
(5月24日、ヘルマンド州のMarjehで現地子供と遊ぶISAF英軍兵士 5月28日、近郊のNawzadでISAFの戦闘機が民間人家屋2軒を空爆し、子ども10人、女性2人、男性2人の計14人が死亡しました。 “flickr”より By U.S. Department of Defense Current Photos http://www.flickr.com/photos/39955793@N07/5765218076/ )
【春の大攻勢】
アフガニスタンでの戦局は、米軍増派や、カンダハルやヘルマンドなどタリバン本拠地での大規模作戦によって、ひところに比べると米・NATO軍に有利に展開しているようにも報じられていますが、このところアフガニスタンからのテロ攻撃などのニュースが増加しています。
タリバンによる春の大攻勢の一環のようです。
****アフガニスタン NATO作戦への抗議デモで12人死亡、東部では自爆攻撃****
アフガニスタン北東部のタハール州タロカンで18日、前日の北大西洋条約機構(NATO)軍による急襲作戦に抗議するデモが暴徒化し、12人が死亡した。一方、同国東部では13人が死亡する自爆攻撃があり、1日に25人が死亡するという、ここ数週間でもっとも犠牲者の多い日となった。
NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)は17日深夜、「ウズベキスタン・イスラム運動」の拠点を急襲し、女性2人を含む4人が死亡した。
しかし、欧米寄りとされるハミド・カルザイ大統領は、死亡した4人は武装勢力のメンバーではなかったと主張し、デービッド・ペトレアスアフガニスタン駐留米軍司令官に説明を要求。
普段は静かなタロカンでは急襲作戦に抗議する2000人規模のデモがあり、国際部隊の基地に投石するなどして一部が暴徒化。鎮圧に乗り出した警察が発砲し、地元政府によると12人が死亡、80人が負傷した。
同日午後、東部ジャララバード郊外の空港付近では、自動車による自爆攻撃で13人が死亡、20人が負傷した。警察の研修生らを乗せたバスを狙ったもので、すでに旧支配勢力タリバンが犯行声明を発表している。
人員が増強されつつある警察や軍は、タリバンなどの武装勢力の標的となっている。(後略)【5月19日 AFP】
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その後も毎日のようにテロによる犠牲者が続いています。
****タリバンが建設会社襲撃、35人死亡 アフガニスタン東部****
アフガニスタン東部パクティア州で19日未明、旧支配勢力タリバンが道路建設会社を襲撃した。州政府によると、数時間の銃撃戦の末に同社従業員ら35人が殺害され、20人が負傷した。(中略)
タリバンはハミド・カルザイ政権の権威を失墜させるために、政府の復興プロジェクトを襲撃の最重要ターゲットとしており、これまでにも道路の復興工事に従事する外国人労働者を繰り返し拉致している。
タリバンは4月末、毎年春に行っている大規模攻撃の開始を宣言している。【5月20日 AFP】
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****アフガニスタン:軍病院で自爆テロ6人死亡 カブール*****
アフガニスタンの首都カブール中心部にある国軍病院で21日、自爆テロがあり、国防省によると、病院関係者少なくとも6人が死亡、23人が負傷した。(後略)【5月22日 毎日】
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****アフガンでタリバンの襲撃相次ぐ*****
アフガニスタン東部ホスト州で22日、交通警察の入った建物が武装勢力の襲撃を受け、AP通信によると少なくとも警官3人を含む6人が死亡した。現場は治安関係が集まる地域という。イスラム原理主義勢力タリバンが同通信に犯行を認めた。(後略)【5月23日 産経】
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****アフガンで爆発、米兵8人死亡 タリバーンが攻撃認める****
アフガニスタン南部カンダハル州で26日、仕掛け爆弾が爆発し、AP通信によると、米兵8人が死亡した。反政府武装勢力タリバーンが攻撃を認めた。(後略)【5月27日 朝日】
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*****アフガニスタン自爆攻撃で元「北部同盟」司令官ら6人が死亡*****
アフガニスタンのタハール州の州知事公舎で28日、自爆攻撃が発生し、同国北部を管轄する警察司令官とドイツ軍兵士2人を含む6人が死亡した。旧支配勢力タリバンが犯行声明を発表している。(後略)【5月29日 AFP】
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****アフガニスタンの州知事公舎でテロ、7人死亡****
アフガニスタン北部タハール州の知事公舎内で28日、アフガン警察の制服を着た男が、身に着けていた爆弾を爆発させ、知事の広報官などによると、アフガン警察のダウド北部方面司令官やドイツ軍兵士2人を含む計7人が死亡、知事やドイツ軍司令官ら10人が負傷した。旧支配勢力タリバンが犯行を認めた。(中略)
事件は、南部を拠点とするタリバンが北部へも浸透している実態をうかがわせるものと言える。【5月29日 読売】
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【「一方的な作戦がアフガン人をうんざりさせている」】
こうしたタリバン側の攻勢とともに、最近一段と厳しくなっているのが、NATOが指揮する国際治安支援部隊(ISAF)による空爆・夜間の民家急襲作戦による民間人被害の増加に対する批判です。
冒頭の記事も、ISAFによるタロカンでの夜間急襲作戦(カルザイ大統領は、死亡した4人は武装勢力のメンバーではなかったと主張)に抗議するデモが暴徒化し、治安当局の発砲により12人が死亡したというものでした。
NATO軍が行っている反政府武装組織の拠点せん滅や関係者摘発を目的に行う夜間の民家急襲作戦について、カルザイ大統領は、今後はアフガン軍の統制下に置き、外国部隊の独断による実施を禁じると表明しています。
****アフガン:夜間の民家急襲、軍統制化に 外国部隊独断禁止*****
アフガニスタンのカルザイ大統領は28日、同国駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍部隊が反政府武装組織の拠点せん滅や関係者摘発を目的に行う夜間の民家急襲作戦について、今後はアフガン軍の統制下に置き、外国部隊の独断による実施を禁じると表明した。市民の犠牲も指摘されるなど強引な作戦にはアフガン人の間で不満が募っており、市民感情に配慮した格好だ。
カルザイ大統領は国防省に対し、アフガン軍による夜間急襲作戦の指揮を命じた。
AP通信によると、NATOはすべての夜間急襲作戦についてアフガン軍と合同で実施しているとの立場で、「アフガン軍参加の夜間作戦から、アフガン軍指揮の作戦へと移行すべきだと理解している」との声明を出し、大統領の表明に一定の理解は示した。
しかし、NATO側は夜間急襲について武装組織の弱体化に有効で、作戦として不可欠との立場を貫いており、今後作戦実施を巡って、アフガン軍と米軍主導のNATO軍側との対立が深刻化する恐れがある。(中略)
大統領はNATOの急襲を「一方的な作戦がアフガン人をうんざりさせている」などと強く批判し、対応が注目されていた。【5月29日 毎日】
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【「勝手であるうえに不必要」な作戦が、罪のない子どもや女性たちを殺害している】
空爆による民間人犠牲も後を絶ちません。
****アフガン:ISAF空爆の死者52人に 大半は民間人****
アフガニスタンの当局者は29日、AFP通信に対し、北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安支援部隊(ISAF)の空爆による死者が最近数週間で52人に上ったと明らかにした。犠牲者の大半は子供や女性を含む民間人という。
南部ヘルマンド州の米軍基地が28日、小火器で武装した集団に襲われたとして航空支援を要請。しかし、民家2軒が爆撃され、少年7人、少女5人、成人女性2人の計14人が死亡、6人の負傷者のうち子供が3人だった。北東部ヌリスタン州でも25日、アフガン治安部隊の20人と市民18人が爆撃で殺された。
ISAF報道官は「被害事実を調べる調査チームを派遣した」と語った。【5月29日 毎日】
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特に問題となっているのが、上記記事にもあるヘルマンド州における28日の空爆によって少年7人、少女5人、成人女性2人の計14人が死亡した事件です。
カルザイ大統領は29日、アメリカやISAFを主導するNATO軍に対し、民間人が犠牲になるような空爆をやめるよう「最後の警告」を突きつけています。
****ISAF誤爆で民間人14人死亡、アフガン大統領が激しく非難****
アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は29日、駐留米軍を支援する北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)の空爆で民間人14人が死亡した事件で、駐留米軍を激しく非難する声明を発表した。
南部ヘルマンド州当局によると、同州内の米軍基地が28日、小規模な攻撃をうけたため、米海兵隊がISAFに援軍を要請。これを受けて出動したISAFの戦闘機が民間人家屋2軒を空爆し、子ども10人、女性2人、男性2人の計14人が死亡した。このほかにも6人が負傷したという。
この報道を受けたカルザイ大統領は、このような「勝手であるうえに不必要」な作戦が、アフガニスタンの罪のない子どもや女性たちを殺害していると米軍を非難し、誤爆問題については、これが最後の警告だと米国側に通告した。また、大統領府も今回の空爆を「重大な誤爆」と強く非難している。
一方、ISAFは、誤爆については現在、調査中だと発表している。【5月30日 AFP】
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ISAF側は30日、謝罪声明を出し、「市民の犠牲者を出さないことがわれわれの最優先事項だ」として、空爆の精度向上などに努める考えを示しています。
****国際治安支援部隊、アフガンでの誤爆を謝罪*****
アフガニスタンで展開する国際治安支援部隊(ISAF)は30日、声明を発表し、南部ヘルマンド州で誤爆により民間人9人が死亡したことを認め、遺族らに謝罪した。
声明によると、同州で28日、ISAF軍のパトロール隊が武装勢力の攻撃を受け、支援するISAFの軍用機が出動。武装勢力が潜む建物を爆撃したところ、「後で民間人の家屋だったと判明した」という。
同州政府は29日、誤爆により子ども12人を含む民間人14人が死亡したと発表した。ISAF側は、この違いについて言及していない。【5月30日 読売】
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【米軍の早期撤退を求める声】
01年に米軍がアフガンに侵攻して以降、誤爆などによる民間人の犠牲は増加し続け、反米感情の高まりを背景に旧支配勢力タリバンは勢力を拡大。アフガニスタン国民の間にも米軍の早期撤退を求める声が高まっています。
もっとも、自分たちの腐敗や非効率を棚に上げて、反米世論向けに米軍・NATO軍の“誤爆”を盛んに批判するカルザイ大統領に対しては、アメリカも正直なところうんざりしている感もあります。
アメリカとしては、アフガニスタンでの戦闘はあくまでも9.11を起こしたアルカイダと、それをかくまうタリバン政権への報復であり、別にアフガニスタンに恒久的な民主国家を樹立することではありません。
その意味では、タリバン政権を崩壊に追いやり、先日ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害したことで、一応の目的は達成できたとも言えます。
アルカイダメンバーは残存していますが、百人単位の規模であり、潜伏地も多くはパキスタンの北西部国境地帯ともみられます。そうなると、多数の兵士の命を犠牲にし、国家財政を傾ける巨額の戦費を投入してアフガニスタンでの戦いを続けることには疑問も出てきて当然でしょう。
撤退スケジュールに沿う形で、“後は野となれ山となれ”と引き上げることも予想されます。
そのとき、真っ先に危機にひんするのはカルザイ政権でしょう。
【「オマル師はアフガン国内でジハード(聖戦)を指揮している」】
ところで、ウサマ・ビンラディン容疑者が周知のようにパキスタンで殺害されましたが、依然消息不明なのが、アメリカがその首に1000万ドル(約8億2000万円)の懸賞金をかけているタリバン指導者のオマル師です。
先日、オマル師死亡のニュースがながれましたが、真偽は不明です。
オマル師については、ウサマ・ビンラディン容疑者同様に、パキスタン情報機関ISIの保護下にあるとも言われています。
****オマル師殺害とアフガンで報道…タリバンは否定****
アフガニスタンで、旧支配勢力タリバンの最高指導者オマル師がパキスタン国内で殺害されたとのテレビ報道があった。
アフガンの地元テレビが23日に報じたのは、オマル師が21日、パキスタン南西部クエッタから部族地域北ワジリスタンへ移動中に射殺されたという内容。しかし、タリバンはAP通信などに対し、「オマル師はアフガン国内でジハード(聖戦)を指揮している」と即座に否定。アフガンの情報機関も23日、「死亡したかどうかは確認できない」との見方を示した。
一方、アフガン情報機関の報道官は同日、「オマル師は約10年前からクエッタで生活しているようだが、ここ4、5日間、消息不明だ」と述べ、この情報が死亡説につながった可能性を示唆した。【5月24日 読売】
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今回報道の真偽は別にして、ここ数年全く生存を確認するものがないこと、そのことが原因でタリバン側の組織混乱も伝えられる状況を考えると、すでに死亡しているのでは・・・という推測もなされます。