(2017年完成予定のグランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム イタリアの国旗が見えますのでイタリア企業が請け負っているのでしょうか。 旧宗主国と旧植民地の関係は未だに強いものがあるのでしょうか。 “flickr”より By News Agency http://www.flickr.com/photos/44858852@N04/8956273110/in/photolist-eDreXU)
【「エジプトは世界が変わっていることに気付くべきだ」】
人間が生きていくうえで必要不可欠なものが“水”。
それだけに、水をめぐる争いは古今東西で絶え間なく起きていますが、人口増加、それを支える農業開発や電力の必要性などから、将来的には水資源をめぐる争いが国際関係において最も主要な問題になるであろうとも予測されています。
現在でも、上流でのダム建設が下流への不利益をもたらすとして、国際河川をめぐる利害対立は世界の各地で起きています。
このブログでもしばしば取り上げたメコン川をめぐる中国とその他流域国、あるいは流域国内での上流国と下流国の対立、ブラマプトラ川を巡る中国・インドの開発競争、ガンジス川をめぐるインドとバングラデシュの対立、ナイル川を巡るエジプトと上流国の対立・・・など。
ナイル川を巡る対立についても、2010年5月20日ブログ「ナイル川の水資源利用に関する上流国と下流国の対立」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100520)で取り上げました。
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古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、著書『歴史』のなかで、「エジプトはナイルの賜物」と書いています。現在のエジプトにとっても、ナイル川は貴重な水源です。エジプト国内で一年間に消費される水のうち、86%は青ナイルの水で、14%は白ナイル川の水で賄われています。【「互敬の世界へ」(http://gokei.seesaa.net/article/149919865.html)より】
ただ、ナイルの水が貴重なのはエジプトだけでなく、ナイル上流国も同様です。ナイル川はアフリカ大陸の10カ国を流れる国際河川です。・・・・・【2010年5月20日ブログより】
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具体的に今問題となっているのが、青ナイル上流にエチオピアが建設を進めるグランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダムです。
ナイル川の水利用に関する国際協定には、1929年にエジプトと当時東アフリカを植民地としていたイギリスが結んだ協定と、1959年にエジプトとスーダンが結んだ協定の二つが存在します。
59年協定では、ナイル川の水の75%をエジプトが、25%をスーダンが利用できるとし、他の流域国の取り分については、「要求があれば共同で対処する」としています。
また、29年協定では、エジプトは自国の取水に影響が出る上流国でのナイル川関連事業などに対し実質的な拒否権を行使できるとしています。
ただ、当然ながら上流国には不満があります。
2010年に、ナイル側の新たな取水割当量を定める協定がエジプトを含む関係国で協議されましたが、流域国は他国に悪影響を与えない範囲で自由に水を使えるとする新協定に上流国のルワンダ、エチオピア、ウガンダ、タンザニアの4か国は署名したものの、下流の既得権益国エジプト、スーダンは拒否しています。
****エジプトとエチオピア、ダム建設で対立****
「エチオピアは我々を殺す気だ」と、エジプト、カイロの悪名高い渋滞をすり抜けながら、タクシー運転手のアハメド・ホッサムさんは言う。
「エチオピアがダムを建設したら、ナイル川は干上がる。ナイルが干上がったら、エジプトは終わりだ」。
総工費47億ドル、全長1.7キロに及ぶ「グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダム」(Grand Ethiopian Renaissance Dam)の建設計画は、多くの激しい反対に遭っている。しかし、青ナイル川をせき止めるダム計画に大半のエジプト人が抱く不安や怒りは、中でもひときわ激しいものがある。
エチオピアの水力発電プロジェクトは、エジプトの“歴史的権利”を侵害しているという。
すなわち、エジプトがナイル川の水の約4分の3を利用することを取り決めた1959年の協定に違反しており、また、ほかにほとんど水源をもたないエジプトの存亡を脅かすというのがエジプトの主張だ。
対するエチオピアにとって、ダム建設は国家の威信をかけた事業であり、1980~90年代に同国を襲った大飢饉からの再生の象徴だ。
◆水を巡る激しい対立
エチオピアは、ナイル川下流に位置するエジプトとスーダンがダムを懸念する必要はないと主張している。今回の計画は、上流9カ国がほとんど水を使えない従来の不公平な水利用協定を是正するものに過ぎないというのだ。
しかし、このような地域力学の変化は、エジプトにとって承服しがたいものだ。何十年もの間、エジプトは周辺地域への影響力を行使して、貧しい上流の近隣国によるダム建設計画を阻止してきた。
過去には、世界銀行のような国際機関が水力発電事業に出資したこともあるが、このような論争の火種に関わるのを嫌って手を引き、エジプトに事実上の拒否権を与えてきた。
しかしここ数年、「アラブの春」の余波で経済および政治不安が続き、国力が低下している今のエジプトには、再生したエチオピアに対抗する余裕はない。
「エジプトの真水の98%は国外から供給されており、エジプトが有する影響力はきわめて小さい」と、カイロにあるシグネット・インスティテュートの政治経済アナリストであるアンガス・ブレア氏は述べる。「問題の答えは、近隣国との協力にある」。
しかし今のところ、エジプトはおおむね好戦的な態度を貫いている。国営および民間メディアは、エジプト国民のエチオピアに対する激しい反感を煽っており、政治家たちの発言もそれに劣らず攻撃的だ。
「ダム建設は宣戦布告に等しい」と、2013年6月にヌール党幹部は述べ、このままダム建設を継続するなら、エジプトはエチオピア国内のさまざまな分離独立運動を支援してはどうかと提案した。
また、当時のエジプト大統領ムハンマド・モルシも、7月初めに軍のクーデターによって解任される直前、「あらゆる選択肢の可能性がある」と発言し、間接的な圧力をかけていた。
一方、エジプトの南隣にあるスーダンは、それまでの反対姿勢から一転、ダム建設に支持を表面している。「スーダンはダム建設が自国の利益になることを理解している」と、オックスフォード大学でアフリカ政治を教えるハリー・バーホーベン氏は述べる。「ダムができれば、スーダンが切望している安価なエネルギーが輸入できるようになる」。
「エジプトも苦渋の決断を下すべきだ。ダムを危惧するのでなく、自分たちが伝統的に軽んじてきた地域に接近する機会ととらえるべきだ」。
エジプトのホスニ・ムバラク元大統領は、アフリカの近隣諸国を軽視してきたとして非難されることが多く、エジプトはアラブ世界を重視し続けてきたことの代償を今になって支払わされていると見る向きもある。
◆水は確保されるのか
それでも、エジプトの懸念は決して的外れなものではない。エジプトの人口は2050年には現在の倍近い1億 5000万人に増える見込みで、水の需要もそれだけ急増するのに、ダムができれば供給量は制限される。
ダムがエジプトに損害を与えるというのは「非現実的な考え」だとエチオピアは主張するが、少なくとも(ダムが満水になるまでの)数年間は、エジプトとスーダンに流れる水の量が減るのは確実だ。
エジプトは、エチオピアのダムに水がたまることで、自国のナセル湖の貯水量が減少する(ひいては、エジプトのアスワンにある巨大な水力発電所の発電力が低下する)ことを懸念している。「エチオピアがダムを建設すれば、アスワン・ハイ・ダムの発電量は40%近く低下するだろう」と、カイロ大学の農学教授ナデル・ヌーレディン氏は述べる。
エチオピア当局によると、ダムは現在20%完成しており、2017年には完成予定だという。グランド・エチオピアン・ルネッサンス・ダムは、どうやらこのまま建設されそうだ。
しかし建設後のことは、エジプトが環境の変化にいかに適応するかにかかっている。「エジプトは世界が変わっていることに気付くべきだ」とバーホーベン氏は述べている。「これは問題にするべき事柄ではない」。【9月30日 ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト】
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【「エチオピアの内政に干渉する必要がある」】
エジプトの“政治家たちの発言もそれに劣らず攻撃的だ”という件については、モルシ前大統領との“非公開”会議でなされた「妨害工作」に関する発言が、誤ってテレビ生中継されるという珍事も起きています。
****エチオピアへの「妨害工作」、エジプト政治家らがテレビ中継知らずに議論****
エジプトのムハンマド・モルシ大統領の会合に出席した政治家らがテレビで生中継されているのを知らずにエチオピアのダム建設を妨害する方法について議論を交わし、騒動となっている。
大統領補佐官は、政治家らにテレビ中継のことを知らせるのを忘れたと謝罪した。「議題の重要性を考えて、直前に会合を生中継することが決まった。その変更を出席者に伝えるのを忘れた。政治指導者たちに恥ずかしい思いをさせたことを謝罪する」と、大統領政務担当補佐官のパキナム・エルシャルカウィ氏はツイッターで述べた。
モルシ大統領が議長を務めた会合は、エチオピアが巨大ダムを建設するために青ナイル川の迂回路を作る決定を下したことについて、エジプト、スーダン、エチオピアの3国が参加した委員会がまとめた報告書をめぐって議論が進んだ。巨大ダムが建設されれば、下流のエジプトとスーダンに多大な影響を及ぼす恐れがある。大型のテーブルの周りに座り、この会合が非公開であると考えていた政治家たちは、ダム建設計画を阻止する方法について提案を始めた。
■「内政干渉せよ」「うわさを流せ」「反政府勢力支援で圧力を」、飛び交う提案
リベラル政党のガド党のアイマン・ヌール党首は、エジプトが軍用機を購入しているといううわさを流してエチオピアに「圧力」をかけるよう提案した。
さらにヌール氏は、「(エチオピアの)内政に干渉する必要」があると述べ、エチオピアに政治、情報、軍のチームを送るべきだと提案。エジプトをより強く支持しないスーダンの姿勢を「うんざりだ」と非難した。
また、イスラム法の厳格な順守を掲げる光の党のユーネス・マフユーン党首は、ダムが「エジプトに戦略的脅威」をもたらすものであり、エジプト政府がエチオピアの反政府勢力を支援することで「エチオピア政府に圧力をかけることができる」と要求した。
会合は政権と出席した野党政治家に大打撃となった。メディアでは冷笑と怒りの嵐が巻き起こり、出席しなかった政治家までもが国民に謝罪する事態となっている。
人気トーク番組ホストのReem Magued氏は、番組内で会合の一部を放映し、「政府の透明性を要求したのは事実だが、このようにではない。このようなスキャンダルに至るほどではない」と語った。
■エチオピア側、「関係は堅調」
一方、エチオピアのアレマイエフ・テゲヌ水・エネルギー相は、騒動について知らないと語り、エチオピアとエジプトの関係は「堅調」であると述べた。
テゲヌ水・エネルギー相は、ダム建設により水量が影響されることはないと述べ、「迂回路が一部集団にとって悩みの種となっている理由が、私にははっきりわからない。どんな門外漢でも、河川の迂回路が意味することは理解できるはずだ」と語った。
エチオピアは、「グランド・ルネサンス・ダム」として知られる42億ドル(約4200億円)の水力発電プロジェクトを建設するため、青ナイル川を自然の流域から500メートル迂回させる作業を始めている。
建設の第1段階は3年で終わる見通しで、発電容量は700メガワット。ダムが完成した際には発電容量は6000メガワットになる。【6月5日 AFP】
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この問題に関しては、リベラルもイスラム原理主義も関係なく「エチオピアを締め上げろ!」ということで意見が一致しているようです。
ただ、1959年当時の、しかも当事国が参加していない協定を今さら振りかざすのは、やはり時代の流れを無視していると言わざるを得ません。
当時とは情勢が変わったにも関わらず、北アフリカの盟主としての意識から抜け出せないあたりが滑稽でもあり、悲しいものがあります。
こうした錯誤は水資源やエジプトだけの話ではないでしょう。
いずれにしても、過去がどうであったかよりは、将来に向けてどういう関係で共存できるかを考えるべきでしょう。
それが痛みを伴うものであっても、やむをえません。情勢の変化に合わせるしかありません。
【氷河時代に蓄えられた“化石水”の5分の4が、わずか一世代ほどの年月で既になくなってしまった】
なお、ナイルの水を狙っているのは流域国だけではないようです。
石油はあっても水が足りないサウジアラビアも狙っているとか。
もちろん水をもってくる訳にいかないので、現地の水を利用する農地開発企業が進出して、収穫物をサウジアラビアへ輸出するというものです。
****水不足のサウジ、ナイル川上流を買収?****
アラビア半島の大半を占めるサウジアラビアの国土は、その95%が砂漠である。サウジアラビアを飛行機で移動すると、砂漠のあちこちに散在する大規模な牛舎や円形の巨大な農地が目に入ってくる。同国民を養う上で欠かせない施設だ。
灌漑や牛の体温調整に必要な水は、砂漠の地下1キロ以上からくみ上げている。アラビア半島が湿潤だった最後の氷河期に大量の水がたまり、世界最大級の帯水層が生まれたのだ。
◆5分の4が空になったサウジアラビアの地下水
同国は30年以上、このような地下水資源を利用した農業を営んできた。石油から得られる膨大な収益を投入して、食料自給の夢を追い求めたのだ。小麦は国際価格の5倍で政府が買い取り、水はタダ、くみ上げポンプの電気代もほとんど無料だった。
しかし現在、ポンプの多くは沈黙し、蛇口も閉じたままだ。政府は、「2016年までにすべての小麦生産を終了し、水冷式の牛舎もできる限り早期に廃止する」と発表している。
頼りにしていた地下水が枯れ始めたのだ。
農業を始めた40年前、砂漠の地下にはおよそ500立方キロという驚くべき量の水が蓄えられていた。しかし近年、くみ上げられる農業用水は年間で最大20立方キロに達していた。まして、雨はほとんど降らない土地柄で、水は減る一方だった。
2004年にイギリスのロンドン大学が分析したところ、2008年までに少なくとも400立方キロの水が消費されたという。つまり、氷河時代に蓄えられた“化石水”の5分の4が、わずか一世代ほどの年月で既になくなってしまったのだ。
海水の脱塩化は費用がかかるため、淡水確保の代替策にはならない。それでも、サウジアラビアは「食料自給」の夢をまだ捨てていない。自分の土地の水が枯れたら、よそから手に入れればいい。
◆ナイル川の上流を押さえる?
標的になった例が、アフリカ東部、エチオピア最貧地域のガンベラ州だ。ここは世界最長のナイル川の上流域に位置している。
先祖代々の狩場だった森と湿地に突然、サウジの大富豪モハメド・アル・アモウディ氏所有の農地開発企業サウジスター社が進出してきた。
2011年、エチオピア政府は地元住民に対し、「森から出て、政府が用意した村に移るように」と伝えた。表向きには「住民のため」とされたが、アル・アモウディ氏の開発に沿った政策であることは明白だった。当時のエチオピア首相メレス・ゼナウィ氏は、アル・アモウディ氏と友人関係にあり、以前から金銭的支援を受けていたのだ。
今年4月、ついに事件が起きる。反対派住民の武装集団が、ガンベラ州アボボ近郊にあるサウジスター社の事業所を襲撃、作業員5人が死亡し、エチオピア軍が犯人捜索に乗り出した。非営利団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによると、その際、兵士によって村が略奪され、男性は一斉検挙と拷問、女性は性的暴行を受けたという。
◆野生生物も危機に
被害を受けたのは人間だけではない。ガンベラ州には、シロミミコーブやナイルリーチュエ、ゾウ、ハシビロコウなど希少な動物が生息しており、1970年代にガンベラ国立公園が設立されている。しかし、公園の保護体制は十分ではなく、敷地のほとんどがサウジスター社に売却された。
サウジアラビアの農業大臣ファハド・ビン・アブドルラフマーン・バルグナイム氏はこの件に関し、「正直に言って、アフリカ側から不満の声を聴いたことはない。“問題が起きている”と騒ぐのは外国人だけ。地元でもノープロブレムだ」とコメントしている。
なお、サウジスター社はコメントを拒否している。
◆外国政府との友好関係
アブドッラー・ビン・アブドルアジーズ国王兼首相が主導する農業海外投資プロジェクトは、2008年の開始以降、海外の土地と水を買収する国内企業にお墨付きを与えている。対象地域はアフリカ西部のセネガル川からニューギニア島インドネシア領にまで至り、契約条件には通常、「水を自由に利用する権利」と「収穫物の50%以上をサウジに輸出する権利」が含まれている。
受け入れ国政府も企業との契約を喜んでいるケースが多い。今年8月に亡くなったエチオピアのゼナウィ前首相は生前、サウジスター社との契約について、「土地を開発すれば自国民も食料が得られる。自然を大切にするのもわかるが、飢え死にしては意味がない」と語っていた。
これに対し、アフリカの最大手銀行である南アフリカ共和国のスタンダード銀行は2012年、ゼナウィ氏の方針を批判し、次のように論じている。「サウジアラビアの投資受け入れは政策ミスで、大陸全体に悪影響を及ぼす。土地や水など、資源の価値を適切に評価する必要がある」。 【2012年12月21日 ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト】
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“氷河時代に蓄えられた“化石水”の5分の4が、わずか一世代ほどの年月で既になくなってしまった”という浪費ぶりには驚かされます。
程度の差はあれ、似たような“浪費”を多くの国が、水資源でも水以外の資源でも、行っているのでしょう。
限られた資源をいかに有効・効率的に使うかという視点が必要です。