孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

西アフリカで台頭するイスラム過激派 解放後も続く「子ども兵士」にされた少女たちの苦悩

2020-01-31 23:12:31 | 人権 児童

(「子ども兵士」で悪名高い「神の抵抗軍」(LRA)の指導者ジョゼフ・コニー(手前)【1月24日 Newsweek】
1986~2005年に6万6000人超の子供を誘拐したとされますが、今も活動を続けています。)

【テロで存在感を競うISとアルカイダ】
アフリカで民族・宗教間などの紛争・衝突、イスラム過激派の台頭などが見られるのは今更の話ではありますが、最近よく目にするのはブルキナファソやニジェールといった西アフリカ地域の状況。

貧困層が多く、国家の治安維持機能も脆弱な西アフリカでは、ISやアルカイダなどのイスラム過激派がその勢力を拡大し、テロも頻発しています。

****西アフリカのクリスマス・テロ――ブルキナファソは「第2のシリア」になるか****
西アフリカのブルキナファソで、イスラーム過激派が軍事基地などを相次いで襲撃するクリスマス・テロが発生した

この国を含む西アフリカ一帯にはISやアルカイダが流入して勢力を広げる一方、国際的な関心も低く、取り締まりは追いついていない

ISとアルカイダのイスラーム過激派同士が、金の産出地帯をめぐって勢力争いを繰り広げることが、テロの蔓延に拍車をかけている
 
ほとんどの国が関心をもたない西アフリカは、いまやイスラーム過激派が目立つテロを競う場になっている。 

ブルキナファソのクリスマス・テロ
キリスト教最大のイベントであるクリスマスは、ほぼ例年イスラーム過激派の大規模なテロが世界のどこかで発生してきた。今年、それは西アフリカのブルキナファソで発生した。 
 
25日、同国北部スム県にあるアリビンダ基地が襲撃され、兵士7人、民間人35人が殺害され、攻撃した武装勢力も80人以上の死者を出した。巻き添えになった民間人のうち31人は近隣の女性だった。スム県では24日にもパトロール中の軍隊が襲撃されている。(中略)
 
ブルキナファソの人口の約80%はムスリムだが、キリスト教徒もいる。これまでのところ、犯行声明を出した組織はない。 

「第2のシリア」?
今回の事態は、かねてから警戒されていた。ブルキナファソを含む西アフリカでは、イスラーム国(IS)やアルカイダといったイスラーム過激派の活動が活発化しているからだ。 
 
例えば、ブルキナファソに限っても、2015年からだけで700人が殺害され、56万人が避難を余儀なくされており、国連は同国が「第2のシリア」(Another Syria)になりかねないと警告していた。 
 
中東を追われたイスラーム過激派は世界に拡散しているが、そのなかでもアフリカは「狙い目」にされやすい。その背景には、治安機関が脆弱で取り締まりが充分でなく、さらに「テロリスト予備軍」としてリクルートの対象になる貧困層も数多くいることがある。 
 
とりわけ、ブルキナファソを含むサハラ砂漠の一帯(サヘルと呼ばれる)は、隣接するアルジェリアやリビアなど北アフリカから過激派が数多く流入している。北アフリカは中東の一部でもあり、サヘルはその玄関口になっているのだ。 

世界から見放されたサヘル
ブルキナファソをはじめサヘル一帯でのテロの蔓延は、難民の流出に拍車をかけている。国連難民高等弁務官事務所は今年10月段階で、アフリカの西部から中部にかけて130万人の難民と470万人の国内避難民がいると推計している。 

こうした人道危機への懸念から、例えばフランスのマクロン大統領は2017年、ブルキナファソの他、チャド、ニジェール、マリ、モーリタニアの5カ国(G5)とテロ対策の強化で合意。G5は国境を超えるテロ組織に共同で対処することを目的にしており、フランスはこれに訓練や兵站などで支援してきた。 
 
サヘルの国にはかつてのフランス植民地が多く、いわばフランスの縄張りでもあるが、これにはやはり難民増加を懸念するドイツやカナダなども協力している。 
 
しかし、他の多くの国は、サヘルでのテロ対策に必ずしも熱心ではない。中東と異なり経済的な利害関係が少ないことが、その大きな要因といえる。サヘルのテロは、いわば世界から見放されてきたのである。 

テロ組織同士の抗争
世界から半ば放置されたサヘルの状況は、ISとアルカイダの縄張り争いによって、さらに悪化している。 
 
ISはもともとアルカイダから分裂した組織で、両者は直接衝突することは稀でも、基本的に関係がよくない。 
そのうえ、両者は資金源をめぐっても対立している。シンクタンク、国際危機グループによると、これらの組織はブルキナファソからマリにかけて広がる金の産出地帯を制圧しており、これをめぐっても争っている。(中略)
 
ISとアルカイダが少しでも相手と差別化して、存在感を誇示しようとした場合、一番分かりやすいのは目立つテロ事件を引き起こすことになる。こうした「レース」は、2015年に2度の大きなテロに見舞われたパリをはじめ、これまでにも世界の各地で発生してきたことだ。 
 
今月12日、フランス政府は来年初旬に開催予定だったG5との首脳会合を延期すると発表した。その直前に、G5の持ち回りの議長国であるニジェールで発生した、71人の兵士が死亡するテロ事件が理由だった。この事件ではISが犯行声明を出したが、これがアルカイダを触発したとしても不思議ではない。 
 
だとすると、今回のブルキナファソの事件がどの組織によるものだったとしても、この事件そのものが次の事件を誘発することは充分考えられるのである。【2019年12月26日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
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上記記事が指摘するような“この事件そのものが次の事件を誘発する”関係かどうかは知りませんが、ブルキナファソでは今年に入ってからも武装勢力による住民襲撃が相次いでいます。

****西アフリカ、住民30人超殺害 ブルキナファソ、市場襲撃****
西アフリカ・ブルキナファソ北部の村の市場で25日以降、武装勢力が住民を襲撃し30人以上を殺害した。イスラム過激派の犯行とみられている。AP通信などが28日報じた。国営テレビによると、死者は50人に達する恐れがあるという。
 
ブルキナファソ北部では20日にも別の市場が襲われ、少なくとも36人が死亡したばかり。同国や隣国マリ、ニジェールでは過激派が台頭し治安が悪化。特にブルキナファソでは襲撃が急増している。
 
目撃者らによると、襲撃は25日に始まり、戦闘員らはその後も何日間か村にとどまった。【1月29日 共同】
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同じ西アフリカのニジェールでも。

****軍の基地に相次ぐ襲撃、兵士さらに89人死亡 ニジェール****
西アフリカのニジェール西部で軍の基地が武装集団に襲撃され、兵士89人が死亡した。事件を受け、政府は3日間の服喪を宣言した。

ニジェール政府の12日の発表によると、隣国マリとの国境に近い地域で9日、軍の拠点が武装集団に襲撃された。
同国は犠牲者をしのんで全土で半旗を掲げると表明。マハマドゥ・イスフ大統領は遺族に哀悼の意を表し、負傷者の早期回復を祈るとした。

ニジェールでは昨年12月にも軍の拠点が襲撃され、兵士71人が死亡していた。

ニジェールと隣国のマリは、イスラム過激派との戦闘が続く中、軍の拠点に対する襲撃が過去数カ月で相次いでいる。

マリでは昨年11月、過激派の掃討作戦を行っていたヘリコプター2機が衝突事故を起こし、フランス軍の兵士13人が死亡。同月、北東部の基地が襲撃された事件では兵士50人以上が命を落とした。

ニジェール政府によると、マリとの国境付近にある基地は、バイクや車でやって来た集団に襲撃された。治安部隊の反撃によって、テロリスト77人を殺害したとしている。【1月14日 CNN】 
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【増大する子供の犠牲】
こうした劣悪な治安状況にある西アフリカ・サヘル地域では、多くの子供が犠牲になっています。

****アフリカ・サヘル地域紛争、子どもの殺害や手足欠損「数百人」 ユニセフ****
アフリカ・サハラ砂漠の南縁に位置し、イスラム過激派勢力が猛威を振るっているサヘル地域では昨年、子ども数百人が殺されたり手足を失うなどの重傷を負ったり、両親と引き裂かれたりした。
 
28日に発表された国連児童基金(ユニセフ)の報告によると、サヘル諸国のうちマリだけでも、昨年1〜9月に277人の子どもが殺されたり重傷を負ったりした。前年の2018年と比べて2倍以上になるという。
 
マリはフランス軍や国連部隊の支援を受けているが、2012年に同国北部で武装蜂起した反政府勢力やイスラム過激派勢力の鎮圧に苦戦している。これまでに兵士や民間人数千人が犠牲になった上、戦闘は同国中心部や隣国のブルキナファソとニジェールにも広がり、民族間の緊張もあおった。
 
ユニセフの報告によると、サヘル地域全体で「戦闘に巻き込まれた子どもたちに対する暴力が著しく増加」しており、ブルキナファソとニジェールでも子どもたちが殺人や性暴力、誘拐、武装集団の戦闘員動員の標的となっている。
 
広範囲に及ぶ紛争で自宅を逃れ避難民となった人は昨年11月時点で、前年の2倍の約120万人となり、その過半数を子どもが占めている。また約490万人の子どもが人道援助を必要としているという。
 
ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所のマリー・ピエール・ポワリエ代表は「子どもたちが直面している暴力の規模に、われわれは衝撃を受けずにはいられない」「数十万の子どもたちがトラウマになる経験を生き抜いている」と語った。 【1月28日 AFP】
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【解放後も偏見の目にさらされる元少女兵】
子供の戦争被害は、子供自身への被害の他、子供が拉致され「少年兵」として戦闘に投入されるということがあります。

****子ども兵士894人解放、反ボコ・ハラムの民兵組織 ナイジェリア****
国連児童基金(ユニセフ)は10日、ナイジェリアでイスラム過激派「ボコ・ハラム」と対峙(たいじ)する民兵組織から少女106人を含む子ども894人が解放されたと明らかにした。

解放された子どもたちは北東部マイドゥグリで地元の民兵組織「一般市民合同タスクフォース(CJTF)」によって兵士として採用されていた。CJTFは2013年、一帯の反政府勢力の活動に対抗するために作られた組織。

ユニセフによると、ナイジェリア北部の紛争では2013〜17年にかけて3500人以上の子どもが兵士になった。ボコ・ハラムはこの地域で10年以上にわたり戦闘を続けており、村を焼き打ちしたり軍基地を襲撃したりしている。

ユニセフ・ナイジェリアのモハメド・フォール事務代表は「戦闘の影響を受ける子どもたちがいる限り、子どものための闘いをやめてはならない。我々はナイジェリアの全武装勢力の兵士から子どもがいなくなるまで取り組みを続けていく」と述べた。

ユニセフによると、CJTFは2017年に子どもの兵士採用を終わらせる行動計画に署名して以降、1727人を解放してきた。ユニセフはナイジェリア政府や地元当局と協力し、こうした子どもたちの社会復帰を支援しているという。

ボコ・ハラムの戦闘員は集団拉致や暗殺、市場の爆破を実行。軍が奪還したと主張する地域でも兵士の殺害に及んでいる。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年1月には3万人近くがナイジェリアの村から隣国カメルーンに避難する事態となっていた。【2019年5月11日 CNN】
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上記記事では“少女106人を含む”ということで、「子ども兵士」という言葉を使用していますが、通常は「少年兵」という言葉がよく使われます。

「少年兵」という言葉のイメージからは少女たちの存在が抜け落ちてしまいます。

拉致された少女たちについては、性的な虐待が連想されますが、少年同様に兵士として戦闘に駆り出される少女たちも少なくないようです。

また、少女については解放後ももとの社会になかなか受け入れてもらえないという、少年とは異なる問題もあります。

****殺人を強いられた元少女兵たちの消えない烙印****
<武装勢力に誘拐され残虐行為に加担させられた少女たちは、解放後も偏見の目にさらされる――彼女たちが笑顔を取り戻すために必要な支援とは?>

マーサが初めて人殺しを強いられたのは10歳の時だ。小さな体に不釣り合いな長いおのを持たされ、村人の首を切るよう命じられた。マーサはその前の晩、ウガンダ北部の自宅で就寝中に家に押し入った男たちに縄で縛られ森に連れてこられたばかりだった。(中略)

誘拐したのはウガンダの武装勢力「神の抵抗軍(LRA)」。マーサは13歳になるまでに、ほかにも斬首や赤ん坊を殴り殺すなどの残虐行為を強いられ、村々への襲撃にも加わった。

命令に逆らった子供は見せしめのため手足を切り落とされたり、唇に金属の錠前をはめられたり、死体の上で寝かされたりする。

マーサはろくに食べ物も与えられず、日常的な暴力に耐えて森で生き延びた。いつか逃げ出して家に帰ろう。その思いだけが支えだった。

ユニセフ(国連児童基金)の調査によると、LRAが1986年から2005年までに拉致した子供は6万6000人を超える。「子供の兵士」という言葉から多くの人が連想するのは、小さな体に銃を背負い、迷彩服を着て声を合わせてスローガンを叫ぶ洗脳された少年たちの姿だろう。少女まで殺戮に駆り出されていることはあまり知られていない。

(中略)武装勢力に加わっていたことは、少女にとっては少年以上に深い恥辱となる。彼女たちは救済されるか逃げ出して家に帰ってからも、長く白い目で見られる。だが、少女兵に特有の問題はほとんど知られていない。

紛争地域に入るのは困難で、報道も少ない。加えて国連の調査・検証の基準が厳格なこともあり、世界中で少女兵がどのくらいいるか正確な数字は把握できない。

それでも国連によると2000年以降、武装勢力から解放された子供の兵士は少なくとも11万5000人に上り、うち最大4割は少女とみられる(国連が確認した数は実数のごく一部にすぎないと専門家は指摘している)。

誘拐された少女の一部は戦闘に駆り出されるが、多くは物資の運搬や調理、偵察や負傷者の手当てをさせられ、幼妻にされる子もいる。

性的暴力は日常的で、LRAに8年間拉致されていたジャネットという少女の話では、メンバーは成人女性よりもHIV感染のリスクが低い未成年者を好むという。

武装勢力による少女誘拐に世界の関心が集まったのは2014年4月に起きた事件がきっかけだ。ナイジェリアの過激派組織ボコ・ハラムが北東部チボクの寄宿学校を襲撃し、少女276人を誘拐した。

その後、少女たちの多くは救出されて家族と再会し、人々は安堵したが、同時にこうした少女を助けようという機運が盛り上がった。(中略)

武装勢力の下に戻る子供も
だが、誘拐された少女たち全員が解放後に温かい支援を受けられるわけではない。多くは家に帰ってからもトラウマにさいなまれ、「元少女兵」の不名誉な烙印を押されて身の置き場のない日々を送っている。

私が会ったとき、マーサは21歳になっていた。LRAの監視下に3年間置かれた末、逃げ出してから8年がたっていた。

初めのうち彼女はうつむいたまま、じっと押し黙っていた。そして声を振り絞るようにして、自分でも認めたくない屈辱を吐き出した。「こんな思いをすると分かっていたら、森から逃げなかったのに」

実際、命からがら逃げ出したのに自分の意思でまた武装勢力の下に戻る子供は後を絶たない。その割合は推定10人中3人に上る。

耐え難いのは周囲の偏見だ。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療と職業訓練を受けても、差別は根強く、経済的・社会的な孤立に追い込まれる。元少女兵の汚名に悩み、トラウマからの回復もままならず、家族や友人との関係が壊れるケースも多い。

社会復帰の難しさは少年兵と少女兵に共通する部分もあるが、明らかな違いもある。話を聞いた元少女兵の多くは、元少年兵以上に職探しに苦労していた。

汚名はわが子にも付きまとう
LRAの下で6年を過ごし性的暴力を受けたミリは解放後に職を探したが、「傷物」を雇えば評判が悪くなると、どこに行っても断られた。1年間捕らわれていて少年兵と共に戦闘に駆り出されたレベッカも、女のくせに暴力を振るうなんてとんでもないと門前払いを食らった。(中略)

元少女兵の汚名は結婚の妨げにもなる。マーサは12歳になる前、強制的にLRA司令官の妻にされた。
「25歳になった今でも、まだ『汚れた女』と思われている」と、彼女は嘆く。(中略)

世界各地にいるマーサのような元少女兵には、私たちの助けが必要だ。戦争を生き延びることも大変だが、その後の社会的・経済的影響を耐え抜くことも同様に難しい。【1月24日 Newsweek】
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北アイルランド  イギリスのEU離脱で高まる紛争再燃の懸念

2020-01-30 23:08:11 | 欧州情勢

(ロンドンデリー中心部で、スプレーで書かれた「IRA」の落書き。新IRAの若者が人員募集を呼びかけるために書いたとみられる【1月28日 産経】)

【自治政府は復活したものの、プロテスタント・カトリック双方の思惑は異なり、今後の衝突の可能性大】
ジョンソン首相がイギリスのEU離脱を進める一方で、焦点となっていた北アイルランドでは、激しく対立していたカトリック系とプロテスタント系政党の間で合意が成立し、3年ぶりに自治政府が復活しました。

****北アイルランド自治政府が3年ぶり復活、英首相は「4地域」の未来を歓迎****
政党間の対立で自治政府が3年間にわたり機能停止に陥っていた英領北アイルランドで11日、議会が再開された。

英国の欧州連合離脱(ブレグジット)の日が迫る中、英統治の維持を望むプロテスタント系ユニオニスト政党と、アイルランドへの併合を求めるカトリック系ナショナリスト政党が連立案に合意した。
 
ボリス・ジョンソン英首相は、13日の北アイルランド訪問を前に声明を出し、「北アイルランドの人々にとって歴史的な時だ」と共同自治の再開を歓迎。

「この先の10年間は北アイルランドと英国全体にとって、機会に満ちた信じがたいほど素晴らしい時代になるだろう。われわれは団結して4地域の可能性を解き放つ」と述べた。
 
復活した自治政府の首相には、プロテスタント系強硬派の民主統一党のアーリーン・フォスター党首が指名された。副首相には、カトリック系の民族主義政党シン・フェイン党のミシェル・オニール副党首が就任する。
 
ベルファスト郊外ストーモントに設置された北アイルランド議会は2017年1月、再生可能エネルギー政策の費用高騰をめぐるスキャンダルがきっかけで崩壊。

議員90人は臨時本会議を何度か開き、激しい折衝を繰り返してきたが解決策は見いだせず、基本的な行政サービスが滞っていた。
 
フォスター氏は、「この3年間は分断と非難の応酬に終始してしまった」「だが、決意と共に前進する時が来た」と述べた。
 
北アイルランドは面積こそ小さいものの英国にとっては戦略的に重要な地域。英政府は、シン・フェイン党とDUPが合意すれば北アイルランドに多額の助成を行うと約束していた。 【1月13日 AFP】AFPBB News
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しかしながら、イギリスとの一体化を主張するプロテスタント系強硬派の民主統一党(DUP)とアイルランドとの統一を志向するカトリック系の民族主義政党シン・フェイン党がここにきて合意した背景には、それぞれの思惑があってのこと・・・という話は、以前のブログでも取り上げました。

****英領北アイルランドで3年崩壊していた自治政府が復活 継続に向けて未だに残る不安****
(中略)DUPがシン・フェイン党との“和解”に応じた背景には、1月末に控える英国の欧州連合(EU)離脱がある。

ジョンソン英首相がEUと合意した離脱協定案では、現在の経済関係を維持する今年末までの「移行期間」終了後に、北アイルランドを含む英国全体が関税同盟から離脱。ただ、北アイルランドの関税手続きは当面、EUルールに従い、国境付近の税関検査を省く方針だ。
 
一方で、北アイルランド議会が、EUルールの適用の是非を移行期間終了後の数年ごとに判断できる仕組みになっている。

地元住民によると「北アイルランドが英国から切り離された」と協定案を批判するDUPは将来、EUルールから抜けるためにシン・フェイン党と取りあえず手を組み、自治政府を復活させたとみられている。
 
だが、アイルランドとともにEUに残留することを望んでいたシン・フェイン党が、EUルールから離脱するDUPの方針に議会で反発するのは必至だ。両党が今後も衝突する可能性は高く、自治政府の継続が不安視されている。【1月12日 産経】 
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自治政府がないことにはEUルールから抜けることもできないので、DUPとしてはまず自治政府を復活させた・・・とのことですが、アイルランドとの間のハードな国境管理にもつながりかねないEUルール離脱を、アイルランドとの一体化を求めるシン・フェイン党がおいそれと認めるはずもない・・・ということで、今後の衝突は必至の情勢です。

【復活の兆しを見せる過激派組織 EU離脱の混乱は絶好の機会】
一方、かつて爆弾闘争を行ったカトリック系過激派IRAの分派新組織が活動を活発化させるなど、EU離脱の混乱が紛争の再燃につながりかねない不穏な情勢があります。

****EU離脱直前、北アイルランドの国境付近はカトリック過激派の活動続く****
英国の欧州連合(EU)離脱が31日に迫る中、英国からの分離をめぐる紛争の舞台となった英領北アイルランドで、治安情勢の不安定化が懸念されている。EU加盟国の隣国アイルランドとの統一を求める北アイルランド住民の一部に、離脱への強い反発があるからだ。

国境付近の町、ロンドンデリーでは、過去の紛争でテロ行為を繰り返したカトリック系のアイルランド共和軍(IRA)を想起させる過激派「新IRA」が資金調達などを活発化しており、国境付近でテロなどが発生することを住民らが警戒している。

■警戒解けない住民
 「IRAに加わろう」「N(新) IRA」
レンガ造りの公共住宅が立ち並ぶロンドンデリー中心部を歩くと、住宅の玄関やフェンスに、白や緑のスプレーで書かれた落書きが目につく。現地の男性(42)は「こんな落書きが増えた。新IRAの若者がメンバー募集を呼びかけているのだろう」と話す。
 
人口約10万人のロンドンデリーは、その7割近くの住民が英国から分離してアイルランドとの統一を求めるカトリック系だ。
 
北アイルランドでは、1960年代以降、カトリック系と、英国統治を支持するプロテスタント系勢力の対立が激化し、98年の和平合意までに約3500人が犠牲になった。
 
和平合意後、プロテスタント系と武力闘争を繰り広げていたIRAの活動は終了した。だが、合意に納得しなかった一部のIRA民兵が10〜20代のメンバーを募り、新IRAを2012年ごろに立ち上げたとされる。

昨年、ロンドンデリーで自動車爆弾によるとみられる爆発を起こしたほか、暴動を取材中の女性記者を流れ弾で死亡させた。
 
地元住民によると、新IRAは現在、表向きは地元の政党を名乗る一方、40〜50人のメンバーが薬物の売買や強盗などで資金を調達。現地警察はテロ行為を行うことを警戒し、ロンドンデリーの新IRAの拠点周辺を24時間体制で監視しているという。

■国境と貧困
新IRAのテロ活動が懸念される背景には国境問題がある。
 
英領北アイルランドとアイルランドの境界には現在、検問所や税関がない。紛争時に厳重に管理された英・アイルランド国境は英国統治の象徴で、EU離脱で国境に物理的な分断を示すものができれば、カトリック過激派のテロの標的になる恐れがあった。
 
ジョンソン英首相は、英本土と北アイルランドの間で税関検査を行う方針で、北アイルランドとアイルランドの境界で厳格な国境管理が復活することはなくなった。

ただ、監視なしで国境付近で密輸を完全に防ぐのは難しいとされる。地元住民のロサ・オダヘティさん(23)は「新IRAは、監視の要員やカメラを『新たな国境管理』として標的にし、周辺でテロを起こす可能性がある」と危機感を抱く。

新IRAの活動には、貧困問題も根底にある。ロンドンデリーでは失業率が上昇しており、紛争の歴史を知らず、暴力行為で貧困の不満を解消するために新IRAに入りたがる若者もいるという。

プロテスタント系の住民との相互理解を目的に和平活動に従事する元IRA民兵のロバート・マッククレナガンさん(62)は「新IRAのメンバーには直接、『紛争を繰り返さないでほしい』と伝えている」と打ち明ける。

■自治政府に亀裂か 
一方、和平合意後に沈静化していたプロテスタント系とカトリック系勢力の対立が、再び表面化したとの見方がある。
 
北アイルランドでは11日、不在状態が続いていた自治政府が3年ぶりに復活。根強い対立が続いていた英本土との一体性を主張する北アイルランド民主統一党(DUP)とカトリック系のシン・フェイン党が自治政府の再建で合意した。

しかし、自治政府の議員は「政府が再開してまだ約2週間だが、両党の議論が微妙にかみ合わず、すでに亀裂が生まれ始めている」と不安を口にした。【1月28日 産経】
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ジョンソン首相による現行合意は実質的に北アイルランドを切り捨て、北アイルランドとイギリス本土の間に境界線を置くものだとの反発、「裏切り行為だ」との批判がプロテスタント系過激派にはあります。

一方で、将来的にアイルランドと北アイルランドの間に壁ができるような事態となれば、逆にカトリック系過激派が絶好の攻撃対象とします。

ブレグジットは北アイルラン紛争という厄介な“寝た子”を起こしたような感があり、どっちに転んでも円満な安定化というのは難しいように見えます。

****北アイルランドが血で染まる日*****
血で血を洗った北アイルランド紛争は、1998年のいわゆる「包括和平合意」で終結を見た・・・・はずだった。

70年代に始まり、3600人以上の命を奪ったあの争いは信仰と民族のアイデンティティーをめぐる戦いで、カトリック系で地続きのアイルランド共和国との統合を求めるリパブリカン(共和国派)と、海峡の向こうのブリテン(イギリス)との「連合」を維持したいプロテスタント系のユニオニスト(連合派)の問には越え難い溝かあった。
 
両派にはそれぞれの準軍事組織があった。カトリック系にはアイルランド共和軍(IRA)、プロテスタント系にはアルスター防衛連盟(UDA)やアルスター義勇軍。そして互いに爆弾テロや銃撃戦の応酬を繰り返していた。

彼らの大半は、和平合意を受けて武装闘争を放棄した。しかしその後も、少数ながら暴力による解決にこだわる分派集団がいた。(中略)

EU離脱という「好機」到来
そこへ、イギリスのEU離脱という大きな政治的変化が来た。過激派が待ちに待った好機の到来だ。

北アイルランド警察庁(PSNI)によると、準軍事的組織による襲撃事件の犠牲者は、2018年の51人から昨年は67人に増えたという。
 
中立的な「独立報告委員会」が昨年11月に出した報告書も、「09~10年以降は準軍事組織による襲撃や爆弾テロは減少傾向にあったが、18年10月1日から19年9月30日までの1年間では、準軍事組織の犠牲になった死者数と攻撃事例が増加していた」と指摘している。
 
イギリスのEU離脱をめぐる16年の国民投票で、北アイルランドは残留派が過半数を占めた。カトリック系住民の投票率が高かった証拠だが、これを受けて北アイルランドのカトリック系政党やアイルランド共和国政府は、アイルランド統一の是非を問う住民投票の実施を提唱するようになった。

一方で、離脱後にアイルランド共和国と北アイルランドの国境に物理的な「壁」ができれば、カトリック系過激派が猛反発し、暴力行為が再燃する恐れがあるとの観測もある。

北アイルランドの人口逆転
最近の一巡の暴力沙汰は、そうした不安に信憑性を与えている。昨年1月には北アイルランドのロンドンデリーにある裁判所の外で自動車爆弾テロがあったが、これは「新IRA」を名乗る集団(旧IRAの複数の分派集団が合流した武装組織)の犯行とされる。
 
同じ月には、新IRAがロンドンデリーのクレガン地区で15歳の少年を拉致して射殺する事件も発生。新IRAはさらに同年4月、市内で暴動を取村中の記者ライラ・マッキーを射殺。彼らは遺憾の意を表明したが、国内外で激しい非難を浴びた。
 
EU側もアイルランド共和国政府も、アイルランド島の北部に物理的な国境ができれば治安の維持に重大な懸念が生じると考え、イギリス政府との離脱交渉では物理的な国境復活の回避が最優先事項とされた。

この点は、前首相のテリーザーメイがEU側と合意したフバックストップ(安全策)」案でも、ボリスージョンソン首相がEU側と結んだ離脱協定でも変わっていない。
 
ジョンソン政権の結んだ協定によれば、北アイルランドは制度上、イギリスの新たな関税同盟に含まれるが、運用面ではEUの現行規制の枠組みを踏襲することになっている。そのとおりになれば、カトリック系住民の不満は解消されるだろう。
 
しかし北アイルランドとイギリスの「連合」維持にこだわるプロテスタント系のユニオニストは、これをジョンソンの裏切りと捉えている。

北アイルランドとイギリス本島の間を行き来する物品は海上で税関検査を受けなくてはならなくなり、北アイルランドと大ブリテン(イングランドとウェールズ、スコットランド)が明確に切り離されてしまうからだ。そうであれば、プロテスタント系の過激派が再び武力に訴える可能性が高まるだろう。
 
ユニオニストにとって、これは以前からゆっくりと始まっていた政治的・社会的な後退過程の一部だ。17年の北アイルランド議会選挙で、ユニオニスト諸派の4政党は議会の過半数を失い、英国議会でも10議席のうち2議席を失った。その結果、メイ前政権を閣外から支えた影響力もなくなった。
 
こうなると、最も得をするのはカトリック系の政治家だ。また、ある調査によれば北アイルランドではカトリック系の人口が増えており、遠からず多数派に転じる可能性がある。
 
ユニオニストの側から見れば、これらの変化は自分たちの社会的地位の低下を意味する。実際、今の北アイルランドではユニオニストの文化的シンボルや伝統を軽視する動きが表面化している。

12年にはベルファスト市議会が、市庁舎での英国旗の常時掲揚を中止すると発表。このときはユニオニストによる抗議デモや暴動が各地で何力月も続いた。
 
EU離脱を機に、「連合王国」における北アイルランドの地位を不動のものにしたいと考えていたユニオニストにとって、ジョンソンの協定は究極の裏切りだった。

武装勢力の脅威は高まる一方
そうであれば、プロテスタント系の準軍事組織の残党が勢いを盛り返すのは必至だ。ジョンソン政権の合意発表以来、ユニオニスト諸政党が各地で開いた抗議集会にも、彼ら過激派の姿があった。しかも、このところ増えている襲撃事件の多くにはプロテスタント系過激派の関与が疑われている。
 
今回の離脱協定は厄介な問題のいくつかを解決したが、まだ北アイルンドの将来像は見えてこない。この協定は物理的な国境の復活を想定していないが、EUとの貿易交渉の行方次第では復活の可能性がある。

共和国派はその可能性が高いとみており、だからこそ南北統合の住民投票実施をアイルランド政府にもイギリス政府にも強く求めている。

EU離脱の経済的影響が顕在化していない今でさえ、こうなのだ。離脱後に北アイルランド経済が苦しくなれば、政治的にもただでは済むまい。
 
当然のことながら、武装勢力は事態の推移を注意深く見守っている。そして彼らは自分たちの偏狭な信念に従って行動する。EU離脱の国民投票以来、当地では武装勢力の脅威が徐々に高まってきた。離脱後の将来像が描けなければ、彼らの不気味な影は伸びるばかりだ。【2月4日号 Newsweek日本語版】

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トランプ大統領のパレスチナ問題に関する「世紀の取引」 “ウィンウィン”ではなく“勝者と敗者”

2020-01-29 22:05:11 | パレスチナ

(28日、ワシントンで、中東和平案を発表し、握手するトランプ米大統領(左)と、イスラエルのネタニヤフ首相=ロイター【1月29日 読売】)

【イスラエルの希望を全面的に認めた「世紀の取引」】
以前から取り沙汰されてきたアメリカ・トランプ大統領のパレスチナ問題に関する「世紀の取引」が正式に発表されました。

予想されたように、一言で言えば「イスラエル寄り」・・・・というか、イスラエルの希望を全面的に認めた内容となっています。

発表の場にはパレスチナ側の姿はなく、トランプ大統領の傍らにはイスラエルのネタニヤフ首相、両者は発表後握手を交わす・・・という光景に、この「世紀の取引」がどういうものか、如実に示されています。

****米の「イスラエル寄り」中東和平案、パレスチナ側反発「陰謀の取引」****
米国のトランプ大統領は28日、パレスチナ紛争の解決に向けた中東和平案を公表した。

パレスチナ自治政府が将来の独立国家の領土と位置付けるヨルダン川西岸のユダヤ人入植地などをイスラエル領に組み込むなど、イスラエル寄りの内容だ。
 
トランプ氏は、歴代米政権が唯一の解決策としてきたイスラエルとパレスチナの「2国家共存」を表向きは支持した。

しかし、公表された和平案では、イスラエルとパレスチナの国境線を、イスラエルが西岸などを占領した第3次中東戦争(1967年)以前の境界線から変更し、西岸入植地や西岸東部にあるヨルダン渓谷一帯をイスラエル領に組み込むとした。
 
さらに、帰属を争うエルサレムを不可分のイスラエルの首都とした。

パレスチナ側には、テロ防止などの条件で独立国家の建設を容認したが、首都はパレスチナ側が求めてきた東エルサレム全体ではなく、その一部とした。パレスチナ難民がイスラエル領内の故郷に帰還する権利についても認めなかった。
 
一方で、将来のパレスチナ国家となる領域でのイスラエルによる入植活動を今後4年間凍結するよう求め、イスラエル南部にパレスチナ領を設けるなど、イスラエル側にも一定の譲歩を迫った。

パレスチナ側が和平案を受け入れた場合、500億ドル(約5兆4500億円)以上をパレスチナに投資し、経済成長を促すともした。
 
トランプ氏は28日、ホワイトハウスで記者団に「パレスチナにとって国家を樹立する歴史的な機会だ」と和平実現に自信を見せた。同席したイスラエルのネタニヤフ首相は「歴史的な日だ」と歓迎した。
 
一方、パレスチナ自治政府のアッバス議長は「この陰謀の取引は成立しない」と反発し、和平案を拒否する考えを示した。【1月29日 読売】
*********************

「世紀の取引」内容の要点は以下のとおり

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・abu deis (アブ・ディスまたはアブ・デイスは、エルサレムに隣接するパレスチナ自治政府のエルサレム県にあるパレスチナの村【ウィキペディア】)が将来のパレスチナ国家の首都である
・ヨルダン渓谷を含む西岸の30%を即刻イスラエルの領土とする(確か報道によるとイスラエルはこの1日から併合措置を進めるとか)
・ハマスの武装解除とガザの非武装化
・パレスチナはイスラエルをユダヤ人国家として認める
・イスラエル人は入植地から退去させられない
・エルサレムはイスラエルの首都
・エルサレムで分離壁の外側はパレスチナのもの
・パレスチナ難民問題はイスラエルの外で解決する
・パレスチナ難民はパレスチナ国家に帰還できる
・難民への補償の基金設立
・パレスチナはテロと戦い挑発を止めること
・エルサレムの聖地の現状維持
・パレスチナにはネゲブ砂漠(イスラエル南部の砂漠地帯)一部を与える
・パレスチナ国家に、外部からの資金で500億ドルの投資基金を設立する
・4年間の暫定期間中の入植地建設停止【1月29日 「中東の窓」より 一部加筆】
***********************

イスラエルにとっては、ほぼ満額回答です。

“ネゲブ砂漠(イスラエル南部の砂漠地帯)一部を与える”と言っても、イスラエルがベドウィンの強制移住を進める地域で、イスラエルにとっては価値のない荒野です。

ヨルダン川西岸の国際法違反の入植地はそのままイスラエル領に組み込み、代わりに砂漠をやるからと言われても・・・。

結果、ヨルダン川西岸地区はイスラエルに食い荒らされた虫食い状態に。

(トランプの和平案について、イスラエルのhaaretz netが掲載した「将来のパレスチナ国家」と言う地図【1月29日 「中東の窓」】)

加えて、エルサレムはイスラエルの首都(代わりに、エルサレム近郊の村をパレスチナにくれてやる)、イスラエル支配地域への難民帰還は認めない(パレスチナ側で処理する問題)、“テロと戦い挑発を止める”(おそらく、ハマスの武装解除を意味するのでしょう)・・・等々。

【“ウィンウィン”ではなく、パレスチナに「負け」を認めることを求める内容】
トランプ大統領は「ウィンウィン(双方に有益)となる機会を提供する」と語っているようですが、実質的にはパレスチナ側に「全面降伏」を求めるものであり、「勝者と敗者」の関係を強いるものです。

****中東和平案 米「負けを認めよ」とパレスチナに迫る****
トランプ米大統領は28日発表した新中東和平案について、イスラエルとパレスチナ自治政府に「ウィンウィン(双方に有益)となる機会を提供する」と強調した。和平案は、従来の国際合意にとらわれず、実質的に新規まき直しの交渉を提唱するものだ。
 
トランプ氏はホワイトハウスで和平案に関し「パレスチナ国家の樹立がイスラエルに対する安全保障上のリスクとなる問題を解消した、現実的な2国家共存策だ」と強調した。
 
トランプ政権高官も記者団に対し、「パレスチナは当初は和平案に疑心を抱くだろうが、いずれ交渉入りに合意するだろう」と期待を表明した。
 
トランプ氏の娘婿であるジャレド・クシュナー氏らが約3年間かけて作成した和平案は約80ページにわたり、2014年に和平協議が頓挫して以降の米政府の和平提案では最も詳細な内容であるのは間違いない。
 
そして、国連安全保障理事会や国連総会、過去の中東和平合意を必ずしも踏襲せずに思い切った提案をしているのも特徴だ。
 
特に、イスラエルとパレスチナ国家との境界線の線引きを大幅に変更したことは、2国家共存は「1967年の第3次中東戦争以前の境界線」を基準として進められるとした従来の国際合意から完全に逸脱するものだ。
 
また、ガザ地区の南部に新たに一定規模の土地を提供し、開発を支援するとの提案には、不動産開発業者だったトランプ氏らしい発想が透けてみえる。
 
和平案は、ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地についてイスラエルの主権を認め、エルサレムをイスラエルの首都と位置付けるなど、イスラエルに有利な内容なのは疑いない。
 
しかし、パレスチナは経済および治安維持をイスラエルに大きく依存しており、双方の力関係を考えれば、例えば従来の境界線を基準とした2国家共存を双方が「対等」な立場で実現させるのは、現実問題として不可能に近い。
 
トランプ氏の和平案を突き詰めれば、パレスチナに「負け」を認め、「グッド・ルーザー(良き敗者)」としてイスラエルと共生していくことを勧めたものだといえる。【1月29日 産経】
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【トランプ大統領・ネタニヤフ首相の都合に合わせた取引発表】
この「世紀の取引」が出されたタイミングは、トランプ政権・ネタニヤフ首相の都合に合わせたものと指摘されています。

****米が中東和平案公表 イスラエル寄りの内容 パレスチナ側反発 ****
(中略)トランプ大統領には、ことし秋の大統領選挙を見据えて、イスラエルを支持する国内のキリスト教福音派などにアピールし、支持基盤を固めるねらいがあり、和平案はイスラエルによる占領を追認したイスラエル寄りの内容となっています。(中略)

特に国民の4分の1を占めるとされ、アメリカ最大の宗教勢力とも言われる福音派は聖書の言葉を厳格に守ることを教えの柱とし、イスラエルを支援することが重要だと考えています。トランプ大統領の再選には欠かせない支持基盤です。

しかし、ウクライナ疑惑などのスキャンダルが取り沙汰される中、先月、キリスト教福音派の有力誌が「憲法に違反しただけでなく極めて不道徳だ」としてトランプ大統領の罷免を求める社説を掲載しました。

支持基盤の一部が離反する可能性も指摘される中、トランプ大統領としては、改めてイスラエルを重視する姿勢を打ち出し、支持を固めたいという思惑があるとみられます。

また、先週からは議会上院でウクライナ疑惑をめぐる弾劾裁判が始まり、全米で生中継される審理で民主党が追及を強める中、疑惑から国民の目をそらすねらいがあるのでは、という見方も出ています。

一方、イスラエルでは、ことし3月に総選挙が予定されていて、トランプ大統領としては、汚職事件で批判にさらされている盟友のネタニヤフ首相に外交的な成果を与え、援護射撃しようとしているとの見方が出ています。(後略)
【1月29日 朝日】
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【アメリカの「力」に腰が引けたアラブ諸国】
内容的には、一方的にイスラエルに肩入れしたもので、ひと昔前なら「何言ってんだか・・・」といったところですが、なにせ世界最強国アメリカが推進する方針ですから、パレスチナ側が受け入れなくても、国連の補助金などを使った圧力を強めるなどの「力の政治」で、一定に国際社会において影響力を持つものとなるのでしょう。

従来であればパレスチナ側に立って支援したであろうサウジ・エジプト・UAEなどアラブ諸国も、トランプ大統領の意向を汲んで腰が引けた対応です。

****世紀の取引(アラブ、中東諸国の反応)*****
(中略)
・当然予測されたところではあるが、当事者のパレスチナ人の立場は全面否定で、このトランプ案は生まれたときから死産であったとのコメントが見られ、和平案拒否、これに対して抗議活動の激化の立場をとっている

その意味で、ガザは勿論、ヨルダン川西岸とエルサレムでも、当面緊張が激化し、イスラエル当局との衝突が激化する可能性が強い。

たしかIDF(イスラエル軍)も28日頃から西岸の警備を強化している、

・これも当然予測されていたところではあるが、アラブ諸国の反応は2分され、サウディ、UAE, エジプト等はトランプ支持を表明したが、いずれも実体のない?イスラエルとパレスチナとの直接交渉に希望を託した。

その意味で、トランプ案が、建前上は「2国家方式」を維持した事は、これらの国に「イチジクの葉」を提供することとなり、当初トランプが一国方式を支持するとしたのを修正したのは賢明であった。

もっともこの「イチジクの葉」がどれほどの効果を表すかは、甚だ疑問ではあるが・・・(後略)【1月29日 「中東の窓」】
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アメリカにあるUAEの大使館は声明を出し、「アメリカ主導の国際的な枠組みの中で和平交渉に戻るための重要な出発点になる」として歓迎する姿勢を示しました。

地域大国のサウジアラビアは、公表の場に大使は、出席しませんでしたが、外務省が声明を出し「包括的な和平案を作り上げたトランプ政権の努力に感謝する。アメリカの支援の下でパレスチナとイスラエルが直接和平交渉を始めることを奨励したい」と評価しました。

また、イスラエルと国交があるエジプトの外務省も声明で「アメリカの努力に感謝する」としたうえで、「両者がアメリカの提案を吟味し、包括的な和平に向けた対話の再開を期待する」として和平交渉の再開を呼びかけました。【1月29日 NHK】
**********************

やや意外だったのは、従来から「2国家方式」を支持して、イスラエルの強硬姿勢に批判的だった欧州も、あからさまなトランプ批判は控えているところです。

****中東和平 EU、米新提案に「努力再開の機会」****
トランプ米大統領が発表した新中東和平案について、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は28日の声明で、紛争解決に向けた「努力再開の機会になる」と評価した。和平交渉を通じた2国家共存、国連決議の尊重を求めるEUの方針は不変だとした。
 
フランス外務省も29日の声明で、トランプ氏の努力を歓迎したうえで、中東和平には「国際法や国際合意に基づく2国家共存」が必要だと訴えた。
 
一方、英国のラーブ外相は28日の声明で、和平に向けた「真剣な提案だ」と歓迎した。イスラエル、パレスチナの双方に、和平交渉再開への一歩になりうるかどうかを「公平に検討」するよう促した。声明は、双方の平和共存の重要性を訴える一方、「2国家」案には言及しなかった。【1月29日 産経】
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【パレスチナ側の反発で、当面は高まる緊張 その後は?】
「世紀の取引」をパレスチナや支援するヒズボラ・イランなどは拒否して反発を強めていますので、当面はパレスチナを舞台にした緊張が高まるものと予想されています。

*****米の中東和平案、パレスチナで抗議活動…アラブ諸国も反発****
米国のトランプ大統領が公表した中東和平案に、パレスチナ側は反発を強めている。ラマッラやガザなどパレスチナ自治区の各地では28日、住民らによる抗議活動が起きた。
 
ガザ地区では、パレスチナの旗を手にした群衆が通りに繰り出し、トランプ氏の写真を焼いて抗議の意思を示した。ヨルダン川西岸ラマッラでも若者らが石や火炎瓶を投げるなどして、イスラエルの治安部隊と衝突した。
 
パレスチナ自治政府のアッバス議長は28日、自治政府幹部を招集して対応を協議した。その後のテレビ演説で、「パレスチナ人の歴史的権利を無視することは受け入れられない」と語り、和平案を拒否する姿勢を打ち出した。さらに和平案が経済支援と引き換えにパレスチナ側に大幅な譲歩を求めていることに対し、「エルサレムは売り物ではない」と述べ、強い反発を示した。
 
ガザ地区を支配し、自治政府と長く対立してきたイスラム主義組織ハマスも、アッバス議長の「和平案拒否」を支持する形で連携を表明。ハマス幹部のハリル・ハヤ氏は「あらゆる手段をもって和平案に対抗する」と話した。
 
サウジアラビア国営通信によると、サウジのサルマン国王は28日、アッバス議長と電話会談し、「パレスチナ人の権利を擁護するサウジの姿勢は揺らがない」と、支持を約束した。

ヨルダンも、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家の樹立こそが恒久的な平和を実現するとして、和平案に反対する外務省声明を発表した。【1月29日 読売】
*****************

ISの活動も、活発化すると思われます。
“IS「米の中東和平案の実現阻止」 ユダヤ人を標的と宣言”【1月28日 産経】

また、“アッバス議長は10年以上対立が続いている、イスラム原理主義組織のハニーヤ最高幹部と電話会談を行ったことを明らかにし、「互いの違いを乗り越えて団結するときだ」と述べ、今後の抗議活動では、ライバル関係にあるハマスとも連帯していく姿勢を示しました。”【1月29日 NHK】ということで、パレスチナ内部の統一が加速される可能性もあります。

トランプ大統領の方は、「パレスチナは当初は和平案に疑心を抱くだろうが、いずれ交渉入りに合意するだろう」と
自信を見せています。取引内容云々ではなく、現実世界におけるアメリカの力への自信でしょう。

 

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新型肺炎  「日本は災難が降りかかった他国をあざ笑ったことはこれまでに一度もない」中国ネット

2020-01-28 22:58:59 | 疾病・保健衛生

(日本のドラッグストアなどの店先や商品棚に「中国頑張れ、武漢頑張れ」と書かれた張り紙 
「中国中国メディアの新浪新聞の中国版ツイッター・微博アカウントは27日、「中国人が日本各地で見た涙を誘う光景」を紹介した。」【1月27日 レコードチャイナ】)

【メンタル的に追い詰められている武漢市民】
新型コロナウイルス肺炎に関するニュースが溢れていますが、そのなかで一番印象的だった記事が下。

****窓開けて「頑張れ」と励まし合う武漢市民、医師「危険だからやめて」****
新型コロナウイルスによる肺炎が発生した中国湖北省武漢市で、市民の間で集合住宅の窓を開けて「加油(頑張れ)」などと声を上げて励まし合う動きが出ているようだ。 

中国版ツイッターの微博(ウェイボー)には、こうした様子を撮影した動画がいくつか投稿されており、「涙が出てきた」「悲しくなってくる」「なんとか助ける方法はないのか」「遠く海外からも応援したい」「落ち着いて」「感染拡大につながる」「気持ちは分かるが支持できない」など、さまざまなコメントが寄せられている。 

また、中国のネット上では「武漢市民は27日午後8時に一斉にベランダの窓を開けて国歌を歌おう」とする呼び掛けも拡散されていた。 

こうした動きについて、中国共産党中央政法委員会のウェイボー公式アカウントは、「武漢市民の気持ちはよく分かるが、飛沫(ひまつ)感染したら割に合わない」などと自制を求めている。 

中国紙・環球時報の公式アカウントも、医師の話として「とても危険だ。唾液などの飛沫が飛散するし、人は歌う際に深呼吸をする。建物間の飛沫も風で運ばれてくる」などとし、「窓を開けて歌うのを今すぐやめよう」と促している。【1月28日 レコードチャイナ】
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「窓を開けて歌う」ことの危険性はともかく、“市民の間で集合住宅の窓を開けて「加油(頑張れ)」などと声を上げて励まし合う動きが出ている”というあたりに、隔離状態にある武漢市民のメンタル的に追い詰められた状況が示されています。

拡大する感染者、不足する物資・食糧、外出もできない状況、何よりも、先が見えない状況・・・不安に駆られて、何かせずにはいられない気持ちがよくわかります。

“新型肺炎に乗じてマスクを10倍の値段で販売! 薬局を摘発―天津市”【1月28日 レコードチャイナ】の類の記事も連日目にしますが、この類はどこの世界でも、日本でもある話です。

1974年、日本の店頭からトイレットペーパーが消えた「第1次オイルショック」の狂乱物価のさなか、某大手石油会社が「石油危機は千載一遇のチャンス」と社内文書に書いていたことが発覚して、大批判を受けて社長は辞任しました。

【情報隠蔽は上級部門の判断】
感染が拡大した背景に、武漢市当局の消極的な情報公開(“隠蔽”と言うべきか)があったことは以前のブログでも触れましたが、そこには省や中央政府など上級部門の判断があったことをうかがわせる市長発言も。

****新型肺炎 “情報公開の遅れ 上級部門の判断も” 中国 武漢市長****
新型コロナウイルスの感染拡大が最も深刻な中国、湖北省武漢の周先旺市長は、国営の中国中央テレビの番組にマスク姿で出演しました。

この中で周市長は、武漢の街を事実上封鎖した措置について、「1000万を超す人口の都市で都市を封鎖するのは人類史上例のないことだ。われわれは歴史に汚名を残すかもしれないが、感染を抑え込み、人々の生命の安全のためになるならば、市民に批判されてもやるべきだと考えた」と述べました。

そして、情報提供の遅れが批判されていることはわかっているとしたうえで、「理由の1つは、伝染病の情報は、法律に基づいて、情報を得たあとに許可を得てからでないと公開できないからで、この点は理解してほしい」と述べ、情報公開の遅れの中には市の判断ではなく、湖北省や中央政府など上級部門の判断によるものもあることを明らかにしました。【1月27日 NHK】
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中央政府からの指示となると、習近平政権の責任も問われます。

上記記者会見と同じ会見なのかどうかはわかりませんが、マスク姿で会見ということに関しては下記のような記事も。

****新型ウイルス、湖北省の当局会見にネットで批判 世論の怒り押さえきれず****
新型コロナウイルス流行の中心地となっている中国中部・湖北省と同省の省都武漢市の幹部が26日に開いた記者会見が、中国のインタネットユーザーらによってやり玉に挙げられている。
 
テレビ中継された会見には、同省の王曉東省長ら当局者3人が登場。しかしまず、武漢では公共の場所でのマスク着用が義務付けられたにもかかわらず、王省長自身がマスクを着けずに会見を行ったことに多くのネットユーザーが反応した。さらに武漢市の市長もマスクを裏表逆に着けていた。
 
中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」ではユーザーらが「市長もマスクの着け方を知らないのに、一般人が知っているわけがないではないか?」「無能で無責任な政治家たち」といった批判の声を上げた。
 
さらにネットユーザーらは、王省長が同省のマスクの年間生産数を間違え、108億枚から18億枚、最後は108万枚に3度も言い直したことを攻撃。あるユーザーは「湖北省の省長のくせに、どうしたら湖北省のマスクの生産数を知らないでいられるのか?」と疑問を突きつけた。
 
政府当局に対する批判コメントは通常削除される中国で、大量動員によるオンライン監視でも押さえきれずに世論の怒りが漏れ伝わるのは珍しい。 【1月28日 AFP】
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中国世論の怒りも湧き立っているようです。

【WTO 事務的なミス?】
武漢・湖北省当局の対応も疑問ですが、世界の危機管理元締めWTOの対応にも不思議な話が。

****新型肺炎の世界的危険度、WHOが事務的ミス…「中程度」から「高い」に修正****
世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスによる肺炎に関する26日付の日報で、世界的に見た危険度を「中程度」としてきたこれまでの表記は誤りで、正しくは「高い」だったと修正した。事務的なミスで、判断の変更を意味するものではないという。
 
WHOは、中国を中心に感染が拡大している新型コロナウイルスの現状について日報を出しており、危険性について、25日までは「中国は非常に高い、周辺地域は高い、世界的には中程度」としてきた。しかし実際には22日の判定以降、世界的な危険度は「高い」だったという。【1月28日 読売】
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“事務的なミス”・・・・世界の危機管理元締めの最も基本的な情報にそんなミスがあるのだろうか?とも思いますが、ミスというものは、往々にしてそんなものでしょうか。
まさかそんなところにミスが起きるとは誰も思わないので、誰もチェックしなかった・・・ということでしょうか。

もしそういう話なら、非常に教訓的な話で、例えば核兵器管理などについても、「あり得ないミス」が実際には起こり得るということです。

【収束は当分先?】
今後については、すぐには収束しそうにないことを指摘する記事も。

****新型コロナ“武漢市だけで25万人以上に”****
イギリスの大学などの研究チームは、新型コロナウイルスの感染者数が来月4日に武漢市だけで25万人以上に達するとの推計値を明らかにした。

人から人への感染について、1人が平均3.8人に感染させる可能性があるとも指摘している。これはWHO(=世界保健機関)が公表した数値を上回っている。【1月28日 日テレNEWS24】
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****新型肺炎「ピークは4、5月」 香港大の試算**** 
香港メディアによると、香港大の梁卓偉・医学院長は27日、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の発症者について25日現在、武漢市だけで2万5000人を超え、潜伏期の感染者も含めると約4万4000人に上る可能性があるとする試算結果を発表した。

今後、感染者は重慶や北京、上海、広州などで急増した後、4、5月ごろにピークを迎え、6月ごろから減少するとの見方を示した。試算結果を世界保健機関(WHO)に報告するとしている。【1月27日 産経】
*********************

少なくとも、“報告されている感染者数は氷山の一角”(WHO緊急委員会のメンバーである喜田宏北海道大特別招聘教授)【1月28日 共同】というのは間違いなさそうです。

【中国ネット「今回の日本の対応は本当に素晴らしい」】
そうした状況にあって目に付くのが、日本国内の対応に関して中国ネットの好意的な評価に関する記事。

****日本の厚生労働省が新型肺炎感染者の国籍非公表に=中国ネット「これぞ文明国家」「なんだか日本のことが…」****
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が拡大する中、厚生労働省が日本国内で感染が確認された患者の国籍を明らかにしなかったことが、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)で大きな注目を集めている。 

日本国内で3例目の新型コロナウイルス感染者(30代女性)が確認された25日の会見で、記者から感染者の国籍に関する質問が出た際、担当者は「厚生労働省の立場としては、感染者が2次的に日本国内で感染を拡大させないことが大きな目的で、この目的と国籍は関係ないと考えている。人権侵害にもつながるので公表は避けさせていただきたい」とした。 

この対応は、中国のネットユーザーの関心を集めている。新浪新聞の微博アカウント・微天下の関連の投稿には800件近くのコメントが寄せられており、「素晴らしい」「理性的だ!」「日本人は公正で客観的!」「これぞ文明国家、人権の尊重だ」「日本は考え方がしっかりしているなあ」「筋が通っている。重要なのはウイルスの拡散を防ぐことで国籍や地域とは関係ないよ」「これは称賛しないと。ありがとうございます」といった声が多くの共感を集めている。 

中には、「それに、マスクを値下げしたりして武漢を応援してくれている。なんだか日本のことがそんなに嫌いじゃなくなってきた」「今回の件で日本への好感度がだいぶ上がった」というユーザーも見られた。 

なお、産経新聞などの報道によると、厚生労働省は日本国内で感染が確認された患者の国籍についてはいずれも非公表としている。【1月27日 レコードチャイナ】
********************

****中国人が日本各地で見た涙を誘う光景「前は日本が大嫌いだったけど…」****
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスへの感染者が拡大する中、日本の店に貼り出された中国を応援する貼り紙が中国のネット上で話題になっている。 

中国メディアの新浪新聞の中国版ツイッター・微博(ウェイボー)アカウントは27日、「新型肺炎との戦いがますます激しくなる中、何人もの中国人観光客が日本各地で涙を誘う『マスク商品棚』を撮影した」と投稿。

ツイートに付された写真には、日本のドラッグストアなどの店先や商品棚に「中国頑張れ、武漢頑張れ」「We Love China」などと書かれた紙が貼られている様子が写っている。 

新浪新聞は、「この一つひとつの言葉に無数の中国のネットユーザーが涙した」と伝えた。さらに、日本の民間から支援物資として100万枚のマスクが送られたことにも言及し、「ありがとう皆さん!」とつづっている。 

これについて、中国のネットユーザーからは、「ありがとう」「とても感動したよ」「日本の友人に感謝(泣)」「今回の日本の対応は本当に素晴らしい」「ほとんどの日本人は善良なんだ。ありがとう!」など、称賛や感謝の声が上がった。 

また、「日本は災難が降りかかった他国をあざ笑ったことはこれまでに一度もない」「四川大地震の時、最初に駆け付けてくれたのも日本だった」といった声や、「前は日本が大嫌いだったけど、武漢に身を置く今、本当に感動している」という声も。さらには、「日本、待ってろよ。いつか必ず行くからな。富士山のため、浅草寺のため、波多野先生のため、それ以上に、今回の中国への応援に応えるために」という声も寄せられている。(後略)【1月27日 レコードチャイナ】
*******************

もっとも、“静岡のラーメン店が中国人観光客を追い出す”【1月28日 レコードチャイナ】という報道もありますが、これについても中国ネットでは意外にも、「中国国内でも武漢人を避けている。日本人が中国人を避けるのも驚くことじゃない」など、店側の対応に理解を示すものがほとんどだったとか。

****「こんなことしてくれるの日本だけ」=日本政府の対応に感謝と称賛****
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が拡大する中、日本政府の対応に中国のネットユーザーからまたしても称賛の声が上がった。 

日本政府は現地に在留する邦人を避難させるための民間のチャーター便を手配しているが、往路の機内には現地の人々へ提供するマスクなどの支援物資を積み込むという。中国側との調整により、チャーター便は29日以降に現地へ向かうことになるそうだ。 

この情報を中国メディアの環球時報などが伝えると、中国のネットユーザーからは「感動した」「ありがとうございます!日本は本当に温かい」「こんなことしてくれるの、日本だけだよ」「この恩は忘れない」「助けてくれる方、一人ひとりに感謝」「中国人は昔から恩とあだははっきり区別するんだ。ありがとう」「ポイントは今回の中国への支援について、いつも言い争いをしている日本の国会でほとんど反対の声がなかったこと。これはすごいと思う」「騒動が静まったらきっと(日本に)旅行に行くよ。私一人のお金なんて微々たるものだろうけど、気持ちだけ」といったコメントが寄せられた。 

中国のネット上ではこれまでにも、日本の民間から現地に100万枚のマスクが寄付されたこと、厚生労働省が「人権侵害になる」と感染者の国籍を非公表としていること、日本政府が新型肺炎を「指定感染症」に決定して外国人も含む治療に公費が投じられること、日本各地の店で「中国頑張れ、武漢頑張れ」と書かれた貼り紙が見られることなどが伝えられ、日本に対する称賛や感謝の声が相次いで投稿されている。【1月28日 レコードチャイナ】
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ただ、一部には誤解も。

****日本の報道を誤解か、中国で間違った情報広がる―中国メディア****
2020年1月28日、中国のニュースサイトの国際在線によると、中国のSNS上で27日、中国の新型肺炎について伝える日本の情報番組のキャプチャー画像を添えて「日本が医療関係者約1000人を武漢に派遣」とする間違った情報が拡散されているという。 

国際在線によると、キャプチャー画像は、27日放送の「情報ライブ ミヤネ屋」(読売テレビ系)のもの。同番組では、中国で感染が拡大している新型肺炎について中国の衛生当局の担当者が会見を開き、医療関係者約1000人を武漢に派遣したと明らかにしたことについて、説明テロップの1行目で「“新型肺炎”中国政府が会見」、2行目で「医療関係者約1000人『武漢に派遣』」と伝えた。 

国際在線は、テロップの2行目について、「日本語では主語が省略されることがよくある。『医療関係者を派遣』の主語は1行目の『中国政府』だが、そそっかしいネットユーザーが、日本が医療関係者を派遣すると誤解してしまったようだ」と伝えている。【1月28日 レコードチャイナ】
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何はともあれ、日本に対する印象が好意的なものになることは、今回の不幸な出来事のなかでは、歓迎すべき数少ないことのひとつでしょう。

「日本は災難が降りかかった他国をあざ笑ったことはこれまでに一度もない」という評価は、大切にしたいものです。

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ドイツ  ホロコースト75年、今また広がるユダヤ人排斥の風潮

2020-01-27 22:14:26 | 欧州情勢

(.ロンドン北部ハムステッドの店先に描かれた反ユダヤ的な落書き【2019年12月31日 BBC】)

【ナチスの犯罪について「この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」(メルケル首相)】
75年前の1945年1月27日、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を象徴するアウシュビッツ強制収容所が解放されました。

ホロコーストによる犠牲者は数百万人とも。亡くなった方、そして生き延びた方を含めて、その苦難を経験した人々と家族にそれぞれの物語があります。

下記は、そうした物語のひとつでしょう。

****母を捜して…ナチス強制収容所の恐怖を捉えたAFPカメラマン****
骸骨のように痩せ細った死体の山、遺体焼却炉へ続く扉、衰弱した人々の顔――1945年の春、AFPのカメラマン、エリック・シュワブ氏は、ナチス・ドイツの強制収容所の戦慄(せんりつ)の様子を記録しながら、収容所に送られた母親を捜していた。
 
シュワブ氏はドイツへ向かう列車から逃げ出し、後にレジスタンス運動に加わった。同氏は1944年8月、パリ解放後にジャーナリストらが再建したAFPで働いた初期カメラマンの一人だった。

進軍する連合軍の従軍記者となったシュワブ氏は、連合軍がナチスの死の収容所を次々と解放する中で、明るみに出た恐怖を目撃することになった。
 
ユダヤ系ドイツ人の母エルスベートさんを見つけたいという思いが、シュワブ氏を突き動かしていた。エルスベートさんは1943年に強制収容所に送られて以来、消息不明になっていた。
 
シュワブ氏の夢は、現在のチェコ・テレジーンにあったテレージエンシュタット強制収容所で現実のものとなった。1945年5月、看護帽をかぶった白髪の弱々しい女性を発見したのだった。母親だった。
 
当時、56歳だったエルスベートさんはなんとか死を免れ、収容所で生き延びた子どもたちの世話をしていた。2人の再会は当然のことながら深い感動に満ちたものとなったが、シュワブ氏は母親の写真は撮らなかった。撮ったのかもしれないが、写真を公にはしていない。
 
戦後、シュワブ氏とエルスベートさんはフランスを去り、1946年から米ニューヨークで暮らした。
シュワブ氏の才能が全面的に認められたのは数年後のことだった。
 
1977年、シュワブ氏は67歳で死去した。 【1月27日 AFP】
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ホロコースト75年の式典には各国首脳が参列しましたが、ドイツのシュタインマイヤー大統領は「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」との苦渋の思いを明らかにしています。

****「私たちが記憶しないと」ホロコースト75年、首脳集う****
ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を象徴するアウシュビッツ強制収容所が解放されてから75年になるのを前に、エルサレムのホロコースト記念館で23日、犠牲者を追悼する式典が開かれた。

ドイツのシュタインマイヤー大統領や米国のペンス副大統領、ロシアのプーチン大統領ら40カ国以上の元首や首脳が集まり、記憶と教訓の継承を誓った。
 
ホロコースト記念館には数百万人に上るホロコーストの犠牲者の名前と写真が記録されている。中でもアウシュビッツ強制収容所の犠牲者は100万人以上に上り、多くはユダヤ人だった。

イスラエルのリブリン大統領は式典冒頭、「1945年1月27日、地獄の扉は開けられた。史上例のない人間虐殺の施設が解放された」と強調した。
 
リブリン氏は反ユダヤ主義や人種差別に対して、国際社会が団結して闘うことが重要だと語り、「ホロコーストと第2次世界大戦の記憶は薄れつつある。私たちは記憶しなければいけないのだ」と訴えた。
 
その後、シュタインマイヤー氏も演説し、「加害者はドイツ人だった。ユダヤ人600万人の産業的大量殺人という、人間の歴史で最悪の犯罪は我が国の人々によって行われた」と述べた上で、「私は歴史的な罪の重荷を背負ってここに立っている」と語った。
 
欧州では排他的な政策を持つ右翼政党の台頭が目立つ。さらに、ドイツなどではユダヤ人を狙った襲撃事件も起きている。
 
シュタインマイヤー氏は「邪悪な精神は、反ユダヤ主義、人種差別、独裁主義といった新たな症状で表れている」と指摘し、「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」と悔やんだ。
 
シュタインマイヤー氏の演説はイスラエルメディアから「心がこもっている」などと評価され、1面で採り上げる地元紙もあった。
 
一方、米国がイランと対立を深めていることを反映し、米国とイスラエルの首脳からはイランを牽制(けんせい)する発言が目立った。

イスラエルのネタニヤフ首相はイランについて、「地球上で最も反ユダヤの体制に(世界が)統一して断固たる姿勢を取れないことを憂慮する」と発言。ペンス氏は「反ユダヤ主義を広める国には強い態度を取る必要がある。世界はイランに強い態度を取らなければならない」と訴えた。
 
またプーチン氏は、米英仏ロ中の国連安全保障理事会の5常任理事国が「世界を守るためにあらゆることをする必要がある」と強調。内戦が終わらないリビアなどの和平実現に取り組むため、5カ国の首脳会議の年内開催を呼びかけた。【1月25日 朝日】
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昨年末には、ドイツ・メルケル首相がアウシュビッツ強制収容所跡を訪問しています。首相はナチスの犯罪について「この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」と断言しています。

****独メルケル首相、アウシュビッツ強制収容所を初訪問****
ドイツのアンゲラ・メルケル首相が(12月)6日、在任中の14年間で初めて、ナチス・ドイツがポーランドに設置したアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所を訪れた。

ドイツが反ユダヤ主義の復活や極右の台頭に立ち向かう中、メルケル氏の今回の訪問は極めて重要な意味を持つ。
 
ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の象徴である同収容所の跡地を訪れたのは、ドイツ首相としてはメルケル氏が3人目。
 
1945年1月27日に同収容所がソ連軍によって解放されてから、来月で75年。これを前にしたメルケル氏による同地訪問は、重要な政治的メッセージと受け止められている。
 
訪問の最中にメルケル首相は、ナチスによる犯罪を「記憶しておくことは…決して終わることのない責任の一つだ。わが国と不可分に結び付いている。この責任を認識することは、国家のアイデンティティーの一部だ」と述べた。
 
メルケル氏は訪問前日の5日には、「反ユダヤ主義やあらゆる形の憎悪との闘い」が、自身の政府の優先事項だと語るとともに、ドイツ政府が同日承認した、同収容所の関連財団への新たな寄付金6000万ユーロ(約72億円)を歓迎する姿勢も示していた。 【2019年12月9日 AFP】AFPBB News
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また、オランダのルッテ首相はアムステルダムで開かれたホロコーストの追悼行事に出席、ナチス・ドイツからユダヤ人を守らなかったことを謝罪しました。

****オランダ首相、ナチス虐殺で初めて謝罪 ユダヤ人保護せず****
オランダのマルク・ルッテ首相は26日、第2次世界大戦中にナチス・ドイツからユダヤ人を守らなかったとして、同国首相として初めて謝罪した。

ナチスによるホロコースト(大虐殺)の犠牲者約600万人のうち、オランダ出身者は約10万2000人に上った。

言われるがままに行動
ルッテ氏は、ポーランド・アウシュビッツ強制収容所の解放から27日で75年となるのを前に、アムステルダムで開かれたホロコーストの追悼行事に出席。

オランダがナチスに占領されていた時期、ナチスに抵抗した政府職員もいたが、大多数は言われるがまま行動したと述べた。

そのうえで、「私たちの国に生存者が残っているうちに、オランダ政府を代表して、当時の政府の行為について謝罪する」と表明。

「どんな言葉もホロコーストほど極悪でひどいことを表現できないとわかったうえで、謝罪する」と付け加えた。

「十分に保護しなかった」
今回の表明は、オランダのユダヤ人コミュニティーが長年、求めてきたものだった。
同国にはホロコースト以前、約14万人のユダヤ人が暮らしていた。しかし、ナチスとオランダ人協力者たちによって、75%近くが殺害された。

オランダ政府はこれまで、強制収容所を生き延びたユダヤ人が帰国した際に受けた扱いについて、謝罪している。

しかし今回ルッテ氏は、オランダ政府がナチス占領下で、ユダヤ人などの迫害に役割を果たしたと初めて認めた。
ルッテ氏は追悼行事で、「私たちは、どうしてこれが起きたのかと自問する」と述べ、こう続けた。
「全体として、私たちがしたことはあまりに少なかった。十分に保護せず、助けず、認識しなかった」【1月27日 BBC】
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【「ドイツ人は歴史から学んだと言えたらよかったが、憎悪が広がる中、そう語ることはできない」(シュタインマイヤー独大統領)】
しかし、メルケル首相やルッテ首相の思いとは裏腹に、シュタインマイヤー独大統領が懸念するように、ユダヤ人に対する差別・憎悪は今も残存し、近年拡大の傾向も見えます。

“ドイツでは排外主義の拡大を背景に、ユダヤ系住民を狙った暴力や脅迫などの犯罪が急増。10月には武装した極右のドイツ人がシナゴーグ(ユダヤ教会堂)を襲撃し、社会に衝撃を与えた。”【12月6日 日経】

****英ロンドンで反ユダヤの落書き、店舗やカフェに****
ロンドン北部で(12月)28日夜、複数のシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)や店舗でユダヤ人差別の落書きが相次いだ。

ユダヤ教徒が光の祝典「ハヌカ」を祝う時期の犯行とあって、ロンドン警視庁は差別を動機とする憎悪犯罪(ヘイトクライム)とみている。同日にはニューヨークでも、ユダヤ教指導者の家に刃物を持った男が押し入り、5人が刺される事件があった。

ロンドン警視庁によると、ロンドン北部のハムステッドやベルサイズ・パークの礼拝所などで、ユダヤ教を象徴する「ダビデの星」のほか、「911」という数字がスプレーペンキで落書きされていた。最初の通報は28日午後11時半だったという。

落書きは、「2001年9月11日の米同時多発テロはユダヤ人が起こしたもの」だという反ユダヤ陰謀論を意味するものの可能性がある。あるいは、1938年11月9日の「水晶の夜」(ナチ党の指令でドイツ各地のユダヤ人居住区が襲撃されたユダヤ人排斥事件)への言及かもしれないという。

ユダヤ人にとって1年で特に大事なお祭り「ハヌカ」の今年の開始から、6日目に起きた事件について、ロンドンのサディク・カーン市長はツイッターで、「ロンドンはもちろん、このようなユダヤ差別はどこにもあってはならない」と書き、被害にあった地区の警察パトロールを強化する方針を示した。

落書き被害にあったサウス・ハムステッド・シナゴーグの広報担当は、「あらゆる立場の人が、あらゆる信仰の人も信仰を持たない人も、団結して立ち上がり、街中だろうがオンラインだろうが、偏見も憎悪も分断も受け入れないと示す時だ」と述べた。

ロンドン警視庁のケヴ・ヘイルズ警部は、「明らかに心配な事件で、我々は深刻に受け止めている。落書きを取り除くため担当者と連携するとともに、何者の犯行か突き止めるため捜査を進めている」と述べた。
さらに、「地元の人たちに安心してもらうため、地域一帯を警官がパトロールする」と話した。【2019年12月31日 BBC】
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ドイツでは、こうしたユダヤ人排斥が広がる風潮を受けて、ドイツからのユダヤ人の「大脱出」が起きる恐れも懸念されています。

****ドイツ外相、ユダヤ人の「大脱出」に警鐘 反ユダヤ主義への対策求める****
ドイツのハイコ・マース外相は26日、反ユダヤ主義の台頭を阻止するための対策を早急に取らなければ、同国からのユダヤ人の「大脱出」が起きる恐れがあると警鐘を鳴らした。
 
ニュース週刊誌シュピーゲルのアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所の解放から75年を迎える前日発売号への寄稿の中で、マース氏は、現実とオンラインで反ユダヤ主義的な言動や攻撃が「日常茶飯事」と化していると指摘。
 
ドイツは長きにわたりナチス・ドイツの過去と向き合う努力をしてきたにもかかわらず、国内のユダヤ人のおよそ2人に1人が国外移住を考えたことがあるという。
 
マース氏は、「そのような考えが苦い現実となり、ユダヤ人のドイツからの大脱出が起きることのないよう早急に対策を取らなければならない」と主張した。
 
マース氏によると、ドイツは反ユダヤ的行為に対する法定刑厳格化を推進し、より多くの欧州連合加盟諸国がホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の否定を犯罪化するよう求めていく。ホロコーストの否定は現在、ドイツやベルギー、イタリアなどEU加盟十数か国で違法とされている。
 
さらに、ソーシャルメディア上での反ユダヤ主義的な憎悪表現(ヘイトスピーチ)と偽情報への対策も強化していくという。
 
マース氏は、「欧州の若者の3分の1は、ホロコーストについてよく分かっていない」とする調査結果をあるとした上で、ナチス・ドイツがユダヤ人600万人を殺害した第2次世界大戦の恐怖について、若者が学ぶことの重要性も強調した。
 
英調査会社ユーガブが26日に公表した世論調査でも、ドイツ人の56%が、学校の社会科見学でのアウシュビッツ訪問を義務化すべきと回答した。 【1月27日 AFP】AFPBB News
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ドイツにおいては、ホロコーストやユダヤ人差別は「過去の歴史」ではなく、今も政治が、国民が、向き合うべき課題と認識されています。

 

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拡大する格差が生み出す社会不安・民主主義の揺らぎ

2020-01-26 22:01:46 | 民主主義・社会問題

(バングラデシュ首都ダッカを流れるブリガンガ川で、工業化学物質が入っていた袋を洗う男性(2020年1月9日撮影)【1月21日 AFP】)

【富の集中 拡大する格差】
若い頃に読んだ数少ない経済学関係の本のなかで、唯一印象に残っているのは市場経済の「効率」と「公正」を扱った本で(新書だったと思いますが、著者も書名も忘れました)、「市場経済は資源配分において優れた効率性を有することは認める。しかし、貧乏人の住む家が、隣の金持ちの家の犬小屋にさえ劣るということは受け入れがたい」といった趣旨の記述です。

別に「格差社会」云々を持ち出すまでもなく、現実には「犬小屋」にも到底及ばないことが、極めて普通・日常的・当たり前のことともなっています。

****世界の富裕層 上位2100人 46億人分より多い資産持つ****
世界の富裕層の上位2100人余りの資産を足し上げると、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回ることが、国際的なNGOがまとめた報告書で明らかになりました。

世界の貧困問題に取り組む国際的なNGOの「オックスファム」は20日、スイスで開催されている「ダボス会議」にあわせて経済格差に関する報告書を発表しました。

それによりますと、去年の時点で10億ドル以上の資産を持つ富裕層2100人余りの資産の合計は、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回っていたということです。

そのうえで、上位1%の富裕層が今後10年間、税金を0.5%多く払えば、介護や教育などの分野で1億1700万人を新たに雇うことができる金額になるとしています。

報告書は男女の経済格差に関連して、主に女性が担っている介護や育児などの無報酬の労働の価値は、年間で少なくとも10兆8000億ドルに相当すると推計しています。

そして、政府が介護などの分野に投資し、女性に適切な賃金が支払われるしくみを作るべきだと提言しています。

NGOの代表は「女性の無報酬の労働が経済の隠れたけん引役であることを知ってほしい。女性は適切な賃金の支払いを必要としている」と述べ、各国に格差の解消に向けた取り組みを求めました。【1月22日 NHK】
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“10兆8000億ドル”という金額はIT業界の生む所得の3倍以上で、オックスファム・インディアのアミタブ・ベハール最高経営責任者(CEO)は「経済の隠れたけん引役は実際は、女性が無報酬で行っている(他人の)ケアであることを強調する必要がある。この状況は変わるべきだ」と述べています。【1月20日 ロイター】

昨年は世界の各地で反政府デモが繰り広げられましたが、そうした現象の背景には「格差」に対する不満があると思われます。

「世界では30カ国以上でデモが起きている。デモ参加者は格差を受け入れるつもりはない、現在の状況下で暮らしたくないと訴えている」(前出オックスファム・インディアCEO)【同上】

似たような話はよく目にしますが、やはりオックスファムの報告によれば、アフリカではさらに富の集中が著しいようです。

****アフリカ大陸で富豪3人が富独占 6億人貧困層の資産合計を上回る****
国際非政府組織(NGO)オックスファムは4日までに、アフリカ大陸で上位3人の大富豪が持つ資産が全人口の約半数に当たる貧困層約6億5千万人の資産を合計した額を上回るとの報告書を発表した。

「アフリカでは富裕層の資産が増える一方で、極度の貧困も進行している。不平等が貧困撲滅の取り組みを台無しにしている」と批判した。
 
最も格差が深刻な国は南部のエスワティニ(旧スワジランド)で、同国の大富豪の推定資産は約49億ドル(約5200億円)に上る。大富豪が所有する企業の取引先レストランで働き続けた場合、この資産を得るのに約570万年かかるとした。【2019年9月5日 共同】
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アフリカで絶えない内戦・紛争、容易に拡大する過激な武装勢力・・・・そうしたものの背景に上記なような現実があるのでしょう。

そして多くの国で、不平等・格差は拡大する傾向にあるようです。

****世界の3分の2の国で所得格差が拡大 国連が報告書****
国連は、日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行しているとする報告書を発表し、各国政府に対してデジタル格差の解消や社会保障の普及に取り組むべきだと勧告しました。

これは国連が21日発表したもので、1990年から2016年までの各国の所得水準の推移を見ると、欧米や日本など先進国の多くと中国やインド、それにアフリカ諸国の一部など世界の3分の2の国で格差が広がり、社会の不平等が進行していると指摘しています。

このうち途上国ではデジタル技術が教育や保健サービスの普及を促進した反面、インターネットの普及率が先進国の87%に対し19%にすぎないとして、デジタル格差が深刻だと分析しています。

地球温暖化の影響については、このまま進めば温暖化のリスクにもろい国や地域と、そうでない国や地域との経済格差を広げると警告しています。

そのうえで報告書は各国政府に対して、国際協力を通じたデジタル格差の解消や、社会環境の変化に対応した職業訓練への投資の拡充、それに誰もが受けられる社会保障制度の構築に取り組むべきだと勧告しています。

記者会見した国連のハリス事務次長補は「社会の不平等を緩和するため政府がまずすべきことは、すべての人が機会を得られるようにすることだ」と話しています。【1月22日 NHK】
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【若者・女性へのしわ寄せ まともな仕事に就く機会を得られないことが生む社会不安】
不平等のしわ寄せを受けやすいのが、経済的基盤が弱い若者や女性です。

****世界の若者22%が「ニート」状態 ILOが年次報告書*****
国際労働機関(ILO)は20日、世界の15~24歳の若者のうち、22%が「ニート」状態となっているとする年次報告書を発表した。
 
報告書は、仕事や通学をせず職業訓練も受けていないこの年齢層の若者は世界で約2億6700万人に上ると指摘。

さらに、多くは有給で働いていても「標準以下の労働条件に耐えている」と警告した。特にアフリカでは、若者が増えているものの、非正規雇用の比率は95%に達しているという。
 
性別による労働上の不平等にも言及。女性の労働市場参加率は47%で、男性よりも27ポイント低い。「男女格差には大きな地域差があり、介護者としての女性の役割を主張するなど、性別に対する固定観念が一部の地域に染みこんでいる」と指摘している。

世界全体の失業率については、2019年から横ばいの5・4%。21年には5・5%に上がると予測している。【1月21日 朝日】
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今後も状況は改善が見込めず、むしろ悪化する可能性が高いようです。当然ながら、そのことは社会不安の原因ともなります。

*****世界の約5億人、十分な仕事に就けず ILO報告*****
連の国際労働機関は20日、雇用情勢に関する年次報告書を発表し、世界で4億7000万人以上が失業中か十分な職に就けていないと明らかにした。また、まともな仕事に就く機会を得られないことが社会不安の一因になると警告した。

 ILOによると、世界の失業率は過去10年間のほとんどで比較的横ばいで推移しており、昨年は5.4%だった。失業率は今後も大きく変化しないと予想されているが、減速気味の経済により、増加する人口に対する仕事の数が減って失業者が増加する恐れがある。
 
年次報告書「世界の雇用および社会の見通し」の中でILOは、今年の失業者数が、昨年の1億8800万人からさらに増えて1億9050万人に上ると予想している。
 
同時にILOは、世界で約2億8500万人が不十分な仕事に従事していると強調。不十分な仕事とは、希望する勤務時間より短い時間しか働くことができない、職探しを断念した、労働市場に参加する機会が少ないなどの状態を意味する。
 
失業者と不十分な仕事に従事している人は合わせて5億人近くに上り、世界の労働者人口の13%を占めるとILOは指摘している。 【1月21日 AFP】
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【民主主義の基盤を浸食する社会の分断】
経済のグローバル化の恩恵を一部の富裕層・エリートだけが享受しているとの不満は、ポピュリズムやナショナリズムの形をとった政治的な流れともなり、民主主義の基盤を浸食する事態ともなっています。

****なぜ民主主義は苦境にあるか、いかに解決するか  政府への不信と経済的苦難が人々を分断させた ****
民主主義は決して政府の最良の形態を意図したものではなかった。むしろ民主主義の美徳は単に、統治される側の利益を統治する側の利益より優先することにある。
 
しかし今日、世界中の民主主義国家は通常よりも混乱し、機能が低下しているように見える。独裁的リーダーらがこうした傾向を声高に指摘し、そこにつけ込もうとする一方で、民主的リーダーらは何かが軌道を外れてしまったのではないかと思案に暮れている。
 
米国では党派間の分断が進む中、ドナルド・トランプ大統領が弾劾訴追を受けている。米上院は間もなく、トランプ氏を罷免するかどうか投票にかける。

英国では2016年に有権者が欧州連合(EU)からの離脱を選択した後、政府はその方法について合意するまでに3年間を要し、3人の首相がもがき苦しんだ。
 
カナダのジャスティン・トルドー首相は、与党が議会の過半数を維持できなかったため、少数派政権を率いようとしている。

西側リーダーのまとめ役だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は引退に向かっており、同氏が属するキリスト教民主同盟(CDU)が連立与党の結束を保てるかどうかは不透明な状況だ。

ブラジルでは、元軍人のジャイル・ボルソナロ大統領が民主的な諸機関を批判しており、一部市民の間で民主主義への支持が薄れていることが世論調査で明らかになっている。
 
民主主義諸国の中で最も人口が多いインドでは、世俗主義から宗派対立への流れが進行しているとみられ、緊張が高まっている。イスラエルの首相は起訴されており、同国の指導者らは激しい対立が続く中で、何度選挙を繰り返しても組閣ができない状況にある。

民主主義の拡大を支援する国際組織「民主主義・選挙支援国際研究所」は、数週間前に発表した報告書の中で「民主主義は脅威にさらされており、民主主義の約束の復活が求められている」と強調した。同様に、バンダービルト大学の研究者らも最近「米州の民主主義はさらなる後退のリスクに直面している」と結論付けた。
 
いま問われているのは、民主主義が現在抱える問題が、単に民主社会にとって不可避の周期的な修正局面の1つなのか、それとももっと腐食性の高い現象を示すものなのかということだ。
 
「世界中の民主主義の健康状態の悪化は深刻だが、決して末期的ではない」と国際経験が豊富なウィリアム・バーンズ元米国務副長官は話す。「多くの民主主義国は深刻な統治危機に直面している。国民に奉仕する能力をまひさせる一連の機能不全だ」

ポピュリズムと怒り 
民主主義の苦しみの理由を一言で説明することはできない。いくつかの要因が重なり合い、結合力のある社会や連立政権を生み出すことがより困難になっているのだ。
 
西側の民主主義国では、2007年に始まった金融危機によって打撃を受け、着実で公平な経済成長を監督する政府の力への信頼が失われた。

この危機により、経済のグローバル化が経済のはしごの最上層にいる人たちにとって有益であるのと同様に、中間層や下層にいる人たちにとっても有益だとの考えへの信頼も失われ、一部の米国人に自分たちの悩みは政策立案者らにとってほとんど重要でないと思わせる結果となった。
 
こうした心理は、ポピュリズムとナショナリズムの台頭を後押しした。ポピュリストの運動は、民主主義社会のエリートに対する怒りと恨みをあおり、有権者をより小さな「サイロ」に追い込んだ。

サイロの中では、同じ境遇の人や似たような不満を抱く人と一体感を持つ傾向にある。こうしたサイロ効果は、民主主義社会が育むはずの幅広い中間層から人々を引き離し、より小さな基盤に依存する政府を誕生させる。この結果、統治する側が効率的に業務を遂行することがより困難になる。

情報技術(IT)は民主主義社会を一層分裂させている。インターネットやソーシャルメディアを使って何百万人もの人々と瞬時にやりとりできる能力は、社会を結びつけられる力のように見えるかもしれない。

しかし実際には逆の効果をもたらしている。人々はインターネットで個々の特定のサイロにいる、似たような考えを持つ人のニッチなグループを見つけることによって、国民という大きな枠組みから逃れることができるようになった。
 
「グローバル化の時代、流動性と機会が減る中で人々が自分の人生をコントロールできると思えないと、アイデンティティーへのこだわりが極めて強くなる」。外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長はこう述べた。「現在は小さなコミュニティーを形成する能力が事実上無制限になっている。このため国家的なコミュニティーの形成が一層困難になっている」
 
この過程で、派閥同士が対立する構図が生まれる。ツイッター上の議論が激しさを増すこともしばしばだ。このような環境では、政治家はアイデンティティー政治を行い、特定の支持者の不満に対応しようとする誘惑にかられる。

これはまさにトランプ氏が自身の集会でやっていると指摘されていることであり、インドのナレンドラ・モディ首相がヒンズー教に基づくナショナリズムに訴える過程でやってきたことである

消えゆく中間層 
これら全ての力により、民主主義を機能させるためのコンセンサスや妥協を見いだすことが一層困難になっている。その代わり、民主主義社会内の派閥同士の対立が激しさを増すばかりだ。

権威主義的な政府、とりわけロシアと中国の政府は、こうした傾向が西側の民主主義の欠陥の兆候だと指摘するにとどまらず、その問題を悪化させるような手段を講じている。
 
ロシア指導者のウラジーミル・プーチン氏は周知の通り、ソーシャルメディアを利用して米国や西欧の選挙に介入していると広く非難されている。主な目的は西側社会により多くの対立の種をまくことだとされる。(中略)
 
こうしたことを念頭に置くと、民主主義社会は状況を有利に展開するためには何をすればいいのだろうか。ひとつには、自分たちの体制の改革が必要かもしれない。

ハース氏は「成熟した民主主義国家は、人間の場合と同様、動脈硬化を起こす」と指摘した。同氏は、米国の民主主義の基盤となっている共通の理念を若い世代に認識させるため、彼らに公民教育を行う新たな措置を提唱している。(中略)
 
究極の処方箋は、民主的に選出された指導者たちが、選んでくれた人々だけでなく、政治的分裂の反対側にたまたま位置する人々の声にも、より真剣に耳を傾けることなのかもしれない。【1月20日 WSJ】
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中国・新型ウイルス肺炎 感染拡大を招いた市当局の隠蔽・危機感欠如

2020-01-25 23:34:25 | 疾病・保健衛生

(中国・武漢の薬局で、防護服とマスクを身に着けて接客する店員(2020年1月25日撮影)【1月25日 AFP】)

【4000万人規模の「封鎖」も、遅きに失した感も】
今日・明日は旅行中で時間もとれないので、気になった記事を簡単に紹介するだけで。

「気になった」と言えば、感染が急拡大する新型コロナウイルス肺炎の話題でしょう。
現状に関する一番新しい情報は以下のように。

****新型肺炎急拡大 中国の死者41人、感染1298人 フランスやオーストラリアでも感染確認****
中国衛生当局は25日、新型コロナウイルスによる肺炎の死者が中国本土で41人になり、感染者はチベット自治区以外の30の省・自治区・直轄市で計1298人、うち重症者が237人になったと発表した。

死者、感染者いずれも前日比で5割以上増加した。フランスやオーストラリアでも初めて感染が確認され、急速に感染が広がっている模様だ。

 ◇14カ国・地域に拡大
一方、日本の厚生労働省は25日、旅行で東京を訪れた中国・武漢市在住の30代女性の感染が確認されたと発表した。日本国内での感染確認は3人目となる。
 
中国本土の患者の地域別内訳は、湖北省729人(うち武漢市572人)▽広東省78人▽浙江省62人▽重慶市57人▽北京市41人▽上海市33人▽河南省32人▽四川省28人――などで、武漢市以外でも急拡大した。
 
中国紙・人民日報によると、武漢市では23病院のベッド計4000床が疑い例を含む新型肺炎患者に使われており、月末までに6000床増やし計1万床を治療にあてる計画だ。
 
新たに感染が判明した国は、豪州4人▽フランス3人▽マレーシア3人▽ネパール1人。欧州での感染確認は初めてだ。他に香港5人▽タイ5人▽台湾3人▽日本3人▽シンガポール3人▽マカオ2人▽韓国2人▽ベトナム2人▽米国2人――と、中国を含め計14カ国・地域で確認されている。(後略)【1月25日 毎日】
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今後の展開については、やや悲観的な見方も。

****新型肺炎、「規模SARSの10倍以上」「すでに制御不能」見解も****
新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を阻止するため、中国湖北省武漢市が発動した事実上の封鎖措置は24日、2日目を迎えた。

一部メディアやSNSなどから伝わってくる情報は、市内での肺炎の拡散が深刻な状況にあることを示唆している。
 
2002〜03年に大流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)に対応したことで知られる香港大の 管軼教授は21〜22日に武漢市で現地調査した後、中国のネットメディア「財新」の取材に対し、今回の肺炎の感染規模について「慎重に見積もってもSARSの10倍以上となる」との見解を示した。SARSでは中国で349人が死亡した。
 
管氏は、市内の市場の衛生状態の劣悪さやマスクの着用を怠っている実態など、住民や政府の防疫意識の低さに驚き、「すでに制御不能だ」と判断して武漢を離れたという。また、封鎖措置を前に市を離れた多くの若者らが「ウイルスを全国各地に運んでいる」と警告し、14日間とされる潜伏期も踏まえ、今月25〜26日の発症者増加に「注意すべきだ」と述べた。(後略)【1月25日 読売】
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封鎖前に多くの感染者が中国各地に散らばった・・・・というのは、間違いないないでしょう。
結果、中国各地で発症が相次いでいますし、今後さらに増加するでしょう。

震源地・武漢では、病院が患者であふれている状況で、昨日ブログでも紹介したように、わずか6日間だか10日間だかで1000床の病院を突貫工事で新たに建設する状況になっています。

****新型肺炎広がる武漢、病院は患者殺到でマヒ状態**** 
武漢では政府は病院の新設を余儀なくされ、6日間で完成するとしている

新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るっている中国・武漢市では、医療施設で備品や病床などが不足しており、患者の受け入れを断らざるを得ない深刻な状況に追い込まれている。 
 
感染者が集中している湖北省では、あらゆる病院がここ数日、ソーシャルメディアで医療備品を寄付するよう市民に訴えている。消費者によるパニック買いで、マスクや除菌ローションなどが店頭から消えているためだ。 
 
武漢の小児病院は23日、ミニブログ「微博(ウェイボ)」に、「医療備品が不足しています。助けてください!!」とのメッセージを投稿した。 
 
中国工業情報化省によると、中央政府は武漢市に対し、医療備品の在庫から防護服や手袋などを送付。財政省は新型肺炎の対策資金として10億元(約160億円)の拠出を表明した。中国国営中央テレビ(CCTV)によると、中央軍事委員会は感染患者の治療に当たっている武漢市内の病院に軍医40人のチームを派遣した。 
 
湖北省の報道官は24日、記者団に対し、医療備品の不足に対処するため、政府省庁は承認手続きを加速していると説明した。 
 
感染拡大により事実上、封鎖されている武漢市では、政府が新規病院の建設を急ピッチで進めており、6日以内に完成するとしている。既存の病院では長蛇の列ができ、病床も不足しているとして、地元保健当局が窮状を訴えている。(中略)

武漢市政府が新型肺炎の対応に当たるため設置した指令室は24日、病院での待ち時間が長いことを認め、感染の有無を調べる検査を加速すると表明した。 
 
武漢市の医療機関が対応に追われている現状は、政府が新型コロナウイルスの脅威を甘くみていたことを物語っている。

今回の新型肺炎では、中国本土で感染者が少なくとも881人、死者が26人出ており、その他10カ国・地域にも広がっている。

医療専門家や一般市民に加え、中国政府当局者の一部でさえも、習近平国家主席の指揮下における官僚主義的な決断力のなさに触れ、一部の対応のまずさを批判している。【1月25日 WSJ】
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こうした状況からすれば、「武漢の患者5000人超か 新型肺炎で北大推計」【1月25日SankeiBiz】といった数字も妥当なものでしょう。

感染は中国国内だけでなく、渡航者が多いアジア各地にも広がっています。中国と密接な関係のあるカンボジア、ラオス、ミャンマーといった国は感染者が報じられていませんが、単に技術的に把握がなされていないというだけの話でしょう。

****アジアに広がる新型肺炎、対策の温度差が生む大感染****
・・・・まだ感染者の報告がない国も安穏としてはいられない。

カンボジアは、多くの中国人労働者がインフラ整備や土木工事に従事しているし、そうした中国人労働者をあてこんだホテル、カジノ、レストランを経営する中国人も多い。そうした中国人が春節で大移動する。ウイルスが国内に持ち込まれる可能性を否定できない。

ラオスやミャンマーにしても、中国企業の進出が著しく在住中国人も多くなっている。
幸いにして現時点では、これらの国では「感染者や感染の可能性のある患者」に関する情報はない。
 
だがインドネシアの医療関係者はこう指摘する。
「実際に感染に関する情報がないのか、感染者を特定することが医療技術や検査設備の面から難しいからなのかが判然としない。さらに感染に関する情報を公表することに積極的ではないのか、そうした各国の個別の事情も考慮しなくてはならないだろう」・・・・【1月25日 大塚智彦 JB press】
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「封鎖」状態は1100万人武漢だけでなく、近郊都市を含め4000万人規模にも及んでいるとか。
また、武漢では、26日から市内における自動車の通行が制限されることになったようですが【1月25日 AFPより】、すでに「手遅れ」の感も。

****中国の新型ウイルス対策に「遅過ぎ、甘過ぎ」の懸念 「今回は怖い」と専門家**** 
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国政府が武漢(Wuhan)をはじめとする複数の都市で数千万人を対象に移動制限を課すという前例のない試みに乗り出したが、それでも感染拡大を防げるとは思えないと専門家らは警鐘を鳴らしている。
 
住民たちにわずかな猶予しか与えず武漢封鎖に踏み切ったにもかかわらず、新型コロナウイルスは既に中国内外に拡散した。
 
香港大学のウイルス専門家、管軼(Guan Yi)氏は、「抑制と予防が最も効果を発揮する時期は過ぎたと思う」「これまで怖いと感じたことは一度もないが、今回は怖い」と語った。
 
中国は23日、昨年末に重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスに類似した新型コロナウイルスが発生した人口1100万人の武漢で、交通遮断措置に踏み切った。

以来、感染者が移動して他の場所で感染を拡大させることを防ぐため、近隣の都市でも相次いで交通遮断措置が取られ、居住する都市に封じ込められた人は4000万人を超えた。
 
にもかかわらず死者は増え、遠くは米国でも感染者が確認されたことで、中国政府の対策は遅過ぎ、甘過ぎるのではないかとの懸念も生じている。
 
封鎖直前に武漢を脱出した管氏は、24日に始まった春節(旧正月、Lunar New Year)を前に、既に膨大な数の人々が武漢を出てしまったのではないかと指摘する。彼らはウイルスを潜伏させたまま、「武漢を出た」可能性があるという。
 
新型コロナウイルスに感染してから発症するまでに数日間かかることもあり、中国内外で健康を奪う時限爆弾をばらまいているようなものだ。【1月25日 AFP】
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【当局幹部の「隠蔽」「危機式の欠如」も】
武漢における初動段階では、単に「遅れ」だけでなく、「隠蔽」もあったようです。

****武漢市、流行初期にかん口令「医師にできたのはマスク着用勧めることだけ」****
中国の有力誌・中国新聞週刊は24日、新型コロナウイルスによる肺炎の感染者が拡大している湖北省武漢市で、肺炎の流行が始まった昨年末、市当局が事実の公表を抑えていたことを示唆する医師の証言を伝えた。
 
武漢協和医院の医師が、同誌の取材に匿名で応じた。「流行が始まったばかりの時期、武漢市の方針は消極的だった」と指摘し、病院側から「許可を得ずに公共の場で感染状況を語ったり、メディアの取材を受けてはならない」と通知されていたと明らかにした。
 
市が肺炎の流行を初めて公表したのは昨年12月30日だった。この医師はかん口令の期間中は「医師にできたのは患者に繰り返しマスク着用を勧めることだけだった」と振り返った。
 
市トップらに対してはこれまでも、情報公開や対応の遅れが指摘されていた。湖北省共産党委員会の機関紙・湖北日報の張欧亜記者は24日、中国版ツイッター・微博への書き込みで市トップの対応を批判し、「交代を希望する」と主張した。
 
武漢市の党委書記や市長らトップは、上級組織の省党委にも名を連ねる地元の高級幹部にあたる。党機関紙記者が正面から批判するのは極めて異例だ。書き込みはまもなく削除された。(後略)【1月25日 読売】
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地方政府幹部の危機感の欠如も明らかになっています。

****武漢当局対応に市民ら怒り 「封鎖」前に音楽会と米紙****
24日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、新型コロナウイルスによる肺炎が発生した中国・武漢市で、市の「封鎖」直前まで当局幹部が春節(旧正月)到来を祝うコンサートに出席するなど緊張感に欠けた対応に終始し、市民らの怒りを買っていると伝えた。
 
19日には市内で、1万以上の家族を集めた当局主催とみられる春節前の宴会も開かれていた。中国の医療関係者は「感染拡大期にこのような宴会を開くのは基本的常識に欠ける」と批判した。
 
今月、市の最高幹部が年次政策会議を開いた際にも、肺炎は議題になかった。【1月25日 共同】
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こうした状況で“シンガポールの「S・ラジャラトナム国際研究院」のシニアアナリスト、ジー・ヤン氏は、「特にカネとコネがある人々は急いで逃げようし、おそらく脱出に成功するだろう」と指摘した”【1月25日 AFP】といった話が出てくると、いかに権力に従順な中国人民でも怒りが噴出するのではないでしょうか。

もっとも、中国当局の対応を高く評価する人も。

****トランプ氏、新型肺炎で中国の対応評価=米国で2人目感染、63人検査****
トランプ米大統領は24日、中国・武漢で多発している新型コロナウイルスによる肺炎について、ツイッターに「中国は封じ込めようと懸命に頑張っている」と投稿した。その上で、中国当局による「努力と透明性」を高く評価し、「米国民を代表して習近平国家主席に感謝を伝えたい」と書き込んだ。(後略)【1月25日 時事】
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【こんなときこそロボット活用】
恒例の大晦日「紅白歌合戦」では・・・

****中国版“紅白歌合戦”で新型肺炎の特別企画「がんばろう中国」*****
新年を旧暦で祝う中国では25日が元日で、大みそかにあたる24日夜、国営の中国中央テレビでは恒例の中国版“紅白歌合戦”が生放送されました。 

ことしの番組では、新型コロナウイルスの感染が広がる中、最前線で活動している医療従事者の様子が急きょ、特別企画で伝えられました。 ステージ上の大型モニターに防護服を着た医師らが治療に当たる姿が映し出される中、キャスターたちは「私たちは絶対に勝つ。がんばろう武漢、がんばろう中国」などと呼びかけていました。【1月25日 NHK】
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「がんばろう」の絆もいいですが、アメリカでは役立ちそうなロボット技術も。

****新型ウイルス患者の診察にロボットを使用 米国****
 米国で最初に新型コロナウイルスへの感染を診断された男性が、主にロボットによる診察を受けていることが分かった。

ワシントン州エバレットにあるプロビデンス地域医療センターの感染症部門責任者、ジョージ・ディアス医師によると、このロボットは聴診器や大型スクリーンを搭載し、医師によるバイタルサインの測定や男性とのコミュニケーションを助けているという。

ディアス氏は「看護職員がロボットを動かすことで、我々がスクリーン越しに患者を観察し、話しかけられるようになっている」と説明。ロボットの使用で感染者との接触が最小限に抑えられていると語る。(後略)【1月25日 CNN】
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市中では品薄のマスクが値上がりしていることは報じられていますが、下記のような話も。
これも、中国らしい話でしょうか。

****新型肺炎 中国本土で患者1300人近く “使用済みマスク販売”で捜査****
・・・・ところが、マスクをめぐって、ある動画が中国で物議を醸している。
段ボールに入っていたのは、たくさんの「使用済みのマスク」。
撮影している女性は、男らがマスクを回収して再び売ろうとしていると追及している・・・・【FNN PRIME】
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中国  新型コロナウイルス肺炎 1100万人都市・武漢封鎖 直前の混乱、現在は静寂

2020-01-24 22:35:18 | 疾病・保健衛生

(中国・武漢の駅に到着した利用客(2020年1月23日撮影)【1月24日 AFP】)

【習近平主席「断固として蔓延を抑え込め」との指示 武漢封鎖へ】
中国の新型コロナウイルス肺炎について、1月18日ブログ“中国  新型ウイルス肺炎 「国外へは出るが省外へは出ない。愛国ウイルス」との皮肉も 実態は?”でとりあげたときは、患者45人、死者2人というレベルで、国外事例もタイと日本だけでした。

しかし、「愛国ウイルス」であるはずもなく、その後状況が一変したことは周知のところです。
感染が急拡大したというより、最高権力者・習近平国家主席が20日、「断固として蔓延を抑え込め」との指示によって、水面下に隠蔽されていたものが一気に噴出した・・・というように見えます。

中国当局は、1100万人が暮らす大都市・武漢を事実上「封鎖」するという思い切った措置で、感染封じ込めと、「適切な対応をとっている」との国際アピールを狙っています。

しかし、すでに多くの感染者が武漢から中国各地に散らばり、更に春節の民族大移動で全国各地にシャッフルされるということで、急速な沈静化は困難に思えます。

****新型肺炎、武漢「封鎖」 中国、拡大阻止へ強硬策 武漢で邦人、重度肺炎 大使館発表****
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が広がっている問題で、武漢市は23日、市内全域の交通機関に加え、同市を出発する航空便や鉄道の運行を停止した。

駅や高速道路を閉鎖し、1千万人を超える市民に実質的な移動制限をかける異例の措置だ。国際社会の懸念が深まるなかで中国政府が強い対応に乗り出した形だが、混乱はさらに広がりそうだ。

武漢市政府は同日未明に幹部会議を開き、「全面的な戦時状態に入っており、蔓延(まんえん)を食い止める措置を実行する」と、非常態勢に入ることを決定。午前10時から市内全域の公共交通機関の運転停止と武漢発の航空便、鉄道の運行を中止するとの通知を出し、市民に「特殊な事情がなければ武漢から離れてはならない」と指示した。
 
日本直行便もある武漢天河空港からは23日、約600便が出発予定だったが午前10時以降は全て欠航となり、全日空など、武漢への到着便の欠航を決める航空会社も相次いだ。
 
駅や高速道路の入り口が閉鎖され、地下鉄や路線バスも運行を停止。住民によると、市内は人通りが極端に減り、閑散としている。
 
中国ではこれまでに17人が死亡、約570人の感染が確認されており、その大半を武漢の住民が占める。
 
北京の在中国日本大使館はこの日、武漢市内で日本人1人が重度の肺炎を発症したと発表した。新型肺炎による症状かどうかは未確認という。
 
約1100万人の人口を抱える武漢市は中国の各都市へ高速鉄道や高速道路が延びる交通の要所でもある。日本貿易振興機構(JETRO)によると、500~600人の日本人も暮らしている。中国は25日に春節を迎えるが、多くの人が移動するシーズンに重要な交通網を「遮断」したことで、暮らしや経済への影響は避けられない情勢だ。
 
背景には、新型肺炎の感染が国内外に拡大するなか、健康被害や社会の動揺、国際的な批判を何とか食い止めたいとする中国政府の焦りがある。
 
中国政府は21日に新型肺炎を法定伝染病に指定し、最大級の防疫対策の実施を決めたが、感染者は連日100人単位で増えた。国外でも感染は広がり、23日も新たにシンガポールとベトナムで、中国人男性計3人の感染が確認された。
 
国際社会の警戒も広がるなか、一気に強硬策に打って出た形だが、春節前の大規模な移動はすでに始まっており、効果は未知数だ。
 
世界保健機関(WHO、本部スイス・ジュネーブ)の専門家委員会は23日午後(日本時間同日夜)、前日に引き続き緊急会合を開催。22日の会議では、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるかどうかで意見が分かれており、中国側からの新たな状況報告を待って判断するとみられる。
 
専門家委員会によると、家庭や医療施設でヒトからヒトに感染することが確認されたが、二次感染した人からさらに別の人に感染したケースは確認されていないという。記者会見した疫学の専門家は「中国国外で、二次感染が確認されていないことは重要だ」と指摘した。

致死率についても、2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や12年に発見された中東呼吸器症候群(MERS)のコロナウイルスと比較して低く、症状の重さも患者による差が大きいという。【1月24日 朝日】
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【WHO、緊急事態宣言を見送り】
WHOは「事態軽視しているわけではない」としつつも、中国以外での症例の少なさを主な理由に、緊急事態宣言を見送っています。「武漢封鎖」といった強硬措置がアピールした面もあるでしょう。

****中国の新型肺炎、WHOが緊急事態宣言を見送り…「事態軽視しているわけではない」****
世界保健機関(WHO)は23日、中国で感染が拡大している新型コロナウイルスによる肺炎について、スイス・ジュネーブで専門家による緊急委員会を開き、「国際的な公衆衛生上の緊急事態」の宣言を見送った。記者会見した専門家らは、中国以外での症例数が限られており、宣言には「早すぎる」と説明した。
 
WHOのテドロス・アダノム事務局長は今後の状況悪化の可能性に触れながらも「中国にとっての緊急事態だが、世界的な健康の危機ではない」と述べた。

中国の国外で人から人への感染例は見つかっていないことなどを、宣言を見送った理由に挙げたが、「宣言を今日は見送ったからといって、WHOとして事態を軽視しているわけではない」と強調した。
 
また、「人の移動や貿易のより広範な制限は勧告しない」としたが、中国政府に対し、感染の広がる地域の国際空港や港での出国者に対する体温検査実施などを求めた。
 
緊急委員会は初日の22日に結論が出ず、2日続けて行われた。宣言の是非について意見が分かれたものの、中国以外での症例の少なさに加え、中国が封じ込め対策に力を入れていることも見送りの理由となった。

中国の習近平・国家主席は22日、メルケル独首相、マクロン仏大統領とそれぞれ電話会談し、中国が実施している防疫措置を強調するなどし、理解を求めていた。
      ◇
WHOが緊急事態の宣言を見送ったことを受け、厚生労働省は、新型コロナウイルスによる肺炎を、入院や就業制限を強制できる感染症法上の「指定感染症」に位置づけることは見送る方針だ。現状では、感染が日本国内で拡大しておらず、強制的な措置を取る段階ではないと判断したためという。
 
WHOが緊急事態宣言を見送ったことについて、東北大学の押谷仁教授(ウイルス学)は「患者が増えている状況から、国際的に感染が広がる危険性があり、今回、宣言を出すべきだったのではないか」と指摘する。その上で、「今後、中国以外で患者が増えたり、人から人への感染が広がったりするようになれば、宣言が出されるだろう」と話している。【1月24日 読売】
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このあたりの判断はいつも問題となるところです。
純粋に疫学的な判断だけでなく、「人の移動や貿易のより広範な制限」という話になると中国経済、ひいては日本を含めた世界経済に多大な影響を与えますので、政治的判断がどうしてもつきまといます。

【脱出へ殺到する人々、そして今、人影が消えた街】
「武漢封鎖」直前の状況については以下のようにも。

****武漢脱出の最終列車を逃すな 感染都市封鎖ルポ ****

朝日が昇る中、武漢の通りはターミナル駅へ向かう人であふれていた。23日、新型コロナウイルス感染で既に17人が死亡したこの都市から人々は脱出しようとしていた。 
 
中国当局が武漢から他都市への移動を禁じる計画を発表した後とあって、駅の待合所はごった返していた。死者を出した新型ウイルスは、野生動物が取引される同市内の市場で発生したとみられている。移動禁止は感染を食い止める新たな手段だ。駅では静かに座って食べたり会話したりする人もいたが、遅れて封鎖計画を知った人々はパニック状態の中をかき分けて進んだ。 
 
「いま行かなければ、出られなくなる」と語る倉庫マネジャーのゴン・シアンさん(31)は、わずか数時間前に荷造りしたダッフルバッグに腰掛けた。移動禁止を知ったのは午前3時。すぐさま午前9時の邯タン行きの乗車券を予約した。中国北部の河北省にある邯タン市には親戚がいる。 
 
これほど大きな都市の封鎖は前例がない。武漢はロサンゼルスを上回る1100万人の人口を抱える中国第8の都市だ。市内を流れる揚子江の両側には高層ビルが立ち並ぶ。 
 
ゴンさんは56歳の父親と並んで座っていた。感染の中心地にとどまれば父親の健康が心配だという。ウイルスが人から人へ感染することを当局は今週まで公表しなかったので、もう政府を信用できないと話した。 
 
「政府は不正直で、私たち一般人に何週間も隠していた」と言い、人々が朝起きて封鎖を知れば、怒りとパニックの波が押し寄せると思うと語った。「出口が閉鎖され始めたら、誰にもとどまる勇気なんてないでしょう」 
 
午前8時30分。駅に20カ所ある有人発券所のうち、開いているのはわずか2カ所で、人々が長い列を作っていた。乗車券を交換あるいは購入できた幸運な客は、スーツケースやカバンを引きずりながら中央口へと急いだ。 
 
間に合わなかった人もいる。ウエートレスのデン・キアンリンさん(20)は発券所の窓際に腰掛け、この日の朝に服を詰め込んだ紙袋を手にしていた。朝7時に友人に起こされてニュースを知り、地下鉄に飛び乗ったという。携帯電話の予約サイトで正午の乗車券を早い時間のものと交換しようとしたが、約290キロメートル北西の出身地、襄陽行きの空席はなかった。 
 
デンさんは携帯を指さしながら、「ベッドから出て外へ飛び出したのに」と語った。1時間ものあいだ、乗車券の交換を試みていたが無駄だった。「乗車券は全部売り切れ」ていた。 
 
(中略)こうなった以上、きっと心配し過ぎだと自分に言い聞かせようとしていた。「心配する必要なんてない」と言いながらも、声は震えた。「感染さえしていなければ、運がいい」 
 
封鎖まであと1時間に迫ると、パニック状態になった。十数台の警察車両が駅の外に止まり、黒い制服の警官が整列した。警察の装甲車が小型の警察車両を両側に従えるかのように、有人発券所の前で警護にあたった。 
 
警官は人々の乗車券を点検し、出発時刻が午前10時以降であれば追い返した。緑色のコートを着て直立不動の兵士らは、ぎりぎりで駅に駆け込む乗客の姿を目で追っていた。 
 
「閉鎖ってどういうこと? そんなこと聞いてない」。入場を拒まれ、発券所で返金してもらうように言われた女性はいら立ち、泣き声を漏らした。 
 
別の人が叫んだ。「新しい乗車券を買えなかったらどうなる。いったいどうなるんだ」 
 
駅の構内は不気味なほどに静まりかえっていた。午前9時頃、人々はおとなしく北京行き「G512」号に乗り込んだ。危機を逃れる難民のような乗客で車両はいっぱいになった。

この列車――武漢を去る最終列車の1つ――が5時間半の旅へ向けて駅から滑り出すと、車内には安堵(あんど)が広がった。旅程が急きょ変更になったことを知らせようと、何人かは親戚に電話をかけ始めた。 
 
「乗り込んだ途端、私の後ろでドアが閉まった」と女性の声がした。安堵と戸惑いの入り交じった様子で、幾度も同じ言葉を繰り返していた。 【1月24日 WSJ】
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そして今、武漢は人影もなく静まり返っているとのこと。

*****感染恐れ、武漢閑散 外出控える市民「人影ない」 新型肺炎****
新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大という脅威に対抗するため、中国政府が湖北省武漢市の「封じ込め」に乗り出した。旧正月の祝福ムードは吹き飛び、行き場を失った住民たちは息をひそめて不安を募らせている。国際機関も中国政府の対応を見据えつつ、対策を検討している。

(中略)通常なら旧正月の「春節」を控え、年越しの買い出し客などでにぎわう時期。だが、電話取材に応じた住民は「街はひっそりしている」と口をそろえた。
 
市内のホテルに勤める40代男性は、予定していた故郷への帰省ができなくなった。「感染が怖いので家族は外出させず自分が買い物に出ている。街中に人影はほぼなく、子連れの人は全く見かけない」と話す。
 
市中心部の大型商業施設は23日からブランド品店などが入る地上階は休業としたが、地下のスーパーは営業を続けた。当局が、物不足の不安を和らげようと食料の販売は休まないよう促しているためだ。ただ、電話に出た従業員は「昨日までは買いだめの客が殺到したが、今日はほとんどいない」と話した。
 
市内の病院は最近、ベッドが足りない状況になっているといい、薬局ではマスクも品薄に。当局はマスクの増産が進められているとし、食品や医療品などは「十分備蓄がある」と呼びかけている。(中略)
 
 ■中国決断、SARSを教訓に
武漢市が鉄道駅や空港を閉鎖するという通告を出したのは、23日午前2時過ぎ。その約4時間前に湖北省政府が開いた会見では、「空港や駅での体温検査を増やし、出入りを厳格に管理する」とするのみだった。

都市全体を事実上封鎖するという決断は、北京の習近平(シーチンピン)指導部が下したとの見方が強まっている。
 
中国当局の対応は20日、習氏が出した「断固として蔓延(まんえん)を抑え込め」との指示で大きく変わった。感染者数が全国規模で続々と発表されるようになったほか、政府の専門家グループも「ヒトからヒトへの感染が認められる」と明言した。
 
背景には、重症急性呼吸器症候群(SARS)のトラウマがある。中国当局は2002年11月に広東省での発症を認識していたが、翌年2月まで公表せずWHOにも報告しなかった。こうした「隠蔽(いんぺい)」が被害を拡大したと批判を浴びた。
 
習指導部は果断な処置で内外の信頼を回復させたい考えだが、感染者は増え続け、25日からは北京の故宮博物院の休館が決まるなど影響は広がる一方だ。
 
大規模な移動制限はそこで暮らす住民には甚大な犠牲を強い、習指導部にとって両刃の剣だ。SNS上では「武漢に残ってどんな解決策があるのか」「医療機関が足りていないのに助かるのか」などと不満が噴出している。

 ■「封じ込め」効果未知数
中国当局による「封じ込め」で感染拡大を食い止めることはできるのか。
 
国際医療福祉大の和田耕治教授は「ある程度は拡大を防げるかもしれないが、物流や市民生活などへの影響が大きい。コストに見合った効果が得られるかわからない。ただし、国として対策をとっていることを対外的に示すことはできる」とする。
 
02~03年に流行したSARSに国立感染症研究所で対策にあたった田口文広・元日本獣医生命科学大教授は「コロナウイルスは、ヒトからヒトへとうつる中で感染力が増していく。初期に食い止めることが重要だ」と指摘。「ウイルスの潜伏期間に気づかずに市外に出てしまった人もいるだろう」とし、効果は限定的とみる。(後略)【1月24日 朝日】
*********************

中国政府にとっては、国民の信頼が得られるかどうかが最大の関心事でしょうが、“ソーシャルサイトの微博には、「食べ物も除菌グッズも足りていない。もっと情報も必要だ。私たちがこの世の終わりのように感じていることを、みんなに理解してほしい」との武漢市民の投稿があった。”【1月24日 AFP】とも。

2003年のSARSのときと異なり、国民の権利意識も上がり、ソーシャルサイトでの情報発信も可能になっている現在、感染拡大防止と並んで信頼回復は難しい課題となっています。

国外の対応も揺れています
“「シンガポールがすべての中国人の入国を拒否」は事実ではない”【1月24日 レコードチャイナ】
“中国人観光客、送還へ=武漢からの464人―フィリピン”【1月24日 時事】

【わずか10日間で1000床の新病院建設】
そのほか、いろんな情報が飛び交っていますが、いかにも“中国的”と思えた記事を一つだけ。

****中国・武漢に1000床の新病院、10日間で建設 新型肺炎治療に特化****
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国当局は流行の中心地・湖北省の武漢市内に、感染者の治療に特化した病院を新設している。建設期間はわずか10日間で、来月3日には病院施設が稼働する見通しだ。中国国営メディアが24日、報じた。
 
新型ウイルスによる肺炎では、これまでに中国国内で少なくとも26人が死亡し、感染者は830人を超えた。流行を食い止めるため、武漢をはじめとする複数の都市で交通遮断措置が取られ、合わせて4100万人が移動制限の影響を受けている。
 
中国中央テレビは、武漢市内の建設現場でショベルカーやトラック数十台が稼働しいている映像を紹介した。新華社通信によると、2万5000平方メートルの敷地にベッド数1000床の病院を建設中だという。
 
建設作業は、新型肺炎の流行が拡大し、対応指定された病院のベッド数の不足が伝えられる中で開始された。
 
中国は2003年に重症急性呼吸器症候群の感染者が急増した際にも、北京郊外にわずか1週間で新病院を建設して対応した例がある。新華社によると、武漢の新病院の施設も、北京の「小湯山医院」をモデルにして建設しているという。 【1月24日 AFP】AFPBB News
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わずか10日間で1000床の新病院・・・さすが中国、びっくりです。
それだけ武漢では患者が溢れている・・・ということでもあるのでしょう。

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イスラエル  核保有に進む構えも見せるイラン攻撃の可能性は?

2020-01-23 22:57:40 | 中東情勢

(ガザ地区からのロケット弾を迎撃するアイアン・ドームから発射されたミサイル【2019年5月8日 高橋和夫氏 COMEMOO】 昨年5月、ガザ地区から600発のロケット弾がイスラエル領内に撃ち込まれ、大半はアイアン・ドームで迎撃したものの、イスラエル側にも4人の死者が出ています。)

【エルサレムにフランス領?】
今日の国際面の記事で一番「へーえ、そうなんだ・・・」と思ったのは、下記記事。
エルサレム旧市街にフランス領とみなされる教会があるそうです。

****仏大統領、エルサレムでイスラエルの治安要員と口論 教会立ち入り巡り怒声も**** 
中東エルサレムの旧市街でこのほど、現地を訪問中のマクロン仏大統領がイスラエルの治安要員と口論を繰り広げる一幕があった。フランス政府の管轄とされる教会の中にこの治安要員らが立ち入ろうとしたためとみられており、規定を守るよう厳しい口調で相手に通告するマクロン氏の様子が動画に記録されている。

マクロン氏は23日に開かれるホロコースト犠牲者への追悼行事に出席するため、エルサレムを訪れている。上記の口論は、フランス政府が管轄し、フランス領とみなされている旧市街の聖アンヌ教会で起こった。

動画では、自身の後に続いて教会内に入ろうとしたとみられるイスラエルの治安要員に対し、マクロン氏が叫ぶような口調で「誰もが規定を知っている。あなたのしたことは気に入らない。出ていきなさい」と告げる様子が映っている。

マクロン氏はさらに、「規定を尊重してください。何世紀にもわたって存在する規定を私が変えるわけにはいかない。それははっきり言っておく」と付け加えた。

ローマカトリックに属する聖アンヌ教会の起源は12世紀にさかのぼる。教会は1856年、オスマン帝国の皇帝によってフランスのナポレオン3世に寄贈された。

仏大統領府の報道官はCNNに対し、マクロン氏の言動はフランスとイスラエルの治安要員による口論に介入したうえでのものだったと説明。

「聖アンヌ教会はフランスに帰属する。エルサレム市内にあるこれらの土地の保全もフランスが担う。現場ではイスラエルの治安要員が教会内に立ち入ろうとしたが、警備はフランスの要員が行っていた。大統領は両国の治安要員による口論の間に立ち、その場を収めたうえで全員に改めて規定を周知しようとした」と述べた。

一方、イスラエルの当局者は声明で、同国とフランスの治安要員とのやり取りは「話し合い」だったとの見解を示した。イスラエルの治安要員と警察官がマクロン氏並びにフランスの代表者を護衛することは事前に合意されていたとし、マクロン氏からは教会訪問を終えた後で謝罪があったと述べた。

マクロン氏に同行する報道官は同氏の謝罪の有無を確認することを控え、「そのような場面は見ていない」と述べた。
フランスは旧市街のある東エルサレムに対するイスラエルの主権を認めておらず、イスラエルによる占領地とみなしている。

国際社会の多くはこの認識を共有しているが、イスラエルはこれに異議を唱え、エルサレム全域が自国の主権下にあるとの立場をとっている。【1月23日 CNN】
********************

さすが、世界の歴史が凝縮している街エルサレムだけあって、いろんなことがあるようです。

とにかくエルサレムは遺跡だらけですが、その石ひとつ動かしただけでも、ユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の間で大きなトラブル・衝突になりかねないという、極めて微妙な場所です。

そんな高度にデリケートなエルサレムを、実にあっさりとイスラエル首都に認めたのがトランプ大統領でした。

【ネタニヤフ首相の失言は「周知の事実」 奇妙な二重基準】
イスラエル・ネタニヤフ首相は収賄などの罪で起訴されている身ですが、盟友トランプ大統領同様に「でっち上げ」だとして容疑を否認しており、裁判の先送りを狙っているようです。

****イスラエル首相、国会に免責申し立て 収賄罪などで起訴に「捜査はでっち上げ」****
イスラエルのネタニヤフ首相は1日夜、記者会見を開き、2019年11月に起訴された収賄などの罪について、国会に免責決議を求めると表明した。捜査を「でっち上げ」と批判し、免責決議には「国民の代表を無実の罪から守る意味がある」と強調した。
 
ネタニヤフ氏の申し立ては国会内の委員会で審議され、議員総会での投票が必要となる。だがイスラエルでは19年4月以降、政治混乱が続き、委員会の委員が任命されていない状態。3月にはこの1年間で3度目となる総選挙が行われる予定で、審議が始まるのは総選挙後とみられる。
 
結論が出るまで司法手続きは進まないため、免責が認められない場合でも裁判開始は大幅に遅れる見込みだ。
 
19年9月の総選挙で第1党となった中道政党連合「青と白」の共同代表で元軍参謀総長のガンツ氏は「法の下では万人が平等だと教わってきた、我々の価値を脅かしている」とネタニヤフ氏を非難。

極右政党「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン氏も免責決議を支持しない考えを示し、「イスラエルはネタニヤフ氏にとらわれた囚人になってしまった」と批判した。【1月2日 毎日】
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そのネタニヤフ首相がうっかり「口を滑らせた」とか。

*****イスラエルを「核保有国」と表現、ネタニヤフ首相が失言****
イスラエルのネタニヤフ首相は5日、同国を核保有国と表現した後、照れたしぐさで訂正した。失言だったとみられる。

イスラエルは核兵器を保有していると広く信じられているが、この問題で肯定も否定もしない曖昧政策を取り続けている。

ネタニヤフ首相は閣議で、ギリシャとキプロスとの海底ガスパイプライン事業に関する準備原稿をヘブライ語で読んでいた際、「このプロジェクトの重要な点は、イスラエルを核保有国(nuclear power)にすることだ」と述べ、その直後に「エネルギー大国(energy power)」と訂正した。

首相は一瞬間を置いた後、微笑んで誤りを認めた。首相が失言するのはまれで、ソーシャルメディアですぐに拡散した。【1月6日 ロイター】
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核保有に関して肯定も否定もしない曖昧政策を取り続けているイスラエルですが、保有していると広く信じられてもいますので、ネタニヤフ首相が失言しようが今更大した問題にもなりません。

ただ、北朝鮮やイランが核保有に進むとアメリカなどが敏感に反応するのに対し、イスラエルエルの核保有は曖昧政策が容認されているというのも、奇妙な二重基準です。

もっとも、すでに保有している国とそうでない国には異なるルールが適用される二重基準状態ですから、これも「今更」の話という扱いなのでしょう。

【核合意破棄・核保有に向けて対応をエスカレートさせるイラン】
問題となっているイランはアメリカとの緊張のなかで、1月5日の声明で、「(制限破りの)第5弾かつ最終段階として、重要な制限である(ウランを濃縮する)遠心分離機の数に関する制約を取り除く。運用面ではもはや核開発に制限はない」と表明。保有するウランの濃縮度や貯蔵量などで、核合意の制限に縛られないとの意向を示しています。

これに対し、英独仏の3カ国は1月14日の共同声明で、対イラン国連制裁の再開に道を開く「紛争解決手続き(DRM)」を発動したと発表しました。米、イランが対立を深める中、イランに合意復帰への圧力をかけ、外交による緊張解決を促したものとされています。

しかし、イランは反発を強めており、合意は破棄はしていないものの、履行義務を放棄する瀬戸際の駆け引きが続いています。

****イラン最高指導者「核合意で英仏独は信用できない」 制裁再開の動きを牽制****
イランの最高指導者ハメネイ師は17日、欧米など6カ国と結んだ核合意をめぐり、当事国である英仏独は「信用できない」などと述べて批判した。

無制限のウラン濃縮実施を表明したイランに対し、3カ国は14日、合意で定められた「紛争解決手続き(DRM)」を発動していた。手続きは最終的に対イラン国連制裁の再開に道を開くもので、核合意崩壊の危機をはらんで両者の対立が激化している。
 
ロイター通信によると、ハメネイ師は首都テヘランのモスク(イスラム教礼拝所)で8年ぶりに主導した金曜礼拝の説教で、英仏独について「米国同様、イランをひざまずかせることはできない」「米国の利益に従っている」などと主張。紛争解決手続きを発動した英仏独を強く批判した。
 
16日にはロウハニ大統領が演説で「核合意前よりも1日当たり多くのウランを濃縮している」と述べた。また、英仏独に「無益に傍観しない。もし彼らが(核合意の履行義務を)放棄するなら、私たちもそうする」と述べ、合意で定めるイランとの経済関係維持を実行するよう改めて英仏独に警告した。
 
イランは5日、核合意の規定を撤廃して無制限にウラン濃縮を行うと表明。ウランは高濃度になれば核兵器に転用できる。合意の維持を掲げながら履行義務を放棄する瀬戸際戦術だ。
 
イランが今後、欧州との経済取引の維持という成果なしに核合意の枠内に復帰するとは考えにくい。トランプ米政権が核合意を離脱して再開した制裁により、外貨収入の柱である原油売却益が激減、来年3月からの新年度予算策定も難航したといわれる。
 
経済悪化に対する国民の不満は数年前から蓄積されており、それを鎮めるためには欧州の資金が欠かせない。墜落したウクライナ機の誤射を認めたことで、国内では昨年11月に続いて反政府デモが起きるなど、政権の求心力が揺らぐ事態も続いている。
 
半面、反米の保守強硬派が台頭するイランでは「核合意を締結して米国にだまされた」という見方が広がっている。核・弾道ミサイル開発やテロ組織支援などを含む新たな協定の協議に応じる気配はみられず、欧州側との協議の着地点は見通せないのが実情だ。
 
一方、英仏独のDRM発動にはイランに圧力をかけて対話復帰を促す狙いがあるが、イランだけでなくロシア、中国も一斉に反発。裏目に出た形になった。
 
DRMは、合意違反が認められた場合の解決手段として定められた。合意加盟国の協議で決着しない場合、国連安全保障理事会に通告。安保理が対イラン制裁解除の継続を決議できなければ、制裁が復活する。
 
米国のムニューシン財務長官は15日、「国連制裁が復活することになるだろう」と述べた。安保理の協議にかけられれば、米国はただちに制裁復活を求める、という意思表示だ。
 
DRMの手続きは原則65日以内だが、協議は延長が可能。3カ国は米国の対イラン圧力に加担する姿勢を見せながら、対話の可能性を探り、時間稼ぎをする狙いとみられるが、大きな危険をはらむ。DRMは一度発動されれば、イランが強硬姿勢を変えない限り、制裁復活へのステップが続くことになるからだ。【1月17日 産経】
*******************

その後も、イラン側の対応はエスカレートしています。
“イラン、IAEA(国際原子力機関)協力見直しも=制裁視野の欧州批判”【1月19日 時事】
“イラン、NPT(核拡散防止条約)脱退も 核合意めぐり欧州をけん制”【1月21日 AFP】

【イスラエルのイラン攻撃の可能性】
こうした核保有に進む構えを見せるイランに対し、中東への深入り嫌うアメリカ・トランプ政権が直接的な攻撃にでる可能性は低いとされていますが、アメリカに代わって虎視眈々とイランを狙うのがイスラエル。

****イスラエルによるイラン攻撃の可能性高まる*****
(中略)
トランプ政権が、イランに核兵器を持たせないという絶対条件を譲らず、イランが今回の核合意の制限破棄声明を貫けば、いずれイスラエルと米国による、イランの核開発能力を破壊するための、何らかの先制的阻止行動あるいは軍事行動がとられることは必至であろう。
 
またその時期は、イランが1個分の核分裂物質を保有する可能性のある3カ月以内ということになる。イスラエルとしては努めて早期に阻止行動をとりたいであろう。
 
その場合にイスラエルがとりうる行動の選択肢としては、行動の烈度の順に以下のような選択肢がありうる。
① サイバー攻撃による、核関連施設の破壊、イランの革命防衛隊、弾道ミサイル基地などの核作戦に関する指揮通信・統制システムの制圧など(中略)

② 無人機、特殊部隊の破壊工作などによる要人の殺害、特に核関連部隊の指揮官、核物理学者など枢要な人物の殺害(中略)

③ 多数の無人機、あるいは無人機と有人機を併用した精密空爆による核関連施設、指揮通信組織などの中枢施設の破壊(中略)

④ 特殊部隊および正規軍を限定使用した、ペルシア湾内の離島など小規模の拠点に対する限定地上攻撃(中略)

⑤ 空爆では破壊できないイラン本土内の地下の核施設、指揮統制・通信中枢、ミサイル基地などの破壊を目的とする、限定地上攻撃(中略)

⑥ ペルシア湾の機雷戦、潜水艦戦などによる海上封鎖(中略)

⑦ 本格的な地上戦を伴う攻撃(中略)

以上の選択肢のうち、①、②、③まではこれまでイスラエルが行った実績もあり、今もより高度の能力がイスラエルにはあるとみられ、実行される可能性は高い。
 
ただし、100カ所以上はあるともみられているイラン側の核関連施設の多くは地下にあり、それらの数、位置、規模などの細部は不明であろう。
 
そのため、効果は限定的なものにとどまり、イランの核能力を完全に奪うことはできないであろう。
 
イランはイラクの米軍施設に対する報復攻撃で見せたように、十発以上の改良型スカッド級の弾道ミサイルを同時に比較的正確に発射し目標に命中させる能力を持っている。サウジの石油施設攻撃では、無人機の多数運用能力もあることを示している。
 
秘匿が容易な移動式弾道ミサイルや無人機を先制攻撃で一挙に破壊することはできない。これらのイラン側の残存報復能力をみれば、イスラエルや湾岸に展開する米軍に対する何らかの報復なしに、一方的にイランが制圧される可能性は低い。
 
また報復に際しては、シリアのアサド軍が多用した化学兵器が使用される可能性もある。核兵器の可能性は低いが、隠蔽された軍用原子炉で密かに核分裂物質を生産し、核実験なしでそれらが弾頭に搭載される可能性も、時間とともに無視できなくなる。
 
したがって、④から⑦の選択肢を採ることによるリスクは大きく、イスラエルがこれらの選択肢を実行する可能性は高くない。
 
特に、米軍の本格的な長期の支援が必要になる⑥と、多国籍軍の大規模な地上兵力が必要となり、大量の死傷者が予想される⑦の攻撃には、トランプ政権は同意しないであろう。
 
また英独仏は1月4日、対イラン国連制裁の再開に道を開く「紛争解決手続き」を発動したとの共同声明を発表しているが、核合意継続を望んでおり派兵には同意しないであろう。ペルシア湾岸諸国も紛争のエスカレートや長期化は望んでいないとみられる。
 
また⑥や⑦の場合は、中露はイランへの武器援助、経済支援などを行う可能性があり、紛争が長期化し、場合により軍事紛争がエスカレートする危険性もある。

⑥、⑦など最悪のシナリオは米国、イランも望んでいるとはみられず、実現の可能性は低い。
 
しかし、イスラエルなどの限定的な攻撃に対するイラン側の対応によっては、ペルシア湾での機雷敷設といった事態はありうる。その場合は、石油価格が急騰し、ペルシア湾の石油輸出ルートが長期にわたり安全に使用できなくなるであろう。
 
全般的には、イスラエル側のイランの核化阻止のために採りうる行動の選択肢の効果には限界があり、イランの核能力を一時的に制限しあるいは遅延はできても、完全阻止は困難であろう。
 
唯一可能性があるのは、イランのイスラム共和制が民主化運動により倒されることである。
 
ウクライナ機誤爆をめぐる体制批判がいまイラン国内で起きているが、その動きがどこまで広がるのか、体制側がいつかの時点で革命防衛隊などによる武力弾圧に踏み切るのか、あるいは譲歩するのか、体制変革まで進むのかが注目される。(後略)【1月21日 矢野 義昭 JBpress】
******************

イスラエルは、1981年にイラクのオシラクに建設中のプルトニウム生産用とみられる原子炉を、2007年にはシリアの建設途上の原子炉を、ともに精密空爆により破壊した実績がありますが、とり得る最大限の攻撃は、そのあたりと似たようなものになると推測されます。

ただ、イランはイラクの米軍基地に弾道ミサイル十数発を撃ち込んだように、イスラエルの攻撃への報復も予想されますが、イスラエルの誇るアイアン・ドームがイランからの攻撃をすべて遮断できるのか?

そのあたりの確信・判断と、アメリカ・トランプ大統領の同意次第でしょう。
首尾よくイランを叩ければ、何度やっても膠着状態の3月総選挙も有利に・・・という思惑もあるかも。もっとも、手痛い報復をうけるなど下手したら逆の結果にも。

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中国  香港、台湾、新型ウイルス肺炎への対応に見る習近平「一強体制」の弊害 「裸の王様」へ

2020-01-22 23:37:14 | 中国

(【2017年10月31日DIAMONDonline】共産党大会の時の写真でしょうか。いつもの「作り笑い」ではなく、自然でいい感じの笑顔ですね。)

【権力集中 「人民の領袖」へ】
中国共産党政権内部の権力闘争的な実態については部外者はわかりにくいところは多々ありますが、一般的には、習近平国家主席への権力集中が進み、「一強体制」になっていると言われています。

****「1強」体制固めた中国の習近平国家主席****
中国の習近平国家主席(64)が(2018年)3月、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で再選され、正式に2期目がスタートした。

自らの任期を延ばす憲法改正もあっさり実現し、「1強」体制を着実に固めた。大きな権力を手にした習氏は何を目指しているのか。

国会にあたる全人代で再選され、盟友・王氏を副主席に
任期制限なくす憲法改正案を通す
 
今年の全人代は、昨年秋の共産党大会で総書記に再任されて権力基盤を固めた習氏が、自らの政策を実行しやすくする態勢を整える意味が大きかった。結果的に、習氏の狙いはほとんど達成できたといえる。
 
何より大きいのは、自らの長期政権を制度的に可能にしたことだ。共産党が支配する中国の最高指導者は党トップの総書記だが、今は外交などを担う国家主席も兼務している。総書記に任期制限はないが、国家主席は憲法で2期10年までという制限があった。
 
だが、習指導部は全人代が始まる直前、任期制限を撤廃する憲法改正案を突然発表した。「長期支配は独裁につながりかねず、歴史に逆行する」と知識人などから批判が出たものの、全人代では、約3千人の代表のうち、反対はわずか2票で成立させた。これで習氏は5年後の2023年以降も、国家主席を続けられるようになった。
 
人事面では、補佐役の国家副主席に盟友の王岐山氏(69)を登用した。王氏は習氏の1期目に、汚職高官を摘発する党機関トップの書記として、「反腐敗」運動を指揮した実力者。

昨年、「68歳定年」の内規により党の要職からいったん退いたが、意表をつく形で習氏が政府の要職につけた。党序列で2位の李克強首相の影響力は低下しそうだ。

目標とする「社会主義現代化強国」実現へ、体制作り
集団指導体制が有名無実化する心配も
 
習氏が今回、強引とも思える手法で態勢作りを進めたのはなぜか。
習氏は建国から100年を迎える今世紀半ばまでに、世界トップレベルの実力を持つ「社会主義現代化強国」を実現するという目標を掲げている。

だが、目の前には産業構造の転換や貧困問題といった難題が待ち受けている。大きな改革を進めるには、強いリーダーシップと安定した長期政権が必要という判断があったとみられる。
 
政権基盤が安定したことで、外交面でも思い切った政策がとれそうだ。米国との貿易摩擦では強気の対抗策を打ち出し、尖閣諸島の問題をめぐって関係が悪化していた日本には王毅国務委員兼外相を派遣し、改善に向けてかじを切った。
 
ただ、中国は建国の指導者、毛沢東が圧倒的な権威から独裁色を強め、「文化大革命」などの政治運動で国を混乱させた歴史がある。そのため、改革開放を進めた鄧小平の時代以降は、複数の幹部の話し合いで重要政策を決める「集団指導体制」に移行した。
 
習氏の権力が強まりすぎれば、集団指導体制が有名無実化し、再び独裁政治に陥りかねないと心配する見方もある。【2018年4月29日 朝日中高生新聞】
********************

「基本的」には、上記のような習近平氏への権力集中が今も続いており、毛沢東と並ぶ「人民の領袖」と位置付けられています。

****習主席は「人民の領袖」 中国共産党、権威付け進む****
中国共産党中央政治局は26、27日に開いた会議で、習近平総書記(国家主席)を「人民の領袖」と位置付けた。

30日までの香港紙、星島日報によると、指導部を構成する政治局がこの呼称を習氏に使うのは初めて。米中貿易摩擦による景気減速など内外に難題を抱える中、習氏の権威付けが一段と進められた。
 
「領袖」は絶大な権限を誇った毛沢東に使われた呼称で、2017年ごろから習氏に対しても使われるようになった。星島日報は、今回「人民の領袖」と新たに位置付けたことで、習氏の指導的地位をより際立たせたと指摘。個人崇拝の傾向が強まりそうだ。【2019年12月30日 共同】
*****************

【成果が出ない「強国路線」】
習近平政権は鄧小平以来踏襲してきた外交路線である「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能や野心を隠して力を蓄える)を放棄し、外洋拡張路線を展開。領土の主張を含めて、周辺国とのトラブルを恐れず、強硬姿勢を貫く「強国路線」に転じています。

ただ、習近平政権の打ち出した「強国路線」は、今のところままり成果をあげていないように見えます。

米中交渉について、下記のような記事が出るということは、逆に言えば、中国国内(主に保守派からでしょうか)に「中国は負け」という不満が出ているということを示しています。

****「中国は負け」と嘲笑する中国人は、悲しいほど幼稚―中国紙編集長****
2020年1月16日、環球網は、米国との貿易戦争で「中国が大国らしからぬ負け方をしたという人は、悲しくなるくらい幼稚」とする、胡錫進(フー・シージン)環球時報編集長による文章を掲載した。以下はその概要。 

米国との貿易戦争で「中国は大国らしからぬ負け方をした」と嘲笑する人は、ペロシ米下院議長、シューマー上院議員、バイデン前副大統領が「米国は屈服した」とトランプ大統領を攻撃する論調に学ぶ必要がある。

今回の貿易戦争で中国の誤りを随時論証しようとする国内の人は、米国でトランプ大統領を批判する人に比べるといささか幼稚である。 

第1段階の経済貿易合意は当然ながら互いに妥協した結果であり、中国が譲歩したのは当然のこと。しかし、中国の譲歩はわれわれの改革開放が強化すべき方向を示しているのではないか。(中略)

「では、最初から貿易戦争など起こさず、米国の条件を全部受け入れればよかったではないか」と言う人がいるが、あまりにも幼稚な話で悲しくなる。

中国は米国との22カ月の戦いによって、米国の多くの要求を排除することに成功するとともに、米国人に「中国人は手ごわい」とも確信させた。EU(欧州連合)だって、日本だって、米国とこれほど張り合う勇気も能力も持ち合わせていない。中国は大国として、米国からリスペクトを得る必要があったのだ。 

われわれは争って大国になろうと思ったわけではないが、今や世界第二の大国になった。中国が大国でないと言うなら、世界では米国を除いてどこが大国だと言うのか。

あれこれ考えて「中国はもう大国を自称するな」とあざ笑うような一部の国民は、そんな暇があったら公益活動でもしたらどうか。春節の時期は、どこでも人手を欲しがっているのだから。【1月17日 レコードチャイナ】
********************

香港では逃亡犯条例改正案が頓挫したうえに、昨年11月に行われた香港区議会(地方議会)選では民主派勢力が85%の議席を獲得する圧勝を許すことに。

台湾では、強硬な対応に終始した結果、虫の息だった蔡英文総統の復活・再選に「塩を送った」形にも。

【官僚システムを委縮させ、機能不全を引き起こす「裸の王様」】
問題は「負けた」云々の結果ではなく、「一強体制」のもとで意思決定がうまく機能しなくなっているのでは・・・との懸念です。

****国台弁の工作をぶち壊したのは習近平****
・・・・私は最近ますます確信しているのだが、習近平の暴政は、情報官僚たちを含む中国の官僚システムを委縮させ、機能不全を引き起こしている。こ

のため習近平は国際情勢も経済情勢も社会情勢も正しい情報を掌握できておらず、政策ミスが連発して止まらないのだ。
 
(台湾総統選挙において)国台弁(国務院台湾事務弁公室、中央台湾工作弁公室)が本当に浸透工作をさぼっていたのかというと、実のところ、彼らはなかなか頑張って仕事をしていた。

少なくとも2018年秋の地方統一選挙で、韓国瑜を民進党の牙城といわれた高雄市市長に当選させた手腕は見事というしかない。

そうやって作り上げた国民党優勢のムードをぶち壊したのが「習五条」(2019年初頭に習近平が発表した強硬な台湾政策)だとすれば、習近平は頑張る国台弁はじめ台湾の情報官僚たちの働きを後ろから妨害しているとしか思えない。
 
香港デモの影響によって蔡英文優勢がどうしても覆せない状況になっても、国台弁は国民党の比例名簿上位に中共の傀儡となる統一派議員候補をねじ込んだ。

国民党比例名簿4位で当選した退役軍人の呉斯懐は、習近平に忠実な傀儡と多くの国民党員も認める人物である。国台弁は彼を立法院の国防委員会に送り込むことで、たとえ蔡英文が再選しても、国防に関する内部情報はきちんと手に入れられるように手配した。

もっともこうしたあからさまな工作によって国民党の支持者離れが加速したことも確かだ。今、呉斯懐は国民党惨敗の“戦犯”の一人として立法委員(議員)辞職をするのか否かが問われている。
 
総じていうと、国台弁は習近平の指示どおり、頑張って台湾浸透工作、選挙のための世論誘導工作を行ってきたが、その成果を習近平が後からぶち壊した。

国台弁は焦ってさらに浸透工作したのだが、焦った分、雑な仕事になって、台湾有権者から見破られた、ということではないだろうか。

鄧小平以来、時間をかけて完成された中国の官僚システムを使いこなせず、ぶち壊しているのが習近平だと、私は分析している。
 
習近平は香港に続いて台湾においても敗北を受け入れなければなるまい。さて、この敗戦処理をどうするのか。【1月16日 福島 香織氏 「台湾総統選で“敗北”した習近平が責任転嫁の逆ギレ」 JB press】
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*****香港区議選:中国共産党は親中派の勝利を確信していた(今はパニック)****
(中略)
なぜ、これほどの大きな誤算が生じたのか。最大の問題は、中国共産党から香港の世論操作を任されていた人々が、その成果の報告も自分たちで行っていたことだった。

これを行っていたのが、中国政府の香港出先機関である香港連絡弁公室だ。同機関は本土と香港の統合を推し進めるのが表向きの任務だが、実際には親中派の政治家をまとめたり共産党系の会報を出す役割などを果たしている。また、中央政府のスパイもする。

「指導部の望む情報」だけを提出
香港で長引く抗議デモは連絡弁公室にとって大きな失態であり、「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)説」は彼らにとって、名誉挽回のための策だった。この説を裏づける資料のみを中国側に提出し、否定的な材料は全てもみ決していたのだろう。(中略)

だがもちろん、共産党指導部が一つの情報入手経路にだけ頼るということはない。(中略)情報は複数の手段を使って入手している。時には真実を見つけ出すために、意図的に非公式な情報源を用いており、国営新華社通信のスタッフなどが作成する内参(内部参考資料)もその一つだ。

問題は、ますます疑い深くなってきている習近平体制の下では、こうした内参さえもが、その内容を「指導部の望む情報」に合わせるようになっていることだ。

計画の失敗は「忠誠心が損なわれている兆候」に仕立て上げられる可能性がある。特に分離主義に関連のある問題についてはその傾向が強く、習は2017年、「分離主義との戦い」の失敗を理由に新彊ウイグル自治区の共産党員1万2000人以上を調査している。

香港は(習にとって)政治的には新彊ウイグル自治区ほど危険な場所でなないが、リスクが高い地域であることに変わりはない。

だが政治的なインセンティブがあることで、複数の情報源が指導部にとって「聞こえのいい論調」を繰り返し、指導部はそうした情報の信頼性が高いと確信するようになっていくのだ。(後略)【2019年11月26日 Newsweek】
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“中国国営新華社通信は4日、中国政府の香港出先機関、香港連絡弁公室の王志民(おう・しみん)主任(62)を解任する人事を発表した。香港政府や中国共産党への抗議活動が半年以上続いている事態の責任を取らされた形だ。(中略)昨年11月の香港区議会選で、親中派勢力が勝利するとの誤った見通しを中国政府に伝え、最高指導部の信頼を失ったなどの情報もあった”【1月4日 産経】

上記のような政治問題とは異なりますが、今話題になっている新型ウイルス肺炎への対応についても、ウイルス特定などは早期に対応したものの、その後の情報公開に基づく対応策については後手に回った感が。

実態がどうなっているのかわからない、「国外に出ても省外に出ない愛国ウイルス」などと揶揄される状況にも。

****新型肺炎、政府の対応後手=習氏指示まで動かず―春節で感染拡大不可避か・中国****
中国政府は22日、国内外で懸念が強まる新型コロナウイルスによる肺炎に関して初めての記者会見を開き、一層の感染拡大に警戒を呼び掛けた。

ただ昨年末に湖北省武漢市で原因不明の肺炎多発が報告されてから既に3週間余り。政府は、習近平国家主席が20日に指示を出してようやく情報開示姿勢に転じた形で、対応は後手に回っている。
 
22日午前0時(日本時間同1時)時点の患者数は440人。死者は前日から3人増えて9人となった。全国集計のデータ公表が始まった20日以降、患者は毎日100人ペースで増えている。

この日にはマカオ、米国、タイでも新たな患者が確認された。24日からの春節(旧正月)大型連休を前に、国内の帰省や海外旅行など人の移動は既に始まっており、さらなる感染拡大は避けられない見通しだ。
 
国家衛生健康委員会の李斌副主任は会見で「武漢では地域的に感染している住宅地もある」と、人から人への感染が広がっている現状を説明。「ウイルスが変異する可能性があり、さらに拡散するリスクがある」と述べた。中国疾病予防コントロールセンターの高福主任は感染源について「海鮮市場で売られていた野生動物だ」と明言した。【1月22日 時事】 
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みんなが責任追及・転嫁を恐れて、最高権力者の顔色をうかがい、ことなかれ主義でやりすごす・・・そんな状況が透けて見えます。

権力が集中するほどに、周囲が見えない「裸の王様」になっていくのが世の習いでしょう。

なお、習近平「一強体制」については、対米交渉や香港・台湾での失敗から、批判も出ているとの指摘もありますが、そのあたりは長くなるので、また別機会に。
(“中国「皇帝」習近平は盤石ではない、保守派の離反が始まった”【12月26日 Newsweek】)

こうした政権批判は本来は「裸の王様」を正す機会になるのでしょうが、オープンな政党間の議論ではなく、水面下の権力闘争として陰湿に展開されるあたりが中国一党独裁体制の問題でもあります。

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