孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ASEAN共同体」発足 期待と現状  英国人男女殺害事件でのタイとミャンマーの対立 

2015-12-31 22:02:16 | 東南アジア

【12月28日 毎日】

中国、インドに次ぐ人口規模の「共同体」】
その意義・重要性について、もうひとつピンとこないところがありますが、6億人の単一市場や共生社会を掲げる「ASEAN共同体」が今日発足したそうです。

****ASEAN共同体】6億人の巨大市場誕生 人の移動や安保で溝も****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟10カ国は31日、6億人の単一市場や共生社会を掲げる「ASEAN共同体」を発足させた。共同体の総人口は欧州連合(EU)を上回り、国家に例えると中国、インドに次ぐ規模となる。

「経済」「政治・安全保障」「社会・文化」の3本柱で構成されるが、中核を担うのがASEAN経済共同体(AEC)だ。

発足により人やモノの動きの活発化が期待される。道路や鉄道などインフラ網の整備も進み、ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマーを結ぶ「東西回廊」や、中国からタイにつながる「南北回廊」の道路整備も加速している。

ただ、共同体発足後も国をまたぐ移動には旅券が必要で、一部の熟練労働者に限って移動の自由化を進める方針だが、時期を含めて詳細は未定のまま。また、2018年までに域内関税を全廃する方針だ。

シンガポール外務省は、AEC発足で国民向けビデオをネットで公開。域内総生産(GDP)は15年の2兆4千億ドル(約290兆円)から20年には4兆ドルに拡大し、「シンガポールはASEANのニューヨークになる」と期待を示した。【12月31日 産経】
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【「実態は経済連携の強化に近い」】
「共同体」というと欧州のEUと比較してしまいますが、現段階で現実的な意味を持つのは「経済」「政治・安全保障」「社会・文化」の3本柱のうち「経済」のみで、それも“市場統合で先行する欧州連合(EU)のように通貨を統合することはしない。域外国に対する関税も各国の判断にゆだねられる。日系金融機関の幹部は「経済共同体というよりも、実態は経済連携の強化に近い」と話す。”【12月2日 朝日】というのが実態です。

****ASEAN経済共同体 きょう発足****
ASEAN=東南アジア諸国連合に加盟する10か国による経済共同体がきょう発足し、関税の撤廃など貿易の自由化が進むことで域内の経済成長が加速することに期待が高まっています。(中略)

タイの首都バンコクでは、30日夜、政府機関による記念行事が開かれました。
経済共同体では域内の関税を撤廃するほか、小売や観光などサービス産業の自由化、さらに医師や建築士といった特殊技能を持つ人材の移動の自由化などを進めることにしており、経済成長が加速することに期待が高まっています。

ただ最も発展するシンガポールとミャンマーとの間の1人当たりのGDP=国内総生産には、およそ60倍の開きがあり、経済格差の縮小が市場統合の課題になっています。また、各国には自国の産業を保護するため外国企業に対する規制などが残されていることから、今後、こうした規制の緩和などが議論される見通しです。

ジェトロ=日本貿易振興機構、バンコク事務所の伊藤博敏さんは、日系企業の対応について「AEC(共同体)のもとで貿易の手続きの改善や規制緩和が進むという認識を持って、それをいかに効率的に活用するかが重要になる」と話しています。【12月31日 NHK】
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もちろんこれから徐々に統合の実質的な部分を進めていく・・・ということでしょうが、民主主義・キリスト教という共通部分が大きい欧州と異なり、上記の経済格差だけでなく、政治体制についても社会主義国、王制の国などを含み、宗教的にも仏教・イスラム教・キリスト教と多彩であり、かなり異質な国々の集合体です。

そもそも、欧州の場合は、フランス・ドイツを中心に、欧州全土を戦場とした過去の過ちを繰り返さない・・・という「不戦の近い」という理念が根底にあっての「共同体」ですが、ASEANの場合はそうした理念は希薄に思われます。

現実的な政治課題としても、EUの場合、ロシアという大きな存在に結束して対応するという側面がありますが(足並が必ずしもそろっている訳でもありませんが)、ASEANの場合、“大きな存在”中国への対応は、親中国的なラオス・カンボジアから南シナ海問題で争うフィリピンまで、国によって相当に大きな開きがあり、具体的行動に出られないといったことがいつも指摘されます。

それでも統合を目指すのは、中国やインドという新興大国に挟まれ、地域が埋没しかねないとの危機感があるためとも指摘されています。

逆に言えば、これだけ多種多様・異質な国々が「共同体」に近い緊密な関係をつくりあげることができるなら、それはそれで有意義・画期的なことかとも思われます。

当然ながら、6億人が暮らす域内で関税がほぼなくなり、貿易促進につながるため、日本企業の関心も高いものがあります。

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経済規模は加盟10カ国の合計で2兆5700億ドル(約308兆円)。日本の半分の規模だ。市場統合が実現すれば、域外から見て投資先として魅力は高まる。1997年のアジア通貨危機による成長の鈍化をきっかけに構想が浮上した。

各国が先行して取り組んできたのが域内関税の撤廃だ。タイ、インドネシアなど6カ国は2010年にほぼ撤廃。ベトナムやカンボジアなど残る4カ国は18年までに撤廃をする計画だ。

関税がなくなれば、特に製造業に恩恵をもたらす。例えば、日系企業も多く進出する自動車産業では、人手がかかる工程をタイから人件費の安いカンボジアやラオスなどの周辺国に移すなど、コストを減らす分業態勢をとりやすくなる。

物流業界もこうした動きに呼応する。日本通運ベトナムは13年、同じトレーラーがコンテナを積み替えることなく、カンボジアとベトナム間の国境を通過できる許可(ダブルライセンス)を両国政府から取得した。通関業務の手続きもスムーズにしようとする各国の取り組みの一つだ。

だが、課題は多い。
日系企業の関心が高い金融や小売りなど128のサービス分野の規制緩和では、域内の企業が別の域内国で子会社をつくったり、企業を買収したりする場合、70%以上の出資比率を認めるという目標は決めた。だが、どの分野から緩和していくかなどで各国間の調整が滞っている。(後略)【12月2日 朝日】
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いずれにしても、今後に展開に注目・期待・・・といったところです。

【「(タイは)立場の弱いミャンマー人労働者に罪を押しつけた」】
従来から対立が絶えなかったタイとカンボジアが関係改善に動いているという話題は、12月20日「カンボジア 最近の話題から(タイとの関係強化 野党党首への逮捕状 カネがすべての社会)」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151220)でも取り上げました。

逆に、「共同体」内で最近起きている不協和音のひとつ。
タイでの外国人観光客殺害事件の犯人としてミャンマー人労働者に対して死刑判決が出されたことをめぐる、共に軍部が大きな力を有しているタイとミャンマーの対立です。

****英国人男女の殺害でミャンマー移民2人に死刑判決、タイ裁判所****
タイ南部のリゾート地タオ島(Koh Tao)で昨年9月に英国人旅行者の男女が殺害された事件で、タイの裁判所は24日、殺人罪などで起訴されたミャンマー人移民労働者2人に死刑判決を言い渡した。

人気観光地としてのタイのイメージを損なったこの事件では、同国の司法制度に対する疑問の声も上がっている。

ミャンマー人の被告2人は、デービッド・ミラーさん(当時24歳)の殺害と、ハンナ・ウィザーリッジさん(同23歳)に対する性的暴行と殺害の罪で、有罪と判断された。

人気ダイビングスポットとして知られるタオ島の浜辺で見つかった被害者2人の遺体は、いずれも暴行を受けた形跡があった。

サムイ島の裁判所で行われた裁判で、判事は判決について「目撃者証言と被告2人のDNA鑑定」から導かれたと説明。ウィザーリッジさんの遺体から両被告の関与を示す法医学的な証拠が見つかったことに言及した。

両被告はミラーさん、ウィザーリッジさんの殺害をいずれも否認していた。

両被告は昨年10月2日に逮捕されたが、これに先立ちタイでは、国民にショックを与えた同事件の真相解明を求める当局への圧力が高まっていた。

検察側は法廷で揺るぎない証拠があると主張したが、弁護側は、警察の捜査に不手際があったと非難。移民労働者である被告2人がスケープゴートに仕立て上げられたと訴えていた。

人権団体は、司法制度が富や権力になびきやすいタイで、ミャンマーなど近隣諸国から来て低賃金で働く移民労働者に犯罪の責任を押し付ける傾向がみられると指摘。今回の事件もその1つだと批判している。【12月24日 AFP】
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ミャンマー側にはタイの捜査への不信感があり、ミャンマーの最大都市ヤンゴンにあるタイ大使館の前などでは「立場の弱いミャンマー人労働者に罪を押しつけた」などと、2人の無実を訴える抗議デモが連日行われています。

また、ミャンマー軍の最高司令官も判決の見直しを求める異例の手紙をタイ政府高官に送りました。【12月28日 NHKより】

****タイ、英国人旅行者殺人事件でミャンマー人に死刑判決 「拷問で自白を強要された」と無罪主張 両国の亀裂深まる****
タイで昨年起きた英国人旅行者殺害事件で、ミャンマー人の男2人に死刑判決が出たことに抗議するデモが、ミャンマーで過熱している。

ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍総司令官は判決の見直しを要請したが、タイのプラユット首相が不快感を示すなど、民主化が進むミャンマーと、軍政が長期化するタイの両国関係の亀裂を深める事態にも発展している。

事件は昨年9月、タイ南部のリゾート地タオ島で発生。20代の英国人男女の遺体が見つかり、近くの飲食店従業員だったミャンマー人2人が殺人や暴行容疑で逮捕された。

タイ警察は、残された体液のDNA型が一致したなどとしているが、2人は「拷問で自白を強要された」などと無罪を主張している。

捜査では現状保存ミスなどの捜査の不手際が発覚し、人権団体も再捜査を要請。AP通信は、タイ当局が軍事クーデターによる海外旅行客離れの悪化を懸念し、「警察があわてて解決を急いだ」とも指摘する。

こうしたなか、タイの裁判所は24日、2人に死刑判決を言い渡したことに、ミャンマー国内で不満が噴出。同日夜から、ミャンマーの最大都市ヤンゴンのタイ大使館前では数百人のデモが発生、大使館は領事業務中止に追い込まれた。

抗議デモはタイ国境沿いなど各地にも広がり、タイ政府はミャンマー側に取り締まりを要請したが、デモは29日も続いた。

さらに、タイ軍政と関係が深いミン・アウン・フライン氏は26日、タイの閣僚へ再捜査を要請したが、これに対してプラユット氏は28日、記者団に不快感を示し、今回の事件の“特別扱い”を否定した。

タイは長年、国境を接するミャンマーから亡命者や出稼ぎ労働者を受け入れてきた。ただ、ミャンマー人には「立場の弱さにつけ込まれ差別を受けている」との意識が根強い。

急進派仏教団体マバタの幹部は「正義のためにタイと戦おう」と市民に呼びかけるなど、民族主義的なデモが先鋭化する懸念もある。【12月30日 産経】
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事件の真相はわかりません。

ただ、タイもミャンマーも、犯人でっちあげ(あるいは自白の強要)ぐらいはやりそうなところがお互いにあるだけに、相手への不信感も・・・といったところでしょうか。
「共同体」への道のりは、長く険しいものがありそうです。
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年を越す難民問題 今後更に厳しい展開も

2015-12-30 22:25:42 | 難民・移民

(ヨルダンの北部、シリアとの国境から15kmにある約8万人が住む「ザータリ難民キャンプ」
この地域はもはやヨルダン国内において6番目に大きな町になるそうです。

しかも、8割以上のシリア難民は、キャンプから出て、普通のヨルダン人が暮らす街に住んでいます。
キャンプでは基本的に商売ができないため、現金収入を得られず、配給を待つだけの生活に嫌気がさして出て行く人もいるようです。

また難民登録するための現金がなく、キャンプに入れない人もおり、そのような人たちは空家や倉庫、学校の施設などで暮らしています。【IRORIO http://irorio.jp/daikohkai/20150131/201041/】)

【「難民や移民が社会に好ましい貢献をしていると認め、人権を擁護し、寛容さと多様性を促進するという欧州の価値観を敬うことが大切だ」】
今年1年を振り返り、多くの国際的な話題のなかで個人的に一番大きな問題に思われるは、欧州を揺るがしている難民問題です。

利害をむき出しにした各国の対立は欧州統合の理念に疑問をなげかけ、欧州各国においては反移民のポピュリズムが大きなうねりとなって台頭しつつあります。

国際的には、難民発生の大きな原因ともなっているシリア問題の解決の必要性が改めて認識されました。

更に言えば、人はどこまで寛容でありえるのか、しょせん難民支援というのは皮相な建前にすぎないのか、国境に隔てられた国家という枠組みはそれほど自明のものなのか・・・といった疑問を問いかける問題でもあります。

国内で「格差」が問題となるように、難民・移民の問題は、経済難民も含めて国際的「格差」から生じる必然の問題であり、そうした格差を正当化する国家という枠組みの問題であるように思えます。

****欧州への難民100万人超す 3600人以上死亡・不明****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際移住機関(IOM)はこのほど、シリアなどから欧州に入った難民らが今年だけで100万人を超えた、と共同発表した。

海上で3600人以上が死亡・行方不明になったとみられている。

発表によると、海を渡った難民らが約97万人、トルコから陸路で入ったのが約3万4千人だった。海を渡った人のうち、80万人以上がトルコからエーゲ海を渡ってギリシャに入った。約15万人は北アフリカからイタリアなどに入った。

海を渡った人の半数が、内戦が続くシリアからだった。また20%がアフガニスタン、7%がイラクからだったという。

グテレス難民高等弁務官は、「難民や移民が社会に好ましい貢献をしていると認め、人権を擁護し、寛容さと多様性を促進するという欧州の価値観を敬うことが大切だ」と訴える声明を出した。【12月30日 朝日】
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遭難・凍死の危険にも「構わない」】
海が荒れる冬になって難民流入は減少してはいますが、多くの人々が渡航の機会をうかがっている事態に変わりはありません。

また、よく言われるように、欧州に渡航できるのは資金的に恵まれた人々で、その背後には更に多くの欧州に行くこともかなわぬ人々が存在します。

****欧州行きの希望消えず=厳冬迎えたシリア難民―トルコ****
2011年にシリア内戦が始まってから5回目の冬を迎えた。今年は欧州に難民が押し寄せる「難民危機」が問題となったが、冬の天候の悪化で、主要経由地であるトルコからギリシャの島々への難民流入は減少。
しかし、いまだ多くの難民が欧州行きを望み、渡航の機会をうかがっている。

トルコ南部スルチにある同国最大のシリア難民キャンプ。ここには、国境を挟んで約10キロの距離にあるシリア北部のクルド人の町アインアルアラブ(クルド名コバニ)などから逃げてきた約2万6000人が暮らす。衣服や冷蔵庫などの生活必需品は支給され、警察官らが厳重に警備している。

「ここでの生活は地獄のようだ」。主婦スザン・ハジさん(29)は、絶望した様子で語った。手持ちの資金はなく、生活を支えているのはトルコ政府が各難民に月々支給する85トルコリラ(約3500円)だけ。「キャンプでの生活は安全というだけで、子供たちも飽き飽きしている」

3人の息子らとこのキャンプに入ったのは約7カ月前。夫(47)は同時期にトルコからドイツに逃れ、現地の難民キャンプで暮らす。「どんなに危険でも私も夫のいるドイツに行きたい。しかし、お金がない上、持病を抱えているため、方法が見つからない」と嘆く。長男イブラヒム君(8)に将来の夢を聞いても、「ドイツでお父さんと暮らすこと」の一点張りだ。

トルコ国内のシリア難民の数は200万人以上に上る。トルコ紙によれば、国内に25カ所あるキャンプに身を寄せているシリア難民は25万〜30万人で、大半は都市部で暮らす。最大都市イスタンブールでは100万人近くのシリア難民がいるといわれる。

イスタンブールに住むシリア北東部ハサカ出身の無職ハマド・アルウクラさん(55)は、欧州行きの資金調達に奔走する1人だ。「トルコと欧州を比べれば、欧州の方が支援は手厚い」と語る。長男(26)と次男(25)は既に密航業者を使ってそれぞれオランダとドイツに渡った。

アルウクラさんがイスタンブールに来たのは2013年9月。シリア軍から離反した長男が同軍兵士に撃たれ、手術が必要だったためだ。その半年後、妻や娘らも呼び寄せた。一緒に暮らす子供3人が働いているが、生活は苦しい。

冬は地中海の波が高くなる上、凍死の可能性も増し、移動は危険を伴う。シリア人の友人が忠告しても、アルウクラさんは覚悟したように「構わない」と首を横に振った。【12月30日 時事】 
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悪条件をおして渡航しようとすれば事故も多発します。

****<難民>エーゲ海上で密航船悲劇 18日は子ども15人犠牲****
中東やアフリカなどから欧州を目指す難民の子どもが渡航途中のエーゲ海上で死亡するケースが相次いでいる。今月18日には、トルコ沖でギリシャに向かう密航船の海難事故が続発し、少なくとも計15人の子どもが犠牲になった。

トルコ・メディアによると、同国西部ボドルムの沖約3.5キロの海上で18日、シリア、イラクの難民ら32人を乗せた木造船が転覆。14人がトルコ沿岸警備隊に救助されたが、子ども10人を含む少なくとも18人が死亡した。18日の別の海難事故2件では計5人の子どもが犠牲になったという。

今月8日にトルコ西部チェシュメ沖で新生児を含む子ども7人が死亡したのをはじめ、9日にはギリシャ東部ファルマコニシ島沖で子ども5人が死亡。16日にはトルコの海岸に2〜6歳の子ども6人の遺体が漂着しているのが見つかるなど、今月に入って子どもの死亡が多発している。

国際移住機関(IOM)によると、トルコからギリシャに渡る密航ルートでは今年1月から今月16日までに約80万2000人の難民・移民が欧州に上陸したが、706人が渡航途中に死亡した。国連児童基金(ユニセフ)によると、同ルートでの今月2日までの子どもの犠牲者は少なくとも185人。【12月20日 毎日】
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厳しさを増す受け入れ側の姿勢
受け入れ側の欧州は、加盟国間での難民申請者受け入れ分担とともに、流入抑制に向けた対応を強化しています。

****移民ショック】EU首脳会議、移民抑制強化の総括採択****
欧州連合(EU)は17日、ブリュッセルで開催した首脳会議で、中東や北アフリカの難民・移民流入問題を協議し、これまで流入抑制に向けて決定した措置について「実行が不十分」として、EUの機関や加盟国に対して取り組みを加速するよう求める総括文書を採択した。

総括文書は「早急な対処が必要な欠陥点」としてEU域内に入った移民らの登録拠点の整備、加盟国間での難民申請者受け入れ分担策、難民認定されない移民らの送還などを挙げた。

登録拠点は移民らの身元確認や指紋登録を行う施設で、EUはギリシャとイタリアに計11カ所を設置する計画だが、設置数は両国で1カ所ずつにとどまっている。両国での難民申請者計16万人を今後2年間で加盟国に割り当てるEUの計画は、これまで約200人しか実行されていない。

一方、EU域外との国境警備強化のため、EU独自の「欧州国境沿岸警備隊」を創設する欧州委員会の提案については今後検討を進めるとして、首脳会議での結論を持ち越した。【12月18日 産経】
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押し寄せる難民・移民に対し、チェコ大統領は「組織的な侵略」との認識を示し、若い男性の難民は国に戻ってISと闘うべきとも。

****難民流入は「組織的侵略」、若い男性はISと戦闘を チェコ大統領****
チェコのミロシュ・ゼマン大統領は26日、中東シリアやイラクから大勢の難民が欧州に押し寄せている現在の状況は「組織的な侵略」であるとの認識を示し、若い男性は国を逃れる代わりに「武器を取って」イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うべきだと付け加えた。

ゼマン大統領はクリスマスに合わせて発表した国民向けのメッセージで、「われわれが直面しているのは難民の自然な流入ではなく、組織的な侵略だと深く確信している」と述べた。

その上で、高齢者や病人、子どもの難民には同情できるとする一方、若い男性の難民は国に戻ってISと闘うべきであり、同情しかねるとの個人的見解を表明。「不法移民の大多数は健康で若い独身男性だ。こうした男性たちがなぜ国の自由のために武器を取ってISと戦わないのか、疑問に思う」と語った。
 
また、戦争で荒廃した国々からの避難は、ISが勢力を強めるのをかえって助けることになると付け加えた。

第2次世界大戦後としては欧州で最大とされる難民危機について、ゼマン大統領が物議をかもす姿勢を表明したのはこれが初めてではない。先月には首都プラハ市内で行われた反イスラム集会に、極右政治家らや議会会派とともに出席した。【12月27日 AFP】
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ISの暴力に対し、どのように個人が戦えばいいのか?あまりに無情な言い様に思えます。

これまでは難民らの受入に積極的な姿勢を見せていたドイツ・メルケル首相も、国内の混乱や政権内部からも噴出する批判に抗しきれず、「人々の懸念も考慮しなければならない。だからこそ、やってくる難民の数を大きく減らしたい」と述べ、ドイツに入国する難民を少なくしていく方針を示しています。【12月14日 読売より】

****難民100万人入国の独が方針転換、審査厳格化****
ドイツ政府は、大量に流入する難民の迅速な受け入れのために簡略化していた難民申請手続きを見直し、必要に応じて申請者と面接を行うことを決めた。

偽造旅券で難民に紛れて過激派が入国するのを阻止するため、手続きを厳格化したもの。難民として入国した人が多数行方不明になっていることも判明し、政府は警戒を強めている。

ドイツはこれまで、難民申請手続きは書類で済ませていたが、内務省の広報担当者は今月21日、独メディアに対し、審査厳格化について「すぐに行う」と方針転換を認めた。面談で、旅券や申請書類に記載された内容の矛盾や疑問点を申請者本人に問いただし、不審者を見つけ出す狙いがある。

ドイツには、今年だけで約100万人が入国した。申請手続きは滞り、一時的な収容施設が不足するなど様々な問題が噴出。このため、提出書類だけで滞在の可否を判断していた。【12月28日 読売】
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難民流入を防ぐ沿岸警備という点では、トルコ側の対応が一番影響がありそうです。

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トルコ沿岸警備隊が十一月下旬にギリシヤの島々との間の海域で訓練を行ったところ、訓練期間中は欧州側に流人する難民の数が激減した。

それまで一日当たり約五千人近くが欧州側に渡っていたが、期間中は百人程度だったという。

トルコが身を入れて海上警備を行えば密航を取り締まれることが証明され、これまでまともな警備をしていないことが露呈した。【選択 1月号】
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ただ、国境・沿岸警備で人の流れをとどめたとしても、基本的には「ベルリンの壁」などで人々を封じ込めた冷戦体制の東側諸国や、脱北者を取り締まる北朝鮮と同じはなしであり、なぜ人々が移動しようとするのかという問題の本質は解決しません。

また、留め置かれた難民らの生活苦も前出【12月30日 時事】にあるところです。

難民で「成長」するヨルダン?】
難民を抱え込む形になるトルコの負担も大きく、トルコはそのことをアピールすることで、EU加盟問題などを動かそうともしています。

もっとも、トルコと並ぶ難民受け入れ国であるヨルダンなどは、パレスチナ難民などを受け入れることで「成長」してきたとの見方もあるようです。

ヨルダンは人口900万人ほどのうち、250万人はシリアやイラクなどからの非ヨルダン人であり、シリアからの移住者は以前からの人々も汲めて130~150万人に及ぶそうです。

そうした状況にあってヨルダンはここ数年2%台の成長を維持し、社会もそれなりに安定を維持しています。

ヨルダンが膨大な難民・移民を受け入れながら社会を維持できるのは、「アラビアのロレンス」にも登場するヨルダン王家自体が難民生活を余儀なくされた後に「ヨルダン」建国に至った歴史的経緯、ヨルダン国籍者の約7割がパレスチナ難民であり、難民に国籍を付与して国力増進の原動力にするという施策が従来から取られてきたこと、更に、難民支援の国際機関がヨルダンにもたらす資金が相当な金額になることなどが指摘されています。

シリア難民に関しても、ネガティブに捉えるのではなく、キャンプに事業所を誘致して長期定住させ、良質な労働力として活用していく施策がとられているそうです。【選択 1月号より】

しかし、ヨルダンにおける難民の扱いについては、まったく異なるリポートもあります。

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ヨルダン政府はシリア人がヨルダンで自ら職を得て、継続的に生活を営んでいくことを望んでおらず、シリア人がヨルダンで働くことは基本的には禁止されています。
理由は簡単。ヨルダン人の職を奪ってほしくないですし、できるだけ早く帰って欲しいからです。 それでもなんとか働いているシリア人もいますが、政府に見つかると捕まって刑務所にしばらく入れられてしまうこともあります。シリア難民にとっては、職を得て働くことすら命がけなのです。【http://www.co-media.jp/article/14875】
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上記リポートは、シリア人への偏見や経済的・制度的理由で、シリア難民の子供の多くは学校にも通えない状況にあるとも指摘しています。

実情はわかりませんが、頼みの綱である国際援助団体からの支援も、紛争の長期化に伴って縮小している傾向にあることから、難民の生活が今後一層厳しくなることが懸念されます。
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ブラジル  政治・経済の混迷スパイラル

2015-12-29 22:50:36 | ラテンアメリカ

(大統領弾劾を求めて、ルセフ大統領のバルーンと共にデモ行進する人々=13日(AP)【12月14日 産経ニュース】)

経済は過去20年で最悪
ブラジル・ルセフ大統領の政治的・経済的苦境については、これまでも何回か取り上げてきました。
(11月21日ブログ「中南米 勢いを失いつつある左派政権 アルゼンチン・ブラジル・キューバなどの話題から」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151121 など)

その後も状況は改善せず、12月2〜4日に予定されていたルセフ大統領の日本訪問も、連邦議会下院で1日に行われる補正予算案の採決に出席するために急きょキャンセルされました。
黒字目標だった今年の国家予算を赤字に下方修正する必要があり、連邦議会での対応が必要になったためとされています。

ルセフ大統領は、レビ財務相を起用して増税や歳出削減で財政健全化を進める緊縮財政を継続してきましたが、経済状況が悪化、高失業率・物価上昇で苦しむ国民の不満が高まり、8月には「経済状況の深刻さに気づくのが遅れた。早く政策を転換すべきだった」と責任を認め、12月18日にはレビ財務相辞職に追い込まれています。

その経済状況ですが、ひところの新興国代表の面影はなく、かなり深刻です。
中国経済の減速やアメリカの利上げに伴う通貨安で動揺が広がる新興国のなかでも、ブラジル経済は特に厳しい状況にあります。

輸出の主力である鉄鉱石など資源や穀物など一次産品価格は国際的に低迷し、更に、最大の貿易相手国・中国の景気減速で重要も低迷しています。

****ブラジルGDP4.5%減 7~9月、過去20年で最悪****
ブラジル地理統計院が1日発表した7~9月期の同国の実質国内総生産(GDP)は前年同期比で4.5%減った。現行統計が始まった1996年以降の継続性のある四半期データでは最悪の落ち込み幅になった。

鉄鉱石など資源や穀物の価格低迷で先行きに不透明感が広がり、投資や家計消費がいずれも減退している。与党の有力者を巻き込んだ汚職疑惑とともにルセフ政権の足元を大きく揺るがしている。

ブラジルの四半期ベースでの前年同期比マイナス成長は7~9月期で6四半期連続となった。前の期に比べると1.7%減で、3四半期連続のマイナス。景気後退局面が一段と深刻になった。

ブラジル中央銀行がまとめる有力エコノミストによる実質成長率予測は2015年の通年が直近でマイナス3.2%。通年でマイナス成長になれば、リーマン・ショックの影響を受けた09年以来、6年ぶりとなる。

ブラジルの政策金利は現在、年14.25%で、好況だった06年と同じ高水準にある。景気浮揚のためには財政出動の拡大や金利引き下げが有力な手段になる。

ところが、ブラジルの政府、中銀は財政規律回復を目指す歳出抑制や、インフレ抑制のための高金利を当面維持する方針を示している。金融市場の信用力を取り戻し、資金逃避を防ぐことを優先する考えだ
こうした現状も景気テコ入れのための有効な方策が打てない一因だ。

ブラジルでは国営石油会社ペトロブラスを巡る汚職疑惑で与党・労働党の実力者が逮捕されるなど内政が混乱している。ルセフ大統領にとっては経済不振とともに大きな打撃となり、支持率は大きく落ち込んでいる。

12月上旬に日本訪問を予定していたが、予算関連法案の審議で議会が紛糾していることなどを背景に急きょ、取りやめた。(中略)

消費不振の主因は雇用悪化とインフレだ。10月の失業率は7.9%で、09年8月(8.1%)以来の高い水準となった。ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)によると、10月時点の自動車メーカーの従業員数は計13万2700人と、前年同月より10%減った。

消費者物価指数は10月に前年同月比で9.93%上昇した。1月から中央銀行の物価目標の上限(6.5%)を上回る状態が続く。

電気など公共料金の引き上げや通貨レアル安が響き、沈静化の兆しがみえない。物価高で実質賃金の減少を実感する消費者が増えている。【12月1日 日経】
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来年オリンピックが開催されるリオデジャネイロは石油産業が集まる地域でもあり、税収落ち込みによる財政悪化が深刻で、公営病院には十分な医療機器や薬を買う予算がなく病院休業が相次ぐ状況です。

****リオの財政悪化、病院休業相次ぐ…五輪に懸念も****
南米初の五輪・パラリンピックを来年8〜9月に控えるブラジル・リオデジャネイロ州のペゾン知事は23日夜、財政状況の悪化で州立病院の休業が相次いでいるとして、保健分野に関する非常事態を宣言した。

連邦政府に支援も要請した。
地元メディアによると、同州の州立病院では、職員の給与未払いや医薬品購入費などの不足が深刻化。ここ数日で25を超す医療機関が休業状態となり、重篤な救急患者だけを受け入れる措置を取っている。

資源価格の下落などでブラジル経済は不振が続いており、国内総生産(GDP)は今年、2009年以来のマイナス成長となる公算が大きい。石油・天然ガス関連の税収に依存する同州も、財政危機に陥っている。万全の態勢で五輪を迎えられるか懸念が広がりそうだ。【12月26日 読売】
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国際オリンピック委員会(IOC)のリーディー副会長は9日、スイスでのIOC理事会で、「政治的、経済的困難が五輪に与える影響は避けられないと、混乱が続くブラジルへいら立ちをあらわにしています。【12月29日 時事より】

おそらく競技施設建設などはなんとかするのでしょうが、昨年6月のサッカーW杯開催時にも、大会に巨額の資金を投入することに対する国民の不満が噴出したように、来年のオリンピックに関してもトラブルが懸念されます。

大統領弾劾審議へ
一方、経済危機に対処すべきルセフ大統領の手足を縛っているのが、これまでも何回か取り上げてきた国営石油会社ペトロブラスを巡る大規模汚職問題に絡む政治危機です。

12月3日には大統領弾劾審議が始まっています。

****大統領弾劾審議へ=政府会計の不正操作疑惑―ブラジル****
ブラジルの下院議長は2日、政府会計を不正に操作した疑いがあるとして、ルセフ大統領の弾劾を審議する方針を明らかにした。深刻な経済危機を招いた政治混乱は、さらに先行き不透明な状況となった。

大統領弾劾投票が行われれば、1992年に不正蓄財疑惑に問われ辞任したコロル大統領(当時)以来となる。
ルセフ氏は2日の記者会見で「憤慨を持って受け止めている」と述べ、潔白を主張した。

野党はルセフ氏が大統領選で再選を決めた2014年以降、政府会計の不正操作が続いていると訴え、弾劾手続きを求めていた。連邦会計検査院は10月、14年の政府会計に疑義があるとして、承認を拒否するよう議会に勧告した。

議会が近く設置する特別委員会が支持すれば、弾劾手続きが本格化。上下院のそれぞれ3分の2の賛成で、ルセフ氏は失職する。【12月3日 時事】 
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上下院のそれぞれ3分の2を必要とする弾劾自体は、議会で多数を占める与党の反対でなんとかしのげると思われますが、与党内をまとめるために、与党からも不満の出ていた財務相をすげかえるといった混迷を余儀なくされています。

また、国民の間での不満も相変わらずです。

****ブラジルで反政権デモ 大統領弾劾求める****
ブラジル各地で13日、与党関係者を巻き込んだ大規模汚職事件や経済の低迷に抗議し、ルセフ大統領の弾劾を求めるデモが行われた。地元メディアによると、警察当局の推計では全国で計約8万3千人が参加。ことし3回行われた同様のデモに比べ、小規模にとどまった。

各地で一斉に反政権デモが行われるのは、クニャ下院議長が2日にルセフ氏に対する弾劾請求を承認して以降では初めて。来年五輪が開かれるリオデジャネイロでは約5千人がデモに参加した。

国会は連立与党が多数を占め、弾劾が成立する可能性は現在のところ低いとみられているが、リオの観光地コパカバーナ海岸沿いでは、人々がプラカードを掲げたり、国旗を振ったりしながら「ジルマ(ルセフ氏)は出て行け」とシュプレヒコールを上げた。(共同)【12月14日 産経ニュ―ス】
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国営石油会社ペトロブラスの苦境
こうしたブラジルの経済・政治の混迷を象徴しているのが、ブラジル経済を牽引してきた国営石油会社ペトロブラスの苦境です。

****新興国経済は「二番底」の深みへ****
・・・・ブラジル経済悪化の背景には、経済政策の問題の他、輸出の主力である鉄鉱石など資源や穀物なそ一次産品価格が国際的に下落していること、最大の貿易相手国である中国の景気減速によって需要が低迷していることなどが挙げられています。

象徴的なのは、石油大手「ペトロブラス」の運命だ。同社の石油資源の主力は、ブラジル沖大西洋の海底深く眠る「プレソルト(岩塩層下)」の石油。

原油価格が高騰していた二〇〇〇年代後半には、「未来の鉱脈」と注目されたが、1バレル四十ドルを下回る価格では到底採算が合わない。

ところが、原油高時代に社債を乱発し、一五年末までに一千二百八十億ドルもの借金の山を築いてしまった。ブラジルGDPの五%を超える大金で、しかもその八〇%が外貨建て。通貨レアルは対ドルで、丑年前に比べて五五%も下落しており、向こう二年間で二百四十億ドルを償還しなければならない。

それなのに、ブラジル経済全体は一五年第3四半期に、前年同期比で四・五%もの縮小を記録した。借金を返すあてなじないのだ。

「資産をたたき売るか、中国の銀行に泣きつくか、どちらかしか選択肢がないと言われています。会社の幹部は借金で作ったあぶく銭を政治家にばらまいて、贈賄罪で次々と逮捕されている」と、前出特派員。昔話の愚人譚のような贈収賄事件で、大統領、下院議長ら政治指導者は動きがとれない状態に陥った。【2016年1月号 選択】
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政治・経済の混迷のスパイラルのなかで、各種機関の来年予測でも、ブラジル経済はマイナス成長が続くとの予測が多いようです。
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フランス・コルシカ島  高まる反イスラムの動き 州議会選挙では地域政党が勝利

2015-12-28 22:35:22 | 欧州情勢

【12月28日 AFP】

【「アラブ人は出ていけ」】
パリ同時多発テロ以降、フランスで強まる反イスラムの風潮にについてはこれまでも取り上げてきましたが、ここ数日、コルシカ島のでの大規模、かつ、あからさまな反イスラム運動が話題となっています。

****イスラム教礼拝所をデモ参加者が破壊 仏コルシカ島****
仏コルシカ島アジャクシオで25日、デモの参加者らがイスラム教の礼拝所を荒らし、イスラム教の聖典コーラン(Koran)に火をつけようとするなどの騒ぎがあった。

警察および県の当局によると、この騒動の前日の夜、消防士2人と警察官1人を「待ち伏せ」していた「フード姿の若者ら」が負傷させるという事件がアジャクシオの労働者街周辺で発生しており、市内では緊張が高まっていた。【12月26日 AFP】
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****仏コルシカ島、3日連続で反イスラムデモ*****
イスラム教のモスク(礼拝所)が暴徒化したデモ隊に荒らされたフランス・コルシカ島の中心都市アジャクシオで27日、当局の集会禁止令にもかかわらず数百人が市内各地をデモ行進し、「われわれが抗議しているのは人間のくずだ。アラブ人ではない」などと叫んだ。

アジャクシオでは、24日に消防士2人と警察官1人が市内の貧困地区ジャルダン・ドゥ・ランペルールで「待ち伏せ」攻撃を受け負傷したことを受け、抗議デモが暴徒化。デモ隊がモスクに押し入り、聖典コーランを含む書籍を焼くなどした。

デモは26日も続き、数百人が「ここは俺たちの家だ」「アラブ人は出ていけ」などと叫びながら、移民を中心に約1700人が住む同地区を行進。一連の騒動で、これまでに2人が身柄を拘束された。

クリストフ・ミルマンド知事は同地区でのデモや集会を少なくとも1月4日まで禁止すると発表したが、デモ隊は27日、同地区以外の市内各地を行進。警察署や他の貧困地区を練り歩いた後、ジャルダン・ドゥ・ランペルール地区の門で警察に阻止された。【12月28日 AFP】
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「われわれが抗議しているのは人間のくずだ。アラブ人ではない」と言いつつも、「アラブ人は出ていけ」ということです。本音は後者でしょう。

こうした憎悪に駆られた行動は、憎しみの連鎖や過激なテロを生むものでしかないことは、これまでも述べてきたところです。

州議会選挙では地域政党が勝利
ところでコルシカ島と言うと、正直なところ、ナポレオンが生まれた島・・・といったイメージしかありません。

コルシカ島はフランスとイタリアの境あたりの地中海に浮かぶ島で、面積は広島県ほど、人口は約30万人とのことです。
また、現在の住民の日常語はフランス語ですが、民族意識の高まりを背景に、コルシカ語も依然として学校教育やテレビ・ラジオ放送、広告・商標、文化活動などで盛んに用いられているようです。

****コルシカ島(フランス) 経済危機の波を直に受ける貧しい土地****
コルシカ島はフランス南東部・地中海に浮かぶ島で、島の西部は平野が広がっているが東部は山岳地帯で、歴史的に住民は貧しく自給自足の暮らしを行っていました。

11世紀にはピサ、13世紀にはジェノヴァの支配を受けるも、過酷な統治に住民は何度も反発しました。18世紀には、コルシカ独立を目指した大規模な闘争が起こり、ジェノヴァはフランスの協力を得てこれを鎮圧。以降、フランスがコルシカ島を領有することになります。

1950〜60年代にコルシカ島の独立戦争は激しさを増します。フランス植民地が次々と独立し、働き口を無くしたコルシカ島民が島に戻ってきて高い失業率とインフレが発生、経済危機に陥ったことがきっかけでした。

この時には独立闘争は鎮圧されますが、フランスからの独立を求める声は現在もあり、 2008年段階で12%が独立を支持し、51%が大幅な自治を求めています。【「歴ログ」http://reki.hatenablog.com/entry/2015/05/11/%E5%88%86%E8%A3%82%E9%81%8B%E5%8B%95%E3%81%8C%E7%9B%9B%E3%82%93%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8B%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%81%AE 】
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フランスでは州議会選挙が今月に行われ、マリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」が、経済的な不満と強まる排外主義的な風潮を背景に、第1回投票の得票率で二大政党を抜いて1位になり、全13地域圏のうち6地域圏でトップとなったこと、そして、第2回投票では、「国民戦線」への警戒感が高まったことや左派社会党の阻止戦略などもあって、結局、全ての地域圏で勝利を逃す結果となったことが大きな話題となりました。

この「国民戦線」に隠れて、殆ど話題となることはありませんでしたが、13地域圏のひとつコルシカでは地域政党が勝利しました。

コルシカ分離独立運動の経緯 犯罪組織の影も
歴史的には、18世紀に激しい「コルシカ独立戦争」を経験したコルシカ島ですが、その後もフランスからの分離独立を主張する動きがあります。

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こうした歴史的背景もあって、コルシカ島ではフランス併合後、断続的に民族主義運動が起きている。

しかしそれはフランスからの独立というよりは、その経済規模の小ささとフランス国家への歴史的な依存性からフランス共和国の中にとどまりながら立法権など政治的決定権を獲得する自治主義が中心である。

]1975年8月に自治主義勢力(ピエ・ノワール)とフランス治安当局との間で激しい闘争(アレリア(フランス語版)闘争)が展開され、自治主義勢力が非合法化されると、分離主義勢力のFLNC(コルシカ民族解放戦線)が組織されるが、1982年に地方分権政策の一環としてコルシカ地域議会が設置されると求心力を失い分裂する。

そして現在繰り広げられている武力闘争は独立戦争などではなく、民族主義を名乗るグループ同士の内部抗争であり、近年は失業で悶々としている島の若者たちを徴用するなど非行問題化しつつある。

一般の島民は民族主義には理解を示しつつも、政治運動からは一線を画しており、コルシカ人がフランスからの独立を望んでいるという指摘は不正確である。【ウィキペディア】
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1970年前後からの分離独立運動の高まりには、フランスが敗れたアルジェリア戦争の影響があると指摘されています。
アルジェリアから撤退した支配層及びそれに協力してきたアルジェリア人が大挙してコルシカになだれ込み、コルシカでアルジェリア同様のプランテーションを始め、島民の経済が圧迫され、格差が広がったことが島民の民族運動を高めることになったとの指摘です。【http://fban.blog9.fc2.com/blog-entry-82.html

コルシカの場合、マフィアで有名なシチリアと同様の風土があって、民族運動と犯罪組織が結びつくことで過激な事件も起きています。

1998年には、エリニャック知事が民族主義者に暗殺される事件がありました。

民族主義運動は、前出【ウィキペディア】にもあるように、自治権の拡大などで下火とはなりましたが、民族主義グループの内部抗争は2012年にも表面化しています。

****まるでマフィア映画!コルシカ島の首領が相次いで殺害。それでも観光客が訪れる理由****
地中海に浮かぶフランス領の美しい島、コルシカ島で、マフィア映画さながらの連続殺人事件が発生している。

10月16日に、コルシカ分離独立運動のリーダーの1人である著名弁護士がガソリンスタンドで射殺された。11月14日には同じグループに属するとみられる商工会議所の会頭が自身の店にいるところを何者かに射殺された。

犯人は堂々と店に入り、拳銃を発砲した後、そのままゆっくり歩いて立ち去るという、典型的なマフィアによる殺人の手口。このほかにも銃撃事件が多数起こっており、今年に入ってからすでに17人が殺害されてという。

コルシカ島はイタリアのシチリア島とならんでマフィアの本拠地として有名な場所(厳密にはマフィアとはシチリア島を拠点とする犯罪組織を指すので、コルシカ島のグループは本当はマフィアとは呼ばれないが、ここでは俗称をそのまま使用する)。

シチリア島も似たような課題を抱えているが、コルシカ・マフィアの問題が単純に解決しないのは、フランスからの独立運動と地域経済、さらに地域に密着した犯罪組織が密接に関連していること。

コルシカ島は1769年にフランスが強制的に併合して以来、フランスの一部だが、激しい独立運動が続いてきた。1985年にフランス政府側がある程度譲歩する形で地域議会が設立されてからは独立運動は下火になったものの、今度は独立運動側の内部抗争が激化した。

地域の資本家、政治家、犯罪組織、労働者などが渾然一体となっており、閉鎖的な社会風習とあいまって、犯人が誰なのか皆知っているにも関わらず誰も口を開かないという。ここまでひどくはないが、同じような光景は日本の地方農村などにおいてもよく見られるものである。

フランス政府は検事をコルシカに派遣し事態を収拾したい意向だが、抗争は長引くとの見方が大半だ。
 (後略)【2012年11月7日 「ニュースの教科書」 http://news.kyokasho.biz/archives/3082
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2014年には、武力闘争を続けてきた民族主義グループが武力闘争を放棄しています。

****仏コルシカ島の民族主義集団、40年の独立闘争に幕****
地中海に浮かぶコルシカ島でフランスからの独立を求めて武力闘争を続けてきた民族主義グループが25日、武力闘争を放棄すると発表した。

このグループはコルシカ民族解放戦線(FLNC)で、40年近くにわたって武力闘争を行ってきた。CNNの系列局「フランス3」が入手したFLNCの声明文によれば、無条件で武装解除のプロセスを開始する決断を下したという。

ナポレオン1世の出身地として知られるコルシカ島は、フランスとイタリアに挟まれた地中海に浮かぶ大きな島だ。18世紀にフランスに併合された。

FLNCが発足したのは1976年。これ以降、コルシカ島ではフランス関連の施設などを標的にした爆破や強奪、襲撃といったテロ事件がしばしば発生した。97年にはFLNCによる銀行や政府機関を狙った連続爆破事件が起きている。

98年には当時の知事が暗殺される事件が発生。これを受けてフランス政府は独立運動に対する厳しい取り締まりを実施、民族主義者からの反発やFLNCのさらなる攻撃を招いた。

2003年にはFLNCの分派が武力闘争の放棄を発表。だがそれ以降もFLNCによる攻撃は、頻度は少なくなったものの続いていた。【2014年6月26日 CNN】
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テロと極右台頭に揺れるフランスの新たな火種?】
こうした経緯にあって、今回州議会選挙における地域政党の勝利ですが、この地域政党がどういう性格か情報が少なくよくわかりません。

ただ、フランスTV局のニュースでは、この地域政党が、1998年のエリニャック知事殺害事件の容疑者の解放を主張しており、野党がこれに反対しているといったことを伝えていましたので、それほど“穏健”でもなさそうです。
「国民戦線」問題の影に隠れて話題となっていないが、あらたな厄介ごとを抱え込んでしまった・・・といったニュアンスの報道でした。

フランス人男性と結婚している女性のブログによると、この地域政党はコルシカ独立を主張しているとも。【http://blog.livedoor.jp/morimori088/archives/1664980.html

一方、フランス本土側にはコルシカ島住民に対する蔑視もあって、長らく開発もされずに放置されてきた経緯もあるようです。厄介者扱いする風潮も。

“一般の島民は民族主義には理解を示しつつも、政治運動からは一線を画しており、コルシカ人がフランスからの独立を望んでいるという指摘は不正確である。”【ウィキペディア】という話と、今回の州議会選挙結果がどう結びつくのか、また、最近の反イスラムの動きとコルシカ民族主義の関係がどうなっているのか・・・気になることはありますが、なにぶん情報が少なく、よくわかりません。
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シリア  来年1月25日に政権側と反体制派の和平協議を行う方向で調整 様々な不透明要素も

2015-12-27 23:13:20 | 中東情勢

【12月24日 CNN】

【「本気度」が増したアメリカ・ロシア
内戦が続くシリアに関しては、欧米やロシア、中東諸国など関係国の17の国の外相らやEUや国連の代表らが出席した多国間外相級協議が11月14日ウィーンで開催され、来年1月1日までをめどにアサド政権と反政府勢力との対話を実現し、半年以内に移行政権を発足させたうえで1年半以内に国連の監視の下で選挙を実施することを目指すなどとした和平案に合意しました。

この合意を後押しする形で、国連安保理も12月18日、シリア内戦の政治的解決を目指す初めての決議案を初めての「全会一致」で採択しました。

もちろん、これまでも対立してきたアサド大統領の処遇が明示されていない等の不透明な内容ではありますが(主要問題で意見が一致しているなら明日にでも停戦が実現していますし、内戦が4年も5年も続くことはありません。溝を残していることは当たり前の話です)、アメリカ・ロシアなど関係国の間で一定の歩み寄りの空気が醸成されつつあることも事実でしょう。

****<安保理決議>シリア和平は不透明 アサド氏処遇の対立残る****
国連安全保障理事会の外相会合で18日、5年目に入ったシリア内戦の政治的解決を目指す初めての決議案が全会一致で採択された。

過激派組織「イスラム国」(IS)という共通の脅威に対抗するため、アサド大統領の処遇を巡って対立してきた米国とロシアが、歩み寄った。ただ、いずれ処遇問題に対処する必要はあり、和平の先行きは不透明なままだ。

「シリアでの殺りくを止める時が来たという明確なメッセージだ」。議長を務めたケリー米国務長官は、決議の意義を強調。これまで4度、対シリアの安保理決議に拒否権を行使したロシアのラブロフ外相も、米露が主導した前日の対IS資金根絶決議にも触れ「広範な対テロ戦線が形成された」と語った。

安保理決議は、先月ウィーンで開催されたシリア支援国会合で合意した和平行程を支持するものだ。来月初めを目標に、国連の仲介でアサド政権と反体制派が交渉に着手▽6カ月以内の移行統治機構の設立▽新憲法を起草し、18カ月以内に選挙を実施−−が柱だ。

また、全土での停戦実現を目指すことになっており、国連事務総長に対し、停戦監視の方法を1カ月以内に報告するよう求めた。テロ組織との戦闘は停戦の適用除外となった。

アサド政権と反体制派の直接交渉が実現すれば、2014年1〜2月のジュネーブでの会議以来、2年ぶり。当時は国連が主導したが、現在の和平プロセスを主導しているシリア支援国会合は米露が主宰しており、両国の「本気度」が増したことを示している。

背景には、パリ同時多発テロや露旅客機爆破など、ISの脅威の高まりがある。また「難民がこれ以上増えると欧州の受け入れシステムが崩壊する」(国連高官)という危機感も後押しした。

ただ、決議はアサド大統領の処遇には触れていない。また、ISなど安保理が指定するテロ組織以外に、どの勢力を「テロ組織」とするかについては関係国間で見解が分かれている。

反体制派側の交渉団構成や、停戦監視に影響する問題だけに、ヨルダン政府の主導で引き続き、リスト化が進められることになった。

ケリー氏は決議採択後、「この場にいる誰も、輝かしい道が開かれているとは思っていない」と述べ、前途の困難さを認めた。【12月19日 毎日】
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【「失敗折り込みの合意」という見方も
ISへの対抗という共通目標や、シリア安定のためのアサド政権の役割については、欧米とロシアの間では先述のように“一定の歩み寄りの空気”もできつつありますが、アサド政権打倒を存在理由としてきた反体制派にとっては“歩み寄り”は難しく、「失敗折り込みの合意」(ベイルート筋)という見方もあるようです。

そもそも、多種多様な反体制派とテロリスト集団の線引きも難しいところです。

****【シリア情勢】安保理の和平決議、「絵に描いた餅」? アサド大統領の処遇棚上げ 反体制派の思惑バラバラ****
シリア問題に関する国連安全保障理事会決議には、来年1月の早い時期にアサド政権と反体制派の対話実現を目指すなどとする“行程表”が盛り込まれた。

しかし、焦点であるアサド大統領ら政権中枢の処遇は棚上げ。政権側がアサド氏らの排除を前提とした対話に応じるとは考えにくい上、反体制派の間でも和平プロセスの進め方をめぐる対立が予想され、対話実現の見通しは立っていない。

決議は、反アサドの急先鋒(せんぽう)であるサウジアラビアが今月、首都リヤドで開催した反体制諸派の会合を「有益なもの」と評価した。アサド氏退陣を求める米欧には、同会合で設置が決まった「最高評議会」が、政権側との対話を担うことへの期待があるとみられる。

しかし、同会合には、政権側と一定の関係を持ちつつ活動する国内反体制派は招かれず、政権側との交渉の糸口をつかめるかさえ不透明だ。

また、米欧とロシアが共通の脅威とするイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)やヌスラ戦線といったイスラム過激派は、内戦が泥沼化する過程で、反体制諸派と対立や協調などの重層的な関係を持つようになっている。

軍事的に強力なISやヌスラ戦線が、政権側や敵対する反体制派との戦闘を停止することがない中では、内戦終結に向けた構想が絵に描いた餅で終わる恐れも強い。

一方、アサド政権側は、「シリアの運命はシリア人自身で決めるべきだ」と繰り返している。これは、サウジなど外国勢力の意を受けた反体制派は、交渉相手とは認めがたいとのメッセージだ。

後ろ盾であるロシアがシリア問題をめぐる多国間協議で主要な役割を担っていることも、反体制派のペースで和平プロセスを進めさせないための政権側の自信につながっている。

決議は、和平プロセスでは「政府機構の継続性」が重要だとも強調。イラク戦争(2003年)後のイラクのような無秩序状態を避けるため、アサド政権を支える官僚組織や軍は温存するとの意思を示した形だが、反体制派の中に反発が生じる可能性もある。【12月19日 産経】
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国連特使、来年1月25日開催で調整
アサド政権と反体制派の和平協議は、来年1月25日開催の方向で調整されています。

****シリア和平協議、来月25日開催で調整 国連特使****
国連のスタファン・デミストゥラシリア特使の報道官は26日、シリアのバッシャール・アサド政権と反体制派との和平協議について、来年1月25日にスイス・ジュネーブで開催する方向で調整していると発表した。

声明によると、デミストゥラ特使は目標日程での和平協議開催を目指して「強く努力」しており、「できるだけ広範にわたる」反体制派代表を含めたい意向だという。

5年近くに及ぶ同国内戦の国連特使を務めるデミストゥラ氏は、「シリア国内の全関係者からの協力に期待している」と述べ、「現在も続く内戦の進展が、(和平協議の)妨げになるべきではない」と付け加えた。(後略)【12月27日 AFP】
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ロシアの支援で軍事的にも、国際政治のうえでも態勢立て直しを実現しているアサド政権側は、交渉参加の用意があることを表明しています。

相手の出方次第で・・・といったところですが、“ロシアがイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国(IS)」掃討を名目に軍事介入した9月末以降は、北部アレッポ周辺や中部ホムスなど各地で戦闘を優勢に進めていることからも、仮に直接対話が実現しても、反体制派に大幅に譲歩するとは考えにくい状況だ。”【12月26日 産経】とも。

****アサド政権、和平協議に参加へ 外相が表明****
シリアのバッシャール・アサド政権は24日、内戦終結に向けた協議に参加する用意があると表明した。ただ、実際に参加するかどうかは反体制派側の人選次第のようだ。

シリアのワリード・ムアレム外相は「外国が干渉しないシリア人同士の(スイスの)ジュネーブでの対話」に参加する用意があると述べた。(中略)

ムアレム外相の発言は、アサド政権による和平案受け入れを示唆するとみられるものの、条件面で含みを持たせた。外相は、シリアは「外国の干渉」を拒否してきたと強調するとともに、政府の交渉団は「反体制派代表団のリストを受け取れば速やかに準備を整える」としている。【12月25日 AFP】
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IS等、首都ダマスカスの反体制派3拠点からの退避計画
アサド政権はISとの限定的な停戦についても合意したとされています。

*****シリア首都南部からIS撤退へ 政権軍と異例の合意****
内戦が続くシリアで、首都ダマスカス南部のヤルムーク難民キャンプやその周辺地区を占拠していた過激派組織「イスラム国」(IS)やアルカイダ系「ヌスラ戦線」などの武装勢力が、占拠地域から撤退することでアサド政権軍と合意した。AFP通信などが25日、伝えた。

シリア内戦では、政権軍と反体制武装組織の間で地域的停戦が成立したことはあるが、ISと合意するのは珍しい。政権関係者は25日、戦闘員2千人と家族らの計4千人を移動させるバスが占拠地域に入ったとAFPに語った。ISはシリア北部のラッカへ、ヌスラ戦線は同組織が支配する別の地域へ向かうとみられる。

停戦に向けた交渉は約2カ月に及んだといい、地域を離れる際、各戦闘員はスーツケース1個と個人用の武器の携帯が認められる。政権軍は24日に反体制側の重火器を押収したという。

ヤルムークは内戦前、パレスチナ難民約18万人が暮らしていたが、2012年12月ごろから反体制武装勢力が入り込み、政権軍と激戦が続いた。今年4月にはISも侵攻した。

食料などの支援物資が届かず、住民は食料不足に苦しんでおり、パレスチナ解放機構(PLO)によると、現在約7千人が残されている。【12月26日 朝日】
*****************

事情はよくわかりませんが、首都ダマスカス南郊のヤルムーク地区などからISやヌスラ戦線を一掃できるということは、政権側の軍事的圧力が成果を出したということでしょうか。

しかし、反体制派の有力武装組織「ジャイシュ・アル・イスラム(イスラム軍)」のザハラン・アルシュ司令官が25日、シリア政府軍もしくはロシアの空爆で死亡したことで、先行き不透明になっています。

*****シリア首都からの武装勢力退避計画中断、司令官死亡が原因か*****
シリア首都ダマスカスの反体制派3拠点から戦闘員や市民数千人が退避する計画が26日、中断された。この前日、反体制派組織のリーダーが、空爆で死亡している。

バッシャール・アサド政権が行ったとする空爆で死亡したのは、ダマスカス東部の東グータ地区を拠点とする、反体制派の有力武装組織「ジャイシュ・アル・イスラム(イスラム軍)」のザハラン・アルシュ司令官(44)。

同組織のある幹部は、戦闘機が司令官らの「秘密会合」を標的にしていたと語り、アルシュ司令官が死亡者の中に含まれると確認した。

司令官の死亡は、約5年に及ぶ内戦に大きな影響を与えるほか、脆弱な和平プロセスも複雑にするものとみられる。
また、ダマスカス南部地区からの約4000人の退避計画も中止された。

政府当局者によると、計画では26日に、ダマスカス南部のカダム、ハジャル・アスワド、ヤルムークのパレスチナ人難民キャンプからシリア北部に退避者らを移送する予定だったという。

退避者の約半数は過激派戦闘員とされ、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカイダ系のシリア武装組織「アルヌスラ戦線」のメンバーらも含まれるとみられている。

交渉団に近い治安筋はAFPに対し、計画は現在、中断されていると述べた。

一方、在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」のラミ・アブドル・ラフマン代表は、計画は「凍結されたが、中止されたのではない。安全な通行路確保などを中心とした後方支援問題がその理由」だと話している。【12月27日 AFP】
******************

行き場を失う難民 1日も早い停戦実現が望まれる
反体制派の有力武装組織司令官の爆殺は、武装勢力退避計画だけでなく、政権側との和平協議にも影響することが懸念されています。

“イスラム軍は、サウジアラビアの首都リヤドで今月開かれた反体制派会合に参加した組織で、来月にも始まる内戦終結に向けた政権側との交渉でも重要な役割を果たすとみられている。

反体制派の多くは、交渉はアサド大統領ら政権中枢の排除を前提として進められるべきだと主張しているが、今回の空爆で司令官が殺害されたことで、いっそう態度を硬化させることも考えられる。”【12月26日 産経】

「失敗折り込みの合意」だろうが何だろうが、少なくとも協議実現までは漕ぎつけてほしいものですが・・・。

なお、武装勢力退避計画の対象となっているパレスチナ難民キャンプのヤルムーク地区については、ここを追われたパレスチナ難民は、欧州に行く資金もなく、最後の手段として「天井のない監獄」パレスチナ・ガザ地区に移動するも、そこでも更に厳しい状況に直面しています。

****苦渋、シリアからガザへ パレスチナ難民1200人、欧州行けず「最後の手段****
内戦5年目に入ったシリアのパレスチナ難民約11万人が再び難民として国外に逃れ、うち約200家族、約1200人がパレスチナ自治区ガザで避難生活を余儀なくされていることがわかった。ガザもイスラエルとの度重なる戦闘にさらされ、行き場を失っている。(中略)

ガザ地区は、イスラエルなどに壁や検問で境界を封鎖され「天井のない監獄」と呼ばれる。

PLOのパレスチナ難民支援責任者を務めるマゼン・アブザイド氏によると、シリアのパレスチナ難民がガザに逃れ始めたのは2011年の内戦開始直後。13年には最大約370家族に達した。

その多くは、内戦開始後、反体制派の武装勢力に占拠され、今年4月に過激派組織「イスラム国」(IS)の侵攻を受けた首都ダマスカス郊外のヤルムーク難民キャンプ出身だ。

その後もガザへの流入は続くが、生活は厳しく、さらに欧州やエジプトなどに渡る人も多く、一部はシリアに戻ったという。

「欧州などに頼れる親類や渡航費用がない難民がガザに来たが、ここに新しい人を抱える余裕はない。避難先のガザでも戦争を経験し、未来に希望を見いだせないでいる」と同氏は指摘する。

ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエル軍との昨夏の戦闘で、ガザ側では2200人超が死亡し、シリアから来たパレスチナ難民の男性(24)も犠牲になった。

イスラエルとエジプトによる境界封鎖で人や物資の移動が著しく制限され、復興は進んでいない。世界銀行の5月の報告では失業率は43%で、「世界207の国・地域の中で最悪」の状態だ。(中略)

ガザ北部の難民キャンプに住むムハンマド・アブハベルさん(76)は、48年のイスラエル建国時にガザに逃れ、エジプト、リビアを経て、ヤルムークで25年暮らした後、13年にガザに来た。3人の息子はシリアに残る。
「土地から土地へ、私の人生はいつも『難民』。ISが絶滅し、平和になればシリアに戻りたい」と語った。【12月26日 朝日】
****************

こうした行き場を失った難民のためにも、現実的視点にたった政治的解決が実現し、シリアでの戦闘が止むことを強く期待します。

アメリカ・ロシアは、それぞれの思惑はあるでしょうが、とにもかくにも停戦を実現する方向で当事者に影響力を行使することが望まれます。

なお、ロシア・プーチン大統領は、新政権へのロシアの影響力やシリア内の軍事基地などを確保できれば、アサド大統領にはこだわらない・・・とも見られています。
アメリカも、反体制派支援ではなく、シリア安定のためには何が必要かという観点で行動すべきときでしょう。

どうやって政権側・反体制派の両当事者を納得させるかという難題が残りますが。
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トルコとロシアの対立  圧力をかけ続けるロシア 謝罪を拒否するトルコ 改善の兆しは未だ見えず 

2015-12-26 23:27:41 | ロシア

(エルドアン政権との対話は行わないと強調するプーチン大統領 【12月18日 NHK】

執拗にトルコを威圧するロシア
11月24日にトルコとシリアの国境地帯でロシア軍機がトルコに撃墜された事件に対するプーチン大統領の怒りが収まらないようです。

11月28日にはプーチン大統領が対トルコ経済制裁を導入する大統領令に署名。ロシア国内におけるトルコ産品の輸入やトルコ企業の活動、ロシアからのトルコ観光などを大幅に制限するなど幅広い内容で、トルコに対し圧力をかけています。

ロシアは、シリアにおけるロシア軍の装備などをトルコを「威嚇」する形で強化しています。

****シリア空爆機に空対空ミサイル=撃墜でトルコ威嚇か―ロシア****
ロシア国営テレビは30日、シリア空爆に参加するロシア軍の戦闘爆撃機スホイ34に、空対空ミサイルが装備されたと伝えた。トルコによるロシア軍機撃墜を受け、空爆だけでなく空戦用に能力を広げてトルコを威嚇する狙いがありそうだ。

ロシアはシリア軍事介入に際し、過激派組織「イスラム国」掃討が目的だと説明している。しかし、同組織が空軍を持たないにもかかわらず、ロシア軍は空戦用の戦闘機スホイ30を運用。ロシア軍機撃墜後は、最新鋭地対空ミサイル「S400」も展開した。プーチン大統領は、トルコの「敵対行為」を理由に挙げ、反撃を警告している。 【12月1日 時事】
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ロシア側は、領空侵犯の事実の有無に加え、トルコがISと石油取引を行っており、それを隠すためのロシア機撃墜だったと非難しています。

プーチン大統領は3日の年次教書演説で、トルコ政府を「テロリストを支援している」と改めて激しく非難しています。

****露大統領、トルコは「撃墜を後悔し続ける****
ロシアの戦闘機がシリア国境付近でトルコ軍に撃墜された問題で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は3日、トルコ政権は撃墜を後悔することになるだろうと述べた。
一方のトルコ政府は、撃墜で死亡した露軍操縦士への哀悼の意を示した。

プーチン大統領は定例の年次教書演説で、「わが国の国民の殺害という凶悪な戦争犯罪を起こしておきながら、トマト(の禁輸措置)や建設などの分野の制限ですむと思うなら、大間違いだ」「われわれは、相手に自分たちが何をしたのかを常に思い知らせる。彼らは、自分たちの行為を後悔し続ける」と述べた。

ロシア政府はこの演説から間もなく、トルコと続けていた天然ガスパイプライン建設計画の協議を打ち切ると発表した。

同日にはトルコのメブリュト・チャブシオール外相とロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、セルビアの首都ベオグラードで会談。撃墜問題の発生以降、初めて両国の閣僚レベルでの会談が実現した。

チャブシオール外相は会談後、死亡したロシア人操縦士に対して哀悼の意を表明。しかしロシア側が求めていた謝罪声明はなく、ラブロフ氏との40分に及ぶ会談でも事態の突破口は開けなかったと認めた。

ロシアは、トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領とその家族が、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」との違法な石油取引に関与していると非難しているが、エルドアン大統領は3日、これを真っ向から否定。ISと石油取引をしているのはロシアの方で、その証拠も入手していると反論した。【12月4日 AFP】
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ロシアの強固な姿勢の背景には、NATO加盟国ながら国境管理に問題があるトルコを揺さぶることで、シリアにおけるロシアの立場を有利にしたいとの思惑も指摘されています。

****<露軍機撃墜>ロシアの狙い・・・課題抱えるトルコが米側弱点****
トルコによるロシア軍機撃墜を受けた両国の対立は、長期化の様相を呈している。ロシアは今回の事件をシリア問題における自国の立場の強化や米欧を揺さぶるための「カード」として、最大限活用する狙いとみられる。(中略)

ロシアがトルコを執拗(しつよう)に威圧する背景には、トルコがシリア領空爆で米国主導の有志国連合に加わり、北大西洋条約機構(NATO)の一員という点がある。

ロシアはシリア問題を巡り、国境管理などで課題を抱えるトルコが米側陣営の「弱点」になっていると判断した模様だ。

ロシアにとってシリアのアサド政権は中東で影響力を発揮するための重要な足場であり、シリア情勢打開へ向けた政治プロセスで自国の発言力を高めることを外交目標とする。

トルコとの対立は、アサド大統領退陣を求める米欧をけん制する手段となっている。

ロシア科学アカデミーのアラブ専門家、クズネツォフ氏はプーチン政権のシリア戦略について、「内戦の解決に成功し、自国の影響下にある政権を構築できれば、ロシアは中東の『調整者』になりうる。欧州は対露関係改善を迫られるだろう」と分析する。【12月4日 毎日】
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その後もロシアの強硬姿勢は変わっていません。

****ロシア軍への脅威「せん滅」=トルコけん制―プーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は11日、国防省で演説し、トルコ・シリア国境でのトルコによるロシア軍機撃墜を念頭に「再び挑発しようとする者に警告したい。ロシア軍の部隊や基地を脅かす者はせん滅する」と述べた。

ロシア国営テレビが伝えた。ロシアが求める謝罪を拒否するトルコを、強くけん制した格好だ。【12月11日 時事】 
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****ロシア艦、トルコ漁船に警告射撃=エーゲ海で接近は「挑発****
エーゲ海の公海上で13日、ロシア黒海艦隊の警備艦「スメトリブイ」が、接近してきたトルコの漁船に警告射撃した。人的被害の情報はないが、ロシア国防省は「トルコによる挑発行為」と非難した。(後略)【12月14日 時事】 
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トルコ側が求めた首脳会談も、「謝罪」を前提とするロシアが拒否したようです。

****ロシア・トルコ首脳会談が中止に 関係改善遠のく****
15日に予定されていたロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領による首脳会談の中止が決まった。ロシアのペスコフ大統領報道官が14日、明らかにした。両国の関係改善は当面望めない状況だ。

タス通信によるとペスコフ氏は、ロシアのサンクトペテルブルクで予定されていた首脳会談について「行われない」と述べた。トルコ軍機によるロシア軍機撃墜後、エルドアン氏はプーチン氏との会談を申し入れていた。トルコにまず謝罪するよう求めているロシア側が蹴ったとみられる。【12月14日 朝日】
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トルコ国内外で揺さぶりをかけるロシア
プーチン大統領は17日の会見でも、撃墜への謝罪を拒否するエルドアン政権との対話は行わない考えを改めて強調しました。

****プーチン大統領“トルコと対話行わない****
ロシアのプーチン大統領は年末恒例の大規模な記者会見を開き、ロシア軍の爆撃機の撃墜を受けて緊張が続くトルコとの関係について、エルドアン政権との対話は行わないと強調し、トルコに対する経済制裁を拡大する可能性も示唆しました。(中略)

この中で、緊張が続くトルコとの今後の関係について、「政府間のレベルでトルコの指導部との関係を立て直す見通しはない」と述べ、撃墜への謝罪を拒否するエルドアン政権との対話は行わない考えを強調しました。

さらに、トルコとの人的な交流は続けるべきだとしながらも、「経済分野で一定の制限を行う必要に迫られている」として、トルコに対する経済制裁を拡大する可能性も示唆しました。

一方、ロシアがトルコ南部で進める原子力発電所の建設計画については、「ロシアの原子力公社とトルコのパートナーの企業どうしの問題だ。ロシアの経済的な利益を損なう措置は取っていない」と述べ、ロシア側が一方的に計画を破棄することはないとしています。

また、ロシアからトルコ経由でヨーロッパ南部にガスパイプラインを建設する計画についても、EU=ヨーロッパ連合が支持すれば進めるとしており、巨大プロジェクトに関しては当面、状況を見守る姿勢を示しました。【12月18日 NHK】
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このエルドアン政権との対話は行わない姿勢は、“事態収拾にはエルドアン大統領の退陣が必要との考えを示唆した発言だ。”【12月18日 朝日】とも。

そこまで言うと、当分の間は関係改善は望めない話にもなりますが、現実にはどこかで手打ちがなされるのでしょう。

ロシアはトルコ国内のクルド系野党勢力にも接近し、エルドアン政権を揺さぶる構えです。

****ロシア外相がトルコ野党党首と会談****
ロシアのラブロフ外相はトルコの野党党首と会談し、ロシアの爆撃機がトルコ軍に撃墜されたことを巡って対立を深めるエルドアン政権に圧力をかけるねらいがあるものとみられます。

ロシアのラブロフ外相は23日、モスクワを訪れたトルコの野党でクルド系政党のデミルタシュ党首と会談し、ロシアとトルコの2国間関係について意見を交わしました。

会談の冒頭、ラブロフ外相は「今のトルコの指導部がロシアの爆撃機に対して取った行動に対するロシアの対応は、すべてのトルコ国民に向けられているわけではない」などと述べ、農産物の輸入禁止などの制裁はあくまでもエルドアン政権に向けられたものだと強調しました。

これに対し、デミルタシュ党首は「われわれは、爆撃機が撃墜されたときのトルコ政府の対応を批判した。国家間の問題は起こりうるが、われわれは対話のドアを常に開き、民主的な手段で解決に努めるべきだ」と応じました。

シリアとトルコの国境付近で先月、ロシア軍の爆撃機が撃墜されたことを巡って、プーチン政権とエルドアン政権は対立を深めていて、今月15日に予定されていた首脳会談もキャンセルされました。

ロシアとしては、トルコ政府に長年反発してきたクルド人を支持基盤とする野党と関係を深めることで、エルドアン政権に圧力をかけるねらいがあるものとみられます。【12月24日 NHK】
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また、虐殺問題やアゼルバイジャンとの領土問題などでトルコと対立関係にあるアルメニアとの軍事関係を強化する形で、トルコ包囲網を強化しています。

****ロシアとアルメニア、カフカスにおけるMDシステムを統合****
ロシア国防省のショイグ大臣は水曜、モスクワで、アルメニアのオガニャン国防相と、カフカスの集団安全保障地帯に統一地域MDシステムを創設することに関する合意に調印した。(中略)

現時点でロシアはキルギスとタジキスタンとも統一地域MDシステムの創設を図っている。カザフスタンとは2013年に調印がなされており、ベラルーシとは既にロシアのMDシステムは統合されている。

CIS諸国国防大臣会議では、地域原則に基づくCIS諸国の対空防衛力統合はCISの統合MDシステムの発展における最重要の方向性である。【12月23日 SPUTNIK】
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ロシアが鳴り物入りで始めたブラックボックス解析は・・・・
一方、撃墜事件の真相を明らかにするうえで重要となるブラックボックス調査作業をTV中継して、透明性をアピールしていましたが・・・・。

****ブラックボックス解析不可能=トルコによる撃墜機―ロシア****
トルコとシリアの国境地帯で11月、ロシア軍機がトルコに撃墜された事件で、ロシア国防省当局者は21日、解析を試みたブラックボックスの内部が損傷しており「データ復旧は不可能だ」と説明した。タス通信が伝えた。

撃墜をめぐり、トルコはロシア軍機の領空侵犯を主張する一方、ロシアはシリア領空を飛行していたと反論している。ロシアは18日、ブラックボックスの解析に着手。透明性をアピールするため国営テレビで作業を一部生中継した。【12月22日 時事】 
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TV中継を観て、ロシアは記録内容に自信があるのだろうかと訝しく思っていたのですが。
内部損傷云々は本当だろうか・・・・あるいは、結果がわかっていての演出だったのか・・・・という感もありますが、下衆の勘繰りでしょうか。

“下衆の勘繰り”ということでは、トルコ・エルドアン大統領の“美談”も。

****トルコ大統領、一般男性の飛び降り自殺を阻止****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領が25日、同国イスタンブールのボスポラス橋から飛び降りようとしていた男性に対して弁舌を振るって説得し、自殺を思いとどまった男性と握手を交わす出来事があった。

男性は、金曜日の礼拝を終えたエルドアン大統領が欧州とアジアをつなぐ同橋を車で通り掛かったときにちょうど自殺しようとしていたとみられている。

通信社ドーガンによれば、男性は家庭の問題で以前から抑うつ状態にあったという。ボスポラス海峡に架かるボスポラス橋は高さ64メートルで、自殺が多い。【12月26日 AFP】
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動画を見たところ、あきらかに上記記事と異なるのは、自殺しようとしている男性を実際に説得しているの大統領ではなく、シークレットサービスの男性です。

自殺を思いとどまった男性は車中で待つエルドアン大統領のもと連れていかれますが、大統領はこの間スマホで電話中。自殺未遂原因となったトラブルの関係者へ「善処するように」との指示を行っているのでしょうか。

暗殺を恐れて毒見までさせているというエルドアン大統領ですが、こんな不審者を近づけていいのでしょうか?
あまりのタイミングに、当然に「ヤラセ」ではないか・・・との声は多々ありますが、まあ「ヤラセ」ならもっと上手に演出するのでは・・・という感もあり、真相はわかりません。

トルコは、ロシアに代わる新たなエネルギーの調達先としてイスラエルに接近
閑話休題
ロシア・トルコの対立ですが、トルコはロシアへの謝罪を拒否する一方で、2010年のイスラエル軍によるトルコのガザ支援船襲撃事件を受けて関係が悪化したイスラエルとの関係修復を進めています。

****トルコ ロシア関係悪化でイスラエル接近か****
爆撃機の撃墜以降、トルコとロシアの関係が悪化するなか、トルコとイスラエルが関係の修復に向けた秘密交渉を行っていると伝えられ、トルコがロシアに代わるエネルギーの調達先として、イスラエルへの接近を図っているものとみられています。

トルコとイスラエルは2010年、パレスチナ暫定自治区のガザ地区に支援物資を届けようとした市民団体の船がイスラエル軍に拿捕(だほ)され、銃撃でトルコ人9人が死亡したことをきっかけに、事実上の外交断絶の状態が続いてきました。こうしたなか、両国のメディアは、双方が関係の修復に向けてスイスで秘密交渉を行い、条件を確認したと伝えました。

具体的には、イスラエルが遺族への補償のための基金を立ち上げること、トルコがこの件に関する申し立てを取り下げ、イスラム原理主義組織ハマスへの支援をやめることなどが条件になっているということです。

そのうえで、両国は、イスラエル沖からトルコに天然ガスを供給するパイプラインの建設に向けた協議を始めるとしています。

22日には、トルコがイスラエルの要求に応える形で、ハマスの幹部を国外に事実上、追放しました。

両国の接近は、トルコ軍によるロシア機の撃墜以降、トルコとロシアの関係が悪化するなか、ロシアに代わる新たなエネルギーの調達先を確保したいトルコと、地域大国であるトルコと良好な関係を築いて自国の安全保障を強固にしたいイスラエルとの間で思惑が一致したことによるものとみられています。【12月23日 NHK】
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未だ「落としどころは」は見えず
今後、ロシアとトルコの対立がエスカレートした場合、あくまでも可能性の話としては、黒海と地中海をつなぐボスポラス海峡をトルコが封鎖することで、シリアへの艦船からの攻撃だけでなく、シリアに展開するロシア軍やシリア軍が日々必要とする厖大な武器・弾薬等の補給を担っているロシア海軍黒海艦隊の動きを封じるというオプションもあります。

しかし、現実的な問題としては、そこまでいけば「戦争」を覚悟したものになり、いかに強気のプーチン・エルドアン両大統領もそれは考えていないでしょう。

先述のように、どこかで手打ちがなされるのでしょうが、今のところその「落としどころ」は見えていません。
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イラン米大使館占拠事件の元人質へ36年経て補償金 来年1月にも対イラン制裁の段階的解除開始か

2015-12-25 22:20:00 | イラン

【12月25日 AFP】

イラン米大使館占拠事件
イランでは1979年、ホメイニ師を中心とするイスラム法学者などが実権を握る「イラン革命」が起き、それまで親欧米・世俗的な統治を行ってきたパーレビ国王は国外に脱出。
各国を転々とした元国王は、「がん治療」の名目でアメリカへの入国を求めました。

“アメリカのジミー・カーター大統領は、この要請を受けることでイランの新政権との間で軋轢が起きることを憂慮し、この要請を退けようとしたが、パフラヴィーの友人のヘンリー・キッシンジャー元国務長官らの働きかけを受け、最終的に「人道的見地」からその入国を認め、元国王とその一行は10月22日にニューヨークに到着し、アメリカに入国した。”【ウィキペディア】

アメリカが元国王を受け入れたことにイスラム法学校の学生らが反発し、11月4日にテヘランにあるアメリカ大使館を占拠し、アメリカ人外交官や警備のために駐留していた海兵隊員とその家族の計52人を人質に、元国王のイラン政府への身柄引き渡しを要求しました。これが444日に及ぶイラン米大使館占拠事件と呼ばれるものです。

“1979年11月に起きたイラン米大使館人質事件では、当初66人が人質となった。うち13人は同月中に解放され、1人が翌80年7月に健康悪化のため解放されたが、米国人52人が444日間拘束されていた。”【12月25日 AFP】

学生らによる行動は、シーア派の原理主義者が実権を握ったイラン政府が裏でコントロールしていました。

事件発生後、カーダー米大統領は元国王を出国させ、更に人質救出作戦も行いましたが失敗。占拠は長期化しました。

“カーター大統領は、1980年4月24日から4月25日にかけて人質を救出しようと、ペルシャ湾に展開した空母と艦載機による「イーグルクロー作戦」を発令し、軍事力による人質の奪還を試みた。
しかし、作戦開始後に作戦に使用していたヘリコプター、シコルスキー・エアクラフトRH-53D シースタリオンが故障した上に、ロッキードC-130輸送機とヘリコプターが接触し、砂漠上で炎上するという事故が起き作戦は失敗した。これによってイラン政府はさらに態度を硬化し、事態は長期化する傾向を見せた。”【ウィキペディア】

パーレビ元国王は亡命先エジプトで死去。事件を解決できなかったカーター大統領は再選を目指す大統領選挙でレーガン氏に敗北。レーガンが就任しカーターが退任する1981年1月20日に人質は444日ぶりに解放され、アメリカ政府が用意した特別機でテヘランを後にしました。

元人質に36年経て補償金
占拠期間も444日と長期にわたりましたが、元人質への補償金問題にも36年を要しました。

****イラン米大使館占拠、元人質に36年経て補償金 日額120万円****
イランの首都テヘランで1979年に起きた米大使館占拠事件で、444日にわたって武装学生グループの人質となった米国人53人に、ついに補償金が支払われることになった。

このほど米議会を通過した来年度予算案に盛り込まれた条項に基づき、元人質は拘束1日当たり1万ドル(約120万円)、最大440万ドル(約5億3000万円)を受け取れる。

1981年に結ばれた人質解放をめぐる合意により、元人質たちはイラン政府に賠償金を請求できず、これまで36年にわたり何の補償も得られずにいた。

しかし、米国で今年、米金融制裁下のイランと経済取引を行ったとして仏銀行最大手BNPパリバに罰金89億ドル(約1兆700億円)を科す判決が下ったことで、テロ被害者への補償金の財源が確保できた。
 
償金はイラン、北朝鮮、シリアなどの米制裁対象国と違法に取引をした企業に科せられた罰金が財源となるという。
 
ラク・オバマ米大統領が先週署名した予算案によれば、補償金の対象には、1983年のレバノン米大使館爆破事件や1998年にケニアとタンザニアで起きた米大使館爆破事件など、他の国家支援テロ攻撃の被害者も含まれている。【12月25日 AFP】
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補償金問題が前進した背景として、“過去にも元人質への経済的支援を求める法案が提出されたことがあったが成立には至らなかった。だが今回は、事件に題材を採った映画『アルゴ』が2012年に公開されたことや、今年のイランとの核合意などが追い風となった。”【12月25日 CNN】とも。

映画『アルゴ』は、“占拠事件発生の際、6名のアメリカ人外交官達が大使館からテヘラン市街に脱出し、カナダ大使公邸に匿われた。この6名に対しカナダ政府はカナダのパスポートを発給、更にCIAが彼らをカナダ人の映画撮影スタッフに変装させて脱出させる作戦を実行に移した”【ウィキペディア】ことを題材とした映画です。

拘束1日当たり1万ドル(約120万円)、最大440万ドル(約5億3000万円)・・・・結構な金額の“クリスマス・プレゼント”も思えますが、“人質になった外交官とその家族らは大使館の敷地内に軟禁状態に置かれ、行動の自由を奪われただけでなく、占拠当初は興奮した学生らから暴力を受けるなどした。”【ウィキペディア】という状況下で、命さえどうなるかわからない444日をすごしたことへの補償です。

また、事件後36年が経過し、元人質の多くが高齢になっています。
なお、“元人質の配偶者や子どもにも、60万ドルの一時金が支払われる。支払いの対象となるのは150人近いという。”【12月25日 CNN】とのこと。

イラン 制裁解除を求めるも、国内保守強硬派への配慮も必要
イラン核問題合意を受けて、アメリカとイランの関係は改善の方向にありますが、イラン最高指導者ハメネイ師は、アメリカ大使館占拠事件が起こった11月4日を前にした11月3日、イランの数千人の大学生と会談し、原則的な立場を強調しています。

****イラン国民がアメリカに友好の手を差し伸べることはない****
イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師が、「イラン国民は、イランを消滅させるためにあらゆる陰謀を駆使するアメリカに、友好の手を差し伸べることはないだろう」と強調しました。

ハーメネイー師は、3日火曜、1979年に在テヘラン・アメリカ大使館占拠事件が起こった日にあたる11月4日を前に、イランの数千人の大学生と会談し、イラン国民の覇権主義との戦いを、“歴史的な経験を支えにした、賢明で合理的な戦い”と呼び、「イランの国民とイスラム体制の覇権主義との戦いは、一部の人々の主張に反し、感情的で理にかなわない動きなどではなく、学術的な支えを持ち、経験と理性から生まれたものだ」と語りました。

また、1979年のイスラム革命勝利当初から、アメリカがイラン国民に敵対してきたことに触れ、「革命後、アメリカはしばらくの間、テヘランに大使館を置いていたが、1日たりとも陰謀を休めることはなかった。これは歴史的な経験であり、関係の確立によって、アメリカの敵対や陰謀が終わることはない」と語りました。

さらに、イラン人の大学生がアメリカ大使館を占拠したのは、アメリカ政府の陰謀の継続に対する反応だったとし、「アメリカ大使館から得られた証拠は、この大使館がスパイの巣窟、イラン国民と、誕生したばかりのイスラム革命に対する陰謀継続の拠点だったことを示していた」と語りました。

ハーメネイー師は、「アメリカは、過去37年の間ずっと、イランの現実を分析することができず、革命を根本から打ち倒そうとしてきたが、それに失敗した。今後も彼らが成功することはないだろう」と強調しました。

さらに、「アメリカは、可能であったなら、一瞬たりとも、イランのイスラム体制の打倒をためらうことはない。だが、イラン国民の洞察力により、彼らはこの目的を実現できずにいる」としました。

ハーメネイー師は、イラン国民の発展と力により、敵が核協議に参加することになったとし、「敵はこの協議の中でさえ、イラン国民の動きを止めることできるかもしれないと考え、敵対的な行動に出た」と述べました。

また、「アメリカは少しずつ、イラン国民の抵抗の理由が宗教的な信条にあることを悟った。そのため、今日、新たな手段を用い、こうした信条や価値観を攻撃してきたが、イランの若者、学生や生徒の知識が、このような策略の影響を退けるだろう」と強調しました。【11月3日 Iran Japanes Radio】
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そうは言うものの、経済制裁で疲弊したイランとしては、アメリカとの関係改善、制裁解除をなんとか急ぎたいのが本音でもあります。
ただ、アメリカを敵視する強硬派が存在し、また、制裁によって独占的利益を享受してきた勢力などもあって、そうした国内保守強硬派へ配慮しながらバランスをとった対応が求められているのも現実です。

****イラン 経済制裁解除後も米製品の輸入禁止****
核開発問題を巡って、アメリカなどと最終合意に達したイランは経済制裁が解除されても、アメリカ製品の輸入を禁止することを発表し、アメリカとの関係改善によって影響力を失いかねない国内の保守強硬派による巻き返しの動きが背景にあるとみられています。

イランでは核開発問題を巡って、アメリカなど関係6か国と最終合意に達したあと、穏健派の政権のもとでアメリカとの関係改善が進むことを強く警戒する保守強硬派が反米路線の徹底を図っていて、国政の実権を握る最高指導者のハメネイ師も「アメリカの侵入を許してはならない」などと呼びかけています。

こうしたなか、イランのメディアが14日伝えたところによりますと、イラン政府は227品目に上るアメリカ製品を輸入禁止の対象にすることを決め、そのリストを国内すべての州当局に配布したということです。イラン政府としては最終合意に基づいて経済制裁が解除され、各国との貿易が活発化しても、アメリカ製品の流入だけは拒む構えです。

また保守強硬派の一部からはアメリカのみならず外国企業の参入は必要ないという意見も出ていて、今回の決定の背景にはアメリカとの関係改善によって影響力を失いかねない国内の保守強硬派による巻き返しの動きがあるものとみられています。【12月15日 NHK】
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来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除開始か
一方、制裁解除へ向けた動きは概ね順調に推移しているようです。
国際原子力機関(IAEA)は過去のイラン核疑惑の解明プロセスに終止符を打つ決議を全会一致で採択、来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除が始まる公算が大きくなっています。

****過去の核疑惑解明に終止符=イラン問題でIAEA理事会****
国際原子力機関(IAEA)の特別理事会が15日、ウィーンの本部で開かれた。

理事会は、イランが2003年末まで核爆発装置開発に関する組織的活動を行ったが、現在そうした情報はないとした事務局の報告書を踏まえ、過去のイラン核疑惑の解明プロセスに終止符を打つ決議を全会一致で採択した。

02年に発覚した秘密裏のイラン核計画に対する検証作業は大きな区切りを迎えた。欧米など6カ国とイランは今年7月、イラン核問題解決に向けた最終合意に達しており、今後、イラン核活動の制限が順調に進めば、来年1月にも欧米などの対イラン制裁の段階的解除が始まる公算が大きくなっている。

7月の最終合意に際し、IAEAとイランは核疑惑解消に向けた行程表で一致。IAEAは今月初めにまとめた報告書で、全容解明には至らなかったとの立場を取りつつ、「(核爆発装置開発が)研究や技術獲得という水準を超えて行われることはなかった」と指摘した。

6カ国が作成した決議は「行程表の全活動は計画に沿って履行された」と評価し、「この件の検討を終了する」と明記した。

一方で、IAEA事務局長に対し、イラン核活動について年4回理事会に書面で報告するよう要請。「懸念事項」が見つかった場合の通知も求めており、理事会が「適切な行動」を起こせる余地を残した。

西側外交筋は「今後の力点はイランの現在の核活動と将来に向けた核計画のチェックに移る。だが、必要が出てくれば、過去の疑惑に再び目を向けることになる」と述べた。【12月16日 時事】 
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イラン、アメリカ双方の国内保守強硬派や、イランを敵視するイスラエルなどには不満も多い合意でしょうが、いたずらに対立を続け、武力衝突の危険を高めるよりは賢明な選択に思えます。

「アメリカに死を!」「悪の枢軸」と罵りあう両国関係が改善に向かうのであれば、日本周辺の硬直した関係も、一部にようやく修復へ向けた環境もできつつあり、今後を期待したいところです。
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タイ軍事政権  「事態はまだ正常化していない」・・・批判封じの現体制を正当化  「正常化」とは?

2015-12-24 22:31:40 | 東南アジア

(23日、バンコクの首相府で演説するプラユット暫定首相(EPA=時事)【12月23日 時事】)

歴代国王賛美のための公園建設で、軍事政権幹部の汚職疑惑
タイ軍事政権が王室権威を利用する形で社会秩序維持を図っていることは、12月11日ブログ「タイ 王室権威に依った秩序維持に努める軍事政権 高齢国王のもとで現実問題となる王位継承」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151211で取り上げたばかりですが、その軍部が歴代国王をたたえるための公園建設で私腹を肥やしているのでは・・・との汚職疑惑があるようです。

****<タイ軍政>王賛美の公園事業で汚職疑惑 批判封じを強化****
タイで、陸軍が歴代の王をたたえるために開設した公園事業を巡る汚職疑惑が浮上している。

軍政は、政権幹部を巻き込んだ疑惑への批判が、反軍政の抗議活動に転化するのを警戒。今月に入り、デモを計画した学生らを多数拘束したり、インターネットで汚職疑惑に関する画像を共有した男性らを逮捕したりするなど締め付けを強化している。

疑惑の舞台は中部フアヒンに歴代国王7人の巨大銅像が設置されたラチャパック公園。事業費は約10億バーツ(約34億円)とされ、9月に開設された。

地元メディアによると、業者から関係者に不正な「手数料」が渡った疑いが浮上。整備当時に陸軍司令官だったウドムデート副国防相の側近らの関与がうわさされている。市場価格の3倍以上でヤシの木を購入するなど、不自然な経費計上も指摘された。

国防省は11月下旬に汚職疑惑についての調査委員会を発足させ、近く調査結果が公表される見込み。しかし、「身内」による調査でどこまで真相に迫れるかは不明だ。

軍政は、国王を頂点としたタイ社会の秩序回復と政治家の腐敗撲滅を「改革」の柱に掲げ、タクシン元首相派政権を打倒した昨年5月のクーデターを正当化する。だが、王制賛美を目的とした公園事業で汚職が行われていたとすれば、そうした大義名分が揺らぐ。

疑惑を巡り、タクシン派政党が真相解明を求める声明を出すなど、言論統制下で抑え込まれてきた反軍政の動きが表出しつつある。

これに対し、軍政は11月30日、「調査」のため公園を訪ねようとしたタクシン派団体幹部2人を軍施設に一時拘束。12月7日には抗議行動で公園に向かっていた学生ら30人以上を治安当局者らが取り囲み、一時拘束した。

また、汚職疑惑を図解した画像をインターネット上で共有したとして、男性工場従業員ら2人をコンピューター犯罪などの疑いで逮捕。従業員はフェイスブックに投稿された国王の加工写真に「いいね!」をクリックしたほか、ネットに国王の愛犬を中傷する画像を拡散させたとしたとして、王室に対する不敬罪でも立件された。【12月19日 毎日】
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“「身内」による調査でどこまで真相に迫れるかは不明だ”・・・・王室と軍部という極めてデリケートな問題に絡む、軍事政権の大義名分が揺らぐ話ですから、真相が明らかにされることはないでしょう。

真相究明より、疑惑への批判を封じ込めることに全力を傾けることが容易に想像できます。
批判を許さず、身内の浄化ができない、そういう体質が軍事政権の弊害のひとつです。

軍事政権が批判封じの道具としているのが王室批判をしたという不敬罪と、批判的意見の媒体となるネット情報に関する統制です。

****王室批判放置は有罪=編集者への判決覆らず―タイ最高裁****
タイ最高裁は23日、ニュースサイト「プラチャタイ」のネット掲示板に掲載された王室批判の違法な投稿を直ちに削除しなかったとして、コンピューター犯罪法違反の罪に問われた女性編集者に対する下級審の有罪判決を支持した。AFP通信によると、編集者は「判決に失望している」と述べた。

編集者のチラヌット・プレムチャイポーンさんは、王室を中傷する内容の投稿を20日間放置したとされる。2009年に逮捕され、12年の一審判決で禁錮8月と執行猶予1年、罰金2万バーツ(約6万7000円)を言い渡され、二審判決もこれを支持していた。

タイでは不敬罪と共にコンピューター犯罪法での摘発が増加。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのアダムズ・アジア局長は今回の判決について「タイ政府は表現の自由に対する締め付けをさらに強めている」と懸念を表明した。【12月23日 時事】
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タイはいつから北朝鮮になったのか?】
そうしたなかで、軍事政権を率いるプラユット暫定首相が何をしているかと言えば、愛国心を鼓舞する曲の作詞だそうで・・・・。

****2曲目の「愛国歌」披露=暫定首相、自ら作詞―タイ****
タイ軍事政権は22日、プラユット暫定首相が自ら作詞したとされる歌を報道陣に披露した。愛国心を鼓舞する歌詞で、昨年5月のクーデター以降、プラユット氏が歌を作ったのは「タイに幸福を取り戻す」に次いで2曲目。

新曲のタイトルは「あなたがタイだから」。地元メディアによると、「あなたを愛し、何よりも固い絆で結ばれている/あなたがタイだから/誰にもあなたを破滅させはしない」などといった内容のバラードで、プラユット氏は記者団に「国民への個人的な新年の贈り物として作った」と説明した。

愛国心に訴えて国民に団結を促す狙いがあるとみられる。一方で軍政は、反政府活動家の身柄拘束や不敬罪による摘発などで、軍政や王室に批判的な動きを徹底して封じ込める姿勢を崩していない。【12月22日 時事】
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作詞が悪いとはいいませんし、すばらしい趣味だとは思いますが、暫定首相の地位にある者が強権で批判者を封じ込めながら、「あなたを愛し、何よりも固い絆で結ばれている」という歌詞を「国民への個人的な新年の贈り物として作った」という感覚は理解できません。

周辺に群がる人間が、「前回の曲も国民に大変好評でした。是非また・・・」なんてことを言っているのでしょうか。
それにのっかる人間もまた・・・。

一方、軍事政権の仕事ぶりを絶賛する世論調査が公表されたそうで、そもそも批判者などは殆ど存在しないという政権側の立場を正当化しようというものに思えます。

****タイ世論調査 政権に満足99%に批判の声****
東南アジアのタイで、軍主導の暫定政権が世論調査の結果として、政権の仕事ぶりに満足と答えた人が99%に上ったと発表しましたが、タイ国内では「調査は全く信頼できない」とか「政権を長く維持しようという動きではないか」といった批判の声が上がっています。

タイでは、去年5月の軍事クーデターをきっかけに発足した軍主導の暫定政権が続き、民政復帰が遅れています。
暫定政権は、先月末から今月上旬にかけてタイ各地で行ったとする世論調査の結果を発表しました。

それによりますと、政権の仕事ぶりに満足していると答えた人は99.3%、福祉や治安などの対応に満足という答えも90%以上に達したとしています。

これについて、地元の新聞は調査結果を一面で報じる一方、調査結果は全く信用できないとか、軍主導の政権を長く維持しようという動きではないかという批判の声を伝えています。また、ソーシャルメディアでも「北朝鮮で行われる調査結果に近い」などと厳しい批判の声が目立っています。

タイのプラユット暫定首相は23日、首相府で演説し「私は、民主主義ということばを拒んでいるわけではなく、選挙が必要ならばやる。メディアは世論をあおるようなことはやめてほしい」と述べましたが、民政復帰の時期が大幅に遅れているだけに、タイ国内では軍主導の政権への不信感が強まっています。【12月23日 NHK】
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“政権の仕事ぶりに満足していると答えた人は99.3%”・・・・まさに北朝鮮のような社会でない限りありえない数字です。タイはいつから北朝鮮になってしまったのか?

政権が自身を正当化するために数字をでっち上げたのであればまだしも、本当に99.3%が好意的な評価をした、批判した者が殆どいなかったというのであれば、反対意見を口にできない強権支配体制という点で、“でっちあげ”より大きな問題でしょう。

先述のプラユット暫定首相の作詞にしろ、この99.3%という数字にしろ、その神経を疑ってしまいます。
権力にあるものは、かくも現実が見えなくなるものでしょうか。

軍事政権が考える“正常化”は、タイ民主主義の封殺
「私は、民主主義ということばを拒んでいるわけではなく、・・・」とのことですが、反対意見が自由に表明できることが大前提である民主主義を嫌悪しているのでは・・・と思ってしまいます。

タイでは9月、不評の憲法案を国家改革評議会において政権側の意向で否決し、軍政が新たに任命した憲法起草委員会が改めて憲法案の起草作業を進めています。

現行のロードマップ(行程表)では、2016年夏に憲法案の賛否を問う国民投票が実施され、承認されると17年6月に総選挙、同7月にも民政復帰が想定されています。

****タイ暫定政権、独裁を正当化 総選挙、早くて17年半ば****
軍主導のタイ暫定政権は23日、今年1年の国家運営を振り返る記者会見を開いた。プラユット暫定首相は「事態はまだ正常化していない」として、言論の自由などを封じたいまの体制を2017年半ばまで続けることを正当化し、国民に協力を求めた。

軍部は14年5月にクーデターを決行。以後、軍主導の最高機関、国家平和秩序評議会(NCPO)が独裁体制をしいている。民政復帰のための新憲法案起草作業はずれ込み、総選挙は早くて再来年半ばとみられる。

プラユット氏は会見で「私が人権を侵害していると言う者は、我々が異常な状況にあるということを理解する必要がある」と語った。

また「我々には民主主義が必要だ。しかし、これまでのような政治混乱を繰り返すわけにはいかない。総選挙までの1年半の間に、そのことを考えねばならない」と述べ、タクシン元首相派と反タクシン派の対立からくる政治の不安定さをなくす必要性を強調した。

ただ、NCPO・暫定政権はタクシン派への抑圧を強めているとの指摘が多く、プラユット氏が言う「改革」は同派の復活を封じ込め、軍や官僚、財閥などの伝統的な支配階層の特権を守るのが狙いとの見方が根強くある。

軍事独裁体制が長引くにつれ、軍支配に反発する学生による小規模な抗議行動が散発的に起きるようになっている。

反軍的行動を封じるために多用されているのが国王や後継者の侮辱を禁じる不敬罪(最高刑禁錮15年)で、人権NGOによると昨年のクーデター後、不敬容疑で訴追されたのは約60人、うち46人が拘束されている。

不敬にあたると当局が判断したフェイスブックの画像に「いいね」をしただけの行為も含まれ、乱用への批判が国際人権団体から出ている。【12月24日 朝日】
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「事態はまだ正常化していない」・・・・批判を表明することが“正常”ではないと考えるのであれば、軍事政権が考える“正常化”とはタイ民主主義の封殺を意味します。

クーデター前のタイ政治がタクシン派と反タクシン派の対立で機能不全に陥ったのは事実ですが、それはインラック政権の失政だけでなく、軍の介入を期待する反タクシン派の執拗な街頭行動、タクシン派を狙い撃ちにした司法機関の政治介入などが大きな原因でした。

“正常化”とは、批判を許さない体制をつくることではなく、政治的意見の対立が、街頭行動や司法介入などで“不毛の対立”とならないように、両勢力の信頼醸成を促すことではないでしょうか。
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アフガニスタン  強まるタリバンの攻勢 充分に機能しない政府・軍

2015-12-23 22:49:57 | アフガン・パキスタン

(【https://www.youtube.com/watch?v=gObr2xuok0k】)

タリバン内部の抗争 マンスール師の生存も不明
アフガニスタンのイスラム原理主義武装組織タリバンは、最高指導者オマル師の死を公表したのち、これまで和平交渉にも関与してきたといわれるナンバー2のマンスール師が後継者となりましたが、当初から強硬派を中心に組織内部で同師に反撥する勢力があり、内部分裂の可能性も言及されていました。

その後、オマル師の家族の支持も取り付け、一応マンスール師が組織内を掌握したかのようにも見えていましたが、幹部会合で銃撃戦が起き、幹部5人が死亡し、最高指導者のマンスール師も重傷を負ったとの情報が、今月2日にアフガニスタン政府から公表されました。

かつての東映ヤクザ映画「仁義なき戦い」シリーズを連想させるような情報ですが、タリバン側はこの情報を否定し、マンスール師のものとされる「そのようなことは決して起きていない。敵の宣伝行為だ」との音声メッセージを公表しています。

しかし、このメッセージの信憑性を疑う声がタリバン内部からも上がっています。

幹部会における銃撃戦の有無、マンスール師の生存については・・・よくわかりません。

****タリバン幹部、最高指導者マンスール師生存に疑問符****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの複数の幹部は6日、最高指導者アクタル・マンスール師が生存している証拠として公開された音声メッセージの信ぴょう性に疑問を呈した。元最高指導者オマル師の死を隠ぺいしていた指導部に対する不信感があらわになっている。

4日にパキスタンで起こった銃撃戦でマンスール師が死亡したと、多くの情報筋や武装勢力周辺が伝えたことを受け、タリバンは5日夜、同師のものとする16分間の音声メッセージを公開した。

しかし、タリバン創始者で初代指導者であるオマル師の死を2年にわたって隠していた指導部に対し不信感をもっている幹部らは、マンスール師の消息に関しても依然、疑いを抱いている。

南部ヘルマンド州を拠点とするマウラウィ・ハニフィ司令官はAFPに対し「私は(公開された)音声を聞いたが、偽物のようだ」と語った。「マンスール師の声をまねたものだと思う。マンスール師自身が2年の間、私たちをだましていたのに、どうして今、これを信じることができるだろう」

もう一人のタリバン幹部は、新しい指導者を選んで「この突然のショック」から組織が抜け出るために、タリバンは時間稼ぎをしていると指摘し「もっと証拠が必要だ」と結論づけた。また別のタリバン幹部2人も同様の疑念を表明し、マンスール氏は負傷によって4日に死亡したと主張した。【12月7日 AFP】
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真相はわかりませんが、メッセージの信憑性を疑う声がタリバン内部から出るということは、組織内に深刻な対立があることは間違いないでしょう。

治安情勢は今年になって悪化
問題は、そうした組織混乱がタリバンの活動にどう影響するかという点ですが、最近のアフガニスタン情勢を見ると、組織混乱にもかかわらず、あるいは、内部対立があるために(強硬姿勢を示すことで内部支持獲得を目指すとか、強硬派への指導部コントロールが効かなくなっているとか・・・)、タリバンの攻勢が強まっています。

****タリバンの空港襲撃、27時間後に終結 少なくとも50人死亡****
アフガニスタン国防省の10日の発表によると、南部カンダハルの空港が旧支配勢力タリバンに襲撃された事件は9日夜、空港施設に立てこもって抵抗を続けていた武装集団の最後の1人を軍が殺害し、発生から27時間後に終結した。死者は少なくとも50人に上るという。

事件は8日、11人からなる武装集団が厳重な警備をかいくぐり、北大西洋条約機構(NATO)軍とアフガン軍の共同基地としても使用されている空港施設に侵入。民間人を人質に取り、アフガン軍との間で銃撃戦となった。

武装集団の複数のメンバーが民間人の中で自爆。国防省は声明で「兵士10人、警官2人、民間人38人の計50人の罪のない国民がこの襲撃で死亡した」と発表した。死者には女性や子どもも含まれている。また、少なくとも37人が負傷したという。【12月11日 AFP】
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****アフガン首都のタリバン襲撃、スペイン人含む警官6人死亡****
アフガニスタンの首都カブールの大使館地区にあるスペイン大使館近くで11日夜から12日未明にかけて起きた旧支配勢力タリバンによる襲撃事件の死者は、アフガニスタン人警官4人、スペイン人警官2人の計6人となった。(中略)

11日夕方、警備の厳重な同地区で複数回の爆発と銃撃戦が起きた。この数時間前に、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は、タリバンとの和平交渉が数週間以内に再開するとの見方を示したばかりだった。(後略)【12月12日 AFP】
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和平交渉再開が示された直後の襲撃ということで、和平交渉に反対する勢力による妨害行為とも見られます。

21日には、首都カブール近郊のバグラム空軍基地付近で自爆テロによって米兵6人が死亡、今年起きた米兵への攻撃の中では最悪の事態となりました。

****<アフガニスタン>タリバン自爆テロで巡回中の米兵6人死亡****
アフガニスタンの首都カブール北方のバグラム空軍基地近くで21日、旧支配勢力タリバンによる自爆テロがあった。

米国防総省によると、兵士らが基地の外を巡回していたところ、爆弾を積んだ車両が自爆攻撃をしかけ、米兵6人が死亡し、米兵2人と契約業者の計3人が負傷したという。

米軍は現在約9800人をアフガンに駐留させ、アフガン軍の訓練や作戦指導などを行っている。当初は2016年末までに米大使館警備要員約1000人を除いて撤退させる方針だったが、治安悪化に伴い、16年までは現在の9800人規模を駐留させ、16年末か17年初めに5500人規模に削減して継続駐留させる方針に転換した。

アフガンには、カーター米国防長官が18日に電撃訪問したばかりだった。【12月22日 毎日】
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和平交渉どころか、アメリカの撤退計画にも暗い影がさしています。

“米国防総省の発表によれば、アフガンの治安情勢は今年になって悪化しており、11月15日までのアフガン治安部隊の犠牲者は前年同期比で27%増えた。治安部隊の能力は「むらがあり、寄せ集めだ」という。”【12月22日 産経】

かつて米英軍が激戦を展開したサンギン地区もタリバンが制圧
こうしたテロ活動だけでなく、タリバンの軍事攻勢も強まっています。

“タリバンは最近になって急速に支配地域を拡大している。37地域を支配下に置き、うち15地域はこの2か月で獲得した。”【12月29日号 Newsweek日本版】

そうした攻勢のひとつが南部ヘルマンド州サンギン地区の攻防です。

****<アフガニスタン>州副知事、フェイスブックで救援要請****
アフガニスタン南部ヘルマンド州の副知事が20日、治安部隊による救援をガニ大統領に求める内容をフェイスブックに投稿した。AP通信などが報じた。

同州では旧支配勢力タリバンとみられる武装勢力との間で激しい戦闘が続き、この2日間で治安部隊90人以上が死亡したといい、副知事は「いま政府が行動を起こさなければヘルマンド州を失うだろう」と訴えた。

報道によると、副知事はガニ大統領に宛てて「フェイスブックは適切な場ではないが、私の声が届かないので、他にどうすべきか分からなかった」としたうえで、「ヘルマンド州を助けてほしい。安全だというウソつきの言葉には耳を貸さないで」などと書き込んだ。副知事はAP通信に対し「これ以上黙っていられない」と話したという。

タリバンは今秋、北部の主要都市クンドゥズを一時制圧するなど攻勢を強めており、各地で治安が悪化している。【12月21日 毎日】
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タリバンの攻勢にさらされていることはもちろん問題ですが、副知事が「私の声が届かないので・・・、安全だというウソつきの言葉には耳を貸さないで」と大統領に訴えるという事態は、アフガニスタン政府内の機能不全を示しており、もっと大問題です。

“アフガン国防省は21日に部隊を増派、英軍も支援のため人員を現地に派遣した”【12月22日 産経】とのことですが、結局、南部ヘルマンド州のサンギン地区はタリバンが制圧したと報じられています。

****タリバーン、アフガン南部の要衝をほぼ制圧****
アフガニスタン南部ヘルマンド州のサンギン地区が22日までに、反政府武装勢力タリバーンにほぼ制圧された。同地区では数日前から戦闘が激化していた。

サンギン地区の警察責任者によると、タリバーンはすでに、同責任者宅とアフガン軍拠点の2カ所を除く全域を占拠した。

アフガンでは昨年12月、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)が任務を終了し、治安権限を政府に移譲した。それまでの数年間、サンギン地区では米英軍とタリバーンが激戦を展開していた。

同地区はヘルマンド州の州都ラシュカルガーと州北部をつなぐ戦略的要衝。タリバーンはここを掌握すれば、北方への物資補給ルートを確保することになる。

警察責任者によると、サンギン地区での戦闘は1カ月以上続いていたが、戦況はこの3日間、最悪の状態に陥っていた。警察では多数の死者が出て、弾薬も底をつきかけているという。

ヘルマンド州の副知事は先週末、同州がタリバーンに制圧される恐れがあるとして、ガニ大統領に救援を求める異例の公開書簡をフェイスブックに投稿していた。

知事はこの中でサンギン地区に言及。中心部の市場や政府機関がタリバーンの猛攻にさらされ、ゲレシュク地区と合わせてアフガン治安部隊員90人が死亡したと訴えていた。【12月22日 CNN】
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この地域は“それまでの数年間、サンギン地区では米英軍とタリバーンが激戦を展開していた”ということで、TVのBBC放送では、何のための戦闘だったのか、何のために流した英兵の血だったのか・・・というイギリスの思いも感じられました。

なぜ、いつまでもタリバンが勢力を維持できるのか?】
タリバンがここにきて攻勢を強められるのは、同勢力がこれまでパキスタン側に撤退しただけであったこと、そのパキスタン側で物資・人員を補給して攻勢に出ていることが推測されます。

以前からパキスタンの軍部、特に情報機関ISIがタリバンを支援していると言われていますが、その点を明確に否定する形に持っていかない限り、アメリカやイギリスが撤退計画を見直そうが効果はなく、アフガニスタン政府の命運も危ういものに思われます。

ベトナム戦争時に北ベトナム・ベトコンを支援したソ連・中国はアメリカにとって影響の及ばない敵対国でしたが、パキスタンは“一応”アメリカの同盟国です。こうした状況が放置されているのは不思議なところです。

内部対立を抱えて和平交渉に踏み出せないタリバン、相変わらず機能不全のアフガニスタン政府・治安部隊、早くアフガニスタンから手を引きたいアメリカ・・・2016年のアフガニスタン情勢はあまり明るくなさそうです。
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ケニアのテロで起きたある「出来事」 アメリカで高まる排外主義、その結果を喜ぶのは・・・

2015-12-22 23:05:37 | アメリカ

(「イスラム教徒入国禁止」発言後も支持率を伸ばすトランプ氏 【12月14日 ロイター】)

【「殺すなら一緒に殺せ。そうでないなら放っておけ」】
一時は、ウガンダ軍とブルンジ軍からなるアフリカ連合ソマリア平和維持部隊(AMISOM)がかろうじて死守する首都モガディシオの一部を除いて、ソマリア中南部を広く支配したイスラム過激派「アル・シャバブ」ですが、2011年頃から、大干ばつに対応できず民心が離反したこと、リビアのカダフィ政権が崩壊し支援が途絶えたこと、米無人機の攻撃で幹部が次々暗殺されたことなどから急速に弱体化、2011年8月には首都モガディシオから撤退しました。

こうした形勢を見たかのように隣国ケニアが2011年10月にアル・シャバブ掃討のためソマリアへ侵攻し、アル・シャバブはソマリアにおける拠点都市はすべて失うまでに縮小しています。

しかし、面的支配が縮小した一方で、テロ攻撃を強めており、掃討作戦の中核となったケニアに対しても頻繁にテロをしかけています。
67人が犠牲になった2013年のケニアの首都ナイロビの「ショッピングモール襲撃事件」は、アル・シャバブの名を世界に知らしめることにもなりました。

特に、ケニア北東部にはソマリア系住民が多く、アル・シャバブはこの地区を頻繁に攻撃しています。

今年4月にはケニア北東部ガリッサのガリッサ大学をアル・シャバブが襲撃し148人を殺害しましたが、その際、発砲する前に信仰する宗教を尋ね、ムスリムを多く解放する一方で、キリスト教徒を射殺したとされています。

2014年12月にはマンデラ近くでアル・シャバブがクリスマスのためナイロビへ向かっていたバスを襲撃し、ムスリムではない乗客28人を殺害しています。

そうしたアル・シャバブによるテロが頻発しているケニア北東部での出来事です。

****ケニアで襲撃 ムスリム、キリスト教徒をかばう****
ケニア北東部マンデラ県のソマリア国境付近で21日、イスラム過激派勢力がバスを襲撃したところ、ムスリム(イスラム教)の乗客たちがキリスト教徒たちをかばったという。バス会社がBBCに確認した。襲撃では少なくとも2人が死亡したという。

マンデラ県のアリ・ロバ知事が地元メディアに話したところによると、国境沿いのエルワク村近くで、ソマリアを拠点とする過激派勢力アル・シャバブの兵士がバスを襲った。アル・シャバブは犯行を認めている。バスは首都ナイロビからマンデラ町へ向かっていた。

知事は「地元住民は愛国心と仲間意識を示した」と述べ、乗客たちの団結を目にしたから武装勢力は立ち去ったのだと話した。

報道によると、ムスリムの乗客は兵士らに「殺すなら一緒に殺せ。そうでないなら放っておけ」と告げ、キリスト教徒たちと分けられることを拒否したという。

バス会社「マカー」社員は襲われたバスの運転手の話として、ムスリムの乗客たちがキリスト教徒たちと離れることを拒否したとBBCの取材に確認した。

バスを降ろされた乗客のひとりが走って逃げようとしたところ撃たれ、死亡したという。(中略)

BBCニュースのバシュカス・ジャグソダーイ記者によると、キリスト教徒が殺された昨年の事件の影響で他の地域からマンデラ県へ来て働いていた教師や医療関係者2000人以上が、県を退去してしまったことなどから、地域のムスリム系住民も相次ぐ襲撃による打撃を強く受けている。

今回、ムスリム教徒たちがキリスト教徒をかばったのは、そうした事態へのいら立ちも背景にあるのではないかと記者は指摘している。【12月22日 BBC】
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****過激派襲撃からキリスト教徒を守ったムスリムの勇気*****
・・・ソマリアのイスラム過激派「アルシャバブ」の武装グループは、ケニアのマンデラ郡でバスに発砲して停車させると、バスに乗り込んで乗客をイスラム教徒とキリスト教徒に分け、キリスト教徒の乗客を殺害しようとしたと、BBCは報じている。

「私たちは、イスラム教徒ではない乗客の何人かに、イスラム教徒の衣服を与えて、見分けがつきにくくした。そしてしっかりと体を寄せ合った」と乗客の1人だったイスラム教徒のアブディ・モハマド・アブディはロイター通信に語った。「最後は武装グループも諦め、また戻ってくるぞと悪態を付きながら降りていった」

マンデラ郡知事のアリ・ロバは、ケニアのデイリー・ネーション紙の取材で、この証言が正しいことを認めている。「乗客はイスラム教徒ではない人たちから離れるのを拒否し、皆殺しにするか、さもなくば立ち去れと武装グループに迫った」という。同紙によると、バスには62人の乗客が乗っていた。(後略)【12月22日 Newsweek】
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詳しい事情はわかりませんが、報道が伝えるような話であれば、宗教の違いを理由にした暴力が横行しているなかでは救われるような話でもあります。

共和党支持者の47%は、イスラム教徒がアメリカに切実かつ重大な脅威となっていると考えている
一方、大統領選の予備選挙に向けた選挙活動が行われているアメリカでは、イスラム過激派だけでなく、広くイスラム教徒全体への嫌悪感・反感が燃えさかっています。

****排外主義の暴走とテロの悪循環****
・・・これまで「イスラム過激派」の暴力を非難していた共和党政治家たちが最近イスラム教徒全体をやり玉に挙げ、
反イスラム的発言をたしなめる人たちを弱腰呼ばわりし始めているのは、危険な傾向だ。

しかも、そのたぐいの発言を支持する有権者がいる。

ブルームバーグ・ポリティクスの世論調査によれば、共和党予備選に投票するつもりだという回答者の3分の2近くは、イスラム教徒の一時入国禁止というトランプの主張を支持している。
この主張により、トランプに投票する可能性が高まったと答えた人も、3分の1余りいた。

共和党支持層のかなりの割合は、イスラム教徒(この点ではアメリカ国籍を持つイスラム教徒も例外でない)に強い警戒心を抱いている。

最近の世論調査によると、共和党支持者の47%は、イスラム教徒がアメリカに切実かつ重大な脅威となっていると考えている。

イスラム教の価値観はアメリカの価値観と相いれないと考える人は、76%。イスラム教徒のシリア難民の入国を認めるべきでないと考える人は、80%を超えている。(後略)【12月22日号 Newsweek日本版】
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社会全体に広がる恐怖心を煽る偏狭な差別主義
パリ同時多発テロやアメリカ・カリフォルニア州サンバーナディーノの福祉施設で12月2日に発生した銃乱射事件のような事件が起きているのは事実ですが、一方で、イスラム過激派の代表的存在となっているイスラム国(IS)は、徐々にではありますが、その支配を縮小させる方向にあります。

****IS支配地域、今年14%縮小 米シンクタンク****
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の支配地域は2015年に14%縮小し、一方でシリアのクルド人が掌握する地域はほぼ3倍になったとの見解を、国際軍事情報企業IHSジェーンズ(IHS Jane's)が21日、明らかにした。

ISが失った要衝には、戦略的に重要なトルコと国境を接するシリアの町テルアビヤドやイラクのティクリート、バイジの石油精製施設などがある。

ISはさらに、同組織のシリアの拠点ラッカとイラク北部モスルを結ぶ高速道路を失い、物資の供給が難しくなっているとみられている。

「ISの石油生産設備を標的とした最近の空爆強化に先立ち、テルアビヤドの国境検問所の支配力を失ったことで、ISは財政的に悪影響を受けている」と、IHSジェーンズの中東部門の上級アナリストは述べている。

IHSジェーンズによれば、ISの支配地域は2015年1月から12月14日までの間に1万2800平方キロ縮小して7万8000平方キロになったという。

しかし、ISは今年、シリアの古代都市パルミラやイラク最大のアンバル州の州都ラマディなども制圧している。【12月22日 AFP】
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上記ラマディに関しても、イラク軍による制圧作戦が進行中です。(なかなか完全制圧に至らず、時間を要してはいますが)

****イラク対テロ部隊、IS制圧都市ラマディに進攻****
イラクの治安部隊は22日、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」に今年5月以降、制圧されている同国中西部アンバル州の州都ラマディ中心部に進攻した。

イラクの対テロ当局の報道官は「ラマディの数か所から中心部へ進入し、住宅地域で掃討を開始した。72時間以内に一掃できるだろう」と語った。前夜から開始された新たな動きにより、ラマディ全体の奪還を目指している。

ラマディで戦闘を行っているのは対テロ精鋭部隊で、米軍主導の有志連合による空爆支援を受け、さらに警察、イラク軍、ISに対抗するスンニ派部族の部隊からも支援を受けているという。【12月22日 AFP】
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なかなか根絶できないにしても、イスラム過激派の勢いが強まっている訳ではありません。

しかし、アメリカ国内のテロへの不安感は9.11同時多発テロ後では最高にまで高まっています。
その背景には、そうした不安感を煽り立てるような大統領選挙候補者の差別主義的な言動があるように思われます。

****排外主義の暴走とテロの悪循環*****
アメリカは今、恐怖に取りつかれている。フランス・パリの同時多発テロとカリフォルニア州サンバーナディーノの銃乱射事件を受けて、テロに対する人々の危機意識は急激に高まった。

ニューヨークータイムズ紙とCBSテレビの共同世論調査によると、テロリズムは06年以降で初めて、経済を上
回る最重要課題となった。

回答者の44%が、今後数力月以内にアメリカは再びテロの標的になる可能性が非常に高いと考えている。01年の9.11同時多発テロ後では最高の比率だ。

テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の「首都」とされるシリアのラッカは繰り返し空爆を受け、
彼らの「領土」は縮小しつつある。反ISISの戦いに参加する国々も増え続けている。

それでもアメリカ国民は、過去10年間で今が最も危険な状態だと感じている。まるで、イスラム過激派の戦闘員が目の前にいるかのようだ。

その理由はISISの攻撃が激化したからでも、彼らのプロパガンダがこれまで以上に効果を挙げているからで
もない。

個人と国家の安全に対する人々の懸念が、アメリカの政界で大きなうねりを巻き起こしている。
この点はヨーロッパも同様だ。フランスでは、極右・国民戦線が最も人気のある政党にのし上がった。(中略)

事件後に銃の販売数が急増
アメリカでは、社会全体に広がる恐怖心と共和党内部の偏狭な差別主義が結び付き、人々の不安をあおることに
しかならない極端な言動を生み出している。

その典型例が、共和党の大統領候補指名レースのトップを走る不動産王ドナルド・トランプだ。トランプは先週、一時的なイスラム教徒のアメリカ入国禁止を提案した。

扇動的かつとっぴで非現実的な案だが、このところ共和党の大統領候補たちは、この種のばかげた反イスラム的
発言を公然と口にしてきた。

元小児神経外科医のベン・カーソンは、以前からイスラム教徒はアメリカの大統領になるべきではないと繰り返している。だが合衆国憲法は、宗教に基づく公職就任への差別を明確に禁じている。

パリの同時テロ直後、トランプやジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、テッド・クルーズ上院議員は、アメリカ入国を希望する難民に「宗教テスト」を実施するか、さもなければキリスト教徒のシリア人だけに入国を許可するという提案をそろって支持した。

全米各地の州知事(ほとんどが共和党出身)は、州内へのシリア難民の受け入れを拒否する声明を相次いで発表した。だが、実際には州知事に受け入れを拒否する権限はない。それに難民たちには、アメリカで起きたテロ事件の責任はない。

アメリカでは予想どおり、14人が死亡したサンバーナディーノの事件後、銃が飛ぶように売れ始めた。(後略)【12月22日号 Newsweek日本版】
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社会の恐怖心・不安感を煽りたてるようなトランプ氏の差別主義的な発言を、オバマ大統領は強く批判しています。

****米大統領がトランプ氏批判 「国民あおっている****
アメリカのオバマ大統領は、来年の大統領選挙に向けて野党・共和党で支持率トップのトランプ氏が過激な主張を繰り返していることについて、みずからの選挙戦を有利に運ぶため国民の不満や不安をあおっていると批判しました。

来年11月に行われるアメリカ大統領選挙に向けて、共和党で支持率がトップのトランプ氏は、隣国メキシコからの不法移民を強制送還する考えを示すとともに、イスラム教徒の入国を禁止すべきだなどと主張しています。

こうしたなかオバマ大統領は、21日に放送されたアメリカメディアのインタビューで、移民の増加をはじめとする人種構成の変化や賃金が上がらないといった経済状況が、労働者などの怒りや反発につながっていると指摘しました。

そのうえで、「トランプ氏のような人物は選挙戦でそこにつけ込み、食い物にしている」と述べ、トランプ氏がみずからの選挙戦を有利に運ぶため国民の不満や不安をあおっていると批判しました。

また、過激派組織IS=イスラミックステートへの対策を巡っては、「大統領選挙の討論会などで共和党の候補者は、われわれが現在行っている軍事作戦などを批判しているが、代わりに何をするのか尋ねると答えがない」と述べ、トランプ氏らの政権批判に反論しました。

オバマ大統領の発言はトランプ氏が過激な主張を繰り返すことで、アメリカ社会の分断が深まりかねないという、危機感を強めていることの表れだと受け止められています。【12月22日 NHK】
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欧米の被害妄想と極端な振る舞いがISの計画に手を貸す形になっている
トランプ氏のような排外主義に走ることは、社会の分断を深刻化し、結果的にイスラム過激派を利することになります。

****排外主義の暴走とテロの悪循環****
・・・・世論に押されて、アメリカとヨーロッパが「要塞化」して、部外者を締め出すようになる可能性がある。ヨーロッパでは既に、EU圏内の移動の自由を定めたシェングン協定の崩壊が危惧されている。これは、EUの設立理念
に関わる問題であり、EUを完全に変質させる事態だ。

一方、アメリカが反イスラムの偏見の牙城になれば、米政府が中東諸国と戦略を調整することが一層難しくなるだろう。

しかし、もっと切実な危険がある。欧米の態度がISISの望みをかなえてしまう可能性だ。
その望みとは、世界宗教戦争の開戦である。ISISの指導部は一貫して、真のイスラム教徒と異教徒の戦いを説いてきた。

ISISは、欧米の社会に亀裂と対立と恐怖を生み出すような標的を選んで攻撃している。欧米の反イスラム感情が高まれば、イスラム教徒への迫害や排除が格段に起きやすくなる。ISISに加わるイスラム教徒を増やす上で、これほど好都合なことはない。

支持者や戦闘員が増えれば、ISISは支配地を拡大させ、さらに多くのテロを実行できるようになる。

欧米にとっては悪循環だが、欧米の被害妄想と極端な振る舞いがISISの計画に手を貸す形になっている。アメリカやフランス、ハンガリー、チェコなどの国々の排外主義化かISISを強化するとすれば、地政学上の影響は計り知れない。

これが現実になったとき、私たちの恐怖は真に切実なものになる。【12月22日号 Newsweek日本版】
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現在横行している排外主義は共和党支持者内では多数派となりえても(そのことは重大な問題ですが)、本選挙の全体レベルでは抑止されると見られてはいますが・・・。

おそらく、過激な排外主義は、アメリカの得にならないアジア・アフリカのことなどにかかわる必要はないといった対外的無関心とも根底で通じるものがあると思われます。その点では日本にも影響する話でしょう。
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