孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

グルジア問題  非難の応酬、進むロシアの孤立化

2008-08-31 14:34:22 | 国際情勢

(8月16日 グルジア・ゴリでのロシア軍による道路封鎖 “flickr”より By onewmphoto
http://www.flickr.com/photos/24674184@N00/2780840268/)

【独立承認でルビコン川を渡る】
明日、9月1日よりEU首脳会議が開かれますが、グルジア・南オセチア問題に端を発して、今や“新冷戦”も危惧される状態に悪化したロシアとの関係について、どのような議論がなされるか注目されています。

ロシアは、“6項目の和平合意文書”の第5項「ロシア軍は戦闘勃発前の地点まで撤退しなければならない。国際的なメカニズムが導入されるまで、ロシアは追加的な安全保障の措置を取る」を根拠に、「追加的安保措置」として南オセチアの周辺のグルジア支配地域に“緩衝地帯”を設け、その中に平和維持部隊を未だ残しています。
サルコジ仏大統領は23日、メドベージェフ・ロシア大統領との電話協議で、緩衝地帯の全欧安保協力機構(OSCE)への権限委譲を求めましたが、合意に至りませんでした。

ロシア上下両院は25日全員の賛成で、大統領に南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立の承認を求める決議を採択、これを受けてメドベージェフ大統領は26日、グルジアからの独立を宣言していた南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認する大統領令に署名しました。

従来ロシアは、両地域の一方的な独立承認は国際社会での孤立を一層深め、ロシア系住民を抱えるウクライナやモルドバなど周辺国との対立を深め、また、コソボの独立承認に反対してきた外交姿勢との矛盾も問われるため、独立承認の可能性をちらつかせながらも敢えて承認はせず、グルジアやコゾボ、それを支援する欧米諸国との駆け引きを続けていました。
今回決定は、欧米諸国からの孤立化も厭わないというロシアの強い決意を示すもので、“ルビコン川を渡った”決定と思われます。

グルジアは29日、ロシア平和維持軍の「非合法化」を狙い、ロシア平和維持軍駐留の根拠となっている90年代に締結された協定を一方的に破棄しました。ロシアがこれに応じないのは確実です。
更に、領事館業務は維持するものの、ロシアとの外交関係を断絶すると発表。

【非難・対抗策の応酬】
この間の、ロシアとグルジアを支援する欧米諸国の、互いにエスカレートする対応は、“そっちがその気なら、こっちだって・・・”と言わんばかりの“子供のけんか”のような様相です。

アメリカの東欧ミサイル防衛(MD)計画で、ライス米国務長官が20日、迎撃ミサイル基地を受け入れるポーランド側と協定に調印。
一方、ロシア外務省は同日、「外交手段を超えて対抗する」と声明を公表し、軍事手段も辞さない構えを示しました。
そして、ロシア軍は28日、MDを突破する能力を備えたとされる大陸間弾道弾(ICBM)「トーポリ」の発射試験に成功したことを明らかにしました。

ロシア海軍当局者は27日、アブハジア分離派政府の要請に基づき、ロシア黒海艦隊のミサイル巡洋艦「モスクワ」がアブハジアの首都スフミの港に同日入ったことを明らかにしました。
一方、スフミから150キロ南方のグルジア西部バトゥーミ港にはアメリカが人道支援目的で派遣した最新鋭ミサイル駆逐艦「マクファウル」などの艦船が停泊し、黒海東部で米ロの海軍力がにらみ合う情勢となっています。
メドベージェフ大統領は「米艦船は武器をグルジアに運んでいる」と非難しています。

NATOはロシアのグルジア軍事介入への制裁として19日の外相会議でロシアとの対話・協力の一時凍結を決定。
これに対抗してロシアは、NATOとの軍事協力を当面中止する旨を通告。
21日、アメリカが「我々もグルジアの問題が解決するまでロシアとの軍事演習などの協力を考えることはできない」と、アメリカも軍事協力を凍結する方針を明確に示しました。

ロシアのメドベージェフ大統領は25日、「NATOとの全面的な関係停止を含むあらゆる決定を下す用意がある」と述べ、NATOとの関係断絶も辞さない強硬姿勢を示しました。
大統領は「NATOがロシアとの協力を凍結しても、恐れることはない」と表明。「協力が必要なのは、ロシアよりもNATOだ」とし、これ以上の関係悪化を避けるようNATO側に呼び掛けています。
ロシアは今年4月、アフガニスタンに関し、鉄道輸送によるNATOの物資のロシア領通過を認めています。これが停止される事態になれば、NATO側にとって打撃と思われます。

【進むロシア孤立化】
一方、プーチン首相は25日の内閣幹部会で、ロシアにとって世界貿易機関(WTO)に加盟する利点はないとした上で、WTO加盟交渉における合意の一部を凍結する考えを表明。ロシアはこれまでWTO早期加盟を掲げてきました。
米通商当局者は、ロシア政府がWTO加盟交渉での合意事項をほごにすれば、同国のWTO加盟が延期される恐れもあると明らかにしています。 
しかし好調だったロシア経済について、軍事介入の直後に約70億ドルの資金が海外に流出したほか、主要株価指数や通貨ルーブルも下落傾向が続いていることも報じられています。
国際的孤立化はロシアにとって“利点はない”どころか、その根幹を揺るがす恐れがあります。

世界の紛争回避策を各国政府や国際機関に提言しているシンクタンク「国際危機グループ」(ICG、本部・ブリュッセル)は22日、グルジア紛争の解決へ向け、ロシア軍に紛争開始前の地点までの完全撤退を求める提言書を発表。
ロシアが非協力的な場合は、ロシアの世界貿易機関(WTO)加盟交渉の停止や主要8カ国(G8)からの追放などを西側諸国に要請。
さらにロシア南部ソチで開催される14年冬季五輪の再検討を国際オリンピック委員会(IOC)に求めています。

メドベージェフ大統領は26日、内外のテレビとのインタビューで、ロシアがグルジア・南オセチア自治州と同アブハジア自治共和国の独立を承認したことで対米関係などが急速に冷え込んでいることについて、「我々には、新冷戦の到来を含め何も恐れるものはない。むろん、新冷戦は望まないが、これは西欧のパートナー次第だ」と述べ、露側が譲歩する考えがないことを強調しました。

EU議長国を務めるフランスのクシュネル外相は28日、グルジア情勢をめぐってEU各国が対ロシア制裁の検討に入ったことを明らかにしました。
EUが制裁を決めれば、ロシアが対抗措置を取るのは必至で“新冷戦”の様相が強まることが危惧されます。
これについてはその後、9月1日に開かれるグルジア問題についてのEU緊急首脳会議で、ロシア制裁は採択しないとの方針が示されました。

これまでロシアの軍事介入を支持した国は、キューバ、ベラルーシ、シリア、ベネズエラ、モンゴルだけで、ロシア孤立化の様相が強まっています。
この状況から、「大国ロシアが『はみ出し者』になった」(コメルサント・ブラスチ誌)などの危機感がロシアでも強まっているとも。
この事態を打開すべく、ロシアは28日の上海協力機構(SCO)において、その支持を求めました。
中国、旧ソ連中央アジア諸国が参加するSCOはグルジア情勢について「平和構築でロシアが果たす積極的な役割を支持する」とするドゥシャンベ宣言を採択しましたが、宣言では「国家統一と領土保全の原則」を確認したほか、ロシアが南オセチア自治州、アブハジア自治共和国の独立を承認したことへの言及もなく、ロシアにとっては明確な支持を得るのに失敗したと判断されています。
チベット、ウイグル問題を抱える中国は、南オセチア等の独立は到底承認できない立場でしょう。
また、SCOに参加する旧ソ連構成国も中国との経済関係が強まり、ロシアの影響力は低下していると見られています。

プーチン首相は28日、米テレビ局CNNとのインタビューで、「米国の誰か」がある米大統領候補に「有利な状況を作り出す」ことを目的に、「グルジア紛争を起こした」と語っています。
強まるロシア批判へのあせりでしょうか、あるいは真実の一端でしょうか。

