孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  「民主主義疲れ」が生んだマルコス新大統領 父マルコス時代のインフラ整備を称える

2022-06-30 23:49:17 | 東南アジア
(就任式でのマルコス夫妻【6月30日 ロイター】)

【父マルコス元大統領は「それ以前のどの政権よりも多くの道路を建設した」】
フィリピンでは、1986年のエドゥサ革命で独裁者として国を追われたマルコス元大統領の長男、マルコス氏が大統領に就任しました。

マルコス氏は5月9日の大統領選挙で、副大統領候補のドゥテルテ大統領の長女サラ氏とペアを組み、対立候補のレニー・ロブレド氏(現職副大統領)をダブルスコアの大差で破りました。

****マルコス氏がフィリピン新大統領に就任 長期独裁政権を敷いた元大統領の長男****
フィリピンの新大統領に、長期の独裁政権を敷いた元大統領の長男、マルコス氏が30日、就任しました。

父親の時代に国が豊かになったとして、独裁政権時代を美化するとともに、大規模なインフラ整備を進めたドゥテルテ氏の路線を継承すると訴えました。

マルコス新大統領「目の前の、そしてこれから始まる仕事に集中すれば、私のもとで大きな成果を上げることができるはずだ」

就任のスピーチでマルコス氏は、多くの市民が弾圧された父親の独裁政権時代について、「それ以前のどの政権よりも多くの道路を建設した」などと称賛するとともに、前政権下で大規模なインフラ整備を進めたドゥテルテ氏の路線を継承すると訴えました。また、コロナ禍で悪化した経済の立て直しなどに意欲を示しました。

6年の任期を終えたドゥテルテ氏は、退任直前の世論調査でも支持率は75%に上り、人気はおとろえておらず、副大統領に就任した娘のサラ氏を通じて、影響力を維持しそうです。【6月30日 日テレNEWS】
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【インフラ整備を積極的に行ったドゥテルテ前大統領 それが人権無視の免罪符になる訳でもないが】
マルコス新大統領の話の前に、ドゥテルテ氏の話。

****ドゥテルテ比大統領退任へ 75%の高支持率維持****
フィリピンのドゥテルテ大統領(77)が30日、6年の任期を終えて退任する。超法規的な麻薬撲滅戦争や国内メディアの弾圧など強権的姿勢が批判を浴び、対中融和姿勢も物議を醸した。

一方で退任直前まで75%という高支持率を記録。強い個性で過激な発言を繰り出した〝暴言王〟は退任後も一定の政治的影響力を保つとみられている。

「私の努力で成し遂げられる最大の成果を実現した」。ドゥテルテ氏は5月23日、任期の6年間を誇らしげにこう振り返った。

2016年の大統領就任後、ドゥテルテ氏が最重要課題として取り組んだのは麻薬撲滅だ。容疑者と見なした人物を、司法手続きを経ずに殺害する撲滅作戦を展開し、無実の市民を含む最大3万人が殺害されたとされる。

強引な手法に批判的だったオバマ米大統領(当時)を「売春婦の息子」と罵倒してまで作戦を進めたが、麻薬組織の跋扈(ばっこ)は続き、本人も公約の未達を認めている。

また、批判的なメディアに圧力を加え、「ジャーナリストだからといって暗殺を免れることはない」と恫喝(どうかつ)。今月28日付でドゥテルテ批判を展開したニュースサイト「ラップラー」の法人登録を取り消すなど、最後まで強権ぶりを見せつけた。

6年間で「民主主義の空間が大幅に縮小した」とは地元紙、インクワイアラーの分析だ。

外交面では当初、中国への融和姿勢を強く打ち出し、米国との関係に亀裂が入った。だが、中国の覇権的な南シナ海進出を抑えられず、米国との関係修復に乗り出すなど軌道修正を図らざるを得なかった。

批判を浴びながらも、ドゥテルテ氏が支持を集めたのは事実だ。インフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」を通じて資本を投下し、日本も関わる首都圏の地下鉄整備事業などが動き出した。地元政治コンサルタント会社パブリカス・アジアは、高支持率を誇るドゥテルテ氏について「最も人気のある大統領」と評し、退任後も政治的影響力が残るとの見方を示した。

ただ、麻薬撲滅作戦をめぐって国際刑事裁判所(ICC)が「人道に対する罪」で捜査に着手しており、今後ドゥテルテ氏の手法の是非が改めて問われる展開もあり得る。インクワイアラー紙は「歴史がドゥテルテ氏をどう見るかは分からない。判断するには早すぎる」と指摘した。【6月29日 産経】
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ドゥテルテ前大統領については麻薬問題で超法規的殺人を容認するような強権手法が、その功績を是認するか、あるいは人権無視・非民主的手法を非難するかは別として、常に議論されますが、「ビルド・ビルド・ビルド」でインフラ整備を積極的に行ったという別の側面があるようです。

地下鉄建設で長年の問題だった交通渋滞の改善が期待されています。そうした積極的なインフラ投資もあって、世界銀行の統計によるとフィリピンの貧困率はコロナ前の2019年に20.8%と、2015年の26%から改善。借金は膨らんでいるものの、経済成長率は6%台前後と安定して伸びていました。

そうした経済的「成果」が国民支持率の高さの背景にあると推測されます。

ただ、そうした経済的な成果は人権・民主主義の面での問題の免罪符にはならないと私個人は考えます。
経済的成果を重視して、人権・民主主義の問題を軽視するなら、結局、国を追われたマルコス元大統領(父)の「開発独裁」を再現することにもなります。

麻薬問題での強権手法を是とする発想は、政府を批判するメディアへの圧力など、政治・社会全体に及びます。

この問題はドゥテルテ前政権の問題であると同時に、父マルコスの時代を賛美して当選したマルコス新大統領、それを是認したフィリピン社会の問題でもあります。

【「民主主義疲れ」の「逆行」を生む現実への対応】
ただ、そうした流れを批判するだけでなく、その流れを生みだしているものが何なのかを探り、対応する必要があります。

****「民主主義疲れ」が決めたフィリピン大統領選東南アジア諸国で「民主化の逆行」が始まるのか****
(中略)
今回の選挙(5月の大統領選挙)では中間層や低所得者層がマルコス支持に流れたとみられるが、彼ら彼女らの目には、(父マルコス氏を独裁者として追放した)エドサ革命後に政権を担った寡頭制民主主義下の伝統的エリートは「何もしなかった」どころかフィリピンを「むしろ悪くした」と映る。

筆者はASEAN10カ国すべてを訪問した経験があるが、フィリピンほど汚職が日常化している国はなかなかないと思う。交通警察が違反キップ取り下げの代わりに現金を要求するのを初めて目撃したのもマニラだった。また、マニラの商業モールには、銃を持った警備員がいる。他の東南アジア諸国ではほとんど見ない光景だ。マニラに広がるスラム街を夜間歩くときは、身の危険を感じる。

民衆の立場からすると、国際的に非難を受けながらも麻薬戦争で治安回復に取り組み、これまでの政権が手をつけられなかった警察腐敗の撲滅に切り込んだドゥテルテ大統領は「ようやくフィリピンを変えた」リーダーなのだ。

だからこそ、フィリピン国内で高支持率を維持してきた。当然、有権者としては主要候補の中で唯一ドゥテルテ路線の継承を訴えたマルコス氏を推すことになる。

一時的な現象と言い切れるか
前出のハウ教授は今回のマルコス圧勝について、「エドサ革命後の自由民主主義体制への、そしてその制度が自由と平等を実現できなかったことへの幻滅、『民主主義疲れ』が起きている明確な根拠があると思います」と総括する。自由についてはある程度実現したが、平等はおろか繁栄も実現できなかったという見方だ。

マルコス独裁時代が「暗黒時代」でなく「黄金時代」だったというナラティブ(物語)の反転、そして今回の選挙結果が許したマルコス一族再興の裏には、マルコス退場後からドゥテルテ登場までの30年間への深い失望があると見ていい。

そして、そのフィリピン政治の転換が、中国が東南アジアで影響力を拡大させる中で起きたことは特筆に値する。
父親が大統領の時代にフィリピンが中国と国交を樹立したことなどもあり、マルコス次期大統領は引き続き中国と良好な関係を築くとみられる。中国はまたドゥテルテ一族との関係強化を狙って、2018年に彼らの本拠地であるダバオ市に領事館を開設した。中国の努力は実った。

それは、今回の副大統領選で過半数の票を得て当選確実となったドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテ氏(43歳)が一気に2028年の次期大統領選の最有力候補に躍り出たからだ。現職のドゥテルテ氏から3代続けて親中政権が誕生する可能性は小さくない。

さらには、東南アジア全体への波及効果も気になるところだ。ASEAN大陸部に目を向けると、タイやミャンマーでは軍事政権が根付きつつある。隣国インドネシアでも、2024年に迫る次期大統領選挙へ向けて強権化と権威主義的傾向が強まることへの懸念が広がる。ジョコ大統領を、現行憲法では認められていない3期目に推す声が上がっているのだ。

マルコス当選確実の報を受け、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは「フィリピンに続き、インドネシアでも権威主義への回帰へ向けて機が熟している」と題した記事を掲載し、危機感を示した。

民主主義を放棄し、権威主義に逆戻りするのか
「インドネシアは、30年以上にわたって軍の後ろ盾で統治してきたスハルトを、同じく民衆の力で倒し、1998年にフィリピン、タイとともに東南アジアの民主主義リーグに加盟した。(中略)インドネシアは今、東南アジアの近隣諸国に対して、完全な自由を伴う民主主義が依然として最良の政府形態であり、成果をあげられるものである、そうした希望とインスピレーションを与える立場を守れるだろうか。それとも、民主主義を同じように放棄し、権威主義に逆戻りするのだろうか」

フィリピンで現在進行中の「逆行」を、安易な考えや誤解に基づいた有権者の一時的な揺れ動きと結論づけるのは早計だ。むしろ同国で長年蓄積されたやるせなさを反映した、「民主主義がすべてをよくするとは言えない」という意識の現れとして国際社会は直視すべきだろう。ことは構造的な問題なのだ。【5月28日 舛友 雄大氏 東洋経済ONLINE】
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なお、マルコス新大統領は就任式で“故マルコス大統領の実績も称えたが、過去を振り返るのでなく、より良い未来を目指すと訴えた。”【6月30日 ロイター】とも。

【微妙なサラ氏の立ち位置 将来的にマルコス氏と対立する状況の可能性も】
ドゥテルテ氏が長女サラ氏を通じて影響力を云々は、(大統領選挙立候補段階でいろいろあったように)ドゥテルテ氏とサラ氏の関係がよくわかりませんので、影響力云々もよくわかりません。まあ、父である前大統領を非難して責任を追求するということはないでしょうが。

こわもてドゥテルテ氏が恐れる唯一の人物とも言われるサラ氏は父親の操り人形になるような“やわ”な存在ではありません。国民的人気もマルコス氏を上回ります。それだけに今後、マルコス新大統領の統治が思うように進まなかったとき、どこまでマルコス氏を支えるのか・・・どこかでマルコス氏を見限る局面もあるのかも。 サラ氏が次期大統領を目指すというならなおさらでしょう。

****比で異例の副大統領宣誓式 マルコス氏に先行****
フィリピンのドゥテルテ現大統領の長女サラ氏(44)は19日、地盤の南部ミンダナオ島のダバオで次期副大統領として宣誓式を開いた。マルコス次期大統領は、大統領の就任宣誓式を30日に首都マニラで行う。

1987年制定の現行憲法下で正副大統領の宣誓式が違う日に行われるのは初めて。5月9日の正副大統領選で共闘したマルコス氏も出席した。

サラ氏の選挙の得票は約3221万票(得票率61.5%)で、約3163万票(同58.8%)だったマルコス氏を上回った。サラ氏は宣誓後の演説で「3220万人の声は大きく明白だ」と強調。子供のために力を尽くすと表明した。【6月19日 共同】
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【親中国路線の今後は状況次第】
親中国路線と言われたドゥテルテ前大統領ですが、中国の南シナ海進出を抑えられず、軌道修正も行われています。

****フィリピン、中国との南シナ海共同開発協力を終了****
フィリピンのテオドロ・ロクシン外相は23日、中国との南シナ海でのエネルギー共同開発事業について、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領から交渉を打ち切るよう指示があり、終了したと発表した。

両国はいずれも南シナ海の領有権を主張しているが、2018年、海洋資源を活用するため、石油・ガス開発で協力することで合意していた。

ドゥテルテ氏は、海域の大半の領有権を主張する中国に対して融和姿勢を見せ、20年10月には一時停止されていたフィリピン企業による同国沖での掘削を許可。両国の交渉加速が期待されていた。

しかしロクシン氏は、ドゥテルテ大統領が交渉を「完全に打ち切る」するよう指示したと明かした。指示があった時期については言及していない。

同氏は、「3年たっても、フィリピンにとって非常に重要な石油とガス資源を開発するという目的は達成されていないが、主権と引き換えに譲歩するつもりはない」と明言した。

オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は2016年、同海域に歴史的権利があるとの中国の主張は法的根拠がないと判断したが、中国側はこれを無視している。

在マニラ中国大使館にコメントを求めたが、現時点で回答は得られていない。 【6月24日 AFP】AFPBB News
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マルコス新大統領がどういう方針なのか・・・よくわかりません。マルコス氏は選挙戦で具体的な政策を何も語らず、討論会なども避けていましたので、どういう方向性を見せるのかはこれからの話です。

****マルコス比大統領が就任 「親中路線」修正示唆も****
フィリピンで30日、独裁体制を敷いた故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が大統領に就任した。マルコス氏は対外的にはドゥテルテ前大統領の親中路線を修正する構えも見せるが、具体的な政策では見通せない面が多い。36年ぶりに復権した「マルコス」がフィリピンをどう導くか。手腕が注目される。

首都マニラの国立美術博物館で行われた就任宣誓式には、日本から林芳正外相、中国から王岐山(おう・きざん)国家副主席、米国からハリス副大統領の夫エムホフ氏らが出席。新政権への国際的関心の高さをうかがわせた。

就任演説でマルコス氏は父の統治期に触れ、「彼は必要なサポートがあるときもないときも成果を挙げた」とインフラ整備などでの実績を称賛。「その息子もそうだろう」と続け、実行力をアピールした。

宣誓式には、父の時代に数千足の靴を保有して批判を浴びた母のイメルダ氏(92)も出席。1986年の「ピープルパワー(民衆の力)政変」でマラカニアン宮殿(大統領府)を追われたマルコス一族が復権したことを印象付けた。

マルコス新政権はドゥテルテ前政権の施策を大筋で継承する見通しだが、マルコス氏自身は公開討論会の参加を拒否するなど、政治信念や政策を積極的に発信していない。

国内では新型コロナウイルス禍で経済が疲弊する中、5月のインフレ率が5・4%となるなど物価高が進行。当面は経済対策に追われるが、どう対応するかは未知数だ。

外交面では南シナ海の最前線フィリピンを取り込もうと、米中がマルコス新政権に秋波を送る。マルコス氏は就任前、米中の間で「非常に繊細な道」を歩まなければならないと述べたが、南シナ海問題で「海洋権益が踏みにじられるのを許さない」とも宣言した。ドゥテルテ氏の親中姿勢と一線を画す可能性を示したが、「中国は友人」と語ったこともあり、外交姿勢も見通せない面がある。

地元政治評論家、リチャード・ヘイダリアン氏はドゥテルテ氏の親中路線について「多くの国民は何の実りももたらさなかったことに気づいている」と分析。マルコス氏は国民感情も踏まえ、米国との同盟関係維持に努めるとみている。

政権運営をめぐる不安要素もある。ドゥテルテ氏の長女、サラ・ドゥテルテ副大統領(44)の人気は絶大で、マルコス氏と対立する可能性がある。

父の独裁政権下では多数の市民が殺害され、最大100億ドル(約1兆3600億円)と試算される不正蓄財も問題化した。マニラ市内では抗議デモが行われるなど「マルコス復権」への反発も根強い。【6月30日 産経】
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マルコス氏は強い政治信念で動くタイプではなく、よく言えば臨機応変、悪く言えば場当たり的に動くタイプのようですから、中国・アメリカとの関係も状況次第でしょう。

フィリピン世論はアメリカに好意的ですから、その世論にのっかれば、対米関係改善の方向に行くのかも。
ただ、中国から大きなプレゼントがあれば・・・。

それにしても、“宣誓式には、父の時代に数千足の靴を保有して批判を浴びた母のイメルダ氏(92)も出席”・・・・世の中、どういう風に変わるかわからないものです。1986年当時、こういう状況を想像した人はいなかったでしょう。

こうした想像できないような変化を生みだしたのは、マルコス家が地域で隠然たる政治力を昔も今も有しているというフィリピン的政治風土でしょう。
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イギリス  問題山積のジョンソン首相の最大の難敵は進行するインフレ

2022-06-29 23:26:15 | 欧州情勢
(6月22日、米銀シティは、最新の物価統計を受け、英国の食品インフレ率が来年第1・四半期に20%に達するとの見通しを示した。写真は店で食料品をみている人。ロンドンで16日撮影【6月23日 ロイター】)

【求心力を失うジョンソン首相 国民の支持を失う与党】
イギリス・ジョンソン首相は、コロナ禍で国民の行動が規制されていた期間中に官邸などでパーティーが繰り返され、首相自身も参加していた問題を追及され、与党内で信任投票に追い込まれました。結果、何とか不信任は免れたものの、多くの不信任が明らかになったことで党内の求心力を失っています。

****ジョンソン英首相に大打撃 与党の不信任41%「予想以上」****
英与党保守党は6日、党首のジョンソン首相に対する信任投票を行い、信任多数で続投が決まった。

だが、不信任も投票した所属下院議員の41%に上り、タイムズ紙は当初の「予想以上」と報道、パーティー開催問題を巡る反発の深刻さが浮き彫りになった。政権には大きな打撃となり、党内の分裂や、求心力の一層の低下が予想される。

所属の全下院議員359人のうち、59%に当たる211人が信任、148人が不信任を選んだ。

ジョンソン氏は報道陣に、信任という「決定的な結果」を得たと強調したが、新型コロナ対策の規制下にパーティーを繰り返した問題への風当たりはなお強い。【6月7日 共同】
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型にはまらない、モラルとか誠実さとかにはもともとあまり縁がないジョンソン首相らしい大雑把さ、いい加減さで、ある意味、そういうところが人気の理由でもありますが、今回はコロナ禍で行動制限されていた国民の恨み・怒りを買うことになったようです。

与党・保守党はそんなジョンソン首相のもとで絶不調です。

****英下院補選で与党全敗=ジョンソン政権に打撃****
英下院2選挙区での補欠選挙は、24日までの投開票の結果、与党・保守党の候補がいずれも大差で敗北した。求心力低下が指摘されるジョンソン首相にとってさらなる打撃で、政権運営は一段と厳しさを増しそうだ。
 
2補選はいずれも保守党議員の辞職に伴うもの。新型コロナウイルス対策の規則に違反して首相官邸でパーティーが開かれていた問題や、物価高騰への対応などが争点だった。
 
中部ウェイクフィールド選挙区では最大野党・労働党の候補が勝利し、3年前の総選挙で保守党に明け渡した議席を奪い返した。南部ティバートン・アンド・ホニトン選挙区では野党・自由民主党の候補が当選した。

労働党のスターマー党首は英メディアで「保守党は国民からの信任を失った」と表明。保守党のダウデン幹事長は、敗北を受けて辞任した。【6月24日 時事】
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もっとも、“両補選とも保守党議員の辞職に伴い行われた。1人は10代の男子に対する性的暴行で有罪判決を受けて辞職し、もう1人は議会でポルノを視聴していたことを認めて辞表を提出。どちらも世論の注目を集めた。”【6月24日 ロイター】ということで、“負けるべくして負けた”とも言えますし、首相だけでなく、保守党議員の上から下までタガが緩んでいるとも言えます。

【EU離脱時の重要合意「北アイルランド紛議定書」を反故に】
そんなジョンソン政権は多くの難題に直面していますが、そのひとつがEU離脱の際の北アイルランドの扱いに関するEUとの合意を一方的に反故にしようとしている案件。

****英、離脱協定の一部ほごへ=法案提出、EUと関係悪化も―北アイルランド通関、一方的に省略****
英政府は13日、欧州連合(EU)離脱の際にEUと合意した英領北アイルランドに関する協定の一部について、一方的にほごにする改正法案を英議会に提出した。相手の同意のないまま国際的な合意を勝手に変更するもので、EUや国境を接するアイルランドとの関係悪化を招く可能性がある。

アイルランドのマーティン首相は「協定の一方的なほごは非常に深刻だ。信頼の核心に関わる問題だ」と非難。EU欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長(機関間関係・先見性担当)も「一方的な行動は相互の信頼を損ない、不確実性をもたらす」と批判した。

これに対し、トラス英外相は「この法案は北アイルランドの人々が英国の他の地域と異なる扱いを受けるという、耐え難い状況を終わらせるものだ」と強調した。【6月14日 時事】
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問題の内容については、5月23日ブログ“イギリス  国内的には苦境のジョンソン首相 北アイルランド議定書を放棄する意向”で取り上げていますので、今回は省略します。

ブレグジットの最後まで揉めた部分であり、イギリス・ジョソン首相が今の内容で同意したので離脱が何とか成立した経緯がある問題ですから、それを今になって反故にするというのはEUからすれば信義則に反する問題でしょう。

「この法案は北アイルランドの人々が英国の他の地域と異なる扱いを受けるという、耐え難い状況を終わらせるものだ」云々は当初からわかっていた話で、北アイルランド紛争を再燃させないためにはそれしか方法がないからそれで英・EU双方が合意した問題です。

今にして想えば、おそらく、ジョソン政権には当初から合意内容を守る意思はなく、離脱が成立したらあとは適当に・・・と考えていたのでしょう。

イギリス国内のハードルは第1段階をクリアしたようです。

****英の北アイルランド議定書法案、議会で最初のハードル越える****
英国議会は27日、欧州連合(EU)離脱後の英領北アイルランドを巡る通商ルールの一部廃止を可能とする「北アイルランド議定書法案」について、手続きを進めることを295対221の賛成多数で承認した。議会手続きの最初のハードルを越えた形で、今後は法案内容の精査に入る。

EUは一方的な行動は国際法に違反すると反発しており、英国内でもメイ前首相が「この法案は国際法上合法ではなく、目的を達成できず、世界から見た英国の地位を低下させるものであり、支持できない」と批判している。

また、この法案が最終的に上院(貴族院)に移ると、より大きな困難に直面する。貴族院では政府が過半数を押さえておらず、多くの議員が法案に懸念を表明しているためだ。【6月28日 ロイター】
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これもパーティー問題同様に、“ジョンソン首相らしい大雑把さ、いい加減さ”ではありますが、合意破棄は北アイルランドとアイルランド間にハードな国境管理を必要することになり、北アイルランド紛争の再燃に繋がりかねません。

また、EUとの国際合意を一方的に破棄するということで、仮に国内処理がうまくいったとしても、EUとの関係を悪化させるという大きな問題につながります。

【再燃するスコットランド分離独立問題】
スコットランド分離独立の話も再燃しています。

****英北部スコットランド、独立問う住民投票を来年10月に実施****
英北部スコットランド行政府(地方政府)のスタージョン首相は28日、独立の是非を問う住民投票を2023年10月19日に実施すると表明した。

住民投票の実施には英政府の同意が必要になるため、スタージョン氏は英国のジョンソン首相に書簡を送る意向を表明。英政府が住民投票実施を阻んだ場合、法的措置を取るとした。

スタージョン氏は議会で「独立の問題を抑圧することはできない。民主的に解決しなければならない」とし、「スコットランドの民主主義がジョンソン氏や、他のいかなる首相の捕虜になることがあってはならない」と述べた。

スコットランドの人口は約550万人。2014年に実施された1回目の住民投票で独立は否決された。ただスコットランド行政府は、英国の欧州連合(EU)離脱は住民の大多数が反対していたため2回目の投票が必要になるとの見解を示している。【6月29日 ロイター】
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2014年9月に行われた前回の住民投票では、独立反対派が55%と、賛成派の45%を大きく上回りましたが、世論調査では当時よりも差は縮小しているとも。

投票実施には英政府の承認が必要ですが、ジョンソン首相はこれまで反対を唱えており、実現するかどうかは不透明です。

【首相の最大の難敵はインフレ】
ジョソン首相にとって最大の難問は急速に進行するインフレでしょう。

****英鉄道職員4万人超がスト開始、賃上げ求め30年ぶり規模****
 英国で21日、過去30年間で最大規模の鉄道ストライキが始まった。賃上げを巡って4万人以上の職員がストに入り、数百万人の利用者に影響が出ることになる。

スト初日は大半の列車が停止し、主要駅は閑散とした状況だった。23日と25日にも予定されている。また、ロンドンでは地下鉄も独自のストに入り、大半が運休となった。

ジョンソン首相は、ストが新型コロナウイルス流行の影響からまだ立ち直れていない企業に打撃を与えると懸念した。

一方で労働組合側は、インフレ率が10%に達する中で、鉄道ストが教師、医療従事者、廃棄物処理業者などにも広がる可能性があると警告している。

鉄道海事運輸労組(RMT)のミック・リンチ事務局長は「RMTの組合員は、大企業の利益と政府の政策によって給与や条件が切り下げられることにうんざりしている全てのの英労働者を先導している」と述べた。

ユーガブの世論調査によると、スト賛成が37%、反対は45%となっている。【6月22日 ロイター】
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****英食品インフレ率、20%に上昇へ シティ予測****
米銀シティは22日、最新の物価統計を受け、英国の食品インフレ率が来年第1・四半期に20%に達するとの見通しを示した。

英国立統計局(ONS)が22日発表した5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比9.1%上昇し、40年ぶりの高い伸びを記録。特に食品価格が高騰した。

5月の食品・非アルコール飲料価格は前年比8.7%上昇。2009年3月以来の高い伸びとなった。(中略)

シティのエコノミスト、ベンジャミン・ナバロ氏はリポートで「食品インフレはわれわれの予測を上回った。23年第1・四半期に20%をやや上回る水準でピークに達する見通しで、生産者物価の上昇率は加速が続くだろう」と指摘した。

食品価格の上昇は他のインフレよりも賃金要求に大きな上昇圧力をかける可能性が高いとの見方も示した。【6月23日 ロイター】
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首相はウクライナ問題において「主戦論」をリードすることで外交面での存在感をアピールし、国内の諸問題を糊塗しようとしていますが、インフレの進行でそうした「主戦論」を維持することも難しくなるかも。

****4万人デモ、スタグフレーションの恐怖…ジョンソン英首相はウクライナ問題でいつまで主戦派を貫けるか****
物価高が続く英国で大幅な賃上げを求める鉄道のストライキが起きている。6月21日に始まったストライキに4万人以上の職員が参加し、1989年以来33年ぶりの大規模なものになった。地下鉄を中心に多くの路線で運行がストップし、通勤客など数百万人に影響が及んでいる。

インフレを理由に鉄道組合は「最低でも7%の賃上げ」を要求していたが、会社側は3%増の主張を譲らず、交渉が決裂した。両者の主張の隔たりが大きいことから、鉄道のストは断続的ながら数ヶ月続くと言われている。

「鉄道に続け」とばかりに教師、看護師、その他の労働者もストを起こす構えを見せており、130万人の公共部門労働者を代表するユニゾンは「ストを準備中だ」との見解を示している。

ストが多発する背景には、英国の実質賃金がインフレの影響で過去20年で最も大きく落ち込んでいるという事情がある。

今年3月から5月にかけて英国企業が賃金交渉で従業員と合意した賃上げ率は前年比4%と過去30年で最高の水準だった(6月21日付ロイター)が、インフレ率(4月は9%)がこれを大幅に上回ってしまったからだ。

ロシアのウクライナ侵攻後、英国でも物価高に拍車がかかっており、22日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年比9.1%増となり、40年ぶりの高い伸びとなった。主要7カ国(G7)の中でも最高の上昇率となっており、今年後半に11%を超えることが予想されている。

タクシー運転手が大量解雇
物価を押し上げた主な要因はエネルギーと食品価格の高騰だ。
英国のガソリン価格は1ガロン当たり約10ドル(米国の2倍)に達している。市民によるガソリンスタンドでの燃料の盗難事件は1日当たり最大3000件に上り、タクシー運転手や配送業従事者が大量に解雇されている事態も発生している。

英国の食品価格の上昇率は夏場に最大15%に達し、「来年半ばまで高止まりする」との予測が出ている(6月16日付ロイター)。

これらに加え、英国でインフレが激化している要因に雇用問題が挙げられる。
ブレグジット(欧州連合(EU)からの離脱)によって英国と欧州大陸間の労働力の自由な移動がなくなったが、英国の雇用主は労働力の代替先を見つけることができないでいる。

英国の労働力不足は主要先進国で最も深刻だ。約100万人分の労働力が不足している状況下で物価の高騰は労働力不足に拍車をかけている。

ジョンソン首相は「新型コロナのパンデミックから回復途上にある企業活動などに大きな打撃を与えることになる」と懸念しているように、ストの多発は今後の経済活動にとって大きな足かせになることは間違いない。

英国の国民がEU離脱を決めてから6年が経とうとしているが、市場関係者の間で「英国経済は危機的状況に陥るのではないか」との疑念が深まっている。

年初来からポンド安が続いており、輸入インフレ圧力が強まっている。今年第2四半期の国内総生産(GDP)はマイナスになる可能性が高まっているが、イングランド銀行(中央銀行)はインフレ抑制のために利上げを続けざるを得ない。

最大の貿易パートナーであるEUとの関係もこのところ悪化しており、労働力不足はさらに悪化するかもしれない。英国経済は主要国の中でスタグフレーション(不景気の下での物価高)に陥るリスクが最も高いとみなされている。

ロシアのウクライナ侵攻とこれに対する西側諸国の制裁により、世界経済は深刻なダメージを受けている。中でも影響が大きいとされる欧州では「交渉を通じて早期に紛争を終結させるべきだ」とする和平派と「ロシアに大きな代償を払わせるために紛争を続けるべきだ」とする主戦派の間で意見の相違が目立つようになってきている。

主戦派の代表格は英国だ。英国はロシアの侵攻以降、米国に次いで多額の支援(41億ポンド(約6800億円))を行っている。

経済を犠牲にしてまで「主戦派」を貫けるのか
ジョンソン首相は17日、ウクライナの首都キーウを訪問した。4月上旬に続き2回目だ。ゼレンスキー大統領との会談で「120日ごとにウクライナ兵を最大1万人訓練する」ことを伝えたとされている。

英国は2014年のロシアのクリミア併合以降、米国とともにウクライナ兵の訓練に取り組んできており、今回も英国陸軍が新たに供与する武器の使用に必要な訓練をウクライナ国外で行うとされている。

だが、ロシアのウクライナ侵攻に伴うインフレの高進で、西側諸国の市民の不満は政権与党に向かっており、徐々に和平派の勢いが増しつつある。

これに対してジョンソン首相は18日「インフレなどでウクライナでの紛争に対する疲労感が高まるリスクがある」と国際社会に警告を発したが、軍事支援を続けることで紛争が長期化すれば、英国を始め世界のインフレは悪化するばかりだ。英国は経済を犠牲にしてまで「正義派」に固執するのは愚策だと言わざるを得ないだろう。

ジョンソン首相は「就任以来3年間、常に場当たり的な政策対応に終始してきた」と揶揄されている(6月8日付ロイター)。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の開催国だったにもかかわらず、5月に入ると英国政府はエネルギー価格を抑制するため、温暖化防止よりもエネルギー安全保障に軸足を移しつつある。

最悪期に突入しつつある英国経済を救うためには、ジョンソン首相はウクライナ問題でも和平派に転ずるという「離れ業」を演じる必要があるのではないだろうか。【6月29日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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“場当たり的”節操のなさはジョソン首相の得意技でもありますので(その最大のものがEU離脱の旗振り役)、主戦派から和平派への変身ぐらいは造作もないことでしょう。

ただ、それでEUから離脱したイギリス経済が持ち直せるかどうかは別問題ですが。
EU離脱がイギリスに何をもたらすのか・・・それが明らかになるのはこれからです。
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アメリカ  人工中絶問題だけでなく、銃規制や政教分離においても保守化を強める連邦最高裁判断

2022-06-28 22:53:23 | アメリカ
(米首都ワシントンの最高裁前に座る母子。26日撮影【6月28日 ロイター】)

【中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に】
アメリカ連邦最高裁が6月24日、人工妊娠中絶を巡る憲法上の権利を否定する判断を示したことは6月25日ブログ“アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難”でも取り上げたところです。

この最高裁判断により、州独自の厳しい中絶規制が可能になったことを受けて、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移っています。

保守派判事が多数を占める最高裁と各州の司法の事情はまた異なりますので、州によっては中絶禁止の州法に対する差し止め判決も出ているようです。

****米各地で中絶禁止の州法巡り法廷闘争、最高裁の判断転換受け****
米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことを受け、中絶を巡る法廷闘争の舞台は州裁判所に移った。

ルイジアナ、ユタ両州の裁判所は中絶を禁止・制限する州法を差し止める判決を27日に下し、アイダホ、ケンタッキー、ミシシッピ、テキサスでも同様の差し止め命令を求めて医療機関が訴訟を起こした。

この6州を含む13州では、連邦最高裁がロー対ウェイド判決を覆せば自動的に中絶を禁止あるいは制限する、いわゆるトリガー法が成立している。

女性向け医療サービス団体「プランド・ペアレントフッド(全米家族計画連盟)」ユタ支部のキャリー・ガロウェイ氏は「きょうは勝利したが、間違いなく長く困難な戦いが待ち受けており、その第一歩に過ぎない」との声明を出した。

このほか各地で、共和党主導の中絶関連法に異議を申し立てる訴訟が相次いでおり、妊娠6週目を過ぎた女性の中絶を禁止する州法が昨年発効したテキサスではロー対ウェイド判決以前の中絶禁止措置の有効性に関する審理が28日に予定されている。

ケンタッキーのキャメロン州司法長官は「州憲法に中絶する権利は含まれていない。いかなる根拠のない反論にもわれわれは対抗する」と表明した。【6月28日 ロイター】
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ただ、州段階で差し止められても、更に連邦最高裁に持ち込まれたら・・・ということでしょうか。

【銃規制で“正しい方向への一歩” しかし最高裁は国民には公共の場での銃携帯の権利あるとの判断も】
中絶禁止問題の影に隠れる形になりましたが、中絶禁止問題と並んでアメリカ社会を二分する問題となっている銃規制に関して、同時期に“28年ぶりの本格的な対策”と評される動きがありました。

****バイデン氏「歴史的な日」 米銃規制強化法が成立****
バイデン米大統領は25日、若者が銃を購入する際の身元調査の強化を柱とする銃規制強化法案に署名、同法が成立した。

南部テキサス州の小学校銃乱射事件を受けて、上下両院が超党派で可決していた。本格的な銃規制法が成立するのは約28年ぶり。バイデン氏は「歴史的な日だ。多くの命を救うだろう」と語った。

21歳以下の若者が銃を購入する際の犯罪歴や精神疾患の治療歴に関する身元調査を厳格化するほか、州が危険と判断した人物の銃を一時的に差し押さえる措置に対する財政支援などが柱。ただ、殺傷力の高い銃の販売禁止などは盛り込まれなかった。【6月26日 産経】
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日本的常識からすれば“規制云々以前の当たり前のこと”のようにも思えますが、アメリカ的には銃規制に関する“正しい方向への一歩”には違いないでしょう。

銃規制をめぐっては、1994年にアサルトウェポン(突撃銃)の製造や販売を禁じる法律が成立しましたが、2004年に失効。それ以降も乱射事件で多くの犠牲者が出るたびに連邦議会で銃規制の強化が議論されてきましたが、共和党議員の反対が根強く、大きな進展はありませんでした。

今回は一部の共和党議員の賛成もあって規制が実現しました。

しかし、今回規制実現に関するメディア等の扱いがやや地味になったのは中絶禁止問題と時期的に重なったことだけでなく、内容の薄さにもあるのかも。

規制に積極的な民主党側は、殺傷能力の高いアサルトウェポン(突撃銃)や10発以上の弾丸を収納する弾倉の販売禁止などの強い規制を求めていましたが、今回はそうした本質的な規制は見送られました。
そこに踏み込まない限り銃乱射事件はこれからも・・・という気がしますが。

“正しい方向への一歩”とは言いながら、逆行するような司法判断も。
今回規制と同時期の6月23日、連邦最高裁は自己防衛のために公共の場で銃を所持する権利は合衆国憲法で保障されているとし、拳銃を自宅外で持ち歩くことを制限するニューヨーク州法を違憲とする判断を下しています。

****米最高裁、国民には公共の場での銃携帯の権利あると判断****
米連邦最高裁は23日、国民には公共の場で銃を携帯する基本的な権利があるとする判断を下した。同国では最近、学校などで銃乱射事件が相次ぎ、銃の規制強化を求める声が高まっていた。

最高裁判事は、自宅外での銃の携帯には正当な自衛の必要性を証明する許可を必要とする1913年制定のニューヨーク州法を6対3で無効とした。

銃の携帯については、米国の半数以上の州ではすでに許可が不要となっているものの、20州以上では制限が設けられており、今回の判断の影響は他州にも広まる可能性がある。

武器を保有する権利を保証する憲法修正第2条をめぐり、最高裁が判断を下したのはここ10年で初めて。

この判断を受け、ジョー・バイデン大統領は、「深く失望している。この判断は良識と憲法の両方に反するものであり、われわれ皆を深く苦しめるものだ」との声明を出した。

一方、有力な銃ロビー団体「全米ライフル協会」のウェイン・ラピエール副会長は、「全米の善良な男女にとって転換点になり、NRAが何十年にもわたって率いてきた戦いの結果だ」と歓迎した。

また、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事はこの判断を「衝撃的」だと形容し、これにより「合理的な制限を有する権利」が奪われたとの見方を示した。その上で、「このような暗い日が来てしまったことを遺憾に思う」と記者団に述べた。 【6月24日 AFP】
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ニューヨーク市のアダムス市長も「ニューヨークをワイルドウエスト(無法の地)にすることは容認できない」との見解を示しています。

【宗教的価値観を重視する最高裁判断で政教分離の線引きがあいまいになる可能性も】
保守化を強める連邦最高裁判断がもうひとつ。

アメリカ連邦最高裁は27日、西部ワシントン州で公立高校のアメリカンフットボール部の試合後に部員の生徒らとキリスト教の祈りをささげたコーチについて、宗教行為の強要だとしてやめるよう要求する学校側がコーチを停職処分としたのは信教の自由の侵害に当たるとの判断を示しました。

****米最高裁、公立高校コーチの宗教行為認める 試合後に生徒と祈り****
米西部ワシントン州の公立高校でフットボール部の試合後に選手と祈りをささげたキリスト教徒のコーチが停職となった問題で、連邦最高裁は27日、信教の自由の侵害に当たるとの判断を示した。

判決は6対3で、リベラル派の判事全員が反対した。

2015年までブレマートン市でフットボール部の非常勤アシスタントコーチを務めたジョセフ・ケネディ氏の行為は、言論や宗教的表現の自由を認めた憲法修正第1条によって保護されるとした。判決文はゴーサッチ判事が執筆した。

公立高校におけるケネディー氏の祈りとキリスト教を取り入れたスピーチは、生徒への強制と受け止められ、政府による特定宗教の推奨と見なされる恐れがあると学校側は主張していた。

保守派が勢いを増す米最高裁は企業・個人の宗教的権利を拡大する一方で、政教分離を後退させてきた。今回の判決は人工妊娠中絶の権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を最高裁が先週覆したのに続く保守派の勝利となった。

判決文は「宗教的表現の尊重は、自由で多様な米国での生活に不可欠だ」と指摘した。

リベラル派のソトマイヨール判事は反対意見として、今回の判決は、学校と生徒だけでなく米国の政教分離への取り組みに反すると主張した。【6月28日 ロイター】
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「宗教的表現の尊重は、自由で多様な米国での生活に不可欠だ」・・・・・素朴な疑問ですが、もしイスラム教徒が多い地域でイスラム教徒のコーチがイスラム式の礼拝を生徒らと行っても、“自由で多様な米国”は同様の判断をするのでしょうか?

“最高裁はトランプ前政権下で宗教的価値観を重視する保守派判事が優勢となり、21日にも宗教学校の学費に公的補助を認めない東部メーン州法を違憲だと判断している。政教分離の線引きがあいまいになる可能性もある。”【6月28日】
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ベラルーシとカザフスタン  「借り」があるロシア・プーチン大統領との距離の取り方

2022-06-27 23:31:56 | ロシア
(5月16日、ロシア・モスクワの大統領府で、集団安全保障条約機構(CSTO)の会合会場に向かうプーチン大統領(中央)ら【5月17日 産経】 プーチン大統領の左隣が海千山千のベラルーシ・ルカシェンコ大統領 右から2番目の、いかつい男性が多い中央アジア指導者にしては(失礼!)銀行家のような眼鏡の男性がカザフスタン・トカエフ大統領)

【ベラルーシ・ルカシェンコ大統領 ロシアの後ろ盾で政権維持 ただし、参戦は避ける】
ウクライナやバルト三国、モルドバ、ジョージアなど旧ソ連の国々がロシアとの関係を断って欧米に接近するなかで、ベラルーシやカザフスタンなど中央アジア諸国は比較的ロシアとの強いつながりを維持しています。

ロシアもそのような関係を維持する目的で、ベラルーシとカザフスタンの近年の政治混乱において現政権を支持する形で後ろ盾となっています。

2020年8月9日に行われたベラルーシの大統領選挙では、有力な反体制派や民主派の候補を排除するなど、選挙の公平性が疑問視されながら、最終的にルカシェンコ大統領は、対立候補の反政権派のスヴャトラーナ・ツィハノウスカヤを下して選挙に勝利。この結果を受け、ツィハノウスカヤは隣国のリトアニアへと出国し、大規模なデモが発生しました。

もともと、「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるルカシェンコ大統領はプーチン大統領の意に沿わない独自の行動が多く“目障りな存在”でもあり、ロシア・プーチン大統領は選挙でルカシェンコ大統領首のすげ替えを画策したとも見られています。

ただ、ロシア国内にもプーチン批判の抗議行動があるなかでベラルーシ政権が欧米が支援する“民主化”で崩壊することは「次はロシア・プーチン」ということになりかねず、結局プーチン大統領は欧米から制裁を受けるルカシェンコ政権を支援し、そのロシアの支援を背景にルカシェンコ大統領は国内反対勢力を力で封じ込めました。

****ロシアとベラルーシが経済統合計画に署名 軍事協力も深化へ****
ロシアのプーチン大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領は4日、28項目にわたる両国の経済統合計画に署名した。9月の首脳会談で計画に合意していた。両国で作る連合国家の新たな軍事ドクトリン(原則)にも署名。両国と欧米との対立が深まる中、安全保障面でも協力を深めるとみられる。

タス通信によると、プーチン氏とルカシェンコ氏はオンラインで開かれた連合国家の最高評議会で署名を行った。統合計画は石油・ガス市場の統一や税制、決済システム、金融政策など幅広い経済分野で両国の統合を図る内容。軍事ドクトリンの内容は明かされていないが、ショイグ露国防相は10月、「西側諸国からの脅威や圧力への返答」と話していた。ルカシェンコ氏も4日、「連合国家の地域部隊を強化する準備ができている」と述べた。

ロシアとベラルーシは1999年に連合国家創設条約を締結したが、ルカシェンコ氏がロシアに吸収される事態を恐れ、統合計画は進まなかった。しかし、20年8月のベラルーシ大統領選後に大規模な抗議活動が起こった際に、プーチン政権はルカシェンコ氏を支援。ロシアの影響力が強まっているとみられている。【2021年11月5日】
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こうしたロシアの支援によって政権が維持できたという経緯、いわゆる「借り」から、ベラルーシ・ルカシェンコ大統領はロシアのウクライナ侵攻について、ロシアを支持する立場にたった言動を示してはいますが、海千山千のルカシェンコ大統領は「参戦」というロシアと心中するような最終選択は避けています。

プーチン大統領へのリップサービスをまき散らす形で、実質的な関与を避けているようにも見えます。

****ベラルーシ大統領「ロシアの侵攻失敗」の認識示唆か SNSで憶測****
ロシアの同盟国、ベラルーシのルカシェンコ大統領が、ロシアのウクライナ侵攻は失敗に終わる−との認識を示したとも取れる発言をし、ロシア語圏のメディアやSNS(交流サイト)上で話題となっている。

ベラルーシ国営ベルタ通信によると、ルカシェンコ氏は9日、同国で開かれた第二次大戦の対ドイツ戦勝記念式典の後、「自国内で領土や家族、子供のために戦う国民を打ち負かすのは不可能だ」と述べた。発言は、報道陣が「北大西洋条約機構(NATO)側がベラルーシへの軍事圧力を強めている」とし、それに対するルカシェンコ氏の見解を尋ねた際のものだが、露SNS上などでは「暗にロシアを批判したのではないか」との憶測が広がった。

憶測の背景には、ルカシェンコ氏がロシアに忠誠を示しつつ、侵攻には否定的で、米欧側との決定的対立や国内の不安定化を招く参戦を巧妙に避けてきた−との見方が強いことがある。ベラルーシとウクライナは歴史的に、同じ東スラブ系のロシアを長兄とする「兄弟国」ともされてきた。

米欧やウクライナの防衛当局は侵攻開始当初から、ロシアが「偽旗作戦」を用い、ベラルーシを参戦させる恐れがあると警戒。3月にはウクライナ国境警備隊が「露軍機が国境地帯のベラルーシ側を爆撃した」と発表し、ベラルーシの参戦が近いとの観測を示した。

しかし、ベラルーシは爆撃の情報を否定。ウクライナ情報当局は、ベラルーシ軍が「現場部隊が前進命令に従わない」との口実で、ロシアからの参戦要求を拒否しているとも発表した。

ルカシェンコ氏もこれまで、国内会議などで「露軍は独力で目標を達成できる。助太刀は不要だ」と何度も発言。ロシアを持ち上げつつ、ベラルーシは参戦しない方針を示してきた。【5月11日 産経】
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【「木製の戦車」と核ミサイル】
こうしたロシアを支援しつつ参戦は避けるというベラルーシとロシアの微妙な関係ですが、最近目にしたベラルーシ関連の話題。

****新型兵器? ベラルーシが国境に「木製の戦車」を配備…ウクライナ側が警戒する理由****
<ウクライナ国防省の報道官は「ウクライナへの具体的な侵攻準備は確認されていない」としつつ、ベラルーシ国境地帯の態勢強化を表明>

ロシアがウクライナへの侵攻を開始してから4カ月。戦闘終結への道筋が見えないなか、苦戦するロシアが同盟国であるベラルーシを戦争に引きずり込もうとしているとの可能性が指摘されている。

戦争への立場を明確にしていないベラルーシだが、こうした状況下でウクライナとの国境地帯に、木製の「ダミー戦車」を配備しているとの情報が浮上した。 

これは、ウクライナ国防省のオレクサンドル・モトゥジャニク報道官が明らかにしたもの。彼は、ダミー戦車の配備の狙いについて、ベラルーシのプレゼンスを誇示することが狙いだと指摘している。Facebookに「ベラルーシ軍はカモフラージュ作戦を展開してプレゼンスを誇示するために、ウクライナとの国境地帯に木製のダミーの戦車を配備している」と投稿した。 

■戦闘への即応が可能か検証しているところ 
モトゥジャニクはさらに、ベラルーシ軍は現在、戦闘に即応できるかどうかを検証しているところで、週末にかけて演習を続ける予定だと指摘。「ベラルーシ領内から、ウクライナに対するミサイル攻撃や空爆が行われる恐れもある」と述べ、ベラルーシ軍は南部のブレスト州とゴメリ州に7個大隊を配備し、態勢を強化しているとつけ加えた。 

それでもウクライナ側は、ベラルーシ領内からウクライナに向けての2度目の攻撃(1度目は2月の侵攻開始直後)を行う準備が行われている兆候はないとの見方を示し、とはいえ潜在的な脅威は残っているため、国境地帯の部隊は維持しておくつもりだと表明した。(中略)

 ■ウクライナとしては態勢を強化せざるを得ない 
モトゥジャニクは、東部のルハンシクとドネツクに攻撃を集中させるのが、ロシアの戦術だとの見方を示し、次のように述べた。 

「それ以外の戦術は、絶え間ない砲撃、我々の注意を逸らす行動や、ウクライナ軍の各部隊の行動抑制だ。ロシア側はこのようなやり方で、ウクライナ軍の部隊がそこ(ベラルーシとの国境地帯)にとどまらざるを得ない状況をつくり出している。我々がそこから部隊を引き揚げれば、彼らがすぐに2度目の攻撃を仕掛けることができることは、十分に認識している。近い将来そうなることはないと予想しているが、その方面(ベラルーシ方面)の態勢は強化せざるを得ない状況だ」 

だが複数のアナリストは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナでの戦闘に勝利するためにはベラルーシを引き込むしかないと判断すれば、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領には、選択する余地はほとんど残されていないのではないかと考えている。【6月24日 Newsweek】
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“注意を逸らす行動”にしても、第2次大戦ならともかく、現代の戦争で「木製の戦車」がどのような効果があるのか、ベラルーシ側の意図が何なのかはわかりません。

「木製の戦車」よりはるかに脅威となるのが核ミサイル。

****核搭載可能なミサイル、プーチン氏「ベラルーシに数か月以内に供与」****
ロシア大統領府によると、プーチン大統領は25日、西部サンクトペテルブルクでベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談し、核弾頭を搭載できる短距離ミサイル「イスカンデルM」をベラルーシに数か月以内に供与すると表明した。

ルカシェンコ氏は、隣国リトアニアが今月中旬、ロシアの飛び地カリーニングラード州とロシア本土を結ぶ鉄道輸送を制限したことに触れ、「宣戦布告に類似している」などと非難し、「最も深刻な兵器使用にさえ備えることを提起したい」とも述べた。

ウクライナ侵攻を巡って結束するプーチン氏とルカシェンコ氏は、核戦力をちらつかせて欧米を威嚇する姿勢を鮮明にしている。ベラルーシはソ連崩壊後に核兵器をロシアに引き渡したが、イスカンデルMの供与が始まれば、核再配備の可能性が一段と高まりそうだ。【6月26日 読売】
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ルカシェンコ大統領が本気で相手側の標的となる核ミサイル「供与」を望んだのでしょうか? ロシア・プーチン大統領が自国領土への報復を回避するためにベラルーシに押し付けたというなら話はわかりますが。よくわかりません。

****ベラルーシがロシア側面支援強化 攻撃拠点に、参戦はせず****
ロシアのウクライナ侵攻長期化に伴い、ロシアの同盟国、ベラルーシがロシアを側面支援する動きが強まっている。ロシア軍のベラルーシ領からの空爆や偵察が活発になっており、ウクライナは攻撃拠点化が進むことを警戒。

ベラルーシ政府は参戦には消極姿勢とはいえ、ロシアのプーチン大統領は核弾頭搭載可能な戦術ミサイルのベラルーシへの供与を表明、核戦力をちらつかせて共に欧米に対抗する構えを示した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は26日のビデオ声明で「ロシアの指導者はベラルーシ人を戦争に引き込み、ウクライナとの間に憎悪を植え付けようとしている」と指摘した。【6月27日 共同】
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【ベラルーシ同様に政治混乱をロシアの支援で収めたカザフスタン しかし、ウクライナ東部親ロシア勢力の「国家承認」を否定】
ロシアの「裏庭」とされてきた(今では中国の影響力拡大で「裏庭」云々は怪しくなっていますが)中央アジア

****プーチン露大統領、ウクライナ侵攻後初外遊へ 中央アジア2カ国****
ロシアのペスコフ大統領報道官は27日、プーチン大統領が28、29日、中央アジアの旧ソ連構成国、タジキスタンとトルクメニスタンをそれぞれ訪問すると発表した。
タス通信によると、プーチン氏の外遊は2月のウクライナ侵攻開始後、初めて。(後略)【6月27日 産経】
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訪問するタジキスタンとトルクメニスタンより、カザフスタンには訪問しないことが興味深いところ。
「裏庭」中央アジアにあって、本来カザフスタンはロシアにとって他国とは別格な存在のはずです。

カザフスタンもロシア・プーチン大統領に「借り」があります。

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皆さん、「今年最大の事件」といえば、もちろん「ウクライナ侵攻」でしょう。しかし、今年1月、カザフスタンでも大きな事件がありました。そう1月2日から、燃料価格暴騰に反対する大規模デモが起こっていた。デモ参加者があまりにも多くなり、手に負えなくなったトカエフは、ロシアが主導する「集団安全保障条約機構」(CSTO)に派兵要求をします。

※ CSTOは、1992年に発足。ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンが加盟しています

そしてCSTOの軍がカザフに入り、速やかにデモを鎮圧したのです。これ、ロシア人は、「CSTOは実質ロシア軍であり、ロシア軍が、トカエフを革命から救った」という認識なのです。

もう一つ。カザフスタンには、ナザルバエフさんという独裁者がいました。1991年から2019年まで、28年間も大統領を務めた。独裁者ですが、2000年代には、カザフスタン経済を急成長させ、人気が高かったのです。
急成長の理由は、「カザフが資源大国で、2000年代は原油価格が右肩上がりだったこと」です。この辺、プーチン・ロシアと同じ事情です。

ナザルバエフは2019年に大統領を辞めました。そして、トカエフさんが大統領になった。しかし、ナザルバエフは、大統領を辞めた後も、国家安全保障会議議長として、「院政」を行っていたのです。

カザフ国民と外国も、「トカエフは、ナザルバエフの傀儡大統領」と認識していた。当然、トカエフとしては面白くありません。そんな中、年初に大規模デモが起きた。そのドサクサにトカエフは、ナザルバエフを国家安全保障会議議長から解任したのです。

変な言葉になりますが、トカエフ大統領は、「事実上のクーデター」を起こし、ナザルバエフの院政状態を終わらせたのです(大統領がクーデターを起こすとは、ふつういいませんが)。

彼は、カザフスタンの「真の大統領」になりました。しかし、プーチンにいわせれば、「俺たちが容認したから、おまえ(トカエフ)は、ナザルバエフを失脚させることができたんだろう?」となります。実際、ロシア軍がナザルバエフについていれば、トカエフは失脚することになったでしょう。【6月27日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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そのロシアに「借り」があるカザフスタンですが、ウクライナ問題ではロシア・プーチン大統領の顔に泥を塗る発言も。

****親露派「国家承認」否定 カザフ、ロシアとすきま風****
ウクライナに侵攻したロシアと、軍事同盟を結ぶ中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンの間にすきま風が吹いている。カザフのトカエフ大統領は17日、ロシアが侵攻に先立って「国家」承認したウクライナ東部の親露派支配地域をカザフが国家承認しないと表明。トカエフ氏がロシアからの勲章授与を拒否した、とも伝えられた。露与党幹部からは、カザフもウクライナと同じ運命をたどる−と脅迫じみた発言も飛び出した。

トカエフ氏は17日、露北西部サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの全体会合にプーチン露大統領と2人で出席。質疑応答で、ロシアが国家承認した親露派武装勢力「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」(自称)をカザフは正式な国家とみなしていない−とし、承認しない考えを示した。

「カザフは開かれた市民社会で、国民には特別軍事作戦(侵攻の露側呼称)への多様な意見がある」とも指摘。露メディアは、国民の侵攻批判を事実上禁じたロシアを当てこするような異例の発言だと報じた。

さらにカザフメディアは18日、フォーラムでロシアがトカエフ氏に国家勲章を授与しようとしたが、トカエフ氏が断ったことを同氏の報道官が認めた−と報じた。ペスコフ露大統領報道は「勲章授与は当初から計画されていなかった」と否定。真相は不明だ。

トカエフ氏の発言について、露政権与党「統一ロシア」幹部のザトゥリン氏は18日、露ラジオ局のインタビューで「ロシアへの挑戦だ」と反発。「ウクライナのような問題がカザフにも起き得る」と述べ、軍事力の行使さえちらつかせた。

ザトゥリン氏の発言の背景には、露国内で以前から「侵攻に関し、カザフはロシアに非同調的だ」との見方が強いことがある。実際、トカエフ氏は侵攻当初から対話による早期停戦を求めてきた。ウクライナのクレバ外相によると、4月に会談したカザフのトレウベルディ外相は、ロシアの制裁逃れに協力しない、と約束したとされる。

トカエフ氏はフォーラムで「露社会の一部にカザフへの批判があるが、両国の関係悪化はロシアの損となる」と忠告した上で関係発展を続ける意思を示した。

外交官出身で欧米側との人脈も深いトカエフ氏は、ロシアとの対立を避けつつも、ロシアに同調して欧米側との摩擦を招く事態を防ぐ思惑だとみられている。【6月23日 産経】
****************

トカエフ大統領の主張は、ウクライナ親ロシア勢力が求める「民族自決の原則」を無制限に認めると世界は大混乱に陥る。従って「民族自決の原則」より「領土保全の原則」を重視する。だから、台湾を(独立国家と)認めない、コソボ、アプハジア、南オセチアを認めていない、ウクライナ東部も・・・というもの。

プーチン大統領を「裏切る」ような発言をプーチン大統領が参加する対談でするのですから、よほどの「覚悟」でしょう。

【得るものより失うものの方が明らかに多いロシア・プーチン大統領】
前出【北野幸伯氏】は以下のようにも・

****プーチンを裏切り激怒させた男。ロシアに反旗を翻した国はどうなるのか?****
(中略)
プーチンは、ウクライナのNATO加盟を阻止するために、侵攻しました。あるいは、ルガンスク、ドネツクのロシア系住民を守るために。

しかし、リアクションを見ると、得るものより失うものの方が明らかに多いのです。
たとえば中立国だったフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請しました。現状トルコが反対していますが、いつまでも反対しつづけることはできないでしょう。そして、ウクライナとモルドバが、EU加盟国候補になりました。

さらに、カザフスタンが、逃げ出しています。そして、ベラルーシのルカシェンコ大統領も、ウクライナへの派兵をかたくなに拒否しているといいます。

というわけで、ロシアの著しい求心力低下が起こっています。いつも書いていますが、ロシアは、すでに【戦略的敗北】を喫しているのです。【6月27日 北野幸伯氏 MAG2NEWS】
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なお、カザフスタンがロシア語と同じキリル文字をラテン文字に切り替えるなど、ロシア離れを進め、自国のアイデンティティを確立する動きを見せているというのは、ナザルバエフ前大統領時代からの一貫した方針です。年初のゴタゴタ収拾をロシアに頼ったのがイレギュラーな出来事だったとも言えます。
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中国  ゼロコロナの就職氷河期 1076万人の高等教育機関卒業生が労働市場へ

2022-06-26 21:58:15 | 中国
(広西チワン族自治区の就職活動イベントに参加する大学生たち(2021年10月31日撮影)【1月22日 東方新報】)

【ゼロコロナの混乱で文革後最低の2%成長】
世界経済を牽引してきた中国経済が「ゼロコロナ」政策による経済混乱も影響して、文革後最低の成長率2%といった、かつてない低レベルになりそうな予測がなされています。

****中国の経済成長率、文革後最低の2%で46年ぶりに米国下回る可能性****
米国政府系メディアのボイス・オブ・アメリカは21日、中国の2022年経済成長率は2%にまで落ち込む可能性があると報じた。その場合、1976年に文化大革命が終結してからの最低水準で、46年ぶりに米国の経済成長率を下回るという。

米メディアブルームバーグの経済研究組織であるブルームバーグ・エコノミクスは19日、中国の22年経済成長率が、政府の公式目標値である5.5%を大きく下回り、2%にまで低下する可能性があるとする予測を発表した。ただし、その他の機関がこれまでに発表した予測値は4%−4.5%程度だ。

ブルームバーグ・エコノミクスは極めて厳しい予測の理由について、中国政府はさまざまな景気刺激策を打ち出しているが、厳格な感染症対策を堅持しているために相殺されてしまうとの見解を示した。

中国では1976年9月に毛沢東が死去し、同年10月に毛沢東の妻の江青ら文革四人組が逮捕されたことで、10年間に渡って続いた文化大革命が終了した。中国共産党は78年に政策の中心に経済建設を据えることで、改革開放がスタートした。それ以降は多くの年で、中国経済は10%以上の成長率を達成した。

仮に今年(2022年)の成長率が2%に落ち込めば、中国が新型コロナウイルスの流行に初めて見舞われた20年と、天安門事件により中国が西側諸国にさまざまな制裁を受けた影響が強くでた1989年と90年の成長率も下回り、文革終了後あるいは改革開放が始まって以来の低水準になる。

中国の2021年第4四半期(10−12月期)の経済成長率は4%で、米国の同期の5.5%に及ばなかった。

ただし22年になり中国で感染が再び急速に拡大して都市封鎖の事例が増え、サプライチェーンが寸断されたことで、米国には大きなインフレ圧力が発生した。また米国で中央銀行として機能する連邦準備制度(FRB)も利上げの度合いを強めており、米国でも景気後退が発生する可能性は否定できないとされる。

経済体として世界第1と第2の規模である米中両国の今年の経済成長がどうなるか、改めて注目されている状況だ。【5月24日 レコードチャイナ】
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ただ、仮に2%程度といった文革後最低のレベルになると、この秋に三選を実現するとされている習近平国家主席の権威が大きく揺らぎますので、そういった場合でも“なんだかんだの方法”を用いて、4%程度の数字が公表されるのでしょう。

と言うか、すでにゼロコロナによる経済減速の傾向は現れていますので、その評価をめぐって指導部内部で「李昇習降」ともいわれるような「習近平三選」をめぐる権力闘争が行われている・・・とも指摘されています。(中国共産党内部の権力闘争は外部からはよくわかりませんが)

足元5月の状況で見ると、生産動向を示す工業生産は4月に2年ぶりにマイナスとなりましたが、5月は予想外に持ち直したようです。しかし、個人消費や不動産関連は相変わらず低調のようです。

****中国の工業生産、5月は予想外に増加-消費者の慎重姿勢は続く****
中国の工業生産は5月に予想に反して増加した。一方、新型コロナウイルス感染対策の制限措置が消費者心理の重しとなる中で、不動産市場の低迷は続き、小売売上高もなお減少するなど、強弱が入り交じる結果となった。
  
5月の工業生産は前年同月比0.7%増。市場予想中央値は0.9%減少、4月は2.9%減だった。小売売上高は前年同月比6.7%減少。予想は7.1%減、4月は11.1%減っていた。調査ベースの失業率は5.9%へと低下したものの、若年層の失業率は18.4%に上昇し、過去最悪を記録した。(中略)

上海市では一部のコロナ規制が5月に緩和された。工場が徐々に操業を再開し、物流面の障害も和らいだが、定期的なコロナ検査など厳しい防疫措置がなお消費者の活動を妨げている。

モルガン・スタンレーの中国担当チーフエコノミスト、邢自強氏はブルームバーグテレビジョンで、「成長率が底入れし、持ち直しは始まったばかりだ」と指摘。「これはまだ非常に不完全であり、平坦な回復ではないが、最悪期は過ぎたという印象だ」と述べた。(後略)【6月15日 Bloomberg】
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【特に若者で深刻な失業問題 今年の高等教育機関卒業生は1076万人】
共産党指導部としては悩ましい問題が多いでしょうが、社会の安定性を損なう恐れがあるのが失業率の増加。
特に、上記記事でも“18.4%に上昇し、過去最悪を記録”と指摘されている若者の失業率が注目されます。

中国では、経済成長率の目標値などは、「雇用を満たす」という最大目標を達成するために逆算して計算されるとも言われますが、その肝心の雇用が揺らいでいます。雇用は政府・党の責任ですから、それは日本など以上に政治責任に直結します。

****中国版就職氷河期突入か 続くゼロコロナの弊害****
中国の政治、経済にとって最重要課題である雇用の確保に黄信号が灯っている。特に若年層の失業率は18.4%と、調査開始以来最悪となった。習近平総書記が続投を狙う党大会が秋に控えるなか、中国は厳しい状況に追い込まれている。

中国にとって雇用確保は最大の使命
中国経済の減速が続いている。2021年全年の経済成長率は8.1%という高成長を記録したものの、四半期別で見ると第3四半期は4.9%、第4四半期は4%と急ブレーキがかかった。今年第1四半期は4.9%と回復傾向を見せたが、そこで直面したのがオミクロン株の流行だ。

上海市のロックダウンは3月末から2カ月以上にわたり続いた。現時点でも感染ゼロは達成できておらず、日常的なPCR検査の義務化や一部地区の封鎖など、日常生活を取り戻したとは言いがたい。上海市以外の地域でも感染が散発しており、強力な感染対策は経済低迷につながっている。

中国政府は今年の成長目標を5.5%と設定しているが、世界の調査会社は達成困難だとみている。ブルームバーグ・エコノミクスは2%、ゴールドマンサックスは4%に予測値を引き下げており、成長目標との乖離は大きい。

もっとも「そもそも成長目標とはなんぞや」と不思議に思っている方も多いだろう。経済は生き物であり、アクシデントはつきもの。成長目標が達成できなくても仕方がない、毎年毎年目標を達成できるほうが不思議ではないか。目標を作っては帳尻合わせしているだけではないか、と。

当然の疑問だが、中国の成長目標はむやみに決められているものではなく、雇用の必要性から決定されている。毎年、全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)で経済目標は発表されるが、セットで発表されるのが都市新規就業者数目標だ。むしろ雇用確保が主であり、この目標を達成するために経済目標が設定されていると言っても過言ではない。

2010年代初頭には「保八」(8%成長死守)が盛んに議論された。8%を割り込めば、十分な雇用が容易できず、これを不満に思った人民が政府批判の姿勢を強め、ひいては中国社会の安定が損なわれる……とまで極端な議論が展開されていた。いささか乱暴な話ではあるが、雇用確保が中国にとってどれだけ重要なのかを示すエピソードではある。(中略)

若者の雇用は経済トレンドで乱高下
近年の失業率(都市調査失業率)の推移を下図(省略)示した。
新型コロナウイルス流行初期の20年2月の6.2%が最悪だったが、今年4月には6.1%とほぼ同水準に迫っていた。

そして、世代別失業率を見ると、若年層の失業がきわめて深刻であることがわかる。

(出所)国家統計局のデータをもとに筆者作成 

25~59歳の失業率には大きな変動はないが、16~24歳の失業率は経済トレンドの変化に激しく反応し、乱高下してきた。現在は18.4%と過去最悪の値を示している。
 
若年層失業率の高さは中国の雇用習慣とも関連している。日本のような新卒一括採用の雇用習慣がないため、卒業時点では職を見つけられず、インターンをしながら仕事を探す人も珍しくない。彼らは景気が悪化すれば速やかに解雇されてしまう、不安定な存在だ。

若年層失業率の調査は20年5月に始まったため、新型コロナウイルスの影響がもっとも深刻だった20年2月のデータはないものの、当時と同等かそれ以上に悪化している可能性が高い。若年層の雇用で見るならば、中国は今、新型コロナウイルス流行後で最悪の時期にあるわけだ。

しかも、5、6月は中国の卒業シーズンであり、卒業生たちが労働市場に参入してくる。今年の高等教育機関(大学、大学院及び高等専門学校)卒業生は1076万人、史上初めて1000万人の大台を突破した。

高卒での就労者なども含めると、約1600万人が新たに労働市場に参入すると想定されている。目標通りの1100万人の雇用創出に成功したとしても、差し引き500万人が職にあぶれる計算だ。もし雇用創出が目標から半減すれば……、1000万人が職を得られない計算となる。(中略)

就職支援する進路先は……
中国政府も雇用確保に四苦八苦しているが、最も効果がある景気回復は新型コロナ対策とトレードオフの関係にある。コロナ対策を緩和すれば経済活動は回復するが、感染者は増加する。

習近平総書記が「ゼロコロナ政策は動揺せず」と発破をかけている以上、一定数の感染者を許容するウィズコロナ的対策に転じることも難しい。インフラ投資や不動産投資奨励を進めるが、景気が一気に好転することは考えづらい。

そうした中、よりミクロな雇用対策も行われている。中国共産党の下部団体にあたる、中国共産主義青年団(共青団)は6月、「大学生の雇用10万人サポート」との目標を打ち出した。

仕事を見つけられずにいる「非名門大学の低所得世帯」を対象とし、各地域の共青団幹部が直々に企業を訪ね、職を探してくれるという。すでに4万1000人の職探しに成功しており、最終的には5万人を目標としている。

10万人サポートと銘打っている以上、さらに5万人の職を探さなければならない。経済成長が遅れた西部地区で教員や行政職につく西部計画、農村の農業・教育・医療・救貧事業を支援する三支一扶プロジェクトのスタッフ、そして団地の公共サービス・スタッフなどで埋め合わせるという。

西部計画や三支一扶プロジェクトは学生の多くが参加を嫌がってきたが、大学院進学時に奨学金をもらえるなどのアメをぶらさげることでどうにか参加者を確保してきた。団地スタッフは仕事をやめた中高年の仕事で、エリートたる大学卒業生の仕事ではないと見られてきた。

共青団だけではなく、政府による雇用促進プロジェクトは数あるが、提示されるのはあまり人気のない進路が大半というわけだ。

エリート層にも波紋が
大学生以上に「こんなはずじゃなかったのに」という落胆を感じているのは、大学院修了者かもしれない。大学定員の増加に伴い大学生の希少価値は失われてきたが、院卒ならばエリートとしてよりよい就職を得られると考えられてきた。

しかし、その一方で大学院定員も年々増加が続いている。21年の定員は117万7000人。過去10年でほぼ倍増という急増を示している。特に20年には修士課程の定員が一気に18万9000人も引き上げられた。これも雇用対策の一環だが、不景気を回避したはずの20年修士入学組は、今年もっと厳しい雇用環境に直面するという予想外の事態に見舞われている。

この不景気のなか、高学歴の院卒であっても就職希望の〝ランク〟を引き下げる動きが広がっているという。中国全土で話題となったのが浙江省麗水市遂昌件政府の職員公募だ。
24人の採用者のうち23人が院卒だった。しかも上海交通大学や西安交通大学など名門校の出身者ばかり。「こんなすごい学歴の持ち主が県レベルの地方政府に就職するなんて!」という驚きが広がった。

「最初は驚いたが、気持ちは理解できる」と話すのは、天津市在住の知人だ。修士課程1年生の息子の進路に日々頭を悩ませているという。来年、大学院を修了する予定だが、今年の就職浪人組も多く残ることから就職戦線は厳しいことは間違いないという。海外留学してさらに学歴を積み増すことも考えているが、「数年後に景気が好転しているかどうかも確信が持てない」のだとか。

中国は23年に予定されていたサッカー・アジアカップの開催を返上したが、ゼロコロナ対策とそれに伴う消費低迷は少なくとも来年までは続く可能性が高い。米国の景気後退や中国不動産市場の低迷などのマイナス材料も多く、先行きは楽観視できないのも理解できる。

数年にわたり就職難が続く就職氷河期世代の誕生が危惧されている。【6月18日 WEDGE】
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****中国の大学新卒者、空前の就職難 ゼロコロナが拍車****
 ジェニー・バイさんは、北京のあるインターネット企業の厳しい面接を4回もくぐり抜け、最終的に内定を勝ち取った優秀なコンピューター科学専攻の10人の大学生の1人だった。

しかし、5月になってこの企業から内定取り消しを通告された。新型コロナウイルスの感染拡大や中国経済全般の悪化が理由だ。この点に今年1080万人と過去最高となった中国の大学新卒者が直面している大きな問題がある。

今月卒業したバイさんは「心配だ。就職先を見つけられない場合、どうすれば良いか分からない」と不安を隠せない。ただ、内定を取り消された企業名については、今後もその企業と良好な関係を維持したいと明らかにしなかった。

<若者の失業率は18.4%>
中国経済は昨年の不動産市場の冷え込みや地政学的問題、当局によるハイテク、教育など幅広い産業への締め付けで既に減速していた。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」と言える。

一方で、数十年来で最悪の状況となった労働市場に、ポルトガルの全人口を上回る規模の中国の大学新卒者が、一斉に参入しようとしている。足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%に達している。

こうした就職できない若者の大量発生が、中国社会にどう影響するかは全く読めない。

中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ。

社会の安定を最優先に考える共産党指導部にとっても、特に今年は習近平国家主席の続投が秋に正式に決まろうかという局面で、若者の雇用不安が起きるのはあまりにも間が悪い。

北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた。

<ハイテク雇用が大幅縮小>
李克強首相は、大学新卒者の雇用確保が政府の最優先課題だと明言している。実際、新卒者向けにインターンシップ枠を設けている企業には、他の一般的な雇用支援措置を差し置いて補助金が支給される。

一部の地方政府は、起業する新卒者に低利の融資を提供。いくつかの国有企業は、民間で余剰化した非熟練雇用の一部を吸収する見通しだ。

総合人材サービス企業・ランドスタッドの広域中華圏マネジングディレクター、ロッキー・チャン氏は、中国の非熟練雇用市場は2008─09年の世界金融危機時よりも悪化しており、新規雇用は昨年比で20─30%減ると見積もっている。20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調だと指摘した。

大手求人サイト、智辯招聘によると、予想給与水準も6.2%低下するとみられる。

最近まで中国の大学新卒者の大量採用してきたのが、ハイテクセクターだった。ところが、業界全体では今、雇用を縮小する動きが広がっている。

インターンネットサービスのテンセント(騰訊控股)から電子商取引のアリババまで、多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った、と5人の業界関係者がロイターに明かした。

上海を拠点する人材管理サービスの許姆四達集団が4月に公表したリポートを見ると、ハイテク大手約10社のほぼ全てが最低でも10%の人員を減らし、動画配信の愛奇芸などさらに削減幅が大きくなったケースもあった。

教育サービスも当局からにらまれた業界の1つで、やはり何万人も解雇した。最大手の新東方教育科技集団は6万人の削減を発表している。

逆に新規採用の動きは鈍い。テンセントの人事部門幹部の1人は、「数十人」の新卒者採用を検討中と話した。以前の同社は年間に約200人を採用していた。

人材紹介会社ロバート・ウォルターズのジュリア・ジュー氏は「インターネット企業は多くの雇用を減らしている。今、彼らに採用資金があるなら、新卒者よりも経験者を選んでいる」と説明した。(中略)

中国では大学を出た後、しばらく仕事がないまま過ごす若者は企業側から歓迎されないのが普通だ。多くの家庭もそれを不運とみなすより「一家の恥」と考える。

かといって学士号を得ながらブルーカラーの仕事に就くというのも社会的に認められにくいため、大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上ったことが、公式統計から確認できる。

昨年大学を卒業したビセンテ・ユーさんは、その暮れにメディア企業での仕事を失って以来、再就職できていない。貯金は1─2カ月の家賃と生活費を賄える程度。不安感や不眠症と向き合う毎日で「父親には二度と家に帰るなと言われた。私の代わりに犬を育てた方がましだったという言葉も浴びせられた」とやつれた様子で語った。

ユーさんが夜間に訪れるのがソーシャルメディア。そこには同じ境遇の若者が集う。「私のように、仕事が見つからない人たちばかりで、それが多少慰めになる」という。【6月25日ロイター】
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アメリカ最高裁、判断変更で州ごとの中絶規制を容認 ブラジル大統領、11歳少女のレイプ妊娠中絶を非難

2022-06-25 23:25:31 | アメリカ
(24日、ワシントンの連邦最高裁前で、プラカードを掲げる中絶賛成派と反対派の人たち【6月25日 ヨミドクター】
「ショックで、恐ろしい判決だ。まるで女性が人間ではなく、子どもを産む道具だと言われているような気がする」と話し、涙をこぼす東部マサチューセッツ州女性の一方で、「最高裁が正しい判断をしたことをうれしく思う。命は神からの贈り物だから」と喜ぶ南部テキサス州女性も)

【バイデン大統領「悲劇的な過ちだ」 トランプ前大統領は「功績」をアピール】
アメリカで人工中絶に関する最高裁判断がおよそ半世紀ぶりに変更され、州ごとの中絶規制を容認する判断が示されたのは周知のところ。

****バイデン氏、中絶の権利認めぬ判決に「悲劇的な過ちだ」「最終決定であってはならない」****
米連邦最高裁は24日、人口妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の判決を半世紀ぶりに覆す判決を言い渡した。「憲法は中絶の権利を付与していない」と判断した。

米国内で中絶への賛否が割れる中、最高裁が中絶に否定的な保守派の意向に沿った判断を示したことで、リベラル派との分断がさらに深まるのは必至だ。11月の中間選挙にも影響する可能性が高い。

連邦最高裁は1973年の判決で、中絶を女性の憲法上の権利と認め、胎児が子宮外で生存できるようになる妊娠22〜24週目頃までの中絶を事実上容認した。

最高裁は今回、妊娠15週目頃以降の中絶を禁じたミシシッピ州法の合憲性巡る訴訟を審理していた。この日の判決で「憲法は中絶に何ら言及しておらず、73年の判決は誤りだ」と指摘。州ごとの中絶規制を容認し、ミシシッピ州法の規制を合憲と結論付けた。

最高裁は現在、ジョン・ロバーツ長官を含む9人の判事のうち、共和党のトランプ前政権時代に任命された3人とロバーツ長官を含む6人が保守派だ。同州法を合憲とすることには、6人全員が賛成する一方、73年の判決を覆すことに対しては5人が賛成し、ロバーツ長官が反対した。リベラル派3人はいずれも反対した。

中絶を巡っては、南部の保守的な州を中心に厳しく制限する州法の制定が相次ぐ。73年の判決を根拠に裁判所が施行を差し止めるなどしていたが、中絶規制は今後、各州の立法に委ねられる。米紙ニューヨーク・タイムズによると、全米50州のうち、中絶が禁止されるか、厳しく規制される州が少なくとも21州に上る可能性があるという。

米国で中絶は政治問題化している。中絶賛成派は与党・民主党を、反対派は野党・共和党を支持する傾向があり、11月の中間選挙でも主要な争点となるとみられる。

バイデン大統領は24日、ホワイトハウスで演説し、「最高裁は憲法上の権利を米国民から取り上げた。悲劇的な過ちだ。これが最終決定であってはならない」と判決を批判し、中絶賛成派に投票を呼びかけた。【6月25日 読売】
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上記記事にもあるように、最高裁判断が変わった直接の契機はトランプ前政権が実現した保守派判事を送り込むという「政治的成果」にあります。

****トランプ氏が「功績」アピール、最高裁の中絶禁止容認で****
トランプ前米大統領は24日、連邦最高裁が憲法判断を49年ぶりに覆し、州による中絶禁止・制限を容認したことを受けて声明を発表し、「(プロ)ライフ(=中絶反対派)にとって最大の勝利だ。(大統領就任前の)公約を実現し、最高裁判事に3人の強力な立憲主義者を指名したことで可能になった」と自らの“功績”だとアピールした。

トランプ氏は2016年の大統領選で、女性が中絶を選ぶ権利を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆すことを支持し、中絶反対派を最高裁判事(定員9人)に指名すると公約していた。トランプ氏自身は実業家時代は中絶容認派だったが、共和党が中絶反対派の支援を受けていることもあり、主張を変えた経緯がある。

24日の最高裁判決では、トランプ氏が指名した保守派の判事3人全員が中絶禁止容認を支持した。最高裁判事は、大統領の指名と上院の承認によって選ばれる。近年は超党派の幅広い支持を受けて選ばれるケースが減り、判事の「政治色」が強まっている。【6月25日 毎日】
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民主党の大統領によって指名された3人のリベラル派の判事は対意見のなかで妊娠中絶の権利を認めた判例は「女性を自立した存在として認め、完全な平等を与えた」としたうえで、胎児の権利とのバランスをはかったと指摘。

今回の判決については「そのバランスを捨てる。受精の瞬間から、女性には権利がなく、どのような代償を払ってでも出産を強制させることができるとの立場だ」と強く非難しています。

また、中絶の権利が半世紀にわたって定着し、他の権利にも波及していると主張。「権利が認められて以来、何も変わっていない。法律も事実も態度も、異なる結論に至る理由を示していない。ただ、この裁判所が変わっただけだ」と述べています。

今回の事態は、トランプ前政権時代の判事任命で予想されていたことであり、その判断変更は事前にリークされ、ほぼ確定していたとも言えます。


【国論が割れる問題を誰がどのように判断するのか?】
アメリカでは、今回の人工中絶にしても、あるいは銃規制や医療保険制度にしても、国民を分断する重大な問題が、議会や大統領ではなく、最終的には最高裁判断で決着するという政治システムです。

「三権分立」と言えば聞こえはいいですが、その実態は前述のような「政治的」な判事任命で決まってしまうとも言え、司法のあり方、「三権分立」のあり方に対する疑念も拭えません。形の上で司法に委ねることで、政治的判断でないことを偽装している・・・という感も。

****米連邦最高裁の信頼度 過去最低****
調査会社「ギャラップ」が、今週23日に発表した世論調査の結果によりますと、アメリカで連邦最高裁を信頼する人の割合はこれまでで最も低くなっています。

調査は先月、アメリカの一部メディアで、連邦最高裁が中絶の権利を認めた過去の判断を覆す見通しであることを示す文書が報じられたあとの今月1日から20日にかけて行われました。

それによりますと、連邦最高裁について「非常に信頼している」、または「かなり信頼している」と回答した人は、合わせて全体の25%にとどまりました。これは去年に比べて11ポイント低く、1973年に調査を始めてから最も低くなったということです。

支持政党別で見ると、リベラル層が中心の民主党支持者の間で17ポイントと大きく下がった一方、保守層の多い共和党支持者では2ポイント上がっています。

調査では、連邦最高裁が中絶をめぐる過去の判断を覆した場合、アメリカ国民からの信頼がさらに下がる可能性がある一方、新たな判断の理由について国民が納得すれば、上がる可能性もあると指摘しています。【6月25日 NHK】
******************

ただ、誰かが、なんらかの方法によってか判断しないといけない・・・それが最高裁なのか、議会か大統領なのかという違いだけで、主張を否定された側にとって「不当な判断だ」と納得できないという点では大差ないかも。

そこをクリアするためには、人間ではない神の判断に委ねるしかなく、神が判断してくれないなら、人間的な思惑に左右されない人工知能(AI)の判断に委ねるという近未来ディストピアもあながち否定できないのかも・・・。

人工中絶に関しては、アメリカ国民世論の大勢は現状どおり容認する方向にあります。

****世論調査 中絶は「合法」が61%****
世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」が、1995年から行っている調査によりますと、アメリカでは人工妊娠中絶を「合法とすべき」だと考える人の割合が、「違法とすべき」だと考える人の割合を一貫して上回っています。

今月発表された最新の世論調査でも、「すべての場合で合法とすべき」と「ほとんどの場合で合法とすべき」を合わせると61%で、「すべての場合で違法とすべき」と「ほとんどの場合で違法とすべき」を合わせた37%を大きく上回りました。

支持政党別で見ると、「合法とすべき」と回答したのは民主党支持者では80%だったのに対し、共和党支持者では38%にとどまり、支持政党による違いがはっきりと表れています。【6月25日 NHK】
******************

****米民主党、妊娠中絶政策で支持集める=世論調査***
ロイター/イプソスの世論調査によると、米国では人工妊娠中絶について、共和党の政策よりも民主党の政策を支持する有権者が多かった。共和党員の5人の2人は、同党の中絶政策を支持しないと回答した。 調査は今月16─23日に実施した。

連邦最高裁が中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆す可能性が指摘される中、有権者の間で不安が広がっていることが浮き彫りとなった。 

調査対象の成人4409人のうち、34%は民主党の中絶政策を支持すると回答。共和党の中絶政策を支持するとの回答は26%だった。残りの回答者は「どちらも支持しない」もしくは「分からない」と答えた。 

61%の有権者(共和党員の38%、無党派の39%)は、中絶を禁止したり厳格に制限する法案を支持する候補に投票する可能性は低いと回答した。【5月27日 ロイター】
********************

こうした世論の動向と今回最高裁判断にギャップがあることが問題と言えばそうも思えますが、ただ、「じゃ、世論調査、あるいは国民投票で決めるのがベストか?」と問われれば、様々な要素・影響等がある問題について国民が正しく判断できるのか・・・という疑問も。

国民の意見が割れる問題を、誰がどのように決めるべきか・・・という民主主義の根幹に関わる話でもあり、難しいところ。
敢えて言えば、声が大きい者の意見が通りやすいという点で、現実の民主主義システムには「ゆがみ」もあるようにも。

【全世界での「意図しない妊娠」は全体の妊娠件数のおよそ半数という現実】
中絶の是非をめぐる問題で、その中身に関する部分で言えば、下記のような現実をどのように考えるのか・・・ということがあります。

****世界の「意図しない妊娠」全体の約半数の年間1億2100万件****
国連人口基金は30日、全世界での「意図しない妊娠」の件数は全体の妊娠件数のおよそ半数にあたる年間1億2100万件にのぼることを明らかにしました。

国連人口基金は30日子どもを望んでいなかった時に妊娠したり希望より早く妊娠してしまう「意図しない妊娠」についての報告書を発表しました。

報告書によると、2015年から19年にかけて、「意図しない妊娠」は毎年1億2100万件で全体の妊娠件数の48%を占めるということです。

さらに「意図しない妊娠」のうち61%が中絶に至っているということです。

中絶件数のうち推定で45%が「安全でない中絶」で、発展途上国では年間700万人の女性が入院するなどしていて報告書は「公衆衛生上の緊急事態」だと指摘しています。

また「意図しない妊娠」は全世界の15歳から49歳の女性の6点4%が経験していて、ジェンダーの不平等が大きい国ほどその割合が高くなっているということです。

国連人口基金は「意図せぬ妊娠」の増加は「女性と女児の基本的人権を守るための世界的な失敗を表している」と警鐘を鳴らした上で、ウクライナをはじめとする世界各地の紛争や危機で、避妊ができなくなったり性的暴行が増えたりすることで「意図しない妊娠」がさらに増加することを懸念しています。【3月31日 日テレNEWS24】
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「意図しない妊娠」に対し“受精の瞬間から、女性には権利がなく、どのような代償を払ってでも出産を強制させる”というのが、胎児の権利とのバランスで“正しい選択”と言えるのか?という疑問があります。

【ブラジル 11歳少女のレイプ妊娠 法に反し中絶を妨げた判事 中絶を非難する大統領】
「意図しない妊娠」の最たるものがレイプによる妊娠でしょう。今回最高裁判断によって、州によってはそうした妊娠の中絶も認められないことにもなります。

カトリックの影響が強い中南米では妊娠中絶に厳しい国が少なからずありますが、昨今はアメリカとは逆に規制を緩める傾向にあります。

そうした中で最近話題になっているのがブラジルの案件。

****性暴力で妊娠した11歳の少女に「もう少し我慢を」。中絶を認めなかった判事に波紋 ブラジル****
ブラジルの裁判所の判事が、レイプに遭って妊娠した11歳の少女に対し中絶を認めない判断を下したことをめぐって、波紋が広がっている。

ニューズウィークなどによると、当時10歳だった少女は2022年初めに自宅で性暴力を受けた後、妊娠が判明した。
少女側の代理人弁護士によると、妊娠に気づいた時にはすでに22週を迎えていたという。

少女は母親の付き添いのもと、ブラジル南部のサンタカタリーナ州の病院で診察を受けたが、医師は少女が妊娠22週であることから中絶手術を拒否した。病院の院内規定では、中絶手術は20週までの人にしか行えず、その上裁判所による許可を必要としていたという。

少女の中絶手術の可否は司法判断に委ねられたが、担当の判事は中絶を認めなかったと報じられている。

「産みたくない」と伝えていた
AP通信によると、判事は5月の審理で加害者を「赤ちゃんの父親」と呼んだほか、少女に対して赤ちゃんを救うために「(中絶を)もう少し我慢してみては」と求めたり、名前を決めるよう勧めたりする姿が撮影されていた。少女は「産みたくない」と繰り返し伝えていたという。

少女は女性用シェルターで保護されたが、その間も中絶手術は認められなかった。その後自宅に戻ることを認められたが、現時点での中絶の可否は明らかになっていない。

ブラジルでは、女性の生命の危険が伴うケースや、レイプや近親相姦による場合を除き、妊娠中絶は犯罪とされている。

今回の性暴力事件をめぐり、現地の警察と検察は少女の親戚が容疑者であると主張している。
レイプで妊娠した少女が合法的に中絶するのを妨げた可能性があるなどとして、人権団体などはブラジルの司法評議会に対しこの判事の解任を要求。司法評議会は6月21日、判事の調査を開始したことを発表した。

判事は22日の声明で、「違法にリークされた(少女への)聞き取りの内容について話すことはない」との見解を示した。その上で「子どもへの正当かつ完全な保護を保証するため」、今回の事案に関してコメントをしないとしている。

判事を擁護する意見も
判事の決定に憤りの声が上がる一方で、22週という妊娠週数と母体保護の観点から、中絶を認めなかった判事を擁護する意見もある。中絶反対派の中には、同国の保健省の勧告が中絶を20〜22週までに制限するよう求めていると主張する人もいる。

これに対し、少女の代理人や他の弁護士らは、女性の命の危険がある時やレイプ被害者の場合には法律上、妊娠週数の中絶制限に関して規定がないと訴えている。

世界では多くの国で中絶規制を緩和する動きが進む一方で、中絶の条件を厳格化する国や、無条件で禁止する国も少なくない。(後略)【6月23日 ハフポスト日本版】
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この少女は女児はシェルターで保護されていたが自宅に帰り、22日に中絶手術を受けたとのことですが、“ブラジルのトランプ”とも評されるボルソナロ大統領は、この中絶について「容認できない」としています。

****レイプされた11歳女児の中絶「容認できない」 ブラジル大統領****
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は23日、レイプされて妊娠した11歳の女児が人工妊娠中絶手術を受けたことについて、「容認できない」と非難した。

地元メディアによると、女児は長い法的手続きの末、今週ようやく中絶手術を受けた。
ブラジルでは、レイプによる妊娠、母体に危険が及ぶ場合、または胎児に異常がある場合のみ中絶が認められている。だが、女児が最初に受診した病院は、規定では20週までしか手術が行えないとして、裁判所に決定を委ねていた。

女児の訴えは国内で波紋を呼び、「子どもは母親ではない」というスローガンがSNSで拡散した。

極右のボルソナロ氏は「妊娠7か月の胎児にとっては、どのように妊娠したかとか、(中絶が)合法とかは関係ない。無力な存在の命を奪うのは容認できない」とツイッターに投稿。女児への中絶手術を「虐待」と呼び、調査を命じたと明らかにした。

同氏は、一人で決められるなら中絶を全面的に禁じたいという主張を以前から繰り返してきた。

女児がボルソナロ氏の言うように妊娠7か月だったのか、AFPは現時点では確認できていない。 【6月25日 AFP】*********************
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ロシアの天然ガス供給削減で欧州、特にドイツは苦境に

2022-06-24 23:30:04 | 欧州情勢
(独ミュールドルフにあるガス貯蔵施設。ドイツにはロシア産ガスの代替手段がほとんどない【6月24日 WSJ】)

【ロシア 政治的なガス供給削減】
日本では参議院選挙が公示されて選挙戦が始まっていますが、ほとんど熱気や緊張感は感じられないようにも。
しかし、世界はロシアのウクライナ侵攻で大きく揺らぎ、欧米各国は差し迫った危機的状況に置かれています。
欧米だけでなく、中国や中東諸国も新たな国際関係を模索して動いています。
危機的な混乱は、別の見方をすれば新たなものが生みだされる機会でもあります。
一方、微温的な安定のようなものがもたらすものは・・・

ロシアの欧州へのガス供給は従前からその政治利用が取り沙汰されてきました。
ただ、ウクライナ以前について見ると、「ロシアが供給を削減している」云々は、実際は中継国ウクライナなどによる問題、あるいは経済問題であることも多く、むしろロシアは長期の大口顧客である欧州への影響を望んでいないようにも見えました。

しかし、ウクライナ情勢の混迷に伴い、ロシアはウクライナを支援する欧州に対し、天然ガス供給を政治カードとして切り始めたようです。

これは長期的に考えると、欧州・世界の脱ロシア依存を促し、資源輸出を国家財政の基幹とするロシア自身の首を締める行為にも思えますが、ロシアとしてもそこまで追い詰められているということでしょう。

ロシアは技術的問題を理由に欧州向けの天然ガス供給を大幅に削減していますが、欧州、特にロシア依存度の高いドイツ(ガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前で55%)は極めて難しい状況に直面しています。

****ロシア、ドイツへのガス供給さらに削減 独政府は「政治的」と非難****
ロシア国営天然ガス企業ガスプロムは15日、ロシア産の天然ガスをドイツに輸送するパイプライン「ノルドストリーム」経由の1日当たりのガス供給量を、さらに33%削減すると発表した。同社は前日にも約40%の供給削減を発表しており、ドイツ政府は「政治的な決定」と非難している。

ガスプロムは14日、ドイツのシーメンス社製のコンプレッサー設備の「修理」を理由に、供給量を約40%減となる1億立方メートルにする方針を示した。

これに対し、ドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相は翌15日、「政治的な決定であり、技術的に正当な解決策ではない」と非難。修理の必要性は認識しているとしながらも、関連作業は秋まで行われない予定だと指摘し、この削減規模は正当化できないと述べた。

ガスプロムはその後、メッセージアプリのテレグラムを通じて再度の削減を発表。モスクワ時間の16日午前1時半(日本時間同7時半)をもって供給量は最大6700万立方メートルになるとし、「エンジンの技術的な状態」のためガスタービンの運転を停止すると説明した。

ハーベック氏はこれを受け改めて声明を出し、「不安をあおり、価格を押し上げるための戦略であることは明らかだ」と批判した。 【6月16日 AFP】
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ちなみに、ガス供給が減少しているのはドイツだけでなくフランス・イタリアも同じです。

****ロシア産天然ガス、仏へパイプライン経由の供給途絶****
フランスの天然ガス輸送網を運営するGRTガスは17日、ロシアから15日以降、パイプライン経由で天然ガスを受け取っていないと明らかにした。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムは今週、欧州への供給を大幅に削減すると発表していた。(中略)

フランスは、ロシアからドイツ経由で自国消費の17%前後に相当する量の天然ガス供給を受けている。すでに年初から供給は60%削減されており、ガス価格が高騰している。

GRTガスは、平時よりも備蓄量を増やしており、現時点での供給に懸念はないとしている。ロシアのウクライナ侵攻後、フランスや他の国々は、スペインを経由したパイプラインを通じて天然ガスの輸入を増やしているほか、船舶を使った液化天然ガスの購入も拡大している。(後略)【6月17日 AFP】
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****イタリア、ガスの「警戒事態」検討 ロシア産ガス供給不足で****
イタリアは、ロシアが天然ガスの供給削減を続けた場合、来週にも「警戒事態」を宣言することを検討している。イタリアのエネルギー会社ENI が3日連続でロシア産ガスの供給不足を報告したことを受け、政府筋2人が17日に明らかにした。

イタリアのガス緊急措置の規定では、ロシアのウクライナ侵攻後の2月末に発令された「事前警戒」から悪化した場合は「警戒事態」、さらに進むと「緊急事態」への3段階を想定している。(中略)

ENIは17日、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムに要請しているガス供給量の半分しか受け取れないと指摘した。ENIはウェブサイトに「ENIの1日のガス需要約6300万立方メートルに対し、ガスプロムは要請された量の50%しか供給しないと表明しており、実際の供給量は昨日とほとんど変わっていない」と記した。【6月18日 ロイター】
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【ドイツ 石炭利用拡大へ 脱石炭目標は維持 警戒レベル引上げ】
各国ともに対応に追われていますが、ドイツは温暖化対策で段階的に削減する目標を掲げている石炭使用を一時的に拡大することに。

****独、石炭利用拡大へ ロシア産ガスの供給減少で****
ドイツ政府は19日、ロシア産天然ガスの供給減少と国内のエネルギー需要に対応するため、石炭利用の拡大を含む緊急対策を講じると発表した。(中略)

ドイツの経済・気候保護省は「ガス需要を縮小させるには発電用のガス使用を減らす必要がある。その代替として石炭火力発電所への依存を高めることになる」と説明した。

ドイツ政府は2030年までに石炭使用を段階的に削減する目標を掲げているが、方針を転換することになる。

ドイツのガス需要に占めるロシア産天然ガスの割合はウクライナ侵攻前の55%から現在は35%に低下。それを埋め合わせるため、ノルウェーやオランダなどからの調達を拡大するとともに、液化天然ガスの輸入を増やしている。 【6月20日 AFP】
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ドイツに続きオランダ政府も20日、ロシア産天然ガスの供給減少に対応するため、石炭火力発電に対し課していた制限をすべて解除すると発表しています。

なお、ドイツは脱石炭目標自体には変更ないともしています。

****ドイツ、2030年の脱石炭目標は維持 化石燃料の利用拡大も****
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機を受け、化石燃料の利用拡大方針を示しているドイツは20日、2030年までに石炭火力発電所を閉鎖するという目標については、引き続き期限通りの達成を目指していくと表明した。

経済省のシュテファン・ガブリエル・ハウフェ報道官は定例記者会見で、「2030年の脱石炭達成期限については疑いの余地はない」と明言した。(後略)【6月20日 AFP】
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更に、ドイツはガス供給の緊急計画に関する警戒レベルを引上げています。

****独、ガス調達警戒レベル引き上げ ロシアからの供給減で****
ドイツのロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候保護相は23日、ロシアからのパイプラインを通じた天然ガス供給の減少を受け、ガス供給の緊急計画に関する警戒レベルを1段階引き上げ、3段階中第2段階に移行すると発表した。

最高レベルの第3段階ではガスは配給制になる。

ハーベック氏は、西側諸国のウクライナ支援に対する報復として、ロシアはドイツを標的にガスを「武器」として使っていると非難。

第2段階への移行について「ガス供給をめぐる状況の大幅な悪化」を受けた措置と説明し、エネルギーを節約するよう各家庭に訴えた。
現段階では、当面の間は状況に対処できると想定される。 【6月23日 AFP】
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【ロシアのガス供給完全停止も現実味 対策を講じないと冬場に枯渇する懸念も】
対応をとっているとは言え、欧州、特にドイツが苦しいのは間違いないでしょう。

****ロシア産ガス輸入減でEUの苦境鮮明、独産業連盟は景気後退を警告****
 ロシア産天然ガスの輸入が細っている欧州連合(EU)各国が対応に苦慮する状況が一段と鮮明になってきた。

21日にはドイツ産業連盟(BDI)が今年のドイツの経済成長率見通しについて、ロシアのウクライナ侵攻前の3.5%から1.5%に引き下げ、ロシア産ガスの輸入が完全に止まった場合は景気後退(リセッション)突入は避けられないと警告した。

一方、イタリア政府は同日、国内のガス備蓄を増やすための措置を打ち出すと同時に、ガス消費節約に向けて石炭火力発電所を活用する必要があるなら、政府が石炭を購入する方針だと明らかにした。

ウクライナで戦争が始まる前まで、EUは域内の天然ガス消費量の最大40%、ドイツに至っては55%をロシアに依存していた。現在もロシア産ガスはウクライナ経由で欧州に入ってきているものの、その量は減少している。

ドイツにとって重要な供給ルートであるバルト海を通るパイプライン「ノルドストリーム1」の稼働率は40%程度だ。ロシア政府は、必要な修理を西側が妨げていると非難し、欧州はロシアの主張は供給を絞るためのもっともらしい口実だと反論するなど、対立が続く。

ドイツのハベック経済相は、ロシアによる供給縮小はプーチン氏の恐怖をあおる作戦の一環だと指摘し、「この戦略を決して成功させてはならない」と訴えた。

だが現実にはこうしたロシアの姿勢により、欧州ではガス備蓄が進んでいない。EUは域内の貯蔵率を10月までに80%、11月までに90%として次の冬を乗り切ることを目指しているが、足元の貯蔵率は約55%にとどまっている。【6月22日 ロイター】
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“当面の間は状況に対処できる”【前出 AFP】とのことですが、問題は上記記事にもあるように需要が増大する冬場でしょう。

****ロシアのガス供給完全停止も、欧州は今準備を=IEA事務局長****
国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は22日、ロシアはウクライナ危機の中で政治的な影響力を強めようとしており、欧州向けの天然ガス供給を完全に遮断する可能性があると指摘、欧州は今準備する必要があると述べた。

ビロル氏はロイター向けの声明で「ロシアがそこかしこでさまざまな問題を見つけ続け、欧州へのガス供給をさらに減らし、おそらく完全に遮断する言い訳を見つけ続ける可能性を排除しない」とし「欧州が緊急時対応計画を必要とするのは、そのためだ」と述べた。

ロシアからの供給減少は、需要が高まる冬の前に政治的影響力を確保しようとしている可能性があると指摘した。その上で、IEAは最も可能性の高いシナリオとして完全な供給停止は想定していないと述べた。

IEAはこの日発表した投資に関する年次報告書で、欧州はロシアのエネルギー供給の代替確保を急ぎ、効率性と原子力を含めた再生可能エネルギーを大幅に強化すべきとの認識を示した。【6月22日 ロイター】
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ただ゛“今準備する”とは言っても、なかなか難しいことです。

****ロシア産ガス供給停止が現実味 欧州の備えは****
欧州のエネルギー選択肢は急速かつ劇的には変わっていない

半年前には、ロシアがドイツへのガス供給を止めるなどほとんど想像もできない話だった。だが現在、そうしたシナリオが現実味を帯びている。

ドイツは23日、ガス不足の警戒レベルを上から2番目へ引き上げた。ロシア国営ガス大手ガスプロムが先週、パイプライン「ノルドストリーム1」の供給量を減らしたことから、警戒レベルの引き上げは意外ではなかった。それでも、ドイツが懸念を強めていることの表れだと言える。欧州で先週、急騰した液化天然ガス(LNG)と電力の価格は一段高となった。

政治情勢がどうであれ、何十年も確実にガス供給は続いていた。だがロシアのウラジーミル・プーチン大統領は現在、長年にわたる欧州のスポンサーに対して、ほぼ公然とエネルギーを武器として使いたがっているようだ。

ロシアは今年、ポーランドとブルガリアへの供給を中断した。だが両国との契約は終了間近だったため、おおむね象徴的な動きとして受け止められた。

ドイツにはロシア産ガスに代わる選択肢がほとんどない。供給を減らすのは大胆不敵な行為だ。たとえそれが間接的な理由で行われたとしても、だ。ロシアはカナダでメンテナンスを受けたパイプラインの圧縮機が戻らないとして、カナダを非難した。

ドイツはプーチン氏がさらに踏み込んだ行動に出るかもしれないと懸念している。絶好の機会が訪れるからだ。ガスプロムはまもなく、年1回の定期メンテナンスのためノルドストリーム1の稼働を止める。再開は先延ばしされるか、もしくは無期限に延期される可能性がある。

比較的安価でクリーンな化石燃料である天然ガスは、発電や暖房、産業においてその重要性が一段と高まっている。だがパイプラインは簡単には動かせず、新設には何年もかかることから、パイプライン経由のガスは強力な地政学的武器と言える。

稼働が止まった場合、そうした硬直性が、代替手段のない買い手と売り手の双方にとって痛手となる。LNGにはいくぶん柔軟性があるものの、限られた市場にとどまっている。ドイツはかつてもう一つのノルドストリームを支持していたが、今ではLNG施設の建設を急いでいる。

欧州は昨冬、ガス不足に陥るのではないかと心配した。ガスプロムが貯蔵量を異例なほど低水準に抑えていたためだ。これはほんの序の口にすぎないことが判明した。

コンサルティング会社ウッド・マッケンジーの推計によると、ノルドストリームが今後も供給量を45%に抑えれば、欧州の貯蔵レベルは11月初めの時点で69%になる見込みだ。ノルドストリームが完全に稼働を止めた場合、貯蔵レベルは約60%と予想されている。同社のアナリスト、カテリナ・フィリペンコ氏は「どちらの場合も、需要ないしは供給に対する対策を他に取らない限り、貯蔵していたガスは冬の間に枯渇する」と指摘する。

欧州連合(EU)には対策があり、ロシア以外からガスを購入している。LNG価格は、とりわけ中国が新型コロナウイルス流行に伴うロックダウン(都市封鎖)の解除に踏み切ったこともあり、再び押し上げられることになる。

欧州はまた、再生可能エネルギー施設の建設を増やすとともに、省エネ機器を設置しているが、これらは時間を要する。

その一方で、多くの国が石炭火力発電所を再開したり、廃止するのを先送りしたりしている。ドイツが原子力発電所の稼働延長すら検討するかもしれない気配もある。フランスでは運転していない原発が多いことから問題はさらに深刻だ。

欧州各国にはそれぞれ緊急時の対策があるが、ドイツの対策は同地域の経済にとってとりわけ重要となる。今回の動きが意味するのは「ガス会社は古い(契約した)価格で売る必要がない」ということだと、UBSのアナリスト、サム・アリー氏は指摘する。これはガス供給元にとっては朗報だが、大口顧客を直撃する。顧客は契約量を減らすか、値上げしようとする。値上げとなれば、インフレに拍車がかかる。

パイプライン経由のガスが止まれば配給制となり、一般家庭と重要インフラが優先される。多くの産業ユーザーはコスト増と供給減に直面することになる。一部は完全に供給が止められるかもしれない。

インフレ高進はほぼ確実で、失業とリセッション(景気後退)が起きる可能性は非常に高い。「(ドイツは)よく練られた計画を実行するのではなく、大概が瀬戸際政策だ。冬まで時間があまりないことを考えれば、パニックのレベルは意外なほど低い」。シンクタンク、ブリューゲルのゲオルグ・ザックマン氏はこう警鐘を鳴らす。

ドイツはこれまで、ロシアがガスの供給を止めるリスクなどほとんど気に留めていなかった。そうしたリスクが現実のものとなる可能性は急速かつ劇的に変化している。残念ながら、欧州のエネルギー選択肢は急速かつ劇的には変わっていない。【6月24日 WSJ】
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ベルギーとコンゴ  植民支配の重い歴史

2022-06-23 23:25:12 | アフリカ
(1900年頃のコンゴ自由国では労働者の腕を切断する罰がまかり通っていた。【6月23日 Newsweek】
ちなみに、現代のアフリカの武装勢力も、恐怖を見せつけるために腕の切断をよく行うようですが、そうした行為には植民地時代から長い歴史があるようです。)

【アフリカの二つの側面、成長と混乱 その混乱を象徴するコンゴ民主共和国】
いつも言うようにアフリカには二つの側面があります。
ひとつは“アフリカ”からすぐに連想する、未開、混乱、紛争、貧困などのマイナスイメージを生んでいる側面。
もうひとつは、目覚ましい経済成長を実現しつつあるという現実。

国によってどちらの側面が大きなウェイトを占めるかは異なるでしょうが、中央アフリカに位置する広大なコンゴ民主共和国(旧ベルギー植民地)は前者のマイナスイメージを体現した国家のように見えます。

とりわけ、1998年8月から2003年7月にかけて、ルワンダ大虐殺の原因ともなったツチとフツの民族対立や資源獲得競争が原因で戦われた第2次コンゴ戦争は、その豊かな資源(ダイヤモンド、金、銅、コバルト、錫石、コルタン、原油など)に引き寄せられた8つの周辺諸国と少なくとも25の武装勢力を巻き込んで「アフリカ大戦」とも呼ばれました。

“この第二次コンゴ戦争とその余波で起きた虐殺・病・飢えで死んだものは2008年までの累計で500〜600万人とされ、その死者数は第二次世界大戦以来最悪である。100万人以上が家や病院等を追われ難民と化し、周辺諸国へ避難したが、この難民の一部も組織的に虐殺された。暫定政権はその後も国内すべてを掌握できず、民族対立とも相まって東部(イトゥリ州、南キヴ州、北キヴ州)は虐殺・略奪・強姦の頻発する一種の無法地帯となった。この戦争と闘争の余波は、鉱山資源の獲得競争等の原因で2013年現在も継続している。”【ウィキペディア】

上記【ウィキペディア】記載は2013年のものなので、“2013年現在も継続している”とありますが、2022年の現在も状況は大差ないようです。

****コンゴ民主共和国東部で戦闘、7万2000人が避難****
コンゴ民主共和国の東部で軍と反政府武装勢力「M23(3月23日運動)」の戦闘が発生し、国連難民高等弁務官事務所の5月27日の発表によると、北キブ州の二つの地域で5月19日以降に避難した人は7万2000人に上った。

UNHCRによると、コンゴ民主共和国東部で戦闘が激化した2021年11月以降に避難を強いられた民間人は17万人を超え、その多くが避難を繰り返しているという。

M23は2012年に北キブ州の州都ゴマを支配下に置いたが、翌年軍に制圧された。しかしM23は今年に入り、M23の戦闘員を軍に受け入れるという2009年の合意を政府が順守していないとして戦闘を再開した。

コンゴ民主共和国は、隣国ルワンダがM23を支援していると主張しているが、ルワンダは関与を否定している。コンゴ民主共和国東部で活動中の武装勢力は120を超える。その多くは20年以上前の地域紛争に由来する勢力だ。 【6月5日 AFP】
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【アフリカに根深い欧州の植民地支配に対する反感】
今回記事の本旨ではありませんので詳細は省きますが、「M23(3月23日運動)」はツチとフツの民族対立を背景にした、フツ民兵組織などと争うツチ主体の武装勢力です。

いずれにしても120を超える武装勢力が跋扈する“虐殺・略奪・強姦の頻発する一種の無法地帯”の感も。

こうしたコンゴに代表されるアフリカの混乱の原因はどこにあるのか・・・先ずは、コンゴなどアフリカ諸国自身の統治の問題でしょう。

ただ、アフリカが長い間西欧列強の植民地として収奪され、その社会が破壊され、宗主国に都合のいい体制に留め置かれたことも大きく影響しているのも事実でしょう。

アフリカにはかつての植民地支配への根深い恨みが・批判が存在し、いろんな場面でその感情が現れます。

現在、欧米はロシアのウクライナ侵攻を批判して国際社会にその非を訴えていますが、アフリカ諸国にはかつて植民地支配した国の人権や非暴力といった言い分に冷ややかな対応も。

例えば、3月2日の国連総会におけるロシア非難決議では反対1、棄権17に不参加8と、合計26のアフリカの国がロシア非難を回避し、アフリカ54カ国のほぼ半分がロシア非難を避けました。

3月24日の非難決議でも、反対1、棄権20、不参加6と、合計27のアフリカの国がロシア非難を回避しました。

更に、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格停止を求めた4月7日の決議では、反対9、棄権24、不参加11と、実に44のアフリカの国がロシアの資格停止に賛成しませんでした。

植民地主義や独立後の経済的支配によってアフリカをさんざん虐げてきた西欧が、いまさら人権や非暴力の重要性を唱えることには偽善を感じざるを得ない・・・というアフリカの心情のあらわれでもあるでしょう。

ロシアがアフリカに大きな支持を得ているのも、また、中国がアフリカにおける存在感を急速に拡大しているのも、両国が植民地支配という負の遺産を有していないことと無縁ではないでしょう。

【コンゴとの関係の清算に踏み出したベルギー】
どこの国も植民地支配などの“歴史問題”は存在しますが、一般に加害者側は「もう昔の話」という意識になりがちなのに対し、被害者側は多少の年月ではその感情は消えません。

そうしたバイアスはあるものの、植民地支配した側にも過去の負の歴史を清算したいという気運も強まってはいます。

コンゴを支配したベルギーも・・・

****ベルギー国王、コンゴ支配「深い遺憾」 初訪問****
ベルギーのフィリップ国王が7日から旧植民地のコンゴ(旧ザイール)を訪れ、8日の首都キンシャサでの演説でコンゴ支配に「深い遺憾」の意を示した。国王が2013年に即位して以降、コンゴ訪問は今回が初めて。欧州メディアが伝えた。

国王は20年、コンゴのチセケディ大統領への書簡で遺憾の意を初めて表明していた。8日の演説で当時の状況について「正当化できない不平等な関係で、人種差別が顕著だった」と指摘し「それが暴力行為や屈辱をもたらした」と認めた。
元国王レオポルド2世の私領地「コンゴ自由国」時代(1885~1908年)には数々の残虐行為が行われ、天然ゴム採取などのノルマが果たせない住民らへの罰として手首を切断するなどしたとされる。その後もベルギー政府が60年まで植民地経営した。
国王は8日、キンシャサの博物館も訪問。ベルギーの王立中央アフリカ博物館が長年所蔵してきたコンゴの伝統的な仮面を無期限で貸与した。【6月9日 日経】
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****遺体を硫酸で溶かされたコンゴ独立の英雄、残っていた歯が約60年後に親族へ…ベルギー政府謝罪****
ベルギー政府は20日、アフリカの旧植民地コンゴ民主共和国の独立の英雄パトリス・ルムンバ元首相のものとされる歯の一部を親族に返還し、その殺害に関して道義的責任を認めて謝罪した。

急進的な反植民地主義を掲げたルムンバ氏は今もアフリカ各国で人気があり、ベルギー政府が目指す過去の清算と旧植民地との関係再構築につながるかどうかが注目される。

ベルギーのブリュッセルで行われた式典で、演説しようとするルムンバ元首相の娘(中央)=AP ルムンバ氏は、1960年に初代首相に就任したが、独立後も影響力確保を狙ったベルギーと対立し、コンゴ動乱のさなかの61年にベルギーの支援を受けた反ルムンバ派に殺害された。

遺体の大部分は硫酸で溶かされたが、その後、歯の一部がベルギー人警察官の家庭で保管されていることが判明し、返還に向けた協議が続けられてきた。【6月21日 読売】
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【「深い遺憾」の意では済まされない重い歴史も】
しかしながら、コンゴとベルギーの関係はベルギー国王の「深い遺憾」の意では済まされない重い歴史を引きずっています。

****ベルギー名産品チョコレートと植民地支配──現国王の謝罪、今後の役割とは?****
<ベルギー・フィリップ国王がコンゴ民主共和国を初訪問し、過去の残虐行為を謝罪した。かつてアフリカ分割に中心的な役割を果たしたベルギーの償いは、いま始まったばかり>

先日夜が明ける頃、西ヨーロッパのとある主要空港に降り立った私は、今更のようにショックを受けた。これまで何度もこの空港を利用してきたが、その朝初めて、コーヒーとチョコレートの広告看板の数々が目に飛び込んできたのだ。

西欧世界では何世紀もの間、タバコや香水、絹と並んで、コーヒーとチョコレートは遠くから運ばれてきた贅沢品であり、富と地位の象徴だった。そして、その贅沢趣味の陰で無数の人々が搾取に苦しんでいた。

私は新著『ボーン・イン・ブラックネス』で、15世紀末に欧州の人々が砂糖やチョコレートに魅せられたことがきっかけで植民地支配が始まったこと、欧州列強は奴隷制度、さらには繁殖や伝播の意の「プロパゲーション」という名の強制労働キャンプを利用して富を蓄え、300年にわたって栄耀栄華を極めたことを詳述した。

植民地における砂糖の生産、またベルギーの国際空港で広告されていたようなチョコレートやコーヒーの生産は莫大な富をもたらした。おかげで欧州諸国は近代に目覚ましい発展を遂げ、その豊かさと影響力において東方世界とは一線を画す文明圏を形成した。

その文明圏こそ、私たちが今「西側」と呼ぶ、西欧と北米(特にアメリカ)から成る「豊かな先進地域」だ。

1820年以前に大西洋を渡って西に運ばれたアフリカ人の数は、アフリカに渡った白人の数の4倍に上る。アフリカ人を鎖につないで船に乗せ、苛酷な無報酬の労働を強いたおかげで、西欧諸国の植民地経営は途方もない利益を生み出した。(中略)

1870年代、当時の欧州では歴史の浅い小国にすぎなかったベルギーがアフリカとその富を収奪する事業に加わろうと精力的に奥地探検を行った。

その頃には白人によるアフリカ人の公然たる奴隷化は恥ずべき行為としてとっくに葬り去られていたが、プロテスタントのオランダから独立したカトリック国ベルギーには特殊な事情があった。

国境線の確定交渉でリュクサンブールとリンブルフ地域の半分を失った上、独立後はオランダ東インド会社を通じたアジアとの交易で荒稼ぎすることもできなくなっていたのだ。

ノルマ未達成なら手足を切断
そこで2代目の国王レオポルド2世は無謀とも見える企てに着手し、遠い異境の富を奪おうとした。当初は中国やフィリピンにも目を付けたが、最終的に行き着いた先は米エール大学の歴史学者ロバート・ハームズが2019年の著書『涙の土地』で、「欧州の探検と植民地拡大の最後のフロンティア」と呼んだ場所。つまり、鬱蒼たる密林に覆われたアフリカの中心部だった。

奴隷制反対のレトリックと人道主義者の仮面の下に強欲な素顔を隠したレオポルドは、アフリカ分割に関する欧州列強のベルリン会議で、インド洋経由の奴隷貿易をなくすという大義名分を掲げて、後にコンゴとなる広大な盆地の領有権を主張。まんまと承認を取り付けた。その面積はベルギー本国の約88倍、西欧全域がほぼすっぽり収まるほどの広さだ。

レオポルドはそこを自身の領地とし、「コンゴ自由国」なる何とも残酷で皮肉な名称を冠した独立国を建設して自らその君主となった。

住民たちは自由を与えられるどころか、強制的に象狩りを強いられ、レオポルドの蓄財のために膨大な量の象牙を集めた。レオポルドはまた、工業化の進む欧州で砂糖に代わる重要な産品の1つとなったゴムの生産も奨励した。

その手法は非人道的で苛烈を極めた。村の女性たちは日常的に人質に取られ、男性たちは「妻を返してほしければ、ゴムを持ってこい」と言われて密林の奥に入りそこに自生するゴムノキの樹液を採取する。ノルマを達成できなければ、見せしめのために公衆の面前で手足を切り落とされることもしばしばだった。

こうして19世紀末のわずか30年間でコンゴは外部の人間がほとんど入ったことのない世界有数の秘境から、世界でも指折りの無残に収奪された「涙の土地」に姿を変えたのである。

だが見境のない収奪はやがて国際的な非難を浴びることになり、レオポルドは自分の私有地だったコンゴをベルギーに移譲。1908年、コンゴ自由国はベルギー領コンゴとなった。

レオポルドの支配下にあった時代とその直後には最大1000万人もの住民が殺されるか劣悪な環境下で死に追いやられた。政府の直轄領になってからは統治機構は変わったものの、搾取の体質は変わらず。ベルギー政府はコンゴ盆地の膨大な富を吸い上げるばかりで、ほとんど何も還元しなかった。

今日においてもベルギー国内にはこうした歴史を否定するか、自分たちの国はコンゴに道路や学校や病院を建てたと主張して過去の罪を軽く見せようとする人々がいる。

これはもっともらしい主張のようだが、重大な見落としがある。数少ないインフラ建設はベルギー政府の投資ではなく、コンゴ人の強制労働で実施されたこと。さらにベルギー統治下では、ほぼ全てのコンゴ人にとって中等教育ですら高根の花だったことだ。(中略)

奪われた文化財の返還はいつ
この歴史は現代にも影を落としている。かつてのベルギー領コンゴ、現在のコンゴ民主共和国は世界で最も貧しく、最も政府が脆弱な国の1つだ。私はアフリカでも特に大きな国々の一部に深刻な貧困や政治不安や紛争が集中している問題を「アフリカの大国危機」と呼んでいるが、ナイジェリアやエチオピア、スーダンと並んでコンゴもそうした大国の1つだ。

これらの国々の1つでもいいから経済的・政治的基盤を強化できれば、その周辺の広大な地域の今後の見通しは劇的に明るくなり、ひいてはアフリカ大陸全体の未来を後押しすることにもつながるだろう。

この問題はベルギーのフィリップ国王(レオポルド2世の甥のひ孫に当たる)が今月、王妃と首相を伴ってコンゴを訪問したことで、改めて報道などで取り上げられるようになった。

ベルギーは近年、コンゴの悲劇に自国が果たした役割についてある程度認めるようになってきてはいる。だが遺憾の意を示しはしても、表現は紋切り型だし内容も曖昧だ。ベルギーがコンゴにおける過去の帝国主義的行動の真実を全て認め、さらには十分な償いをしていると言える状況には到底なっていない。

ベルギーを訪ねた際に私は、ブリュッセル郊外にある王立中央アフリカ博物館を見学した。もともとはベルギーによる植民地支配をたたえる(そしてアフリカ人をおとしめる)ことを目的としており、「人間動物園」が開設されていた時期もある。コンゴの村を再現してそこに永続的にコンゴ人を閉じ込め、見学者向けに「展示」していたのだ。

博物館は近年、拡張しリニューアルされたが、もともとのひんしゅくを買う設立趣旨の名残をとどめている。コンゴで命を落とした1000人ほどのベルギー人の名前が刻まれた壁はあるのに、彼らの野望を満たすために犠牲になったアフリカ人が桁違いに多いことには触れられていない。壁に彫られた彫像が部分的かつ巧みに隠されている場所もある。

ここには「ベルギーがコンゴに文明をもたらす」とか「ベルギーがコンゴに安全をもたらす」といったかつてのスローガンが彫られているのだ。

王立中央アフリカ博物館は彫像や仮面や絵画といったアフリカの文化財を多数、収蔵している。アフリカ諸国をはじめとするかつての植民地では、西側の帝国主義統治の下で文化財が盗まれたり不当に安く買いたたかれたりした。
こうした品々は今、本来の所有者であるアフリカの人々の手の届かない、遠くの博物館の展示ケースや倉庫の中にある。元植民地の国々は、これら文化財の返還を求める戦いを繰り広げている。

王立中央アフリカ博物館に言わせれば、コンゴに文化財を返還する用意はあるものの、貴重な品々を適切に保管する環境が整っていないという理由からコンゴ政府のほうが時間的猶予を求めているという。それならば、環境整備を手伝うことがベルギーの道義的義務ではないだろうか。

歴史的「負債」がない中国
オランダの研究者で、著書『不都合な遺産──オランダとベルギーにおける植民地コレクションと返還』を近く出版するヨス・ファン・ビュールデンによれば、ベルギーは旧植民地のコンゴやルワンダ、ブルンジからの求めに応じて文化財を返還する義務を認めてはいる。だがその対象は国家が保有するものに限られており、民間の博物館やルーベン・カトリック大学あるいは個人が所有するものには及ばないという。

ベルギーによる植民地経営はろくなものではなかったが、そもそもベルギーのような小国に、コンゴのような広大な領地をコンゴ側にも利益をもたらすような形で植民地化する力はなかった。現代においても同様に、コンゴの未来を明るい方向へと大きく動かすにはベルギーは小さすぎる。

ベルギーにやれること、そしてすべきことは、外交努力によってコンゴ再建計画への欧米諸国や国際機関の支援を取り付けることだ。1884~85年のベルリン会議で、アフリカ分割に向けてベルギーが中心的な役割を果たしたように。

近年、コンゴの経済や開発の重要なパートナーとなっているのは、帝国主義的な宗主国となった過去のない中国だ。
この間、欧米諸国はほぼ手をこまぬいていただけだった。

だが西側諸国にとってコンゴは、アフリカでの破壊行為という暗い過去を、再建に向けた大規模な支援や継続的な政治的関与という形で力を合わせて償うことのできる理想的な舞台のはずだ。

さて、アメリカはアフリカを植民地化したことはないものの、歴史的な「負債」はやはり背負っている。アメリカは1960年にベルギーから独立後初の選挙を経てコンゴの首相になったパトリス・ルムンバの打倒を画策した。そしてその後、モブツ・セセ・セコが始めた独裁制を、冷戦を背景に何十年にもわたって支え続けたのだから。【6月23日 Newsweek】
*********************

近年、コンゴの経済や開発の重要なパートナーとなっている中国とアフリカの関係は・・・という話を始めると、また長くなるので別機会で。

欧州の植民地支配に関する記事はこれまでもいくつか書いてきましたが、フランス(当時のサルコジ大統領)とアルジェリアの関係については、15年ほど昔(!)になりますが、2007年12月8日“フランス  なお残る植民地問題と移民問題”で取り上げています。
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アメリカ  トランプ前大統領は民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」

2022-06-22 23:16:17 | アメリカ
(2021年1月6日 議事堂襲撃事件 【2021年1月8日 CNN】)

【トランプ前大統領 中間選挙で影響力を示す再選戦略】
アメリカでは11月に行われる中間選挙に向けて、民主・共和両党の候補者を選ぶ予備選挙が行われています。

この共和党予備選挙にトランプ前大統領が早い段階から推薦候補を指名し、その候補者が勝利することによって、自身の存在感・影響力を党内外に誇示し、ひいては再選を目指す・・・という再選戦略を展開していることは以前にも取り上げたことがあります。

****米アラバマ州の共和予備選、トランプ氏が支持に転じた候補が勝利****
11月の米中間選挙に向けたアラバマ州の連邦上院議員選を巡る共和党予備選で21日、トランプ前大統領が今月に入ってから支持したケイティ・ブリット氏が勝利した。エジソン・リサーチの予測によると、トランプ氏が当初支持していたモー・ブルックス連邦下院議員を破った。

トランプ氏はもともと、2020年の大統領選挙が不正であったという自らの虚偽の主張に共鳴するブルックス氏を支持。しかし、同氏が集会で同選挙を過去のものとするよう共和党員に求めたため、支持を撤回した経緯がある。

また、ジョージア州では、トランプ氏が支持する2人の連邦下院議員候補が共和党予備選で敗れた。同州では、1カ月前にもトランプ氏が支持した知事候補と州務長官候補が敗北を喫している。【6月22日 ロイター】
********************

結果はトランプ推薦候補が“勝ったり、負けたり”といったところですが、勝った場合は上記のように大きく報じられたりもしますので、トランプ前大統領にとってはそれなりの効果をあげているのかも。
勝ちそうな候補に推薦を出しているという指摘もありますが。

【連邦議会議事堂襲撃事件 トランプ前大統領は民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」】
トランプ前大統領に関しては、昨年1月に起きた支持者による連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会が行われています。

今更ながら、トランプ前大統領の“常軌を逸した”勝利への執着が感じられる話が語られています。

****トランプ氏、激戦州に圧力、恫喝、違法行為要求 下院特別委公聴会、州務長官ら証言****
米国で昨年1月に起きたトランプ大統領(当時)の支持者による連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会に21日、2020年大統領選の勝敗を左右した南部ジョージア州と西部アリゾナ州の高官らが出席した。

高官らは、両州で大規模な不正があったとするトランプ氏や側近たちから選挙結果を違法に覆すために執拗(しつよう)な圧力や恫喝(どうかつ)があったと証言。

同委には、事件につながったトランプ氏の不正主張に根拠がないことを示すとともに、これまでの公聴会の内容と合わせ、トランプ氏自身が積極的に違法行為を働きかけていたことを明らかにする狙いがある。

大統領選でジョージア州は、民主党のバイデン現大統領が1万2千票弱の僅差でトランプ氏を下す激戦州となった。トランプ陣営は、州都アトランタ周辺の開票所にひそかに大量の不正票が持ち込まれたり、死亡者約5千人分の票が利用されたりしたなどと主張。同委はトランプ氏が当時、同州のラフェンスパーガー州務長官(共和党)に電話で、自身が勝つのに必要な票数を探し出すよう要求した音声なども公開した。

この日の公聴会でラフェンスパーガー氏が行った証言や公開された通話記録によると、同氏はトランプ氏に、当落を左右する不正や犯罪の証拠はなく、探し出せる票もないと指摘。トランプ氏は「犯罪性がないと述べることは君(ラフェンスパーガー氏)にとって非常に危険だ」と述べた。

同様に激戦州となったアリゾナからは、州議会のバウザーズ議長(共和党)が出席。バウザーズ氏は、トランプ氏やその顧問弁護士のジュリアーニ元ニューヨーク市長から繰り返し連絡を受け、バイデン氏の当選確定に必要な手続きを妨害するために議長権限を違法に行使するよう求められたと明らかにした。

証言によると、トランプ、ジュリアーニ両氏はバウザーズ氏に「不正の証拠となる名簿を持っている」と説明。バウザーズ氏が提供を求めるとその場では了承したものの、「結局、(名簿は)送られてこなかった」。バウザーズ氏はその後、トランプ氏に「あなたのために法を破るつもりはない」と伝えたという。

一方、トランプ氏はこの日、公聴会に先立って声明を出し、「(バウザーズ氏は)選挙は盗まれたと言っていた」と主張した。証言の信憑性(しんぴょうせい)をおとしめる狙いがあるとみられるが、同氏は「(トランプ氏は)間違っている」と一蹴した。

このように特定の人間を名指しで標的にするのもトランプ氏の常套(じょうとう)手段だ。ジョージア州では当時、開票作業員だった黒人女性とその母親がトランプ氏支持者から不正の疑いをかけられて脅迫などの被害を受け、トランプ氏自身もラフェンスパーガー氏との電話で女性らの名前を挙げて「ペテン師だ」などと繰り返し非難している。この日の公聴会に出席した女性らは、トランプ陣営からの根拠のない非難で「人生がめちゃくちゃになった」と語った。【6月22日 産経】
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かつて、ヒトラーが権力奪取を目論んで企てたミュンヘン一揆を引き合いに、トランプ前大統領の議事堂襲撃事件関与を糾弾する指摘も。

****トランプから「大統領立候補資格をはく奪せよ」専門家****
<「アメリカを守る」ためには起訴だけでは足りないと指摘>
アメリカはドナルド・トランプ前大統領を訴追し、彼が今後の大統領選に立候補することを禁じるべきだ――ハーバード大学の名誉教授(憲法学)であるローレンス・トライブは主張した。

トランプの側近だったマイケル・ラティグ元判事が6月16日、トランプは民主主義にとっての「明白にして差し迫った危険」と語った言葉を引用、連邦議事堂襲撃を煽った罪で刑事訴追するだけでは不十分だと示唆した。6月20日に行われた、2021年1月6日の議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の公聴会でのことだ。

トライブはロサンゼルス・タイムズ紙への寄稿の中でも、トランプが再び大統領選に立候補することを禁止すべきだと主張。彼が合衆国憲法修正第14条の第3項に違反した証拠は、十分にあると指摘した。

修正第14条の第3項は、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後合衆国に対する「暴動や反乱に加わった」者は、大統領の職に就くことはできないと定めている。トライブは、トランプが議事堂襲撃事件の前後および最中に、これに違反したとの考えを示した。

ペンスを危険にさらしたツイート
「直接暴動に加わった罪に問われなくても、共謀してアメリカを騙し取ろうとした罪、正式な手続きを妨害した罪、あるいは治安妨害の共謀罪で起訴されて有罪となれば、憲法修正第14条違反と認められるのに十分かだろう」と彼は書き、さらにこう続けた。

「トランプに責任を取らせ、彼が今後大統領になる権利をはく奪することは、党派的な措置ではなく、共和国を守るために必要な措置だ」

トライブはこう主張すると、トランプが暴動の成功を望んでいたことを示す、数多くの証拠を挙げた。事件当日、(議会襲撃に参加した)支持者たちに「家に帰る」よう呼びかけるまで3時間もかかったことや、暴徒たちが議事堂に押し寄せるなか、トランプが負けた大統領選の結果を覆せというトランプの要求を拒んだマイク・ペンス前副大統領について、「復讐心に満ちたツイート」を行ったことなどだ。

トランプは事件当日、ジョー・バイデンを次期大統領と公式認定する上院での手続きを行なったペンスに対し、「やるべきことをやる勇気がなかった」とツイートで非難した。

選挙不正についてのトランプの嘘の主張を信じ、またペンスが選挙結果の公式認定手続きを阻止できる立場にあったという誤った思い込みを植え付けられた暴徒たちは、「ペンスをつるし首にしろ」と叫びながら、上院本会議場に乱入した。議事堂襲撃事件の調査を行っている下院特別委員会は、1月6日の事件当日、ペンスの命が危機にさらされていたと示唆した。

トライブはまた、トランプが議事堂襲撃事件に関連して起訴されなかった場合に起こり得る「3つの専制主義的なシナリオ」についても詳しく説明した。

1つ目は、「選挙で有権者の過半数の票を獲得した指導者が選出される時代が終わり、再び大統領になったトランプが、アメリカ市民に対して武力の行使も辞さない」ようになること。
2つ目は、(再び大統領になった)トランプが自分の言いなりになる複数の人物を司法省に送り込み、「自分と敵対する者たちを訴追させる」こと。
3つ目は、トランプが議事堂襲撃に参加した者たちに(実際にそうするつもりだと示唆していたとおり)恩赦を与えることだ。

トライブはかつてヒトラーが率いたミュンヘン一揆を引き合いに出し、「もしもトランプが再び大統領になった場合、予想されるのは第2次世界大戦前のドイツのような状況だ。1923年のクーデターの失敗から学んだヒトラーは、9年後に選挙という正当な手段で権力を握り、独裁体制を敷いた」と述べ、さらにこう続けた。
「歴史を繰り返す者は、その教訓を身をもって知り、痛い目に遭うことになる」【6月21日 Newsweek】
**********************

ちなみに、ミュンヘン一揆とは・・・

****ミュンヘン一揆****
フランスなどのルール占領の危機に、極右勢力をミュンヘンで決起させ、ベルリンに進撃してヴァイマル共和国政府を倒そうとしたヒトラーの実行したクーデター。期待された国防軍の協力がなく失敗し、ヒトラーは捕らえられた。この失敗後、ヒトラーは議会に進出して政権を取る方向に向かう。
 
1923年1月、フランスとベルギーがドイツの賠償金不払いを口実にルール占領を強行すると、ドイツ共和国(ヴァイマル共和国)は武力抵抗をせず、消極的抵抗策をとった。労働者のゼネストによって生産はストップし、ドイツは急激なインフレが進行し、国民生活は大きな打撃を受けた。

そのような状況の中で、ミュンヘンで右翼活動を展開していたヒトラーは共和国政府に対する批判を強めていた。当時、バイエルンの都ミュンヘンは右翼活動が活発でバイエルン政府のカール首相も右派の指導者であり、ベルリンに進撃し共和国政府を倒すことを考えていた。

ヒトラーは主導権を握ろうと、当時ミュンヘンにいた第一次世界大戦のドイツ軍の大立て者ルーデンドルフ将軍に近づき、その協力を得て、1923年11月8日夜、クーデターを決行した。ベルリンに行進して権力を握るというアイデアは、前年のイタリアでムッソリーニがローマ進軍を成功させ、ファシズム政権を成立させたことを真似たものであった。

ヒトラー、クーデターに失敗
(引用)カール独裁政権(ミュンヘン政府)からはつき離されて服従を強いられ、部下の大衆からは突き上げられたヒトラーたちは、1923年11月8日の夜、一揆を起こした。カールたちを一揆に巻き込んで、一緒にベルリン進軍をさせようというわけである。

ぐずぐずしていてはカールに圧倒されて自分らの負けになるというあせりもあったが、また一方では極右系民間国防団体の実力を過信した結果の行動でもあった。

市民たちは一揆に対して同情的であったにもかかわらず、バイエルン官僚と軍部と警察に反対されて一揆は失敗し、翌11月9日鎮定された。ヒトラーは、一旦は南バイエルンのシュタッフェル湖畔ウフィングにあるハンフシュテングル家の別荘にのがれたが、11月11日に捕らえられた。<村瀬興雄『アドルフ=ヒトラー』1977 中公新書 p.220>

ヒトラーの路線転換
クーデター失敗後、ナチスはドイツでの活動を禁止され、翌24年2~3月、ミュンヘンで裁判が開かれた。4月1日に判決が下され、ヒトラーは5年の禁固刑に処せられたが、実際には12月20日までミュンヘン西方のランツベルク要塞で、面会も文通も、同志との会合、会食も自由という形だけのものであった。

この間、ヒトラーは『わが闘争』の第一部を口述筆記し、ナチズム運動を方向付ける時期とした。ヒトラーはこの失敗から学び、偶然に左右される一揆という手段ではなく、選挙という正当な手続きで議会に多数を占め、権力を握るという路線に転換し、そのためには宣伝と行動によって大衆の心をつかむことをめざすようになった。【世界史の窓】
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【反知性主義】
なぜ、ルールを無視し、嘘を並べ立てるようなトランプ前大統領が未だに多くの熱狂的支持者を維持しているのか・・・山ほどの議論・考察があるところでしょうが、今日目にした記事は、トランプ支持者の反知性主義とも言える学歴を有するエリートへの反感を指摘するもの。

****「高学歴者は自分を見下している」──典型的なトランプ支持者の弟に伝えたいこと****
カーメン・プレスティ(マイアミ大学助教、ジャクソン記念病院非常勤看護師)
<温厚だった弟は熱烈なトランプ支持者になり、私をイデオロギー上の敵と見なすようになった。アメリカにはびこる、反知性主義について。そして、今こそ対話が必要なこととは?>

(中略)弟は温厚な性格で、政治にあまり関心を示さなかったが、2016年を境にドナルド・トランプの熱烈な支持者に変わった。大きなトランプの旗を飾ったり、トランプのTシャツを着たり、携帯電話の着信音をトランプの声にしたり。
一方の私は、10代の頃から筋金入りのリベラル派。共和党支持の保守派が多い家族と意見が合わないのは今に始まったことではないが、口論になることはなかった。

しばらく前の家族の集まりで、新型コロナワクチンの接種率をめぐる議論になった。看護師としてコロナ病棟で働く私は、支持政党によって接種率に大きな差があることを指摘し、コロナの悲劇から身を守るためにも、もっと多くの人に接種を受けてほしいと言った。

すると弟は、支持政党による接種率の違いなどないと言い、私がデータをでっち上げていると反論した。さらに、私が受けてきた教育をあざ笑い、私がこの2年余りの間、数々の悲しい症例を目の当たりにして心を痛めていることまで物笑いにした。その攻撃的な姿勢は、子供の頃に戻ったかのようだった。

学歴をめぐる憎悪の感情
それから数カ月。弟から謝罪の言葉はまだなく、それ以降、私たちは言葉を交わしていない。憎しみにゆがんだ弟の顔が今でも目に浮かぶ。

どうして、弟は変わってしまったのか。1つ思い当たることがある。あの晩、私にかみついたとき、弟はしきりに学歴にこだわっていた。

弟に言わせれば、5人きょうだいで1人だけ大学に進学し、大学院でも学んだ私が学歴を理由に弟たちを見下しているというのだ。私自身は、たたき上げの技術者として成功している弟のことをずっと誇りに思ってきたのだが。
このような学歴をめぐる怒りの感情は、右派に典型的な態度だ。右派の人たちはしばしば、左派の人間が尊大なエリートだと批判する。

これまでは、政治的な考え方は違っても、弟は私の職業に敬意を払ってくれていた。私たちは愛情を持ち、互いの成功を喜んでいた。しかしあの晩、弟は私のことを姉や1人の看護師としてではなく、イデオロギー上の敵として見ているように感じられた。

トランプ支持者たちに言いたいのは、身近な女性たちへの愛情と敬意に基づいて行動し、大切な女性たちの権利を守るために闘ってほしいということだ。人工妊娠中絶の権利を認めた最高裁判決を破棄しても、中絶はなくならない。安全性の乏しい中絶を受ける女性が増えるだけだ。この点は、米国医師会など多くの医療関連団体が指摘している。

弟には、トランプ支持者に対するのと同じことを伝えたい。極端な思想をもとに、対話や人間関係を築くことをやめたりしないでほしい。政治よりも女性の権利と体の安全を大切にしよう、と言いたい。
それができなければ、待っているのは悲劇だ。【6月22日 Newsweek】
*****************

日本の近年のネット世論の動向、例えば“上級国民批判”などにも通じるものがあるようにも。

ちなみに、“反知性主義”については、日本でこの言葉が広がるきっかけともなった本を(トランプ以前に)書かれた森本あんり氏(神学者、アメリカ学者)は以下のようにも。

****「反知性主義は、社会が変わるチャンスかもしれません」****
森本:日本で反知性主義というと、「おまえは、知性がないな」と非難する言葉。相手をやっつける言葉として使われます。もちろん、そういう使われ方もまちがいではありませんが、一方で、反知性主義にはアメリカの長い歴史があります。
 
アメリカの戦後のマッカーシズムは出口さんもよくご存じだと思いますが、反知性主義というのは、そのころ使われ始めた言葉です。要するに、知性が権力と結びついて自己再生産をしていく。エリートというのは、インテリの連中がいい学校に行き、いい仕事について、いい収入を得るから、子どももいい教育を受けられるんですね。逆に、それに乗っかれない人は、いつまでも上昇できない。下降スパイラルになっていくんです。

出口:上昇スパイラルと下降スパイラルの二極化した悪循環ですね。

森本:ええ。反知性主義は、そういうものを批判しています。トランプもそうですが、権力と知性が手をつないで固定化することに対する反発が起きる。ということは、反知性主義が出てくると、社会が揺さぶられ、新しい価値観に向かうチャンスとなります。トランプは明らかに行き過ぎていますが、歴史的にはそういうこともあるんです。

出口:なるほど。
森本:ですから、社会が変わっていくチャンスかもしれないと思っています。(後略)【2017年4月24日 WEDGE】
********************

その他、トランプ支持者の拠点ともなっているテキサス州について、テキサス州の共和党員たちは、「テキサス州がアメリカ合衆国から脱退すべきか否かを決める住民投票」の実施を要求している・・・という記事も。
(“テキサス共和党、アメリカからの独立を問う住民投票を要求”【6月21日 Newswee】)

内容紹介は長くなるので割愛します。


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リトアニア  ロシア飛び地をめぐり、ロシアとの間で新たな火種  欧米は対ロシア制裁を維持できるか?

2022-06-21 23:15:51 | 欧州情勢
(【2017年4月3日 毎日】)

【「リトアニア国民が痛みを感じる形で対応する」】
欧州でロシアをめぐり新たな火種になりそうな事案が。

ロシアはバルト3国のひとつリトアニアとポーランドにはさまれバルト海に面した「カリーニングラード」という飛び地を有しています。

面積は15,000㎢ということで、四国(18,800㎢)より一回り小さいぐらいですから、広大なロシア本土に比較すると極めて微小な地域。

ただ、ソ連時代は巨大な軍事施設があって完全に封鎖されていた閉鎖都市でしたが、現在もロシアの対NATO軍事戦略にとって非常に重要な位置にあります。NATO側のミサイル防衛構想への対抗策として短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を配備する計画が度々表明されています。ロシアにすれば、欧州の喉元に突きつけたナイフのような存在でししょうか。

ロシアからその飛び地カリーニングラードへ向かう貨物輸送はリトアニアを経由していますが、欧州にあって対ロシア強硬派の筆頭格のリトアニアがEU制裁対象の貨物を積んだ列車の国内通過を禁じ、ロシアが猛反発しています。

****ロシアがリトアニアに抗議、飛び地への列車通過拒否で****
リトアニアが、ロシア本土から同国西部の飛び地・カリーニングラード市に向けた欧州連合(EU)制裁対象の貨物を積んだ列車の国内通過を禁じた問題で、ロシア政府は20日、貨物輸送が速やかに再開されなければ、ロシアは国益を守るために措置を講じると警告した。

ロシア外務省は、リトアニア特使を呼んで抗議を伝えた。「公然たる敵対行為」であり、直ちに撤回するようリトアニア政府に要求した。

一方、リトアニアのランズベルギス外相は記者団に対して、輸送制限は、EUの制裁に沿った対応だと反論。「欧州委員会と協議し、そのガイドラインに基づいて行われている」と語った。

ランズベルギス外相は、リトアニア鉄道は17日から鉄鋼製品などEUの制裁対象の商品を輸送しないよう顧客に通知したと説明した。【6月21日 ロイター】
********************

****ロシア、EU大使呼び出しへ 飛び地の列車通過拒否巡り****
ロシア西部の飛び地カリーニングラード州のアリハノフ知事は20日、リトアニアによる欧州連合(EU)制裁対象品の国内通過拒否を巡り、駐モスクワEU大使を21日に呼び出すと明らかにした。

アリハノフ氏はロシアのテレビ局に「もちろん外交手段により解決できる状況だ。マルクス・エデラー駐ロシアEU大使があす外務省に呼ばれ、この件に関する適切な条件を伝えられる」と述べた。

EU大使呼び出しについてロシア外務省からの確認は取れていない。

ロシア政府は20日、貨物輸送が速やかに再開されなければ、ロシアは国益を守るために措置を講じると警告した。【6月21日 ロイター】
********************

「もちろん外交手段により解決できる状況だ」というのは、裏を返せば、「もしロシアの要求が満たされない場合は、痛い目にあわせるぞ」ということでしょう。

****ロシア、リトアニアに警告 飛び地への貨物列車通過禁止で****
ロシア西部の飛び地カリーニングラード州に接するリトアニアが、欧州連合の制裁対象となっている貨物を積んだ列車の国内通過を禁止したのを受けて、ロシア安全保障会議のニコライ・パトルシェフ書記は21日、リトアニアに対し、深刻な結果を伴うことになると警告した。
 
ロシアの通信社が報じたところによると、パトルシェフ氏はカリーニングラード州で開かれた地域安保会議で、「ロシアはこうした敵対行為には必ず対応する」と述べ、「適切な措置が近いうちに講じられる」予定であり、「その結果はリトアニア国民に深刻な負の影響を及ぼす」と強調した。

同日にはロシア外務省も、マルクス・エデラー駐モスクワEU大使を呼び出し、本土とカリーニングラード州間の貨物輸送に対する「反ロシア的な制限」に抗議した。

ロシアはリトアニアに対し、制限の即時解除を要求している。これに対し、EUおよび北大西洋条約機構に加盟しているリトアニアは、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたEU制裁の一環だと説明している。(後略)【6月21日 AFP】
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パトルシェフ書記は“リトアニア国民が痛みを感じる形で対応すると警告した”【6月21日 ロイター】とも。

“深刻な結果を伴うことになる”“リトアニア国民が痛みを感じる形で対応”というのがどういうものか・・・・。
EU、NATO加盟国であるリトアニアと軍事的に問題を起こせば、ロシア対NATOという極めて深刻な事態になりますので、ウクライナで手一杯のロシアがそこまでやるとは思いませんが・・・・。

ロシアが有する対欧州戦略の切り札である天然ガスについては、リトアニアはすでにロシアからの購入を停止しています。他の欧州諸国にも脱ロシアを働きかけています。

****ロシア産ガス輸入を停止 リトアニア、他国にも要請****
バルト3国の一つであるリトアニアはロシア産ガスの輸入を2日に停止した。3日までに発表した。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、エネルギーのロシア依存脱却を目指していた。

ナウセーダ大統領は「今月からリトアニアにロシア産ガスは存在しない。われわれができるなら、残りの欧州もできる」とツイッターに投稿し、他の欧州諸国も輸入をやめるよう要請した。
 
リトアニアのエネルギー省は声明で「ロシアのガス大手ガスプロムから供給を受ける欧州連合(EU)加盟国で初めて、ロシア産ガスからの『独立』を果たした」と強調した。

リトアニアは、旧ソ連から独立した国家。【4月3日 共同】
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リトアニアにすれば、ガスの問題でのロシア依存を断ち切ったので、強気に出ているということでしょうか。

【ロシアの脅威を切実に感じ、対ロシア強硬策を求めるリトアニア】
旧ソ連によって併合された歴史を持つリトアニアは、ソ連・ロシアとは“遺恨”ある関係で、旧ソ連が揺らぎ始めたとき、いち早く独立回復を宣言し、旧KGB特殊部隊がリトアニア市民を殺害する事件も起きています。

それだけにロシアへの警戒感は極めて強く、ロシアのウクライナ侵攻前からロシアの脅威を訴えていました。

****リトアニア、米軍の常駐を要請へ=大統領***
リトアニアのナウセーダ大統領は(2月)9日、米国に対し部隊をリトアニアに常駐させるよう要請すると述べた。

米国は2019年以降、リトアニアに約500人の部隊と装備をローテーション方式で配備。ナウセーダ大統領はルクラの軍事基地で行った記者会見で「米国がリトアニアに部隊を常駐させることについて協議する」とし、「北大西洋条約機構(NATO)がリトアニアだけでなくこの地域全体に提供している安全保障と抑止力を高める最善の方法になる」と述べた。

ウクライナを巡るロシアと西側諸国の間の緊張が高まる中、NATO加盟国である米国はポーランドとルーマニアに3000人の部隊を派遣した。【2月10日 ロイター】
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ウクライナ侵攻後も、対ロシア強硬策の旗振り役ともなっています。

****対ロでより強硬姿勢を リトアニア、米に要請****
リトアニアのギタナス・ナウセーダ大統領は(3月)7日、同国を訪問中のアントニー・ブリンケン米国務長官に対し、ウクライナに侵攻するロシアが攻勢をさらに強めた場合、同国をウクライナで制止するため、より強硬な姿勢で臨むよう要請した。

ナウセーダ氏はブリンケン氏に対し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は「ウクライナでは止まらない」との考えを示した。

さらに、あらゆる手段でウクライナ国民を支援するのが「われわれの共通の義務および責任」であり、万策を尽くさなければ「第3次世界大戦に向かうことになる」と警告した。

リトアニアは北大西洋条約機構加盟国で、バルト海に面する旧ソ連構成国。ロシアおよびベラルーシと国境を接している。(後略)【3月7日 AFP】
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それだけにロシア・プーチン大統領にすれば、何かとうるさい存在、「小国のくせに・・・」といったところでしょう。

【EU内部の温度差】
EU内部では、歴史的・地理的にロシアの脅威をより強く意識するリトアニアなどバルト3国やポーランドなどがロシアに対しより強い対応を求めているのに対し、独仏などは自国経済への影響や、ウクライナ問題後の対ロシア関係を考えて慎重な姿勢を示しており、温度差が生じています。

****対ロ追加制裁、EU加盟国3分の1が支持 北・東欧など=外交筋****
欧州連合(EU)の一部の加盟国は、ロシアとベラルーシに対する追加制裁措置に着手し、ウクライナにさらなる軍事支援を行うことを支持している。外交筋の話や関連資料で明らかになった。

外交筋によると、北・東欧諸国を中心に約3分の1の加盟国は、欧州委員会が7回目となる制裁措置向けた作業を開始することを望んでいる。

23─24日に開催されるEU首脳会議の関連資料には追加制裁への言及はないが、外交筋によると20日夜のEU特使会合後に微調整される可能性が高いという。

ドイツなどは、追加制裁合意に向けた複雑な作業に着手するよりも、現行制裁の徹底と抜け穴を塞ぐことに注力すべきとの考えだという。

首脳会議の草案は、EUはロシアの侵攻に対するウクライナの自衛権行使に向けた軍事支援に引き続き強くコミットするとしている。

スウェーデンとポーランドを中心に北・東欧諸国は、追加支援に向けた早期の追加資金提供を訴えている。

EUはこれまで「欧州平和ファシリティー」と呼ばれる基金から20億ユーロ(21億ドル)のウクライナ向け軍事支援を行っている。

一方、ドイツなどは他の危機が起きた場合に十分対応できなくなるとして、同基金の活用に慎重な立場という。【6月21日 ロイター】
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一応のところ、北欧や東欧諸国とドイツなど慎重派の間で一定の歩み寄りがあったようです。(玉虫色にも見えますが)

****EU首脳会議、ロシアへの圧力維持へ 制裁対象に金が浮上****
欧州連合(EU)は23─24日に開催される定例首脳会議で、ロシアに対する制裁を続け、強力な圧力を維持する方針を表明する見通し。金を次の制裁対象とすることが検討されている。

ロイターが入手した20日付の声明案は「実施強化策や回避防止策など制裁に関する作業を継続する」としている。

声明で制裁第7弾に言及したい北欧や東欧諸国と、既存の措置を徹底することに焦点を当てたいドイツやオランダなどが歩み寄った。最新案には制裁を巡る作業が盛り込まれたが、制裁第7弾にはっきりとは触れていない。

関係筋は、新たな制裁措置は現時点で準備されていないが、制裁対象となり得る分野を特定する作業は進行中と説明した。金がターゲットとなる可能性があると話した。

関係筋によると、EUの欧州委員会は次の制裁措置に金を加える方向で取り組んでいるが、ロシア向け金輸出、同国からの金輸入、または両方を禁止できるかはまだ明らかでないという。【6月21日 ロイター】
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【エネルギー・食料品価格の高騰という“痛み”の中で欧米はウクライナ支援・ロシア制裁を続けていけるか】
もっとも、今後欧州、アメリカが足並みをそろえウクライナ支援、ロシア制裁を続けていけるかは微妙な問題もあります。一番はエネルギー・食料品価格の高騰といった自国経済に及ぶ“痛み”に耐えられるか、克服できるかという問題です。

すでに混乱、不満の噴出も起きています。

****ベルギーで7万人がデモ、物価高対策要求 ストで交通網ほぼ停止****
ベルギーの首都・ブリュッセルで20日、約7万人の労働者が生活費高騰への対策を求めてデモ行進した。また、ブリュッセル空港や国内各地の公共交通網は「1日ストライキ」でほぼ停止状態に陥った。

デモ参加者は賃上げや消費税停止などを求める横断幕を掲げ、政府に対策強化を要求。企業に賃金や労働環境の改善を求める声も聞かれた。

労働組合によると、デモには約8万人が参加した。警察は7万人としている。

一方、ブリュッセル空港は、ストが保安検査員にも及んでいるため旅客機の出発ができないとし、到着便も大部分が欠航になったと明らかにした。

国内各地の公共交通機関は、デモ参加者がブリュッセルに移動することなどを考慮して一部の鉄道路線が運行しているものの、大半は運休となっている。

ロシアのウクライナ侵攻によるサプライチェーン(供給網)やエネルギー・商品価格への影響を背景に各国で物価が高騰する中、ベルギーでも今月、インフレ率が9%に達した。【6月21日 ロイター】
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イギリスの賃金引上げを求めるストも、背景にあるのはインフレによる生活苦でしょう。

****英国各地で鉄道スト、賃上げ要求 「過去30年で最大規模」****
英国各地で21日、鉄道労働者らが賃上げなどを要求し、ストライキを実施した。ストは23日と25日も予定され、政府や鉄道管理当局は混乱を避けるために、できるだけ利用を控えるよう呼びかけた。英メディアによると、ストには5万人以上が参加し「過去30年で最大規模」になる。
 
期間中、全国の鉄道網の運行は通常の5分の1に制限される見通し。21日はロンドンの地下鉄でもストが実施され、交通機関の混乱が当面続くことが予想される。通勤や通学への影響のほか、観光やビジネス、レジャーなど幅広い分野に経済的な損失が及ぶとの懸念が広がっている。【6月21日 共同】
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インフレに対する国民の不満増大に並行して、各国政権の基盤は弱体化しています。

ドイツ・ショルツ政権はウクライナ侵攻への腰が引けた対応で迷走し、支持率が急落しています。
フランス・マクロン大統領は19日の議会選挙で過半数を失いました。
イギリス・ジョンソン首相はコロナ禍のパーティー問題などで政権を維持するのに苦労しています。
アメリカ・バイデン大統領はガソリン価格高騰で中間選挙惨敗の恐れが。

ウクライナ・ロシアへの対応で国民に“痛みを伴う”対応を求めるには政治のリーダーシップが必要ですが、現状はなかなか・・・。
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