孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  ロシアのルカシェンコ支持を背景に、抗議デモへの強硬姿勢を強める

2020-08-31 23:24:49 | 欧州情勢

(ベラルーシの首都ミンスクで30日、反政権派のデモを阻むように整列した警察の鎮圧部隊の前にひざまずく女性【8月31日 朝日】 やや芝居がかった感じもしますが・・・・)

 

【ウクライナと異なり反ロシア感情は表面化していないベラルーシ】

旧ソ連のベラルーシにおける大統領選挙後の混乱、「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領に対する国民の抗議行動は、やはり旧ソ連のウクライナにおいてヤヌコービッチ元大統領が国民の抗議行動で国を追われたカラー革命をも連想させます。

 

ただ、現在のベラルーシと当時のウクライナでは、ロシア・EUとの関係で大きく異なる事情があることも指摘されるところです。

 

ウクライナでは抗議行動は反ロシア・親EU路線と一体となっていましたが(ロシアからすればアメリカが背後で画策したということにもなります)、ベラルーシではロシアへの批判・親EUの声というは大きくありません。

 

*****2020年のベラルーシと2014年のウクライナはこんなにも異なる*****

(中略)

上述のように、2013年から2014年にかけてのウクライナ国民の抗議デモで、彼らを突き動かしていたのは、ヤヌコービッチ体制への拒絶反応でした。EUとの連合協定の問題は、きっかけにはなったものの、それが核心的な争点というわけではなかったのです。

 

ただ、脱ヤヌコービッチを求める動きは、最初から欧州統合路線とセットになっていたことも事実です。

 

ヤヌコービッチはEUとの協定を棚上げし、ロシアのプーチンと結託しようとしている。このままでは、ロシアの支援により、邪悪なヤヌコービッチ体制が永続化することになりかねない。我々は、その対極にある欧州統合路線を選ぶのだ。反ヤヌコービッチ派の野党・市民側には、そのような論理があったと思います。

 

かなり以前からウクライナの民主化運動にはEU旗が付き物になっていましたが、2013年暮れから2014年にかけてのユーロマイダンでもそれが目立っていました。

 

実際、2014年2月にヤヌコービッチ政権が崩壊したことは、欧州統合路線の勝利を意味しました。その後に成立した暫定政権、ポロシェンコ政権は、必然の流れとして、EUと連合協定を結び、EUとの一体化を軸とした国造りを目指すことになります。

 

それに対し、2020年のベラルーシ。筆者がデモの様子を観察していて気付いたのは、EUの旗を振っているような人がほとんどいない事実です。

 

ベラルーシでも過去の民主化デモではEU旗が掲げられたりしたのですが、今回に限ってはそれが見られません。市民が振る旗は、白赤白の民族主義的な国旗(1995年にルカシェンコによって廃止されてしまったもの)に、ほぼ限られています。

 

これが意味するのは、2020年のベラルーシで問われているのは、あくまでもルカシェンコ体制存続の是非であり、「EUか、ロシアか」という東西地政学的な含意はきわめて希薄であるということです。

 

もちろん、反ルカシェンコ運動参加者の中には、ヨーロッパの一員としてのベラルーシの未来を思い描いている人も少なくないでしょう。

 

しかし、現時点でそれを前面に打ち出すと、戦いの焦点がぼやけてしまい、路線対立が生じる恐れもあります。今はとにかく、なるべく広範な国民を巻き込んで、ルカシェンコ体制に終止符を打つことが肝要。将来的なことは、事を成し遂げた後に考えよう。そのような意識が支配的なのではないかと思います。

 

今回の選挙でルカシェンコに挑戦しようとしたチハノフスカヤ(およびその夫のチハノフスキー)、ババリコ、ツェプカロらの政策を見ても、「EUか、ロシアか」という東西選択に関する明確な立場は示されていません。

 

チハノフスカヤの選挙公約で、「対外関係」の項目を見てみたら、具体的な主張としては「ベラルーシは独立国である」という点しかなく、驚かされました。

 

確かに、上記3名は、過度に政治化されたロシアとの連合国家条約は見直しが必要であるといった発言はしていますが、ロシアと決別してEUとの関係構築に向かうといった立場は特に示していません。

 

したがって、ベラルーシの反ルカシェンコ運動の結果、旧体制が崩れても、それが直ちに欧州統合路線の勝利を意味するわけではないのです。この点はウクライナとの大きな違いです。ロシアがポスト・ルカシェンコの新政権と良好な関係を築くことも、可能なはずです。

 

そう考えると、クレムリンがチハノフスカヤを欧米の息のかかった存在という色眼鏡で見たり、ベラルーシの民意を無視して何やら工作に動こうとしたりしていることは、ロシアの国益という観点から見てもどうなのかなと思います。

 

せっかく、現時点でベラルーシには強い反ロシア感情はないのに、プーチンは盛大に墓穴を掘りに行っているように思えてなりません。

 

ただし、現時点でベラルーシの民主化運動で欧州統合路線が主たる要因ではないとはいえ、それが勝利したあかつきには、自然な成り行きとして、親EU的な方向性が強まるということは、大いに考えられます。そして、プーチンがベラルーシ国民の想いを踏みにじるような行動に出たら、その流れはさらに決定的になるでしょう。【8月25日 GLOBE+】

*********************

 

【経済的にもロシア・ベラルーシは不可分の関係 野党指導者も認識】

現在、反ロシア感情は表面化しておらず、「ロシアがポスト・ルカシェンコの新政権と良好な関係を築くことも、可能なはず」・・・・更に言えば、経済的にロシアとベラルーシは不可分密接な関係にあり、ロシアからの分離が現実的に可能だとはベラルーシ国民の多く、反ルカシェンコ勢力の野党指導者も考えていません。

 

****苦境ベラルーシ、ロシアの呪縛逃れられず****

仮に大統領が失脚してもロシアの影響力が強まるだけとの懸念も

 

ベラルーシはアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の長期政権の下で経済的に困窮し、ロシアへの依存を強いられてきた。総じてソ連時代の過去にとらわれており、今後も長年にわたってロシアとの関係に縛られ続けることになりそうだ。

 

26年間にわたってベラルーシ大統領の座にあり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と緊密な関係にあるルカシェンコ氏は、経済の大半を国家が支配する体制の中、自身の強力な統制の下でトップダウン型の政治・経済システムを運営してきた。

 

ルカシェンコ氏に対する大衆の怒りは、今や大規模な抗議行動を引き起こすほど沸騰している。しかし、経済が弱体化しているベラルーシの現状では、仮に大統領が失脚しても、ロシアの影響力が強まるだけではないかと懸念する者もいる。

 

ミンスクのシンクタンク、ベロクのアカデミックディレクターを務めるカテリーナ・ボルヌコバ氏は「ロシアはこれまで常に最後の貸し手だった。ベラルーシには他に頼るところがないため、今回もロシアの言いなりにならざるを得ないだろう」と語った。

 

他の大半の旧ソ連圏諸国と比べ、ベラルーシは過去と決別するペースが遅い。一部の重要産業は国が管理している。2018年の世界銀行の報告によれば、国営企業が国内総生産(GDP)の50%、鉱工業生産の75%を占めている。

 

1カ月当たりの平均賃金は約400ドル(約4万2000円)で、ポーランドやリトアニアなど近隣諸国の水準を大きく下回っている。

 

今月の大統領選挙で勝利を宣言したルカシェンコ氏に対し、何十万人もの市民が街頭で抗議行動を繰り広げたが、彼らの怒りはこうした経済的苦境によって強められている。批判勢力によれば、今回だけでなくこれまでの多くの選挙も不正にまみれていたという。

 

ロシアがベラルーシの経済において果たす役割は大きい。ベラルーシの昨年の輸出の42%はロシア向けだった。その大半は農産物とトラックだ。ベラルーシは天然ガスの100%と石油の大半をエネルギーが豊富なロシアから得ている。

 

ロシアは長年、関税および安全保障に関する両国間の合意の拡大を試みてきた。両国はロシアが「連合国家」と呼ぶ、より緊密な政治的統合に向けて取り組んでいるが、ベラルーシが完全に吸収されることにルカシェンコ氏が抵抗していることから、交渉は停滞している。

 

現在の混乱により、ベラルーシの外国資金へのアクセスはおおむね絶たれている。ベラルーシ・ルーブルは対米ドルで過去最安値の水準に下落。債務のおよそ90%が外貨建てであるため、返済がより困難になっている。

 

ベラルーシ国営通信社ベルタ(BELTA)の報道によると、ルカシェンコ氏は27日、同国にとって最大の債権国であるロシアとの間で10億ドルの債務の借り換えについて政府が交渉中であることを明らかにした。

 

影響力を強めるチャンスだと感じているロシア政府は、この要請について協議中だと述べた。プーチン氏は今回の事態に介入しないよう欧州諸国に警告したほか、ベラルーシ政府が崩壊の危機にひんした場合に備え、支援するための特別な治安部隊を招集した。

 

ロシアは長年、米カンザス州ほどの面積のベラルーシを、自国と西側諸国との間の重要な緩衝地域だとみなし、ロシア政府が制御下に置かなくてはならない地域だと考えてきた。ナポレオンもヒトラーも、ベラルーシからロシアの侵略を試みた。

 

ベラルーシは、ロシア産の天然ガスや石油を同国最大のエネルギー市場である欧州に運ぶ主要な輸送ルートの1つになっている。ベラルーシの肥沃(ひよく)な平野は、穀物の重要な供給源だ。

 

プーチン氏は27日、テレビのインタビューで、ロシアの農産物輸入のほぼ90%はベラルーシからのものだと指摘し、「そこで起きていることにわれわれは無関心ではない」と述べた。

 

ルカシェンコ政権は市街での抗議デモ参加者に対し、貿易・融資の両面でロシアからの経済支援を失うリスクを冒すような行き過ぎた行動をとらないよう警告している。

 

 

ルカシェンコ氏の側近で金融・信用供与関係を担当するバレリー・ベルスキー氏は先週、国営ベルタ通信に対し、「ロシアとの協力によってGDPの50%超が形成されていることを考慮すると、そのうちのほぼ半分が直ちにわが国のバランスシートから抜け落ちることになるだろう」と述べ、「生活水準も少なくともほぼ同じ比率だけ低下するだろう」と付け加えた。

 

政治アナリストらによれば、ロシアの影響力の大きさからみて、ベラルーシでいかなる新政権ができても2014年のウクライナのように西側に過度に傾斜する公算は小さい。

 

8月9日の大統領選で反政権派候補だったスベトラーナ・チハノフスカヤ氏は、抗議は反ロシアを意味するものではないとし、この危機はベラルーシ国民が解決すべきものであると繰り返し訴えている。

 

元官僚で現在は反政権勢力の「国家調整評議会」のメンバーであるパベル・ラトゥシュコ氏は先週、ミンスクで記者団に対し、「ロシアと最良の関係を持つことは、極めて現実主義的な対応だ」と述べた。また、「ベラルーシとロシアの間に壁を作る」余裕のある政治家はいないとした。【8月31日 WSJ】

*******************

 

【ロシアはルカシェンコ支持を明確化 そのロシアの後ろ盾で強硬姿勢に転じたルカシェンコ大統領】

上記のような状況を考えると、ロシアとしては別に厄介者のルカシェンコ大統領を支えなくても、ルカシェンコを切り捨てて、他の親ロシア指導者を選択するという道もあったように思うのですが、現実にはプーチン政権が、欧州の影響力行使を強くけん制しつつ、ルカシェンコ支持を明確に打だす流れになっているのは報道のとおり。

 

やはり、民意で生まれる新政権の不確実性が怖いのか。なんだかんだあっても、プーチン政権としてはルカシェンコ大統領の強権支配体制は安心できるのでしょう。そこらがロシア民主主義の限界でもあります。

 

あるいは、極東で続く反政府デモや野党指導者の毒殺未遂騒動などから、ベラルーシの政変がロシア国内に飛び火するのが怖いのか・・・

 

“プーチン氏、ベラルーシに治安部隊派遣も 混乱が「制御不能になれば」”【8月28日 BBC】

“露、ベラルーシ首脳会談へ 続く大規模デモ 「選挙は正当」と支援用意”【8月30日 産経】

 

新型コロナ対策でも、いち早く実用化したことで国際的に話題になっているロシア製ワクチンを、さっそくベラルーシに試験供与して、関係強化を図るようです。

 

****ベラルーシでロシア開発のワクチン投与、外国で初の試験****

 ロシアとベラルーシ両国は27日までに、ロシアが独自開発し世界で初めて承認した新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験をベラルーシ内で実施することで合意した。

 

このワクチンの外国での試験はベラルーシが初めて。3段階ある臨床試験のうちの最終試験となる。ただ、試験への参加は各個人の自発的な判断に委ねられる。(後略)【8月27日 CNN】

********************

 

ロシアの支持を得たことで、ルカシェンコ政権の抗議デモへの対応も強硬姿勢に転じています。

 

****強硬なベラルーシ政権、デモで140人拘束 露の後ろ盾背景か****

ルカシェンコ大統領の再選が発表された大統領選への抗議が続くベラルーシの治安当局は8月30日、首都ミンスクで同日起きたデモの参加者140人を拘束した。最近は拘束を控えてきた治安当局が再び圧力を強めた形。

 

隣国ロシアのプーチン大統領がルカシェンコ政権への支援を強める一方、デモ側を支持する欧米諸国が直接介入に否定的なことも政権側の強硬姿勢を後押しした可能性がある。

 

インタファクス通信によると、この日のデモには10万人以上が参加。9日の大統領選は不正だったとし、再選挙などを要求した。デモ隊の一部は武装した治安部隊が守る大統領官邸に接近した。

 

一方、ルカシェンコ政権は、自動小銃と防弾チョッキ姿の同氏の写真を配信し、デモ側を牽制(けんせい)した。同氏は再選挙やデモ側との対話を拒否している。

 

政権側はデモが発生した9日以降の数日間で6千人以上を拘束。数人の死者も出た。しかしその後、一定の融和姿勢に転じ、拘束者の大半を釈放するとともに拘束活動を控えていた。デモ弾圧への国際的な批判などが影響したとみられる。実際、23日に起きた同規模のデモでも一部が大統領官邸に近づいたが、政権側は拘束を行わなかった。

 

政権側が再び強硬姿勢に転じた背景には、ロシアの支持が得られたことがあるとみられる。

 

プーチン氏とルカシェンコ氏は30日に電話会談を行い、「数週間以内」にモスクワで会談を行うことで合意。これに先立ち、プーチン氏は露国営テレビのインタビューで「ロシアは選挙が合法的だったと承認する」と表明するとともに、デモが暴動などに発展した場合は「ルカシェンコ氏からの要請に基づき、ロシアの治安部隊を派遣する」とも述べていた。

 

ロシアは欧米圏との緩衝地帯として重要視するベラルーシの不安定化を懸念。同じ権威主義体制を取るベラルーシの混乱が、露国内の反体制勢力を勢いづかせる事態も警戒している。

 

一方、欧米側は直接的な介入に慎重だ。欧州連合(EU)は8月末、選挙不正やデモ弾圧に関与したベラルーシ高官約20人を対象にEU渡航禁止と資産凍結を行う制裁の導入で合意したが効果は限定的だとの見方が強い。

 

米国もデモを支持しつつも直接介入はしない方針。欧米側は自身の介入がロシアを刺激し、対抗的な軍事介入を招く事態を警戒しているとみられる。【8月31日 産経】

********************

 

“ベラルーシ、10万人超デモに強硬手段 軍装甲車も投入”【8月31日 朝日】

 

こうした強硬姿勢が国民の反発を強めて、混乱を一層拡大させ、政権崩壊に・・・ということになると、ルカシェンコ支持で動いたロシアもウクライナに続いて、もともと反ロシア感情の強くなかったベラルーシも失うという大きなリスクを負います。

 

【欧州の介入を警戒・けん制】

ルカシェンコ大統領は欧州の介入を警戒して、強くけん制しています。

 

****欧州が制裁なら輸送ルート遮断、ベラルーシ大統領が警告*****

大統領選の結果を巡り反政権デモが3週間続いているベラルーシのルカシェンコ大統領は28日、欧州が制裁を科せば、ベラルーシを経由する欧州への輸送ルートを遮断すると述べた。

 

ルカシェンコ氏は、欧州がベラルーシを通してロシア向けにモノを運ぶことを阻止するほか、ベラルーシが欧州連合(EU)の加盟国であるリトアニアの港を通して輸出している貨物を別の経路で輸送すると述べた。

 

ベラルーシを経由する物資は、リトアニアの鉄道と港を通る貨物量の3分の1近くを占める。ベラルーシはまた、欧州がロシアへの陸路輸送の主要経路。ロシア産原油を欧州へ運ぶパイプラインも通っている。

 

(中略)ルカシェンコ氏は抗議が西欧諸国の支持を受けていると主張し、北大西洋条約機構(NATO)が軍をベラルーシ国境に送り込んだと批判するが、NATOは否定している。

 

ルカシェンコ氏は軍の半分に対して戦闘準備に入るように指示したと表明。ロシアのプーチン大統領とは、西欧諸国の脅威にさらされた場合に両国の軍が団結することで合意したという。

 

隣国のリトアニアとポーランド、ラトビアは欧州に対して、ルカシェンコ氏に断固たる行動を取るよう要請。大統領選で2位だった反政権派のチハノフスカヤ氏は選挙後にリトアニアへ出国したが、同氏を受け入れたことでリトアニアはルカシェンコ大統領の怒りを買った。(中略)

 

西欧諸国は今のところ慎重に動いている。ベラルーシで始まったばかりの民主化運動を支持する一方、ロシアによる介入を懸念している。EU外相は27日、選挙の不正操作や抗議活動の取り締まりを巡り最大20人のベラルーシ人に制裁を科すことを協議した。【8月29日 ロイター】

********************

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドイツ  コロナ対応で復活するメルケル首相 極右・懐疑論者などは「反コロナ」デモ

2020-08-30 22:54:14 | 欧州情勢

(ドイツ・ベルリンで行われた新型コロナウイルス対策に反対する抗議デモで、国会議事堂前で独帝国軍旗に身を包む参加者(2020年8月29日撮影)【8月30日 AFP】)

 

【厳しい欧州の第2波】

日本の新型コロナ第2波は、第1波ほどの死者を出すことなくピークを越えたようですが、欧州では第2波が厳しい状況にあります。

 

“パリ全域“マスク義務化”仏一日6千人感染”【8月28日 日テレNEWS24】

 

****フランス、コロナ新規感染7379人 「指数関数的」増加****

フランスの保健当局は28日、同国で新型コロナウイルス感染者数が「指数関数的」に増加し、過去24時間で7000人以上の感染が確認されたと発表した。

 

仏保健省の保健総局は、「流行の進行の力は指数関数的だ」とし、仏本土で確認された新規感染者数は26日は5429人、27日は6111人、28日は7379人だったと明らかにした。

 

この数は、フランスでコロナ検査数が増やされた後では最多となった。同国では数日前に24時間の新規感染者数が4000人を突破したばかりで、感染者数はその後も急激に増え続けている。

 

DGSによると、28日に入院中の感染者は前日と同じ4535人で、うち387人が重症だという。

 

フランスではこれまでに新型コロナウイルスによって3万596人が死亡。パリでは、感染者数の増加に対応するため屋外でのマスク着用が義務付けられた。 【8月29日 AFP】

************************

 

****新型コロナ感染、一部地域で「制御不能」に スペイン****

スペインの公衆衛生の専門家は23日までに、同国の一部地域で新型コロナウイルスの感染拡大が「制御不能」の状態に陥っているとの危機感を示した。

 

公衆衛生の緊急事態に対応する組織の責任者であるフェルナンド・シモン氏が記者会見で、「勘違いはしないで欲しい。状況は良くない」と認めた。その上で「現段階では全国レベルでの制御不能ではなく、一部の特定の場所に限られる」と述べた。

 

スペインでは最近、新型コロナの感染が再拡大しており、新規感染者の大多数はマドリード、カタルーニャ両州で発生している。ただ、アンダルシア、カスティーリャ・イ・レオン、アラゴン各州でも激増している。

 

同氏は、感染事例の特徴や医療システムが受ける重圧などは州によって違いはあるが、「我々は重大な感染拡大の局面に遭遇している」とも述べた。

 

欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、スペインは現在、欧州諸国内で最高の感染率を示している。【8月23日 CNN】

********************

 

“スペイン、感染追跡に軍2千人 自治州支援、感染再拡大で”【8月26日 共同】

 

【ドイツでも増加傾向 メルケル首相の新型コロナ対応は高評価で“メルケル復活”】

ドイツでも感染者が増加し、4月頃の水準にもなっていますが、フランス・スペインと比べると制御された状況のようです。

 

****バス、電車内でマスクなし、罰金6300円超 ドイツ****

新型コロナウイルスの感染者が再び増えてきたのを受け、ドイツのメルケル首相は27日、6月半ば以来となる国内16州の州首相とのテレビ会議を開き、追加策を議論した。

 

主にバスや電車内など、他人との距離が十分取れない公共の場でマスクを着けていなかった場合、ほぼ全域で、少なくとも50ユーロ(約6300円)の罰金を科すことにした。

 

マスク不着用への対応は、各州で異なっていた。感染者数が多い南部バイエルン州では、最大500ユーロ(約6万3千円)の罰金を科す一方、比較的少ない東部ザクセンアンハルト州では罰金がなかった。今回、同州以外の15州で最低50ユーロの罰金を科すことにした。

 

ドイツの新規感染者数は最近、1日1500人前後と、4月下旬並みに戻っている。夏のバカンスの外国旅行者らもその一因とみられており、「リスク地域」から入国した人には、検査を義務づけている。

 

27日の会議後に記者会見したメルケル氏は「夏場の増加を非常に真剣に受け止めている」とし、大勢が集まるパーティーなどの個人的な催しも、必要性を慎重に検討するよう市民に求めた。会議では、コンサートなど大規模な催しを12月末までは中止することでも合意した。【8月28日 朝日】

********************

 

新型コロナ対応ではメルケル首相は国内的に国民から高い評価を得ており、移民対応などで一時の支持率が低迷した状況から様変わりしています。

 

****また移民危機でも「同じ決断」独首相 コロナ対応に高い支持****

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は28日、5年前に多くの移民を国内に受け入れて物議を醸した政策について、後悔はなく、自分はまた同じ決断をするだろうとの考えを示した。新型コロナウイルス対策でメルケル氏は国民から高い支持を受け、勢いを得ている。

 

メルケル氏はベルリンで行った恒例の夏の記者会見で、ドイツに流入して来る移民に国境を開放し続けた2015年の政策に後悔はしていないかと質問され、「私は基本的に同じ決断をする」と明言した。

 

2015年から2016年にかけて、ドイツでは100万人を超える人が難民認定申請を行った。15年に及ぶメルケル氏の首相在任中でも特に重要な出来事だった。

 

この移民流入によって国内の分断は深まり、極右政党「ドイツのための選択肢」の台頭を招いてメルケル氏の支持率は低下した。

 

しかし、4期目の任期終了が迫る中、新型コロナウイルス対策で手腕を評価されたメルケル氏の人気は予想外に高まっている。

 

世論調査機関インフラテスト・ディマップの先日の世論調査では、71%がメルケル氏の仕事ぶりに「非常に満足している」または「満足している」と回答。一方、AfDはコロナ禍の中で支持率を下げている。

 

ドレスデン工科大学のハンス・フォアレンダー教授(政治学)は、「状況がこれほど急に変わり得るとは驚きだ」として、「一般的に、危機は責任者にとっては常に成功か失敗かの分かれ目となる」と指摘。有権者は、コロナ危機の最中にメルケル氏の「合理性と冷静さと自信」に引きつけられたのだろうと述べた。

 

フォアレンダー教授は、メルケル氏が新型ウイルスと闘うために行った抑制のきいた訴えが国民に良く受け入れられたのは、「権力をマッチョに誇示するのではなく、国民の気持ちに沿ったものだったから」だと指摘した。 【8月30日 AFP】

**********************

 

【一部には、マスク着用義務化・コロナ対応に反対するデモも】

まあ、「さすが」といったところですが、ただ、ドイツもメルケル首相の新型コロナ対応を評価する国民ばかりではありません。

 

ドイツやフランスでもマスクは「義務化」の方向にありますが、もともとマスク着用の習慣がなかった欧米ではマスクに対する根強い抵抗感があるようです。

 

****慣れないマスクにデモ 義務化のドイツで賛否 罰金導入も検討****

ドイツでは今春から新型コロナウイルス対策として全土でマスク着用が義務化されたが、慣れないマスクへの反対の声が上がっている。

 

多くの国民は義務に従うが、一部は義務化を個人の自由の侵害と見なしたり、一貫性のない政府の方針に不信感を抱いたりしている。

 

「マスク着用義務の代わりに考える義務を!」。8月上旬、ベルリン中心部では約1万7000人(警察発表)がプラカードを掲げ、政府の新型コロナ対策に抗議する大規模なデモが実施された。

 

参加者の多くはマスクを着用せずに行進を続けた。これに対しデマー政府副報道官は「デモ参加者の行動はまったく正当化されない。デモの自由につけ込んでいる」と厳しく批判した。

 

他の欧州の国々と同様に、ドイツでは新型コロナの感染拡大の前にマスク着用の習慣がなかった。政府の感染症研究機関の国立ロベルト・コッホ研究所も感染拡大当初は、「マスクには感染予防効果はない」として一部の患者にのみ推奨していた。

 

ところが4月に入って方針を変更し、自分が感染している場合に他人にうつさない効果があるとして推奨し始めた。

 

連邦各州が4月下旬以降、相次いでマスク着用を義務づけ、現在は全国の公共交通機関や店舗内で着用が求められている。

 

独カッセル大などの研究チームは6月、国内でのマスクの義務化が新型コロナの感染者を大幅に減少させたとする研究結果を発表した。

 

研究では4月初旬に義務化した東部の都市イエナと、人口構造や医療水準などが似ているが義務化しなかった複数の地域のデータを統合して比較。20日間で感染者の増加数はイエナで16人にとどまったが、義務化しなかった場合は62人と4倍近くに達した。

 

一方で、製薬業界のコンサル会社を経営するマルクス・ファイト氏は業界紙への寄稿で、手縫いなど医療用でないマスクが扱い方次第で感染を拡大させかねないと指摘。「日常で使うマスクの感染予防効果が不十分なことは科学的に明白だ。それを知っているから政治家もコッホ研究所も当初はマスク着用を勧めなかったはずだ」と、政府の方針転換に疑問を呈した。

 

ドイツ国民の間ではマスクの息苦しさに不満を唱えたり、着用が義務づけられるエリアが拡大することへの反対も出たりしている。

 

4月初旬以降、減少傾向にあったドイツ国内の新規感染者数は、7月下旬から再び増加傾向を見せている。8月22日時点で、1日あたりの新規感染者は2034人(コッホ研)となり、4月下旬以来の高水準を記録した。

 

連邦政府は「第2波」の到来を防ぐため、各州でばらつきがあるマスク着用義務の違反者に対する罰則として、全国一律の罰金を導入することも検討している。【8月25日 毎日】

***********************

 

29日にはベルリンで大規模デモも予定されていましたが、警察がこれを中止させる騒動にもなっています。

 

****独警察、大規模「反コロナ」デモ排除 対人距離守られず****

ドイツの警察当局は29日、首都ベルリンで新型コロナウイルスの懐疑論者ら約1万8000人が参加したコロナ対策への抗議デモについて、多くの人がソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)措置を守らなかったとして中止させた。

 

ベルリン市当局はこれに先駆け、推定2万2000人のデモ参加者らが1.5メートルの対人距離を維持せず、マスク着用義務も守らないと懸念し、デモ開催を認めないとの決定を下していた。

 

デモの禁止を受け、主催者やその支持者らから批判が噴出。ソーシャルメディア上では何としてもデモを行うとした怒りの投稿が寄せられ、暴動を呼び掛ける声も上がった。

 

ベルリン行政裁判所はデモ前日、主催者がソーシャル・ディスタンシング措置を「故意に無視」し公衆衛生を危険にさらす兆候はみられないとして、デモ実施を認めた。

 

しかし、同市の名所ブランデンブルク門でグリニッジ標準時午前9時(日本時間同日午後6時)にデモが始まるとすぐに、警察の命令が出され中止を余儀なくされた。

 

ベルリン警察は、デモ参加者が新型ウイルスの安全規制を守らなかった場合、「即座に」参加者を排除すると警告していた。

 

警察は、「何度も要請したにもかかわらず、多く(のデモ参加者)が最低限の対人距離を守っていなかった」とし、「集会を解散させる以外に方法はない」と発表した。

 

これを受け、デモ隊は極右支持者らがよく使用する「抵抗」「私たちは国民だ」とのスローガンを叫び、ドイツの国歌を歌った。 【8月30日 AFP】

*********************

 

【「反コロナ」デモ参加者は、極右勢力や「陰謀論」支持者】

マスク着用やソーシャルディスタンスに対する不満だけでなく、「新型ウイルスはでっち上げだ」との「陰謀論」も叫ばれているようで、要するにAfDなどに向かった極右勢力がメルケル体制復活への不満を、マスクやコロナ対応にぶつける形で噴出させているようにも見えます。

 

****ドイツで「反コロナ」デモ 新型ウイルス規制などに抗議、300人逮捕****

ドイツ・ベルリンで29日、政府の新型コロナウイルス対策に抗議する大規模デモがあり、警察は参加者約300人を逮捕した。

 

デモには約3万8000人が参加。ほとんどは平和的に、大通りを行進するなどした。

集会の1つでは約200人が逮捕された。当局は、右派の扇動者たちが石や瓶を投げていたとしている。

欧州の他都市でもこの日、新型ウイルスはでっち上げだと主張する同様のデモが開かれた。(中略)

 

どんな人たちが参加?

ベルリン市のアンドレアス・ガイゼル内相は、大通りのウンター・デン・リンデンにあるロシア大使館前に集まったデモ参加者らを「右派の過激派」とし、警官7人が負傷したと述べた。

国会議事堂前では、デモ参加者の一部が警戒線を突破。警官隊は催涙スプレーを使って追いやった。

 

ドイツのニュースサイト、ドイチェ・ウェレによると、デモの群衆の中には極右を支持する旗やTシャツが見られた。

 

戦勝記念塔の西側で開かれたデモは、シュツットガルトを基盤とした運動団体Querdenken 711(水平思考711)が主催した。同団体はフェイスブックで1万6000人以上の支持者がおり、暗号メッセージサービスを利用して連絡を取ることが多い。

 

同団体は、新型ウイルス関連の規制について、ドイツ憲法が規定する基本的権利や自由を侵害するもので、解除すべきだと主張。

 

8月1日にベルリンで開いた抗議デモには、極右主義者や、新型ウイルスの感染症COVID-19は存在しないと考える陰謀論者を含む数千人が参加した。

 

今回のベルリンの抗議行動には、反ワクチン運動を展開しているロバート・F・ケネディ・ジュニア氏も加わった。同氏は、米民主党の大統領候補に有力視され暗殺されたロバート・F・ケネディ氏の息子で、同じく暗殺されたジョン・F・ケネディ米大統領のおい。

 

オンラインに投稿されたデモの写真には、陰謀論キューアノン(QAnon)に関係した旗やスローガンが写っている。この陰謀論の主張には、ドナルド・トランプ米大統領が政府や企業、メディア内の悪魔を崇拝するエリート小児性加害者らにひそかに闘いを仕掛けているというものもある。

 

デモ参加者には親子連れや、ただ抗議したいと思った人の姿もあった。

ベルリン在住のステファン(43)と名乗る男性はAFP通信に、「極右主義者には同調しないが、基本的な自由を守るために来た」と述べた。

 

この日のデモに対抗するデモも開かれ、集会の1つには約100人が参加した。ドイツの放送局RBBは、参加者の一部が、「あなたたちはナチスやファシストと行進している」と大声を上げていたと伝えた。(後略)【8月30日 BBC】

*******************

 

極端なまでの「自由」の主張と同時に、温暖化議論でもみられたような一般的な「科学的見解」への反発、ときに「陰謀論」・・・とうのはアメリカでも同じです。

(8月14日ブログ“アメリカ マスク狂騒曲 「米国人としての責任だ」VS「米国人には自由が必要だ」”)

 

その「陰謀論」Qアノンとは・・・という話もしたかったのですが、長くなるので別機会に。

 

一方、日本は、マスク義務化しなくてもほぼ全員が着用・・・これを「民度の高さ」と評する向きもありますが、こうした現象をもたらしている「同調圧力」や「マスク警察」みたいなものというのは、それはそれで問題のように思えます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イスラム教国で多発する「名誉殺人」 宗教に「名誉殺人」を誘発、是認、隠蔽する側面も

2020-08-29 22:19:39 | イラン

(【5月29日 CNN】 駆け落ちしたことで、父親に首を切り落とされたイランの14歳少女ロミナ・アシュラフィさん)

 

【娘の首を切り落として禁固9年】

このブログでもときおり取り上げる「名誉殺人」という不似合いな言葉で呼ばれる、忌まわしい不名誉な単なる殺人。

 

****名誉殺人****

婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、「誤った」男性との結婚・駆け落ちなど自由恋愛をした女性、さらには、これを手伝った女性らを「家族名誉を汚す」ものと見なし、親族がその名誉を守るために私刑として殺害する風習のことである。

 

射殺、刺殺、石打ち、焼殺、窒息が多く、現代では人権や倫理的な客観から人道的問題としても議論される。(中略)

 

殺害被害者は基本的に女性側であり、男性の場合は同性愛者の場合である。「名誉の殺人」ともいう【ウィキペディア】

****************

 

この種の殺人はいつになっても後を絶ちませんが、最近話題になったのがイランの事件。

 

****け落ちした10代少女を父親が斬首、激しい非難の声 イラン****

イランで15歳年上の男性と駆け落ちした10代少女が父親に首を切られ殺害される事件が発生し、国内で激しい非難の声が上がっている。

 

ハッサン・ロウハニ大統領は27日の閣議で遺憾を表明し、同様の暴力事案に対応する法案を早急に通す意向を示した。

 

地元メディアによると、死亡したのはロミナ・アシュラフィさん。アシュラフィさんは21日、北部ギラン州ターレシュの自宅で就寝中に父親によって斬首されたとみられている。

 

男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件はイラン国内で広く報じられており、地元紙エブテカールは一面で「安全でない父親の家」という見出しで報じた。

 

報道によると父親が男性との結婚を許さなかったため、アシュラフィさんは家出。しかし、父親が警察に通報した後、アシュラフィさんは自宅に戻ったという。

 

またアシュラフィさんは当局に発見された際、自宅に戻れば命の危険があると訴えていたとイランメディアは伝えている。

 

ただ、一般の人々を最も憤慨させていることは、父親が寛大な刑罰に処される可能性が高いことだとエブテカールは指摘。父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり、同紙はイランの「家父長制度」における「慣行化された暴力」の問題を強く批判している。

 

ツイッターではアシュラフィさんの名前を表すペルシャ語のハッシュタグが登場し、事件を非難する投稿が多く寄せられている。
 
イランの法律では、女性が結婚できる年齢は13歳からと定められている。 【5月29日 AFP】AFPBB News

************************

 

こうした事件が大きく報道されたのは“たまたま”に過ぎず、世界的には年間5千件、あるいは、それ以上が起きているとも言われています。事件として扱われることなく、闇から闇に葬られるものも多数あると想像されます。

 

事件そのものも忌まわしいものですが、上記記事にもあるように、こうした事件を一定に「許容」する社会的風潮あるいは宗教的判断があるというところが、やりきれません。“国内で激しい非難の声が上がっている”のは救いでもありますが。

 

この事件で下された判決は、禁固9年。

 

私の理解では“不当に軽すぎる判決”に思えますが、“父親は3〜10年の禁錮刑を言い渡される見通しだが、処罰が著しく軽減される可能性もあり”ということでは、実際の判決は想定されたもののなかでは比較的重い方だったというべきでしょうか。

 

****駆け落ちした14歳の娘を斬首、父親に禁錮9年の判決 イラン****

イランで、10代の娘を就寝中に斬首した父親が、禁錮9年の判決を言い渡された。地元メディアが28日、報じた。ただ殺害された娘の母親は、死刑を望んでいるという。

 

男性が親族の女性を殺害するいわゆる「名誉殺人」とみられるこの事件に対しては、国民の間で激しい怒りが広がり、メディアは「制度化された暴力」だとして非難を繰り広げた。

 

メディアの報道によると、14歳のロミナ・アシュラフィさんは北部ギラン州ターレシュの自宅で頭部を切り落とされた。

 

少女の母親ラナ・ダシュティさんはイラン労働通信に対し、「司法当局が『特別な対応』を主張したにもかかわらず、判決は私と家族にとって恐ろしいものになった」とコメント。「夫には二度と私たちの村に戻ってきてほしくない」とし、判決を見直して「死刑」にするよう訴えている。

 

ダシュティさんは他の家族の命を危惧しているという。

 

報道によると、ロミナさんは15歳年上の男性との結婚を父親が許さなかったために駆け落ちした。だが当局に保護され、自宅に戻れば命の危険があると懇願したにもかかわらず、自宅に連れ戻されていた。

 

現地メディアによると、ロミナさんが結婚を望んでいた男性は禁錮2年の判決を言い渡された。だが罪状の詳細は明らかになっていない。(後略)【8月29日 AFP】AFPBB News

************************

 

イランでは同性愛は死刑を含む刑罰で罰せられるのに対し、娘の首を切り落として禁固9年というのは・・・・。

文化・宗教の違いといってしまえば、それまでですが。

 

【地域的因習「名誉殺人」を誘発、是認、隠蔽する側面があるイスラム教】

この「名誉殺人」はイスラム教国に多くみられますが、インドなど他の宗教国家でも見られ、宗教にもとづくものではなく、地域的因習に依拠するものと言われています。

 

**********************

アムネスティ・インターナショナルは、名誉殺人が行われている国および地域として、バングラデシュトルコヨルダンパキスタンウガンダモロッコアフガニスタンイエメンレバノンエジプトヨルダン川西岸ガザ地区イスラエルインドエクアドルブラジルイタリアスウェーデンイギリスを挙げている。

 

名誉殺人は、主に中東イスラーム文化圏を中心に行われているため、イスラーム教と関連した風習と見なされることが多い。

 

しかし、イスラーム教徒以外の間でも行われており、実際はイスラーム教とは無関係であり、もっぱら地域の因習によるものであるとされる。【ウィキペディア】

********************

 

上記で欧州の国家があがっているのは、中東などからの移民がその風習を持ち込んだことによるものです。

 

“イスラーム教とは無関係”とは言いながらも、イスラム教国以外で目立つのはインドぐらいという現実を見ると、こうした地域的因習をイスラム教が「容認」している面も関係しているように思われます。

 

****首、毒殺......イランで続発する「名誉殺人」という不名誉****

<勧められた結婚の拒否、性的暴行被害のほか、運動することや高等教育・キャリアを望む姿勢も「名誉を汚す行動」に含まれる>

 

年上の「彼氏」と駆け落ちした14歳の少女が家に連れ戻されたあと父親に鎌で斬首され死亡、夫以外の男と関係したと疑われた18歳の妊婦が父親と兄弟に毒を飲まされ死亡、夫以外の男と逃走した19歳の女性が夫といとこによって斬首され死亡、帰宅が遅れた22 歳の女性が父親に鉄の棒で殴られて死亡......。

 

これらはいずれも、2カ月ほどの間にイランで発生したいわゆる「名誉殺人」である。

 

名誉殺人は家族の名誉の回復を目的として実行される殺人だ。家族内の女性が「名誉を汚す行動」をしたり、そう噂されたりした場合に、当該女性を殺害することで名誉を回復させることができる、と信じられている。

 

 根源にあるのは、名誉が慎み深さや「処女性」と結び付いており、家族の名誉は家族内の女性の行動に懸かっているという考えだ。

 

女性の家族の行動を管理するのは男性の責任だとされる。この考えを共有する人々の中で、名誉殺人は今も容認されている。

 

「名誉を汚す行動」には、勧められた結婚を拒否する、異性と交流する、性的暴行の被害を受けるなどのほか、自転車に乗る、運動をするといった「処女性」を失う可能性のある行動や、「西洋的過ぎる」こと、つまり両親に従順でない、頭髪を隠すヒジャーブを着用しない、西洋的な服装をする、高等教育やキャリアを望む、異教徒の友人や彼氏を持つことなども含まれる。

 

 国連は2000年、世界で1年間に約5000件の名誉殺人が発生しているという推計を発表した。しかし名誉殺人は自殺として処理されたり隠蔽されることも多く、正確な数は不明だ。

 

それはアジアや中東だけでなく、欧米でも発生している。 一般に名誉殺人はイスラム教とは無関係と説明される。

 

しかしニューヨーク市立大学スタテンアイランド校のフィリス・チェスラー名誉教授は、名誉殺人の加害者の91%がイスラム教徒だという調査結果に立脚し、名誉殺人は主にイスラム教徒のイスラム教徒に対する犯罪だという論文を発表した。

 

また国際法学者のハンナ・イルファンや犯罪学者のリンゼイ・ディバースは、イスラム教には名誉殺人を誘発、是認、隠蔽する側面があると指摘する。

 

サウジアラビアの法学者サーレフ・マガムシー師は2014年、「娘や息子を殺した父は殺される(死刑に処される)か?」という質問に対し、「父は息子のために殺されない」という預言者ムハンマドの言葉を典拠とし、「多くの法学者は、父は殺されないとしている」と回答した。

 

<死刑判決は下されないと知っていた父親>

イスラム法は殺人について、被害者親族が犯人に対して同害報復刑か賠償金を決める権利を有すると定めるが、スンニ派4法学派のうち3派は父が娘を殺しても同害報復刑の対象にはならないとし、1派のみ母親がそれを求める権利を認める。

 

イラン・イスラム刑法も、娘を殺した罪で有罪となった父に対し、最長で禁錮10年の刑を科するにとどめる。

 

ニューヨーク・タイムズ紙は既出の14歳の娘を殺した父親について、あらかじめ法の専門家に相談し、娘を殺しても死刑判決が下されることはないと知っていたと報じた。

 

ポンペオ米国務長官は7月1日の会見で、イランで続発する名誉殺人に言及し、「イランの腐敗した指導者たちは40年間こうした殺人を容認し、女性たちの人間性を奪ってきた」と批判した。

 

しかしこれはイランだけの問題ではない。 必要とされるのは名誉殺人を厳しく罰する法の整備と、家族の名誉のために女性が殺されることはあってはならないと教える教育である。女性の人権の確保は、真の民主主義実現には絶対不可欠だ。【7月31日 飯山陽氏(イスラム思想研究者)Newsweek】

**************************

 

【イスラム教国の中でもひときわ多発する、中央政府の統制力が弱いパキスタン】

「名誉殺人」が横行するイスラム教国にあっても、ひときわ多発(年間1000件、あるいは、それ以上)するのがパキスタンで、上記イランの事件と前後して下記の事件が報じられています。

 

****また「名誉殺人」。男性と動画に映ったパキスタンの10代少女2人が、家族によって殺害される****

パキスタンでは今でも、“名誉”殺人で女性たちが犠牲になっています

 

パキスタン北西部のワジリスタンで、男性と一緒に動画にうつっていた10代の少女2人が、家族に殺害された。

パキスタンの警察は、殺人と証拠を隠した容疑で少女の父と親戚を逮捕したと発表

家族や親戚による「名誉殺人」として捜査を進めている。

 

■動画がきっかけで殺された

事件は5月14日に、北ワジリスタンと南ワジリスタンの境にある村で起きた、とパキスタントゥデイは伝える。

警察の報告書によると、殺されたのは16歳と18歳の少女で、家族の名誉のためという理由で親戚に射殺され、その後に埋められたという。

 

 2人がうつっていた動画は、1年前に携帯電話で撮影されたものと考えられているが、最近になってソーシャルメディアに投稿されたという。

 

動画には男が3人の少女と一緒にいる様子がうつっており、そのうちの2人に男がキスした、とBBCは伝える。

3人目の少女は身を隠していると考えられおり、警察は彼女を守るために居場所を探している。

 

少女にキスした男と動画をアップロードした男の友人も逮捕したと警察は発表したが、殺人を実行した犯人はまだ捕まっていない。

 

■法律ができた後も続く、名誉殺人

名誉殺人は、家族に“不名誉”がもたらされたと主張する家族や親戚による殺人で、ほとんどの場合、被害者は女性だ。

 

パキスタンでは、2013年にダンスを踊っている動画見た親戚によって、15歳と16歳の少女が殺された

2016年には、SNSに自撮り写真を投稿したモデルの女性が、兄によって殺害された

 

この事件の後、名誉殺人を厳罰化する法案が採決された。しかしその後も名誉殺人は減っていない、とパキスタン人権委員会(HRCP)は訴える。

今回の事件の後、名誉殺人に厳しく対処するよう求める声明をHRCPは発表した。

 

「2016年に法律が採択されて以降、名誉殺人の件数と、それを社会が許容するケースが減ったという証拠は、ほとんどありません」

 

「女性の体と行動には名誉が伴う、という古くて死を招く考え方は、今でもパキスタン全体に広がっています」

 

「性差別を簡単に許容する家父長制、そして“名誉”殺人を正当化し、承認し、実行する家父長制を、どちらも決して許容するべきではありません」

 

HRCPはまた、今回の殺人事件をソーシャルメディアで批判している人たちに対して脅迫や揶揄が起きていることにも懸念を示しており、名誉殺人の支持者を容認しないよう国に強く求めている。【5月20日 安田 聡子氏 HUFFPOST】 

*********************

 

“アフガニスタンと国境を接する北ワジリスタンおよび南ワジリスタンの部族地域は保守性が極めて強い。アムネスティ・インターナショナルによると、女性だけでの外出は認められないこともあり、女性がどれだけ家族に対して従順であるかによって一家の社会的立場が判定される。

 

2019年のヒューマン・ライツ・ウォッチの報告によれば、パキスタンでは年間推計1000件の名誉殺人事件が発生している。しかし公式統計はなく、報告されないままだったり、家族が自殺や自然死として届け出ることもある。”【5月19日 CNN】

 

パキスタンで多発する理由としては、“パキスタンは中央政府の統制力が弱く、地方においてはその土地の部族の力が伝統的に強いため、部族の慣習法が国の法律に先立つ状態となっているためである”【ウィキペディア】とも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国外交が活路を求める欧州とアフリカ  

2020-08-28 23:26:16 | 中国

(2019年4月、北京で開かれた一帯一路国際フォーラムで、各国首脳とともに記念撮影に応じる中国の習近平主席【8月20日 GLOBE+】)

 

【欧州との関係強化狙うも、国民レベルの好感度には限界も】

前日ブログでもとりあげた米中対立が厳しさを増し、アメリカ・トランプ政権が中国包囲網を形成しようとするなかで、当然ながら中国も対抗策を講じていますが、そのひとつが欧州との関係強化です。

 

****中国、米の「対中包囲網」切り崩しへ 欧州との関係強化狙う****

中国国防省の呉謙報道官は27日の記者会見で、米中関係について「国交樹立以来の非常に厳しい複雑な局面にある」と言明した上で、「米側が絶えず挑発して問題を引き起こし、中国の主権と安全を深刻に損なっている」と批判した。米中両軍が意思疎通を保つことは非常に重要だとも指摘した。

 

南シナ海問題などで米国との対立が深まる中で、中国は欧州への働きかけを進めている。新型コロナウイルスの流行が抑制されてから初の外国訪問として訪欧中の王毅(おう・き)国務委員兼外相は経済面での協力を強調。経済関係を“武器”にして、米国が構築を目指す「対中包囲網」の切り崩しを図る考えだ。

 

王氏は現地時間26日、オランダのブロック外相とハーグで会談。中国側の発表によると、王氏は「中国が対外開放を拡大するチャンスをオランダ企業がつかむことを歓迎する」と強調した。農業や航空宇宙、バイオ医薬などの分野で協力を深めることも呼び掛けた。

 

一方で王氏は「オランダが、公平・公正で開かれた、差別のないビジネス環境を中国企業に提供することを望む」とクギを刺した。米国が呼び掛ける、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)などの排除を意識したとみられる。

 

同日に王氏と会談したオランダのルッテ首相は、米中の「デカップリング(切り離し)」について「いずれにとっても利益がなく、全く実現不可能だ」と中国の立場に同調している。【8月27日 産経】

********************

 

王毅外相は25日にはイタリア外相と会談し、関係強化を確認しています。

 

****中国・イタリア外相が会談、より緊密な関係構築を確認****

イタリアのディマイオ外相は25日、欧州歴訪を開始した中国の王毅国務委員兼外相と会談し、両国はより緊密な関係を築く必要があると述べた。中国政府に警鐘を鳴らす米国とイタリアとの関係が悪化する可能性がある。

 

ディマイオ外相は「非常に実りのある会談だった」とし、「経済・産業の観点から(われわれの)戦略的パートナーシップを再開する」方法について王外相と協議したと語った。

 

また、会談で香港を巡る問題を取り上げたとし、香港市民の権利と自由と尊重しなければならないとした。

 

中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に関する言及はなかった。

 

一方、王外相は記者団に対し、新型コロナウイルス対応での協力深化や関係強化は欧州連合(EU)と中国にとって重要と指摘。米政府との関係について、冷戦は望まないとの見方を示した。【8月26日 ロイター】

************************

 

中国国内の人権問題、台湾・香港・ウイグル・南シナ海などにおける問題は、欧州にとってはやはり「遠い」地域の話として切実さがあまり感じられないのかも。

 

そうしたことよりは、巨大な市場、膨大なチャイナマネーという面が前面に出てくるのかも。

 

中国も、そうした国家レベルの経済関係にとどまらず、国民レベルの中国に対するイメージ全般の改善も狙って、いわゆる「マスク外交」も展開しています。

 

ただ、そうした中国外交の働きかけにもかかわらず、国民感情レベルでみると、欧州においても中国のイメージはあまりよくないようです。

 

やはり、欧米において中国が信頼を得るためには、中国自身の言動・価値観を是正しないと・・・という根本的な問題があるように思われます。

 

【アフリカでは高い好感度 アフリカ重視は中国の対外関係の行き詰まりの結果という側面も】

一方、中国が毛沢東時代から重視してきたのがアフリカ外交ですが、アフリカ諸国にあっては、中国のイメージ・好感度は欧米諸国におけるそれよりは高いものがあります。

 

****中国の「マスク外交」は功を奏したか アフリカ支援強化に見える中国外交の難路****

新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大を機に、国際社会には中国への不信と警戒心を強めて距離を置こうとしている国々と、反対に中国との相互依存関係を深めている国々があるように見える。

 

あくまで大雑把な分類に過ぎないが、前者の典型が欧米や豪州などの自由民主主義諸国であり、後者の典型がアフリカ諸国のように思われる。ここでは筆者が専門とするアフリカ諸国と中国のコロナ禍の関係に焦点を当ててみたい。

 

■地域で分かれる中国への感情

最初に一つの世論調査結果を見ていただきたい。米国のシンクタンク、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が新型コロナの感染拡大前の2019年5〜10月にかけて、世界の34カ国で中国に対する見方を尋ねた世論調査の結果である。

 

調査結果からは、中国に対する見方には、地域ごとに一定の傾向があることがうかがえる。中国に「否定的(Unfavorable)」な感情を抱いている人の割合は、北米、西欧、北欧、アジア太平洋の国々で高い傾向がある。

 

一方、中国に「好意的(Favorable)」な感情を抱いている人の割合はロシア、東欧、中東、アフリカ、中南米で高い傾向がある。アフリカ3カ国で中国に好意的な回答を寄せた人々は、南アが46%、ケニアが58%、ナイジェリアに至っては70%にも達する。

 

中国に「否定的」な回答が多い国々のうち、北米、西欧、北欧の国々は中国から地理的に遠く、中国との間に領土問題は存在しない。

 

しかし、これらの国々は自由、民主主義、法の支配などの価値観の点で中国とは相いれないだろう。また、アジア太平洋諸国は中国に地理的に近く、中国の高圧的外交と軍事的脅威を身近に感じ、国によっては中国との間に領土問題を抱えている。日本や豪州は、価値観の点でも中国とは相いれないだろう。

 

一方、中国に「好意的」な回答が多いロシア、東欧、中東、アフリカ、中南米の国々では、自由や民主主義といった価値が欧米諸国ほど明確に保障されてはいない。ロシアを除けばいずれの国々も中国から地理的に遠く、中国との間に領土問題は存在しない。そして多くの国々は、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に基づく中国マネーの投融資先である。

 

このように新型コロナ感染拡大以前の中国に対する国際世論は、欧米と周辺地域のアジア太平洋で厳しく、欧米を除く中国から遠い地域で寛容であった。

 

■150カ国以上に医療物資などを提供

では、そうした国際世論の傾向は、新型コロナ感染拡大を機にどう変わっただろうか。各国政府が感染対策に追われる中、中国が世界150カ国以上に医療物資などを提供する「マスク外交」を展開し、国際貢献をアピールしてきたことは周知の通りである。

 

しかし、次に見るいくつかの最新の世論調査結果は、欧米諸国においては中国の「マスク外交」が奏功せず、むしろ中国への不信と嫌悪感を高めたことを示している。

 

英国のトニー・ブレア・グローバル・チェンジ研究所(Tony Blair Institute for Global Change)が英米独仏の4カ国で6月4〜15日に実施した世論調査によると、中国を「悪い勢力」と見なす人の割合は英国60%、米国56%、ドイツ47%、フランス60%に達し、「良い勢力」と見なす人は英国3%、米国5%、ドイツ4%、フランス5%に過ぎなかった。「コロナ感染拡大下で中国に対する見方が悪化した」と回答した人は英国60%、米国54%、ドイツ46%、フランス55%に上った。

 

欧州外交評議会(ECFR)が4〜5月にEU加盟9カ国(デンマーク、フランス、スウェーデン、ドイツ、ポルトガル、スペイン、ポーランド、イタリア、ブルガリア)で実施した世論調査(7月20日発表)でも、「新型コロナ危機を通じて中国への見方が変わったか」との問いに、全体の48%が「悪化した」と答え、「良くなった」は12%にとどまった。国別にみると、9カ国のうち「悪化した」と「良くなった」が22%で拮抗したのは中国マネーによるインフラ開発が進む東欧のブルガリアのみで、残り8カ国はすべて「悪化した」が「良くなった」を上回っている。

 

豪州では、ローウィ研究所(Lowy Institute)が3月に実施した世論調査で、「国際社会で責任ある国として中国を信頼できるか」との質問への回答は「信頼できる」「ある程度信頼できる」を合わせて23%にとどまった。

 

2018年調査で「信頼できる」「ある程度信頼できる」が合わせて52%だったことと比べると、豪州での対中感情が急速に悪化したことが分かる。

 

また、中国が最近、香港の一国二制度を破壊した事実を踏まえれば、豪州以外のアジア太平洋諸国でも、対中世論が今後好転していく可能性は極めて低いだろう。

 

では、中国から地理的に離れ、一帯一路に基づく中国マネーがふんだんに注ぎ込まれている「中国に好意的な国々」の対中世論はコロナ禍を機にどう変わるだろうか。

 

残念ながら現時点では、アフリカや中南米の国々の対中世論に関する信頼に足る調査結果を筆者は見つけ出すことができない。しかし、少なくともアフリカ諸国に関する限り、欧米やアジア太平洋諸国の状況とは異なり、コロナ禍を機に対中世論が今後急激に悪化していくとは考えにくい。

 

中国によるアフリカ支援は単なる緊急医療支援にとどまらず、債務救済や新型コロナの中国産ワクチンの優先配布など多岐にわたっており、政治レベルの関係強化にも余念がないからだ。

 

■「友人」を求めて

そうした中国のアフリカに対する取り組みの象徴は、6月17日にオンラインで開催された中国・アフリカ緊急サミットであった。

 

会議にはアフリカ諸国の首脳のほか、エチオピア出身の世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長も出席し、習近平国家主席が基調演説で、医療チーム派遣や、アフリカ諸国の債務救済、ワクチンのアフリカへの優先的配布――などを約束した。

 

会議の締めくくりに、新型コロナへの中国の対応をアフリカ諸国が全面的に支持する共同声明が発表され、首脳レベルでの関係強化を確認した格好だ。

 

習主席は演説で、2020年末に満期を迎える中国政府の無利子貸し付けの返済免除と、G20の債務返済猶予イニシアチブに沿った返済猶予を約束した。

 

また、中国は会議の前に、IMFが4月13日に決定した「大災害抑制・救済基金(Catastrophe Containment and Relief Trust=CCRT)」を用いた債務救済スキームへの資金拠出も約束している。これは最貧国25カ国に6カ月分の債務返済資金を贈与するスキームで、25カ国のうち19カ国がアフリカの国々であることを考えると、実質的にはアフリカ支援の性格を有している。

 

こうしたアフリカに対する中国の手厚い支援を見ていると、表面的には貧しいアフリカの国々が中国の支援への依存を一方的に深めているようにも見えるが、それは中国・アフリカ関係の一面に過ぎないというのが筆者の考えである。

 

近隣国との領土問題等で見られる威圧的・脅迫的な外交姿勢、国内における厳しい言論弾圧、香港の一国二制度を形骸化させた抑圧的統治、メンツにこだわり過ちを認めない独善的で閉鎖的な体質――。こうした負の要素ゆえに、現在の中国は主要国(欧米)と周辺国(アジア太平洋)に「友人」がほとんどいない。先に見た数々の世論調査は、中国が直面するそうした現実を示している。

 

新型コロナ感染が拡大した3月以降、中国のメディアは、医療物資を満載した中国の貨物機がアフリカ各国の空港に到着し、人々が笑顔でこれを迎える様子を連日報道してきた。

 

あまりに稚拙で露骨なプロパガンダに筆者は失笑を禁じ得なかったが、欧米やアジア太平洋諸国の対中世論が厳しいものであることを踏まえると、中国がアフリカで援助が歓迎されている様子を大々的に喧伝し、国際場裏における「友人」の存在を示さなければならない状況に置かれていることがみえてくる。

 

アフリカ向け投資・援助の担い手である欧米諸国やインドといった国々が自国の感染対策に追われる中、国内の感染を封じ込めたかに見える中国政府は当面、積極的なアフリカ支援を続けていくだろう。

 

ただし、それには、中国の対外関係の行き詰まりの結果という意味がある。中国への不信と警戒が主要国と周辺国で強まれば強まるほど、中国は国際社会における親中派世論の形成のために、アフリカへの支援をますます強化していくと思われる。【8月20日 GLOBE+】

************************

 

中国が戦略的に重視してきたアフリカ諸国においても、下記記事が示すように、中国の進出に伴う地元社会との軋轢は多々報じられています。

 

そうした軋轢もひとつの側面ではありますが、これも下記記事にあるように(記事の趣旨はアフリカ諸国におけるミクロレベルでの「反中感情」をアピールするものですが)、中国が強行した香港国家安全維持法に関して、国連人権理事会において多数のアフリカ諸国が中国を支持しているという事実は、少なくともマクロレベルでは中国アフリカ外交が“奏功している”面を示しているように思われます。

 

また、ミクロレベルにおいても、前出ピュー・リサーチ・センター調査が示すように、アフリカ諸国における中国のイメージ・好感度はむしろ高いということの方が、日本や欧米がまず第一に認識すべき点だと思われます。

 

下記のような「軋轢」は、そのことを踏まえたうえでの「第2」の指摘でしょう。

 

****中国企業のせいで飲み水が汚染?アフリカ全土で「反中感情」が高まるウラ****

6月30日、国連人権理事会(スイス・ジュネーブ)で中国が強行した香港国家安全維持法について審議が行われ、国連加盟国の52か国が同法を支持する立場を表明した。

 

支持国はアジア、中東、欧州、中南米など各地域から満遍なくみられたが、特にアフリカが25か国とほぼ半数を占めた。  

 

アフリカ諸国で支持を表明したのは、エジプト、モロッコ、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、ジブチ、赤道ギニア、エリトリア、ガボン、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、レソト、モーリタニア、モザンビーク、ニジェール、シエラレオネ、ソマリア、南スーダン、スーダン、ザンビア、ジンバブエ、トーゴ、ブルンジ、コモロの25か国。“一帯一路”によって中国から多額の資金援助を受けている国が目立つ。

 

チャイナマネー頼りではあるが…

実際問題、チャイナマネーなくしてインフラ整備や近代化を進められない国々も多く、本審議の際も「支持しないと資金援助を停止される」とプレッシャーを感じた国もあったことだろう。  

 

だが、現地情勢から察するに、こういった国々からも“反一帯一路”の声が挙がっているようだ。  

 

まず、ザンビアの首都ルサカ郊外にあるマケニでは2020年5月、中国企業の中国人幹部3人が現地の従業員2人に殺害される事件が発生。具体的な犯行動機などは分かっていないが、中国人幹部から不当な雇用条件を押し付けられ、同従業員2人は以前から中国人幹部たちに強い不満を抱いていたという。  

 

国連によると、ザンビアには推定8万人の中国人が在住しているが、マケニでは多くの地元民が中国企業の不当な扱いに対して不満を募らせており、以前マケニの市長は中国企業に中国人のみの雇用は止めるべきだと主張した。

 

汚染で飲み水を得られない住民まで

中央アフリカ共和国では2019年7月、同国北西部ウハム・ペンデ州の町ボズムで金鉱採掘を行う中国企業が、採鉱によって河川が汚染されて生態系に大きな被害が出るだけでなく、住民の健康に害を及ぼす恐れがあるとして地元議会から撤退するよう要求された。  

 

地元議会はその前月、議会のメンバーが現地を調査した際、汚染によって死亡者が増加し、住民が飲み水を得られなくなっている状況を確認したという。同国でも中国企業への反発が強まっている。

 

多額の融資を受けた新空港が計画中止に

シエラレオネでは2018年2月、同国政府が新空港建設のため中国輸出入銀行から多額の融資を受け、2022年までに新空港建設を完成させる4億ドルもの契約を結んだが、翌月の大統領選で勝利したジュリアス・ビオ現大統領は急遽、その建設中止を発表した。  

 

同大統領は積み重なる債務に疑念を抱き、中国主導の新空港建設は経済的ではないと判断したとみられる。  

 

これらの3か国は、いずれも香港国家安全維持法を支持した側だ。しかし、国家としての判断と現地住民たちの声が異なることは決して珍しくなく、ミクロレベルで覗けば、さらに多く類似のケースがあることは想像に難くない。

 

自主性を求める“最後のフロンティア”

一方、2020年2月、ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は米国のシンクタンクで講演した際、アフリカが米中競争の主戦場になることに対して強い懸念を示し、アフリカ各国の選択する自由と権利を強調。両国に対してアフリカの自主性を尊重するよう求めた。  

 

アフリカ各国では今後急激な人口増加が見込まれ、経済的には“最後のフロンティア”とも呼ばれるが、中国の影響力拡大と米中の対立の深まりを警戒する声は日に日に高まっている。  

 

そして、アフリカではブルキナファソなどのサヘル地域やモザンビークを中心に、イスラム国やアルカイダを支持するイスラム過激派の活動が近年活発化している。  

 

今後、中国が現地政府や住民の声を聞かないやり方を続けていると、“中国権益”が同過激派の標的になるリスクも一層高まることだろう。【8月16日 biz SPA! フレッシュ】

********************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米中対立で緊張が高まる南シナ海 けん制・非難の応酬 

2020-08-27 23:24:12 | 国際情勢

(中国の対艦弾道ミサイル「東風21D」(いわゆる「空母キラー」)【8月27日 産経】)

 

【トランプ大統領 「中国とのビジネスはしなくてもいい」】

今後の覇権を争う米中対立の火種は香港、台湾、ウイグル、南シナ海、ファーウェイなど5G関連、さらにはTikTokと多々ありますが、トランプ政権は大統領選挙対策もあって、敢えてこの対立を先鋭化させたい姿勢です。

 

****国務長官、米中対立「冷戦以上」 東欧で演説、共産党批判を先鋭化****

東欧4カ国を歴訪中のポンペオ米国務長官は12日、チェコ上院で演説し、米中関係を冷戦期の米ソ対立と比較し「中国共産党の脅威に対抗するのはそれよりもずっと難しい」と述べ、中国の台頭に警鐘を鳴らした。

 

経済発展を支えつつ中国の民主化を促した歴代米政権の関与政策の転換を宣言した先月の演説に続き、対中批判を先鋭化させた。

 

ポンペオ氏は中国共産党体制について、冷戦期のソ連より「マルクス・レーニン主義」を引き継いでいると非難。米国をはじめとする民主主義国の経済、政治、社会に大きな影響力があるとして「今起きていることは新たな冷戦どころではない」と警告した。【8月13日 共同】

*******************

 

とは言え、米ソ冷戦と異なり、現在の米中は経済的に相互依存関係にある点が大きく異なりますが、これに関してもトランプ大統領は「分断」も辞さないとの発言。(実際に可能かどうかは別問題ですが)

 

****トランプ氏、中国との取引「しなくてもいい」 経済デカップリングに言及****

トランプ米大統領は、FOXニュースのインタビューで、米中経済のデカップリング(分断)の可能性に言及した。

23日に放送されるインタビューの抜粋によると、トランプ氏は、中国とのビジネスは「しなくてもいい」と述べ、その後、デカップリングに言及。「彼らがわれわれに適切に対応しなければ、私は確実にそれをするだろう」と語った。

米中は約1年半にわたって貿易戦争を繰り広げた後、今年1月に第1段階の通商合意に達したが、トランプ氏は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を巡り中国の対応を批判。第2段階の合意に向けた交渉の扉を閉ざしている。

ムニューシン米財務長官は6月、米企業が中国で公平に競争できない場合、米経済と中国経済のデカップリングが発生する恐れがあると述べている。【8月24日 ロイター】

*******************

 

【高まる南シナ海での緊張 中国「空母キラー」発射で米をけん制】

そうした米中の対立の中でも、最近目立つのが南シナ海における緊張の高まりです。

この問題は、他の対立要因と異なり、軍事行動を伴っており、意図せざる偶発事故の危険もあります。

 

“南シナ海、対立先鋭化 米…2度の空母演習「中国抑止」 中…同時期に訓練、戦闘機配備”【7月27日 朝日】

“米、中国の企業と個人に制裁 南シナ海の人工島造成で”【8月26日 AFP】

 

****中国、南シナ海に弾道ミサイル4発発射=「空母キラー」で米けん制か****

米軍高官は26日、中国軍が中国本土から南シナ海に向けて中距離弾道ミサイル4発を発射したと明らかにした。中国は25日に米軍偵察機が軍事演習区域を飛行したと非難したばかり。今回の発射には中国の南シナ海領有権主張を否定し、経済・軍事両面で対中圧力を強めるトランプ米政権をけん制する意図があるとみられる。

 

米軍高官によると、弾道ミサイルは南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島と海南島に挟まれた海域に着弾した。「ミサイルの種類については現在分析中」という。

 

香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(電子版)によると、中国軍は26日午前、内陸部の青海省から「東風26」(推定射程4000キロ)、沿岸部の浙江省から「東風21D」(同1500キロ)を南シナ海に向けて、それぞれ1発ずつ発射。

 

中国軍筋は「米軍が頻繁に軍用機や艦艇を南シナ海に派遣し、潜在的危機を高めていることに対する中国の返答だ」と警告した。【8月27日 時事】

********************

 

この「空母キラー」、アメリカが優位に立つ空母打撃群にとっても厄介な存在と言われています。

 

これに先立って、米軍のU2偵察機が中国軍の演習空域(中国北部の渤海および黄海)に侵入したと、中国国防省が異例の非難声明を出す事案もありました。

“中国、米偵察に過敏反応 「撃墜の危険あった」”【8月26日 産経】

 

****中国のミサイル発射、米空母排除の“切り札” 急がれる対中同盟網****

中国軍が26日に南シナ海へ中距離弾道ミサイルを発射したのは、米軍の空母打撃群を排除する“切り札”を誇示し、中国近海で軍事プレゼンスを急速に高めている米軍に警告する狙いがある。

 

中国人軍事研究者は発射されたとみられる対艦弾道ミサイルについて、米海軍への「接近阻止・領域拒否」戦略の基盤だと解説。「実力誇示は長期的な方針だ」としつつ、発射時期は「米軍偵察機が中国北部の海域に入ったことと関係あるだろう」と指摘する。(中略)

 

トランプ米大統領が共和党全国大会で大統領選候補に指名された直後にミサイルを発射したことで、トランプ政権に的を絞って牽制(けんせい)する動きとの観測もある。

 

一方、トランプ政権は、中国が弾道ミサイルで南シナ海や西太平洋に展開する米軍を攻撃する態勢を確立した場合、米軍の優位が一層低下しかねないとして危機感を強めるのは確実だ。

 

事態を受け、2026年までを目標とするグアムの米軍基地での弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の配備を前倒しするなどの対応を加速化させるとみられる。(後略)【8月27日 産経】

****************

 

【米「1インチたりとも譲歩せず」 中国「選挙目的」】

エスパー国防長官は26日、「中国が東シナ海や南シナ海でこれまで以上に挑発行為を展開してくるのは必至だ」と指摘。インド太平洋地域の同盟諸国との連携を強化していくと表明した。

 

インド太平洋地域の同盟諸国には当然日本も含まれます。

 

****米国防長官が中国批判演説、太平洋で「1インチたりとも譲歩せず」****

エスパー米国防長官は26日、米国は太平洋で指導役を担う責任があり、自らの政治体制がより良いと考えている他国には「1インチたりとも譲歩しない」と述べた。中国を念頭にした批判だ。

長官はハワイで演説し、たとえ約束を繰り返し反故にしている中国が積極的な軍近代化を追求するとしても、ルールに基づく国際秩序を中国に尊重させるため同国と協力することを望んでいると述べた。

また、中国は国際法順守の約束に従ってこなかったとしたほか、世界に力を誇示したいと考えていると付け加えた。

「CCP(中国共産党)のアジェンダを進めるため、人民解放軍は今世紀半ばまでに世界クラスの軍になろうと積極的な近代化計画を引き続き追求している」と指摘。「これは疑いようもなく、南シナ海、東シナ海、および中国政府が自国の利益に重要だとみなしている地域における人民解放軍の挑発的行為を伴うだろう」とした。

ただ、米国は中国抑止を目指す一方、「願わくば、国際ルールに基づいた秩序とより協調する路線に中国を戻すため、同国との協力を続けたい」と望んでいると述べた。

長官は、インド太平洋を「中国との大国競争」の中心地と表現。ただ、それはロシアとも一緒だと付け加え、中国のプレゼンスは今や世界に及んでおり、米国は世界で両国に対処できるようになる必要があるとした。

「米国は指導する責任がある。われわれは相当長い間、太平洋国家であり、インド太平洋国家だ」と指摘。「政府の形態、人権に対する見方、主権に対する見方、報道の自由・宗教の自由・集会の自由に対する見方、これらあらゆる事柄について、われわれの多くが共有しているものよりも自らのがより良いものだと考えている別の国には1インチたりともこの地域でわれわれが譲歩することはない」と述べた。(後略)【8月27日 ロイター】

***************

 

これに対し、中国はアメリカ・トランプ政権が選挙目的で「軍事的衝突すら起こそうとたくらんでいる」と批判。

 

****米大統領を非難=「選挙目的で衝突企図」―中国国防省****

中国国防省の呉謙報道官は27日の記者会見で、中国周辺で米軍が頻繁に活動していることに関して「米国の一部の政治屋は大統領選を前に自らの利益のために中米関係を破壊し、軍事的衝突すら起こそうとたくらんでいる」と述べ、名指しを避けながらもトランプ大統領らを非難した。

 

また、呉氏は、台湾の蔡英文政権と米国が連携を強めていることに対し、「いかなる米台の公式交流や軍事関係にも断固反対する」と強調した。中距離核戦力(INF)全廃条約の失効を受け米国が開発中のミサイルの配備先として日本が候補に挙がっていることについても「関係国が強行するなら、中国は断固報復する」と語った。【8月27日 時事】 

********************

 

他方、エスパー米国防長官は中国の強軍路線が米国や周辺国に脅威を与えていると主張、国際社会に対応を呼びかけています。

 

****強まる米中軍事摩擦 米「ソ連を研究したように備えよ」****

中国国防省は25日夜、中国軍が実弾演習のために設定した飛行禁止区域に米軍のU2偵察機が無断で立ち入り、訓練を妨害したとする非難声明を発表した。

 

一方、エスパー米国防長官は中国の強軍路線が米国や周辺国に脅威を与えていると主張、国際社会に対応を呼びかけた。米中対立が激しさを増すなか、軍同士の摩擦も目立ち始めている。(中略)

 

エスパー氏は24日、米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で「中国軍は国家ではなく、中国共産党に属している」と指摘。米国や同盟諸国の利益を損なう経済・外交政策を実現するために軍事力を高めているとし、「20世紀にソ連軍を研究・対応したように、世界は中国軍の動きに備えなければならない」と訴えた。

 

一方の中国軍も7月以降、南シナ海などで軍事演習を展開しており、現在も黄海に加え渤海、南シナ海で演習中だ。27日から東シナ海でも訓練を始める。

 

フランスの軍事専門サイトによると、中国は26日、内陸部の青海省、東部の浙江省から南シナ海に至る二つの空域に警戒情報を出した。「空母キラー」とされる弾道ミサイル「DF21D」などの発射訓練が実施された可能性がある。

 

南シナ海情勢を分析する中国のシンクタンクによると、米偵察機RC135が嘉手納基地から南シナ海へ向かい警戒にあたったという。

 

中国国防省は一連の訓練について、新型コロナウイルスの影響で6月までの訓練が滞っていたと強調し、「あくまで年度計画に基づくものだ」と説明。中国軍事筋は「米大統領選への牽制や米海軍が主催する環太平洋合同演習(リムパック)への対抗という見方は間違いだ」とする。

 

今月6日にエスパー氏と電話会談した魏鳳和国防相も「状況をエスカレートさせる危険な行動は避けてほしい」と呼びかけ、米国を挑発する意図はないとの姿勢を示したが、エスパー氏の寄稿は、中国が「防衛のため」とする強軍路線そのものを問題視する立場の表明ともいえ、双方の溝が深まる可能性がある。【8月27日 朝日】

*****************

 

【台湾・蔡英文総統 偶発的衝突を防ぐ対話の維持をアピール】

米中の対立激化で日本も「show the flag」という要請を強く受けることにもなりますが、その影響を一番受けるのが台湾。

 

緊張の高まりで、今月10日のアザー米厚生長官訪台のように、アメリカが台湾重視を強めるというメリットもありますが、万一「衝突」に至ったら、中国軍の矢面に立たされる危険もあります。

 

もちろん、米中ともに「けん制」が目的で、本気でミサイルを撃ち合う事態は望んでいないでしょうが、ものごとには“はずみ”というものもあります。

 

****偶発的な衝突のリスク高まる、対話の維持が必要=台湾総統****

台湾の蔡英文総統は27日、南シナ海や台湾周辺の緊張で偶発的な衝突のリスクが高まっていると指摘、判断ミスのリスクを防ぐため、対話を維持する必要があると主張した。

総統はオーストラリア戦略政策研究所主催のフォーラムで「すべての関係者が衝突のリスクを慎重に管理する必要がある。中国政府が地域の大国としての責務にふさわしい自制を続けると期待している」と述べた。

総統は、国際社会が香港情勢や中国の南シナ海軍事化を注視しており「その結果、台湾海峡情勢にも関心が高まっている」と発言。

「地域で軍事活動が拡大していることを踏まえると、今後もアクシデントのリスクが非常に懸念される。したがって、すべての関係者が対話とコミュニケーションを維持し、誤解や判断ミスを防ぐことが重要だ」と述べた。

総統は、台湾の防衛力を強化する必要があると主張。「これは現状を踏まえれば、力と抑止は相関関係を持ち得るためだ。軍事的冒険主義のリスクを減らすことにもつながる」と発言した。

総統は「中国が互恵関係に貢献する限り、中国と対話する用意がある」とした上で、中国は民主主義が台湾の将来を決めることを受け入れる必要があると述べた。【8月27日 ロイター】

******************

 

米中対立の必然性というのはあるのでしょうが、今は中国も言うように「選挙目的」で緊張が煽られている側面も。

11月まで、さらに緊張が高まるのかも。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベトナム  米中対立、新型コロナ禍のなかで、中国進出企業の脱中国の受け皿になる流れが加速

2020-08-26 23:08:18 | 東南アジア

(【8月24日 VIET JO】 写真はハノイ・ホアンキエム湖周辺のように見えますね。 新型コロナ第2波対策として、ハノイのホアンキエム湖および旧市街の歩行者天国を中止するとの発表が。ちなみに、日中、信号のないこのあたりの車道を横断するのは、とても難しかった記憶があります。)

 

【中国メディアも注目 「第2の日本」は難しいが・・・】

近年、中国から東南アジアに生産拠点をシフトさせる動きがあることは周知のところですが、ベトナム経済の“活きの良さ”には中国メディアも注目しています。

 

****経済成長著しいベトナムは「次の日本」になれるのか=中国メディア****

中国はかつて「世界の工場」として君臨し、製造業の牽引のもとで高い成長率を実現した。現在、一部の企業は人件費が高騰している中国からベトナムなどの東南アジアへと生産拠点を移転させており、中国は経済構造の転換を迫られている。

中国メディアの今日頭条はこのほど、ベトナムの近年の経済成長は目を見張るものがあると主張する記事を掲載し、急激な成長を続けるベトナムは「次の日本」になれるのだろうかと問いかける記事を掲載した。

記事は、ベトナムの国内総生産の現時点における規模はアセアン諸国のなかでは「中程度」にとどまっているとしながらも、「潜在成長力は極めて大きい」と指摘し、その理由の1つとしてベトナム人の「勤勉さ」を挙げた。

 

ベトナム人が真面目で勤勉であることは日本でも広く知られているが、「日本人も残業を厭わない勤勉さを発揮し、自国を経済大国にまで成長させた」と主張し、ベトナム人も同じような勤勉さを持っていると指摘した。

さらに、ベトナムは人口がまもなく1億人を突破すると見られており、国土も決して小さくないと主張。国にとって人口は非常に重要な資源であり、ベトナムが「安価で勤勉な労働力」という強みを存分に発揮できれば、「日本の高度経済成長のような急激な発展を再現することは可能であろう」と主張した。

一方、ベトナム経済にとっての不安要素は「経済成長の質がかつての日本ほど高くない」ことだとし、日本は経済成長とともに科学技術力も向上させたが、これは日本に戦前から一定の工業力があったためだと指摘。

 

一方、現在のベトナムはまだ農業国という立場であり、今まさに工業化が行われている段階であると主張し、「ベトナムがかつての日本のような成長を実現するのは可能かもしれないが、『次の日本』になれるかといえば、難しいそうだ」と主張した。【2019年12月6日 Searchina】

*****************

 

上記の否定的側面を強調すれば、以下のようにも。

 

****急速に発展するベトナムは、第2の日本になれるのか=中国メディア****        

(中略)

記事は、ハード面を見るとは狭い国土の多くが山地で平原が少なく、長い海岸線を持つ、資源に乏しいなど、両国が多くの共通点を持つとする一方、「ベトナムは日本になり得ないし、下位互換版の日本にもならない」との見方を示した。

 

その理由について、日本とは比べ物にならないほど工業基盤が脆弱であること、自国の資本の蓄積が少ないこと、中国やインド、ブラジルなど主要新興国に比べると規模が小さいうえ国際的な地位も高くないことを挙げた。

また、特に膨大な資金のサポートや行政の強い主動力が必要となる、ハイテク分野を発展させる能力が不足している点が大きいと指摘。「ハイテク分野の強みがないベトナムの未来は推して知るべしである。どんなに発展したとしても、日本のような重厚な基盤と非常に高い競争力を持つ国になることは絶対に不可能だ。世界には日本のような国は一つしか存在しないのである」と評している。【8月17日 Searchina】

********************

 

【米中対立、新型コロナ禍で追い風】

ベトナムが日本のような世界経済をリードする国になれるか・・・ということでは、上記のように難しい面があります。

ただ、米中対立、さらには新型コロナ感染という現状にあって、ベトナム経済が“追い風”を受けて加速しているのも事実でしょう。

 

****コロナ、供給網の中国離れ加速 ベトナムに発注続々「チャンス」****

体育館のような広さの室内。整然と並んだミシンの前に座り、マスク姿の従業員たちが黙々と洋服の生地を縫っている。6月下旬、ベトナム北部バクザン省にあるLGG社の縫製工場。欧米や日本のグローバルブランドから衣料品の製造を受注する会社だ。

 

新型コロナウイルスの感染拡大による世界的不況のなか、同社には外国企業から新たな注文が舞い込んでいる。外国人の入国は制限されているため、取引先とはオンラインで交渉。

 

米国企業を中心に仕事が増え、業績は前年より約1割伸びた。社長のルー・ティエン・チュンさん(45)は「米中貿易摩擦で、昨夏ごろから中国からベトナムに注文先を変える米国企業が増えた。コロナをきっかけにその流れはさらに加速する」と期待する。

 

ベトナムの新型コロナの感染者は18日現在で983人、死者は25人。外国から感染の封じ込めに成功したという評価を得た同国では、サプライチェーン(部品供給網)を中国から移す外資系企業の動きに期待が膨らんでいる。

 

「中国に注文していた日本や欧米の企業から相談が次々来ている」。ハノイ北部の工業団地でプラスチック部品を製造するHTMP社の工場長代理チャン・トゥ・トゥイさんは手応えを口にする。(後略)【8月19日 朝日】

*********************

 

****感染封じ込め、ベトナム追い風 コロナ、供給網の中国離れ加速****

この10年ほど続いてきた、中国以外のアジアに生産拠点を移す動きが、米中貿易摩擦とコロナ禍をへて加速している。日本などでも「自国回帰」の動きが出るなか、中国側は警戒感を強めている。

 

首都ハノイから約40キロ北東にあるバンチュン工業団地。中国の受託生産大手「立訊精密工業」(ラックスシェア)の工場には午前8時の操業時間が近づくと、労働者たちがバイクや徒歩で次々と出勤してくる。米アップルのワイヤレス型イヤホン「エアポッズ」を組み立てているとされる工場だ。

 

工場の外で取材に応じた男性従業員は「今は中国でも作ったことのない最新モデルのイヤホンを生産している」と打ち明ける。

 

外資と外国市場に依存して経済を発展させてきたベトナムにとって、「脱中国」の動きをつかめるかどうかは「コロナ後」の成長を左右する。フック政権はコロナ封じ込めの成功を「千載一遇のチャンス」として、関係省庁や産業界に働きかけを強めている。

 

ベトナム統計総局によると、今年上半期の国内総生産(GDP)の成長率は前年同期比で1・8%だった。過去10年で最も低い数字だが、コロナで世界が不況に陥るなか、プラスを維持した。1~5月のコンピューター電子部品と機械設備の輸出はいずれも、前年同期比で2割超増えた。

 

「世界の工場」と呼ばれてきた中国では、ここ数年賃金が上昇しており、より安い労働力を求めて外資系企業が拠点を移す動きは以前からあった。

 

2018年以降の米中貿易摩擦で、そうした動きが加速。中国と国境を接する地理的な近さに加え、人件費が半分ほどのベトナムはその受け皿として恩恵を受けてきた。

 

米国国勢調査局の統計では、ベトナムの19年の対米輸出は前年比で35・6%増えたのに対し、中国の対米輸出は16・2%減った。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同年の外国からベトナムへの直接投資件数は前年より26%増の5454件となり、過去最多。特に中国からの投資は8割増の855件と急増した。

 

経済評論家のグエン・チー・ヒウ氏は、コロナをいち早く封じ込めたことで「投資家にとって安心材料になり、中国からベトナムへの動きを加速させる」と説明する。(中略)

 

 ■日本、「中国リスク」備える動き 政府、国内立地促す補助金

中国は「世界の工場」としてあらゆるモノの生産を引き受けてきた。だが、新型コロナウイルスの流行は、中国に生産力が集中するリスクを露呈した。

 

今のところ、中国からの拠点移転は一部にとどまる。中国商務省によると、1~7月の外国からの直接投資(実行ベース)は前年同期比0・5%増となり、1~6月から1・8ポイント上昇してプラスに転じた。中国への直接投資は年々伸びており、20年も伸びが予想される。中国商務省の高峰報道官は「現時点で外資の撤退や供給網の国外移転は生じていない」と強調する。

 

それでも、日本を含めた外資の一部は「中国リスク」に備えて動いている。日本政府は4月に決めた緊急経済対策に、生産拠点の日本国内や東南アジア諸国連合(ASEAN)への分散を支援する補助金計2486億円を盛り込んだ。これまでに衛生用品、半導体分野など87件を採択した。

 

ジェトロの2月の報告書では、海外拠点の拡大を予定する日本企業のうち、中国を挙げた企業の比率が48・1%にとどまり、前年度(55・4%)から大幅に後退した。一方、2位のベトナムは初めて4割を超えた。

 

中国は外資の動きに神経をとがらせている。外資が引き揚げれば、失業者が増え、低迷する景気に深刻な打撃となる。特に高度な技術を持つ外資は、中国のさらなる成長に不可欠で、中国の外交関係者は「先端技術を持つ企業が移転するのを心配している」と話す。【8月19日 朝日】

*******************

 

【経済の高度化の動きも】

人件費のメリットはいずれ薄れていきますので、ベトナムがさらに経済を発展させていくためには経済の質を高めていくことが必要ですが、そうした変化もベトナム経済内部に見られるようです。

 

****急成長を見せるベトナム経済 インフラ担うビン・グループ****

ここ数年、ベトナム経済が急成長している。その成長とともに注目されているのが、ショッピングモールやマンション開発を手掛ける不動産最大手の「Vin Group」(ビン・グループ)である。今やベトナム人の生活に欠かせないインフラを担う。取材で現地を訪れた筆者がレポートする。

 

「Vin ○○」

昨年12月末、米中貿易摩擦の影響を受け、アジアの国々の経済が低迷している中、安定的な成長を続けるベトナム経済に興味を持ち、現地で取材した。

 

到着後、ベトナムの街で「Vin 〇〇」という表記を何度も目にした。驚くことに、コンビニはVin Mart、住宅の看板にはVin Homes、ショッピングセンターにはVin Comなど、とにかく何にでも「Vin」がついている。

 

この正体について現地スタッフに聞いてみたところ、「それは全部、ビン・グループ傘下にある企業だよ」と教えてくれた。

 

取材3日目、雲一つもない青空の下、首都ハノイにある「タイムズ・シティー」というマンション・コンプレックスを撮影した。

 

少し高級感が漂う、団地のような高層マンションが何棟も立ち並ぶ。その他、ショッピングセンター、スーパー、コンビニ、病院、学校、と何でもある。偶然にも、現地での撮影を手伝ってくれていたリサーチャーやカメラマンらがそこに住んでいた。

 

彼らの生活はほとんど敷地内で完結する。子どもたちはビン・グループ経営の学校へ行き、食料品はビン・グループのスーパーで調達し、週末には家族でビン・グループのショッピングセンターに行き、買い物や水族館で遊ぶ。

 

もし、家族の誰かが病気になれば、徒歩5分の距離にあるビン・グループの病院で診察を受けることができる。

 今や、ビン・グループはハノイの街に住む人々の生活に深く入り込んでいるのだ。

 

成長企業へと進化

ビン・グループは、1990年代に登場した新興財閥「コングロマリット」であり、ベトナム最大級の民間企業である。

 

国内では、リゾート開発などといった不動産事業からスタートした企業で、今でも収益の大半は不動産業であるが、多角的な分野へ投資している。ビン・グループの売り上げは2015年から2019年に3倍以上になった。

 

創業者のファム・ニャット・ブオン会長は、決断が早いことで有名だ。ロシアの大学卒業後、ウクライナで起業し、その会社が成功した後、売却した。その原資で、ベトナムに帰国し、不動産業に参入した。

 

ベトナムは経済が成長するにつれ、中産階級の人口が増加した。スーパーで買い物をする人や、携帯電話やマンション、車を買うことができる人が増えたと同時に、ビン・グループもますます多角化し、今後のベトナム経済の拡大を見据えているようにも感じた。

 

次の成長の柱

現在、ベトナム経済の柱となっているのは、縫製や電子機器の組み立てといった外国企業の下請けである。労働者の賃金が上昇していけば、現在の成長モデルには限界があるだろう。

 

昨年末、ビン・グループは自社のスーパーやコンビニを他社に売却した。小売業から手を引き、今後はテクノロジーや製造業に力を入れようとしているとのことだ。

 

製造業以外にも、ビン・メック(Vin Mec)という医療関係の事業として、ゲノム研究などを行っている。

 

うまくいけば、これらの産業は雇用を生み出し、国の技術の高度化が見込まれ、ベトナムの次の経済成長の柱になり得る可能性がある。

 

ベトナムでは会う人、会う人、エネルギーにあふれていた。「最近、良い仕事が見つかった。近いうちにマンションを買う予定だ。将来は車も買いたい」と楽しそうに話していた若いカップルの言葉を、今でも鮮明に覚えている。

 

経済が成長するに連れ、ビン・グループも拡大していくと予想される。まだまだ貧富の差があるものの、このような企業が次々と生まれてくることを期待し、ベトナム経済に今後も注目していきたい。【8月26日 福島 優子氏 共同】

************************

 

【南シナ海問題では対中強硬姿勢の旗振り役】

政治的には、ベトナムは南シナ海における中国の進出に東南アジア諸国では最も厳しく抵抗する立場にあります。

 

****ASEAN対中強硬姿勢の旗振り役を担うベトナム****

昨年11月に2020年のASEAN議長国に就任したベトナムは、一貫した対中政策をとり、ASEAN内における存在感を高めている。また、最近の中国の攻撃的姿勢は、ASEAN各国の危機感を高め、対応に変化を生んでいる。

 

こうした状況を、豪戦略政策研究所(ASPI)のHuong Le Thu上席分析官は、Foreign Policy誌(電子版)7月31日付けの論説で的確に説明している。その主要点をかいつまんでご紹介すると、次の通りである。

 

・ASEANの多くの国が、インドネシアに代わるASEANのリーダーとして、ベトナムより適切な国はないと考えるようになっている。

 

・ベトナムは、南シナ海問題に関しては、実際の最前線国であり、北京と激しい争いをしているが、同時に、ベトナムは地域問題においてASEANの役割を真に重視する数少ない国の一つでもある。

 

・ベトナムは、海洋紛争において前線の立場を維持し、他のASEAN諸国から外交的に孤立することもあったが、報われつつある。

 

今年、ベトナムが議長国として指揮した第38回ASEAN首脳会議の共同声明は、いつもの曖昧な内容と異なり、南シナ海における中国の行動を念頭に、最近の出来事に対する懸念を表明するとともに、信頼が侵食され、緊張が増し、地域の平和と安全・安定が傷づけられている、と明記している。

 

さらに、声明は、国連海洋法条約(UNCLOS)が海洋権益を決定し、海洋の主権、管轄権、正統な利益を決める基礎である、と強調している。

 

・中国の「やりすぎ」が大きな流れを変えたとも思われる。この数か月間に、マレーシア、フィリピン、インドネシア、さらに豪州及び米国などが、中国の主張はUNCLOS並びに2016年のハーグ仲裁裁判所の判決と矛盾すると表明した。

 

これは、南シナ海問題をあくまでも国際化することに努め、また、二国間問題ではなく、「地域の安全保障問題」にしようとしてきたベトナムの政策の成功の証しともみなされよう。

 

出典:‘Vietnam Steps Up to Take ASEAN Leadership Role’(Huong Le Thu, Foreign Policy, July 31, 2020)

 

  *     *     *     *     *     *     *

中国による南シナ海における人工島造成と軍事拠点化は、2014年以降、急速に進んだ。

 

また、中国は「ASEAN分断化」を進め、カンボジアを代弁者とするとともに、フィリピン、インドネシア、マレーシアと政治指導者交代の機会を活用しつつ、経済権益の供与を通じ、また、シンガポールに対しては徹底した嫌がらせを通じて、「対中批判」を封じ込めることに成功してきた。

 

その結果、気が付けば、中国に対して厳しい姿勢を表明する国はASEAN内でベトナムのみとなった。その一方で、安全保障分野においてベトナムは日米両国にとって最も信頼できるパートナーとなった。

 

しかしながら、昨年末からの南シナ海における中国の一連の攻撃的な動きは関係国の危機感を覚醒させ、対中批判を再開させる契機となった。 更に、新型コロナウイルス問題、香港、台湾、東シナ海、豪州、インド、ブータン等に関する中国の言動は、対中警戒感を高める要因となっている。

 

米国が中国の九段線の主張は違法であると明言し、「中国共産主義との対決」 を宣言したことを、ASEAN各国は基本的に歓迎していると思われる。

 

 しかし、同時に、多くの国にとって中国(人)は 最大の貿易相手国、最大の外国人観光客であること、また、新型コロナウイルスに関し、一部の国では ワクチンの入手を中国に期待していること等を勘案すると、米中の狭間で出来るだけ「立ち位置」を曖昧にし、「踏み絵」を踏まないように立ち回ろうとする国もあると考えられる。

 

しかし、ベトナムは、敢えて明言はしないかもしれないが、中国に毅然とした態度をとるという、その「立ち位置」は明確である。

 

東アジアの将来にとってASEANはこれまで以上に重要であり、日本のASEAN外交は、これから「正念場」を迎えると考えられる。その際、当然、ベトナムはカギを握る国となるだろう。【8月26日 WEDGE】

****************

 

“中国に毅然とした態度をとるという、その「立ち位置」は明確である”との指摘ですが、ベトナムは現実主義の国ですし、陸続きで中越戦争の経験もあるように、中国の脅威の受け止め方は他の東南アジア諸国とは異なるものもありますので、中国との緊張関係が限界を超えないように配慮しつつ・・・ということにもなります。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラン ともにアメリカの圧力を受ける中国と接近 国内的には批判も

2020-08-25 22:56:39 | イラン

(訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)【7月12日 YAHOO!ニュース】)

 

【経済が低迷する中で不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も】

アメリカと中国が対立を深めるなかで、アメリカはイラン敵視政策を続ける・・・となれば、ともにアメリカと対立するイランと中国が接近するというのは誰しも考えるところで、実際にそういた動きがみられます。

 

****中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか****

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。

 

報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。

 

具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。

 

報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。

 

中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。

 

中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 

中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。

 

中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 

ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。

 

米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

 

イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 

中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。

 

中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。

 

Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 

ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 

イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。【8月20日 WEDGE】

***********************

 

11月の米大統領選挙の結果をみないと、うかつには動けない・・・というのは当然のことでしょう。

 

ただ、話はそういうところにとどまらず、そもそも中国と上記のような条件で連携することについて、イラン国内には強い不満もあるようです。

 

****米大統領選を前に中国と〝急接近〟するイランの真意****

「嘘つきに死を!」

イラン・ザリーフ外相に強烈なヤジが飛び、演説はたびたび中断した。7月5日に開かれた国会での外交方針説明での出来事だ。特に槍玉にあげられたのが中国との関係だった。

 

発端は、6月21日にロウハニ大統領が閣議で承認した、中国との間の25年間に及ぶ包括的な協力に関する計画だった。

 

この計画について国内外のメディアは、イランは中国から4000億ドル(約43兆円)相当の投資を受ける見返りとして、ペルシャ湾に浮かぶキーシュ島を25年間リースする、イラン産原油を割引価格で売却する、中国施設を警備する目的で中国人民解放軍5000人がイランに駐屯することを許可するなどが合意に含まれると報じたのだ。

 

「国民には何も知らされていない!」とアフマディネジャド前大統領が噛みつき、国民の間でも、「25年間も中国に隷属するのか?」、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画にイランが飲み込まれてしまう」といった懸念の声が上がった。

 

このようにイラン国民が反発する心の奥底には、西側へのあこがれとコンプレックス、その一方で自らもアジアに属しながら東方世界を下に見る傾向がある。

 

筆者はこれまでイラン・ペルシャ語専門の外交官として彼らと交流し、分析してきたが、彼らは、地域の大国として世界に認められ、西側諸国と対等に向き合いたいと強く渇望している。

 

一方、この中国との長期計画は、ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ているようだ。ハメネイ師は早速国会に対して、政府に対する侮辱や敵対は許されないと釘を刺し、イランは今、国内で一体となる必要があると訴えた。

 

国難の時期にあるイラン

元来「アメリカはもとより欧州諸国は信用できない」というのはハメネイ師の常套句であり、またイランにおいて「LOOK EAST」(東方政策)は目新しいものではない。

 

2005年にEU3(英仏独)との核交渉が暗礁に乗り上げたときには、ラリジャニ国家安全保障最高評議会書記(当時の核交渉責任者)が交渉を有利に進める策として提唱し、中国との関係強化に動いている。

 

そして、イラン核合意(包括的共同作業計画、JCPOA)が行き詰まりを見せた18年10月、ハメネイ師は、西側諸国に留学経験のある知識層に対して「西ではなく、発展を遂げようとしている東を見るべき」と説き、その東方志向を端的に示している。

 

今や「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊にとっても、中国との接近によってもたらされる港湾、道路、鉄道などの国内インフラの整備は、自らの利益につながると考えているのだろう。

 

では、なぜ、今、このような長期計画が浮上したのか? 

 

それは、イランを取り巻く国際的な、そして国内の状況が厳しいことに起因する。米国との対立激化、米国によるソレイマニ司令官の暗殺、形骸化するイラン核合意、制裁で疲弊した経済に追い打ちをかける新型コロナウイルス「第二波」の襲来、イスラエルなどの関与が噂される国内での不審な爆発事案の続発など、イランは今、イスラム革命以降、最大の国難の時期にあると言っても過言ではない。【8月25日 WEDGE】

********************

 

アフマディネジャド前大統領・・・久しぶりにその名前を目にしました。ご健在のようです。

 

以前は、革命防衛隊はアフマディネジャド氏の権力基盤でもありましたが、「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊が賛成している中国接近をアフマディネジャド氏が激しく批判するということは、彼と革命防衛隊の関係は以前とは異なるということなのでしょう。

 

ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ている政府方針が国会で激しいヤジにさらされる・・・というのは、ある意味で、宗教権威に基づく特殊な政治形態とイメージされるイラン政治ですが、 “欧米民主主義”に近い側面もあるとも思えます。

 

少なくとも、中国はもちろん、ロシアなどでも見られない光景ではないでしょうか。

 

それにしても、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画」という見方がイランにあるというのは、非常に興味深いことです。

 

【困窮する市民生活 当局は抗議を厳しく取り締まる】

イランがアメリカの制裁、原油価格低迷で、その市民生活が著しく困窮しているのは周知のところで、治安当局は反政府抗議活動を厳しく取り締まっているとも。

 

****悪化する経済危機に抗議するイラン市民を警察が厳しく取り締まる****

イラン警察は7月17日、イラン南部で経済的苦境への抗議で「規範破壊」のスローガンを唱える群衆の抗議活動を強制的に追い払ったと述べた。

 

呼びかけに続いて7月16日午後9時に、少数のベフバハン市民が経済状況への抗議活動で集まった」とモハマド・アジジ・ベフバハーン市警察部長は述べた。

 

当初警察は群衆と話し合おうとしたが、「しかし彼らは立ち去ることをしなかったばかりか、規範破壊とのスローガンを大声で唱え始めた」と部長は述べた。イラン当局が反体制派のスローガンとして使う常套の文句だ。

 

治安部隊は抗議活動を「断固とした態度」で追い払ったと彼は述べ、犠牲者や物的損傷を出すことなく「平穏」を取り戻したと付け加えた。

 

イランの革命防衛隊は、7月16日に無数の「扇動者」を逮捕して「テロ集団」も崩壊させたと述べた。

 

マシュハド市で逮捕された者たちは「反革命集団との繋がり」を持ち、街の抗議活動を呼びかけていたという。

シラーズ市では、「反体制破壊活動」を阻止すべく、政府が狂信的テロ集団と認定して国外追放したムジャヒディンハルク(MEK)のメンバーたちを拘束したと革命防衛隊は発表した。

 

信憑性は確認されていないがSNSには、フゼスタン州の都市の通りに何十名もの市民が集まっているらしい画像や動画が投稿された。(後略)【7月18日 ARAB NEWS】

*********************

 

【深刻な新型コロナ感染】

新型コロナの感染も深刻で、国民の3割が感染したとも。

 

****イランで国民の3割、2500万人が感染か…抗体検査で推計****

イランのハッサン・ロハニ大統領は18日、新型コロナウイルスの国内感染者数が累計で2500万人に達したとする政府の推計結果を明らかにした。イラン国民約8000万人のうち、3割程度が感染していたことになる。

 

イラン政府の公式発表によると、19日現在で国内で実際に確認された累計の感染者数は27万人超となっている。

 

イラン保健省の報道官は19日、推計はウイルスの感染歴を調べる抗体検査に基づくものだと説明した。米国では6月、感染が深刻だったニューヨーク市の住民の抗体検査で、約2割の人に感染歴があったとする結果が出ているが、イランでは、これを上回っている可能性がある。

 

ロハニ師は18日の政府の会合で、保健省からの報告書に推計が盛り込まれていたと述べ、「さらに3000万〜3500万人が感染する可能性がある」との見方を示した。

 

「我々には、団結して感染の鎖を断ち切るほかに選択肢はない」とも述べ、都市封鎖などを行わずに経済を回していく方針を改めて示した。失業対策を行う財源がないことを念頭に置いているとみられる。

ロイター通信によると、トルコ政府は19日、イランへの航空機の乗り入れを止めたと明らかにした。イランの感染状況を見極める目的があるとみられる。【7月20日 読売】

*******************

 

ただ、マスク着用やソーシャルディスタンスに関する市民の対応にも問題があるようです。

 

****イラン、7分ごとに1人が新型コロナで死亡=国営テレビ****

イラン国営テレビは、同国では新型コロナウイルスにより7分に1人が死亡していると報じ、適切なソーシャルディスタンス(社会的距離)が取られていないと警告した。

保健省によると、3日に確認された過去24時間の新型コロナによる死者は215人。

国営テレビは保健省のラリ報道官の発言として、これにより累計死者数は1万7405人となったとした。3日の感染者数は2598人、累計は31万2035人となった。

国営テレビは、マスクを付けず、距離を取らずにテヘランの繁華街を行き交う人々の様子を伝えた。

一部専門家は、新型コロナ死者に関する公式発表の正確性を疑問視している。4月には議会の研究所が、死者数が保健省発表の2倍に達している可能性を示唆するリポートを公表。公式統計は病院での死亡例と検査で陽性となった人のみに基づいていると指摘した。

英BBCは、匿名筋によるデータでは、死者数が公式発表の3倍に達している可能性があると報じた。保健当局はこの報道を否定、数字の操作はないとしている。

4月半ばに感染拡大抑制のための規制が緩和されてから死者数が増加しており、保健当局は規制が順守されなければふたたび対策を講じるとしている。

同国では先月から、公共の場と屋内でのマスク着用が義務化されている。【8月4日 ロイター】

*******************

 

【核合意は米大統領選挙までは維持 トランプ政権は無理筋の圧力】

こうした厳しい状況のもと、イラン政府は核合意に関してはとりあえず米大統領選挙までは様子見の姿勢です。

 

****イラン、米大統領選まで核合意維持の意向=外交筋****

複数のイラン当局者は、イランが2015年に国際社会と合意した核開発活動の制約が継続されるかは、11月の米大統領選挙の結果次第だとの認識を示した。

米国は先週、安保理がイランに対する武器禁輸措置の延長を定めた決議案を否決したことを受け、対イラン制裁を復活させる「スナップバック」を使うと表明。

またポンペオ米国務長官が20日にニューヨークを訪問し、イランに対する国連制裁の全面復活を求める見通しとなっている。

ただ、3人のイラン当局者はロイターに対し、イラン政府は11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領(民主党)が勝利すると見込み、核合意を存続させる方針を決定していると述べた。(中略)。

バイデン氏は、イランの合意順守を条件に、米国が2018年に離脱した核合意に復帰する意向を示している。この合意は自身が副大統領を務めたオバマ政権下で行われた。(後略)【8月19日 ロイター】

******************

 

一方のアメリカ・トランプ政権は再選戦略の一環で、対イラン圧力を強めていますが、国際的には強引な“無理筋”とも見られています。

 

****イラン制裁復活手続き開始 米孤立「権限なく無効」****

ポンペオ米国務長官は20日、対イラン国連制裁の全面復活(スナップバック)を求める書面を国連安全保障理事会に提出し、手続きを開始したと表明した。ニューヨークの国連本部で記者団に語った。

 

イラン核合意を承認した安保理決議に基づく手続きだが、核合意を離脱した米国には手続き開始の権限がなく無効だとする見方が有力だ。

 

米国は孤立しており、制裁復活を主張しても各国が従わない事態も想定される。【8月21日 共同】

********************

 

****EU、米の権利否定=対イラン国連制裁復活で****

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は20日、米国が対イラン国連制裁復活の手続きに着手したことを受けて声明を出し、「米国は一方的にイラン核合意を離脱しており、当事国だとは考えられない」と指摘し、米国に制裁を復活させる権利はないとの立場を示した。【8月21日 時事】

*******************

 

権利があろうがなかろうが、力でアメリカの方針を国際社会に押し付けようというのがトラン政権の方針ですが・・・・困ったものです。

 

イスラエルとの国交正常化に舵を切った対岸のUAEとは緊張が高まっています。

 

****UAE船が漁船に発砲 「漁師2人死亡」とイラン放送****

国営イラン放送は20日、ペルシャ湾で17日に、アラブ首長国連邦(UAE)の沿岸警備当局の船が複数のイラン漁船に発砲し、漁師2人が死亡したと報じた。UAEとイスラエルの国交正常化合意を受け、イランとUAEの関係は冷却化している。

 

イラン外務省は、在イランUAE大使館幹部を呼んで抗議した。

イラン放送などによると、これとは別にイラン領海で17日、違法な航行をしたとしてイラン当局がUAE船を拿捕し、乗組員を拘束した事件も起きたという。【8月20日 共同】

*******************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イラク  影響力確保をめぐるイランとアメリカの綱引き 電力供給、米軍撤退

2020-08-24 22:26:35 | 中東情勢

(イラクのムスタファ・カディミ首相とトランプ大統領、20日 【8月24日 WSJ】)

 

【重要課題の電力の安定供給 アメリカ支援でサウジなどと送電網接続へ】

イラクのモスルが「イスラム国(IS)」から解放されて3年が経過していますが、イラクの情勢は劇的なニュースはないものの、あまり芳しい状況でもないようです。

 

****イラク:公務員給与の遅配が続く****

過去数カ月間、イラクでは公務員の給与の遅配が続いている。給与の遅配や減額支給は、連邦政府だけでなくクルド地区でも常態化している模様である。特に、7月分については月末からムスリムの重要な祝祭である犠牲祭(今期は7月30日か31日から)に給与の支給が間に合わないのではないかとの懸念が高まっている。(中略)

 

イラクでは、政治の混乱、「イスラーム国」対策、最近の原油価格の低迷に加え、中国発の新型コロナウイルスの感染拡大など経済や財政に悪影響を与えるできごとが続いている。

 

中でも、政治の混乱により、国家予算が当該年度の半ばを過ぎても成立しないことが常態化している。

 

国家予算の審議や成立を妨げる要因としては、連邦政府とクルド地区政府との歳入・歳出の配分が毎年紛糾すること、国会で乱立している諸会派間の調整が難航することなどが挙げられる。

 

また、イラクは歳入に占める石油収入の割合が高く、原油価格の下落・低迷により大きな影響を受ける。

 

今期のイラクの政情が、2019年秋以来の抗議行動で当時のアブドゥルマフディー首相が辞任を表明し、2020年5月~6月にかけてようやくカージミー首相と閣僚が選任されたという状況にあることも、状況の改善を困難にしている。

 

カージミー首相の信任から全ての閣僚が選任されるまでに要した期間は、イラクで現在の政治体制が導入されて以来最短だったようだが、2020年度予算案は依然として国会に提出されていない。

 

気温が上昇する夏期を迎えると、例年電力事情が悪化してこれに抗議するデモなどが多発する。犠牲祭に給与の支給が間に合わないとなると、人民の不満は一層増幅することとなろう。

 

しかしながら、イラクの財政問題や電力需給状況がよくない原因の一端には、政府が給与を支給している公務員や民兵の中に「幽霊公務員・兵士」が多数いて給与の詐取が横行していること、効率的な電力利用と料金の徴収を実現する制度の導入が消費者の反対によって頓挫していることもある。

 

イラクでは日本の感覚では想像を絶する規模での横領や予算の消失のような汚職事件が発生するのだが、現在の様々な不具合は、既成の政治エリートに「ダメだしするだけ」では抜本的に解消できない根深い問題でもある。【7月27日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】

********************

 

“気温が上昇する夏期を迎えると”・・・・イラクの暑さは、猛暑が続く日本から見ても尋常ではありません。

 

****イラク首都で史上最高「51.8℃」 ふたたび記録更新も****

人間が耐えられる最高気温はどのくらいでしょう。ある記事には、こう書いてあります。

「39℃で心臓発作のリスクが生じ、40℃で大脳に危険が及んで、41℃で生命は危機に見舞われる。」

 

その命を脅かす41℃をはるかに超える高温が、今週中東イラクなどで観測されています。

 

バグダッドで史上最高気温

イラクの首都バグダッドでは27日(月)、最高気温が50.6℃まで上昇しました。さらに28日(火)には51.8℃まで上がって、同市の観測史上最高気温を記録しています。この時期の平均は44℃ですから、それを7℃以上も上回る異常な暑さに見舞われたのです。(中略)

 

なお、イラク国内のこれまでの最高気温記録は、2016年7月22日にバスラで観測された53.8℃です。

 

電力不足の最中の熱波

冷房が必須の状況ですが、残念ながらイラクはそのような状態にはありません。

国連などによる経済制裁の影響で、ここ数十年間にわたり電力事情がひっ迫しています。バグダッドでは一日で12時間しか電力が供給されない状態なのだそうです。

 

そうした中で極暑が襲い、電力不足はさらに深刻化しています。氷の需要も増えていますが、価格が高騰しており、命の危険が極めて高い状況です。(後略)【7月29日 森さやか氏 YAHOO!ニュース】

********************

 

気温51.8℃・・・そんななかで生きていけるのか想像すらできませんが、そうしたなかで電気が止まったら・・・命に係わります。

 

そうした事情を考えると、イラク政府にとって電力安定供給の実現は、政権の安定にとっても非常に大きな意味があります。

 

****イラク、サウジなどと送電網接続へ 背景に米の支持****

トランプ米政権は、イラクの送電網をサウジアラビアなどの湾岸諸国と接続する計画の推進を求めている。米国やアラブ諸国の当局者らが明らかにした。イラクはエネルギー面で長年にわたりイランを頼ってきたが、その依存度を低下させることとなる。

 

送電網接続に関する事業はここ数カ月で踏み込んだ協議が行われ、イラクのムスタファ・カディミ首相が先週首都ワシントンを訪れた際にも話し合われたという。

 

ここにきて各国政府は合意の内容についてまとめつつあり、これによって、1991年の湾岸戦争で衝突したイラクとアラブ諸国は関係回復に向け大きな一歩を踏み出そうとしている。

 

イラクのアリ・アラウィ財務相は21日、シンクタンク「アトランティック・カウンシル」のオンラインセミナーに出演し、同国の送電網はサウジアラビアおよびクウェートと接続されるだろうと述べた。

 

トランプ政権高官は「イラクの送電網が湾岸協力会議(GCC)とつながることは極めて重要だ」としている。【8月24日 WSJ】

********************

 

実現すれば、イラクをイランから引き離す効果が期待できます。

イスラエルとUAEの国交正常化に続き、アメリカ・トランプ政権が後押しする中東情勢の変化のひとつでしょう。

 

【イラクを巡るイラン・アメリカの綱引き】

そのイラクをめぐるイラン・アメリカの綱引きが続いています。

 

****イラン「米兵、追放を」 イラク首相、牽制され板挟み****

イランの最高指導者ハメネイ師は21日、同国を訪問したイラクのカディミ首相と会談し、イラクに駐留する米軍約5千人を念頭に「米国人たちを追い出すよう期待する」と述べた。米国と良好な関係にあるカディミ氏を牽制(けんせい)し、イラクに対する影響力を堅持する狙いがあるとみられる。

 

「敵である米国は国民の投票に基づく強く独立したイラクを望んでいない。米国の存在は腐敗や破滅をもたらす」。ハメネイ師は会談でこう述べた。

 

トランプ米政権が経済制裁を発動し、昨年5月からほとんど原油を輸出できなくなったイランは経済が困窮。ハメネイ師に先立ってカディミ氏と会ったロハニ大統領は、イラクとの通商関係を年額200億ドルに拡大すると表明。輸出を増やし、イラク経済制裁の抜け道として利用したい考えがあるとみられる。

 

一方、カディミ氏は難しい対応を迫られている。今年1月、首都バグダッドで米軍の攻撃によりイラン革命防衛隊の司令官が殺害されたことで、イラクは米イラン対立の最前線となった。

 

イランは米軍施設へのミサイル攻撃で応酬。親イラン武装組織の関与が疑われる米大使館などへの攻撃が相次ぐ。

 

ロハニ師との会見でカディミ氏は「イラクは、両国の内政に干渉しないという原則に基づいて、良好な関係を望んでいる」と訴えたものの、政界でも存在感が大きい親イラン勢力の影響力排除は容易ではない。反発を招けば政権運営もままならなくなるのが実情だ。【7月23日 朝日】

*****************

 

“何者”かによる米軍基地への攻撃も続いています。

 

****イラクの米軍基地にロケット弾攻撃****

複数のニュースメディアは24日金曜夜、イラクの首都バグダッド南方にある米軍基地に複数のロケット弾が撃ち込まれたと報じました。

 

ファールス通信によりますと、イラク安全保障情報センターは、同基地に向けて発射されたロケット弾は4発であると発表し、これらはカチューシャ弾の一種と伝えています。

 

同基地内部を撮影した動画には、火災の消火活動のために派遣された消防車が確認できます。

このロケット弾攻撃についての詳しい情報は発表されていません。

 

在バグダッド米国大使館と駐イラク米軍基地は、ここ数カ月の間に数回にわたるロケット弾攻撃を受けています。

多くのイラクの人々と勢力はテロリストに等しい米軍のイラクからの撤退を望んでおり、イラク議会も今年1月、これら軍隊の追放計画を可決しています。【7月25日 ParsToday】

********************

 

“テロリストに等しい米軍”云々の表現は、上記記事がイラン・メディアによるものであるためです。

 

イラク駐留米軍を撤退させること自体はアメリカ・トランプ政権も望むところでしょうが、問題はそれによるイランとのバランスの変化でしょう。

 

****イラク撤収、「ある時点で」=行程表は示さず―米大統領****

トランプ米大統領は20日、イラク駐留米軍について「ある時点で撤収する」と述べ、公約に掲げる米軍撤収に意欲を示した。

 

ただ行程表は示さず、隣国イランの敵対的な行動があれば「米国はイラク市民を支援するためにとどまる」とも指摘した。ホワイトハウスで行ったイラクのカディミ首相との会談冒頭、記者団に語った。【8月21日 時事】 

*********************

 

トランプ政権によるイラク政府支援も報じられています。

 

****アメリカがイラクに対する約20400万ドルの追加人道支援を発表する****

ワシントン:マイク・ポンペオ米国務長官は水曜日、アメリカ合衆国が、イラクの人々、イラクの難民、そして彼らを保護する団体に対して約20400万ドルの追加人道支援を提供すると述べた。

 

「この支援は、イラク全土に危機の避難所、不可欠なヘルスケア、非常事態下の食糧援助、水、衛生設備、そして保健サービスを提供するだろう。さらにそれは公文書と法的サービス、ヘルスケア施設への収容のアクセスを改善し、教育と生活の機会を増やすだろう」と、ポンペオ氏は声明を発表した。【8月20日 ARAB NEWS】

********************

 

こうしたアメリカの支援もあって、カディミ首相はイランの過度の影響力を排除したい姿勢のようです。

 

****イラクでデモリーダー標的、相次ぐ襲撃 総選挙前の口封じか****

イラクで今月、反政府デモのリーダーを狙った襲撃事件が相次いでいる。デモをきっかけに進む政治改革への危機感を抱く勢力の関与が疑われ、市民から「暴力による口封じだ」と怒りの声が上がっている。

 

イラク人権委員会などによると、襲撃は少なくとも九件発生。十九日には六件相次ぎ、三人が死亡した。女性の反政府デモの中心人物だった栄養士リハム・ヤコブさんは、車で移動中にバイクに乗った二人組の男に銃撃され亡くなった。

 

昨年十月、高い失業率などへの不満から始まったデモは全土に拡大し、一部政治家らの利権の独占や汚職が横行する政治の改革を求める機運が高まった。治安部隊との衝突で約五百六十人の犠牲者が出る一方、首相の辞任につながった。

 

新首相のカディミ氏は今年七月、デモ隊の要求に沿って再来年五月に予定されていた総選挙の約一年前倒しを表明。フセイン政権崩壊後の内政の混乱に拍車を掛けてきたイランの影響力の排除にも乗りだした。

 

十月には反政府デモから一周年となり、怒りが再燃する可能性もある。(後略)【8月23日 中日】

*******************

 

【北部クルド自治区におけるトルコとの問題も】

イラクはイラン・アメリカ以外にも、北部クルド自治区におけるトルコとの問題もあります。

 

****トルコの無人機攻撃でイラク軍幹部2人死亡、クルド自治区****

イラク北部のクルド自治区で11日、イラク軍の幹部2人が「トルコ軍の無人機によるあからさまな攻撃」によって死亡した。イラク軍が発表した。

 

死亡したのは国境警備の大隊司令官2人。2人が乗っていた車の運転手1人も死亡した。トルコが6月中旬に国境を越えてイラク北部で非合法武装組織「クルド労働者党」に対する地上および航空作戦を開始して以来、イラク正規軍の軍人に犠牲者が出たのは初めて。

 

クルド自治区のアルビル州の北に位置するシダカンの市長はAFPに対し、プラドスト地域で行われた今回の無人機攻撃は、「PKKの戦闘員らと会合をしていたイラク国境警備の司令官らを狙ったもの」だったと述べた。

 

同日、トルコ軍による攻撃に先立ち、PKKとイラク軍が衝突したという目撃証言があった。現地の情報筋によれば、事態の沈静化を図って開かれた緊急会合を狙ってトルコが無人機で攻撃したという。

 

イラク大統領府はトルコ政府に対し、クルド自治区における「すべての軍事行動の中止」を要請した。

 

トルコが6月に始めた軍事行動により、これまでに少なくとも5人のイラクの民間人が死亡した。この他にトルコ政府は自国の兵士2人、PKKとその同盟勢力は戦闘員と支持者合わせて10人の死亡を発表している。

 

PKKは長期にわたり、イラク北部の山岳地帯を拠点にトルコを攻撃してきた。一方のトルコは、イラク国内に軍を展開してPKK掃討作戦を行なっている。

 

アルビル当局とイラク政府はいずれも、トルコ軍のクルド自治区への展開をイラクの主権侵害とみなしているが、主要な貿易相手で地域の大国でもあるトルコを疎外することは望んでいない。  【翻訳編集】AFPBB News

*****************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア、フィリピンの深い闇 殺害される権力者にとっての「邪魔者」

2020-08-23 23:26:16 | ロシア

(ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(2018年、モスクワ)【8月21日 WSJ】)

 

【「プーチン最大の敵」の体調急変 毒を盛られたとの憶測も】

権力者・国家権力が、その意に沿わない「邪魔者」をひそかに抹殺する・・・・というのは、世界的に見ると、残念ながらそんなに珍しい話でもありません。

 

最近、話題になっているのはロシアの反プーチン指導者が「毒を盛られた」かもしれないということで重体になっている件。

 

****重体のロシア反政権活動家、転院許可される 批判配慮か****

意識不明の重体で救急搬送されたロシアの反政権活動家アレクセイ・ナバリヌイ氏について、搬送先の西シベリア・オムスクの病院は21日、ドイツへの転院を認めると発表した。同氏の側近らが、政権の管理下にある病院は危険だとしてドイツへの転院を求めていた。

 

側近らは「政権に毒を盛られた」と訴えているが、病院は「検査で毒物は検出されなかった」としている。

 

インタファクス通信などによると、病院は当初、「搬送は危険だ」として転院を拒否していたが、その後、一転して「反対しない。容体が改善した」と表明。数時間で準備が整うとの見通しを示した。

 

ムラホフスキー院長は「転院は勧めないが、親族とドイツの医師の責任でなら可能だ」と述べた。22日にもドイツの人権団体が手配した特別機で出国するとみられる。

 

ナバリヌイ氏は20日、モスクワに向かう飛行機の機内で意識を失った。体調不良となった理由について、病院は「飛行機の離陸時の気圧降下による低血糖や代謝障害」と説明している。

 

転院の許可や調査の徹底を求める声が国内外で強まったため、病院側は政権批判が高まらないようにとの配慮から、一転して転院を認めたとみられる。【8月22日 朝日】

****************

 

毒を盛られたのか? もしそうだとすれば誰が命じたのか?

真相は今のところまったくわかりません。

 

わかりませんが、これまで反体制的な活動家、ジャーナリスト、プーチン大統領の政敵などが不審な死をとげる、命を狙われることが珍しくないロシアのことなので、「またか・・・」という疑惑も禁じ得ないところではあります。

 

とりわけ、ナバリヌイ氏が、野党と言われるような政党も結局はプーチン支持の体制内野党にすぎないロシアにあって、唯一公然とプーチン批判を続け、野放しにした場合、その影響力は(特に、モスクワなど都市部では)プーチン大統領も無視できない存在であるだけに、「とうとうやったか・・・」という疑惑も。

 

****反プーチン指導者が重体。陰謀論ではない「ロシアで何が起こったか?」*****

(中略)ナワリヌイ氏はこの日朝、空港のカフェでお茶を飲んだという。

この件、「ホントに毒盛られたのですか?」「あの人がやらせたのでしょうか?」など、いろいろ疑問が湧くでしょう。匿名掲示板やヤフーニュースのコメント欄なら、好きなことを書けます。

しかし、真面目なメルマガなので、「現時点ではわかりません」と言うしかありません。

 

「証拠なし」のまま想像力を駆使して記事を書くのは、「陰謀論、トンデモ系のはじまり」です。

ですが、「ナワリヌイとは何者なのか?」を語ることはできます。これを読めば、なんとなく全体像が見えてくるでしょう。

 

ロシア政治の特殊な事情

まず、ロシア政治の特殊な形態についてお話します。ロシア議会(下院)には、4つの主要政党があります。与党「統一ロシア」。野党「ロシア共産党」「ロシア自民党」「ロシア公正党」。つまり、与党1、野党3の割合。民主的ですね〜〜〜。

 

ところが、ロシアの議会は特殊です。与党はもちろん、3野党も、決してプーチンを批判しないのです。彼らは、プーチンの下の首相や閣僚の批判ならします。しかし、プーチン批判は決してしないのです。いってみれば彼らは、「なんちゃって野党」。ロシアでは、「システム内野党」(システムナヤ・アパジツィア)と呼ばれます。

 

では、ロシアには、リアルな「反プーチン勢力」はいないのでしょうか?います。「マジ反プーチン勢力」。ロシア風にいうと、「システム外野党」(ヴニェシステムナヤ・アパジツィヤ)。その勢力の代表的人物が、アレクセイ・ナワリヌイなのです。

 

ナワリヌイとは?

アレクセイ・ナワリヌイは1976年生まれ。現在44歳です。「ロシア一の政治系ユーチューバー」といえるでしょう。今見ると、チャンネル登録者数は396万人でした。(中略)

 

歴史に残る「メドベージェフ汚職動画」

しかし、ナワリヌイの名を全世界に轟かせたのは、1本の動画です。2017年3月に投稿した、「オン・ヴァム・ニ・ディモン」という動画は、メドベージェフ(当時首相)が複数の超巨大別荘を所有していることを暴露している。(中略)

 

これまでに、再生回数は3,500万回を超えた。ロシア語の動画なので、見たのはほとんどロシア人でしょう。この国の人口は、約1億4,600万人なので、ロシア人の約4人に1人が見たことになる。それで、「真相究明」を求める大規模デモが、ロシア全土で起こりました。

 

ロシア政府は、デモ参加者の要求を、徹底的に無視しつづけることで、この危機を乗り切りました。しかし、国民の多くがプーチン政権に幻滅したことは間違いありません。

 

プーチンはこの事件で、「ネットメディアのパワー」を実感したのでしょう。以後、ネットの規制がどんどん厳しくなってきました。(中略)

 

こんな流れを見ると、ナワリヌイは、「プーチン最大の敵」といって、過言ではないでしょう。日本ではあまり知られていませんが、欧米では広く知られた人物です。

 

ナワリヌイさんは、現在意識不明の重体。回復することを心から願っています。【8月23日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】

*********************

 

【チェチェン関連で相次ぐ殺傷事件 背後に強権支配者のカディロフ氏?】

仮に誰かが毒を盛ったにしても、プーチン大統領と関連するのかはまったくわかりません。

誰かがプーチン氏の意を忖度したかもしれないし、同氏とは無関係に、自分たちの利益のため、あるいは自分たちが邪魔に思ったため手を下したのかも。

 

ロシア関連で相次ぐ「不審死」の震源地のひとつがチェチェンですが、チェチェン関連の「事件」の場合は、プーチン関連というより、チェチェンを牛耳る事実上の独裁者ラムザン・カディロフ首長に関連したものでしょう。

 

****チェチェン独裁者、批判勢力を口封じか…欧州で殺傷事件相次ぐ****

ロシア南部チェチェン共和国の事実上の独裁者でプーチン露大統領に近いラムザン・カディロフ首長(43)の反対派が殺傷される事件が、欧州で相次いでいる。カディロフ氏が批判勢力の口封じを図った可能性がある。

 

チェチェン出身者が殺傷された事件は昨年8月以降、4件発生し、3人が死亡、1人が負傷した。

 

ロイター通信などによると、ウィーン郊外で今月4日に射殺されたチェチェンの元警官男性(当時43歳)はユーチューブでカディロフ氏を批判していた。今年2月、フランス北部リールで刺殺された男性(当時44歳)とスウェーデン中部イェブレで襲われた男性(34)は著名なブロガーだった。

 

カディロフ氏は今月9日、ウィーン郊外の事件に言及して自らの関与を否定するとともに、在外チェチェン出身者に「同じ目に遭う可能性」を警告した。

 

カディロフ氏は2007年、イスラム教徒が人口約140万人の大半を占めるチェチェン共和国の大統領に就任した。プーチン氏に忠誠を示すことで経済援助を得て権力を固めた。プーチン政権は、ソ連崩壊後、露軍と2度戦火を交えたチェチェンの不安定化を恐れカディロフ氏を支持する。

 

米国は20日、深刻な人権侵害を理由にカディロフ氏と家族に入国禁止の制裁を科すと発表した。ドミトリー・ペスコフ露大統領報道官は24日、「極めて非友好的な行動だ」と批判した。【7月26日 読売】

********************

 

下記は随分古い記事の引用ですが、特に意味があるわけではなく、たまたまコピーしやすいところで目についたから・・・というだけでですが、内容的に今もそのまま通用するものでしょう。

 

****チェチェン****

91年に独立宣言したチェチェンに対し、ロシアは94年から2度、軍事介入。プーチン政権は正常化のため03年、穏健派イスラム教指導者を初代大統領に。だが初代大統領は04年のテロで爆死した。

 

現大統領(カディロフ氏)はその息子で、07年4月の就任以降、独立派勢力の大型テロはない。現大統領は、プーチン大統領への忠誠を示しながら、連邦政府が吸い上げる地元油田の利権分配を主張してもいる。また、私兵組織による住民弾圧も批判されている。【2008年4月23日 毎日】

********************

 

プーチン側近の軍関係者などはカディロフ氏と権力をめぐって緊張したりもしますが、ロシアにとって非常に厄介な地域であるチェチェンを強権で封じ込めてくれるカディロフ氏はプーチン大統領にとっては「使える存在」

 

一方、カディロフ氏は露骨にプーチン支持を誇張し(例えば、首都の大通りを「プーチン通り」と改名したり)、選挙などではプーチン支持票が100%に近いような結果になるような演出(おそらく選挙結果の捏造)もしますが、チェチェン内部については一切モスクワの手出しを許しません。

 

カディロフ首長とプーチン大統領、もちつもたれつの関係でしょう。

 

カディロフ首長、政治指導者というより武装勢力の親玉と言うべき人柄ですので、相次ぐ政治暗殺に関する欧米の人権批判など全く意に介さない様子です。

 

****米国、チェチェンのカディロフ首長を「ブラックリスト」に****

チェチェン共和国のラムザン・カディロフ首長は「ポンペオ!戦いを受けて立つ!これから先はもっと面白くなるぞ!」という文面とマシンガンを抱えた写真を披露した。カディロフ首長とその家族に対する米国の制裁発動に反応した形となった。

 

20日(月)ポンペオ米国務長官は、カディロフ首長が「ブラックリスト」入りしたことを発表した。米国当局は同首長が人権侵害に関与したことを理由に挙げている。【7月21日 SPUTNIK】

*******************

 

【ドゥテルテ大統領が就任後、「法治国家」フィリピンで180名超の人権活動家が殺害される】

「邪魔者は消せ!」のもうひとつの事例(ではないかと一部で憶測されている)はフィリピン。

 

****当局が関与?人権活動家が次々殺害、フィリピンの闇****

フィリピン中部ネグロス島の西部を占める西ネグロス州で8月17日、医療支援活動家で人権活動家のフィリピン人女性が正体不明の男性に射殺される事件が起きた。

 

地元警察が捜査中だが、この女性は現地の人権状況などを訴える裁判で証言する予定があったといわれ、犯行の背景に地元有力者、あるいは治安当局の関与があるのではないかとの疑惑が取り沙汰されている。

 

フィリピンでは権力者や当局、富裕層による人権侵害事案に果敢に取り組む活動家の口封じとみられる襲撃事件や射殺が後を絶たない。ドゥテルテ大統領が就任した2016年6月以降だけでも180人以上が殺害されたとの統計もあり、フィリピン社会に潜む深い闇となっている。

 

背中に3発の銃弾

8月17日午後6時45分ごろ、西ネグロス州バコロド市マンダガランの道路を自宅に向かっていたザラ・アルバレスさん(39)は背後から近づいて来た男性から突然銃撃を受け、その場に倒れた。ザラさんは背中に3発の銃弾を受けてほぼ即死状態で、犯人はそのまま逃走した。

 

ザラさんはシングルマザーで教師として働く一方で医療衛生プログラムを進める非政府組織(NGO)でも働き、地元市民のコロナウイルス対策などに協力していたが、以前はフィリピンの人権団体「カラパタン」のネグロス支部事務局長を務めていた。

 

「カラパタン」はフィリピンを代表する人権団体で1995年に設立され、一般市民の人権擁護、人権被害者の支援を続けている。

 

フィリピンでは7月3日に、ドゥテルテ大統領が任命した組織がテロリストと認定した個人や団体に対して「令状なしで最長24日間の拘束や90日間の盗聴、監視を可能にする」ことなどを盛り込んだ「反テロ法」が成立した。

 

この時「カラパタン」は、「反テロ法」が政権や治安当局による恣意的に運用されて人権状況が危機的になると反対・抵抗し、「ドゥテルテ大統領が目指しているのはマルコス大統領の独裁政治そのものである」と、ドゥテルテ大統領への厳しい批判を展開した組織でもある。

 

人権状況を法廷で証言する予定だった

地元メディアなどによるとザラさんは、「カラパタン」や女性保護支援グループ「ガブリエラ」、宗教組織「ルーラル・ミッショナリーズ・オブ・フィリピン」などの主要活動家が活動に際して脅迫や殺人予告を受けて危険に直面していることから、裁判所に対してメンバーの「人身保護命令」を要請する闘いにも参加していた。

 

しかし2019年6月にこの請求が裁判所によって却下されたため、活動家らは再審を要求していた。その過程でザラさんは法廷に立って、仲間のメンバーやザラさん自身が置かれている危険な状況を証言する予定だったという。

 

「カラパタン」によれば、ザラさんも絶えず脅迫や尾行を受けており、電話やメール、SNSなどによる「殺害予告」も度々受けていたという。ザラさんはそうした脅しには「軍が関与している」として警戒を示していた。

 

ザラさんは自身に対する危険があることを承知していたが、地元メディアに対して「他の仲間が殺害されたり、危機に直面したりしている時に自分だけ逃げるわけにはいかない」と話していたという。

 

ただ、家族に危害が及ぶことを避けるため、最近は家族と離れて一人暮らしをしていたといい、ザラさんは今回その自宅近くの路上で凶弾に斃れた。

 

実は、同じく法廷での証言を予定していたライアン・フビラ氏も2019年6月にルソン島南部ビコル地方ソルソゴン州のソルソゴンで殺害されている。ライアン氏殺害は証言台に立つ予定の3日前だった。

 

カラパタン関係者だけで13人目の犠牲者

「カラパタン」によると、ザラさんが殺害される直前にはマニラ首都圏ケソン市の自宅で同じく人権活動家のランドル・エカニス氏(72)も殺害されているのが発見されていた。

 

2016年の6月のドゥテルテ大統領就任以来、フィリピンでの人権活動家などの殺害事件の被害者は182人に上っているという。このうち地方などでのいわゆる草の根の活動家は136人を占め、「カラパタン」の関係者に限ると、ザラさんが13人目の犠牲者となるという。

 

こうした人権活動家などの相次ぐ殺害事件は、1986年に「エドサ革命(ピープルパワー革命)」で崩壊するまで続いたマルコス独裁政権時代を彷彿とさせる現象と言われ、多くの事案が警察や軍ないしその意を受けた非合法組織や犯罪者などが関係した「治安当局」による犯行との見方が強まっている。

 

しかしこれまでに実行犯を含めてこうした殺害事件の真相が明らかになり司法による公正な裁きが下された事例はほとんどない。

 

ザラさんの今回の殺害も自身が「軍から脅迫を受けている」と明らかにしていたことからも軍による何等かの関与があった可能性が高いとみられている。

 

共産主義者の烙印

「カラパタン」や他の人権団体、キリスト教組織などによると、ザラさんはバコロド市周辺で精力的な活動を続けて、市民の人権擁護に多大な貢献をしていたという。

 

しかしザラさんは2012年に殺人事件に関係した容疑で活動家仲間と共に逮捕、1年8カ月間拘留されたことがある。2020年3月に裁判の結果、最終的には無罪を勝ち取ったが、逮捕容疑は「フィリピン共産党(CPP)」の武装部門「新人民軍(NPA)」が軍を待ち伏せ攻撃して兵士が死亡する事件に関連した容疑だった。

 

以来、ザラさんは治安当局から共産党関係者、シンパとしてマークされ、脅迫を受けていたようだ。

 

フィリピンではドゥテルテ大統領がCPPとの一時停戦や和平交渉への道を模索したものの、最終的な合意には至らず、2017年、ついに大統領は和平路線を完全放棄した。

 

このことを受けて、CPPあるいはNPA関係者と見なした人々に対して、治安当局による様々な迫害や脅迫は日常的なものになっているという。

 

ケソン市で殺害されたランドル氏も政府とNPAの間に立って和平調停に関わっていた活動家なのだが、共産党との関わりを指摘されていたという。

 

「カラパタン」ではザラさんはCPPともNPAとも政治的な関係は全くなかったが、関係を疑われて人権被害を受けた一般市民などを支援する過程で「共産党関係者」との烙印を治安当局から押されたものと見ている。

 

ドゥテルテ政権下では、麻薬犯罪取り締まりで現場での容疑者射殺を容認するような超法規的殺人がいぜんとして横行しているが、実は殺害された「容疑者」には、誤認で殺害された人や、麻薬事案と全く関係なく私怨を晴らすために殺された人も少なからず含まれているという。

 

同じように「共産党関係者」というレッテルを貼ったり、評判を立てたりすることで、人権活動家への脅迫や口封じ、あるいは他の活動家への見せしめとするような事案がフィリピンでは実際に起きている。

 

「治安当局と関連づけるな」と大統領府

今回のザラさんやランドル氏の殺害について、大統領府のハリー・ロケ報道官は地元メディアを通じて「政府はザラさんの死に限らず、いかなる市民、活動家への暴力も許さない。フィリピンは法治国家である」とした上で、「この件に関して政府、あるいは治安当局と事件を関連付けて考えるべきではない。根拠のない批判は捜査の妨げになるだけであり、現在進んでいる警察の捜査報告を待つべきだ」と主張し、現時点で“治安当局が関与した”とする見方を否定した。

 

一方、「カラパタン」のクリスティナ・パラベイ事務局長は地元メディア「ラップラー」に対して、ザラさん殺害事件に関してこう述べた。

 

「腹立ちや不満を通り越して怒り、憤りを隠せない。我々はフィリピンの捜査機関や司法当局のシステムとは別の方法でザラさん殺害の真相を調べる。我々には国民という支持者がいる。そういう国民の権利のためにも闘いを続けなくてはならない」

 

要するに、人権活動家への事件に関して、もはや警察や裁判所は当てにできないことを改めて強調したのだ。

 

国民の人権を守ろう、人権被害者を救済しようという活動家を銃弾で殺害する事件に関して、国民が「捜査機関も司法当局も当てにすることができない」と言い切るフィリピン――。その社会の闇の深さは、まさに「底知れない」と言うしかない。【8月23日 JBpress】

******************

 

麻薬関連で数千人が超法規的に警察あるいは謎の処刑団によって殺害され、そうした事態を推し進めているドゥテルテ大統領ですから、人権活動家が“何者か”によって暗殺されるという現状は、まったく驚きも何もない、当然に想像できることです。

 

大統領府によれば、フィリピンは法治国家だそうですから(これは非常な驚きですが)、根拠もなくあれこれ言うのは不当なことなんでしょうが・・・・。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー総選挙  陰りが見えるスー・チー人気 ロヒンギャ対応では軍政と同じとの批判も

2020-08-22 22:57:54 | 東南アジア

(19日、政府と少数民族武装勢力の恒久和平を探る代表者の協議「21世紀のパンロン会議」で演説するアウン・サン・スーチー国家顧問 【8月20日 日経】 たまたまでしょうが、精彩を欠いた表情のようにも見えてしまいます。)

 

【単独過半数維持が焦点】

世界が注目するアメリカ大統領選挙は11月3日に迫っていますが、ほぼ同時期の11月8日にはミャンマーの総選挙も行われます。

 

****ミャンマー、スー・チー政権に初の審判 11月に総選挙****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー政権が、今年11月8日の総選挙で初の審判を受ける。

 

先月、候補者登録が始まり、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相(75)率いる与党・国民民主連盟(NLD)が上下両院選で優勢とみられている。

 

しかし、かつての軍事政権下で任命制の軍人枠が設けられており、過半数を獲得して単独政権を維持するには、両院で改選議席の3分の2超を確保することが必要だ。軍政からの歴史的な政権交代を果たしたNLDだが、少数民族問題を中心に逆風も吹く。

 

前回総選挙でNLDは改選議席の約8割を獲得し、軍系政党の連邦団結発展党(USDP)を抑えて圧勝。半世紀以上、軍が実権を握ってきたミャンマーで文民政府を実現した。スー・チー氏は選挙後、「すべて自分が決める」と宣言した。

 

ただ、NLDが公約を達成できたとは言い難く、重要公約だった少数民族との和平はほとんど進まなかった。国内では軍と自治権を求める少数民族武装勢力との内戦が一部で続いている。NLD政権は政府、軍、武装勢力による対話の場は設けたものの、停戦に向けた動きは広まっていない。

 

地元ジャーナリストは「少数民族は和平や地位向上を期待して前回選挙でNLDを支持しており、失望感が漂っている」と分析。今回の総選挙では地域政党が独自に候補を擁立する動きが見える。

 

もう一つの柱の公約である憲法改正も停滞した。憲法改正には議員の4分の3の賛成が必要だが、上下院には4分の1の「軍人枠」があり、そもそもNLDが議会過半数を確保しても改憲は難しい。

 

NLDは軍人枠を5%まで減らすことなどを盛り込んだ憲法改正案を議会に提出したが、今年3月、軍系議員の反対に直面し、軍の権限を弱める案はことごとく退けられた。

 

現行の制度上、憲法改正は困難だが、NLDは引き続き政権を担って機運を高め、将来の改憲につなげたい思惑がある。

 

スー・チー氏は、国際的にイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題などで批判を浴びてもいるが、人口の約7割を占めるビルマ族を中心に支持は厚い。

 

政府は1月、スー・チー氏の父で、建国の父として根強い人気があるアウン・サン将軍の肖像画を使った新紙幣の発行を開始。父の人気も利用しての支持固めを狙っている。

 

立候補受け付けは7日まで行われる。

     ◇

ミャンマー総選挙 ミャンマー議会は上院(定数224)と下院(同440)の二院制で、このうち国軍総司令官が任命する軍人枠を除いた計498議席が改選される。両院での過半数を確保するには、それぞれ改選議席の3分の2超の獲得が条件となる。

 

任期は5年。2015年の前回総選挙では国民民主連盟(NLD)が圧勝したが、憲法の規定で党首のアウン・サン・スー・チー氏は大統領になれず、国家顧問兼外相として国政トップの座に就いた。【8月3日 産経】

*******************

 

かつての「民主化運動の象徴」だったスー・チー氏も、現実政治のなかでは思うような成果を出せずにおり、その人気もひと頃ほどではなくなっています。

 

そのため、上記記事にもあるような実父であり、かつ「建国の父」でもあるアウン・サン将軍の肖像画を使った新紙幣の発行とか、かなり強引な“選挙対策”も行っているようです。

 

****スーチー氏の選挙運動、論争 ミャンマー、11月総選挙 野党側、違憲と反発****

今年11月に総選挙が行われるミャンマーで、与党・国民民主連盟NLD)を率いるアウンサンスーチー国家顧問の選挙運動をめぐり議論が起きている。

 

憲法が閣僚らの政党活動を禁止していることから、野党側は「違憲だ」と主張しており、選挙の前哨戦ともいえる論争になっている。

 

5年に1度の総選挙の投票は11月8日に予定。NLD代表のスーチー氏と副代表のウィンミン大統領は今月2日、選挙運動開始の声明を出したが、これに旧軍事政権系の政党などが「憲法違反だ」と反発。軍政下でつくられた憲法が「大統領や閣僚は在任中は党の活動に参加できない」と定めているからだ。外相も兼務するスーチー氏は閣僚の一人でもある。

 

NLD側は「誰でも選挙運動ができる」と定める別の法律があるとして、「違反には当たらない」と主張。だが、NLDには2015年の前回選挙の際、当時のテインセイン大統領が、自ら代表を務める軍政系政党の活動に関わったことが憲法違反だと選挙管理委員会に申し立てた過去がある。

 

選管は受理しなかったが、NLDは選挙期間中も「違憲だ」と主張し続けた。東部シャン州の地域政党に所属するサイレイク氏は今回のNLDの対応について、「自分たちの都合のいいように憲法や法律を解釈し、民主主義を軽んじている」と批判する。【7月19日 朝日】

***********************

 

今回総選挙の焦点は、勢いに陰りがみられるスー・チー氏率いる与党の国民民主連盟(NLD)が単独過半数を維持できるかどうかです。

 

****ミャンマー、総選挙まで3カ月 和平停滞、与党議席減も****

ミャンマー選挙管理委員会は7日、11月8日の投票まで3カ月となった総選挙の立候補受け付けを締め切った。

 

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の人気は依然高く、与党の国民民主連盟(NLD)が優位を保つ。ただ最重要課題に掲げた少数民族武装勢力との和平協議は停滞。議席減の観測もあり、単独過半数を維持できるかが焦点だ。(後略)【8月7日 共同】

*********************

 

【国民(特にビルマ族)や軍部を敵に回さない現実路線】

主要政党は与党NLDと軍系政党の連邦団結発展党(USDP)ですが、新党も総選挙にチャレンジしています。

そうした新党が生まれる背景には、スー・チーの「現実路線」への不満・批判もあるように思われます。

 

****2020年ミャンマー総選挙の展望 ~NLD、国軍系以外で重要となる第三勢力の存在~****

1.国軍排除は短期的には困難。総選挙以降もNLDと国軍の共存は継続される

(中略)

 

2.88世代による人民党は票の受け皿となるか?

スーチー氏としては引き続き軍部との共存路線維持ではあろうが、USDPなど軍系が国民の支持を得ることはないだろう。

 

では仮に選挙でNLDが単独で過半数取得できなかった場合、どの党と連立政権を組むのだろうか。近年は元国軍ナンバー3で、スーチー氏との距離も近いシュエマン氏が、自身で政党を立ち上げ大統領就任の意欲も見せている。

 

また来年に向けてシャン州などの地方部を中心に、民族系の政党が連合を組み始めるだろう。

 

弊社内に設置するシンクタンク部門でも度々議論するが、最も有望視しているのは、新政党People’s Party(人民党)である。人民党は1988年の民主化運動で元学生リーダーのコーコージー氏が党首を務め、スーチー氏との関係も良好だ。

 

前回選挙では、NLD圧勝シナリオを築くために、自身は控えNLDに潜勢力を譲った位置づけである。今回選挙では、人民党が第三勢力となりNLDと連立を組むことが、安定的な民主政権2期目の運営につながると考えている。

 

3.ポストスーチー氏は誕生するか?

スーチー氏は今年で74歳。“ポスト”スーチー氏となる人物は未だ挙げられない。(中略)開発独裁色の強いリーダーシップが必ずしも良いとはいえないが、多民族国家で、資源も豊富、かつ少数民族が軍閥のように存在感を持つミャンマー経済水準を向上させるためには、強権的にでも実行力のある政治家・実力者が適している可能性も否めないのではないだろうか。

 

そのようなリーダーは果たしてNLD、はたまた元学生運動家、民間出身者、軍部、少数民族などどこから呱々の声をあげるだろうか。(後略)【2019年10月23日  瀧波 栄一郎氏 Myanmar Survey Research】

********************

 

3点目の後継者不在については、すべて自分の思いどおりにしないと気が済まないスー・チー氏の性格が後継者育成を阻んでいるとの批判もあります。

 

****ミャンマー、与党を離れて新党結成****

11月の総選挙に向けて7月20日に立候補の届け出が始まったが、与党「国民民主連盟(NLD)」から離脱した一部の国会議員らが複数の新党を結成している。

 

その一つが新党「人民先駆者党(PPP)」で、NLDを離れた女性実業家で下院議員でもあるテ・テ・カイン氏らが創設した。

 

また、軍政時代に学生デモを主導したコー・コー・ジー氏(Ko Ko Gyi)も新党「人民党(PP)」を設立した。さらに、軍人出身だがNLD幹部としてアウン・サン・スー・チー氏を支えていたシュエ・マン元下院議員も「連邦改善党(UBS)」を結成した。

 

PPPを結成したテ・テ・カイン氏は、NLDの意思決定が民主的ではなく国民の声を代弁していないとNLD執行部を批判している。

 

また、PPを設立したコー・コー・ジー氏は、民主主義が持続的に発展するには対抗勢力の存在が欠かせないと新党結成の理由を伝えている。(後略)【7月20日 Cilsien – ASEAN Info Clips

***********************

 

【ロヒンギャ封殺では軍事政権時代と変わっていないとの批判も】

スー・チー氏の「国民(特にビルマ族)や軍部を敵に回さない現実路線」が端的に現れているのがロヒンギャ問題への消極姿勢です。

 

強い国際圧力にもかかわらずロヒンギャ難民の人権を守るために殆ど何もせず、ロヒンギャを弾圧した軍を代弁しているような感もありますが、背景には軍部の意向、ロヒンギャを嫌悪するビルマ族の世論があります。(スー・チー氏自身もロヒンギャには好意的でないようにも思われます)

 

ただ、国際的には「民主化運動の象徴」でもあったスー・チー氏への期待も大きかっただけに、失望もまた大きなものとなっています。

 

スー・チー政権は、単にロヒンギャ難民を守る取り組みを何も行っていないだけでなく、ロヒンギャの政治的発言を封殺するような動きもあり、「結局、軍事政権と何も変わっていない」との批判もあります。

 

****ロヒンギャにとって文民政権は旧軍事政権と変わらず****

ロヒンギャの出馬を拒否

米国に基盤を置く国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch:HRW)は8月18日、ミャンマー政府が再びイスラム系少数民族ロヒンギャの総選挙出馬を阻止していると指摘した。

HRWによると、ミャンマー選挙管理委員会は17日、ロヒンギャ主導の政党「民主人権党(DHRP)」の代表であるKyaw Min氏の11月の総選挙出馬を拒否したという。

同氏は他のDHRPメンバー2人とともに、両親の市民権を理由に立候補が認められなかった。ミャンマー議会選挙法では、両親がミャンマー国民であることが義務付けられているが、ロヒンギャの人々を抑圧するために使用される手段の1つだといわれている。

Kyaw Min氏は何十年もの間、コミュニティのために戦い、1990年の選挙では当選した。しかし、旧軍事政権により当選は無効になったという。

また、2005年には妻と3人の子供とともに逮捕され、2012年の恩赦で釈放されるまで、7年間も刑務所で過ごしている。

 

文民政権になってロヒンギャへの迫害が加速

Kyaw Min氏によると、立候補が拒否されたのは今回が初めてではなく、2015年の総選挙ではロヒンギャの投票権が剥奪され、選挙管理委員会は同氏を含むDHRPのメンバー14人の出馬も拒否したという。

2016年にアウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)が政権を手にして期待が高まったが、ロヒンギャへの対応は変わらないばかりか、ラカイン州で国軍によるロヒンギャ迫害が起こり、74万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュへの逃避している。

また、国内に残る約60万人のロヒンギャも、キャンプや村に閉じ込められ、市民権も投票権も与えられていない。

民主主義を推進するミャンマー文民政権は、旧軍事政権とどこが変わったのだろうか。【8月22日 ミャンマーニュース】

*****************

 

また、70万人を超えるロヒンギャ難民を受け入れた隣国バングラデシュも、難民問題を解決しようとする姿勢を見せないスー・チー政権を批判しています。

 

*****ロヒンギャ、ミャンマーに責任 バングラ外相が帰還難航を批判****

ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大規模に流入してから25日で3年となるのを前に、同国のモメン外相が首都ダッカで21日に共同通信と単独会見した。

 

ロヒンギャ難民の帰還が進まない原因は「ミャンマーが新型コロナウイルスの流行や11月の総選挙を理由に遅らせている」ことだと批判。早期解決は困難との立場を明らかにした。

 

モメン氏は、ミャンマーに帰還させる60万人の名簿をバングラデシュ政府が提示したのに対し、ミャンマー側が受け入れ検討対象と認めたのは5%の3万人だけだと指摘し、帰還協議に真剣に取り組むようミャンマーに求めた。【8月22日 共同】

*******************

 

特に国際的には期待が失望に変わり、「民主化運動の象徴」から「普通の既存政治家」に色褪せた感もあるスー・チー氏ですが、総選挙で「腐っても鯛」というか、改めて国民支持の底堅さを見せるのか、それとも退潮が鮮明となるのか・・・注目されます

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする