孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  危うい米軍撤退・治安権限移譲への道筋

2011-10-31 22:59:58 | アフガン・パキスタン

(10月20日 カブールを訪問したクリントン米国務長官とカルザイ大統領の共同記者会見の様子 クリントン米国務長官はこの日午後にはパキスタンを訪問しています。 タリバンとの戦闘にしろ和解にしろ、タリバンに強い影響力を持つ隣国パキスタンとの協調が不可欠ですが、苛立ちを募らせるアフガニタン・アメリカとパキスタンの関係は最近よくありません “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6273746715/in/photostream

【「米国と国民はより安全になった」】
アフガニスタンの旧タリバン政権が9.11の首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだことからアメリカは2001年10月7日、不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)を開始しました。
攻撃開始から数週間でタリバン政権は崩壊し、順調に運ぶかのように見えたアフガニスタン情勢は再三取り上げているように、タリバンが復活し、“ベトナム化”とも言われるような出口が見えない状況に至っています。

開戦から10年が経過し、これまでにアフガニスタンと諸外国の軍、民間人、武装勢力などの少なくとも3万3877人が死亡したとも言われています。(米ブラウン大学の研究者)
アメリカ国防総省は、米軍では1788人が死亡し、1万4342人が負傷したとしています。【10月8日 AFPより】

アメリカ・オバマ政権はこうした泥沼からの脱出を目指して撤退計画を発表していますが、米軍撤退後の青写真は定かになっていないのが実情です。

****アフガン10年:米大統領、対テロ戦争の成果を強調*****
01年9月の米同時多発テロを機に米国が始めたアフガニスタン戦争から10年を迎えた7日、オバマ米大統領は声明を発表し、国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者らの殺害によって「我々は、これまでにないほどアルカイダとその凶悪なネットワークの打倒に近付いている」と述べ、対テロ戦争の成果を強調した。

大統領は声明で、10年に及ぶ戦争で犠牲になった米兵約1800人のほか、同盟国やアフガニスタンの犠牲者にも哀悼の意を表明。捜査機関などの労もねぎらい、「彼らの貢献に感謝する。米国と国民はより安全になった」と謝意を表した。

09年1月のオバマ政権発足時に約3万2000人だったアフガン駐留米軍は増派を繰り返し、最大時には約10万人に達した。大統領は今年6月、年末までに1万人、来年夏までに総計3万3000人を撤収させる計画を表明し、14年までのアフガン治安部隊(軍・警察)への治安権限移譲を目指している。
大統領は声明で「我々は責任ある形で戦争を終わらせる」と述べ、自らが定めた撤退計画の着実な遂行を改めて強調した。【10月8日 毎日】
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故マスード司令官の拠点でも自爆テロ
米軍撤退後の治安維持を担うアフガニスタン治安部隊(軍・警察)への信頼を失墜させるべく、タリバン側のテロ攻撃が首都カブールやISAF施設で頻発しています。

10月15日には、「国内で最も安全な場所の一つ」とされてきた、北部パンジシール州で自爆テロが起きています。
パンジシール州は、タリバンの宿敵だった北部同盟の故マスード司令官の故郷で、これまでタリバンの活動はほとんどなく、今年7月にアフガニスタン側に治安権限が移譲された地域です。


****アフガン:タリバンが自爆攻撃 「安全な場所」で初****
アフガニスタン北部パンジシール州の北大西洋条約機構(NATO)軍が管理する地方復興チーム(PRT)事務所の入り口で15日、車などを使った連続自爆攻撃があった。ケラム州知事によると、事務所に物資を運ぶ途中のトラックのアフガン人運転手1人が死亡、事務所内にいた米兵は無事だった。死者は2人との情報もある。旧支配勢力タリバンのムジャヒド報道官が攻撃を認めた。

パンジシールは、かつてタリバンと内戦を展開した軍閥集団「北部同盟」のマスード将軍(01年に暗殺)の拠点で、「国内で最も安全な場所の一つ」とされる。北部同盟を支援した米国の01年のアフガン侵攻以来、初の自爆攻撃となった。【10月15日】
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【「50%か、あるいは40%なのか、まだわかる段階にはない」】
そうは言っても、アメリカとしてはアフガニスタン治安部隊に権限移譲していかないとアフガニスタンからの脱出ができません。
10月20日にはクリントン米国務長官がカブールを訪問し、カルザイ大統領と会談、「出口戦略」を確認しています。

クリントン米国務長官は、「和解への努力は続けねばならず、隣国の協力が不可欠だ」と述べ、カルザイ政権とタリバンとの和解を重視する姿勢を示しています。

しかし、“アフガン高等和平評議会の議長だったラバニ氏が先月、タリバーンの使者を名乗る男に殺害され、カルザイ氏はタリバーンとの直接交渉へ向けた努力を打ち切る意向を表明。さらに、アフガン政府はタリバーンに影響力を持つパキスタンの関与を疑い、和解に不可欠な二国間の協力関係は急速に失われている。”【10月21日 朝日】といった現状での和解は困難とも見られています。

クリントン国務長官は27日、アメリカ議会下院外交委員会のアフガニスタンとパキスタンに関する公聴会で証言し、アフガニスタンでは反政府武装勢力に対し、戦闘と話し合い、国家建設という3方法同時進行の戦略で対処していると述べながらも、なお混乱が多いことを認め、現在の紛争の政治的解決の成算は五分五分だとも証言しています。

****アフガン紛争 政治解決50%****
米国務長官、戦闘・対話・国家建設3戦略に混乱

・・・議会では与党の民主党側からも、オバマ政権のアフガニスタン政策が米軍縮小を進めながらも、国際テロ組織アルカーイダと結んだタリバンなど反政府武装勢力の攻撃が絶えないことへの批判が高まっていた。
クリントン長官の証言は議会側のこうした動きに答えることが目的で、オバマ政権がタリバンやその分派とみられるハッカニ・ネットワークに対しまず戦闘によって帰順を目指す戦略をとっていると述べた。長官の証言によると、同ネットワークはパキスタン領内から軍事攻撃をかけることが多く、その方法が米軍やアフガン政府軍を困惑させているという。

だがクリントン長官は、米国代表がごく最近ハッカニ・ネットワークの代表と会合を持ったことを認め、戦闘と交渉を同時に進める混乱があることも認めた。同長官は米国が第2の方法としてタリバンや同ネットワークと話し合いによる政治和解をも目指しているとして、その前提条件はタリバン側が武力攻撃を全面放棄することだと強調した。

同長官は米国が対アフガン戦略の第3として国家や社会の構築を進めていると述べ、通学児童の数の増加などを指摘した。しかし議員側から紛争の平和的な政治解決への可能性を問われると、同長官は「50%か、あるいは40%なのか、まだわかる段階にはない」と答えた。【10月29日 産経】
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「50%か、あるいは40%」という数字は、かなり“希望的”なもののように思えます。
29日には、再び首都カブールでISAFを標的にしたテロが発生しています。
カルザイ大統領は、これまでの7地域に加え、11月初旬にも、新たに治安権限を受け継ぐ地域を発表すると言われていますが、首都で頻発するテロは、こうした撤退計画の危うさを示しています。

****アフガニスタン:自爆テロ 米兵ら17人が死亡****
アフガニスタンの首都カブールで29日、駐留する国際治安支援部隊(ISAF)に対する自爆攻撃があり、ISAFや内務省によると、同隊員13人と市民3人、警官1人の計17人が死亡した。AP通信は隊員13人全員が米兵だったと伝えた。反政府武装勢力タリバンが犯行を認めた。

爆弾を積んだ車がISAFの車列に近づいて爆発した。南部カンダハルでも同日、アフガン国軍の制服を着た男が国軍兵士やISAF隊員に向かって発砲し、同隊員2人が死亡した。東部コナル州でも同日、女が地元当局の事務所への自爆攻撃を仕掛けたが死傷者はいなかった。【10月29日 毎日】
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死亡したISAF隊員13名は、兵士5人と民間の契約要員8人。
この13人のうち兵士1人はカナダ人。契約要員は2人がイギリス人で、残りはアメリカ人とみられています。

オバマ大統領の米軍撤退計画は、大統領選挙を睨んで、有権者へのアピールを狙った色彩が強く、現場の米軍トップの意見とはギャップがありました。よく言えば“政治的決断”でしょう。
マレン前統合参謀本部議長は6月のアメリカ議会証言で「私が勧めた撤退案に比べ(米部隊への)危険度は高い」とも発言しています。

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世界人口70億人  家族計画による出生率コントロール 資源分配を巡る対立激化の懸念

2011-10-30 20:44:04 | 人口問題

(色が濃い国ほど人口増加率が高くなっています。人口減少に転じている日本や、日本以上に人口減少が激しいロシアなどは色が薄すぎて、まるで地図から消えてしまったように見えます。もちろん、人口減少・少子高齢化問題も人口爆発同様、深刻な問題です。 “flickr”より By Digital Dreams http://www.flickr.com/photos/digital_dreams/3902667852/

【「2030年までに第2の地球が必要となる」】
国連の推計によると、世界の人口が明日31日で70億人に達するそうです。
急速な人口爆発は、食糧・水・資源・エネルギーを巡る深刻な対立を招きかねませんが、人口抑制のカギである家族計画については、宗教的な保守派による避妊や中絶へのアレルギーがあって、国際的な取り組みはなされていないのが現状です。

****世界人口10月末で70億人、地球の限界はどこまで****
世界の公式人口はこの4半世紀足らずの間に20億人も増加し、来る10月31日に70億人に達しようとしている。今後も何十億人かの増加が見込まれる中、環境的破滅を回避できる道は唯一、資源利用の革命だけだと専門家たちは言う。

この60年で世界の出生率は約半分に減った。現在、女性1人当たりの子どもの数は平均2.5人だ。しかし、この値は実は国によって大きく異なる。地球人口が最終的に安定するのは90億人なのか、100億人なのか、150億人なのかはアフリカを中心とする人口増加の速い開発途上国にかかっている。

■2030年までに第2の地球が必要?
人類は増加するごとに、地球の資源をむさぼってもきた。米環境NPO、グローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)の試算によると、現在のペースでいけば、人類の欲望を満たし排出物を吸収するためには、2030年までに第2の地球が必要となる。繁栄を支える化石燃料の使用に伴い温室効果ガスも排出し、気候変動によって、われわれの糧を生み出している地球の生態系自体をも破壊しようとしている。

2012年6月に行われる「国連地球サミット」(通称:Rio+20)の調整役の1人、仏外交官ブリス・ラロンド氏によると、人口増加によって、資源の利用方法は根本からの挑戦を迫られている。「2030年までにもう10億人増えるだろう。数十億の貧しい人びとのために、いかに食糧安全保障を向上し、基本的な公共サービスを提供しつつ、それを水や土地、エネルギーの利用を増やさずにできるかが問題だ」

■出生率抑える家族計画が鍵
出生率に歯止めがかかっていることで、世界人口は80億人程度で安定し、ひいては貧困国は救われ、天然資源への負担は減り、気候変動に対する脆弱性も抑えられるのではないかという専門家もいる。
 
自発的な受胎調節が鍵となるという主張もある。米調査研究機関、ウッドロー・ウィルソン国際センター「環境の変化と安全保障プログラム」のディレクター、ジェフ・ダベルコ氏は、女性が避妊手段を得られない場合の例としてソマリアを挙げる。
内戦と貧困に苦しめられながら、現在約1000万人のソマリア人口は、2050年までに2260万人に達すると予想されている。出生率は国別で8番目に高く、1世帯平均の子どもは7人だ。
国連児童基金(ユニセフ)によると、内戦が本格化する以前の段階で、すでにソマリアの子どもたちの3分の1は低体重だった。一方、既婚のソマリア人女性の99%は家族計画に接する機会がない。

一方、解決の道は貧困抑制と教育の向上にあり、特に女性の教育が重要だと主張する経済学者たちもいる。2010年のコロンビアの研究によると、家族計画によって下がった出生率はわずか10%足らずで、出生率低下の大きな要因は、生活の質の向上だった。

■国際会議でタブー化している人口問題
そうした中、地球の未来を形作るはずのさまざまな国際会議では現在、真っ向から人口増加に触れることはほとんどタブーだという。

過激な行動で知られる環境団体「シー・シェパード(SS)」のポール・ワトソン代表は、その変化をこう語る。「ストックホルム会議(1972年国連人間環境会議)に出席した時の1番の議題は、人口増加の制御不能状態についてだった。けれど、1992年のリオの会議(国連環境開発会議、地球サミット)に出た時には、それは議題に挙がらず、もう誰も話題にさえしていなかった」

人口統計に関する議題は同様に、地球人口が60億に達した2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルク・サミット)でも不在だった。「地球の限界は何人か」という問いがなぜ、世界のサミットの場で不在なのだろう。

理由のひとつは、宗教的な保守派による避妊や中絶への反対だ。政治家たちも、頭痛の種にしかならない一方で、実際に起きるのは何十年も先の問題に取り組むことに、利益を見出さないのだろう。
しかし、一部で警告があるように「人口対策」とは、1970年代のインドで実施された強制避妊術や中国の「1人っ子政策」のような過ちと同意語で、男児偏重による人口の不均衡を招きかねない。【10月30日 AFP】
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家族計画と女性の地位
世界人口の今後の推移については、出生率次第ですが、今世紀末までに100億人に達すると見られていますが、出生率如何によっては150億人の可能性もあるとか。

****世界総人口、今世紀末には100億人に 国連白書****
国連人口基金(UNFPA)は26日、2011年版「世界人口白書」を発表し、世界総人口は今世紀末までに100億人に達するとの見通しを示した。出生率が少し上がれば150億人に達する可能性もあるという。

世界総人口は今月31日に70億人に達する。これを前に発表された同白書は、人口学的圧力によって貧困緩和や環境保護の面で非常に大きな課題が生じると警告。英ロンドンで白書を発表したUNFPAのBabatunde Osotimehinディレクターは、「全人類と地球にとって危機的な問題だ。挑戦であり、行動が必要とされる」と訴えた。

