孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ルワンダ  ジェノサイドがもたらした女性の地位向上 中国モデルによる「アフリカの奇跡」

2019-10-31 22:08:13 | アフリカ

(現在、女性議員は49人で全体の61%を占める(ここに写っているのはそのうちの33人)。女性議員の比率は世界最高だ。【1031日 ナショナル ジオグラフィック】)

 

【およそ600万人が生き残ったが、その大半は女性だった】

世界経済フォーラム(WEF)が発表している「男女平等ランキング」(「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap IndexGGI)」)というものがあって、毎年日本の順位が非常に低い、すなわち世界的に見て日本の男女格差が大きいとの結果が話題になります。

 

2018年の上位10番目までを順番に並べると(括弧内は昨年順位)

1位アイスランド(1) 2位ノルウェー(2) 3位スウェーデン(5) 4位フィンランド(3) 5位ニカラグア(6) 6位ルワンダ(4) 7位ニュージーランド(9) 8位フィリピン(10) 9位アイルランド(8) 10位ナミビア(13

 

もちろん様々な要素が絡み合う男女格差を一つの数値で表現することは限界があり、あくまでも一つの指標です。

また、相対的な男女格差が対象になっているもので、女性の絶対的幸福度みたいなものを示すものでもありません。(110位の日本女性より5位ニカラグアの女性が恵まれている・・・という話ではありません)

 

北欧諸国が上位に並ぶのは“常識的”として、ニカラグア、ルワンダ、フィリピン、ナミビアといった途上国が上位にランキングされているのは毎年意外な感じを与えています。

 

こういう数値の限界は認識しつつも、「どうして日本の評価は低いのか?」ということを考えてみるのは有意義なことでしょう。

 

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日本は、2015年が101位、2016年が111位、2017年が114位と順位を落とし、2018年は110位に多少挽回した。

 

日本の評価は、項目ごとに優劣がはっきりしている。読み書き能力、初等教育、中等教育(中学校・高校)、出生率の分野では、男女間に不平等は見られないという評価で昨年同様世界1位のランク。

 

一方、労働所得、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育(大学・大学院)、国会議員数では、男女間に差が大きいとの評価で世界ランクがいずれも100位以下。

 

その中でも、最も低いのが国会議員数で世界130位(昨年は129位)。その他の項目でも50位を超えるランクは、男女賃金格差のみ。(中略)

 

日本では、国会議員、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育(大学・大学院)等、社会のリーダーシップを発揮すべき分野で、ダイバーシティが評価が著しく低い。【同上】

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日本における女性の地位の問題を取り上げたらきりがありませんが、今日の話題は日本の問題ではなく、毎年上位にランキングされているアフリカ・ルワンダの話。

 

ルワンダで連想されるのは1994年に起きた痛ましいジェノサイドです。

“正確な犠牲者数は明らかとなっていないが、およそ50万人から100万人の間、すなわちルワンダ全国民の10%から20%の間と推測されている”【ウィキペディア】

 

その後はポール・カガメ大統領のもとで、ジェノサイドの背景となったツチ・フツの対立を克服して国民融和をはかる方向で、国内改革が推し進められていることはしばしば取り上げられるところです。

 

一方で、カガメ大統領は、2017年に98.8%の得票率で再選された、かつてのツチ族反政府勢力指導者で、20年以上も権力の座におり、2015年の国民投票によって任期の規則が改定されたことで今後も当分の間大統領職に留まると見られています。

 

ヒューマンライツ・ウォッチ他のサイトへのような国際人権NGOは、人権を侵害し、反体制派を弾圧しているとしてカガメ大統領を非難し続けているように、その政治姿勢への批判もあります。

 

ルワンダで女性の地位が高いという数値が出るのは、ジェノサイドの悲劇の結果でもあります。

 

****大虐殺後に女性躍進、ルワンダで何が起きたのか****

1994年に約100日間続いたその大虐殺の引き金となったのは、ある飛行機の墜落事故だった。ルワンダ大統領だったジュベナール・ハビャリマナとブルンジ大統領だったシプリアン・ンタリャミラを乗せた飛行機が撃墜され、二人とも死亡したのだ。

 

ハビャリマナ大統領はルワンダの人口の約85%を占める民族フツの出身だった。フツの過激派は、飛行機を撃墜したのは少数派民族ツチだと非難し、以前から緊張状態にあった両民族の間で壮絶な殺し合いに発展した。この大虐殺で、100万人近いツチと、数千人のフツが命を落としたとされている。

 

性暴力の被害者となった女性は少なくとも25万人、孤児となった子どもは95000人を超すといわれる。紛争が終わったとき、およそ600万人が生き残ったが、その大半は女性だった。

 

紛争の後、人口の8割を占めていた女性たちは、必要性と現実に迫られ、国の指導部に生まれた空席を埋めていくことになる。

 

そして、女性のためのNGOの支援を受け、世界で最も女性に配慮した政策が策定されていった。

 

世界で最も女性国会議員の比率が高い国

1999年には、相続に関する長年の因習を覆した。遺言がなくても女性の相続が認められるようになり、かつては兄や弟に相続権を独占されていた地方の女性たちも、地主になれるようになった。

 

また、女性も土地を担保に融資を受けられるようになった。教育面でも待遇が改善され、大学に進学する女子が増加。従来は男性の領域となっていた分野にも女性が参入できるよう、奨励策が設けられた。

 

こうしてルワンダは、2003年以来ずっと、世界で最も女性国会議員の比率が高い国となっている(現在は下院の約6割が女性)。また、7人の最高裁判事のうち、副裁判長を含む4人が女性だ。

 

大虐殺の後にルワンダで起こった変化の大部分は、大勢の男性が死亡した結果もたらされたものだ。ルワンダの女性たちは今の権利を自ら闘って手に入れたわけではない。それは法改正によって得られたものであり、改革の効果は社会全体に広がっていくことが期待されている。

 

2018年に国会議員に初当選したエマ・フラハ・ルバグミヤは、この国と女性たちがここまで来られたことを誇りに思う一方で、ルワンダがこれから目指すべき未来を見据えている。

 

「枠組みはできています。政策も、法律も、それを執行する仕組みもあります。長い道のりでしたが、素晴らしい成果を上げてきました。でも、もっと先に進まなければなりません。男女間の不均衡が完全になくなる、その日まで」【1031日 ナショナル ジオグラフィック】

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もちろん、“大虐殺の後にルワンダで起こった変化の大部分は、大勢の男性が死亡した結果もたらされたものだ”とは言っても、その後の女性の地位向上・社会参加を促す「改革」がっての現在です。

 

議員に関しても女性に対する議席割り当て制度によって、女性の社会参加が保証されています。

 

****女性への議席割り当て制度*****

「ルワンダは女性に対する議席割り当て制度を導入しており、この制度が女性が政治分野で大きな進歩を遂げる助けとなっている」とドゥレールさん(スイス連邦内務省男女均等待遇局(EBG/BFEG)局長)は指摘し、「このような措置は国際的にはよく採用されているが、スイスにはある種の不信感がある。約20年前に行われた国民投票では、議席割り当て制度の導入に国民は明確に反対した」と説明する。

 

90年代、ルワンダ議会に占める女性の割合は平均18%に過ぎなかった。しかし、その後、03年憲法に最低30%の議席を女性に割り当てることが定められた。

 

「議席割り当て制度は必要だ。女性議員が非常に少なければ、どこから始めればよいのか分からない」と、ルワンダのジェンダー監視局局長のローズ・ルワブヒヒさんは話す。

 

「後押しがあることが非常に重要だった。その結果、我々女性は議会で意味のある人数を確保することができた」と付け加える。「上手く機能していることが見て取れるし、女性に必要な議席が議会にはあるのだから、成果は出ている」

 

さらに、ルワンダの内閣も男女のバランスが取れており、司法も概ね半分は女性だとルワブヒヒさんは言う。

「これは重要なことだ。政府機関に女性がいることが外部の少女や女性に見えるからだ。これは、国の意思決定に女性も参加することができるという非常に強いメッセージを送ることになる」とルワブヒヒさんは強調する。【45日 swissinfo.ch

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日本でも、制度的“後押し”がないと、なかなか現状の改革は進まないでしょう。

 

【「アフリカの奇跡」を支える中国モデルの国家体制 言論統制も】

現在ルワンダは中国と緊密な関係があります。

 

****「イー、アル」の声に合わせルワンダ軍が中国式行進を披露****

中国紙・環球時報(英語版)は6日、アフリカ東部ルワンダの兵士らが中国軍の訓練を受け、7月の軍事パレードで中国式の行進を披露したと伝えた。中国が軍事面でアフリカに浸透する実態を示すものだ。

 

環球時報によると、パレードは首都キガリで開催された。ルワンダ側の要請で、中国軍の儀仗兵6人が4月に派遣され、兵士ら2000人に1日8時間訓練した。

 

中国中央テレビの映像では、兵士らは「前向け、1(イー)、2(アル)」と中国語のかけ声に合わせ、中国の儀仗兵に似た膝を伸ばすスタイルで歩いた。(後略)【88日 読売】

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上記は中国に傾斜するルワンダの現状のほんの一例です。

 

****「虐殺の歴史」を背負ったルワンダに進出する中国のリアル****

安田峰俊・チャイナフリカを往く①

 

いたるところに、漢字、漢字、漢字が

「你好! 安田先生!(こんにちは!安田さん)」

小さいが清潔感のある空港から外へ出ると、私の名字が書かれた紙を持っている青年が流暢な中国語で声をかけてきた。彼の中国語名は子辰。(中略)

 

子辰と握手を交わした私のすぐ横を、機内で隣席に座っていた中国国営企業(資源系)に勤務する北京出身のビジネスマンの集団が歩いていく。(中略)

 

現地の通貨を下ろすためにATMの列に並んでいると、またもや目の前に漢字があった。私の前に並ぶ男が、なぜか中国内陸部のインフラ企業・四川省電力公司アバ支社のサッカーチームのレプリカユニフォームを着ていたのだ。

 

さらにミネラルウォーターのボトルを捨てる場所を探すと、中国語で「リサイクル」「その他のゴミ」と書かれたゴミ箱があった。

 

そもそも、カタールのドーハで飛行機を乗り換えて以来、私はほとんど中国語しか使っていない。(中略)

だが、私が来た場所は北京でも成都でもない。東アフリカの内陸部に位置する山岳国家・ルワンダの首都のキガリである。(中略)

 

習近平は素晴らしいリーダーだ!

「最近のルワンダはアメリカと少しギクシャクしているけれど、中国との関係はすこぶる良好だ。いまのルワンダにとっていちばん重要な国は中国だと思うよ」空港からのタクシーの車内で、ピーターがそう説明してくれた。

 

1990年生まれの彼はルワンダ虐殺で父を失ったが、内戦後は母子家庭のなかで勉学にはげみ、成績優秀者を選抜するルワンダ国家の奨学金を得て同国では数少ない高等教育機関であるルワンダ国立大学を卒業した。

 

やがて2015年に中国政府奨学金留学生として北京科技大学に留学して、バイオ燃料にかかわる論文で修士号を取得している。(中略)

 

「習近平は素晴らしいリーダーだと思うね。中国のリーダーはロング・タームでものを考えて、実行できている。多くのアフリカのリーダーも見習うべきだろう」

 

その経歴からしても当然、ピーターは親中派である。もっとも、こういうエリート層は最近のルワンダ(のみならずサブ・サハラ各国)ではそれほど珍しくない。(中略)

 

中国語とソロバン、広がる影響力

孔子学院はあくまでも語学教育プロジェクトであり、日本で一般に思われているほどゴリゴリのイデオロギー教育がなされているわけではない。

 

ただ、ルワンダにとって最大の輸入相手国である中国の言語を教え、さらに奨学金を通じて「先進国」中国への留学の機会を提供してくれるので、現地のインテリ層の対中好感度を上げるうえでは一定の役割を果たしている。

 

201812月現在、アフリカ全土で孔子学院は59施設、より小規模な孔子課堂が41施設あり、のべ140万人以上が学んだとされる。ルワンダだけでも孔子学院・課堂は約20施設があり、ガットが教えているのはキガリからバスで3時間ほどの距離にある地方都市の教室だ。

 

ルワンダの孔子学院で、学生側が負担する費用は入学手続き料の30000ルワンダ・フラン(約3600円)のみ、入学後の学費は完全に無料だ。学位は取得できないとはいえ、将来を切り開く上ではかなりお得な教育機関だと言っていい。

 

孔子学院以外にも、私が目にした中国のソフトパワーを紹介しておこう。それはピーターの仕事である。彼は現在、北京に本社を置いて世界展開するソロバン教育塾チェーン「Shenmo(神墨)」グループのルワンダ・ブランチの運営にたずさわっているのだ。

 キガリ郊外にある教室に遊びに行くと、611歳の子ども十数人が、一心不乱にソロバンの玉を弾いていた。一通りソロバンを使わせた後は暗算である。算数の基礎能力を付けるうえでは、ソロバンは有効だ。(中略)

 

虐殺25年後の強権と経済発展

(中略)近年、カガメは強力なリーダーシップのもとで「アフリカのシンガポール」を目標にルワンダの国家改造を進めている。

 

カガメはかなり独裁的だが、ジンバブエのムガベや中央アフリカのボカサのような、従来のアフリカにありがちな国家を私物化するタイプのリーダーではなく、あだ名は「ルワンダのCEO」だ。植民地時代から行政や教育現場で用いられてきたフランス語も、英語に置き換えられた。

 

ルワンダの一人当たりGDPはまだ750ドル程度で、国家予算の3割を援助に頼る。だが、ルワンダの汚職の少なさや政府の行政能力、良好な治安、起業の容易さなどは国際的にも高く評価されている。国外からの投資も集まり、2008年〜2017年の10年間のGDP成長率は約7.5%に達した。人口も虐殺当時の倍以上となる約1220万人まで増え、社会には若者が多く活気がある。

 

カガメ政権下では従来の民族対立も強引に押さえ込まれ、いまや「ツチ」「フツ」はもちろん「民族(ethnicity)」という単語すらおおやけに語ることはタブーだ。

 

もっとも実際のところ、内戦前は人口的に多数派のフツ系が支配層だったが、内戦後はカガメ自身を含めたツチ系のリーダーたちが台頭するようになっている。

 

現在、ICT分野で起業をしたり、中国に留学したりするような「意識の高い」ルワンダ人の青年エリートは(ピーターはフツ系だが)多くが幼少期に虐殺を生き延びたり、亡命先から母国に戻ってきたツチ系の人たちである。彼らはそれぞれカガメを手放しで称賛する。(中略)

 

中国人から「言論の自由がない」と評される国

ルワンダではカガメについて「褒める」以外の評価が許されていないとはいえ、かなり多くの国民が本気でカガメを支持しているのも確かだ。これはピーターやガットのようなエリート層だけに限った話でもない。

 

ただし、カガメ政権は経済発展以外の分野でもシンガポールや中国を参考にしているらしく、マスメディアを強力に統制し、野党を強力に弾圧している。さらに2015年には、憲法を改正して大統領任期を事実上17年間も延長してしまった。

 

ルワンダの報道統制は凄まじく、中国系の民間シンクタンクが昨年8月に発表したレポート『非洲国家民衆眼中的中国形象盧旺達(アフリカの国家・民衆から見た中国の姿:ルワンダ)』のなかでも「言論の自由は相対的に制限されている」「(現地メディアは)民衆の真実の感想や視点を反映したりよく伝えたりすることが比較的少ない」という記述がある。中国人が見てすら「言論の自由がない」と感じてしまうほどの国なのである。

 

従来、欧米各国はルワンダ虐殺への配慮もあってカガメ政権への批判を手加減してきたが、近年はさすがに批判が強まり、ルワンダの対米関係も悪化しつつある。

 

ただ、それゆえに専制体制を気にせずに仲良くしてくれる「大国」の存在は歓迎される。つまり中国のことだ。

 

CNNによれば、中国は過去12年間でルワンダに4000億ドル(約43900億円)を投資してきた。ルワンダの道路状況は地方を含めてかなり良好だが、こうした国内道路の7割は中国企業の建設によるという。

 

昨年7月、習近平は中国の国家主席としては初めてルワンダを訪問して一帯一路構想への参加を歓迎し、一説には道路建設に12600万ドル(約138 億円)規模ともいう融資を決め、さらに病院や新空港の開発でもルワンダ政府と合意に達した。

 

ルワンダの目覚ましい復興は「アフリカの奇跡」として国際的にも高い評価を得ている。だが、その成功を支えるものは、広い意味での中国モデルの国家体制である。

 

「虐殺」の後には中国きたる

(中略)虐殺の後には中国きたる――。この構図はカンボジアのみならず、ルワンダもまた同様だ。(中略)

 

中国に「新冷戦」を本気で戦い抜く覚悟と体力があるかは不明だが、近年の中国の国際的プレゼンスの拡大を受けて、第三世界の諸国のなかには、かつての毛沢東時代さながらに中国側へなびく国が出てきている。

 

ルワンダをめぐってはかつて冷戦下の1960年代に、西側寄り(フランス寄り)のフツ系政権を牽制する目的から、複数のツチ系反政府勢力がソ連や中国の支援を受けていた歴史がある。現在の中国とツチ系のカガメ政権との関係は、半世紀前の共闘の構図が新冷戦の時代に装いを変えて復活したもの、という見方もできるだろう。(後略)【615日 安田峰俊氏 現代】

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イラン  米軍のシリア撤退で追い風状態にあるものの、一気のプレゼンス拡大は難しい状況にも

2019-10-30 22:45:00 | イラン

(29日、スイス西部ジュネーブで記者会見する(左から)イランのザリフ外相、ロシアのラブロフ外相、トルコのチャブシオール外相【10月30日 共同】)

 

【依然として続くアメリカの対イラン圧力とイスラエルの対イラン警戒】

ひと頃、ホルムズ海峡タンカー攻撃事件とか、サウジアラビア石油施設攻撃事件などが続き、イランをめぐる状況が緊迫しましたが、このところはイラン関係のニュースはあまり目にしません。

 

もちろん、アメリカは対イラン圧力を継続しています。

 

****米、対イラン経済圧力一段と高める=財務長官****

ムニューシン米財務長官は28日、訪問先のエルサレムで、米国はイランに対する経済的な圧力を一段と高めると述べた。ただ具体的にどのような新たな措置が用意されているのかは明らかにしなかった。

ムニューシン長官はイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、「米国は最大限の圧力をかけてきた。効果は出ており、制裁措置により資金が断たれている」と述べた。

 

その上で、米国は一段と圧力を高めるとし、「イスラエルの実務者と極めて生産的な昼食会を終えたばかりだが、数多くの具体的なアイデアが示された。米国はこれらを引き続き検討する」と述べた。

ネタニヤフ首相は、制裁措置の強化でイランの核兵器開発を阻止できるとし、「米国の措置に感謝し、一段の措置を望んでいる」と述べた。【10月29日 ロイター】

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イスラエルのイラン警戒は相変わらずです。中東から手を引きたがっているアメリカ・トランプ政権の対イラン包囲網継続を一番望んでいるのがイスラエルでしょう。サウジアラビアは従来のイラン批判一辺倒からはやや変化の兆しも。

 