【新冷戦にむかうのか】
ペリノ米大統領報道官は28日、米ロが今年5月に署名した原子力協力協定の破棄を「検討中だ」と明言。
ロシア連邦農産物衛生監督局は29日、保健衛生上の理由をあげて、米国の鶏肉生産19業者を来月1日以降、ロシアへの輸出許可業者リストから除外すると発表。
29日には、ロシア政府が、国内石油会社の少なくとも1社に対し、グルジア問題で制裁を検討している欧州向けの供給を削減することを想定した態勢をとるよう通告したと英紙が報じていますが・・・。
天然ガス・石油輸出はEU諸国との関係の根幹にかかわりますので、さすがにロシアも“当面”は不用意な措置はとらないのでは。噂を流して圧力をかけるものでしょう。

米ロの対立に国連は全く機能していません。
国連安全保障理事会では、欧米のロシア批判に対し、ロシアは“イラク、アフガニスタンへのアメリカの侵攻”“欧米のコソボ独立支持”を持ち出して、米ロが冷戦期さながらの激しい非難合戦を繰り広げたそうです。
ロシアが拒否権を持っている現状では何らかの採択がなされる可能性はありませんが、欧米などは安保理協議を通じ、ロシアの孤立を狙っているとみられています。

ロシア軍がグルジア紛争の勃発後、グルジア・南オセチア自治州にグルジア人の強制収容所を設置、ロシア軍支配地域で拉致した民間人に暴力を振るい、強制労働を課していた疑いがあることが、多数の避難民や元収容者の証言で明らかになったと今日報じられています。【8月31日 産経】
ホロコーストの過去から、“強制収容所”という言葉に敏感な欧米世論に影響しそうです。

冷戦後、EUやNATOが東欧諸国を加盟させ東方に拡大してきました。
今回の対立は、経済的自信を深め、民族主義の高揚するロシアのこの流れに対する反発のように思われます。
しかし、NATOやEU、WTOなどに背を向けての孤立化はロシアの基盤を危うくするようにも思えます。
当然、“新冷戦”ともなれば日本もその渦中に飲み込まれます。
9月1日のEU臨時首脳会議での議論が注目されます。
こじれると、年末に予定されているNATOへのウクライナ・グルジア加盟問題討議で更に深刻化する恐れがあります。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  タリバン、“私達が望むものは・・・”

2008-08-30 17:43:48 | 国際情勢

(“flickr”より By Dude Crush
http://www.flickr.com/photos/haniamir/1576894929/)

【地形や文化を変える構造物は認めない】
アフガニスタンでの“ペシャワール会”伊藤さん殺害事件に関しては、いろいろな報道がなされていますが、その中で一番印象に残ったのが次の記事でした。

****アフガン拉致殺害:タリバン報道官、NGO復興事業を否定******
アフガニスタン東部で非政府組織「ペシャワール会」メンバーの伊藤和也さん(31)が拉致され、遺体で見つかった事件で、反政府武装勢力「タリバン」のザビウッラー報道官は28日、毎日新聞に対し、「拉致グループはタリバンの命令で拉致を実行した。当初は日本人だとは知らなかった」と語った。
 日本人と判明した後は「日本政府にアフガン復興支援すべてを中止させるつもりだった」とした上で、「タリバンは殺害までは命じていない」と弁明した。
 報道官は、拉致を命じた理由として、「ダム建設を中止させ、外国政府にアフガン政府と米国支援をやめるよう求めるつもりだった」とした。また、ペシャワール会については「知っている」としながらも、「我々は米や小麦、食用油など食糧支援は認めるが、道路や学校、ダムなど地形や文化を変える構造物は認めない」とし、地元住民に歓迎されてきたペシャワール会の復興支援事業そのものを否定した。【8月29日 毎日】
***********************

一昨日のブログでも書いたように、タリバンの今回の事件にしても、あるいは、かつてのバーミアン大仏破壊にしても、タリバン支配時代の異様な統治にしても、“何を考えているのかわからない”“どうしてそんなことを・・・・”といった“溝”を感じます。

上記の記事の“道路や学校、ダムなど地形や文化を変える構造物は認めない”という考えは、私達が今暮らしている社会の価値観を全て拒否するものに思えます。
そこにあるのは、かつての“部族社会”を頑なに守ろうとする強い意志です。
それにしては“食糧支援は認めるが”なんて、随分とご都合主義じゃないか・・・という話はさておきましょう。

【価値観の異なる社会に対して】
タリバンと言うと、“イスラム過激武装組織”と表現されますが、イスラムであるだけなら、このような“溝”は感じないのではないでしょうか。
世界中にいろんなタイプのイスラム社会があります。
イランのような“原理主義”と言われる社会もあります。
私達の社会からすれば多くの違和感・摩擦を感じる部分はありますが、“道路や学校、ダムなど地形や文化を変える構造物は認めない”といった社会はないように思えます。
タリバンに感じる違和感は、“イスラム”の部分より、“部族社会”のほうの問題が大きいのではないでしょうか。

タリバンが目指す“部族社会”再建には、私達の社会の民主主義や人権などの価値観、経済的な発展、文化・芸術・・・そういった社会の基本的な価値観と相容れない異質さを感じます。
全く価値観が異なるタリバン社会に対してどのように対応すればいいのか?
ひとりでは外出さえ許されない女性の権利のような、私達の価値観すれば、民主主義や人権の面で多々問題を感じるとき、“彼等は価値観が違うのだから”と放置していいのか、それとも“改めるべきだ”と迫るべきか、それでも変化がないときは・・・。

【アマゾン先住民は希少生物か】
以前、アマゾンで現代社会と全く接触を持たずに暮らしている先住民族が“発見”されたと話題になりました。
実際はその存在は以前から知られており、存続の危機を訴えるために敢えて写真が公開されたもののようです。
そうした先住民族の社会・文化を守るため、“国際法にのっとって彼らの居住区を保護しなければならない。さもなければ彼らは絶滅してしまうだろう”・・・というのは、文化保護対策ではあるでしょうが、なにか希少生物の保護の話のようで、少し違和感もあります。

先住民は単に保護すべき“珍しい生き物”ではなく、私達と同じ人間です。
例えば、医療を受けることなく死んでいく乳児について、“先住民文化・社会保護”ということで放置すべきなのでしょうか?

こういう話をしていると、植民地拡大のお先棒となって異文化を否定した宣教師みたいでいやなのでやめます。
ただ、タリバンにしても先住民にしても、自分達と全く異質な社会、自分達の価値観からすると認めがたいところがある社会にどのように対応したらいいのか・・・よくわかりません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タイ  長引きそうな首相府占拠 再び対峙するチャムロン氏とサマック首相

2008-08-29 18:46:56 | 国際情勢

(6月20日 演説する民主主義市民連合(PAD)リーダー、チャムロン氏 “flickr”より By adaptorplug
http://www.flickr.com/photos/11401580@N03/2594674791/)

【5月以来のPADによる抗議活動】
タイ・バンコクで続いている反政府団体・民主主義市民連合(PAD)による首相府の占拠は、混乱を避けたい政府側の意向もあって、長引く様相を見せています。

PADは06年、金権・強権的なタクシン元首相の追放をめざして結成された市民グループ連合で、その抗議行動は同年9月の軍事クーデターに道を開く形でタクシン政権を葬り、目的を達成しました。
しかし、07年末の総選挙ではサマック現首相を看板にしたタクシン元首相派が勝利して、現在のタクシン派主導のサマック政権が誕生。

サマック現政権下でタクシン氏らの政治復権が進み、クーデター体制下で制定された憲法改正手続きが進み出したことに反発したPADは、5月25日以来連日、道路を占拠し1万人規模の集会を継続していました。
当初は改憲反対を要求していましたが、次第に、サマック政権打倒を主張するようになりました。

こうした動きにサマック首相は「圧力に屈しない。不法占拠は強制排除する」と強調しながらも、憲法改正を一時棚上げ。
また、タクシン元首相の忠実な側近として知られるチャクラポップ首相府相が国王の顧問機関である枢密院を「旧態依然たる体質」などと批判する発言をしたことが「不敬発言」として問題化し、首相府相は辞表を提出。
更に、カンボジアとタイの国境に位置し長年その領有権が争われてきたヒンズー教遺跡「プレアビヒア寺院」の世界遺産登録を巡る両国の対立に関しても、政府の対応のまずさを批判して攻勢を強め、外相辞任に追い込みました。
そして、批判の矛先であるタクシン元首相は、自身の汚職疑惑に関する裁判での有罪判決不可避の情勢を見て、ついにイギリスに亡命するところとなりました。

【首相府占拠】
こうした“成果”をあげてきたPDAですが、ここに来て行動をエスカレーさせ、26日にはサマック首相退陣を求めバンコクの国営テレビ「NBT」を一時的に占拠。
政府の説得で、同日夜にはテレビ局からは退去したものの、支援者らは、国家警察本部や財務省、運輸省前でも数千人規模の大規模集会を開き抗議を続け、首相府を占拠するに至りました。

こうした過激化の背景には、PADが06年のときと同様に、軍の介入を誘おうとしていることがあると言われています。
“「成果」をあげてきたPADが大規模な違法行動に走った背景には、軍の決起への期待があったとみられる。26日は、軍首脳が定期異動リストを提出する日だった。PAD側は異動に不満な軍内部勢力に離反を働きかけたが、首相が陸軍本部に駆け込み、成功しなかったとされる。”【8月29日 朝日】
サマック首相も記者会見で「デモ参加者はこの国の流血を望んでいる。彼らは軍が出動し、再びクーデターを起こすよう望んでいる」と発言しています。

サマック首相は「占拠を解除しなければ法に基づいた措置を取る」「警察がデモ参加者に対して断固たる措置を取る。政府の自制もこれまでだ」と警告し、騒乱誘発および政府転覆未遂の容疑で指導者9人の逮捕状を取り、投降を要求。
しかし、流血の混乱を招くと逆に反政府活動を勢いづかせるだけとの判断で、「力は行使しない。政府の対応は穏やかなものなる」と、強制排除のような強攻策は控えています。
今のところ、裁判所の出した退去命令に従うように交渉を継続していますが、PAD側は「裁判所の判断は尊重するが、われわれは控訴する」と命令に従うことを拒否しています。

【醒めた国民の評価】
こうした反政府行動が国民にどのように評価されているかが問題ですが、同調する動きもない訳ではないようです。
バンコクと北部・東北部をつなぐ国鉄の組合がPADに同調して28日夜からストライキに突入。
南部路線も29日朝からスト入りする方針で、国内鉄道の長距離路線が完全にストップする事態になっているようです。

ただ、一般市民は06年に引き続くPADの過激な行動を冷ややかに眺めているとも伝えられています。
バンコク大学が実施した世論調査では、首相府占拠を「支持しない」との回答が68%を占めています。
抗議行動への参加者数も、06年のときのような盛り上がりはないようです。
議会を無視した“土俵外”での行動、クーデターを誘う過激行動には、市民は距離を置いているようです。

PADについては、“市民連合は、メディアグループ経営者や市民運動家などが率いる「市民団体」の体裁を取っているが、タクシン政権時代に利権を失った企業家ら旧来の支配層から資金提供を受けていると指摘される。市民運動の名を借りながら、事実上は反タクシン勢力が復権を目指した権力闘争という色彩が濃厚だ。”【8月26日 毎日】といった厳しい評価も見られます。

【軍も静観】
これまで何度も政治に介入してきており、クーデターが“お家芸”のような軍も、一昨年のクーデターが結局総選挙でのタクシン派復活という形で失敗に終わったばかりで、今また介入する気力はないように思われます。
パオチンダ陸軍司令官は市民に平静を呼び掛けており、激化する抗議活動を鎮めるために政府を転覆させるようなことはないと言明。「市民はパニックにならず、日常生活を続けるべきだ。軍は政治に関与しない」と記者団に語っています。

【「ミスター・クリーン」】
このPDAの中心人物として、メディアグループ代表のソンティ氏とともに名前があがっており、また逮捕状が請求されているのが、元バンコク知事のチャムロン氏です。
ある写真の記憶を呼び起こす名前です。
16年前、プミポン国王の前で、対立するスチンダ首相とともに跪くチャムロン氏の姿が思い出されます。

チャムロン氏の人となりを紹介した文章を、医療法人“徳洲会”のサイトから引用します。
*****
退役後、誠実、清潔、反官僚主義 の「ミスター・クリーン」チャムロン氏は民主化運動の指導者として、道義党党首となり、バンコク知事を1期半6年務め、92年には国政選挙で道義党が、首都バンコクの35議席中32議席を獲得。バンコク知事選でも、道義党のクリスダ氏が当選しました。5月には、非民選のスチンダ首相の退陣を要求、独裁権力に反対する大規模な民主化運動を起こしました。チャムロン氏は、断食やハンストを決行、それは国会議事堂前広場や王宮前広場で50万人を超える大集会に発展。しかし彼は軍に逮捕され「憎悪の5月」と形容される、多くの死者を出す悲惨な事件となりました。
 彼とスチンダ首相が国王陛下に呼ばれ、「今回の騒動は、もはや政治問題でも権力争いでもなく、国家の存亡に発展している。協力して国家を築き上げるようお願いする」とのお言葉を受け、スチンダ首相は辞任し、騒動は鎮静化しました。
 非暴力主義を貫き、非民選首相拒否などその民主化運動に対して、彼はアジアのノーベル平和賞と言われるマグサイサイ賞を受賞。その賞金は、5月の流血事件の犠牲者の家族を援助する基金に回されました。
 彼は、官房長官、上院議員、副首相、バンコク知事等の要職に就いても、汚職事件とは無縁でした。「いかなる脅迫、迫害、圧力にあっても、自分は不正を認めない。たとえ自分の身に何が起ころうとも、真実を守り犠牲を惜しまずに生きていく」と、常に国民に滅私奉公の精神で生きてきました。
 今年69歳のチャムロン氏は「1日1食」の菜食主義を通し、常に農民服の・モホーム・を着用し、バンコク郊外に「清潔、勤勉、質素節約、正直、自己犠牲、親孝行」の心を持つ人材を育てる人材育成センターを設け、有機農業を実践するなど若い頃と同様、相変わらず聖人そのものの生活です。
http://www.tokushukai.jp/media/chokugen/shinbun440.html
*******************

また、89年当時のチャムロン氏の生活ぶりがhttp://4travel.jp/traveler/tougarashibaba/album/10046164/で窺えます。
どうも、「ミスター・クリーン」、農民服を着た“清貧の人”チャムロン氏のイメージと、首相府を占拠して軍の介入を誘うPADの行動というのが、つながりにくいところがあります。
タクシン一派の金権体質批判でしょうか。

【チャムロン、タクシン、サマック】
タクシン元首相を政治の世界に引き込んだのがチャムロン氏だそうですが、「ミスター・クリーン」と金権タクシンの接点はなんだったのでしょうか。
その後、二人は袂を分かちます。

サマック現首相は、以前はタクシン元首相と政治的に対立もしましたが、昨年“身代わり看板”となって首相へ。
しかし、タクシン元首相の露骨な復権に伴い、両者の間の権力闘争も囁かれていました。
そのタクシン元首相は亡命。

92年5月の流血事件のとき、反政府活動を率いたのがチャムロン氏であったのに対し、サマック現首相は当時副首相で抗議活動に対し厳しく弾圧した責任者でもありました。
16年後、二人は再度対峙しています。
チャムロン、タクシン、サマック・・・運命というか因縁を感じる関係です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  邦人拉致事件 最悪の結果に

2008-08-28 21:05:34 | 国際情勢

(アフガニスタンの大地に広がる緑の畑 亡くなった伊藤さんが目指したものもこのような光景だったのでしょうか。 “flickr”より By machina
http://www.flickr.com/photos/mulestance/518695630/)

【「村人たちに守られている」】
アフガニスタンで拉致された伊藤和也さんの事件は最悪の結果となりました。
事件の詳細、背景はまだよくわかりません。
犯人グループがどの程度タリバンと関係あるのか、殆ど山賊の類なのか?
どのような思惑で伊藤さんを拉致したのか?

最後の状況についても、アフガン内務省関係者は、「警察が誘拐犯を近くまで追いつめたため、(伊藤さんを)射殺し、そのまま置き去りにした」と語り、誘拐犯が射殺したと主張していますが、タリバンの関係者には、「タリバンの同胞が伊藤さんを誘拐し、追跡してきた治安部隊との銃撃で(伊藤さんが)巻き添えになって死亡した」と、「巻き添え」説を強調する者もいるとか。
ただ、タリバンのスポークスマンを務めるムジャヒード氏はタリバンのグループが伊藤さんを拉致したと言明。その上で、人質を連行中、拉致の通報を受けて捜索に乗り出していた治安部隊と遭遇し、銃撃戦となり、「足手まといになった」ため射殺したと説明しているとも。 

脚などに被弾しているとも伝えられていますが、日本政府関係者は伊藤さんの遺体の状況について、「上半身に30発程度の銃弾を受けた模様だ」と述べているとも報じられています。

今回の事件の衝撃が大きいのは、犠牲になられた伊藤さんが“ペシャワール会”という現地密着ということでは有数のNGO団体のメンバーであったことです。
アヘン栽培が蔓延するアフガンで、サツマイモや茶などの農業指導、灌漑施設整備に現地の人々と一緒に働いておられたそうですが・・・。

ペシャワール会の現地代表、中村哲医師の著作は1冊だけ読みかけたことがありますが、自分達のやり方でしかアフガン再建はできない、政府・軍は何もわかっていない、自分達はアフガンの人々とともにある・・・といわんばかりの強烈な自負心に、正直なところ辟易するところがあって、途中で読むのを止めたことがあります。
逆に言えば、そんな自負心がなければ、アフガンのような過酷な環境、厳しい情勢のなかでの活動なんてできないのでしょう。

「村人たちに守られている」が「ペシャワール会」代表の中村氏の口ぐせだったそうですから、今回の件については、「伊藤君は現地の人たちに好かれ、住民に完全に溶け込んでいた。彼は大丈夫だと思っていたが、私の状況認識が甘かった」と衝撃を受けておられるようです。

【軍の民生支援活動】
NGOだけでなく、米軍やISAFもアフガンでは民生支援活動・人道援助を行っています。
軍主導によるこの種の活動には2種類あり、一つは軍直属の部隊が軍事作戦の一貫として人道援助をする場合、もう一つは、PRT(Provincial Reconstruction Team)と言って、軍の民生部隊及びUSAID(米国国際開発庁:米国務省のもとで、非軍事海外援助を行う政府組織)とそれを保護する戦闘部隊との混合チームです。

中村氏などNGO関係者はかねてから、軍による民生支援活動であるPRT等については、軍の宣伝活動であるPRTとNGO活動が同じようなものと現地の人が誤解し、NGO活動が外国軍と関係したものと考えられ、NGOの活動を阻害し、関係者の安全を脅かすこと、また、PRTによる安易な“ばらまき”が、現地の人達の自発的・持続的な活動を育てようとするNGOの活動を阻害し、また、限られた予算の範囲でやりくりしているNGO活動を非常にやりづらくすること、そうした観点から批判しています。
(PRTの事例については、日本国際ボランティアセンター(JVC)のサイトに紹介があります。
http://www.ngo-jvc.net/php/jvcphp_epdisp.php?ThreadName=a01&ArticleNo=18)

NGO関係者は、同様の趣旨で、日本のPKO活動などについても、日の丸を掲げた軍隊が入ることで日本人NGOの活動が軍と関係したものと誤解されて活動しにくくなると批判しています。

今回の事件についても、NGO活動が外国軍隊と関係がある活動と見られたのか、あるいは、NGOと協力している住民が“あの連中は外国人とつるんで旨い汁を吸っている”と他の住民から妬みみたいなものを買ったのか・・・そんなことでもあったのでしょうか?
それとも単なる金目当ての犯行か?重機などを使用したペシャワール会の活動が目立ちすぎたのか?あるいは、日本の海自の活動がなんらか日本人のイメージに影響しているのか?

【越えられない溝】
日本人からすると、“アフガンのために尽力しているのに、どうして・・・”という理不尽な思いがつのります。
まったく事象は異なりますが、かつてタリバンがバーミアンの大仏を破壊したことについても、“いろいろあるだろうけど、どうして世界的遺産を破壊しなければならないのか?”“なぜ世界中の思いが彼らタリバンには伝わらないのか?”という、やりきれない“心のズレ”を感じました。
彼らの外国人を見る目には、私達の思いとは全く別物が映っているのでしょうか?
越えられない溝があるのでしょうか。

伊藤さんの捜索には村人600人余りも参加してくれたそうで、そのことが彼と彼の活動が一般のアフガンの人々にはきちんと受け止められていた証のように思えます。
それがせめてもの救いでしょうか。
ペシャワール会の現地代表、中村氏は「大部分のアフガン人は我々を守ってくれる存在であり、一部の犯罪者の存在によってアフガン人を断罪しないでほしい」と語っているそうです。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

温暖化  凍土からのCO2放出、海面上昇、氷河縮小など・・・いつもの話題

2008-08-27 16:53:35 | 環境

(グリーンランドのヤコブスハン氷河付近の氷山(多分) “flickr”より By Ludovic Hirlimann
http://www.flickr.com/photos/lhirlimann/2787609882/)

世の中、紛争対立・事件・政局など慌しい動きもありますが、今日は温暖化がらみで数十年後、百年後の“気の長い”話。

****北極圏:凍土に大量炭素 溶解で温暖化懸念…米大の分析****
 北米大陸の北極圏の凍土などの土壌に、全地球の大気中の6分の1に匹敵する膨大な量の炭素(約980億トン)が存在しているとの分析を米アラスカ大などがまとめた。地球温暖化により凍土が溶解すれば、炭素が二酸化炭素(CO2)やメタンになって放出される恐れがあり、温暖化を加速させることが懸念される。24日付の英科学誌ネイチャージオサイエンス電子版に発表した。
・・・・今回判明した存在量は、従来の見積もりより6割以上も多い。
 国連の「気候変動に関する政府間パネル」は、北極圏では今後100年間で気温が6度上昇すると予測している。研究チームは「北極圏は気候変動に深刻な影響を与える」と監視を呼びかけている。【8月25日 毎日】
**************

CO2はともかく、6度気温が上昇したら全く別世界でしょうね。
100年間なんて地球の歴史からすれば、ほんの瞬間的な時間にすぎませんが、そんなに大きな変動がおこるのでしょうか?

温暖化に関する海面上昇については、8月8日ブログ「バングラデシュ 海面上昇による陸地減少はないかもしれないけれど・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080808)で、バングラデシュの陸地が水没するのか、しないのか?という問題をとりあげましたが、今日は同じような話を西アフリカについて目にしました。

****西アフリカの海岸も水没の危機、ドイツ専門家が指摘******
海洋地質学者でドイツの環境保護団体「Heinrich Boll Stiftung」に所属するステファン・クラマー(Stefan Cramer)氏によると、海面が年間2センチずつ上昇した場合、セネガルからカメルーンにかけての総延長4000キロの海岸線が浸食され、特に低地や人口が密集するデルタ地帯は甚大な被害を受けるという。

 クラマー氏はAFPに対し、ギニアの海岸が今世紀末までに消滅する可能性を語った。ガンビア、ナイジェリア、ブルキナファソ、ガーナも大きな被害を受けることが予想され、ガンビアの首都バンジュール(Banjul)と、1500万人が暮らすナイジェリアの経済都市ラゴス(Lagos)は水没する可能性があるという。
ラゴスは、一部が既に水没しており、頻繁に洪水に見舞われている。油田地帯のニジェールデルタも水没の危機に瀕しているという。
近年強大化している熱帯性低気圧の襲来も、海面上昇による被害を増幅している。農地への海水の侵入も深刻な問題だ。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は前年、今世紀末の海面上昇幅を当初18-59センチと見積もったが、海面のさらなる上昇を予想させる科学的根拠が次々に提示されたことから、最終的には上限の設定を控えた。 IPCCの見積もりには、温暖化によるグリーンランドの氷床の融解などが考慮されていない。グリーンランドの氷の面積は、ナイジェリアの面積の3倍にものぼる。最近の研究は、グリーンランドの氷床が予想をはるかに超えるスピードで溶ける可能性を示唆している。【8月27日 AFP】
********************

