
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アフガニスタンは世界でも最も国際支援を必要としている国のひとつですが、女性人権に関するこのような厳しい見方を背景に、アフガニスタンへの支援も削減される事態になっています。

****国連、アフガン支援予算を減額 女性出勤停止で、需要増も****
国連は6日までに、アフガニスタンでの今年の人道支援予算を46億ドル(約6400億円)から32億ドルに減額したと発表した。支援の需要は増しているが、イスラム主義組織タリバン暫定政権が国連で働く女性職員の出勤停止を命じ、十分な活動ができなくなったため。女性への抑圧的な政策が人道支援に悪影響を与えた。

国連人道問題調整室によると、アフガンで支援を必要とする人の数は今年初めの推定2830万人から、2880万人に増えた。国民の約7割に当たる。

アフガンでは女性が家族以外の男性と接触を避ける慣習があり、出勤停止命令によって女性や子どもに支援を行き渡らせることが難しくなった。【6月6日 共同】
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国連支援だけでなく、各国の個別の支援においても、タリバンの女性に対する頑なな姿勢はその障害となっています。タリバンの圧政と人道支援は切り離して・・・とは言っても、現実にはなかなか。

【タリバンも国際孤立を回避したい思いがあるのか・・・・】
最高指導者アクンザダ師は普段は表にほとんど出てこない人物なので、外部の人間にはその考えはわかりません。(おそらくタリバン内部でも、よくわからないのでは?)(絶対的権威を有した初代の最高指導者オマル師などは生きてるのか死んでるのか、それさえ長年わかりませんでした)

その最高指導者アクンザダ師がカタール首相と極秘会談したとか。

****タリバン指導者、カタール首相と極秘会談か=外国首脳と初、孤立回避狙う****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師が5月、カタールのムハンマド首相と極秘で会談した。ロイター通信が31日、消息筋の話として伝えた。

タリバンはアフガン女性の人権を侵害していると国際社会から批判されており、会談は孤立回避が狙いとみられる。

ロイターによると、会談は5月12日にアフガン南部カンダハルで行われた。タリバンが2021年8月に実権を掌握して以降、アクンザダ師が外国首脳と会談したのは初めてとみられる。同師が公の場に出ることはほとんどなく、メディアの前に姿を見せたこともない。【6月1日 時事】 
*****************

やはり、タリバンとしても「このままの孤立状態ではまずい」という判断があるのでしょうか。そうであれば女性に関する施策も多少は期待できるのですが・・・。

【小池都知事ならずとも、ため息がでる日本のジェンダーギャップ】
アフガニスタンの女性問題に関して、毎回とやかく言っていますが、国際的に見ると日本にそんなことを言う資格があるのか・・・という話にもなります。

例年の調査結果が公表されました。いつにも増して日本の女性の地位は“良くない”ようです。

****「ジェンダーギャップ指数2023」日本は過去最低の125位に後退、G7で最下位****
2023年6月21日、世界経済フォーラム(以下、WEF)が、世界各国の男女平等の度合いを数値化した「ジェンダーギャップ指数」の2023年版報告書を発表しました。

今回の調査では、男女が完全に平等な状態を100%とした場合の全世界の達成率は68.4%で、昨年度より0.3ポイントの改善が見られました。
「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから成るこの指数、日本は国別のランキングで対象146カ国中125位(64.7%)と、過去最低の結果となっています。

世界全体の男女平等が達成されるまでには「131年」が必要
WEFは今回の報告書のなかで、現在の進捗速度では、世界の男女格差が解消されるまでに131年かかると推測しています。また、ジェンダー公正(Gender Parity)はコロナ禍以前の水準に回復しつつあるものの進展は鈍化しており、「経済活動への参加と機会」の分野は2022年よりも後退したと指摘しています。

日本の順位は過去最低の125位
日本は146カ国のうち125位で、昨年の116位から大きく後退し、依然として主要先進国(G7)のなかで最下位となっています。

また、地域別の結果を見ても、東アジア・太平洋地域の指数は8地域中5番目に高いスコアを示している一方で、日本はフィジー、ミャンマーと並ぶ最下位に位置し、現在の進捗率では、この地域がジェンダー平等を達成するには189年かかると試算されています。特に政治と経済の分野で格差解消が進んでいない状況です。(後略)【6月22日 PLAN INTERNATINAL】
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日本の評価が低いのは、特に「政治」(138位)と「経済」(123位)
政治では、衆院議員の女性比率が10%にとどまり、女性閣僚も少ないことが、経済でも、企業で役員・管理職への女性登用が進まないことなどが低い評価の原因となっています。

単に低いだけでなく、年々順位が後退していることが問題。(調査国が増えているせいなのかも。それにしても改善が図られたいないということには変わりありません)

もちろん、このような簡単な数値化でどれだけのものが示せるのか・・・という話はありますが、一面の真実を示す数値ではあるでしょう。

毎年取り上げられる調査報告であり、「相変わらずだね・・・」といった印象もありますが、現在日本で影響力が大きい数少ない女性政治家の一人、小池東京都知事もため息を禁じ得ないようです。

****男女平等指数ランキング、出るたびに「ため息」=小池都知事****
東京都の小池百合子知事は23日の記者会見で、世界経済フォーラム(WEF)の最新の「ジェンダー・ギャップ指数」で日本が対象146カ国中125位と前年の116位から後退したことについて「これに限らず、ランキングが出るたびにため息をついている」と述べた。男女格差の問題は「日本が抱えている大きな課題だ」との見解を示した。

日本を巡る状況について、小池知事は世界の国々との比較においてスピード感が違うと指摘。男女格差の解消について「本質から覚悟を持って進めていく」必要性を訴えた。【6月23日 ロイター】
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【本気度・スピード感が問われていますが、最終的には国民、女性の意識に依る面も】
「日本の常識 世界の非常識」を端的に示すのが冒頭の写真。

****G7女性活躍相会合にたった1人の男性閣僚。米誌「日本は男性を送り込んだ」と皮肉****
栃木県日光市で2日間にわたり開催されていたG7(主要7カ国)男女共同参画・女性活躍相会合が、6月25日に閉幕した。

そんな今注目を集めているのが、ジェンダーギャップに悩む日本の現状を表しているかのような、同会合の記念写真だ。

写真を見ると一目瞭然だが、他の出席閣僚は全て女性なのに対し、議長国である日本だけ、男性の小倉将信・男女共同参画担当大臣が写っている。

アメリカのTime誌はこの状況を「気まずい記念撮影」と皮肉り、「G7女性活躍相会合の議長に日本は男性の大臣を送り込んだ(Japan Sends Male Minister to Lead G7 Meeting on Women’s Empowerment)」と題した記事を掲載。日本の抱えるジェンダー問題に言及した。

この記事は印象的なタイトルと写真と共にSNSで広がり、ネット上では「恥ずかしい」「写真が全てを物語っている」など、国内外から多くの反応が寄せられた。

つい先日発表された世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数2023」では、日本は146カ国中125位。特に政治参加分野では「世界最低レベル」の138位だった。

この記念写真を見て、改めてそのランキングに納得する人も多かったようだ。【6月27日 HUFFPOST】
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本気度・スピード感が問われていますが、先日の日本の難民対策でも述べたように、単に政府や企業の姿勢だけでなく、最終的には国民の意識、特に女性の意識に依る部分が小さくないでしょう。

極論すれば、「日本の女性は家庭に入って、良妻賢母として生きることを望んでいる。だから、ジェンダーギャップなんて意味ない」ということであれば、余計なお世話でしょう。

確かに、一部女性にそういう意識が見られるのも事実であり、そのことを男女平等を是とする価値観のなかにどのように位置づけるのかはひとつの問題でしょう。

ただ、もっと社会参加を望んでいるにもかかわらず、いろんな事情でそれが果たせない女性も少なくないでしょう。
そうした面を考えれば、日本社会の現状は変革を要するところが多々あると思われます。

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米国務長官訪中で「正しい道筋にある」 しかし、中国に厳しい米世論・議会 「独裁者」発言の影響も

2023-06-26 23:25:48 | アメリカ

(【6月20日 東京】 物議を醸した習近平(中央)・ブリンケン(左)会談の席配置 「格下扱い」と言われてもいますが、実際「格下」です。ただ、これまでは“横に並べた椅子に一対一で座る形”だったとか)

【米国長官の訪中 米中双方の思惑もあって、とりあえずは「正しい道筋にある」との評価】
アメリカ国務長官としては約5年ぶりに訪中したブリンケン米国務長官は18日に中国の秦剛外相と、19日には中国外交トップの王毅・共産党政治局員と会談、そして19日には行われるかどうか注目されていた習近平国家主席との会談も行われました。

特に具体的成果があったという訳でもありませんが、米中双方とも今回訪中を一応前向きに評価しています。

****米中関係は「正しい道筋にある」 バイデン大統領、長官訪問を評価****
バイデン米大統領は19日、ブリンケン国務長官の中国訪問に対する評価を問われ、米中関係は「正しい道筋にある」と述べた。訪問先の西部カリフォルニア州で記者団の質問に答えた。長官訪中によって一定の関係改善が図られたとの認識を示した。

米側は、中国側との対話継続を通じ衝突のリスク軽減を図りたい考えだが、緊張が高まる台湾情勢など偶発的な軍事衝突の回避に向けた軍同士のハイレベル対話再開につながるかどうかは見通せない。

バイデン氏は国務長官として約5年ぶりとなったブリンケン氏の訪中を「大きな仕事をした」とねぎらった。ブリンケン氏は習近平国家主席らと会談した。【6月20日 共同】
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****米中会談 習主席が訪中を評価 ブリンケン国務長官は関係改善に期待も「道険しい」****
バイデン政権の閣僚として、初めて中国を訪れていたアメリカのブリンケン国務長官。注目されていた習近平国家主席との会談が19日午後、実現しました。

習主席:「双方はいくつかの具体的な問題において、進展を得て共通認識を達成した。これは、とても良いことだ」

中国メディアによりますと、習主席はブリンケン国務長官の訪問を評価し、「中国はアメリカの利益を尊重し、挑戦したり取って代わったりしようとしない」と強調しました。

習主席:「国務長官の今回の訪中が、中米関係の安定に積極的な役割を果たすよう願っている」

ブリンケン国務長官は、会談後の会見で、米中関係の改善に期待を寄せる一方…。
ブリンケン国務長官:「道は険しい。1回の訪問や対話で、できることではない。しかし、双方が必要と考えることを実行することは重要だ」【6月20日 テレ朝news】
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米中対立が進むなかで、“中国側との対話継続を通じ衝突のリスク軽減を図りたい”アメリカ、コロナ禍からの経済回復がイマイチの状況で、本音として今後の経済状況の足かせとなるアメリカとの経済的関係悪化は避けたい中国、双方の“これ以上の関係悪化は望まない”思惑が合致してのブリンケン米国務長官訪中でしたが、大きなトラブルもなく終わって、上記のような“まずまずの結果”という評価にもなっています。

当然ながら、ブリンケン国務長官の「道は険しい。1回の訪問や対話で、できることではない」という発言が実際のところですが、この秋の習近平国家主席の訪米、バイデン大統領との首脳会談も行われることになって、「正しい道筋にある」(バイデン大統領)ということにも。

****習主席×ブリンケン長官 米外交トップの「面会希望」は渡りに船?……習主席のホンネとは 米側は“ギリギリ”で一歩進展****
(中略)
有働由美子キャスター
「中国・北京で19日午後、習近平国家主席が顔を微妙に緩め、アメリカの外交トップのブリンケン国務長官と握手をしました。今、米中関係が緊張している中で約35分間面会が行われました」(中略)

「ブリンケン長官に習主席が会うのか会わないのか注目されていましたが、結果面会しました。これは進展したと見てよいのでしょうか?」

小野高弘・日本テレビ解説委員
「はい。ブリンケン長官は、北京を発つ前ギリギリで習主席に会えました。『会えたのは大きい、よかった』というところでしょう。アメリカはなぜ今、習主席に会いたかったのか。習主席はなぜ会うと決めたのか。日本はどう見ているのか。3つのテーマで考えます」

■アメリカが「今が大事」と考える理由
小野委員 
「まずアメリカは『今が大事』と考えていました。中国の偵察気球をアメリカが撃ち落としたり、台湾問題で緊張が高まったりしています。アメリカ軍と中国軍との間で意思疎通もできていないため、予期せぬ衝突が起きかねません」 「だから今こそ、アメリカはコミュニケーションを求めています」

「そして大事なのは習主席との首脳会談です。今年秋にG20などの国際会議があります。その場で首脳同士は否が応でも顔を合わせます。そこで首脳会談ができないということになると、緊張感が増してしまいます。秋に向けて準備を始めるなら、今がギリギリです」

■中国総局の記者に聞く 習氏のホンネ
(中略)
小野委員
「習主席はすましているようですが、中国総局の富田記者の見方では『コロナ後の経済回復が進まず、アメリカなどから投資を呼び込みたい』『アメリカと関係改善をすれば、仲間の日本、ヨーロッパ、韓国も中国に理解を示すのでは』といった本音があります」

「一方で『国内向けにはアメリカにすり寄っている姿は見せられない』『ブリンケン長官が来て面会を希望し、首脳会談を提案してくれるのは“渡りに船”』とも考えていると、富田記者は見ています」(後略)
(6月19日『news zero』より)【6月20日 日テレNEWS】
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面子を重視する中国側としては、秋の米中首脳会談を実現するためにも、先ずアメリカ側から国務長官が訪中して要請があったので・・・という形をとりたいのでしょう。

ただ、台湾問題などでの不測の事態を避けるためにもアメリカは軍同士の対話の再開を望んでいますが、再開は実現していません。「道は険しい」というところでしょうか。

****米中 軍同士の対話再開実現せず 習主席との会談で進展の一方で****
中国の習近平国家主席は、アメリカのブリンケン国務長官と会談し、いくつかの進展は見られたものの、軍同士の対話の再開は実現せず、課題も残した。(中略)

中国は、アメリカ側が関係改善に向けて歩み寄ってきた構図を演出しながら、安定を図りたいのが本音だが、すべて順風満帆とはいかないもよう。

ブリンケン長官と王毅、秦剛両氏らとの話し合いは10時間を超え、そのあと、習主席との会談が実現した。
外交当局者の2人が、台湾問題などで厳しい立場をアメリカに伝える一方、習主席は「健全で安定した中米関係を望んでいる」と述べて、冷え込んだ両国の関係を改善する用意があることを強調した。

高官レベルの交流など、進展が見られた一方で、軍同士の対話の再開では合意できず、ある外交筋は「安全保障上の信頼はできていない」と、関係がいまだ不安定であることを示唆した。

アメリカとの融和を望みつつ、対外的には強気の姿勢を崩せないのが中国の現状で、今回は、互いが歩み寄りの1歩を踏み出したが、不安や不信は残されたままだといえる。【6月20日 FNNプライムオンライン】
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【アメリカ国内 世論・議会は対中国で厳しい姿勢 容易ではない今後の関係改善】
中国側の強気の姿勢を垣間見せたのが習近平国家主席との会談での席の配置。 “まるで皇帝にひれ伏す外国使節”(近藤大介氏)【6月22日 JBpress】といった批判も。

****米長官の会談、習氏の講話聞くような異例配置****
中国の習近平国家主席が19日、北京の人民大会堂でブリンケン米国務長官と会談した際の席の配置が「異例」だと注目されている。

習氏はコの字形に並べられた机の議長席のような位置に1人で着席。ブリンケン氏ら米国側と、王毅(おう・き)共産党政治局員ら中国側がそれぞれ向かい合って習氏の講話を聞くような形だった。

習氏は、過去に米国務長官と会談した際には横に並べた椅子に一対一で座る形をとっていた。米政府系のラジオ自由アジア(RFA)は今回の配置について、中国では「部下が上司に報告する場面」に相当すると伝えた。【6月20日 産経】
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“対外的には強気の姿勢を崩せないのが中国の現状”・・・・アメリカ側も国内的に「弱腰」ととられるような譲歩はできないという点では同じです。

アメリカ国内世論の中国に対する視線は厳しさを増しています。

****米最新世論調査、「中国に好感」わずか14%に―台湾メディア****
2023年6月20日、台湾メディアNewtalk新聞は、米シンクタンクが同国内で実施した世論調査で、中国に好感を持っている人の割合がわずか14%にとどまったことが分かったと報じた。

記事は、米シンクタンク、ピュー・リサーチ・センターのアメリカン・トレンド・パネル(ATP)による最新の世論調査で、中国を肯定的に捉えている米国人の割合が14%に低下し、過去最低となったと伝えた。

そして、中国を嫌う理由について、「ロシアとのパートナーシップ」が90%と最も高くなり、以下「台湾海峡を緊迫化させている」(84%)、「中国の軍事力」(84%)、「中国の人権政策」(83%)、「中国の技術力」(83%)、「中国経済との競争」(81%)、「世界の平和と安定を損なうから」(80%)、「他者の利益を無視するから」(77%)、「他国の問題に干渉するから」(77%)などが続いたとしている。

また、大部分の米国人は中国とアメリカが協力して国際紛争や気候変動、感染症のまん延を解決することは不可能と考えているものの、貿易や学生交流では協力できると認識しているとも伝えた。(後略)【6月24日 レコードチャイナ】
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こうした世論もあって、現実的対応を探るホワイトハウスに対し、アメリカ議会は中国に対し強硬な姿勢をとっています。

****弱腰過ぎたブリンケン訪中、米下院外交委が国務長官召喚へ****
バイデンの対中政策が俎上に
バイデン政権は、アントニー・ブリンケン国務長官の訪中で米中閣僚の相互往来を含む高官対話を再開する方向に舵を切った。

その延長線上には習近平国家主席の11月訪米がある。「世界のステーツマン」であることを誇示したい習近平氏にとっても渡りに船だろう。習近平氏は、11月にサンフランシスコで開かれるアジア太平洋経済協力首脳会議(APEC)に出席、その際にジョー・バイデン氏との首脳会談を持ちたいとの意向のようだ。

一方、ジョー・バイデン大統領も米国内で米中首脳会談を実現し、再選に弾みをつける戦略を秘かに目論んでいるという。

現実的な外交では、中国とロシアの二正面展開を避けたい米国、政治的、軍事的、経済的封じ込めを打開して経済回復を急ぎたい中国――。

バイデン氏と習近平氏の虚々実々の思惑が交錯する中で、露払い役のブリンケン氏訪中の役割は、米メディアの報道による限り一応成功したかに見える。 もっとも、当初からブレークスルーは期待されていなかった。期待度が低いだけ、失点も目立たなかった。

バイデン政権としてはこの後、ジャネット・イエレン財務長官、ジーナ・レモンド商務長官、ジョン・ケリー気候問題特使を北京に送る一方、秦剛外相をワシントンに招いて米中首脳会談の道筋を作る算段だ。

だからと言って、米大統領選を来年に控えた米国でバイデン氏の描く対中政策が筋書通りに行く保証はどこにもない。 米国民から見ると、ブリンケン訪中はそれほどの関心事ではない。

米国民の中国嫌いは異常だ。米国民の50%が「中国は最大の敵」と答えている。10人中8人が「中国が嫌いだ」と答えている。 党派別に見ると、「中国が好きだ」と答えたのは民主党支持者では18%、共和党では6%、無党派層では17%となっている。

その中国とコミュニケーションの場を作り、双方の相違をお互いに分かり合おうという「東部エリート的、上から目線」の説得は今の米国の一般国民には通用しない。

米一般国民は戸惑うだけだ。元々、一般国民は外交などには関心がない。だが選挙ともなれば、大統領以下、上下両院議員を決めるのは彼らなのだ。

スパイ気球の決着はついていない
(中略)

中国共産党にやりたい放題させている!
となれば、国務長官が5年ぶりに訪中し、習近平氏はじめカウンターパート(2人いる)の秦剛外相、王毅国務委員(外交担当)と会った際には、台湾問題では米国側の基本的姿勢を堂々と言うべきだった。

(ブリンケン氏は習近平氏との会談後、数十分にわたった記者会見で十二分に米国の立ち場を説明したと強調したが、共和党反中派の面々は全く納得していない)

(中略)こうした一連の動きの中でマコール氏(下院外交委員長(共和、テキサス州選出))は、6月16日、ブリンケン氏に対し召喚状を送付し、下院外交委員会でバイデン政権の対中政策の全容について説明するよう求めた。

同氏は、召喚状を出すに当たってこう指摘している。
「バイデン政権は中国共産党の国際舞台での振る舞いを勇気づけている。バイデン政権は、中国共産党が米国の主権を脅かす行動を合法化させる以外の何物でもない」

「バイデン政権は中国がスパイ気球を飛ばしてわが国の領空を侵犯するという挑発行為にただ手をこまぬいて無能な対応をしている」「バイデン政権は台湾との軍事的連帯を誇示するのをためらいがちだ」

下院に新設された米中戦略的競争特別委員会のマイク・ギャラガー氏(ウィスコンシン州選出)は、「バイデン政権は中国に対する軍事的抑止力を弱体化させて、一体何をしようというのか」と、国防費歳出をめぐる議会審議で徹底的に追及するとしている。

ブリンケン訪中に一定の評価を与えている国際世論や外交専門家の見解とは裏腹に、ロンドン経由でワシントンに戻るブリンケン氏を迎えるワシントンの空気は冷ややかだ。【6月21日 高濱 賛氏 JBpress】
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【「独裁者」発言 米中関係の緊張緩和に水を差すことにも】
バイデン大統領の「独裁者」発言が飛び出したのも、こうした強硬な世論・議会が念頭にあって、中国への厳しい姿勢をみせる必要がある・・・という思いがあってのことでしょうか。あるいは、単に高齢で外交的配慮を忘れたか。

****バイデン米大統領、中国の習近平国家主席を「独裁者」と表現****
バイデン米大統領は20日、米カリフォルニア州での資金調達イベントで中国の習近平国家主席を独裁者と表現した。

前日には、ブリンケン米国務長官と習主席が両国間の緊張緩和に向け北京で会談を行っていた。

バイデン氏は中国の偵察気球が2月に米本土上空に飛来したことについて「貨車2台分のスパイ機器を載せた気球を私が撃ち落とした際、習近平氏がひどく気分を害したのは、彼が気球の位置を把握していなかったからだ」と発言。

その上で「これは独裁者にとって非常にきまりが悪い。何が起きたか知らなかったのだから。(気球は)あの場所を飛行しているはずではなかった。コースを外れたのだ」と述べた。

米中間ではこの問題や米国と台湾の当局者往来などを背景に緊張が高まった。

バイデン氏はまた、習氏が日米豪印4カ国による安全保障の枠組み「クアッド」に懸念を抱いていたとし、クアッドで中国を包囲する意図はないと同氏に伝えたことを明かした。【6月21日 ロイター】
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「独裁者」云々はアドリブだったようです。
当然に中国側は「強烈な不満」を表明して反発していますが、自身の高齢が問題視されていること、世論・議会が中国に厳しいことなどを考えると、大統領として発言撤回もできません。

“米中関係に「影響はない」と述べ、発言を撤回しなかった。習氏との会談が近く実現すると「期待している」と話した。”【6月23日 共同】とのことですが、「正しい道筋にある」米中関係の緊張緩和に水を差すことにもなっています。

前述した軍同士の対話再開の障害となっている制裁措置解除に向けた話も出ていましたが、議会の動向、「独裁者」発言の影響を考えると、しばらくは難しいかも。

****アメリカ、中国国防相への制裁解除を示唆 軍同士の対話再開へ協議****
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は20日の記者会見で、中国政府が要求している李尚福(り・しょうふく)国務委員兼国防相に対する制裁の解除について、両国間で協議していることを示唆した。中国側は、制裁を理由に米政府が呼びかけた6月上旬の米中国防相会談の実施を拒否している。(後略)【6月21日 毎日】
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“バイデン大統領は16日、コネティカット州で開催された銃規制法案をめぐる会合で演説し、スピーチ原稿にはない「女王陛下万歳!」という米大統領としては極めて異例な表現で締めくくり、波紋を呼んでいる。”【6月20日 時事】

エリザベス女王はすでに亡くなっていますし、どうして米大統領が・・・不用意な発言、問題発言は誰しもあるところですが、バイデン大統領の場合、どうしても「高齢」と結び付けられて「大丈夫?」という話にもなりがちです。

大統領選挙に向けて、他に有力な候補者がいないところが民主党の悩みの種です。
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ギリシャ沖で転覆した移民船が明らかにする現実

2023-06-25 22:47:04 | 難民・移民

(沈没する前の漁船【6月23日 ロイター】)

【実際の死者は600人前後か?】
6月14日、リビアからイタリアへ向かう移民船がギリシャ沖のペロポネソス沿岸で転覆し、81名の死者が確認されていますが(生存者は104名)、船には最大750名が乗船したとも言われ、実際の死者数は確認されている数より500人ほど多いとも推測されています。

****死者は81人に ギリシャ沖の移民船沈没事故 最大750人が乗船か****
ギリシャ沖で数百人の移民を乗せた船が沈没した事故で、ギリシャ当局は81人の死亡を発表しました。

今月14日、移民を乗せた漁船がギリシャ沖で沈没した事故について、ギリシャの沿岸警備隊はこれまでに81人の死亡が確認されたと発表しました。

ロイター通信によりますと、船に乗っていたのは主にエジプト、シリア、パキスタンからの移民で、北アフリカのリビアを出発し、イタリアに向かっていました。

ギリシャ当局は密航に関わった疑いでエジプト国籍の男9人を逮捕していますが、船には最大750人が乗っていたという情報もあり、死者は数百人単位で増える可能性があります。【6月20日 TBS NEWS DIG】
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【ギリシャ当局 意図的に救助を行わなかったとの疑惑】
この移民船は誰にも知られずに転覆した“不幸な事故”ではなく、転覆する数時間前からその存在・トラブルで停止している状況が確認されており、関係機関・ギリシャ当局などが接触しています。

しかしギリシャ当局は意図的に救助を行わず、その結果、数百人規模の犠牲者が出たのではないか・・・と、転覆するまでの間のギリシャ当局の対応が疑問視されています。

****600人死亡した難民船「疑問の7時間」…ギリシャが知りながら無視したとの疑問提起****
14日にギリシャ南部の海岸で難民の密入国船が沈没し600人以上が死亡した中、「反移民」基調で国境統制を強化したギリシャ政府が難民を意図的に放置し最悪の人命事故を招いたという疑惑が提起された。 

ガーディアンは19日、船舶位置追跡会社マリトレースの衛星航法装置(GPS)航路追跡の結果、ギリシャの民間船舶「ラッキーセーラー」と「フェイスフルウォリアー」が沈没前にエンジン故障で止まっていた難民船の周辺で最小4時間にわたり動き回っていたと報道した。 

ギリシャ当局によると、この民間船舶2隻は沈没前日の13日午後3時ごろ地中海上で遭難したという難民船の連絡を受け水と食べ物など補給品を伝達しに向かった。それから4時間ほど難民船の周囲を回っていたというガーディアンの報道が出てきた。

ギリシャ当局が難民船の航跡と緊急状況を事前に知っていたものと推定される。 ガーディアンの報道内容は同日午後3時30分ごろに「海岸警備隊がヘリコプターで把握したところ難民船は安定した速度と正常航路を運航中だった」と報告したギリシャ当局の公式立場と相反する。

これに先立ち18日にBBCもこの難民船が沈没する前に少なくとも7時間にわたり同じ位置にいたものとGPSによる航路追跡の結果わかったと報道した。ギリシャ当局はBBCの報道をすぐに否認した。 

今回の事故は2015年に1100人が死亡した地中海難民船沈没事故後最悪の惨事だ。だがギリシャ政府の真相究明は一進一退している。 

ギリシャ政府が「沈没前に船舶は正常運航しており、ロープで結んだことはない」と明らかにしたが、現場に出動した海岸警備隊がロープで難民船を牽引しようとしたが転覆したという生存者の証言が相次いだ。
その後ギリシャ政府は「難民船上の難民の健康状態を確認するために船首にロープを短く結んだ」と覆した。 

(中略)衝撃を受けたギリシャは事故直後3日間の国家哀悼期間を宣言し、25日に総選挙を控えた各政党は公式選挙運動を一時中断した。 ギリシャ当局がもっと速やかに救助に出るべきだったという指摘も相次いでいる。

ギリシャ海岸警備隊は「沈没3時間前に漂流する難民船を救助するために到着したが、難民が助けを拒否した」と明らかにした。 だが難民人権団体はこの難民船が沈没する15時間前から遭難したと随時救助要請をしていたと反論した。国連はギリシャ政府に事故の真相調査を要求した。(後略)【6月21日 中央日報】
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EUの国境警備隊にあたる欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)からの救助支援提案にギリシャ当局が応答しなかったことも報じられています。

****移民船沈没事故、支援提案にギリシャが応答せず=EU当局****
(中略)欧州連合(EU)の国境警備隊にあたる欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)は23日、この移民船を監視する飛行機を送るという提案にギリシャ当局が応答しなかったと述べた。(中略)事故への対応が足りなかったとして、ギリシャは批判を受けている。 

BBCはまた、移民船が安全に航行を続けていたとするギリシャ沿岸警備隊の説明と食い違う証拠を入手している。 定員超過の漁船はリビアを出発後、6月13日朝に国際水域上でギリシャに向かっているところを発見された。 

発見したのはフロンテックスが運用する飛行機だったが、この飛行機は間もなく給油が必要となった。 フロンテックスは、この飛行機を再び漁船の状況監視のために派遣してもよいと、ギリシャの沿岸警備隊に連絡したが、応答がなかったと述べている。 

ギリシャ当局は、迅速な対応が足りなかったという指摘を否定。乗船者たちはイタリアに行くから放っておいてほしいと沿岸警備隊に伝えのだと、ギリシャは主張している。 

しかしBBCの調査では、この船は転覆するまでの少なくとも7時間、動いていなかったことがわかっており、当局の主張と食い違っている。 

ギリシャの沿岸警備隊は、フロンテックスの提案に応答しなかったという主張について、コメントを発表していない。(後略)【6月24日 BBC】
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EUは移民の上陸を抑えるため、玄関口となるギリシャの海上警備を財政的に支援してきました。フォンデアライエン欧州委員長はギリシャを「欧州の盾」と称賛したこともあります。

しかし、ギリシャ当局については、欧州を目指す難民や移民の上陸を阻む「プッシュバック(押し返し)」の横行が問題視されており、今回の事故でもその可能性が浮上しています。

【「自分たちの利益を守るためには厄介な連中は来てほしくない」 ギリシャ当局だけではない国民の心情 本音は難民を受け入れる気はない日本政府と国民も同じ】
ただ、この問題はギリシャ当局だけのものではないでしょう。ギリシャ当局が「押し返し」のような厳しい移民対応をとっていることはギリシャ国民も、EUも、欧州市民もうすうす知っていながら、そのことへの抗議の声を敢えてあげてこなかった・・・ということではないでしょうか。
そうしたギリシャ当局の対応によって、自分たちの利益が守られるという理解から黙認していたのではないでしょうか。

更に言うなら、こうした構図は欧州の移民対応に限らず、入管法改正が議論になった日本の難民対応でも見られる問題です。

国会の政党間では一定に“議論になった”としても、また、一定にメディアなどに取り上げられてはいるものの、広く国民を巻き込んだ真剣な議論とはなっていません。
はっきり言えば、国民は当局の難民対応に無関心であり、あるいは外国人受入れを厳しく制限している当局対応を許容しています。

****入管を責め難民を拒む矛盾...入管法改正問題の根本は「国民自身」にある****
<国民の議論を二分する入管法改正問題の根本は、難民条約を批准しながら議論を先延ばしにしてきた国民自身にある>

6月9日、改正入管難民法が国会で成立した。3回目以降の難民認定申請者が強制送還の対象となることから、メディアではこの法律が人権無視につながると懸念されている。また、参院法務委員会で採決時の混乱もあったため、世間の印象は非常に悪い。だが私は入管だけが悪者にされる世論には首を傾げてしまう。

日本が1981年に難民の地位に関する条約(以下「難民条約」)を批准してから40年がたっている。だが日本で難民が認定される割合は諸外国よりもかなり低いことは、ここ最近の改正入管難民法のニュースで一般に広く知られることとなった。

なぜこんなにも低いのか、入管当局が非人道的だからではないのか、という話の流れになることが多いが、私自身は入管のせい「だけ」にすることは考えものだと思う。(中略)

入管とは以前は入国管理局という法務局の内部部局だったが、現在の正式名称は出入国在留管理庁で、法務省の外局である。収容された外国人は2019年までの数年は年間1000人を超え、長期収容も問題とされてきた(コロナ禍以降は一時的に激減)。

収容された外国人の死亡事件が相次ぎ、現在とてもネガティブな印象を持たれていることは周知のとおりだ。21年に名古屋入管の収容施設でスリランカ人のウィシュマさんが亡くなるまでの経緯が遺族と弁護士によって明らかにされたが、確かに人道的とは言えない、厳格すぎる扱いがされているように思える。

そして最近は長期収容の是正が目的だという入管難民法の改正への大きな反対デモが続いた。だが14年に収容中のカメルーン人男性が適切な医療を受けられず死亡したことなど、以前から入管の人権侵害は報道されてきた。それなのに国民の多くはずっと変わらず、この仕組みを維持し続けている与党を選び続けているのだ。

収容者の扱いだけではない。難民認定においても、日本は非常に厳格だ。皆さんは、今年3月に出入国在留管理庁がホームページで掲載した、「難民該当性判断の手引」を読んだことがあるだろうか。これは、難民条約を細かく読み込み、その一字一句を解説し、難民かどうかを判断するためのガイドである。

全27ページのこの手引を頭に入れて審査することは、厳格にやろうとするほど迷いも多く、時間もかかり、認定は進まないだろうと思われる。

ましてや、難民はビザやIDカードなど自分を証明するものを出身国に置いてきている場合が多い。自分に起こったこと・起こり得たことを証明するものも持ち合わせてなどいない。

だからこそ彼ら彼女らは難民なのであるが、何の証拠も持たない人を、この手引でどの程度まで難民認定できるのか。難民支援を行う弁護士の集まりである全国難民弁護団連絡会議も「基準として厳しすぎたり、運用によって難民として認められる範囲が狭められたりするおそれ」があると指摘している。

ただ多くの難民を受け入れている国でも状況は同じで、自分を証明するものを何も持たない難民申請者がたくさんやって来る。だがドイツの年間難民認定者は5万3973人、カナダの難民認定率は51.18%である。対して日本での認定者は44人、申請者のうちの0.29%しか認定されていない(いずれも19年の国連、法務省のデータ)。

ではドイツやカナダが特殊なスキルを持って難民認定をしているかというとそんなことはなく、難民条約の規定に「合いそうな」場合は認定することにしているようだ。つまり日本のような厳格な審査はしていない。

日本は難民条約違反?
(中略)だがドイツは難民かもしれない、と考えられる人は積極的に認定する。厳格な審査ではたくさんの申請者を審査し切れず、本当の難民を認定から取りこぼしてしまうリスクが大きい、人道的に問題があると考えているのだ。

では日本がドイツやカナダのように、難民を積極的に受け入れる政策を掲げる党が政権を取る日は来るのだろうか。いや、そのような日は来ないだろう。今までの経緯から考えて、国民の大多数の賛成が得られるとは思えない。

それなのになぜ日本は難民条約を批准しているのか。70年代のインドシナ難民流出が直接の契機ということだが、その背後には大国としてのメンツや体裁があったのだろうか。(中略)

難民条約を批准しているが、本音は難民を受け入れる気はない日本政府と国民、その矛盾のしわ寄せが入管に来ているのだ。

本当は法改正よりも先に「ウィシュマさんがかわいそう」「入管ひどい」だけで話を終わらせず、これからの日本をどうするのか、この矛盾をどこまで続けるのかということについて国民が意見を持たないとならなかった。今からでもそうすべきだ。(後略)【6月20日 石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー、イラン出身)Newsweek】
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【事故船舶内での国籍と性による差別】
話をギリシャ沖で転覆した移民船に戻すと、単に数百名規模の犠牲者が出た、ギリシャ当局の対応が疑問視されているというだけでなく、“事故船舶内で国籍と性による差別があった”ことも指摘されています。

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一方今回の事故船舶内で国籍と性による差別があったという主張が提起された。

ガーディアンによると、生存者は陳述書で「パキスタン国籍者らが転覆時に生き残る可能性が低い甲板の下の階に追いやられた。女性と子どもも貨物室に乗せた」と話した。実際に確認された生存者は全員成人男性だ。【6月21日 中央日報】
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事故船には少なくとも209人のパキスタン人が乗船していたとみられています。

甲板の上か下では、転覆時の生存可能性が全く異なります。人々が密集した甲板下ではまず助かる可能性はないでしょう。

生存者が男性ばかりである理由として、“「女性たちは全員、子供を抱えたまま溺れた」と聞いた。信じがたい悲劇だ。”(シリア協会の事務総長)【6月25日 FNNプライムオンライン】という指摘もありますが、それ以前の問題もあったのでは。

【黒人移民を危険な移民船に追いやる差別も 「黒人向け欧州密航ルート」に流れ込むスーダン黒人難民】
民族差別ということで言えば、移民船内部だけでなく、移民船が出発する北アフリカにおいて激しい差別が存在し、そうした差別があるがために、差別される黒人などが命の保証のない移民船に身をまかせるしかない状況に追い込まれているという現実もあります。

****スーダン難民は密航船の出発地チュニジアへ 現地を揺るがす「アラブ人」と「黒人」の軋轢****
アフリカから粗末な密航船でヨーロッパを目指す移民・難民が引きも切らない。チュニジアから今年急増している黒人移民の密航ルートに、4月に政府軍と準軍事組織の間で戦闘が始まったアフリカ東部スーダンからの難民も流れ込み始めた。密航の出発地では、続々と集まる黒人の移民・難民への地元のアラブ系住民の不満もたまっていた。(中略)

洋上で阻止、「いっそ死なせてくれ」
取り締まり船の甲板上に連れてこられた彼らに出身国を尋ねると、ニジェール、ガンビア、ベナンといった西アフリカの国名とともに、数千キロ離れた東アフリカのスーダンという声がいくつも上がった。

赤いニット帽をかぶったオスマン・アブバカル(20)は、私をにらみながら吐き捨てるように言った。
「スーダンに安全はない。だから停戦の時に逃げてきたんだ。先に行かせてくれないなら、どうすればいいっていうんだ? いっそ海で死なせてくれ。国連だって助けてくれなかったんだ」(中略)

「スーダンは愛する母国だ。戦争がなければチュニジアやリビアなんかに来るもんか」
サハラ砂漠を越え、無政府状態が続くリビアに密入国したが、多くが道中で兵士に連行されたり行方不明になったりした。安全を求めて、さらに西に進んで隣国チュニジアに逃れた。

「でも仕事がなく、寝る場所すらなかった。雨が降っても公園に野ざらしだった」
アブバカルは私に、(チュニジア)スファックス中心部にあるその公園に行ってみてくれ、といった。「人間が暮らせる環境じゃない。まともに暮らせるなら、だれも命がけで地中海なんて渡らない」(中略)

その公園は、吐き気を催すほどの強烈な生ごみの臭いで満ちていた。チュニジア第二の都市スファックスの中心部で、城壁に囲まれたメディナと呼ばれる旧市街の市場に隣接した広大な公園だった。再造成のために、あちこち生ごみで埋め立てられていた。

風が吹くたびに異臭が拡散し、ポリ袋が舞う。そんな地元住民が寄り付かなくなった園内に、青年がたむろしていた。数人で立ち話をしたり、毛布をかぶって寝ていたり、椅子に腰かけてぼんやりしたりしている。ほとんどが戦闘勃発後にスーダンから逃れてきた若い黒人男性で、150人ほどいるという。アラブ系が多数派のスーダンだが、この街は少数派の黒人の脱出先となっていた。

スファックスはもともとアラブ系の地元チュニジア人が欧州に向かう密航拠点だったが、最近になって国内外から黒人移民が続々と集まるようになっていた。

その引き金は今年2月、チュニジアのカイス・サイード大統領が黒人移民を非難した演説だった。捜査当局による非正規滞在の黒人移民の一斉摘発が始まり、黒人へのヘイトクライム(憎悪犯罪)も急増した。

仕事を失ったり、部屋を追い出されたりした主に西アフリカからの出稼ぎの黒人移民がスファックスに逃れ、安価だが危険な「鉄板ボート」で欧州に脱出する動きが加速した。この新たな「黒人向け欧州密航ルート」に、戦闘で国を追われた東アフリカのスーダンからの黒人難民が流れ込んだ形となった。(中略)

スーダンを逃れた後、安全な地を目指してすでに4カ国目という高校生もいた。
ハミス・ガファクワル(18)は、ハルツームから西部ダルフール経由でチャドへ、そしてニジェールからサハラ砂漠を越え、リビアを経由してチュニジアにたどりついた。道中に通った難民キャンプで助けを求めたが、相手にしてもらえなかったという。

「スーダンで戦闘が行われているのは全世界の人たちが知っているはずなのに、誰も助けてくれません。どうして僕たちは、犯罪者のようにいつも野宿しないといけないんですか?」

際立つ存在感、ざわめく住民
(中略)アラブ系がほとんどの地元住民の中には、街の中心部で急速に存在感を高める黒人の姿に眉をひそめる人が少なくない。

路上でスマホを売るムハンマド(44)は「黒人は我々が商売していた場所を使って、見たこともない商品を売っているんだ」と警戒する。会社員ロトフィ・キック(64)は「我が国は清潔で美しかったのに、黒人が来てからひどい状態になった」と嫌悪感をあらわにし、「我々が路上で物を売れば逮捕されるのに、彼らは野放しだ」と取り締まりの徹底を訴えた。

カメラを回していると、魚屋のカレッド・アズージ(46)が話に割って入ってきて、スーダン難民が野宿する公園の方角を指さしてまくし立てた。「公園だって、やつらが侵入して乗っ取られちまったんだ!」

チュニジアを追い出されるように欧州に向かう黒人移民・難民が乗り込む鉄板ボートは沈没が相次ぎ、地中海中央部の5月末までの死者・行方不明者は、前年同期比約1・5倍の1030人に達している。(敬称略)【6月25日 新潮社Foresight】
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ロシア  プリゴジン氏・ワグネルの決起 プーチン大統領「裏切り者は罰を受ける」

2023-06-24 23:16:19 | ロシア

(24日、ウクライナと国境を接するロシア南部ロストフ州の州都ロストフナドヌーにある南部軍管区司令部の周辺に立つ民間軍事会社ワグネルの戦闘員ら(タス=共同)【6月24日 産経】)

【南部ロストフ州から更にボロネジ州へ モスクワの南500km】
ロシアのプリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネルの「反乱」だか「決起」だかの動きは、現在進行形で動いており、今後の推移はまったく不透明です。以下は、“賞味期限1日(数時間?)”の現況を取りまとめたものです。

プリゴジン氏とショイグ国防相や国防相・軍指導部の確執(と言うか、プリゴジン氏のショイグ国防相等への罵詈雑言)は以前からのものですが、プリゴジン氏は、ロシア軍指導部がワグネルの軍事キャンプを攻撃し、「膨大な数」の戦闘員を殺害したと今回行動を正当化しています。

ロシア国防省は、軍がワグネルを攻撃したというプリゴジン氏の情報は嘘だと否定しています。

ウクライナ東部に接するロストフ州に入ったワグネルは主要都市ロストフナ・ドヌーを統制下におき、更に北上してボロネジ州の軍事施設を支配下に置いたと報じられています。モスクワからは500km。

今後、モスクワに向けて進軍するのか、その場合、ロシア軍がどのように対応するのか・・・注目されています。

****ワグネル、ロシア南部ロストフの「空港と軍事施設を掌握」 ボロネジの軍事施設も支配下に…モスクワへ北上か プーチン大統領は「反乱」を徹底しておさえ込む姿勢****
ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、プリゴジン氏は24日、ロシア南部の主要都市、ロストフナドヌーにある「空港と軍事施設を掌握した」とのメッセージをSNSに投稿しました。

民間軍事会社ワグネル プリゴジン氏 「空港を含めてロストフの軍事施設を掌握した」

プリゴジン氏はまた「(ロシア軍の)南部軍管区司令部に入った」として、ロストフナドヌーを事実上統制下に置いたと強調しています。

また、ロイター通信はロシア当局者の情報として、ワグネルの戦闘員がモスクワから南におよそ500キロに位置する都市ボロネジの軍事施設を支配下に置いたと伝えました。ワグネルの部隊がロストフナドヌーからモスクワに向かい北上をはじめた可能性があります。

ワグネルはロシア軍と協力関係にありましたが、最近は関係が悪化し、プリゴジン氏は23日、ロシア軍から攻撃を受けたと主張した上で「全力で対抗する」などと報復を宣言していました。

ロシア プーチン大統領 「我々は裏切りに直面している。ロストフナドヌーの状況を安定させるため、徹底的な行動をおこす」

プーチン大統領はワグネルの行動を「反乱」だと非難した上で、徹底しておさえ込む姿勢を強調しました。

ウクライナ侵攻の戦況に影響を与える可能性もあり、ワグネルの今後の動きが注目されます。【6月24日 日テレNEWS】
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【プーチン大統領 「裏切り者は罰を受ける」 ただ、プリゴジン氏の名指しは避ける】
この事態にプーチン大統領はTV演説で「裏切り者は罰を受ける」と批判、プリゴジン氏の行為を「理不尽な野心と私利私欲」と非難しています。

****「裏切り者は罰を受ける」プーチン大統領が緊急演説 ロシアで内紛に発展か…プリゴジン氏の行為を「理不尽な野心と私利私欲」と非難****
ロシア民間軍事会社トップのロシア軍に対する報復宣言は、ロシア内紛に発展しつつある。これを受けプーチン大統領が緊急演説し「裏切り者は罰を受ける」と直接警告した。

プーチン大統領: 我々が直面しているのは裏切りだ。故意に裏切りの道を歩んだ者、武装蜂起を準備した者、恐喝やテロリズムの方法をとった者はすべて、避けられない罰を受けることになる

プーチン大統領は24日、緊急演説でこのように警告し、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏の行為を「理不尽な野心と私利私欲」と非難し、断固たる行動をとるよう指示したと述べた。【6月24日 FNNプライムオンライン】
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この演説の中でプーチン大統領はプリゴジン氏の名指しは避けています。まだプリゴジン氏を完全に切り捨てた訳でもない・・・のか?

これまで、プリゴジン氏はショイグ国防相やゲラシモフ軍参謀総長など軍指導部を激しく批判しているものの、プーチン大統領の直接批判は避けており、プーチン大統領への忠誠心はあるとされています。
プーチン大統領も、重宝するプリゴジン氏の言動を黙認してきた感があります。

ただ、事態が大きく動く状況で、プーチン大統領にしても、プリゴジン氏にしても今後は「腹をくくる」必要が出てくるようにも思えます。

****背景に軍内部の確執 ウクライナ戦況に影響も 神戸学院大・岡部芳彦教授****
ワグネルの武装蜂起は軍事クーデターとまではいえないが、規模は相当大きい。ロシアでは24日未明、当局がプリゴジン氏の捜査を始めたなどとする緊急ニュースが2回も流された。ウクライナ戦争後でもあまり見たことがなく、極めて異常な事態だ。

ワグネル部隊は正規軍に比べると、数で圧倒的に不利だ。今回進軍した南部ロストフナドヌーに加え、別地域に進軍する可能性も捨てきれないが、現時点でモスクワまで進軍するかは見通せない。

プリゴジン氏は官僚的で硬直化した既存の軍組織を嫌っており、ウクライナ侵攻の方針を巡り、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を批判してきた。武装蜂起は軍内部の確執を背景としたもので、政権転覆などが目的ではない。2人への私怨(しえん)や官僚主義の打破が主目的ではないか。

プーチン政権の発足から20年以上の間、側近同士の争いは数多くあったが、プーチン氏はウクライナ戦争が予想外に長期化した影響で、側近をコントロールできていない。武装蜂起はプーチン氏に余裕がないことの表れともいえそうだ。

プリゴジン氏はプーチン氏を直接批判したことはなく、忠誠心は今も変わらないはずだ。一方のプーチン氏も24日のテレビ演説で武装反乱を批判したが、プリゴジン氏を名指しせず遠慮気味な表現だった。まだプリゴジン氏への「情」が残っているのではないか。

ワグネルはプーチン氏の「私兵」と呼ばれウクライナ戦争でも貢献した。プーチン氏が「便利屋」として重宝してきたプリゴジン氏と手を切るのかが、今回の大きな注目点だ。そうなればプリゴジン氏が逮捕される展開もあり得る。

武装蜂起はウクライナの反転攻勢が本格化したタイミングと重なったが、ワグネルがウクライナに寝返るとは考えにくい。ただロストフナドヌーはウクライナ国境に近い。露軍の出兵拠点でもあり、展開次第ではウクライナでの露軍の動きが鈍くなり、戦況に影響を与える可能性がある。【6月24日 産経】
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プーチン大統領の演説に対し、プリゴジン氏は「大統領は大きな間違いを犯した。我々が愛国者だ」とプーチン批判と取れる主張をして、強気の姿勢を崩していません。

****プリゴジン氏「我々こそ真の愛国者」抵抗の構え プーチン大統領演説受け強気の構え****
武装蜂起したロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジン氏が新たな声明を発表し、「我々こそが愛国者だ」と抵抗を続ける構えを見せました。

ロシアのプーチン大統領は24日の演説で武装蜂起した「ワグネル」は「裏切り者」だとしてロシア軍などに鎮圧を命じました。

演説からおよそ2時間後にプリゴジン氏がSNSで新たな声明を発表し、「大統領は大きな間違いを犯した。我々が愛国者だ」と主張しました。

「我々は汚職や欺瞞(ぎまん)、官僚主義に対して戦っている愛国者だ」と強調し、ウクライナで戦っている間に官僚らは自らの懐を肥やしていたと痛烈に批判しました。

プリゴジン氏はそのうえで、プーチン大統領や治安当局の要請に応じて自首する者はいないだろうと強気の姿勢を見せています。【6月24日 テレ朝news】
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【数で圧倒的に不利な「叛乱軍」は殲滅される・・・のか?】
“ワグネル部隊は正規軍に比べると、数で圧倒的に不利だ”ということですが、ロシア軍の空洞化はウクライナで露呈しています。

素人考えでは、プリゴジン氏・ワグネルの「反乱」を鎮圧するために、ロシア軍はウクライナの前線に配置した主力を動かす訳にはいかないでしょう。動かすと、そこからウクライナの前線が崩壊する危険があります。

モスクワ周辺のロシア軍でワグネルを止められるのか?

プリゴジン氏の方も、そうしたロシア軍の状況を前提にした行動・・・でしょうか。

“(プリゴジン氏は)戦闘員がロストフ州に入った際には兵士や警察などがうれしそうに出迎えたと主張しています。”【6月24日 テレ朝news】 こうした現場のプリゴジン氏・ワグネルへの反応も、今後の状況に大きく影響します。

プリゴジン氏はショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に対して面会に来るよう要請しており、「来なければモスクワに向かう」と恫喝しています。

****プーチンに反旗を掲げたプリゴジン、ロシア南部の軍司令部占拠か 国防相らに面会要請「来なければモスクワに向かう」****
ロシアの民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は24日、ソーシャルメディアに投稿した動画で、ワグネル部隊がロシア南部ロストフ・ナ・ドヌを占拠したと表明。ロシアのショイグ国防相とゲラシモフ軍参謀総長に対し、面会に来るよう要請した。(中略)

通話アプリ「テレグラム」に投稿された別の動画で、プリゴジン氏は、「われわれはここにやって来た。軍参総長とショイグをここに迎えたい。来なければ、われわれはここに居座り、ロストフを封鎖してモスクワに向かう」と述べた。

この動画では、プリゴジン氏に行動を思いとどまるよう呼びかけるビデオを公表していたロシア軍のウラジーミル・アレクセーエフ中将がプリゴジン氏と一緒に映っていた。

一方、ロシアの治安当局筋は24日、ロイターに対し、ワグネル部隊がロシア南西部ボロネジの全てのロ関連施設を支配下に置いたと述べた。ボロネジはモスクワの南約500キロの位置にある。

プリゴジン氏は23日、ロシア軍上層部がワグネルの戦闘員を爆撃で大量に殺害したと根拠を明らかにせずに主張し、報復すると表明。24日には、ワグネル部隊がウクライナから国境を越え、ロシア南部ロストフに入ったと明らかにしていた。

また、自らの行動は軍事クーデターではないと主張しつつ、モスクワにある国防省の指導部を追放するため、2万5000人強の部隊が移動していることを示唆していた。【6月24日 Newsweek】
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上記記事にある“ウラジーミル・アレクセーエフ中将”が何者だか知りませんが、“プリゴジン氏と一緒に映っていた”というのは「プリゴジン氏の主張に賛同した」、もっと直截に言えば「寝返った」ということでしょうか?

ウクライナでの戦争に関して、より強硬な対応を求める強硬派にはプリゴジン氏に賛同する者も少なくないでしょう。

ロシア軍内部にそうした動きが広まれば、“ワグネル部隊は正規軍に比べると、数で圧倒的に不利だ”という現状もまた話が違ってきます。

今後の展開については、以下のようにも。

****ワグネル武装蜂起?ロシア軍に報復示唆 大規模クーデター発展の可能性は****
(中略)
■大規模クーデター 発展の可能性は…
果たして、プリゴジン氏の狙いは何なのでしょうか。元ANNモスクワ支局長・武隈氏によると…。

元ANNモスクワ支局長・武隈喜一氏:「ロシア軍のなかで戦っている兵士たちをワグネル側につけて、ショイグ(国防相)とゲラシモフ(参謀総長)の一掃を図る。新しい軍、自分たちが中心になったロシア軍を作ることが目的だと思う。ロストフの後は、首都モスクワに進軍を続けたい希望はあると思う」

大規模な軍事クーデターに発展する可能性は…。

元ANNモスクワ支局長・武隈喜一氏:「今のワグネルの兵力では、今のロシア軍を相手にしてはとても無理な攻撃だと思います。あと2日、3日…ロシア軍との戦闘のなかでワグネルが殲滅(せんめつ)されていく動きになっていくんじゃないかと思う」

一方、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ワグネルの攻撃はウクライナでのロシアの戦争に重大な影響を与えるだろうと伝えています。【6月24日 テレ朝news】
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“ワグネルが殲滅されていく動きになっていく”かどうかは、ワグネルをを迎え入れる現地やロシア軍内部のプリゴジン氏の「決起」への共感の有無にもよります。

【ロシア内部の混乱に期待するウクライナ】
ウクライナはロシア内部の混乱に期待しています。

****ロシア弱体化に期待=今後48時間がカギ―ウクライナ****
ウクライナのゼレンスキー大統領は24日、ロシア民間軍事会社ワグネルを巡る動きを受け、「ロシアの弱さは明白だ」と主張した。

ワグネルは東部の激戦地バフムトを巡る攻防戦などで、最前線に展開してきた。ウクライナ側では内紛でロシアの侵攻部隊が弱体化し、反転攻勢の追い風となることに期待が高まっている。

ゼレンスキー氏はツイッターへの投稿で「悪の道を選んだ者は皆、自らを滅ぼす」として、ロシアのプーチン大統領を非難。その上で、侵攻が長期化すれば、ロシアが自らに招く「混乱と苦痛も増大する」と訴えた。

ウクライナのポドリャク大統領府顧問も「(ロシア)中枢の仲たがいは明らか」で、表面を取り繕って問題解決を装うのはもはや困難だと指摘。事態は動き始めたばかりだとして、推移を注視する姿勢を示した。

その上でワグネルの創設者プリゴジン氏が失脚するか、内戦に陥るか、権力移行につながるか、今後48時間の動きがロシアの「新たな状況」の方向性を占うカギを握ると予測した。【6月24日 時事】
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【二・二六事件の決起を連想させるものも】
今回のプリゴジン氏の動きを見ていると、戦前日本の二・二六事件を連想するところもあります。

当時の日本陸軍内部には統制派と皇道派の内部対立があり、そうした確執を背景に一部青年将校らが「憂国」の念から「国家の改造」を求め、「君側の奸」を倒すべく決起に至った・・・しかし、陸軍中枢は動かず、天皇からも理解されず、「叛乱軍」として切り捨てられることに・・。

プリゴジン氏にも、単に権力闘争や野心だけでなく、ウクライナの戦場で目にしたものから、それなりのロシアに対する「憂国」の念があり、プーチン大統領周辺の「君側の奸」を排除せねばロシアが滅びる・・・との思いもあるのでしょう。

しかし、現段階ではプーチン大統領の理解は得られず、「叛乱軍」として処遇されています。

このまま「叛乱軍」として鎮圧されるのか・・・それとも、軍内部・世論の共感を得て、大きく拡大するのか・・・

なお、プリゴジン氏は「われわれはみんな、死ぬ覚悟ができている。2万5000人全員、そしてほかの2万5000人もだ」としていますが、実際問題としては思いがけずも「叛乱軍」となった兵士の心境はそう簡単ではないでしょう。二・二六事件のときもそうであったように。

ロシア国防省は24日、戦闘員への声明で「プリゴジンにだまされている」と呼びかけています。

それにしても、プリゴジン氏・ワグネルがウクライナの前線を離れた時点で、モスクワに向かうのではとの指摘もありましたが、そうはいっても所詮権力闘争の類だろうから、そこまでは・・・という感もありました。
「やる、やるとは聞いていたけど、本当にやるもんだね・・・」といったところでしょうか。
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トルコ  「地域大国」を実現しているエルドアン大統領を国民は支持 経済政策は正統派へ転換?

2023-06-23 22:02:07 | 中東情勢

(エルドアン大統領の勝利を喜ぶ支持者たち(AP)【5月29日 東京】)

【事前予測を覆し、ナショナリズムを背景にエルドアン大統領再選】
周知のように、トルコ大統領選挙の事前予測では野党統一候補のクルチダルオール氏が優勢であると分析されていましたが、5月14日の1回目の投票では現職エルドアン大統領が過半数には満たないもののリードし、5月28日の決選投票では約4%の差をつけて勝利しました。

かねてよりの強権的統治、加速するイスラム主義重視に加え、市民生活を困窮させる物価上昇などの経済政策の失敗、選挙直前に襲った地震被害拡大に対する責任など、エルドアン政治には問題も多かったのですが、「それでもやはりエルドアン大統領は強かった」というのが大方の印象。

****エルドアン大統領「再選」の背景にあるトルコ的なナショナリズムの「存在」****
ジャーナリストの須田慎一郎が5月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。エルドアン大統領が再選した理由について解説した。(中略)

エルドアン大統領が再選
(中略)
須田)その背景には、ある意味、トルコ的なナショナリズムがあったのではないでしょうか。1つは地域大国として、エルドアン大統領が存在感を発揮したということ。もう1つは、ヨーロッパに対するトルコあるいはトルコ国民の視線です。(中略)

トルコはNATOには加盟しているけれど、EUには加盟していません。エルドアン大統領以前は、EU加盟に向けて一生懸命やってきたわけです。(中略)

(EU側の要求に応えて)トルコサイドは譲歩に譲歩を重ねていたのだけれど、結果的にはEUに加盟できなかった。(中略)

トルコ国民には、ヨーロッパに対する複雑な思いがあるのです。結果的にエルドアン大統領は「EUに加盟しない」という方針を打ち出した。ヨーロッパに対抗し、地域大国としての地位を固めていくスタンスを取ったのです。今回は、そのスタンスに対する国民の大きな支持があったのだと思います。(中略)

経済政策で大失敗し、インフレを止められないなど、いろいろ問題はあるのだけれど、それ以上にナショナリズムの部分でトルコ国民はエルドアン大統領を支持したのだと思います。

ボスポラス海峡を押さえて存在感を強めるトルコ 〜「地域大国」を実現しているエルドアン大統領に対する、国民の支持がある
飯田)地域大国という意味では、実はウクライナと黒海を挟んでおり、小麦の船を通すなど独自の仲介をしています。

須田)かつ、イスタンブールでは海峡を押さえていますからね。(中略)トルコの影響力は非常に大きく、存在感を強めていると思います。(中略)

経済対策や地震対策などでは、ミスも多いのです。失政も多いのですけれど、結果的にそれを上回る熱い国民の支持がどこにあったのかと言うと、背景にはトルコ独自の存在感、「地域大国」を実現しているエルドアン大統領に対して、国民の支持があるのだと思います。(後略)【5月29日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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野党統一候補のクルチダルオール氏については、多くの異なる立場の勢力の“寄せ集め”としての弱み、特にクルド系政党との関係でのジレンマがありました。

勝つためにはクルド人の支持が必要ですが、逆に保守派からはそこが「テロ勢力と繋がっている」と攻撃を受けることにもなります。1回目投票でエルドアン大統領にリードを許した時点で事実上選挙戦は終わっていました。

****エルドアン勝利の大統領選 トルコの民主主義の行方は****
(中略)保守的な有権者の一部が(エルドアン与党)AKPを見限ったために、エルドアンは一回目の投票では勝利できなかったが、世論調査に現れない隠れた支持があった。

トルコのナショナリズムにも関係がある。クルチダルオールが勝つためにはクルド系の国民民主党(HDP)の支持を必要とすることは明らかだった。

それゆえ、彼は(非合法組織である)クルド労働者党(PKK)に繋がる勢力の側に寝返ったと描かれ易くなった。

その結果、エルドアンあるいは第3の候補シナン・オアン(ナショナリストで対クルド強硬派の)のいずれかに票が流れた。(後略)【6月5日 WEDGE】
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【今後の外交は、これまで同様全方位外交を基本とし、更なる独自色も 注目されるスウェーデンのNATO加盟承認への対応】
今後のエルドアン政治については、外交面ではトルコ人としてのナショナリズム高揚を背景に“(これまでを継承する)全方位外交を軸に、ロシアとウクライナの仲介をはじめ、これまで以上に外交で独自色を打ち出す可能性もある”とも指摘されています。

****エルドアン再選後のトルコは何を守り、何を変えるのか****
(中略)今回のトルコの大統領選挙では外交について争点になることが多かった。その要因は二つある。一つは、国際政治におけるトルコの重要性の高まり、もう一つはシリア難民の帰還や対テロ対策である。これらは外交と密接に結びついていた。

トルコの国際政治上での重要性の高まりはロシアのウクライナ侵攻に関連している。トルコは両国の間で積極的な仲介を行い、22年3月10日にアンタルヤで侵攻後初の両国の外相間会談、同年7月に国連とトルコがロシアとウクライナを説得する形でウクライナの小麦の輸出を可能にする穀物合意が実現し、現在に至るまで延長が繰り返されている。

一方、フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請する中、トルコは両国の加盟承認に難色を示した。フィンランドに関して、トルコは今年3月末に承認したものの、スウェーデンについては承認に至っていない(6月5日時点)。

次に、対テロ対策とシリア難民の帰還についてである。エルドアン大統領率いる公正発展党は01年の結党以降、「親イスラーム政党」とみなされてきた。

しかし、16年7月15日のクーデター未遂事件以降、トルコ人というアイデンティティーを前面に押し出すようになり、さらに右派政党の民族主義者行動党と密接な協力関係を築いた。

トルコ人というアイデンティティーを危機に晒すテロ組織に対して、断固とした対応をとるようになり、15年7月まで和平交渉を行っていた非合法武装組織、クルディスタン労働者党(PKK)に対しても一切の妥協を見せなくなった。

特にトルコが危惧したのが、「イスラーム国」対策で米国から武器の供与を受けた北シリアのクルド民族主義勢力である。トルコ政府は北シリアのクルド民族主義勢力とPKKを同一組織とみている。そのため、これまで北シリアに4度の越境攻撃を行っている。

また、現在トルコに340万人ほど在住しているシリア難民をシリアに帰還させるという点も与野党ともに選挙戦で言及した。もちろん、難民を強制的に帰還させるのではなく、帰還時の安全を保障することが不可欠である。

こうしたPKK対策、難民対応を実行するため、トルコ政府はシリアのアサド政権との関係正常化を視野に入れている。両国は11年3月のシリア内戦勃発後、関係が悪化し、同年10月に関係を断絶していたが、22年末から関係の改善に向けた動きが見られ始めた。

大統領選挙後のトルコ外交注目は湾岸諸国とスウェーデン
エルドアン大統領の再選が決まった中、外交はどのように変化するのだろうか。結論から言うと、これまで通り、トルコはその地政学的な特性や安全保障上の脅威に対抗するため、全方位外交を基軸とするとみられる。

(中略)もちろん、全方位外交といっても全ての隣接、近隣する国と等しく関係を築いたり、対応したりするわけではなく、重視する国や地域には濃淡があり、それは時代とともに移り変わる。

その意味で、大統領選挙後に注目されるのは湾岸諸国とスウェーデンのNATO加盟承認である。  

エルドアン大統領は、決選投票の数日前に停滞する経済のテコ入れとして、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)といった湾岸諸国からの融資を受けることが可能であると発言している。事実、ここ数年、三国とは通貨交換(スワップ)協定を結んでいる。(中略)

サウジアラビアとは、サウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏殺害事件で対立が深まったが、21年5月にメッカで両国の外相会談が実現したのを手始めに、22年4月にはトルコ国内でのカショギ事件の審理を停止し、審理をサウジアラビアに移管することを発表するなど関係も好転している。

23年3月には両国間で約50億ドルのスワップ協定を締結、さらにはトルコ・サウジアラビア・ビジネスフォーラムが実施され、3つの貿易協定が締結された。

スウェーデンのNATO加盟承認に進展があるかは今後のトルコと欧米の関係を推し量る試金石となるだろう。

トルコがスウェーデンのNATO加盟承認を渋っている理由は、PKKおよび16年7月15日のクーデター未遂事件を引き起こしたとみられているイスラームの新興宗教組織である「ギュレン運動」の関係者がスウェーデンで活動しているからであり、トルコ政府は両組織の関係者の引き渡しを求めている。

右傾化しているエルドアン政権がこの問題でどこまで妥協するのかが焦点となる。普通に考えれば承認は困難だが、選挙が終わったこともあり、また、全方位外交の観点からPKK関連組織の活動停止などを妥協点として翻意する可能性も十分考えられる。

トルコとの関係強化が国際秩序安定への重要な一手に
以上、見てきたようにトルコの〝全方位外交〟という基軸は変わらないだろう。その中で留意すべきは、エルドアン大統領には欧米が主導する国際秩序形成への不満があり、トルコが国際社会でより大きな役割を果たせるという自負が見られることだ。  

トルコには元来、オスマン帝国の後継としてのナショナル・プライド(自尊心)がある。さらに、ヨーロッパ、旧ソ連圏、中東の結節点という地政学的な特徴から国際政治上でその重要性がたびたび指摘されてきた。(中略)

だが、近年、北シリアのクルド民族主義組織への支援に代表されるように、欧米は自分たちの利益や安全保障上の戦略を優先させ、トルコに配慮を見せなかったことで、エルドアン大統領の欧米不信は強まっていった。(中略)

大統領選挙後のトルコは全方位外交を軸に、ロシアとウクライナの仲介をはじめ、これまで以上に外交で独自色を打ち出す可能性もある。プラグマティズムとナショナル・プライドの間でエルドアン大統領がどのような判断を下していくか、そこに欧米や日本がどう関与していくかに注目したい。【6月22日 WEDGE】
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注目されているスウェーデンのNATO加盟承認に関しては、欧米側の期待は強まっていますが、現段階ではエルドアン大統領はまだ変化を明らかにしていません。

****スウェーデンのNATO7月加盟、エルドアン氏は否定的****
北大西洋条約機構が7月に首脳会議を開催する前に、スウェーデンの加盟を批准するよう国際的圧力を受けているトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は14日、これを一蹴した。

トルコ大統領府の発表によると、エルドアン氏は「スウェーデンは期待しているだろうが、われわれがそれに応えるとは限らない」「期待に応えてほしいなら、何よりもまず、スウェーデンがすべきことをしなければならない」と述べた。(中略)

エルドアン氏はスウェーデンの首都ストックホルムで今月、トルコ政府がテロ組織とみなす団体を支持するクルド人による抗議デモがあったことを指摘。トルコはスウェーデンに対し、こうしたデモを禁じ、取り締まるよう要求している。

エルドアン氏は「(スウェーデン側が)対処しないのならば、われわれもサミットで(同意)できない」と述べた。 【6月14日 AFP】
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【経済政策はオーソドックスな方向に変化か?】
一方、インフレにもかかわらず低金利政策をとるという、経済学教科書に反する奇妙な対応をとっていた経済政策に関しては変化の兆しが見られます。

エルドアン再選を受けて、高インフレにもかかわらず金利を引き下げるなど、長年にわたる型破りな政策からの変化を求めていた市場は落胆、通貨安に歯止めがかからない状況が続いていましたが、政策立案のベテランであるシムシェキ元財務相が新財務相に任命されたことから、よりオーソドックスな経済政策への回帰観測が出ています。

シムシェキ氏は就任時には「理にかなったやり方に戻る以外にない」と述べ、金融政策の「常道」への回帰を示唆しています。

併せて、中央銀行トップに米銀行などでの勤務経験を持つハフィゼ・ガイェ・エルカン氏が女性で初めて就任しています。

****トルコ、インフレ抑制へ経済政策転換か 財務相にシムシェク氏を起用****
5月の大統領選で勝利したトルコのエルドアン大統領は(6月)3日、新たな内閣を発足させ、財務相にシムシェク元副首相を任命した。

シムシェク氏は2007〜18年まで財務相、副首相などを歴任し、トルコの経済成長を支えた人物。エルドアン政権は今後、インフレ抑制のための政策転換を図る可能性がある。

エルドアン政権は21年以降、欧米諸国がインフレ抑制のために利上げに踏み切る中、景気刺激を狙って逆に利下げを実施。その結果、通貨リラは暴落し、インフレ率は一時80%以上を記録するなど、市民生活は苦境に陥っている。

エルドアン氏はこれまで、政府の方針を批判した中央銀行総裁や財務相を更迭して独自の政策にこだわってきた。だがシムシェク氏の財務相起用は、経済政策の転換を示唆している。シムシェク氏は、欧州の金融機関などで長く勤務したエコノミストで国外からの評価も高く、投資の増加も期待できる。【6月4日 毎日】
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そしてトルコ中央銀行は22日、主要政策金利を8.5%から15%に引き上げることを決めました。

****「物価高でも利下げ」独自路線のトルコ 2年3か月ぶりの利上げを決定****
トルコ中央銀行は22日、主要政策金利を8.5%から15%に引き上げることを決めました。エルドアン政権のもと、物価高にもかかわらず異例の低金利を強行してきたトルコですが、2年3か月ぶりの利上げとなります。

トルコ中央銀行は22日の金融政策決定会合で、主要政策金利を現状の8.5%から6.5%引き上げ、15%にすることを決めました。利上げは2021年3月以来、2年3カ月ぶりです。

トルコでは去年、一時、前年比で80%を超えるインフレ率となり、先月も40%近くを記録しました。

エルドアン大統領の意向に沿い、中央銀行は物価高でも金利を下げるという異例の対応を続けてきましたが、エルドアン氏は5月の再選のあと、財務相と中央銀行総裁を刷新し、政策転換を示唆する発言をしていました。

トルコ中央銀行は声明で「金融引き締めは、インフレ見通しの大幅な改善が達成されるまで、適時かつ段階的に、必要な限り強化される」としていますが、エルドアン氏は「金利を下げれば物価は下がる」という独自の理論は変えておらず、利上げがいつまで続くのかは不透明です。【6月23日 TBS NEWS DIG)】
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ただ、市場関係者は平均で21%への利上げを予想していましたが、予想より小幅だったため、利上げ発表直後にリラは売られ、対ドルで急落して最安値を更新しています。

エルドアン大統領はこれまで、インフレを抑えようと利上げをするなどした中央銀行総裁を次々と交代させてきた経緯があるだけに、中央銀行やシムシェッキ財務相の利上げ政策が今後も続くかが注目されています。
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パレスチナ  中国の和平仲介 しかし、悪化する「暴力の応酬」 イスラエルは入植地拡大政策を止めず

2023-06-22 23:18:48 | パレスチナ

(中国・北京で、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長(左)と握手する習近平国家主席(2023年6月14日撮影)【6月15日 AFP】
アッバス議長も老けた・・・バイデン大統領(80歳)の高齢が懸念されていますが、アッバス議長は87歳。 彼に代わって自治政府を担い、更にはハマスとの統合を進めていく後継リーダーがいないことが、パレスチナ問題が混迷する一因でもあります)

【仲介の実効性はともかく、その影響力を誇示したい中国 資金援助拡充が狙いのパレスチナ】
イランとサウジアラビアの関係正常化を仲介した中国・習近平政権は、その国際的影響力を世界に示すことにこのところ力を注いでいるようです。

実効性は疑問視されるもののウクライナ和平に関する提案も行っていますが、これもまた実効性にはかなり疑問はあるものの、パレスチナ和平に関する仲介の姿勢も見せています。

「大国」中国が国際和平仲介の姿勢を見せること自体は悪いことではないでしょう。実効性が今はなくとも、今後問題を取り巻く状況が変化したとき、何らかの糸口になる可能性もありますので。

****習近平氏、パレスチナ議長と会談 イスラエルとの仲裁に向け3提案****
中国の習近平国家主席は14日、パレスチナ自治政府のアッバス議長と北京で会談した。両氏は戦略的パートナーシップ関係の構築を宣言。習氏は「和平交渉の推進のため積極的な役割を果たしたい」と述べて、対立が続くイスラエルとパレスチナの仲裁に前向きな姿勢を示し、国際平和会議の開催の推進など3項目を提案した。

中国は、米国が中東での影響力を低下させるのに対し、サウジアラビアとイランの国交正常化を仲介して世界を驚かせるなど、存在感を急速に高めている。パレスチナ問題の解決に向けて主導的な役割を果たす姿勢を示すことで、中東を含む国際社会での影響力を高めたい思惑があるとみられる。

国営中央テレビによると、習氏は会談で「パレスチナの人々が民族の合法的権利を回復するのを断固支持する」と強調。「パレスチナ問題の全面的で公正かつ永続的な早期解決を推進したい」とも述べ、パレスチナ側と協力を強化する意向を示した。アッバス氏も「パレスチナは中国が正義のために立ち続けてくれることを確信している」と応えた。

パレスチナ問題について習氏は、「過激で挑発的な言動は控えて、パレスチナとイスラエルの平和共存のための実務的な努力を行うべきだ」と主張。

1967年の境界に沿った東エルサレムを首都とするパレスチナ独立国家の建設▽国際社会によるパレスチナへの支援の拡充▽平和共存を支援するための権威ある国際平和会議の開催の推進――の3項目を提案した。

一方で共同声明には「各国の国情に合った発展と政治体制の自主的選択を尊重する」「人権問題などを口実に他国の内政に干渉することに断固反対する」などと盛り込み、民主主義や人権を重視するバイデン米政権を強くけん制した。

中国は今年3月、断交状態にあったサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。また、4月中旬には秦剛国務委員兼外相がイスラエル、パレスチナ双方の外相とそれぞれ個別に電話協議し、和平協議の再開を呼びかけるなど積極的な外交を展開している。

ただ、中国が中東諸国への関与を強めることで、中東地域全体のパワーバランスが崩れる可能性もあり、中国としても難しいかじ取りが続きそうだ。【6月15日 毎日】
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なお、習近平国家主席は上記のように14日にアッバス議長と会談していますが、16日はビル・ゲイツ氏と、そして19日には周知のように“謁見する皇帝様と、かしずく外国使節の構図”(近藤大介氏 6月22日 JBpress)とも揶揄されるブリンケン米国務長官との会談・・・と、多忙です。 このあたりにも中国の国際的存在感の一端が垣間見えます。

中国がパレスチナ和平仲介に意欲を見せるのは、単に中国の存在感が増しているだけでなく、中東情勢に関して常に指摘されるように、アメリカのこの地域における存在感が薄れていることもあります。

中国はパレスチナ自治政府とは政治的にも、経済的にも一定の関係がありますが、アメリカ民主党政権とは反りが合わないとは言え、アメリカを後ろ盾とするイスラエルの方は現段階では中国仲介には無反応です。

****習近平氏がアッバス議長と会談、中東で米けん制の狙い…イスラエルは黙殺****
(中略)3月にサウジアラビアとイランの外交正常化を仲介した習政権は、パレスチナ和平にも積極的に関与する姿勢を示す。中東への影響力を拡大させ、対立する米国をけん制する狙いがある。(中略)

米国を最大の後ろ盾とするイスラエルと対立するパレスチナに対し、中国は長年、経済支援を中心に関係を築いてきたが、パレスチナの和平交渉は静観してきた。しかし、習政権はサウジ・イラン間の仲介で中東外交に自信を深め、政治的な関与を前面に打ち出すようになった。

習氏は昨年12月、サウジアラビアで行われたアラブ約30か国・機関との首脳会議に初めて出席した。内政不干渉を盛り込んだ宣言を打ち出し、中東諸国との関係強化をうたった。イスラエルに対しても近年、インフラ投資を進めてきた。背景には、中東に対する米国の関与低下がある。

パレスチナの和平交渉は主に米国が仲介してきたが、トランプ政権が2020年、エルサレムを「首都」とする和平案を発表し、パレスチナ側は猛反発した。アッバス氏は「米国はもはや公正な仲介者ではない」と不信感をあらわにした。

ただ、中国が複雑なパレスチナ問題にどこまで本腰を入れるかは不透明だ。消息筋は「硬直した課題をあたかも中国が動かそうとしていると見せることを重視している。和平交渉の真の仲介者にはなり得ないのではないか」とみる。

和平交渉の相手となるイスラエルは、中国の仲介に乗るつもりはない。米国が中国と覇権を争う中で、関わるメリットはないからだ。イスラエル政府はアッバス氏の訪中を黙殺している。【6月14日 読売】
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中国のパレスチナへの長年の経済支援・・・・今回のアッバス議長訪問で、自治区内で中国語教育を始めることで合意したとか。

パレスチナ側はともかく、イスラエルが中国仲介に乗ってこないことはアッバス議長も承知するところですが、今後の中国からの経済支援を更に強化してもらうところに狙いがあるとも指摘されています。

****パレスチナにも中国マネー、学校の看板に漢字で「中国援助」…付近には「中国道路」****
パレスチナで中国が存在感を高めている。パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長は15日まで中国を訪問し、協力関係の強化で一致した。自治政府の腐敗を問題視する欧米からの支援が停滞する中、中国の積極的な資金援助が目立っている。(パレスチナ自治区ラマッラ 福島利之)

中国語授業
自治区ヨルダン川西岸の拠点都市ラマッラ北東のアイン・メシュバフ地区に2021年5月、最新のコンピューターや太陽光発電施設を備えた3階建ての公立小学校校舎が完成した。

中国の資金で建てられたもので、校舎正面には「マドラサ・シーニー」(中国の学校)とアラビア語で大きく書かれている。その脇には、「中国援助」と漢字で書かれた看板が掲げられている。

カリキュラムは、他の学校と同じで、近所のパレスチナ人の小学生の男児約650人が通う。今回のアッバス議長の訪中で自治政府と中国は14日、自治区内で中国語を教えることで合意した。この学校でも、中国語の授業が始まることになりそうだ。

付近には、「中国道路」と呼ばれる中央分離帯に樹木が植えられた近代的な道路やロータリーが21年に完成した。地元記者は「この地区は自治区で最も整備された一角の一つとなった」と指摘する。

政治的役割
中国は、1950年代からゲリラ闘争を支援するなどパレスチナと良好な関係を保ち、パレスチナ解放機構(PLO)が88年に「国家独立」を宣言すると、5日後に承認した。最近は中東での米国の影響力低下に伴い、パレスチナ和平案を示すなどの政治的役割も前面に打ち出している。

欧米諸国は、自治政府の腐敗や人権問題を取り上げて支援を停止することが多い。自治政府の財政は困窮しており、条件を付けない中国からの支援が拡大している。

パレスチナの政治アナリスト、ムハンマド・ダラーハメ氏は、中国の影響力について「米国の保護下にあるイスラエルが中国を仲介役として容認しないことは自治政府も分かっている」と述べた。その上で、「自治政府が中国に最も期待するのは資金提供だ」と指摘した。【6月17日 読売】
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国際的影響力を誇示したい中国、資金援助拡充してもらいたいパレスチナ自治政府・・・そうした思惑があてのこんかい和平仲介のようです。

【絵に描いたような「暴力の応酬」が続くパレスチナ情勢】
足元のパレスチナ情勢は・・・と言えば、和平どころではなく、第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)以来とも言われるような悪い状態です。いつも言われるように「暴力・報復の応酬」が続いています。

****軍事衝突でパレスチナ人3人死亡 ヨルダン川西岸、イスラエル急襲****
イスラエル軍が占領するヨルダン川西岸で19日、軍が北部ジェニンの武装パレスチナ人を急襲、大規模な衝突が発生し、パレスチナ自治政府保健省によるとパレスチナ人3人が死亡した。

軍は西岸では異例となる戦闘ヘリコプターも使用。軍と武装パレスチナ人との対立が激化する中、大規模な衝突が情勢をさらに悪化させる可能性がある。

パレスチナ通信は負傷者が31人に上ると報道。地元紙ハーレツによると、西岸での空からの攻撃は2000年代初頭の第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)以来。イスラエル側も兵士ら7人が負傷した。【6月19日 共同】
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上記19日のイスラエルによる攻撃の犠牲者は続報では“パレスチナ人6人が死亡、90人以上が負傷し、イスラエル側でも7人が負傷”【6月21日 ロイター】とのこと。

20日には、今度はパレスチナ人がイスラエル人4日を殺害。

****イスラエル人4人死亡=パレスチナ人が銃撃****
イスラエルの占領地ヨルダン川西岸北部のユダヤ人入植地近くで20日、パレスチナ人の男2人が銃を発砲し、イスラエル人4人が死亡した。イスラエルのメディアが報じた。西岸では19日にイスラエル治安部隊の急襲作戦でパレスチナ人6人が死亡したばかりで、双方の衝突激化が懸念される。

報道によると、男2人は入植地付近に車で乗り付け、レストランで銃を乱射して3人を殺害。隣接するガソリンスタンドでも1人を殺した。

現場近くにいたイスラエル人がパレスチナ人の男1人を射殺。もう1人は車で逃走したが、イスラエルの治安部隊に殺害された。【6月21日 時事】 
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ガザ地区を実効支配するハマスによると、銃撃したのは同グループの武装組織メンバー2人。 パレスチナ自治区ジェニンでイスラエル軍が実施した急襲作戦への対応だと主張しています。

更に21日、今度はイスラエル軍がドローン攻撃。

****ヨルダン川西岸で暴力拡大、イスラエル無人機が武装組織の3人殺害****
ヨルダン川西岸地区のジェニン近郊で21日、イスラエルの無人機(ドローン)が武装したパレスチナ人3人を殺害した。占領下の同地区ではこのところ暴力が拡大している。

イスラエル軍(IDF)報道官は、ジャラマ付近で銃撃攻撃を行った武装勢力の一団が車内にいることを確認したとして、「これは脅威を取り除くためのものだ」とツイートした。

武装組織「イスラム聖戦」の声明によると、2人は同組織の戦闘員で、3人目はファタハ系武装組織「アルアクサ殉教者旅団」に属していた。

この数時間前、入植地エリ近郊の道路沿いのレストランでハマスの武装集団の発砲によりイスラエル人4人が殺害されたことへの報復として、イスラエル人の集団がヨルダン川西岸にあるパレスチナ人の町で暴徒化。パレスチナ保健当局によると、パレスチナ人1人が銃撃で死亡し、少なくとも1人が重傷を負った。

今年に入り、民間人を含む174人のパレスチナ人がイスラエル軍に殺害された。一方、ヨルダン川西岸、エルサレム周辺、イスラエルのいくつかの都市では、パレスチナ人による攻撃でイスラエル人24人と外国人1人が死亡している。【6月22日 ロイター】
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絵に描いたような「暴力の応酬」です。

【アメリカの憂慮・批判にも聞く耳を持たないイスラエルの入植地拡大政策】
懸念されるのは、こうした直接の衝突だけでなく、極右政党との連立政権であるイスラエル・ネタニヤフ政権のユダヤ人入植地拡大政策に歯止めがかからないことです。アメリカ・バイデン政権も憂慮を表明していますが、聞く耳を持たないようです。

****イスラエル入植地拡大で自制促す 米、2国家共存へ「障害」と訴え****
ブリンケン米国務長官は5日、有力なユダヤ系団体「米イスラエル広報委員会」(AIPAC)がワシントンで開いた会合で演説し、イスラエルによるユダヤ人入植地拡大やパレスチナ人住宅の破壊に反対すると強調した。イスラエル、パレスチナの2国家共存へ「障害となることは明らかだ」と訴え、自制を促した。

昨年12月に発足したイスラエルのネタニヤフ政権は対パレスチナ強硬路線を貫き、入植地拡大の方針を掲げる。ブリンケン氏は、パレスチナとの和平が遠ざかっていると不快感を示した。

米国やイスラエルを敵視するイランについて「核兵器保有を阻止するため、あらゆる選択肢を検討する」とした。【6月8日 共同】
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****イスラエル、ヨルダン川西岸で数千戸の住宅建築承認へ 米が反発****
イスラエル政府は18日、占領下のヨルダン川西岸地区で数千戸の住宅建設を承認する方針を明らかにした。米国はユダヤ人入植地の拡大がパレスチナとの和平交渉の障害になるとして反対している。

来週開かれるイスラエル高等計画委員会の議題に4560戸の住宅建設を承認する計画が盛り込まれた。

西岸地区で指導的役割を果たす国防省高官職を兼任するスモトリッチ財務相は「われわれれは入植地の開発を続け、同地区の支配力を強化する」と表明した。

諸外国の大半はユダヤ人入植地を違法と見なしている。

米国務省のマシュー・ミラー報道官はイスラエルの動きを深く憂慮していると表明し、緊張緩和の対話に復帰するよう呼びかけた。

「(イスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する)2国家解決の実現をより困難にし、和平の障害となるこのような一方的な行為に米国は反対する」と述べた。【6月19日 ロイター】
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2国家共存へ「障害となることは明らかだ」・・・・イスラエル保守強硬派・極右勢力は、そもそも2国家共存など考えていないということでしょう。

エルサレム旧市街ではパレスチナ人強制立ち退きも。

****強制立ち退き反対デモ エルサレムでパレスチナ人****
エルサレムで16日、イスラエル当局や入植団体が進めるパレスチナ人の強制立ち退きに反対するデモがあり、多数のパレスチナ人や左派系ユダヤ人が参加した。エルサレムでは、パレスチナ人を自宅から立ち退かせ、ユダヤ人を住まわせる動きが相次いでおり、国連も「人権侵害だ」と懸念を表明している。

当局が立ち退きを命じているのは、イスラエル占領下、エルサレム旧市街に暮らすノラ・スブラバンさん(68)一家。デモでは、参加者がスブラバンさん宅前に集まり「強制移動は戦争犯罪だ」「占領を終わらせろ」と声を上げた。【6月17日 共同】
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こうしたイスラエル側の行動を正当化するのに、この地は旧約聖書で「(ユダヤ人に)神が与えた約束の地」と書かれていると言われても・・・・。(もちろん理屈としては他にもいろいろあるのでしょうが、心情としては・・・そういうことなのでしょう)
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オーストラリア  先住民アボリジニの地位を憲法に明記する改憲案を発議 野党は反対

2023-06-21 22:55:47 | オセアニア

(シドニー五輪の女子400メートルで優勝し、オーストラリアとアボリジニの旗を手に、観客の声援にこたえるフリーマン

2000年シドニー五輪の陸上女子400メートル決勝、シーズン世界最高(当時)タイムでゴールに飛び込んだ勝者は精根尽き果てたようにへたり込んだ。そのアスリートの名はキャシー・フリーマン。

オーストラリアの先住民アボリジニ出身の27歳の女性の双肩に大会の成否がかかっていた。

白人社会と、差別されてきた先住民とをつなぐ国民統合の象徴として、開会式では豪州が誇る歴代女性金メダリストたちから聖火を受け取り、現役選手にもかかわらず最終点火者となったフリーマンが首尾よく金メダルを獲得できるのかと。

11万2000人超の大観衆が見守るなか、フリーマンは豪州旗とアボリジニの旗を渡されて立ち上がる。国旗以外を持ったウイニングランは基本ご法度だが、国際オリンピック委員会のサマランチ会長は「五輪は多文化主義を支持する」と、事前に助け舟を出していた。【2019年6月28日 日経】

彼女も「盗まれた世代」の一人です)

【先住民アボリジニの悲惨な歴史 「アボリジニー狩り」「盗まれた世代」】
周知のように移民の国オーストラリアのもともとの先住民はアボリジニです。

以前は人間ではなく獣と同じような扱いを受けており、イギリス植民地時代には「アボリジニー狩り」も行われていました。

独立後も「白豪主義」のもとで、親から子供を強制隔離する同化政策が行われ、その子らは「盗まれた世代」と呼ばれています。

****アボリジニー***
オーストラリア大陸の先住民の総称とされる。ただし普通名詞で原住民を意味し、特定の民族名ではない。彼らは多くの部族に分かれ、独自の狩猟・採集文化を有したが18世紀末のイギリス人入植者によって圧迫・征服され、多くが殺害されたため激減した。現在、その人権の復権が図られている。(中略)

身体的特徴はチョコレート色の皮膚、中ぐらいの身長(平均約165cm)、長い四肢、発達した眉稜などである。(中略)

イギリス人との遭遇
オランダ人のタスマンによるタスマニア島への到達、大陸であることの判明などに続き、イギリス人クックの航海によって大陸東海岸が知られるようになったことを受けて、1788年にイギリス人が現在のシドニーに上陸、入植を開始した。当時のアボリジニー人口は正確にはわからないが、約30万(多く見積もり100万人とする説もある)を数えたと推定されている。

イギリス人の入植以来、アボリジニーから土地を奪いその地は無主の土地(所有者のいない土地)であるとして入植したイギリス人受刑者などに与えていった。アボリジニーには土地私有の概念がなく、共同体共有の狩猟の場であったが、部族の長はガラス玉とビーズを引き換えにイギリス人の入植者を許したという。

彼らのキャンプは次々と奥地に追いやれていった。次第に活動の場を奪われたり、殺害されるなどのを圧迫され、急速に人口を減少させ、1901年のオーストラリア連邦が成立した時期には約6万になったといわれている。

現在では都市とその周辺では白人に同化した人びともいるが、多くは内陸の一部の居留地に追いやられた。オーストラリア連邦政府の白豪主義の一環として、1950年~60年代も厳しい隔離・差別政策が続いたが、1967年の憲法改正で人権が認められ、その保護、自立がすすんでおり、人口も約40万人に回復している。

イギリス人によるアボリジニ虐殺
1788年1月26日、イギリスの囚人がはじめてオーストラリアに到着した。イギリスはオーストラリア大陸を流刑植民地として囚人を労力として開発を開始、それが内陸に広がるにつれて、アボリジニーは最初に追い出され、抵抗すれば虐殺された。

特にタスマニア島ではアボリジニー殺害が徹底され、1876年にはタスマニア島のアボリジニーは絶滅した。「アボリジニー狩り」とも言われた残虐行為はニューサウスウェールズやヴィクトリア州でも行われ、そのためアボリジニー人口は激減し、オーストラリア北部のノーザンテリトリーや西オーストラリア州の一部に残存するだけとなった。

さらに彼らの土地や森林は、イギリス人の金鉱開発や羊毛生産のための牧場とするために奪われていっただけでなく、彼らは労働力として酷使されたことや、イギリス人の持ち込んだ伝染病に罹ったことで死んでいった。(中略)

アボリジニー同化政策
イギリス植民地オーストラリアは1901年にイギリス帝国の白人自治領の一つとして独立しオーストラリア連邦となったが、その憲法ではアボリジニーの権利を認めておらず、保護の対象としてしか見ていなかった。

オーストラリア連邦政府は、「白豪主義」を唱えて白人優位を守りながら、アボリジニーに対しては同化政策を進めた。連邦政府と各州政府はそれぞれにアボリジニー政策を進めたが、基本は白人と原住民=アボリジニーを区別し、原住民に対しては「保護と管理」を加える、というものであり、各地に原住民保護区が造られていった。

しかし、アボリジニーを管理するだけでなく、彼らの独自の言語や文化を奪い、白人と同じ文化を強要して白人と同化させる姿勢が強くなっていった。

「盗まれた世代」 
アボリジニ同化政策の中で、とくに大きな影響力をもったのは、アボリジニーの子供たちを親から強制的に隔離して白人の施設(多くはキリスト教教会の関係)に収容して養育するという親子強制隔離政策であった。

これはアボリジニーの子どもたちをその伝統文化から切り離して白人文化を強要して「文明化」する政策で、特に1951年からで60年代に実施された。そのころ親から隔離された子どもたちが成人し、彼らは「盗まれた世代」といわれている。(中略)

アボリジニの権利獲得
大戦後の世界各地の植民地の独立、かつての植民地支配の見直しが進む中で、アボリジニーの中にも民族的な自覚が生まれ、白人優位の歴史観が改められるようになった。

隔離政策も60年代まで続いたが、次第にその非人道性は批判されるようになった。 1967年に国民投票によって認められた憲法改正によってアボリジニーを国民として認められることとなり、各州でも次第に「原住民」として区別されるのではなく白人と平等な市民として扱われるようになった。

反面、アボリジニーにも白人と同じ賃金とされたことで、かえって多くのアボリジニーが解雇され、仕事を失うということもふえた。一部には失業保険をもらい仕事もせず酒浸りになるアボリジニーも増え、それがまた偏見を生むという悪循環が起こった。

アボリジニーの社会的地位を安定させる上で重要な画期が1992年の連邦最高裁が出した判決で、それは先住オーストラリア人の伝統的所有権を認知するものであった。この判決で初めてアボリジニーには先住民として土地に対する古代から継承する法的権利画認められ、翌1993年に「先住権原法(Native Title Act)」が成立、一部であるがアボリジニー・コミュニティに自らの土地の公式な所有者となることができた。こうしてアボリジニーは「先住民」としての諸権利が認められるようになった。

親子強制隔離政策への非難強まる
1995~95年、オーストラリア連邦政府による同化政策の一環としての強制隔離制度は厳しい批判にさらされることになった。強制隔離とされたアボリジニのその後の調査が行われ、その報告書が出されたことで政府の責任が問われることになった。(中略)

しかし、当時のハワード首相(保守党)は「盗まれた世代」に対する国家としての公式謝罪を拒否、先住民政策を後退させ、先住民を特別待遇しないという姿勢を採った。

その政権下で2000年にシドニー・オリンピックが開催され、女子400mでオーストラリアのキャシー・フリーマンが優勝した。彼女はアボリジニであり、しかも「盗まれた世代」の一人という境遇であり、レースで勝った後、オーストラリア国旗とアボリジニの旗の両方を掲げてグランドを一周し、世界中にアボリジニの存在をアピールした。

オーストラリア政府の謝罪
ハワード政権に代わって政権を握ったラッド首相(労働党)は、2008年、オーストラリア政府として初めて「盗まれた世代」に対する謝罪を行った。ラッド首相は過去の政権が先住民に対して行った隔離政策について、「誇りある人々と文化が受けた侮辱を申し訳なく思う」とする謝罪文を下院で読み上げ、全会一致で採択された。
アボリジニー復権の動きはまだ途上であり、完全な平等化はまだ実現していない。そんな中、2021年1月にはオーストラリア連邦の歌詞の一部、 We are young and free の young が one に変更になったというニュースがあった。

young には入植後の白人が作った若い国、という意味が込められているので、白人もアボリジニも一緒、という意味で one に改められた。最近ではアボリジニの言葉で国歌を歌うことも多くなっているという。【世界史の窓】
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確かに“We areyoung”では、古くからこの地に住むアボリジニの存在を全く考慮していない・・・ということにもなります。

【アルバニージー首相 「最初のオーストラリア人」と認めると憲法に明記する改憲案を表明】
“アボリジニー復権の動きはまだ途上であり、完全な平等化はまだ実現していない”とありますが、その動きのひとつが現在オーストラリアで大きな政治問題にもなっています。

****先住民の地位明記問う=豪、憲法改正の国民投票へ****
オーストラリアのアルバニージー首相は23日、記者会見し、先住民の地位確立のための憲法改正案を発表した。

改憲案は、(1)アボリジニとトレス海峡諸島民を「最初のオーストラリア人」と認めると憲法に明記
(2)先住民の代表機関「アボリジニとトレス海峡諸島民の声」を創設―の2項目。

年内に改憲の是非を問う国民投票を実施する方針だ。
同首相は「これは党派の政治を超えた課題だ。今やらなければ、いつやるというのか」と述べ、超党派の幅広い支持を呼び掛けた。【3月23日 時事】 
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トレス海峡はオーストラリア・ヨーク岬とパプアニューギニアの間の海峡で、この地域の島々の住民はメラネシア人で、アボリジニとは区別されています。

【先住民の代表機関を創設することに野党・自由党は反対 ただ、党内には異論も】
アルバニージー首相は労働党で、いわゆる中道左派ですが、先住民の代表機関を創設することには「先住民に統治の特権を与えることになる」として、野党・自由党(いわゆる中道右派)などから異論が出ています。自由党のアボット元首相も反対を表明しています。

****アボット元豪首相、改憲に反対=「先住民に特権」と批判****
オーストラリアのアボット元首相は27日、アルバニージー首相(労働党党首)が打ち出した先住民の地位確立のための憲法改正案について、「先住民に統治の特権を与えることになる」として反対を表明した。

アボット氏がかつて党首を務めた野党・自由党は、改憲への賛否をまだ決めておらず、党内の反対論を勢いづかせる可能性がある。

改憲案は、アボリジニなど先住民の地位の明記と代表機関の創設が柱。アボット氏は同日付の豪紙オーストラリアンに寄稿し、先住民への支援は「一般の法律で対応できる」と指摘した。

また、過去に先住民の土地などが没収されたことについて「1世紀以上も前のことは、われわれの誰にも責任はない」と主張した。

一方、アルバニージー氏は記者会見で、代表機関について「先住民に直接関係する問題を協議するもので、防衛・外交政策を扱うわけではない」と説明した。【3月27日 時事】
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上記アボット元首相の反対論が影響したのか、自由党は党として反対の立場を決定しています。

****豪最大野党、改憲案に反対=先住民「代表機関」のめず****
オーストラリアの最大野党・自由党は5日、議員総会を開き、アルバニージー政権が議会に提出した先住民の地位確立のための憲法改正案に反対する方針を決めた。

改憲案に盛り込まれた先住民の「代表機関」創設案を受け入れられないことを理由としている。政権側は超党派の支持を期待していたが、改憲実現のハードルが高くなった。

改憲案は「代表機関」を「先住民に関係する問題で議会や政府に意見を表明できる」と規定。自由党のダットン党首は総会後の記者会見で、先住民の地位を憲法に明記すること自体は容認するものの、「(代表機関の設置は)国民を分断しようとするものだ。良い結果をもたらさない」と批判した。

自由党と保守連合を組む国民党も、同様に改憲案に反対している。【4月5日 時事】
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ただ、自由党内には異論もあって、自由党のターンブル元首相は賛成を明らかにしています。

****野党重鎮が改憲案に賛成=前先住民相は抗議の離党―豪****
オーストラリア最大野党・自由党のターンブル元首相(元党首)は6日、ツイッターに投稿し、アルバニージー政権が目指す先住民の地位確立のための憲法改正案に「何百万人もの国民とともに賛成票を投じるつもりだ」と表明した。同党は5日に改憲案への反対方針を決めたばかりで、重鎮の反旗は党員の判断に影響を与えそうだ。

6日には、自身も先住民である同党のワイアット前先住民担当相が、党方針に抗議して離党。豪メディアに対し、「先住民の声に耳を傾けることを自由党は拒んだ。党の価値を信じるが、現在の党の姿を信じることはできない」と語った。【4月6日 時事】 
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【賛成から反対に流れが変わった世論動向 政府は改憲を発議】
世論の方は、当初は賛成が反対を大きく上回っていましたが、野党・自由党の反対決定などもあって、反対意見が増えているようです。

****改憲反対5割超す=先住民地位、賛成と逆転―豪調査****
オーストラリア先住民の地位確立のための憲法改正案を巡り、13日発表の豪紙世論調査で反対が5割を超え、初めて賛成と逆転した。10〜12月の国民投票実施を目指すアルバニージー政権にとって厳しい結果となった。
 
シドニー・モーニング・ヘラルド紙が今月6〜11日に約1600人を対象に行った調査で、改憲への賛否を二者択一で尋ねたところ、賛成49%、反対51%だった。

1、4両月の調査ではいずれも賛成58%、反対42%と賛成がリードしていた。各種調査で賛成が減り、反対が増える傾向にあるが、ついに形勢が逆転した。

改憲案は先住民アボリジニとトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設するという内容。野党・自由党など反対勢力は「一部国民に特権を与え、分断を招く」と批判しており、反対意見の伸長につながったもようだ。【6月13日 時事】 
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アルバニージー政権は改憲案の国民投票を実施する意向を変えていません。

****豪、改憲国民投票へ=先住民地位巡る発議案可決****

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ーストラリア上院は19日の本会議で、先住民の地位確立のための憲法改正発議案を可決した。既に下院を通過しており、10〜12月に国民投票が行われる見通し。

改憲案は、先住民のアボリジニとトレス海峡諸島民を「最初の豪州人」と認め、議会や政府に意見具申できる代表機関を創設することを定めている。【6月19日 時事】 
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国民投票は10~12月ということでまだ時間がありますので、世論動向は更に変化することもあると思われます。
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