孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  停戦交渉か戦闘継続か 形だけの総選挙強行か“全ての利害関係者の参加”か

2024-12-22 23:11:21 | ミャンマー

(煙が上がるミャンマー西部ラカイン州の国軍の西部軍管区司令部とみられる建物【12月21日 日テレNEWS】)

【中国 少数民族武装勢力に国軍との停戦を求める】
ミャンマー情勢については、かねてより国軍・少数民族武装勢力双方とつながりのある中国が、少数民族武装勢力に対し国軍との和平交渉に入るように介入を本格化し、少数民族武装勢力側からもこれに応じる旨の表明がなされている・・・という報道を、12月5日ブログ“中国  ミャンマーの少数民族側に国軍と停戦するように圧力 軍事政権支持を明確化”で取り上げました。

****中国がミャンマー情勢に本格介入か 少数民族“軍との和平交渉”に協力表明相次ぐ****
2021年のクーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、軍事政権の打倒を掲げ戦っていた少数民族武装勢力の一部が軍との和平交渉に応じる態度を相次いで表明しました。

ミャンマー北東部シャン州では去年10月以降、3つの少数民族武装勢力が共闘作戦を展開し、ミャンマー軍の拠点を次々と占拠するなど、攻勢を強めていました。

こうしたなか、共闘作戦に加わっていた武装勢力のMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍は3日、「ただちに戦闘を停止し、中国による和平の仲介に積極的に協力する」との声明を出しました。

先月、MNDAAの指導者が中国で拘束されたと、一部の独立系メディアなどで報道され、中国が停戦を迫っているとの観測が広がっていました。

また、MNDAAと共闘していたTNLA=タアン民族解放軍も先月25日、中国の仲介によるミャンマー軍との和平交渉に参加する意向を表明しています。

中国政府は投資や貿易といった利害関係を背景に、ミャンマー軍トップを中国に招待するなど、軍政支援を鮮明に打ち出していて、敵対勢力への圧力を本格化させているとみられます。

イギリスBBCなどによりますと、中国当局とミャンマー軍は、「共同警備会社」を設立する計画があるということで、中国から部隊が派遣されるような事態になれば、情勢のさらなる混乱が予想されます。【12月4日 TBS NEWS DIG】
************************

この動きが本格化すれば、これまでの少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍との内戦状況が一変することにもなります。

ただ、少数民族武装勢力とは言っても、中国との関係に濃淡はあるでしょう。
上記記事で声明が紹介されているMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍はコーカン族で、コーカン族は中国から移住した漢族とされていますから、中国との関係は極めて密接です。

そのMNDAAの声明内容及び「指導者が中国で拘束された」云々については、以下のようにも。

*********************
9月4日、MNDAAは(1)MNDAAは独立国家を追求するのではなく、自治区を維持する意向である(2)MNDAAはNUG(民主派武装組織)とのいかなる連携も否定し、マンダレー、タウンジーへの攻撃を行わない(3)中国政府の和平イニシアティブに従い、政治的手段で問題を解決するという内容の声明を発表した。件の声明は即日削除されたが、その後、19日に再発表した[。

11月中旬、10月末に雲南省昆明を訪れたMNDAAのリーダー・彭徳仁が中国当局に身柄を拘束され、ラーショーからの撤退を迫られていると報道される。

中国当局は病気治療のための滞在だとこの報道を否定。その後、MNDAAは停戦合意に向けた国軍との交渉に応じるとの声明を発表した。【ウィキペディア】
*********************

よくわかりませんが、背後に中国の強い力を感じます。

【ラカイン州ではアラカン軍が戦闘継続 国軍の管区司令部を制圧】
一方、MNDAA、タアン民族解放軍(TNLA)とともに2023年10月下旬にシャン州内で国軍に対し一斉蜂起したアラカン軍(AA)は国軍との戦闘を継続しており、国軍の西部軍管区司令部を完全に制圧したことが報じられています。

ミャンマー国内に14ある軍の管区司令部が制圧されるのは、今年8月の北東軍管区司令部に続いて2か所目です。

そもそもアラカン軍(AA)は西部のラカイン州を本拠地とするラカイン族の勢力で、中国・雲南省と接するシャン州とは全く反対側に位置しています。どういう経緯でそのアラカン軍がMNDAA、TNLAともにシャン州で蜂起したのかは知りません。

いずれにしても、アラカン軍(AA)は本拠地ラカイン州で国軍との戦闘を続けており、ラカイン州に居住するロヒンギャがAAと国軍の間で再び困難な状況に追い込まれているという話は、これまでも取り上げてきました。

(多数派ビルマ族から差別されるラカイン族、そのラカイン族に差別されるイスラム教徒ロヒンギャという差別の重層構造があり、これを利用する国軍がロヒンギャを徴用してAAとの戦闘の「盾」に使っているとも)

****ミャンマー西部の少数民族武装勢力「軍の司令部を占拠」 軍司令部の陥落は国内2か所目****
2021年の軍事クーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、西部ラカイン州の少数民族武装勢力は20日、ミャンマー軍の司令部を占拠したと宣言しました。

ミャンマー西部ラカイン州に拠点を置く少数民族武装勢力の「アラカン軍」は20日、国の実権を握っているミャンマー軍のラカイン州にある西部の管区司令部を占拠したとの声明を出しました。

「軍の司令官らを拘束した」と主張していて、多数の軍の兵士らが投降する映像などを公開しています。

国内に14か所にあるミャンマー軍の管区司令部が抵抗勢力側に制圧されるのは、今年8月に陥落した北東部シャン州の司令部に続き2か所目です。

ただ、北東部では中国政府がミャンマー軍の後ろ盾として和平協議の仲介に動いていて、少数民族側に圧力をかけるなど介入を強めています。【12月22日 TBS NEWS DIG】
**********************

中国の介入に協力するとするMNDAA、タアン民族解放軍(TNLA)、国軍の司令部を陥落させたアラカン軍、異なる流れが同時進行しているように見えます。今後、どういう流れに向かうのか・・・よくわかりません。

【軍事政権 来年総選挙に向けて準備 関係国に状況説明】
一方、軍事政権は来年に総選挙実施を目指しています。スー・チー氏らを拘束したまま、民主派を排除した形だけの選挙で政権の正統化を目論んでいると思われますが、内戦の状況下での実施を疑問視する向きも。

中国・ロシアはこの総選挙を支持しています。
19日にはタイ・バンコクで軍事政権と周辺5カ国の外相級会合が開催され、軍事政権は総選挙実施に向けた準備状況などを説明したようです。

****ミャンマー軍政に対話促す=周辺5カ国と初会合****
クーデター後の内戦が続くミャンマー情勢を巡り、同国の軍事政権と周辺5カ国の外相級会合が19日、タイの首都バンコクで初めて開催された。周辺国からは抵抗勢力との対話を促す発言があり、軍政側は「政治的な対話の扉は開かれている」と応じた。

ミャンマーからはタンスエ副首相兼外相が出席した。中国は外務省の孫衛東次官を派遣し、タイ、ラオス、インド、バングラデシュの外相や高官も参加した。【12月19日 時事】
******************

****来年ミャンマーで実施予定の総選挙 タン・スエ氏、各国からの選挙監視団を受け入れる考え表明****
ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏は19日、中国やタイなど周辺国との会合で、来年ミャンマーで実施する予定の総選挙に各国からの選挙監視団を受け入れる考えを表明しました。(中略)

会議には、ミャンマー軍が外相に任命したタン・スエ氏や、タイ、中国、ラオスなど周辺5か国から外相や高官が出席し、国境警備や違法薬物対策などを協議しました。

タイ外務省によりますと、ミャンマーのタン・スエ氏は会議の中で、来年実施するとしている総選挙に向けた国勢調査や政党登録の状況など、準備の進ちょくについて説明したということです。

また、タン・スエ氏は総選挙の際、近隣諸国から選挙監視団を招待する意向も示したということです。

バンコクでは20日、ミャンマー情勢を話し合うASEAN=東南アジア諸国連合による外相会議も予定されています。【12月19日 日テレNEWS】
**********************

【ASEAN “全ての利害関係者の参加”を求める】
20日のASEAN外相会議では、ASEANは全ての利害関係者の参加を望んでいることを軍政側に伝えたとのことです。

****ASEAN、ミャンマー選挙に全関係者の参加望む=タイ外相****
タイのマーリット外相は20日、ミャンマー軍事政権が来年計画している選挙について、東南アジア諸国連合(ASEAN)が全ての利害関係者の参加を望んでいることを軍政側に伝えたと明らかにした。

ASEAN関連会合後のインタビューで、「選挙が行われる場合、ASEANは全関係者が参加する包括的なプロセスを望む」と述べた。

タイは今週、 ミャンマー情勢に関する2つの地域会議を主催した。19日の会合でミャンマー外相は、軍政による政治ロードマップの概要と選挙実施に向けた進捗状況について説明した。

マーリット氏によると、関係各国はミャンマー外相に対し、解決策を見出す上で同国を支持するが、選挙は国内のさまざまな利害関係者を包含するものでなければならないと強調した。同氏はまた、ミャンマーに対して助言はするが干渉はしないと述べた。

中国外務省が20日明らかにしたところによると、孫衛東外務次官は19日にバンコクで行われた会議で、ミャンマーの和平・和解プロセスの前進に向けて、全ての関係者が支援すべきだと呼びかけた。また、ミャンマーの全当事者が対話と協議を通じて相違を解決すべきだと訴えた。【12月20日 ロイター】
****************

ASEANの言う“全ての利害関係者の参加”・・・・軍政側に配慮して名指しはされていませんが、スー・チー氏らの国民民主連盟(NLD)を含むものと思われます。(中国の言う“ミャンマーの全当事者”にNLDも含まれるのかどうかは定かではありませんが)

*****************
2023年1月に国軍が政党の登録に関する新たな法律を施行し、同年3月28日を再登録の申請期限としていたが、これに反発したNLDは政党登録の手続きを拒否する方針を決定したほか、国軍主導の総選挙に参加しない意向を示したため、期限日の3月28日に連邦選挙管理委員会はNLDを含む反軍政の姿勢を取る40政党の解散(政党としての資格喪失)を発表したが、NLDは3月29日に発表した声明で、「国軍に正統性がないことは明らかだ。ミャンマー国民がいる限り党は存在する」として、政党としての資格を喪失した後も活動を継続する姿勢を示した。【ウィキペディア】
*****************

ただ、軍事政権にとってスー・チー氏は犯罪者であり、NLDを選挙に参加させたら間違いなくNLDが圧勝します。そういうことを軍事政権が了承するとは思えません。

来年実施なら、残された時間はあまりありません。
形だけの選挙を限られた地域で行い、中国・ロシアがその結果を了承する・・・という形になるのか、時期を延期して軍事政権からの政権移譲も視野に入れて、より中身のある総選挙を実施するのか・・・

軍事政権外相のタンスエ氏は「解決のための扉は開かれている」と発言したそうですが、扉を開ける覚悟を決めるのは軍事政権の側でしょう。

内戦の戦局も絡んできますが、中国の介入による和平交渉の流れと、戦闘継続の流れが同時並行している状況で、どちらに流れが傾くのか・・・そこらも影響してきます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国  ミャンマーの少数民族側に国軍と停戦するように圧力 軍事政権支持を明確化

2024-12-05 23:41:03 | ミャンマー

(ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官(左)と握手する中国の李強首相=6日、雲南省昆明(ミャンマー国軍提供)【11月12日 時事】)

【中国 少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強める】
少数民族武装勢力及び民主派武装勢力と国軍との内戦が続くミャンマー。

そのミャンマーにあって中国は以前からの少数民族武装勢力とのつながりがある一方で、軍事政権とも一帯一路事業などでつながりがあるということで、中国の対応が注目されていました。

少数民族武装勢力の攻勢が強まり、国軍側が劣勢においやられているのは、昨年10月のシャン州における3つの武装勢力の共同蜂起が契機となっています。

この蜂起が実現した背景には、中国国境に近い地域で活動する詐欺グループの取締りに本腰を入れない軍事政権に業を煮やした中国が、取締りに応じることを約束する少数民族側の蜂起を黙認した・・・ということがあり、現在の状況に中国は深く関与しています。

その後は事態の安定化を求める以外、あまり目立った動きをみせていなかった中国ですが、ここにきて少数民族武装勢力に国軍との和平交渉に入るように、介入を強めているようです。

****中国がミャンマー情勢に本格介入か 少数民族“軍との和平交渉”に協力表明相次ぐ****
2021年のクーデター以降、内戦状態が続くミャンマーで、軍事政権の打倒を掲げ戦っていた少数民族武装勢力の一部が軍との和平交渉に応じる態度を相次いで表明しました。

ミャンマー北東部シャン州では去年10月以降、3つの少数民族武装勢力が共闘作戦を展開し、ミャンマー軍の拠点を次々と占拠するなど、攻勢を強めていました。

こうしたなか、共闘作戦に加わっていた武装勢力のMNDAA=ミャンマー民族民主同盟軍は3日、「ただちに戦闘を停止し、中国による和平の仲介に積極的に協力する」との声明を出しました。

先月、MNDAAの指導者が中国で拘束されたと、一部の独立系メディアなどで報道され、中国が停戦を迫っているとの観測が広がっていました。

また、MNDAAと共闘していたTNLA=タアン民族解放軍も先月25日、中国の仲介によるミャンマー軍との和平交渉に参加する意向を表明しています。

中国政府は投資や貿易といった利害関係を背景に、ミャンマー軍トップを中国に招待するなど、軍政支援を鮮明に打ち出していて、敵対勢力への圧力を本格化させているとみられます。

イギリスBBCなどによりますと、中国当局とミャンマー軍は、「共同警備会社」を設立する計画があるということで、中国から部隊が派遣されるような事態になれば、情勢のさらなる混乱が予想されます。【12月4日 TBS NEWS DIG】
************************

「共同警備会社」・・・・なんでしょうか。中国軍と国軍が共同でミャンマー国内の治安安定のための活動をするということでしょうか。

いずれにせよ、中国は軍事政権の支持する形で、少数民族側に停戦に応じるように強い圧力をかけているようです。
“地元メディアは11月、中国当局が雲南省を訪れていたMNDAAのリーダーを拘束し、戦闘をやめるよう圧力をかけているなどと伝えていました。”【12月4日 日テレNEWS】

軍政寄りの姿勢を強める中国に対しては、民主派勢力や市民から批判の声も上がっています。【同上】

上記の動きは11月中旬に旅行作家の下川裕治氏がすでに報じていました。

若い頃下川氏の旅行記は大好きでしたが、ジャーナリストの同氏の活動についてはよく知らず、下川氏の下記記事について、「本当だろうか? どうして他のメディアをそれを報じないのだろうか?」という思いから、当該記事をブログで取り上げるのをためらっていましたが、ほぼ同氏が報告したとおりのようです。

逆に言えば、なぜメディアは今までこの内容を報じてこなかったのか、なぜ急に報じることになったのか・・・やや不審に思うところも。

話の前段として、11月に行われたミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官の初の訪中があります。

****中国首相、ミャンマーとの関係強化を表明 軍政トップと会談****
中国の李強首相は6日、雲南省昆明でミャンマー軍事政権の最高指導者ミンアウンフライン総司令官と会談し、ミャンマーにおける政治的な和解と政権移行に向けた取り組みへの支援を表明した。国営の新華社が報じた。

ミャンマー軍事政権は、少数民族との内戦状態などで統治が揺らぐほか、国際社会は軍政を承認していない。李氏は周辺国を含めた多国間協議でもミャンマーとの連帯と協力を強化するとした上で、「中国・ミャンマー経済回廊」を一段と推進したいと述べた。

ミャンマーにおける中国国民などの安全を守るよう求めたほか、オンライン賭博や通信詐欺など国境を越えた犯罪に対して共同で取り組む必要があるとも強調した。

ミンアウンフライン氏は、2021年のクーデターで実権を掌握して以降、初めて中国を訪問した。軍政は、少数民族の民兵組織と連携した武装抵抗運動と争い、中国との国境沿いの地域を含めて混乱が続いている。【11月7日 ロイター】
************************

“ミャンマー軍の発表によりますと、総司令官は会談で、中国との政治的、経済的な協力を深めることを確認したうえで、「二国間だけでなく、国際的な舞台でも緊密に連携できると信じている」と強調しました。

また、民主派や少数民族との内戦状態が続いているミャンマーの治安状況をめぐっては、「中国政府の仲介で一部勢力との停戦に合意したが、反故にされた」としたうえで、「平和の扉は常に開かれている」と述べ、和平交渉の再開に意欲を示しました。”【11月7日 TBS NEWS DIG】

【軍事政権支持を明確化した中国に対し、ミャンマー国内では批難・悲鳴】
こうした動きを背景に、下川氏が指摘した記事が下。

****中国の裏切りで「もうミャンマーは終わりです」 軍政権を支援で国民からは絶望の声****
国軍のクーデターによって今も混乱が続くミャンマー。ここにきて中国が国軍支援を鮮明に打ち出したことで、ミャンマー国民からは絶望の声が聞こえてくる。旅行作家の下川裕治氏が取材した。
・・・・・・・・・
11月6日、ミャンマーの国軍トップであるミンアウンライン総司令官が中国雲南省の昆明市を訪問した。2021年2月のクーデター以来初の訪中である。メコン川流域6か国の首脳会議に中国から招待された形で、李強首相との会談も実現した。

ミンアウンラインは演説で、「国軍は和平を求めているが、少数民族軍が応じない」と発言。中国との蜜月を演出し、「これで国際社会から認められた」といった発言も国軍関係者から聞こえてくる。これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった。中国のこの動きは、状況を大きく変える可能性がある。

ミャンマー国内では、国軍支援にまわった中国への非難の声が強い。「中国は間違った選択をした。さらなる混乱を生む」といった投稿がSNS上に溢れている。

当初は少数民族軍を黙認していた中国だが…
昨年の10月27日、ミャンマーの3つの少数民族軍が連携し、国軍に対する一斉攻撃を開始した。MNDAA(ミャンマー民族民主同盟軍)、TNLA(タアン民族解放軍)、AA(アラカン軍)である。その際、中国との国境付近のミャンマー側に拠点を置く特殊詐欺グループの取り締まりも宣言した。

中国はこの詐欺グループに手を焼いていた。中国の高齢者を狙った「振り込め詐欺グループ」による被害は、日本の特殊詐欺グループとは桁違いだったからだ。

当初、中国は国軍に取り締まりを要求したが、詐欺グループから莫大な賄賂を受けとっていた国軍の反応は鈍く、国境付近には、何をしても捕まらない無法地帯ができあがっていった。

その取り締まりを少数民族軍は宣言したわけで、彼らの国軍への攻撃を、中国はほぼ黙認した。結果、士気に勝る少数民族軍は優位に地上戦を進め、国軍は多くの軍事基地を失っていく。少数民族軍はシャン州北部やラカイン州で彼らの支配エリアを広げていった。

この状況は、軍事政権に反対する多くの国民はもちろん、NUG(国民統一政府。クーデター後に発足した民主派政治組織。影の政府とも呼ばれる)、PDF(国民防衛軍。クーデター後、国軍に反発する人々の武装組織)などが歓迎した。

一方、国軍は中国を非難した。ミンアウンラインは「中国が少数民族軍を支援している」とまで語っていたのだ。

6月頃から雲行きが…
ところが今年の6月ごろから、両国の高官の往来が活発になる。まず、国軍ナンバー2のソーウィンが訪中し、武器の購入が目的だったという噂が流れた。8月に入ると中国の王毅外相がミャンマーでミンアウンラインと会談に臨んでいる。

その目的が明らかになってくるのは8月末だ。中国と少数民族軍との仲介役をはたしてきたのは、ワ区を事実上統治するUWSA(ワ州連合軍)だが、彼らと中国側関係者が雲南省で行った会議の議事録が流出。

そこで中国は少数民族軍に圧力をかけようとしていることが判明した。それを受けるかのように、国軍に一斉攻撃をした少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUGとの協力否定」を表明した。

この報道を耳にしたとき、ヤンゴンで法律関係の仕事につくMさん(48)はフェイクニュースかと思ったという。
「しかしその後の情報をみると、どうも本当のよう。これはまずいと思いました。ミャンマーの国民は、クーデター以来、国際社会に国軍の弾圧について訴えてきました。しかしどの国も積極的に動いてはくれなかった。そして中国が国軍支援にまわると……」

「この国が嫌です」
日本に暮らすLさん(48)は、少数民族軍が支配する北部出身のシャン族だ。独自の情報ルートがあるらしい。
「問題は民主派政府のNUGにあるよう。NUGは欧米の支援を受けています。少数民族軍がNUGと手を結ぶということは、欧米側に近づくことになる。中国はそれを警戒して圧力をかけたようなんです」

現地の民主派メディアは「中国はミャンマーの軍事政権を中国の傀儡にしようとしている」という論調で、民主派と少数民族軍を分断させようとしていると主張している。中国はかねて「停戦」を呼びかけているものの、その背後にはさまざまな策動が見え隠れする。

10月18日にはマンダレーの中国領事館に手りゅう弾が投げ込まれた。反発する民主派の犯行という見立てだが、ミャンマー国民の間では国軍の自作自演という推測も流れてきた。

これらを経て、11月に国軍トップが訪中したわけである。中国が国軍の支援に動いたことは、多くのミャンマー国民に焦燥感を生んだ。厭世的な言葉を口にする人も少なくない。

ヤンゴンの会社で働く女性のCさん(22)はこういう。
「その話、もう訊かないでください。森のなかで私たちの代わりに戦っている若者を思うと息が詰まってしまって。中国が支援すれば、国軍はもっと強く出る。もうミャンマーは終わりです。この国が嫌です」

男性のMさん(26)は、
「僕は徴兵される可能性がある。田舎の友達の何人かは拉致されるように国軍に連れ去られて兵士にされた。僕らになにができるっていうんです?」

仲買業者のNさん(42)の声には覇気がない。
「私たちはもうなにもできない。猛烈な物価高で、生きていくのがやっとなんです。もう国軍のことを考える余裕もない」

「和平を求めている」と言いながら空爆
トップのミンアウンラインは「和平を求めている」と言いつつ、少数民族軍に支配権を奪われた街やエリアに、国軍は激しい空爆を加えている。

そんな地域に住む人の意識は違う。AA(アラカン軍)と国軍が衝突しているラカイン州。いま州内のほとんどのエリアはAAが支配している。国軍は地上戦では太刀打ちできないため、空爆でAAに対抗している。ある村の村長さんが話してくれた。

「私の村も空爆に遭い、娘が足を失いました。これだけ激しい戦争をしてきて、そこで中国から停戦を促されても、言うことは聞きませんよ。私たちはそんな状況じゃない」

国軍の空爆は激しさを増しつつある。最近では見境がなくなりつつある。ラカイン州では、戦闘が再び起きる可能性のある市街を避け、住民は郊外に仮設の避難村をつくって生活しているが、そこへの空爆も厭わなくなってきている。

10月21日、国軍は、1000人ほどが暮らすラカイン州の避難村のひとつへ空爆を行い、市民5人が死亡した。ラカイン州ではこの2ヵ月間の空爆で、民間人約400人が犠牲になっている。そこには約130人の女性と、18人の子供が含まれているという。【11月18日 下川裕治氏 デイリー新潮】
******************

要するに中国は、欧米とのつながりがある民主派と手を切って、国軍と停戦するように少数民族武装勢力に圧力をかけており、実際“少数民族軍のひとつMNDAAは、「NUG(民主派政治祖組織)との協力否定」を表明した。”ということのようです。

中国がそういう形で介入を強め、国軍と少数民族武装勢力との停戦が実現すれば、強い軍事力を持たず、軍事的には少数民族武装勢力に大きく頼っていた民主派勢力は孤立し、国軍の鎮圧の対象となっていきます。

もとより少数民族武装勢力はミャンマー全土の民主化にさほど強い関心がある訳ではなく、かれらの目的は国境地帯での経済活動をを守ることにありますので、国軍がそのあたりを保障すれば停戦に向かうことになります。

中国がミャンマー民主化には僅かの関心もないことは言うまでもありません。

ですから、少数民族武装勢力に頼った民主派の国軍との戦いは、そもそも無理があり、仮に国軍を打倒したとしても少数民族側とミャンマー族の民主派の間で統一的なミャンマーの政治体制(連邦制が云々されていますが)を構築できるのか疑問もありました。

また、「裏切られた」というのは中国が少数民族及び民主派側を支援してくれているという思いが前提でしょうが、そもそも中国にはそんな意図はなく、中国への過剰な思い入れからくるものでしょう。中国が関心があるのは、国境での安定と全土における一帯一路事業の推進といった中国の権益維持だけです。

なお、“オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)のカーン主任検察官は、ミャンマーのミンアウンフライン国軍総司令官の逮捕状を請求する意向を明らかにした。ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する迫害に関する人道上の犯罪が理由だ。”【11月28日 ロイター】といったことは、中国と国軍の接近の支障には全くならないでしょう。

ICCはプーチン大統領に続いて、ネタニヤフ首相、更にはミンアウンフライン国軍総司令官と逮捕状を連発する状況ですが、多くの関係国がこれを無視する形で実効性が伴っていないという問題があります。

【軍事政権との関係を強化するロシア 軍事政権は中ロ支援で総選挙を実施し正統性アピールの狙い】
下川氏の上記記事にある“これまで国軍を支援していたのはロシアぐらいだった”というロシアの動き。

****ロシア企業“ミャンマー人の労働者受け入れへ”国営紙  ウクライナ侵攻による労働力不足が背景か****
ウクライナ侵攻によりロシアで兵士や労働者が不足するなか、ロシアがミャンマーからの出稼ぎ労働者を受け入れる方針だとミャンマーの国営メディアが報じました。

ミャンマーの国営紙は25日、軍事政権との関わりがある「海外人材派遣企業協会」の関係者の話として、ロシア企業などが「ミャンマー人の出稼ぎ労働者の募集を始めた」と報じました。「製造業や農業、畜産業でミャンマーからの労働者を受け入れる方針だ」としています。

ロシアではウクライナ侵攻以降、多くの人々が戦地に動員されたり、国外に逃れたりしていて、ミャンマーの人材派遣業者はJNNの取材に対し、「ロシア国内での労働力不足を補うものだ」と話しています。

一方のミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、内戦状態が長期化しており、タイや日本などを目指す出稼ぎ労働者が急増していましたが、軍事政権は今年から海外での就労に制限をかける措置をとっています。【11月30日 TBBS NEWS DIG】
************************

****ロシア代表団がミャンマー訪問 軍トップらと会談“総選挙への支援”表明****
ロシアの代表団が3日、ミャンマーで軍事政権のトップらと会談し、軍が計画している総選挙に向け、ロシアが協力していくことで一致しました。

ロシア下院のショルバン・カラ・オール副議長が率いる代表団は3日、ミャンマーの首都ネピドーを訪問し、軍トップのミン・アウン・フライン総司令官らと会談しました。

ミャンマー国営メディアによりますと、ロシア側はミャンマー軍が来年2月に実施を予定している総選挙への支援を表明。ロシアから監視団を派遣するなど、総選挙に向けて協力していくことで一致したということです。

ミャンマー軍は、アウン・サン・スー・チー氏率いる民主派政党が圧勝した2020年の総選挙で「不正があった」として軍事クーデターを強行し、国内各地で抵抗する反軍勢力との激しい戦闘を続けています。

総選挙には中国政府も協力する意思を示しており、ミャンマー軍としては、中国・ロシアの支援を得ることで、軍主導の総選挙を正当化する狙いがあるとみられます。【12月4日 TBBS NEWS DIG】
********************

中ロ支援のもとで、少数民族武装勢力の妨害を排し、民主派を排除した軍主導の総選挙・・・結果は見えています。
そうした形で軍事政権は国軍支配の正統性をアピールし、中国はその“正統な”軍事政権との関係強化で権益維持を目指すという構図です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  少数民族共同蜂起「1027作戦」から1年 「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか」

2024-11-12 23:08:27 | ミャンマー
(ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官(左)と握手する中国の李強首相=6日、雲南省昆明(ミャンマー国軍提供 )【11月12日 時事】)

【国連特使 「忘れられた危機になる可能性がある」】
ミャンマーでは、昨年10月27日、中国国境に近い北東部シャン州でミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)、アラカン軍(AA)が国軍を一斉攻撃し、拠点を多数奪った「1027作戦」から1年以上が経過しています。

その後も、各地の少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍の間の戦闘が続いています。

戦況は国軍が劣勢に立たされていると見られ、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)が8月にはシャン州北部の最大都市ラショーを占領し、国軍が史上初めて軍管区の司令部を失うことになりました。

ラカイン州でもアラカン軍(AA)が大部分を支配下に置くなど、各地で武装勢力側が優位に立っています。

一方、兵力不足の国軍は、2月に徴兵制を開始。中国やロシアから戦闘機やドローン(無人機)の供与を受けて反撃し、市民の犠牲が増え続けています。

戦闘にいける残虐行為も指摘されています。

****首を切断、臓器も…ミャンマー軍“子ども含む民間人25人を虐殺”現地報道 国連機関「戦争犯罪は拡大」****
2021年のクーデター以降、軍と抵抗勢力による内戦状態が続くミャンマーの北部で、ミャンマー軍が子どもを含む民間人少なくとも25人を虐殺したと現地メディアが報じました。

ミャンマーの独立系メディアによりますと、今月9日以降、北部ザガイン地域にある複数の村をミャンマー軍が襲撃しました。軍は村々を空爆したり、放火したりして壊滅させたほか、民間人少なくとも25人を虐殺したということです。

犠牲者の中には、首などを切断されたり、臓器をえぐり取られたりして惨殺された人もいたほか、別の村では6歳の子どもが銃で撃たれ、死亡したということです。

シンクタンクの「ISPミャンマー」は23日、クーデター以降、民間人が虐殺される事件が65件を超え、1300人以上が死亡したと発表。虐殺のほとんどがミャンマー軍によるもので、ザガイン地域に被害が集中していると指摘しました。

また、国連が設置した「ミャンマーに関する独立調査メカニズム」の代表者は29日、国連総会の第3委員会で、「戦争犯罪や人道に対する罪は拡大している」と明らかにしました。

そのうえで、国際機関との連携を強化し、残虐行為の連鎖を断ち切る必要性を強調しています。【10月30日 TBS NEWS DIG】
*******************

映画のランボー・シリーズでミャンマーを舞台にしたものがありました。主人公ランボーの無敵の強さには「そのなのある訳ない」と思いますが、国軍の残虐さは映画そのものかも。
国連特使は「忘れられた危機になる可能性がある」とも指摘しています。

****混乱続くミャンマー 国連特使が状況報告 軍のトップと会談も****
3年前、クーデターを起こした軍と民主派勢力などとの戦闘で混乱が続くミャンマーについて、国連の特使が状況を報告し、軍のトップとも会談したことを明らかにするとともに、「忘れられた危機になる可能性がある」として、和平プロセスを可能にする共通の土台を見いだす必要があると訴えました。

国連総会で人権問題を扱う第3委員会で29日、オーストラリアの元外相で国連でミャンマー問題を担当するビショップ特使が状況を報告しました。

このなかでビショップ特使は3年前のクーデター以降、激しい戦闘が続くミャンマーの現状について「忘れられた危機になる可能性がある」として強い懸念を示しました。

具体的には、軍による空爆や地雷などによる民間人の犠牲が急増しているほか、法の支配が失われるなか、ミャンマーが人身売買や麻薬の密造といった国際犯罪の温床になっていると指摘し、「世界的な影響はもはや無視できない」と述べました。

また、すべての利害関係者と関わりを持つ必要があるとして、民主派勢力だけでなく、詳細は避けたものの、軍トップのミン・アウン・フライン司令官ともネピドーで会談したことを明らかにしました。

ビショップ特使は、あらゆる暴力を停止しなければならないとしたうえで、「混乱のなかで和平プロセスの開始を可能にする共通の土台を見いださなければならない」と訴えました。【10月30日 NHK】
******************

【国内からは「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか」との国際社会への注文も】
ウクライナやパレスチナの紛争に隠れて「忘れられた危機になる可能性がある」との指摘ですが、ミャンマー国内からは国際社会に対し「忘れたふりしていないか」との厳しい指摘も。

****「ミャンマーのこと忘れたふりしていないか」 市民に銃向ける国軍を辞めた軍人たちは、日本に、世界に訴える****
クーデターを起こし、市民を弾圧するミャンマー国軍に反発し、抵抗運動に加わった軍人たちがいる。国軍は強硬姿勢をやめず、来年総選挙を実施して支配の正当化を目指す中で、どんな思いを抱いているのか。(北川成史、敬称略)

「軍に入ったのは間違いだった」。国軍の元工兵コーテット(34)は悔やむ。ミャンマー北東部シャン州出身。高校卒業後、親の勧めで国軍に入った。10年以上のキャリアを重ねた2021年2月、国軍上層部はクーデターでアウンサンスーチー率いる「国民民主連盟(NLD)」から政権を奪い、市民の抗議活動を兵士に弾圧させた。「多くの市民が兵士の銃撃で殺された。受け入れられなかった」

◆「徴兵し、ろくに訓練せずに前線へ」
離脱兵を支援する組織にSNSで連絡し、21年9月に国軍を離れ、翌月、民主派の武装組織「PDF(国民防衛隊)」に加わった。
国軍と戦う中、2023年4月、東部カイン州で銃撃された。弾は左あごから左肩を貫通。隣国タイの病院で3度の手術を受けた。タイ国内にあるPDF隊員の療養施設で、回復を待ちながら、運営を手伝っている。

故郷のシャン州では今年7月、少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」が、国軍の北東軍管区司令部を占拠したと発表した。ミャンマーに14ある軍管区司令部の占拠は過去に例がない。

「軍の衝撃は大きい。戦意を失い、弱体化している表れだ」とコーテットは指摘する。昨年10月以降、国軍は民主派や少数民族との内戦で劣勢にある。

今年2月には徴兵制実施を発表。離脱や死傷による兵力不足を補う目的のようだが、うまくいっていない。「徴兵し、ろくに訓練しないで前線に送っている。武器があっても戦い方が分からない状態。劣勢挽回のため各地で無差別に空爆している」とコーテット。「けがが治ったら前線に戻り、新しい国をつくるため、戦いたい」と話す。

◆「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄」
将校だったカウンサン(37)も昨年、国軍を離れた。「軍はやってはならない過ちを犯した」とクーデターを非難する。

ミンアウンフライン総司令官は、NLDが大勝した20年11月の総選挙での不正をクーデターの理由に挙げた。カウンサンは「あまりのうそに悲しくなった。軍人を含め大勢がNLDに投票したのは間違いない」と力を込める。NLD幹部を強引に拘束し、市民を弾圧する国軍上層部の手法に嫌気が差し、離脱。その後、国軍を抜けた兵士らの支援などに関わってきた。

「離脱は最近も収まっていない。タイの国境地帯に逃れた軍人だけでも、5000人ぐらいにはなっているだろう」とカウンサンは見積もる。「総司令官の権力保持のために戦っても命の無駄だと、みんな分かっているからだ」

◆「選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援して」
国軍は20年の総選挙を無効とし、新たな総選挙を来年実施するため、10月、国勢調査を始めた。だが、民主派側が国土の6割以上を押さえたと主張する状況で順調に進んでいない。

カウンサンは国軍がもくろむ総選挙を「ヘビの脱皮と同じ。民政を装っても実態は軍支配のまま」と切り捨てる。「軍は選挙をやって新政権を作り、後ろ盾の中国などに認めてもらって統治を続けるつもりだ。だが、選挙を実施できるのは国土の半分以下だろう。正当といえる代物ではない」

そして日本を含めた国際社会に注文する。「ミャンマーのことを忘れたふりをしていないか。選挙に反対し、はっきりと市民の側を支援してほしい。曖昧な態度をとっていると、軍が勝手に政権をつくり、民主派や少数民族は受け入れず、内戦が長期化するだけだ」【11月11日 東京】
***********************

【国軍 ASEANとの関係改善で支配の正統性を主張】
国軍は国内戦闘状況が思わしくないなか、国際的な連携で支配の正統性を示す狙いもあってか、3年ぶりにASEAN会合に出席しています。

従来から、ASEAN側が軍政トップのミミン・アウン・フライン総司令官を招待せず、ASEANとミャンマー国軍の間で出席に関して揉めていましたが、軍政は格下の代理派遣で妥協して歩み寄ったとも。

ミャンマーを含むASEANにおいては3年前に暴力の即時停止などを含む「5つの合意」がなされていますが、その合意が実行されていないことにAESEAN内部には強い不満があります。

****ミャンマーに「行動」要求=国軍代表が3年ぶり出席―ASEAN首脳****
東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議が9日、ラオスの首都ビエンチャンで開催された。

クーデターを強行後、約3年ぶりに出席したミャンマー国軍の代表に対し、抵抗勢力との紛争解決で進展が見られないとして、一部首脳から「具体的行動」を求める声も上がった。

首脳会議には、ミャンマーからアウンチョーモー外務次官が出席した。ASEANは2021年のクーデター後、暴力の即時停止などの合意事項を実行していない国軍の首脳を主要会議から排除。反発した国軍は代表の派遣を見送ってきたが、抵抗勢力との戦闘で劣勢となる中、各国に譲歩する形で同次官を派遣した。

外交筋によると、会議では「国軍はもっと紛争解決に向けて具体的に行動するべきだ」と迫る首脳もいた。厳しい非難を受け、ミャンマー側が「穏やかな言葉遣い」を促す場面もあったという。

また、首脳会議では、事態打開に向けて非公式協議を開くことを確認。ミャンマーの隣国タイの提案に基づき、今年と昨年、来年のASEAN議長国にタイも加わった協議が12月に開催される。【10月9日 時事】 
********************

【中国とも関係強化 一方で、中国に対する攻撃も】
国軍は中国との関係強化を目指しています。

****ミャンマー軍政と協力強化=中国首相、国軍トップと会談****
中国の李強首相は6日、雲南省昆明でミャンマー国軍トップのと会談し、両国の関係発展と協力強化で合意した。総司令官の訪中は2021年のクーデター後初めて。

中国外務省によると、李氏は両国の戦略協力の深化を望むとした上で「ミャンマーの政治的和解を支持している」と強調。情勢の安定化と民政移管プロセスを着実に進めるよう暗に促した。

ミンアウンフライン氏は、中国による支援への謝意を表明し、自国内で活動する中国人の安全確保に努めると応じた【11月7日 時事】 
**********************

中国は国軍とのつながりと同時に、少数民族側とも密接な関係があるとされていますが、ミャンマー国内の安定、一帯一路事業の推進を求めています。

ただ、中国が前面にですぎると、標的とされることにもなります。上記記事にあるようにミンアウンフライン総司令官が“中国人の安全確保”に言及したのは下記事件を意識したもの。

****ミャンマーの中国総領事館で爆発、建物損傷 内戦状態…国軍は「テロリストの犯行****
ミャンマー第2の都市、中部マンダレーにある中国総領事館で18日夕に爆発があり、建物の一部が損傷した。死傷者はなかった。国軍が19日に発表し、AP通信などが報じた。

民主派系メディア「イラワジ」は、手榴(しゅりゅう)弾による攻撃と報道。国軍は「テロリストによる犯行」とみている。

2021年のクーデター以降、国軍が全権を掌握しているミャンマーでは、民主派や少数民族の武装組織による国軍への抵抗運動により、各地で内戦状態が続いている。

隣国の中国は、国軍との関係を強化し、和平協議を仲介。同国の王毅共産党政治局員兼外相は今年8月、ミャンマーを訪問し、国軍が実施するとしている総選挙を支援すると表明していた。

北部の一部武装勢力は中国と良好な関係にあるとされ、国軍支持者の間にも中国への批判がある。イラワジは、軍政トップのミンアウンフライン総司令官が近く、クーデター後初めて訪中すると報道している。

東南アジア諸国連合(ASEAN)は今月9日にラオスの首都ビエンチャンで開いた首脳会議で、ミャンマー情勢に関する合意文書を採択。国軍と民主派や少数民族など紛争当事者間の信頼を醸成して対話を実現するため、中国やインドなど「近隣国」に協力を求めることを盛り込んだ。【10月20日 産経】
*****************

“ミャンマー軍事政権は爆発の原因については「調査中」としていますが、現地の独立系メディアは当局者の話として、「手りゅう弾が投げ込まれた」と報じていて、目撃証言などから、軍事政権を支持する民兵組織が関与した可能性があるとの見方を伝えています。”【10月21日 TBS NEWS DIG】

その後の情報(犯人の逮捕・確定など)は知りません。

****国軍トップ、近隣国首相と会談 正統性をアピール―ミャンマー****
ミャンマーの実権を握る国軍トップのミンアウンフライン総司令官が、中国訪問を終えて帰国した。滞在中は李強首相に加え近隣国のタイ、ラオス、カンボジアの首相と会談し、国軍による統治の正統性をアピールした。

「中国との友好関係が強化された」。ミャンマー国営紙は11日、前日に帰国したミンアウンフライン氏の訪中の成果を誇示した。同氏はメコン川流域6カ国の首脳会議などに出席するため、5日から中国を訪問していた。

2021年のクーデター後、ミンアウンフライン氏の訪中は初めて。国軍はミャンマーで中国の影響力が強まることを警戒していたが、昨年10月に本格化した少数民族武装勢力との戦闘で劣勢となる中、少数民族側にも影響力を持つ中国との距離を縮めている。

中国では李強首相やタイのペートンタン首相、ラオスのソンサイ首相、カンボジアのフン・マネット首相と個別に会談し、国軍が来年11月に実施を予定している総選挙などについて協議した。

暴力の即時停止といった合意事項の大半を履行せず、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議から排除されているミンアウンフライン氏にとって、国軍による統治への理解を訴える貴重な機会となった。

総選挙は民主派を排除した上で行われ、国軍は親軍派政党を通じて権力を掌握し続ける考え。ただ、抵抗勢力との戦闘が激しい地域での実施は困難とみられ、実現するかは不透明だ。【11月12日 時事】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー 軍事政権、選挙実施に向けて国政調査 批判する民主派 冷ややかな国民

2024-10-01 23:04:44 | ミャンマー

(【10月1日 NNAアジア経済ニュース】)

【国内安定を求める中国が支援 現実には民主派排除で進む】
内戦状態が続くミャンマーの軍事政権は民主派を排除した形での来年の選挙実施に向けて、その準備としての国政調査を実施しています。

国内の安定を求める点では利害が一致する中国がこの軍事政権の選挙・国政調査を後押ししています。

****中国、ミャンマーの選挙を支援 王外相、軍政トップに表明****
中国の王毅外相は(8月)14日、ミャンマーの首都ネピドーで軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。15日付のミャンマー国営英字紙によると、王氏率いる中国側代表団は、軍事政権が早ければ来年にも実施する意向の選挙に向け「必要不可欠な支援を提供する」と表明した。

中国側は、選挙の準備として軍政が今年10月に開始予定の国勢調査にも技術支援を提供すると述べた。

ミャンマーでは内戦状態が続き、民主派政党は既に解散。選挙も国勢調査も、全土での公正な実施は不可能なのが実情だ。軍政には、中国の支援を得ることで、選挙プロセスの正当性を得る狙いがあるとみられる。【8月15日 共同】
*******************

****ミャンマー国軍トップと中国外相が会談 内戦状態が懸案、安定化に向け*****
ミャンマーで実権を握る国軍のミンアウンフライン最高司令官は14日、首都ネピドーで中国の王毅外相と会談した。内戦状態のミャンマー情勢は国境を接する中国にとっても懸案で、両国は安定化に向けた協力を名目に距離を縮めている。

中国外務省などによると、会談で王氏は「民主化プロセスを再開し、長期的な平和と安定を実現する道を見いだすことを支持する」と述べ、早期の民政移管に向けて取り組むよう呼びかけた。ミンアウンフライン氏も「継続的な支援を期待する」と応じたという。

軍事政権は国勢調査を経て、2025年中の総選挙実施を目指す。ただ、民主派指導者のアウンサンスーチー氏が率いた「国民民主連盟(NLD)」などは排除されたままだ。ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。

新華社通信によると、王氏は訪問中、かつて旧軍政トップとして独裁体制を敷き、引退後も国軍への影響力を維持するタンシュエ氏とも面会した。6月にも国軍出身のテインセイン元大統領と北京で会い、総選挙の確実な実施をミンアウンフライン氏に促すよう求めたと伝えられる。

中国にとってミャンマーは、陸路でインド洋に抜ける要衝だ。中国内陸部雲南省からミャンマー西部のチャウピュー経済特区につながる「経済回廊」は習近平国家主席が打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」の主要ルートの一つで、道路や鉄道の建設プロジェクトが進む。

インド洋から原油や天然ガスを運ぶパイプラインも整備されており、米国との対立が長期化する中国にとってはエネルギー戦略の上でも重要なルートだ。中国としては、ミャンマー国内の混乱を早期に解消し、自国への影響を最小限にとどめたいとの思惑がある。

雲南省に隣接する北東部シャン州で少数民族武装勢力との戦闘で劣勢に立つ国軍も中国を頼りにする。歴史的なつながりなどから少数民族側に影響力があり、今年1月にも一時的な停戦を仲介した。今月上旬に同州にある国軍の拠点が陥落して事態が切迫する中、調停への期待は大きい。

国内の安定を求める点では一致する両者だが、思惑にはずれもある。米シンクタンク・米国平和研究所のジェイソン・タワー氏は、「中国の調停は投資を拡大するために国境地帯で軍の影響力を弱めることを重視している」と指摘。「危機に乗じて安全保障上の影響力を強める可能性が高い」と分析した。【バンコク武内彩、北京・岡崎英遠】
*******************

“ミャンマーでインフラ事業などを進めたい中国は、民主派や少数民族も含めた選挙を求めているとみられる。”とのことですが、実際どのように中国が軍事政権に働きかけているのかは知りません。

現実には民主派を排除した形で進行しています。

****ミャンマー軍政、10月1日から国勢調査 25年の総選挙に向け****
ミャンマーの国営メディアは2日、全国規模の国勢調査が10月1─15日に行われ、収集したデータは来年の総選挙に使用されると報じた。

軍政トップのミンアウンフライン国軍総司令官は2日のテレビ演説で、「国勢調査は正確で精密な有権者名簿の作成に活用できる。これは自由で公正な複数政党制による民主的な総選挙を成功させるための基本的な要件だ」と述べた。

軍政が提案する選挙は見せかけに過ぎないと広く非難されている。民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)など多くの政党は登録しなかったため解散させられており、選挙結果が西側諸国に認められる可能性は低い。

民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と述べ、国際社会や近隣諸国は選挙と国勢調査を非難すべきと訴えた。【9月2日 ロイター】
***********************

【国政調査開始 民主派は「国民から情報を収集し、脅すために使う」との批判も】
そして今日10月1日、予定通り国政調査が始まっています。

****ミャンマー軍政、25年総選挙実施へ国勢調査 戦闘激化で非難も****
ミャンマーの軍事政権は1日、総選挙実施の前提となる国勢調査を始めた。有権者名簿の作成が目的で、2025年中の選挙実施を目指している。ただ、21年のクーデターで全権を握った国軍と、抵抗する民主派や少数民族の武装勢力との戦闘は激化しており、調査を全国的に実施するのは難しい情勢だ。

調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。

国軍はアウンサンスーチー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」が圧勝した20年の総選挙に不正があったと訴え、自らの統治を正当化してきた。このためクーデター以来、有権者名簿に基づく選挙を約束してきた。

しかし、軍政は治安悪化を理由に非常事態宣言を繰り返し、実施を先送りしてきた。この間に武力衝突は激化し、避難民は300万人を超えた。

国境を接する周辺国への影響も大きく、軍政が関係を重視する中国も情勢の安定化と早期の選挙実施を求めているとされる。

国勢調査やその後の選挙を確実に行いたい国軍は9月末、抵抗勢力側に選挙への参加や政治的解決に応じるよう呼びかけた。背景には戦闘で劣勢に追い込まれていることや、自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫(ひっぱく)している状況があるとみられる。

一方、抵抗勢力側は呼びかけに批判的だ。独立系メディアによると、少数民族武装勢力の幹部らは「日々爆撃により市民を虐げている国軍こそ武装解除すべきだ」「国際社会を欺くための策略だ」と非難。民主派の「国民統一政府(NUG)」も選挙の正当性を否定する。【バンコク武内彩】
******************

“自然災害による甚大な被害で市民生活がさらに逼迫”というのは、先の大雨被害です。軍事政権が国際支援を求めるというこれまでにない“異例”の対応を行ったことも注目されました。

****ミャンマー「壊滅的な状態」大雨で384人犠牲 88万7000人が被災か****
ミャンマーの軍事政権は、今月(9月)上旬の大雨で384人が犠牲になったと発表しました。国連機関は推定で88万7000人が被災したとし、被害が深刻な地域では「壊滅的な状態」が続いていると報告しています。

ミャンマーでは今月上旬、台風11号から変わった低気圧の影響で大雨が降り、首都ネピドーや第2の都市マンダレーなど各地で洪水や地滑りが発生しました。

ミャンマーの軍事政権は21日、この大雨による死者は384人となり、依然として89人が行方不明になっていると発表しました。

ミャンマーでは3年前のクーデター以降、軍と民主派勢力の内戦状態が続いていて、300万人以上が国内避難民となっています。

OCHA=国連人道問題調整事務所は、今回の大雨で避難民を含む推定88万7000人が被災したとし、最も深刻な被害を受けた地域では家屋や水源、電力インフラなどが広範囲にわたって破壊され、「壊滅的な状況」が続いていると報告しています。【9月23日 日テレNEWS】
********************

“調査は事前に講習を受けた公務員や教師らが調査員となって戸別訪問し、宗教や使用言語、所有不動産などに関して質問する。”・・・他には、家の間取り、海外に住む家族の有無なども

民主派の政治組織「挙国一致政府(NUG)」の報道官は、「軍政は偽の選挙を行うことを計画している。国勢調査を口実に国民から情報を収集し、脅すために使う」と批難していますが、内戦状態というなかで国軍側に個人情報を提供することには確かに不安もあるかも。

調査は15日までですが、戦闘が激しい地域は12月まで延長するようです。
ただ、調査には軍事政権を支える民兵組織が同行するということで、不審なことがないか取り調べみたいな雰囲気も。

****10月1日から国勢調査開始、各地で緊張高まる****
軍評議会(SAC)は、10月1日からミャンマー全土で国勢調査を開始する。各地でミャンマー軍や警察による警備が強化されているほか、首都ネピドーやヤンゴン、マンダレーなどの都市部では軍用車両が巡回するなど緊張が高まっている。

国勢調査は15日まで実施される予定で、調査には民兵隊やミャンマー軍系暴力集団「ピューソーティー」隊員などが帯同する。調査が完了した住宅には、識別用のシールが貼り付けられるという。

SAC統制下の連邦選挙管理委員会は2025年11月に総選挙を実施するとしているが、導入が予定される拘束名簿式の比例代表制については、これまでのところ具体的な発表はない。【10月1日 MYANMAR JAPON】
*****************

【軍事政権による形式的選挙に冷ややかな国民】
軍事政権が強行する選挙で、現在の危機状態を脱出できるかについては、ミャンマー国内では否定的な声が大きいようです。

****国勢調査開始、多難の選挙へ[政治] 危機脱出「できない」が8割****
ミャンマー軍事政権は10月1日、国勢調査を開始する。来年実施予定の総選挙の有権者リストを作成するためのものだが、選挙は国軍に有利な展開になる見通しで、抵抗勢力の強い反発が予想される。

シンガポールのシンクタンク「ISEASユソフ・イシャク研究所」によると、7~8月の現地調査では回答者の8割近くが、選挙による危機脱出は「できない」と答えており、情勢打開につなげることは困難な状況だ。

国勢調査は15日までの予定で実施される。選挙について軍政は、民主派指導者アウンサンスーチー氏の率いた「国民民主連盟(NLD)」が大勝した2020年総選挙に不正があったとの立場を崩していない。

やり直し選挙を「自由で公正」なものにすると主張しているが、NLDを排除しつつ国軍が権力を維持するためのものというのが実態だ。

選挙には、特に昨年10月から支配地域を拡大する少数民族武装勢力の動向も大きく影響する。軍政の作成する有権者リストは限定的なものになりそうだ。国民の国軍への反感はより根深くなる可能性もある。

調査員の安全確保も難しい。最大都市ヤンゴンの市民はNNAに、「すでに一部で国勢調査が始まっているが、大々的に行うと抵抗勢力を刺激してしまう」と話した。国勢調査を拒むつもりはないが、軍政に協力的と見なされて抵抗勢力からの攻撃の対象となることが怖いという。

■NUG無視の政治参加要求
軍政は9月26日、少数民族武装勢力と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」に対して停戦と政治的な手段による問題解決を呼びかける声明を出した。ただ、軍政に対抗する民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」への言及はない。互いを「テロリスト」と非難し合う両勢力の譲歩姿勢は見られない状況だ。

軍政のゾーミントゥン報道官は声明に関する翌27日の説明で、「市民が自由に投票する権利を守るため、安全保障と平和、安定が不可欠だ」と語った。「民主主義に反して武力による抵抗を望む勢力」がNUGやPDFを発足させたとの見方を示し、PDFによる市民の殺害などを非難した。

大国間の対立にミャンマーが巻き込まれる懸念や、国際的な団体や少数民族武装勢力などの意向が同国を不安定にさせている状況があり、国内の結束が重要だとも訴えた。

軍政はクーデター後、少数民族武装勢力に和平を持ちかけつつ、民主派を弾圧してきた。数百存在するとされるPDFは総称で、少数民族武装勢力あるいはNUGが影響力を有する部隊、独立系の部隊など多岐にわたる。

国軍は民主派勢力の弱体化を狙い、これまでも各PDFに停戦を呼びかけてきた。国勢調査を意識して妨害を避けるために政治参加を求めているが、呼びかけは事実上の降伏勧告となっている。

■複雑な市民感情、選挙に悲観的
軍政は国勢調査の結果速報を12月中に、各地域・州の詳細を来年中に公表するとしている。これに基づき有権者情報を整理し、来年にも選挙に踏み切りたい方針だ。

ただ、ISEASユソフ・イシャク研究所が発行する「フルクラム」は9月24日に掲載した「選挙がミャンマーの政治的危機の脱出口となるか?」という記事で、市民が選挙に複雑な感情を持ちつつ悲観的に捉えていると指摘した。

同研究所によると、「現地調査チーム」(安全のため詳細は非公表)は21年12月~22年1月、24年7~8月にそれぞれ数百人を対象に意識調査を実施。「選挙で危機を脱出できるか」という質問に対し、「できない」と答えた人の割合はそれぞれ67%、76%。「できる」との回答は2割を下回った。

21~22年の調査時はNLDの参加に期待を示す人も一定数いたが、同党は23年3月下旬に期限を迎えた政党としての再登録を見送り、次期選挙への参加資格を失った。NLDの中央作業委員会は、設立36周年を迎えた9月27日の声明に、軍政による選挙を認めない方針を盛り込んだ。

「選挙が実施されれば投票するか」という質問に対しては、24年調査で「投票しない」が76%と大勢を占めた。選挙は、市民が冷ややかな目線を送る、形だけのものになる可能性が高そうだ。

一方、政治的解決に向けた他の選択肢もない。20年選挙でNLDを支援していた男性はNNAに、「誰も未来を示せない。このまま紛争が続けば国が崩壊するだけだ」と話した。

軍政はこれまで、現行体制を正当化する非常事態宣言の延長を繰り返してきた。選挙準備を進める背景には中国からの圧力もあるとされる。選挙が実現するかどうかも不透明だ。各勢力が武力に依存する状況が今後も続く恐れがある。【10月1日 NNAアジア経済ニュース】
*********************

【日本、対ミャンマー外交を格下げ】
なお、これまで軍事政権とも関係を維持してきた日本は“対ミャンマー外交の格下げ”(軍事政権との関係をこれまでより薄める対応)を行っています。

****日本、対ミャンマー外交を格下げ 駐在大使の後任は臨時代理****
丸山市郎・駐ミャンマー日本大使が週内にも離任し、後任の大使は赴任せず吉武将吾公使が臨時代理大使を務めることが26日分かった。対ミャンマー外交の格下げとなる。複数の外交筋が明らかにした。

後任大使を派遣すれば、2021年2月のクーデターで実権を握った軍事政権への信任状提出が必要。日本が軍政を承認したと受け止められる恐れがあり、派遣を回避した。

クーデター後も国軍との「独自のパイプ」を維持し、欧米と一線を画していた日本の外交的存在感は、低下する可能性が高まった。日本外交筋は「ミャンマーの重要性は変わらない。丁寧に説明し理解を得たい」と話した。【9月26日 共同】
*****************

“クーデター後も国軍との「独自のパイプ」”と言いつつも、軍事政権への便宜供与はあっても、ミャンマー民主化にはほとんど何も実績を残していないようにも見えますので、軍事政権と距離を置き、軸足を軍事政権への民主化要請に重点を置く形に変更するのはよいことと思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者 水害で“異例”の国際社会への支援要請

2024-09-17 23:23:59 | ミャンマー

(ミャンマー・ネピドー近郊で物資を運ぶ人たち【9月14日 共同】 首都ネピドーはいいですが、問題は戦闘が続いているような奥地に支援が届くかどうかです)

【徴兵実施、就労国外出国禁止に翻弄される若者】
国軍と少数民族武装勢力及び民主派武装組織との戦闘が続くミャンマーでは、国軍の兵員不足を補うために2月10日に徴兵制の実施が宣言されました。

その内容や時期については二転三転しており、若者たちの人生が翻弄されていますが、同時に就労のための国外出国が禁止になるなどの措置も。

周知のように、ミャンマーでは多くの若者が日本での就労を希望して日本語学校で学んできましたが、彼らの道も閉ざされた形になっています。

****ミャンマー「徴兵宣言」から半年、苦渋の選択を迫られる日本語学習者たち****
2021年にクーデターを起こしたミャンマー軍事政権は、今年2月10日に徴兵制の実施を宣言したが、対象者や実施時期に関する発表が二転三転し混乱を招いている。民主化時代に日本企業への就職を目指して日本語を学び始めた若者たちは、不条理な現実と折り合いをつけながらそれぞれの未来を選択している。(中略)

ミャンマー人は祝日がころころ変わることなど日常茶飯事と笑い飛ばす。実際、徴兵制度という人の一生を左右するほどの重大事でさえ、猫の目のように内容変更が繰り返されている。

▽2024年2月10日に徴兵制の実施を発表。
▽2月20日に女性の徴兵対象外とする⇒現在は徴兵の対象としている。
▽特定技能・育成就労など就労目的の出国禁止令を発令⇒撤回⇒現在は男性にのみ就労目的の出国を禁止。
▽徴兵制は4月下旬からと発表⇒3月末に開始。

現在もいつ実施内容が変更されるかわからない状況だ。国軍メディアと独立系メディアの報道が入り混じり、さらにSNSの無責任情報や町中での噂話が混在している。その中に、それらの情報に振り回される個人の現実が存在する。

「もう日本には行けない」――授業も希望も捨てた生徒
あるヤンゴンの日本語学校の教師が「まるで防空壕の中で震える人を見ているかと思った。戦争経験などないのに」と話してくれたことがある。2月10日、軍が徴兵制の実施を発表した日の話だ。

日本語教師は前日となんら変わらない朝を迎え、いつものように授業に向かったところ、教室の教え子たちがみな土気色をした顔で表情がないことに驚いたという。昨日と何が違うのか? 重い空気だけが教室に淀んでいる。みな平静を装い受講しているものの、休憩時間にはひそひそ話が始まる。

異様な様子に驚いている日本語教師にスタッフが、徴兵制の発表があったのだと説明した。日付が変わった頃からSNSで情報が出回っており、そのスタッフも昨晩は一睡もできなかったという。一方、日本人である教師は、徴兵制がもたらす現実の重みをすぐには理解できなかった。

徴兵の対象は男性18歳〜35歳、女性18歳〜27歳。学生、公務員は猶予するという発表だった。ミャンマー報道の難しさに定義の曖昧さがある。年齢を出生時で1歳とする場合(数え年)と出生後1年目に1歳とする場合(満年齢)があり、場合によってどちらを使用するかもまちまちであるため、発表された年齢を正確に把握することができない。

ミャンマーの徴兵制は2010年に導入されていたが未実施のままであった。民主派や少数民族武装勢力と軍の攻防が激化し、軍が劣勢になり始めたという情報が飛びかう中での実施発表だった。しかし、発表と同時に疑問の声があがった。

投降・脱走などによる兵士不足を補うための徴兵制ということだが、「軍事政権」と「民主派」がもめている状況下、後者の側に立って軍に抵抗する傾向が強い一般の若者たちを徴兵して、軍人にできると考えているのか?
「だから、軍はバカなんですよ」と嬉しそうに耳打ちする人もいる。大声では言えないが言わずにはいられないのだろう。しかし、軍を批判したところで若者が徴兵制に震えていることは事実なのだ。(中略)

それぞれの意見・分析がどうであろうと、現政権(軍)の決めたことに抗うことはできない。国民がいうところの「めちゃくちゃ」な内容変更も続く。

ミャンマーの海外人材派遣協会(MOEAF)は2月13日、海外就労に対する求人の情報更新を停止すると発表。在ミャンマーの日本の送り出し機関には労働局から、徴兵条件に当てはまる若者に対しての送り出し中止の通達が届いた。関係者の話によるとこの通達は電子メールなどで各送り出し機関に伝えられ、軍評議会労働省からの公的な正式発表はなかったという。

それでも、就労目的のミャンマー人が通う日本語学校が次々と休校(時には閉鎖)しているという話が広がった。事実がどうであれ、軍の思惑に従うポーズは必須と考えるのは事業者として当たり前だろう。

逆に、できるだけ早く教え子たちを日本に脱出させる必要を唱える人々もいた。ある日本語学校のミャンマー人校長は「軍の決めたことはすぐに変わる。私の学校は休校にしませんでした。就労目的の授業は普通に行っていますよ。でもね、徴兵制の発表直後に“もう日本に行けない”と落胆しきった一人の生徒は、授業を放棄して、つまり今までの努力も希望も放り出して田舎に帰ってしまいました。止めるわけにはいきません。私は田舎までの道のりのほうが危険だとは思いましたが……」 徴兵制の実施が発表された2月はこのような混乱が続いていた。

留学か就労か、それぞれの選択
(中略)このように大きな混乱を呼んだ徴兵発表の日から、半年がたった。ヤンゴンで日本語を学ぶ若者たちは今何を考えているのか。旧知の日本語教師に教え子を紹介してもらい、今後の人生プランについて聞いてみた。

〈介護奨学金で脱出する〉男性・27歳
A君は日本語能力がN3(日常的な会話をある程度理解できるレベル)、通信大学中退(中退の理由はクーデター)の27歳だ。

男性の就労目的の出国は24年8月現在では認められていない。だから、A君は特定技能や育成就労のような申請で日本へ行くことはできない。そうかといって、自費で学生として留学することなど完全に不可能な経済状況だ。「選択肢は介護奨学金留学生の立場での出国一択になります」という。

介護奨学金制度では、介護福祉士の資格を取るための約2年間の学費を介護施設が提供し、その奨学金の返済期間として約5年間の就労が条件となる。7年間の拘束期間が確実となる選択であるが、本人はなるべく早く国を出ることを最優先する選択に迷いはないという。20代後半〜30代半ばという貴重な時期を、自分の意志での進路変更が不可能な環境で過ごすと決めた。

A君の友人は「ふた月前はちょっと長めの黒髪のイケメンでしたが、あっという間に白髪が増えたんですよ」と彼の胸中を察していた。「介護奨学金を受けるには日本語能力N3が絶対に必要。A君はのんびり屋さんの印象でしたが、これだけの短期間に日本語学習をしたことをほめてやりたいです」

〈大卒でも「特定技能」を選ぶしかない〉女性・20代後半
介護奨学金で渡日することができない例も存在する。Bさんは日本語能力N2(上から2番目のレベル)の大卒。面倒見のいい女性であり、介護分野は自分に向いていると思っていたと話す。しかし、介護奨学金ではなく特定技能の在留資格で渡日を目指すこととした。

「私のパスポートはPJなんです」
ミャンマーのパスポートには種類がある。PJとは「パスポート・ジョブ」のことで、就労用パスポートを意味する。コロナ禍前、特に渡航目的を定めずにパスポート申請をしたBさんは、PV(パスポート・ビジット=観光用パスポート。留学も可)より使い勝手が良いかもしれないとPJを選択していた。

ところが人によっては、パスポートがPJであるかPVであるかが、ミャンマー出国の成否を分けることになる。就労目的で出国しようとして、パスポートがPVであったため出国できなかったという事例があった。飛行機にチェックインし、いざ出国というときにはじかれたのである。

(中略)たまたま選んだパスポートの種類によって、人生の選択肢が絞られてしまったのである。

パスポートの新規取得さえ難しくなっている今、PJをPVに変更するのにどれほど時間とお金がかかるかわからない。手持ちの条件の中で少しでもマシな人生を選択することが賢明だ。BさんはPJの有効な使い道は特定技能での渡日と判断。14種ある特定技能のうち、介護ではなく宿泊業を選ぶそうだ。(後略)【9月12日 新潮社 Foresight】
*********************

【軍事政権 台風11号水害で“異例”の国際社会への支援要請】
台風11号は9月6日(金)に中心気圧925hPaの非常に強い勢力で中国の海南島に上陸し、その後7日(土)にはベトナムに上陸しました。この台風は戦闘に疲弊するミャンマーにも大雨を降らし、甚大な洪水被害をもたらしました。

****ミャンマー軍“大雨による洪水などで死者226人、行方不明者77人” 東南アジアで被害拡大 4か国で約500人死亡****
ミャンマー軍事政権は、連日の大雨による洪水や土砂崩れで226人が死亡し、77人が行方不明となっていると発表しました。

ミャンマーでは今月9日以降、大雨による洪水や土砂崩れの被害が各地で相次ぎ、首都・ネピドーでも多くの家屋が浸水しました。

国の実権を握るミャンマー軍は17日、これまでに全土で226人が死亡したほか、77人が行方不明になっていると発表しました。

OCHA=国連人道問題調整事務所は「63万1000人が被災したと推定される」としたうえで、通信の遮断や道路の寸断などに加え、クーデター以降続いている軍と抵抗勢力の武力衝突で救援活動が妨げられているとしています。

戦闘の長期化で、国内の避難民はすでに200万人を超えており、人道危機のさらなる悪化が懸念されています。

東南アジアでは、台風11号が熱帯低気圧に変わったあとも大雨の被害が拡大していて、ベトナム、タイ、ラオス、ミャンマーの4か国で、死者はあわせておよそ500人に上っています。【9月17日 TBS NEWS DIG】
*********************

この種の災害被害に関し、ミャンマー軍事政権には深刻な“前歴”があります。
2008年5月、サイクロン「ナルギス」によって死者・行方不明者13万人超という甚大な被害を被ったにもかかわらず、軍事政権は大部分の国際支援が入るのを拒否し、新憲法の国民投票実施を強行しました。

国民の生命より政治日程を優先させる軍事政権の姿勢は当時国際社会から強い批難を浴びました。

*****ミャンマー  国民投票強行、進まない救援活動、物資横流しも・・・****
(中略)
被災地を封印
サイクロン被害の救援活動については、外国・国際機関からの人的支援を拒んできましたが、タイ・インドといった近隣の比較的良好な関係を持つ国々からの支援は認めたものの、その他については以前頑なな姿勢を崩していません。

軍政は被災地の封印を図っているとも伝えられます。【5月15日 毎日】
ヤンゴンから被災地に向かう道路に検問所を設け、通過車両を1台ずつチェック。外国人が乗っていると、強制的に引き返させています。

被災地に入る援助関係者には事前に「特別許可」を取得するよう求めていますが、国連関係者によると、許可はわずかしか発行されません。

一般市民が食糧など救援物資を直接持ち込むことも禁止し、政権の翼賛団体に寄付するよう求めています。
 
そんななか、国連事務総長から軍政トップの国家平和発展評議会議長に全面的な支援受け入れを求めた3通目の書簡を託された緊急援助調整官室の事務次長が、18日にミャンマーを訪問する予定です。

援助物資横流しも
現地からは、軍政の救援活動の不十分さ、あるいは物資横流しなどの情報が多数報じられています。

「(被災地で)軍による救援活動を一度も見なかった」「援助なんて何も来ていない」「あれだけ軍隊がいるのに、何をやっているのか」「軍事政権は被災地での被害状況調査も一切行っていない」【5月17日 毎日】

「役人が救援物資の国際援助食糧を質の悪いものにすり替え、被災者に渡しているのを目撃した」
「軍人が小袋の米を1万チャット(約1000円)で売っていた」
ヤンゴン空港に届いた被災地用の発電機が新首都ネピドーに転送されたとの目撃情報もある。【5月16日 読売】

タイが送った援助用食料が同市内の市場で売られているほか、援助物資として届いた防水シートや蚊帳、即席めんなどが市場の内外に立つ露天で販売されている。【5月14日 時事】

海外から届いた援助物資に「○○将軍から○○地区への寄付」と書いた紙が貼られていた。【5月16日 IPS】(後略)【2008年5月17日ブログより再録】
*********************

2023年5月14日にも、猛烈なサイクロン「モカ」が上陸。西部ラカイン州などが大きな被害を受け、500人以上が死亡したと報じられていましたが、国連の支援などを制限、避難民に救援物資を届けようとしたASEAN代表団を乗せた車列が銃撃されるなど、支援活動はうまく進みませんでした。

そうした“前歴”を踏まえてのことでしょうか、今回は“異例”の国際社会への支援要請を行っています。

*****ミャンマー軍政、台風被害で国際社会に異例の支援要請 32万人避難****
ミャンマーで台風による洪水被害が拡大し、軍事政権が国際社会に支援を求める異例の事態になっている。

軍政によると、今月上旬に東南アジアを襲った台風により、国内で少なくとも113人が死亡し、32万人が避難しているという。軍政はこれまで外部の介入を嫌ってきたが、抵抗勢力との戦闘の長期化で疲弊し、支援に頼らざるをえない状況とみられる。

国営メディアは14日、ミンアウンフライン最高司令官が「救助や物資の支援を受けるため、外国と連絡を取る必要がある」と述べたと報じた。

東南アジアとの関係強化を進めるインド政府は15日、ミャンマーに医薬品など10トンの緊急支援物資を送ったと発表。インドのジャイシャンカル外相は同日、X(ツイッター)にミャンマーやベトナム、ラオスに送る物資を軍艦などに積み込む写真を公開した。

ミャンマーでは2023年5月にも大型サイクロンによる甚大な被害が出た。当時、国連などが支援を申し出たが、国軍は軍の関与なしに物資を市民に届けられないように制限。そのため、復興が難航し、国連人権高等弁務官が国軍を非難した経緯がある。

21年にクーデターで全権を掌握した国軍は国際社会から孤立し、内戦の長期化で社会や経済の混乱を招いてきた。国内避難民は既に300万人を超えたとされ、災害が国民生活に追い打ちをかけている。【9月16日 毎日】
*********************

17日発表では死者は226人に。

“独立系地元メディア「イラワジ」によると、16日現在で30万人以上が避難している。国軍のほかミャンマーの民主派勢力が樹立した「国民統一政府(NUG)」なども17日、食料や医薬品など物資の提供を国連などに呼びかけた。”【9月17日 読売】

支援物資は戦闘によって阻害されることなく速やかに被災地に届くことを願います。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロヒンギャ  隔離された難民キャンプ 「ナフ川大虐殺」はAA? バングラから国軍への強制徴用

2024-09-11 22:43:12 | ミャンマー

(【9月11日 増保千尋氏(ジャーナリスト) Newsweek】 後出の記事本文を読まないと理解できない複雑な関係ですが、ARSAにしてもRSOにしても、そのご立派な名称に関わらず、ロヒンギャ住民を代表する組織ではなく単なる犯罪者集団に過ぎないと考えれば、多少は理解しやすくなります。)

【ミャンマー国内のロヒンギャ難民キャンプ 周囲から隔離され、仕事も許されず、国際支援も届かない】
ミャンマー西部ラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャの窮状については、このブログでも再三取り上げてきましたが、一口にロヒンギャと言っても、現在の居住地によって生活環境・状況は異なります。

まず、ミャンマー国内の難民キャンプで、国際支援も届かず“隔離状態”に置かれているロヒンギャ。

****【大規模迫害から7年】長期の隔離で「表情がない…」 ロヒンギャを撮り続ける新畑克也氏 クーデター後のミャンマー 世界に黙殺される悲劇****
ミャンマーの少数派イスラム教徒のロヒンギャ。2017年8月25日に大規模な迫害を受けてから7年が経つ。主な居住エリアのミャンマー西部ラカイン州に隣接するバングラデシュ南東部コックスバザール県には100万人規模の難民キャンプが形成されている。(中略)

「いるはずのムスリムがいない」賑わう市場で感じた違和感
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェ(Sittwe)。人々の日常が垣間見える中央市場の賑わいに心が弾む。

しかしこの町に来る度にいつも大きな気がかりが付きまとう。「仏教国」の印象が強いミャンマーだが、多民族、多宗教国家でもあり最大都市ヤンゴンやマンダレー、モウラミャインやパテインなど大抵の町でイスラム教徒を見かける。

だがムスリムが大多数のバングラデシュに近い地域にも関わらず、この町に本来居るはずのムスリムの姿を見かけない。(中略)

シットウェ市街に「アウンミンガラー地区」と呼ばれる区画がある。ここには2012年から約4,000人のロヒンギャ住民がバリケードで隔離され、移動や外部との接触が禁じられている。(中略)

シットウェ市街から北西に7〜8キロ離れた場所に在る国内避難民キャンプ。2012年のラカイン族住民との衝突から「避難させる」という建前で13万人のロヒンギャ住民が劣悪な環境に隔離・収容されている。中でもこのタントゥレキャンプではWFP等の国際支援も届かず、人々は別のキャンプに物乞いに行かなければ生きていけない状況にあった。ロヒンギャは世界で最もタフな人たちだと思っているが、ここに居る人々はみな憔悴しきっていた。

「仕事をすることも許されていない」
今にも崩れそうなシェルターの前に座り込みうつむく男性。「ここでは仕事をすることも許されていない。1日中ここでこうしていることしかできないんだ」。

幼子を抱える若い母親も疲れ果て表情を失っていた。私が初めてロヒンギャに出逢ったミャウー郊外の村で暮らす人々は移動の制限や差別を受けていても、人々には喜怒哀楽があった。

ロヒンギャが隔離されている国内避難民キャンプ。狭く薄暗い小屋の中で若い女性たちが子供たちにコーランを読み聞かせていた。彼らにとって子どもたちの存在は唯一の希望なのかもしれない。

2012年からロヒンギャ住民が閉じ込められている国内避難民キャンプ。シェルターにはラカイン州政府が管理するためか数字が書かれていた。国内避難民キャンプとは名ばかりの強制収容所だ。

キャンプ内ではお腹を大きく腫らした子どもを多く見かけた。後日写真を医師の知り合いに見てもらうと「寄生虫が原因」とのこと。虫下しを飲めば治るが生活用水の質の悪さや教育がないために、すぐ寄生虫に感染してしまうだろうと。

国際支援のあるバングラデシュの難民キャンプではプロパンガスが配給されているが、ここでは薪もなく牛の糞を竹に巻き付け乾燥させた効率悪く非衛生的な燃料を使わざるを得ない環境だった。

シットウェ郊外のダーペイン国内避難民キャンプ。無邪気な笑顔で歓迎してくれたロヒンギャの少年たち。彼らは町から完全に切り離された世界で生きている。

今年はラカイン族の武装組織アラカン軍(AA)との紛争で劣勢に立たされている国軍がこの地域のロヒンギャ住民を強制的に徴兵し(国籍や市民権が剥奪されているにも関わらず)「人間の盾」として戦地に送られているとの報告もある。彼らが国際社会に助けを求めようとしても、その声はミャンマー国内で根深い差別や無関心でかき消されてしまう。(後略)【8月24日 テレ朝news】
*******************

【バングラデシュとの国境で起きた「ナフ川大虐殺」はアラカン軍(AA)によるものか 差別の重層構造】
次にラカイン州におけるラカイン族武装組織アラカン軍(AA)とミャンマー国軍の戦闘に巻き込まれるロヒンギャ。

****ミャンマーの少数民族ロヒンギャ、ドローン攻撃で200人死亡か****
内戦が続くミャンマーの西部ラカイン州で先週、戦闘から逃れようとする少数民族ロヒンギャの集団がドローン(無人機)攻撃を受け、多数の死者が出たことが分かった。

CNNが位置情報を確認したSNS上の動画には、バングラデシュ国境を流れるナフ川の岸に数十人の遺体が散乱した場面が映っている。

同州マウンドーの西の端に位置する川岸の町で撮影された動画の中では、男性が血痕の残る泥道を歩きながらすすり泣いている。砂や草の上、水たまりなどに男女、子どもらの遺体が横たわり、近くで衣類や家財が一部水につかっている。

目撃者や活動家らがCNNに語ったところによると、ドローン攻撃があったのは5日。ロヒンギャの家族らは川を渡ってバングラデシュ側へ逃げようと、川岸で待機していた。

未確認情報によると、死者は約200人に上った。2021年の軍事クーデター以降続く内戦で民間人が受けた攻撃のなかでも、最大規模の死者数とみられる。

目撃者らはCNNに、国軍と敵対する少数民族の武装勢力「アラカン軍(AA)」による攻撃との見方を示した。マウンドー周辺では数週間前からAAと国軍の戦闘が激化している。

AAは「死者が出たのはわれわれの支配する地域ではない」とする声明を出し、関与を否定した。マウンドー付近で国軍を攻撃し、住民には6月から避難を呼び掛けてきたことを認めたうえで、ロヒンギャ避難民を殺害しているのは国軍側だと主張した。

これに対して国軍は国営メディアを通し、「AAのテロリスト」がラカイン州の町や村を重火器とドローンで攻撃したり、村人たちを拷問したりしていると非難した。

ミャンマーでは軍政による通信、立ち入り制限のため、国内の動向を外部から正確に把握することはほぼ不可能だ。
現地の活動家やメディアによると、ナフ川沿いの村では5日以降も攻撃が続き、AAによる住民殺害、性暴力、民家への放火、強制的な徴兵が横行しているという。

米航空宇宙局(NASA)の遠隔探査データは、マウンドーの中心街で6日未明に火災が起きたことを示している。衛星画像でもマウンドーのロヒンギャ居住地区に火災の跡がみられる。

国際医療組織「国境なき医師団(MSF)」は9日、ロヒンギャ難民キャンプのあるバングラデシュ側のコックスバザールで、ミャンマー側から川を渡ったロヒンギャ39人が迫撃砲や銃撃などで負ったけがを、MSFのチームが手当てしたと発表した。負傷者は4割以上が女性や子どもで、船に乗ろうとする人々が攻撃されるのを見たなどと話したという。

国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)」は最新の報告書で、ミャンマー国軍とAAの双方がこの数カ月、ラカイン州でロヒンギャなどの民間人に対する超法規的殺人や放火を繰り返し、「民族浄化」への懸念が強まっていると指摘した。【8月13日 CNN】
*********************

仏教徒「アラカン軍(AA)」も国軍も責任を否定していますが、状況的にはAAによる攻撃の可能性が高く、ドローン使用はAAのラカイン州での作戦の特徴であるともされています。

かつ、オペレーターによって操作された“ドローン攻撃”ということは、自分たちがどういう状況にある誰を攻撃しているのか分かった上での意図的な殺戮だった可能性が高いと言えます。(もちろん、こうした状況に追い込んだ国軍も同罪ではありますが)

従来から、ミャンマー多数派から差別される仏教徒少数民族ラカイン族(アラカン)、そのラカイン族から敵視されるイスラム教徒ロヒンギャという差別の重層構造があります。

****ナフ川大虐殺についてのロヒンギャ団体による共同声明****
(中略)AAとその指導部がこのような攻撃を繰り返し、ロヒンギャに対するヘイトスピーチを使用していることは、ラカイン州の民族的、宗教的マイノリティであるロヒンギャを標的にしようという意図の存在をよりはっきりと示している。

これらの事実を総合すると、自分たちが何を標的にし、その標的がどこにいたかをAAが知っていたという私たちの確信は強まる。

ナフ川大虐殺の置かれる文脈
今回の攻撃は、最近AAがマウンドーの人口密集地区やロヒンギャの村々で行い、数人のロヒンギャ民間人死者を出した、類似するドローン攻撃のパターンを踏襲している。

アラカン軍がマウンドーの町に向けて前進するにつれ、ミャンマー軍は人口密集地域に増援部隊を送った。戦闘が激化することを恐れ、逃げ場を失ったロヒンギャ民間人は、ナフ川の河岸に逃げた。8月5日の攻撃の犠牲者たちは、比較的安全であるバングラデシュに行くために川を渡る方法を見つけようとしていたところ、アラカン軍によって残忍に殺された。

マウンドー郡にいるロヒンギャの民間人は、アラカン軍とミャンマー軍との激しい戦闘によって身動きがとれない状態である。彼らは国際的な保護と人道支援を緊急に必要としている。

アラカン軍は、ブティダウン郡の支配権をめぐって残忍な作戦を行い、その作戦が5月18日に終わってからは隣のマウンドー郡を支配下に置くことに狙いを定めた。この作戦の最中、アラカン軍はロヒンギャの家屋や村に焼き討ちをかけて2,000人以上のロヒンギャを殺しただけでなく、ロヒンギャ民間人に対してその他の重大な人権侵害を行った。

アラカン軍は、火事が起きたのはミャンマー軍による空爆のせいだとしようとしたが、この主張に対しては広く異議が唱えられている。アラカン軍は8月5日の攻撃についても関与を否定している。

数十年にわたり、ロヒンギャはすでにミャンマー軍から様々な形の暴力と抑圧を受けて苦しんできた。最近、ミャンマー軍はアラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)、アラカン・ロヒンギャ軍(ARA)、ロヒンギャ連帯機構(RSO)など、自らの代理となる犯罪者集団を使ってバングラデシュのキャンプにいるロヒンギャ難民を拉致し、マウンドーでミャンマー軍とともに戦わせている。

これらは犯罪者集団である。私たちはこれらの集団を強く非難し、それらの集団がロヒンギャのコミュニティの代表ではなく、ロヒンギャのコミュニティのために行動しているのでもないことを明言する。私たちは最大限強い言葉で彼らの行動を非難する。

署名団体 28のロヒンギャ団体
共同声明にはアラカン軍(AA)、ロヒンギャのコミュニティ、国民統一政府(NUG)やミャンマー市民社会等、バングラデシュ政府、そして国際社会に対する要求や要望も含まれている。

国際社会に対しては、国連安保理で緊急会合を開くこと、アラカン軍とミャンマー軍に民間人への攻撃を直ちに止めるよう圧力をかけること、難民を受け入れているバングラディシュに際する援助などが求められている。(中略)

共同声明を出したのは英国ビルマ・ロヒンギャ団体ほか28のロヒンギャ団体で、このほかに115の団体(公開59、非公開56)が連帯を表明した。【9月6日 メコン・ウォッチ】
*******************

【バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプから難民をミャンマー国軍が強制徴用 その実行部隊はロヒンギャ組織という奇妙な構造 バングラデシュ当局も関与か】
一方、国軍側もロヒンギャを強制徴用してAAとの戦闘に送り込んでいます。そうしたことがあるため、上記のようなAAによるロヒンギャ虐殺もまた起こるとも考えられます。

さらにバングラデシュ側に避難した難民までもが強制徴兵されて戦場で「人間の盾」にされています。しかもそうした強制徴用をバングラデシュ当局は許容し、その実行部隊となっているのがロヒンギャの実質的犯罪者集団であるという奇妙な形になっています。

****ミャンマー内戦に巻き込まれ、強制徴兵までされるロヒンギャの惨****
(中略)
戦場に送り込まれる難民
もう1つロヒンギャを苦しめているのが、強制徴兵だ。ミャンマーでは軍事クーデター以降、民主派や少数民族武装勢力が各地でミャンマー軍と戦っている。この戦線拡大による兵力不足を補うため、ミャンマー軍は今年2月に徴兵制開始を発表した。

ラカイン州でも、州内はおろかバングラデシュの難民キャンプでロヒンギャを無理やり徴兵し、前線に動員。AAの兵士は「ミャンマー軍に加担している」という理由でロヒンギャの村を襲っているという。

ロヒンギャへの強制徴兵の実行部隊となっているのが前出のARSA(武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」 17年8月のARSAの武装蜂起を機に、ミャンマー軍やラカイン人の強硬派の仏教徒らが、ロヒンギャの村で大規模な武力弾圧を行い、75万人以上のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れるジェノサイドが起きました)と「ロヒンギャ連帯機構(RSO)」だ。

ARSAは13年頃、サウジアラビア育ちのロヒンギャによって設立され、当初は市民権の回復などを目標に掲げていた。他方、RSOは80年代に結成されたロヒンギャの古参の武装組織だ。

90年代初頭にミャンマー軍の掃討作戦に遭った後、最近までその活動が話題に上ることはほぼなかったが、昨年からバングラデシュの難民キャンプ内でARSAと権力抗争をしている。

両組織はお互いのメンバーだけでなく、キャンプ内のリーダーや教育者などを殺害したり、身代金目当てに難民を誘拐したりといった事件を相次いで起こしており、現在の実態は「ならず者」に近い。ロヒンギャも自分たちを代表する組織とはつゆほどにも思っておらず、むしろ恐れている。

これまで市民権を認めてこなかったロヒンギャを、なぜ自軍の兵としてミャンマー軍は使うのか。敵であるはずのミャンマー軍のために働くARSAやRSOの動きも不可解だ。だがそもそも彼らに道義心はなく、これまでも正当性より実利を取る戦略を取ってきたと、ミャンマー軍内部の事情に詳しい京都大学の中西嘉宏准教授(比較政治学)は指摘する。

「ラカイン州の戦闘で劣勢に立つミャンマー軍は、(これまで差別の対象にしてきた)ロヒンギャを取り込まなければいけないほど、深刻な兵力不足に陥っているとみられる。一方、ARSAとRSOは『敵(ラカイン人のAA)の敵(ミャンマー軍)は味方』の論理によって軍に協力しているのかもしれないが、金銭や武器など何らかの利益を受け取っている可能性もある」

ARSAとRSOの派閥争いによって、もともと悪かったキャンプ内の治安はさらに悪化している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によれば、23年に誘拐や殺人といった深刻な事件でロヒンギャ難民が保護を必要としたケースは1857件と、前年の2.8倍に増えた。これに加え、ARSA、RSOによる強制徴兵が、難民をさらなる恐怖に陥れている。(中略)

権力者に利用される弱者
ラカイン州ではミャンマー軍に動員されたARSAや難民に加え、AAとの戦闘でロヒンギャ、ラカインの市民双方に犠牲が出ている。AAの発表によれば、5月の時点で、彼らの勢力圏内だけでも50万人以上の国内避難民が発生している。12年と17年を彷彿とさせるような軍事的緊張も高まっている。

中西准教授によれば、少数民族間の潜在的な対立を利用することで、軍による支配を固定化するこうした戦略は、ミャンマーで繰り返し用いられてきたという。

ラカイン州は国内の最貧困地域の1つで、ラカイン人もまた長年、軍の迫害や搾取に苦しんできた。現在のラカイン州で起きているロヒンギャとラカイン人の抗争は既得権益を維持したい権力者に政治利用され、その犠牲となってきた「弱者同士の争い」でもあると、中西准教授は指摘する。

強制徴兵には、バングラデシュ当局の関与も示唆される。地元ジャーナリストは、「バングラデシュ当局は難民キャンプの治安悪化を把握しながら、意図的に野放しにしている。

もともとバングラデシュはロヒンギャの帰還の道筋が見えないことにじれていた。徴兵でロヒンギャがミャンマーに連れて行かれるのを、止める理由はないのだろう」と語る。

バングラデシュとミャンマーの国境付近に潜伏するRSOの司令官(32)に話を聞くと、彼もまたバングラデシュ当局から「支援を受けている」と認めた。

17年の危機の発生当初から、ロヒンギャ難民キャンプを調査する立教大学の日下部尚徳准教授(国際協力論)は、「バングラデシュ警察は、昨年RSOの一部を抱き込んでARSAの幹部を摘発する作戦を行っており、現場レベルで間接的に強制徴兵に関与している可能性が指摘されている。

RSOに比べ、国外とのつながりが強いARSAを当局は警戒している。キャンプがイスラム過激派の根城になることを懸念しているのだろう」と分析する。(後略)【9月11日 増保千尋氏(ジャーナリスト) Newsweek】
*******************

バングラデシュの政変で暫定政権の首席顧問となったムハマド・ユヌス氏は、8月18日、初の主要政策演説を行い、ロヒンギャ難民への支援を継続する意向を示しています。

難問が山積するなかでのロヒンギャへの言及は、この問題を忘れてはいないという意味では歓迎すべきことですが、重要なのは今後の「支援」の中身です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  物価上昇の責任を業者に押し付ける軍事政権 軍政への抵抗を続ける人々も

2024-07-20 23:13:36 | ミャンマー

(6月19日、ミャンマー・ヤンゴンで、アウンサンスーチー氏を意味する「SUU」と書かれたバナーを掲げる女性=OCTOPUS提供、女性の左上は同グループのマーク【6月24日 東京】)

【コメの高値販売で法人起訴 物価上昇の責任を業者に押し付ける軍事政権】
国軍と少数民族武装組織及び民主派武装勢力との戦闘が続くミャンマーで、流通大手「イオン」の現地法人で働く日本人が軍事政権によって拘束・起訴されています。

*****ミャンマー軍事政権、拘束中のイオングループの邦人男性を起訴…公定価格より高値でコメ販売の疑い****
在ミャンマー日本大使館によると、ミャンマー軍事政権に拘束されていた流通大手「イオン」の現地法人「イオンオレンジ」の商品本部長・笠松洋さん(53)が(7月)11日、当局に起訴された。当局が定めた価格より高くコメを販売し、「生活必需品・サービス法」に違反した罪に問われている。

有罪判決を受けた場合、最長で禁錮3年や50万チャット(約2万円)以下の罰金が科される。笠松さんは最大都市ヤンゴンの警察署で拘束されているが、健康状態に問題はないという。

笠松さんは6月30日、複数のミャンマー人とともに拘束された。ミャンマーでは2021年のクーデター以降、コメなどの価格が高騰し、国軍は販売業者の責任と主張し、関係者を相次いで拘束している。【7月11日 読売】
******************

政情不安が続く軍事政権下のミャンマーではコメを含めて物価上昇が進行し、市民生活は困窮しています。

****クーデターから3年 現地で何が?コメ販売価格で…ミャンマーで日本人拘束****
日本人の観光地としては、あまりメジャーではないものの、300以上の日系企業が進出しているミャンマー。ミャンマーで9店舗を展開するイオングループのスーパーが、軍事政権の強硬策に巻き込まれています。

ミャンマーの国営テレビが、当局が、小売店の幹部4人を拘束したと伝えました。その中に日本人の名前がありました。(中略)拘束の理由は、米を規定より高い価格で販売したというものでした。

2021年2月、ミャンマーでは、国軍が総選挙に不正があったと主張し、クーデターを引き起こしました。民主化指導者・アウンサンスーチー氏は拘束され、軍が全権を握っています。

市民は、抵抗を示してきましたが、軍はこれを力で弾圧。国内の各地で民主派勢力や少数民族に対する攻撃を加えてきました。多くの人々が家を追われ、国内避難民は300万人を超えたといわれています。

政情不安に陥ったミャンマーの人々が、いま直面しているのが、物価の高騰です。

タクシードライバー
「ガソリンの値上がりで、お客さんが少なくなって、乗車賃の値上がりで、お客さんが少なくなって。そのため、収入が少なくなりました。収入は少ないのに、買うべきものは、すべて高い」

最大都市・ヤンゴンに住む日本人が撮影したスーパーマーケットの映像。卵は1パック240円とあります。以前は、130円ほどだったそうです。

ヤンゴン在住(50代)
「(物価は)1年間で2〜3倍に上がっていると思います。急に上がった感じはあります。お米も、昔の2倍以上、値上がりしていますね。お米が美味しいのは、北の地方のシャンという、いま戦闘が激しいエリアで。美味しいし、人気があったんですが、いまは置いていない」

クーデターと国民への弾圧が引き金を引いた物価の高騰。軍事政権は、その責任を業者に押し付けています。

国家統治評議会
「国家が国内経済の安定と発展のために努力するなか、一部の業者が、経済の混乱を引き起こそうと、国内市場で米の価格を引き上げている」

先月25日のヤンゴン市内の市場。長い行列ができました。米の業界団体が、安い価格で販売するとして、開いた市場です。現地メディアによりますと、この数日前、業界団体のトップらが、米の価格統制に従わなかったとして、拘束されていました。さらに、当局は、米が規定の価格で販売されているか、警官同席で現地調査を行っています。

こうした圧力や身柄の拘束で、強制的に価格を下げさせようとする軍事政権。国民の不満をそらすためなのか、こんなプロパガンダ映像を公開しています。

ミャンマー情報省 「私たち低所得層が、低価格で購入できるように、関係者や政府などがお米、約2キロを3000チャット(約150円)で販売してくれていることに感謝しています」

ある米業者は、業界関係者の相次ぐ拘束について、こう語りました。
米業者 「問題解決にならないと思います。すべての物価が上がっているので、米も上がることになります。彼らも生産や人件費のために上げなければならないですし。元締の業者が値上げし、全体的に物価が高くなってきているから、ここだけを統制して拘束するのは正しくはないと思います」【7月2日 テレ朝news】
********************

軍事政権は、物価上昇の責任を業者に押し付けていますが、力ずくの価格統制・供給強要では事態は改善しないのはベネズエラ・マドゥロ政権など多くの国の実例が示しているところです。

****拘束されたイオンの日本人幹部は“有罪”の可能性が… 「米」をめぐるミャンマー軍事政権の無茶苦茶****
(中略)軍事政権が、笠松さんをふくむ小売店の関係者11人を拘束したのは、6月30日の夜だった。理由は、当局が指示した米の価格より50%〜70%高く販売したというものだ。

現地では6月4日に両替商や金販売業者35人が逮捕されてもいる。彼らはいまだ釈放されていないことから、笠松さんの今後が心配されている。

「米」価格をめぐる流れ
軍事政権は6月24日に米の販売適正価格を通告した。高騰する価格を抑えるためだ。等級によって異なるが、価格は1キロ2,200チャット(約110円)〜3,800チャット(約190円)。

政権が“適正”とするこの価格は卸売価格を割り込むため、これを守ると店は赤字になってしまう。そのため、一時、米は売り場から消えた。しかし2日後には、商品棚に米は戻った。価格は従来どおりの価格、つまり政権の“適正”価格より高い値札がついていた。

ミャンマーの小売店は、日本同様、チェーン店が多い。最も大きいのは地元の「シティマートグループ」だ。イオンは以前は同店に次ぐ勢いを誇っていたが、2021年のクーデター後は、国軍に近いといわれる「ワンストップグループ」が躍進し、2位から転落したという。

各小売店が米の販売を再開したのは、ワンストップグループの店舗が米の販売を再開したことで、これに続いたことが大きい。赤信号も皆で渡れば……というわけだ。しかし政権は、先述のとおり6月30日に小売店の関係者11人を拘束。そこにはワンストップグループの幹部も含まれていた。

その後も米は売られている。価格は1キロ2,225チャットほど、政権の“適正”価格を守り、各店は赤字販売を強いられている。しかし市場の小さな店では“適正”価格の値札をつけつつ、実際に買うときには倍近い実勢価格でこっそり売っているという。政権の強硬策は空振りに終わったのか。

戦況が左右する「物価」
背景にあるのは、物価の高騰だ。ヤンゴン在住の邦人は「まず今年に入ってから物価が上がり、去年の2倍以上になっていました。4月の水かけ祭り(ティンジャン)以降、また倍になり……去年と比べると4倍です」という。

6月以降、政権は物価の引き下げに躍起になっているかに見える。高騰を招いている要因のひとつが、地方での戦闘だ。クーデター以降、国軍は民主派や反発する少数民族を武力で弾圧しつづけてきた。しかし昨年の10月27日に、地方の3つの少数民族軍が一斉に蜂起した。そこに民主派の軍事組織も加わり、多くのエリアで国軍は劣勢に立たされている。

なかでもタイとの国境に広がるカレン州の戦況が、最も物価高騰に影響を与えている。ミャンマーに流通する物資は、タイからの輸入に頼る割合が高い。その物資が大幅に減ったうえ、荷には通行料などが加算され、物価の高騰を招いているのだ。

一時はタイ国境の街・ミャーワディも、反国軍派が占領するまで国軍が追い込まれたが、その後、反国軍派の一部の寝返りや国軍兵士の増員などがあり、現況は混沌としている。国境からヤンゴンにつながる道は、さまざまなグループが支配し、それぞれが通行料を徴収する事態となっている。

「従業員の給与を上げた」ことで拘束も…
物価高騰に対し、軍事政権は権力で抑え込むという、経済状況を無視した政策に出ているというわけだ。

経済環境の悪化は、ミャンマーの通貨チャットの暴落を招く。3月には1ドル3,700チャット(約180円)ほどだったが、6月に入ると1ドル5,000チャット(約245円)まで下がった。

人々はチャットをドルや金に替えようとしたが、これに軍事政権は「暴落の原因は両替業者や金の販売業者」として35人を逮捕した。

政権トップのミンアウンラインは6月10日に行われた国家統治評議会の場で「恥知らずの業者のせいでチャットが暴落した」と逮捕の理由を語った。この一件で、ミャンマーの金相場は崩壊したといわれる。

また6月13日には「従業員の給与を上げた」ことを理由に会社の社長を拘束した。物価の上昇は給与の上昇が招いている、という論理である。

7月に入っても、政権は圧力を弱めるどころか、強める一方だ。7月2日には、不動産融資を限度額以上貸し付けた銀行の行政処分を行った。不動産価格の高騰は、資金を貸した銀行側にあるという発想である。

ヤンゴンの日本人社会からはこんな声も聞こえてくる。
「こんな状況なら、早く選挙をやって、国軍トップのミンアウンラインを大統領にしたほうがいい。そうすれば経済の専門家を政権に入れることができる。いまは軍人ばかり。あまりに無知、子供です。これで物価の高騰が収まると思っているから怖い」

しかしミャンマー人は「あえて物価を高騰させている」という見方だ。
「国軍の兵士不足が深刻な今、暗に“国軍の兵士になれば金が入る”ようにしているのです。なぜなら、米を実勢価格で売る小売業者からは賄賂が渡されますし、銀行への行政処分だって、国軍系の銀行は含まれていない。物価高騰に苦しむ国民を利用して国軍を守る図式です」

米の流通では大きな混乱は起きていない。市民に聞くと、地方の実家や親戚から米を送ってもらってしのいでいるという。市民はすでに軍事政権の経済政策を見限っているようだ。ミャンマーの経済は機能不全に向かっているということか。【7月19日 デイリー新潮】
**************

クーデター以降先送りされてきた選挙については、ミン・アウン・フライン総司令官は6月15日、「今年10月に国勢調査を行い、複数政党による民主的な総選挙を来年に実施する」と、初めて実施時期に言及する形で発表しています。【6月16日 TBS NEWS DIGより】

ただ、戦闘が激化する情勢で実施できるか不透明ですし、仮に行われたとしても、民主派を排除した形式的な、軍支配を正当化するようなものになると思われます。

【軍の弾圧のもと、ヤンゴンで抗議活動を続けるグループも】
ヤンゴンなど都市部においては軍事政権の弾圧により軍政批判は徹底的に封じ込まれていますが、そうした中でも抗議を続ける若者もいるようです。

****わずか数十秒、されど命懸けのデモ ミャンマー当局の目をかいくぐった若者グループが世界に伝えたいこと****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍が支配を固める最大都市ヤンゴンで、非暴力の抵抗を続ける若者たちがいる。当局の目をかいくぐり、ゲリラ的なデモを繰り返すグループ「OCTOPUS(オクトパス)」だ。

匿名で取材に応じたリーダーの男性は「海外の人たちには『ヤンゴンは平穏だ』とか『抵抗する人はいなくなった』と思ってほしくない」と訴えた。

◆アウンサンスーチー氏の誕生日に…
拘束が続く民主化指導者アウンサンスーチー氏の79回目の誕生日を迎えた6月19日。交流サイト(SNS)上に、ヤンゴンの道路沿いで、赤地にスーチー氏を表す「SUU」の文字とバラが描かれたバナー(旗)を掲げたマスク姿の女性の写真がアップされた。

国軍の支配下にあるヤンゴンではデモは徹底的に弾圧され、市民は自由に物を言えない状況が続く。特にスーチー氏の誕生日のような記念日は警備が一段と厳しくなるにもかかわらず、オクトパスはこの日、複数の場所でゲリラ的なデモを敢行した。デモの時間は数十秒だが、それでも命懸けだ。

◆1年かけて計画「民主主義をあきらめない」
オクトパスはクーデター直後の2021年2月末に設立された。8本の足を持つタコのように、世界中にネットワークを広げたいとの思いを込めて名付けたという。

現在のメンバーは計10人で、いずれも20代。誰かが捕まったときに芋づる式に逮捕されないよう、お互いに素性はほとんど知らない。これまでに14人が扇動罪などで逮捕され、ヤンゴンのインセイン刑務所などに収監されている。

この日のデモは1年かけて計画を練った。実の親も気付かないような変装をし、移動手段なども慎重に検討した。リーダーの男性は言う。「ヤンゴンではバラの花を持ったり、バナーを掲げたりしただけで逮捕される。罪を決めるのは軍だ。私たちは独裁者を受け入れず、民主主義をあきらめない」【6月24日 東京】
********************

ヤンゴンでの抗議活動は戦場での戦いより危険ですし、孤独です。

【武装闘争に身を投じる10代女性も】
一方、武装闘争に身を投じる若者は少なくありません。

****夢断たれ入隊 ミャンマー17歳女性兵士の覚悟…軍事政権に“抵抗”民主派勢力として戦場へ…『every.16時特集』*****
(中略)国軍との戦闘に志願する若者が増えている“抵抗の拠点”を取材すると、17歳女性を含む約90人が戦場に立つために軍事訓練を受けていました。

■軍事政権下ミャンマー 内戦の“転換点”
3年前(2021年)、突如クーデターを起こし、国の実権を握ったミャンマー軍。民主化の象徴、アウン・サン・スー・チー氏を拘束し、市民への弾圧を続けています。これに対し、今、10代の若者たちが、軍事政権を打倒しようと、民主派勢力の兵士に。

民主派勢力 女性隊員(17) 「戦場に行くとしても怖くはありません。国民のために命を犠牲にする覚悟があります」(中略)

■クーデターに反発市民“抵抗の拠点”
ミャンマー北西部のチン州。山奥に見えてきたのは、民主派勢力の1つ「チン民族防衛隊」の司令部です。クーデターのあと、国軍に反発する市民らが結成しました。建物に入ると…(中略) 飾られていたのは50人の遺影。中には、20歳に満たない少年の写真も。それでも、戦場に立とうとする若者が増えています。

司令部で行われる3か月間の軍事訓練。女性の姿もありました。ひと月前に入隊したクリスティーナさん、17歳。自宅のある村は国軍の空爆を受け、一家はふるさとを追われました。

■民主派抵抗勢力に入隊したワケ
(中略)

――なぜ入隊した?
ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17) 「みんな幸せになろう、国を発展させようとしていた時に国軍はクーデターを起こしました。彼らは全てを壊し、みんなの自由を奪ったのです」(中略)

■内戦の最前線 異例の事態
クーデターから3年――。 国軍はいま、民主派勢力と各地で蜂起した少数民族との共闘に押され、かつてないほどの劣勢に立たされています。

これまでに5000以上あった軍事拠点のうち、半数近くを失ったとみられます。国軍からは兵士の投降や脱走が相次ぐ異例の事態に。(中略)

■兵力不足で国軍“徴兵制” に…
追い込まれた国軍は今年、兵力の不足を補うため、18歳以上の男性の徴兵を開始。これに反発する若者らが次々と国外に脱出し、隣国タイでは拘束されるミャンマー人が後を絶ちません。

2024年3月 タイに密入国した学生(20代) 「国軍の徴兵制は、同じ国民と戦って殺すためのものです。そんなことはしたくないし、軍隊にも入りたくありません」(中略)

■戦闘に志願 “夢”断たれ入隊
あのクリスティーナさんにも夢がありました。

ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17) 「私は高校を卒業して、教師になると信じていました。でも、入学の時に政治の状況が変わってしまいました」

学校の先生になって、子どもたちの成長を見守りたい。その夢はクーデターで断たれました。銃を手にするのは、生まれて初めてです。

ひと月前に入隊 クリスティーナさん(17) 「戦場に行くとしても怖くはありません。ただ死ぬより、国民のために命を落とす方がいい。 犠牲になる価値はあります」(中略)

民主派の幹部は10代の若者を戦場に送ることをどう考えているのでしょうか。

――若者を戦わせることについて 
チン民族防衛隊 幹部 「革命のリーダーである大人たちにとって、これは答えのない問題です。現状では、国軍を倒す革命は成し遂げなければならない」

出口の見えない泥沼のミャンマー内戦。国際社会の関心が薄れる中で、犠牲者の数はいまも増え続けています。
(7月17日『news every.』16時特集より)【7月20日 日テレNEWS】
********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  少数民族武装勢力と国軍の戦闘のなかで、イスラム教徒ロヒンギャを取り巻く環境が悪化

2024-06-24 21:52:29 | ミャンマー

(【6月3日 時事】)

【「アラカン軍」がロヒンギャの町を放火?】
少数民族武装勢力と国軍の戦闘が続くミャンマーでは、イスラム教少数民族ロヒンギャがともに仏教徒である少数民族武装勢力・国軍双方から迫害・利用される状況になっていることは、4月15日ブログ“ミャンマー国軍  「アラカン軍」との戦いにロヒンギャを「盾」として利用 両者の対立を利用”でも取り上げました。

********************
現在の“主戦場”のひとつとなっているのが西部ラカイン州における少数民族武装勢力「アラカン軍」と国軍の戦いです。

アラカン軍(AA)は、(ミャンマー全体では少数民族ですが)ラカイン州海岸部で多数派である仏教徒ラカイン族(アラカン族)の主権回復を闘争目的とする武装組織です。

そのラカイン州は、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャが多く暮らす地域で、国軍とその協力者により民族浄化的な迫害が行われる地域でもあります。

ラカイン族(アラカン族)は多数派ビルマ族からは少数派として差別を受ける一方で、更に劣後する状況にあるイスラム教徒ロヒンギャに対してはこれを差別する側でもあります。ラカイン族とロヒンギャの間には対立・憎しみがあります。

こうした差別される者が、更に弱い立場の者を差別する差別の重層構造は珍しくはありませんが、ラカイン州の状況もそのひとつです。

戦闘で劣勢にたたされ、兵員不足を補うために徴兵実施に踏み出した国軍は、この差別の構造を利用して、無国籍状態に置かれているロヒンギャを兵員に取り込み、アラカン軍との戦いにおける使い捨ての盾のように利用しているとの情報があります。【4月15日ブログ】
***********************

その西部ラカイン州で、国軍と戦う「アラカン軍(AA)」がロヒンギャが暮らすバングラデシュとの国境近くの町に火を放ち、最大で20万人が家を追われる事態となっているという報道が先月ありました。

****「町が丸ごと燃えている」、武装勢力の放火で家追われるロヒンギャ ミャンマー内戦の前線地域****
ミャンマー西部で国軍と敵対する少数民族の武装勢力「アラカン軍(AA)」がバングラデシュとの国境近くの町に火を放ち、先週末以降最大で20万人が家を追われる事態となっている。

これらの住民は国内で長く迫害されてきたイスラム系少数民族のロヒンギャで、火の手を逃れ、水田に隠れて何日も過ごすことを余儀なくされている。

(中略)軍事政権と戦うAAは西部ラカイン州で、ロヒンギャが多く暮らすバングラデシュ国境近くの町ブティダウンを制圧したと宣言。活動家や住民の親族の報告によると、AAの兵士らは町内のロヒンギャの家屋に火を放ち、略奪を行っているという。家を失った住民らは電話を没収され、国外の家族と連絡を取ろうとすれば殺すと脅されているという。

同州では軍事政権により電話やインターネットによる通信が停止されており、外部から現地住民に連絡を取ることはほぼ不可能。ジャーナリストや国際社会の監視団体も現地で何が起きているのかを正確に把握することはほとんどできなくなっている。

ロヒンギャの人権団体などによれば、AAによる放火を受けて約20万人が自宅からの避難を余儀なくされ、女性や子どもを含む多くの人々は水田に身を潜めて数夜を過ごしている。食料や医薬品もない状況で、未確認ながら負傷者がいるとの報告も寄せられているという。

CNNはこうした報告を独自に検証できていないが、衛星画像によってブティダウンの中心部が18日午前に炎に包まれ、週末にかけて燃え続けたことが分かる。(中略)

ブティダウンの出身でロヒンギャ支援団体の共同創設者を務める活動家は「町が丸ごと燃えている」「無事な家屋はほとんど残っていない。ほんの数軒だけだ」と語った。

自分たちの国を持たないロヒンギャに対しては16年から17年にかけ、ミャンマー軍が残虐な軍事行動を展開。殺害やレイプ、放火が行われたとされ、現在ジェノサイド(集団殺害) に該当するとの疑いから国際司法裁判所の捜査対象となっている。

軍の「掃討作戦」を受けて数十万人がミャンマーを逃れ、現在世界最大とみられるバングラデシュの難民キャンプには推計100万人が暮らしている。

ミャンマーに残るロヒンギャの多くは差別的な扱いを受けており、移動や教育、医療の面で厳しい制限に直面する。

AAとミャンマー軍は、期限付き休戦が破られた昨年11月に戦闘を再開。前者はここ数カ月間、ラカイン州の占領地域を大幅に拡大していた。

現在同州では人道危機の懸念が高まっている。新たに避難を余儀なくされた人々は食料や清潔な水を入手することができなくなっているためだ。

前出の活動家は、住民に食料を届ける団体が一つもないと指摘。ミャンマー軍があらゆる経路を遮断しているとの見方を示した。また軍は住民を複数の村に閉じ込めて、そこから移動することも禁じているとした。【5月24日 CNN】
********************

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は5月24日、「アラカン軍(AA)」と国軍の双方がイスラム教徒少数民族ロヒンギャを迫害していると非難する声明を出しています。

****ロヒンギャ迫害、アラカン軍と国軍に責任****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は24日、ミャンマーの少数民族武装勢力「アラカン軍(AA)」と国軍の双方がイスラム教徒少数民族ロヒンギャを迫害していると非難する声明を出した。

民主派からは国軍の責任を問う声明が出ているが、アラカン軍が「完全占拠」したとする地域でも残虐行為が行われているとされる。

アラカン軍は西部ラカイン州内でバングラデシュに隣接する二つの郡区(ブティダウン、マウンドー)の制圧に向けて攻勢に出ている。国軍は今月中旬にブティダウンの町から撤退。多くのロヒンギャが住むマウンドーでも戦闘が激化している。

UNHCRは、両郡区を巡る攻防で多くの市民が避難を余儀なくされており、このうちロヒンギャ4万5,000人が保護を求めてバングラデシュ国境を流れる川まで押し寄せていると指摘した。ロヒンギャ数十万人が国境を超えてバングラデシュに逃れた2017年の人道危機の再来を想起させる状況で、同国に保護を要請している。

国軍が長年ロヒンギャを迫害してきたと追及しつつも、今回は「アラカン軍と国軍双方がロヒンギャを攻撃している」と指摘。ブティダウンの町では、国軍が撤退してアラカン軍が占拠を主張した後に焼き打ちが発生しているとされており、情報を精査しているという。

ブティダウンを逃れた市民からは、アラカン軍の兵士から虐待を受けたなどの証言が出ている。

ラカイン情勢を巡っては、軍政に対抗しようとする民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」が21日、国軍が民族間対立をあおっているなどと非難した。ただ、アラカン軍への言及がなく、X(旧ツイッター)上では「挙国一致政府は現場を知らない」などと疑問を呈する声が上がっている。

ミャンマーでは21年2月のクーデターで国軍が実権を掌握。以降は各地で民主派武装組織が生まれ、民族紛争も再燃した。昨年10月には、三つの少数民族武装勢力が北東部シャン州北部で国軍への一斉攻撃を開始し、国軍が劣勢に立たされている。【5月27日 NNA ASIA】
******************

【アラカン軍はロヒンギャ迫害を否定 国軍による分断工作と主張】
少数民族武装勢力「アラカン軍」は、ロヒンギャ迫害を否定し、国軍によるプロパガンダだと主張しています。

****司令官がロヒンギャ迫害を否定 ミャンマー武装勢力・アラカン軍 国連機関に反論「国軍が分裂を狙った」****
ミャンマー西部ラカイン州で国軍と戦う少数民族ラカイン族の武装勢力「アラカン軍(AA)」のトゥワンムラッナイン司令官が東京新聞のオンライン取材に応じた。

ともに仏教徒中心の国軍とAAが、同州でイスラム教徒少数民族ロヒンギャを「弾圧している」と国連機関などが懸念を強めている。トゥワンムラッナイン氏はそれを否定し、国軍側がラカイン族とロヒンギャを「宗教的に分裂させようとしている」と強調した。

◆「政治的だけでなく、宗教的にも分裂させようとしている」
2009年に結成されたAAは国内有数規模の武装勢力の一つで、トゥワンムラッナイン氏は「4万人近い兵士がいる」と説明している。同氏が海外メディアのインタビューに応じるのは異例だ。
 
トゥワンムラッナイン氏は「国軍は劣勢になると、イスラム教徒を徴兵した。AAとイスラム教徒の民兵を対立させた方が、国軍が生き延びられると考えたからだ。政治的だけでなく、宗教的にも分裂させようとしている」と主張した。

◆「国軍がイスラム過激派にも武器供与」
AAは、バングラデシュに隣接し、ロヒンギャが多く暮らすラカイン州北部のブティダウン、マウンドー両郡区で攻勢を強めており、5月18日にブティダウンを掌握したと発表した。

同氏は「ブティダウン、マウンドー両郡区をこれほど早く攻める計画はなかったが、国軍が『アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)』などのイスラム過激派にも武器を供与したので、作戦の実施を早めた」と明かした。AAはこれまでにラカイン州北部を中心に10以上の街を掌握した。

◆「私たちはやっていない」
一方、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、ブティダウンの街の大部分が焼失し、数万人の住民が避難を余儀なくされたと指摘。「AAと国軍の双方によるロヒンギャへの攻撃を記録した。空爆や、丸腰で逃げる村人への銃撃、斬首、失踪、民家の焼き打ちの報告を受けている」と糾弾している。

これに対しトゥワンムラッナイン氏は「私たちはやっていない」と否定した。故郷を追われたロヒンギャの中には「土地問題や政治的な動機からラカイン族を憎んでいる者もおり、AAの行動を自説の補強のために都合よく解釈する」と釈明。

「ブティダウンは(宗教的に)繊細な地域なので、事前に住民に軍事作戦を伝え、イスラム教徒行政官の助けを借りて避難を促した。彼らはそれを強制移住と決めつけ、まるで戦争犯罪をしているかのように描いた」と持論を展開した。【6月7日 東京】
***********************

“事前に住民に軍事作戦を伝え避難を促す”と“強制移住”・・・・混乱の戦場では“紙一重”というか、ほとんど同じことも想像できます。

【戦闘で悪化するロヒンギャを取り巻く環境】
アラカン軍が放火したのか、ロヒンギャを攻撃したのか・・・その実態はよくわかりませんが、戦闘で現地がこんらんするなかでロヒンギャへの迫害が強まっている状況が懸念されます。

****略奪や放火…強まるロヒンギャ迫害 ミャンマー戦闘のあおり受け****
内戦状態にあるミャンマーで、長年迫害されてきた少数派のイスラム教徒ロヒンギャを取り巻く環境が悪化の一途をたどっている。

西部ラカイン州では国軍と少数民族武装勢力「アラカン軍」の戦闘のあおりを受け、命を落としたり家を追われたりするロヒンギャ住民が急増。国連などは、国軍とアラカン軍の双方から弾圧されているとして、暴力の即時停止を求める。

アラカン軍はラカイン州北部で攻勢を強め、5月18日に要衝のブティダウンを掌握したと発表した。今月中旬、バングラデシュとの国境に近いマウンドーにも戦火が広がり、アラカン軍は住民に退避を促した。ただ、国軍の空爆などを受けて、多くの人が取り残されているという。

現地からの情報は限られ詳しい状況は不明だ。欧州を拠点とする支援団体「自由ロヒンギャ連合」によると、ブティダウン周辺では住民がアラカン軍に連れ去られて殺害され、略奪や放火も相次いだという。避難民がドローンで攻撃されたとの情報もあり、「人道に対する罪であり、戦争犯罪だ」と訴える。

一方、アラカン軍は、国軍による攻撃だと主張する。地元メディアによると、今月上旬にも国軍兵士が村を襲撃し、住民76人を殺害したと非難した。国軍は関与を否定している。

国連人権高等弁務官事務所はブティダウンの大部分が焼失し、5月24日時点で約4000人の避難民が発生したと指摘。双方からの攻撃を確認し「空爆や非武装の避難民への銃撃、斬首、失踪、住宅の焼き打ちがあった」としている。

国内有数の武装勢力であるアラカン軍は、2021年のクーデター前から自治拡大を求めて国軍と衝突を繰り返してきた。仏教徒のラカイン族を中心とし、ロヒンギャとの確執も根深い。国軍がこうした確執を利用し、ロヒンギャの被害に関する情報を操作しているとの見方もある。

ロヒンギャは長らく「不法移民」とみなされて国籍を与えられず、偏見にさらされてきた。17年にはロヒンギャの武装勢力が警察や国軍の施設を襲撃し、国軍による掃討作戦で約70万人が難民となった。迫害を恐れて国境を越える人は後を絶たず、バングラデシュの難民キャンプで約100万人が暮らす。

民主派など抵抗勢力の猛攻で兵力不足に陥った国軍は、今年2月に徴兵制の実施を発表した。ラカイン州でもロヒンギャの若者を強制動員しているとされる。英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は、約5000人が国軍側に加わったと推計。ロヒンギャの武装勢力が国軍に協力して難民キャンプで集めた人も含まれ、アラカン軍との宗教対立をあおる構図となっている。

ミャンマー、バングラデシュ両政府は難民の帰還で合意しているが、実現しないままクーデターが起きた。混乱によって帰還はさらに遠のき、キャンプの治安悪化や将来への不安からインドネシアなどに密航する人が相次ぎ、現地住民との間で摩擦も起きている。

自由ロヒンギャ連合の共同創設者で、20年以上亡命生活を続けるネイサンルイン氏は「最近の状況は17年当時よりもひどい。移動を制限されて逃げることもできない住民が取り残されている」とアラカン軍を糾弾。一方で「難民の帰還には民政復帰が必要だ」と述べ、日本政府に対し国軍への経済制裁を求めた。【6月24日 毎日】
*******************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー国軍  「アラカン軍」との戦いにロヒンギャを「盾」として利用 両者の対立を利用

2024-04-15 23:04:06 | ミャンマー

(バングラデシュ領に逃げ、投降したミャンマー国軍の兵士。国境管理が強まり、難民としてロヒンギャが避難することの妨げになっている(現地SNSから)【4月15日 デイリー新潮】

【重層的な差別の構図 ラカイン族とロヒンギャの対立を利用する国軍】
もとより戦争は「殺し合い」ですから、そこに「正義」とか「公正さ」を求める筋合いのものではない・・・とは思うものの、それでも「えげつないな・・・」と感じてしまうことも。

ミャンマー情勢については1週間まえの4月8日ブログ“ミャンマー  首都でも国境地帯でも厳しい状況が報じられる国軍”で取り上げたばかりですが、現在の“主戦場”のひとつとなっているのが西部ラカイン州における少数民族武装勢力「アラカン軍」と国軍の戦いです。

アラカン軍(AA)は、(ミャンマー全体では少数民族ですが)ラカイン州海岸部で多数派である仏教徒ラカイン族(アラカン族)の主権回復を闘争目的とする武装組織です。

そのラカイン州は、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャが多く暮らす地域で、国軍とその協力者により民族浄化的な迫害が行われる地域でもあります。

ラカイン族(アラカン族)は多数派ビルマ族からは少数派として差別を受ける一方で、更に劣後する状況にあるイスラム教徒ロヒンギャに対してはこれを差別する側でもあります。ラカイン族とロヒンギャの間には対立・憎しみがあります。

こうした差別される者が、更に弱い立場の者を差別する差別の重層構造は珍しくはありませんが、ラカイン州の状況もそのひとつです。

戦闘で劣勢にたたされ、兵員不足を補うために徴兵実施に踏み出した国軍は、この差別の構造を利用して、無国籍状態に置かれているロヒンギャを兵員に取り込み、アラカン軍との戦いにおける使い捨ての盾のように利用しているとの情報があります。

****ミャンマー兵にされるロヒンギャの悲劇… 嘘つき「国軍」の酷すぎる所業とは****
2021年に国軍が起こしたクーデターによって、緊張状態がつづくミャンマー。今、国軍は、国籍がないロヒンギャを兵士にして、戦闘の前線に送りはじめている。

ミャンマー西部のラカイン州に暮らすロヒンギャは50万人とも60万人ともいわれている。

ラカイン州を中心に暮らすベンガル系イスラム教徒のロヒンギャは、国軍による迫害から逃れるために、2017年に多くの人々が隣国バングラデシュに避難した。

いまでも100万人を超える人々が、バングラデシュ南部の難民キャンプに収容されている。彼らが置かれている現況は「2017年のときよりひどい」といわれる。

利用される対立の構図
今回のクーデターでは、国民の多くが国軍に反発し、少数民族の武装組織も反旗を翻した。ミャンマーは半ば内戦状態に陥っているが、とくに戦闘が激しいのはラカイン州で、地元の少数民族軍であるアラカン軍と国軍が衝突している。ロヒンギャはその戦闘の盾のように使われている可能性が高い。

ラカイン州の民族地図は錯綜している。土地問題などをめぐり、ラカイン族とロヒンギャは長く対立してきた。その両派を、ビルマ族を中心にしたミャンマー国軍が武力で抑え込む構図ができあがっていた。

アラカン軍との戦闘で劣勢に立たされている国軍の兵力不足は深刻で、それを補う目的で、国軍はロヒンギャを戦闘に駆り立てはじめている。ラカイン族とロヒンギャの対立を利用しようとしているわけだ。

現地は電話、ネットなどの通信環境が遮断されている。強制的に国軍兵士に仕立てられたロヒンギャの数の把握は難しいが、少なくとも1,000人、1万人を超えているという人もいる。

国籍、弔慰金も「嘘」
国軍はロヒンギャに対し、国軍の兵士になれば国籍を与えるといって勧誘していると,もいわれる。しかし、在日ビルマロヒンギャ協会のアドバイザー、アウンティンさん(55)は、「真っ赤な嘘。国籍をもらったというロヒンギャはひとりもいない」と語る。

犠牲者は増えている。3月初旬には、ラカイン州の州都シットウェ近くで100人を超えるロヒンギャが連行され、国軍の基地に送られた。

それから1週間もたたない3月13日、97人の遺体がロヒンギャの元へ届けられた。国軍の船に乗せられ、前線に向かう途中でアラカン軍の襲撃を受けたと説明された。国軍は遺族に100万チャット(約7万円)と米2袋を渡すと通知したという。

あまりに少ないが、これにも前出のアウンティンさんは憤りを隠せない。「これも国軍の嘘。遺族の誰ももらっていませんよ」

さらに3月14日には、国軍基地内で7人のロヒンギャが死亡した。国軍は訓練中に地雷が爆発したと説明していた。しかしその後、基地から逃げようとしたロヒンギャを国軍が殺害したことがわかってきた。

国境管理が厳重に
ラカイン州ではアラカン軍の攻勢がつづいている。ほぼ半分はアラカン軍の支配エリアになったという。毎日のように、「アラカン軍がミンビアにある国軍基地を占領」といった情報が入る。国軍と対立してきたラカイン人の意気はあがる。

しかしこの戦況も、ロヒンギャを追い込めることになっている。アラカン軍に追われた国軍兵士は、隣国のインドとバングラデシュに越境し、投降するケースが後をたたない。

結果、インドとバングラデシュは国境管理をより強めている。ロヒンギャは難民としてバングラデシュに向かうことが難しくなってきているのだ。

ロヒンギャはガザ地区のパレスチナ人のようにラカイン州に閉じ込められ、国軍の暴挙におびえている。【4月15日 下川裕治氏 デイリー新潮】
********************

国軍は「国籍のない者は徴兵していない」としていますが、夜中に国軍が村に来て徴兵に適した若者を探し出し、30人以上を連れていった・・・といったロヒンギャ住民の証言なども報じられています。

イギリスに拠点を置く人権団体「ビルマ・ロヒンギャ協会」は2月28日の声明で、「ロヒンギャは国軍に『人間の盾』にされ、結果的にアラカン軍(AA)の攻撃の標的にされている」と主張しています。

【苦戦が続く国軍 貧困が深刻化する経済危機】
戦況については、国軍の劣勢が続いているようです。南東部カイン州では国境貿易の要衝が少数民族武装勢力の手に落ちています。

****少数民族武装勢力が“国境貿易の要衝”にある軍拠点占拠と発表 ミャンマー****
ミャンマー南東部の少数民族武装勢力は11日、国境貿易の要衝ミャワディにある軍の拠点を占拠したと発表しました。地元メディアは、首都の空軍基地も複数の砲撃を受けたと報じていて、軍の支配力が低下しています。

ミャンマー南東部カイン州の少数民族武装勢力「カレン民族同盟」は、ミャワディにある軍の最後の拠点を占拠し、武器を押収したと発表しました。

ミャワディをめぐっては、軍が今月、隣国のタイ政府に対し、タイ側に逃れた軍関係者を帰国させるために特別チャーター便の運航許可を求める事態となっていました。

また、地元メディアは11日、首都ネピドーにある空軍基地が複数の砲撃を受け、死傷者が出たと報じました。ネピドーの軍事施設は今月4日にも無人機で攻撃を受けています。

ミャンマーでは、去年10月に少数民族武装勢力が一斉蜂起して以降、軍は各地で拠点を奪われるなど支配力が低下しています。【4月11日 日テレNEWS】
*********************

国軍兵士・関係者が国境を超えて逃げ込んでいるタイではセター首が7日、ミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、今こそ協議を開始する好機との見方を示しています。

****ミャンマー紛争、タイは中立維持 避難民受け入れの用意=外相****
タイのパーンプリー外相は9日、ミャンマーの紛争でタイは中立を維持しているとし、混乱によって住居を追われた最大10万人の人々を受け入れる用意があると表明した。

ミャンマーの紛争激化を協議する閣議に先立ち、対立する両勢力に和平協議に参加するよう促した。

また、セター首相はこの日、「ミャンマー情勢はタイにとって極めて重要だ」とソーシャルメディアXに投稿し、政府は平和と安定のためにあらゆる関係者の協力を推進する用意があると述べた。

セター氏はこのほど行われたロイターとのインタビューで、2021年のクーデターで政権を掌握したミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、協議を開始する好機と述べていた。【4月9日 ロイター】
******************

内戦の混乱のなか、市民生活は困窮しています。

****ミャンマー貧困率、50%に急増 国連報告、経済危機続く****
国連開発計画(UNDP)は11日、ミャンマーの経済状況に関する報告書を公表し、2017年に24.8%だった貧困率が23年には49.7%に急増したと明らかにした。

21年2月の国軍によるクーデター以降、危機が続いていると指摘。「中間層が消えつつある」として年間推定40億ドル(約6100億円)の支援が必要だと各国に呼びかけた。

報告書は約1万3千世帯への調査をまとめた。貧困を抜け出して安定した収入を得られているのは、人口の25%に満たないと指摘。多くの家庭で医療費や教育費などを削減して日々の生活をしのいでいると分析した。【4月11日 共同】
********************

この一点をもってしても国軍による統治は失敗していると言え、すみやかに政権の座から去るべきでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  首都でも国境地帯でも厳しい状況が報じられる国軍

2024-04-08 22:21:15 | ミャンマー

(【3月31日 日テレNEWS】 軍楽隊を戦闘に軍の歓迎式典に向かう新兵・・・のようですが、詳細は不明)

【徴兵手続き開始 逃げる若者】
ミャンマーでは少数民族武装勢力及び民主派武装組織と国軍の戦闘が続いていますが、3月28日ブログ“ミャンマー 軍事政権崩壊の可能性も見えてきた今、行うべきこと 都市部市民生活の様相”でも取り上げたように、兵士の離脱・投降もあって兵員不足を補う徴兵制実施までに追い込まれている国軍側の苦境が報じられています。

****ミャンマー国軍が軍事パレード 権威誇示狙うも徴兵制導入で反発拡大*****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍は27日、首都ネピドーで「国軍記念日」の式典と軍事パレードを実施した。権威を誇示する狙いがあるが、国軍は少数民族武装勢力との戦闘で劣勢が続く。兵員不足のため、徴兵制導入を決定したことで不安が拡大しており、国軍の求心力は低下の一途をたどっている。

国軍記念日は、1945年に日本軍に対して蜂起した日を記念するもので国軍が最も重視する行事の1つ。恒例の軍事パレードは午前中に開催されていたが、今回は夕方となった。

国内では昨年10月に3つの武装勢力が、クーデターに反発する民主派に呼応し、国軍に攻勢を開始した。既に少なくとも500以上の国軍拠点を制圧。中国の仲介で北東部シャン州の一部で停戦が実現したもようだが、西部地域などで戦闘が継続している。

戦況悪化に窮する国軍は2月、4月以降に徴兵制を導入すると発表した。18歳以上の男女が対象で、拒否すれば禁錮刑などの罰則がある。

既に徴兵を嫌う若者の国外流出が始まっており、パスポート申請窓口に希望者が殺到し、女性2人が窒息死する事故も起きた。最大都市ヤンゴンの会社員の男性(29)は産経新聞の取材に「国軍支配を容認できない上、徴兵されることは耐えられない」と言及した。兵役を避けるため、隣国タイで就労できないか考えているという。

強引に政権を奪取した国軍への支持は乏しく、民間団体が今月発表したミャンマー国民への意識調査(約2900人対象)によると、回答者の80%が民主化指導者のアウンサンスーチー氏を支持しているとしたのに対し、国軍トップのミンアウンフライン総司令官への支持は4%にとどまった。徴兵制に関しては「紛争を減らす」とした回答は1%で、7割以上が「激化させる」と回答した。【3月27日 産経】
*************************

****国軍パレード、戦車現れず ミャンマー、戦力低下か****
ミャンマー軍事政権は27日、首都ネピドーで国軍記念日の軍事パレードを実施した。軍政トップのミンアウンフライン総司令官が出席したが、近年のパレードで登場していた戦車やミサイルは確認されなかった。国軍は昨年10月下旬から少数民族武装勢力の猛攻を受け、戦力低下が指摘されている。(後略)【3月27日 共同】
********************

“ミンアウンフライン総司令官への支持は4%%”・・・・つまり、ほとんどの国民が(おそらくは兵士の多くも)軍事政権崩壊を願っている状況では、戦闘継続はますます難しくなるでしょう。

以前も書いたように、かつてのアフガニスタン政権のように、国民の支持を得られない政権はあっけなく崩壊することもあります。

国軍は2月10日に徴兵制の開始を発表し、18歳以上の国民に年齢の上限を設けたうえで、毎月5000人を招集する計画を明らかにしていましたが、その徴兵の手続きが始まっています。

「水かけ祭り」後の今月17日(ミャンマーの正月)以降と見られていましたが、国内の混乱を受けて前倒しされたようです。

ただどうでしょうか・・・政権を支持していない人々を無理やり兵士に仕立てても、あまり期待できないようにも思いますが。場合によっては武器をもったまま投降し、今度は銃口が国軍側に向けられることも・・・。

****ミャンマーで徴兵手続き開始、別の町や海外へ逃げる若者…「貧しくパスポート申し込めない」声も****
国軍によるクーデターから3年が経過したミャンマーで、18歳以上の国民を対象にした徴兵の手続きが始まった。少数民族武装勢力などとの戦闘で劣勢の国軍は徴兵で兵力を補いたい考えだ。

対象年齢の若者らは、故郷から出て別の町で隠れて暮らしたり、少数民族武装勢力の支配地域や海外に逃れたりして混乱が広がっている。

最大都市ヤンゴン郊外の集落では3月下旬、対象年齢の住民が住む家を地元当局者が巡回し始めた。当局者は親たちに、子供の徴兵に応じるかどうか意向を確認する書類へのサインを求めた。

対象年齢の息子2人と暮らす女性(58)は「拒否すれば息子たちが処罰される」と恐れ、同意したという。「貧しくて、息子たちは国外に逃れたくてもパスポートを申し込むことさえできない。子供たちが兵役に行ってしまったら、自分は生きていけない」と涙を流した。

国軍は2月10日、徴兵を始める方針を発表した。対象は原則として18〜35歳の男性と18〜27歳の女性で、対象年齢の人口は1400万人以上に上る。兵役は2〜3年間に及び、月5000人を徴兵する計画だ。

独立系地元メディア「イラワジ」によると、3月29日にはヤンゴンを含む一部地域で、最初の徴兵対象者が軍の訓練施設に集められた。国営メディアは首都ネピドーで同日、184人の対象者が集められた様子を伝えた。国軍は地区ごとに徴兵を進め、くじ引きなどで人選していると報じられている。

兵役から逃れようと地元を出て、別の町で身を隠す若者らが相次いでいる。中西部の村で農業をしていた男性(33)は3月中旬、家を出てヤンゴン郊外の集落に逃れた。1泊3000チャット(約200円)ほどの簡易宿泊所で過ごす。

人目に付かないように食料の買い出し以外は外出せず、働くこともできない。古里の自宅には、生まれたばかりの娘と妻がいる。「所持金が尽きるまで隠れるつもりだ。お金がないから国外に出られず、正直言ってどうしたらいいか分からない」と語った。

若者らの一部は少数民族支配地域に逃れ、武装勢力に合流している。

海外脱出を目指す動きも続き、ヤンゴン市内のパスポート発給事務所には連日、大勢の人たちが申請に訪れる。海外就労の仲介会社を経営する男性によると、正規ルートだとパスポートの申請は半年待ちの状態だ。日本円で10万円ほどの手数料を取って、パスポートの早期発給を仲介するブローカーも多いという。

仲介会社の経営者は「お金のある人は当局者へ賄賂を渡したり、ブローカーを利用したりできるが、貧困層はどうすることもできず、家から逃げるしかない」と実態を打ち明けた。

混乱が広がる中でも、国軍のミン・アウン・フライン最高司令官は27日の国軍記念日の演説で「国家の平和と安定のために徴兵の実施が必要だ」と述べ、計画を推し進める考えを強調した。【4月1日 読売】
********************

【首都の軍施設がドローン攻撃を受ける】
3月27日の首都ネピドーでの「国軍記念日」軍事パレードに戦車・ミサイルが出てこなかったのは、首都防衛に兵力を向けているためとも言われていますが、その首都ネピドーの軍の本部とアラー空軍基地が民主派武装組織によるドローン攻撃を受ける事態に。

****ミャンマー首都の軍事施設を無人機で攻撃、反政府組織が発表****
ミャンマーの民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」は4日、首都ネピドーにある2カ所の軍事目標を無人機(ドローン)で攻撃したと発表した。(中略)

NUGは国軍施設2カ所に対し組織的なドローン攻撃を行ったとする声明を発表した。使用されたドローンや武器、標的が被害を受けたかどうかなどの詳細は明らかにしていない。

「ネピドーに対してドローン攻撃を同時に実行した。テロリスト軍の本部とアラー空軍基地の両方を標的とした。暫定報告では死傷者が出たようだ」と説明した。

ネピドーにあるNUGの武装組織「国民防衛隊」の報道官は、NUGの国防省の指示の下で攻撃を行ったと述べた。詳細には言及しなかった。

2つの非公式親軍メディアは、ドローンは撃墜され死傷者は出なかったと伝えた。

NPニュースは政府関係者の話として、ドローンは基地に到達しなかったが爆発が起こり、滑走路の一部に若干の被害をもたらしたと伝えた。親軍のテレグラムチャンネルは7機のドローンが撃墜されたとしている。

ニュースサイト「Mizzima」は16機のドローンが軍事基地の攻撃に、13機が空軍基地の攻撃に使われたと伝えた。

ニュースサイト「イラワジ」によると、ドローンを操作したとされるグループの報道官は軍政指導者の住居も標的だったとし、「さらなる攻撃を行う計画がある」と述べた。【4月4日 ロイター】
***********************

国軍側は“東部からネピドーの空港などに向かって無人機が飛来したと発表。13機の撃墜を確認し、被害はなかったとしている。”【4月5日 共同】とのことですが、上記記事にあるように合計29機が攻撃に使われたということであれば、半数以上は撃墜できなかったということにもなります。

もちろん実質的被害は極めて軽微なものですが、首都の軍施設が攻撃を受けることの体制側の心理的影響や国民の軍へのイメージに大きな影響がありそうです。

【タイ国境で戦闘激化 タイ側に逃れた国軍兵士をチャーター機で救出】
事態に、隣国タイも警戒を強めています。

****ミャンマー民主派勢力など“ドローン”で軍に攻勢  戦火拡大で隣国のタイ軍も警戒強める****
クーデターにより軍が実権を握るミャンマーでは、民主派の抵抗勢力がドローン=無人機による攻勢を強めていて、隣国タイの軍は国境のパトロール強化を行うなど警戒感が高まっています。

ミャンマー軍事政権に抵抗する民主派組織は4日、傘下の武装勢力が首都ネピドーにある軍の本部や総司令官の自宅などを標的におよそ30機のドローンで攻撃したと発表。具体的な被害は明らかになっていませんが、民主派組織の幹部は「ドローンによって、どこにでも攻撃できるようになった」と強調しています。

一方、独立系メディアによりますと、タイとの国境に近いミャンマー東部カイン州でも武装勢力が軍の基地などをドローンで攻撃したということです。

これに対し、ミャンマー軍も空爆で激しく応戦していることから、タイ軍は5日、国境地帯で緊急のパトロールを実施するなど、警戒感を強めています。【4月6日 TBSNEWSDIG】
*******************

そのタイ国境では・・・・少数民族武装勢力の攻撃でタイ側に逃れた国軍兵士がチャーター機で救出されたとか。

****ミャンマー国境で戦闘激化  タイの空港から兵士らを救出?ミャンマー軍がチャーター機を派遣****
ミャンマー東部の国境地帯では、少数民族武装勢力が軍の基地を占拠するなど攻勢を強めていて、軍事政権は、隣国タイの空港に臨時の航空機を派遣する異例の手段で兵士らの救出に動いています。

ミャンマーの独立系メディアによりますと、タイとの国境に近い東部ミャワディでは、少数民族や民主派の武装勢力がミャンマー軍に激しい攻撃を仕掛け、6日、基地を占拠しました。

少数民族側は、ミャンマー軍の兵士や家族ら600人あまりが投降したとしています。

一方、タイメディアなどによりますと、ミャンマー軍事政権は、ミャワディの兵士や市民らを救出しようと、タイ側の空港に臨時の航空機を派遣したと伝えました。

タイ政府も兵士らの送還を承認しており、7日夜に到着したチャーター機が20人ほどを乗せ、すでに出発したということです。

送還のための航空機は、10日までピストンで運航するとみられています。【4月8日 TBS NEWS DIG】
**********************

実際のところの戦況はよくわかりませんが、首都の軍施設が攻撃を受け、国境では国外に逃れた兵士をチャーター機で救出・・・いよいよ国軍側が追い詰められているような感じもします。

ただ、こうした情報はごく一部の切り取りですので、全体像はまた別物かも。何度も言うように、実際のところはよくわかりません。今まで以上に国軍側に芳しくないのは事実でしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする