孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南スーダン  止まない内戦状態 少女たちをレイプした上、生きたまま火をつけて殺害・・・・

2015-06-30 21:41:07 | アフリカ

(南スーダンのマラカールで、内戦により、住む場所を失った人々【6月4日 Catholic Weekly Online】)

【「非妥協的な政治によって和平はいっそう遠のき、内戦は続き、経済を崩壊に向かわせている」】
今年5月、もともとニュージーランドの自治領であった南太平洋の小さな島「ニウエ」を日本政府は国家承認しました。面積は260㎢、人口は約1500人と、日本でいうと町村と同規模のミニ国家です。196番目の国となります。

「ニウエ」以前のもっとも新しい国というと「南スーダン」でした。こちらは日本の1.7倍の国土を持つ国です。
スーダンとの内戦の末、アメリカ等の国際的支援もあって独立を果たし、その将来が期待されていましたが・・・・。

****南スーダン****
人口約1130万人、日本の1.7倍の国土(64万平方キロ)に数十の民族が暮らす。

1955年からの北部スーダンとの内戦を経て、2011年7月に独立。

その後、豊富な石油資源などをめぐり、キール大統領が出たディンカと、マシャル副大統領が出たヌエルの2大民族が対立。

キール氏が13年7月にマシャル氏を解任した後、同年12月に首都ジュバで軍部隊同士の戦闘が始まり、事実上の内戦状態に陥った。現在、日本の自衛隊が国連平和維持活動(PKO)に唯一参加している国でもある。【6月25日 朝日】
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反政府軍との間の内戦については、3月1日ブログ「南スーダン 3度目の停戦合意 本格的和平につながるかは不透明」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150301)でも取り上げましたが、懸念されたように戦火は治まっていません。

****保護区「外出れば殺される****
「この状態が続けば生きていけない」。避難民たちは口々に不満を漏らした。

中部ボル郊外にある「市民保護区」。政府軍と反政府勢力の武力衝突からの保護を求めて国連施設内に逃げ込んだ約2300人が暮らす。

全員が、反政府勢力を率いる前副大統領と同じ民族ヌエルだ。保護区の周辺は、ディンカの大統領が率いる政府軍が掌握する。

保護区は、安全のために門が閉ざされ、有刺鉄線で囲まれている。自由な出入りはできない。

スティーブン・ガティエクさん(40)は首都ジュバ近くの小さな村で、ミルクや砂糖を売る商売をしていた。武力衝突が起き、銃弾が飛び交う中で4日間、道なき道を歩いて逃げた。

連れて来られたのは、子ども10人のうち、末の3人と身重の妻だけだった。後に子どもたちは見つかったが、まだ3人が親類のもとにいて、いつ合流できるかわからない。「問題はどこにも行けないこと。外に出れば殺されてしまう」

保護区内では、避難民のストレスや不安が募り、いざこざが絶えない。けんかも日常茶飯事だという。「将来? 私たちには何の力もない。待つしか・・・」

内戦が続く中、50万人以上が国外に逃れ、約150万人が国内での避難を余儀なくされている。約23万人の子どもが重度の急性栄養不良に苦しみ、約40万人が学校に通う権利を奪われている。【同上】
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国連は5月11日、内戦が続く南スーダンの北部ユニティ州で、戦闘激化により国連機関や非政府援助組織が撤退を余儀なくされたため、30万人を超える民間人が「救命支援」を受けられなくなっていると発表しています。

****南スーダン、子ども25万人が飢餓状態 国連が警鐘****
国連は(6月)16日、約1年半にわたり内戦が続く南スーダンで、25万人の子どもが飢餓に直面していると警鐘を鳴らした。

南スーダンでは2013年12月、リヤク・マシャール前副大統領がクーデターを企てたとしてサルバ・キール大統領が非難したことから両派による内戦が開始。

殺りくの応酬は全土に広がり、陸地に囲まれた貧困国である同国は民族によって分断され、民族対立による虐殺、レイプ、子ども兵の使用なども横行している。

南スーダン経済の崩壊を予測したことで今月に同国政府によって国外に追放された国連南スーダン派遣団(UNMISS)のトビー・ランザー事務総長特別副代表は、援助国に16億3000万ドル(約2000億円)の拠出を訴える報告の中で「南スーダンの半分の地域で、3人に1人の子どもが極度の栄養失調に陥っており、子ども25万人が飢餓に直面している」と指摘。また国連によれば、南スーダン人口1200万人の3分の2が援助を必要としており、450万人が深刻な食料不足に陥っている。

ランザー氏は「われわれは6か月前、衝突や苦しみが峠を越え、和平の兆しが見えたと思ったが、それは誤りだった。非妥協的な政治によって和平はいっそう遠のき、内戦は続き、経済を崩壊に向かわせている」と述べた。【6月16日 AFP】
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【「民間人を殺害、村落で強奪や破壊を繰り広げ、10万人を超える人が避難民となっている」】
悲惨な戦争犯罪行為も報告されています。

****南スーダン軍が「少女をレイプし焼殺」 国連報告****
国連南スーダン派遣団(UNMISS)は30日、南スーダン軍の兵士が、「残虐性と激しさ」を増した最近の軍事作戦中に、自宅にいた少女たちをレイプした上、生きたまま火をつけて殺害した事例があったとの報告書を発表した。(中略)

UNMISSの人権査察団は、以降18か月間にわたって続いている内戦で激戦地となっている北部ユニティ州の被害者や目撃者115人の情報に基づきまとめた報告書の中で、「人権侵害の横行」に警鐘を鳴らしている。

スーダン人民解放軍(SPLA)は4月、反政府武装勢力に対する大規模な攻撃を開始。主要な産油地帯だったユニティ州北部のマヨム郡では激しい戦闘が繰り広げられている。

「これらの攻撃を生き延びた者たちからは、SPLAとそれに同盟するマヨム郡出身の民兵らが、地元住民に対する攻撃を実施し、民間人を殺害、村落で強奪や破壊を繰り広げ、10万人を超える人が避難民となっている」とUNMISSは報告。

「最も憂慮すべき証言の一部は、女性や女児が誘拐、性的虐待されているというもので、中には、自宅にいた際に生きたまま焼かれたという報告もある」と述べた。【6月30日 AFP】
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****ユニセフ事務局長による声明****
「南スーダンでの子どもたちに対する暴力は、かつてないほど残忍性が高まっています。激化する暴力の詳細はあまりにひどく、言語に絶するものです。しかし、我々は声を上げ、現実を伝えなければなりません。

ユニティ州では、5月のわずか3週間の間に、129人の子どもが殺されました。

生存者の証言によると、男の子たちが性器を切り取られ失血死するまで放置されていた、わずか8歳の女の子が集団レイプされて殺された、子どもたちは互いに縛りつけられた状態で喉を切られた、燃える建物の中に投げ込まれた子どもたちもいた・・・と報告されています。

また非常に多くの子どもたちが、敵対する武装グループの双方によって、強引に徴用されています。およそ1万3,000人の子どもが、強制的に武力紛争に参加させられているとみられます。

暴力によって自身が苦しめられただけでなく、暴力によって他者を苦しめた経験が、子どもたちの心身にどれだけの影響を及ぼすか、想像してください。

人道と良識の名のもとに、罪なき子どもたちへの暴力を止めねばなりません」【6月17日 unicef】
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マシャル前副大統領「罪なき人々を殺害し、混乱を生み出したのはキール氏だ」】
権力争いに部族対立が絡み・・・というのはわかりますが、どうしてここまで争わなければならないのか?
どうして凄惨な行為が横行するのか?
争っている者は、住民被害についてどのように考えているのか?
理解できません。

****大統領の任期延長を批判 反政府勢力リーダー単独会見****
南スーダンで反政府勢力を率いるマシャル前副大統領が、訪問中の南アフリカで朝日新聞の単独会見に応じた。同氏が、海外メディアの単独会見に応じるのは異例。

敵対するキール大統領が、7月に満了する任期を3年延長したことに対し、「明らかな憲法違反。国際社会はキール氏を辞任させるべきだ。さもなければ暴動が起きるだろう」と警告した。

内戦の発端となった13年12月の戦闘について、政府軍側が「マシャル氏によるクーデター未遂」としていることについて、マシャル氏は「私がクーデターを計画したことは一切ない。罪なき人々を殺害し、混乱を生み出したのはキール氏だ」と批判した。

この戦闘で「約7割の陸軍兵士がキール氏から離れた」と述べた。だが、現在の反政府勢力の兵力や支配地域は明言しなかった。

両者の間では数度、停戦合意が交わされたが、実現していない。

マシャル氏は「政府軍が撤退を約束した地域から兵を引かないためだ」と主張。「現在の政府は命令系統や他国との信頼関係を失っている。国民を救わなければならない。我々が内戦状態を終わらせようとしているのはそのためだ」と説明。

国際社会に対しては、「辞任するよう、キール氏に圧力をかけるべきだ。人道面での支援もお願いしたい」と要請した。

日本は、陸上自衛隊の施設部隊を国連平和維持活動(PKO)として首都ジュバに派遣している。マシャル氏は日本に対し、「平和維持の分野で重要な仕事をしており、信頼している」と述べた。【6月25日 朝日】
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上記は反政府勢力側のマシャル前副大統領の言い分ですが、おそらくキール大統領も同様の主張をするのでしょう。

にもかかわらず、戦火は治まらず、残虐行為が横行する・・・・独立時の希望はどこにいったのでしょうか?

【「争いはもう十分だ。私は希望を捨てない」】
愚かしいとしか言いようのない権力者とそれに追随する者ですが、必ずしも皆が憎しみと暴力だけで生きている訳ではありません。

****祖先は同じ」「争いもう十分****
紛争は、ディンカとヌエルの対立という単純な構図ではない。さまざまな民族が入り交じる。

北部マヨム出身のニャンアール・ボルさん(24)はヌエルだが、ヌエルが中心とされる反政府勢力に家を燃やされた。ディンカの女性と結婚していたおじは、反政府勢力に加わらなかったために殺されたという。

一度燃え上がった憎しみは、くすぶり続ける。
スーダンとの国境に近い北部アゴクの病院のベッドに、銃の暴発で顔と両腕に負傷した政府軍兵士が横たわっていた。ヌエルのジョージ・マディットさん(24)。幼いころから別の民族のスーダン兵が南下して住民を殺すのを見てきた。「愛国心に燃えて9歳で兵士になった。治ったら、また銃を持つ」。鋭い目で言った。

一方で、各民族が共存する和平を望む人もいる。
ヌエルのピーター・ガットワク・ピートさん(40)は国際NGO「国境なき医師団(MSF)」の現地スタッフとして北部に近いランキエンで働く。親類3人が戦闘に巻き込まれて死亡、17歳のおいは肩を撃たれた。敵対するディンカを許せるか問うと即答した。

「二つの民族は同じ祖先をもつ。僕にはディンカの友人がいたし、学校も一緒に卒業した。銃があふれ、撃ち合っていることが憎い」と一気に話すと、「南スーダンはひとつだ」と祈るように続けた。

ボルにあるセント・アンドロ教会では、修道女など20人以上の女性がヌエルの武装集団に虐殺された。
難を逃れた司祭のジェームス・デン・アキールさん(38)は手厚く弔い、大きな墓を建てた。

「殺戮(さつりく)を二度と繰り返さないためのものだ。争いはもう十分だ。1990年代の内戦時も殺戮があったが、ここで許し合った。私は希望を捨てない」と言う。

「権力者に戦いを仕向けられているように感じる。いつの時代も一番影響を受けるのは一般市民だ」【6月25日 朝日】
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「僕にはディンカの友人がいたし、学校も一緒に卒業した」という極めてまっとうな言葉が、争いに身を投じている人々になんとか届かないものでしょうか。
人間とは所詮争いを好む生き物だと達観するのは、あまりに悲しすぎるので。

【「日本の自衛隊が,当地の国連の活動と南スーダンの復興に大きく貢献していることを日々実感しています。」】
蛇足ながら、今年4月に駐南スーダン日本国大使として着任した紀谷昌彦氏は6月1日「南スーダン通信」(http://www.ss.emb-japan.go.jp/itpr_ja/tsushin_20150601.html)において、「日本の自衛隊が,当地の国連の活動と南スーダンの復興に大きく貢献していることを日々実感しています。」と述べたうえで、その具体的内容として、UNMISSの様々な部隊の活動を支える役割、南スーダンの復興に向けての支援、文化交流を挙げています。

国連PKOの在り方は日本だけの問題ではありませんが、北部内戦地域の惨状と見比べると、同じ国の中の話とは思えません。

“南スーダンの復興に大きく貢献している”国連PKOであるなら、南スーダン政府に即時停戦に取り組むように圧力をかけることはできないのでしょうか?

凄惨な戦闘を続ける国におけるPKOとは何なのか?という問題も。
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ギリシャ  国民投票実施、EUの支援停止で7月1日から未踏の領域に

2015-06-29 23:05:09 | 欧州情勢

(「尊厳を放棄するよう求められたが、われわれは拒否せねばならない」と述べ、財政緊縮策を求めるEU側の再建策に国民投票で反対するよう国民に求めるチプラス首相ですが、場当たり的な対応には“素人政治”との批判もあります。写真は【6月29日 東洋経済online】)

思うように進んでいない改革・経済財政状況
連日、紙面を賑わしているギリシャの問題。
これまでのギリシャの改革に向けた取り組みとその結果について、簡単にまとめると以下のようになりますが、一言で言えば“うまくいっていない”とも言えます。

****ギリシャ、途上の財政改革 民営化・労働規制緩和、進まず****
財政危機のギリシャはこの5年間、国際通貨基金(IMF)などの支援を受け、経済や財政の改革を進めてきた。ただ、国有企業の民営化や労働市場の規制緩和は思うように進んでいない。

「反緊縮」を掲げる現在のチプラス政権が発足してからは、これまでの改革から逆戻りする動きも出ている。
ギリシャ財務省では最近、緊縮策でリストラされた清掃員が復職した。6月中旬には、閉鎖されていた国営放送が復活してテレビ放映が再開。緊縮策で解雇された数千人規模の公務員の再雇用を可能にする法案も成立した。

欧州連合(EU)などによる2012年の金融支援プログラムでは、15年までに国有企業の売却などで190億ユーロを獲得する目標が掲げられた。これまでは目標のほぼ半分しか達成できていない。

EUなど支援側の圧力を受け、ようやく4月に民営化第1弾となる公営競馬事業の売却などを始めたが、動きは鈍いままだ。

さらに、これまで続いていた年金の一部カットを中断するなど、財政再建に逆行する動きを続けている。

経済は思うように回復していない。ギリシャ経済はリーマン・ショック以降、13年まで6年連続でマイナス成長だったが、昨年は少しだけプラス成長に持ち直した。しかし、増税などで苦しむ国民の財布のヒモも固く、消費者物価は2年近くマイナスが続いている。

数年前まで同じ危機に見舞われたアイルランドやポルトガルは輸出額で07年より2割近く増えているが、ギリシャはまだ3割ほど低いままだ。

共通通貨のユーロ圏では通貨を切り下げられないため、各国は輸出競争力を上げるのに労働コストを下げるなどの労働規制の緩和に取り組んでいる。

だが、ギリシャでは労組の反発で企業経営が厳しい場合でも集団解雇の手続きが難しいなど、規制改革はまだ手つかずの部分が多い。

景気が悪化するなかで、税収が思うように上がらず、財政再建も進んでいない。12年の支援プログラムでは、11年で165%だった国内総生産(GDP)比の政府債務残高は、15年153%、20年には117%にするシナリオだった。

しかし見通しは大きく外れている。欧州委員会の今年5月の予測では15年が180%、16年には174%にとどまる見込みだ。

ギリシャの経済シンクタンクのニコス・ベタス氏は、今年はマイナス成長に落ち込む可能性があるといい、「政策が不透明で投資が落ち込んでいることが大きな原因だ」と話す。
難航してきた支援交渉が国外からの投資の呼び込みを手控えさせているとみる。【6月29日 朝日】
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噴出した双方の不信感
27日ブログ「ギリシャ EU提案受け入れの可否について国民投票実施を提案 先行きはいよいよ“不透明”」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150627)では、ギリシャ・チプラス政権が国民投票という賭けに出たところまで扱いました。

ギリシャ議会は、7月5日にEUなどの債権団がギリシャに金融支援の条件として受け入れを求めた財政緊縮策の賛否を問う国民投票を行うことを承認、一方、EUは30日が期限の現行支援を延長しないことを決定しました。

“審議では野党の議員から「国民投票はギリシャをユーロ圏から離脱させ、国民をさらに追いつめるだけだ」などと反対意見が相次いだのに対して、チプラス首相が「ギリシャ国民はEUの最後通ちょうに断固とした反対を示す」と述べ、国民投票の実施に賛成を呼びかけました。”【6月28日 NHK】

これまでのEUなど支援側との交渉でギリシャは、増税などを柱とする財政改革案を示しました。
これに対し支援側は、年金カットなどでさらなる歳出削減を求め、これをギリシャが受け入れれば、金融支援プログラムを5カ月間延長することを提案していました。

ギリシャは、国民投票の結果を見極めるまで支援プログラムを延長することを求めましたが、ユーロ圏財務相会合のデイセルブルーム議長は、ギリシャは26日夜に支援側の提案を拒否し交渉を一方的に打ち切ったと説明、EUは30日が期限の現行支援を延長しないことを決定しました。

ギリシャの国民投票実施はかなり唐突だったようで、EUの支援打ち切りは、こうしたギリシャ側の対応への反発もあったようです。

****異例の「ギリシャ外し」 声明文に悲劇の予感 EUが支援延長拒否****
「ギリシャについてのステートメント」。こんなA4の紙が27日夜、欧州連合(EU)本部で待機していた記者団に配られた。ギリシャが求める金融支援の期限延長を退けたユーロ圏財務相会合の結果を知らせる声明文だった。そこにはギリシャのユーロ離脱という悲劇を予感させる異例の表現が早くも盛り込まれていた。

声明文は、ギリシャが求めていた支援延長を拒否する内容だった。だがギリシャのユーロ離脱を表す「Grexit」という表現は見当たらない。

ではなにが「悲劇」なのか。声明文の末尾の一番目立つところの注意書きが目を引く。そこにあったのは「ギリシャを除くすべてのユーロ圏によって承認されました」という一文だ。

EUの不文律はどんなときでも全会一致。全会一致にならなければ文書の表現を何度でも練り直すというのが欧州流だ。

にもかかわらず、あえてギリシャを排除したことを明記した声明文を記者団に配った。「こんな声明文は見たことがない」とEU関係者が漏らすほどの異例の結末になったのは、バロファキス財務相をはじめとするギリシャ政府に対する不信感にあるようだ。

実は(ギリシャ財務相)バロファキス氏は会合が終わる前に、早めに退席したという。関係者は「ギリシャ外しの声明文に納得しておらず、公になる場にいたくなかったようだ」と冷ややかに語る。

「まとまろうとしていた交渉を突然やめたのはギリシャだ」。普段は穏やかなデイセルブルム議長も不機嫌そうに明かした。

関係者によると、EU側がギリシャが国民投票に踏み出すことを知ったのは、チプラス首相からの連絡ではなく、ツイッターで流れたニュースだった。

しかも交渉の最前線にいたギリシャ政府の事務スタッフは政府方針を知らなかった。債権団とギリシャ側の担当者が合意に向けた資料を作成している最中にニュースに気づき、事務レベルはEUもギリシャ側も仰天したという。

「この決断はユーロ圏の信頼を傷つけるだろう、永遠に」。バロファキス財務相は、こんな捨てぜりふを吐いてEU本部を後にした。

現時点でEUは、ギリシャの資金繰りが行き詰まれば、ユーロ圏に残留したままでの債務不履行(デフォルト)を想定しており、すぐに「ユーロ離脱」となる可能性は低そう。

それでもデフォルトとなればギリシャ市民に悲劇が訪れる。それを防ぐことができるのか。チプラス政権の良識が問われる。【6月28日 日経】
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とりあえずは7月5日の国民投票まではなんとか・・・・
こうした事態を受けて、ギリシャ金融機関を支えている欧州中央銀行(ECB)は28日、資金供給の継続を決定。週明け時点でギリシャの金融システムが崩壊の危機にひんする事態は辛うじて回避されました。

しかし、供給上限を現行水準に据え置いたほか、今後の展開次第では「決定を見直す準備がある」とも指摘し、供給を制限する可能性をにおわせています。【6月28日 時事より】

ECBの供給上限が現行水準に据え置かれたことから、ギリシャ政府は取り付け騒ぎなどの混乱回避のため、今日29日からの銀行休業などを発表しています。

****ギリシャ、資本規制を導入 29日から銀行休業 ****
ギリシャのチプラス首相は28日夜、国民向けにテレビ演説し、29日から銀行を休業させ、資本規制を導入すると発表した。

欧州中央銀行(ECB)が28日に資金繰り支援見送りを決めたことで、首相は「ギリシャ中銀が銀行を休業させ、預金の引き出しを制限するよう要請してきた」と明らかにした。いつまで続けるかの期間や、資本規制の具体的な内容には触れなかった。(後略)【6月29日 日経】
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チプラス首相は「預金は安全だ。給与や年金の支払いは保証される」と強調していますが、市民生活や経済活動が打撃を受けるのは必至とみられ、国内では現金自動預け払い機(ATM)に長い列ができるなど不安が広がっています。

スーパーで食料品の買いだめに走る主婦もおり「戦争前夜のようだ」との声も漏れています。

当面の課題としては、6月30日期限のIMFへの返済がありますが、これが返済できなくても差し当たりは大きな問題とはならないとも言われています。

****IMFへのデフォルトは問題視されない可能性****
・・・・ギリシャ政府が最初に飛ばなければならないハードルは、国際通貨基金(IMF)からの借入金15億ユーロの返済だ。期日は明日、6月30日だ。

金融支援を受けていなければデフォルト(債務不履行)になる公算が大きい。だが実際のところ、ユーロ圏内にとどまることについて言うなら、IMFからの借り入れのデフォルトは大きな問題にならないかもしれない。

格付け会社はすでに、IMFへの支払いがなされなくても完全なデフォルトだとは考えないと明言している。懸念しているのは民間の債権者に対する債務のことだけ、というのがその理由だ。

ユーロ圏の金融支援の取り決めにより、ギリシャに資金を融通しているEUの債権者は、IMFへの支払いがなされない場合にはクロスデフォルト条項に基づいてデフォルトを宣言できる(土曜日のユーロ圏財務相会合ではこの問題も話し合われた)。

だが、各国政府がその方向に動くことはなさそうだ。ECBの29日の決断は、IMFへの「延滞」を見逃すつもりがあることを示唆しているのだ。

このことは、ギリシャは銀行こそ休業しているものの、新しい通貨の発行を始める必要がない状態で7月5日日曜の国民投票に臨めることを意味している可能性がある。【6月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 JB Pressより】
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“IMFのラガルド専務理事は、今月18日「返済がなければ、ギリシャは7月1日にデフォルト=債務不履行になる」と明言していますが、通常、IMFは、返済が滞った場合でも直ちにデフォルトとは判断せず、まず延滞している債務の支払いを相手国に督促することになっています。”【6月29日 NHK】

ただ、金融市場では「デフォルト」と受け止められ、混乱する可能性はあります。

銀行休業とかIMF返済「延滞」の問題はありますが、とりあえずは7月5日の国民投票まではなんとか・・・・というところでしょうか。

国民投票の行方は?】
問題の国民投票ですが、チプラス首相は「尊厳を放棄するよう求められたが、われわれは拒否せねばならない」と述べ、財政緊縮策を求めるEU側の再建策に国民投票で反対するよう有権者に促しています。

EU側も、国民投票に向けた働きかけを始めています。

****<ギリシャ>欧州委、再建案を公表…国民投票賛成促す****
欧州連合(EU)などが示した財政再建案の賛否を問う国民投票をギリシャが実施する問題を巡り、欧州委員会は28日、非公開だった財政再建案をギリシャ語などで公表した。

長期債務や雇用対策の投資プログラムについても合意する予定だったと強調。国民投票での賛成を獲得する情報戦に乗り出した。一部の報道によると、EUは首脳会議や声明などで賛成を促すことも検討している。

欧州委は「ギリシャ国民のための情報だ」として財政再建案をギリシャ語の解説付きで公表した。

再建案は26日午後8時時点のもの。翌日のユーロ圏財務相会合に向け、ギリシャとEUなどが交渉中だったが、ギリシャのチプラス首相が突然、国民投票実施の意向を示したため、交渉が中断された。

再建案によると、付加価値税(日本の消費税に相当)の税率は引き上げず、軽減税率をホテルや食料品、エネルギーなどに残してギリシャ側の意向に沿う一方、年金支給開始年齢を現行の61歳前後から2022年までに67歳に段階的に引き上げ、一部の空港や港の民営化を求める内容になっている。

ドイツでの報道などによると、EUは国民投票で賛成を得て危機を打開するため、首脳会議開催やギリシャ国民向け声明を検討中とされ、チプラス首相の否決キャンペーンに対抗する構えだ。

一方、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は28日に公表された英BBCとの会見で、ギリシャが国民投票で財政再建案に賛成するなら、IMFなど債権団は「(ギリシャと)交渉を試みる用意がある」と述べた。

ギリシャはIMFへの借金の返済期限を30日に迎えるが、もし返済がなければ「これ以上の支援はない」としながらも、デフォルト(債務不履行)や財政破綻を認定する考えは示さなかった。【6月29日 毎日】
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世論の動向は、ユーロ離脱につながる「緊縮策拒否」には警戒感が強いようです。

****ユーロ圏「残りたい」67% 世論調査 経済混乱に警戒感か****
28日付のギリシャ紙トビーマに掲載された世論調査によると、ギリシャがユーロ圏に残留するか否かについて、「残留」は67・8%で、「離脱」の25・2%を大きく上回った。

緊縮に不満はあるものの、ユーロ圏から離脱すれば、経済や政治がさらに混乱するのではないかという人々の警戒感を表した結果とみられる。

世論調査は24~26日、チプラス首相が国民投票の実施を表明する直前に行われた。

欧州連合(EU)などが金融支援の条件とした緊縮策の提案については、「賛成」が47・2%、「反対」が33%、「決めていない」が18・4%だった。7月5日に実施予定の国民投票で反対を期待するチプラス政権だが、民意の動向は不透明だ。【6月29日 朝日】
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冷静に判断すれば、EU等からの巨額の支援を受けながらもうまくいっていなかったものが、ギリシャ単独で改善するとは考えにくい、ユーロ離脱につながる危険は冒すべきではない・・・というのが妥当な判断でしょう。
ただ、これまでの緊縮策でギリギリの生活状態に追い込まれている人々も少なくはなく、EU等の“上から目線”への反発もありますので、不透明さは残ります。

【「国民投票にかかわらず、合意に至る複数の道筋が残っている」ものの・・・
もし国民投票で緊縮策受入の結果になれば、チプラス首相も民意に従うとしています。
しかし、EU側とチプラス政権の間の信頼関係は崩れていますので、国民投票で“受入れ”になったので再交渉しましょうと言われても・・・・。与党SYRIZA内の反発もあります。

政権の枠組み変更を予想する見方もあります。

****グレグジットはまだ回避できるか****
7月1日から未踏の領域に

ギリシャ国民が「イエス」と言ってもまだ残る難題
しかし、それでもまだ、ギリシャ政府は2つの難題に直面することになるだろう。第1に、ユーロ圏財務相会合のイェルン・デイセルブルム議長(オランダ財務相)は、チプラス氏が債権者側の計画を批判したために、ユーロ圏の政府がギリシャの現政権に計画の実施を任せることは考えにくくなっていると述べている。

「もし投票の結果が『イエス』なら、我々は誰を信用するのか。そのプログラムの実行に向けて誰と一緒に仕事をするのか」という疑問を口にした。

先週末、バルファキス氏は初めて、もし信頼を取り戻すために必要なのであれば、ギリシャ政府は内閣改造や連立の組み換えにさえ踏み切る用意があると示唆した。

「もし国民が我々に3機関の提案に署名せよという明白な指示を与えたら、そうするために必要なことを何でもする――たとえそれが政権の再構成を意味したとしても、だ」。バルファキス氏は土曜のユーロ圏財務相会合で、こう語った。

SYRIZA内には、もし7月5日の国民投票で負けたら、政府は総辞職すると言う人さえいる。そうなれば、前回、2011年のギリシャ債務危機の最中に政権を担ったような実務家内閣誕生への道が開ける。

ユーロ圏の当局者らは、たとえSYRIZA以外の政権が発足しても困難に直面すると言う。救済措置は明日、6月30日に失効するため、国民投票後の政府は全く新しいプログラムを要請する必要がある。

救済に関する条約では、それにはユーロ圏のすべての政府の承認が必要になる。ドイツの場合、連邦議会で採決を行う必要が生じる。

当局者らは、現在の提案が新たな救済策のベースになり得ると認めているが、新政権は真新しい救済パッケージについて交渉しなければならない。

ECBに対する支払いができなければグレグジットは不可避
こうした交渉は恐らく、ギリシャが国債償還に伴いECBに35億ユーロ支払うことになっている7月20日までに完了する必要がある。

ECBに対してデフォルトすれば、ほぼ確実に、新たな救済策を確保し、グレグジットを回避する望みがすべて絶たれる。

「国民投票にかかわらず、合意に至る複数の道筋が残っている」。リスク分析専門のコンサルティング会社ユーラシア・グループで欧州分析部門のトップを務めるムジタバ・ラーマン氏はこう言う。「グレグジットを防ぐのが信じがたいほど難しくなるのは、ECBに対するデフォルトの可能性が目前に迫ってきた時だけだ」【6月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 JB Pressより】
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なんだかんだありつつも、ギリシャのユーロ離脱(グレグジット)は極力避ける方向で調整されるのでしょう。

ギリシャ側の都合だけでなく、グレグジットへのある程度の準備体制は整っているとするEUにとっても、欧州統合の金看板であるユーロに傷をつけるようなことはしたくないし、もしグレジットを認めると、今後スペインなど他の国で同様の問題が起きたとき、歯止めが効かなくなります。

ただ、支援継続のための政権枠組みの変更については、“支援継続派が挙国一致内閣を組織できれば協議はそのまま継続するが、それが出来なければ議会の解散・総選挙が必要になる。混乱の末に解散・総選挙となった場合、支援継続派の新政権が誕生する可能性が高い。だが、新政権が発足するまでの1カ月半から2カ月程度は協議が中断し、ギリシャの経済疲弊と財政悪化が一段と進むことになる。”【6月29日 東洋経済online】という問題もあります。

もし、国民投票で「緊縮策反対」となれば、いよいよユーロ離脱の方向へ・・・という話になりますが、こちらも不透明です。

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債権者側はギリシャのデフォルトや国民投票の結果が受け入れ拒否となっても、まずはギリシャのユーロ残留を前提に努力する方針を表明している。

ただ、財政再建策の再考を求めるギリシャ側の強硬姿勢が続けば、債権者側も態度を硬化させ、離脱容認に傾いていくことも予想される。

そもそも、EU条約にはEUからの離脱規定はあるが、ユーロ圏からの離脱規定は存在しない。EU離脱規定を援用するのであれば、原則として一方的な離脱や離脱の強制はできない。

つまり、ギリシャ国民がユーロ残留を希望する限り、デフォルト後もギリシャがユーロ圏に居座ることも可能だ。

ただ、離脱規定が存在しないこともあり、本当に居座ることが可能か、どういう手順で離脱を進めるのかは不透明だ。【6月29日 東洋経済online】
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まさに“7月1日から未踏の領域に”ということで、相当の紆余曲折がありそうです。
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イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の残虐行為と、その支配地域での“普通の生活”

2015-06-28 22:08:15 | 中東情勢

(イスラム国の襲撃を避けてイラク北部シンジャルの町から逃げるヤジディ教徒の人々(昨年8月) Reuters 【4月9日 WSJ】)

4か国同時テロ
チュニジア、クウェート、フランス、ソマリアの4カ国で26日、同時多発的に起きたイスラム過激派によるテロ・襲撃事件ですが、今のところ関連性は明らかになっていません。

米国務省のカービー報道官は26日の記者会見で「戦術レベルで連携していることを示すものは見当たらない」としています。

****それぞれの事件、異なる標的=関連解明は困難―4カ国の襲撃事件****
チュニジア、クウェート、フランス、ソマリアの4カ国で26日に相次いで発生し、計120人近くが死亡した事件では「タイミングを合わせて計画された同時多発テロだったのではないか」と疑う見方がくすぶっている。

ただ、それぞれの事件は標的が全く異なる。いずれも過激思想に駆られた末の行動とみられるが、接点は見つかっていない。関連性の解明は困難だ。

英国人ら外国人多数を含む38人が犠牲になったチュニジアのホテル襲撃事件は、目撃者の証言から「外国人を狙って銃撃を加えた」とみられている。ロイター通信によれば、現場にいたホテル従業員は「犯人はチュニジア人を見つけると『離れろ』と叫び、外国人を狙った」と証言した。

クウェートでは、イスラム教シーア派のモスク(イスラム礼拝所)が標的となり、27人が殺害された。両国の事件では過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したが、組織的に関与したかは不透明だ。

フランスの事件で拘束された容疑者は、同組織や国際テロ組織アルカイダに関心を寄せていたとされ、1人を残忍な手法で殺害した。狙ったのは米工業用ガス大手が所有する工場だった。

ソマリアでは、地元で長年活動してきたアルカイダ系の過激派アルシャバーブの武装集団数十人が、アフリカ連合(AU)の平和維持部隊が駐留する基地を攻撃し、同部隊の約50人が死亡した。こちらはテロと言うより軍事作戦の色彩が濃い。

過激派の動向に詳しいエジプト人アナリスト、モニル・アディブ氏は「過激派は互いに共鳴し、事件が同時多発的に起きたことに驚きはない」と指摘した。しかし、4事件の具体的な関連性については分析を避けている。【6月28日 時事】 
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おそらく特段の関連はないのでは・・・と思えますが、逆に言えば、同時に各地で事件が起きるほどに、イスラム過激主義者の活動が世界的に活発化しているということでもあります。

現状に不満を抱く若者を吸引するIS
その中心にあって、彼らの活動を間接的にせよ煽っているのが、シリア・イラクのISの存在であることは間違いありません。
従前のアルカイダにとって代わり、テロにつながるイスラム過激思想の“ブランド”と化した感があります。

ISはイラクとシリアにまたがる地域で国家樹立を宣言して1年が経過。米軍主導の有志連合による空爆にもかかわらず、同組織は両国で猛威を振るい続け、リビアなど各地の過激派からも忠誠表明を取り付けて勢力圏を拡大させています。

****イスラム国】実体ない“バーチャル領土”拡大 テロの宣伝効果、共鳴者生む恐れ****
チュニジアとクウェートで26日、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」系によるテロが相次いだことは、シリア・イラクで支配地域を広げる一方で、領有実体のないバーチャルな“領土”を宣言して共鳴者を増やす同組織の戦略が一定の成功をおさめていることを示した。

イスラム国が「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)制国家」の樹立を一方的に宣言して1年となる29日を前に、宣伝効果を生んだ恐れがある。

クウェートのシーア派モスク(礼拝所)での自爆テロでは、イスラム国の「ナジュド(アラビア半島中央部)州」を名乗る組織が犯行声明を出した。

同組織はアラビア半島に支配地域を持っているわけではないが、イスラム世界全体を治める「カリフ制国家」を標榜するイスラム国にとり、地域の過激派を引きつける重要な装置だ。

イスラム国は昨年以降、同様の「州」や支部を中東・北アフリカ各地で宣言した。バーチャルな領土を拡大することで、戦闘員の受け皿やネットワーク作りを進めていると考えられている。

クウェート当局は28日までに、実行犯を運んだ運転手や隠れ家を提供した人物らを逮捕。27日の葬儀には市民数千人が参加しテロには屈しない姿勢を見せた。

ただ、湾岸アラブ諸国のスンニ派にはシーア派への敵意も根深くあることから、シーア派モスクを狙った今回のテロがイスラム国にとって格好の宣伝材料となるのは間違いない。

一方、イスラム国は、チュニジア中部の保養地スースでのテロでもいち早く犯行声明を出し、襲撃犯を、水着姿の外国人らが集まる「ふらち者の巣」を攻撃したと称賛した。これも西洋的な価値観への敵意をあおる宣伝効果を狙ったものだ。

ロイター通信が同国当局者の話などとして伝えたところでは、現場で射殺されたセイフッディン・レズギ容疑者(23)はここ半年ほどで過激化したとみられ、治安当局の監視対象に入っていなかったとされる。各地でも今後、こうした過激思想への新たな共鳴者が現れる可能性は高い。【6月28日 産経】
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貧困、失業、格差・・・・現状に不満を抱えるイスラム圏の多くの若者を、欧米あるいはシーア派といった明確な“敵”と、その敵を攻撃することに関するイスラムの“大義”を与えてくれるISなど過激思想が、今後もますます強く魅了するであろうことは想像に難くありません。

そしてISなどに感化された者が単独で実行する「ローンウルフ(一匹オオカミ)型テロ」は、今後も頻発すると思われます。

少女たちの奴隷市場など、むき出しの獣性
そのISに関して、少なくとも日本・欧米社会にあっては、“残虐さ”“非常識さ”を伝える情報が多々報じられています。

ここひと月のものを列挙するだけでも以下のようになります。

****古代ローマ劇場で20人公開処刑=パルミラ制圧の「イスラム国」―シリア****
在英のシリア人権監視団の27日の声明によると、過激派組織「イスラム国」は制圧したシリア中部パルミラにある古代ローマ時代の劇場で、20人前後を「アサド政権のために戦った協力者」と見なして銃殺する「公開処刑」を行った。遺跡には多くの市民が集められ、その目前で銃殺されたという。(後略)【5月28日 時事】
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****IS、モスルでひげそり禁止令 「違反者は収監」 イラク****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が、支配下に置くイラク北部モスルで、今月1日から男性のあごひげを義務化し、違反者は投獄すると宣言した。(後略)【6月1日 AFP】
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****IS、拉致した少女たちを奴隷市場で取引 国連****
イラクとシリアでイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に拉致された10代の少女たちが奴隷市場で売られていると国連事務総長特別代表が報告した。少女たちは、わずか「たばこ1箱」で取引されることもあるという。(中略)

少女たちはわずか「たばこ1箱」から、数百ドル、または数千ドルで取り引きされているとバングーラ特別代表は言う。

バングーラ特別代表は、数人の少女たちについて報告。少女たちの多くは、ISが標的としたイラク北部のクルド系少数派、ヤジディー教徒だという。

「少女たちの一部は一室に閉じ込められ、裸にされて洗われる。狭い家の中には100人以上いた」という。その後、少女たちは男たちの前に立たされて「値踏みされる」のだという。【6月9日 AFP】
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****改宗強要し女性売買…奴隷制宣言「イスラム国****
イスラム過激派組織「イスラム国」に拉致されたイラクの少数派、ヤジーディ教徒の女性が、クルド自治区に生還する例が増えている。

人身売買の拡大とともに買い戻されたり、逃亡の機会が増えたりしている模様だ。複数の女性が体験を語った。

「お前は俺のモノだ。イスラム教に改宗しろ。いやなら戦闘員の基地に送る」
「ハウラ」と名乗った女性(23)は、監禁されていたイラク北部モスルで昨年9月、「イスラム国」の戦闘員から告げられた言葉を再現した。基地では激しい性暴力が待っている。ハウラさんは、恐怖と絶望のうちに改宗を選んだ。(後略)【6月10日 読売】
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****IS、断食破りで2少年につるし刑 シリア****
シリア東部デリゾール県で22日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が、イスラム教の断食月「ラマダン」の昼間に食べものを口にしたとして、少年2人の手首を縛り、はりからつるす懲罰を与えたことが分かった。

英非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が住民の証言として明らかにした。少年たちは正午ごろロープでつるされ、夜遅くなってもまだそのままになっていたという。少年たちの体には「断食破りは許されない」と書かれた札がつけられていた。【6月23日 AFP】
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****IS、「スパイ」16人を水責めや爆破で殺害 動画公開****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」は23日、「スパイ」だとする男性16人を、おりを使った水責めや、爆発物による頭部切断、車へのロケット弾発射で殺害する様子を写した動画を公開した。

イラクのニナワ州で撮影されたとみられるこの動画は、ISが支配下に置く地域で対立する人々を殺害する様子を撮影・公開してきた映像の中でも、最も残忍なものの一つだ。

動画の中で殺害された男性たちは「スパイ」とされ、一部の男性については「自白」場面とされる映像も撮影されている。

動画では最初に、IS戦闘員が4人の男性を車の中に入れ、携行式ロケット弾を撃ち込む様子が写される。次に、5人が金属製のおりに入れられ、クレーンによって汚れたプールのようなものの中に沈められる。最後に、7人の首の周りに巻き付けられた青い爆発性のコードが爆発し、うち数人の頭部が切断される様子が写される。

ISはこれまで、数百人を銃殺してきた他、数十人を斬首や投石、または建物の屋上から突き落とすなどして殺害。

さらに、拘束したヨルダン人パイロット1人を焼殺した。殺害の様子を写した動画は、ISにとって強力なプロパガンダの道具となっており、敵対する勢力にショックと恐怖を与えるだけではなく、新たな戦闘員を勧誘する目的でも使われている。【6月24日 AFP】
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****拉致女性42人「奴隷市」に=「イスラム国」が売る―シリア****
在英のシリア人権監視団によると、過激派組織「イスラム国」は25日、支配下に置くシリア東部の町マヤディーンで、イラク北部で昨年拉致した少数派ヤジディ教徒の女性42人を「奴隷」として戦闘員に売り飛ばした。

女性には1人当たり500〜2000ドル(約6万2000〜24万7000円)の値が付けられた。子連れの女性もいたが、子供たちの状況は明らかでないという。【6月26日】 
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これらのどこにイスラムの大義があるのかわかりません。醜い人間の獣性をむき出しにしているようにしか思えません。
更に、こうした残虐行為が新たな戦闘員を勧誘するのに有効というのも理解を超えたものがあります。

【ISの価値観に従えば“普通の生活”も】
一方、IS支配地域で“普通の生活”がどのように営まれているのか・・・については、あまり情報がありません。

****ISの「モデル都市」に暮らす生き地獄 シリア・ラッカ****
シリア北部ラッカにあるその環状交差点は、かつて「天国の広場」と呼ばれていた。だがイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が残虐な公開処刑の場として使い始めると、新しい名前が付けられた。「地獄の広場」だ。

ISが昨年6月に「カリフ制国家」の樹立を宣言してから1年、その「首都」とされるラッカは死の街へと変わった。
ラッカに住む反IS活動家のアブ・イブラヒム・ラカウィさん(仮名)によると、この環状交差点では、住民を恐怖に陥れるための見せしめとして、やりに突き刺された人間の頭部が置かれ、遺体が何日間もはりつけにされている。

「ISはラッカを掌握した当初から、恐怖で統治しようと、斬首刑、手足の切断、はりつけ刑を行ってきた」と、ラカウィさんは言う。(中略)

■「良い暮らし」のイメージ構築
ISは民政のあらゆる側面を管理し、学校のカリキュラムを書き換え、イスラム法廷を設置、イスラム法を順守させるための警官隊(男性版は「ヘスバ(Hesba)」、女性版は「カンサ旅団(Khansa Brigade)」と呼ばれる)も組織した。

また、教育に重点を置き、従来の学校や大学を1年間閉鎖して、新しいコースを作った。数学や英語の授業はまだあるが、古いカリキュラムでその他に残っているものはほとんどない。イスラム法学やジハード、コーランに関するコースが新しく加えられた。

ISは車が走る道路や、客でいっぱいの店を撮影した動画を見せることで、ラッカでの「良い暮らし」というイメージを広めようとしている。

ISはまた、シリア政府側への協力、窃盗、「魔術」、同性愛といったさまざまな「犯罪」について処罰を下している。日常的に斬首刑を行い、人々を投石で殺害したり、建物の屋上からつき落としたりすることもある。

頭にかぶるベールで目を覆っていない女性には金1グラムの、あごひげを剃った男性には100ドル(約1万2000円)相当の罰金が科せられる。

英国を拠点とする非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によれば、ISは「カリフ制国家」樹立を宣言した昨年6月末から今年5月末までの間に、シリアで2618人を処刑した。

■「目立たないように」
住民たちは、ISのルールに従えば、比較的安定して犯罪も少ない「普通の」生活を送り、ラッカの行政サービスから恩恵を得ることもできると話している。「ISの法律に従い、目立たないようにしていれば、誰もちょっかいは出してこない」と、あるラッカ住民は語った。

そしてISの支配地域にやってきた何千人もの外国人戦闘員は、ラッカでは特権を与えられている。そうした特権は時に、劣等市民として扱われていると主張するシリア人住民との間に緊張関係を生み出す。

「アブ・サルマン・フランシ」の名で知られるフランス人のIS戦闘員は最近、IS支配地域の生活の素晴らしさを褒めそやす動画を投稿した。「ISは私たちに家や月給など必要なものすべてを与えてくれた。神の導きのおかげだ」と、彼はフランス語で述べた。【6月26日 AFP】
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英語教育がまだ残っているというのは意外な感があります。ISも英語の実用性は否定できないのでしょうか。

“ISのルールに従えば”安全な普通の生活が送れる・・・というのは、ある程度想像できるところです。
ISの価値観を受け入れる人々、それに従う人々にとっては、そんなに居心地が悪いものではないのでしょう。

ISは多数の外国人戦闘員に支えられていますが、彼らに“特権”が与えられ、シリア住民との間で緊張があるというのは興味深いものがあります。

シリアでのISは一進一退の状況ですし、イラクでのモスル奪還はしばらくは難しそうな状況ですので、当分はこうしたISと向き合っていくしかないようです。
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ギリシャ  EU提案受け入れの可否について国民投票実施を提案 先行きはいよいよ“不透明”

2015-06-27 23:16:52 | 欧州情勢

(25日、欧州連合(EU)首脳会議が開かれたブリュッセルで談笑するギリシャのチプラス首相(左)、ドイツのメルケル首相(右)、イタリアのレンツィ首相(中央) 【6月26日 共同】)

選挙公約に反する財政緊縮策を受け入れるべきかどうかの選択を国民に委ねる
EUやIMFなどのギリシャへの金融支援は6月末が期限ですが、6月末にはIMFへの16億ユーロの借金返済期限が控えています。

また、現在、ギリシャ国内の銀行の資金繰りは欧州中央銀行(ECB)の緊急支援で支えられていますが、EUが支援を打ち切ればECBも支援を停止する可能性が高く、ギリシャ国内の銀行が経営危機に陥るのも避けられない状況にあります。

従って、この6月末がデッドラインということで、EUとギリシャの協議が行われてきましたが、「今日の会議が山場」「最後のチャンス」等々と言われながらも話がまとまらず、ずるずると期限に向けて時間だけが経過してきました。

仮に、EUとギリシャが合意できても、ギリシャ国内で議会の承認が得られるかも不透明です。

そのような状況で6月末まであと三日あまりしかない・・・ということで、“どうするつもりだろうか?”“もうデフォルトは避けられないのか。その場合ユーロ離脱までいくのか?”と訝っていたのですが、最後の最後になって、「国民投票」を行うという話になっています。それも7月5日に。

****ギリシャ 国民投票へ 債務問題不透明に****
資金繰りがひっ迫しているギリシャのチプラス首相は、金融支援の条件としてEU=ヨーロッパ連合などから求められている財政緊縮策について、賛否を問う国民投票を来月5日に行う考えを表明し、ギリシャの債務問題の行方は不透明さを増しています。

ギリシャのチプラス首相は27日未明、テレビ演説を行い、「ギリシャは緊縮策の継続をEUなどから強要されている。国民の意思に逆らう要求に対して回答を迫られている」と述べ、金融支援の条件としてEUなどから求められている財政緊縮策について賛否を問う国民投票を、来月5日に実施する意向を表明しました。

ギリシャへの金融支援を巡りEUなどとの間では、年金の支給額の削減や付加価値税の一部増税などの改革案の内容で意見の隔たりが埋まっておらず、チプラス首相としては選挙公約に反する財政緊縮策を受け入れるべきかどうかの選択を国民に委ねたかたちです。

国民投票の実施にはギリシャ議会で議席の5分の3以上の賛成が必要で、27日に臨時の議会が開かれる予定です。
また、チプラス首相はEUなどに対して、金融支援を受けられる期限を今月末から数日間延長するよう求める考えを示しましたが、27日に開かれるユーロ圏の財務相会議で認められるかどうかは分かりません。【6月27日 NHK】
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その後、ギリシャ議会の広報担当者は、当初、国民投票の実施には議席の5分の3以上の賛成が必要だとしてことについて、過半数の賛成で可決されると訂正しました。

1週間後の国民投票実施、可決要件も判然としない・・・・“ドタバタ”としか言いようのない対応ですが、本当に実施できるのでしょうか?

“議会の採決は日本時間の28日未明に行われる見通しですが、野党からは、国民投票で財政緊縮策が拒否された場合、ギリシャが債務不履行に陥りユーロ圏からの離脱にもつながりかねないとして、実施に反対する声が相次いでいて、議論は紛糾するものとみられます。”【6月27日 NHK】

****ギリシャとEUなどの対立点は****
ギリシャとEU=ヨーロッパ連合など債権者側の間では、たび重なる協議を経てもギリシャの財政緊縮策の内容について意見の隔たりが埋まっていません。

ギリシャ政府が示した案には、年金支出の削減に向けた公務員の早期退職制度の見直しや、年金の支給開始年齢の段階的な引き上げ、それに付加価値税の税率の見直しなどが盛り込まれました。

これに対し、EUやIMF=国際通貨基金など債権者側は、ギリシャの案は増税に重きを置き、ヨーロッパで最も高い水準の年金の支給額など、歳出削減への切り込みが足りないとして修正案を示しました。

この中では年金分野では、早期退職者制度の見直しや年金の支給開始年齢の引き上げの時期を前倒しすることを求めたほか、軽減税率の対象となっている飲食代やホテル代について税率を引き上げることなどを求めました。

しかし、チプラス首相は低所得者の負担を増すことになるとしてこの修正案を強く拒否しています。【6月27日 NHK】
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****ギリシャ支援交渉、結論再び持ち越し****
・・・・ギリシャは当初、企業に対する法人税を26%から29%に引き上げるなど、歳入増で財政を立て直す改革案を示した。だが、増税は経済成長の足を引っ張るおそれがあるうえ、徴税システムへの不安もあって、EUなど支援者側は歳出カットを求め続けている。

IMFのラガルド専務理事は24日に仏メディアで「(改革案は)税収増に頼るだけではいけない」と指摘。年金改革の中身を重視する意向だ。

IMFなどによると、ギリシャの年金支出は国内総生産(GDP)比で16%以上でユーロ圏で最高水準。支援側は、ギリシャが示す早期退職の段階的縮小を急ぐとともに、年金の一部への財政支出をなくすことなども求めた。

しかし、年金に手をつけるのは容易でない。財政危機が始まってからの5年間で、ギリシャ国民の平均受給額はすでに4~5割減った。受給者は人口の約2割を占め、失業の高止まりするなかで親の年金に頼って暮らす若い世代も多い。

そもそもチプラス首相は1月の総選挙で、「年金削減はしない」と公約して政権を取った。年金受給額が少ない人向けの「クリスマスボーナス」も復活させると約束した。年金カットをのめば支持を失い、反緊縮の1点でまとまる政権の基盤が揺らぎかねない。(後略)【6月26日 朝日】
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今回の国民投票の提案は、選挙公約違反の妥協はおいそれとできないし、EU側への譲歩に関しては与党内からの批判も強い状況で、判断を国民に委ねた形です。

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支援者側は25日のユーロ圏財務相会合で、ギリシャが支援者側の案を受け入れることを条件に、現行の金融支援プログラムを5カ月延長し、総額155億ユーロ(約2兆2千億円)の資金支援に応じると提案した。

26日にチプラス氏と会談したメルケル独首相は「我々はとても寛大な提案を受け入れるように求めた」と述べた。

だが、チプラス氏はこの提案を拒否。27日未明にテレビ演説で「国民は恐喝から自由に決断しなければならない」と述べ、支援者側の提案は欧州のルールや基本的人権を侵害するものだと非難した。閣僚らは相次いで国民が反対に投票するよう呼びかけた。【6月27日 朝日】
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****<ギリシャ>7月5日に国民投票…緊縮策、EU案の賛否問う****
・・・・チプラス首相は臨時閣議を招集後、国民に向けてテレビで演説し、債権者側の提案を「欧州の価値観に反する最後通告であり、国民を侮辱しようとしているようだ」と批判。「これに応えるのは歴史的な責任だ」「国民は誇りを持って決断を下してほしい」と述べた。ただ、「結果は尊重する」と国民が賛成すれば提案を受け入れる考えを示した。(後略)【6月27日 毎日】
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“自分としては公約違反でもある国民にこれ以上の負担を強いる妥協はしたくない。でも、その結果はデフォルト、ユーロ離脱になるかも。国民が妥協すべきというなら、それはそれで・・・。どっちにしても国民の判断だ”という責任逃れの感も否めません。

国民受けのいい公約を掲げて政権を獲得したものの、現実の交渉はうまくいかず、結局国民に判断をゆだねたとも言えます。

やるなら、もっと早い段階で・・・とも言えますが、ギリギリ(あるいはタイムオーバー)のこの段階なら、妥協は嫌だけどユーロ離脱も嫌だ・・・という、どっちつかずの意見を排して、財政緊縮策受入か、あるいはデフォルト・ユーロ離脱か・・・・の明確な選択を迫ることはできるでしょう。

EU側に募るギリシャへの不信感
国民投票の話は、2011年にもありました。
“ギリシャは財政状況の悪化で、2010年にIMFと欧州中央銀行(ECB)、EUへの支援要請に追い込まれた。11年秋には当時のパパンドレウ首相が今回のように緊縮策の是非を問う国民投票の実施を提案したが、ギリシャの離脱を心配するEUなどの強い反対にあって断念。パパンドレウ氏は退陣に追い込まれた。”【6月27日 日経】

日本時間の今夜、ユーロ圏の財務相会議がベルギーのブリュッセルで再び開かれ、ギリシャ側に国民投票の実施について説明を求めるとともに、期限の延長を認めるかどうかなど議論が行われる予定です。

2011年のときは“ギリシャの離脱を心配するEUなどの強い反対にあって断念”という状況でしたが、現在は、影響を最小限に抑える対策はできており、ギリシャが出て行くなら別に引き止めない・・・という雰囲気です。

一向に改善しないギリシャの財政状況への不信感も募っています。

“ギリシャに対するこれまでの支援策の総額は約2400億ユーロに達する。ここまで膨らんだのは、ギリシャが財政再建策を受け入れたにもかかわらず、しっかりと実行に移していないためだ。債権団のEUやIMFなどはギリシャに対しこれまでつなぎ融資を繰り返して支えてきたが、一向に状況が改善しないため不信感を募らせている。”【同上】

不正直なギリシャ提案と実現不可能なEU側提案 必要なのは緊縮策の緩和、より多くの公的部門の改革、そして賢明な債務再編
もっとも、ギリシャ側も年金削減などはこれまでも行ってきており、EU・IMFが求める無理な緊縮策の結果、景気は低迷し、国民生活は破綻に瀕しているとも言えます。

ギリシャの現状は、ギリシャに緊縮策だけを求め続けたEU側の失敗の結果とも言えます。

****ギリシャ危機、見込みのない2つの改革案****
債権団の提案もギリシャの提案も解決策にならない理由

テーブルには、今、2つの提案がある。1つは債権団からの提案、もう1つはギリシャからの提案だ。
2つに共通していることは、どちらもギリシャ経済を修復しない、ということだ。
双方はうわべを取り繕うことさえしていない。どちらの提案も、きっぱり拒絶されるべき代物だ。

欧州の実務家が長い交渉に入ると、常に、技術的な詳細に没頭してしまい、本質的に大きな構図を見ることができなくなる。

彼らは2016年のプライマリーバランス(債務の利払い前の基礎的財政収支)の黒字が国内総生産(GD)比1.5%であるべきか、それとも2%であるべきかという議論に何週間も費やしておきながら、一見、自分たちのさまざまな予想の誤差がプライマリーバランスのこの小さな差より何倍も大きいことに気づかないようだ。

経済外交を担う人々は事の本質、すなわち、ギリシャがユーロ圏内で存続し、いずれ繁栄できるようにするという協議のそもそもの目的を見失った。

2つの提案の問題点
それほど寛大ではない説明もある。彼らは単に、無関心なのかもしれない。一部の債権者は、何が起きようとも、今やっていることを継続することだけに関心を持っている。

こうした債権者は特に、ギリシャに対する融資が絶対に返済されないことを正式に認めることを拒む。彼らは自分たちがギリシャに関して自国の有権者をミスリードしたことを知っており、少なくとも自分が現職にとどまっているうちは、真実を暴かれたくないのだ。

一方、ギリシャのアレクシス・チプラス首相にとって最大の目標は、権力の座にとどまることだ。融資を繰り延べし、問題がないふりをする「extend and pretend」式の合意――交渉が成功裏に終わるとしたら、結果はその種の合意になる可能性が高い――は、チプラス氏にとって都合がいいかもしれない。

また、それゆえ、交渉担当者には都合がいいが、ギリシャ経済の助けにならないひどい合意が成立する確率も高いわけだ。

では、2つの提案のどこが間違っているのか。まず、ギリシャの提案は不正直だ。
一方、債権者側の提案は、実行不可能だが、ギリシャが支払い義務を果たしながら債務を持続可能な水準に減らすために必要なレベルの緊縮財政を要求している。これは悪い組み合わせだ。

ギリシャの提案が不正直なのは、数字の計算が合わないからだ。ギリシャが提案している財政調整は、GDP比3.5%のプライマリーバランスの黒字――債権者が要求し、チプラス首相が同意すると言っている条件――を達成するために必要な規模よりも緩やかだ。

チプラス氏は債権者に向かって、こう言っているに等しい。「あなた方が好きな数字を何でも喜んで書こう。いずれにせよ、私はごまかすんだから。もし相互信頼の喪失が問題なのだとしたら、この提案は問題を解決するものではない」

ギリシャが通貨同盟内で欧州北部と共存する道
一歩下がってみると、解決策を見つけるのは難しくない。
必要なのは緊縮策の緩和、より多くの公的部門の改革、そして賢明な債務再編だ。ロンドン・ビジネス・スクールのリチャード・ポーテス氏が同僚らと共著した最近の論文で報告しているように、これが、ギリシャ問題の有力専門家らが最近開いた会議で出た圧倒的な結論だ。

ここで我々が話しているのは、例えば採用と解雇といったイデオロギー的な改革や団体交渉の廃止などではなく、信頼できる徴税、近代的な行政、実用的な法制度といった社会的に有益な改革だ。

ギリシャの公的部門のインフラが近代化されなければ、ギリシャと欧州北部の大部分とが同じ通貨同盟の中で共存できる見込みはない。それは、終わることのない構造的停滞につながる可能性が極めて高い。(中略)

チプラス氏にとって一番いい交渉戦術は、債権者側の提案をきっぱり拒否し、何らかの賢明なプラン、うまくいく可能性のあるプランを携えて交渉の席に戻ってくることだ。

そうしたプランは、チプラス氏が現在提案している以上の改革を盛り込んでいなければならない。例えば年金や付加価値税について、同氏の有名な「レッドライン」を越えて踏み込む必要がある。(中略)

同氏の現在の提案はその部類に入らない。考えられる最悪の結果は、新たな「extend and pretend」型の合意であり、改革されず、現金が枯渇したギリシャが永続的な不況にはまり込むことになる。

ギリシャにとっては、ユーロ離脱は最悪の選択肢ではない
そのような道筋の最終的な結果は、市民社会と民主主義の破綻かもしれない。悪い取引は、最終的なユーロ圏離脱の可能性も高くするだろう。グレグジットとして知られる後者は、良い選択肢ではない。ユーロ圏はギリシャの離脱に合理的な利益を持たない。

しかし我々は、ギリシャの観点からすれば、グレグジットは最悪の選択肢ではないということを理解しなければならない。我々は今、ギリシャ演劇のマクベスの瞬間に近づいている。「やってしまったら、すべてが難なく終わるのであれば、早くやった方がいい」という局面だ。【6月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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当面の状況に関しては、EU側の対応、国民投票の行方などから“不透明”としか言いようがありません。

“ギリシャ政府はEUに対し、6月30日の支援終了期限を国民投票が終わるまでの数日間延長するよう求めており、EUが受け入れるかが最初の焦点となる。
月末の国際通貨基金(IMF)への借金返済や、国民投票で緊縮策が否決された場合の対応も不明で、先行きが見通せない状況だ。”【6月27日 毎日】

数時間後には、とりあえずEUが数日間延長するかどうかは決まるでしょうが・・・・。
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アメリカ  「オバマケア」補助金問題、最高裁合法判断 それでも終わらない議論

2015-06-26 22:08:16 | アメリカ

【6月26日 AFP】

オバマ政権看板政策を守る
アメリカ・オバマ政権の数少ない内政実績が、国民皆保険制度がないアメリカにあって約5000万人とも言われる無保険者を極力減らそうとする医療保険制度改革、いわゆる「オバマケア」です。

国論を二分する激しい政治的争いを経て、なんとか昨年1月からの導入に漕ぎつけたことはまだ記憶に新しいところです。

****2年目のオバマケア、ターゲットはヒスパニック系****
バラク・オバマ大統領の看板政策である医療保険改革法「医療費負担適正化法」(通称オバマケア)のもと、2年目の加入申し込み受付が始まっている。

910万人の加入を目標とする政府の主なターゲットは、ヒスパニック系だ。彼らの保険未加入率は米国で最も高い。

しかし加入を促す運動が行われても、フロリダ州などの地元の診療所では、保険未加入の患者は依然として多い。【2014年12月18日 AFP】
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国民皆保険制度が当たり前のようになっている日本的な感覚からすると、種々の問題はあるにしても、無保険者をなくそうという「オバマケア」が目指す方向は“当然”のことにも思えますが、アメリカ的常識では、そうではないようです。

特に、「個人への保険加入義務付け」や国家からの支援策が、要話頭支持の保守層には受け入れがたいようです。

“保険を自助努力の報酬ととらえ、保険の選択は市場原理に基づく個人の自由と主張する共和党にとって、オバマケアは富の再配分による「ただ乗り」で、経済成長を阻害する「社会主義的政策」と映る。一方、民主党リベラル派にとっては、オバマケアはオバマ政権最大の「遺産」だ。”【2014年10月13日 毎日】

そうであるにしても、オバマ大統領の再選によって、この問題は政治的にも決着したのでは・・・とも思うのですが、共和党の反対は執拗を極め、財政問題とも絡んで、デフォルト騒ぎや政府機関閉鎖などの混乱を引き起こしています。

“共和党は2010年3月の法成立後もオバマケア撤廃に固執してきた。連邦最高裁が12年6月に合憲判断した後もあきらめず、13年10月には与野党の攻防が激化し17年ぶりの政府機関一部閉鎖に至り、政界は大混乱に陥った。”【同上】

単に共和党だけでなく、国民一般にも懐疑的な見方が多いようです。

“米世論調査会社ラスムセンは(2014年4月)7日、有権者の58%がオバマケアを否定的にみているとする調査結果を発表した。オバマケアで健康保険の質が悪くなるとの回答は53%で、共和党支持者の間では85%にのぼっている。”【2014年4月 産経】

今年3月には、オバマケアに関する一部の補助金の合法性をめぐる裁判についてアメリカ連邦最高裁判所が審理を開始、もし違法と判断されれば、750万人が補助金を失うとの試算もあり、判決が注目されていました。

****<オバマケア>米連邦最高裁が合法判決 政府補助金巡る対応****
米連邦最高裁は25日、オバマ大統領の看板政策である医療保険制度改革(オバマケア)で重要な役割を果たしている政府補助金を巡るオバマ政権の対応を合法とする判決を下した。

違法と判断されれば、補助金を失う多くの人たちが保険購入をやめ、制度が根幹から揺らぐ恐れがあった。

判決は、大統領が最大のレガシー(政治的実績)としたいオバマケアの中核部分を認めるもの。政権にとって大きな勝利だが、共和党は制度の廃止を主張しており、来年の大統領選でも大きな争点になりそうだ。

オバマケアでは、政府は市民に医療保険購入を義務づけ、中低所得者層には保険購入を支援する補助金を支給する。根拠法は、受給対象を「州が開設した取引所(保険購入用ウェブサイト)」での購入者と定めたが、反対派知事らの30州以上が取引所開設を拒否。

このため、オバマ政権は連邦政府による代替取引所を設置し、こちらでの購入者にも補助金を支給している。制度に反対する保守派が、支給は条文を逸脱しており違法だと提訴した。

最高裁は6対3で合法と判断した。判事は保守派5人、リベラル派4人だが、ロバーツ長官ら保守派の2人が政権支持に回った。

代替取引所の開設は根拠法にあったが、補助金の支給対象と明示されていなかった。判決は、支給対象を限定しようとした立法ではないと判断した。「違法」と判断した場合に生じる大きな影響にも触れた。

オバマケアでは、約1020万人が保険を購入。補助金を受けている約870万人のうち約640万人が代替取引所を通じた保険購入者となっている。【6月26日 毎日】
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「オバマケア」の方向性を当然とする立場からは常識的な判断と思えますが、3月段階の審理では“9人の判事のうち4人が補助金給付を認める立場を示唆。しかし2人の判事は給付への疑念を示し、「最高裁内での見方ははっきりと分かれている」(米紙ニューヨーク・タイムズ)とみられている。”【3月5日 産経】ということで、どちらに転んでも不思議ない判決でした。

“補助金給付を認める立場を示唆”した4名の判事は民主党政権が送り込んだ判事、残りは共和党政権による判事・・・ということで、どれだけ最高裁判事を確保できるかがアメリカ政治には極めて重要です。
もっとも、今回は“ロバーツ長官ら保守派の2人が政権支持に回った”ということで、司法の良識は維持されてはいるようです。

なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?】
そもそも、なぜアメリカでは国民皆保険制度がないのか・・・については、下記のように説明されています。

****オバマケアを斬る なぜアメリカには国民皆保険制度がなかったのか?****
2010年3月、「患者保護と妥当な医療に関する法律」、通称「オバマケア法」が発効された。アメリカで初めて、国民皆保険にかなり近づく画期的な法律だと言われている。(中略)

2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入している
アメリカには医療において、国民皆保険制度はない。5000万人程度(人口の約16%)が無保険者だと言われている。世界トップクラスの医療費を使いながら、これほど多くの無保険者がいる国として、否定的に見られることが多い。

しかし、視点を変えれば、肯定的な評価もできる。アメリカは、国民皆保険制度、つまり、国家による強制がないにもかかわらず、2億5000万人程度(人口の約84%)が何らかの医療保険を持っている国なのである。

5000万人の無保険者を強調するのか、2億5000万人もの人が自発的に医療保険を持っていることを強調するのか、それによってアメリカの医療制度の評価も異なってくる。

この問題を検証するにあたって、大きな疑問が2つ挙げられる。
①なぜ2億5000万人もの人が自発的に医療保険に加入しているのか。
②なぜ、強制的に5000万人の無保険者問題を解消する、日本のような国民皆保険制度が導入できないのか。

実は①と②は密接に関連した問題であり、①の答えが、日本のような国民皆保険の導入を難しくしているのである。

アメリカには、公的医療保険として、65歳以上の高齢者と全永久就業不能者・末期腎不全者等を対象としたメディケアがあり、2010年末では約4750万人が加入している。
また、低所得者に対する公的医療保険としてのメディケアがあり、2014年の会計年度において約6400万人の加入者があった。

さらに、これらのメディケイドに加入するほど低所得ではないが、民間医療保険を購入できるほどの余裕もない家庭の、19歳以下の医療保険を持たない子供に対する公的医療保険として、州子供医療保険プログラムがあり、2008年の資料では360万人程度の子供が加入していた。

上記以外は、基本的にすべて民間医療保険を利用している。アメリカで最も多い形態は、職場を通じて医療保障を受けることだ。

アメリカでは医療費、医療保険料が高額なので、勤務先を通さず、個人が直接、保険会社と契約を結ぶことは少ない。したがって、「雇用―安定収入―医療保険」がセットになっているのである。

しかも、日本のように、雇用主と従業員が保険料を折半することが決まっているわけではない。雇用主が全額負担する場合もあれば、雇用主:従業員=8:2や7:3といった割合が多い。1:1や従業員のほうが高い掛金比率というのはまれである。

第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散
このような職場を通じた医療保障は、第二次世界大戦の産物である。当時のローズヴェルト政権がインフレ抑制のために賃金凍結を行った見返りに、従業員への福利厚生の一環として、雇用主が職場医療保険を従業員に付与するようになったのである。これ以降、職場を通じた医療保障がアメリカでは一般的になった。

このようにして、政府が公的医療保障を全国民に与えようとする前に、職場を通じた医療保障が一般的になっていった。

すると、すでに医療保険を持っている中間層は、低所得者に医療保障を与えるために、税金や社会保険料を支払って新たに公的医療保険制度を作るインセンティブが無く、国民皆保険制度には反対の立場だった。

どうして、新たな税金や社会保険料を支払って、現在享受している医療保障よりも恐らく質的に悪くなる公的医療保険を作る必要があるのだろうか。

換言すれば、第二次世界大戦期に職場を通じた医療保障が拡散していったことが、全国民を対象とした公的医療保険制度ができなかった大きな理由である。

さらに、国民の心情として、政府の介入を社会主義的だと嫌悪したこと、アメリカ医師会や保険業界等の強力な利益団体が反対したことなどの理由が重なり合って、国民皆保険制度はできなかったのである。【2月15日 杉田米行氏 ヘルスプレス】
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執拗に繰り返される議論
いずれにせよ、“政権にとって大きな勝利だが、共和党は制度の廃止を主張しており、来年の大統領選でも大きな争点になりそうだ。”ということで、まだまだ執拗な反対論が続くようです。

人種問題、銃規制、移民問題、対外的には中国やロシアとの関係、中東政策等々、問題が山積しているなかで、いつまで「オバマケア」問題に固執するのか・・・という感も個人的にはありますが。

次期大統領選挙でも、共和党候補にとっては「オバマケア」反対は踏み絵のような問題です。
その大統領選挙には有象無象の共和党候補者がひしめき合っており、誰それが出馬を表明といった記事があっても、中身を読む気がしないほどです。

****ルイジアナ州知事が出馬表明=共和13人目―米大統領選****
米共和党のボビー・ジンダル・ルイジアナ州知事(44)は24日、同州で開いた集会で演説し、2016年大統領選に出馬すると表明した。同党の指名争いに正式に名乗りを上げた主要候補はこれで13人となった。

ジンダル氏は07年にインド系米国人として初めて州知事に当選し、現在2期目。保守派として知られ、キリスト教右派などの支持獲得を狙っているが、現時点での各種世論調査の党内支持率は軒並み1%前後に低迷している。

ジンダル氏は集会で「ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事は大統領選に勝つため、保守の理想を隠す必要があると言っている。しかし、それでは共和党は敗北する」と述べ、同党の最有力候補と目されるブッシュ氏への対決姿勢を明確にした。【6月25日 時事】 
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一方の民主党はクリントン氏が独走状態ではありますが、メール問題などで支持率は落ちているようです。

****全メール提出」に疑義=共和、クリントン氏追及へ―米メディア****
クリントン前米国務長官が在任中に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題で、クリントン氏が仕事に関係するメールは全て国務省に提出したと説明していたにもかかわらず、実際には提出していないメールが少なくとも15通存在することが分かった。複数の米メディアが25日、国務省関係者の話として報じた。

クリントン氏は2016年大統領選の民主党最有力候補。共和党はかねてクリントン氏が都合の悪いメールを消去した疑いがあると追及してきた経緯があり、新事実の判明に勢いづきそうだ。

15通のメールはリビア情勢に絡んでクリントン氏が国務省外部の側近とやりとりしたもので、側近が先に下院特別委員会に提出した中に含まれていた。特別委のガウディ委員長(共和党)は「(15通は)深刻な問題を提起している」とのコメントを発表した。【6月26日 時事】 
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“米議会特別委は2012年に起きたリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件を調査しているが、この情報筋によれば、行方が分からないメール15通はベンガジの事件とは無関係だという”【6月26日 AFP】との報道も。

リビア・ベンガジのアメリカ領事館が2012年9月11日に武装グループに襲われ、スティーブンズ大使ら4人が死亡した事件でのホワイトハウスの対応がどうこうという問題は、山積する国際問題に比べると「今さらその話をしても・・・」という感がありますが、「オバマケア」同様、共和党側はクリントン対策として執拗にこだわっています。

メールアドレス云々も、そんな問題でアメリカ大統領を決めるのか?・・・という感がありますが、これまた執拗です。

政治が本質的でないところで空転するのは日本を含めてどこでも同じですが、「世界の警察官」かどうかはともかく、世界的な影響力が大きいアメリカ政治にはもっとしっかりしてもらわないと・・・と思ってしまいます。
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インドネシア  真相解明への動きがみられる “埋もれた虐殺”“暗い歴史”「9月30日事件」

2015-06-25 22:49:12 | 東南アジア

(若かりし頃のデヴィ夫人とスカルノ大統領 さすが・・・というべき美貌です 才覚と野心はそれ以上なのでしょう 【https://www.pinterest.com/pin/84583299221737127/】)

ごく普通のことだった権力による“むきだしの暴力”】
時の権力が、体制維持のために国民に対して熾烈な武力を行使するというのは、少なからぬ国々で見られることです。
中国の天安門事件(1989年)、韓国の5.18光州民主化運動(1980年)、台湾の二・二八事件(1947年)等々

戦争や紛争・動乱にあっても民間人の生命・人権に配慮しなければならない、国家権力といえども国民に銃を向けることは厳につつましまなければならず、その責任を問われる・・・・といった考えは、人類の歴史のうえでごく最近見られるようなったことであり、数十年前までは、敵対する勢力へのむきだしの暴力はごく普通のことでもありました。(未だに、ごく普通にむきだしの暴力を行使する勢力が存在するのは残念なことですが)

ピンポイント攻撃で民間人犠牲を最小限に抑えているとする、また、抑圧される人権の守護者を任じるアメリカにしても、つい数十年前まではベトナムのジャングルをナパーム弾で焼き払い、枯葉剤を散布し、その下で暮らす人々の生命・生活など一顧だにしなかったのが現実です。
(そのことを考えれば、近年の人権重視の風潮は、不十分ながらも人類の歴史において画期的な進歩かもしれません。)

むきだしの暴力を行使した権力は、その後もそうした事件に触れることを避け、その責任をうやむやにしてしまうのもごく普通に見れられることです。

1965年に起きた“闇のクーデター”とされる「9・30事件」】
インドネシアにおいては、1965年に起きたクーデター「9・30事件」により、共産主義者とみされた50万人とも100万人とも言われる人々が虐殺されました。

この事件によってスカルノ大統領は失脚し、インドネシア共産党は壊滅、権力はスハルト氏に移行することになりました。

「9・30事件」に関しては、インドネシア政府は治安を維持するためだったとして謝罪や補償は行っていません。
(ユドヨノ前大統領時代の2012年、国家人権委員会が大虐殺は「深刻な人権侵害であり人道に対する罪」だと非難し、政府に対して公式謝罪と被害者への補償、被害者と加害者の和解措置を勧告していますが、その後どうなったのか・・・?)

****9月30日事件****
インドネシア現代史の一大転機を成したクーデター事件。これを機にスカルノからスハルトへと最高権力者が交代、国政の基本方針も新旧植民地・帝国主義打倒から、経済開発政策へと大転換される。

1965年9月30日の深夜、ジャカルタで陸軍左派が陸軍首脳7人を拉致、うち6人を殺害して革命評議会を結成した。陸軍戦略予備軍司令官だったスハルトは直ちにクーデター派を鎮圧。

その後、スカルノ大統領を支えていたインドネシア共産党がクーデターの陰の主役とされて大弾圧を受け、スカルノも容共派として権力をはく奪され、68年3月にはスハルトが正式に第2代大統領に就任した。

党員や同調者とされた中国系住民を中心に約50万人が虐殺された。共産党は非合法化された。これで、アジアで最も早く1920年に創立され、64年頃には党員300万人、傘下組織2000万人を誇った前衛政党は消滅。

スハルトは国民の事件への記憶を意図的に操作し、30年余に及ぶ独裁体制構築に利用した。98年のスハルト失脚後に出回った、事件の首謀者の1人だったラティフ元中佐の軍法会議での上申書によれば、スハルトはクーデター計画に初めから関与しており、事件の本質はスハルトによる「闇のクーデター」だったという。【知恵蔵2015】
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“インドネシア共産党(PKI)のバックにいた北京政府への反発とインドネシア人の生理ともいえる反華僑感情が混然となり、都市部ではPKIの疑いという口実で中国系住民は殺害された”(http://www.jttk.zaq.ne.jp/bachw308/page039.html)という側面もあったようです。

ドキュメンタリー映画を機に、真相解明を求める動きも
事件の中心に位置していたともされるスハルト元大統領が死亡し、事件後の「共産主義者狩り」に動員された人々の多くや、被害者の遺族たちも加害者側からの報復を恐れて口を閉ざしていることで、事件の全貌については不透明なままになっています。

近年になってようやく事件を扱ったドキュメンタリー映画が製作され、事件で何が行われたのか、光が当てられつつあります。

****インドネシア “埋もれた虐殺”語り始める****
50年前にインドネシアで起きた虐殺をテーマにしたドキュメンタリー映画が世界で注目を集めるなか、インドネシア国内では、映画をきっかけに、被害者の遺族たちによる真相の解明を求める動きが広がり始めています。

インドネシアでは50年前の1965年、クーデターを企てたとして共産主義者への弾圧が行われ、その犠牲者は50万人以上に上ると言われています。

この虐殺について、インドネシア政府は治安を維持するためだったとして謝罪や補償は行っておらず、被害者の遺族たちも加害者からの報復を恐れ、沈黙を続けてきました。

アメリカ人のジョシュア・オッペンハイマー監督がこの虐殺をテーマにして制作したドキュメンタリー映画が3年前に公開されると、世界中で大きな反響を呼んで、アメリカのアカデミー賞にもノミネートされるなどし、来月にはその続編が日本でも公開されます。

続編の映画は、兄を殺された弟が加害者を訪ね歩き、直接、責任を問いただす内容で、インドネシアでは去年11月に上映されたのをきっかけに、遺族たちの間で真相の解明を求める動きが広がり始めています。

中部ジャワ州に住むニャミニさん(65)は夫と父親を虐殺されましたが、迫害を恐れて、これまで自分の子どもにさえ話してきませんでした。

しかし、ことしに入って被害者団体の支援を受け、ほかの遺族と共に、ようやく虐殺について語ることができるようになりました。

ニャミニさんは「これまでは怖くて自分だけの秘密にしてきましたが、ほかの遺族と会って、ようやく声を上げられるようになりました。自分たちの家族に一体何が起きたのか知りたいです」と話しています。

インドネシア国内では、被害者団体が各地で遺族らへの聞き取り調査を始めるなど、さらに広がりを見せていて、虐殺の全容が今後どこまで明らかになるか注目されます。【6月10日 NHK】
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3年前に公開されたドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』は、報復を恐れ沈黙する被害者に代えて、加害者にもう一度“演じさせる”という手法で世界に衝撃を与えました。

その続編『ルック・オブ・サイレンス』が、日本でも7月4日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開されるとのことです。

僻地鹿児島に住んでいると、こうした映画に触れる機会がなかなかないのが悩ましいところです。

****犠牲者の名誉回復を=虐殺事件解明、大統領に期待―インドネシア****
インドネシアで1960年代に起きた虐殺をテーマにしたドキュメンタリー映画「ルック・オブ・サイレンス」が7月4日から日本で公開されるのを前に、虐殺で兄を失い、加害者らに直接会って責任を問いただした主人公のインドネシア人男性アディ・ルクンさん(47)が東京都内でインタビューに応じ、「(インドネシアの)ジョコ・ウィドド大統領は犠牲者の名誉回復と、被害者と加害者の和解を進めてほしい」と訴えた。

インドネシアでは、スカルノ初代大統領の失脚を招いた65年9月のクーデター未遂「9・30事件」以降に行われた共産主義者とその家族に対する虐殺で数十万人が殺害されたとされる。

その後反共のスハルト独裁政権が30年以上続いたことから、加害者は罪に問われず、虐殺の実態は現在も解明されていない。

「殺された兄や今もおびえながら暮らす母のため、加害者に罪を認めさせたい」。映画はこうした思いを抱いたアディさんが加害者たちに対峙(たいじ)する姿を描く。

加害者らは「殺したことは認めたが、誰も悪かったとは認めなかった」とアディさん。加害者の中には地元で権力を握り続ける政治家もおり、アディさんの身を守るために撮影時は25人から成るチームがつくられた。撮影後、アディさんは故郷を離れ、別の場所に住むことを余儀なくされた。

アディさんは「(犠牲者は)収容所などから集団で移動させられ処刑された。組織的な力が働いていたとしか考えられない」と国家主導で行われた虐殺だったとの見方を強調。

「(昨年就任し、政治家一家や軍人出身ではない)ジョコ大統領は国による人権侵害に関わっていない初めての大統領だ」と期待を示し、実態解明に向け「この映画が良い方向に刺激を与えることを望んでいる」と語った。【6月25日 時事】
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事件の生き証人
これまで「9・30事件」が政治的に黙殺されてきたことについては、事件で失脚したスカルノ初代大統領の長女で、事件後は苦しい生活を余儀なくされたとされるメガワティ元大統領がどういうスタンスだったのか・・・よく知りません。

前出のユドヨノ前大統領時代の国家人権委員会による勧告を受けて、野党・闘争民主党党首でもあったメガワティ元大統領は、ユドヨノ大統領が政府を代表して謝罪するよう要求。「和解の場をつくり、古い世代の対立が新しい世代に引き継がれないようにして、暗い歴史の幕を閉じるべきだ」との談話を発表しています。【2012年7月29日 赤旗】

スカルノ元大統領関係者という点では、もうひとり、事件の生き証人が日本の身近なところにいます。
バラエティ番組で引っ張りだこの、スカルノ元大統領の第三夫人であったデヴィ夫人です。
事件当時は生命の危険を感じながらの生活だったようです。

****デヴィ夫人、インドネシア大虐殺の真実を暴いた米監督に感謝「真実は必ず勝つ****
1960年代のインドネシアで行われた大量虐殺を加害者側の視点から描いたドキュメンタリー映画「アクト・オブ・キリング」の試写会が3月25日、都内で行われ、インドネシア元大統領夫人のデヴィ・スカルノと来日中のジョシュア・オッペンハイマー監督が対談した。

1965年に起きた軍事クーデター「9・30事件」により、“赤狩り”と称した100万人規模の大量虐殺がインドネシアの全土で行われた。

当局から被害者への接触を禁止されたオッペンハイマー監督は、取材対象を加害者側に切り替え、映画製作という名目で過去の虐殺行為を本人たちに再現させるという前代未聞のアプローチで、人類に潜む闇に迫った。

夫スカルノ氏を失脚させ、自身も亡命するきっかけとなった9・30事件を振り返ったデヴィ夫人。
当時は宮殿に潜んでいたといい、「川の中に何分隠れていられるか、走ってどれくらいで庭を突っ切れるかなどを考えながら、毎晩ズボンをはいて寝ていた。護衛官もいつ裏切るか分からないし、味方なのかスパイなのかも分からない。人間って何も食べないで眠らなくてもこれだけ生きられるんだと知った」と壮絶な体験を明かした。

オッペンハイマー監督は、デヴィ夫人との対話は「言葉で表せないくらい感動してる。この場に駆けつけてくれたことを光栄に思う。デヴィ夫人は大虐殺を経験した生存者でもある」と最敬礼。

デヴィ夫人も、「虐殺が事実だと証明されてうれしく思う。監督の偉業には心から感謝。(故スカルノ元大統領には)やっと真実が明かされ、あなたの汚名をそそぐひとつのきっかけになったと報告したい。真実は必ず勝つと信じていた」と語った。

娘に勧められて本作を鑑賞したというデヴィ夫人は、「虐殺をした人間がそれを自慢するという神経は、非常に異常なこと。恐ろしさに身震いした」と衝撃を受けていた。

そして、「スカルノは共産主義だったわけではなく、当時のアメリカとロシアの勢力に対抗するべく、アメリカの基地を拒否し、アジア・アフリカなどの中立国家たちと第3の勢力を作ろうとしていただけ。そのためホワイトハウスやペンタゴンから憎まれ、5回ほど暗殺を仕掛けられたけれど神のご加護か助かった。大虐殺に国連が全く動かなかったのは、国連がアメリカの影響下にあったことを裏付ける証拠」と訴えた。

オッペンハイマー監督は、「『映画を楽しんで』とは言えないけど、大いに笑ってくれていい。映画を見たインドネシアの人たちも、感動しながら笑っていた。作品に込めたユーモアは意図的なもの。笑いは人が生き延びるためのもの、人をいやすためのものだから。魔法のような時間を過ごしてほしい」と客席に語りかけた。【2014年3月25日 映画.com ニュース】
******************

美貌と才覚、そして溢れる野心を武器に権力の階段を駆け上がる女性・・・というのは小説・映画の世界で多々描かれますが、赤坂の有名高級クラブのホステスからインドネシア大統領の愛人として送り込まれ、やがて第3夫人となり、デヴィ夫人の人生はそうした小説・映画の上をいくものでしょう。

“日本政府や利権事業商社や大手企業とインドネシア政府の連絡担当のような役割を果たし、デヴィ夫人がその時に築いた資産は、数十億を下らないとも言われています。
スカルノ政権末期には、デヴィ夫人を通さずには、日本企業は何のビジネスも進まないという状況だったようです。”【http://susumu2009.xsrv.jp/?p=2387

なお、「9・30事件」後、“スカルノは軟禁状態におかれ、デヴィ夫人はインドネシアの日本大使館に亡命を希望したが、国際的立場上の理由で断念”【ウィキペディア】とのことです。

ジョコ大統領の対応は?】
話をもとに戻すと、インドネシアの「暗い歴史」の幕を閉じるうえでは、政治家一家や軍人出身ではないジョコ大統領は動きやすい立場にあると言えます。

メガワティ元大統領の傀儡との評もありますが、この問題に関してはメガワティ元大統領も踏み込むことに依存はないでしょう。

ただ、現在の政治バランスに波風を立てない・・・という点が重視されれば、どうでしょうか・・・・?
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パキスタン  熱波被害を大きくしている電力不足 中国支援の発電所建設は決まったものの・・・

2015-06-24 22:36:50 | 南アジア(インド)

(“flickr”より By SOCIAL extremely https://www.flickr.com/photos/socialextremely/18905578328/in/photolist-uo4t9N-uap3Vu-tSCA3k-uQptiu-uNC2M3-uL1GZh-u6mtju )

熱波で死者692人 慢性的停電の影響も
インドでは今年5、6月に熱波に襲われ、2300人以上が熱中症などで死亡していますが、そのことは、5月28日ブログ「インド・モディ政権  政権発足から1年 国内改革による経済再生の成果はまだ 熱狂的な支持は衰えも」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150528)でも触れました。

“45℃を超える熱波ということで“天災”という扱いにもなるのでしょうが、「貧しい労働者や高齢者、路上生活者らが犠牲となっている」ということからすれば、インドの抱える貧困、それを改善できていない政治の問題と見ることもできます。”【5月28日ブログ】

現在は隣国パキスタンが同じような熱波に襲われています。

****断食月に熱波、死者692人 パキスタン・カラチ****
パキスタン南部のカラチで、記録的な熱波で最高気温が45度を超えた20日以降、病院に運び込まれる患者が急増。AFP通信は保健当局者の話として、熱中症などによる死者が23日までに692人に達したと伝えた。

パキスタンでは19日からイスラム教の断食月が始まり、日の出から日没までの間、大半の大人は食事はもちろん水分も取らない。今年の断食月は、最も日中の時間が長く、暑い時期と重なったため、「脱水状態になる人が続出した」(カラチの医師)とみられている。

1日12時間に及ぶ停電の影響を指摘する声もある。【6月24日 朝日】
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ラマダン(断食月)期間中は、信仰が篤いイスラム教徒は日中は水分もとりませんので、健康への影響が大きいと思われます。

個人的なことですが、私も昨年4月、パキスタン観光中にロータス・フォートで熱中症で倒れ、病院へ運び込まれた経験があります。前日からの下痢による脱水症状が影響したように思えます。

それはともかく、パキスタンもインド同様に、“1日12時間に及ぶ停電”(当然、発電機がないとエアコンは使えません)“電力不足のため停電が日常的に発生”【6月22日 産経】という、電力不足を放置してきた「政治の問題」が被害を大きくしている面があるようです。

中国の支援で発電所などインフラ整備
パキスタンの慢性的な電力不足を補うべく、太陽光発電所建設のニュースも報じられています。

****パキスタン、100メガワットの太陽光発電所が完成****
パキスタンのチョリスタン砂漠で今月初め、中国が建設した出力100メガワットの太陽光発電所の落成式が行われ、パキスタンのナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)首相が出席した。

この発電所は同国の発電計画の第一段階で、最終的に発電施設は4000ヘクタール以上に拡大され、世界最大規模の太陽光発電所となり、パキスタン国内に1000メガワットの電力を供給する見込みだ。

パキスタンは例年、中部では気温が50度に達することもある6、7月の夏季のピーク時に約4000メガワットの電力不足に陥っている。

先月、中国の習近平国家主席はパキスタンを訪れ、総額460億ドル(約5兆5000億円)規模の投資計画「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を発表。パキスタン政府は、同国の現在の総発電量と同等の1万6400メガワットの電力を供給するエネルギー計画で中国と合意した。【5月13日 AFP】
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太陽光発電もさることながら、パキスタン政府が期待するのは後段にある中国の支援によるインフラ整備でしょう。

中国はパキスタンを、「一帯一路」経済圏構想の要と位置づけ、“桁違いの巨額投資”を約束しています。

****中国、パキスタンに5兆円 投融資合意、アラビア海へ輸送路****
中国の習近平(シーチンピン)国家主席が(4月)20日、就任後初めてパキスタンを訪問した。
中国とアラビア海を結ぶ輸送路の整備など5兆円規模のパキスタンへの巨額投資・融資案件の文書に両政府が署名した。

中国は経済支援をテコに南アジアへの関与を強化。米国の影響力低下をにらみ、同地域での主導権をうかがう狙いもあるようだ。

中国の最高指導者がパキスタンを訪問したのは9年ぶり。

シャリフ首相との首脳会談の目玉は、アラビア海沿岸のグワダル港から中国新疆ウイグル自治区に至る「経済回廊」計画の本格始動だった。

輸送路の整備や、周辺の発電所、産業インフラの建設を含み、パキスタン側の説明では、総事業費は約450億ドル(約5兆3千億円)で、中国側は投資や低利融資で支援する。

 ■欧州に至る新経済圏に力
回廊の起点となるグワダル港はペルシャ湾の出口ホルムズ海峡に近い。南アジア各国のインド洋沿岸で中国が開発を進めるシーレーン上の拠点「真珠の首飾り」の一つとされ、中国の融資で2002年から建設が始まり、13年に管理権が中国側に移管された。

港と回廊をつなぐことで、米国の影響下にあるマラッカ海峡を迂回(うかい)してペルシャ湾に至る新たなルートを確保する狙いがあるとみられる。

習指導部はアジアから欧州に至る海と陸の「二つのシルクロード」を再現させる「一帯一路」経済圏構想を掲げている。

パキスタンの回廊計画はその中の「旗艦プロジェクト」(王毅外相)との位置づけで、パキスタンでの成功を印象づけることで周辺各国を刺激し、賛同を促したい考えだ。

パキスタンは治安悪化と経済不振に悩み、過去5年間の外国投資の総額が1兆円にも満たなかった。今回の桁違いの巨額投資を「国の運命を変える計画」(イクバル計画相)と手放しで歓迎する。

中国は見返りとして、治安面の協力を求めたようだ。習氏は訪問に先立つ19日、パキスタン紙などに署名入りの文書を寄せ「安全保障協力と経済協力は補完関係にある」と強調した。

重視するのは、中国が深刻な民族対立の背後にいるとみるウイグル族の独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」への対応だ。劉建超外務次官補は17日の会見で、ETIMが「パキスタンに相当数存在する」と指摘した。

ETIMはイスラム過激派に紛れて、パキスタンとアフガニスタンとの国境地域に潜伏しているとされる。アフガンでは、13年間駐留した米軍が16年末までに完全撤退する。力の空白を突いてタリバーンなどの反政府勢力が勢いを増し、ETIMと連携することを中国は警戒する。

習氏は、アフガン側のタリバーンに影響力を持つとされるパキスタン軍のトップ、ラヒル・シャリフ陸軍参謀長とも会談。パキスタン領内での過激派対策とともに、タリバーンをアフガン政府との和平交渉の場に着かせるために働きかけを求めた可能性がある。

習主席のパキスタン訪問は昨年9月に予定されていたが、首都イスラマバードで反政府デモが暴徒化し、治安上の問題から延期になった。

テロの懸念がくすぶる中でパキスタンへの訪問に踏み切ったのは、中国が今回のパキスタン訪問を「高度に重視している」(劉氏)からだ。【4月21日 朝日】
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パキスタンの水力発電所の建設事業は、中国が昨年末に独自に創設した「シルクロード基金」の初の投資案件ともなっています。

****初投資、パキスタンの発電所 中国「シルクロード基金****
中国の中央銀行、中国人民銀行は21日までに、中国が昨年末に独自に創設した「シルクロード基金」の初の投資案件は、パキスタンの水力発電所の建設事業に決まったと発表した。

同基金は中国の「二つのシルクロード経済圏」構想を資金面で支える。豊富な資金力を背景にパキスタンを南アジアへの関与拡大の足がかりとする狙いだ。

習近平(シーチンピン)国家主席が20日にパキスタンを初訪問したのに合わせ、同基金を本格始動させることを決めた。人民銀によると、投資総額は16億5千万ドル(約1963億円)で、今年末に着工し、2020年の稼働を目指す。中国国有企業などが事業を進め、30年後にパキスタン政府に無償で譲渡する計画だ。

同基金は、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)とともにアジアのインフラ整備支援が目的だ。400億ドル(約4・8兆円)規模で設立。中国の豊富な外貨準備から主に拠出される。

各国の共同出資で商業的な運営が求められるAIIBと異なり、中国政府が独自の政策判断で援助内容を決めやすいとみられる。【4月22日 朝日】
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アフガニスタンに近いレベルの戦争犠牲者 インフラ整備のためにも治安改善が必要
前出【4月21日 朝日】にあるように、中国はパキスタン支援によって、パキスタンが影響力を有するタリバンへの和平の働きかけ、それによるところのアフガニスタン、ひいては新疆ウイグル自治区の安定を目論んでいるとのことですが、現在のところタリバンに和平に向けた動きは見られません。

むしろ、外国人を標的にしたテロを活発化させており、22日は首都カブールの議会が襲撃されているのは周知のところです。

地域の安定化という点では、アフガニスタンだけでなく、パキスタン自身の安定化も大問題です。

****アフガン、パキスタンの戦争犠牲者14.9万人 米大学推計****
2001年9月の米同時多発テロ以降、アフガニスタン、パキスタン両国での戦闘に関連した死者は推定で計14万9000人、重傷者は同16万2000人に上っていることが、米ブラウン大学の新たな研究で分かった。

ブラウン大学のワトソン研究所が「戦争の代償」と題したプロジェクトの一環として、国連や赤十字など国際機関のデータに基づく研究をまとめた。

それによると、民間人の死者はアフガンで約2万6270人、パキスタンで2万1500人に達した。アフガンでは武装勢力の攻撃による死者が大半を占めるが、12年以降は国軍や国際部隊の戦闘に巻き込まれた犠牲者も増えているという。

アフガンでは同時テロを受けた米主導の軍事作戦でタリバーン政権が崩壊したが、タリバーン勢力はその後もテロ活動を継続。隣国のパキスタンにも難民や武装勢力が流れ込んでいる。

研究チームを率いるネタ・クロフォード氏は「戦争が両国に及ぼしている影響には密接な相互関係がある」と指摘する。

同氏はまた、こうした影響には都市基盤の破壊や避難民の増加、栄養失調や病気による死者も含まれると強調。「市民の健康状態への間接的な影響は、戦争が終わった後も続く。両国の保健事業を長期的に支援し続ける必要がある」との見方を示した。【6月3日 CNN】
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アフガニスタンで民間人犠牲者が多大な数字になっているのは周知のところですが、パキスタンの犠牲者も戦闘状態にあるアフガニスタンに近いレベルにあることに驚かされます。

パキスタン北西部ペシャワルで軍が運営する学校が、国内最大の武装勢力パキスタン・タリバン運動(TTP)に襲撃されてから半年ほどが経過しています。

シャリフ政権はそれまでイスラム過激派との対話を求めていましたが、この事件に激昂する世論を背景に、軍が求める軍事的掃討作戦に踏み切っています。

その過程で、更に多くの民間人犠牲者も出ていると思われますが、今のところ治安改善の見通しは立っていません。

中国の支援・投資は巨額ではありますが、これは起爆剤であり、その後に国内外の投資が続かないとパキスタンの経済状況改善は望めません。

中国の投資にしても、資金的な裏付けがはっきりしているのは前記の「シルクロード基金」による水力発電所建設事業だけで、それ以外はAIIBの融資案件になるものと思われますが、パキスタンの治安状況や汚職・腐敗構造を考えると先行き不透明でもあります。

パキスタンの内外投資を活用したインフラ整備が進み、「熱波で700人ほどが死亡」といったことが起きないようにするためには、治安改善が大前提となりますが、なかなか・・・・。
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イスラエル・ハマス双方の戦争犯罪が国連に報告されるも、事態打開への期待は難しい情勢

2015-06-23 22:37:47 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区のガザ市で、イスラエル軍の攻撃で立ち上る煙(2014年7月29日撮影)【6月23日 AFP】)

国際世論から遠ざかるイスラエル
アメリカの仲介による和平交渉が昨年4月に頓挫して以来、目立った動きがない中東・パレスチナ問題ですが、フランス・ファビウス外相による新たな提案が報じられています。

****仏外相 中東和平交渉再開へ新たな枠組み示す****
中東を訪問しているフランスのファビウス外相は、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長と、イスラエルのネタニヤフ首相と相次いで会談し、和平交渉を再開させるため、交渉の方法や期限を盛り込んだ国連決議に基づく新たな枠組みを作り、両者が話し合いを進めるよう提案したものとみられます。

イスラエルとパレスチナ暫定自治政府による和平交渉はアメリカの仲介による協議が去年4月に決裂して以降、途絶えたままになっています。

フランスのファビウス外相は21日、アッバス議長とネタニヤフ首相と相次いで会談し、和平交渉を再開するよう双方に促しました。具体的には、交渉の方法や期限を盛り込んだ決議を国連安全保障理事会で採択し、その枠組みの中で、両者が話し合いを進めることを提案したとみられます。

これについて、パレスチナ暫定自治政府側はフランスの取り組みを支持する考えを示しましたが、イスラエルのネタニヤフ首相は、交渉の枠組みを国連決議で決めることに不快感を示しました。

記者会見で、ファビウス外相は会談の詳しい内容には触れませんでしたが、「交渉なくしては、中東の緊張は燃え上がり、爆発するおそれがある」としたうえで、「難しいが、双方とも交渉を再開すべきだという認識だった」と述べ、交渉再開に向けて外交努力を続ける考えを示しました。【6月22日 NHK】
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イスラエルは国際社会においてアメリカ以外に支持国が殆どなく、そのアメリカ・オバマ政権もパレスチナ問題ではネタニヤフ首相と立場を異にしており、また、欧州各国がパレスチナ国家を承認する流れにあるなかにあって、更に言えば、パレスチナ自治政府が国際刑事裁判所に正式に加盟するなど外交攻勢をかけるなかにあっては、“交渉の方法や期限を盛り込んだ国連決議に基づく新たな枠組み”というのは、イスラエル・ネタニヤフ首相からすれば、パレスチナに偏った枠組みがつくられることを意味し、到底受け入れられるものではないでしょう。

国連総会ではなく安保理ですからアメリカの拒否権はあります。

昨年12月30日にも、イスラエルとパレスチナが1年以内に包括和平合意を実現し、イスラエルに2017年末までの占領地からの完全撤退を求めるパレスチナ主導の決議案が安保理で採決に付されましたが、アメリカなどの反対があって採択に必要な9カ国の支持が得られず、否決されています。

ただ、6月2日の「国際社会はすでに、イスラエルが真剣に二国家共存による解決をしようとしているとは信じていない」という、イスラエル・ネタニヤフ首相への不信感を隠そうとしないオバマ大統領の発言からして、今後パレスチナ問題が安保理で論議された場合、イスラエルはアメリカから譲歩を強く迫られることも予想されます。

なお、フランスも昨年12月、法的拘束力はないものの上下両院ともパレスチナを国家として承認することを可決しており、ファビウス仏外相は、この先2年間イスラエル・パレスチナ間で和平交渉に解決をみない場合は、フランス政府はパレスチナを国家として承認することを辞さない、と示唆したと報じられています。【2014年12月10日 NewSphereより】

イスラエルが国連主導の枠組みを嫌うということは、別な言い方をすれば、イスラエルが国際世論から遠ざかっているとも言えます。

イスラエル・ハマス双方が戦争犯罪
昨年7月に起きたイスラエルのガザ侵攻に関しても、イスラエルは国連報告へ激しく反発しています。

****イスラエルとパレスチナ 子どもの死巡り国連で非難の応酬****
国連の安全保障理事会で紛争地域での子どもの権利の保護を巡る公開の討論が行われ、去年のイスラエル軍によるパレスチナのガザ地区への攻撃で540人以上の子どもが死亡したことについて、イスラエルとパレスチナの間で非難の応酬となりました。

国連の安保理で18日に行われた公開の討論会では、国連のゼルーギ特別代表が、世界では2億3000万人の子どもが紛争地域に暮らし、イスラム過激派組織などによって殺害されたり虐待されたりするケースが急増しているとする、報告書を提出しました。

報告書はまた、去年夏にイスラエル軍がパレスチナ暫定自治区のガザ地区を攻撃した際、国連が運営する学校が破壊されるなどして、540人以上の子どもが死亡したことを取り上げ、国際人道法に基づいた強い懸念を表明しています。

これについて、パレスチナのマンスール国連大使は「イスラエルは明らかに子どもの権利を侵害しているにもかかわらず、国連に政治的な圧力がかかり、報告書では責任が明確にされていない」と述べ、イスラエルを改めて非難したうえで、報告書の内容は不十分だと不満を表明しました。

これに対してイスラエルのロエト国連次席大使は、イスラエル軍が市民の犠牲を避ける措置を講じているとしたうえで「子どもを意図的に標的にしている国家や武装勢力と同列にイスラエルが扱われるのは、ばかげている」と述べ、報告書がイスラエルを取り上げていること自体に強く反発しました。【6月19日 NHK】
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上記、ゼルーギ特別代表の報告書との関係は知りませんが、国連人権理事会ではイスラエル・ハマス双方の「戦争犯罪」が取り上げられており、イスラエルは当然ながら反発しています。

****<国連>イスラエルとハマスの昨年の戦闘 戦争犯罪の可能性****
◇人権理事会の独立調査委員会が報告書を発表
国連人権理事会の独立調査委員会は22日、昨年7月から約50日間続いたイスラエルと、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘について、双方が戦争犯罪を犯した可能性があるとする報告書を発表した。

調査委員会は、イスラエル軍の攻撃の多くはピンポイント攻撃だったとしながらも、2251人のパレスチナ人が死亡し、うち1462人が子供551人を含む市民だったと指摘。ハマスはイスラエルへの「無差別攻撃」で、イスラエル人73人を殺害、うち6人が市民だったとした。

また、昨年8月初め、南部ラファでイスラエル軍兵士が行方不明になり、同軍が大規模な攻撃を実施して多数の市民が死亡した問題などについて、「(イスラエルは)兵士の身に危険が及ぶと、すべての(国際法などの)法規制を無視するようだ」と批判した。

報告書と共に公表された報道資料は、イスラエルが2009年以降の計3回に及ぶハマスとの戦闘で、ガザの市民生活に大きな影響をもたらしながらも空爆などの攻撃を見直さないのは「政府の最高レベル(の幹部)により少なくとも戦略的に許可された方針ではないかとの疑問が生じる」と記し、政権幹部の攻撃方針を暗に批判した。

イスラエル外務省はこれに先立ち会見し、「ガザ市民の人命に配慮し、国際法を順守した攻撃だった」と述べ、正当性を主張した。

調査委員会は昨年秋、国連人権理事会の任命を受けて調査を開始。280人以上の聞き取り調査を実施した。【6月22日 毎日】
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【「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」】
報告書は、イスラエルに対して辛辣な批判を含んでいるようです。
イスラエルはこうした報告書を予想して、ガザ地区戦闘に関する独自の報告書を事前に発表しています。

***イスラエル ガザ地区戦闘で独自の報告書****
イスラエル政府は、パレスチナ暫定自治区のガザ地区を巡る去年夏の戦闘について、独自の調査報告書を発表し、イスラエル軍の攻撃は市民の犠牲を避けるため、検討を重ねたものだと強調しました。

近く国連人権理事会の報告書が発表されるのに先立って、イスラエルへの批判をかわすねらいがあるとみられます。

イスラエル政府は14日、去年夏のガザ地区でのイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘について、軍や司法省などの法務部門が作成した277ページの報告書を発表しました。

報告書では、ハマスがイスラエルの市民を無差別に狙ってロケット弾による攻撃を行ったことや、ガザ地区の人口密集地を拠点に攻撃を行い、パレスチナ人をいわば「人間の盾」とする戦術をとったことが国際法違反に当たるとして批判しています。

一方、イスラエル軍は空爆などの攻撃目標について、市民の犠牲を避けるため、事前の情報に基づいて検討を重ねたとして、多数の根拠となる資料を示しながらイスラエル側の立場を正当化しています。

ガザ地区の戦闘を巡っては、国連人権理事会の調査団も近く人権侵害の状況などについての報告書を発表する見通しですが、この調査について、イスラエル政府は「結論ありきだ」として協力を拒否しています。

イスラエル政府としては、国連人権理事会の報告書が発表されるのに先立ち、公になっていない多数の資料を示すことで批判をかわすねらいがあるとみられます。

ネタニヤフ首相は14日に開かれた閣議で、「真実を知りたければこの報告書を読んでほしい。イスラエルに対する根拠のない批判を続けたければ、国連の報告書で時間をむだにすればよい」と述べ、警戒感をあらわにしました。

調査報告書の内容は
イスラエル政府が発表した報告書は277ページにおよび、一貫してイスラエル政府や軍の判断が国際法に基づいて行われたことを立証する立場からまとめられています。

このなかで、ハマス側の攻撃については、戦闘の期間中にハマスなどが発射した4500発のロケット弾のうち4000発がイスラエルの市民を狙ったもので、このうち550発前後がモスクや学校、それに国連施設などの中や近くから発射したことが確認されたとしています。

さらに、人口が密集した市街地に攻撃や活動の拠点を置き、イスラエル軍が空爆に先立って住民に避難を呼びかけても、その場にとどまるよう促して、住民の犠牲を拡大させたことなどが、国際法違反に当たるとしています。

一方、イスラエル軍の軍事作戦については、空爆が6000回に上ったとしたうえで、事前に電話やチラシなどを使って住民に通告し、さらに警告弾を落としたあとに空爆を行うなど、市民の犠牲を避けるためにできるかぎりの措置は取ったとしています。

イスラエル軍はこうした主張を裏付けるものとして、命令書や攻撃目標についての検討資料など、これまで公開されていなかった資料を報告書のなかで多数示しています。そのうえで、イスラエル政府は「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」としています。

報告書の発表に当たり、イスラエル外務省は外国メディア向けにブリーフィングを開く異例の対応を取りました。【6月15日 NHK】
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2251人のパレスチナ人が死亡し、うち1462人が子供551人を含む市民だった。一方、イスラエル人73人を殺害、うち6人が市民だった・・・・という現実の数字を前にしては、「市民の犠牲は正当な軍事行動のなかでの不幸ではあるものの、適法な出来事の結果でもある」というイスラエル側主張には受け入れ難いものがあります。

ハマスとのパレスチナ暫定統一内閣は総辞職へ
前述のように、パレスチナ自治政府は国際刑事裁判所に正式に加盟していますので、ヨルダン川西岸などでイスラエルが行っているユダヤ人の入植活動と併せて、ガザ地区戦闘におけるイスラエルの戦争犯罪を国際刑事裁判所に提訴することもあり得ます。

ただ、その場合、ハマス側の戦争犯罪をどうするのか・・・という問題があります。

ガザ地区を実効支配するハマスと、自治政府を主導するファタハは暫定統一内閣をつくってきましたが、それも暗礁に乗り上げているようです。

****パレスチナ暫定内閣が総辞職、ガザ統治めぐり亀裂深まる****
パレスチナ解放機構(PLO)とイスラム原理主義組織ハマスの合意に基づき昨年発足したパレスチナ暫定統一内閣が17日、総辞職した。

ガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルと個別に間接協議を行っていることをめぐり、暫定内閣の内部で亀裂が深まっていた。

パレスチナ自治政府のマハムード・アッバス議長の側近で、暫定統一内閣を率いてきたラミ・ハムダラ首相は、アッバス議長に辞表を提出した。

ただ、暫定内閣がいつ解散するかは不明で、パレスチナの政治情勢は混迷を深めている。次期内閣についても不透明な状況だ。

ニムル・ハマド自治政府議長補佐官は、新内閣の組閣にあたってはパレスチナの各派と協議する方針で、それにはハマスも含まれるとの見方を示した。【6月18日 AFP】
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****新政権発足へ委員会=機能不全でハマスを非難―パレスチナ****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、幹部会合を開き、機能不全に陥っている統一暫定政権に代わる新政権を近く発足させる方針を決めた。委員会を立ち上げ、組閣に向けて全政治勢力と協議する。

長年対立関係にあったアッバス議長率いるパレスチナ主流派ファタハとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは昨年6月、暫定政権を発足させた。しかし、1年たった今も双方の溝は埋まっていない。

会合では、ハマスが暫定政権のガザでの活動を妨害しているとの非難の声が上がった。【6月23日 時事】
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ハマスの犯罪を問うことにもなる国際刑事裁判所への提訴は、ハマスとの溝をいよいよ深くすることも想像されます。

和平より戦闘を望む勢力
上記のような国際社会における動きとは別に、現地では新たな火種も起きています。

****<パレスチナ>ユダヤ人1人射殺…「ハマスが犯行声明****
イスラエル治安当局などによると、ヨルダン川西岸パレスチナ自治区ラマラ近郊のドレブ入植地付近で19日午後、ユダヤ人の男性2人がパレスチナ人の男に銃撃され、1人が死亡、もう1人が足に軽傷を負った。男は逃走中でイスラエル軍が行方を追っている。

軍によると、男はユダヤ人男性らの乗用車を呼び止め、至近距離から発砲した。死亡した男性(25)はイスラエル中部ロッド出身で、友人の男性(25)とハイキングに来ていた。

パレスチナメディアによると、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの関連組織が19日夜、犯行声明を出した。

ヨルダン川西岸では昨年6月、入植地に住むユダヤ人の少年3人をパレスチナ人の男2人が誘拐して殺害。その後、ハマスが犯行を認め、7月から50日におよぶイスラエルとハマスの戦闘に発展した。【6月21日 毎日】
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“ハマスの関連組織”というこですが、ハマスの狙いは知りません。
ただ、イスラエル保守派にしても、ハマスにしても、和平協議よりは戦闘状態の方が存在意義をアピールできるという点で、利害は共通しています。

和平より戦闘を望む勢力が存在するなかで、和平交渉を進めるのは・・・難しいでしょう。
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シリア難民の大量流入に直面するトルコ  ロヒンギャ・シリア難民への日本の対応は?

2015-06-22 22:12:36 | 難民・移民

(国連が定める「世界難民の日」にあたる20日、日本に逃れてきたミャンマーの少数民族ロヒンギャの難民などが、ロヒンギャの人たちを巡る問題解決に向けた支援を求めて都内でデモ行進を行いました。【6月20日 NHK】)

EU:密航業者の取り締まりに向けた軍事作戦
“安全”“人間らしい生活”を求めて押し寄せる難民・移民への対応に苦慮する欧州各国やオーストラリアなどの動きについては、6月18日ブログ「大量に流入する難民の扱いに苦慮する欧州・アジア  押し付け合い、壁の構築、カネで業者を買収・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150618)で取り上げました。

欧州ではEUは加盟各国に対し、シリアとエリトリアからイタリアとギリシャに上陸する4万人の難民を分担して受け入れるよう要請していますが、そうした救済策だけでは新たな難民の流入を加速させることになるとの懸念から、密航業者の軍事的取締りに動き出しています。

ただ、相手国(リビア)の了解なども必要になるため、具体化はまだ先のようです。

****地中海での軍事作戦決定=密航取り締まり強化―ロシア制裁延長・EU外相理****
欧州連合(EU)の外相理事会が22日、ルクセンブルクで開かれ、既に承認している地中海での密航業者の取り締まりに向けた軍事作戦の開始を決定した。(中略)

地中海での取り締まりは、相次ぐ密航船の事故を受けた移民対策の一環。軍事作戦に関しては、密航に利用される恐れがある船を捕捉し、破壊することまでを視野に入れている。

ただ、多くの密航船が出航するリビアの領海に入って作戦を展開するためには、リビアの承諾に加え国連憲章7章に基づく国連安全保障理事会決議の採択が必要だが、まだメドが立っていない。

このため、今回軍事作戦開始が決定されても、情報収集や監視活動に限って実施する見込みだ。【6月22日 時事】 
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シリア難民の最大受入国トルコ 欧米はシリア難民問題を傍観しているとの不満
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、世界の紛争や暴力行為、人権侵害などが原因で家を追われた人の数が、2014年末時点で過去最多の5950万人(国内難民3820万人を含む)に達したとする報告書を発表しました。

シリアとイラクにおける紛争だけで1500万人が家を追われているとのことで、2014年末時点の難民受け入れ国トップはシリア難民を受け入れるトルコ(159万人)でした。
これに、パキスタン(151万人)、レバノン(115万人)が続いています。

トルコは、エルドアン大統領の強圧的な政治姿勢、イスラム色強化などで近年は国際的評判が芳しくありません。

シリアのイスラム過激派対策でもアメリカ等への協力姿勢を明確にせず、また、国境管理が緩いためイスラム過激派のシリア流入ルートになっているということで、アメリカなどの苛立ちを買ってもいます。

問題は多々指摘されるトルコですが、トルコの側からすれば、トルコはシリア難民を可能な限り受け入れており、欧米はシリア難民問題を傍観しているとの不満があります。

国内的にも増え続けるシリア難民によって軋轢も生じているとも言われています。
経済的負担も多大なものになっています。

ただ、そのトルコも、クルド人勢力のIS支配地域への攻勢によって大量に発生した難民については、一時流入を制限する措置を取りました。

****トルコ、シリア難民入国を放水・威嚇射撃で阻止、戦闘激化で国境殺到****
トルコ南東部のシリアとの国境の町アクチャカレで13日、激化するクルド人部隊とイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」との戦闘から逃れようと国境に殺到するシリア人難民に対し、トルコ治安部隊が放水や威嚇射撃を行って入国を阻止した。現地で取材中のAFP写真記者が確認した。

シリア人難民らは国境の周辺に設けられた有刺鉄線の囲いの中に留め置かれている。

アクチャカレから国境を挟んですぐのシリアの町タルアブヤドはISに制圧されているが、英国に拠点を置く非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」によれば現在、クルド人民防衛部隊(YPG)が町から10キロメートル以内まで迫っている。

国境には戦火を逃れようとするタルアブヤドの住民が続々と詰め掛けており、緊張感が高まっている。

トルコの警察と軍は国境フェンスを乗り越える者がないよう厳重な警備を敷き、フェンスに近づく者がいると放水や威嚇射撃で遠ざけようとしているという。
避難してきた女性の多くは頭から全身を黒い服とベールで覆い、所持品を入れた白い袋を頭部に乗せている。

トルコは2011年にシリアで内戦が始まって以来、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領の掲げる政策に従って、180万人のシリア難民を受け入れてきた。

しかし、トルコ政府は11日、戦闘激化を受けてここ数日で数千人のシリア難民が国境に殺到したことを受け、難民のトルコ入国を制限する方針を明らかにした。

ヌーマン・クルトゥルムシュ副首相は、今後アクチャカレでは人道危機とみなされる場合のみ入国を認めると説明した。ただ政府は、難民受け入れに関する基本政策に変更はないと強調している。

トルコ当局によると、この数日間で国内に流入したシリア人は、既に1万3500人を超えた。

トルコ政府は数か月にわたり、トルコの負担が増す一方で欧米はシリア難民問題を傍観していると非難を強めており、4月にはこの4年間で難民対策に55億ドル(約6800億円)を費やしたと発表していた。【6月14日 AFP】
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しかし、トルコはすぐに難民受入に転じています。
このあたりの経緯については、何があったのか知りません。

****トルコ政府が国境開く、シリア難民数千人が入国****
トルコ政府は14日、トルコ国境に近いシリアの町タルアブヤド(Tal Abyad)をめぐり激化しているクルド人部隊とイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘から逃れたシリア難民が殺到して数日前から封鎖されていた国境を再び開き、難民数千人を入国させた。

難民が国境のフェンスを越えて不法入国しトルコ軍が緊急対応するなど混乱した場面も見られていた。現地にいるAFPの写真記者によると、難民らはトルコ南東部のシリアとの国境の町アクチャカレ(Akcakale)の国境検問所を通過しトルコ領内に流れ込んだ。難民の多くは荷物と小さな子どもたちを抱えていた。

トルコは、人道危機とみなされる場合にのみシリア難民の入国を許可するとして数日前からシリア人の入国を阻止していた。しかしアクチャカレの地元当局者は、それより先にトルコ政府から難民の受入れ許可を得ていたとしている。

トルコのテレビは約3000人がトルコ領内に入るとの見通しを伝えたが、現場のAFP記者によると実際の人数はそれをかなり上回りそうだという。【6月15日 AFP】
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クルド人勢力(PYD)がタルアブヤドを制圧したことは、ISのトルコ経由の補給路を断つという大きな意味があります。

一方、トルコ政府には、国内のクルド系過激派PKKと関係の深いPYDが国境地域を支配するということで、PKKを刺激するのでは・・・との不安もあります。

更に、クルド人勢力がこの地域に独自の「クルド人国家」をつくろうとしているのでは・・・と見る向きもあるようです。

【『国民が慎重』な日本は難民受け入れは困難?】
日本は、数日で数千人という難民の大量流入に直面するトルコはもちろん、難民の目的地となっている欧州やオーストラリアに比べても直接の問題が及ばないところにいます。

ただ、それは日本が難民と無縁である・・・ということではありません。

****世界難民の日 ロヒンギャ難民が都内でデモ****
国連が定める「世界難民の日」にあたる20日、日本に逃れてきたミャンマーの少数民族ロヒンギャの難民などが、ロヒンギャの人たちを巡る問題解決に向けた支援を求めて都内でデモ行進を行いました。

デモ行進したのは、ミャンマーでの抑圧を逃れ難民となって日本で暮らしているミャンマーの少数民族、ロヒンギャの人たちなどおよそ40人です。

集まった人たちは、密航船に乗ったロヒンギャの人たちの写真を手にしながら、「ボートピープルを助けてほしい」などと問題の解決に向けた国際社会の理解と支援を訴えました。

ロヒンギャの人たちを巡っては、先月以降、ミャンマーの周辺国の沖合に相次いで密航船で漂着したり、タイとマレーシアの国境地帯で多数の遺体が見つかったりして、人身売買の実態が明らかになっています。

この問題を巡って、先月にはタイで国際会議が開かれましたが、ミャンマー政府は、ロヒンギャの人たちを隣国のバングラデシュからの不法移民だとして自国民とは認めない立場で、問題の解決は容易ではありません。

デモ行進を行った在日ビルマロヒンギャ協会の会長を務めるアウン・ティンさんは、「最近、ミャンマーから逃れ難民になるロヒンギャの人たちが増えている。問題解決のため世界中の人たちに協力してほしい」と話していました。【6月20日 NHK】
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群馬県館林市には、ミャンマーのロヒンギャ約200人が不安定な状況に置かれたまま暮らしています。

****難民」にもなれない8年 ミャンマー・ロヒンギャ族、群馬・館林に****
群馬県館林市に、ミャンマーのロヒンギャ族約200人がひっそりと暮らしている。日本で難民として認定されず、仕事や医療面で苦境にある人々も少なくない。

ロヒンギャ族やシリア難民など、国際社会では難民が改めて大きな課題となっている。国連は、難民の保護と支援への関心を高めようと制定した20日の「世界難民の日」を前に、世界の難民や国内避難民が過去最多になったと発表した。

古い民家の一室で、アウンアウンさん(38)は、2時間しか眠れず早朝に目を覚ました。
6月8日は、住んでいる群馬県館林市から、東京都港区にある入国管理局に行く日だった。正式な在留許可はない。「捕まったら、どうしよう」と考えると、心配でたまらなかった。

アウンさんが入国管理局に向かったのは、3カ月に1度の「仮放免」更新のためだった。不法滞在などの理由で本来は収容対象だが、一時的に身柄の拘束を解かれることが「仮放免」だ。代わりに一定期間ごとの更新が必要で、県外への無許可での移動は許されていない。就労や国民健康保険の加入も認められない、不安定な立場だ。

入管では「難民認定のための面接には呼ばれましたか」などと質問され、無事に終了した。「この日は大丈夫だったが、心配しながら生きて、8年になる」

アウンさんはミャンマーで身に覚えのない爆発事件に関与したと疑われ、当局から連日事情聴取や暴行を受けたという。日本なら難民として受け入れられると期待して、2006年に逃げてきた。ミャンマーでは旅券が与えられなかったために偽造旅券で入国、1年間入管施設に収容された。

館林市には、日本にいる約230人のロヒンギャ族のうち約200人が暮らし、市内の住宅街にはモスク(イスラム教礼拝所)がある。会社を経営するロヒンギャ族の一人の男性を頼って館林市に集まり始めた。

働くこともできる在留特別許可が与えられる場合もあるが、アウンさんのように何年も仮放免のままという人もいる。

「仕事もできず病院にも行けず、自由に移動もできない。ミャンマーも日本も同じだった」。館林市に住むロヒンギャ族のムハマト・アドラさん(34)は漏らす。

ロヒンギャ族の受け入れは、今年に入って国際的な問題に発展した。ロヒンギャ族らの乗った船が次々と東南アジアの国々に向かったが、タイなどが船の受け入れを一時拒否。いまも数千人が海に漂流している可能性がある。

ムハマトさんは「船に乗った人々の中に自分の親族や友人もいるかもしれない。現地に行って助けてあげたいが、自分にはそれもできない」と話す。

インドネシア政府とマレーシア政府は、ロヒンギャ族の滞在を1年間に限って認めることを決めたが、1年後にどうするか、見通しは立っていない。

ミャンマー政府は「ロヒンギャという民族は存在しない」との立場を崩しておらず、避難民の流出が続く懸念をはらんだままだ。

 ■日本、認定に慎重
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、シリア難民の受け入れなどで日本にも協力を求めている。政府は認定制度の見直しも検討しているが、難民の受け入れ拡大にはなお慎重な姿勢だ。

法務省によると、2014年の難民認定申請者数は5千人で、13年から1740人増えた。

だが、このうち難民と認定されたのは11人のみ。ほかに110人について「人道的な配慮」などで在留を許可したものの、家族の呼び寄せがしやすく、日本語研修なども受けられる難民とは認めていない。

ロヒンギャ族については、難民問題に携わるNGOから「アジアの問題であり、日本が役割を果たすべきだ」といった声が上がっている。【6月19日 朝日】
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シリア難民についても、日本への受入要請があります。

****シリア難民受け入れを日本政府に要請 UNHCR局長****
急増するシリア難民について、来日している国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のアミン・アワド中東・北アフリカ局長が朝日新聞のインタビューに応じ、「日本もシリア難民を受け入れてほしい」と話し、日本政府に19日、協力を求めたことを明らかにした。

アワド局長は難民受け入れについて、「日本で『国民が慎重』だから難しいとよく聞くが、そうだろうか。日本政府は国際社会との連帯を示す時だと気づいているはずだ」と述べ、日本の積極的な関与に期待をこめた。

さらに、「技術者の就労許可や若者が学ぶ間の支援など、期間を決めた難民受け入れもありうる」と提案。4万人のシリア難民受け入れを表明したスウェーデンが、医師や看護師資格をもつ難民らを活用して、人材不足の解消に結びつけている例を紹介し、「優れた技術者らも難民生活を強いられている。彼らが豊かな文化をもたらす側面も忘れないで」と話した。

長引く紛争と過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭で、シリアでは388万人が難民として国外に逃げ、国内避難民は760万人に上る。国連はレバノンやヨルダンなど周辺国での受け入れが限界に達しつつあるとして、各国に難民の受け入れを呼びかけている。【6月21日 朝日】
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もちろん、難民・移民を受け入れることは国内的に多くの問題を惹起します。

しかし、だからといって難民問題を見て見ぬふりをするのがあるべき姿なのか?
“国際的な責任を果たす”ということ、日本の国際的信用を高めるということは、ホルムズ海峡に出かけて行くようなことではなく、難民という切実な問題に正面から向き合うことではないでしょうか。

『国民が慎重』と言うのであれば、国民にその意義を説得するのが政治の役割ではないでしょうか。
(受入を難しくしているのは、受入が引き起こす種々の問題というよりは、そうした問題を事あるごとに言い立てる、最初から外国人を受け入れるつもりのない偏狭な人々の存在でしょう)

国内的にみても、門を閉ざして内に籠ることで“日本的”なものを守るのではなく、異質な人々・文化を受け入れて日本を再構築していくことで、新たな次元に進めるのではないでしょうか?
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ロシア・アメリカの“軍拡競争”で、「新冷戦」も現実味増す

2015-06-21 21:56:33 | ロシア

(ロシア国産兵器展示会で展示された地対空ミサイル「ブクM23」。昨年7月にウクライナ東部で墜落したマレーシア航空機は同型ミサイルで撃墜されたと指摘されている=モスクワ郊外のクビンカで2015年6月16日、杉尾直哉撮影【6月17日 毎日】)

【「NATO諸国が我々を軍拡競争に追い込んでいる、と感じる」】
ウクライナ問題をめぐって欧米への対決姿勢を変えないロシアと、これに対抗するアメリカ・・・2大核保有国の間の緊張が加速しています。

****ロシア機と米機が異常接近、距離3メートル 米当局者****
黒海上空の国際空域で先ごろ、ロシアの戦闘機が米空軍の偵察機に約3メートルの距離まで異常接近していたことが分かった。複数の米当局者が12日までに、CNNに明らかにした。

当局者によると、異常接近があったのは5月30日。ロシア機は米機と同じ高度を並んで飛行し、いったん離れて米機の後ろに付いた後に、同空域から飛び去ったという。米機は回避行動を取らなかった。

現時点でそれ以上の詳細は分かっていない。外交ルートを通じてロシアに抗議したのかどうか、米軍関係者は明らかにしなかった。

米機とロシア機は数週間前にも欧州の上空で異常接近していた。また米海軍は今月に入り、黒海を航行するミサイル駆逐艦の右舷側をロシア機が飛行するビデオを公開している。

米当局者は、黒海やバルト海上空を飛行する北大西洋条約機構(NATO)やロシア軍の航空機の増加に伴い、相互の接近も増えていると指摘。

とはいえ今回のような極端に近い距離での接近は、米軍機とそのパイロットを危険にさらすという意味で特に懸念されるとの認識を示した。【6月12日 CNN】
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アメリカは欧州における“ロシアの脅威”に対抗するべく、旧ソ連圏NATO諸国への重火器配備を検討していると報じられています。

****<米軍>旧ソ連圏に重火器…事前配備検討 冷戦後初めて*****
米国防総省のウォレン報道部長は15日、記者団に、米軍が欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国に事前に配備しておく軍事装備の増強を検討中だと明らかにした。

米ニューヨーク・タイムズ紙によると、ウクライナ南部クリミアを一方的に編入するなどしたロシアを念頭においた措置。戦車や装甲車、自走砲など計1200台を含む米兵5000人分の配備を計画しているとされる。

バルト3国やポーランド、ルーマニアなどかつてソ連の影響圏内だったNATO諸国に米軍重火器が配備されるのは、東西冷戦終結後初めてだという。

アーネスト米大統領報道官は同日の定例会見で、NATOの集団防衛条項に基づく対応であり「同盟国の領土が適切に防衛されるようにするためだ」と説明した。

ウォレン氏によると、米軍は2〜3年前から欧州へ大隊規模の装備の事前配備を開始した。「訓練や演習のための効率やコストを考えた措置」で、今年3月に2組目の大隊装備を配置。現在、3組目の導入を検討中だという。実現すれば全体として旅団(5000人前後)規模の装備になる。具体的配備国には言及しなかった。

アーネスト氏は事前配備について、昨年9月に英ウェールズで開催されたNATO首脳会議で合意された共同防衛強化策の一環だと説明した。【6月16日 】
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この事前備蓄により3千〜5千人規模の部隊を緊急展開できる態勢をとるもので、これは1990〜91年の湾岸戦争後にイラクの再侵攻に備えて、クウェートに備蓄したのと同規模とされるそうです。【6月17日 産経より】

一方、ロシア・プーチン大統領は、アメリカが欧州で進めるミサイル防衛計画に対抗して、「(米国の)最高技術のミサイル防衛(MD)を克服できる」新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上を今年中に新たに配備する考えを明らかにしました。

****<ロシア>最先端ミサイル防衛も突破…ICBM40基計画****
ロシアのプーチン大統領は16日、40基以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を今年、新たに配備する計画を明らかにした。

プーチン氏は、「世界最先端のミサイル防衛さえも突破する能力を持つ」と述べ、ロシアの核戦力を増強し、東欧でミサイル防衛施設や重火器配備を計画する欧米諸国に対抗する姿勢を示した。

(中略)プーチン氏はさらに、ロシアの西方からのミサイル攻撃から自国を防衛するための新型レーダー施設の試験的運用を数カ月内に開始し、東方からのミサイル攻撃に対応するレーダー施設の設置準備も年内に開始すると演説した。

ウクライナ危機を契機に、東欧やバルト3国でロシア脅威論が高まり、米軍による戦車などの重火器を配備する計画が浮上。プーチン氏がこうした動きを念頭に対決姿勢を示した可能性がある。

国営ロシア通信は、ロシアのアントノフ国防次官が「北大西洋条約機構(NATO)諸国が我々を軍拡競争に追い込んでいる、と感じる」と話したと報じた。

ロシアの今年の国防予算は昨年の3割増の3兆3000億ルーブル(約7兆4000億円)を確保している。ウクライナ問題を巡る欧米諸国からの対露制裁や、原油価格低迷でロシア経済は大きな影響を受けているが、軍備拡大を続けている。(後略)【6月16日 毎日】
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ロシアの核兵器増強への傾斜は、アメリカ・NATOに通常戦力では劣るため、核抑止力で対抗するしかないとの現状認識があると指摘されています。

****<ロシア>NATOとの軍拡競争も辞さず 核戦力増強****
ロシアのプーチン大統領が16日表明した大陸間弾道ミサイル(ICBM)40基以上の新規配備計画は、ウクライナ危機以降、既存の核戦力を誇示してきたロシアが核軍備増強という新たな段階へ踏み込むことを意味する。

プーチン氏は同日、2020年までにロシア軍が保有する最新兵器の割合を70〜100%まで高めるとの計画も確認。米国主導の北大西洋条約機構(NATO)との軍拡競争も辞さない姿勢を明確にした。

昨年2月のウクライナ危機発生後、軍最高司令官でもあるプーチン氏は「核発言」を繰り返し、対立する米欧をけん制してきた。

昨年3月にロシアがクリミア半島の編入を強行した当時の状況について今年3月のテレビ番組では「核戦力を戦闘準備態勢に置く用意があった」と言及。4月にも「我々は核大国だ。我々を敵国だと思うようなことは誰にも勧めない」と強調した。

こうした発言の背景には、通常戦力ではロシアに勝るNATOには、核抑止力で対抗するしかないとの現状認識がある。米露が2010年に調印した新戦略兵器削減条約(新START)についても、オバマ米大統領が提案した削減上積みにロシアは応じていない。

ロシアは自国の核兵器に対抗するミサイル防衛システムが欧州全域に構築されることを警戒している。今回、新規配備を発表したICBMについては「世界最先端のミサイル防衛さえも突破する能力を持つ」(プーチン氏)とアピール。ロシアを警戒して次々と防衛強化策を打ち出すNATOに、あくまで「力」で対抗していく意思を示した。

ロシアは通常兵器の強化にも力を入れる方針だ。今年5月の戦勝記念軍事パレードや16日開幕した国産兵器展示会で最新型戦車などを公開し、軍備増強の方向性を内外にアピールしている。

ただ、原油安や対露経済制裁で国家財政に不安を抱える中での軍拡路線には限界もある。ロシアの軍事評論家、ゴルツ氏は16日付の英字紙「モスクワ・タイムズ」への寄稿で「(冷戦時代の)ソ連のような規模で米国との軍拡競争に没頭するのは困難だ」と指摘。

来年後半には下院選挙が迫っており、軍事費への傾斜配分は国民世論の動向を見極めつつ進みそうだ。【6月17日 毎日】
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ロシア「潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」】
ケリー米国務長官は16日、ロシアの新型ICBM配備について「当然懸念している」と述べ、また、新STARTを通じた米露の核軍縮に向けた取り組みが後退する可能性を挙げ、「誰も冷戦の状態に戻りたいとは思っていない」とも語っています。

もちろん、ロシアも表向き“軍拡競争”や“冷戦への逆行”を否定しています。
アメリカが軍拡するので、やむを得ず対抗したまでで、アメリカが先ず自制すべき・・・との立場です。

****軍拡の意図否定=「脅威の源」米をけん制―ロシア****
タス通信などによると、ロシアのウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は17日、米国や北大西洋条約機構(NATO)を念頭に「ロシアは軍拡競争をするつもりはない」と記者団に述べた。

プーチン大統領は16日、フィンランドのニーニスト大統領との会談後の共同記者会見で「自国領土が脅威にさらされた場合、ロシアは脅威を生み出している外国領土を現代的な軍事手段で攻撃すべきだ」と主張していた。

補佐官の発言はこれを受けたもので、軍拡競争に踏み込むことがないよう、米国がまず自制すべきだと強調した格好だ。補佐官は「ロシアは潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」とも説明し、この問題でロシアを批判する米国をけん制した。【6月17日 時事】
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「それ以上はしない」というこの発言は、アメリカとの全面対立を望まないロシアの「本音」がのぞいているとも指摘されていますが、“NATOの東方拡大”を警戒するロシアと、“ロシアの脅威”への備えを強化するアメリカとの間で「新冷戦」げ現実味を増しています。

****米ロ対立「新冷戦」に現実味=核ミサイル増強、高まる警戒感****
ロシアのプーチン大統領が最近、核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を年内に40基以上増強すると表明したのに対し、オバマ米政権が警戒感を強めている。米側も東欧諸国やバルト3国に戦車や重火器などの事前配備を検討。軍拡をあおりかねない対立の激化で「新冷戦」の懸念が現実味を増している。

「核兵器を引き合いに出すのは、軍事力による威嚇をあおる。不必要で建設的ではない」。アーネスト米大統領報道官は17日の記者会見で、プーチン大統領の方針を批判し「だからこそ、われわれは北大西洋条約機構(NATO)の集団安全保障体制への決意を明確にしている」とけん制した。

米ロの対立は、2014年2月に本格化したロシアのウクライナ軍事介入で決定的となった。オバマ政権は日本を含む先進7カ国(G7)の枠組みで対ロシア経済制裁を発動して対抗。しかし、イラン核協議やシリア情勢でロシアの協力が必要なことから、「新冷戦」という指摘を否定してきた。

一方、プーチン大統領のICBM増強発言の背景には、米国への拭い難い不信感がある。ロシアの核戦力を無力化しかねないミサイル防衛(MD)や東欧諸国などへの武器の事前配備は「米国からの挑戦」と映り、大統領が内外に弱腰を見せる選択肢はない。

プーチン氏は16日の記者会見で「ロシアが脅威にさらされれば、現代的な軍事手段で攻撃すべきだ」と感情的な発言をしてはばからなかった。ロシアにとって、ウクライナ介入はNATOの東方拡大を阻止するためだったと自衛の理屈をロシアはこれまでも強調し続けてきた。しかし、そうした行動が対ロ脅威論を拡大させ、米国の軍事支援を誘発している。

ウシャコフ・ロシア大統領補佐官(外交担当)は翌17日、「ロシアは(米国と)軍拡競争をするつもりはない。潜在的な脅威に対して一定の手段で対応しているが、それ以上はしない」と釈明した。米国をけん制しつつ、全面対立を望まない「本音」ものぞかせた。【6月18日 時事】 
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NATO 非加盟国のフィンランド、スウェーデンなどとの関係強化
アメリカ、ロシア双方とも軍拡競争や「新冷戦」は否定しますが、NATO側は、ロシアの脅威に対抗するため創設する「速攻部隊」にロシアと地理的に近い非加盟のフィンランド、スウェーデンなどの参加を検討しているということで、更にロシアの反発を招きそうです。

****<NATO>対ロシア速攻部隊を拡大 非加盟国の参加検討****
北大西洋条約機構(NATO)が、ロシアの脅威に対抗するため創設する「速攻部隊」にロシアと地理的に近い非加盟のフィンランド、スウェーデンなどの参加を検討していることが20日、分かった。複数の外交筋が毎日新聞に明らかにした。

24日から開くNATO国防相会議で協議に入り、来年7月の首脳会議で速攻部隊が正式発足するのに合わせ、友好国の参加を確定させる。既にロシアはNATOに接近するフィンランドへ警告を発しており、実現すればさらに緊張が高まることが予想される。

NATOはこれまでアフガニスタンでの治安維持などで協力実績のあるスウェーデン、フィンランドなど5カ国を特別な共同作戦国と位置付けている。今回はこれをさらに進め、速攻部隊への参加を検討する。

48時間以内に域内外に展開する速攻部隊は、臨戦態勢の維持や兵員・武器の輸送に多額の費用がかかるため、独仏英伊トルコなど7カ国だけが主導国として名乗りをあげている。スウェーデンやフィンランドは財政的に豊かなうえ、軍の質、量とも十分で参加が期待されている。

ただ、速攻部隊は集団的自衛権に基づく共同防衛の中心を担う部隊として創設が決められた経緯から、友好国の関わりをどこまで深めるかは議論が分かれる。

スウェーデンやフィンランドなど北欧諸国周辺では、昨年春のロシアによるウクライナ介入以降、ロシア軍機が領空近くを頻繁に飛行。昨年10月にはスウェーデン近海、今年4月にはフィンランド近海で国籍不明の潜水艦も出没している。

ロシアは、1300キロの国境を接するフィンランドがNATOに接近するのを警戒。プーチン露大統領は16日、訪露したニーニスト・フィンランド大統領に「最も有効な安全保障は中立を守ることだ」と警告。「脅威が来るところに軍を向けざるを得ない」と、強くけん制した。【6月21日 毎日】
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【「ユコス事件」で新たな火種
こうした“軍拡競争”の状況に加え、「ユコス事件」をめぐるロシア資産差し押さえがフランス・ベルギーで行われ、ロシアとの新たな火種となっています。

ユコス事件とは、“第1次プーチン政権下の2003年、当時の石油最大手「ユコス」のホドルコフスキー社長が脱税容疑などで逮捕され、後に同社が解体された事件。同社資産の大部分は国営石油企業「ロスネフチ」の手に渡り、ホドルコフスキー氏は13年12月まで服役した。”【6月19日 産経】というものです。

****仏とベルギー、ロシア国有資産差し押さえ****
フランスとベルギーで、ロシア大使館の口座など、ロシアの国有資産を差し押さえる動きが始まった。ロシア政府によって解体・国有化された石油会社「ユコス」の元株主らの要請を受けた措置。

ロシア政府は強く反発しており、ロシアと欧州の対立の新たな火だねとなっている。

ユコスを巡っては、オランダ・ハーグの国際機関「常設仲裁裁判所」が昨年7月、ロシアによる国有化が違法だったとして、ロシア政府に対して、元株主グループに約500億ドル(約6兆円)を支払うよう命じていた。

ロイター通信によると、ロシア政府が判決に従わない姿勢を崩さないため、元株主側がロシアの国有資産を差し押さえるよう、米国、英国、ベルギー、フランスに要請した。ベルギーとフランスで実際にロシア政府が所有する銀行口座の凍結などが進んでいる模様だ。

ロシア外務省は、ベルギーのロシア大使館、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)のロシア代表部などの銀行口座が凍結されたことに対して、ベルギーの駐ロ大使に強く抗議したことを発表。凍結を解除しなければ、モスクワのベルギー大使館の資産凍結を含む対抗措置をとらざるを得なくなると警告した。【6月21日 朝日】
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当然、フランス・ベルギー独自の判断ではなく、アメリカと十分協議したうえでの対応でしょう。

国内的に“弱腰”を見せられない政権同士の相も変らぬチキンレースですが、旧ソ連圏の大部分を失ったロシアに孤立の選択肢はなく(中国に頼るのは更に屈辱的でしょう)、アメリカもシリア・イランでロシアの影響力を必要としています。

いずれ、どこかで“リセット”の動きが出るのでしょう・・・・「新冷戦」など誰も望んでいませんから。(一部には冷戦構造で利益を得る勢力もあるのでしょうが・・・・)
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