孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  大統領就任式を前に帰国表明の野党候補 圧力を強めるマドゥロ政権

2025-01-08 23:05:23 | ラテンアメリカ

(2025年1月7日、首都カラカスの兵士(車上)と民兵のメンバー(手前)。当局は首都カラカスで治安部隊の大規模な配備を実施しています。【1月8日 L'Opinion】)

【盗まれた選挙 居座るマドゥロ大統領】
昨年7月28日にベネズエラで行われた大統領選挙では、数々の失政、国民の不満にもかかわらず強権支配を続けるマドゥロ大統領が「勝利」したとして、選挙管理委員会や司法もこれを支持しています。

しかし、状況から判断する限り、選挙結果捏造疑惑は限りなくクロに近いように思えます。

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バングラデシュ・ハシナ政権のようにあっけなく崩壊する政権もあれば、一方でどれだけ国内外の批判にさらせれようが、強権的に、選挙結果を捏造しても居座る政権もあります。そのひとつが南米ベネズエラのマドゥロ大統領。

ベネズエラは長年、石油収入に依存し、原油価格が下落した後もばらまき政策を続けた結果、財政が破綻しました。一時は天文学的数字のハイパーインフレーションで市民生活は満足に食事もとれないほどに崩壊。その後も野党弾圧などを理由にアメリカから経済制裁を受け、外貨不足とインフレが常態化しています。

(中略)ベネズエラ大統領選挙(7月28日)では、マドゥロ大統領が選挙での敗北を認めるというサプライズは起きず、想定されたように結果を捏造して居座る構えを見せています。

マドゥロ政権の影響下にある選挙管理委員会は、全国から集めた投票結果を集計する際、野党側の立会人を排除して集計を進め、その結果、マドゥロ大統領の得票率は51・95%、無名だった野党候補ゴンサレス氏は43・18%と「マドゥロ勝利」を発表しています。

一方、野党側は各地で公表される票を積み上げてゴンサレス氏が7割を得票したと発表していますが、この数字は事前の世論調査や当日の出口調査とおおよそ一致するもので、選挙結果は政権側によって捏造されたものと思われます。【8月11日ブログより再録】
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野党側は、本来大統領選挙に出馬する予定だったものの、政権側に立候補を阻まれた“鉄の女”マチャド氏を戦闘に、抗議活動を展開。

****ベネズエラの〝鉄の女〟、「マドゥロ大統領勝利」抗議デモの先頭に 大統領選から1カ月****
南米ベネズエラの大統領選から1カ月が経過した28日、野党側は、不正集計の疑いが浮上した選挙管理当局による「マドゥロ大統領勝利」を認定した最高裁などに抗議する集会を各地で開いた。

「鉄の女」の異名を持つ指導者マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)が先頭に立ち、独裁色を強めるマドゥロ政権に退陣を迫ったが、政権交代の実現は難しくなっている。

マチャド氏は、マドゥロ氏が大統領に就任した2013年、「自由」を掲げて発足した政治団体「ベンテ・ベネズエラ」の創設メンバー。昨秋の予備選で約9割の票を得て野党統一候補となった。

しかし、マドゥロ氏の影響下にある最高裁は「汚職に関与した」としてマチャド氏を公職から追放。マチャド氏は、自らの出馬を断念し、今年7月の本選では元外交官のゴンザレス氏の支援に奔走した。

マチャド氏は、大統領選の結果について、野党側が全国3万の電子投票機の8割超から回収した開票記録に基づき、得票率67%のゴンザレス氏が、同30%のマドゥロ氏に勝利したと訴える。28日は首都カラカスの抗議集会で、「世界がベネズエラの声を聞いている」と支持者に訴え、政権交代の実現を呼びかけた。

これに対し、治安当局は28日、マチャド氏と一緒に集会に参加した野党側の幹部ピリエリ氏を逮捕。既にマチャド氏の警護責任者や弁護士も逮捕しており、マチャド氏への圧力を強めている。マチャド氏自身も、軍の離反を呼びかけたとして、ゴンザレス氏とともに捜査対象となっている。【2024年8月29日 産経】
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マチャド氏に変わって急遽出馬した野党候補のゴンサレス氏は、当局から逮捕状が出され、スペインへの出国を余儀なくされています。

****ベネズエラ野党候補、スペインに出国 扇動容疑で逮捕状****
7月のベネズエラ大統領選に出馬した野党統一候補ゴンサレス氏がスペインに向け出国した。両国の当局者が7日、明らかにした。

ベネズエラ検察は2日、文書偽造や扇動などの容疑でゴンサレス氏の逮捕状を取っていた。マドゥロ政権が大統領選後の野党弾圧をさらに強めたことを意味する。

大統領選では選挙管理当局と最高裁がマドゥロ大統領の勝利を認定したが、野党が公表した集計ではゴンサレス氏が圧勝していた。(後略)【2024年9月8日 ロイター】
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マドゥロ政権と対立するアメリカは、政権側に野党勢力との対話を呼び掛けましたが、目立った成果は出ていません。

****ベネズエラ大統領に野党勢力との対話呼びかけ=米国務長官****
ブリンケン米国務長官は26日、ベネズエラのマドゥロ大統領に野党勢力との対話に応じるよう呼びかけ、米国はこうしたプロセスを支援する用意があると述べた。(中略)

ブリンケン氏は「われわれは、ベネズエラ国民の人権を守り、ベネズエラの民主的な未来の回復に向けた同国主導の包括的な取り組みを実現すべくここに集まっている。マドゥロ氏は野党勢力との直接対話に応じ、平和裏に民主主義を回復すべきだ。米国とそのパートナーはこうしたプロセスを全面的に支援する準備ができている」と述べた。

米国とアルゼンチンは国連総会が開かれているニューヨークでベネズエラ問題について話し合う会合を開き、31カ国から参加があった。しかし主要国は出席を見送り、ブリンケン氏の対話呼びかけを支持する共同声明にも調印しなかった。【2024年9月27日 ロイター】
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【野党候補ゴンザレス氏 就任式を前に帰国を表明 アメリカ・中南米各国を歴訪】
こうした経緯を経て、今月10日に大統領就任式が行われますが、出国したままの野党候補ゴンザレス氏は自分が大統領に就任すると動きを活発化させています。

*****ベネズエラで「大統領就任」=野党候補ゴンサレス氏が意欲****
7月のベネズエラ大統領選で主要野党の統一候補として出馬し、勝利したと訴えているゴンサレス氏は、10日までにスペイン紙パイスとのインタビューで、来年1月10日の大統領就任のため亡命先のスペインから母国に戻る考えを明らかにした。副大統領には選挙で支援を受けた野党指導者のマチャド氏を任命すると語った。
 
ゴンサレス氏は「700万人以上に選ばれた職務に就くため、ベネズエラに戻る決意だ」と表明した。同氏にはベネズエラ当局から逮捕状が出ているが、帰国しても逮捕されることはないと自信を示した。
 
大統領選を巡っては現職マドゥロ大統領が3選を宣言した。しかし、野党や米欧諸国などが求める詳細な開票結果の公表を拒否し、国内で反体制派を弾圧した。先進7カ国(G7)外相は先月、ゴンサレス氏の勝利を支持した。【2024年12月11日 時事】
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“帰国しても逮捕されることはないと自信を示した”という根拠は不明です。現状では帰国すれば逮捕されることが想定されます。

いずれにしてもゴンザレス氏は、支援を求めて中南米各国歴訪を開始しました。

****マドゥロ大統領3期目前に支援要請 ベネズエラ野党候補が中南米各国歴訪を開始****
昨年7月のベネズエラ大統領選で野党候補だったゴンサレス氏が4日、独裁色を強めるマドゥロ大統領の3期目就任式を10日に控える中、マドゥロ政権に批判的な中南米各国に支援を求めて歴訪を開始した。

最初の訪問国アルゼンチンで4日にミレイ大統領と会談後、米国も訪れてバイデン大統領に面会する方向で調整を進めていると明かした。

大統領選では、政権の影響下にある選挙管理当局が詳細な開票結果を示さずマドゥロ氏の勝利を発表。国際的な批判を集めている。

野党は独自集計でゴンサレス氏が勝利したと主張し、欧米も支持。ゴンサレス氏は政権の圧力から逃れるため選挙後にスペインに亡命したが、10日の就任式に合わせベネズエラに戻る意向を示している。その前にアルゼンチンやパナマ、米国などを訪問して支援を取り付ける狙い。

ベネズエラではゴンサレス氏に逮捕状が出され、政権は情報を提供した人に10万ドル(約1570万円)を支払うとしている。ゴンサレス氏は帰国すれば逮捕される可能性が高い。【1月5日 産経】
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アメリカではバイデン大統領と会談、バイデン大統領はゴンザレス氏を「次期大統領」と呼んで歓迎。

****亡命野党候補と会談=ベネズエラ政権の責任追及―バイデン米大統領****
バイデン米大統領は6日、2024年7月のベネズエラ大統領選の野党統一候補で、マドゥロ政権の弾圧によりスペインに亡命したゴンサレス氏とホワイトハウスで会談した。バイデン氏はゴンサレス氏をベネズエラの「次期大統領」と呼んで歓迎し、支持する姿勢を示した。

大統領選を巡っては、現職マドゥロ氏が3選を一方的に宣言。米国を含む先進7カ国(G7)は、過半数の得票を得たとしてゴンサレス氏の勝利を支持すると表明していた。【1月7日 時事】 
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アメリカはマドゥロ政権に対する新たな制裁を導入するとの情報も。

****米、ベネズエラに新たな制裁発動へ 8日にも=アクシオス記者****
米政府は今週、ベネズエラのマドゥロ政権に対する新たな制裁を導入する見通し。米ニュースサイト、アクシオスの記者が7日、米当局者2人の情報としてXに投稿した。

米国務省が8日に第1弾の制裁を発表する可能性があるという。【1月8日 ロイター】
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ただ、これ以上アメリカが制裁を導入してもマドゥロ大統領が「じゃ、私やめます」とはならないですし、また、どうやってゴンザレス氏がベネズエラに帰国するのかも不明です。

ベネズエラ政府は、バイデン大統領がベネズエラの民主主義を侵害する「暴力的なプロジェクト」を支援するのは「グロテスク」だとする声明を出しています。
一方、南米パラグアイがゴンサレス氏を「当選者」と認め、これに反発するベネズエラはパラグアイと断交する事態に。

****ベネズエラ、パラグアイと断交=野党ゴンサレス氏は米大統領と会談****
ベネズエラ政府は6日、パラグアイとの断交を決めたと発表した。パラグアイが、昨年7月のベネズエラ大統領選で野党統一候補だったゴンサレス氏を「当選者」と認めたことに反発した。

選挙では独裁色を強めるマドゥロ大統領が勝利を宣言したが、詳細な開票結果を公表しておらず、ゴンサレス氏も当選を主張。マドゥロ政権が3期目に入る今月10日を前に、緊張が高まっている。
 
パラグアイのペニャ大統領は5日、ゴンサレス氏とオンラインで会談。6日の声明で同氏を次期大統領と認定した上で、ベネズエラ外交団に「48時間以内の国外退去」を命じた。

これに対し、ベネズエラは「国際法や内政不干渉の原則を無視している」と猛反発。関係を断ち、外交官を直ちに引き揚げると表明した。

支持を求めて米州を歴訪しているゴンサレス氏はスペインに亡命しているが、10日の就任式に合わせて帰国し、大統領に就く意向を示している。6日には米ワシントンでバイデン大統領と会談。「(ゴンサレス氏勝利が)平和的な民主統治への復帰を通じて尊重されるべきだ」との見解で一致した。【1月7日 時事】 
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【就任式を前に圧力を強める政権側】
また、詳細は不明ですが、ゴンサレス氏は帰国の意向を表明してから数日後に義理の息子が誘拐されたと明らかにしています。

****ベネズエラ野党指導者、義理の息子誘拐されたと指摘-帰国意向表明後****
昨年7月のベネズエラ大統領選で野党統一候補として出馬し、スペインに亡命したエドムンド・ゴンサレス氏は、7日に首都カラカスで義理の息子が誘拐されたと語った。帰国の意向を表明してから数日後だった。
  
(中略)同氏はX(旧ツイッター)への投稿で、子供を学校に送りに行くところだった義理の息子が「黒いフードをかぶった男らに捕まり」、車に乗せられたと指摘した。
 
首都では緊張が高まっている。政府は帰国すればゴンサレス氏を逮捕すると警告しているが、同氏は大統領に就任するため10日にベネズエラに戻ると表明。カベロ内相はゴンサレス氏拘束につながる情報に10万ドル(約1580万円)の懸賞金もかけた。(後略)【1月8日  Bloomberg】 
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ベネズエラでは野党勢力は、治安部隊が法律を尊重していないという立場から、逮捕に「誘拐」という言葉を常用していますので、民兵組織による拘束なのかも。

マドゥロ大統領は国家軍事警察計画を「発動」しましたが、当局は既に首都カラカスで治安部隊の大規模な配備を実施しています。【1月8日 L'Opinionより】

野党指導者のマチャド氏は、「政権の工作員が私の母の家を取り囲んだ」とXに投稿し、母親への嫌がらせを非難しています。【同上】

10日の大統領就任式を前にいろんな方面でざわつき始めています・・・・が、何度も繰り返すように、野党候補ゴンザレス氏が無事に帰国できる目途はたっておらず、マドゥロ大統領がこのまま3期目に入るというのが現実でしょうか。
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アルゼンチン  自由放任主義者のミレイ大統領の「壮大な実験」 物価・財政は改善 低所得層は生活苦

2024-12-25 23:34:39 | ラテンアメリカ

(【12月11日 日経】)

【自由こそが豊かで、平和で、繁栄した社会をもたらす 公的規制は間違いであり、不道徳】
下記は今年1月に開催されたダボス会議におけるアルゼンチン・ミレイ大統領のスピーチの冒頭部分抜粋です。
なお、下記で「集産主義」と訳されている言葉は、一般的に言うところの「社会主義的なもの」という風に理解していいかと思います。

****ハビエル・ミレイ大統領の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での演説****
私は今日、西側諸国が危機に瀕していることをお伝えするためにここに来ました。
西側の価値観を守るべき人々が、社会主義、ひいては貧困につながる世界観に取り込まれてしまっています。残念なことに、ここ数十年、他人を助けたいという崇高な意図と、特権的なカーストに属したいという欲望にかられ、西側世界の主要な指導者たちは、自由というモデルを放棄し、集産主義のさまざまなバージョンに走りました。

私はここで、集産主義的な試みは、世界の市民を苦しめている問題の解決策では決してなく、それどころかその原因であることをお伝えしたいのです。

私たちアルゼンチン人ほど、この2つの問題を証言できる人はいません。
私たちアルゼンチンは、1860年に自由のモデルを採用し、35年で世界をリードする大国になりました。
一方、私たちが集産主義を受け入れたこの100年間で、アルゼンチン人は世界140位に転落するほど組織的に貧困化しました。

しかし、この議論を始める前に、なぜ自由市場資本主義が世界の貧困をなくすための実行可能なシステムだというだけでなく、そうすることが道徳的に望ましいと思われる唯一のシステムなのかを裏付けるデータを検証することが重要でしょう。

経済発展の歴史を見てみると、0年から1800年頃までの間、世界の一人当たりGDPはほぼ一定でした。
人類の歴史を通して経済成長の推移をグラフにすると、ホッケーの棒の形をしたグラフになり、基準期間を通して一定の指数関数になります。

人類の一人当たりGDPは90%の期間において一定であり、19世紀以降は指数関数的な成長が始まりました。(中略)
1800年から現在までの一人当たりGDPを見ると、産業革命後、世界の一人当たりGDPは15倍以上に増加し、爆発的な富を生み出し、世界人口の90%が貧困から抜け出しました。

忘れてはならないのは、1800年には世界人口の95%近くが貧困にあえいでいたのに対し、パンデミック前の2020年には5%にまで減少していたことです。

結論は明白です。問題の原因であるどころか、経済システムとしての自由市場資本主義こそが、世界中の飢餓、貧困、困窮をなくす唯一の手段なのです。

経験的な証拠は議論の余地がありません。したがって、自由市場の資本主義の方が生産性の面で優れていることは間違いないため、左翼の教義は、資本主義を「不公正である」として道徳的な問題を攻撃してきました。

彼らは、資本主義は個人主義的だから悪く、集産主義は利他的で「社会正義」を目指すものだから良いというのです。

この概念は、ここ10年の間に第一世界(先進資本主義国)で流行となりましたが、私の国(アルゼンチン)では80年以上にわたって政治的言説の中に常にありました。

問題は、社会正義は公正でないだけでなく、一般的な福祉にも貢献しないということです。それどころか、暴力的であるがゆえに、本質的に不正義なのです。国家は税金によって賄われており、税金は強制的に徴収されるからです。それとも、税金を払わない選択肢もあるとでも言うのでしょうか?

税金が増えれば自由は減ります。つまり、国家は強制力によって財政を賄い、税負担が高ければ高いほど、強制は大きくなり自由は少なくなるのです。

社会正義を推進する人々は、経済全体がさまざまに分配できるケーキだ、という考えから出発します。
しかし、そのケーキは与えられるものではなく、カーズナー(※イスラエル・M・カーズナー。オーストリア学派の経済学者)の言う「発見の過程」で生み出される富なのです。

良い品質の製品を魅力的な価格で生産すれば、その企業は業績を上げ、さらに多くの製品を生産するでしょう。つまり市場とは、資本家が正しい方向を見つけながら進んでいく発見のプロセスなのです。

しかし、国家が資本家の成功に対して罰を与え、この発見のプロセスを阻害すれば、資本家のインセンティブを破壊することになります。その結果、資本家の生産量は減り、「ケーキ」は小さくなり、社会全体に不利益をもたらします。

集産主義は、こうした発見のプロセスを阻害し、発見されたものの利用を妨げます。それによって企業家の手を縛り、より良い商品を生産し、より良いサービスをより良い価格で提供することを不可能にしてしまいます。

世界人口の90%を極度の貧困から脱却させ、そのスピードもますます速くなっているだけでなく、公正で道徳的にも優れている経済システム。

その自由市場資本主義を、学界・国際機関・政治・経済理論が悪者扱いするのはなぜなのでしょうか。自由市場資本主義のおかげで、世界は今日最高の状態にあります。人類の歴史上、今ほど繁栄した時代はありません。今日の世界は、歴史上のどの時代よりも自由で、豊かで、平和で、繁栄しています。(中略)

自由市場の資本主義と競争の法則が、世界の貧困をなくすという驚異的な成果を達成し、人類史上最高の時を迎えているのに、なぜ私は西側諸国が危機に瀕していると言うのでしょうか?

その理由は、自由市場・私有財産・その他のリバタリアニズムの制度という価値を守るべき国々で、政治・経済界の有力者たちが、ある者は理論的枠組みの誤りから、またある者は権力への野心から、リバタリアニズムの基盤を損ない、社会主義への扉を開き、私たちを貧困、悲惨、停滞へと追いやる可能性があるからです。

社会主義は常に、そしてどこでも、試みられたすべての国で失敗した貧困化現象であることを決して忘れてはなりません。(後略)【1月19日 自由主義研究所 note24】
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一読して分かるように、国家の規制を排した自由市場が機能する資本主義こそが、経済発展、貧困解消の源泉である、様々な規制はこの自由市場が生む成果を損ない貧困と衰退をもたらすものであるという、完璧な自由主義礼賛です。

「富裕者がさらに富裕になると、経済活動が活発化することで低所得の貧困者にも富が浸透し、利益が再分配される」と主張するトリクルダウン理論(日本でもそうした考えに近い政策がとられましたが、結果的に実質賃金は下がり続けました)を徹底的に追求したものとも見えます。

自由市場における資本主義的競争・工夫・努力が成長・繁栄の源泉であるということについては、多くの者が賛同するところでしょうが、自由市場に委ねていればすべてうまくいく、あるいは、その競争に敗れたものは切り捨ててもいいか・・・という話になると、意見はいろいろあるところでしょうし、程度問題・バランスの問題だということにもなるでしょう。

だからこそ、多くの国々が資本主義をベースとしながら様々な公的な規制や介入を行い「社会正義」を実現しようとしている訳ですが、ミレイ大統領に言わせれば、そういう考え方が誤りであり、結果的に貧困を生む不道徳だ・・・ということにも。 このあたりになると、一種の「信仰」のようにも見えます。

ただ、後日取り上げることも考えている日本の失われた20年・30年という経済衰退ぶりをみるとき、こうしたミレイ大統領的な思い切った発想こそが日本に欠けているものだ・・・という指摘もあります。

ちなみに、ミレイ大統領が指摘しているように、アルゼンチンはかつての先進国から(衰退)途上国に堕ちた例外的な国でもありますが、今日本はそのアルゼンチンに続く2番目の事例になろうとしているとの指摘もあります。

【就任1年 物価・財政は想定外に改善 トランプ氏同様、国連を含む多国間協調の枠組みには懐疑的】
大統領選挙中にチェーンソウを振り回して様々な規制をぶち壊すパフォーマンスや過激な主張で人気を博して当選したミレイ大統領の自由主義的な改革は「壮大な実験」とも見られていますが、就任1年目はマクロ経済的には物価も落ち着き、財政も好転し、予想された以上の成果を残しています。

****「痛み」伴う改革で成果 トランプ氏と連携模索―ミレイ大統領就任から1年・アルゼンチン****
アルゼンチンのミレイ大統領が就任して、10日で1年となった。インフレ退治に向け補助金削減など国民の「痛み」を伴う経済改革を断行し、一定の成果をもたらした。

外交ではトランプ次期米大統領との連携を模索。トランプ氏が返り咲きを決めた米大統領選後、外国首脳として同氏と最初に対面で会い、蜜月ぶりをアピールしている。

「最も重い鎖から解放されつつある」。
ミレイ氏は11月、月間のインフレ率が約3年ぶりの低水準になったと成果を誇示した。アルゼンチンは歴代の左派ポピュリスト政権が予算のばらまきを繰り返し、インフレが慢性化。4月には年間のインフレ率が300%近くにまで悪化した。

「小さな政府」を掲げるミレイ氏は、就任直後から財政面で大なたを振るった。公共料金への補助金を削減し、新規の公共工事も停止。

議会では議席数の劣勢をはね返し、規制緩和や国営企業の民営化を盛り込む法案可決に成功した。

財政が黒字に転じると、国外に逃避していたドルが流入。アルゼンチンは債務不履行を繰り返した過去があるが、格付け大手は11月、「救済を求めず返済する能力」が改善したと認め、格上げした。

一方、緊縮財政に伴う副作用も目立つ。国内総生産(GDP)は今年4~6月期まで3四半期連続で前期比マイナスを記録。賃金も伸びず、今年前半には国民の約53%が貧困状態に陥った。

「ミレイ氏の実験は依然、大きな間違いを犯す可能性がある」(英誌エコノミスト)と厳しい見方も出ている。それでも「古い政治」との決別を訴えるミレイ氏への反発は限定的で、政権支持率は50%前後で安定している。

対外政策では親米路線を前面に打ち出し、中ロなどで構成する新興国グループ「BRICS」参加を見送り。温暖化問題を軽視するトランプ氏に歩調を合わせるかのように、11月の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では代表団に引き揚げを命じた。

ただ、関税導入による保護主義を掲げるトランプ氏に対し、ミレイ氏は経済を市場競争に委ねるのが基本姿勢で、両者には対立の火種もくすぶっている。【12月11日 時事】
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両者の間で関税の問題はどうなっているかは知りませんが、ミレイ大統領は大統領選勝利後のトランプ氏と面会を果たした初の外国首脳・・・というように、トランプ氏はミレイ大統領が大のお気に入りです。

****「アルゼンチンのトランプ」ミレイ大統領が本家と親密アピール…就任1年、国際協調には後ろ向き****
南米アルゼンチンの右派ハビエル・ミレイ大統領が昨年12月に就任し、1年が経過した。米国のトランプ次期大統領との親密ぶりを盛んにアピールし、回復基調の経済も追い風に存在感を示している。国際協調に後ろ向きなミレイ氏の奔放な言動に、関係国が翻弄ほんろうされる状況が続きそうだ。

「前例のない政治的行為 トランプ氏がミレイ氏を米大統領就任式に招待」。今月14日、アルゼンチンの地元メディアが相次いで「就任式招待」と報じると、ミレイ氏はすぐさま、一連の報道を自らのX(旧ツイッター)でリツイート(転載)した。トランプ氏との近さを内外に誇示する狙いは明らかだ。

ミレイ氏は11月、大統領選勝利後のトランプ氏と面会を果たした初の外国首脳となり、世界の注目を集めた。トランプ氏もミレイ氏を「お気に入りの大統領」と呼び、「アルゼンチンを再び偉大にする」と絶賛してみせた。

過激な発言などで「アルゼンチンのトランプ」とも称されるミレイ氏は、トランプ氏同様、国連を含む多国間協調の枠組みには懐疑的だ。大統領に就任してからの1年間で、国際会議の舞台などで関係国との摩擦もいとわない「ミレイ流」外交を貫いてきた。

象徴的だったのが、11月の一連の国際会議での振る舞いだ。女性への暴力根絶のための国連の決議案に加盟国で唯一、反対し、国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では、代表団を交渉から離脱させた。主要20か国・地域(G20)首脳会議でも、超富裕層への課税や飢餓貧困対策などの項目に抵抗した。

左派との対決姿勢も隠さない。「社会主義というゴミと決別する」。ミレイ氏は今月4日、首都ブエノスアイレスで開かれた保守派の会合でぶち上げた。ブラジルのルラ・ダシルバ大統領やスペインのペドロ・サンチェス首相ら左派の首脳らを名指しで批判し、右派の結束を呼びかけた。

内政・外交ともに強気の姿勢を下支えするのは、国内の根強い支持だ。アルゼンチンのサン・アンドレス大が今月発表した調査によると、支持率は54%に上る。

危機的だった経済に好転の兆しが出ていることへの評価が特に高い。紙幣の増刷廃止などで深刻なインフレ(物価上昇)は収束に向かっており、昨年12月に前月比25・5%に達した消費者物価の上昇率は、11月に同2・4%にまで抑え込んだ。公務員の大幅削減や公共投資の凍結なども断行し、財政の黒字化も実現した。

中部コルドバ市でペットサロンを経営するマルティン・クエジョさん(45)は「改革に痛みを伴うのは当然だ。大統領は型破りだが誠実で、何より公約を守っている」と話した。【12月25日 読売】
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【低所得層の生活苦は増したとみられている】
ただ、政府の介入を廃する「壮大な実験」の結果、少なくとも現時点では低所得層の生活苦は増したとみられています。

****ミレイ大統領、国民向け演説で就任1年目の実績振り返る****
12月10日に就任から1年を迎えたアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は国民に向けたテレビ演説を行った。ミレイ大統領はその中で、就任1年目の主な実績について述べた。

まず、ショック療法により、落ち込んだ経済活動が足元で上向き始めたほか、前政権下で乱発された通貨供給を停止した結果、物価が安定し、経済が成長サイクルに入り始めたとの認識を示した。その上で、国民の我慢に対して謝意を示した。(中略)

ミレイ大統領は当初、憲法が大統領に認めている「例外的な事情により通常の手続きに従うことが不可能な場合」の立法権を行使して規制緩和を進めたが、7月に公布された「アルゼンチン人の自由のための基盤および出発点に関する法律」〔通称、基盤法、またはオムニバス法〕により、1年間に限って行政、経済、金融、エネルギーの分野の立法権が行政府に与えられると、規制緩和に勢いを増して着手した。

今回の演説では、800以上の規制を撤廃したとしている。

他方、公共工事の停止などによる歳出削減や国内経済の停滞により、失業率と貧困率は悪化した。国会予算事務局(OPC)によると、年金を含む社会支援関連予算の11月までの累計予算執行額は、前年同期比で実質18.3%減となっており、低所得層の生活苦は増したとみられている。

数多くの規制緩和や改革を実現し、マクロ経済は安定しつつあり、国民の支持率も高いまま推移していることから、ミレイ大統領にとって就任1年目の業績への評価は高い。

2年目は経済成長を軌道に乗せ、ミクロ経済を回復させることが急務となる。【12月19日 JETRO】
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****“アルゼンチンのトランプ”「痛み」伴う改革、無料の病院も… 大統領就任から1年****
南米で過激な発言などから“アルゼンチンのトランプ”とも呼ばれているミレイ大統領が、今月10日で就任から1年を迎えました。徹底的なコストカットで国の財政が改善された一方、国民の生活は苦しくなっています。(中略)

一方で国民生活には、しわ寄せが。電気・水道といった公共サービスの大幅な補助金カットに加え、賃金も伸びず、貧困率は50%を超えました。 路上生活者に配給を行うNGOによると、配給者は日増しに増えているといいます。

路上生活者に配給を行うNGO モニカ・デ・ルッシス代表
「この1年で増えたのは路上生活者になる一歩手前の人たちです。家賃や税金は払えるけれども、食べるお金がないのです」

行政サービスの削減で多くの公共事業も廃止の瀬戸際に立たされていて、無料で治療が受けられる公立の精神病院では…

記者 「国有地であるこの病院は今、競売にかけられようとしています。垂れ幕には健康は競売にかけられないと訴えています」

エリザベスさんは元夫からの暴力により、うつ状態となり、3人の子どもと共に25年通院を続けています。

エリザベスさん 「ここ(病院)のおかげで地獄から抜け出し、自由になれました」

今でも精神安定剤をもらいながら病院に通い続けていますが、清掃作業員などの仕事をこなし、家賃を支払うのがやっと。一緒に住むレストランで働く息子の給与に頼らざるを得ない状況です。

エリザベスさん 「悲しすぎます、終わってほしくない。私だけでなく、多くの人にとって病院がなくなることは苦悩でしかない」

第一メンタルヘルスセンター グスターボ・スラトボルスキー氏
「もし健康がビジネスになったら、金がある人だけ医療にアクセスできて、金がなければ、自分で解決しろと言われているようなものです」

国の再建に向け歳出カットの大鉈を振るうミレイ大統領に、国民の理解は続くのでしょうか。【12月15日 TBS NEWS DIG】
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どこまで国民の理解と我慢が続くのか・・・当初から懸念されているポイントですが、ミレイ大統領にとって都合がいいのは、人は“他人の痛み”はいくらでも耐えられるということでしょう。

ミレイ改革で経済が好転し、その恩恵を受ける人々がある程度に増えれば、そうした枠組みからこぼれ落ちた人々の苦しみは捨ておかれるリスクも。ミレイ流の自由放任主義はそうしたリスクを内在しています。

逆に言えば、そこまでやらなければ、アルゼンチンや日本みたいな衰退スパイラルに入った国を上向かせることはできない・・・ということか?
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メキシコ  未だ続く「麻薬戦争」 メキシコ初の女性大統領は前政権を継承して宥和的政策

2024-11-08 23:49:39 | ラテンアメリカ
(3月6日、メキシコの首都メキシコ市で、大統領府の扉を破壊する(2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件への政府対応に抗議する)デモ隊【3月7日 時事】)

【未だ続く「麻薬戦争」 暴力の蔓延】
これまでも何回も取り上げているメキシコ麻薬戦争。

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メキシコ政府は「麻薬戦争は終わった」としているが、実際の状況は逆であり、2016年頃から抗争が再び激化し始め、2017年には死者数が過去最多となり、2018年にはそれを20%上回り過去最多を更新、更に2019年もそれ以上のペースで殺人事件が増加し、治安は最悪化している。【ウィキペディア】
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そうした「麻薬戦争」が続く状況の中で、6月2日に行われたメキシコ大統領選挙では、事実上与野党の女性候補同氏の対決となり、ロペスオブラドール大統領の路線継続を訴えた左派与党「国家再生運動」のクラウディア・シェインバウム前メキシコ市長が当選し、メキシコ初の女性大統領が誕生しました。

シェインバウム氏は、犯罪組織を強権的に取り締まるよりも、「犯罪の根本に対処する」という現政権の方針を踏襲すると表明。これに対して、対立候補ガルベス氏は「犯罪者を抱擁し、市民に銃弾を向けるものだ」と批判しました。

こうした犯罪組織に宥和的とも言える対応は前政権のロペスオブラドール前大統領に共通するものです。
しかし、ロペスオブラドール前大統領任期中にメキシコ国内の暴力は空前のレベルに達しています。

シェインバウム氏が勝利した今回6月の選挙自体が、殺害された候補者や立候補予定者は30人以上に上るというもので、麻薬組織を含めて蔓延する暴力にどう対処するのかが新大統領の大きな課題となっています。

****メキシコ初の女性大統領に待ち受ける難題...殺害された候補者や立候補予定者は30人以上の「歴史的選挙」****
<メキシコ国内の暴力は空前のレベルに。前メキシコシティ市長のユダヤ系で環境工学の科学者、シェインバウム博士は治安を回復させ、行政権力の抑制と均衡が実現できるのか>

(中略)今回の選挙はメキシコ史上最大の選挙となった。登録有権者数は約9800万人超で、大統領、上下両院議会、数千の地方議席など計2万近いポストが争われた。

同時に、最も暴力的な選挙でもあった。殺害された候補者や立候補予定者は30人以上に上る。

新大統領は今後、2つの重要課題と向き合わなければならない。1つはメキシコ社会に蔓延する暴力と市民生活への軍の関与。もう1つは、行政権力に対するチェックアンドバランス(抑制と均衡)の喪失である。

シェインバウムが師と仰ぐ現大統領のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールは、1つ目の問題を解決できず、2つ目の問題を著しく悪化させた。

(対立候補)ガルベスの敗因は、野党連合を構成するPRIやPANの評判が下がったことにある。これらの政党は、88年から2018年の民主化移行期の責任を問われている。

民主化移行に伴い、90年代に選挙でより独立性の高い政策決定を可能にする新法が制定された。だが当時の政権は凡庸な実績しか上げられず、社会の不平等も拡大した。さらに麻薬戦争が激化するなか、治安維持への軍の関与が強まり、社会に暴力が蔓延していった。

前任者の人気が追い風に
(中略)ロペス・オブラドールの支持率はいまだ65%。彼が実現させた低所得者向けの奨学金や年金などの改革は、多くの国民に高く評価されている。シェインバウムの選挙戦は、ロペス・オブラドールの人気に支えられていた。それだけに、その影が今後の政権運営に付きまとうことになる。

麻薬戦争によって命を落としたメキシコ人は、18年時点で約22万7000人に達していた。ロペス・オブラドールは就任当初、軍を治安任務から撤退させると約束し、「銃弾ではなく抱擁を」と繰り返した。

だが、その方針はすぐに変更された。彼は連邦警察を解体し、代わりに主に軍人で構成される「国家警備隊」を創設。その指揮権を大統領直轄の国防省に移管し、文民統制が及ばないようにした。

ロペス・オブラドールは軍の忠誠心と誠実さを信頼できると訴えたが、法的手続きを経ない処刑や汚職など軍が抱える疑惑を考えれば、その主張は極めて疑わしい。

5万人以上が行方不明
しかも、彼の任期中の過去6年間にメキシコ国内の暴力は空前のレベルに達した。
18~23年の殺人の発生件数は17万1000件を超え、そのうち約5000件がフェミサイド(ジェンダーに基づく暴力による女性の殺害)だった。

この期間の行方不明者も5万人以上。これは1時間ごとにおよそ1人のペースだ。

シェインバウムは治安統制への軍の起用を否定している。一方で、国家警備隊を国防省の管轄にしたロペス・オブラドールの判断を支持するとも語っている。

ロペス・オブラドールは大統領への権限集中を徐々に推し進めた。任期後半、野党陣営が法案への不支持を表明すると、与党勢力は野党を無視し、小規模政党の協力を得て改革案を可決した(この立法プロセスは後に最高裁に違憲とされた)。(中略)

今回の大統領選で、メキシコ人女性のレティシア・イダルゴは投票用紙に息子の名前を書いた。といっても、息子が立候補しているわけではない。11年のある日、18歳だった息子は自宅から警察に連れ去られ、今も行方不明だ。
イダルゴは選挙期間中に、失踪した人に投票するよう呼びかける抗議運動を立ち上げた。狙いは、行方不明者の存在を可視化することだ。

シェインバウムには、ロペス・オブラドールの政策と統治スタイルによって二極化された国を率いるという任務が待ち受けている。

彼女が気にかけるべき相手は、イダルゴのような人々──死や失踪の恐怖に怯えることなく、自由で平等で平和な生活を送る手段を提供するよう政府に求める人々──だ。対立候補に投票した人々だけではなく。【6月10日 Newsweek】
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【麻薬組織トップ逮捕で組織内紛の抗争激化の様相】
今年7月、メキシコ麻薬組織の中心人物である2人がアメリカで逮捕されました。
メキシコ麻薬組織の中心人物である「エル・チャポ」の息子(ホアキン・グスマン・ロペス被告)と「エル・マヨ」(イスマエル・サンバダ・ガルシア被告)逮捕で、麻薬組織壊滅に向かうのか・・・・とも普通は考えますが、事態はむしろ悪化しているようです。

組織のトップを逮捕しても、その空白を埋めようとして新たな抗争が始まる・・・というのもよくある話です。

****メキシコ北部で抗争激化、死者150人 広がる残虐手口****
メキシコ北部、シナロア州で麻薬組織の内部抗争による死者が急増している。メキシコメディアによると、9月上旬から約1カ月間の死者は150人を超えた。凶悪な麻薬組織「シナロア・カルテル」の創設メンバーを米国が拘束したのを発端に、内紛が激化した。

米司法省は7月、シナロア・カルテルの創設者の一人とされるイスマエル・サンバダ・ガルシア被告を米南部の空港で逮捕した。合成麻薬「フェンタニル」の製造や密輸などに関与したとして行方を追っていた。プライベート機で自ら米国の空港に降り立った経緯には、裏切りに遭った可能性が浮上していた。

サンバダ被告と同乗していたのはホアキン・グスマン・ロペス被告。同じシナロア・カルテルの創設者で、米国で終身刑に服している「麻薬王」ホアキン・グスマン・ロエラ受刑者の息子だ。ロペス被告は父親の逮捕のいきさつをめぐり、サンバダ被告を恨んでいたとされる。

逮捕されたサンバダ被告は獄中から、ロペス被告に裏切られ、自らの意思に反して米国に引き渡されたと主張した。トップ不在となった組織内では麻薬の密売ルートや化学原料の調達をめぐる利権の争奪戦が起き、相手を威嚇するためにあえて残虐な手段を使う過激な暴力が横行している。

メキシコメディアによると、9月9日からの累計の殺人被害者は8日時点で150人を超えている。行方不明者も160人を超えているとされ、今後の被害拡大は確実とみられる。派閥間の縄張り争いとみられる衝突は50件を超え、殺人被害者は約1カ月で8月(44人)の3倍に急増している。

シナロア州の州都クリアカンでは拷問された痕跡のある遺体や、遺体が焼かれたり、手や首を切断されたりして放置されるケースも報告され、犠牲者には女性や未成年者もいた。「クリアカンへようこそ」と書かれたバンの内部には複数の死体が残されていた。

メキシコ政府は軍隊を派遣して沈静化を図るが、収拾への道は見えていない。

シナロア・カルテルはかつてメキシコで最も凶悪なカルテルとして知られたが、近年は「ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオン(新世代)カルテル(CJNG)」が台頭。危険な地域が分散し、本拠地を置くシナロア州の治安も比較的落ち着いていた。

1日に就任したメキシコのシェインバウム大統領は過去の政権を批判する中で「麻薬との無責任な戦争には戻らない」と述べた。

メキシコシティ市長時代には監視カメラの増設などで殺人を減らした実績があるが、特に地方部では警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗も散見される。取り締まりは一筋縄ではいかない。

シェインバウム氏は8日、4つの柱からなる新政権の安全保障戦略を発表した。殺人や恐喝など重大犯罪の減少や犯罪ネットワークの無力化などを目標に掲げたものの、情報システムの強化や連邦と地方の連携拡充など総花的な内容にとどまった。

独スタティスタによると、2024年の世界の都市における殺人発生率ランキングではワースト1位だったコリマ(コリマ州)をはじめ、10位までの7都市がメキシコの都市だった。

メキシコは南米から米国へ向かうコカインなどの通り道となっており、中国から輸入した原料を加工してフェンタニルを製造する拠点も各地に点在するとされる。

国際リゾート、アカプルコのある太平洋側のゲレロ州では就任したばかりの州都チルパンシンゴのアルコス市長が6日に殺害され、車の上に放置された同氏の首とみられる画像がSNS(交流サイト)上で拡散した。

首都メキシコシティでも大規模デモの際の破壊や略奪行為は日常茶飯事で、治安の改善への道のりは長い。【10月9日 日経】
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最近のニュースでも

“車の上に切断された頭部 メキシコ南西部で就任直後の市長殺害 麻薬カルテル支配地域”【10月8日 ABEMA Times】
“5人の斬首遺体入ったプラスチック袋発見 メキシコ”【10月14日 AFP】
“メキシコで11人の遺体 南部、トラックから発見”【11月8日 共同】

****ハロウィーン「仮面はやめて」=メキシコ、治安悪化の州で規制****
メキシコ北西部シナロア州政府は、31日のハロウィーンの仮装で、仮面をかぶったり、おもちゃの武器を持ったりしないよう呼び掛けた。州内で麻薬カルテルによる凶悪事件が多発する中、カルテルの構成員と間違える恐れがあると警戒している。(後略)【11月1日 時事】
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【“警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗”の象徴 43人の学生が行方不明となっている2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件】
これだけ麻薬組織の横行、暴力の蔓延が絶えない最大の原因の一つが“地方部では警察官や司法組織が犯罪集団と結託する腐敗も散見される”という実態。

その象徴が学生の乗ったバスが警官などに襲撃され、43人が行方不明となっている「2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件」でしょう。

*****2014年メキシコ・イグアラ市学生集団失踪事件****
ゲレロ州検察長官イニャーキー・ブランコ=カブレラの発表によると、2014年9月26日夜21時30分に最初の暴力事件が起こった。

イグアラ市警察が、3台のバスに乗って移動中のアヨツィナパ師範学校の学生らに向かって銃撃を始めた。ゲレロ州教育労働者国家コーディネーター(CETEG)に所属する教員らに動員されていた学生らに対して行われた、この最初の銃撃について学生達が抗議の記者会見を行っていた時、警察および見知らぬ複数の人物によって2回目の銃撃を受けたとされる。目撃者の証言によると、彼ら(警察と見知らぬ人物)は学生らに対して突発的に銃撃してきたという。(中略)

メキシコにおける抗議活動の多くは平和的に、行方不明の学生の両親達の先導によって行われている。しかし、暴力に訴える抗議活動もあり、政府関係のビルを破壊する抗議者も出てきている。(中略)

メキシコの麻薬戦争時とは異なり、アヨツィナパにおける失踪事件は他の諸事件の中でもとりわけ際立っている。アヨツィナパの事件は地元政府と警察機関と犯罪組織が、非常に強力な共謀関係にあることを明らかにしているためである。

この日の夕方から、イグアラ市では、市長夫人マリア・デ・ロス・アンヘレス・ピネダの主催する慈善団体の集会とパーティーが行われることになっていた。学生らはこの集会の妨害も企図していたとされている。

当局は、イグアラ市長だったホセ・ルイス・アバルカが、妻のスピーチを妨害されることを恐れて、警察に学生たちの襲撃を命じたとしている。

事件当日深夜、学生43人は警察車両に載せられ、いったん隣町のコクラ警察署に勾留された。これはイグアラ市警の公安部幹部のフランシスコ・サルガド・バジャダレスによる指示とされる。

さらに、コクラ警察署の副署長は犯罪組織「ゲレーロス・ウニドス」に「後始末」を依頼したとされる。

この事件でアバルカ夫妻、警察官36人、ゲレーロス・ウニドスのメンバー数人など74人が逮捕された。
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しかし事件は、上記のような当初考えられたアヨツィナパ師範学校の学生達に対する政治的弾圧事件ではなく、学生たちが使用したバスに絡む麻薬密輸のトラブルと関連があるのではないか、中央政府の関与はなかったのか、43人の学生はどうなったのか・・・などの疑惑・疑問も指摘され、未だにその真相は定かではありません。

学生の親族や支援者らの政府の対応への抗議も続いており、3月6日にはデモ隊の一部が大統領府の出入り口の扉を破壊する騒ぎも起きています。

この地方政府・警察と犯罪組織の癒着の構造が解消されない限り、暴力の蔓延は終わらないでしょう。

【前政権が推し進めた司法改革 裁判官公選で犯罪組織の影響が司法に及ぶ危険性も】
そうしたなかでロペスオブラドール前大統領は司法に犯罪組織の影響が強まる恐れがある裁判官の公選制を導入しようとしています。

****犯罪組織の介入招く? メキシコ、裁判官の「公選制」巡り強まる反発****
メキシコの左派ロペスオブラドール大統領が、市民による選挙で裁判官を選ぶ「判事公選制」を柱とする司法改革を急ピッチで進めている。

自身の政策に反対する最高裁判事を入れ替える狙いがあるが、新制度案で末端の裁判官まで公選制の対象としたことで反発が拡大している。

政党や利益団体のほか、犯罪組織が裁判官選出に介入するとの懸念が浮上。司法の独立性が揺らぐとの警戒感は隣国の米国にも広がっている。

世界でも異例の司法改革
判事を巡る新たな制度案は、軍事法廷など一部を除き、全ての連邦・州・自治体レベルの裁判所の判事を選挙で決める内容だ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、全国の7千を超える判事ポストが対象となり、世界的に「異例」(米コーネル大法科大学院のミッチェル・ラサ教授)という。

新制度案では、連邦裁判事に立候補するための要件は、法律の学位と数年の法曹界での実務経験などを求めている。国家試験に合格したうえで経験を積み、能力を認められて初めて判事となる現行制度から、大幅に緩和される。

また、連邦最高裁判事の定数は現行の11から9に削減される。大統領が指名して上院が承認する現行の仕組みが廃止され、大統領府と立法府、司法府が10人ずつ推薦した候補の中から、国民が直接投票で選ぶとされる。

憲法改正へ与党に勢い
ロペスオブラドール氏が司法改革に注力する動機は、「選挙管理当局の改編縮小」「国家警備隊の国防省への指揮移管」といった自身の目玉政策に対し、最高裁が次々と「違憲判断」を下したためだ。

最高裁は、ロペスオブラドール氏のポピュリズム(大衆迎合主義)色が強く、「権力の監視と分散」への関心が薄い政策に反対している。

改革は、反目する最高裁への「意趣返し」(野党議員)という。ロペスオブラドール氏の「まな弟子」と強調して6月の大統領選で勝利し、10月に就任するシェインバウム次期大統領も改革を支持している。(後略)【9月14日 産経】
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後継のシェインバウム政権はロペスオブラドール氏が司法改革を継承しています。

“メキシコ最高裁が判事公選制に合憲判断、新政権の主張に軍配”【11月6日 ロイター】
最高裁が積極的に合憲判断したというのではなく、裁判官11人中7人が違憲判断ということで、最高裁長官としてはなんとか違憲としたかったのですが、違憲判断に必要な8人に1人足りず、結果的に合憲となったということのようです。

“司法改革によると、裁判所判事の直接選挙は2025年6月に実施し、全国で幅広いポストが交代の対象となる。最高裁判事は9人に削減され、同様に選挙で選ぶことを義務付けている。”【同上】
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ハイチ  ギャングが跋扈する破綻国家ハイチ 国連は多国籍部隊を派遣し治安回復を目指す

2024-10-07 23:27:56 | ラテンアメリカ

(ギャングのリーダー、「バーベキュー」ことジミー・シュリジエ氏がメンバーを引き連れポルトープランスの路上をパトロールする=2月22日撮影 【3月20日 CNN】)

【ギャング暴動 評議会 アンリ首相辞任】
カリブ海の破綻国家ハイチの状況、これまでの経緯などについては、3月4日ブログ“ハイチ  破綻国家ハイチが破綻した背景・理由を歴史的にひも解く”で取り上げました。

当時、ハイチでは治安が悪化し、暴動を起こした武装ギャング集団がアンリ首相の退陣を求めていました。

ギャングが首相退陣を求める・・・・奇妙な話ですが、ハイチのギャングは単なる麻薬等にからむストリートギャングではなく、その発生から政府権力と密接に絡んでいます。

そしてギャングの中心人物は、“モイーズ大統領亡き後は、自らを、ハイチの政治のエリートと戦い国家による不平等な現状を変える革命家と称してポルトープランスや周辺都市を占領し、ハイチの都市の多くを支配している。”とのこと。

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正統性をもつ政府が不在の中、現在のハイチはギャングや自警団が実質的な権力を握っており、冒頭で述べたような有様となっている。ギャング達は首都ポルトープランスの大部分や周辺都市を占領し、各地で銃撃戦や暴力行為、誘拐を繰り返し、人々の社会生活を恐怖で支配している。実際、首都では約2万人もの人々が住む場所を追われ避難生活を余儀なくされている。

また、裁判所を占領したギャングもある。彼らは二度にわたって裁判所の建物を破壊し、国の司法制度を崩壊に追い込んで自分たちの悪事を裁かせないようにもしている。

そんな暴虐を尽くすギャング達の起源は、1959年にフランソワ・デュバリエ大統領が創設した軍事組織、国家治安義勇隊(VNS)であった。彼らはデュバリエ親子の政権時代に秘密警察として結成され、その間は街で横暴を働いていたが、1986年のデュバリエ政権の失脚と共に解散する。

その後1995年にアリスティド大統領がハイチの軍隊を解散させた際にギャングとして再結集し、それ以降も選挙や政治の利権獲得などを目的とする政治家たちと繋がりを持ち、勢力を強めていった。

こうしたギャング達の中で最も注目されている人物が、G9のリーダーであるジミー・「バーベキュー」・シェリジエ氏だ。彼は元警察官であり、2018年に71人を虐殺するラサリーヌ虐殺という大事件に関与したとして一気にその名が世界中に知られることとなった。

その後、2021年に彼が結成したのがG9だ。G9とは、首都ポルトープランスの9つのギャングをシェリジエ氏が統合した組織である。

また、モイーズ大統領の政権の時には、政府から資金や武器、車両などの援助を受けていたことが明らかになるなど、政府と密接につながっていた。そしてモイーズ大統領亡き後は、自らを、ハイチの政治のエリートと戦い国家による不平等な現状を変える革命家と称してポルトープランスや周辺都市を占領し、ハイチの都市の多くを支配している。(中略)

ただ、このような武装勢力がハイチに及ぼす影響は、ネガティブなものだけではない。例えば、ギャングと呼ばれているグループの中には、悪事を行うのではなく政府による統治がない中で自警団の役割を担って自分たちのコミュニティを守る者がいる。【2023年1月19日 セキグチユウダイ氏 GLOBAL NEWS VIEW】
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多くの権力エリートはギャングとの関係があり、ギャングを私的用心棒に雇っています。

統治能力を失い、海外から帰国できずにいるアンリ首相にアメリカも圧力をかけていました。

アンリ首相は、2021年にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、大統領に代わりに元首を務めてきました。

****米、ハイチ首相に政治的移行を要請 武装集団は「内戦」警告****
カリブ海の島国ハイチで治安が悪化し、暴動を起こした武装ギャング集団がアンリ首相の退陣を求めている問題で、米政府は6日、アンリ氏に政治的な移行を迅速に進めるよう求めていると発表した。

国務省のミラー報道官は記者団に「アンリ氏に退陣を求めたり、退陣に向けて圧力をかけたりしているわけではなく、政治的な移行を迅速に進めるように促している」と説明。

米国が求めているのは強力で包括的な統治機構であり、こうした体制はハイチが緊急性を持って多国籍治安部隊に備え、自由な選挙に道を開く上で支えになると述べた。

ハイチは刑務所から数千人が脱獄するなどして治安が急速に悪化。外遊していたアンリ氏は5日以降、米自治領プエルトリコに滞在しており、帰国を控えているか帰国できずにいるとみられる。

武装ギャング集団のトップは多国籍治安部隊に対して団結して戦うと示唆。アンリ氏が退陣せず、国際社会がアンリ氏を支持し続ければ、ハイチは内戦状態に陥り、最終的に大量虐殺が起きると警告した。【3月7日 ロイター】
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こうした国際的圧力もあって、アンリ首相は3月11日、辞表を提出。

****ハイチ首相が辞任の意向を表明 ギャング武装集団が政府施設襲い非常事態宣言の中****
武装集団が政府施設などを襲い非常事態宣言が出されているカリブ海の島国、ハイチのアンリ首相が辞任する意向を明らかにしました。

ハイチでは先月末以降武装したギャング集団がアンリ首相の退陣を求めて刑務所などを襲い多数の死者が出るなど治安が急速に悪化、非常事態宣言が出されています。

アンリ首相は外遊先のケニアから帰国できずアメリカ自治領プエルトリコに滞在しているということですが11日、声明を発表し暫定の大統領評議会が設立されることを条件に辞任する意向を明らかにしました。

アメリカなどが事態を収拾するため政治的な解決を求めたことに応えたものとみられます。ただし暫定の政治態勢が樹立されるまでは首相の職にとどまる考えを示しているということです。

一方、ギャング集団は首相が辞任しない場合さらなる暴力に訴えるとしていて予断を許さない状況です。

この日、周辺諸国の地域共同体「カリブ共同体」はジャマイカで緊急会合を開いて対応を協議。アメリカのブリンケン国務長官はハイチの治安回復に向け派遣される国連主導の多国籍部隊に追加支援として1億ドル、日本円でおよそ147億円を拠出すると表明したほか3300万ドルの人道支援も発表しています。【3月12日 TBS NEWS DIG】
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【治安悪化は続く】
治安状況は急速に悪化していました。

****ハイチで急速に治安悪化 ギャングの襲撃などにより3か月間で1500人以上が犠牲に****
中米ハイチでは治安が急速に悪化していて、ギャングの襲撃などにより、今年に入ってから1500人以上が犠牲になっています。

国連人権高等弁務官事務所は28日、中米カリブ海の島国・ハイチにおける、ここ3か月間での死者が1500人以上に上ると発表しました。

ハイチでは、先月末以降、ギャング集団が刑務所を襲い4000人以上の受刑者が脱走するなど治安が急速に悪化し、暴力行為が頻発しています。

警察署や商店が襲われたり、性暴力被害や身代金狙いの誘拐が多発したりしていると報告されていて、国連は「壊滅的な状況に対処するため、即時かつ大胆な行動をとるよう」国際社会に求めています。

11日には、ギャング集団から退陣を求められていたアンリ首相が辞任の意向を表明するなど混乱が深まっていて、ハイチ政府は国連に治安部隊の派遣を要請していますが、事態収拾の見通しは立っていません。

ハイチ政府は、国民の半数にあたるおよそ500万人が食糧不足に不安を抱えており、うち160万人は急性栄養不良の可能性が高まっていると危機を訴えています。【3月29日 TBS NEWS DIG】
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4月2日、国連のターク人権高等弁務官は、人権理事会に向けたビデオメッセージでハイチ情勢に言及し、政府機能の欠如により「殺人と誘拐が急増して人権侵害が前例のない規模で起きている」と述べています。

その後、4月12日に政権移行に向けた評議会が設立されました。評議会はすぐに設置されるとの見通しもありましたが、ギャングによる候補者への脅迫、政党間の意見不一致などで人選が進まず設立がおくれました。

****ハイチ、暫定統治組織が始動=26年2月までに政権発足****
ギャングによる支配で政情不安が広がるカリブ海の島国ハイチで25日、新政権発足まで国を統治する「暫定大統領会議」のメンバー7人とオブザーバー2人が就任を宣誓した。早期に治安を安定化させ、2026年2月までに大統領選挙を経て政権発足を目指す。

これに先立ち、国の混乱収拾に向けて3月に辞意を表明していたアンリ首相が、滞在先の米国から辞表を提出。24日に、ボワベール経済・財務相が暫定首相に任命された。メディア報道によると、ボワベール氏は25日の式典で「国が直面する大きな危機の解決に向け視界が開かれた」と語った。

ハイチでは今年に入りギャングの暴力が激化。国連機関によれば、1〜3月に1500人以上が殺害された。【4月26日 時事】
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26年2月までに大統領選挙・・・随分時間を要するようです。
治安は劣悪な状態が続いています。

****ハイチで治安が急速に悪化、1月〜3月の死傷者は少なくとも2500人超える*****
中米カリブ海の島国ハイチでは、武装集団の抗争などにより治安が急速に悪化しています。今年1月から3月までの死傷者は少なくとも2500人を超え、被害が拡大しています。

ハイチでは2021年に大統領が武装集団に暗殺されて以降、政情不安が続いていましたが、今年に入って武装集団による攻撃や抗争がさらに激化し、治安が急速に悪化しています。

国連ハイチ統合事務所が19日に発表した報告書によりますと、今年1月から3月までの間に、少なくとも2505人が死亡またはケガをしていて、死傷者数は直前の3か月と比べて53%以上、増加したということです。

また、同じく1月から3月までの間に、少なくとも438人が身代金目的で誘拐されています。
対立する集団のいるエリアなどで武装集団が女性や少女に性的暴行を加える事案も報告されていて、複数の被害者が暴行後に殺害されています。

◇◇◇
武装集団は公共機関やインフラに対し、大規模で組織的な攻撃を行っていて、2月末の時点で少なくとも22の警察施設が略奪や放火の被害に遭っています。

また、首都ポルトープランスを発着する国内線・国際線は、空港周辺での銃撃が相次ぎ、3月初旬からすべて運航を停止しています。こうした状況に加え、武装集団が首都へ続く幹線道路を占拠しているため、医療品や食料などが輸送できない状況に陥っています。

国連人口基金はハイチで2月以降、およそ1万5000人が避難生活を余儀なくされ、さらに国内各地ですでに36万2000人が避難民となっていると指摘しています。(後略)【4月21日 日テレNEWS】
********************

【国連 ケニアなどの多国籍部隊】
こうした治安状況を改善すべく、6月には多国籍部隊が派遣されました。

****ハイチへの多国籍部隊、ケニアが400人派遣へ ギャングの暴力激化****
ギャングの暴力に苦しむカリブ海の島国ハイチを巡り、米国務省は24日、治安回復に向けてケニアが主導する多国籍部隊の第1陣が週内に現地に派遣されると明らかにした。AP通信によると、まずケニアの警官400人が参加する。

国連安全保障理事会は昨年10月、ハイチへ多国籍部隊を派遣する権限を加盟国に与える決議を採択した。だが、ケニアの裁判所が両国間で合意に達していないことを理由に派遣を遅らせる決定を下すなどしたため、手続きが遅れていた。

ケニアは警官1000人を派遣する予定で、残り600人も今後送られる。多国籍部隊にはカリブ海の島国ジャマイカやバハマなども参加し、派遣人数は2500人規模になる。(後略)【6月25日 毎日】
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バイデン大統領はアメリカがこの多国籍部隊に3億ドル、日本円でおよそ479億円の資金を供与することを明らかにしたうえで、各国にも支援を呼び掛けていく考えを示しました。

ただ、過去にもハイチに国連PKOが派遣されたことがありますが、PKOの隊員たちによる多数の性暴力が発覚したり、2010年には隊員たちによってコレラが持ち込まれたりしたことが明らかになり、1万人以上もの人々を死に至らしめた・・・といったことも。

そういう過去もあってPKOではなく多国籍部隊でしょうか。多国籍部隊だから何が変わるのかは知りませんが。

7月29日には、6月に就任したばかりのハイチのガリー・コニーユ暫定首相が、訪問先の病院近くで銃撃される事件も。幸い同氏は無事でした。

国連安保理は多国籍部隊の任期を1年延長してハイチの治安回復にのぞむ構えです。

****安保理、ハイチ治安回復へ多国籍部隊の任期を1年延長 2500人まで増員の見通し****
国連安全保障理事会は9月30日、政情不安でギャング犯罪が横行するカリブ海の島国ハイチの安定化に向け、加盟国が派遣する多国籍部隊の任期を10月2日から1年間延長する決議を全15理事国の賛成で採択した。

ギャングが首都ポルトープランスの大半を支配する中、多国籍部隊(410人)は警官400人を派遣するケニアが主導している。部隊の総数は今後、約2500人まで増員される見通しだ。

決議に先立ち、ハイチ暫定大統領評議会のエドガールブラン議長は9月26日の総会一般討論演説で、部隊の資金強化を訴えて「平和維持活動(PKO)への転換」を求めていたが、安保理の事前協議で見送られた。

2004〜17年のPKO派遣中、要員が性的暴行をしたり、部隊が汚水を川へ流しコレラが蔓延(まんえん)したりした経過がある。

トーマスグリーンフィールド米国連大使は30日の決議採択後、任期延長を「多国籍部隊のイメージを立て直す機会にしなければならない」と述べた。米政府は25日、ハイチ国家警察向けに1億6千万ドル(約230億円)の支援を発表した。

ハイチでは21年にモイーズ大統領(当時)が武装集団に暗殺された後、大地震が発生し、治安が急速に悪化した。今年2月、ギャングはアンリ首相のケニア訪問の隙を突き、警察署や空港、刑務所などを襲撃、受刑者約4千人が脱走する騒ぎとなった。【10月1日 産経】
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現状では、あまり改善はしていないようにも。混乱は地方にも拡大。

****ハイチで市民70人死亡 ギャングが銃撃、放火も 無法状態続く****
カリブ海の島国ハイチ中部アルティボニット県で3日未明、ギャングによる襲撃があり、少なくとも70人が死亡した。犠牲者のうち約10人が女性で、3人の幼児も含まれる。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると、ギャングの構成員らは自動小銃で住民を襲い、住宅45戸と車34台に放火したという。

ハイチでは2021年7月にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、主に首都ポルトープランスで武装したギャングによる暴力が横行し、無法状態が続いている。国連は首都に多国籍部隊を派遣しているが、混乱が地方都市にも広がれば、さらなる対応を迫られる可能性がある。

現場はポルトープランスから北西約70キロのアルティボニット県ポンソンデ。国連のドゥジャリク事務総長報道官は4日の記者会見で、多数のけが人も出ており、少なくとも3000人が避難したと述べた。

国連の安全保障理事会は昨年10月、加盟国に多国籍部隊を派遣する権限を与える決議を採択。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、今年6月にケニアやジャマイカなどから警察官ら計410人が派遣された。だが、アルティボニット県には拠点がないという。【10月5日 毎日】
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【隣国ドミニカ ハイチからの不法移民、強制送還強化】
こういう状況ですから、当然に多くの難民がはっせいしています。アメリカ大統領選挙でもトランプ前大統領が根拠もなく「ハイチ移民が(白人住民の)隣人の飼っているペットの犬や猫を殺して食べている」と主張して選挙戦への影響が注目されています。

ハイチはイスパニョーラ島の西側3分の1、残りの東側はドミニカ。ということでドミニカへの難民が多数発生していますが、ドミニカはハイチからの不法移民の強制送還を強化するとのことです。

****ドミニカ共和国、不法滞在のハイチ人毎週1万人を強制送還****
カリブ海に浮かぶイスパニョーラ島の東3分の2を占めるドミニカ共和国は2日、同島の西3分の1を占める隣国ハイチからの移民取り締まりの一環として、毎週1万人の不法滞在のハイチ人を強制送還する計画を明らかにした。

オメロ・フィゲロア大統領報道官は、「この作戦の狙いは、ドミニカ社会で確認された過剰な移民人口を削減することにある」と説明。強制送還は「直ちに」開始され、「人権を尊重する厳格な手続き」に従って実施されると述べた。

ドミニカ政府は、国土の大部分をギャングに占拠されているハイチの安定を回復させる国際社会の試みが「遅れている」ためにこの決定を下したと述べた。

ルイス・アビナデル大統領は「わが国は国連で警告した。国連および(ハイチ支援を)約束したすべての国が、ハイチで責任ある行動を取るか、さもなければ、わが国が行動する」と述べた。

アビナデル氏は2020年の就任以来、貧困と暴力がまん延するハイチ出身の移民に対して強硬姿勢を取っている。国境には164キロのコンクリート壁を建設。今年5月に再選された際には壁を延長すると約束した。

アビナデル政権は、強制送還にも力を入れており、2023年だけでもハイチ出身の不法滞在者25万人を追放した。 【10月4日 AFP】
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なお、フランス語と西アフリカ系言語が混成した独特のクレオール語を話すハイチ人はスペイン語南米、ポルトガル語ブラジルでは現地に馴染めず差別を受けたりもするようで、結果アメリカを目指す難民が多いようです。ドミニカはスペイン語。

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中米エルサルバドル  ブケレ大統領の超法規的治安対策 成果の一方で冤罪も

2024-09-16 22:54:25 | ラテンアメリカ

(【9月12日 TBS NEWS DIG】)

【ブケレ大統領 治安対策が評価され得票率は83%前後で圧勝】
今年2月、中米エルサルバドルでは現職のブケレ大統領が国民の圧倒的支持を受けて再選されました。

ギャングが横行し、「世界一治安の悪い国」であったエルサルバドルにおいて、徹底したギャング対策を行い治安を大幅に改善させたことが評価された理由です。

しかし一方で、憲法で保障された一部権利を制限した上での強硬なギャング対策、事実上の一党独裁に近い形態については、民主主義の観点からの懸念も強く存在します。

****エルサルバドル大統領選、現職ブケレ氏圧勝で1党独裁の懸念****
エルサルバドルで4日実施された大統領選は、現職のブケレ大統領が地滑り的勝利を収めた。ギャング弾圧による治安改善が支持された形だが、事実上の1党独裁国家になり、民主主義が脅かされるとの懸念も広がっている。

5日時点で開票は続いているが、ブケレ氏の得票率は83%前後に達するもようで、議会選(定員60)でも同氏の与党・新思想党が58議席を制する勢いだ。

人権団体は、権力の集中が進んで公民権がさらに抑圧されると懸念している。中米大学・人権研究所のディレクター、ガブリエラ・サントス氏は「ここまで権力が集中したということは、エルサルバドルに(公民権の)保証はなくなったことを意味する」と述べた。

しかし支持者らは、法的手続きに基づかずに多くの市民を拘束するなどの独裁的手法を意に介さず、むしろギャングによる暴力が減って夜間に外出できるようになったことに感謝している。

一部の中米諸国は、左派ゲリラと、米国を後ろ盾とする右派独裁体制との紛争を経て、持続的な民主主義モデルを立ち上げるのに苦慮してきた。ブケレ氏の人気ぶりは、そうした実情を浮き彫りにしている。

ブケレ氏は大統領の任期制限を撤廃し、隣国ニカラグアのオルテガ大統領のように終身統治を目指すのではないか、との懸念もある。

一方、野党の大統領候補はいずれも得票率が1桁台にとどまる見通しで、支持率回復は遠い道のりだ。ブケレ氏は、インターネット上でジャーナリストや政敵を攻撃してくれる「部隊」を雇ってメディアを巧みに操り、選挙戦で野党を「ギャングの仲間」と位置付けることに成功した。

ここ数年、議会はブケレ氏の提案を右から左へ通すだけで、成立した法律の大半は大統領府の提案によるものだった。【2月6日 ロイター】
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【「例外措置体制」で人口の1%超を逮捕 「世界一治安の悪い国」から米大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さへ】
ブケレ大統領の治安対策「成功」は、同様に治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。

*****約7万5000人を拘束 「世界一治安の悪い国」からの脱却****
最も成果を上げているのが治安対策です。

2019年6月に「犯罪地域コントロール計画」を打ち出し、警察と軍の装備を強化してギャングの取締りを進めました。

2022年3月に、取締りに反発したギャング側が1日に62人を殺害すると、議会に要請し、憲法で保障された一部の権利を制限する「例外措置体制」を発動しました。

「例外措置体制」のもとでは逮捕状なしでギャングのメンバーを大量拘束でき、これまでに人口の1%を超えるおよそ7万5000人が拘束されたとされています。

ブケレ大統領は拘束した大量のギャングのメンバーを収容するために4万人を収監できる刑務所を新たに建設し、ギャングのメンバーを厳しい監視下に置きました。

エルサルバドルは長年、「世界一治安の悪い国」とされてきましたが、こうした治安対策で人口10万人あたりの殺人事件の件数はブケレ大統領が就任する前の2018年に世界最悪の51人だったのが、2023年には2.4人にまで減少し、アメリカ大陸ではカナダに次ぐ2番目の低さにまで治安が改善しました。

ブケレ大統領の治安対策は、人権を侵害しているうえ刑務所では拷問も行われているなどとして国際社会や人権団体から批判の対象となっていますが、治安の悪化に直面している中南米のほかの国々からはモデルケースとして注目されています。【2月3日 NHK“エルサルバドル 現職大統領の再選確実視 ギャング対策を徹底”】
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これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人におよび、人口634万人の1.3%に達します。(日本の人口に換算すると約160万人)

【「社会復帰させない」ことを前提にした隔離のための巨大刑務所】
この膨大な逮捕者を収容すべく、定員4万人の巨大刑務所が建設されています。

****“世界一恐ろしい”エルサルバドルの4万人巨大刑務所を日本メディア初取材 「ギャング撲滅作戦」の壮絶さとは…****
(中略)
中米・エルサルバドルの巨大刑務所「テロリスト監禁センター」。定員は4万人。収監されているのは殺人や誘拐など、複数の凶悪犯罪にかかわったギャングの元メンバーとされています。

記者 「このエリアを見下ろすように監視員が立っていて、銃を持っています」

政府はギャングを「テロリスト」と定義し、安全の確保を最優先にしています。

受刑者は誰もが丸刈りで、枕も毛布も使えません。フォークやナイフなどは凶器として使われる可能性があるため、食事は「手づかみ」と決められています。そして、家族はもちろん、外部との接触は一切禁じられています。

殺人や強盗など500以上の犯罪にかかわったという受刑者に、本人の意思を確認したうえで、特別な許可を得て話を聞きました。

ギャンググループの元リーダー
「ここは厳格な規律と厳しい服従を求められる刑務所だ。5つ星のホテルではない。若者はもちろん、『かつての敵』であっても誰もここに収容されてほしくない」

エルサルバドルは30年近くにわたってギャングが縄張り争いを繰り広げ、「世界で最も治安が悪い国」と呼ばれるほど国民生活は荒廃していました。

しかし、近年、政府は非常事態を宣言し、「超法規的な措置」でギャング撲滅作戦を展開しています。例えば、ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

それにより、2010年代に世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。「中南米で最も安全な国」と言われるまでになりました。

今、街中からギャングの姿は消え、平穏を取り戻した国民の多くは現政権を熱狂的に支持しています。ただ、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。

ドゥラン・ロドリゲスさん。ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が去年、刑務所で死亡しました。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「息子はギャングのメンバーではありませんでした。息子に会いたいです。でも、もうそれはできません」

ロドリゲスさんによると、ある晩、匿名の通報を受けた警察が突然、家にやってきて、息子を逮捕したといいます。「拳銃を持っているはずだ」と捜索を受けましたが、結局、銃は見つかりませんでした。

しかし、息子はそのまま刑務所で亡くなり、当局からも詳しい説明などはないということです。

ドゥラン・ロドリゲスさん
「ギャングを捕まえるのは素晴らしいことですが、もう止めてもらいたい。多くの母親たちが私と同じように苦しんでいます」

地元の市民団体などから冤罪や人権侵害を批判する声もあがっていますが、政府は「最後のギャングを逮捕するまで撲滅作戦を継続する」としています。【9月4日 TBS NEWS DIG】
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【超法規的措置による冤罪も多発】
****殺人に誘拐…凶悪犯罪 “世界最恐”ギャング刑務所の実態「世界一治安が悪い国」が“ギャング撲滅作戦”で激変も…えん罪訴える人続出【news23】*****
(中略)
世界で最も治安が悪い国 エルサルバドルの"日常" 80ドル払えずギャングから銃撃
エルサルバドルは30年近くにわたって、ギャングが縄張り争いを繰り広げ「世界で最も治安が悪い国」とも呼ばれました。

最悪だったのは、2015年で10万人あたりの殺人事件は106.3件。単純比較はできませんが、直近の日本(0.7件)の約150倍。エルサルバドルの治安は崩壊状態でした。

当時、人々を苦しめたものの1つが、ギャングの「みかじめ料」でした。露天商として生計を立ててきたホセ・アントニオさん。 

7年前にギャングに銃で撃たれました。商売をするために要求された80ドルのみかじめ料を払えなかったからです。(中略)

アントニオさんは病院に運ばれ一命をとりとめましたが、これがエルサルバドルの「日常」でした。

政府“ギャング撲滅作戦” 殺人事件の発生率は劇的に改善
こうした状況を一変させたのが、2019年に発足した現政権による"ギャング撲滅作戦"です。

大橋記者 「日が暮れたところですが、軍による治安維持のオペレーションが始まりました。一軒一軒家をまわって、不審者がいないかどうか確認するということです」

政府は、治安対策を最優先課題に軍隊や武装した警察官をギャングの取り締まりに投入。 特に成果を挙げているのが、例外的な位置づけで導入された「超法規的措置」です。

ギャングと関係するタトゥーが体に見つかったり、第三者からの通報があったりすれば、司法手続きを経なくても逮捕が可能となっています。

強権的な措置は功を奏したのか、世界最悪だった殺人事件の発生率は劇的に改善。わずか数年のうちに「中南米でもっとも安全な国」と言われるまでになりました。

なりふり構わぬ治安対策 “負の側面”も
いま街からギャングの姿は消え、平穏を取り戻しました。(中略)国民の多くは政府を支持していますが、なりふり構わぬ治安対策の「負の側面」も表面化しています。(中略)

ドゥラン・ロドリゲスさん。 ギャングとの関係を疑われた22歳の息子が2023年、刑務所で死亡しました。(中略)

こうした“冤罪”を訴える人がエルサルバドル全土で続出していて、国際社会からも非難の声があがっています。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?政府の責任者は…

地元の専門家は、政府がギャング対策の名のもとに人権侵害を正当化していると指摘します。

セントロアメリカ大学 ガブリエラ・サントス教授
「安全の確保のため人権を犠牲にするのは、本来あってはいけないことです。 『超法規的措置』は一時的なものだったはずですが、もはや恒久的な政策です」

国民の安全を守るためには、一定の人権侵害はやむを得ないのか。
例外的な「超法規的措置」はいつまで続くのか?

私たちは政府の責任者を訪ねました。

ビジャトロ司法公共治安大臣 「私たちエルサルバドル政府は、国内でギャングのメンバーの最後の1人とすべての連続殺人犯を捕まえるまでは現在の”緊急態勢”を維持し続けるつもりだと公言してきました。これ以外の方法はあり得ません」

政府は「法律は順守していく」とする一方、国民からの支持を背景に“ギャング撲滅作戦に変更はない”という方針で、巨大刑務所の受刑者は当分増え続ける見通しです。【9月12日 TBS NEWS DIG】
***********************

****「無実の被害者」解放を ギャング取り締まりのエルサルバドル****
エルサルバドルで15日、ナジブ・ブケレ大統領が推し進める犯罪組織対策で拘束された「無実の被害者」を解放するよう訴えるデモ行進が行われた。

息子が拘束されたという母親は、「私の息子は無実。私の息子は犯罪者ではない」と訴えた。息子のエデニルソンさんは2022年5月、ザカテコルカ市の職場で、正当な理由もなく身柄を拘束されたという。

ブケレ大統領は2022年3月、ギャングを取り締まるための「戦争」を開始し、非常事態を宣言。逮捕状が不要になるなど、憲法で保障された権利の一時制限措置を発令した。

ブケレ氏の手法は人権団体らに批判されているが、暴力に疲弊していた市民の大半は、殺人事件の発生率低下を歓迎している。

人権団体らは、これまでにギャング関係者として逮捕された8万2000人のうち、約30%は無実と推定されるとしている。 【9月16日 AFP】AFPBB News
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エルサルバドル同様の超法規的治安対策で圧倒的成果を収め、高い国民支持を獲得したのがフィリピン・ドゥテルテ前大統領も麻薬対策でした。

フィリピン・ドゥテルテ前大統領の場合は、“超法規的”殺人が横行し、警察だけでなく、謎の集団が麻薬取引関係者と見られる者を大量に殺害しました。

その中にはもちろん無実の罪で殺害されるケースもありましたし、警察(こういう国では大抵犯罪組織と癒着しています)に都合の悪い者を“抵抗した”という理由をつけて“口封じ”的に殺害することも。

おそらく、エルサルバドル・ブケレ大統領はフィリピン・ドゥテルテ前大統領の取組を参考にしたのではないでしょうか。(ブケレ大統領の場合は、殺害するのではなく、逮捕して巨大刑務所に隔離して外に出さない・・・ということで、ドゥテルテ比大統領に比べたら穏健かも)

ドゥテルテ前大統領が教える教訓は、”どんなに強引な方法であっても、治安改善という結果を出せば、多くの国民はこれを支持する”ということでしょうか。

超法規的対策の被害が及ばない圧倒的多数の一般国民にとっては、犯罪者がどいう扱いを受けようが知ったことではなく、治安が改善すれば「大成功」と評価します。

国民の多くがそういう観点で投票すれば、超法規的対策が選挙で民主的に支持されます。

民主主義というものは、有権者が自分にとっての利害だけでなく、ある特定の者が負わされる不当な状況に関して思いを寄せる想像力を有するのでなければ、単なる“数”によるポピュリズムに堕します。

もちろん、ギャング・麻薬組織が横行する状況では、従来のような生ぬるい対応では治安は改善せず、多くの国民がその被害を被る・・・というのもわかります。どこまでが許されて、どこからが許されないのか、一概に言うのは難しいところですが、バランスの問題でしょう。

“超法規的”殺人はレッドカードだと思いますが、“超法規的”逮捕となると・・・その中身でしょう。
“超法規的”が(もしどうしても必要ということであれば)許されるのは危機的状況のなかでの一時的なことで、速やかに明確なルールが定められるべきで、併せて警察以外の第三者によるチェックが必要でしょう。

また、犯罪組織と癒着した権力内部・警察の改革断行も必要でしょう。
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アルゼンチン  反中国の立場ながら、政経分離で中国との経済関係は維持するミレイ大統領

2024-09-12 22:51:57 | ラテンアメリカ

(アルゼンチンのインフレ率【Trading economics】
このグラフを見る限りでは、以前に比べると安定化しているようにも見えます。 高値安定ではありますが)

【先進国から途上国に転落した例外的な国】
今でこそ中国や韓国など、目覚ましい経済成長を実現している国もありますが、以前は「先進国はいつまでも先進国、途上国はいつまでも途上国、ただし、例外を除いて」という考えが一般的でした。

現在でも途上国からのテイクオフは容易ではなく、経済だけでなく社会の在り様まで含めて「先進国」入りするのは容易ではありませんが。

1971年にノーベル経済学賞を受賞した、アメリカの経済学者サイモン・クズネッツの言葉から。

****「世界には4つの国しかない」- サイモン・クズネッツ(米)*****
「世界には、4つの国しかない。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンである。」

これは、1971年にノーベル経済学賞を受賞した、アメリカの経済学者サイモン・クズネッツの言葉である。
この言葉は、マクロ経済学の大家から見て、日本とアルゼンチンが例外的存在だったということを意味しているが、経済学の世界で広く知られるこの言葉は、今や我々日本人にとっては軽視できない警句になりつつある。

■例外①日本:途上国 → 先進国
(中略)従って、クズネッツにとって日本は例外的な存在で興味深かった。

■例外②アルゼンチン:先進国 → 途上国
もう一つの例外が、アルゼンチンである。世界第8位という広大で肥沃な国土を持つこの国は、ヨーロッパ諸国からの投資により1850年から全土に鉄道網を張り巡らせ、またイタリア・スペインなど南欧諸国から移民を積極的に受け入れ、内陸部の開拓を進めた。

農業生産量は飛躍的に拡大し、穀物、肉類の輸出により、1929年にアルゼンチンは世界第五位の経済大国になるまで発展していたのである。しかし、ここからの転落が凄まじかった。

1929年からはじまった世界恐慌とそれを受けた英国のブロック経済圏への参入と経済的従属。経済格差拡大による国民の不満を背景としたナショナリズムの台頭、イギリス資本による産業支配への反発、ポピュリズム政治による放漫財政、経済政策の混乱。軍部によるクーデターと内乱、財政破綻。

第二次大戦後に復興が進む欧州、日本とは対照的に経済的没落の一途をたどった。先進国から途上国への転落。経済学者から見て例外事例ということだ。(後略)【ITマーケッティング研究所】
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クズネッツ氏は上記のような意味合いで“日本とアルゼンチン”という例外をあげたのですが(この言葉がいつ頃のものかは知りません)、現在ではまったく別の意味合いを帯ています。

それは、日本経済の停滞を受けて、「先進国から脱落したのは“日本とアルゼンチン”だけだ」といった主旨です。
日本経済・社会の萎縮・縮小・停滞、アジア各国の成長を受けて、やがて本当に日本はアルゼンチンと同タイプの例外国になるかも・・・・

その話は脇に置いて、今回はアルゼンチンの話。

【インフレで牛肉消費量はかつてないほどの水準に落ち込んでいる 大都市ではホームレスが増加】
アルゼンチンは経済苦境、債務返済ができなくなるデフォルトを繰り返していますが、目下の経済的問題はインフレ。

****300%インフレのアルゼンチン、「主食」の牛肉も消費減る****
アルゼンチンといえば、ステーキハウスと広大な肉牛牧場、「アサード」と呼ばれるバーベキューが名物だ。だが、年率3桁のインフレと景気後退で人々は財布のひもを引き締めざるを得ず、牛肉消費量はかつてないほどの水準に落ち込んでいる。

サッカーやマテ茶と並んで、牛肉は常にアルゼンチン社会に不可欠なものだった。にもかかわらず、消費量は年初から既に約16%減少した。

多くのアルゼンチンの住宅には作り付けの「パリージャ(アルゼンチン風焼き肉)」用のグリルがあり、家族が顔をそろえる場になっている。ブエノスアイレスの街並みのあちこちにはステーキハウスが見られ、建設現場や抗議集会の会場でさえ、即席のバーベキュー台の周りに人々が集まり、牛肉に舌鼓を打つ。

肉屋の行列に並ぶ年金生活者のクラウディア・サンマルティンさん(66)は「牛肉はアルゼンチンの食生活になくてはならないものだ。たとえるなら今は、パスタを取り上げられたイタリア人のような状態だ」とロイターに語った。洗剤など他の買い物に関しては積極的に節約しているが、牛肉は「聖域」だと語った。

「こんなご時世だから、アルゼンチン人はどんなことでも我慢できるとは思う。だが、肉なしでは生きていけない」とサンマルティンさんは言う。

ただ最新のデータでは、アルゼンチン国民の今年の牛肉消費量は年間約44キログラムのペースとなっており、52キロを超えた昨年や、100キロ以上消費していた1950年代に比べ激減している。

牛肉消費量の長期的な減少の背景には、ブタやニワトリなどほかの肉や、パスタなどもっと低価格な食品へのシフトがある。

だが今年の急減を引き起こした原因は、300%近いインフレと、リバタリアン(自由至上主義)のハビエル・ミレイ大統領による厳格な財政緊縮策に伴う経済成長の失速だ。

貧困は拡大し、大都市ではホームレスが増加してスープキッチン(無料の炊き出し)の行列が長くなっている。肉、牛乳、野菜といった食材の消費を減らす家庭も多い。前月比での物価上昇は鈍化しているが、実感はないと人々は言う。

国内の食肉業者組合CICCRAのミゲル・スキアリティ会長は「今の状況は危機的だ。消費者は何でも、財布の中身と相談の上で決めている」と語り、肉消費の低迷は続くと予想する。「国民の購買力は月を追うごとに低下している」

<肉よりパスタ>
ブエノスアイレス州の農業地帯では、肉牛を育てる牧場主らが危機感を募らせる。

ギリエルモ・トラモンティニさん(53)は、昨年の干ばつで多くの家畜に被害が出たせいで投入原価が上昇したと分析。「牛肉が高いというわけではなく、人々の購買力がひどく低下した」と述べ、畜産農家は従業員の解雇を避けるために設備投資に慎重になっていると語った。

国内消費が減少する中で輸出は増加しているものの、国際価格は下落しており、農家の増収にはつながっていない。アルゼンチン産牛肉の輸出先は中国の比率が圧倒的に高いが、購入されるのは、アルゼンチン国内では買い手がなかった安価な部位の肉だ。

CICCRAのスキアリティ会長は「輸出量こそ高水準を維持しているが、輸出部門は非常に厳しい時期を迎えている。国際市場における価格は大幅に下落した」と語る。

<売れるのは「最も安い部位」>
ヘラルド・トムシンさん(61)は、ブエノスアイレスの肉屋で働くようになって40年になる。人々は今も牛肉を買いに来るが、なるべく低価格な商品を探すのが常だと語る。

「客足は変わらないが、問題は買う量が減っていることだ。ほかの肉に乗り換える人もいるし、いつもお買い得品ばかり探している」

肉屋を営むダリオ・バランデグイさん(76)は、牛肉の中でも最も安い部位か、もっと安い肉が売れるようになっていると話す。「このところ鶏肉と豚肉の消費がかなり増えている」とバランデグイさんは言う。

自称「無政府主義的資本主義者」で、自由市場を信奉するエコノミストであるミレイ大統領は、前任のペロン党政権による牛肉価格の凍結を解除した。

「物価が非常に上がっており、牛肉もここまで高くなると手が出ない」と語るのは、教師のファクンド・レイナルさん(41)。バーベキューで交流する時間も減っていくと予想している。

「全般的にバーベキューの機会が減っている。このアルゼンチンの文化にとっては大切な要素なのに」【6月29日 ロイター】
*********************

インフレの現状は・・・まだ落ち着くには至っていません。

****アルゼンチンCPI、8月は前月比+4.2%に加速 予想上回る****
アルゼンチン国家統計センサス局(INDEC)が11日発表した8月の消費者物価指数(CPI)は前月比4.2%上昇し、前月から伸びが加速した。アナリストは3.9%に鈍化すると予想していた。

前年比では236.7%上昇し、なお世界最高水準。ロイターがまとめた予想の235.8%も上回った。INDECは、前月比のインフレ加速は生活費、公共料金、教育、輸送費用が押し上げたと分析した。

前月比インフレ率は5月から4%前後で推移している。

一方、最近の調査によると、コスト高騰により今年の貧困率は少なくとも20年ぶりの高水準に達している。【9月12日 ロイター】
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しかし“前月比のインフレ率は直近4カ月でいずれも4%台を維持しており、沈静化の兆しも見られる”【9月12日 共同】という見方もあります。
確かに毎月4.2%で推移すれば年間では63%程度の上昇におさまりますし、ミレイ大統領が就任してからはひと頃の“狂乱”状態からは回復しています。

【自由放任主義者のミレイ大統領 政治的には中国と対極にあるものの、中国との経済関係を維持する現実路線】
昨年末の大統領選挙に当選したのが、チェーンソーを振り回して公的支出をぶった切ると叫ぶようなパフォーマンスでも有名になった自由主義を信奉する経済学者出身のミレイ氏。

従来の価格規制を廃止して経済を正常化させようという試みは「壮大な社会実験」ともなっています。

大統領就任後、さすがに中央銀行の廃止や経済のドル化などの過激な政策は手をつけていませんが、中央省庁削減やエネルギー・公共交通の補助金削減による財政健全化、通貨ペソの50%切り下げなど「ショック療法」を実施しています。

“その様相はまさに国民の耐久レース、いつまでの辛抱になるのかは誰もわかりません”【4月22日 西原なつき氏 Newsweek】

ミレイ大統領は“自称「無政府主義的資本主義者」”とのことですから、社会主義・中国とは対極に位置しています。
従来の左派政権が中国に接近したのに対し、選挙戦では“中国指導者を暗殺者と呼び、中国との経済関係を抑制する”と主張していました。

しかし、アルゼンチン経済にとって中国はアメリカ以上の重みがある存在、しかもアルゼンチンは上記のような「ショック療法」「壮大な社会実験」「耐久レース」の最中。

さすがに就任後は政治と経済は別物と切り分け、経済面での中国との軋轢は回避する現実路線をとっています。それは中国にとってもメリットのある関係です。

****〈中国との経済関係は断てない〉反共主義のアルゼンチン大統領が変えた現実路線と越えない一線****
 ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)のラテンアメリカ特派員が、8月18日付け解説記事‘Argentina’s Milei Finds It Hard to Decouple From China’で、反中国的な言動で注目されていたアルゼンチンのミレイ大統領が中国との経済関係のデカップリングは困難と認め、現実的な対応を取っている旨解説している。要旨は次の通り。

中国は6月、数十億ドル相当の通貨スワップ協定を更新し、アルゼンチンの準備金に関する懸念を和らげ、多くの人を驚かせた。

強固な反共主義者のミレイは、米国との緊密な関係を維持しながらも、中国の投資と貿易はアルゼンチンの将来にとって不可欠であると述べ、より現実的なアプローチを取っている。中国は、リチウム採掘から農業に至るまで、主要な経済分野でアルゼンチンとの関係を深めている。

中国はブラジルに次ぐアルゼンチンの第2位の貿易相手国であり、昨年の貿易額は約200億ドル、米国の140億ドルを大きく上回っている。中国のアルゼンチン向け対外直接投資残高は2015年以降500%、30億ドル以上増加したとみられている。

ミレイは、長年の主要投資国である米国は最大の同盟国だと述べ、米国は依然としてアルゼンチンで影響力を保持している。ミレイ政権は、主要新興国によるBRICSへの参加を取りやめ、代わりに北大西洋条約機構(NATO)のパートナー国になることを求めた。

しかし、中国は依然として重要な経済大国であり、ミレイは西側諸国との地政学上の利益と中国との間の商業的利益のバランスを取ることを余儀なくされている。経済学者らは、アルゼンチンの経済危機を好転させるには、中国との経済関係の維持が不可欠だと指摘する。

18年の金融危機以来、国際市場にアクセスできずに債務不履行を繰り返しているアルゼンチンにとって、中国は重要な資金源である。アルゼンチンはラテンアメリカで中国の商業ローンの最大の受取国で、その大半は、現地本部を置く中国工商銀行からのものである。

前政権下で、アルゼンチンは中国の一帯一路構想に参加し、アジア投資銀行のメンバーとなり、地元企業が中国との取引に希少なドルの代わりに人民元を使えるための取り決めを確保した。

政治アナリストによると、トランプが11月に再選されれば、アルゼンチンや他の開発途上国に対し、中国との関係を断つよう圧力を強める可能性がある。ミレイはトランプを尊敬しており、昨年12月の就任以来、米国を5回訪問しているが、まだ中国を訪問していない。

ミレイは、中国との政治的な意見の相違が経済関係に影響すべきではなく、貿易問題は基本的に民間が決めることなので、自分が口出しする必要はない、とWSJのインタビューで語った。

アルゼンチンの中国専門家は、中国はこれまでのところアルゼンチンに対し、オーストラリアやリトアニアに対して行ったように外交問題について経済力で報復するのではなく、「戦略的に忍耐強い」アプローチを取っていると述べた。

中国がアルゼンチンに対して強硬な姿勢を取れば、アルゼンチンは間違いなく米国の懐に入り込むだろう。

アルゼンチンの国際貿易専門家は、中国は南米の膨大な天然資源を利用する必要があり、アルゼンチンは世界第3位のリチウム埋蔵量を持ち、家畜の飼料として使われる大豆粕の最大の輸出国であり、地政学的にアルゼンチンは明らかに中国と距離を置いているが、中国側のニーズを考えると、アルゼンチンとの貿易を制限するとは考えられず、商業面での影響はないと見ている。

*   *   *
就任後は鳴りを潜めた過激な言動
 昨年の大統領選挙キャンペーンにおいて、過激な言動で注目を集めたミレイの主張の1つが中国指導者を暗殺者と呼び、中国との経済関係を抑制するとの発言であった。これはリバタリアンとしてのイデオロギーに基づくと共に、これまでの左派政権との路線の違いを際立たせるものであった。

しかし、当選後はそのような烈しい中国批判は影を潜め、4月にはモンディーノ外相が北京を訪問し経済関係を強化することで合意し、ミレイは中国との貿易関係を抑制することはなく、通貨スワップも継続すると述べた。

アルゼンチンは、経済関係で中国に対して、金融面、貿易面、鉱業投資、交通インフラ、電力インフラ、ITインフラなどで、既に中国に相当に依存しており、300%近いインフレ、外貨準備の枯渇、経済の停滞と貧困の悪化の中で、中国との経済関係なしには経済再建はとても望めないのが現状である。

6月には、中国側が通貨スワップ協定の延長に応じたことにより外貨準備の最大の財源を確保することができ、貿易面では、中国からの輸入の増大による貿易赤字を埋め合わせるべく、大豆、牛肉、大麦に加えて小麦やトウモロコシの輸出を計画しており両国間の貿易関係はさらに拡大するであろう。

中国は、元々ラテンアメリカ地域においてアルゼンチンを重視してきており、12年にアルゼンチンでの宇宙レーダー基地建設の合意を取り付け、14年に二国間関係を「総括的戦略的パートナーシップ」に格上げした。アルゼンチン側も17年にはアジア投資銀行に加盟し、22年にはフェルナンデス大統領の下で一帯一路構想に参加した。

前政権までのペロン派政権の下で、中国は、多くのインフラプロジェクトへの融資や世界最大規模の通貨スワップでアルゼンチン経済を支え、その見返りとして、世界第3位の埋蔵量を誇るリチウム採掘への投資、中国工業製品の市場の確保といった経済面での利益の確保を目指すと共に、宇宙レーダー基地の増強、マゼラン海峡に臨む戦略上の要所での港湾建設、中国製戦闘機の売り込み等の地政学面での関係強化に努力を重ねて来た。

政治的には一定の距離
中国との経済関係の抑制を公約していたミレイが、大統領就任後このような中国との相互依存関係に理解を深め、対中経済関係を維持する方針に転換したことは確かだが、政治面では必ずしも中国に歩み寄っているわけではない。むしろ、政経分離で中国とは距離を置こうと努めているようにも観察される。

BRICS加盟への招待を断り、他方でNATOのパートナー国としての地位を求めたことが象徴的だ。6月頃にはミレイが訪中するとの報道もあったが、その後実現していない。

ミレイ自身が自由貿易派であり貿易は民間がやることなので政府としては口を出さないとも述べており、中国との貿易拡大についても歓迎はするが冷ややかな態度である。中国側から見て最近の対アルゼンチン関係は決して順調とは言えない。

アルゼンチン経済立て直しに中国による協力が不可欠とする立場からは、政経分離はいずれ経済面でも悪影響を及ぼすのではないかとの懸念もある。しかし、二国間の関係悪化は、アルゼンチンをラテンアメリカ外交の拠点国と位置付けようとしてきた中国の方にむしろ失うものが多く、強硬策は取らないと思われる。

逆にミレイ側は、経済的デカップリングは行わず対中国関係の経済的利益は享受するが、政経分離で政治面では中国寄りの対応は取らず、その限りにおいて政府間で水面下での緊張関係が継続する可能性もあると思われる。【9月12日 WEDGE】
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ベネズエラ  国内外からの批判にも強気姿勢のマドゥロ大統領 事態を動かす可能性があるとしたら・・・

2024-08-30 23:03:31 | ラテンアメリカ

(28日、カラカスで演説するベネズエラの野党指導者マチャド氏(中央)【8月29日 時事】
ただ、事態を動かすには軍部内部からの離反が必要かも)

【選管幹部が不正告発 最高裁は選管発表支持】
南米ベネズエラのマドゥロ大統領が選挙結果を捏造して(確定的な証拠はありませんが、状況的には真っ黒)居座っていることは、8月11日ブログ“ベネズエラ 国内外の選挙結果捏造批判にも居座るマドゥロ大統領 残された選択肢は国を去ること”でも取り上げました。

状況はその後も変わりませんが、選管内部からの不正告発も出ています。

****ベネズエラ選管幹部が告発 選挙不正を暴露、政権に逆風****
ベネズエラの選挙管理当局幹部が26日、7月の大統領選で複数の不正行為があったと内部告発し、現職マドゥロ大統領が勝利したとの結果は「透明性と真実性を著しく欠いている」と批判した。選管内からの暴露は、選挙の正当性を唱える政権にとって逆風となりそうだ。

告発したのは選管当局の委員5人のうちの1人、フアンカルロス・デルピノ氏で、X(旧ツイッター)に文書を掲載した。

デルピノ氏は、投票締め切り後に野党側の監視員が立ち退かされたことは「重大な規則違反」だと指摘。投票結果の送信が中断されたことも問題視し、政権側が原因に挙げたサイバー攻撃によって「正当化された」と訴えた。【8月27日 共同】
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フアンカルロス・デルピノ氏は中央選管に相当する全国選挙評議会(CNE)委員5人のうちの一人で、野党に近いとされる人物とか。

ただ、権力機構の一員たる最高裁は、マドゥロ勝利の選管発表を支持しています。根拠はわかりませんが。

****「現職当選」司法も認定=最高裁が選管発表支持―ベネズエラ****
ベネズエラ最高裁は22日、先月行われた同国大統領選で反米左派の現職マドゥロ大統領が当選したことを認める判断を下した。

統一候補の当選を主張する野党陣営との対立が続く中、選管当局の発表を司法が支持したことでマドゥロ氏3選の既成事実化が進んだ。3期目の任期は来年1月からの6年間となる。

選管の発表への反発が広がる中、裁判所を掌握するマドゥロ氏が司法判断を出すように求めていた。ロドリゲス最高裁長官は判決文を読み上げ、選挙の物証に関して「正当性に異論の余地はない」と言明し、マドゥロ氏を当選とした選管の見解を有効と認定した。

選管は、マドゥロ氏が約52%の得票率で当選したと発表。しかし、開票の詳細は公表しておらず、不正を指摘する声が野党陣営から上がっている。【8月23日 時事】
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マドゥロ大統領は主要閣僚の大幅な入れ替えを実施。批判の矛先をそらす狙いもあるとも。

****ベネズエラ大統領が主要閣僚入れ替え 選挙不正批判そらす狙いも****
ベネズエラのマドゥロ大統領は27日、主要閣僚の大幅な入れ替えを実施した。先の大統領選におけるマドゥロ氏の勝利に野党や国際社会から疑念や批判の声が広がる中で、こうした論争から注目をそらす狙いもあるとみられる。(後略)【8月28日 ロイター】
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【国内外からの不正選挙批判は続いているものの、事態を動かすには至らず】
国内外からの批判も続いています。

****EU、マドゥロ氏の「民主的正当性」否定 ベネズエラ大統領選****
欧州連合(EU)加盟国の外相らは29日、ベネズエラのマドゥロ大統領の「民主的正当性」を受け入れないとの認識で一致した。ボレル外交安全保障上級代表(外相)がEU外相会議後に発表した。

ボレル氏は、ベネズエラの選挙管理委員会に対して、7月28日の選挙でのマドゥロ氏の勝利主張を裏付ける信頼できるデータを提供するよう何度も求めたが、同委員会がその要請を受け入れなかったことを受け、この決定を下したと説明した。

同氏は記者団に「マドゥロ氏は事実上大統領のままだろう。しかし検証できない結果に基づいてわれわれは民主的な正当性を否定する」と語った。

選挙管理委員会は現職のマドゥロ氏の勝利を宣言したが、完全な投票結果を公表していない。野党側は、野党統一候補のゴンサレス氏の圧勝を示す投票結果を公表した。ゴンザレス氏はビデオ会議形式でEU閣僚会議に参加した。

ボレル氏は、EUが選挙に関していかなる制裁も課していないため、今回の決定が直ちに実質的影響を及ぼすことはないとしたが、約4億5000万人の国民を代表するEUによる「強い声明」だと述べた。【8月30日 ロイター】
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ただ、いくらEUが「民主的正当性」を否定しても、「マドゥロ氏は事実上大統領のままだろう」ということでは、マドゥロ氏を否定する多くの国民が浮かばれません。

アメリカもブリンケン国務長官が8月1日、野党統一候補の勝利は「明らかだ」とする声明を出していますが、その後の具体的行動はありません。

中南米でも、ブラジル、コロンビア、メキシコも、結果の「公平な検証」を求めています。アルゼンチン、エクアドル、コスタリカ、中米パナマは野党候補勝利を表明していますが、マドゥロ大統領としては「それがどうした」というところでしょう。

国内の抗議行動も続いてはいますが・・・マドゥロ氏を退陣に追い込む決定力に欠けています。

****ベネズエラの〝鉄の女〟、「マドゥロ大統領勝利」抗議デモの先頭に 大統領選から1カ月****
南米ベネズエラの大統領選から1カ月が経過した28日、野党側は、不正集計の疑いが浮上した選挙管理当局による「マドゥロ大統領勝利」を認定した最高裁などに抗議する集会を各地で開いた。

「鉄の女」の異名を持つ指導者マリア・コリナ・マチャド元国会議員(56)が先頭に立ち、独裁色を強めるマドゥロ政権に退陣を迫ったが、政権交代の実現は難しくなっている。

マチャド氏は、マドゥロ氏が大統領に就任した2013年、「自由」を掲げて発足した政治団体「ベンテ・ベネズエラ」の創設メンバー。昨秋の予備選で約9割の票を得て野党統一候補となった。

しかし、マドゥロ氏の影響下にある最高裁は「汚職に関与した」としてマチャド氏を公職から追放。マチャド氏は、自らの出馬を断念し、今年7月の本選では元外交官のゴンザレス氏の支援に奔走した。

マチャド氏は、大統領選の結果について、野党側が全国3万の電子投票機の8割超から回収した開票記録に基づき、得票率67%のゴンザレス氏が、同30%のマドゥロ氏に勝利したと訴える。28日は首都カラカスの抗議集会で、「世界がベネズエラの声を聞いている」と支持者に訴え、政権交代の実現を呼びかけた。

これに対し、治安当局は28日、マチャド氏と一緒に集会に参加した野党側の幹部ピリエリ氏を逮捕。既にマチャド氏の警護責任者や弁護士も逮捕しており、マチャド氏への圧力を強めている。マチャド氏自身も、軍の離反を呼びかけたとして、ゴンザレス氏とともに捜査対象となっている。【8月29日 産経】
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【中米ニカラグアの・オルテガ大統領 「もし反革命がおきれば、ニカラグアから戦闘員を派遣する」】
マドゥロ大統領の強気姿勢を支えるのは国際的にはキューバ、ロシア、中国からの支持。
さらに、中米左派政権のニカラグアからは「もし反革命がおきれば、ニカラグアから戦闘員を派遣する」との“力強い”支持も。

****ニカラグア大統領、ベネズエラに「サンディニスタ戦闘員」派遣の申し出****
南米ベネズエラで現職のニコラス・マドゥロ氏が勝利を宣言した大統領選挙をめぐり不正が指摘されている問題で、中米ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、もし「武装反革命」が起きればマドゥロ氏を支援するため「サンディニスタの戦闘員」をベネズエラに派遣すると申し出た。

マドゥロ氏の勝利宣言に対しては、不正を訴える声が野党からも国外からも噴出した。街頭では数千人が抗議運動を展開し、市民少なくとも24人と兵士1人が死亡。政府の治安部隊は少なくとも2000人を拘束した。

オルテガ大統領は26日に行われた中南米諸国のオンライン首脳会合の席上、ベネズエラで「武装反革命」が起きた場合はマドゥロ氏を支持すると表明。「もし戦闘になった場合、彼ら(マドゥロ政権)にはサンディニスタの戦闘員が付いている」と述べた。

ニカラグアのサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)は、1970年代末のニカラグア革命で実権を握った左派の政治運動で、オルテガ大統領はFSLNに所属している。

オルテガ大統領はまた、ブラジルやコロンビアの大統領(いずれも左派)がマドゥロ氏の3期目勝利を承認していないことを非難した。現在5期目となるオルテガ大統領自身も、過去の選挙で不正があったとして非難されている。

政府系が支配するベネズエラの選管当局によると、大統領選はマドゥロ氏が50%を超す得票で勝利した。これに対して野党連合や国連の選挙監視団などが選管の数字に疑問を投げかけ、米国や欧州連合(EU)、国際機関も開票結果に関する詳しい数字を公表するようベネズエラに促している。【8月28日 CNN】
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【事態を動かす可能性があるとしたら、軍部中堅の離反か】
マドゥロ大統領を支える最終的な力は軍部の支持です。

前回ブログでも取り上げたように既得権益システムの一端に連なる軍幹部はマドゥロ大統領への忠誠を明らかにしています。

****ベネズエラ国防相、マドゥロ大統領に軍の「絶対的な忠誠」表明****
ベネズエラのパドリノ国防相は6日、7月28日の大統領選を巡り現職マドゥロ大統領と野党候補だったドムンド・ゴンサレス氏双方が勝利を主張する中、マドゥロ氏に対する軍の「絶対的な忠誠」を再確認すると表明した。

ゴンサレス氏と野党連合を率いたマリア・コリナ・マチャド元国会議員は5日公表の書簡で軍に「国民の側に立つ」よう求めていた。

パドリノ氏はテレビ演説で、野党側の要求を「愚かで非理性的」と一蹴し、「われわれの団結と確立された制度を壊そうと狙っているが決して壊すことはできない」と強調。軍幹部や警察が同氏の周りを囲んだ。

野党側はゴンザレス氏の得票数が600万票強と、マドゥロ氏の270万票の2倍以上だったと主張。3万台の投票機分の投票用紙の写しをインターネット上で公開している。

選挙管理委員会は投票用紙の写しを公表しておらず、7月29日以降、ウェブサイトもダウンしている。【8月7日 ロイター】
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今後に向けて、マドゥロ大統領を追い込む可能性があるとしたら、軍部の中堅の動向でしょう。

****混乱続くベネズエラ 大統領強権姿勢の裏に中露の支持、軍の動向がカギ****
(中略)
マドゥロ政権は大規模な抗議デモ発生について野党指導者らが国家に対する反乱を扇動したとして逮捕する構えだ。

内外からの批判の高まりを一向に気にせず大統領が強気になる背景には友好国キューバのほか、中国、ロシアからの支持を得ていることがあるとの指摘も多い。

特に中国はベネズエラ大統領選の公式発表のわずか四時間後にマドゥロ大統領の勝利を承認する迅速な対応ぶり。中国はベネズエラと「包括的パートナーシップ協定」を結んでおり、政治・外交面での支持に加え、経済支援も続けている。

マドゥロ大統領が昨年9月に訪中し、習近平国家主席と会談して以後、2国間関係は一段と強化されたといわれ、「国際世論がいくら選挙不正があったと非難しても、中国の支援がある限り国際的孤立を恐れないというのがマドゥロ氏の考え」(在カラカス外交筋)との説もある。

ロシアのプーチン大統領もマドゥロ大統領あてに祝電を送り、今後さまざまな分野で関係を深化させると約束した。

■ 軍中堅幹部が野党に同調の動き?
一方、米国のマドゥロ政権に対する対応は今一つはっきりしない。バイデン政権は新たな制裁を検討していると報じられたが、ベネズエラ大統領選後約1カ月経った現在まで制裁は発動されていない。

バイデン政権がベネズエラに対し強硬措置を迅速に取っていないことが、マドゥロ大統領が強気になる一因と見る向きもある。

今後のシナリオについては「マドゥロ政権が野党勢力への弾圧を強め、権力の座に居座り続ける」(中南米専門の米シンクタンクの研究者)との見方が有力だ。

ただ、少数意見ながらマドゥロ大統領退陣が追い込まれるとの見方もある。メキシコ有力紙「エル・ウニベルサル」の政治記者は「国内の混乱が一層深まれば軍が大統領に反旗を翻す可能性が出てくる」と予想する。

ベネズエラの国防相や参謀総長らは大統領選後もマドゥロ大統領への忠誠を誓っているが、同記者によれば、軍の一部中堅幹部の間で国家の分裂を回避するため、野党陣営に同調する動きがあるという。

中南米専門家の間ではベネズエラの現状が2019年のケースと酷似しているとの指摘もある。この年ボリビアで大統領選が行われたが、4期目の当選を目指したモラレス大統領が不正選挙への抗議デモが広がる中、軍が離反し、辞任に追い込まれる歴史的政変が起きた。ベネズエラで同様の政治ドラマが展開されるか、同国の軍の動きが焦点になりそうだ。【8月28日 山崎真二氏 Japan In-depth】
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軍幹部は既存体制にべったりでしょう。動きがあるとしたら“国を憂う青年将校”の決起・・・ということになりますが、二・二六事件を持ち出すまでもなく、そうした決起は失敗することも。成功のカギは国民との連動でしょう。
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ベネズエラ  国内外の選挙結果捏造批判にも居座るマドゥロ大統領 残された選択肢は国を去ること

2024-08-11 22:17:25 | ラテンアメリカ

(【8月8日 AFP】 鍋を叩いて抗議する人々 しかし、それだけでは軍・警察・民兵組織の暴力装置に守られた権力は微動だにしません)

【盗まれた選挙 居座るマドゥロ大統領】
バングラデシュ・ハシナ政権のようにあっけなく崩壊する政権もあれば、一方でどれだけ国内外の批判にさらせれようが、強権的に、選挙結果を捏造しても居座る政権もあります。そのひとつが南米ベネズエラのマドゥロ大統領。

ベネズエラは長年、石油収入に依存し、原油価格が下落した後もばらまき政策を続けた結果、財政が破綻しました。一時は天文学的数字のハイパーインフレーションで市民生活は満足に食事もとれないほどに崩壊。その後も野党弾圧などを理由にアメリカから経済制裁を受け、外貨不足とインフレが常態化しています。

7月22日ブログ“ベネズエラ大統領選挙 投票日は28日 野党候補が大きくリードした状況でマドゥロ大統領の対応は?”でも取り上げたベネズエラ大統領選挙(7月28日)では、マドゥロ大統領が選挙での敗北を認めるというサプライズは起きず、想定されたように結果を捏造して居座る構えを見せています。

マドゥロ政権の影響下にある選挙管理委員会は、全国から集めた投票結果を集計する際、野党側の立会人を排除して集計を進め、その結果、マドゥロ大統領の得票率は51・95%、無名だった野党候補ゴンサレス氏は43・18%と「マドゥロ勝利」を発表しています。

一方、野党側は各地で公表される票を積み上げてゴンサレス氏が7割を得票したと発表していますが、この数字は事前の世論調査や当日の出口調査とおおよそ一致するもので、選挙結果は政権側によって捏造されたものと思われます。

国内では野党側の抗議行動が続き、国際的にもアメリカや中南米諸国から「野党勝利」の主張が出てはいますが・・・

****抗議続くベネズエラ、野党指導者がサプライズ登場****
南米ベネズエラで3日、野党指導者で、逮捕の恐れから潜伏していたマリア・コリナ・マチャド氏が支持者の前に姿を現し、「私たちはかつてないほど強くなった」と訴えかけた。

7月28日実施の大統領選でニコラス・マドゥロ大統領の再選が発表されたことへの抗議が続いており、マドゥロ氏は「大統領職を奪取する」試みだと非難した。

ベネズエラ全土で平和的なデモが継続。マチャド氏は首都カラカスで「ベネズエラは勝利した!」と書かれた横断幕を掲げたトラックに乗って予告なしに登場し、支持者を沸かせた。

マドゥロ氏は選挙後の抗議デモを受けて、マチャド氏を逮捕すると警告。マチャド氏はこの日まで身を隠していた。

支持者らは、大統領選での野党連合候補の元外交官エドムンド・ゴンサレス氏の得票率は67%だったと主張。一部の南米諸国や米国は、同氏を次期大統領として認定している。

ベネズエラに投票結果の詳細を公表するよう求める声もあり、欧州連合加盟国のフランス、ドイツ、イタリア、スペインは3日、選挙結果に「強い懸念」を表明した。

マドゥロ政権と良好な関係を維持しているブラジル、コロンビア、メキシコも、結果の「公平な検証」を求めている。 【8月4日 AFP】
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****ベネズエラ、野党候補の勝利認定すべき=大統領選巡り米国務省高官****
米国のニコルズ国務次官補(西半球担当)は31日、ベネズエラのマドゥロ大統領や諸外国に対し、28日のベネズエラ大統領選で野党候補ゴンサレス氏が勝利したことを認めるよう求めた。

ニコルズ氏は米州機構(OAS)の会合で、ベネズエラの選挙管理当局が詳細な開票結果をまだ公表していないのは、ゴンサレス氏が勝利したことを隠したい、あるいは結果を改ざんする時間が必要だからだと述べた。

選管当局はマドゥロ氏が勝利したと発表しているが、野党や独立系調査機関、多数の外国政府が信頼できないとして反発している。【8月1日 ロイター】
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****ベネズエラ大統領選、中南米5カ国も野党候補の「勝利」を表明****
ベネズエラ大統領選を巡り現職マドゥロ大統領の「当選発表」に国際社会から批判が高まる中、アルゼンチンなど中南米5カ国は2日、野党連合候補の元外交官ゴンサレス氏が勝利したと相次いで表明した。米国やペルーも同様の認識を示しており、米大陸でマドゥロ氏の3選を否定する動きが広がっている。

アルゼンチンのモンディノ外相はX(ツイッター)に「正当な勝者、次期大統領はゴンサレス氏だ」と投稿した。ウルグアイのパガニニ外相もXで「人々の意思が尊重されることを望む」と述べた。このほか、エクアドル、コスタリカ、中米パナマがゴンサレス氏勝利を表明した。(中略)

ベネズエラでは集計に不正があったと抗議するデモが広がり、地元NGOによると、これまでに少なくとも11人が死亡。マドゥロ政権は抗議デモに絡んで1200人以上を拘束した。

2日未明にはゴンサレス氏の陣営本部に武装集団が押し入り、書類などを持ち去った。マドゥロ派による犯行との見方が出ている。【8月3日 毎日】
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国内外の批判があるなかで、中国・ロシアやキューバなどがマドゥロ大統領勝利に祝意を送っています。

与野党は昨年、ノルウェーの仲裁のもと公正で民主的な大統領選を実施することに合意し、アメリカはこれを評価して一時的にベネズエラへの経済制裁を解除するという「アメ」も与えていましたが、有力野党候補マチャド氏を選挙から排除したあげく、無名候補にも敗れると選挙結果を捏造するという結果に。

マドゥロ大統領には民意を反映した選挙を実施する考えはなく、選挙は自身の政権の正統性をアピールするための道具に過ぎません。

国民がいくら鍋やフライパンを叩いて抗議しても、政権を譲る考えはありません。

【軍・警察・民兵組織という暴力装置で守れた権力】
国内が混乱した場合、軍の動向が決定的影響を持つというのが現実で、野党側も軍に国民の側に立つように求めていますが・・・

****ベネズエラ国防相、マドゥロ大統領に軍の「絶対的な忠誠」表明****
ベネズエラのパドリノ国防相は6日、7月28日の大統領選を巡り現職マドゥロ大統領と野党候補だったドムンド・ゴンサレス氏双方が勝利を主張する中、マドゥロ氏に対する軍の「絶対的な忠誠」を再確認すると表明した。

ゴンサレス氏と野党連合を率いたマリア・コリナ・マチャド元国会議員は5日公表の書簡で軍に「国民の側に立つ」よう求めていた。

パドリノ氏はテレビ演説で、野党側の要求を「愚かで非理性的」と一蹴し、「われわれの団結と確立された制度を壊そうと狙っているが決して壊すことはできない」と強調。軍幹部や警察が同氏の周りを囲んだ。

野党側はゴンザレス氏の得票数が600万票強と、マドゥロ氏の270万票の2倍以上だったと主張。3万台の投票機分の投票用紙の写しをインターネット上で公開している。

選挙管理委員会は投票用紙の写しを公表しておらず、7月29日以降、ウェブサイトもダウンしている。【8月7日 ロイター】
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軍幹部も既得権益を得て、体制の枠組みの一環となっているものと推測されます。

チャベス前大統領以来の強固な支持者が一定に存在するのも事実ですが、軍・警察そして民兵組織という暴力装置に守られた権力は鍋やフライパンを叩いただけでは微動だにしないのが現実です。

【マドゥロ強権支配が更に6年続くのか 残された選択肢は国を去ることだけ】
国民に残された対応としては、国を去ることだけか・・・

“経済苦と強権統治から逃れようと、すでに全人口の4分の1にあたる770万人以上がブラジルやコロンビア、米国などに逃れ、今後さらに増えるとみられる。”【8月5日 読売】

****また6年...独裁者マドゥロ「怪しい再選」で次に起きること ベネズエラ国民4人に1人が移住を検討****
<26年ぶりの変革に国民は期待を寄せたが、今回も勝ったのは現職ニコラス・マドゥロ大統領。「不正が行われた」との見方がもっぱらだ>

ベネズエラ大統領選挙が行われた7月28日、国民は夜遅くまで起きて開票結果を見守った。1998年に左派のポピュリスト、ウゴ・チャベスが政権の座に就いて以来の大きな政治的変革を期待したのだ。

だが勝利したのは、チャベスの後継者で3期目を目指す現職のニコラス・マドゥロ。独裁的な左派政権がさらに6年間、続くことになる。

(中略)ゴンサレスは支持者に対し、デモなどは行わず、暴力に訴えることのないよう呼びかけた。これを受けて、首都カラカスの多くの地区では29日、鍋やフライパンをたたく音が響いた。これは中南米の伝統的な抗議行動のやり方で、「カセロラソ」と呼ばれる。

政権打倒を狙った試みはこれまで何度も行われたし、経済制裁などの外国からの圧力もあったが、いずれも結果には結び付かなかった。専門家や政治家は政権交代の可能性について悲観的な見方を示す。

「国際社会の選択肢は限られているし、(マドゥロ政権と野党側や諸外国との)対話からも、近い将来ベネズエラで大きな政治的変革が実現する見通しは暗いことがうかがえる」と、アンデス大学(コロンビア)のサンドラ・ボルダ教授は本誌に語った。

マドゥロ政権発足以降の10年間に、数百万人のベネズエラ国民が国を去った。ハイパーインフレの原因となった経済政策や周辺諸国からの圧力、そして新型コロナウイルスのパンデミックがその流れに拍車をかけた。

米シンクタンクの移民政策研究所のデータによれば、2010年以降、アメリカへのベネズエラ人移民の数はほぼ3倍に増えた。

ベネズエラ情勢の先は見えない。フリオ・ボルヘス元国会議長ら野党指導者からは、軍に対して「国民の意思を守る」行動を取るよう呼びかける声まで出ている。

ベネズエラの調査会社デルフォスが6月に行った全国規模の世論調査によれば、約4人に1人が外国への移住を検討していて、その主な理由は経済問題だという。ちなみに移住を考えている人のうち、約半数は大統領選で野党が勝利したり、経済情勢が改善すれば国に残ると答えている。

今後、マドゥロが野党への圧力を強めるシナリオもあり得る。特に標的になりそうなのがマチャドだ。タレク・ウィリアム・サーブ検事総長は、マチャドが「アメリカの勢力」と手を組んで、大統領選の開票システムをハッキングしたと非難している。

国際社会におけるベネズエラの政治的孤立がさらに深まる可能性もある。もっともマドゥロはこれまで、そうした状況をうまく切り抜けてきた。

例えば19年にはフアン・グアイド国会議長(当時)が暫定大統領への就任を宣言し、2人の大統領が並び立つという事態が続いた。グアイドはアメリカなど西側諸国の支持を集めたが、マドゥロ政権を倒すことはできず失脚。フロリダで亡命生活を送っている。【8月6日 Newsweek】
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気が滅入る現実です。

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ベネズエラ大統領選挙 投票日は28日 野党候補が大きくリードした状況でマドゥロ大統領の対応は?

2024-07-22 23:29:13 | ラテンアメリカ

(ゴンザレス氏のキャンペーン【7月6日 ブラジル日報】 最近まで「無名の存在」だったため、ググってもあまり画像がありません)

【無名の存在だった野党候補が大きくリード マドゥロ大統領がこのまま選挙での敗北を認めるのか?】
アメリカ大統領選挙に関して、トランプ前大統領銃撃に続くバイデン大統領の辞退が大きく取り上げられていますが、その前に、残り1週間もない今月28日には南米ベネズエラで大統領選挙が「予定」されています。

世論調査によれば現職マドゥロ大統領を数か月前までは無名だった野党候補が大きくリードしており、このまま選挙が公正に行われれば、政権交代が予想されます。

独立系世論調査会社ORCの6月後半の調査によると、14.2%のマドゥロ大統領に対し、野党候補ゴンザレス氏の支持率は58.6%で大きくリードしています。ほかの複数の調査でもゴンザレス氏が優位に立っています。

しかし、マドゥロ大統領雄強権的政治スタイル、今回選挙にあたって有力野党候補の出馬を妨害阻止した経緯を考えると、このまま「負け戦」を淡々と実施するのか・・・確証がなくカッコ付きの予定と表記した次第です。

これまでの経緯や公正な選挙がおこなわれるかどうかの懸念については、7月4日ブログ‟ベネズエラ大統領選挙  野党候補が支持率で大幅リード・・・とは言うものの、結果は・・・・”でも取り上げたところです。

*****ベネズエラ政権交代に現実味? 3選狙う独裁者マドゥロを「無名の存在」が大幅リードも一切油断できない理由****
<マドゥロ大統領に挑むのは4月まで無名だった野党統一候補のエドムンド・ゴンザレス。支持率では現職を引き離しているが、「極端な戦術」を発動して選挙を阻む可能性も>

「変化を起こしたくて来たんだ」──5月のある日、ベネズエラの首都カラカスの西に位置する町ラビクトリアで選挙集会に参加していたバイク配達員のエリクソン・パチェコは言った。
演説していたのは、中道右派野党のリーダー、マリア・コリナ・マチャド。隣にいるのは、7月28日の大統領選に臨む野党統一候補のエドムンド・ゴンサレスだ。

大統領選は、3選を目指す反米左派のニコラス・マドゥロ大統領とゴンサレスの争いだ。元外交官のゴンサレスは、マドゥロ独裁政権により大統領選への立候補を阻まれたマチャドの代役として出馬した。

「初めて選挙集会に参加した」と、パチェコは言った。「これまでマドゥロに投票していて、マチャドは好きでなかった。でも今は大好きだ」
そう感じているのは、パチェコだけではない。いまベネズエラの政治に地殻変動が起きようとしている。

大統領選で政権交代が起きる可能性が現実味を帯びている。マドゥロの支持率が10~20%にとどまっているのに対し、ゴンサレスの支持率は50~60%に達しているのだ。

物静かなゴンサレスは、駐アルジェリア大使や駐アルゼンチン大使を歴任した経験こそあるが、4月に野党統一候補に決まるまでは国内でもほぼ無名の存在だった。しかし今では、幅広い野党勢力がゴンサレスを大統領に押し上げるべく一致結束している。

数カ月前まで、野党がここまで勢いを増すとは考えにくかった。ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて2013年に大統領に就いたマドゥロは、次第に独裁的な傾向を増し、国内の締め付けを強化した。

近年も数百人の野党活動家を拘束したり、検閲を強化したり、不正選挙を行ったり、人気野党政治家の立候補を禁じたりしている。

その一方でベネズエラはこの数年間、極度の経済悪化に見舞われて、人道上の危機に陥っている。基礎的な公共サービスが崩壊し、この10年間で800万人近い国民が国外に脱出した。

この状況下でマドゥロ政権は昨年10月、アメリカによる経済制裁の緩和と引き換えに、自由で公正な大統領選挙を実施することを受け入れた(その後、同政権が合意を破ったとしてアメリカ政府は制裁緩和措置を停止している)。

現時点で野党陣営が選挙戦を有利に進めているが、投票日まで何があるか分からない。マドゥロ政権が極端な戦術を実行する可能性は排除できないと、専門家は指摘する。

例えば、ゴンサレスの候補者資格を停止したり、選挙を延期したり中止したりすることもあり得る。

その口実をつくるために、領土問題で対立する隣国ガイアナと武力衝突を起こす可能性もある(マドゥロ政権は、ガイアナの国土の半分以上を占める資源豊かな「エセキボ地域」を自国領と主張している)。

しかし、それ以上に大きい脅威は、投開票日当日の不正だろう。ベネズエラの選挙管理委員会は、マドゥロ政権の与党に牛耳られている。そこで、野党側は地滑り的な圧勝を遂げることにより、不正選挙で結果が動かされる余地を減らしたいと考えている。

政権交代を望む国民の多くは楽観的だ。「ベネズエラ社会は、目覚ましい回復力と自由への意欲を示してきた」と、政治学者のパオラ・バウティスタ・デ・アレマンは述べている。「その点は、政治組織にも市民社会にも、そして街頭にも見て取れる」【7月22日 Newsweek】
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一番あり得るのは投票結果の不正操作です。
2017年の制憲議会選挙に関し、電子投票機を提供した企業が「政権が結果を改ざんした」と告発した事例もあります。

また、ベネズエラでは最高裁判所や選挙管理委員会は政権の影響下にあるとされ、選挙結果が無効にされることも十分にあり得ます。理由は・・・どうにでも捏造できるでしょう。

ただ、あまりに大差がついた状況で行うと、国民の大きな怒りを招くリスクがあります。そこまでやるのか・・・。

【マドゥロ大統領 野党勝利なら「血の海」と脅し すでに野党関係者拘束も】
一方、マドゥロ大統領は「血の海」という言葉を用いて脅しともとれるような発言をしています。

****マドゥロ氏、「血の海」避けるため再選が必要と主張 ベネズエラ大統領選****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は16日、首都カラカスのイベントで、支持者に対し、今月28日に予定されている大統領選をめぐり、「血の海」が引き起こされる可能性を避けるためには、自身の再選が必要だと述べた。

マドゥロ氏は「ベネズエラを血で血を洗う内戦に陥らせたくなければ」、与党が大統領選で勝利しなければならないと訴えた。

マドゥロ氏は、与党の勝利だけがベネズエラの「平和」を確保できるとし、「不可逆的な結果」を期待していると言い添えた。

ベネズエラでは前任者のウゴ・チャベス氏が2013年に死亡して以降、独裁色を強めるマドゥロ氏が10年以上にわたり実権を握っている。マドゥロ政権はこの間、不正投票や野党への弾圧をめぐり、批判を受けることも多かった。

マドゥロ氏は18年の大統領選でも勝利して再選を果たしたものの、中南米14カ国や米国、カナダがこの選挙を正統なものとは認めず、野党勢力の大部分も参加しなかった。

今年の大統領選は違ったものになるとの期待もあった。これは、マドゥロ政権が昨年、米国との間で、制裁の緩和と引き換えに自由で公正な選挙を実施するとの合意に達したためだ。

だが、最近になり野党勢力はこの合意をマドゥロ氏がほごにしたと批判している。野党の主要な候補者だったマリア・コリナ・マチャド氏とコリナ・ヨリス氏の2人は出馬を禁じられているほか、人権団体が先に発表した報告書によれば、選挙戦が始まった今月4日以降、「恣意(しい)的な拘束」が相次いでいるという。【7月18日 CNN】
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“「ベネズエラを血で血を洗う内戦に陥らせたくなければ」、与党が大統領選で勝利しなければならない”・・・・もし野党が勝利したら、たとえ内戦状態になったとしても、自分たちは暴力で結果をひっくり返す・・・という表明に他なりませんが、こうした発言がまかり通るのがベネズエラです。

すでに野党関係者の拘束も行われています。

****ベネズエラ野党関係者、当局が拘束 28日の大統領選控え****
ベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏の治安担当責任者が17日に拘束された。同氏の政治活動団体ベンテ・ベネズエラが明らかにした。7月28日の大統領選を前にした拘束となる。(中略)

ベンテ・ベネズエラは、当局がマチャド氏の治安責任者ミルシアデス・アビラ氏を連行したと述べた。

マチャド氏は「マドゥロ大統領が選挙活動に携わる人々や国内のあらゆる場所で我々を支援する人々に対する弾圧をエスカレートさせていることについて世界に警告している」とXに投稿した。

米国務省報道官はアビラ氏の逮捕を懸念していると述べた。【7月18日 ロイター】
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今後何が起こるかはわかりませんが、もし何事もなく投票が行われ、野党候補勝利による政権交代が起きたとしたら、そして、それをマドゥロ大統領が認めたとしたら、それが一番の大ニュースでしょう。
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ベネズエラ大統領選挙  野党候補が支持率で大幅リード・・・とは言うものの、結果は・・・・

2024-07-04 22:12:55 | ラテンアメリカ

(南米ベネズエラでは4日から、28日の大統領選に向けた選挙キャンペーンが正式に始まる。写真は6月、カラカスで撮影【7月4日 ロイター】 赤いキャップの人形はマドゥロ大統領のようですから、大統領支持者の集会でしょうか。 チャベス前大統領以来の与党支持者もいるのも事実です。)

【政権側の妨害工作を経て、野党候補参加の選挙戦が実現 野党候補大幅リードとは言われているものの】
7月4日 イギリス総選挙 与党大敗、政権交代必至
7月5日 イラン大統領選挙 決選投票 改革派当選の可能性
7月7日 フランス総選挙 決選投票 極右「国民連合」の過半数阻む、左派連合とマクロン与党の選挙協力
・・・世界が注目する選挙が続きますが、南米ベネズエラでは今月28日に大統領選挙が行われます。

ベネズエラ・・・と言えば、これまでも再三ブログで取り上げてきたように経済失政を重ねたマドゥロ大統領の強権支配が続いていますが、大統領選挙に向けた野党側の動きと、これを露骨に阻止する政権の対応については、4月4日ブログ“ベネズエラ 「公正さ」は期待できない7月大統領選挙 隣国ガイアナとの石油資源をめぐる争い”でも取り上げました。

野党側はマドゥロ政権への激しい対決姿勢から「鉄の女」の異名があるマリア・コリナ・マチャド氏を野党統一候補としました。一部の世論調査ではマチャド氏の支持率は70%超にも及んだとか。

しかし、懸念されたように政権側は彼女の出馬を認めませんでした。野党側は代替候補(大学教授コリナ・ヨリス氏)を急遽擁立。

しかし、この代替候補の登録も政権側がオンライン登録を妨害。書類を登録所へ直接持ち込もうとしても、当局が物理的に登録所周辺を封鎖・・・という露骨な手段で候補者登録を阻止。

“その後、野党連合はX(旧ツイッター)に、選管から「登録の延長」が認められ、別の暫定候補者で登録が行われたと投稿。4月20日までは、候補者の差し替えが可能となっている。【3月27日 時事】”との報道もありましたが、情報が少なく、本当に野党候補の登録が認められたのかすらよくわかりませんでした。

下記記事によれば、どうやら知名度の低い元外交官のエドムンド・ゴンザレス氏の立候補が認められたようです。
そして、国民支持という選挙の本来の視点からはゴンザレス氏かなり優位な状況にあるようです。

****ベネズエラ、大統領選キャンペーン始まる 現職マドゥロ氏劣勢か****
 南米ベネズエラでは4日から、28日の大統領選に向けた選挙キャンペーンが正式に始まる。これまでに実施された各種世論調査によると、3期目を目指す現職のマドゥロ大統領が劣勢に立たされているもよう。

野党連合は当初、指導者のマリア・コリナ・マチャド氏を統一候補としていたが、裁判所が出馬を禁止したことから、元外交官のエドムンド・ゴンザレス氏を新たな候補に擁立。ゴンザレス氏は知名度で劣るが、世論調査ではマドゥロ大統領を20ポイント程度リードしている。

選挙キャンペーンの期間は投票当日の3日前の25日に終了する。

有権者は、生活水準の低下や最低賃金の低迷に不満を強めている。

ただベネズエラは欧州連合(EU)選挙監視団の招致を撤回するなどの措置を取っており、選挙結果が公正なものになるのかは不透明だ。【7月4日 ロイター】
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世論調査ではマドゥロ大統領を20ポイント程度リード・・・本来なら野党候補が圧勝するはずですが、なにせマドゥロ政権下のベネズエラです。公正な選挙の保証がない・・・というより、公正な選挙はほとんど期待できないのが現実。

選挙管理員会も、裁判所も政権の影響下にあります。
実際の投票の結果に関わらず、マドゥロ大統領に都合のよいどんな「結果」でも捏造できます。その「公式発表」に反対すれば、強権的に排除・弾圧されかねません。

これまでの経緯を考えれば、マドゥロ大統領が「敗北を認める」ということは、一番起こりにくいことのようにも思えるのですが・・・どのような展開になるのでしょうか。

【アメリカ 野党候補参加の選挙実現を求めて圧力】
ここに至るまで、アメリカは野党候補の選挙参加を実現すべくマドゥロ政権への圧力をかけてきました。

アメリカは昨年10月、マドゥロ政権の野党勢力との協議を評価して石油・天然ガス生産に関する制裁の一部を一時的に停止していましたが、政権側が野党の有力候補(マリア・コリナ・マチャド氏、その代替候補のコリナ・ヨリス氏)を選挙から排除したことで、再び制裁方針に転じています。

****米、ベネズエラ石油部門の制裁復活 公正な選挙実現を懸念****
バイデン米政権は、ベネズエラの石油・ガス部門に対する制裁の緩和措置を18日未明の期限後は延長しないと発表した。7月のベネズエラ大統領選に関してマドゥロ政権が合意を守らなかったことが理由。

米政府は、マドゥロ政権と野党勢力が2024年の大統領選実施で合意したことを受け、昨年10月に同国の石油・ガス部門との取引を6カ月間認める一般許可証を出していた。

米政府高官によると、マドゥロ氏は合意の一部を実行に移したが、野党が独自の大統領候補を擁立することを認めるなどの約束は果たしていない。

米財務省は取引許可の期限が切れるのを前に、企業が45日以内にベネズエラの石油・ガス部門から撤収することを認める許可証を発行した。

国務省のミラー報道官はマドゥロ政権が「野党が独自に選んだ候補者の登録を阻止し、政敵に嫌がらせや脅迫を行い、多数の政治関係者や市民団体の構成員を不当に拘束したと懸念している」と述べた。

米財務省は、ベネズエラの石油・ガス部門との取引は今後個別許可制とし、これまで認められていた事業の継続は許可しない方針を示した。【4月18日 ロイター】
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その後、エドムンド・ゴンザレス氏の出馬が認められたこともあってか、アメリカとベネズエラの対話が再開しています。

****ベネズエラと米、対話を再開 4月以来、継続で合意****
ベネズエラのロドリゲス国会議長は3日、米国との対話を再開したとX(旧ツイッター)で発表した。オンライン形式で協議があり、関係改善に向けた取り組みや対話を続けることで合意した。ロイター通信によると、対話は4月中旬以来。

米側は今月28日のベネズエラ大統領選が公正な選挙になるよう求めた。3選を狙うマドゥロ大統領は野党の封じ込めを強化。有力な野党候補が出馬できなくなり、米国は4月にベネズエラへの制裁緩和措置を停止した。

マドゥロ氏は今月1日に対話再開を表明していた。制裁緩和につなげたい思惑のほか、大統領選への米国の介入を阻止したいとの狙いもあるとみられる。【7月4日 共同】
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アメリカはベネズエラのマドゥロ政権に対して、大統領選が公正な選挙になるよう求めたとのことですが・・・・アメリカの制裁緩和措置復活も大統領選挙の成り行き次第でしょう。

ただ、仮にマドゥロ政権が強引に勝利を主張しても、アメリカとしては制裁復活以上の強力な対抗措置はとれないのかも。 バイデン政権自体が次期大統領選挙に向けて大揺れ状態ですから、ベネズエラどころではないでしょう。

また、アメリカの選挙を考えると、アメリカ国内のガソリン価格を上昇させるような措置はとれないでしょう。それは選挙において致命的となりますので。

はたして、中央選管の一方的発表、マドゥロ大統領の勝利宣言といった、世界各地で見られるような茶番劇の再現となるのか、意外にもまっとうな選挙となるのか・・・。
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