(7月30日 ガザ市内の病院に横たわる負傷した幼児 “flickr”より By activestills https://www.flickr.com/photos/activestills/14783879511/in/photolist-owpfjk-ofq73F-ouDiWQ-of88Pd-ofpiEn-ox1kbW-ofHoTy-owKimc-oyXYkF-ovbrwN-oyMSZk-ofwP5b-oySxKD-owBWuB-ofBXYd-ofxCVu-owQPP6-ofHBaM-oyXYo6-oxbtqS-ofJnAt-ovbrc9-ofHE2Z-oyXX9n-owWgAg-ofHoEs-ofHK6L-ox1cLh-oxdiUX-ovbrG7-ofHKoQ-oxdi5R-owWhea-ofHKrf-ovbpsh-oyXZmP-ofHDYT-ofHB4e-ovbriw-ofJnGR-ofHKES-oxdhSX-oyXWJe-ofHKSA-ox1cBE-ofHmjq-ofJn5P-ofHB7a-owWgwD-ox1dL3)
【「戦時下の市民の保護を定めた国際人道法に拘束されない国はない」】
昨日ブログでも取り上げたパレスチナ・ガザ地区では、30日も100人以上が死亡し、これまでにガザ地区で死亡した人は1300人を超え、その3分の2以上が一般の市民であると言われています。
30日には国連が管理する学校にも砲撃があり、避難していた子供を含む住民十数人が亡くなっています。
イスラエルは関与を明らかにしていませんが、ハマスが兵器を隠しているとして学校や病院も攻撃対象にしています。
また、ガザ地区では発電施設が被害を受けて電気が止まり、ポンプが止まったために上下水道も使えなくなっています。
一方のイスラエルは“イスラエル側は兵士53人を含む56人が死亡”【7月30日 毎日】とのこです。
イスラエルにしてはこれまでになく多い犠牲者ではありますが、民間人の死亡は3人ということになります。
イスラエルの立場にたてば、ハマスからのロケット弾攻撃に対する正当防衛であり、自衛のための攻撃であるということになります。
犠牲の大きさを亡くなった人命の数ではかることはできないでしょうが、現在の状況はあまりにバランスを欠いた過剰防衛のように思えます。
自国民を守るためなら何をしてもいい・・・というものでもないでしょう。
国際的にもイスラエルの行き過ぎた攻撃に批判が高まっており、元スウェーデン外相でもあるエリアソン副事務総はイスラエル軍の攻撃は明らかに行き過ぎたもので国際人道法に違反すると指摘しています。
****「イスラエルは国際人道法に違反」****
・・・・こうしたなか、国連のナンバー2に当たるエリアソン副事務総長がニューヨークの国連本部で記者会見し、イスラエル軍による攻撃とイスラム原理主義組織ハマスによるロケット弾攻撃の双方を非難しながらも、「イスラエル側とパレスチナ側の被害状況を比較するかぎり、イスラエル軍の攻撃の規模は均衡を逸しており、その責任は免れない。戦時下の市民の保護を定めた国際人道法に拘束されない国はない」と述べ、イスラエルによる攻撃が国際人道法に違反していると指摘しました。
そのうえで、エリアソン副事務総長は「これ以上の市民の殺りくを止めるという人道的な目的の一点のために停戦を実現し、イスラエル側が要求しているガザ地区の非武装化や、ハマスが求めているガザ地区の封鎖の解除については、それに続いて協議するべきだ」と述べ、改めて即時停戦を強く呼びかけました。【7月31日 NHK】
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【そりがあわないオバマ・ネタニヤフ両政権】
ただ、イスラエルにはアメリカという強力な後ろ盾があります。
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・・・・国際的非難にさらされながらも、イスラエルがこのような振る舞いをし続けているのはアメリカの後ろ盾があるからだ。
米国には527万人のユダヤ人が住んでいるが、総人口に占める割合は1.7%に過ぎない。この「少数民族」は金融、ジャーナリズム、ハリウッドなどに強固な人脈を張り、豊富な資金でロビー活動に威力を発揮する。
大統領選でも議員選挙でも全米ユダヤ人協会の支持は選挙結果を左右しかねない重みがあり「米国政治はユダヤロビーに牛耳られている」とさえ言われる。【7月31日 “「殺戮100倍返し」のイスラエル ガザ制圧でも見えない本当の勝利” CIAMOND online】
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もっとも、リベラルなアメリカ・オバマ大統領と保守強硬派のイスラエル・ネタニヤフ首相が“そりが合わない”ことはかねてから言われていることです。
また、「就任以来パレスチナ和平のことしか考えていない」とも批判されるほどパレスチナに深く関与しているアメリカ・ケリー国務長官のパレスチナ仲介についても、「ケリー氏はパレスチナとの紛争について何も知らないくせに救世主ぶっている」「ケリー氏がノーベル賞を取って我々を放ってくれるまでは救われない」(イスラエルのヤアロン国防相)と言ったイスラエルからの酷評が話題になったこともあります。
アメリカの方は、和平交渉に本気で乗ってこないイスラエルに苛立ちを感じており、今回の衝突においてもケリー国務長官がマイクがオンになっているのを気づかす、イスラエルの軍事攻撃が大勢の民間人や子供を犠牲にしていることを「恐るべきピンポイント攻撃」と皮肉る発言が表ざたになるなどの騒ぎがありました。
それでも、この失態に気づいたケリー長官はすぐに、ハマスの一斉射撃に対するイスラエルの反撃が「適切かつ正当な」自衛防衛だと断言する形でアメリカの公式方針を語っています。【7月23日 日経より】
【表面化する不協和音】
アメリカ国内におけるユダヤ人社会の大きな影響力もあって、イスラエル支持がアメリカの基本方針ではありますが、上述のようにあまりしっくりしない関係を反映して、今回のイスラエルの対応に関する不協和音も表面化しています。
****対立深まる米-イスラエル 停戦案を暴露され・・・・****
パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの戦闘をめぐり、イスラエルが、オバマ米政権の「調停外交」に対する不信感を露わにし、米国との対立を深まっている。
ケリー米国務長官が示した停戦案がリークされたことにより、米側は「ハマス寄りだ」と激しい批判にさらされており、事態はこじれるばかりとなっている。
停戦案は25日、イスラエル訪問中のケリー氏が提示した。イスラエルが「自衛のためだ」として、破壊を実行しているガザからの秘密トンネルには言及せず、ハマスが停戦条件としてイスラエルやエジプトに求めているガザ封鎖の緩和につながる内容を含む。
イスラエル政府は「これではハマスの要求を受け入れるに等しく安全が保障されるものではない」として拒絶した。
イスラエル紙ハーレツが27日に停戦案をスクープするとメディアは「裏切り」などと一斉に批判した。同紙によると、イスラエルの閣僚も停戦案を「テロ行為に対する褒美だ」と語っているという。
これに対し、米国のライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は28日、ユダヤ系団体の会合で「報道はケリー氏の停戦努力をミスリードしており、失望した」と語った。
米国務省のサキ報道官もリークについて「同盟国がお互いを扱うやり方ではない」と述べ、イスラエル政府に不快感を表明した。
オバマ政権はイスラエルの軍事作戦を自衛権に基づくものとして支持してきたが、ガザでの死者が1千人を超え、国連管理下の学校への砲撃で子供たちが犠牲になったことでいらだちを強めている。
オバマ氏は27日、イスラエルのネタニヤフ首相に電話で「パレスチナの市民の死者数が増加していることに米国で懸念が強まっている」と伝えた。(後略)【7月31日 産経】
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アメリカは、国連が管理する学校への砲撃についても、イスラエル名指しは避けながらも異例の批判を行っています。
****米国:イスラエルと「場外戦」 ガザ戦闘めぐり****
長年の同盟国である米国とイスラエルが、パレスチナ自治区ガザ地区での戦闘をめぐり対立を深めている。
オバマ米政権は、パレスチナ民間人の死傷者急増に懸念を強め、イスラエルに対策強化を要求する。
一方、イスラエルはケリー米国務長官による停戦仲介が、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマス寄りだとして、交渉内容をメディアにリークする作戦で対抗。同盟国同士の「場外戦」が続いている。
「イスラエル軍に自宅退去を求められた多数のパレスチナ人が国連の避難所でも安全でないことに、極めて強い懸念を抱いている」。米国家安全保障会議のミーハン報道官は30日、米国政府としては異例に強い調子の声明を発表した。
ガザで同日発生した国連避難所として利用されている学校砲撃事件を受けたもので「子供を含む罪のないパレスチナ人が死傷した」として非難した。
砲撃自体に関しイスラエルの名指しは避けたが、内容的には「イスラエル非難」のトーンで、シュルツ大統領副報道官も「イスラエルは民間人死傷者の抑制のため取り組みを強める必要がある」と明言した。(中略)
米国政府はイスラエルを「真に特別な関係」(ライス大統領補佐官)と見なしており、こうした対立が両国関係の決定的悪化につながる可能性はほぼない。
だが、オバマ大統領とネタニヤフ・イスラエル首相の「不仲説」はこれまでも伝えられている。
ロイター通信によると、ガザの保健当局者の集計ではパレスチナ側の死者は30日現在1346人で、過半数は民間人と見られる。イスラエル側では兵士56人と民間人3人が死亡した。
ただ、米国世論はイスラエルを支援する傾向が強い。ピュー・リサーチ・センターが28日に公表した世論調査では、今回の紛争は「ハマスの責任」とする回答が40%で最も多く「イスラエル」は19%だった。【7月31日 毎日】
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「ハマスの責任」とする回答が40%・・・・テロをイメージするイスラムへの嫌悪感の他、家の芝生への侵入者を撃ち殺しても正当防衛が主唱されるお国柄でしょうか。
【「真に特別な関係」とアメリカのダブルスタンダード】
しかし、なんだかんだありつつも、「真に特別な関係」ということで、アメリカのイスラエル支持は揺らいではいません。
****米 イスラエルに弾薬供与は国益****
イスラエル軍がパレスチナ暫定自治区のガザ地区で攻撃を続け多数の死者が出るなか、アメリカ国防総省はイスラエル軍に先週、弾薬を供与したことを明らかにし、「イスラエルへの支援は、アメリカの国益にとって極めて重要だ」と正当性を強調しました。(中略)
こうしたなか、アメリカ国防総省のカービー報道官は、30日発表した声明で、今月20日にイスラエル側から要請があり、イスラエル軍に弾薬を売却したことを明らかにしました。
売却されたのはアメリカ軍の管理の下で、イスラエル国内に備蓄されていた2種類の弾薬です。
カービー報道官は、「アメリカ政府は、イスラエルの安全保障に関与しており、イスラエルの自衛能力を強化する支援は、アメリカの国益にとって極めて重要だ」として、弾薬の供与の正当性を強調しました。
しかし、ガザ地区で多数の死者が出るなか、アメリカ政府が停戦に向けて働きかけを行う一方で、同盟国のイスラエルに軍事支援を続けていたことで、アラブ諸国を中心に今後、アメリカに対する批判が強まることも予想されます。【7月31日 NHK】
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アメリカが、これまで同様のイスラエルとの「真に特別な関係」を続ける限り、パレスチナに平和は望めません。
マレーシア航空機を撃墜したウクライナ東部の親ロシア勢力へのロシア・プーチン政権の武器供与が批判されるのであれば、多大な民間人犠牲を出しながらも攻撃を継続するイスラエルに弾薬提供するアメリカも同様でしょう。
プーチン大統領を批判しながら、また、イスラエルの過剰防衛をいさめながら、イスラエルへの弾薬提供を続けるというのは釈然としません。
イスラエル軍は、新たに1万6000人の予備役の兵士を招集し、さらに作戦を強化する構えを見せています。
****トンネル破壊まで停戦せず=ガザ攻撃でイスラエル首相*****
イスラエルのネタニヤフ首相は31日、閣議の席上、パレスチナ自治区ガザで進めているトンネルの破壊作業について、「この重要な任務を達成できない限り、(イスラム原理主義組織ハマスとの)停戦を受け入れない」と述べた。
国際社会からの停戦圧力が高まる中、地上戦の目的であるトンネルの破壊の必要性を訴えた形だ。
AFP通信によると、イスラエル軍が地上侵攻を始めた17日以降、閣議で作戦の進捗(しんちょく)状況が報告されたのは初めて。
首相は、ハマスがトンネルを使い、イスラエル人の誘拐や殺害、テロ攻撃を仕掛けようとしていたと強調した。【7月31日 時事】
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“イスラエル当局者が30日、ハマスとの停戦を仲介するエジプトの首都カイロ入りしたとの情報もある。パレスチナの代表団も近くカイロ入りするとみられ、停戦を模索する動きが水面下で広がっているもようだ。”【7月31日 時事】といった話もあるようです。