(【8月31日 AFP】)
【1日で6500人を救助】
命懸けで欧州を目指す難民・移民については、ひところに比べ、最近はあまりニュースでは目にする機会も少なくなりましたが、実態が改善している訳ではありません。
バルカン・ルートが事実上封鎖されているため、多くの難民・移民が、より危険な地中海ルートに押し寄せています。
****伊当局、リビア沖で移民ら6500人を救助 年初来の到着10万人突破*****
イタリア沿岸警備隊は29日、リビア沖で行った合同救難活動で移民ら約6500人を救助したと発表した。近年行った救難活動としては最大規模のものとなった。
公開された映像には、救命胴衣を着けた移民らが船から地中海に飛び込み、救助艇に向かって泳いでいく様子が捉えられている。
イタリア沿岸警備隊がツイッターで発表したところによると、救難活動はイタリア当局の他、人道支援団体や欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス、Frontex)などの船舶計40隻が出動して行われた。
今月の救助ペースは8月としては過去数年に比べやや落ち着いていたが、同じ水域では前日にも1100人余りの移民らが救助されていた。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年に入ってから海路でイタリアに到着した移民らの数は、29日の救助者を除いて10万5000人に達している。
また年初来、ギリシャまたはイタリアに向かう途中に海で死亡した移民らは3000人余りと、前年同期に比べ約50%増えている。【8月30日 AFP】
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“約6500人を救助”・・・・今月の数字だろうか? 今年1月以来の数字だろうか?・・・と思ったのですが、なんと1日の数字でした。
異様に多い数字ですが、イタリア側が合同救難活動を行うという情報が難民らに流れて、みなが救難活動をあてにして海に乗り出した・・・ということでしょうか?
“1隻に700人がすし詰めになっていた船もあり、別の小さなボートからは2人の遺体が見つかった”【8月30日 朝日】ということで、過酷で危険な旅路であることには変わりありません。
“密航船の約8割は、あっせん業者などが用意する設備の整わない小型のゴムボートなどを使用しているという。”【8月16日 毎日】とも。
バルカン・ルートについては、“FRONTEXによると7月にエーゲ海を密航してギリシャに入った難民・移民は1800人で、前年同月比で97%減った。EUとトルコが今年3月に合意したギリシャに密航する不法な移民を原則トルコに送還する対策が引き続き有効に機能している形だ。”【8月16日 毎日】とのことですが、トルコのクーデター未遂事件以後のトルコ・EU関係の悪化で、トルコはEUとの駆け引きで“難民カード”をちらつかせています。
トルコのチャブシオール外相は、EUへ渡航するトルコ国民のビザ免除が10月に実現しなければ、EUと合意した難民対策を破棄する可能性があると語っています。実際問題としては、EUとの関係が決定的に破たんするそうした措置は難しいようにも思いますが。
【難民・移民絡みのテロを警戒するドイツ・メルケル政権】
昨年は110万人の難民・移民が押し寄せたドイツですが、トルコとの合意の効果で、今年は年間30万人にとどまる見通しだとか。
****独 ことしの難民受け入れ 30万人にとどまる見通し****
去年、これまでで最も多い110万人近い難民や移民がたどり着いたドイツで、難民政策を担当する移民難民庁のトップが地元紙のインタビューに答え、ヨーロッパからトルコに難民を送り返す措置が始まったことを背景に、ことし1年間にドイツに到着する難民や移民は最大でも30万人にとどまるという見通しを示しました。
ドイツの大衆紙「ビルト」の日曜版は、難民政策を担当する連邦移民難民庁のトップ、ウァイゼ長官に単独インタビューを行い、その内容を28日付けの紙面で伝えました。
この中でウァイゼ長官は、ことし1年間にドイツに到着する難民や移民の数は、最大でも30万人にとどまるという見通しを示し、ドイツ政府として、ことしは25万人から30万人の受け入れ準備を進めていることを明らかにしました。
ドイツには去年、中東などからこれまでで最も多い110万人近くの難民や移民がたどり着きましたが、ことし4月、ギリシャに到着した難民や移民をトルコに送り返す措置が始まって以降、到着する難民の数は大きく減っています。
一方で、ドイツでは先月シリアなどからの難民が相次いで凶悪事件を起こし、「ビルト」は世論調査の結果、メルケル首相の続投を求める声が42%にとどまったと伝えていて、ドイツ政府にとって難民への対応は引き続き大きな
課題となっています。【8月29日 NHK】
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“7月に発生した一連の攻撃事件以後、メルケル首相が来年の連邦選挙後も4期目を続投することに反対との国民の割合が、全体の50%に上昇した。続投を希望したのは42%だった。”【8月28日 ロイター】ということで、難民・移民絡みの事件がメルケル首相にとって重い足かせとなっています。
テロ再発を許せばメルケル政権にとって致命的な打撃になりかねない状況で、メルケル政権のテロなどへの警戒感も強まっています。
****ブルカ着用禁止、ドイツでも 公共の場対象、法制化へ****
ドイツのデメジエール内務相は19日会見し、イスラム教徒の女性が全身を覆い隠す「ブルカ」や、目だけを出して顔を覆う「ニカブ」の公共の場での着用を禁止する方針を明らかにした。今後、連立与党内で調整のうえ、法制化をはかる。7月に相次いだイスラム教徒の難民らによる襲撃事件を受けて、警戒感が強まっていた。(中略)
ブルカの公共の場での着用は、数年前からフランスやベルギー、イタリアなどで禁止する動きが相次いでいるが、ドイツはこれまで異文化に対して寛容な政策をとってきた。過去に一部の州でイスラム教徒の教員がスカーフを身につけることを禁じた経緯があるが、憲法裁判所が2015年に「法の下の平等に反する」などとして無効を命じた。【8月20日 朝日】
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****トルコ系住民に忠誠心求める独首相発言に批判の声****
ドイツのメルケル首相がトルコ系住民に「国家への忠誠」を示すことを期待していると述べたことについて、一部の政治家から対立を深めるとして批判の声が上がった。
23日付の現地紙パッサウアー・ノイエ・プレッセに掲載されたインタビュー記事で、メルケル首相は「ドイツに長く住んでいるトルコ系住民には国家に対する強い忠誠心を期待している」と述べた。
その上で、独政府はこうした住民の懸念に対し偏見を持たず理解しようと努めていると語った。
これに対し社会民主党(SPD)のアイダン・オズオウズ移民・難民・統合担当相は独紙フンケ・メディアグループのインタビューで、大半のトルコ系住民は「国家に忠誠心を抱いている」とし、異なる考えを持っていることを前提にすべきでないと述べた。
緑の党の報道官ボルカー・ベック氏は独紙ハンデルスブラットに「特別な理由もなく国民の忠誠を疑うのは独裁政権にしか見られないものだ」と指摘した。
ベック氏はトルコ系住民について、言語や宗教、人種に関わりなく人間としての尊厳や人権などドイツの価値観を支持する必要があるとし、国家への「忠誠心」を示す必要はないと述べた。【8月25日 ロイター】
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ドイツ国内には、約300万人ものトルコ系住民が暮らしています。
トルコのクーデター未遂事件もあって、西部ケルンで7月31日にトルコ系住民を中心としたエルドアン・トルコ大統領支持派の大規模デモが起きるなど、トルコ系住民の動向を政権は懸念しています。
8月12日に発表された世論調査では、メルケル首相の難民・移民政策を支持するとの回答は44%、不支持は52%だったようですが【8月13日ロイターより】、連立与党内でも厳しい批判にさらされたいます。
“難民政策に揺れるドイツで、支持率でメルケル首相に肉薄している保守政治家がいる。首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首だ。歯にきぬ着せぬ言いぶりで、首相の寛容な難民政策を批判。次期首相候補として取りざたされ始めた。”【8月9日 朝日】
CSUはバイエルン州だけの地域政党であることから、首相候補云々については非現実的との見方もあります。
【受け入れを拒否する東欧諸国】
こうした苦しい状況にあるメルケル首相ですが、難民受け入れに寛容な基本姿勢は変わっていません。
そうしたドイツ・メルケル首相と、難民受け入れを拒否する東欧諸国との溝が深まっています。
****イスラム教徒の移民拒否は「受け入れ難い」 独首相、東欧にくぎ****
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は欧州連合(EU)の一部加盟国がイスラム教徒の難民の受け入れ拒否を表明していることについて、「容認し難い」との考えを示した。ドイツは、欧州に殺到している難民をEU加盟各国に割り当て、受け入れを分担するよう求めている。
メルケル首相は28日ドイツ公共放送ARDの取材に応じ、「一部の国々は『一般論として、イスラム教徒を自国に入れたくない』と言っているが、そうした意見は間違っている」と語った。
移民の受け入れ人数を加盟国ごとに割り当てる案に賛成しているメルケル首相は「全員がそれぞれの役目を果たすべきだ」とした上で、「共通の解決策を見つけなければならない」と強調した。
9月に行われるEU首脳会議の議題に予定されているEU移民政策については意見が激しく対立し、ドイツが推す「割り当て制」によって各国で難民を受け入れ分担する案については東欧4加盟国、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアが反対している。
スロバキアのロベルト・フィツォ首相は、自国には「イスラム教徒を1人たりとも入れない」と明言している。
また、チェコのボフスラフ・ソボトカ首相は23日、「われわれが目にしている問題を考えると…イスラム教徒の大規模なコミュニティー」は望まないとの考えを明らかにし、EU各加盟国が移民の受け入れ人数を選択できるようにすべきだと主張した。
ドイツの連邦移民難民庁(BAMF)が28日に行った報告によれば、昨年ドイツは主にシリアやイラク、アフガニスタン出身の移民・難民をおよそ100万人受け入れており、今年は最大30万人が同国に流入するとみられている。【8月30日 AFP】
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アメリカ大統領選挙のトランプ候補のイスラム教徒に対する差別的発言が批判を浴びてもいますが、「イスラム教徒を1人たりとも入れない」という主張がEU内部にも存在しています。
【イギリス・フランスの難民の押し付け合い】
一方、イギリスとフランスの間でも、“難民をめぐる醜い争い”が表面化しています。
****英仏がドーバー海峡で難民の押し付け合い****
難民の扱いをめぐり新たな論争が起こっている。舞台は英仏の間のドーバー海峡。イギリスを目指して中東やアフリカからフランス側の都市カレーにたどり着く難民を、イギリスが受け入れずにフランスに押し付けているという不満が表面化し始めた。
事実上の流入規制
英仏間の国境管理に関するル・トゥケ協定では、イギリスに難民申請をするにはイギリスに入国していることが条件とされている。カレーには英当局職員が滞在して難民のパスポートチェックはしているが、イギリスへの入国が却下されれば、その時点でイギリスへの難民申請は不可能になる。
難民たちはフランスに難民申請するか、ドーバー海峡トンネルに向かう車や電車に飛び乗って違法入国を図ることになる。それで命を落とした難民もいる。
着の身着のまま逃れてきてパスポートなど持たない難民を、事実上フランスに押しつける協定だとして、カレーでもイギリスへの難民申請を受け付けるか、イギリスを目指す難民については自国で難民申請を受け付けるよう修正すべきだという声が相次いだ。
カレーを管轄下に置く自治体のトップは言う。「カレーに到着した難民でイギリスを目指す者は、カレーで難民申請をできるようにするべきだ。それで申請が却下されれば、フランスは彼らを出身国へ送り返すことができる」
2017年の大統領選出馬を表明しているニコラ・サルコジ元大統領も最近の演説で「イギリスに国内に窓口を作って自国の難民は自国で面倒見ることを要求する」と主張した。
だがそれはフランスのためにならないと、元駐仏大使のピーター・リケッツは言う。そんな可能性が少しでも出てくれば、イギリス行きに命を懸ける難民たちが何千人もカレーに押し寄せるからだ。
イギリスの難民流入に歯止めをかける決まりを変更しようというなら、フランスとの対テロ協力を見直す、と脅す声もある。8月29日付けの英タイムズ紙に英政府高官が語った。「フランスはニースのテロ事件後、イギリスの軍事協力や情報提供に依存している。フランスがその変更を望んでいるとは思えない」
英内相のアンバー・ラッドは近々、パリでフランス内相のベルナール・カズヌーブとの会談を予定している。難民問題についても話し合われる見込みだ。【8月31日 Newsweek】
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8月30日にオランド大統領に辞表を提出し、来年4〜5月に行われるフランス大統領選への出馬が取りざたされているフランスのマクロン経済相は、今年3月、イギリスがEUから離脱するならば、フランスからイギリスへの移民流入を食い止めていた国境管理をやめると警告しています。【3月3日 ロイター】
同様に大統領選挙を目指すサルコジ元大統領(過去の人になったかと思っていましたが、最近復活傾向にあります。まだ、党内支持は弱いようですが、テロ事件が起きる状況で“強い指導者”をアピールしているようです)も上記記事のようにイギリスを批判しています。
“難民カード”でトルコがEUを揺さぶるように、フランスがイギリスに圧力をかけ、一方のイギリスは“テロ対策”で応戦する・・・・といった状況です。
【アメリカ・オバマ政権は受け入れ拡大の方向だが・・・】
アメリカ・オバマ政権は、受入枠拡大を希望していますが、国内に反対も強く、どうなるのか。
****米国、シリア難民受入枠を拡大へ 今年度は1カ月早く定員上限に****
米ホワイトハウスによると、米国は2017年度(10月からの1年間)に受け入れるシリア難民について、現行からさらに数千人分、枠を拡大するよう議会と協議を行っている。16年度の受け入れ予定数は1万人だったが、8月時点で既に定員に達した。
ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)は声明で「難民受け入れはシリアや周辺地域をめぐる人道支援の一部にすぎず、この(受け入れ枠拡大の)判断がシリアだけでなく国際社会に送るメッセージの重要性を、オバマ大統領はよく理解している」と指摘した。オバマ大統領は来年1月に任期満了となる。
ドイツをはじめとする欧米諸国は、内戦で故郷を追われた多くのシリア難民を受け入れているが、米国の受け入れ数はまだ少ない。たとえばカナダが昨年11月からの半年で3万人近くを受け入れたのに対し、米国は2015度は1682人、14年度は105人、それ以前は年間30人程度にとどまっていた。
一方で、難民受け入れについては米国内からの風当たりが強い。来年の大統領選に向けた選挙戦でも激論が交わされ、共和党候補のドナルド・トランプ氏は、難民を装った武装勢力を入国させることになりかねないと主張。
民主党内からも、シリア難民受け入れに際し審査を厳格化するよう求める声が出ている。【8月30日 ロイター】
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【日本 向こう5年間で150人、留学生として】
では日本はどうか?という話にもなるのですが、来年から5年間で150人(年間では30人)の受入を表明しています。
****シリア難民、150人受け入れへ 日本政府、留学生で****
政府は中東の難民支援策の一環として、内戦が続くシリアの難民のうち、留学生として2017年から5年間で最大150人の若者を受け入れることを決めた。20日に安倍晋三首相が正式表明する。
日本政府関係者によると、受け入れ対象は内戦や過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭により、就学機会を奪われたシリアの若者たち。将来のシリア復興を担う人材を育成する狙いがある。
国際協力機構(JICA)による技術協力制度を活用し、1年当たり20人を受け入れる。また、すでに文部科学省が実施している国費外国人留学生制度も1年当たり5人の枠を10人まで拡大し、合わせて5年間で最大150人を受け入れる方針だ。
JICAの枠は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との協定で行い、留学生の選考はUNHCRが担当。初年はヨルダンやレバノンに滞在するシリア難民が対象となる見通し。
日本はこれまで、難民認定基準が他の主要国と比べて厳しいとされてきた。26、27日に予定される主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で難民対策が主要議題の一つとなることから、日本政府の姿勢を示すために打ち出すものとみられる。【5月19日 朝日】
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“安倍総理は昨年9月の国連総会の一般討論演説で、シリア・イラク難民の問題に970億円の財政支援を発表した。その際日本の難民受け入れの可能性について尋ねられ、「国内問題解決が先」と返答したことで国際社会から非難を受けた。
2015年には7586件の難民申請をうけたものの、難民として認定したのはそのうちたったの27件のみだった。
ガーディアン紙は「昨年日本は、1億8160万ドルを国連の難民対策機関に支出し、アメリカに次いで2番目に多いが、その難民受け入れ数は経済規模に見合っていない。」と批判した。”【http://wanotewosekaini.com/150asexchange/】という状況から、一歩踏み出した・・・・ということでしょうか。個人的には、何も変わっていないように思えますが。