孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

英仏海峡に押し寄せる不法移民 ドイツでは国内割当制で軋轢も 財政難のギリシャでは・・・

2015-07-31 22:55:29 | 欧州情勢

【7月31日 AFP】

【「地中海を渡った(不法移民の)大群が、よりよい生活を求めて英国を目指している。フランスと協力して国境を守る必要がある」】
欧州が直面する難題のひとつが、安全と豊かさを求めてアフリカ、中東、アジアから押し寄せる難民・不法移民への対応です。

ひところ、地中海を渡ってイタリアなどに押し寄せる難民船とその海難事故が話題となっていましたが、このところ連日、英仏海峡トンネルを使ってイギリスへ渡ろうとする不法移民の話題が報じられています。

地中海を渡ってきた難民の“その後”とも言うべき問題です。

****<英仏海峡トンネル>不法移民3500人超が殺到****
英仏海峡トンネルの入り口がある仏カレーに英国への入国を目指す不法移民が押し寄せている。英BBCによると、トラックに隠れるなどして入国を図った不法移民は今週だけで3500人を超えた。

事態を重く見た英政府は29日、緊急の閣僚会議を開き、カレー近郊の保安強化に700万ポンド(約13億6000万円)を支援することを決めた。

トンネルは国際列車ユーロスターや車両を運送する貨物列車が通行する。カレー周辺にはアフリカや中東からの移民が集結し、トラックの荷台に乗り込んだり、フェンスを破って線路内に侵入したりして越境を試みている。

トラックにはねられるなどして6月以降に9人の死者も出ている。

外遊中のキャメロン首相は30日、「地中海を渡った(不法移民の)大群が、よりよい生活を求めて英国を目指している。フランスと協力して国境を守る必要がある」と強調した。【7月31日 毎日】
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“移民たちの多くは、エチオピアやエリトリア、スーダン、アフガニスタンなどから戦乱を逃れてきた人たちで、豊かさを求めて英国を目指す。人身売買を行う英国の犯罪集団が手引きしている場合があるという。”【7月29日 産経】

フランスは、不法移民がカレー近郊の空き地でテントを設置して暮らすことを事実上容認する一方で、イギリスの強い要請もあって、イギリスへ渡ることは阻止する・・・という対応です。

****仏から英へ 越境狙う移民を警戒****
フランスから海底トンネルを通ってイギリス側に渡ろうと試みる不法移民が相次いでいる問題で、フランス側の港町の近郊にはおよそ3000人の移民が簡易テントを設置し、暮らしながら越境の機会をうかがっていて、フランス政府はこれを阻止しようと警備を強化しています。

フランスから英仏海峡トンネルを通ってイギリス側に渡ろうと試みた不法移民は、ことしに入って3万7000人に上り、特に、ここ数週間で急増しています。

フランス側の港町カレーの近郊では、30日の時点で、およそ3000人の移民が簡易テントを設置し暮らしながら、イギリスへ越境する機会をうかがっています。

移民たちは地元のNGOから水や食料を支給されたり簡易トイレを設営してもらったりと支援を受けています。多くは、エチオピアやスーダンなど、アフリカからで、このうちエリトリア人の男性は「イギリスに行けば職を見つけられるので、毎晩のように越境を試みている」と話していました。

フランス政府は人道上の配慮から、不法移民といってもやみくもに摘発せず、カレー近郊の空き地でテントを設置して暮らすことは、事実上、容認していますが、海底トンネルを通ってイギリスに渡る試みは、阻止する構えで警察官を増員し警備を強化しています。【7月31日 NHK】
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“やみくもに摘発しない”のは、人道上の配慮もあるでしょうが、摘発すると“そのあとどうするのか?紛争国へ強制送還するのか?”という厄介な問題が発生するから・・・とも想像されます。

以前は海峡を渡るフェリーに潜り込む例が目立っていましたが、監視の強化にともない英仏海峡トンネルが使われるようになったようです。

密入国する為の手段としては、フェリーでイギリスへ向かう貨物トラックの中にまぎれこむことになりますが、走っているトラックに飛び乗るとか、トラックの車輪と車輪の間にひそむという方法がとられるため、当然に事故が発生します。

不法移民を乗せていたことがイギリス側で発覚した場合、乗り込まれたトラックにも3万円以上の罰金が課されるようです。【2014年11月30日 「おかねの学校」 “命をかけて渡るドーバー海峡” http://money-academy.jp/straits-dover/ より】

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彼らがそこまでして、なぜイギリスを目指すかには幾つかの理由があり、
身分証明書のシステムがない為、路上で職務質問を受けても不法滞在者である確認がつきいにくい。
英語が通じる。
元々、世界各国からの移民が多い国であるため、イギリス人でなくても仕事が見つけやすい。
社会福祉が行き届いている。
などが挙げられています。【前出“命をかけて渡るドーバー海峡”】
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イギリスの寛大な社会福祉制度や、難民受け入れ制度が、不法移民にイギリスが“黄金郷”であるかのようなイメージを与えている側面があるようですが、当然ながらイギリスがそれほど不法移民に寛大な訳でもありません。
(不法移民のイギリスへのこだわりは、現在の苦しい状況から救い出してくれる“救世主”をイギリスにイメージしている・・・ようにも思えます。)

特に、キャメロン首相は不法移民の厳罰化を推し進めています。
下記は5月頃のキャメロン政権の対応です。

****イギリス、なぜ不法移民の厳罰化? 賃金没収や強制退去強化…EU離脱議論とも関係か****
イギリスのキャメロン首相が、移民の不法滞在を厳罰化する方針を表明した。
来週開幕する国会に、不法就労で得た賃金を没収する事や、弁解の機会を与える前に強制退去させることを可能にする法案を提出する。

首相は、21日のロンドン中心部での演説で、「強い国とは、跳ね橋を上げる(門戸を開く)国ではない。移民をコントロールする国だ」などと述べ、移民を制限して自国民の労働の機会を拡大する決意を示した。

◆「賃金の没収」と“有無を言わせない国外退去”
イギリスでは、増え続ける移民により、自国民の労働の機会が妨げられたり、不法就労が犯罪の温床になったりしている事が長年の課題とされている。

キャメロン政権は、2010年の1期目の選挙で、移民の純増数を合計10万人未満に減らす公約を掲げていたが、最新の昨年9月の統計では逆に過去最高の29万8000人という数字が出ている。

今月行われた総選挙では、この“公約違反”への批判に対し、より厳しい「ラジカルな」移民対策を行うことを公約の一つに掲げていた。(中略)

中でも注目されているのは、以下の2つの法案だ。
「賃金の没収」=不法滞在者に支払われた賃金を、犯罪の産物として没収する権限を警察に与える
「強制的な国外退去」=“先に国外退去、弁解は後”の原則を全ての不法滞在者に適用する。弁解の機会を与えずに国外退去させ、異論がある場合はその後母国で訴える。これまでこの原則は一部の外国人犯罪者にのみ適用されていた。

◆「イギリスを不法滞在者にとってより魅力的でない場所に」
 他にも、以下のような法案が準備されている。
・各銀行に全ての不法滞在者の銀行口座をチェックすることを命じる
・国外退去を待つ外国人犯罪者に発信機をつけ、衛星で居場所を追跡できるようにする
(中略)

キャメロン首相は、こうした対策を打ち出した背景を次のように語る。「コントロールされていない移民は、我が国の労働市場にダメージを与え、賃金を下げる結果を招く。これはつまり、合法的にイギリスに入ったものの、不法に滞在している者が多すぎるということだ。イギリスの人々は、そうした事をしかるべく整える事を望んでいる」。そして、「それはイギリスを不法滞在者たちにとって魅力的でない場所にする事から始まる」としている(テレグラフ紙、フィナンシャル・タイムズ紙=FT)(後略)【5月23日 NewSphere】
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キャメロン首相は、アフリカ・中東などからの不法移民だけでなく、ギリシャや東欧などEU域内の経済低迷国からの移民に対しても条件を厳しくすることをEUに求めています。

こうしたキャメロン首相の厳しい対応は、国内世論の移民に対する反発、移民問題の根本的解決とされるEU離脱要求を抑えるためのものと思われます。

EU 「割当制」で合意できず
難民・移民に苦慮するのはイギリスだけではありません。
EUでは難民受け入れを各国に割り当てる方策を検討しましたが、反対も多く、合意を得られませんでした。

****難民4万人受け入れ、各国分担合意できず・・・・EU****
政情不安の北アフリカから欧州を目指して地中海を密航船で渡る難民が急増している問題で、欧州連合(EU)は20日の法相・内相理事会で、イタリアとギリシャに集中する難民のうち、今後2年間で最大4万人をEU各国が分担して受け入れる計画を協議したが、受け入れ数を巡って合意できず、結論を先送りした。

年末までに改めて合意を目指す。
船で欧州に到着した難民は今年だけで15万人に上り、海難事故も多発している。EUは6月の首脳会議で、負担を分担するためイタリアとギリシャにたどり着いた難民をEU内で再配置することで合意。各国が受け入れ数を7月末までに決める方針だった。

しかし、難民の受け入れは自国の雇用などに影響を及ぼすため、反対する国も多く、人口や経済規模などに応じて強制的に再配置する当初の計画を断念。

この日の理事会では、各国が自主的に受け入れ数を申し出たが、合計は約3万2000人で、計画の4万人には届かなかった。【7月21日 読売】
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年末までに再調整が図られるようですが、当面は難民受け入れは「割当制」ではなく、任意ということになっています。

ドイツ 難民希望者の保護施設に対する襲撃
ドイツでは、国全体で受け入れた難民を各地方に割り振る制度になっているようですが、割り当てられた地方で軋轢が生じています。

****難民急増に悩むドイツ、襲撃事件が続発****
亡命希望者の割り当て政策、受け入れ側の小さな村が抱える不安

シャーロッテ・ツァインドルマイヤーさんは外国人に何の反感も持っていない。経営している衣料品店では、湾岸諸国から来る大勢の裕福な客にサービスを提供してきた。

だが、ドイツ・バイエルン州の村ヴィンデン・アム・アイグンの住民たちを不安にさせたのは、村に訪れることになっている亡命希望者の数だった。
人口800人のこの豊かな村のゲストハウスに、100人以上の亡命希望者が住むことになったのだ。

人口800人の村に難民100人
(中略)村の住民からオンライン上で嘆願が集まった後、村に来る亡命希望者の数は67人に減らされた。それでも今月、放火事件が起き、ゲストハウスの離れが焼け落ちた。

難民を全国に割り振るドイツの政策は、今年の亡命申請の急増と相まって、ごく小さな集落にも見慣れない人たちをもたらした。

ドイツは昨年、欧州連合(EU)で最大数の亡命申請者を受け入れたが、他の欧州諸国と異なり、極右政党が選挙で成功を収めることはなかった。むしろ、難民数の増加への不安は、難民希望者の保護施設に対する襲撃という形で表出した。

今年上半期には、ナチスのシンボルの落書きから建物の放火まで、難民収容施設に対する200件近い襲撃事件がドイツ当局に記録されており、昨年の175件から増加している。

襲撃事件は主に、難民に割り当てられたが、まだ人が住んでいない宿泊施設に対するものだった。一部のケースでは、襲撃者がその意図を明確にしている。昨年12月、バイエルン州の町フォルラで65万ユーロ相当の被害をもたらした放火事件の現場には、ナチスのかぎ十字が殴り書きされていた。(中略)

難民に対する襲撃は、ドイツ人の多様性の受容に関する議論を呼んだ。

地方自治体を代表するドイツ自治体連合は、一連の襲撃事件は――忌むべき行為ではあるが――関連性のない事件だと言う。また、大勢の民間人が難民希望者を自宅に受け入れることを申し出ているという。

ドイツ当局は、難民希望者の保護施設の警備体制を見直している。内務省の関係者らは、亡命申請について決断を下すのにかかる時間も削減されたと言う。

だが、課題は大きくなっている。昨年は20万2000人以上の人がドイツに亡命を申請した。EU内で次に人気の亡命先であるスウェーデンは、8万1180人の申請を受け付けた。

今年に入ってからこれまでに17万9000人以上がドイツに亡命申請しており、当局によれば、中東諸国の危機に駆られた申請数が減る見込みはないという。

ドイツの連邦刑事局は、難民希望者の宿泊施設に対する「全国的にネットワーク化された運動、あるいは全国的な指示が出されている運動」の証拠はないと話している。

問われる多様性の受容
だが、「Kein Asylantenheim in meiner Nachbarschaft(うちの近所に亡命希望者の保護施設は要らないの意)」と題された、グーグルをベースとした地図は、情報がオンライン上で共有されていることを示唆している。
サービス規定違反でグーグルが取り下げたこの地図は、難民収容施設の場所と収容人数を掲載していた。

国の繁栄と東からの移住ルートとの近さは、ドイツが難民にとって人気の目的地であることを意味しているが、ドイツは民族の多様性にあまり馴染みがない。

特に激しい襲撃事件が起きたのは、最も多様性の低いドイツ東部だった。東部では、移民のバックグラウンドを持つ人口が全体の4%程度だが、西部では2割を超えている。(後略)【7月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ギリシャ 経済苦のなかで示される寛容性
難民の玄関口としてはイタリアが注目されていますが、実際は最近はギリシャの方が多くなっています。
そのギリシャは、周知のように財政難で難民保護どころではない状態です。

****ギリシャを襲う新たな危機****
ある朝目が覚めたら、新しい村ができていた・・・・緊縮で国境管理が緩くなったギリシャに難民が殺到

・・・・IOM(国際移住機関)のアンブロージは、大量の難民流人と財政危機で社会の緊張が高まり、市民と移民の間で衝突が起きるのではないかと懸念している。さらにそれが「愛国主義、排外主義、人種差別に火を付けかねない」。

だが今のところ、島民が多数の難民に寛容な姿勢を示していることに、アンブロージは驚いている。「隣人のことを嫌いでも、その家が火事になったら、嫌いなことなんて忘れて助けなくてはと思うものだ」 

援助職員たちも、島民の寛容性に感銘を受けている。資本規制で人々の暮らしは悪化する一方なのに、難民たちを助けるために知恵を絞っている。(中略)

ヒオスのマノリス・ブルヌス市長によると、同島の企業はテント張りを手伝い、マットレスを寄付した。一般市民は、難民たちに支給される最低限の食事を補うために、乳児用の離乳食やミルクをはじめ、多くの食料をキャンプに差し入れした。(後略)【8月4日号 Newsweek日本版】
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もちろんギリシャでも排外主義の極右勢力の台頭はありますが、経済的には欧州でも貧しいギリシャの島の住民が移民に寛容な姿勢を示している・・・・というのは、非常に興味深いところです。

絶対的権利を区切る国境線
難民・移民の問題は、国家という枠組みを大前提にしている現在の世界のもたらす帰結でもあります。

“先進国の思想的リーダーの多くは絶対的権利の精神性を信奉している。だがその範囲は一定の境界線で区切られる。自国内での権利の浸透が最も重要であり、市場が発展しつつある国や途上国に住む人々には関心を持たない。”【6月6日 「だから欧州は移民問題を解決できない 自国の利益だけ追う閉鎖的政策の限界」 東洋経済online】

また、人の移動が活発になり、情報が多くの人々に共有されるようになった現在社会が向かう“均質化”の大きな流れの一環とも見ることができます。

国境・民族を盾にして、現在手にしている利益を守ろうとするのは現実論として理解はできますが、ただ「ここはお前らの国ではない!出ていけ!」では、これまで大切にしてきた価値観を踏みにじり、異質な世界に踏み込んでいくような不安を感じます。
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欧州側に対ロシア関係改善を模索する動きも しかし、ウクライナ問題を巡る情勢は厳しいまま

2015-07-30 23:12:31 | ロシア

(クリミアを訪問したフランス議員団 【7月26日 Sputnik日本】)

原油価格に不利なイラン核問題合意にロシアも協力
ロシア経済については、5月23日ブログ「ロシア 輸入代替で経済制裁・原油価格下落の打撃は軽減 アメリカの対ロシア政策は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150523)で取り上げたことがあります。

ウクライナ問題で欧米から経済制裁を受けていること、また、国家財政の柱である原油の価格が低落していることで、マイナス成長の苦しい状況にあることは間違いないようです。

****ロシア内務省職員11万人を解雇、経済苦境でプーチン氏****
ロシアのプーチン大統領は25日までに、同国内務省の職員約11万人を大量解雇する大統領令に署名した。総数の1割に相当し、同省の職員数は今後100万人をわずかに超える水準にとどめられる。

ロシア経済は現在、原油価格の低落やウクライナ危機に絡む欧米の経済制裁などで打撃を受け、近年では最悪規模とされる苦境に陥っている。今回の大規模な公務員削減計画はこの窮状の克服を図る対策の一環となっている。

内務省での解雇対象の大半は事務部門となる。同省は、警察、治安担当の民兵組織や道路の安全管理対策部門などを抱える。

ロシア政府は今年、政府省庁の予算を国防関連を除き、一律10%削減する措置を発表。プーチン氏は今年3月、自らの報酬1割減も打ち出していた。

ロシア経済は今年1~3月の第1四半期で2.2%のマイナス成長を記録。国際通貨基金(IMF)は今年通年は3.8%、来年は1%以上のマイナス成長を予測している。

ロシア政府によると同国の失業率は今年6月に5.4%に増加した。前年同月は4.8%だった。【7月25日 CNN.co.jp】
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ただ、5月23日ブログでも紹介したように、プーチン大統領に政策転換を直ちに迫るほどには打撃を受けていないとの見方があります。

先日のイラン核問題の協議においても、ロシアは基本的には欧米と同調して合意推進の姿勢を示しています。
イラン核問題が合意できて、イランが原油輸出を再開する状況になれば、ロシアが頼みとする原油価格は更に下落すること、あるいは価格上昇が遠のくことが予想されます。

それでも、政治的理由から合意推進の立場をとるということは、ロシア経済が決定的には追い込まれていないとも考えられます。

****イラン核合意を支えた思惑****
イランの核問題をめぐる協議が終了した翌日、オバマ米大統領はロシアのプーチン大統領に電話をかけた。合意成立に協力したプーチンに感謝するためだ。

近頃の欧米とロシアのとげとげしいムードからすればロシアの協力姿勢は、イランが制裁解除の条件をすんなり受け入れたこと以上に、驚くべき展開だった。

ロシアを含む国連安全保障理事会は先週、イランとアメリカなど6力国が取り決めた核合意を正式に承認した。これにより安保理決議による制裁は、イランの合意内容履行が確認され次第、解除されることになる。

核合意にはいわゆる「スナップバック」条項が含まれている。イランが合意内容に違反したら、安保理の決議を経ずに自動的に制裁が復活するというものだ。

この異例の条項が設けられたのは、安保理の常任理事国にイラン寄りのロシアと中国が含まれているからだ。再びイランに制裁を科す必要が生じたときに、ロシアか中国が拒否権を行使すれば困った事態になる。

プーチンにとって安保理における拒否権は大国の証しだ。みすみすそれを放棄するような条項をなぜ認めたのだろう。

中国が核協議で欧米と歩調を合わせた理由は分かる。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イランの制裁が解除されれば大きな経済的メリットがある。

だが、ロシアの場合はそれほど単純ではない。制裁解除でイランがエネルギー輸出を再開すれば、ロシア経済の息の根を止めてきた原油と天然ガス価格の下落は一段と進む。

おそらくプーチンは自国の経済的な利益よりも地政学的なメリットを重視しているのだろう。

制裁を解除すれば、イランは再び中東でアメリカとサウジアラビアに対抗する地域大国になる・・・米議会のタカ派はそう主張して核合意に反対してきた。

プーチンも彼らと同じ意見のようだ。ただしプーチンにとっては、イランの影響力拡大は脅威ではなく、好都合な事態なのだ。【8月4日号 Newsweek日本版】
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相次ぐ欧州議員団のクリミア訪問 イタリア首相とも・・・・
一方、欧州側には、このところロシアとの関係改善を模索する動きが観られます。

****仏議員団、クリミア訪問=ウクライナなど批判、ロシア歓迎****
フランス最大野党・共和党などの議員団は23日、ロシアが編入したウクライナ南部クリミア半島を訪問した。タス通信が伝えた。

ロシアに制裁を科す先進7カ国(G7)からの本格的な議員団によるクリミア訪問は初めて。
ロシアの事実上の支配を認めることになりかねず、ウクライナ、フランスの両政府が批判している。

議員団は、サルコジ前大統領が党首を務める共和党などの10人。目的について、3月の鳩山由紀夫元首相同様「編入後の住民の状況を視察するため」と説明した。訪問前、モスクワでロシアのナルイシキン下院議長と会談し、仏ロ議員間の対話再開が重要だと強調した。

以前にフランスとイタリアの右派政党党首がクリミアに招かれたことはあった。今回の議員団訪問にロシアは「これまで欧州連合(EU)加盟国から公式代表団がなかったのに比べ、主流派で画期的」(プシコフ下院外交委員長)と大歓迎している。【7月24日 時事】 
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当然にフランス政府は反対しており、出発前にフランス外務大臣からクリミア訪問をキャンセルするように圧力もあったようです。

マリーヌ・ルペン氏率いる右翼政党「国民戦線(FN)」ではなく、最大野党・共和党などの議員団というのが驚きです。

議員団メンバーは「ニコラ・サルコジはこの問題について、さらに大きな感激を示しさえした。彼自身が時期を見てクリミアにお邪魔することも極めて現実的な話だ」と語っていますが、サルコジ前大統領や共和党幹部が今回訪問をどのように評価しているかは知りません。

訪問団のリーダーである共和党議員ティエリ・マリニ氏は以下のように語っています。

「フランスは世界で第三の対ロ投資国である。多くのフランス企業がロシアに支部を展開している。制裁導入後も誰もロシアを撤退しなかった。つまり、多くの企業が、ここにとどまり、未来を信じることを望んでいるのだ。むろん欧州の対ロ政策および制裁はビジネスの発展を難しくしている。関係を維持することが我々の共通の利益であり、具体的にクリミアで何が出来るのかは知らないが、クリミアには巨大なポテンシャルがあると思う」【7月23日 Sputnik日本】

また、クリミアを訪問してマリー・クリスティン・ダロス議員は、「私たちはここで、ロシアへ戻ったクリミアで暮らす幸せそうな人々を目にしました。私たちは、若者たちと交流しました。ここの様子は、私たちの国で伝えられているクリミアとは驚くほど異なっていました。私はここで、とても親切な人たちと出会いました。私たちの国で考えられているクリミアは、全く別のものです」【7月24日 Sputnik日本】と語っています。

鳩山元首相の訪問とよく似ています。
鳩山元首相のクリミア訪問は日本では狂気の沙汰のような捉え方がされていましたが、ことの是非は別にして、それほど宇宙人的な突拍子もないことでもないようです。

イタリアにも同様の動きはあります。

****伊議員団がクリミア訪問へ=G7で2例目―ロシア紙***
ロシア経済紙コメルサント(電子版)は28日、イタリア新興政党「五つ星運動」の議員団が10月上旬にも、ウクライナ南部クリミア半島を訪問する方向だと伝えた。ロシアの事実上のクリミア支配を認めることになりかねず、ウクライナなどが批判しそうだ。

ロシアに経済制裁を科す先進7カ国(G7)の議員団訪問としては、7月23、24両日のフランス最大野党・共和党に続き2例目となる。

イタリアは、レンツィ首相がプーチン大統領と3月にモスクワ、6月にミラノで会談を行うなど、政府もロシアと関係改善を進めており、制裁緩和の糸口を探っているとみられる。【7月29日 時事】 
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イタリアの議員団は既成政治に反発する新興政党「五つ星運動」によるものですから“ありそうな話”ですが、レンツィ首相とプーチン大統領の間で話し合いが進んでいるということで、政府間の関係改善につながる可能性もあります。

改善は見られないウクライナ情勢
しかし、ウクライナ問題が進展しない現状では、欧州とロシアの関係改善も現実問題としては難しいように思われます。

ウクライナ・ポロシェンコ大統領、停戦合意(ミンスク合意)に沿って、東部に「特別な地位」を与える憲法改正手続きを開始してはいますが、親ロシア派の意向は無視した形となっていますので、直ちにこれで紛争が落ち着くというものでもないようです。

****自治権付与」へ改憲案=親ロ派の同意なし―ウクライナ大統領****
ウクライナのポロシェンコ大統領は16日、東部の親ロシア派との停戦合意に基づき、改憲案を最高会議(国会)に提出した。改憲は「特別な地位」(高度な自治権)の付与に必要だが、政権は親ロ派の同意を得ないまま一方的に改憲を進める構えだ。

大統領は「ウクライナは単一国家だ」と演説。改憲案では、特別な地位を恒久的ではなく、一時的な措置にとどめた。支持率が低迷する中、親ロ派にさらに譲歩すれば、反ロシア派一色の国会で弾劾される恐れがあるためとみられる。

親ロ派は「停戦合意違反」「憲法に特別な地位を(恒久的に)明記するよう求める」と訴え、強く反発した。東部では死傷者を伴う戦闘が再燃しており、和平プロセスが頓挫すれば、停戦崩壊が現実味を帯びそうだ。【7月17日 時事】
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また、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナ西部で20日から開始した合同軍事演習に、ロシアは反発を強めています。

****西部で米など軍事演習=「停戦危機」とロシア反発―ウクライナ****
ウクライナ西部リビウ州で20日、北大西洋条約機構(NATO)加盟国などの年次合同軍事演習「ラピッド・トライデント」が始まった。米国など18カ国の約2000人が参加。

ウクライナ軍報道官は「過去最大規模で(親ロシア派と戦闘が続く)東部情勢を考慮した」と強調した。

ロシア外務省は20日、演習を受けて声明を出し「挑発路線」とNATOを批判。ウクライナ東部の停戦合意を危機に陥れると訴えた。

ロシアは自国による軍事介入を認めない一方、停戦合意で義務付けられた「外国部隊のウクライナ撤退」の文言を根拠に米軍主導の軍事演習を非難している。【7月21日 時事】
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更に、ロシア軍の当局者は、去年併合したクリミアに、核兵器も搭載できる中距離爆撃機を配備する計画を明らかにしています。

****ロシア クリミアに中距離爆撃機配備を計画****
・・・・そのうえでこの当局者は「アメリカがルーマニアで進めるミサイル防衛システムの配備計画への対抗措置の一つだ。将来的には連隊規模に拡大する可能性もある」と説明し、実際に中距離爆撃機が配備されれば、ウクライナや欧米の反発は避けられないものとみられます。

ロシアはこれまで、アメリカがヨーロッパで進めるミサイル防衛システムの配備計画について、地域の軍事的なバランスを崩すとして繰り返し非難してきました。

このためロシアとしては、ヨーロッパに近いクリミアに核兵器を配備することも辞さない構えを示すことで、クリミアはロシア領だと改めてアピールするとともに、アメリカに対しミサイル防衛システムの配備計画の撤回を強く迫るねらいがあるとみられます。【7月23日 NHK】
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もし計画が実現すると、ロシアの思惑とは“核搭載機の事故”という別の問題も懸念されます。

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ロシアはウクライナ危機を背景に戦闘機や戦略爆撃機などを活発に国境付近で飛ばしている。

だが、今月14日、極東ハバロフスク地方で、戦略爆撃機のTU95MCが訓練飛行中に墜落し、搭乗員2人が死亡した。同型機は6月にも極東アムール州で離陸に失敗し、搭乗員が重軽傷を負ったばかり。

ほかにも6月以降、ミグ29など戦闘機4機の墜落事故が相次いでおり、ロシア空軍の活動活発化に人員増強や機体整備が追いついていないとの観測もある。【7月22日 毎日】
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なお、ロシア空軍のボンダレフ総司令官は27日、クリミア半島に核兵器の搭載が可能な爆撃機を配備する計画は現状では存在していないと述べています。

更にもうひとつ。

****マレーシア機撃墜、国際刑事法廷設置にロシアが拒否権****
昨年7月にマレーシア航空機がウクライナ東部の上空で撃墜された事件をめぐり、国連安全保障理事会は29日、刑事責任を追及するための国際刑事法廷の設置を求める決議案を審議した。

15カ国中11カ国が賛成したが、常任理事国のロシアが拒否権を発動し、決議案は否決された。中国など3カ国は棄権した。

決議案はマレーシア、豪州、オランダ、ベルギー、ウクライナが共同で作成していた。ロシアのチュルキン国連大使は「刑事法廷の設置は時期尚早だ」と反対の理由を述べたが、米英など賛成した国からはロシアの姿勢を批判する声明が相次いだ。【7月30日 朝日】
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なお、ロシア国内では、マレーシア撃墜はウクライナ政府軍にるものとの報道がなされていますので、ロシア国民の多くはそのように考え、世論調査によれば(ウクライナ政府の犯罪を追及することになる)国際刑事法廷設置に賛成する声が多いようです。
(藤森信吉氏 「ウクライナ時事評論」7月28日 http://masteru.seesaa.net/article/423138229.html )

こうした状況を考えると、直ちに欧州・ロシア関係が動くことは難しそうです。
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アフガニスタン 中国で2回目の和平協議の予定 タリバン指導部に路線対立も

2015-07-29 22:17:43 | アフガン・パキスタン

(イスラムの祝日イード・アル=アドハーに、おもちゃの銃で遊ぶアフガニスタンの子供たち “flickr”より By quasuo https://www.flickr.com/photos/qua_suo/10314623056/in/photolist-gHt95y-o7Viwt-fat2WR-6n93dx-akb6cx-8MBDdG-bmvuhc-826pQJ-9XFYMp-38HXzB-9Y4ob2-tnS9H-9yBcNs-aqUFTa-5tYEGj-af5mxJ-3oAgja-fbrXhZ-jjRLgu-af2CVp-af5mHq-eqQSKE-9LWyWC-79C32M-8rZ3hf-84ySLH-9c3JXu-9MEjBb-9NNs8w-cL6HoN-4TFvcX-2j8cwJ-4eEJ4P-9NNs8o-af2Cs2-8dhocH-bF8GV8-bV8XK3-af2z7p-af2CBz-af5qGG-9dJwTR-9FzPiQ-7HEUbT-7XyES5-eqQST9-epUCoH-7HEXm4-fCU1Zs-p2pKpR)

国内イスラム教徒対策のためにアフガニスタンの安定化を求める中国
アフガニスタンの政府代表団と反政府武装勢力タリバンの幹部らが今月7日夜、パキスタンの首都イスラマバード近郊で和平協議を行ったことについては、7月9日ブログ「アフガニスタン政府とタリバン、パキスタンで直接交渉 今後も継続」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150709)で取り上げました。

和平協議が実現した背景には、タリバンに影響力を持つパキスタンの意向、更には、新疆ウイグル自治区などでイスラム教徒との問題を抱える中国の意向があると言われています。

****アフガン政府とタリバン、初の公式和平協議 次回はラマダン明けに****
・・・・パキスタンでは、タリバンと同盟関係にあるイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」によるテロが相次ぎ、シャリフ政権は昨年、対話路線からテロ掃討に方針転換した。

外交筋や専門家によれば、治安悪化に業を煮やした軍が、支援を与えてきたタリバンに対し、和平協議開催に応じなければ、パキスタン国内での潜伏を許さないと警告していた。

背景には、アフガン政府に、アフガン内に逃げ込んだタリバン運動を掃討するよう求める狙いや、経済協力を進めつつイスラム過激派のテロに悩まされる中国からの圧力がある。テロによる混乱が、カシミール問題で対立するインドに付け入る隙を与えることも、軍は強く警戒している。(後略)【7月8日 産経】
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予定どおりなら、明日30日には、2回目の協議がアフガニスタンへの関心を強めている中国で開催されるようです。

****アフガンへ影響力強める中国、タリバンとの和平協議、30日に中国で開催***** 
アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンとの和平を担当するアフガン政府高等和平評議会のカシミヤー氏は24日、産経新聞に対し、政府とタリバンの2回目の公式和平協議が今月30日に中国で開かれると明らかにした。

タリバンに停戦を要求する。中国は、和平協議などを通じ、アフガンやパキスタンへの影響力を強めつつある。【7月24日 産経】
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タリバンへの影響力をパキスタンと、そのパキスタンへの影響力を持つ中国が和平協議に関与を強めれば、難航が予想される協議にも、若干は期待が持てます。

生存が不明のオマル師 序列2位と3位で路線対立
しかし、当事者であるタリバンの組織的に統一された形で協議に臨んでいるのかは疑問があります。

一応、生存が明らかでない最高指導者オマル師が和平協議を支持していることを明らかにしてはいますが。

****タリバンのオマル師が和平交渉の正当性を表明 「政治努力は不可欠*****
アフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンの最高指導者オマル師は15日、間もなくラマダン(断食月)終了を迎えることへの祝賀メッセージをインターネット上で発表し、「武力によるジハード(聖戦)と同時に、神聖な目標達成のための政治的努力や平和的な道を探ることは正当なイスラムの信条であり、預言者ムハンマドの政見の不可欠な要素だ」と述べた。今月始まったアフガン政府との公式和平協議の正当性を初めて表明した形だ。

オマル師は、こうした政治的努力を「外国の支配を終わらせ、わが国に独立したイスラムによる制度を打ち立てるためのものだ」と訴えている。

一方で、「旧ソ連に対する聖戦の成功の果実は、多くの派閥を生むという不可避の結果となり失われた」、「すべてのイスラム聖戦士に対して団結を保つとともに、不和を作りだし、聖戦に損害を与えたり聖戦士を分散させようとしたりする分子を強く阻止するよう指導した」と表明し、和平協議に反発する意見があることや、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」への構成員離脱への危機感をにじませた。【7月15日 産経】
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ただ、なにぶんオマル師が生きているのか死んでいるのか明らかではありません。
これだけ長く本人が表にあらわれないところを見ると・・・・とも思われます。

上記の“オマル師のメッセージ”は、少なくともオマル師の代理を務める中枢勢力が和平協議に前向きであることを示しているとは言えるでしょう。

ただ、タリバン内部には和平に反対する強硬派も存在すると言われています。

****タリバン指導部に亀裂=オマル師死亡?和平に影響も―アフガン****
アフガニスタン政府との和平交渉をめぐり、反政府勢力タリバンの指導部に亀裂が生じている。パキスタン情報筋が28日、明らかにした。

最高指導者オマル師の死亡もささやかれており、同筋は「穏健派と強硬派のどちらが主導権を握るかで和平の行方は大きく左右される」と話している。

タリバンは今月上旬、パキスタンの仲介で政府代表団と和平に向けた初の公式協議を行った。米中両政府の関係者が同席する中、双方は交渉継続で合意。交渉の正統性を「承認」するオマル師の署名が入った声明も発表され、和平に向けた機運が高まっていた。

しかし、パキスタン情報筋はオマル師が既に死亡したか、指導力を発揮できない状態にあると指摘。「序列2位のアフタル・マンスール師が事実上の指導者として和平を推進するだけでなく、オマル師の名を使って交渉を後押しする声明を出したとみられる」と話す。

一方、2007年までキューバの米海軍グアンタナモ基地収容所に収監されていた序列3位のザキール師ら強硬派はこうした動きに反発。パキスタン南部カラチの神学校を卒業したオマル師の長男ヤクーブ師(26)を後釜に据える準備を進めているという。

パキスタンに潜伏中ともされるオマル師をめぐっては、過去にもたびたび死亡がうわさされていたが、真偽は確認されていない。ただ、長らく肉声が公表されておらず、指導部内の権力争いが表面化していることから、死亡説は信ぴょう性を増している。

アフガン政府は今月末、タリバンと2回目の和平協議を予定している。だが、同筋は「近頃パキスタンから帰国したヤクーブ師は和平に応じないよう各派閥に呼び掛けている。指導部の分裂が進む中、協議が予定通り開かれるかは不透明だ」と話している。【7月28日 時事】 
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“オマル師の長男ヤクーブ師(26)を後釜に据える・・・”
どこの世界でも、血筋が正当性を主張するうえで分かりやすい手段となりますが、タリバンも例外ではないようです。

和平協議自体もどのように進むか問題ですが、仮に協議が前進してもタリバン全体がその方向で進むという訳でもなさそうです。

大人の暴力沙汰と子どもたちの戦争ごっこ
最近のアフガニスタン関連の記事で目についたものが下記の記事です。

*****アフガニスタン結婚式で銃撃戦、20人死亡*****
アフガニスタン北部バグラン(Baghlan)州で開かれていた結婚式の会場で銃撃戦が起き、少なくとも20人が死亡、10人が負傷した。地元警察当局が27日、AFPに明らかにした。

警察によると、銃撃戦があったのは26日夜。武装した男たちが口論を始め、次第に激しくなったため地元治安当局者が空に向けて発砲したところ、銃撃戦が始まったという。死亡したのは全員、結婚式の招待客で14歳~60歳の男性だという。【7月27日 AFP】
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別に戦闘でも何でもなく、単に結婚式における喧嘩にすぎませんが、その結果が“銃撃戦で少なくとも20人が死亡”というのが、銃と暴力が日常化しているアフガニスタンの現状を示しているように思えます。

アフガニスタンでは、お祝いごとの際に空に向かって銃を撃つ習慣があるようで、多くの出席者がカラシニコフを肩にかけているのでしょう。
“戦闘で20人が死亡”という話より、根深い病根を示しているようにも。

そんなアフガニスタンで、こんな話題も。

****アフガニスタン、玩具銃販売を禁止 大勢の子ども負傷で****
アフガニスタン内務省は21日、カラシニコフなどの銃器を模したおもちゃの販売を禁止した。

イスラム教の断食開けの祭り「イード・アル・フィトル」の期間中、こうした玩具銃で大勢の子どもが負傷したことを受けた措置で、政府は暴力が横行する文化の抑制を図っている。

アフガニスタンでは断食明けの祭りの期間中、ゴム弾やプラスチック弾を発射する玩具銃を持った子どもを見かけることが珍しくなく、売り上げは年々急増している。

内務省が保健当局の統計を引用したところによると、祭りが行われていた19日までの3日間、目を負傷した子どもは100人余りに上った。

同省発表によると、ヌールハク・ウルミ内相は、玩具銃が心身を傷つける恐れがあるとして、警察部隊に玩具の銃を全て没収するよう指示した。

アフガニスタン政府は、こうした玩具が子どもの心に与える影響を抑えたい意向にある。周辺諸国では、アフガニスタンの子どもたちの戦争ごっこと、大人の暴力沙汰の共通性を指摘する意見が多い。

断食明けの祭りでは、大人が子どもにお小遣いを渡す習慣がある。こうしたお金は、カラシニコフの自動小銃「AK47」や連発拳銃の模造品、プラスチック製のライフル銃のおもちゃの購入に広く使われている。

仮に施行が徹底された場合、今回の禁止は勃興期にある国内の玩具業界にとって打撃になりそうだ。ただ、インターネットのソーシャルメディアでは禁止が大方歓迎されており、アフガニスタンが戦争の傷痕に苦しんでいることから、本物の武器の販売も規制するよう求める意見もある。

交流サイト大手「フェイスブック」ユーザーのアブドゥル・シャヒードさんは、「子どもたちが大人になった時、本物の武器を手にするのを抑止する上で前向きな一歩だ」と投稿した。【7月26日 AFP】
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非常にささやかではありますが、正しい方向への一歩でしょう。

ちなみに、銃による子供の事故が多発しているアメリカではこんな話題も。

****10代が自作した銃を撃つドローンを調査 米FAA****
米連邦航空局(FAA)は21日、拳銃が取り付けられた手作りの無人機「ドローン」が、コネティカット州郊外の町で実際に発砲する様子を映した動画をめぐり、このドローンが連邦航空規則などに違反していないかどうか調査を行っていると発表した。動画はインターネット上で動画サイトで人気を呼んでいる。

この動画は今月10日、ユーチューブに投稿された「空飛ぶ銃」というタイトルが付けられた14秒間の映像で、再生回数は約200万回に達している。その大半がいまだに規制されていない米国の民間ドローンをめぐっては新たに論争が起きている。

動画は、拳銃が取り付けられた複数の回転翼を持つ手作りのドローンが、ホバリング中に激しい音を立てながら、画面には映っていない標的に向かって4回、発砲する様子を映している。

このドローンを制作したのは、大学で機械工学を学んでいるコネティカット州クリントン出身の18歳の学生だとみられている。だが、学生の父親は息子がドローンを制作したことを否定している。

「リモコン(RC)で操作するおもちゃなら、何十年も前から、みんな遊んできたじゃないですか」と父親はAFPの電話取材に答え、さらに、「これの正しい名称はRCクアッドコプターで、メディアは恐怖感を生じさせるために誤った単語(ドローン)を使っている」「なぜこれほど大騒ぎするのか分かりません。目新しいことではないでしょう」と話した。【7月22日 AFP】
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アフガニスタンにおける人権問題を云々することも多いアメリカですが、「空飛ぶ銃」が「なぜこれほど大騒ぎするのか分かりません」ということでは・・・・。

追伸
****オマール最高幹部の死亡説流れる アフガン和平協議前に****
アフガニスタンの反政府武装勢力タリバーンのトップ、オマール最高幹部が「2〜3年前に病死していた」とする情報が29日、アフガン大統領府周辺から流れ、近く予定されているアフガン政府とタリバーンの2回目の和平協議を前に臆測を呼んでいる。(後略)【7月29日 朝日】
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協議も延期されるかも。

なお、次回開催は中国で・・・との記事を紹介しましたが、“パキスタンの治安関係筋は29日、オマル師の死亡情報は臆測にすぎず和平を妨害する試みだと非難した。次回協議は、パキスタンで行われるとしている。”【7月29日 産経】とも。
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トルコ  ISとPKKへの「二正面作戦」へ トルコ・エルドアン政権の主たる関心は・・・

2015-07-28 15:51:50 | 中東情勢

【7月27日 AFP】

ISへの宥和策、PKKとの休戦から「二正面作戦」へ
シリアで争うISとクルド人勢力、そして隣国トルコにおけるトルコ政府を含めた3者の絡み合いについては、7月23日ブログ「激化するISとクルド人勢力の戦闘 トルコ領内でもクルド人標的のISのテロ、PKKの政府への報復」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150723)で取り上げました。

このブログ時点で、ISによるトルコ領内におけるクルド人(トルコ領内に1000万人以上が居住)を標的にしたテロ、トルコ政府がISに融和的(あるいは加担している)として、クルド人反政府組織PKKによるトルコ警官殺害という報復テロ・・・といった形で事態は動き始めていました。

前回ブログアップ直後の23日、シリア国境に近いトルコ南部キリスで国境警備にあたっていたトルコ軍兵士がシリア国内から国境を越えて銃撃され1人が死亡、トルコ軍もISに応戦するという、2013年にISがイラクとシリアの広い範囲を制圧し始めトルコ国境の近くまで勢力を広げるようになってから最大の交戦がISとトルコ軍との間で起きたことが報じられました。

これまでトルコは、アメリカなどのIS攻撃のための基地使用やシリアとの国境管理を厳格化を求める要求に対し十分に応えてきませんでした。(トルコは偵察用無人機の拠点としては米軍による基地の使用を認めてきましたが、空爆目的の利用は拒んでいました。

トルコが敵対するアサド政権を追い詰めるうえでも、また、国内反政府勢力PKKとつながるシリアのクルド人勢力をけん制するうえでも、また、ISと敵対することで国内テロが増加する危険を避ける意味ででも、イスラム過激派ISに対し融和的な姿勢をとってきたとも言われています。

ただ、アメリカなどの国際圧力もあって、コバニ包囲戦では最終的にはクルド人側に協力し、ISにとって人員・物資補給路となっているシリアとの国境管理も最近強化を図っており、ISとの対立も生じていました。

一方で、国内のクルド人反政府勢力PKKとは2013年に和平交渉を開始し、PKKによる国内テロ活動は一定に抑制されてきました。

ただ、シリアでISが、トルコ国境に隣接するクルド人居住地域であるコバニを包囲した際に、国内PKKと近いコバニのクルド人勢力救済になかなか動かず、クルド人を“見捨てた”“見殺しにした”とクルド人に受け止められたこともあって、6月の総選挙でクルド政党、人民民主党(HDP)が躍進し、与党・公正発展党(AKP)が過半数割れに追い込まれ、エルドアン大統領は組閣にも難航する事態になっています。

またコバニ包囲戦以降の情勢を受けて、PKKはトルコ治安当局への攻勢を強めており、トルコ政府は対抗策を打ち出す時期をうかがっていたとの指摘もあります。

トルコ政府はこれまでIS、クルド人勢力との間で微妙なバランスをとってきたとも言えますが、そのバランスの維持が難しくなってもいました。

こうした時期に起きたISによるトルコ領内でのテロ、PKKの反政府テロ再開、ISとトルコ軍の軍事衝突という一連の動きによって、トルコ・エルドアン政権は従来方針を大きく転換し、IS及びPKK両者を同時に叩く「二正面作戦」に踏み切っています。

シリア側の国境沿いに「安全地帯」設置を求める
対ISとしては、これまで拒否してきた米軍によるトルコ領内基地の空爆目的での利用を認め、トルコ軍自身がシリア国内のIS拠点3か所への空爆を実施しました。

****<トルコ>ISを初空爆 自国兵士死亡に報復****
トルコ軍は24日未明、隣国シリアの北部国境沿いにある過激派組織「イスラム国」(IS)の軍事拠点3カ所を精密誘導爆弾で空爆した。トルコ軍によるIS拠点を狙った空爆は初めて。

23日にトルコ南部国境付近を警戒中の兵士がシリアのIS支配地側から銃撃を受けて死亡したことへの報復だという。トルコ政府はISへの対応に消極的だと批判されてきたが、方針転換を強いられた形だ。(中略)

また、トルコ治安当局は23〜24日にイスタンブール周辺にあるISなどの拠点100カ所以上を一斉捜索。トルコ政府は、23日の兵士銃撃事件を受けて安全保障会議を開催しISに対する軍事作戦を決めたという。

これに先立ちオバマ米大統領は22日、トルコのエルドアン大統領と電話で協議。米ホワイトハウスによると、IS対策での協力強化について話し合った。

一方、米主要メディアは23日、トルコが米軍に対し、南部インジルリク空軍基地の本格的な使用を容認したと一斉に報じた。これまでも偵察のための無人機の発着は認めていたが、新たに戦闘機などの作戦行動を許可し、協力態勢を大幅に強化したと伝えている。

米軍はこれまで、ペルシャ湾に展開する空母や湾岸諸国の米軍基地から戦闘機などをシリアへ飛ばしてきた。インジルリク基地の使用が可能になれば、シリア上空での滞空時間が大幅に延長される。

ただトルコメディアによると、トルコは米国主導の有志国連合が実施するIS空爆には参加しない見通しで、当面は独自の対応を取る方針と見られる。

トルコは今年1月ごろから、シリアとの国境管理を強化。外国人戦闘員のシリア流入を規制し、IS側が不満を強めていると伝えられていた。

トルコでは現在、6月の総選挙を受けて与党と各党との連立協議が続いている。IS対策を強化すればISがトルコへの攻撃を拡大させたり、シリアの内戦がトルコに飛び火したりする可能性がある。

与党は連立協議の行方も踏まえながら、慎重な対応をする方針とみられる。【7月24日 毎日】
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また、トルコはシリア側国境沿いにISを排除した「安全地値」を設けることを主張しています。

****シリア北部に「安全地帯」設置へ=「イスラム国」排除で難民保護―トルコ***
ロイター通信によると、シリア国内の過激派組織「イスラム国」に対する空爆作戦に着手したトルコのチャブシオール外相は25日、記者会見で、シリア難民保護などのため、シリア北部に同組織を排除した「安全地帯」を設置すると述べた。

トルコ政府はかねて、安全地帯や飛行禁止区域の設置を求めてきた。外相は「(同組織の)脅威がなくなれば、安全地帯が自然にできるだろう」と述べた。

トルコ紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)によると、トルコ国境沿いのシリア北部アレッポ県の町ジャラブルスとマレアの間に、長さ約90キロ、幅約40キロの「『イスラム国』のいない地域」をつくる予定。

この計画は、「イスラム国」への空爆作戦を主導する米国との包括合意の一部で、米国も既に同意していると報じたが、米側は確認していない。【7月25日 時事】
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「安全地帯」を設けることについてはアメリカも同意しているようです。
ただ、“飛行禁止区域”となると、制空権を握り、もしシリア軍機が侵入したら交戦するという話にもなりますので、アメリカは認めない意向のようです。

****米・トルコ、IS一掃に向けて協力 「IS排除地帯」設置へ****
米国とトルコは、シリア北部からイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」を一掃することを目指し、協力していく方針で一致した。米政府高官が27日明らかにした。情勢を一変させる可能性のある合意といえる。

同高官はAFPに対し、トルコ・米両政府が「ISIL(ISの別名)を排除した地帯を設置し、トルコのシリア国境付近の安全と安定の強化を図る」ことを目指していく意向だと伝えた。

バラク・オバマ米大統領のエチオピア訪問中に、匿名を条件に取材に応じたこの高官は、このIS排除地帯の詳細については「今後詰めていく」ことになるとしているが、「どんな合同軍事行動に踏み切るにしても」かねてトルコが要請してきた「飛行禁止区域の設置は含まれない」としている。(後略)【7月28日 AFP】
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「安全地帯」からISを排除し、トルコが支援する反政府勢力の拠点とし、難民も収容する・・・とのトルコ側意向ですが、主権を侵害されるシリア・アサド政権の反発など、実現は不透明でもあります。

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・・・・しかし、国境の改変につながりかねないこうした案が、国際社会の理解を得られるかも不透明だ。

また、シリアのアサド大統領は26日の演説で、「兵員不足で国内の支配地域を放棄せざるを得ない」状況に陥っていると認めたが、反体制派への譲歩はあり得ないと強調。主権を侵害する安全地帯構想を容認することは考えられない。

トルコが仮に安全地帯の設置に成功しても、約900キロに及ぶシリアとの国境線すべてでイスラム国側の侵入を防ぐのは難しい。

安全地帯やその周辺で戦闘が激化すれば、「トルコはシリアへの軍事的関与を強めざるを得なくなる危険性がある」(外交筋)との指摘も出ている。【7月27日 産経】
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PKK「(トルコ政府との)休戦はもはや意味を失った」】
一方、クルド人反政府組織PKKに対しては、ISと併せて、国内メンバーの一斉検挙に乗り出しています。

****トルコ、非合法組織の拠点一斉捜索 約300人逮捕 国内情勢の流動化を危惧 テロ封じ****
トルコからの報道によると、同国治安当局は24日、最大都市イスタンブールなど各地にあるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」や「クルド労働者党(PKK)」といった非合法組織の拠点を一斉に捜索し、各組織のメンバーら計297人を逮捕した。

トルコでは20日、南部スルチでイスラム国によるとみられるテロが発生したのを契機に、イスラム国への警戒が強まった。

同時に、テロは政府のイスラム国に対する姿勢に問題があったために起きた−と主張するPKKメンバーが警官を殺害する事件も起きたことなどから、国内情勢の流動化を避けるため、テロ闘争を展開する恐れのある組織の締め付け強化に乗り出した形だ。(中略)

トルコのメディアによると、捜索はイスラム国やPKKのほか、マルクス主義系の極左組織なども対象。範囲は全国の少なくとも13県に上り、イスタンブールだけでも140カ所以上が捜索を受けた。【7月24日 産経】
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また、IS拠点空爆と併せて、国内のPKK拠点への攻撃も行っており、PKKとの休戦は破棄された形となっています。

****トルコ、PKK拠点空爆 対ISも連日 国内の緊張高まる****
トルコ軍は25日、シリア北部で過激派組織「イスラム国」(IS)に対する3度目の空爆を行った。24日夜から翌未明には、イラク北部で、非合法のクルド人武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の拠点も空爆した。(中略)
ISの2度目の空爆に合わせて、イラク北部でもPKK活動拠点など7カ所を空爆した。ダウトオール氏は、トルコ南部スルチで起きたISの自爆テロとみられる爆発をめぐり、PKKが「ISの協力者」として警官2人を殺害したことに対する報復だとした。

イラクのPKK拠点に対する空爆は、トルコ政府とPKKが2013年に和平交渉を開始して以来初めてとみられる。空爆後、PKKは「(トルコ政府との)休戦はもはや意味を失った」との声明を発表した。【7月26日 朝日】
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こうした政府側の攻撃に対し、PKK側もテロで応酬しているとされています。

****トルコ軍の車列に爆弾、兵士2人死亡 PKKの犯行か****
トルコ南東部ディヤルバクルで25日夜、トルコ軍の車列を狙って自動車爆弾が爆発し、兵士2人が死亡、4人が負傷した。地元行政当局が26日、発表した。

犯行声明は出ていないが、トルコメディアによると、トルコ軍は非合法のクルド人武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)の犯行だとしている。【7月26日 朝日】
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ISとの戦いよりも、クルド人武装組織抑制の方に大きな関心を持っているのではないか・・・
トルコ政府の対応に対し、トルコ国内の少数民族クルド人は、IS対策に便乗した「民族抑圧だ」と反発を強めており、国内の治安悪化が懸念されています。

トルコ軍は、シリアでISと戦うクルド人勢力に対しても攻撃を行っていると報じられています。
シリアのクルド人勢力YPGはトルコ国内のPKKと密接な関係があるとされています。

****トルコ軍、シリアのクルド人支配の村を砲撃****
シリア北部アレッポ県で、クルド人民兵部隊「クルド人民防衛部隊(YPG)」の支配下にある村が、トルコ軍の戦車による夜間の砲撃を受け、YPGと同盟関係にある組織の戦闘員少なくとも4人が負傷した。

YPGと非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」が27日、明らかにした。(後略)【7月27日 AFP】
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トルコ政府のIS対応の転換は、ISの人員・物資の補給路、あるいは資金調達源の原油密売ルートを断つことで、国際社会のIS対応に大きな影響があります。

ただ、「二正面作戦」とは言いつつも、トルコ政府の関心は、ISよりもクルド人対策にあるのでは・・・との見方もされています。

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トルコ軍が開始した今回の軍事作戦に、トルコ国内のクルド人は衝撃を受けている。

6月7日のトルコ総選挙で大躍進した少数民族クルド人系政党、国民民主主義党(HDP)は25日、非難声明を出した。

総選挙で少数与党に転落した公正発展党(AKP)が、今回の攻撃でクルドとの対立をあおり、再選挙に打って出てクルド支持票などを取り込んで単独政権に返り咲こうとしていると訴えた。【7月26日 毎日】
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トルコでは6月の総選挙でPKKに近いとされるクルド政党、人民民主党(HDP)が躍進し、与党・公正発展党(AKP)が過半数割れに追い込まれ組閣が難航。

組閣に失敗すれば再選挙となる可能性もあり、政府・与党側はPKKへの締め付け強化によってHDPの支持率低下を狙っているとの見方もある。【7月26日 産経】
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・・・・しかし、トルコはISとの戦いよりも、シリアとイラクに存在するクルド人武装組織を抑制することの方に大きな関心を持っているのではないかとの疑いも広がっている。

アフメト・ダウトオール首相は、非合法化されているクルド人武装組織「クルド労働者党((PKK)」が武装解除するまで、同組織に対する軍事作戦を強化していくと発表した。

PKKはトルコ南東部で数十年前から反体制運動を開始。ダウトオール首相はATVテレビで「一定の成果が得られるまで戦闘を継続する」と語り、PKKに対し同組織が2013年に約束した武装解除を実行するよう促した。(後略)【7月28日 AFP】
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IS対応の転換という国際社会が好感する施策の裏で、PKKへの対決姿勢を鮮明にすることで国内危機感を煽り、政権への求心力を高める狙い・・・エルドアン大統領の満を持した一手ということでしょうか。

そうなると、そもそも事の発端となった7月20日のISによるクルド人を標的にしたテロというのも、IS単独の犯行だったのか・・・という疑念も起きますが、まあ、それは陰謀論に過ぎる見方でしょう。

トルコ首相府は27日、一連の作戦でISやクルド人武装組織などのメンバー1000人余りを拘束したことを明らかにしており、ダウトオール首相は、「作戦は結果が出るまで続ける」と語っています。

北大西洋条約機構(NATO)は今日28日、トルコの要請で緊急理事会を開くことになっています。
この場でトルコは、IS対応に併せて、PKK対策についても説明すると思われますが、NATO側にはトルコ国内の対立激化への懸念があります。

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NATO側には、トルコ政府とPKKの対立激化が、対ISのテロ対策を弱体化させかねないとの懸念がある。

ドイツのメルケル首相は26日、トルコのダウトオール首相と電話協議し、トルコへの支持を表明すると同時に、テロとの戦いの中で「クルド人との和平プロセスは堅持すべきだ」と求めた。【7月27日 毎日】
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ソマリアでテロ活動を続けるアル・シャバブ アフリカへの関与を強める方向のアメリカ

2015-07-27 22:37:59 | ソマリア

(ソマリアの首都モガディシオ 海辺で遊ぶ人々 20年以上に及ぶ戦闘と混乱を経て、ようやく平和が訪れたようにも見えますが・・・ “flickr”より By United Nations Photo https://www.flickr.com/photos/un_photo/14829119406/in/photolist-oAp7yw-jQRR8U-bSX8YR-5XSZ9q-bownfP-fptVoK-bwZbQS-ayjThs-bKTUPH-bKTUTK-bwWpSL-bwWpMA-nnpP9c-bKR8k8-pMYh3p-ndYfFd-dNX5KF-ndYdrN-bMLWd4-bwWpK9-fpjq9b-bySgtW-fpjqVw-fp4Z6Z-cF6QL5-uudCRD-rgAtgT-bowoU6-rsrT5A-fpjoqU-ayjT2m-bZvTWf-bySFHS-bMLWet-haFLto-r1e4jb-k5S3Nc-dZJDeZ-ng1G4H-k5S5Sn-nnaR4g-ndXYi7-ndXX7L-ng1kD6-6pzUsG-ng1EdD-qHWb8i-r1oyDt-6pzUw3-r1ewUR

首都モガディシオで自動車爆弾攻撃
アフリカ東部のソマリアは、イスラム原理主義組織が支配し、海賊が跋扈する「無政府状態」にありました。

そのソマリアで中部と南部を支配下に収め、イスラム国家の建設を目指していたイスラム武装組織アル・シャバブですが、2011年にアフリカ連合(AU)やケニア軍・エチオピア軍が介入し、ソマリアの首都モガディシオや南部の港湾都市キスマヨからの撤退を余儀なくされました。

現在は、アフリカ連合ソマリア平和維持部隊AMISOMの支援を受けるソマリア政府軍が拠点都市を奪還し、かつての“暫定政府”は、2012年9月の大統領選挙を経て、正式な政府となっています。

しかし、拠点を失ったアル・シャバブはゲリラ戦に戦術を変えて自爆テロなどを繰り返しており、依然としてその脅威は去っていません。

26日にも首都モガディシオのホテルで自動車爆弾攻撃が起きています。

ちょうど、オバマ米大統領が訪問先の隣国ケニアを離れ、エチオピアに向う中で起きた事件であり、アル・シャバブの勢力を誇示するかのような事件です。
ケニア・エチオピア両国とも、アル・シャバブと戦うアフリカ連合の平和維持部隊への主要な部隊派遣国です。

****ソマリア首都ホテルで自爆攻撃、中国人ら13人死亡****
ソマリアの首都モガディシオで26日、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派組織アルシャバーブが、厳重に警備されたホテルに大規模な自動車爆弾攻撃を行い、治安当局者によると少なくとも13人が死亡した。

標的となったのは、中国、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の外交使節団が置かれ、ソマリア政府高官や外国人の人気も高いジャジーラ・パレスホテル。中国政府は27日、中国大使館職員1人が死亡し、3人が軽傷を負ったと発表した。

アルシャバーブは今回の自爆攻撃をソマリア南部にある同組織の基地がエチオピア軍の攻撃を受けた際に死亡した「無実の民間人数十人の殺害への報復」だとしている。(後略)【7月27日 AFP】
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【「あなた方は、まさにここで、今、夢を築くことができる」】
ソマリアで劣勢にあるアル・シャバブは、13年に起きたケニア首都ナイロビのショッピングモール襲撃事件、今年4月に起きた東部ガリッサの大学キャンパス襲撃事件など、ソマリアへ軍事介入した隣国ケニアでの活発なテロ活動を行っています。

そのケニアを訪問したオバマ大統領は、アフリカの「将来の希望」と改善すべき課題について語っています。

****アフリカの「将来の希望」強調=米大統領、ケニアで演説****
アフリカ東部ケニアを訪問したオバマ米大統領は26日、首都ナイロビの競技場で演説を行った。現地からの報道によると、大統領はケニアを含むアフリカの発展ぶりを強調。「あなた方は、まさにここで、今、夢を築くことができる」と述べ、将来への希望を訴えた。

大統領は「今の若いケニア人は、私の祖父や父のように、宗主国の主人に仕えたり、国を去ったりする必要はない」と述べた。

一方で「ケニアは危険と巨大な希望に満ちた十字路にいる」と語り、はびこる汚職などケニアの将来を脅かす問題にも言及。慣習にとらわれず改善するよう呼び掛けた。

大統領はまた、強制結婚など女性の権利侵害の問題にも触れ、「選手の半分が競技に参加しないチームを想像してみよう。ばかげている」と、女性の教育や社会参加の重要性を指摘した。(後略)【7月27日 時事】 
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【「地球最後の巨大市場」を狙うアメリカ
今回のオバマ大統領のケニアとエチオピア歴訪は、中国の影響が強まるアフリカに対するアメリカの影響力回復と経済関係強化を狙ったものと見られています。

****米、アフリカ重視模索 中国の経済進出に対抗 オバマ氏、ケニア・エチオピア歴訪****
オバマ米大統領は24日、父親の出身国であるケニアを訪問し、首都ナイロビで祖母サラさんら親族と面会した。

25日には両国政府が共催する起業家サミットに出席。「アフリカは動いている。世界で最も成長が著しい地域の一つだ」と述べ、経済協力を一層推し進めていく考えを強調した。

その後、ケニヤッタ大統領と会談。イスラム過激派によるテロ対策や汚職撲滅の分野などで、支援を拡大していく方針を確認した。

オバマ米大統領のケニアとエチオピア歴訪は、イスラム過激派の台頭に揺れるアフリカの安全保障や経済関係の強化を目的としている。

オバマ政権はこれまでアフリカを重視してこなかった。中国の台頭でアフリカでの影響力に陰りが見えはじめるなか、米国はアフリカ政策の深化をめざす。

成長が著しいアフリカは「地球最後の巨大市場」とも言われる。援助対象としてだけではなく、経済的な重要性が、米国にとっても無視できなくなったことが訪問の大きな背景だ。

米国は2009年に対アフリカの貿易総額で中国に抜かれた。危機感を抱いたオバマ政権は昨年8月、アフリカ約50カ国の首脳をワシントンに招いて「米・アフリカ首脳会議」を初めて開き、官民合わせて330億ドル規模の投資策を発表。訪問はその1年後の継続対応としてなされている。

アフリカの人口は、50年には倍増し、約20億人に達すると推計される。
NGO「国際危機グループ」のアフリカ専門家エルンスト・ヤン・ホーヘンドルン氏は「人口爆発は(ビジネス)機会にも潜在的な脅威にもなる。職にあぶれた若者は、社会不安や過激派伸長の原因になる。そのため、経済分野の開発は安全保障にも直結する」と話した。【7月26日 朝日】
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直接的な軍事介入は避け、無人機攻撃で
経済関係強化を図る一方で、アメリカはアフリカへの軍事介入には慎重な姿勢を続けています。

アメリカにとってソマリアは、1993年10月に起きた米軍ヘリ「ブラックホーク」の撃墜、及びその後の救出作戦で多くの犠牲者を出し、“トラウマ”ともなっている地であり、そのことがアメリカのアフリカへの消極姿勢の原因ともなってきました。

****軍事介入には慎重****
安全保障は経済と同様、米国の優先事項だ。

ただ、アフリカでの軍事的な関わりは、主に現地軍の訓練といった間接的な活動にとどまり、戦闘部隊の派遣といった直接的な軍事介入には慎重だ。アフリカを担当する「米アフリカ軍」も司令部をドイツに置いている。

米軍が距離を置く理由は、1992年のソマリア内戦への軍事介入での苦い経験にある。撃墜された米軍ヘリの乗組員が市民に引き回された。94年に撤退して以来、アフリカへの軍事的関与は消極的なままだ。

その後、無法状態のソマリアではイスラム過激派「シャバブ」が伸長し、ケニアを含むアフリカ東部地域の脅威になっている。

また、米が独立を後押しした南スーダンも、11年の独立後に内戦状態に突入。米国は有効な手立てを打てていない。

ホーヘンドルン氏は、「過激派対策は若者の政治的、経済的な不満を取り除かなければいけない。時間はかかるが、現地の政府への包括的な支援が必要だ」といい、米の非軍事路線での政策が望ましいとした。

オバマ氏はケニアの後はエチオピアを訪れる。エチオピアは南スーダンの和平に主導的な役割を果たしているほか、シャバブの掃討作戦にも参加している。

オバマ政権はエチオピアを安全保障上の重要な国と位置づけており、オバマ氏が訪問した際に支援を表明するとみられる。【7月26日 朝日】
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もっとも、かつての「ブラックホーク」撃墜事件のようなリスクを伴わない方法・・・無人機攻撃で、アメリカはソマリアへの軍事関与を強めています。

****米軍、ソマリアで過激派掃討の作戦拡大 無人機攻撃を増強****
アルカイダ系のイスラム過激派「シャバブ」と政府軍などの戦闘が続くアフリカ東部のソマリア情勢に関連し、米国防総省当局者は26日までに、シャバブ掃討の米軍の作戦を過去数週間、拡大させていることを明らかにした。

作戦拡大は武装無人機の攻撃増強などから成り、政府軍に肩入れするアフリカ連合(AU)の平和維持軍への直接的な軍事支援を狙っている。シャバブはここに来てAUの平和維持軍への攻撃を強めている。

複数の米国防総省当局者によると、武装無人機はジブチにある米軍関連施設から出動。エチオピアに拠点がある無人機は情報収集や監視などの活動に当たっている。武装無人機などは特に戦線でのシャバブ戦闘員の根絶を狙っている。

平和維持軍には十数カ国が参加しているが、大部分はケニアとエチオピア両国軍兵士が占める。

ソマリアにおける米国の軍事介入はこれまで、空爆や特殊作戦部隊の展開でアルカイダや他のテロ勢力に関わる特定の人物の捕捉(ほそく)や殺害が中心だった。

しかし、ソマリア南部で先月、シャバブが平和維持軍の基地を占拠し、兵士50人を殺害したとする襲撃が無人機の攻撃拡大を促す契機となった。

米国は、この襲撃はシャバブが特定の標的を襲い、奪還する能力を見せ付けたと判断し、無人機の投入拡大はこの種の攻撃を阻止するのが目的ともしている。

過去10日間で実施した無人機攻撃は少なくとも7回で、今後も続く見通し。
7月14日にはケニアの平和維持部隊へのシャバブの襲撃が差し迫っていたとして空爆に踏み切り、地上のAU軍の砲撃などの応戦につなげていた。【7月26日 CNN】
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26日の首都モガディシオのホテル自爆攻撃を受けて、アメリカの無人機攻撃は更に強化されることが予想されます。

過激派対策の根幹は・・・・
ただ、軍事作戦だけでは問題の根本をただすことはできません。
「職にあぶれた若者は、社会不安や過激派伸長の原因になる。そのため、経済分野の開発は安全保障にも直結する」(前出ホーヘンドルン氏)

「将来の希望」を実現できる環境を作り出していく現地政府の努力にかかっています。
国際社会も支援を惜しみませんが、その際の問題は政治の腐敗・汚職です。その点では、あまり楽観的にはなりにくいところがありますが・・・。
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カンボジア  急成長する経済フロンティアと“悪夢の清算”

2015-07-26 22:35:54 | 東南アジア

(地雷除去訓練中のアフリカオニネズミ かなり大型のネズミです 【https://www.youtube.com/watch?v=GYry258lMbk】)

1人当たりGDP:1966年の日本とほぼ同水準
ポル・ポト派による虐殺、長い内戦による地雷問題、またはアンコールワットを中心とした観光地としてのイメージが強いカンボジアですが、今や生産拠点としても市場としても離陸しつつあるようです。

****悪夢の歴史を乗り越え急発展するカンボジア****
GDP成長率は東南アジアでトップクラス
・・・・
世界の服飾ブランドが生産拠点を設置
・・・・カンボジアはユニクロやH&Mなど多くの服飾ブランドが生産拠点を置く、世界有数の縫製工場でもあるのだ。カンボジアのGDPの約2割が製造業で構成されているが、そのほとんどが縫製業によるものである。縫製業は、観光業、農業と並んで重要なカンボジアの産業の一つである。

カンボジアで縫製業が成長したきっかけは、1997年にアメリカ合衆国に一般特恵関税制度の最恵国待遇を付与されたことに始まる。

現在、EUや日本も同様の待遇をカンボジアに付与しており、これらの先進国がカンボジア製品を輸入する際に低関税の恩恵を受けることができるようになった。

加えてカンボジアは人件費が安い。2015年1月からの最低月額賃金は128ドルに設定されているが、これは中国(深セン)の約4割、タイの約7割の水準である。

関税優遇と安価な人件費により、主として中国、台湾、香港からの外国投資がカンボジアに縫製工場を設立した。結果として、カンボジアの輸出額の7割~8割を縫製業関連の製品が占め、経済成長を牽引している。

1人当たりGDPは高度経済成長期の日本に匹敵
次に市場としてのカンボジアを見てみたい。カンボジアの人口は1500万人(2013年)。市場規模としてはまだそれほど大きくないが、その成長率は東南アジアの中でもトップクラスだ。

2009年のリーマンショック時にはアメリカ合衆国向け輸出が急減し、一時的にその成長にブレーキがかかったが、2009年~2013年の5年間のGDP平均成長率は7%であり、同時期のマレーシア(5.7%)、タイ(4.3%)、ベトナム(5.8%)と比較しても非常に高い値となっている。

また、カンボジアの1人当たりGDPは2013年に1006ドルとなった。タイ(5700ドル)やベトナム(1910ドル)と比較して見劣りすると考えがちだが、この値は、1966年の日本とほぼ同規模である。

66年の日本といえば、戦後から20年以上が経過し、高度経済成長期を謳歌していたころである。64年には東京オリンピックが開催され新幹線が開通し、66年には日産が「ダットサン・サニー」を、トヨタが「カローラ」の販売を開始した。

昨今、その成長性が注目されているミャンマーについても、2012~2013年のGDP成長率は6.3%であり、1人当たりGDPは868ドルである。高度経済成長期の日本および現在のミャンマーと比較していただければ、大きな購買力を持ち始め活気にあふれるカンボジアの人々をイメージすることができるかと思う。

中国や韓国の企業が積極的に投資
資源もなく、また長い内戦で国内産業基盤が破壊されたカンボジアでは、積極的な外資導入政策を採ってきた。外資の参入規制業種はなく、また経済特区を設置し法人税優遇などのインセンティブを提供している。

このようなカンボジアの投資環境、市場の成長性を見込み、すでに多くの中国や韓国の企業が投資を進めている。

カンボジア開発評議会によると、カンボジアで投資法が整備された1994年以降2011年までの国別直接投資額(累積)は中国がトップで89億ドル、投資額全体の約33%にのぼる。韓国が40億ドルで中国に次いで2位(15.1%)である。以下、マレーシア、英国、米国、ベトナムと続くが、日本の累積投資額ははるかに少なく1.5億ドルと全体のわずか0.6%にすぎない。

中国の投資は前述の縫製工場への投資の他、インフラや観光業など多岐にわたる。韓国企業では、LGやサムスンの電化製品の他、不動産投資への進出も著しい。

安定した政権のもと外資の投資環境を整備し、生産拠点としても市場としても離陸しつつあるカンボジアは、東南アジアでの次の投資先としてミャンマーと並んで有力な候補地となるだろう。【5月15日 堺 夏七子氏 JB Press】
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1966年の日本とほぼ同水準・・・・新幹線開通、サニー・カローラ・・・個人的には、ついこのあいだ経験した日々のような感もあります。

ちなみに西岸良平氏の漫画「三丁目の夕日」が1955年から1964年までを舞台としているとのことですから、現在のカンボジアは「三丁目の夕日」より一歩先に進んだあたりということにもなります。

日本はこのあと1人当たりGDPで、66年当時の1千ドル水準から1995年の42,516ドルまで一気に成長を加速させましたが、カンボジアが同じような軌道を描けるのかどうかは、これからの話です。

この種の統計数字が生活実態をどこまで反映しているのか・・・という問題はあるでしょうが、それはともかく、カンボジア、特に首都プノンペンが近年急速に変容していることは、しばしば指摘されることでもあります。

****残された経済フロンティア「カンボジア」の活況****
カンボジアの首都プノンペンの様子が、ここ5年間で一変した。

国際空港や自動車道路が綺麗に整備され、高層オフィス・ビルの建設、仏系大型高級ホテル・ソフィテルの開業、日系の大型商業施設「イオンモール」の開店、マレーシア資本による新たな大型カジノ・ホテル「ナガ・ワールド」の再オープンと、実に景気がいい。

急ピッチのインフラ整備
日本からのフライトはチャーター便を除き直行便がないため、バンコクを経由するのが一般的だが、最近はベトナムのホーチミン経由というルートも開拓されている。

バンコクから約1時間のフライトで、プノンペンに到着。一昔前のプノンペンであれば、夕刻に到着する機内から市内を見ても、華やかな明るさとは無縁な世界であった。

しかし機内から見える最近のプノンペンの夜景は違う。日没後にテニスやサッカーを楽しむ人口が増えたため、明るい夜間照明に囲まれた幾つものコートが目に飛び込んでくる。急速に中間層の人口が増えていることを示す現象だ。(中略)

ミャンマー人気に押されて、ニュース報道では精彩を欠くカンボジアだが、この5年間に海外からの直接投資、投機マネー、製造業の進出などによって、経済は活況を呈している。

カンボジアの国内総生産(GDP)成長率は6~7パーセント台で推移しており、高い経済成長を維持している。

チャイナ+1の進出先として、タイ、ベトナム、インドネシアが注目されることはあっても、カンボジアが話題に上ることは少なかった。

タイとベトナムに挟まれ、内戦の歴史が重くのしかかって、海に面していても内陸国のイメージが付きまとい、長らくカンボジアは海外の投資先リストから外されてきた。

しかしフン・セン首相の長期政権で政治は安定し、治安も改善され、急ピッチで経済インフラや工業団地が整備された。優遇税制によって海外企業を取り込むことにも成功するなど、カンボジアは何を隠そう、東南アジアの立派な優等生なのである。

歴史的にも親日国であるため、日系企業が中国で経験したような反日暴動や反日デモは皆無で、安心して操業ができる。

労働集約型の企業にとっては労働賃金の水準が最大の課題だが、とにかく東南アジアで最低レベルだ。しかも初等中等教育が進んだため、労働集約型産業に適した人材を確保できる強みがある。

「北朝鮮レストラン」が盛況のワケ
カンボジアにおける海外直接投資のトップ3は、韓国、中国、日本の東アジア勢で占められている。

高層ビルの建設では韓国が先陣を切り、不動産投資や投機では中国が熱心で、地道な製造業で日本が優位な立場にある。

とにかく韓国企業の看板が目につく。東南アジア諸国で、韓国企業の進出ぶりを推し量る目安は、北朝鮮レストランの盛況ぶりにあるといわれているが、東南アジアでも新興国のベトナム、ラオス、カンボジアを比較してみると、その数が多いのは1位プノンペン、2位ベトナムのハノイ、そして3位はラオスのビエンチャンとなる。(中略)

東南アジアの新経済フロンティアとして、メディアではミャンマー報道が席巻していたこともあり、日本の中小企業はミャンマー詣でを繰り返してきた。

しかし経済インフラが整っていないため、多くの企業がミャンマー進出を断念したが、帰国の途中にプノンペンに立ち寄り、その素晴らしさに気づいてプノンペン進出を即断した企業も多いと聞く。

プノンペンとヤンゴンを訪問する度に、メディア報道のイメージと現実とに、こんなにも大きな落差があることを感じる。まさに「百聞は一見に如かず」である。【7月24日 竹田いさみ氏 フォーサイト】
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“フン・セン首相の長期政権で政治は安定し、治安も改善・・・”は事実ですが、その政治の在り様に問題がない訳ではありません。その話は今回はパスしますが。

【“悪夢の歴史”の清算】
経済成長には熱心なフン・セン首相は、ポル・ポト政権の大量虐殺の責任を問うカンボジア特別法廷にはあまり熱意がなく、特別法廷はなかなか進展せず、被告の高齢化だけが進みます。

****ポト派元最高幹部の控訴審開始=カンボジア特別法廷****
1970年代後半にカンボジアのポル・ポト政権下で起きた大量虐殺をめぐり、人道に対する罪に問われたポト派の元最高幹部ヌオン・チア元人民代表議会議長(88)とキュー・サムファン元国家幹部会議長(83)の控訴審が2日、カンボジア特別法廷の最高裁で始まった。

一審は昨年8月、首都プノンペンから少なくとも200万人に上る住民が農村部に強制移住させられ多数の死者が出たことなどに絡み、両被告が殺人や政治的迫害といった非人道的行為に関わったと認定し、最高刑の終身刑を言い渡した。

特別法廷は二審制で、最高裁は2016年前半の判決言い渡しを目指している。両被告は一貫して無罪を主張し、計300以上の上訴理由を挙げて一審判決には「法律上および事実の誤認」があるとして最後まで争う姿勢を示している。【7月2日 時事】
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ポル・ポト政権下では1975年から79年までの4年弱の間に、当時の総人口約800万人のうち140万人とも200万人とも推計される人々が犠牲になったと言われています。
“悪夢の歴史を乗り越え急発展する”ということのためには、“悪夢”の清算が必要です。

この“悪夢”は地雷という遺産を今も残しています。
“カンボジア政府によると1979年以降、地雷や不発弾による死者は2万人近く、けが人は約4万4000人に上る。1970年代のクメール・ルージュによる虐殺など、数十年に及ぶ内戦の名残りで国内には今も地雷が多く埋まり、身体に障害を負う人が後を絶たない。”【7月16日 ロイター】

地雷除去作業ということでは、金属探知機を使った作業が一般的ですが、危険なうえに効率が悪い方法でもあります。

****金属探知機****
最も一般的な方法が、この金属探知機を用いた手法である。この方法が広く浸透した背景には、他に地雷を探知する機器が無かったことと、機器コストが安価だった事がある。

ただ、この方法は信頼性に欠けるという、重大な問題を有している。
前述したように、地雷に使用される金属は極端に少ない。そのため、金属探知機の感度を上げなければ、地雷を発見することはできない。だが、それは地中に埋まった釘や鉄片など、全ての金属に反応することを意味する。

つまり、金属探知機を使用するディマイナー達は、地雷原からすべての金属片を除去しているという事になる。

効率性の点では最悪である(2人1組で1日に調査できる範囲は3~6㎡程度)。また、カンボジアの土は高い金属含有量の鉱石ラテライトが含まれており、金属探知機が全ての地雷原でオールマイティーでない問題もある。

さらに、金属探知機は音の変化によって、金属の有無をディマイナーに知らせるものである。そのため、音の変化を聞き分けるには熟練した経験が必要となる。【Business Architecture http://bizarchitecture.web.fc2.com/jpn/proposal/mine/removal.htm
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火薬の匂いを嗅ぎ取れるように特別に訓練された地雷探知犬はも使用されますが、訓練・維持の費用が高く、訓練期間も1年ほど必要とのことで、大量供給が困難です。

そこで登場したのが・・・・。

****カンボジアで「人命救助ネズミ」が活躍、短時間で地雷嗅ぎ分け****
カンボジアで地中に埋まった地雷の探知に、アフリカオニネズミが大活躍している。このネズミは、金属探知機を持った人間が数日かかかるところ、わずかな時間で地雷を見つけ出せるという。

ベルギーの非営利組織(NPO)APOPO(訂正)にタンザニアから連れてこられ、生後4週間から地雷探知用に訓練されたネズミたちだ。カンボジアの地雷除去兵が手にするロープの先につながれ、草むらに放たれると、地雷に含まれるTNT火薬を嗅ぎ分ける。地雷除去チームの責任者は「彼らは人命救助ネズミだ」と話す。(中略)

ネズミを使う地雷探知の最大の利点の一つは、体重が軽いため、地雷に近づいても爆発を引き起こさないことだという。【7月16日 ロイター】
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非常にユニークな方法ですが・・・・「ここは、ネズミを使って除去しましたから安全です。どうぞ」と言われても「・・・・お先にどうそ」と言いたくなるような・・・。ネズミへの偏見でしょうか。

危険で効率が悪い地雷除去作業の映像を観ると、いつも「もっと他に方法はないのだろうか?」と思ってしまいます。

実際、いろんなものがあるようです。
大規模なものでは、装甲車とショベルカーを一緒にしたようなものも。
また、ロボットの開発や、超音波ビームを使った方法なども。

ただ、満足な道路もないところ、ジャングルの奥地の狭い場所・・・などで低コストで使えるかという現実問題もあります。

地雷除去について検索していたところ、こんなシュールな装置もありました。“美しすぎる地雷除去装置”とも

http://commonpost.info/?p=52333

アフガニスタン出身のデザイナーが制作した、砂漠を転がりながら地雷を除去する装置「Mine Kafon」。
先端の部分で風をとらえて危険エリアを動き回り、1体で3~4基の地雷を撤去できるそうです。

シュールなだけでなく、竹、鉄、プラスチックで作られていて、素材が手に入りやすいく安くで作れる利点もあるそうです。

ただ、風まかせで動き回る装置ということで、これだけでは「除去しました。安全です」と言われても。やはり「お先にどうぞ」と言いたくもなります。

もっとも、GPS装置をつけることで安全な場所を地図に表示できるようにする予定だそうです。
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北朝鮮経済事情 繰り返される飢饉 成長率は1%程度? 労働力輸出で外貨獲得

2015-07-25 22:23:10 | 東アジア

(北朝鮮国境付近の中国の街で興行している、北朝鮮の平壌からやってきた女性グループ。外貨獲得手段のひとつとか 【7月24日 AFP】 彼女たちがどういう思いで中国人客相手のステージにたつのか・・・楽しんでやっているだけで、別に、気にかけるようなものはないのかもしれませんが) 

経済困窮により日朝協議を放棄できない北朝鮮
北朝鮮関連の話題となると、幹部を対空機関銃で処刑したとか、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の理解に苦しむ言動とか、何かとエキセントリックなものが多いのですが、そうした話はさておき最近の北朝鮮事情を伝える記事をいくつか。

日本人拉致被害者らの安否に関する再調査に関して、進展が見られないのは周知のところです。
北朝鮮側は、調査継続を日本政府に打診してきています。

****北朝鮮「拉致再調査を継続」 日本政府に打診 ****
北朝鮮による日本人拉致被害者らの安否に関する再調査を巡り、北朝鮮側が再調査の開始から1年を迎える4日以降の調査継続を日本政府に打診してきていることがわかった。

日本側は最優先課題の拉致被害者らに関する具体的な生存情報の早期報告を引き続き要求する。自民党などからは制裁強化を求める声が強まっており、政府は北朝鮮の真意や出方を見極めて慎重に判断する。

日本と北朝鮮が昨年5月下旬に開いた外務省局長級協議で、北朝鮮は日本人の拉致被害者や拉致の疑いのある特定失踪者の安否について再調査を始めると約束した。

同7月4日に特別な権限を付与した特別調査委員会を設けて再調査を開始。当初は昨年の「夏の終わりから秋の初め」に最初の報告があり、1年をメドに調査を終えるとしていた。

ただ北朝鮮は昨年9月に報告の先送りを通知し、いまだ正式な報告はない。非公式協議で北朝鮮は終戦前後に亡くなった日本人の遺骨や、戦後の帰還事業で北朝鮮に渡った日本人配偶者に関する報告から始めることを提案したが、日本はあくまで拉致問題の報告が最重要との立場だ。

自民党が制裁強化を求めるのは、北朝鮮が調査を開始した見返りとして、日本政府は独自制裁の一部解除に踏み切った経緯があるためだ。自民党の拉致問題対策本部は6月25日、解除した措置の再開とともに一層の制裁強化を求める提言を安倍晋三首相に提出した。

日本政府は現時点での制裁強化には否定的だ。政府高官は「せっかくこじ開けた北朝鮮との対話の窓口を閉ざすようなことはすべきでない。制裁を元に戻せば、日朝協議を頓挫させることになる」と指摘。

別の高官も「調査を中止すれば制裁は強化される。日朝は対話の糸はつないでいるし、打ち切るという判断はしていない」と話す。【7月2日 日経】
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調査を打ち切りたくないのは、苦しい経済事情を抱える北朝鮮側も同様のようです。

****拉致再調査】北なぜ時間稼ぎ? 物資不足に干魃追い打ち 海外資金の獲得不可欠****
北朝鮮側は日朝交渉の中断を避けてきたフシがある。

5月中旬、マツタケ不正輸入事件で在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長の次男らが逮捕されたが、北朝鮮の対日非難は限定的だった。

公営メディアで「総連に対する迫害は朝日関係を取り返しのつかない最悪の事態に追い込む」などと強弁したが、拉致問題再調査や日朝協議に全く触れず、その後も安倍晋三首相を名指しで非難することもなく交渉継続の意思を示唆した。

金正恩(キム・ジョンウン)体制が日朝協議を放棄できない背景には、国際的孤立から経済困窮が進んでいる北朝鮮の厳しい国内事情がある。

金正恩体制は最近、朝鮮労働党幹部への特別配給を間引くなど統治資金不足が顕在化しているという。
北朝鮮事情に詳しい日朝関係者によると、首都平壌はこのところ電力不足で停電が長引いており、「党の幹部である部長以下の家にも電気が来なくなった」という。

また、独裁政権の忠誠心を保持する重要な手段だった特権階級である党幹部向けの食糧など特別配給も「1日おきだった配給が週1回に激減して物資不足が深刻だ」(日朝関係者)。

北朝鮮の配給制度は既に崩壊、住民らは自給自足化して経済は流動化している。最近はこの傾向が党、軍など権力層にまで広がり、「カネが全ての社会だ」(同)とされる。

こうした中、統治資金の枯渇を食い止めるためにも、日朝協議などを通じた海外からの資金獲得が、金正恩体制の緊急命題になっている可能性がある。

困窮しているのは統治のためのカネやモノだけではない。北朝鮮は歴史的干魃(かんばつ)にも見舞われている。「朝鮮各地の農村が100年に1度の大干魃で深刻な被害を受けている」。

朝鮮中央通信は、全国規模の日照り被害をたびたび報じてきた。穀倉地帯で知られる南西部黄海南道(ファンヘナムド)の水田の約80%が干上がった状態といい、韓国統一省は、食糧生産量が昨年比最大2割減少すると試算した。「苦難の行軍」と呼ばれ、200万人超が餓死したとされる1990年代の飢饉(ききん)再来の悪夢もよぎる。

それでも金第1書記は国際社会に門戸を開いて援助を求めるよりも、粛清による国内引き締めに向かっている。秘密警察の国家安全保衛部が、盗聴で高官らの動きを監視、粛清でも大きな役割を果たしたとされるが、その保衛部が日朝協議を主導している。

中国とのパイプ役だった張成沢(チャン・ソンテク)氏の処刑に続き、4月末には、人民武力部長だった玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)氏も処刑されたとされる。

玄氏は処刑直前までロシアとの交渉役を担っていたが、5月の対独戦勝70年式典に合わせた金第1書記の訪露も直前で頓挫し、経済や軍事面でロシアから目に見えた支援を引き出せなかった。

日朝関係者は「北朝鮮は拉致再調査を続ける限り、日本が米国などと連携して対北強硬策に出ることはないとみており、交渉は一定の効果を挙げている」と指摘する。

一方で、「中露という友邦の交渉役さえ粛清される中、“敵国”日本との交渉で、保衛部が責任を問われるリスクを冒してまで拉致問題解決に大きく踏み込むとは考えにくい」との分析もある。【7月3日 産経】
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繰り返される食糧危機 抜本的改善を遅らせる国際援助?】
“歴史的干魃”云々は、毎年のように耳にする感もあります。
敢えて危機を誇張することで、国際支援をできるだけ多く引き出そうという思惑がある・・・といった見方もあるようですが、実際のところ北朝鮮農村部の経済事情がどうなっているのかはよくわかりません。

毎年のように危機が繰り返されるとしたら、それは天候などではなく政治の責任ですが、国際援助がそうした政治の怠慢を結果的に助けているとの指摘もあります。

****北朝鮮の飢餓の元凶は国際援助****
今年は「100年に1度」の干ばつだという北朝鮮、飢饉がなくならない本当の理由

北朝鮮の国営メディアによれば、今年の干ばつは「100年に1度」のひどいものだとか。現にユニセフ(国連児童基金)も、安全な飲み水の不足で北朝鮮の子供たちが下痢に苦しんでいると報告している。

でも、それはおなじみの光景だ。あの国では食糧不足や大規模な自然災害が、年中行事のように頻繁に訪れている。07年夏には近年で最悪レベルの洪水に襲われ、数十万人が家を失い、少なくとも数百人が死亡した。昨年の6月には「10年に1度」の干ばつがあったばかりだ。

なぜ、そんなに非常事態が繰り返されるのか。北朝鮮が自然災害を克服できず、国民に十分な食糧を提供できないのは、国の政策が悪いからだ。

北朝鮮では90年代に大飢饉が起き、経済の崩壊で数十万人が餓死したが、それでも政府は建国以来の「主体」思想に基づく食糧自給政策を変えずにきた。

だが現実には、90年代半ば以降、北朝鮮の食糧供給には外国からの援助が不可欠になっている。今年も例外ではなく、国際社会は疲弊した国民を救うために、追加の資金を出して北朝鮮に食糧を送ることになる。

だが長い目で見ると、こうした援助は変化の妨げになる。北朝鮮は経済政策の抜本的見直しを怠り、食糧生産は「お天気頼み」のままだろう。

食糧不足の元凶は時代遅れの自給政策だ。市場経済がうまく機能し、貿易が自由な国であれば、干ばつが予想されたら食糧の輸入を増やせばいい。北朝鮮ではこれができない。

確かに、経済体制の近代化や外資の誘致を試みたこともある。だが国境を開こうとはせず、モノと情報が自由に入ってくることを許そうとしない。だから安い労働力を武器に輸出産業を育て、稼いだ外貨で食糧を輸入することもできない。

軍と党に君臨する金正恩(キム・ジョンウン)第1書記は時に経済自由化のそぶりを見せる一方で、国境を越えた密貿易の取り締まりに躍起になっている。

「天災」と呼ばれるものの常として、北朝鮮を襲う干ばつや飢饉のほとんどは人災だ。それでも政府が安泰でいられるのは、情け深い国際社会の人道援助があるからだ。【7月28日号 Newsweek日本版】
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“政府が安泰でいられるのは、情け深い国際社会の人道援助があるからだ”・・・・そういう側面もありますが、さりとて飢えに苦しむ人々を見捨てる訳にもいきませんので、難しいところです。

1%成長? 1人当たりGNIは15万円程度?】
北朝鮮の経済事情は実際どのようになっているのか?
北朝鮮は国際比較に耐えうる経済統計を発表していませんので、わからないとしか言いようがありません。

もちろん、推測は行われています。

****2014年度の北朝鮮経済は「1%成長」だった? 金正恩政権が本格化して以降は成長幅縮小****
2014年度の北朝鮮の経済成長率は、前年比で1.0%増――。そんな統計が発表された。

韓国の中央銀行・韓国銀行は7月17日、「2014年北韓(北朝鮮)経済成長率推定結果」を発表、1%成長となった理由として、農林水産業や鉱工業の成長の勢いが鈍化したが、建設業が建設ブームで成長の勢いが加速、サービス業の成長も増加していること上げている。

韓国銀行の統計によれば、2006〜2010年までマイナス成長が続いた後、2013年は前年比で1.1%、2012年は同1.3%と、2011年からは経済成長率がプラスを維持している。ちなみに、韓国の経済成長率は、2014年は3.3%だった。(中略)

韓国銀行はまた、北朝鮮の国民総所得(名目GNI)について34.2兆ウォンとし、韓国の44分の1規模としている。1人当たりGNIは138.8万ウォンで、これも韓国の21分の1規模と推算している。米ドル換算では1200ドル、日本円で14万8300円程度だ。(中略)

また、貿易規模も韓国と北朝鮮の南北貿易額は、2014年に23.4億ドルと集計されている。上に上げた貿易総額の約3分の1規模を韓国が担っていることになり、核開発や人道上の問題を理由に経済制裁を継続、あるいは求める声が強いものの、実際には韓国と中国が北朝鮮の経済活動を支えている姿も浮かび上がってくる。

ただ、韓国銀行が発表した今回の統計は、北朝鮮内のおおよその産業動向と経済状況がこの程度ということを理解するには有効だろう。(後略)【7月24日 東洋経済online】
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労働者海外派遣による賃金を国が搾取
こうした数字がどの程度信頼できるかは・・・・わかりません。

いずれにしても、経済が非常に低いレベルに停滞していることは間違いないでしょう。
外資を受け入れ、安い労働力を武器に輸出産業を育て、稼いだ外貨で食糧を輸入する・・・・というのが通常とられる施策ですが、北朝鮮の場合はこれを行っていません。

というか、北朝鮮が外資導入を求めても、北朝鮮の閉鎖的・独善的政治のせいで、そうしたことが可能となるような政治・経済・社会環境が整っていません。

代わりに北朝鮮が行っていることと言えば・・・・

****マレーシアに北朝鮮労働者287人 炭鉱では死者も、外貨獲得へ賃金搾取か****
マレーシアの炭鉱などで、北朝鮮からの出稼ぎ労働者287人が働いていることが22日分かった。

経済制裁下にある北朝鮮は、外貨獲得手段として労働者の海外派遣を積極的に進めているが、賃金のほとんどは本国で金正恩(キム・ジョンウン)体制に吸い上げられているとみられ、人道上の懸念も浮上している。

北朝鮮労働者の問題は、マレーシア国会議員のオン・キアン・ミン氏が、5月18日に開会した国会で政府に質問し、人的資源省から6月17日付で現況に関する答弁書を受け取った。それによるとサラワク州の炭鉱1カ所、建設現場3カ所で北朝鮮労働者計348人分の労働許可が発行され、287人が就業していた。

経済発展が続くマレーシアでは、危険な職種への就業希望者が減少し、企業は外国人出稼ぎ労働者への依存を深めている。

一方、労働政策の権限は各州に与えられており、北朝鮮から労働者を受け入れているのはサラワク州だけという。同氏は、なぜサラワク州政府があえて北朝鮮からの労働者を採用しているのか疑問を提起。州政府と北朝鮮政府の間で、何らかの「特別な取り決め」があった可能性があるとして、追及していく姿勢を示している。

サラワク州セランティクの炭鉱では昨年11月に爆発事故があり、北朝鮮、ミャンマー、インドネシアからの労働者計4人が死亡した。

報道によると、この炭鉱の労働者は計119人で、国籍は北朝鮮が49人と4割以上を占めていた。他の労働者もミャンマー、インドネシア、中国、バングラデシュなど、全て外国人だった。

北朝鮮による海外への出稼ぎ労働者の派遣は1980年代に本格化し、金正恩体制発足後にいっそう活発化している。人権活動団体は2012年の6万5千人から10万人に増えているとし、中でも東南アジアと中東にはそれぞれ1万5千人がいると指摘している。

北朝鮮人労働者は各地で本国の関係者などに厳重に監視され、劣悪な条件で働かされているとされ、強制労働などを禁じた国際労働機関(ILO)の条約に違反している可能性も指摘されている。

また、賃金の大半は本国政府に搾取されているとみられ、オン・キアン・ミン氏は「賃金の支払先が労働者なのか、北朝鮮政府の傘下にある企業なのか解明していく」としている。【7月23日 産経】
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****動画:平壌スタイル? 北朝鮮のガールズバンド、中国で演奏****
中国の北朝鮮との国境付近の街で、北朝鮮の平壌からやってきたガールズバンドが演奏している。

長らく北朝鮮プロデュースのレストランやアジアのバンドが提供してきた奇抜さではなく、純粋なエンターテインメントを提供することで、外交的に孤立した北朝鮮は、のどから手が出るほど欲しい外貨を獲得する構えだ。6月24~26日撮影。【7月24日 AFP】
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人民を輸出して、その稼ぎを搾取することで外貨を手にする・・・いつまでこんなことを続けるつもりでしょうか。
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台湾  中国軍部隊が台湾総統府に酷似した建物を攻撃する軍事演習の中国TV映像が問題化

2015-07-24 22:48:55 | 東アジア

(中国軍が軍事演習で台湾総統府と外観がそっくりの建物を攻撃の標的にしたと報じた23日付の台湾各紙(共同)【7月24日 中日新聞】 たしかに写真の建物は台湾総統府に酷似しています。)

野党有利の情勢の次期総統選 中国は台湾取り込みに腐心
台湾では来年1月に総統選が行われます。

中国と一線を画する姿勢が強い野党・民進党の蔡英文(ツァイインウェン)主席(58)に対し、与党・国民党は19日、立法院副院長(国会副議長)の洪秀柱(ホンシウチュー)氏(67)を候補者に決定し、女性対決となりました。

洪秀柱氏は中国寄りの言動がこれまで目立つ人物ですが、苦戦が予想されています。

****台湾総統選、国民党は洪氏 民進・蔡氏と女性対決 「第3の候補」に注目****
・・・・国民党は昨年11月の統一地方選で惨敗し、強い逆風にさらされる。

これまでの総統選では有力者が早くから候補者の地位を固めていたが、今回は朱立倫(チューリールン)主席や王金平(ワンチンピン)・立法院長らが立候補を見送り。「2軍」とも評された洪氏が予想外の勢いを得て公認要件を満たし、候補者になった。

洪氏は、国民党支持者の中でも中国とのつながりを重視する熱心な支持者の間で人気が高い。だが、公認要件審査の段階であった勢いは、かげりを見せている。

国民党は、中台が「一つの中国」の原則を確認しつつ、その中身はそれぞれが述べ合うと台湾側が主張した1992年の中国とのやりとりを「92年コンセンサス、一中各表」として対中政策の核心に据える。

ところが洪氏は当初、「一中同表」という言葉で、中台はともにより大きな全体中国に属するという考えを訴えた。党の立場を超えた「統一派」だとみる警戒感が強まった。

党内からも反発が出て、洪氏は「一中同表」と言わなくなった。今回の党大会では92年コンセンサスを盛り込んだ政策綱領を採択し、洪氏も順守を表明した。

だが、国民党立法委員の一人は「指導者にふさわしいか疑問。このままだと大変なことになる」と語る。国民党は大会直前、党批判を繰り返していた立法委員ら5人を除名。不満の押さえ込みに躍起だ。(後略)【7月20日 朝日】
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洪氏の支持が盛り上がらない一方で、台湾省長などを務めた元国民党の大物政治家で立候補を模索しているとされる「第3の候補」親民党の宋楚瑜(ソンチューユイ)主席(73)に国民党票が流れる可能性もあると言われています。

有利な戦いが予想されている野党・民進党は「一つの中国」という「92年コンセンサス」を正式には認めていませんが、蔡英文主席は6月の訪米で対中政策の「現状維持」を強調し、独立志向の強い民進党政権に戻ると中台関係が不安定化するかもしれないというアメリカの懸念を払拭したとされています。

いずれにしても、台湾世論の「現状維持」(経済的には中国との関係を維持しながら、政治的には中国と一線を画する)志向は強く、国民党にしても、民進党にても、「現状維持」の大枠から踏み出すことは当面ないでしょう。

ただ、もともと独立志向の強い民進党政権になれば中国にとって台湾との関係が今以上に難しくなることが予想されます。

中国としては、なんとか台湾を取り込みたいという思惑から、「対日共闘」を呼びかけて国民党への“ラブコール”を送るような動きも見られます。

****台湾取り込み狙う中国 「対日共闘」を呼びかけ、国民党軍の功績を再評価****
中国の習近平政権が、1937年から45年まで続いた日中戦争で、国民党軍が果たした役割への積極的な評価を強調しはじめている。歴史認識問題などで日本政府に対する批判を強めるなか、「対日共闘」を呼びかけて台湾の与党、国民党を取り込む思惑がありそうだ。

「戦争の勝利は中華民族のすべての子孫が血を浴びながら奮戦して得た。勝利は中華民族がともに記念し銘記すべきものだ」

中国外交部の華春瑩報道官は6日の定例記者会見で、抗日戦争を主導したのは共産党か国民党かと問われ、こう答えた。国民党軍も日中戦争の主役だったことを認めた形だ。

中国当局は長年、「抗日戦争の主役は共産党軍」と国内外に宣伝してきた。教科書や映画、テレビドラマなどを通じ、「共産党軍が日本軍と戦った際、国民党軍は後方に隠れてほとんど何もしなかった」と国内外に宣伝してきた。

しかし昨年あたりから、政府関係者が公の場で国民党軍の功績をたたえる場面が増えている。
原因について中国の台湾問題専門家は、「最近、台湾で中国の強引な拡張姿勢に反発する感情が高まっていることを踏まえ、中国は歴史上の功績を高く評価することで国民党にラブコールを送る意味もある」と分析する。

この専門家は「日中戦争で国民党が戦場で大きな役割を果たしたことは事実であり、それを証明する史料がインターネットなどを通じて出回っている。いまさら隠しきれなくなった」とも指摘した。

共産党関係者によると、9月3日に北京で行われる反ファシズム戦争勝利70周年の軍事パレードに国民党の元軍人が大勢招待される予定。習近平国家主席が直接会い、貢献をたたえるという。【7月7日 産経】
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中国軍兵士が台湾総統府に突入?】
中国が台湾への配慮に腐心するなかで、台湾世論の神経を逆撫でするような報道が。
中国中央テレビ(CCTV)で先日放送された軍事ニュースのなかで、特殊戦闘部隊の戦闘員が台湾総統府そっくりの建物をターゲットとした演習を行う様子が3分間にわたって流されたとのことです。

****台湾総統府制圧を想定か=中国軍の市街戦演習****
23日付の香港各紙によると、中国国営中央テレビは、中国軍部隊が市街戦の演習で台湾総統府に酷似した建物を攻撃する映像を放映した。台湾問題を武力により解決する状況下で、特殊部隊などが総統府を制圧する事態を想定しているとみられる。

21日付の中国軍機関紙・解放軍報によれば、演習は北京軍区の部隊が内モンゴル自治区の市街戦訓練場で実施した。演習の攻撃部隊は、敵側首脳の排除を意味する「斬首行動」に成功したとされている。

中台双方は22日、それぞれの立場を表明し、中国国防省報道事務局は中国メディアに対し「定例の軍事演習であり、特定の目標を想定したものではない」と強調。

一方、台湾国防部(国防省)報道官は「台湾住民や国際社会が受け入れられることではない」と批判した。【7月23日 時事】 
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台湾では来年1月に総統選を控え、中国が武力制圧をちらつかせる形で牽制したとの受け止めも出ているようです。
ただ、そうした威嚇が中国への反感を強めることにしかならないことは、過去の“失敗例”でも明らかです。

“中国側の失敗事例としては、1996年に実施された台湾初の正副総統の直接民選選挙時に、台湾近海でミサイル演習を実施したことある。台湾世論の反発を招き、中国が嫌う「李登輝総統」が予想以上の高得票で当選した。”【7月23日 Searchina】

どうしてこの時期に、こうした“無神経”な映像が流れたのは不思議でもありますが、中国側は火消しに躍起のようです。

****台湾「てんやわんや」の大騒ぎ!・・・・中国の軍事演習で総統府がターゲット!? 中国政府が慌てて否定=中国メディア****
・・・・記事は、台湾における騒動に対して大陸の国防部が22日に「年次の定例軍事演習であり、特定の目標を狙ったものではない」と否定したことを紹介。

さらに、匿名のアナリストが「台湾メディアが映像の建築物を総統府と伝えたのは、完全に独り善がり。こんな話はそもそも存在しない」と評したこと、演習が行われている基地を訪れたことがあるという人物が「都市作戦演習用の建築物などはあるが、台湾総統府を模した建物はなかった」と語ったことを併せて伝えた。【7月24日 Searchina】
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政権指導部のコントロールがどこまで及んでいるのか?】
“軍が「台北市内での市街戦」の訓練をしてもおかしくない。ただし、軍事関連の情報は外に出さない場合も多い。しかも中国は、当局による報道管制のある国だ。”【7月23日 Searchina】と、台湾を刺激するこのような映像が流れた理由を訝る向きがあります。

中国は、こうした「なぜこんなことを・・・・」と思われるような行動を起こすことがときどきあります。

7月17日ブログ「中国 人権派弁護士一斉拘束 経済減速下の民衆不満拡大への危機感 『指導者の看法(見方)』が優先」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150717)で取り上げた人権派弁護士一斉拘束にしても、9月に予定される習近平国家主席の訪米を考慮すれば、アメリカ側に格好の批判材料を与えるものでもあります。

これについては、党中央がコントロールしきれておらず、治安機関が暴走したもの・・・との見方もあります。

****突然の「弁護士狩り」と株価騒動の因果関係****
・・・・「劉暁波」という失敗例
今回の一斉摘発は中国政府にとって微妙なタイミングで行われた。9月に習近平国家主席の訪米を控えており、オバマ政権がその際に今回の事件をやり玉に挙げる可能性があるからだ。

中国政府があえて米中関係に波風を立てるような選択をしたのは、直前に起きた上海・深川株の乱高下と無関係ではなさそうだ。

「空売り」で暴落を引き起こした投資家まで摘発して見せしめにしたのは、9000万人といわれる国内投資家の動揺
を抑え、社会不安につなげないためだ。

公安当局には社会不安を招く事態が起きたとき、締め付けのため摘発する「要注意人物」を段階的に抽出したリストが存在するといい、今回の弁護士摘発もその一環である可能性がある。

中国の政府機関も往々にして縦割りで互いに連携しない。公安当局は訪米を担当する中国外務省の意向に配慮せず、半ば自らの点数稼ぎのために摘発にいそしむ。

「習は今回の動きを完全にコントロールし切れていない」と、中国の人権と弁護士事情に詳しい東京大学の阿古智子准教授は言う。「社会が不安定化したとき、公安機関は『自律的に暴走』することがある」

前例がある。09年は、08年の北京五輪に向けて続いた好景気がいったん収束し、世界金融危機の余波で経済の失速が懸念された年たった。

公安当局はこの年、民主活動家で作家の劉暁波の逮捕・起訴を強行。しかしそれがあだになり、劉は10年にノーベル平和賞を受賞した。彼は中国の人権弾圧の象徴的存在になり、共産党政府は今もマイナスイメージに苦慮している。

公安当局のやり方がいつもうまくいくわけではない、ということだ。【7月28日号 Newsweek日本版】
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同様に、“軍の行動を政権指導部がコントロールしきれておらず・・・”といった説明がなされることもしばしばあります。

更には、指導部へ反感を持つ勢力が、敢えて指導部が困るような事態を引き起こしている・・・といった類の指摘がなされることもあります。

指導部の指示・了承があったのか、政府機関や軍が縦割りで互いに連携しない結果なのか・・・実際のところはよくわかりません。

話を台湾に戻すと、今回の中国軍兵士が台湾総統府に「極めて似ている」建物を攻撃し、突入する映像が流れたことは、中国にとってマイナスにしかならないでしょう。

台湾の学習指導要領の改定 「中国色」が問題化
台湾では、高校の学習指導要領の改定をめぐっても「中国色」が問題となって騒動が起きています。

****中国色」強い教科書に抗議 台湾、学生らが政府庁舎を占拠 33人が拘束****
台湾の馬英九政権が進める高校の学習指導要領の改定をめぐり、「中国色」が濃いとして改定指針に反対する学生らが23日深夜、教育部(文部科学省に相当)の庁舎に侵入し、学生24人を含む33人が拘束された。

台湾では与野党間の歴史認識の違いから、過去の改定でも政治論争が発生。今回の改定は8月から施行される予定で、今月に入り反対を訴える野党支持者らの行動が過熱していた。

報道によると、学生らは、学習指導要領の改定をめぐる23日の座談会に、教育部長(文科相)が出席しなかったことに反発。警察官の警備網を突破して敷地の塀を乗り越え、部長室を一時占拠した。学生らの排除時に現場で取材していた台湾紙、自由時報などの記者3人も一時拘束された。

改定版は、歴史分野で「日本統治」を「日本植民統治」に、「慰安婦」の表現を「強制されて慰安婦にされた」とそれぞれ変更。戦後の中国国民党による台湾統治の始まりを、台湾の「接収」から祖国復帰のニュアンスが強い「光復」に変えている。

また、「中国」の表現をすべて「一つの中国」原則に従って「中国大陸」に変更するなど、中国的な要素が強まり、台湾に関する内容が薄まっている。

改定は文字の誤りの訂正など「微修正」としていたにもかかわらず、「台湾史」では字句の「6割」(聯合報)が変更されたことや、当局が審査過程の議事録公開を一時、拒んだことも反対派の不信感を増幅した。【7月24日 産経】
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学習指導要領が政治問題化するのは日本でも同じですが、中国関連の記述を大幅に増やし、「中国色」が濃いとされる今回改定について、野党・民進党は「戒厳令下の『大中国史観』に回帰している」などと批判しています。
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激化するISとクルド人勢力の戦闘 トルコ領内でもクルド人標的のISのテロ、PKKの政府への報復

2015-07-23 22:44:22 | 中東情勢

(トルコ南東部シャンルウルファ県シュリュジュで起きたISによるテロの犠牲者の棺を運ぶ人々、おそらくクルド人でしょう。 【7月21日 bloomberg】)

イラン核問題合意でシリア情勢は?】
イラクでは、昨日ブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150722)で取り上げたように、ラマディ奪還を目指すイラク政府軍に対し、「イスラム国(IS)」は首都バグダッドへのテロ攻撃を強める情勢にありますが、シーア派とスンニ派の宗派対立によってISの動きを封じ込めることができない状況とも言えます。

一方、シリアの方は、イラク以上に各派入り乱れて混沌とした様相を呈しています。

全体としては、6月9日ブログ「もつれるシリア情勢  欧米が支援する穏健派とアルカイダ系の共同戦線に、政府軍とISが共同作戦で対抗」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150609)でも取り上げたように、ひところに比べるとアサド政権側が劣勢に立つ状況も見られます。

ただ、イラン核問題合意で、制裁を解除されて資金的に息を吹き返すイランがこれまで以上にアサド政権支援を強化すれば、また異なる展開もあり得ます。

シリア・アサド大統領は、今回合意を称賛し、イランの支援強化を期待しています。

****シリア:アサド大統領「イランからの支援増を確信****
シリアのアサド大統領は14日、イラン核協議の合意に関連し「イランが正義ある人々への支援を増やすと確信している」と述べた。

国際社会による経済制裁緩和を見据えて、イランからの支援強化を期待する発言だとみられる。国営シリア・アラブ通信が報じた。

アサド氏は「イランの歴史的な転換点になる。不当な経済制裁に屈せず、自らの(原子力)研究の成果を守る姿勢を貫いたことが成就した」と評価した。【7月14日 毎日】
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また、アメリカが期待するような対ISでのイランとの協調が実現すれば、シリア情勢も変化します。

****中東の宗派戦争は激化する****
・・・イランはかねてから、シリア内戦に独自の解決策を提案していた。

シリアのあらゆる勢力に「テロ組織との戦いを最優先」するよう呼び掛け、休戦が実現したらアサド政権と反体制派が協力して暫定政府を樹立。情勢が安定した時点で大統領選を実施して平和裏にアサドが退陣する、というシナリオだ。(後略)【7月28日号 Newsweek日本版】
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イランだけでなく、反政府勢力を支援してきたアメリカも本音では歓迎する提案でしょう。
個人的には、イラン提案でシリア内戦が収束するならそれでいい・・・とも思いますが、“アサド憎し”の一点で行動している反政府勢力は乗ってこない案でしょう。

ISへの攻勢で支配地を拡大するクルド人勢力 反攻するISは化学兵器使用も
そうした混迷するシリア情勢にあって、クルド人勢力がISへの攻勢を強めています。

****シリア内戦と対IS カギを握るヌスラ戦線とクルド人部隊****
・・・・・シリアのIS部隊は現在、中部の要衝パルミラ(世界遺産の遺跡の町として知られる)を制圧すると同時に、ダマスカスやホムスなど中心部の都市部の郊外まで勢力を伸ばしているが、その代わり北部戦線では劣勢にある。

6月半ば、トルコ国境のテルアビヤドで、クルド人部隊「人民防衛隊」(YPG)の攻撃にあっさりと退却。国境エリアを明け渡したのだ。

これまでYPGは、シリア北部で西からイドリブ県の飛び地と、アレッポ県コバニを中心とする制圧エリア、ハサカ県ハサカを中心とする北東部の制圧エリアに支配地が3分されていたが、テルアビヤドの奪取でメインの2地域を繋ぐことに成功。トルコ国境エリアを広く支配することとなった。

ISはトルコ国境の検問所を、1か所を除いてすべて失ったことになり、トルコ経由での戦闘員の出入りや、物資の補給に問題が生じてくる可能性がある。

なお、YPGはその勢いでテルアビヤド周辺で支配地を急速に拡大している。ISの本拠地であるラッカ市から数十キロ地点まで攻め入っている。それに対し、ISは前線から部隊をラッカ防衛に呼び戻している模様だ。

ただ、ISは防戦一方なだけではなく、ハサカ市ではYPGやアサド政権軍に対して攻撃を仕掛けている。ISの戦力は全体的には落ちておらず、YPGとの死闘は今後も続くだろう。

もっとも、YPGの勢力拡大で、新たな緊張も生まれている。シリアの他の反体制派との緊張だ。というのも、もともとシリアではクルド人とアラブ人には心理的な距離があるという背景がある。

YPGは反体制ゲリラというよりは、明確に民族独立ゲリラであって、YPGが支配を広げたエリアに居住するアラブ人住民の間には、クルド人によって迫害されるのではないかという警戒感も生まれている。

YPGは対ISの戦闘でアメリカや国際世論を味方につけたが、支配エリアでどのような態度をとるかが注目される。(後略)【7月18日 The PAGE】
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IS側のクルド人勢力への反撃も過激化しており、化学兵器の使用も報じられています。

****イスラム国」化学兵器使用か=シリアとイラクのクルド人勢力に****
過激派組織「イスラム国」が6月、シリアとイラクのクルド人勢力に対して化学兵器を使用したと在英のシリア人権監視団などが主張している。ロイター通信などが18日伝えた。

これまでも「イスラム国」が化学兵器を使用していると証言はあったが、専門家からは、自家製造に成功し今後は「イスラム国の新戦術」として採用されていく恐れが指摘されている。(後略)【7月18日 時事】
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“2回はISISとクルド人部隊が激しい戦闘を展開したシリア北部で、残る1回はイラク北部モスルのダム付近にあるクルド人の拠点近くに着弾した不発弾に、それぞれ化学兵器が使われたとされる。・・・・砲弾から漏れ出た濃い黄色の液体が強烈な異臭を放っていて、近付いた調査員は頭痛や吐き気などの症状を訴えた。これは塩素系薬品の中毒症状と一致するという。”【7月20日 CNN】

トルコ政府とクルド人勢力の間にくさびを打ち込むIS
更にISは、トルコ領内のクルド人勢力が管理する施設へのテロ攻撃を行っています。

****対シリア国境の町で爆発、30人死亡=「イスラム国」の犯行か―トルコ****
トルコからの報道によると、シリア国境に近いトルコ南東部シャンルウルファ県シュリュジュの文化センターで20日昼、爆発が起き、少なくとも30人が死亡、100人が負傷した。

エルドアン大統領は「野蛮なテロ行為の犯人を非難する」と語った。

AFP通信によると、トルコのダウトオール首相は記者会見で、過激派組織「イスラム国」による自爆テロとの見方を示した。

爆発は文化センターの庭で発生した。センターには当時、近接するシリア北部のクルド人の町アインアルアラブ(クルド名コバニ)で復興支援を行う青少年プログラムに参加する300人以上が滞在していた。

事件を受け、ダウトオール首相は、クルトゥルム副首相やウストゥルク内相を現地に派遣。内務省は声明で、国民に「結束し、冷静さを保つよう求める」と訴えた。

文化センターはシュリュジュの町営で、クルド系政党・国民民主主義党(HDP)の管理下に置かれている。【7月21日 時事】 
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犯人は、2か月前に初めてISと関わりを持つようになったとされる20歳のトルコ人男性と報じられています。

かねてよりトルコのクルド人は、エルドアン政権がISに対して宥和的であると批判しており、コバニ(アイン・アル=アラブ)包囲戦でISに攻撃されるクルド人をエルドアン政権が見捨ててなかなか動こうとしなかった・・・という失望感から、先の総選挙でクルド人政党の躍進、エルドアン与党の敗北という結果にもなっています。

一方、IS側からすれば、コバニ包囲戦は、トルコ政府が“最終的”にはクルド人側に協力したことでISの敗北に終わった・・・との認識があり、今回のトルコ領内でのクルド人施設攻撃はトルコ政府とクルド人勢力の間に改めて楔を打ち込む狙いがあると指摘されています。

そうしたISの狙いどおりとも言える、トルコ政府のISへの消極姿勢を批判するクルド人側の反応がすでに起きています。

****IS自爆攻撃」の報復で警官殺害、クルド人組織が犯行声明 トルコ****
トルコ南東部のシリア国境近くの町ジェイランプナルで22日、警察官2人が他殺体で見つかり、トルコのクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」が犯行声明を出した。

シリア国境に近い南部の町シュリュジュで20日に起き32人が死亡した、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」によるとされる自爆攻撃への報復だとしている。

PKKの軍事部門とされる「人民防衛軍(HPG)」は、ウェブサイトで声明を公開し、警察官2人がISに協力したと非難、「シュリュジュでの虐殺への報復として、処罰を下した」と主張した。(中略)

ジェイランプナルでのPKKによる警官の殺害事件を受け、シリアでのクルド人とイスラム国との戦闘がトルコ領土に波及しつつあるとの恐れが高まった。

首都アンカラでは、アフメト・ダウトオール首相が、シリアとの国境付近の警備強化に向けた行動計画を討議するため閣僚会議を召集した。【7月23日 AFP】
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アサド政権に敵対し、また、イスラム主義を強めているエルドアン政権にとっては、本音で言えば、ISなどより国内で分離独立の武装闘争を行ってきたクルド人勢力PKKの方がはるかに憎むべき敵であり、シリアでISと戦うクルド人勢力YPGはそのPKKと共闘関係にあります。

クルド人だけでなく、アメリカなどからも国境管理を強化してIS封じ込めに親権に取り組むように圧力を受けているトルコ・エルドアン政権ですが、今回事件でクルド人勢力との関係が悪化すれば、その実質的なIS支援の姿勢が強まることも考えられます。

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ISのテロ(及びトルコ政府の責任)を非難する抗議デモが21日、イスタンブール始めトルコの多くの都市で行われ、イスタンブールでは48名が拘留され、その他の都市でも多数が拘留されたとのことです。
又警察は、抗議に対して催涙ガス、放水で対抗した由。

これに対して、与党AKP副党首は、ISもクルド労働者党もともにテロ組織であり、トルコとしては双方と戦っていくと語った。

更に、警官2名の暗殺を非難して、テロには良いテロも悪いテロもない、と語った。【7月23日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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イラク  ラマディ奪還を目指す政府軍に対し、ISは首都バグダッドへのテロ攻撃を強める

2015-07-22 22:03:55 | 中東情勢

(ラマディから首都バグダッド郊外に避難してきたスンニ派住民。4月撮影【5月19日 ロイター】 こうした避難民のなかには、ISの潜伏要員として首都へ潜入し、攻撃をうかがっている者も多いでしょう)

【「奪還は目前に迫っている」(5月末 アバディ首相)とは言ったものの・・・
過激派組織「イスラム国(IS)」は、去年6月10日、イラク北部の都市モスルに攻め込んで僅か1日で制圧し、これを機に北部や西部で一気に支配地域を拡大させたほか、隣国のシリアでも勢力を広げ、一方的にイスラム国家の樹立を宣言しました。

これに対し、イラク政府軍はことし4月、ISとの激しい戦闘の末、北部の主要都市ティクリットを奪還。
ISの勢いにかげりが見え始め、モスルの奪還にも期待が高まりましたが、逆にISは5月、西部アンバール県の中心都市ラマディを制圧したほか、シリアでも中部のパルミラに侵入するなど、攻勢を強めています。【6月10日 NHKより】

ラマディがISに制圧された件については、5月27日ブログ“イラク ラマディ敗退の「真相」で噴出す疑問  イラクの真の敵は宗派間対立と権力争い”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150527)でも取り上げたように、イラク軍に戦う意志が欠如していた(カーター米国防長官回)とか、マリキ前首相(現在も副大統領)の意向を受けて、アバディ政権を揺さぶるために主力部隊が意図的に撤退したとか、いろいろな話も出ていました。

イラク政府軍のモスル奪還は遠のき、まずはアンバル州・ラマディの奪還が急務となっています。

“イラク政府は5月26日、西部アンバル州から過激派組織「イスラム国」(IS)を駆逐する新たな軍事作戦の開始を宣言した。アバディ首相は州都ラマディについて「奪還は目前に迫っている」とする声明を発表。動員を控えてきたイスラム教シーア派民兵を前面に出す。”【5月27日 朝日】

しかし、スンニ派住民が多いアンバル州での作戦は進んでいません。
7月に入り、再度仕切り直しのようにアンバル州・ラマディの奪還を目指す軍事作戦を展開しています。

****イラク西部奪還へ政府軍が大規模作戦****
過激派組織IS=イスラミックステートが支配下に置くイラク西部で、政府軍が奪還に向けた大規模な軍事作戦を開始し、自爆攻撃などで抵抗するISとの間で激しい戦闘が続いています。

イラクではことし5月、過激派組織ISが首都バグダッドから西におよそ100キロの位置にあるアンバール県の中心都市ラマディを制圧し、西部の広い地域を支配下に置いています。

奪還を目指し、戦略の見直しを進めていた政府軍は13日、声明を出し、バグダッドとラマディを結ぶ幹線道路の中間に位置する主要都市ファルージャで大規模な軍事作戦を開始したことを明らかにしました。

ファルージャの一帯はISと同じイスラム教スンニ派の住民が多く、シーア派主導の政府に対する反発が根強い地域ですが、政府軍は補給路などを遮断して住民を引き離し、ISの孤立化を図るとともに、戦闘能力の高いシーア派民兵組織を投入して作戦を進めています。

これに対しISは、政府軍から奪った兵器などで守りを固めているとみられ、車を使った自爆攻撃やロケット弾などで抵抗し、激しい戦闘が続いています。

イラク軍は兵士の訓練が遅れているうえ、武器や装備品も不足していますが、13日にはアメリカから購入したF16戦闘機4機が到着するなど態勢を整えていて、今後、ラマディを含むアンバール県でISに対する攻勢を本格化させるものとみられます。【7月14日 NHK】
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ファルージャはかつてアルカイダ系勢力とアメリカ軍が激しく争った地域でもあり、シーア派民兵に頼る政府軍の作戦は困難も予想されます。

アメリカなど有志連合もイラク政府軍のアンバル州奪還を支援する爆撃を強めています。

****イラク州都を集中爆撃=米軍など****
過激派組織「イスラム国」掃討を進める米軍主導の有志連合の司令部は13日、イラク中西部アンバル州の州都ラマディ近郊で12日に29回の空爆を実施したと発表した。

イラク国内で12日に行われた空爆計39回のうち、約4分の3がラマディ周辺に集中した。現地からの報道によれば、イラク政府軍や民兵部隊は13日、同組織が拠点の多くを押さえるアンバル州の解放に向け攻勢に入ったとされる。有志連合の空爆は、政府軍の前進を支援する狙いがあるもようだ。

発表によれば、空爆により同組織の部隊集結拠点67カ所に打撃を与えたほか、重機2台、装甲兵員輸送車など車両2両を破壊したという。【7月14日 時事】
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テロ攻撃にさらされる首都バグダッド
しかし、イラク政府が西部アンバル州の州都ラマディの奪還のため兵力を首都から西へ動かした隙をつくように、ISは首都バグダダッドでのテロ攻撃を強めています。

****イラクの自爆テロ、死者120人に 氷で買い物客誘う***
イラクの首都バグダッド北郊の市場で発生した自爆テロによる死者は、18日までに120人に達した。実行犯は氷を積んだトラックに買い物客らを呼び寄せて自爆したとみられる。

過激派組織「イラク・シリア・イスラム国」(ISIS)がツイッター上で犯行声明を出した。ISISによるテロの中でも過去最大級の規模とされる。

現場はディヤラ州ハンバニサアドの野外市場。地元警官2人の話によると、17日夜、トラックで現れた男がイスラム教のラマダン(断食月)明けを祝って氷を安売りすると宣伝した。
すでに日没後だったが気温は35℃前後あり、数百人の買い物客らがトラックの周りに集まった。

トラックには氷が積んであるのが見えたが、その下には少なくとも1トンの爆発物が仕掛けられていたという。

ディヤラ州知事によると、爆発による負傷者は140人に上っていて、死者の数はさらに増える恐れがある。

米国家安全保障会議(NSC)の報道官は18日、この攻撃を非難する声明を発表。ISISの撲滅に向け、米国はイラク政府と治安部隊への支援を続けると述べた。【7月19日 CNN】
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氷を安売りを装って人を集め、そこで自爆・・・自爆テロも随分手が込んできました。テロ実行者の覚悟も相当なものです。

バグダッドでの自爆テロは21日にも続いています。

****イラク首都で連続自爆テロ、20人死亡 ISISが犯行声明****
イラクの首都バグダッドで21日、車を使った自爆テロが2件発生し、少なくとも計20人が死亡した。過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が犯行声明を出している。

このうち1件の爆発はイスラム教シーア派住民が多い同市南東部ジャディーダ地区の商店街で発生。少なくとも18人が死亡、43人が負傷した。

同じくシーア派地区の南東部ザファラニヤでも爆発が起き、警察によると2人が死亡、9人が負傷した。

一方ISISの犯行声明は、ジャディーダで40人、ザファラニヤで25人の死者が出たと主張。いずれも「アサイブ・アフル・ハック」または「正義の結社」と呼ばれるシーア派民兵を狙った車爆弾テロだったとしている。

このほかバグダッドの北約55キロに位置するタルミヤの検問所でも車が爆発し、治安要員4人が死亡、20人が負傷した。

バグダッドから東へ約140キロ離れたマンダリでは野外市場で車が爆発。警察と保健当局によると、少なくとも5人が死亡、18人が負傷した。
これらの爆発とバグダッド市内の自爆テロ2件との関連は明らかでない。

バグダッドでは近年、イスラム教のスンニ派とシーア派が衝突を繰り返してきたが、ISISによる目立った活動は報告されていなかった。

21日の自爆テロは、この状況が変化し始めた兆しとも考えられる。ISISは先週も、同市北郊の市場で氷を積んだトラックが爆発、買い物客ら100人以上が死亡した事件で犯行を認める声明を出した。【7月22日 CNN】
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首都バグダッドが脅かされる状況に、“今回のISの攻勢を受け、バグダッド周辺の防衛を優先するよう求める声が高まる可能性もある。”【7月18日 朝日】とも。

敵はISか、それとも・・・・】
ISは、政府軍から奪った兵器などでラマディの守りを固めているとみられ、車を使った自爆攻撃やロケット弾などで抵抗し、激しい戦闘が続いています。

イラク軍は兵士の訓練が遅れているうえ、武器や装備品も不足しています。アメリカによるイラク軍の訓練も進んでいません。

****イラク軍の訓練に遅れ=対「イスラム国」兵集まらず―米国防長官****
カーター米国防長官は17日、過激派組織「イスラム国」と戦うイラク政府軍に対する訓練について、今秋までに2万4000人に施す予定だったが、まだ政府軍兵士と対テロ部隊員計約9000人しか受け入れていないと明らかにした。下院軍事委員会の公聴会で証言した。【6月18日 時事】 
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ただ、イラク・シリアでISの跋扈を許している最大の原因は再三指摘されているように、シーア派・スンニ派の宗派間対立によって、ISを敵とすることへのコンセンサスが得られていないことにあります。

シーア派主導のイラク政府・政府軍とスンニ派住民の対立 シーア派のイラク、アラウィ派のアサド政権、これらを支援することで影響力を拡大するイランに対するサウジアラビアなどスンニ派諸国の警戒感・・・・先ずISを叩きたいアメリカの思惑とはかなりのズレがあり、対IS作戦を妨げることになっています。

イラン核開発問題での合意で、アメリカはIS対策におけるイランの協力を期待しているとも言われていますが、どのように影響してくるかは、今後の話です。
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