孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ・欧州の高関税政策への傾斜

2024-10-30 22:20:25 | 経済・通貨

(中国・深圳の港から輸出されるBYDの電気自動車(EV)【5月28日 WIRED】)

【関税大好きトランプ大統領】
経済学の教科書は自国産業保護のための関税については、主にその弊害を教えていますが、関税大好きのトランプ前大統領は、再選されれば海外からの輸入品に対して大幅な追加関税を課す考えを示しています。

****トランプ大幅追加関税の実現可能性とその衝撃****
トランプ大幅追加関税は米国・世界経済に甚大な悪影響
共和党の大統領候補であるトランプ氏は、再選されれば海外からの輸入品に対して大幅な追加関税を課す考えを示している。当初、中国からの輸入品には60%の追加関税を課すとしていたが、中国がイランとの貿易を続ければ100%以上の関税を課すとした。

さらに、すべての国からの輸入品には一律に10%の追加関税を課すユニバーサル・ベースライン関税を掲げていたが、最近になって20%へと追加関税の水準を引き上げた。今後、トランプ氏の追加関税の引き上げの考えはさらにエスカレートしていく可能性もあるだろう。

調査会社ウルフ・リサーチによると、現在の米国の平均実行関税率(輸入額に占める関税額の割合)は、中国を除く国からの輸入品で1%前後、中国からの輸入品では11%である。

トランプ氏が掲げる追加関税が実現すれば、中国からの輸入品の平均関税率は現在の5倍以上から10倍以上、その他の国からの輸入品の平均関税率は約100倍から約200倍へと一気に高まる可能性がある。それが、米国の経済と物価に与える影響は極めて深刻だ。

TDセキュリティーズは、すべての国からの輸入品には一律に10%の追加関税を課すと、米国のインフレ率は0.6~0.9%ポイント上がると予想している。20%であればその倍だろう。

さらにトランプ氏が移民を制限する計画であり、それは賃金・物価を押し上げ、成長率を押し下げることが見込まれる。これも加味すると、米国の成長率が1~2ポイント低下するとTDセキュリティーズは予想している。

また英銀大手のスタンダードチャータードは、トランプ氏の追加関税が実施されれば、米国の物価が2年間で1.8%押し上げられると予想する。いずれにせよ、米国のインフレ率の低下基調は損なわれ、米国が景気後退に陥る可能性が高まるだろう。(後略)【8月27日 木内登英氏 NRI】
**********************

トランプ氏は自らを「タリフマン(関税男)」と称しています。大学で関税の経済学的弊害を学ばなかったのでしょうか? 世界恐慌に直面した各国がとった関税などによるブロック経済が第2次世界大戦につながった歴史を学ばなかったのでしょうか?

【バイデン政権も中国製EVへの100%関税
一方、バイデン大統領もことし5月、中国の不公正な貿易からアメリカの労働者を守るためだとして、中国製のEV=電気自動車などへの関税を引き上げる方針を発表しました。
その方針に沿って、9月27日から中国製のEVへの関税は従来(25%)の4倍の100%に引き上げられました。

この決定は、多分に選挙を争うトランプ前大統領を意識したもので、その政策の先取りともなっています。

****中国製EVに関税100%、米国政府の政策は吉と出るのか****
米国が中国製の電気自動車(EV)に100%の関税を課す方針を発表した。米国の自動車メーカーがEVの販売で苦戦し、多くの企業が中国製の原材料に依存するなか、この政策は吉と出ることになるのか。

米国政府が中国製の電気自動車(EV)に対し、異例の関税100%を課すことを5月14日(米国時間)に発表した。この措置は米国の産業を「不当に価格設定された中国からの輸入品」から守るものだと、ホワイトハウスは主張している。これまで中国製EVに対する関税は25%だった。

EV用のバッテリーとバッテリー部品も新たな関税の対象となる。中国から輸入されるリチウムイオンバッテリーへの関税は7.5%から25%に引き上げられ、マンガンやコバルトなどの重要鉱物への関税は0%から25%に引き上げられる。

今回の措置は、バイデン政権が中国製の自動車とその部品に対して講じている一連の対策の最新の施策となる。米国のEV業界は車両の価格のみならず品質でも中国に後れをとっており、慎重な舵取りが求められている状況だ。

専門家によると、EV分野における中国のリードは、車両のソフトウェアやバッテリー、そして特にサプライチェーン開発への長年の投資によるものだという。昨年秋に一時的にテスラを抜いてEV販売台数世界一となった中国の自動車メーカーであるBYD(比亜迪汽車)は、2003年からEVを生産してきた。

一方で、地球規模の気候変動が壊滅的な影響をもたらすという見通しは、米国の自動車業界だけでなく世界全体に広がっている。

米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の運輸部門における自動車用のガソリンとディーゼル燃料の二酸化炭素排出量は、米国のおける昨年のエネルギー関連の二酸化炭素排出量のほぼ3分の1を占めていた。

米国政府が抱えるジレンマ
新たな関税は、米国政府が抱える不幸なジレンマを反映している。米国は持続可能なエネルギー源を増やしたいと考える一方で、持続可能なエネルギー源を非常に多くつくり出している国からの輸入を抑制したいと考えているのだ。

この関税はまた、米国内で独自にEVを開発できるようになるまでのタイムリミットに向け、カウントダウンが始まるという意味でもある。そのためには、より多くの低価格なEVが必要になるだけでなく、それを実現するためのバッテリーやバッテリーのサプライチェーンも必要になるのだ。

あるいは、このカウントダウンは始まらないかもしれない。「タイムリミットへのカウントダウンは10年前に始まっていたのに、米国は後れをとっています。大きく後れをとっているのです」と、ジョージ・ワシントン大学工学管理・システム工学科助教授のジョン・ヘルヴェストンは語る。

EVの開発と政策を研究しているヘルヴェストンによると、今回の関税は中国車との競争から米国を永遠に守るものではないという。「関税によって米国のモノづくりの能力が向上するわけではありません」

この取り組みはうまくいくのだろうか。米国の主要な自動車メーカーを代表するロビー団体「自動車イノベーション協会(AAI)」の会長兼最高経営責任者(CEO)であるジョン・ボゼラは、声明文において楽観的な見解を示している。

「米国の自動車メーカーは、EVへの移行において誰よりも競争力があり、革新を進めることができます」と、ボゼラは主張する。「そのことに疑いの余地はありません。現時点での問題は、その意志ではなく時間なのです」

しかし、たとえ時間がいくらあっても、今後の状況はますます複雑化していくことだろう。米国内で販売する自動車メーカーや自動車部品サプライヤーは、EVやバッテリーの開発に何十億ドルもの資金を投入し続ける一方で、どうやって生き残るかを考えなければならない。また、米国のEV販売台数は増加しているが、その伸びは鈍化している。

一方で、もうひとつの大きな影響力をもつ米国の政策「インフレ抑制法」によって、EVやその他の再生可能エネルギー源の米国内におけるサプライチェーンの構築に何十億ドルも資金が投入されている。しかし、こうした取り組みの実現には何年もかかる可能性があるだろう。

「バイデン政権は綱渡りの政策をとろうとしています」と、バイデン政権でEV政策に携わったケース・ウェスタン・リザーブ大学の経済学教授のスーザン・ヘルパーは語る。「目標のひとつは優良な雇用を提供し、クリーンな生産方式を備えた好調な自動車産業であって、もうひとつの目標は気候変動に対する迅速な対策です。このふたつの目標は長期的には一致するものですが、短期的には対立するものです(後略)【5月28日 WIRED】
**************************

【EUも中国製EVに対する関税を最大45.3%まで引き上げることを決定 独自動車産業は反対】
関税政策の強化はアメリカだけではありません。
中国からアメリカのEV輸出はあまり多くなく、その主力市場は欧州です。その欧州のEU欧州委員会が中国から輸入するEVに対し、中国政府の公的な優遇融資や補助金によって不当に安くなっているとして追加関税の適用を始めると発表しています。

****EU、中国製EVへの追加関税を正式承認...代替案巡る協議は継続****
欧州連合(EU)は、域内諸国で意見が分かれた反補助金調査を終了し、中国製の電気自動車(EV)に対する関税を最大45.3%まで引き上げることを決定した。

従来の10%に加えて7.8─35.3%の関税を徴収する。追加関税は29日に正式承認され、EU官報に掲載された。30日に発効する。

EUの欧州委員会は、優遇融資や補助金、市場価格を下回るバッテリーなどに対抗するため関税が必要だと主張している。

中国のEV生産能力は年間300万台で、EU市場の2倍に相当するという。米国とカナダの関税が100%であることを踏まえると、中国製EVは欧州向けが多い。

中国商務省は30日の声明で「中国はこの決定に賛同せず、受け入れない」と表明。その上で「EU側が価格のコミットメントについて中国と交渉を継続する意向を示唆したことに留意する」とし、「貿易摩擦の激化を回避するため、できるだけ早期に双方に受け入れ可能な解決策」を見いだすことを期待すると述べた。

在EUの中国商工会議所は「保護主義的で恣意的」なEUの措置に深く失望したと表明。関税に代わる措置を模索する協議に実質的な進展がないことにも失望感を示した。

中国はこれまでにEUの関税が保護主義的で、EUと中国の関係や自動車のサプライチェーン(供給網)に影響を与えると指摘し、EU産のブランデーや乳製品、豚肉を対象に独自調査を開始するなど報復とみられる動きを取っている。

今月4日に行われた関税に関する採決では加盟国のうち10カ国が賛成、5カ国が反対、12カ国が棄権した。経済規模が域内最大で自動車の主要生産国であるドイツは反対した。

ドイツ経済省は29日、現在進行中のEUと中国の交渉を支持するとし、EUの産業を保護しながら貿易摩擦緩和に向けた外交的な解決を望むと述べた。

欧州委は関税の代替案を見つけるため、中国と8回にわたって技術的な交渉を行っており、関税導入後も協議継続は可能だとしている。

双方は輸入車に最低価格を設ける案などを検討しており、さらなる交渉を行うことで合意した。ただ、欧州委は「大きな隔たりが残っている」としている。【10月30日 ロイター】
*******************

ドイツの基幹産業たる自動車産業は、今回関税が中国側の報復を呼び、ドイツ自動車産業にとって死活的に重要な中国市場を失うことになるとして反対しています。

********************
しかし、欧州の自動車メーカーでさえ、中国からの輸入に対抗するために結束しているわけではない。BMWとフォルクスワーゲンの幹部は、EUの関税が中国に報復を強いることで裏目に出る可能性があると、5月8日に警告している(中国はBMWにとって2番目に大きな市場だ)。

また、メルセデス・ベンツのCEOであるオラ・ケレニウスは今年初め、ほかの自動車メーカーに競争を促すために、EUは中国製EVに対する関税を引き上げるのではなく、引き下げるべきだという見解を示した。開かれた市場のほうが、欧州企業の改善に拍車がかかる可能性がはるかに高いという主張である。【5月28日 WIRED】
********************

【トランプ氏は復権後のEUへの関税発動を予告】
EVに関しては欧州は関税をかける方ですが、前出の関税大好きトランプ前大統領は欧州製品への完全を予告していています。

*****EUは「大きな代償」払うことになる、トランプ氏が関税発動警告****
米大統領選共和党候補のトランプ前大統領は29日、自身が勝利すれば、米国製品の輸入が不十分な欧州連合(EU)は「大きな代償」を払わなければならなくなると述べ、関税の発動を警告した。

激戦州ペンシルベニアでの集会で「彼らはわれわれの車を買わない。われわれの農産物も買わない」と指摘。一方で「彼らは何百万台もの車を米国で売っている」と非難した。

トランプ氏は、全ての国からの輸入品に10%の関税を、中国からの輸入品には60%の関税を課すと宣言している。これらは世界中のサプライチェーン(供給網)に打撃を与え、報復措置を引き起こし、コストを引き上げる可能性が高いとエコノミストは警告している。【10月30日 ロイター】
*********************

「彼らはわれわれの車を買わない。われわれの農産物も買わない」・・・それは、米国の車・農産物に魅力がないからでしょう。
「彼らは何百万台もの車を米国で売っている」・・・それは、欧州産の車に魅力があるからで、購入した結果、アメリカ人の何百万人が満足感を得ているということでしょう。

自国産を売りたいなら、国内市場を外国から守りたいなら、購入者をひきつけるだけの商品をつくるというのが本筋で、関税でどうこうしようというのは筋違いです。

【トランプ氏の関税引上げは平均的な米国の世帯に2600ドル以上多く費やさせる】
いずれにしても、かつてのグローバル経済の流れは、保護貿易主義的な関税政策に退行しつつあるようです。

****ノーベル経済学賞ジョンソン氏「トランプが提案する関税は富裕層への贈り物」*****
ドナルド・トランプ前大統領が提案した経済政策の中心は、米国に輸入されるすべての商品に対する大規模な追加関税である。トランプ氏は、関税は雇用を保護し、賃金を増やし、米国に新たな繁栄の時代をもたらすと主張している。明らかに自分が経済的万能薬を見つけたと確信して、彼は誇らしげに自らをタリフマン(関税男)と呼んでいる。

しかし、関税とは、輸入された商品(および輸入された原料を使って国内で生産される物)を購入する人びとに課される税についての、単なる気まぐれな呼び名であり、それゆえトランプ氏の提案は、すべての米国の世帯を圧迫し、特に低賃金の労働者に特別に過酷な影響を与えることになるだろう。

たとえこの関税が世界を自滅的な貿易戦争に陥らせるものではなくても、米国の貿易相手国は恐らく報復するだろう。そしてそれが、米国が成功し、高い生産性を持っている輸出部門で働くすべての者を傷つける。

トランプ氏は、(金融・ファイナンス分析などで知られる)米ペンシルベニア大学ウォートン校で学位を得ており、それゆえどのように関税が機能するかを知っているはずだ。一般の認めるところでは、彼は1968年に卒業したが、関税の分析は50年前には十分理解されていた。そして基本的事実は同じままなのだ。

関税を負担するのは誰か
キンバリー・クラウジング氏とメアリー・E・ラブリー氏は、税問題に関する世界の指導的専門家の二人であるが、トランプ氏が制定したい関税は、平均的な米国の世帯に2600ドル以上多く費やさせると見積もっている。(後略)【10月24日 日経ビジネス】
**********************

アメリカが保護貿易的な傾向を強め、社会主義国中国が自由貿易のメリットを主張する・・・不思議な世界になってきました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国、インド、バングラデシュなどアジア新興国に共通する若者失業 中核には「雇用のミスマッチ」

2024-08-31 22:56:35 | 経済・通貨

(バングラデシュの主要な成長エンジンである衣料品業界も人力より機械に頼っている【8月30日 WSJ】)

【アジア新興国で共通課題となっている若者失業・雇用問題】
中国の若年失業率は昨年6月に過去最高を記録。その後、当局は公表を一度停止して統計手法を変更していましたが、変更後の数値でも、いま再び上昇しています。


****中国大卒者に空前の就職氷河期、妥協やニート生活も****
中国では失業者の増大に伴って、数百万人の大学新卒者が空前の就職氷河期に直面している。ある人は低賃金の仕事を受け入れざるを得なくなり、両親の年金を当てにした「ニート生活」をする若者も出てきた。

2021年以降、中国経済を悩ませているのは不動産セクターに積み上がった膨大な未完成の建設物件、いわゆる「爛尾楼」だ。今年になってソーシャルメディアでは、この言葉にならって思い通りの仕事に就けない若者を指す「爛尾娃」という呼称が流行語になっている。

今年、仕事を探している過去最多の大卒者が参入した労働市場は、新型コロナウイルスのパンデミックに起因する混乱や、金融とハイテク、教育分野に対する政府当局の締め付けによってすっかり活気を失ってしまった。

約1億人に上る16─24歳の若者の失業率が初めて20%を超えたのは昨年4月のことで、同6月には過去最悪の21.3%に上昇。すると当局は突然、統計算出方法を見直すためとして公表を停止した。

それから1年を経て、再集計されたこの失業率は7月に17.1%と今年最悪に跳ね上がり、夏場には新たに1179万人が大学を卒業した。

習近平国家主席は、若者の仕事を見つけ出すことが最優先課題だと繰り返し強調。政府も就職フェア開催や採用拡大する企業への支援など若者の就職につながる措置を打ち出している。

それでもミシガン大学のユン・チョウ助教は「かつての大卒者に約束されていたより良い仕事、社会的地位上昇、生活水準の向上見通しはいずれも、今の多くの大卒者にとって、ますます手が届かなくなっている」と指摘した。

仕事にあぶれた若者の中には、故郷に帰って働かずに両親の年金や貯蓄で暮らす完全な扶養家族に戻る人々もいる。

修士号を持っていても逆風を免れるわけではない。

非常に激しい競争を勝ち抜いて中国の高等教育課程を登り詰めた先に、爛尾娃たちが見ているのは、低迷する経済状況にあって自分たちの資格は仕事の確保につながらないという現実だ。

彼らの選択肢は限られ、高給の仕事探しで希望条件を引き下げるか、食べていくために何でも良いから就職するかを迫られる。時には犯罪にまで手を染めてしまう。(後略)【8月25日 ロイター】
*************************

そうした若者の失業・就職難は中国だけでなくインド・バングラデシュなどこれまで経済成長を実現してきたアジア世界の新興国に共通したものとなっています。

バングラデシュで公務員の特別採用枠をめぐる若者の不満がハシナ首相退陣という政変につながったことは記憶に新しいところです。

インドでも総選挙でモディ首相率いる与党が単独過半数を獲得することができなかったのも、やはり若者らの効用環境への不満があるとされています。

****アジア新興国の「時限爆弾」 高い若年失業率****
高成長でも失業率2ケタ、数千万人の若者の足かせに

アジアの中でも高い経済成長率を誇る国々には、隠された不都合な現実がある。若い労働者が根強い高失業率と闘っていることだ。

バングラデシュは長らく、極度の貧困からの脱却を遂げた発展モデルとされてきた。経済成長率はここ10年間、年平均6.5%を記録している。ただ、国際労働機関(ILO)のデータによると、若年層の失業率はこの数年で16%に上昇し、少なくともここ30年で最悪の水準にある。

若年失業率は中国とインドもバングラデシュ並みの高さで、インドネシアは14%、マレーシアは12.5%だ。
これらの国を合計すると、15~24歳の3000万人が就業を希望しながら職に就けていないことになる。ILOのデータによると、これは同年代の世界全体の失業者(6500万人)の半分弱を占める。

この数字は若者の方が雇用されやすい米国や日本、ドイツといった経済大国には劣るものの、低成長の南欧諸国ほど悪くはない。イタリアとスペインでは若者の約4分の1が職を得られずにいる。

中国のような幅広い製造業の基盤がなく、若年失業率が2ケタに達しているアジアの国では、発展への道筋とそれがとん挫した場合にのしかかるコストが目先の問題として立ちはだかる。

バングラデシュで今月起きた騒乱の主因は、将来の見通し悪化に対する怒りだった。学生の大規模デモを受けて、15年余り首相の座にい続けたシェイク・ハシナ氏が辞任に追い込まれ、国外に逃亡した。

インドでは、2024年3月期の経済成長率が8%だったものの、ナレンドラ・モディ首相率いる与党が今年の総選挙で単独過半数を割り込んだ。

インドの若年失業率はここ数年で低下したとはいえ、依然として世界平均を上回る。雇用の少なさがモディ氏に対する支持低下の主因だとアナリストは指摘する。

中国政府は昨年、若年失業率が過去最悪の2割超に達した後、同統計の公表を一時的に停止した。インドネシアの経済成長率は5%と堅調だが、鉱業の拡大によるところが大きい。同分野は重機を多く使うが、人員はそれほど必要としない。

