孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  海外県マヨットで不法移民の強制送還 問題の本質は欧州・米の移民問題に共通

2024-10-03 23:16:18 | 難民・移民

(仏海外県マヨットのスラム(2023年5月23日撮影)【2023年8月15日 AFP】 スラムには多くの移民がくらしています。)

【極右政党の意向を忖度せざるを得ない新内閣 内相に移民問題で強硬派のルタイヨー氏】
フランスでは、左派・大統領与党の中道・ルペン氏率いる極右政党の三すくみの中で、マクロン与党と中道右派・共和党の連携でようやく発足した新内閣バルニエ政権は、極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首が「バルニエ氏はRNの監視下にある。(マクロン政権は)われわれなしでは何もできない」と言い放つように、極右勢力の意向を考慮せざるを得ない政権運営を強いられています。

もし不信任案に左派と極右が同調すれば政権は崩壊します。

**************
議会の過半数を握っていないバルニエ政権は難しい議会運営を迫られる。与党が提出する法案の多くに、左派連合や極右勢力が反対票を投じることが予想され、通常の立法手続きで法案を成立させるのは困難を極める。

2022年の国民議会選挙で議会の過半数を失った大統領支持会派と同様に、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って法案を通そうとするだろう。

議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。

つまり、今後の法案審議のたびに、新政権は内閣不信任投票にさらされることになる。【9月25日 田中理氏 第一生命経済研究所】
********************

こうした政治状況で発足した新政権は内相に移民問題で強硬派の共和党ブリュノ・ルタイヨー氏が就任しています。

****フランス新内閣発足 移民強硬派を内相に マクロン大統領、少数内閣で不安な再出発****
フランスで21日、バルニエ首相(73)が率いる新内閣が発足した。マクロン大統領を支える中道与党連合に、これまで野党だった中道右派「共和党」が加わる「相乗り内閣」になった。内相には、移民受け入れ削減を求める共和党強硬派が起用され、右派色の強い陣容となった。

フランスは6〜7月の下院選で与党連合が第2勢力に転落し、政治空白が続いていた。マクロン氏は、共和党のバルニエ元外相を今月5日に首相に任命。21日に閣僚名簿を発表した。(中略)

内相となったブリュノ・ルタイヨー氏(63)は共和党の上院議員団長。欧州連合(EU)のルールに縛られず、フランスが独自に移民対策を強化するよう主張してきた。(中略)

新内閣は来年の予算編成が喫緊の課題。バルニエ氏は10月1日、下院で施政方針演説を行う。下院第一勢力の左派連合は、不信任案提出の構えを見せる。新内閣は極右野党「国民連合」の動向に配慮せざるを得ず、マクロン氏は政策実行の手足を大きく縛られた。(後略)【9月22日 産経】
************************

【移民問題で厳しい対応をとるルタイヨー内相】
移民に対し厳しい対応を求める極右・国民連合への配慮に加え、移民強硬派の内相自身の姿勢もあって、フランスは移民問題で強硬姿勢に舵を切っています。

****フランス首相、国境管理強化の必要性強調 移民対策を優先****
フランスのバルニエ首相は1日の議会演説で国境管理を強化すべきと述べ、移民問題を優先事項の一つに据えた。

移民問題は欧州全域で主要な課題となっており、極右政党の台頭が加速している。

バルニエ氏は「われわれはもはや満足な形で移民政策を管理できていない。移民問題が一部の人々により思想上の行き詰まりに追い込まれた状態から早急に脱却しなければならない」と述べた。

その上で、フランスは欧州連合(EU)の規則を引き続き順守しつつ、域内における国境管理に関してドイツと同様の対応を模索すると説明した。

ドイツは不法移民や国境を越えた犯罪への対策の一環として、9月30日にフランス、ベルギー、オランダとの国境などで検問を再開した。【10月2日 ロイター】
**********************

【海外県マヨットで不法移民の強制送還を命令】
こうしたなか、ルタイヨー内相はフランスの海外県でマヨットについて、不法移民の強制送還を命じています。

マヨットというのは、私を含めて多くの方が初耳だと思いますが、アフリカ本土モザンビークとマダガスカルの中間に位置する島(面積375km2、人口約35万人)で、ロコモ連合に近接します。



****フランス、不法移民を強制送還 海外県マヨットからアフリカへ****
不法移民の取り締まりを進めるフランスのブルーノ・ルタイヨー内相は2日、海外県マヨット(マホレ)の当局に対し、アフリカ出身の不法移民を制送還するための航空機を手配するよう命じたと明らかにした。
 
インド洋に浮かぶマヨットは、フランスで最も貧しい県。アフリカ本土の貧困や腐敗を逃れて何千人もの移民が流入し、社会不安や深刻な移民危機に長年苦しんでいる。

「秩序の回復」を優先課題に掲げるルタイヨー氏は議会で、「10月から、マヨット県知事は不法移民をコンゴ(旧ザイール)に送還する航空機を手配する」と述べた。

ルタイヨー氏のチームの一人はAFPに対し、マヨットの移民収容施設の空きを確保するため、同様の航空機は2月以降4回手配されており、10月には少なくとも3便が予定されていると語った。

この問題に関して、コンゴ当局とは「素晴らしい」協力関係が築けているという。

マヨットには、近くの島国コモロ連合やアフリカ本土から「クワッサクワッサ」と呼ばれる小舟などに乗って毎年数千人が上陸を試みている。現在ではマヨットの人口約32万人の半数近くを移民が占めていると推定される。

移民の流入を受けて大きな対立が生じ、抗議デモも発生。多くの住民は犯罪や貧困について不満を訴えている。

ルタイヨー氏はまた、移民の「流入を阻止する」ため、ブルンジやルワンダなどの大湖地域の国々と二国間安全保障協定を締結するとも発表した。

保守強硬派であるルタイヨー氏の内相任命は、フランス政界の右傾化を反映している。同氏は、移民はフランスに「チャンス」をもたらさないと強調。移民の流入をコントロールするために「あらゆる手段」を講じると明言している。

ルタイヨー氏は2日付の日刊紙フィガロに掲載されたインタビューで、「私の頭にあるのはフランスの役に立つということだけだ」「私にとって重要なのはそれだけだ」と語った。 【10月3日 AFP】
**********************

【政治的には“訳あり”のマヨット 移民問題の本質は欧州・アメリカの問題と同じ】
“マヨットはフランスで最も貧しい県”とは言っても、フランス海外県ですので、ある程度の福祉や教育が保障されているとも言え、極度の貧困や人権侵害が深刻なロコモ連合やアフリカ本土からの移民流入が絶えません。

不法移民をコンゴ(旧ザイール)に送還・・・・コンゴは多くの反政府武装勢力が跋扈し、住民殺害・人権侵害で世界でも最悪の国であり、強制送還先としては疑問が多いところです。

そもそも、移民の多くが隣接するロコモ連合から来るのであれば、ロコモ連合に送還すればよさそうですが、そうはいかない“訳あり”の政治的事情があります。

ロコモ連合が独立する際に、マヨットも含めた形でしたが、マヨットは住民投票でフランスに残ることを選択し、フランスもこれを認めたという経緯があります。

ロコモ連合からすれば、マヨットは本来自国の一部であり、中国からする台湾みたいな存在。

“本来自国の一部”という立場からすれば、ロコモ連合とマヨットの間の移動は国内移動であり、強制送還云々は受け入れられないということで、過去にもフランスによる強制送還を拒否したこともあります。

なお、マヨットにおける移民の問題は以前からのものであり、フランスはこれまでも移民のスラム解体や送還を行ってきていますので、今回のルタイヨー内相による対応は突出したものではありません。

****海外県マヨット島でスラム解体と移民排除作戦が始まる*****
マダガスカルの北にある仏海外県マヨットで(2023年)4月24日、警察によるスラムの解体と不法移民を強制送還するための「ウアンブッシュ」作戦が正式に始まった。

この作戦は何週間か続く見込みだが、コモロが送還移民受け入れを拒否するなど、作戦遂行は難航する様相を見せている。

一方で、29日には作戦を支持するマヨット住民のデモがあり、ダルマナン内相は5月2日、同島の犯罪集団の中心人物60人のうち22人を逮捕したと成果を自賛。しかし、5月13日現在も若者の暴動は続いている。

マヨット島(面積375km2、人口約35万人)は1974年、76年の住民投票でコモロ諸島のなかで唯一フランス残留を選び、2011年に海外領土から海外県になった。

出産増と主にコモロ連合からの移民(移民の95%)増加により、1985年から2017年に人口は4倍になり、住民の48%は外国人だ。

それとともに貧民や移民の住むスラムが増え、若者ギャングの抗争や犯罪が増加。21年時点で島の失業率は30%で、貧困線以下の人は住民の77%。

こうした状況から、16年にも本土並みの社会インフラを求めるゼネストやデモが続いた経緯があり、ギャング抗争が続いた一時期は「内戦状態」と形容された。

ダルマナン内相は、同県の知事(国の代表者)や県議会からの要請を受けて、「違法住宅1000軒の解体および、武器の不法取引、犯罪組織を撲滅する」ために、警官や憲兵を派遣し、作戦開始時で1800人を動員。

過去に住民が民兵組織を作ってスラムからの外国人追い出しを図ったこともあるように、作戦に賛同する住民と、作戦によってスラムの家を失うことを恐れて反対する住民に分裂する。

マヨットの裁判所は25日、島北東部のクング市のスラムの強制退去を違法として差し止めた。人権連盟(LDH)は、不安定な境遇にある多くの未成年を危険にさらす、と作戦に反対。仏人権諮問委員会(CNCDH)も「マヨットの社会の緊迫した状態と分裂を促し」、外国人の基本的人権を侵すものと作戦停止を内相に求めた。

マヨット島はコモロ諸島のなかでフランスが最初に植民地にした(1841年)島だ。1974年の住民投票でマヨット以外の3島では独立賛成が多数を占め、75年、コモロは4島全部の独立を宣言。

これを不満とするマヨット島は76年に再度住民投票を実施して99%で仏残留を求め、仏政府もインド洋での影響力を維持したいために認めた。

だが、コモロ諸島4島は同じ民族・言語で、同じ親族が複数の島に散らばっているケースも多いという。コモロは独立時からマヨットを自国領と主張し、国連に提訴。国連は76年、94年と、コモロの主張を認める決議をしたが、仏はコモロとの交渉を拒否している。こうした経緯もあって、コモロは自国民がマヨットに行くことは国内移住とみなし、移民送還船の着岸を拒否した。

マヨットはフランスの県とはいえ、移民政策や福祉政策などが本土とは異なる。滞在許可証はマヨット島内のみで有効でほかの仏国内に行くにはビザが必要。島生まれの子は本土同様に18歳で仏国籍を申請できるが、出生の3ヵ月以上前から親のうち一人が滞在許可証を保持しているという条件が加わる(内相はこの期間を1年にしたい意向。移民妊婦が島で産む子の仏国籍取得を妨げる)。

強制送還の決定が下ると本来は行政裁判所への提訴中は送還されないが、マヨットではすぐに送還できる。そのほか警察による身分証明書チェックの常態化など、移民を取り締まる例外措置が多い。法定最低賃金や生活保護額、年金額も本土より低く、マヨットはフランスで最も貧しい県とされる。

クーデター続きで貧しく不安定なコモロから、仏海外県であるためにある程度の福祉や教育が保障されているマヨットに移民が流れるのは自然な成り行きだ。果たしてスラム解体や送還に意味があるだろうか? 送還してもまたボートに乗ってくるだろうし、解体してもスラムはまたできるだろう。

抑圧と取り締まりで移民流入を阻止できないのはヨーロッパへの移民が減らないのと同じだ。コモロ、マダガスカルなど周辺地域との共同開発推進を仏メディアが提言しているように、地域全体が豊かにならなければ根本的解決策にはならないだろう。【2023年5月13日 Ovni navi】
*********************

記事後段にあるように、マヨットの移民問題は、単にインド洋の小島のローカルな問題ではなく、欧州を揺るがし、アメリカの分断を深める移民問題と本質的に同じ問題でもあります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州  拡大する反移民の流れ

2024-09-14 22:27:07 | 難民・移民

(英中部ロザラムにも広がった反移民暴動(8月4日)【8月28日 Newsweek】)

【反移民・右傾化の流れ】
欧州で失業や生活苦への不満の受け皿となる形で反移民・右傾化のうねりが広がっています。

****反移民、欧州で強まる右傾化 独仏英、結束に影****
ドイツ東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進した。欧州では、欧州議会選で欧州連合(EU)に批判的な極右や右派が議席を増やし、フランスや英国では極右や右派ポピュリスト政党が台頭するなど右傾化が強まる。特に欧州をけん引する大国に顕著な動きで、結束の弱体化が懸念される。

ドイツやフランス、英国で躍進した右派や極右政党は反移民を掲げる。移民流入が高い失業率や労働賃金の引き下げなどを招いたとする声も少なくなく、不満の受け皿となって支持を拡大した。

6〜7月のフランス国民議会総選挙では、反移民、反EUを掲げる極右「国民連合(RN)」が第3勢力にとどまったものの党史上最多の議席を獲得。7月の英下院総選挙では、反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が二大政党に次ぐ得票率で初めて議席を獲得し、存在感を示した。

6月の欧州議会選でドイツやフランスの与党が大敗を喫する中、イタリアのメローニ首相率いる右派政党は伸長した。【9月2日 共同】
******************

【イギリス 反移民暴動】
反移民の右派ポピュリスト政党「リフォームUK」が総選挙で躍進したイギリスでは、少女3人が刺殺された事件がイスラム教徒移民による犯行との誤情報に扇動された反移民暴動が発生。反移民・極右暴動に対抗してカウンターデモも行われ、社会を揺るがせました。

****英暴動の逮捕者1000人超に、少女刺殺事件巡るデマ発端****
英国では、放火、略奪、イスラム教徒など移民を標的とする人種差別的攻撃を伴う暴動が続いており、警察当局によるとこれまでに1000人以上が逮捕された。

暴動は、7月29日にイングランド北部サウスポートで少女3人が刺殺された事件がイスラム教徒移民による犯行との誤情報がインターネット上で流れたのを発端に始まり、イングランド各地と北アイルランドに波及した。その後、暴動関与者を特定する取り組みが強化されたことで、先週以後は収束しつつある。

当局によると、英国全土で1024人が逮捕、575人が起訴された。【8月14日 ロイター】
********************

イギリスでは保守党前政権時代の移民ルワンダ移送計画を労働党政権が中止するなど、移民対応が政治の中心課題となっています。

【ドイツ 国境管理強化】
ドイツでは冒頭記事にあるように、東部の2州の州議会選で排外主義を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しましたが、中道左派・社民党を軸とする連立政府もAfD躍進の背景にある反移民の空気を考慮せざるを得ず、移民対応を強化しています。

****ドイツ、全ての陸上国境管理で不法移民に対応 16日から6カ月間*****
ドイツ政府は9日、不法移民に対応し、イスラム過激主義などの脅威から国民を守るため、全ての陸上国境で管理を強化すると発表した。16日に開始し、少なくとも6カ月継続する。

フェーザー内相は「国内の治安を強化し、不法移民に対する厳格な姿勢を維持する」と表明。政府が欧州委員会と隣接国に国境管理計画を通知した述べた。

政府は当局が国境で直接、より多くの移民を拒否できるようにする制度も設計したという。

ドイツではこのところ、反移民を掲げる右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を拡大。政府は主導権を取り戻すため、移民問題への姿勢を強めている。

8月に西部で起きた刃物による襲撃事件の容疑者が難民施設に所属していたことを受け、移民を巡る懸念が高まっている。同事件では3人が死亡。過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。

ドイツは昨年、初回の難民申請の急増に対応し、ポーランド、チェコ、スイスとの国境で管理を厳格化した。

これら3カ国およびオーストリアとの国境の管理により、2023年10月以降3万人の移民送還が可能になったという。

フェーザー氏は新たな制度により政府はさらに多くの移民を送還できるようになるが、保守派との非公開協議を控えているとし、内容への言及を避けた。

ドイツは前出の4カ国のほか、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランスと国境を接している。【9月10日 ロイター】
***********************

メルケル前首相は中道右派ながら移民に寛容な姿勢でしたが、流れは変化しつつあります。

【スウェーデン 帰国すれば最大480万円】
北欧・スェーデンも、反移民を掲げる極右の野党、民主党の閣外協力を受ける右派連立政権が移民帰還を促す方向に向かっています。

****帰国すれば最大480万円、スウェーデンの新たな移民抑制策****
戦争や迫害を逃れた人々の安息の地となってきた北欧スウェーデンの右派連立政権は12日、自主帰還する移民に支給する給付金を最大35万クローナ(約480万円)に増額する計画だと明らかにした。

スウェーデンは数十年にわたり「人道大国」と見なされてきた。だが近年、移民の社会的統合を進めているにもかかわらず、多くは溶け込めていない。

反移民を掲げる極右の野党、民主党の閣外協力を受ける政権は記者会見で、2026年から自由意志に基づき出身国に帰還する移民は、最大35万クローナを受け取ることができると述べた。

ヨハン・フォシェル移民相は最新の移民抑制策を発表する際、「われわれは移民政策におけるパラダイムシフトの真っただ中にある」と述べた。

現在、帰国する移民に支給される金額は、成人1人当たり最大1万クローナ(約14万円)、子ども1人当たり5000クローナ(約7万円)で、1家族当たり4万クローナ(約55万円)までとなっている。

この措置について移民団体にコメントを求めたが、コメントは得られていない。 

欧州で帰国する移民に給付金を支給している国はスウェーデンだけではない。デンマークは1人当たり1万5000ドル(約210万円)以上、ノルウェーは約1400ドル(約20万円)、フランスは2800ドル(約40万円)、ドイツは2000ドル(約28万円)を支給している

スウェーデンは1970年代から多額の外国に開発援助を惜しみなく行い、1990年代からは主に旧ユーゴスラビアやシリア、アフガニスタン、ソマリア、イラン、イラクなどの紛争地帯から多数の移民を受け入れてきた。

欧州移民危機のピークを迎えた2015年だけでも、スウェーデンは庇護希望者16万人を受け入れ、人口当たりで欧州連合最多となった。

スウェーデンでは、外国出身者の失業率が極めて高いために経済格差が拡大し、「揺り籠から墓場まで」と呼ばれるほど充実した社会保障制度にとって重荷となった。

欧州移民危機が転換点となり、当時の与党・社会民主党は、移民への門戸開放政策をこれ以上続けることはできないと表明。

以来、歴代政権は左右を問わず移民抑制策を講じてきた。それには、難民認定申請者の在留資格を短期滞在に限定したり、家族を呼び寄せる条件を厳格化したり、欧州連合域外出身者の就労ビザの申請に必要な収入基準を引き上げたりするなどの措置が含まれる。

ウルフ・クリステション政権はさらに、薬物乱用、犯罪組織への関与、スウェーデンの価値観を脅かす発言などを行った移民の強制送還の容易化も計画している。 【9月13日 AFP】AFPBB News
*****************

帰国すれば最大480万円・・・・現在の“1家族当たり4万クローナ(約55万円)まで”と比べても破格の金額ですが、それだけ支払っても移民を受け入れるコストの方が大きいということでしょう。

失業手当などを考えるとそうなるのでしょう。外国出身者の雇用を促進して、税負担も自国民と同じようにしてもらえれば、そういう問題もでないのでしょうが。問題の根っこは、なぜ外国出身者の失業率が極めて高いのか、それはどうにもならないのか?というあたりでしょう。

なお、移民受け入れで以前は寛容とされていたスウェーデンですが、ヘニング・マンケルのミステリーなど読むと、2000年代の頃から移民に反対する勢力の活動で陰鬱な空気が社会に漂っていたことが窺えます。反移民感情は決して昨今のものではありません。

【オランダ EU共通難民庇護制度から離脱申請】
オランダはウィルダース党首率いる極右、自由党主導の4党連立政権ですが、そうした政権の性格を反映して移民政策も厳格化し、EU共通の難民庇護制度からの離脱を要請する方針を示しています。

****オランダ、厳格な移民政策発表 EU共通難民庇護制度から離脱へ****
2オランダのディック・スホーフ首相は13日、同国史上最も厳格な移民政策を発表するとともに、来週には欧州連合共通の難民庇護制度からの離脱を要請する方針を示した。

ヘルト・ウィルダース党首率いる極右、自由党主導の4党連立政権は、「難民危機」を宣言し、国境管理をはじめとする一連の厳格な措置によって移民の流入を抑制する意向を明らかにしている。

スホーフ氏はハーグでの記者会見で、今後3年間の政府計画を発表。「わが国は大規模な移民の流入に耐え続けることはできない」「国民は難民危機に直面している」とし、「よって近々、移民・難民の受け入れ厳格化などの緊急措置を講じる」と表明した。

昨年11月の下院総選挙から約7カ月を経て成立した連立政権は、難民認定申請者や不法移民の入国阻止に向けて強硬姿勢を取ると明言している。

しかし、法律の専門家だけでなくウィルダース氏自身も、EU共通の難民庇護制度からの離脱には数年かかると認めている。

ウィルダース氏は5月、AFPに対し、「デンマークが実施しているように、わが国も難民庇護制度からのいわゆる離脱を試みていく。成功するとしても、数年かかるだろう」と述べた。

デンマークはEU共通の難民庇護制度からの離脱を交渉しており、オランダ政府もそれに続く方針だ。 【9月14日 AFP】
******************

【先進国の人出不足で移民増加】
移民対応厳格化に舵を切る欧州各国ですが、欧州など先進国で移民流入が増加したのは先進国側の都合もあってのことです。

****昨年の移民、過去最多=先進国の人手不足背景―OECD****
経済協力開発機構(OECD)は23日、日米欧など加盟38カ国への2022年の新規移民が推計610万人に上り、過去最多を記録したと発表した。難民認定者の増加や先進国での人手不足が背景で、前年比で26%、コロナ禍前の19年比でも14%増えた。

不法移民や短期就労者、ロシアによる侵攻で国外へ避難したウクライナ人らは除いて集計した。国別の移住先は米国が前年比25%増の105万人と最多で、次いでドイツが21%増の64万人、英国が35%増の52万人。日本は58%増の10万6000人だった。

OECD加盟国に逃れたウクライナ人は、23年6月時点で約470万人。このうちドイツが100万人強、ポーランドが100万人弱、米国とチェコが各40万人弱を受け入れている。【2023年10月24日 時事】 
*******************

【強気のハンガリー・オルバン首相】
上記のような反移民・難民の流れが強まる欧州で、以前から反難民姿勢を貫くハンガリー・オルバン首相は強気。

****ハンガリー、難民対応巡り欧州委と対立 「境界守った」逆提訴の構え****
欧州連合(EU)の行政執行機関である欧州委員会と加盟国のハンガリーが、難民申請者への対応を巡り対立を深めている。

EUの欧州司法裁判所は6月、ハンガリーが難民申請者の権利を保護しなかったとして制裁金2億ユーロ(約313億円)の支払いを命じた。だが、ハンガリーは応じず、欧州委に対し、EUの境界を「守った」費用として、逆に20億ユーロの支払いを求める訴訟を起こす構えを見せている。

ハンガリーのグヤーシュ首相府長官は9月12日、「ハンガリーは近年、(域内の自由な移動を可能にする)シェンゲン協定の域外との境界の防御に約20億ユーロを費やしたが、EUから補償金を受け取っていない」として、「欧州委を相手取り、費用を回収するため訴訟を起こす用意がある」と述べた。

欧州司法裁は6月13日、欧州委の提訴を受け、ハンガリーが難民申請者を不法に留め置いたり、申請手続き中の滞在を認めず国外に追放したりするなど、EUの難民保護のルールに違反し続けているとして、2億ユーロの制裁金の支払いなどを命じた。

これに対し、ハンガリーのオルバン首相は「EUの境界を守る我が国への制裁金は言語道断で容認できない」と反発し、支払いを拒否した。欧州司法裁はハンガリーが是正措置を講じるまでの間、1日100万ユーロの追加制裁も科しており、制裁金の総額は膨らんでいる。

ハンガリーは強硬姿勢を見せることで、制裁金の支払いを巡り、欧州委の譲歩を引き出す戦術とみられる。AP通信によると、ハンガリー政府は9月12日、欧州担当相に問題解決に向けて欧州委と協議するよう指示した。

ハンガリーは6日にも、難民申請者を対象に、セルビアとの国境地帯からEU本部のあるベルギーの首都ブリュッセルまでの片道バス利用券を提供する方針を明らかにし、EUに圧力をかけている。

これに対してベルギー政府は9日、「EUの結束と協力を損ねる」と批判し、ハンガリーからのバスによる難民申請者を受け入れない方針を発表した。

欧州委員会の報道官は10日、「もしハンガリーが(バスによる移送を)実行すれば、明らかなEU法違反であり、加盟国の協力や相互信頼の原則に反する」と非難。欧州委は通過ルートとなる可能性がある加盟国と対応を協議した。

近年、中東やウクライナなどからのEUへの難民申請者は増加し、2023年は計約114万人に達した。受け入れに必要な公的費用の増加などから、加盟国が対応に苦慮している側面もある。

こうした中、ドイツ政府は9月9日に国境での検問を強化する方針を発表し、10日には難民申請者の受け入れを厳格化した。オルバン氏はX(ツイッター)で、ドイツに対して「ようこそ移民停止クラブへ」と皮肉を込めた投稿をした。

ハンガリーは7月から、EUの加盟国で構成する欧州理事会の議長国(任期6カ月)を務めている。ウクライナ支援への消極姿勢やロシアとの友好関係が目立つなど、他の加盟国との摩擦が続いている。【9月13日 毎日】
*****************

【外国人労働者の社会統合】
移民問題の根幹は社会統合が進まず、雇用が不安定で、失業したり、なかには犯罪に走ったり・・・ということでしょう。

日本は正確には“移民・難民”ではなくあくまでも技能実習制度や育成就労制度に基づく外国人労働者ですが、コンビニ・飲食店でよく見かける外国人については、「不愛想な日本人店員より外国人のほうが感じがいい」という声もよく聞きます。

もちろん、日本における外国人労働者についても差別・人権侵害、劣悪な雇用環境など問題は多々あります。ただ、その一方で、上記のような“とけ込んでいる”ようにも見える部分も。そのあたり、工作機械・ロボットにすら名前をつけて愛着を寄せる日本社会は欧米社会とはまた違う側面もあるのかも・・・というのは期待しすぎでしょうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロヒンギャ難民  厳しい状況 治安が悪化する難民キャンプ 新たな移住先バサンチャール島は?

2024-07-21 22:45:53 | 難民・移民

(2月、日下部氏が訪れたバングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプ。子どもの姿が多い【6月29日 東京】)

【厳しいロヒンギャ難民を取り巻く環境 若者がギャング化している難民キャンプ】
一昨日ブログで取り上げたバングラデシュと、昨日ブログで取り上げたミャンマーの間で行き場を失っているのがロヒンギャ難民です。

ロヒンギャは仏教徒が9割とされるミャンマーで西部ラカイン州を中心に暮らすイスラム教徒少数民族。ミャンマーはロヒンギャについて、イギリスの植民地時代以降に来た不法移民だとして、ミャンマーで自動的に国籍を与えられる先住民族とみなさず、ロヒンギャの多くが無国籍状態になっています。

2017年8月、国軍およびその協力者は暴行・殺害・放火・レイプなど大規模なロヒンギャ弾圧を行い、70万人を超える膨大な人数のロヒンギャがバングラデシュに逃れました。

スー・チー政権時代を含め、ミャンマー国軍はそうした民族浄化・弾圧を否定しています。単に国軍だけの問題ではなく、ミャンマーの多数派仏教徒にとってロヒンギャは嫌悪・差別の対象となってきました。そしてミャンマーでは弾圧主体である国軍が権力を握っています。

2017年以前からの難民を合計すると、100万人ほどのロヒンギャがバングラデシュで難民として生活していますが、帰国の目途が全くたたないまま、国際的関心はウクライナやパレスチナへ移っています。

希望のないまま隔離された難民キャンプでの生活は、当然ながらすさんだものになりがちです。地元住民との軋轢も高まっています。

一方、ミャンマー・ラカイン州に残るロヒンギャは、少数民族武装組織アラカン軍と国軍の戦闘のなかで「人間の盾」として利用されるなど、翻弄されています。

****「難民キャンプの若者がギャング化」 少数民族ロヒンギャがミャンマーを追われ7年、現在の境遇は?****
ミャンマーで迫害を受けたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの大規模な難民発生から7年近くたつ。隣国バングラデシュにいる約100万人の難民はどのような境遇にあるのか。帰還の見通しは。発生直後から難民キャンプを訪れ、調査している立教大の日下部尚徳准教授(南アジア地域研究)に聞いた。(北川成史)

◆することがない若者がキャンプにあふれている
「『夜に出歩けなくなった』『誰も守ってくれない』など、難民の間で不安が強まっている」。2月にバングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプを訪れた日下部氏は語る。

大きな要因は治安の悪化だ。バングラデシュのロヒンギャ難民への対応は帰還が前提。キャンプでは基礎的な教育しか認めていない。することがない若者がキャンプにあふれている。「麻薬の密売に関わるなど、一部の若者がギャング化し、抗争も発生している」

食料などの支援は1人月1000タカ(約1300円)相当にとどまる。現金を得ようと、難民がキャンプを抜け出し、不法就労や支援物資の売却をするため、地元住民の就労機会の減少や物価の不安定化につながり、軋轢(あつれき)を生んでいる。

◆バングラデシュ国民の間に「難民への反感」広がる
日下部氏は「2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、バングラデシュで燃料価格が高騰し、インフレが進行した。生活が苦しい中で『なぜロヒンギャに金をかけるのか』と国民全体に反感が広がっている」と懸念する。

18、19年にミャンマーとバングラデシュの両政府は難民帰還を計画したが、ミャンマーでの安全面の不安から対象者の辞退が相次ぎ、頓挫した。一方でキャンプの周りには柵が設置され、隔離の度合いは増した。

「世論を意識し、バングラデシュ政府は思い切った施策をとりにくい。今年1月の総選挙でもロヒンギャは話題にされなかった」と日下部氏。関係者の溝が深まる状況を「負のスパイラル」と言い表す。

◆クーデターでさらに厳しい状況に
ミャンマーで21年に起きたクーデターが、事態をさらに複雑にしている。実権を握った国軍はロヒンギャ迫害の主体だ。加えて現在、同国西部ラカイン州で国軍と少数民族ラカイン人の武装勢力との戦闘が激化し、ロヒンギャも巻き込まれている。国軍がロヒンギャを徴兵し「人間の盾」にしているという情報もある。

「現状で帰還は現実的ではない。ミャンマーで民族融和や平和構築を進めない限り、難しい」

キャンプの過密対策として、バングラデシュは難民10万人をベンガル湾の離島バシャン・チョールに移す計画を立てた。これまで移住者は約3万5000人。「島には移動の自由がなく、いわば片道切符なので、希望者が頭打ちだ。抜本策ではない」とくぎを刺す。

ロヒンギャ難民の滞在が長引く可能性を念頭に「バングラデシュ政府は業種を絞ってでも、就労を認めるべきだ」と主張。同国との友好関係を生かし、日本政府も働きかけるよう望む。
「国際社会の目はウクライナやパレスチナ自治区ガザに向いている」。日下部氏はロヒンギャへの支援の弱まりを危惧し、訴える。

「陰に隠れた地域紛争の被害者が、よりひどい状況に置かれている。憎悪を生み、過激化する素地となりかねない。国際社会が『忘れていない』という姿勢を見せていくことが重要だ」【6月29日 東京】
***********************

国際的人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチはこうした難民の置かれた状況を厳しく批判しています。

****バングラデシュとミャンマーのロヒンギャ 暗い未来****
2017年の残虐行為以来、正義も自由もない
ミャンマー国軍が2017年8月25日にラカイン州で大規模な残虐行為を目的とした作戦を開始してから6年が経つ。しかし、バングラデシュにいる100万人のロヒンギャ難民には、安全に帰還できる見込みはほぼないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。国連安全保障理事会は未だにミャンマー国軍の幹部らに対し、ロヒンギャへの人道に対する罪とジェノサイド行為の責任を問えていない。

2017年にバングラデシュに逃れた73万人を超えるロヒンギャは現在、当局による規制の強化と武装集団による暴力が渦巻くなか、無秩序に広がる過密なキャンプで生活する。ミャンマーには約60万人のロヒンギャが今も生活しており、アパルトヘイト制度により当局に事実上拘束されている。

「ロヒンギャは、ミャンマー・バングラデシュ国境のどちら側でも、無国籍というきわめて厳しい状況から抜け出せず、最も基本的な権利すら認められていない。そうしたなかで、法による正義がもたらされ、帰国のチャンスが訪れるのを待っている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局調査員シェイナ・ボシュナーは指摘する。

「国連安全保障理事会は、こうした問題に正面から取り組むどころか手をこまねくだけだ。各国政府による援助は削減され、ロヒンギャはさらに絶望的な状況に置かれている」。

バングラデシュ側とミャンマー側のロヒンギャのあいだでは、共に絶望が蔓延しており、国境の両側で規制が強化され、状況が悪化するにつれて、そうした絶望は年々強くなっていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

2021年2月1日のミャンマー国軍によるクーデター以降、治安部隊は多数のロヒンギャを「無許可渡航」の罪で逮捕し、ロヒンギャのキャンプや村落に新たな移動制限と援助封鎖を科してきた。軍事政権によるロヒンギャへの組織的な人権侵害は、アパルトヘイト、迫害、自由の剥奪という人道に対する罪に相当する。

人的被害を出したサイクロン「モカ」がラカイン州を襲ってから3ヵ月以上が経つが、軍政はデング熱やマラリアが蔓延するコミュニティへの緊急医療など、人命を救うための人道支援を妨害し続けている。

バングラデシュのロヒンギャ難民は、ミャンマーで直面した制限と同様の教育、生活、移動への新たな障壁に見舞われていると訴える。さらにバングラデシュ当局は、約3万人のロヒンギャを、シルトでできたベンガル湾沖の無人島バサンチャール島に移動させたが、そこで人びとは移動の制限や食糧・医薬品不足に直面している。

ロヒンギャ難民は、バングラデシュで法的地位が認められておらず、国内法上は不安定な立場にあり、人権侵害の被害を受けやすい。「私たちはここで6年間を失った」と、あるロヒンギャの女性はヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた。「私は人間だ。私は人間なのに、なぜこのような扱いを受けてきたのか?こんな思いが毎日ひたすら頭に浮かんでくるのです」。

キャンプでは武装集団や犯罪組織による暴力が急増しているが、バングラデシュ当局は保護や治安維持、責任者の訴追を怠っている。難民たちは、警察や法律、医療分野への支援について分厚い壁に直面している。

バングラデシュ当局は、2021年12月以降、コミュニティが主導する学校に制限を課している。「難民状態が続き、教育もなければ仕事もできず、暴力が止まない。絶望的な状態だ」と、ロヒンギャのコミュニティリーダーは言う。「私たちはなんとかして突破口を開こうとしている。生活を向上させたいが、それができない。教育がないため、技術や知識を身につけることができない。私たちのコミュニティでは教育格差が拡大している」。

難民キャンプ当局は最近、ロヒンギャの商店主への嫌がらせや立ち退きを再開した。2021年12月に始まった商店の取り壊しも行われている。「まずフェンスで取り囲む、そして次に小さな店が閉鎖させられているところだ。外に働きに出ることもできない」と、ある難民は訴える。「キャンプ内では地元の車両の運行が禁じられた。高齢者や妊婦、深刻な医療上の問題を抱えている人にとっては唯一の移動手段だったのに。現在は配給を受け取るためだけに4〜5キロ歩かなければならない」。

2023年のロヒンギャ人道危機への国連共同対応計画(UN Joint Response Plan for the Rohingya humanitarian crisis)が受領した資金は、ドナーからの拠出が求められている8億7,600万米ドルの3分の1以下である。資金不足により、世界食糧計画(WFP)は2月以降、ロヒンギャへの食糧配給量を3分の1削減した。一人あたり月額12米ドルからわずか8米ドルに削減されたのである。ロヒンギャと人道援助従事者は、配給削減がすでに医療面や社会面で悪影響を及ぼしていると報告している。

「配給が削減されたので、十分な食料が確保できていない」と、ロヒンギャのボランティアは語る。「乳幼児や妊婦が特にそうだ。みな悪影響を被っている」。

ドナー国(米国、英国、欧州連合、オーストラリアなど)は拠出額を増やし、働きかけを強めることで、ロヒンギャ難民のニーズを満たすべきだ。バングラデシュに働きかけて、一連の制限を撤廃し、難民が生活再建に必要な手段を活用できるようにすべきだ。

また、各国はロヒンギャの再定住の機会を増やすべきだ。特に武装集団に狙われているロヒンギャは、ミャンマー国内での迫害だけでなく、キャンプでの生活にも脅威を感じている。

2017年の大規模な残虐行為を指揮した国軍幹部たちが、軍事クーデターを起こして以来、永続性のある自発的な帰還の見通しはますます遠のいている。

バングラデシュ当局は、ロヒンギャの送還が唯一の解決策だと主張する。バングラデシュ政府はミャンマー軍政とともに、ロヒンギャをラカイン州に帰還させる試験的なプロジェクトに着手しているが、このプロジェクトは強制と欺瞞に満ちたものである。

国連と関係国政府は、ロヒンギャの安全で持続可能かつ尊厳のある帰還のための条件が、現状では存在しないことを引き続き強調すべきだ。ロヒンギャ難民は一貫して帰還を望んでいるが、身の安全、土地や生計手段へのアクセス、移動の自由、市民権が確保されるという条件付きの話だ。

「この6年間、強制移住のもたらす犠牲によって、私たちは回復力と強さを試されてきた」と、ある難民は語る。「私は、自分の国ミャンマーに、自分の村に、自分の家に帰ることを望んでいる。市民権をはじめ、人として当然のすべての権利と共にである」。

2017年の残虐行為に対する国際社会の対応は断片的かつ不十分だった。国連安全保障理事会の対応も数少ない声明を発表しただけだ。安保理は、世界的な武器禁輸措置、国際刑事裁判所(ICC)への付託、軍政指導部や軍系企業への制裁措置など、具体的で意味のある行動をとるべきである。

「今ロヒンギャの送還を進めることは、難民を冷酷で抑圧的な政権の支配下に送り返すことを意味し、次の壊滅的な大量避難の舞台を作ることになってしまう」と、前出のボシュナー調査員は述べた。「ロヒンギャの自発的で安全かつ尊厳ある帰還のための条件整備には、ミャンマーに人権を尊重する文民政権を樹立し、過去の残虐行為についての法による正義を実現するための協調的な国際的対応が必要となるだろう」。【2023年8月20日 HRW】
********************

【バサンチャール島の施設の現況は?】
ただ、ものの見方は立場が違うと随分異なったものになります。

日下部氏やHRWが否定的な見方をしているベンガル湾沖の無人島バサンチャール島へのに移動に関して、制裁下のミャンマー軍事政権とも独自のパイプを持ちつつ、バングラデシュのロヒンギャ難民への支援も続ける日本財団の笹川陽平会長は、極めて明るい展望を語っています。

****「ロヒンギャ問題」―新しい可能性 ****
(中略)
コックスバザールの難民キャンプの出生率は高く、人口増加率は3.71%にも上り、年間3万人以上の新生児が誕生している。地元住民とのトラブルも頻発するのみならず、7年間にわたる希望のない生活は彼らの心を荒んだものにしている。

日本財団では、ミャンマー語で読み書きのできない子ども達に2020年から200万ドルの費用で、203棟の学習センターを建設・改修したほか、16000人の児童、生徒の学習環境を整備。2024年1月から更に200万ドルを支援して、更なる学習センターの改築、新築を開始している。

このコックスバザールの難民キャンプは限界に達しており、バングラデシュ政府は新たな居住先を、チッタゴン港より船で3~4時間のバサンチャール島に求めた。

バサンチャール島での難民の受け入れ準備を進めたところ、西洋社会より「台風の通過地域への難民移住は重大な人権問題だ」と強い非難の声が上がっていた。

しかし、ハシナ首相の指導で、財政困難の中、難民受け入れの準備が進み、第一陣として35000人がこの島に移住した。日本財団はバングラデシュ最大のNGOであるBRACと組んで、移住した方々への職業訓練のために300万ドルを提供した。

「百聞は一見に如かず」「現場には問題点と答えがある」は筆者の行動哲学であり、4月6日バサンチャール島を訪れた。

結論を先に申せば、まさしく島に新都市が完成していた。世界一の大気汚染の首都ダッカと異なり、バサンチャール島は青空であり、13000エーカーの面積は東京都の練馬区の面積にほぼ匹敵する。

バサンチャール島に整備された居住区
写真のように整然とした街並みは、舗装道路と共に驚くほど整備されており、区画ごとに建設された5階建てのビルには、学校、職業訓練所、保健所等々が入っており、万が一激しい台風で水害が発生した折には避難所にもなりそうである。既に商店もあり、リキシャは忙しそうに人を乗せて走っており、避難民の表情はコックスバザールの避難民よりも明るい表情であった。

日本財団の協力している職業訓練の目的は、いつの日か故郷に帰ることを夢見て、帰郷後に難民が自活できるようにすることだ。

具体的には、海での漁業指導や、水害に備えた高さ3メートルの堤防を建設するべく土を掘った跡地を活用した2キロメートルにわたる養殖場での指導、養鶏・養羊指導、収穫量の多い近代農業指導、自動車やバイクの修理・配線などの技術習得、ミシンを使った子供服の製造・刺繍の指導、など多岐にわたる職業訓練に対し、3年間で300万ドルの支援を行っている。

養殖場の様子

機械工の指導を受ける若者

刺繍指導の様子

町はリキシャも走り活気にあふれている

ここバサンチャール島は単なる難民収容施設ではなく、将来の故郷へ帰還した後に自助努力で生活していくための、いわゆる「手に職を持つ」ための支援を行っている。

世界各地の難民キャンプのように、食料・衣服の提供、健康管理、子どもへの教育を行うのみならず、既に記載したように、将来の帰還後の生活のための技術を教えているわけで、まさに新しい難民キャンプのモデルとなり得るものであった。

バサンチャール島には既に35000人が移住しているが、更に4万人分が居住できる住居も既に完成しており、日本財団ではその移住費の200万ドルの提供の申し入れもしており、難民キャンプの新しい在り方についてモデルケースを完成したいと願っている。

また、イスラムのロヒンギャ難民の人口爆発について、「計画産児計画」の可能性について、専門家に相談している。もし「計画産児」の教育が可能ならば、コンドームの提供を含めた支援をしたいと考えている。

何はともあれ、財政が厳しいバングラデシュにおいて、西洋諸国の厳しい批判の中で、これだけの施設を完成させたハシナ首相の指導力を高く評価すべきである。【4月16日 笹川陽平ブログ】
********************

島には太陽光による電気が供給され、携帯電話も使えたとのこと。バングラデシュ政府は将来的に計10万人を移す計画とのこと。

コックスバザールの難民キャンプでは就労が認められず、支援も不十分なため、難民はキャンプを抜け出し違法な就労を行っています。そのことで地元住民のとの摩擦も起きています。逆に言えば、そういう違法就労が命をつなぐ方法ともなっています。

外界から隔絶されたバサンチャール島では、そうした違法就労も不可能です。将来に向けての職業訓練は重要なことですが、難民はどのようにして今を暮らしているのでしょうか?そこでは十分な支援があるのでしょうか? 

笹川氏が示しているバサンチャール島での難民の様子を撮った写真は、中国政府がウイグル族への職業訓練施設と主張している施設での様子と雰囲気が似ているように思えるのは気のせいでしょうか。

笹川氏の言うような立派なものなら、どうしてバングラデシュ政府が同島での取材を厳しく制限しており、実態が明らかになっていないのかもよくわかりません。

国連やNGOは「雨期になるとサイクロンや高潮で島が水没する危険がある」と指摘していますが、そのあたりはどうなっているのか?

コックスバザールの難民キャンプが限界に達し、劣悪な状況にあるのは事実でしょうが、バサンチャール島の施設がそれに代わるものになるのか?・・・現状が定かでないので、よくわかりません。

当然、安全な生活が保証されたうえでのミャンマーへの帰国が抜本的解決策ですが、ミャンマーで軍事政権が続く限り、それは無理な相談です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  バイデン大統領 不法移民対策を強化 難民申請受理を停止し、メキシコ国境を事実上封鎖

2024-06-08 22:33:53 | 難民・移民

(【6月1日 FNNプライムオンライン】手前がアメリカ、向こう側がメキシコ(多分) 高さ9mのフェンスを超えて侵入しようとする不法移民 はしごを揺らし侵入を阻止する国境警備隊)

【増加する不法移民 市民生活を圧迫 高まる強い対応を求める世論】
アメリカ・バイデン大統領にとって増え続ける不法移民は再選を狙う上で最大の弱点となっています。

*****メキシコ越境“不法移民”増加の一途 米カリフォルニア州の国境を取材****
アメリカのバイデン大統領が、不法移民対策で事実上の国境封鎖を表明した一方で、メキシコからの越境者が増え続けていることが分かりました。

ソマリアから移民希望 アハメドさん(23)
「生きるため、ここまでたどり着きました。故郷はテロリストが支配し、国は何もしてくれません。故郷に未練はありません。ただ平和に暮らしたいだけです」

メキシコからの不法移民は、去年12月に30万人を超えて過去最多を更新するなど、異例の多さとなっています。

カリフォルニア州では、国境の壁をよじ登って越境する人が多く、支援ボランティアは9カ月連続で活動している状態です。

不法移民は拘束後に亡命申請をすることでアメリカに滞在できますが、新たな大統領令では申請が受理されず、即時送還となります。

11月の大統領選に向けて、バイデン政権は厳しい対応に転換した形です。【6月7日 テレ朝news】
********************

“バイデン大統領が、不法移民対策で事実上の国境封鎖を表明した”件については後述します。

アメリカを目指す移民からすれば、「もしトラ」が現実となればアメリカ入国は更に難しくなると想像されますので、トライするなら今のうちに・・・という発想にもなるでしょう。

増加する不法移民は単に「外国人嫌い」感情を刺激するだけでなく、これまで移民受け入れに寛容だったニューヨークなどの「サンクチュアリ・シティ(聖域都市)」にとっても重い財政負担となっており、市民生活を圧迫する事態となっています。

*****不法移民が一流ホテルに滞在。ニューヨークのホテル料金が過去最高の1泊4万5千円となった“不都合”な事実****
(中略)
高騰するニューヨークのホテル価格
ニューヨークの平均宿泊料金が1泊4万5,000円になり過去最高となりました。好景気で観光客で溢れているのでしょうか?

違うのです。 ご紹介するのは、ニューヨークタイムズ5月25日に掲載された記事です。

ニューヨークのホテルの平均宿泊料金は301ドルで、過去最高を記録している。その大きな理由とはホテルの5軒に1軒が避難所となっており、観光客の宿泊施設不足に拍車をかけている。

かつては高級ホテルだったところから、より質素な施設まで、何十軒ものホテルが観光客の立ち入りを禁止し、市と数百万ドルの契約を結んで移民だけを保護し始めた。ホテルは何万人もの亡命希望者にとって安全な避難所となった。

ニューヨークの観光シーズンのピークが始まろうとしている今、移民危機はニューヨークのホテル事情を劇的に変化させた。

市内にある約680のホテルのうち約135がシェルター・プログラムに参加している。その多くは観光客を惹きつける伝統的な場所に集まっている。

ミッドタウンのホテルには、劇場街の真ん中にある4つ星ホテル、ロウ・ニューヨーク・ホテルや、グランド・セントラル近くで100年以上の歴史を持つルーズベルト・ホテルなどがある。

2022年後半から、市はホテル業界団体と最大9億8,000万ドル(約1,470億円)の契約を結び、「サンクチュアリ・ホテル・プログラム」に基づいて移民を保護することを決定したホテルに報酬を支払う。

市当局によると、ホテルは部屋が埋まっているかどうかにかかわらず、1部屋1泊139ドルから185ドルを受け取り収入が保証される。

約6万5,000人の移民がホテル、テント寮、その他のシェルターに保護されているが、その理由はベッドを必要とする人にベッドを提供する市の法的義務である。

市は、移民危機に3会計年度で100億ドル(約1兆5,000億円)を費やすと予測している。参加ホテルで従来のホテルに戻ったホテルはひとつもない。

解説
アメリカには不法移民に対して寛大な政策をとるサンクチュアリ・シティ(聖域都市)があります。これらの都市は不法入国者の取り締まりを行う捜査機関である移民・税関執行局(Immigration and Customs Enforcement, ICE)の協力要請を受けません。 有名なのはニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴなどです。

特にニューヨークには「シェルターへの権利」という、屋根のない人は誰でも市からシェルターを借りる権利があるという条例があります。

当然、不法移民が大量に流入してきます。テキサス州のようにバスや飛行機で不法移民をニューヨークに送り込む州もあります。それでニューヨーク市内のホテルの5分の1がシェルターに使われているというのです。

もはや戦争のようです。
毎年5,000億円の支出などとんでもない事です。一般市民からの大きな批判もあります。

民主党のエリック・アダムス市長もこの状況に困って、成人の移民を30日または60日後に市のシェルターから強制退去させる方針を決めました。

しかし追い出された(不法)移民はどこに行くのでしょうか?
ビザを申請して許可された合法移民は、正式な仕事もありますし財政基盤もしっかりしています。

しかし不法移民・難民には何もないのです。ギャングが甘い言葉でつけむでしょう。負の連鎖、拡大再生産です。
このままの状況が続けられない事は子供でも分かります。

バイデン大統領に課された大きな十字架です。(後略)【5月27日 大澤裕氏 MAG2NEWS】
********************

こうした事情を受けて、不法移民を強制送還すべしとの世論が強まっています。トランプ氏は再選されれば強制送還の可能性のある移民を収容する大規模施設を建設する方針だとも報じられています。

もっとも、米国民の過半は「強制送還するまでの間は収容所に入れろ」とまでは考えていないようです。「収容所」というものに対する大戦中の負の記憶などもあるのでしょう。

****米国民の半分、不法移民の収容所使用に反対=ロイター・イプソス調査****
ロイターとイプソスの最新世論調査によると、米国への不法移民を強制送還するまでの間、収容所に滞在させることに反対する人が米有権者の半分余りに上った。共和党の大統領候補指名が確実なトランプ氏が検討するより厳しい措置に米国民が懸念している可能性が示された。

調査では、収容所使用に反対と回答した登録有権者の割合は54%、賛成するとの回答は36%、10%が分からない、または無回答だった。

ただ、56%は不法移民の大半または全員を強制送還すべきと答えた。

11月5日の大統領選に向け、移民問題は共和党員を中心とする有権者にとって最大の争点。トランプ氏は、民主党のバイデン大統領に対抗する上で、不法移民の取り締まりを政策の中心に据えている。

米紙ニューヨーク・タイムズは昨年、トランプ氏は再選されれば強制送還の可能性のある移民を収容する大規模施設を建設する方針だと報じた。

トランプ氏は、米誌タイムとの4月のインタビューで、施設使用を検討するとしながらも、強制送還は迅速に行われるので「さほど必要にはならないだろう」と述べた。【5月21日 ロイター】
********************

【バイデン政権 強硬策に方針転換 “事実上の国境封鎖”】
こうした不法移民増加に対する厳しい世論が再選戦略の足かせになると判断したバイデン政権は、冒頭記事に“事実上の国境封鎖”とあるように、不法移民に対する強硬策に方針転換したようです。

****バイデン氏、不法移民抑制へ大統領令 「国境管理を強化」大統領選の最大争点で成果狙う****
バイデン米大統領は4日、南部メキシコ国境でビザ(査証)などの正規資格を持たない不法入国者が一定数を超した場合、難民申請の受理を停止して国境を一時的に〝閉鎖〟することを柱とする大統領令に署名した。

11月の大統領選で最大の争点となっている不法移民問題での取り組みをアピールする狙いがある。バイデン氏は同日の演説で、大統領令によって「国境管理を強化できる」と語った。

難民の法的地位に関する「難民条約」に基づく現行法では、越境時に拘束された不法入国者が難民申請の審査を申し立てれば、原則として審査結果が出るまで国内にとどまることができる。しかし近年は不法入国の急増で審査期間が長期化し、不法移民が実質的に野放しになっていた。国境地帯で拘束された不法入国者は2023年だけで約250万人に上る。

今回の大統領令は、1日当たりの拘束者数が2500人を超した時点で難民申請の受理を停止する内容。それ以降の拘束者は、親に伴われていない未成年者や人身売買の被害者などを除き、国外退去措置を受ける。1日の拘束者数が7日間連続で1500人を下回れば受理を再開する。合法的な入国や商業上の往来などは通常通りに認められるという。

不法入国での拘束者は現在、1日当たり約6000人に上ることもあり、米メディアによると大統領令はすぐにも発効。難民申請の受理を制限することで、不法入国を試みる人を抑制する効果を狙う。

ただ、今後は移民支援の慈善団体などが大統領令の差し止めを求めて提訴する可能性が高く、実効性は不透明だ。不法移民に強硬姿勢をとる共和党のトランプ前大統領も1期目に同様の大統領令を出し、司法判断で阻止された経緯がある。

不法移民問題を巡っては2月、バイデン政権と与野党の上院指導部が包括的な国境対策法案で合意した。しかし、11月の大統領選を前にバイデン氏が成果をあげるのを阻止したいトランプ氏が、自身に忠実な議員らに成立を阻むよう指示したことで、同法案は宙に浮いた状態にある。【6月5日 産経】
*******************

【パレスチナ対応同様に、党内にも異論があり対応には苦慮する予想】
バイデン大統領はパレスチナ・イスラエル対応でも親パレスチナ世論の高まりと従来からの親イスラエル政策の間で板挟み状態になっていますが、不法移民対策でも上記の強硬策を歓迎する人々と厳しすぎるとの党内左派の間で苦慮することになりそうです。

*****バイデン政権が移民に寛容から「国境閉鎖」転換、なぜ 党内で反発も****
バイデン米大統領(民主党)は4日、南部のメキシコとの国境で、不法越境者の亡命申請を事実上禁止する大統領布告を出した。

11月の大統領選に向けてトランプ前大統領(共和党)から「国境の混乱」を追及される中、「国境閉鎖」に方針転換することで批判をかわす狙いがある。しかし、移民に寛容な姿勢を一転させることで、民主党左派から反発を招くリスクもはらんでいる。(中略)

 ◇世論調査、国境対策を支持しない69%
「トランプ氏は国境問題の解決を望まず、私を攻撃するために問題を利用しようとした」。バイデン氏は4日の演説で、国境問題の責任はトランプ氏にあると主張した。今年2月にバイデン政権と連邦上院の共和党が国境管理の強化策で合意した際、トランプ氏の横やりで破談になった経緯が念頭にある。

過去最多ペースで不法越境が続く中、「我々は国境問題の責任を共有している」と強調し、政権だけの「失政」だとは認めなかった。

しかし、世論は政権の対応に問題があるとみている。AP通信などの3月の世論調査では、69%が「バイデン氏の国境対策を支持しない」と回答した。

また、マーケット大学の5月の調査では、「最も重要な争点」として経済(36%)に次いで国境問題(20%)を挙げた有権者が多かった。「どちらが移民・国境政策にうまく対応できるか」との質問では、トランプ氏(52%)がバイデン氏(25%)を圧倒した。

国境問題が再選に向けた足かせになる中、バイデン氏は「国境閉鎖」というインパクトのある対応で局面の打開を図った形だ。

国境では従来、不法越境した後に亡命を申請すれば、審査中は米国内で仮放免されるケースが多かった。収容施設に余裕がないことが背景にあり、放免後は実質的に不法移民として米国内に滞在できた。しかし、今回の措置では亡命申請自体を受け付けず、出身国などに強制送還することになる。

ただ、不法越境者は世界各地から押し寄せており、予算や人員の制約から、送還が円滑に進まないとの懸念が出ている。

メキシコは、自国とキューバ、ベネズエラ、ハイチ、ニカラグア出身の越境者の送還は受け入れることに同意した。しかし、最近は中国など中南米以外の出身者が増えており、どう対応するのかは不透明だ。

トランプ氏の陣営は4日、「バイデン氏は実効性のない政策を発表することで、国境を安全にするふりをしているだけだ」と批判した。

 ◇民主党左派から反発も
寛容な移民政策を求める民主党左派からも反発が出ている。民主党のパディーラ上院議員は声明で「バイデン大統領は米国の価値を損ない、迫害や暴力を逃れてきた人たちに米国に逃れる機会を提供する義務を捨てた」と批判。

人権団体「米自由人権協会」(ACLU)は「亡命申請の法的な権利を厳しく制約する措置だ」と批判し、訴訟を起こす方針を示した。民主党左派は政権のパレスチナ情勢への対応にも不満を募らせており、今回の措置で離反が進む恐れがある。【6月5日 毎日】
********************

【欧州でも強まるより厳格な移民対応を求める声 ドイツでは凶悪犯罪を起こしたらアフガニスタンでも国外退去措置】
移民増加への批判の高まりはアメリカだけでなく欧州でも同様です。

不法移民をアフリカ・ルワンダに移送する形でカネで外国にしょりさせようというイギリス・保守政権の対応はこれまでも取り上げたことがありますが、メルケル前首相以来寛容な対応をとってきたドイツでも。

****ドイツが移民政策で強硬姿勢、凶悪犯罪を起こしたら国外退去措置を強化…ショルツ首相表明****
ドイツのショルツ首相は6日の連邦議会演説で、凶悪犯罪を起こした外国出身者の国外退去措置を強化する意向を表明した。

欧州議会選では右派勢力が「反移民」を唱えており、「移民問題で厳しい姿勢を取るよう首相に圧力がかかっていた」(米紙ポリティコ)との見方が出ている。連立与党内には「基本的人権の侵害につながる」との異論もある。

西部マンハイムで5月末、アフガニスタン出身の男(25)が集会を刃物で襲い、5人が負傷、警官1人が死亡する事件を受けたものだ。

男は2014年に難民申請を却下されたが、個別事情が考慮されて国外退去を「猶予」されていた。正規の滞在資格がないまま退去を猶予されてドイツに在留する難民不認定者らは約19万人。16年にはチュニジア出身者がベルリンのクリスマス市にトラックで突っ込み60人超を死傷させるテロを起こした。

ショルツ氏は「ドイツで保護を受けている人物による凶悪事件に憤慨する。凶悪犯罪者はシリアやアフガニスタンであっても送還されるべきだ」と訴えた。祖国で迫害される恐れなどから強制送還の対象としていない国の出身者でも例外としない考えを示したものだ。【6月7日 読売】
*******************



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イギリス  不法入国者のルワンダ強制移送 法案成立で7月までに始動予定

2024-05-07 23:08:40 | 難民・移民

(2021年11月24日、英国ダンジネスの海岸に上陸する移民たち【4月27日 JBpress】)

【紆余曲折を経て、不法入国者「ルワンダ強制移送法案」成立】
イギリスにたどり着いた一部の難民申請者を第三国である東アフリカのルワンダへと移送するための法案が4月23日未明、英議会を通過しました。

ルワンダ移送後に難民として認められた場合、彼らはイギリスではなくルワンダに再定住することになります。

計画はジョンソン元首相時代に始まりましたが、移送先ルワンダでの人権保護や移民支援体制を不安視する声も強く、法案成立までには紆余曲折がありました。

スナク政権が計画の実現にこだわる理由の一つは、年内にも実施される見通しの総選挙で、不法移民に反感を抱く保守派支持層にアピールしたいとの狙いがあります。保守党は最大野党の労働党に支持率で大きくリードされ、前哨戦とされる補選や地方選挙でも保守党は大敗し、次回総選挙で敗北・下野が現実味を帯びています。

****映画「ホテル・ルワンダ」の舞台に不法移民を送り込む…英国の計画に物議  安住できるか?大虐殺乗り越え「奇跡」の復興遂げた国の実情とは****
1994年の大虐殺を題材とした映画「ホテル・ルワンダ」で知られるルワンダ。アフリカ中部にある人口約1400万人の小さな国が今、世界の注目を集めている。庇護を求めて英国にたどり着いた不法移民を、6500キロも離れたルワンダに移送するという英政府の計画が物議を醸しているからだ。

大虐殺を乗り越え、ルワンダは「アフリカの奇跡」とも呼ばれる復興を遂げた。政府関係者は「悲劇を経験したからこそ、希望を与える国になりたい」と受け入れ準備を進めるが、人権保護や移民支援体制を不安視する声もある。ルワンダは移民にとって「安住の地」となり得るのか。現地を訪れて、実情を探った。

▽「ボートを止める」
英国はこれまで、アフリカや中東などから多くの移民や難民を受け入れてきた歴史がある。

しかし近年、英仏海峡を小型ボートで渡って入国する不法移民が急増。2022年は前年の約1・6倍の約4万5千人を記録し、亡命申請者の数も8万9千人以上に達した。審査を待つ人々を収容する費用も膨らみ、負担を強いられる国民の間で反発が高まってきている。

そこで英政府が打ち出したのが、ルワンダへの移送計画だ。2022年4月、当時のジョンソン首相(保守党)はルワンダ政府との協定を発表した。

合意によると、移民らはルワンダに移送されて亡命申請の審査手続きをし、申請が認められれば原則、ルワンダ国内で定住することになる。ルワンダ政府が申請審査や社会統合への支援を担い、英政府がその費用などを負担する仕組みだ。

保守党政権は「ボートを止める」とのスローガンを掲げ、不法移民に厳格な姿勢で臨む。ジョンソン氏は「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ。難民受け入れの実績もある」と訴えたが、移民を「国外追放」し、対応を丸投げするやり方に、難民支援団体などは「自国に送還される恐れがある」「非人道的だ」などと反発。

計画中止を求めて提訴したが、英高等法院と上級審の控訴院はいずれも移送を認め、第1陣が6月14日夜に出発する予定だった。

しかしその直前、欧州人権裁判所が、「難民認定を受けるための公平かつ効率的な手続きにアクセスできなくなる」とのUNHCRの懸念などを踏まえ、移送を差し止める仮処分を決定。これを受け、英政府は移送中止を余儀なくされた。

ジョンソン氏退任後も方針に変更はなく、スナク現首相も計画を推し進める。しかし、2023年11月、英最高裁は「移民が母国に送還される危険がある」とし、計画は違法との判断を下した。

国内の法律の壁にも直面したスナク氏は12月、ルワンダ政府との間で新たな条約を締結した。ルワンダが移民らの安全や支援を確保し、母国や安全ではない第三国に送還・移送しないよう保証することを柱とし、安全性への懸念を払拭する内容になっている。

さらに、ルワンダは「安全な国」だと定義し、移送を阻む裁判所の命令や拘束力を回避できるような仕組みを盛り込んだ法案も提出。早期に成立させて計画を実行できるように急ぐ。【3月8日 47NEWS】
**************************

【受入国ルワンダの実情】
カネで移民対応を他国に丸投げしてしまうことへの“そもそも”の疑問もありますが、ルワンダの受け入れ態勢については以下のようにも。

****悲劇からの発展****
人権重視の欧州の価値観では「危険な国」との烙印を押されるルワンダの実情はどうなのか。そんな思いを胸に今年1月中旬、現地に赴いた。

ルワンダは面積が四国の約1・4倍。多数派のフツ人と少数派のツチ人が長年対立し、1994年にフツ人主体の政府軍や民兵がツチ人やフツ人穏健派ら約80万人を虐殺した惨劇の歴史がある。

1994年以降実権を握るカガメ大統領は民族和解を推進。外国投資の呼び込みにも取り組み、2022年の国内総生産(GDP)成長率は8・2%に達した。

首都キガリには経済成長の象徴でもある高層ビルが立ち並ぶ。国際会議場や高級ホテルもあり、インターネットが利用できるカフェでは若い人たちが集っていた。道路はゴミがなく清潔で、国民も穏やかだ。生活は決して裕福とはいえず、発展途上の国であることは否定できないものの、30年前の惨劇からは想像がつかないほど穏やかな時間が流れていた。

英国からの移民の受け入れ先となる施設「ホープ・ホステル」は、キガリの高台に建つ。「ゲストとして来て、友達として帰ってください」。敷地の入り口には歓迎の看板が掲げられていた。

ツインルームが50部屋あり、約100人を収容できる。吹き抜けの構造で日当たりがよく、イスラム教の礼拝室のほか、医務室やサッカー場なども備えている。

「快適に過ごせるよう、万全の準備を整えている」。手入れや掃除の行き届いた施設を案内しながら、運営責任者のバキナ・イスマイルさんが胸を張った。維持費は英政府が支出しているという。

ルワンダはこれまで、近隣のブルンジやコンゴ(旧ザイール)などから約13万人の難民を受け入れてきた。政府当局者らは、民族対立に伴う大虐殺の痛みが難民支援の根底にあると語る。

2019年にはUNHCRなどと協力して人道支援メカニズムを立ち上げ、ルワンダ南東部ガショラの難民キャンプで、密航業者らが暗躍するリビアから移送されてきた難民の欧州への再定住支援にも取り組んでいる。

UNHCRのグレース・アティムさんによると、キャンプには約700人が身を寄せ、1日3回の食事のほか、生活に必要な物資や現金などが支給される。難民認定の審査や再定住先の調整をUNHCRが担い、難民たちは審査や受け入れ先の決定を待つ間、語学や職業訓練などの支援も受けられる。

「やっと安全を感じられる」。祖国エチオピアから逃れてきたイェシアレムさん(26)が生後8カ月の娘ソリヤナちゃんを抱きながらほほえんだ。

エチオピアを出た後、スーダンで誘拐され、拘束先のリビアで倉庫に数カ月間も監禁されて「何度もレイプされた」という。夫とは離れ離れになり、定住希望先もどこにするかまだ何も決めていないが、「人生に希望を持てるようになった」とうれしそうに話した。

取材に訪れた日も、複数の難民たちがスーツケースや荷物を手にキャンプを旅立っていった。「カナダに向かうんだ」。1人の若い男性が晴れやかな表情で手を振り、ワゴン車に乗り込んだ。

また大学では、2023年4月から戦闘が続くスーダンから逃れてきた医学生たちを受け入れ、学業継続の支援をしている。南部フイエにあるルワンダ大の医学部で学ぶアルワ・アブドゥラヒムさん(18)は「安心して勉強が続けられて幸せだ」と支援に感謝した。【3月8日 47NEWS】
***************

ルワンダにおけるジェノサイドの実態については上記のような「フツによるツチ虐殺」という“一般的通説”以外に、カガメ氏率いるツチ人武装勢力の関与など異論もあって、話はそう単純ではなさそうです。

それはさてき、上記を読む限りは難民支援に理解がある“安全な国”との印象もありますが、一方で、ルワンダにおけるカガメ政権による野党弾圧なども問題視されています。

英紙オブザーバーは1月下旬、イギリス内務省が昨年、迫害の恐れがあるとしてルワンダの野党支持者ら4人を難民認定していたと報じました。オブザーバーは、この難民認定について「ルワンダは安全だという政府の主張に疑問を投げかけるものだ」と指摘しています。

****責任転嫁…英国に厳しい目****
ルワンダ政府には、大虐殺という負のイメージを払拭し、難民問題に貢献する国を目指したいという思いがある。

ただ、カガメ政権は野党弾圧などの強権的な側面も問題視される。移送計画を巡っても「自国に送還しない」との英政府との合意が守られない懸念がある。

難民問題を担当するルワンダ緊急事態省のハビンシュティ次官は取材に対し「強制送還は絶対にない」と断言した。「ルワンダ国民は自らが難民となり、他国に支援された経験がある。だからこそ支援を進め、アフリカの中で難民問題の解決に貢献できる国になりたい」とも強調した。

だが、計画により苦境に追い込まれた人もいる。受け入れ先の宿泊施設には元々、大虐殺で家族や住居を失った人々が生活していたが、英国との計画合意に伴い退去を強いられた。居住者らにはルワンダ政府からわずかな生活支援金が支払われただけだという。

UNHCRルワンダ事務所のリリー・カーライル報道官は、ルワンダ政府の努力を評価しつつも「包括的な支援策はあるが、資金や制度が不十分だ」と指摘する。難民たちの雇用の機会は乏しく、社会統合も容易ではない。先進国のような経済的な恩恵を受けられる状況ではないという。

移民移送計画ついては、亡命申請者を保護するという「国際的な連帯と責任分担の基本原則」に反し、責任を他国に転嫁する英国の方針に一番の問題があるとして、厳しい目を向けた。亡命申請の審査手続きにUNHCRが関与せず、ルワンダ政府が独自で実施することも問題視した。(後略)【3月8日 47NEWS】
********************

【隣国アイルランドは反発】
スナク首相は、法案がすでに“抑止力”として機能しているとアピールしています。

****ルワンダへの移民移送法案、既に「抑止力」として機能 英首相****
英国のリシ・スナク首相は27日に公開された英スカイニューズのインタビューで、亡命希望者が同国から隣国アイルランドに流れているのは、不法入国した移民をアフリカ中部ルワンダに強制移送することを定めた法案が既に抑止力として機能している証拠だと述べた。同法案は今週、英議会を通過した。

アイルランドのヘレン・ マッケンティー法相は今週、同国での難民認定申請者の約80%は、英国の北アイルランドから陸路で入国したとの推計を、議会の委員会で明らかにした。

この推計についてスナク氏は、同法案が抑止力として「既に効果を発揮している」ことを示すものだとの見解を示した上で、「わが国に不法入国しても、滞在できないと分かっていれば、(不法移民が)来る可能性は大きく低下する。だからこそルワンダ計画は非常に重要なのだ」と説明した。

また、「不法移民は世界的な課題であるからこそ、複数の国が第三国とのパートナーシップについて話している」とも述べた。 【4月28日 AFP】AFPBB News
*****************

スナク首相は効果をアピールしていますが、かわりに亡命希望者が流入するアイルランドは反発しています。

****イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非難轟々...「それぞれの理由」とは****
(中略)
隣国アイルランドも反発している。移送を危惧する人々がイギリスから流れ込む事態を懸念する同国は、北アイルランド経由の不法移民をイギリスに送還する法律を、5月末までに整備すると発表。
だがスナクは送還者受け入れに消極的で、混乱が続きそうだ。【5月7日 Newsweek】
********************

【亡命希望者らの宿泊費用1日15億円 世論の難民への反感も】
法案成立を後押ししている世論の難民への厳しい見方の背景には大きな経済的負担の問題もあります。
イギリス政府は、この負担を減らそうとしていますが、「隔離」との批判もあります。

****1日15億円…亡命希望者らの宿泊費用 イギリスで支援者らと警察が衝突****
不法入国した移民をアフリカのルワンダに移送する法律が成立したイギリスで、亡命申請中の移民などの移送を巡って支援者らが警察と衝突しました。

2日、ロンドン市内のホテルに滞在していた亡命希望者や不法移民が移民専用の宿泊施設に移送される予定でしたが、支援者らが妨害工作を行いました。支援者らは警察と衝突し、45人が拘束されました。

亡命申請中の移民
「(移民専用宿泊施設に移送を通知する)手紙を先週、受け取った」「3日間眠られなかった。正しくなく、むなしい日々を送っている」

亡命申請中の移民らはホテルなどでの滞在が認められていますが、宿泊費用として一日あたり800万ポンド=およそ15億円をイギリス政府が負担しています。

政府は「納税者の負担が大きく、ホテルの空室不足が観光にも影響を与えている」とし、地方の港に移民専用の宿泊施設を設け、移送を進めています。

移民らは施設から外出が可能ですが、人権団体などが「水上刑務所のようだ」と非難しています。

イギリスでは先月、2022年1月以降に不法入国した移民に対して亡命申請を認めず、ルワンダに強制移送する法律が成立しました。

地元メディアは内務省関係者の話として「今回移送される人は、ルワンダに移送される対象者ではない」と報じています。【5月3日 テレ朝news】
*********************

イギリスがEUを離脱した最大の理由は、難民の流入を防止できるということでした。それだけ難民流入増加に対する世論の反発が大きいということでしょう。

イギリスだけでなく、そうした国民を顧みない既成政治・一部政治エリートによって自国がよそ者のために犠牲になっているという感情、難民に使うカネがあるなら自分たちの生活を何とかして欲しいという声が、欧州の極右勢力拡大や、アメリカの根強いトランプ支持の背景にあります。

ただ、「自分たちの生活が苦しいのは“あいつら”のせいだ」「“あいつら”のせいで犯罪が増える」という“わかりやすい”主張は、本当にそうなのか・・・冷静に考えてみる必要があります。

同じく移民の急増に悩むイタリアやデンマークも、イギリスのような政策を採用することを検討しているとのことです。

****英、亡命希望者をルワンダに初移送****
英国は、難民と認定しなかった亡命希望者1人をアフリカ中部ルワンダに初めて移送した。英メディアが4月30日に報じた。不法移民をルワンダに強制移送する法案は論争を呼ぶ中、先週、英議会で可決された。ただし、この男性は同法とは別の枠組みとされる。

リシ・スナク首相は、年内に実施されるとみられる総選挙をにらみ、支持率で最大野党・労働党の後塵(こうじん)を拝している状況に巻き返しを図るため、不法移民対策を優先課題の一つに掲げている。(中略)

ルワンダに移送された移民は、難民認定申請が認められた場合は同国に在留できるが、英国に戻ることはできない。
スナク政権は7月までに強制移送を開始するとしている。

複数メディアによれば、4月29日に英国を出発したアフリカ出身の男性は、昨年末に難民認定申請を却下された後、4月に成立した同法とは別の任意の制度で、ルワンダの首都キガリへの移送に同意していたとされる。サン紙は、男性はキガリ行きの民間便で出国したと報じている。

タイムズ紙が引用した政府筋の情報によると、男性は出国に同意した見返りに、最高で3000ポンド(約59万円)を受け取ることになっている。 【5月1日 AFP】
********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カナダ  移民に寛容な「移民の国」 移民受入れで高成長率 住宅価格高騰で世論に変化 政策転換も

2024-02-27 21:50:48 | 難民・移民

(【23年7月22日 COURRIER JAPON】)

【積極的移民受け入れで高い成長率 一方で、住宅価格高騰などひずみも】
日本を含めて欧米先進国社会の多くが移民の受入れに抵抗を示し、移民増加に反対する極右勢力の台頭などの政治的問題も惹起しているなかで、多文化主義を掲げる「移民の国」カナダ・トルドー政権は積極的移民受け入れで経済成長を図ろうとしています。

****カナダが試みる移民の積極受け入れ策は「少子高齢化問題に対する処方箋」なのか****
移民を経済政策と位置付ける政府と、それを受け入れる国民

2017年に建国150周年を迎えたカナダは、世界に先駆けて多文化主義を掲げた「移民の国」として知られている。労働力が不足する同国は近年、移民の受け入れを急激に拡大している。それによって経済的な効果が生まれる一方で、社会ではひずみも生じた。米メディア「ブルームバーグ」が変化するカナダのいまを追った。

「経済政策」としての移民受け入れ
世界中の先進国が出生率の低下と労働力の高齢化に直面するいま、カナダは経済衰退を食い止めるために移民に賭けている。

6月半ば、カナダの人口は史上初めて4000万人を超えた。カリフォルニア州と同程度の人口しかいないこの国は、ここ1年でサンフランシスコの全住民よりも多くの移民を受け入れた。国外から多くの移民労働者、難民、留学生を受け入れるカナダは、今後も急速なペースで人口が増加し続けると予想されている。

ジャスティン・トルドー首相にとって、大規模な移民受け入れは労働市場を拡大するための手段だ。熟練労働者をめぐる世界的な競争は激化している。また、カナダの国際的なプレゼンスを高め、お隣の米国の影から抜け出そうという長期的な野心の表れでもある。両国の面積は同程度だが、米国はカナダの約8倍の人口と、約12倍の国内総生産を誇る。

「カナダには、人々がやってきて使える空間がたくさんあります。農業、工業、技術の基盤を拡大するためには、より多くの人々にここに来てもらう必要があるのです」と、トロント・メトロポリタン大学でカナダの移民政策を研究するユーシャ・ジョージ教授は言う。

一方、かつてないほど多くの人々がカナダに流入したことで、課題も生じている。問題は、すでに人口が膨れ上がった都市部への負担を最小限に抑え、新たな人材を必要とする地方部の成長をいかに推進できるかだ。

移民を受け入れた効果は明らかだ。人口の増加によって雇用と消費は押し上げられ、カナダ中央銀行が利上げを続けても経済は耐えられている。しかし、移民を増やそうとする政府の計画は、経済生産高を押し上げるだけで、個人の生活水準を高めないという批判を生んでいる。

一人当たりの実質GDPは過去10年間でほとんど変化していない。カナダ中銀の生産高予測によれば、2022年のピークから減少するとされている。生産性は高まらず、可処分所得の伸びは住宅価格の増加に追いついていない。カナダの住宅価格の上昇は世界で最も激しい。

著名な移民推進派のエコノミストでさえ、カナダのやり方は行き過ぎているとコメントしている。数十年前に現在の移民プログラムの起源となる制度に携わった元カナダ中銀総裁のデビッド・ドッジは言う。

「この短期間でこれほど急速に移民を増やすのは合理的ではありません。調整スピードが速いほどコストが増大し、生産性が低下します。調整にはそれなりに時間を要するからです」

急増した移民流入
トルドー政権は、毎年永住者を約50万人増やすという目標を掲げている。それとは別に、2022年には留学生、臨時労働者、難民が大量に流入し、総入国者数は過去最高の100万人に達した。カナダの年間人口増加率は2.7%となり、先進国で最速のペースとなっている。この速さは発展途上国のブルキナファソ、ブルンジ、スーダンに並ぶ。

「移民を受け入れなければ、社会的、経済的にさまざまな問題が生じ、地域社会に悪影響が出ると理解しなければなりません。大勢の人々の適切な統合に必要なのは歓迎する人の数を減らすことではなく、賢明な移民政策を進めることです」と、カナダのショーン・フレーザー移民相は言う。

カナダの人口はG7で最も少ないが、4人に1人近くが移民であり、その割合は7ヵ国中最大だ。現在の増加ペースが続けば約26年後には人口が倍増し、2050年にはイタリア、フランス、英国、ドイツを上回る。

高齢化は税収の減少や予算の縮小につながり、その脅威は世界各地でさまざまな形で現れている。フランスでは定年を2歳引き上げて64歳とする計画が全国的に抗議デモを引き起こした。ドイツでは10年後までに労働者が500万人減少する恐れがあり、工業中心の経済にはすでにひずみが出ている。

政府が長年、移民受け入れに否定的だった日本では、深刻な労働力不足、急激な人口減少、地方都市の衰退に見舞われている。米国では、移民の受け入れは分裂を招く政治問題になっている。毎日何千人もの移民がメキシコとの国境を通過してやってくるため、その対立はさらに深まっている。

これとは対照的に、カナダは1967年以降、熟練労働者をターゲットに、ポイントベースで移民ビザを与える仕組みを採用してきた。移民の年齢、学歴、雇用機会、英語またはフランス語の能力に基づいてポイントが割り当てられる。

しかし、移民の大部分はカナダの大都市に留まりがちだ。すでに強力なエスニック・コミュニティが発展しており、新たにやってくる移民も惹きつける。人口が集中する地域ではここ1年間で移民が60万人以上増えた。一方、小さなコミュニティに定住したのはわずか2万1000人に過ぎない。

人口急増で急騰する住宅価格
その結果、すでに住宅が不足していた都市部では不動産需要が強まった。価格が上昇したため、多くの人には住宅を所有するのが難しくなっている。苦しむのは移民と現在の住人、特に若い世代だ。

「ここは自由な国です。移民に対して辺鄙な場所に行くように指示はしません。しかし、新たな移民に対して大都市以外の地域に行くインセンティブは与えられます」

そう語るのは、カルガリーを拠点とする不動産会社メインストリート・エクイティ・コーポレーションの創業者で最高経営責任者(CEO)のボブ・ディロンだ。彼もまたシーク教徒の移民である。(中略)

ブリティッシュ・コロンビア大学のデビッド・グリーン経済学教授は、このような不動産ショックからカナダ人の移民に対する支持が低下するリスクがあると指摘する。

「他の国で見られるような問題が見られはじめています。強硬な右派は、不動産の問題を持ち上げようとします。住宅不足に関する彼らの主張の少なくとも一部は現実になるでしょう。そうすると、彼らのシナリオの他の部分にも信憑性が出てくる。これは非常に危険なゲームです」

移民受け入れを支持する大多数の国民
フレイザー移民相は、政府はさまざまなプログラムでこの状況に対応しようとしていると述べる。受け入れる許容のある地域に移民を割り当てるもの、医療従事者や住宅建設業者などの需要の高いスキルを持つ人々をより多く受け入れるものなどがある。

移民に対しては国民も寛容的で、カナダの価値観の一つであると考えられているようだ。最新の調査では、回答者の70%近くが「カナダへの移民は全体として多すぎる」という意見に同意しないと答えている。この数字は1977年の調査開始以来、最高だった。

一方、「移民が多すぎる」と答えた27%の回答者が、最も多く理由として挙げたのが「文化が脅かされる」だった。

人口動態の変化に対する懸念は、カナダで2番目に人口の多い東部のケベック州でも見られる。フランス語圏である同州は、永住権取得数目標の引き上げに抵抗しており、人口一人当たりにすると、その目標値は連邦レベルの半分にとどまる。フランソワ・ルゴー州首相はフランス語の衰退を懸念し、他州のようには大幅に新たな移民の受け入れはしないと述べる。

一方、同州の業界団体は、より多くの正規労働者を得るため、移民受け入れを増やすよう繰り返し要求している。同州の企業は、人材確保のために有期契約の臨時労働者をより多く採用するようになり、外国人の臨時労働者の数はわずか3年間で65%も急増した。

また、カナダ全土において、資格認定機関の多くや雇用プロセスは、新たな人材の急増に追いついていない。その結果、スキルを持った移民の多くがエントリーレベルの仕事をするか、外国の資格が認定されるまで待たされている。

最近流入した移民の半数以上は、熟練労働者や起業家に関連する経済区分で入国した。つまり、彼らは「カナダで経済的に確立する能力」に基づいて選ばれている。しかし、近年急増しているのは臨時労働者だ。これでは賃金の伸びが損なわれ、所得格差が拡大するという批判が生まれている。

しかし、カナダ全土で労働者は不足しており、スキルを持つ者も持たない者も必要とされている。アルバータ州で地元住民や移民の就職を支援するプロスペクト・ヒューマン・サービス社のケビン・マクニコルCEOは次のように語る。

「移民の大部分は経済に貢献しています。彼らは何かを奪っているのではなく、与えてくれているのです。そうして経済が成長し、雇用が増え、お金が増えるのです」

人口倍増を目指す州
人口減少の苦しみを知る、大西洋に面した東部のノバスコシア州では、このような利点が感じられつつある。製鉄や炭鉱などの主要産業が操業停止して生産年齢人口が減少し、10年ほど前まで地域社会は徐々に衰退していった。そして残ったのは高齢者と、自立できない町だった。(中略)

フレイザー移民相の出身地である同州ピクトー郡には、外国人経営者、医療従事者、工場労働者が流入し、地域は劇的に変化した。この10年足らずの間に、モスク、シリア料理レストラン、メキシコ料理店、アジア食料品店ができている。

「裕福な南の隣国が良い道路、良いサービスなど、素晴らしいものを得られるのは、人口が多く、税収基盤が大きいからです。私たちカナダ人が同様のものを得るには、税収基盤を拡大する必要があります」。同郡に本社を置くeラーニング・トレーニング・ソフトウェア会社、ヴェルソフトの創業者兼CEOのジム・フィットはそう話す。

人口約48万人の州都ハリファクスでは、人口増加によって2LDKのアパートの家賃は2022年10月時点で前年比9.3%も上昇した。この上がり幅はカナダの主要都市の中で最大だった。

しかし、マイク・サベージ・ハリファックス市長にとって、この負担には価値がある。「成長にともなう問題は、停滞よりも管理しやすいのです」【23年7月22日 COURRIER JAPON】
********************

急激な移民流入は「ひずみ」も生みます。上記記事にあるように住宅価格上昇、新たな移民が公共サービスを圧迫するといった問題。 一方で、高齢化による労働人口減少を一部相殺する「成果」も。

****移民受け入れ拡大のカナダ、経済繁栄は「蜃気楼」か****
カナダのトルドー首相は、移民受け入れの拡大によって経済成長を促進し、労働者不足を埋めてきた。しかし、足元では新たな移民が公共サービスを圧迫し、経済の過熱を助長しているとエコノミストは指摘する。

2015年の政権発足以来、トルドー氏は推定250万人の新規永住者を受け入れ、人口を4000万人以上に押し上げた。

カナダ統計局によると、人口は昨年、1957年以来最も速いペースで増加。経済成長率は世界のトップ20に入った。移民の増加が高齢化による労働人口減少の一部を相殺している格好だ。

TDエコノミクスのエコノミスト、マーク・アーコラオ氏によると、カナダは過去10年間の国内総生産(GDP)成長率が年平均2%強と、主要7カ国(G7)平均の1.4%を大きく上回り、米国と肩を並べた。これは移民のおかげによるところが大きいという。

だが、急速な移民増加による問題も顕在化し始めている。第一に、カナダ銀行(中央銀行)は現在、経済成長を抑制する金融政策を実施中だが、その中で新規移民による影響を突き止めるのに苦心している。【23年7月29日 ロイター】
***********************

必ずしも移民だけが原因ではないでしょうが、住宅価格高騰は以前取り上げたアメリカ同様にカナダでも深刻な問題を惹起しています。

****家賃高騰で追い出され…カナダで路上生活者が急増****
カナダで、家賃や不動産価格の高騰から路上生活者が急増している。
東部ケベック州では、路上生活者は大都市であるモントリオールが中心だったが、9月に公表された報告書によると、2人に1人は農村部で生活していた。

モントリオール東方80キロに位置する人口7万人の町グランビーに住むダニー・ブロダールコテさんは、数か月前から墓地に近い森の中でテント生活を送っている。恋人とアパートを借りていたが、6月に退去を迫られた。
用務員として「週5日」働いている。「住める場所がほとんどないのは、家賃が高過ぎるから」だと話した。

数ブロック先の公園は、老若男女が野宿をする仮設のキャンプサイトと化している。ブロダールコテさんのように定職に就いている人もいる。

ケベック州政府の報告書によれば、路上生活者となった4人に1人近くは、家に住み続けられなくなったことが原因だ。 2018〜22年に州内のホームレス人口は44%増加し、昨年1万人に達した。反貧困団体の代表を務めるカリーヌ・ルシエ氏によれば、カナダの人口の5%を占める先住民族の中でも特に先住民イヌイットが多いという。

(中略)こうした状況は氷山の一角にすぎないと指摘するのは、首都オタワから川を隔てた対岸に位置する、人口30万人弱のガティノーのフランス・ベリル市長だ。州がまとめた報告書の数値は「1年前のもの」だと話す。
今年に入りインフレが加速する中で、現状は統計よりはるかに悪いと懸念する。「もはや収入の範囲内でやり繰りできるレベルではなくなっている」と話した。(後略)【23年10月28日 AFP】
******************

住宅価格高騰については、ジャスティン・トルドー首相も23年9月、「収入が十分にある人でさえ住居の確保に苦労している状況にある」と認めたています。

【移民受け入れにブレーキをかけ始めたトルドー政権】
こうした状況で、ケベック州は移民抑制をトルドー首相に求めています。

****移民急増の加ケベック州、トルドー首相に抑制措置と拠出要請****
カナダ・ケベック州のルゴー首相はトルドー首相に対し、州サービスが難民増加により「崩壊点」に近づいているとして、同州への難民流入を食い止め、関連費用を拠出するよう求めた。

ルゴー氏は17日にトルドー氏に送付した書簡で、難民流入により学校が収容人数超過の状態となっているほか、住宅不足が悪化し、ホームレス収容施設が満杯になっていると説明。

「ケベック州に毎月到着する亡命申請者が多すぎて、われわれは崩壊点に近づいている。対応不能な状況だ」と訴えた。

また、ケベック州で2023年1─11月に登録された亡命申請者は約6万人に上り、24年にさらに6万5000人の流入が予想されると指摘。州民1人当たりでは他州の3倍の亡命申請者を受け入れていると述べた。【1月19日 ロイター】
******************

世論の変化を受けて、トルドー首相も移民受け入れにブレーキをかけ始めています。

****カナダ首相が移民受け入れにブレーキ、住宅逼迫で世論激変****
カナダのトルドー首相はこれまで、経済成長と人手不足の穴埋めを移民に依存してきた。しかし、世論が激変して次の選挙での勝機が脅かされかねない状況となり、現在は移民受け入れにブレーキをかけている。

1970年代初頭に首相として移民を擁護し、政府の政策として「多文化主義」を推進したのはトルドー氏の父、ピエール・トルドー氏だった。時の経過とともに、カナダ国民は多様性をメープルリーフやホッケーのように国家のアイデンティティーの一部とみなすようになった。

だが、新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、留学生を中心に移民が急増すると、家賃が高騰するとともに医療などのサービスが逼迫したため、国民のムードは悪化した。

持続可能な住宅に焦点を当てたシンクタンク、プレイス・センターの創設ディレクターであるマイク・モファット氏は「私たちがこのような事態に至ったのはそもそも、(州政府や連邦政府が)外国人嫌いと思われるのを恐れ、この問題に触れようとしなかったことが一因だ」と語る。

ロイターに独占提供された世論調査会社エコス・リサーチのデータによると、カナダ国民の移民への支持は2020年に過去最高を記録したが、23年末には30年ぶりの低水準に落ち込んだ。

エコスが昨年10月に行った調査では、国民の44.5%が「移民が多すぎる」と答え、主な理由として「手ごろな価格の住宅がない」ことを挙げた。22年2月にこの比率は過去30年で最低の14%を記録していたが、その後、急上昇している。家賃の上昇率は昨年の第4・四半期に7.8%に達した。

世論調査では野党・保守党のポワリエーブル党首が圧倒的にリードしているため、トルドー首相にとって移民問題は非常に重要だ。トルドー氏が、来年実施される可能性が高い国政選挙で4度目の勝利を収めるには、数百万人の有権者を奪い返す必要がある。(中略)

15年に政権の座に就いて以来、トルドー政権は徐々に移民を増やしてきた。現在は国民の5分の1以上が外国生まれだ。昨年、カナダの人口は過去60年以上で最も急速に増加しており、そのほとんどが移民によるものだった。

ポワリエーブル氏は、新規移民の数と入手可能な住宅の数をリンクさせる政策を採ると述べているが、詳細は明らかにしていない。一方で、同氏はトルドー氏を打ち負かすために移民コミュニティーの票を獲得しなければならず、米共和党政治家のように移民問題にかみつくことはしていない。

上院議員で元労働党党首のハッサン・ユスフ氏は、ポワリエーブル氏は移民の2世、3世が多い都市部で勝利する必要があるため「私の考えでは、保守党はこの問題に乗じることはできない」と語った。

とはいえ、政府はこうした世論の変化を受け、来年から永住権取得者の上限を50万人とし、4月からは留学生の就学許可を35%削減し36万人とすることを決定した。

ミラー移民相は先月のロイターのインタビューで、こうした措置は「制御不能になった」新規移民の「膨大な数」を大幅に減らす取り組みだと説明。カナダも米国のような二極化と無縁ではないため、移民増加への反発に対処する必要があると語った。【2月23日 ロイター】
*********************

政府の移民政策は批判するが、移民そのものを敵に回しては選挙に勝てない・・・アメリカとは政治状況が異なるようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州  移民に関する状況 来て欲しくない「本音」、一方で経済的には一定に必要

2024-02-17 23:21:14 | 難民・移民

(1月27日、ドイツ西部デュッセルドルフでAfDへの抗議デモを実施する市民ら(ロイター)【2月15日 産経】)

【ドイツ 移民追放謀議の極右政党への抗議行動続く】
ドイツで移民排斥を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢力が拡大しており、“第1党となるのは時間の問題”との予測もある現状、一方で、ナチズムへの反省を踏まえて、AfDへの抗議行動も起きていることは、1月23日ブログ“ドイツ  移民排斥の右派(極右)政党AfDの伸長 強まる警戒感 ナチスを連想させる移民追放謀議も”で取り上げました。

AfDへの抗議行動のきっかけとなったのは、AfDのワイデル共同党首の側近らが出席した会議で移民追放の謀議がなされたとの報道でした。

****ドイツの「移民追放計画」に全国デモ 欧州で極右への警戒強まる****
ドイツで極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部らが移民の大規模な排斥を謀議したとの疑惑が波紋を呼んでいる。

AfDに対する抗議集会が全土で実施され、数十万人が参加。与党からAfDの党活動禁止を求める声も上がった。フランスでも極右政党の意向を反映した移民法に反対するデモが発生。6月の欧州議会選を前に右派の台頭への警戒が強まっている。

「人種差別にNOを」
ドイツ全土で20、21両日に実施された抗議集会にはAfDや極右を批判するプラカードを掲げた市民が集まった。20日には各地で計30万人以上が結集。21日にベルリンで開かれた集会には最大で10万人が参加した。26、27日にもフランクフルトやデュッセルドルフでそれぞれ数千人がデモを行い「国内で過去最大規模の抗議活動」(欧州メディア)と報じられた。

きっかけは独調査報道団体による10日の報道だ。報道によると、昨年11月に東部ポツダムでAfDのワイデル共同党首の側近ら約20人が出席する会合が開かれた。参加した右翼活動家が移民や難民のほか、市民権があっても出身地や肌の色が異なる「同化していない国民」を追放する計画を発表した。最大200万人の追放者を北アフリカに住まわせる案も話し合われた。

AfDは「会合は党が主催したものではない」と釈明したが、報道された計画はユダヤ人をマダガスカル島に移送するナチス・ドイツの計画を連想させるとして批判が噴出。

ショルツ首相は27日、ユダヤ人ら110万人以上が虐殺されたアウシュビッツ強制収容所がソ連軍による解放から79年を迎えたことを受け「右派のポピュリストが(今も)台頭し、恐怖をあおり、憎悪をまき散らしている」と非難した。人種差別的な計画は独憲法に反しており、ショルツ氏率いる中道左派「社会民主党」の議員がAfDの活動禁止を求めた。

与党などが警戒を強める背景には、AfDの急速な躍進がある。移民排斥を掲げるAfDは2013年に結成後、経済低迷や急増する移民への不満の受け皿として支持を広げた。謀議の報道後も、AfDは世論調査の支持率で連立与党3党を抜き、2位を維持する。昨年12月の独東部の市長選ではAfDの候補者が初当選。今年の旧東ドイツ3州の州議会選ではいずれも第1党となる公算が大きい。

ワイデル氏は、AfDが政権に就いた場合、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の実施を目指すと明言。シリア難民流入など欧州を襲った危機の克服でかじ取り役になったドイツが、EUを不安定化させる恐れが生じている。

フランスでも昨年12月、極右「国民連合」の賛成を得て新移民法が成立。外国人労働者の社会保障の条件を厳格化するなど移民への厳しい内容が盛り込まれた。2万人以上の市民が今月21日、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)同法の廃止を求めるデモをパリなどで行った。【1月29日 産経】
*******************

AfDへの抗議行動は現在も継続していますが、移民追放謀議だけでなく、ワイデル共同党首のEU離脱発言も問題になっています。

****ドイツで極右政党「AfD」に対し…5週連続抗議デモ EU離脱=“デグジット”党首が主張****
ドイツでは経済や移民の問題をはらみ、ドイツのEU離脱・デグジットが取りざたされている。その離脱を主張している極右政党に対して抗議する激しいデモが5週連続で起こっている。

■支持拡大する極右政党「AfD」
11日、ドイツのミュンヘンで10万人の市民が参加するデモがあった。その怒りの矛先は?

デモに参加した人「民主主義を捨ててはいけません。『AfD』は民主的ではない」

このデモは、ドイツの極右政党「AfD」に抗議するものだ。デモはドイツ各地で行われ、これで5週間連続となっている。

極右政党「AfD」への抗議デモに参加した人 「AfDは私たちを不安に陥らせています。民主主義の中で右翼主義は認められない。私たちは、二度と過ちが起こらないように、戦わなければいけないんです」

「AfD」は2013年、ギリシャ経済危機のなかでドイツが多額の支援をすることに反発し、「反EU」を掲げて設立された。 2017年に、ドイツ連邦議会選挙で初めて議席を獲得し、国政に進出した。 その後、コロナ禍を経て、物価高や難民の急増で、2023年に支持率を大きく伸ばした。

■AfDの共同党首 ドイツの脱EUを主張
こうしたなか、「AfD」のメンバーが右翼活動家らと秘密の会合を行い、移民・難民の追放計画を議論していたことが報道により明らかになった。 これを受け、ドイツではAfDに対しての大規模デモが起きているのだ。

さらに、AfDの共同代表を務めるアリス・ワイデル氏の発言も、今、物議を醸している。

ワイデル氏 「もしEUの改革が不可能であれば、イギリスがしたように、国民に決断を委ねるべき。ドイツが『デグジット』、EUから出ていくことを…」

イギリスのEU離脱、「ブレグジット」に掛けて「デグジット」と呼ばれる、ドイツのEU離脱の必要性を主張したのだ。今、ドイツで何が起きているのか…。(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年2月14日放送分より)【2月15日 テレ朝news】
*******************

イギリスにおいてEU離脱に関して失敗だったという声が増えている現状で、なぜ今「デグジット」なのかは良く知りません。

市民生活は「人」だけでなく「物」も外国産に大きく依存しています。

****外国産排除の店で戸惑う客 独スーパーの動画が話題****
外国産が排除され、自国ドイツ産の商品だけがまばらに置かれたスーパーで途方に暮れる買い物客―。

移民排斥を掲げて支持を拡大する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への抗議行動が広がるドイツで、大手スーパーが多様性の大切さを訴えるために制作した動画が話題を呼んでいる。

「コーヒーもチョコレートもありません」。店員は客に説明する。野菜や乳製品、パンなどはあるが、ほとんどの棚はスカスカだ。「普段食べているものが何もない」と戸惑う女性や、空の棚を前に立ち尽くす男性も。
 
制作したスーパーのエデカは動画で「多様性がなければ、ドイツは貧しくなる」と訴える。【2月17日 共同】
********************

【ノルウェー第5の都市 難民受け入れをウクライナ人に限定】
ただ、ドイツだけでなく欧州各国にとって移民・難民は大きな問題となっているのは事実。
特に、アフリカ・中東などからの移民・難民に対する強い抵抗感が欧州社会にあるのも現実です。

****難民受け入れをウクライナ人に限定、ノルウェー第5の都市が非難の的に****
ノルウェーの首相と野党党首は14日、第5の都市ドランメンが難民の受け入れをウクライナ人に限定すると決定したのを非難した。

ドランメンは首都オスロの西方40キロに位置する人口12万人の都市。保守党、反移民を掲げる右派ポピュリスト、キリスト教民主党、年金生活者を代表する小政党などで構成される同市議会は13日、中道左派政権による警告を無視して、この決定を可決した。

労働党所属のヨーナス・ガール・ストーレ首相は14日、国営テレビNRKに対し、同市議会の決定は「自治体ができることではない」と批判。「基本的な価値観は、逃亡してきた人々が平等に扱われるようにすることだ」と語った。

ドランメンの市長も所属する野党・保守党党首のエルナ・ソルベルグ前首相もストーレ首相に同調。ノルウェー通信によると、たとええり好みがよくあることだとしても、「どの自治体も特定の国からの難民しか受け入れないと決定することはできない」と述べた。

さらに、中央党のある議員は同市議会が「組織的に人種差別」を行っていると刑事告発した。 【2月15日 AFP】
******************

「本音」と言えばそうなんでしょうが、そうした「本音」をストレートに表に出していいのか?・・・トランプ現象で「建前」「理念」より「本音」が優先する流れが強まっています。

【フランス 右派の支持取り付けのため修正、「(極右の)死の口づけで可決された」移民法 その後、憲法評議会で修正部分削除】
一方で、労働力の観点からは移民労働を必要としているのもまた現実であり、移民労働確保と移民流入への拒否感という二つの側面のバランスをとることが求められています。

そうした観点からフランス・マクロン政権が成立を図った移民法でしたが(政府は、法案は人材不足の部門で働く移民が居住許可を得やすくする一方、不法移民の追放がより簡単になると説明)、左派からは移民に厳しすぎる、右派からは逆に甘すぎるとの批判で立ち往生、結局、右派の要求を一定にいれる形で修正、極右政党「国民連合(RN)」の法案支持によって成立、「(極右の)死の口づけで可決された」(仏紙)という状況にも。

右派に配慮して修正された内容は、居住許可要件を厳しくし、児童・住宅手当などへの支給開始時期を数年繰り下げる、出生地主義による国籍付与の見直し、外国人留学生に帰国保証金を求めるなど。

ただし法案成立後、右派・共和党が加えた修正案はほぼ全て憲法評議会で削除されています。

****外国人労働者の受け入れ拡大目指す移民法公布****
(中略)
同法は、上下両院で過半数を持たない少数与党政権が当初の政府案よりも移民への対応を厳格化した右派中道・共和党の修正案を受け入れるかたちで12月19日に成立させたが、12月26日と27日にエマニュエル・マクロン大統領、下院議長、120人を超える上下両院の議員が憲法評議会に違憲審査を求めていた。

その結果、憲法評議会は1月25日、86の条文のうち、移民受け入れのクオータ制の導入や、外国人への社会保障手当(住宅手当、家族手当など)の給付条件の厳格化、出生地主義による国籍付与の見直し、外国人留学生に帰国保証金を求めるなどといった35の条文について、「法の趣旨と関連がない」などとして破棄する決定をした。憲法評議会の決定により、共和党が加えた修正案はほぼ全て削除された。【2月7日 JETRO】
********************

憲法評議会で否定されることは予想されていたと思いますが、それでも移民に対する厳しい姿勢をみせる政権と右派勢力のパフォーマンスだったのでしょうか?

【スウェーデン 「必要としているのは、高度な知識や技能を有する優秀な人材の移民だ」 就労ビザを取得する要件とされる月収を49万円に】
外国人労働者については、単純労働のための移民はいらないけど、専門知識・技能を持った外国人人材は欲しい・・・という考えも。

****スウェーデン、就労ビザの収入要件引き上げ検討 月49万円に****
スウェーデン政府は15日、就労ビザを取得する際に要件とされる収入額の引き上げを検討していると発表した。
 
マリア・マルメルステーネルガルド移民相は、外国人労働者の要件となる最低収入の引き上げに関する政府調査の完了に合わせて会見を開き、「そもそも必要としているのは、高度な知識や技能を有する優秀な人材の移民だ」「だが、求められる技能も賃金も低い職業の移民が依然として多い」と語った。

スウェーデンは既に昨年11月1日から、シェンゲン協定または欧州連合加盟国以外出身の外国人が就労ビザを取得する要件とされる月収を、従来の1万3000クローナ(約19万円)から2万7360クローナ(約39万円)に引き上げている。

政府調査会は現在、これをさらにスウェーデンの月収の中央値に近い3万4200クローナ(約49万円)に引き上げることを提案している。

反移民を掲げるスウェーデン民主党の協力を得ている保守派・穏健党のウルフ・クリステション首相率いる連立政権は2022年の発足以来、移民の制限を公約に掲げてきた。

最低収入額の引き上げで最も影響を受けるのは飲食業界と清掃業界だが、ステーネルガルド氏は「多くの場合、すでにスウェーデンに住んでいる人々で賄えるはずだ」と述べた。

2023年11月現在、スウェーデンの就労ビザ保有者6万3477人のうち1万4991人が、現在の収入要件である2万7360クローナを満たしていない。

だが政府は、来年6月1日に新たな要件を発効させる法案を、議会で可決できると見込んでいる。 【2月16日 AFP】**************

人種・肌の色・国籍で選別するのは差別主義だが、収入で選別するのはかまわない・・・・?

よくわかりませんが、各国とも“欲しいもの”だけを手にいれたい、“余計なもの”はいらない・・・という「本音」優先です。

外国人と犯罪が結び付けられやすいのはどの国でも同じ。リベラルとされるNY市でも。

****移民収容施設の外出禁止令拡大 犯罪増加で 「的外れ」の指摘も ニューヨーク市****
アメリカ・ニューヨーク市では、移民による犯罪で治安が悪化していることから、収容施設への外出禁止令が拡大されました。これらの移民収容施設では、午後11時から午前6時まで外出禁止になります。

ニューヨークでは8日、15歳の移民の少年がタイムズスクエアで、ブラジル人観光客と警察官に発砲し、けがをさせたほか、先月には移民グループと警察官が殴り合いになるなどの事件が起きていました。

ニューヨーク市民「外出禁止令は組織の立場では理解できるが、犯罪抑制が目的なら完全に的外れだ」

移民らは仕事に就けないことへの不満などから犯罪行為に走るという見方も出ています。【2月13日 テレ朝news】
*****************

本当に治安悪化の原因は外国人なのか・・・冷静な検証が必要です。
もし、そうならなぜ外国人が犯罪に走るのか? そのようにさせている状況に問題はないのか? という視点もひつようでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州  移民規制強化の一方で、移民を必要としている現実も 伊・右翼政権は合法移民受け入れ拡大

2024-01-13 23:13:06 | 難民・移民

(イタリア・トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になったマドウ・コウリバリーさん フィレンツェで2023年11月撮影【12月11日 ロイター】)

【移民規制強化の取り組み】
欧米への大量の移民の流入は、経済的苦境など現状に不満を抱える人々を刺激して、社会・政治の右傾化、ポピュリズムの台頭という大きな変動をもたらす一大要因ともなっています。

そのため、総じて欧米諸国では移民対応の厳格化が進行しています。

****厳格化する欧米の移民政策 大量流入の欧州は悲鳴、米国は大統領選視野に方針転換****
欧米の主要国が移民・難民への対応を厳格化させている。不法移民らが大量に流入する事態に悲鳴を上げる欧州連合(EU)は2023年末、新制度案で大筋合意。移民対策で寛容な姿勢が批判されてきた米民主党政権も今秋の大統領選を控え、流入抑制へと舵を切った。

「衝撃波」耐えられず
「歴史的な日だ」。欧州議会のメツォラ議長は先月20日、EUの主要機関が大筋合意した新案に満足の表情を浮かべた。

同案では、入国者の国境審査が厳格化されるほか、亡命資格がないと確認されれば迅速に強制送還される。EUは6月までの発効を目指す。

新案導入の背景には、地中海を船で渡る人々が23年夏、EU域内に大量に押し寄せたことなどがある。到着地の一つ、イタリア南部の島の市長は「人々が押し寄せる『衝撃波』には耐えられない」と声を上げた。EUの欧州国境・沿岸警備機関(FRONTEX)によると、23年1〜11月の不法入国摘発者は前年1年間を17%も上回る。

仏で「死の口づけ」
欧州各国では、6月までのEU共通制度案成立を待たず、独自案を相次ぎ示しつつある。

フランスでは先月19日、新移民法が成立した。法案は当初、野党の左右両派の反対で棚上げされていたが、極右「国民連合」の賛成を得て修正案が辛うじて成立。仏ルモンド紙が「(極右の)死の口づけ」で可決されたと評すほど厳しい内容だ。

同国では従来、外国人の親のもと生まれた子供は自動的に仏国籍となる出生地主義を採用していたが、今後は16〜18歳時に申請する必要がある。外国人労働者が社会保障を受ける条件も厳しくなる。

ドイツも昨年10月、不法移民の送還を容易にする法案を閣議決定した。国境警備も強化する。

手厚い社会保障が〝ゆりかごから墓場まで〟と評されるスウェーデンも翌11月、移民の強制退去要件の導入を検討すると発表した。薬物乱用▽犯罪組織関与▽国家の価値観を脅かす思想表明ーなどが要件。移民相は「社会統合には品行方正さが必要」と強調した。

隣国フィンランドも同月末、ロシアとの国境(約1300㌔)経由で中東などから流入する事態を警戒し、全8検問所を一時閉鎖した。

米でも一段と逆風
4年前にEUを離脱した英国は、なりふり構わぬ対策を講じている。不法入国者をアフリカ・ルワンダに強制移送する計画を巡り、最高裁は23年11月、欧州人権条約に基づく英国内の人権法に違反すると判断。これに対し英政府は翌月、計画続行のための緊急法案を策定、押し切る構えだ。

米国では、バイデン大統領が23年5月、亡命申請手続きの厳格化を柱とする規制策を発表した。同氏は移民問題で強硬姿勢を見せるトランプ前大統領を批判したが、不法移民急増への危機感が国内で高まる中、大統領選を控え方針転換を余儀なくされた形だ。【1月3日 産経】
********************

EUが昨年末に大筋合意した新協定では、地中海に面したイタリアやギリシャ、マルタなどの国に、一時的に収容するための「審査センター」を設置し、EU域内に亡命する資格があるか3カ月以内に審査、母国で政治的迫害がなく、亡命資格がないと判断された難民は、EU域内に到着する前に通過してきた「安全な第三国」に強制送還されることになります。

ただ、単に国境審査が厳格化だけでなく、受け入れる場合のEU加盟国間の負担の公平化に力点があります。

****EU、移民・難民受け入れに関する新協定で合意 公平負担狙い****
欧州連合(EU)は20日未明、移民・難民受け入れの負担を加盟国間でより均等に分担し、流入を抑制するための新たな対策で合意した。

欧州議会と各国政府の代表が徹夜の協議の末に新協定について合意に達した。来年発効する予定。

不法移民の審査、亡命申請の処理手続き、申請を受け付ける国を決めるための規則、危機に対処する方法などが一連の法律に含まれる。

現行制度は移民・難民が最初に到着する国が申請を受け付けるためイタリアやギリシャなどの負担が重く、東欧諸国などは受け入れに消極的だった。

新制度では、EUの境界に接していない国は難民を受け入れるか、EU基金に資金を拠出するか選択を迫られることになる。

新たな審査制度では保護が必要な人とそうでない人を区別することを目的としている。インド、チュニジア、トルコ出身者など、難民申請が認められる可能性の低い人や、安全保障を脅かすとみなされた人物はEUへの入国を拒否され、国境で拘束される可能性がある。【12月20日 ロイター】
********************

EUは年間約3万人の難民を受け入れる方針とのことで、資格が認められると、加盟国の人口や国内総生産、失業率などによって加盟国に振り分けられます。

割り振られた国が受け入れを拒否すれば、難民1人につき2万ユーロ(約310万円)を基金に支払わねばならず、一部の受入国だけに大きな負担がかかる現状を変更して、加盟国全体で負担を共有する内容となっています。

改正案は今後、27加盟国を代表する欧州理事会に加え、欧州議会でも正式に承認される必要があります。受入れに反対するハンガリーなど東欧諸国が、難民1人につき2万ユーロという受け入れ拒否のペナルティーを了承するのでしょうか?

なお“同案をめぐっては、アムネスティ・インターナショナルやオックスファム、カリタス、セーブ・ザ・チルドレンなど数十の慈善・人権団体が、現実には機能しない「残酷なシステム」を生み出すだけだと批判する公開書簡を出している。”【12月20日 AFP】とも。

【フランスでは極右の「死の口づけ」でようやく新移民法が成立】
フランスの独自対応の移民規制強化法案が左右両方からの「厳しすぎる」「甘すぎる」との反対で審議にも入れず却下されたという件は、2023年12月17日ブログ“移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮”でも取り上げましたが、その後前出記事にもあるように、「(極右の)死の口づけ」という形でなんとか修正案が成立しました。

成立はしたものの、マクロン政権・与党には大きな亀裂も。

****仏、移民規制強化へ 法案可決で政権・与党に亀裂****
フランスの上下両院は19日、移民に対する規制を厳格化する新移民法案を可決した。同法案をめぐっては一部閣僚が辞任するなど政権・与党内に亀裂が生じる事態となったが、エマニュエル・マクロン大統領は必要な「盾」だとして擁護した。

新移民法では、外国人への社会保障給付は5年以上の滞在者(就労者の場合は2年半以上)に制限される。移民受け入れ枠の導入や、二重国籍の犯罪者から仏国籍を剥奪するなど、移民規制の強化につながる内容となっている。

法案採決では、与党勢力251人のうち約4分の1が反対もしくは棄権。オレリアン・ルソー保健相は、法案可決を受け辞任した。

マクロン氏は20日、公共放送「フランス5」の番組で、フランスは「移民問題」に直面しており、新移民法は不法移民を減らし、合法移民の統合を促進するため必要だと強調。「必要な盾だ」と述べた。

採決では、極右のマリーヌ・ルペン氏率いる「国民連合(RN)」が賛成に回った。RNの賛成を得て可決にこぎ着けた形で、一部メディアは「死のキス」と形容。極右のジャンフィリップ・タンギー議員は、「マリーヌ・ルペンの主張が完全な勝利を収めた」と語った。

保守系紙フィガロは「移民法は深い傷痕を残すだろう」と指摘。一方、左派系紙リベラシオンは、マクロン氏の与党にとって「道義的な敗北」となったと伝えた。【12月21日 AFP】
************************

【一方で「移民を必要としている」実態も 移民受入れ拡大方針のイタリア・メローニ政権】
上記のような移民規制強化という面の一方で、労働力不足に直面している欧州は(アメリカも同じですが)移民を必要としている側面もあり、EUは合法移民を年間100万人増やす必要があるとも。

このため、話が複雑になってもきます。

****EUへの合法移民、年100万人増やす必要=欧州委員****
欧州連合(EU)欧州委員会のヨハンソン欧州委員(内務担当)は8日、高齢化で減少する域内の労働力を補うには合法的な移民を年間100万人増やす必要があるとの見解を示した。

EUの統計によると、昨年の域内への移民は約350万人で、このうち30万人超が不法移民だった。

ヨハンソン氏は講演で「合法移民は極めてよく働いているが、数が足りない」と指摘。EUの労働者は年間100万人減少しており、「これは年間100万人以上の移民増が必要なことを意味している」と述べた。

ただ、それは「秩序を持って」実現すべきとし、不法移民の規制を各国に要請した。

欧州への不法移民は100万人を超えた2015年のピークから大きく減少しているが、20年に底を打ち、昨年は26万人超に増加。半分以上がアフリカから地中海を渡り、イタリア、ギリシャ、スペイン、キプロス、マルタを経て到着している。【1月9日 ロイター】
********************

「移民を必要としている」のは、移民対応に厳しいというイメージがある極右とも評されるイタリア・メローニ政権にあっても同じです。

一昨年10月に政権を獲得したメローニ首相は、規制強化という点では、昨年7月には北アフリカ諸国と不法移民の摘発強化で合意。11月には強制送還を進めるため、海上で救助した移民・難民の一時収容施設をアルバニアに建設する計画を発表しています。

しかしその一方で、高齢化で人手不足が深刻化するなか、外国人労働者なしには社会が立ちゆかない現実があります。イタリアの高齢化率は2022年の数字で見ると24・1%で、世界で最も高い日本の29・1%に次いでいます。

****伊メローニ首相、移民規制の一方で外国人労働者の受け入れ拡大****
マドウ・コウリバリーさん(24)は、歴史あるイタリアに来てまだ日の浅い新顔だ。
ギニア出身のコウリバリーさんがこの国に来たのは2018年。人手不足を外国人労働者で埋める取り組みの一環として、トスカーナ地方初の移民出身バス運転手になった。

誰よりも驚いたのはコウリバリーさん自身だった。
「バスの運転手なんてとんでもない、できるわけがないと言った」とコウリバリーさんは回想する。「アフリカ人がイタリアでバスを運転するなんて。しかも、船で渡ってきたアフリカ人がね」

コウリバリーさんが経験したのは、メローニ伊首相による移民政策の対照的な2つの側面のうち、「歓迎」サイドだ。

メローニ氏は昨年10月、国家主義的な政策を掲げて政権の座についた。移民規制の強化による北アフリカからの不法入国の摘発、海難事故に遭う移民を救助する慈善団体への規制、アルバニアでの移民収容所の建設計画といった公約により、国際的な注目を集めた。

だがその一方でメローニ首相は、イタリア国内で深刻化している人手不足を埋めるため、数十万人の移民に門戸を開き、合法的な就労を認めようとしている。イタリアは世界で最も高齢化が進み、人口減少に直面している国の1つだ。

イタリア統計局の予測では、2050年までにイタリアの人口は約500万人減少し、人口の3分の1以上が65歳以上になる。建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている。

タヤーニ外相は10月、チュニジアと3年間の協定を結び、年間最大4000人のチュニジア人を対象にビザ発給と在留許可手続きを簡素化した。同外相は、メローニ政権は移民そのものには特に反対していないと語る。

タヤーニ外相は11月21日、国会で「イタリア、そして欧州に誰が入ってくるかは我々が選びたい。人選を密入国斡旋業者に任せておくわけにはいかない」と発言した。

労働市場の専門家で元保守派議員のジュリアーノ・カッツォーラ氏は、経済と人口動態の現実が政府の反移民姿勢を弱めているとの考えを示した。【12月11日 ロイター】
******************

イタリア・メローニ政権の2023年から25年までの3年間の移民受け入れ計画は45万人に上り、22年までの3年間の2倍以上になっています。

メローニ首相は「私の目標は、アフリカからの出国を阻止し、欧州に来る権利を持つ人と持たない人を選ぶ仕組みを確立することだ」と不法移民と合法移民の違いを強調していますが、その線引きは曖昧です。

イタリア政府が3年ごとに発行数を決める非EU圏向け外国人の就労ビザの多くは、イタリアに不法入国してすでに就労している移民が合法的な立場を得るために使われてきたという実態があります。

“建設や観光、農業に至るまで、多くの産業が若い力を切実に必要としている”・・・・イタリア商工会議所によると、昨年の求人の半分は採用者が見つからなかったとのことで、経済界からは「100万人を超える外国人労働者が必要」との声も上がっているそうです。

なお、首相就任時には「極右」として危惧されたメローニ首相ですが、今までのところEU・米とも協調的な政権運営を行っています。

****極右首相に安心感 メローニ氏就任1年―イタリア****
イタリアのメローニ首相(46)が就任して(23年10月)22日で1年。ファシスト党の流れをくむ極右「イタリアの同胞」の党首だけに、当初は「欧州で最も危険な女性」(ドイツ誌)と警戒された。

しかし、ロシアの侵攻に直面したウクライナへの支援で米国や他の欧州諸国と足並みをそろえる手堅い外交を展開。西側諸国に安心感を与えたほか、国内世論の支持も厚く、安定した政権運営を続けている。

「われわれは火星人ではない。生身の人間だ」。イタリアで最初の女性首相となったメローニ氏は昨年11月、初外遊で訪れたベルギー・ブリュッセルの欧州連合(EU)本部で記者団にこう語った。政治信条が異なっても、会って話せば分かり合えるという趣旨だ。

かつて「反ユーロ」などの極端な主張を唱えた欧州の極右政党の多くは穏健化し、一部が政権参画するまでになった。メローニ氏も暴力・専制のファシズムに「郷愁はない」と強調しつつ、野党時代のEU批判を控えて各国との協調をアピールする。(後略)【2023年10月22日 時事】
******************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インドネシア・アチェ州  急増するロヒンギャ難民船 同情的対応から一変して、高まる反難民感情

2023-12-28 23:26:18 | 難民・移民

(インドネシア西部アチェ州の州都バンダアチェで、ロヒンギャ難民が一時保護されている施設前に集まり抗議する学生たち(2023年12月27日撮影)【12月28日 AFP】)


(ロヒンギャ難民=2023年12月27日、インドネシア(REUTERS)【12月28日 The News Lens Japan】)

【「忘れてしまっていても、問題はなくならない」】
世界の目がコロナ、ウクライナ、そしてパレスチナに向く中で、ミャンマー国軍の民族浄化を目論む虐殺・暴力・放火・レイプ等によって西部ラカイン州を追われたイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる状況は改善していません。

70万人以上が隣国バングラデシュに避難したとされますが、それまでのロヒンギャ難民を合わせると100万人規模にもなるバングラデシュの難民キャンプの環境は劣悪です。しかし、国軍支配が続くラカイン州の状況は安全が保証されず、帰還も進みません。

****“世界最大の人道危機”ロヒンギャ難民問題 100万人生活の難民キャンプ、新たな問題に直面****
世界最大の人道危機とされるロヒンギャ難民問題。100万人が生活するロヒンギャの難民キャンプでは、避難が長引く中、新たな問題に直面しています。

■スマホを売り買い、教育や収入を手にする機会も
南アジア・バングラデシュ。ミャンマーとの国境近くに広がるのは「ロヒンギャ」と呼ばれる人々が暮らす難民キャンプです。

女性「ミャンマーでは、私たちには人間としての権利がありませんでした」
彼らは、ミャンマーの少数派イスラム教徒・ロヒンギャ。2017年、ミャンマー軍などによる武力弾圧が行われ、これまでに、およそ100万人がバングラデシュに逃れてきました。

大規模な難民キャンプの誕生から6年。私たちが目撃したのは…。
店員「1日に3〜4個売れます」 キャンプ内でスマートフォンが売り買いされている光景でした。
さらに…。

青年「このイヤホンは、お兄さんが僕のために買ってきてくれたんです。ここでは学校に通えるし、スポーツをすることもできます」 ミャンマーでは得ることのできなかった教育や収入を手にする機会が得られ、笑顔を見せる人々もいます。

■自由を求め脱出する人が急増、暴力を受けて脱出した子どもも
しかし、いまある問題が浮上。

記者「難民キャンプから車で1時間ほどの漁港です。キャンプを出た女性たちも働いています」
ここ数年、身体的・金銭的な自由を求めて、キャンプを脱出する人が急増しているのです。

ある女性は、1か月半前にキャンプを脱出。娘の結婚資金を得るため仕事を求めて脱出を決断したといいます。
女性「キャンプの中には娘も親戚もいます。でも、お金を稼がなければいけないので、ここに来ました」

水産物を加工する作業で得られるのは、月におよそ2万5000円。難民キャンプでの生活と比べれば破格の待遇といえます。

女性「難民キャンプは、たくさんの人が閉じ込められている牢屋(ろうや)みたいです。ここは自由で良い場所です」

さらに、やむをえない事情でキャンプから逃れてきた子どもも。
男の子「キャンプには戻りたくない。あそこは好きじゃないです。お兄さんから暴力を受けていたので、ここに逃げてきました」

7人兄弟から暴力を受けていたと打ち明けた男の子。4か月前、難民キャンプから、ひとりで脱出し、ストリートチルドレンの集団に合流したといいます。ゴミ山で一日中、プラスチックを集めても、1日に300円ほどにしかなりません。

■「忘れてしまっていても、問題はなくならない」
現地で支援を続ける日本人職員は。
UNHCRコックスバザール事務所・赤阪陽子所長「新しいエマージェンシー(緊急事態)、ウクライナやアフガニスタンなどに、ドナー(支援者)の関心がいってしまう。忘れてしまっていても、彼らが直面している問題はなくならない」

難民キャンプでは近年、治安の悪化も問題に。ふるさとに戻るメドが立たず、長引く避難生活が難民の心に影を落としています。

それでも懸命に生きる人々の姿も。
女性「ここに来て、もう怖くなくなりました。これまで知らなかったことが分かるようになりました。いまは私ひとりで、どこにでも行けます」

100万人のロヒンギャ難民をどう救うか。国際社会には息の長い支援が求められています。【4月8日 日テレNEWS】
**********************

【インドネシア・アチェ州 急増するロヒンギャ難民船】
過酷な現状、希望のない明日・・・難民キャンを脱出して粗末なボートで海外に逃れようとする難民も増加します。
また、ミャンマー国軍の弾圧が続くラカイン州からも、状況が悪化しているバングラデシュではなく、海上へ出る人々も。

しかし、周辺国にとってロヒンギャ難民は“厄介者” 従来から漂着した周辺国ではろくに水も食糧も与えず難民船を海に押し返す・・・といった対応が横行していましたが、特に新型コロナが拡大した期間は、更に受入れが厳しくなりました。

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****
(中略)
今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。

国際機関などはロヒンギャ族難民の受け入れを国際社会に求めているが、マレーシアのようにコロナ感染防止対策や過激派組織の上陸回避のため、積極的な受け入れが実現していない実情がある。(後略)【2022年12月27日 大塚智彦 Newsweek】
***********************

上記のような事情(イスラム教徒が大半を占めるインドネシアはロヒンギャに同情的で、特にイスラムが重視される北部アチェ州ではその傾向が強い)もあって、インドネシア・アチェ州へのロヒンギャ難民船漂着が急増しています。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によれは、11月中旬からの約1カ月間で1543人のロヒンギャ難民がアチェ州に漂着したとのことです。今年のアチェ州へのロヒンギャ密航1700人余りの大半がこの1カ月間に集中していることになります。なお、難民の約8割が女性や子どもだとのこと。
(この時期に集中しているのは、海流の影響もあるのかも。そのあたりはよく知りません)

****ロヒンギャ約400人、インドネシア漂着 大統領は人身売買に言及****
インドネシアのアチェ州に10日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ400人余りが新たにボートで漂着した。地元の漁業関係者が確認した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は先に、インドネシアに漂着したロヒンギャが11月以降、1200人に達したと発表した。

漁業関係者によると、10日午前にアチェ州の2地区にボートが各1隻漂着し、いずれも約200人が乗っていたという。

ジョコ大統領は8日声明を発表し、最近のボート漂着急増の背景に人身売買が存在する疑いがあるとの見方を示し、国際機関と協力して対応に当たると述べた。

インドネシアは国連難民条約に署名していないが、沿岸に漂着した難民を受け入れてきた歴史がある。【12月11日 ロイター】
************************

イスラム重視のアチェ州では、かつては当局がコロナを理由に難民受入れを拒否しても、地元住民が反発して難民を上陸させるといったこともありました。

****ロヒンギャ難民81人、マレーシアに上陸拒否され113日漂流 インドネシアで救出へ****
<コロナ禍やクーデターなどで世界の関心は減ったが、難民たちは今日も生き延びようとしている>
(中略)

アチェ州はロヒンギャ族難民拒否せず
バングラデシュのロヒンギャ族難民キャンプはほぼ飽和状態で政府による人道支援はあるものの、食料は慢性的に不足。医療事情が悪くコロナ感染防止が不十分であること、さらに居住区では顔役による暴力や物品の奪取などがあるとされ、必ずしも平穏なキャンプ生活が維持できないのが実状といわれている。

こうした状況から逃れるために多くのロヒンギャ族難民が新たな生活拠点を求めて、イスラム教徒が多いマレーシアやインドネシア、地理的に近いタイなどを目指して船で脱出を図るケースが絶えない。

当初はロヒンギャ族の難民船を受け入れていたマレーシアやタイは自国のコロナ感染拡大もあり、海上で発見した場合、最近は食料や水を与えて受け入れ上陸を拒否するケースが増えているという。

これに対し、ロヒンギャ族難民が漂着することが多いインドネシアのアチェ州は住民の多数が厳格なイスラム教徒で唯一イスラム法(シャーリア)に基づく統治が認められていることもあり、同じイスラム教徒であるロヒンギャ族難民を原則として受け入れてきた。

2020年6月にはコロナ感染を懸念するあまり、ロヒンギャ族の漂着を拒否したアチェ州当局の判断に地元アチェ人漁民が反発して、独自に難民を上陸させる事態も起きている。

アチェ州にはロヒンギャ族を収容する施設もあり、多数が収容されているものの、なぜか最終的にはマレーシアを目指すロヒンギャ族難民が多く、知らない間にマラッカ海峡を横断してマレーシアに密航するケースも増えているという。インドネシア人の密航請負人が船を用立ててこうした密航を支援しているとされている。(後略)【2021年6月7日 大塚智彦氏 Newsweek】
***********************

【かつての同情的対応から一変、高まる反難民感情】
しかし欧州のシリア難民でもそうでしたが、当初は受入れに同情的でも、急増して受け入れ側の負担が大きくなると事情が変わります。インドネシアにあっても特にイスラム重視のアチェ州でも、そのあたりは同様のようです。

****学生デモ隊、ロヒンギャ難民を強制排除 インドネシア****
インドネシア最西端アチェ州の州都バンダアチェで27日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ難民100人以上が収容されている一時保護施設に大学生数百人が押しかけ、ロヒンギャを強制的に立ち退かせた。

アチェ州沿岸には11月中旬以降、1500人以上のロヒンギャがボートで漂着しており、国連は過去8年間で最多の流入だと指摘している。地元住民に拒絶されたり、海に押し戻されたりしたケースもあるという。

さまざまな大学の校章が付いたジャケットを着た学生たちは、ロヒンギャ137人が収容されていた公営ホールに突入した。

AFPが確認した映像によると、学生たちは地元の入国管理局に対し、ロヒンギャを退去させミャンマーに強制送還するよう要求。「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」とシュプレヒコールを上げた。中には難民の持ち物を蹴る学生もいた。

涙を流すロヒンギャの女性や子どもや、顔を伏せ祈る男性の姿も映っていた。

現場にいたAFPの記者によると、デモ隊と、おびえるロヒンギャを警護していた警官隊とのもみ合いになったが、警官隊は最終的にデモ隊によるロヒンギャの排除を許可した。

デモ隊はタイヤを燃やし、ロヒンギャを移動させるためのトラックを用意したという。AFP記者によると、警察はロヒンギャをトラックに乗せるのを手伝った。ロヒンギャは近くにある別の政府施設へ移送された。

AFPはバンダアチェ警察にコメントを求めたが、回答は得られていない。

国連難民高等弁務官事務所は、この出来事は難民に衝撃とトラウマを残したと批判した。
インドネシアは国連の難民条約に未加盟で、ミャンマーからの難民を受け入れる義務はないと主張。近隣諸国に対し、受け入れの負担を分かち合い、沿岸に到着したロヒンギャを再定住させるよう求めている。 【12月28日 AFP】
******************

当局の受け入れ拒否に反発して、独自に難民を上陸させた日から3年半ほど。
アチェの社会で一体何が変わったのか・・・。
「追い出せ」「アチェはロヒンギャを受け入れるな」と叫ぶ学生たちを突き動かすものが何なのか?

****インドネシア、ロヒンギャ難民が急増 国際社会に責任を共有するよう呼びかけ****
バングラデシュやミャンマーから逃れ、インドネシア・アチェ州に漂着するイスラム教徒の少数派、ロヒンギャの人たちが急増し、地域社会の資源不足を招くとして地元では反ロヒンギャ感情が高まっている。そのため、インドネシア政府は難民条約加盟国および国際社会に対し、難民問題の解決に向け、より多くの責任を果たすよう求めている。

AP通信やインドネシアのオンラインニュースメディアTempo.co、中東の衛星テレビ局アルジャジーラの報道では、インドネシア当局は12月12日、11月以降イスラム系少数民族であるロヒンギャ難民1500人がボートでインドネシアのアチェ沿岸に到着したと発表し、国際社会に支援を求めているという。

インドネシアやタイ、マレーシアなどの東南アジア諸国は、1951年の難民条約に署名しておらず、難民を受け入れる義務はないが、タイやマレーシアに比べれば、インドネシアはバングラデシュやミャンマーからロヒンギャを受け入れており、一時避難所として難民キャンプを設置している。

しかし、難民の増加によってインドネシア国内の反ロヒンギャ感情が高まっており、政府は対策を取るよう迫られている。

インドネシア外務省のムハンマド・イクバル報道官は12月12日、ジャカルタで記者会見を行い、難民問題への対応、特に再定住が非常に遅れていると述べ、「それゆえ我々は、難民条約の加盟国や国際社会に対し、ロヒンギャ難民問題の解決にいっそうの責任を果たすよう求めている」と強調した。

イクバル報道官はまた、インドネシア政府は難民問題を解決するために国際機関、特に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国際移住機関(IOM)と協力し続けると述べ、UNHCRは施設の提供及び難民の再定住への解決策を検討することを約束したと付け加えた。

UNHCRは現在、難民がアチェに到着した後に発生する犯罪行為、すなわち人身売買や密輸を防止し、根絶することに重点を置いていると強調した。

**バングラデシュとミャンマーからのロヒンギャ難民
2017年、ミャンマー軍による弾圧から逃れるため、74万人のロヒンギャの人々が続々と隣国バングラデシュに流出した。 

しかし、近年、バングラデシュでは難民キャンプにおいてギャングが増え、犯罪率が上昇するなど環境が悪化し、ロヒンギャがバングラデシュに逃れるのは困難になりつつある。また、ミャンマーのクーデター後も軍事政権によるロヒンギャへの弾圧が続いており、その結果、インドネシアのアチェ州に多数のロヒンギャの人たちが上陸している。

外務省のイクバル報道官は「インドネシアは難民条約には加盟していないが、国際組織犯罪防止条約には加盟しており、ロヒンギャ難民を受け入れる義務はないが、人身売買と密輸の防止と撲滅に参加する義務がある」と述べ、問題の根源はミャンマーで続く紛争であり、それを解決しなければならないと強調した。

反ロヒンギャ感情が高まる地域社会
12月10日には、アチェ州サバン島の難民一時避難所に100人以上の抗議デモ参加者が集まり、ロヒンギャ難民の再定住(つまり、インドネシアから第三国への出国)を訴えたという。

「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」とデモ参加者の1人はアルジャジーラに訴えた。

更にもう1人も「私たちはロヒンギャを拒否します。一刻も早く別の場所に移してほしい。彼らが運んでくる病気に感染したくない」と語った。

UNHCRのファイサル・ラフマーン准難民保護官は「我々は、地域住民が安心するよう懸命に取り組んでいる」と述べた。一方、ラフマーン氏は増え続ける難民に対し、指定シェルターの収容能力がもはや対応できなくなっていることを認めた上で、「到着する難民の数が非常に多いため、政府はシェルター提供のため懸命に努力しているところだ」と述べた。【12月28日 The News Lens Japan】
******************

「我々はみんな貧しいのに、政府はなぜ我々を助けるためにお金をくれないのか?なぜ彼ら(ロヒンギャ)に食料を配らなければならないのか」・・・・昨日ブログ最後にも書いたように、自分たちの生活が苦しいと、他者への寛容さも失われるのが現実です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

移民急増が西側諸国共通の政治問題に 各国とも対応に苦慮

2023-12-17 23:32:53 | 難民・移民

(人口に占める年間純移民数の割合【12月15日 WSJ】)

【アメリカ 大統領選挙における最大の争点 バイデン再選戦略を危うくする】
アメリカでは移民流入が大きな問題となっており、移民に対する厳しい姿勢をとるトランプ前大統領の支持率を押し上げ、比較的寛容な民主党・バイデン大統領の再選戦略を危うくしています。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
(中略)ジョー・バイデン米大統領の再選の可能性をインフレよりも大きく損ないかねない問題がある。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新の世論調査によると、来年の大統領選挙における最大の争点として移民問題を挙げた回答者の数は、インフレと答えた人の2倍に上った。国境管理に関するバイデン氏の不支持率は支持率を37ポイント上回った。インフレに関してはその差は36ポイントだった。(中略)

米国では、移民反対派は、年齢が高めで保守的な白人有権者に集中している傾向がある。だが、テシェイラ氏は、多くのヒスパニック系有権者も不法移民の急増に衝撃を受けていると指摘した。

ドナルド・トランプ前大統領は移民に対して暴言を吐くことが多く、厳しい政策を取ったが、それにもかかわらず彼を支持する人がこれほど多い理由の一つはここにある。

皮肉なことだが、世論調査会社ギャラップによれば、トランプ氏の大統領在任中、移民の増加に対する国民の支持はおおむね上昇していた。バイデン氏が大統領になり、不法入国が急増した後、その支持は消えてしまった。このことは、国境の危機の解決が、バイデン氏の政治的な先行きだけでなく、移民政策そのものの将来にとってプラスになることを示している。【12月15日 WSJ】
************************

【フランス 左右両サイドからの批判で移民法案が審議されないまま否決】
移民問題への対応で苦慮しているのはアメリカだけでなく、欧州各国、カナダ、オーストラリアなど、いわゆる西側先進国も同様です。

フランスでは、政府が提案した新たな移民法案が議論されないまま否決される異例の事態が起きています。
不法移民への対応を厳格化する一方、外国人労働者の受け入れを進める法案で、外国人の犯罪者や難民申請が認められなかった不法滞在者の国外退去を迅速化するとともに、建設や飲食など人手不足の産業で働く不法移民に滞在許可を与えて労働者として受け入れる内容。

マクロン大統領が昨年の再選時から実現を公約として掲げていたものですが、その中道的な内容が右からは「手ぬるい」、左からは「移民を犯罪者扱いしている」と反対を受けたことで、審議前に却下されました。

****移民法案、国民議会で議論されないまま否決****
リュマニテ紙は「Défait(負けた)」、リベラシオン紙は「却下されたダルマナン(内相)」と一面に。

ダルマナン内相が国民議会に提出した新しい移民法案が、昨晩(12月11日)、審議されないまま却下された。エコロジー党(EELV)が提出した事前否決動議が賛成270票と反対265票で法案が否決となった。(中略)

ダルマナン内相の法案は、極右・右派からは規制のゆるさが、また左派からは、この国は移民を受け入れてきたゆえの豊かさがあることや、移民なしにはコロナ禍で国を動かなかったことを忘れ犯罪者扱いする差別的な見方が批判され、否決動議への賛成票が多くなった。

ダルマナン内相はマクロン大統領に辞任を申し出たが、大統領は拒否。政府は今日12日、国民議会議員7人と元老院議員7人で構成される委員会Commission mixte paritaire に付す意向を示している。【12月12日 Ovni】
******************

【イギリス 不法移民のルワンダへの移民強制移送法案 何とか下院通過したものの、「不十分」と与党内に不満】
イギリス・スナク政権は入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案で難しい対応が続いています。

最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、ルワンダと新たな条約を締結するなど補強対策を講じたうえで下院での可決には漕ぎつけましたが、保守党内部には「これでは不十分」との不満が残っています。

****英下院でルワンダへの移民移送法案可決、スナク政権はひとまず窮地脱出****
英議会下院で12日、入国した不法移民のルワンダへの強制移送を可能とするための法案が可決された。より厳格な移民規制を求める与党保守党の右派による造反の懸念が広がっていた中で、スナク首相にとっては否決により政権が大打撃を受ける事態はひとまず回避された形だ。

スナク氏はX(旧ツイッター)への投稿で「わが国に誰がやってくるのかを決めるのは犯罪組織でも外国の裁判所でもなく、英国民であるべきだ、というのがこの法律の趣旨だ」と述べた。

英政府は昨年、小型ボートで英仏海峡を渡る密入国者への対策として、不法移民を亡命希望者としてルワンダに受け入れてもらう取り決めを結んだ。

ところが英最高裁が先月、ルワンダへの強制移送は違法だと判断したため、スナク氏はルワンダとの間で移民を安全ではない第三国に送還しないよう保証することを柱とする新たな条約を締結。さらにルワンダを「安全な国」と定義して移送できるようにする法案を下院に提出した。

ただ保守党の右派は、この法案では不法移民の移送を阻止する目的で訴訟などの法的手段を行使された場合、十分に対抗できないと主張し、反発を強めていた。

法案は賛成313人、反対269人で承認。保守党議員350人は賛成票を投じるよう党議拘束がかけられたが、約40人は投票しなかったもよう。

採決直前に右派議員の1人は、右派グループ全体として法案に賛成するのを控え、投票を棄権することを決めたと明かしていた。

この議員は、昨年6月に欧州人権裁判所が移民移送の差し止め命令を下した事態を挙げて、そうした形で移送が阻止されない確実な仕組みが法案に盛り込まれない限り、今後の議会手続きにおいて反対姿勢を続けていくと強調。

来年予定される総選挙を控え、野党労働党に支持率で大きく水をあけられている保守党が内部の足並みの乱れを解消する見通しは立たず、スナク氏も厳しい政権運営が続きそうだ。【12月13日 ロイター】
********************

【ドイツ 移民排斥の右翼政党支持率が急速に高まる】
ドイツでは、ナチス・ドイツの犯罪を矮小化し、イスラム教徒、黒人らを中傷し、排外主義を標榜して難民対応で厳しい姿勢をとる右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、連立与党各党は支持率が低下しています。

****ドイツで右翼政党支持率急上昇 難民政策・経済政策への不満が後押し****
独右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が第2位にまで上昇し、来年の3つの州議会選挙で勝者となる可能性が出てきた。「ナチスの過去との対決」を地道に続けてきたドイツで右翼政党が躍進する理由は、市民の現政権の難民政策・経済政策への強い不満だ。

約1年半で支持率が10ポイント増加
ドイツの世論調査機関アレンスバッハ人口動態研究所(中略)が今年10月6日〜19日に1010人の市民を対象に行った世論調査によると、AfDの支持率は19%で、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の34%に次いで第2位だった。

AfDの支持率は、去年5月の9%から今年10月までに10ポイントも増えた。

逆にオラフ・ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)の支持率は、同じ時期に24%から17%に7ポイント下落した。緑の党の支持率も、同時期に20.5%から13%に7.5ポイント減った。連立与党の一党・自由民主党(FDP)への支持率も同時期に8%から5%に下がった。(中略)SPD、緑の党、FDPの三党の支持率を合計しても35%にしかならず、過半数には達しない。

AfDの支持率は、特に旧東ドイツで高い。(中略)このためドイツの論壇では、「来年9月の3つの州での州議会選挙で、AfDが最も多い得票率を確保して勝利する可能性がある」という見方が出ている。(中略)

AfDの躍進の主な理由は、二つある。それは、難民急増に対する市民の不安・不満の強まり、ショルツ政権の経済政策・環境政策への不満だ。

(中略)問題は、EU(欧州連合)に入った多くの亡命申請者が、まるで磁石に引き寄せられるように、ドイツを目指す点だ。EU統計局によると、今年上半期にEU域内で初めて亡命を申請した外国人の数は51万9000人(前年同期比で28%の増加)だった。この内約30%がドイツで亡命を申請している。

2022年にはEU全体で約88万人が亡命を申請したが、その内約22万人がドイツで亡命を申請した。EU加盟国の中で最も多い数だ。EUでの亡命申請者数のほぼ4人に1人がドイツにやって来るのだ。

なぜドイツは、亡命申請者の間で人気があるのか。この国の亡命申請規定は他の国に比べて寛容であり、到着後の待遇も比較的良い。この国では基本法(憲法)の中で亡命権が保障されている他、亡命が認められた場合に支払われる援助金などの金額が、他の国に比べて多い。長期間にわたって仕事が見つからないと、地方自治体が住宅を斡旋してくれる。生活保護の他に、家賃や健康保険などの社会保険料も国が払ってくれる。

難民たちはそのことをよく知っているので、イタリアやギリシャからEUに入域しても、結局ドイツへ行って亡命を申請する傾向が強い。

ドイツ政府は、外国人が「亡命を希望する」と言った場合、審査する間とりあえずその外国人の滞在を許さなくてはならない。EUではダブリン協定によって、最初に到着した国で亡命を申請しなくてはならないことになっている。だが欧州大陸では、ほとんどの国がシェンゲン協定に基づいて国境検査を廃止しているので、亡命申請者は自由に国から国へと移動できるのだ。

悲鳴を上げる地方自治体
亡命申請者のために寝泊まりする場所や食事などを用意するのは、地方自治体である。市町村からは、「もうこれ以上亡命申請者を受け入れるのは、不可能だ」という声が強まっている。(中略)

ドイツ南部のアウグスブルクに住むドイツ人の年金生活者は、「難民問題の根っこにあるのは、庶民の妬みだ」と言った。彼は、「多くのドイツ人が、家賃が安いアパートを見つけられずに困っている。だが難民たちは、国にアパートを見つけてもらい、家賃まで払ってもらえる。インフレのために、市電やバスの切符の値段もどんどん高くなっている。しかし難民たちは、公共交通機関の切符も国から支給される。このため、人々が難民に対して悪い感情を抱くのだ」と語る。

(中略)難民の中には、働かなくても4人家族で毎月約2800ユーロ(44万8000円・1ユーロ=160円換算)の援助金を国から支給されている人もいる。これは、ドイツの最低賃金で働く市民の毎月の収入約3000ユーロと大して変わらない。援助金が潤沢だと、必死で仕事を見つけようとする意欲も減る。これでは、額に汗して働く庶民が亡命申請者を妬むのも無理はない。(中略)

このためショルツ政権は11月7日に16の州政府首相たちとの協議の結果、亡命申請者への援助金などの削減や国境検査の強化、亡命申請が却下された外国人の国外退去の促進、州政府への難民対策援助金の増額などの対策を発表した。

政府は難民に現金を支給するのをやめて、商品などを買えるクーポン券に切り替える。外国人が、祖国の家族に送金するためにドイツに来るのを防ぐためだ。

外国人のドイツ到着後に亡命申請を審査すると、長い時間がかかるので、ショルツ政権は各国と協議して、外国人が欧州に到着する前に、域外で亡命申請を審査する制度が可能かどうかについて検討することも約束した。

亡命申請者は、原則としてドイツ到着後最初の3カ月間〜9カ月間は労働を禁止されているが、今後は法律を改正して、労働を奨励する。

しかしCDUのフリードリヒ・メルツ党首は、「政府の措置は不十分だ」と厳しく非難。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首も、「これらの措置では、今ドイツが目指している亡命申請者数の大幅な削減を実現することはできない。亡命申請制度を根本的に変えることが不可欠だ」と発言した。

AfDは、憲法で保障されている亡命権の廃止を要求している。緑の党などのリベラル勢力は、亡命権の廃止に反対している。緑の党は、亡命申請者の権利の急激な制約については、批判的だ。このことが、市民の間で緑の党への支持が減る一因となっている。(後略)【11月22日 新潮社Foresight】
******************

【オーストラリア、カナダでも対応に苦慮】
“オーストラリアでは、昨年発足した労働党政権が移民受け入れの目標を引き上げた後、入国者が急増し、世論の不支持率が急上昇した。政権は今週、ビザ(査証)発給要件を厳格化し、「移住者を持続可能な水準に戻す」と表明した。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

****豪、留学生・低技能労働者のビザ規則厳格化 移民受け入れ半減へ****
オーストラリアは11日、留学生と低技能労働者のビザ規則を厳格化すると明らかにした。豪政府は同国の移民制度は「崩壊した」との認識を示しており、今後2年間で移民受け入れ数を半減させることを目指す。

新たな政策の下では留学生は英語テストでより高い点数を得る必要があり、2回目のビザ申請にはより厳しい審査が課されることになる。

オニール内相は会見で「新政策により移民の数は正常に戻る」と説明。「数字だけの問題ではない。わが国の未来に関わる話だ」とした。

アルバニージー首相は週末に、移民の数を「持続可能なレベル」に戻す必要があると述べ、「システムは崩壊している」と主張していた。

オーストラリアでは移民数(ネットベース)が2022─23年に、過去最多の51万人に達したと予想されている。新型コロナウイルス禍後の人手不足を補うため移民の受け入れを増やしたが、急激な移民増加で家賃が高騰しホームレスが増えるなど、弊害も指摘されている。【12月11日 ロイター】
*********************

“カナダの自由党政権は移民を経済成長の支えとしてきたが、同様に世論の反対が強まり、支持率は急低下している。政権は新規の移民の受け入れ目標を引き上げるのをやめるとともに、先週には「パピーミル(利益追求のために劣悪な環境で犬を大量繁殖させる悪質業者)」のようだと称される学校を厳重に取り締まると約束した。こうした学校は低い基準で卒業証書を出すことで外国人学生を集めている。”【前出 12月15日 WSJ“移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に”】

【西側共通の政治問題に 移民流入スピードのコントロールが重要】
各国ともそれぞれの事情・背景があっての問題ですが、“最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている”ということで、排斥に走るのではなく、対応がとれるように流入スピードのコントロールが重要でしょう。

*****移民急増で高まる国民感情、西側共通の政治問題に****
米英豪などで抑制できない政府に反感
(中略)
移民には、迫害や貧困から逃れてきた人々に安らぎを与えたり、受け入れ国の社会を豊かにしたりするなど、数量化できないメリットがある。

しかし、移民受け入れの通常の理由は経済的なものだ。企業は、労働力不足緩和のために外国人労働者を求めている。

しかし近年は、受け入れ国の一般市民にとっての経済的利益が、それほど明確ではなくなってきている。連邦準備制度理事会(FRB)当局者らは、移民によって労働力の供給が増え、賃金が抑制されたことが、今年の米国のインフレ抑制に役立ったとしている。しかし、米国生まれの労働者がそれを歓迎するだろうか。

一方、豪州では、移民が住宅不足を悪化させているとの不満が国民の間で広がっている。ニュージーランドの中央銀行は、移民の流入で住宅価格に上昇圧力がかかっているため、利上げが必要になるかもしれないとしている。カナダの世論調査会社レジェ・マーケティングの調査によると、カナダ人の75%は移民が住宅市場を圧迫していると考えている。医療と学校を圧迫しているとみている人の割合はそれぞれ73%と63%だった。

特定技能を持つ移民に対しては、国民からの支持がより高くなるのが常だ。それは、こうした移民が既存労働力の生産性を高めるからだ。豪州とカナダは、切実に必要な技能を持つ移民をターゲットにすることで、長い間移民への支持を維持してきた。だが、両国とも、移民の内訳は逆方向へと動いている。

豪政府が今年公表した報告書によれば、同国には就労が認められている一時滞在ビザ保有者が180万人いるが、その多くは低賃金の仕事にしか就けておらず、家族に合流するため、あるいは人道的プログラムにより永住が認められた移民も同様だという。

国民の「高技能移民に対する支持は強い」が、低賃金労働者の移民に対する支持は「そこまで明確ではない」と同報告書は指摘している。米国への不法移民は一般的に、米国生まれの国民より教育レベルも英語力も低い。

人口構造の変化は本来ゆっくりと起きるものだが、多くの人にとって、最近の移民急増は、スピードが速く、混乱を招いている。カナダ、豪州、英国への移民流入はいずれも過去最高となっている。(後略)【12月15日 WSJ】
***********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする