孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

気候変動  「1.5℃」を突破 各国はCOP29への関心低下? 途上国の不信感 アメリカの再離脱

2024-11-09 23:40:24 | 資源・エネルギー

(年平均の推移。2024年は1~10月のデータに基づく推計だが、年平均で産業革命前の水準より1・5度以上高くなるのはほぼ確実だという=コペルニクス気候変動サービス、欧州中期予報センター提供”【11月7日 毎日】)

【24年の世界気温、産業革命前から初の「1.5℃」上昇の見通し】
鹿児島県の奄美地方や沖縄本島では8日から非常に激しい雨が降り続き、11月としては初めての大雨の特別警報が出されました。

この夏の猛暑といい、秋になっての季節外れの大雨といい、「何だか変だなぁ・・・」「これまでと違うなぁ・・・」という感じも。

周知のように気候変動は世界的現象で、やはり今年は世界的に暑かったようです。
今年の世界の平均気温は、観測史上最も暑かった去年を上回ることがほぼ確実になり、『パリ協定』で目標としている1.5℃を始めて越えることになったようです。

****24年の世界気温、産業革命前から初の「1.5℃」上昇の見通し****
「パリ協定」が掲げる「1.5℃」目標を堅持するために、国家だけでなく、企業や自治体などの「非国家アクター」の動きも注目されている

欧州連合(EU)の気象機関「コペルニクス気候変動サービス」は、1850‐1900年の産業革命前の平均気温と比較し、2024年の世界の平均気温が初めて 」を超える見通しを発表した。

2023年の世界の平均気温は、産業革命前に比べて1.48℃高かった。2024年はそれを上回り、1.55℃以上高くなる可能性が高いという。

同機関によると、2024年は観測史上最も気温が高い年となることも確実となった。
11月11日からは、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)がアゼルバイジャンのバクーで始まる。その一方で、米大統領選で気候変動に否定的なトランプ氏が当選したことを受け、気候変動対策のための資金調達目標の達成が懸念されている。

気候対策の国際枠組みである「パリ協定」では、世界の平均気温の上昇幅を「1.5℃」以内に収めることを目標とする。今回の発表は、その達成に向けて、さらなる国際的な協調が必要であることを鮮明にした。【11月8日 松田大輔氏 オルタナ】
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国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、1.5℃の気温上昇が起こると、上昇がない場合と比べて、「10年に1度」の頻度だった猛暑は4.1倍、豪雨は1.5倍に増えるとのことです。

【各国関心低下も見られるCOP29】
このように悪化したと言うか、瀬戸際にある状況で11月11日から始まる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)ですが、ひと頃に比べ各国の関心も薄れたような感も。

****COP29、バイデン氏ら主要国首脳が相次ぎ欠席へ****
11日からアゼルバイジャンで始まる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)の首脳級会合には、バイデン米大統領をはじめ主要国の首脳が相次いで欠席する見通しだ。

バイデン政権の関係筋はロイターに、大統領選直後のタイミングとなったこの会合にバイデン氏は出席しないと明かした。

欧州連合(EU)欧州委員会の広報担当者も5日、フォンデアライエン欧州委員長はブリュッセルでの政治的な事情を理由に会合を欠席するとロイターに説明した。

欧州議会は現在、次期欧州委員会のメンバーの承認手続き中。広報担当者は「欧州委員会が引き継ぎ期間に入っているので、欧州委員長は自身の組織の仕事に専念することになる」と述べた。

また、日本の石破茂首相や中国、オーストラリア、メキシコの各首脳も欠席。ブラジルのルラ大統領は10月に頭部を負傷したことを受け、会合への出席を既にキャンセルしている。

COP29では、二酸化炭素(CO2)排出量削減目標達成に向けた国際的な資金拠出を大幅に増額することで200カ国近くが合意を目指す。【11月6日 ロイター】
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【温暖化を否定するトランプ復権で世界の協調行動が困難に】
何より、温暖化を否定するトランプ前大統領の復権で、世界がまとまって行動することが難しくなっています。

****COP29、11日に開幕 温暖化対策の資金拠出、トランプ氏返り咲きで暗雲****
世界各国が地球温暖化対策を話し合う国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が11日、アゼルバイジャンの首都バクーで開幕する。先進国が途上国に拠出する温暖化対策資金に関し、どの程度の上積みで合意されるかが焦点となる。

ただ、米大統領選で「気候変動はでっち上げ」と主張してきたトランプ前大統領の返り咲きが決まったことで、温暖化対策を巡る国際協調に綻びが生じる可能性もある。

日本や世界では近年、温暖化を背景に猛暑や干魃、豪雨、洪水などの被害が頻発。二酸化炭素など温室効果ガス(GHG)の排出削減が急務となっている。

各国は2015年のCOP21で採択した温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」などに基づき、世界の気温上昇を産業革命前から「1・5度」以内に抑える目標を定めた。

それには30年までに世界のGHG排出を19年比で43%、35年までに60%それぞれ削減する必要がある。各国はGHG削減の国家目標(NDC)を5年ごとに提出しているが、各国が現在のNDCを全て達成しても、「1・5度」目標の実現には及ばないとされる。

途上国には先進国から資金を受け取ることを前提としてNDCを設定している国も多い。途上国は気候変動で被った「損失と損害」への支援も先進国に求めており、温暖化抑止に向けた資金確保の重要性が増している。

先進国は従来、途上国支援のため25年まで年間計1千億ドル(約15兆円)の資金拠出で合意していた。COP29では25年以降の新たな資金拠出のあり方が主要議題となる。

拠出資金の規模は従来の「年間1千億ドル」が下限となるが、途上国は先進国に「年間1兆ドル」の拠出を求めている。これに対し、先進国は大幅な増額に慎重な上、中国やインドなどGHG排出量が多い新興国も資金拠出に参加すべきだとの立場だ。

資金の配分先に関しても、一部の途上国に限定すべきだとする先進国と、特別扱いを求める太平洋島嶼国や後発の開発途上国などの国々で見解が分かれている。

一方で、トランプ氏の米大統領返り咲きは、ただでさえ先進国と途上国の間に横たわる断絶を深めかねない。トランプ氏は前回の大統領任期中、パリ協定から米国を離脱させた。

米国はバイデン政権下で協定に復帰したものの、来年1月に正式に発足するトランプ新政権は再び協定離脱を宣言するとの観測が強い。

ロイター通信はトランプ氏の返り咲きで「(COP29での)合意形成の機運が弱まった」と指摘。「米国の賛同がなければ、より野心的な気候資金の推進はほぼ不可能になる。そうなれば、途上国は欧米諸国の気候問題への野心を真剣に受け止めなくなる」との専門家の見解も伝えた。【11月9日 産経】
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【途上国には先進国の対応への不信感も】
“途上国は欧米諸国の気候問題への野心を真剣に受け止めなくなる”・・・・すでに、そうした動きも。

****パプア、COP29不参加=「空約束許せぬ」****
太平洋の島国パプアニューギニアは31日までに、アゼルバイジャンで11月に開かれる国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)への参加を見送る方針を決めた。

これまでの会議で決定された途上国支援策などが十分履行されていないことを理由としている。温室効果ガスを吸収する熱帯雨林を抱えるパプアの離反は、波紋を広げそうだ。

トカチェンコ外相は声明で、パプアでは気候変動に起因するとみられる自然災害が頻発しているにもかかわらず、会議で表明された資金支援が「われわれには一銭も届いていない」と指摘。「空約束と不作為をこれ以上許すことはできない」と訴えた。また、外相は31日、AFP通信に対し「COPは全くの時間の無駄だ」と酷評した。【10月31日 時事】 
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【トランプ氏周辺では「パリ協定」再離脱の準備】
一方、トランプ前大統領はすでに「パリ協定」からの脱退に向けて準備を始めたとか。

****トランプ氏、気候変動対策「パリ協定」からの脱退に向けて準備か 米メディア****
アメリカ大統領選挙で勝利したトランプ氏は、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの脱退に向けて準備を進めているとアメリカメディアが報じました。

ニューヨーク・タイムズによりますと、トランプ氏の政権移行チームは早速、気候変動やエネルギー政策に関する大統領令の草案準備などに取りかかっているということです。この中には「パリ協定」からの脱退も含まれているとしています。

トランプ氏は選挙期間中、「掘って、掘って、掘りまくれ」を合言葉に化石燃料の採掘を積極的に推し進めることを公約に掲げていました。(後略)【11月9日 ABEMA Times】
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「掘って、掘って、掘りまくれ」・・・・気候変動への対応など微塵もなさそう。

アメリカ抜きとなると再生可能エネルギーに力を入れている中国が主導権を握り、中国はこの気候変動対応を影響力拡大の方策とするのでしょう。

ただ、アメリカ抜きでは資金的にも難しく、今後の気候変動対策の停滞も予想されます。

【発電体制には安全保障の視点も】
なお、温室効果ガス削減の主な分野が発電になりますが、日本は石炭火力を多く使用しており、これまでCOPの場では著しく不評でした。

その日本の電力を考える際に、気候変動対策と同時に安全保障面の視点も必要になります。
例えば、台湾有事で中国が海上封鎖した際に、日本の電力はどうなるのか・・・といった話。

****「台湾有事=日本のエネルギー有事」兵糧攻めに耐えられる備えを……専門家が指摘****
政策アナリストの石川和男が11月9日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。高まる台湾有事のリスクに日本の備えは万全なのか、専門家と議論した。

中国軍は10月14日、台湾を包囲するかたちで大規模な軍事演習を実施した。1日の数として過去最多となる延べ125機の中国軍機が確認され、「一つの中国」を認めない立場を強調する台湾の頼清徳総統への圧力とみられている。

一方でアメリカ海軍が今年9月、2027年までに中国が台湾に侵攻するリスクについて言及しており、いわゆる「台湾有事」が目の前に迫っているとも考えられている。

もし、台湾有事が起こると日本はどのような影響を受けるのか。番組にゲスト出演したキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏は「中国は、アメリカと日本を介入させたくない。アメリカが介入しないよう、日本の米軍基地を使わせないために日本を脅す。中国は、日本へエネルギーを運ぶ船などを日本近海で狙い、威嚇する。そうすると船が来なくなり、エネルギー入って来なくなる」と言及。

エネルギーのほとんどを輸入に頼り、電源構成ひとつとっても7割以上が火力発電という現状を早急に見直すべきだと指摘した。

具体的には「石油の備蓄は約200日分あるが、タンクが地上に並んでいるだけで破壊されるかもしれない。石炭もガスも1ヶ月分もない。

一方、原子力発電所は普通に運転さえしていれば、そこに積んである燃料と前処理をするために輸入してある燃料を合わせると3年間はもつ。よく原発施設のテロ対策だけが重要視されるが、原発への攻撃は核攻撃と同等に見なされるため、徐々に攻撃内容がエスカレートしていく有事においては最終手段に近い。ウクライナ戦争でも原発は最後まで残り、そのほかの発電所や送電網などが先にやられている」と述べた。

そのうえで杉山氏は「少々やられても、例えば日本は電気が足りなくなりませんよ……そういうふうにしておかないと“日本はすぐ電気なくなって、もうお手上げですってすぐ降参する”これではまずい。戦争の抑止という考え方は大事で、簡単には負けないよってしておかないとやられる」と警鐘を鳴らした。

石川は「起こるか起こらないかの問題ではなく、起こったときに対してどう備えるかという話。中国、台湾は火薬庫で常にリスクがあるということを踏まえた対策を」と訴えた。【11月9日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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化石燃料の搬入がストップするかもしれない・・・・・それに備えて原子力をという話になるのか(ウクライナは確かに火力発電がロシアの攻撃で完全に止まり、原子力発電頼みの状況になっています)、だから再生可能エネルギーをという話になるのかは、またいろいろ立場・考えによるところでしょう。
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EV生産に不可欠な「白い金」リチウムをめぐる争奪戦

2023-11-29 23:29:08 | 資源・エネルギー

(チリのアタカマ塩湖にある広大なリチウム採掘場。広さ約45平方キロメートル(東京ドーム約962個分)以上【2022年11月17日 greenz】 塩湖から地下水を大量に汲み上げ、蒸発プールで濃縮し採取。色の違いは濃縮後の差によるもの しかしリチウム採掘は、1日あたり約2,100万リットルもの大量の水を地下から汲み上げて消費・汚染し、近隣地域の希少な水資源を枯渇させ奪う結果に。これによりさまざまな地域住民と水関連の紛争を引き起こしているとも)

【リチウム調達はEV業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」】
今後の産業をリードしていくのがEV(電気自動車)やAI(人工知能)だ・・・という議論は枚挙にいとまがありませんが、EVに関しては(出遅れている日本では特に)賛否両論があります。

****急成長するEVに失速のきざしか?****
電気自動車(EV)はこのまま普及するのか、それとも壁にぶち当たって失速するのか。

この数年というもの、飽きるほど聞いた論争だ。「脱炭素は世界的な潮流であり、逆転することはない」「実際に保有すればわかるが、加速性能や乗り味、あるいはOTA(オーバー・ザ・エアー、無線によるソフトウェアアップデート)などのユーザー体験は内燃車を上回っている」「実現間近の自動運転との相性の良さ」など普及派の論を聞くと、なるほどなるほどとうなずいてしまう。

一方で、「高額なバッテリーを使うEVは割高。補助金がなければ誰も買わない」「EVの製造時に莫大なエネルギーを消費するほか、充電するための電気を作るのにも温室効果ガスを排出するのだからそもそもエコではない」「内燃車をすべてEVに置き換えるとレアメタルなどの資源が枯渇する」など、否定派の意見を聞いても説得力を感じる。(後略)【11月28日 WEDGE】
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EV普及の最大のハードルは充電施設の整備ですが、最大のEV大国では巨額の資金投資の“力わざ”で充電インフラ整備を進めて、ある程度この問題をクリアしているようです。それでも今後の普及には中国でも難題があるかも・・・というのが上記記事ですが、中国のような政府主導の“力わざ”での充電インフラ整備が難しい他国ではどうなるのか・・・という問題も。

上記のような「EVは今後更に急成長を続けるのか?」と言う話は今回はパス。今回取り上げるのは、そのEVに欠かせないリチウムの話。

「チョークポイント」・・・地政学では、戦略的に重要な海上水路を指し、重要な航路が集束している場所、例えばスエズ運河やパナマ運河、あるいかマラッカ海峡やホルムズ海峡など、水上の要衝を意味します。

リチウム電池に必要なリチウム調達は“業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」である”(テスラのイーロン・マスクCEO)とも言われています。

産業を牽引することも期待されるEV生産に不可欠のリチウム確保を求めて「ゴールドラッシュ」のごとく世界は走り出しているようにも見えます。

****リチウムはアメリカにとって次のゴールドラッシュとなるか?****
「21世紀のゴールドラッシュ」が到来した。電気自動車(EV)産業の台頭に伴い、新車のバッテリー製造に不可欠なリチウムの米国内の鉱床を発見し掌握しようという動きが過熱していると、『Vice News』は伝えている。

米国西部一帯で、探鉱者たちは「可能なかぎり多く採掘権を主張」し、降って湧いた需要の爆発的増加から莫大な利益を得ることを期待している。なぜこんなことが起こっているのだろうか? 現時点では、米国内にこの銀白色の金属を産出する稼働中の鉱山はたった一つしかないからだ。

1849年、のちにフォーティーナイナーズと呼ばれる人々が、金を求めてカリフォルニアに殺到した。2023年に一攫千金を求める者たちも、同じくカリフォルニアの「リチウムバレー」を目指していると、CBSの『60 Minutes』は報じる。ある採掘企業幹部によれば、この地域はいずれ「年間750万台のEV製造を支えるだけのリチウムを産出」する可能性があるという。これは、米国における年間EV販売数の半分に匹敵する。

テキサスも負けてはいない。テスラは2023年5月、同州でリチウム精製工場の操業を開始したと、『ロイター』は報じている。テスラのイーロン・マスクCEOは、EV産業の継続的成長はこうした取り組みにかかっていると述べ、リチウムの調達は、業界の発展を左右する「本質的なチョークポイント」であるとした。

背景には中国との競争がある。現在、世界のリチウム供給の67%は中国で精製されていると、『ニューヨーク・タイムズ』は報じる。米国では「地域および環境に関する懸念」のために、生産拡大の取り組みが遅れているため、追いつくのはずっと先になるかもしれない。

環境保護団体のシエラクラブは、リチウム電池は「高い代償を伴うクリーンパワー」であると指摘している。リチウムはどんな未来を約束し、どんな危機を招き得るのだろうか。

識者の見解
リチウムは矛盾をはらむ。コロンビア大学気候学部のマルコ・テデスコはそう述べる。「自動車やその他の社会的側面の電化」は、気候変動の原因である炭素ベース燃料からの転換の必要に迫られてのものだが、「この転換は、私たちが考えるほど効率的なものではないかもしれない」と、同氏は指摘する。

リチウムバッテリーの製造過程では、二酸化炭素排出が生じる──それは、EV革命が明確にその削減を目的として掲げているはずのものだ。さらに、「1トンのリチウムを精製するには50万リットルの水が必要」と言われるほど、リチウム精製には膨大な水が使用され、深刻な副次的汚染を引き起こすおそれがある。そのため、リチウム需要が急増するなかでも、代替資源の探索は続けるべきだ。「そうでなければ堂々巡りになってしまう」と、テデスコは言う。

一方、こうした懸念はおそらく杞憂だろうと、EV業界に詳しいブラッド・テンプルトンは『Forbes』に寄稿した記事のなかで主張している。リチウム需要の増加に伴い、「より効率よく、環境破壊を抑えて採掘するための業界努力」がなされるはずであり、とりわけ政策決定者が環境法を整備すれば、こうした動きは加速する。

(中略)問題が重要で、大量の資金が注ぎ込まれているなら、物理的に可能であるかぎり、何らかの解決策は見つかるはずだ」と、テンプルトンは言う。(中略)

今後の動向
リチウムをめぐる競争は、世界規模の現象だ。カナダは、北米自動車市場への資源供給地として名乗りをあげ、ボリビアの企業は同国の豊富な埋蔵リチウム資源を武器に、新興自動車メーカーとして飛躍をめざしている。

一方、インドは先日リチウム資源開発計画を発表し、2023年後半に採掘権の競売を実施予定だ。こうした国々には勝機があるが、一方で出遅れている国もある。例えばインドネシアは、2025年にバッテリー生産工場を稼働させることを目標としているが、リチウム資源の不足により計画に狂いが生じている。

代替動力源の台頭も予想される。ナトリウムイオン電池は「数十年前から利用されてきた」が、リチウム技術が急速に普及した結果、脇へと追いやられた。だが、「現在このテクノロジーが再び脚光を浴びつつある」と、CNBCは報じる。同様に、『GreenBiz』によれば、現在のリチウムイオン電池よりも安価な代替技術として、一部の研究者はリチウム硫黄電池に可能性を見いだしているという。

米国のクリーンエネルギー転換の成否は、こうした多様な取り組みにかかっている、と『E&E News』は述べる。EV産業を支援するバイデン政権は、新車のバッテリーを大量生産するために「必要不可欠な資源を、米国が十分に調達できる」ことに賭けているのだ。【7月7日 TANAKA】
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【世界第2位のリチウム生産国チリは国有化 調達先多様化の動きが今後加速】
現在、リチウム生産は大きく偏在しています。
“英BPの資料によると、21年のリチウム生産の世界シェアはオーストラリアが52%と首位だった。チリはオーストラリアに次ぐ世界2位で、25%のシェアを持つ。3位の中国を合わせると、3カ国だけで世界シェアの約9割を占める。”【4月22日 日経】

事態を不透明にしているのは世界第2位の産出国であるチリがリチウム生産国有化を表明していることです。

****チリ大統領、リチウム国有化を表明 世界2位の生産国****
南米チリのボリッチ大統領は21日までに、国内のリチウム産業を国有化すると表明した。チリのリチウム生産量は世界2位で、シェアは25%にのぼる。リチウムは電気自動車(EV)向け電池の製造に不可欠で、メキシコも2022年に国有化した。資源保有国の保護主義がEV供給網のリスクになってきた。

チリ政府はリチウム生産を担う国有企業を設立する。23年後半に国有企業を設立するための法案を議会に提出する。今後は国有企業がリチウム生産を主導するが、ボリッチ氏は民間企業の投資も部分的に認める方針を示した。国有企業と民間企業が共同出資会社を設立する場合、国有企業が過半出資する見込みだ。

ロイター通信によると、チリのSQM社は30年、米アルベマールは43年までチリでのリチウム生産が認められている。ボリッチ氏は「チリ政府は既存の契約を尊重する」と説明している。両社は契約が切れるまでは従来通りリチウム生産を続けられる見通しだ。

左派のボリッチ氏は21年の大統領選で格差是正や環境保護を重点政策として掲げて当選した。選挙戦では鉱山会社に増税し、社会保障を強化すると主張してきた。世界でEV普及の動きが広がるなか、ボリッチ政権はリチウムの国有化で経済的な利益を囲い込みたい考えだ。(中略)

チリは中南米で最も早く中国と外交関係を結んでおり、同国との経済関係も深い。ボリッチ氏は22年に中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、中国との経済関係を強化する意向を示した。中国のリチウム大手の天斉リチウム業は18年、SQMの発行済み株式の約24%を取得した。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によれば、日本の炭酸リチウムの輸入国としてチリは最大で、20年は輸入量の75%を占めた。チリの国有化の動きは日本の調達戦略に影響を与える可能性がある。

希少資源の保有国では保護主義が広がっている。メキシコ議会では22年、リチウムを国有化する法改正が成立した。新たに設立した国有企業が生産を独占する。メキシコはリチウム採掘の実績がないが、米地質調査所によると埋蔵量は世界10位に入る。インドネシアも20年からニッケルの未加工鉱石の輸出を禁止している。【4月22日 日経】
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資源を極力自国優位に開発したい生産国と安価な資源を求める世界的大企業の間で綱引き・争奪戦、あるいはリチウム生産への新規参入が始まっていますが、EV生産にとって不可欠なものとしては電池の電極用グラファイト(黒鉛)もあって、これは中国が大きなウェイトを占めているようです。

****重要原料リチウム、チリの国有化で調達先探し急務に****
(中略)ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの最高データ責任者、カスパー・ロールズ氏は「自動車メーカーは国有化計画がどうなるかはっきりするまで、チリからのリチウム調達に慎重になるのではないか」と述べた。「ほとんどのメーカーはいずれにせよ、国有化の前に調達地域の多様化を模索するだろう。しかし、これにより他の地域の魅力が一段と高まりそうだ」という。

鉱物資源の供給網についてアドバイスするボルタイア・ミネラルズの創業者、デービッド・ブロカス氏は、電池原料金属は国家にとって石油と同じくらい戦略的に重要な資源となりつつあり、自動車メーカーは特に「多様な調達戦略」が欠かせなくなるとみている。

大手自動車メーカーは既に欧米やアフリカで新たなリチウム調達先を探している。例えば米ゼネラル・モーターズ(GM)は1月にリチウム・アメリカズに出資しており、同社のネバダ州サッカーパスのリチウム採掘プロジェクトを支援する予定だ。

こうした調達先多様化の動きは今後加速するだろう。(中略)

自動車業界は新型コロナウイルスのパンデミックの際には半導体不足に襲われており、リチウム以外でも今後供給リスクに直面しそうだ。

電池用シリコンアノード(負極)を開発するGDIのロブ・アンスティCEOは、電池の電極用グラファイト(黒鉛)を中国に依存している自動車業界にとって今回の動きは警鐘になると話す。「チリがリチウムを国有化すれば、オーストラリアは供給を増やすことができるし、米国や欧州も供給を増やすだろう」と予測。「しかし中国がグラファイトの輸出を制限し始めたら、電池の供給網全体に急ブレーキが掛かる」

いくつかの新興企業が、より多くのエネルギーを保持し、航続距離が長く、急速充電が可能な、シリコンベースの電極を用いたEV電池を開発しているが、今のところ全グラファイトの70%を中国産が占める。

チリの動きはリチウム供給網への参入をもくろむ国にとって追い風になりそうだ。
リチウム探査会社アテリアンはモロッコ、ルワンダなどアフリカの多くの国に採掘のチャンスがあるとみている。チャールズ・ブレイ会長は「こうした国が、これまでチリに向かっていたエネルギー転換のための投資を引き寄せることになりそうだ」と話した。【4月25日 ロイター】
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【採掘現場での労働条件、環境負荷、汚職などの問題も】
問題は、リチウム採掘が生産国労働者の劣悪な労働に支えられていることが多く、また、大きな環境負荷を伴うことや汚職の助長にも繋がることです。

****アフリカのリチウム採掘でクリーンエネルギーの弊害が暴露―独メディア****
独ドイチェ・ヴェレはこのほど、「アフリカのリチウム採掘でクリーンエネルギーの弊害が暴露される」とする記事を掲載した。記事によると、アフリカでの新たなリチウム採掘競争が汚職をあおり、地域社会や環境に悪影響を及ぼしていることが調査で判明した。

アフリカ南西部のナミビアにある中国企業が所有するリチウム鉱山で、地元の労働者らが劣悪な生活環境や危険な労働環境について不満を訴えている。

中国企業の新豊投資が所有するウイス鉱山で、地元の労働者が新鮮な空気を循環させる十分な場所もなく、高温の狭い場所に住んでいるのに対し、中国人労働者はエアコンとトイレが付いた条件の良い場所に住んでいることがナミビアの鉱山労働組合のメンバーらが行った調査で判明した。労働組合はまた、この中国企業に対し、労働者が勤務中に特別な防護服を着るなどの安全対策を講じていないことについても非難したという。

記事によると、この中国企業をめぐる物議はこれだけではなく、国際NGOグローバル・ウィットネスが実施したアフリカのリチウム採掘に関する新たな調査で、汚職を通じてウイス鉱山を所有する許可を得たことから、小規模採掘許可を通じて鉱山を開発することまで、同社に対する容疑が列挙されている。

報告書にはナミビアと同様にコンゴやジンバブエのリチウム鉱山における人権侵害、汚職、危険な労働環境の事例も列挙されている。グローバル・ウィットネスの主任研究員コリン・ロバートソン氏によると、アフリカの鉱業セクターは過去数十年にわたり汚職問題と結びついており、民衆は常に利益を得ることができていない。リチウム鉱物の採掘において物事が同じ方向に進んでいることに大きな懸念を抱いているという。

(中略)アフリカでリチウム鉱石を輸出しているのはジンバブエとナミビアだけだが、コンゴ、マリ、ガーナ、ナイジェリア、ルワンダ、エチオピアなどでプロジェクトが進行中だ。

国際エネルギー機関の見通しによると、リチウムの需要は2040年までに約40倍に増加する可能性がある。経済大国や国際企業がアフリカのリチウムにアクセスすることになり、それがアフリカ大陸でまん延する汚職を増加させ、鉱物が発見された地域の住民がその恩恵を受けられない原因となっている。

記事によると、中国はアフリカのリチウム採掘を事実上独占している。コンサルタント会社ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの推計によると、今後10年間のアフリカのリチウム供給量の約83%に中国のプロジェクトが関与するとみられる。

2022年に中国の鉱山大手3社がジンバブエの6億7800万ドル(約1014億円)相当のリチウム鉱山とプロジェクトを取得した。ジンバブエ環境法協会(ZELA)が発行した最近の報告書には、「一国によるリチウム採掘の独占は、鉱物資源の過小評価、租税回避、人権侵害などの望ましくない結果を招く可能性がある」と記されているという。

グローバル・ウィットネスのロバートソン氏は、欧州連合(EU)と米国に対し、鉱業の透明性を高め、汚職と闘うために地元の活動家による監視を強化するよう求めた。

ジンバブエ自然資源管理センターのファライ・マグウ氏は、鉱山プロジェクトからの利益は道路建設、医療施設、学校の形で地域社会に還元されるべきだと強調し、「私たちは未利用の鉱物資源を自然資本とみなしており、地元の人々だけでなく子どもたちもその恩恵を受けるべきだ」と語った。【11月28日 レコードチャイナ】
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上記のような外国や大企業による利益収奪を防ぐべく、チリやメキシコでの国有化の動きがあるのでしょう。ただ、収奪主体が外国・大企業から国家に代わるだけかも。

世界最大のEV生産国である中国はリチウムを求めてアフリカにも手を伸ばしていますが、国内でも。

****中国リチウム採掘ブーム、チベット高原に打撃****
中国で活況を呈する電気自動車産業にあおられ、チベット高原で希少金属リチウムの採掘ブームが起きている。だが、リチウム採掘がチベット文化や生態系に損害を与えると警鐘を鳴らす報告が1日、現地研究者のネットワークによって発表された。

中国は世界最大のEV市場だが、低炭素型車両のバッテリーに使用されるリチウムの供給はほとんど他国に依存してきた。だが政府は最近、国内埋蔵量の約85%という膨大なリチウムが眠るチベット高原の開発に着手。状況が変わろうとしている。

一方、チベット人研究者のネットワーク「ターコイズ・ルーフ」は、スピードと低コスト偏重の採掘業者による抽出・加工工程が環境汚染につながっていると指摘する。

(中略)ターコイズ・ルーフが引用した中国の地質調査によると、チベットから隣接する四川省、青海省にかけての鉱床には約360万トンのリチウムが眠っている。

気候変動に特に脆弱(ぜいじゃく)な生物の多様性が高い地域と重なるが、「チベット人は富に殺到するこの採掘ラッシュにおいて、何の発言権も持っていない」と報告書は訴えている。

例えば四川省のチベット族自治州では豊富なリチウム鉱脈が発見され、土地をめぐる入札合戦が起きた。最終的に中国EV用電池大手の寧徳時代新能源科技が落札したが、その間、地元のチベット人は「自分たちの牧草地が売りに出されていることも知らされず、ましてや土地の採掘について何ら相談もされていない」という。

また四川省では、すでに採掘活動によって川の魚が大量死する事例も発生している。

中国は欧米の輸出国との関係悪化に直面し、重要鉱物の国内供給を補強しようとしている。最近では米国が中国へのマイクロチップ輸出を規制したために、中国政府はEVバッテリー製造用のグラファイト(黒鉛)供給に制限をかけている。 【11月1日 AFP】AFPBB News
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アメリカではネバダ州とオレゴン州の州境にある火山「マクダーミット・カルデラ」に世界最大量とも言われるリチウムが存在する可能性があると報告され、「ゴールドラッシュ」も予想されていますが、そこは先住民居住区。

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ただひとつ問題がある。先住民にとって(マクダーミット・カルデラ南部の超優良リチウム埋蔵地)タッカー・パスは神聖な土地であり、伝統的な薬や食料、神聖な儀式に必要な物資を収穫する場所だとマクダーミット・カルデラのある地域の先住民のコミュニティは話しているとガーディアンが報じている。

「そこには埋葬地がある。薬や根があり、生態系があり、そこにはまだ生命が残っている」とタッカー・パスに住む先住民族、ショショーニ・パイユート族のゲイリー・マッキニーは、アルジャジーラ)に語っている。
「気候危機を解決するために、それらのすべてが犠牲になるのだ」【9月23日 BUSINESS INSIDER】
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石炭消費量が再び過去最高水準に 11月末から中東ドバイでCOP28 議論となる「unabeted」

2023-10-01 23:40:03 | 資源・エネルギー

(G7において1kWhの発電に伴い排出されるCO2の量は、昨年、フランスが最も少なく85グラムだった。一方、石炭比率の高い日本は495グラムに達している。

もっとも、脱化石燃料で優等生とされるドイツは385グラムであり、米国やイタリアの後塵を拝する結果となっている。

隣国のフランスは原子力比率が62.7%に達し、26.3%の再エネと合わせてクリーンエネルギーが総発電量の89.0%を占めた。ベースロードに原子力を活用、供給の不安定な再エネとの相互補完関係を重視するフランスは、コスト、効果の面で明らかに先進的と言えるだろう。

ドイツは、再エネの活用を拡大すると同時に、良好な関係にあったロシアからの天然ガス調達をエネルギー政策の基本としてきた。その戦略は、ロシアによるウクライナ侵攻でシナリオが大きく狂っている。

再エネの優等生として注目を集めてきたドイツだが、(エネルギー価格高騰が経済の足かせとなっているだけでなく、CO2排出量も高く)抜本的なエネルギー戦略の見直しを迫られているのではないか。【9月8日 市川眞一氏 「エネルギー政策で躓くドイツ経済」 PICTET】)

【世界の石炭消費量が再び過去最高水準に】
国際社会の大きな流れとして、地球温暖化防止のために脱化石燃料の動きがありますが、化石燃料のなかでも石油・天然ガスに比べてCO2排出が多い石炭について、その使用削減を求める声があります。

****ブルームバーグ氏、米国の石炭火力全廃活動に5億ドル追加拠出****
元ニューヨーク市長の米実業家マイケル・ブルームバーグ氏は20日、2030年までに全米の石炭火力発電所を閉鎖し、ガス火力発電施設を半減させる目標に向けた次の取り組みとして5億ドルを投じると表明した。

これは同氏が10年来取り組んでいる「ビヨンド・カーボン」事業で、今回の拠出は稼働を続けている150の石炭火力発電所の閉鎖、ガス発電の半減とガス火力発電所の新設禁止に向け自治体などの組織と協力することが目的。

同氏は既に、2020年までに米国の石炭火力発電所の30%を引退させることを目指した環境保護団体シエラ・クラブの「ビヨンド・コール」事業に5億ドル以上を投じている。

この事業では結局、20年までに60%超の引退が実現。石油化学工場拡大を抑制する活動にも8500万ドルを投じた。【9月21日 ロイター】
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しかし一方で、各国のエネルギー事情から石炭に対する需要は減っていない、むしろ増えている現実もあります。
特に、世界最大の石炭消費・輸入国である中国の動きが目立ちます。

****石炭4カ月ぶり高値圏 中国が調達拡大、渇水で火力依存****
石炭価格が4カ月ぶりの高値圏で推移している。猛暑による渇水に見舞われた中国が火力発電への依存を強め、石炭を積極的に購入している。

石炭をエネルギー源とする他の消費国にとり、燃料コストを抑える財政の負担が重くなったり産業活動が停滞したりする要因となる。(後略)【9月14日 日経】
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****インドネシアの石炭国際会議、中国の需要強く売買契約が続々成立****
インドネシアのバリ島で24─26日に開催された世界最大の石炭国際会議「コールトランス」では、火力発電用に大量の石炭を求める中国と、最大輸出国インドネシアとの間で石炭の売買契約が次々と成立した。

会議を協賛したコールシャストラによると、今年は中国からの参加者が過去最多だった。中国と取引を結ぼうとするインドネシアの商社や鉱山企業の代表らが群れを成して会議に出席した。

インドネシアの石炭企業オムビリン・エネルジのラムリ・アーマド社長は「今回のコールトランスでは既に多くの取引が成立している。『うちは契約を結べるだろうか』という質問が寄せられているからだ」と語った。

調査会社ノーブル・リサーチが会議に提出した資料によると、中国の石炭輸入は今年、前年比1億トン増えて過去最大の3億2900万トンに達し、来年はさらに4900万トン増える見通しだ。

中国は昨今、不動産市場が低迷し経済成長が鈍いが、異常気象や他業界の経済活動によって電力および石炭の需要は増えている。

ロイターが取材した中国の業者6社は、気象の悪化により今年10─12月期に石炭輸入が増えると予想。うち5社は、来年は今年より輸入が増えるが、ノーブルの予想よりは少なくなるとの見方を示した。1社は、来年の方が今年より輸入が減ると予想した。

世界最大の石炭消費・輸入国である中国の需要が底堅く推移すれば、気候変動目標の下で予想されている世界の石炭利用のピークが後ずれしかねない、と業者らは語った。【9月27日 ロイター】
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ただ、石炭への依存は中国だけでなく、日本も原発再稼働が遅れる状況で石炭火力に依存していますし、脱原発を進めたドイツもウクライナ戦争の影響で一時的に石炭火力を再開するといった動きも。

****世界の石炭消費量が再び過去最高水準に、CO2排出削減に影****
2022年に石炭は一次エネルギー消費量の26.7%を占めた。これは石油(31.6%)を下回るが、天然ガス(23.5%)より多い。だがこれらの中で最も多くの二酸化炭素(CO2)を排出したのは石炭だ。

その理由を説明しよう。化石燃料の主成分は炭素と水素、つまり炭化水素だ。炭化水素が燃焼すると、炭素はCO2を、水素は水蒸気を生み出す。石炭は石油や天然ガスよりも炭素の割合が高い。そのため、石炭を燃焼させると、石油や天然ガスよりもエネルギー単位あたりのCO2発生量が多くなる。(中略)

これら3つの化石燃料のCO2排出量に対する相対的な累積寄与率は、石炭43%、石油37%、天然ガス20%だ。

石炭はまた、発電所で燃やされる際に多くの有害物質を排出する。過去を振り返ると、石炭発電所は酸性雨の原因となる二酸化硫黄を大量に排出していた。規制によりこの問題は最終的に解決されたが、石炭火力発電所はいまだに水銀などの有害物質を排出している。

また、環境に放出される放射性元素は原子力発電所より多い。そのため、石炭が環境に与える影響を抑制しようと多くの規制が可決されてきた。

石炭はさまざまな公害問題を引き起こすことから、ほとんどの先進国は石炭火力発電から脱却してきた。だが石炭は安価なため、発展途上国は電力源として石炭に大きく依存し続けている。発展途上国における石炭消費は現在、世界のCO2排出量増加の最大要因となっている。

石炭の消費量に目をむけると、過去10年間に先進国では減少した一方で、発展途上国で増加した。

経済協力開発機構(OECD)を構成する38カ国の石炭消費量は過去10年間で年平均3.9%減少。非OECD諸国では年平均1.4%増加した。

欧州連合(EU)の石炭消費量はOECDと同様に減少傾向にある。過去10年間、年平均4.2%の割合で減少した。だが2022年には増加に転じ、2%増となった。これは、ロシアのウクライナ侵攻を受けてEU諸国がロシア産の天然ガスを石炭に置き換えたためだ。

その結果、同年の世界の石炭消費量は過去2番目に多くなり、2014年の水準を0.01%しか下回っていない。世界中でCO2排出量を削減する取り組みが展開されているにもかかわらず、石炭消費量は過去最高水準にある。

石炭消費が最も多い10カ国のうち6カ国がアジア太平洋地域の国だ。中国は依然として世界の石炭消費量(および生産量)の大半を占めており、この傾向は今後も長年にわたって続く可能性が高い。次いで消費が多いのはインドだ。以下、米国、日本、インドネシアと続く。

石炭を大量に消費する大方の国は多くの石炭を生産してもいる。最大の例外はオーストラリアで、主要な石炭生産国でありながら消費量は14番目となっている。コロンビアもトップ10に入る生産国だが、消費に関しては50位に入る程度だ。【9月6日 Forbes】
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【COP28で議論される「unabeted」(排出削減策が採られていない)という言葉 立場によって異なる対応】
2021年末にイギリス・グラスゴーで開催されたCOP26では、「(CCS等の)対策をしていない石炭火発の段階的削減」という文言が決定文書に入りました。 CCSとは日本語では「二酸化炭素回収・貯留」技術と呼ばれ、 発電所や化学工場などから排出されたCO2を、ほかの気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入するというものです

2022年11月6日〜11月18日にエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)では、更に進めて化石燃料全体の段階的削減が議論されましたが、合意には至りませんでした。

****(COP27)化石燃料全体の「段階的削減」は入らず****
前回COP26において出た例外的な成果の一つが、決定文書の中に「(CCS等の)対策をしていない石炭火発の段階的削減」についての言及が入ったことでした。

国連の気候変動枠組条約の交渉では、特定の技術や燃料について方針を出すことは非常に合意が難しいため、避けられることがこれまでは多かったのです。

しかし、近年形成されつつある「電力部門の脱炭素化は先行しなければならない」という国際的なコンセンサスを受け、昨年のCOP26では議長国がこの問題を重視したこともあり、石炭火発の段階的削減への言及が入りました。

今回のCOP27では、そのCOP26での文言から、さらに踏み込んだ発信ができるのかどうかが注目されました。特にエネルギー危機を受けて、各国中でエネルギー安全保障への不安が高まる中、それでも移行を強く打ち出せるかがカギでした。

交渉の中では、この点を強く推す国々はいました。島嶼国や、EUや、コロンビア、チリなどを含むAILACと呼ばれるグループなど。最後の局面ではアメリカですら、「(対策のされていない)化石燃料の段階的廃止」を支持していました。

しかし、その他の国々の強い支持は得られず、議長国もこれを重視しませんでした。サウジアラビアは、エネルギーに関して言及したセクションを丸ごと削除することを要求しました。結果として、合意が得られなかったため、最終的にはCOP26の時と同じ表現にとどまりました。

深刻化する気候危機の中で、今一歩、化石燃料からの移行について強いメッセージを打ち出すことに、COP27は失敗したことになります。【2022年11月21日 WWFジャパン】
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今年11月末からUAEのドバイで開かれる国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)においては、石炭を含む化石燃料の段階的削減が再度議論されると思われますが、段階的な廃止を求める国々と役割を維持するべきだと主張する国々の溝は埋まっていません。

議論になるのは「unabeted」(排出削減策が採られていない)という言葉。

****COP28、見えない化石燃料廃止への道筋 止まらぬ温暖化****
第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の開催が2カ月後に迫ったが、化石燃料の段階的な廃止を求める国々と、石炭や石油、天然ガスの役割を維持するべきだと主張する国々の溝を埋めるには程遠い状況だ。

COP28は11月30日から12月12日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催される。

先週の国連総会では、長年の議論が再燃した。グテレス国連事務総長は、総会と並行して開催された気候関連サミットで、化石燃料利権者の「むき出しの強欲さ」を嘆き、地球を温暖化することにより「人類は地獄への門を開いてしまった」と語った。

化石燃料を生産、あるいはそれに依存している国々は、化石燃料の使用を完全に止めるのではなく、温室効果ガス排出を「削減」する、つまり回収する技術を活用すべきだと強調した。

COP28の議長を務めるUAEのスルタン・アル・ジャベール氏はサミットで「化石燃料の段階的な削減は避けられない」と述べた。

世界最大の化石燃料消費国である中国は、今後何十年間も化石燃料を使い続ける意向を示している。

米国は、短期的に化石燃料に投資する一部途上国の計画を認めつつも「排出削減策が採られていない」化石燃料の段階的な廃止に支持を表明してきた。しかし、ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は、そもそも排出削減策、すなわちガス回収技術を十分なスピードで拡大できるかが疑問だとしている。

<言葉の戦争>
昨年のCOP27サミットで段階的削減の合意に失敗して以来、各国間の亀裂が埋まっていないため、交渉担当者らは妥協点を探るために新たな用語に目を向けている。

主要7カ国(G7)は今年4月に「排出削減策が採られていない(unabated)化石燃料の段階的廃止」を加速させることに合意した。

化石燃料の前に「unabated」という語句を挿入することで、排出ガスの回収技術を使わずに燃やされる燃料のみを対象としたのだ。

だが、7月にはサウジアラビアやロシアなどの石油・ガス生産国も参加した20カ国・地域(G20)会議では合意できず、この案は頓挫した。

アイルランドのライアン環境・気候変動相は、全ての化石燃料を段階的に廃止するのか、それとも排出量だけを削減するのかが、COP28で最も厄介な問題になるだろうと述べた。

ライアン氏は排出ガス回収技術を巡る議論について、ロイターに対し「石油や天然ガス、石炭の探査を続けるための単なる白紙委任状になるのではないかと懸念する声も、当然ながらある」と語った。

フランス、ケニア、チリ、コロンビア、そして太平洋の島国ツバルとバヌアツを含む17カ国からなるグループは先週、回収技術の使用を制限する形の化石燃料の段階的廃止を求めた。

共同声明では「化石燃料の拡大にゴーサインを出すために、この技術を使うことはできない」と明言している。

これに対し、米国石油協会(API)など石油・ガス業界団体は「より少ない排出量でより多くのエネルギー」を供給するために、世界は排出削減技術を必要としていると主張している。

また、一部の途上国は、日本や米国がやってきたように、経済を発展させ発電能力を拡大するために化石燃料が必要だとして、段階的廃止に抵抗している。

アフリカ連合(AU)内の一部諸国は、自国で天然ガスを燃やし続けながら、気候変動論を盾に途上国のガスプロジェクトへの融資を拒否する先進国の偽善を非難している。

<1.5度を守れるか>
エクセター大学の気候科学者ピーター・コックス氏は、化石燃料の使用を急速に減らさなければ、10─15年以内に、産業革命前と比較して1.5度という世界的目標を超えて地球温暖化が進むと予想している。

「両立はできない。1.5℃(以上の温暖化)を避けたいと言いながら、化石燃料の段階的廃止について口を閉ざすことはできない」と言う。

国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は今月、再生可能エネルギーが増加するにつれて、石炭、ガス、石油の需要は2030年までにピークに達するとの見通しを示し、各国に化石燃料への新規投資をやめるよう呼びかけた。

この発言は、石油輸出国機構(OPEC)の怒りを買った。OPECは、ビロル氏の予測には排出権回収の可能性が含まれていないと異議を唱え、新規投資の中止を求める呼びかけを「危険」と表現した。

一方、小島嶼国連合(AOSIS)は、気候変動に起因する暴風雨や海面上昇による国土の喪失に直面しており、化石燃料の段階的廃止と、各国政府による年間7兆ドルの化石燃料補助金の停止を求めている。【9月30日 ロイター】
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排出削減技術を活用して「より少ない排出量でより多くのエネルギー」が得られるなら問題ないではないか・・・というのは理屈ではありますが、現実には「それではいつまでたっても化石燃料依存から抜け出せない」「石油や天然ガス、石炭の探査を続けるための単なる白紙委任状になるのではないか」という懸念も。

先進国、島しょ国のように温暖化の危機に直面している国、成長の可能性を求める途上国、中東など化石燃料産出国、さらには中国や欧州など温暖化対策を戦略的に位置づける国・・・・それぞれの立場が絡み合った複雑・困難な議論になると予想されます。
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ドイツ  「脱原発」完了、安定供給・価格には問題も 「石炭」に頼る日本はG7で矢面に

2023-04-16 23:00:23 | 資源・エネルギー

(【4月15日 西日本】)

【ドイツ 世論調査で「脱原発」に反対が59%】
東京電力福島第1原発事故を受けて「脱原発」を目指すドイツが、残る最後の3基を停止し、「脱原発」を実現したのは報道のとおり。

****ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止****
国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が停止する日を迎え、「脱原発」が実現します。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。

ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。

「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を今月15日まで延期していました。

15日、3基が発電のための稼働を停止する日を迎え、このうち南部のネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが集会を開き参加者は「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕を掲げて喜んでいました。

参加者たちは「原発の危険性がなくなりうれしい」とか、「何年も求めてきた『脱原発』が実現できてよかった」などと話していました。

ただ、ドイツではエネルギーの確保が課題となる中、今月の世論調査で「脱原発」に反対と答えた人が59%で賛成の34%を大きく上回り、経済界からも懸念が示されています。

今後は政府がさらなる拡大を目指す再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかや高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分などが課題となります。【4月16日 NHK】
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しかし、上記記事にもあるように、ウクライナ戦争を受けて「脱原発」の手段としていたロシアからの天然ガス輸入が大幅に削減され、電力の安定供給に不安が生じたことで国民世論・経済界は「脱原発」に反対の姿勢です。

2011年には電力構成の18%を占めていた原発は、これまでから進めてきた稼働停止によって、すでに2022年6月時点には6%へと低下しており(再生可能エネルギーは20%から44%に増加)、今回の3基による電力を再生可能エネルギーで代替すること自体は可能と思われますが(当面は石炭火力でカバーし、将来的には再生可能エネルギーへ転換)、今後電力の安定供給が揺らぐと、これまで進めてきた「脱原発」が妥当だったかどうかが問われることになります。

****ドイツの脱原発が完了、稼働中の3基が運転停止…エネルギーの安定供給に課題****
ドイツで15日、稼働中の原子力発電所3基が運転を停止する。2002年の法制化から約20年をかけ、「脱原発」が完了することになる。ドイツ政府は風力や太陽光などの再生可能エネルギー拡大を急ぐが、電力の安定供給をどう維持するかが課題となる。(中略)

ウクライナ侵略でロシアが天然ガスの供給を絞り込み、エネルギー不安が高まったため、ショルツ政権が昨年末での全廃予定を先送りしていた。

ドイツの脱原発は、左派のシュレーダー社民党政権時代に法制化された。保守のメルケル前政権が産業界に配慮していったん方針を見直したが、11年の東京電力福島第一原発事故を受けて再転換した。

22年末までの全廃に向け、原子炉17基の段階的閉鎖を進めた。各地で廃炉作業が行われているが、放射性廃棄物の最終処分地は決まっていない。

最後に運転を停止する3基は、国内発電量の約5%をまかなっていた。今後は再生可能エネルギーの普及を急ぎ、30年までに80%、将来的に100%を確保する計画だが、風力発電などは天候に左右されやすいため、蓄電技術の向上が求められる。

原発停止への国民の支持は低下している。独公共放送ARDが11〜12日に行った世論調査では、59%が原発停止は「間違い」と回答した。66%が電気代高騰への懸念を示し、電力に関する不安は根強い。

自動車などの産業が集積するドイツ南部は再エネ資源に乏しく、原発停止への反対論が根強い。バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏は13日にイザール2を視察し、「原子力からの撤退は重大な誤りだ。ドイツにとって危険なことだ」と懸念を示した。【4月15日 読売】
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ドイツの電力価格は、推進する再生可能エネルギーへの補助金をまかなう賦課金もあってEU内でも比較的高く、ウクライナ情勢による、ロシアからの天然ガスの供給が途絶えたことなどで電気やガスの料金がさらに値上がりしました。

【高い電力価格で国際競争力への不安も】
今後、電力不足時には一段の高騰も懸念され、連立与党内に「脱原発は戦略的な誤り」(産業界寄りの自由民主党)との批判もあります。

****「脱原発」を実現するドイツ、「脱ロシア」を進める中で競争力を維持できるか****
経常収支の黒字減少が物語る現実、天然ガスのLNG代替で発電コストは高止まり

(中略)そもそもドイツ政府は「脱炭素」と「脱原発」の二兎を追う戦略を描いていた。そのために、再エネ発電の一段の普及を図るとともに、移行期間においてはガス火力発電を活用するという二段構えの戦術を用意していた。その火力発電に使う天然ガスの主な調達先は、ドイツと経済的な友好関係にあったロシアであった。

そのロシアが、2022年2月24日にウクライナに侵攻したことで、事態は急変した。欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会を中心に化石燃料の「脱ロシア化」が宣言され、EU各国がロシア産の化石燃料の利用の削減に努めることになったのだ。

当初は慎重だったショルツ政権も、徐々に「脱ロシア化」を進めざるを得なくなった。
そして、ドイツは「脱炭素」と「脱原発」に加えて「脱ロシア」の三兎を追う戦略を進めた。再エネ発電の普及を進める一方、ガス火力発電に関してはロシア産の天然ガスの利用が難しくなったため、代替手段として第三国から液化天然ガス(LNG)を輸入する必要に迫られたのである。

ガスの「脱ロシア化」がもたらすコスト増
ドイツの電源構成に占める原発の比率は、2022年6月時点には6.0%へと低下しており、ドイツの電力供給に果たす役割は限定的と言えそうだ。だが、この6%を占める原発を全廃することで減少する電力を、その他の電源で十分に賄うことができなければ、ドイツの電力供給は当然のことながら不安定化する。

ドイツでは2022年6月時点で、電源構成の48.5%が再エネとなった。再エネ発電の問題点は地形や天候に左右されるため、出力が不安定なことにある。

コロナショック後の2021年にヨーロッパで電力価格が急上昇した主因が、風不足による風力発電の不調にあったことは記憶に新しい。出力の安定は喫緊の課題である。

それに、再エネによる電力は価格が高い。
ドイツ政府は3月9日、事業者による再エネ電力の利用を増やすため、差額決済契約(CfD)を導入する意向があると表明した。CfDは一定期間、再エネ発電による電力料金と市場での電力料金の差額を政府が補填するものだが、言い換えればそれだけ、再エネによる電力は高いということだ。

ガス火力発電のコストも、過去の想定に比べると高くつきそうだ。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻まで、ロシアからパイプラインを通じて天然ガスを安価に安定して調達してきた。それが「脱ロシア化」で不可能になったため、ロシア以外の国からLNGの輸入を増やすことでガス火力発電の利用を進める路線に転換した。

それまでLNGを輸入してこなかったドイツは、バルト海で洋上LNGターミナルの建設を急いでいる。これらが稼働すれば、LNGの受け入れ態勢が整備され、ドイツでも天然ガスの「脱ロシア化」が完了する。だが、ロシア産のパイプラインを経由した天然ガスに比べると、LNGは加工やタンカーによる運搬を要するため、コストが高くつく。

経常収支の黒字減少が物語る事実
発電コストが増えれば生産コストが増加し、国際競争力は低下する。そのため、これまでヨーロッパ経済をけん引してきたドイツの国際競争力は、大胆な為替調整(つまりユーロ安)が入らない限り、自ずと低下すると予想される。その萌芽は、すでに経常収支の黒字幅の明らかな縮小というかたちで現れている。

ドイツの2022年の経常収支の黒字幅は前年からほぼ半減し、1451億ユーロ(約20兆7000億円)となった。その主因は、財収支(モノの貿易の収支)が1159億ユーロと前年から790億ユーロ減少したことにある。化石燃料の価格の急騰を受けて輸入額が前年から22.3%と急増したことが、財収支の黒字減少につながった。

輸入サイドに関しては、ロシア産の天然ガスの輸入が減少し、代わってLNGの輸入が増加することで、輸入額が高止まりとなる可能性がある。輸出サイドに関しても、電力コストの増加に伴う生産コストの増加を輸出価格に転嫁するなら、輸出額が思うように増加しないどころか、頭打ちとなる可能性も考えられる。

いすれにせよ、ドイツ政府が「脱炭素」「脱原発」「脱ロシア」という三兎を追う戦略を推進する以上、これまでのような輸出主導の経済成長モデルを維持すること自体、難しくなるだろう。コロナ前までドイツは2000億ユーロを超える巨額の経常収支黒字を計上していたが、それも難しくなるのではないだろうか。

今年4月に完了するドイツの「脱原発」は、ドイツ経済がそうした道を着実に突き進んでいることの象徴的な出来事になる。【3月23日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「脱原発」をめぐるEU内の対立】
「脱原発」をめぐってはドイツ国内だけでなく、「脱炭素」を進めるEU内においても大きな議論があります。
「脱原発」を進めるドイツと対照的なのがフランスで、電力の7割以上を原発に依っています。

昨年10月に独仏の首脳会談がパリで行われましたが、「脱炭素」を進めるうえでの原発の扱いについて溝は埋まらず、予定されていた会談後の共同会見をマクロン仏大統領が断るという前代未聞の事態もありました。

****EU、再生可能エネルギー規則で原子力の扱い巡り対立****
欧州連合(EU)の再生可能エネルギー規則の目標を巡り、原子力を認めるかどうかで対立する加盟国が28日、最終的な協議を行った。

加盟国と議会は29日に2030年までに再生可能エネルギーを拡大するためのより厳格な目標で合意を目指していた。これは二酸化炭素(CO2)の排出を削減するとともに、ロシア産のガスへの依存を減らす計画のカギになる。

しかし、原子力の位置付けに関する協議は難航。EUの温暖化対策に関する合意を脅かしている。

オーストリアを中心としたドイツ、スペインなど11カ国は28日の会合で、再生エネルギー規則では原子力を除外することを推奨した。原子力を盛り込むことで、風力および太陽光発電を大幅に拡大する取り組みが阻害されると主張した。

一方、フランスのアニエス・パニエリュナシェ・エネルギー移行相はこの日、チェコ、フィンランド、イタリア、ポーランドなど13カ国による原発推進国の会議を開催。共同声明で各国は「原発プロジェクトには望ましい産業、金融の枠組みが必要との認識で一致した」と表明した。

このうち9カ国程度は、原子力発電で生成された「低炭素水素」を再生可能エネルギーとして扱うことも求めた。【3月29日 ロイター】
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【日本の「石炭火力」容認 G7環境相会合で矢面に】
日本では、従来は原発再稼働に「反対」が「賛成」を上回っていましたが、やはり電力料金高騰の影響もあって、最近は賛否が逆転して、「賛成」が多数を占めるという世論調査結果が出ています。

その点では、「原発」については再稼働を進める岸田政権と世論が一致した形ですが、さりとて再稼働を一気に進める状況にもありません。

当面は「石炭火力」で・・・という日本の方針ですが、国際的に見ると日本の「石炭火力」容認への批判が強くあります。

折しも、昨日・今日、札幌市で先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が開催され、議長国日本は難しい立場に。

****「石炭火力廃止」圧力で苦境のG7議長国・日本 環境相会合****
札幌市で15日開幕した先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で、最終日の16日に採択する共同声明の調整を巡って最も難航しているのが、石炭火力発電の扱いだ。

昨年のG7閣僚会合では議長国ドイツの提案に日本が抵抗したが、今回は議長国を務める日本の事前提案に他の6カ国から批判が続出。

日本は強みを持つアンモニアを石炭火力に混ぜて燃やす「混焼」などへの理解を求める考えだが、石炭火力の廃止時期の明記を求める国や混焼の二酸化炭素(CO2)削減効果は不十分と指摘する国もあり、厳しい立場に置かれている。

「2050年に脱炭素化を実現する目標は変わらないが、各国の事情に応じた多様な道筋がある」。会合に関わる複数の日本政府関係者はこう話す。共同声明の原案作成に向けた事前協議が本格化した3月頃から特にこの言葉が増えてきた。ある政府関係者は石炭火力を巡る協議が難航していることを暗に認める。

石炭火力を巡る表現は昨年のG7でも焦点となった。ドイツが「2030年までの石炭火力廃止」を提案し、欧州各国やカナダが賛同。日本は期限の明示に最後まで同意せず、昨年の共同声明で石炭火力は「段階的に廃止」との表現に留められ、廃止時期は明示されなかった。

2035年までの電力部門の脱炭素化についても「大部分(predominantly)」と各国の解釈が可能な表現で決着した。

今年は立場が変わり、日本が石炭火力の廃止時期の明記と、2035年までの電力部門の〝完全な〟脱炭素化への道筋をつけるように他の6カ国から求められる展開となっている。

再生可能エネルギーの主力である太陽光や風力の適地に乏しく、既設原発の再稼働も進まない日本にとって、今後も一定程度を石炭火力に頼るのはやむを得ないのが現実だ。

足元で総発電量の約3割を石炭火力に依存しており、エネルギー基本計画でも30年度の電源構成に占める石炭火力の比率は19%と見込む。脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた電源構成の前提となる話だけに、日本も簡単に譲歩はできない。

ただ、ウクライナ危機後に覇権主義的な傾向を強める中国とロシアをメンバーに含む20カ国・地域(G20)が機能不全に陥る中、G7の結束の重要性は増している。共同声明をしっかり取りまとめ、5月に開かれるG7首脳会議(広島サミット)につなげる責務が日本に課せられている。【4月15日 産経】
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結局、共同声明には石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで妥協が図られたようです。

****石炭火力発電、廃止時期は明示せず G7環境相が共同声明採択****
札幌市で行われた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は16日、プラスチックごみによる海洋汚染ゼロの国際的な目標を従来の2050年から10年前倒しして、40年とすることなどを盛り込んだ共同声明を採択。2日間の日程を終え、閉幕した。

焦点となっていた石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、天然ガスにも対象範囲を広げ、二酸化炭素(CO2)の排出削減対策が取られない火力発電を段階的に廃止することを明記した。

終了後の記者会見で共同議長を務めた西村康稔経済産業相は「脱炭素化への道筋は多様であることを認めながら、具体的な取り組みの合意ができた」と強調。西村明宏環境相は「気候変動や環境問題へのわれわれのコミットメント(関与)がゆるぎないことを国際社会に示すことができた」と述べた。

プラごみ対策については、G7各国でリサイクル施設の整備など取り組みが進んでいることも踏まえ、19年の20カ国・地域(G20)で合意した国際的な目標を前倒しした。G7として、問題解決に積極的な姿勢を国際社会に広く示す狙いがある。

石炭火力を巡っては、G7のうち、日本以外の欧米6カ国は共同声明に廃止時期の明示などを求めていたが、石炭火力の依存度が高い日本が従来の「段階的廃止」の方針を主張。共同声明では、石炭火力についての表現は踏襲した上で、天然ガスも含めた「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで折り合った。

この他には、自動車分野の脱炭素化で、ガソリン車なども含めた各国の保有台数を基にG7各国でCO2の排出量を35年までに2000年比で半減させるため、取り組みの進捗(しんちょく)を毎年確認することなども盛り込んだ。【4月16日 産経】
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日本には日本の事情がありますし、経済・市民生活の根幹をなし電力供給の問題ですから安易な妥協もできません。
ただ、今後はますます「石炭火力」への風当たりは強まることが予想されますので、長期的な視点にたっての戦略が求められます。
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カタール  天然ガス争奪戦 日本が失った分が欧州と中国へ 米・露・中、ガスをめぐり得したのは・・・

2022-11-23 23:35:28 | 資源・エネルギー
(【11月22日 TBS NEWS DIG】)

【天然ガス供給余力があるカタール 欧州・ロシア・中国など世界が注目】
丁度今頃、カタールではW杯日本-ドイツ戦ということで、日本中の視線が中東カタールに集まっている時間ですが、W杯関連(サッカー以外の人権問題なども含め)以外でも最近カタールに関するニュースを目にします。

ウクライナ絡みで欧州で価格高騰などで問題になっている天然ガスに関するニュースです。

確かにカタールは天然ガス生産国ではありますが、世界第6位ということでずば抜けた生産量ではありません。
そのカタールが注目されるのは、“供給余力がある”ということによるものみたいです。

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今年になってEU首脳の“カタール詣で”が顕著だ。3月イタリア首相、5月スロベニア大統領、8月ギリシャ首相、9月ドイツ首相などなど。

みな、ロシアから来なくなった天然ガスの代替をカタールに求める。これによって価格は上昇しているわけだが、そもそもなぜカタールなのだろうか。天然ガスの生産量は、1位アメリカ、2位ロシア、3位イラン、4位中国、5位カナダ、そして6位がカタールだ。

立教大学 蓮見雄 教授 「カタールは供給余力があるということ。アメリカは最大の生産国ですが自分の所で大量に使ってしまいますから・・・」

ロシアはもちろん、イランも制裁対象国で、買うわけにはいかない。中国はアメリカ同様、自国で消費する。ということでEU首脳はカタール詣でとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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カタールに注目しているのは欧州ばかりではないようです。 ロシア、中国も。

****ロシア大統領、カタールとガス安定で協力 サッカーW杯に祝辞****
ロシア大統領府(クレムリン)は18日、 プーチン大統領がカタールのタミム首長と電話会談を行い、世界のガス市場の安定確保に向けてカタールと緊密に協力する意向を示したことを明らかにした。

プーチン大統領はまた、20日開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)の開催国であるカタールに祝辞を述べた。国際サッカー連盟(FIFA)は、ウクライナ侵攻を受けてロシアの国際大会への出場を禁止している。【11月19日 ロイター】
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石油のOPECプラスのように、生産国が協調して高値を維持しようという話でしょうか。
一方、自国生産分では足りない中国は・・・。

****カタール、中国と天然ガス供給27年契約締結 「史上最長期間」*****
カタール国営エネルギー企業「カタールエナジー」は21日、中国と天然ガス供給で「史上最長期間」となる27年契約を締結したと発表した。欧州がロシア産ガスの代替調達先を求めて奔走する中、カタールはアジアとの関係を強化している。
 
同社によると、中国石油化工(シノペック)に対し、新たに開発されたノースフィールドイースト輸出基地から年間400万トンの液化天然ガスを供給する。

エネルギー担当国務相であり、カタールエナジー最高経営責任者のサアド・シェリダ・カアビ氏は「LNG業界史上最長期間となるガス供給契約」だと述べた。

日本、中国、韓国をはじめとするアジア諸国は、カタール産天然ガスの主要な輸出先となっている。ロシアのウクライナ侵攻開始以降は、欧州諸国も取引を模索しているが、ドイツなどはアジア諸国とは異なり長期契約には消極的であるため、交渉は難航している。

ノースフィールドイースト輸出基地は、カタールのLNG生産拡大プロジェクトの中心的存在。生産量は2027年までに60%超増加し、1億2600万トンに達すると見込まれている。同輸出基地からの供給契約を結んだのは、中国が初めて。 【11月21日 AFP】
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【日本が失ったカタールからの輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に】
ドイツが長期契約に消極的とのことですが、将来的な脱炭素の流れ、現在の高値状態を考えると、長期契約に二の足を踏むのは日本も同様です。

日本にとってもカタールは重要なガス供給国ですが、欧州各国の“カタール詣で”や長期契約問題などで、ガス確保に苦戦しているとのこと。(その点、中国はカネに糸目をつけず・・・といったところでしょうか)

日本が失った分が欧州と中国に向かっている・・・という状況のようです。

****「すべて売り切れ…調達はすでに戦時状態」エネルギー世界争奪戦 大丈夫か⁈ニッポン*****
ワールドカップが始まり世界の熱い視線が集まる中東・カタール。しかし、サッカー以外でも今、カタールが注目の的になっている。

ウクライナ戦争を機に始まったヨーロッパのエネルギー危機。ロシアから来なくなった液化天然ガス(LNG)の新たな輸出国として注目されているのが、カタールなのだ。このカタールのLNG争奪戦は日本にとっても他人事ではない。今回はエネルギー争奪戦の世界地図を読み解いた。

■「日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」
天然ガスはパイプラインで送る場合を除いて、マイナス162度で液化して輸送する。この液化天然ガス(LNG)を、産出国カタールで積んだタンカーが、どこに移動したか映し出した航路画像がある。

カタールを出たタンカーの一部は、紅海を通ってヨーロッパへ・・・。別の一部はインド洋を通ってアジア諸国へ向かう。が、日本に向かう船は殆ど無い。このタンカーの航路を調査している、シンガポールのエネルギー調査会社に話を聞いた。

『VORTEXA』LNG部門責任者 フェリックス・ブース氏
「カタールの日本へのLNG輸出量は全体の11〜12%だったが、今年は4%にまで減少した。(カタールが売却先を公開しないので)中東から東アジアに向かう船の最新情報を見ている。

最大のポイントは、船のほとんどが日本に向かっておらず、中国、韓国、台湾に向かっていることだ。今年1月以降、日本の、カタールからのLNG輸入量は非常に少なくなり、わずかなものしか入ってこない。

カタールから中国とヨーロッパへの輸出量の増加分を見てみると、日本の輸入量の減少分と同じだ。つまり日本から失われた輸入LNGの50%がヨーロッパに、50%が中国に行ったということだ」

更に今までヨーロッパは、パイプラインで天然ガスをロシアから輸入していたため、LNGの施設なども充実しておらず、限られた量しか買えなかったが、今後はロシア産を買うわけにもいかず、施設を作っているため、カタールからの輸入は増える。また、中国は来年以降も買い手になる。そのため日本のLNG購入は来年以降更に厳しくなるとブース氏は言う。

実は日本の大手の会社は1997年以来、カタールから年間550万トンのLNGを購入する契約を結んでいた。この契約が去年切れ、日本は契約を更新しなかった。

理由は契約が20年以上という長期契約と、他国に転売しないという条件を飲めなかったためだ。もちろん今年の状況を予測出来るはずもなかったが、他にも長期契約できない事情があった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「去年の11月というと、COP26がグラスゴーで開かれ、世界の脱炭素の潮流がピークに達した時だった。企業にもコンプライアンスが求められる中で、今後20年炭素を出すエネルギー源を使うのかっていうことと、原子力発電所の再稼働も持ち上がっていた…。そういう時にLNGの20年30年という契約をするのはどうなのかなと…」

さらに価格の面でも疑問はあった。日本の平均購入価格は、スポット購入額より高めだったが、去年の夏以降LNG価格が高騰。契約更新の11月には、スポット価格が何倍にも跳ね上がっていた。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「天然ガスの価格というのは今が非常に異常な状態でして、エネルギー危機の状態。いくつかのクライシスが起きている中の3番目のクライシス。これを去年の更新の時期には予見できなかった」

かくして日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった。【11月22日 TBS NEWS DIG】
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【ロシア侵攻に備えて検討されていた流れ】
カタールのガスを欧州に・・・・という方向性は、ロシアのウクライナ侵攻の可能性が議論され始めた今年1月にはすでに示されていたものです。当然、どこからか引きはがして・・・ということになります。

****カタール、有事に欧州へガス供給も 米国の力添えは必要=消息筋****
液化天然ガス(LNG)の主要産出国カタールは、ロシアがウクライナを侵攻した場合、米国がロシア経済制裁を発動し、報復でロシアが欧州向けガス供給を中断する事態になれば、一部のカタール産ガスの供給先を欧州向けに変更することが期待されている。

事情に詳しい筋によると、米ワシントンで来週、タミム首長とバイデン大統領がこの問題を協議するが、カタールにとっては、同国ガスの購入契約者への説得で米国の力添えが必要になるという。

米政権は欧州向けのガス供給元確保が必要になった場合に備え、ここ数週間、カタールなど主要エネルギー産出国に接触してきた。

消息筋は「2011年の福島の原発事故の際のような世界的なエネルギー供給の大混乱が起きた場合」は「カタールが力になれるかもしれない」と指摘。カタールには欧州に振り向けられる余剰分がある程度あるとした。

ただ、産出量のほとんどは長期契約に向けられているため、そうした余剰分はあまり多くないとし、「短期的な解決策としてガスを欧州に振り向ける場合は、大口のカタール産ガスの顧客に対して米国などからの説得が必要になるだろう」と語った。

カタールはLNG輸出をより長期的に大きく拡大させていきたい意向。消息筋は、欧州連合(EU)がエネルギーの安全保障を確かにし、将来的な供給混乱を回避できるようにしたいなら、EUがLNGの長期契約締結を考えることが必要だと指摘した。【1月27日 ロイター】
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欧州はガス確保に関して、アメリカの協力を仰いでいました。

****欧州、ガス確保で米の支援仰ぐ ロシア産の代替探し****
欧州の政府関係者がロシア産天然ガスの代替となる供給源探しで米国の支援を仰いでいる。ウクライナ情勢の緊迫化に伴い、ロシアからのガス供給が滞る事態に備える狙いがある。
 
ロシアは10万人を超える軍部隊をウクライナ国境付近に集結させている。こうした中、エネルギー分野の欧州連合(EU)当局者は米当局者と協議を重ねており、代替供給の確保に向けてアゼルバイジャンやカタールといったガス生産国を訪れている。(後略)【1月28日 WSJ】
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そしてアメリカはカタールをNATO非加盟の主要同盟国に指定する形で、同国を取り込んでいます。

****バイデン米政権、カタールを同盟国に指定、大型の航空機取引も成立****
(中略)ホワイトハウスが公表したバイデン大統領と(カタールの)タミーム首長の会談要旨によると、両者は湾岸と中東地域の安全と繁栄の促進や、世界のエネルギー安定供給、アフガニスタン人への支援、貿易・投資協力の強化に関して相互の利益を確認した。その上で、50年にわたる戦略的な友好関係に基づき、カタールを非NATO主要同盟国に指定するに至ったとしている。【2月2日 JETRO】
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“日本が手放してしまったカタールのLNGの半分が、ヨーロッパに流れることとなった”というのは、こうした国際政治の流れに沿う形にもなっています。

【アメリカ・ロシア・中国の天然ガスをめぐるゲーム 勝ったのは・・・】
この天然ガスをめぐる争奪戦は、アメリカ、ロシア、中国という「大国」間の激しいパワーゲームの舞台ともなっています。

ウクライナの戦況同様に劣勢にあるのがロシア、この機に乗じて大儲けしているのがアメリカ、ロシアとの距離を考えながら着々と有利に進めるのが中国・・・といった構図のようです。

****「結果的にアメリカを利しているというのはロシアからすると忸怩たる思い」*****
今年になってEU首脳の“カタール詣で“が顕著だ。(中略)結果カタールの貿易黒字額は今年春以降跳ね上がっている。だが、実はこの天然ガスの高騰で笑顔がこぼれる国はカタールばかりではなかった・・・。

アメリカだ。アメリカは天然ガスの生産量は世界一だが、輸出量は大きくなかった。ところが今回のエネルギー危機によって、今年上半期の輸出量は実に約3億1700万立方メートル。これは世界一の数字だ。つまりアメリカは世界最大のLNG輸出国となった。

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「アメリカはシェールガス革命によって、ヘンリーハブ(天然ガス指標価格)がお安い。液化コスト、輸送コストを乗せても、世界市場を狙っていける。ただこれからどのくらい伸びるかは、意見が分かれる(中略)今ガスの価格が高いから輸出できるけれど、価格が安定してからも供給を続けられるかどうか。二の足を踏むんじゃないか・・・。カタールと並んでアメリカの動向がエネルギー価格において重要」

化石燃料をやめようとする世界の潮流があり、比較的CO2の排出が少ない天然ガスは“つなぎのエネルギー”として必要だ。結局エネルギー市場でも、アメリカが世界をリードしくいくのだろう。この状況をプーチン大統領はどう思っているのだろうか…。

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「結果的にアメリカを利しているというのは、ロシアからすると忸怩たる思いがある。ただロシアのエネルギーを市場から排除することが世界のインフレを高める。そこにプーチン大統領の政治的狙いっていうのがあって…。とにかくインフレが高まれば、ウクライナに対する支援疲れであったり、早く戦争をやめて欲しいっていう国際世論が、ウクライナ側への圧力となったりする。そういう政治的揺さぶりのためにエネルギーを武器にしている」

プーチン氏には自国の経済的損失などより、西側を混乱させる政治的思惑が優先される。確かに経済合理性を考えられるなら戦争など始めるはずもない。

■「ロシアは資源大国じゃなくなる」
アメリカはプーチン氏のエネルギー戦略に乗じて潤っているようだが、中国もまたロシアとの絶妙な距離感で、美味しい思いをしている。

立教大学 蓮見雄 教授
「わかりやすく言えば、漁夫の利ですよ。ロシアはエネルギーを買ってもらわなきゃならないから安くても売る。“シベリアの力”というパイプラインを使うんですが、ヨーロッパ向けと比べるとせいぜい4分の1くらい。(中略)“シベリアの力2“を作る話もあるが、これもロシア側が相当負担するだろうし、売れても安い・・・。

基本的には中国に頼るしかない。ロシアは資源大国じゃなくなるリスクもある。資源開発の技術が禁輸になってる。西側の開発会社は撤退したし、LNGも自分じゃ作れないし、深いところも掘れない。」

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)調査役 原田大輔氏
「クリミア併合後に合意したのが“シベリアの力”で、中国は欧州の10分の1の価格でガスを買っていた。国際的に孤立したロシアが頭を下げて長期契約した。それが8年前。それで今度も“シベリアの力2”をロシアが持ちかけてるんですが、今になっても中国は一言もそれを言わない」

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究所
「ヨーロッパを揺さぶる目先のエネルギー戦略のために、中国への依存を必要以上に高めている。中ロも外から見ると“反米”で連携しているように見えるが、力関係は明らかにロシアが中国に頭を下げている。この従属関係はロシアにも不本意であると思う」

■中国が6割を握っている
ロシアは自らエネルギー大国として世界の市場から退場した。ではエネルギーを背景にどこの国が世界の覇権を握っていくのか。果たして日本の未来はどうなるのか…

資源エネルギー庁の資料では、日本の商社のこんな言葉が紹介されている。「2026年までに開始できる(LNGの)長期契約はすべて売り切れてしまっている。エネルギーの調達はすでに戦時状態だ」 
蓮見教授は気になる問題点を口にした。

立教大学 蓮見雄 教授
「日本はロシアとサハリン2との契約を続けたが、生産自体ができるのかどうかが問題。そうすると本気で再生可能エネルギーに取り組まなければならないということになるが、日本もヨーロッパもそうですが、太陽光パネルにしても発電機にしても、すべて鉱物資源が必要になるんです。そしてその鉱物資源の6割を中国が握っているんです。

そうすると再生可能エネルギーを進めるためには資源をどう確保するのか…今後本気になって考えなければならないんです」(BS-TBS 『報道1930』 11月21日放送より)【11月22日 TBS NEWS DIG】
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EU ロシア産石油価格上限設定に続きガスも検討 EUvs.ロシア「エネルギー大戦」の懸念も

2022-09-09 23:17:43 | 資源・エネルギー
【WTI原油先物チャート|チャート広場 (chartpark.com) 】

【下落への需要減少圧力がかかる原油価格動向】
9月1日からトルコ観光に出かけ、今日帰宅。
この間の情報入手が限られていたので、いささか浦島太郎の感も。

旅行中に円は1ドル=145円付近まで一気に円安が加速し、その後は若干戻して142円付近に。(ささいな個人的問題ですが、旅行する者には円安はこたえます)

一方、原油価格は8月6日ブログ「“意外”にも、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っている原油・穀物価格」でも取り上げたように、すでに下落傾向にありましたが、その後も弱含み基調で、旅行中には米WTI先物で1バレル=81ドル台をつけたようです。ただ、その後戻して今現在の足元は85~86ドル付近。

基本的には世界経済の原則による需要減少が基調になっているようです。

****原油価格の下落を心配し始めたOPECプラス****
米WTI原油先物価格は9月7日、1バレル=81ドル台に急落し、8カ月ぶりの安値となった。供給面の不安がくすぶっているものの、各国の中央銀行による強力な金融引き締めや中国のロックダウンなどが需要懸念を高め、相場の押し下げ要因となっている。原油価格は過去3カ月で20%下落している。

OPECプラスが「日量10万バレルの減産」決定
このような状況下でOPECとロシアなどの大産油国が構成するOPECプラスは、9月5日に閣僚級会議を開催した。サウジアラビアのアブドラアジズ・エネルギー相が8月下旬に1年以上ぶりの減産を示唆していたことから、市場の関心を集めていた。

OPECプラスの決定は「10月から生産目標を日量10万バレル減らす」というものだった。原油価格の引き下げを求めるバイデン大統領の求めに応じて9月から増産した分(日量10万バレル)を帳消しにした形だ。

米国では11月の中間選挙に向けて、インフレ対策が争点の1つとなっている。米国のガソリン価格は6月中旬に史上最高値を記録した(1ガロン=5ドル超え)が、直近ではロシアのウクライナ侵攻前の水準に戻りつつある。そのせいだろうか、米国政府はOPECプラスの決定に不満の意を示すことはなかった。

「日量10万バレルの減産」は象徴的な意味合いが強いが、注目すべきはOPECプラスが「生産を調整するために次回10月5日の会合までにいつでも会合を開催することができる」ことに合意したことだ。市場関係者は「OPECプラスが価格注視の姿勢に戻ったシグナルだ」と受け止めている。

原油需要鈍化で供給過剰が続くか
前述のサウジアラビアのエネルギー相は、減産の理由について「核合意再建に伴うイラン産原油の禁輸制裁の解除」を挙げていた。制裁が解除されれば、イランは日量100万バレル以上の増産が可能だと言われている。

だが、サウジアラビアの本当の懸念は、原油市場で先物と現物の価格差が広がっていることにあるようだ。

先物市場ではウクライナ危機で相場が急変し、追加証拠金の支払いや巨額の損失を被った業者の撤退が相次いだことから、流動性が低下し、価格の乱高下が日常化している。世界景気の減退や米利上げに対する警戒感から7月中旬以降、先物価格はヘッジファンドなどの投機筋が主導する形で下落している。

サウジアラビアをはじめとする産油国は「現物の需要が引き続き堅調である」と見ているが、9月に入り米国ではドライブシーズンが終了する。中国でも新型コロナの感染が再拡大し、一部の都市で都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど経済活動が抑制されつつある。インフレ抑制のための積極的な金融引き締めは今後原油需要を鈍化させることは確実な情勢だ。(中略)

サウジアラビアのエネルギー相の脳裏には2014年後半から2015年にかけての原油価格の暴落の記憶がよぎっているのかもしれない。米国の利上げとシェールオイル増産による供給過剰が重なり、原油価格は1バレル=90ドル台から40ドル台に急落したことは記憶に新しい。

いずれにせよ、サウジアラビアをはじめとする産油国が「原油価格の下落」を危惧しだしたことは間違いないだろう。(後略)【9月9日 藤 和彦氏 JBpress】
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【G7はロシア産原油および石油製品の価格に上限設定 ロシア「ガスも石油も石炭も供給しない」】
こうしたなかで、今後の原油価格動向に影響しそうなのが、主要7カ国(G7)がロシアに対する追加制裁としてロシア産原油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意したことです。

原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む(うまくいけば)「一石二鳥」の戦略です。

****G7財務相、ロシア産石油価格の上限設定で合意****
主要7カ国(G7)の財務相は2日開催したオンライン会合で、ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置を導入する方針で合意した。原油価格の高騰を回避しつつ、ウクライナ侵攻を続けるロシアの戦費調達を阻む。

しかし、バレル当たりの価格上限については「技術的インプットの範囲に基づき」今後詰めるとし、重要な詳細は盛り込まれていない。

G7財務相は声明で「ロシア産原油および石油製品の海上輸送を可能にするサービスの包括的な禁止を決定し、実施するという共同の政治的意図を確認する」と表明した。

価格上限を超えるロシア産石油や石油製品の海上輸送への保険・金融サービスなどの提供は禁止される。

声明はまた、「欧州連合(EU)の第6次対ロシア制裁に含まれる関連措置のスケジュールに合わせて実施することを目指す」としている。EUは12月からロシア産石油の禁輸を施行する。

米国財務省の高官によると、ロシア産原油については特定のドルの価格上限を設け、石油製品については別の2種類の上限を設ける見通し。価格は必要に応じて見直すという。

議長国ドイツのリントナー財務相は会見で、ロシアの石油価格に上限を設けることで、ロシアの歳入が減少するとともに、インフレが抑制されるとし、「われわれはロシアの収入を制限したい。それと同時にわれわれの経済への打撃を軽減したい」と語った。

さらに、G7は上限設定でコンセンサス形成を目指しており、EUの全加盟国が参加することを望んでいるとした。
イエレン米財務長官も声明で「世界のエネルギー価格に下押し圧力をかける、ウクライナでの残忍な戦争の財源となるプーチン大統領の収入を断つという2つの目標」達成に役立つという認識を示した。

ロシア大統領府のペスコフ報道官はG7の声明を受け、世界の石油市場を不安定化させる措置という見方を示し、上限価格を設定する国国への石油販売を停止すると述べた。

G7の高官は、ロシア産石油価格の上限設定を巡り、他国からも参加に向け「前向きなシグナルを受け取っているが、確固としたコミットメントには至っていない」と述べた。同時に「われわれはロシアや中国などに対する結束のシグナルを送りたかった」と述べた。

ウクライナのゼレンスキー大統領のウステンコ上級経済顧問は、ロシアの収入を減らすためにまさに必要な措置」とし、G7財務相会合での決定を歓迎。価格上限が40━60ドルのレンジになるという見通しを示した。
ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、ロシアの天然ガス輸出にも上限を設けるべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
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当然ながらロシアは。「上限を設定した場合、ガスも石油も石炭も供給しない」と強く反発しています。

****プーチン大統領、対ロシア制裁のG7威嚇「ガスも石油も石炭も供給しない」****
穀物輸出先制限も示唆
ロシアのプーチン大統領は7日、先進7か国(G7)が対露制裁として、露産石油の取引価格に上限を設定した場合、「我々の利益に反するなら、ガスも石油も石炭も供給しない」と反発した。

輸出が再開されたウクライナ産穀物は「ほとんどが貧しい途上国ではなく、欧州連合(EU)諸国に運ばれている」とし、仲介したトルコのタイップ・エルドアン大統領と輸送先の制限を協議する考えを示した。

極東ウラジオストクで開催中の国際会議「東方経済フォーラム」の全体会合で述べた。米欧に対し、「新型コロナウイルスに代わる制裁熱で、他国を自分たちに服従させようとしている」とも批判した。ウクライナ侵略に関しては、「我々は何も失っていないし、何も失わない」と強調した。

プーチン政権は米欧の制裁を受ける中、今回の会議を通じ、中国やインドなどアジア諸国と関係を強化する思惑がある。

タス通信によると、全体会合に出席した中国共産党序列3位の栗戦書リージャンシュー・全国人民代表大会常務委員長は、「米国とその衛星国の厳しい制裁により、ロシア経済が押しつぶされなかったのは喜ばしい」と述べた。

インドのナレンドラ・モディ首相もビデオメッセージを送り、北極圏開発やエネルギー分野など「多くの問題」で、ロシアとの連携を推進する意思を表明した。

全体会合には、米国と対立するミャンマーの国軍トップのミン・アウン・フライン最高司令官も出席した。マレーシアとベトナムの首脳もビデオメッセージを寄せた。

過去のフォーラムでは日本との関係も重視してきたが、プーチン氏が日本に触れることはなかった。【9月8日 読売】
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ロシア産石油および石油製品の価格に上限を設定する措置がうまく機能するかどうかは不透明な点も。

****ロシア産石油の価格上限設定は機能するか****
(中略)
枠組みの機能を阻む3つの懸念
今回の価格上限措置によって、ロシアの石油・石油製品の輸出収入が減少する一方、石油価格下落で世界のインフレ問題が緩和されるかどうかはかなり不明である。逆に事態が一層悪化してしまうリスクもあるだろう。

第1に、上限価格を低く設定し、それが石油・石油製品の生産コストを下回るようであれば、ロシアは石油・石油製品の生産を停止してしまう可能性がある。そうなれば、世界の石油市況は一段と上昇し、先進国及び世界の経済・物価に大きな打撃となってしまうだろう。

第2に、中国、インドなどロシア産石油・石油製品を輸入する国は、この価格上限の枠組みに参加しない可能性がある。そうなれば、この枠組みはほぼ機能しないだろう。ロシア政府は、価格上限の枠組みを受け入れる国には、ロシア産石油・石油製品の輸出を停止すると脅している。

今回の枠組みは、先進国側につくのか、ロシア側につくのか、新興国に判断を迫るもの、いわゆる踏み絵となっているのである。これをきっかけに、世界の分断が一層加速する危うさもあるだろう。

第3に、産地の偽装によって、ロシア産石油・石油製品への上限価格設定が十分に機能しない可能性がある。先進国からの石油輸入禁止・制限措置を受けて、ロシアはアジア諸国だけでなく、中東諸国への輸出も増加させている。

ロシア産重油は、今やその多くがエジプト経由でサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)に輸出されている。UAEのフジャイラ港では、ロシア産やイラン産の原油が混合され、原産地が偽造される一大拠点となっているとされる。

世界経済悪化で先進国、ロシアは痛み分けか
こうした点を踏まえれば、上限価格設定が、ロシアの石油・石油製品の輸出収入を大幅に制限するとともに、石油価格の下落を通じて世界のインフレ問題沈静化につながる決定打となることはないのではないか。

他方、大幅な金融引き締めの影響などで世界経済は今後減速に向かい、世界の石油需要は縮小する可能性が見込まれる。そうなれば、需給バランスが悪化して、石油価格も明確に下落するだろう。

そうなれば、石油の輸出数量減少と価格低下の双方の影響が、ロシア経済とロシアの財政に大きな打撃を与えることが視野に入ってくるのである。

制裁措置だけではロシアに致命的な打撃を与えることができなかった先進諸国は、結局、自国経済の悪化という大きな犠牲を払うことで、ロシアに大きな打撃を与えることに成功するだろう。結局は、両者が痛み分けとなるのである。【9月5日 木内 登英氏 NRI】
***********

なお、上限価格設定合意では、日本のサハリン2事業を通じたロシア産石油輸入は対象外になるとか。

****日本のサハリン2事業を通じたロシア産石油輸入が対象外となることの問題****
(中略)そもそも、G7で価格上限措置が表明されてから今回正式合意されるまでかなりの時間を要しており、議論が紛糾した可能性がうかがえる。ロシアとの関係悪化を懸念する中国、インドが賛同を示していないこともその理由の一つだろう。

さらに、日本がサハリン2事業を失うことを警戒したこともその一因かもしれない。今回のG7会合は、日本企業が新会社の下でサハリン2事業を継続することをロシア政府が認めた直後に開かれた。原油価格上限設定の報復として、ロシア政府が日本企業によるサハリン2事業の継続を認めない決定を下すことを日本政府が警戒していたからかもしれない。

また、日本がサハリン2事業を通じてロシアから輸入する石油については、今回の原油価格上限設定の対象外となる方向だ。

日本のサハリン2事業は天然ガスが中心であり、石油の比率は低いが、原油価格上限設定の報復として、ロシア政府が日本企業に今後厳しい条件を提示することで、事実上サハリン2事業の継続が難しくなれば、日本の天然ガス輸入の約9%を占めるロシア産天然ガスの輸入が停止してしまう事態となる。日本はこれを恐れたのではないか。

ただし、日本のロシア産石油輸入だけが価格上限措置が適用されない例外となれば、それは対ロ制裁での先進国の結束という観点から大きな問題を残すことになるだろう。またロシアは、今後も日本のサハリン2事業の継続を、先進国の結束を乱す手段として利用する余地が残る。【同上】
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原油価格の動向には、国内政治の混乱や衝突が報じられている産油国イラクやリビアの動向も影響します。

【価格上限 ガスでも検討 ロシアとのエネルギー全面戦争か】
需要が今後縮小する可能性が見込まれる石油もさることながら、ロシア依存ということでも、市民生活を直撃するということでも、この冬に向けて価格高騰が強く懸念されているガスの方が問題かも。

****英、電気・ガス料金の上限8割引き上げへ 燃料の貧困懸念****
英ガス電力市場監督局は26日、電気・ガス料金の上限を10月から80%引き上げると発表した。同国では冬を前に、生活費が高騰している。

Ofgemは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、天然ガスの卸売価格が高騰していることを理由に挙げた。
上限は固定料金契約を結んでいない顧客に適応されるもの。標準的な家庭の使用量の場合、年間の価格上限は現行の1971ポンド(約32万円)から3549ポンド(約57万円)となる。

複数の慈善団体は発表を受け、市民は近年で「最も厳しいクリスマス」を迎えることになると非難した。
貧困問題の専門家は、上限価格が2倍近くになることで、数百万人が暖房か食事のどちらかを犠牲にせざるを得ない燃料の貧困状態に陥る恐れがあると指摘する。

英国のインフレ率は1982年以来の最悪の水準となっており、年内にも景気後退入りすると予測されている。 【8月26日 AFP】
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欧州各国は似たような状況ですが、EUでは、石油だけでなく天然ガスについても価格上限が見当されています。

****EU、ロシア産石油に続き天然ガス価格に上限設定を検討****
欧州連合(EU)が、ロシア産の石油に続き天然ガスにも価格の上限を設けることを検討すると明らかにした。EUのロシア原油価格の上限設定の方針を受け、ロシアのプーチン大統領が「参加国にはエネルギーを輸出しない」と圧力をかけたことに対応する性格が強い。EUとロシアの「エネルギー全面戦争」の機運が高まっている。

●EUvsロシア「エネルギー大戦」
EU行政トップのフォンデアライエン欧州委員長は7日、ベルギー・ブリュッセルで開かれた記者会見で、「ロシアのプーチン大統領によるウクライナでの非道な戦争の資金源を断たなければならない」とし、「9日のエネルギー相会議で、ロシアから輸入する天然ガスの価格の上限を設けることを提案する」と明らかにした。

価格上限制は、ロシア産エネルギーを一定価格以下で購入しなければ海上輸送を許可しないとする制度で、事実上ロシアのエネルギー輸出を統制し、ロシアの収益を制限するという構想だ。

フォンデアライエン氏が天然ガスの上限価格の設定を提案したのは、プーチン氏が同日、ロシア・ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、「石油の上限価格の設定に参加する国には、石油や天然ガスを輸出しない」と明らかにしたことへの対応とみられている。EUが、ロシアにエネルギー主導権を奪われないという考えを明らかにしたのだ。事実上、ロシアにエネルギー全面戦争を宣言したも同然という見方もある。(中略)

●「ロシア天然ガスの威力が弱まった」
EUがエネルギー対決に乗り出した背景には、ロシアのエネルギー武器化に対する備えをある程度終えたという自信が作用したとみられている。米紙ニューヨーク・タイムズは同日、「ドイツをはじめEU国家の指導者の間で、これまでのエネルギー備蓄と代替エネルギー確保の努力によりエネルギー武器化の威力を一定部分減少させることができるという自信が生まれている」と指摘した。

ロシアの天然ガスの輸入の割合が高いEU諸国は、ロシアのエネルギー依存度を減らすための努力を続けてきた。昨年、ロシアの天然ガスに全エネルギー消費の49%を依存していたドイツは、天然ガスの輸入先を多様化し、公共機関の屋内温度や夜間照明の使用を制限する省エネ措置を施行した。この結果、先月ロシアの天然ガス依存度が10%以下に下がった。

フランスは今冬に使用する天然ガスの92%を備蓄している。イタリアも、ロシアのエネルギー依存度を40%から23%まで下げることに成功した。フォンデアライエン氏は、「ウクライナ戦争初期、40%だったEUのパイプラインによるロシアの天然ガスの輸入の割合が9%までにまで減少した」とし、「これまでの努力が成果を出している」と話した。

同紙は、「ロシア産エネルギーからの独立がどれほど成功しているかは依然として疑問」とし、「ロシア政府関係者は、エネルギー危機による経済的苦痛で、EUの決意は最後には崩れると見ている」と伝えた。【9月9日 東亜日報】
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小幅増産にとどまった原油生産 ガスパイプライン「ノルドストリーム」をめぐるロシア・ドイツの綱引き

2022-08-04 22:57:09 | 資源・エネルギー
(一時保管されているタービンの前に立つショルツ独首相=ドイツ西部ミュールハイムで2022年8月3日、ロイター【8月4日 毎日】)

【OPECプラス、小幅増産 米にととっては期待外れか】
世界各国を苦しめているインフレーションを牽引しているのが食料品とエネルギーの価格上昇ですが、原油価格はWTI原油先物で見ると、6月に1バレル=120ドルあたりまで高騰した後は下げに転じて、8月4日現在は90ドル台前半にあります。このレベルはロシア軍侵攻以前の水準です。

なお、原油価格は20年4月・5月頃から一貫して上昇しており、現在のガソリン価格高騰などは必ずしもロシア軍侵攻によるものではありません。原油価格が100ドルを超える水準に高騰を加速させた要因ではあるでしょうが。
最近の原油価格低下傾向は、世界経済が景気後退局面に入り、原油需要が落ち込む懸念もあるとの懸念がベースにあると思われます。

いずれにしても依然として高値水準にあり、特にアメリカではガソリン価格高騰が中間選挙の勝敗・バイデン政権の今後を左右する重大な政治問題となっていること、その対応としてバイデン大統領が人権問題を抱えるサウジアラビアをこれまでのいきさつを棚上げする形で訪問し、「油乞い外交」とも評されるように中東最大の産油国サウジアラビアの増産を要望したことはこれまでも再三取り上げてきました。

有力産油国でつくる石油輸出国機構(OPEC)プラスは8月3日、当面の生産計画を協議し、9月は前月より日量10万バレル分増量することで合意しました。

11月の中間選挙を控えてインフレを抑制したい米バイデン政権に最低限の配慮を示したとも言えますが、増産幅はロシアも反対しにくい極めて小幅な水準にとどめたとも言えます。

欧米ではインフレが進み、景気が減速するとの見方が強まり、中国も景気悪化が想定されるなかで、石油需要は今後縮小し、大幅増産は値崩れにつながるとの判断でしょう。

ただ、人権問題を棚上げしてまで行ったバイデン大統領の中東外交・サウジ訪問の成果としては「不十分」「期待外れ」のように思えます。

****OPECプラス増産ペース縮小 景気後退懸念、米国の要請に応じず****
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国でつくる「OPECプラス」は3日の閣僚級会合で、9月の原油増産ペースを日量10万バレルとし、現行ペースを大幅に縮小することを決めた。バイデン米大統領は7月にサウジアラビアを訪問して増産を求めていたが、世界的な景気後退の懸念から要請に応じなかった。

OPECプラスは新型コロナウイルス禍からの世界経済の回復に合わせ、2021年8月から生産量を毎月、日量約40万バレルずつ拡大。原油価格の高騰を受けた22年6月の会合では、7、8月の増産幅を日量64万8000バレルに引き上げていた。

原油や天然ガスなどエネルギー価格の高騰は、世界的なインフレを加速させ、バイデン政権の支持率低迷につながっており、バイデン政権はさらなる増産を求めていた。

しかし、OPECプラスは、世界経済が景気後退局面に入り、原油需要が落ち込む懸念もあることから、原油生産量をほぼ現状維持することにした。増産余力に限界があることや、原油価格が一時より落ち着いたことも考慮した。

インフレ抑制に向け、各国中銀は利上げを進めており、金融引き締めは世界経済の減速要因となる。またロシアが冬の需要期に向け、欧州向けの天然ガス供給を停止する懸念も高まり、欧州経済が停滞し、原油の需要が落ち込む可能性も出ている。

国際的な指標となるニューヨーク原油先物相場は6月、一時1バレル=120ドルを超えたが、足元では100ドルを下回る水準で推移している。【8月3日 毎日】
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「侮辱的」との評価もあるようです。

****OPECプラス、9月に小幅増産へ 米に「侮辱的」との見方も****
(中略)OPECプラスの関係者は匿名で、ロシアと協力する必要性を強調。「(今回の合意は)米国を落ち着かせるものだ。またロシアを動揺させるような大幅なものではない」とした。(中略)

バイデン米大統領が先の中東歴訪で、サウジアラビアに対し増産を要請したにもかかわらず、増産幅が10万バレルにとどまったことについて、ユーラシア・グループのマネジング・ディレクター、ラード・アルカディリ氏は「意味がない」ほどの小幅増産で、「政治的ジェスチャーとしてはほぼ侮辱的」な増産だとした。

OPECのデータによると、日量10万バレルの増産は1982年の生産割り当て開始以来で最小の増産幅の一つ。

一方、米国務省でエネルギー安全保障担当シニアアドバイザーを務めるアモス・ホッホシュタイン氏は3日、CNNのインタビューで、OPECプラス閣僚級会合での合意について「正しい方向への一歩」と評価した上で、国内の燃料費には大きな影響を与えないとし、バイデン政権は燃料価格の引き下げを引き続き推進すると述べた。

また、ロシアのノバク副首相は合意後、ロシアのニュース専門チャンネル「ロシア24」に対し、世界の石油需要はパンデミック(世界的大流行)前の水準をほぼ回復していると言及。物流チェーンや新型コロナウイルスの感染再拡大を巡り不確実性が残っているとし、ロシアとサウジアラビアは10月に政府間会合を開催するとした。【8月4日 ロイター】
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【各国はガソリン価格抑制政策】
各国政府はインフレ対策に力を入れており、米バイデン政権はガソリンの税金カットなどを打ち出しています。日本政府もガソリンへの補助金を続けています。

私個人は原付しか利用しないので、ガソリン価格にはほとんど関心はありませんが、もし補助金が無ければ208円にもなる状況とか。さすがに200円超えとなると、経済・社会に深刻な影響も出るでしょう。

補助金は9月末で期限切れとなりますが、10月以降どうするかは決まっていません。すぐにやめると価格が一気に高くなる恐れがあるため、業界からは段階的な縮小を望む意見が出ているようです。

政治的にも補助金廃止は困難な選択。日本のように体力のある国なら継続も財政的に耐えられますが、体力の弱い途上国では補助金継続が財政をむしばんでいきます。そのあたりが補助金政策の罠でもあります。

****ガソリン価格、2カ月ぶり170円割れ 補助金37.7円へ****
資源エネルギー庁が3日に発表したレギュラーガソリンの店頭価格(全国平均、1日時点)は前週に比べて0.5円安い1リットル169.9円だった。5週連続で値下がりし、約2カ月ぶりに170円を割り込んだ。政府は石油元売りなどに補助金を支給してガソリン価格を抑えている。4日から1週間の補助額は37.7円になる。

政府は1月に補助金を導入し、給油所への卸値を抑えて店頭価格の上昇に歯止めをかけてきた。7月28日~8月3日分の補助額は39円、価格の抑制効果は41.1円だった。

8日時点のガソリン価格は、補助がなければ208.4円になると見込む。抑制目標の168円との差は40.4円。補助上限の35円に、それを超えた分の半分の補助2.7円を上乗せし、4日から1週間の補助金支給は37.7円になる。

ガソリン価格は、原料である原油の相場を反映する。アジア市場の指標となる中東産ドバイ原油の2日のスポット価格は一時、1バレル98.6ドル前後と前月比6%下落した。前年同期比では3割強高い。円安の進行もあり、原油の調達コストは高止まりしている。【8月3日 日経】
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【石油メジャーに対する「もうけ過ぎ」批判】
一方で、欧米の石油メジャーは利益をふくらませています。
英シェルの4~6月期の純利益は180億ドル(約2・4兆円)で前年同期比5・3倍。米大手エクソンモービルは178億ドルで3・8倍。米シェブロンも116億ドルで3・8倍でした。

こうした状況に「もうけ過ぎ」の批判も出ています。
バイデン米大統領は6月、エクソンを名指しして自社株買いに熱心な一方で投資を怠っているとし、「石油を増産しないほうが稼げるからだ」などと批判しています。

こうした批判に対し、エクソンのウッズCEOは7月の決算会見で、高い利益は数年前から実施してきた大規模な投資の結果だと反論。「多額の投資を続けているが、供給量はすぐには増えない」などと主張しています。

しかし、「もうけ過ぎ」批判は高まっており、国連グテレス事務総長が世界のすべての政府は最もぜい弱な人々を支援する方法として、石油・天然ガス企業の「超過利潤」に課税すべきだと訴える事態にもなっています。

****石油ガス大手の超過利潤は「グロテスク」,各国は課税を=国連事務総長****
国連のグテレス事務総長は3日、記者団に対し、世界のすべての政府は最もぜい弱な人々を支援する方法として、石油・天然ガス企業の「超過利潤」に課税すべきだと訴えた。こうしたエネルギー企業やその資金支援者らの「グロテスクな強欲」が「最も貧しく弱い人々を苦しめ、地球環境も破壊している」と非難した。

グテレス氏は、大手エネルギー企業が今のエネルギー危機に乗じ、最も弱い人々やコミュニティー、気候変動問題を犠牲にする形で「記録的な利益を上げている」とし、「これは不道徳だ」と断罪した。

米国のエクソンモービルやシェブロン、英シェル、フランスのトタルエナジーズ4社は、4─6月期利益が合わせて前年同期のほぼ2倍の510億ドル近くに上っている。

バイデン米大統領も6月、消費者にとって燃料費が記録的に高騰している時にエクソンなどが途方もない利益を上げていると発言。英国は7月、北海油田の石油・ガス企業への25%の超過利潤課税を可決した。米議員も同様の課税構想を議論しているが、議会での見通しはまだ立っていない。【8月4日 ロイター】
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一昔前なら民間企業を「不道徳」呼ばわりしても資本主義社会では意味がない・・・といったところでしたが、持続可能性、SDGsが重視される社会となった今は、企業も一定に配慮する必要があるでしょう。

【「ノルドストリーム1」をめぐるロシアとドイツ・欧州の綱引き】
一方、欧州で問題となっているのは石油もさることながら、ロシア依存が高い天然ガス。
とりわけ、定期点検から再開したノルドストリームをめぐり、ロシア側が技術的問題による更なる供給削減をちらつかせるなど、ロシアとドイツなど欧州との綱引きが続いています。

****ノルドストリームのタービン受け取り、制裁で「不可能」に ガスプロム****
ロシア国営天然ガス企業ガスプロムは3日、欧州に天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム1」用のタービンについて、対ロシア制裁のためドイツからの納入が「不可能となっている」と主張した。

ガスプロムは「カナダと欧州連合、英国による制裁に加え、(タービンを製造した)独シーメンスとの契約義務関連の問題のため、タービンの納入が不可能となっている」と説明した。

欧州諸国は、ロシアはタービンの受け取りを遅らせ、欧州へのガス供給をさらに減らすための口実にしようとしているのではないかと疑っている。

アナレーナ・ベーアボック独外相は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「駆け引き」を仕掛けてきているが、西側諸国が分断されることは「あり得ない」と述べた。

さらに「ロシアの安価なガスに依存しすぎたのは間違いだった」と認め、ドイツのエネルギー政策を刷新し、ロシア産ガスの利用を段階的に削減する必要があるとの認識を示した。

オラフ・ショルツ独首相も同日、ロシアがタービンの受け取りを阻止し、欧州へのガス供給を絞っていると非難。一方で、原子力発電所の運転を継続する可能性に言及していた。 【8月4日 AFP】
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問題になっている「ノルドストリーム1」用のタービンについては、カナダ政府は制裁を緩和し、修理を終えたタービンの返却を決めましたが、タービンは7月中旬以降、経由地のドイツにとどまっています。

****独首相、ガス供給減でロシア非難 「タービン、妨げるものない」****
ロシアがタービンの返却遅れを理由にドイツへの天然ガス供給を大幅に削減している問題で、ドイツのショルツ首相は3日、タービンが一時保管されている独西部ミュールハイムの工場を視察し、「(ロシアに)タービンを輸送し、設置することを妨げるものは何もない」とロシア側の対応を非難した。(中略)

ショルツ氏はロシア側が供給減の根拠とする技術的な理由は「すべて事実として理解できない」と指摘し、ロシア側が意図的に通関手続きを遅らせている可能性を示唆した。ロイター通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は3日、輸送を妨げているのは書類の不備だと反論した。

一方、ロシアがウクライナ侵攻を開始した後もロシア企業の幹部にとどまり批判を浴びたドイツのシュレーダー元首相(78)は、先週モスクワでプーチン露大統領と会談したと明らかにし、ロシア政府がウクライナとの戦争について「交渉による解決を望んでいる」と述べた。複数の独メディアが3日、シュレーダー氏のインタビューを公開した。

シュレーダー氏はウクライナからの穀物輸出の再開が交渉によって合意されたことを踏まえ、「徐々に停戦へと発展させられるだろう」と述べた。ロシア産ガスの供給不足については、NSと並行する新パイプライン「ノルド・ストリーム2」を稼働させれば解決するとの持論を展開した。【8月4日 毎日】
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【ドイツにとって悩ましい「ノルドストリーム2」】
“「ノルド・ストリーム2」を稼働させれば解決する”というのはシュレーダー元首相の持論であると同時に、プーチン大統領の「悪魔のささやき」でもあるでしょう。

****プーチン氏「ノルドストリーム2でガス供給可能」、元独首相に説明****
ロシアのプーチン大統領は、シュレーダー元ドイツ首相と先週会談した際、ロシアの天然ガスを欧州に送るドイツに通じる2本目のパイプライン「ノルドストリーム2」が利用できる状態にあると説明した。ペスコフ大統領報道官が3日、明らかにした。

ペスコフ氏によると、プーチン氏は会談で、欧州向けの供給は、ポーランドを経由する「ヤマル・ヨーロッパ」パイプラインがポーランドの制裁下となったことや、ウクライナが経由パイプラインを止めた影響で日量1億6700万立法メートルから3000万立法メートル程度まで減少したと語った。【8月3日 ロイター】
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ドイツにとって、工事が終わり事業計画承認を待つだけの段階にあった「ノルドストリーム2」の利用停止を決定したことは重大な決断でした。アメリカから迫られた、ウクライナ支援・ロシアへの対決姿勢の本気度を示す「踏み絵」でもあったのでしょう。

天然ガス需要が多くない夏場はまだいいでしょうが、需要期の冬場になって供給不足・価格高騰が現実の問題になったとき、プーチン大統領の「いやいや、ノルドストリーム2があるじゃないか。ドイツが認めさえすれば、いつでもガス供給できるよ。」という誘いに抗うことができるのか・・・悩ましい問題です。

日本もロシア産ガスについては、サハリン2で揉めています。

****「サハリン2」新運営会社の設立決定 日本の輸入LNG約1割占め…出資企業は判断迫られることに****
ロシア政府は、日本の商社も出資している石油・天然ガス開発事業「サハリン2」について、新たな運営会社の設立を決めました。日本の商社は今後も事業に参加し続けるか、判断を迫られることになります。

サハリン2にはロシアのガスプロムや三井物産、三菱商事が出資していて、日本が輸入するLNG(=液化天然ガス)のおよそ1割を占めています。

ロシア政府の決定によりますと、新たな運営会社「サハリンエナジー合同会社」はサハリン州の州都ユジノサハリンスクに設立されます。

プーチン大統領はことし6月、非友好国への対応として、サハリン2の株式をすべて新たな運営会社に無償譲渡することを命じる大統領令に署名しています。出資企業には新会社設立から1か月以内に新会社の株式取得に同意するか通知するよう求めていて、三井物産と三菱商事は判断を迫られることになります。

新会社の設立決定を受け、萩生田経済産業大臣は「サハリン2は極めて重要で維持を続けることに基本的に変わりはない」とコメントしています。【8月4日 日テレNEWS】
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日本は輸入するLNG全体の8.8%(2021年)をロシアに依存しており、その大半がサハリン2で、発電用の燃料や都市ガスの原料に使われています。

一方ドイツの場合、“ガス輸入に占めるロシア産の割合がロシアによるウクライナ侵攻前は55%に上っていました。
侵攻を受けてドイツはロシア産の天然資源に依存しない「脱ロシア」を進めています。それでも、ことし4月時点でロシア産のガスが35%を占めるなど、短期間で代替の調達先を確保するのは非常に難しいのが現実です。”【7月15日 NHK】

ドイツにとってロシア産ガスは日本より遥かに大きな問題であり、「ノルドストリーム2」の停止は極めて困難な決断でした。それだけに、冬場になってもウクライナの戦況の「出口」が見えないという場合、どこまで耐えられるか・・・・という話にも。

プーチン大統領の「ノルドストリーム2」の話は、薬物依存症患者の耳元で「いつでも薬、手に入るよ」といった囁きのようにも。

なお、パイプラインを使うガスは石油と異なり簡単に輸出先を変えることが困難で、ロシアにとっても欧州という最大の顧客を失うことになれば宝の持ち腐れになってしまいますので、あまり強引なことも得策ではありません。

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ロシア産石油・ガス取引をめぐる買い手・売り手双方の思惑が絡み合う混沌状態

2022-05-31 23:20:16 | 資源・エネルギー

(「サハリン2」の洋上施設【ウィキペディア】)

【EUのロシア産石油禁輸 ハンガリー譲らず全面禁輸には至らず】
EUは化石燃料(石油・ガス・石炭)の脱ロシア依存方針を3月24,25日に開催された首脳会議で決定し、行政を担う欧州委員会が5月4日、原油は6か月以内、精製した石油製品はことしの年末までに、輸入を禁止する制裁案を打ち出しています。

しかし制裁の発動には27の全加盟国の一致が必要で、供給の多くをロシアに頼るハンガリーやスロバキアが反発、調整が続いていました。

30日の首脳会議ではロシア産石油について大半の輸入を禁止することで合意したものの、ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至りませんでした。一方で、「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」(フォンデアライエン委員長)とも。

****EU、ロシア産石油禁輸で合意 パイプライン経由は対象外****
欧州連合は30日、ベルギー・ブリュッセルで首脳会議を開き、ロシア産石油について、大半の輸入を禁止することで合意した。ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至らなかった。
 
全面禁輸をめぐっては、これまで数週間にわたって折衝が続けられてきた。しかし、自国経済への打撃を懸念するハンガリーが強く抵抗したため、パイプラインによる輸入を禁輸対象から外すことで妥協が図られた。
 
シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は首脳会議中に「ロシア産石油の3分の2以上が直ちに(禁輸)対象となる。ロシアの戦費調達源を断つものだ」とツイッターに投稿。「ロシアに戦争を終わらせるよう最大限の圧力をかけることになる」と述べた。
 
ドイツとポーランドもロシア産石油をパイプライン経由で輸入しているが、両国は輸入停止方針を打ち出している。このため欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、EU全体で「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」と語った。
 
EUの対ロシア制裁は今回で第6弾となる。今総会では石油禁輸のほか、ロシア最大手銀行ズベルバンクを国際銀行間通信協会(スイフト)の決済網から排除する措置や、ロシア国営テレビ局3社への制裁、戦争犯罪を問われている個人のブラックリスト掲載なども承認された。 【5月31日 AFP】
********************

まずは海上輸送分から禁輸という妥協です。
パイプライン経由分についても、ドイツなどが独自に取引を止めるということですが、ハンガリーなどにパイプライン経由でのロシア産石油輸入を認める期間は、明らかにされていません。

ハンガリー・オルバン政権がEU内にあって独仏の西欧的民主主義とは異なる、むしろロシア・中国を称賛するような独自の政治的価値観を掲げて独仏などと対立していることはこれまでもたびたび取り上げてきました。

ハンガリーがロシア産石油に大きく頼る状況であることは事実ですが、今回の執拗な抵抗は、上記のようなEU主要国との政治的対立が背景にあると想像されます。

****なぜハンガリーはEUの「ロシア産石油の全面禁輸」を阻止したのか その思惑とウラ事情****
(中略)EUの一員で、NATO=北大西洋条約機構の加盟国でもあるハンガリーは内陸国。ロシア産石油への依存度は6割近くにのぼり、輸入禁止措置は経済に大きな影響をもたらします。(中略)

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「これはエネルギー問題ではなく、何よりも政治的問題です」

ロシアのプーチン大統領と近い関係にあるとされるオルバン首相。また、独特の事情も。

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「オルバン首相はEUから(資金拠出への)譲歩を引き出すため、制裁を利用しているのです」

実はハンガリー、去年の性的少数者への差別的な法律の施行や、司法・メディアへの介入が原因でEUとの関係が悪化しています。法の支配に反するとして、EUからの一部の資金が拠出されない状況ですが、今回はEUの全会一致のルールを逆手に自国の主張を押し切った形です。

大きいとは言えないハンガリーの存在が、EU全体に影響を及ぼす事態となっています。【5月31日 TBS NEWS】
*******************

また、対ロシア禁輸に限っても、“ヨーロッパではロシアからの原油や天然ガスがなくては困る国が多く、表向きはロシアへの経済制裁に同意するポーズを見せているものの、裏ではロシアとの取引を続けている国もあり、ハンガリー、チェコ、ブルガリア、スロバキアなどが、その典型的な例です。”【5月30日 浜田かずゆき氏 MAG2NEWS】というように、各国(特に中東欧諸国)の事情は異なります。

【国内事情優先のインド アメリカは“腫れ物に触る”ような慎重な扱い】
更に、世界的に見ると、対ロシア禁輸制裁に参加せず、逆に安価になったロシア産石油購入を急拡大させているとして注目(一部からは批判)されているのがインド。

****インドのロシア産原油輸入、ウクライナ侵攻以降急増****
リフィニティブ・アイコンのデータによると、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、インドは3400万バレルのロシア産原油を輸入したことが分かった。他の製品を含むロシアからの輸入総額は2021年の同時期と比較して3倍以上となっている。

世界第3位の石油輸入国であるインドは、輸入代金削減のために値崩れの激しいロシア産原油に目をつけた。
インドは今月、2400万バレル以上のロシア産原油を輸入。4月の720万バレル、3月の約300万バレルから急増。6月には約2800万バレルを輸入する予定だ。

政府統計によると、エネルギー輸入の急増により、2月24日から5月26日までのインドのロシアからの物品輸入総額は、昨年同期の19億9000万ドルから64億ドルに増加した。

西側諸国が侵攻に対して制裁に乗り出す中、インドはロシアのエネルギーを継続して輸入していると非難されているが、これらの輸入は国全体の需要のほんの一部に過ぎないとして批判を一蹴。急な輸入停止は消費者のコストを押し上げると主張し、「安価な」ロシア産原油を輸入し続けるとしている。【5月31日 ロイター】
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“米財務省は、ローゼンバーグ・テロ資金調達・金融犯罪担当次官補が24日にインドに出発したと発表した。ウクライナ侵攻を受けてロシアに制裁を科す中、インドのロシア産原油購入抑制を目指し、政府当局者や企業などと協議する。”【5月25日 ロイター】と、アメリカは自制を求めていますが・・・・

アメリカにとってインドは対中国包囲網クアッドの重要メンバーであり、“腫れ物に触る”ような慎重な扱いも。
インドも、対中国戦略を考えるとアメリカと決定的に対立することは望んでいませんが、ロシア制裁不参加については、兵器のロシア依存などもあって、国内事情優先を貫くかまえのようです。
米印ともに“微妙”なところ。

****対中包囲網に期待のインド 不安材料は対露融和姿勢****
インドにとり、中国との対立が長期化する中で、対中包囲網として日米豪印の協力枠組み「クアッド」の重要性は増している。インドはウクライナ侵攻をめぐって対露融和姿勢を続け、国際社会に失望感も漂う。モディ首相には首脳会合を通じ、自由主義陣営の一員としての立場を強くアピールする狙いもあった。

インドにとって、安全保障面の最大の懸案は、2020年の国境付近での衝突を契機に関係が悪化した中国への対応だ。中国は現在も係争地付近で軍事用インフラの整備を進めており、戦力で劣るインドの対応は後手に回っている。

今回、多国間の自由貿易協定に消極的なモディ氏が、米国の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」参加を表明したのは、米国などとの関係強化を通じ対中包囲網を強固にしたい思惑もある。

ただ、インドの対露融和姿勢はクアッドの結束の不安材料となりかねない。米国は直接の批判は避けているが、インドによるロシア産石油購入について「急拡大は望まない」と遠回しにくぎを刺している。

「世界最大の民主主義国」として存在感を示し、対外投資を呼び込んできただけに、モディ氏は自国への反発拡大は慎重に避けたい考えがある。モディ氏は24日の首脳会合で「われわれの相互信頼と決意は、民主主義勢力に新たなエネルギーを与えている」と述べ、民主主義国家としての立場を改めて強調した。【5月24日 産経】
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【ロシア ガスを政治的圧力手段として“活用”】
石油以上にロシアが政治的圧力手段として“活用”しているように見えるのが天然ガス。

NATO加盟に踏み切ったフィンランドに対しては・・・

****ロシア、フィンランドへのガス供給停止***
フィンランドの国営ガス会社ガスムは21日、ロシアからの天然ガス供給が同日停止されたと発表した。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムはガスの代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、フィンランドは拒否していた。
 
ガスムは「供給契約に基づき、(ロシアから)フィンランドへの天然ガス供給は停止された」とし、代わりに同国とエストニアを結ぶパイプライン「バルティック・コネクター」経由で別の供給源から天然ガスを供給するとしている。 【5月21日 AFP】
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すでに4月段階でポーランドとブルガリアに対しても供給を停止しています。

****ロシア、ポーランドとブルガリアへのガス供給停止…「ルーブル払い」拒否を理由に****
ロシア国営ガス会社ガスプロムは27日、ポーランドとブルガリアに対し、パイプライン経由の天然ガス供給を停止したと発表した。

ロシア側はガス代金の支払いを自国通貨ルーブルで求めているが、ポーランドとブルガリア側が拒否したためだ。2国は当面、国内のガス供給に影響はないとしている。(後略)【4月27日 読売】
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更に、オランダ・デンマークに対しても。

****ロシア、オランダへのガス供給停止へ****
オランダの一部国営ガス企業ガステラは30日、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムから、ガス供給を31日に停止するとの通知を受けたと発表した。
 
ガスプロムは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が科した制裁を回避するため、代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、ガステラは拒否していた。
 
10月にかけて20億立方メートル分の供給が停止される見通しだが、ガステラはこれを予期して他の供給元からガスを購入していたと説明。オランダのロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相はツイッターに「一般家庭へのガス供給には影響しない」と投稿した。
 
オランダ政府によると、同国はガス供給の約15%をロシアに頼っており、年間約60億立方メートルを購入している。ロシアは他の欧州諸国に対し同様の措置を取ってきており、21日にはフィンランドへのガス供給を停止していた。 【5月31日 AFP】
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****デンマークのエネルギー大手、ロシアからのガス供給停止を警告****
デンマークのエネルギー大手エルステッドは30日、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの輸出部門、ガスプロム・エクスポートが同社へのガス供給を停止する可能性があると警告した。ルーブル建てでの決済を拒否しているためという。

デンマークエネルギー庁は、ロシアがエルステッドへのガス販売を停止しても供給には直ちに影響はないとしている。また、ガスが不足した場合の緊急計画を準備しているという。【5月31日 ロイター】
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オランダ、デンマークは大きな影響はないとしていますが、そこらは国によって事情は異なります。

****イタリア、ロシア産ガス輸入停止ならGDPに2%打撃=経済団体****
イタリアの経済団体コンフィンドゥストリアは、ロシアからの天然ガス輸入が6月に停止された場合、今年と来年の国内総生産(GDP)が年平均で約2%の打撃を受けるとの見通しを示した。

「ロシアからのガス輸入が止まれば、既に悪化しているイタリア経済に非常に強い影響を及ぼす可能性がある」とし、産業界向けの大規模なガス供給不足やエネルギーコストの一段の上昇がマイナス影響をもたらすと指摘した。

イタリアが昨年輸入した天然ガスのうち、ロシア産は最大の40%を占めた。【5月30日 ロイター】
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ドイツにとっても、すでに完成したにもかかわらず、アメリカの強い要請もあって事業停止している「ノルドストリーム2」の問題がありましたが、ウクライナはドイツ政府に対し、「ノルドストリーム1」経由のガス輸送も停止するか、大幅に削減するよう要請したと明らかにしています。

ウクライナは代替経路の提供が可能としていますが、ドイツからすれば「ノルドストリーム」は、ガス取引においてこれまであまり誠実とは言い難い(ロシア以上に信用できない)ウクライナを避けるために進めてきた事業であり、ウクライナ経由に代替するのは、ウクライナに生殺与奪の権利を与えるような話にも。

一方、ロシアは、ロシアの意向に沿う国にはガス供給を確約。

****セルビア、ロシアと3年のガス供給で合意 首脳が電話会談***
セルビアのブチッチ大統領は29日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、新たに3年の天然ガス供給契約で合意したと明らかにした。(中略)セルビアはガスプロムとの10年のガス供給契約が今月末で期限切れとなる。

ブチッチ氏は、セルビア国内のガス貯蔵設備拡大についてプーチン氏と協議したことも明らかにした。

欧州連合(EU)加盟を目指すセルビアに対し、西側諸国は外交政策でEUと歩調を合わせロシアに制裁を科すよう求めている。【5月30日 ロイター】
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【調達の多様化が難しい天然ガス 買い手・売り手とも“仁義なき戦い”状態】
天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源であるとの指摘も。

****現実的にはこんなに困難、欧州が打ち出すエネルギー「脱ロシア依存」の真意****
(中略)
天然ガスを大量に産出できる国は限られる
(中略)ロシアから欧州にパイプラインで輸出されている天然ガスの量を考えると、短期間で再生可能エネに置き換えるのは困難である。再生可能エネのインフラが整うまでの期間については、他の地域からの天然ガス調達に頼らざるを得ないだろう。だが、ロシア以外の調達先を確保するというのは、それほど単純な話ではないのだ。
 
実は天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源である。全世界の天然ガス埋蔵量の大半(約70%)は、米国、ロシア、トルクメニスタン、イラン、カタールの5カ国で占められている。ロシア以外の国から大量調達するにしても、中央アジアの北朝鮮と呼ばれるトルクメニスタンは中国との関係が深く、欧州への供給は容易ではない。
 
イランは依然として米国の制裁対象となっていることに加え、産出する天然ガスの多くが国内向けであり、すぐに輸出を拡大できるわけではない。(中略)

原発の増設と再生可能エネは消費者から見れば同じ
しかも欧州の場合、多くがパイプラインによる輸入となっており、液化天然ガス(LNG)のインフラは乏しい。LNGに切り換える場合、タンカーが接岸する港湾などを整備する必要があるほか、輸送コストの問題も生じる。(中略)

欧州では必要に応じて原発を増設することも検討されているが、原発を増設しても天然ガス不足の問題をすぐに解決できるわけではない。日本と同様、欧州においてもオール電化という家は少なく、ガスは家の暖房や給水に使われるケースが圧倒的に多いからだ。
 
原発と再生可能エネルギーは、環境問題など政治的には大きな違いがあるかもしれないが、物理的には電力を何によって作り出すのかの違いがあるに過ぎず、消費者側から見れば、ガスや石油のインフラから電力インフラへの切り換えが必要という点では何も変わらない。家庭のインフラを変換するには相応の時間がかかるので、結局のところ再生可能エネルギーへのシフトと同じ問題を抱えることになる。(後略)【5月30日 加谷 珪一氏 JBpress】
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液化天然ガス(LNG)を天然ガスに転換する設備をめぐっては、すでに奪い合いが起きており、確保に乗り出す欧州によってオーストラリアが押し出されるという事態も。

****欧州の天然ガス争奪戦、豪のLNG輸入計画がピンチ****
欧州諸国がロシアに代わる天然ガス供給源の確保を急ぐ中、オーストラリアの液化天然ガス(LNG)輸入計画が脅かされている。LNGを天然ガスに転換する設備を欧州諸国に抑えられたためで、人口の多いオーストラリア南西部は2年後に天然ガス不足に見舞われかねない。(後略)【5月312日 ロイター】
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また、一昨日ブログでも取り上げたように、ロシアがイランから顧客を奪うといった競争も。

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。(後略)【5月25日 日経】
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買う方も、売る方も、“仁義なき戦い”状態のようですが、そういう状況もあっての日本の対応でしょう。日本外交にしては珍しい自己主張です。

****「サハリン2」、どけと言われてもどかない=萩生田経産相****
 萩生田光一経産相は31日の参院予算委員会で、日ロ合弁の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」について、「どけと言われてもどかない」と述べ、日本として権益を守る意向を改めて示した。 鈴木宗男委員(維)への答弁。

鈴木委員は、ロシアのウクライナ侵略に関連し「サハリン2(の日本権益)は守られるのか」と質問。萩生田経産相は「サハリン2は、先人が苦労して獲得した権益。地主はロシアかもしれないが、借地権や(液化、輸送)プラントは日本政府や日本企業が保有している」として、権益を維持する意志を示した。【5月31日 ロイター】
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欧州などの「買ってやらないぞ」「でも欲しい」、インドなどの「安くするなら買うよ」、ロシアの「売ってやるものか」「でもどこかに売らなきゃ」・・・いろんなベクトルが絡み合うエネルギー取引事情です。
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アメリカ  ロシア産石油禁輸のため代替調達先を模索するも、サウジ、ベネズエラ、イランと“厄介な国”

2022-05-18 23:09:35 | 資源・エネルギー
(【3月9日 日経】)

【欧州で難航するロシア産石油の禁輸】
ウクライナ情勢は穀物輸出国ウクライナ・ロシアからの供給がストップすることで世界の食料事情に影響する一方で、制裁措置としてのロシア産石油禁輸をめぐって世界の石油事情にも大きく影響します。

欧州でも、ロシア産石油に大きく依存するハンガリーが禁輸に反対しており、なかなか足並みが揃わない現実があります。

****EU、ハンガリー支援を協議 ロシア産原油禁輸で翻意促す=関係筋****
欧州連合(EU)はロシア産原油の禁輸方針に反対するハンガリーに翻意を促すため、同国への金融支援について協議しているが、製油所向けの支援を巡り意見の隔たりがあることが関係筋の話で17日に分かった。

ハンガリーのシーヤールトー外相は16日、同国がロシア産エネルギーへの依存から脱却するには最大180億ユーロの資金が必要だと発言。

ただ、ハンガリー政府はEUとの協議で、短期的にはこれよりもはるかに小さい額で懸案事項に十分対応できるとの考えを示したという。

具体的には、同国とクロアチアを結ぶ石油パイプラインを延伸し、ロシア産原油を処理する製油所を異なる油種に適応させるために約7億5000万ユーロ(7億9040万ドル)の資金を要求したことが、外相や関係筋の話で分かった。

このうち、ハンガリーのエネルギー大手MOLが同国およびスロバキアで運営する、ロシア産原油のみを処理する2つの製油所を更新するのに最大5億5000万ユーロ(5億7960万ドル)が必要になるという。

当局者によると、EUはパイプラインの延伸に支持を重ねて示しているが、民間の製油所の原料転換を全面的に支援することは競争ルールに抵触する可能性があるため消極的だ。実際にどれだけの資金が供与可能かについて話し合いが続いているとした。【5月18日 ロイター】
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こうした状況をロシア・プーチン大統領は「禁輸は経済的自殺行為」と揶揄しています。

****プーチン氏、石油禁輸は「経済的自殺」****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は17日、同国のウクライナ侵攻を受けて欧州がロシア産石油の禁輸を検討していることについて、「経済的な自殺」行為だとの見方を示した。
 
プーチン氏はエネルギー関連の会合で、ロシア産エネルギーの調達を段階的に減らしたとしても、欧州自身が打撃を被るだけだと主張。西側諸国の動きは「生煮え」だとし、政府当局者らに対し、有利な展開につなげるよう促した。
 
プーチン氏は具体的に、制裁を発動すれば欧州はエネルギー価格の高騰とインフレ高進に直面するだろうとし、「当然ながらそうした経済的自殺行為は欧州諸国では国内問題として跳ね返ってくる」と指摘。一方で、欧州の「支離滅裂な行動」のおかげで、ロシアの石油・ガス収入は増大することになると述べた。
 
その上で「石油市場の変化は地殻変動のようなものだ。従来通りのビジネスが続いていく見込みはない」と強調した。 【5月18日 AFP】
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【バイデン政権 石油増産のためにはサウジアラビアとの関係改善が重要】
アメリカとしても、対ロシア制裁で西側の足並みをそろえていくためにも、また、アメリカ国内のガソリン価格高騰(バイデン政権にとって、選挙対策としてはウクライナ問題より直接的に票に影響します)を抑制するためにも、ロシアに変わる石油調達先を探し、石油価格・供給を安定させる必要があります。

そうなると、一番に頼るのはやはり中東、その中でも最大の石油産出国のサウジアラビアですが、“同盟国”とは言いつつも、アメリカとサウジアラビアの関係はサウジアラビア皇太子が関与したと思われるカショギ氏暗殺事件以来、もっと言えば、9.11にサウジアラビア出身者が多数関与していたことなどもあって、あまり良好とは言えません。

サウジアラビアも“現在はOPECプラスで協力関係を構築してきたロシアと、今や最大の石油輸出先である中国へとパートナーを変えつつあると言って良いと思います。”【5月18日 MAG2NEWS】とも。

まあ、そこまでアメリカとの距離が開いているとも思いませんが、関係がギクシャクしているのは事実で、バイデン政権としては石油増産のためにサウジアラビアとの関係改善が課題となります。

****ロシア制裁に必要な米国とサウジの関係修復****
米国とサウジアラビアおよびUAEとの関係は現在ぎくしゃくしている。これは極めて望ましくない。米国のブリンケン国務長官が未だ両国を訪問していない(あるいは相手国が訪問を歓迎しようとしない)のは正常ではない。ブリンケンは3月末に中東を訪問したが、湾岸諸国は抜け落ちていた。

ロシアに対抗する西側の結束は、原油価格の高騰により直ちに砕けるほど脆弱であるとは思われない。しかし、欧州連合(EU)がロシア原油の禁輸に動き出した事情もあるので、サウジアラビアに増産させる努力は重要である。
 
バイデンは、トランプがサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)を甘やかし過ぎたと感じていたに違いない。バイデンは大統領選挙戦で、反体制派のカショギ記者殺害事件に関して、サウジアラビアを「パーリア(のけ者)」と呼んだことがある。
 バイデン政権発足の初期(2021年3月)には、「カショギ・バン(Khashoggi Ban)」と称する新政策を発動し、海外の反体制派抑圧に従事したとして76人のサウジ人に入国制限の制裁を課した。

酷い人権侵害が起きているイエメンの戦争を止めさせるべくサウジアラビアの空爆に対する米国の軍事援助を停止した。加えて、バイデンは国王と最初の電話会談を行い、自身のカウンターパートは国王であることを明確にした。
 
こうしたバイデンの言動がMBSの不興を買い、関係がこじれる端緒となったようである。一部報道によれば(真偽のほどは不明)、バイデンは原油の増産をMBSに電話で要請することとしたが、MBSはバイデンのカウンターパートは国王のはずだとして電話を断ったとされている――バイデンの電話を受けた国王は振り付け通りに増産を断った。

米国は積極的な行動を示すしかない
こういう関係は不健全であり、修復する必要がある。しかし、関係修復のための妙手がある訳ではない。

バイデンは人権を重視する立場から、サウジアラビアとの関係の基調を変えようと決心した様子であるから、軌道を修正するのは難しい。結局のところ、サウジアラビアとUAEの安全保障は米国の重大な関心事であることを、積極的な行動で示すしかないように思われる。
 
イエメンのホーシー派によるミサイル・ドローン攻撃には、サウジアラビアにはパトリオット防空システムを追加配備し、またUAEにはF-22/F-35戦闘機を展開するなど、米国が何もしていない訳ではないが、両国は未だ納得していない。こういう情勢では両国の更なる不興を買うイラン核合意の復活には米国として踏み切りにくいのかも知れない。
 
なお、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報ずるところによれば、バーンズ米中央情報局(CIA)長官が4月中旬に隠密裏にサウジアラビアを訪問し、ジェッダでMBSと会談した。その内容は明らかでないが、良好な会談だったとされている。【5月17日 WEDGE】
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アメリカからのアプローチがあったのかどうかは知りませんが、サウジアラビアは一応増産の方向を明らかにしています。

****サウジ、石油生産能力を日量1300万バレル強に拡大へ 27年までに****
5月16日、サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は、2026年末または27年初頭までに石油生産能力を日量100万バレル以上引き上げ、日量1300万バレル強にする予定だとした上で、市場の需要が必要とするなら、その水準で維持する可能性があると述べた。(後略)【5月17日 ロイター】
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【制裁対象国ベネズエラ・マドゥロ政権にも石油輸入再開をにらんでアプローチ】
中東以外で供給増が可能な国が、強権支配で制裁対象になっているベネズエラ。後述イランを含めて、石油というのはどうも人権・民主主義の観点からは問題の多い国で産出されるようで、アメリカとしても悩ましいところです。
バイデン政権はベネズエラ・マドゥロ政権とも交渉しているようです。

****米はベネズエラ原油輸入探る ロシア産代替****
ロシア産原油を禁輸したバイデン米政権が、代替調達先として南米の産油国ベネズエラからの輸入再開を模索している。反米左派マドゥロ政権に科してきた制裁を緩和することになるため国内外から批判が高まるが、石油業界は「決定」を見越して前のめりだ。

バイデン政権高官が今月5日、突然ベネズエラを訪問し、同国のマドゥロ大統領と会談した。目的はベネズエラ産原油の輸入再開を協議するためだったとされ、ホワイトハウスのサキ報道官は「訪問目的はエネルギー安全保障を含むさまざまな問題を協議することだった」と大筋で認めた。

独裁を強めたマドゥロ氏を退陣に追い込むため、米政府はトランプ政権時代の2019年に「国営ベネズエラ石油」(PDVSA)に制裁を発動。ベネズエラの主要な外貨獲得手段である原油の輸入を制限した。

米政府の〝方針転換〟にマドゥロ氏は7日、協議が「敬意にあふれて友好的、非常に外交的だった」と評価。8日には、ベネズエラ当局に拘束されていたPDVSAの米国子会社元幹部ら米国民2人が釈放され、ベネズエラ政府の協議進展への期待をうかがわせた。

一方で、バイデン政権には批判が相次いだ。米議会上院のメネンデス外交委員長(民主党)は声明で「(ベネズエラの)政権支配層が原油の利益で私腹を肥やす行為に強く反対する」と非難。野党・共和党のルビオ上院議員は「取るに足りない量の原油と引き換えに、ホワイトハウスはベネズエラで自由を求める人々を見捨てる提案をした」とツイッターに書き込んだ。

米政府がベネズエラの暫定大統領として認定するグアイド氏も「制裁解除は、ベネズエラにおける民主主義と自由への移行に向けた進展を条件としなければならない」と不快感を示す。

批判を受けてバイデン政権は軌道修正に入り、サキ氏は「現時点では積極的に対話していない」とトーンダウン。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も、ベネズエラ当局が拘束を続けている他の米国人に言及し、制裁緩和は「マドゥロ氏による具体的な措置」次第だとした。

政権の躊躇(ちゅうちょ)をよそに石油業界は動き出した。ロイター通信によると、米石油大手シェブロンは禁輸緩和に向け現地合弁企業での準備をスタート。4月にも自社製油所にベネズエラ産原油を出荷する目算だという。
ただ、低迷するベネズエラの原油生産の急速な回復は見込めない。国民の国外脱出が相次いだことで技術者が不足し、制裁の影響で設備の老朽化に整備が追いついていないからだ。

米メディアなどによると、ベネズエラの原油生産量は1990年代には日量約320万バレルだったが、今年2月は日量約75万5千バレルにとどまる。米政策研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員、ライアン・バーグ氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)に対し、「PDVSAが簡単に(原油の)栓を開けられると思うのはひどい間違いだ」と指摘している。【3月27日 産経】
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その後もアメリカ・バイデン政権のアプローチは続いていたようです。

****ベネズエラ大統領、野党と対話再開へ 米の制裁緩和受け=関係筋****
ベネズエラのマドゥロ大統領が、米国が支持する野党側との協議再開を発表する見通しであることが分かった。米政府が対ベネズエラ制裁の一部緩和に動いたことが背景にある。米政府当局者やその他の関係者が明らかにした。

バイデン米政権は、ベネズエラで操業を続ける唯一の米石油会社シェブロンがマドゥロ政権と協議を再開することを一時的に認めた。ただ、同社に対する限定的な操業許可の更新の是非はまだ最終判断していない。

当局者の1人によると、米政府はさらに、国営ベネズエラ石油(PDVSA)の元幹部でシリア・フロレス大統領夫人のおいであるエリック・マルピカ氏を制裁対象リストから外す構え。

米政府は3月にここ数年で最も高位の代表団をベネズエラの首都カラカスに派遣し、マドゥロ大統領らと会談したばかり。ベネズエラ側は拘束していた米国人2人を釈放した。その後、米政府はベネズエラの野党陣営と協議した上で一連の措置を決めたという。

マドゥロ氏は昨年10月に停止したメキシコでの野党側との対話の再開にも前向きな姿勢を示した。両陣営は早ければ17日にも協議日程を設定するとみられる。野党指導者のグアイド氏を暫定大統領として承認した米国は、対ベネズエラ制裁を大幅に解除する可能性について、両陣営による交渉の進展次第との立場を示している。【5月18日 ロイター】
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こうした動きを受けて、原油市場も反応しています。

****原油先物2%安、ベネズエラ産原油供給の観測で****
17日の取引で、原油先物が約2%下落。一時7週間ぶりの高値を付ける場面もあったものの、米国が対ベネズエラ制裁を一部解除する可能性があるというニュースが材料視され、下げに転じた。

米国は経済制裁の一環として、ベネズエラ産原油の輸入を禁止している。ロイターは関係筋の情報として、バイデン米政権が早ければ17日にも、石油大手シェブロンによるベネズエラ政府との協議を認可する見通しと報じた。(後略)【5月18日 ロイター】
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【停滞するイラン核合意再建協議も石油供給の観点が促進材料に】
中東以外でロシア産石油の代替調達先となりうるのが、核合意再建で協議が停滞しているイラン。こちらもベネズエラ・マドゥロ政権同様、アメリカにとっては関係が難しい国です。

核合意再建協議が停滞していることは一昨日ブログ“イラン 核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大”で取り上げたばかりですが(gooブログでは、某メディア記事引用が知的財産権侵害に当たるとして公開が中止されています)、さはさりながら・・・といったところのようです。

****米バイデン政権、「イラン核合意」復活へ動き出す=ウクライナ危機で―イスラエル説得へ****
米バイデン政権は欧州の主要国と協力して、トランプ政権が破棄したイラン核合意の復活を目指してきた。しかしその最終段階で、イラン側が、イラン革命防衛隊(IRGC)の「テロ組織指定」を米国が取り消さない限り、核合意の復活に同意しないと主張したため、交渉が中断しているが、ロシアのウクラナイ侵攻が様相を一変させた。

ウクライナに侵攻したロシアへの石油依存からの脱却を目指している西側諸国にとって石油市場へのイランの石油供給は極めて重要である。

中東外交に詳しい専門家によると、この問題の解決に向けた動きが活発化してきた。欧州連合(EU)側の交渉責任者が最近イランの責任者と2日間協議した。EUの外相に相当するボレル氏は「イランとの会談は予想以上にうまくいっている」と指摘している。

さらに、カタールのタミーム首長がイランに行き最高指導者ハメネイ氏とライシ大統領と面談している。

同首長は中東地域の緊張緩和との観点から、米国、イランの和解と核合意の復活を待望しており、来週、ドイツ、英国その他を訪問する際もその線で熱心に動くことが期待される。

実際にはバイデン大統領が「テロ組織指定」を破棄するか修正しない限り、イランは譲歩しないとみられる。これについては米国内で上院の共和、民主両党から強い反対が予想されるため、容易ではない。

しかしイランの核開発に歯止めをかける協定の実現のためにはバイデン政権が一歩踏み込む必要があるが、その可能性も浮上している。

また、イラン核合意の復活に反対するイスラエルについては、6月後半に予定されているバイデン大統領のイスラエル訪問の際に、同大統領がが説得することになる、という。

イラン核合意の再建交渉について、欧州ではイラン革命防衛隊をめぐる対立により「こう着状態に陥っている」と見る向きが多いが、ウクライナ危機が促進材料となっている。【5月18日 レコードチャイナ】
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サウジアラビアにしても、ベネズエラ、イランにしても、アメリカ国内的には関係改善が素直に喜べない国ばかりですが、石油増産・供給増のためには背に腹は・・・といったところでしょう。
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欧州 「脱化石燃料」に加えて「脱ロシア依存」 対応が分かれる原発・エネルギー政策

2022-04-11 23:29:15 | 資源・エネルギー
(訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発で、職員の作業を視察するジョンソン首相(右)4月7日、ロイター【4月11日 毎日】 ラフな作業着の着方、日本なら炎上しますね)

【欧州委員会 一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案】
原子力発電に対する考え方が各国の事情によって国によって異なるのは以前からの話ですが、最近も温暖化対策の観点から欧州委員会が一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめたことで、欧州内でも温度差が話題になりました。

EU内でもこの方針に中道左派政権のドイツ(環境政党「緑の党」も連立参加)とスペインは反対していますが、「原発大国」フランスは当然賛成です。

****天然ガスと原子力を条件付きで「グリーン投資」、欧州委が素案****
欧州連合(EU)欧州委員会は、一部天然ガスと原子力エネルギーを「グリーン投資」に区分する提案をまとめた。1月にEUの「サステナブル・ファイナンス・タクソノミー」に関するルールを提案する見通しだ。

欧州委は、グリーン投資に区分される経済活動や環境面の要件をまとめた。

「科学的助言と現在の技術の進展、加盟国間で異なる移行面の試練を考慮し、天然ガスと原子力には、再生可能を主体とする将来に移行するための手段としての役割がある」と声明で述べた。

ロイターが閲覧した欧州委の提案の素案では、原子力発電所への投資は、放射能廃棄物を安全に処分する場所や資金を確保する計画がある場合にグリーンと判定される。新規の原発がグリーンに区分されるためには、2045年までに建設許可を得る必要がある。

天然ガス火力発電所については、1キロワット時(kWh)あたりのCO2排出量が270グラム未満、30年12月31日までの建設許可取得、35年末までに低炭素ガスに切り替える計画があることなどが条件。

欧州委関係者はロイターに、エネルギー事情が異なる加盟国の移行を支援する上で、「一見グリーンに見えない解決策も一定の条件下では理にかなう」と述べ、天然ガスや原子力への投資には「厳しい条件」が付くと指摘した。

提案の素案は、EU加盟国と専門家委員会で審査され、1月中に公表される予定。公表後、欧州議会で審議される。【1月3日 ロイター】
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****「脱原発」の見直しを進める欧州と孤立する環境原理主義のドイツ****
(中略)EUの執行部局である欧州委員会は年が開けた1月1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーに位置付ける方針を示した。これにドイツとスペインは反発しているが、フランス発のこの流れが止まることはまずありえない。

反露・反中の環境政党と組むという劇薬
ドイツで脱原発に強いこだわりを見せているのが、SPDと連立を組む環境政党、同盟90/緑の党(B90/Grünen)だ。脱原発を公約に支持を広げた経緯がある同党にとって、その撤回は受け入れ難い。共同代表の一人であるハーベック副首相兼経済相が気候政策を担当していることもあり、同党は今年末に定めた脱原発目標の実現に執着する。

電力価格の高騰に伴い、ドイツでも脱原発の在り方を見直そうという世論が高まっている。ただ、そうした声に耳を傾けてしまうと、B90/Grünenは環境政党としての「レゾンデートル」を失うことになる。

一方、クリーンな化石燃料である天然ガスをロシアから「ノルドストリーム2」を通じて購入することも、B90/Grünenには受け入れ難い。(後略)【1月22日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「原発推進」か「脱原発」か  エネルギー脱ロシア依存でも対応に違い】
このエネルギー対策、原子力発電対策は、ロシアのウクライナ侵攻によって、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るというロシア依存の高い欧州にあっては安全保障の観点からも大きな問題となっています。

****「原発推進」か「脱原発」か “ロシアリスク”めぐり割れる欧州****
ウクライナ侵攻により、ヨーロッパではロシアに依存してきたエネルギーの調達方法を見直す動きが加速しています。原子力発電所をめぐっては、ドイツとフランス、2つの大国で対応の違いがより明確になっています。(中略)

福島第一原発事故の後、電力の原発への依存を70%から50%に引き下げることにしたフランス。しかし、マクロン大統領は方針転換を表明し、温暖化対策ともに『エネルギーの自立』を訴え、新たに最大14基を建設する計画を発表しました。

フランス マクロン大統領
「ガス、石油、石炭への依存から初めて脱却する国になることができます」

EUの加盟国は石油や天然ガスの輸入でロシアに依存してきましたが、ウクライナ侵攻で状況は変わり、ロシアへのエネルギー依存からできるだけ早く脱却することで合意。原発の稼働延長を決めた国も出ています。

一方、ドイツは、年末までに「脱原発」を完了させる方針を維持。ロシアに代わる調達先との交渉や再生可能エネルギーの発展によって、最も依存してきた天然ガスでも「2024年夏までには依存ゼロに出来る」としています。

ドイツの専門家も、ロシア軍がウクライナの原発を一時制圧したことで「脱原発の必要性がより明確になった」と話します。

ドイツ経済研究所 ケムフェート教授
「原発は戦争の時代には合わない。これは私たちがウクライナでいま見ていることだ。フランスには学んでほしい」

フランスでは、今週末に行われる大統領選挙の主な候補者のほとんどが原発に賛成。選挙戦で議論されることもありません。

パリ市民
「確かに簡単に攻撃のターゲットになり得ますね。でも代わりはあるのかな?」「原発は他のものよりは悪くないと思う」

ヨーロッパで隣り合う大国で、方針は真っ二つに分かれています。【4月6日 TBS NEWS】
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【EUの脱ロシア依存戦略 禁輸については温度差】
EUはロシア産エネルギーを減らしていくということでは合意しています。

****EU、ロシア産エネルギーへの依存ゼロを計画 27年までに****
 欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は13日までに、ロシア産のエネルギー源への加盟国の依存度を2027年までにゼロにする対策を今年5月半ばまでに示す方針を明らかにした。

27年までにロシア産の天然ガス、石油や石炭への依存度を段階的に減らし、加盟国や欧州全体が保有する資源の活用を訴える内容になるとした。(中略)

同委員長はまた、3月末までに天然ガス価格の上昇が電気料金に波及することを制限する選択肢を提示するとも表明。作業部会を設け、次の冬季へ向けた補充計画も錬らせるとした。

EUは長期にわたる天然ガスの備蓄政策をまとめる必要もあり、毎年10月の初旬までに地下施設における保存量を少なくとも90%にすることを提案するだろうとも指摘。供給面での障害の発生に備えた政策でもあるとした。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受けEUは先に、ロシア産の天然ガス輸入を今年3分の2程度減らし、30年よりかなり前には同国産の天然ガスや石油への総体的な需要をなくす方針も示していた。【3月13日 CNN】
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ただ、“禁輸”という話になると温度差が露呈します。

****EU、ロシア産原油・ガス禁輸で温度差 エネルギー依存解消急ぐ****
ブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)首脳会議は25日、2日間の日程を終えて閉幕した。ウクライナに侵攻するロシアへの新たな制裁について協議したが、ロシア産原油や天然ガスなどの輸入禁止について意見が割れ、具体策に合意できなかった。エネルギー供給でのロシア依存が対露戦略上の課題として改めて浮き彫りになった。

一方、首脳会議でEUはガスの共同購入により安定供給を目指す方針を決定。また、米国と液化天然ガス(LNG)の欧州への輸出拡大で合意し「脱ロシア依存」を急ぐ。

米国は既にロシア産原油、天然ガスの禁輸に踏み切っている。しかし、天然ガスの4割超、石油の約3割をロシアからの輸入に頼るEUでは、依存度の高いドイツなどが慎重姿勢を崩さない。
 
一方、強硬派のポーランドやバルト3国からは禁輸に乗り出すべきだとの声が上がる。ラトビアのカリンシュ首相は24日、首脳会議の会場で報道陣に「(新たな制裁で)最も論理的なのは石油など(の禁輸)に踏み出すことだ」と主張した。
 
双方の溝は埋まらず、採択された声明では、ロシアに対する「さらに強力な制裁に向けた準備ができている」と記すにとどめた。(後略)【3月26日 毎日】
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アメリカの欧州へのLNG輸出が“支援”なのか、米国産ガスのウクライナ問題を利用した“売り込み”なのかは評価の分かれるところですが。

比較的代替調達先が見つけやすい石炭については、ドイツの要請でひと月遅れたものの、8月半ばから“禁輸”となるようです。

****EUのロシア産石炭禁輸案、実質的開始は8月半ばに延期=関係筋****
 欧州連合(EU)加盟国は7日の大使級会合で、ウクライナ民間人殺害を受けたロシアへの制裁措置として、ロシア産石炭の輸入を8月半ばから停止する措置で合意する見通し。EU筋がロイターに明らかにした。実施時期はドイツの要請で1カ月先送りされた。

欧州委員会の当初案は、既存契約を段階的に縮小するとし、制裁発動から90日間はロシアの欧州向け輸出が事実上可能となっていた。

EU筋によると、この猶予期間は4カ月に拡大された。域内最大の輸入国ドイツから圧力がかかったという。制裁は正式発表を経て週内か来週初めに施行する見込み。既存契約の下で8月半ばまでロシア産石炭の輸入は可能となる。

ある外交筋は、契約のほとんどが短期のため90日間で大半が完了可能とし、中途でのキャンセルは必要ないと述べた。

ロシアのウクライナ侵攻以降、EUがロシアからのエネルギー輸入を禁止するのは初めてとなる。

欧州委員会は、石炭の輸入禁止により、ロシアの年間収入が40億ユーロ(43億6000万ドル)失われる可能性があると推計している。

今回の措置により、ロシア産以外の石炭の輸入が増え、石炭価格が上昇する可能性がある。ただ、EU以外の輸入国はロシア産石炭の価格下落で恩恵を受ける可能性がある。【4月7日 ロイター】
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【フランス 「原子力産業のルネサンス」】
主要国のエネルギー・原子力発電への対応を見ていくと、フランスはウクライナ以前から【前出 TBS NEWS】にあるように原発拡大策をとっています。

****仏、原子炉最大14基新設へ 「原子力産業のルネサンス」****
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は10日、国内に原子炉を最大14基新設する計画を発表した。「仏原子力産業のルネサンス(再生)」を目指す。
 
マクロン氏は北東部ベルフォールの原子力発電用タービン工場を訪問した際、欧州加圧水型原子炉の改良型「EPR2」6基を新設し、さらに8基の新設を検討すると述べた。
 
マクロン氏によると、フランスは2011年の福島第1原子力発電所の事故以来、脱原発という「極端な選択」こそ避けたものの原子力産業への投資を怠ってきた。世界に類を見ない厳しい原子力規制があり、「進歩と科学技術に対する信頼」に基づき新設を決めた。
 
また、既存の原子炉の耐用年数を安全な範囲内で延長するとともに、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに新たな大規模投資を行う方針も示した。 【2月11日 AFP】
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【ドイツ 「脱原発」と「脱ロシア依存」で厳しいエネルギー事情】
「脱原発」のドイツは「脱ロシア依存」もあって、苦しいエネルギー事情です。

****ロシア産石炭と石油、ドイツが年内に輸入停止…24年半ばには対露依存度ゼロへ****
ドイツのショルツ首相は8日、「ロシアの化石資源から自立するため、大きな仕事をしなければならない」と述べ、ロシアからの石炭と石油の輸入を年内に停止する考えを示した。就任後初めて訪問した英国で、ジョンソン英首相との共同記者会見の際に明らかにした。
 
独政府によると、石炭については今月から輸入制限を始め、秋には取引を止める。輸入量の半分を占める天然ガスは、2024年半ばまでにロシアへの依存度をゼロにする方針だ。
 
欧州連合(EU)は8月から露産石炭などの輸入を禁じる。石油禁輸についても11日に協議する見通しで、エネルギーのロシア依存からの脱却を加速させる。【4月10日 読売】
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****ウクライナ侵攻のせいでドイツで暴動が起きるかもしれない****
(中略)3月のドイツの消費者物価指数(CPI)は前年比7.6%上昇した(EU基準)。戦後のドイツの最悪のインフレ率は第1次石油危機時の7.8%だったが、この数字が更新されるのは時間の問題だろう。
 
深刻なインフレの原因はエネルギーコストの高騰にあることは言うまでもない。ドイツはウクライナ危機以前からエネルギー価格の上昇に苦しめられていた。

ガス早期警報プログラムを策定
ドイツでは通常、電力・ガスの契約は1年ごとに更新されるが、今年1月の見通しでは、ドイツの約420万世帯の電気料金は平均63.7%上昇し、360万世帯のガス料金は62.3%値上がりとなっていた。発電所の燃料調達コストが上昇したことや再生可能エネルギーの生産量が減少することなどがその理由だった。
 
昨年末に稼働中の3つの原子力発電所の運転を停止したことも災いした。ドイツが電力価格の高騰に対処できるカードは天然ガスのみとなってしまったのだが、その矢先にウクライナ危機が勃発し、頼みの綱だったロシア産天然ガスの依存から早期に脱却せざるを得なくなった。
 
その苦境を見透かすかのようにロシアが3月下旬にガス代金のルーブル払いを要求してきたことから、ドイツ政府は「ガス早期警報」プログラムを策定することを余儀なくされた。

プログラムは(1)早期警報、(2)警報、(3)緊急事態の3段階になっており、早期警報が出されると危機対策本部が招集され、緊急事態になると電気の配分について政府が介入するという仕組みになっている。
 
政府は国民に対してエネルギーの節約を強く呼びかけており、1970年代の石油危機を彷彿とさせる状況になってしまっている。
 
エネルギー危機に直面したドイツは、電力の安定供給を優先するため「脱炭素」を先送りせざるを得なくなっている。ドイツの電力最大手RWEは3月下旬、停止した石炭火力発電所の再稼働や、停止が決定されている発電所の運転延長を検討し始めた。
 
だが、欧州連合(EU)が4月上旬、追加制裁の一環としてロシア産石炭の禁輸を打ち出したために、ドイツの石炭火力発電所の一部が運転停止に追い込まれるという逆風にさらされている。(後略)【4月11日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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上記記事は、エネルギー価格上昇に加えて、ウクライナ情勢を受けた食料品価格上昇、インフレによる経済悪化、不動産バブル崩壊の危機で、ドイツの苦しい状況を指摘しています。

【イギリス 原発拡大で脱ロシア依存目指す】
イギリスは原発拡大でロシア依存脱却を図っています。

****英、原発8基新設へ 首相「プーチン大統領の脅しに影響されない」****
ロシアのウクライナ侵攻を受けた世界的なエネルギー不安の中、英国で原子力発電所を新設する動きが加速している。エネルギーのロシア依存脱却を図る狙いがあるが、安全面などからは懸念の声も上がっている。
 
「プーチン(露大統領)のような人物の脅しに影響されてはならない」。ジョンソン英首相は7日、訪問先の英南西部ヒンクリーポイント原発でそう語り、安定したエネルギー供給の重要性を強調した。
 
英政府は6日に発表した新エネルギー戦略の中で、2030年までに最大8基の原発を新設する方針を明らかにした。現在は電力需要の15%前後を占める原発の比率を50年までに25%程度に引き上げる計画だ。

風力や太陽光などの再生可能エネルギーも拡大し、30年には原発を含む「低炭素」電源で需要の95%を賄うという。

IAEA(国際原子力機関)によると、英国では現在11基の原発が稼働中だが、いずれも老朽化が進んでおり、新戦略では小型モジュール炉(SMR)など次世代原子炉の開発を進める方針も示された。
 
背景には、ロシア依存からの一層の脱却を目指す英政府の思惑がある。既にジョンソン政権はロシア産原油の輸入を22年末までに止める方針を表明し、今後は天然ガスの輸入禁止も検討している。

北海油田を擁する英国は他の欧州諸国に比べロシア依存度は高くないが、世界的なエネルギー不安の中、最近は英国でもガスや電気料金が値上がりしており、政府はエネルギー自給力の強化に乗り出した格好だ。
 
ただ原発は建設コストが高く、稼働までには時間もかかるため、即座に光熱費抑制にはつながらない。英メディアによると、野党からは「高額請求に直面する数百万の家庭には何の助けにもならない」(労働党のミリバンド元党首)と批判の声が上がっているほか、原発を危険視する反核団体なども反発を強めている。
 
ウクライナ情勢を受け、欧州各国では原発の存廃を巡る議論が続く。欧州メディアによると、22年末までの全原発停止を決めているドイツは予定通り脱原発に踏み切る方針。一方、25年までの脱原発を決定していたベルギーは、一部の原発の稼働延長を決めた。【4月11日 毎日】
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日本では、NHK世論調査によると“エネルギーの価格が上がっても、ロシアへのエネルギー依存度を下げることを、支持するか聞いたところ、「支持する」が68%、「支持しない」が17%でした。”【4月11日 NHK】とのこと。

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