孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  山積する課題・・・民族対立、汚職蔓延、電力不足

2012-07-31 23:45:12 | 南アジア(インド)

(汚職撲滅対策強化を求めてハンガーストライキを行うアンナ・ハザレ氏 “flickr”より By ParveenKumar http://www.flickr.com/photos/parveenkrmehta/5814438868/

インド社会では画期的な企業「マルチ・スズキ」での暴動
インド自動車企業の最大手でもある、スズキのインド子会社「マルチ・スズキ」における暴動については、7月24日ブログ「インド 「マルチ・スズキ・インディア」工場の暴動 様々な憶測」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120724)で取り上げましたが、同工場は現在も操業を中止しており、操業再開の目処は立っていません。

****スズキ、インド工場再開のめど立たず 事務所「火災で修復不可能」?****
自動車メーカー、スズキのインド子会社「マルチ・スズキ・インディアリミテッド」のマネサール工場は2012年7月18日に起きた暴動をきっかけに生産を停止しているが、当面は操業を再開できない見通しだ。
現地の「マルチ・スズキ」が7月27日、声明を発表した。

「従業員の安全を確保できない」
現地警察やスズキによると、インド北部のハリヤナ州にある「マルチ・スズキ」のマネサール工場で起こった暴動は、労使のトラブルをきっかけに一部の従業員が工場敷地内の事務所を破壊し、放火するなど暴徒化し、インド人役員1人が死亡、2人の日本人幹部を含む40人以上が負傷した。約4000人の警察官が出動し、約100人が拘束された。

マルチ・スズキは7月18日以降、マネサール工場の生産を停止。27日の声明では、「工場をめぐる治安状況を考え、従業員の安全を確保できないため、引き続き操業を停止せざるを得ない」と説明している。
また工場の被害状況は確認中だが、事務所の損傷は火災により修復不可能な状態とされる。同社は現地警察に徹底した捜査を要請したという。
暴動の起きたマネサール工場は、年間60万台の生産能力をもつ、インドの主力工場の一つだ。じつは、マルチ・スズキでは2011年もストライキの発生などで大幅な減産に追い込まれた経緯がある。

スズキがインドに進出したのは1982年。インド政府が74%、スズキが26%出資し、四輪車の合弁会社を立ち上げたのが始まりだ。その後スズキは出資比率を段階的に引き上げ、現在はマルチ・スズキに54.2%を出資している。2007年度にはインドでの新車販売が日本を上回る最大の市場となり、同社の利益の3割を占める重要な収益源に育った。

「早わかりインドビジネス」などの著書がある、ネール大学のプレム・モトワニ教授は、「スズキは日本式経営をインドに導入。いわば、伝統的なインドの身分制度を取り払って成功してきた」と、インド社会では画期的な企業とされてきた。
それだけにマネサール工場での従業員による暴動事件や労働争議は、現地幹部らのショックが大きいはずだ。

新たな工場の稼働は「粛々と進めていく」
マルチ・スズキは2013年度にマネサール工場で年間の生産能力が25万台規模の新ラインを稼働させる計画がある。また、15年度にはグジャラート州に年産25万台の工場を建設。デリー近郊のグルガオン工場(年産約90万台)を含めると、インドでの生産能力は現在の150万台から200万台に拡大する。

スズキの鮎川堅一常務役員は7月23日に開かれた日本貿易振興機構(JETRO)の投資セミナーで、マネサール工場の生産再開については「まだ時間がかかる」としたものの、同工場に建設中の生産ラインや、グジャラート州の新工場の計画は「予定どおり、粛々と進めていく」と語った。【7月28日 J-CASTニュース】
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世界有数の大きな市場となるインドへの日本企業の進出は今後も増加すると思われますが、インド進出の成功例である「マルチ・スズキ」での暴動は、海外進出の難しさを示しています。

財政難・資金難に悩むインド側は日本企業の進出を歓迎するとは言っていますが・・・・
****インドの州首相「日本人街もつくる****
インド西部グジャラート州のナレンドラ・モディ州首相が来日し、朝日新聞のインタビューに応じた。州内に日本企業専用の工業団地を計画し、周辺に駐在員のための日本人街をつくる構想を明らかにした。

工業団地は、州最大都市のアーメダバード近郊に計画しており、早ければ年内の分譲開始を目指しているという。同州はインドでは珍しい停電のない州として知られ、スズキが新工場の建設を決めるなど日本企業の関心は高い。
モディ氏は「行政の透明性、決断のスピードなど日本企業が求めるすべての条件を満たしている。日本と同じ環境で生活できる町もつくる」と語った。日本企業側から、日本食レストランや日本人学校などの整備の要請があり、これらの声に積極的に対応していくという。

22日に来日、東京や静岡など各地でセミナーを開いている。12億人の市場を抱えることや、インド政府の次期首相候補として取り沙汰されていることもあって、多くの日本企業が参加。東京では岡田克也副総理ら政府首脳とも会談した。「非常にポジティブな反応で、自信が持てた」と語った。【7月26日 朝日】
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【「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒が犯人だ」】
インド経済はインフレや財政悪化でひところの勢いを失っていますが、ここ1週間ほどの間に報じられたインド関連のニュースを見るだけで、インドが抱える課題が多いことがわかります。

****インド:アッサム州で暴動、45人死亡 39万人が避難****
インド北東部アッサム州で住民同士の対立から暴動が広がり、インドメディアによると、27日までに住民45人が死亡、約39万人が大都市などに避難した。現地では夜間外出禁止令が敷かれ、軍が数千人の兵士を投入して治安維持にあたっている。シン首相は28日にも現地入りする。

暴動は20日、ブータンとバングラデシュ国境に近いコクラジハル地区で地元の若者4人が何者かに殺害されたことをきっかけに発生した。ボド族と呼ばれる先住民族が「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒が犯人だ」と主張してイスラム教徒を攻撃、家屋放火などの暴力が広がった。
報道によると、避難民キャンプでは食糧や医薬品の不足が深刻で、避難生活が長引けば人道危機に陥る可能性がある。

アッサム州ではボド族などの住民とイスラム教徒の間で暴動が繰り返され、83年には2000人、08年にも50人が死亡した。【7月27日 毎日】
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ミャンマーでも、「バングラデシュから移り住んだイスラム教徒」と見なされているロヒンギャ族と仏教徒の間の民族衝突が問題となっていますが、それともよく似ています。
なお、ボド族の約9割がヒンズー教徒、残り1割がキリスト教徒と言われています。

多民族国家インドは多くの民族問題を抱えていますが、多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の宗教が絡んだ対立は、インド建国以来の最大の社会問題であり、社会不安の温床です。

進まない汚職撲滅
インドのもうひとつの大きな社会問題は、汚職・腐敗の横行です。
****現代のガンジー」再びハンスト インド*****
インドで「現代のガンジー」と呼ばれ、汚職撲滅を訴え昨年ハンガーストライキを行った社会活動家のアンナ・ハザレ氏(75)が29日、ニューデリーで再びハンストを始めた。昨年議会が汚職撲滅の強化を約束したにもかかわらず、審議が事実上、棚上げされているためだ。

ハザレ氏の支持者は、ムカジー前財務相が新大統領に就任した25日にすでにハンストを開始。ハザレ氏はハンストに入るのを前に、「国民が私を死なせることはないと信じている」と述べ、支持者と行動をともにすることを表明した。

議会は昨年8月、ハザレ氏の要求をのんで汚職防止対策法案の強化を約束し、政治家や官僚の汚職を追及するオンブズマン制度の導入などを検討してきたが、立法化は実現していない。ハザレ氏らは、来月8日に下院が再開するのを前にハンストを開始し、シン首相ら閣僚15人に対する汚職追及も訴えている。【7月30日 産経】
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2011年4月に、汚職防止・対策法案の厳格化を求めてハザレ氏はハンガーストライキを実行。
政府は汚職防止・対策法案作成委員会の設置を認め、その結果として11年8月4日に厳格化された汚職防止・対策法案が提出されました。

しかし、汚職監視機関の捜査対象から首相や最高裁判事は除外されることが分かると、ハザレ氏は政府の欺瞞を激しく批判し、11年8月、無期限のハンガーストライキに入ると宣言。
ハザレ氏を支持する世論の高まりを受けて、シン政権は対応に苦慮。一旦はハザレ氏を拘束するも短期で釈放。
ハザレ氏は拘束中からハンガーストライキを始め、釈放後も続行。

結局、インド政府は、新設する汚職取締機関の監視の範囲を上級公務員だけでなく下級公務員にも広げることなど、ハザレ氏側の要求を支持する声明案を提出し、国会がこれを採択しました。
しかし、国会での汚職防止に向けた審議は進まず、今回、再度のハンスト実施に及んでいます。
なお、アンナ・ハザレ氏については、11年8月19日ブログ「インド 「現代のガンジー」 政府の腐敗・汚職問題に抗議するハンストにシン政権苦慮」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110819)でも取り上げています。

インドだけではありませんが、汚職・腐敗の蔓延が国民生活を圧迫し、社会・経済の発展を阻害しています。

連日の「世界最大の停電」】
これもインドだけの問題ではなく、多くの途上国にも共通する問題が、インフラの未整備、特に電力の不足です。
****インド:2日連続大停電 「6億人に影響」と民放****
インド全土の3分の2に当たる国内19州で31日午後1時半(日本時間同5時)ごろ、一斉に停電があった。30日にデリー首都圏(州)を含む北部などの8州で14時間にわたって送電が停止したのに続き、2日連続の大停電となった。今回は東部の西ベンガル州やオリッサ州などにも広がり、民放NDTVは「6億人が影響を受け、世界最大の停電」と報じた。復旧は数時間かかる見通し。

首都ニューデリーなどの地下鉄や、地方都市を結ぶ長距離列車が走行中に停止するなど混乱を招いた。
原因は、工業団地を抱える北部ハリヤナ州や西部ラジャスタン州などで規定以上の電力が供給された結果、危険防止のため送電施設が自動的に送電を停止したためとされる。30日の大停電も同じ理由で起こっていた。【7月31日 毎日】
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なお、隣国パキスタンでも、連日の長時間停電で社会不安が高まっています。

****パキスタン、電力不足深刻 長時間停電にデモ頻発****
パキスタンで電力不足が深刻化している。日中の気温が40度を超えるなか、停電は首都イスラマバードでも1日10時間に及ぶ。イスラム教の神聖月ラマダン(断食月)を迎えたこともあり、政府の無策に人々の怒りは沸点に達しかねない状況だ。

イスラマバードでは夜になっても35度を下回らないことが多い。雑貨店を経営するイムティアズさん(30)は「扇風機が止まるときつい。男は屋根に上って涼むことができるが、子どもや女性は家の中でうちわをあおぐぐらいしかできない」と嘆く。近所には暑さで体調を崩す子どもも少なくないという。

そんな中、市民の人気を集めているのが充電機能付きの扇風機だ。通電時に充電しておけば、停電時にも使える。家電店店員のシャハザドさん(40)によると、「週に15個ほど売れる」。中国製でラジオやランプが付いたものもある。停電が深刻になった2008年ごろから売れ始めた。自家用発電機の売れ行きも伸びているという。

パキスタン政府によると、同国の発電能力は約2万メガワット。7月の電力需要は約1万8千メガワットでこれを下回っているのだが、主力の火力発電所の稼働が不安定で実際には4千メガワット以上が不足し、停電につながっている。

背景にあるのは、電気代の未払い。地元メディアによると、未払いは年々増え、計3870億ルピー(約3200億円)に上る。このため輸入に頼る燃料の代金支払いが滞り、発電所が十分に稼働できないという。
また、同国には30社以上の民間電力会社があり、発電能力は全体の3割以上を占めているが、電力を買い取る政府が財政危機を理由に未払いを続けているため、フル稼働できていないという。今月初めには、そのうち8社が、政府に対して数カ月分の未払い金約614億ルピー(約510億円)の支払いを求める訴えを最高裁に申し立てた。

地方によっては停電が、1日20時間に及ぶ所もある。ラマダン中は、宗教感情が高まり、政治への不満が先鋭化しがちだ。深刻な電力不足に対し、各地で抗議デモが頻発しており、政府が何らかの有効策を打ち出せないと、ザルダリ政権の足元を揺るがす事態に発展する可能性もある。【7月30日 朝日】
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シリア  大都市ダマスカスとアレッポで激しい攻防 増加する難民

2012-07-30 23:47:00 | 中東情勢

(シリア北部のアレッポで火を噴く政府軍戦車 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7631886130/)

政権中枢へのテロや化学兵器使用の憶測も
シリアでの戦闘は、これまではスンニ派住民の多い中部ホムスやハマなどなどを中心に行われてきましたが、7月中旬からは、アサド政権の支配が強い大都市、首都ダマスカスや北部アレッポへ反体制派「自由シリア軍」が攻勢をかけ、政府軍がこれに反撃するという展開になっています。

****シリア反体制派の自由シリア軍、総攻撃開始を宣言****
シリア反体制派の自由シリア軍(FSA)は16日夜、「ダマスカスの火山とシリアの地震」と称する総攻撃作戦を開始したと発表した。

自由シリア軍が同国中部ホムスの統合司令部で発表した声明によると、同軍はバッシャール・アサド政権側の「虐殺や野蛮な犯罪行為への対応として」、16日午後8時(日本時間17日午前2時)に同作戦を開始した。
自由シリア軍は「都市部と地方部の全ての治安当局の拠点や検問所を攻撃して政府側との激しい交戦に持ち込み、政権側を降伏に追い込む」、「シリア全土にある治安部隊、軍、シャビハ(Shabiha、親政権側の民兵組織)の全ての検問所を包囲し、激しい戦闘を行って彼らを壊滅させる」としている。

また政権側の補給路を断ち物資を奪う目的で、外国に通じる道路の封鎖を明言。また政府側の兵士に、軍を離反して「捕らわれている人々の解放」に加わるよう呼びかけた。
さらに、シリア国内にいる外国機関は政権側と見なし、「正当な攻撃対象」とすると宣言した。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ、イランの革命防衛隊、イラクの民兵組織、パレスチナのアサド大統領支持派グループを指すとみられる。【7月17日 AFP】
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反体制派の首都攻略作戦については、“自由シリア軍には、独力での首都攻略は難しいとみられている。にもかかわらず連日、首都で戦闘活動を展開するのは、内戦を泥沼化させて「対話は不可能だ」(幹部)と内外に印象づけ、外国の軍事介入に道を開きたいとの思惑があるためだとみられる”【7月18日 産経】といった見方もあります。

こうした反体制派の首都への攻勢のなかで、18日には首都ダマスカスの治安機関本部で爆発があり、ラジハ国防相とアサド大統領の義理の兄であるシャウカト陸軍副参謀長が死亡、シャアール内相も重傷を負う事件が起きました。
政権中枢を襲う事件は、大統領側近グループの護衛が反体制派に寝返り会議で爆弾を起爆したといった情報もあって、アサド政権の綻びを印象付けましたが、政権側も激しい反撃に出ています。

シリアのマクディシ外務報道官が23日の記者会見で、内戦状態に陥ったシリア情勢に外国軍が介入すれば、化学兵器を使用する可能性に言及するという、化学兵器保有を認める異例の発言もあって、危機感を強めるアサド政権が化学兵器を使うのでは・・・との憶測も流れました。

一方、政府軍が首都防衛に兵力を集中させた間隙を突き、19日、反体制派はイラク、トルコ両国との国境にある検問所を急襲し、一部の制圧に成功、重要補給路を押さえています。

【「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」】
装備に勝るアサド政権側は機甲師団やヘリコプターを使用して首都ダマスカスの反体制派拠点を攻撃、反体制派は北部のシリア第2の都市、アレッポでも攻勢を開始、これまでアサド政権の牙城とされきた首都ダマスカスと北部大都市アレッポで政権側・反体制派の命運をかけた攻防が続いています。
戦闘の状況はよくわかりませんが、政権側は、外相が「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」と述べ、今月中旬から続いていた首都での戦闘に勝利したと宣言しています。

****シリア 政権側「首都鎮圧」 アレッポでも優位****
内戦状態にあるシリアのアサド政権が28日に開始した、北部アレッポでの反体制派に対する大規模掃討作戦は、29日も市内各地で続いた。シリアの在外人権団体によれば、28日だけで、アレッポでの約30人を含む約140人が全土で死亡した。

アレッポは同国の商工業の中心地。伝統的に商人層の影響力が強く、政権側としては、同市で反体制派が力をつける前に武力で押さえつけ、商人層の離反を防ぐ狙いがあるとみられる。

反体制派武装組織「自由シリア軍」幹部によると、政権側は29日、前日に続き、同軍の拠点であるアレッポ南西部サラーヘッディン地区などに戦車やヘリ、地上部隊による攻撃を行った。同幹部は「政府軍を押し返している」と話しているが、火力面では政権側が優位に立っている。

一方、シリアのムアッリム外相は同日、訪問先のイランで、「(反体制派の)首都ダマスカスの戦いは失敗した」と述べ、今月中旬から続いていた首都での戦闘に勝利したと宣言した。

こうした中、反体制派在外代表組織「シリア国民評議会」のサイダ議長は29日、政権崩壊を待たずに、移行政権作りに着手する考えを示した。議長は28日には、訴追免除と引き換えにサレハ前大統領の退陣を実現した「イエメン型」をシリアで再現するのは「不可能だ」とも明言、あくまでアサド大統領らを処罰すべきだとも主張している。

シリアをめぐっては、アナン国連・アラブ連盟合同特使の「挙国一致政府」案実現に向け、アラブ連盟がアサド氏に「安全な出国」を働きかけている。だが、サイダ氏の発言に表れているように、反体制派は政権側との妥協に否定的で、政権側がアレッポ掃討に成功した場合も、各地でゲリラ戦が続くと予想される。【7月30日 産経】
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正確な状況はわかりませんが、上記記事にもあるように、“政権側がアレッポ掃討に成功した場合も、各地でゲリラ戦が続く”と予想されていますし、逆に、反体制派が首都攻略に成功しても、大統領派は政権支持派が多いアラウィ派居住地区の北西部を足場にして、シリアを分断する形での戦闘が続くとも見られています。そして犠牲者はさらに増加するでしょう。

****シリア:死者2万人超す 弾圧本格化以降****
在英の反体制派組織「シリア人権観測所」は28日、アサド政権による反体制派弾圧が本格化した昨年3月以降の死者が2万人を超えたことを明らかにした。28日現在の犠牲者は、少なくとも2万28人で、内訳は市民を含む反体制派側が1万3978人、離反兵が968人、政府軍兵士が5082人としている。

シリアでは今月下旬に入り、首都ダマスカスや北部アレッポで、政府軍と反体制派との衝突が激化。同観測所によると、連日100人以上が犠牲になり、28日は全土で190人が死亡した。【7月29日 毎日】
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アレッポの人口約200万人の約1割が難民化
いずれにしても、戦闘状態が収まる気配は今のところはありません。
そして、戦闘を流れる難民も増大しています。

****シリア難民11万2000人…3か月で3倍に****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は17日、シリアから周辺4か国に脱出した難民が11万2000人に上り、4月時点の約3倍になったと発表した。
難民のうち4万人はトルコでキャンプ生活を送っている。ヨルダンとレバノンにはそれぞれ3万人以上、イラクにも約8000人が逃れた。
これらの人数は、UNHCRが把握している分に限られており、難民の実数はずっと多いとみられるという。【7月18日 読売】
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難民が押し寄せるヨルダンでは、“地元紙ヨルダン・タイムズによると、連日1000人もの難民が押し寄せている。貧困地区では住宅や水、医療サービスの不足や物価の高騰などが続き、住民の不満が鬱積。キャンプのあるラムサでは23日、環境改善を訴える難民と地元住民が衝突し、双方が投石し合う事件も起きた”【7月30日 毎日】とも報じられています。

特に、激しい戦闘が行われている北部アレッポでは“2日間で住民約20万人が脱出した”と、国連の人道問題担当事務次長が発表しています。

****シリア:北部の商都から20万人脱出 国連次長発表****
国連のエイモス人道問題担当事務次長は29日、シリア政府軍による反体制派の掃討作戦が続く最大の商業都市の北部アレッポから、2日間で住民約20万人が脱出したと発表した。激しい戦闘が続いており、国連や赤新月社(赤十字社に相当)も近づけず、周辺部の避難民やアレッポに取り残された住民が孤立化している。
アレッポの人口約200万人の約1割が難民化しており、避難民の数はさらに増大しそうだ。

ロイター通信などによると、アレッポの一部地域を勢力下に置いた反体制派に対し、拠点となることを恐れた政府軍は今月21日以降、ヘリや戦車も投入し、激しい市街戦を展開。軍は29日、アレッポ南西部サラへディン地区を反体制派から奪還したと発表し、将校が国営テレビに「アレッポは数日のうちに安全と治安を取り戻す」と語った。しかし、英国を拠点とする反体制派組織「シリア人権観測所」は、軍の発表を否定した。

国連のエイモス次長によると、住民は学校や公共施設に一時避難しており、食料、水、衛生用品の不足は深刻だという。戦闘の全ての当事者に対し声明で「市民を攻撃せず、人道支援団体による支援活動の安全を保障すること」を要求した。【7月30日 毎日】
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アレッポはトルコ国境も近い北部に位置していますが、政権側が移動制限をしているせいか、戦闘が激しく移動できないのか、トルコ側への越境は起きていません。

****国境に誰も来ない…シリア避難民20万人どこへ****
シリア北部アレッポでの戦闘激化で「20万人が市を脱出した」(エイモス国連事務次長)とされる中、隣接するトルコ国境では30日、ほぼ誰も出国して来ない状況が続いている。
アサド政権による住民の移動制限が影響しているとみられるが、過去の大量脱出とは対照的な展開で、「避難民はどこに消えているのか?」(独ARDテレビ)という懸念が広がっている。

シリアの地中海沿岸都市とトルコ南部を結ぶヤイラダ検問所は30日、客待ちの車が2台止まっているだけで閑散としていた。係官は「国境は開いているけれど、誰も来ない」と話した。地元住民によると、アレッポからの主要検問所ジルベギョズも、ほぼ無人の状態が続いている。【7月30日 読売】
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間隙を突いてクルド人勢力の動きも
一方、ここのところの首都ダマスカスや大都市アレッポでの攻防が激化するなかで、その間隙を突く形で、クルド人勢力が一部地域を制圧したとの情報もあり、国内にクルド人反政府勢力を抱えるトルコが敏感に反応しています。

****シリア:「クルド人が一部掌握」情報 隣国トルコ緊張****
内戦状態に陥ったシリア北部で、「祖国なき最大の民」といわれるクルド人が一部の町を掌握したと伝えられ、隣国トルコが過敏に反応している。トルコ南東部にはクルド人が多く、分離独立を掲げて対トルコの武装闘争を続ける非合法組織「クルド労働者党」(PKK)との長い対立があるためだ。トルコはシリア北部がPKKの新拠点になると警戒しており、シリア情勢は周辺諸国の緊張も高めている。

トルコのエルドアン首相は26日、シリア北部の状況について「テロ組織が拠点を構築してトルコを脅かす事態は許さない」と強調、「必要であれば行動を起こす」と警告した。トルコはPKKをテロ組織と認定している。
トルコのメディアなどによると、シリアの首都ダマスカスで18日あった政府高官爆殺事件後、シリア北部アレッポ県やハッサケ県の一部の町をクルド人が掌握した。政府軍が戦闘の激化した首都やアレッポ市などに移動した隙(すき)を突いたという。

PKKが戦闘員を送り込んだとの情報や、イラク北部のクルド自治区から軍事組織「ペシュメルガ」が展開したとの情報も流れた。イラクのクルド自治政府は関与を否定している。

シリアは過去、PKK創設者のオジャラン服役囚(トルコで収監中)をかくまっていたほか、クルド人主要組織の一つ「シリア民主統一党」はPKKとの連携が指摘され、トルコの不信感は根深い。
また、クルド系のメディアは今回の事態を「クルディスタン(クルド人居住領域)のうち二つの地域(イラクとシリア)が初めてクルド民族の支配下に入った」と称賛し、トルコの神経を逆なでした。

クルド人は主にトルコ、イラク、イラン、シリアにまたがる山間部に居住し、推定人口は2000万〜3000万人。このうちシリアに約200万人、トルコには1200万〜1500万人が住むとされる。
1978年に創設されたPKKは84年から対トルコの武装闘争を開始。これまでの衝突の死者数は4万人以上に達し、トルコはしばしばPKKが潜伏するイラク北部を攻撃している。【7月27日 毎日】
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アメリカ  武器貿易条約不同意で「時間切れ」 コロラド州映画館銃乱射事件でも高まらない銃規制論議

2012-07-29 22:22:23 | アメリカ

(コロラド州オーロラの銃乱射事件現場近くに設けられた、12人の犠牲者を悼む十字架 “flickr”より By kimindergand http://www.flickr.com/photos/kimberlyindergand/7633342122/

【「問題解決には時間が必要」と幕引き
7月25日ブログ「難航する武器貿易条約(ATT)国連会議  武器貿易における初の国際ルール作り」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120725)で取り上げた、戦車や小型兵器など通常兵器全般の輸出入規制を目指した武器貿易条約(ATT)国連会議は、やはり「時間切れ」に終わり、初の国際ルールの合意は得られませんでした。
もとより難航必至の交渉でしたが、アメリカの消極姿勢が決裂への流れをつくりました。

****武器貿易条約:推進派分裂「時間切れ」 国連会議採択断念****
戦車や小型兵器など通常兵器全般の輸出入規制を目指した武器貿易条約(ATT)国連会議は最終日の27日、合意に至らず条約採択を断念し、交渉は決裂した。

国連で議論が始まって6年。地域紛争の激化やテロリストへの兵器流出の阻止を狙う取り組みだが、武器輸出国と輸入国の利害が複雑に絡み合い、打開策には至らなかった。今後の対応は今秋の国連総会に持ち越されたが、合意への道のりは険しそうだ。

モリタン議長は27日条約案採択断念を表明、約1カ月の交渉の打ち切りを告げた。採択は参加193カ国の同意が原則。26日に配布された修正草案では推進派から「合意は近い」との声も聞かれただけに落胆が広がった。

交渉は27日ギリギリまでもつれた。欧州連合(EU)の武器禁輸措置の対象となっている中国は条約対象からEUを外すよう画策。推進派のEUは猛反発したが、中国は「禁輸を解除したら考え直す」と取引材料にした。
世界最大の武器輸入国であるインドは「防衛協力合意に基づく契約上の義務は条約によって無効にならない」との条文明記を主張。「抜け穴になる」との指摘にも「合法な貿易は関係ない」と取り合わなかった。

最大輸出国の米国は条約制定は支持したが、「弾薬は移転の管理が困難」として明記見送りを主張。「弾薬を含めないと意味がない」との批判を浴びたが、「問題解決には時間が必要」といったん打ち切りを求める意見をロシアが支持。条約そのものに消極的な武器輸入諸国も同調し、最終的に「時間切れ」で幕引きとなった。

決裂の伏線には、推進派の温度差もあった。ノルウェーやメキシコなど74カ国は20日、交渉の主導権を得ようと「強い条約」を求める声明を発表したが、英国や日本などは条約案のとりまとめを優先する「モリタン議長の立場に配慮」(政府筋)し、声明に参加しなかった。推進派の分裂で、消極派が勢い付いた可能性もある。

交渉決裂後、日本など約90カ国は今回の条約草案を「我々の取り組みを進めるための基礎」と位置付ける声明を発表した。条約草案がなんとか提示されたことを「成果」と位置付け、新たな交渉の枠組みを含めた今秋以降の議論につなげたい考えだ。ただ、推進派が結束できず、消極派の抵抗も強い現状では難航は必至だ。

◇条約草案の骨子◇
・対象は戦車や戦闘機など大型兵器7種類と小型兵器。弾薬も規制
・大量虐殺や戦争犯罪を助長する場合は移転禁止
・国際人権法や国際人道法違反の恐れがある場合は条件付きで禁輸
【7月28日 毎日】
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上記“条約草案の骨子”に“弾薬も規制”とありますが、弾薬や武器の部品は規制対象には明示されておらず、各国の裁量となっています。

大統領選を控える米オバマ政権が国内の銃規制反対論に抗しきれなかったため
幕引きを図ったアメリカの対応には、合意を求めていたNGOなどから厳しいオバマ政権批判が上がっていますが、国内に強く存在する銃規制反対論との関連も指摘されています。

****国連の武器貿易交渉、銃規制恐れる米国が拒否*****
通常兵器の国際取引を初めて国際法上の規制にかける「武器貿易条約」の国連交渉会議は最終日の27日、最大の武器輸出国である米国が議長案の受け入れを拒み、決裂した。
大統領選を控える米オバマ政権が国内の銃規制反対論に抗しきれなかったためだ。今後も交渉は続けられるが、難航は必至だ。

議長案は、弾薬を規制品目から外し、国際人権法など取引の許可基準運用を各国の判断に委ねる方針を強調するなど、米国の主張にほぼ沿った内容だった。
ところが、米国は27日午前の会議で突然、「(同意に必要な)時間が足りない」と議長案への不同意を表明。第2の武器輸出大国・ロシアも採択の先送りを主張し、条約反対派で反米の北朝鮮やキューバまでが相次いで同調した。同会議は全会一致が原則で、ロベルト・モリタン議長(アルゼンチン)は調整を断念した。【7月28日 読売】
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アメリカ国内の銃規制反対論と「武器貿易条約」反対論がどのようにリンクするのか定かではありませんが、国内で個人が銃によって自衛する権利がるように、各国は武器で自衛する権利がある、それを“大量虐殺や戦争犯罪を助長する場合”とか“国際人権法や国際人道法違反の恐れがある場合”といった条件付けで規制するのは国内銃規制強化にもつながり容認できない・・・という発想でしょうか。
各自が“銃・武器・力”を保持することによって秩序が保たれるという考え方であり、管理されない銃・武器の広範な存在が治安悪化・紛争を助長するという考え方とは基本姿勢が異なります。

政治的“タブー”と化す銃規制論議
7月20日におきたコロラドの映画館で起きた銃乱射事件が、アメリカ国内での銃規制強化を求める動きにつながらないということは各紙が報じているところです。
むしろ、事件後、コロラド州では銃の売り上げが急増しているそうです。
「あのとき銃を持っていれば、身を守れたのに」というのがアメリカ国民の反応のようです。

オバマ大統領も、「このような暴力と悪は、無意味だ。政治を語るのはほかの日にして、今日は祈りと黙考の日にしよう」と追悼の言葉は述べても、銃規制はおろか「銃(gun)」という言葉すら口にはしません。
もちろんロムニー候補も同様です。

アメリカの有力政治家で銃規制に言及したのは、銃規制推進派であるニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏だけというのがアメリカ政治の実情であり、銃規制はもはや“タブー”と化してしるように見えます。

こうした背景には“有権者の銃に対する動向を探ると、なんと45%の人が自宅に銃を保有している(2011年10月ギャロップ社調査)。さらに、銃器の販売をもっと厳しくするべきかどうか、という問いに対し、「厳しくするべき」と答えた人は43%なのに対し、「緩和するべき、あるいは現状維持」と答えた人が55%と上回った。
さらに、会員400万人という強力な銃保有の支持団体「全米ライフル教会(NRA)」がある。人口で単純に割れば、100人に1人がNRC会員だが、有権者に占める割合は当然もっと高い。
これに対し、銃規制を訴える団体は多くあるものの、NRAに匹敵する政治力、資金力があるものはない。ブルームバーグ市長が06年に設立した「メイヤーズ・アゲンスト・イリーガル・ガン(MAIG)」の会員は600人だ。”【7月27日 ウォール・ストリート・ジャーナル】という現実があります。

凶悪事件を見聞きして各自が銃による自己防衛を図るというのは、一見“もっともな行動”のようにも思えますが、不況下の家計が節約に努めると結果的に社会全体の景気を更に悪化させるように、自衛のための銃保持の拡大は結果的には治安の悪化を招き、自身の危険を増大させます。

【「同情など求めていない。われわれが求めているのは行動だ」】
アメリカでも20年前までは、こうした事件が起きると銃規制論議が高まり、何らかの規制が強化されており、昔から銃規制がタブー視されていた訳ではないようです。

****それでも銃規制は進まない****
アメリカ コロラドの映画館で起きた銃乱射事件で10人以上が死亡 連邦レベルの銃規制が求められる一方で、なぜ推進運動は低調なのか

(中略)銃規制を求める民間団体ブレイディ銃暴力防止センターは直ちに、銃犯罪の犠牲者は「同情など求めていない。われわれが求めているのは行動だ」とする声明を発表した。だが過去20年間がそうであったように、アメリカではどんなに痛ましい事件が起きても、それが単なる同情を超えて銃規制改革に結び付くことはなさそうだ。

コロラド州では13年前にも、コロンバイン高校銃乱射事件という悲劇が起きている。高校3年生のエリック・ハリスとディラン・クリーボールドは、教師1人と生徒12人を射殺(犯人2人も自殺)。アメリカの高校史上最悪の銃乱射事件となったが、それが銃規制法の改正につながることはなかった。 

アリゾナ州トゥーソンでは昨年、同州選出のガブリエル・ギフォーズ下院議員のイベントで銃乱射事件が発生。ギフォーズは頭に銃弾を受けながらも一命を取り留めたが、連邦地裁判事やギフォーズの支持者計6入が死亡した。
近年ではほかにもカリフォルニア州シールビーチの美容院(死者8人)、テキサス州のフォートフッド陸軍基地(同13人)、ニューヨーク州ビンガムトンの移民支援センター(同13人)で銃乱射事件が起きた。だがそのどれとして銃規制の強化につながらなかった。

ブレイディ法以降は停滞
唯一の例外は、07年にバージニアエ科大学で起きた銃乱射事件(死者32入)だ。もともと連邦法では、裁判所によって精神障害者と認定された人物を州政府がFBI(米連邦捜査局)に報告し、こうした人物への銃販売を防止することになっていた。
ところがバージニア工科大学事件で、州が予算不足からこの報告を怠っていた実態が明らかになり、連邦政府がこの分野で州政府への補助金を拡大する法案が採択された。とはいえ、この法律も銃規制そのものに大きな変化をもたらすものではなかった。

昔はこうではなかった。世間を大きく騒がせる銃関連事件が起きると、規制強化を求める声が強まったものだ。アメリカ初の本格的銃規制である連邦銃器法(NFA)も、1929年の「血のバレンタインデー事件(ギャングのアル・カポネの一味が、敵対組織の6人と通行人1人を機関銃で虐殺)」がきっかけだった。
壁に残る無数の弾痕と、折り重なって倒れる遺体の写真が全米の新聞の一面を飾ると、銃規制を求める声が一気に高まった。その先頭に立ったのはフランクリン・ルーズペルト大統領自身だ。こうして34年に採択されたNFAは、機関銃などギャングが好む銃火器の入手資格を厳格化した。

68年にマーチン・ルーサー・キング牧師とロバート・ケネディー司法長官が相次いで暗殺されたときは、68年銃規制法(GCA)が採択された。同法は製造・輸入・販売業者に連邦政府の免許制を導入。購入できる年齢を制限し、犯罪歴のある人物に対する銃の販売が禁止された。

93年にはロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件をきっかけにブレイディ法が生まれた(その名は事件で重傷を負ったジェームズ・ブレイディ大統領報道官に由来する)。同法により銃販売店は、購入希望者の犯罪歴を警察に照会することが義務付けられた。

だがブレイディ法以降は、大規模な統犯罪が起きても規制強化が図られることはなくなった。
なぜか。
最大の原因は、全米ライフル協会(NRA)の政治的影響力が高まったことと、統規制運動が下火になったことだろう。

NRAは南北戦争後の1870年代から存在するが、その活動が先鋭化したのは1970年代半ばに強硬な統規制反対派が幹部になってからのことだ。新生NRAが統規制撤廃を活動目標に掲げる一方で、伝統的に統規制に前向きだった民主党は94年に連邦下院で過半数割れを喫して以来、統規制問題を避けるようになった(ビル・
クリントン大統領ら民主党はブレイディ法案を採択したことが過半数割れの原因だと考えていた)。

新たな統規制法が実現する可能性が乏しくなると、統規制運動自体が下火になった。現在、主だった統規制推進団体は資金不足で存亡の危機に立たされている。

今回も規制強化は無理?
統規制が進まないもう1つの理由は、乱射事件を防止する効果的な方法が見当たらないことだ。コロンバイン高校の2人は年齢制限によって自分では統を購入できなかったが、(違法行為だが)自分たちの代わりに統を購入してくれる年上の友人を容易に見つけた。

ギフォーズの統乱射事件後は、10発以上装填できる銃の販売禁止を求める声が高まった。だがそうした銃は既に大量に流通しているし、今回のオーロラ市での銃乱射事件のように、犯人が複数の銃を使っていたら、1丁に装填できる銃弾の数を制限しても意味がない。

悲惨な銃乱射事件が起きると、普段は銃規制の必要性を考えなかった人も、危機感を募らせて規制に賛成しやすくなる。銃規制推進派が、こうした世論を追い風に、新たな規制を実現する力を失ってしまったのは残念なことだ。

その一方で、アメリカが必要としているのは新たな細かい規制ではない。必要なのはすべての州で拘束力を持つ連邦法によって銃の販売や購入を規制することだ。
現在のアメリカの銃規制は、50の州と連邦政府の法律のパッチワーク状態だ。だが州を越えて銃を輸送するのは簡単だから、法の目をかいくぐるのも簡単だ。アメリカは今、国として銃規制をもっと包括的かつ徹底的に考えてくれる指導者を必要としている。

だがコロラド州の映画館で起きた事件は、コロンバイン高校やトゥーソンやフォートフッド基地で起きた過去の悲劇と同じように全米の同情を集めるだけで終わりそうだ。実際には、銃規制に本当に必要な政治的アクションにはつながりそうにない。【8月1日号 Newsweek日本版】
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香港  微妙な中国との距離感 住民感情悪化、愛国教育批判

2012-07-28 21:51:24 | 東アジア

(今年7月1日の香港返還記念日に行われた抗議デモ 左上部にユニオンジャックをあしらった返還前の香港の旗が目に付きます。現在の香港の旗は、中国を表す赤地に香港を表す白いバウヒニアの花をあしらったデザインとなっています。 “flickr”より By alcuin  http://www.flickr.com/photos/forecastle/7480158536/

返還記念日の大規模抗議デモ
1997年7月1日にイギリスから中国へ主権移譲された香港は、社会主義国である中国の中で2047年まで資本主義システムを継続し、政治的にも「高度な自治権」が付与され、中国本土とは異なる行政・法律・経済制度の維持が認められています。

いわゆる「一国二制度」ですが、当然ながら「完全な自治」ではなく、首長である行政長官は職域組織や業界団体の代表による間接選挙で選出され、その任命は中国中央政府(国務院)が行う形になっています。

そうした香港にあっては、「親中派」と香港の独自性・民主主義を重視する「民主派」が争ってきましたが、経済的に中国依存が強まるなかで、最近は「親中派」の勢いが増しているとも言われています。

しかし、これまでも何回か取り上げたように、香港と中国の間には微妙な空気があります。
胡錦濤国家主席も香港を訪れた香港返還15周年記念式典の際には、“隠れ共産党員”とも噂される親中派・梁振英氏の新行政長官就任に抗議して大規模な抗議デモが行われました。

****香港民主派、「40万人」デモ=新長官に反発―返還15周年****
香港返還15周年記念式典と行政長官就任式が1日午前、開催され、長官が官僚出身の曽蔭権氏(67)から実業界出身の梁振英氏(57)に交代した。民主派は中国共産党・政府との関係が密接な梁氏の長官就任に反発しており、同日午後に大規模な抗議デモを行った。

主催団体によると、デモ参加者は40万人で、昨年の返還記念日の約2倍に達した。警察発表では、昨年より9000人多い6万3000人。しかし、デモ隊全員が集合地点の公園を離れるのに要した時間は昨年の2倍の約4時間に及んでおり、参加者数は昨年を大幅に上回ったとみられる。

デモ隊は政府本部まで行進。梁長官の辞職を求めたり、政府と大企業の癒着を批判したりしたほか、中国湖南省の民主活動家、李旺陽氏の不審死について同国政府に徹底調査を要求した。

式典・就任式には胡錦濤国家主席ら中国の党・政府高官を含む約2300人が出席した。胡主席は「『一国』の原則を堅持するとともに、『二制度』の違いを尊重する」とした上で、「一国二制度、香港人による香港統治、(香港の)高度な自治を実施するという中央政府の方針は全く揺るがない」と強調した。【7月1日 時事】
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【「反中デモ」認定 参加者は収容所送り
なお、香港での抗議デモには民主化や人権擁護を求める中国本土からの参加者も増えていますが、7月1日の抗議デモに参加した中国人活動家が、帰国後収容所送りになったそうです。

****中国民主化デモ、参加の男女が収容所送りに****
香港で7月1日に行われた、「中国の民主化」などを求める大規模デモに参加した中国人活動家の男女2人が、中国本土に戻った後、労働教育1年2か月の処分を受けて収容所に送られたことがわかった。
28日付の香港紙・蘋果日報などが報じた。

2人は江西省寧都県の宋寧生氏と曽九子さん。デモ参加後、陳情のため訪れた北京で拘束され、「香港でのデモ参加」などを理由に労働教育処分となった。公安当局は香港のデモを「反中デモ」と認定したという。
香港での毎年7月1日のデモには最近、民主化や人権擁護を求める中国本土からの参加者も増えている。【7月28日 読売】
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【「返還で中国国民になったことを誇りに思わない」58%】
先述のように、経済的には中国依存・一体化が進んでいますが、香港住民の意識面では「中国離れ」が見られる調査もあります。

****中国人と呼ばないで」 香港、本土離れ急増****
英国から中国に主権が返還されて15年が経過した香港で「中国の国民とは呼ばれたくない」と考える香港人が急増し、住民の意識に「中国離れ」が進んでいることが最新の世論調査で明らかになった。

香港大学による6月の調査によると、「返還で中国国民になったことは誇りだ」と答えた香港市民は37%で、北京五輪があった2008年に比べ13ポイント下落。半面「誇りに思わない」は08年より10ポイント高い58%となった。

中国の胡錦濤国家主席は今月1日の香港返還15周年記念式典で、「香港同胞の国家と民族に対する一体感と感情は日に日に増している」と述べ、中国本土と香港の関係を「血は水より濃い」と形容した。経済的にも関係が密接になった香港だが、中国本土に対する住民感情は悪化する一方で、「嫌中派」は確実に増えているようだ。

主催者発表で約40万人が参加した同日の香港市内のデモでは、山東省の盲目の人権活動家、陳光誠氏が米国へ逃れた事件や湖南省の民主活動家、李旺陽氏が不審死した事件への抗議も叫ばれ、対中感情の悪化はこうした人権弾圧事件が影響している可能性が高い。【7月3日 産経】
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【「教育に名を借りた洗脳だ」】
中国側は教育による愛国心育成を目指しており、また、それに対する香港側の批判もあるようです。

****再び紅衛兵を作るのか」香港で愛国教育に反発****
香港の小中学校で9月の新学期から順次導入される、中国国民としての愛国心育成を狙った「道徳・国民教育科」への反発が強まっている。
29日には生徒や保護者、教職員らによる反対デモが予定され、参加者は1万人を超すとの予測も出ている。

同科は胡錦濤国家主席の意向を受け、香港政府が導入を決定。親中派団体が同政府の助成を得て作成した教員用参考資料の内容が今月に入って明らかとなり、不満が一気に高まった。

資料は、中国事情を紹介した全34ページの冊子で、「(共産党は)進歩的で無私で団結した執政集団」「(米国では)政党間の争いが人民の災いとなる」などの記述が並び、負の側面に言及したのは2ページ程度に過ぎない。市民からは「教育に名を借りた洗脳だ」「再び紅衛兵を作るのか」と批判が噴出した。【7月28日 読売】
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主権を有する中国の立場に立てば、中国システムの優位性を主張するのは当然とも言えます。
世界における中国の政治・経済的地位は、香港が返還された15年前とは全く異なります。現在の中国には強烈な自信に溢れています。
世界経済への窓口としての香港の役割も、上海などが成長した今は薄れています。
中国がいつまで香港の自己主張を許容するのか、ちょっと危ういものを感じます。
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ロンドンオリンピック  国家・民族・宗教の影

2012-07-27 23:52:26 | 国際情勢

(コソボのマイリンダ・ケルメンディ選手の試合ですが、左右どちらが彼女だかよくわかりません。右の青色の方のような気がするのですが・・・ “flickr”より By Dominique Schreckling (tcom) http://www.flickr.com/photos/dschreckling/7027488231/

【「コソボの旗を表彰台で仰ぎ見たい」】
男女サッカーの健闘で、日本にとっては幸先がいいスタートとなったロンドンオリンピックですが、世界規模の国際大会である以上、スポーツの祭典であるオリンピックにも国際政治の影がさす面があるのは止むを得ないところです。

セルビアからの分離独立を宣言したコソボは、いまだ国連加盟には至らず、IOCもコソボ五輪委を承認していません。
そのためコソボの女子柔道選手は、不本意ながら、彼女が持つもうひとつの国籍である隣国アルバニア代表としてロンドン五輪に出場します。

****私はなぜ他国の代表なの コソボ〈五輪が映す世界****
トリポリから地中海を挟んで北へ1300キロ、欧州のコソボ。柔道女子52キロ級のマイリンダ・ケルメンディ(21)はこの夏、隣国のアルバニア代表としてロンドン五輪に出場する。

「私はコソボ人。なぜ他国の代表で出ることしか許されないの?」
彼女が幼かった1990年代、旧ユーゴスラビアの紛争が激化した。生まれ育ち、いまも「IPPON」という名の道場で鍛錬する西部の街ペヤには、空爆に遭った建物が残る。
混乱を経てコソボが独立を宣言したのは2008年。日米や欧州諸国はすぐに認めたが、自国内の独立の動きを刺激したくないロシアや中国が反対。コソボはいまだに国連に加盟出来ず、国際オリンピック委員会(IOC)もコソボ五輪委を承認しない。

コーチのドリトン・クカ(40)も、92年バルセロナ五輪の旧ユーゴ代表に内定しながら、激しさを増した民族対立のため代表権を奪われた。「20年経ってもスポーツは政治に勝てない」

マイリンダの実力ならメダルも狙える。だから国籍変更の誘いが相次いだ。旧ソ連のアゼルバイジャンからのオファーは年間12万ユーロ(約1200万円)。だが、「コソボの旗を表彰台で仰ぎ見たい」と断った。
師弟は今回、IOC理事らに手紙を書いた。「せめてIOC旗の下で出させてほしい」。開会式で一人、IOC旗を持って行進すれば世界は自分たちの境遇に気づいてくれるはず――。

5月24日、IOC理事会の出した結論は非情だった。アルバニアはコソボ独立前から持つ彼女のもう一つの国籍だ。
マイリンダ、あなたは何のために戦うの? 「自分やコーチ、応援してくれる家族のため。もちろん祖国のためにも」【6月29日 朝日】
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【“国家”をアピールする格好の場
パレスチナはコソボ同様に国連正式加盟は未だ実現していませんが、オリンピックの方はパレスチナとして参加しています。
ただ、これまでは“招待選手”としての参加でしたが、今回は実力での参加を決めた男子柔道選手がいて話題となっています。

****初の「実力」五輪選手=柔道73キロ級のアブルミラ-パレスチナ〔五輪・柔道****
パレスチナから初めて実力で五輪出場を決めた柔道男子73キロ級のマヘル・アブルミラ(28)。今年5月に、2010年の世界選手権(東京)で得たポイントで、「全く頭になかった」というアジア枠でのロンドン五輪出場が突然転がり込んできた。

パレスチナは今もイスラエルの占領下にあり悲願の独立は達成していないが、五輪には1996年のアトランタ大会から参加。ただし、これまで出場した10人はいずれも招待選手だった。

パレスチナの柔道人口は約1000人。アブルミラは、選手だった父の手ほどきで7歳から始めた。父が営むエルサレム旧市街のスカーフ店を手伝う合間に、東エルサレムの小さな町道場で白帯の子どもらに交じり、朝夕2時間ずつ汗を流す。(中略)

アブルミラは27日の開会式で旗手を務める予定。設備のより充実したイスラエルの道場にはあえて通わなかったといい、「パレスチナが五輪に実力で代表を送り込めるということを世界に示したい」と意気込んでいる。【7月11日 時事ドットコム】
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パレスチナにとっては、オリンピックは“国家”をアピールする格好の場ですが、アブルミラ選手の出身がイスラエルとの間で帰属がもめている東エルサレムであるため、“パレスチナ、出身:東エルサレム”というのは、また特別の意味があるようです。

南オセチアやアブハジアはロシア?】
一方、出身地の記載が問題となっているのは、グルジアからの独立を主張している南オセチアやアブハジア出身のロシア選手です。

****グルジア、五輪サイトに抗議 選手生誕地の表記巡り****
親欧米政権の旧ソ連グルジアの国家オリンピック委員会が、ロンドン五輪の公式サイトで紹介されているロシア選手の生誕地の表記の仕方が誤っているとして、ロンドン五輪組織委員会に抗議文を送った。グルジアが自国領だと主張する南オセチアやアブハジア自治共和国が「(ロシア)」と付記してあるためだ。

グルジアは2008年8月の北京五輪の開幕直前、かねて独立を宣言していた南オセチアを電撃攻撃し、ロシアの軍事介入を招いた。その後、ロシアは南オセチアとアブハジアのグルジアからの独立を承認したが、グルジアや欧米など多くの国は両地域の独立は認めていない。前回の五輪時に起きた紛争が、今も尾を引いている形だ。

公式サイトでは、レスリングに出場するクドゥホフ選手の生誕地を南オセチアのロシア語読みに従い「ユージュナヤ・オセチア」と英字で表記。同じレスリングのツァルグシ選手の生誕地はアブハジアの都市グダウタと書かれ、いずれも末尾に「(ロシア)」と付けられている。両地域の独立を認めているロシア側から見ても誤った表記だ。

インタファクス通信によると、グルジア側は両選手の生誕地に「グルジア」と明記すべきだとしている。【7月27日 朝日】
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どういう事情で“ロシア”と表記されたのかはわかりませんが、両地域をロシアに併合したいというのはプーチン大統領の本音ではあるでしょう。もっとも、独立を認めない欧米諸国との国際関係を考慮すれば、現段階ではさすがにそうしたことは口にしていません。

サウジ女子柔道選手のヒジャブは?】
宗教関係では、イスラム国の女子選手のヘジャブがまた問題となっています。
イラン女子サッカーチームがアジア予選段階で、ヒジャブ着用を理由に出場資格がないとされた問題は、6月27日ブログ「サウジアラビア  オリンピックへの初の女性選手参加 女子スポーツに関する国内・国外の障害」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120627)で取り上げましたが、“2012年7月5日、スイス・チューリッヒにあるFIFA本部で開かれたIFAB特別会合で、イスラム教徒のヒジャブの使用が認められることになり、同年10月にスポーツに適したヒジャブのデザインを規定することになった”【ウィキペディア】とのことです。

今回問題となったのは、7月5日ブログでも取り上げたサウジアラビア女子選手です。
サウジアラビアは女子選手が参加しない国という汚名返上のため、ロンドン大会には女子選手出場をきめました。
その人選にはいろいろなトラブルもありましたが、結局、柔道と陸上の女子選手各1人を派遣することを7月12日に発表しています。

そのサウジアラビア女子柔道選手のヒジャブについて、国際柔道連盟(IJF)は認めない方針のようです。
確かに他の競技と異なり、絞め技などのときどうか・・・という問題はありそうです。

****ロンドン五輪:女子柔道、ヘジャブ着用不可 サウジ反発も****
国際柔道連盟(IJF)は26日、ロンドン五輪の女子柔道競技でイスラム諸国から要求のあったヘジャブ(イスラム女性が頭髪を隠すスカーフ)着用を認めないことを改めて確認した。サウジアラビアから初出場予定のウォジダン・シャハルハニ選手(78キロ超級)は頭髪を隠せないことになり、サウジ保守派から出場への反対が強まる可能性がある。

AP通信などによると、IJF広報担当は「柔道は寝技や絞め技があり、ヘジャブは危険になる可能性がある」と理由を説明した。IJFは従来から、女性のスカーフ着用を認めていないが、イランなど男性の前でスカーフ着用を義務付けているイスラム国はIJFに柔軟な対応を求めてきた。

サウジは今回初めて、五輪にシャハルハニ選手ら女性2選手を派遣することを決めた。これに際しサウジ五輪委員会は、イスラムの服装規定が尊重されることが出場の条件になるとの考えを強調していた。
サウジは最も保守的なイスラム国の一つ。しかも、イスラム社会は今、最も宗教心が高まる断食月(ラマダン)に入っており、イスラム女性が公然と頭髪を露出させた場合、宗教界を中心に強い反発が出るのは確実だ。
サッカーやテコンドーでは女性のヘジャブ着用が認められている。【7月27日 毎日】
*******************

拒否された「欧州最後の独裁者」】
選手ではなく、観戦が拒否されたのがベラルーシのルカシェンコ大統領。「欧州最後の独裁者」という悪名高い人物です。

****大統領の五輪観戦拒否される=制裁下のベラルーシ****
野党弾圧を理由に「欧州最後の独裁者」と非難されるベラルーシのルカシェンコ大統領が、27日開幕のロンドン五輪の観戦を拒否されていることがロシア・オリンピック委員会幹部の話などで分かった。制裁として欧州連合(EU)入域拒否の「ブラックリスト」に掲載されているためだが、選手団は競技に参加するという。

ルカシェンコ氏は自国オリンピック委会長の立場にもかかわらず、インタファクス通信によると、今回の五輪を「汚れた政治」呼ばわりして批判していた。観戦できないことへの「恨み節」だった可能性がある。

一方、隣国ロシアのプーチン大統領は近くロンドンに飛び、自身が黒帯を持つ柔道を観戦する予定。開催国のキャメロン英首相は「プーチン氏と一緒に見る」と秋波を送り、内戦が激化するシリア問題などを「五輪外交」で協議したい考えだ。【7月27日 時事】
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「同性愛者になるくらいなら独裁者のほうがましだ」といった発言(同性愛者であることを公言ドイツ外相を揶揄した発言)などでEUとの関係が悪化しているベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、2014年アイスホッケー世界選手権を首都ミンスクで開催する予定だそうです。

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これまで欧米から度重なる制裁を受けてきたルカシェンコ大統領だが、今度は2014年アイスホッケー世界選手権のミンスクでの大会開催が危ぶまれている。熱烈なスポーツ愛好家の大統領にとって、これは深刻な問題だ。

既に新スポーツ施設を首都に建設済みのルカシェンコ大統領は、ミンスクでの開催に確信を持っていると語っている。「ベラルーシは、2014年世界大会をミンスクで開催する資格がある。非常に真剣に準備を進めている」と、ルカシェンコ氏は発言している。【3月7日 AFP】
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アメリカ干ばつ被害による食糧価格高騰の懸念

2012-07-26 23:15:46 | アメリカ

(アメリカの干ばつ被害状況 “flickr”より By Materials Risk http://www.flickr.com/photos/materialsrisk/7627878042/in/photostream

穀物の国際価格が急上昇
以前にも少し触れましたが、最近気になるのはアメリカの干ばつ被害と、それに伴う食糧価格高騰の話題です。
小麦、トウモロコシ、大豆の価格を見ると、7月に入ったあたりから急上昇しています。

****穀物が高騰、食卓にも影響か 米国の干ばつ深刻****
米国の干ばつなどの影響で、穀物の国際価格が急上昇している。国際的な指標である米シカゴ商品取引所のトウモロコシの先物価格は、史上初めて1ブッシェル(約25キロ)あたり8ドルを突破。大豆も3日続けて最高値を更新した。穀物価格の上昇で家畜のエサなども値上がりし、食卓にも影響が出てきそうだ。

トウモロコシの先物価格(9月物)は20日、1ブッシェルあたり8.2875ドルまで上がり、前日につけた過去最高値をぬりかえた。大豆も一時、1ブッシェルあたり17.7775ドルに値上がりした。小麦も高値圏で取引が続いている。6月1日時点と比べると、トウモロコシと小麦の価格は5割、大豆は3割それぞれ上昇している。

原因は、米中西部の穀倉地帯で、記録的な暑さと少雨により「56年ぶり」(米メディア)といわれる深刻な干ばつ被害が広がっていることだ。米国は世界最大の穀物輸出国。「秋の収穫量が大きく減るのではないか」との見方から、価格が上昇。世界的な金融緩和であふれかえったお金が、欧州危機で行き場を失い、穀物市場に流れ込んでいることもある。

大豆を原料とする食用油では、日本の大手メーカーが卸業者向けに10%前後の値上げを実施。今後、スーパーなどの店頭価格が上がる可能性が高い。政府が輸入している小麦も、10月の価格改定で上がる公算が大きく、年末ごろから、パスタなどの価格に影響しそうだ。
全国農業協同組合連合会は7~9月の飼料価格を1トンあたり900円値上げした。10~12月も値上げする可能性があり、食肉価格に響いてきそうだ。【7月22日 朝日】
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アメリカ中西部の干ばつ被害は、上記記事にある“56年ぶり”とか、あるいは“ダストボウル以降で最悪”とか言われています。
ダストボウル(Dust Bowl)とは、1931年から1939年にかけてグレートプレーンズ広域で断続的に発生した砂嵐のことです。原因としては、不適切な農業によって草が除去され、日照りが続いて土が乾燥して土埃になり、それが吹き飛ばされたことによると言われています。この被害により、大量の農家が離農を余儀なくされ、350万人が移住したとされています。
ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」はこの時期を背景とした作品です。

“1933年11月11日、強大なダストストームが乾燥したサウスダコタ州の農地から表土を剥がし、同年で最悪のダストストームとなった。
1934年5月11日、ダストボウルの嵐の中でも最悪の二日に渡る強大なダストストームがグレートプレーンズから大量の表土を取り除いた。土埃でできた雲によって遥か遠くのシカゴでは土のゴミが雪のように降り、一人あたり4ポンドもの埃が空から落ちてきた。数日後、同じ嵐はさらに東のバッファロー、ボストン、ニューヨークシティ、ワシントンD.C.に到達し、その年の冬にはニューイングランドで赤い雪が降ったという。
1935年4月14日は"黒い日曜日"とも呼ばれ、ダストボウルの期間を通じて最悪の "黒い吹雪" が20回も発生して広い範囲に災害をもたらし、昼を夜のようにした。目撃者によれば、5フィート前が真っ暗で見えなかったという。”【ウィキペディア】

すさまじい砂嵐の猛威ですが、今回干ばつはそのダストボウル以来最悪のものということですから尋常ではありません。
さすがに、今後も“350万人が移住”といったことはないでしょうが、世界の穀倉地帯を襲った被害は、世界の食料価格を引き上げます。
同じく穀物生産・輸出の有力国であるロシア・ウクライナでも不作が報じられています。

日本なども、冒頭記事にあるような影響が今後出てくると思われます。
TVニュースでは、インドネシアのテンペ(大豆を使った、日本の納豆に似た食品)の価格高騰を報じていました。
テンペは米と一緒に食べれらる必須食品で、重要な蛋白源となっています。インドネシアは大豆の70%を輸入に頼っていますが、アメリカの干ばつで輸入大豆が高騰。大豆の国内価格は過去3週間で33%も値上がりし、一部メーカーが生産の一時停止に踏み切ったそうです。

食糧価格高騰による飢え・暴動・社会不安
しかし、一番懸念されるのは、購買力の劣った途上国における食糧価格上昇が社会不安を惹起することです。
実際、2007~08年の食糧価格高騰は、バングラデシシュ・カメルーン・コートジボワール・ハイチ・インド・イエメンなど多くの国で暴動が起き、多くの犠牲者を出しています。

また、2010年の食糧価格高騰による生活苦・国民の怒りが、中東における「アラブの春」を引き起こした背景にあるとも言われています。

2007~08年当時と比べてやや安心できる点は、米(コメ)の価格がインドやベトナム、カンボジア等の増産による供給力増強もあって、比較的安定していることです。
また、中国・インド・韓国・エジプトなどでは相当の備蓄をすでに用意しているとも報じられています。【7月14日 ロイターより】

****米国の記録的干ばつと、食料価格高騰の影響****
・・・・米国は現在、記録的な干ばつに見舞われている。ダストボウル以降で最悪とされるこの干ばつは10月まで続くとみられており、米国の農産物収穫高は大幅に減少する見込みだ。米国はトウモロコシ、小麦、大豆の世界最大の輸出国であり、それらの世界価格はすでに記録的上昇を見せている。

食料価格の上昇は、特に輸入食料に頼る開発途上国の貧しい人々に大きな影響を与える。世界の食料価格は2004年以降、着実に上昇しており、2007年と2010年には社会が不安定になるほどの劇的な急騰があった。

この問題を論じる経済学者たちは、地域における不作、食用作物からバイオ燃料への転換による供給不安、そして「投機」を原因に挙げている。

1990年代の末まで、米国の食料市場は、穀物のバイヤーや農家など、価格に直接の関心がある人たちにほとんど限定されていた。規制緩和によってヘッジファンドと投資銀行の参加が可能になると、市場のダイナミクスが変わり、価格が大きく急激に変動するようになった。(中略)

新しい投機制限は年末までに立法化される予定になっているが、干ばつのために、それでは手遅れかもしれないとバー=ヤム所長は述べている。一方で米農務省は、バイオ燃料のトウモロコシの割当てを縮小する要求をすべて拒絶している。【7月26日 WIRED】
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投機は市場経済の重要な要素ではありますが、昨今のマネーゲームの規模と、それがもたらす結果は、素人的には許容範囲を逸脱しているように思われます。
マネーゲームによって巨額の利益を得る一部の者がいる一方で、食糧を買えずに飢え、社会に暴動が起きる・・・というのは、“効率”と並んで重要な判断基準である“公正さ”を欠いています。
速やかで有効な対策が望まれます。

非遺伝子組み換え農家への影響は?】
なお、日本はアメリカからの大豆・トウモロコシ輸入にあたって、アメリカにおいては少数派となっている非遺伝子組み換え品種を対象にしています。

****栽培方針、干ばつでも変えず=非遺伝子組み換え農家―米****
米中西部イリノイ州のウォーソウで、日本市場向けに遺伝子組み換え(GM)ではないトウモロコシや大豆を栽培する農家のジョー・ズムウォルト氏(35)は24日、時事通信のインタビューに応じ、歴史的な高温・少雨により甚大な打撃が出ているものの、「干ばつを理由に、GM作物に切り替えることはない」と強調した。

米農務省によると、米国では今年のトウモロコシ、大豆の作付面積の約9割がGM品種。GM作物は根の害虫被害を抑え、強い根で土壌から水分を吸収できるため、干ばつにも強いとの指摘がある。

ズムウォルト氏はミシシッピ川沿いを中心とする約1800ヘクタールの農地の大半で、非GMのトウモロコシと大豆を栽培する。同氏は「今年の干ばつは極めて厳しく、GM、非GMの両方に大きな被害を及ぼしている。非GMが今年、面積当たりの収量でGMを大きく下回るとは思わない」と分析。

その上で、「GMに比べ価格が高いため、(今年経済的打撃を受けた)多くの農家から非GM栽培への関心が高まるだろう」と予想。「干ばつを理由に、米国で非GMの供給、作付面積が減少することはない」と指摘した。【7月25日 時事】
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日本にとっては喜ばしい記事ですが、本当にズムウォルト氏の言うような流れになるかどうか・・・。
干ばつの被害実態如何では、今回干ばつを機に、今でも少ない非GM栽培が更に減少することもあるのではないでしょうか。
まあ、そのときは日本も非GMをあきらめるしかないでしょう。
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難航する武器貿易条約(ATT)国連会議  武器貿易における初の国際ルール作り

2012-07-25 22:03:16 | 国際情勢

(武器貿易にはバナナ取引ほどの規制もない・・・として、より強い条約(ATT)を求めるオックスファムの活動 “”より By London&SouthEast Oxfam http://www.flickr.com/photos/ldnoxfam/7160095409/

【「核兵器の問題は注目を集めるが、日々の市民の殺害に使われるのは通常兵器だ」】
武器貿易のルールをつくって紛争予防を目指す「武器貿易条約(ATT)」の制定に向けた交渉が今月3日から27日までのスケジュールで、国連本部において行われています。

****武器貿易ルール作り、国連で条約交渉始まる****
・・・・開会式で潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「通常兵器の取り扱いを定める多国間条約がないことは不名誉だ」と述べ、早期制定を訴えた。

条約の議長草案では、戦車や戦闘機などのほか、小銃などの小型武器も対象としている。潘氏は「十分に管理されない国際的な武器移転は内戦をあおり、地域を不安定にし、テロリストと犯罪者のネットワークを強化する」と指摘し、条約づくりの意義を説いた。

交渉は2日に開始予定だったが、エジプトなどが現在は国連オブザーバーのパレスチナも国家として参加できるようにすべきだと主張し、これに米国やイスラエルが反対して紛糾。1日遅れの開会となった。(後略)【7月4日 朝日】
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“開幕宣言をした国連の潘基文(バン・キムン)事務総長は「核兵器の問題は注目を集めるが、日々の市民の殺害に使われるのは通常兵器だ」と述べ、通常兵器の移転規制の必要性を訴えた。
事務総長によると、アフリカでは90〜05年、武力紛争で2840億ドル(約22兆6100億円)の経済的損失が生じ、紛争で使われた通常兵器の95%はアフリカ以外から流入。事務総長は、武器による暴力や抑圧から市民を解放するため「強固で法的拘束力を持ったATT」の実現に向けた交渉に期待を示した。”【7月4日 毎日】

世界中で紛争は絶えませんが、そうした現状を可能にしているのは紛争に使用される武器・弾薬がどこからか供給されているという事実であり、武器貿易のルールが確立されれば、事務総長の言うように“武器による暴力や抑圧から市民を解放する”うえで大きな前進となります。

上記記事にもあるように開幕早々揉めたパレスチナについては、オブザーバー参加のままで交渉参加はできないが、最前列の席が与えられることで決着しています。
“最前列の席”で決着と言うのも、子供のけんかみたいでおかしな話です。

【「人権侵害国には武器を輸出しない」】
議論の方は、当初の予想どおり難航していますが、27日の時間切れを控えて、24日に条約案が示されています。

****人権侵害国への武器輸出禁止」 国連条約案まとまる****
武器の国際的な取引を規制することで紛争防止を目指す国連の「武器貿易条約」の交渉で、初の条約案がまとまり、24日各国に配られた。目玉とされてきた「人権侵害国には武器を輸出しない」という人権規定が書き込まれた。対象とする武器の範囲は限定的だが、交渉開始3週間で条約案が煮詰まってきた。

米ニューヨークの国連本部での交渉会議で、議長を務めるアルゼンチンの大使が配った。非公式文書の扱いだった議長草案から一歩前進した。27日までの全会一致での合意を目指すが、「人権規定」に強く反対する国もある。

英語版の条約案はA4判で12ページ。
規制対象となる武器が使われることで国際人道法や国際人権法に違反したり、テロや国際的な組織犯罪に使われたりする恐れがあると輸出国が判断した場合、輸出を許可しない義務があると定めている。
各国それぞれの判断にゆだねているとはいえ、紛争国への武器流入を防げる規定が残った。

また、輸出許可についての情報を各国は10年間保存したうえ、条約事務局に毎年報告して公開する義務も盛り込まれている。報告内容は各国任せだが、武器貿易に一定の透明度を持たせられる可能性がある。

ただし、対象とする武器は「攻撃型ヘリコプター」など戦闘型を列挙しており、すべての武器をカバーしているとは言えない内容だ。小型の武器も対象にしているものの、実際の紛争地では「攻撃型」ではない軍用車両などが市民の殺害に使われることもあり、抜け穴を指摘する声もある。

条約の発効には65カ国の批准が必要だとしており、比較的厳しい条件を定めた。(ニューヨーク=前川浩之)
【7月25日 朝日】
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推進派と慎重派の国々の隔たりは依然として大きい
推進派と慎重派の国々の隔たりが大きく、全会一致を前提にする今回会議での合意は難しいとも見られており、多数決での採択となる国連総会に交渉の場を移すことも考慮されているようです。
ロシア、中国はもちろん、イラン、シリア、北朝鮮まで含んで“全会一致”というのは、意味不明なくらいに玉虫色にしない限りは無理でしょう。

なお、日本は“推進派”ではあるものの、より強い条約を求めるドイツなど欧州、中南米、アフリカといった積極派とは一線を画しているとのことです。笑えるぐらいに、いかにも日本らしい立ち位置です。

*****武器貿易条約:国連会議が難航…草案に「弱すぎ」批判*****
通常兵器の移転に関する初の国際ルール作りを目指す武器貿易条約(ATT)国連会議は24日、モリタン議長が会議開始以来初めてとなる条約草案を各国に配布した。27日の会議最終日まで3日間しかない中で、対象となる武器などを巡る推進派と慎重派の国々の隔たりは依然として大きい。
会議参加者からは時間切れを危惧する声も出ており、国連総会などに交渉の場を移す「次の手段」が現実味を帯びつつある。

草案で、規制対象となる通常兵器として明示されたのは、戦車や攻撃ヘリコプターなど7種類の大型兵器と小型兵器。弾薬や武器の部品は含まれず、各国の裁量となっている。

「禁止される移転」は、武器禁輸など国連安保理制裁決議に違反する場合や、戦争犯罪や大量虐殺を意図的に促す場合に限定。国際人道法や国際人権法の重大な違反は移転許可の判断基準として挙げられているが、判断の仕方に関する表現が曖昧で、輸出国の裁量の余地が大きくなる可能性がある。

草案は慎重派を含む会議参加国の合意形成を重視したためか、NGO(非政府組織)の集合体「コントロール・アームズ」が24日の声明で「弱すぎる」と批判する内容となった。また推進派のドイツも「弾薬を含むべきだ」との声明を出した。

会議参加国は現在、4グループに大別される。推進派のうちドイツなど欧州、中南米、アフリカの計74カ国は20日、「強い条約」を求める声明に署名。同じ推進派の英国や日本のほか、世界最大の武器輸出国の米国は声明に署名しなかった。政府筋は草案について「足りない部分もあるが、よくここまでこぎ着けた」と一定の評価をする。

一方、慎重派の中でもイラン、シリア、北朝鮮、エジプト、キューバなどは、条約そのものを望んでいないとされる。
武器輸出大国のロシア、中国は人権や人道への言及に難色を示している。

今会議は各国の合意が原則だが、国連総会は多数決。「年内には条約が成立するだろう」(NGO関係者)と長期戦を覚悟する声も出ている。【7月25日 毎日】
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“武器禁輸など国連安保理制裁決議に違反する場合や、戦争犯罪や大量虐殺を意図的に促す場合に限定”とは言っても、シリア内戦で政府軍虐殺を糾弾する反政府派と、反政府テロリストによるテロ行為を非難するアサド政権側の主張が真っ向から対立するように、どのように解釈するかは立場によって全く異なります。

そうした判断基準の問題、弾薬などを含むかといった範囲の問題など、課題は多々ありますが、最初のスタート台として何らかの条約が成立することは意義があります。
有力保有国が参加していない不完全なクラスター爆弾禁止条約でも、条約が存在することがクラスター爆弾使用の抑止力となってきているような事例も存在します。

弾力化される「武器輸出三原則」】
日本の場合は、「武器輸出三原則」というものがかねてより存在しています。
佐藤首相時代に限定的な三原則が示され、三木首相時代に“対象地域以外への輸出も憲法の精神にのっとって慎む”という厳格化の方向で、いくつかの項目が追加されています。

その後、アメリカとの関係や兵器の国際共同開発の問題もあって、次第に“弾力的”に運用されるようになっており、野田内閣においても、2011年12月27日に藤村修官房長官による談話として、武器輸出三原則をさらに緩和し、国際共同開発・共同生産への参加と人道目的での装備品供与を解禁することが発表されています。

難しい線引き
そもそも、武器・軍用品と民生品との線引きも難しいところがあります。
“近年では民生のエレクトロニクス技術向上によって汎用品が容易に軍需用途をみたすことから、汎用品と軍用品の境界が曖昧になっている。また、発展途上国では、民生品として輸出されたピックアップトラックや4WD車両、トラックなどの車輌が軍需物資輸送の兵站を支えるのに使用されたり、機関銃などを搭載してテクニカルと呼ばれる即席戦闘車輌に改造されたりするなど軍民両用が可能な民生品が輸出先で軍事目的に利用されたチャド内戦でのトヨタ戦争の例もある。”【ウィキペディア】
実際、トヨタのピックアップトラックは世界中の紛争には欠かせない、武装勢力御用達の超有名ブランドです。

佐藤首相時代に関係国で懸念され、「武器輸出三原則」表明の契機となった日本のロケット技術輸出が、実際に旧ユーゴで対空ミサイルとして軍事転用されたとの証言も最近報じられています。

****日本のロケット技術、旧ユーゴで軍事転用 元軍幹部証言*****
1960年代に東京大学などが開発したロケットと関連設備が、旧ユーゴスラビアに輸出された後に軍事転用されていたと、複数の旧ユーゴ軍関係者が証言した。このロケットは当時から輸出先での軍事転用が懸念され、その後、インドネシアに輸出された際に問題になり、自民党政権が「武器輸出三原則」を表明した経緯がある。証言は、懸念された事態が現実にあったことを物語る。

輸出されたのは当時の東大生産技術研究所がメーカーと共同開発した「カッパーロケット」。地球観測用で、輸出した型で15キロの観測機器を上空約60キロに打ち上げる能力があった。
開発チームの中心の糸川英夫東大教授(当時)が59年11月、ユーゴへの輸出契約の合意と、ユーゴからの技術者の受け入れを発表。翌60年12月には、ロケット本体と打ち上げ設備、燃料製造設備を「1億7千万円」で輸出することを明らかにした。糸川氏は、ロケットが純粋な観測用であり、軍事研究に使わないという約束を契約書で取りつけることで話がついていると発表したと報じられた。後にロケットを追尾するレーダーも輸出された。

ユーゴは第2次世界大戦後、社会主義国でありながら旧ソ連と距離を置く独自路線を歩んだため、最新兵器の調達が困難になり、50年代半ばまでにミサイルの独自開発を始めた。

朝日新聞に証言した旧ユーゴ軍関係者の一人はミサイル開発の責任者で、日本の技術の買い付けに来日もした元最高幹部。証言によると、日本との商談は58年夏に欧州を訪れた糸川氏との間で始まった。この元最高幹部は「狙いはロケット本体よりも固体燃料だった」と振り返る。カッパーロケットには、燃焼時間が長く、大型化が可能な最新鋭の燃料が使われていた。

発射装置やレーダーは独自開発ミサイル「ブルカン」の発射実験に使われたほか、燃料の製造設備は62年までに現在のボスニア・ヘルツェゴビナ中部の都市ビテツにある軍需火薬工場、通称「SPS」に納入された。
この納入については、ロケットを東大と共同開発したメーカーの幹部(故人)が80年代に専門誌に発表した手記で、「(日本人技師が)工場に滞在、技術的詳細な指導をした」「わが方と全く同格のものができるようになり先方からよろこばれた」と書き残している。

工場はその後、ミサイルやロケット弾の推進薬製造の一大拠点となり、製品は発展途上国に広く輸出された。90年代前半のユーゴ紛争では、武装勢力が工場を巡って攻防を繰り広げた。この工場側によると、設備は現存しているという。

カッパーロケットと打ち上げ関連設備は、65年夏に日本からインドネシアにも輸出されたが、軍事転用を懸念した隣国マレーシアが「わが国にとって極めて不幸」と日本に抗議。国会で議論になり、67年、佐藤栄作首相が、共産圏や紛争当事国などに対する武器輸出を禁止する「武器輸出三原則」を表明した。
     ◇
■平和利用と表裏一体
《解説》日本が開発した「カッパーロケット」が輸出先の旧ユーゴスラビアで軍事転用されたことを示す今回の証言は、ロケットとミサイル、すなわち技術の「平和利用」と「軍事利用」が表裏一体であることを改めて示している。

日本のロケット開発は草創期から一貫して、科学研究などの「平和利用」を売り文句に続けられてきた。平和技術によって外貨を稼ぐ有力な手段としても、ロケット輸出を肯定的にみる風潮が国内にはあった。
だが、海外からは軍事転用の懸念を抱かれてきた。米国務省の公文書によると、旧ユーゴへの輸出発表の6年後の1965年、佐藤栄作首相とジョンソン米大統領との日米首脳会談の中で、米側が「(輸出したカッパーロケットの)軍事転用を未然に防ぐ予防手段は設けているのか」と懸念を表明した。

マレーシアの抗議を受けて政府が示した武器輸出三原則はその後、76年に三木内閣が追加で「政府統一見解」を示し、対象地域以外への輸出も憲法の精神にのっとって慎む、として厳格化した。
ロケットと関連技術の輸出はさらに、国際的な枠組み「ミサイル技術管理レジーム」が87年に発足して規制された。

だが近年、ロケット以外の軍事転用可能な技術の開発や利用の歯止めを緩和する動きが国内で相次ぐ。
野田政権は昨年、武器輸出三原則の緩和を決めた。宇宙分野では、08年に宇宙技術の防衛利用に道を開く宇宙基本法が成立。
今年6月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)法が改正され、JAXAの人工衛星などの技術をミサイル防衛などの目的で自衛隊が利用する道が開かれた。

技術の平和利用と軍事利用は不可分であるという前提に立って、学問や研究の自由を維持しつつ、用途をチェックし管理するしくみ作りが求められている。【7月15日 朝日】
*********************

繰り返しになりますが、いろんな問題を含んだ武器貿易条約ではあるにしても、先ずはスタートラインにつくという意味で、その成立は重要性を持つと思われます。

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インド  「マルチ・スズキ・インディア」工場の暴動 様々な憶測

2012-07-24 23:36:37 | 南アジア(インド)

(インドの街角で スズキの主力車スイフト “flickr”より By gayamz http://www.flickr.com/photos/gayamz/6948461570/

海外進出の成功例
今月18日に、インド北部ハリヤナ州マネサールにあるスズキ子会社であるインド自動車企業最大手「マルチ・スズキ・インディア」の工場で暴動が発生し、放火された建物内ではインド人幹部が焼死体で発見され、日本人2人を含む約100人が負傷しました。

“組合員が幹部に鉄の棒で殴りかかった後、建物に放火した。死亡した人事部長は、殴打され動けなくなったところで炎に巻き込まれたとみられる。”【7月23日 読売】
負傷した経営陣の日本人2人は暴動の際「殴られた」と話しており、工場の再開時期は未定とされています。

暴動に至った経緯は下記のように報じられています。

****スズキのインド工場で暴動****
・・・・同社によると、マネサール工場でこの日朝、従業員が上司に暴力をふるう騒ぎがあり、労働組合側が経営者側に懲戒処分を行わないよう要求した。役員や管理職が退社しようとしたところ、出口を封鎖された。

その後、双方が話し合いを行っていたが、従業員側が暴れて家具や窓ガラスなど事務所内の備品を壊し始めたという。報道によれば、従業員ら約3000人が工場に殺到して18日夜、事務所に放火し、91人が逮捕された。

従業員の家族や地元記者によると、マルチ・スズキは工場用地を地権者から取得した際、その親族を雇用すると約束したが、多くが正社員になっていないことに従業員らの間で不満を募らせていたという。

労働組合側は、インド人の上司が従業員にカースト制度下の不可触民であることを理由に、差別発言をしたことが混乱の発端だと主張しているという。

マルチ・スズキの広報担当者は取材に対し、差別発言は「まったくなかった」と否定し、社員の雇用形態をめぐる主張の隔たりが事件の原因ではないとしている。【7月19日 MSN産経】
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このところインド経済は、財政赤字やインフレなどで、ひところの勢いを失っているとされてはいますが、自動車販売については、将来的にはインドが中国を抜いて世界最大の自動車市場となることも期待されています。
そのインド自動車販売において、韓国の現代、地元のタタ、あるいはGM・トヨタ・ホンダといった世界的企業を引き離して、50%前後の圧倒的シェアを長年占め続けているのが「マルチ・スズキ・インディア」です。
インドでは「SUZUKI」は自動車の代名詞であり、また、海外進出に取り組む日本企業にあって「マルチ・スズキ・インディア」は輝かしい成功事例でもありました。

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(マルチ・スズキの元最高経営責任者(CEO)の)ジャグディシュ・カッタール氏は、その強さの秘密を「(マルチ・スズキは)インドの消費者の心理を深く理解している」と解説。さらに「長年にわたって他社がうらやむような流通・販売網を構築してきた」とした上で、「新規参入組が一夜でこれに対抗するのは不可能だ」と断言する。また、そのスケールメリットで、スペア部品の価格を大幅に低く抑えられることも強みだという。【10年7月22日 NNA.ASIA】
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最近の「マルチ・スズキ・インディア」について、ネットで簡単に調べると、昨年は3回のストライキにより10%程度の販売減少があったものの、12年に入ってからの販売は概ね好調に推移していたようです。
それだけに、生産現場はフル稼働状態にあったと思われます。
また、生産能力の逼迫を解消すべく、生産拡大の計画も報じられていました。

****スズキ、インドに560億円投資し新工場建設…年産200万台へ****
インド新車市場でトップシェアを誇るスズキのインド子会社、マルチスズキは2日、インドに四輪車の新工場を建設すると発表した。
新工場は、インド西部のグジャラート州に建設されるもの。マルチスズキは400億ルピー(約560億円)を投資して、新工場を建設。2016年までに稼働する予定で、年産能力は25万台を想定する。

新工場が稼働する2016年には、スズキのインド現地生産能力は200万台へ拡大する計画。またマルチスズキは、段階的に生産能力の拡大も検討している。
マルチスズキの2011年度(2011年4月から2012年3月)の新車販売台数は、113万3695台。2010年度実績に対して10.8%減と、2000年度以来、11年ぶりに前年実績を割り込んだ。マルチスズキは新工場の建設によって、需要増を目指す。【6月4日 Reseponse】
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さまざまな憶測
今回の暴動は、そんな超優良企業であり、海外進出の老舗でノウハウを熟知しているはずの企業で起きました。
暴動の背景については、極左勢力「インド共産党毛沢東主義派」(毛派)の介在を指摘する地元報道もありますが、「日本の会社が計画的に狙われた」「政治家による陰謀だ」などの憶測もあり、現段階でははっきりしていません。

****インド:スズキ子会社暴動1週間 さまざまな憶測飛び交う****
スズキのインド子会社、マルチ・スズキのマネサール工場(インド北部ハリヤナ州)で暴動事件が起き、役員1人が焼死、日本人2人を含む約100人が負傷して24日で1週間を迎えた。
警察は工場の組合幹部ら約100人の労働者を拘束し、調べを進めているが、背景の解明は進んでいない。日系企業関係者や地元住民の間では「日本の会社が計画的に狙われた」「政治家による陰謀だ」などさまざまな憶測を呼んでいる。

工場から約3キロ離れたカサン村。マネサールの工業団地で働く地方出身の約5万人が間借りして住んでいるが、マルチ・スズキの従業員数千人は事件直後、逮捕を恐れて一斉に逃亡した。うち数人が住んでいた長屋を23日訪ねた。別の企業で働く男性住人(27)は「私の月給は5000ルピー(約7000円)。スズキの連中は最低でもその3倍以上もらっており、生活に不満はないはずだ」と話した。

地元の農民が建てた2階建て長屋の各部屋は四畳半もない狭さだ。コンクリートの床と壁が刑務所を想起させる。周囲にはドブの汚水があふれ出していた。この男性は「これが(インドの)普通の生活。貧しいからといって、暴動を起こそうとは思わない」と話した。

国内の主要紙は、インド中部で武力闘争を展開する極左勢力「インド共産党毛沢東主義派」(毛派)が暴動の背後にいた可能性を報じた。しかし、カサン村の長老の一人、ジャスラジ・シンさん(57)は「村に左派はいないし、外からの流入も許さない」と否定した。シンさんら多くの住民は「スズキの従業員の多くは、(ハリヤナ州中部)ロタクから来ている。州政府にはロタク出身の有力政治家がおり、彼が地元への工場移転を狙って会社に圧力をかけようとしたのではないか」と、「政治家による陰謀説」を口にした。

一方、日系企業の労働問題に詳しいインド人は「礼儀正しい日本人は、欧米企業と違ってインド人労働者を大切に扱おうとする。ストなどが起こると、多額のカネを問題社員に払って辞めてもらうなどしてきた。ゴネ得だから、日本企業だけがしばしば標的になった」と指摘する。今回の事件も、労組側が会社からカネを引き出そうと騒ぎを起こしたところ、血気盛んな若者たちが暴走し過ぎた、という見方だ。

マルチ・スズキ側は「昨年の長期スト以降、労組とは対話ができており、労務に関する深刻な問題はすべて解決済みだった」(中西真三社長)という。上司を殴りつけた従業員が停職処分を受けたのが暴動の発端だったが、いかなる真相であれ、規模の大きさから、「偶発事件ではなく、あらかじめ計画されていた」との観測が強まっている。【7月24日 毎日】
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暴動を警察が制止せず傍観していた・・・との報道もあります。警察側は否定しています。
****インド警察に傍観疑惑=実態解明続く―スズキ暴動****
スズキのインド子会社、マルチ・スズキの自動車工場で18日起きた暴動で、警察部隊が労働者の破壊行為を数十分間傍観していた疑惑が浮上している。複数の目撃者の話として地元紙が24日報じた。

地元紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、襲撃が始まったのは18日午後6時15分ごろ。その前に武装警官50人が到着していたが、敷地外で傍観。同7時ごろにようやく制止するため工場に入ったという。
ある目撃者は「建物が放火されて初めて警察が動いた」と証言。「対応が早ければ死者は出なかったはずだ」と憤った。

地元マネサール警察署署長は24日、時事通信に対し疑惑を全面否定。「70人の警察官が即座に工場内に展開した」と主張した。【7月24日 時事】
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熟練工の年収が30万円~50万円
労働者の待遇、労組事情については、ジェトロ・アジア経済研究所・内川秀二氏へのインタビューとして、下記のように報じられています

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(今回、暴動が起きたこのスズキは、インドでも有数の優良企業で、乗用車販売シェアが5割に近いという。老舗で、インドでのノウハウも熟知しているはずにもかかわらず、こういうことが起きてしまったのは、どういう状況だったのか?)
まず、インド全般的に言えることですけれども、待遇の格差というものがあると思います。
インドではホワイトカラー層と、現場で働くブルーカラー層の間に大きな差があります。
さらにブルーカラー層の中でも、正規労働者と非正規労働者の格差というものがあります。
労働者は、年収にして30万円~50万円程度しか得られません。

(年収で30万円~50万円程度?)
これは熟練工でその程度です。
ですから彼らがどれだけ頑張っても、彼らが作っている車に乗るということは、できないわけですね。

(車はインドではどれぐらいの値段?)
そうですね、大体80万円~100万円はするかと思います。

(インフレということもあると思うが、マルチ・スズキでは、2011年6月以降も断続的にストが何回か起きている。そして、ほかの日本の企業でも、こういう状況が相次いでいるわけだが、これはインドならではの背景というのもあるのか?)
インドにおきましては、各政党の下に労働組合というのがあります。
そしてその労働組合が、自分たちの勢力を拡大したいがために、それぞれの企業に入り込んで、自分たちの主張をするということがあります。
今回の場合も、第2組合というのはこの政党の影響下にあったかと思います。

(政治的な部分も背景にあるということか?)
そうですね、はい。

(やはり、大企業だから注目が集まるという部分もあるのか?)
もちろんあります。
外から入ってきた勢力にとってみれば、有名な企業で実績を上げたというのは、彼らは支持基盤を拡大するためのアピールになるんですね。(後略)【7月21日 FNN】
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賃金水準が高いか低いかは、比べる対象や利益分配に関する考え方にもよります。
前出【7月24日 毎日】にあるように、一般労働者よりかなり高い水準にあったとの見方もありますが、莫大な企業利益の労働者への還元が不十分だったのではないか・・・との指摘もあります。

****マルチ・スズキを襲った中流インド人労組****
労組はマルチ・スズキの儲け過ぎを暴いたが、暴力に驚いた世界の企業は対インド投資を警戒し始めた

日本の自動車メーカー、スズキの子会社マルチ・スズキの工場で先週、従業員による暴動が発生。インド人幹部1人が死亡し、日本人幹部を含む少なくとも40人以上が負傷した。インドで過激さを増している労使対立を象徴するような今回の事件は、対外的なインドのイメージを損ないかねない。政府は火消しに躍起になっている。

地元紙ヒンドゥスタン・タイムズは「政治問題と無関係とはいえ、この事件は投資先としてのインドの評判を落とすものだ」という匿名の政府高官の発言を紹介。「政府は労働法や企業統治を含む様々な問題に取り組んでいく」

インディアン・エクスプレス紙も、インドの労働問題は「国家的な課題だ」と指摘した。「インドでは強力な労働組合運動が発展してきたが、正規ビジネスの足を引っ張り、対インド投資を減らすような不当かつ暴力的な活動に対する法的な予防措置は不十分だ」
同紙は近年勃発した類似の暴動5件を例に挙げ、「諸外国は予防措置が不十分な国に投資するのをためらうかもしれない」と警告。「事業者の安全を守る権利に比べて労働者の雇用を守る権利が極端に重視されている」として現行法の改正を呼び掛けている。

一方、タイムズ・オブ・インディア紙は、先週のマルチ・スズキの暴動に過激組織「インド共産党毛沢東主義派」が関与している可能性を1面で報じた。マルチ・スズキのマネサール工場があるニューデリー郊外の一帯ではこの数年、労使対立によるトラブルが起きており、情報当局は左翼過激派の毛派が労働組合に食い込んでいた可能性を調べているという。
もっとも、匿名の情報によって毛派との関係が指摘されるときは注意したほうがいい。暴動行為は非難に値するが、だからといって労働者の怒りを聞き流していいわけではない。

統計を熟知した労組に経営側がびっくり
確かにマルチ・スズキの賃金は農業労働者のそれよりはマシだ。だが、工場での仕事が楽園のように楽しいものなら、日本人幹部社員が「危険地手当」を受け取っているのはどういうわけか。インドの生活費は日本より安いはずでは? 彼らがインド人労働者と同じように喜んで賃金カットを受け入れれば、従業員の賃金をもう少し引き上げられるのではないか。

ブロガーのアマレシュ・ミシュラは、インド人労働者の賃上げ要求が不当でない根拠として、彼らが一定の社会階級の出身であることを挙げる。「70〜80年代の労働者は貧しい農夫や何の資産もない労働者階級が主流だった。一方、最近の労働者は中流からアッパーミドルクラスの農家出身者が多い」

今年3月、マネサール工場で新たに結成された労働組合と会社側の賃金交渉が行われた際、労組側の2人が統計学に詳しいことに経営陣は衝撃を受けた。2人は、07年から11年にかけて同社従業員の年収が5.5%増だったのに対し、消費者物価指数は50%以上上昇したと指摘。しかも、同社の利益は01年以来、2200%伸びていた。
なのに、マルチ・スズキの経営陣は労働者に微々たる賃金増しか認めなかった。どうみても会社の収益増を反映していない数字だ。
 
同社社員の月収はわずか1万7000ルピー(約300ドル相当)。彼らは現地ホンダの賃金体系にならって、1万5000〜1万8000ルピーの賃金増を要求したが、会社側は抵抗した。
このままでは、いくら暴動を鎮圧しても、本当の解決にはつながらない。【7月24日 Newsweek】
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「危険地手当」云々の議論はよく理解しかねますが、現地労働需給で決まる現地労働者賃金と、日本の賃金水準に依拠する日本人社員の賃金の間に格差があるのはやむを得ないとも言えますし、現地労働者からすれば不満に思えるとも言えます。
企業利益の分配は、すべての企業において労使間の永遠の課題でもあります。

警戒感はあるものの、インドへの投資拡大の流れは維持
“老舗”のスズキに起きた今回の暴動で、他の日本企業の警戒感を強めていますが、今のところはインド進出への姿勢は変わらないようです。

****インド・スズキ暴動に警戒感 日本企業、成長へ積極投資は変えず****
インド・ニューデリー近郊、北部ハリヤナ州にあるスズキのインド子会社「マルチ・スズキ」での暴動発生に対し、インド投資を加速する日本メーカーは警戒感を強めている。経済成長を続けるインドでの事業拡大は、国際競争力の拡大に不可欠だが、「労使問題のリスクを一層考慮しなくてはならない」(日産自動車幹部)など、対応に追われている。

インドに進出している鉄鋼大手の幹部は「インドで“老舗”のスズキだけに、ショックは大きい。暴動で、中国よりもインドのカントリーリスクが高まった」と警戒する。

18日に起きた暴動は、政治的な思惑に加え、日系企業を標的にしている可能性も指摘されている。このため、各社は「情報収集を急がせているが錯綜(さくそう)している」(別の鉄鋼大手幹部)と、対応に苦慮する。

それでも、インドへの投資拡大の流れは、維持される見通しだ。ここ数年で参入を果たした自動車各社は「変化に適切に対応し、その国のやり方になじんでいなくてはいけない」(トヨタ自動車の前川真基副社長)として、当面の投資計画は変更しない。

2005年に二輪工場で3カ月間の大規模ストライキを経験したホンダは、3年に1度の労使契約改定を意識し、「現地の社長や日本人幹部が、組合側の要望を事前にヒアリング」(同社幹部)し、混乱を最小限に抑えるようにしている。

インドを中東やアフリカ市場も視野に入れた生産拠点に育てようと狙うパナソニックなど電機各社も、戦略の要衝というスタンスは変えず、事業拡大のペースを維持する方向だ。【7月23日 MSN産経】
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フランス  ヴィシー政権下のユダヤ人迫害について、オランド大統領が謝罪

2012-07-23 23:12:02 | 欧州情勢

(1942年7月、一斉検挙されヴェロドローム・ディヴェールに収容されたユダヤ人 殆ど飲まず食わずの5日間の後、アウシュビッツ などに送られ、その殆んどが死亡しました。 “flickr”より By jimforest http://www.flickr.com/photos/jimforest/158062263/ )

フランスでフランス人によって行われた
今朝のTVニュースで、フランス・ヴィシー政権下で起きた「ヴェルディヴ事件」に関するオランド大統領のコメントを報じていました。

ヒトラー率いるナチス・ドイツのフランス侵攻によって敗北したフランスでは、ナチス・ドイツに協力する形でペタン元帥を首班とするヴィシー政権がつくられ、フランス国家がかろうじて存続していました。
そのヴィシー政権下ではドイツ同様のユダヤ人迫害があったことは聞いたことがありましたが、「ヴェルディヴ事件」については、このニュースで初めて知りました。

****ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件(ヴェルディヴ事件****
ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件(1942年7月16日~17日)、または、その略称であるヴェル・ディヴ事件は、第二次世界大戦下のフランスで行われた最大のユダヤ人大量検挙事件である。
本質的には外国から避難してきた無国籍のユダヤ人を検挙するためのものだったとされる。

1942年の7月、ナチスの「春の風」作戦として計画されたもので、ヨーロッパ各国でユダヤ人を大量検挙することを目的とした。フランスにおいては、ヴィシー政権がフランス警察を動かし作戦を実行した。
パリで9000人にも及ぶ警察官と憲兵が動員された。警察庁の記録によれば、7月17日の終わりには、パリと郊外での検挙者数は1万3152人で、そのうち4115人が子供だった。収容所生活の中で、終戦までに生き延びたのは100人に満たない大人のみで、子供は生き残らなかったという。

なお、ヴェロドローム・ディヴェール(Vélodrome d'Hiver)とは冬期競輪場のことで、最初、検挙されたユダヤ人達はここに閉じ込められ、その後、アウシュビッツを初めとする東欧各地の絶滅収容所へと送られた。【ウィキペディア】
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7月16日~17日は事件から70年にあたりますが、式典に参加したオランド大統領は「この事件に直接手を下したドイツ兵は一人もいない。事件はフランスでフランス人によって行われたというのが真実だ」といった主旨の発言を行っており、フランスの責任を認め謝罪しています。

1995年までの歴代フランス政権は、「ヴィシー政権はフランスではない」として一切責任を認めようとしていませんでした。
親独的なヴィシー政権に対抗して、イギリスに亡命政権「自由フランス」をたてて対独徹底抗戦を貫いたド・ゴールにとっては、ヴィシー政権はフランスとは無縁のものであり、謝罪などとんでもない話でしょう。

次期のポンピドゥー大統領は「フランス人同士がいがみあった忌まわしい過去は、もう忘れてもいいのではないか」と、事件を封印してしまう対応でした。

左派のミッテラン大統領も、ヴィシー政権と敵対したレジスタンス闘士であり、「フランスとしての謝罪の必要などまったくない」としていました。

フランスの責任を始めて認め、「守るべき国民を敵に引き渡した」と謝罪したのは保守派のシラク大統領で、1995年のことです。

サルコジ大統領は、反ユダヤ主義は糾弾したものの、フランス政府として悔い改めることについては否定的だったそうです。

そして、左派オランド大統領は、シラク大統領と同様にフランスの過ちを認め、謝罪した・・・ということです。

個人でも、国家でも、汚点とも言える過去と正面から向き合うのはなかなか難しく、勇気のいることです。
責任を認めない歴代政権の対応もあって、フランスでも若者(18-24歳)の60%が「ヴェルディヴ事件」を知らないというのが今日の状況のようです。

なお、「ヴェルディヴ事件」に関連した映画として、「黄色い星の子供たち 」(2010) 監督:ロズリーヌ・ボッシュ、「サラの鍵 」(2010) 監督:ジル・パケ=ブルネ の2本が近年公開されています。
両作品ともTSUTAYAさんで借りられるようです。

ワルシャワでも70年の節目
「ヴェルディヴ事件」がフランスで起きた頃、ポーランドでも同様のユダヤ人迫害が起きています。

****ユダヤ人強制移送から70年、ワルシャワ・ゲットー****
ポーランドは22日、ナチス・ドイツが第二次世界大戦中に首都ワルシャワに作ったゲットー(ユダヤ人隔離区域)から、トレブリンカの絶滅収容所へユダヤ人の強制移送を開始した日から70年の節目を迎えた。1942年7月22日に始まった移送作戦では、当時ワルシャワに住んでいたユダヤ人26万人が命を落としたとされる。

市内では、収容所で虐殺された犠牲者を追悼する行進が行われ、数千人が参加した。また、ワルシャワ・ゲットー内の過酷な生活を描いた未発表のスケッチ画の展覧会も始まり、ユダヤ人を連行するドイツ人や、妻の遺体を手押し車に乗せて運ぶ男性、ゲットー警察に取り囲まれた10歳の少年などのスケッチが公開された。展示品の中には140グラムのパン1切れも置かれているが、これは収容所での1日分の配給に相当する。

二次大戦前のポーランドは欧州でもユダヤ人人口が密集し、全人口の1割を占める約320万人が住んでいたが、うち40万人がワルシャワ在住だった。ポーランド系ユダヤ人は、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)で殺害された600万人の約半数を占める。【7月23日 AFP】
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ワルシャワ・ゲットーでのユダヤ人迫害については、映画「戦場のピアニスト」(2002)監督: ロマン・ポランスキー などがあります。
もちろん映画と現実は異なるでしょうが、入りやすい入口ではあるでしょう。
コメント (1)
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原発  世界では原発回帰の動き 日本では拡大する脱原発デモ

2012-07-22 22:42:06 | 原発

(6月29日の首相官邸前脱原発デモ “flickr”より By SandoCap http://www.flickr.com/photos/sandocap/7467143046/

【「こうする以外には電力供給の安定性を確保する方法が見つからない」】
福島第1原発事故は、日本だけでなく世界の原発に対する姿勢に大きな影響を与えましたが、世界的に見ると、事故後に高まった脱原発の動きは、その後「やはり原発が必要・・・」という方向へ回帰しているようです。

****東日本大震災500日 世界の原発、変わる流れ****
■環境・経済性で再評価
昨年3月の東京電力福島第1原発事故を契機に先進国に広がった脱原発の流れが減速している。脱原発の推進が電力供給を不安定にし、電気料金を高騰させる危険性が認識され、欧米では稼働年数延長や新規建設の承認など再評価の動きが出てきた。一部には新型天然ガスによる火力発電への期待もあるが、環境面や価格の安定性で優れた原発の利用を進める現実的な道が探られている。

◆全廃方針に批判
「こうする以外には電力供給の安定性を確保する方法が見つからない」。ベルギーのヴァテレ・エネルギー相は4日に決めた原発の稼働延長について欧米メディアの取材に応えた。

ベルギーは2015年から25年にかけて国内7基の原発を全廃する方針を9年前に決めている。しかし現在でも総発電量に占める原発の比率は50%超で、代替電源として期待された太陽光、風力発電は総発電量の1%程度しかない。
脱原発は電力不足を招く危険が大きく、15年に廃止予定の3基のうち1基の稼働延長を認めざるをえなくなった。11年12月発足のディルポ政権は、25年までの全廃方針は維持しているが、議会からは「見通しが甘かった」との批判が出ている。

一方、02年に脱原発計画を決めたドイツは、太陽光、風力発電を総発電量の約12%まで成長させた代替エネルギー確保の成功例だ。福島第1原発事故後の11年7月には、22年末までの原発全廃を法制化した。しかし、電力価格高騰が国民生活を直撃している。太陽光や風力発電で作られた電気を電力会社に固定価格で買い取らせる制度が00年に導入され、買い取り費用が電気料金に上乗せされていることが一因だ。

ドイツの12年の家庭用電気料金は1キロワット時あたり25・74ユーロセント(約25円)の見通しで、00年に比べて約85%も値上がりした。消費者団体は「10世帯に1世帯の割合で電気料金を払えなくなっている」と指摘する。

電気料金高騰を受け、ドイツは6月29日、太陽光発電の買い取り価格の約20~30%引き下げを決めた。しかしそれでも「30年までに買い取り費用などで3000億ユーロ(約29兆円)の負担が必要」との試算もある。コストの安い原発は次第に支持を取り戻しつつある。

これに対して原発依存度が78%に達するフランスでは今年5月の大統領選で、「25年までに原発比率を50%まで引き下げる」と公約したオランド氏が当選。エロー首相も7月3日の議会演説で公約実現に意欲をみせた。

しかし、欧州で脱原発が国民生活に与える負担の大きさが明らかになる中、オランド大統領自身は当選後、原発政策をめぐり目立った発言はしていない。
欧米メディアでは「ギリシャなどの債務危機が経済の足を引っ張っている中、脱原発が進むとは思えない」との指摘も多い。

◆米、推進にかじ
欧州の情勢を横目に米原子力規制委員会(NRC)は2月、ジョージア州で2基、3月にはサウスカロライナ州で2基の原発新設を認めた。
米国では1979年のスリーマイル島事故を機に原発の新設が止まったが、オバマ政権は二酸化炭素を排出せず、原油価格変動の影響も受けない原発の推進にかじを切っている。

米国では新型天然ガス「シェールガス」開発への期待から天然ガス価格が下がり、原発のコスト上の強みが減るとの見方もある。しかし議会内には「天然ガス価格がどう動くかは誰にも分からない。今後、多くの原発が必要になるだろう」(ラマー上院議員)との声もあり、原発の優位性は揺るぎそうもない。

≪新興国≫
■電力需要拡大で注目

今後も経済成長が見込まれる中国やインドなどの新興国では、福島第1原発事故後も原発へのニーズは衰えていない。生産活動や生活水準向上のためのエネルギーの確保が不可欠。原油などの価格上昇が予想される中、大規模な原発建設計画が打ち出されている。エネルギー安全保障の観点からも原発への期待は大きい。

「福島第1原発事故という悲劇にもかかわらず、原子力の安全で確実な平和利用の重要性を認識する」。アジア太平洋経済協力会議(APEC)のエネルギー相会議は6月25日のサンクトペテルブルク宣言で原発の意義を強調した。
宣言の背景にあるのは世界的なエネルギー需要の拡大だ。日本エネルギー経済研究所の試算によると、2035年の世界のエネルギー需要は08年の1・6倍に増える見通し。原油や天然ガスなどの価格高騰の恐れもあり、「エネルギー対策のリストには原発も加える」(ロシアのノバク・エネルギー相)必要がある。

中国は35年にエネルギー需要が08年の2倍になるとされる最大の需要国だ。政府は5月末、20年までに約60基の原発を新設する計画を承認し、福島事故後も「現実的な選択肢」との位置づけに変化はない。

インドも同様だ。09年の発電量は日本と同程度の9千億キロワット時で、1990年の3倍以上。総人口は約12億人で、今後の需要増は確実だ。政府は2032年までに原発の発電能力を現状の約13倍、6300万キロワットまで高める計画で、昨年7月には韓国と原子力協定を締結。日本とも交渉を進める。シン首相は5月に議会で「原発という選択肢を諦めては国益を害する」と訴えた。

一方、エネルギー資源に乏しい国々では安全保障の観点からも原発の意義は大きい。原発には一度ウランを輸入すれば安定的に発電を継続できる準国産電源としての特長もあるからだ。 天然ガスなどの資源をロシアに依存するハンガリーなどの中欧諸国や電力の一部を中国から輸入しているベトナムなどでは、「緊急時でも供給が途絶えない自前のエネルギー源として原子力が必要とされている」(日本政府関係者)。

ただし新興国でも原発の安全性への不安は広がっている。インドでは昨年9月、住民の反対運動の結果、2基の原発の建設作業が一時中止された。エジプトでも原発建設計画が住民の反対運動で宙に浮いている。【7月22日 産経】
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産経としての原発に対するスタンスも窺われる記事ではありますが、報道内容は事実でしょう。

ゆるやかにつながり、冷静に行儀よく、しかし執拗に主張する
それぞれの国にはそれぞれの事情がありますが、日本では不思議なくらい、事故後あまり目立った国民による脱原発の行動はありませんでしたが、3月以来毎週金曜夜の恒例になった首相官邸への反原発デモがここにきて大きく広がる様相を見せています。

ツイッターやフェイスブックの呼びかけで、3月のスタート当初は300人程度でしたが、最近は主催者発表で15万人とかいった、これまでにない規模に膨れ上がっています。
先日の20日には、鳩山元首相が参加し「この時点での再稼働はやめるべきだと私も思っている」と訴えたことなども話題となっています。

今回の首相官邸への脱原発デモは、従来の政権への対決姿勢を明確にした組織的抗議行動とはかなり様相を異にしており、いろんな考え方の一般の人々が脱原発という一点で集まったもので、ある意味気楽に参加できるイベント的な感もあるようです。

警備する側にも、敢えて参加者を刺激して逮捕者などを出すようなことがないように・・・という思惑もあるようです。
一方、参加者側からは、マスメディアの姿勢について、政府・東電に配慮したかのようにデモを無視するような扱いをしている・・・との批判もあります。

***デモ「革命」、ゆるやかに整然と 官邸前の脱原発行動***
毎週金曜日の首相官邸付近の抗議行動が大規模になっている。首都圏反原発連合が主催し、13日は主催者発表で約15万人(警察は発表せず)。誘導や応急班などをスタッフが手弁当でこなしている。

作家の広瀬隆さんらは6月22日の約5万人を集めた抗議行動の後、「若者が頑張っているんだから、僕たち老人もできることをしよう」と、有志のカンパでヘリを飛ばすことに決めた。翌週29日、「正しい報道ヘリの会」と名付け空撮写真を撮った。

6日には、小雨まじりだというのに主催者発表で約15万人が集まった。国会議事堂前駅などでは改札を出ても路上に出られない。別の駅から遠回りして国会議事堂裏側にたどり着く。警察官に列の最後尾につくように促され、多くの人がおとなしく2列に並ぶ。

若い警官が「イベントに参加される方は、列の最後尾に」と大声を出す。苦笑する若者がいたが、何度も繰り返す警官に嘲笑する意図があったとも思わない。実際、いつも警備している“デモ”とは明らかに異質な「何物か」になっていただろう。

■動かない行列
特定政党に結びついたようなプラカードやビラがほとんどなく、「反原発」だけで結びつくという主催者の意図がよく浸透している。行列が動く気配がまったくない。終了30分前、主催スタッフが回ってきて「もう動きません。ここでシュプレヒコールを」と説いて回る。「再稼働反対!」の連呼が上がるが、官邸ははるかに遠い。太鼓など鳴り物がない中での単調な連呼は、30分も続けると苦行に似てくる。サウンドデモのような祝祭性は、薬にしようにもない。それでも、回を追うごとに参加者は増える。

1960年、日米安保条約が自然承認される日を目前に、同じように国会議事堂は労組や学生らに取り巻かれていた。その数20万人とも言われるから、規模は近づいている。当時の報道によれば「はげしいジグザグ行進」で国会の門を突破し、座り込みを狙った(江刺昭子『樺美智子 聖少女伝説』)。東大生の樺さんは、デモで命を落とした。

■冷静に執拗に
隔世の感がある。今はジグザグどころか歩けないのだから、デモ行進ではなく「デモ行列」。一部からは警官に怒号が飛んだが、逆にツイッターには「逮捕される覚悟より、ギリギリのところで抗議を続ける根気を」という発言があった。

安保闘争以後、労組など組織動員のデモは予定調和的な示威行動となり、路上の一般人は振り向きさえしなくなった。2003年、イラク戦争反対をきっかけに東京・渋谷で始まったサウンドデモは、DJやバンドらが先導し、若者らを巻き込んでの社会事象にもなった。高円寺のリサイクル店・素人の乱が主導した「家賃タダにしろ!」デモなどは、主張の新奇さだけでなく、管理が厳しくなる一方の路上を自分たちの手に取り戻すという主張が共感を集めた。以来デモ取材を続けたが、官邸周辺の抗議行動は先行例のいずれとも違う、まったく新しい様相を呈している。

ジョイスの『ユリシーズ』では、あらゆる暴力が嫌いという主人公が「革命だって整然と分割払い方式でやらなきゃ」と語る。今回の抗議行動は、参加者たちに「あじさい革命」と呼ばれている。ゆるやかにつながり、冷静に行儀よく、しかし執拗(しつよう)に主張する。「革命」という言葉に、いい意味での革命が起きている。 【7月18日 朝日】
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「革命」という言葉を使うのも気恥しい感があります。
昨年10月にニューヨークなどで広がった「ウォール街を占拠しよう」という若者らの抗議行動にも似た感があります。

原発近くで暮らして思うこと
個人的なことを言えば、私は原発と隣り合わせ、約10kmほどのところに暮らしています。職場などは2kmぐらいの至近距離です。
普段、国内ニュースには殆んど目をとおさないこともあって、東京での脱原発を求める行動がこんなに広がっていること自体、最近まで知りませんでした。参加者側が批判するように、メディアの扱いがこれまで小さかったということもあるのかもしれませんが。

原発を抱えた地元では、東京とは異なり無風です。先の県知事選挙でも反原発を1枚看板にした候補が現職に挑みましたが、大差で敗れました。原発を抱える市での得票も伸びなかったようです。

いろんな考えの方の人がいて、私の周りにも原発の危険を訴える方もいますが、私自身は正直なところ、普段、原発の危険性を真剣に感じることはありません。
“危険性”ということで言えば、私たちの生活はすべからく何らかの危険性に溢れており、それをある意味“無視”することで生活が成り立っていると考えています。

道を歩けば、あるいは車のハンドルを握れば、それなりの(恐らく原発事故よりはるかに高い確率の)事故の危険性がありますが、家に閉じこもるようなことはありません。生活においては、安全性というのは唯一絶対の尺度ではなく、利便性や必要性と総合的に勘案されるひとつの尺度です。
そんな感じ方をしているせいで、原発に限らず、食の安全とか医薬品の副作用とかいった問題で、ことさらに危険性をアピールする主張にはちょっと引いてしまうと言うか、違和感を感じます。そうした感じ方がすべてで、あとの議論は付け足しです。

別に原発が絶対安全などとは思ってはいませんが、福島のような破滅的な重大事態が自分のまわりで起きるとも、正直なところ思っていません。少なくも私が生きている間は。
地震の被害で言えば、市街地を流れる川の上流のダムが決壊して、街全体が水没する確率の方が現実的なようにも思えます。

また、原発が完成された技術とも思っていません。使用後の核廃棄物の扱いなどは対応を将来に先延ばしたまま使っているのが実態でしょう。
ただ、それについても、「まあ、将来の人たちで考えてよ」といったところです。それなりの知恵も生まれるのでは。

自然エネルギーなどの取組を進めることには賛成ですが、せっかく莫大な費用を投じて建設した現存施設を無駄にすることについては、いかがなものか・・・というのが本音です。
安全性面でも、普段から正常運転して監視するより、中途半端な形で放置しておく方が何らかのトラブルがおきやすいのでは・・・とも思っています。
ベタな原発推進派の意見になりますが、原発の稼働停止で地元の被る経済的影響は小さくありません。地元にとっては大きな問題です。
原発に関するハード・ソフト面の技術は、今日本が海外から求められる数少ない技術です。このまますたれさせるのはもったいない感がします。福島の教訓を生かしたより安全な技術開発を行うのもひとつの道かと思います。

まことに不真面目・不謹慎・不勉強極まる考えとお叱りを受けるかとは思っています。
お叱りを受けるついでに敢えて言えば、そんなに安全への配慮をされるのであれば、「たかが電力」ということで自分たちの生活の利便性を犠牲にすることも厭わないというりっぱな覚悟であれば、日本国内の原発の危険を云々する前にもっと目を向けるべき問題が世界には山積しているのではないでしょうか。

世界には飢餓に苦しむ人々、身ひとつで逃げてきた難民、最低限の医療の受けられない人々・・・そうした生命の危機に直面した人々が多数存在しています。私たちの豊かな暮らしのほんの少し、コーヒー数杯程度をそうした人々に振り向ければどれほどの人々の生命が救われるか・・・。

東京での脱原発イベントに楽しく参加している人々を見ていると、自分とは関係のない人々そうした深刻な事実には目を向けることなく、自分の恵まれた生活の安全をひたすらに叫ぶ・・・そんなふうにも思えてしまいます。ちょっと言い過ぎですね。止めておきましょう。
コメント (1)
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