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(新疆ウイグル自治区カシュガルの中心部の繁華街。人通りが多い場所では3人一組で巡回する警官の姿が目立つ=6月22日(三塚聖平撮影)【7月5日 時事】)
【「力」で封じ込まれた「平静」】
中国・新疆ウイグル自治区で2009年7月に起きたウルムチ暴動から12年が経過しましたが、ここ数年は目だった衝突・事件は報じられていません。
それはウイグル族など少数民族の不満が和らいだからではなく、中国政府が「強制収容」や監視体制強化など「力」で不満を封じ込めたからにすぎないことは周知のところです。
*****沈黙のウイグル族 ウルムチ暴動12年、コロナで厳戒****
中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区ウルムチで2009年に発生した少数民族ウイグル族の大規模暴動から5日で12年となった。暴動は当局が「テロ対策」の名目でウイグル族への抑圧を強化した一つの契機。自治区では当局が新型コロナウイルス対策として厳戒態勢を強める状況もうかがえる一方、ウイグル族は沈黙を迫られていた。
「新疆は良い所。各民族が幸せに暮らしている」
暴動で激しい衝突があったウルムチ中心部の国際大バザール(市場)ではウイグルの軽快な民族音楽が流れていた。歌詞は標準中国語(漢語)だった。
街は地下鉄駅ができるなど観光地として整備が進み、暴動の痕跡を示すものはみられない。ただ、多くの監視カメラが異様な雰囲気を漂わせていた。
自治区では共産党政権下で漢族の大量流入が続いてきた。200人近い死者が出た暴動の背景には、そうした中で強まったウイグル族への差別的な扱いや両民族の経済格差が背景にあったと指摘される。だが、中国政府はウイグル族の抜本的な不満の解消よりも、治安対策を優先させた。
19年の発表によると、14年以降、自治区で1万2995人を「テロリスト」として拘束。「脱過激化」のためとして「職業技能教育訓練センター」にウイグル族らを収容した。国連人種差別撤廃委員会は収容人数を100万人以上と報告。国際社会では「強制収容」との批判が高まっている。
ウルムチ出身という漢族の男性タクシー運転手は「治安は良くなった。ウイグル族に教育を施して働けるようにしているのに、海外(諸国)が大げさに言っている」と批判を一蹴。ウイグル族については「警戒感は残っている。経済的にも漢族より支援を受けている」と語り、両民族の亀裂の深さをうかがわせた。
特に監視態勢が厳しいのは、ウイグル族が人口の約9割を占めるカシュガル。至る所で3人一組の警官が警棒や盾を持ち巡回していた。「カシュガルは好きか?」。ウイグル族のタクシー運転手に質問すると言葉を濁した。運転席と後部座席には防犯カメラが設置されていた。監視や密告を恐れているとみられる。
厳戒態勢はコロナ対策としても強まっている。
「住民か、事前に団体旅行の予約がないと町には入れない」。小説「西遊記」の舞台となった火焔山(かえんざん)で有名なトルファンの高速鉄道駅で、防護服姿の女性が冷たく言った。上海から子供を連れて旅行に来た男性は「中国各地でこんな所はない」と憤った。
ウルムチやカシュガルのホテルでは、チェックイン時に館内に設けられたPCR検査場で検査を受けることを求める。コロナ対策が厳しい中国でも他にない態勢で、ワクチンを打っていても例外は許されない。
トルファンで教師をしている漢族男性は「各地では検問所が多く設けられ、以前は対象外だった漢族の車も一律に調べられる」と説明。過去にテロ事件が起きた場所で特に警戒が厳しくなっているとささやいた。
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ウルムチ暴動 2009年7月5日、新疆ウイグル自治区ウルムチで起きた大規模暴動。広東省の工場でウイグル族が漢族に襲われて死亡した事件への抗議デモがきっかけとなり、一部が暴徒化し漢族や治安部隊と衝突。当局発表で197人が死亡、1700人以上が負傷した。【7月5日 産経】
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【ウイグル族弾圧を中国批判の最前線に位置づけるアメリカ】
アメリカは激しい米中対立にあって、このウイグル族弾圧を人権問題という視点から、中国批判の「有効なカード」と位置づけ前面に押し出す展開となっています。
****中国の「民族大量虐殺」初明記 米国務省、議会報告書****
米国務省は12日、大量虐殺や残虐行為の防止に関する年次議会報告書を発表し、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと米政府として認定したことを明記した。ブリンケン国務長官は記者会見で「今年初めて報告書で特定の国の残虐行為を直接、詳細に記した」と説明した。
報告書は、この1年間の米政府の取り組みを振り返る内容。ポンペオ前国務長官が1月に初めて認定した中国によるウイグルでのジェノサイドと人道に対する罪を、ブリンケン氏も追認した。
具体例として「投獄、拷問、強制不妊手術、迫害」などを挙げた。【7月13日 共同】
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ウイグル族弾圧問題での対中国圧力を強めるアメリカが制裁措置に加えて標的としているのが、新疆ウイグル自治区に関わるサプライチェーン(供給網)を持つ企業です。
ウイグル産品はウイグル族強制労働による可能性があるため、これを排除するように企業に迫っています。
****中国ウイグル・サプライチェーン産品の排除迫る 米政府「法律違反リスク」****
バイデン米政権は13日、中国新疆ウイグル自治区に関わるサプライチェーン(供給網)を持つ企業に対し、「米国法に違反する高いリスク」があると警告する文書を発表した。
ウイグル族らへの強制労働や、人権抑圧の監視活動に関与する恐れがあるとして、供給網から同自治区の産品を排除するよう迫る内容だ。
国務省が財務省や商務省など5省庁と連名で文書を出した。ブリンケン国務長官は声明で、自治区でジェノサイド(民族大量虐殺)や人道に対する罪、強制労働が続いており、企業や同盟国と連携して「中国政府に対する説明責任の追及を強めていく」と強調した。
文書は綿花やトマトなどの農産品、ポリシリコンなど再生可能エネルギーの関連部材、携帯電話や電子部品、衣類や靴、玩具など幅広い製品を例示。企業が抱える供給網が「直接、間接的に」強制労働に関与していないか慎重に点検するよう求めた。
供給網だけでなく、中国企業への投資や、合弁設立といった多様な企業活動での注意を促している。
トランプ前政権下の今年1月には、米税関当局がファーストリテイリングが運営する「ユニクロ」のシャツの輸入を差し止めた。バイデン政権もウイグル自治区の強制労働に厳しく対応しており、中国企業への禁輸措置を相次いで発動してきた。今回、トランプ前政権が昨年7月に発出した企業向けの文書を更新し、警告を強めた。【7月14日 産経】
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【欧米の規制標的となるユニクロなどウイグル産品使用企業】
上記記事にもあるように、トランプ前政権の頃からユニクロはウイグル・サプライチェーン産品として圧力がかかっていますが、アメリカと歩調を合わせる欧州・フランスでは「人道に対する罪」の隠蔽容疑で告発を受けています。
****仏当局、ユニクロなどを捜査 ウイグルでの強制労働巡り****
中国・新疆ウイグル自治区での強制労働問題をめぐり、ユニクロのフランス法人などフランスで衣料品や靴を販売する4社に対して、人道に対する罪に加担した疑いで仏検察が捜査を始めたことがわかった。仏調査報道機関のメディアパルトが1日、報じた。
報道によると、捜査対象となったのはユニクロのほか、ZARAを展開するスペインのインディテックス、米靴大手スケッチャーズ、仏SMCP。
人権問題を扱うNGOなどが4月、ウイグル族らが労働を強制されている工場で作られた製品を扱っているとして4社を告発していた。捜査は6月末に始まったという。
ウイグル自治区は、良質な「新疆綿」の産地として知られ、世界のアパレル企業が供給元とする一方、中国当局による強制労働があるとして欧米当局が問題視している。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは5月、「生産過程で強制労働などの問題がないことが確認されたコットンのみを使用している」とのコメントを出している。【7月2日 朝日】
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ただ、“問題がないことが確認されたコットンのみを使用”とは言っても、どうやってそれが確認・担保できるのか・・・という疑問も。
****ウイグル人権問題で翻弄されるユニクロ 米中対立が激化する中「この混乱は始まりにすぎない」****
ユニクロを展開するファーストリテイリングの岡崎健取締役は15日、中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害問題について、「衣料品を作る縫製工場は第三者の監査機関に入ってもらい、人権に問題がないことを確認している」「生産を委託している中国の工場で自治区に立地する施設はなく、綿も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っているとしている」と説明した。
今年に入って、人権問題を重視するバイデン政権の誕生で中国との人権を巡る対立が激化しているが、ユニクロはその影響でフランスでの刑事告発(現地の人権NGOが人道の罪に触れる疑いで告発)や米国でのTシャツ輸入差し止めに直面している。フランス検察当局は既に捜査を開始しているという。
今回のファーストリテイリング側の発表では、いくつか疑問点が残る。
まず、“第三者の監査機関”とは具体的にどこなのだろうか。これが中国系であれば間違いなく信憑性に欠ける。現在、新疆ウイグル自治区で何が起こっているかを把握することは極めて難しいのだ。米当局や世界的なメディアでさえ、何が起こっているかを把握できていない。
たとえ自治区内に入れたにしても、問題の核心は絶対的にベールに隠されており、正に“中国の北朝鮮”がそこにあるというレベルだろう。ファーストリテイリング側には、政治的な動きを睨んだ行動を取ってほしいところだ。
また、“綿も生産過程で労働環境が適正に守られたものだけを使っている”と発言しているが、たとえ、栽培場所や縫製工場で労働時間や賃金払いが適正に守られていたとしても、それは問題をクリアーしたことにはならないのだ。
要は、強制的に栽培場所や縫製工場に連れて来られたり、移動させられたりしている可能性が十分にあり、それも欧米が強調する強制労働、人権侵害に該当するのだ。ファーストリテイリング側には、もっと広い視野でこの問題を考える必要がある。
しかし、これはユニクロだけに該当するものではなく、他のアパレル・衣料品メーカーにとっても対岸の火事ではない。新疆ウイグル産の綿花は世界の5分の1を占め、値段が安くて質もいいので、“脱”新疆綿は決して簡単な決断ではない。
米中対立が激化し、今後さらにエスカレートする恐れがある中では、ウイグル人権問題の政治化がいっそう進み、ウイグルとの関連が少しでも疑われるだけで企業の活動が制限される可能性がある。そして、それによって日本と欧米との経済・貿易関係で摩擦が拡大する恐れがあることを忘れてはならない。
一方、ウイグル人権問題で日本企業が欧米に足並みを揃え続けると、逆に中国の反外国制裁法に明記される「第3国」に日本が該当することになり、中国が日本企業に制裁を発動してくる恐れがある。
おそらく、今回のユニクロの問題は、“米中対立の中で混乱する日本企業の動き”の始まりにすぎないだろう。グローバル経済の中で、日本企業も選択肢はいっそう困難さを増している。【7月31日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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【規制は諸刃の剣の側面も 「強制労働」排除のための規制でウイグル族正規労働も失われる可能性】
ただ、通常の制裁措置で、対象国の市民生活が苦境を強いられることにもなるのと同様、ウイグル族「強制労働」への批判・規制措置は、現地におけるウイグル族雇用を困難にし、ウイグル族失業者を増やす側面もあります。
****ウイグル族の解雇じわり、中国の工場で方針転換*****
強制労働疑惑を追及する米国の輸入禁止リスクに直面
アップルのサプライヤーを含め、米国に製品を輸出する中国の工場で、新疆ウイグル自治区出身の労働者を避ける動きが出てきた。イスラム系少数民族に対する「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと糾弾する西側諸国が、強制労働への監視の目を強めていることが背景にある。
アップルの主要供給元で、タッチスクリーンメーカーの藍思科技(レンズ・テクノロジー)は、国家主導の労働移動施策を通じて確保したウイグル族の労働者の雇用を段階的に廃止した。元従業員や工場周辺の店主らの話で分かった。現従業員によると、同社はウイグル族の新規採用を停止した。
マスクメーカーの湖北海興衛生用品集団も、現在は新疆出身の労働者を雇用していない。匿名の従業員が電話取材で明らかにした。同社の個人用保護具(PPE)は米国の電子商取引(eコマース)サイトで販売されている。
その従業員によると、同社は昨年9月、強制労働疑惑を巡る追及の目が厳しくなったことを受けて、新疆出身者については雇用契約を更新しないことを決めた。
スポーツ用品大手ナイキ向けにスニーカーを製造する韓国テクワン・インダストリアルの中国子会社は、昨年4-6月期に新疆出身者を地元に送り返した。ナイキが2020年6月に同社ウェブサイトに掲載した声明で明らかにした。(中略)
これまで合計で数千人の新疆労働者を雇ってきた中国サプライヤーが一転して距離を置き始めている状況は、強制労働疑惑を巡り、企業が多大な圧力に直面していることを浮き彫りにする。中国に展開するサプライチェーン(供給網)から強制労働を排除するよう、欧米諸国の政府が多国籍企業へ要求を強めているためだ。
米ワシントンでは、中国当局の新疆政策を問題視する議員らがここ1年、新疆産の綿花やトマト、ポリシリコンなどの輸入禁止を通じて強制労働にメスを入れようとしている。
その結果、多国籍企業の間では、中国当局の逆鱗(げきりん)に触れないよう慎重を期しつつ、サプライチェーンの監査に取り組む動きが広がった。中には、新疆の原料や労働力が使われていないか突き止めるため、調査会社を起用したところさえある。
先週には、米上院が全会一致で「ウイグル強制労働防止法案」を可決。下院でも可決される公算が大きい。この超党派の法案では、国家主導のプログラムを通じて新疆労働者が生産した製品の輸入を禁止する内容で、輸入業者が該当しないことを証明できない限り適用される。
中国政府はいかなる人権侵害疑惑も否定。国家主導で行っているウイグル族などイスラム系少数民族向けの労働移動プログラムは、貧困撲滅の一環だと主張している。
だが、人権擁護団体は、労働環境について外部に情報をもらした労働者は処罰を受ける恐れがあると指摘している。また監査を担当する会社によると、労働者は当局からの報復を非常に恐れており、プログラムへの参加がどこまでが自発的なのか見極めるのが難しいとしている。
藍思科技は昨年に新疆の労働者を戻すまで、地元政府の労働移動施策を積極的に活用していた。
同社は2017年以降、国家主導の貧困撲滅プログラムを通じて新疆南西部のカシュガルから、少なくとも2200人の労働者を受け入れてきた。中国民政部管轄の政府部署が掲載した資料から分かった。
だが昨夏、新疆に関する追及が厳しくなると、同社は主要施設から400人余りを解雇した。
解雇された従業員は、労働契約が定める期間より前に解雇されたため、1万~1万9000元(約17万~32万円)の手当てを受け取ったという。解雇された元従業員の一人が明らかにした。同社はコメントの要請に応じていない。
中国の工場は通常、漢民族の雇用を望むことが多く、求人広告ではチベット族やウイグル族をあからさまに差別している。これら少数民族は標準中国語があまり話せないと雇用主は考えており、追加の管理が必要であるほか、安全面でのリスクもあるためだという。労働者の権利擁護を唱える団体への取材で分かった。
国家主導の労働移動施策は、安定的な労働力だけではなく(離職率が高い工場には魅力)、雇用した人数に合わせて補助金を提供することで、工場の関心をひきつけてきた。ネットの求人広告や労働移動施策の指針によると、新疆の地元政府は当局幹部や治安当局者を同伴させ、集団で少数民族を工場へと送ることが多い。
労働者に対しては通常、政治関連の記録を含め、配置される前に身元調査が行われる。2018年に新疆から藍思科技に送られた労働者は、事前に「統合ジョイント・オペレーション・プラットフォーム」(一体化統合作戦プラットフォーム、IJOP)による審査を受ける必要があった。
IJOPとは、新疆の少数民族を監視するため、潜在的な脅威になるとみられる人物を予測し、取り締まるためのプラットフォームだ。新疆東部トルファン市の人材担当部署が投稿した書類(現在は削除)から分かった。
だが、強制労働疑惑への追及が強まる中で、中国の工場では国家主導の労働プログラムへの参加を段階的に廃止するところが出ている。米国への輸出制限に直面する事態を避けるためだ。
しかし、人権擁護団体は、労働移動施策への参加を取りやめるのは前向きな動きとしながらも、新疆出身の労働者との関係を全面的に断つのは差別的であり、強制労働のリスクをはらんだ国家主導のプログラムに関する問題を解決することにはならないと指摘している。
そのため、国家主導の労働移動施策からは脱退しても、自発的な求職者については引き続き雇用すべきだと主張している。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の中国担当シニア研究員、マヤ・ワン氏は「これらの工場は公正な採用慣行よりも、スキャンダルを回避することに関心があるようだ」と話す。多数派の漢民族でさえ、独立した労組を結成しようとすれば弾圧に直面する中で、ウイグル族の労働者が当局に立ち向かい、自らの権利を守ることは不可能だという。【7月21日 WSJ】
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「強制労働」と無関係なことを証明することが困難な状況で、人権擁護団体の「国家主導の労働移動施策からは脱退しても、自発的な求職者については引き続き雇用すべき」という主張は無理な注文でしょう。
欧米諸国がウイグル族「強制労働」に焦点を合わせた対応を行えば、中国国内での「まっとうな」ウイグル族雇用も失われ、失業者が増え、生活は困窮する・・・そうした副作用は不可避でしょう。
強制労働の疑いがあるのでウイグル産品を排除せよ・・・というのは、そう単純な話でもありません。