孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  米軍撤収から1年 米・露・中国等関係国の対応

2022-08-31 22:28:22 | アフガン・パキスタン
(15日、アフガニスタンの首都カブールで、政権掌握から1年を祝うタリバン戦闘員たち=AP【8月29日 東京】)

【米軍撤収から1年 「神が異教徒を追い出してくれた」】
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、駐留米軍の撤収が完了してから1年に合わせ、31日を祝日に指定しました。首都カブールでは前夜、花火を打ち上げたり祝砲を放ったりして国土の支配回復を祝い、イルミネーションで彩られた通りもあったとか。【8月31日 時事より】

****タリバン、外国部隊撤退から1年祝う****
アフガニスタンから米軍主導の外国部隊が撤退してから31日で1年を迎えた。イスラム主義組織タリバンは同日を祝日とし、首都カブールでは花火の打ち上げやライトアップが行われた。

タリバンは実権掌握後、シャリア(イスラム法)を再び厳格に適用。多くの州で中等教育から女子を排除し、政府の仕事に就くことを禁止している。

ただ、こうした厳格な規制が導入され、人道危機も深刻化しているにもかかわらず、外国部隊がいなくなったことを歓迎する人も多い。

カブール在住のザルマイさんは、「神がわが国から異教徒を追い出し、イスラム首長国を建国してくれてうれしい」と話した。

カブールでは、米国、旧ソ連、英国3か国に対する勝利を祝う横断幕が見られた。イスラム教への信仰告白の文言が記されたタリバンの白い旗も多数、街灯や政府庁舎に掲げられた。 【8月31日 AFP】
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【アメリカ 威信低下の傷、未だ癒えず】
一方のアメリカは、タリバン復権となったアフガニスタン戦略の失敗、支援国・米軍協力者を見捨てるような形にもなった混乱の中の撤退によって威信を失墜することにもなっており、その傷はまだ癒えていません。

****米の威信回復はなお途上 アフガン撤収から1年****
大混乱を伴った米軍のアフガニスタン撤収から30日で1年。バイデン米政権が20年間の戦争終結を優先した決断は、イスラム原理主義勢力タリバンを勢いづかせ、プーチン露大統領のウクライナ侵攻の決断にも影響を与えたとされる。米国にとって失態の教訓は何か。威信回復はなお途上にある。

アフガン復興に関する米特別監察官は昨年8月16日に公表した報告書で「アフガンを自立国家に導き、米国の安全に脅威を及ぼさないようにすることが目標だとしたら、その結果は暗澹たるものだ」とアフガン戦争を総括した。

報告書によると、米国は1450億ドル(約20兆円)をアフガン復興に、8370億ドルを戦費に投じた。米国と同盟国の兵士3587人、アフガン兵士約6万6千人、アフガン市民4万8千人が死亡。報告書発表の前日の15日にはタリバンが首都カブールを制圧した。

バイデン大統領は一定程度の兵力を残すべきだとする国防総省の勧告を聞き入れず、米中枢同時テロ発生から20年となる昨年9月11日までの米軍完全撤収にこだわったとされる。

下院共和党は今月、独自にまとめた報告書でバイデン氏の決定を「タリバンを勢いづかせた」とし、バイデン氏がその後も誤判断を改めず、撤収に伴う混乱を招いたと批判した。11月の中間選挙で同党が過半数を獲得すれば、〝失政〟を再び追及する可能性もある。

「米国は信用できない、と思われても仕方がない理由を世界中に与えた」。今月15日、米戦略国際問題研究所(CSIS)のイベントでマイケル・ナガタ元陸軍中将は撤収の影響についてこう語った。

「ロシアや中国、イラン、北朝鮮と競争しているときに、われわれが信用されていないのは実に恐ろしい」とも述べ、現状変更勢力と対決する米国の信頼はまだ回復していないとの見解を示した。

プーチン氏や中国の習近平国家主席は米国の信用失墜を見逃さなかった。プーチン氏は米軍の介入はないとみて、ウクライナ侵攻への意思を強めたとされる。中国は昨年9月末から、台湾の防空識別圏(ADIZ)に軍用機を大規模に進入させた。中露は以後、結託を強めた。

米国は欧州でウクライナへの軍事支援と北大西洋条約機構(NATO)の対露抑止力の強化、インド太平洋で中国の台湾侵攻阻止という事実上の二正面作戦を迫られている。

7月、アフガンで国際テロ組織アルカーイダの最高指導者、アイマン・ザワヒリ容疑者の殺害に成功したことは「対テロ戦に終わりはない」(ナガタ氏)ことも提起した。

重大局面での「関与の欠如」(ペトレイアス元陸軍大将)がアフガンの教訓であれば、米国の威信回復には、国際秩序を守るための関与を持続する強い意思と力に裏打ちされた指導力を再構築する以外に道はない。【8月29日 産経】
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8月初旬、ペロシ下院議長の訪台時に行われた台湾のネット世論調査でも8割近い回答者がアメリカと台湾の間の安全保障の枠組みを信頼していないことが示されています。「アメリカは結局同盟国・支援国を見捨てる」といった思いが見て取れます。

アメリカといえど「世界の警察」でもありませんし、自国の利害が優先するのは当然と言えば当然で、アメリカを頼みとする国々にとって、アメリカの支援を「過信」しないという教訓になった面も。

【タリバンとの関係強化を図るロシア・中国】
国際的には未だタリバン暫定政権を承認している国はひとつもないという「孤立」が続いていますが、そうした状況でも、アメリカが手を引いた「空白」を利用して関係を強めようとする国もあります。

その一つが、やはり欧米から拒絶されているロシア。

****除け者国家同士、タリバンとロシアが石油で手を組む****
<アフガニスタンの政権を奪取して約1年、国際的な経済制裁に苦しんできたタリバンは、ロシアから石油と食料を買うことにした>

アフガニスタンのタリバン政権とロシア政府が、貿易協定をまとめようとしている。国際的に孤立したタリバンが、喉から手が出るほど欲しいエネルギーを購入できるようにすると共に、厳しい制裁を受けているロシアの経済を下支えする取引だ。

ロイターによれば、タリバンの代表団は8月29日にモスクワを訪問し、小麦、ガス、石油の輸入を確保するためロシアと交渉した。2021年に武力で政権に返り咲いたタリバンは、国際的な制裁と孤立から踏み出そうとしている。

ウクライナへの武力侵攻で西側の制裁に苦しむロシアも同様だ。
アフガニスタン商工省の匿名の幹部はロイターに対し、間もなく契約がまとまる見込みだと語った。

2021年に米国がアフガニスタンから撤退し、強硬なイスラム主義組織であるタリバンが実権を握って以来、世界のどの政府もタリバン政権を正式に承認していない。経済の大部分を依存していた海外援助が止まり、アフガニスタンの人々はさらに貧しくなり、食べる物にも困る有り様だ。

だが、ロシアや中国など米国と敵対する国々は、アフガニスタンの首都カブールに大使館を置いたままにしている。2月のウクライナ侵攻以降、厳しい経済制裁を受けているロシアは、タリバンとの貿易交渉も続けてきた。

送金には第三者の助けが必要
カブールに本拠を置く民間テレビ局TOLOニュースによれば、アフガニスタンはすでに食料と石油の大部分をロシアから調達しており、両国の貿易額は年間2億ドルに達している。TOLOニュースは、アフガニスタン商業投資会議所の情報として、ロシアはすでに、他国より安い小麦や石油をアフガニスタンに提供していると伝えている。

ロシアにとって石油の輸出は、経済の命綱だ。フィンランドのエネルギー・クリーンエアー研究センターの報告書によれば、ロシアはウクライナ侵攻後の100日間に、化石燃料の輸出で約930億ドルの収入を得た。主として中国とインド向けのものだという。ドイツ、イタリア、オランダ、フランス、ポーランドなどがなおロシアにエネルギーを依存していることも貢献したという。

「それでも、多くの国や企業がロシアからの輸入を回避したため、5月の輸入量は侵攻前と比べて15%ほど減少した」と、報告書は述べている。

タリバン政権のアフガニスタン商工省代理公使を務めるヌールディン・アジジはTOLOニュースに対し、ほとんどのアフガニスタンとロシアの銀行は制裁下にあり、金銭のやり取りについては第三国が手助けを借りることになると話した。「技術チームの一部はまだロシアに滞在しており、どのような送金方法があるかなど、詳細を詰めようとしている」【8月31日 Newsweek】
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また、例によって「一帯一路」を進める中国も。

****中国、アフガンで影響拡大 「一帯一路」取り込み図る****
アフガニスタン駐留米軍の撤退完了から30日で1年となる。イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立し、米国の関与が著しく後退する中、中国が影響力拡大を図っている。

巨大経済圏構想「一帯一路」への取り込みや、豊富な埋蔵資源発掘などに強い意欲を示すが、依然消えないテロへの懸念が障害となっている。

ウズベキスタンで7月に開かれたアフガン情勢を巡る国際会議では、中国代表が一帯一路の拡大による経済発展が「安定に貢献する」と強調。会議で発表されたウズベキスタン、アフガン、パキスタンを鉄道で結ぶ計画を、中国が財政支援するとの観測が出ている。【8月29日 共同】
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中国は新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の抵抗を抱えていますので、アフガニスタンからの「テロの輸出」を強く警戒しています。そのことがアフガニスタン・タリバンとの関係を深めるうえで制約になっています。

アメリカから制裁を受ける、あるいは対立するロシア・中国・イラン・アフガニスタン・北朝鮮といった国々が相互の関係を強め、アメリカを中核とする欧米・日本・オーストラリアなどとの対立の構図を強めるというのが最近の国際情勢の流れともなっています。

もっとも、アメリカと対立する国々も、本音ではアメリカとの関係を改善したいという思いもあって、そこは条件・利害次第といったところ。東西冷戦のような完全なイデオロギー対立という訳でもないのが微妙なところ。

【タリバンを支援してきたパキスタンとの関係は微妙な面も】
これまでタリバンを支えてきたパキスタンとの関係では、最近はパキスタンとタリバンが対立するなど微妙なものがあることはこれまでも取り上げてきました。下記もそうしたひとつ。

****タリバン、パキスタンを批判 「米無人機の領空使用認めた」****
アフガニスタンのイスラム主義組織・タリバン暫定政権のヤクーブ国防相代行は28日、米無人機がパキスタン経由でアフガンに入ったと主張し、米国による領空使用を認めたとしてパキスタンを批判した。カブールで記者会見した。

米国はカブールで7月、国際武装組織・アルカイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者を無人機攻撃により殺害したと発表した。パキスタンは攻撃への関与を否定している。

ヤクーブ師は「われわれへの敵対行為のために領空を使わせるな」とパキスタンに要求した。【8月29日 ロイター】
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【地震・水害で国際支援を必要とするも・・・・】
パキスタンは現在、国土の3分の1が水没するという記録的な水害に見舞われていますが、その水害は隣国アフガニスタンも同じです。

国際的に孤立するタリバン暫定政権も、支援を国際社会に求めています。

****アフガニスタン洪水でタリバンが声明「100万世帯以上が食料などの緊急援助を必要と」****
アフガニスタンでは8月に入ってから、中部や東部の広い範囲で洪水が発生し、死者は192人に達している。

タリバン政権の高官は27日、「100万世帯以上が外国からの衣服やテント、食料などの緊急援助を必要としている」と述べ、国際社会に支援を求めた。また、数千頭の家畜が死に、170万本の果樹に被害が出ていると明らかにし、食料不足への危機感をにじませた。

アフガニスタンは、1年前に「タリバン」が再び実権を掌握して以来、国際金融システムから切り離され、外国からの開発援助も停止し、深刻な経済危機に陥っている。

国連は人口の半分以上の2500万人が貧困状態だと推計。また、6月に起きた地震で1000人以上の死者が出るなど、今年に入って相次いで自然災害に見舞われている。【ABEMA TIMES】
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人道上の緊急の支援が必要な状況ではありますが、現実には女性の権利などに後ろ向きなタリバン暫定政権を支援することにもなりますので、国際社会の対応も鈍ってしまうのが現実です。

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イラク  サドル師の仕掛ける政治対立は犠牲者を出す衝突へ クルド自治政府とトルコの微妙な関係

2022-08-30 22:19:22 | 中東情勢
(イラクの首都バグダッドで、共和国宮殿に侵入したイスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師の支持者(2022年8月29日撮影)【8月30日 AFP】)

【イランとの距離をめぐる政治対立は多くの犠牲者を出す混乱へ】
激しい内戦を経験した中東イラクは、大きく見ればイスラム教シーア派、同スンニ派、クルド人勢力の三者で相争う構図ですが、シーア派の中にもイランと距離を置く勢力と親イラン勢力があるなど内情は複雑です。

昨年9月に行われた議会選挙では、イランとは距離を置くシーア派のサドル師のグループが第1党になったものの、単独での組閣ができる数ではありませんでした。

そのため連立工作が続けられてきましたが、予想されたように複雑な対立関係のなかで難航。
今年6月、サドル師はグループ議員全員の辞職を指示。これをきっかけに激しい政治闘争が行われています。

後述するように、この政治闘争は多くの死者を出す衝突に発展していますが、下記記事はその衝突直前の記事です。

ちなみにサドル師は、これまでも米軍への武力抵抗や過激な政治行動などでイラク内戦・政争・混乱の中心にいた、ある意味トラブルメーカー的な存在です。

****市民の間に漂う不安:イラクは再び内戦の時代に戻ってしまうのか?****
(中略)シーア派でイランの影響力を排除しようとするサドル派というグループと、親イラン・シーア派の政治グループである法治国家連合(CF)が政治の主導権を巡って対立。

あまりにも火花を散らし過ぎていて、市民の間では「また内戦が起きるのか?」という不穏な空気が流れています。
今日は今イラク政治で何が起きているのかを解説したいと思います。
    
イラク政治の混乱とその経緯
ここまで、イラクの政府は事実上の「挙国一致内閣」という形でイラクの多数派であるシーア派の政党が実権を握り、スンナ派とクルド勢力に役職を分担する形(ムハササ制度)になっていました。

その中で実施された2021年の9月の議会選挙。
結果は「サドル潮流」というシーア派でイラク・ナショナリズムを強調する勢力が329議席中74議席を獲得し第一党に。このグループはスンナ派やクルド人の勢力を組み込み、「国民多数派政権」の樹立を目指しました。

その中でサドル派が試みたことが、イランの影響力を持つファタハ連合やダワ党といった、以前政権の中枢を担っていた法治国家連合(CF)の勢力を排除することでした。

現サドル派のトップであるムクタダ・サドル師は、イラクのシーア派の宗教指導者として尊敬される一家の出身で、父であるムハンマド・サーディク・サドルもイラク・シーア派の宗教指導者でしたが1999年に当時のフセイン政権により処刑されています。

彼はマフディ軍と言われるシーア派の民兵組織を率いて米軍を「占領軍」として抵抗運動を展開。同時に慈善活動にも力を入れるなどして、イラクの貧困層には固い支持基盤が存在しています。

サドル師自身、反イランという訳ではありませんが、イラクにイランの影響力が浸透することを快くは思っていません。また長く続いたシーア派政権で汚職が酷くなり、イラク国民のこのCFに対する不信感もピークに達していました。

それが今回の議会選挙でサドル派が議席を伸ばした一方で、イランの影響を受けるファタハ連合などCFに参加する勢力が議席を大幅に減らした原因でもあります。

現CF側のトップであるヌーリ・マリキ氏はイラク民主化直後から実権を握り、2006年から2014年までの8年間、首相を務めていた人物です。彼が返り咲くことは汚職対策がなされないことを意味すると市民からも見られています。

さて、議会第一党を勝ち得たサドル派でしたが、その後の政権発足で大きく躓きます。
議長の選出までは議会過半数の支持で可能なのですが、政権発足のために必要な大統領の選出が議会の2/3の支持が必要となるためです。その圧倒的多数の議席はサドル派とその連立勢力は持っておらず、長く交渉が続けられましたが、サドル派とCFの交渉は決裂しました。

次にサドル師が何をしたかというと、「サドル潮流」の全議員に辞職するよう6月に命じました。

さあ、ここでCF側は大きなアドバンテージを得ることになります。イラクの選挙法では、選出議員が辞職した後はその選挙区の第二位の候補が繰り上げ当選されます。サドル派の議員の多くはシーア派が多数派の地域の選出なので、その後に位置する候補はほぼ全員がCFに支持された候補たちでした。これでCFは議会多数派を占めることになりました。

しかしサドル派も黙っては見ていません。CFが政権発足に動き出すと今度はサドル派が支持者に対して議会を包囲してデモを行うよう命令。50℃近くなる真夏のバグダードで、数週間に渡る反CFデモを現在も展開しています。サドル派は議会解散と再選挙を求めています。

一時は議会も占拠され、最高裁判所前でもデモを実施し裁判所業務がイラクの多くの地域で停止する事態にもなりましたが、現在は議会前の座り込みとイラク南部各都市でのデモが継続されています。(中略)

CF側もカウンターデモを実施していますが、サドル派を刺激しすぎない程度に抑えていることが見て取れます。しかしデモが終わるまではサドル派との交渉にも応じないとしており、事態の膠着は長く続くでしょう。

ここまで事態が悪化した理由には、CF側のトップで前首相でもあるマリキ氏とサドル師の個人的な対立もあると見られています。

2008年、サドル派とマリキ政権軍の間で2ヵ月という短期間ながら戦闘が勃発しています。当時は米軍が政権側の支持として介入したこともあり、サドル派側が停戦に応じました。しかしこれ以降、サドル師とマリキ氏の対立は決定的となり、今もその怨恨は尾を引いています。

そして去る7月、マリキ氏の録音が暴露されたことが二人の対立の火にさらに油を注ぐ結果となりました。
イラク人ジャーナリストがマリキ氏との会話を秘密裏に録音し、それをTwitter上で公開したのですが、そこでマリキ氏はサドル師のことを「殺人鬼」や「臆病者」と罵りました。

マリキ氏はこの録音を自分のものではないと否定。サドル師も支持者に対して平静を保つよう呼びかけていますが、この直後にデモが激化していることを考えると、サドル師はかなり癇に障ったのではと思われます。

デモが始まり2ヵ月弱、今は大規模なデモと座り込みが交互に起き、膠着していますが、いつ支持者同士の小競り合い起きてもおかしくはない状態が続いています。
   
内戦の記憶と危惧
現在、サドル派のデモもCF側のカウンターデモも比較的静かで、デモ隊同士の衝突には至っていません。一時は議会のある政府中枢地域で治安部隊を隔てて一触即発の状態にもなったそうですが、なんとか抑え込みが行われたそうです。(後述のように、その後衝突に発展しています)

このようにシーア派内部でヒートアップしている状況を受けて、イラク市民の間には「また内戦が起きるのか」という不穏な空気が流れています。SNS上でもその話題でもちきりです。2008年のシーア派内部の内戦は短期間で終わりましたが、今度はどうなるか分かりません。

イラク中央の問題で関係がないというクルド人の間でさえも、1990年代の自民族同士の内戦が今も記憶に新しいことから、いつどんな小さな出来事がきっかけで血みどろの内戦に進んでしまうのかと危惧する声が聞こえてきています。

もしシーア派内部での内戦となれば、スンナ派勢力やクルド人勢力が今度は力を付けるきっかけともなるでしょう。シーア派グループでもそれは分かっているため、何とか武力衝突には発展しない程度に自分の要求を受け入れさせることを目指していることでしょう。

しかし前述したように、武力衝突というのはどんな小さなきっかけで起こるか分かりません。
2003年のイラク戦争以降、スンナ派とシーア派政権の内戦、シーア派内部の内戦、過激派組織ISISとの戦闘と、ずっと何かしらの戦闘が行われてきたイラク。ここ数年、やっと落ち着きが戻り、経済も上向き始めている現在、市民の誰も再び内戦の時代に戻ることは望んでいません。
中央政治の対立が、早く解決されるといいのですが。【8月27日 牧野アンドレ氏 Newsweek】
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「また内戦が起きるのか」という不穏な空気・・・・その不安が更に高まり、犠牲者を出す衝突に発展しています。

まずサドル師が政治引退を表明して揺さぶりをかけます。

****サドル師「政治から引退」 イラク、他勢力揺さぶりか****
イラクの有力なイスラム教シーア派指導者サドル師は29日、政治から「完全に引退」するとの声明をツイッターで発表した。サドル師は過去にも政界から身を引くと述べた後に復帰してきた。政情の混乱が続く中、対立する政治勢力を揺さぶる狙いがありそうだ。

イラクメディアなどによると、声明発表後、サドル師の支持者らが他の政治勢力に対する抗議を激化させ、旧米軍管理区域(グリーンゾーン)にある政府機関の敷地になだれ込んだ。首都バグダッドでは当局が29日午後からの外出規制を発表した。【8月29日 共同】
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そして、とうとう衝突が。

****イラクでサドル師派と親イラン派が衝突、少なくとも17人死亡****
イラクの首都バグダッドで29日、イスラム教シーア派の指導者サドル師の支持者と対立する親イラン勢力が衝突し、警察と医療関係者によると少なくとも17人が死亡した。

サドル師はこの日、政治活動から引退する意思を表明。ツイッターで「私はここに最終的な撤退を発表する」と発表し、改革を求めるサドル師の声に耳を貸さない同じシーア派の政治指導者を批判していた。

この数時間後、議会前ですでに数週間にわたる座り込みを続けていたサドル師の支持者らがデモを展開し、首相府の建物を襲撃する事態に発展した。

目撃者によると、サドル師支持者に向かって発砲したり、空に向けて発砲する者があった。また、対立するグループは互いに石を投げつけ合ったという。

サドル師はその後、あらゆる勢力の武器使用に抗議しハンガーストライキを行っていると述べた。

また、イラク軍は混乱の拡大を懸念して、全土に夜間外出禁止令を発令した。

イラクでは昨年10月の総選挙でイランの影響力排除を掲げたサドル師派が第1党になった。しかし、連立政権を樹立できず、サドル師派の全議員が辞職。サドル師は早期の解散総選挙を要求している。【8月30日 ロイター】
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発砲いたる混乱の状況は詳しくわかっていませんが、サドル師側に報道のような多数の死者が出た(別報道では20人)ということであれば、サドル師側はこのまま引き下がることはないようにも思えます。

この事態に、グテレス国連事務総長は29日、全関係者は事態の緊張緩和に向け早急に対策を講じ、いかなる暴力も避けるよう促す」と述べ、自制を呼び掛けています。

混乱の当事者である親イラン勢力に大きな影響力を持つ隣国イランは国境を閉鎖していますが、その意図はよくわかりません。無関係のアピールでしょうか。

****イラン、騒乱起きたイラクとの国境閉鎖 航空便も停止=国営TV****
イランはイラクとの国境を閉鎖し、国民にイラクへの渡航を避けるよう求めた。内務省高官が30日、国営テレビに明らかにした。(中略)イラン国営テレビによると、「騒乱が続いている」イラクへ向かう全ての航空便が停止された。【8月30日 ロイター】
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【石油・ガス資源をめぐるクルド自治政府とイラク中央政府の対立 触手を伸ばすトルコ】
中央政府シーア派に影響力を持つのがイランなら、クルド自治政府とつながりを持つのはトルコ。

イラク北部を支配するクルド自治政府。2017年にはイラクからの分離独立を問う住民投票を強行。圧倒的多数で独立が支持されましたが、イラク中央政府の激しい反発を受け、(クルド人側の内紛もあって)キルクークなど重要拠点を失い、独立への道はとん挫しています。

このクルド自治政府支配地域では石油・ガスが産出されますが、その支配権をめぐっても自治政府とイラク中央政府の対立があります。

自治政府は中央政府を無視して勝手にトルコへ売却していますが、今年2月にイラク最高裁は「クルド自治政府が中央政府石油省の権限の外で天然資源の取引を行うことは違憲である」と決定しています。トルコとの取引の現状はよく知りません。

トルコとクルド自治政府の関係は、上記のような石油・ガスの取引関係の他、以前のクルド人内部の武力衝突にトルコが介入、片方の勢力を支援した経緯もあって、強いつながりがあります。

そのトルコは国内クルド人勢力PKKを厳しく弾圧していますが、イラクのクルド自治政府支配地域内にあるPKK拠点にも空爆を加えています。そうしたこともあって、クルド人住民レベルではトルコへの反発もあります。

****トルコとイラクのクルド人地域:微妙なバランスで成り立つその関係性****
(中略)
トルコとしては上記のクルド自治区との経済的な繋がりを強めることで、敵対するPKKとの戦闘にクルド自治政府を利用しようとする思惑もあります。

共産主義を標榜するPKKとクルド自治政府のイデオロギーの違いも大きい理由であることは間違いないでしょう。

しかしクルド自治区内でトルコ軍がPKKを空爆するという一見主権の侵害を犯してもクルド自治政府がトルコを非難することはほとんどありません。例えそれで民間人が犠牲になったとしても、経済的な繋がりからトルコに口出しができなくなっている様子が見て取れます。

このクルド政治家たちによる「自民族への裏切り行為」に、地元市民の鬱憤が溜まっていることもまた事実です。
     
政治、経済、市民感情の微妙なバランス
クルド自治政府としては、トルコは域内で孤立しないためのパートナーとなり得る存在。

経済的な繋がりも特にクルド自治区側がトルコに対し依存しており、多くのトルコ籍の会社がクルド自治区の開発にも着手。また中産階級以上のクルド人にとっても、トルコは比較的簡単に渡航ができる場所として休暇を過ごすための欠かせない場所となっています。

このクルド側の依存関係により、トルコとしては軍事面でクルド自治区領内であっても敵対するPKKに対して有利な立場に立つことができています。

しかし市井のクルド人の市民感情は複雑なものがあります。実際、クルド人アイデンティティで繋がるシリアやトルコのクルド人がトルコ国家や軍の暴力にさらされていることは日常の中で頻繁に伝えられています。

事実、2019年にトルコがシリア北東部に侵攻しクルド人勢力と戦闘が起きた際にはここイラクのクルド自治区でも大きな反トルコデモに発展。数万人のクルド人難民がシリア側から新たにクルド自治区内に到着する中で、しばらくの間はトルコ製品の不買運動も起きました。

しかし生鮮食料品をはじめ、多くの生活必需品をトルコ製品に依存しているために、トルコとの経済的な繋がりはクルド人の市民生活にも欠かせないものです。さらにこれは私の中でも意外だったが、トルコへの移住に憧れトルコ語の勉強を頑張る若者も少なからず存在していることでした。

クルド自治区で仕事がない中、トルコ語を話せるようになりトルコの会社に就職することが、イラクのクルド人にとっての生存方法なのかと、少し複雑な気持ちになりました。

また「腐敗したクルドの政治家よりもトルコの方がまだマシだ」と外国人である私に話す現地の友人もおり、クルド自治区内の政治経済状況もこの複雑な関係に寄与していると感じています。

このように、トルコとイラクのクルド自治区の関係性は、政治、経済、そして市民の感情の間で微妙なバランスを保ったまま今日も続けられています。【2月27日 Newsweek】
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クルド自治政府とイラク中央政府の対立の火種となっている石油については、新たな探査や大規模な投資が必要とされる状況にありますが、中央政府との対立によって困難な状況にあります。

****イラク・クルディスタン石油生産、投資なしなら半減も=政府文書****
イラク北部クルディスタン地域での石油生産は、新たな探査や大規模な投資がなければ2027年までにほぼ半減する可能性があることが政府文書で分かった。

この地域を統治するクルド人主体の自治政府「クルディスタン地域政府(KRG)」にとって石油収入の急減は経済的苦境をさらに深刻化させると外交筋やエネルギー専門家は指摘する。

文書によると、クルディスタン地域の石油生産量は、投資が完全に最適化されたシナリオでは5年後に日量58万バレルまで増加し、53万バレルが輸出可能になる。

しかし新たな投資がなければ、古い油田が枯渇し、輸出可能な量は日量24万バレルにとどまる可能性がある。

同地域の石油・ガス委員会のメンバーは「これは非常に危険だ。しかしイラク政府との問題を解決すれば、クルディスタンは新しい鉱区を開発し、生産量を増やすことができる」と述べた。KRGはコメント要請に応じていない。

イラクの憲法では、同地域は国家予算の一部を受け取る権利がある。しかし14年にクルド人がイスラム過激組織「イスラム国(IS)」から北部の主要油田キルクークを奪取し独自に原油を販売し始めたため予算を巡る取り決めは無実化した。

18年、イラク政府軍がキルクークを含む係争地を奪還するとクルディスタン地域への予算配分を一部再開したが、散発的なものにとどまっている。【8月30日 ロイター】
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もちろん新たな探査や大規模な投資にトルコは乗り気でしょうが、イラク中央政府との関係調整が必要になります。
もっとも、イラク中央政府が前述のような政治対立、あるいは武力衝突で機能マヒ状態になれば、クルド自治政府とトルコの間で勝手に進めてしまうということも。

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フランス・マクロン大統領 旧植民地のアルジェリア訪問 歴史問題の難しさ ガス調達では成果?

2022-08-29 23:13:26 | 欧州情勢
(27日、アルジェで握手するアルジェリアのテブン大統領(右)とフランスのマクロン大統領(AP=共同)【8月28日 共同】)

【サルコジ元大統領 一般論として植民地制度の不正を認めつつも、自国のアルジェリアに対しての行為は「謝罪」はしない】
日本を含めて、どこの国も自国の過去に、特にその過去が負の歴史の側面がある場合、その過去に向き合あうことは非常に困難です。

その一例が欧州列強と旧アフリカ植民地の関係。
ベルギーとコンゴについて、6月23日ブログ“ベルギーとコンゴ 植民支配の重い歴史”で取り上げましたが、今回はフランスとアルジェリアの関係。

フランスのサルコジ元大統領時代の話について、2007年12月8日“フランス なお残る植民地問題と移民問題”で取り上げたことがあります。

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サルコジ大統領は(2007年12月)5日、3日間にわたる旧植民地のアルジェリア公式訪問を終えた。両国は核エネルギーの平和利用協力を含む総額73億ドル(約8000億円)以上の投資・協力協定を締結した。

サルコジ大統領は滞在中、一般的な植民地制度を「不正だ」と非難したが、アルジェリアが要請していた仏植民地時代(1830~1962年)に関する直接の謝罪はしなかった。【2007年12月6日 産経】
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一般論として植民地制度の不正を認めつつも、自国のアルジェリアに対しての行為は「謝罪」はしないという対応。
「(植民地当時)入植したフランス人はアルジェリアを支配しようとしたのではない。アルジェリアのためになることをしよう思っていた・・・」そうした趣旨の発言も。

2004年頃、“海外においてフランスの存在が果たした植民地支配のポジティブな面”“を教育カリキュラムに盛り込む法案を成立させたのが、当時の国民運動連合(UMP)党首のサルコジ氏でした。

【マクロン大統領 個々の案件では踏み込んだ言動も】
一方、マクロン大統領はこれまでアルジェリアに対するフランスの責任に踏み込む言動も見せてきました。

****マクロン仏大統領、アルジェリア戦争時の拷問を認め、謝罪****
(2018年)9月13日、マクロン仏大統領は、1957年にアルジェでフランス軍に拘束され行方不明となったモーリス・オダン(Maurice Audin)の死について、軍の責任を認め、未亡人に謝罪した。

数学者でアルジェ大学教授であったオダンは、共産主義者でアルジェリアの独立を支持し、FLN(アルジェリア民族解放戦線)とも繋がりがあった。

マクロンは、Audinがフランス軍に拘束されたうえで拷問を受け、それによって死亡した、もしくはその後処刑されたとして、共和国の名において責任を認め、87歳の未亡人に面会し謝罪した。
 
今回の謝罪が実現するには長い時間がかかっている。2007年に未亡人がサルコジ大統領に手紙を書いたとき、返答はいっさいなかった。

一方、フランソワ・オランド前大統領は、2014年6月18日、オダンは公に言われているように失踪したのではなく、拘禁中に死亡したと発言した。

今回の謝罪の手紙と面会は、その延長線上にある。マクロンは、共和国議会の投票によって導入された「特別権力」のため、「逮捕・拘禁」システムが出来上がり、それがこの悲劇を招いたと説明した。軍の責任を認めつつも、軍だけでなく議会の決定で導入されたシステムの問題だと述べたわけである。
 
今回の措置により、フランスがアルジェリアの独立を阻止するため、拷問を含めた非人道的な措置を広範に用いていたことがはっきりした。

14日のルモンド紙の社説では、マクロンが決定的な一歩を踏み出したとして、アルジェリア戦争の過去を明らかにすることは、フランス・アルジェリア両国の和解にとって不可欠だし、アルジェリアにも同様の行動を促すことになるとして評価した。

アルジェリア側は公式には目立った反応をしていないものの、総じてマクロンの行為を評価する声が目立つ。一方、極右政党の国民戦線は、国民を分断させる行為だとして大統領を強く批判した。
 
自国の暗い過去を明らかにすることは、簡単ではない。それは指導者の決断がなければできないことである。しかし、ルモンド紙が指摘するように、これはフランス・アルジェリア間の真の和解を達成するには不可欠の行為と言えるだろう。

マクロンは就任前から、植民地主義を人道に反する罪だと述べるなど、植民地統治の関わる問題について積極的に発言してきた。この勇気ある行動が、フランスとアルジェリアの相互理解と過去の克服に繋がることを願う。【2018年9月18日 現代アフリカ地域研究センター】
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****60年前のデモ弾圧「犯罪」 アルジェリア巡り仏大統領****
フランスのマクロン大統領は16日、1961年10月に植民地アルジェリアの独立を求めるアルジェリア人らのデモをパリの警察が弾圧し、多数が死亡した惨事の追悼式典に出席した。発生から17日で60年となるが、追悼式典への大統領の参加は初めて。マクロン氏は声明でデモ弾圧を「国にとり許せない犯罪だ」と批判した。

歴代大統領では前任のオランド氏が「流血の弾圧」と指摘しており、さらに踏み込んだ形。マクロン氏はアルジェリア独立戦争(1954~62年)に絡む自国の負の歴史と向き合う取り組みを進めているが、複雑な仏アルジェリア関係の改善にはつながっていない。

大統領府の声明によると61年10月17日夜、アルジェリア系住民だけに適用された夜間外出禁止令に抗議し、約2万5千人がパリへ郊外から向かうと、モーリス・パポン警視総監(当時)指揮下のパリ警察が激しく弾圧。数十人が死亡し、遺体はセーヌ川に投げ捨てられたほか、約1万2千人が逮捕された。

追悼式典はデモ参加者が渡ったパリ西郊の橋のたもとで行われ、マクロン氏は献花、黙とうした。地元メディアによると、関係者からはパポン警視総監の関与を強調し、国や当局の責任を十分認めていないと批判の声も上がった。

マクロン氏は9月、アルジェリア独立戦争をフランス側で戦った「ハルキ」と呼ばれるアルジェリア人兵士や家族らに対し、非人道的処遇で戦後、多くの犠牲や苦難が生じたとして謝罪した。【2021年10月17日 日経】
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【「謝罪」には至らず  “未来志向”で歴史学者による合同委員会やサッカー対戦】
個々の案件ではこれまでにないフランスの責任を認める言動をとっているマクロン大統領ですが、ただアルジェリア側の歴史認識(歴史書き換え)には批判も。

****アルジェリア、駐仏大使を召還 マクロン氏発言報道に反発****
アルジェリア政府は(2021年10月)2日、フランスの「許し難い内政干渉」を批判し、駐仏大使を召還したことを明らかにした。

仏紙ルモンドは、マクロン仏大統領が9月30日、アルジェリア関連の会合で、アルジェリアでは歴史が「事実に基づかず、フランスを憎む論文に基づいて書き換えられている」と発言したと報じていた。

ルモンドによると、マクロン氏はこの際、アルジェリア政治は「軍政」と指摘。テブン現大統領も「この強力なシステムに絡め取られている」と述べた。【2021年10月03日 時事】
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そのマクロン大統領は今月25日にアルジェリアを訪問し、テブン大統領と会談し。会談後の共同記者会見で、フランスの植民地支配をめぐり、両国の歴史学者による合同委員会を設置すると発表しました。

****仏大統領、アルジェリア訪問 植民地支配の歴史で共同委員会設置 エネルギー協力促す****
フランスのマクロン大統領は25日、旧植民地アルジェリアを訪問し、テブン大統領と会談した。会談後の共同記者会見で、フランスの植民地支配をめぐり、両国の歴史学者による合同委員会を設置すると発表した。ロシアのウクライナ侵攻にも触れ、資源大国のアルジェリアにエネルギー危機への対応で協力を促した。

マクロン氏は「われわれは複雑で、つらい過去を共有している」と発言。合同委員会が両国の公文書を検証することで、未来志向の関係作りに期待を示した。(中略)

今年はアルジェリア独立から60年にあたり、マクロン氏の訪問は、緊張が続く両国関係の修復が最大の目的。

特に、歴史問題は大きなしこりとなっており、マクロン氏が昨年、アルジェリアは「フランスへの憎悪」を培い、歴史の記憶を政治利用していると発言したのに対し、テブン氏が「フランスは過去の罪を認めよ」と反論して駐仏大使を一時呼び戻す騒ぎとなった。

マクロン氏は2017年、大統領就任の直前に「植民地支配は、人道に対する罪にあたる」と発言したが、就任後は謝罪問題には踏み込んでいない。

マクロン氏の訪問は27日まで。財務、外交、国防閣僚など主要閣僚のほか、エネルギー企業トップなど約90人が同行した。

欧州連合(EU)ではロシア産天然ガス依存からの脱却が課題となる中、ドイツからフランス、スペイン経由でアルジェリアを結ぶガスパイプラインの敷設構想が浮上している。国際エネルギー機関(IEA)によると、アルジェリアは天然ガス生産で世界10位。【8月26日 産経】
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大統領就任の直前に「植民地支配は、人道に対する罪にあたる」と発言したが、就任後は謝罪問題には踏み込んでいない・・・・基本的にはサルコジ大統領当時と大枠では変わっていないということでしょうか。

両国の歴史学者による合同委員会とのことですが、日本と韓国の間でも日韓歴史共同研究がありましたが、あまり成果を出したようには見えません。どういう姿勢で臨むかによりますが・・・。

責任や「謝罪」云々で揉めるより、手っ取り早くスポーツで和解をアピールしたいという思惑も。

****過去克服へサッカー対戦も 仏大統領、アルジェリアと****
フランスのマクロン大統領は26日、フランスの植民地支配の歴史によるアルジェリアとの複雑な関係を巡り、両国によるサッカーの親善試合開催は「過去を払いのける良い機会になるだろう」と述べた。訪問先のアルジェリアの首都アルジェで記者団の質問に答えた。

両国のサッカー親善試合は、1962年のアルジェリア独立後、2001年に初めて行われたが、試合の後半にアルジェリアのサポーターがグラウンドに乱入し、打ち切りとなった。

マクロン氏は「スポーツは和解をもたらすものだと思う」と述べ、アルジェリア側と話し合う考えを示した。【8月26日 共同】
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しかし、日韓のサッカー等のスポーツ対戦を見ると、「スポーツは和解をもたらす」というより、対立・憎悪を煽る側面が強いようにも思えますが・・・。

【「新時代を開く」・・・はともかく、天然ガス調達に尽力】
「謝罪」問題はともかく、2007年のサルコジ元大統領がアルジェリアへの原発売り込みに精を出したように、マクロン大統領が注力したのは、現在価格高騰で問題になっている天然ガスの調達でした。

****仏アルジェリアが「新時代」宣言 独立60年、ガス供給増か****
フランスのマクロン大統領は27日、アルジェリアの首都アルジェでテブン大統領と両国の新たな協力関係を定めた「アルジェ宣言」に署名し、3日間の同国訪問を終えた。アルジェリアがフランスから独立して今年で60年。複雑な関係が続いているが、宣言は「新時代を開く」とうたった。

フランスの民放ラジオ、ヨーロッパ1は28日、ロシアのウクライナ侵攻で欧州諸国の重要課題となっている天然ガス調達を巡り、アルジェリアがフランスへの供給を約50%増やすことを検討していると伝えた。マクロン氏に同行したエネルギー大手エンジーのトップがアルジェリア側と協議した。【8月28日 共同】
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政治家がよく口にする“未来志向で・・・”ということでしょうか。
まあ、それもよいですが、やはり過去の清算もしておかないと、事あるごとに不満が噴き出します。
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エチオピアとリビア  国内で戦闘再燃の懸念

2022-08-28 21:40:20 | 北アフリカ
(27日、衝突が起きたリビア・トリポリで炎上する車両【8月28日 産経】)

【再燃したティグレ人勢力との戦闘】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、双方が非人道的な行為を行っているとも報じられていましたが、3月に政府側が休戦を発表し、一応の小康状態を保ってきました。

ただし、ティグレ人勢力TPLFとは別のオロモ人主体の反政府武装勢力「オロモ解放軍(OLA)」との衝突を報じられていました。

一方で、そうした内戦以上に飢餓の脅威にもさらされています。

そのエチオピアで、政府軍とティグレ人勢力TPLFの戦闘が再燃したとのこと。

****エチオピア北部で戦闘再開 5か月の休戦に幕****
エチオピア北部で24日、政府軍と反政府勢力「ティグレ人民解放戦線」の間で戦闘が発生した。3月に宣言された休戦は5か月で破綻し、和平交渉への打撃となった。

戦闘再開が伝えられてから数時間後には、エチオピア空軍が、TPLFの武器を積んで隣国スーダン経由で領空を侵犯した航空機を撃墜したと発表した。

アフリカ2番目の人口を有するエチオピアでは、政府軍とTPLFとの間で2020年11月から1年9か月にわたり内戦が継続。今年3月に休戦が発効し、戦闘で荒廃した北部ティグレ州への国際支援が3か月ぶりに部分的に再開されていた。

だが政府軍とTPLFはこれまで、相手側が和平に向けた努力を阻害していると非難し合っており、今回の戦闘再開についても互いに責任があると主張している。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、戦闘の再開に「深い衝撃を受けた」と表明。「敵対行為の即時停止と和平交渉の再開」を呼び掛けた。 【8月25日 AFP】
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エチオピア政府側は、24日午前5時ごろにTPLFが、ティグレ州南東部から隣接するアムハラ州側へ攻撃をしかけたと主張しています。

TPLF側は、政府軍がここ数日、軍の再配置を進めていたと指摘し、政府軍が24日午前5時ごろ、ティグレ州への攻撃を始めたと訴えています。

【深刻な食糧不足への国際支援も困難に 民間人犠牲も】
いずれにしても、国連世界食糧計画(WFP)によれば、ティグレ州内に暮らす人々の約半数が深刻な食糧不足に陥っているとされており、戦闘の再開により支援物資がさらに届きにくくなり、州内の状況は悪化することが懸念されています。

問題のティグレ州の出身者の一人が世界保健機関WHOのテドロス事務局長です。

****親族が「飢えている」 WHO事務局長、故郷エチオピアの窮状嘆く****
世界保健機関のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は25日、故郷のエチオピア北部ティグレ州の状況をめぐる個人的な苦悩を吐露し、親族が苦しみ飢えているにもかかわらず、連絡も支援もできないことを嘆いた。

スイス・ジュネーブのWHO本部で記者会見したテドロス氏は、ティグレ州には多くの親族が住んでいると説明。「お金を送りたいが、送れない。飢えていることを知っているが、助けることができない」と語った。同州は完全に封鎖された状態で、「誰が死んだのか、誰が生きているのかさえ分からない」という。

内戦が続くエチオピアでは、ティグレ州の住民600万人が2年近くにわたり基本的なサービスから事実上切り離されている。テドロス氏は、封鎖が「銃弾や爆弾だけでなく、銀行や燃料、食料、電気、医療を武器にして人々を殺してきた」と非難した。(中略)

テドロス氏は、戦闘再開は悲劇だとしつつも、「現実には、戦争は決して止まっていなかった」と指摘。休戦中もティグレ州は封鎖されたままで、食料や医薬品はほとんど入手不可能だったと説明し、「必要不可欠なサービスの再開と封鎖の中止」を改めて訴えた。

また、自身がWHO事務局長の立場を乱用し、出身地への人道支援を繰り返し訴えたとの批判に反論。人々の健康が懸念される国について取り上げることが自身の職務であり、「私はイエメンのためにも同じことをし、現地を訪問した。シリアのためにもしたし、ウクライナのためにもしている」と主張した。 【8月26日 AFP】
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子供を含む民間人犠牲者も報じられています。

****エチオピア北部の幼稚園に空爆、子ども死亡 ユニセフが非難****
国連児童基金(ユニセフ)は27日、エチオピア北部ティグレ州で幼稚園が空爆を受け「複数の子どもが死亡し、負傷者も出ている」と非難した。(中略)

内戦終結に向けた和平交渉への期待が薄れる中、ティグレ州の州都メケレが空爆を受け、市内最大の病院関係者によると、子ども2人を含む少なくとも4人が死亡した。

地元テレビ局は、死者数は子ども3人を含む7人と報じ、大破した遊具や、鮮やかな絵で彩られた建物ががれきと化した様子を放映した。

これに対しエチオピア政府は、軍事施設のみを標的にしたと主張。TPLFが「民間人の居住地域に偽の遺体袋を遺棄」し、空爆被害をでっち上げたと非難した。

しかし、ユニセフのキャサリン・ラッセル事務局長は、空爆が「幼稚園を直撃した」として、「強く非難する」とツイッターに投稿した。(中略)

国連は3月、「エチオピア空軍が行ったとみられる」空爆で1〜3月に少なくとも304人の民間人が死亡したと発表。難民キャンプ、ホテル、市場などが戦闘機と無人機による空爆を受けており、戦争犯罪に当たる恐れがあると警告している。 【8月28日 AFP】
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【東西分裂のリビア 昨年段階の選挙実施予定も立ち消えに】
もう一か所、リビアでも戦闘が再燃したようです。

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リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。

西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。

東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。【8月28日 AFP】
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そのリビアでは、昨年には選挙実施で東西両勢力を統一するスケジュールも発表されましたが、素人目にも選挙ができるような状況でないようにも思えました。

****10年続いたリビア内戦終結へ 平和は確立されるのか****
(2021年)5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。

ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。
2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年(2021年)12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。

暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。

次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。
 
これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。(中略)

しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り(2021年)12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。【2021年6月9日 WEDGE】
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案の定と言うか、その後滞在対立は激化、未確認ながら首相暗殺未遂事件が報じられるような状況になり、選挙も立ち消え。

****リビアの混迷加速 2人の首相、暗殺未遂の観測も****
国家分裂状態が続く中東のリビアで政治危機が深刻化している。東部トブルクの「代表議会」は10日、西部の首都トリポリを拠点とする暫定政権のドベイバ首相はすでに任期が終了したとして、元内相を首相に指名した。

ドベイバ氏は民主的な選挙が実施されていないとして辞任を拒否。東西の両勢力がそれぞれ支持する2人の「首相」が並び立つ事態となった。

ロイター通信によると、代表議会ではこの日、首相選出の投票直前に他の候補者が出馬を辞退したとして、議長がバシャガ元内相の首相選出を宣言した。

東西両勢力による内戦が続いたリビアでは2020年に停戦が成立し、ドベイバ氏率いる暫定政権が昨年12月に予定された大統領選の実施を担った。国連なども後押ししたが、東西の勢力は投票規則などをめぐり対立。選挙は実施できず、東部勢力はドベイバ氏の任期は終了したと主張していた。

国連などは現在もドベイバ氏と暫定政権に正統性があるとしているが、東部を拠点とする有力軍事組織「リビア国民軍」(LNA)がバシャガ氏の首相選出を支持するなど、事態は混迷の度を深めている。

代表議会の首相選出に先立ち、10日にはドベイバ氏が暗殺未遂に遭ったとの未確認情報が流れた。公式声明などは出ておらず実態は不明。一方、トリポリ市内には対立する複数の武装勢力が展開しており、治安悪化の懸念も強まっている。

リビアでは11年のカダフィ政権崩壊後、周辺国も巻き込んだ内戦が起きるなど混乱が続いている。【2月11日 産経】
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新旧首相をそれぞれ擁する東西勢力は今年5月には衝突も。

****リビア首都で新旧首相勢力が衝突、バシャガ新首相が撤退****
リビアの首都トリポリで17日、衝突が発生した。バシャガ新首相が首都に入ったが、退陣を拒むドベイバ首相の勢力が反撃し、バシャガ氏は数時間後に首都を離れた。

同国では3月から対立する政権が併存しており、政治的な膠着の長期化や紛争拡大のリスクが浮上している。【5月18日 ロイター】
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【再び大規模衝突の危険も】
そして、大規模衝突につながることも懸念される衝突が再び。

****リビア首都で武力衝突、23人死亡 東西で新たな大規模紛争の恐れ****
東西で国家分裂状態にある北アフリカ・リビアの首都トリポリで27日、暫定統一政府と代表議会の支援勢力同士が衝突し、少なくとも23人が死亡、6か所の医療施設が攻撃を受けた。政治情勢の緊迫化を背景に新たな大規模紛争に発展する恐れも浮上している。

トリポリの複数の地区で26日夜から27日にかけ、小規模の銃撃や爆発があった。攻撃を受けた建物からは煙が立ち上るのが確認できた。

AFP特派員によると、27日夜までに状況は沈静化したもようという。

保健省は最新情報として、この衝突で23人が死亡、140人が負傷したと報告した。

リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。
西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。
東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。

国連リビア支援団は、民間人が居住する地区で無差別の砲撃が行われているとして、双方に「即時停戦」を求めた。

国民統一政府(GNA)によると、今回の衝突は、トリポリでの武力衝突の回避を目指す交渉決裂後に起きた。 【8月28日 AFP】
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【“国家が存在しない”状況で困窮する市民生活】
リビアの東西対立は今更の話で、驚くことではありませんが、わからないのは、こんな国家機能が存在しないような状況で市民生活が営めるのだろうか?ということ。

やはり、市民生活は相当に苦しいようです。

****1日最大18時間…酷暑のリビア、慢性的停電に国民の忍耐も限界****
これが私のベッドルームだ」。戦火で国土が荒廃した北アフリカ・リビアで、マフムード・アグイルさんは、後部座席を取り除いて自身と2人の子どものための睡眠場所を確保した自家用のライトバンを指さした。

立派な家があるものの、酷暑の中で慢性的な停電が続いているため、エアコンの利いた自動車で眠らざるを得ない。「朝目覚めると、ひどい背中の痛みに見舞われる」とこぼし、「これが近ごろのわれわれの生活だ」とうんざりした表情を見せた。

リビアの原油確認埋蔵量はアフリカ最大だが、国民は1日最大18時間にも及ぶ停電を耐え忍んでいる。

10年にわたる戦争や暴力、深まる貧困、分断した政府に対し、多くの国民の忍耐は限界に達している。首都トリポリや第2の都市ベンガジでは今月、数千人がデモを行い、「働くための照明が必要だ」などと連呼した。

不発弾を処理する組織で働くアグイルさんは「たとえ電気がきていても、とても弱い。照明をともすのがせいぜいだ」と話す。

北大西洋条約機構が支援した2011年の蜂起で独裁者ムアマル・カダフィ大佐が死亡して以降、治安悪化や燃料不足、インフラの劣化や経済的な苦境に見舞われ、今は危機的な電力不足が国民生活を直撃している。

■すべてひどい状況
アグイルさん宅の外壁には、幾つもの弾痕が刻まれている。度重なる暴力事件に見舞われてきたリビアを物語るようだ。
「保健衛生や教育、道路もすべてひどい状況だ。われわれには何もない」と訴える。

カダフィ政権下のリビアは、原油収入に支えられた寛大な福祉国家だった。しかし、紛争や分断、資源の浪費、インフラの荒廃、石油関連施設の封鎖によって、今や見る影もない。

約700万人のリビア国民は、燃料を大量消費して排ガスをまき散らす発電機を頼りにしている。

■国家の不在
トリポリに拠点を置くアブドルハミド・ドベイバ暫定国民統一政府首相は、今月新たに三つの発電所の稼働を開始すると述べ、民衆に自制を呼び掛けた。

一方、東部では、元内相のファトヒ・バシャガ氏がトブルクの「議会」やハリファ・ハフタル司令官の支持を得ている。

ドベイバ氏がバシャガ氏に権力を引き渡すよう圧力をかけるため、東部の支持者はここ数か月、主要な石油関連施設での生産を制限している。

ベンガジに住むアハメド・ヘッジャージさんは障害のある4歳の息子を抱え、無力感に包まれている。使用する医療器具には電気が必要だが、停電により治療に重大な支障を来たしている。

ヘッジャージさんは「(体制は)われわれが電気を使えるよう保証しなければならない」と述べた。

イスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の前に、「お金を引き出すために早い時間帯に銀行に行ったが、午後3時まで列に並ぶ羽目になった」という。「なぜかって? 国家が存在しないからだ」 【7月20日 AFP】
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“国家が存在しない”状況では、当然と言えば当然ですが、「いい加減にしろ!」と言ってもどうにもならない・・・憂うべき状況です。
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日本の対アフリカ戦略の中核「アフリカ開発会議(TICAD)」開幕 圧倒的な中国とアフリカの関係

2022-08-27 23:15:34 | アフリカ
(27日、チュニジア・チュニスで開催されたアフリカ開発会議(TICAD)の参加者ら【8月27日 iza】)

【今後「巨大市場」に成長するアフリカ 課題も山積】
アフリカの人口が急速に膨張しており、単純な市場規模としても、また経済成長に伴う購買力の拡大という点からも、将来的にアフリカが世界経済を左右する巨大市場に成長するであろうことは今更の話です。

しかしながら、インフラ整備が追いつかないことや食料問題など、アフリカには課題も山積しています。
下記記事は3年前の古いものですが、今でもそのまま使える内容でしょう。

****アフリカの人口、21億人に倍増 変わる人口地図(4)****
国連の最新の予測によると、地域別で人口増のペースが最大なのが、サハラ砂漠以南のサブサハラアフリカだ。他地域に比べ高い出生率を保ち、2019年時点の10億6600万人から50年には21億1800万人に倍増する。2100年には約38億人と世界の人口の3割強を占める見通しだ。

国別の人口ではナイジェリアが19年の2億人から100年には7億3300万人へと大幅に伸びる。コンゴ民主共和国も同期間に8700万人から3億6200万人まで増えると見込まれる。

人口急増は課題も突き付ける。経済成長率が追い付かなければ、1人当たりの所得は減っていく。十分な雇用を創出できなければ、社会不安の火種となる。

農村から都市への人口流入で消費拡大が期待できる半面、電力、水道、交通網といったインフラの逼迫や公衆衛生の悪化も懸念される。

特に危惧されるのが食糧問題だ。アフリカの農業は自給用でない換金作物を優先して栽培しているうえに、他地域に比べ著しく生産性が低い。米や小麦といった主要穀物は域外からの輸入に依存し、都市化の進展がこの傾向に拍車を掛ける。

食料輸入による物価高が人件費に跳ね返り、製造業が育たない一因にもなっている。持続可能な発展のために何ができるのか。8月に日本政府が主催するアフリカ開発会議(TICAD)でも大きな議題となりそうだ。【2019年6月21日 日経】
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【日本主催のアフリカ開発会議(TICAD)開幕 中国に対抗して対アフリカ関係強化】
当然ながら、日本も対アフリカ戦略を意識しており、その中核にあるのが日本政府が主催するアフリカ開発会議(TICAD)です。

今日からそのアフリカ開発会議(TICAD)がアフリカ・チュニジアで開催されています。
現地参加を予定していた岸田首相は新型コロナ療養中で、オンライン参加となっています。

****岸田首相、アフリカで「人への投資」 巨額支援の中国念頭****
岸田文雄首相は27日から2日間、チュニジアで開くアフリカ開発会議(TICAD)にオンラインで出席する。「人への投資」を通じてアフリカの経済成長を後押しする考えを表明する。巨額の資金を投じてアフリカ各国への関与を強める中国に対抗する。

TICADはアフリカ開発のための国際会議で日本が主導して1993年に立ち上げた。2013年以降は3年ごとに開いており、前回の19年の横浜会合には42カ国の首脳級らが参加した。

今回は第8回でインフラ開発の課題や新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ経済の回復などを議論する。21日のPCR検査で新型コロナへの感染が確認された首相は現地への渡航を取りやめてオンライン形式での参加を見込む。

アフリカ支援で競合するのが中国だ。広域経済圏構想「一帯一路」を掲げ巨額の資金をアフリカ各国に投じている。21年にセネガルで開いた「中国・アフリカ協力フォーラム」で400億ドルの支援を公表した。19年のTICADで日本が掲げた200億ドルの民間投資を上回る。

中国はアフリカ各国へインフラ整備などの融資を拡大する。融資先の国々の返済能力や財政事情を考慮せずに過度な融資をした結果、債務が膨れて財政が悪化する国が目立つ。

債務の免除と引き換えに中国がインフラの権益などを奪う「債務のわな」に陥る例も出てきた。ウガンダは債務の代償として首都近郊の空港を中国に明け渡すことになりかねない状況にさらされている。

首相は資金支援の規模で中国に劣後する状況を踏まえ「人への投資」に言及する。首相が取り組む「新しい資本主義」も説明し、支援先に混乱をもたらす中国とは一線を画す姿勢を示す。

具体的にはインフラ開発や医療・保健、農業、ビジネスなど幅広い分野で専門知識を持つ人材の育成に注力する。例えば道路や橋などのインフラ整備では建設だけでなく、維持・管理に欠かせない技術を身につけてもらう。

起業を目指す若年層を日本の大学や企業に招き、ビジネスに必要な知識の習得の機会を提供する。経済的な自立を促し、人材が育てば企業や社会の成長にもつながると見る。

チュニジアのモハメッド・エルーミ駐日大使は日本経済新聞に「アフリカは若年層が多い人的資源といった潜在力に満ちている。日本は民間企業にとどまらず、大学などにも来てほしい」と語った。

資金支援も対中国の色彩を強める。アフリカでのインフラ開発などのために23年からの3年間で最大50億ドルを拠出する。融資先の中国の債務比率など財務の健全性を点検し中国との債務関係の再考を求める。

アフリカ支援は外交的な側面だけでなく、将来的な市場の開拓といった意味合いもある。アフリカは世界経済の「最後のフロンティア」と呼ばれる。現在のアフリカの人口はおよそ14億人に達しており、50年には24億人を超すといった予測がある。

その一方で日本は企業による投資が米欧や中国に比べて低調にとどまっている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、20年のアフリカへの直接投資額は英国が最も多く650億ドルに上った。米国は480億ドル、中国は430億ドルだった。日本は48億ドルと国・地域別では上位10位に届かなかった。

ジェトロはアフリカに進出する日本企業を対象に21年度に調査をした。アフリカへの投資のリスクとして「規制・法令の整備や運用」を挙げた企業が6割超で最多となった。独特な法解釈や手続きの複雑さなどが進出の妨げになっているのが現状だ。

首相はTICADで企業がアフリカへ投資し進出しやすい環境の整備も呼びかける。脱炭素やレアアースなどの鉱物資源のビジネスで日本企業の参入を促す。【8月24日 日経】
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こうした中国を、特に“債務の罠”を意識した日本側の姿勢に中国メディアは「アフリカ諸国がうんざりしている」とも評しています。

****日本がアフリカ開発で中国けん制、「そのやり方にアフリカ諸国はうんざり」と中国メディア****
2022年8月26日、中国紙・環球時報は、日本がアフリカ開発を口実に中国をけん制しようとしているものの、その手法に対しアフリカ諸国がうんざりしているとする文章を掲載した。以下はその概要。(中略)

日本メディアは早い時期から日本政府の呼びかけに応じ、再三日本の投資は「中国とは異なる」ことを強調してきた。

日本のアフリカ支援は日本企業に投資のチャンスを与えるものだが、日本国内からはアフリカへの投資、さらには中国への対抗を目的としたアフリカ投資に疑問の声も出ている。

日本によるアフリカ投資は2013年の100億ドルをピークに、20年には50億ドル足らずにまで減っているにもかかわらず、日本政府は他国との競争を目的として日本企業に投資を呼びかけている。

ウガンダメディアによると、日本企業はアフリカに対する理解が浅く、大多数の企業が拠点に近いマーケットばかりに注目しているという。アフリカ事業を展開する日本企業は10年の520社から19年には796社へと増えたが、新型コロナの影響もあって最近では投資額が減少している。

アフリカに行くと現地で「日本の要素」を多く見かけるものの、それは基本的に中古車、高級カラーテレビ、そして「寿司ロール」ばかりに集中している印象だ。

中古車は日本車がそのまま現地に流れてきたため、表示やステッカーがすべて日本語のままだ。高級カラーテレビは現地大衆の所得に見合わず、経済的に比較的裕福な南アフリカでも、家電市場シェアが高いのはハイセンスなどの中国ブランドだ。

そして、アフリカにおいて「寿司」は、人気の高い「中国料理」であり、多くのレストランが「中国料理」の看板を掲げながら寿司を主力メニューとして提供している。

南アフリカで20年近いビジネス経験を持つ呉(ウー)さんは、単身でアフリカでのビジネスを開拓しようとする日本人は少なく、基本的には大企業の駐在員だとし、それゆえアフリカ諸国やアフリカ人に対して何のアイデンティティーも持っていないと指摘した。

一方、中国や韓国、インドからやってくるのはアフリカに活路を見い出そうとする中小企業のビジネスマンで、現地での各種プロジェクトに積極的に深く関わろうとする。「人と人とのふれあいがとても重要。アフリカ人が欲しているのは真の友人であり、アフリカを金もうけの場所としか考えていないような人間ではない」と呉さんは語る。

南アフリカのある雑誌編集長は、日本がアフリカ投資強化の意向を示したことは喜ばしいとする一方で、「意向を現実化して、アフリカの人々に幸福をもたらさなければ意味がない」と指摘する。

この数十年における日本の対外政策を見ると、アフリカは日本にとって優先的な選択肢ではない。日本はこれまで金融機関を通じて対アフリカ投資に参加してきたものの、往々にして西洋式の「付帯条件」を伴ってきた。このような「消極的な援助」を受けることに、多くのアフリカ諸国はもはやうんざりしているのだ。【8月27日 レコードチャイナ】
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日本の「消極的な援助」にアフリカ諸国が“うんざり”しているかどうか、また、“アフリカ人が欲しているのは真の友人であり、アフリカを金もうけの場所としか考えていないような人間ではない”という点で、中国人が“真の友人”と言える存在かどうか・・・そこらは今回は触れません。アフリカ諸国で、中国人と現地住民の間でトラブルが発生していることは、ときおり耳にする話ですが。

【現実には進まない日本のアフリカ進出 6千人対100~200万人超】
ただ、TICADなどの取り組みにもかかわらず、日本企業のアフリカへの進出が一向に進んでいないのは事実でしょう。日本の商品がアフリカ市場でなかなか売れない現実も。

第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に民間企業代表の一人として参加する武藤康氏(33)(アフリカでスタートアップ(新興企業)を支援する事業を展開)は以下のようにも語っています。

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日本には昔ながらの「物づくりの国」としての誇りが大変強い企業が多いという。武藤さんは「アフリカの中間所得層が高価な日本製品を買える経済力をつけるまで、あと7〜10年はかかります。でも、そのころには、日本は中国や韓国との競争に勝てなくなっているかもしれません」と話す。「明確な戦略がなければ、今売っても売れないし、10年後に売っても売れない可能性が十分にあります」
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言い換えれば、日本企業は自分たちが売りたいと思うものを売ろうとしてうまくいっていないということでしょうか。現地のアフリカの人々が買いたいと思うニーズにうまく対応できていないようにも。
そこらに日本とアフリカの関係の“底の浅さ”がうかがえます。

一方、アフリカとの関係という点では、中国は日本の比ではありません。

外務省の海外在留邦人数調査統計(令和4年版)によればアフリカの在留邦人は6106人(長期滞在者5303人、永住者803人)に過ぎません。

一方、中国人は・・・・
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アフリカ全体での中国人在住数については100万人から200万人超まで――これまで様々に報じられてきた。もちろん、この中には旧世代も含まれるが、中国側が示す「世界各地華僑華人人口統計(2013年9月13日までの統計に基づく)」ではアフリカ全体で79.07万人に止めている。中国の活動を批判し警鐘を鳴らす人々は多目に、アフリカ各国の親中政権は極く控えめに数える傾向が強いようだ。

中国側から言えば非合法移住者も少なくなく、実態の把握は難しい。それがまた移動⇒定住⇒移動を繰り返しながら新たな生活空間を求める歴史を繰り返してきた彼らの偽りのない姿である。【2020年5月6日 WEDGE ONLINE
「新型コロナがあぶり出す中国とアフリカの浅からぬ関係」】
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6千人に対し100万人から200万人超・・・・比較になりません。

【日本人の予想を遥かに超えて長く深かい中国とアフリカの関係】
中国が毛沢東の時代からアフリカとの関係を重視してきたこと(イデオロギー面と、国際的孤立を避けるため)がすぐに思い浮かびますが、中国とアフリカの関係は、それ以上に遥かに分厚いものがあります。

****新型コロナがあぶり出す中国とアフリカの浅からぬ関係****
(中略) だが、それ(15世紀末、バスコ・ダ・ガマが喜望峰を回ってインドへの航路を開いた)より60年ほど早く、中国人はインド洋を西に向かいアフリカ東海岸に到達していた。

15世紀初め、大艦隊を率いて東南アジア海域からインド洋一帯の軍事制圧を試みた鄭和は、アフリカ東海岸とマダガスカルに挟まれたモザンビーク海峡を南下していた可能性は高い。(中略)

オランダの東インド会社による南アフリカ占領期(1652~1795年)の記録に依れば、この時期にインド洋西部のアフリカ東海岸に近いモーリシャスに中国から土木技術者が招来され、殖民地経営の下働きをしている。殖民地が開発されるに伴って、広州や梅州(客家居住地)から商人がモーリシャス経由でマダガスカルへ、さらにアフリカ南部に移り住んだようだ。

モーリシャスでは18世紀後半、広州在住のフランス商人と提携した中国人商人の活動が確認されている。その後、19世紀初頭になって初代総督がマラッカ海洋に浮かぶペナン島での経験に基づいた中国人管理制度を導入し、苦力(華工)と呼ばれる裸一貫の労働者の組織的流入が始まっている。

中国南部、インドネシア、シンガポールからアフリカへ
中国南部沿海地方からの移住者はもちろんだが、オランダ殖民地のインドネシア、イギリス殖民地のシンガポールやペナンからの強制的移住もみられた。

つまり彼らは故郷である中国南部の沿海地域を離れ東南アジアの殖民地へ。さらにインド洋西部海域に浮かぶモーリシャスへ。モーリシャスから近辺に浮かぶレユニオン、セーシェルへ、あるいはマダガスカルへと移り住み、さらに現在の南アフリカの地に新しい生活空間を求めて移って行った。

19世紀半ば、中国南部を混乱に陥れた太平天国の指導層が客家系であったことから、太平天国崩壊後、弾圧を恐れた客家系が大挙して海外脱出を試みる。その波はモーリシャスにまで及んだ。(中略)

公務員、技術者、軍人、労働者、農民からマフィアまで
文化大革命(1966年~76年)の初期、東海岸中部に位置するタンザニアから内陸部で銅を産出する隣国のザンビアへのタンザン鉄道を敷設するために、中国は「労働人民の国際連帯」を掲げて数万の労働者を送り込む。タンザニアの首都ダルエスサラームの港から銅を積みだそうとしたのである。

だが、このイデオロギーを軸にしたアフリカ接近は、文革がそうであったように当初に掲げた理想とはかけ離れた結果に終ってしまった。

やがて胡錦濤政権(2002年~12年)の時代になると、アフリカは中国が経済発展を推し進めるために必要なエネルギーと鉱物資源の供給基地となった。

対外開放政策によって中国が手にした“新武器”である人民元が、それまでの硬直したイデオロギーである毛沢東思想に代わって華々しく、しかも集中豪雨のようにアフリカの大地に注がれたのである。官民を問わずに多くの中国人――公務員、技術者、軍人、労働者、農民からマフィアまで――が中国から移り住む。

アフリカは中国が国際政治というパワーゲームを展開するための有力な“持ち駒”になると同時に、中国で大量生産される安価な商品のための広大な消費市場に変貌してもいた。

次いで登場した習近平政権はアフリカとの関係を一層深める。それというのも、アフリカに「一帯一路」の重要な柱という役割を振り当てたからだ。

アルミニュウム、コバルト、コルタン及び関連鉱物、銅、ダイヤモンド、天然ガス、金、鉄、石油、プラチナ、錫、チタン、ウランなどの資源のみならず農地までをも貪欲に求める中国の影響力は初期の東部から始まり、中央アフリカ、南アフリカ、西アフリカ、北アフリカと拡大し、いまや北西アフリカ西沖合の大西洋上に浮かぶカーボベルデにまで及んでいる。

つまりアフリカ大陸を挟み、東のモーリシャス、セーシェル、レユニオンから西のカーボベルデに至る広大な範囲の各地で、いつの間にか中国人(華僑・華人を含む)の活動がみられない国はなくなっていた。

もちろん旧世代の華僑・華人と同じように1970年代末の対外開放後に移住した「新華僑」と呼ばれる新世代もまた同姓・同郷・同業などを軸とする相互扶助組織を持つ。(中略)

こう見ると、近年になって伝えられるようになった豊富な地下資源を弄ぶ強欲な独裁者たちの利害打算ゲームだけでは直ちに推し量れない関係が、中国とアフリカの間にはあったことが分かるだろう。中国の歴史の断片が、アフリカ各地に様々な形で刻まれている。中国とアフリカの結びつきは日本人の予想を遥かに超えて長く深かった。この点を等閑視してはならないだろう。(後略)【2020年5月6日樋泉克夫氏(愛知県立大学名誉教授)
WEDGE ONLINE】
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日本がアフリカとの関係について、“中国に対抗して”云々と言うのであれば、まずはこのアフリカとの関係性における圧倒的差の認識からスタートするべきでしょう。
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核拡散防止条約(NPT)再検討会議  核保有国の利害調整で議論紛糾 草案は骨抜きされ後退

2022-08-26 23:05:14 | 国際情勢
(【8月26日 日テレNEWS】)

【核兵器の全廃へ向けた核兵器禁止条約の第1回締約国会議に日本はオブザーバーとしても不参加】
核兵器を「非人道兵器」として、その開発、保有、使用あるいは使用の威嚇を含むあらゆる活動を例外なく禁止し、将来的な核兵器の全廃へ向けた初の国際条約である核兵器禁止条約は1996年4月に起草され、2017年7月に国連総会で賛成多数にて採択され、2020年10月に発効に必要な50か国の批准に達したため、2021年1月22日に発効しました。

ただし、核保有国や日本など“核の傘”を安全保障の基本としている国は参加していません。

現在、核兵器を制限する国際的枠組みとしては核不拡散条約(NPT)がありますが、NPT で約束された核軍縮が進まない状況に対する不満が核兵器禁止条約成立を後押ししました。

核兵器禁止条約の第1回締約国会議は6月に開催されました。

****「核なき世界」実現急務と宣言 核兵器禁止条約の締約国会議****
核を非人道兵器として史上初めて違法化した核兵器禁止条約の第1回締約国会議は23日、最終日の議論を行った。高まる核の危機に警鐘を鳴らし、「核なき世界」の実現が急務と呼びかける「ウィーン宣言」と「行動計画」を採択して閉幕した。

宣言は「核兵器使用の脅しに危機感を強めている」と指摘、「核兵器の使用や核による脅しは国際法違反だ」と強調。核が二度と使われないことを保証する唯一の手段は廃絶だと訴えた。

核の非人道性を長年訴えてきた被爆者にも言及し「貢献を称賛する」とたたえ、今後も協力していくとした。【6月24日 共同】
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唯一の被爆国であり、また、核保有国と非保有国の間の“橋渡し役”を自任している日本ですが、上記の核兵器禁止条約の第1回締約国会議にオブザーバーとしても出席しませんでした。

岸田首相は、核兵器禁止条約に参加しない理由として、核兵器保有国が参加していないとし、「現実を変えるためには、核兵器国の協力が必要だ」と強調しています。また、外務省幹部は「いま核軍縮の機運はない。むしろ抑止を強めようというのが国際的な世論だ」とも。

日本と同様の立場にあるドイツは、条約には参加しないものの、会議にはオブザーバー参加しています。

****ドイツ「核禁止条約加盟できない」 締約国会議にオブザーバー参加****
核兵器禁止条約の締約国会議で22日、NATO(北大西洋条約機構)の加盟国であるドイツなどが演説を行い、条約に加盟はできないとした一方、核軍縮に向けて努力する姿勢を示した。

会議にオブザーバー参加しているドイツの政府代表は、「NATOは核同盟であり、核兵器禁止条約には加盟できない」としたうえで、「核の使用を示唆しているロシアと対峙(たいじ)し続ける」と強調した。

一方で、核軍縮は重要だとの認識も示し、核保有国も参加する核拡散防止条約再検討会議で議論する必要があるとした。

また、同じくNATO加盟国であるノルウェーも、「核保有国と非保有国が議論することが重要」としている。(後略)
【6月23日 FNNプライムオンライン】
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【日本やNATO諸国が主戦場とするNPT再検討会議開催】
日本やNATO諸国は、核保有国も参加する核拡散防止条約(NPT)を現実的枠組みとして重視する立場ですが、核兵器禁止条約の行動計画ではNPTを「補完」するとして、NPTとの共存を目指す方針を表明しています。

****核禁条約、廃絶へ行動計画=NPTと共存、被害者救済も―核抑止否定・締約国会議****
ウィーンで開かれていた核兵器禁止条約第1回締約国会議は23日、核廃絶への決意を確認する政治宣言と、具体策を盛り込んだ「ウィーン行動計画」を採択し、閉幕した。

行動計画では、核軍縮枠組みの柱である核拡散防止条約(NPT)を「補完」するとして、共存を目指す方針を表明。核保有国が非加盟の現状を打破するための批准国増加への努力や、核兵器や核実験の被害者救済も盛り込んだ。

活動家や被爆者の意見を取り入れて成立した同条約は、理念先行で具体策に欠けるなどの批判があった。行動計画を策定したことで、実効性確保に向け一歩を踏み出した。会議の議長を務めたオーストリア外務省のクメント軍縮局長は「歴史的」と評価した。

8月には、ニューヨークでNPT再検討会議が開かれる。核禁条約の締約国が、どのような行動を取るかに注目が集まりそうだ。

核禁条約は他の枠組みとの関係で、特に米英仏中ロに核保有を許すNPTとの整合性が疑問視されてきた。行動計画は両条約は補完関係だと明言。両条約間での協力分野を検討した上で、橋渡しを担う「ファシリテーター」の任命や、NPT体制下で核査察を担う国際原子力機関(IAEA)との協力などを通し、関係を深めていくことを掲げた。

被害者救済では、国際的な信託基金の設立を検討すると表明。非加盟国の批准を促すため、核廃絶・軍縮にかかわる国連総会決議への賛同国を増やす努力をすることもうたった。【6月24日 時事】 
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現在、上記のように核兵器禁止条約が「補完」「共存」するとしている核拡散防止条約(NPT)再検討会議がニューヨークで開催されています。

核拡散防止条約とは、核兵器非保有国には核兵器の保有を禁じる一方で、保有国にはその縮小を義務付けるものです。

****核抑止力か核軍縮か…NPT再検討会議もまもなく閉幕を迎える中、核兵器を取り巻く世界の現状と課題とは****
(中略)
■まもなくNPT再検討会議が閉幕…何が話し合われているのか
現在、アメリカ・ニューヨークでNPT=核拡散防止条約の再検討会議が開かれていますが、まもなく閉幕を迎えます。ロシアによるウクライナ侵攻で核の脅威が高まり、「核による抑止力が必要だ」との声もあがる一方、「核軍縮をもっと進めるべきだ」との危機感も高く、核兵器のあり方に関心が高まる中での開催となりました。

今回の会議では、締約国が一致して核不拡散や核軍縮を目指すことができるのか、そして最終文書を採択することができるのかが、注目されています。

■そもそもNPT再検討会議とは
NPT=核拡散防止条約とは1970年に発効され、核兵器を持つ国を増やさないことを目的としています。条約ができた当時に核兵器を持っていたアメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国の5か国を核保有国として認め、その代わりに3つの柱が設けられました。
1.「核軍縮」への取り組みの義務づけ
2.核を持たない国に核兵器の製造や取得を禁止する「核不拡散」
3.そして原子力発電など「原子力の平和利用」を認めるというものです。

現在は191の国と地域が締約しています。締約国は5年に1度、会議を開き、核軍縮や核不拡散に向けどんな取り組みをしてきたかを振り返り、今後の方針を議論してきました。今回の会議は新型コロナによる延期を重ねたため、7年ぶり10回目の開催となりました。

■岸田総理大臣が日本の総理として初めてNPT再検討会議に
岸田総理は英語で演説し、核兵器廃絶に向けた日本の行動計画として「ヒロシマ・アクション・プラン」を打ち出しました。ただ、去年発効した核兵器禁止条約への言及はひと言もなく、唯一の被爆国として日本が核軍縮をリードするという姿勢も見られなかったとして被爆者などからは失望の声も聞かれました。(中略)

■世界にある“核兵器”の数
各国が保有する核兵器の数は通常“核弾頭”の数でカウントされていて、ストックホルム国際平和研究所によると、今年1月現在、世界で合計12705発の核弾頭があると推定されています。アメリカとロシアだけで9割以上保有していることになります。

その一方で、核弾頭の数の推移は冷戦終結ごろを境に減少に転じています。
NPTなどの核軍縮の取り組みが功を奏している面もある一方で、今年は去年より核弾頭が395個減りましたが、これらは、古くなったものが解体されただけと言われています。

また、NPT締約国であるイギリスは去年、保有する核弾頭の数の上限を引き上げることを決め、今後は保有数も公表しないと明言しました。さらに、NPTを締約していない北朝鮮など、核兵器の保有が疑われている国の実態は全くわかっていません。

ストックホルム国際平和研究所は「冷戦後、減少していた世界の核弾頭の数が今後、増加に転じるかもしれない」と警鐘を鳴らしています。

■進まない核軍縮…いったいなぜ?
NPT再検討会議にも参加している一橋大学の秋山信将教授は、「大国間の信頼関係が欠如していることが大きな要因だ」と指摘しています。

自分の国が核兵器を減らしたら相手も減らしてくれるという信頼関係がないと、核軍縮は進みませんが、いま核大国のロシアは核の使用をちらつかせていて、アメリカなど核保有国との間に信頼関係を築くのは難しい状況ですよね。

■まもなくNPT再検討会議閉幕…今回こそ最終文書はまとまるのか
秋山教授によると、やはり悲観的な見方が増えているそうなんです。ただ、秋山教授は「たとえ最終文書を採択できなかったとしても、核兵器保有国と非保有国が集まり、共通認識を醸成する場としてのNPTの価値を再認識すること、枠組みを維持していくこと自体も重要な意味がある」と強調しています。

核軍縮をめぐる世界情勢は厳しさを増していますが、どんなに地道でも議論を放棄することなく、目標を掲げ行動し続ける、あきらめない粘り強さが大切です。【8月26日 日テレNEWS】
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【核保有国の利害調整で紛糾する議論】
会議では対立が目立ちますが、今回特に議論になったのはウクライナのザポリージャ原子力発電所の問題。
ウクライナのゼレンスキー大統領は8月25日、ロシアが掌握するウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所について、ロシアの攻撃にさらされており、ウクライナ側の危機回避対応によって世界は辛うじて原子力事故を回避したという認識を示しています。

****NPT再検討会議 ウクライナ情勢めぐり対立のまま最終日へ****
世界の核軍縮の方向性を協議するNPT=核拡散防止条約の再検討会議は、会期の最終日を迎えましたが、ウクライナ情勢をめぐる各国の対立が続いています。

議長がまとめた「最終文書」の草案は、ロシア軍が掌握するザポリージャ原子力発電所について、ウクライナ当局が管理する重要性を指摘していますが、ロシアは強く反発しており、最終的に合意できるのか予断を許さない情勢です。

4週間にわたってニューヨークの国連本部で開かれてきたNPTの再検討会議は25日、スラウビネン議長が全会一致での合意を目指す「最終文書」の草案を改めて示しました。(中略)

NPT再検討会議は、前回7年前に最終文書を採択できず、今回も合意できなければ世界の核軍縮がさらに停滞するのは避けられないだけに、交渉の行方が注目されます。

ザポリージャ原発めぐり「最終文書」表現修正も
NPTの再検討会議では、ロシア軍が掌握するヨーロッパ最大規模のザポリージャ原子力発電所について、「最終文書」にどのような文言を盛り込むかをめぐり各国の対立が続いています。

ヨーロッパ各国などからは、原発の安全に強い懸念を示しロシアを非難する声が相次ぎ、このうちウクライナの代表は「現在起きているロシアの侵略による深刻な挑戦と脅威、原発を違法に掌握し攻撃し続けていることも草案に反映させるべきだ」と述べていました。

こうした意見を受けて草案は一度は表現が強められ、今月21日の草案では、原発周辺でのロシアによる軍事活動に重大な懸念を示し、ロシアの管理からウクライナ当局の管理下に戻すよう求めました。

しかしロシアは、こうした表現について猛烈に反発。「断じて受け入れられない」と主張してきました。
「この文書で推進しようとしているのは一部の国の意見だけロシアにとって受け入れがたいものだ」。

その結果、修正草案では、ロシアを名指しする下りは削除され、「ウクライナ当局による管理の重要性を確認する」という表現に弱められました。

しかし、外交筋によりますと、この修正草案に対してもロシアはなお反発しているうえ、ウクライナやヨーロッパの一部の国は表現が弱められたことに逆に不満を示していて、会期が残り一日となっても対立が続いています。

「核の先制不使用」の文言は
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で核の脅威が高まる中、核兵器が使用されるリスクを減らす措置の一つとして、核保有国が核攻撃への反撃を除いて核兵器を使わない「核の先制不使用」の方針が「最終文書」に盛り込まれるかどうかが注目されていました。

国連のグテーレス事務総長もさまざまな機会で「先制不使用」について言及してきました。

再検討会議が終盤を迎えた今月22日には、国連安全保障理事会の会合で「核保有国は『核の先制不使用』を約束しなければならない。核の非保有国に対して、核兵器の使用や威嚇をしないと保証し、核の透明性を確保しなければならない」と訴えました。

再検討会議の議長が示した当初の草案には、核保有国に対して「先制不使用」の政策をとるよう求める内容が盛り込まれました。これに対して、核保有国などが核抑止力が弱まることに懸念を表明したということです。

その結果、修正草案では、「核の先制不使用」の文言は削除されました。

一方、核兵器の非保有国からは、核兵器が使用されるリスクを減らす措置とともに、NPTが本来目指してきた核軍縮への取り組みが不十分だという指摘もあがっています。

先週の段階でオーストリアの代表は「核軍縮の進展が急務であるにもかかわらず、草案には明確な危機感も示されず、具体的な約束もスケジュールも目標も定められていない」と、強い不満を示しています。(後略)【8月26日 NHK】
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一方、中国が核兵器用核分裂性物質(FM)生産のモラトリアム(一時停止)を求める項目に反対して削除されるなど、核保有国の新たな制約を受けたくないとの姿勢によって草案は後退を続け、議論は紛糾しています。

****NPT最終文書再改訂案 中国反発で大きく後退****
国連本部で開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は25日夜、最終文書の再改訂案を加盟国に配布した。濃縮ウランやプルトニウムなど核兵器用核分裂性物質(FM)生産のモラトリアム(一時停止)を求める項目を削除し、大きく後退した。軍縮筋によると、中国が同日の非公開会合で強く反発したという。

中国は、NPTが定める核保有5カ国の中で唯一、FM生産の一時停止を宣言していない。当初案は、表明済みの米英仏露に一時停止の維持、未表明の中国に宣言を求める内容だった。採択されれば、中国の大幅な核戦力の増強とそれに伴う世界の核兵器数の増加を抑える効果が期待された。

軍縮筋によると、再改訂案には、中国やロシアを中心に不満が解消されていない項目が残っている。
25日の非公開会合で、中国は、オーストラリアの原子力潜水艦導入に「懸念の表明」をすべきだと主張したという。しかし、再改訂案には反映されなかった。

また、ロシアは、ウクライナの核放棄と引き換えに同国の安全をロシアと米英が保障した1994年の「ブダペスト覚書」に言及した項目に不満を示したという。ロシアが約束を反故(ほご)にしてウクライナを侵略したことを念頭に置いた項目で、再改訂案は表現を維持、ロシアの不満は反映しなかった。ウクライナは名指しでのロシア非難を求めたという。

ロシアとフランスは、昨年1月発効した核兵器禁止条約について一切言及しないよう要求した。再改訂案は条約の発効時期など事実経過を記す表現を維持している。【8月26日 産経】
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まあ、交渉というものはそういうものなのでしょうが、核保有国は既得権益を一歩も譲ろうとせず、新たな制約を拒否し、自分に都合のいいものを押し込もうとしている・・・そんな印象。

****「このパズルは解けるのか」 交渉紛糾のNPT再検討会議、カギは中露****
核拡散防止条約(NPT)再検討会議は26日、最終日を迎える。ロシアのウクライナ侵攻をめぐる対立や中国の強硬姿勢、核軍縮をめぐる核保有国と非核保有国の溝は解消されず、交渉は紛糾している。

25日夜には最終文書案が再び改定されたが、核軍縮を中心に内容が乏しくなった。全会一致での採択を目指して交渉が続くが、成否の結論は26日夜(日本時間27日朝)の土壇場までもつれ込むとの見方が出ている。

「どの国も破談だけは避けたいと思っているが、このパズルが解けるのか分からない」。アフリカの外交官は25日、そう語った。前回2015年の再検討会議は「中東非核地帯構想」をめぐる対立で最終文書を採択できなかった。2回連続で決裂すれば、世界の核軍縮や核不拡散などの礎であるNPT体制は大きく揺らぐ。

だが、妥協を探るあまり、最終文書案からは「野心的な要素がどんどんなくなっている」(軍縮外交筋)。(後略)【8月26日 毎日】
********************

日本が現実的核軍縮枠組みとするNPTが核保有国の利害調整で実質的に中身が無くなり、機能が麻痺している状態が明らかになるとすれば、改めて核保有国に核廃絶を求める核兵器禁止条約の意義を考慮する必要性が出てきます。
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イラン核合意再建交渉“大詰め” EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答が出そろう 結果は?

2022-08-25 23:15:25 | イラン
(【8月10日 ARAB NEWS】 8月初旬、ウィーンで再開された核合意再建交渉)

【イラン革命防衛隊のテロ組織指定解除で暗礁に乗り上げたイラン核合意交渉】
イラン核合意のこれまでの経緯に関して超簡単にまとめると以下のようにも。

****イラン核合意 これまでの経緯*****
核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが締結した。イランが核兵器開発につながるウラン濃縮活動を制限する代わりに、欧米側が経済制裁を緩和する仕組み。

18年にトランプ前米政権が一方的に離脱して制裁を再発動し、反発したイランは合意の制限を大幅に超えるウラン濃縮などを進めてきた。

バイデン米政権の発足後、米・イランの両国は21年4月に合意正常化へ向けた間接協議を開始した。

一時は妥結の機運が高まったが、今年2月に核合意当事国であるロシアがウクライナに侵攻し、交渉は中断。6月にカタールで再開したが進展がないまま終了し、8月上旬にウィーンで再開した。【8月25日 毎日】
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上記記事に“一時は妥結の機運が高まった”とあるのは、今年2月、3月段階。
当時は下記のように“今週末にも合意”といった話が出るまでになっていました。

****イラン核合意再建協議、今週末に合意も=ボレルEU上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は4日、2015年のイラン核合意の再建に向けた米国とイランとの間接協議について、今週末に合意に達するかもしれないと述べた。

英国の交渉責任者、ステファニー・アルカク氏もツイッターで間接協議が合意に近づいているとの見解を示した。

ロシアのウリヤノフ在ウィーン国際機関代表は「イランは(米国との)直接会談の準備はできていない」としたものの、「おそらく来週半ばには合意に達するだろう」とした。【3月5日 ロイター】
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その交渉最終段階にきてハードルとなったのが、ウクライナ侵攻で制裁を課されたロシアが、核合意に沿って参画するイランの核関連事業を制裁対象外にすることを求めたことでした。

これについては、アメリカ側が譲歩姿勢をみせて、合意に向けた流れはなんとか維持されました。

****露のイラン核関連事業は制裁対象外 米、核合意妥結へ譲歩姿勢****
イラン核合意の再建に向けた多国間協議をめぐり、米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、ロシアが同合意に沿って参画するイランの核関連事業については、ウクライナ侵攻を受けて発動している対露制裁の対象とはしないと明らかにした。

同協議は妥結間近とされながらも、ロシアが今月に入って自国に科されている制裁の対象からイランとの取引を除外するよう要求したことで停滞。ロシアがこうした除外規定を制裁回避に利用するとの懸念も指摘されていた。

そんな中でバイデン政権は今回、一定の譲歩姿勢を示した格好だ。ラブロフ露外相は同日、米国から「文書での保証」を受け取ったと述べ、協議の進展に前向きな態度をみせた。(後略)【3月16日 産経】
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しかし、イラン側がイラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定解除を求めたことで、交渉は暗礁に乗り上げました。

****イラン核合意再建、革命防衛隊のテロ組織指定解除が最後の障害に****
イラン核合意の再建について、複数の外交関係者は、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を米政府が解除するかが、交渉の行方を左右するとの見方を示した。

米政府内ではこの問題を受けて核合意再建に反対する声が上がっているほか、IRGCのテロ組織指定解除を公に批判していたイスラエルなどの中東同盟国も反発している。

1年近くにわたる交渉ではほぼすべての意見の対立が解消されてきたが、政府高官らは、この問題でイランとの妥協点を見いだせなければ話し合いが破綻する可能性もあると述べている。

米政府はIRGCが数百人の米国人を殺害したと指摘しているほか、エリート部隊のゴドス軍は中東地域の代理組織やシリアで戦った親イラン勢力向けに兵器などを提供している。IRGCは弾道ミサイル関連のプログラムや、人権侵害疑惑を理由に、長年にわたって米政府から制裁を受けていて、2017年には対テロ制裁リストに加えられた。

米政府高官らによれば、ジョー・バイデン大統領や側近の多くは判断を先延ばしにするのではなく、イランと合意を結んでその後に改善に努めていくことの方がいい選択だと考えている。

ホワイトハウスはまた、イランの核開発プログラムを制限する合意が、中東地域に安定をもたらすカギとなり、これによって政府も中国やロシアに専念することが可能になるとみている。【3月22日 WSJ】
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【8月に交渉再開 EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答・意見が出そろう 内容は不明】
その後はウクライナ問題で交渉も中断していましたが、8月に再開。ただし、あまり期待値は高くありませんでした。

****米国とイラン、核合意建て直しで間接協議再開 事態打開は望み薄か****
2015年のイラン核合意立て直しに向けた米国とイランの間接協議がオーストリアのウィーンで再開された。イランの国営メディアが4日伝えた。

ただ米国、イラン両政府ともこの協議で事態が打開できる公算は小さいとみている。(中略)

(イラン外務次官)バゲリ氏はツイッターで、ボールは米国側にあると主張した上で、米政府は「成熟した態度を示し、責任ある行動を取るべきだ」と述べた。

一方米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は4日記者団に「われわれはイランが合意に応じるのをいつまでも待つわけにはいかない。合意実現可能という点で残された時間は非常に短くなりつつあるようだ」と語った。

今年3月、11カ月にわたる間接協議を経て両国は核合意の修正版を巡っていったんは大筋で妥結したものの、その後状況が一転。イラン側が米国に革命防衛隊に対するテロ組織指定解除を要求し、米政府が拒否していることで意見の対立が続いている。【8月5日 ロイター】
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交渉はEUを介した間接交渉で行われていますが、「最後の努力の時が来た」とするEUはイランと米国に「明快で決定的な政治決断」を求めました。

そしてEUは、これ以上変更を加えることはできないとする最終文書を提示。
イラン側は“満更でもない”ようにも。

****イラン、要求満たされればEUの核合意再建案受け入れも=国営通信社****
国営イラン通信(IRNA)は12日、イラン外交官の話として、2015年のイラン核合意の再建に向けた欧州連合(EU)の提案はイラン側の主要な要求が満たされる場合に受け入れ可能だと伝えた。

核合意再建に向けた米国とイランの間接協議が終了した8日、仲介役を務めるEUは合意の最終文書を提示したことを発表。EU高官は、文書にこれ以上変更を加えることはできないとし、数週間以内に当事国から最終決定が得られるとの見方を示していた。

IRNAによると、イランのある外交官は政府がEUの提案を検討中だとし、「セーフガード、制裁、保証の問題についてイランに約束するのであれば受け入れ可能だ」と述べた。

イランは核合意の復活に当たり、将来の米大統領がトランプ前大統領のように合意を破棄しないという保証を求めている。【8月15日 ロイター】
*******************:

イランはEU最終文書への回答を示し、「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」とも。

****イラン、核合意再建「最終文書」に回答 外相は「3つの課題」に言及****
イランは15日、2015年核合意再建に向けて欧州連合(EU)が示した「最終文書」に回答した。EU当局者が明らかにした。ただ、詳しい回答内容は明かさなかった。

イランのアブドラヒアン外相は先に「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」との見解を示しており、イランが同意か拒否のどちらを回答したとしても、なお変更の余地があることを示唆した。

外相は「われわれはイラン側のレッドライン(越えてはならない一線)を尊重するよう求めた。われわれは十分な柔軟性を示してきた。合意しても40日あるいは2─3カ月後に現場で実現しないようなものは求めていない」と強調した。

米国側はイラン政府が「本題から外れた」要求を撤回して初めて核合意の再建が可能との立場を示している。イランは同国で検知された未解明のウランの痕跡に関する国際原子力機関(IAEA)の調査の停止や、軍事部門「革命防衛隊」の米国のテロ組織指定解除を求めており、これらの要求が念頭にあるとみられる。

アブドラヒアン外相はまた、「交渉が決裂した場合は米国と同様、われわれには代替案がある」と語った。【8月16日 ロイター】
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アメリカ側はイランの回答を慎重に精査、これに対しイランが「アメリカは「先延ばし」しているといる」と批判する展開も。

懸案となっていた「革命防衛隊」のアメリカのテロ組織指定解除については、イラン側が譲歩を示したようです。

****イラン、テロ指定解除の要求撤回 核協議で対米譲歩****
米国務省のプライス報道官は22日、イラン核合意の再建に向けた米イランの間接協議で、イランが軍事組織、革命防衛隊に対するテロ組織指定解除の要求を撤回したと明らかにした。欧州連合(EU)を仲介役にした交渉の主要争点の一つとなってきたが、イランが譲歩を見せた格好だ。

プライス氏は、EUによる妥結案が不十分だとしてイランが今月提出した追加意見も踏まえ「未解決の相違点がいくつか残っている」とも指摘。イラン核開発の制限内容などについて双方の溝が埋まっていないとみられ、合意に到達できるかは不透明だ。【8月23日 共同】
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そして、アメリカもイランの回答に関しの意見を返答。

****米、イラン側に意見返答=核合意再建交渉めぐり****
米国務省のプライス報道官は24日、イラン核合意再建交渉をめぐり、欧州連合(EU)が示した「最終文書」に対するイランの回答に関し、米政府の意見を返答したと明らかにした。イラン外務省も同日、EUを通じて米政府の意見を受け取ったと発表した。

プライス氏は「米側の精査は終了した」と語ったが詳細については触れていない。イラン側は米政府の意見を慎重に検討した上で、EUに伝える方針。【8月25日 時事】 
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イラン、アメリカ双方の回答・意見の内容は明らかにされていませんが、交渉が“大詰め”段階にあるのは確かです。

****核合意正常化へ米が回答 イラン「慎重に検討」 協議大詰め****
イラン核合意の正常化に向けた米国とイランの間接協議で、イラン外務省は24日、仲介役の欧州連合(EU)が8月上旬に取りまとめた最終文書案に対する米国側の回答を受理し、「慎重な検討を始めた」と明らかにした。ロイター通信が伝えた。

イラン側は既に回答を送付している。文書案と各国の回答内容は公表されていないが、協議は大詰めを迎えた模様だ。

ロシアのウクライナ侵攻で資源エネルギー価格が高騰する中、合意正常化によって、原油と天然ガスの主要産出国であるイランへの経済制裁が解除されると、価格引き下げ要因になるとみられる。

ロイターによると、イラン側は精鋭軍事組織・革命防衛隊を米国の「外国テロ組織」指定から解除せよといった要求を示していたが、最終案への回答では取り下げたという。双方が妥協し、協議が妥結するか注目される。(後略)【8月25日 毎日】
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合意が成立すれば、イラン核開発に対し一定の歯止めがかかり、中東の安定化が図られることになります。
もっとも、イスラエルは合意はイランの核開発を隠す隠れ蓑に過ぎないと見ており、“中東の安定”が直ちに実現される訳でもありませんが。

イランは制裁の一定の解除で、困窮する経済の立て直しを図ることが可能になります。
アメリカは中東の安定で、ロシア・中国対応に専念することが可能になります。ウクライナ情勢を受けて進むイランのロシア接近にも一定に歯止めをかけることができます。

【合意成立・イラン産原油の市場復帰の影響】
また、イラン産原油の市場復帰で、ロシア産原油排除の穴を埋めて原油市場を安定化させることができる・・・ひいては、アメリカ国内のガソリン価格高騰の鎮静化にも・・・との期待も。アメリカ・バイデン政権が合意復帰に取り組んできたのも、その石油の話があってのことでしょう。

ただし、世界経済の景気後退で需要減少を心配しているサウジアラビアなど産油国は、イラン原油の市場復帰で値崩れすることを恐れており、イランが復帰するならその分を減産するという動きもあるようです。

****OPECプラス、イラン産原油の市場復帰に合わせ減産も=関係筋****
石油輸出国機構(OPEC)を主導するサウジアラビアは今週、非加盟産油国も含む「OPECプラス」の減産に触れたが、関係筋によると、直ちに減産に踏み切るとはみられず、イランが核合意再建で米欧と合意し、原油の輸出を再開するのに合わせて実現する可能性が高い。

報道によると、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は22日、先物市場の流動性の乏しさとマクロ経済への懸念を背景とする原油安に対応するため、OPECプラスは減産する用意があると述べた。

9人のOPEC筋によると、9月5日に予定されるOPECプラスの会合はあまりにも時期が近いため減産は見送られると想定され、イラン産原油の復帰によって実際に市場の供給量が増えてから減産が必要となる可能性がある。

関係筋の1人は「OPECプラスは(対イラン)制裁解除後のイラン産原油の市場復帰に準備を整える必要がある」と述べた。

イランの現在の産油量は日量260万バレルで、制裁解除後に最大能力の400万バレルに達するまでに約1年半を要するとみられる。関係筋によると、同国はすぐにでも、貯蔵されている原油の一部売却に着手する可能性がある。

OPECプラスは、7月と8月の増産幅をそれぞれ日量64万8000バレルに小幅拡大することに合意。9月については、米国など主要消費国からの圧力を受けて、さらに10万バレル増産することを決めている。【8月24日 ロイター】
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上記のような減産となれば、イラン産原油の市場復帰でも原油価格は直ちには下がらないかも。それでも産油国と言えども需給バランスに抗する形での価格コントロールは容易ではなく、結局は需給バランスが求める均衡点に落ち着くというのが経済原則でもあります。
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ロシア軍のウクライナ侵攻から半年 各国の現在位置

2022-08-24 23:22:50 | 欧州情勢
(ウクライナ軍によって破壊されたロシアの軍事車両の前で記念写真を撮る人々。独立記念日にあたり、キーウ中心部のフレシャーチク通りに展示された=ウクライナの首都キーウで2022年8月22日、久野華代撮影【8月24日 毎日】)

【徹底抗戦のウクライナ 大統領「停戦の用意はない」 国民も結束 一方で犠牲も増大】
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍の侵攻開始から半年を迎えた24日のビデオ演説で、東部ドンバス地方も南部クリミア半島もウクライナの領土であると改めて訴え、「どんな(に困難な)道のりでも取り戻す。我々の土地を解放せよ。これが我々のシンプルで明確な条件だ」と、改めてロシアに撤退を求めています。

また。23日には、「われわれに停戦の用意はない」とも明言しています。

****クリミア奪還へ手段選ばず 大統領「停戦の用意はない」****
ウクライナのゼレンスキー大統領は23日の記者会見で、ロシアが2014年に強制編入したウクライナ南部クリミア半島について「他国との相談なしに、自ら正しいと決めたあらゆる手段で取り戻す」と述べ、奪還への強い決意を示した。「われわれに停戦の用意はない」とも明言し、紛争解決は一段と困難になった。

ロシアのウクライナ侵攻から24日で半年。ゼレンスキー氏は以前、侵攻前の状況までロシアが撤退すれば停戦交渉の再開が可能だとしていた。クリミアでは8月に入ってロシア軍基地などで爆発が相次ぎ、ウクライナ軍精鋭部隊が関与したとの見方も浮上。緊張が高まっている。【8月24日 共同】
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こうしたロシアとの中途半端な妥協・停戦はないという強い姿勢はゼレンスキー大統領一人の思いではなく、ウクライナ世論とも共通しています。国民の激しい思いに大統領も突き上げられている面も。
ウクライナの98%の人が「この戦争に勝利しなくてはいけない」と結束しているとのこと。

****キーウ在住の編集者が語る「ウクライナの現状」 ロシアの軍事侵略から半年が経過****
キーウ在住で「ウクルインフォルム通信」編集者の平野高志氏が8月24日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによる軍事侵略から半年となるウクライナの現状について現地から語った。(中略)

飯田)(中略)ウクライナの98%の人が「この戦争に勝利しなくてはいけない」と思っている 〜中途半端に停戦したらまたロシアは攻めてくる

飯田)(中略)開戦当初、「早く降伏すべきだ」というような議論が日本で起こりました。8月になり、また戦争忌避の雰囲気が強まったなかで、再びそういう議論が出てきたところもありましたが、ウクライナ国内の人たちはこの先の情勢について、どう思っていらっしゃいますか?

平野)最近、世論調査が出たのですが、ウクライナの98%の人が「この戦争の勝利を信じている。勝利しなければいけない」と思っているのです。(中略)

1つには、ウクライナ軍がウクライナ側の被害を出していないので、自分たちがどれくらい戦争に勝てるのか、あまり正しく判断できない状況にあるということがあります。

6割以上の人が根本的な勝利をしなくてはいけないと思っている
平野)もう1つ、今回の侵攻は2014〜2015年にロシアによる軍事的侵攻があったときに、ロシアとの間で中途半端な停戦をしたことに原因があると思っている人がたくさんいるのです。いま中途半端に停戦したとしても、以前と同様に、しばらくしたら力を蓄えたロシアが、ロシアに都合のいいタイミングで襲ってくることが目に見えているのです。(中略)

ウクライナの人々の間では、クリミアもドンバスも獲り返した形で、「ロシアに対して根本的な勝利をしなくてはいけない」という見方が6割以上にのぼっているのです。(後略)【8月24日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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ゼレンスキー大統領は24日ビデオ演説で、「(侵攻が始まった)2月24日午前4時に新しい国家が出現した。生まれたのではなく生まれ変わったのだ。(その国家は)泣かず、わめかず、ひるまず、逃げ出さなかった」と6カ月間を振り返っています。

見方を変えると、ウクライナ社会には停戦を主張するのはタブー視される雰囲気も。

****「ロシア支配下で暮らすのは奴隷と同じ」…停戦タブー視、ウクライナ徹底抗戦****
(中略)ウクライナの研究機関「ラズムコフ・センター」などが8月5〜12日に実施した世論調査によると、75%以上が領土を奪還するまでの戦争継続を支持し、92%がウクライナの勝利を信じている。

戦争の長期化は、市民生活を苦境に追い込んでいる。7月の消費者物価指数は前年同月比で22・2%上昇した。それでも、停戦を主張するのはタブー視されている。5歳と10歳の娘を持つナタリア・ステパウスカさん(35)は「子供たちのことを考えれば戦争は早く終わってほしい。でも、文句を言っていられない。あらゆる犠牲を受け入れなければ」と言う。

激しい戦火にさらされる地域の住民さえ、徹底抗戦を唱えている。露軍が全域制圧を宣言する南部ヘルソンから8月上旬、7日がかりでキーウに避難してきたビクトル・ブラヒンさん(46)は「ロシア国旗の下で暮らすのは、奴隷になるのと同じだ。だから戦わざるを得ない」と言い切った。

兵士や市民の犠牲は増え続けている。だが、犠牲が増えるほど、停戦は遠のくと見る向きもある。オレクサンドル・ミハイレウコさん(71)は「戦争を止めたい。でも、遺族や負傷兵が何のための犠牲だったのかと言って停戦を許さない。だから勝つまで戦い続けなければならないのだろう」とため息をついた。”【8月24日 読売】
******************

ただ、そうしたなかで戦争による甚大な犠牲と悲しみが膨らんでいます。

****ウクライナ“戦闘長期化”大きな犠牲 最前線で「家族を守った」足を失う若者も…****
24日、ロシアによるウクライナ侵攻から半年を迎えました。戦争が長期化するなか、多くの若者が戦闘で足を失うなど大きな犠牲を強いられています。
   ◇◇◇
キーウ近郊にある墓地では、ロシアによる侵攻後、遺体を埋葬する場所が次々とつくられています。できたばかりのお墓が並ぶ一帯では、墓標に名前や、亡くなった場所も書かれていませんでした。番号だけの墓標が、無数に並んでいました。

国連によると、この半年で市民5587人が亡くなりました。ただ、実際の死者ははるかに多いとの見方を示しています。

命はとりとめたものの、戦闘により大きなケガをする若者も増えています。足などを失った兵士がリハビリをうけている施設では、「患者は増える一方だ」といいます。(中略)

今年3月、戦闘で左足を失ったビタリーさん(26)は、キーウ近郊の町・ブチャで首都攻防の最前線にいました。(中略) 「自分は体の一部を失いましたが、家族を守りました。一番大事なことです」

戦地に赴く若者の多くが、ビタリーさんのように「家族を守るために戦う」と語ります。
その家族は――(中略)「(母親は私の姿を見て)ショックを受けました」(中略)「もちろん泣きました」
   ◇◇◇
大切な人が傷ついていくウクライナの今。私たちは、戦場で戦う家族の帰りを待つ女性に話を聞きました。
ビクトリアさんと、その息子のアンドリーウ君(3)が暮らすイルピンの町も、一時、ロシア軍の激しい攻撃にさらされ、自宅にも戦闘の爪痕が残っています。(中略)

ビクトリアさん 「(夫が前線に向かう時は)2日間、携帯電話の電波も通じず、パニックになってしまいました」
現地は電波の状態が悪いため、夫とは電話ができません。数日に1回、夫から送られてくるメールを待ち続けています。

ビクトリアさん 「(戦地に行った夫からは)『私は大丈夫。愛しているよ。ウクライナは勝つ』『アンドリーウは元気?』(というメッセージが来る)。会いたいからでしょう。メールが来ない時は、夜中まで寝られずに心配しています」「(夫の帰りを)ずっと待っています。すべてが良くなると信じています」

戦闘が長期化するなか、愛する人々の無事を祈る日々が続いています。【8月24日 日テレNEWS】
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長期化する戦闘のなかで、「日常」を取りもどず動きも。
ウクライナのサッカー国内リーグ「ウクライナプレミアリーグ」が23日、ロシアによる軍事侵攻以来、初めて再開しました。ロシア軍の標的となるのを防ぐために、全試合無観客で、シェルターを確保したスタジアムでのみの開催となったようです。

【ロシア 現時点では制裁対応、国民コントロールで成果 長期的には困難も】
一方、ロシアが経済的には欧米の経済制裁にもかかわらず、現時点では一定にこれをしのいでいること、また、プーチン政権はリベラル層が多い大都市などで厭戦ムードが広がることを防ぐために、都市部若者の戦闘への投入を避け、情報をコントロールしていること、そうした対応も一定に奏功していることなどはこれまでも取り上げてきました。

****「軍事作戦」開始から半年、クリミアなどで緊張激化 ロシア国内「自給自足」経済進む****
(中略)プーチン大統領は「一歩ずつウクライナ東部を解放している」と強調していますが、足もとでは制裁や軍事作戦への国民の不安や不満を抑え込むことに注力しています。

「自給自足」型の経済を進め、ここモスクワでは深刻な物不足は感じられず、撤退した外国チェーンの後継店も相次いでオープンしています。

また、国民は戦死者の数に敏感とされますが、3月に1351人が死亡したと発表されて以降、更新されていません。独立系メディアはSNSなどの情報をもとに、少なくとも5507人の死亡が確認できたとし、貧しい地方出身者や少数民族が大半を占めているといいます。リベラル層が多いモスクワなどで厭戦ムードが広がることを避ける狙いも伺えます。

最新の世論調査では作戦を支持する人の割合は76%と依然として高く、政権のコントロールが効いているともいえそうです。(中略)

ただ、長期化に伴い、制裁の影響拡大が予想されるほか、深刻な兵員不足も指摘されています。

そうした中、ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは爆発が相次いでいます。プーチン氏にとって、クリミアは自らの「功績」を示す象徴でもあり、攻防が激化する可能性があります。

さらに、東部や南部の制圧したとする地域では併合をにらんだ住民投票を行う動きもあり、一層緊張が高まりそうです。【8月24日 TBS NEWS DIG】
*******************

****軍事侵攻半年で“ウクライナ疲れ”も? 各国の対応に変化は?****
(中略)
●ロシア軍 深刻な兵員不足指摘も地方から新たに派遣か
(中略)ロシア軍は、深刻な兵員不足が指摘されていますが、プーチン政権は、国民の強い反発が予想される総動員は避けながら、ロシアの地方などで兵士を募集して戦地への派遣を進めているとされています。

また、ロシア側は、掌握したとする東部や南部ヘルソン州、南東部ザポリージャ州などで支配の既成事実化を強め、早ければ、ロシアの地方選挙が行われる来月にも将来の併合をにらんで住民投票を実施する準備を進めているとみられます。

●ロシアでは依然「軍事作戦に高い支持」か
独立系の世論調査機関レバダセンターは、先月下旬ロシア国内の1600人余りを対象に対面形式で調査を行いました。それによりますと、「ロシア軍の行動を支持するか」という質問に対して「明確に支持する」「どちらかといえば支持する」が合わせて76%で、ことし3月と比べて5ポイント下がったものの、依然として高い支持を保っています。

NHKの取材に対し、調査を行った独立系世論調査機関のレバダセンターのデニス・ボルコフ所長は、プーチン政権による軍事作戦への支持が依然として76%と高い支持を保っている背景については「無条件の支持は45%程度で、30%ほどは留保付きで支持するグループだ。作戦は必要なかったかもしれないと答える一方で、大統領が決定を下した以上、支持しなければならないという考えだ。留保付きの支持のうち10%程度は、作戦への反対を打ち明けることを恐れているのだろう」と分析しています。

そして「社会の安定こそがこの先も特別軍事作戦を継続させることにつながる」と述べ、プーチン政権としては、軍事作戦の継続のためにも社会の秩序と安定の維持に懸命になっていると指摘しました。(後略)【8月24日 NHK】
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現在は戦争反対の抗議行動はほとんど見られなくなっていますが、プーチン政権は批判封じ込めを強めています。

****ロシア当局、ウクライナ侵攻批判の政治家を拘束=タス通信****
ロシア当局は政府に対する批判で知られ、エカテリンブルク市長を務めたエフゲニー・ロイズマン氏を拘束した。タス通信が24日報じた。ロイズマン氏はロシアのウクライナ侵攻にも反対している。

タス通信はエカテリンブルク市治安当局の発表として、同氏が「ロシア軍に対する名誉棄損」の疑いで捜査を受けていると伝えた。

ロシアはウクライナ侵攻を自国の安全保障確保のための「特別軍事作戦」としており、侵攻を戦争と表現したりロシアの行動を批判したりした人物を多数捜査している。【8月24日 ロイター】
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ただ、長期的には経済制裁の影響は避けられません。
石油や天然ガスの価格高騰に支えられ、これまでロシア政府は制裁下でも戦費をまかなうのに十分な歳入を得てきました。しかし、欧州向けの石油・ガス輸出は確実に減り、接近する中国やインド向けを増やしても補い切れていないとみられています。

今後、最大の輸出先の欧州連合(EU)は脱ロシア依存を更に進める予定で、ロシア経済への打撃はさらに広がる可能性があります。

また、戦争犠牲の大きさも次第に明らかになっていくと思われます。

【アメリカ ウクライナ支援を継続】
ウクライナの抵抗・反攻を支えているのが欧米の支援ですが(ロシアにすれば、戦争を長期化させている原因)、アメリカは更に支援を強める姿勢です。

****米政府、ウクライナ追加軍事支援発表へ 最大の30億ドル=当局者****
米国はウクライナに対する約30億ドルの追加軍事支援を早ければ24日にも発表すると、米政府当局者が23日に明らかにした。2月24日のロシアによる侵攻開始以降で最大となる。

この支援は、24日のウクライナの独立記念日に合わせて準備されている。

既存の在庫から兵器を提供するのではなく、ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)基金を活用して、業界から調達する。

当局者は今回の支援について、これまでにウクライナ軍に提供されていない兵器は含まれていないようだが、弾薬や防衛システムなどのより中期的な目標に焦点を当てたものになると述べた。

USAIの下で企業が調達する必要があり、兵器が欧州に到着するまでには数カ月かかる可能性があるという。

また、兵器の量や種類が正式発表前に変更される可能性もあるという。

ロシアによる侵攻開始以降、米国がウクライナに提供する軍事支援の総額は106億ドルに達している。【8月24日 ロイター】
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【欧州 対ロシアで域内に温度差 燃料高騰・制裁疲れで揺らぎも 「この冬をどう乗り越えるか」】
一方、欧州はロシアへの対抗姿勢が強いバルト三国やポーランドに対し、ドイツ、イタリア、フランスなどはロシアとの対話も視野に入れており、ロシア対応で温度差があること、ロシアのガスを使った揺さぶりで、今後の市民生活の犠牲増加によっては欧州側に揺らぎが出る可能性もあることは、これまでも取り上げてきたところです。

****ウクライナ侵攻半年 揺れるEU、燃料高騰・制裁疲れ色濃く 対露姿勢で東西の亀裂も****
欧州連合(EU)は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、エネルギー価格の高騰に揺れている。「制裁疲れ」が広がり、ウクライナ支援に手詰まり感が漂う。対ロシア姿勢で西欧と東欧の違いも浮き彫りになり、EUの結束は試練に立たされている。

ドイツの民間機関「キール世界経済研究所」によると、8月3日までにEUがウクライナに拠出表明した軍事、経済、人道支援の総額は162億ユーロ(約2兆2000億円)。独仏、東欧など主要国の2国間援助を合わせても、米国の約445億ユーロ(約6兆円)の半分以下にとどまる。独仏伊などEU主要国からの支援表明は7月、ほぼゼロだった。

EUを牽引する独仏は当初、ウクライナ、ロシア間の和平仲介を目指した。ウクライナが不快感を示し、空振りに終わった。

EU内の対露強硬派であるポーランド、バルト諸国からも不信の目を向けられる始末で、独仏は当面、米国とウクライナ支援で共同歩調をとりながら、出番を探る構えとみられる。

マクロン仏大統領は19日、約3カ月ぶりにプーチン露大統領との電話会談を再開した。ドイツは重火器の供与が遅れていたが、多連装ロケットシステム「MARS」の現着が1日に発表された。

東西欧州の対立は、ロシアの脅威に対する認識の違いに基づく。6月発表の世論調査によると、「ウクライナがロシアに譲歩しても、和平を構築すべき」という意見がイタリアで52%、ドイツで49%にのぼった。これに対し、ポーランドでは16%。「ロシアの敗北だけが、和平への道」と考える人が4割を超える。

紛争長期化は、EU各国の内政にも影を落とす。イタリアでは7月、対露経済制裁を支持してきたドラギ首相が辞任に追い込まれた。中道左派の与党がウクライナへの武器供与を批判し、生活支援の拡充を訴えて、造反に動いたのが引き金になった。

ロシアはEUの足並みの乱れに乗じ、パイプラインを通じた天然ガス供給を削減して揺さぶりをかける。EUは昨年まで、ガス輸入の4割をロシアに依存したため、暖房需要の高まりを前に、ガスの備蓄と省エネに懸命だ。物価高が家計を直撃する中、マクロン氏は、「自由と価値を守るための代価を受け入れてほしい」と仏国民に訴えた。欧州のウクライナ支援の行方は、「この冬をどう乗り越えるか」にかかっている。【8月23日 産経】
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現在は、ウクライナは欧州をなんとかつなぎとめながらロシアと戦い、ロシアは国内に反戦気運が高まらないように配慮しながらウクライナと戦う・・・・といった構図です。

この構図が今後どうなるかは、現地での戦況の変化が大きく影響するでしょう。
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ミャンマー  国連特使訪問も国軍支配正統化に利用される懸念 強まる弾圧のなかで“スーチーカード”も

2022-08-23 22:55:48 | ミャンマー
(ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官(右)と握手する国連のヘイザー事務総長特使=ネピドーで2022年8月17日、国軍提供・AP【8月18日 毎日】)

【無策の国軍支配のもとで物価上昇に苦しむ市民】
コロナ禍やウクライナ情勢の影響もあって、食料・燃料などの物価高騰や貧困に苦しんでいるのはミャンマーだけでなく、世界の多くの国で見られることです。

ただ、ミャンマー軍事政権にそうした市民生活困窮に対応する統治能力がないことも事実であり、市民生活はその苦しみの中に放置されたままになっています。

****ミャンマー、主食米価格4割上昇 政変後の生活直撃****
国軍がクーデターで全権を掌握したミャンマーで物価上昇が加速している。

ミャンマー人の主食であるコメの市場価格は平時より4割高い水準に達した。外貨不足で現地通貨チャットの価値が下落し、日用品や他の食品の値上がり率も大半の品目で2桁以上だ。物価上昇で人々は消費を抑え、景気がさらに悪化する悪循環に陥っている。

店は「掛け売り」対応も
8月上旬、最大都市ヤンゴンの公設市場。「政変を期に状況は完全に変わった。モノは全然売れないのに物価は上がるばかりで、一体どうすればいいのか」。雨季特有の激しい雨が降るなか店番の女性(50)はこう話した。

この店の収入で学齢期の子ども7人を含む13人の世帯を養っているという。「普段の食事から肉を減らして何とかやりくりしている」と明かした。

店の売り上げは政変以前の半分以下に落ち込んだ。買い物客も物価高で困窮しているため、掛け売りにして顧客の給料日まで支払いを待つ。「売上高を確保するには仕方がない」と話す。

ミャンマー中央銀行は公定為替レートを1ドル=2100チャットとしているが、実勢を反映する市中両替商のレートは同3000チャット近くまで一時下落した。チャットの価値は政変前に比べて約半分となり、輸入品の価格を押し上げている。

ミャンマー当局によると消費者物価指数(CPI)は4月に前年同月比17.8%上昇した。世界銀行は2022年度(21年10月~22年9月)のCPI上昇率が15%に達すると予測している。だが直近の生活実感はこれよりも格段に厳しい。

通貨安で物価高、一般世帯向けパーム油は3倍
物価上昇は主食米に広がっている。ヤンゴン市内の米屋によると、主要品種の価格は8月中旬時点で1ビス(ビスはミャンマーの伝統単位で約1.6キログラム)あたり3900チャット(約250円)と、政変前に比べ44%も上昇した。

国内で生産するコメの価格は政変後も比較的安定していたが、6月から7月にかけ急速に値上がりしたという。店主は「こちらが希望する量のコメを仕入れられない」と話す。物流事情の悪化や生産減少による供給停滞のほか、肥料や燃油の高騰が価格を押し上げている可能性がある。

国外からの輸入に頼る食用油の値上がりも顕著だ。一般世帯が料理に使うパーム油の卸売価格は1ビス9400チャットと政変前の約3倍になった。価格統制を試みる当局が8月初旬に設定したパーム油の卸値の「参照価格」は3525チャットだが、ほとんど機能していない。ある小売商は「参照価格で調達できるのは政権に近い人々だけだ」とこぼした。

政変前に750チャット前後だったガソリン(オクタン価95)の価格は8月15日時点で2445チャットまで上昇し、タクシーや物流事業者の営業に影響が出ている。

人口の4割が貧困線以下の生活
零細店舗向けに流通事業を手掛ける日系スタートアップが取り扱う商品の価格をみると、物価上昇が幅広い品目に及んでいる。21年1月から22年8月初旬にかけて食用油は3.2倍、粉末飲料は2倍に値上がりした。非食品では蚊取り線香やろうそくなどの家庭雑貨が2.4倍、洗面用品は2.2倍になった。

現地大手スーパーでの小売価格も一部商品で価格の変動を調べた。21年3月と22年8月では、同一ブランドの食用油が2.5倍、インスタント麺は2.3倍の価格になった。ツナ缶詰は60%、ビールは25%値上がりしている。

今のところスーパーの商品が途切れる事態にはなっていないが、一部の商品は欠品していた。国軍当局が外貨不足で民間企業による輸入量の制限を強めており、その影響が出ているとみられる。

世界銀行が7月に公表した最新の推計では、ミャンマーの人口の4割が貧困線以下の生活を強いられている。物価上昇で人々は生活費を切りつめ、さらなる所得低下を招く。この悪循環をどう断ち切るか、見通しは立っていない。【8月22日 日経】
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【活動家処刑に批判を強めるASEAN】
そうした状況にあっても国軍は民主活動家死刑執行など、民主派への厳しい弾圧姿勢を変えようとはせず、通常は加盟国の内政は問題視しないASEANにあっても、ミャンマー国軍幹部が会議に出席することを禁じるなど、ミャンマー国軍の頑なな姿勢に批判が強まっています。国軍はこれに反発。

****ミャンマー軍、会合締め出しでASEAN非難 「外圧に屈した」****
ミャンマー軍事政権の報道官は17日、東南アジア諸国連合(ASEAN)が同国軍の幹部を地域会合から排除したことについて「外圧」に屈したと非難した。

ゾー・ミン・トゥン報道官は定例会見で「一国の代表が空席であるならば、ASEANサミットと銘打つべきではない」と述べた。

ASEANはミャンマーに対し、昨年合意した5項目の和平計画を順守するよう求めており、軍事政権が民主活動家4人の死刑を執行したことを非難している。

ASEANは、ミャンマー軍幹部が会議に出席することを禁じる一方、軍事政権は政治家ではない代表を派遣する案を拒否している。

軍事政権報道官は、ミャンマーは和平計画の実施に取り組んでいると説明。ASEANは「外圧」に屈し、国家の主権問題に不干渉であるという独自の方針に違反していると述べたが、詳しくは語らなかった。【8月18日 ロイター】
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【初の国連特使も国軍支配正統化に利用される懸念も】
民主派への対応で中心となるのは拘束中のスー・チー氏の処遇です。

****スーチー氏、汚職罪で禁錮6年 ミャンマー裁判所が判決=関係筋****
軍事政権下のミャンマーの裁判所は15日、民主化指導者アウンサンスーチー氏(77)を4件の汚職の罪で禁錮6年の判決を言い渡した。事情に詳しい関係筋が明らかにした。

スーチー氏は、汚職や選挙違反など少なくとも18件の罪で起訴されており、刑期は最長190年近くに及ぶ。スーチー氏はいずれの罪も否認している。

関係筋によるとスーチー氏は15日、保健と教育を促進するために設立した「ドーキンチー財団」の資金を住宅建設のために不正使用し、政府所有地を割引価格で賃貸したことで有罪となった。

首都ネピドーの刑務所の独房で拘束されているスーチー氏は、他の罪で既に11年の禁錮刑を言い渡されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は、スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)にも言及して「これはスーチー氏の権利に対する大規模な攻撃であり、スーチー氏とNLDを永遠に葬り去ろうとする作戦の一部だ」と述べた。(後略)。【8月15日 ロイター】
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16日は国連特使が初めてミャンマーを訪問し、民主活動家の処刑停止やスー・チー氏釈放などを求めています。

****国連特使、ミャンマー国軍トップと会談 死刑執行の一時停止要請****
ミャンマー問題を担当する国連のヘイザー事務総長特使は17日、首都ネピドーで行ったミンアウンフライン国軍最高司令官との会談で、暴力停止のほか今後の死刑執行の一時停止などを要請した。国連特使がミンアウンフライン氏と会談したのは昨年2月のクーデター後初めて。

国連によると、ヘイザー氏は会談で今回の訪問目的を、国連の懸念を伝え、紛争と人々の苦しみを軽減するために必要な具体的措置を提案するものだと説明。「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」と強調した。

刑事裁判中のアウンサンスーチー氏との面会や、スーチー氏を含む収監中の全ての政治犯の釈放も求めた。国連は、ヘイザー氏と国軍幹部が今後も率直な話し合いをすることに同意したとしているが、ミンアウンフライン氏がどう応じたかには言及していない。

一方、ミャンマー国軍側は、国連と「いかに信頼を深め協力を進めるか意見交換した」と発表した。ヘイザー氏は17日に国軍側が外相に任命したワナマウンルウィン氏とも会談。ミャンマー外務省はワナマウンルウィン氏が「国連がミャンマーと協力する際は建設的で実際的な検討が必要だ」と強調したとしている。【8月18日 毎日】
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特使は「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」とはしていますが、国軍側は国連特使ヘイザー氏との会談によって統治の正当性をアピールしたい考えです。

民主派勢力の国民統一政府(NUG)の副外相は「今は適切な時期ではない。国軍を(政権として)認識しないよう細心の注意をすべき時だ」と懸念を示しています。

【再び“スーチーカード”か】
これまで頑なな姿勢を貫いてきた国軍側が、ここにきてスー・チー氏処遇について、やや柔軟対応もにおわすような発言を。

****スー・チー氏、判決後に自宅軟禁に移行も 国軍トップが表明****
ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官は19日、国家顧問兼外相だったアウン・サン・スー・チー氏(77)の処遇について、訴追中の容疑の全てに判決が出た後に刑務所から自宅軟禁に移すことを検討する考えを示した。(中略)

スー・チー氏は昨年、国軍によるクーデターを受け拘束された。その後、収賄や選挙違反など少なくとも18の罪状で訴追され、うち数件ですでに計数年の禁固刑などの判決が出ている。国軍によると、同氏の身柄は今年6月に首都ネピドーの刑務所の独房に移された。同氏は訴追された容疑の全てを否認している。

国営テレビで読み上げられたミンアウンフライン氏の声明は、「この件は全ての判決が出た後で検討する。(スー・チー氏には)強力な容疑を立件していない。もっと強い対応を取ることもできたが、寛大な処分にした」としている。【8月21日 ロイター】
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国連特使との会談が影響しているのかどうかはわかりませんが、あまり大きな期待はしない方がいいかも。
“あいまいな態度で譲歩の姿勢を見せることで、国際社会に対する交渉カードに使う狙いがあるとみられる。”【日系メディア】との指摘も。

スー・チー氏の処遇は、民主化以前の軍事政権時代、スー・チー氏が長年にわたり自宅軟禁されていた時代から、つねに対外交渉用の「カード」として利用されてきました。

国際批判が高まるとスー・チー氏処遇を緩め、国際社会からの批判を軟化させ、しばらくしたら再び軟禁を強めるといったことを繰り返してきました。

仮に、今回スー・チー氏の処遇がやや緩められたとしても、そうした国際交渉の一環であり、弾圧姿勢自体を変えるつもりはないように思われます。

【強まる国軍の弾圧姿勢】
国軍の弾圧姿勢はむしろ強まるようにも見えます。

複数の現地メディアによれば、国軍の統制下にある選挙管理委員会が、国内の全ての政党に対し、外国人と許可なく接触した政党は抹消するとの命令を出したとのこと。この命令によれば、今後は外国人と政治家の面会は許可制となり、面会自体が禁じられたり、当局が政治家の動向を監視下に置いたりする懸念が高まっています。

また、民主派による抵抗運動にとって不可欠なSNSへの統制・制限も強化されています。

****ミャンマー軍政、フェイスブックを制限 自前のSNS設立などで情報戦対策へ****
<民主派の情報があふれるネットを遮断させるためにはSIMカードの課税強化まで>

軍事政権による民主派への強権弾圧が続くミャンマーで、軍政が国内のインターネットの接続制限に乗り出したことが明らかになった。

特にターゲットとしているのがSNSのFacebookで、「しばしば民主派に利用されている」として今後制限を強化するとともにFacebookに代わる自前のSNSを創設する考えを示すなど締め付けを強化する方針だ。

これはゾー・ミン・トゥン国軍報道官が8月17日に明らかにしたもので、反軍政の民主派は「表現の自由」に反する行為だとして反発している。独立系メディア「イラワジ」が伝えた。

ミャンマーでは2021年2月1日のクーデター発生以降、軍政によるメディアやSNSの制限や遮断で民主派の活動、情報発信を警戒する弾圧が続いている。

軍政による人権侵害や市民への拷問、虐殺などの情報、ニュースは独立系メディアによって国内外に伝えられているが、こうしたメディアで働くミャンマー人記者らはタイなどの隣国に逃れて報道を続けるか、国内の国境周辺で軍と戦う少数民族武装勢力の支配地区などに潜伏して活動を続けており、インターネットは「命綱」となっている。

SNSは反軍政の牙城と批判
ゾー・ミン・トゥン国軍報道官はSNS、特にFacebookはクーデター以降、軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官のアカウントを閉鎖し、国軍の公式ページや軍幹部の個人アカウントも次々と閉鎖するだけでなく、軍が所有する企業の広告掲載も拒否している、と批判。

そして「反軍政の勢力が暴力を扇動する重要なチャンネルとなっている」と反軍政の牙城となっていることが明確でこのまま放置しておくのは問題だと指摘している。

「Facebookの掲載基準は一体どこにあるのか、なぜ個人のアカウントや広告掲載を消去するのか」とゾー・ミン・トゥン国軍報道官は疑問を口にして怒りを露わにした。

自前のSNSを設ける方針
そのうえで同報道官は今後Facebookに代わる軍政自前のSNSを創設する方針を示した。しかしいつどのような形で創設するのか詳細には言及せず、早期の実現は難しいとの見方も出ている。

軍政はクーデター以降、インターネットや携帯電話を頻繁に遮断、制限してきた。特に武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力と軍による激しい戦闘が繰り広げられている地域や地方でこうした通信網の妨害を行って反軍勢力の情報交換や連絡を遮断してきた。

さらにFacebookやインスタグラムなどのSNSの監視も強化して、反軍政活動の動画や写真、コメントをアップした人物を特定、電子情報法違反や扇動罪などで逮捕している。

加えて軍政はSNSに接続するために必要な携帯電話などのSIMカードの税金も値上げして市民の購入を難しくするという苦肉の策も講じており、なんとかしてSNSにあふれる反軍政の情報発信を抑え込もうとしている。

情報戦で劣勢の軍の焦り
中心都市ヤンゴンではインターネット接続がしばしば遮断されるが、これが軍政による意図的な妨害の一環なのか、単なる接続会社などの技術的問題なのか判然としない、とヤンゴン在住の日本人は話す。

独立系メディアもインターネット上で軍による無抵抗、無実、非武装の一般市民の拷問や虐殺の惨い写真や映像で実態を暴露するために積極的に情報をアップしている。

さらにドローンを使った軍への攻撃の様子もアップして攻勢をアピールするなど、インターネット上の「情報戦」は民主派が圧倒しているのが実態だ。

このように反軍政の民主派による抵抗運動には携帯電話とインターネットが必要不可欠となっており、今回の措置は、その制限や遮断に本格的に軍政側が乗り出そうとしていることを示している。

クーデターから1年半を経過しても国内の治安安定達成には程遠い状況で、各地で軍とPDFや少数民族武装勢力による戦闘が毎日のように続いていることに対するミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍幹部の焦燥感が表れているのではないかとの見方が有力だ。【8月23日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ウクライナ問題のように世界の関心を集めることはありませんが、ミャンマーなど多くの国で圧制・弾圧に苦しむ市民が多く存在します。

****軍政批判のミャンマー国連大使「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ」****
ミャンマーのチョー・モー・トゥン国連大使は19日、読売新聞のオンライン取材に応じ、ノエリーン・ヘイザー国連事務総長特使が初めてミャンマーを訪問したことについて「国軍に(統治を存続させるために)利用されかねない」と懸念を示した。

国軍による昨年2月のクーデター以前に着任した大使は、軍政への批判を続けている。大使は「国軍は国際社会と向き合っているように見せかける一方、市民を殺害している。特使を受け入れたのは国軍の戦術だ」と指摘。弾圧を止めるには「圧力が必要だ」と述べた。

特使と国軍トップの会談を巡り、国軍側が統治の正統性を示すものだと主張していることには「国際社会はミャンマー国民の声を聞いてほしい」と述べ、軍政を認めないよう訴えた。

大使は、ロシアのウクライナ侵略に関心が集まりがちだが、「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ。国際社会はミャンマーのことも忘れないでほしい」と求めた。【8月20日 読売】
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メキシコ  2014年学生集団失踪事件は「国家犯罪」か 当時の捜査指揮者を隠蔽工作で逮捕

2022-08-22 22:48:37 | ラテンアメリカ
(学生の失踪事件で正義を求めて行進する人々=2015年11月、メキシコ市【8月21日 CNN】)

【殺人事件犠牲者 日本の100倍以上】
メキシコで麻薬組織が関係した死者が非常に多く、メキシコ麻薬戦争とも言われる状況にあることは、これまでも再三取り上げてきました。殺人事件死者数は日本の100倍以上に達しています。

****昨年の殺人犠牲者、微減の3万5625人=「良いニュース」とメキシコ大統領****
メキシコ国立統計地理情報庁は26日、2021年の殺人の犠牲者数(速報値)が3万5625人だったと発表した。

最悪だった前年(修正値)からは1148人減で、ロペスオブラドール大統領は「良いニュースだ。わずかだが減少しつつある」と歓迎した。

ただ、人口規模が近く、320人前後(国連発表)で推移している日本の100倍以上に達している。

殺人発生率は人口10万人当たり28人で、前年から1人減少した。凶器の約7割は銃器。州別で最も多かったのは日本企業が集中している中部グアナフアト州で、4年連続ワーストとなった。

メキシコでは06年以来、治安機関を巻き込んだ麻薬カルテルによる「麻薬戦争」が続いており、犠牲者の多くはカルテル絡みとみられる。【7月27日 時事】 
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毎日100人以上が殺人事件で死んでいるという数字で、日本的常識では想像もできません。ウクライナの死者数もそれほど多くないかも。まさに「戦争」という表現にふさわしい数字です。

もっとも、殺人事件が多いのは中南米に共通した現象で、人口比で言えばメキシコ以上の国は中米の小国に多く見られます。そうした犯罪・麻薬組織が横行し生命の危険が国民の身近にある状況が、この地域からアメリカへの移民希望者が絶えない背景でもあります。

【「麻薬戦争」状態にあるメキシコでも“異常”な事件だった2014年の学生43人失踪事件】
話をメキシコに戻すと、「麻薬戦争」状態にあるメキシコでも“異常”な事件、学生43人が市長指示で警官に襲われ、麻薬組織に引き渡されて「失踪」(多分殺害)するという事件が2014年に起きました。

****メキシコ学生43人失踪、犯罪組織が殺害して燃やして川に**** 
メキシコ南部ゲレロ州の都市イグアラ近くでメキシコ人の学生43人が行方不明となっていた事件で、メキシコのカラム検察庁長官は7日、学生らは市長の命令で警察に拘束された後、犯罪組織に引き渡され、殺害された上、遺体は燃やされ、川に遺棄されていたと発表した。

カラム長官は、これは捜査員らが出した結論だとした上で、DNA鑑定で遺体の身元を確認しないと確かなことは分からないとも付け加えた。ただ、遺体は念入りに燃やされており、DNAの抽出は困難としている。

カラム長官によると、学生らの失踪に関連して逮捕された3人の男が、この学生らと見られる人々の殺害を認めたという。学生らを拘束した警官らは、学生たちをこの3人の男に引き渡した。男らは、麻薬密売組織「ゲレロス・ウニドス」の構成員だという。

同国の捜査当局は4日、事件の「首謀者」とされるイグアラ市のホセ・ルイス・アバルカ市長と妻のアンゲレス・ピネダ容疑者を逮捕した。

犠牲となった学生らの大半は20代男性で、教員を目指して大学で学んでいた。学生らは9月26日、抗議デモを行うためバスや車を連ねてイグアラ近郊に向かっていたが、その後行方が分からなくなっていた。

カラム長官によると、アバルカ市長は警察に学生らが乗ったバスの走行を妨害するよう命じたという。警察は学生らを2度に渡って攻撃。最初の攻撃で3人を殺害し、2度目の攻撃で学生らを強制的に警察署に連行した。その後、学生らはゲレロス・ウニドスの構成員らに引き渡されたという。【2014年11月8日 CNN】
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上記説明は当時のものですが、当時から発表内容は事実とは異なるのではないかという疑惑がありました。“遺体は燃やされ”云々についても疑惑が。

【麻薬組織と政治家・警察の癒着】
市長が学生襲撃を指示した背景は、以下のようにも。

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この日の夕方から、イグアラ市では、市長夫人マリア・デ・ロス・アンヘレス・ピネダの主催する慈善団体の集会とパーティーが行われることになっていた。学生らはこの集会の妨害も企図していたとされている。

当局は、イグアラ市長だったホセ・ルイス・アバルカが、妻のスピーチを妨害されることを恐れて、警察に学生たちの襲撃を命じたとしている。

事件当日深夜、学生43人は警察車両に載せられ、いったん隣町のコクラ警察署に勾留された。これはイグアラ市警の公安部幹部のフランシスコ・サルガド・バジャダレスによる指示とされる。さらに、コクラ警察署の副署長は犯罪組織「ゲレーロス・ウニドス」に「後始末」を依頼したとされる。

この事件でアバルカ夫妻、警察官36人、ゲレーロス・ウニドスのメンバー数人など74人が逮捕された。【ウィキペディア】
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これだけの話でも、地方政治家と現地治安当局、麻薬組織が緊密につながっている状況がわかります。
メキシコ・中南米諸国など犯罪が横行する地域の特徴は、政治と犯罪組織の癒着、政治家・警察が犯罪組織が一体となっている状況があります。

だからこそ、犯罪組織がわが物顔に犯罪を実行できる訳ですが、政治家・警察も犯罪組織に加担するか、さもなくば邪魔者として“消される”という状況もあります。

麻薬組織との癒着(と言うか、一体化)は、地方政治家だけでなく中央政界にも、ときに最高権力者にも及びます。

****ホンジュラス前大統領を逮捕=麻薬密輸容疑、米が引き渡し要求****
中米ホンジュラスの国家警察は15日、任期満了で1月27日に退任したばかりのエルナンデス前大統領を、米国への麻薬密輸容疑で逮捕した。米司法当局が身柄引き渡しを要求しており、今後、最高裁で可否を協議する。


ホンジュラスは南米から米国への麻薬密輸の中継地。国家警察によると、エルナンデス容疑者は2004年以降、南米産コカイン約500トンの米国への密輸に関与していた疑いがある。任期中には麻薬組織に便宜を図る見返りに、巨額の賄賂を受け取っていたとも報じられている。【2月16日 時事】 
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【事件隠蔽への疑惑】
こうした政治風土にありますので、事件の真相についても政権・治安当局によって“隠蔽”されているとの疑惑が遺族側には当初からあり、そうした声を背景に米州機構(OAS)米州人権委員会(IACHR)は2014年11月、事件を解明する目的で、第三者委員会(GIEI)を招集しました。

****第三者委員会報告****
(中略)検察の報告を信頼できないとする学生たちの家族会の期待のもと、第三者委員会の調査結果は2015年9月6日に発表され、予測された通りその結果はメキシコ検察の発表を全面的に否定するものだった。

「学生の遺体はゴミ集積所で焼かれていない」という指摘。該当ゴミ集積所で雨天日に、43人もの死体を完全に焼却することは不可能であると断定された。

メキシコ検察の調査報告書で(意図的にか?)無視された「5台目の長距離バス」の存在があった。

第三者委員会の調査によると、恒常的に麻薬マフィアが長距離バスを使って密かに米国にヘロインを運んでいるという事実がすでに判明しており、且つそのルートは、米国シカゴ市とメキシコのイグアラ市を結ぶものであった。

したがって、検察の調査報告書にわずかに触れられている5台目の長距離バスに麻薬が積まれていた可能性があったとすると、警察とマフィアの学生に対する異様な攻撃が説明できるとする。

すなわち、学生がそれと知らずに麻薬を積んだ長距離バスに乗り込んだ可能性が高く、そのためマフィアおよびマフィアと結託した警察は、このバスがイグアラ市から出ることを阻止しようとした可能性があるという。

(中略)今回の事件は当初考えられたようなアヨツィナパ師範学校の学生達に対する政治的弾圧事件ではなく、麻薬密輸のトラブルと関連があるのではないかと専門家が指摘したことになる。【ウィキペディア】
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この第三者委員会の調査結果にもいくつかの疑問は残るものの、調査に非協力的な当時のメキシコ政権(ペニャニエト前大統領)のもとではこれ以上の進展は困難でした。

メキシコではカルデロン前政権時代、麻薬消費国アメリカとも協力して(麻薬組織に癒着した警察が当てにできないので)軍隊を動員して麻薬組織に力で対抗、麻薬組織と軍の衝突、および麻薬組織間の間の抗争による治安悪化で、推計7万〜11万人とも言われる死者を出す「麻薬戦争」が激化しました。

こうした「戦争状態」に嫌気がさした国民の支持を集める形で2012年に当選したのがペニャニエト前大統領で、麻薬組織との全面戦争による治安悪化を避け、武力中心の麻薬犯罪組織掃討から一般犯罪の取り締まりに治安対策の主軸を移すという対策を掲げました。

ただ、ある意味でペニャニエト政権は麻薬組織と宥和的で、また与党は腐敗・汚職(当然そこには麻薬組織との癒着も含まれます)が横行する体質もありました。

【政権交代で真相解明への動き】
2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件の真相究明に動きが見られたのは、2018年のロペスオブラドール大統領への政権交代後になります。

****メキシコ、学生43人失踪から5年 「国家」の犯罪として再捜査へ*****
メキシコで学生43人が失踪した事件の発生から丸5年を迎え、政府は26日、前政権時代の「メキシコ国家の工作員ら」による犯罪事件として再捜査の実施を表明するとともに、新たな情報に懸賞金を出すことを発表した。

事件は2014年9月26日夜に発生。抗議行動に参加しようとしていたゲレロ州の学生グループが汚職警官に拘束された後、麻薬カルテルに引き渡され、うち43人が姿を消した。この事件は国際社会からの非難を呼び、エンリケ・ペニャニエト前政権の汚点となっただけでなく、5年後の今もメキシコに影を落としている。(中略)

失踪事件をめぐっては、当局による不手際と汚職があったとされ、捜査は難航。今月に入り、拷問による自白の強要をはじめとする不正行為が認められた結果、主犯格とみられる容疑者を含む77人が釈放された。

昨年12月に就任したアンドレス・マヌエル・ロペスオブラドール大統領は、真相究明を担う委員会を設置。さらに、新政権の検察長官は再捜査を「ほぼゼロから」行う計画を発表した。

ペニャニエト前大統領は過去、「メキシコ国家の工作員ら」の犯行であることを強く否定したが、現政権のアレハンドロ・エンシナス内務次官(人権担当)は同じ言葉を使い、事件を「メキシコ国家の工作員ら」による犯罪として捜査すると表明した。

政府は新たな手掛かりに約7万5000ドル(約810万円)の懸賞金を出すと発表。さらに、事件当時の地元警察幹部で主犯格とみられるアレハンドロ・テネスカルコ容疑者の居場所に関する情報には、50万ドル(約5400万円)を支払うとしている。 【2019年9月28日 AFP】
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ロペスオブラドール大統領の上記のような方針があって、ここにきて、ようやく事態が動きました。
当時の捜査責任者が逮捕されることに。

****メキシコ学生43人失踪、元検事総長を逮捕****
メキシコ南部ゲレロ州で2014年に学生43人が失踪した事件で、当局は19日、物議を醸した捜査を主導していたヘスス・ムリジョ・カラム元検事総長を逮捕した。

学生たちはデモに参加するためバスで首都メキシコ市に向かっていたが、汚職警官に拘束された後、対立組織の構成員と間違えられて麻薬組織「ゲレロス・ウニドス」に引き渡されたとされるが、実際に何が起きたのかは議論の的となっている。事件は国民に衝撃を与え、国際社会からの非難を浴びた。

元検事総長は、本件絡みで逮捕された人物の中で最も高位。かつて与党だった制度的革命党の有力者でもあった。

検察によれば、元検事総長の逮捕容疑は強制失踪、拷問、司法妨害。他に軍人20人、行政・司法官5人、警察官44人、ゲレロス・ウニドスの構成員14人にも逮捕状が出されており、いずれも組織犯罪、強制失踪、拷問、殺人、司法妨害の容疑がかけられている。

元検事総長は、2015年に当時のエンリケ・ペニャニエト大統領が発表した調査報告書の考案者とされる。

この報告書によると、麻薬組織は学生らを殺害し、遺体をごみ処理場で焼却したとされる。だが、この調査結果については、遺族だけでなく独立専門家や国連人権高等弁務官事務所も疑問を呈していた。 【8月20日 AFP】
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“事件をめぐっては、政府の真相解明委員会が18日、失踪はゲレロス・ウニドスと複数の政府機関による「国家犯罪」だったと結論付ける報告書を出していた。
ロペスオブラドール大統領は19日、関係者の逮捕と真相解明に向けてさらに調べを進めると表明した。”【8月21日 CNN】

逮捕されたムリジョ・カラム元検事総長は事件の隠蔽工作を主導していたとみられています。
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