孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

再生可能エネルギー  発電割合30%超え 脱炭素戦略を加速する中国

2024-07-16 23:50:38 | 環境

(巨大風車が並ぶ中国・福建エリアの洋上風力発電群
洋上風力発電所は台風の強風時には安全のため発電を停止するケースが多いが、今回、中国の発電大手の長江三峡集団(CTGC)が運営する福建エリアの世界最大の洋上風力発電所(16MG)は、台風9号と11号の襲来時にも24時間フルに稼働した。その結果、1日当たりの発電量は38万4100kWhに達し、世界記録を更新したとしている。【2023年9月9日 環境金融研究機構】)

【再生エネ 気候変動目標には至らないものの、発電割合で30%超えに増加 原発運用を圧迫】
気候変動対策として化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が求められていますが、昨年の世界の再生可能エネルギー発電容量の伸びは気候変動目標を達成するために必要な伸びの半分足らずにとどまっています。

****鈍い再生エネの伸び、気候目標達成に程遠く インフラ不足が課題****
 昨年の世界の再生可能エネルギー発電容量の伸びは気候変動目標を達成するために必要な伸びの半分足らずにとどまったと、有力シンクタンクが指摘した。エネルギー需要の増加と送電インフラ不足が化石燃料からの転換を遅らせているという。

政府や業界団体が参画する「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)」(本部:パリ)が4日公表した年次報告書によると、世界の再生可能エネルギー容量は昨年、約473ギガワット(GW)、36%増加した。22年連続で増加したものの、気候変動目標達成に必要な1000GWの半分にも満たなかった。

ラナ・アディブ事務局長は「エネルギー需要が、特に中国、インド、その他の発展途上国で同時に増加している」と述べた。

REN21は、自然エネルギー部門では送電網インフラへの投資不足が課題だと指摘した。送電網への接続待ちのプロジェクトは昨年は3000GW相当だったという。

途上国が再生可能エネルギー施設を建設する資金の援助も引き続き大きな課題になっている。

アディブ氏は「資本コストは世界的に大幅に上昇しているが、発展途上国では特に高い」と述べた。開発資金も不足し、昨年の世界の再生可能エネルギー投資総額のわずか1.4%にとどまったとしている。

昨年の世界の再生可能エネルギー投資は前年比8.1%増の6230億ドル。気候変動目標を達成するには年1兆3000億ドルが必要とされる。

「技術はある。CO2排出量の80%は既存の技術で削減できる。必要なのは政治的な意志だ」とアディブ氏は語った。【4月5日 ロイター】
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気候変動目標には届かないものの、それでも世界のエネルギー事情は太陽光・風力など再生可能エネルギーが増加し、「化石燃料による発電量が減少する新時代が目前に迫っている」との状況にありますが、日本はそうした流れから更に遅れているようにも。

****世界の再エネ発電、初の30%超 太陽光が後押し、英調査****
世界の再生可能エネルギーによる発電割合が2023年に初めて30%を超えたとする報告書を英シンクタンクのエンバーが8日公表した。太陽光と風力の増加が後押しした。

「化石燃料による発電量が減少する新時代が目前に迫っている」としている。一方、日本は約24%で世界の割合を下回った。

23年の世界の総発電量は約30兆キロワット時。再エネの内訳は水力が14.3%、太陽光が5.5%、風力が7.8%、バイオエネルギーが2.4%、その他の再エネが0.3%で計30.3%。00年の再エネの全体は19%、太陽光と風力の合計は0.2%だった。

一方、日本の再エネの内訳は水力が7.3%、太陽光が10.9%、風力が0.9%、バイオエネルギーが4.8%。国の補助もあり、太陽光は過去10年で急速に拡大して世界の2倍の割合だったが、風力はほとんど増えず、他の先進7カ国(G7)と比較しても遅れている。

30年に世界の再エネ発電能力を3倍にするとの国際目標の実現に向け、風力発電を拡大する必要があると指摘した。【5月8日 共同】
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欧州では、再生可能エネルギーの増加によって、原発の稼働停止が相次ぎ、その運用を困難にしています。

****欧州で原発の運転停止相次ぐ、再生可能エネルギー急増で需要低下****
再生可能エネルギーの促進が、欧州の原子力発電業界に追い打ちをかけている。

化石燃料に依存しない電力の生産はかつてないほど急がれ、欧州の一部では依然として原発を電力政策の中核に据えている。だが、再生可能エネルギーの急増と電力価格の低下で、原発の運転にしわ寄せが及んでいる。

今後さらに厳しい時期が待ち受けている兆しもある。エネルギー危機以来、需要は十分に回復せず、風力や太陽光の発電量は増加の一途をたどる。これに押され、発電電力量に占める原子力と石炭火力のシェアはいずれも低下している。

エネルギー・電力市場分析会社ストームジオ・ネナのシニアアナリスト、シガード・ペデルセン・リエ氏は「太陽光と風力に極めて不利な状況が長期間続くか、強い熱波がない限り、現在の電力価格では従来型のベースロード電源は苦しいだろう」と指摘した。

フランスや英国などの国は地球温暖化対策の重要な要素として原子力技術を位置づけ、原発新設に巨額の資金を投じる計画だ。昨年末にドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)では、仏英のほか米国や日本、韓国、アラブ首長国連邦(UAE)など20余りの国が、2050年までに世界の原子力発電を3倍に増やすことを呼び掛けた。

それでも長期的に、原発はますます締め出されかねない警戒すべき兆しがある。

フランス電力(EDF)は点検や修理のため長期にわたり運転を停止していた複数の原発を再稼働させつつあったが、既に出力の低下や運転の休止、停止期間の延長に迫られている。週末には電力価格がマイナスとなる事態が発生、6カ所の原発で運転を停止した。

スペインの電力価格は5日、2013年以来の水準に低下した。同国の電力取引価格は数週間にわたりゼロをかろうじて上回る水準が続き、アスコ原発1号機と2号機は過去5週間に通常ベースで出力を下げている。北欧では、原発の出力低下はより頻繁だ。

EDFの原子炉はある程度柔軟に運転できるよう設計されているが、「細心の注意を持って」現在の動向を見守っていると、同社の原子力・火力発電責任者セデリック・レワンドウスキ氏が4日、上院の公聴会で語った。

欧州連合(EU)域内で昨年増加した風力発電能力は、過去最高を記録。太陽光発電能力の伸びは3年連続で40%を上回ったと、業界団体のデータは示している。

需要が弱く、太陽光や風力による供給が急増する際に電力会社が原発の出力を落とすのは異常ではない。だが、完全に運転を停止させるとなると話は別だ。再稼働は複雑で、時間もかかるからだ。

フランスの電力スポット価格は今月4日以降、1メガワット時当たり10ユーロ(約1650円)を下回り続け、6日の入札ではマイナスを付けた。

エナジー・アスペクツの電力リードアナリスト、サブリナ・カーンビシュラー氏は、EDFが原発運転で採算をとるには卸売市場でメガワット時当たり約22ユーロの価格が必要だと指摘した。EDFはコメントを控えた。【4月9日 Bloomberg】
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世界各地で再生可能エネルギーの急増により電力の供給過剰が発生し、電力価格がマイナスになる事例が増えており、蓄電池や送電網の拡大が解決策として期待されています。

【脱炭素戦略を加速する中国】
エネルギー事情を地域別に見ると、再生可能エネルギー分野で世界をリードする立場になっているのが中国。
中国は世界最大の石炭消費国・二酸化炭素排出国として批判もされますが、国策として急速に脱炭素の方向に進んでいるようです。

****中国の太陽光・風力発電設備規模が世界をリード、二酸化炭素排出量は昨年ピークか―独メディア****
2024年7月11日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、太陽光・風力発電容量を急速に伸ばしている中国の二酸化炭素排出量がすでにピークを過ぎた可能性があると報じた。

記事は、米シンクタンク、グローバル・エネルギー・モニターが11日に発表した報告書によると、中国で建設中の大規模太陽光発電と風力発電プロジェクトの設備容量が339ギガワットに達して他国の合計値の2倍を上回り、2位の米国の40ギガワットを大きく引き離したと紹介。

計画されたプロジェクトが予定通り完了すれば、中国は「2030年までに風力と太陽光発電の総設備容量12億キロワット以上にする」という目標を6年前倒しで達成すると報告書が予測したことを伝えた。

また、中国は30年までにカーボンピークアウト、60年までにカーボンニュートラルを達成する目標を立てており、膨大な再生可能エネルギー設備容量によって30年より早い段階でカーボンピークアウトを達成する可能性もあると紹介した。

その上で、アジア・ソサイエティ政策研究のシニアフェローでエネルギー・クリーン大気研究センター(CREA)の主任アナリストであるラウリ・マイリビルタ氏が、中国の5月の石炭火力発電比率が前年同月比7ポイント減の53%と過去最低を記録した一方、非化石燃料発電比率が過去最高の44%となったことに言及し、「この傾向が続けば、中国の炭素排出量は昨年すでにピークを迎えたことになる」との見解を示したことを伝えた。

記事はさらに、報告書が「新エネルギーを目覚ましい速度で導入する一方で、中国が直面している大きな課題の一つは、石炭発電用に設計された送電網が膨大な規模の再生可能エネルギー発電をどのように吸収し、追加電力を必要とする地域に送電できるかということだ」と指摘したことを併せて紹介した。【7月14日 レコードチャイナ】
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太陽光パネル生産で世界を席巻しているのは周知のところですが、風力発電でも。

****中国が洋上風力発電で世界をリード****
世界の洋上風力発電容量の44%が中国海域に設置されており、今後さらに増加する見通しである。5カ年計画に支えられた長期的な視野と実践力が、他の再生可能エネルギー分野や電気自動車(EV)分野と同様に、中国を世界のリーダーに押し出している。

米国は巨額の補助金を使って、洋上風力発電のプレゼンスの引き上げを図っているが、インフレによるプロジェクトコストの急上昇によって、いくつかのプロジェクトが頓挫した。英国は洋上風力発電権益のオークションに入札者が現れない事態に直面し、メカニズムの再設計が要求されている。

米英の失態にもかかわらず、洋上風力エネルギーのサプライチェーンは、99%以上が欧州とアジア太平洋地域に集中している。特に中国は、世界最大の洋上風力発電容量を誇り、大規模プロジェクトが進行中である。

2020年には、欧州は世界の洋上風力発電容量の80%を占めており、当時の中国の容量(4.6GW)の約5倍だった。しかし、その後中国は洋上風力のサプライチェーンを急速に強化し続けている。

世界風力エネルギー協会(GWEC)が発表した最新の報告書によると、2022年における世界の洋上風力発電容量64.3GWのうち、ヨーロッパの占める割合は約47%に減少し、アジア太平洋地域が約53%とこれを上回りた。

アジア太平洋地域の増加の大部分は中国の貢献によるものだ。中国は世界全体の洋上風力発電容量のほぼ49%を占めている。GWECによると、ヨーロッパが2021年に累計設備容量55.9GWの50%を占めていた時から、市場の優位性が変化し始めているとのことだ。(中略)

2014年から2021年にかけて、中国は国家発展改革委員会が策定した複雑な政策のもと、洋上風力発電事業者にさまざまな補助金を提供していた。2021年末までに建設を完了した事業者は、20年間、有利な固定価格で電力を買い取ってもらうことができ、価格競争から保護された。

補助金の停止は市場に打撃を与えた。(中略)補助金の打ち切りは、中国の洋上風力発電業界を激しい価格競争の世界へと突き落とした。(中略)

しかし、競争は技術革新を促しているようだ。風力タービンメーカーは、長期的なコスト削減に役立つユニットの容量を増やしてきた。洋上風力タービンの平均発電容量は、この10年で大幅に増加し、最近では福建省沖に世界最大容量のタービンが設置された。さらに、各社はさらに沖合の風力資源を開発するために浮体式タービンを開発している。【2023年11月9日 吉田拓史氏 AXION】
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中国の躍進は補助金だけではないようです。

ただ、再生可能エネルギーは安定性にかけるため、依然として石炭火力を多く使い続けるものの、石炭火力の低炭素化を促進する方針のようです。

****中国、石炭火力発電部門の排出削減で行動計画 新技術採用など****
中国政府は石炭火力発電業界の温室効果ガス排出削減に向けた行動計画を発表した。新しい発電技術の採用などを盛り込んだ。

国家発展改革委員会(発改委)と国家エネルギー局は、天然ガス発電による炭素排出レベルを石炭火力発電部門のベンチマークに設定。また、バイオマスブレンド、グリーンアンモニアブレンド、炭素回収・利用・貯蔵の3つの低炭素発電技術の採用を計画している。

2025年までに技術の一部を用いた最初の低炭素プロジェクトを始動する。これらのプロジェクトによる平均排出量は23年比で20%削減されるという。

27年までに低炭素プロジェクトを拡大し、運営コストを下げ、平均炭素排出量を23年比で50%削減することを目標に掲げた。

同計画はまた、地方政府に対し、低炭素プロジェクトの立ち上げを支援・助成するよう奨励している。

一方、発改委の報道官は16日、再生可能エネルギーは不安定だとして、石炭火力発電がエネ安全保障の柱であり続けることに変わりはないと語った。【7月16日 ロイター】
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再生可能エネルギーの加速、石炭火力の低炭素化で世界のエネルギー戦略をリードするポジションを獲得する・・・明確な長期戦略で短期的事情にブレずに進む・・・このあたりが人権・民主的価値観に照らすと致命的欠陥はあるものの中国共産党政権のしたたかさ・強みでもあります。

水素エネルギーも忘れていないようです。

****四川省成都市、水素エネルギー産業に3年で170億元超を投資へ―中国****
運行速度160km/h、最大航続距離1000km以上の成都製の水素エネルギー市内列車が3月に試験運行を完了した。その頂部の動力源である「金属箱」は、四川栄創新能動力系統が製造した水素燃料電池だ。

これにとどまらず、水素燃料電池の応用の見通しは日増しに広くなっている。6月末に第1弾・1000台の水素燃料自転車が成都市の錦江区と新都区に投入されると、市民は「100gの水素で約100kmを快適に走行」という画期的な技術を体験できる。人民日報が伝えた。

これは成都の水素エネルギー産業の発展に注力することの縮図だ。成都は今年に入り複数の水素エネルギー産業支援措置を発表している。今後3年で170億元(約3740億円)以上の投資を行い、水素エネルギー産業のさらなる拡大と強化を促進する。

水素貯蔵設備、水素充填設備、天然ガス水素製造装置などで、成都は全国の上位を占めている。厚普股份の水素充填設備の市場シェアは20%に達した。中材科技は70MPa車用圧縮水素ガスボンベの開発に成功し、市場シェアが22%に達した。

成都には一汽トヨタ、成都客車、重汽王牌など7社の水素エネルギー車メーカーが集まり、水素エネルギー路線バス、中・大型トラック、物流車両など複数車種の生産能力を備える。すでに累計で689台の水素エネルギー車を生産し、水素ステーションを5カ所完成させており、年間1860トンのアルカリ性電解水水素製造工場を稼働させている。

全国各地が水素エネルギー産業発展の政策を続々と発表する中、成都はどのようにして産業発展の先進地になるのだろうか。

「成都は今後3年で水素エネルギー関連の46件の重点プロジェクトを推進し、投資総額は170億元以上」。
成都市経済・情報化局の関係責任者によると、グリーン水素モデル牽引プロジェクト、重要技術ブレークスループロジェクト、産業チェーン・クラスター形成プロジェクト、シーン応用拡張プロジェクト、インフラ難関プロジェクト、産業エコシステム育成プロジェクトの六つのプロジェクトを実施する。

うち成都は水素燃料電池商用車の推進・拡大を強化し、国家水素燃料電池車モデル都市クラスター第3弾を建設し、交通、エネルギー、建築などの分野での応用を拡大し、成都江堰8MWグリーン電力水素製造・貯蔵・発電一体化プロジェクトの完成を急ぎ、水素エネルギー鉄道交通モデルラインなどの建設を模索する。【7月1日 レコードチャイナ】
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四川省成都市が水素エネルギーを強力に推進・・・このあたりは、各地方政府が成果を中央にアピールすることで、地方政府幹部が昇進できるという中国独特の政治体制のもたらすものでしょうか。
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インド  4日開票の総選挙 猛烈な熱波 選挙スタッフも大勢が熱中症で死亡 気候変動の影響か

2024-06-03 22:56:48 | 環境

(【6月3日 テレ朝news】)

【総選挙は予測通り与党圧勝 進む分断】
「世界最大の民主主義国」とされるインドでは投票所を約100万カ所に設置、約1500万人をスタッフを配置して4月19日から6月1日までの約1か月半の期間に、州や地域ごとに7回に分けて投票が行われてきましたが、あす4日に開票が行われます

出口調査では、選挙前の予測どおりモディ首相率いる与党「インド人民党(BJP)」の圧勝が示されています。

****インド総選挙、モディ氏与党連合が圧勝へ 出口調査****
インドで1日、下院総選挙の投票が終了した。テレビの出口調査によると、3期目を目指すモディ首相のインド人民党(BJP)を中心とする与党連合が過半数を大きく上回る勢いだ。

大半の出口調査は与党連合「国民民主同盟(NDA)」が下院543議席の過半数272議席を大幅に上回り、3分の2以上を獲得する可能性があると予測している。

5つの主要な出口調査のまとめによると、NDAは353─401議席を獲得する可能性がある。2019年の総選挙でNDAは353議席を獲得し、うち303議席をBJPが占めた。

5つの調査のうち3つは、BJP単独の議席数が19年の303を上回る可能性があると予測している。

ラフル・ガンジー氏の国民会議派を中心とする野党連合は125─182議席を獲得する見通し。

モディ氏は投票終了後、出口調査には言及せずに勝利を主張。「国民がNDA政権再選へ記録的な数の票を投じたと自信を持って言える」と述べた。【6月3日 ロイター】
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インド・モディ政権の抱える問題については、5月13日ブログ“インドの民主主義は病んでいる 「世界最大の選挙」を実施中も、その民主主義には疑念も”でも取り上げましたので今回は触れませんが、一つだけ関連記事を。

****分断広がるインド社会、モスク跡地にヒンズー寺院に「夢がかなった」「悪夢だ」****
(中略)モディ政権はヒンズー教の理念による国家統合を目指し、国内では少数派イスラム教徒が強く反発。インドの世俗主義が揺らぐ中、モスク(イスラム教礼拝所)跡地に1月、ヒンズー教寺院が建立された北部ウッタルプラデシュ州アヨディヤでは社会の分断が垣間見えた。

「ヒンズー教徒の夢」5カ月で1500万人
「ヒンズー教徒の夢がかなった。数百年間、この地に寺院を望んでいた」。寺院前で入場を待っていたスダ・シャルマさん(50)は寺院建立を歓迎した。シャルマさんは家族5人で自宅からバスを乗り継いで20時間以上かけてアヨディヤを訪れたという。

気温が40度を超える中、5月下旬のこの日、数万人の信者が集まった。1月の建立以来、寺院の来訪者は既に1500万人を超えた。「夢がかなった」とは大げさではなさそうだ。

アヨディヤでは16世紀、イスラム系王朝のムガル帝国がモスクを建立した。ヒンズー教徒団体は20世紀に入り、モスクのある地点がヒンズー教の聖地だと主張。1992年に一部信者が暴徒化してモスクを破壊し、全土で2千人以上が死亡する暴動に発展した。

2014年発足のモディ政権はヒンズー教徒の利益を最重要視し、アヨディヤでの寺院建立を公約に掲げた。選挙に間に合わせるように今年1月に行われた落成式典でモディ氏は「何千年経っても、人々はこの日を忘れないだろう」と万感の思いを込めた。「人々」とはヒンズー教徒を指すことは明らかだ。

イスラム教徒は「侵入者」
「古くからのモスクはもう再建されない。悪夢だ」。寺院周辺のにぎわいの一方、イスラム教徒の男性は暗い表情を浮かべた。取材に応じた地元イスラム教団体幹部のモハマド・カドリさん(32)は、「インドのイスラム教徒の未来は危険にさらされている」と憂慮した。

カドリさんによると、アヨディヤには寺院建立前からヒンズー教徒の流入が進むと同時に、イスラム教徒への迫害が広がったという。BJPの政治家によって、地域のモスクへの水の供給が遮断され、ヒンズー教徒による襲撃事件も相次ぐ。何者かによる暴行を2度受けたカドリさんは「ヒンズー教徒は聖地アヨディヤに住むイスラム教徒が邪魔で仕方がない」と話した。

モディ氏はヒンズー教徒を優遇する一方、イスラム教徒を軽視するかのような姿勢を示す。今年3月には移民に市民権を与える「市民権改正法」を施行したが、イスラム教徒は対象外とし、「宗教的差別だ」との批判が上がった。モディ氏は今回の選挙の集会でイスラム教徒を「侵入者」と呼んで、批判している。

モディ氏の姿勢に共鳴するかのように国内では反イスラム感情が高まり、ヒンズー教徒が神聖視する牛を売っていたイスラム教徒が殺害される事件も相次ぐ。米ピュー・リサーチ・センターの調査(21年発表)によると、過去1年で宗教的な差別を受けたと答えたイスラム教徒は21%で、地域によっては4割に上った。

カドリさんは選挙でモディ氏が圧倒的支持を受け、3期目に入ることを警戒する。「この政府が続けば、イスラム教徒への嫌がらせは倍増するだろう。憲法で保障された人権の尊重と反する」。その上で、過度なヒンズー至上主義が「世界最大の民主主義国」としての看板を傷つけかねないと訴えた。【6月1日 産経】
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【猛烈な熱波 選挙スタッフも大勢が熱中症で死亡】
モディ政権の「ヒンズー至上主義」についても再三取り上げてきていますので、今回はパス。
上記記事で気になったのは政治とは全く別の話で、“気温が40度を超える中、5月下旬のこの日、数万人の信者が集まった”という箇所。

インドは現在猛烈な熱波のさなかにあって、連日50℃前後の気温が報じられています。
そうした状況で、選挙スタッフも大勢が熱中症で死亡しているとか。

****総選挙中のインドで記録的熱波 投票所スタッフなど61人死亡****
総選挙の開票が4日に始まるインドは記録的な熱波に見舞われ、1日に投票所のスタッフ33人が熱中症で死亡したとCNNが報じました。

インドの気象当局によりますと、首都ニューデリーでは熱波の影響で先月29日に最高気温49.1度を記録するなど各地で猛暑が続いています。

CNNによりますと、インド北部のウッタル・プラデシュ州では総選挙の投票最終日となった今月1日に投票所のスタッフ33人が熱中症で死亡しました。

先月24日以降では少なくとも61人が熱中症や脱水症状などで死亡し、このうち43人は投票所のスタッフなど選挙の関係者だったということです。

気象当局は今後、数日間、熱波が続く可能性があるとして注意を呼び掛けています。【6月3日 テレ朝news】
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ウッタル・プラデシュ州だけで1日で投票所のスタッフ33人が熱中症で死亡・・・日本だったら選挙の中止も俎上に上がると推測されるような大変な事態です。

しかし、どうして投票所スタッフだけがこんな大勢亡くなっているのか?
全くの想像ですが、周囲の目がある投票所ではスタッフの異常がすぐに察知されますので、確認もしやすいのでしょう。逆に言えば、周囲の目が行き届かない住民の自宅などでは、表沙汰になることなくこの何十倍もの犠牲者が出ているのかも。

インドの高温は想像を絶するレベルにあります。

****インド首都で気温49.9度 観測史上最高****
インドの首都ニューデリーで28日、観測史上最高気温となる49.9度が記録された。インド気象局によると同日の予想最高気温を9度上回った。予報では29日の気温も同程度まで上がるとみられ、警報が発令されている。

ニューデリー当局は、人口3000万を超える首都の水不足についても警告している。

主要紙インディアン・エクスプレスによると、アティシ・マリーナ水資源相は、多くの地域で水の供給を減らし、1日当たり15〜20分しか供給されていない地域に給水するなど、さまざまな対策を講じていると主張している。

大方の見方では、猛暑をもたらしている要因は北西部ラジャスタン州から吹いてくる熱風だ。同州の28日の気温は、国内最高の50.5度を記録した。

同州の砂漠地帯ファローディでは、2016年にインド観測史上最高の51度が記録されている。 【5月29日 AFP】******************

****「顔を叩かれているような暑さ」インド首都で最高気温49.1℃を観測 熱波が影響****
熱波の影響で猛烈な暑さに見舞われているインド。地元メディアによると、首都ニューデリーでは29日、最高気温49.1℃を観測しました。5月は1年で最も暑いということですが…。

市民
「この熱波で気温が非常に上がっています。外に出ると、誰かに顔を叩かれているような暑さです。この街で生活するのは難しくなりました」

こちらは学校の教室で横になっている生徒。先生が顔に水をかけたり、生徒らがまわりで必死にあおいでいます。ロイター通信によると、生徒は熱中症になり、病院に搬送されたということですが、命に別状はなかったということです。

地元メディアによると、インド全土で3月以降、熱中症のため60人が死亡し1万6344人が搬送されたとみられ、当局が注意を呼びかけています。

インド気象局によると、今後、徐々に気温は下がるということですが、人々は川に入ったり、こまめな水分補給をしたりして危険な暑さをしのいでいます。

また、ニューデリーなどを管轄する州政府は水を浪費しないよう呼びかけていて、家庭用の水道を商業目的で使用した場合、2000ルピー、およそ3700円の罰金を科すと発表しています。【5月30日 TBS NEWS DIG】

エアコンもないような部屋で50℃近くになったら・・・熱中症で死者が出るのは無理からぬところでしょう。

もっとも、あまりの熱さのせいか、測定値も定かでない状況。

****インド首都、最高気温52.9度は観測装置の「不具合」か****
インド気象局(IMD)は29日、首都ニューデリー郊外で同日記録された観測史上最高気温に当たる52.9度について、観測装置の不具合によるものである可能性があると発表した。

IMDは声明で、デリー郊外ムンゲシュプール)の観測所で記録された52.9度は「他の観測所と比べて異常値だった」と説明。センサーの不具合か局地的な要因によるものである可能性を疑い調査中だと述べた。  

IMDではデリー首都圏全域の気温や降雨状況を観測するために、主要な気象観測所5か所と自動観測所15か所を設置している。ムンゲシュプール以外の観測所では、29日の最高気温は45.2~49.1度だった。  

28日には、ムンゲシュプールとナレラの観測所で49.9度が記録されたが、これらの数値にも問題があるかどうかは明らかになっていない。【5月30日 AFP】 AFPBB News
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【気候変動が熱波を劇化】
この高温はインドだけでなく、4月から5月初頭にかけアジア各地で記録されています。
背景には、やはり気候変動の影響が想定されるようです。

****気候変動がアジアの熱波を劇化*****
4月から5月初頭にかけ、アジアにおいて、西はイスラエル・パレスチナ・レバノン・シリア、東はタイ・ベトナム・フィリピンといった国々を40℃越えの日が続く記録的な熱波が襲いました。

熱波はまた、農業部門で生産・収量減といった負のインパクトをもたらす一方、複数の国は数日間の学級閉鎖を余儀なくされ、数百万の学生が教育の機会を失いました。

5月14日、極端現象と気候変動の因果関係を分析するWorld Weather Attribution (WWA)は、気候変動が、4月から5月初頭にかけてアジアの数百万人の人々を襲った熱波を劇化させたと報告しました。

近年、南アジアにおいて、モンスーン入り前の極端な熱波の頻度が増す傾向にあります。これまでもWWAは、2022年インド・パキスタンの乾燥した熱波や2023年インド・バングラデッシュ・ラオス・タイでの湿度を伴った熱波は、気候変動によって30倍確率が高まり、熱の強度も高まったことを報告しています。

産業革命期と比べて人類による経済活動により1.2℃温暖化した今日の気候の下では、今回のような極端な熱波も稀な出来事ではありません。

西アジアでは、1年に今回のような熱波が起こる確率は10%、あるいは10年に一度です。フィリピンでも年に10%程度、エルニーニョ現象で10年に1度、エルニーニョ現象でなければ20年に1度と推定されます。南アジア広域では、今回のような4月の高温は比較的稀で、1年に起こる確率は3%、あるいは30年に1度の出来事に匹敵します。

世界が産業革命期比で2℃温暖化した場合、極端な熱波が起こる可能性は、西アジアでは2倍、フィリピンでは5倍になると予想され、気温自体が西アジアで1度、フィリピンで0.7℃高くなると見込まれています。

アジアで過去数年にわたり毎年のように繰り返される熱波及び熱波に伴うインパクトにより、多くの国にとって熱波が深刻な災害であることの認知度が高まり、適切なガイドラインが策定されるようになっています。それだけでなく、熱波に対する緊急救援体制構築に向けた、セクターを超えた連携戦略が必要となるでしょう。【5月21日 国際農研】
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次第に、居住に適さない地域、農業ができない地域も増えてくるのでしょう。

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世界各地で相次ぐ大雨・洪水被害 気候変動の一環か?

2024-05-19 23:38:18 | 環境

(【4月18日 プライムオンライン】4月16日の記録的豪雨で冠水したドバイ国際空港)

【ここひと月、世界各地で相次ぐ大雨・洪水被害】
災害というものは世界中のあちこちで普段に起きているもので、いくつかの災害がおきたからと言ってそれをすぐに長期的現象、温暖化に伴う気候変動に結びつけるのはやや短絡的でしょう。

そうではあるものの、ここ1か月ほどで目にする世界各地の大雨・洪水のニュースはやはり多いような気もします。

東アフリカのケニア・タンザニアでは・・・

****ケニアで大雨続く 約100人死亡 13万人が避難****
アフリカ東部のケニアでは数週間にわたって大雨が続き、堤防が決壊するなどしてこれまでに約100人が死亡し、13万人が避難しています。

地元メディアなどによりますと、ケニア南部のナクル郡では29日、堤防が決壊し少なくとも45人の死亡が確認され、数十人が行方不明となっています。また、南部タナリバー郡では28日、20人ほどが行方不明になっています。

ケニアでは3月以降、大雨と洪水が続いていてこれまでに約100人が亡くなり、13万人以上が避難しています。

東アフリカではタンザニアでも洪水により、少なくとも155人が死亡しています。【4月30日 ANNニュース】
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****タンザニア、洪水で155人死亡 家屋1万棟損壊****
アフリカ東部タンザニアのマジャリワ首相は25日、洪水で155人が死亡、236人が負傷したと明らかにした。1万棟を超える家屋が損壊し、被災者は20万人にのぼるという。

マジャリワ氏は議会で「エルニーニョによる強風を伴う大雨で国内各地で洪水や地滑りが発生し、被害が出た」と説明。農作物や家屋、また道路や橋、鉄道といったインフラにも被害が出たという。

隣国ケニアでも洪水が発生した。国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、23日時点で32人が死亡した。

同国では先月中旬から大雨が降っていたが、ここ1週間の豪雨で被害が拡大。大規模な洪水で約10万3500人が被災した。

ケニア赤十字は先月から188回を超す救助活動を行ったという。首都ナイロビでは24日、一部の道路が通行止めとなり、浸水被害が続いている地区もある。鉄道も全国で運休となっている。【4月26日 CNN】
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南米ブラジルでは・・・

****ブラジル南部の洪水、死者100人・不明130人…大統領「人類全てに対する地球からの警告だ」****
ブラジル南部リオグランデドスル州政府は8日、同州を襲った豪雨で死亡した人が100人に上ったと発表した。130人が行方不明となっており、犠牲者がさらに増える可能性がある。

豪雨は4月末から猛威を振るい、州政府の発表によると、16万人以上が家を追われ、停電や断水などの影響を受けた住民は147万人を超えた。豪雨による洪水で橋や建物が破壊され、道路は川のようになった。空港も冠水し、閉鎖された。ブラジルの全国地方自治体連合は7日、同州の経済損失が46億レアル(約1405億円)以上に上るとの推計を発表した。

ルラ・ダシルバ大統領は8日、「私たち人類全てに対する地球からの警告だ」と訴えた。世界気象機関(WMO)は、異常気象を引き起こす「エルニーニョ現象」による海水温上昇が今回の豪雨を引き起こしたとする見解を示している。【5月9日 読売】
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砂漠の国・中東ドバイでは空港が冠水。

****UAEなどで暴風雨、ドバイ空港が冠水 「過去75年で最大」の降水量で死者も****
アラブ首長国連邦(UAE)とオマーンが16日、暴風雨に見舞われ、死者が出た。鉄砲水が発生したほか、世界で2番目に利用者の多いドバイ国際空港でフライトの欠航や遅れが相次ぐなど混乱が生じた。

ドバイ国際空港の関係者は、「非常に厳しい状況」に直面していると説明。一帯が浸水しているため空港に向かわないよう利用予定者らに呼びかけた。

ドバイでは死者は報告されていないが、UAE北部のラスアルハイマでは男性1人が、乗っていた車が鉄砲水に巻き込まれて死亡した。

隣国オマーンの町サハムでは、救助隊が少女1人の遺体を発見した。同国では14日からの大雨で多くの死者が出ており、これで19人となった。

当局は今後さらなる雷雨や大雨、強風が予想されると警鐘を鳴らした。また、多くの低地がいまも水没したままだとした。

UAEは16日、75年前の記録開始以来最大の降雨に見舞われた。
国立気象センターの発表によると、アル・アイン地方のハトム・アル・シャクラでは24時間以内に254.8ミリの雨が降った。

UAEの年間平均雨量は140~200ミリ。ドバイの年間平均雨量はわずか97ミリで、4月の平均雨量は8ミリ。

ドバイ中心部を捉えた映像では、シェイク・ザーイド・ロードの一部が浸水し、数十台の車両が水没しているのがわかる。12車線ある高速道路で渋滞も起きている。

UAEの国家緊急危機災害管理局は、市民に対し、暴風雨に見舞われる前に自宅にとどまるよう警告していた。政府もまた、職員に在宅勤務を指示し、私立学校には遠隔授業に切り替えるよう勧告していた。(後略)【4月18日 BBC】
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貧困に苦しむアフガニスタンでも洪水が追い打ち。

****アフガン、洪水で300人超死亡 WFP発表****
国連の世界食糧計画は11日、アフガニスタンの複数の州で大雨により洪水が発生し、300人以上が死亡したと発表した。当局は非常事態を宣言し、行方不明者の捜索・救助活動を急いでいる。

大雨のため川の水位が上昇し、村や農地は泥に覆われた。アフガンでは貧困の割合が多く、国民の多くは農業に依存している。

北部バグラン州は最も深刻な被害に見舞われ、WFPアフガニスタン事務所の広報官は、「現時点で311人が死亡し、家屋2011棟が全壊、2800棟が損傷を受けた」とAFPに述べた。【5月12日 AFP】
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更に中部でも再び洪水が発生

****アフガニスタンで洪水の被害続く 中部周辺で新たな洪水で少なくとも68人死亡****
アフガニスタン中西部で大雨による洪水が発生し、これまでに少なくとも50人が死亡しました。アフガニスタンでは今月10日にも北部で洪水があり、300人以上が死亡しています。

アフガニスタン中西部のゴール州では17日から大雨が降り、洪水が発生しました。AP通信などは地元当局の話として、この洪水で少なくとも50人が死亡したと伝えています。また、これまでに2000棟の家屋が全壊したほか、4000棟の家屋が部分的に壊れる被害が出ているということです。

一方、隣接する北部ファルヤブ州でも、洪水により18人が死亡しました。

アフガニスタンでは今月10日も北部で大雨による洪水が発生し、300人以上が死亡するなど、全土で水害が相次いでいます。【5月19日 TBS NEWS DIG】
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【昨年の世界気温は史上最高を記録】
やはり多すぎるように思えます。昨年は日本でも猛暑でしたが、世界的にも記録的な高温となり、各地で山火事も相次ぎました。

****地球温暖化の限界迫る 2023年の世界気温、史上最高を更新*****
欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービスは9日、2023年の世界の平均気温が産業革命前に比べて1.48度上昇し、観測史上最高を記録したと発表した。

23年の世界平均気温は14.98度となり、これまでの最高だった16年の記録を0.17度上回った。世界の海洋温度も記録を更新した。

23年は世界各地で相次ぎ記録的な猛暑が観測され、気温上昇を1.5度に抑えるという15年のパリ協定の限界に近付きつつあるとして、専門家が警鐘を鳴らしていた。

コペルニクス気候変動サービスによると、地球温暖化は今年に入ってさらに悪化した可能性があり、1月または2月までの12カ月間では1.5度を突破する可能性が大きいと予想している。

専門家がそれ以上に懸念しているのは、1.5度以上の温暖化が長期的に続く状況だ。そうなれば地球上の多くの生態系にとって順応が難しくなり、人間が生存できる限界に近付く場所もある。

コペルニクス気候変動サービスによれば、23年の前例のない猛暑は主に気候変動が原因だが、太平洋の海面水温を上昇させる自然現象のエルニーニョによって加速された。

23年は全日の世界平均気温が、産業革命前の1850~1900年の同じ日の気温を1度以上上回った。観測史上初めての現象だった。

世界の気温は1970年代から着実に上昇を続け、2015年には初めて1度を突破する温暖化を記録した。さらに0.5度上昇するまでわずか8年しかかからなかった。

気温が高かった過去30年に比べても23年は突出しており、平均気温は1991~2020年の平均を0.6度上回った。

世界の平均気温は、オーストラリアを除く全大陸と海盆で史上最高またはほぼ最高を記録した。そうした気温の上昇は、ほぼ全世界を覆っていた。

記録的な熱波の影響で、カナダ、ハワイ、欧州南部など各地で大規模な山火事が発生。「パリ協定の上限に近付いた激動の気候を我々に見せつけた」と英インペリアル・カレッジ・ロンドンのブライアン・ホプキンズ氏は述べ、「世界中の大半の政府の行動にみられる自己満足を揺るがすだろう」と指摘する。

23年は世界の海洋も異常な温暖化が続いた。海面温度は1991~2020年の平均より0.44度上昇。上昇幅は観測史上最高を記録し、史上2番目だった2016年の0.26度上昇を大幅に上回った。

海洋の異常な温暖化は、長期的には化石燃料による大気汚染が主な原因だが、昨年7月に始まったエルニーニョも影響している。海面温度が上昇すれば、ハリケーンや台風、熱帯サイクロンの勢力が強まる。

昨年12月にはアラブ首長国連邦ドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)に約200カ国が出席し、化石燃料からの脱却に向けて貢献することで初めて合意した。この合意は広く歓迎される一方で、化石燃料の主要生産国がほとんど行動を起こさずに済む抜け穴があるとの批判も出ている。

「もし我々が気候リスク管理を成功させたいと望むなら、経済の脱炭素化を急ぐと同時に、気候データや知識を活用して未来に備える必要がある」とコペルニクス気候変動サービスのカルロ・ブオンテンポ氏は指摘している。【1月10日 CNN】
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【長期的な気候変動との関連は不明だが、もしこうしたことが続くようなら世界は甚大な影響を受ける】
温暖化とエルニーニョで海洋温度が上昇すれば、水蒸気の発生量・降雨にも影響してきます。

****世界中で豪雨や洪水、なぜ起きているのか*****
東アフリカや中東の砂漠など予想外の場所が異例の豪雨に見舞われている

アフリカ東部ケニアや南米ブラジルでダムが決壊し、中国南部の山の斜面を高速道路が滑り落ちる。アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで砂漠の空港の滑走路が冠水し、オーストラリアの採掘場に洪水が押し寄せる。世界の多くの場所が水浸しになっている。

ここ数週間に世界各地を襲った異常な豪雨と死者が出るほどの洪水は、場所からみても威力からみても予想外だった。

インフラがこうした大氾濫に備えていないこともあり、猛烈な雨は複数の大陸で死者を出し、破壊や大規模な避難を引き起こしている。

この強力な豪雨は、世界の平均気温が2023年に観測史上最高を記録したことで自然の気象パターンが過剰に加速された結果だと言える。

地球の気温が上昇するにつれて降雨量も多くなる。簡単に言うと、大気が暖まるほど、空中に保持できる水蒸気が増えるためだ。

1年にわたる記録的な世界の暑さとそれに伴う豪雨が、統計上の一時的な変動に過ぎないのか、それとも温暖で多雨な未来に向けて軌道修正する必要があるのか、科学者にもまだ分からない。後者ならば、国のインフラが試され、保険の料率が上がり、世界の食糧生産が複雑化することになる。

気象学者や気候科学者によると、4月の豪雨や洪水はいずれも特定の厳しい気象条件が重なって暴風雨が発生した結果だ。

降雨量は尋常ではないという。米国立気象局の気象予報センターによると、例えば、東アフリカ諸国では4月に約100~500ミリの雨が降り、地域によっては通常雨量の6倍にもなった。

集中豪雨は大惨事を引き起こしかねない。ケニアの首都ナイロビでは7日間で約300ミリの雨が降り、ダムが決壊したうえ、町は泥に埋まった。市街地の道路は川のようになり、死者が出た。

ドバイはたった1日で250ミリ以上の雨が降った。少なくとも1年分に相当する降雨量となり、ドバイ国際空港の滑走路は水につかった。

中国南部・広東省では4月の月間雨量が過去最高の430ミリに達した。1日には山間部で高速道路の一部が崩落し、48人が死亡した。広東省は1億2700万人の人口と中国のテック大手や製造業大手を擁するが、その大半は南部の海岸沿いに位置している。

ブラジルは南部のリオグランデドスル州に軍隊を派遣した。24時間に150ミリ超の豪雨に見舞われ、大規模な洪水被害が出ている。

「このような事象は以前より頻度が高く、極端な降雨量で発生している」。米海洋大気局(NOAA)のチーフ・サイエンティスト、サラ・カプニック氏はこう指摘する。「ドバイのように雨が多そうだと思われない場所でも起きるので、なおさら不意を突かれる」

異常な降雨
予期せぬ強力な豪雨が世界各地を襲っている

先月の東アフリカの洪水は3月~5月の雨期に発生したが、実際の雨量はその年によって異なる。今回は「インド洋ダイポールモード」と呼ばれる気象パターンにより、雨量が増幅されている。

これには正と負があり、正のダイポールモード現象が発生すると、温かい海水をアフリカ東岸に押し流す。一方、負のモードが発生すると、温かい海水が逆方向に押し戻され、オーストラリアやインドネシアに向かう。

今年はダイポールモードが例年より強く、ケニアなどインド洋の西側地域で大雨が降る要因になっている。英大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの気候科学者で、欧米大学・研究機関の科学者による団体「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」のメンバーであるジョイス・キムタイ氏はそう話す。【5月8日 WSJ】
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“1年にわたる記録的な世界の暑さとそれに伴う豪雨が、統計上の一時的な変動に過ぎないのか、それとも温暖で多雨な未来に向けて軌道修正する必要があるのか、科学者にもまだ分からない”とのことなので軽々な結論は控えるべきでしょうが、何やら地球が逆戻りできない方向に進んでいるような不安も感じます。
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気候変動  影響で紛争増加 「気候正義」を求める途上国 対策不十分な政府は「人権侵害」

2024-04-18 23:18:24 | 環境

(アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの冠水した道路(2024年4月17日撮影)【4月18日 AFP】
これも気候変動の影響か?)

【様々な事象と気候変動の関連性は?】
個々の異常気象・災害が長期的な温暖化に起因する気候変動に関係するものかどうかは素人的にはなかなか判断が難しいところもあります。

昨年6月以降、10か月連続で記録が更新されている気温上昇はおそらく温暖化によるもののようです。

****「史上最も暑い3月」 10か月連続で記録更新*****
欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は9日、先月が観測史上で最も暑い3月になったとし、2023年6月以降、10か月連続で記録が更新されていると発表した。

C3Sによると、先月の世界の気温は、1850〜1900年(産業革命前)の3月の平均気温を1.68度上回った。
アフリカからグリーンランド、南米、南極まで、世界の広い地域で平均を上回る気温が観測された。 【4月9日 AFP】
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“C3Sのサマンサ・バージェス副所長はロイターに、「異常な記録が長期的な傾向となっており、非常に懸念している。このような記録が毎月続くことは、気候が急速に変化しつつある事態を示している」と述べた。”【4月9日 ロイター】 

いろんな事象はある限界を超えると変化が一気に加速することがよくありますが、そういう限界が近づいているのでしょうか。

ロシア・カザフスタン国境で起きた大洪水は、地球温暖化現象とは直接は関係がないとのことです。

****ロシア、カザフスタン:洪水により10万人以上の住民が安全な場所に避難する*****
『フランス24チャンネル』4月10日付けでは、ロシアやカザフスタンの洪水のピークにはまだ達していないがウラル山脈地域や西シベリアの多くの地域では記録的な洪水の被害が起きていると伝えている。そのため、10万人以上の住民が避難生活を余儀なくされているという。

ロシア大統領府のドミトリ・ペスコフ報道官は、4月10日、テレビを通じて「現状はかなり緊迫している。備えは不充分で、水位は上がり続けている。 ウラル山脈周りと西シベリアの多くの地域は記録的な洪水にみまわれている。」と伝えた。

カザフスタンとロシアで起きている洪水は、気温上昇による大雨の発生、雪解け水の増加、さらに河川を覆っていた氷が解け始めたことが相重なったためで、地球温暖化現象とは直接は関係がないという。【4月11日 JCC】
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砂漠の国UAEなど中東地域での大雨は、最近行われている人工降雨の影響ではないかとの話もあるようですが、専門家の話では人工的なものではなく、やはり地球温暖化などの気候変動のひとつと見るべきということのようです。

****“1日で1年半分の雨”街に襲来 空港も大規模冠水「人生で初めて」****
■空港も大規模冠水「人生で初めて」
中東・アラブ首長国連邦を襲った暴風雨。ドバイ国際空港では駐機場が冠水し、まるで湖のように…。24時間雨量は142ミリを記録。平年の年間降水量が94.7ミリのため、一日で1年半分の雨が降ったことになります。

この国で観測が始まった1949年以来、最大となる記録的な大雨によって各地で洪水や冠水が発生。(中略)
週末からアラビア半島で続いていた嵐。なぜ、ここまでの大雨となったのでしょうか。

UAE国立気象センター アルナクビ上級予報官
「もし、人工的に雨を降らせようとしたなら、その影響はあっただろうと思います」

可能性の一つと指摘されているのが「クラウド・シーディング」。“雲の種まき”です。
雲の中に氷の核となる物質を放出。人工的に雨を降らせる技術で、干ばつや水不足対策としてUAEなど中東の国々で利用されています。しかし、今回の嵐が来る前はこの試みは行われていなかったということです。

そこで考えられるもう一つの原因が…。

気候学者 コリーン・コルジャ氏
「今回は気候変動によって、嵐の勢力が過剰に増強された可能性が高い」 「地球温暖化などの気候変動が多くの異常気象が引き起こしている」。専門家たちは警告しています。【4月18日 テレ朝news】
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分かりやすいところでは、暑くなれば熱中症が増える・・・まあ、それはそうでしょう。

****熱中症搬送者、40年に倍増予測 3都府県で、名工大チーム****
地球温暖化による気温上昇が続き、2040年に世界の平均気温が産業革命前より2度上昇すると仮定すると、夏場の熱中症による救急搬送者数が東京、愛知、大阪の3都府県で10年代と比べて倍増するとの試算を、名古屋工業大などのチームが18日までに発表した。救急医療の逼迫が懸念されるとしている。

チームは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最も気温上昇が高いシナリオに基づき、3都府県の気温を算出。熱中症の搬送者数を予測した。(後略)【4月18日 共同】
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おそらく感染症などの地域分布も変わるのでしょう。デング熱など、これまでは熱帯地域特有の病気とされていたものがその他の地域にも拡散することになるのでしょう。

【気候変動による被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルとの予測も】
気候変動の影響は災害、農業など経済、健康など多岐にわたりますが、分かりやすい指標として金額換算すると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達するとの報告が。

****気候変動の被害、2050年までに年38兆ドルか=独研究所****
ドイツ政府の支援を受けているポツダム気候影響研究所(PIK)が17日発表した報告書によると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達し、人類が排出する温室効果ガスの量が増えるにつれ、さらに被害額が膨らむことがほぼ確実と分かった。

気候変動の経済的影響は完全には理解されておらず、エコノミストの間では頻繁に見解が分かれる。PIK報告書は深刻さで際立っており、今世紀半ばまでに国内総生産(GDP)が世界規模で17%落ち込むと試算している。

報告書の共著者レオニー・ウェンツ氏は「気候を守ることの方が、気候を守らないよりも格段に安上がりだ」と述べた。

報告書によると、2050年までに産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える地球温暖化対策には推定6兆ドルの費用がかかるものの、対策を怠って2度超上がった場合の推定損害額の6分の1未満にとどまるという。

従来の研究では、気候変動は一部の国の経済に恩恵をもたらす可能性があると結論づけられていたが、今回のPIK報告書では、ほぼすべての国に被害をもたらし、最も大きな打撃を受けるのは貧しい発展途上国であることが判明した。

ただ、各国政府は排出量を抑制するための歳出が少なすぎるだけでなく、気候変動の影響に適応するための対策費も不足している。

今回の報告書に至る研究過程では、過去40年間の1600以上の地域の気温データと降雨量を調べ、どの事象が被害をもたらしたかを検討した。

さらに、その被害評価と気候モデルの予測を使用し、将来の被害を推計した。それによると、排出量が現在のペースで続き、産業革命前からの気温上昇が平均で4度を超えた場合、経済的損失は2050年から2100年までに推計60%の所得損失に達することがうかがわれる。気温上昇を2度以内にとどめると、所得損失は平均20%に抑え込める可能性がある。【4月18日 ロイター】
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【気候変動がもたらす紛争増加 「気候正義」を求める途上国】
単に経済的に大きな損失を被るだけでなく、気候変動は資源の減少を通して、その稀少となった資源の奪い合いという紛争を多発させることが予想されます。

****アフリカの異常気象による「最悪のシナリオ」が現実に… 気候変動→資源減少→紛争増加 日本も他人事ではいられない****
2023年11月下旬、アフリカ・ケニア東部のトゥーラ近郊。取材のため車で通りがかった私は、赤茶色の濁流を前に立ち往生していた。(中略)

この場面だけ見れば一地域の大雨被害と思われるかもしれない。しかし、ここから北西に約400キロ、東京―大阪間ほどしか離れていないエリアでは、前年のこの時期は干ばつに見舞われていた。しかも、国連が「過去40年間で最悪」と評したほどのひどさ。ケニア・ソマリア・エチオピアの国境が接する一帯は23年前半まで苦しんだ。

それが一転して、その年の後半からは水害が多発している。ロイター通信は、ソマリアでは70万人以上が洪水で家を追われたと報じた。

地球各地で見られる気候変動。アフリカでは近年、異常気象による災害が顕在化。乏しい資源を奪い合って紛争が増えるという「最悪のシナリオ」も危ぐされている。現地では何が起きているのか。

▽ウクライナ侵攻の裏で進む食料危機
ロシアのウクライナへの全面侵攻開始が世界の目を集めていた2022年2月下旬、ケニア北部マルサビット郡には深刻な食料危機が直撃していた。

「食べ物がほしい」  車を走らせると、やせ細った子どもたちが訴えかけてくる。文字通り「不毛の大地」に、衰弱して息絶えた家畜の死骸が散在していた。

ケニアの「国家干ばつ管理機関」でマルサビットを担当するマモ・イサコさん(29)は恨めしそうに空をにらんだ。 「最後に雨が降ったのは昨年4月です」 家畜をはぐくむ緑はうせ、乾いた黄土色の砂地がかなたの山裾まで続いていた。(中略)

干ばつでも、地下水をくみ上げたり雨が豊富な遠方から輸送したりして、マルサビットの住民は渇きから逃れていた。だが、飢えは深刻だ。集落の副首長アンドリュー・レマロさん(34)は、食料危機が起きるメカニズムをこう説明する。

「集落の住民のほとんどは放牧をなりわいとしてきましたが、干ばつで牛やヤギ、ラクダといった家畜の餌となる植物が集落の周辺に生えなくなりました。家畜を避難させるため、集落の男たちはまだ植生がある100キロ以上離れた餌場まで家畜を連れて行ったきり、半年近く戻りません。集落に家畜がいなくなった結果、女性や子どもの栄養源となるミルクや肉が手に入らなくなったのです」

▽気温上昇が多様な被害に 
気候変動は、国連によると1800年以降は主に人間活動によって引き起こされた。化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼によって温室効果ガスが発生し、気温が上昇する「地球温暖化」が問題視されている。

気温上昇によってもたらされる被害は多様だ。国連はまずこう説明する。
「気温が高い状態が長期化すると、気候のパターンが変化し、通常の自然界のバランスが崩れる」 

その上で、世界的に嵐や干ばつの被害が増えていると指摘する。
気候変動の影響は日本も含め世界に及ぶが、堤防やかんがい設備といったインフラの乏しいアフリカは異常気象への耐性が弱く、被害がより甚大になることが予想されてきた。

2023年にはアフリカ各地で大規模な水害が発生。2〜3月には、1カ月以上にわたり勢力を保ったサイクロンが南部のマラウイやマダガスカル、モザンビークを直撃。多数の死者が出た。北部リビアでも9月に大規模洪水で約4千人が死亡している。

▽紛争増加の原因にも…
気候変動に対して脆弱な国は一般的に貧しく、これまでも食料や水の不足がたびたび問題になってきた。こういった国では気象災害の増加で資源がさらに希少になり、紛争が増加するとの懸念も高まる。

国際通貨基金(IMF)はアフリカの貧困国を念頭にした予測を公表している。 「最悪のケースでは2060年までに、一部の国で人口に占める紛争犠牲者の割合が14%増える」(中略)

▽「不公平ただせ」、いらだつ途上国
気候変動対策を話し合う国際会議などでは近年「気候正義」というキーワードをよく聞くようになった。簡単に言い換えると次のようになる。

「気候変動が進んだのは長期にわたり温室効果ガスを大量排出してきた先進諸国の責任だが、甚大な被害を受けているのは発展途上国だ。この不公平をただそう」

貧困国が多いアフリカではとりわけ、気候正義を意識したような発言が聞かれる機会が増えた。
 「空っぽな約束だけで傍観してきた」(赤道ギニアのヌゲマ大統領)
 「連帯と信頼を崩す」(タンザニアのサミア大統領)

アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで2023年11〜12月に開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)。首脳級会合ではアフリカ各国首脳から先進国へのいらだちをあらわにする言葉が相次いだ。

背景にあるのは、先進国側の姿勢に対する怒り。2020年までに低所得国に、気候変動対策資金を年1千億ドル拠出すると先進国側は約束していたが、守られなかった。

中央アフリカのトゥアデラ大統領は「アフリカは第一の被害者だ」と断言し、先進諸国に対して、アフリカの気象災害に対する補償を求めた。

COP28で補償は議題にならなかったが、一方で「損失と被害」基金の運営ルールが採択された。この基金は、気候災害に見舞われた途上国に対する復興支援に当てられる。

気象災害激化という現実を前に、国際社会では気候変動対策について、アフリカ諸国を始めとした途上国の意見をより真剣に聞かなければならないという雰囲気がこれまで以上に強まってきたようだ。【4月18日 47NEWS】
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途上国は対策を講じるにために必要な資金がありません。もし必要な資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあります。

****発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告****
ボストン大学グローバル開発政策センターなどは14日公表した報告書で、発展途上国は今年の利払いを含む対外債務返済額が過去最大の4000億ドルに達すると予想、50カ国近くは向こう5年間にわたり気候変動対応や持続可能な開発に必要や資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるとの見方を示した。(中略)

発展途上国47カ国は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の2030年の目標達成に必要な資金を拠出すると、対外債務が今後5年以内に国際通貨基金(IMF)が定める返済不能の状態に陥るという。また19カ国は返済不能までには至らないものの、流動性が不足して歳出が目標を達成できなくなり、支援が必要になるという。

ボストン大学グローバル開発政策センターのディレクター、ケビン・ギャラハー氏は「発展途上国の債務負担は非常に重く、現在の債務状況を考えると、そのような資金調達に動けば(債務不履行に向かって)進みかねない」と述べた。【4月15日 ロイター】
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【欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」】
残された時間は少ない・・・というのはいつも言われる話。

****温暖化から地球救う猶予「あと2年」、国連高官が対策強化訴え****
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は10日、地球温暖化が政治家の課題から抜け落ちているとし、気候変動の大幅な悪化を回避するのに各国政府と企業幹部、開発銀行に残された猶予はあと2年だと述べた。

極端な気象や熱波の爆発的発生を防ぐために気温上昇を1.5度以下に抑制するには、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させる必要があるとされる。しかし、昨年に世界で排出されたエネルギー関連の二酸化炭素量は過去最高を記録した。

現状の取り組みでは30年までに排出量はほとんど抑制されないとみられている。(後略)【4月11日 ロイター】
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スティル氏は「温室効果ガス排出を大幅に削減できるチャンスはまだある。だが、さらに強力な計画が今必要だ」とも語っていますが、私は確信をもって悲観的です。

人間は漠然とした将来の不安のために目の前の利害を犠牲にできるほど賢くありません。気付いたときにはすでに後戻り出来ない所に立っているでしょう。

賢くないのであれば、訴えてでも無理やりにでも・・・

****欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」と初判断 各国に影響も****
欧州人権裁判所(フランス・ストラスブール)は9日、スイス政府の不十分な気候変動対策が人権侵害にあたるとする判決を下した。欧州メディアによると、欧州人権裁が政府の気候変動対策の責任を指摘する判断を示したのは初めて。

スイス政府は上訴できず判決に従う義務があるため、気候変動対策の強化を迫られそうだ。

会員2千人超の高齢女性の団体が、スイス政府が気候変動対策を十分にしなかったとして欧州人権裁に提訴。気候変動による熱波で健康や生活の質が損なわれ、死亡するリスクがあると主張していた。

スイスメディアなどによると、欧州人権裁はスイス政府が過去の温室効果ガス削減目標を達成していないなどとして「将来の世代がますます深刻な負担を負う可能性が高いことは明らかだ」と指摘した。十分な気候変動対策を講じなかったことにより、欧州人権条約が定める「私生活と家族生活の尊重を受ける権利」が侵されたと結論づけた。

ロイター通信によると、スイス政府の代表は「判決を分析し、スイスが今後どのような措置をとるか検討する」とした。今回の判決が適用されるのはスイス政府だけだが、欧州各国の気候変動対策にも影響を与えそうだ。人権侵害を基にした気候変動訴訟が欧州全体で増加する可能性もある。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんは欧州人権裁の判決を称賛し、「これは始まりに過ぎない。私たちはもっと闘わなければならない」などと訴えた。【4月10日 産経】
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COP28 「化石燃料からの脱却」などを採択 実効性は今後の取組次第 消極姿勢目立つ日本

2023-12-15 23:03:44 | 環境

(「気候変動パフォーマンス指数(CCPI)」2024年版。赤くなるほど評価が低い【12月9日 Newsweek】 日本は・・・真っ赤 順位は63か国プラスEU中で、前回より更に低下して58位 日本より下の国があまりない・・・という評価)

【化石燃料全般の抑制に初めて言及 「化石燃料からの脱却」合意の舞台裏】
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は会期を1日延長した13日、「化石燃料からの脱却」などにより温室効果ガスの大幅削減を進めるとした成果文書を採択しました。

「石炭火力発電の段階的削減」を打ち出したおととしの会議から前進し、対象を石油や天然ガスを含む化石燃料全体へと拡大した形となっています。

****化石燃料からの「脱却」表明 COP28が文書採択****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は13日、会期を延長して全体会合を行った。

2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標の達成に向け、「化石燃料からの脱却」を盛り込んだ成果文書を採択した。

文書採択の瞬間、各国代表団などが詰めかけた会場は大きな拍手に包まれた。温暖化の主な原因とされる石油や天然ガス、石炭など化石燃料全般の抑制にCOPの成果文書が言及するのは初めて。対策が講じられていない石炭火力の段階的削減を加速させる方針も確認した。

成果文書は観測史上、今年は「最も暑い年」になるとし、産業革命前からの気温上昇を「1・5度」に抑える世界共通の目標達成に向け、「緊急に行動する必要性」を強調した。

また、30年までに世界の再生可能エネルギーの発電能力を3倍に増やすとした上で、原子力のほか温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を地中に貯留するといった排出削減の技術開発を加速させるとした。

COP28では世界の温暖化防止の進捗が初めて評価され、取り組みが不十分であることを確認。各国が25年までに策定する排出削減目標で進捗評価との関係を明示するよう求め、削減強化を促した。

昨年、創設が決まった気象災害に伴う「損失と損害」の基金には、多くの国が資金拠出を表明し、基金の運用開始に道筋をつける成果を挙げた。【12月13日 産経】
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化石燃料(つまり石油も含む)への言及にはサウジなど産油国からの強い抵抗があって難航したようです。

会期終了を翌日に控えた11日、議長国UAEが公表した文書案から、それまで選択肢にあった化石燃料の「段階的廃止」の文言が消えたことが判明して議論を呼びましたが、これは各国の危機感を煽り、合意への道筋をつけるための事務局サイドの戦略だったとか。

****「歴史的」な化石燃料言及 COP28、曲折の末の妥協****
(中略)
地球温暖化対策では、産業革命前からの気温上昇を「1.5度」に抑えることが世界共通の目標。だが、国連の科学的知見では、すでに1.1度上昇している。各国が現在の温室効果ガス排出削減目標をすべて達成しても、2.1〜2.8度上がる見込みだ。

石油や天然ガス、石炭などの化石燃料は燃やすと二酸化炭素が発生し、温暖化の主な要因となる。会議で大きなテーマになったのは、1.5度目標の達成が困難になりつつあるからだ。

海面上昇の脅威に見舞われる太平洋のマーシャル諸島など島嶼(とうしょ)国や、排出削減の技術開発が進む欧米は、会議前半から化石燃料の「段階的廃止」を訴えた。

シェールオイルの恩恵を受ける米国は世界屈指の原油生産国だが、「バイデン大統領は来年行われる大統領選で、環境問題に冷淡なトランプ前大統領に押されている。環境に熱心な姿勢をアピールする狙いもあるのでは」(会議筋)との見方も聞かれた。

一方、サウジアラビアやイラン、イラクなど中東の産油諸国は当初、化石燃料への言及に強く反対した。ロイター通信によるとサウジが主導する石油輸出国機構(OPEC)加盟諸国は世界の原油埋蔵量の8割を擁し、サウジでは原油売却益が国庫収入の75%を占める。産業多角化と雇用創出は道半ばで、他の中東産油国も大差はない。一足飛びに「脱化石燃料」に踏み出せない事情がある。

隔たりが埋まらないまま迎えた11日。会期終了を翌日に控えて議長国UAEが公表した文書案から、それまで選択肢にあった「段階的廃止」の文言が消えたことが判明した。

「これでは署名できない」「表現を強めるべきだ」。島嶼国や欧米から批判が殺到した。各国は会期を越えて13日未明も協議を重ね、同日昼前に「化石燃料からの脱却」の文言で合意にこぎ着けた。

「夜を徹して協議した。各国は自国の利益を越えて共通の利益を優先した」。議長のジャベルUAE産業・先端技術相がこう述べて小づちをたたくと、会場では各国代表らが立ち上がって拍手し、歓声が飛んだ。

合意に至る経過を振り返ると、議長が土壇場で「段階的廃止」の一文がない文書案を公表したことが転換点になったことが分かる。COP28の事務局幹部は「ボールはあなたたちの方にある」と述べて各国の危機感をあおり、本音をぶつけ合うよう求めた。対立構図を浮き彫りにして事態の打開を促す狙いだった。

UAEはアラブで唯一、原発を稼働させて一足先にエネルギー供給源の分散化に着手。観光など産業多角化が進んでいる国だ。

一方、サウジが譲歩した理由について英BBC放送(電子版)は、「脱却」の道筋が柔軟に解釈できる内容だったことに加え、「会議を崩壊させたとみなされることを望まなかった」と分析した。

妥協の産物にもみえる合意の成立で、化石燃料からの脱却は進むのか。BBCが報じた複数の科学者のコメントでは賛否が割れた。マーシャル諸島の代表は文書採択後、「難問を解決するために来たが、その代わりにもろくて水漏れするカヌーを作ってしまった」と述べ、将来への懸念を隠さなかった。【12月14日 産経】
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“外交的合意”では対立する双方が“都合よく”解釈できる余地を残した玉虫色にすることで、本来なら合意できないところを「合意」する・・・そういうケースが多い、例えば“ひとつの中国”とか。

それでも「合意」することに意味があり、決裂するよりもずっとまし・・・とも言えます。その“曖昧さ”を云々するのは野暮というもの・・・か。

【サウジアラビア 石油輸出には影響を与えないとの認識】
サウジアラビアは“「脱却」の道筋が柔軟に解釈できる”と考えているようです。

****サウジ、COP28合意を支持 石油輸出に影響なし****
サウジアラビアのアブドルアジズ・エネルギー相は13日、同国は国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の最終合意を支持すると述べた。

サウジ国営テレビのアルアラビアとのインタビューで「今ある合意では、(化石燃料の)即時的かつ段階的廃止という問題は葬り去られた」とし、サウジの石油輸出には影響を与えないとの認識を示した。

COP28では、約200カ国の代表が最悪の気候変動を回避するために化石燃料からの脱却を進めることで合意。ただ、石油・ガス・石炭の「段階的に廃止」を成果文書に盛り込むよう求める動きに対し、サウジを中心とする石油輸出国機構(OPEC)は特定の燃料に言及しないよう求めていた。

成果文書は「公正かつ秩序だった公平な方法でエネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図り、2050年までに(温室ガス排出の)実質ゼロを達成する」とした。【12月14日 ロイター】
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サウジアラビアが余裕を持って対応できるということは、「化石燃料からの脱却」は実質的にはあまり進まない・・・ということにもなりますが、どうでしょうか・・・。いずれにしても実効性は今後の取組次第です。

【日本 石炭火力廃止への取り組みの“消極さ”が目立つ 中国・インドよりも低い評価も】
一方、今回COP28では日本の石炭火力廃止への取り組みの“消極さ”も目立ちました。

先進国に対して2030年までに石炭火力の廃止を求めている、イギリスとカナダが主導する脱石炭連盟(PPCA)に日本は参加しませんでした。

電力の2割を石炭に頼るアメリカですら参加を表明するまかで、G7で日本だけ取り残されている形にもなっています。期限を切られることが日本としては許容できなようです。

また、石炭への民間融資をやめ、地域のエネルギー移行を支える取り組みである、フランスとアメリカが主導して立ち上げた石炭火力発電からの脱却を目指す有志国連合への参加も見送りました。

日本は、現在のエネルギー基本計画では30年度でも電源の約2割を石炭火力に頼ることになっています。もちろん日本には日本の事情があっての話ではありますが。

****COP28で発足の「脱石炭」連合、日本は参加見送る 圧力警戒か****
アラブ首長国連邦で開催中の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、「脱石炭」を巡り欧米各国と日本の間の溝が深まっている。

日本政府代表団は3日、フランスと米国が主導して立ち上げた石炭火力発電からの脱却を目指す有志国連合への参加を見送ったことを明らかにした。

この連合はCOP28での首脳級会合(1、2日)に合わせて設立され、米仏の他、カナダ、欧州連合(EU)など9カ国・地域が参加している。

主要7カ国(G7)は2022年に天然ガスを含む全ての化石燃料事業への公的支援停止に合意しているが、この連合ではさらに踏み込み、民間金融機関に対し、石炭火力への新規融資停止を促す仕組み作りを目指す。

日本政府代表団は3日、COP28会場内での記者会見で、フランス側から参加要請を受けたことを明らかにしたうえで「(民間融資停止に向けた)検討手続きが明確でなく、現時点で参加の立場は取っていない」(経済産業省の交渉担当者)などと説明した。

同じく脱石炭を目指す別の組織「脱石炭連盟(PPCA)」は2日、米国やチェコなどが新たに加盟したと発表した。PPCAは17年、英国とカナダの主導で発足し、参加国の多くは既設も含めた石炭火力の全廃時期を公表している。米国などの加盟で参加国は57カ国となり、G7で未参加は日本だけになった。

日本は、エネルギーの安定供給のためとして、30年度時点で総発電量の19%を石炭火力でまかなう計画だ。岸田文雄首相は1日の首脳級会合で「排出削減対策の講じられていない石炭火力の建設を終了していく」と表明したが、既設の発電所の廃止時期は示さなかった。

PPCAは米仏が設立した有志国連合と「連携する用意がある」と表明している。日本は全廃時期を示していないことへの圧力が強まることを警戒して連合への参加を見送った可能性もある。【12月4日 毎日】
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石炭火力について岸田首相はCOP28で「排出削減対策のない新規の国内石炭火力発電所の建設を終了する」と表明しました。

ただ、運転中の石炭火力発電は約170基もあり、これをどうするのか・・・・

日本政府はアンモニアを混焼する実験段階の技術を使うことで、合意文書で削減対象外となる「排出対策がある石炭火力」だと解釈して延命を図る戦略です。

日本のこのような姿勢は、結局石炭火力の延命を図るものとして批判もあります。温暖化対策に後ろ向きな国にNGOが贈る「化石賞」に、日本は期間中2回選ばれています。

COP28閉幕後、伊藤環境相は記者団に「この10年で早く移行していくが、化石燃料をゼロにするということではないと思う」とし、「可能な限り化石燃料の比率を減らす」と述べるにとどめました。

言っている事に間違いはないにしても、このような発言からは、「化石燃料からの脱却」を強力に推し進めようという意気込みは全く感じられません。

****奮起****
各国は今後、35年までの排出削減を見通す次期目標の策定に入る。交渉で影が薄かった日本の対応には不安が残る。

日本は今年、先進7カ国(G7)議長国として「排出削減措置が取られていない化石燃料使用の段階的廃止」の方針をまとめた。だが、COP28では化石燃料を巡る表現を強めるよう目立った動きをしなかった。

背景には、二酸化炭素(CO2)の排出削減策を取り入れながら化石燃料を使い続けたい本音がある。石炭火力発電には燃焼時にCO2の出ないアンモニアを混ぜるなどの手段を想定。だがこの方法は当面、ガス火力より排出が多い見込みだ。

地球環境市民会議の早川光俊専務理事は「途上国に資金支援もしているのに、現状では何をしても尊敬されない」と語る。

政府は現行計画で、再エネを30年度の発電量の36~38%に到達させることを目指している。来年は国連に提出する次期の排出削減目標の土台となる、エネルギー基本計画の改定が見込まれる。早川さんは「今の目標は低すぎる。太陽光も風力ももっと増やす余地はある」と奮起を促した。【12月15日 共同】
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****どこまで落ちる日本…COP28で不名誉な「化石賞」2回、気候変動対策は世界58位に沈む現状****
<ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への懸念が強まり、多くの国で気候変動政策が停滞している>

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で8日、恒例の「気候変動パフォーマンス指数(CCPI)」2024年版が発表された。

COP28で2度にわたって不名誉な「今日の化石賞」に選ばれた日本は63カ国と欧州連合(EU)の中で前年の50位からさらにランクを8つ下げ、58位に沈んだ。 

環境や気候変動問題のシンクタンク「ジャーマンウォッチ」と「ニュークライメート・インスティチュート」、国際環境団体のネットワーク「CANインターナショナル」が05年から19年連続で発表している。

昨年のロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー安全保障への懸念が強まり、多くの国で気候変動政策が停滞している。 

63カ国とEUで世界の温室効果ガス排出量の9割以上を占める。多くの国が再生可能エネルギーへの移行を加速させている。しかし世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度に抑えるパリ協定の目標に沿った行動をとった国は一つもなく、上位3位まで該当国なしだった。 

今回もデンマークが最高位の4位で、エストニア、フィリピンがそれに続く。 

2大排出国の中国は前回と同じ51位で、米国は前回より5つ順位を下げて57位。日本、台湾(61位)、韓国(64位)は、石炭を消費しながらも急ピッチで気候変動対策を進める中国より評価が低かった。

COP28議長国のアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、サウジアラビアが最下位の65位から67位までを占めた。 

■日本は良い目標が設定されていない
共同執筆者の一人、ニュークライメート・インスティチュートのニクラス・ヘーネ教授は「自然エネルギーがブームとなり、各国政府は継続的に自然エネルギー目標を更新している。

一方で気候変動政策の策定は全般的に鈍化した。比較的野心的な気候政策を行っている国のデンマークでさえ昨年10月の総選挙以降、気候変動対策がほぼ停止している」と指摘する。(中略)

日本がランクを落としていることについて、ブルク氏は筆者の質問に「日本の評価が低いのはすべてのセクターで非常に低い目標を設定していることや、1人当たり排出量に大きく関係している。温室効果ガスや再エネ、エネルギー消費に関して良い目標が設定されていない。ただ、新しい再エネ発電の建設を始めているのは良いトレンドだ」と答えた。 

世界の統計サイト「ワールドメーター」によると、日本の1人当たり二酸化炭素排出量は9.76トンで世界26位。ブルク氏は「日本が石炭や他のエネルギー源に対して自然エネルギーを増強する傾向を続けるならランキングが上昇するチャンスはある。しかし過去に比べてはるかに速いスピードでなければならない」と警鐘を鳴らす。 

日本の「取り残され感」はCOP28でもはや決定的となった。(後略)【12月9日 木村正人氏 Newsweek】
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中国やインドより評価が低いというのは釈然としませんが、改善に向けたアグレッシブな取り組みが見られない・・・ということでの低評価でしょう。
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COP28  石炭火力廃止で日本にかかる圧力 洋上風力発電にも問題 日米など、原発「50年までに3倍」

2023-12-02 22:25:04 | 環境

(【SOLAR JOURNAL】)

【モディ首相「ごく一部の人類がやみくもに自然を搾取してきたことで、いま人類全体がその代償を払わなければならなくなっている」】
気候変動問題を話し合う国際会議「COP28」が30日、UAE(=アラブ首長国連邦)のドバイで開幕しました。
焦点は化石燃料の扱い。温室効果ガスを大量に排出する化石燃料の削減といった具体的な方策を打ち出せるかどうかが焦点となります。

****COP28 首脳級会合 途上国の首脳 “化石燃料 大幅な削減を”****
UAE=アラブ首長国連邦で開かれている気候変動対策を話し合う国連の会議、COP28は1日、首脳級会合が行われ、気候変動による被害を受ける途上国の首脳からは、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料の大幅な削減を求める声があがりました。一方、化石燃料の削減をめぐっては各国の間で意見に隔たりもあり、今後の交渉の争点になっています。(中略)

この中で、気候変動による影響がとりわけ深刻な途上国の首脳などからは、現状の対策では気温の上昇を抑えられないとして被害に対する資金提供や、化石燃料の大幅な削減を求める声が上がりました。

このうち、インド洋の島国セーシェルのラムカラワン大統領は「島国は気候変動の最前線で、高潮でインフラが被害を受け、国民の生活が危険にさらされている」と述べ、さらなる被害への対策などのため資金提供が必要だと訴えました。

また、深刻な干ばつに見舞われたケニアのルト大統領は「このままでは世界の気温は3度上昇するかもしれない。大胆なエネルギーの転換や、化石燃料への依存度の大幅な削減のための仕組みが必要だ」と述べ、再生可能エネルギーの拡大や化石燃料からの脱却を訴えました。

こうした訴えに対し、フランスのマクロン大統領は「G7の各国は、手本を見せるため、2030年ごろまでに石炭への依存をやめなければいけない」と述べ化石燃料からの脱却を推し進めていくという考えを示しました。

ただ、化石燃料の削減をめぐっては、国連のグテーレス事務総長がすべての化石燃料の段階的な廃止を目指すべきだとしていますが、新興国や先進国のなかには慎重な意見もあり、今後の交渉の争点になっています。

インド モディ首相「グローバルサウスにしわ寄せ」
インドのモディ首相は、COP28で行われている首脳級会合の演説で「インドは、2030年までに化石燃料以外のエネルギーの割合を50%にまで増やす方針だ」と強調し、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めていることをアピールしました。

その上で、「前世紀までの間違いを正す時間はあまりない。ごく一部の人類がやみくもに自然を搾取してきたことで、いま人類全体がその代償を払わなければならなくなっている。とりわけグローバルサウスの国々の住民にしわ寄せがいっている」と訴えこれまで二酸化炭素を大量に排出してきた先進国が責任をもって、気候変動の影響を受けている途上国を支援しなければならないという考えを強調しました。

ブラジル ルーラ大統領「アマゾン川の水位は過去最低」
ブラジルのルーラ大統領は1日、COP28で行われている首脳級会合の演説で、南米のアマゾン川が流れるブラジル北部で続く記録的な干ばつについて触れ「アマゾン川の水位は過去120年間で最低となった。世界最大の淡水の水源であるこの地で起きるとは想像もできなかった」と述べ、気候変動の影響が深刻化していると訴えました。

そして、途上国が気候変動対策を進めるためには、先進国の支援が欠かせないとした上で、これまで約束してきた年間1000億ドルという支援が実現していないとして、「容認できない」と非難しました。

イギリス チャールズ国王「実際に行動することが必要」
イギリスのチャールズ国王が、UAE=アラブ首長国連邦で開幕したCOP28に参加し、1日、演説しました。国王は環境問題に長年取り組んでいて、COPへの参加は去年9月に即位してから初めてです。

チャールズ国王は、干ばつや洪水などによる被害を受けている国々に言及し、「最も脆弱な犠牲者の増加を食い止めるためには、実際に行動することが必要だ」と強調しました。そして、世界の気候変動対策が「軌道から大きく外れている」と懸念を示した上で、「COP28が真の変革に向けた重要な転機となることを、心から祈っている」と述べました。【12月2日 NHK】
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【石炭火力 マクロン大統領、禁止に向けた有志連合を発足 岸田首相、全廃時期は示さず】
化石燃料、特にCO2排出が多い石炭の使用をどのように減らしていくのかが問われていますが、上記記事にもあるようにフランス・マクロン大統領は「G7が手本を示す」ことを主張しています。

****マクロン仏大統領、G7に2030年までの石炭火力「終止符」を要請****
フランスのマクロン大統領は1日、アラブ首長国連邦(UAE)で開催されている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の演説で、主要7カ国(G7)は2030年までに石炭火力発電に「終止符を打つ」よう促した。石炭火力への依存度が高く、廃止の年限を定めていない日本に公の場で圧力を強めた形だ。

首脳級会合で演説したマクロン氏は、二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭への投資は「実にばかげたことだ」と指摘。地球の平均気温の上昇幅を産業革命前と比べ1・5度に抑える目標の達成に向け、先進国は模範を示した上で、途上国の石炭火力からの移行を支援すべきだとした。フランスはCOP28で米国と共に石炭火力の禁止に向けた有志連合を発足させる方針。

岸田文雄首相は1日の演説で、国内でCO2の排出削減対策を講じていない石炭火力は新設しないと表明したが、稼働中の発電所の廃止時期には言及しなかった。

今年4月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、英国や米国などが共同声明に石炭火力の廃止時期を明記することを求めたが、日本の反対で見送られた経緯がある。国連のグテレス事務総長も、経済協力開発機構(OECD)の加盟国は30年までに、それ以外の国は40年までに石炭火力を段階的に廃止するよう求めてきた。

COP28では、成果文書に石炭を含むすべての化石燃料の段階的廃止・削減を目指す方針を明記できるかどうかが大きな焦点になっている。【12月2日 毎日】
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石炭依存については、フランスは発電電力に原発の占める割合が6割を超えているのに対し、日本は原発の割合がかつては3割超だったが現在は1割以下となっているという“事情”の違いもあります。(それが石炭火力継続の理由になるかどうかは賛否があるところですが)

岸田首相は排出削減対策の取られていない石炭火力発電所の新規建設を「終了する」と表明したものの、石炭火力の全廃時期は示していません。こうした日本の対応に対しては、化石燃料の延命策との批判も根強くあります。

****岸田首相、排出削減対策ない火力発電の新規建設終了を表明 COP28****
岸田文雄首相は1日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されている国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の首脳級会合で演説した。温室効果ガスの排出削減対策の取られていない石炭火力発電所の新規建設を「終了する」と表明。議長国のUAEなどが掲げる、世界全体の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍にするとの目標に賛同する姿勢を示した。

排出削減対策の取られていない石炭火力発電を巡っては、今年5月に広島市で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の首脳宣言で「建設終了に向けて取り組む」と明記したが、日本政府として国際社会に発信するのは初。首相はCOP28の場で表明することで日本の取り組みへの理解を得たい考えだ。

一方、日本は既存火力の排出削減策として、石炭にアンモニアや水素を混ぜて二酸化炭素(CO2)の排出を減らす「混焼」やCO2回収・貯留技術(CCS)を進め、石炭火力をできるだけ長く利用する方針で、石炭火力の全廃時期は示していない。混焼を巡っては欧州などから化石燃料の延命策との批判も根強い。(後略)【12月1日 毎日】
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【洋上風力発電 コスト上昇、大型化の弊害、中国依存などの問題に直面】
化石燃料に代わる発電として期待される再生可能エネルギーが風力発電、特に大型の洋上風力発電ですが、ここにきて問題が指摘されています。

****「嵐」に見舞われる欧州洋上風力発電、脱炭素目標に黄信号****
洋上風力発電業界は、サプライチェーン(供給網)の混乱、風力発電装置の設計上の問題、コストの上昇などが重なり、嵐のような逆風にさらされている。このため数十件の開発プロジェクトに支障が生じており、各国の気候変動目標の達成にも影響が及ぶ恐れがある。

化石燃料への依存度を引き下げる競争により、メーカーや部品サプライヤーには、よりクリーンなエネルギーの需要の高まりに応じるよう圧力が掛かっている。

特に2030年までにエネルギーの42.5%を再生可能エネルギーで賄うという法的拘束力を持つ目標を最終決定している欧州連合(EU)では、プレッシャーが顕著だ。

業界団体のウインドヨーロッパによると、EUが再生可能エネルギーの比率を現在の32%から新たな目標の42.5%に引き上げるには、風力発電容量を今の205ギガワット(GW)から420GWへと2倍以上に引き上げ、洋上風力発電容量は17GWを103GWへと大幅に増やす必要がある。

しかし、今年に入って英国、オランダ、ノルウェーの洋上プロジェクトが、コスト高と供給網の制約のために延期または棚上げになった。また、英国では再生可能エネルギー向け補助金の入札で、洋上風力開発業者からの応札が皆無だった。

ジュピター・アセット・マネジメントの投資マネジャー、ジョン・ウォレス氏は「もし、これがプロジェクトの長期休止につながれば、2030年の再生可能エネルギー目標の多くは、達成が厳しくなるに違いない」と話す。

EUが今年、新たな再生可能エネルギー目標で合意する以前から、オルステッド、シェル、エクイノール、風力タービンメーカーのシーメンス・ガメサといった企業が、洋上風力産業の規模は気候変動目標の達成に不十分だと警告していた。

新型コロナウイルスのパンデミックを発端とする供給網の混乱は、ウクライナ戦争で一段と深刻化。一方で、輸送コストや原材料費の高騰、金利の上昇、インフレで利益が圧迫されている風力発電事業者もある。

ドイツのエネルギー大手RWEのマルクス・クレッバー最高経営責任者(CEO)は交流サイト(SNS)への投稿で、洋上風力発電産業は急速な拡大が予想されるタイミングでさまざまな問題が重なり、気候変動目標の達成が危うくなっているとの見方を示した。

<巨大化のわな>
洋上風力発電は過去20年間に急成長を遂げ、一部の国ではコストが化石燃料と同等か、それ以下になった。だが、タービンをより大きく、より効率的にしようとする開発競争が性急すぎたのではないかといった指摘が、経営者やアナリストの中から出ている。

タービンの大きさは10年ごとにおよそ2倍になり、2021年と22年に稼働した最大級のタービンはブレードの長さが110メートル、出力が12─15メガワット(MW)もある。

しかし、大型化すればするほど故障しやすくなると、コンサルタント会社サンダー・サイド・エナジーのアナリスト、ロブ・ウェスト氏は指摘する。ブレードは大きくなればなるほどたわみが大きくなり、より剛性の高い補強材が必要になるという。(後略)【10月1日 ロイター】
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ブレードの長さが110メートル・・・信じられないような規模です。「そりゃ、安定性に問題が出るだろう」と素人は考えます。

洋上風力発電については、インフレや金利上昇でコストが膨らんでいること、大型化に伴う問題などのほか、「中国依存」と言う問題も指摘されています。

****米欧で逆風の洋上風力 インフレで建設費高騰、採算合わず****
再生可能エネルギーの切り札として米欧で展開されてきた洋上風力事業が逆風にさらされている。インフレや金利上昇でコストが膨らみ、事業の中止や延期が相次ぐ。

発電量が大きい洋上風力の計画がつまずけば各国の気候変動対策に影響を及ぼしかねず、米自治体や欧州連合(EU)は支援に向けて動き出した。安価な中国製の風力タービンが世界市場を席巻する中、中国依存の課題も浮上している。

崩壊する事業
「洋上風力事業は高インフレと金利上昇という巨大な嵐に見舞われている」
洋上風力最大手のオーステッド(デンマーク)のマーズ・ニッパー最高経営責任者(CEO)は11月1日、そう打ち明けた。(中略)

英石油大手BPも7〜9月期決算で、ノルウェーの同業エクイノールと進める米東部ニューヨーク州沖の洋上風力の減損を計上した。損失が相次ぐ事態を受け、BPの低炭素部門の責任者、アンニャイサベル・ドツェンラス氏は「米国の洋上風力の業界は根本的に崩壊している」と述べた。

欧州でも同様の動きが広がる。スウェーデンの電力大手バッテンフォールは7月、英国の大型洋上風力プロジェクトを停止すると発表した。英国の約150万世帯に電力を供給する予定だったが、開発コストが最大で40%上がることが判明し、見直しを迫られた。エクイノールもノルウェー沖で計画した大型洋上風力の建設を無期限で延期した。(中略)

中国依存も課題に
一方、中国は世界の風力発電市場に攻勢を強め、22年に世界で導入された風力タービンのうち約6割を中国勢が占めた。安価な中国製は欧州メーカーの経営を悪化させている。欧州風力エネルギー協会は、EUがロシア産天然ガスに依存したことでエネルギー危機に陥った教訓をもとに「このままでは依存先が露産から中国産に置き換わる」と危機感を示した。

EUは中国依存を減らす姿勢を鮮明にしており、メディアによると、欧州委には中国からの輸入の一部制限を支持する声もある。欧州委は関税の上乗せを判断するため、中国が補助金支援で欧州での競争を阻害していないかを調査することを検討しているという。【12月2日 産経】
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【原発 「2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量3倍を目指す」、日本も賛同】
化石燃料は減らさなければいけない、洋上風力発電も困難に直面している・・・ということで、改めてその必要性が主張されているのが原発。

原発による世界の発電量は2011年の福島第一原発の事故以降、やや落ち込みましたが、現在は回復傾向にあります。特に中国での複数の新設が進んでいます。世界全体では2023年時点で436基で、発電電力の約10%をまかなっています。発電量はアメリカが最も多く、中国、フランスと続いています。

****「2050年までに世界で原子力発電3倍」 日本も賛同 COP28*****
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、米政府は2日、日本を含む22カ国が「2050年までに世界全体の原子力発電の設備容量3倍を目指す」宣言に参加したと発表した。

宣言では、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1・5度に抑える目標を達成する
8336
ために、原子力が重要な役割を果たしていると指摘。「エネルギー安全保障に利点がある」などとしている。

日本では、5月に原発の60年超運転を可能にした「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立。原発回帰の方針に転換したが、その姿勢が鮮明になった格好だ。

日米以外では、英国やフランス、UAE、韓国などが参加した。【12月2日 毎日】
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原発については、安全性や廃棄物の扱いで議論があるのは言うまでもないところ。

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ジョン・ケリー米大統領特使(気候変動問題担当)は、「われわれは、原子力が他のすべてのエネルギー源に完全に取って代わると主張しているわけではない」

「しかし、科学と現実、エビデンスは、原子力なしでは2050年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにするのは不可能だと示している」と主張。「(原子力の利用は)科学的な現実にすぎない。政治もイデオロギーも関係ない」と訴えた。【12月2日 AFP】
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どうでしょうか・・・この議論はさんざん繰り返されているところで、ほとんど歩み寄りは期待できない問題ですので今回はパスします。
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進む温暖化 遅れるCO2削減 今月末からドバイでCOP28 議長は国営石油企業のトップ

2023-11-16 22:45:10 | 環境

(【11月13日 ウェザーニュース】1991年から2020年の平均気温をベースにした、10月の地球の平均気温の推移)

【今年は記録的な高温】
人間の(私の?)記憶・印象というのはすこぶる曖昧・不確かなもので、ここ数日急に寒くなっただけで、今年の夏、そして秋の異常な暑さは忘れてしまいそうですが・・・

****10月も地球の平均気温は過去最高 史上最も暖かな年になることはほぼ確実****
世界気象機関(WMO)とコペルニクス気候変動サービスは、10月も地球の平均気温が過去最高を更新したと発表しました。5か月連続で記録的な高温となり、2023年が史上最も暖かな年になることはほぼ確実としています。

5か月連続で記録的な高温
EU=欧州連合の機関であるコペルニクス気候変動サービスによると、10月の地球の平均気温は15.30℃と、1991年から2020年の平均気温を0.85℃上回り、10月としてこれまで最も高い記録より0.40℃も高くなりました。

地球の平均気温は6月から5か月連続で記録的な高さとなっていて、1〜10月までの平均気温は1850年から1900年の産業革命以前に比べて1.43℃高くなっています。

年平均気温が過去最も高かった2016年の数字を0.10℃上回り、WMO(世界気象機関)は2023年が観測史上最も暖かな年になることはほぼ確実としています。

日本も2023年の気温は過去最高の見通し
日本の10月は北日本で気温がかなり高く、1か月の平均気温は平年に比べて1.0℃高くなりました。また、11月に入ってからは全国的に記録的な高温となり、東京都心では11月7日、100年ぶりに11月の歴代最高気温を更新しています。

先週末から寒気が流れ込んで季節外れの高温は落ち着き、この先1か月は西日本から北日本で平年並みの気温となる見通しです。それでも今年の高温傾向を相殺するほどではなく、11月、12月の気温が平年並みで推移したと仮定しても、今年の日本の平均気温は平年よりも1℃以上高くなり、過去最高を大幅に更新するとみられます。

今年の世界的な高温は、エルニーニョ現象の強まりなどが大きな影響を及ぼしていると考えられますが、それだけでは説明が難しく、長期的な地球温暖化の影響が加わっていることが確実です。今後さらに温暖化が進むと、記録的な高温の出現頻度が高まると考えられ、今年はその先駆けなのかもしれません。

二酸化炭素の排出を抑えて温暖化対策を進めるとともに、気候変動による極端気象への備えも必要になりそうです。【11月13日 ウェザーニュース】
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今年の暑さが“長期的な地球温暖化の影響が加わっていることが確実”なのかどうかは素人にはわかりませんが、冒頭のグラフ(10月に関して、1991年から2020年の平均気温との比較)を見ると、1970年代後半あたりから顕著に右肩上がりで気温が上昇していることがわかります。

【アルプスでも、南極でも、グリーンランドでも融ける氷 海面上昇の危機も現実味増す】
地球規模での暑さの影響で、アルプスの氷河も南極の氷床も、そしてグリーンランドの氷河でも融解が加速しています。

****たった2年で溶けた氷河が“過去30年間”に匹敵 アルプスの氷河に危機 “雪が少なく夏が暑すぎ”が原因****
スイスのアルプスの氷河に危機が訪れている。 1960年以降の30年間で失われた量に匹敵する規模の氷河が、2022年と2023年の2年間で消えたという。

たった2年で…急激に溶ける氷河
アルプスを覆う広大な氷河が、急激に溶けている。 スイスの科学アカデミーによると、1960年以降の30年間で失われた量に匹敵する規模の氷河が、2022年と2023年の2年間で消えたという。

この2年間で約10%が減少した。 原因は、雪が少なく、夏が暑すぎたこと。

どれほどの勢いで氷河が失われたのか、それを示す映像が記録されていた。 突き立てられた目盛りが付いた棒。日を追うごとに氷はみるみる溶け、目盛りが下がっていく。 2カ月あまりで減った氷の量は、計測する男性の背丈に迫るほどだ。1.5mをゆうに超えている。(後略)(「イット!」 9月29日放送より)【10月8日 FNNプライムオンライン】
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****南極西側、氷融解止まらず 英研究所、海面上昇警告****
南極大陸の西側を覆う「西南極氷床」は、温室効果ガスの排出削減を強力に進めたとしても21世紀中は融解が止まらないとの予測を、英南極研究所のチームが23日、英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに発表した。

全て解けると海面が5.3メートル上昇するほどの氷を蓄えており、チームは「現状維持はできなそうだ。海面上昇が22世紀以降も続いて数メートルに及ぶ事態に備えるべきだ」と訴えた。

氷床のうち、海にせり出して浮かぶ部分は棚氷と呼ばれる。棚氷は下部が接している海水の温度が上がると融解が進み、さらに陸側の氷が海にずり落ちて深刻な海面上昇につながる恐れがある。(後略)【10月24日 共同】
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****グリーンランドの氷河融解、20年前の5倍に加速****
地球温暖化により、グリーンランドの氷河が解ける速度が過去20年間で5倍になっていると、コペンハーゲン大学の科学者が10日に発表した。

グリーンランドの氷が全て解けた場合、海面を少なくとも6メートル押し上げるとされており、特に懸念されている。

コペンハーゲン大学地球科学・自然資源管理学部のアンダース・アンカー・ビョーク助教授は、この地域の1000の氷河を調査した結果、融解の速度が過去20年間で新たな段階に入ったとロイターに語った。

「地球の気温と氷河が急速に解けていく変化の間には非常に明確な相関関係がある」という。

科学者らは衛星画像と20万枚の古い写真を通して130年にわたる氷河の変化を調査。氷河の融解ペースは約20年前の年平均5─6メートルから25メートルに加速したと結論付けた。

世界の平均気温はすでに産業革命以前に比べ1.2度近く上昇している。欧州連合(EU)の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」(C3S)は8日、今年が過去12万5000年間で最も暖かい年になることが「事実上確実」だと発表した。【11月13日 ロイター】
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南極やグリーンランド、北極海の氷の融解、そして海面上昇・・・島しょ国で水没する危機が現実のものになっています。太平洋の島国ツバルもそんな国の一つですが、オーストラリアの移住を視野にいれています。

****水没危機のツバル、豪と移住協定 地球温暖化で海面上昇****
地球温暖化による海面上昇で国土が水没する危機にさらされている南太平洋の島国ツバルは9日(日本時間10日)、オーストラリアへの移住を可能にすることで同国と合意した。こうした取り決めを盛り込んだ2国間条約に両国首脳が、訪問先のクック諸島アバルアで署名した。

ツバルのナタノ首相とオーストラリアのアルバニージー首相は共同声明で、ツバルが水没しないよう海岸の埋め立て作業を拡大すると強調。

その上で「気候変動の影響が悪化する中で、ツバルの人々には別の場所に暮らし、学び、働く選択肢があってしかるべきだ」と述べた。

ツバルは人口1万人余り。九つのサンゴ礁の島から成る。【11月10日 共同】
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ツバルとオーストラリアの今回合意は“協定では中国を念頭に、第三国・地域と安全保障や防衛分野の協定を結ぶ前に協議することを定めた。アルバニージー首相は会見で、ツバルから要請があれば安全保障面の支援を提供すると述べた。”【11月10日 ロイター】という、太平洋島しょ国を舞台にした中国と米豪日などの対立を背景にしている国際政治の側面もありますが、その話は今回は省略。

温暖化・気候変動は単に暑くなるだけでなく、異常気象も、それによる災害も増加します。

「温室効果ガスの排出量が増加を続け、気候変動が続く中、世界中の人々が異常気象と気候現象の深刻な影響を受け続けています。例えば2022年の、東アフリカで続いた干ばつ、パキスタンでの記録的な豪雨、中国とヨーロッパにおける過去に例を見ない熱波によって数千万人が影響を受け、食料供給が不安定化し、集団移住が加速し、数十億ドルの損失と損害が発生しました」(WMO(世界気象機関)のペッテリ・ターラス事務局長)【5月24日 国際連合広報センター】

【進捗が遅い温室効果ガス削減の取り組み】
温暖化・気候変動が進むなかで、世界の対応は・・・と言えば、あまり芳しくありません。“負け戦”の様相。

****温室効果ガス2030年までに「2%の減少」か 目標は「43%」 国連報告書****
国連は、各国が温室効果ガスの排出削減目標を達成しても、2030年の排出量は2019年と比べて2%の減少に留まるとの報告書を公表しました。

国連の気候変動枠組み条約事務局は、14日、世界各国が掲げる2030年の温室効果ガスの排出削減目標を分析した報告書を公表しました。それによると、各国がそれぞれ目標を達成した場合、2019年と比べて温室効果ガスの排出量は2%削減されるということです。

しかし、今世紀末の気温上昇を1.5度に抑えるというパリ協定の目標達成には2030年までに43%の削減が必要とされていて、現在の取り組みでは遠く及びません。

報告書は各国が現在の削減目標を達成しても、今世紀末までに気温が2.5度前後上昇するおそれがあるとしています。【11月15日 TBS NEWS DIG】
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かろうじて“減少”はするものの、「43%の削減が必要」のところに「2%削減」・・・話になりません。

****世界のCO2濃度、産業革命前の1・5倍で過去最高に…世界気象機関「我々はいまだに間違った方向へ」****
世界気象機関(WMO)は15日、2022年の大気中の二酸化炭素(CO2)の世界平均濃度が過去最高を更新し、417・9ppm(ppmは100万分の1)だったと発表した。産業革命前の水準の1・5倍に初めて達したという。

報告書によると、濃度上昇の程度は前年よりやや弱まったが、短期的な自然変動によるものだった。産業活動による排出は増え続けていると分析している。

現在のCO2濃度は300万〜500万年前と同程度で、当時の気温は現在より2〜3度高く、海面も10〜20メートル高かったという。

WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、「科学界からの何十年にもわたる警告にもかかわらず、我々はいまだに間違った方向に進んでいる。化石燃料の消費を緊急に削減しなければならない」と指摘した。【11月16日 読売】
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【今月末からCOP28 再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意が焦点 ただ、産油国での開催で議長は国営石油企業のトップ】
こうした状況を受けて、今月末からアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開催されます。

****首相、COP28出席を調整 地球規模課題で存在感狙う****
岸田文雄首相が、アラブ首長国連邦(UAE)で11月末から開かれる国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)に出席する方向で調整していることが分かった。複数の関係者が10月31日、明らかにした。

今年の先進7カ国(G7)議長国首脳として地球規模の課題で存在感を示し、気候変動の影響を受けやすい新興・途上国に日本の取り組みをアピールする狙いがある。

一方、中東ではイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が激しさを増している。臨時国会の会期とも重なるため、UAEだけを訪れて帰国する日程が想定されている。

COP28は11月30日~12月12日にドバイで開催される。首相は首脳級会合が予定される12月1、2両日に合わせて出席を検討している。会議では世界各国が協調して気候変動に対処するよう呼びかけ、環境負荷の軽減に貢献する日本の姿勢を強調するとみられる。

首相は今年7月にUAEを訪問した際、ムハンマド大統領と会談。COP28の成功に向け国際社会を主導すると申し合わせていた。【11月1日 共同】
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ただ、誰しも思うのは、「UAE? 産油国だよね・・・本気で脱炭素ヤル気あるの?」という疑問。しかも、議長を務めるUAEのスルタン・アル・ジャベル気候変動特使はアブダビ国営石油会社(ADNOC)のグループCEO(最高経営責任者)でもあり、昨年のCOP27で提案したものの実現しなかった「化石燃料の段階的削減」に対し、消極的な発言を繰り返してきました。

そうしたことから、5月にはアメリカやEUの議員ら130人以上が連名で、議長解任を求める書簡を送った経緯もあります。

そうした批判もあって、ジャベル議長の発言・姿勢は徐々に前向きに変化しているとも・・・。本心かどうかはわかりませんが。

COP28では再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意が焦点となりますが、UAEはその提言書を公表し、各国に取り組みへの参加を働きかけています。

****「2030年までに再エネ3倍に」 COP28議長国・UAEが提言****
国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28、30日開幕)を前に、議長国のアラブ首長国連邦(UAE)は、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えるという目標を実現するには、世界の再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに22年の3倍に増やす必要があるとの提言書を公表した。

提言書は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、世界再生可能エネルギー同盟(GRA)と共同で作成。10月30~31日の非公式閣僚級準備会合(プレCOP28)で各国政府に示した。COP28のジャベル議長は、再生エネ3倍目標や「化石燃料の段階的削減」の合意を目指すと表明しており、提言書をCOP28での議論のたたき台にするとみられる。

提言書によると、21年のCOP26で合意した1・5度目標を達成するには、再生エネの設備容量を22年の約3倍の1万1000ギガワット超に拡大させる必要があるとした。IRENAの分析に基づくもので、太陽光は約5倍の5400ギガワット、風力は約4倍の3500ギガワットを超える水準に増やすことを想定している。

また、エネルギー効率を30年までに現在の2倍にする必要があるとも指摘。具体的には、省エネの指標となるエネルギー原単位(一定の製品などを生み出すために必要なエネルギー消費量)の年間改善率を30年までに現在の2倍にすることを想定している。

ジャベル氏は、提言書の中で「化石燃料の段階的削減は不可避かつ不可欠だ。公正で秩序あるエネルギー転換の実現には、再生エネ拡大を急がねばならない」と指摘している。

ただし、化石燃料の削減・廃止やその時期を巡っては各国の意見の隔たりが大きい。また、ジャベル氏が国営石油企業のトップを務めていることなどからも、化石燃料を巡る踏み込んだ合意の実現性については懐疑的な見方も多い。【11月2日 毎日】
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COP28のような利害が対立する国際会議では、個人的な情熱・思いの強さよりは国営石油企業のトップとしての調整手腕が役に立つ・・・といいですが。

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電気自動車(EV)をめぐる最近の話題 パキスタン、フィリピン、EU

2023-03-18 22:38:23 | 環境

(フィリピンのジープニー 当局は環境に優しい車両への切り替えを推進中【3月14日 Newsweek】)

【電気自動車が必ずしもエコと言えない面も それでも主流となる状況】
温暖化の原因ともなるCO2や窒素酸化物を含む排気ガスを出さない電気自動車(EV)は本当にエコで環境に優しいのか?という話はときおり見かけます。

****電気自動車は本当にエコなのか?環境に悪いと言われる理由を解説****
(中略)
電気自動車自体が環境にいいかは別物
とはいえ、「排気ガスを出さない」というイメージで誤解しがちですが、「電気自動車を使えば二酸化炭素が発生しない」訳ではありません。電気自動車が必ずしもエコと言えない理由を説明します。

製造時の二酸化炭素排出量が多い
自動車は製造時に電気を使います。電気は火力発電で作られることが多いため、間接的に二酸化炭素を排出しているのです。鉄などの鉱石の採掘から、輸送、精錬、製品への加工まで、製造工程は複雑であり評価が難しいですが、一般的には電気自動車の方が二酸化炭素排出量が多いと言われています。(中略)

走行分の環境負荷も少ないがある
同様に、電気自動車に充電する電気を作る際にも二酸化炭素は発生しており、特に火力発電では石炭や石油を燃やすため、大量の二酸化炭素が排出されます。(中略)

ここまでは、二酸化炭素排出量の問題についてお伝えしましたが、電気自動車には電池に関する環境問題も課題となっています。

電池用資源をめぐる問題
現在、車載用の電池にはリチウムイオン電池が用いられていますが、リチウムイオン電池はリチウムやコバルト、ニッケルなどのレアメタルが必要です。

詳細はこちらの記事で言及していますが、電気自動車の普及によって爆発的にリチウムイオン電池の需要が高まることで、ニッケルやコバルトの採掘に様々な問題が発生すると懸念されています。

また、採掘が進んでいくと既存の鉱山での資源が枯渇し、より採掘が難しい所を利用しなければならないため、結果的に採掘における二酸化炭素が増えてしまうといった問題も内包しています。

廃棄時の環境汚染が深刻化
電気自動車に使われるリチウムイオン電池は5年ほどで寿命を迎えますが、コバルトやニッケル、マンガンなど、土壌や水を汚染する材料が多く使われているため、そのまま廃棄することは環境汚染に直結します。

特に電気自動車への移行が早い中国では、廃棄されるバッテリーの数は急速に増えつつあり、環境汚染は既に深刻化しているといえるでしょう。今後、各国で廃棄方法の確立が課題となることは間違いありません。

リサイクル率の低さも問題に
電池の廃棄による環境汚染や、製造コストを抑えるには電池のリサイクルやリユースも重要なポイントとなりますが、現状ではリサイクルが適切に行われているとは言えない状況です。(中略)

それでも電気自動車が主流となる理由
電気自動車は環境問題が山積していますが、それでもガソリン車の代替として、自動車業界の主流となりつつあります。その理由をお伝えします。

各国の法規制に伴うガソリン車の廃止
最も大きな理由は、欧州や中国、インド、米国、日本など、主要な国がガソリン車廃止の方向で進んでいることです。

きっかけは欧州グリーンディール政策です。2035年までに自動車の二酸化炭素排出量を100%削減すると決定されたことで、実質的にガソリン車が廃止となる流れが生じました。普通のガソリン車だけでなく、ハイブリッド車などエンジンのある自動車は全て販売できなくなるため、自動車業界は電気自動車への舵を切らざるを得なくなったのです。

この政策が制定された後、中国など他の国でも電気自動車の採用が加速し、今では多くの国でガソリン車を廃止する動きが進んでいるため、必然的に電気自動車が主流となりつつあります。

環境性能の向上に向けた開発も加速中
政策上、電気自動車が普及していくのは確実なのですが、環境性能の向上も同時に期待されています。例えば、より少ない電気で電池を作ることに成功すれば、製造時の二酸化炭素排出量を大幅に低減できるでしょう。電気自動車の電池をリサイクルする方法も有効です。

また、再生可能エネルギーなど、二酸化炭素排出量が少ない発電方法を行うことでも、電気自動車の二酸化炭素排出量を抑えられます。現状すぐに解決できる問題ではありませんが、将来的には「電気自動車はエコ」なのが常識となるかもしれません。

環境面以外のメリットも多い
電気自動車には、環境面以外でも、メンテナンス性の良さや維持費の低さ、乗り心地の良さなど、様々なメリットがあります。デメリットもあるため、走行距離などの使用状況や好みによっても変わりますが、今までの自動車にはない楽しみ方ができるでしょう。(後略)【2022年11月10日 FREE AID】
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【大気汚染改善に期待されるEV しかし、財政難パキスタンでは現状変更規模には至らず】
いろいろな議論はあるものの、現実問題としてはEVの普及は今後も更に進むことが予想されます。(EV普及が遅い日本ではあまり実感がありませんが)

また、大気汚染が深刻化している国では、EVへの転換は現実的政策課題ともなっています。

ひと頃(北京オリンピックの頃)、中国の大気汚染がよく話題にもなりましたが、世界にはもと汚染が深刻な国がたくさんあります。例えばインド大都市の汚染はよく話題にもなります。

****汚染上位100都市、インド6割超=南アジアの大気汚染深刻―調査****
昨年の世界の大気汚染状況をまとめた報告書が14日公表され、汚染度の高い上位100都市の中で首都ニューデリーをはじめインドの65都市が占めた。

パキスタン東部ラホールが最も空気の悪い都市と評価されるなど、南アジア地域の汚染の深刻さが改めて浮き彫りになった。

スイスの大気汚染調査会社IQエアが131カ国・地域、7323カ所を対象に汚染を引き起こす微小粒子状物質(PM2.5)の濃度を調べた。国別のワースト1位はアフリカのチャドで、3位パキスタン、5位バングラデシュ。インドは8位、日本は97位だった。【3月15日 時事】 
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上記記事のようにパキスタンの状況も深刻。政府は電気バスの導入などにも取り組んではいるようですが、状況の深刻さにくらべると、いささか「焼け石に水」の感も。

****大気汚染大国パキスタン、電動バス導入は焼け石に水か****
約2億2400万人の人口を抱えるパキスタンでは、大気汚染が死因のトップになっており、「世界疾病負担(GBD)」による最新の調査では、2019年には大気汚染が原因で推定23万6000人が平均寿命以前に死亡することになったとされている。

パキスタンの金融中心地カラチで働くラジャ・カムランさん(50)はオートバイで通勤していたが、電動バスが導入されたのに伴い、そちらに切り替えた。出費を削減できる上、この街の汚染された空気を吸い込むのを多少なりとも避けられるようになった。

カラチでは1月、小規模ではあるが、完全電動バスの運行が始まった。自動車や工場、発電所やれんがの焼き窯、ごみ焼却によって発生する大気汚染の悪化を削減する政府の対策の一環だ。(中略)

とはいえ、電動バスの台数が十分ではないとカムランさんは言う。初回導入予定の50台のうち、現在走っているのは10台だけだ。乗るには45分も待たされることがあるという。

汚染防止技術を専門とするスイス企業IQAirによれば、都市部の大気汚染はパキスタン全土における長年の大問題だ。大気の質に関する2021年の世界ランキングでは、パキスタンは全118カ国・地域中で下から3番目だった。(中略)

道路を走る自動車数の増加に対する懸念も高まっている。パキスタン国内の自動車登録台数は2011年には960万台だったが、2020年には3070万台へと増加。ペシャワールやカラチといった都市は、より環境負荷の低い輸送手段を推進する計画を発表している。(中略)

(カラチが属する)シンド州政府のアブドゥル・ハリーム・シャイフ運輸・公共交通長官によれば、州政府は現在バスを100台追加するため、購入費用約3000万ドルの融資を求めてアジア開発銀行(ADB)と交渉中だという。(中略)

だが環境問題や都市問題の専門家は、少数の電動バスでは大きな効果は出ないのではないかと考えており、もっと範囲が広く有意義な交通改革を求めている。

<必要なのはシステム改革か>
(中略)同国の気候変動対策省はそれでも、大気汚染は引き続き国の主要な環境問題の1つだと述べている。大気汚染物質の少なくとも40%を排出するのが自動車だという。

政府は2019年11月、電動オートバイと電動人力車(リキシャ)計50万台のほか、電気自動車、電動バス、電動トラック10万台以上を5年以内に交通システムに投入するという目標を掲げた。現時点で実際に走行している台数は分かっていない。

パキスタンは2030年までに、販売される全ての自動車とトラックの3分の1、オートバイとバスの半数を電動にするという長期目標を掲げている。総合的には、2030年までの期間に温室効果ガス削減の取り組みを強化することを公約している。

北西部の都市ペシャワールでは、州政府が新たな公共交通システムの一環として、旧式のバスを引退させ、ディーゼル・電動のハイブリッドモデルで置き換えつつある。

カラチでは電動バス50台導入とは別に、州政府が水牛のふんから生成されるバイオメタノールを燃料とする車両250台による交通網を展開中だ。

とはいえ、一部のアナリストは、カラチにおける新旧のバス改革は、汚染抑制のために十分ではないと批判している。

カラチ経営研究大学都市研究所のムハンマド・トヒード副所長は、走行する自動車やオートバイの総数を削減し、大気汚染の影響に関し市民を啓発することにもっと注力すべきだと主張する。(中略)

環境問題を専門とするコンサルタント会社ダリヤ・ラボのヤシール・フサイン氏は、カラチにおける排ガス問題の解消に向けて効果を上げるには150台どころか、少なくとも1500台の電動バスが必要だろうと語る。

啓発団体「グリーンパキスタン連盟」の創設者でもあるフサイン氏は「政府は電動オートバイと電動リキシャの利用促進に向けて、長期低金利ローンも提供すべきだ」と語る。(後略)【3月18日 ロイター】
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財政危機に直面し、国際通貨基金(IMF)との協議を進めている状況、更には昨年の国土の三分の一が水没する大洪水からの復興が急務となっている・・・というパキスタンの現状では、なかなか環境対策まで手が回らないというというのが現実でしょう。

【フィリピン 「ジープニー」の転換に、負担できない運転手がストライキ】
派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」が庶民の足であり、また、観光的にも目玉のひとつとなっているフィリピンでは、この「ジープニー」のEV等への転換を進めていますが、その負担の大部分が低収入の運転手にかかってくるということで、抵抗する運転手のストライキに発展しています。

****フィリピン名物「ジープニー」が消える日****
<運転手や事業主ら10万人以上が全土でストライキを実施>

ど派手な装飾の簡易乗合バス「ジープニー」は、フィリピン庶民の足として欠かせない交通手段だ。その運転手や事業主ら10万人以上が3月6日から1週間、全土でストライキを実施。マニラ首都圏だけで4万台以上のジープニーが姿を消し、学校や企業がオンラインへの切り替えを迫られるなど混乱が続いている。

ディーゼルエンジンを搭載したジープニーは環境負荷が大きく、大気汚染の元凶とされる。政府は2017年から電気自動車または欧州排ガス規制「ユーロ4」対応エンジンを搭載した車両への移行を進める「公的車両近代化プログラム」を推進してきた。

だが、基準を満たす車両の価格は従来の10倍以上。買い替えに補助金が支給されるとはいえ、低収入の運転手に払える額ではなく、抗議のストに踏み切った。

それでも彼らの声が当局に届く気配はない。サラ・ドゥテルテ副大統領は、ストは共産主義の反政府勢力に扇動された行為だと一蹴した。【3月14日 Newsweek】
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外交面で注目されるマルコス大統領に比べ、就任後、大きく取り上げられることがあまりないサラ・ドゥテルテ副大統(ドゥテルテ前大統領の長女)ですが、さすが父親譲りというか、(噂どおり)父親以上に強気な性格のようです。

【世界をリードする欧州でも、35年からガソリン車新車販売を事実上禁止するとなると・・・】
一方、EVを含む環境問題で世界をリードすることを経済的・政治的戦略ともしている欧州EUですが、“ガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する”となると、さすがに容易ではないようです。

****エンジン車の新車販売禁止法案、EU理事会で承認延期 ドイツ反対に*****
欧州連合(EU)域内でガソリン車など内燃機関(エンジン)を搭載する車の新車販売を2035年から事実上禁止する法案について、EU加盟国で構成する理事会による正式承認が延期され、法案が宙に浮いている。自動車大国ドイツが土壇場で反対の意向を示し、合意が困難となったためだ。

法案は、35年までに乗用車と小型商用車の新車を、二酸化炭素(CO2)を排出しないゼロエミッション車にする内容。実現すれば、35年以降はガソリン車に加え、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の新車も事実上販売できなくなる。

EUは50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げている。EUの欧州委員会が気候変動対策の一環として提案した同法案を巡っては、EU各国と欧州議会が昨年10月に政治合意。今年2月には欧州議会が法案を採択したことで、欧州理事会の正式承認を残すだけとなっていた。

しかしドイツのウィッシング運輸相は2月28日付の独大衆紙ビルト(電子版)で、合成燃料「eフューエル」を使用する新車販売が認められない限り、「法案には賛成できない」と表明。ショルツ独首相も3月6日の記者会見で欧州委に対し、「35年以降にeフューエルをどう使用できるかに言及した提案を期待している」と対応を求めた。

法案は、EU加盟27カ国のうち15カ国以上が同意し、なおかつ同意した国々の人口総計がEU総人口の65%以上となることが承認の条件だ。欧州メディアによると、ドイツ以外にイタリアやポーランド、ブルガリアも賛成しない意向を示しており、承認が見込めないことから、今月7日に予定されていた承認手続きは延期された。

ドイツが使用を求めるeフューエルは、CO2と再生可能エネルギー由来の水素を合成させてできる合成燃料の一種だ。燃やせばガソリン同様CO2が出るが、製造時に大気中に含まれるCO2を回収して利用すれば、地球温暖化防止につながるとされ、実用化に向けて開発が進められている。

ドイツがeフューエルを認めるよう求めるのは雇用対策の側面が大きい。電気自動車(EV)は動力に内燃機関を必要としない。欧州自動車部品工業会が21年に公表した調査結果によると、EVシフトによってEU域内では40年までに内燃機関製造にかかわる最大約50万人の雇用が失われ、EV用バッテリー生産などの新規雇用を差し引いても27万5000人の雇用減となる。eフューエルはガソリン車などの内燃機関で使えるため、雇用維持に一定の役割を果たすとみられる。【3月16日 毎日】
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EV販売台数で世界断トツの中国では・・・、EV導入が全く進まない日本では・・・と、話は尽きませんが、長くなりますのでまた別機会に。
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イラク  気候変動で水不足が深刻化 国民は困窮し、健康被害も 多くを期待できない新政権

2022-11-10 22:48:03 | 環境
(川底が露呈したチグリス川 【5月9日 髙岡豊氏「急速に死に向かうチグリス川」 YAHOO!ニュース】)

【今後は水と食糧をめぐってあらそうことになる(トルコ・エルドアン大統領)】
昨日、NHKでCOP27関連番組として「水不足」を取り上げていました。

****いま地球で何が起きている⁉ 水を巡る攻防戦****
今月6日から、エジプトで開かれている、気候変動対策を話し合う国連の会議「COP27」 「水の安全保障」を争点のひとつとしています。各国は気候対策・水対策が国の安全保障に関わることに気づき始めたのです。

100を超える国の首脳らが参加する首脳級会合の冒頭で、国連のグテーレス事務総長が、「人類には選択肢がある。協力するか滅びるかだ」と述べて国際社会が一致して気候変動対策に取り組むよう訴えました。

いま地球の気温は産業革命前より1.1℃上昇し、これが1.5℃を超えると、後戻りできない、深刻な影響が広がるとされています。

ことしは、日本でも「記録的な猛暑」となり、また世界各地では熱波や干ばつなど異常気象が相次ぎました。気候変動による危機で何億という人々の、命や暮らしが脅かされています。

今回、世界各地を取材すると、私たちの生活に欠かせない「水」を巡る様々な対立やあつれきが起きていることがわかりました。【11月9日 NHK】
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番組では、農業用の水源をめぐって住民どうしが衝突するイラク、地下水をめぐり住民訴訟が起きているフランスなどが取り上げられていました。(私は時間がなく、前半しか観ていませんが)

“「水」を巡る様々な対立やあつれきが起きていることがわかりました”・・・・今更の話で、以前からずっと指摘されてきた問題です。これまでもしばしばブログで取り上げたように、国際河川のメコン川、インダス川、ナイル川では周辺国が水資源をめぐって厳しく対立しています。

番組の中で、イラクとダム建設による水争奪戦を繰り広げているトルコのエルドアン大統領の「世界はこれまで石油をめぐってあらそってきた。今後は水と食糧をめぐってあらそうことになる」といった趣旨の発言が紹介されていましたが、まさにそういうことです。

【イラクで深刻化する水不足 上流のトルコ・イランとの対立も】
番組でも取り上げていたイラク。チグリス・ユーフラテス川の豊かな水がメソポタミアの文明をはぐくんだ土地です。そのイラクでは今年考古学的な発見がありました。

****気候変動の影響?3,400年前の都市遺跡がチグリス川で見つかる****
6月に入り、ここイラク北部でも本格的な夏の始まりを感じさせます。日中は45℃近くになり、太陽に当たっているとその日差しの強さでグリルされているような気分になります。(中略)
  
イラク北部で3,400年前の遺跡が発掘される
6月初め、イラクを舞台に考古学会で大きな発見が発表されました。
ドイツのフライブルク大学、チュービンゲン大学と地元クルド自治区の考古学者たちが共同で調査をした結果、3,400年前のミタンニ王国のものとみられる遺跡が発見されました。(中略)

しかし今回のこれらの新しい遺跡の発見、気候変動が原因でチグリス川の水量が減少したことが大きな要因として挙げられています。

昨年から何度か記事でも紹介しましたように、昨年イラクではひどい干ばつが起き深刻な水不足が発生しました。
今年の冬、私の暮らす北部地域では例年に比べ多くの降雨がありました。

しかし水をため込む機能を果たす山岳地帯ではまた雨不足が発生。その影響で今年の夏も水不足が起きると予測が為されています。4月から続く砂嵐も水不足が大きな原因と見られています。

新たな遺跡の発見は喜ばしいことですが、それが気候変動とそれに伴う水不足が原因なのですから、皮肉なものです。【6月12日 牧野アンドレ氏 Newsweek】
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冒頭NHK番組では、農業用水をめぐり住民同士が銃撃戦を繰り広げる様子なども紹介されていましたので、残念ながら遺跡の発見を喜ぶような状況ではありません。

国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類しています。イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっています。

****ラクで深刻化する水不足が人々の暮らしと発展を脅かす****
水量が減少した結果、2大河川の水位は過去最低水準にまで低下
近隣諸国がチグリス川とユーフラテス川の水源にダムを建設、問題は悪化している

イラク全土で、何世紀にもわたる苦難、混乱、干ばつの中でも当たり前のように利用され、頼りにされてきた水源が脅威にさらされている。その結果、この国の多くの人々が、生活の糧を得るためにかつてないほどの困難に直面している。

紛争、汚職、失政、地域の政治的対立が重なり、イラクの人々は慢性的な水不足に直面している。これは農業、経済、市民の健康に深刻な影響を及ぼしており、多くのコミュニティの存続が疑問視されているほどである。

かつてチグリス川の水面だけが見えていた場所に、島の陸地が突き出ている光景は、この5年間でバグダッド市民にとって見慣れたものとなった。水量が減少した結果、水位が記録的に低くなった河川に見られる現象である。
その結果、イラクの首都を悠々と流れていた世界有数の水路には、不毛の島々が点在し、古代の大地を支えた緑の激流は影を潜めている。

タクシー運転手のサラム氏は、生まれたときからバグダッドに住んでいる。昔はチグリス川が街を轟々と音を立てて流れるのを見ていたが、年々その流れが弱まり、今では狭い川底が見えるだけだという。
「それでも、イラクの他の地域よりはましだ」と、彼はアラブニュースに語った。「水道料金はまだ比較的手頃だが、水道水は汚染されているので使えない。料理用の飲料水をたくさん買わなければならない」(中略)

チグリス川とユーフラテス川が合流し、伝説のメソポタミア湿地帯に注ぎ込むイラク南部では、水牛が汚染された湖沼の淀みから水を飲み、農民が伝統的なカヌーに乗り、かつては原始の飲料水だった、今では産業汚泥のような水の中を漕ぎ進んでいる。

このかつては強大であった川に流れ込む淡水は、トルコに建設されたダムによって水源地で制限されている。チグリス川とユーフラテス川の、シリアとイラクへの流れの多くが遮断されているのだ。

この2つの川は、イラクの地表水の98%を供給している。その他の水源はイランでせき止められている。そのため、かつては飢饉や病気を食い止めるのに貢献した水量が今では不足し、悲惨な干ばつの年であっても、生活の保証からは遠ざかっている。

2018年、国連は、気候変動に対する脆弱性を持つ国として、イラクを世界第5位に分類した。気候変動の影響は過去15年間を見ると明らかで、降水量が減り、熱波がより長く、より高温になることが頻繁に起こるようになった。

イラク政府の調査によると、現在、国土の約40%が砂漠化しており、多くの土地は塩分濃度が高く、農業に適さないことが明らかになっている。

近年、イラク南部では、かつて湿地帯だった場所は、その30%がかろうじて水に覆われているのみで、地元の人々が見慣れない、乾燥した、ひび割れた土地に変わりつつある。

気候変動の影響は目に見える形で現れている。2020〜2021年の冬は、イラクでは記録的に降水量が少なく、チグリス川で29%、ユーフラテス川で73%の水量が減少したことが明らかになった。過去20年間、降雨はますます散発的になっている。(中略)

2021年末、イラクのマフディ・ラシッド・アル・ハムダニ水資源相は、国境で水の供給を断ち、ディヤラ州に大災害をもたらしたとしてイランを提訴する予定であると発表した。イラク当局によると、同国は合意された割当量の10分の1しか受け取っていないという。一方、トルコから流れてくる水の量は、ここ数年でほぼ3分の2に減少している。

ノルウェー難民評議会(NRC)が昨年発表した報告書、『イラクの干ばつ危機』によると、多くの農民が家畜を生かすために借金を抱えていることがわかっている。また、干ばつの影響を受けた地域の2世帯に1世帯が食料援助を必要としていることも明らかになった。少なくとも700万人のイラク人が、現在進行中の干ばつの影響を受けている。

NRCのイラク支援アドバイザーであるキャロライン・ズーロ氏によると、農家はこれ以上の家畜の損失を防ぐため、干ばつに強い種子と、牛、ヤギ、羊のための追加飼料を緊急に必要としているという。

長期的には、農民のための灌漑(かんがい)インフラの整備や復旧、地方や国レベルでの水資源管理計画の改善が必要だと、ズーロ氏はアラブニュースに語った。

農作物や家畜の損失、食料確保の障壁の増大、所得の減少、干ばつによる脆弱な家族の難民化など、干ばつの影響は各州で大きくなっている。

水不足が子どもたちに及ぼす影響は、たとえ整備された都市部であっても、長い間、警戒すべき要因となってきた。2021年のユニセフの報告書『水資源の枯渇』には、イラクの子どもたちの5人に3人近くが、安全に管理された水を利用できていないと書かれている。多くの家庭が、飲用に適さない水を得るために井戸を掘るしかない状況で、場合によっては洗濯などの用途にさえ安全でないことがある。

多くの調査によると、南部の都市バスラの水質は、イラクで最も悪いもののひとつだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチが2018年に発表した報告書、『涸れゆくバスラ』には、ここ数カ月で少なくとも11万8000人が衛生や水質の問題に関連する症状に苦しみ、入院していると書かれている。当時、バスラ保健局では、水を飲む前に沸騰させるよう促していた。

水不足がイラクの人口動態に与える影響は、何千人もの人々が都市部からより大きな都市の近郊に避難していることからも明らかになっている。大都市は新たに到着した人々のニーズを満たすのに苦労している。(中略)

イラクの中央政府は依然として弱体であるため、交渉の席で強力な隣国にはかなわない。国政選挙から5カ月が経過したが、新大統領と新首相の選出や政府樹立にはまだ至っていない。政治的な行き詰まりが解消されたとしても、弱く、分裂した政府が水の確保という難題に対処するためには、国際的な支援が必要であることに変わりはない。

クルド地域政府の農務省水資源・ダム部門の責任者であるラーマン・カーニ氏は、時代遅れの手法がこの国の水管理システムを阻害していると指摘する。

「また我々は、汚染や古い灌漑方法にも悩まされている」と彼はアラブニュースに語った。「解決策は、国内の水管理を改革し、ダムを建設し、近代的な灌漑技術を使用することである。さらに近隣諸国に強く働きかけ、公平な量の共有水を放出させることだ」

専門家は、イラクの最も弱い立場にある人々を助けるために、将来を見据えて、もっと多くのことをしなければならないと語る。
「干ばつ状態が続き、悪化することが予想される中、農村はさらなる不作のリスクにさらされている。対策を講じなければ、今よりも多くの難民問題を招く恐れがある」とズーロ氏は語った。

しかし、冬から暖かくなるに従い、今年の夏はこれまで以上に、イラクの人々が飢えと渇きに苦しむことになる可能性が非常に高い。【4月13日 ARAB NEWS】
*******************:

井戸を掘って地下水をくみ上げても、乾燥で塩分が濃縮されているため塩水しか出ないという状況。

周辺国トルコ、イランも同様に水不足に苦しんでいるため、自国第一の水確保に走り、隣国との対立が先鋭化します。

また、農地を捨てて都市へ流入する住民が増加することは、社会不安の温床ともなります。

【ウクライナ情勢による燃料と肥料の価格高騰が追い打ち】
今年は水不足に加えてウクライナ情勢の影響で燃料と肥料の価格が高騰し、農業へのダメージを増幅しています。

****イラク:ウクライナでの戦争と水不足で小麦の収穫量は半減****
レバノン、パレスチナ、シリア、ヨルダン、イラクにかけてのマシュリクと呼ばれる地域では、例年11月~5月初頭までが降水期でそれ以後は厳しい暑さに見舞われる。

降水期の終わりと真夏の間の短い期間が、小麦の収穫の時期にあたり、この期間の農村は収穫機器が徹夜で操業する忙しさになる、はずだ。

しかしながら、この地域は昨年に勝るとも劣らない干ばつに見舞われ、降水量と河川の流量は相当に少なかった。シリアの地中海沿岸部は平年並みの降水量を記録した地点もあったが、内陸の農業地帯の降水量は絶望的と言っていいほどの状態だった。

この状況は、トルコやイラクも含むチグリス、ユーフラテス川の流域全般で同様だったようで、今期のイラクの小麦の収穫高は昨期同様の不振となりそうだ。降水量の現象は気候変動とも関連すると考えられており、イラクでは砂嵐の頻発という新たな問題も発生している。

バグダード南方のディーワーニーヤ県では、同県を流れるユーフラテス川の水量が1秒当たり180の平年値に対し、今期は80に過ぎない。このため、イラク政府、そして生産者たちは小麦の作付け面積の削減を余儀なくされた。しかも、降水量の不足により面積当たりの収穫量は例年の半分程度にとどまる見通しである。

この不振に追い打ちをかけたのが、ウクライナでの戦争に伴う燃料と肥料の価格高騰である。エンジンオイル類や種苗も値上がりしており、これらは生産者にとって更なる重荷となる。肥料についても、価格高騰のため国が生産者に供給する量が過去数年に比べて8分の1にまで減少する見通しだそうだ。

元々、チグリス、ユーフラテス川の流域で天水に頼る農業は不確実性が非常に高い営みではある。そこに、燃料や肥料が世界的な広範囲で取引されるようになったことにより、この不確実性に影響を与える要素はイラク政府や地元の生産者の努力ではどうにもならない範囲にまで拡大している。

今期のイラクの小麦の収穫量の見通しは250万~300万トン程度であるが、これは昨期と同程度の水準であり、イラク国内で必要とする量には及ばない。

別稿で指摘した通り、この地域での農業の不振は離農→都市への人口移動→都市近郊の生活環境悪化→社会不安という負の連鎖へとつながりやすいものである。

中東では、経験的に10年に1度ほどの頻度で世界を揺るがす大事件(大抵は紛争や政治危機)が発生するのだが、折悪しく現在は前回の大災難である「アラブの春」とその後の混乱から10年ほど経過している。

世界の耳目と様々な資源がウクライナでの戦争に集中する中、中東諸国はそのあおりを受けて人民の生活水準が低下することがほぼ確実である。そのため、「10年に1度」という経験則がとても嫌な予感として感じられてならない。【5月9日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】
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【混迷するイラク政治 選挙から1年でようやく新政権は樹立されたものの・・・】
こうした深刻な状況を抱えながらもイラク政治は選挙後も政権が樹立できない混迷が続いていましたが、10月末になってようやく新政権樹立に漕ぎつけました。

****イラクでスダニ新政権発足 選挙後1年、混乱収束課題****
イラク国会は27日、新首相候補に指名されていたスダニ元人権相の内閣を信任し、スダニ氏を首相とする新政権が発足した。国営通信などが伝えた。

昨年10月の国会総選挙から1年以上続いた政治の混乱収束が課題となる。

国会はフセイン副首相兼外相ら主要閣僚を含む全閣僚リストを認めた。環境相など2ポストは空席のまま承認した。
ロイター通信によると、スダニ氏は3カ月以内の選挙法改正と、1年以内の総選挙実施を約束した。

スダニ氏はイスラム教シーア派で、親イラン政治勢力に属している。

昨年10月の総選挙ではシーア派有力指導者サドル師派が第1党になったが、親イラン政党でつくる会派「調整枠組み」と対立した。政権樹立に失敗し、サドル師派の全議員が辞職。サドル師は8月末に引退を表明した。【10月28日 産経】
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イラクは多民族、多宗教の国家で、大統領はクルド人、首相はイスラム教シーア派、国会議長はスンニ派から選ばれる慣例になっていますが、実権は首相が握っています。

サドル師派と連携していた政党が、親イラン派主導の連立に加わることを決断したことでの政権樹立です。

“イラクでは、イランやトルコがそれぞれ自国の反体制派の掃討を理由に、隣接するイラク北部に越境攻撃を継続。過激派組織「イスラム国」(IS)の残党によるテロや攻撃もなくなっていない。行政の腐敗や、経済不振による失業増、電力不足などに国民の不満が高まっている。政権から除外されたサドル派の動向も含め、新政権は早急な対応を迫られる。”【日系メディア】と課題が山積しており、有効な水不足対策を実行できる余裕はなさそうです。

イラク政治混迷の根底には、政治的権限を“利権”として奪い合う政治風土があります。
“新政権の各政党は、「国の資源と能力を自分たちの間で山分けできる戦利品と見なしている」という”10月29日 ARAB NEWS「イラク新政府は危機を解消できそうもない」】

更に宗派・民族の対立、イランとの距離をめぐる争いが混乱を助長しています。

****イラク新政府は危機を解消できそうもない****
(中略)前出のヒゲル氏は、スダニ氏が「外交政策に力を入れるよりも、失業や水、電気の不足といった国内の問題を優先させるだろう」とみている。

また、イラクが外国からの投資を切実に必要としていることから、スダニ氏は、頑強な親イランの支持基盤にもかかわらず、「欧米とイランの間のバランスを取ろうとするだろう」と分析した。

しかし、シャマリ氏は、最近もトルコとイラン両方の攻撃目標になるなど、地域紛争の矢面に立たされることが多いこの国では、”バランス”は十分には取れないかもしれない、と指摘した。(後略)【10月29日 ARAB NEWS】
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イラク政治の混迷は続きそうです。その不十分な統治は人々の不満を蓄積させていきます。やがて何かのきっかけでその不満が・・・。
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温暖化  COP27では気候変動による損失と損害に関する支援が議論 責任を回避したい先進国

2022-11-09 23:06:52 | 環境
(洪水により浸水したエリアを避難する人々=8月27日、パキスタン・ペシャワール【8月29日 CNN】
国土の3分の1が水没し、死者は1400人超。10月初旬時点の情報ではまだ水が退く気配がない地域も。
更に、マラリアなどの感染症が拡大しているようです。)

【「時間がなくなりつつある」】
温暖化の阻止にむけ様々な議論がなされ、対策もとられてはいますが、未だその流れを止めるには至っていません。

****「時間尽きてきた」と国連警告、温室効果ガス濃度が記録的ペース****
国連の世界気象機関(WMO)は26日に発表した年次報告で、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素)濃度の上昇ペースが昨年は全て過去10年の平均を上回り、記録的な伸びとなったと明らかにした。気温上昇抑制に向けた変革の時間がなくなりつつあると警告した。

11月6─18日に国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開かれるのを前に、同年次報告を含めて複数のリポートが公表される。

二酸化炭素の濃度は2.5ppm上昇の415.7ppm。今よりはるかに温暖だった少なくとも300万年前以来の水準となった。メタンの濃度は、1983年の統計開始以来最も速いペースで上昇した。

WMOのターラス事務局長は、「われわれが誤った方向に進んでいることを示している」と指摘。「必要な変革は経済的にも技術的にも実現可能であり、時間がなくなりつつある」と述べ、エネルギー、産業、輸送システムの変革を訴えた。【10月27日 ロイター】
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現在の目標設定では不十分であることも報告されています。

****今世紀末に2.8度上昇も 温暖化巡り国連報告書*****
各国が地球温暖化対策を現状から強化しなければ、今世紀末までの気温上昇が2.8度に至り、国際枠組み「パリ協定」の目標を上回るとの報告書を国連環境計画(UNEP)が27日、発表した。

また国連気候変動枠組み条約事務局は、各国が確約した2030年までの温室効果ガス削減目標を達成しても2.5度上昇するとの予測をまとめた。

UNEPのアンダーセン事務局長は「根本的な変革をしなければ、気候災害の加速を止められない」とコメントした。11月6日から条約の第27回締約国会議(COP27)が予定され、先進国などに対策強化の圧力が高まるとみられる。【10月27日 時事】
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温暖化に伴う異常気象増加・気候変動による被害が世界各地で拡大しています。

****猛暑や熱波の死者、7割増 約20年間で、気候変動****
猛暑や熱波など極端な高温による死者が約20年間で7割増えたり食料不足が深刻になったりして、気候変動が人の健康に重大な被害を及ぼしているとの分析を、世界保健機関(WHO)などの国際研究チームが25日付英医学誌ランセットに発表した。(中略)

チームは猛暑などが引き起こす健康被害を分析。2021年までの5年間の熱関連死は、04年までの5年間と比べ68%増加したことが分かった。【10月26日 共同】
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【ウクライナ情勢の影響で後退する「脱炭素」】
一方で、ウクライナ情勢によるエネルギー供給の混乱は、温暖化防止の取り組みを遅らせることにもなっています。

****エジプトCOP27開幕 ロシアによるウクライナ侵攻で石炭回帰の動き 脱炭素に試練****
地球温暖化をめぐって、気候変動対策を協議する国連の国際会議=COP27がまもなくエジプトで始まります。
エジプトのシャルム・エル・シェイクでまもなく開幕するCOP27には、190を超える国と地域が参加します。

去年行われたCOP26では、「世界の平均気温の上昇を1.5度に抑える」ことをより重視することで合意。

今年、パキスタンの大洪水やヨーロッパの記録的な熱波など気候変動が原因と指摘される異常気象による被害が深刻化する中、今回のCOP27では議論や交渉の先にある、計画を実践する動きに繋げられるかが期待されています。

ただ、ロシアによるウクライナ侵攻で世界的にエネルギー価格が高騰し、石炭の利用を拡大させる動きも出てきていて、各国のリーダーが「脱炭素」に向けた対策強化で団結できるかが焦点となります。【11月6日 TBS NEWS DIG】
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“世界的なエネルギー危機に対応するため、各国が化石燃料への補助金を積み増している。経済協力開発機構(OECD)と国際エネルギー機関(IEA)の集計では、2021年に前年からほぼ倍増した。ガソリンやガス代への補助などもあり、ロシアによるウクライナ侵攻で今年もさらに勢いを増す。6日、エジプトで始まる国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)を前に、脱炭素と逆行する動きが出ている。”【11月5日 日系メディア】

【COP27で議論される気候変動による損失と損害に関する支援 途上国と先進国の対立が鮮明に】
こうした状況のなかで6日に始まった気候変動対策を協議する国連の国際会議=COP27ですが、気候変動による損失と損害に関する支援が議論となっており、いつものように途上国と先進国の間で対立が鮮明になっています。

****COP27 先進国と途上国、対決姿勢鮮明****
エジプト東部シャルムエルシェイクで始まった国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で7日、温暖化対策の現状を協議する首脳級会合が行われた。

途上国は、先進国が温室効果ガスを大量に排出して開発を進めたことが地球温暖化を招いたとの認識で結束している。COP27では6日の開幕から両者の対立構図が鮮明になっている。

首脳級会合の冒頭、国連のグテレス事務総長は「地球は引き返せない気候変動の転換点に近づいている」と危機感を示し、協議の成果に期待を寄せた。(中略)

COP27はアフリカでの開催とあって途上国が存在感を強めている。議長を務めるエジプトのシュクリ外相は6日の開幕式での演説で「気候変動の犠牲者」への連帯を示すと強調。損失と被害に関する支援が正式議題に決まった。

セネガル環境省のサール気候変動局長は同日、「気候変動は取り返しがつかない損失と被害の原因であり、多大な犠牲を強いられている」と、補償の仕組みを早期に確立するよう求める文書を発表した。同氏はCOPで「後発開発途上国グループ」(約50カ国)を率いる。

日米豪など先進国のグループは、補償の問題に踏み込むのを慎重に控えているもようだ。損失と被害について、先進国側はこれまで公式の議論を避けており、昨年のCOP26でも補償を担う新たな支援機構の設置を拒んだ。温暖化の責任追及や支出増大につながりかねないとの懸念がある。

開幕式では、ウクライナの代表が「環境への打撃や核施設への攻撃」にさらされているとして、侵略を続けるロシアを非難した。「この戦争は持続的発展を目指す権利を侵害している」などと訴えた。【11月7日 産経】
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****「時間的余裕はない」「大胆な行動を」 先進国への批判相次ぐ COP27首脳級会合****
エジプト東部シャルムエルシェイクで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で、7日に2日間の日程で始まった首脳級会合では、途上国が次々に地球温暖化による被害を訴え、先進国の協力は不十分だとして不満の声をあげた。会議は序盤から双方が対立する構図となり、残る約10日の会期で溝が埋まるかは不透明だ。

アフリカ東部諸国では過去40年で最悪ともいわれる旱魃(かんばつ)の被害が広がっている。その一つであるケニアのルト大統領は「温暖化は国民の人生と健康、未来に直接影響を及ぼしている」とし、「これ以上無駄に時間を使う余裕はない」と訴えた。

アフリカの温室効果ガス排出量は世界全体の4%未満に過ぎないのに、温暖化との関連が指摘される自然災害の被害が相次ぐ。原因は排出を制限せず開発を行って温暖化をもたらした先進国にあるとして、「損失と被害」に対する補償制度を迅速に作るべきだというのがアフリカの主張だ。

温暖化による海面上昇が懸念される島嶼(とうしょ)国も例外ではない。キリバスのマーマウ大統領は「科学(による実証)にもかかわらず大胆な行動が阻まれ、結果として温暖化の被害が起きている」と述べ、先進国の消極的な姿勢を批判した。

一方、7日に登壇したスナク英首相は、自国の厳しい経済情勢の中でも気候変動に関連して110億ポンド(約1兆9千億円)以上を拠出するとし、途上国支援の強化を打ち出した。マクロン仏大統領もアフリカなどへの支援を増やし、気候変動問題で「正義」を実現すると強調した。

しかし、途上国はこうした発言を額面通りには受け取っていない。2009年のCOP15で先進国は、途上国に年間1千億ドル(約15兆円)の資金援助を約束したが、これまでに達成された年はなく、不信感が強まっている。

日本政府関係者は7日、「議長国エジプトは今回の会議を『行動のCOP』と位置付けている。(先進国が)きちんと対応することが重要だ」と述べた。ただ、先進国は支出が膨らむ補償制度の議論を先送りしてきた経緯があり、交渉の行方は見通せない。(後略)【11月8日 産経】
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損失と損害」の具体例としてすぐに思い浮かぶのは、上記にもあるアフリカの干ばつ、海面上昇による島しょ国の水没の危機、そして最近の事例では国土の3分の1が水没したとされるパキスタンの水害です。

COP27の首脳級会合で、パキスタンのシャリフ首相は「(洪水による)被害の予想額は5兆8000億円にものぼる。私たち自身による温室効果ガスの排出量は極めて少ないにも関わらずだ」と、先進国による経済支援の必要性を訴えました。パキスタンの温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の1%にも満たないとされています。

今回のCOPでは、温暖化によって起こる「損害と損失」の救済のための先進国による資金援助をめぐる協議が、初めて正式な議題として決まっています。

【人為的な原因による気候変動が災害を引き起こしたと証明するイベント・アトリビューション研究】
素人的には「話はわかるけど、その損失と損害が気候変動によるものだと定量的に特定できるのだろうか?」という疑問があります。 しかし、最近の研究では、ある程度そのあたりがわかるようになってきたとも指摘されています。

****増える気候災害、その莫大な損失をだれが補償すべきなのか?****
2022年3月から5月にかけて、パキスタンを記録的な猛暑が襲った。さらにそのわずか数週間後には、数カ月におよぶ豪雨が続き、「国土の3分の1が水没」とされる事態に見舞われた。この洪水による経済損失は、パキスタンの年間GDPの10%を超える約400億ドル(約5.8兆円)にも上る。

しかし、これは「自然」災害ではない。気候変動と異常気象の関係を分析する国際的なグループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」は2022年5月と9月に、パキスタンの水害を引き起こした原因について分析結果を発表した。それによると、人為的な気候変動によって雨は最大75%激しさを増し、熱波の発生率は30倍に増えたという。

パキスタンの環境大臣であるM・タリク・イルファン氏は、ナショナル ジオグラフィックへのインタビューで、長年の不満を吐露した。「我が国の温室効果ガス排出量は世界全体の排出量の1%にも満たないというのに、異常気象のために甚大な被害を被っています」

気候変動を引き起こした責任が最も小さい者たちが最も重い負担を強いられているこのような状況は、気候不正義であると、当事者たちは主張する。そして、その不満は頂点に達しようとしている。

パキスタンほか開発途上国のグループは、現在エジプトで開催されている第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で、気候変動の原因を最も多く作り出した先進国から資金を集め、最も責任の小さい途上国の「損失と損害」を補償する基金を設立するよう求めている。米国は一国だけで、過去の温室効果ガス排出量の20%以上を排出している。

こうした途上国の主張の根拠となっているのが、「イベント・アトリビューション研究」と呼ばれる新しいタイプの分析手法だ。これは、気候変動がどのように熱波や豪雨といった異常気象にかかわっているかを、主にコンピューターモデルを使って特定しようとするもの。

バングラデシュの気候変動開発国際センター長を務めるサリーメル・ハク氏は、こうした異常気象が人間と生態系に甚大な被害を与えていると指摘する。 「私たちの適応能力を超えた影響が出始めています。世界は、損失と損害の時代に入ろうとしているのです」
 
年ほど前から、スコットランド、デンマーク、そしてベルギーの一つの州は、気候正義の名目で数百万ドルの資金の拠出を始めた。また、これまで何年もあいまいな態度を取ってきた米国などほかの先進国も、少しずつ損失と損害について話し合いを始めている。米国務省は、「建設的に取り組む」姿勢を示している。

しかし、今年のCOP27で気候正義に関するより明確な議論がされなければ、「この会議は開始した時点で失敗だったとみなします」と、ハク氏は言う。

先送りにされてきた気候正義
1990年代初頭、気候変動会議が開催され始めたばかりの頃、バヌアツやバルバドスなど海抜の低い島国が結束して、海面上昇によって国が消滅する危機について訴えた。これらの国をすべて合わせても、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出量は全体の1%に満たない。

この不均衡を是正するために提案されたのが、気候変動への責任の割合に応じて先進国が資金を拠出する国際的な保険基金だ。過去の排出量が多ければ多いほど補償金を支払う仕組みになる。

ところが、富裕国は軒並みこの提案を拒否した。排出量の削減方法や、気候変動に適応するための資金については話し合うが、過去の行いに関する経済的責任を認めたり、それを被災国への補償に結び付けることには後ろ向きだった。

しかし、島国諸国はあきらめなかった。ほかにも海面上昇や異常気象の脅威に直面する国々の協力を集めながら、時間をかけて提案を推し進めてきた。そして20年以上が経過した2013年、ポーランドで開催されたCOP19でようやく、気候変動によって生じる適応可能な範囲を超えた経済的および社会的損失が、「損失と損害」と定義された。

さらに、数年間におよぶ激しい交渉の末、2015年の画期的なパリ協定に「損失と損害」に関する段落が正式に盛り込まれた。ただこのときは、このテーマを議論するという約束がされただけだった。

2021年にスコットランドで開催されたCOP26でも、損失と損害のための基金を設立するよう要請がなされたが、やはり協議を重ねるとの約束だけで終わった。

イベント・アトリビューション研究
2003年、英国で2000人以上が死亡する熱波が発生した。英国の研究者たちは、人為的な原因による気候変動がこの災害を引き起こしたと証明することは可能か、そしてもしそれが証明されれば、被害を被った人々は排出者を訴えることはできるだろうかという疑問を投げかけた。

綿密な分析の結果、少なくとも最初の疑問に対する答えはイエスであることが明らかになった。つまり、ある一つの気象現象(熱波)が人間活動に起因するものであることが初めて示されたのだ。

気候変動が異常気象に影響を与えていそうだということは従来から言われていたが、特定の気象現象が気候変動の影響をどれほど受けたかをはっきり示すのは難しかった。

しかし、2003年の英国での研究以来、科学は格段に進歩した。気候モデルは強化され、世界の気候パターンと地域的な気象現象を関連付けることができるようになった。

イベント・アトリビューション研究は、簡単に言えば、豪雨にしろ、熱波にしろ、ある一つの気象現象が起こる可能性またはそれが激しくなる可能性を、気候変動のない仮想上の世界と現実の世界で比較する。

この2つの世界の違いが、気候変動に「起因(アトリビューション)」する影響ということになる。高度に洗練されたこのようなモデル化手法は、海面上昇や暑さによる農業の損失など、ゆっくりと起こる現象の影響も分析することが可能だ。

英オックスフォード大学の気候・法律専門家であるルパート・スチュアート・スミス氏は、気候変動がどれほど影響を及ぼしているかが非常に明確になったと評価する。例えば、2021年に米国西海岸を襲った熱波で記録された最高気温は、気候変動がない世界と比較しておよそ2℃高かったことや、ハリケーンハービーがテキサス州ヒューストンにもたらした雨量が15%高かったことなどが示された。

とはいえ、イベント・アトリビューション研究にも限界はある。というのも、この手法には地域的気候や天候の優れたモデルが必要であり、そのためには毎日の気象観測などのしっかりとした過去のデータがなければならない。しかし、ほとんどの科学的専門知識は北半球の先進国に集中しているため、信頼できる気象記録がない場所でこれを用いるのは困難であると、WWAプログラムの気候科学者で今年のパキスタンの分析に関わったマリアム・ザカリア氏は言う。

分析結果から責任を追及できるか
イベント・アトリビューション研究が飛躍的進化を見せている一方で、これをどのように活用するかについては激しい議論が続いている。
 
例えば、議論を最も単純にすると、パキスタンの雨量が通常より75%多かったことが示された場合、まず通常を上回った損害額を計算して、先進国など責任を負う国が分担して補償しなければならない。

米国は、1850年代の産業革命以降、温室効果ガスの約25%を排出しているので、支払いの25%を負担する。米国の石油会社であるシェブロンとエクソンは、それぞれ排出量の3%以上に責任を負う。

しかし実際には、負担をどのように振り分けるかは複雑極まる問題だ。排出国や排出企業の多くは、気候変動を助長させた責任とそれを修復する責任は必ずしも同等ではないと主張する。

また、自分たちの排出した温室効果ガスがある一つの気象現象やそのほかの結果を直接招いたことを示すのは不可能であるとも指摘する。(中略)

ところが、2022年7月12日付けで学術誌「Climatic Change」に発表された論文で、米ダートマス大学の研究チームは、どんな国の過去の排出でも、別の場所で起こった経済損失と関連付けることは可能であると示した。

それによると、1990年以降、米国が排出した温室効果ガスは世界に1兆8000億ドル(約260兆円)の損害をもたらしたという。しかも、この数字でさえ過小評価されている可能性がある。

論文の筆頭著者を務めたダートマス大学の気候研究者クリストファー・カラハン氏は、「もはや排出者は、『明白な証拠がない』と言い逃れすることはできません。国や企業の個別の責任を、量的に示すことが可能になったのです」と話す。

バハマ大学の気候政策専門家アデル・トーマス氏も言う。「もう何十年も前から科学は存在しています。そして今、これが人間活動によるものであることを示すこれまでで最も有力な証拠があります。その主たる犯人が誰かは明白です」。あとは、倫理的、社会的、政治的議論だけだ。

「今問われていることは、私たちがこれにどう対処すべきかです」【11月9日 ナショナル ジオグラフィック日本版】
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