孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  政治犯釈放の「恩赦計画」も協議対象に 経済制裁解除を求める動きも

2011-09-30 23:00:43 | ミャンマー

(米ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加したスーチーさん 民主化の進展に関して「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」と語っています。“flickr”より By Clinton Global Initiative http://www.flickr.com/photos/cgiphotos/6169634150/

【「テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」】
民政移管したミャンマーで、新政権の意外な柔軟姿勢、民主化への寛容な対応については、
8月25日ブログ「ミャンマー 民主化勢力との関係改善図る姿勢を見せる政権側」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110825
9月18日ブログ「ミャンマー 「変化」をアピールする新政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110918
で取り上げてきました。

こうした新政権側の対応は、米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑もあってことと言われていますが、「彼ら(新政権)は国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」(タイのシンクタンクVahu Development Instituteのアウン・ナイン・ウー氏)といったこともあるように思われます。

民主化運動の象徴的存在であるアウンサンスーチーさんとの関係改善も急速に進展しています。
テインセイン大統領との会談を行ったスーチーさんは、20日、「テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と、その姿勢を評価する発言をしています。

****スーチーさん:テインセイン大統領の姿勢評価****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(66)は20日、最大都市ヤンゴンにある国民民主連盟(NLD)本部で毎日新聞と単独会見した。「(3月の民政移管で就任した)テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と述べ、8月以降、スーチーさんとの直接会談など国民和解や改革を進めている大統領の姿勢を評価した。

ただ、政権が求めている米国や欧州連合(EU)の経済制裁解除については「米欧は政治犯の釈放などを強く求めている」と強調。現段階の解除は時期尚早だが、米欧が解除を決めた場合には反対しない考えも示唆し、政治犯の早期釈放を改めて求めた。

政権側の民主化勢力への柔軟姿勢を受け、会見ではスーチーさんにも政権側に歩み寄る姿勢が目立った。NLDがボイコットした昨年11月の総選挙に関しても「選挙結果を変更せよと主張したことはない」と結果を否定せず、新国会を注視する姿勢を見せた。

国内には「スーチーさんは、国際社会に民主化進展を強調したい政権に利用されている」との懸念もある。スーチーさんは「利用されているとは思わないが、たとえそうでも、国のためになるならば構わない」と語り、「満足していないが、確かに(政権側に)変化が起きている」と述べた。(後略)【9月20日 毎日】
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また、スーチーさんは、ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加し、「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」とも語っています。
****スー・チーさん「変化の兆候期待」 NYの会議で中継****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、米ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加した。同国のテイン・セイン大統領との8月の初会談などを踏まえ、民主化の進展に関して「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」と述べた。

スー・チーさんは、国民和解の実現には「双方が妥協の用意をしなければならず、非常に難しい状態にある」と説明。ただ、「私は慎重ながら楽観的だ」とし、「国民は常に何か具体的なものを求めるし、対話は決して十分ではない。だが、変化の第一歩が始まったところだ」と粘り強く取り組む考えを強調した。
国際社会に対しては「まずは国民の声に耳を傾けるべきだ」と述べ、政府だけでなく広範な国民の意思を尊重するよう促した。【9月22日 朝日】
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【「もし(スーチーさんが)議会に参加するのなら歓迎する」】
先の総選挙をボイコットして解党処分となっているスーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)についても、新政権側は政党としての再登録を認める方針を示唆しています。
スーチーさん自身の議員立候補の可能性についても浮上しています。

****ミャンマー:「スーチーさんの議会参加を歓迎」上院議長****
ミャンマー上院のキンアウンミン議長は、米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」の電話インタビューに応じ、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんについて「もし議会に参加するのなら歓迎する」と語った。同放送(電子版)が報じた。

米国や欧州各国は約2000人の政治犯釈放とともに、スーチーさんの政治活動の自由を求めている。議長の発言は、スーチーさんを議会内部に取り込み、国民和解や、経済制裁解除など米欧との関係修復につなげたい政府側の思惑を反映したものとみられる。

スーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)は、昨年の総選挙をボイコットして政党登録を取り消された。しかし、3月の民政移管で発足した新政府のチョーサン報道官(情報相)は8月、政党としての再登録を認める方針を示唆。スーチーさんは今月20日の毎日新聞との会見で、再登録について「政府から正式な通知があったわけではない」としながらも、可能性を否定しなかった。

NLDが再登録すれば、今後行われる国会の補欠選挙への候補者擁立が可能になる。昨年3月に当時の軍事政権が制定した選挙法には、過去に有罪判決を受けたスーチーさんの立候補を認めない条文があるが、政府が法を改正するなどしてスーチーさん自身の立候補を認める可能性もある。【9月22日 毎日】
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軍治安部隊が反政府デモを武力鎮圧し、多数の死傷者が出た事件から丸4年を迎えた26日には、集会・デモは警察当局によって解散させられはしましたが、“警察側は比較的ていねいな口調で、逮捕者などは出ていない”とのことです。
民主化グループ側も警察の指示に従う形で、大きな混乱はなかったようです。【9月26日 毎日より】

スーチーさん、新政権側と「恩赦計画」などについて協議
こうしたなかで、スーチーさんや欧米が求めている2000人とも言われる政治犯の釈放問題についても、その可能性が現実のものとなってきています。

****ミャンマー外相、新たな恩赦を表明 国連総会で演説****
ミャンマー(ビルマ)のワナ・マウン・ルウィン外相は27日、ニューヨークで開会中の国連総会で一般演説し、「近く適切な時期にさらなる恩赦を与える」と表明した。ただ、国際社会が釈放を求める約2千人とされる政治囚を含むかなど対象には言及しなかった。

新政府は7月末までに2万人に恩赦を出したとしているが、対象は軽犯罪者が中心で政治囚はほとんど釈放されなかった。今回は経済制裁解除を狙って数百人規模の政治囚釈放が検討されているとの情報もあり、一定規模の政治囚が含まれる可能性がありそうだ。

外相は演説で、「国民の圧倒的多数に承認された憲法に従って、新しい民主国家としての姿を見せた」と述べ、「民政移管」で発足した新政府の正統性を強調。「経済制裁で国民の生活を改善する政府の努力が阻害されているのは残念だ」と制裁解除を訴えた。【9月28日 朝日】
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30日には、スーチーさんも政府の連絡役であるアウンチー労働相と会談、テインセイン大統領による「恩赦計画」を話し合ったとされています。

****ミャンマー:スーチーさん、「恩赦計画」など政府側と協議****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんは30日、最大都市ヤンゴンで政府の連絡役であるアウンチー労働相と会談した。会談後、アウンチー氏が読み上げた声明によると、両者はテインセイン大統領による「恩赦計画」などについて協議した。

「恩赦計画」の内容は不明だが、国際社会はミャンマーに2000人以上とされる政治犯の釈放を求めている。ミャンマーの東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任が協議される11月のASEAN関連首脳会議を前に政治犯の釈放が実現する可能性が強まっている。

会談後、アウンチー氏は記者団に「(スーチーさんが率いる最大野党勢力)国民民主連盟(NLD)が法に基づいて政党として再登録するならば、政府はいつでも民主連盟と協力する」と述べた。これに対してスーチーさんも「再登録が可能ならば、私は民主連盟の中央委員会に再登録の是非について相談する」と表明した。
民主連盟は昨年、総選挙への参加を拒否して政党登録を取り消され、解党処分となった。政党として再登録されれば、補欠選挙などに候補者を擁立し、国会に議員を送ることが可能になる。

スーチーさんとアウンチー氏の会談は7月と8月に続き3回目。これまでの2回は8月のテインセイン大統領とスーチーさんの会談の準備会談的な意味合いが強かったとみられ、今回も、近くスーチーさんと大統領の会談が実現するとみられる。【9月30日 毎日】
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外相、ワシントン訪問 関係改善を協議
新政権側は「恩赦計画」の見返りに、経済制裁の解除を求めているようで、ルウィン外相が9月29日にワシントンを訪れ、アメリカ側との協議を行っています。

****ミャンマー外相、米首都訪問…制裁解除協議か****
米国務省は、ミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が9月29日にワシントンを訪れ、カート・キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)やデレク・ミッチェル米政府ミャンマー担当特別代表・政策調整官らと会談したと明らかにした。

両国の高官級協議は9月に入り3回目で、対ミャンマー制裁解除も含めた関係改善が協議されたものと見られる。ミャンマー外相のワシントン訪問は異例。米政府は、民政移管したミャンマー政権がアウン・サン・スー・チーさんとの対話などに乗り出したことを歓迎しており、関係改善に向け、政治犯の釈放などの具体的行動を求めている。【9月30日 読売】
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“とんとん拍子”と言ってもいいような展開です。
新政権側の思惑はいろいろあるにせよ、現実問題として民主化へ向けた改善が少しでも進むのであれば、この機会をうまく利用して新政権の寛容な姿勢を更に後押ししていくのよいのではないでしょうか。

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イエメン  サレハ大統領帰国で混乱悪化、内戦再燃の懸念も

2011-09-29 20:42:26 | 中東情勢

(9月25日 帰国後初のTV演説で「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を語るサレハ大統領 しかし、即時退陣には言及せず、反体制派との衝突は激しさを増しています。 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6182623044/

【「私は平和のハトとオリーブの枝を持って帰ってきた」】
反政府運動の混乱が続くイエメンでは、6月3日の大統領府への砲撃で負傷し、サウジアラビアの病院に入院し、その後3か月間サウジアラビアに滞在していたサレハ大統領が23日に帰国しました。
サレハ大統領は帰国に際し、「私は平和のハトとオリーブの枝を持って帰ってきた。誰に対しても恨みや憎しみは持っていない」と語ったそうですが、大統領が持ち帰ったのは“平和のハトとオリーブの枝”ではなかったようです。

サウジアラビアなどペルシャ湾岸諸国でつくる湾岸協力会議(GCC)はサレハ大統領の退陣による事態収拾策を探ってきましたが、サレハ大統領は「対話によって流血を止めることが解決策だ」との対話を呼びかける言葉とは裏腹に、退陣要求をあくまでも拒否し、反政府運動を力で抑え込むつもりのようです。

政治的な解決は一層遠のいたといえる状況で、首都サヌアでは、反政府デモ隊に対して治安部隊が発砲し、連日多数の死傷者が出おり、状況は悪化しています。

****デモ隊ら40人死亡=サレハ大統領帰国で事態悪化―イエメン****
反体制デモが続くイエメンの首都サヌアで24日、政府軍の砲撃などでデモ参加者や軍を離反した兵士ら40人が死亡した。AFP通信が伝えた。サレハ大統領が23日に約3カ月半ぶりにサウジアラビアから帰国したのを受け、事態は悪化する様相を呈している。

サヌアでは、大学周辺の大通りでサレハ政権退陣を求め、数千人が泊まりの抗議を続けている。大通りに迫撃砲が撃ち込まれたほか、狙撃手も発砲した。また、デモ隊側に付いたアリ・モフセン・アフマル元大将率いる離反軍の拠点も狙われた。

6月の暗殺未遂事件で負傷し、サウジで治療していたサレハ大統領は帰国後も、湾岸協力会議(GCC)がまとめた権力移行案を拒否する姿勢を崩していない。大統領の帰国で勢いづいた大統領支持派の民兵もデモ隊への攻撃に加わっているもようだ。【9月24日 時事】 
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即時退陣には言及せず
25日のTV演説でも、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を提案してはいるものの、反体制派が求める即時退陣には言及しておらず、大統領支持派、反体制派双方の対立は激化しています。

****イエメン:「早期選挙で権力移譲」 サレハ大統領、帰国後初演説****
イエメンのサレハ大統領は25日、療養先のサウジアラビアからの帰国(23日)後初めてテレビ演説し、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」を提案した。一方、大統領は、民主化デモ隊が求める即時退陣には言及せず、「テロリストが権力を狙っている」と反大統領派を批判した。デモ隊側の反発は確実で、混乱が収拾するめどはまったく立っていない。首都サヌアではこの日も大統領派部隊の発砲でデモ隊2人が死亡した。

サレハ氏は過去にも早期選挙の実施に言及。サウジ主導の湾岸協力会議(GCC)や米欧が調停した権力移譲案についても、受け入れを明言しなかった。対話の重要性は強調したが、大統領派と反大統領派の交戦にまで発展している混乱の収拾につながりそうな発言は何もなかった。

サヌア中心部に集まった反大統領派からは演説中から批判の声が上がる一方、大統領派は花火や祝砲を打ち上げるなどして支持を示した。一方、反大統領派デモ隊に対する治安部隊の発砲は25日も発生、2人が死亡、18人が負傷した。18日から続くサヌアでの両派衝突による死者は少なくとも130人になった。

GCCや米国はサレハ氏の帰国を受け、早期権力移譲を改めて求めており、米国務省は24日、サレハ大統領を名指しして改めてGCC調停案の早期受け入れを求めた。国連安全保障理事会も24日、議長声明で暴力行為の中止を要請した。【9月26日 毎日】
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またサレハ大統領は演説で、権力放棄と引き換えに退陣後の訴追免除を受けるとするGCCの仲介案を尊重する姿勢も示してはいますが、実際には仲介案への署名を拒否しており、権力にこだわる姿勢は崩していないと見られています。
サレハ大統領は、これまでも権限移譲を受け入れるような発言をしながら実際は署名せず弾圧を続ける・・・ということを繰り返してきましたが、現在も変わっていないようです。
権限移譲の相手とされているハディ副大統領についても、サレハ大統領は同氏に国を去るよう圧力をかけているとも報じられています。【10月5日号 Newsweekより】
これまでの言動から、「早期選挙を通じた平和的な権力移譲」といった発言も、額面通りには信用できません。

****イエメン:大統領帰国…3カ月ぶり 治安の混乱、深刻化****
・・・サレハ大統領の帰国は、サウジが主導する湾岸協力会議(GCC)や米欧による権力移譲の直近の調停が不調に終わる中で伝えられた。オマル国連事務総長特使は22日、ロイター通信に「政治解決が実現しない限り、イエメンは分解し、暴力は国内各地に拡大する」と懸念を示した。

GCC調停案では、サレハ氏はハディ副大統領に権限を委譲する見返りに身の安全と訴追免除を保証される。しかし、南北イエメン時代から33年間にわたり大統領の座にあるサレハ氏は受け入れを拒否。最近になってハディ氏にGCC案に基づく交渉・署名権を与えたが、大統領は新政権で長男アフマド氏の国防相就任を要求しているとされる。

サヌアではサレハ氏のおいや息子が指揮する軍・治安部隊と、離反した軍部隊や反大統領派部族の武装集団の間で戦闘が続いている。権力の空白と首都の混乱に乗じる形で南部では国際テロ組織アルカイダとの関連が疑われるイスラム過激派が一部都市を制圧しており、治安の混乱が深刻化している。

紛争激化は民間人の死傷や生活環境の悪化を招いている。国連児童基金は20日、子供の栄養失調や伝染病の拡大が懸念され、「イエメンは人道危機に直面している」と指摘。ピレイ国連人権高等弁務官も22日、暴力行為の即時中止を訴えた。【9月23日 毎日】
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【「三重苦」に加え、権力闘争で内戦再燃の懸念
首都サヌアなどでは9月中旬以降、サレハ大統領の長男アハマド氏が率いる精鋭部隊などが反体制派への攻撃を再開し、これまでに170人以上が死亡していますが、サレハ大統領側が、大統領不在の間に政権移行プロセスが進むことを恐れたためだとの見方がなされています。【9月27日 産経より】
また、GCC・欧米仲介による協議で影響力を行使できないとみた反体制派も治安部隊との戦闘を再開し、GCCの交渉担当者たちがイエメンから追い出され、協議も中断-サレハが突然帰国したのは、そんな状況下でした。【10月5日号 Newsweekより】

実際、大統領不在の「権力の空白」のイエメンでは、従来からの北部ザイド派の抵抗、南部の分離独立運動、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の活動という「三重苦」に加え、1月からの民主化運動が「サレハ後」をにらむ有力者間の権力闘争に変質し、内戦再燃が懸念される状況にもなっています。

****イエメン:内戦再燃の懸念 民主化騒乱、権力闘争に変質****
・・・・1月からの民主化騒乱は「サレハ後」をにらむ有力者間の権力闘争に変質。周辺国が権力移譲を調停中だが、リビアなどに比べ国際社会の関心は薄く、90年代の内戦が再燃する懸念が強まっている。(中略)

大統領派部隊はサレハ氏のおいヤヒヤ氏が指揮する中央治安部隊や、長男アフマド氏が率いる精鋭の共和国防衛隊が中心。
反大統領派軍部隊は、サレハ氏から3月に離反した第1機甲師団司令官のアリ・モフセン氏が指揮している。さらに、実業家で有力部族長のハミド・アフマル氏も、サレハ氏に対抗して配下の武装部族民を動員いるとされ、三つどもえの戦いになっている。(中略)

権力闘争の激化は、国内の混乱をさらに悪化させるのは確実。イエメンでは欧米を標的にしたテロ未遂事件を起こした「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が活動、北部ではイスラム教シーア派の一派ザイド派が中央政府と武力衝突を続ける。南部には分離独立を求める勢力も残り、治安面では「三重苦」に直面する。

イエメンの「破綻国家」化は、世界最大級の産油国サウジや、アルカイダ系イスラム過激派組織「アルシャバブ」や海賊が拠点とするソマリアなど近隣諸国にも波紋を及ぼしかねない。【9月21日 毎日】
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“サレハ氏はこれまでも、たびたび内戦の危機を“演出”し、自身が退陣すれば「権力の空白」が生じるとの不安をあおることで、周辺国の最低限の支持をつなぎとめる戦術をとってきた。サウジが今回、仲介案への署名を拒否し続けるサレハ氏の帰国を認めたことは、同氏にとっては思惑通りの展開だといえる”【9月27日 産経】

27日には、イエメン南部のアデンで、アリ国防相の車列を狙った車爆弾テロがあり、国防相の命に別条はないが、護衛の兵士7人が負傷したと報じられています。
大統領派・反体制派の衝突、従来からの「三重苦」と、火種は山ほどありますので、どの勢力による犯行かはわかりませんが、内戦再燃、「破綻国家」化に向けて泥沼に陥っているイエメンです。

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ギリシャ  パパンドレウ首相、改革について「イエス・ウィー・キャン」

2011-09-28 21:08:00 | 欧州情勢

(9月15日 ギリシャ・アテネ 財政削減の一環としての教育予算改革に反対する若者たち “flickr”より By odysseasgr http://www.flickr.com/photos/odysseasgr/6150193885/

ドイツに理解を求める
ギリシャのパパンドレウ首相は、ギリシャ支援に国内世論の反対が根強いドイツを訪問、歳出削減などの改革へ向けた姿勢を「イエス・ウィー・キャン」とアピールしたそうです。
欧州だけでなく世界経済全体の混乱の引き金になりかねないギリシャですから、“笑える”といったら不謹慎のそしりを免れませんが、なかなか印象的な発言です。

****ギリシャに必要な支援する」 ドイツ首相、改めて表明****
ドイツのメルケル首相は27日、ベルリン訪問中のギリシャのパパンドレウ首相と会談した。メルケル氏は「我々はユーロ圏の中で強いギリシャを望んでおり、ドイツは必要な支援をする用意がある」と述べ、経済危機に陥ったギリシャへの支援を改めて表明した。

パパンドレウ首相は歳出削減などギリシャが国際社会から求められている義務を果たすと強調。支援の実効性に不信の目を向けがちなドイツに理解を求めた。
パパンドレウ氏はベルリンで開かれたドイツ産業連盟の大会にも出席。「イエス・ウィー・キャン(我々にはできる)」とオバマ米大統領の選挙戦時のキャッチフレーズを使い、改革に取り組む姿勢をアピールした。【8月28日 朝日】
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ドイツ側は、メルケル首相がギリシャ支援を表明、議会も、成り行きが注目されていたユーロ圏の債務危機対策の要となる欧州金融安定化基金(EFSF)を拡充する法案を可決見通しです。

****独議会、拡充案を29日採決=危機対応の欧州基金―可決見通し****
ドイツ連邦議会(下院)は29日、ユーロ圏の債務危機対策の要となる欧州金融安定化基金(EFSF)を拡充する法案を採決する。与党から造反議員が出ているものの、野党の協力があるため、可決はほぼ確実な情勢。最大の負担金を拠出するドイツで法案が成立すれば、危機対策が大きく前進することとなる。

EFSF強化の柱は(1)危機国への融資能力を4400億ユーロ(約46兆円)に増強(2)流通市場での国債買い支え機能を追加―など。融資能力増強には債務保証の拡大が必要で、拡充後はドイツは年間国家予算の3分の2に匹敵する2110億ユーロの巨額の保証を負担することになる。

与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が行った党内事前投票では、法案に11人が反対し、2人が棄権だった。
なお、29日の採決では、拡充自体が可決されても、EFSFの決定に対する独議会の関与強化も決まる見通しのため、将来的に議会の反発で融資の決定などが遅れる可能性はある。【9月28日 時事】 
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このようにドイツも“当面”は、ギリシャ、ユーロ圏を支援していく姿勢を見せていますが、ギリシャ国内の改革が進展するかどうかについては、厳しい情勢です。
「イエス・ウィー・キャン」という死語を耳にする気恥しさは別にしても、本当に“できるのか?”訝しく思う向きが増えているようです。

【「私たちが作った借金じゃない」】
ギリシャ議会は27日、電気料金を通じて徴収する新たな固定資産税の導入法案を賛成多数で可決しました。
新税によりギリシャ政府は年間20億ユーロ(約2060億円)程度の歳入増を見込んでおり、EUなどのつなぎ融資80億ユーロの確保に向けた努力をアピールしています。
しかし、ギリシャ国内の反発も強まっています。

****劣等生ギリシャ」国民の意外な本音*****
経済破綻を避けるためギリシャ政府は緊縮財政の強化に必死だが、労働環境の悪化や増税に苦しむ市民の不満は爆発寸前

デフォルト(債務不履行)の危機にあるギリシャでは今、一般の国民は途方もないプレッシャーにさいなまれている。ギリシャに疑いの目を向ける支援国に対して、支出削減と歳入増加をきちんと達成する、と政府が必死に説得しているからだ。
EU諸国とIMF(国際通貨基金)からの追加融資がなければギリシャ経済は崩壊し、ユーロ圏だけでなく世界経済までも脅かす事態になる。

2010年5月に決定された1500億ドルの救済を継続して受け取るために、ギリシャ政府は緊縮政策の強化を迫られている。今年の予算目標の不足分28億ドルを穴埋めするために、新たな固定資産税の導入も発表された。この固定資産税は電気料金を通じて徴収し、未払いの場合は電気を止められる。今週にも議会採決が行われる予定だ。

そんななか、ギリシャ市民の不安や不満は高まる一方。先週は労働組合のストで電車やバス、タクシーが運行を中止し、今週も大規模な交通ストが予定されている。
国営電力会社の労働組合は以前から、電気料金を通じての固定資産税の徴収を拒否すると、声高に叫んできた。それでもエバンゲロス・ベニゼロス財務相は先週、当初は2年間の暫定措置としていた固定資産税がもっと延長される可能性があると発言。さらに、財政改革を行わなければギリシャは2000年に経済破綻したアルゼンチンのような危機に陥ると警告した。

「大企業と銀行が作った借金だ」
しかし公立病院の小児科医クリストス・アルギリス(32)は、政府の要求は行き過ぎだと言う。「私たちは金持ちじゃない」とアルギリス。彼は「週100時間」働いているのに、年収は約3万2000ドルだという。「公立の病院には医者がほとんどいない。政府は銀行にカネを回すために私たちの月給を300〜400ユーロも減らしている」とアルギリスは言う。「だから私たちの答えはノーだ。債務なんて知ったことか。私たちが作った借金じゃない。資本主義の大企業と銀行が作った借金じゃないか」

首都アテネ郊外のガラッシの市場で花売りをするテオという名の男性は、ストがもっと起きればいいと言う。「首根っこをつかまれたような状態で、一体どうしろっていうんだ。ただ座ったまま、死ぬのを待てって? そんなわけにはいかないさ」と、彼は言う。
テオの妻は1年前、ビジネスコンサルタントの職を失った。所有していた車2台のうち1台を売って狭いアパートに引越し、2人の子供が通っていた私立幼稚園も辞めさせた。
「ギリシャはとっくに破産していて、政府がそれを公にしていないだけじゃないかと、みんなびくびくしている」と、テオは語る。「でも、政府が言うほど悲惨な事態になるとは思わない。恐怖を煽るのは、人々をコントロールする効果的なやり方さ」【9月26日 Newsweek】
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幽霊公務員、低い納税意識
こうしたなか、国際通貨基金(IMF)やEUの第6弾融資80億ユーロ(約8260億円)が実行されても、3400億ユーロ(約35兆1千億円)の政府債務を返済するのは難しく、「秩序あるデフォルト(債務不履行)」と呼ばれる大幅な債務再編は不可避・・・との見方が強まっています。

欧州各国がいつまでもギリシャ支援を続けられない・・・とする背景には、ギリシャへの不信感があります。
****ギリシャ追加緊縮策、成立見通しも実現には疑問符****
・・・市場が注目するのはギリシャの「資金繰り」ではなく「支払い能力」だ。そもそもギリシャは財政赤字を国内総生産(GDP)比2・2%と虚偽申告し、2001年に欧州単一通貨のユーロ圏に加盟したが、実は4・1%だった。

今回も09年に誕生したパパンドレウ政権が、旧政権が「4%台」と発表していた財政赤字を調査すると12・7%だったことが判明。債務危機を引き起こした。しかも、昨年5月に1100億ユーロ(約11兆3500億円)の第1次救済策を発動したにもかかわらず、ギリシャの財政再建計画は破綻し、1090億ユーロの第2次救済策を余儀なくされた。

ユーロ導入時、ギリシャに低金利の資金が流れ込んだが、産業は発展せずに公務員の数が増加した。中には一度も出勤せずに給与をもらい、他に本職を持つ幽霊公務員もいるという。パパンドレウ政権は20万人の公務員を削減する方針だ。
さらに、ギリシャ国民の納税意識は乏しく、政府の徴税能力も低い。不動産課税強化に伴い電気料金に上乗せして徴収する仕組みを導入するが、電力会社の労働者たちは増税反対の世論を代弁し猛反発している。

英BBC放送によると、ユーロ圏首脳はギリシャの政府債務残高を半分帳消しにして市場を安心させようと協議している。しかし独やオランダではギリシャに「性善説」は通用せず、財政規律を守らない場合はユーロ圏から離脱させるべきだとの強硬意見もある。【9月28日 産経】
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「秩序あるデフォルト(債務不履行)」あるいは「ユーロ圏離脱」という選択肢の現実味が次第に強まっていますが、いずれにしても世界経済の激震は避けられません。
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サウジアラビア  女性の参政権を認めることで「アラブの春」に対応

2011-09-27 22:25:36 | 中東情勢

(“flickr”より By Robert Reed Daly http://www.flickr.com/photos/theneointellectual/5843796401/

異なる人権意識
サウジアラビアに関しては、7月4日ブログ「サウジアラビア インドネシアからの出稼ぎ家政婦への処遇が問題化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110704)で、アジアからの出稼ぎ労働者に対する虐待の問題を、また、6月22日ブログ「サウジアラビア 女性の自動車運転解禁を求める動き クリントン米国務長官も支援」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110622)では、女性の権利の問題を取り上げました。

先ず、インドネシアからの出稼ぎ家政婦の問題については、「労働者の代わりは他にいくらでもいる」(サウジ当局者)とするサウジアラビア側には譲る気はないようです。

サウジアラビア人の雇い主にインドネシアへの里帰りの許可を求めたが認めてもらえなかったため、雇い主を殺害したインドネシア人家政婦が、今年6月、インドネシア側に事前通告なく斬首刑が執行された件をきっかけに、サウジアラビア人雇い主による虐待の横行への批判がインドンネシアで高まり、インドネシア政府はサウジアラビアへの労働者派遣を停止するなど、強く抗議しています。

****インドネシア:サウジで埋葬の遺体引渡し、政府に協力要請*****
サウジアラビアで雇用主の女性を殺害し、今年6月に斬首刑になったインドネシア人家政婦の遺族が27日、ジャカルタ市内で会見し、サウジ国内に埋葬された遺体引き渡しへの協力をインドネシア政府に求めた。

イスラム教の聖地メッカで働いていたルヤティさん(54)は昨年1月、雇用主の女性をナイフで刺して殺害し、今年5月に死刑判決を受けた。死刑執行後、長女エエンさん(36)ら遺族はインドネシア政府を通じ、サウジ側に遺体引き渡しを求めてきたが交渉は進んでいない。
エエンさんは先月中旬、出稼ぎ労働者を支援する民間団体の調査団と現地を訪問。メッカのインドネシア総領事に協力を要請したが、サウジの法律では一度埋葬した遺体を掘り起こすことは禁止されており、引き渡しは難しいと拒絶された。【9月27日 毎日】
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女性の権利拡大要求を受け入れ、内政の足固め
女性の権利問題については、大きな前進が見られました。
サウジアラビアは、イスラム教ワッハーブ派(スンニ派のひとつ)が国教とされていますが、ワッハーブ派は厳格さで知られており、女性の権利も大きく制約されています。
例えば、女性による車の運転や近親者による付き添いなしでの外出は禁止されています。

そんなサウジアラビアで、アブドラ国王が女性の参政権が認めることを発表して話題になっています。
****サウジアラビア:女性に参政権認める 国王が発表****
サウジアラビアのアブドラ国王は25日、男性だけを任命していた国政の助言機関・諮問評議会(150議席、任期4年)に女性を登用し、地方選挙での投票と立候補も認めると発表した。諮問評議会への任命は次期からで、地方参政権は早くても4年後の次回選挙からだが、政治参加が厳しく制限されるサウジの女性に参政権が認められるのは初めて。中東の民主化政変「アラブの春」の影響で高まる女性の権利拡大要求を受け入れ、内政の足固めを図る意図があるとみられる。

国営サウジ通信によると、アブドラ国王は今回の決定について、「シャリア(イスラム法)に沿った全ての社会的役割から女性を排除することを拒否するがゆえだ」と発言。国家の重要政策がイスラム法にかなうか審議する高位聖職者評議会などに諮問した上の判断だと説明した。

保守的な部族文化が根強く戒律の厳しいイスラム教ワッハーブ派を国教とするサウジでは、女性は基本的に政治参加できない。外出には男性後見役の同行が求められ、車の運転も禁じられている。09年に初めて女性が女性教育担当の副大臣として入閣した。

サウジアラビアでは今年、東部地域で政治犯の釈放を求めるデモが発生。知識人らが女性の不参加を理由に地方選挙のボイコットを呼びかけたり、女性が車を運転する権利の承認を求める抗議活動を行っていた。【9月26日 毎日】
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「アラブの春」のような革命的な民主化・政変を避けるための、“上からの改革”のようです。

女性の権利が制約されているサウジアラビアですが、“スンニ派の一派で最も保守的とされるワッハーブ派を奉じるサウジでは、女性による自動車の運転が禁止されており、進学や就職にも男性親族の許可が必要だが、着実に女性の社会参加は進んできた。2009年には初の男女共学の大学が開校。欧米で教育を受けた女性を中心に企業で活躍する人も多く、「銀行口座の7割は女性が保有する」(金融関係者)” 【9月26日 時事】と、女性の社会参加が拡大する流れにあるようです。
女性の運転についても、現在でも都市部に比べて規制の緩やかな地方・農村部では実際に行われています。

今回発表によれば、実際の選挙への参加は早くても4年後とまだ先ですが、女性の社会進出を加速する起爆剤になることが期待されます。
当然ながら、宗教界などを中心にこうした改革に批判的な勢力も強く、抵抗も予想されています。

なお、女性の車の運転が禁止されている理由は、車の運転により男性との接触機会が増え、不倫などにつながりかねない・・・ということだそうです。
確かに女性の社会活動が拡大すれば、恋愛などの有り様も変化してくるでしょうが、それは自由な人間として当然の成り行きであり、女性を家庭に閉じ込めることで防止するという発想はいかにも男性中心的で理解できません。

そう言えば、アフガニスタンの旧タリバン政権は、女性のハイヒールの靴音が男性に情欲を起こさせるという理由で、ハイヒールを禁止していました。同様の発想でしょう。

モロッコの“上からの改革”】
「アラブの春」への“上からの改革”による対応は、モロッコでも見られます。
民主化デモがモロッコで続いていることに危機感を抱いた国王モハメド6世の提案により、従前は国王による任命制だった首相を議会の多数派の党から選出されるシステムに変更するなど、国王の権限縮小を含んだ憲法改正が行われました。

“上からの改革”というものは、基本的に現行枠組みを維持・延命するためのものであり、改革の徹底を求める立場からは容認し難い不十分なものでもあります。
そうした不満・挫折感は鬱積していますが、今のところ、国王モハメド6世の対応は功を奏したようで、民主化要求デモは収まっているようです。

****モロッコ国民投票、 圧倒的多数で憲法改正案を承認****
モロッコで1日、国王の権限縮小などを盛り込んだ憲法改正案の国民投票が行なわれ、ムーライ・タイエブ・シェルカウィ内相は同日夜、98%の賛成多数で承認されたと述べた。

シェルカウィ内相によると、94%の投票所から報告を受けた時点で、98%が憲法改正案を承認した。投票率は72.65%で、今回の国民投票が若年層に支持されていたことを反映し、同内相によると投票した人の30%が35歳未満だった。

モロッコを含む中東・北アフリカ各地で民主化を求める抗議行動が起きたことを受け、モロッコのシディ・モハメド6世国王は前月、国王の権限の一部を首相と議会に委譲するとした憲法改正案について国民投票を実施すると発表していた。

憲法改正案によると、国王はモロッコの元首、軍の最高指導者、モロッコにおけるイスラム教の最高指導者としての地位にはとどまるが、議会で最大の議席を持つ政党から選ばれる首相が政府のトップになる。憲法改正案は首相の権限強化のほか、司法の独立の強化や議会の役割の拡大も定めている。また国王を「神聖」とする記述も削除した。
また、憲法改正案は女性の権利の拡大や、一部の地域で古くから話されているベルベル語をアラビア語とならぶ公用語とすることも定めた。モロッコでベルベル語に公的な地位が認められたのは初めて。

憲法改正案は数週間前から街頭に出ていっそうの民主化を求める抗議行動を行っていた多くの人々が求めていた完全な立憲君主制にはいたらない内容で、デモ参加者らは1日の国民投票のボイコットを呼びかけていた。【7月2日 AFP】
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台湾  日本統治下での先住民蜂起「霧社事件」を描く映画「セデック・バレ」が人気 

2011-09-26 21:06:25 | 東アジア

(昨年行われた霧社事件80周年祭典に出席した国民党・馬英九総統  “flickr”より By presidential office http://www.flickr.com/photos/presidentialoffice/5122327071/

【「霧社事件(むしゃじけん)」】
台湾における戦前日本の統治は、朝鮮や中国における統治と比べると、穏やかであったようなイメージがあります。
そのイメージがどれほど正確なものかはともかく、台湾においてもいろいろな事件・出来ごとがあったことも事実で、そのひとつが「霧社事件(むしゃじけん)」と呼ばれた、台湾先住民の蜂起でした。

“1930年10月27日、台湾南投県霧社で、先住民セデック族やタイヤル族の男たち約300人が武装蜂起。集落の頭目・モーナルダオ氏の指揮の下、日本の警察派出所を襲った後、運動会開催中の小学校に乱入し、日本人の子供や母親ら130人余りを殺害した。台湾総督府は砲撃や戦闘機による爆撃で対応し、先住民側の犠牲者は戦死と自殺、行方不明合わせて約800人に上った。”【9月26日 毎日】

事件の発端は、日本人巡査が原住民の若者を殴打したことにあったとのことです。
“巡査は同僚を伴って移動中に、村で行われていた結婚式の酒宴の場を通りかかった。巡査を宴に招き入れようとモーナ・ルダオ(霧社セデック族村落の一つマヘボ社のリーダー)の長男、タダオ・モーナが巡査の手を取ったところ、巡査は宴会の不潔を嫌うあまりステッキでタダオを叩いた。侮辱を受けたと感じたタダオは巡査を殴打した。この殴打事件について警察からの報復をおそれた人々が、特にモーナ・ルダオは警察の処罰によって地位を失うことを恐れ、暴動を画策したと言われている”【ウィキペディア】

なお、日本側は近代兵器での鎮圧と同時に、親日派先住民を動員し、蜂起部族の首級と引き換えに懸賞金を支給しました。この報奨金の対象には女性・子どもも含まれ、それまで禁じていた「首狩り」を許すものでもあり、また、同族間での凄惨な殺し合いを助長したとされます。

蜂起が鎮圧された翌年31年には、投降した霧社セデック族生存者を日本に協力した先住民が襲撃し、216人が殺される“第二霧社事件”も起きています。これについては、警察が襲撃を唆したとの証言もなされているそうです。【ウィキペディアより】

【「台湾の歴史を理解してもらうために撮った」】
きょう、この事件を取り上げたのは、事件を描いた映画「セデック・バレ」が台湾で非常な人気を得ていると同時に、様々な反応も出ているとの報道があったからです。

****抗日映画:中台の評価二分 先住民描写巡り****
日本の台湾統治(1895~1945年)時代の最大の先住民反乱「霧社事件」(1930年)を描いた台湾映画「セデック・バレ」の評価を巡り、中台間で熱い議論が起きている。
映画は、日本の高圧的統治に先住民のセデック族やタイヤル族が、民族の誇りをかけて戦った抗日実話を基に製作され台湾では好評。一方、中国のネット上では先住民の戦い方に、「野蛮」などと酷評する意見が多い。台湾側は「(中国人は)文化レベルが低いから理解できない」などと応酬している。

「セデック・バレ」は、台湾で記録的ヒット作となった日台の絆を描いた恋愛映画「海角七号」の魏徳聖監督が台湾史上最大の7億台湾ドル(約18億円)で製作した。前後編約4時間半の大作だ。台湾では今月9日から前編が上映されている。
映画では山中を自由自在に駆け回る先住民と日本側との戦闘場面がダイナミックに描かれている。中国の抗日映画にありがちな極悪非道な日本人は出てこない。魏監督は「台湾の歴史を理解してもらうために撮った」と政治的な意図を否定し、台湾人には、台湾の歴史を再認識する良い機会となっている。

一方、海外での試写の評判や映画広告を見た中国人がネット上で、先住民の「首狩りの文化」を「野蛮」とし、先住民が日本人を襲う場面について「虐殺だ」などと批判が上がっている。中国での上映で収益を上げたい魏監督にとっては厳しい状況だ。【9月26日 毎日】
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日本の植民地政策や先住民蜂起をどのようにとらえるかという本来の視点とは全く異なりますが、いつも日本に対して厳しい対応を見せる中国ネット世論が“先住民が日本人を襲う場面について「虐殺だ」などと批判が上がっている”といった反応を示していることが、個人的には一番興味深く思えた点です。
中国ネット世論も、台湾問題が絡むと、いつもとは違った反応も出てくるようです。

【「台湾と日本の歴史は理解され難い」】
台湾では、次期総統を争う国民党・馬英九総統や民進党・蔡英文主席も、映画に寄せたコメントを出しています。
また、先住民同士の争いという視点からの批判もあるようです。

****映画は映画」とクギをさすのだが…【外信コラム】台湾有情****
日本人として「霧社事件」を直視するのはつらい。
日本統治時代の1930年、台湾中部の先住民セデック族による大規模な武装抗日暴動で、山間部の霧社の日本人を男女、児童を問わず約140人を殺害。総督府は警察と軍で武力鎮圧し、セデック族も約700人が死亡した。侮蔑や労役への不満が背景とされるが、日本教育を受け模範的先住民と目された警察官兄弟も決起、自殺したことは深刻さを象徴している。

その重い歴史を描いた台湾映画「セデック・バレ」(真の人)が9日から一般公開され、連日満員だ。
議論も百出し、「事件を知らなかった。感動した」という若者から、「殺戮(さつりく)と戦闘場面が冗長」という年配者、また主人公の頭目モーナ・ルダオに関し「事件前には近隣部族民も多数殺害した。英雄視は誤り」とする別の先住民も。

一方、馬英九総統が「国や部族間の平和には、対等な関係や理性が必要」と自らの対中関係改善の努力をにおわせれば、来年の総統選で馬氏に挑む野党・民主進歩党の蔡英文主席は、先住民のアイデンティティーを守る姿に共感を示す。

ベネチア映画祭で金獅子賞を逃し、「台湾と日本の歴史は理解され難い」とこぼした魏徳聖監督は「映画は映画」とクギをさすのだが。【9月16日 産経】
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抗日英雄から先住民族アイデンティティーへ
事件によって日本は統治政策の改革を迫られました。
台湾における事件の位置付けは、日本への抵抗運動の「英雄」という評価から、先住民の“アイデンティティーを賭けた戦い”という評価に変化してきているとか。

“当時の日本社会においては台湾原住民の存在自体が熟知されておらず、雑誌等に興味本位にその風俗などが描かれる程度であった。霧社事件は台湾総督府に対しては強い衝撃を与え、原住民統治の抜本的な改革を迫るものであった。

第二次世界大戦後、日本にかわって中国国民党が台湾を統治するようになると抗日教育が行われるようになった。そのため、霧社事件は日本の圧政に対する英雄的な抵抗運動として高く評価されるようになり、蜂起の指導者たちは「抗日英雄」と称されるようになる。霧社にあった日本人の殉難記念碑は破壊され、蜂起の参加者らを讃える石碑が建てられた。霧社では毎年、霧社事件被害者の遺族らが参加して、犠牲者を追悼する「追思祭典」が開催されている。

1990年代以降、民主化の過程の中で台湾史への再認識がブームとなり原住民文化への再評価が行われるようになると、今度は霧社事件は原住民族のアイデンティティーを賭けた戦いとして位置づけられるようになった。この文脈の中で日本による統治は台湾の近代化に対して一定の役割を果たしたと捉えられるようになった関係か、霧社事件に関しても抗日教育時代ほどには日本人は悪者として描かれない傾向がある。”【ウィキペディア】

【「殺りく場面が多すぎて、日本人を過度に敵視している」】
映画「セデック・バレ」では女優ビビアン・スーが熱演していますが、彼女の祖母が台湾原住民タイヤル族出身ということで、映画製作の資金に自腹を切り、多くのオファーを断って出演したそうです。【6月24日 Record Chinaより】
日本での活動も多いビビアン・スーですので、いろいろ思うところがあるのかも。

映画の海外での評価については、ハリウッドの著名映画雑誌「Variety」は同作を高く評価していますが、ベネチア国際映画祭での評価は厳しいものがあったとの報道もあります。

****抗日映画「セデックバレ」に各国メディア酷評!「残酷」「過度の民族主義」―ベネチア映画祭****
2011年9月2日、ベネチア国際映画祭で初上映された台湾映画「セデックバレ(賽徳克・巴莱)」に各国メディアから不評の声が多くあがっている。醒報が伝えた。(中略)

香港のニュースサイト・鳳凰網は、ビビアン・スーらメインキャストの演技に称賛を送ったものの、「殺りく場面が多すぎて、日本人を過度に敵視している」と残虐性を指摘。「民族主義への偏りが、平凡な作品にしている」と酷評している。

イタリアの映画サイト「my movie」は、歴史を再現した監督の勇敢さを称えつつも、「特殊効果の多用が作品テーマをぶれさせている」と批評。「Cine blog」も残虐な戦闘シーンの多さを「疲れる」と記している。

その他のメディアも、戦いのシーンの残虐さと長さを指摘する声が多く、そのため霧社事件を率いたモーナ・ルダオについても「英雄か否か、判断をつけかねる」という声があがっている。

地元台湾では、残酷な歴史を正面から描いたリアルな作品として、上映前にもかかわらずメディアが大絶賛。映画「レッドクリフ」などで知られ、「セデックバレ」ではプロデューサーに名を列ねるジョン・ウー(呉宇森)監督も、同作に99.5点の高得点をつけている。【9月3日 Record China】
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ロシア  “たすき掛け”で、プーチン首相返り咲き

2011-09-25 21:00:37 | ロシア

(9月24日 統一ロシア党大会で返り咲きを発表したプーチン首相 「実質的に権力を持った人が名実ともに国のトップになるというのはわかりやすい」(ロシアTV局職員)というところでしょうか。“flickr”より By IonP2010  http://www.flickr.com/photos/49033115@N03/6180072475/ )

【「将来についてメドベージェフ氏と数年前から合意していた」】
メドベージェフ大統領とプーチン首相の双頭体制が次期大統領選挙でどうなるのか・・・「実権を握るプーチン首相が返り咲くだろう」、「メドベージェフ大統領も再選の意欲があるみたいだ」、「二人の間で考え方の違い、対立もある」、「いや、表向きのソフトな顔と実質的決定者の役割分担にすぎない」とか、いろいろ言われてきましたが、結局、プーチン首相が返り咲き、長期政権運営に乗り出すことで決着しました。
一方、メドベージェフ大統領は首相としてプーチン政権を支えるという、大統領と首相が交替する“たすき掛け構想”となっています。

****ロシア:次期大統領にプーチン氏返り咲きへ****
24日に開かれた政権与党「統一ロシア」の党大会で、ロシアの次期大統領にプーチン首相の返り咲きが固まった。プーチン氏の大統領復帰は「既定路線」だったことも判明したが、党大会を利用して公表することで“サプライズ”を演出し、国民の関心を引きつける狙いがあったとみられる。
一方、“強硬派”プーチン氏の再登板で欧米との関係が緊張に向かう可能性もある。

プーチン氏は08年に2期8年間務めた大統領を退任したあと首相に就任し、後継指名した腹心のメドベージェフ大統領と2人で政権を運営する「双頭体制」を敷いてきた。しかし、プーチン氏が国家を主導してきたのが実情で、メドベージェフ大統領が憲法改正で大統領任期を4年から6年に延長したのも、プーチン氏復帰に備えたものとの見方が出ていた。

来年3月の次期大統領選を巡っては両氏のどちらが出馬するかが焦点だったが、プーチン氏は24日、党大会の演説で、「将来についてメドベージェフ氏と数年前から合意していた」と述べ、自身の出馬が既定路線だったことを認めた。これまで発表されなかったのは、メドベージェフ政権がレームダック化するのを避けるためだったとみられる。
また12月4日投票の下院選で、統一ロシアが支持率低下のため議席を減らすと予想されていたなか、党首であるプーチン氏の大統領復帰を前提に選挙を戦ったほうが有利と判断した可能性がある。

プーチン氏が大統領に復帰する場合、メドベージェフ氏の処遇が最大の問題とされていた。だが、新政権の首相に指名し、メドベージェフ氏が大統領として目標に掲げてきた「近代化」政策を継続させることでメンツを保つ形となった。

ロシア国内ではプーチン氏の大統領復帰を歓迎する声が強い。しかし、強権的なプーチン路線の継続には「ロシアの停滞を招く」(ゴルバチョフ元ソ連大統領)など批判的な見方もある。プーチン、メドベージェフ両氏が大統領と首相ポストを交代して政権を継続することには「権力のたらい回し」との批判も出そうだ。

一方、外交面で、メドベージェフ大統領はプーチン政権時代に悪化した米国との関係を「リセット」するなど、穏健・リベラルなイメージで欧米諸国に受け入れられてきた。プーチン氏の大統領復帰で、ロシアと欧米の関係が再び険悪化する恐れもある。【9月24日 毎日】
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厳しい下院選予測
この早い時期の公表を意外に見る向きもありますが、“大統領選に向けては、当初、12月の下院選の結果を判断材料に、プーチン氏が自らとメドベージェフ氏のどちらかに候補を決めるとみられていた。その時の社会情勢や国際情勢が厳しければ、根強い人気を誇るプーチン氏が改めて登板するとも言われていた。
だが、プーチン氏は、下院選の情勢に危機感を強めた。統一ロシアだけでは、下院の絶対安定多数を得られないと見ていた。世論調査で「双頭」や統一ロシアへの支持率が軒並み落ちていたからだ。”【9月25日 朝日】とのことです。

下院選については、“世論調査機関「レバダ・センター」の最近の世論調査では、与党・統一ロシアに投票すると答えた人は54%。ただ300議席には届かないとの予測”【9月23日 朝日】“全ロシア世論調査センターの最新の調査によると、統一ロシアの獲得予想議席は277で憲法改正に必要な300議席(定数の3分の2)を割り込んでいる”【9月23日 毎日】と、盤石のように思われているプーチン支配体制にとって意外に厳しい情勢となっています。

メドベージェフ大統領の力不足、政治エリートの危機意識
今回決定は、外野席の観客からすれば、ふたりの力比べがどうなるかと見守っていた矢先、あっけなく、波風立てない形で話がまとまったということで、ちょっと面白みに欠ける展開とも言えます。
メドベージェフ大統領は統一ロシアの党大会で、12年3月の大統領選後、自らは政府で「実務的な仕事」をする用意があると述べ、プーチン政権を支えることを明らかにしています。
メドベージェフ大統領としても再選の意欲はあったようですが、力比べとなれば、所詮メドベージェフ大統領はプーチン首相の敵ではなかったとも言えます。

****露大統領選 権力闘争に敗れたメドベージェフ氏****
ロシアのプーチン首相の大統領選出馬が決まった背景には、メドベージェフ大統領の力不足、このままでは国家が崩壊するというプーチン首相と官僚、国会議員ら政治エリートの強い危機意識があった。メドベージェフ氏は再選への強い意欲を持っていたが、日本や中国をめぐるプーチン氏との戦略の違いから、大統領職を辞さなくてはならない“包囲網”を敷かれてしまっていた。

プーチン氏は中国をアジア最大の脅威と見なし、それに対抗するため日本との関係を重視していた。しかしメドベージェフ氏が対日関係悪化を招き、日本というカードを使えない状況を生み出してしまっていた。
メドベージェフ氏の最大の失敗は対北朝鮮外交だ。メドベージェフ氏は北朝鮮との関係改善で国際社会での地位向上を目指す戦略を打ち出したが、プーチン氏は北朝鮮が日本との間で拉致問題を抱えている事実を強く認識していた。さらに大統領は天然ガスを韓国、北朝鮮に送る方針を示したが、これはガスの対日輸出が細ることを意味する。今回、北朝鮮の金正日総書記はモスクワを訪問しなかったが、これはプーチン氏側が金総書記の公式訪問という形を取らせなかったためだ。

またメドベージェフ氏はロシアのナショナリズムをあおるため北方領土を訪問し、領土交渉は完全にゼロの状態に陥った。プーチン氏は(平和条約締結後の歯舞、色丹両島の日本への引き渡しを定めた)「56年宣言」をロシアにとって「義務的なもの」と認識しており、この点でも2人の戦略は大きく異なる。

ただ、プーチン氏が親日家だというわけではない。中国に対抗するために日本が大事だという、乾いた力の外交の考えを持っているということだ。
プーチン氏が大統領となれば、日本との関係ではまず北方領土問題が動き始めるだろう。交渉は大変で、ロシアが四島をすぐに返すということは考えられないが、日本人の感情を逆なでするやり方はないだろう。また日本へのガス輸出でも、対中牽制(けんせい)という意味合いから日本に優先的に送ると考えられる。

ただ、プーチン氏はタフ・ネゴシエーターだ。それに向き合うだけの外交的な基礎体力が日本側にあるだろうか。野田佳彦首相は外交に弱いという側面が否めず、ロシアに“してやられる”可能性は少なくない。【佐藤優氏 9月25日 産経】
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ロシア国内的には、プーチン首相の強権的性格、プーチン前大統領時代の8年間に政権内ではシロビキ(軍や治安・特務系機関出身者)と呼ばれる守旧派が台頭し、官僚機構の肥大化と政治・経済の国家統制が進行したという“実績”から、今後の経済近代化が進展するのか、民主主義・人権が損なわれることがないのか、懸念されるところでもあります。
プーチン首相は24日の党大会で、メドベージェフ大統領が最優先課題に掲げた経済「近代化」路線を継続するとも宣言してはいますが・・・・。

北方領土問題への影響
最近いよいよ情勢が悪化している北方領土問題を抱える日本としては、上記産経記事にもあるように、プーチン首相の返り咲きで、若干持ち直す目も出てきたともいえます。
ひとつは、記事にある“中国を牽制するための日本重視”という戦略的側面がありますが、もうひとつ言えるのは、領土問題は国内反対派を抑え込めるような強権的支配者の方が動きやすいという面もあります。

もとより領土・国境は、条約や交渉の背後にある過去・現在の力関係で決まってきており、理屈や正論では動きにくいものです。
また、立場が違えば、お互いの言い分・主張も異なりますので、戦争でもしない限り、いずれかの主張が100%とおることはありえません。
双方何らかの譲歩が必要になりますが、領土問題での譲歩は国内世論、特に保守的な強硬論の標的になります。

特に、ロシアは現在の自国支配地域を譲る形になりますので、そこでの譲歩は反対論を封じ込めるほどの力を必要とします。その意味で、最高権力者にして強権的なプーチン首相が、なんらかロシアにとってメリットがあると判断すれば、動きが出る可能性があります。決定権を持つ人間が交渉の表に出てきた方が、話がまとまりやすいとも言えます。アラブ強権支配者を支持してきたアメリカのような言い草になりますが・・・。

一方、世論を重視する民主的政治体質の国では、ややもすれば声の大きい強硬論に引っ張られることにもなり、なかなか譲歩を伴う決定は困難です。野田政権はどうでしょうか・・・。

全般的な国際面で見ると、メドベージェフ大統領はプーチン政権時代に悪化した米国との関係を「リセット」するなど、穏健・リベラルなイメージで欧米諸国に受け入れられてきた面があり、プーチン首相の大統領復帰で、ロシアと欧米の関係が再び険悪化する恐れも指摘されています。

欧州各国でも、強権的な資源外交を警戒する向きがあります。
****プーチン氏再登板 強権外交復活を警戒 欧州、資源めぐり****
ロシアのプーチン首相が大統領に返り咲く見通しになったことで、旧ソ連圏の東欧を抱える欧州では、欧米流の民主主義体制とは一線を画した特異な双頭政治の継続に警戒感もある。
欧州連合(EU)加盟国では、天然ガスなどロシアの資源を必要としている国が少なくない。このためプーチン氏による強権的な資源外交が復活するのでは-との懸念が少なくない。

英国とロシアとの間にも、プーチン前大統領時代の2006年11月に、プーチン氏に批判的だった元ロシア情報機関員がロンドンで暗殺された事件がトゲとして残っている。
こうした中、キャメロン英首相は今月、英首相として6年ぶりにロシアを訪れ、メドベージェフ大統領、プーチン首相と会談するなど、関係改善に乗り出したところだ。
前駐露英国大使のブレントン氏は「メドベージェフ体制下でもプーチン氏が影響力を持っていたので大きな変化はない」と指摘するとともに、「プーチン氏の目的はロシアの国際的な地位を向上させることだ。そのためには経済や技術面で欧州の協力は欠かせないだろう」との見方を示している。【9月25日 産経】
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“ロシアの国際的な地位を向上させるための経済や技術面での協力”ということであれば、日本にもアピールできるところが多々あるのではないでしょうか。反対派を蹴散らす覚悟があればの話ですが。

ロシア財務相、批判の辞意
今回“たすき掛け”に対する政権内部からの批判として、クドリン財務相が辞任を発表しています。
****ロシア財務相、「メドベージェフ氏が首相就任なら辞任*****
ロシアのアレクセイ・クドリン財務相は25日、2012年の「ウラジーミル・プーチン大統領」体制のもとで、ドミトリー・メドベージェフ現大統領が首相に就任するのであれば、新政権には加わらない考えを示した。ロシアの通信各社が報じた。
長期にわたって財務相を務めてきたクドリン氏は、「新政権に加わった自分を思い描くことができない。誰からもオファーが無かったということだけではない。私の持つ相違点が、私の政権参加を妨げるだろうと考えている」と語った。

メドベージェフ大統領は24日、2012年大統領選でプーチン首相に大統領職を明け渡し、自らは首相に就く方針を発表。2000年以降ロシアの財務相を務めてきたクドリン氏は、この方針に反対を表明したこれまでで最上級の政府高官となった。
クドリン財務相は、閣内で最もリベラルな声とみられており、2月には経済改革の実施に向けた負託を得られるのは「誠実な」選挙のみだと主張し、同僚たちの不興を買っていた。(中略)

また、クドリン財務相は、「経済政策でメドベージェフ氏と多くの相違」があったことを初めて明かした。クドリン氏は緊縮財政派であることが広く知られているが、相違点には、年金から武器購入までを含む軍事費の増加が関係したという。
「これは予算と経済のリスク増を生む。財政赤字を削減できなくなる」とクドリン氏は語り、そのような高額の出費はロシアの原油輸出依存を持続させるため、原油価格が下落したときに経済が混乱してしまうと指摘した。

24日のメドベージェフ氏による歴史的な発表後には、メドベージェフ氏の首席経済アドバイザーであるアルカジー・ドゥボルコビッチ補佐官も異議をとなえ、ツイッターで「喜ぶべきことはない」と述べ、「スポーツチャンネルに切り替えるのにちょうどよいタイミングだ」と語っていた。【9月25日 AFP】
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“メドベージェフ氏と多くの相違”というのは、もっとわかりやすく言えば、“強いロシアにこだわる旧守的なプーチン首相の意向に従うメドベージェフ氏と多くの相違”ということではないでしょうか。
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パレスチナ  国連加盟申請を歓迎する西岸地区住民、冷やかなハマス、苦慮するオバマ大統領

2011-09-24 20:32:58 | パレスチナ

(9月23日夜、ヨルダン川西岸地区・ラマラのヤセル・アラファト広場 大型スクリーンに映し出されるアッバス議長の国連総会演説を熱狂的に見つめる数千人の群衆 “flickr”より By activestills http://www.flickr.com/photos/activestills/6176245850/

【「『アラブの春』が到来した今、『パレスチナの春』、独立を求める時だ」】
各メディアが大きく報じているように、パレスチナ自治政府・アッバス議長はアメリカの制止を振り切る形で、国連加盟を申請しました。
アメリカが大枠を作っているイスラエルとの交渉が、ユダヤ人入植地問題などで膠着するなかで、国連に場を移して打開策を探る道を選択したと言えます。

****笑顔で申請書手渡し=パレスチナ議長、国連総長に****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、ニューヨークの国連本部の事務総長室で、潘基文事務総長に加盟申請書を手渡す際、しばらく言葉を交わし、笑顔で握手した。
アッバス議長は終始、晴れやかな表情。国連加盟申請には米国の強い反対があったが、信念が揺るぎなかったことをうかがわせた。議長はその後、一般討論演説のため、総会議場入り。起立した聴衆に大きな拍手で迎えられた。(後略)【9月24日 時事】
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アッバス議長は国連総会の演説で、「関係国の努力をイスラエルがつぶした」とイスラエルを批判していますが、交渉の余地があることも言及しています。今回の国連加盟申請による国際圧力をてこに、有利な条件での交渉再開を意図したものでしょう。

****パレスチナの春」訴え=交渉の用意にも言及―国連総会演説でアッバス議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、国家としての国連加盟申請後、国連総会で一般討論演説し、停滞してきた中東和平交渉でのイスラエルの姿勢を非難。「アラブの人々が民主化を訴える『アラブの春』が到来した今、『パレスチナの春』、独立を求める時だ」と強調した。

同議長は昨年9月にオバマ米政権の仲介で始まった交渉に関し、「われわれは心を開き、相手の話に耳を傾け、真摯(しんし)な姿勢で臨んだ」とし、「関係国の努力をイスラエルがつぶした」と批判。イスラエルがユダヤ人入植活動を続けていることが交渉行き詰まりの最大の理由だと述べ、国連加盟申請に踏み切った背景を説明した。

一方で、「平和構築のためイスラエルに手を差し伸べる」と表明。占領や入植政策、戦争をやめ、公正さに基づく協調関係を築こうと呼び掛け、交渉の用意があることにも言及した。【9月24日 時事】 
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西岸地区:「(アッバス議長を)見直した」】
アッバス議長の国連総会演説を、パレスチナの西岸地区住民は歓迎の姿勢を見せています。
この点では、“今のところ”、パレスチナでの支持低下も言われていたアッバス議長の求心力回復に繋がっているようです。ただ、今後、アメリカの拒否権発動などで頓挫したときどうなるかは、別問題です。

****パレスチナ:アッバス議長の国連演説に数千人が熱狂****
ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ラマラのヤセル・アラファト広場では23日夜、パレスチナ自治政府のアッバス議長による国連演説が大型テレビで放映された。見守っていた若者や家族連れなど数千人は、議長のポスターやパレスチナ旗を振りながら「誇り高い演説だ」などと熱狂的に歓迎し、お祭り騒ぎを繰り広げた。このほか西岸各地で集会があり、AFP通信によると計数万人が参加した。

ラマラの会場を家族8人で訪れた通信技師のオルワ・アルアハマドさん(31)は演説後、「アッバス(議長)は、米国の圧力に屈することなく我々の苦悩を堂々と世界に伝えた」と喜んだ。妹の大学生、マッサさん(21)も「国家承認まで時間がかかることを覚悟しているが、今日は皆が一人の指導者を支持し、一つの『国家』となった気がする」と興奮気味に話した。

アッバス議長は口調が穏やかで、パレスチナ解放機構(PLO)の故アラファト議長に比べて「カリスマ性に欠ける」との見方が定着していた。だが、今回の演説は集まった人々に好印象を残したようで、多くが「(アッバス議長を)見直した」と評価した。(後略)【9月24日 毎日】
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ガザ地区:カフェに集まった客を解散させる
しかし、パレスチナのもうひとつの勢力、ガザ地区を実効支配するハマスは、今回申請に反対の声はあげてはいないものの、ヨルダン川西岸地区を基盤とする自治政府・アッバス議長の動きを冷ややかに見ています。
現在のハマスを除外した自治政府の正当性を否定しているハマスにとっては、アッバス議長の自治政府がパレスチナ代表として注目される現状は面白くないと思われます。
また、“力”でイスラエルに対峙しているハマスとしては、国連加盟申請で一体何が変わるのか?という思いもあるでしょう。

一方、イスラエルの境界封鎖が続くガザ地区住民には、現実問題として、今回申請の反動を不安視する空気もあるようです。

****パレスチナ国家承認を過激派が歓迎しない理由****
・・・・だが、パレスチナ内にもアッバスや自治政府の動きを冷ややかに見ている勢力がある。ガザ地区を実効支配するイスラム過激派ハマスだ。
イランやレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラから支援を受け、アメリカにテロ組織指定されているハマスは、国家承認問題に関して自治政府とほとんど協議をしていない。
アッバスが率いるパレスチナ解放機構(PLO)主流派ファタハの支配するヨルダン川西岸地区とガザ地区の見解は統一されておらず、ハマスのアラア・アル・リファティ経済大臣は「いつもどおり片一方(西岸地区)の考えだ」と語っている。

ハマスが疑問視しているのは、西岸地区だけを統治する自治政府がパレスチナを代表することの正当性だ。「ハマスは国家承認要請を支持していない」と、あるハマス幹部は語っている。

「国連には何も期待していない」
今年1月にアラブ諸国が国連に提出したイスラエルによるユダヤ人入植活動の非難決議案は、アメリカの拒否権で廃案になった。ハマスとファタハはこの動きをきっかけに融和に向けて動きだしたが、挙国一致内閣の実現に向けた協議は難航している。

ガザに暮らす住民の多くは、独立国家の承認で暮らしが好転するとは考えていない。拒否権発動をちらつかせるアメリカに盾突くことで、年間6億よほどといわれるパレスチナ支援金の支払いにも影響が出る恐れもある。ガザの住民の3分の2が貧困ライン以下で暮らす経済状況が改善することもなければ、イスラエルが過去4年以上実施している境界封鎖による不便が直ちになくなることもない。

もちろんアッバスが最後の最後でアメリカの圧力に屈する可能性もゼロではない。ただそうなれば、反イスラエル感情が強いアラブ諸国の多くで怒りが爆発しかねない。最近、イスラエルと国交を持つエジプトで大使館が襲われるなど反イスラエル感情が表面化している。その流れが、一気に大きなうねりに変わる恐れもある。【9月28日号 Newsweek日本版】
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ハマスが実効支配するガザ地区では集会は禁止されており、今回もアッバス議長演説を歓迎するような集会は行われていません。演説の様子を報じる大型テレビを設置したカフェに集まった客を解散させた事例もあったようです。

アメリカ:オバマ政権の「失政」との批判
イスラエルはパレスチナの行動を「一方的だ」と非難しています。
自治政府に代わって徴収している関税の送金を停止するなどの制裁発動を示唆しており、情勢悪化は避けられないと見られています。

アメリカ・オバマ政権はパレスチナの動きを制止できず、その影響力低下を曝した形になっていますが、
オバマ大統領は大統領選挙を控えて、アメリカ社会で影響力の強いユダヤ人社会を敵に回したくないという事情もあって、イスラエル擁護の姿勢を強めていますが、今後、公言しているように拒否権発動という事態になると、今度はイスラム・アラブ政界を敵に回すようなことにもなりかねず、対応に苦慮している状況です。

****米、中東での影響力低下****
オバマ米大統領はパレスチナ自治政府のアッバス議長に国連加盟申請を思いとどまらせることができず、かえって国際社会における孤立感を深め、米国の影響力と指導力の低下を露呈した。
米国が国連安保理での拒否権行使をちらつかせてもパレスチナは折れず、イスラエルに入植活動の凍結を求めても聞き入れられない。米中東和平外交は手詰まり状態に陥っている。

「パレスチナに融和的なオバマ大統領が危機(国連加盟申請)を招いた」(共和党の大統領選有力候補ペリー・テキサス州知事)--。米国内では今回の事態をオバマ政権の「失政」と批判する声が強まっている。
オバマ大統領は21日の国連総会での演説で、パレスチナの加盟申請に反対する一方、米国とイスラエルの同盟関係は「揺るぎない」と明言、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の歴史まで持ち出してイスラエルを擁護した。

だが、オバマ大統領は4カ月前の中東政策演説(5月19日)で、イスラエルがヨルダン川西岸とガザ地区などを占領した第3次中東戦争の以前の境界線を前提とした和平交渉を求め、イスラエルの猛反発を招いたばかり。交渉の仲介役であるべき米国がイスラエル、パレスチナ双方の不信と反発を買う事態となっている。

米国の「盟友」として和平交渉を仲介してきたエジプトのムバラク前大統領の不在も、オバマ政権の立場を難しくしている。安保理で拒否権を行使すればアラブ社会の反米感情をかき立て、反米・反イスラエル勢力が台頭する恐れがある。拒否権行使がイスラエルを巡る安全保障環境を悪化させる可能性もあり、「できれば拒否権行使を回避したい」のがオバマ政権の本音だ。来年の再選を目指すオバマ大統領は米国内のユダヤ系有権者の票と資金力を意識せざるを得ず、難しい対応を迫られている。【9月23日 毎日】
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英仏:中東民主化での成果を台無しにしたくない
中東の民主化のなかで、一定に存在感を示したフランス・イギリスは、その“成果”をなんとか維持しようと動いています。

****パレスチナ国連加盟問題 説得は平行線 英仏苦悩、オブザーバー国家模索****
米国がパレスチナの国連加盟申請に拒否権を行使すると表明したことで、安保理常任理事国の英仏両国は、国連総会でパレスチナをバチカンと同じ「非加盟のオブザーバー国家」として承認することが可能か水面下で懸命の調整を続ける。英国は、中東和平交渉を脅かすいかなる行動も支持しない方針だが、対米関係と中東民主化の双方に配慮せざるを得ないジレンマから、明確な姿勢を示せないでいる。

英仏両国は、リビアへの軍事介入を主導し、カダフィ政権崩壊に大きな役割を果たし、「アラブの春」と呼ばれる中東の民主化の流れを支援する姿勢を国際社会に印象づけることに成功した。
政治リスクを賭して得た外交上の資産を台無しにしないためにも、安保理で米国と同じ拒否権行使という選択肢は取れない。できれば棄権も避けたいのが両国の本音だ。パレスチナの国家承認に正面から反対すれば、中東の民主化勢力の反発を招きかねないからだ。

このため、サルコジ大統領は国連総会の演説で、米国がパレスチナの国連加盟申請に拒否権を行使すれば流血の事態を引き起こす恐れがあるとし、パレスチナのオブザーバーとしての地位を現在の「機構」から「国家」に格上げすることを求めた。

しかし、英国は、キャメロン首相が対米関係を重視する姿勢から「和平交渉を通じた2国家共存」を支持し、パレスチナ支援を明確にすべきだというクレッグ副首相やヘイグ外相と意見が対立しているとされる。
ジレンマに陥った英国は米国の孤立化を防ぐ意味でも、オブザーバー「国家」の承認を求める決議案に(1)パレスチナ側が正式な国連加盟申請を取り下げる(2)パレスチナが無条件で和平交渉のテーブルに戻る(3)イスラエルを法的に追い詰めない-という3条件を盛り込むよう、ギリギリの外交努力を続けている。【9月23日 産経】
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いわゆる「4者協議」による行程表も発表されていますが、実現は難しいと見られています。
****中東和平交渉、妥結求める行程表…4者協議****
パレスチナの国連加盟申請書提出を受け、中東和平に関する米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の「4者協議」が23日、国連本部で開かれ、前提条件なしの和平交渉再開と2012年末までの交渉妥結を求める行程表を発表した。和平への展望を示すことで、イスラエルの反発を抑え、パレスチナにも交渉復帰を促す狙いだ。

行程表は、〈1〉今後1か月以内に予備交渉を開き議題を決める〈2〉3か月以内にパレスチナとイスラエルが国境画定と治安対策の提案を行う〈3〉12年末までに交渉妥結――との内容。だが、入植中止を交渉の前提条件とするパレスチナと、占領地からの全面撤退に否定的なイスラエルの間の溝は深く、実現は困難が予想される。【9月24日 読売】
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【「切り札」か「賭け」か
アメリカの拒否権発動ということになれば、反動としてパレスチナ側のイスラエルへの抵抗姿勢は強まり、姿勢を硬化させているイスラエルとの衝突が懸念されています。
また、「アラブの春」で重しのとれたイスラム世界の世論も、反イスラエルの姿勢を強めることが予想されます。
今回国連加盟申請は、パレスチナ自治政府にとって、独立国家樹立の悲願を国際社会にアピールする「切り札」ですが、その結果がどうなるかは見通しのきかない“賭け”でもあります。

そのとき日本は・・・
日本政府の対応は“(アッバス議長が国連演説で)「アラブの民衆が民主主義を切望する『アラブの春』を経て、今はまさに『パレスチナの春』。我々の独立の時だ」と述べ、申請書の写しを掲げると、多くの国の代表団が立ち上がり、1分ほど盛大な拍手を送った。イスラエルと米国は反応しなかった。玄葉光一郎外相ら日本政府代表団は、座ったまま、静かに拍手していた。”【9月24日 朝日】ということです。
首相交替などもあって、独自の対応策が決まっておらず、欧米諸国と“横並び”で・・・という、いつもの対応のようです。

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パキスタン  テロ組織との繋がりをアメリカが厳しく批判  昨年に続き洪水被害拡大

2011-09-23 20:29:55 | アフガン・パキスタン

(パキスタンでのイスラム系国際支援組織(イスラム過激派とは無関係です)による給水活動 “flickr”より By Helping Hand for Relief & Development http://www.flickr.com/photos/hhrd/6116607973/

駐留米軍防衛のためには実力行使も辞さない
アメリカの強い要請を受けて国内イスラム過激派掃討作戦を実施しているパキスタンですが、アフガニスタンのタリバンなどのイスラム過激派とパキスタン、特に国軍、更に言えば軍情報機関のISIとの密接な関係は半ば公然のものとなっていることは、これまでも再三取り上げてきたところです。

その“密接な関係”について、アメリカが最近異例の強い調子で批判を行っています。
17日には、アメリカのマンター駐パキスタン大使はが、カブールのアメリカ大使館などが13日襲撃された事件について、パキスタン国内に拠点を置く武装勢力「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行と断言した上で、同組織と「パキスタン政府との結びつきを示す証拠がある」「こうしたことは終わりにしなければならない」と発言しています。

22日には、同趣旨の発言を、こんどは米軍制服組トップのマレン統合参謀本部議長が行い、駐留米軍防衛のためには実力行使も辞さないと警告しています。

****パキスタン情報機関がアフガン武装組織を支援」、米軍高官****
米軍制服組トップのマイケル・マレン統合参謀本部議長は22日、暴力的な過激思想を「代理組織」を通じてアフガニスタンに輸出しているとしてパキスタン政府を非難し、駐留米軍防衛のためには実力行使も辞さないと警告した。

米上院軍事委員会の公聴会で証言したマレン議長は、パキスタン軍3軍統合情報部(ISI)が武装組織「ハッカニ・ネットワーク」を積極的に支援しており、同ネットワークはISIの「正真正銘の片腕」として行動していると名指しで非難。かつてなく厳しい口調でパキスタン政府を批判した。

ハッカニ・ネットワークは、ソビエト連邦がアフガニスタンに侵攻した1980年代には米中央情報局(CIA)と協力関係にあり、CIAから軍事資金や武器供与を受けていた。だが、後に国際テロ組織アルカイダの同盟組織に転じ、現在のアフガニスタンで最も危険なタリバン系一派となっている。
前週、カブールで起きた米大使館襲撃事件もハッカニ・ネットワークの犯行とみられている。

マレン議長は、ISIの支援を受けたハッカニ・ネットワークによる犯行として、今月アフガニスタンで米兵77人が死亡した北大西洋条約機構(NATO)基地でのトラック自爆攻撃、首都カブールのNATO本部や米大使館襲撃、6月のインターコンチネンタル・ホテル(InterContinental hotel)襲撃などを挙げ、「彼らがわが軍への殺りくを続けるならば、ただ座って見ているだけというわけにはいかない」と述べた。

米当局者は最近、相次いでハッカニ・ネットワークに対し何の行動も起こさないパキスタン政府を非難しており、米国が実力行使に出る可能性も指摘されている。【9月23日 AFP】
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自爆テロを主要な戦術としている「ハッカーニ・ネットワーク」については、昨日ブログでも触れたように、アフガニスタンでタリバンとの和平交渉にあたっていた「高等和平評議会」議長でもあるラバニ元大統領殺害に関与しているのではないかとの見方もあります。

駐在大使や米軍トップが「パキスタン政府との結びつきを示す証拠がある」、“実力行使も辞さない”と言い切る以上は、アメリカ側はそれなりのものを掴んでいるのでしょう。

ただ、パキスタンはアメリカにとって、アフガニスタンでの戦いを遂行する上で必要不可欠のパートナーですが、無人飛行機攻撃による民間人被害などで国内の反米感情は非常に強く、パキスタン国内での米軍の実力行使といった事態になれば、軍の支持も弱いザルダリ政権では世論や軍の不満を抑えきれなくなることが予測されます。
ひいては、両国関係の破局もありえる話ですので、アメリカとしても簡単には動きがとれない問題でもあります。

テロ地獄
パキスタンはテロ実行勢力との繋がり、支援関係がある一方で、世界でも最大のテロの犠牲国でもあります。
ここ数日だけでも、北西部ローワーディール地区と南部の最大都市カラチで大規模なテロが起きています。

***パキスタン:北西部の葬儀会場で自爆テロ 20人死亡****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州ローワーディール地区の葬儀会場で15日、自爆テロがあり、地元テレビによると、少なくとも20人が死亡、30人以上が負傷した。死傷者は増える可能性がある。
犯行声明は出ていないが、同国北西部では、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」が敵対する政府関係者らへのテロを頻発させている。
地元テレビによると、政府を支持している部族の長老の葬儀が開かれていたという。(後略)【9月15日 毎日】
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****パキスタンで自爆テロ、警官ら8人死亡****
パキスタン南部のカラチで19日、警察幹部の自宅近くで自爆テロ犯が乗った車が爆発し、現地からの報道によると、幹部宅の警備を担当していた警官6人を含む8人が死亡した。狙われた幹部は無事だった。
イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が、仲間が殺害や逮捕されたことへの報復だとして犯行を認めた。また、ほかの警察幹部5人も標的にしていることを明らかにした。【9月20日 産経】
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いずれも、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」の関与が取り沙汰されているようです。
イスラム武装勢力を一方で掃討しながら、他方で支援する、そして国内ではそのイスラム武装勢力によるテロが頻発して“テロ地獄”と化している・・・いつものことながら、なんとも分かりづらいパキスタンの現状です。

昨年の傷も癒えぬ間に再度の洪水被害
そのパキスタン、2100万人が被災し、1年経った現在も数万人が避難キャンプで生活しているという昨年の大規模洪水に続いて、今年もまた洪水に苦しんでいることは報道のとおりです。

****パキスタン:洪水被害拡大 死者250人 被災600万人****
パキスタン南部シンド州で8月後半から続く豪雨による洪水被害が拡大し、少なくとも250人が死亡、被災者は約600万人に達した。被災地域は180万ヘクタールに及び、50万人近くが家を失った。
最大都市カラチでも多くの家屋が泥水にのまれ、住民らは所持品を抱えて避難した。

パキスタンは昨年夏、建国史上最悪とされる大洪水で2000人以上が死亡、被災者は2000万人を超えた。シンド州の一部はその被災地で、復興半ばで再び被害に見舞われた住民も多いという。【9月17日 毎日】
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自然は弱った人々に、追い打ちをかけるように情け容赦なく襲いかかるものでもあるようです。
そうした自然に対しては、人間同士で助け合うしかありません。国連も救済対策を強めています。

****洪水被害のパキスタン、国連が支援強化****
国連は16日、モンスーンによる洪水で270人が死亡したパキスタンに対する支援を強化すると発表した。この洪水で住宅110万戸が破壊され、550万人に影響が出ている。

国連児童基金(ユニセフ)は、安全な飲料水を確保し、疾病を予防するため、近日中に40台以上の給水車を出して1日あたり20万リットルの水を4万人に提供すると発表した。
世界保健機関(WHO)によると、パキスタンでは多くの人が汚染された水を飲んだ後に急性下痢になっており、水不足が主要な問題となっている。
一方、世界食糧計画(WFP)は、9月中に約50万人に緊急支援を提供する目標であり、10月までには支援対象を220万人に拡大する計画だと述べた。

最も被害が深刻な地区への食糧配給を開始しており、地域共同体の82%が保健施設へアクセスすることができない南部のバディン地区から配給を始めたという。
WFPは、現在は危機対応に国内の備蓄を使用しているが、備蓄を補充するため、ドナーに拠出を増やしてもらう必要があると述べた。
 
パキスタンは2010年、被害総額が100億ドル(約7700億円)に上る同国史上最悪の洪水に見舞われ、2100万人が被害を受けた。洪水から1年経った現在も数万人が避難キャンプで生活している。【9月17日 AFP】
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こうした災害による生活苦・貧困・将来への希望のなさは、テロに走る過激思想の温床ともなります。

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アフガニスタン  和平交渉の中心人物、ラバニ元大統領殺害で深まる混迷

2011-09-22 23:10:59 | アフガン・パキスタン

(9月12日 南部カンダハルで開かれた、南部地区の地域長老、自治体指導者と高等和平評議会メンバーを集めた会議で、アフガニスタンの平和・統合プログラムの重要性を力説するラバニ元大統領 この約1週間後に自爆テロで殺害されました。 “flickr”より By isafmedia http://www.flickr.com/photos/isafmedia/6158018317/

ラバニ氏の死亡で、タリバンとの「和解」は絶望的
20日、アフガニスタンでタリバンとの和平交渉にあたっていた「高等和平評議会」議長でもあるラバニ元大統領が自爆テロで殺害されるという衝撃的な事件がありました。

****アフガン:ラバニ元大統領殺害 自宅で自爆攻撃****
アフガニスタン警察当局によると、首都カブール中心部にあるブルハヌディン・ラバニ元大統領の自宅が20日、自爆攻撃を受け、ラバニ元大統領が死亡した。カルザイ大統領側近のマスーム・スタネクザイ氏ら2人も負傷した。

ラバニ氏は昨年10月から旧支配勢力タリバンとの和解を目指してカルザイ大統領が設置した「高等和平評議会」議長を務めていた。タリバンや武装勢力「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行の可能性がある。ラバニ氏の死亡で、タリバンとの「和解」は絶望的となった。

ラバニ氏の自宅は日本大使館など各国大使館が集まる地区にある。武装勢力による首都攻撃は13日に米国大使館などが攻撃されて以来で今月2度目。アフガン政府は治安能力のなさを露呈した。
警察によると、自爆犯はラバニ氏の部屋に通された後、自爆した。高等和平評議会関係者によると、ラバニ氏はタリバンの兵士2人を自宅に迎えて和解について協議する計画だったという。和解に応じるそぶりをみせ、自爆犯が自宅に侵入した可能性がある。

ラバニ氏は旧ソ連軍が撤退した後の92年、大統領に選出されたが、その後、反大統領派と戦闘となり、内戦に突入した。タリバンが登場した94年以降、ラバニ派はタリバン政権と対立したため、高等和平評議会は当初から成功しないとの観測が出ていた。【9月21日 毎日】
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事前に武器・爆弾などを所持していないかチェックはしなかったのだろうか・・・・とも思ったのですが、AP通信などによると、頭に巻くターバンに爆発物を隠していたとのことです。

【「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行の可能性
ロイター通信は、タリバンのムジャヒド報道官は20日深夜、犯行を認めたと報じていますが、その後、タリバン側から「ラバニ氏暗殺に関する情報を収集中で、現段階では何もいえない」との発表もあり、タリバン内部の混乱・路線対立も窺わせる状況です

****アフガン ラバニ元大統領暗殺 タリバン「和平拒否」? 内部混乱も****
・・・・暗殺の実行犯は不明。ただ、地元警察はタリバンによる犯行の可能性が高いとしている。事実ならば、ラバニ氏の暗殺はタリバンが和平交渉を望んでいないことを示す強烈なメッセージといえそうだ。

ただ、タリバンは20日、一部メディアに犯行を認めたと伝えられたが、21日になってネット上に、「犯行を認めたとの報道は事実無根。現在、ラバニ氏暗殺に関する情報を収集中で、現段階では何もいえない」とする声明を発表した。テロの“成果”を誇張する傾向のあるタリバンの歯切れの悪い対応に、ラバニ氏暗殺をめぐり内部で混乱が起こっているのではないかとの臆測が出ている。【9月22日 産経】
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タリバン内でも最も過激な強硬派の「ハッカーニ・ネットワーク」の犯行ではないかとも推測されているようです。
****和解交渉」装い面会時に自爆 タリバーン強硬派関与か*****
・・・・犯行声明などは出ていないが、この警察幹部は記者団に「タリバーンが関与している」と語った。
また、朝日新聞助手の取材に対し、複数のタリバーン関係者が、タリバーン内強硬派のハッカーニ派の関与を指摘した。同派はタリバーンの中でも国際テロ組織アルカイダとのつながりが強いとされ、パキスタンの国境地帯を拠点に米軍などへの越境攻撃を繰り返している。

米国などは今月13日にカブール中心部であった米大使館などを標的にした攻撃を同派の仕業だと見ており、パキスタン政府に対し、強硬手段をとるよう求めている。同派は米国やアフガン政府との和解にも否定的だとされる。【9月22日 朝日】
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ハッカーニ・ネットワークについては、以前、NHKスペシャル「貧者の兵器とロボット兵器 自爆将軍ハッカーニの戦争」でも報じられていますが、主として仕掛け爆弾と自爆爆弾でアメリカの最新ロボット兵器に対抗しているとのことです。
自爆のための「聖戦士」はパキスタンの部族地域で幼児から徹底的な宗教教育を行い、場合によっては麻薬を使用して判断力を失わせて、自爆要員に育て上げているとも。

タリバン内部の穏健派主導の和平交渉が進展することを嫌って、ハッカーニ・ネットワークのような強硬派が犯行の及んだ・・・ということでしょうか。

【「今後、民族対立が深刻化すれば、内戦の危機もある」】
今回事件の影響については、もともと期待が薄かった和平交渉が、更に困難になるとの見方が多いようです。

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アフガニスタンの元大統領で、イスラム原理主義勢力タリバンとの和平交渉を担う「高等和平評議会」の議長を務めるラバニ氏(71)が首都カブールの自宅で暗殺されたことで、今後の交渉の展望が見通せなくなっている。(中略)
タジク人のラバニ氏は、1992年からタリバンによる政権樹立の96年まで大統領を務めた。2001年にタリバン政権が崩壊するまでは、タリバンと戦った北部同盟の事実上のトップだった。昨年10月に約70人の国会議員や元タリバン政権閣僚などで構成する評議会の議長に就任した。有力政治家として存在感を発揮していたが、「パシュトゥン人を主体とするタリバンの敵だった人物に、評議会議長のポストはふさわしくない」との指摘もあった。

評議会については、成果を挙げていたとの評価はあまりない。ある評議会メンバーは、評議会ではタリバンの末端メンバーの切り崩しを進めるべきだとするラバニ氏の方針と、タリバン指導層に接触すべきだと主張する勢力があり、意見対立があったと明かす。【9月22日 産経】
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最悪のシナリオとしては、殺害されたラバニ氏がタジク人指導者だったことから、パシュトゥン人を主体とするタリバン、更にはカルザイ政権に対し、タジク人勢力が復讐に出て、内戦状態に陥る危険性も指摘されています。

****アフガン:元大統領暗殺、内戦の恐れ タジク人勢力復讐も****
アフガニスタンのブルハヌディン・ラバニ元大統領が旧支配勢力タリバンの自爆テロで暗殺された事件は、ラバニ氏がかつて率いた「北部同盟」関係者、とりわけラバニ氏と同じタジク人住民の間で猛烈な怒りを巻き起こしている。

その矛先は、タリバンの主勢力と同じパシュトゥン人のカルザイ大統領にも向けられており、米軍の撤収が進むなか、タジク人勢力が独自に武装してパシュトゥン人への復讐(ふくしゅう)戦をしかける恐れがある。
政府とタリバンとの「和解」は絶望的となり、アフガンが再び内戦へと突き進む危険性が高まっている。

カブール中心部では21日、ラバニ氏の自宅付近に数百人の支持者が集まり、元大統領の死を悼んだ。(中略)
ラバニ氏は、タリバンとの和解を目指してカルザイ大統領が昨年10月に設置した「高等和平評議会」の議長だった。かつてタリバンと激しい戦闘を展開したが、穏健派イスラム教指導者としてもタジク人の間で尊敬を集めていた。大統領がラバニ氏を和解交渉のトップに据えたのは、タジク人の間に根強い反タリバン感情を抑える狙いがあった。

国連総会出席を切り上げて帰国の途についたカルザイ大統領は、今後もタリバンとの和解を画策するとみられる。
だが、カブールの政治アナリスト、ハルーン・ミール氏は「ラバニ氏は米政府にも支持された人物だっただけに、カルザイ政権、米政府双方にとって、とてつもない打撃となった」と語った。(中略)

タジク人の野党指導者で、09年の大統領選でカルザイ氏と争ったアブドラ・アブドラ元外相は20日、「今回の事件で、我が国における『和解』が無意味なことが明確になった」と述べた。もう一人のタジク人政治家で北部バルフ州のヌール知事は、「タリバンが今後も勢力を回復し続ければ、国を北部と(タリバンが拠点とする)南部に分離することになる」と話した。「今後、民族対立が深刻化すれば、内戦の危機もある」(アナリストのミール氏)との観測が強まっている。【9月21日 毎日】
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米軍撤退後のアフガニスタン情勢の混迷を予感させる事件です。
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ギリシャ  厳しさを増す財政再建問題 “管理された債務不履行”“ユーロ圏離脱”の議論も

2011-09-21 22:24:29 | 欧州情勢

(19日、2012年の財政黒字を確約するギリシャのベニゼロス財務相 ただ目標達成に向け具体的にどのような策を講じるかは明らかになっていません。 財政黒字というのは無理でしょう・・・。そんな予算を組めば、経済は崩壊し、結果的に赤字が膨らむだけではないでしょうか。 “flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/6162402351/

ユーロ圏残留の国民投票、「絶対にない」】
デフォルト(債務不履行)を何とか回避すべく切羽詰まった取組がなされているギリシャですが、ちょっとびっくりするような報道が一時流れました。
ユーロ圏にとどまるかどうかを国民投票にかけよう・・・という内容です。

****ギリシャ:「ユーロ圏」で国民投票か 首相検討の報道****
ギリシャのカティメリニ紙(電子版)からのロイター通信の転電によると、パパンドレウ首相はギリシャがユーロ圏にとどまるかどうかについて国民投票にかけることを検討している。欧州中央銀行(ECB)など国際機関が融資続行の条件として求める緊縮策に対する国民の反発は強く、首相は世論集約の打開策として国民投票を視野に入れたという。【9月20日 毎日】
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パパンドレウ首相もいよいよ行き詰って、国民にげたを預けようということか、でも、もしユーロ圏離脱が選択されたらどうするのだろう・・・とも思ったのですが、さすがに、この報道はすぐに否定されました。

****ギリシャ:ユーロ圏残留の投票否定 副報道官****
ギリシャ政府がユーロ圏残留をめぐる国民投票の実施を検討していると地元メディアが19日に報じたが、政府の副報道官は20日、「絶対にない」とこれを否定した。ロイター通信が伝えた。
パパンドレウ首相は、緊縮策など政治改革をめぐる国民投票を検討中だと表明しているが、副報道官は、ユーロ残留の是非を問うものかどうかについて「その問題については議論していない」と述べた。【9月20日 毎日】
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第6弾融資がないと、10月半ばに資金が枯渇
ただ、こんな話が出てくるというのは、状況が相当に煮詰まってきているとも考えられます。
EU・IMFによる80億ユーロ(約8400億円)の第6弾融資について協議が行われていますが、20日には合意がなされるだろうとのギリシャ財務相筋の見方でしたが、まだ合意には達していないようです。

****ギリシャ審査を来週再開 第6弾融資でEUとIMF****
ギリシャからの報道によると、深刻な財政危機に陥っている同国のベニゼロス財務相と、同国に金融支援を行っている欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)の査察官らとの電話会談が20日夜、前夜に引き続き行われ、査察官らが来週アテネ入りし同国への第6弾融資の実施に向けた審査を再開することが決まった。
ロイター通信によると、財務省筋は80億ユーロ(約8400億円)に上る第6弾融資が「合意に近づいている」と述べた。

ベニゼロス財務相は今月2日、今年の財政赤字の削減目標が達成できなくなったと発表。このため融資を審査していたEUとIMF、欧州中央銀行(ECB)の査察官がアテネから引き揚げ、ギリシャ側にさらなる努力を促していた。ギリシャはデフォルト(債務不履行)を当面、回避するため第6弾融資を必要としている。【9月21日 産経】
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この融資が実現しないと、ギリシャは10月半ばに資金が枯渇し、国家財政は破綻します。
ですから、EU・IMFも最終的には融資を認めるしかない状況ですが、一段の財政赤字削減についてのギリシャ側の対応が難航しているようです。

****財政政策バラバラ ギリシャ支援なお難関 負の連鎖、ユーロ危機****
80億ユーロ(約8400億円)の第6弾融資の条件として一段の財政赤字削減を突きつけられたギリシャのパパンドレウ首相は米国への外遊をキャンセルして18日、臨時閣議を開いたが、追加の緊縮策は発表されなかった。ベニゼロス財務相はEUとIMFの査察官と19日に電話会談した後、再検討すると述べた。

しかし、不動産増税など追加策には与党内でも反発が強い。議会過半数の支持を得られなければ10月半ばに資金が枯渇し、国家財政は破綻する。一方、政府が公務員の退職金・年金カットを打ち出し、15、16の両日で1万人以上の公務員が駆け込み辞職した。【9月20日 産経】
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上記記事にある公務員の駆け込み退職については、次のように報じられています。
****ギリシャ:退職金削減恐れ、2日間で公務員1万人が辞表****
深刻な財政危機に陥っているギリシャで大量の公務員が退職を希望する事態となっている。現地からの報道では、15、16日の2日間で辞表を出したのは1万人以上。政府が財政緊縮策の一環として公務員の退職金や年金のカットなどを打ち出しているためで、もらえるうちにできるだけ多く受け取ろうという算段のようだ。
退職金や年金の受給資格を既に得たベテラン職員が多いため、行政機能に支障が出るのでは、と懸念する声がある。

地元メディアによると、15、16の両日で全国の地方公務員や税務署員、公立病院の職員など1万人以上が辞表を提出。特に希望者が多かったのが社会保険公社で、約8400人の職員のうち約1000人が退職を願い出た。

同国が欧州連合(EU)などの金融支援を打ち切られ、デフォルト(債務不履行)に陥るのではないかとの臆測がこうした動きに拍車を掛けている。13年末までに定年を迎える国家公務員約15万人のうち、半数以上が今年中に早期退職するとの予測もあるという。【9月17日 毎日】
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財政赤字削減で立ち直ると言うより、緊縮財政と将来への不安感から社会・経済が更に収縮・混乱するという悪循環が予見される動きです。

【「ギリシャは管理された債務不履行に乗り出すべきだ」】
ギリシャの破綻はギリシャだけにとどまらず、同様に財政赤字に苦しむスペイン・ポルトガル、更にはイタリアなどに波及し、また、ギリシャ国債を抱えるフランス金融機関などの経営にも影響し、欧州経済全体の信用不安に突入する危険があることはみなが承知しているところですが、欧州各国では、これ以上ギリシャを支えることへの批判も強まっています。

****強まる懐疑論****
ギリシャやスペインなどユーロ圏の重債務国では政権への不満が鬱積(うっせき)する中、支援国ではユーロ懐疑論が強まる。
第2次救済策でギリシャに担保の差し入れを求めたフィンランドでは、財政悪化国への支援を認めない「真正フィン人党」が影響力を増す。
2009年にユーロを導入したスロバキアでは連立与党のシュルク党首が「欧州は債務危機を解決するため借金を積み重ねているだけだ」として第2次救済策反対を宣言、このままでは同国議会での否決は必至の情勢だ。
ユーロの命運を握るメルケル独首相もベルリン特別市議会選で連立相手の自由民主党が惨敗するなど政権基盤が弱まり、ユーロを取り巻く環境はますます厳しくなっている。【9月20日 産経】
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差し当たっては、主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が22日、ワシントンで開かれ、欧州債務問題が協議されます。

****欧州債務対策が焦点 G20、22日開幕****
■域外からの支援期待
ギリシャ政府と国際通貨基金(IMF)や欧州連合(EU)との間で交渉が続いている。議題は、ギリシャが財政再建努力を続け、経済構造の改革を進めていけるかどうか。IMFなどの納得が得られなければ、緊急融資を止められ、10月半ばには年金も払えなくなる。

ロイター通信によると、IMF幹部は19日、「ギリシャは企業が競争しやすい環境、透明性を高める必要がある」と語った。構造改革を強く求めるもので、交渉は甘くないことをうかがわせた。パパンドレウ・ギリシャ首相は、今週予定していた国連総会への出席を取りやめ、危機対応にあたっている。

ギリシャの債務不履行(デフォルト)への懸念は、財政が不調な他国にもじわじわと及んでおり、19日はイタリア国債が格下げされた。欧州メディアによると、イタリア政府側は中国の政府系ファンドに国債購入を打診しているという。せっぱ詰まっての「安定株主」探しだ。

銀行も、債務不履行の懸念の波をかぶる。とりわけ影響を受けているのは南欧の国債を多く保有しているフランスの金融機関で、ソシエテ・ジェネラルの株価は7月初めに比べ6割下落した。英紙フィナンシャル・タイムズは20日、独電機大手シーメンスが2週間前にフランス大手銀から多額の資金を引き出し、安全な欧州中央銀行(ECB)の口座に移したと伝えた。

識者の間では、ギリシャの再建のためには債務不履行を避けるべきではないとの見方も出ている。米ニューヨーク大のルビーニ教授はインターネットの投稿で「ギリシャは管理された債務不履行に乗り出すべきだ。競争力を回復するために、ユーロ圏から脱退すべきだ」と主張した。

混迷する状況に、G20としてどんな手だてを講じることができるのか。ブラジル経済紙は19日、ブラジルやロシア、中国など新興5カ国(BRICS)が、ギリシャなどに資金支援する「欧州金融安定化基金(EFSF)」が発行する債券を一部購入した、と報じた。新興国からの支援に対する期待は日増しに強まっている。
ただ、まず欧州自身が危機対応の態勢を整えなければ、G20の話し合いによる成果は期待できそうにない。(後略)【9月21日 朝日】
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欧州内部からの不満も高まる中で、EU・IMFの支援にも限界がありますので、“管理された債務不履行”で軟着陸を図るという方策が現実味を帯びてきています。
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