5日ほど前TVで、中国ハルビンのサファリパークで放し飼いのトラに生きた牛を餌として与えており、その光景を喜ぶ現地の人たちの様子が批判的に放映されていました。
確かに見たくない嫌な映像でした。
観ながら感じたことが三つありました。
一つ目は、トラが牛を襲うシーンの残酷さ。
二つ目は、それを喜んで見ている観客に対する嫌悪感。
三つ目は、「ほら、中国人ってこんな連中なんですよ。」的なビデオの作り手の優越感みたいなもの。
動物園側は「自然に戻す訓練の一環」という弁解をしているようですが、明らかにこれはお金目当てのショーでしょう。
この件に関してはいろんなところで様々な人が論じています。
もちろん批判的な意見が主流ですが、“反”動物愛護団体的な「殺しあうのは自然の姿だ。それを見せてどこが悪い!」といった意見も思った以上にあるようです。
最近は特に若い人達に反中国感情が強いように思えますが、そのようなグループと反動物愛護団体グループはかなり重なる部分があるようで、2チャンネルなどでも必ずしも中国批判一色という訳でもないのが面白い現象でした。
オーソドックスな意見は「確かに人間は生き物を食べて生きている。でもそれは生きるうえでの必要性によるものであって、今回のようなショーとして殺しあう様を見せ、それを喜ぶのとは全く異なる。このようなショーは野蛮で残酷だ。」といったところでしょうか。
確かにそうなんでしょうが、いろいろなケースについて「あれがよくて、何故これはダメなの?」と考え始めるとよくわからないことが多くあります。
世界には生餌を与えるワニ園、ヘビ園もそう珍しくないようです。
私の住んでいる奄美では「ハブ対マングース」の戦いを見せるところがあって(今でもやっているかは確認していませんが、少なくとも2、3年前はやっていたようです。)、これを写真で紹介しているブログには小学校の先生から「沖縄旅行に行くので、その参考としてこのブログを是非子供達に見せたい」といったコメントが寄せられています。
少なくとも「残酷だ!野蛮だ!」というコメントはないようです。
(沖縄でも以前はありましたが、動物愛護の観点から現在はやっていないと思います。)
今回のショーをめぐる2チャンネルの議論では、牛に剣を突き刺す闘牛がよく比較に出されていました。
食べるにしても“活け作り”“踊り食い”などもあって、嫌う人もいますが「食の伝統文化」として好む人も大勢います。
ショーという観点では、ボクシングやプロレスようなものを喜んで観ることと、今回のショーを喜ぶ人にどれだけの差があるのか?
考えようでは、「殺さないまでも、人間同士が殴りあうのを興奮して眺めるほうが残酷なのでは?」とも言えるのでは?
もちろん、古代ローマの剣闘士の殺し合いショーは現代的価値観では受入れられませんが、当時ローマ市民は興奮してこれを喜んでいました。それも人間性の一面です。
今回のショーにしても、何の予見も与えずに日本人観光客を連れていけば、相当多くの日本人が「凄い!」ってカメラを向けるのではないでしょうか?
そもそも、「食べるために殺すのはOK、ショーはダメ」というのも、ある意味非常に自分達に都合のいい論理にも聞こえます。
殺生を禁じる仏教の教えではそんなことは言っていないのでは。
飢えた虎の親子のために自らの身を投げる“捨身飼虎”の話もありますが、私が一番よく出来た話だと思っているのは釈迦の前身であるとされるシビ王の「鷹と鳩の話」です。
ある日鷹に追われた鳩が王のもとに来ます。王は鳩を助けようとしますが、鷹は「鳩を食べないと自分が飢えて死んでしまう。」と主張します。そこで慈悲深い王は「鳩と同じだけの私の肉をあげよう。」と言います。片方に鳩を乗せた天秤のもう片方に自分の肉をそぎ落として置きますが、いくら乗せてもつりあいません。結局、自分自身が飛び込んでようやく鳩と釣り合いました。鷹は帝釈天の化身で「よく命の大切さがわかったな。」と褒めたそうです。
残酷さ云々については、おそらく身の回りに類似のシーンがあるか否かで捉え方が随分異なるでしょう。
日本では肉はスーパーにパックされた形で並んでいますが、アジアの国々の市場では頭のついた豚や羊が店頭にぶらさがっているのはごく普通の光景です。
日本でも私と同世代なら鶏を絞めた経験のある人も多いかと思います。
私は全くそのような経験はありませんが、よく「首を切り落とされた鶏が庭を走り回っていたよ。」なんて話も聞きます。
また、国によっては、ある祭日には生贄のために殺され皮をはがれる羊などが街中にあふれる・・・といった地域もあるようです。
このようにいろいろ考えていくと、なかなか明確な結論がでません。
そのなかで感じるのは、今回のショーと類似した、あるいは連続延長線上にある事象は多々あって、何を受入れ何を拒否するかは多分に今自分が生活している環境でそれが普段見られる事象か否かという点にかかっているのではないかという思いです。
私自身は「肉がパックされて並んでいる」社会で生活していますので、今回のショーには残酷さを感じますし、今後なくなることを希望しています。
しかし、異なる生活環境にあれば違う感じ方も当然あるでしょう。
これに対し、「民度が低い野蛮人」という反応はいかがなものでしょうか。
また、このような残酷なショーを好む傾向は少なからず自分達を含めて人間一般にあって、スポーツや文化といったオブラートにくるまれた形ではあっても、それらを普段に受入れいている側面も否定できません。
更に「食べるために殺すのはOK、ショーはダメ」といった基準も、そんなに絶対的なものでもないような気がします。
自分を含め「パックされた肉」しか見たことのない者は、一度食用の牛・豚が処理される現場をちゃんと見ることが大切かも。
そのうえで「感謝して食べましょう」となるか「ベジタリアン」になるか(植物も生き物なんですが・・・)は本人次第ということで。
写真は今年正月に旅行したミャンマーの古都マンダレーの市場です。
http://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10118120/