クラマー氏予測の“年間2センチ”ペースは50年で1mという“ハイペース”ですから、IPCCの当初見積もり“今世紀末に18-59センチ”とは格段の違いがあります。
グリーンランドの状況については、こんな記事もありました。

****グリーンランド最大の氷河で大規模な崩落*****
米オハイオ州立大学バード極地研究センターの氷河学チームは21日、地球温暖化の影響で、7月にグリーンランド最大の2つの氷河(ペテアマン氷河、ヤコブスハン氷河)からさらに氷が消失したと発表した。

さらに懸念されるのは、ペテアマン氷河の縁からかなり内陸に亀裂が観測されたことだ。間もなく大規模な崩落が起こり、氷河の3分の1に当たる160平方キロの氷が失われる可能性もあるという。
また、ヤコブスハン氷河でも、過去150年の観測史上最大規模で、縁が内陸に後退しているという。研究チームによると、少なくとも過去4000-6000年で、これほど後退したことはなかったはずだという。
【8月22日 AFP】
******************

“氷河消滅”については、以前もヒマラヤ氷河の縮小、それにともなうアジアの河川の水量減少の懸念をとりあげたことがありますが、同種の記事はよく目にします。
先日も、スウェーデンのストックホルムで開かれている「世界水週間」の会議で、気候変動によってヒマラヤ山脈の重要な水源が危機にあり、13億人の生活に影響が出る恐れがあると専門家らが発表した旨の記事がありました。
国際総合山岳開発センター研究者の話では、「氷河の後退は年間最大70メートルと非常に大きい」とか。
また、中国の山地生態系統研究センター長は、チベット高原の気温は10年で0.3度上昇していると指摘しています。
【8月22日 AFP】

温暖化、海面上昇など長い時間のスパンで見ないといけない問題は、なかなか本当のところはどうなのか?ということがわかりづらい問題です。
そんななかで、氷河の後退などは比較的客観的に把握しやすい現象のように思えます。

50年後は多分もう私は生きていないし、今世紀末はなんて関係ないと言えば関係ない・・・“本当だとしたら”非常に深刻な問題である温暖化も、そんな意味では個人的には“お気楽な”問題でもあります。
興味本位、あるいは怖いもの見たさで、今世紀末の世の中を見てみたい・・・・せいぜいそんなところです。
こんな風に考える人間が多いので事態は進展しないのでしょう。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  米軍誤爆によって揺らぐ信頼関係

2008-08-26 15:48:29 | 国際情勢

(アフガン・ヘラートで 数年前の写真のようです。 現地の親子は米兵と打ち解けた様子ですが、子犬は警戒しているような・・・ flickr”より By lakerae
http://www.flickr.com/photos/lakerae/35030153/)

【誤爆“でアフガン軍幹部解任、地位協定見直し】
アフガニスタン西部ヘラートで22日に行われた米軍主導の多国籍軍によるイスラム教徒集会会場への空爆で、女性や子どもを中心とした民間人90人以上が死亡するという事件がありました。
アフガニスタン政府当局者が民間人多数が死亡したとする一方で、米軍・多国籍軍側はタリバンがアフガン軍の車両を襲撃したため反撃し、武装勢力の戦闘員30人が死亡したのみだ“と主張しており、カルザイ大統領が攻撃についての調査を命じていました。

調査にあたったシャハラニ巡礼相は現場を訪れた後、
「爆撃の規模は大きく、多数の家屋が破壊されており、女性や子ども、高齢者など90人以上の非戦闘員が死亡していたことがわかった」
「彼ら(米軍)は、そこ(空爆現場)にイスラム原理主義組織タリバンがいたと主張している。それを証明してもらわなければならない」
「これまでのところ、多国籍軍が空爆を実施した理由は明確ではない」と語っています。
同相は調査は現在も継続されていると語り、空爆当時、アフガニスタン軍部隊とともに軍事作戦を行っていたとされる米軍特殊部隊とも面会する予定であるとしています。【8月25日 AFP】

カルザイ大統領は24日、無責任な作戦を行ったなどとして、西部地域の司令官らアフガン軍幹部を解任しました。
AP通信によると、幹部らは作戦を主導。事実関係を把握しながら報告していなかったとされています。
恐らく、カルザイ大統領の怒りの矛先は米軍なのでしょうが、それは立場上どうにもならず、アフガン軍幹部はその身代わりのようにも思えます。

この手の事件は多発しています。
7月6日にも東部ナンガルハル州で米軍機による空爆があり、アフガン政府は結婚式の車列が誤爆されて女性と子供39人を含む計47人が死亡した“と発表しています。
米軍側は「死んだのは武装勢力」と主張していましたが、政府の調査チームは「タリバンやアルカイダとは全く関係のない民間人が誤爆された」と断定しました。
カルザイ大統領は7月17日、被害に遭った村を慰問しましたが、過激派から脅迫されているカルザイ大統領が国内を移動するのはまれなことだそうです。

真相は定かではない部分もありますが、カルザイ大統領はともかく、アフガニスタンの人々の心がこの種の事件で米軍等の外国勢力から離れていくことは確実です。
米軍等への国民の批判は、外国勢力によって支えられているアフガン現政権への批判でもあります。

こうした事態を懸念するアフガニスタン内閣は、駐留多国籍軍の地位見直しを求める動きをみせています。
アフガニスタン内閣は25日、アフガニスタン国内で活動する国際組織の地位を定める諸協定について、再交渉を求める意向を明らかにしました。
見直しは特に、多国籍軍部隊の「権限と職責の制限」や民間人への空爆の中止、不法な拘束、一方的な家宅捜索に重点が置かれることになると報じられています。

【フランス兵犠牲も誤爆か?】
誤爆は民間人だけでなく、友軍にも及びます。
カブール郊外で18日から19日にかけて、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)に参加するフランス軍がタリバンの伏せ攻撃を受けて戦闘となり、フランス兵10人が死亡、21人が負傷しました。
これは、1回の戦闘では最悪の外国兵士の犠牲者数です。

アフガンへの積極姿勢をみせているサルコジ大統領は、「仏部隊は大きな打撃を受けたが、フランスは対テロ、自由と民主主義のための戦いで責任を果たす。私の決意は変わらない」と述べ、派兵継続に変更のないことを表明しています。
一方、野党・社会党のオランド第1書記は「戦争の目的は何か。そのために何人の兵士が必要なのか。01年からこれまでに何が得られたのか。こうした点について議会での討議が必要だ」と発言。
極右・国民戦線のルペン党首も「兵士らは米国が自国のために行う終わりのない戦争のために死んだのだ」と主張しています。【8月20日 毎日】

この事件について、仏ルモンド紙は20日、この戦闘で負傷した複数の仏軍兵士の話として、NATOによる誤爆とISAFの支援を行っていたアフガニスタン軍からの誤射があったと報じています。
これに対し、NATO側は21日、広報官が「ルモンド紙の報道に関しては、まったく根拠のないもの。誤爆があったことを示す情報はまったくない」と語り、誤爆の事実を明確に否定。
フランスのモラン国防相も同日、米軍戦闘機が誤爆した事実はないと語っています。【8月22日 AFP】
誤爆・誤射なんて話になると、ルペン氏など怒り狂いそうです。

【アメリカ批判を強めるロシア】
なお、22日の米軍の民間人誤爆“事件に関しては、グルジア・南オセチアでアメリカと対立を深めるロシアが異例のアメリカ批判を行っています。
ロシア外務省は声明を発表。「ロシア政府は深刻な懸念を持っている」と述べたうえで、アフガニスタンで反テロ軍事作戦を主導する米軍に対し、住民の犠牲を伴う無差別爆撃を停止するよう呼び掛けています。
ロシアがこれほど強い調子でアメリカを批判したのは初めてだそうです。

ロシアは今年4月、鉄道輸送によるNATOの物資のロシア領通過を認めましたが、グルジアでの対立を受けて、ロシア軍のノゴビツィン参謀次長は21日、アフガン作戦の物資通過の停止の可能性について慎重に検討している”ことを明らかにしています。

【アメリカ、増派検討】
アフガンではタリバンの活動自体が、ますます勢いを強めているように見えます。
6月にはカンダハルで数百名規模の刑務所からの脱走を成功させ、7月には隣国パキスタンから350~400人の武装勢力がパキスタンとの国境検問所を襲撃し、これを多国籍軍が空爆するなどして武装勢力の約150人が死亡した戦闘もありました。
こうしたタリバン側の大規模な作戦・攻勢も目だってきています。

アフガンには現在、約3万6000人の米軍部隊が駐留していますが、強まるタリバンの攻勢・拡大する犠牲者数に、アメリカ国防総省では増派も検討されています。
一方、イラクではアメリカとの地位協定交渉が続いていますが、マリキ首相は25日、バグダッドで行われた部族長らとの会合の席で、米政府とイラク政府が2011年までにイラクでの外国軍の駐留を終了することで合意した“と発表しています。
まだ詳細は流動的ですが、いずれにしても比較的安定しているイラクから難航するアフガンへ、アメリカ軍の展開も次第に軸足を移すことが想定されます。
イラクでの米軍増派作戦は効果をあげたとされていますが、思い切ったアフガンへの大規模増派はタリバンを抑えこめるかもしれません。

ただ、そのとき、現地政権・住民との信頼関係、NATO諸国の協力、ロシアの対応・・・いろいろ困難な課題が立ちはだかりそうです。
もとよりアフガンでの戦いは9.11に対するアメリカの報復戦争ですから、アメリカが一人で戦う事態も当然と言えば当然ですが。

*************************************

(先ほど気がかりなニュースが。26日午前、アフガニスタン東部ジャララバードで活動する非政府組織「ペシャワール会」の日本人男性職員1人が、何者かに拉致されたと、国連機関を通じて在アフガニスタン日本大使館に連絡が入ったそうです。)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小型武器  進展しない国際的な拡散規制

2008-08-25 14:22:29 | 国際情勢

(アフガニスタンの武装警察官にrocket-propelled grenade launcher の使用法をレクチャーする米兵 こちらはもちろん正規のものです。 武器にはかわりありませんが flickr”より By soldiersmediacenter
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/2276756375/)

【小型武器による死者は年約50万人で8割が子どもと女性】
国連会議などで問題とされる小型武器“とは致命的な戦争手段として使用するため軍隊仕様で製造された武器で、
(1)一人で携帯・使用が可能な「小火器(Small Arms)」(拳銃、ライフル、軽機関銃など)
(2)数名で運搬・使用が可能な「軽兵器(Light Weapons)」(グレネード・ランチャー、携帯型ミサイル、口径100mm以下の迫撃砲など)
(3)弾薬及び爆発物(地雷、手榴弾など)
の3種類があります。

日本国外務省ホームページによると
「小型武器は、紛争を長期化、激化するだけではなく、紛争終了後、人道援助や復興開発活動を阻害し、紛争の再発等を助長する原因となっている。
 特に、反政府ゲリラ等はあらゆるタイプの小型武器を使用していると言われており、不十分な治安に対する防御のために、一般市民が武器を求めるといった悪循環(市民の武装化)にも陥っている。
 このような背景から、非合法に流通し、過剰に蓄積された小型武器をどのように回収、破棄していくか、また、小型武器が非合法に流通しないように、いかに規制していくかが、国際社会において緊急の課題となっている。」

また、坂本義和 東京大学名誉教授 / 中村研一 北海道大学教授によると
「小型武器による死者は年約50万人で8割が子どもと女性。安価で規制が少なく、不法所持を含め10億丁以上が出回る。合法的製造者は98カ国に1000以上。その半数以上が米国内。この削減と不法取引防止のため、2001年7月、初の国連小型武器会議を開催、(1)製造元の特定のため、武器に製造者名を刻印し、取引業者の登録および輸出入承認制度を整備、(2)途上国での規制促進のために小型武器基金を創設、などを採択。06年の検討会議は米国の強硬な反対で決裂し、成果なく閉幕。今後の会議開催も白紙状態。」

【アメリカ・イランの反対】
制限のための国際会議については、現在一定の予定はあるようですが、いずれにしても議論が進展していないようです。

****国連:合意への道遠い小型武器貿易条約*****
国連によれば一般市場と闇市場で6億以上の小型武器が取引されている。それにもかかわらず、これらの武器の無謀な拡散を規制する国際条約はない。

 (国連での)2005年の隔年会議と2006年の小型武器に関する検討会議ではいずれも、成果文書に関して「コンセンサス」に達することができなかった。事実上コンセンサスとは「全会一致の合意」と定義されており、したがってわずか1国でも進展を阻止することができる。
 第三世界のある代表によれば、近年は米国が、そして米国代表が大半の会合を欠席した先月の会議ではイランがこうした役割を果たした。
 先月の会議では、全会一致の合意が不可能と分かると、参加者は成果文書について、前例のない投票を要求した。その結果、136カ国中、棄権したイランとジンバブエを除き134カ国が成果文書採択を支持した。

 9月中旬に開会する第63回国連総会でも小型武器に関する決議が検討される。次回小型武器に関する国連会議は2010年開催の計画である。【8月19日 IPS】
******************

なにかと対立することが多いアメリカとイランが、この件に関しては一致して小型武器取引制約に反対しているのは奇妙なことです。
どういう事情で両国とも武器輸出に関してご執心なのでしょうか?
話の本筋から離れますが、アメリカ、イランといえばこんな記事もありました。

【水面下で蠢くもの】
***イラン:米国産小麦の直接輸入6月から再開…28年ぶり****
イスラム革命後の80年に米国との国交を断絶したイランが、28年ぶりに米国産小麦の直接輸入を再開していたことが明らかになった。米紙ウォールストリート・ジャーナルが報じた。
 同紙によると、イランによる米国産小麦の輸入量は、6月からこれまでに100万トンを超えているという。米政府は核開発疑惑などに絡み、イランへの経済制裁を実施しているが、農産物の輸出は禁じていない。イランでは、日照りの影響で今年の国産小麦の生産量が昨年の1500万トンから約1000万トンまで落ち込むと予想されている。
 米国務省報道官は同紙の取材に対し、軍事技術に転用されそうな工業製品の輸出は禁じてきたが、農産物の輸出は禁じていないと説明。「政府には制裁を科してきたが、イラン国民には援助の手を差し伸べてきた」と述べた。【8月22日 毎日】
***************

対立している国へ人道的な援助をする・・・日本などでも北朝鮮への人道支援などが問題となったりしますが、個人的には結構な話かと思います。
結構な話ですが、イランが国際的に支援を必要とするほど困窮しているという話もあまり聞きません。
そんな感動的な話なら、最初から世界に公表すればよさそうなものを・・・。
イラン国民には援助の手“と言うよりは、お金や利権の匂いがするような・・・・

一事が万事で、表面上の関係や公の主張などとは別の世界でいろいろ蠢くものもあるようですが、世の中の事柄、すべてそういうものさ“と言われれば、そうだね・・・”と言うしかないです。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原子力供給国グループ(NSG)  インド例外扱い認めぬまま一旦閉会

2008-08-24 13:45:05 | 国際情勢

(踊るシバ神 ヒンドゥー教の三最高神の一柱シバは破壊を司り、世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目をしているそうです。 米印原子力協定はNPT体制を破壊して、新たな世界を創造するのか? “”より By adriaan bloem
http://www.flickr.com/photos/bloem/2399550538/)

【インドの例外扱い】
21、22日にウィーンで開かれていた原子力供給国グループ(NSG、日本など参加45カ国)の総会は、米印原子力協定に関し、核拡散防止条約(NPT)未加盟の核保有国インドの「例外扱い」を認めないまま、閉会しました。
今後は9月4、5の両日に再開される予定です。

この件については、
先月7月23日「インド “世界最大の民主主義国”に対する“特例的”原子力協定」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080723
更に、昨年8月19日「インド 民生用核協力協定の行方、そしてアジアは」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070819)でも取り上げてきたように、時間をかけた展開になっています。

前回も述べたように、「平和目的で原子力を求める国々にウラン濃縮や再処理は必要ない」と強調し、核兵器につながる再処理・ウラン濃縮技術の拡散防止すべくイラン・北朝鮮に制裁を課し、場合によっては実力で排除しようかというブッシュ政権が、一方で核拡散防止条約(NPT)枠外の核保有国インドに米国製核燃料の再処理を認めるという二重基準が問題となっています。

また、インドが核実験を実施した場合、米国は燃料返還を求める権利を確保する一方で、供給継続の担保として戦略備蓄や国際市場へのアクセス確保で支援を約束。米国が仮に供給を停止しても、インドが他国から燃料を輸入する道は残した内容になっています。

米印原子力協定については、インド国内では“非同盟の外交を長く標榜してきたインドがアメリカに過度に接近しすぎる”という連立左翼政党の批判、あるいは、“インドの核開発が制約を受けることになる”という最大野党インド人民党の反対がありましたが、経済成長のためには原子力エネルギー拡大が不可欠と判断するシン政権(実際、インドの原子力発電事情は厳しい状況にあるようです。)が、左翼政党との連立を解消するという犠牲を払いながら、1年がかりで押し通しました。

【核実験権利を保留するインド】
シン首相は“インドの核実験再開が制約される”という野党からの批判に対して、下院本会議で「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、核実験の権利を保留していることを明言しています。

8月1日「国際原子力機関(IAEA)」理事会は、核不拡散条約(NPT)に入らず核実験を行い、核開発を続けるインドと米国の間の原子力協力協定を可能にするためのインド・IAEA保障措置協定を全会一致で承認し、最初の関門を通過しました。

インドは国内の原子力関連の22施設を軍事用と民生用に分類し、民生用原子炉など14施設だけを14年までに段階的にIAEAの査察下に置く、民生用は今後建設される原子炉も査察対象に含まれるが、軍用施設や再処理施設には査察が及ばないことになっています。
しかも、今回の査察協定には具体的な査察対象施設名は明記されておらず、軍用・民生用の分類は、インド政府の裁量になります。

賛成する立場は、現在の6施設から査察範囲が広がることで、“野放し状態”から、不完全ながらも国際監視体制が一歩前進できるというものです。
しかし、インド自身が核実験再開を放棄しておらず、その場合の抜け道も用意されており、民生用核の支援が軍事目的に援用されるのではないか・・・という疑念が残ります。

また、インドの特別扱いを許せば、イスラエル、パキスタン、イランといった諸国が軍事目的の核開発や軍拡を急ぎ、世界の核問題は収拾がつかなくなる恐れもあり、NPT(核拡散防止条約)体制の根幹を揺るがしてしまうことにもつながりかねません。

アメリカの意向で、そのダブル・スタンダードが押し通されるということも理不尽です。
アメリカは長年イスラエルの核開発を事実上黙認し、また2006年にインド、パキスタンの核開発を容認しています。
今年3月には、アラブ連盟が、イスラエルが核保有を公式に認め国際連合がこれに対し適切な措置を取る事を要求。容れられない場合はNPT条約から脱退し、イスラエルがNPTに加盟するまでは関連するいかなる条約にも署名しない所存である旨声明しています。

【反対しない日本政府】
先日のIAEAでインドに厳しい発言を行っていたのは、スイス、オーストリア、オランダ、ノルウェー、中国、ニュージーランド、アイルランドといった国々で、「インドは包括的核実験禁止条約(CTBT)を締結すべき」「「インドになぜ例外が許されるのか」「無条件のままでは承認できない」との意見でした。
日本も一応NPTとCTBTへの加盟を呼びかけはしているものの、基本的なスタンスは反対しないというか、賛成するもののようです。
NSGにおいても、おそらく同様のスタンスで臨んでいるものと思われます。
“賛成の立場で臨む”という政府筋の意向も早くから報道されています。

もとより、世界の核管理体制については、すでに核兵器を保有している国家はその権利が是認されていながら、その他の国家の核保有を認めない、しかも核保有国は核軍縮のための交渉を進めることが義務付けられていますが、殆ど有名無実の状態にある・・・という非常に矛盾した現実を抱えています。
また、日本は94年以来、核兵器廃絶を目指す核軍縮決議案を国連総会に毎年提出しているように、唯一の被爆国として、核軍縮・核廃絶が殆ど唯一の対外的アピール・国是ではありますが、一方でアメリカの核の傘のもとでその安全保障をはかっているという矛盾した現実もあります。
今更形式論的な主張をしても無意味ではないか・・・という考えもあります。

更に、成長が著しいインドの原子力市場に参入したい、あるいは、インドの良好な経済関係を確保していきたいという経済的な視点、プレゼンスをたかめる中国へ対抗していく戦略としてインドとの接近が望まれるという政治的な思惑・・・そういった視点もあります。

もろもろの事情はありますが、やはりこれまで日本が訴えてきた核軍縮・核廃絶へのアピールは一体何だったのかという意味で、NPT体制を揺るがしかねない、他国の核開発を増長させかねない“インドの例外”を、そうそう容易に承認するのことは納得しかねます。
少なくとも国内での真摯な検討が必要な問題ですが、国内政治は総選挙・政局がらみの話ばかりで、いつものことではありますが、議論など全くされないまま事態が進展しているのは理解に苦しむところです。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フィリピン  ミンダナオ島 MILFとの和平交渉破綻 戦闘激化

2008-08-23 14:57:39 | 国際情勢

(ミンダナオ島の中心都市ダバオにある、ミンダナオの平和と統一を願うモニュメント “flickr”より By taralets_pilipinas
http://www.flickr.com/photos/28215915@N05/2738754968/)

【調印目前から一転、戦闘拡大へ】
フィリピン・ミンダナオ島のイスラム反政府勢力「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)とアロヨ政権との間の和平交渉については、8月10日ブログ「フィリピン・ミンダナオ島 MILFとの和平交渉は再開したようですが・・・」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080810 で触れたところです。

マレーシアを中心とした仲介でなんとか交渉再開に漕ぎ着けていたのですが、5日の調印を目前にしてフィリピン最高裁が4日、アロヨ政権が予定していた和平合意文書調印を一時差し止める異例の決定を下し、その影響が懸念されていました。

8月10日ブログで“その後どうなったかの続報も見ていません。”と書いたのですが、まるでその答えを教えてくれるかのように、その日から連日のように、武力衝突再開の記事を目にするようになりました。
そんな答えなら、あまり見たくもなかったのですが・・・。

ミンダナオ島の北コタバト州で10日、03年の停戦協定締結以降、最大規模の武力衝突が発生。
最高裁の調印差し止めの決定を不服とするMILFの一部勢力が、ミンダナオ南部のキリスト教系住民の村落を中心に抗戦に転じたようです。
この戦闘で、住民13万人が避難を余儀なくされました。

12日、政府軍は迫撃砲や軍用ヘリコプターなどで、MILFの拠点に激しい攻撃を加え、難民は16万人に拡大。
「戦闘では宗派に関係なく普通の住民が犠牲になっている」との声も。
避難民の多くは女性や子どもたちで、食糧不足による健康の悪化が懸念されており、世界食糧計画(WFP)はコメ400トンの空輸を始めました。
また、国連の人権委員会も、政府軍とMILFの双方に戦闘を停止し人道危機を回避するよう求めています。

17日午前、ミンダナオ島南ラナオ州で車列で移動中の陸軍部隊が攻撃され、軍によると兵士4人と政府系民兵3人が死亡。
18日、国軍の災害対策本部は、MILFと国軍の間で戦闘で住民16人と双方の兵士計4人が死亡したと発表。一部メディアは住民30人以上が犠牲になったと報道。

国軍の反撃を受けたMILF側が住民を一時、人間の盾として連れ去ったとも、あるいは、MILFは商店からの略奪や住宅への放火を行っているほか、大半がキリスト教徒である村人を無差別に襲撃しているととも。
国軍側は新たに兵員を追加投入。

【合意破棄】
拡大する戦闘に、18日、アロヨ大統領は「国軍と国家警察に国土防衛を指示した」とする異例の声明を発表。
そして21日には、ついに大筋で合意していたMILFとの和平合意を破棄しました。

****比政府、反政府勢力との和平合意を破棄*****
和平合意では、MILFが拠点とするミンダナオ島にあるイスラム系住民の「ホームランド(先祖伝来の土地)」について、独自の治安維持、金融、行政事務、教育、法律などのシステムを認めるほか、天然資源の管理に完全な自治権を与えることなどが盛り込まれ、40年にわたる流血の歴史を終わらせる「包括的な協定」への道筋を整える「歴史的な合意」とされていた。
 しかし政治家らは「憲法違反」だと反発、ミンダナオ島のキリスト教系住民も抗議デモを行う中、フィリピン最高裁は4日、和平合意文書の調印を一時差し止める決定を下した。
 
 Lorelei Fajardo大統領府副報道官は、和平合意破棄について「苦痛を伴うステップだ」としつつ、グロリア・アヨロ大統領は「和平に尽力している」が「世論に配慮しており、憲法を支持している」と述べた。【8月21日 AFP】
***************

政府側は「現在のミンダナオの状況では、覚書に含まれる条項を再検討するほかない」としていますが、MILFのイクバル副議長は「すでに合意されたもので、(再検討は)受け入れられないし、再交渉するつもりもない」と話しています。

調印目前だった合意内容がどのように“憲法違反”なのか、詳細はわかりません。
イスラム系住民のみへの逆差別になる、自治権が国家の一体性をそこなう・・・そのような内容でしょうか?
キリスト系住民の不安はよくわかります。

それにしても、アロヨ大統領は最高裁での差し止めという事態を予期していなかったのでしょうか、それともある程度そのような事態を予測しての調印の姿勢だったのでしょうか?
海の向こうの話でよくわかりません。

“40年にわたる流血の歴史を終わらせる「包括的な協定」への道筋を整える「歴史的な合意」”が流れてしまい、新たな流血の1ページが書き加えられる、なんとも残念な結果です。
少数派との対立では、ある程度多数派が譲るかたちでないと合意は難しいのでは。
カトリック住民の不安については、合意後の対応でカバーすべき問題かと思えます。
武力衝突という住民の血で購うような、また、お互いに憎悪をたぎらせながら維持する国家の一体性に何ほどの価値があるのか、理解できません。

【バリク・イスラム】
そんなフィリピンからこんな話題も。

****イスラム教への改宗者増加 フィリピン、中東出稼ぎ機に****
 カトリック教徒が大半のフィリピンで、イスラム教への改宗者が増えている。中東への出稼ぎを機に「異教」と出会う人が多いが、国内での根強い差別などで過激主義に走る信者もいる。
 フィリピンでイスラム教改宗者は「バリク(戻る)・イスラム」と呼ばれる。正確な人数は不明だが、首都圏最大のモスクでは毎年約1千人が改宗。「中東への出稼ぎをきっかけに改宗する人が増えている」とアルマレス氏。中東への出稼ぎ者は年間約40万人で、原油高騰に伴うアラブ諸国の好況で増加傾向だ。
 異国での孤独感から改宗する人がいる半面、「イスラム教徒の方が職探しや雇用条件で有利」という人も。とはいえ国民の8割がカトリック信者の同国は改宗者に居心地のいい場所ではない。
偏見や抑圧への反発もあるのか、原理主義に傾倒する改宗者も現れた。
改宗者は伝統的イスラム社会からも厳しい視線を浴びる。南部のイスラム武装勢力の幹部は「彼らを完全に信じることはできない」。改宗動機が就職や昇給など「不純だから」という。
国家警察のテロ対策担当者は「改宗者はイスラム社会とキリスト社会から二重の差別を受ける。真のイスラム教徒であることを示そうと、過激思想に傾く人がいる」と指摘する。【8月23日 朝日】
***********

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シエラレオネ  たかまる政治的緊張 再び“ナタ”が・・・

2008-08-22 14:45:15 | 世相

(40年前、1968年のシエラレオネ。当時すでにAPC,SLPPの両政党は存在しており、この写真はSLPP所有建物の前でデモンストレートするAPC支持者たち。赤色はAPCのシンボルカラー。
1968年というと、APCとSLPPが連立政権を樹立した年です。 当時は結構うまくやっていたのでしょうか。 
民主主義というのは年を経るごとに成熟していくもの・・・ではないようです。“flickr”より By gbaku
http://www.flickr.com/photos/gbaku/445062955/)

西アフリカ、リベリアと国境を接するシエラレオネでは、1991年から11年間も続いた内戦が02年にようやく終結。
数万人の死者、200万人とも言われる難民だけでなく、多くの人々がナタなどで手足を切り落とされるという悲惨な戦いでした。

ダイヤモンド絡みのこの内戦については
6月26日「シエラレオネからジンバブエまで “TIA”(This is Africa.)」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080626)で、
また、死亡したサンコーと並ぶこの内戦の首謀者のひとり、元リベリア大統領のテーラー被告の国際戦犯法廷については
1月30日「元リベリア大統領の国際戦犯法廷再開」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080130)でも取り上げたところです。

1月30日ブログでは、昨年9月に行われた大統領選挙で、最大野党「全人民会議党」のコロマ党首が与党「シエラレオネ人民党」から出馬したベレワ副大統領を接戦で破り、シエラレオネ史上初の民主的な政権交代が特段の混乱もなく実現したことに触れて、「“平和の定着”を印象付ける結果」と記しました。

普段アクセスもまばらなこのブログですが、1週間ほど前からこのページへのアクセスが奇妙に増加し、不思議に思っていました。
どうも原因は下記の事態ではないでしょうか?

*****シエラレオネ:政治の分裂がシエラレオネを再び混沌に陥れる*****
シエラレオネの首都フリータウンでは、最大野党の全人民議会党(APC)と与党シエラレオネ人民党(SLPP)との衝突で政治的緊張が続いている。13日、APCメンバーと見られる大勢の若者が棒やナタを持ち、SLPPの本部事務所を襲撃する事件が起きた。
内戦時に政権を握っていたAPCが与党への圧力をエスカレートさせているのだ。
「この国はまたしても悲劇を繰り返そうとしているのか」と、Fourah Bay CollegeのMohamed Turay講師は嘆いた。

同国では昨年の大統領選挙以降、政治不安が高まり始めた。北部・西部のテムネ族からの支持を受けるAPCと、メンデ族の多く住む南部・東部に支持基盤を固めるSLPP。選挙結果はAPCが勝利を収めたが、国内の政治的分裂は深刻な状況に陥っている。

アーネスト・バイ・コロマ大統領は就任直後、国家統一を国民に約束した。しかし、20人の大臣のうち17人がテムネ族あるいは北部出身者で組閣を固めるなど、国内からは大統領への厳しい批判が集まっている。
APCのVictor Foe幹事長は「SLPPのメンバーこそ我々の支持者に暴力行為を行っている」と、APCによるSLPPへの暴力・破壊行為をきっぱりと否定している。【8月21日(現地8月15日) IPS】
*************

昨年9月の大統領選挙が危惧され、また、無事に行われたことを安堵したのは、記事にもあるように、2大政党がそれぞれテムネ族、メンデ族という部族を基盤としており、政治対立と部族対立が容易にオーバーラップする環境にあるからでした。

この件については、他に日本語記事が見つかりませんでしたので、これ以上の詳細はわかりません。
しかし、またしても“ナタ”に“棍棒”・・・・。
“TIA”(This is Africa.)と言ってしまえばそれまでですが、これ以上対立が激化するようであれば、なんとも残念です。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする