(07年選挙時のスイス国民党のポスター 実に簡潔明瞭なメッセージです 今回の国民投票はこのメッセージの具体化です “flickr”より By rytc http://www.flickr.com/photos/rytc/984576791/ )
【09年に起きた殺人罪の59%は外国人の犯行】
欧州各国における移民、あるいはフランスやイタリアにおけるロマへの排外的な動きの拡大、それと同時に進行する極右政党の躍進については、これまでも何回か取り上げてきました。
今日の話題もその一環ですが、スイスで28日、強盗など重犯罪を犯した外国人を一律に国外追放することの是非を問う国民投票が行われ、政府の反対にもかかわらず、賛成52.9%で承認されました。
今回提案は右派の国民党によるものですが、スイスでは昨年11月にも、同じ国民党が提案した国民投票で、イスラム教寺院モスクの塔「ミナレット」の新規建設禁止が可決され、欧州各国からの批判を受けています。
****スイス:外国人犯罪者を強制送還 国民投票で法厳格化承認*****
スイスの国民投票で28日、外国人犯罪者は罪の程度に関係なく、自動的に本国へ強制送還するよう法律を厳しくする提案が、53%対47%の賛成多数で可決された。現行法では重犯罪者の強制送還は個別判断していたが、殺人、性犯罪、強盗、麻薬・人身売買などの外国人犯罪者は例外なく国外に追放し、生活保護など社会福祉を乱用した外国人も滞在許可証を自動的に取り消すとしており、欧州で最も厳しい内容になる。
連邦移民局によると、可決内容がそのまま適用された場合、例えば労働許可を得ている家政婦が、夜も内職で申告せずに働いたことが見つかれば送還されることになるという。
欧州各国で行われている外国人の強制送還は、対象が深刻な犯罪に限られ、死刑や拷問などを受ける恐れがある国への送還はできないケースが多い。
今回の国民投票で、反対派は「強制送還の対象と犯罪の深刻さが釣り合っていない。受け入れ国の人権状況を考慮せず、自動的に送還するのは問題だ」と主張。政府は、現行法を強化するにしても、犯罪の程度に応じた配慮などが必要だとして対案を示していたが、否決された。
投票は右派・国民党が提案。投票実施に必要な署名は、期間内に規定の10万人の2倍も集まり、スイス国民の外国人犯罪への関心の高さが示された。
スイスは住民の21%が外国籍で、欧州でも比率が高い。伝統的に南欧諸国の外国人労働者を多く受け入れてきたが、近年は旧ユーゴ諸国など東欧からの移民が増えている。
連邦統計局によると、09年に起きた殺人罪の59%は外国人の犯行だったという。現在スイスの刑務所はすべて定員を上回っており、囚人の70%は外国人とのデータもある。
治安悪化と外国人の増加を結びつける国民の不安が、投票に反映されたようだ。
国民投票は、可決されると憲法の条項改正が発議される決まりだが、国際法学者の間では、内容が欧州人権憲章や欧州連合(EU)と結んでいる「域内の移動の自由」協定などに反するため、そのまま執行するのは難しいとの意見もある。【11月29日 毎日】
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国民投票結果を受け、スイスのシモネッタ・ソマルガ司法相は、国際法に違反せずに改正法を実施する道を政府で検討すると述べています。
犯罪にはいろんな事情が絡んでおり、また、生活保護など社会福祉を乱用したケースまで含めて、一律的な処置というのは厳しすぎる感があります。
また外国籍住民の二世・三世は国籍的にはどうなっているのでしょうか?やはり外国籍で今回規制の対象となるのであれば、スイスの社会しかしらない二世・三世を“他国”へ強制送還ということでしょうか?
そもそも問題提起の根底にある外国人排斥的な考えにも同意しかねるものがあります。
外国人犯罪者の強制送還は右派国民党のかねてよりの主張であり、07年10月の総選挙では、白い(自国民を示す)羊の群れから黒い(外国人を示す)羊が追い出されるデザインのポスターを掲げて物議を醸したことがあります。国民党の主張は人種差別やナチスを連想させる内容であるとの激しい反発も受けましたが、結果的には同党は議席を伸ばしています。【ウィキペディアより】
【「スイスは人道問題で壊滅的なサインを世界に発した」】
一方、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今回の国民投票結果について、「スイスの人権にとって暗い日」と批判、欧州各国でも批判が広がっています。
ただ、ロマ問題で類似の対応をとっているフランス・イタリアでは厳しい批判はないとか。
****「EU平手打ち」「人権違反」=外国人犯罪者「追放」に批判―欧メディア*****
スイスで28日、強盗や強姦(ごうかん)など重罪を犯した外国人犯罪者を例外なく国外追放する憲法改正案が国民投票で承認されたことに対し、欧州主要メディアは29日、「国際人権法違反」(南ドイツ新聞)などと、批判的な論調を相次いで展開した。
ベルギーのルソワール紙(電子版)は「スイスが欧州連合(EU)に平手打ち」と強調。スイスとEUが出入国審査の撤廃を取り決めた協定を締結していることを指摘し、「人の自由な移動を認める協定に完全に抵触している」と批判した。
南ドイツ新聞(同)は「スイスは(人道問題で)壊滅的なサインを世界に発した」と指摘。独有力紙ターゲスツァイトゥングも「スイスとEUで外国人恐怖症が一段と広がりを見せている」と論評し、今回の投票結果が外国人への差別助長につながるとの強い懸念を示した。
一方で、フランスやイタリアでは辛辣(しんらつ)な批判は比較的少なく、少数民族ロマの国外送還に肯定的な両国とドイツなどの反応は対照的となっている。【11月30日 時事】
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【2050年には移民は倍層】
世界的に見るとグローバリゼーションの進行は人の移動にも及んでおり、今後更に移民は増加することが予想されています。
****国外移住者、4億人に倍増=本格対策が急務―国際機関予測*****
人の移動にかかわる世界的な問題を扱う国際移住機関(IOM)は29日、安定した生活環境や就労などを求めて出身国外に流れた移住者の人口が、現在の2億1400万人から2050年には4億500万人と、ほぼ倍増するとの報告書をまとめた。移住人口の急増を踏まえ、各国が本格的な対策に乗り出すことが必要だとしている。
それによると、10年時点で他国からの移住者が最も多いのは米国の4280万人。次いでロシア(1227万人)、ドイツ(1076万人)の順で、日本は218万人だった。
報告書は、労働力人口が先進国で今後、増えない一方、途上国で急激に膨らむことが移住人口の増加要因だと分析。適切な移住者対策は「受け入れ国の経済成長力、出身国の貧困削減と開発につながる」と利点を強調している。【11月29日 時事】
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移民増加の背景には、労働人口の構成が世界的に不均衡になっているほか、地球温暖化も影響していると指摘されています。
現在の欧州における外国人排斥的な動きは、こうした移民増加への対応の困難さを示しています。
受け入れ先になかなか同化しない移民の増加がもたらす文化的軋轢の高まり、疎外された移民が結果的に犯罪に手を染めることも多いことなど、移民問題は非常に難し問題です。
ただ、“外国人恐怖症”的な反応は、理念的に好ましいものとは思えません。
また、蜘蛛の糸を独占しようとするカンダタように、国家・国境が隔てる富の差があるなかで、その富を他国民に分け与えることを拒むような行動も、出来れば避けたいところです。
現実的な問題にも目を向けながら、理性的・冷静な対応で困難な道筋を探していく必要があります。