白書によると、世界総人口は2050年までに93億人、2100年までに100億人に達する見通し。特に出生率の高い国々で出生率がわずかでも上がれば、2050年に106億人、2100年に150億人に達する可能性もあるという。
一方、教育の改善や避妊技術の普及などで、60年前には女性1人あたり6人だった出生率は、現在では2.5人まで下がっている。それでも、世界総人口は毎年8000万人ずつ増え続けている。【10月27日 AFP】
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“宗教的な保守派による避妊や中絶への反対”については、アメリカでも社会を二分する問題となっており、特に、大統領選挙においても“踏み絵”として保守派から候補者へ突き付けられます。
アメリカがアフリカで支援するエイズ対策についても、宗教右派団体から支援を受けるブッシュ政権が、コンドームの使用より“禁欲”を重視する施策に転じたため、ウガンダなどでは減少していた感染率が上昇に転じた事例もあります。

そうした宗教的要素や中国の“一人っ子政策”のような国家的強制を除けば、家族計画による出生率のコントロールは社会における女性の地位と密接に繋がっています。
人口増加が著しいアフリカでの女性の地位が高まれば、出生率もある程度コントロールされるのでしょうが・・・。

女児の中絶、人身売買などによる“男児偏重による人口の不均衡”の事例は中国・インドだけでなく多くの地域で多々みられますが、これも“女性の地位”と表裏の関係にあります。

****不要」と名付けられたインド人少女150人、一斉に改名届****
インドで22日、両親に「不要」という名を付けられた少女100人以上が、女性差別撲滅に向けた運動の一環として、集団で改名を行った。インドの女性差別は、同国の男女人口比に大きな偏りを生み出している。

インド西部マハラシュトラ州で使われているマラティー語で「不要」を意味する「ナクサ(Nakusa)」と命名された女の子200人のうちおよそ150人が、サタラ地区当局の主導で改名を実施した。
同地区の女性差別に取り組んできた地区保健当局のバグワン・パワル氏は「222人のナクサを見つけた」と、AFPの取材に語った。「彼女たちがナクサと呼ばれた理由は、男児を望む家庭に生まれた2~4人目の女児だったからだろう」

伝統的に、特にインドの貧しい地方部では、結婚の際に新郎側に多額の持参金を払わなければならないため、女児は一家の経済的負担とみなされてきた。
地元の「セーブ・ガールチャイルド」運動を運営するスダ・カンカリア氏は、ナクサと名付けられた少女たちは、名前のせいで自尊心を持てず、気後れし、差別されており、少女たちが自分の娘たちにその不安感を受け継がせる危険性もあると語る。
カンカリア氏は「悪循環を打ち破らなくては。このプロジェクトは、今いるナクサだけでなく将来のナクサたちにも有益だ」と述べた。【10月23日 AFP】
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自分の娘に「不要」という名を付ける感覚は、なかなか日本では理解できないものがあります。

食料生産の過密地域では、すでに水資源は「限界に達した、または限界を突破」している
いずれにせよ、そのペースは別にしても、世界人口は今後も増え続けることは間違いなく、人々の生活水準向上への欲求も合わさって、今後食糧・水の問題が現在以上に深刻化することが予想されます。
これまで世界は“マルサスの亡霊”を技術革新で封じ込めてきましたが、今後もそうした対応が可能でしょうか?

****水資源不足と人口急増、世界食料危機に直面 国連****
人口増加と水資源問題で地球が食料と環境の危機に向かっており、唯一の解決策は農業技術の向上と生態系のより賢明な活用しかないとの報告書を、国連が22日、スウェーデンのストックホルムで開幕した水問題の国際会議「世界水週間」で発表した。

35ページに及ぶ同報告書「水と食料の安全保障への生態系サービス・アプローチ」は、国連環境計画(UNEP)と国際水管理研究所(IWMI)がまとめたもの。複数の査読論文の推計値をもとに見通しを示した。

世界の人口は2011年の70億人から、2050年には最低でも90億人に達すると見られているが、水の需要は多くの国で現在すでに限界に近く、地球温暖化によりますます悪化する見通しだ。
中国北部やインドのパンジャブ地方、米国西部などの食料生産の過密地域では、すでに水資源は「限界に達した、または限界を突破」している。さらに気候変動が、降雨パターンや降雨量を変え、水資源不足に拍車をかけることになる。アフリカ大陸だけで、21世紀末には農業生産が15~30%減少する可能性があるという。

報告書は、現在の農業技術は常に高い収穫量と広大な土地利用に重点をおいているため、このままでは悲惨な結果につながると指摘。収穫量を高める技術革新で、食料不足と環境破壊をともに止めることを呼びかけた。
対策として、降雨量が少なかったり不安定だったりする地域に適した作物を選び、水資源の利用効率を向上させるかんがい技術の導入を提案。また、暑い国々では、降雨のない時季の農家を救うための貯水池が不可欠だと述べ、また、農地周囲への植林は、水の流出を防ぐとともに土壌の湿気を保つことに役立つだけでなく、動物たちの生息する点在した小さな森林を結びつける効果もあるとした。

報告書は、生態系を総合的に管理するよりよいガバナンス、いいかえると、政府と農家、都市生活者、専門家が1つになって、環境で必要な水量のバランスを取ることが重要だと述べた。
そのためにも、自然資源の価値を金額に換算することで、農家と消費者たちが自然保護の必要性をよりよく理解することができるようになると提案。世界の湿地帯の経済価値を700億ドル(約5兆4000億円)と見積もり、そのうち52億5000万ドル(約4000億円)がアフリカにあり、371億ドル(約2兆8000億円)がアジアにあると換算した。【8月23日 AFP】
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“世界の湿地帯の経済価値を700億ドル(約5兆4000億円)と見積もり・・・”というのは、欧州信用不安対策で取り沙汰されている「欧州金融安定化基金(EFSF)を再拡充し、支援に使えるお金を従来の4~5倍の1兆ユーロ(約106兆円)に増やす」といった話に比べると、桁違いに少ない金額にも思えます。

水資源問題については、10月18日ブログ「メコン川流域「ゴールデン・トライアングル」で中国輸送船襲撃  今後深刻化する水資源争奪戦」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111018)でも取り上げたところです。

温暖化対策での先進国と途上国の対立も、限られた資源・環境をどのように配分していくか・・・という問題になります。
日本国内の視点からすれば、国際的規制の枠組みに参加を渋るアメリカ・中国・インドなどの対応は苛立たしいものがあります。
ただ、グローバル・長期的な視点からすれば、「今まで先進国が散々資源を食いつくしておいて、我々途上国が成長する段になると、成長の足かせになる厳しい制約を求めてくるのは手前勝手だ」という主張も、一定に理解できるものがあります。

いつものように長くなりすぎましたので、思い切りはしょりますが、“第2の地球”がない以上、限られた資源を賢明に分かち合う叡智が人類に求められています。
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中国  「文化強国」実現を目指す党中央委員会 2歳女児ひき逃げ事件に見る“倫理観なき社会”

2011-10-29 20:13:56 | 中国

(中国広東省仏山市の路上で今月13日、車にひき逃げされ、通りかかった18人にも放置され、更に別の車にひかれてしまった悦悦ちゃん 21日未明死亡しました。 “flickr”より By TOrebelXTguy http://www.flickr.com/photos/torebelxtguy/6267891426/ )

6中全会:「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認
中国共産党の中央委員会は、18日、中華文化や言語、映画製作などの「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認しました。また、「文化強国」実現のため、2020年までの文化改革発展目標を提起するとしています。

****中国:文化の影響力強化を確認 6中全会閉幕****
中国共産党の重要方針を決める第17期中央委員会第6回総会(6中全会)は18日、「文化体制改革の深化と社会主義文化発展・繁栄に関する決定」を採択し、中華文化や言語、映画製作などの「ソフトパワー」の国内外への影響力強化を確認して閉幕した。

胡錦濤国家主席や温家宝首相ら最高指導部が含まれる中央委員202人と中央候補委員163人が出席。文化をテーマに集中的に議論したのは96年以来で、現指導部が発足した07年以降では初めて。

公表された総会コミュニケでは「ソフトパワーや中華文化の国際的影響力の増強はさらに緊急課題となっている」と分析。「文化強国」実現のため、2020年までの文化改革発展目標を提起するとした。「報道や世論に関する活動を強化」や「インターネット文化の健全な向上」も明記し、報道やネットの規制強化を示唆した。

背景には、政治や軍事面でも国際的な影響力が強まっているものの、中国は欧米の英語中心の文化に後れを取っているとの危機感がある。世界中の報道が欧米メディア発の情報に偏り、中国の関連報道が正しく伝わっていないとの不満もある。

「文化体制改革」の意味について、北京のメディア関係者は「文化の市場経済化を一層進める考えだが、政治や党にかかわるもので管理を緩めることはないだろう」と話した。
総会では、第18回共産党大会を来年後半に開くことも決めた。【10月18日 毎日】
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【「報道番組の増加」と「過度の娯楽化や低俗傾向を防ぐ」】
中国の政治用語は非常にわかりづらいものが多く、政治文書の日本語訳を読んでも理解できないことが多々あります。
「文化体制改革の深化」も何のことかよくわかりませんが、現実面の動きとして“報道やネットの規制強化”が進行しているのは間違いないようです。

****中国:娯楽番組を制限 報道番組は増加…管理強化方針****
中国政府で放送メディアや映画産業を管轄する国家ラジオ映画テレビ総局は、来年1月から衛星テレビの娯楽番組を一定数に制限する管理強化方針を打ち出した。

25日の新華社通信によると、新方針では、国内34の衛星テレビの総合チャンネルについて、「報道番組の増加」と「過度の娯楽化や低俗傾向を防ぐ」ことを明記。午前6時から翌日午前0時までに2時間以上の報道番組を放送し、「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナーを設けるよう求めた。
恋愛関連などの娯楽番組は毎週2シリーズまでとし、午後7時半~午後10時に放送する場合は90分を超えてはならないとした。【10月26日 毎日】
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共産党による管理社会の面目躍如といったところです。

【「世論に関する活動強化」と「ネット文化の健全な向上」】
従来から規制に縛られていることで悪評の高い中国ネット事情ですが、中国版ツイッター「微博」などを含めたインターネット規制がさらに強められるようです。

****中国:メディア統合へ 締め付け強化、ネットも規制****
中国共産党の重要方針を決める第17期中央委員会第6回総会(6中全会、15~18日)で採択された「文化体制改革の深化と社会主義文化発展・繁栄に関する決定」に、通信社やテレビ局など大衆に影響力を持つメディアの整理・統合を進め、管理を強化すると明記されていたことがわかった。国営新華社通信が25日夜、決定の全文を配信した。

総会終了直後のコミュニケでは「世論に関する活動強化」や「ネット文化の健全な向上」とえん曲的な表現だったが、全文では、世論やネット規制の内容に具体的に言及。中国版ツイッター「微博」などを含めたインターネットの規制をさらに強める方針を鮮明に打ち出したものだ。

全文は「ニュース発表制度を改善し、情報の透明度を高める」とする一方、「世論の監視を強化し、報道に携わる者は責任感と職業道徳を持ち、真実で正しい情報を伝えるべきだ」とした。
ネットに関しても「法制や大衆の管理を速やかに進める」とし、「ポルノ情報や低俗な内容は改め、法に基づいて処罰する」と規定。対象となる情報の基準は明示していないが、当局に批判的な内容が含まれるとみられる。

これに関連し、中国各紙は26日、ネット上で「事実と異なる内容を発信した」として、情報を流した人物やサイト管理者が相次いで処罰されたと報じた。
税務当局が所得税に関する規定を改めたとする情報を流した人物が15日間拘束されたほか、中国の戦闘機が墜落してパイロットが犠牲になったと書き込まれたサイトの管理者やその関係者がけん責されるなどした。
6中全会での採択を受けた管理強化策が早くも実行されたものとみられる。【10月26日 毎日】
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【「冷漠社会」の「義を見てせざる勇なき人々」】
一方で、中国社会の現状を反映した事件として最近取り沙汰されているのが、13日、中国広東省仏山市でひき逃げされた2歳の女児(21日死亡)を18人の通行人が放置した事件です。
事件の一部始終が防犯カメラに映っており、保身のため他人のトラブルや困難に関わるのを避けようとする風潮の象徴だとして中国国内で大きな関心を呼んでいます。

この事件については、10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」 『2歳児ひき逃げ事件「我関せず」映す 中国社会にはびこる「義を見てせざる勇なき人々」』(http://news.goo.ne.jp/article/nbonline/world/ecoscience/nbonline-223391-01.html)で詳しく紹介されています。

同リポートによれば、事無かれ主義から危機にある同胞を救助しない中国人に代わって、外国人が“見義勇為”(「義を見てせざるは勇なきなり」)を実践して負傷者を助ける事例が多発しているようです。

仏山市での2歳女児ひき逃げ事件のようなことが起きる社会背景として、南京市で2006年、バス停で転倒して骨を折った女性を病院に運んだ男性が、「押し倒した」として訴えられて一審で約4万5千元(約54万円)の賠償を命じられたという事件があり、これが人々の「転倒した老人を見ても助けるな」といった事なかれ主義を助長していると各紙で報じられています。

北村氏のリポートによると、こうした非常識な老人の存在については
“この主たる原因は中国における高額医療費にある。少ない年金に頼って暮らす老人たちにとっては、転倒による負傷に対して高額な医療費を負担することは難しく、かといって子供に負担させれば迷惑がかかるので、“見義勇為”で助けてくれた赤の他人に責任を負わせて医療費を負担させようとする者が大部分と推測できる。何とも浅ましい老人たちだが、こうした不心得者がいるために、すべての老人が同一視されてしまっていることは悲しい限りである。”【10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」】
とのことです

また、北村氏は、かつての中国人について、自分の経験も照らし合わせて
“中国人とは他人のことも自分のことのように考えて心配するお人好しでお節介な国民性を持つ人々という認識を持ったものである。それは言ってみれば、落語に登場する陽気でお節介な長屋の住人に近いものに思われ、既に日本からは消失したものだった。”とも述べています。

その“お人好しでお節介な”中国人が、拝金主義と事無かれ主義に漬かってしまった背景として、文化大革命による倫理観の破壊をあげています。

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中国も時代が流れ、経済が発展するにつれて、人々が貧しい時代に共有していた相互扶助の精神が失われていっているのだと思うが、中国人が誇りとしていた“見義勇為”の精神だけは失わないで欲しいものである。1966年から1976年まで続いた“文化大革命”は、「封建的文化、資本主義文化を批判し、新しく社会主義文化を創生する」という名目の下、中国の古き良き精神文化までも破壊した。その時代に青春時代を送った人々が親となり、現在はその親に教育を受けた子供たちが社会の中堅となっている。だからこそ、今の中国には“見義勇為”を含む倫理観が欠如しているのであり、道徳教育を通じて人々に相互扶助の精神を植えつけることが必要なのである。考えてもみてほしい、上述した“見義不為、無勇也義(義を見てせざるは勇なきなり)”は『論語・為政編』の言葉なのである。 【10月29日 日経ビジネスオンライン 北村豊の「中国・キタムラリポート」】
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また、ひき逃げ事件を起こした運転手は前輪で悦悦ちゃんをひいた後、3秒間停止し、後輪でもひいているそうです。
“これが故意なら「殺人罪」、物をひいたと思っていたのであれば「過失致死」が適用される。同容疑者は後者を主張した。中国では交通事故で相手にけがをさせて支払う医療費や慰謝料が、死亡させた時の何倍もするといわれており、わざと何度もひいて被害者を死亡させる悪質な運転手が後を絶たない。”【10月26日 Record China】

【「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナー
苦しむ他人に無関心な「冷漠社会」の象徴として中国社会に大きな波紋を残し、今も、何が人々をそうさせるのか、原因を巡る議論はやんでいません。
ネット上の議論だけでなく、23日には、被害女児を悼み、「2度と見殺しはしない」と誓った仏山市の市民らによるデモも行われています。

政府の意を受けたメディアは、事件を糊塗するかのような報道を流しているとも。
“地元紙の南方都市報は23日、川に落ちた女性を助けようとして死亡した元兵士の遺族を広州市幹部が慰問したという記事を1面トップで扱った。中国メディアは、傷ついた国民のモラルへの自信を取り戻そうとするかのように、人助けをした庶民のエピソードをこぞって掲載している。”【10月24日 朝日】

共産党が掲げる「文化強国」は、先ずは拝金主義と事無かれ主義で崩壊した倫理観の再建から始めるべきでしょう。倫理観なき社会に「文化」などは存在しえません。

“「中華民族の伝統と社会主義の核心的価値体系思想」を高めるコーナーを設けるよう求めた”という施策は、管理社会の悪例としてイメージされますが、ひょっとしたら現在の倫理観なき社会の変革に必要なものなのかも。

なお、こうした事なかれ主義は決して中国だけの問題ではなく、日本でも散見されることです。
私自身についても、東南アジアの国々を旅行していると、路上に横たわっている、生きているのか死んでいるのかわからない人を見かけることもありますが、言葉もわからないこともあって、見て見ぬふりを決め込みます。中国社会をバッシングしてすむ話ではないということを、最後に確認しておきます。

なお、浙江省温州では死者40人を出す高速鉄道事故が起きたばかりですが、こんな記事も最近ありました。
****中国の鉄道、悪質な手抜き工事発覚 責任者は素人****
中国吉林省白山の一般鉄道の橋建設工事で、橋脚のセメントに大量の石やがれきを混ぜるなど悪質な手抜き工事が発覚し、工事が中断していることがわかった。地元メディアによると、「元料理人」というまったくの素人が工事責任者を務める孫請け業者が受注していたという。
中国では7月に浙江省温州で死者40人を出す高速鉄道事故が起きたばかり。今回の問題で、鉄道の安全性への不信感がさらに広がりそうだ。

問題の橋は、昨年着工した靖宇県と撫松県を結ぶ約74キロの区間にあり、総工費は23億元(約280億円)。地元メディアによると、建設会社「中鉄九局グループ」が落札し、区間ごとに下請け業者に発注した。このうち1社が橋の工事の一部を元料理人の孫請け業者に発注した。
労働者はみな出稼ぎ農民。本来高い強度が求められる橋脚の材料に、大量の異物を混ぜていた。労働者の1人は中国紙の取材に「ここが開通しても、私なら列車に乗らない」と話した。
この孫請け業者に発注したことになっている江西省の建設会社は「この鉄道建設工事は受注していない。犯罪分子が当社の印鑑を偽造して受注した」と釈明している。【10月24日 朝日】
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トルコ東部地震  政府対応の遅れの背景にクルド人問題があるとの批判  アルメニアとの不協和音も

2011-10-28 20:55:13 | 中東情勢

(トルコ東部ワン(Van)県のエルジシュ(Ercis)での救助活動 少数民族クルド人が多く暮らす地区であったことから、政治的な問題も派生しています。 “flickr”より By PicHunting http://www.flickr.com/photos/ny-insurance/6286565712/

クルド独立派にとどめを狙うエルドアン首相
トルコのクルド人問題については、10月20日ブログ「トルコ  和解の兆しがあったクルド人問題、夏以降対立激化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111020)で取り上げたように、10年10月のエルドアン首相とクルド労働者党(PKK)アブドラ・オジヤラン党首(服役中)との交渉開始、今年6月12日に行われた総選挙での少数民族クルド人勢力の躍進など和解の兆しが見えたのですが、このところはPKKによるテロ、それに対するトルコ軍の報復など、対立が激化しています。

****トルコ軍がクルド人にとどめの一撃か****
トルコ政府はついに、長年トルコからの分離独立を求めてきたクルド人武装勢力を追い詰め始めたようだ。トルコ軍は先週、非合法組織クルド労働者党(PKK)に対し、この3年半で最大規模の攻撃を仕掛けた。直前のPKKによる襲撃で少なくとも24人のトルコ兵が死亡した事件への報復とみられる。

トルコ軍は1万人近い兵力を動員し、イラク領内にあるPKKの拠点に対して地上攻撃と空爆を実施した。「政府は現在、少数民族の権利拡大を盛り込んだ新憲法を起草している。このタイミングで攻撃したのは、クルド独立派にとどめを刺すためではないか」と、米ニューヨーク・タイムズ紙は評した。

ロシアのテレビ局の報道によれば、今もかなりの人数のトルコ兵がイラクに駐留し、トルコ南東部のディヤルバクル空軍基地から戦闘機が数十回にわたって出撃したという。

トルコのエルドアン首相は「越境追跡作戦を含め広範囲に及ぶ攻撃が続いているが、国際法は遵守している」と記者会見でコメントした。この一件に関しオバマ米大統領は、PKKによる攻撃をテロ行為と非難。今後もトルコ政府を支持していくと表明した。【11月2日号 Newsweek日本版】
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クルド人居住区への外国援助隊立ち入りを嫌う?】
このクルド人問題と、トルコ東部ワン近郊で23日にあったマグニチュード(M)7.2の地震による被害が絡んでいるようです。
全容があきらかにつれて、地震犠牲者の数も増加し、現在のところ550人ほどの死者がでていると報じられています。

****トルコ地震:死者550人に 少年108時間ぶり救出****
トルコ政府は27日夜、東部で発生した大地震の死者が550人、負傷者は2300人に達したと発表した。28日未明にはエルジシュで13歳の少年が崩壊したアパートから108時間ぶりに救出された。被災地は冬季に入っており、テント支給などが緊急の課題となっている。

トルコのアナトリア通信によると、27日午後にもエルジシュで、生き埋めになっていた18歳の男性が救出されるなど、地震発生後に救出された人は約190人になる。
AP通信などによると、約2000棟の建物が崩壊、これとは別に約3700棟で居住が難しくなっている。また与党・公正発展党(AKP)の幹部は、被災者は70万人に上り、最大で11万5000張りのテントが必要としている。

23日の地震発生後、トルコ政府は一部の国以外からの支援を断っていたが、テント不足などに批判が高まったことを受け、25日に30余りの国からの支援を受け入れを決めた。【10月28日 毎日】
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被災地は標高1600メートル前後の高地にあり、厳冬期が迫っています。自宅が全半壊した被災者の多くが屋外で避難生活を送っていますが、テントや毛布などの防寒用品が絶対的に不足しており、行政がテントを配ろうとして奪い合う騒ぎも起きていることが報じられています。

****トルコ地震:被災者テント争奪 10時間待ちも****
トルコ東部で起きた地震の被災地エルジシュでは26日、被災者が政府配給のテントの列に殺到、奪い合いに発展して混乱した。中には10時間以上待つ人もおり、被災者の厳しい境遇を象徴している。(中略)

テントの配布場所はエルジシュの軍駐屯地。外の道路沿いに一時、300メートルを超す行列ができた。付近を警戒していた軍や被災者の話によると、政府は25日、配布ルールも決めないままテントを積んだトラックを被災地に送り、奪い合いのけんかが起きるなど大混乱した。このため、各世帯に1張りずつ身分証明書を確認しながら配ることにしたといい、軍の部隊長は「自宅が壊れていなくても、怖くて中に入れない人がいるので全世帯に配る」と説明した。(後略)【10月27日 毎日】
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被害者救済が急がれるなかで、24日にはイスラエルがトルコに支援を申し出たところ、トルコ政府が断ったという報道がありました。
昨年5月、地中海でパレスチナ・ガザ地区支援船をイスラエル軍が強襲し、乗船していたトルコ人9人を死亡させて以来、両国関係は悪化していますので、そうした絡みかと思ったのですが、トルコはイスラエルだけでなく他の国の支援も断っていたようです。

その背景には地震のあった地域がクルド人居住区であり、そうした政治的に敏感なエリアへの外国人立ち入りを嫌ったのでは・・・と見られています。

****外国の震災支援、トルコ消極姿勢 クルド問題の影****
トルコ東部を襲った地震をめぐって、外国からの救援隊の受け入れにトルコ政府が消極的な姿勢を見せている。被災地やその周辺には、少数民族クルド人が多数住んでいるが、救援が遅れれば、クルド住民の不満にもつながりかねない。

これまでに支援を表明したのは日本のほか米国や英国、中国など20カ国以上。しかし、ロイター通信は「いまのところ断っている」という匿名の外務省高官のコメントを伝えた。
トルコ側が受け入れたのは、飛行機で医療チームを派遣したアゼルバイジャンや、陸路で救急車を派遣した東隣イランなどに限られているようだ。

「支援の申し出をありがたく思う。だが、我々は自分たちで対処できる」。エルドアン首相は24日未明、被災地の視察後に記者団に語った。トルコは地震国で救援態勢も充実しているため、周辺国に限って最小限受け入れるという構えのようだ。

その一方、受け入れに消極的な理由として、自治拡大をめざし、被災地に近い山岳地帯で武装闘争を続ける「クルド労働者党」(PKK)との関連も指摘されている。
PKKはクルド人の独立国家を目指し1978年に結成された。84年からの武装闘争で数万人の犠牲者が出た。近年は要求を「自治拡大」に引き下げたが、軍や治安機関に対するテロは継続。18~19日にはトルコ兵24人が死亡する攻撃もあり、軍は掃討作戦に乗り出し、緊張が高まっていた。(後略)【10月25日 朝日】
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しかし、救援物資の不足が深刻化している被災地の状況を受けて、トルコ政府は25日、関係が悪化しているイスラエルを含む外国からの援助受け入れを決めています。

【「地震の対応に銃は必要ない。一体、何を警戒しているんだ」】
こうした対応を含め、クルド人側からは、政府の災害対応が遅れた背景には「少数民族に対する民族差別がある」との批判があります。

****トルコ地震:民族差別で対応遅れ クルド系国会議員訴え****
トルコ東部の地震被災地ワンで27日、地元選出の国会議員で少数民族クルド系の野党「平和民主党(BDP)」副代表、ナズミ・ギュル氏(46)が毎日新聞の単独インタビューに応じた。ギュル氏は最大15万戸のテントや仮設住宅が必要な「危機的状況」を強調、国際社会の支援を呼びかけた。また、政府の災害対応が遅れた背景には「少数民族に対する民族差別がある」と述べ、トルコ政府を批判した。
(中略)
また、クルド人の多く住むトルコ東部の救助活動が「政府の差別的対応により遅れた」と主張。地震当日、エルジシュでは大量の軍兵士が配備されたが、「治安維持活動をしただけで、救助活動を手伝っていなかった」と述べた。99年のトルコ北西部地震では、兵士が直後から救助活動に当たっていたという。

トルコ東部の住民の多くは貧困から、違法建築や安価な泥ブロック造りの住居に住んでおり、それが甚大な被害につながった側面が大きいという。
トルコのエルドアン首相は03年の就任以来、クルド人地域にも道路や大学、病院などを建設し、公共事業を通じて雇用創出を図ってきた。だが農業や酪農以外の産業は育っておらず、住民の政府にする不満は根強い。【10月27日 毎日】
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“エルジシュの物資配給所では住民が長蛇の列を作る横で、ライフル銃を構えたトルコ軍兵士が警備に当たっていた。この様子を見た同市の運転手、ジェンギズさん(45)は「地震の対応に銃は必要ない。一体、何を警戒しているんだ」と皮肉っぽく語った。”【10月28日 産経】といった住民の声もあります。

エルドアン首相は26日、テレビ演説で「(震災発生から)最初の24時間に失敗があった」と認めた上で、「ワンやエルジシュには新しい都市計画を導入する」と、成長が著しい沿岸部に比べて遅れがちだった東部の開発を今後は積極的に進めるとの復興策を約束し、不満解消を図っています。

地震によるクルド人の不満が高まると、クルド人過激派勢力のPKKを一掃し、一方で少数民族の権利拡大を盛り込んだ新憲法策定で一般のクルド人を取り込んでいこうという、エルドアン首相の目論見にも支障が出てきます。

トルコ国内のアルメニア原発事故報道にアルメニア反発
トルコは隣国アルメニアとも長年の確執があります。
オスマン帝国末期、少数民族だったアルメニア人は敵国ロシアへの協力などを理由に迫害され、第1次大戦中に大勢が殺害されました。これを「ジェノサイド(集団殺害)」とするアルメニアに対し、トルコは「アルメニア人だけでなくトルコ人も多数死亡しており、こうしたことは戦乱の中で起きた不幸ではあるが、虐殺ではない」として虐殺を否定しています。

更に、アルメニアが隣国アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州の独立を求めて92年から紛争が激化した際、トルコが同じトルコ語系のアゼルバイジャンを支持し、アルメニアとの関係を断絶、93年には国境も閉鎖しました。

こうした「歴史的対立」を克服すべく、09年10月には、トルコとアルメニアの国交樹立をうたう合意文書への署名にこぎつけました。
トルコは、地域安定への寄与が、悲願のEU加盟を後押しすると期待。また、アルメニアは、トルコ国境の再開による経済発展を狙うという、「実利」を重視する両国政府の現実路線があると見られています。【09年10月10日 毎日より】

しかし、両国の溝は深く、10年4月には、アルメニアのサルキシャン大統領が「トルコは無条件で和解プロセスを進展させる用意がない」と非難、前年10月に結んだ国交樹立協定について、国会批准を凍結する大統領令に署名しています。その後どうなったのかは・・・わかりません。

いずれにしても、両国の冷えた関係は残っているようです。今回の地震についても、アルメニアの原発で放射性物質が漏れたとトルコ紙が報道したことで、アルメニア側は「政治的な目的がある」とトルコを非難しています。

****アルメニアがトルコ非難 「地震で原発放射能漏れ」情報****
・・・トルコ紙が24日、同国原子力庁の話として、アルメニアにあるメツァモール原発が地震で被害を受け、放射性物質が漏れたと報道。これに対し、アルメニア緊急事態省は同日、原発が9月中旬から修理で停止しており、「被害はない」と否定。震源から約160キロ離れている原発がある地域で観測された揺れと比べて十分に耐えられる設計だとした。同国内には地震で倒壊した建物もないという。【10月26日 朝日】
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ナイジェリア  深刻な被害をもたらす原油産出による環境破壊

2011-10-27 22:20:28 | アフリカ

(1977に閉鎖された油井から長年原油がもれ続けていました。ロイヤル・ダッチ・シェル社は04年に20,000バレル以上の原油が流出したことを公表。流出した原油の回収・清掃作業にあたる下請け企業の現地労働者 “flickr”より By dawblog  http://www.flickr.com/photos/44157898@N05/4711530274/ )

子供の頃から「川は黒いもの」】
西アフリカの地域大国、ナイジェリアの話題と言えば、南北の宗教対立(北部のイスラム教徒と南部のキリスト教徒)による住民間の衝突・虐殺、南西部ニジェールデルタの石油産出地帯(ナイジェリアはアフリカ最大の石油産出国です)における反政府勢力による石油施設攻撃に関するものが多いようです。
最近では、「ナイジェリアのタリバン」とも呼ばれているイスラム過激派「ボコ・ハラム(西洋の教育は罪)」によるテロ活動もよく見聞きします。

一般的にニュースというものはネガティブなものが多くなりますが、そうした点を割り引いても、いろんな問題を抱えるナイジェリアです。

きょう目にした記事は、上記の“ニジェールデルタの石油産出地帯”にも関連する、ロイヤル・ダッチ・シェルなど欧米石油資本による乱開発・環境汚染の問題です。

****黒い川、村を破壊=半世紀続く流出油汚染―輸出を優先、住民無視・ナイジェリア*****
黒く濁った川が半世紀の間、ナイジェリアの村々を破壊している。同国南部デルタ地帯はアフリカ最大級の油田だが、欧米の石油企業による乱開発が住民を無視して進められ、流出する黒い油膜で村は次々覆われた。現地から環境保護活動家ディネバリ・バレバ氏(33)が来日し、全国を回って実態を訴えている。

独立前の1950年代から始まった油田開発は、今やナイジェリアの国家歳入の8割を支える。しかし、欧米への輸出を優先し、油田やパイプライン周辺の環境破壊、住民の健康被害は放置されてきた。事態の改善を求めた環境活動家が軍事政権に処刑されたこともある。

デルタ地帯のボド市で生まれたバレバ氏にとって、子供の頃から「川は黒いもの」であり、そこで魚を釣って遊んだ。しかし、増水し畑に黒い水が入り込むと作物は枯れ、農地は使えなくなる。土を処理し肥料を与え畑を再生させても、また浸水する。両親の苦労を見詰めて育った。

大学を出て環境問題に取り組むようになったバレバ氏は2007年、大規模な流出事故に遭遇する。騒ぎを聞いて現場に駆けつけると「パイプラインの亀裂から噴水のように石油が噴き出している」のが見えた。原因は設備の老朽化。しかし「流出を止めるまで3カ月かかり、さらに翌年、同様の事故を再び起こした」と、事故の責任者、英オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルの対応をバレバ氏は強く批判する。

この相次ぐ事故で「流出油から辛うじてボドを守ってきたマングローブの林は死滅」し、汚染は井戸にも及ぶ。「住民はどこへも行き場がない。他に飲めるものはないから、油の浮いた水を飲んでいる」とバレバ氏は窮状を訴える。【10月27日 時事】
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4年間で3000回
原油流出事故としては、アメリカ・メキシコ湾の大規模流出が記憶に新しいところですが、ナイジェリアでは4年間に3000回(!)の原油流出事故が起きているとの報道もありました。

****ナイジェリア、4年間で3000回の原油流失事故が発生****
世界第8位の石油輸出国であるナイジェリアでは、2006年から前月までの間に、少なくとも3000回の原油流出が確認されている。国営ナイジェリア通信が27日報じた。

同日、石油各社の首脳を集めて開かれた会議で、ジョン・オディ環境相が明らかにしたもの。なお、流出量の概算は示されなかった。
オディ環境相は、英エネルギー大手BPの石油掘削施設の爆発に端を発したメキシコ湾の原油流出事故について、被害者補償のための基金が設立されたことに言及。「わが国も同様の試みを検討していく必要がある」と述べた。
また、首脳らに、原油流出問題に関して社員教育や啓蒙活動を徹底するよう求めた。

同国で操業する石油各社は、原油流出事故について、ニジェールデルタで活動する武装勢力の仕業だと主張してきた。こうした勢力は、潤沢な石油収入を地元にも公平に分配するよう強く求めて武力闘争を繰り広げている。【10年7月28日 AFP】
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高濃度ベンゼン汚染水を飲用
こうした、ニジェールデルタにおける原油による環境汚染は国連の“お墨付き”でもあります。
****ナイジェリア・ニジェールデルタの石油汚染は史上最悪規模、国連****
国連環境計画(UNEP)は4日に発表したナイジェリア最大の産油地帯ニジェール・デルタに関する報告書のなかで、同地帯の一角を占めるオゴニランドを数十年にわたり荒廃させてきた石油汚染について、史上最大規模の除去作業が必要だとの認識を示した。
さらにUNEPは、除去作業の費用として10億ドルを拠出するよう、石油産業とナイジェリア政府に求めた。

報告書は、オゴニランドの石油汚染が及ぼす広範囲な影響について2年間、実施した科学的調査の結果をまとめたもので、同地域の再生には少なくとも30年かかると予想した。
報告書によると、オゴニでは少なくとも10の共同体で、飲み水が高濃度の炭化水素で汚染されていた。オゴニランド西部のある共同体の井戸は、世界保健機関(WHO)の基準を900倍以上も上回る高い濃度のベンゼンで汚染されていたにも関わらず、人々はこの水を日常的に飲んでいた。

人権活動家らは、石油汚染の元凶として、1993年に同国から撤退するまでオゴニランドで操業していたナイジェリア史上最大の石油会社、英・オランダ系アングロ・ダッチ・シェル(現ロイヤル・ダッチ・シェル)を強く非難している。
シェルが同地からの撤退を余議なくされたのは、住民らの貧困に加えて、同社のパイプライン建設は環境を軽視したものだとの疑惑がきっかけで、地元で騒乱が発生したためだった。

地元のボド村は、2008年と09年の原油流出事故をめぐり、シェルに損害賠償を求める訴訟を英国で起こしていたが、シェルは今週になって、この流出事故に関する責任を認め、損害賠償することを明言した。
その一方で、シェルは流出した原油量は4000バレルで、オゴニランドの環境破壊の主な原因は、違法な石油精製や(オゴニランドに敷設された)パイプラインからの原油の抜き取りにあると主張している。【8月5日 AFP】
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“油の浮いた水を飲んでいる”【10月27日 時事】とか、上記記事の“世界保健機関(WHO)の基準を900倍以上も上回る高い濃度のベンゼンで汚染されていたにも関わらず、人々はこの水を日常的に飲んでいた。”ということで、発がんなどの健康被害が容易に予想できます。

住民による原油抜き取りと大規模事故、背景には貧困・格差
ただ、ロイヤル・ダッチ・シェルなど大手石油企業を若干弁護すれば、彼らも主張しているように、原油流出・環境汚染は企業側の問題だけでなく、ニジェールデルタの反政府勢力が石油施設を攻撃目標にして、パイプラインなどを破壊していることや、住民らによるパイプラインからの原油抜き取りによる部分もあります。

そして住民による原油抜き取りは往々にして大規模な爆発事故を引き起こしています。
首都ラゴス周辺でも、そうした事故が多発しています。

****ナイジェリアの石油パイプラインで火災、少なくとも45人が死亡****
ナイジェリア当局者が26日明らかにしたところによると、同国の首都ラゴス近郊の石油パイプラインで25日、住民が地中のパイプラインから原油を盗み取ろうとしている最中に引火して火災が発生し、少なくとも45人が死亡した。

ナイジェリアでは国民の9割が1日2ドル以下で生活しているため、大きな危険を冒して原油を盗もうとする者が多く、こうした事故がしばしば発生している。
昨年の12月26日には、別の地域でパイプラインが爆発し、250人以上が死亡した。(後略)【07年12月27日 ロイター】
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06年12月の250人以上の死者を出した爆発事故もラゴス周辺でした。
98年には1000人以上の死者を出す事故も起きています。
ナイジェリアは世界有数の産油国の一つであるにもかかわらず、その利益は一部の者によって独占されており、ナイジェリア国民1億3千万人のうち、そのほとんどが深刻な貧困状態にあります。
そうした貧しい村人たちは、石油を盗むことを生まれながらの権利だと考えているというような指摘【06年12月26日 ヘラルド ・ トリビューン】もあります。

莫大な富と国民の幸せをもたらすはずの石油産出が、ナイジェリアでは利権まみれの政治腐敗、富の格差、更に環境破壊を生んでいます。

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欧州信用不安  EU包括案取りまとめに難航 高まるストレスで、各国首脳間でも不協和音

2011-10-26 22:00:12 | 欧州情勢

(左から、サルコジ仏大統領、キャメロン英首相、メルケル独首相 当然ながら、にこやかな表舞台での表情とは異なり、舞台裏では相当に厳しいやり取りもあるようです。 写真は3月11の会議の模様 “”より By European Council  http://www.flickr.com/photos/europeancouncil_meetings/5517632561/ )

26日の首脳会議は「多くの分野で固まった数字は出てこない方向だ」】
世界経済の今後を左右する「欧州信用不安」ですが、当面の問題としては、きょう26日に開催されるEUとユーロ圏の首脳会議で「包括策」が打ち出されうるかどうかが注目されています。
今のところはまだ、欧州金融安定化基金(EFSF)の再拡充策や、銀行の資本増強
について、各国の意見がまとまっていない状況のようです。

****EU包括案、延期の可能性 ギリシャ債務80%削減案も****
欧州の政府債務(借金)問題の解決に向けて26日に開かれる予定の欧州連合(EU)ユーロ圏首脳会議(サミット)で、解決への「包括策」の具体的な内容が決められない可能性が出てきた。ギリシャの政府債務の損失をどこまで金融機関にかぶらせるかといった交渉が難航しているためとみられる。

ロイター通信は25日、EU関係者の話として、26日の首脳会議について「多くの分野で固まった数字は出てこない方向だ」と伝えた。欧州金融安定化基金(EFSF)の再拡充策や、銀行の資本増強について、それぞれ具体的な額や規模が決まらない可能性が高いという。
当初は首脳会議の前にEU財務相理事会を開き、具体策を詰めるものとみられていた。しかし、EU議長国のポーランドのEU代表部は25日夕、理事会は開かないと発表した。

最大の難問は、民間企業が持つギリシャの政府債務をどこまで削減してもらうかだ。英フィナンシャル・タイムズ紙は25日、EU政策当局者が国債の額面で60%の削減を金融機関側に求めていると報じた。現在価値に直すと75~80%にあたるとされる。当初予定していた21%削減から大幅な変更で、金融機関は簡単には受け入れられないとみられる。

交渉の窓口になっている国際金融協会(IIF)の広報担当者は25日、朝日新聞の取材に「大幅な削減をすれば、(約束通り返済できない)債務不履行(デフォルト)は免れないと考えている。まだ交渉は続いている。いつ最終的な声明が発表できるかわからない」と述べた。【10月26日 朝日】
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「大幅な削減をすれば、(約束通り返済できない)債務不履行(デフォルト)は免れないと考えている」という発言の意味がよく理解できません。
“削減”とは、ギリシャ国債を保有する金融機関に求める元本削減率について、60%程度をより小さい削減率に軽減するという意味合いでしょうか?

いずれにしても、7月に決まった支援策で、民間金融機関が“自発的”に保有ギリシャ債権の21%を減らすことになっています。債務不履行(デフォルト)の定義を「期日通りに元利払いがなされない」と考えれば、ギリシャはすでに7月時点でデフォルトに陥っていると言えます。

ただ、唐突に返済停止を宣言して大きな混乱を招く「無秩序なデフォル」と違い、支援策を伴ったギリシャの状況は「秩序だったデフォルト」・・・ということにもなりますが、それも、元本削減率が60%(現在価値の80%程度)となれば、借金踏み倒し以外の何物でもなく、“自発的”とか“秩序だった”云々もないようにも門外漢には思われます。

ギリシャ支援の財政負担の一段の拡大には、各国とも国民の反発が強く、民間金融機関に負担増を求める方向となっていますが、当然ながら、民間金融機関の反発は必至と思われます。

EFSFの再拡充策「二つの案があり、組み合わせることも含めて検討している」】
また、こうした信用不安はギリシャだけにとどまるものではなく、もし、経済規模の大きいスペインやイタリアに波及した場合を想定して、欧州金融安定化基金(EFSF)の融資能力を拡大する再拡充策が検討されています。

しかし、問題国の財政規律を強く求め、これ以上の救済負担を避けたいドイツと、金融機関への公的資金注入で財政赤字が膨らめば、国債格付けがトリプルAから転落しかねない、ひいてはサルコジ大統領の再選がいよいよ厳しくなるフランスの間で意見がまとまらないようです。

フランスは、EFSFに銀行免許を与えてECBから資金を借りる案を主張していましたが、ドイツはECBの負担増を嫌って反対。サルコジ大統領が19日急遽ドイツを訪問し、メルケル首相と会談しましたが、まとまりませんでした。結局、フランスは主張を取り下げたようです。

****欧州危機:「基金再拡充、2案軸に検討」 EU大統領****
ユーロ圏17カ国は23日、ブリュッセルで首脳会議を開き、欧州債務危機の包括的対策を協議した。焦点となっている欧州金融安定化基金(EFSF)の再拡充策を巡っては、終了後に会見した欧州連合(EU)のファンロンパウ大統領が「二つの案があり、組み合わせることも含めて検討している」と述べた。欧州諸国はさらに調整を進め、26日のEUとユーロ圏の首脳会議での最終合意を目指す。

大統領は2案の内容に言及しなかったが、(1)財政危機国が新たに発行する国債の価格が将来、下落した場合、EFSFが一定の割合で損失補填(ほてん)を保証し、投資家に国債購入を促す(2)ユーロ圏以外の新興国の政府系ファンドなどから資金を集める--を軸に検討しているとみられる。

ユーロ圏首脳会議に先立って開かれたEU首脳会議では、EFSF再拡充策を巡り、フランスはEFSFに銀行機能を与え、欧州中央銀行(ECB)から資金調達を可能にする案を主張していたが、ドイツなどの反発を受け、取り下げた。(後略)【10月24日 毎日】
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【「ユーロは嫌いだと言っていたくせに、今さら我々の会合に首を突っ込むな」】
救済負担増加を嫌う国民世論に配慮せざるを得ないドイツ・メルケル首相、再選が危うくなっている状況で財政危機・信用不安の表面化を避けたいフランス・サルコジ大統領。
更にイギリスでは、EU加盟を続けることの是非を問う国民投票を求める動議が出され、キャメロン首相の身内保守党から多くの造反者が出ています。
イタリアは、スキャンダルまみれのベルルスコーニ首相の手腕が疑問視されており、市場の次のターゲットとなりかねない状況です。

欧州各国首脳のストレスも高まっており、フランス・サルコジ大統領とイギリス・キャメロン首相の厳しいやり取り・・・というか、サルコジ大統領が“キレてしまった”様子も伝えられています。

****ああ、追い詰められた欧州首脳の泥仕合*****
ユーロ危機を引き金とする世界不況の再来だけは回避しなければならない──。そんなプレッシャーにさらされながら、必死で打開策を練る欧州首脳たちのストレスは最高潮に達しているようだ。
最近の彼らの言動は、まるでシーズン終了間近の9月を3勝11敗で終え、プレイオフ進出が絶望視されるメジャーリーグチームの選手のよう。すべての責任をチームメイトに押し付けて、互いに罵り合っている。

ブリュッセルでユーロ圏首脳会議が開かれた10月23日、ニコラ・サルコジ仏大統領はユーロ加盟国でないのにユーロ問題に「介入」し続けるイギリスのデービッド・キャメロン首相に対し、面と向かって「うんざりだ」と言い放った。

さらにサルコジはアンゲラ・メルケル独首相と徒党を組んで、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ首相にも厳しい警告を発した。口先だけの財政改革構想は聞き飽きたから、債務が膨れ上がってユーロ圏第3位のイタリア経済(意外にも輸出は好調だ)が潰れる前に今すぐ行動を起こせ、と求めたのだ。

ベルルスコーニの受難はそれだけでは終わらなかった。欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長と初代EU大統領(欧州理事会常任議長)のヘルマン・ヴァンロンプイからも激しい叱責の言葉を浴びせられた。

イギリスで盛り上がるEU脱退論
英メディアは、サルコジがキャメロンにキレた事件に飛びついている。ガーディアン紙によれば、ユーロ圏首脳会議の最終セッションでは両首脳の議論が続いて2時間が無駄になったという。サルコジはキャメロンに対し、「あなたは口を閉じる機会を棒に振った」と発言。「我々のやり方を批判し、何をすべきか口を出すことにうんざりしている。ユーロは嫌いだと言っていたくせに、今さら我々の会合に首を突っ込むな」

もっとも、ユーロに加盟していないとはいえ、イギリスはEU経済の重要な一部。仮にユーロが破綻してヨーロッパが長期的な大不況に陥れば、イギリス経済も大打撃を受けるのは間違いない。つまり、キャメロンにも口を挟む権利はあるわけだ。(中略)
 
キャメロンはまさに四面楚歌の気分だろう。24日には英下院で、イギリスがEU加盟を続けることの是非を問う国民投票を実施すべきかをめぐる投票が行われた。キャメロンが党首を務める与党・保守党内にもEUへの憎悪に近いユーロ懐疑論が渦巻いており、政府の方針に反して賛成に回る造反議員が続出した。

もっとも、イギリスがEUから脱退するかどうかは問題ではない。ユーロがコケれば、イギリス経済もコケることには変わりないのだから。(後略)【10月25日 Newsweek】
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メルコジの目配せ・忍び笑いにイタリア怒る
今朝のTVニュースでは、メルケル首相とサルコジ大統領が共同記者会見で、ベルルスコ―ニ・イタリア首相について意見を求められた際、二人が目配せして忍び笑いしたことが、イタリアを侮辱しているとイタリア国内で大きな問題になっている・・・とのことでした。

「あなたがベルルスコーニになんて言ったかしゃべっちゃおうかしら?ウフッ」(メルケル)「冗談はよしてくれよ。あんただって、あのろくでなしにきついこと言っていたじゃないか。エヘヘヘ」(サルコジ)・・・といった雰囲気の二人の“目配せ・忍び笑い”でした。もちろん全くの想像ですが。
(改めてYou Tubeの動画で見ると、メルケル首相の方は、やや困惑して苦笑いといったように見えます。サルコジ大統領はニヤニヤしています。)

どこの国でも、国内で自分たちがぼろくそに言っていることでも、同じことを外国の人間に言われるとよい感じはしません。
おおらかなイタリア人も同様のようです。

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ミャンマー  政治犯釈放への評価と不満 日本はODA再開表明

2011-10-25 22:20:06 | ミャンマー

(8月19日 テイン・セイン大統領と会談したスー・チーさん “flickr”より By freeyouth99 http://www.flickr.com/photos/68877352@N08/6257935168/

【「多くを性急に求めすぎないように」】
ミャンマーでは民政移管した後も、国会議員の4分の1は軍人枠で、残りの8割も軍政が母体の連邦団結発展党(USDP)が占めることから、新政権は軍政路線を維持すると見られていました。
しかし、7月にスー・チーさんと新政権が対話を始めて以降、テイン・セイン大統領と民主化運動指導者スー・チーさんのトップ会談、動画投稿サイト「ユーチューブ」などが閲覧可能になるといったメディア規制の緩和、人権侵害の批判を受けてきたダム工事の5年間凍結など、“意外なほど”改革への動きを加速させています。

そうした動きについては、9月30日ブログ「ミャンマー 政治犯釈放の「恩赦計画」も協議対象に 経済制裁解除を求める動きも 」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110930)でも取り上げてきました。
テイン・セイン大統領との会談を行ったスー・チーさんも、9月20日、「テイン・セイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と、その姿勢を評価する発言をしています。

ミャンマー民主化を裏付けるものとして国内民主化運動勢力、国外の欧米諸国などが求めていたのが、上記ブログでも触れた政治犯釈放の案件です。
ミャンマー政府は、10月11日、6359人の受刑者を釈放すると発表、14日までにほぼその釈放が実行されましたが、このうち政治犯は300人程度にとどまるとみられますが、当初期待されていた著名な民主化運動指導者はほとんど含まれていませんでした。

一連のテイン・セイン政権の改革への取り組みは、経済制裁解除やASEAN議長国就任を目的としたアピールと見られていますが、理由は何にせよ、変革が実現することは評価すべきことです。

****釈放、制裁解除が狙いか ミャンマー、国民和解も模索****
ミャンマー(ビルマ)政府が11日、6359人の受刑者を釈放すると発表した。民主化活動家や少数民族の指導者ら政治犯の釈放が多数に及べば、政府側は欧米の経済制裁解除を目指すだけでなく、「国民和解」を視野に入れた改革を模索しているともいえる。

国営テレビは同日午後、「年長者や病人、道徳的ふるまいをしている受刑者らにテイン・セイン大統領が恩赦を与える」と、12日以降の順次釈放を伝えた。
国家人権委員会が、国連や諸外国が「良心の囚人」の釈放を求めていると指摘したうえで「国家の安定に影響を与えないものは釈放すべきだ」と政府に書簡を送っており、政治犯も釈放されるとみられる。

政治犯釈放は、日本や経済制裁を科す米国や欧州連合(EU)が強く求めてきた。2014年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を実現するためにも改革姿勢を示す鍵と見られてきた。国内では民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんも第一の要求に掲げている。戦闘が続く少数民族の指導者らも投獄されており、「国民和解」(テイン・セイン大統領)をアピールするうえでも不可欠といえる。(中略)

米政府は新政府の最近の動きを「変化の風が吹いているのは明らかだ」(キャンベル国務次官補)と評価。ミッチェル特別代表兼政策調整官が9月だけでワナ・マウン・ルウィン外相と3回も会談して新政府の真意を見極める一方、民主化の意思を具体的行動で示すよう求めてきた。
米議会の反対が強い直接投資の解禁など経済制裁の緩和にはさらなる検討が必要としつつも、駐ミャンマー臨時大使の大使への格上げなど具体的な関係改善策で応じる可能性がある。

一方で、政治犯が釈放された場合「より急進的な改革を求める可能性がある」(民主化活動家)との見方もある。ただ、スー・チーさんは9月、AFP通信の取材に、「アラブの春」のような運動がミャンマーで起こることに否定的な考えを示した。反軍政誌イラワジのアウン・ゾー編集長は「民主化を求める人たちはスー・チーさんの意見を尊重するだろう。スー・チーさんは政府とも協力しつつ両者の間に立つ非常に難しい立場だ」と話す。

軍政は2000年代初頭にも軟化姿勢を示したが、その際は穏健派だったキン・ニュン首相(当時)が更迭され、改革路線はついえた。だが、今回は政府の改革を本物と評価して、海外から母国に戻って協力する知識人も出始めている。

ウ・タント元国連事務総長の孫で、歴史家のタント・ミン・ウー氏は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米国を始めとする国際社会に新政府の改革を支援するように訴える一方、「多くを性急に求めすぎないように。現在の変化の代替物は完璧な革命などではなく、昔の状態に戻ることだ」と性急な改革要求は強硬派の巻き返しを招きかねないと指摘した。【10月12日 朝日】
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【「何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる」】
今回の政治犯釈放については、人気コメディアンのザガナル氏ら数人を除き、民主化勢力や少数民族の著名な政治犯はほとんど釈放されませんでした。この点についての不満は当然に内外にあります。

****政治犯釈放は「1割」 ミャンマー、国内外に不満****
ミャンマー政府が恩赦により釈放した政治犯の数は、政府の発表がないまま、国民民主連盟(NLD)など民主化勢力、団体の調査から220~184人とされている。2千人といわれる全政治犯のおよそ10分の1にすぎず、12日の釈放以降は動きが止まっている。このため国内外には不満の声が高まり、政治犯全員の釈放を求める署名運動の動きも出ている。

釈放された政治犯の中には1988年8月の学生らによる民主化要求デモで逮捕、収監されたミン・コー・ナイン氏ら多くの活動家が含まれていない。また、2007年に最大都市ヤンゴンなどで、軍政に抗議する僧侶のデモを指導し今回、釈放されたとみられていたガンビラ師は収容されたままであることも分かった。

このため、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いるNLDは「なお多くが収容されたままで、失望し、いらだちを覚える」と批判。ヤンゴンを拠点にするある団体は、全政治犯の即時釈放などを求め「署名活動を開始し、テイン・セイン大統領に提出する」としている。

海外でも、「まだ多くの政治犯が刑務所にいると確信している」(ヌランド米国務省報道官)として、「すべての政治犯の早期釈放」(国連の潘基文事務総長)を要求する見解が、相次いで表明されている。インドのニューデリーでは13日、ミャンマー人の民主活動家がデモを繰り広げた。

一方、フランス通信(AFP)によると、テイン・セイン大統領は14日までに、労働組合の組織、スト権を一部労働者に認める法律に署名した。新たな「民主化措置」で、これについてはNLDや国連関係者も「前進であることに疑いの余地はない」としている。【10月15日 産経】
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もともと政治犯が何名拘束されていたのか・・・については、上記記事は“2千人といわれる全政治犯”という数字をあげていますが、大統領首席顧問(政治担当)は19日、英BB放送のビルマ語サービスに対し、ミャンマー政府が政治犯と認定している受刑者は約600人で、うち半数は既に釈放されたと語っています。旧最大野党、国民民主連盟(NLD)も政治犯は600人程度と推定しているようです。【10月21日 産経より】

政権側の一連の対応、政治犯釈放をどのように評価するかについては、いろんな意見があります。
****欧米のミャンマー制裁緩和あるか****
・・・13日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は社説で、受刑者の釈放などを「変化は手厚く、速い」と歓迎した。昨年11月のスー・チーさんの解放や、議会のテレビ放送、検閲緩和などの改革が次々に行われてきたことを挙げて、「変化が続き、特にそれが法に盛り込まれるようなら、欧米はゆっくりと制裁緩和を検討すべきだ」と主張した。

ただし、欧米は「みせかけの民主化」にだまされるだけかもしれない。それでもFTは、「何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる。改革者たちは譲歩に対する何の報いも得られなければ、自分たちは孤立しており、強硬派の反撃にもろいと感じるだろう」と指摘した。

国際紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは13日付の記事で、ミャンマーの現体制を「(軍事クーデターが起きた)1962年以来もっとも開かれた組織だ」と称賛する米識者や、「ここ数カ月の一連の変化に驚かされている」とする元米外交官の好意的なコメントを紹介している。

では、実際に制裁緩和へ向けた動きはあるのか。13日付のFTの記事は、「ヤンゴンの欧州連合(EU)高官は、いくつかの条項を緩和することを検討すると話した」と伝え、「米議会による制裁の緩和は困難だろうが、ミャンマーのテイン・セイン大統領(66)の支持者らは、バラク・オバマ米大統領(50)が改革の努力に対して少なくとも象徴的なジェスチャーは見せるだろうと期待している」と分析した。

制裁緩和には、慎重な意見も当然多い。「欧米の外交官らは、制裁緩和のような手段で対応するには、ミャンマーが変化しているというもっと多くの証拠を見たいと言っている」(13日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル=WSJ)。弾圧を受けてきた民主活動家らは「ミャンマー政府は過去、政治犯を解放してもその後また逮捕を繰り返してきた」(WSJ)と話している。【10月18日 産経】
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アメリカ:慎重姿勢ながらも制裁解除に向けた協議も
スー・チーさんは、政権側への民主化要求圧力として、これまで欧米各国の経済制裁継続を主張してきました。
一方、経済制裁によって国民生活が困窮していることもあって、こうしたスー・チーさんの経済制裁にこだわる対応には国内では批判もあるようです。
スー・チーさんは今回釈放について「非常に価値がある」としつつ、20年以上も民主化運動を主導した「88年世代グループ」の主要メンバーらが釈放されなかったことから、改めて「全政治囚の釈放」を要求しています。

アメリカのクリントン国務長官は、政治犯釈放について、「改革の期待を高める兆候だが、反応するには時期尚早」と制裁解除に慎重な姿勢を崩しませんでした。

***米国:ミャンマーに全政治囚釈放を要求****
米国のミッチェル・ミャンマー担当特別代表は17日、米国務省で記者会見し、ミャンマー政府による政治囚の一部釈放について「明るい兆候」と述べる一方、現在の釈放規模では不十分だとして、すべての政治囚を無条件で釈放するよう求めた。

ミッチェル氏は、釈放された政治囚の人数について「調査中」とした。その上で、07年8~9月の民主化要求デモを主導したとして収監されたミンコーナイン氏ら主要な活動家の釈放が重要だとの認識を示した。【10月18日 毎日】
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ただ、上記記事のミッチェル・ミャンマー担当特別代表は、24日、9月に続き2度目のミャンマー訪問を行っています。
“ミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が9月末に訪米し、特別代表らと会談するなど、このところ両国の高官往来が頻繁になっており、米国の対ミャンマー経済制裁解除に向けた協議が進展しているとの見方がある。”【10月24日 読売】と、“経済制裁解除に向けた協議”の動きも出ています。

上記産経記事にあるように、“「みせかけの民主化」にだまされるだけかもしれない”という不安はありますが、“何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる”というのが妥当な判断と思われます。
いたずらに疑いの目をむけたまま、何の譲歩も示さないでいると、せっかくの改革の兆しもしぼんでしまいます。
今後のより大きな改革を促す方向で、経済制裁の緩和など、これまでの改革姿勢に一定に応えるべきでしょう。

日本:「今日の会談を、日本とミャンマーの新しい関係の第一歩にしたい」】
日本政府は、大戦中の対イギリス独立運動への加担などの経緯もあって、従来よりミャンマーとは緊密な関係を維持してきました。軍事政権に対しても、欧米諸国の経済制裁とは一線を画し、要人往来や経済協力による援助を続けてきています。ただし、03年以降は欧米とも協調する形で、人道的な理由かつ緊急性がない援助は停止しています。

ミャンマー新政権の一連の改革姿勢を受けて、欧米諸国に先駆けて政府の途上国援助(ODA)の再開を表明する形で、野田政権はミャンマー支援を明らかにしています。
欧米の経済制裁のなかで、中国への傾斜を強めるミャンマーに対する焦りもあるようです。

****ミャンマーへODA再開を表明 玄葉氏、外相会談****
玄葉光一郎外相は21日、ミャンマー(ビルマ)のワナ・マウン・ルウィン外相と東京都内で会談した。玄葉氏は民主化を支援するとして、政府の途上国援助(ODA)の再開など協力強化を表明。欧米諸国に先駆けて、野田政権はミャンマー支援を鮮明にした。

ミャンマー外相の公式訪問は、1995年以来16年ぶり。玄葉氏は「今日の会談を、日本とミャンマーの新しい関係の第一歩にしたい」と強調した。
日本は「民政移管」で新政権が発足した3月以降に支援の姿勢を強め、数カ月前から水面下で外相来日を打診していた。

中国とミャンマーの関係が深まるなかで、親日国だったミャンマーとの関係を再構築する狙いもある。外務省幹部は「ミャンマーの政権内には中国の影響力が強くなりすぎることを懸念する勢力がある。手を差し伸べたい」と話す。会談では、ODAや貿易・投資など4分野で協力強化を確認。ODAでは、03年に中断したバルーチャン第2水力発電所補修計画など、2件の援助再開方針を示したほか、新規案件を検討する政策協議の開催でも合意した。

ただ新政権の民主化への取り組みは、評価が定まっていない。今月実施した政治犯を含む受刑者の恩赦では、「少なすぎる」という失望が民主化の活動家の間で広がっている。
日本のODA再開に対しても、国民の生活向上への期待がある一方、「早すぎる。さらなる民主化を求めるべきだ」(政治犯支援協会「AAPP」のボー・チー共同書記)との意見もある。
ワナ・マウン・ルウィン外相は会談で政治犯について「テイン・セイン大統領は引き続き適切な時期に恩赦を続ける」と述べた。【10月22日 朝日】
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チュニジア  23日議会選挙投票 台頭が予想されるイスラム主義政党 女性の地位は変わるのか?

2011-10-24 22:06:24 | 北アフリカ

(チュニジア・ケロアン(ケルアン、Kairouan)10月20日 壁に書かれた世俗主義批判の前を歩くチュニジア女性 “flickr”より By European Parliament http://www.flickr.com/photos/european_parliament/6265562223/

イスラム政党「アンナハダ(復興)」が第一党に躍進する公算
ジャスミン革命(1月)でベンアリ政権が崩壊した北アフリカのチュニジアで23日、憲法制定議会(定数217人)選挙が実施されました。新議会は1年かけて新憲法を制定します。
中東の民主化要求運動「アラブの春」で独裁者を追放した国では初めての国政選挙で、その結果はこれから順次民主化・選挙に着手するエジプトやリビアなどにも影響するものとして注目されています。

投票は23日の午後7時(日本時間24日午前3時)に締め切られましたが、選挙管理委員会によると、目だった騒動の報告はなく、投票率も予想を大きく上回り、事前に投票登録をした410万人中、90%以上が投票したとのことです。【10月24日 AFPより】

****制憲議会選 チュニジア、民主化先陣 217議席に1万人超****
 ■イスラム勢力躍進か
今年1月にベンアリ前政権が大規模デモで崩壊した北アフリカのチュニジアで23日、制憲議会(定数217)選が実施された。
「アラブの春」と呼ばれる民主化運動の発端となった同国に続き、政権が倒れたエジプトやリビアでも今後、議会選が予定される中、自由で公正な選挙を実現し民主化プロセスの「モデル」を示せるかに注目が集まっている。

ロイター通信などによると、首都チュニスの投票所ではこの日、投票開始の午前7時前から有権者が数百メートルの列を作った。
同日夜の投票終了後、即日開票され、24日にも大勢が判明する見通し。
世論調査によれば、前政権下で非合法化されていたイスラム政党「アンナハダ(復興)」が第一党に躍進する公算が大きい。

もともと世俗主義的な傾向が強いチュニジアではここのところ、イスラム勢力が急速に台頭。一部の急進派はシャリーア(イスラム法)の導入を求めるデモを行って当局と衝突するなど、緊張も高まっていた。
こうした状況に危機感を強める世俗派の主要政党、民主進歩党(PDP)は、他の世俗派政党と連合を組みアンナハダなどのイスラム勢力に対抗するとしているが、アンナハダが議会での主導権を握るのは確実な情勢だ。

2月にムバラク政権が崩壊したエジプトでは11月28日に人民議会(下院に相当)選が始まるほか、かつての最高指導者カダフィ大佐が死亡したばかりのリビアも8カ月後に制憲議会選を予定している。両国でもチュニジア同様、イスラム勢力の伸長が目立っており、その意味からも今回の選挙は、地域の行方を占う試金石となりそうだ。

制憲議会は、新憲法制定のほか、近く退任するメバザア暫定大統領の後任の選出、新たな暫定政府発足に向けた協議などを行う。
選挙は、国内の27選挙区、在外チュニジア人の6選挙区の計33選挙区で、各党や会派が提示する立候補者名簿を選ぶ比例代表制。100以上の政党が登録し、約1万1千人の立候補者のうち約半数は女性という。有権者登録をした18歳以上の約720万人に投票資格がある。【10月24日 産経】
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【「近代体制とイスラムのバランスを追求する」】
上記記事にあるように、政治と宗教の関係が選挙の主な争点となっています。
****チュニジア:23日、憲法制定議会選挙実施*****
・・・・チュニジアはイスラムが国教だが、世俗主義をとってきた。しかし「革命」の中核を担った世俗派の中間・低所得者層は「革命」後に組織化が進んでいない。一方でイスラム主義勢力が台頭しており、世論調査によると穏健派イスラム政党「アンナハダ」が最大の20%の議席を獲得し議会の主導権を握りそうだ。

アンナハダは89年に非合法化されたが、今年1月に合法化され、指導者のガンヌーシ氏は亡命先の欧州から22年ぶりに帰国した。英BBC(電子版)によると、ガンヌーシ氏は「近代体制とイスラムのバランスを追求する」と訴え、男女平等の尊重を公約した。ただアンナハダはイスラム原理主義組織ムスリム同胞団を母体としており、世俗派からは、「イスラム国家を目指している」と批判もある。

逆にベンアリ前大統領が率いていた最大与党の「立憲民主連合(RCD)」は解党された。ベンアリ氏の有力後継者とみられたモルジャネ元外相は、RCD元幹部たちを中心に新党「進取」を結成し、経済成長の実績を訴えている。しかし、旧体制に対する有権者の反発は強く苦戦している。【10月21日 毎日】
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【「このままでは、革命が盗まれてしまう」】
そうしたなかで、ジャスミン革命を担った若者たちには当時の熱気・高揚感はない・・・とも報じられています。
有権者登録は55%にとどまったとも。
革命後、新たな体制の受け皿としての若者たちの組織化が進展せず、結局、イスラム主義勢力と旧与党関係者など旧勢力の間で選挙戦が戦われた・・・という状況です。

****アラブの選挙、デモの高揚感なし チュニジア・エジプト****
「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアで23日、制憲議会選挙が行われる。11月にはエジプトでも総選挙がある。しかし、長期独裁政権を崩壊させた大規模デモの中心にいた若者たちに当時の熱気は感じられない。躍進しそうなのはイスラム政党だ。

■若者「革命が盗まれる」
チュニス市内では各地に選挙ポスター掲示場が設けられ、市民がのぞき込んでいく。1月の「ジャスミン革命」後、初めて実施される民主的な選挙だ。だが、市民に高揚感はうかがえない。

「部族関係者や旧与党関係者が看板を書き換えて立候補し、イスラム主義者と争っている。投票したい政党がない。私たちは自由な新しい社会をつくろうと立ち上がったのに、このままでは、革命が盗まれてしまう」
逮捕を覚悟でベンアリ政権への批判をネットで発信し続け、今年のノーベル平和賞候補者として名が挙がったリーナ・ベンムヘンニさん(28)はそう語り、選挙から距離を置く。選挙は棄権を考えているという。
 
ュニジアでは、若者たちが「政権打倒」の一点で団結し、デモの中核を担った。だが政権崩壊後、若者たちは求心力を失って分裂した。有権者登録はすでに締め切られたが、登録を済ませたのは選挙権のある18歳以上のうち55%にとどまった。

11月28日から3段階に分かれて総選挙が行われるエジプトでも分裂は進んでいる。デモの中核を担った若者グループは、選挙に立候補しようとするものや、市民団体として政府の監視を続けようとするものに分かれた。さらに「政治参加組」も路線対立でいくつもの新党に細分化した。
若者グループの一つ「4月6日運動」の共同創設者アフマド・マヘルさん(30)は「みんな、ムバラクという共通の敵がいたから団結できたが、ムバラクを倒した後にどうするか、考え方はバラバラだった。分裂が起きるのはある程度、仕方ない」と話した。【10月19日 朝日】
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モデルとするのはトルコ
新議会の主導権を握ることが予想されている穏健派イスラム政党「アンナハダ」のめざすモデルは、穏健イスラム主義で現実路線をあゆみ、欧米とも協調する形で経済成長を実現しているトルコ・エルドアン政権です。
そのあたりの状況はエジプトとも共通しています。

****伸びるイスラム政党****
チュニジアでは、政党などがつくる「候補者リスト」に投票する仕組みの比例代表制で制憲議会選が行われる。111の政党が認可されるなか、9月下旬にチュニジアの地元紙とドイツの研究機関が合同で行った世論調査で25%の政党支持率を集めて1位となったのは、イスラム政党のナハダだった。

ナハダは穏健派イスラム政党で、ベンアリ政権時代は非合法化されていた。政権崩壊後に合法化され、英国に亡命していたガンヌーシ党首が帰国した。政治ジャーナリストのカマル・アビディ氏は「弾圧に耐えたという庶民の評価が高いうえ、活動家を各地に抱える政党はナハダのほかにない」と語る。

エジプトでも、ムバラク政権時代に最大の野党勢力だったムスリム同胞団が結党した系列の「自由公正党」が第1党に躍り出る勢いだ。支持率は複数の世論調査で首位に立つ。

両党が今、モデルとするのは、穏健派イスラム系政党「公正発展党」が与党となり、順調な経済発展を続け、中東外交で強い影響力を発揮しているトルコだ。両党はそれぞれ、現実路線を強調し、欧米のほか国内にも根強い、イスラムの政治への介入に対する警戒感を振り払おうと躍起になっている。

だが、イスラム政党がシャリーア(イスラム法)の導入や女性の地位などを巡って復古的な動きをしかねないとの警戒感は、宗教と政治の分離を求める層や若者らの間で強く、選挙結果によっては社会の緊張が高まる可能性もある。【10月19日 朝日】
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立候補者のうち約半数は女性
革命の高揚感の低下、進まない受け皿づくり、イスラム主義の台頭・・・は、これまでも報じられてきたことですが、冒頭【10月24日 産経】で一番印象に残ったのは、最後の“約1万1千人の立候補者のうち約半数は女性”という箇所でした。

チュニジアにおける女性の地位はアラブ諸国の中にあっては高く、社会進出も進んでいるということは以前から聞いていました。そうした女性の地位が高く、識字率も高いという社会状況が、「アラブの春」実現の背景にあったとも言われています。
“立候補者のうち約半数は女性”ということが、こうしたチュニジア社会における女性の地位を物語っているように思えました。

チュニジアでは1957年以来、女性の投票権が認められています。
女性の権利は、ハビブ・ブルギバ元大統領(87年、無血クーデターで、当時首相だったベンアリ前大統領にとって代わられました)のもとで着実に認められてきました。
例えば、家族計画における女性の権利が保証されるなかで、出生率は2.0ぐらいに低下してきています。

2007年の著書『文明の接近』で予言したとも言われているエマニュエル・トッド氏は、出生率の低下や識字率の向上という変化によって、アラブ革命は起きるべくして起きたと論じています。
むしろ、チュニジアのような国でなぜ今まで民主化が起きなかったのか・・・ということの方が疑問に思われるべきところで、その理由はチュニジアに多かった内婚制にあるとしています。

****チュニジア、エジプト、リビア アラブ革命が起きたわけ****
出生率が下がり、識字率が上がれば政治的な変化が起こる

私が分析をしたところでは、イスラム世界は2007年頃から既に非常に大きな変化が起こっていました。出生率が2.0を切る、3.0以下に落ちているという現象が見られたのです。チュニジア、エジプトなどです。かつてフランス植民地だったアルジェリアやモロッコでも、2.3とか2.4とか、3を下回っていました。また、旧ソ連のイスラム諸国でもやはり下がってきました。さらに中央アラブ諸国、すなわちシリア、ヨルダン、サウジアラビアなどは3~4ですね。それに対してイエメンは5〜6人の子供を一人の女性が生んでいたわけです。同じアラブ世界でも出生率にはばらつきがあります。そうした変化の中で、出生率が下がったところからメンタリティが変わり始めました。

出生率の低下は、人々の頭の中が急速に変化することを示しています。また識字率が上がったことの反映でもあります。特に女性の識字率の上昇というものが出生率の低下と結びついています。普通は男性の識字率の方が先に上がりますから、女性が上がれば当然男性も上がっている。出生率の低下は、結局、男性も女性も識字率の上昇を示しているのです。

次に私はこのイスラム世界における出生率の低下、そして識字率の上昇、そういったことが政治的な状況と比較した場合に、正常な動きをしているかどうかということを考えました。例えばチュニジアの場合、出生率が下がってきた、識字率が上がってきた、若者の識字率は90%近くになっていました。それは近代化や民主化が始まるとされる50%をはるかに超えているわけです。これほど識字率が高くなると、普通は政治的ななにかが起こるものです。識字率の上昇は民主化を牽引し、大衆が政治の世界に踏み込むことになるのです。

当時私は、チュニジアほど識字率の上がった国で何も起こらないのは何故かという疑問を持っていました。何故チュニジアの体制が維持され続けるのか。私がたどりついたのは、アラブ世界には近代化を阻害する要因が他にあるという結論でした。いわゆる内婚制の家族制度です。(後略)【ダカーポ http://webdacapo.magazineworld.jp/top/feature/62663/ より】

今回の選挙、イスラム主義政党の台頭によって、チュニジアの女性の地位が制約を受けることになるのか、あるいは、女性の地位という普遍的な価値観とイスラムがうまく融和できるのか・・・注目されます。
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リビア  カダフィ大佐殺害 主導権争いで難航が予想される政権移行プロセス 懸念される武器流出

2011-10-23 20:08:00 | 北アフリカ

(拘束直後のまだ生存しているカダフィ大佐を映したものとしてネット上に投稿された映像 “flickr”より By DTN News  http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6267525833/in/photostream )

NATO:カダフィ大佐が車列にいたことは知らなかった
当初の予想より時間を要しましたが、報道されているようにリビアのカダフィ大佐が殺害され、リビア情勢はひとつの節目を迎えています。
殺害の状況については、さだかでない部分もありますが、おおよそは下記のように報じられています。

****カダフィ氏の最期「息子たちよ、殺さないで*****
空爆に追われ、逃げ込んだ下水管で拘束され、その後銃撃――。リビアのカダフィ氏が死亡した経緯が、次第に明らかになってきた。

現地からの情報によると、カダフィ派が立てこもっていたシルト西部の地域から複数の車列が出ようとしたのは、20日朝のこと。そのうちの1台にカダフィ氏が乗り込んでいた。
北大西洋条約機構(NATO)の説明によると、現地時間20日午前8時半ごろ、シルト郊外で軍用車両約75台からなるカダフィ派の一団をNATOの爆撃機が確認。市民を攻撃するのに十分な数の武器を携えていたため攻撃を加え、計11台を破壊したという。ただ、NATOは21日、「後で加盟国の情報当局から聞いた」とする声明を出し、カダフィ氏が車列にいたことは知らなかったとしている。

その直後、反カダフィ派部隊が小型ロケット砲などで3時間にわたり車列を攻撃し、激しい戦闘となった。このため、カダフィ氏は近くの下水用の穴に逃げ込んだ。間もなく、反カダフィ派部隊がカダフィ氏を見つけ、片手に自動小銃、片手に拳銃を持って出てきたという。
「息子たちよ、殺さないでくれ」。カダフィ氏は、反カダフィ派の若い兵士たちにそう訴えたという。現場の兵士の証言では、辺りを見回し、「何が起きているのか」と聞くカダフィ氏を、反カダフィ派が射撃したという。【10月22日 朝日】
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状況からすると、NATOによる車両空爆は、カダフィ大佐殺害も想定したもののように思えます。
そういう話になると、本来「市民の保護」を目的としたNATOの任務からは逸脱している・・・との批判も出てきます。

****リビア:カダフィ大佐死亡 欧米諸国「不安要素除かれた*****
 ◇NATO任務を逸脱の可能性も
・・・NATOは20日朝にシルト郊外で車両2台を空爆したが、カダフィ大佐との関連については「確認できない」としている。空爆が「市民の保護」を目的としたNATOの任務を逸脱した可能性もある。

NATOはトリポリ陥落後も作戦を継続、最近は1日に数十回、航空機を出動させているが、標的を確認しただけで空爆しないなど、事実上、攻撃を収束させている。もしNATOがカダフィ大佐の車列を空爆したとすれば、地上からの情報を基に殺害をいとわずに行った可能性が高い。

3月の国連安保理決議によると、NATOの任務は「市民の保護」で、カダフィ大佐空爆が事実なら整合性が問われる。NATOは20日、「空爆は個人を対象にしていない」と述べた。【10月20日 毎日】
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拘束したカダフィ大佐を生存させておくと、奪還を目指す支持勢力の抵抗が続くおそれがあり、また、早期の報復的処刑を求める国民の声と国際法にのっとった処置を行うべきとする建前との間で確執を生むことも懸念されます。
仮に、カダフィ大佐を法廷で裁くということになれば、法廷はカダフィ大佐の自己主張・弁護の場ともなりかねません。
また、先述の20日の空爆を含めて、一連のNATOの行動が国連安保理決議に沿うものだったか・・・という問題も表面化します。
欧米各国、リビア反体制派指導部にとっては、いきさつはどうであれ、カダフィ大佐に死んでもらってほっとしていることは間違いないでしょう。

反カダフィ派内部では権力闘争も表面化
これで、いよいよ新政権に向けた取り組みが本格化する訳ですが、周知のようにすでに反カダフィ派内部では権力闘争も表面化しており、今後の動向が注目されています。
対立軸としては、判事出身のアブドルジャリル議長や経済専門家のジブリル暫定首相ら文民中心・親欧米的な国民評議会指導部と実際の戦闘の中心となったイスラム主義的なアブドルハキーム・ベルハジ司令官などの対立があります。
更に、部族間、東西の地域間の対立もあります。

そうした情勢については、9月1日ブログ「リビア カダフィ後の新体制 「国民統合」への険しい道 イスラム勢力の台頭」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110901)でも取り上げたところですが、2カ月近く経過した現在も、基本構図には変化ないようです。
カダフィ大佐殺害に時間を要したことで、確執は更に深まっているとも言えます。

なお、当初、殺害翌日の21日にも予定されていた「全土解放宣言」は22日に、更に23日にと再延期されています。
延期の背景としては、大佐の次男サイフルイスラム氏ら旧政権有力者についての情報が、生死を含めて錯綜していることが推測されていますが、反カダフィ派内部の確執も影響しているのではないでしょうか。

****カダフィ大佐死亡 民主化への過程焦点 リビア権力闘争、新政権の火種****
カダフィ大佐が死亡し、最後のカダフィ派拠点シルトが陥落したことで、リビアでの今後の焦点は民主化に向けた政権移行プロセスを円滑に進められるか否かに移る。反カダフィ派内部では権力闘争も表面化しており、混乱に乗じてイスラム過激派などの勢力が伸長する懸念もある。

「われわれはこの瞬間を待っていた。団結したリビア、ひとつの国民のひとつの未来が始まるときが来たことをリビアの人々は実感しているだろう」
反カダフィ派代表組織「国民評議会」ナンバー2のジブリル暫定首相は20日、大佐死亡を発表した会見で感慨をにじませた。

しかし、新生リビアの前途は険しい。ジブリル氏は以前、「(権力闘争の)ルールも決まっていないうちに政争に向かっている」と警告し、当面は選挙制度などを整える必要性を訴えていた。
背景には、カダフィ派との戦闘が長引いた結果、当初は「政権打倒」で一致していた反カダフィ派の各部隊が、主導権争いをにらんださや当てを激化させている事情がある。首都トリポリでは最近、政権崩壊後に流入した部隊同士による小競り合いも頻発している。

また、リビアには伝統的に東部と、トリポリのある西部との間で確執があるとされる。同評議会は「首都はあくまでもトリポリだ」としているが、東部にはカダフィ政権下で差別を受けてきたとの不満が根強い。

国民評議会が示す移行プロセスは、暫定政権発足を経て最終的には大統領選の実施を目指すものだ。ただ、シルト攻略に功績を挙げた部隊が新政権で優遇された地位を要求するなどポスト配分が難航する可能性は高い。
スムーズに暫定政権を発足させられるかが、移行プロセス全体の鍵を握りそうだ。【10月21日 産経】
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強まるイスラム色
「全土解放」宣言から1カ月以内に予定される移行政府樹立については、上記のような確執・批判があって、国民評議会を率いてきたアブドルジャリル議長とジブリル暫定首相は辞任することを表明しています。
国民評議会は3日に執行部の一部を変更する人事を発表しました。それに先だって辞意を表明していたジブリル暫定首相は、当面残留する形となっていますが、「全土解放」宣言後には辞任するとしています。

“リベラル派のジブリル氏は、ここ数週間、主にイスラム教主義者からの批判の的になっていた。この会見に同席したジブリル氏は、1日に辞意を表明したことを明らかにしたが、「(NTCは)いまがその時ではなく、国家の団結に影響を及ぼす可能性があると判断した」と述べ、「そこで私は辞意を撤回した。だが、国が解放されれば、(辞意表明は)効力を発揮する」と語った。”【10月4日 AFP】

ジブリル暫定首相に代わる新指導者としては、下記のように報じられています。
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新指導者の有力候補として台頭してきたのが、反カダフィ派の戦闘を主導し、評議会の指導体制に批判的なアブドルハキム・ベルハジ司令官だ。国際テロ組織アルカイダとの関係が疑われたリビアのイスラム過激派組織の元指揮官で、前政権から迫害された経験がある。そのライバルと目されているのが、首都トリポリでの戦闘を指揮したイスラム穏健派のアブドラ・ジンタニ司令官で新政権の閣僚の半数を民兵出身者にするよう求めている。

イスラム勢力とは別に、「地域代表」の有力候補もいるが、いずれの候補も政治経験は浅く、安定した民主体制構築には不安が残る。【10月23日 AFP】
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いずれにしてもイスラム色の濃い政権となりそうです。そのあたりが、また欧米各国が懸念するところでもあります。

【「一部は既に悪者の手に落ちてしまったかもしれない」】
他にも問題は山ほどありますが、ひとつ懸念されているのが、武器流失の問題です。

****リビア:兵器の拡散深刻…エジプトにミサイル「密輸」も****
リビアの暫定統治機構「国民評議会」は23日に「全土解放」を宣言し、新国家づくりのプロセスを本格化させる。最優先課題となっているのが、カダフィ前政権の「負の遺産」である大量の兵器の管理だ。
多くが行方不明で、一部は既にエジプトへ流出している。また、新政権での要職を狙うイスラム勢力と評議会指導部との対立もあり、課題は山積している。

リビアの兵器拡散状況について、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は今年9月上旬までの半年間の調査結果として、「多くの兵器関連施設が略奪に遭い、数千にも及ぶ地対空ミサイルや対戦車ミサイルが行方不明になった」と報告する。
前政権はミサイルに加えて地雷、砲弾などを北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆から守るため、民間のビルや農場へ移していた。評議会の管理が行き届かず、報告によると、反カダフィ派の戦闘員や一般住民らの略奪が目撃された。

また米紙ワシントン・ポストなどは、リビアの東隣エジプトの軍関係者らの証言から、リビアから大量の武器が運び込まれていると報じている。今年8月、パレスチナ自治区ガザ地区に通じる密輸トンネルやシナイ半島の武器市場で肩撃ち式地対空ミサイルなどが押収されたという。
報道によると、ミサイル以外にもリビアから密輸された銃弾、爆弾、機関銃などがエジプト国内で見つかった。ある武器商人は、エジプトとリビアの国境はほぼ自由に行き来できる状況だと説明。両国の政変の影響で、国境管理が不十分になっているようだ。【10月23日 AFP】
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すでに1日には、リビアのカダフィ前政権が保有していた地対空ミサイル約5000発が行方不明になり、国際テロ組織の手にわたった可能性があることを「国民評議会」の国防担当幹部が明らかにしています。

****携行型地対空ミサイル5千発、リビアで行方不明****
・・・行方不明となっているのは、旧ソ連、東欧で製造された携行型地対空ミサイル「SAM7」。カダフィ政権はかつて、同ミサイルを約2万発保有し、西部ジンタンなどの武器庫に保管していた。このうちの1万4000発以上は、今回のカダフィ派と反カダフィ派の戦闘で使用されたり、反カダフィ派が破壊するか使用不能にしたという。

残る約5000発について、国防担当幹部は「一部は既に悪者の手に落ちてしまったかもしれない」と述べ、テロリストが入手したことへの懸念を示した。同種のミサイルは、中東やアフリカ諸国などでテロやゲリラ活動に使われている。【10月3日 読売】
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“地対空ミサイル約5000発”・・・イスラエルやアメリカ、更に周辺各国政府にとっては悩ましい問題です。
紛争の混乱で流出した武器が次の紛争で使用されるという、紛争の再生産です。
恐らく、新旧政権有力者、武器商人などが暗躍しているのでしょう。
もっとも、カダフィ政権にそうした武器を売ったのは、欧米各国、中国。ロシアではないでしょうか。
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タイ洪水被害  首都全域防衛を断念、水門開放 注目されるインラック首相の手腕

2011-10-22 22:26:46 | 東南アジア

(10月22日 バンコク郊外のパークレット(ドンムアン空港の西、バンコク都心から約20km北) 写真手前の水はチャオプラヤ川と思われます。 すでに軒下ぐらいまで水位が上がっています。 “flickr”より By Philip Roeland http://www.flickr.com/photos/philiproeland/6268380029/in/photostream

総合的治水対策はタクシン後の政争激化で頓挫したまま
タイの洪水被害、特に、洪水からの首都バンコク防衛の対応に追われるインラック政権、大手日系企業の現地工場が集中する工業団地の浸水被害などが連日各メディアで報じられています。

****天然のかんがいシステム*****
タイでは毎年、上流部で6月から10月ごろの雨期に降った雨水が10月ごろ、中部の平原地帯に達して洪水を起こす。中部は元々広大な水田地帯で、川からあふれた水は水田に流れ込み天然のかんがいシステムとして利用されてきた。
しかし今年の雨は過去50年で最悪規模といわれ、ダムの放流で中部アユタヤ県で川が氾濫。ホンダなど大手日系企業の現地工場が集中する工業団地が相次いで水没した。
洪水被害は東南アジア各地でも起きており、気候変動による雨量の増加や、上流の山岳地帯で森林伐採が進んだことによる保水力の低下が被害拡大の一因との指摘もある。【10月15日 毎日】
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例年、一定の洪水を“天然のかんがいシステム”として利用してきたタイですが、今回は記録的な多雨によって増水した山間部のダムが決壊するのを防ぐために、相次ぎ放水量を増やしたため下流域で洪水が始まったとのことです。
長期的視点からは、政争に明け暮れたタイの政治が治水対策を怠ってきたことも指摘されています。

****大雨でダム放水増、政争で治水頓挫…タイ大洪水****
タイ大洪水の直接的な原因は平年を上回る記録的な多雨だ。
雨期に当たる6~9月の降水量は北部チェンマイで平年の1・3倍、首都バンコクでは1・4倍に達した。タイ南北を縦貫するチャオプラヤ川沿いでは、例年なら雨期が明ける10月になっても雨が続き、山間部のダム決壊を防ぐために相次ぎ放水量を増やしたため下流域で洪水が始まった。

政府の無策を指摘する声もある。主要工業団地すべてが冠水したアユタヤ県も、バンコクも、同川の広大なデルタ地帯に立地する。海抜ゼロメートル地点も多く、何度も大洪水に襲われてきた。タクシン政権時代の2000年代、総合的な治水・利水対策が検討されたものの、巨額予算が必要なため進展せず、その後の政争激化で頓挫したままだ。【10月19日 読売】
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被害はカンボジア・ミャンマーでも
タイでは3か月続いている豪雨による死者は、北部と中部を中心に320人にのぼっており、数万人が避難を余儀なくされています。
タイ以外では、カンボジアも過去10年で最悪の洪水に見舞われており、災害当局者は今月10日、今回の洪水による死者が207人に上ったと発表しています。
また、ミャンマー中部パコックーでも20日、大雨による洪水があり、地元当局筋によると、少なくとも50人が死亡、300人以上が行方不明になったと報じられています。
アジアの穀倉地帯での深刻な被害によって、今後、食料価格が高騰することも懸念されています。

【「バンコクのすべての地域を防衛することは不可能だ」】
話をタイ・バンコクの状況に戻すと、これまでタイ政府は「バンコクでは洪水は起きない」と繰り返してきましたが、インラック首相は20日、記者団に「予想を超える水が押し寄せ、制御できない」と語り、一刻も早く水をタイ湾に流すため、バンコクを流れる運河の水門をすべて開く方針を示しています。
首都のすべての水門を開放し、水を東部の3つの水路に流し込んで、最終的に海に放出する捨て身の防衛作戦のようです。
この作戦は東部切り捨てになりますが、水が多すぎると市内中心部にあふれる恐れもあります。

****タイ洪水、首都に浸水 首相「全域防衛は不可能****
タイ各地で大きな被害をもたらしている洪水は20日、首都バンコク中心部の運河や河川にも流入し始め、一部で許容量を突破、付近にあふれ出した。インラック首相は同日、「バンコクのすべての地域を防衛することは不可能だ」と指摘、中心部の大規模浸水だけは防ぐ方針を示した。バンコク東部や北部に冠水被害が出るのは不可避の情勢だ。

政府はバンコク北部に土嚢(どのう)を積み、首都を守る計画だったが、増水したチャオプラヤ川から流れてくる水があまりにも多く、首都全域を守ることを断念。インラック首相は20日、「水の流れはコントロールできない」として、バンコク行政当局に対し市内の水門を開放するよう要請した。
政治・経済の中枢である中心部の大規模浸水は阻止する一方、東部に水の通り道をつくり、海に流すための措置とみられる。同首相は、水門開放はあくまで被害を最小限に抑えるための措置であると強調した。

日本企業への影響は拡大し、ソニーは11月11日に予定していたデジタルカメラの新商品発売を延期。パトゥムタニ県にある工業団地が20日夜に冠水し東芝など日系企業29社が被災した。
専門家は洪水被害によりタイの経済成長率を1%以上押し下げると分析。首都への直撃で2%以上低下すると予測している。【10月21日 産経】
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インラック首相としては、首都バンコク中心部の住民の支持だけはなんとかつなぎ止めたいところでしょう。

【「首まで浸水しているときにクーデターする馬鹿はいない」】
洪水被害そのものに加えて、先の総選挙でブームを巻き起こし女性首相の座を手中にした、タクシン元首相の妹、インラック首相の手腕、不毛の対立を繰り返してきたタイ政局の動向も注目されています。

首相に災害対策の最高権限を与える災害防止法が21日に発令されましたが、バンコク防衛作戦にしても、バンコク都知事が野党民主党の大物で、首相との足並みの乱れが報じられています。
また、実際の対策には軍の協力が不可欠ですが、軍はタクシン元首相を追放したクーデターを起こした経緯から、その溝が埋まっていないようです。

****タイ洪水、引きずる政治対立 首相、都・軍と連携とれず****
拡大するタイの洪水被害の対応に、政府と首都バンコク、軍の足並みの乱れが影を落としている。背景にインラック首相の兄タクシン氏が追放された2006年クーデター以来の政治対立がある。首相は21日、災害に関し、軍や自治体を首相直轄とする災害防止軽減法の適用を決めたが、すぐに連携がうまくいく様子はない。

バンコクを通るプラパ運河から20日、水があふれ市街地が浸水した。すると翌21日、スクムパン都知事は「水は都外から流れ込む」「1千人を洪水防止に派遣すると言うが、いつ着くか知らされていない」と政府への怒りをあらわにした。
首相は「政府と関係機関は協力を」と呼びかけるが、政府側も「都知事は何の情報も政府に伝えない」(政府副報道官)などと都への不満を募らせる。

都知事は、08年まで反タクシン派民主党の副幹事長だった。与党タイ貢献党とは犬猿の仲だ。洪水の対策機関を、政府は北部のドンムアン空港、都は約20キロ離れた東部ミンブリー地区に設置した。都の会議に首相が出たことはないが、民主党党首のアピシット前首相が姿を見せる。

06年クーデターの張本人である軍と政府も連携が十分とは言えない。
民主党や被災自治体は、災害対応時の軍の権限を強化するために非常事態宣言を求めてきた。だが、首相は「観光や投資家心理に悪影響がある」を理由に拒否している。
タイ貢献党の議員からは「非常事態宣言はクーデターにつながる恐れがある」との声が上がり、プラユット陸軍司令官は「首まで浸水しているときにクーデターする馬鹿はいない」と不快感を示している。【10月22日 朝日】
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インラック首相は、被災地の大部分から水が引くまで今後4~6週間かかるとの見通しを示しています。
今回の国をあげての対応が、“雨降って地固まる”と国民和解につながればいいのですが、いまのところはなkなか・・・という雰囲気です。
軍のクーデーターも論外ですが、政権側も、タクシン元首相の帰国を強行して陣頭指揮にあたらせる・・・といったことは国民間の亀裂を深めるものとして戒めてほしいところです。

【「これまで連絡がなかった。タイ語が分からないからだろう」】
こうしたなかで、被災したミャンマー人などの移民労働者の状況を懸念する報道もあります。
危機的な状況で社会的弱者にどこまで配慮できるかは、その社会の成熟度合いをはかる尺度です。

****被災の移民労働者孤立 ****
タイの洪水で被災したミャンマー(ビルマ)人ら移民労働者が行き場を失っている。言葉の壁があるうえ、不法入国が多く、逮捕を恐れて支援を求めない人も少なくない。

地元テレビは18日、アユタヤ県の工業団地近くで、ミャンマー人労働者約300人が周辺が1メートル浸水したアパートに残り、「何も食べていない」と訴えていると報じた。このうちの一人で女性のマエさんは朝日新聞の電話取材に「配給食料を受け取りにいったらミャンマー人だと断られた」と話した。20年タイで働いているという。「ようやく雇い主と話ができた。数日中に給料を払ってもらえることになった」と語った。
アユタヤ県当局は報道を受け、食料を配り始めた。担当者は「これまで連絡がなかった。タイ語が分からないからだろう」と話す。

バンコクに隣接するパトゥムタニ県のタマサート大学に避難する約3700人のうち350人がカンボジア、ミャンマー、ラオスからの労働者だ。NGO「移民労働者グループ」によると、多くは20~30代で、洪水の状況を知らないまま逃げてきた。「水はここにも来るのか」「仕事はどうなる」と不安を訴えている。
グループによると、被災した27県に計20万人の移民労働者がいる。過半数は不法入国という。コーディネーターのロイサイさんは「当局は外国人労働者を下に見て、最低限の支援すらしていない」と指摘する。

今後の見通しが立たず、帰国する人も出ている。ミャンマーと国境を接するタイ北西部メソトでは、連日数百人のミャンマー人が川を越えて帰っているという。支援団体「YCOWA」のモースウェ代表は「仕事を失い、支援も限られている。残された道は帰国しかない」と話した。【10月22日 朝日】
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本来は、危機的なこういう状況だからこそ、不法移民だろうが、外国人労働者だろうが、救いの手をさしのべるべきところですが、現実は危機的状況で真っ先に切り捨てられるのがそうした弱者です。

【追記】
王宮・議会近くの地区で土嚢堤防が一部決壊して浸水が始まったようです。

****タイ洪水:バンコク中心部で初浸水…住民に避難準備勧告****
タイの首都バンコクで22日午後4時(日本時間同日午後6時)ごろ、都心部を流れるチャオプラヤ川の周囲に築かれた土のうの堤防が一部決壊し、周辺が約1メートル~40センチの高さまで浸水した。今回の洪水で首都中心部の浸水は初めて。この浸水でチャオプラヤ川流域13地区の住民に避難準備勧告が出た。
現場は国王宮殿やタイ議会から約1.5キロの場所。市当局は周辺に新たに土のうを積み、浸水の広がりを食い止めたが、川の水位が上がる可能性もあり、当局は警戒している。

被害にあった首都南西部のドゥシット地区では、商店街の交差点に高さ2メートルの土のうが築かれ、腰の高さまで達した水を食い止めていた。しかし、周辺ではあちこちから水が湧いてくるように流れ出ている。近くに住む主婦のマニーさん(51)は「水の勢いがすごくて、たちまち首の下の高さにまで達した。私たち住民は急いで避難し、けが人は出なかったが、これからどうなるのか」と話した。
今後、水の流れを制御できなければ、王宮や、プミポン国王が入院している病院にも達する可能性がある。(後略)【10月22日 毎日】
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