孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フランス  マクロン大統領、年金改革案強行採択で押し切る構え 労組側も譲らず混乱長引く

2023-03-31 22:22:15 | 欧州情勢

(年金制度改革に抗議するデモ参加者=28日、パリ【3月29日 共同】)

【マクロン大統領 強行採択 政権・労組双方譲らず混乱続く】
フランスでは、マクロン政権がことし1月、年金の受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げることを柱とする年金改革案を発表したことに対し、労働組合・野党が強く反発、毎週末に大規模抗議デモが繰り返されてきました。

そのあおりで、ゴミ収集がストップし、「花の都」パリがゴミの山と化し、エッフェル塔やベルサイユ宮殿といった有名観光地も閉鎖に追い込まれていることは連日報じられているとおり。

1期目で断念したことへのリベンジにもなる経緯もあって、強気のマクロン大統領も一歩も引かない構えで、過半数を割っている下院での可決が見込めないため、憲法規定に従って採決を行わずに採択するという「強行突破」を実施。

****フランスの年金受給年齢引き上げ、法案を強行採択 混乱激化の恐れ****
フランスのマクロン政権は16日、受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げることを柱にした年金改革法案を下院で強行採択した。

上院は通過したが、下院での可決が見込めなかったため、憲法に規定された採決なしの特別措置を使った。法案を巡っては反対派による抗議デモが国内全土に広がっていた。強行採択で反発が強まり、混乱がさらに深まる恐れがある。

下院は2022年の選挙で与党が過半数割れした。ボルヌ首相は、法案を強制的に採択できると定めた憲法49条3項を適用すると表明。野党議員からブーイングが起き、議会は一時中断された。政権側は最終的に強行採択した。

仏メディアによると、強行採択を受け、中道左派・社会党のフォール党首は「過半数の支持を得られないのなら、大統領は(本来は)法案を撤回しなければいけない」と批判。極右・国民連合のルペン議員は、マクロン氏にとって「完全な失敗だ」と語った。

野党側は近く、内閣の不信任決議案を提出する方針で、20日にも採決が見込まれている。不信任案が可決されれば法案は廃案となるが、現時点では否決されるとの見方が強い。

政権は1月、公的支出の削減を図るため年金改革法案を発表した。国民の反発は大きく、労組のストライキやデモを招いた。国内各地でデモが起き、今月7日には計約128万人が参加した。

パリではゴミ収集作業員らがストを続けているため、約7600トンが未回収のまま路上に放置されている。積み上がったゴミの悪臭やネズミの繁殖が、深刻な衛生問題となっている。

マクロン氏は1期目でも年金制度改革を目指したが、19年に国鉄職員らのストが頻発し断念。22年の大統領選で改めて看板公約に掲げ再選された。【3月17日 毎日】
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当然、反発する抗議デモが一時的には激化することは想定しての強行採択です。
“仏全土で抗議デモ続く 年金改革案の強行採択受け”【3月19日 AFP】

内閣不信任案は僅差で否決されました。
“仏内閣、不信任決案を僅差で逃げ切り 可決に必要な過半数に届かず”【3月21日 ロイター】
採決では278議員が賛成したものの、不信任案可決に必要となる下院過半数の287議席には届かなかったとのことです。

これも想定内でしょうが、支持率は低下。

****仏マクロン氏、支持28%に低下 年金制度改革、19年以来の水準****
19日付のフランス紙ジュルナル・デュ・ディマンシュは、今月の世論調査でマクロン大統領の支持率が2月から4ポイント低下し、28%となったと報じた。

政府が法案を強制採択した年金制度改革が主な原因で、支持率低下は3カ月連続。「黄色いベスト運動」の反政権デモが続いていた2019年2月以来の低水準となった。

同紙の委託で調査している大手調査機関IFOPの幹部は、昨年4月の大統領選でマクロン氏の再選を第1回投票から支持した基盤でも支持率が下がったことを指摘した。マクロン氏は「聞く耳を持たない」との批判を招いているという。【3月19日 共同】
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「聞く耳を持たない」・・・マクロン大統領への“傲慢”“エリート主義”等の批判は以前からのものですが、これが“強いリーダーシップ”となるのかどうか・・・・

****仏大統領、年金改革譲らず 抗議継続も施行を明言****
フランスのマクロン大統領は22日、国内で強い抗議を招いている政府の年金制度改革の法案に関し「年内に施行する必要がある」として必要な自身の署名を違憲審査の完了後に行う考えを明言、改革実行へ譲らない姿勢を示した。地元テレビのインタビューで語った。

23日に改めて国内一斉の抗議行動を呼びかけた労組は「多くのデモ参加者らに対する侮辱だ」と強く反発した。情勢正常化の兆しは見えない。(後略)【3月23日 共同】
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これまた当然のように、抗議行動の中には一部暴徒化する者もいて、ボルドーでは市庁舎入口に放火、パリでもゴミの山に火がつけられる(903件)騒動にもなっています。
こうした暴徒化に対し、23日のデモでは、フランス政府はおよそ450人のデモ参加者の身柄が拘束されたと発表しました。

この混乱で、チャールズ英国王夫妻の訪仏も延期に。

****仏大統領「屈せず」、年金改革抗議デモ激化巡り 英国王は訪仏延期****
フランスのマクロン大統領は24日、年金制度改革に抗議する全国的なデモが一部で激化しているものの、改革を進めると改めて表明した。

パリや南西部ボルドーなどでは一部のデモ参加者が暴徒化するなど、状況は悪化しており、26日から3日間の日程で予定されていたチャールズ英国王夫妻の訪仏は延期されることになった。(中略)

マクロン大統領は将来の政策変更について労働組合と協議することに前向きという考えを改めて示しつつも、「われわれは前進し続ける。フランスは立ち止まることはできない」と述べた。同時に「われわれは暴力には屈しない。私は暴力を徹底的に非難する」とした。【3月25日 ロイター】
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28日の抗議デモは、前回に比べるとやや縮小したようです。

****仏の反年金改革、デモ縮小 74万人、政府は対話意向****
フランス各地で28日、政府の年金制度改革に反対する労組の一斉ストライキとデモが行われた。内務省によると、デモ参加者は全国で計約74万人。前回23日の約109万人から縮小した。

フランスのメディアによると、改革の撤回を求める労組は次の一斉抗議を来月6日に設定。政府は断行の構えを崩さないが、労組と対話する意向も示した。

前回デモの際、暴力行為が増加したため、内務省は全国で警官約1万3千人を治安維持に投入した。パリなど複数の都市でデモ隊と警官隊の衝突が再び起こった。(後略)【3月29日 共同】
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警察側の「暴力」への懸念も高まっています。
きっかけとなった、20日夜のデモで同部隊に逮捕された若者が隠れて録音した音声には、「足の骨を折ってやる」「次はパトカーでなく救急車で病院送りだ」といった隊員の言葉や平手打ちの音が。

この録音の公開を受けて、パリのヌニエズ警視総監やダルマナン内相も調査・処分の方針を明らかにしています。

5年前の「黄色いベスト運動」では警察の暴力的な対応への批判が高まったことがありますので、その二の舞を避けたい思いが当局側にあります。

公的機関の人権侵害を監視する国の権利擁護官や欧州評議会も警察当局の対応への懸念を表明しています。

【大統領を「くず」呼ばわりすると「侮辱罪」】
ここまでの動きは、マクロン大統領が押し切るのかどうかはわかりませんが、想定内のせめぎあいです。
個人的に“意外”だったのは、下記のニュース。 

フランスにも日本にも「侮辱罪」がありますが、大統領を「くず」呼ばわりすると起訴されるようです。日本でもSNS上でその種の発言は日常化していますが、法的には起訴もありうるということでしょうか。

****マクロン大統領を「くず」呼ばわり 仏女性、侮辱罪で起訴****
エマニュエル・マクロン仏大統領をフェイスブックの投稿で「くず」と呼んだ50代の女性が、侮辱罪で起訴された。検察が29日、明らかにした。

マクロン氏は22日、全土で抗議が起きている年金改革問題について民放TF1テレビに出演して説明した。訴状によると、女性はその前日、「くず(マクロン氏)が(あす)午後1時から話すらしい。このくずを見るのはいつもテレビだ」と書き込んだ。

北部サントメールの検察によると、女性は24日、行政機関の告訴を受けて身柄を拘束された。侮辱罪に問われており、6月20日に裁判が開かれるという。有罪となった場合、1万2000ユーロ(約170万円)の罰金が科される可能性があるが、収監の恐れはない。

女性は、2018〜19年にマクロン政権を揺るがした抗議デモ「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」運動の支持者だった。女性は告訴を最初に報じた地方紙「ノールの声」に、「彼らは私を見せしめにしたいのだ」と語った。 【3月30日 AFP】
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“見せしめ”なのは間違いないでしょう。

日本の場合、“具体的な事実の摘示をしないで、不特定または多数の人が見られる中で口頭や文書を問わず、他者を侮辱することを内容とする犯罪。本罪は親告罪である。 名誉毀損罪とは「具体的な事実の摘示」の「有無」によって区別される。”【ウィキペディア】とのことで、1年以下の懲役もしくは禁錮または30万円以下の罰金または拘留もしくは科料だそうです。 昨年、規制が厳しくなったようです。 

知らなかった。SNS・ブログなどで首相を「くず」呼ばわりすると日本でも・・・・

フランスを取り上げたついでに、今日目にしたフランス関連の話題をひとつだけ。

【10人に1人は移民】
フランスではアルジェリアなど北アフリカからを主として、移民が多く暮らしていますが、人口の1割(パリでは2割)にのぼるようです。やはり近年は増加しているようです。

****フランス、10人に1人は移民 2021年推計****
フランスの国立統計経済研究所は30日、総人口に占める移民の割合が1968年の6.5%から2021年には10.3%に増えたと明らかにした。人数にすると約700万人になる。

21年の調査によると、移民の3分の1以上は仏市民権を取得済み。移民とその子孫はおおむね社会に溶け込んでおり、多くはフランスで子どもをもうけている。

INSEEの担当者によると、移民の主な出身地は50年前は南欧だったが、21年にはアフリカ北部やサブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ)、アジアに変わった。

21年の移民を出身国別に見ると、アルジェリアとモロッコが約12%、ポルトガルが8%超、チュニジアとイタリアが4%、トルコとスペインが約3%だった。性別で見ると、半数強が女性だった。

移民の大半は大都市に集まっており、パリでは最大で人口の5分の1を占めている。 【3月31日 AFP】
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外交面では、イギリスのEU離脱やドーバー海峡を渡る移民の問題でギクシャクしていたイギリスとの関係について、3月10日にパリで5年ぶりに開催された英仏首脳会談の話もありますが、そちらは少し長くなるので別機会に。

イギリスとの関係改善云々も、マクロン大統領としては年金改革問題の混乱を乗り切るのが大前提となります。
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AI  「チャットGPT」など生成AIの拡大と問題 顔認証AIによる監視 戦場ではAIは必需品へ

2023-03-30 23:47:39 | IT AI

(【2月15日 ABCニュース】)

【「チャットGPT」で作成した国会質問と首相答弁】
これまでのチャットボットと異なり、自然な受け答えで、まるで人と話しているような感じになる対話型人工知能(AI)「チャットGPT」に関する話題は、3月4日ブログ“AI技術の進化で変わる社会 中国は対話型AIの使用停止 AIを政治に利用する国も 現実先行の軍事面”で取り上げたところです。

今日、その「チャットGPT」及びAIに関する記事を多く目にしたので、そうした記事をピックアップしてみました。

日本の国会にも登場。
立憲民主党の中谷一馬議員は事前に「法律案に関して、首相にどんなことを質問すべきだと考えていますか」とチャットGPTに尋ね、得られた質問をそのまま読み上げました。

チャットGPTは米新興企業オープンAIが開発し2022年11月に公開。2か月間で全世界のアクティブユーザー数が1億人を突破し、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとのことです。

私も前回ブログを書く際に、試しに1度使ってみましたが、確かに驚くほど自然な文章を瞬時につくってくれます。

今回チャットGPTが作成した質問は新型インフル等特別措置法改正に関するもので、「改正法案に関して、地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして、改正法案に対する関係者の反応について教えてください」というもの。 「20秒ほどであっという間に」(中谷氏)できたそうです。

中谷氏は、「首相答弁」もチャットGPTで作成。

****国会でチャットGPTが初質問 岸田首相「私の方が…」 AIに対抗心?****
29日の衆院内閣委員会で、立憲民主党の中谷一馬氏が人工知能(AI)を用いた対話型の自動応答ソフト「チャットGPT」で作成した質問を、岸田文雄首相に問う一幕があった。

中谷氏はチャットGPTが作った「首相答弁」も紹介。首相はAI答弁について「ぱっと見て、(自分の方が)より実態を反映した答弁をしている」と答え、AIへの対抗心をちらつかせた。 

【Q:日本経済の課題は?】チャットGPTの回答  
中谷氏によると、国会審議でAIを用いて首相に質問するのは史上初という。

中谷氏は、審議中の新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案について、「衆院議員だったら首相にどのような質問をすべきか」とチャットGPTに「質問案」作成を依頼。

チャットGPTが作成した「地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させているのかどうか。そして、改正法案に対する関係者の反応について教えてください」との質問案をそのまま首相にぶつけた。

首相は「今回の法案は(関係者の)意見、要望に十分応えている改正になっている」などと答えた。  

中谷氏は続いてチャットGPTが作成した首相の「答弁案」も披露した。「(同法改正案は)地方自治体や医療現場の関係者の意見を十分に反映させるように努めている」などとする内容で、中谷氏は「首相の答弁より誠実でピントが合っているかもしれない」と指摘した。

これに対し、首相が「(自らの方が)より具体的に関係者の名前などを挙げている」などと反論すると、委員会室に笑いが起きた。  

首相は対話型のAIについて「適切に使用することで行政職員がより多くの情報を効率的に利用する可能性がある」とした上で、「活用の進め方を検討したい」と述べた。【3月29日 毎日】
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首相とチャットGPT、まあ、まあ、似たような答弁です。

別に中谷氏はチャットGPTを云々するためではなく、岸田首相が国会で似たような答弁を繰り返し、質疑が深まらないという不満から、それぐらいならチャットGPTの方がまだ誠実でましな答弁をする・・・ということを指摘したかったようです。

前回1度試した感じからすると、おそらく国会答弁のような“あたり障りのない”、ポリティカルコレクトネスを踏まえた模範的文章をつくるのは、チャットGPTが一番得意とするところでしょう。

おそらく首相答弁を作成する官僚は今後チャットGPTを頻用するのではないでしょうか。

【生成AIは世界全体で3億人分相当の仕事を置き換える可能性がある】
ただ、質問も答弁もAIができるなら、政治家も官僚もいらない・・・ということにも。

*****「ChatGPT」など生成AI、3億人分の仕事を奪う可能性...ゴールドマン・サックスが予測****
<現存の職業の約3分の2が影響を受ける可能性>
生成AIは世界全体で3億人分相当の仕事を置き換える可能性がある──ゴールドマン・サックスは現地時間3月26日に公表した報告書で、そう結論付けた。

生成AIは、ユーザーの要求に基づいてテキストや画像などを自動生成。対話AI「ChatGPT」の公開をきっかけに、脚光を浴びている。巨大テック企業までもが追随し、独自AIの構築に本腰を入れることとなった。

ゴールドマン・サックスのアナリストたちは、米国とヨーロッパの職業・業務のデータを精査。その結果、生成AIが想定通りの性能を発揮すれば、世界全体で3億人分相当の仕事が、自動化の脅威にさらされる可能性があるという結論に至った。

報告書によると、アメリカでは現存の職業の約3分の2が生成AIによる影響を受けると見られる。だが置き換えられる可能性があるのはあくまでも一部業務(25〜50%)。逆にAIの活用によって労働生産性が向上し、世界の年間GDPを7%引き上げる可能性もあるという。

では、どのような職業が最も影響を受けやすいのか。アメリカでは事務・管理支援職が最も影響を受けやすい職業で、業務の46%が自動化されると見込まれる。法務職、建築設計・エンジニアリング職も、それぞれ44%と37%で続いた。

ヨーロッパでも事務・管理支援職が最も影響を受けやすく、業務の45%が自動化される可能性がある。一方、多くの肉体労働を要する職業は影響を受けにくいという。【3月30日 冨田龍一氏 Newsweek】
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チャットGPTを開発した米オープンAIなども、従来の業務にかかる時間がどの程度減らせるかに着目した論文を公表しています。

その論文では、アメリカの労働者の約19%が、業務の半分以上をより短い時間でこなせるようになるとも指摘。

科学やクリティカルシンキング(批判的思考)などの能力はAIの影響を受けにくいものの、プログラミングやライティング能力は影響を受けやすいと分析しています。

業種別では、会計士、数学者、通訳、記者などの職種がAIの影響を受けやすい一方、調理師や皿洗いなどの業種は影響を受けにくいとの見方を示しています。このあたりは、前出ゴールドマン・サックス予測と同じような結論です。

多くの人の仕事がAIに取って代わられるとなると、深刻な社会問題を引き起こします。AIにとってかわられた人の生活をどのようにぎ補償するのか?

****AI化が進むと大量のベーシックインカムが必要になる 専門家が未来予想****
(中略)そして「将来は、AIがAIを監視する世の中になり、人の役割が減り、人間が余ってくる。そうなると、仕事のないために、人口の多い国などは特に大量のベーシックインカム(国が最低限の所得を補償する制度)が必要になる。むしろそれが問題です」と締めくくった。【3月30日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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もちろん、ベーシックインカムについては、労働意欲への影響といった根本的な疑念もあります。また、経済政策上の問題として、膨大な財政支出がハイパーインフレーションを惹起するのではとの指摘も。

【生成AIが生む偽情報・プロパガンダも AI開発の一時停止を求める動きも】
話をチャットGPTに戻すと、こうしたAIは“もっともらしい”偽情報、ときにプロパガンダをまき散らす・・・との批判もあります。そうした懸念から開発の一時停止を求める動きもあります。

****チャットGPTなどAI開発激化…“一時停止”求め署名活動 マスク氏らも賛同****
対話型の自動応答ソフト「チャットGPT」の登場以降、IT大手によるAIの開発競争が加速する中、開発を一時停止するよう求める署名活動がアメリカを中心に広がっています。

AIを巡っては「チャットGPT」の開始以降、開発競争が加速していて、グーグルも先月、新たなAIサービスを発表、メタも近く利用者を限定してサービスを開始することを明らかにしています。

こうした中、署名活動はAIのリスクなどについて研究する非営利団体が、チャットGPTの最新システム「GPT-4」より高度なAIの訓練を少なくとも6か月間、停止するよう求める書簡を公開し賛同者を募っているものです。

書簡では「情報網をプロパガンダやウソで溢(あふ)れさせてよいのか。高度なAIの開発はリスク管理が可能だと確信できた場合のみ行われるべきだ」と訴え、開発を一時停止できないならば政府が介入する必要があるとしています。

署名にはこれまでに起業家のイーロン・マスク氏や、アップルの共同創業者など1300人余りが名を連ねています。

マスク氏は「チャットGPT」を開発する「オープンAI」の設立に関わっていましたが、方針の違いから今の経営陣とは距離をとっているものとみられ、アメリカメディアによると先月、「AIは人類最大の脅威の1つになる」などと話していました。【3月30日 日テレNEWS】
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【国民監視に使用されるAI顔認証技術 輸出管理の動き】
議論をAIということに広げると、AI技術は顔認証という監視技術を高め人権侵害を助長するという側面もあります。

****発達する「顔認証技術」が、権威主義国により人権侵害に使われてしまう懸念****
東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が2月27日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。技術が世界的にも発達している日本の顔認証について解説した。

世界的にも発達している日本の顔認証技術
新行)日経新聞に、このような記事が掲載されています。
『顔認証で本人確認 日立とパナソニックコネクトが協業 高い安全性、世界に対抗』〜『日本経済新聞』2023年2月27日配信記事 より

日立製作所とパナソニックホールディングス傘下のパナソニックコネクトが、商業店舗などに向けて顔認証技術を使った本人確認サービスで協業するというニュースです。

スマートフォンなどで顔や証明書などを登録すれば、店舗やホテルなどで入場や即時決済など、いろいろなサービスを「顔パス」で受けられるというものです。2023年度中の事業化を目指すということですが、どうご覧になりますか?

井形)便利ではありますし、すごいなと思います。日本は顔認証の技術が発展しているのです。(中略)定期的に、国際的な企業の顔認証が「どのくらい正確に素早く認証できるか」というランキングがコンペティションのように行われているのですが、日本企業はいつも1位を獲っているのです。

顔認証等、個人を特定できる技術が権威主義国によって人権侵害に使われてしまう懸念
井形)その一方で、「怖いな」と思う一面もあります。国際社会では、顔認証を始めとした個人を特定できるような技術が、権威主義国によって「人権侵害に使われてしまうのではないか」と懸念されているのです。(中略)

具体的には、新疆ウイグル自治区で監視カメラに映され、「この人は九十数%の確率でウイグル人だ」と判明すると、急に警察の方が「お話を伺いたいのですが」と来る。そういう形で使われているのではないかというような疑義も出ています。(中略)

いま欧米諸国では、人権侵害に使われてしまうかも知れないような顔認証の技術や製品に関しても、みんなで輸出管理し、新たな枠組みをつくっていこうという動きが進んでいます。

新行)悪用される可能性があるところには輸出しないということですか?
井形)いままでだと、ミサイルや兵器に対する輸出管理はあったのですが、今回、人権侵害に使われそうなものも輸出管理していこうという話が出ています。それくらい顔認証技術の影響力が大きいと判断され始めたのだと思います。【2月27日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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上記記事にある「顔認証技術の輸出管理」についてのアメリカの動き。

****監視技術を輸出規制へ米政府が「行動規範」まとめる…顔認証など悪用の恐れ****
米政府は29日、人権侵害に悪用される恐れのある監視技術の拡散を防ぐ国際的な「行動規範」をまとめたと発表した。米主導の輸出管理枠組みには日米英独仏や韓国など計22か国が参加し、中国やロシアなどを念頭に輸出規制に向けた取り組みを進める。

AI(人工知能)による顔認証や監視カメラなどの技術が、強権的な国家による人権侵害に悪用されることを防ぐ狙いがある。

行動規範に法的拘束力はないが、参加国はこれに基づき、輸出規制の強化を進める。米政府高官は記者団に「輸出管理体制に人権の基準をさらに組み込むことを意図している」と説明した。

また、日米など36か国が中心となり、政府が監視技術を使用する際の指針も策定した。「監視技術を抑圧に使う政府との違いを明確にする」(ホワイトハウス)のが目的だ。監視技術を巡る取り組みは、第2回民主主義サミットでも協議される。

このほか米英仏など11か国はスマートフォンなどから情報を抜き取る「スパイウェア」の利用規制に向けた共同声明をまとめた。バイデン米大統領は29日、スパイウェアについて「世界中の反体制派や活動家、ジャーナリストを標的に悪用されている」と指摘した。【3月30日 読売】
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【AI技術は戦争になくてはならないものに】
人権侵害を超えて、戦争では今やAI顔認証技術が生死に直接的に関わっています。

****AI技術は戦争になくてはならないものに****
部谷)日本は「AIの軍事利用は危険だ」と言っていますが、ウクライナを見れば顔認証AIなど、AIを使いまくっています。

飯田)敵味方識別など。

部谷)捕虜や亡くなった兵士を顔認証し、「これはロシア軍の兵士だ」とサイバーアタックした情報と結びつけ、遺族に電話して士気を落とそうとするのです。(中略)

顔をあてると四角形が出て、体温を測る測定器がありますよね。「物体検出」と言いますが、あの技術を応用して戦場に戦車が何台いるのか、どんな方向から来ているかなどを機械に学習させるのです。(中略) ドローンで撮った映像をAIに勉強させて。

画像認識もAIに学習させて精度を上げることができる
飯田)敵味方の識別や、どこに何があるかという画像認識も、画像があればAIが勝手にやってくれるのですよね。

部谷)AIの方が得意です。パッと見て、「いまここに何台あって何人がいる」など、人間の目でわからないところも見つけてくれるのです。

飯田)それが正確かどうかは、経験を積み重ねるほど精度が上がっていく。

部谷)そうですね。試行錯誤して学習させたら。【3月30日 ニッポン放送NEWS ONLINE“ドローンは現代の「火縄銃」 ウクライナでの戦闘にみる「ドローンの重要性」】
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デジタル後進国・日本では軍事面でもAIとかドローンといった技術の利用が、法規制の問題などもあって、他国に比べて大幅に遅れていることは多くの指摘があるところですが、その話は長くなるのでまた別機会に。

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ロシア  「中国の資源植民地」となるとの警戒もある中でも進めざるを得ない中国依存

2023-03-29 23:32:30 | ロシア

(2023年3月20日、モスクワで会談した、中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーチン大統領。【3月27日 BUSINESS INSIDER】)

【中ロ首脳 戦略協力強化で合意 中国がロシアにとって最も重要な経済パートナー】
ウクライナ戦争をめぐる欧米の経済制裁を課されたロシアが、中国やインドへの石油・ガス輸出などでなんとか経済を維持していることは常々指摘されるところで、特にロシアは国際政治においてアメリカへの対抗力を有する中国との連携強化への傾斜を強めています。

中国・習近平主席も、ウクライナ和平案を提示するなど、ロシアへの寄り添いを見せつつ、一方で慎重にバランスもとりながら、アメリカに対抗する国際的影響力強化など中国の利益の最大化に腐心しています。

****プーチン氏、中国の仲裁案「解決の基礎」 中ロ戦略協力強化で合意****
ロシアのプーチン大統領は21日、同国を公式訪問中の中国の習近平国家主席と2日目の会談を行い、両国の戦略的協力に関する合意書に署名した。両首脳はウクライナ停戦に向けた中国の仲介案についても協議し、プーチン氏は平和的解決の基礎とすることができるとの認識を示した。(中略)

プーチン大統領は会談後、今回の首脳会談は「成功し、建設的」だったとし、今後も習主席と定期的に連絡を取り続けることに期待を表明。(中略)

習氏はプーチン氏との会談は「オープンで友好的」だったと表現。ウクライナに対する中国の「中立的な立場」を改めて強調し、対話を呼びかけた。ロシア通信(RIA)によると、習主席は中国はウクライナ紛争について「公平な立場」を持ち、平和と対話を支持すると述べた。

<連携強化>
習主席とプーチン大統領は、昨年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始する約3週間前に両国の「無制限」のパートナーシップを表明。今回の首脳会談は、こうした関係の強化を目的に行われた。

両首脳は「戦略的協力」に関する一連の文書に署名。プーチン氏は「われわれの多面的な協力関係は、両国の国民のために発展し続けると確信している」とテレビで発言し、中国がロシアにとって最も重要な経済パートナーであることを明確に示した。

会談で、プーチン氏はウクライナでの戦争を受けてロシアから撤退した西側諸国の企業の代わりに中国企業を支援する用意があるという認識を示した。

共同声明で、米国に対し「世界的な戦略的安全保障の弱体化」を止め、世界的なミサイル防衛システムの開発を中止するよう呼びかけた。

また、より定期的な合同軍事演習の実施を確約する一方、より緊密な二国間関係は第三国に対して向けられるものではなく、「軍事的・政治的同盟」を構成するものでもないとした。(後略)【3月22日 ロイター】
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【両国関係強化を示すカネ・モノの流れ】
ロシアの経済面での中国との関係強化を示すカネの流れ、モノの流れが報じられています。

****ウクライナ侵攻後に中国人民元への依存が一気に進んだロシア経済****
人民元での輸出決済の割合が大幅上昇
ロシアでは、貿易決済、企業の資金調達、個人の外貨建て資産運用など多くの面で、中国人民元の存在感が高まっている。

きっかけとなったのは、ウクライナ侵攻後に先進国が実施した、ロシアに対する経済・金融制裁措置である。ロシアの外貨準備のうち主要国通貨については凍結され、ロシアの主要銀行がドル、ユーロを中心とした国際的な銀行間決済システムSWIFTから排除された。

主要な外貨の調達が困難となる中、中国人民元を用いた貿易決済が広がっていったのである。それは、経済関係においてロシアの中国依存度を高める流れと一体であった。

ロシア中央銀行のデータによると、人民元で代金が支払われた輸出の割合は、ウクライナ侵攻以前は、全体のわずか0.4%だったが、昨年9月には14%にまで上昇した。ルーブル建ては33%程度まで上昇したと推測され、逆にドル、ユーロなど主要通貨の割合が大きく低下した。

ロシアの貿易決済で人民元の利用が拡大するのを支えているのは、中国独自の国際的銀行間決済システムCIPSの存在だ。中国は2015年に、ドル、ユーロといった主要通貨での国際銀行間決済をほぼ支配するSWIFTに対抗する目的でCIPSを立ち上げた。

長らくその利用は広がりを欠いていたが、先進国による対ロシア金融制裁をきっかけに、流れが変わってきたのである。CIPSの今年1月の取引件数は、1日平均で2万1,000件と、侵攻前の約1.5倍になったという(日本経済新聞)。対ロシア金融制裁は、人民元の国際化を促し、国際決済における人民元の存在感を高める役割を果たしているのである。

ロシア政府は人民元の売却で戦争継続の資金を捻出
人民元は、戦争継続でひっ迫するロシア政府の財政を支える役割も果たしている。(中略)さらに今年1月には、政府の財源ねん出のため、同基金が保有する金約3.6トンや中国の人民元を売却した。同基金からの金の売却は初めてのことだという(コラム「年明け後一気に苦境が強まるロシアの経済・財政環境」、2023年2月15日)。

人民元建て社債の発行を増やすロシア企業
ロシア企業の間でも、人民元による資金調達が広がってきている。昨年は人民元建ての社債の発行額が70億ドル余りに達した(リフィニティブ)。(中略)

中国にとっては人民元国際化の足掛かりに
(中略)他方、中国にとっては、ロシアでの人民元利用の拡大は、人民元の利用を新興国に広げていく際の足掛かりとなる。それは、国際金融、通貨におけるドルの覇権に対する中国の挑戦を後押しするものだ。

ロシアと中国は一蓮托生の構図を強めるか
先進国による強い制裁措置のもと、中国への依存を高める以外に、ロシアにとっては経済成長を維持する術はないというのが実情だろう。ただし、経済、通貨の面で中国依存度を高めることは、その分野では中国に次第に支配されていくことを意味する。(後略)【3月3日 木内 登英氏 NRI】
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****ロシアの中国依存浮き彫り…中ロ国境トラック大行列****
習近平国家主席のロシア訪問が20日に迫るなか、中ロ国境の街では貨物トラックが大行列を作るなどロシアが中国への依存を強める姿が浮き彫りになっています。

中ロ貿易のうち、陸上輸送で取引される製品のおよそ65%が内モンゴル自治区の満州里で国境を通過します。
貿易関係者によりますと、最近はロシア向けに建設用の機械や自動車などの輸出が増え、これまでになく通関手続きに時間がかかっているということです。(中略)

中国政府が発表した貿易統計では、1月と2月のロシアとの輸出入総額は前年同期比で25.9%増加しています。

ウクライナ侵攻を巡り、ロシアが中国への依存を強めるなか、習主席とプーチン大統領の会談でも経済の関係強化について議論される見通しです。【3月19日 テレ朝news】
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こうした流れを受けて、ロシアでは中国語を学ぶ人が急増しているとか。

****ロシアで高まる中国語人気、深まる経済依存*****
ロシアで中国語のオンラインレッスンをして生計を立てているキリル・ブロビンさんは、毎日曜日は早朝から夜中まで働きづめだ。生徒数はこの1年で3倍に増えた。日曜日は一番忙しく、「休憩をほとんど取らずに16時間レッスンをしている」と話す。

中国語人気は、ロシアがアジアに軸足を移していることを示している。(中略)

ロシアのオンライン人材派遣会社大手ヘッドハンターのナタリア・ダニナ氏によると、中国語を必要とする求人は昨年は1万1000件近くと、前年に比べ44%増加した
■力を合わせれば「どこにも負けない」
ロシアでの中国語人気は、英語と肩を並べる勢いだ。(中略)欧州の大学への留学がかなわなくなった今は、中国への留学希望者も増えているという。

教育部門を統括するロシアの国営機関によると、外国語で最も人気があるのは依然として英語だが、高校修了時の外国語試験で中国語を選択する生徒の数は1万7000人と1年で倍増した。(後略)【3月29日 AFP】AFPBB News
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【かつては中国を警戒したロシア 今は中国依存を進めるしかない状況】
かつてロシアは極東経済の中国経済との一体化については、人口で圧倒的に上回る中国に呑み込まれることを警戒する面が強くありましたが、今は、もはや中国に頼るしかない・・・という状況になっています。

****かつて嫌った「友情のパイプ」 中国依存、進めるしかないロシア****
(中略)中国は建前の上ではロシアとウクライナの間で「中立」を装うが、実際には原油や天然ガスなどロシアの資源を大量に輸入し、米国などによる先端兵器の対ウクライナ供与を激しく非難するなど、政治、経済の両面でロシアを下支えする。

中露国境の街(黒竜江(ロシア名・アムール川)を挟んでロシア極東と接する国境の街・中国東北部・黒竜江省黒河市)を訪ねると、この1年で急速に進んだ両国の協力の深まりが可視化されていた。(中略)

(「中露天然ガスパイプライン東ルート」の)黒河中継所が中国のエネルギー政策上、極めて重要なのは、ロシアのパイプライン「シベリアの力」と地下を通じて直結しているためだ。ここを起点にロシア産天然ガスが3000キロを超えるパイプラインを通じて中国全土へと送られている。

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州はロシアからのエネルギー輸入を急激に減らしており、ロシアは輸出先を中国などに必死で振り向けている。黒河中継所を通じた東ルートの天然ガスの輸送量は2022年、開通当初の19年の3倍以上に急増。23年は19年の5倍を超える見通しだ。

中露間のパイプラインはこのほかにモンゴル経由のルートが近く着工を予定している。さらに2月には、日本海沿いを走る極東ルートから中国東北部にパイプを延伸する計画についても合意した。欧州への輸出の道を閉ざされたロシアは、今後より一層、中国市場への依存を高める可能性が高い。

黒河がロシア側とつながるのはパイプラインだけではない。22年6月には黒竜江の対岸の都市、ブラゴベシチェンスクと結ぶ長さ19・9キロの自動車専用の道路も開通した。(中略)

対米・経済的実利 中国が得るうまみ
中国は歴史的にはソ連時代も含めてロシアと対立した時期もある。日米欧などとロシアが激しく対立するなかで、中国はなぜ、米欧との関係が悪化するリスクを負ってまで、対露の経済関係を強化し、ロシアを支えるのか。

一つは政治的な側面だ。(中略)米中対立が激しさを増す現状を見据えると、共に米国と対峙(たいじ)するロシアは、一定の距離を置きつつも支えざるを得ないというのが王氏(北京のシンクタンク「CCG」の王輝耀理事長)の解説だ。中国の外交政策に詳しい北京の政治学者も「プーチン大統領のロシアが崩れれば、中国は単独で米国と向き合わなければならない。それを中国が避けたいと思うのは当然だ」と指摘した。

もう一つは、中国側が経済的な実利を狙っているとの見方だ。中国の石油業界関係者は「率直に言ってウクライナを支援しても返ってくるものは少ないが、ロシアを支えればそれだけの見返りはある」と明かす。

実際にウクライナ侵攻後、中露の経済関係は深まった。2022年の貿易総額は1902億ドルと前年より約3割も増加した。(中略)

特に目立つのが中国へのロシアからの輸入で、前年より43%増えた。制裁で買い手がつきにくくなり割安となったロシア産原油と液化天然ガス(LNG)の輸入量は、前年よりそれぞれ8%、43%も増えている。(中略)

世界第2の経済大国に急成長した中国と、伸び悩むロシアの間の格差が広がる中で、ロシアの対中依存の傾向は以前から進んでおり、10年にはロシアにとって中国は国別で最大の貿易相手国となっていた。ロシアが14年にウクライナ南部クリミアを併合した後、米欧からの経済制裁を受け、中国の重要性は更に増した。

一方で、ロシアが中国などへの依存を深めたとしても、政治と経済の両面で今後の難局を乗り切れるのかは定かでない。

日本のエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は22年の試算で、欧州諸国がロシア産天然ガスの購入を打ち切った場合、中国やインドがロシアからの輸入を増やしても、その損失を賄いきれないと指摘している。(後略)
【3月1日 毎日】
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【ロシアは「中国にとっての資源の倉庫」「中国の資源植民地」になる・・・・ 逆転した力関係】
中ロ関係の強化とは言いつつも、これまで見てきたように実態はロシアの中国依存強化であり、上記記事にある天然ガスパイプラインに関しても両国の温度差があるように見えます。

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パイプライン「シベリアの力2」****
(習近平主席のロシア訪問で)両首脳は、ロシア産天然ガスをモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」構想についても協議。

プーチン大統領はロシア、中国、モンゴルは、同パイプライン計画について「全ての合意」を完了したと述べ、ロシアは中国向け石油輸出を増やす用意があるとした。習主席に対し、ロシアが中国にとり石油やガス、石炭の「戦略的供給国」との認識を示した。

だが共同声明では、パイプラインの当事者が「調査と承認を進める」と述べるにとどまった。会談後に発表された習氏の2つの声明の英語版ではパイプラインへの言及がなかった。

ロシアのノバク副首相は記者団に対し、パイプラインプロジェクトの詳細を詰める作業がまだ残っていると語った。

シベリアの力2は中国に年間500億立方メートルのロシア産天然ガスを供給するもの。ロシアは何年も前に同計画を立ち上げたが、中国が欧州に代わる主要なガス供給先になっているため、計画の遂行が急務になっている。【3月22日 ロイター】
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こうした流れに、ロシアが経済的に中国に依存するようになり、中国にとっての「資源の倉庫」「中国の資源植民地になる」になるとの警戒がロシア国内にもあります。

****ロシアは中国の「資源植民地」になる…高まる中国への依存に政府関係者が懸念****
ロシアは「中国の資源植民地になる」と、ロシア政府に近い関係者がフィナンシャルタイムズに語った。

習近平国家主席のモスクワ訪問は、ロシア経済が厳しい制裁の中で中国に依存していることを示した。
だが、中国はガスパイプライン「パワーオブシベリア2」にゴーサインを出すことはしなかった。

ロシアが経済的に中国に依存するようになり、中国にとっての「資源の倉庫」になると、ロシア政府に近い情報筋はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った。

先日、中国の習近平国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を訪問し、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来初めての首脳会談を行ったことで、この不平等なパートナーシップが明らかになった。(中略)
実際、中国のロシア産エネルギーの購入量は2022年に813億ドル(約10兆6000億円)と前年比で54%も増加し、ロシアの収入の40%を占めた。さらに、FTが引用したデータによると、ロシアは2023年1月、270億立方メートルの天然ガスを中国に輸出し、中国に対する最大の供給者になった。

「これは我々が完全に中国の資源植民地になることを示唆している」と、その情報筋はFTに語った。(中略)

ロシアは中国との経済的な連携をウクライナとの戦争に勝つための鍵と考えていると情報筋は語った。また、ロシアは中国との関係が欧米の制裁を乗り切るのに不可欠で、天然資源が中国の支援を得るのに役立と考えていると付け加えた。

だが、習主席とプーチン大統領の会談では、ロシアは最優先事項の達成に失敗した。それは、新しい天然ガスのパイプライン建設に関する最終合意だ。(後略)【3月27日 BUSINESS INSIDER】
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ロシアと中国の力関係は完全に逆転したようです。

****習近平とプーチンの「兄弟関係」が逆転...兄が頼りの弟分は付き従うのみ****
<戦争で疲弊したロシアがかつての弟分に支援を仰ぐ。社会主義時代の兄貴分を今も支える中国の狙い>

時は1949年12月半ばのこと。ソ連の国営ラジオ局が新しい曲を流した。題して「モスクワ・北京」。建国まもない中国から初めてモスクワにやって来た毛沢東主席を歓迎する勇ましい歌で、「ロシア人と中国人は永遠に兄弟」という詞で始まっていた。

社会主義国同士の熱き連帯というわけで、もちろんソ連が兄貴分。生まれたばかりの中華人民共和国は、長きにわたる抗日戦とその後の国共内戦で疲弊し切っていた。だからソ連の援助にすがりたかった。しかし「弟分」とされたことには怒りを覚えた。そのせいもあって、両国は後に別々の道を歩むことになる。

あれから約75年、この3月20日には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がモスクワを訪れ、翌21日にロシア(旧ソ連)のウラジーミル・プーチン大統領と会談したが、既に両国の力関係は逆転していた。今は中国こそが「大兄」で、ロシアは中国にすがる側だ。(中略)

そして関係の逆転した2023年の春、国際政治の舞台を堂々と歩む中国に、兄が頼りの弟分は付き従うのみだ。おぼつかない足取りで。【3月29日 Newsweek】
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金融不安への素早い異例の対応 消えていない「ドミノ倒し」不安 銀行の融資抑制で世界経済は減速か

2023-03-28 22:20:20 | 経済・通貨

(危機の時以外は利用されることの少ないFRBの「連銀窓口貸出」を通じた金融機関向けの資金供給は、足元でリーマンショック時を上回るペースで拡大しており、米銀行業界の混乱の大きさを物語っています(図2)【FRANKLIN TEMPLETON】)

【「預金は全額保護する」 「リーマンショックの教訓」もあって素早い異例の対応】
周知のように、アメリカでは総資産28兆円の「シリコンバレーバンク」、14兆円の「シグネチャー・バンク」の破綻が相次ぎ、更にスイスの金融大手「クレディ・スイス」の経営不安・・・・ということで、世界経済全体に金融不安、リーマンショックの再来への危惧が広がりました。(過去形ではなく「広がっています」と書くべきか)

これに対しアメリカ金融当局はすべての預金者を保護するという形で、異例の素早い対応で火消を行っています。

****米金融当局 シリコンバレーバンク預金者のすべての預金を保護すると発表****
アメリカのシリコンバレーバンクが経営破綻したことを受け、アメリカの金融当局は、すべての預金者を保護すると発表しました。

アメリカ財務省とFRB=連邦準備制度理事会、FDIC=連邦預金保険公社は12日、共同声明を発表し、「アメリカ経済を守るため、断固とした行動をとる」と強調。イエレン財務長官は、「シリコンバレーバンク」の預金者のすべての預金を保護したうえで、経営破綻の手続きを完了させると明らかにしました。

今回の対応は、FRBとFDICの勧告を受け、バイデン大統領と協議したうえで、イエレン長官が承認したということです。

また、FRBは他の銀行に波及するのを防ぐため、金融機関に対し追加の資金を提供すると表明しました。【3月13日 TBS NEWS DIG】
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****アメリカ政府「預金は全額保護する」 素早く宣言****
有働キャスター
「銀行が相次いで破綻すると、リーマンショックの二の舞で、どんどん連鎖していくんじゃないかと心配になりましたが…」

小野解説委員
「それをアメリカ政府は最も恐れました。まずは、『預金は全額保護します』と素早く宣言しました。保護されるお金は本来、日本円だと3000万円ぐらいまでと上限がありますが、『全額救済』としました。やりすぎじゃないかと思うくらいですが、こうやって安心感を与えたんです」

「さらに、政府が金融機関に1年間、お金を貸す用意もしました。そうすれば、不安になった人たちが、銀行から『われもわれも』と預金を引き出す事態が起きたとしても、銀行にお金があるので耐えられます。こうやって次々と破綻が起きないよう手を打っているわけです」【3月14日 日テレNEWS】
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アメリカの異例の対応の背景には「リーマンショックの教訓」があるとも。

****米相次いだ銀行破綻 異例の素早い対応の背景に「リーマンショックの教訓」 記者解説****
アメリカで相次ぐ銀行の経営破綻。バイデン政権は沈静化を急いでいますが、背景に何があるのか。ニューヨーク支局・藤森記者の報告です。

アメリカ バイデン大統領 「国民は米国の銀行システムが安全だと確信を持つことができる。皆さんの預金は安全です」(中略)

政府が対応を急ぐ背景には、過去、アメリカが発端となった世界的な金融危機の苦い経験があります。

大和総研 ニューヨークリサーチセンター 矢作大祐主任研究員
「非常に早い決断だったと思う。リーマンショックの時は土日含めて後手後手に回ったことがあった。今回、その教訓をしっかり踏まえた」

さらに、政府が危機感を持っているのは、歴史的な物価高を抑えるために進めてきた中央銀行による急速な利上げの副作用です。

今回の銀行の破綻は、▼利上げに伴う債券価格の下落により経営が圧迫され、▼ベンチャー企業などは金融機関からの資金調達が難しくなり、結果的に問題の銀行の口座から資金が引き出される動きが加速したことが決定的な要因です。

こうした動きが広がれば、一気に景気が冷え込むという危機感が政府を動かしたものとみられます。

大和総研 ニューヨークリサーチセンター 矢作大祐主任研究員
「(破綻の)連鎖という形になってくると、2008年(リーマンショック)の香りがしてくる。少しリスクが高まってくる」

週明けのNY株式市場は政府の対応をひとまず評価した形ですが、中央銀行が来週開く会合で、1年にわたり続けてきた利上げを継続するのかが注目されます。【3月14日 TBS NEWS DIG】
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ただ、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額の中小銀行からの預金流出が起きており、市場に不安が広まった際の影響はリーマンショック当時より大きくなっています。

バイデン大統領は、必要に応じて引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示し、沈静化に務めています。

****過去最大“リーマン超え”米・中小銀行預金15兆円流出…バイデン大統領は沈静化に躍起****
今月10日のアメリカ、シリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。

アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの1週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円でおよそ15兆7000億円もの預金が流出したことが、FRB(連邦準備制度理事会)の統計で明らかになりました。

これは過去最大の流出額で、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額です。相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられます。

バイデン大統領は、沈静化に躍起です。
バイデン大統領:「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は、生き残らなければなりません」

バイデン大統領は、銀行がさらに破綻するなど金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示しました。【テレ朝NEWS 「グッド!モーニング」3月27日放送分より】
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また、アメリカのFDIC=連邦預金保険公社は26日、経営破綻したシリコンバレーバンクについて、アメリカ南部ノースカロライナ州が地盤の銀行が買収することで合意したと発表しました。

【スイスの金融大手「クレディ・スイス」も破綻阻止 ただ、債券価値ゼロの影響は他行にも】
スイスの金融大手「クレディ・スイス」についも、ライバル銀行「UBS」が買収することで破綻を防いでいます。

****UBSがクレディ・スイス買収合意 買収額4200億円 スイス政府****
経営不安に陥っていたスイスの金融大手「クレディ・スイス」について、「UBS」が買収することで合意したとスイス政府などが発表した。

スイス・ベルセ大統領「UBSによるクレディ・スイスの買収は、スイスの金融センターの信頼回復と、国と市民のリスクを管理するために最善の解決策です」

スイス政府は会見で、「UBS」が「クレディ・スイス」を買収することで合意したと発表し、買収額はおよそ4,200億円になるとしている。

買収交渉は、UBS側がスイス政府に巨額の保証などを求め難航していたが、市場の不安を抑えるため、週明けの金融市場が開く前に合意した形。【3月20日 FNNプライムオンライン】
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こうしたアメリカ・スイス当局の異例の素早い対応もあって、市場は一応の安心感を示しています。

****ニューヨーク株式市場 3営業日続伸 金融不安やわらぎ買い注文****
週明け27日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸した。

経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行を中堅銀行のファースト・シチズンズ銀行が買収すると発表したことを受け、金融システムに対する投資家の不安が和らぎ、買い注文が優勢となった。(後略)【3月28日 FNNプライムオンライン】
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ただ、不安感が払拭された訳でもなく、「次は・・・・」という話も。

****金融のドミノ倒し、次はドイツ銀行か****
<ドイツ銀行の株価が急落。シリコンバレー銀行とクレディ・スイスに続く破綻を市場は懸念する>

今月初めのシリコンバレー銀行の破綻に端を発し、スイスの大手銀行クレディ・スイスに飛び火するなど世界に広がった金融不安で、またも大手が危険領域に足を踏み入れてしまった。今度はドイツ最大のドイツ銀行だ。
ドイツ銀行の株価は先週末の24日、11%下落し、経営危機の恐れに直面している。今回の金融不安が始まった8日以降で考えると、下落幅は29%に達する。

「(金融界は)さらなるドミノ倒しが起きる瀬戸際にいる。次のドミノと目されているのは明らかに(それが正当な見方かどうかはとにかく)ドイツ銀行だ」と、IGグループの主任市場アナリストのクリス・ボーシャンはロイター通信に述べた。「金融危機は完全に一段落したわけではなさそうだ」(中略)

債券投資家に損失
スイス政府の仲介によりクレディ・スイスが救済され、これで欧州市場は安定するだろうと当初は考えられていた。ところが影響の拡大を抑えるのは難しかったようだ。

買収合意により、170億ドル分のクレディ・スイスの社債の価値がゼロとされてしまったことが、ドイツ銀行への懸念を深める要因となってしまった。(中略)

次に倒れるのはドイツ銀行ではと懸念する人は多いが、一方でクレディ・スイスと同じ運命はたどらないだろうと楽観視するアナリストもいる。(中略)

ロイター通信によれば、米金融大手JPモルガンのアナリストたちは24日、ドイツ銀のファンダメンタルズは「強固」で「懸念していない」と説明した。

「実際、もしアメリカとヨーロッパ双方の預金者がこの数週間(の事態の推移)から学ぶことがあるとすれば、それは規制当局がどこまで手厚い預金者保護を貫こうととするか、ということだけだ」

23日にアメリカのジャネット・イエレン財務長官は、金融安定化のために政府は「間違いなく」追加措置を取る用意があると述べた。イエレンは前日には、そうした対応は検討していないと述べており、軌道修正した形だ。【3月27日 Newsweek】
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上記「ドイツ銀行」に見るように、170億ドル分のクレディ・スイスの社債の価値がゼロとされてしまったことが他の銀行の経営不安に連鎖する危険が存在しています。

****債券は「価値ゼロ」で各国政府系銀行も全損──終わらない「クレディ・スイス危機」****
<UBSによる土壇場の買収によって救済されたが、債券の価値はゼロに。提訴の動きなど、世界の投資家と政府系銀行に衝撃が走る>

3月19日、スイス金融最大手UBSが、経営危機に陥ったライバルのクレディ・スイスを買収すると発表した。同社のような「国際金融システム上の重要銀行」が破綻すれば、その影響は計り知れなかった。

スイスのケラーズッター財務相は19日の会見で、イエレン米財務長官とハント英財務相と緊密に連絡を取っていたと明かした。米英には同社の子会社があり、それぞれ数千人の従業員がいる。

土壇場で救済されたものの、クレディ・スイス発行の170億ドル規模のAT1債が価値ゼロとされたのが火種として残りそうだ。

AT1は劣後債と呼ばれるハイリスク・ハイリターンな債券。高利回りである一方、債務の弁済順位が低いが、「価値ゼロ」は保有する世界の投資家に衝撃と動揺を広げた。今回、一部保有者の間に提訴の動きがある。

サウジアラビアの最大手銀行のクレディ・スイスに対する投資もほぼ全損に。カタールの政府系ファンドの投資数十億ドルも吹き飛んだという。【3月27日 Newsweek】
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すでにサウジアラビアの銀行に影響も。

****サウジ・ナショナル・バンク会長辞任、クレディ・スイス筆頭株主****
スイス金融大手クレディ・スイス・グループの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンク(SNB)は27日、アンマル・フデイリ会長が辞任したと発表した。人事は27日付で、後任にはサイード・ガムディ最高経営責任者(CEO)が就く。フデイリ氏の辞任は個人的な理由とされている。

フデイリ氏は3月15日にクレディ・スイスへの追加出資を否定。この発言がクレディの経営悪化に拍車を掛けたとして批判を浴びた。

クレディはスイス金融大手UBSによって救済買収されることになり、クレディの9.9%株式を保有するSNBは10億ドル余りの損失を被った。

SNBは昨年10月にクレディへの出資を発表して以来、株式時価総額が260億ドル以上も吹き飛んだ。【3月28日 ロイター】
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株式時価総額が260億ドル以上も吹き飛んだ・・・約3兆4千億円・・・CEOの首も飛ぶでしょう。

【「ドミノ倒し」が防げたとしても、銀行が融資に抑制的になることで、世界経済は大きく減速】
仮に今度の「ドミノ倒し」が防げたとしても、銀行が「健全性」を重視することで融資に抑制的になることで、世界経済は大きく減速するとも予想されています。

****米国の銀行破綻、世界経済のリスクに****
最悪のシナリオで世界のGDPが2%マイナス成長との予測も

米銀行セクターの混乱は、米国だけの問題ではない。世界的なリセッション(景気後退)のリスクを高めるものでもある。

米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻以前から、多くのエコノミストは今年の世界経済の成長率が大幅に低下すると予想していた。米国と欧州で、金利上昇を受けて支出と投資が減少するとみられていたからだ。

こうした懸念は、欧米経済の予想外の好調さを示すデータと、昨年12月にゼロコロナ政策を放棄した後の中国で景気が回復し始めたことを受けて、今年初めには幾分緩和されていた。

しかし、一部では悲観論が徐々に復活しつつある。大半のエコノミストは全面的な金融危機が発生する可能性は低いと考えているが、その一方で銀行セクターの混乱と金融引き締めの悪影響から、世界の経済成長へのリスクが高まると予想している。

米コーネル大学のエスワル・プラサド教授(通商政策・経済学)は「現状は世界経済にとって潜在的にかなり危険な時期だ」と指摘。先進諸国で金利上昇に加えて銀行セクターの問題が相次げば「世界全体に悪影響が波及する恐れがある」と語った。

エコノミストらによると当面のリスクは、米国の銀行がバランスシートの健全性を確保し預金者を安心させるために、米国の世帯や企業に対する融資を抑制することだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は22日、そうしたシナリオが「かなり現実的である可能性がある」とし、それが「十分にマクロ経済に重大な影響を及ぼし得る」と述べた。

米国での融資抑制は、ドイツ製自動車やフランスへの休暇旅行、中国製電子機器など他国の物品やサービスへの需要を抑制する形で、世界の成長率に影響をもたらし得る。

より幅広い視点で見ると、世界の貿易と金融システムは米ドルによって支えられている。これは、米国の金融が引き締め状態になる(融資が抑制され、借り入れコストが上がり、株式やその他の資産の相場が下がる)と、その影響が他国の経済に迅速に広がり得ることを意味する。

米国外の銀行はドル調達コストの上昇に直面し、国内の世帯や企業への貸し出しを抑制する可能性がある。そうなれば米国の輸入減による国境を越えた打撃がさらに大きくなる。借金の多い国は、借り入れがより困難になる可能性がある。(中略)

シティグループのエコノミストは22日にリポートを公表し、現在の金融セクターの問題の悪化具合に基づく世界の成長シナリオをいくつか提示した。

エコノミストらの中心的な予想では、銀行のバランスシート健全化と規制当局による迅速な対応のおかげで、この問題は春までに落ち着くとみられている。

それでも世界経済の成長率見通しは、2023年は約2.2%、2024年は2.5%にとどまり、経済協力開発機構(OECD)が示した2022年の成長率見通し(3.2%)を下回るとみられる。

シティグループは、銀行の健全性をめぐる懸念の長期化により資金調達のコストが上昇し、利用可能な資金量が減少した場合、与信の伸びが鈍化する可能性があり、今年の世界の成長率は1.6%に減速しかねないと指摘している。

リポートによれば、銀行がより積極的に帳簿上のリスク資産を削減する動きに出れば、世界の経済成長率はさらに低く、1.5%程度になることも考えられる。米国と欧州で複数の銀行が破綻するような本格的な危機が発生した場合には、世界経済はおそらく2%縮小するという。

英調査会社キャピタル・エコノミクスのグループ・チーフ・エコノミスト、ニール・シアリング氏は「真のリスクは、だめ押しとなるような新たな金融問題が起き、これまで予見できなかった金融システムのリスクが露呈することだ」と述べている。【3月27日 WSJ】
*****************

もし“だめ押しとなるような新たな金融問題”が起きたら・・・・リーマンショックの再来でしょう。

日本経済もその中にある世界経済は、相当に危うい鋭いエッジ上の綱渡り状態にもあるようです。
言うまでもなく、経済が破綻すれば、多くの国で政治情勢が不安定化し、国際間の紛争にも飛火します。
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台湾蔡英文総統の訪米に中国側がぶつける国民党の馬英九前総統訪中とホンジュラス断交

2023-03-27 23:40:08 | 東アジア

(27日、中国・上海の空港に到着した台湾の馬英九前総統(中央)【3月27日 時事】)

【蔡英文総統の訪米、マッカーシー下院議長との会談】
来年1月の台湾総統選を控えていることもあって、台湾と中国の外交面での駆け引き・競合・牽制が活発化しています。

台湾の蔡英文総統は今月末出発の中米訪問でアメリカに立ち寄り、その際にマッカーシー下院議長と会談すると報じられています。

****台湾総統府、蔡英文総統の訪米発表 中国外務省は反発****
台湾総統府が蔡英文総統の訪米日程を発表したことを受け、中国外務省は「いかなる形の接触を行うことにも断固反対する」と強く反発しています。

台湾総統府は21日、蔡英文総統が「29日に台湾を出発、30日、ニューヨークを経由して、4月1日から中米グアテマラとベリーズに滞在する」と発表しました。

その後、「来月5日にロサンゼルスを経由し、7日に台湾に戻る」としています。

蔡総統はアメリカでマッカーシー下院議長と会談すると報じられていましたが、アメリカでの日程は明らかになっていません。

発表を受け、中国政府は強く反発しています。

中国外務省 汪文斌報道官
「台湾当局の指導者がいかなる名義や理由でも、アメリカを訪れることに断固反対し、アメリカ側が『一つの中国』の原則に違反し、台湾当局といかなる形の接触を行うことにも断固反対する」

中国外務省の汪文斌報道官は、アメリカに対し厳正な申し入れを行ったことを明らかにしました。

そのうえで、「台湾当局の指導者がアメリカを経由するのは口実で、台湾独立をアピールすることが本当の目的だ」と指摘。「外部勢力と結託し台湾独立を図るいかなる挑発やたくらみも失敗に終わるに違いない。中国は国家の主権と領土を断固守る」と強調しています。【3月21日 TBS NEWS DIG】
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以前からの報道では、関係者の話として、蔡総統とマッカーシー議長はカリフォルニア州で会談する見通しと報じられています。

アメリカも正式な国交を有する中国との関係上、ワシントンに台湾首脳を招くことはできませんので、こういう「経由地」アメリカのワシントン以外で・・・というスタイルになります。

【同時期に野党・国民党の馬英九前総統が総統経験者として初の訪中 名目の「墓参り」が示すもの】
一方、台湾野党・国民党の馬英九前総統が総統経験者として初の訪中を行うことも同時期発表され、実際、今日27日の上海に到着しました。

*****台湾の馬英九前総統が訪中=総統経験者は分断後初****
台湾最大野党・国民党の馬英九前総統は27日、中国・上海に到着した。先祖の墓参りや学生交流が主な目的で、4月7日まで中国に滞在する。

中台関係が悪化する中、来年1月の総統選に向けて同党の対中融和路線を誇示する狙いが透ける。総統経験者の訪中は1949年の中台分断後初めてで、台湾統一をにらむ中国側の対応が注目される。

馬氏は総統在任中の2015年にシンガポールで、習近平国家主席と初の中台首脳会談を行った。

今回、公表された日程に中国高官との面会は明記されていないが、習指導部メンバーと会う可能性も伝えられる。上海の空港では、中国側の台湾政策担当幹部らが出迎えた。馬氏の事務所によると、滞在先は南京、武漢、長沙、重慶、上海各市で、北京市は含まれない。

馬氏は出発前に空港で記者団に「両岸(中台)関係に関わり始めてから36年待ち、ようやく訪問の機会を得た」と感慨を込めた。その上で「若者の熱意ある活動を通じて両岸の雰囲気が改善し、できる限り早く平和が訪れることを願う」と述べた。【3月27日 時事】 
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この件は今月20日に日本でも報じられていますが、“総統経験者として分断後初の訪中”ということでは、さほどの驚きはありませんでした。

国民党のこれまでの対中国関係・交流、馬英九前総統のこれまでの言動を考えれば、個人的には「さもありなん」という印象。

もちろん、客観的には、中国と台湾・国民党の関係がワンランク深化したということでは重要ですが。

個人的に印象的だったのは、訪中の建前としてあげられている「墓参り」ということ。

台湾には、日本支配から脱却した1945年の「台湾光復」以降、中国大陸各地から台湾に移り、台湾人として定住している人々を指す言葉として「外省人」という言葉があります。馬英九前総統も香港生まれの外省人です。

外省人に対比されるのが、1945年の「台湾光復」以前から、中国大陸各地から台湾に移り住んでいた人々およびその子孫の人々を指す「本省人」。

ウィキペディアによれば、言語学的に推測される「外省人」の割合は台湾人口の13%とも。
蒋介石の台湾支配の経緯から、政治・軍の中枢では「外省人」が支配的とも言われてきました。

蒋介石の流れをひく野党・国民党は支持者に「外省人」が多いとも。

最近ではこの対比はあまり表だって取り上げられることはなくなったとも言われていますが、選挙戦や中国との関係が議論される場面では、この区分がやはり浮かび上がります。

今回「墓参り」という話を聞いて、「外省人」と呼ばれる人々にとっては、中国は先祖、それも自分の父母が永眠する土地であるという“当たり前”のことを改めて認識しました。

そういう人々にとって、台湾と中国の関係は、政治や経済の関係以前のものとして、極めて強いものがあることは容易に想像できます。少なくとも、長年先祖代々台湾に暮らす人々と意識に差があるでしょう。

中国を“父母が永眠する土地”として認識する人々にとって、「ひとつの中国」(与党・蔡英文政権は認めていませんが)というのは、ある意味“極めて自然な”発想なのかも・・・・

通常、台湾問題と言うと、台湾の独自性(場合によっては台湾独立)といった面に議論が向かいますが、一方で「中国で先祖の墓参りする」という関係も厳然として存在するということを強く感じた次第です。

また、3月5日ブログ“台湾 軍幹部の9割ほどは退役後中国に渡る 中国への情報提供が常態化・・・との日本メディア報道も”で取り上げた、台湾軍幹部と中国の関係も、上記の事情を反映したものです。

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台湾統一を掲げる中国が実際に軍事侵攻したら――。向き合う台湾軍の事情は複雑だ。

もともと中国がルーツ。49年、国民党軍は共産党軍に敗れ、台湾に逃れた。中国大陸の奪還を誓ったが、夢に終わる。国民党軍は結局、台湾を守る「台湾軍」として衣替えを余儀なくされた。

その屈辱が軍内に強く残る。「我々こそ中国だと、今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ」(軍事専門家)
17万人を抱える台湾軍では将校などの幹部も依然、中国人を親などに持つ中国ルーツの「外省人」が牛耳る旧習が続く。歴代国防部長(大臣)も外省人がほぼ独占する。

「そんな軍が有事で中国と戦えるはずがない。軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」(関係者)。鄭もそんな一人だった。【2月28日 日経】
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この馬英九前総統の訪中時期が、蔡英文総統の訪米に重なったのは偶然ではないと指摘されています。

蔡政権の関係者は「重複」について「対中融和を進めたい馬氏側と、蔡氏の訪米を批判して台湾や国際世論に『中国は国民党との交流を通じた平和を重んじる』と宣伝したい中国側の思惑が一致した結果だ」と分析しています。

蔡政権は今回の訪米で、次期総統選に向け、米台の連携をアピールしたい狙いがあります。

ウクライナ侵攻や昨夏のペロシ下院議長(当時)の訪台後にあった中国の軍事演習により、台湾世論に広がった政権の対中政策への懸念や対米不信を打ち消す必要があるためです。

ただ、蔡氏は馬氏の訪中に対して沈黙を続けており、中国を過度に刺激するのを避けたいとの思いも。

中国は、2月に訪中した夏立言・党副主席への厚遇や、台湾産食品に課している禁輸措置について、国民党の自治体首長の要請を受け、この自治体が営む企業の商品輸入を再開するなど、台湾に対しマイルドな働きかけを行っています。

選挙対策もにらんで、蔡氏訪米に対し昨夏のような大規模な軍事演習を行うのかどうか注目されます。

【更に、蔡英文総統訪米に重なるホンジュラスの台湾断交 台湾の劣勢明白な外交戦】
もうひとつ、中国が蔡英文総統訪米に重なるようにぶつけたのが中米ホンジュラスの台湾との断交

*****「中南米はアメリカの“裏庭”ですから…」 ホンジュラスが台湾との断交宣言、中国と国交樹立 専門家は“別の目的”指摘****
中米のホンジュラスが台湾と断交し、中国との国交を樹立しました。蔡英文総統の就任以降、台湾との断交は9か国目で、来年の総統選を前に外交面で難しいかじ取りを迫られています。

きのう、中国の外相と共同コミュニケに署名し正式に国交樹立しました。

ホンジュラス政府は「『一つの中国』の原則を遵守する」と台湾との断交を宣言し、中国政府は「高く評価する」と応じています。

台湾 蔡英文 総統 「我々は無意味な金銭外交で中国と競わない」

台湾側は中国が経済的に誘惑したとの見方を示していますが、蔡英文総統が就任した2016年以降、台湾と断交した国はこれで9か国目。なかでも半数以上の5か国が中米諸国です。外交関係がある国は22から13に減少しました。

蔡政権は民主主義を前面に打ち出し、中国に対し強硬な姿勢を取り続けています。
中国はその反発として、台湾と外交関係を持つ国々に接近しているとみられますが、中米の国々にとっても中国の経済力は魅力的なようです。

台湾師範大学 范世平 教授
「中米諸国の経済はここ数年、かなり悪化しています。しかし、台湾に高額な援助は出来ないので、中国と国交を樹立するのでしょう」

さらに、中国は別の目的も持っていると専門家は指摘します。(後略)【3月27日 TBS NEWS DIG】
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台湾が蔡英文政権で外交関係を失った国々
<2016年12月> サントメ・プリンシペ(西アフリカの島国)  <17年6月> パナマ(中米)
<18年5月> ドミニカ共和国(中米) <〃> ブルキナファソ(西アフリカ)
<8月> エルサルバドル(中米) <19年9月> ソロモン諸島(太平洋の島国)
<〃> キリバス(太平洋の島国) <21年12月> ニカラグア(中米) <23年3月> ホンジュラス(中米)

台湾が外交関係を維持する国々
欧州のバチカン、太平洋のマーシャル諸島、パラオ、ツバル、中南米のベリーズ、グアテマラ、ハイチ、パラグアイなど13カ国

しかし、台湾が正式な外交関係を維持する国のうち、パラグアイで4月、グアテマラで6月に大統領選が予定されており、いずれも野党陣営が勝利すれば中国との国交樹立に動く可能性が指摘されています。

台湾外交部によると、今回ホンジュラスの件は、3月13日にレイナ外相から、台湾が支援するダムや病院の建設費支援を引き上げるなど、20億ドル(約2600億円)超の要求が届いたものの台湾側が難色を示したところ、15日になって、カストロ大統領が突然、ツイッターで中国との国交樹立手続きを指示したことを明らかにし、中国外務省も16日には国交協議を認めたとのこと。

日本の外交関係者は「中国が総統訪米の時期を狙って仕掛けた外交圧力だろう」と指摘しているようです。

こうした国交をめぐる外交戦では、強い経済力を有する中国が圧倒的に有利です。
地元メディアによると進行中の巨大ダム建設計画で中国に巨額の支援を求め、中国から「台湾と断交しない限り支援しない」と伝えられていたとのこと。台湾メディアは「中国に求めた援助は60億ドル(約7900億円)だった」と伝えたとも。

****蔡英文氏「無意味な金銭外交の競争しない」 ホンジュラス断交で声明***
台湾の蔡英文総統は26日、談話を発表し、中米ホンジュラスが台湾と断交し中国と国交を樹立したことについて「極めて残念だ」と述べた。そのうえで「中国がいくら圧力や脅しを加えても、自由と民主主義を守ろうとする台湾人の決意を変えることはできない」と強調した。

ホンジュラス側は中国との国交樹立について「経済再建」を理由に挙げており、中国の経済援助を期待している。蔡氏は「中国との間で無意味な金銭外交の競争はしない」と指摘。米欧や日本など民主主義の価値観を共有する国々との連携を念頭に「友好国や理念が近い国々と共に肩を並べ、より良い世界のため共に努力していきたい」と訴えた。【3月26日 毎日】
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とは言うもの、台湾の劣勢は明らかで苦しいところ。

中米を「裏庭」と考えるアメリカからはホンジュラスに圧力があったと思われますが、ホンジュラスは近年、移民対策に強硬姿勢をとるアメリカとの緊張関係が高まっていたという事情もあったようです。

外交戦では劣勢明白な台湾ですが、「捨てる神あれば・・・」ということで、南太平洋のミクロネシアは中国の賄賂攻勢に反発して、台湾との関係再構築を模索しているとか。

****ミクロネシア大統領、台湾との外交関係模索 中国「賄賂攻勢」に反発****
南太平洋の島嶼(とうしょ)国、ミクロネシア連邦が中国と断交し、台湾との外交関係樹立を目指して交渉していたことが明らかとなった。

5月に退任するパニュエロ大統領が関係者に宛てた書簡の内容をロイター通信などが報じた。書簡では中国が賄賂などでミクロネシア政府高官を懐柔しようとしていると反発している。

中米ホンジュラスのカストロ大統領が14日に中国との国交樹立方針を明らかにする中、ミクロネシア次期政権の判断が注目される。

ミクロネシアと中国は1989年に国交を樹立した。パニュエロ氏は2019年の大統領就任以来、中国が太平洋地域で影響力を拡大していることを警戒。中国が昨年、島嶼国10カ国と安全保障協定の締結を目指した際には他の首脳に署名を拒否するよう促した。(後略)【3月15日 産経】
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もっとも、パニュエロ大統領は今月7日の総選挙で議席を失っており、5月の任期満了で大統領職も退任する・・・とのことですから、どうなるのか不透明です。

中国を警戒する欧州では、半導体などの台湾経済への接近もあるようです。

“独閣僚、26年ぶり台湾訪問へ=対中関係見直し図る”【3月17日 時事】
“チェコ下院議長が訪問団率いて台湾に 過去最大規模”【3月26日 NHK】

もっとも、“仏EU首脳、一緒に訪中 マクロン氏「欧州の結束示す」”【3月25日 共同】といった「北京詣で」も・・・

いずれにしても、来年1月の台湾総統選挙に向けて中国側の揺さぶりが強まるでしょう。
また、総統選結果次第で中台関係の流れが大きく変わることは言うまでもないところ。

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アフガニスタン  教育・仕事を奪われ、家庭に閉じ込められ、DV夫に対し離婚も認められない女性

2023-03-26 23:02:51 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン東部ガズニ州の裁判所で被告の主張を聞く判事(左から2人目、2022年11月28日撮影)【3月6日 AFP】 

2001年に旧タリバン政権が崩壊した後、アフガニスタンには新しい司法制度が構築され、多くの女性が活躍の場を得ました。しかしタリバン復権後、その制度は廃止され、裁判や量刑などはすべて男性が取り仕切るようになり、裁判の判断基準はシャリア(イスラム法)となっています。

この写真1枚からも、女性の権利を擁護するような判断がなされるとは思えない実態がうかがえます。)

【「アフガニスタンを見捨てない」・・・とは言うものの】
****アフガン支援団、1年延長=国連総長に評価求める―安保理****
国連安保理は16日、イスラム主義組織タリバン暫定政権下で混乱が続くアフガニスタンで活動する国連アフガン支援団(UNAMA)について、派遣期間を来年3月まで1年間延長する決議を全会一致で採択した。
また、国際社会が「総合的で一貫した」対応を取るため、グテレス事務総長に対し、11月中旬までに現状の評価を行い、安保理に提言するよう求める決議も全会一致で採択した。【3月17日 時事】 
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この決議は日本とアラブ首長国連邦(UAE)が議論を主導する「ペンホルダー」としてまとめたもので、UAEのヌサイベ国連大使は「これはアフガニスタンとその国民に対して、安保理が見捨てていないという強いメッセージだ」と語っています。

「見捨てていない」・・・アフガニスタンに暮らす人々のことを思えば見捨てることは出来ませんが、ただ、“現地の状況は悪化の一途をたどっている”なかで、タリバン政権の在り様は改善の期待を抱かせるようなものではありません。

【人道犯罪レベルの女性の人権状況】
常々指摘されるように、特に女性の人権状況は人道犯罪レベルにあります。

****タリバンの女性処遇は「人道犯罪の恐れ」、国連が報告書*****
国連は6日、人権理事会で発表した報告で、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによる女性と少女の処遇が人道犯罪の領域に達している恐れがあると警告した。

2021年8月に実権を掌握したタリバンは、高校や大学通学の阻止など、女性の権利と自由を極度に制限している。

22年7─12月の期間を対象にした報告で、アフガンの人権状況に関する国連特別報告者のリチャード・ベネット氏は、タリバンによる女性と少女の扱いは「ジェンダー迫害であり、人道犯罪の領域に達している恐れがある」と分析。

人権理事会で「タリバンの意図的かつ計算された政策は、女性と少女の人権を剥奪し、一般生活から抹殺することを目的とするもの」とし、「当局の責任によるジェンダー迫害という国際犯罪に当たる恐れがある」と指摘した。

タリバン側情報当局の広報担当者はコメント要請に応じていない。

ベネット氏は、人権理事会が「女性と少女に対する悪辣な扱いは、宗教を含むいかなる背景の上においても容認も正当化もされない」という強いメッセージをタリバンに送るべきと訴えた。【3月7日 ロイター】
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アフガニスタンはアフリカと並んで飢餓が懸念される地域ですが、タリバンの頑なな姿勢は、本来必要とされる国際社会からの人道支援を縮小させるものにもなっています。

****タリバンの女性権利侵害、アフガン支援減少につながる恐れ=国連****
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)トップのローザ・オトゥンバエワ氏は8日、イスラム主義組織タリバン暫定政権による女性の権利侵害を受け、同国への支援や開発の資金が縮小する可能性が高いとの見方を示した。

アフガンでは国民の3分の2に当たる2800万人に支援が必要とされ、同氏は安全保障理事会で、国連が今年、単独国家として最大となる46億ドル相当の支援を要請していると説明。しかし、タリバンが女性の高等教育や援助団体での勤務などを禁止しており、支援実施が脅かされていると指摘した。

また、女性は男性親族を伴わずに自宅から外出することを禁止され、顔を覆うことを義務付けられている。

オトゥンバエワ氏は「女性の労働が認められなければアフガン支援の資金は減少するだろう」などと述べた。【3月9日 ロイター】
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【教育でも、仕事でも】
最近のアフガニスタンに関するニュースは“相変わらず”ではありますが、“相変わらず”でスルーしてしまうと「見捨てる」ことにもなりかねませんので、その“相変わらず”のニュースをいくつか。

教育でも、就業でも、女性は大きな制約に直面しています。

****アフガンで大学始業 女子は依然禁止****
アフガニスタンでは6日、大学の冬休みが終わり新学期が始まったが、イスラム主義勢力タリバンは依然、女子の大学教育を禁じている。

中部ゴール州出身のラヘラさんは「私たちは家にいなければならないのに、男子が大学に行っているのを見るのはつらい」と話した。「これは女性に対する差別だ。イスラム教は女性の高等教育を認めているのに。私たちの学びを止める権利は誰にもないはずだ」

タリバンは昨年12月、女子学生が新たに導入された厳格な服装規定や、登下校に男性親族の同伴を求める規則に従っていなかったとして、大学での女子教育の無期限停止を命じた。

禁止令以前でも、ほとんどの大学ではタリバン復権以降、すでに入り口や教室を男女別に分けていた。また、女子学生の授業は、女性教員もしくは高齢の男性教員しか担当できないようになっていた。 【3月6日 AFP】
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****アフガンの女性就業者25%減少、タリバン実権掌握以後=ILO****
国際労働機関(ILO)が発表したアフガニスタンの調査によると、2021年8月にイスラム主義組織タリバンが実権を掌握して以後、女性の就業者数が25%減少した。女性の労働や教育に対する規制で状況が悪化したという。

調査は21年第2・四半期から昨年第4・四半期までを対象に実施。この間の男性就業者数の減少は7%だった。

ILOのアフガン担当シニアコーディネーターは声明で「女性と少女に対する規制は、教育とともに労働市場の展望に深刻な影響を及ぼしている」と指摘した。

タリバンは、大半の女子生徒や学生の高校・大学通学を禁止したほか、非政府組織(NGO)の大部分の女性職員に就労を禁止した。

一方、タリバンの実権掌握を受けて外国政府が開発支援から撤退し、同国中銀の資産を凍結。経済危機で雇用が壊滅している。

ILOは、アフガンの21/22年国内総生産(GDP)が30─35%減少したと推計している。【3月8日 ロイター】
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「女性専用」図書館であっても、女性が家庭外で読書や勉強することも認められないようです。

****「女性専用図書館」閉鎖=タリバンが圧力、開設から半年余―アフガン****
アフガニスタンの首都カブールにある女性専用の図書館が開設から半年余りで閉鎖を余儀なくされた。女性の権利に厳しい制限を課すイスラム主義組織タリバン暫定政権からの圧力が理由という。開設した活動家の女性が13日、明らかにした。

図書館は、通学を禁じられた女性に安心して読書や勉強ができる場を提供するため、昨年8月下旬に開設。ロイター通信によれば、教師らから寄贈された小説や学術書など1000冊以上をそろえていた。【3月14日 時事】 
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【閉じ込められた家庭では、夫のDVによる離婚も許されない】
女性が閉じ込められる「家庭」にあっては、夫のDVも耐えなければならず、離婚も許されないようです。

:****タリバン復権で離婚無効、夫から再びDV被害 アフガン****
アフガニスタンに住むマルワさん(仮名、40)は、元夫にすべての歯を折られるなどの虐待を受けてきた。いったんは離婚が認められたものの、復権したイスラム主義勢力タリバンに無効とされ、夫の元に戻った。現在は夫から逃れて8人の子どもと暮らしている。

アフガニスタンでは女性の権利がほとんど認められておらず、ドメスティックバイオレンスが横行している。米国が後ろ盾となっていた前政権下では、少数ながら離婚が認められた。マルワさんもその一人だった。

だが、2021年にタリバンが再び実権を握ると、元夫は離婚を強要されたと主張し、マルワさんはタリバンに復縁を命じられた。

複数の弁護士がAFPに語ったところによると、タリバンに離婚を無効とされた女性が再び夫から虐待を受けるようになったという報告がある。

夫の元に戻ったマルワさんは数か月間、家から出ることを許されず、殴打に耐え続けた。手や指の骨も折られた。
「気を失ったことも何度かあり、娘たちに食事を口に運んでもらった」とマルワさん。「夫にしょっちゅう髪を強く引っ張られ、円形脱毛症になった。歯も全部へし折られるほど殴られた」と話す。

その後マルワさんは、娘6人、息子2人と共に数百キロ離れた親戚の家に逃げ込んだ。
「子どもたちは、『お母さん、ひもじいくらいどうってことないよ。今は暴力から逃げられたんだから』と言ってくれる」

夫に見つかるのを恐れ、近隣住民にも存在を知られないように身を潜めて暮らしているという。

国連のアフガニスタン支援ミッションによると、同国ではパートナーから肉体的・性的・精神的暴力を受ける女性は10人中9人に上る。しかし、離婚は虐待以上にタブーとされることが多く、離婚した女性は白眼視される。

米国が支援していた前政権下では、一部の都市で離婚率が徐々に上昇。教育と雇用面を中心に女性の権利もわずかに向上した。

■DVによる離婚は認められない
虐待を受けた女性による離婚の訴えを100件前後成立させた女性弁護士は、「イスラム教でも離婚は認められている」と説明した。だが現在は、国内での弁護士活動は許されていない。

前政権下では、女性の判事と弁護士が離婚訴訟を扱う特別な家庭裁判所が設立されていたが、タリバン復権後は裁判や量刑などはすべて男性が取り仕切るようになった。

別の女性弁護士は、タリバン政権下で離婚が認められるのは、夫が薬物依存症の診断を受けるか国を離れた場合のみで、「DVや、夫が同意しないケースでは裁判所は離婚を認めない」と指摘した。

タリバン高官はAFPに対し、離婚した女性が復縁を強制されているケースについては調査を行うと述べた。

最高裁の広報担当者は「申し立てがあれば、シャリア(イスラム法)に従って調査する」と主張。前政権下で成立した離婚を認めるかどうかについては「重要で複雑な問題」だとして、イスラム教最高権威機関のダール・アル・イフタによる統一見解が待たれるとした。

縫製で生計を立てているマルワさんと娘たちの心には深い傷が残っている。
マルワさんは娘たちを見やりながら、「この子たちを結婚させられないのではないかと心配している」と話した。
「娘たちは、『お母さんのひどい結婚生活を見ていたので、夫という言葉が嫌でたまらない』と言うんです」と続けた。 【3月25日 AFP】AFPBB News
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【出口がまったく見えない現状】
もちろん、こうした状況を生み出しているのはタリバンだけの問題ではなく、女性差別を当然視するような、あるいは、離婚した女性は白眼視されるような、社会全体の認識が根底にあってのことです。

タリバンは、そうした社会の考え・認識を現実的な規制・ルールに具現化しているに過ぎない面もあるでしょう。

それで皆が納得しているなら、よその人間がとやかく言うこともないのでしょうが、教育を、仕事を、安全な家庭生活を求める多くの女性も存在している以上、この状況を看過できません。

しかし、改善の方法が見当たりません。

書いているだけで息苦しくなる現状ですが、アフガニスタンの人々は、その中で今日も、そして明日も暮らしています。
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オーストラリア  中国に対抗してAUKUSで原潜開発 問題が多い中、そもそも効果があるのか?

2023-03-25 22:28:09 | オセアニア

(AUKUSは13日、首脳会談を開き、中国への抑止力強化に向けてオーストラリアへの原子力潜水艦の導入計画を発表した。【3月14日 FNNプライムオンライン】 左からアルバニージー豪首相、バイデン米大統領、スナク英首相)

【英米豪がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いも】
3月16日ブログ“オーストラリア  中国との貿易戦争を経て、経済面で関係改善の動き 安全保障面では米欧基軸”でも取り上げたように、オーストラリアは経済関係については中国との関係改善の動きを見せている一方で、安全保障面では「AUKUS」や「QUAD」といった米欧基軸の外交政策を強めています。

その象徴が「AUKUS」の枠組みでオーストラリア海軍の原子力潜水艦を建造すると共同声明です。

****米でAUKUS首脳会合 インド太平洋安定化へ結束 次世代攻撃型原潜を共同開発****
バイデン米大統領は13日、インド太平洋における米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の首脳会合を西部サンディエゴで主催した。

3カ国首脳は中国の覇権的な海洋進出に対抗するため、2030年代前半までにオーストラリアが米原子力潜水艦を最大5隻購入することや、米英が共同で次世代攻撃型原潜「オーカス」を建造する計画を発表。バイデン政権は長期に及ぶ中国との競争を見据え、米国を中心とした民主主義陣営の抑止力強化に全力を挙げる構えだ。

会合にはバイデン氏、スナク英首相、アルバニージー豪首相が出席。バイデン氏は両首相とともに演説し、「オーカスの目的は世界情勢が急速に変化する中でインド太平洋の安定を維持することだ」と語り、今回の成果を域内外の同盟・パートナー諸国との連携強化につなげると強調した。

ホワイトハウスによると、今回合意した計画は複数のフェーズ(段階)に分けられる。第1フェーズでは今後の数年間で米英潜水艦による豪州への寄港実績を積み上げ、原潜の運用・建造に関連する豪州側への訓練を加速。早ければ27年にもインド太平洋を巡回する米英潜水艦のローテーション部隊を設置する。

第2フェーズの30年代前半には豪州が、通常動力型潜水艦の退役による戦力の穴を埋めるため米国からバージニア級攻撃型原潜3隻を調達。豪州はさらに2隻を追加購入することもできる。

さらに第3フェーズでは英国の設計と米国の技術による次世代攻撃型原潜オーカスを開発し、英国で30年代後半に、豪州で40年代前半にそれぞれ建造する。

首脳会合が行われたサンディエゴは米太平洋艦隊の主要拠点。3カ国がインド太平洋への関与を強化することを内外に示す象徴的な意味合いがある。【3月14日 産経】
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【2040年代前半に1隻、2060年代までに最大で8隻】
少し詳しく見ると、下記のような内容になっています。

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(1)イギリスが開発計画を推進している次期攻撃原潜をベースに、アメリカも技術協力をすることによってオーストラリア海軍用の新型攻撃原潜、SSN-AUKUSを開発する。

(2)イギリスで設計・建造される新型攻撃原潜は2030年代末までにイギリス海軍が手にする。SSN-AUKUSの一番艇は、2040年代前半にはオーストラリア海軍へ配備する。

(3)オーストラリア海軍のSSN-AUKUSは、2040年代からはオーストラリアで2年に1隻のペースで建造される。オーストラリア海軍は2060年代までに最大で8隻のSSN-AUKUSを手にすることになる。

(4)すでに老朽化してしまったオーストラリア海軍潜水艦戦力を補強するため、2027年を目標に、アメリカ海軍とイギリス海軍の攻撃原潜をオーストラリアに巡回配備させる。

(5)オーストラリアに交代で配備されるイギリス海軍攻撃原潜は1隻とし、アメリカ海軍攻撃原潜は最大4隻まで拡大させる。

(6)2030年代前半には、アメリカはオーストラリアに3隻のヴァージニア級攻撃原潜を売却し、それに加えて2隻の追加売却の可能性もオプションとして残す。【3月23日 北村 淳氏 JBpress】
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中国の海洋進出に対し、オーストラリア海軍は極めて弱体なことから、それを補強するための計画です。

もともとオーストラリアの潜水艦建造についてはフランス、ドイツ、遅れて日本も参加して競合した結果、フランスから調達することに決まっていました。

そのフランスとの契約を、見積り金額が高騰し予定納期も伸びてしまっていたこともあって、オーストラリア政府に一方的に破棄し、そのかわりに今回のAUKUSによる原子力潜水艦SSN-AUKUS開発ということになっています。

一方的に契約破棄されたフランスは激怒し、一時豪仏関係は険悪にもなった経緯があります。

【与党内からも異論 膨大な開発費用 使用済み核燃料保管先の問題】
しかし、このAUKUSによる原潜開発にはオーストラリア国内で与野党元首相などから異論が出ていることは前回ブログでも取り上げました。

****豪元首相2人が原潜反対 AUKUS「最悪の合意」****
オーストラリアのキーティング元首相(与党労働党)が15日、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づく原子力潜水艦の導入について、巨額の費用を理由に「歴史上最悪の合意だ」と批判した。

ターンブル元首相(野党自由党)も16日、原子力産業のないオーストラリアには技術者が少なく「非常に大きなリスクを伴う」と反対した。

与野党の首相経験者による攻撃に国内で衝撃が広がっている。アルバニージー首相や閣僚は終日、釈明に追われた。

キーティング氏は1990年代に首相を務めた与党労働党の重鎮。15日に全国記者クラブで講演し、オーストラリアで広がる中国脅威論について「歪曲であり真実ではない」と主張した。

13日に米サンディエゴで行われた米英豪の3首脳による記者発表を「歌舞伎ショー」とやゆ。バイデン米大統領とスナク英首相がうれしそうにしていたのは、オーストラリアが最大3680億豪ドル(約32兆円)を「米英の軍事産業に支払うからだ」と皮肉った。【3月16日 共同】
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労働党は中国重視の傾向が強いこともあって、キーティング元首相(与党労働党)の異論もそうした姿勢を反映したもののようにも見えます。

問題は、キーティング元首相も指摘するように開発費用が大きな負担になること、そして、使用済み核燃料の保管先をどうするのかということです。

****米英との原潜共同開発、揺れるオーストラリア与党 党内重鎮が反発****
米国と英国、オーストラリアの3カ国で作る安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」の合意に基づく豪州での原子力潜水艦の建造計画を巡り、アルバニージー政権の与党・労働党が揺れている。

巨額の費用などを理由に党重鎮が反対を表明。また原潜の運用に伴う使用済み核燃料の保管先を巡り、同党の政治家がトップを務める州で意見が分かれている。(中略)

AUKUSの結成や豪州の原潜計画は、軍事的影響力を拡大する中国を念頭に置く。建造や維持管理などに今後30年で最大3680億豪ドル(約32兆8400億円)の費用が見込まれる。アルバニージー首相、バイデン米大統領、スナク英首相は13日、米海軍基地がある西部カリフォルニア州サンディエゴで会談し、記者会見でその意義を強調した。

この計画に異を唱えるのが1990年代に首相を務めた労働党のキーティング氏だ。15日に開催された豪州記者クラブ主催のイベントで「中国が脅威を示唆したことはない」と指摘し「史上最悪の合意だ」と現政権を非難。「外交的手腕を活用できていない」と述べ、外交を通じて地域の安定を図ることの重要性を強調した。

これに対しアルバニージー氏は16日、ラジオ番組で「90年代以降、時代は変わり、中国も姿勢を変化させた」と反論。中国の脅威を踏まえ、原潜計画の必要性を訴えている。また雇用や関連産業の活性化による経済効果を生むと訴えている。(中略)

そこで問題となるのが「核のゴミ」だ。必要なエネルギーの5割以上を石炭による発電に頼り原発を保有しない豪州では、放射性廃棄物は医療機関などで排出された低レベルのものがほとんどだ。だが原潜が動き出せば、使用済み核燃料など高レベルの放射性廃棄物を保管する場所が必要となる。

保管場所を巡り早くも与党内で神経戦が始まっている。南東部ビクトリア州のアンドリュース首相(労働党)と西オーストラリア州のマクゴワン首相(同)は、原潜建造計画によって今後、30年で2万人分の雇用が生まれると指摘。

(建造計画の拠点になるとみられる「豪州潜水艦企業体」)ASCが拠点を置く南オーストラリア州の利益が大きいとして、同州が核燃料廃棄も責任を持つべきだと強調する。これに対し同州のマリナウスカス首相(同)は「核燃料廃棄は国レベルで協議することだ」と反発する。

ニュースサイト「豪ガーディアン」は21日、原潜の計画とその費用についての世論調査を発表した。結果は「原潜は必要ない」28%▽「必要だが費用が釣り合わない」27%▽「必要で費用は妥当」26%となり、国民の意見も割れているようだ。

豪フリンダーズ大のザク・ロジャーズ研究員(防衛論)は「原潜の保有は、豪州の防衛だけを考えれば不要かもしれないが、軍拡を続ける中国への将来的な抑止力になる」と指摘。

「政権は、AUKUSに協力しなければ、中国に強い姿勢で臨むべきだと考える有権者から『中国寄り』だとみられて政権維持に影響することを懸念している」とも説明する。

一方で、国防費が膨らんで医療、年金などにしわ寄せがくれば世論が反発する可能性がある。ロジャーズ氏は「使用済み核燃料の問題も議論しなければならず、実際に原潜の建造が可能かを含め課題が山積している」と話した。【3月25日 毎日】
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【いつになるかわからない原潜開発 中国が警戒していたのは日本潜水艦の採用】
上記のような開発費用、使用済み核燃料の保管先の問題に加えて、そもそも新たに原潜を開発するという今回計画が本当に効果的なのか? という疑問もあります。

2040年代前半に1隻、2060年代までに最大で8隻・・・・随分と時間がかかる計画で、しかも、こういう計画は遅れることが多いのが常識。

その頃には、今でもオーストラリア海軍を圧倒している中国海軍は更に増強されており、オーストラリアなど相手にもしない状況にもなっていることが予想されます。

中国が警戒していたのは、オーストラリアが優秀な日本潜水艦を調達することであり、今回のAUKUS開発になって、表向きの抗議とは裏腹に、本音ではほくそ笑んでいるとの指摘も。

****米英豪「AUKUS」潜水艦計画に中国が本当は胸をなでおろしている理由****
(中略)
中国にとって好ましい方向性を打ち出したオーストラリア
さらに中国にとっての朗報は、アメリカとイギリスが中国脅威論によってオーストラリア政府の恐怖心と警戒心を盛んに煽りたてて、アメリカの軍事力に一層頼るように仕向けたことと、見積り金額が高騰し予定納期も伸びてしまっていたフランスとの潜水艦開発契約をオーストラリア政府に一方的に破棄させることに成功したことである。

ただし、フランスとの契約破棄に乗じて、米海軍戦略家たちが期待したように、日本の潜水艦を取得することになってしまえば、中国にとっては思わしくない状況となったはずだ。

その場合には、オーストラリア海軍は2030年から日本が開発した新鋭潜水艦を手にすることになる。そして、アメリカ海軍が攻撃原潜を、日本とオーストラリアが高性能ディーゼル・エレクトリック潜水艦を運用することによって、潜水艦戦における効率的役割分担が強化できるという、米海軍潜水艦戦略家の期待が実現することになるのである。裏を返すと、中国にとってアメリカ陣営の潜水艦戦力は厄介度を増してしまうことになるのだ。

ところが、中国にとって再び好ましい方向性をオーストラリアは打ち出した。すなわち、当初の潜水艦戦力増強の理由付けを捨て去って、次期潜水艦をディーゼル・エレクトリック潜水艦からイギリス製あるいはアメリカ製の攻撃原子力潜水艦を取得することになったのだ。この方針は「AUKUS」という中国を念頭に置いた米英豪英語圏3国軍事同盟結成とともに打ち出された(2021年9月)。

当然ながら、中国は表向きは「アジア地域の平和を乱す時代遅れの冷戦的思考」と批判してはいたものの、内心はほくそ笑んでいたものと思われる。

なぜならば、オーストラリアは、中国海軍にとっては厄介なオーストラリア北方の多数の島々が横たわっている海域で、攻撃原潜よりも強敵となる高性能ディーゼル・エレクトリック潜水艦を捨て去ってしまったからである。

アメリカが自国製潜水艦を売りつけるための茶番劇?
そして、AUKUS結成の際に公約したように、1年半後の2023年3月13日に、オーストラリア海軍潜水艦調達計画が上記のごとく公表された。

中国は今回のAUKUS共同声明に対しても、強い懸念を表明しているが、実際にはアメリカが自国のヴァージニア級潜水艦を無理やり売りつけるための茶番劇と考え、笑いが止まらないといったところであろう。

なんといっても、開発・建造・配備に長時間がかかる攻撃原潜をオーストラリアが手にするのは早くとも2040年代となる。

現時点で攻撃原潜(旧式を除く)を6隻以上、ディーゼル・エレクトリック潜水艦(旧式を除く)を44隻以上保有する中国海軍は、2040年代には新旧交代を考慮しても攻撃原潜は14隻以上、ディーゼル・エレクトリック潜水艦は50隻以上有し、オーストラリア海軍など歯牙にもかけない状況をさらに強化していることは確実である。

やはり中国海軍にとって気になるのは、アメリカやイギリスに振り回されているオーストラリア海軍のいつになったら誕生するかわからない攻撃原潜ではなく、着実に自国での生産を推し進めている日本と韓国(攻撃原潜の開発にも着手している)の潜水艦戦力の動向であろう。【3月23日 北村 淳氏 JBpress】
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こうしたあまり効果が期待できない原潜開発によって“国防費が膨らんで医療、年金などにしわ寄せがくれば世論が反発する可能性がある。”【前出 毎日】・・・・お上(おかみ)の決定に従順な日本と違って、フランスで年金改革で大規模デモが繰り返されているように、外国では自分たちの“権利”が改悪されることに国民は強く抵抗します。

アルバニージー政権にとっては、かなり荷が重い原潜開発のように思えます。

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ベトナム人技能実習生の「死体遺棄事件」 最高裁で逆転無罪 問われる日本の受け入れ態勢

2023-03-24 22:33:19 | 日本の外国人労働者

(【3月24日 NHK】 リンさんが遺体に添えた手紙)

【「実習生が孤立して追い込まれないよう政府には実習生を積極的にサポートしていく視点を持ってほしい」】
昨日ブログで取り上げた難民認定をめぐる同性愛ウガンダ人女性と同様に、日本の外国人に対する見識が問われる双子を死産したベトナム人技能実習生の「死体遺棄」事件。

ベトナム人技能実習生レー・ティ・トゥイ・リンさん(23)は2020年11月15日、熊本県の自宅で双子を死産しました。

技能実習生として農園で働いていたリンさんは「妊娠がわかれば帰国させられる」と考えて周りに相談せず、病院も受診していませんでした。

遺体をタオルに包み、赤ちゃんの名前や「天国で安らかに眠って」などと書いたおわびの手紙を添え、部屋にあった段ボール箱に入れました。

翌日に病院で死産を明かし、3日後に逮捕。一、二審では「死体遺棄」で有罪。

死体遺棄罪が成立するには土の中に埋めるなどの違法行為を行う「作為」と葬祭義務に反して遺体を放置する「不作為」があります。

作為は土の中に埋めるなどの違法行為を行うこと。不作為は、家族らが弔うための埋葬を行わず、葬祭義務に反して遺体を放置することです。

二審の福岡高裁判決(懲役3カ月執行猶予2年)は不作為を否定しましたが、遺体を段ボールに隠したことが作為の死体遺棄にあたると判断しました。

しかし、箱に入れたとはいえ場所は自宅の室内で、彼女は遺体のそばから離れなかった。遺体をタオルでくるみ、手紙を入れた・・・・などを考えると、敢えてこれが「死体遺棄」として罰するべきものなのか疑問です。

まして、相談する者もいない、妊娠が明らかになれば仕事ができなくなり帰国させられる・・・そういった技能実習生の境遇を考えると、むしろ問題とすべきは彼女を「孤立出産」に追い込んだ日本社会の現状のように思われます。

注目されていた最高裁判断は逆転「無罪」でした。

****ベトナム人元技能実習生に逆転無罪判決 死産児遺棄の罪 最高裁****
3年前、熊本県芦北町で死産した双子の赤ちゃんを自宅に遺棄したとして、死体遺棄の罪に問われたベトナム人の元技能実習生の裁判で、最高裁判所は執行猶予のついた有罪とした1審と2審の判決を取り消し、逆転で無罪を言い渡しました。

無罪を言い渡されたのは、ベトナム人のレー・ティ・トゥイ・リンさん(24)です。(中略)

死産したあとの行動が死体遺棄罪の「遺棄」に当たるかが争点で、24日の判決で、最高裁判所第2小法廷の草野耕一裁判長は「習俗上の埋葬とは認められない形で死体などを放棄したり隠したりする行為が『遺棄』に当たる」という考え方を示しました。

そのうえで、リンさんの行為について「自宅で出産し、死亡後まもない遺体をタオルに包んで箱に入れ、棚に置いている。他者が遺体を発見するのが難しい状況を作り出したが、場所や遺体の包み方、置いていた方法などに照らすと、習俗上の埋葬と相いれない行為とは言えず、『遺棄』には当たらない」と判断し、1審と2審の有罪判決を取り消して逆転で無罪を言い渡しました。 裁判官4人全員一致の結論でした。

今回の事件は、技能実習生だったリンさんが帰国や退職を迫られることをおそれて妊娠を打ち明けられず、孤立出産に追い込まれた背景があり、無罪を求める署名は9万5000筆余りに上っていました。(中略)

無罪判決について最高検察庁の吉田誠治公判部長は「検察官の主張が認められなかったことは誠に遺憾であるが、最高裁判所の判断であるので、真摯に受け止めたい」とするコメントを出しました。

リンさん「心からうれしい 実習生が安心して出産できる社会に」
 判決のあと弁護団が会見し、リンさんもオンラインで参加しました。

リンさんは「無罪判決を聞いて、心からうれしいです。これまでの2年4か月は本当に長かったです。犯罪者として大きく報道され、ニュースやSNS上でいろいろ嫌なことが書き込まれ、それらを見るたびに何度も心が苦しめられ、心が折れかけました。そのたびに、多くの人に励まされ、きょうまで頑張ることができました」と振り返りました。

そして「きょうの無罪判決で、妊娠して悩んでいる実習生が相談でき、安心して出産できる社会に日本が変わってほしい」と訴えました。(中略)

また、石黒大貴弁護士は(中略)「実習生が孤立して追い込まれないよう政府には実習生を積極的にサポートしていく視点を持ってほしい」と話しました。

技能実習制度が抱える矛盾 改めて浮き彫りに
リンさんの裁判は、技能実習制度が抱える矛盾を改めて浮き彫りにしました。

外国人が日本で働きながら技術を学ぶ技能実習制度は、発展途上国の人材育成という国際協力を目的に1993年に創設されました。去年6月時点で日本にいる実習生はおよそ33万人、このうちおよそ4割が女性です。

実習生には日本人の労働者と同じく労働関係の法律が適用され、妊娠や出産を理由に解雇などの不利益な扱いをすることは禁止されているほか、産休などをとることもできます。

一方で、厚生労働省によりますと、妊娠や出産を理由に技能実習を続けられなくなった人は2017年12月から2020年11月までの3年間で637人に上っています。

リンさんの裁判でも、1審判決は「妊娠が解雇の理由にはならないとはいえ実際には仕事ができずに収入がなくなるため、家賃や生活費が出せなくなり帰国に追い込まれてしまう。そのような状況を十分にサポートする制度もなく、実習生にとっては厳しい環境だった」と言及しました。

妊娠・出産をめぐるトラブルも各地で起きていて、出入国在留管理庁が去年、ベトナムやフィリピンなど7か国の女性の実習生を対象に初めて実態調査を行ったところ、回答した650人のうち、母国の送り出し機関や受け入れを担う日本の監理団体、それに実習先の企業などから「妊娠したら仕事を辞めてもらう」など不適正な発言を受けた経験があると答えた人は、およそ4人に1人に当たる26%でした。

また、実習生の受け入れを担う監理団体や実習先の企業などから妊娠や出産を理由とした解雇などの不利益な扱いが禁止されていることを説明を受けて知っていると回答した人は59%でした。

国は監理団体や企業に対し、妊娠や出産に関する支援策を実習生に説明することなどを通知していますが、監理団体からは「実習生を受け入れるような企業は慢性的な人手不足で、たたでさえ余裕がなく、実習生の妊娠出産のことまで考えられない」という声もあります。

人材育成が目的のはずの制度が、実際は労働環境が厳しい業種を中心に人手を確保する手段になっているとの指摘もあり、去年7月には当時の古川法務大臣が「国際貢献という目的と人手不足を補う労働力としての実態がかい離しているとの指摘はもっともだ。技能実習生にとっては、わかりにくく、人権侵害が生じやすい制度となっている」という認識を示しています。

制度の見直しに向けて、政府は有識者会議を設置し、制度の存廃や再編も含めて議論を進めていて、秋ごろをめどに最終報告書を提出する予定です。

専門家「技能実習生は弱い立場」
技能実習制度の問題に詳しい東京大学の高谷幸 准教授は技能実習生の妊娠・出産をめぐる現状について「外国人労働者を受け入れる制度ではなく国際貢献の制度となっているため、技能実習生は職場で問題が起きたとしても、自分でほかの仕事を探してやめることは原則、認められておらず、雇用主や監理団体との関係ではどうしても弱い立場にある。母国で借金をして実習に来ている人も多いので、なんとか我慢しなければと思ってしまうのだろう」と指摘します。

そのうえで「働いているから日本への滞在が認められるし、住居も雇用主が準備する形で、妊娠・出産を含め働くこと以外の生活は想定されていない。

『技能実習生らしく暮らしてください』ということだが、日本社会全体として、働くことと子育てを切り離してはいないか。外国人だけの問題という捉え方ではなく、子どもを産み育てることをみんなで支える社会になっているか考えることも必要だ」と話しています。(後略)【3月24日 NHK】
*********************

「実習生を受け入れるような企業は慢性的な人手不足で、たたでさえ余裕がなく、実習生の妊娠出産のことまで考えられない」という実態はわかります。

わかりますが、さりとて実習生の人権がないがしろにされていいということにもなりません。

常に指摘されるように、日本政府は移民を認めない、しかし働き手は欲しい・・・ということで、実習生らをヒトとしての労働者ではなく、単なる「労働力」として扱う傾向があります。

しかし「労働力」として来日した実習生はあくまでもヒトであり、妊娠もすれば、出産もします。
一部で話題になるような奴隷労働のような労働環境が許されるものでもありません。

改めて、外国人労働者受入れの基本的枠組に関する見直しが必要とされていますが、そのことは今に始まったことではなく以前から指摘されているところで、“制度の見直しに向けて、政府は有識者会議を設置し、制度の存廃や再編も含めて議論を進めていて、秋ごろをめどに最終報告書を提出する予定”というのも今更の感もありますし、どうせ大した「見直し」も実現しないのだろうという期待薄の感も。

なお、日本で働く外国人労働者はコロナ禍で停滞しましたが、今年は回復傾向にあり、過去最多を記録しています。

****外国人労働者 182万人余で過去最多 ベトナム人が全体の約1/4に****
日本で働く外国人労働者は去年10月時点で182万人余りとなり、これまでで最も多くなりました。
厚生労働省によりますと、日本で働く外国人労働者は去年10月時点で182万2725人で、前の年の同じ時期に比べて9万5504人、率にして5.5%増え、これまでで最も多くなりました。

外国人労働者は調査を始めた2007年以降増加傾向が続いていて、新型コロナウイルスの感染拡大でおととしにかけての年間の増加率は0.2%にまで落ち込みましたが、今回は回復しました。

国籍別では、ベトナム人が46万2384人と最も多く全体のおよそ4分の1を占め、次いで中国人が38万5848人、フィリピン人が20万6050人などとなっています。

一方、技能実習生は34万3254人と前の年を2.4%下回って、2年連続の減少となり、新型コロナの水際対策が影響しているとみられます。

厚生労働省は「技能実習生は減ったものの、全体の増加率はコロナ前の水準に戻りつつある。言語や習慣の違いがあっても外国人労働者が働きやすい環境の整備に向けて、企業への訪問指導などを徹底していきたい」と話しています。【2月12日 NHK】
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【外国人労働者、過去最高を記録 しかし、このままでは「選んでもらえない」ことにも】
一方で、円安もあって外国人労働者の「日本離れ」が進んでおり、東南アジア諸国の経済成長・国内雇用機会の増加、少子化に悩む国との人材獲得競争で、日本も労働環境を整えないと今後「選んでもらえない」ことにも・・・という話も、ここ1,2年よく目にする話題です。

****記録的円安で進む外国人労働者の日本離れ、賃金目減りで薄れる魅力****
記録的な円安進行で、外国人労働者にとって日本の魅力が薄れている。少子高齢化が進み、工場や農家、介護施設の運営により多くの人手を必要としている日本にとって憂慮すべき兆候だ。

歴史的に移民の割合を低く抑えてきた日本政府はここ数年、人口減少を補うため外国人労働者の受け入れを徐々に拡大してきた。外国人労働者数は2019年に約170万人と、わずか10年余りで3倍に増えた。日本の農業や製造業、IT(情報技術)などへの労働力でベトナムは主な供給源の国となってきた。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)以後、外国人労働者数は横ばいで、入国制限が緩和されたものの増加に転じるかどうか不透明な情勢。円相場は先月、対ドルで約30年ぶり安値を更新しただけでなく、ベトナム・ドンを含む複数のアジア通貨に対しても下落している。

ベトナム人のソフトウエアエンジニア、チャン・チョン・ダイさん(29)は、「かつて日本で勉強や仕事をしていた友人らは日本へ行く価値がないと考えている。給料が以前得られた額よりも4分の1少なくなったからだ」と語った。来年訪日する計画を取りやめるつもりはないチャンさんだが、当初想定したほど貯蓄はできないと予想している。

ITサービスを提供するFPTジャパンの採用・人事担当責任者、ファム・ドゥック・マイン氏は、日本で就職志望のベトナム人は今年下期に約40%減少する見込みだと語った。為替レートの影響が一因だと言う。

ハノイに拠点を置く技能実習生送り出し機関ラコリの採用担当者、グエン・ヴァン・モンさん(27)によると、同機関は年間約300人のベトナム人労働者を食品加工や建設などの日系企業40社に送り出しているが、円安が人々の考え方に「深刻な影響」を及ぼしており、志望者は30%減少している。

こうした志望者減少は、歴史的円安でエネルギー・食料価格の高騰に追い打ちをかけた日本銀行による異次元金融緩和の副作用の一つだ。

外国人労働者の日本離れは、低成長で賃金の停滞にあえぐ日本経済をさらに悪化させる可能性がある。今後10年以内に1人当たりの国内総生産(GDP)で日本は韓国や台湾に追い抜かれる見込みだ。

移民政策などを専門とする国士舘大学の鈴木江理子教授は、他のアジア諸国における出生率の低下は、外国人労働者の獲得で日本も競争にさらされることを意味すると説明。「以前は日本が入れてくれたら喜んで来るよという感じだった。ここ数年の議論は選ばれる国になるのに努力しなければいけない」ということだと述べた。

日本の外国人労働者「横ばい」
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の生産年齢人口は20年の7400万人から40年には6000万人を下回る見通しだ。

ベトナムやミャンマーから人材を採用しているウイルテックの大島英之事業開発部部長は、「どんどん海外人材の需要が日本国内で増えてきている」と語った。労働力人口が減少する中で高齢化も進み、人手不足の状態は変わらないため、「なかなか日本で採用できないということで、外国人人材に頼らざるを得ない」と述べた。

帝国データバンクが9月に実施した調査によると、調査対象の約2万6000社のうち正社員の人手不足を感じている企業の割合は5割強と、新型コロナ感染拡大後としては最大となった。観光産業が活気を取り戻す中、ホテルや旅館では人手不足企業の割合が6割を超えている。

とはいえ、日本には母国で働き先がかなり限られている人々を引き付ける魅力がまだある、との見方を示すのはNPO法人「日越ともいき支援会」の吉水慈豊代表理事。同NPO法人は低賃金や危険な労働環境など搾取的な慣行に直面しているベトナム人労働者を支援している。

吉水氏は彼らが来なくなるとよく言われるが、私は聞いたことがないと指摘。ベトナムの地方出身の高卒労働者にとっては、たとえ円安であったとしても、地元で農業するよりも日本に行って技能実習で働いた方がお金になると説明した。【2022年11月11日 Bloomberg】
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“ベトナムの地方出身の高卒労働者にとっては、たとえ円安であったとしても、地元で農業するよりも日本に行って技能実習で働いた方がお金になる”という状況があるうちに、日本も受け入れ態勢の整備を進めないと、本当に「選んでもらえない」ことにもなります。
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東アフリカ・ウガンダの性的少数者迫害 そうした状況を認めない日本政府

2023-03-23 22:49:44 | ジェンダー

(ウガンダの国会議事堂で同性愛を批判する衣装を着てアピールする国会議員=首都カンパラで21日、ロイター【3月22日 毎日】)

【性的少数者の権利をより規制・制約する方向への動きも】
LGBTQなど性的少数者の権利、同性愛や同性婚の問題は近年日本でも意識されるようになっており、世の中の流れはそうした性的少数者の権利を擁護する方向にある・・・とのイメージがあります。

確かに欧米社会などではそうした流れにあるのでしょうが、一方で、そうした流れへのアンチ的な、性的少数者の権利をより規制・制約する方向への動きもあります。

ウクライナをめぐり欧米と対立し、プーチン体制のもとでロシア固有の価値観・文化を強調するロシアもそのひとつ。

****ロシア 同性愛の情報など規制する改正法成立 欧米の影響排除か****
ロシアで5日、同性愛に関する情報の拡散などを規制する改正法が成立し、プーチン大統領としては、欧米の影響力の排除や伝統的な価値観を一層強く打ち出すねらいがあるとみられます。
この改正法は5日、プーチン大統領の署名で成立しました。

法律は、ロシアが「非伝統的」と位置づける同性愛などについて関心を持たせるなどの目的で、出版やインターネットなどで情報を発信したり、公共の場で活動したりといった行為を「プロパガンダ」として規制するものです。

改正により規制範囲が拡大され、違反した場合の罰金も引き上げられました。

プーチン大統領は、ことし10月に行った演説の中で性的指向などをめぐり、「西側のエリートが、はやりの傾向を自国の国民や社会に根づかせるのはかまわないが、同調することを他人に要求する権利はない」と述べています。

プーチン大統領としては今回の法改正をとおして、欧米の影響力の排除や伝統的な価値観を一層強く打ち出すねらいがあるとみられます。

一方、独立系メディアは、ロシアで性的マイノリティーの人たちへの抑圧がさらに強まることが懸念されると伝えています。【2022年12月6日 NHK】
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【東アフリカ・ウガンダで死刑の可能性も含む「世界で最も過激な」反LGBTQ法案制定の動き】
アフリカでは54カ国中30カ国以上で同性愛が犯罪とされているとのことで、ケニアとコンゴにはさまれた位置にあるウガンダでも、同性愛者同士の性交渉は違法行為とされています。

そのウガンダでは更に規制が強化され、同性愛者だと自認しただけで「犯罪者」になり、性交渉をした場合には死刑になるおそれもある法案が国会で可決され、大統領署名を待つ段階にあります。

****ウガンダで反LGBTQ法案可決 禁錮刑も可 大統領判断が焦点****
アフリカ東部ウガンダの国会は21日、LGBTQなど性的少数者を取り締まり、禁錮刑を科すこともできる法案を賛成多数で可決した。ロイター通信などが報じた。

同国には同性間の性行為を禁止する法律があったが、今回は性行為の有無にかかわらず同性愛者そのものを取り締まる厳しい内容だ。

ウガンダでは伝統的な価値観が根強く、世論では性的少数者の権利擁護に批判的な意見が優勢とされる。ただ法案には国内外から批判の声が上がっており、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「もし成立すればいくつもの基本的な権利の侵害につながる」と指摘していた。

法案の成立には大統領の署名が必要で、今後はムセベニ大統領の判断が焦点となる。【3月22日 毎日】
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国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」HRWによると、同性愛者が性交渉をくり返したり、同性の障害者と性交渉を持ったりした場合には、「加重罪」が適用され、死刑になることも。

また、「助長罪」は20年以下の禁錮刑で、当事者だけでなく、記者や人権団体関係者、支援者や宿泊施設の管理者も、長期の服役となるおそれがあります。

同性愛者だと自認するだけでも、10年以下の禁錮刑。

トゥルク国連人権高等弁務官は声明で「これは『価値観』の問題ではない。その人が何者か、誰を愛しているかを理由に、暴力や差別を助長することは間違っている」と非難し、ムセベニ大統領に対して署名しないよう呼びかけています。

【2014年にも同様な動き 大統領署名後に最高裁が無効判決 同性愛者リスト公開や女性同性愛者レイプも】
ウガンダのこの種の問題が国際的に注目されるのは今回が初めてではありません。2013~2014年にも反同性愛法案が国会で可決され、欧米からの批判に抗して大統領署名もなされましたが、最高裁で議会での採決に不備があったとして無効にする判断が下されたことがあります。

****ウガンダ議会、反同性愛法案を圧倒的多数で可決****
ウガンダ議会は20日、反同性愛法案を圧倒的多数で可決した。同性愛への関与を繰り返した者に終身刑を科す内容で、国際的に激しい抗議の声にさらされている。しかし同国の議員らは、「悪」に対する勝利だとして可決を歓迎している。
ウガンダ議会が可決した反同性愛法案は、人権団体や各国の指導者たちから強く批判されており、バラク・オバマ米大統領はこの法案を「おぞましい」と表現したほか、南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教はアパルトヘイト(人種隔離政策)になぞらえている。
法案は今後、キリスト教福音派の敬虔(けいけん)な信者であるヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領の承認を経て発効する。法案を推進したウガンダのデービッド・バハティ議員は、最終的な法案からは死刑を定めた条項が削除された点を強調している。
バハティ議員はAFPに対し、「これはウガンダの勝利です。議会が『悪』に対抗する投票をしたことを嬉しく思います」と述べ、さらに、「ウガンダは神を恐れる国であり、われわれは全体論的な考え方で生命を重視しています。国外の世界の考えにかかわらず、議会はこうした価値観に基づいてこの法案を可決しました」と語った。
なお、ウガンダではこの前日、ポルノおよび性的に挑発的だと見なされるあらゆる服装を禁止する法案が可決されていた。この法案では、テレビで露出度の高い衣装を着た人のパフォーマンスを放送することが禁止されるほか、個人によるインターネットの閲覧も厳しく監視される。【2013年12月21日 AFP】
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2014年2月にはムセベニ大統領が署名して法案が成立
“ウガンダ大統領、反同性愛法案に署名 欧米の批判顧みず”【2014年02月25日 AFP】

福音主義キリスト教の敬虔な信者であるムセベニ大統領は、“同性愛の男性がなぜ「美しい女性らには目もくれず、男に引かれる」のかが理解できないとして、「これは本当に深刻な問題だ。(同性愛者には)何か非常におかしいところがあるのだ」と語った。また、「同性愛者は実際のところ、金銭を目当てに働く者たちだ。異性愛者なのに、金のために同性愛者を名乗っている。金のために売春をする者たちだ」と断じた。”【同上】

法案成立後、大衆紙に同性愛者とされる200人の氏名が一部顔写真付きで掲載されるという事態にも。

****タブロイド紙が「同性愛者リスト」掲載 ウガンダ****
世界的にも極めて厳しい反同性愛法が成立したばかりのウガンダで25日、大衆紙が同性愛者とされる国民200人のリストを掲載した。ヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領は同法案への署名に際し、同性愛は「金目当ての売春行為」だと述べていた。
タブロイド紙レッドペッパー(Red Pepper)には、「発覚!ウガンダの同性愛者トップ200」との見出しが躍り、同紙が同性愛者とみなす人々の写真に加え、それぞれが及んだとされる同性愛行為が生々しく記述されている。
同国では2011年にも、別の新聞が同性愛者らの写真と名前、住所、さらに、「こいつらをつるし上げろ」という文言を加えた記事を一面に掲載し、同性愛者の人権活動家デービッド・カト氏が撲殺される事件が発生している。(中略)

同法案の署名に先立ち、欧米諸国や主要な援助国からは強い批判が集まっており、中でも米国のバラク・オバマ大統領はウガンダと米国の2国間関係が損なわれる恐れもあると警告していた。
米国式の福音主義キリスト教の信者が増加傾向にあるウガンダでは、同性愛嫌悪の風潮が広がっている。同国在住の同性愛者らは、嫌がらせや暴力行為の脅迫を頻繁に受けている。

また、人権活動家らは、同性愛の女性に対する「(同性愛の)矯正目的」と称するレイプの事例も複数報告している。【2014年02月25日 AFP】
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その後、ウガンダの憲法裁判所は8月、反同性愛法について、議会での採決に不備があったとして無効にする判断を下しました。

ただ、“反同性愛法は無効となったが、植民地時代の法を土台とする刑法が施行されるウガンダでは今後も、理論的には、外国籍の人や観光客を含む誰もが「自然の摂理に反した性行為」をした場合、投獄される可能性がある。

また、ウガンダの国会議員らは、一度は無効とされたより厳格な反同性愛法を再度成立させる方向で動いている。ここ18か月で、ウガンダ在住の英国人2人が同性愛行為に関連した「犯罪行為」を理由に国外追放された。”【2014年10月08日 AFP】という状況でもありました。

この2014年当時の動きと今回の反LGBTQ法案可決の間で、同性愛関連法案についてどのような動きがあったのかは知りません。

ただ、ウガンダでは今回の反LGBTQ法案は別にしても、同性婚を禁じる憲法があり、「自然の理に反する人間同士」の性行為をした人に終身刑を科す刑法もある状況です。

【そのウガンダから同性愛迫害を理由に日本へ逃れてきた女性に日本政府は「女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはない」と強制退去を命じる】
日本から遠く離れた東アフリカの性的少数者の権利・同性愛を規制する政治状況についてグダグダと書いてきたのは、このウガンダの状況が決して日本とも無関係でないからです。

****“同性愛者で迫害” ウガンダ人女性の難民認定命じる 大阪地裁****
同性愛者であることを理由に迫害を受けたと訴えて、日本に逃れてきたウガンダ国籍の女性が、難民認定を求めた裁判で、大阪地方裁判所は国に難民と認めるよう命じる判決を言い渡しました。

ウガンダ国籍で、現在、関西在住の30代の女性は、同性愛者であることを理由に現地の警察に逮捕され、暴行によって大けがをするなど迫害を受けたと訴え、3年前、日本に逃れてきました。

日本に入国後、難民として認められず、強制退去を命じられたことから、国に対して難民認定を求める裁判を起こしていました。

これに対して国は、ウガンダで同性愛者が拘束されたり処罰されたりしているという情報は信用性に欠けるとして、女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはなく、難民とは認められないなどと主張していました。

15日の判決で、大阪地方裁判所の森鍵一裁判長は「ウガンダでは同性愛者を処罰するに等しい刑法がある以上、処罰や身体拘束をされうると推認せざるをえない」などと指摘しました。

そのうえで「女性が帰国すれば同性愛者であることを理由に迫害を受けるおそれがある」として、国に難民と認めるよう命じました。

原告の女性「日本に住むことを受け入れてくれてありがとう」
判決を受けて原告の女性は弁護士とともに会見を開き、「日本に住むことを受け入れてくれてありがとうございます」と述べました。

そのうえで「これまではつらい状況でしたが、これからはすべてがうまくいくと期待しています。また、同じ境遇の人たちにも希望を失わないでと伝えたいです」と話していました。

川崎真陽弁護士は「同性愛を理由とする難民認定を裁判所が命じた判決は、私たちが認識する限りでは初めてです。彼女のような立場の人にとって光となる判決です」と話していました。

出入国在留管理庁「判決内容を精査し適切に対応」
 判決を受けて出入国在留管理庁は「判決の内容を十分に精査し、適切に対応したい」とコメントしました。【3月15日 NHK】
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今回の大阪地裁判断は、傷痕の写真などから、警察によって同性愛者であることを理由に暴行を受け、適切な治療を受けられないまま拘束されていたと認定し「同性愛者であることを理由に拷問を受ける恐れはない」などとする国側の主張を退けています。

また、近年の難民認定に際しての同性愛者の権利擁護に関しては、イギリスの場合、2015~20年、同性愛を理由にした難民申請は全体の5%前後を占めています。

難民認定率は22~48%で、不認定の場合も上訴の結果、半分近くが認められているとのことです。

ウガンダにおいて同性愛者が極めて厳しく危険な状況に置かれていることは、上記のように素人でもググればすぐにわかるところですが、膨大な情報を有する日本政府が“ウガンダで同性愛者が拘束されたり処罰されたりしているという情報は信用性に欠けるとして、女性が同性愛者であることを理由に処罰されるおそれはなく、難民とは認められない”というのはどういうことか?

日本が難民認定に関して異様に厳しいのは今更の話ですが、そこまで事実を捻じ曲げてでも難民を認めたくないのか?

あるいは、日本政府としてウガンダの人権侵害状況を認めると、同国との関係に支障をきたすと考えたのか?

こうした問題が一部報じられても、それ以上の動きには至らない日本社会の無関心も日本政府と同根でしょう。

いずれにしても、やれ“おもてなし”とか“絆”とかいった耳触りのいい言葉が飛び交う日本社会も、一皮むけば人権軽視(特に、ソトの人間の人権に関して)ではウガンダと五十歩百歩のように思えて残念です。

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イラン・サウジ関係正常化は流れが加速 内政・外交で窮地のイスラエルがイラン攻撃の可能性も

2023-03-22 23:06:18 | 中東情勢

((イラン、サウジアラビアの高官と共に記念撮影に臨む王毅氏(中央)=中国外務省のホームページより【3月11日 毎日】)

【イラン・サウジ関係正常化 流れは加速か】
中東情勢を大きく変えるインパクトがある出来事として、中国の仲介によるイランとサウジアラビアの関係正常化合意の件は、3月11日ブログ“イランとサウジアラビア 中国仲介で関係正常化へ 中東情勢に大きなインパクト”で取り上げましたが、その後も流れは加速する方向にあるようです。

****イラン大統領、サウジ訪問へ 外交関係正常化合意で招待状****
国営イラン通信は19日、政府高官の話として、今月10日に外交関係の正常化で合意したサウジアラビアのサルマン国王からライシ大統領宛てにサウジへの招待状が届いたと伝えた。ライシ師はサウジ訪問を受諾し、両国間の協力や関係の発展を強調したという。

中国の仲介で劇的に和解した地域大国同士の首脳会談では、イランとサウジの代理戦争となっていたイエメン内戦などについて、中東情勢の緊張緩和に向けた協議をするとみられる。

イランのアブドラヒアン外相は19日の記者会見で、サウジのファイサル外相と近く会談すると表明した。日付や場所には言及しなかった。【3月20日 共同】
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中国・習近平主席の仲介は、イラン最高指導者ハメネイ師からの要請だったとも報じられていますが、関係正常化はイラン、サウジアラビア双方にメリットがあるため、糸口がつかめれば大きく動き出す可能性もあります。

****「友好ムード」強調 関係正常化合意のサウジとイラン 中国の仲介で急進展****
中国の仲介により外交関係の正常化で合意したサウジアラビアとイランが、相次いで和解をアピールしている。

中東のイスラム圏では2011年、「アラブの春」と呼ばれる反政府活動が各地に広がって以来、緊張と対立が続いたが、近年は融和外交に転じて「雪解け」が進んでいる。両地域大国の接近はその潮流が定着したことを印象付けた。

国営イラン通信は19日、ライシ大統領にサウジのサルマン国王から訪問を招請する書簡が届き、ライシ師が歓迎の意を表したと伝えた。サルマン国王は10日に合意に達した関係正常化を称賛し、経済面の協力強化なども呼びかけた。

また、イランのアブドラヒアン外相は19日、サウジ外相と会談する都市の選定を協議しているとし、双方の間で信頼醸成が進んでいることを示唆した。両国は2カ月以内に相互に大使館を再開する方針だ。

両国が断交したのは16年のことで、イスラム教スンニ派大国のサウジがテロに関与したとしてシーア派指導者を処刑し、怒ったシーア派大国イランの群衆が首都テヘランのサウジ大使館を襲撃したことが原因だ。

サウジはこれに先立つ15年、隣国イエメンの内戦に介入して暫定政権を支援し、イエメンのシーア派民兵組織フーシ派を支援するイランと「代理戦争」を演じてきた。サウジはミサイルや無人機による攻撃に見舞われ、19年には石油精製施設が攻撃されて生産量が一時激減した。

両国の関係修復の背景について、エジプト・カイロ大経済政治学部のヌルハン・シェイフ教授(53)は産経新聞の電話取材に、「経済的な負担が重くなり、必要にかられて歩み寄った」との見方を示した。

サウジは内戦介入で戦費がかさんだ上、国庫収入を支える石油生産まで脅かされた。対するイランも核問題などで米国が連発する制裁により経済が低迷し、国民の不満が高まっていた。両国は21年には、イラクやオマーンの仲介で関係正常化を模索する直接協議を始めたとされる。だが、協議は停滞していたようだ。

ロイター通信によると、イランでは最高指導者ハメネイ師が昨年9月、協議が進まないことにいらだちを示し、中国に調停を打診。中国の習近平国家主席は昨年12月、訪問先のサウジで橋渡しに意欲をみせた。中国は今年2月のライシ師訪中に合わせ、サウジが作成した関係正常化の提案書をイラン側に渡したという。

事実とすれば、中国が間に入ったことで協議が急進展した形で、中東で求心力を増している実態をうかがわせる。

しかし、サウジを含むペルシャ湾岸諸国に基地を持ち、地域の治安を維持してきた米国の役割を中国が担えるのか。

駐エジプトと駐イスラエルの米国大使を務めたダニエル・カーツァー氏は、カイロ・アメリカン大の季刊誌「カイロ・レビュー」(電子版)で、「(中国は)米国に依存し、ちゃっかり利用している状態だ」と評し、安全保障まで影響力を及ぼす気があるかについては「極めて疑問だ」という見方を示した。【3月22日 産経】
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【イエメン情勢にも変化が】
サウジアラビアが重視しているイラン・サウジ代理戦争としてのイエメン内戦の負担を軽減したいということについては、具体的な動きも見られます。

****イラン、フーシ派への武器供給停止に合意****
イランは、イエメンの反政府勢力フーシ派への武器密輸を停止することに合意した。米国およびサウジ当局者が明らかにした。

サウジとイランは先に、中国の仲介により、外交関係を正常化させることで合意しており、今回の動きはその一環だという。同地域で続いている内戦の終結に向けた新たな展開となりそうだ。

サウジとイランはイエメン内戦でそれぞれ異なる勢力を支援しており、サウジはイランが支援するフーシ派と激しい戦闘を繰り広げていた。フーシ派がサウジにミサイルやドローン(無人機)による攻撃を仕掛けるなど、内戦は国境を越えて拡大している。

米国とサウジ当局者らは、イラン政府がフーシ派への武器提供を中止すれば、フーシ派に対して紛争終結に向けた合意の受け入れを迫る圧力となる可能性があると述べた。

イラン国連代表団の報道官は、同国が武器供給を停止するかどうかについてコメントを控えた。イランはフーシ派への武器供与を公に否定しているが、国連の査察団は、フーシ派から押収した武器がイランから提供されたものであることを何度も確認している。

サウジとイランが断交から7年ぶりに外交関係の正常化で合意したことを受け、両国の当局者はイランがフーシ派に対し、サウジへの攻撃を停止するよう迫るだろうと述べた。

サウジ当局者の1人は、イランが国連の武器禁輸措置を尊重することで同国からフーシ派への武器密輸が阻止されることを期待していると説明。武器供給が途絶えれば、過激派によるサウジへの攻撃が難しくなると指摘した。

米国とサウジの当局者は、双方が2カ月以内に大使館を再開させるとの合意を着実に実行するか確認したいとしている。米国の当局者の1人は、サウジとイランによる外交関係の正常化合意により「近い将来の(イエメン)内戦終結に向けて弾みがつく」可能性があると述べた。【3月16日 WSJ】
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【イスラエル・ネタニヤフ首相にとっては外交的失策】
今回の中国仲介外交で完全に“蚊帳の外”に置かれたアメリカは、中東における存在感の低下をさらすことにもなりましたが、“ペルシャ湾岸諸国に基地を持ち、地域の治安を維持してきた米国の役割を中国が担えるのか”と言えば、中国もそこまで中東に踏み込む考えはないでしょうから、アメリカの影響力を軽視することも誤りでしょう。

アメリカ以上にショックを受けているのがイスラエルかも。
サウジアラビアなどアラブ諸国との関係改善を進めて、核開発を止めないイラン包囲網をつくろうという戦略だっただけに、完全にその戦略が破綻してしまいました。

昨日も取り上げたように、イスラエル国内ではネタニヤフ首相が進める「司法改革」で大きく揺れていますが、そうした国内問題にかまけている間に外交で大きなミスをしでかしたとの批判も浴びています。

****イスラエル窮地 置き去りで孤立くっきり サウジ、イランとの関係改善を優先****
中東の2大国、サウジアラビアとイランが中国の仲介で外交関係の正常化に合意し、イスラエルが窮地に陥っている。

イランの核開発を警戒するイスラエルは「包囲網」構築のため親米サウジとの国交樹立を推進してきたが、サウジが電撃的にイランとの関係改善に踏み切ったからだ。置き去りにされたイスラエルの孤立が浮き彫りになった。

サウジイとイランが約7年に及んだ断交の解消で合意した10日、中東の多くの国が歓迎する意向を表明したのと対照的に、イスラエルでは新旧政権の当事者が非難合戦を展開した。

イスラエル有力紙ハーレツ(電子版)によると、ラピド前首相は合意を受け、「外交の完全かつ危険な失敗だ」とネタニヤフ政権を批判した。対する同政権の高官は、合意は「イスラエルと米国(の影響力)が弱いために起きた」として、ラピド前政権とバイデン米政権をあげつらった。

イスラエルは2020年、トランプ前米政権の支援を受け、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国との歴史的な国交正常化合意にこぎつけた。その後もイランの軍事的脅威を踏まえ、同国の核保有を警戒するイスラム教スンニ派の大国、サウジとの国交樹立を目指してきた。

しかし、イランとの関係改善の合意発表で、サウジがイスラエルよりもイランとの和解を優先したことがあらわになった。サウジは当面、イスラエルとの和解には消極的だという観測も欧米メディアで出ている。

「イスラエル史上最も右寄り」とされる対パレスチナ強硬派のネタニヤフ政権が昨年12月末に発足した後、イスラエル軍はパレスチナ人約80人を殺害した。このため、パレスチナ独立国家の建設をイスラエルとの関係正常化の条件に掲げるサウジ政府が、態度を硬化させている可能性が高いからだ。

ネタニヤフ政権は、司法の政府や国会に対する権限を縮小する改革案を推進し、国民の大きな反発を呼んでいる。約2カ月にわたって反政権デモが断続的に続き、11日のデモには国内各地で50万人が参加したといわれる。

ネタニヤフ氏はイランに対する強硬姿勢で、治安に敏感な有権者の評価を得てきた面がある。国内の政策に没頭している間にサウジにはしごを外された格好で、手痛い外交上の失策となりかねない。【3月13日 産経】
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【追い詰められたイスラエルがイラン攻撃に出る可能性も むしろ危険が増す中東情勢】
野党側は、ネタニヤフ首相が「内政で混乱を引き起こし、対イラン外交を怠った」と非難しています。

もとよりイスラエルは、アメリカなどが復活を目指している現行のイラン核合意について「イランが秘密裏に核開発を進める可能性がある」として強く反対しています。

内政の混乱から国民の目をそらすべく、また、外交での失敗への批判をかわす狙いで、イランに対し実力行使に出るのでは・・・との懸念がアメリカサイドからは出ているようです。

しかも、昨日ブログでも指摘したように、イスラエルに対し、バイデン政権のグリップが効かない状態にありますので、イスラエルのイラン攻撃の可能性も増してきます。

****米国務省高官が「中東戦争」を懸念 水面下における世界の地政学リスクは「中東」****
(中略)(経済アナリストの)ジョセフ・クラフトは「一言で言うとアメリカの中東外交の失敗。中東におけるアメリカの影響力が著しく低下し、そこに中国が付け込んだ」と指摘した。またアメリカの国務省高官の話として「ウクライナ問題や台湾有事より、いま一番の懸念事項は中東戦争」と述べた。

その理由について「イスラエルでは週末、ネタニヤフ政権の司法制度改革案に抗議する大規模なデモが実施され、主催者によると50万人が参加した。このような様々な国内の問題を抑止するためネタニヤフ政権は外に敵を作ろうとしている」と分析。

この原因として「アメリカのトランプ政権時代はネタニヤフ政権との関係は良好だったのでイスラエルが勝手なことをすることはなかった。しかしバイデン政権は周辺の中東諸国、さらにネタニヤフ政権とも関係が悪く、止められない」と解説した。

さらに「これは中東やアメリカだけの話ではなく、中東戦争が起きた場合、日本は一気にエネルギー不足に陥る。さらにウクライナ情勢を考えても原油高騰でロシアの財政を助けることになる。現在、水面下における世界の地政学リスクは中東だ」と述べた。【3月15日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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イスラエルの行動による中東情勢緊張を待ち望んでいるのは、原油価格上昇で財政改善を期待するロシアかも・・・。

これまでの中東の対立軸であったイランとサウジアラビアの関係がかいぜんすることで中東情勢が安定に向かうのでは・・・という思いとは逆に、現実はむしろ発火の危険が高まっているという認識のようです。
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