(15日、アフガニスタンの首都カブールで、政権掌握から1年を祝うタリバン戦闘員たち=AP【8月29日 東京】)
【米軍撤収から1年 「神が異教徒を追い出してくれた」】
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、駐留米軍の撤収が完了してから1年に合わせ、31日を祝日に指定しました。首都カブールでは前夜、花火を打ち上げたり祝砲を放ったりして国土の支配回復を祝い、イルミネーションで彩られた通りもあったとか。【8月31日 時事より】
****タリバン、外国部隊撤退から1年祝う****
アフガニスタンから米軍主導の外国部隊が撤退してから31日で1年を迎えた。イスラム主義組織タリバンは同日を祝日とし、首都カブールでは花火の打ち上げやライトアップが行われた。
タリバンは実権掌握後、シャリア(イスラム法)を再び厳格に適用。多くの州で中等教育から女子を排除し、政府の仕事に就くことを禁止している。
ただ、こうした厳格な規制が導入され、人道危機も深刻化しているにもかかわらず、外国部隊がいなくなったことを歓迎する人も多い。
カブール在住のザルマイさんは、「神がわが国から異教徒を追い出し、イスラム首長国を建国してくれてうれしい」と話した。
カブールでは、米国、旧ソ連、英国3か国に対する勝利を祝う横断幕が見られた。イスラム教への信仰告白の文言が記されたタリバンの白い旗も多数、街灯や政府庁舎に掲げられた。 【8月31日 AFP】
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【アメリカ 威信低下の傷、未だ癒えず】
一方のアメリカは、タリバン復権となったアフガニスタン戦略の失敗、支援国・米軍協力者を見捨てるような形にもなった混乱の中の撤退によって威信を失墜することにもなっており、その傷はまだ癒えていません。
****米の威信回復はなお途上 アフガン撤収から1年****
大混乱を伴った米軍のアフガニスタン撤収から30日で1年。バイデン米政権が20年間の戦争終結を優先した決断は、イスラム原理主義勢力タリバンを勢いづかせ、プーチン露大統領のウクライナ侵攻の決断にも影響を与えたとされる。米国にとって失態の教訓は何か。威信回復はなお途上にある。
アフガン復興に関する米特別監察官は昨年8月16日に公表した報告書で「アフガンを自立国家に導き、米国の安全に脅威を及ぼさないようにすることが目標だとしたら、その結果は暗澹たるものだ」とアフガン戦争を総括した。
報告書によると、米国は1450億ドル(約20兆円)をアフガン復興に、8370億ドルを戦費に投じた。米国と同盟国の兵士3587人、アフガン兵士約6万6千人、アフガン市民4万8千人が死亡。報告書発表の前日の15日にはタリバンが首都カブールを制圧した。
バイデン大統領は一定程度の兵力を残すべきだとする国防総省の勧告を聞き入れず、米中枢同時テロ発生から20年となる昨年9月11日までの米軍完全撤収にこだわったとされる。
下院共和党は今月、独自にまとめた報告書でバイデン氏の決定を「タリバンを勢いづかせた」とし、バイデン氏がその後も誤判断を改めず、撤収に伴う混乱を招いたと批判した。11月の中間選挙で同党が過半数を獲得すれば、〝失政〟を再び追及する可能性もある。
「米国は信用できない、と思われても仕方がない理由を世界中に与えた」。今月15日、米戦略国際問題研究所(CSIS)のイベントでマイケル・ナガタ元陸軍中将は撤収の影響についてこう語った。
「ロシアや中国、イラン、北朝鮮と競争しているときに、われわれが信用されていないのは実に恐ろしい」とも述べ、現状変更勢力と対決する米国の信頼はまだ回復していないとの見解を示した。
プーチン氏や中国の習近平国家主席は米国の信用失墜を見逃さなかった。プーチン氏は米軍の介入はないとみて、ウクライナ侵攻への意思を強めたとされる。中国は昨年9月末から、台湾の防空識別圏(ADIZ)に軍用機を大規模に進入させた。中露は以後、結託を強めた。
米国は欧州でウクライナへの軍事支援と北大西洋条約機構(NATO)の対露抑止力の強化、インド太平洋で中国の台湾侵攻阻止という事実上の二正面作戦を迫られている。
7月、アフガンで国際テロ組織アルカーイダの最高指導者、アイマン・ザワヒリ容疑者の殺害に成功したことは「対テロ戦に終わりはない」(ナガタ氏)ことも提起した。
重大局面での「関与の欠如」(ペトレイアス元陸軍大将)がアフガンの教訓であれば、米国の威信回復には、国際秩序を守るための関与を持続する強い意思と力に裏打ちされた指導力を再構築する以外に道はない。【8月29日 産経】
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8月初旬、ペロシ下院議長の訪台時に行われた台湾のネット世論調査でも8割近い回答者がアメリカと台湾の間の安全保障の枠組みを信頼していないことが示されています。「アメリカは結局同盟国・支援国を見捨てる」といった思いが見て取れます。
アメリカといえど「世界の警察」でもありませんし、自国の利害が優先するのは当然と言えば当然で、アメリカを頼みとする国々にとって、アメリカの支援を「過信」しないという教訓になった面も。
【タリバンとの関係強化を図るロシア・中国】
国際的には未だタリバン暫定政権を承認している国はひとつもないという「孤立」が続いていますが、そうした状況でも、アメリカが手を引いた「空白」を利用して関係を強めようとする国もあります。
その一つが、やはり欧米から拒絶されているロシア。
****除け者国家同士、タリバンとロシアが石油で手を組む****
<アフガニスタンの政権を奪取して約1年、国際的な経済制裁に苦しんできたタリバンは、ロシアから石油と食料を買うことにした>
アフガニスタンのタリバン政権とロシア政府が、貿易協定をまとめようとしている。国際的に孤立したタリバンが、喉から手が出るほど欲しいエネルギーを購入できるようにすると共に、厳しい制裁を受けているロシアの経済を下支えする取引だ。
ロイターによれば、タリバンの代表団は8月29日にモスクワを訪問し、小麦、ガス、石油の輸入を確保するためロシアと交渉した。2021年に武力で政権に返り咲いたタリバンは、国際的な制裁と孤立から踏み出そうとしている。
ウクライナへの武力侵攻で西側の制裁に苦しむロシアも同様だ。
アフガニスタン商工省の匿名の幹部はロイターに対し、間もなく契約がまとまる見込みだと語った。
2021年に米国がアフガニスタンから撤退し、強硬なイスラム主義組織であるタリバンが実権を握って以来、世界のどの政府もタリバン政権を正式に承認していない。経済の大部分を依存していた海外援助が止まり、アフガニスタンの人々はさらに貧しくなり、食べる物にも困る有り様だ。
だが、ロシアや中国など米国と敵対する国々は、アフガニスタンの首都カブールに大使館を置いたままにしている。2月のウクライナ侵攻以降、厳しい経済制裁を受けているロシアは、タリバンとの貿易交渉も続けてきた。
送金には第三者の助けが必要
カブールに本拠を置く民間テレビ局TOLOニュースによれば、アフガニスタンはすでに食料と石油の大部分をロシアから調達しており、両国の貿易額は年間2億ドルに達している。TOLOニュースは、アフガニスタン商業投資会議所の情報として、ロシアはすでに、他国より安い小麦や石油をアフガニスタンに提供していると伝えている。
ロシアにとって石油の輸出は、経済の命綱だ。フィンランドのエネルギー・クリーンエアー研究センターの報告書によれば、ロシアはウクライナ侵攻後の100日間に、化石燃料の輸出で約930億ドルの収入を得た。主として中国とインド向けのものだという。ドイツ、イタリア、オランダ、フランス、ポーランドなどがなおロシアにエネルギーを依存していることも貢献したという。
「それでも、多くの国や企業がロシアからの輸入を回避したため、5月の輸入量は侵攻前と比べて15%ほど減少した」と、報告書は述べている。
タリバン政権のアフガニスタン商工省代理公使を務めるヌールディン・アジジはTOLOニュースに対し、ほとんどのアフガニスタンとロシアの銀行は制裁下にあり、金銭のやり取りについては第三国が手助けを借りることになると話した。「技術チームの一部はまだロシアに滞在しており、どのような送金方法があるかなど、詳細を詰めようとしている」【8月31日 Newsweek】
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また、例によって「一帯一路」を進める中国も。
****中国、アフガンで影響拡大 「一帯一路」取り込み図る****
アフガニスタン駐留米軍の撤退完了から30日で1年となる。イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立し、米国の関与が著しく後退する中、中国が影響力拡大を図っている。
巨大経済圏構想「一帯一路」への取り込みや、豊富な埋蔵資源発掘などに強い意欲を示すが、依然消えないテロへの懸念が障害となっている。
ウズベキスタンで7月に開かれたアフガン情勢を巡る国際会議では、中国代表が一帯一路の拡大による経済発展が「安定に貢献する」と強調。会議で発表されたウズベキスタン、アフガン、パキスタンを鉄道で結ぶ計画を、中国が財政支援するとの観測が出ている。【8月29日 共同】
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中国は新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の抵抗を抱えていますので、アフガニスタンからの「テロの輸出」を強く警戒しています。そのことがアフガニスタン・タリバンとの関係を深めるうえで制約になっています。
アメリカから制裁を受ける、あるいは対立するロシア・中国・イラン・アフガニスタン・北朝鮮といった国々が相互の関係を強め、アメリカを中核とする欧米・日本・オーストラリアなどとの対立の構図を強めるというのが最近の国際情勢の流れともなっています。
もっとも、アメリカと対立する国々も、本音ではアメリカとの関係を改善したいという思いもあって、そこは条件・利害次第といったところ。東西冷戦のような完全なイデオロギー対立という訳でもないのが微妙なところ。
【タリバンを支援してきたパキスタンとの関係は微妙な面も】
これまでタリバンを支えてきたパキスタンとの関係では、最近はパキスタンとタリバンが対立するなど微妙なものがあることはこれまでも取り上げてきました。下記もそうしたひとつ。
****タリバン、パキスタンを批判 「米無人機の領空使用認めた」****
アフガニスタンのイスラム主義組織・タリバン暫定政権のヤクーブ国防相代行は28日、米無人機がパキスタン経由でアフガンに入ったと主張し、米国による領空使用を認めたとしてパキスタンを批判した。カブールで記者会見した。
米国はカブールで7月、国際武装組織・アルカイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者を無人機攻撃により殺害したと発表した。パキスタンは攻撃への関与を否定している。
ヤクーブ師は「われわれへの敵対行為のために領空を使わせるな」とパキスタンに要求した。【8月29日 ロイター】
米国はカブールで7月、国際武装組織・アルカイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者を無人機攻撃により殺害したと発表した。パキスタンは攻撃への関与を否定している。
ヤクーブ師は「われわれへの敵対行為のために領空を使わせるな」とパキスタンに要求した。【8月29日 ロイター】
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【地震・水害で国際支援を必要とするも・・・・】
パキスタンは現在、国土の3分の1が水没するという記録的な水害に見舞われていますが、その水害は隣国アフガニスタンも同じです。
国際的に孤立するタリバン暫定政権も、支援を国際社会に求めています。
****アフガニスタン洪水でタリバンが声明「100万世帯以上が食料などの緊急援助を必要と」****
アフガニスタンでは8月に入ってから、中部や東部の広い範囲で洪水が発生し、死者は192人に達している。
タリバン政権の高官は27日、「100万世帯以上が外国からの衣服やテント、食料などの緊急援助を必要としている」と述べ、国際社会に支援を求めた。また、数千頭の家畜が死に、170万本の果樹に被害が出ていると明らかにし、食料不足への危機感をにじませた。
アフガニスタンは、1年前に「タリバン」が再び実権を掌握して以来、国際金融システムから切り離され、外国からの開発援助も停止し、深刻な経済危機に陥っている。
国連は人口の半分以上の2500万人が貧困状態だと推計。また、6月に起きた地震で1000人以上の死者が出るなど、今年に入って相次いで自然災害に見舞われている。【ABEMA TIMES】
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人道上の緊急の支援が必要な状況ではありますが、現実には女性の権利などに後ろ向きなタリバン暫定政権を支援することにもなりますので、国際社会の対応も鈍ってしまうのが現実です。