(汚職撲滅対策強化を求めてハンガーストライキを行うアンナ・ハザレ氏 “flickr”より By ParveenKumar http://www.flickr.com/photos/parveenkrmehta/5814438868/)
【インド社会では画期的な企業「マルチ・スズキ」での暴動】
インド自動車企業の最大手でもある、スズキのインド子会社「マルチ・スズキ」における暴動については、7月24日ブログ「インド 「マルチ・スズキ・インディア」工場の暴動 様々な憶測」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120724)で取り上げましたが、同工場は現在も操業を中止しており、操業再開の目処は立っていません。
****スズキ、インド工場再開のめど立たず 事務所「火災で修復不可能」?****
自動車メーカー、スズキのインド子会社「マルチ・スズキ・インディアリミテッド」のマネサール工場は2012年7月18日に起きた暴動をきっかけに生産を停止しているが、当面は操業を再開できない見通しだ。
現地の「マルチ・スズキ」が7月27日、声明を発表した。
「従業員の安全を確保できない」
現地警察やスズキによると、インド北部のハリヤナ州にある「マルチ・スズキ」のマネサール工場で起こった暴動は、労使のトラブルをきっかけに一部の従業員が工場敷地内の事務所を破壊し、放火するなど暴徒化し、インド人役員1人が死亡、2人の日本人幹部を含む40人以上が負傷した。約4000人の警察官が出動し、約100人が拘束された。
マルチ・スズキは7月18日以降、マネサール工場の生産を停止。27日の声明では、「工場をめぐる治安状況を考え、従業員の安全を確保できないため、引き続き操業を停止せざるを得ない」と説明している。
また工場の被害状況は確認中だが、事務所の損傷は火災により修復不可能な状態とされる。同社は現地警察に徹底した捜査を要請したという。
暴動の起きたマネサール工場は、年間60万台の生産能力をもつ、インドの主力工場の一つだ。じつは、マルチ・スズキでは2011年もストライキの発生などで大幅な減産に追い込まれた経緯がある。
スズキがインドに進出したのは1982年。インド政府が74%、スズキが26%出資し、四輪車の合弁会社を立ち上げたのが始まりだ。その後スズキは出資比率を段階的に引き上げ、現在はマルチ・スズキに54.2%を出資している。2007年度にはインドでの新車販売が日本を上回る最大の市場となり、同社の利益の3割を占める重要な収益源に育った。
「早わかりインドビジネス」などの著書がある、ネール大学のプレム・モトワニ教授は、「スズキは日本式経営をインドに導入。いわば、伝統的なインドの身分制度を取り払って成功してきた」と、インド社会では画期的な企業とされてきた。
それだけにマネサール工場での従業員による暴動事件や労働争議は、現地幹部らのショックが大きいはずだ。
新たな工場の稼働は「粛々と進めていく」
マルチ・スズキは2013年度にマネサール工場で年間の生産能力が25万台規模の新ラインを稼働させる計画がある。また、15年度にはグジャラート州に年産25万台の工場を建設。デリー近郊のグルガオン工場(年産約90万台)を含めると、インドでの生産能力は現在の150万台から200万台に拡大する。
スズキの鮎川堅一常務役員は7月23日に開かれた日本貿易振興機構(JETRO)の投資セミナーで、マネサール工場の生産再開については「まだ時間がかかる」としたものの、同工場に建設中の生産ラインや、グジャラート州の新工場の計画は「予定どおり、粛々と進めていく」と語った。【7月28日 J-CASTニュース】
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世界有数の大きな市場となるインドへの日本企業の進出は今後も増加すると思われますが、インド進出の成功例である「マルチ・スズキ」での暴動は、海外進出の難しさを示しています。
財政難・資金難に悩むインド側は日本企業の進出を歓迎するとは言っていますが・・・・
****インドの州首相「日本人街もつくる」****
インド西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州首相が来日し、朝日新聞のインタビューに応じた。州内に日本企業専用の工業団地を計画し、周辺に駐在員のための日本人街をつくる構想を明らかにした。
工業団地は、州最大都市のアーメダバード近郊に計画しており、早ければ年内の分譲開始を目指しているという。同州はインドでは珍しい停電のない州として知られ、スズキが新工場の建設を決めるなど日本企業の関心は高い。
モディ氏は「行政の透明性、決断のスピードなど日本企業が求めるすべての条件を満たしている。日本と同じ環境で生活できる町もつくる」と語った。日本企業側から、日本食レストランや日本人学校などの整備の要請があり、これらの声に積極的に対応していくという。
22日に来日、東京や静岡など各地でセミナーを開いている。12億人の市場を抱えることや、インド政府の次期首相候補として取り沙汰されていることもあって、多くの日本企業が参加。東京では岡田克也副総理ら政府首脳とも会談した。「非常にポジティブな反応で、自信が持てた」と語った。【7月26日 朝日】
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【「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒が犯人だ」】
インド経済はインフレや財政悪化でひところの勢いを失っていますが、ここ1週間ほどの間に報じられたインド関連のニュースを見るだけで、インドが抱える課題が多いことがわかります。
****インド:アッサム州で暴動、45人死亡 39万人が避難****
インド北東部アッサム州で住民同士の対立から暴動が広がり、インドメディアによると、27日までに住民45人が死亡、約39万人が大都市などに避難した。現地では夜間外出禁止令が敷かれ、軍が数千人の兵士を投入して治安維持にあたっている。シン首相は28日にも現地入りする。
暴動は20日、ブータンとバングラデシュ国境に近いコクラジハル地区で地元の若者4人が何者かに殺害されたことをきっかけに発生した。ボド族と呼ばれる先住民族が「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒が犯人だ」と主張してイスラム教徒を攻撃、家屋放火などの暴力が広がった。
報道によると、避難民キャンプでは食糧や医薬品の不足が深刻で、避難生活が長引けば人道危機に陥る可能性がある。
アッサム州ではボド族などの住民とイスラム教徒の間で暴動が繰り返され、83年には2000人、08年にも50人が死亡した。【7月27日 毎日】
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ミャンマーでも、「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒」と見なされているロヒンギャ族と仏教徒の間の民族衝突が問題となっていますが、それともよく似ています。
なお、ボド族の約9割がヒンズー教徒、残り1割がキリスト教徒と言われています。
多民族国家インドは多くの民族問題を抱えていますが、多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の宗教が絡んだ対立は、インド建国以来の最大の社会問題であり、社会不安の温床です。
【進まない汚職撲滅】
インドのもうひとつの大きな社会問題は、汚職・腐敗の横行です。
****「現代のガンジー」再びハンスト インド*****
インドで「現代のガンジー」と呼ばれ、汚職撲滅を訴え昨年ハンガーストライキを行った社会活動家のアンナ・ハザレ氏(75)が29日、ニューデリーで再びハンストを始めた。昨年議会が汚職撲滅の強化を約束したにもかかわらず、審議が事実上、棚上げされているためだ。
ハザレ氏の支持者は、ムカジー前財務相が新大統領に就任した25日にすでにハンストを開始。ハザレ氏はハンストに入るのを前に、「国民が私を死なせることはないと信じている」と述べ、支持者と行動をともにすることを表明した。
議会は昨年8月、ハザレ氏の要求をのんで汚職防止対策法案の強化を約束し、政治家や官僚の汚職を追及するオンブズマン制度の導入などを検討してきたが、立法化は実現していない。ハザレ氏らは、来月8日に下院が再開するのを前にハンストを開始し、シン首相ら閣僚15人に対する汚職追及も訴えている。【7月30日 産経】
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2011年4月に、汚職防止・対策法案の厳格化を求めてハザレ氏はハンガーストライキを実行。
政府は汚職防止・対策法案作成委員会の設置を認め、その結果として11年8月4日に厳格化された汚職防止・対策法案が提出されました。
しかし、汚職監視機関の捜査対象から首相や最高裁判事は除外されることが分かると、ハザレ氏は政府の欺瞞を激しく批判し、11年8月、無期限のハンガーストライキに入ると宣言。
ハザレ氏を支持する世論の高まりを受けて、シン政権は対応に苦慮。一旦はハザレ氏を拘束するも短期で釈放。
ハザレ氏は拘束中からハンガーストライキを始め、釈放後も続行。
結局、インド政府は、新設する汚職取締機関の監視の範囲を上級公務員だけでなく下級公務員にも広げることなど、ハザレ氏側の要求を支持する声明案を提出し、国会がこれを採択しました。
しかし、国会での汚職防止に向けた審議は進まず、今回、再度のハンスト実施に及んでいます。
なお、アンナ・ハザレ氏については、11年8月19日ブログ「インド 「現代のガンジー」 政府の腐敗・汚職問題に抗議するハンストにシン政権苦慮」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110819)でも取り上げています。
インドだけではありませんが、汚職・腐敗の蔓延が国民生活を圧迫し、社会・経済の発展を阻害しています。
【連日の「世界最大の停電」】
これもインドだけの問題ではなく、多くの途上国にも共通する問題が、インフラの未整備、特に電力の不足です。
****インド:2日連続大停電 「6億人に影響」と民放****
インド全土の3分の2に当たる国内19州で31日午後1時半(日本時間同5時)ごろ、一斉に停電があった。30日にデリー首都圏(州)を含む北部などの8州で14時間にわたって送電が停止したのに続き、2日連続の大停電となった。今回は東部の西ベンガル州やオリッサ州などにも広がり、民放NDTVは「6億人が影響を受け、世界最大の停電」と報じた。復旧は数時間かかる見通し。
首都ニューデリーなどの地下鉄や、地方都市を結ぶ長距離列車が走行中に停止するなど混乱を招いた。
原因は、工業団地を抱える北部ハリヤナ州や西部ラジャスタン州などで規定以上の電力が供給された結果、危険防止のため送電施設が自動的に送電を停止したためとされる。30日の大停電も同じ理由で起こっていた。【7月31日 毎日】
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なお、隣国パキスタンでも、連日の長時間停電で社会不安が高まっています。
****パキスタン、電力不足深刻 長時間停電にデモ頻発****
パキスタンで電力不足が深刻化している。日中の気温が40度を超えるなか、停電は首都イスラマバードでも1日10時間に及ぶ。イスラム教の神聖月ラマダン(断食月)を迎えたこともあり、政府の無策に人々の怒りは沸点に達しかねない状況だ。
イスラマバードでは夜になっても35度を下回らないことが多い。雑貨店を経営するイムティアズさん(30)は「扇風機が止まるときつい。男は屋根に上って涼むことができるが、子どもや女性は家の中でうちわをあおぐぐらいしかできない」と嘆く。近所には暑さで体調を崩す子どもも少なくないという。
そんな中、市民の人気を集めているのが充電機能付きの扇風機だ。通電時に充電しておけば、停電時にも使える。家電店店員のシャハザドさん(40)によると、「週に15個ほど売れる」。中国製でラジオやランプが付いたものもある。停電が深刻になった2008年ごろから売れ始めた。自家用発電機の売れ行きも伸びているという。
パキスタン政府によると、同国の発電能力は約2万メガワット。7月の電力需要は約1万8千メガワットでこれを下回っているのだが、主力の火力発電所の稼働が不安定で実際には4千メガワット以上が不足し、停電につながっている。
背景にあるのは、電気代の未払い。地元メディアによると、未払いは年々増え、計3870億ルピー(約3200億円)に上る。このため輸入に頼る燃料の代金支払いが滞り、発電所が十分に稼働できないという。
また、同国には30社以上の民間電力会社があり、発電能力は全体の3割以上を占めているが、電力を買い取る政府が財政危機を理由に未払いを続けているため、フル稼働できていないという。今月初めには、そのうち8社が、政府に対して数カ月分の未払い金約614億ルピー(約510億円)の支払いを求める訴えを最高裁に申し立てた。
地方によっては停電が、1日20時間に及ぶ所もある。ラマダン中は、宗教感情が高まり、政治への不満が先鋭化しがちだ。深刻な電力不足に対し、各地で抗議デモが頻発しており、政府が何らかの有効策を打ち出せないと、ザルダリ政権の足元を揺るがす事態に発展する可能性もある。【7月30日 朝日】
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