(【2021年7月9日 朝日】)
【「大エチオピア・ルネサンスダム」発電を正式に開始】
ウクライナ情勢関連のニュース一色という中で、それ以外の気になるニュースを探すと・・・
****エチオピア、ナイル川の大規模ダムで発電開始****
エチオピアのアビー・アハメド首相は20日、ナイル川の支流の一つ、青ナイル川に建設した「大エチオピア・ルネサンスダム」での発電を正式に開始した。この大規模ダムをめぐっては近隣諸国との対立が続いている。
政府関係者によると、アビー首相は発電所を視察し、発電開始のボタンを押した。
ナイル川下流のエジプトとスーダンは水資源の大半を同川に依存していることから、ダムを脅威とみなしている。一方、エチオピア政府は自国の電化と発展にダムが不可欠だとしている。
国営メディアによると、複数あるタービンのうちの一つで20日、375メガワットの発電が開始された。 【2月20日 AFP】
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【将来的に最大の課題となる「水の確保」 争いの火種にも】
世界的にも人口増加の一方で深刻な水不足が将来的に極めて重大な問題で、今後「水をめぐる争い」が各地で頻発することも予想されています。
****2050年に50億人が水の確保困難に 世界気象機関****
世界気象機関は5日、2050年に世界で50億人以上の水の確保が困難になる恐れがあるとの予測を発表し、今月末から開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議で対策を講じるよう各国首脳に求めた。
WMOの最新報告によると、2018年にはすでに36億人が1年に少なくとも1か月間、水を十分に確保できない状態にあった。WMOのペッテリ・ターラス事務局長は「迫り来る水危機に警戒する必要がある」と述べた。(中略)
WMOは過去20年間で地表水、地下水、雪や氷を含めて陸地に蓄えられている水の量が1年に1センチの割合で減少している点を強調。最も多くの水が失われているのは南極とグリーンランドだが、人口の多い低緯度地域の多くでは、昔から水を供給してきた地域で大幅に水が減っているという。
WMOによると、地球上の水のうち使用可能な淡水はわずか0.5%で、水の安全保障に大きな影響が生じる。ターラス氏は「気温の上昇は、世界的および地域的な降水量の変化をもたらし、降雨パターンや農耕期の変化にもつながり、食糧安全保障や人間の暮らし、健康に大きな影響を与える」と警告した。 【2021年10月6日 AFP】
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特に、多くの国々を流域に持ち、その国々の生活・経済を支えている国際河川におけるダム建設は、下流域の水資源利用を制約することにもつながるとして争いの火種となります。
アジアでは大河メコン川の水資源をめぐる上流国・中国とミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムなど下流域の東南アジア諸国の対立もあります。ダム建設は中国だけではありませんので、東南アジア諸国間でも同様の問題が起きています。
アフリカで問題となっているのは、東アフリカ・エチオピアが国運を託してナイル川に建設した「大エチオピア・ルネサンスダム」。
【エチオピアが国運を託す「大エチオピア・ルネサンスダム」 激しく反発する「ナイルの賜物」エジプト】
下流のエジプトは文字通り「ナイルの賜物」であり、その利用が制限されれば、今でも厳しい水資源事情が死活的に悪化すると激しく反発。シシ大統領は軍事行動も辞さない姿勢を示してきました。
エジプトにとってアスワンダムが国家発展の象徴であるように、エチオピアにとっては大エチオピア・ルネサンスダムが今後の国家発展の礎となるもの・・・ということにもなります。
“2011年に建設が始まったこのダムは、水力発電が主な目的とされる。世界銀行によると、エチオピアは10~19年度にかけて平均で年9%超の経済成長を遂げてきたものの、人口約1億1千万人のうち約6500万人が電気を日常的には使えない状態に置かれている。貧困の解消やさらなる経済発展のためには安定した電力供給が欠かせず、アフリカ最大級の水力発電が可能なダム建設は国家の威信をかけたプロジェクトとなった。”【2021年7月5日 朝日】
****ナイル川「ダム」建設めぐる“上流”エチオピアと“下流”エジプトの対立、解決の糸口見えず****
エジプト政府は5日、エチオピア政府からナイル川の上流にある「大エチオピア・ルネサンスダム」で貯水を再開したと通告を受けたと発表した。
ナイル川の水を巡っては、エチオピアが電力不足の解消のため巨大ダムの建設を進める一方、下流にあるエジプトとスーダンが農業や飲料水に影響が出ると反発していた。ダムの貯水は去年に続き2度目で、エジプト政府は「受け入れられない」と批判した。
過去にはエジプトのシシ大統領が武力行使をにおわす発言をしており、今回の貯水再開は地域の緊張を高めることになりそうだ。その現状について、ANNカイロ支局の伊従啓支局長に聞く。
Q.「ナイル川」はエジプト国民にとってどういう存在?
エジプトは非常に雨の少ない国で、冬にパラパラぐらいしか降らない。エジプトの国に流れ込んでくる川というのもナイル川1本なので、生活用水、農業用水、工業用水と、国で使う9割以上をナイル川の水に頼っている。
よく言われるのが「エジプトはナイルの賜」「母なるナイル」という表現で、このナイル川があるからこそエジプトはこれまで育まれてきたということが言える。(中略)
現代でいうと、エジプトの人口は1億人を超えている。周りの国と比べても突出していて、これもナイル川があって飲み水が安定的にある、安定的に農作物が作れるといったことが背景にある。つまり、このナイル川の水が減ってしまうと、エジプトの生活そのものを直撃するということが言える。(中略)
Q.なぜダムが建設され、問題になっている?
エチオピア政府が考えているのは、まずエチオピア国内の問題。慢性的に電力不足に陥っているために、巨大ダムを作ることによって、そこで発電して国の電力を賄っていこうと考えている。
もう1つはエジプトの理由と同じだが、ダムを作ることによって安定した農業用水を確保しておこうと。7月8月が雨季シーズンになるが、それだけでなく1年を通して農業で使える水を作り出す、という考えがある。
「ルネサンスダム」というネーミングは、中世イタリアのルネサンスと語源は一緒で「再生」「復活」を意味している。エチオピアの再生・復活をかけて作られているダムだという意味が名前には込められていて、それだけエチオピア政府の力が入っているということがわかると思う。
建設自体は2011年に始まっていて、これまで建設が続けられてきているが、完成すればアフリカ最大のダム、世界でもトップ10に入ってくる規模になる。貯水量は740億立方メートルで、日本の琵琶湖の約2.7倍の量になる。面積は東京都と匹敵する程度になり、これを人工的に作ってしまおいうという巨大なプロジェクトになっている。
すでに一部で発電は始まっていて、発電機や電送網といったものは、近年アフリカで存在感を増している中国が支援している。
Q.そもそも水の利権はエチオピアにある?
これは歴史的な経緯があって、率直に言うと「何も決まっていない」というのが答えになる。下流のスーダンとエジプトに関しては、1950年代にイギリスの調停によって水をどう使うかということが協議され、合意している。
ただその上流、特にエチオピアからの水に関しては、これまできちんとしたルールができていなかった。エチオピアとエジプトで話し合おうということが続いてきた中で、ダム建設が強行されているという状況。
今焦点になっているのは、今年どのぐらい水が貯められるか、つまり下流のエジプトで水量が減ってしまうかということ。去年の1回目の貯水の実績で言うとだいたい49億立方メートル、全体の計画が740億立方メートルなのでまだその一部に留まる。
まだ直接的な被害、影響は伝わってきていない。ただ、エジプト政府としては、今後は貯められていく水の量を考えると、このまま放置して貯めさせるわけにはいかないということで、去年から強い抗議続けてきた。今回のエチオピア政府の発表に対しても、いち早く批判を強めている。
Q.両国の関係は今後どうなる?
お互いが言いたいことを言うだけの平行線がこれまで続いてきた。すでにアメリカやアフリカ連合といったところが入って調停が始まっているが、これもずっと長く行われていて議論は平行線、具体的な解決をみていない。(中略)
エジプトのシシ大統領は「もしこの問題が解決されなければエジプトの持っている力を行使していく」と発言している。これは直接的には言及していないものの、武力行使も辞さないという脅しをかけたというふうに捉えられている。一方のエチオピア政府も、売り言葉に買い言葉で「戦争の準備はできている」と強気の発言をしていて、一歩も引かない姿勢を示している。
エチオピアのアビー首相は2019年にノーベル平和賞をとってはいるが、国内で北部のティグレ州で民族対立が起きている問題で、今年に入って解決に向けて軍隊の派遣をすると威嚇発言をしている。ノーベル平和賞という額面通りの人物ではない。
これまでの段階で両国の話し合いは持たれてきたが、両者とも一歩も引かないというのが現状。ダムをある程度貯水するとして、どのぐらいのペースで進めるか、技術的なところでお互いの妥協点を見出すしかないが、その糸口はまったく見つかっていない。【2021年7月15日 ABEMA TIMES】
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上記記事にもあるように、貯水ペースが問題となりますが、“エチオピアのアビー首相は4月、ツイッターで「下流の国に損害を与える意図はない。昨年の大雨はダムの一時貯水を可能にし、ダムがスーダンの深刻な洪水を防いだことに疑いはない」と強調。「次の貯水も大雨が降る7~8月だけだ」と述べ、下流への影響を抑えながらの貯水の実施を改めて宣言した。”【2021年7月5日 朝日】とも。
水力発電で電力需要を満たしたいエチオピアと、ナイル川の水量減少を懸念するエジプトとスーダンの下流2カ国との間で、貯水期間や水量制限などに関する交渉が難航しています。
****ナイル川ダムめぐる周辺国の対立、背景には人口増加(エチオピア、エジプト、スーダン)****
急速な人口増加やデジタル化の進展など、アフリカの長期的な経済発展には世界の期待が集まる。その一方で、拡大する人口を養うに十分な食料の生産や、経済成長に伴い拡大する電力などのインフラ需要への対応が大きな課題だ。
ナイル川流域では、アフリカでも指折りの人口を抱え、経済成長も著しいエチオピア、エジプト、スーダンが1つの水源を共有し、争いの火種となっている。(中略)
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水資源活用権を訴えるエチオピア
エチオピアでは、人口の70%以上が年齢30歳未満で、就学中の児童・生徒は3,000万人以上だ。国連は、2032年にエチオピアの人口が1億5,000万人に達し、2049年には2億人を超えるとみている。
それに伴って、電力需要は、今後増大していくことが避けられない。さらに、2019/2020年度では1人当たりの消費電力154.74キロワット時(kWh)にとどまるも、増大する見込みだ。これに対して、グランド・ルネッサンス・ダムで備えていきたいというのがエチオピアの考えだ。このダムの設備容量は計画時で6,450メガワット(MW)に及ぶ。
また、同国では地下水源に目立ったものがないという事情もある。内陸国のため海洋淡水化も望めない。結果、利用可能な水源の約7割をナイル川(いわゆる青ナイル)の流域水系に頼るのが現状だ。また、現時点で約2,500万人がきれいな水を利用できない。国内では、将来の水資源確保に備え、国を挙げて植林プロジェクト「緑の遺産」(注2)を進めている。
このように、エチオピアにとってダムに対する期待は大きい。もっとも、その建設には遅れが発生。総工費は50億ドル規模に及んでいる。これにはダム建設国債などのかたちで国民が拠出する自国財源が充てられている。
エチオピアのダム問題への姿勢は「アフリカの問題はアフリカで解決する」というものだ。近年では、アフリカ連合(AU)議長国元首の仲介の下、下流国の水利用に支障がないようにダムを運用することが繰り返し明言された。
貯水そのものは、ダム建設の一環として2015年に当事3カ国で合意・署名した基本原則に示されていた。今回の貯水についても必要な情報を積極的に開示し、エジプトやスーダンの懸念払拭(ふっしょく)に努めていると主張する。
そもそも、グランド・ルネッサンス・ダムは、AUが採択した「アフリカ・インフラ開発プログラム(PIDA)」にも列挙され、このプログラム自体が地域統合と相互の発展を目的としたものだ。シレシ水・灌漑・エネルギー相は国連安保理で、スーダンにとってグランド・ルネッサンス・ダムはエジプトにとってのアスワンハイダムの役目を果たすと指摘。ダム建設がスーダンの干ばつや洪水被害を抑制すると、その利益を説いている。
エチオピアにとって、ダム建設は主権の問題で、国の威信をかけたプロジェクトでもある。シレシ大臣による国連安保理での「エチオピア国民にはナイル川を利用する権利があるのか否か」「同様にナイル川の水を飲むことが許されるのか否か」といった言葉がエチオピアの立場を端的に表している。水利権をめぐる問題は、当事国間の政治的意思と誠実な交渉と関与があれば、合意可能という立場だ。
エジプトとスーダンは交渉再開を要請
エジプトの人口は、2020年に1億人に達した。2050年には1億5,000万人まで増加すると予想される(2020年2月19日付ビジネス短信参照)。ナイル川からの農業・生活・工業用水の需要も増加する見込みだ。
エジプト政府は水資源確保のため、水田の作付け制限や、海水の淡水化プロジェクトにも取り組んでいる。これまでも人口増加に合わせて、食料確保のため灌漑農業の土地を広げてきた。
しかしエジプトは降雨が少なく、国土の約9割が砂漠で覆われている。水資源の約95%をナイル川に依存している。そのため、現在のナイル川の水量では将来的な水不足が懸念されている。その結果、国内では合意なく貯水を開始したエチオピアへの非難が強まった。
当事国間での合意を目指すエチオピア政府に対し、エジプト政府は、水制限交渉での米国やEU加盟国、アラブ連盟、AUなどに支援を求めてきた。(2021年)7月8日の安保理で、サーメハ・シュクリー外相は、エチオピアによる一方的な貯水は違法とし、貯水停止を要請。同時に、これまでと同様にAUの仲介で3カ国間の交渉を再開することを求めた。
スーダンのマリアム・サーディック・マハディ外相は、同ダムの役割は認めている。しかし、合意のない貯水は許されないとし、AUの仲介による交渉を求めている。
エチオピアが2年程度の短期間で貯水完了を計画していることに対し、スーダンは基幹産業であるナイル川流域での農業に必要な水量を確保すべく、2年以上の期間をかけて貯水するよう求めている。【2021年8月17日 JETRO】
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お互いに一歩も引かない状況ですが、エチオピア・アビー大統領としては、今回の発電正式開始セレモニーなどの「既成事実」を積み上げていくことで、状況を自国に有利に展開させていこうというところでしょう。