多くの国で、20代でも安定した仕事を見つけにくくなっている。南アジアでは昨年、25~29歳の就業者の71%が自営業や臨時雇いなどの不安定な職に就いていた。

若年層の失業率が労働力人口全体より高いのは世界的傾向だ。だがこのことが、中国のような発展を目指すアジアの多くの途上国に重要な問いを突き付けている。「繁栄へのはしごは折れてしまったのか?」という問いだ。

バングラデシュは、世界の衣料品工場として西側の大手ブランドのジーンズやシャツ、セーターを生産することで貧困を脱した。数百万人が農業をやめて工場で働くようになった。

だがそこで行き詰まった。電子機器や重機、半導体のように高技能・高賃金の仕事を生む、より複雑で高付加価値の製造業に移行できずにいる。日本や韓国、中国は、こうした移行を通じて経済的に大きな成功を収めた。いまやそこへ向かう道は、はるかにきつい上り坂だ。

これから成功を目指す国は、やり手の中国と競争しなければならない。米国などの先進国は製造業の国内回帰を進めている。自動化で状況は変わりつつある。バングラデシュの主要な成長エンジンである衣料品生産でさえ、人力より機械に頼っている。

衣料品の輸出はここ10年で倍増したが、同部門の雇用の伸びはこれを大きく下回る。

労働力需給のミスマッチも顕著だ。アジアの途上国では、高等教育を受けて大学の学位を取得する人が年々増えている。卒業生は設計やマーケティング、テクノロジー、金融といった分野のホワイトカラー職を希望する。だがこうした仕事は国内に多くない。

インドはIT産業を発展させたことで知られるが、雇用できる人数は限られており、人工知能(AI)がそうした仕事の一部を奪っている。ベンガルールのアジム・プレムジ大学が公式データを基にまとめた23年の報告書によると、国内の25歳未満大卒者の失業率は40%を超える。一方、読み書きはできるが小学校を卒業していない同年齢層では11%だ。

フィンランドにある国連大学世界開発経済研究所のクナル・セン所長は、「父親も母親も受けていない教育を自分は受けていたら、親と同じ仕事には就きたくないだろう」と話す。「この問題を政治指導者は理解していないようだ」

バングラデシュ政府の22年の調査によると、大卒者の失業率は労働力人口全体の3倍に上る。名門ダッカ大学の図書館は、公務員試験の準備に励む無職の卒業生であふれている。中には試験を受けるのが3回目という人もいる。20代後半で親に養ってもらっている人も多い。

アクタルザマン・フィロズさん(28)は21年に社会学の修士号を取得し、50件の求人に応募したものの就職できていない。今年は公務員職に応募し、500人が二つの職を競い合った。フィロズさんは最終選考まで残ったが不合格となった。

地方の故郷で初級公務員をしている父親から金を借りてなんとか生活している。父親は最近、心臓の手術を受けた。フィロズさんは人生のパートナー探しを先延ばしにしている。「自分の家族に対して責任を持てなければ、結婚なんてできるわけがない」【8月30日 WSJ】
***********************

【安定的な公務員に集まる就職希望】
安定した公務員に若者の希望が集中するのは中国、インド、バングラデシュでも同じです。

韓国ドラマなど観ていると、例によって財閥御曹司・令嬢と庶民のラブストーリーといういつもパターンの一方で、何回も公務員試験に挑戦し不合格を続ける就職浪人という現実を反映した設定もしばしば見かけます。

財閥御曹司・令嬢云々は、厳しい現実が生む、夢物語でもあるのでしょう。

****成長率7%でも安定求めるインドの若者、公務員予備校は大人気****
インド政府の仕事に就くこと――スニル・クマールさん(30)は過去9年間を、そのために費やしてきた。

採光も換気も悪いトタン屋根の仮設教室へ大勢の生徒とともに押し込まれ、何年にもわたってさまざまな試験のために勉強を続けた。連邦政府の職を得るために必要な権威ある公務員試験もあった。州公務員の採用試験にも挑戦したし、他の下級公務員の試験も2つ受けた。

だが、13回にわたる挑戦はまだ成功していない。

公務員試験の受験資格の年齢上限は35歳だ。国内で最も人口の多いウッタルプラデシュ州に住むクマールさんは、32歳になるまで挑戦し続けるつもりだという。

「政府関係の仕事の方が安定している」とクマールさんは言う。「あと2、3年で就職できれば、10年間苦労した意味はある」

政府の統計によれば2014―22年にかけて、連邦政府の採用試験を2億2000万人が受験し、72万2000人が合格した。合格するには何度も挑戦を繰り返すことになるだろうし、経済は好調で民間セクターは拡大しているが、それでも毎年数千万人もの若いインド国民が公務員のポストを目指す。

こうした傾向の背景には、多くのインド国民が抱える文化的・経済的な不安がある。世界の経済大国の中で最も成長率が高いインドだが、国民の多くは先の読めない労働市場に悩まされている。雇用の安定性はもちろん、雇用機会さえもほぼ期待できない。世界最大の人口を抱えるインドでは、民間セクターよりも公務員の方が安心できると考える人が多い。

「家族の誰かが政府関連の仕事に就けば、ほかの家族は、これで生涯にわたって安泰だと考える」。そう語るのは、政府系採用試験の受験者のための予備校を運営するザファル・バクシュ氏だ。

隣国バングラデシュでは先週、公務員採用の優遇枠に反対する学生の抗議行動で、100人以上の死者が出ている。

インドの国内総生産(GDP)は、2014年の2兆ドルから2023/24年度(2023年4月―2024年3月)には3兆5000億ドルまで成長し、今年度も7.2%の成長が予想されている。

志願者は、民間の仕事では期待できない生涯にわたる保障や医療給付、年金、住宅手当が政府職員には与えられると話す。公言する人はほとんどいないが、政府系ポストの多くでは、いわゆる「袖の下」も期待できる。

前出のバクシュ氏によれば、予備校の需要が高まったことで大手企業も参入し、オンライン講座も登場しているという。

バクシュ氏は、収益性も将来性も高いビジネスだと考えている。「需要がなくなることはない」

<良質の雇用が不足>
4―5月の総選挙でモディ首相率いるインド人民党(BJP)は単独過半数を確保できず、政権維持のために連立与党の力を借りることになった。複数のアナリストはその大きな理由として、雇用機会を巡る不満を指摘している。

今月発表された政府統計によれば、2017/18年度以降、インドでは毎年2000万人分の新規雇用機会が生まれている。だが民間のエコノミストは、その多くは通常の賃金を得られる正規労働者ではなく自営業や農業での臨時雇用だと話している。

ノムラは今月のリポートで、インド政府は来週提示する総選挙後初の予算案において、新規の製造施設に対する税制上の優遇措置や国防セクターなどでの国内調達の励行により雇用創出を推進する可能性が高いと述べている。だが、こうした政策が実際に雇用を生み出すには時間がかかる。

ベンガルール市のアジムプレムジ大学持続可能雇用センターのローザ・アブラハム准教授は「単に雇用が足りていないだけでなく、給与が高く福利厚生が充実した仕事が不十分だということだ」と語る。

政府系の仕事に就くことを希望しているプラディープ・グプタさん(22)にとって民間セクターで働くことは、あくまで「最後の選択肢」だ。(後略)【7月28日 ロイター】
******************

【問題の中核にある「雇用のミスマッチ」 ロボット・AI社会では若者に限らない問題】
中国でもインドでも問題になるのは、雇用の絶対数というより、大学卒という条件に見合うような雇用がないという、雇用のミスマッチです。

****インドの若者、高学歴ほど失業率高い-労働市場でのミスマッチ示唆****
インドで高学歴の若者は学歴のない若者より職に就いていない可能性が高いことが分かった。国際労働機関(ILO)が指摘した。

インド労働市場に関するILOの最新報告書によると、大学を卒業した人の失業率は29.1%で、読み書きができない人(3.4%)の約9倍に達した。中等教育以上の学歴がある若者の失業率は6倍の18.4%。

ILOは、「インドの失業は主に若者の問題で、とりわけ中等教育以上の教育を受けた若者に関する問題だった。こうした傾向は徐々に強まった」と分析した。

この数字は、労働者のスキルと市場で創出される雇用との間に大きなミスマッチが存在することを示唆している。また、インド準備銀行(中央銀行)総裁を以前務めたラグラム・ラジャン氏ら著名エコノミストが警告しているように、インドの不十分な学校教育が長期的に経済見通しの妨げになるとの見方も裏付けている。

ILOは「インドの若年層失業率は今や世界水準より高い」とし、「インド経済は非農業部門で、教育を受けた若い新規の働き手に十分見合う雇用を創出できておらず、それが失業率の高さと上昇に反映されている」と分析した。【3月29日 Bloomberg】
***********************

「雇用のミスマッチ」という現象は、単にアジア新興国における若者の雇用問題にとどまらず、生産現場ではロボットが導入され、事務的な仕事、これまでは専門知識が必要とされたいた仕事でも、AIの活用で人間はあまり必要とされない「これからの社会・経済」がもたらす一般的な現象なのでしょう。

これから人間は何をして暮らすのか? 政府から一律にお金が支給されればそれでいいのか?・・・そういうより大きな問題の一つなのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

デフレマインドが強まる中国 高賃金・物価高のオーストラリア

2024-06-18 22:49:31 | 経済・通貨

(【1月16日 DIAMONDonline】)

【デフレマインドのもとでの経済停滞が続く日本】
停滞が続く日本経済は長らくデフレマインドが定着してきたと言われています。

今回の4万円の手額減税でデフレマインド脱却を実現したいとか、いやすでに物価は上昇し始めておりデフレマインドから脱却しているとか、いやいや個人消費は依然として軟調でデフレマインド脱却は容易でないとか・・・・様々な指摘・意見があります。

****デフレマインド*****
「物価はこの先も上昇しない、またはこの先は下がっていく」と考えることで、「デフレ心理」「デフレ期待」とも呼ばれます。デフレ(デフレーション)とは、モノやサービスの価値よりお金の価値の方が高くなる、つまり、モノやサービスの値段が下がる状態をいいます。

たとえば、財布のなかに1万円があって、店でお気に入りのカバンが1万円で売られているのを見つけました。いつほかの人が買ってしまうかわかりません。しかし、デフレマインドが定着していると、少し待てばカバンは9000円で買えると考え、すぐには買わないでしょう。

世の中にデフレマインドが定着していれば、「他の人も同じように考えて、すぐに売れることはない」と考えますから、急いで買わないと売れてしまう心配もしないわけです。

これは会社でも同じです。会社に余分な資金がある時、新たな工場を作るために設備投資をしても、そこで作った製品が売れなければ投資が無駄になって損をしてしまいます。デフレ下では損するかもしれないリスクを背負ってお金を使って設備を増やすよりも、金庫に入れておくだけでお金の価値は上がります。

デフレマインドの下では何もしないのが一番賢いという雰囲気になって、投資は先送りされてしまいがちです。従業員の待遇でも同じです。物価は下がっている(お金の価値は高まっている)のだから、額面上の給料(賃金)も上がらないのが当たり前の時代が長く続いてきたわけです。

しかし、デフレマインドが定着して消費や投資が先送りされると、値下げして割安感をアピールしないとモノやサービスは売れなくなります。価格が下がると消費者の間では一段と値下げ期待が広がって、さらに消費や投資が手控えられてしまいます。

値下げが値下げを呼ぶ悪循環「デフレスパイラル」に至ってしまうと、企業の売り上げは減っていきます。政府や日本銀行が「デフレ脱却」を掲げるのは、デフレが続くと経済が縮小してしまうからです。

これを防ぐには、世の中に出回るお金の量を増やして、お金の価値よりモノやサービスの値段価値が徐々に高まって、「持っているお金を寝かせておくより、消費や投資に振り向けた方がいい」とみんなが思うようにすることが必要です。

世の中に出回るお金の量を増やせば、お金の価値がモノやサービスの値段より低くなるだろうと考えた日本銀行は、2013年からこれまでとは次元が違う「異次元の金融緩和」を行ってきました。

それでも企業や消費者にいったん染みついたデフレマインドはなかなか消えませんでした。モノやサービスの値段が上がり始めたのは、主に海外から輸入している資源や食料の国際価格が大きく上昇し始めた2年ほど前からです。

先ほどの例でいえば、この2年で消費者からデフレマインドが消え、逆に「店にあるお気に入りのカバンはいずれ値上がりして、1万円では買えなくなってしまうかもしれない」というインフレマインドが生まれてきたわけです。

もちろん、物価が上がっても給料(賃金)が上がらなければ暮らしを切り詰めることになって、カバンを買うこと自体をあきらめてしまいかねません。そうなると景気は冷え込んでしまいます。

政府が賃上げをした企業の法人税を減らし、日銀も植田和男総裁が「物価上昇を上回る賃上げを見極めるまで、今の金融緩和を続ける」と約束しているのは、企業が従業員の賃金を大幅に上げて消費者のデフレマインドを完全に消し去り、物価と賃金がともに上がっていく好循環を生み出そうとしているからです。

企業の経営者や消費者の心理がデフレからインフレへと切り替われば、企業は新しいモノやサービスをどんどん作り、消費者も買い控えせずにどんどん買うようになることが期待できます。そうなれば世の中にお金が回り、消費者が実感できる形で景気はよくなっていくでしょう。

今の物価高は暮らしにとっては打撃ですが、デフレから脱却する大きなチャンスとみることもできるわけです。ただ、それには2024年の春闘で、消費者物価の上昇率(3~4%)を上回る率の賃上げが実現することが不可欠といえそうです。
【1月24日 読売】
********************

2%程度の適度な物価上昇でデフレマインドから脱却し、賃上げで好循環をつくっていく・・・・話としてはわかるのですが、実質賃金が長期的に目減りする日々の暮らしの中で少しでも安いものを購入して家計をやりくりしたいと苦労している立場からすると、物価上昇を期待するよううな論調は生活感覚からして釈然としないものも感じます。

【低価格競争に走る中国経済】
経済停滞が指摘される中国も、日本と似たようなデフレマインドの悪循環に陥りつつあるとの指摘も。

****中国経済がはまる「日本型デフレ」の泥沼...消費心理「どん底」で安売り店が躍進 デフレマインド定着の危険****
中国では一部の小売業者が低価格を売りに積極的にシェアを拡大し、大きな利益を手にしている。しかし、こうした経営戦略が厳しい価格競争を一段と激化させており、中国が慢性的なデフレに陥るのではないかとの懸念が高まっている。

中国の安売り業者は、不動産危機や高い失業率、暗い経済見通しで消費心理が落ち込む中、何とか需要を掘り起こそうとコーヒーから自動車、衣料品に至るまで、あらゆるものを値下げしている。

低価格帯の通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」のような企業は、電子商取引大手アリババなどライバルに対抗するために値下げに踏み切り、売上高が増加した。

しかしエコノミストは、こうした戦略が成功したことによって、中国でも消費者の間に日本型のデフレマインドが定着し、慢性化するのではないかと危惧している。

小売業者は何よりも価格で勝負するため、商品の納入業者は厳しいコスト圧縮を強いられ、利益率が圧迫される。その結果、賃金の伸びが鈍ったり、単発で仕事を請け負う低賃金の「ギグワーカー」への依存度が高まったりして家計の需要が打撃を受ける。

豪メルボルンにあるモナシュ大学のヘリン・シ教授(経済学)は、「この状況が続けば中国は悪循環に陥るかもしれない。付加価値の低い消費がデフレを引き起こし、利益率が悪化して賃金が下がり、それがさらに消費を押し下げるという負の連鎖だ」と警鐘を鳴らす。

一方、直近の決算シーズンで安売り業者は利益が市場予想を上回り、競合他社を凌駕した。ピンドゥオドゥオを運営するPDDホールディングスは131%の増収を記録。フードデリバリーアプリの美団は25%、ディスカウントストアの名創と瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)もそれぞれ26%、42%の増収だった。

<安売り業者間の熾烈な底値競争>
消費者心理がどん底に近い環境では、価格こそが王様だ。

中国の自動車メーカーは国内需要の低迷を受けて、ほぼ2年にわたり価格競争を繰り広げており、一部のディーラーや自動車金融会社はこの2カ月間に頭金なし、さらには金利ゼロなどのローンプログラムを開始した。

米スターバックスは、「安売り業者間の熾烈な競争」(ラクスマン・ナラシムハン最高経営責任者)のせいで第1・四半期に中国での売上高が8%減少。この数カ月で割引クーポンの利用を増やし、価格をラッキンコーヒーに接近させている。

アリババの国内電子商取引部門であるタオバオと天猫(Tモール)、およびネット通販大手の京東集団(JDドットコム)は売上高の伸び率が1桁台だったが、いずれも決算後の電話会見で価格競争力が今後の成長のカギになると説明した。

JDドットコムの創業者、リチャード・リュー氏が従業員に送った社内メモに、同社が「肥大化」していると書かれていたことから、JDドットコムが競争激化に対応して人員削減に踏み切るのではないかとの憶測が流れている。これはまさに国内需要の回復に不可欠な策とは正反対の動きだ。

中国欧州国際ビジネススクール(上海)のアルバート・フー教授(経済学)は「長期的には価格競争によってさまざまな産業で弱小プレーヤーが淘汰され、生き残った企業は価格を引き上げてサプライチェーンに一息つかせることができるようになるかもしれない」と話した。

ただ、こうした展開が可能になるのは、価格競争が引き起こす市場からの業者撤退を補うだけの雇用と所得が他の産業で創出された場合に限られるとくぎを刺す。

フー氏は「デフレは深刻な問題であり、日本は30年以上もこれと闘ってきた。重要なのは賃金の伸びだ」と強調した。【6月15日 Newsweek】
*******************

【オーストラリア 「コーヒーを運ぶスタッフに1時間40ドル(6280円)払わなければならない」】
一方、世界有数の賃金上昇、同時に進む物価高騰のさなかにあるのがオーストラリア。

****オーストラリアの最低賃金が更に上昇、ニューヨークよりも高額に****
7月から新会計年度となるオーストラリアでは、年度が変わる前までに新年度から施行される様々な法令や規則等の変更や改正が発表される。その中でも、とくに注目を集めるのが「最低賃金」の改正だ。

今年も6月3日に、フェアワーク・コミッション(公正労働法の下に設置された公正な労働を裁定する独立機関)から、2024年7月からは昨年度より3.75%アップの『24.10豪ドル(約2,510円)』とすることが発表された。

これは、英国の最低賃金11.44ポンド(約2,287円)や米ニューヨーク州の15米ドル(約2,360円)よりも高く、同じニューヨーク州の中でも生活費が高いことから最低賃金も高くなっているニューヨーク市の16米ドル(約2,516円)とほぼ同額になったという。

ここ数年、最低賃金の高さで世界 1、2位を争ってきたオーストラリアだが、さらにその最低ラインが引き上げられたことになる。当然ながら、所得水準も経済協力開発機構(OECD)加盟主要国の中でトップクラスだ。これは円安とは関係ない。

24.10豪ドルは、全国標準の最低賃金
最低賃金と一口に言うが、この24.10豪ドルは、あくまでもオーストラリア全土における標準的な最低賃金として定められたものであり、この額を下回ってはいけないというものだ。

しかもこの額は、正規雇用やパートタイムのように保険や年金、有給などの社会保障が付く雇用形態で平日の一般的なオフィス・アワーに働く場合であり、そういった社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。

また、オーストラリアでは、業界や職種ごとに最低賃金が定められており、ほとんどの職種でこれよりも高い設定になっている。

例えば、ファーストフード店勤務の場合、今年度(6月まで)は、正規雇用またはパートタイムが24.73豪ドル、カジュアルでは30.91豪ドルであったので、新年度となる7月からは、この額の3.75%増しとなるはずだ。

これらに加え、一般的なオフィス・アワー時間外や休日勤務等の割増賃金も設定されている。概ね125~175%となっているが、これもまた、業種によって細かく設定されており、例えば小売業(パン製造従業員を除く)のカジュアル勤務の場合、土曜日に勤務した場合は175%、日曜日200%、祝祭日250%などとなっている。

また、雇用主は、スーパーアニュエーションと呼ばれる強制加入の私的年金積立のために、すべての従業員に対して、11.5%(6月までは11%)を給料に上乗せして支払う必要がある。

人件費が重くのしかかり、閉店に追い込まれる店も...
賃金が上がるのは労働者にとっては大歓迎かもしれないが、このように人件費がどんどん膨らむ状況は、雇用主にとっては相当頭の痛い問題に違いない。

コロナ禍に大打撃を受けたブリスベンの人気バー&レストラン「ザ・マトリアーク」は、パンデミック終了後には投資を再開できると踏んでいたそうだが、経済状況は悪化の一途をたどり、そこへさらに追い打ちをかけるような今回の賃上げで、店を閉めることを決意したという。

同店のシェフ兼共同オーナーであるマシュー・デワクト氏は、閉店を決めた理由のひとつに、膨れ上がる莫大な人件費を挙げる。

デワクト氏は、「最低賃金は(時給)24ドルかもしれないが、土曜日なら、カジュアルで働いてテーブルにコーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない」と言い、同店の人件費の割合は、経費の35%を占めると嘆く。

賃金が高く稼げると、日本からも大勢の若者たちがワーキングホリデーでやってくるようになったオーストラリアだが、賃金高がすべての物価に反映され、物価高にも歯止めがかからない状態になってきている。

「ザ・マトリアーク」のように、人件費が重くのしかかって閉店する店舗や事業が増えれば、結果的に失業者も増えることになる。実際、失業率は上昇中だ。

こうなってくると生活はどんどん苦しくなり、経済が回らなくなってしまうのではないかと、私をはじめ、今、オーストラリアで暮らす人の多くが、暗雲たる気持ちになっているのではないだろうか。〈了〉【6月17日 平野美紀氏 Newsweek】
*********************

“社会保障がないカジュアルワーク(日本でいう単発のアルバイトや派遣などの雇用形態に近い)の場合は、雇用主はこの金額の25%増しで支払わなければならない。”・・・・日本では想像できない賃金制度です。

いずれにしても、“コーヒーを運ぶスタッフに40ドル払わなければならない”となるとコーヒーの値段も日本の数倍にしないと経営が成り立たない・・・そうした状況で廃業する店も、失業者も増加、賃金は高いけど市民の暮らしは大変・・・・といった事態にもなりかねません。

デフレにしても、インフレにしても行き過ぎると大変・・・ほどほどのところで安定させるのが肝要でしょうが、それが難しい。

現在、インドネシアのバリ島を旅行中ですが、日本の商品・サービスの質を考えると、日本の物価水準のコスパの良さを感じます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国製品の流入 米では高関税など中国叩きが大統領選挙で加速 欧州は報復や切り離しの影響を懸念

2024-05-18 21:09:10 | 経済・通貨

(中国の「新三大」製品(EV(黒)リチウムイオン電池(ピンク)太陽光パネル(黄色))が輸出の急成長を牽引 最近、価格下落に伴い輸出額が減少している。【5月9日 Bloomberg】)

【アメリカ 中国製EVや太陽光発電などの関税を2〜4倍に】
アメリカはかねてより「中国は補助金などで不当に安価な製品を生産し、国内内需で吸収しきれないので、そうした商品を海外に輸出し、海外の製造業はその被害を受けている」という“生産能力過剰論”で中国を批判しています。

そして具体的政策対応として、EVに対する現行25%の関税を4倍の100%に引き上げるなどの関税引き上げによる国内産業保護を打ち出しています。

****米、中国製EVや太陽光発電などの関税を2〜4倍に 不公正貿易に対抗、国内産業を保護****
バイデン米政権は14日、国内産業の育成や保護のため、中国製の電気自動車(EV)や太陽光発電の関連品、鉄鋼などに対する関税を2〜4倍に引き上げると発表した。経済や安全保障上の重要産業に絞り、「不公正な貿易慣行」を続ける中国の安価な製品が流入することを阻止する。バイデン大統領が指示した。

バイデン政権は、不公正貿易と見なす相手国への制裁を定めた米通商法301条などに基づき、現行25%の中国製EVに対する制裁関税を年内に4倍の100%にする。鉄鋼とアルミニウムの製品に関しても年内に現行の0〜7・5%を25%に引き上げる。

今回の措置は、米政権が育成に注力するクリーンエネルギー関連産業にも及んだ。EV向けリチウムイオン電池の関税を7・5%から25%に、太陽光発電の関連品は25%から50%に引き上げる。

関税を強化する理由については「中国が人為的に低価格製品を世界市場にあふれさせている」と指摘。中国政府の産業支援による過剰生産によって、安価な中国製品が米企業に与える悪影響に対応する措置だと説明している。

また、知的財産の窃取などを踏まえ、「中国の不公正な貿易慣行が米国の企業や労働者を脅かしている」と厳しく批判。米国のサプライチェーン(供給網)を維持していく上でも、制裁関税で米国の企業活動を保護する必要性を強調した。

リチウムイオン電池の材料となる重要鉱物の天然黒鉛(グラファイト)は0%から25%にする。黒鉛は世界生産の8割超を中国が占めるといわれる。中国依存を回避し、米国内の供給網を強化する狙いがある。供給網の脆弱性が問題視された半導体に関しては税率を25年までに25%から2倍の50%に強化する。

米通商法301条を巡っては、対中貿易赤字を問題視したトランプ前政権が2018年に中国からの輸入品に制裁関税を発動し、米中が報復関税を実施する貿易戦争に発展した。【5月14日 産経】
*********************

中国は、自国産業の競争力は補助金ではなくイノベーション(技術革新)によるものだと主張し、その中国製品を意図的に締め出そうとするのは「露骨な保護貿易主義」に他ならないとアメリカを批判しています。

****中国、生産能力過剰論に反論 米欧の「露骨な貿易保護主義」*****
中国商務省の報道官は16日、中国の生産能力が過剰との米欧の主張について「露骨な貿易保護主義」であり、中国の新エネルギー製品輸出を抑圧すれば、国際的な気候変動対策が頓挫すると述べた。

同報道官は「ある国に必要以上の生産能力があるという理由だけで過剰生産能力のレッテルを貼ることはできない」とし「生産と消費はグローバルなものであり、需要と供給はグローバルな視点で一致し、調整される必要がある」と述べた。

米国のバイデン政権は14日、中国の新エネルギー車(NEV)に対する関税を4倍に引き上げるなど、対中関税の大幅な引き上げを発表した。

同報道官は「新エネルギー製品の需要は現在のグローバルなグリーントランスフォーメーションで引き続き拡大する見通しだ」と指摘。中国はグリーン技術で優位な立場にあるが、世界の航空機市場はボーイングとエアバスが寡占していると述べた。

国際社会が2030年までにカーボンニュートラル(炭素中立)を達成するには、世界のNEV販売を増やす必要があるとも主張。

「関係国は自らの競争力と市場シェアを心配している」とし「過剰なのは生産能力ではなく、不安だ」述べた【5月16日 ロイター】
*************************

【中国叩き・国内労働者保護を競うバイデン・トランプ大統領候補】
中国の主張には説得的なものもありますが、アメリカは大統領選挙を控えて、中国叩き・国内労働者保護をバイデン・トランプ両氏が競い合う状況になっています。

****米バイデン大統領 対中国関税強化で米国内の製造業保護の姿勢を鮮明に****
(中略)
バイデン大統領「本日、新たな対中関税を発表するのは、(中国の)不公正な貿易慣行によってアメリカの労働者が制約されないようにするためだ」

バイデン大統領は、中国政府があらゆる産業に多額の補助金を出し、過剰生産を進めて不当な低価格で市場に流通させることで「世界中の企業を廃業に追い込んだ」と非難し、「アメリカではそうはさせない」と強調しました。(後略)【5月15日 テレ朝news】
*******************

****バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大すべき=トランプ氏****
トランプ前米大統領は14日、「中国はわれわれを食い物にしている」とし、バイデン政権による対中関税引き上げについて、電気自動車(EV)などだけでなく、その他の幅広い中国製品も対象にすべきという認識を示した。

バイデン大統領は、EVや半導体、医療用製品など中国からの輸入品に対する関税を大幅に引き上げると発表した。11月の大統領選を控え、米中対立のリスクを冒して有権者の支持拡大を図る。

トランプ氏は、バイデン政権が維持してきた対中関税は自身の功績によるものとした上で、バイデン大統領が対中関税強化で後手に回ってきたと批判した。

トランプ氏は11月の選挙で再選を果たせば、全ての中国製品に対し60%超の関税、その他全ての国からの製品に一律10%の関税を課す考えを示唆している。【5月15日 ロイター】
**********************

“11月の大統領選に向け、トランプ前大統領が掲げる全輸入品への一律10%の関税上げは「家計のコスト上昇を招くだろう」と切り捨てた。”【5月15日 時事】

【欧州も安価な中国製品流入を警戒している点では同じ】
アメリカ同様の「中国・生産能力過剰論」は欧州にもあります。

****中国の“過剰生産”めぐり習主席とEU委員長が議論応酬*****
中国の習近平国家主席がEU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長とフランスのマクロン大統領と会談し、欧米などが指摘する中国の過剰生産について議論の応酬を繰り広げました。

中国外務省によりますと、6日にパリで開かれたEU、フランスとの首脳会談で、習近平国家主席は「ヨーロッパは中国式近代化を実現する重要なパートナーだ」と述べました。

EUが警戒する中国の電気自動車などの“過剰生産”の問題については「中国の新エネルギー産業は気候変動問題などに大きく貢献した」などと成果を強調し、「比較優位と世界市場の需要の両面から見れば、『中国の過剰生産問題』など存在しない」と主張しました。

一方、フォンデアライエン委員長は会談後の記者会見で、「中国の電気自動車や鉄鋼など補助金付きの製品がヨーロッパ市場に氾濫している」と指摘し、「世界は中国の過剰生産を吸収できない」と反論しました。

さらに、「市場へのアクセスも相互的である必要がある」と述べ、「必要であれば我々の企業や経済を守る手段を取ることを躊躇(ちゅうちょ)しない」と中国側を牽制(けんせい)しました。【5月7日 テレ朝news】
********************

“過剰生産”によるものかどうかはともかく、欧州企業は中国製品に太刀打ちできないのが現状です。

****欧州の自動車部品メーカー、競争に勝てず―独メディア****
2024年5月6日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国メーカーとの競争で劣勢に立たされている欧州の自動車部品メーカーが続々と減産や人員削減を発表する事態になっていると報じた。

記事は、ドイツの自動車部品メーカー・コンチネンタルが同国北部のギフホルンに設けた自動車部品工場が27年に生産を終了する予定であると紹介。同社は「競争力のある」コストを維持するために生産拠点をドイツからクロアチア、チェコ共和国、ウェールズに移転する計画を進めているほか、全世界で約7000人の雇用を削減する予定だと伝えた。

また、内燃エンジンの停止と中国との競争激化という二重の打撃により、同社のみならずボッシュ、ZF、ベバストといった自動車製品サプライヤーが減産計画を発表し、人員削減の数は増加の一途をたどっていると指摘。(中略)

記事は、ドイツ自動車工業会(VDA)の調査によると、ドイツではこの分野の企業の3分の1が、コスト削減のために今後数年のうちに生産の一部を国外に移すことを計画していると紹介。ドイツ西部のザールルイスでは、米フォードの自動車工場がすでに3400人を解雇しており、今後工場が閉鎖されれば、地元のサプライヤーネットワークも職を失うことになり、町の産業が消失する危機に直面することを伝えた。【5月8日 レコードチャイナ】
****************

EVについては、昨年10月、EUは中国製のEVが国からの補助金で価格を抑え、欧州市場での競争をゆがめているとみて、中国製のEVに対して正式に調査を始めたと発表しました。当然、中国側は強く反発しています。

【欧州 中国から報復、中国との切り離しを不安視する超えも】
反発は中国からだけでなく、中国の“報復”を恐れる声が欧州自動車業界にはあります。

****中国製EV巡り欧州で対立、補助金調査進める欧州委が追加関税の可能性…メーカー側は「報復を懸念」*****
中国製電気自動車(EV)への対応を巡り、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会と欧州自動車メーカーの意見の対立が目立っている。

欧州委は中国製EVに対する補助金の実態調査を進めるが、メーカー側は中国の報復措置を懸念し、欧州委の強硬姿勢を批判する。欧州委が進める「脱中国EV」は視界不良だ。

「証拠を入手」
「中国との関係は適切に対処される必要がある。中国との扉を完全に閉ざすのは考え得る最悪の対処だ」
仏ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は19日に発表した書簡で、中国との関係悪化に対する懸念を示した。

念頭にあるのは欧州委が「補助金の証拠を入手した」との文書を5日付で発表し、対抗措置として中国製EVに追加関税が課される可能性が高まったことだ。ロイター通信は7月から暫定的に追加関税を課す可能性があると報じた。

実際に追加関税が課されれば、中国側が強く反発するのは必至だ。
すでに予兆もある。仏政府は2023年9月、EVの購入補助金制度を改めると発表し、事実上中国製EVを補助対象から外した。すると中国は24年1月、EU製ブランデーの反ダンピング(不当廉売)調査を始めると発表した。欧米メディアによると、中国へ輸出されるブランデーの大半はフランス製で、事実上の報復措置とみられている。

保護主義
中国市場に過度に依存してきたドイツメーカーはさらに切迫感が強い。独フォルクスワーゲン(VW)のオリバー・ブルーメCEOは13日の記者会見で「危険なのは、一方が保護主義を引き寄せると、もう一方も保護主義を経験することになるということだ」と述べ、警戒感を示した。メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOも12日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)のインタビューで「関税を引き上げるな」と述べた。

中国はEVの原材料サプライチェーン(供給網)で高いシェア(占有率)を持つ。VWとベンツは世界販売に占める中国の割合が3割と高い。貿易摩擦に発展すれば、「返り血」を浴びる可能性が高い。(後略)【3月21日 読売】
*******************

更にEV自体についても、欧州側が地域活性を狙って中国企業の国内誘致を進めており、仮に関税を引き上げても中国EVを阻止できない構造も生じています。

マクロン仏大統領、フォンデアライエン欧州委員長も「安価な中国製品の大量流入は困るが、欧州で生産してくれるならかまわない」という立場のようです

*****中国EV、欧州に工場進出ラッシュ 追加関税の回避に布石 習氏訪問の仏、ハンガリーでも****
中国の習近平国家主席が、欧州連合(EU)との電気自動車(EV)を巡る通商摩擦のさなか、欧州歴訪を開始した。EUが「追加関税も辞さず」の立場で輸出攻勢に歯止めをかけようとするのに対し、中国は障壁回避に向けて、続々と欧州に工場を建設している。

欧州では最近、中国EV産業の進出ラッシュが続く。
習氏の最初の訪問国フランスの北部では、遠景科技集団(エンビジョングループ)傘下企業がEV電池工場を建設。今年内にも稼働し、仏自動車大手ルノーに供給する。マクロン仏大統領の肝いりで進むEV産業地区の一部になる。

8日に訪れるハンガリーでは昨年12月、中国EV最大手の比亜迪(BYD)が、欧州初の乗用車組み立て工場を建設すると発表。EV電池の最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)のギガ工場建設も決まっており、ドイツに次ぐ2番目の欧州工場になる。

スペインの日産工場跡地にも
スペインでは自動車大手、奇瑞汽車がEV生産計画を発表した。閉鎖された日産のバルセロナ工場の跡地を使う。浙江吉利控股集団の傘下にあるボルボは、スロバキアに新工場を建設する。

「遅れてはならない」とばかりに、イタリアのウルソ企業相は2月末、自動車産業誘致のため、中国企業と交渉中だと明らかにした。巨大経済圏構想「一帯一路」を離脱した後も、中国に熱い視線を送る。

マクロン仏大統領、フォンデアライエン欧州委員長は習氏と6日に会談し、貿易を巡って「公平なルール」を求めた。中国が補助金で国内メーカーを保護し、EU市場に安売り攻勢をかけるのは困るということだ。一方で、欧州で生産してくれるならば歓迎するという立場。米国が中国との技術競争でしのぎを削り、サプライチェーン(供給網)から中国排除を強めるのとは姿勢が異なる。

「受け入れ競い合う」
米調査会社ロディウム・グループは「米国は中国からの投資を厳しく精査するが、欧州は中国のEV企業受け入れに熱心。有利な条件で受け入れを競い合っている」と分析した。米国では規制の高まりで、中国のEV関連投資が激減しており、欧州や中東、アジアに流れているという。

EU欧州委員会は昨年10月、中国製EVに対する調査を開始した。中国の補助金でEU市場で不当競争をしていると判断すれば、追加関税をかける構えだ。ロディウムは習氏訪欧を前に、欧州委が15〜30%の課税に踏み切るとの見通しを提示。輸出攻勢に対して効果を生むには「40〜50%にする必要がある」と試算した。

昨年、EUの輸入EVのうち37%を中国製が占め、総額は115億ドル。20年の約7倍に相当する。【5月7日産経】
******************

【アメリカの対中国関税引き上げで、中国製品が欧州に向かう可能性も】
アメリカの関税引上げで、販路を失った中国製品が欧州に流れ込むのでは・・・との懸念もあるようです。

****米国の関税引き上げで大量の中国製品が欧州に押し寄せる?―独メディア****
2024年5月15日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、米国が中国製電気自動車(EV)などの関税を引き上げることにより、中国製品が欧州に流れ込む可能性について報じた。

記事は、キール世界経済研究所のモリッツ・シュラリック所長が独紙ハンデルスブラットに対し、米国による関税引き上げの影響により、ある分野では「中国の衝撃波」が間もなく到来し、ある分野ではすでに到来していると語り、ドイツ機械工業連盟(VDMA)のカール・ホイスゲン会長も「将来、エネルギーなどの主要分野で中国メーカーだけが存在し、欧州メーカーが消えるようなことになれば国家安全保障に関わる問題だ」と危機感を示したことを紹介した。

また、経済界だけでなくEUやドイツの政界からも憂慮の声が出ており、欧州議会の通商委員会委員長を務める社会民主党のベルント・ランゲ氏が「中国製EVが欧州にますます入ってくる可能性がある」と述べた上で、米国の保護主義的、対抗的政策を非難し、欧州は自主的な行動を取る必要があるとの認識を示したと紹介。欧州議会議員である緑の党のマイケル・ブロス氏もEVや太陽光電池、半導体といった欧州の気候保護技術が「中国のダンピング製品」による影響を受ける可能性があると指摘したことを伝えている。

記事はさらに、ドイツ国内では「EUは中国製品に対して保護主義的政策を取るべきでない」との意見が多く出ており、ドイツ卸売・貿易業連合会(BGA)のディルク・ヤンドゥラ会長が「もしEUが米国をまねれば、ドイツの自動車工業は深い苦しみを受けることになる。EUには中国の部品を使っていない自動車など1台も存在しない。われわれは競争を受け入れなければならない。そしてまた、公平な競争条件のためにも争わなければならない」と述べたことを紹介。ドイツの自動車工業はこの数十年で中国に多額の投資を行っており、米国に追従した場合に中国から報復措置を受ける可能性があることへの憂慮が背景にあるとした。

また、ドイツのフォルカー・ウィッシング運輸デジタル相もEUに対し「制裁関税による貿易戦の発動は誤った道だ。われわれの市場は閉ざすべきではなく、競争により強くなるべきだ。世界最高峰の製品を作れるドイツ企業は競争を恐れない。今後もそうだ」と米国に追従しないよう警告したと伝えている。【5月16日 レコードチャイナ】
*********************

国民・労働者向け中国叩きが政治的重要パフォーマンスとなっているアメリカ、対中国保護貿易の反動・影響を懸念する欧州・・・安価な中国製品に苦慮するのは同じですが、反応は異なるようです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深刻な問題を抱える経済状況  欧州・アメリカ・中国、そして日本

2023-05-27 21:01:05 | 経済・通貨

(アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、日本の過去40年間の消費者物価上昇率の推移 【4月27日 三菱UFJ】欧米各国では2022年にインフレが進行しましたが、この流れが今も続いています。)

【イギリスなど欧州 特に食料品価格上昇が止まらない】
世界各国の経済状況、まずイギリスなど欧州経済を見ると、物価上昇による生活苦が進行しています。

****英国で支払い不能者が急増、生計費・物価高騰で=FCA調査****
英金融行動監視機構(FCA)が16日公表した調査報告によると、今年1月までの半年間に国内で料金支払いや債務返済を履行できなかった成人は560万人と、昨年5月の前回調査の420万人から急増した。生計費と物価の高騰が国民の懐を直撃したためだ。

英国の家庭は昨年9月以降、2桁の物価上昇率に見舞われ続けている。また政府当局は、来年3月までの2年間の生活水準が記録的な落ち込みになると予想している。

FCAはロシアがウクライナに侵攻して食料とエネルギーの価格が跳ね上がったことを受け、昨年5月にこうした調査を開始した。

今回の調査結果では支払いを続けるのに苦戦している成人が大幅に増えたことも分かった。FCAの消費者・競争担当エグゼクティブディレクター、シェルドン・ミルズ氏は、生計費増大の「リアルな影響」が浮き彫りになったと説明した。

一方、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)の急激な利上げに伴って、昨年5月時点で住宅ローンを抱えていたという人の29%は1月までの半年で利払い負担が増えたと回答。賃貸住宅居住者の34%は家賃が上がったと答えた。

クイルターの住宅ローン専門家カレン・ノイエ氏は「生計費増大と金利上昇が重なり、家計はぎりぎりまで追い込まれ、場合によっては破綻している」と指摘した。

債務問題に取り組んでいる非営利団体のリチャード・レーン氏は、多くの人が数十年に1度という物価高に対処しきれなくなっており、無料相談サービスに対する引き合いは過去3年で最も強くなっていると述べた。【5月17日 ロイター】
*********************

その物価上昇は、4月の消費者物価指数は一桁に収まったものの、食品など生活に身近な品目では高止まりが続いています。

****4月の英国消費者物価指数、8.7%上昇 8か月ぶりに10%を下回るも生活に身近な品目は高止まり続く****
イギリスの4月の消費者物価指数が、去年の同じ月と比べて8.7%上昇しました。インフレ率は8か月ぶりに10%を下回りましたが、食品など生活に身近な品目では高止まりが続いています。

イギリスの統計局が24日に発表した4月の消費者物価指数は、前年同月比で8.7%上昇と、前の月の10.1%を下回りました。

上昇率が10%を下回るのは去年8月以来、8か月ぶりですが、食品や飲料の価格は4月までの1年間で19.1%上昇しました。これは45年ぶりの高水準で、生活に身近なものの高止まりが続いています。
インフレを受けて、イギリスでは今週も若手の医師などが賃上げを求めるストライキを行っていて、市民生活に影響が出ています。【5月24日 日テレNEWS】
***********************

状況は、他の欧州諸国も同様です。

****エネ危機過ぎた欧州、次は食品高騰ショック****
中銀は不意打ちを食らい、債務を抱えた政府には救済を求める圧力がかかる

エネルギー危機から抜け出したばかりの欧州各国が、今度は食料品価格の高騰に直面している。地域全体で食生活が変わり、消費者は生活を切り詰めることを余儀なくさせている。

こうした状況は、エネルギー価格の下落を背景にインフレ率が全般的に低下しているにもかかわらず生じている。過去数十年で最悪のエネルギー危機を乗り切るために、昨年、企業や家計に対して何十億ドルもの支援を行った各国政府にとって、食品価格の急上昇は新たな政策課題となっている。

24日に発表された最新データによると、英国の4月のインフレ率は、エネルギー価格の下落に伴い、欧州全体や米国と同様に大幅に低下した。しかし、食品価格は前年同月比19.3%上昇した。

食品価格の継続的な高騰に中央銀行当局者は不意を突かれた。昨年実施した緊急支援のコストに依然あえいでいる政府には、新たな救済に乗り出すよう圧力がかかっている。借り入れコストの上昇に悩まされている家計にも重荷だ。

フランスでは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、家計部門の食料購入が10%以上減少し、エネルギー支出は4.8%減少した。

ドイツの3月の食品売上高は前月比1.1%減少した。前年同月比では10.3%減と、1994年の統計開始以来最大の落ち込みとなった。連邦農業情報センターによると、2022年の同国の食肉消費量は1989年の統計開始以来最も少なかった。ただ、これは植物由来の食事への移行が続いていることも一因となった可能性があるという。

食料品小売店は供給業者による値上げ分をすべて消費者に転嫁できるわけではないため、利益率が低下している。スーパーマーケットチェーン、エデカのマルクス・モザ最高経営責任者(CEO)はドイツメディアに対し、価格が急上昇していることを理由に、何社かの大手供給業者への商品の発注を止めたことを明らかにした。

英統計局が今月に入って実施した調査によると、下位20%の貧困層の世帯の6割近くが食料品の購入を減らしていることが分かった。

「これはアクセスの問題だ」。保険大手アリアンツのチーフエコノミストで、かつて国連世界食糧計画(WFP)に勤めていたルドビク・スブラン氏はこう述べる。「全体の食料生産量は落ち込んでいない」

食料が消費支出に占める割合はエネルギーよりはるかに高いため、価格の上昇幅が比較的小さくても、家計により大きな影響が及ぶ。英シンクタンクのレゾリューション財団は、2020年以降の食費負担の拡大分の累計が今夏までに280億ポンド(約4兆8300億円)に達し、エネルギー費負担の拡大幅(推計250億ポンド)を上回ると予想している。

「生活費の危機は終わっていない。新たな段階に入っただけだ」。同財団のトーステン・ベルCEOは最近の報告書でこう述べた。

インフレ率を押し上げているのは食料品だけではない。英国では、食品とエネルギーを除いたコアインフレ率が、3月の6.2%から4月には6.8%に上昇し、1992年以来の高水準に達した。4月のコアインフレ率は、ユーロ圏でも史上最高水準近くまで上昇した。

それでも、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のアンドリュー・ベイリー総裁は23日に英議会で、食品価格の高騰はインフレの「第4のショック」になったと語った。第1~第3のショックは、新型コロナウイルス流行下のサプライチェーン(供給網)の障害による供給ひっ迫、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたエネルギー価格の上昇、労働市場の予想外のひっ迫だったという。

欧州各国政府はエネルギー価格高騰の際に家計支援のため巨額の財政支出を行ったが、現在は借金をする余地が以前より狭まっている。2020年にコロナ禍が始まってから債務が急速に積み上がっているためだ。

イタリア、スペイン、ポルトガルなど一部諸国の政府は、消費者の負担軽減のため、食品の付加価値税(消費税に相当)の税率を引き下げた。一方、食品小売店に価格を抑制するよう圧力をかけている国もある。仏政府は3月、主要小売り各社との間で、可能な限り値上げを避けるとの合意をまとめ上げた。

小売業者は、アイルランドなど他の多くの欧州諸国でも監視対象になっている。英国では国会議員らが、「農場から食卓まで」網羅する食品サプライチェーン全体に対する調査を開始した。

ジェレミー・ハント英財務相はロンドンで開かれたウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)主催のCEOカウンシルサミットで、「昨日は食料生産者を首相官邸に呼んだ。また、スーパーマーケットや農家の人々と話をし、サプライチェーンのあらゆる要素に目を向け、コスト削減の一部をできるだけ早く消費者に還元するためにできることを検討している」と述べた。

英国で競争政策を担当する競争・市場庁(CMA)は先週、小売業者への監視を強める方針を明らかにした。

一部のエコノミストは、こうした監視の強化が具体的な結果につながると予想している。小売業者は自社のイメージを悪くしたくないため、サプライヤーに価格を下げるよう圧力をかけるのではないかとの見方からだ。(中略)

食品価格がこれほど長く、これほど急激に上昇している理由が完全に明らかになっているわけではない。国際商品市場(ここで農家に支払われる価格が決まる)において、食料価格は2022年4月以降下落が続いている。

だが、一次産品のコストは最終価格のほんの一部を占めるにすぎない。消費者は加工・包装・輸送・流通のコストも支払っており、生産者と消費者の間の価格差は異例なほど広がっている。

BOEのベイリー総裁の見立てでは、ロシアのウクライナ侵攻が始まった頃、食料生産者は先行きが不透明な時期に供給を確保しようと躍起になり、肥料やエネルギーなどの供給業者と割高な長期契約を結んだことが、BOEが食品価格に関する見通しを誤った理由の一つだという。

だが、小売業者への目が厳しくなっていることからもうかがえるように、利益率の拡大も一因ではないかとの見方も政策立案者の中にはある。ベイリー総裁は議会での発言で、食品供給業者の責任を問うことには慎重な姿勢を示した。「(彼らは)昨年初めに圧迫された利益率の回復を図っている」とベイリー氏は述べている。【5月25日 WSJ】
*********************

【アメリカ 給料ギリギリの生活をしているZ世代の成人】
アメリカでも、一部富裕層をのぞけば「大部分の米国人が『現在の暮らしは50年前よりも悪くなっている』と感じている」といった生活苦が進行しています。

****米国は「格差社会」どころか「総貧困社会」に? 多くの国民は既に景気後退の痛みを感じている****
高級品を扱うビジネスは相変わらず好調だが

米国経済のハードランディング(景気の急激な失速)懸念が強まっている。
今年第1四半期のS&P500種株価指標構成企業の利益は前年比3.7%減少し、2四半期連続で業績が悪化した。第2四半期以降も業況が改善する見込みが立ってない。

全米自営業者連盟が5月9日に発表した4月の中小企業楽観度指数(1986年=100)も89.0となり、2013年1月以来、10年ぶりの低水準となっている。

企業活動だけをみると、米国経済は既に「リセッション(景気後退)」入りしたと言っても過言ではない状況だ(5月15日付ブルームバーグ)。

企業活動が低迷しているものの、今年第1四半期の米国の実質国内総生産(GDP)は前月比1.1%の増加となった。GDPの7割を占める個人消費が堅調だったからだ。

米国の堅調な消費を支えているのは富裕層だ。景気が減速気味になっている中、富裕層の購買力は衰えることなく、高級品を扱うビジネスは相変わらず好調だ。(中略)

だが、多くの米国人の消費行動はまったく違う。

「給料ギリギリの生活をしているZ世代の成人」は65.5%
今回も景気が減速し始めると、過去と同様、いやそれ以上に、少しでも安い商品を購入するようになっており、低価格を売りにした店舗は活況を呈している。その代表格は徹底した低価格戦略で知られる米小売り大手ウォルマートだ。今年2〜4月期決算は前年比8%の増収となっている。

多くの米国人が「生活防衛」に走る傾向が鮮明になっているが、必死の努力にもかかわらず、彼らを取り巻く状況は悪化するばかりだ。
 
ルームバーグが4月26日から5月8日にかけて調査した結果によれば、日々の生活費の捻出が困難となった米国の成人の数は8910万人に達した。その比率も38.5%と記録的な水準となっている。

特に深刻なのは若年層だ。
フィンテック企業レンデイングクラブが米フィンテック情報企業PYMNTSと提携して毎月実施している調査では、今年3月時点で「給料ギリギリの生活をしているZ世代の成人(26歳以下)」が65.5%に上ることが分かった。これを伝えたブルームバーグ(5月1日付)は、「Z世代はキャリアをスタートさせたばかりで賃金が相対的に低く、負債の割合が大きい傾向にある」と解説している。

新型コロナのパンデミックのピーク時に2.1兆ドルに達していた家計の貯蓄超過はその大半が消失してしまった。「足元の超過分(約5000億ドル)も年末までになくなってしまう」と予測されている(5月9日付ロイター)が、債務上限問題で与野党が対立していることから、家計に対するさらなる財政支援は期待できない。

前述のブルームバーグの調査では、2500万人以上の米国人がクレジットカード・ローンに依存していることも明らかになっている。

生活費の不足を補填するために不可欠となったクレジットカード・ローンだが、長引くインフレや金利上昇のせいで延滞率が急上昇している。(中略)

米地銀の相次ぐ破綻で金融機関は消費者融資に対しても慎重な姿勢を取り始めており、生活費を捻出できない米国人がさらに増加することは確実な情勢だ。

米国は「格差社会」どころか「国民総貧困社会」に?
「大部分の米国人が『現在の暮らしは50年前よりも悪くなっている』と感じている」との指摘がある(5月15日付ZeroHedge)ように、米国は「格差社会」どころか「国民総貧困社会」になってしまった感が強い。

そのせいだろうか、リセッション入りしていないのにもかかわらず、生活困窮者や福祉施設に食料を提供するフードバンクの需要が高まっており、その水準はパンデミック時と同様の水準となっている。ジョージア州アトランタ地域では、食料配給に頼っている人の4割がこれまで配給を受けた経験がなかったという(4月30日付ロイター)。

家賃が払えず、ホームレスになる米国人も日に日に増えている。
多くのテック企業を輩出したカリフォルニア州サンフランシスコ市の海岸沿いでは、全長2マイル(約3.2キロメートル)にわたってホームレスが寝泊まりするキャンピングカーの行列ができる有様だ(5月8日付ZeroHedge)。

同市内では「家賃の高騰などで都心部に人が減ったことで犯罪が増える」という悪循環が起きている。万引きが組織犯罪化していることに悲鳴を上げたショッピングモールの閉店も相次いでいる。このため、一部の地域はゴーストタウンになっており、ホームレスたちの生活環境は悪化の一途を辿っている。

5月14日付ニューヨーク・タイムズは「米国の大都市で路上生活に追い込まれた多くの人々が命を落としている。カリフォルニア州サンディエゴ市のある病院では、昨年だけで10500人のホームレス患者が搬送された。現場からはホームレスへの支援に積極的でない政府に対する不満が爆発している」と報じている。

このように、多くの米国人はリセッションの痛みを既に感じている。彼らが政府のウクライナへの軍事支援に「ノー」を突きつける日は近いのではないだろうか。【5月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
*******************

欧米からの軍事支援に頼るウクライナにとって、もっとも手ごわい敵はロシアではなく、欧米経済の悪化に伴う世論の変化かも。ウクライナ支援に限らず、国内経済が悪化すれば、世論は生活防衛的、内向きになります。

債務上限問題で与野党が対立、政府機能が麻痺するような状況には本来ないのですが・・・。

【中国 若者の失業率20.4%】
上記記事でアメリカZ世代の苦境が取り上げられていますが、経済体制が異なる中国でも若者の失業率が深刻です。
中国国家統計局は16日、4月の都市部の16〜24歳の失業率が20.4%だったと発表しました。記録が確認できる2018年以降で最悪となっています。

****中国の大卒者は就職難 雇用ミスマッチ****
景気回復にもかかわらず若年層の失業率が上昇

中国では若年層の失業率の急上昇に歯止めがかからず、政府にとって大きな頭痛の種となっている。この問題には雇用のミスマッチが関係しており、政府が打ち出す解決策が何年も効果を発揮しない可能性もある、と多くのエコノミストが話している。

16~24歳の若者の失業率は4月に20.4%と過去最高を更新。数カ月前から大幅に上昇し、新型コロナウイルス流行前の水準をはるかに上回っている。2019年の失業率は概して13%以下にとどまっていた。

中国では4月の都市部全般の失業率が5.2%と前年同月の6.1%を下回っており、これが若者の失業率の高さを一層際立たせている。

今夏には過去最高となる1160万人の大学生が卒業する見込みであることから、若者の雇用市場は一段と悪化すると一部のエコノミストはみている。

エコノミストによると、主な問題点は中国が高賃金・高技能職を十分創出できていないことにある。同国では高学歴の若者が増えており、その多くは前世代の人たちよりも仕事に高い期待を抱いている。

多くの若者は、妥協して賃金が低めの仕事に就くことよりも、さらなるチャンスが訪れる可能性に賭け、就職を先延ばしにすることを選んでいる。

クレディ・スイス・グループの中国担当チーフエコノミスト、デービッド・ワン氏は「中国の若者の失業率の高さは一過性のものではなく、構造的なものだ」と指摘。「若者が訓練を受けているスキルと既存の雇用が必要とするスキルがマッチしていない」と述べた。(後略)【5月25日 WSJ】
****************

【日本 給料が上がらず、国際比較ではどんどん下位に沈み込んでいる状況】
では、日本は・・・と言えば、給与がまったく上がらないことは周知のところ。国際比較ではどんどん下位に沈み込んでいる状況です。


韓国、台湾、シンガポール、香港、スロベニア、リトアニア、イスラエルといった国々に抜かれ、今の日本の給料に近い国々のグループを見てみると、ポーランド、エストニア、トルコ、ラトビア、チェコなどといった国々が並んでいる・・・・といった以前では考えられないような悲しい状況。【5月27日 東洋経済ONLINEより】

原因は、日本では十分なイノベーションを起こせず、労働生産性が上昇していないことにありますが、スペースもないのでまた別機会に。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

金融不安への素早い異例の対応 消えていない「ドミノ倒し」不安 銀行の融資抑制で世界経済は減速か

2023-03-28 22:20:20 | 経済・通貨

(危機の時以外は利用されることの少ないFRBの「連銀窓口貸出」を通じた金融機関向けの資金供給は、足元でリーマンショック時を上回るペースで拡大しており、米銀行業界の混乱の大きさを物語っています(図2)【FRANKLIN TEMPLETON】)

【「預金は全額保護する」 「リーマンショックの教訓」もあって素早い異例の対応】
周知のように、アメリカでは総資産28兆円の「シリコンバレーバンク」、14兆円の「シグネチャー・バンク」の破綻が相次ぎ、更にスイスの金融大手「クレディ・スイス」の経営不安・・・・ということで、世界経済全体に金融不安、リーマンショックの再来への危惧が広がりました。(過去形ではなく「広がっています」と書くべきか)

これに対しアメリカ金融当局はすべての預金者を保護するという形で、異例の素早い対応で火消を行っています。

****米金融当局 シリコンバレーバンク預金者のすべての預金を保護すると発表****
アメリカのシリコンバレーバンクが経営破綻したことを受け、アメリカの金融当局は、すべての預金者を保護すると発表しました。

アメリカ財務省とFRB=連邦準備制度理事会、FDIC=連邦預金保険公社は12日、共同声明を発表し、「アメリカ経済を守るため、断固とした行動をとる」と強調。イエレン財務長官は、「シリコンバレーバンク」の預金者のすべての預金を保護したうえで、経営破綻の手続きを完了させると明らかにしました。

今回の対応は、FRBとFDICの勧告を受け、バイデン大統領と協議したうえで、イエレン長官が承認したということです。

また、FRBは他の銀行に波及するのを防ぐため、金融機関に対し追加の資金を提供すると表明しました。【3月13日 TBS NEWS DIG】
*******************

****アメリカ政府「預金は全額保護する」 素早く宣言****
有働キャスター
「銀行が相次いで破綻すると、リーマンショックの二の舞で、どんどん連鎖していくんじゃないかと心配になりましたが…」

小野解説委員
「それをアメリカ政府は最も恐れました。まずは、『預金は全額保護します』と素早く宣言しました。保護されるお金は本来、日本円だと3000万円ぐらいまでと上限がありますが、『全額救済』としました。やりすぎじゃないかと思うくらいですが、こうやって安心感を与えたんです」

「さらに、政府が金融機関に1年間、お金を貸す用意もしました。そうすれば、不安になった人たちが、銀行から『われもわれも』と預金を引き出す事態が起きたとしても、銀行にお金があるので耐えられます。こうやって次々と破綻が起きないよう手を打っているわけです」【3月14日 日テレNEWS】
*********************

アメリカの異例の対応の背景には「リーマンショックの教訓」があるとも。

****米相次いだ銀行破綻 異例の素早い対応の背景に「リーマンショックの教訓」 記者解説****
アメリカで相次ぐ銀行の経営破綻。バイデン政権は沈静化を急いでいますが、背景に何があるのか。ニューヨーク支局・藤森記者の報告です。

アメリカ バイデン大統領 「国民は米国の銀行システムが安全だと確信を持つことができる。皆さんの預金は安全です」(中略)

政府が対応を急ぐ背景には、過去、アメリカが発端となった世界的な金融危機の苦い経験があります。

大和総研 ニューヨークリサーチセンター 矢作大祐主任研究員
「非常に早い決断だったと思う。リーマンショックの時は土日含めて後手後手に回ったことがあった。今回、その教訓をしっかり踏まえた」

さらに、政府が危機感を持っているのは、歴史的な物価高を抑えるために進めてきた中央銀行による急速な利上げの副作用です。

今回の銀行の破綻は、▼利上げに伴う債券価格の下落により経営が圧迫され、▼ベンチャー企業などは金融機関からの資金調達が難しくなり、結果的に問題の銀行の口座から資金が引き出される動きが加速したことが決定的な要因です。

こうした動きが広がれば、一気に景気が冷え込むという危機感が政府を動かしたものとみられます。

大和総研 ニューヨークリサーチセンター 矢作大祐主任研究員
「(破綻の)連鎖という形になってくると、2008年(リーマンショック)の香りがしてくる。少しリスクが高まってくる」

週明けのNY株式市場は政府の対応をひとまず評価した形ですが、中央銀行が来週開く会合で、1年にわたり続けてきた利上げを継続するのかが注目されます。【3月14日 TBS NEWS DIG】
*******************

ただ、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額の中小銀行からの預金流出が起きており、市場に不安が広まった際の影響はリーマンショック当時より大きくなっています。

バイデン大統領は、必要に応じて引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示し、沈静化に務めています。

****過去最大“リーマン超え”米・中小銀行預金15兆円流出…バイデン大統領は沈静化に躍起****
今月10日のアメリカ、シリコンバレー銀行の経営破綻に端を発し、世界の金融市場に広がった信用不安。

アメリカで2つの銀行が破綻した15日までの1週間に、中小規模の銀行全体で1200億ドル、日本円でおよそ15兆7000億円もの預金が流出したことが、FRB(連邦準備制度理事会)の統計で明らかになりました。

これは過去最大の流出額で、リーマンショックにつながるサブプライムローン問題が浮上した2007年3月の2倍を超える額です。相次ぐ破綻で預金者の不安が高まり、預金を引き出して大手銀行などに移す動きが広がったためとみられます。

バイデン大統領は、沈静化に躍起です。
バイデン大統領:「事態が落ち着くまで少し時間がかかると思いますが、大混乱になるようなことは何もないでしょう。しかし、この件に関して不安を抱えていることは理解しています。中堅銀行は、生き残らなければなりません」

バイデン大統領は、銀行がさらに破綻するなど金融不安が続くと判断した場合、引き続き特例的な預金保護の措置を講じる考えを示しました。【テレ朝NEWS 「グッド!モーニング」3月27日放送分より】
********************

また、アメリカのFDIC=連邦預金保険公社は26日、経営破綻したシリコンバレーバンクについて、アメリカ南部ノースカロライナ州が地盤の銀行が買収することで合意したと発表しました。

【スイスの金融大手「クレディ・スイス」も破綻阻止 ただ、債券価値ゼロの影響は他行にも】
スイスの金融大手「クレディ・スイス」についも、ライバル銀行「UBS」が買収することで破綻を防いでいます。

****UBSがクレディ・スイス買収合意 買収額4200億円 スイス政府****
経営不安に陥っていたスイスの金融大手「クレディ・スイス」について、「UBS」が買収することで合意したとスイス政府などが発表した。

スイス・ベルセ大統領「UBSによるクレディ・スイスの買収は、スイスの金融センターの信頼回復と、国と市民のリスクを管理するために最善の解決策です」

スイス政府は会見で、「UBS」が「クレディ・スイス」を買収することで合意したと発表し、買収額はおよそ4,200億円になるとしている。

買収交渉は、UBS側がスイス政府に巨額の保証などを求め難航していたが、市場の不安を抑えるため、週明けの金融市場が開く前に合意した形。【3月20日 FNNプライムオンライン】
*********************

こうしたアメリカ・スイス当局の異例の素早い対応もあって、市場は一応の安心感を示しています。

****ニューヨーク株式市場 3営業日続伸 金融不安やわらぎ買い注文****
週明け27日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は3営業日続伸した。

経営破綻したアメリカのシリコンバレー銀行を中堅銀行のファースト・シチズンズ銀行が買収すると発表したことを受け、金融システムに対する投資家の不安が和らぎ、買い注文が優勢となった。(後略)【3月28日 FNNプライムオンライン】
******************

ただ、不安感が払拭された訳でもなく、「次は・・・・」という話も。

****金融のドミノ倒し、次はドイツ銀行か****
<ドイツ銀行の株価が急落。シリコンバレー銀行とクレディ・スイスに続く破綻を市場は懸念する>

今月初めのシリコンバレー銀行の破綻に端を発し、スイスの大手銀行クレディ・スイスに飛び火するなど世界に広がった金融不安で、またも大手が危険領域に足を踏み入れてしまった。今度はドイツ最大のドイツ銀行だ。
ドイツ銀行の株価は先週末の24日、11%下落し、経営危機の恐れに直面している。今回の金融不安が始まった8日以降で考えると、下落幅は29%に達する。

「(金融界は)さらなるドミノ倒しが起きる瀬戸際にいる。次のドミノと目されているのは明らかに(それが正当な見方かどうかはとにかく)ドイツ銀行だ」と、IGグループの主任市場アナリストのクリス・ボーシャンはロイター通信に述べた。「金融危機は完全に一段落したわけではなさそうだ」(中略)

債券投資家に損失
スイス政府の仲介によりクレディ・スイスが救済され、これで欧州市場は安定するだろうと当初は考えられていた。ところが影響の拡大を抑えるのは難しかったようだ。

買収合意により、170億ドル分のクレディ・スイスの社債の価値がゼロとされてしまったことが、ドイツ銀行への懸念を深める要因となってしまった。(中略)

次に倒れるのはドイツ銀行ではと懸念する人は多いが、一方でクレディ・スイスと同じ運命はたどらないだろうと楽観視するアナリストもいる。(中略)

ロイター通信によれば、米金融大手JPモルガンのアナリストたちは24日、ドイツ銀のファンダメンタルズは「強固」で「懸念していない」と説明した。

「実際、もしアメリカとヨーロッパ双方の預金者がこの数週間(の事態の推移)から学ぶことがあるとすれば、それは規制当局がどこまで手厚い預金者保護を貫こうととするか、ということだけだ」

23日にアメリカのジャネット・イエレン財務長官は、金融安定化のために政府は「間違いなく」追加措置を取る用意があると述べた。イエレンは前日には、そうした対応は検討していないと述べており、軌道修正した形だ。【3月27日 Newsweek】
**********************

上記「ドイツ銀行」に見るように、170億ドル分のクレディ・スイスの社債の価値がゼロとされてしまったことが他の銀行の経営不安に連鎖する危険が存在しています。

****債券は「価値ゼロ」で各国政府系銀行も全損──終わらない「クレディ・スイス危機」****
<UBSによる土壇場の買収によって救済されたが、債券の価値はゼロに。提訴の動きなど、世界の投資家と政府系銀行に衝撃が走る>

3月19日、スイス金融最大手UBSが、経営危機に陥ったライバルのクレディ・スイスを買収すると発表した。同社のような「国際金融システム上の重要銀行」が破綻すれば、その影響は計り知れなかった。

スイスのケラーズッター財務相は19日の会見で、イエレン米財務長官とハント英財務相と緊密に連絡を取っていたと明かした。米英には同社の子会社があり、それぞれ数千人の従業員がいる。

土壇場で救済されたものの、クレディ・スイス発行の170億ドル規模のAT1債が価値ゼロとされたのが火種として残りそうだ。

AT1は劣後債と呼ばれるハイリスク・ハイリターンな債券。高利回りである一方、債務の弁済順位が低いが、「価値ゼロ」は保有する世界の投資家に衝撃と動揺を広げた。今回、一部保有者の間に提訴の動きがある。

サウジアラビアの最大手銀行のクレディ・スイスに対する投資もほぼ全損に。カタールの政府系ファンドの投資数十億ドルも吹き飛んだという。【3月27日 Newsweek】
**********************

すでにサウジアラビアの銀行に影響も。

****サウジ・ナショナル・バンク会長辞任、クレディ・スイス筆頭株主****
スイス金融大手クレディ・スイス・グループの筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンク(SNB)は27日、アンマル・フデイリ会長が辞任したと発表した。人事は27日付で、後任にはサイード・ガムディ最高経営責任者(CEO)が就く。フデイリ氏の辞任は個人的な理由とされている。

フデイリ氏は3月15日にクレディ・スイスへの追加出資を否定。この発言がクレディの経営悪化に拍車を掛けたとして批判を浴びた。

クレディはスイス金融大手UBSによって救済買収されることになり、クレディの9.9%株式を保有するSNBは10億ドル余りの損失を被った。

SNBは昨年10月にクレディへの出資を発表して以来、株式時価総額が260億ドル以上も吹き飛んだ。【3月28日 ロイター】
******************

株式時価総額が260億ドル以上も吹き飛んだ・・・約3兆4千億円・・・CEOの首も飛ぶでしょう。

【「ドミノ倒し」が防げたとしても、銀行が融資に抑制的になることで、世界経済は大きく減速】
仮に今度の「ドミノ倒し」が防げたとしても、銀行が「健全性」を重視することで融資に抑制的になることで、世界経済は大きく減速するとも予想されています。

****米国の銀行破綻、世界経済のリスクに****
最悪のシナリオで世界のGDPが2%マイナス成長との予測も

米銀行セクターの混乱は、米国だけの問題ではない。世界的なリセッション(景気後退)のリスクを高めるものでもある。

米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻以前から、多くのエコノミストは今年の世界経済の成長率が大幅に低下すると予想していた。米国と欧州で、金利上昇を受けて支出と投資が減少するとみられていたからだ。

こうした懸念は、欧米経済の予想外の好調さを示すデータと、昨年12月にゼロコロナ政策を放棄した後の中国で景気が回復し始めたことを受けて、今年初めには幾分緩和されていた。

しかし、一部では悲観論が徐々に復活しつつある。大半のエコノミストは全面的な金融危機が発生する可能性は低いと考えているが、その一方で銀行セクターの混乱と金融引き締めの悪影響から、世界の経済成長へのリスクが高まると予想している。

米コーネル大学のエスワル・プラサド教授(通商政策・経済学)は「現状は世界経済にとって潜在的にかなり危険な時期だ」と指摘。先進諸国で金利上昇に加えて銀行セクターの問題が相次げば「世界全体に悪影響が波及する恐れがある」と語った。

エコノミストらによると当面のリスクは、米国の銀行がバランスシートの健全性を確保し預金者を安心させるために、米国の世帯や企業に対する融資を抑制することだ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は22日、そうしたシナリオが「かなり現実的である可能性がある」とし、それが「十分にマクロ経済に重大な影響を及ぼし得る」と述べた。

米国での融資抑制は、ドイツ製自動車やフランスへの休暇旅行、中国製電子機器など他国の物品やサービスへの需要を抑制する形で、世界の成長率に影響をもたらし得る。

より幅広い視点で見ると、世界の貿易と金融システムは米ドルによって支えられている。これは、米国の金融が引き締め状態になる(融資が抑制され、借り入れコストが上がり、株式やその他の資産の相場が下がる)と、その影響が他国の経済に迅速に広がり得ることを意味する。

米国外の銀行はドル調達コストの上昇に直面し、国内の世帯や企業への貸し出しを抑制する可能性がある。そうなれば米国の輸入減による国境を越えた打撃がさらに大きくなる。借金の多い国は、借り入れがより困難になる可能性がある。(中略)

シティグループのエコノミストは22日にリポートを公表し、現在の金融セクターの問題の悪化具合に基づく世界の成長シナリオをいくつか提示した。

エコノミストらの中心的な予想では、銀行のバランスシート健全化と規制当局による迅速な対応のおかげで、この問題は春までに落ち着くとみられている。

それでも世界経済の成長率見通しは、2023年は約2.2%、2024年は2.5%にとどまり、経済協力開発機構(OECD)が示した2022年の成長率見通し(3.2%)を下回るとみられる。

シティグループは、銀行の健全性をめぐる懸念の長期化により資金調達のコストが上昇し、利用可能な資金量が減少した場合、与信の伸びが鈍化する可能性があり、今年の世界の成長率は1.6%に減速しかねないと指摘している。

リポートによれば、銀行がより積極的に帳簿上のリスク資産を削減する動きに出れば、世界の経済成長率はさらに低く、1.5%程度になることも考えられる。米国と欧州で複数の銀行が破綻するような本格的な危機が発生した場合には、世界経済はおそらく2%縮小するという。

英調査会社キャピタル・エコノミクスのグループ・チーフ・エコノミスト、ニール・シアリング氏は「真のリスクは、だめ押しとなるような新たな金融問題が起き、これまで予見できなかった金融システムのリスクが露呈することだ」と述べている。【3月27日 WSJ】
*****************

もし“だめ押しとなるような新たな金融問題”が起きたら・・・・リーマンショックの再来でしょう。

日本経済もその中にある世界経済は、相当に危うい鋭いエッジ上の綱渡り状態にもあるようです。
言うまでもなく、経済が破綻すれば、多くの国で政治情勢が不安定化し、国際間の紛争にも飛火します。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“意外”にも、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っている原油・穀物価格

2022-08-06 22:38:58 | 経済・通貨
(WTI原油先物価格動向)

【原油価格「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並みへ】
今日は少し“意外”な話。

「世界的インフレが各国で進行しており、その元凶は原油などエネルギー価格と穀物など食料品価格。
エネルギーや食料の価格上昇傾向は以前からのものですが、その高騰を加速させたがロシア軍によるウクライナ侵攻。こうした物価上昇で、特に途上国や、貧困層の暮らしに大きな負担がかかっている・・・・」

上記のようなイメージが一般的かと思います。このブログでも、そうした話を再三取り上げてきました。

インフレ傾向、多くの国・国民の生活への負担増加というのは今も続いており、間違った認識ではありません・・・・が、インフレの中核にある原油と穀物価格自体はすでに下落に転じており、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の水準に戻っているようです。

原油については、一昨日の4日ブログ“小幅増産にとどまった原油生産 ガスパイプライン「ノルドストリーム」をめぐるロシア・ドイツの綱引き”でも触れたように、1バレル=120ドル付近まで上げた価格は、世界経済の景気後退懸念を背景に90ドル付近まで下落に転じています。

****原油価格「いつの間にか」ウクライナ侵略以前並み…専門家が指摘する新たなリスク 「油が崩壊」エコノミストが警鐘****
このところ、毎日のように食料品などの値上がりを伝えるニュースが流れ、大半の企業が値上げの理由の一つに「原油価格の高騰」を挙げている。そのため、今も一時期のような1バレル=100ドルを大きく超えるような原油高になっていると思っている人も少なくない。

しかし実は、原油価格はロシアのウクライナ侵略以前の水準に戻っている。

1バレル=122ドルから90ドルに
昨年まで1バレル=70円~80円台だった原油価格は今年に入ってから徐々に値を上げていき、今年2月3日には、1バレル=90ドル代に乗った。2月末からのロシアのウクライナ侵略をきっかけに、原油価格はさらに上昇していき、6月8日には1バレル=122ドルという記録的な高値を付けた。

しかし、それをピークに原油の価格は徐々に下落していき、8月4日には、1バレル=90.53ドルとロシアのウクライナ侵略以来の水準となった。

7月半ばまでは1バレル=100ドル代の高値を付けていた原油の価格は、なぜここに来て急速に下落し始めたのか。その理由は、景気減速への懸念だ。

原油価格急落の理由
アメリカは今、歴史的なインフレに見舞われているが、アメリカの中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)は、2か月連続で政策金利を0.75%引き上げるなど強い金融引き締め措置を取っている。さらに、アメリカに歩を合わせるように、ヨーロッパ各国の中央銀行も相次いで政策金利を引き上げた。

だが、金融を引き締め過ぎて景気後退局面に陥る、いわゆる「オーバーキル」になってしまうのではとの懸念が市場に漂っている。

景気後退への懸念が高まる中、さらに原油価格の下落を加速させる発表があった。米国エネルギー情報局(EIA)が、3日に発表した統計「U.S. Stocks of Crude Oil and Petroleum Products(アメリカの原油および石油製品の在庫)」によると、アメリカでは原油とガソリンの在庫が増えているという。この発表を受けて3日から4日にかけて、原油価格がさらに下落した格好だ。(中略)

なお、夏休みを前にした一般家庭にとっては、原油価格が下落したと聞いた時、まっさきに気になるのが「ガソリン価格はどうなる?」ということではないだろうか。こちらは、原油価格と違い、急落とはならない。

石油情報センターによると、レギュラーガソリンの小売価格は、全国平均で1リットル当たり169.9円。5週連続で値下がりしているものの、依然として高い水準のままだ。【8月5日 箕輪 健伸氏 SAKISIRU】
**********************

下落したとは言っても、まだまだ“油が崩壊”云々水準ではありませんし、コロナ禍で2020年4月前後には20ドル水準にまで下落したこともあります。今時点で騒ぐ必要はないですし、日本のような需要国としては更なる下落を期待したいところです。

供給国には大きな問題になるでしょう。以前取り上げた未来都市「ネオム」を計画するサウジアラビアなど中東湾岸諸国など。ただ、中東諸国も原油価格は上下変動するものと認識していますから、一喜一憂もしないでしょうが。

原油価格下落で現実的問題が出るのはロシアでしょうか。今必要な莫大なウクライナ戦争の戦費を支える財源が揺らぎますので。

【再開にこぎつけたウクライナからの穀物輸出】
一方、穀物については、問題となっていたウクライナからの輸出になんとか道がひらけたようです。

****ウクライナ穀物輸出の再開合意、ロシア側に一定の配慮か…米は速やかな履行求める****
ロシア軍の黒海封鎖によりウクライナ産穀物の輸出が停滞している問題で、ロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者が22日、イスタンブールで海上輸送再開に向けた合意文書に署名した。各国は歓迎しているが、ロシアに確実な合意履行を求める声も出ている。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は22日のビデオ演説で、「合意内容はウクライナの利益に全てかなうものだ」と評価し、昨年収穫した約2000万トンと、今年の収穫分で100億ドル(約1兆3800億円)相当の穀物の輸出が可能になるとの認識を示した。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は署名式で「(食糧危機で)破綻にひんしている途上国に安心をもたらす」と語り、穀物価格の安定化などにつながると強調した。

インターファクス通信によると、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は署名式後、「ロシアは合意文書で十分明確に示された義務を負った」と述べた。一方、米国のブリンケン国務長官は22日の声明で「合意の履行が速やかに開始され、中断や妨害なしに進むことを期待する」とくぎを刺した。

合意にはロシア側の要求が一定程度盛り込まれた模様だ。ウクライナの穀物輸出拠点のオデーサ、チョルノモルシク、ユジニの計3港からの航路が確保され、輸送対象は、ウクライナ産穀物と食料に限定された。航路の安全を維持するためイスタンブールに設置される「調整センター」が積み荷を検査する。ロシアは航路を通じてウクライナに武器が輸送されることを警戒しており、露側の条件に従ったものとみられる。

国連も合意の見返りをロシアに示した。露国防省は22日、ショイグ氏とグテレス氏が会談し、ロシア産の農産品と肥料の供給を促進することに関する協力覚書に署名したと発表した。露産肥料などの輸出促進はウクライナからの穀物搬出と合わせた「パッケージ」として国連が合意を目指していた。

国連によると、国連貿易開発会議(UNCTAD)のレベッカ・グリンスパン事務局長の下に作業チームを設置し、加盟国や、金融、保険、物流などの民間部門と調整するという。【7月23日 読売】
*********************

ロシアとしても世界を苦しめる穀物価格高騰の“元凶”とされるのは回避したい思惑があってのことでしょう。

合意直後にロシアがオデーサにミサイルを撃ち込むなどですったもんだしたのは周知のところですが、第一便がトルコ沖合で検査を受けてレバノンに向かい、その後も3隻がウクライナを出港する予定など、なんとか輸出再開にこぎつけたようです。

****ウクライナからの穀物輸出 トルコ政府が船3隻出発計画明らかに****
ウクライナからの穀物輸出の再開を受けて最初の貨物船が中東レバノンに向かう中、トルコ政府は新たに農産物を積んだ貨物船3隻がウクライナ南部の港から出発する計画があることを明らかにし、南部でも戦闘が続く中、安全に輸出を継続できるのかが焦点となっています。

ロシア軍による黒海の封鎖で滞っていた、ウクライナからの貨物船による穀物輸出の再開を受けて、トウモロコシを積んだ最初の船が中東レバノンに向かっています。

また、トルコのアカル国防相は、農産物を積んだ貨物船3隻が5日にウクライナ南部の港から出発する計画があることを明らかにしました。

さらにウクライナへの貨物船の入港についても「空荷の船がイスタンブールでの検査を経て、ウクライナに向かうことも予定されている」としています。

ウクライナへの貨物船の入港については、これまでロシアが武器の運搬に利用されるおそれがあるとして難色を示していましたが、ロシアとウクライナ、それに仲介役のトルコと国連の合意に基づく、農産物の輸出に向けた動きが着実に進んでいることがうかがえます。

こうした中、トルコのエルドアン大統領が5日、ロシア南部のソチを訪れてプーチン大統領と会談する予定で、今後の穀物輸出についてどのような意見が交わされるのか注目されます。

一方、ロシア軍は、ウクライナ東部ドネツク州や南東部ザポリージャ州などでも攻撃を続けていて、これに対し、ウクライナ軍は南部を中心に反撃しています。

ウクライナ南部でも戦闘が続く中、安全に穀物輸出を継続できるのかが焦点となっています。【8月5日 NHK】
***********************

【ウクライナの穀物輸出再開とは関係なく、市場での投機筋の動きで穀物価格は下落傾向】

(シカゴ小麦先物価格動向)

こうしたウクライナから穀物輸出再開の話とは別に、穀物市場の方は投機筋の市場撤退で、すでに下落に転じています。

****投機筋が消えた穀物市場、価格下落に拍車****
小麦やトウモロコシ、大豆などの穀物市場では、ヘッジファンドや投機筋が値上がり益を手にして市場から姿を消したことで、価格下落に拍車が掛かっている。需給に照らして正当化される水準を下回っていると指摘するアナリストもいる。

今年に入りインフレや戦争に伴う供給問題が懸念材料に浮上すると、商品価格の上昇を見込んだ市場参加者が先物市場に資金を注ぎ込み、相場を押し上げていた。小麦と大豆は最高値をたびたび更新し、トウモロコシは史上最高値に迫っていたが、ここにきて状況は一変した。投機筋は利益を確定してインフレ取引を手じまい、リセッション(景気後退)に備えて穀物市場から撤退した。

穀物価格はほぼ1年前の水準まで下落している。当時は不作により歴史的に見れば高値圏にあったものの、ロシアのウクライナ侵攻という押し上げ要因はまだなかった。

原油や銅など幅広いコモディティ市場から投機筋が消えて価格が下落したことで、投資家の間ではインフレがピークに達したとの期待が高まった。だが、燃料や食料、衣料などの価格を左右する穀物市場ではトレーダーの出入りが激しい。

ピーク・トレーディング・リサーチのデーブ・ウィットコム氏は「穀物市場では、常にヘッジファンドが価格を左右する」とした上で、「ヘッジファンドの動きと価格の動きには最も高い相関性がある。ヘッジファンドが売れば、価格は下がる」と述べた。

2020年秋には、穀物価格の上昇に賭けるのがウォール街で人気の取引となった。ロックダウン(都市封鎖)を解除した国々で需要が伸び、食糧の輸入業者は在庫の補充を急ぐ一方、穀物は不作だった。それを見て、ヘッジファンドなど投機筋が殺到した。

ピーク・トレーディングが集計した米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、21年初めまでに、13の農産品市場を合わせた投機筋の買い持ちポジションは契約枚数ベースで過去最大に膨らんでいた。

ロシアがウクライナに侵攻した2月下旬には買いが下火になっていたものの、侵攻を受けて穀物が再び買われた。価格上昇に合わせて投機筋のポジションは拡大し、3月には約570億ドルと、11年以上ぶりの高水準に達した。

小口投資家もこの熱狂に加わり、小麦先物ETF(上場投資信託)の「テウクリウム・ウィート・ファンド」は、あまりの人気ぶりに3月上旬には完売。規制当局はテウクリウムに追加売り出しを許可し、資産総額はウクライナ侵攻前の8620万ドルから5月には7億2300万ドルに膨れ上がった。その後は資金流出が流入を上回り、残高は3億2400万ドルまで減少した。

米連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制に向けて利上げに着手すると、先物市場では売りが優勢となった。輸入価格を押し上げるドル高と景気後退懸念を背景に、トレーダーは買い持ち解消に動いた。ピーク・トレーディングによると、7月下旬までに持ち高はほぼゼロになった。

ここ3カ月で、先物市場ではトウモロコシが24%、小麦は27%、大豆は14%それぞれ下落している。

ゴールドマン・サックスのアナリストはこうした価格下落について、現物のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映していない、金融取引の手じまいによるものだと指摘する。

JPモルガンのアナリストは価格急落について、世界の農産品貿易における深刻な混乱を反映しておらず、23年になっても続くとみられる現物の供給リスクが低減されるわけではないと話す。足元の価格は生産コストを下回っており、供給問題を考慮すると、穀物価格には20~30%の上昇余地があるという。

供給リスクとは、ウクライナで続く戦争や、生育を左右する天候、世界的に低水準にとどまっている在庫などだ。

ウクライナは今週、ロシアによる侵攻後で初めて海路で穀物を輸出したが、黒海経由の安全な食糧輸送を約束した協定はほごにされる可能性がある。協定が守られたとしても、ウクライナに滞留している穀物の在庫解消には数カ月かかりそうだ。米農務省は、今収穫期のウクライナからの穀物・種子輸出量は前期の半分程度になると予想している。

一方、米国は記録的な猛暑と干ばつに見舞われ、作柄に深刻な影響が及んでいる。ゴールドマンのアナリストは3日のリポートで「トウモロコシ、大豆、春小麦の生育状況はここ6週間、ほぼ継続して悪化している」と指摘。米国の収穫量が2~3%減少し、トウモロコシと大豆は消費量に対する在庫量の割合が過去最低水準に落ち込むとの予測を示した。【8月6日 WSJ】
********************

ここ3か月の価格低下は投機筋の動きによるもので、根本的な供給不安が解消されたものではないので、再び上昇という局面はあるのかも。

いずれにしても、市場に左右される原油・穀物の価格動向は一般的なイメージとはまた異なる動きを見せているようです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ 米中対立の裏で米企業の中国市場重視を後押しする二重基準 中国の自給自足志向は困難も

2022-01-16 23:09:12 | 経済・通貨
(【1月5日 レコードチャイナ】米電気自動車大手テスラが新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設した際のセレモニー)

【新疆ウイグル自治区における人権問題で米中対立の渦中に巻き込まれる米巨大企業】
新疆ウイグル自治区における人権問題が米中対立の「主戦場」のひとつになっていることは周知のところで、米議会上院は昨年12月に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決しています。

アメリカ巨大企業もこうした対立の渦中に巻き込まれています。

****テスラが新疆にショールーム 米中、非難の応酬****
米電気自動車大手テスラが人権侵害疑惑のある中国北西部・新疆ウイグル自治区にショールームを開設したことをめぐり、米国の政治家や人権団体から批判の声が相次いでいることを受けて、中国は6日、米国を偽善的だと非難した。
 
テスラは昨年12月31日、新疆ウイグル自治区の区都ウルムチにショールームを開設したと発表した。
この発表に米国の政治家が反発。共和党のマルコ・ルビオ上院議員はテスラについて、「中国共産党が新疆ウイグル自治区にけるジェノサイド(集団殺害)や奴隷労働を隠蔽(いんぺい)するのを助けている」とツイッターで批判した。
 
ジェン・サキ米大統領報道官は4日、「官民を含む国際社会は、新疆ウイグル自治区で起きていることから目を背けてはならない」と記者団に述べた。
 
これに対し中国は6日、米国は「偽善的」であり、「人権を口実に中国に対して経済的威圧と政治的抑圧」を加えようとしていると非難した。
 
中国外務省の汪文斌報道官は定例会見で、人権侵害疑惑について、「事実によってとうの昔に暴かれたうそ」と切り捨てた。
 
全米最大のイスラム人権団体「米イスラム関係評議会」はテスラに対し、ウルムチのショールームを閉鎖するよう求めた。
 
AFPはテスラにコメントを求めたが、回答は得られていない。 【1月7日 AFP】
*********************

中国との貿易政策にたびたび疑問を呈している米国製造業同盟のスコット・ポール代表は、テスラを「恥知らず」だと批判しています。

テスラは今のところ動きを見せていませんが、もし米議会主張に沿って中国での展開を縮小すると、今度は最大市場である中国からの激しい非難にさらされます。

小売チェーン大手の米ウォルマートや米半導体大手のインテルは昨年末、新疆で生産された製品などの取り扱いを停止したことで、ソーシャルメディア上で批判が殺到し、中国消費者への謝罪も余儀なくされています。

****米インテルが中国で謝罪 新疆製品の不使用要請で****
米半導体大手インテルは23日、仕入れ先に中国新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう求めていたことについて「尊敬する中国の取引先や協力パートナー、公衆を困惑させた」と中国の会員制交流サイト(SNS)で謝罪した。中国国内で同通知に対する批判が高まったことで、対応を余儀なくされた形だ。

ロイター通信によると、インテルは仕入れ先に対して同自治区の労働者を使用したり、関係する製品やサービスを調達することがないよう求める公開文書を出していた。これに対し、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が23日付の社説で「荒唐無稽で目障りだ」と反発。中国のインターネット上では同社に謝罪を求めたり、不買運動が呼び掛けられたりしていた。

同社は、中国のSNS「微博(ウェイボ)」で発表した中国語の声明で、文書は「米国の法律の順守」を表明したものだと説明。同自治区に関する記述は「他意や立場を表明したものではない」と釈明した。

米議会上院は16日に、同自治区を産地とする物品輸入を全面的に禁じる「ウイグル強制労働防止法案」を全会一致で可決している。

中国外務省の趙立堅報道官は23日の記者会見で、インテルの問題に関して「新疆の製品は品質が優れている。企業が使わないことを選ぶなら、彼らにとって損失だ」と発言。同自治区の強制労働問題については「完全に米国の反中勢力がでっちあげた噓だ」と反発した。【12月23日 産経】
**************************

【アメリカ 同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認】
アメリカ政界の中国に対する激しい視線、その“あおり”で対応に苦慮する米企業・・・トランプ政権から続くアメリカの「対中デカップリング(切り離し)」というイメージも浮かぶのですが、逆に、「謝罪」してまでも中国市場を捨てられないアメリカ企業の対中国依存を見るべきなのかも。

アメリカ企業にとって中国巨大市場への参入は死活的に重要な問題で、米中対立にあっても積極的中国進出を続けていますし、アメリカ政府も“デカップリング”ではなく、この中国との関係を後押ししているとのこと。

****<米中対立パラドックス>米企業「中国ビジネス」急拡大=相互依存強まり、米経済界にブーメラン****
米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大。米政権は、日本など同盟国に厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認している。

米中対立にもかかわらず米国企業の対中貿易投資は急拡大している。中国・上海で2021年11月に開催された「中国国際輸入博覧会(輸入博)」では世界最大の中国市場の成長を取り込もうと多くの外国企業が最新の商品や技術を披露した。特に目立ったのは米国の出展企業で、過去最多となり熱気に包まれた。トランプ政権から続く米国の「対中デカップリング(切り離し)」は進展しておらず、逆に「相互依存関係」が強化されている。

この輸入博における米国の企業・団体の参加数は200超で過去最多となった。ゼネラル・モーターズ(GM)、マイクロソフト、アップル、ナイキをはじめ従来からの進出企業の多くは派手な巨大ディスプレイで会場を圧倒。メガ企業のアマゾンなど初出展の企業も目立ち、米中対立が続く中でも中国市場のビジネスチャンスを重視する姿勢が際立った。

中国税関総署によると、2021年の対米貿易総額は過去最大となった。対米貿易総額は前年比29%増の7556億ドル(約86兆円)で、3年ぶりに最高を更新。20〜21年はいずれも対米輸出の増加額が輸入の増加額を上回り、貿易黒字は拡大した。21年は25%増の3965億ドルと過去最大を記録した。米中間の貿易は拡大を続けており、貿易での相互依存はむしろ強まっている。

輸出は米個人消費の回復でパソコンや玩具の出荷が好調だった。20年2月に発効した米中貿易協議の第1段階合意で、中国は米国から輸入するモノやサービスを20〜21年に17年比で2000億ドル増やすと約束。この合意に基づき、農産品だけでなくの輸入も増加した。中国人民大学は21年12月に公表した研究リポートで「米国が仕掛けた貿易戦争は失敗に終わった」と指摘した。

◆世界貿易に占めるシェア、米国を凌駕
中国が世界貿易機関(WTO)に加盟して、21年12月で20年を迎えた。この間に貿易総額は9倍に拡大、世界貿易に占めるシェアは01年の4%から20年には13%に達した。13年には米国を追い抜き、日本を含む多くの国にとって最大の貿易相手国になった。(中略)

◆テスラの急成長、中国市場が支える
米電気自動車(EV)大手テスラは中国市場で成功した米企業の典型と言える。2021年7〜9月期決算は売上高と利益がともに過去最高を更新し、時価総額は1兆ドル(約110兆円)を突破。その驚異的な成長は中国事業が支えている。

1〜9月のテスラの中国販売台数は前年同期実績の約3.5倍に拡大。テスラの中国の販売台数は4〜6月から米国を安定的に上回るようになり、7〜9月には全体の50%に達した。2年前に稼働した上海工場の生産台数は米国工場を上回った。中国からテスラや中国企業がEVを世界中に輸出し急増している。時価総額で世界1、2位のマイクロソフトとアップルは中国事業のウエイトが大きいが、テスラも2社の中国重視戦略を追いかけている。

人口14億人を擁する世界最大の消費市場を掴もうと米企業は必死である。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)と半導体メーカーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が米国の事実上の禁輸リストに指定されているにもかかわらず、米国内の両社のサプライヤーがかなりの額の製品・技術の輸出許可を米商務省から取得していた事実が判明した。

昨年11月から今年4月までの期間に、ファーウェイ向けの計610億ドル(約7兆円)の製品・技術の販売について計113件の輸出許可が付与され、SMICには420億ドル近い製品・技術を販売するために188件の許可が与えられた。許可は4年間有効で、SMICの米サプライヤーによる輸出許可申請の90%強が承認され、ファーウェイの米サプライヤーによる申請は89%に許可が下りたという。

脱炭素で、中国は脱炭素(カーボンニュートラル)を今世紀中頃までに実施すると宣言しているが、米企業は保有ライセンスを前面に、中国企業への売り込みに血道をあげている。米国金融業界は中国で日本より多くのビジネス上の特権を持ちさらに拡大している。米中間の官民やの対話・交流は頻繁に行われており、中国に行くと米国人や米ブランドショップが目立ち、GMなどアメリカ車の多さに驚く。

◆米中覇権争いの中、米中のしたたか戦略
米中の世界覇権を巡る争いは表向き激化しているが、米国内では最近の経済安全保障に名を借りた対中強硬策への反発も経済・金融界を中心に根強い。米シンクタンク幹部は「トランプ政権以来の保護主義政策は結果的に世界最大の消費市場・中国でのビジネスチャンスを奪い、米国の経済力を衰退させる」と警鐘を鳴らす。米中経済の相互依存が強まる中で、米政府主導のデカプリング(対中切り離し)は進展しておらず、「米中対立パラドックス(逆説)」とまで言われている。

ウォール街や米産業界にとってビジネス上の中国の重要性はむしろ増大するばかり。米政府は中国とのビジネスをやめるよう圧力をかけておらず、逆に前述したように、ファーウェイなどへの輸出を容認するケースも散見される。

グローバルな市場経済下で、成長の機会を求める米経済界が中国市場を重視するのは当然と言える。中国政府による市場開放のチャンスを米企業がつかまなければ、欧州や他の地域の企業に横取りされるとの懸念も根強い。

米国では対中貿易規制の長期化により中国からの輸入品に高い関税がかけられているため、昨年暮れのクリスマス商戦を前に物価が上昇、消費者の不満が高まった。

中国との投資や貿易取引が多大な米金融経済界や農業界から米中対立の緩和を求めるロビー活動も活発化している。昨年11月の米中首脳会談(リモート)もバイデン大統領から旧知の習主席に要請した。

米半導体大手インテルは中国・新疆ウイグル自治区の製品や労働力を使わないよう部品メーカーに通達したことについて、昨年12月23日に中国側に謝罪した。中国の国民感情に配慮することで同社製品の不買運動などに発展するのを避ける狙いだ。

(中略)(インテルは)20年に同社の売上高の26%が中国本土と香港に依存しており、この傾向は多くの米企業にとって同様だ。インテルの「謝罪」は米経済界の中国依存を象徴する出来事と言える。(後略)【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
**********************

【中国 安全保障重視の自給自足を目指す道を模索 実現は困難】
一方で、中国・習近平政権は諸外国との緊張関係の長期化に備え、安全保障重視の自給自足を目指す道を模索しているとも。ただ、その実現はかなり難しいようにも。

****中国「自給自足」まい進、先進諸国との関係悪化で****
食糧、エネルギー、原材料などあらゆる生産・流通過程の確保を公約に

中国政府は米国をはじめとする諸外国との緊張関係の長期化に備え、中国経済の強化を図っている。一部の必需品を備蓄し、外国依存度を下げる努力を加速させるため、国内生産の増加を計画中だ。
 
公式発表によると、国家発展改革委員会や農業農村省など中国の経済機関は最近、2022年の優先課題として「安全保障」を挙げている。特に、穀物からエネルギー、原材料に至るまであらゆる供給に加え、工業部品や商品(コモディティー)の生産・流通過程の確保を公約に掲げている。
 
中国はここ数カ月、穀物の買い付けを強化してきた。さらに、2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以降、栽培を放棄したも同然だった大豆を栽培するため、耕作地を確保する計画も明らかにしている。
 
安全保障重視の経済政策は、習近平国家主席が2020年に発表した戦略を強化するものだ。習氏は国外投資や輸出よりも、国内のサプライヤーと消費者を中国経済のけん引役として優先させる戦略を掲げた。中国政府はこうした重点シフトを「国内循環を主体とする双循環」と呼んでいる。

多くの先進国との関係が一段と冷え込む中、中国の内向き転換が加速しているようだ。新型コロナウイルス感染拡大や人権問題、中国の台湾に対する主権主張など一連の問題は、米国のみならずオーストラリアやカナダ、日本を含む米同盟国との対立を引き起こし、中国は報復措置として各国からの一部製品の輸入を制限している。特にオーストラリア産石炭の輸入禁止は昨年、中国の多くの地域で電力不足を深刻化させた。

中国はますます自己主張と民族主義を強め、技術面だけでなく、長年輸入に頼ってきた主食作物などの基本的な必需品についても自給自足を目指す道を模索している。
 
国営メディアによると、習氏は12月下旬の農業に関する高官級会議で、「中国人民の茶わんは常に自分たちの手でしっかりと握らねばならず、茶わんには主に中国産の穀物を入れなければならない」と述べた。
 
中国の指導者が食糧と経済全体の安全保障を訴えるのは初めてではないが、今回は政治的な意味合いが強い。今年は10年に1度の指導者交代期を迎える中、権力の座を譲るのではなく、既存の継承制度を破って権力を維持しようとする習氏の、力強いイメージを打ち出そうとする意欲が浮き彫りになっている。
 
しかし、自給自足という課題は容易ではない。とりわけ中国は、世界との融合によって多大な恩恵を受け、世界の工場になると同時に、世界のモノを求める貪欲な消費者となっている。
 
中国ではコロナ禍を通して輸出が堅調で、中国製の防護具や在宅勤務向け端末の需要が急増するのに伴い、昨年の成長の原動力となった。

一方、中国政府が成長の源として期待する国内消費は低迷している。習氏の経済改革(市場原理や個人ではなく、国家の党支配強化を中心に据える)が、企業や消費者の信頼感を低下させたためだ。コロナ関連規制を巡る不透明感も、消費者に支出をためらわせている。
 
中国の備蓄は既に、穀物やその他の商品価格を世界的に押し上げている。専門家やエコノミストは、中国がオーストラリアや米国など緊張関係にある国からの輸入を増やすことなく、石油、石炭、鉄鉱石などの備蓄を増強する能力があるか疑問視している。

安全保障の重視は、中国の主要貿易相手国との関係悪化を反映したものだが、そうした政策転換が武力衝突の懸念を呼び起こした例もある。一例として、中国商務省は昨年末、冬場の食糧供給を確保するよう地方当局に要請。台湾を巡り中国本土の弁舌が先鋭化する中での漠然とした表現の声明発表であり、中国政府が武力による台湾奪還の準備を進めているかもしれないとの不安をあおった。
 
そのため中国の一部でパニック買いが起こり、商務省当局者が国営放送に出演して火消しに努めたほどだ。
商務省の朱小良氏は発表から程なく、国営テレビ局の中央電視台(CCTV)に対し、「生活必需品の供給はどこでも十分あり、供給は完全に保証される」と語った。【1月14日 WSJ】
**********************

要は、アメリカにしろ、中国にしろ、政治的な思惑で何を言おうと、経済的依存関係(“依存”という言葉のイメージが悪ければ、“相互補完”でも“ウィンウィン”でも)は弱まることはない・・・といったところでしょうか。

【岸田首相 対中関係で「したたかな外交を行う」】
“米国以上に対中依存が高い”日本について、前出【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】は以下のようにも。

****経産相「海外市場における日本ビジネスを全面支援」****
米国以上に対中依存が高いのが、低成長が続き対外貿易に依拠する日本である。21年11月10日、経団連や安全保障貿易情報センター(CISTEC)など10団体が「中国及び米国の域外適用規制について」の要請書を経済産業省に提出。12月1日施行の中国輸出管理法や関係法令の懸念点(法規の域外適用、産業政策的の実施、報復措置等)のほか、従来からファーウェイなど向けに実施されている米国の再輸出規制の懸念点について触れ、政府ベースでの対応を要請した。

昨年12月、梶山経産相は産業界に対して経産省としての3点の考えを表明した。(1)企業各社は海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをして頂きたい(2)他国企業と同等の競争条件を確保することが重要であり、過度に萎縮する必要は全くない(3)仮にサプライチェーンの分断が不当に求められるようなことがあれば、経産省は前面に立って支援をしていきたい―などである。経済安全保障に名を借りた企業活動制限の動きをけん制したと受け止められている。

最近になって、岸田首相は対中関係で「したたかな外交を行う」との言辞を繰り返しているが、米国バイデン政権が「米経済界に根強くある、国益を優先し攻撃一辺倒でない、したたかな外交をすべきだとの声に押されて(米経済界に配慮した)ダブルスタンダード(二重基準)政策を展開していることに触発されたため」(外務省筋)とみられている。経団連幹部によると、米政権は、日本など同盟国に経済安全保障など厳しい対中政策を強要している裏で、米国企業には「対中利権の保持拡大」を容認しているという。

中国の経済パワーは日米だけでなく欧州、アジア、アフリカ、中南米にも及んでいる。日米の一部政治家による表向き威勢の良い攻撃的な言説が目立つが、その裏で着々と進行する「不都合な真実」を注視すべきである。【1月16日 八牧浩行氏 レコードチャイナ】
***********************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

サプライチェーンの混乱 フライドポテトから自動車まで 脱炭素や人権・環境へ配慮という問題も 

2021-12-22 23:03:50 | 経済・通貨
(コロナ禍を経てコンテナ需要が急回復し、輸送費が高騰している【12月20日 日経ビジネス】)

【フライドポテトにヘリウム風船も】
最近、供給体制・物流のトラブルから商品が円滑に入手できないサプライチェーンの混乱に関する報道を頻繁に目にします。原因は新型コロナによる供給の乱れ、急激な需要回復、コンテナやトラック運転手の不足による物流の滞留など。更に、脱炭素や人権・環境への配慮といった今日的な要因も。

まずは身近なところから。(なぜBBCが日本のマクドナルドを取り上げているのかは知りませんが・・・「チップ」つながりでしょうか)

****日本のマクドナルドでフライドポテトが不足、サプライチェーン危機の影響****
世界規模のサプライチェーン危機で半導体チップ不足が深刻化する中、世界最大のファストフード企業マクドナルドも、日本で「チップ」不足に直面している。 ただ、マクドナルドで問題となっているのは半導体ではなく、フライドポテトだ(イギリスではフライドポテトを「チップス」と呼ぶ)。 

マクドナルドによると、看板メニューのフライドポテトの材料となるジャガイモに、輸送の遅れが出ている。 これを受け、今月24~30日の間、フライドポテトの販売を一部に限定するという。 

マクドナルドはBBCに、「日本マクドナルドは一時的に、フライドポテトのミディアム(M)とラージ(L)サイズの販売を制限する。お客様にマクドナルドのフライドポテトを味わい続けてもらうための積極的な措置だ」と説明。(中略)

■今後は空輸も
マクドナルドが21日に発表した声明によると、材料のジャガイモは通常、カナダ・ヴァンクーヴァー近郊の港を経由して日本に輸送される。 しかし、カナダで先月発生した洪水被害の影響と、新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的なサプライチェーン危機により、船舶に遅れが生じている。今後、空輸などの代替策を取るという。(中略)

一方、イギリス国内の1250店舗では今年8月、シェイクやボトル入り飲料の販売に影響が出た。供給面で問題が生じたためだった。 マクドナルドは、トラック運転手の不足が原因の1つだと説明。ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)によって商取引のルールが変更されたことで、問題が悪化したとした。【12月22日 BBC】
*************************

東京ディズニーランドでは風船が・・・風船だけならまだしも、病院のMRIとか、半導体・ヒカリファイバー生産にも影響するとか。

****東京ディズニーは風船休止 ヘリウム高騰の余波****
半導体製造などに使うヘリウムの輸入価格がここ50年余りの最高値を更新する水準で推移している。アジアを中心とした旺盛な需要に対し、海上輸送の停滞などで供給が追いつかない。需給の逼迫感から国内の半導体関連産業の調達不安が広がりつつある。ディズニーリゾートで風船販売が休止されるなど消費者に身近なところで影響も出始めた。

ヘリウムはガスや液体として冷却などの用途があり、半導体や光ファイバーの製造に欠かせないほか、医療現場の磁気共鳴画像装置(MRI)やデータセンターの記憶装置に使う。風船のガスでも身近だ。

天然ガスを採取する際の副産物として生産され、採算に見合うコストで生産できるガス田は米国やカタールなど世界で数カ国のみだ。日本は全量を輸入に頼る。(中略)直近で安かった17年からの上昇率は4割近くに達する。

需要はアジアを中心に伸びている。新型コロナウイルス禍で半導体や光ファイバー向けなどの需要が昨年減少したが、足元では中国などで需要が回復している。

一方、供給が戻っていない。ヘリウムは液化して専用コンテナで海上輸送するが、日本の輸入会社幹部は「世界でコンテナ船の輸送が停滞している影響で、産地に物があっても消費国には物が乏しい状況が続いている」と説明する。(中略)

ある国内ガス大手の担当者は「これまでは半導体生産が滞っていたため供給難が顕在化していなかったが、調達の状況は日に日に悪化している」と打ち明ける。足元は大口需要家である半導体産業への供給は優先しているというが、「最近半導体業界に対して供給調整を打診した同業もあると聞く」と指摘する。

あおりを受け始めたのがレジャー産業だ。風船販売のローリーズバルーンファクトリー(東京・港)の藤井純子代表は「11月からヘリウムの入荷が完全に停止し、次回入荷のめどが立っていない」と明かす。「1月中旬や2月までガスの供給が復活しなければ、在庫がなくなり次第、販売を一旦停止せざるを得ない」

オリエンタルランドもガスの品薄を受け、1日から東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)内でのヘリウムガスを詰めた風船の販売を休止している。「販売再開の時期は未定」(同社)という。仮に1カ月以上販売を停止することになれば、12年11月から14年1月にヘリウム不足を受けて休止して以来となる。

クリスマスの風船の需要期に消費産業に痛手となった。ヘリウム不足の影響は今後、半導体や光ファイバー、医療機器などの産業や消費生活に広がる可能性がある。【12月21日 日経】
*******************

“天然ガスを採取する際の副産物”という性格もあって、これまでも供給がタイトになったこともあります。
偶然ですが、丁度2年前にも同じような記事がありました。

“ディズニーから風船消えた ヘリウムガス、世界的な異変”【2019年12月21日 朝日】

上記記事によれば、アメリカの冷戦時代の備蓄を取り崩して供給がなされてきたが、それも品薄になってきて買占めの対象になっているとも。

また、近年のシェールオイル採掘では地質的にヘリウムが得られないとかで、供給がタイトになっている事情もあるようです。

医薬品の供給トラブルも深刻です。
こちらは一部ジェネリックメーカーでのトラブルが発端ですが、一か所で供給が乱れると、需要が代替品に集中し、連鎖的に供給混乱が拡大していく様相は「サプライチェーン」の問題の側面もあります。

****“薬が足りない”医療崩壊にも…生産現場で一体何が****
現在、国内で価格が安いジェネリック医薬品が使われている割合は8割以上に達しています。ところが今、このジェネリック医薬品が足りないという悲痛な声が上がっています。薬局にかつてない危機感が広がっていました。医薬品の生産現場で一体、何が起きているのでしょうか。  

今、「日本の医療崩壊」にもなりかねない大きな問題が起こっています。(中略)その原因は調剤に必要な「ジェネリック医薬品」だといいます。  

(中略)ジェネリック医薬品とは特許期間が切れた後、同じ成分を使って別のメーカーなどが作った価格の安い医薬品です。医療費を抑えるために政府も推進して現在、約8割がジェネリック薬品を使用しています。  

ところが今年2月、福井県の製薬会社「小林化工」が異物混入による不祥事で業務停止処分。その後、国内最大手の日医工などでも相次いで不祥事が発覚しました。  

さらに、危惧する事態に発展…。日本薬剤師会・有澤賢二常務理事:「各医療機関や薬局等が品物が不足することで奪い合い…。在庫をたくさん抱えようとする行動が起きていて、そういったなかでも市場が混乱している」  

製薬会社の不祥事、その連鎖、そして買占め。新型コロナウイルスの影響で原料の輸入が追い付かない。そして、先月には大阪の物流倉庫での火災。  

(中略)そしてジェネリックの代用で新薬自体にも品不足状態に陥っているものがあるそうです。  

日本薬剤師会・有澤賢二常務理事:「各社それぞれ、今の品質管理体制であったり、製造管理体制を見直して、きちんと製造できる体制に人員教育を含めて設備の更新も含めて完全に回復するまでには、2年から3年はかかるだろう」【12月16日 テレ朝news】
*********************

【日本でも起きている尿素水不足】
一時期、韓国での尿素水不足が話題になりました。(「尿素水」って初耳で、クリームなんかに入っている尿素のことだろうかと思い、なんでそんな大騒ぎするのだろう・・・美容大国・韓国のせいか・・・と訝しく感じたことも)

日本でも不足が問題になってきているようです。

****「尿素水」品薄 運送業者から物流への影響を懸念する声****
ディーゼル車の排ガスを浄化するために必要な「尿素水」が、中国の輸出規制の影響で品薄となり、物流などへの影響を懸念する声が出ています。

ネット上では通常の10倍前後の高値で転売されるケースも相次ぎ、フリマアプリ大手の「メルカリ」は利用者に冷静な対応を呼びかけています。経済産業省は、国内メーカーの増産で早ければ1月には品薄は改善に向かう見通しだとしています。

経済産業省などによりますと、「尿素水」はトラックなど大型のディーゼル車の排ガスを浄化する装置などで、有害物質の排出を抑えるために広く使用され、浄化装置が搭載された車両の多くは「尿素水」がないとエンジンがかけられない仕様になっているということです。

国内では原料となる尿素のおよそ半分を輸入でまかなっていますが、その多くを占める中国が今年10月から輸出前の検査を厳格化したため、入荷できない状況が続いているということです。

このため「尿素水」が品薄となり、一部の運送業者などは入手しにくい状況になっていて物流への影響を懸念する声も出ています。

また、ネット上では「尿素水」が通常の10倍前後の高値で転売されるケースも相次ぎ、フリマアプリ大手の「メルカリ」は21日、利用者に冷静な行動を取るようホームページで呼びかけました。(中略)
尿素を中国から輸入している商社からは戸惑いの声が上がっています。東京 千代田区の貿易商社は中国から年間およそ1000トンの尿素を輸入し、国内の尿素水のメーカーに販売しているということです。

尿素の価格は夏ごろから上昇し、中国の国内で輸出前の検査が厳格化された影響で、この会社では11月から全く輸入できない状況が続いているということです。(中略)

運送業者からは今後の影響 懸念する声も
「尿素水」が品薄になっている状況について一部の運送業者からは、今後の影響を懸念する声が出ています。

東京都トラック協会足立支部によりますと、支部には先月以降「尿素水を入手できないので協会を通じて購入できないか」などの問い合わせが10件程度寄せられているということです。

中には在庫があと1か月分しかなく、新たに購入できないと来月以降はトラックを動かせないと訴える会社もあるということです。

東京都トラック協会足立支部の鳥ノ海学副支部長は「車両台数の少ない中小企業はふだんの仕入れ先から入手できない状況で、ほかの仕入れ先から新規に購入することも難しく、よけいに手に入りづらくなっている。ライフラインを担う物流は止められないので、必死に『尿素水』を確保している状況だ」と話しています。(後略)【12月22日 NHK】
*******************

原油・天然ガスの高値と同様に、脱炭素に向けた構造転換の過程でのトラブルという側面もあるようです。

****脱炭素・貿易摩擦、背景****
不足感が強まった主な原因は、原料となる尿素の生産大国である中国が、10月中旬から尿素の輸出を実質的に絞ったことだ。
 
中国は二酸化炭素の排出削減を目指して炭鉱を閉鎖する一方、貿易摩擦の影響で豪州からの石炭輸入が急減するなどして石炭が不足している。そのため、おおもとは石炭などから作られる尿素の生産が少なくなっているもようだ。

尿素水を扱う伊藤忠エネクスの信田(のぶた)政通・モーターソリューション部次長は、「中国製品は今、全く出ていない。日本でも多くの業者が安い中国製を使っていたので業界がパニックになっている」と指摘する。
 
日本では尿素の国内生産トップ・三井化学が、10月から定期修理で国内唯一の工場を1カ月ほど止めたことが重なった。2位の日産化学は11月以降、新規顧客の注文受け付けを停止し、既存顧客も従来の注文量に制限。市村大樹・基礎化学品営業部長は「フル生産で、これ以上は販売量を増やせない」。
 
三井化学の工場は修理を終え、今は高稼働だ。業界関係者には「品薄は徐々に落ち着くのでは」という期待もある。ただ、伊藤忠エネクスの信田氏は「中国の動きは不透明な面があり、最近の国際情勢をみると、逼迫は長期化する可能性もある」と警戒する。【12月18日 朝日】
********************

【自動車生産、ひいては日本経済前提への影響も】
日本経済を支える自動車生産でも。

****トヨタ、日本工場の稼働停止を延長 サプライチェーン危機の影響続く****
トヨタ自動車は13日、国内の一部工場の稼働停止期間を延長すると発表した。サプライチェーン問題が続いているためとしている。

同社は、新型コロナウイルスのパンデミックにより、東南アジアの部品工場で生産が不安定になっていると説明。高級車「レクサス」やスポーツタイプ多目的車(SUV)「ランドクルーザー」の生産に遅れが出ているとした。
生産に影響が出た台数は、今月1万4000台に上るという。

BBCへの電子メールでトヨタは、「新型ウイルスの再流行によって東南アジアのサプライヤーの出勤率が低くなっていることや、日本国内の厳しい物流状況」が、工場の稼働停止につながっていると述べた。(中略)

パンデミックによる生産の乱れに加え、日本では今年3月、自動車業界にとって最大規模の半導体メーカーであるルネサスエレクトロニクスの工場で火災が発生。同社は、注文処理の能力に「大きな影響」が及ぶ恐れがあると警告していた。

世界的なサプライチェーン危機は、日本の自動車業界だけでなく、経済にも大きな影響を与えている。(後略)
【12月14日 BBC】
*******************

【今後必要とされる人権・環境問題への配慮】
サプライチェーンの川上や川下における、(新疆ウイグル自治区の問題のような)人権とか、あるいは環境への配慮も今後企業に求められます。

****半導体、人権…自動車・電機揺さぶるサプライチェーンパニック****
2022年は新型コロナウイルス禍で停滞したヒト・モノ・カネ・情報の移動が本格的に復活する。ただ、自動車や電機産業では資材不足やコスト高が依然、業績回復の重荷となる。ESG(環境・社会・企業統治)対応も含め、サプライチェーン(供給網)再強化が主力産業の共通課題となる。
 
コロナ禍3年目に突入する2022年、世界で消費の本格的な回復が見込まれる。だが、長い我慢の時期を耐えてきた企業の生産回復に水を差しかねない不安も残る。主力産業を襲うサプライチェーンの混乱だ。
 
21年、日本の基幹産業である自動車の業績回復の足かせとなった半導体不足。ルネサスエレクトロニクスや旭化成など国内大手の工場火災や、米国の生産地を襲った大寒波など、不幸なアクシデントが連続したことで、在庫が払底した。
 
だがそれは、自動車産業が直面した問題の表層にすぎない。半導体危機が示しているのは、世界の多くの企業が想定していた以上のスピードで、ものづくりや生活様式の「デジタル化」が急激に進んだという事実だろう。
 
(中略)「外交問題や金融危機、自然災害など様々な困難を乗り越えてきたが、『半導体』が巨大な自動車産業全体のボトルネックになるとは、コロナ禍の前には想像すらできなかった」(大手自動車部品幹部)との困惑が業界内から聞こえてくる。(中略)

そしてこの構図は、22年も大きくは変わらない。
(中略)仮に半導体危機が去ったとしても、世界で一斉増産が進めば、3万点に及ぶ自動車部品の、別の調達リスクが顕在化する恐れもある。
 
世界的な原材料価格や輸送用コンテナの不足や偏在による物流費の高騰にも、出口が見えない。
金属加工会社のトップは窮状を訴える。「コンテナ輸送費が、コロナ前の実に6~7倍で高止まりしている。(電子部品など)容積当たりの単価が高い製品を扱う企業との競争に勝てず、コンテナを確保することすら難しい」。
 
コロナ禍からの消費回復がもたらす世界的な混乱は、22年もサプライチェーンに重くのしかかることになりそうだ。

ESG対応の混乱も懸念
企業が対応を迫られる新たな課題も浮上している。サプライチェーン全体でのESG対応だ。
 
欧州連合(EU)など各国・地域が義務化に動いている「人権デューデリジェンス(人権DD)」がその代表格。人権DDとは、自社はもちろんのこと、調達先やさらにその先の現場で、ステークホルダー(利害関係者)に対する人権侵害のリスクを特定し、予防策を実施して、情報を開示する、一連の取り組みを指す。15年に制定された英国の現代奴隷法などが先駆けで、欧州各国を中心に法制化が進んでいる。(中略)
 
中国の新疆ウイグル自治区での強制労働問題や、紛争鉱物の使用や児童労働問題など、サプライチェーンの上流に潜む人権侵害リスクもきちんと把握し、調達先を選別するなどの対処をすることが、これまで以上に厳しく求められることになりそうだ。
 
環境分野でもサプライチェーンの情報開示を求める動きは加速する。企業に温暖化ガス排出量などの公表を求める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、開示を要求する範囲の拡大に動いている。

自社の生産活動だけでなく、原材料の製造や製品の使用・廃棄といった段階での排出が多い企業は、「スコープ3」と呼ばれるサプライチェーンの川上や川下での排出量の開示も求められるようになる。上流や下流に位置する企業は、脱炭素に本腰を入れなければ、供給網の中で不利な立場に立たされる恐れがある。
 
コロナ禍で一時的に停滞した、ヒト・モノ・カネ・情報の移動が本格的に復活する22年。サプライチェーンの再強化が主力産業の共通課題となることは間違いない。【12月20日 吉岡 陽氏 日経ビジネス】
*****************

地域的には、日本のサプライチェーンに大きな影響を持つベトナムでの感染拡大が懸念されています。
“日本企業に再び供給網混乱の現実味、ベトナムまた感染者急増”【12月22日 ロイター】

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

原油価格高騰 米バイデン政権は日本など消費国と強調して石油備蓄放出へ 効果は?

2021-11-25 23:06:32 | 経済・通貨
(原油先物(米WTI)の推移)

【1年半前は20ドル割れ 今年10月には80ドル超え】
周知のように、現在は原油価格が高騰し、ガソリン価格上昇など多くの価格水準を押し上げる要因となっていますが、当然ながら(すべての財・サービスと同様に)原油価格は需給状況を受けて上下します。

つい1年半前の2020年4月頃は、原油先物価格(米WTI)は現在の1バレル76ドルぐらいに対し、4分の1水準の20ドル付近まで落ち込みました。コロナ禍の需要減少が主因でした。

当時は主要産油国のサウジアラビアとロシアの足並みの乱れも目立ちました。

****中東大油田地帯、機能不全の危機  新型コロナ感染拡大で原油再び高騰か****
米WTI原油価格は1バレル=20ドル台半ばという18年振りの安値水準で推移している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)で世界の原油需要が2割(日量約2000万バレル)以上減少すると見込まれているからだ。

 ▽三大産油国、協調難しく
このような状態に慌てふためいているのは、世界の三大産油国である米国、ロシア、サウジアラビアである。

トランプ米大統領の呼び掛けで、サウジアラビアは4月2日「OPECプラス(OPEC加盟国とロシアなどの産油国)の緊急のテレビ会議を6日に開催する」と発表。新型コロナウイルス危機前の世界の原油需要の1割に当たる日量1000万バレル以上を減産する取り組みが始まった。
 
だがロシアのプーチン大統領が3日、原油価格の急落について「サウジアラビアが増産や値引きを発表したことが原因だ」と批判した。これに対し、サウジアラビアのファイサル外相が4日、「まったく真実と異なる」と反論するなど両国の対立は早くも表面化している。
 
加えて世界最大の原油生産国である米国がこの協調減産に参加することが不可欠だが、米国内では「協力する用意がある」との声が出始めている一方で、「法律上の制約から実現は困難である」との見方が一般的である。
 
史上最大規模の協調減産の枠組みが成立しなければ、原油価格は1バレル=20ドル割れとなる可能性が高い。このような低油価は今後も続くのだろうか。(後略)【2020年4月7日 47リポーターズ)】
*************************

ついには“マイナス”価格も出て、話題にもなりました。

****NY原油価格、史上初のマイナス 新型ウイルスで供給過剰****
米ニューヨーク商業取引所で20日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の枯渇により、原油価格が史上初めてマイナスとなった。

マイナス価格は、貯蔵施設が5月に満杯になる恐れがある中で、生産者が買い手に代金を払って引き取ってもらう状態になっていることを意味している。

石油会社は余剰原油を貯蔵するためにタンカーのレンタルに頼っている。

アメリカの原油価格を示すウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物はこの日、1バレル当たりマイナス37.63ドルと、史上初のマイナス価格で取り引きを終えた。【2020年4月21日 BBC】
*****************

もちろん、コロナ禍による需要減少が回復に転じれば、当然ながら価格も上昇に転じます。
ただ、最近の欧州における天然ガス価格高騰の影響もあって、一本調子に上げた原油価格は1バレル80ドルを超える水準にまで高騰しました。

****米原油先物、7年ぶり高値 エネルギー需給逼迫に鎮静化見えず****
米国時間の原油先物は、週間で約4%上昇。世界的なエネルギー需給の逼迫を背景に、米WTI原油先物は2014年10月31日以来、約7年ぶりの高水準を付けた。

WTIの清算値は1.05ドル(1.3%)高の79.35ドル。(中略)

バンク・オブ・アメリカのクリストファー・クプレント氏は「天然ガスや石炭など他のエネルギー価格が上昇を続けているため、原油市場でも価格上昇リスクが高まり始めている」と指摘。原油高の背景には、欧州でのガス価格の高騰により、電力会社が石油への切り替えを進めていることがある。

ANZのコモディティーアナリストも「ガスから石油への転換が加速すれば、北半球の冬に向けて発電用の原油需要が増加する可能性がある」との見方を示した。【10月9日 ロイター】
*******************

アメリカや日本などは、産油国に増産を求めていましたが、産油国側は現在の高値水準を維持したいことから増産を見送っています。

****産油国 追加増産見送り OPECプラス閣僚会合****
OPEC(石油輸出国機構)などの産油国は、日本やアメリカが求めていた追加の増産を見送った。

サウジアラビアなどOPEC加盟国と、ロシアなどの産油国は4日、閣僚会合を開き、毎月、日量で40万バレルずつ増やすとしている今の計画を維持し、追加の増産を見送った。

原油価格は、世界的な需要の高まりにより高騰を続けていて、ガソリン価格などが上昇し、生活にも影響が出ていることから、日本などは増産を求めていた。

一方で、産油国側はイギリスなどで新型コロナが再拡大する中、原油の需要が本格的に回復するかが見通せず、追加の増産を見送ることで、現在の高値水準を維持する狙いもあるとみられる。(後略)【11月5日 FNNプライムオンライン】
*****************

長期的な視野に立てば、過度に価格が上昇すれば、ただでさえ強まっている「脱化石燃料」の流れを更に加速させることにもなりますので、産油国にとっても警戒すべきところがありますが、差し当たっては高値維持で利益を確保したいというのも当然のところでしょう。

【アメリカ・バイデン大統領 消費国の協調的石油備蓄放出を主導 ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約】
こうした状況で原油価格が上昇し、それに伴ってガソリン価格など諸物価が上昇すると、日本でも大きな問題ですが、自動車社会のアメリカではガソリン価格上昇は死活的に重要な問題で政権基盤を直撃します。
支持率が下落しているバイデン政権としては、何もしない訳にはいかないといころでしょう。

アメリカは主要消費国と協調して石油備蓄の放出に踏み切りました。こうした協調放出は初めての試みとか。

****米、石油備蓄放出を発表 日本などと協調、価格抑制目指す****
ジョー・バイデン米大統領は23日、戦略石油備蓄5000万バレルの放出を指示したと発表した。日本などと協調して行い、高騰する燃料価格の抑制を目指す。
 
ホワイトハウスは今回の石油備蓄放出について、「中国やインド、日本、韓国、英国などの主要消費国と協調して行われる」と説明した。
 
ある政権高官は記者団に対し、他国と共にこのような措置を講じるのは今回が初めてと明かした。
 
新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行と、これに伴うロックダウン(都市封鎖)の影響から世界が回復に向かう中、急増する需要に生産が追いつかず、石油価格が上昇している。
 
米国では、これに関連するガソリン価格の上昇が、高インフレの主因の一つとなっている。 【11月23日 AFP】******************

バイデン米大統領は23日、高インフレとガソリン価格高騰に対する政権の国内外における取り組みを強調し、ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約しました。「長期的にはクリーンエネルギーへの移行に伴い、石油への依存を減らす」とも。

****バイデン氏「取り組みは世界中に」備蓄放出****
世界的な原油価格の高騰を受け、アメリカ政府は、日本や中国などとともに石油備蓄の放出を行うと発表しました。各国が協調しての一斉放出は史上初めてです。

ホワイトハウスは23日、日本、中国、インド、韓国、イギリスなどとともに、石油備蓄の放出を行うと発表しました。市場への供給量を増やし、価格の引き下げを狙ったもので、バイデン政権が各国に働きかけていました。各国一斉の放出は、史上初めてとなります。

バイデン大統領「この取り組みは世界中に広がり、最終的には皆さんの街のガソリンスタンドまで届くだろう」

演説したバイデン大統領は、「ここ数週間、各国首脳らと連絡を取り合ってきた」と明かした上で、「ガソリン価格高騰の問題は、一夜にして解決できないが、中間層、労働者の家庭のために必要なことを行っていく」と強調しました。

備蓄の放出量は、アメリカが5000万バレルで、国内需要の3日分に相当します。日本政府としては、国家備蓄の放出は初めてで、24日、正式発表する予定です。【11月24日 日テレNEWS24】
*********************

日本もアメリカとの協調を演出すべく、初めての国家備蓄放出する異例の対応に。量は「数百万バレル」とのこと。

****「最後のとりで」に異例の対応 石油の国家備蓄放出、政府の言い分は****
米バイデン政権が23日、日本や中国、インドなど主な消費国と協調して石油備蓄を放出することを表明した。日本政府も石油の国家備蓄を初めて放出する方針だ。具体的な放出量や時期などを示していない国もあり、原油価格を下げる効果は見通せない。

日本、初の石油備蓄放出へ 米に同調 価格引き下げ効果は不透明
日本の石油備蓄は国が所有する国家備蓄と、石油会社に法律で義務づけている民間備蓄などがある。国家備蓄は全国10カ所の基地などで国内需要の約90日分以上を貯蔵することとし、民間備蓄は70日分以上と定めている。
 
国家備蓄は9月末時点で145日分と目標を大きく上回っている。貯蔵している絶対量は1990年代後半からほぼ変わっていない。国内の石油消費量は省エネなどで減少傾向にあり、日数換算でみると増えている。政府はこの「余剰分」を放出するとみられる。
 
政府は国内の需要動向などをみながら、国家備蓄の原油の種類を少しずつ入れ替えている。そのたびに一部をアジアの石油市場で売却しているという。今回放出する場合は、同じように市場に売却できないか詰めている。売却の収入は、ガソリン価格抑制のために石油元売り各社へ出す補助金の財源にする案もある。
 
ただ、これまで備蓄を放出したのは、紛争や災害時で供給不足が心配されるときだ。レギュラーガソリンの平均価格が1リットルあたり185・1円と史上最高値を記録した2008年にも放出しなかった。
 
放出する場合でも、まずは民間備蓄で対応し、国家備蓄には手をつけなかった。なにかあれば民間分を先に出し、国家備蓄は「最後のとりで」として温存しておくためだ。民間備蓄は国内の石油元売り会社のタンクに貯蔵されており、放出分を国内のガソリンスタンドなどに届けやすいこともある。
 
政府は、余剰分の放出は目標量は満たしたままなので問題ないとしている。放出量も国内需要の数日分と限定的だ。米国との協調を演出するため、異例の対応に踏み出す。
 
だが、これまで国家備蓄量を増やすことはあっても、大きく減らすことはまずなかった。多額の税金を投入し備蓄基地をつくったのに、空きタンクができかねない。10月に閣議決定されたエネルギー基本計画も「引き続き石油備蓄水準を維持する」と明記している。国家備蓄に初めて手をつけるなら、政府には十分な説明が求められる。
各国、対応にばらつきも
 
米国は協調をアピールするが、各国の対応にはばらつきも出そうだ。英政府の広報担当者は23日、「コロナ禍から立ち直る経済を支えるため国際的パートナーと一緒に出来ることをする」と声明で述べた。日米などと歩調を合わせる姿勢だが、英国は企業備蓄の自発的な放出を促すだけで、政府備蓄を取り崩すことは想定していない。(中略)
 
放出の効果も疑問視される。日米など各国が放出しても、供給量が増えるのは一時的で、全体の需給に与える影響は限られる。(後略)【11月24日 朝日】
*******************

イギリスは上記のように民間備蓄から150万バレルを放出することを許可。
韓国も、2011年に行った政府の備蓄総量の約4%、韓国内で5〜6日分の使用量に当たる量と同程度の放出を行うと見られています。(量・時期は改めて決定)
世界第3位の石油輸入国インドは、同国の石油消費量1日分に相当する500万バレルの備蓄石油を放出することを明らかにしています。【11月24日 産経より】

中国は微妙です。

****中国、米要請に応じるか明言控える 石油備蓄放出巡り****
中国は24日、戦略石油備蓄の放出について必要に応じて実施すると表明し、米国による協調放出の要請に従うかどうかについて明言を避けた。(中略)

米国は5000万バレルを放出する計画で、当事国では最も多い。ただ、中国との協調が実現しなければ、インパクトは弱まるとみられる。

中国外務省の趙立堅報道官は24日、米主導の備蓄放出に参加しているかコメントを避けた上で、「中国は実際の必要性に応じて国家備蓄からの原油放出を計画するだろう」と述べた。(後略)【11月25日 ロイター】
********************

【産油国側は大規模増産には消極姿勢】
消費国側のこうした動きに産油国側は「冷ややか」で、OPECプラスは次回の閣僚会合を12月2日に開く予定ですが、夏に決めた小幅増産ペースを維持したい意向と見られています。
消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっているとも。

****石油備蓄放出、産油国は冷ややか 来月2日に対応協議****
サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)加盟国およびロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は、バイデン米政権による再三の増産要求にもかかわらず、大規模な増産を避けてきた。

OPECプラスは新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の急減を受け、昨年5月に協調減産を開始しており、世界経済が本格的に回復するかを見極める狙いがうかがえる。

OPECプラスは12月2日、閣僚級会合を開いて石油需給の見通しを協議するが、協調減産幅を毎月日量40万バレルずつ縮小する現在の枠組みに大きな変化はないとの見方が多い。

欧州ではコロナ感染が拡大する気配をみせ、収束は見通せない。エネルギー需要が高まる冬場に入り、現在の高値を維持したい思惑があるとも指摘される。

ロイター通信は、OPECプラス当局者や専門家の間で、米中やインド、日本など消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっていると報じた。

アラブ首長国連邦(UAE)のエネルギー相は、来年第1四半期は余剰供給になるとのデータがあるとし、「増産する道理はない」と述べた。

備蓄の協調放出は産油国に対する警告のメッセージであり、政治的緊張が高まる恐れがあるとの見方もある。英BBC放送(電子版)は、消費国の動きを受けてOPECプラスが生産を抑制するようなら、備蓄の協調放出は「裏目に出るかもしれない」という識者の見方を伝えた。【11月24日 産経】
********************

【「脱化石燃料」の流れ中で増えないシェールオイル投資】
バイデン政権のお膝元、アメリカ国内のシェールオイルの増産も政府の要請どおりにはいかない様子です。

****米シェール業界の再投資鈍化、ガソリン値下げ目指す政権と足並みそろわず****
バイデン米政権がガソリン価格押し下げを狙って日本や中国などと共同で石油備蓄放出に踏み切った一方、シェール企業による増産に向けた再投資の動きは鈍化している。政府と米石油業界の溝が深まっていることが改めて示された格好だ。

ライスタッド・エナジーのデータによると、米シェール企業が事業で得た現金を原油・天然ガス掘削のために振り向ける比率は第3・四半期に46%と、長期平均の130%を大幅に下回って過去最低を記録した。これらの企業が配当や自社株買いを通じて株主への現金還元を優先している様子が見て取れる。専門家の話では、この再投資率は今後さらに低下する可能性もある。(中略)

米国石油協会(API)も、バイデン氏が新規パイプライン設置を認めず、連邦用地のリースを停止していることが、業界の投資抑制の原因だと批判。APIのチーフエコノミスト、ディーン・フォアマン氏は、政権が予見可能な将来に化石燃料の全廃を望んでいる以上、業界の資金繰りがより厳しくなると再投資に消極的な事情を説明した。【11月24日 ロイター】
********************

従来は原油価格が上昇するとアメリカのシェールオイルが増産され、原油価格上昇が抑制されるメカニズムが働いていましたが、「脱化石燃料」の流れのなかで、価格上昇でもシェールオイル増産への投資があまり増えない形になっているようです。

【結局は需給バランス次第】
オイルショック以前は、原油価格は少数の石油大手企業(国際石油資本 石油メジャー)が牛耳っていると見られていました。
オイルショックで価格決定権はOPEC石油産油国へ。
その後、ロシアやアメリカシェールオイルの比重が増大。
基本的には、他の商品同様に需給バランスで決まるものでしょう。

今回のアメリカ主導の協調備蓄放出がどの程度の効果をもたらすのか?
直接の放出量は「大海の1滴」に過ぎないでしょう。消費国側の強い姿勢を見せることで、それ以上のアナウンスメント効果的なものを期待できるか・・・・?

22日76ドル付近だった原油先物WTIは、24,25日は78ドル付近で推移しています。
「より大きな状況は石油製品需要が引き続き堅調で、タイト化する市場にさらなる圧力となっていることだ」(市場関係者)
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする