(バグダッドの市民生活 “flickr”より By Ziyad MattiBy)
【テロ活動を活発化させるIS】
イラク情勢については、1月23日ブログ「イラク モスル奪還へ・・・・スンニ派住民とシーア派政府の対立、独自性を強めるクルド人勢力の問題も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160123)で取り上げたところですが、激しい内戦状態にあり、最近では停戦実施ということもあって連日刻々とメディア報道がなされているシリアに比べ、同じISとの戦いの場になっているイラクに関しては殆ど情報を目にすることがありません。
戦況的には、昨年12月に西部アンバル県の県都ラマディを制圧し、ファルージャで奪還作戦を遂行していると思われます。
報道が少ないのは、状況が落ち着いているから・・・・ということであれば結構な話ですが。
ただ、その「状況」も危ういものがあります。
****<イラク>バグダッドテロ、70人死亡…近郊でも35人殺害****
◇IS犯行声明
イラクの首都バグダッド北東部のイスラム教シーア派居住地域サドルシティーで28日、2度にわたって自爆テロがあり、少なくとも70人が死亡、100人以上が負傷した。
シーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。ISはバグダッドの西方でも治安施設などを襲撃し、警察官ら35人を殺害。首都周辺では今年に入って最大規模の犠牲者が出た。
現地からの報道によると、現場はサドルシティーの繁華街。バイクに乗った襲撃犯が相次いで自爆した。
またバグダッド中心部から約25キロ西のアブグレイブでもISの襲撃が相次ぎ、治安要員17人が殺害された。警察官ら多数が拉致されたとの情報もある。バグダッドの西約50キロの街でも治安施設が襲撃され、警察官18人が殺害された。【2月29日 毎日】
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シリア・イラクにおける支配地域でみると、ISは次第に劣勢に立たされているように見えますが、その分、今後は上記のようなテロ活動を活発化させることが予想されます。
また、ISはそうしたテロに「少年兵」を多用していると指摘されています。
****<IS>少年兵が急増 1年で89人死亡 39%自爆****
イラクとシリアで活動する過激派組織「イスラム国」(IS)の少年兵の死者数が、2015年1月からの13カ月で89人に上ることが、米ジョージア州立大の研究者らの調査で明らかになった。
在英の反体制派組織による調査より倍以上多い期間もあり、研究者らは「ISによる子供の動員は、前例のないペースで増えている」と指摘している。
調査は同大のミア・ブルーム教授らが実施し米陸軍士官学校テロ戦闘センターの機関誌2月号に掲載された。それによると、ISが死亡を公表した18歳以下とみられる少年兵らの写真や個人データをインターネット上で収集し、データベース化して死亡時の状況などを調べた。
死因別では、89人のうち39%は自動車爆弾による自爆攻撃で、33%は銃撃戦などだった。死亡地域は51%がイラク、36%がシリアだった。推定年齢は約60%が「思春期」(12〜16歳)で「思春期前」(8〜12歳)も6%いた。
ブルーム教授らは、ISの少年兵の死者数がこれまでの推計より多いとの分析も示している。シリア内戦での犠牲者数などを集計している在英の組織「シリア人権ネットワーク」の調査では、15年1〜7月の少年兵の死亡は8人だった。しかし、今回の調査では同期間に少なくとも21人が死亡していることが判明したという。
自爆テロ攻撃で死亡した少年兵の死者数は、15年1月に6人だったが同年11月以降は11〜14人で推移。研究者らは「ISによる子ども、若者の徴用は加速している」と指摘した。【2月22日 毎日】
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詳細はわかりませんが、ちょっと気になるニュースも。
****イラクで放射性物質盗難か=IS入手の恐れ****
ロイター通信は17日、独自に入手したイラク環境省の文書などを基に、同国南部バスラ付近にある米国の油田関連会社の施設で保管されていた放射性物質が昨年11月、何者かに盗まれたと報じた。
イラクでは、過激派組織「イスラム国」(IS)が強い勢力を誇る。治安当局者は「ISの手に渡ることを懸念している」と述べ、放射性物質をまき散らす「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」に転用される恐れもあるとの認識を示した。【2月18日 時事】
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【イラク政府は、相変わらずの政治混乱】
こうした状況にあって、IS掃討作戦を行っている有志連合は“「ISをできるだけ早く打倒する」ことで合意した”とのこと。
****IS攻撃強化で有志連合が合意 「できるだけ早く打倒」****
過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦を実施している米国主導の有志連合が11日、ブリュッセルで国防相級の会合を開いた。オブザーバーを含む49カ国が参加。ISへの攻撃を強化することで合意した。
米国は、ISが支配するイラク北部の大都市モスルや、シリア北部ラッカへの攻撃を強化することを提案。有志連合に参加する28カ国は共同声明で「ISをできるだけ早く打倒する」ことで合意した。
サウジアラビアなどが積極的な地上部隊導入について、カーター米国防長官は会合後の記者会見で、あくまでイラクなど地元の警察や軍を強化して、対応するべきだとの認識を示した。【2月12日 朝日】
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「ISをできるだけ早く打倒する」・・・・あまりにも当たり前な話で、「合意」と呼べるのかかどうか?
要するに、これまで以上のことは行わない・・・ということでしょう。
“あくまでイラクなど地元の警察や軍を強化して、対応するべき”・・・・そうしたイラク側対応を担うイラク政府の状況は・・・・あまり芳しくないようです。
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・・・・一方、政府内部では最近、再び政治対立が深刻化し、挙国一致体制が揺らいでいる。
アバディ首相は2014年9月の組閣時、対ISで結束するため、党派や宗派に配慮した閣僚人事を行った。だが、首相は2月上旬、景気や治安を巡る国民の不満を背景に、内閣改造によって行政経験者や学者らを起用する意向を表明。
これに主要政党が反発し、改造案は宙に浮いている。首相に対しては、改革派からも圧力がかかっている。
26日にはバグダッド中心部でシーア派指導者サドル師が呼びかけた改革要求デモに数十万人以上の市民が参加している。【前出 2月29日 毎日】
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相変わらず、充分に当事者能力を発揮できる状態ではないようです。
ラマディ制圧当時、アバディ首相は「ラマディの次はモスルを奪還する」と豪語していましたが、モスルはかなり遠そうです。