****イランのイスラエル攻撃の可能性****

本当のことでしょうかね?


al qods al arabi net はイスラエルの公共放送が29日、イスラエルの在外公館(大使館とか総領事館とか代表部等)はイランの攻撃に備えて、警戒態勢に置かれたと報じてると伝えています。

記事はまた、イスラエル防空部隊は、サウディの石油施設が襲われたような、巡航ミサイルやドローンによるイランの攻撃があり得るとして、警戒態勢に入っているとも報じています。
但し、イランからの脅威の具体的な点には触れていない由

記事はまた、ネタニアフ首相が28日、シオニスト諸組織の会合で、イランが最近精密攻撃兵器の開発に熱心であるとかレバノン、シリア、イラク等にミサイルを配置している等、イランの脅威を強調したが、特に差し迫った脅威については言及していないとも報じています。(後略)【10月29日 「中東の窓」】

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上記記事でも「本当のことでしょうかね?」とあるように、イランの攻撃云々の信ぴょう性はわかりませんが、イスラエルがイランに対する高度な警戒を抱いていることは本当のことでしょう。

 

【基本的には、米軍のシリア撤退はイランにとっては“追い風”】

アメリカは「イランに対する経済的な圧力を一段と高める」とはしていますが、トランプ大統領による米軍シリア撤退の動きは「力の空白」を生み、その空白を埋めるのはロシアであり、イランであるという見方が多く示されています。

 

冒頭の記事にあるムニューシン米財務長官に対するネタニヤフ首相などイスラエル側の働きかけも、そうした状況へのイスラエル側の警戒感の表れでもあるのでしょう。

 

****米軍シリア撤退、敵国イランに吹く突然の追い風 ****

対立が続く米イラン関係の歴史で、ドナルド・トランプ米大統領ほどイランを苦しめることに腐心した米国の指導者はいない。トランプ氏は経済的及び外交圧力のみならず、間接的にも軍事圧力も加えてきた。

 

こうした中、トランプ氏による駐留シリア米軍の撤退決定が、実のところイランを多岐にわたって支えることになるのは最大の矛盾だ。

 

対イラン政策では往々にしてそうであったように、米国の衝動は「意図せぬ結果」を招くという中東の厳しい決まりに抵触してしまった。

 

 トランプ氏はここにきて、シリア北東部に少数の米軍部隊を残すことを検討し始めた。同地域の油田を監視することが主な目的だ。トランプ氏は当初、米軍の全面撤退を指示。トルコ軍の侵攻を招き、過激派「イスラム国(IS)」掃討で米国の最も重要なパートナーだったクルド人武装勢力への攻撃を容認した。

 

それでも、米国による撤退はイランにとって朗報である。イラン指導部が中東での影響力拡大を目指す上で、シリアは最も重要な場所であり、シリアのバッシャール・アサド大統領は最も重要な味方だ。米軍撤退は米国の役割を縮小するとともに、イランの影響力とアサド政権維持の双方に対する障害を減らすことになる。

 

しかも米軍撤収により、イラン、アサド政権のいずれの友人でもないクルド人武装勢力を排除することもできる。

 

カーネギー国際平和財団のイラン専門アナリスト、カリム・サジャドプア氏は「イランの目的は、シリア内でのアサド政権の権力強化に加え、中東における米国のプレゼンス縮小とクルド人自治の妨害だ」と指摘。「トランプ氏の決定により3つすべての達成が可能になり、しかもイランは何ら見返りを提供する必要もなかった」と述べる。

 

これに加え、シリアからの米軍撤収は、イランとロシアの関係強化へと扉を開くことにもなり、米国に悪影響をもたらしかねない。トランプ氏は事実上、米軍撤収による空白を埋めるよう、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を招いたことになる。これはプーチン氏にとって、願ってもない状況だ。

 

プーチン氏はシリア、トルコ、イラン、クルド人のいずれもが、この絡まり合ったシリアの政治状況で生きのびる道を模索するため、共同統治の仲介に乗り出しているようだ。(中略)

 

より広い観点からとらえると、クルド人パートナーを見捨てるとの米国の決定は、サウジアラビアやイラクをはじめとする中東の友好国の間で、米国が友人や守護者としてどの程度信頼を置けるものなのか、新たな疑念を生じさせることになりかねない。

 

そのような疑念も、中東での支配拡大を狙うイランにとっては朗報だ。(中略)

 

サウジやイラクなど湾岸諸国は、米国の影響力がどこまで持つか不確かな状況で、イランを一段と受け入れる方向に傾くのだろうか?

 

トランプ氏の立場は、シリアなどのような場所に米軍を無制限に駐留させる利点はコストに見合わないというものだ。米国は中東から手を引くのではなく、むしろ関与を深めすぎたとのトランプ氏の主張は確かに正しい。

 

トランプ氏の中核支持層を含め、多くの米国人は、中東における「終わりなき戦争」への関与を止めるべき時だとするトランプ氏の考えを共有している。こうした考えにおいては、米国がシリアに関与した最大の理由はIS打倒であり、イランの封じ込めではなかった。主要任務が完了すれば、撤退すべき時期だとの主張だ。

 

しかしながら、シリア撤退を目指せば、イラン封じ込めという中東全体における主要目標の達成を困難することは避けられない。

 

米国はイランに対して最大の圧力をかける、もしくは中東から撤退することが可能だ。ただ、その両方を行うことは難しいだろう。 【10月22日 WSJ】

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【トルコのシリア侵攻ではイランは“蚊帳の外”の状況 トルコとの軋轢も】

「米国による撤退はイランにとって朗報である」というのは、確かにそうなんでしょうが、イランにとって事はそう単純でもありません。

 

今回の米軍撤退・トルコの軍事侵攻に際して、ロシア・プーチン大統領が「仲介者」としての存在感を一段と高めたのに対し、イランは「蚊帳の外に置かれた」状況でもあります。

 

イランはトルコの侵攻を非難しており、トルコとの関係もギクシャクしています。

 

****シリアを巡るトルコ・イラン関係****

米軍の北シリアからの撤退から、利益を受けたのは一般的にトルコとロシアの他にイラン、IS等とされていますが、al qods al arabi net は、イスタンブール発の記事で、イランは今回のトルコの米、ロシアとの合意から、完全に阻害されていて、イランのトルコ軍侵攻に対するイランの批判に対して、エルドアンはじめトルコ政府は怒りをあらわにしていて、今後の関係の悪化を示唆していると報じています。(中略)


但し、内容については特段の判断の材料を持ち合わせていませんので、念のため。

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トルコの米、ロシアとの北シリアに関する合意では、イランは完全に蚊帳の外に置かれたが、トルコはその侵攻作戦に対するイランの数々の批判に対し、これまでのイラン支持政策を見直す可能性を口にしている。


勿論、米軍撤退後、この地域におけるイランの影響拡大に関し、両国間に何らかの了解がったか否かは不明ではあるが、トルコ外相はアナドル通信に対して、米国のこの地域における関心はイランの回廊設立防止と、その影響力拡大防止であると語っている。


この発言はそれ以上に明示的には示していないが、消息筋は、発言は今後北シリアでトルコがイランの影響力拡大防止のために、米国とより積極的に協力する可能性を示唆したものと受け止めている。


エルドアンになると、より直截で、ロシアへ出発前に、イランからトルコ軍侵攻について批判が多数出ていることについて、彼自身及び政府が困惑しているとして、ロウハニ大統領はこれら批判を抑えるべきだとして、トルコが将来イランに対する協力を減らす可能性を警告した。


トルコは現在もイランに対する制裁を緩和する役割を果たしている。


トルコ政府は、トルコとしては国連の制裁は厳守するが、米国の一方的な制裁を守る義務はないとして、通商、金融上で、イランにとって制裁の効果を緩和する重大な役割を果たしている
然るにトルコの侵攻後、イランのマスコミは多くのトルコ批判を行い、エルドアンに対する個人攻撃も行っている。


イランはシリア内戦で重要な役割を果たしているのに、今回の国境地帯に関するトルコ・米、トルコ・ロシア合意のみならず、その前のソチ合意では、イランもイドリブ地域の第3の停戦保証国となっているにもかかわらず、ロシアとトルコの了解からは、蚊帳の外に置かれていた。


トルコとイランは多くの分野で協力関係を深めてきたが、シリアは例外で、イランはトルコの影響力拡大を阻止しようとし、トルコも同様にイランの勢力拡大を阻止しようとしてきた。

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そこまで読むのは深読みのし過ぎでしょうが、仮に米軍撤退に関するペンスとエルドアンの会談で、イランの勢力拡大阻止につき、両者間で何らかの了解があったとすれば、それがトランプが米軍撤退は大成功だと自賛した背景だったかもしれません。【10月25日 「中東の窓」】

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基本的に、シリアにおけるこのところのイランの活動は、制裁の影響でイラン経済が非常に厳しい状況にあるため、制約されています。

 

イランの代理人の立場にあるヒズボラも、自国レバノンが混とんとしてきましたので、シリアどころではないのでは?

 

****レバノン首相、辞任表明 反政府デモで「手詰まりに」****

大規模な反政府デモが続く中東レバノンで、ハリリ首相が29日、事態の収拾を図るために辞任する意向を表明した。高い失業率などに苦しむ市民の不満により拡大したデモは、首相の退陣にまで発展した。

 

レバノンでは今月17日にスマートフォンのアプリを使った無料通話への課税を政府が提案したことをきっかけに、ここ数年で最大規模の反政府デモが2週間近く続いていた。ハリリ氏は会見で、「事態の打開を探ってきたが、手詰まりになった。この危機を乗り越えるにはショックが必要だ」と述べ、大統領に辞任を申し出ることを表明した。

 

デモのきっかけは、スマホの対話型アプリ「ワッツアップ」などの無料音声通話で、1日0・2ドル(約22円)を徴収する課税を政府が提案したことだ。宗派を超えた抗議運動となり、全閣僚の辞職などを求める反政府デモに発展した。

 

レバノンには18の宗教・宗派があり、国会議席などを分け合って政治的安定を保っている。権力を握る政治エリートに腐敗が指摘される一方、一般の市民に負担を強いる課税案が出されたことで、若者を中心に不満が爆発したかたちだ。【10月30日 朝日】

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ヒズボラは政権を支持する立場で、反政府デモと衝突しています。ハリリ首相辞任となると、これからの政権をどうするのか、硬直的な宗派バランスもあって組閣に長期を要する政治事情があるだけに(反政府デモが問題にしているのは、そういう硬直的で機能しない統治システムでしょう)、今後が難しいところです。

 

こういう情勢では、シリアでの「空白」を埋めるべく、イランのプレゼンスが一気に拡大するという状況でもありません。

 

【シリア新憲法委のスタートに向けてロシア、トルコ、イランの協調対応】

そうした事情はありますが、シリアの新たな事態への対応について、ロシア・トルコとの協調はなされているようです。

 

****シリア新憲法委の協議進展に期待 イランなど3カ国外相会談*****

シリアの新憲法起草委員会が30日から国連欧州本部で始まるのを前に、シリア和平に深く関与してきたロシア、トルコ、イランの3カ国外相が29日、同本部のあるスイス西部ジュネーブで共同記者会見した。

 

イランのザリフ外相は「軍事的にではなく、政治的な解決策が必要だ」と述べ、アサド政権と反体制派との協議進展に期待を示した。

 

3外相は29日に会談したほか、和平協議を仲介し、起草委の立ち上げにも尽力した国連のペデルセン特使とも面会。ザリフ氏は「シリア国民に受け入れられるものでなければならない」と述べ、時間をかけて見守る重要性を指摘した。【10月30日 共同】

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なお、“シリアの新憲法起草委員会”については、下記のようにも。

 

****シリア憲法委、和平へ一歩 反体制派との対話注目 きょう初会合****

シリア内戦後の新憲法の草案を作るため、憲法委員会の初会合が30日、スイス・ジュネーブで開かれる。内戦終結に向けた重要なステップだ。

 

ロシアの支援を得たアサド政権の軍事的優位が確立する中、反体制派との対話がどう進むかが注目される。

 

シリア和平の調整を担うペダーセン国連シリア担当特使は28日の記者会見で、「シリア政府と反体制派の最初の政治的合意になる」と強調。初会合には国連欧州本部で150人の委員全員が集まることを明かした。

 

憲法委はアサド政権、反体制派、市民社会から50人ずつ選ばれた委員で構成。これまで公の場で直接顔を合わせたことのない政権と反体制派の代表が一堂に会する形だ。

 

国連は2012年6月からジュネーブを舞台に和平協議に取り組んできた。国連安全保障理事会は15年12月、新憲法の制定や自由で公正な選挙の実施を盛り込んだ決議を全会一致で採択。今回の憲法委はこの決議に基づいている。(後略)【10月30日 朝日】

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ロヒンギャ難民問題  バングラデシュ政府はベンガル湾に浮かぶ沈泥の島への移住隔離も

2019-10-29 22:34:08 | 難民・移民

(バングラデシュ・ベンガル湾沖の島「ブハシャンチャール」に建設された、ロヒンギャ難民が入居する予定の施設【10月28日 AFP】 劣悪な難民キャンプと比較すると格段に快適な環境のようにも見えますが、外界と遮断された孤島で、難民たちの生活は“飼い殺し”状態にもなるのでは。サイクロン災害の危険も)

 

 【進まぬ難民帰還 頑ななミャンマー政府 関与を弱める国際社会】

ミャンマー国軍などによる虐殺・放火・レイプなどで大量難民の発生してから2年以上が経過して、次第に忘れ去られることも懸念されるロヒンギャの問題。

 

国軍との関係・世論のロヒンギャ嫌悪もあって、スー・チー氏が積極的に動く様子は今のところ見られません。

「即位礼正殿の儀」への参列で来日したスー・チー氏は以下のように国際社会の対応を批判しています。

 

****スー・チー氏単独会見、議会軍人枠廃止「20年選挙後」*****

(中略)ミャンマーでは17年8月、ロヒンギャ系武装集団の治安施設襲撃を契機に、国軍が掃討作戦を実施した。国連調査団が「民族虐殺の疑念がある」とする報告書を公表するなど批判を浴びている。多くのロヒンギャは長年、無国籍状態に置かれ迫害の対象となってきた。

 

スー・チー氏は「問題の背景には貧困や法秩序の欠如がある」と述べ、これらの課題に政府が取り組み始めたときに「情勢安定を望まない過激派が襲撃を起こした」と主張した。「国際社会がこうした背景に注意を払っていないことに失望している」と、圧力を強める欧米の姿勢を批判した。【10月23日 日経】

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こうしたミャンマー政府の姿勢を受けて、国際社会の取り組みも目立たなくなっています。

 

****声明案にロヒンギャ問題言及なし 来月開催の東アジアサミット****

タイの首都バンコクで来月4日に開かれる東アジアサミットの議長声明草案が、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題に全く言及していないことが27日明らかになった。共同通信が草案を入手した。

 

昨年の声明はロヒンギャが置かれた人道状況に対し「懸念」を表明していた。

 

東アジアサミットには、日米中ロや東南アジア諸国連合(ASEAN)など計18カ国の首脳らが出席。

 

ASEAN外交筋によると、ミャンマーがロヒンギャ問題を記載しないよう強く求めた。ミャンマー国軍幹部に制裁を科すなどして批判を強める米国の干渉を嫌ったとみられる。【10月27日 共同】

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しかし、70万人超のロヒンギャ難民の帰還は全く進んでいません。ミャンマー政府の“やる気”には疑問があり、受入国バングラデシュも限界に近づいています。

 

****解決見えないロヒンギャの現場 大流出から2年の今を見た*****

2019年8月25日。バングラデシュの南東部にあるクトゥパロン難民キャンプ。(中略)

 

ミャンマー政府による弾圧でラカイン州から逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャたちが弾圧による大流出から2年が経過しても、帰還の目処が立たない苛立ちと母国の改善されない人権状況に対して抗議の声を上げていた。

 

2年前の弾圧時に軍に10歳の息子が銃殺された40代の女性は「ここは食料が不足している。早く故郷に戻りたい」と語る。また少年(13歳)は「食糧が不足しているしキャンプは汚い。一日中何もすることが無く故郷のことをいつも考えている。以前のように学校に通いたい」と訴える。

 

ロヒンギャの一部過激派が警察施設を襲撃したことが発端とされる軍を主体とする報復活動は、民族浄化と言っても過言ではないほどの凄惨さを極め、70万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れてきた。

 

ほとんどが家族や親戚を殺されたり家を焼き討ちにされたりし、命からがら何日もかけて国境を越えて来た。また多くの女性が性的暴力やレイプされるなど非人道的な行為を受けたと報告されている。「食料もお金もいらないから武器をくれ。奴らに仕返しに行くんだ」とある青年は怒りをぶつける。

 

犠牲者の数は少なくとも1万人、最大で2万5千人と推測される。ただ、ミャンマー政府が海外のメディアや調査機関の受け入れを制限しているため、被害の全容は未だ掴めない。(中略)

 

「ここには仕事がない。家族はいつも空腹」

(中略)ミャンマーとの国境近くにあるキャンプには、もともと過去にミャンマーから逃れてきたおよそ30万人のロヒンギャがいる。新たに流入した70万人を加えると100万人以上が暮らしていることになる。

 

ごく一部のロヒンギャは国連が運営する公式キャンプで暮らしているが、残りの大多数が暮らすキャンプは劣悪な環境で食糧は慢性的に不足しており、水道やトイレなどのインフラも十分ではなく常に感染症などのリスクと隣り合わせだ。

 

「ここには仕事が無い。家族全員がいつも空腹だ。米や油の援助はあるが鶏肉や魚は現金が無いと手に入らない。家は狭く雨が降るとすぐに壊れてしまう。故郷では広い土地と沢山の家畜を持っていたが全てを失った」と男性(42歳)は現在の生活を話す。

 

彼らは就業が許可されておらず、現金収入は殆ど無い。違法に日雇い労働などをしてわずかな稼ぎを得る。キャンプでは人身売買やドラッグが蔓延するなど治安も安定しない。

 

ミャンマーとバングラデシュの両国は難民の早期帰還開始に合意し、昨年11月と今年の8月に2度の帰還計画が実行された。しかし、これに応じるロヒンギャは誰もいなかった。

 

「目の前で家族や親戚を殺された。家も焼かれ家畜も奪われ全てを失った。たとえ帰ったとしてもまた同じ目に会うのだろう」「母国での安全の保証や基本的権利が認められない限り帰るわけにはいかない」と多くの人が口にする。

 

帰還計画は度重なる国際社会からの非難と国連での非難決議に対するミャンマー政府の単なるパフォーマンスに過ぎないとも言われている。両国は相手国の不備や不手際が原因だと責任の擦り付け合いをしている状態で計画は頓挫したままだ。

 

両国政府、そして日本の取り組みは

ミャンマー政府は一貫してロヒンギャを国民として認めず、あくまでもバングラデシュからやってきた不法移民と見なし国籍を与えていない。政府は移動、就業、出生、結婚、教育、宗教の制限など様々な迫害を軍事政権発足以降数十年にわたり行ってきた。

 

民主化の象徴であるアウン・サン・スーチー国家顧問に状況改善への期待が高まったものの、彼女には軍をコントロールする権利が憲法で認められていない。また大多数が仏教徒のミャンマー国民の間でも反ロヒンギャ感情が根強く、ロヒンギャをバングラデシュからの不法移民と見なし、自分たちの文化や土地が奪われると考えている。

 

最近の調査では、大弾圧以降ロヒンギャが暮らしていた村は更地にされ、新たに軍や国境警備隊の施設、ミャンマー人のための住居が建設されたと報告されている。ミャンマー政府が本腰を入れてロヒンギャを帰還させる気があるのかは甚だ疑問である。

 

一方の受け入れ国であるバングラデシュ政府も我慢強くロヒンギャを支援してきたが、それも限界にきている。

 

アジア最貧国のひとつでもある同国は決して豊かではない。地元住民を差し置いてロヒンギャを積極的に支援することは出来ず多くの援助を国連、NGO、イスラム諸国に頼っている。

 

政府はベンガル湾に浮かぶ無人島バシャンチャールに10万人を収容できる施設を建設し、ロヒンギャの移住を検討している。しかし同島は医療や教育へのアクセスが制限され、また頻発するサイクロンにより浸水、最悪の場合水没する可能性も有り安全が懸念されている。

 

日本政府も河野前外務大臣がアウン・サン・スーチー国家顧問と会談し、早期の帰還に向けての協力を約束しており国連でのミャンマーへの非難決議に欧米諸国が賛成を表明する中、日本は全て棄権している。

 

またロヒンギャという呼称も使わずあくまでラカイン州のイスラム教徒というミャンマーの立場に同調している。

 

一方で2度にわたりロヒンギャ難民キャンプを視察しバングラデシュ政府に対し支援を強化する考えを示した。日本としては両親日国に対して独自の外交で解決への道を探り存在感をアピールしたいところだろうが、どちら側にも曖昧な日本の姿勢は決して歓迎はされているわけではない。

 

私が出会ったあるロヒンギャの老女は「日本軍は昔、仏教徒と一緒に私たちロヒンギャをたくさん殺した。そして今でもミャンマーの味方をしている」と語った。

 

(中略)国連やNGOの援助でキャンプは整備されつつあるが、彼らの暮らしは貧しいままだ。トイレや炊事場は共同で電気はほとんど通っていない。火を起こすための薪を遠くの山まで取りに行かなければならない。

 

またバングラデシュ政府は治安への不安から、キャンプ周辺での携帯電話のインフラを遮断した。自由に移動が出来ない彼らにとって唯一外の世界とつながる手段が絶たれたことにより疎外感や閉塞感が一層増している。

 

行き場のないロヒンギャが過激な思想に陥ったりドラッグなどの犯罪行為に及ぶことも懸念される。

 

最近では新たに流入したロヒンギャと過去にバングラデシュに逃れてきたロヒンギャ、地元住民との間に軋轢が生じてきており緊迫した状況が続いている。あらたに70万人ものロヒンギャが流入したことによる治安の悪化、物価の高騰、雇用の奪い合い、環境破壊といった問題がその背景にはある。

 

歴史、宗教、文化、人種、国際関係など様々な要素が複雑に絡み合い、世界で最も迫害されている少数民族と言われているロヒンギャの行き先は未だ不透明である。【10月24日 WEDGE】

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【強制移住に動くバングラデシュ政府】

バングラデシュ政府は、地域住民の不満・治安悪化などもあって、かねてより上記記事にもあるベンガル湾に浮かぶ無人島バシャンチャールへの難民移住を計画しています。

 

****ロヒンギャ難民、強制移住も視野 バングラデシュ、避難長期化で****

バングラデシュのモメン外相は26日までに共同通信のインタビューに応じ、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの集団帰還が進まないため、国境近くの難民キャンプからベンガル湾の島に強制移住させることも視野に入れていると明らかにした。

 

70万人以上が避難するきっかけになったロヒンギャ武装勢力と治安部隊の戦闘から25日で2年が経過した。モメン氏は同日のインタビューで避難生活の長期化に懸念を表明。南東部コックスバザールのキャンプは雨期に土砂災害の危険があるとして「帰らないなら、より強い姿勢を取ることになる」と述べた。【8月26日 共同】

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 バングラデシュ政府は一応難民の“同意”を得ての移住だとしています。


****バングラのロヒンギャ難民、20年前に出現した島への移住に一部が同意****

ミャンマーから逃れ、バングラデシュ南部コックスバザールの難民キャンプで暮らす多数のイスラム系少数民族ロヒンギャが、ベンガル湾に浮かぶ島への移住に同意した。バングラデシュの当局者が20日、AFPに明らかにした。一方でこの島については、洪水の恐れが高いとの懸念もある。

 

ミャンマーとの国境に近いコックスバザールにある複数のキャンプには、100万人近いロヒンギャが過密状態の中で暮らしている。このため、バングラデシュ政府は以前から、沈泥によって形成された島「ブハシャンチャール」に約10万人を移住させたいと考えていた。(中略)

 

バングラデシュ政府の難民担当官であるマハブブ・アラム氏はAFPに対し、ロヒンギャ難民の移住を管轄する当局者を数日内にも同島に配置すると説明。「約6000〜7000人の難民が既にブハシャンチャール島への移住に前向きな意思を示している」と話し、「その数は増えている」と述べた。

 

アラム氏は移住の時期には触れなかったが、同島で施設の建設に関与する海軍幹部は、12月までには移住を開始することが可能だとし、毎日約500人のロヒンギャ難民が移送されると語っている。

 

アラム氏によると、ロヒンギャの指導者らは、施設や生活環境を視察するため、同島を訪問することになっている。

 

バングラデシュ政府は昨年から、同国本土から船で1時間ほどの距離にあるブハシャンチャール島にロヒンギャ難民を移住させる計画を立てていた。

 

だが人権団体などは同島について、わずか20年ほど前に隆起して海面上に現れた脆弱(ぜいじゃく)な島であり、雨期(モンスーン)の暴風雨に持ちこたえられることができない可能性があると警告している。

 

同島が位置するメグナ川の河口では過去50年にわたり、強力なサイクロンによって数十万人が死亡している。

 

ロヒンギャ難民の一人で、子ども4人の父親であるヌール・フセインさんはブハシャンチャール島の施設を撮影した動画が披露された後、同島への移住に同意。フセインさんはAFPに対し、「移ることに同意した。ここのキャンプはとても混んでいる。食料や住居に関する問題がある」と述べた。 【10月20日 AFP】

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当然ながら、難民の同意を求めるためにバングラデシュ政府が動画は、真新しい建物など、島の良い面しか紹介していないでしょう。

 

しかし、サイクロンによる災害時の水没などの危険性もありますが、外界と完全に切り離なされた島では“違法な日雇い労働などによるわずかな稼ぎ”も、“火を起こすための薪を遠くの山まで取りに行くこと”もできません。難民たちの日々の暮らしはどうなるのでしょうか?完全な“天井のない巨大な監獄”と化す危険もあります。

 

同意そのものにも疑義があるとの指摘も。

 

****バングラ政府によるロヒンギャの島移住計画、人権団体が「同意」に疑問符****

ミャンマーから逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐり、多数のロヒンギャがベンガル湾に浮かぶ島へ移住する用意ができているとするバングラデシュ政府の主張に対し、国際的な人権団体が25日、疑問の声を上げた。この島をめぐっては、自然災害を受けやすいなどの指摘がある。

 

政府当局は6000〜7000人の難民が11月に開始される島への移住に前向きな意思を示していると話していた。(中略)

 

しかし、米国に本拠を置く人権団体フォーティファイ・ライツは、3か所の難民キャンプで移住を希望しているとされる難民のリストに名を連ねている人ら計14人に話を聞いたところ、誰も移住を打診されたことはなく、また「全員が反対していた」という。

 

同団体によると、リスト上に名前がある女性は「もしバングラデシュ政府が島に行くことを私に強いるなら、このキャンプで毒を飲んで自殺する。向こうにはいかない。誰も私がリストに載っているとは言わなかった」と話したという。

 

同団体の代表であるマシュー・スミス氏は「この島は難民らにとって持続的な解決策とはなり得ないし、ロヒンギャの人々自身よりも、そのことが分かっている者はいない」と語った。

 

その他の複数の人権団体も、本土から船で3時間ほどかかり、繰り返し壊滅的な被害をもたらすサイクロンが直撃するこの島に難民を移住させることについて、懸念を示している。 【10月28日 AFP】AFPBB News

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バングラデシュ政府は、なんとか“厄介払い”したいところでしょうが・・・。

 

【ミャンマー 治安改善せぬラカイン州 全国的にも少数民族との和平協議は停滞】

一方、難民たちの故郷であるミャンマー・ラカイン州では、イスラム系少数民族ロヒンギャの問題だけでなく、仏教徒少数民族ラカイン人の武装勢力の活動も活発化しており、治安が落ち着く様子はありません。

 

****ミャンマー武装組織がフェリー襲撃、兵士や警官ら40人超を拉致 西部ラカイン州*****

ミャンマー西部ラカイン州で26日、少数民族ラカイン人の武装組織がフェリーを急襲し、警察官や兵士ら40人超を拉致した。国軍が明らかにした。紛争の絶えない同州では、同様の事件が相次いでいる。

 

ラカイン州では、仏教徒の少数民族ラカイン人の自治権拡大を求める武装組織アラカン軍を掃討するため、国軍が数千人規模の兵力を投入。しかしアラカン軍による強襲や拉致、即席爆発装置により、多大な犠牲を払うことになった。(中略)

 

ラカイン州では2週間足らず前に、スポーツチームを装った反政府勢力とみられる集団がバスを襲撃し、消防隊員と市民数十人を拉致する事件が起きたばかり。 【10月27日 AFP】AFPBB News

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スー・チー政権が全土的に進める少数民族との和平協議も停滞気味です。

 

****ミャンマー 停戦協定4年 式典開催も和平協議の難航浮き彫りに****

(中略)ミャンマーでは独立直後からおよそ70年にわたり、幅広い自治権などを求める少数民族の武装勢力と政府軍との間で戦闘が続いてきました。

4年前には少数民族の各武装勢力と政府の間で停戦協定への署名が行われ、これまでに18の勢力のうち半数以上が署名しましたが、依然、8つの勢力が署名を拒み、各地で戦闘が続いています。

こうした中、首都ネピドーでは28日、和平の実現に向けて機運を高めようという式典が開かれ、アウン・サン・スー・チー国家顧問が「停戦協定に署名していない勢力のリーダーたちに、政治的な対話に向けて歩み出すことを強く求める」と演説し、停戦に応じるよう呼びかけました。

しかし、今回の式典には、すべての武装勢力が招かれたものの、署名を拒む勢力からの出席は1つしかなく、和平をめぐる協議が難航していることが改めて浮き彫りになりました。【10月29日 NHK】

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むしろ、国軍は非停戦勢力への武力行使を強めているとの報道も。

 

****ミャンマー軍、ロヒンギャの次はカチン族を標的に ****

武装ヘリや戦闘機を使った攻撃で人道危機が深刻化している

ミャンマー軍が少数民族への弾圧を再び強めている。イスラム系少数民族ロヒンギャの大半を隣国バングラデシュへと追いやった軍は目下、武装ヘリコプターや戦闘機、重火器などを使い、中国との国境に近い北部山岳地帯でカチン族の武装勢力に攻撃を加えている。

 

カチン族はキリスト教徒の多い少数民族。ミャンマー政府と軍は、主に国境沿いに暮らす様々な少数民族との間で停戦協定の締結を目指しており、カチン族への攻撃は、協定締結を拒む武装勢力に対して、軍が弾圧を強めていることを映し出している。

 

攻撃のパターンからは見えるのは、カチン族などの少数民族の武装勢力が資金源としている翡翠(ひすい)や琥珀(こはく)鉱山へのアクセスを軍が断とうとしていることだ。米国と中国はともに、紛争の即時停止を求めている。(後略)【2018 年 5 月 29 日 WSJ】

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南米・中東などで相次ぐ反政府デモ SNS活用で予想を超えた動きを見せる市民の怒り

2019-10-28 22:40:48 | 国際情勢

(レバノンの首都ベイルートで「人間の鎖」を作るデモの参加者(2019年10月27日撮影)「宗派にとらわれることを拒否するレバノン人の姿を見せることが目的」とも 【10月28日 AFP】)

 

【南米・中東などで相次ぐ反政府デモ】

政府への抗議行動が世界各地で起きていますが、「いつでも、そんなものだろう・・・」という感じの一方で、「でも、なんか最近多いみたい」という感じも。

 

下記のような記事がでるところを見ると、やはり最近は多いのかも。

 

****香港だけじゃない 10月に入って世界中でデモ急増****

10月に入ってから世界各国で抗議運動がかつてないほど相次いで発生している。主要な抗議運動について以下にまとめた。

 

■チリ

期間:10月18日以来。

きっかけ:首都サンティアゴの地下鉄運賃値上げ。

現状:セバスティアン・ピニェラ大統領は運賃値上げを見送り、基礎年金支給額の増額や電気料金の値下げなどの社会政策を実施すると発表。しかし、物価高や社会的格差に対する不満からデモは拡大しており、25日には、約100万人がサンティアゴで同国史上最大とみられるデモ行進に参加した。

死傷者数:死者19人。

 

■ボリビア

期間:10月21日〜。

きっかけ:10月20日に実施された大統領選の開票結果をめぐる論争。この選挙では、現職のエボ・モラレス大統領が4選を決めた。

現状:複数の地域で暴動が発生中。10月23日にはゼネストも実施された。

死傷者数:モラレス氏の支持者と反対派との衝突で負傷者が何人か出ている。

 

■レバノン

期間:10月17日〜。

きっかけ:メッセージ交換アプリを使った通話への課税案。

現状:サード・ハリリ政権は課税案を即時撤回し、緊急経済再生計画を発表。しかし抗議デモは拡大し、デモ隊は政治エリート層の一掃を要求している。

死傷者数:なし。複数の衝突が起き、国家的なまひ状態が続いているものの、デモはおおむね平和的に実施されている。

 

■エクアドル

期間:10月1〜13日。

きっかけ:燃料補助金の廃止。

現状:レニン・モレノ大統領と抗議行動の中心となっていた先住民団体の代表が、12日間続いたデモの終結で合意した。

死傷者数:死者8人、負傷者1340人。

 

■イラク

期間:10月1日〜。

きっかけ:汚職や失業問題、劣悪な公共サービスに対する抗議の呼び掛けがソーシャルメディア上で自然発生。

現状:1週間にわたる抗議運動が治安部隊との衝突に発展。一度は沈静化したが、10月25日にデモが再開され、暴力行為が急増している。

死傷者数:最初の1週間で150人以上が死亡。10月4日だけで42人が死亡した。

 

■その他の抗議運動

 香港とアルジェリアでも、今年に入って始まった抗議運動が現在も続いている。

【10月26日 AFP】AFPBB News

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【南米 左派政権のバラマキ政策で財政悪化、右派政権の財政再建の痛みに国民不満噴出】

地域的に見ると多いのが南米と中東。

 

南米については、左派政権のバラマキ政策で財政が悪化、右派政権に代わって緊縮財政・財政再建に取り組むものの、今度は国民負担が重くなることへの不満が噴出・・・という流れが見られます。

 

****世界で抗議デモ****
中南米国家のエクアドルやホンジュラスでも最近、反政府デモが起こっている。27日に大統領選が行われるアルゼンチン、今年「1つの国、2人の大統領」体制を実施しているベネズエラの社会混乱も深刻だ。

 

ブルームバーグ通信は、中南米全体が「原材料ジレンマ」に陥ったと診断した。

 

中南米は2000年代、原油、鉄鉱石、銅など原材料の価格上昇の時期に政権に就いた左派政府のばらまき福祉政策に慣れている。

 

最近の世界景気の鈍化で原材料の価格が急落すると、福祉の恩恵が減り、景気も以前ほどではなくなった。このような中、緊縮を叫ぶ右派政権が次々に政権を獲得し、庶民との葛藤が避けられなくなったのだ。(後略)【10月22日 東亜日報】

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エクアドル、チリも同様のパターンですし、抗議行動ではないものの、アルゼンチンにおける政権交代も同様の流れでしょう。

 

****大統領選後も、見えぬ経済再建 アルゼンチン現職、IMFを頼り反発招く きょう投開票、政権交代有力****

経済危機に陥っている南米アルゼンチンで27日、大統領選がある。

 

中道右派のマウリシオ・マクリ大統領(60)は財政再建を進めようとしたが、経済成長が実現しなかったうえ、国際通貨基金(IMF)から融資を受けたことで国内の反発が強まって失速。

 

8月の予備選挙では左派が圧勝し、4年ぶりの政権交代が有力視されている。ただ、どちらが勝利しても経済立て直しの道筋は見えてこない。

 

(中略)「マクリがここまでひどいとは思わなかった。IMFと聞くと、2001年を思い出す。マクリを再選させたら、同じことを繰り返すことになる」

 

01年とは、アルゼンチンの過去最大の経済危機のことだ。大規模な暴動や略奪が発生し、財政破綻(はたん)した政府は債務不履行に陥った。当時の経済危機が、IMFの指導に沿った経済改革の末に起きたこともあり、国内ではIMFへの反感が強い。米ウィルソンセンターの調査では国民の56%が「IMF嫌い」とされる。

 

一方、IMFが求めるような財政健全化などの改革を進めなければ、経済成長も見込めない。15年に就任したマクリ氏は、貧困層支援を重視した前政権の政策を見直し、IMFや米国と協調。財政緊縮を進めながら、市場重視の路線を打ち出した。

 

ところが、経済成長が実現しないまま、18年春には米国の金利上昇をきっかけに通貨危機が再燃。マクリ氏はIMFに支援を要請し、史上最大規模となる計563億ドルの融資枠を得たが、マイナス成長に沈む経済に国民の不満は募るばかり。IMFの登場で、さらに反発を招いた。(後略)【10月27日 朝日】

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選挙の結果、予想通り右派現職が敗れ、左派のアルベルト・フェルナンデス元首相が勝利しましたが、副大統領候補としてアルベルト・フェルナンデス元首相を担いでいるのは、バラマキ政策・保護主義で財政悪化を招いたクリスティナ・フェルナンデス前大統領であり、実権を握る彼女のもとで再び財政悪化が深刻化することが懸念されています。

 

****左派フェルナンデス氏勝利 アルゼンチン大統領選****

南米アルゼンチンで27日、任期満了に伴う大統領選が実施された。6人が立候補する中、野党の左派アルベルト・フェルナンデス元首相(60)が現職の中道右派マクリ氏(60)の再選を阻んで勝利し、4年ぶりに左派政権が復活することが決まった。12月10日就任で任期4年。マクリ氏は敗北宣言した。

 

ポピュリズム(大衆迎合)的で財政規律が緩い左派政権に対しては、市場の警戒感が強い。選挙前から通貨ペソが下落を続けており、中央銀行のドル売り介入などで外貨準備高が減少。2001年末のデフォルト(債務不履行)の再現を懸念する声もある。【10月28日 共同】

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【中東 無能力、無責任、腐敗体質に対する長年の国民の不満が爆発】

もともと政情が安定しない中東では、経済問題と長期独裁・民意を反映しない政治の機能不全への不満が根強く、「アラブの春」のようにその不満が噴出することになります。

 

政府がスマートフォンのアプリを使った通話に課税する案を提示したのをきっかけに、17日から全土で数万人規模の反政府デモが続いているレバノン。

 

21日、サード・ハリリ首相がテレビ演説を行い、政府が承認した経済再生計画を発表しましたが、“デモ参加者の間では、発表された再生計画によって腐敗したエリート層が職にしがみつこうとしているとの受け止め方が多く、21日現在、抗議が収束する気配はほとんど見られない。”【10月22日 AFP】とも。

 

以外なのは“デモの規模の大きさに比べ、付随する事件はこれまで5日間で著しく少ない。街頭では、ボランティアがまとまって清掃に当たっているほか、参加者に水を配ったり、応急救護のためのテントを設営したりしている。”ということ。このあたりは、抗議デモも今日的に洗練されてきたというところでしょうか。

 

こうした様相はスーダンでも見られましたが、抗議行動が無秩序化して世論の反発を招き、政権側の弾圧への口実を与えることを防ぐ“知恵”でもあるでしょう。

 

レバノンは宗派のバランスの上に立つ国家ですが、“各派の利害が一致しない時には、長期間の政府不在になったり、各派は専ら自己の利益増進に励む(要する政界総汚職体制)というのが、日常となってきたのが、レバノンと言えますでしょうか”【10月26日 「中東の窓」】とも

 

更に近年はヒズボラの影響力が増大しています。そのことが政治の機能不全をも強めています。

 

****アプリ通話への課税案に猛抗議 レバノンで大規模デモ***

(中略)レバノンには18の宗教・宗派があり、大統領はキリスト教マロン派、国会議長はイスラム教シーア派、首相はイスラム教スンニ派から選出し、一つのグループに権力が集中しないようにしている。

 

だが2018年の総選挙では、イランの支援を受けるシーア派組織ヒズボラが躍進。影響力の強い閣僚ポストを要求するヒズボラに対し、ハリリ氏は対抗できずに押し切られるなど政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)で、指導力を発揮できない状態になっている。【10月21日 朝日】

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レバノン政治において最大の影響力を有するヒズボラは現政権擁護の立場で、“報道によっては、ヒズボッラー要員がデモ参加者に棒等をもって襲い掛かっていると報じるところもあります。” 【10月26日 「中東の窓」】とも。

 

イラクでは、ぜい弱な公共サービスや高い失業率に対する国民の不満を背景に、アブドルマハディ首相が就任してからちょうど1年を迎えた25日から首都バグダッドや南部の都市などで反政府デモが続いています。

 

そのイラクで影響力を持つのが、最大政党指導者で民兵組織も持つサドル師。

サドル師は、反政府の立場を強め、抗議行動を扇動する状況にもなっています。

 

****イラク反政府デモ、前倒しで再開 規模拡大の可能性も****

イラク各地で24日夜、反政府デモが再開された。今月上旬に行われ、死者も出た抗議行動の第2波。デモは同国のイスラム教シーア派指導者ムクタダ・サドル師が支持しており、規模が膨れ上がる可能性がある。

 

上旬の抗議行動は汚職と失業問題に対する非難として始まり、政治改革を要求するデモへと発展。治安部隊の厳しい取り締まりを受けて沈静化した後、苦境に陥ったアデル・アブドルマハディ首相の就任1年に当たる25日に再開する予定だった。

 

しかし、首都バグダッドなどでは予想よりも早くデモが再開。同市では24日夜に数百人が街頭で抗議を行った。

 

イラクのシーア派最高権威アリ・シスタニ師は政府に対し、25日までにデモ隊の要求に回答を示すよう求めており、デモ参加者数は同日中に増加するとみられている。(中略)

 

サドル師は民兵の出身で、最大の議会勢力を掌握する実力者。上旬のデモの際も政府退陣を要求していたが、今週に入ってデモに対する支持をいっそう強く表明し、自身の支持者らの参加を許可した。

 

さらに、サドル師は自身の民兵組織のメンバーに「厳戒態勢」を取るよう指示しており、民兵らが首都バグダッド各地で示威行動を取る可能性がある。 【10月25日 AFP】

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【SNSを活用する反政府デモ 香港をまねるカタルーニャ】

各地のデモ・抗議行動で特徴的なのがSNSの活用。

 

****デモ「SNS時代」 瞬時に連携拡大・見えない主導者****

中東や南米などで大規模な反政府デモが続き、政府が政策の撤回などに追い込まれるケースが相次いでいる。きっかけは様々だが、SNSを介して人々が連帯し要求が拡大するなど共通点もある。情報化が進むなか、予想を超えた動きを見せる市民の怒りに、政権側は苦慮している。【10月28日 朝日】

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特に香港の抗議行動で「SNS」が活用されていることは周知のところですが、スペイン・カタルーニャの分離独立運動は、香港を「お手本」にしているとか。

 

****カタルーニャ独立派、香港がデモ戦術のヒント 空港占拠や暗号化アプリ****

空港封鎖や暗号化メッセージアプリの利用…スペイン北東部カタルーニャ自治州で、独立派の州政治家9人に対し長期の禁錮刑判決が出されたことに抗議するデモの参加者らは、香港の民主派デモの戦術を公然と模倣している。

 

2017年に実施されたカタルーニャ州の独立をめぐる住民投票で主導的立場にあった9人に対し、スペイン最高裁は今月14日、最長13年の禁錮刑を言い渡した。

 

その直後、ロシアで開発されたメッセージアプリ「テレグラム」のユーザー24万人は、スペインで2番目に発着便数が多い州都バルセロナのエルプラット空港へ向かうよう促すメッセージを受け取った。

 

メッセージを送ったのは、設立されたばかりの「民主的津波」と呼ばれる匿名の独立派組織。9月に香港の民主派デモの参加者たちが実行したように、空港を「まひ」させることが目的だった。(中略)

 

「民主的津波」が送ったメッセージの一つの末尾には、ハッシュタグ「#BeWater(水になれ)」が付いていた。これは香港で生まれた迅速で予測不能な抗議戦略を表すスローガンだ。

 

香港の伝説的アクションスター、ブルース・リーの言葉が基になっているこのスローガンは、ツイッターでカタルーニャ全域に拡散している。

 

■「香港を見ろ」

カタルーニャ州のデモ参加者の多くはアイデアを得るために、香港のデモを参考にしている。

 

バルセロナではデモ隊が警察に対して「時々」、レーザーポインターを使っている。6月以降、民主主義と警察の説明責任を求めて数百万人がデモを行っている香港では、よく使われている戦術だ。(中略)

 

バルセロナを象徴するサグラダ・ファミリア教会へ通じる道は18日、独立派団体「共和国のためのピクニック」によって封鎖された。匿名を条件に取材に応じたメンバーは、暗号化メッセージアプリ「テレグラム」の使用は香港のデモ隊を「直接」真似たものだと話した。

 

■黄色いヘルメット

カタルーニャの独立派は、香港で使用されているビラをそのまま使うこともある。警察の放水砲から身を守る体勢を説明する図解は、広東語の記載のままソーシャルメディアで共有された。

 

8月に立ち上がったあるカタルーニャ独立派団体は、自分たちのことを「カスコス・グロクス(黄色いヘルメット)」と呼んでいる。香港のデモ隊と同じ黄色いヘルメットを使用しているからだ。(中略)

 

■中国当局「ダブル・スタンダード」と欧米批判

カタルーニャ独立派が、香港民主派のデモ戦術をヒントにしていることに対し、中国の政府や国営メディアは敏感に反応している。

 

中国の王毅外相は21日に応じたAFP独占インタビューの中で、カタルーニャ、チリ、ロンドンでの最近の抗議デモに触れ、「このところ香港で起きている暴力が、他の場所でも模倣されている」「カタルーニャのデモでは、カタルーニャに第2の香港をつくるとのスローガンが叫ばれ、香港の状況に触発されているともしている。彼らの行動について考えねばならない」と述べた。

 

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は20日の論説で、「香港のデモ隊は、思いがけない方法で世界に革命を輸出している」と言及。さらに「欧米は香港の暴動を支持した代償を払っている。それは世界各地であっという間に暴力をたきつけ、欧米の手に負えない政治的リスクを予感させている」と評した。

 

また中国の国営英字紙チャイナ・デーリーは23日の論説で、「欧米のメディアや政治家たちは、さまざまな国の抗議デモで参加者が起こす同じ暴力に対して、ダブル・スタンダードで臨んでいる」「欧米諸国の抗議デモで参加者が起こす暴力には騒乱だ、暴動だというが、香港のデモや抗議行動となると『自由のための高貴な闘い』だという。欧米の偽善だ」と主張した。 【10月25日 AFP】

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エチオピア  民族対立の現実に直面する「ノーベル平和賞」受賞者アビー首相の“道半ば”の「改革」

2019-10-27 21:24:55 | アフリカ

(エチオピアの首都アディスアベバで24日、反政府デモに参加する最大民族オロモ人の若者たち=ロイター【10月26日 朝日】)

 

【「民族の博物館」エチオピアで初の最大民族オロモ人からの首相起用】

東アフリカ・エチオピアは“80もの民族が100近い言語を話す「民族の博物館」とも称される”【10月11日 産経】とのこと。

 

2018年、エチオピアでアビー首相が就任した当時、少数派ティグレ人(人口比6%)が実権を握るエチオピアは民族間の対立で混乱のさなかにあり、多数派オロモ人(人口比34%)からの初の首相となったアビー氏の起用は、そうした混乱を収めるための意表をついたものでした。

 

****<エチオピア>新首相にアハメド氏 最大民族オロモ人起用****

エチオピアからの報道によると同国の与党連合は(2018年3月)28日までに、アビー・アハメド元科学技術相(42)を新首相に選ぶことを決めた。

 

政府に抗議行動を続けてきた最大民族オロモ人であるアハメド氏が指導者となることで、民族間の緊張緩和が期待される。

 

エチオピアでは、少数民族ティグレ人が政治・経済を掌握しており、疎外されてきたオロモ人らの不満が噴出していた。長引く混乱を受け2月にハイレマリアム首相が辞意表明したのに続き、非常事態を宣言していた。

 

同国の人口は約1億人とアフリカ大陸でナイジェリアに次いで2番目に多く、2000年代半ばから10%前後の経済成長を維持。一方で、反体制派の弾圧で多数の死傷者が出たほか、活動家らの逮捕も相次ぎ、地域大国の不安定化に対する懸念が広がっていた。【2018年3月29日 毎日】

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それまで権力の中枢を握っていたのは1991年に社会主義メンギスツ政権を革命で転覆したティグライ民族解放戦線(TPLF)でしたが、既得権益層と化したTPLEのもとで民族対立が激化した状況で、“一説によれば、このままでは国家・社会が取り返しのつかないアリ地獄に陥ってしまうと考えたハイレマリアム首相がオロミア州選出の国会議員であり、与党EPRDF構成政党であるオロモ人民民主組織(2018年9月にオロモ民主党に改名)の党首でもあったアビィ氏と手を握り、TPLFの虚をつく形で政権を握ったものだとも言われている。”【4月24日 在エチオピア大使 松永大介氏 霞関会】とも。

 

【アビー首相の改革を後押しするノーベル平和賞】

その後、アビー首相は、国内改革、民族間の融和を進め、国際的には長年対立していた隣国エリトリアとの国境紛争に終止符をうち、ケニアとソマリアの仲介、独裁政権が崩壊したスーダンや、政治対立が続く南スーダンの和平協定推進など、周辺国における政治混乱を仲介してアフリカ各地の平和構築も推し進めてきました。

 

そうした功績が評価されて、今年のノーベル平和賞が授与されたことは周知のところです。

 

****道半ばの改革者に光 平和賞のアビー首相、民族融和にも尽くす**** 

アビー氏のノーベル平和賞受賞の知らせを受け、エチオピア首相府は「すべての国民の勝利だ」とする声明を出した。国境紛争や民族対立の解決に取り組んできた改革者らしいメッセージといえる。

 

昨年4月の首相就任からわずか3カ月後のことだった。隣国エリトリアの首都アスマラを訪れて同国のイサイアス大統領と会談し、2年間で推定10万人が死亡した国境の村バドメをめぐる紛争(2000年停戦)に公式に終止符を打った。

 

アビー氏は「愛は戦車やミサイルのような近代兵器よりも偉大だ」と述べ、約20年ぶりの国交樹立の意義を訴えた。

 

停戦後の03年にも軍事衝突の危機を招くなど、両国関係は長く険悪なままだったが、アビー氏はバドメの領有権を放棄する形で矛を収めた。

 

その瞬間、行き来ができず、両国に離ればなれのまま暮らしていた多数の友人や親類が、久しぶりに開通した電話で旧交を温めたといわれる。

 

国内でも女性が閣僚の半数以上を占める内閣改造を行うなど男女格差の解消を進めただけでなく、非常事態宣言の解除▽政治犯数千人の釈放決定▽反体制活動家の入国許可▽自由なメディア報道の解禁−など、民族融和を促す政策を矢継ぎ早に実施した。

 

前政権時代には、少数民族の支配に反発する最大民族オロモ人の抗議運動が拡大し、政府は16年に非常事態を宣言。取り締まりによる死者は940人に達したとされる。アビー氏はオロモ人として初の首相となったが、「すべてのエチオピア人の指導者」になると訴えた。その言葉通り、強権色は姿を消し、国際的評価も様変わりした。

 

エチオピアは80もの民族が100近い言語を話す「民族の博物館」とも称される。民族紛争が絶えない上、急進的な改革を進めるアビー氏に対し、敵対勢力の反発も根強く残る。

 

昨年6月にはパレード中のアビー氏を狙ったとみられる爆発事件が発生。1月にも軍幹部が暗殺されるクーデター未遂事件が起きた。

 

ノーベル賞委員会は「授賞は早すぎると考える人もいるのは間違いない」とした上で、「アビー氏の努力は評価に値し、勇気づけるべきものだと信じる」と述べた。「結果」だけを評価するノーベル賞の他の部門と違い、道半ばの改革者にも光を当てる平和賞の特徴が示された。【10月11日 産経】

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評価が分かれることも多い毎年のノーベル平和賞ですが(今年は候補者として急浮上した環境問題のジャンヌ・ダルクとも評されるスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんをめぐっての論争もありましたが)、エチオピア・アビー氏について言えば、アフリカのイメージを大きく変えつつある政治家として、かねてより大方が本命視していた政治家であり、個人的にも授与は妥当な判断だと思います。

 

【出身民族オロモ人の一部の勢力からは「アビーは他の民族と協力しようとする裏切り者だ」との批判も】

ただ、“ノーベル賞委員会は「授賞は早すぎると考える人もいるのは間違いない」とした上で、「アビー氏の努力は評価に値し、勇気づけるべきものだと信じる」と述べた。”というように、「民族の博物館」エチオピアにあって改革はそうそう簡単に進む話でもなく、改革を進めれば抵抗・反動・軋轢も生じるのは必然で、アビー氏の改革は“道半ば”の状態にあります。

 

このところのエチオピアにおける混乱再燃は周知のところです。

 

****平和賞授賞の首相に抗議 エチオピアでデモ、67人死亡****

エチオピアの首都アディスアベバなどで、今年のノーベル平和賞に選ばれたアビー首相に抗議するデモがあり、25日までに治安部隊との衝突で67人が死亡した。治安部隊はデモを鎮圧したとしている。AFP通信などが報じた。

 

エチオピアには80を超える民族がいる。少数派のティグレ人が長く政権中枢を支配し、アビー氏も属する最大民族オロモ人が反発していた。

 

AFP通信などによると、オロモ人の一部勢力が、アビー氏が進める民族融和策などに抗議し、「アビー氏は独裁的だ」と訴えて、23日から街頭でデモを実施。治安部隊との衝突で発砲を受けたり、催涙ガスを撃ち込まれたりし、デモ隊と治安部隊の双方に計67人の死者が出たという。

 

アビー氏は昨年4月に首相に就任。民族対立を抑えるため、拘束されていたオロモ人の政治犯を解放するなどしてきた。ただ、オロモ人の中で多数派としての権限拡大を訴える勢力が、こうした融和策への不信を募らせていた。

 

アビー氏は隣国エリトリアとの国境をめぐる紛争を終わらせた功績などにより、今月11日に今年のノーベル平和賞の授与が決まった。【10月26日 朝日】

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****エチオピア、死者67人に ノーベル賞の首相へのデモが民族対立に****

(中略)デモの発端は、アビー首相を批判している民族活動家のジャワル・モハメド氏が、治安部隊によって自身への攻撃が画策されていると批判したことだった。ただ警察当局は、ジャワル氏の主張を否定している。

 

ジャワル氏は、アビー首相が独裁者のように振る舞っていると非難。来年予定されている選挙でアビー首相と争う可能性も示唆している。(後略)【10月26日 AFP】

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“米国を拠点とするメディア企業家のジャワル氏は、前政権への抗議デモを後押しし、アビー氏を首相の座に押し上げた功労者の一人だ。だが、最近は2人の意見が対立することが多く、ジャワル氏はアビー氏が進める改革を声高に批判していた。”【10月25日 AFP】

 

ジャワル氏の影響力についてはよく知りませんが、彼の主張に沿って抗議行動を起こしたオロモ人には、「ティグレ人に代わってオロモ人が実権を握ったのだから、その利益をオロモ人に回せ」といったような、従来の民族対立の発想から抜け出せないものがあるようにも見えます。

 

****ノーベル平和賞のアビー首相 対立あおる動きを非難 エチオピア****

(中略)アビー首相は26日、初めての声明を発表し「われわれは法律の適用を徹底し、犯罪者を司法の場に差し出す」と述べて、デモに厳しく対処していく姿勢を示しました。

 

さらに「この重大な局面を宗教的で民族的なものに転換しようという試みがある」と指摘し、宗教や民族の対立をあおろうという動きがあると非難し、国民に団結を呼びかけました。(後略)【10月27日 NHK】
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民族間の融和というのは、現実的な利害関係が絡むとなかなか難しいものがあります。

 

****兵士反乱や爆発、なお不安定****

ノーベル平和賞の授賞が決まったとはいえ、エチオピアや周辺諸国の情勢は今も不安定だ。

 

エチオピア国内では、アビー氏の改革に反発する勢力の活動が続く。今年6月には、一部の軍兵士がクーデターを試み、軍参謀総長や北部アムハラ州の政府高官らを殺害。

 

昨年6月には、アビー氏が出席した集会で爆発事件が発生し、同氏は無事だったが、100人以上が負傷した。

 

アビー氏は野党政党の存在を認めるといった融和政策を進めてきたが、権力を失ったティグレ人や、もともと支持基盤のはずのオロモ人の一部の勢力は「アビーは他の民族と協力しようとする裏切り者だ」と反発している。

 

来年5月の総選挙前に治安がさらに悪化する恐れもあり、不安定な状況は今後も続きそうだ。

 

エリトリアとの国境も、行き来が自由になったのは空路だけで、治安悪化などを理由に陸路での横断は今も制限されている。ただ、アビー氏の側近として民主化政策を担当するテメスゲン・ブルカ氏は「両国の国境に適切な入管施設や警備態勢を整備しており、間もなく往来が可能になる」と説明する。

 

「国内に反発する勢力がいるのは事実だ。だが、アビー首相は『人間は本質的に善人だ』と考えている。白人と黒人の融和を進め、ノーベル平和賞を受賞した南アフリカのネルソン・マンデラ氏のように融和路線を進めていくだろう」【10月12日 朝日】

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【巨大ダムをめぐるエジプトとの対立】

国際面で問題になっているのは、エチオピアがナイル川に建設している巨大ダムをめぐる下流国エジプトとの対立です。

 

****エチオピア首相、ダム建設強行 平和賞直後、エジプト反発****

エチオピアのアビー首相は24日までに、同国内のナイル川上流で建設を進めている巨大ダムについて「誰も(建設を)止めることはできない」と強行する考えを表明した。下流域のエジプトが反対しており、建設強行により地域を不安定化しかねない事態となっている。

 

アビー氏は国交が断絶していたエリトリアと和解するなどアフリカ東部の安定に尽力したとして、今年のノーベル平和賞受賞が決定。エジプト政府は声明でダム建設強行について「アビー氏の受賞(決定)を祝福した直後で驚いている」と反発している。【10月24日 共同】

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エジプトがアスワンダム、アスワン・ハイダムに国家発展を託したのと同様に、エチオピアは建設中の「グランド・エチオピアン・ルネサンス・ダム」にエチオピアの将来を託しています。

 

国家間の和平を仲介してきたアビー首相ですが、譲れないものがあるようです。(これまで「ナイルの賜物」をほぼ独占してきたエジプトは発想の転換を迫られてもいます)

 

このあたりの事情は、8月18日ブログ“改革進むエチオピアが建設するナイル川巨大ダム 下流エジプトでは「ナイルの賜物」の変容も”で取り上げていますので、今回は詳細はパスします。

 

 

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米中貿易交渉の「カード」して取り上げられるウイグル族の人権問題 「強制労働」による中国綿製品

2019-10-26 21:55:41 | 中国

(中国政府の許可で撮影されたウルムチの再教育施設【10月1日 Newsweek「ウイグル民族の文化が地上から消される」】)

 

【中国のウイグル族弾圧批判を強めるトランプ政権】

中国・新疆ウイグル自治区のイスラム系少数民族・ウイグル族による暴動・テロ・抗議行動といった動きは、中国当局の「超監視社会」とも言われる厳重な監視体制、100万人にも及ぶと言われる強制収容施設、もしくは中国政府言うところの「職業訓練施設」などによって、最近は完全に封じ込まれているように見えます。

 

中国政府にすれば「テロを封じ込めた」という偉大な成果にもなるのでしょうが、国際社会からすれば、イスラム系民族の文化をまるごと消滅させようとする人道危機ということにもなります。

 

特に、中国と貿易問題などで対立状態にあるアメリカのポンペオ国務長官は、連日のようにこの問題を取り上げて中国を批判しています。

 

****米国務長官、ウイグル弾圧関与の中国当局者らのビザ制限****

ポンペオ米国務長官は8日、中国新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の少数民族ウイグル族などへの弾圧に関与した中国政府当局者や共産党関係者が米国に入国できなくするためビザ(査証)の発給を制限すると発表した。これらの関係者の家族もビザ制限の対象となるとしている。(中略)

 

ポンペオ氏は、「中国政府は自治区で住民らの大量拘束と強制収容、先端技術を使った住民監視を実施し、文化・宗教面での表現の自由を過酷に統制している」と批判した上で、中国政府に自治区での抑圧行為の即時停止と拘束した人々の全面解放を要求した。【10月9日 産経】

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****中国によるイスラム教徒の扱い、大規模な人権侵害=米国務長官****

ポンペオ米国務長官は9日、中国西部におけるウイグル族を含むイスラム教徒に対する中国の扱いは「大規模な人権侵害」とし、今後もこの問題を提起していく考えを示した。

長官はPBSとのインタビューで、「これは大規模な人権侵害であるのみならず、世界にとっても中国にとっても利益になるとは思えない」と主張した。

中国の習近平国家主席に責任があるかとの質問に長官は、習氏は国家の指導者であり、国内で起きたことに対して責任が生じるとの見解を示した。

ポンペオ長官は、「われわれは、これらの人権侵害について話し合いを続けていく。トランプ大統領が別の文脈で香港の状況について述べたように、われわれはこれらの問題が人道的に扱われるよう望んでいる」と述べた。(後略)【10月10日 ロイター】

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****小説「1984年」が現実に 中国ウイグル弾圧で米国務長官****

ポンペオ米国務長官は11日、中国新疆ウイグル自治区で続くイスラム教徒の少数民族ウイグル族弾圧について、市民の言葉や思考など全ての生活が全体主義に支配された世界を描いた英作家ジョージ・オーウェルの小説「1984年」が「現実になっている」と批判した。

 

南部テネシー州ナシュビルでの講演で「中国共産党は100万人以上のウイグル族を強制収容し虐待している」と非難した。8日にもウイグル族弾圧に関与した中国政府当局者らに対し米入国ビザ(査証)発給を制限すると発表したばかり。【10月12日 共同】

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更に、ペンス副大統領も、このウイグル族問題を香港問題と併せてとりあげ、中国の現状を強く批判しています。

 

****米副大統領「中国は攻撃的」と強硬方針=香港情勢でNBAもやり玉****

ペンス米副大統領は24日、ワシントンで演説し、「もはや経済的な関与だけで中国の権威主義体制を自由で開かれた社会に転換できると期待していない」と強調し、中国が法の支配や商取引ルールなどを守るまで強硬姿勢を緩めない方針を明確にした。

 

香港の反政府デモへの対応やイスラム教少数派ウイグル族の弾圧などを列挙し、「一段と攻撃的になり、不安定な事態をもたらしている」と批判した。

 

ペンス氏の対中演説は昨年10月に続き、2度目。前回の演説でトランプ政権の対中強硬姿勢を鮮明にし、「新冷戦の宣戦布告」と反響を呼んだ。

 

ペンス氏は、香港の反政府デモについて「米国は中国に抑制を求め、デモ参加者を支持する」と表明。米プロバスケットボール協会(NBA)の人気チーム幹部がデモを支持するツイートを投稿した後、釈明に追い込まれた問題を受けて「NBAは言論の自由を封じ、(中国の)完全子会社のように振る舞っている」と主張した。【10月25日 時事】

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なお、ペンス副大統領が上記の対中国演説で一番厳しく批判したのは、香港問題で中国政府の圧力に腰が引けたアメリカプロバスケットボール協会NBAだったようです。(NBAとトランプ政権は、これまでもいろいろ確執がありましたので・・・)

 

また、“ペンス氏は「我々は中国の発展を封じ込めるつもりはない」とも述べ、11月中旬の米中首脳会談で見込まれる通商協議をめぐる合意に向け、中国側に配慮する姿勢も目立った。”【10月25日 朝日】ということで、中国批判一辺倒ではなかったようです。

 

基本的に人権問題に関心がないトランプ大統領ですが、これだけトランプ政権幹部のウイグル問題批判が続くと、「裏に何があるのだろうか?」とも勘繰ってしまいます。

 

おそらく貿易問題などでの対中国交渉の“カード”として中国の人権問題、特に、ウイグル族の問題を取り上げているのでしょう。

 

“通商協議をめぐる合意に向け、中国側に配慮する姿勢も目立った”とのことですが、中国政府はペンス副大統領の演説に怒りの反応を示しています。

 

****中国、米ペンス氏演説に猛反発 「偏見とうそ」****

中国外務省の華春瑩報道局長は25日の定例記者会見で、ペンス米副大統領の対中政策演説について「中国の社会制度や人権、宗教の状況をねじ曲げており、政治的偏見とうそに満ちている」と反論、「強烈な憤りと断固とした反対」を表明した。

 

ペンス氏は24日、中国の香港対応を強く批判する一方、中国指導部と「建設的な関係を求めている」と強調し、硬軟織り交ぜたメッセージを発信した。人権問題などで揺さぶりを掛け、11月に見込まれる貿易協議で中国に妥協を迫る狙いとみられる。

 

香港問題でペンス氏は抗議デモを続ける市民に共感を表明した。【10月25日 共同】

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【EU、服役中のウイグル族経済学者にサハロフ賞】

更に、中国政府の神経を逆撫でしているのが、EUが服役中のウイグル族経済学者に人権や自由の擁護活動をたたえるサハロフ賞を授与すると発表したこと。

 

****サハロフ賞に獄中ウイグル族学者=中国政府に釈放要求―欧州議会****

欧州連合(EU)欧州議会は24日、人権や自由の擁護活動をたたえるサハロフ賞を、中国で国家分裂罪に問われ服役中のウイグル族経済学者、イリハム・トフティ氏に授与すると発表した。ウイグル族と漢族間の和解や相互理解に努めたと評価した。

 

サッソリ議長は声明で、中国政府に対し「トフティの釈放を強く要請し、中国における少数民族の権利を尊重するよう求める」と訴えた。イリハム氏への授与は中国政府の反発を招きそうだ。

 

イリハム氏は、自ら運営するインターネットサイトを通じ中国新疆ウイグル自治区の現状を発信。中国の発展からウイグル族が排除されていると論じてきた。

 

こうした活動が原因でイリハム氏は2014年に中国当局に拘束され、無期懲役を言い渡された。

 

欧州議会は、17年以降に100万人以上のウイグル族が収容所に抑留されたと指摘している。【10月24日 時事】 

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当然ながら、中国側は反発しています。

 

****サハロフ賞のウイグル族学者は「テロ分子」 中国が批判****

中国で国家分裂罪に問われて服役中のウイグル族の経済学者イリハム・トフティ氏に、欧州連合(EU)が「サハロフ賞」授与を発表したことについて、中国外務省の華春瑩報道局長は25日、定例会見で「テロ分子に加勢すべきではない」と述べ、授与を決めたEUの欧州議会を批判した。

 

サハロフ賞は人権や民主主義を守る活動で功績があった人に贈られる賞で、欧州議会は24日にトフティ氏への授与を発表していた。華氏は「いったいどんな賞なのか私は知らない」と発言。「中国の法廷で裁かれた犯罪人に賞を与えるのは問題がある」と語った。

 

トフティ氏はウイグル族の権利擁護を訴えつつ、中国で多数派を占める漢族との融和に力を注いでいた。【10月25日 朝日】

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「中国はこれまで、米国に挑戦したり、米国に取って代わったりしたいと思ったことはない。われわれの目標は中国人民に良い生活を送ってもらうことであり、われわれの統治を絶えず改善することだ」(10月24日 中国外務省の楽玉成次官)【10月24日 ロイター】とのことですが、中国が国際社会において信頼される指導的立場を得るためには、人権問題が大きな足かせとなってきます。

 

なお個人的には「100万人」という数字については、「南京大虐殺30万人」と同様に、「本当にそんな膨大な人数の収容が可能だろうか? そのためには新疆を施設だらけにしないと実現できないのでは?」という疑問も感じています。

 

【「職業技能教育訓練センター」における「強制労働」による中国綿製品】

新疆で起きている状況は、単に米中、あるいは中国と欧州の国家間の綱引きにとどまらず、中国製品を大量消費している日本を含めた多くの国々の消費者にも関係してくる問題です。

 

****その中国製シャツ、作っているのは「奴隷」*****

米税関・国境警備局(CBP)は9月、中国の新疆ウイグル自治区のアパレルメーカー、和田泰達服飾が強制労働ないし囚人の労働力を利用していると非難し、同社製品の輸入を禁止した。

 

これは第一歩である。しかし、米国はもっと踏み込んだ対応を取るべきだ。世界最大の綿製品生産国である中国は、綿生産に必要な労働力を確保するため、世界最大の刑務所システムを構築している。

 

この綿グーラグ(矯正労働収容所)は新疆を基盤としている。中国のウイグル人や他のイスラム教徒の大半が暮らす場所だ。

 

中国がイスラム教徒の大量収容を継続し、綿サプライチェーンの垂直統合を強化するなか、新疆では、世界の綿製品分野で中国の支配を脅かす嵐が起きようとしている。

 

われわれの組織「公民力量(Citizen Power Initiatives for China)」は、「綿:うそに覆われた繊維」という報告書を発表した。同報告書は、中国共産党が発表したデータのほか、中国企業、目撃者証言から得られた直接的証拠を用いて、この地域の刑務所と再教育キャンプの収容者が中国の綿サプライチェーン維持のため強制労働に従事させられていることを証明するものだ。

 

この報告書は、自由貿易をゆがめ、国際的な労働基準に違反し、人権を著しく侵害している現代の奴隷制度について記述している。

 

ソ連時代のグーラグと同様、この懲罰制度は、収容者を僻地に連行し、過酷な労働を科すものだ。それによって国家は金銭的利益を享受し続ける。

 

囚人を強制労働させるのは、中国で長年維持されてきた政策だ。共産党政権が誕生した1949年以来ずっと、中国政府は新疆に他の地域の囚人を移送し、厳しい砂漠の環境の中で厳しい労働に従事させ、「新疆の経済発展への貢献」を強いてきた。

 

新疆は現在、人口当たりの囚人の比率が中国国内で最も高い。ウイグル人の再教育キャンプを除いても、新疆(人口2200万)には約75の刑務所がある。これに対し、山東省(人口9900万)の刑務所の数は30を下回る。

 

中国政府は2014年、新疆地区のウイグル人を一段と締めつける戦略を導入した。それには、再教育キャンプないし職業訓練センターと呼ばれる場所での多数のウイグル人の拘束も含む。それらは民族的アイデンティティーを浄化し、共産党に忠実になることを意図した場所だ。

 

専門家らの推計では、中国はこの制度の下、100万人を超えるウイグル人を拘束した。

 

同時に、中国政府は国内衣料品製造セクターの垂直統合を加速する取り組みにも着手した。繊維と衣料品の工場を新疆の綿生産地の近くに移動する取り組みだ。

 

新疆では、労働者としてウイグル人を利用できる。中国政府は繊維およびアパレル企業に再教育キャンプの強制労働者を送り込み、新疆の生産施設で働かせている。

 

2014年以降、この垂直統合に関わるため、約2200社の綿生産およびアパレル企業が新設された。世界的ブランドに商品を供給していると豪語する企業もある。

 

2018年の時点で、中国当局は貧困世帯や犯罪者、拘束者の親族や再教育キャンプの収容者の中から、新たに45万人のウイグル人を雇用したことを文書で明らかにしている。

 

和田泰達の呉洪波会長は昨年12月、AP通信に対し、政府が「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ施設内に同社が工場を所有していることを認めた。呉氏は「当社は貧困撲滅のために貢献している」と語った。

 

APによると、中国外務省の報道官は訓練センターについて「多くの虚偽の報道をしている」として海外メディアを非難したが、その詳細を尋ねても具体的な説明はなかった。

 

この強制労働システムは、2つの目的を果たすために作られたように見える。それは国家の収入を増やすこと、そして経済的成果を通じて新疆を政治的に「安定」させ、同地域の共産党支配を正当化させることだ。

 

新疆の収容所の人々は、綿花畑の開拓に始まり、かんがいシステムの構築、綿花の作付け、収穫、加工から衣料品製造に至るまでの綿のバリューチェーンにおいて主要な労働力となっている。

 

新疆の収容所および強制労働所の当局者は、こうした刑務所企業や工場に関する情報をインターネット上から削除し、刑務所工場の名前を変えて複雑な所有構造を作り、刑務所工場を畑や貿易会社などに見せかけている。

 

刑務所と労働収容所は人々を抑圧する従来からのやり方だが、中国はまた、収容に関する新たなモデルを完成させつつある。

 

中国は新疆において世界で最も広大かつ最も人権侵害の甚だしい監視システムを導入し、新疆地区を事実上、野外刑務所につくり変えた。

 

中国から物品を仕入れる企業は原則的に、調達先を監査することができない。住民の行動を監視するための顔認証用カメラ、高性能の音声認識技術を配備してしまえば、人々を隷属状態に置くのに鉄条網に頼る必要はなくなる。

 

米国には強制労働によって生産された品目の輸入を禁じる世界で最も厳しい法律―1930年関税法(Tariff Act of 1930)―がある。

 

実態を証明するのが難しいため、同法はほとんど執行されていない。しかし新疆については強制労働がいたるところに存在し、証拠は明白だ。

 

新疆は中国の衣料サプライチェーン最大の供給元であり、欧米政府、企業、消費者は、どのような綿製品であっても中国製であれば、綿生産の強制収容所で作られた製品だと考えるべきだ。

 

今こそ現代の奴隷制度を終わらせる時だ。われわれは米国政府に対し、中国からの全ての綿、繊維製品、アパレル製品の輸入を禁止することで、強制労働による製品の輸入を止めるよう要請する。【10月17日 WSJ】

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トランプ大統領、クルド人に東部油田地帯への移住提案 シリア版「世紀の取引」?

2019-10-25 22:51:07 | 中東情勢

(イラクに到着し、バスでキャンプに向かうシリアのクルド人たち=イラク北部スヘーラ、高野裕介撮影【1025日 朝日】)

 

【「他のどの国でもなく米国が生み出した成果だ」????】

トランプ大統領が対IS作戦で米軍とともに中核地上部隊として戦ってきたクルド人勢力を見捨てシリアから撤退し、トルコ・エルドアン大統領のクルド人勢力への攻撃を黙認したことによって、アメリカの「信頼」が大きく揺らいでいること、また、シリア北部に起きた混乱の調停者としてプーチン大統領の存在感が高まり、米軍撤退によって生じた「力の空白」をトルコとロシア・アサド政府軍が埋める形になっていることは周知のところです。

 

こうしたトランプ政権のシリア政策に、アメリカの与党・共和党からも大きな批判が出ています。

 

****米軍のシリア撤収「撤回を」 共和党上院トップ、決議案提出を表明****

米上院の与党・共和党トップ、マコネル院内総務は22日、シリア北部からの米軍撤収の「撤回」をトランプ大統領に要求する決議案を提出すると表明した。

 

「撤収を止めなければ、ロシアがより大きな影響力を手にし、イランも戦略的に重要な地域へのアクセスを容易に獲得する」と指摘し、「(米軍撤収で生じる)空白は敵対勢力に確実に埋められる」と警告した。

 

ホワイトハウスのギドリー副報道官は22日、記者団にシリア北部で米軍撤収後の空白を埋めるようにロシアが影響力を拡大するシナリオについて「我々が避けようとしている事態だ」と強調。だが、米国内では、クルド人勢力の犠牲と中東の不安定化につながりかねないトランプ政権の撤収判断に対して、不満が高まっている。(中略)

 

米下院は今月16日、米軍撤収の非難決議を与野党の賛成多数で可決したが、マコネル氏は「より強力な決議案を提示する」と語った。

 

ウクライナ疑惑を発端にした大統領弾劾手続きなどを巡り、トランプ氏を擁護する立場のマコネル氏だが、18日にはワシントン・ポスト紙に撤収判断を「重大な戦略的失敗」「悪夢」と指摘する寄稿記事を掲載するなど、批判を強めている。同盟関係を重視し、ロシア、イランを強く敵視する共和党内で高まる不満を反映したものとみられる。

 

一方、エスパー米国防長官は21日、訪問先のアフガニスタンで記者会見し、油田が過激派組織「イスラム国」(IS)の支配下に渡ることを防ぐため「シリア北東部の複数箇所に一部の米軍部隊を残留させる」と表明。

 

エスパー氏は19日には、シリア北部に駐留する部隊約1000人全員を隣国のイラク西部に移転すると語っていた。

 

ロイター通信によると、イラク軍は22日の声明で「イラク国内に駐留する許可は与えていない」と述べるなど、米軍を巡る混迷が続いている。【1023日 毎日】

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トランプ大統領は23日には、トルコがシリア北部でクルド人勢力との停戦を維持し恒久化させると伝えてきたとして対トルコ制裁の解除を発表。

 

****トランプ氏、トルコ制裁を解除 クルド人は「非常に感謝」****

ドナルド・トランプ米大統領は23日、トルコに科していた制裁の解除を表明した。また、シリアから米軍を突如撤退させた自身の決定を擁護し、「血に染まった」国をめぐる戦いは「ほかのだれかにやらせる」と述べた。

 

トランプ氏はホワイトハウスでの会見で、クルド人民兵組織「シリア民主軍」のマズルム・アブディ司令官との協議をちょうど終えたところだと説明。同司令官は「非常に感謝していた」と語った。

 

トルコ政府は、今月9日に開始したシリア侵攻について、クルド人武装勢力の侵入を防ぐ非常線を張ることが目的と説明している。トルコはクルド人武装勢力をテロリストとみなし、トルコ国内のクルド系反政府勢力とつながりがあるとみている。

 

トルコの軍事作戦は以前から計画されていたものの、トランプ氏が米軍の撤退を表明したことにより初めて可能となった。

 

シリアの米軍部隊はイスラム過激派組織「イスラム国」の掃討作戦でクルド人部隊と密接に協力してきており、規模は小さいものの政治的に重要な意義を持っていた。

 

共和・民主両党からクルド人を裏切ったとの批判を受けたトランプ氏は今月14日、トルコに対し制裁を発動。さらにマイク・ペンス副大統領らをトルコに派遣し、クルド人に撤退の猶予を与えるための短期間の停戦に応じるようレジェプ・タイップ・エルドアン大統領を説得した。

 

SDFの報道官はツイッターに、マズルム司令官がトランプ氏に対し「われわれに対するトルコの残虐な攻撃と過激派組織を阻止した不断の努力」への謝意を表明したと投稿した。 【1024日 AFP】

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クルド人勢力の司令官がどういう思いで「感謝」の言葉をトランプ大統領に伝えたのかは知りませんが、トランプ大統領はそんなことは関知しないのでしょう。

 

****トランプ氏、シリア北部停戦誇示 中東紛争不関与に「重要な一歩」*****

トランプ米大統領は23日、シリア北部でトルコとクルド人勢力の停戦が恒久化すると発表し「他のどの国でもなく米国が生み出した成果だ」とアピールした。

 

1年後に迫る大統領選をにらみ、米国が中東の紛争から手を引く上で「極めて重要な一歩だ」と強調、自らの不関与政策を正当化した。

 

トランプ氏は23日、ホワイトハウスで急きょ演説し「ずっと血塗られてきた砂漠を巡る争いは他の誰かに任せておけばいい」と言い切った。

 

シリア内戦や「イスラム国」掃討作戦など米国の中東への関与を縮小し、域内各国が自ら紛争解決に取り組むべきだとの米国第一主義を改めて鮮明にした。【1024日 共同】

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「他のどの国でもなく米国が生み出した成果だ」・・・・もともとトランプ大統領の米軍撤退・トルコの攻撃黙認という決定によって起きた混乱であり、停戦が恒久化したからといってそれを誇るのは、世間では「マッチ・ポンプ」(自分で火をつけておいて、消火の功績をアピールする類)と言います。

 

【8年に及ぶシリア内戦のパワーバランスはわずか2週間で大きく変化】

実際のところ、停戦が実現したのはアメリカの制裁圧力というよりは、トルコ・エルドアン大統領とロシア・プーチン大統領の合意によるところが大でしょう。

 

トランプ大統領はとにかく「ずっと血塗られてきた砂漠を巡る争い」から手を引くことしか念頭にないようですが、結果、ロシアがこの地域で更に大きな役割を担うことにもなっています。

 

まあ、ロシア疑惑に見られるように、トランプ大統領はプーチン大統領と親密な関係にあり、ロシアの勢力拡大などは意に介しないのでしょう。

 

****ロシア、シリア北部に憲兵隊派遣 トルコとの協力で影響拡大****

米軍が撤収するシリア北部でのロシアとトルコの協力が動き出す。ロシア憲兵隊は23日、クルド人民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」の要衝の1つであるコバニに到着、YPG勢力退去の監視を始めた。

 

ロシア・トルコ両国は、29日からトルコ国境10キロ以内の地帯で共同警備を開始する。ロシアは米国に代わって同地域での影響力を一気に拡大、8年に及ぶシリア内戦のパワーバランスはわずか2週間で大きく変化した。

トルコはクルド人勢力への攻撃は終了したと発表。これを受け、トランプ米大統領は23日、トルコがシリア北部での停戦を恒久化する方針を示したとし、同国に対する制裁を全て解除すると表明した。

<「安全地帯」を共同で監視>
トルコは先週、米国の働きかけを受け、シリア北部で展開する軍事作戦を5日間停止することで合意。トルコがシリア難民帰還に向けて同地域に設置を計画している「安全地帯」からYPGが退避する猶予を与えた。

その後、トルコのエルドアン大統領とロシアのプーチン大統領が22日に会談し、ロシア軍とシリア軍がYPGをトルコ国境から30キロシリア側に離れた地点まで退去させ、退去後の「安全地帯」をトルコとロシアが共同で警備することで合意した。

トランプ大統領は10月6日にシリア北部からの米軍部隊の撤収を表明した。その直後、隣国トルコの軍隊が同地に入り、過激派組織「イスラム国(IS)」掃討作戦で米国に協力してきたYPGを攻撃。さらにはロシア憲兵隊が同地に配備される展開となった。

ロシア憲兵隊に続き、ロシアが支持するシリアのアサド政権の国境警備隊もコバニ入りする。

YPG退去には6日かかるとみられており、来週29日からはロシアとトルコがトルコ国境から10キロ以内の地帯を共同で警備する。この地帯には長らく米軍が駐留していた。(中略)

<トルコとロシアの関係、一層緊密に>
トルコとロシアの関係は一層緊密になっている。インタファクス通信は、ロシアは地対空ミサイルシステム「S400」のトルコへのさらなる納入が可能だとするロシア政府当局者の発言を伝えた。

一方、トルコのアカル国防相は23日、最新鋭ステルス戦闘機「F35」を巡る米国との問題は解消できるとの見方を示した。(後略)【1024日 ロイター】

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ロシアとの協議でクルド側が撤退に関して一部難色を示しているとの報道もありましたが、クルド人勢力は対トルコの広大な国境の複数の拠点から撤収を開始し、“ロシア軍部隊は、米軍撤退により生じた空間の一部を埋め、情勢が緊迫している国境沿いでの巡視活動をすでに開始。米軍撤退によりシリア国土の3分の1相当の地域はロシアが支援するバッシャール・アサド大統領に事実上返還された。”【1025日 AFP】という状況になっています。

 

【“誰も助けてくれない”クルド人に救いの手を差し出すトランプ大統領のシリア版「世紀の取引」?】

一方、アメリカは当初「血塗られてきた砂漠」シリアから撤退を表明していましたが、シリア東部の油田には未練があるようで、この地域には増派するとか。

 

****米、シリア北東部の駐留部隊を増強へ 油田防衛で****

米国防総省は24日、勢力を盛り返す恐れのあるイスラム過激派組織「イスラム国」にシリア北東部の油田が再奪取されるのを防ぐため、駐留部隊を増強する方針を明らかにした。

 

国防総省当局者は声明で、「ISISISの別称)との戦闘で米国と同盟勢力が手にした最も大きな成果の一つは、ISISにとって欠かせない資金源となっていたシリア東部の油田を掌握したことだ」と述べた。

 

同当局者は匿名で、「こうした油田が再びISISなどの不安定化をもくろむ勢力の手に落ちるのを防ぐため、米軍はシリア北東部で(クルド人が主体の民兵組織)シリア民主軍と協力して布陣の強化に取り組んでいる」「ISISが復活する可能性を完全になくすためには、こうした資金源を断たなければならない」と述べた。

 

ドナルド・トランプ米大統領は先週、シリア北部からシリアから米軍を全面撤退させると発表していたが、23日には油田防衛のため、小規模な部隊を残留させると述べた。 【1025日 AFP】

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トランプ大統領の方針変更には誰も驚きません。

 

肝心のクルド人の置かれている状況は、非常に厳しいものになっています。

 

****誰も助けてくれない クルド、土地追われ孤立****

トルコのクルド人勢力に対するシリア北部での越境攻撃問題は、ロシアの仲介で終息しつつある。攻撃は、米トランプ政権の黙認姿勢に端を発する。イラク北部のシリ国境付近には、大国に翻弄(ほんろう)されるクルド人たちの姿があった。

 

シリアと国境を接するイラク北部のクルド人自治区スヘーラ。20台ものマイクロバスが道路脇に止まった。トルコの攻撃を受けてシリアから逃れたクルド人が次々と到着していた。

 

「『国際社会』というのはどこにあるんだろうか。トルコに攻められ、住む場所さえない。世界の誰も助けてくれないじゃないか」(中略)

 

米トランプ政権は、6日にクルド人武装組織「人民防衛隊」(YPG)への軍事作戦を事実上黙認。YPGは米軍と過激派組織「イスラム国」(IS)掃討で共闘したが、切り捨てられた。YPGは緊張関係にあったシリアのアサド政権との協力に転じた。

 

イラク北部ドホークの難民キャンプにシリア北部から逃れてきたラベルさん(50)がいま恐れるのは、内戦前のように故郷をアサド政権が強権支配することだ。

 

教育で差別され、トラックで小麦を運べば、検問で賄賂を取られる。「2級市民のような生活を子どもたちにはさせたくない」

 

同じくキャンプにたどり着いたファハドさん(35)は、アサド政権時代に徴兵を拒否。同政権の支配になれば拘束されるという。「アサドの下では暮らせない」。2歳の娘を抱いて、うなだれた。

 

 「米国に利用された」

「米国がYPGと共闘したのは自分の利益のため。わかったのは、クルド人には誰も『友人』がいないということだ」。イラクのクルド人自治区アルビル。理容師のロクマン・ウスマンさん(20)はそう言った。

 

自治区には、2011年のシリア内戦勃発以降、クルド人を中心に約22万5千人が逃れてきた。郊外に住むカミラン・マフムードさん(39)は2年半ほど前、妻と幼い子ども3人で避難。「トルコも米国も、そしてYPGも、自分たちのことしか考えていない。傷つくのはいつも市民だ」(中略)

 

独自の言語と文化を持つクルド人は、「国を持たない最大の民族」と呼ばれる。第1次大戦後、居住地域に国境線を引かれ、イラク、トルコ、イラン、シリアなどに分断された。以来、自治や独立を求めて闘い続けている。イラクでは、今回のシリアでの米国の姿勢に、2年前の住民投票を重ねる人も多い。

 

イラクのクルド人も対ISで米軍と共闘。17年9月、自治政府は独立に向けた住民投票を実施し、圧倒的多数の賛成を得た。だがトルコやイランは猛反発。イラク軍が油田地帯に進軍し領域の一部を失った。

 

住民は「米国の容認がなければラク軍はここまでできなかった」と不信感を募らせる。ナリマン・ファゼルさん(34)は「なぜクルド人はいつも翻弄されなくてはならないのか」と嘆いた。【1025日 朝日】

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クルド人に厳しい言い方をすれば、トルコとクルド人勢力の敵対関係は今に始まった話ではなく、両者の間でアメリカは板挟み状態にありましたが、ギリギリの事態となれば、アメリカがNATOの一員でもあるトルコと軍事的に敵対してまでクルド人側を守ることはないだろう・・・いずれアメリカはクルド人を見捨てるのだろうとは思っていました。

 

クルド人勢力にしても、そのあたりは十分に感じていたはずですが・・・。

 

また、アメリカと協力することで、支配地域を拡大するという大きな利益も手中にしてきました。

将来的にそうした成果を守るためにどうするつもりだったのか?アメリカを信頼していたというのはお人好しに過ぎるでしょう。

 

もっとも、これほど明瞭・唐突に“切り捨てられる”とは私も思いませんでしたが。

 

驚いたのは「世界の誰も助けてくれないじゃないか」というクルド人の嘆きに救いの手を差しだした(?)のが、またしてもトランプ大統領だということです。

 

****トランプ氏、クルド人に油田地帯への移住提案 米軍は装甲車派遣も****

トランプ米大統領は24日、ツイッターでシリア情勢に触れ、同国のクルド人に対して油田地帯への移住を検討するよう呼び掛けた。実際に移住となれば、クルド人は伝統的な居住地から数百キロ離れた砂漠地域に移ることになる。(中略)

 

トランプ氏はツイッターで、クルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」の司令官と協議したと説明。「彼は我々がやったことに感謝しているし、私もクルド人の貢献に感謝している。おそらくクルド人が石油地帯に向かうべき時が来たのだろう」と述べた。

 

トランプ氏が数百万人に上るシリアのクルド人全体の移住を提案しているのかは不明。油田地帯付近ではアラブ系住民が多数派で、クルド人が突如流入する事態を歓迎する可能性は低い。

 

トランプ氏らは「クルド人」という言葉でさまざまな集団を指しており、そこにはシリアのクルド系住民のほか、アラブ人やクルド人などの混成部隊であるSDF、SDF内のクルド人部隊「人民防衛隊(YPG)」も含まれる。

いずれの集団も伝統的な居住地からの移住に進んで応じる公算は小さい。

 

トルコは最近、シリア国内での軍事作戦を開始した。米連邦議会の超党派議員などからは、トルコがシリア北東部からクルド人を退去させ、人口構成を大きく変化させようと試みているとの批判が出ている。【1025日 CNN】

********************

 

トルコは国内に抱えるシリア難民を、クルド人を追い出した「安全地帯」に移住させようとしていますが、そこで土地を追われたクルド人をシリア東部油田地帯に住まわせる・・・・トランプ大統領によるシリア版「世紀の取引」でしょうか?

 

未だ発表されていないパレスチナの「世紀の取引」でも、ユダヤ人の入植地建設で追われたパレスチナ人をエジプト・シナイ半島の砂漠地帯に移住させて・・・といった話も取り沙汰されていましたが、それにも似た発想でしょうか。

 

内容もさだかではなく、どこまで本気の話かもわかりませんが・・・。ちょっと思ったことをツイートしただけでしょうか。

かつて列強各国は現地住民を無視して国境線を引き、現在の混乱の火種をつくりましたが、今度は大国の都合による住民移動でしょうか?

 

大国の意向が優先して、住民の声が無視されるあたりは共通しているかも。

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香港問題のきっかけになった殺人犯をめぐる香港と台湾の対立 行き場を失う殺人犯

2019-10-24 22:47:27 | 東アジア

(香港の刑務所を出るチャン・トンカイ容疑者(2019年10月23日撮影)【10月23日 AFP】)

 

【香港の運命を左右する事態にも発展したある男の犯罪】

あることをしでかした人間が全く考えてもいなかった方向に事態が発展して大騒動に・・・というようなことは、世の中には多々ありますが、香港人の陳同佳(チャン・トンカイ)が台北のホテルの一室で女性の首を絞めたとき、まさかこんな事態になるとは夢にも思わなかったでしょう。

 

****香港デモの発端となった容疑者が出所 台湾での殺人で裁けず****

(中略)陳・元受刑者と被害者の女性は2017年7月から交際していた。昨年2月に2人で台湾へ旅行し、香港へ帰る予定日の未明に台北市内のホテルで口論になったという。

 

元受刑者は、女性から元交際相手との子どもを妊娠していると聞かされ、性行為の動画を見せられたと供述した。

かっとなって両手で女性の首をしめ、床に倒れ込んで10分ほどもみ合ううちに、女性は死亡したという。

 

元受刑者は女性のスーツケースに遺体を詰めてホテルを出た。地下鉄で台北郊外へ向かい、公園の茂みに遺体を隠してから香港行きの便に乗ったとされる。

 

香港検察によれば、元受刑者は女性の持ち物から抜き出したキャッシュカードを使い、台湾と香港で現金を引き出していた。

 

3月になって女性の家族が台湾の警察に捜索願を出し、約1週間後に公園で遺体が発見された。(後略)【10月24日 BBC】

**********************

 

この事件をきっかけとして、香港政府が「逃亡反条例」改正案を香港立法会(議会)に提出、その後香港で「一国二制度の形骸化をめぐるかつてない大規模・長期抗議行動に至っていることは周知のところです。

 

香港政府は改正案によって、これまでケースバイケースで対応している刑事容疑者の身柄引き渡し手続きを簡略化し、香港が身柄引き渡し条約を結んでいる20カ国以外にも対象を広げ、香港から中国本土や台湾、マカオへの身柄引き渡しも初めて明示することで、香港を本土からの犯罪人の逃避先にしていた「抜け穴」を塞ぐことができると主張。

 

しかし、香港で中国政府の意にそわない活動をした者が、場合によっては適当な事件をでっち上げられ、中国本土に送付され、政治的な裁判にかけられる恐れも・・・・改正案が成立すれば香港での「自由」が失われるとの認識のもとで「最後の戦い」とも位置付けられる激しい抗議行動になっていることは周知のところです。

 

香港政府は改正案を正式に撤回しましたが、抗議行動の求めるものは普通選挙導入など「5大要求」にエスカレートしており、単に改正案撤回や、林鄭月娥(りんていげつが)行政長官の首では収束しないところにきています。

 

抗議行動自体については、ここ2,3日、あまり目立った報道はありませんが、デモ参加者にマスクの着用を禁じた「覆面禁止法」などに反発した市民が20日も抗議活動を続け、民主派団体は「少なくとも35万人がデモに参加した」と明らかにしています。

 

抗議行動そのもの以外に注目されているのが、比較的民意が反映しやすいとされている区議会(地方議会)選挙の行方です。

 

****香港区議会選、選挙戦スタート デモ参加者が続々出馬 ぬぐえぬ「選挙中止」の懸念****

中国本土への容疑者引き渡しを可能とする「逃亡犯条例」改正案を発端とした混乱が続く香港で、11月24日の区議会(地方議会)選挙の立候補受け付けが21日までに締め切られ、選挙活動が本格化している。

 

デモ参加者も出馬を申請しており、「親中派」対「民主派」の構図は鮮明だ。民主派勢力が議席を伸ばすとの見方が広がる中、選挙の実施そのものを危ぶむ声も聞こえる。

 

■市民の意思を反映

(中略)過去の区議会選は無投票の選挙区も多く、ゴミ問題や道路改修など身近な課題が票に結びつくとされる。ただ、今回は市民の関心が高く、前回選挙(15年)より約44万人多い、約413万人が投票に必要な選挙人登録を済ませた。投票率の上昇も予想され、民主派伸長が見込まれる。

 

立候補は17日に締め切られ、1104人が届け出た。(中略)

 

■「選挙中止の懸念」

一方で、懸念もわき上がる。香港では16年に選挙管理委員会が候補者の政治信条を事前審査する仕組みを取り入れており、立法会議員選では民主派の出馬が認められないケースが相次いだ。

 

雨傘運動の元学生団体リーダー、黄之鋒氏(23)も区議選に立候補を届け出たが、21日時点で選管から立候補の承認は得られていない。政府が民主派候補の立候補を制限する可能性はある。

 

また、デモが継続する中での選挙戦で、親中派議員は「選挙活動が妨害される可能性がある」と不満を訴える。政府が「安全上の理由」から延期や中止に踏み切る懸念もぬぐえない。

 

林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は「選挙は実施する」と強調するが、親中派議員の不満は「当然だ」と一定の理解を示す。

 

ある民主派陣営幹部は「区議選は、香港で最も民主的な選挙。延期や中止となれば市民の怒りは極限にまで達するだろう」と予想。区議選の行方が、抗議活動に影響することは間違いなさそうだ。

 

■香港区議会(地方議会)選挙 

18区計452議席を小選挙区の直接選挙で選ぶ。任期は4年。18歳以上の永住者が選挙権を持つ。立法権はなく政権運営には関与しないが、行政長官選挙の投票権を持つ選挙委員1200人のうち、117人は区議から選ばれるなど一定の影響力を持つ。現在、区議会では親中派勢力が324議席を占める。【10月21日 産経】

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一方、林鄭月娥行政長官の更迭を中国側が検討しているとの報道も出ていますが、まだよくわかりません。

いずれにしても、先述のように、“死に体”ともなっている長官の首でどうこうなる状況でもありません。

 

****香港長官の更迭報道 中国政府はデモへの「譲歩」を懸念か****

香港政府トップの林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官の更迭を中国政府が検討していると報じられたことを受け、24日付の香港紙では「長官交代は民衆の要求に応えたものではなく何の役にも立たない」(蘋果日報)と冷めた反応が目立った。

 

一方、中国政府にとって長官交代はデモ隊への「譲歩」と映りかねないためハードルは高く、抗議デモの状況を見極めつつ慎重に時期を探るとみられる。

 

香港紙、明報は「林鄭氏辞任では難局を脱することはできない。政府は5大要求に応じるべきだ」との民主派議員の発言を伝えた。23日の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)による林鄭氏の更迭検討報道を受けた反応だ。

 

香港でのデモの重点は普通選挙制度の導入など「5大要求」実現に移っており、23日に宣言された「逃亡犯条例」改正案の正式撤回、そして今後林鄭氏の辞任が実現しても沈静化の兆しは見えにくい。

 

林鄭氏の存在感は既に失われているに等しいが、中国政府も簡単には首をすげ替えることができないとみられる。中国政府で香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室の幹部は8月、林鄭氏に辞任を求めることは「権力を反対派の手中に渡すのに等しい」と非公開の場で懸念を表明していたと香港経済日報が伝えた。

 

23日のFTも、中国政府は香港首脳部の交代がデモ隊の暴力行為への譲歩とみられることを避けるため、最終決定の前に沈静化するよう望んでいると報じた。

 

また、林鄭氏の辞任が取り沙汰されている背景として、1カ月後に迫った11月24日の香港区議会(地方議会)選挙の存在も指摘される。抗議デモへの支持の広がりから民主派勢力の伸長と親中派勢力の苦戦が見込まれており、事態打開のため香港政府が選挙の延期や中止に踏み切る可能性すら取り沙汰されている。

 

蘋果日報は「林鄭氏の更迭は区議会選挙の熱気を冷ますためという見方もあるが、それは無理なことだろう」という民主派議員の見方を伝えた。香港政府や親中派への市民の不満は根強く、林鄭氏の辞任程度では選挙への効果が期待できないためだ。【10月24日 産経】

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【殺人犯が宙に浮く台湾・香港のせめぎあい】

話を陳同佳(チャン・トンカイ)の事件に戻すと、この事件は上記のような香港の自治をめぐる大変な事態を惹起し、万一今後中国あるいは香港当局が犠牲者が伴う「天安門事件」のような手荒な鎮圧行動に出るとか、あるいは逆に、普通選挙実現に道がひらかれるとか(あまり想像できませんが)いった事態にもなれば、陳同佳の名前は歴史に長く刻まれることにもなります。

 

陳同佳の事件は、香港(その背後の中国)と台湾の間でも、“奇妙な”と言うか、“コミカルな”と言っていいような国際的問題を引き起こしています。

 

そもそも、殺人事件が起きたのは台湾で、遺体や防犯カメラの証拠映像などは全て台湾にあり、香港で事前に計画された殺人だったとの証拠もなかったため、香港側は殺人罪の捜査に踏み込むことができませんでした。

 

そのため陳同佳元容疑者は香港では殺人容疑では裁かれておらず、別件の資金洗浄(マネーロンダリング)の罪の刑期を終えて出所することになりました。

 

****「逃亡犯条例」発端の殺人事件容疑者が出所、香港と台湾が対立****

香港政府が「逃亡犯条例」の改正を提案するきっかけとなった殺人事件を巡り、別の罪で服役していた香港人の男が23日、刑期を終えて出所した。

男は2018年に台湾を旅行中に恋人を殺害し、香港に逃げ帰ったとされる。同年3月に香港警察が逮捕したが殺人は立証できず、資金洗浄(マネーロンダリング)の罪で禁錮2年5月の刑を言い渡された。

男は刑務所前で被害者の遺族に謝罪するとともに、台湾当局に出頭し罪を認める意向を示した。

香港政府はこの殺人事件を理由に中国本土や香港など、犯罪人引き渡し協定を結んでいない国・地域にも、容疑者の引き渡しを可能にする条例改正案を議会に提案した。だが市民による激しい抗議活動を受けて撤回を余儀なくされた。

男は台湾当局に出頭する方針を示しているが、次の措置を巡っては香港と台湾の意見が対立している。

香港公安局の李家超(ジョン・リー)局長は23日、台湾当局が「政治的な理由」で捜査を妨害しているとし、男が台湾当局に出頭することを認めるべきだと主張。

台湾は、法的な枠組みがないまま男の引き渡しを認めれば、台湾の主権が損なわれ、台湾が「1つの中国」の枠組みに入ることになると反論している。

台湾の対中国大陸政策を担う大陸委員会は同日、男が1人で航空機で台湾に向かうなど「信じられない」との声明を発表。男と同じ航空機に搭乗する乗客の安全を完全に無視していると批判した。

台湾当局は男を台湾に連れ戻すため、捜査関係者を香港に派遣する意向を示しているが、香港政府は司法管轄区域を越えた行動は認められないと主張している。【10月23日 ロイター】

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当初、台湾側は香港との司法協力制度がない現状では、「出頭は受け入れられない」として香港での訴追を促していました。

 

しかし、香港当局が「海外で発生した事件には司法管轄権が及ばない」と主張し、陳同佳の訴追を拒否。

 

刑期満了で23日に出所することから、台湾側は「凶悪犯が罪に問われないことは許されない」(大陸委)として、台湾での訴追方針に転換した経緯もあります。

 

香港・中国の立場からすれば、台湾も中国の一部であり、その台湾で出頭するのに何の問題があろうか・・・というところでしょう。

 

一方、台湾からすれば、台湾と香港(中国)は全く別個の司法制度が機能している国であり、本来は犯罪者の引き渡しにはそれなりの制度的なものが必要であり、少なくとも受け渡しにあたっては捜査員が香港に出向き、捜査資料の引継ぎなど行う必要があるという話にもなります。

 

逆に香港側からすれば、台湾の関係者が香港で司法活動を行うなど認められないということにも。

 

(殺人事件を起こした)男が1人で(一般乗客に混じって)航空機で台湾に向かうなど「信じられない」という主張は、ごもっともですが、なんだか笑える感じも。

 

陳同佳元容疑者は、親中派弁護士のすすめで台湾での出頭を希望しているとのことですが、上記のような香港・台湾のせめぎあいで、出所後は香港で待機しているとか。

 

****香港デモ発端の容疑者が自由の身に 台湾・香港の対立で****

(中略)男は台湾で司法の裁きを受ける意向を示しているものの、台湾・香港両当局による対応の足並みがそろわず、現時点では自由の身となり香港にとどまっている。

 

(中略)(陳同佳元容疑者は)1年6月の刑期を終え、23日に重警備の刑務所を出た。

 

同容疑者は、遺族に多大なる「心痛と苦悩」を与えたことを謝罪。「自ら出頭し…台湾に戻って裁判を受け、刑に服したい」と述べた。しかしチャン容疑者は目下、香港を出て台湾入りすることができず、自由の身となっている。

 

台湾当局は、チャン容疑者が一般旅行者として台湾に渡航することは認められないと主張。蔡英文総統は、同容疑者は自首ではなく逮捕される必要があると指摘した。

 

台湾側は、同容疑者を連行するため人員を香港に派遣することを申し出て香港に許可を求めたが、香港側はこの要求は敬意を欠くもので「全く受け入れられない」と拒否したとされる。

 

双方は、司法より政治的な駆け引きが優先されていると互いを非難している。 【10月23日 AFP】

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****香港デモの発端となった容疑者が出所 台湾での殺人で裁けず*****

台湾側は香港の域内での台湾当局への身柄引き渡しと事件関係資料の提供を求めているが、香港政府は声明で台湾警察が香港で活動する権限はないと言明。

 

陳・元受刑者の出頭は「任意」であり、香港政府は自由を制限する措置を取れず、台湾到着後に台湾当局が逮捕できると述べた。

 

ただ台湾側は、元受刑者が出頭してきたとしても、香港側から証拠の提供を含めた全面的な司法協力は得られない点に懸念を示している。【10月24日 BBC】

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殺人を犯した男が「えーっと、私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」と迷っているという、(被害者の遺族には申し訳ない言い方ですが)非常にコミカルな状況です。

 

ただ、台湾と香港・中国をめぐる複雑な国際情勢を反映した事態でもあります。

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フランス  国名変更までした北マケドニアのEU加盟に反対 再燃する“スカーフ論争”

2019-10-23 23:08:29 | 欧州情勢

(ベルギー・ブリュッセルで10月18日、欧州連合(EU)首脳会議に出席したフランスのマクロン大統領(中央)、ドイツのメルケル首相(左)ら=ロイター【10月22日 朝日】)

 

【“屈辱的”との批判も浴びながら、国名変更を実現】

バルカン半島の旧ユーゴ諸国のひとつ、マケドニアがアレクサンダー大王ゆかりの国名をめぐって“本家を自任する”隣国ギリシャと長年争っており、そのことがマケドニアのEU・NATO加盟の道を閉ざしてきた件、そのためマケドニア・ザエフ首相はギリシャ政府との合意をもとに、マケドニアが自ら国名を「北マケドニア」に変更するという大きな譲歩をすることで、EU・NATO加盟への道を開こうとしている件については、1月13日ブログ“マケドニア  EU、ロシア、さらには中国が争うバルカン半島で、EU加盟に向けた一歩”でも取り上げました。

 

****「北マケドニア」に国名変更 EU、NATO加盟へ前進****

旧ユーゴスラビアのマケドニア議会(120議席)は11日、国名を「北マケドニア共和国」に変更する憲法改正案を承認した。

 

国名論争を抱えマケドニアの北大西洋条約機構(NATO)加盟に反対していたギリシャとの合意に基づくもので、NATOや欧州連合(EU)への加盟へ向け大きく前進した。

 

バルカン半島の旧ユーゴ諸国でロシアや中国が影響力を強めており、マケドニア国内では国名変更への反対も強い。改憲が頓挫すればEUやNATOのバルカン拡大戦略の停滞が懸念されていたが、難関を切り抜けた。

 

国名変更は、ギリシャ議会による両国合意の承認後となる。【1月12日 共同】

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当然ながら「アイデンティティーを守るべきだ」との野党からの反対は強かったのですが、単にEU・NATO加盟を進めたいマケドニア政府の意向だけでなく、バルカン半島におけるEU・アメリカとロシアの勢力争いを反映したものでもありました。

 

“問題は「欧米対ロシア」の対立構図が表面化した形。ロシアの影響が強かったバルカン半島で親欧米国を増やしたい米国とEUはマケドニアのNATO加盟を望んで与党を支援し、影響力を強化したいロシアは野党を後押しした。”【1月12日 毎日】

 

反対する野党勢力を切り崩して辛うじて憲法改正を実現したマケドニアですが、隣国ギリシャがこれを議会承認するかという難題もありました。

 

アレクサンダー大王に由来する「マケドニア」という名称については、自国の文化遺産だとするギリシャ国内世論は、「北」であろうがなんであろうが、「マケドニア」を名乗ることには拒否感が強くありました。

 

(マケドニアの名称を使うことは、マケドニア側のギリシャ内マケドニア地方への領土的野心を示すものだという主張もなされていましたが、本音は上記のような「拒否感」でしょう)

 

そうしたなかでギリシャ・チプラス政権も辛うじて、議会承認という難題をクリア。

 

****「北マケドニア」ギリシャ国会も承認 国名論争に終止符**** 

ギリシャ国会は(1月)25日、隣国マケドニアが「北マケドニア共和国」に国名変更する両国政府間の合意を賛成多数で承認した。マケドニアは国名変更の憲法改正を議会で承認済み。両国は1991年にマケドニアが旧ユーゴスラビアから独立後、四半世紀以上に及ぶ国名論争に終止符を打った。

 

合意により、ギリシャはマケドニアの北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)加盟への反対を取り下げる。

 

マケドニアの加盟が実現すれば、ロシアが影響力の保持をうかがうバルカン半島の安定にもつながることが期待される。

 

採決の結果は全300議席中、賛成153票だった。合意をめぐっては、反発する連立相手が政権から離脱し、与党は過半数の議席を喪失。主要野党も反対だったが、小党や無所属議員の支持を取り付け、ぎりぎり多数派を確保した。

 

チプラス首相は議会承認後、「きょうわれわれはバルカン半島にとって新たなページを書き込んだ」と表明。マケドニアのザエフ首相は「歴史的な勝利だ」とたたえ、EUやNATOも議会承認を歓迎した。

 

マケドニアの名称はアレキサンダー大王の古代王国に由来する。同国は旧ユーゴからの独立時に採用し、同名の地域を国内に持つギリシャが反発。対立の原因となってきた。両国内ではなお反対論も強く、ギリシャでは24日、首都アテネなどで大規模な抗議デモも起きた。【1月26日 産経】

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このように、マケドニアおよびギリシャ両国とも、自国内の強い反対を辛うじて抑え込むことに成功して、両国は和解し、マケドニアのEU・NATO加盟への道が開けました。

 

その後、“北”マケドニアのNATO加盟は順調に進みました。

 

****マケドニア、NATO加盟へ…ギリシャ議会承認****

ギリシャ議会は8日、隣国マケドニアの北大西洋条約機構(NATO)加盟を賛成多数で承認した。NATO加盟29か国は6日に加盟を承認する議定書に署名しており、マケドニアのNATO加盟は確実な情勢だ。

 

ギリシャ紙カシメリニによると、マケドニアのNATO加盟について、賛成は153、反対は140だった。今後、その他の加盟国の議会承認を経て、年内にもNATOの30か国体制が決まる。今回の承認を受け、マケドニアは近く新国名を「北マケドニア共和国」として国際社会に報告する。

 

ギリシャは、国内にマケドニアの地名があることを理由に、マケドニアのNATOと欧州連合(EU)への加盟を拒否してきた。両国は昨年6月、EUの呼びかけに応じ、マケドニアが新国名を北マケドニア共和国に変更し、ギリシャがマケドニアのNATO、EU加盟を承認する内容で合意していた。【2月9日 読売】

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2月13日には正式に「北マケドニア」に国名を変更。

 

北マケドニア国内には依然として国名変更への反対も根強くありますが、北マケドニア・ザエフ政権は、接戦となった大統領選挙にも勝利しました。

 

****国名改称支持の与党候補が勝利 北マケドニア大統領選****

旧ユーゴスラビアの北マケドニア(マケドニアから改称)大統領選の決選投票が5日行われ、国名の起源を巡る論争を抱えていたギリシャとの合意に基づき国名変更を進めた与党、社会民主同盟連合などが推す元大統領顧問ステボ・ペンダロフスキ氏(56)が勝利宣言した。

 

改称後初の大統領選で、焦点は国名改称の賛否。改称により、ギリシャが反対していた北大西洋条約機構(NATO)加盟が2月に承認されたが、屈辱的との国民感情は根強い。

 

ペンダロフスキ氏は「恥じることなど何もない。全ての人の大統領となる」と結束を訴えた。

 

北マケドニアは欧州連合への加盟も目指している。【5月6日 共同】

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【フランス・マクロン大統領がEU加盟に反対 「EUが約束を破った」(ザエフ首相)】

でもって、“次はEU加盟”と見られていました。ギリシャの反対もクリアされましたので。ところが・・・

 

****国名まで変えたのに…北マケドニア、EU加盟に黄信号****

悲願の欧州連合(EU)加盟のために国名まで変えたバルカン半島の小国・北マケドニア(旧マケドニア)が、18日のEU首脳会議で加盟交渉入りを棚上げされた。

 

親EU路線を進めてきたザエフ首相が早期辞任を迫られている事態となっている。

 

北マケドニアの主要政党は20日、来年末の予定だった総選挙を前倒しし、4月12日に行うことを決めた。ザエフ政権は来年1月初めに退陣する。ザエフ氏は「EUが約束を破った」と訴え、「私も国民も大いに失望した」と述べた。

 

北マケドニアは、旧ユーゴスラビアから独立した1991年以来の国名「マケドニア」をめぐり、長年にわたりギリシャと対立。「英雄アレクサンドロス大王のマケドニア王国に由来する国名を他国が名乗るのは認めがたい」とギリシャ側は主張していた。

 

ザエフ政権は、EUや国連の後押しでギリシャと交渉し、昨年に国名を「北マケドニア」にする合意を結んだ。両国ともに国内で根強い反対を抑え、今年2月に国名変更が実現。ギリシャによるEU加盟反対という障害がなくなり、EUの欧州委員会は、北マケドニアの加盟交渉入りを加盟国に勧告していた。

 

ところが、統合拡大よりEU内部の改革を優先するフランスなどが異を唱え、18日のEU首脳会議で全会一致を拒否。トゥスクEU首脳会議常任議長は来年5月ごろまで交渉入りの判断は棚上げとの見通しを示した。【10月22日 朝日】

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“EU内部の改革を優先するフランスなどが異を唱え”とのことですが、“AFP通信によると、EU拡大に慎重なマクロン仏大統領だけが反対した”【10月18日 時事】とも。

 

「EUが約束を破った」(ザエフ首相)・・・EUとの“約束”がどういうものだったのかは知りません。

そもそも“約束”と言えるほど確実なものでもなかったのでしょう。

 

もちろん、フランス・マクロン大統領がEU拡大に難色を示していることは欧州政界では知られていたことでしょう。

 

ただ、一連の流れを覆す形で反対するとは、ザエフ首相も思っていなかったのでしょうか。「何とかなるだろう」という見通しの甘さがあった・・・ということでしょうか。

 

それにしても、マクロン仏大統領も(統合拡大よりEU内部の改革を優先というのは一つの見識ではありますが)この時点で反対するのなら、国名変更に動き出す前のもっと早い段階で、反対の旨をマケドニア側に明示すべきだったでしょう。

 

そうすればザエフ首相も危ない綱渡りをしてまで、“屈辱的”との反対も強い国名変更には踏み切らなかったのかも。

EU・北マケドニアの間でどういう話がなされてきたのかは知りませんが、表に出ている話からすれば、ザエフ首相が“梯子をはずされた”と怒るのも無理からぬように思えます。

 

フランス・マクロン大統領のやり様には、いささか「大国」の身勝手さ・非情(傲慢とまでは言いませんが)のようなものも。ザエフ首相の怒り失望には「小国」の悲哀のようなものも。

 

【いつもの「たかがスカーフ、されどスカーフ」】

そのフランス国内の話題。

また、イスラム教徒のスカーフで揉めているようです。

 

****フランスでヴェール論争再燃***** 

フランスではまた新たなヴェール論争(注1)がわき起こり、この10日ほど毎日のようにメディアで議論が行われていた。

ランスは、普遍主義(個別のもの、個別性・特殊性よりも、全てまたは多くに共通する事柄、普遍性を尊重・重視の立場)と、ライシテ(政教分離)の尊重から、ムスリムの女性の象徴的衣装ともいえるヴェールを許容できない立場を貫いてきた。

 

そこで「コミュノタリズムを容認してはならない」ことがフランス政界の共通の認識とされ、法整備も行われてきたのだ。

 

フランスで使われるコミュノタリズムと言う言葉は、英語の「Communitarianism」やその訳語としての「共同体主義」とは違う。

 

フランスでは、少数派の民族的・宗教的グループが文化的または政治的な独自性を主張し、その承認を社会全体に対して要求することを指し、どちらかと言うとネガティブな意味合いを持つ。

 

フランスはカトリック教会との長い苦闘をへて、やっとカトリック支配から逃れ、ライシテの原則を打ちたてることに成功した歴史があるだけに、宗教要素が強い主張を受け入れるわけにはいかないと考えるのは当然だ。

 

そのため、幾度となくムスリムの女性のヴェールに関する議論がなされてきた。しかしながら、エマニュエル・マクロン大統領就任後は、そこまで活発な議論が起こってはいなかったのだが、今回、再び盛り上がりを見せたのだ。

 

発端は、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏の議会で起こった出来事だ。10月11日、議会は通常通り行われていた。だが、そんないつもの風景の中、15人ほどの子供たちが教師と何人かの付き添いの親たちとともに、議会を見学するため室内に入った時にその事は起こった。国民連合(以降RN、旧党名は、国民戦線 FN)の一の人の議員が憤慨して声を上げたのだ。

 

「議長、お願いしたいことがあります。ライシテのもとに、今、室内に入ってきた付き添いの方にお願いしたい。そのイスラム教のヴェールを取るようにお願いしたい。…ここは、公共施設内です。我々は民主主義の圏内にいます。彼女の家、路上では好きな時にヴェールを付けることは可能です。しかし、ここではダメだ。今日はダメだ。」

 

ライシテを尊重するフランスでは、こういった言葉に賛同する人が多いのかと思われるこかもしれないが、反対に、多くの議員からブーイングの嵐が起こった。

 

「ファシストだ。」「あなたは法律を知らないだけだわ。」

また、議長自身もその議員に対して憎しみを助長させる発言として抗議を行った。

 

ヴェールを取ることを要請された子供の付き添いに来ていた母親は、慰めにきた子供を抱きしめキスをした。その様子は象徴的な場面としてフランス中に拡散された。母親は大きなショックを受け、議会のトイレで泣きはらしたと言う。後日、「暴行」と「増悪の扇動」の容疑で、発言した議員に対し弁護士を通して訴えた。

 

法律の観点から言えば、フランスは初めてヴェール論争が起こった国であり、一般にヴェール禁止法と呼ばれる学校内でのヴェール着用の禁止に関する法律を2004年に制定した最初の国だ。また2010年には、路上や公共の場で顔を隠すことを禁止した。

 

しかしながら、議会は学校内ではない。しかも、ヴェールは顔のほとんどを隠すタイプではないため、公共の場であっても法律にはなんら違反していない。

 

しかも、2013年には、最高裁判所としての役割を持つコンセイユ・デタにて、両親に対しては、学校内の職員に課している規則は適応しないと判断を下している。要するに、校外学習に付き添いに来ている親がヴェールをかぶって議会を見学に来てもなんの問題もないと言うことなのだ。

 

しかし、ジャン=ミシェル・ブランケール教育相は、こう述べる。

「校外学習の付き添いの親が、ヴェールをかぶることは違法ではないが、しかし、ヴェールは望ましいことではない。」

 

この出来事は、本当に多くの論争を巻き起こした。(中略)

 

発端となった発言をした議員はツイッター上でも発言を続ける。

「私たちの共和国とライシテの原則のもとに、私は議長(中略)に学校の付き添い者に対してムスリムのヴェールを取り除いてもらうことを求めました。4人の警官が殺された後、我々はこの共同の挑発を容認できません」

 

4人の警官が殺されたと言うのは、10月3日に起きたパリ・警視庁本部で起きた男性職員による同僚4人の殺害事件である。テロである可能性が疑われている。(中略)この事件後、RNのマリーヌ・ルペン党首は無秩序な移民政策のせいで、イスラム原理主義が広がっていることを懸念していた。 

 

2020年3月に地方選を控え、移民政策とテロを結びつけて支持につなげる構えを見せたのだ。そして、今回のヴェール問題がおきた。この好機はルペン氏は逃すことなく考えを表明している。

 

ルペン氏は、「ヴェールはただの布切れではなく、イスラム過激化の印でた。…女性の自由はまだ確立されていないため、後退することもありえる。ゆえに、フランス社会は制限を設けるべきであり、校外学習の付き添いをする場合は、ヴェールは禁止するべきだ。」

 

エドゥアール・フィリップ首相は、「校外学習時に、付き添いをする場合にヴェールをかぶることは法律で禁止されておらず、また、今、その法律を作るべき時期でもない。」と、この論争に歯止めをかけたい意向を示している。

 

その翌日にエマニュエル・マクロン大統領は、「コミュノタリズムと、過激化と、ライシテを関連づけるべきではない。コミュノタリズムはテロリズムではない。コミュノタリズムに対して妥協はしないが、同じ国の人を刺激するべきではない。」とし、マクロン氏は、大統領就任演説時に述べたように、分断したフランスを一つにすることを目標としており、国が分断する方向に進むことは望んでないことを示した。

 

さらに「分断を招きかねない状態を作り出すのは、ルペン氏がやろうとしていることであるが、私たちがやろうとしていることではない。」と続けたのだ。

 

この結果、狂信的な盛り上がりは収まりつつあるが、それでも、議論はまだ完全に収集しているわけではない。ヴェールを外すことを要求された母親には同情の声も大きく集まったが、一方でフランスのPTAともいえるFCPEの調査では、66%が学校の付き添いの親はヴェールをかぶるべきではないという結果もでている。

 

この出来事は、ヴェールに関してみてもまだまだフランスは分断しており、マクロン大統領もだが、歴代の大統領がなんとか修復しようとしてきた問題ではあるが、溝はまだまだ深いことを改めて浮き彫りにしたともいえるだろう。

 

注1 ヴェールとは、ムスリム(イスラーム教徒)の女性が頭や身体を覆う布である。詳細には、単なるスカーフやビジャブなどいろいろな種類があるが、それらを称して日本語ではヴェールと訳されていることが多いため、ここではヴェールと呼ぶことにする。【10月22日 Japan In-depth

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顔を覆い隠すブルカや、目だけを出すニカブとは異なり、スカーフ(ヴェール)は殆どファッション的・民族衣装的なものにも見えて(宗教的意味合いがないという訳ではありませんが)、個人的には違和感はありません。

 

ライシテ(政教分離)の尊重という立場からは(日本でも神道をめぐる問題がありますが)・・・という話になるのでしょうが、根底にはイスラム的なものへの嫌悪感があるように思え、心にザラつくものを感じます。

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南米  エクアドルはとりあえず収束するも、チリで混乱拡大 大統領選挙のボリビアは?

2019-10-22 22:42:04 | ラテンアメリカ

(チリの首都サンティアゴで起きた抗議デモのさなかに、燃える車の写真を撮る男性(20191019日撮影)【1021日 AFP】)

 

【エクアドル 政府側が燃料補助金廃止を撤回 財政再建先送り】

南米・エクアドルで先住民が先頭に立った政府への大規模な抗議行動が起きていると言う件は、109日ブログ“

南米エクアドル  燃料補助金撤廃を契機に大規模な反政府行動 左派前政権と右傾化した現政権の確執も“で取り上げました。

 

この件は、結局政府側が折れる形でひとまず収束したようです。

 

****エクアドル大統領と先住民団体、デモ終結で合意 燃料補助金廃止を撤回****

南米エクアドルで燃料価格の高騰に抗議するデモが暴徒化していた問題で、抗議行動の中心となっていた先住民団体の代表とレニン・モレノ大統領が13日、2週間近く続いたデモの終結で合意した。

 

モレノ大統領は首都キトで、エクアドル先住民族連盟のハイメ・バルガス会長と4時間にわたり会談。その様子は国営テレビで生中継された。

 

会談は国連とカトリック教会が仲介して実現したもので、国連職員が読み上げた共同声明は「この合意により、エクアドル全土への(デモ隊の)動員は終了し、われわれは国内の平和回復に全力を尽くす」と述べている。

 

また政府は、国際通貨基金から42億ドル(約4500億円)の財政支援を受けるための緊縮政策の一環で廃止した燃料補助金について、廃止命令を撤回した。

 

フェイスペイントを施し、頭に羽根飾りをつけて会談に臨んだバルガス氏も、「われわれの土地に適用されたこの措置(燃料補助金の廃止)は、撤回された」と声明の内容を追認した。

 

エクアドルでは燃料補助金の廃止を受けて燃料価格が高騰。全国からデモ隊がキトに集結し、12日間にわたるデモで7人が死亡する事態に発展した。

 

モレノ大統領は首都キトとその周辺地域を対象に夜間外出禁止令を発令し、デモ鎮圧のため軍の管理下に置いたが、13日も会談が始まるまでデモ隊と治安部隊との衝突が続いていた。

 

当局は、一連のデモで1349人が負傷、1152人の身柄を拘束したとしている。 【1014日 AFP】AFPBB News

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ただ、燃料補助金廃止の撤回でIMF融資がどうなるのか、何より財政再建がどうなるのか?という基本的な問題が出てきますので、今回の合意は将来また別の形で噴出するトラブルのもとになるかも。

 

【チリ 非常事態宣言のもとで混乱継続】

エクアドルの混乱がとりあえず収束したころ、とってかわったように混乱が表面化したのが同じ南米のチリ。

 

****チリ首都で非常事態宣言、地下鉄運賃の値上げめぐり暴動*****

チリのセバスティアン・ピニェラ大統領は18日夜、首都サンティアゴに非常事態宣言を発令し、治安に関する権限を軍に委譲した。同国では、地下鉄の運賃値上げに対する抗議活動が行われ、暴動も起きていた。

 

ピニェラ大統領は、「非常事態を宣言するとともに、わが国の有事立法の条項に従い、ハビエル・イトゥリアガ・デル・カンポ少将を国防のトップに任命した」と述べた。

 

デモ参加者らは18日、市内の複数の場所で機動隊と衝突。複数の駅が襲撃を受け、地下鉄の運行が停止された。

 

夜になると暴動は激しさを増し、市の中心部にあるイタリアの電力大手エネルのビルやチリ銀行の店舗には火が付けられ、複数の地下鉄駅には火炎瓶が投げつけられた。

 

地下鉄駅への襲撃により、路線網全体が閉鎖を余儀なくされた。人口が密集するサンティアゴにおいて地下鉄は主要な公共交通機関で、毎日300万人が利用している。

 

地下鉄の運賃は今年1月に20ペソ(約3円)値上げされたのに続き、今回はピーク時の利用で800ペソから830ペソ(日本円で約122円から約127円)に値上げされた。 【1019日 AFP】AFPBB News

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チリでの暴動というと、社会主義政権としては初めて自由選挙によって合法的に政権を獲得したアジェンデ政権の軍事クーデターによる崩壊、映画「サンチャゴに雨が降る」(75年)「ミッシング」(82)などが思い浮かびます。

 

21日までの死者は11名にのぼり、混乱は現在も進行中です。

 

****暴動続くチリ、外出禁止令3日目へ 首都サンティアゴなど****

南米チリで地下鉄運賃の値上げ反対デモをきっかけに起きた暴動と略奪による死者は、21日までに計11人に達し、首都サンティアゴなどで3日目となる夜間外出禁止令が発令された。

 

治安維持トップに任命された軍のハビエル・イトゥリアガ・デル・カンポ少将は21日、3夜連続で午後8時から翌朝午前6時(日本時間22日午前8時から午後6時)までの外出禁止令を布告した。

 

イトゥリアガ少将は外出禁止令は「必要」だと強調したが、この日、首都サンティアゴのデモは平和的に行われた。市内のイタリア広場では数千人が、中南米のデモでよく見られるように鍋やフライパンをたたきながら、「ピニェラは辞めろ!」「軍は出て行け!」などと連呼した。

 

一方、サンティアゴ郊外のマイプー区や、バルパライソやコンセプシオンなどの地方都市では、暴力行為や略奪が発生している。

 

18日のデモ開始以降、過去数十年間で最大の混乱の中で約1500人が拘束されている。地下鉄運賃の値上げが引き金となって発生した抗議デモの参加者らは、より広範な社会的不平等に対して主に怒りを抱いており、セバスティアン・ピニェラ大統領と軍に不満をぶつけている。

 

ピニェラ大統領は20日夜までに、全土16州のうち首都圏州とその他9州に非常事態宣言を発令した。チリで市街地に軍が配備されたのは、1973年から1990年まで続いたアウグスト・ピノチェト将軍による軍事独裁政権以来。 【1022日 AFP】

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【ボリビア 疑惑の大統領選挙 国際社会も疑念】

一方、新たな混乱も懸念されるのが20日に大統領選挙が行われたボリビア。

 

4選を狙う現職の左派エボ・モラレス氏(59)と、中道カルロス・メサ元大統領(66)の事実上の一騎打ちとなり、昨日までの報道では得票率の差は7ポイント程度で、決選投票が確実視されていました。

 

1回目の投票で当選を決めるには「有効票の5割以上の獲得か、4割以上の得票で2位候補に10ポイント以上の差」という条件をクリアする必要があります。

 

****南米ボリビア、大統領選が投開票 モラレス、メサ両氏の決選投票に*****

南米ボリビアで20日、任期満了に伴う大統領選が投開票された。選挙管理当局の集計の結果、候補者9人のうち4選を狙う現職の左派エボ・モラレス氏(59)と、政党連合「市民共同体」の中道カルロス・メサ元大統領(66)の上位2者による決選投票に持ち込まれることが確実となった。

 

事前にはモラレス氏が優勢とされたが、多選批判が強かった。決選投票は1215日が有力視されている。

 

選管当局の集計速報(開票率約83%)によると、得票率はモラレス氏が約45%、メサ氏が約38%だった。【1021日 共同】

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上記【共同】も“決選投票に持ち込まれることが確実となった”と。

開票率約83%で7ポイント差ですから、当然の判断です。

 

ところが・・・・

 

****ボリビア現職大統領が一転当選か 選管集計、対抗陣営は非難****

南米ボリビアの選挙管理当局は21日夜、丸1日止まっていた大統領選の集計速報を再開した。開票率約95%で現職の左派モラレス氏が46.86%を得票し、当選が濃厚に。選挙当日の20日夜には決選投票が確実な情勢だった。

 

36.72%で2位の中道メサ元大統領側は「不正があった」と非難、支持者の抗議行動など混乱も予想される。

 

当選には過半数を得票するか、40%以上を得票した上で2位と10ポイント以上の差をつける必要がある。20日夜の集計速報では、2人の票差は10ポイント未満。その後集計速報が止まり、21日夜に再開するとモラレス氏がリードを広げていた。【1022日 共同】

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1日止まっていた開票速報が再開されると、7ポイント差が一気に10ポイント差へ・・・・本当かね?

 

開票率約83%から95%の間で、そんなに大きな変化が起きるものか?

よほどモラレス氏が圧倒的な「地盤」の票が開票されたならあり得るのでしょうが・・・・もし、そうなら選管はそのあたりを公開説明する必要があるでしょう。丸1日開票速報が止まった理由と併せて。

 

****ボリビア大統領選 現職のモラレス氏当選濃厚に****

(中略)モラレス氏は2006年、白人中心の社会だったボリビアで初めて先住民出身の大統領となった。

 

13年の任期中に格差是正や経済発展を遂げ人気は根強いが、事実上、憲法の再選規定を破って出馬を強行した今回の大統領選では「独裁化している」との批判が高まっていた。新大統領は来年122日に就任し、任期は5年。

 

一方、国際社会からは速報を中断した開票作業の透明性を疑問視する声が上がった。米国務省高官は「当局は市民の意思が尊重されるよう、透明性を取り戻すべきだ」とツイート。

 

米州機構(北中南米全35カ国参加、OAS)の現地の選挙監視団は「深い懸念」を表明した。

 

メサ氏の支持者らは「不正があった」として抗議デモを展開した。【1022日 毎日】

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民主主義を象徴する選挙を愚弄するような薄汚い行為だけはあってほしくないですね。

このままでは対立候補側が騒ぐのも無理からぬところでしょう。

 

なお、“調査では、メサ氏が決選投票で35.8%の得票率となり、モラレス氏の35.5%を抜いて勝利する可能性が示唆されている。”【1011日 ロイター】と、決選投票になるとモラレス氏落選の可能性もあると、選挙前には取り沙汰されていました。

 

【南米の「原材料ジレンマ」 中東でも混乱拡大】

****世界で抗議デモ****
中南米国家のエクアドルやホンジュラスでも最近、反政府デモが起こっている。27日に大統領選が行われるアルゼンチン、今年「1つの国、2人の大統領」体制を実施しているベネズエラの社会混乱も深刻だ。

 

ブルームバーグ通信は、中南米全体が「原材料ジレンマ」に陥ったと診断した。

 

中南米は2000年代、原油、鉄鉱石、銅など原材料の価格上昇の時期に政権に就いた左派政府のばらまき福祉政策に慣れている。

 

最近の世界景気の鈍化で原材料の価格が急落すると、福祉の恩恵が減り、景気も以前ほどではなくなった。このような中、緊縮を叫ぶ右派政権が次々に政権を獲得し、庶民との葛藤が避けられなくなったのだ。

経済難と長期独裁に苦しむ中東各国も同様の状況だ。17日、レバノン政府がオンラインのメッセンジャーアプリ「ワッツアップ」に1ヵ月6ドルの税金を課すと明らかにすると、憤った国民が街頭に出て抗議した。エジプト、イラク、チュニジアなどでも経済難や独裁反対を叫ぶデモが続いている。

 

6月初めから4月間以上、深刻な反政府デモが起こっている香港の状況も収拾の兆しが見られない。【1022日 東亜日報】

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