孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エチオピア  首都攻防の軍事衝突の様相 外国人は退避 現地住民は飢餓と虐殺の脅威に直面

2021-11-30 22:54:12 | アフリカ
(ティグレの兵士たち Photo: Finbarr O'Reilly / The New York Times【7月26日 クーリエ・ジャポン】

【反転攻勢のティグレ人勢力、首都に迫る アビー首相は全面対決の姿勢】
コロナ禍の中、国際的にも、日本国内でも、あまり大きな注目は集めていませんが、アフリカ東部エチオピアの内戦が危険な状況に近づいています。

エチオピアでは、長年権力を牛耳って権益を独占してきた少数民族のティグレ人を排除して、民族単位ではない国家を構築しようとアビー首相(ノーベル平和賞受賞者)が中央集権化を進め、それに反発したティグレ人が昨年11月に反乱。

その反乱を鎮圧する政府軍に加え、旧政権時代のティグレ人に遺恨がある隣国エリトリア軍も介入して、一時は政府軍が反乱を抑え込んだように見えましたが、今年6月頃から情勢は変化。ティグレ人側が反転攻勢をかけ、逆に首都アジスアベバに迫る勢いとなっています。

*****大虐殺と首都戦場化の危機にあるエチオピア*****
昨年11月初め、ティグレ州に対する政府軍による武力討伐が開始され、1カ月足らずで州都を含む大半の地域は制圧され、ティグレ人民解放戦線(TPLF)は山岳部に逃げ込んで抵抗を続けるも、アビィ首相による勝利宣言が出された。

他方、政府は同州全体に対する食料供給などを遮断し続け、また、非人道的な弾圧行為などが行われたことから米国やEUがエチオピアに対し経済制裁を課すような状況であった。
 
ところが、6月末に至り、TPLFが州都メケルを奪還、政府軍がティグレ州から撤退する事態が生じた。これは、スーダンとの国境紛争への対処やティグレ州全体を包囲するための戦略的撤退とも見られていたが、状況はここにきて更にTPLF側に劇的に有利に展開してきた。
 
反政府民族団体9派の同盟が成立し、TPLFは北から、オロモ族のオロモ解放軍(OLA)が南側から進軍し、TPLFは、首都まで250〜300㌔のところまで進出してきているという。OLAは11月初めに、首都アディスアベバが数カ月あるいは数週間以内に陥落する可能性があると述べた。
 
政府は、9派の同盟は宣伝行為に過ぎず、アビィ政権も強気の姿勢を崩していないが、11月2日には、全土に非常事態宣言を布告し、首都のティグレ人を拘束し始め、首都市民に地域ごとの自衛のための組織化を求めるなど、危機感は露わである。(後略)【11月23日 WEDGE】
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「首都陥落」の危機が迫る中で、政府軍の士気を鼓舞すべく、アビー首相は前線に立って指揮をとるとのこと。
政府軍とティグレ人勢力が首都攻防をかけて軍事的に衝突する可能性が更に高まっています。

****エチオピア紛争激化に懸念=ノーベル平和賞の首相、前線から指揮****
エチオピアで政府軍と反政府勢力の紛争が激化している。反政府勢力による首都アディスアベバ進攻が間近との情報も伝えられ、各国政府は相次いで在留自国民の国外脱出を勧告。

2019年に隣国エリトリアとの紛争終結などでノーベル平和賞を受賞したアビー首相は、戦闘指揮のため自ら前線に赴き、戦況の泥沼化とさらなる流血の事態に懸念が強まっている。(中略)

「首都陥落」の可能性が増す中、各国は相次いで自国民の退避を呼び掛け、国連は無条件かつ即時の停戦を要求。米政府も「軍事的解決はない」と双方に自制を訴えているが、反政府勢力は首都に向け進撃を続けているもよう。

政府側も、アビー首相が「国を救う最終段階にある」として自ら前線に赴き、国民にも「殉職」を求めるなど、捨て身の覚悟で反撃を試みる構えだ。【11月26日 時事】 
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【ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜か??】
一時は鎮圧されたかに見えたティグレ人勢力が何故急に反転攻勢にでられたのか? その武器・弾薬・資金はどこからきているのか?

下記記事は“ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜を図っている可能性”も指摘しています。

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同(11月)5日には、米国は自国民にエチオピアからの退去勧告を発出し、国連では、中国、ロシアも加わって停戦と休戦交渉を求める安保理のプレス発表が行われた。中国としても自らが支援するアビィ政権の状況が深刻であるが故に、内政問題であるので安保理は関与すべきでないといった原則論を引っ込めている。
 
アビィ政権は、米国やEUから人権侵害の停止や停戦するよう圧力を受ける一方、国連では、ロシア、中国の支持を得て、イラン、トルコ、中国などからは無人機などの兵器の供給、資金面ではサウジアラビアやアラブ首長国連邦の支援を得ている。

軍事面で有利であるはずのアビィ政府軍がなぜにこのように劣勢となってしまうのか一つの疑問である。
 
アビィ政権は先の総選挙で圧勝し、国民の支持も得たとは言え、ティグレ州は除外され、オロモ族系政党は選挙をボイコットし、事前に有力な政敵を排除するなど、完全に公正で民主的な選挙とは言い難い面もあった。

また、ナイル巨大ダムで対立するスーダンやエジプトが反乱側に何らかの便宜を図っている可能性もあろう。
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スーダンやエジプトの反乱勢力支援の件、真相はわかりませんが、そういう話なら腑に落ちる感も。

なお、ナイル巨大ダムとは、下流国エジプトの反対を押し切る形でアビー首相が国運をかける課勝で建設を進めている大エチオピアルネッサンスダムのことです。

****エチオピアが今年もナイル川のダムに貯水****
7月20日付のロイター通信によれば、エチオピア政府は、国営放送を通じ、青ナイル川に建設中の「大エチオピアルネッサンスダム(the Grand Ethiopian Renaissance Dam: GERD)」への2年目の貯水がほぼ完了し、数ヶ月後には発電を開始する予定だと発表した。

GERDは、2011年に建設が開始され、完成すれば総発電量6000メガワットというアフリカ最大規模のダムとなる。一年目の貯水は昨年の7月から9月までに行われ、ことしは2年目となる。貯水はダムの水面が海抜640メートルの位置に至る2024年まで続けられる計画となっている。

エチオピア政府は、ダムは自国の経済開発に不可欠であると主張するものの、エジプトとスーダンはダム建設により下流に水不足が発生するおそれがあるとして、建設開始当時から反対し続けてきた。

エジプトとスーダンは、国連安全保障理事会を仲介役として、エチオピアに対し、法的拘束力のある合意を締結するように呼びかけてきた。しかし、エチオピアは、ダム建設が下流の水量に影響することはないと主張し、話し合いに応じていない。

7月19日付のAlJazeeraによれば、エチオピア国内では、ダム建設を歴史的な偉業とたたえ、国債の購入をとおしてダムを財政的に支援しようとする人もいる。

一方、エジプトとスーダンは、エチオピアの動きに強い警戒感を示している。GERDをめぐる3つの国の利害対立は解決の糸口が見つかりにくい問題となっている。【7月20日 現代アフリカ地域研究センター】
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“エジプトのアブドルファタハ・シシ大統領は(7月)4月、「我々の水に手を出せば、あらゆる手段を模索することになる」と軍事行動を辞さない構えを示した。”【7月7日 読売】

エジプトが反乱勢力を支援しても“不思議ではない”状況ではあります。真相は知りません。

【各国は自国民の出国退避を進める 日本も】
首都攻防が近づくなかで、米英仏など各国及び国連は自国民・職員家族の退避出国を進めています。

****米、退避支援にらみ特殊部隊や艦船が出動態勢 エチオピア情勢****
政府軍と反政府勢力との軍事衝突が続くアフリカ東部のエチオピア情勢を受け、米軍が隣国ジブチに陸軍のレンジャー部隊を待機させ、状況がさらに悪化した場合、エチオピアの米大使館を支援する特殊作戦を準備していることが25日までにわかった。(中略)

米国防総省当局者は入念な事前対策として、中東地域にいる海軍艦艇3隻が米国民らの退避作業を助ける出動態勢にあるとも指摘。ただ、米国務省当局者は、アフガニスタンで実施したような米軍が主導する大規模な避難作戦に踏み切る計画はないとも述べた。

同省高官は、エチオピア内の空港業務が広範に運用されている現状を受け、出国を望む米国民は利用出来る民間航空便を使って即座に離れるべきだとも語った。

エチオピアでの退避作業計画などを直接知り得る立場にある米国防総省当局者はCNNの取材に、中東内には現在、「ポートランド」などの水陸両用船舶3隻が展開しており、出動命令に応じられる状態にある。大がかりな救出作戦は予期していないとしながらも、少人数であれ空港にたどり着けず、出国が阻まれる事態への懸念が強まっているともした。

国務省は今月初旬、アディスアベバの米大使館で緊急でない業務に従事する政府職員やその家族に退去命令を出していた。同国内の軍事衝突、市民生活の維持への危惧や必需品などの補給不足が生じる可能性に言及していた。また、エチオピエアへの渡航中止なども警告していた。【11月25日 CNN】
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アフガニスタンからの退避“失敗”を経験したばかりですから、余計に神経を使っているのでしょう。

日本政府も法人の出国を呼び掛けています。

****紛争激化のエチオピアに邦人40人滞在、政府が早期出国呼びかけ****
松野官房長官は29日の記者会見で、紛争が激化するエチオピアに、26日時点で約40人の邦人(大使館員を除く)が滞在していることを明らかにした。政府は早期の出国を呼びかけている。被害の情報は今のところ確認されていない。

松野博一官房長官 政府は邦人退避に備え、26日に外務、防衛両省からなる調査チームを隣国のジブチに派遣し、情報収集にあたっている。松野氏は「緊張感を持って邦人の安全確保に万全を期していく」と述べた。【11月29日 読売】
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幸い(と言っていいかわかりませんが)、自衛隊は隣国ジブチにソマリア沖・アデン湾における海賊被害に対応するため、2011年7月に開所された拠点を持っていますので、その点では動きやすいかも。

この自衛隊初の海外拠点は恒久化されていますが、「海賊の成敗は飽くまで名目上の目的であり、実際の目的は海洋進出を目論む中華人民共和国の牽制とシーレーンの防衛である」との指摘もあります。

何かと問題の多い中東・アフリカ対策としては有効な拠点となりうるものですが、こういう海外拠点を持つことに関して国内議論がなされているようにはあまり見えません。

【現地住民に迫る飢餓と虐殺の脅威】
いずれにしても、外国人は出国退避すればすみますが、現地住民は戦乱の中に取り残され、食慮供給も断たれ、飢餓の脅威にもさらされています。

特に、今回の紛争は民族対立の側面が強いので、兵士だけでなく民間人にも虐殺の脅威が及びます。

****戦闘激化のエチオピアで940万人が食糧難に…ヘイト横行、専門家「民族虐殺のリスク高い」****
世界食糧計画(WFP)は、エチオピアで政府軍とティグレ人勢力の戦闘が激化する北部ティグレ州とアムハラ州を中心に、推計940万人が深刻な食糧難に陥っていると発表した。

国連の専門家は、特定民族対象のヘイトスピーチ(憎悪表現)が横行し、「民族虐殺のリスクが高まっている」とも警告している。
 
WFPの26日付の発表によると、ティグレ人勢力が首都アディスアベバに向けて南進し、戦闘地域が広範囲に拡大したことで人道危機はさらに深刻化した。政府軍が各地の道路を封鎖した影響で支援の多くは滞り、両州で調査した乳児を持つ母親と妊婦の半数が栄養不足だったとも報告した。
 
一方、エチオピア政府は25日の声明で、「表現の自由の名を借りてテロリストを支援する者にはしかるべき措置をとる」と警告し、戦闘や戦況に関する自由な報道を禁止した。

政府軍の劣勢が伝えられる中、士気を保つ狙いがあるとみられる。国営放送は連日、アビー・アハメド首相が軍を指揮したとされる地域周辺での政府軍の攻勢のニュースを大々的に伝えている。
 
ロイター通信は、陸上男子1万メートルでアトランタ、シドニーの両五輪で金メダルを獲得し、「皇帝」の呼び名で知られたハイレ・ゲブレシラシエ氏が政府軍に志願したと伝えた。

国連は、人道危機の回避のために繰り返し停戦を呼びかけるが、戦時体制を整えるエチオピア政府とティグレ人勢力が現段階で交渉に応じる可能性は小さいとみられている。【11月29日 読売】
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エチオピアはこれまでも飢餓に苦しめられてきた国ですが、再び飢餓と虐殺の脅威が迫っています。

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韓国  下火になったとも言われる「ノージャパン運動」 反日と日本好きの二極化も

2021-11-29 22:49:18 | 東アジア
(ソウル近郊にある日本の江戸時代を再現した日本テーマパーク「にじもりスタジオ」【11月20日 テレ朝NEWS】)

【ノージャパン運動は下火になってきた・・・のか?】
いわゆる徴用工判決や慰安婦合意破棄などで関係が極度に悪化している日韓関係については、2019年7月、半導体素材3品目に対する日本政府の対韓輸出規制強化をきっかけに韓国で「ノージャパン運動」(日本製品不買運動)が展開され、すでに2年以上続いています。

この影響で韓国市場から撤退していく日本企業がいくつも出ましたが、最近、韓国内では「ノージャパン運動は下火になってきた」という声も聞こえるようになっています。

****「日本製品不買」じゃなかったの? 韓国で日本車の売上急増…それでも文在寅が“反日にしがみつく”ワケ****
いま、韓国国会で進行している国政監査(政府の政策や予算の執行状況など、行政全般を監視する韓国国会独自の制度)で、日本車をめぐる報告に一部の国会議員が怒りを露わにしている。昨年、韓国の在外公館が購入した外国車の3分の1が日本車だったことが判明したのだ。

与党「共に民主党」の金炅俠(キム・ギョンヒョプ)議員が国政監査で発表した内容によると、韓国の在外公館が購入した外国車は、2019年は14台、2020年は15台で横ばいだったが、19年に14.3%だった日本車の割合が、20年は33.3%に倍増していた。

これを受け、金議員は「国民感情に合う行政ではない」と、日本の外務省に相当する外交通商部の公務員を叱責した。(中略)

2019年からはじまった「ノージャパン」運動
韓国最高裁判所が日本企業に対して賠償金支払いを命じた、いわゆる徴用工判決や慰安婦合意破棄などで日韓関係が冷却するなか、2019年7月、安倍内閣は韓国向け先端素材の輸出管理強化に踏み切った。

韓国政府はこれに強く反発し、文在寅大統領は同年8月2日、青瓦台(韓国大統領府)で開かれた国務会議で「われわれは二度と日本に負けない」と述べ、日本政府に対抗する姿勢を公式化した。
 
そして、韓国政府と与党「共に民主党」を中心に、日本製品を買わない、使わない、日本に行かないという「ノージャパン」運動が広がった。 韓国国民は日本旅行やユニクロなどの日本製品の購入を忌避し、大手スーパーの店頭からは日本製ビールが消えた。 

日本車を破壊する韓国国民(2019年) ©共同通信社 当時、韓国メディアは連日のように不買運動を報道し、日本製品の購入を“売国的な犯罪行為”であるかのように扇動するなど、韓国内の「ノージャパン」は異様な盛り上がりを見せていた。 
 
その運動の中で、日本車も当然のように打撃を受けた。(中略)

日産自動車は韓国市場から撤退
結果的に、日本車の販売台数も激減した。(中略)20年の日本車の販売台数は計2万564台で、19年の3万6661台と比べて44%も減っていた。
 
昨年12月には、日産自動車が韓国市場から撤退し、今年に入ってホンダコリアも自動車展示場1カ所とサービスセンター2カ所を閉鎖。年末にもサービスセンター1カ所を閉鎖する予定とのことで、これは撤退の兆しとも言われている。
 
文在寅政権にとって「ノージャパン」は、表向きは日本の措置への対抗だったが、約50%の支持率を維持するためにも恰好の材料だった。

ただそれは、日本製品の購入や日本旅行を望む国民の権利を奪い、さらには日系企業はもちろん、日本関連のビジネスに従事していた韓国国民の仕事を犠牲にした上での運動だった。

日本車の売上が回復している
しかし、「ノージャパン」は、新型コロナウイルスが全世界に拡散した2020年、急激に縮小した。

大型マートの陳列台にはキリンとサントリーのビールが再び並び、10月15日にはソウル市松坡区にあるロッテワールドモールのユニクロ売り場に、日本発のアウトドアブランド「ホワイトマウンテニアリング」とユニクロのコラボ商品を目当てに、約100人が開店前から長蛇の列を作って話題になった。 
 
一時は売上が激減した日本車もまた、回復に向かっている。(中略)今年1月から9月までの(ホンダコリアの)累積販売台数は3045台で、前年同期と比べて47.3%も増えている。他の日本車ブランドも販売台数が伸びている。(中略)

今ではもう、繁華街でレクサスを壊されたり、日本車に乗っているという理由から車線変更を妨害されたりする心配もなく、日本車を購入できるようになった。さらには在外公館の職員も、日本車を愛用している。ここにきて、「ノージャパン」は説得力を失ったとみていいだろう。

それでも“反日”を打ち出す理由
それでも、在外公館が日本車を購入していることに対し、与党議員が「国民感情に合う行政ではない」と怒ったのはなぜなのか。

(中略)再び「反日」の姿勢を強く打ち出すことが、低迷した支持率を回復させる“一発逆転”のカードに見えたのだろう。(後略)【10月28日 ノ・ミンハ氏 文春オンライン】
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【企業レベルでは、日本との経済協力「必要」92.6%】
企業レベルで見ると、韓国企業の日本に対する見方は、「ノージャパン運動」とか、いわゆる「反日」的な動きとはかなり異なるものがあるようです。

****日本との経済協力「必要」92.6% 関係改善には悲観的見通し=韓国****
韓国の大韓商工会議所が11〜15日、国内の輸出入企業202社を対象に日本との経済協力の必要性に関する世論調査を実施した結果、回答企業の92.6%が「必要」とし、「必要性を感じない」との答えは7.4%にすぎなかった。

両国の関係改善の見通しについては、「現在の困難が続くと思う」(80.7%)と「もっと悪くなると思う」(6.4%)との悲観的な回答が大半を占めた。「徐々によくなると思う」との楽観的な見通しは12.9%にすぎなかった。

 
両国の協力を妨げる最も大きな障害に関しては「歴史問題」との回答が42.1%で最多だった。次いで、「新型コロナウイルスの再拡大など対外環境の悪化」(15.3%)、「輸出規制など両国の貿易摩擦」(12.9%)、「相互けん制・競争意識の高まり」(10.4%)、「両国国民意識の悪化」(9.9%)などだった。

企業の問題解消のための政策支援課題としては、「外交正常化」と「物流支援」(それぞれ25.5%)、「協力課題発掘」(12.3%)、「民間交流の活性化支援」(11%)などと続いた。

大韓商工会議所のカン・ソクグ国際通商本部長は「外交対立と新型コロナで二重苦に見舞われている両国の企業は今後、世界の供給網(サプライチェーン)再編にも対応しなければならない難題に直面している」として、「民間経済界から韓日協力の基盤を修復し、協力課題を発掘して交流するよう努力する必要がある」と述べた。【11月29日 聯合ニュース】
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【国民レベル 反日と日本好きの二極化】
では、国民個人レベルではどうか・・・もちろん、「ノージャパン運動」を強く支持する「反日」的傾向は、一定割合の韓国国民に見られるでしょうが、日本の「嫌韓」論がイメージするほど「反日」一色という訳でもないようです。

*****反日と日本好きの二極化が進む韓国****
<コロナ禍が続く韓国で若者を中心に日本ブームが広がるなか、日本でも韓国旅行の再開を心待ちにする人向けのイベントも実施されている>

韓国の若者の間で人気となっている観光地がある。今年9月、ソウルから車で1時間半の距離にある京畿道東豆川(トンドチョン)にオープンした日本テーマパーク「にじもりスタジオ」だ。
11月1日、韓国政府がウィズコロナを宣言し、規制を段階的に緩和する方針を発表すると、日本料理店を訪れる人たちが増え始めた。

また、韓国航空各社は日本上空を飛行する「無着陸観光飛行」を運行し、訪日観光の再開を待つ人たちが空から日本を楽しんでいる。

コロナ禍が続く韓国で若者を中心に日本ブームが広がるなか、日本でも韓国旅行の再開を心待ちにする人向けのイベントが実施された。

日本テーマパーク「にじもりスタジオ」
「にじもりスタジオ」はドラマの撮影場として作られた。2003年に放映されたドラマ『大長今(日本名;宮廷女官チャングムの誓い)』が人気を得ると歴史ドラマが相次いで作られた。日本で撮影が行われたドラマもあるが、出演者やスタッフの移動費など制作会社の負担が大きかった。そこで、演出家が主導して日本の江戸時代を再現した撮影場が在韓米軍訓練場の跡地に作られた。

撮影場は、Netflixの『犯人はお前だ!』やドラマ『ペントハウス』、『九尾狐伝』などのほか、歌手のミュージックビデオなどでも使われたが、ノージャパンと続くコロナ禍で使用される機会が少なくなったことから大幅な補修工事を行なって、新たに開業したのが日本テーマパーク「にじもりスタジオ」だ。

スタジオ内には日本料理店や旅館があり、着物や浴衣のレンタルも利用できる。
運営会社は反日感情を懸念して広告宣伝などを行わず、また、写真を見る限り日本の街並みとは異なる和韓折衷のテーマパークだが、日本を体験できるという評判がSNSで広まった。

韓国政府がウイズコロナに伴って観光制限を緩和したことも相まって、多くの若者で賑わっている。

日本の上空を旋回する無着陸観光飛行
(中略)日本政府の入国規制緩和と韓国政府のウイズ・コロナ宣言で、観光往来の再開を待ちきれない人たちが空の旅を楽しんでいる。

アシアナ航空は往来再開の目処が経っていない8月と9月に、金浦空港を出発し、日本の上空を飛行して済州島に到着する国内線を運行し、続いて仁川や釜山の空港を出発して対馬などの上空を飛行した後、出発地に戻る無着陸観光便を運行した。

格安航空会社LCCのエアソウルは、鳥取県と香川県の上空を飛行して出発地に戻る便を運行し、利用者には訪日観光再開後に利用できる香川県と鳥取県の無料宿泊券や特産品などが贈呈された。平均搭乗率が95%に達したという。

ティーウエイ航空も10月から金浦、仁川、大邱を出発して佐賀県などを上空から見たあと出発地に戻る「無着陸観光飛行」を開始した。10月30日には利用者に佐賀県が用意した記念品がプレゼントされ、2022年まで使用可能な割引クーポンや佐賀県の特産品を抽選でプレゼントするSNSのイベントも実施した。

「無着陸観光飛行」の利用者は上空からでも日本を見たいという人たちばかりではない。日本の上空を旋回する無着陸観光飛行は国際線として運行されることからパスポートが必要だが、空港や市内の免税店を利用できる。(中略)

反日と日本好きの二極化が進む
日本にも韓国旅行の再開を待ち切れない人たちがいる。韓国観光公社が11月14日、東京・品川区の会議場で、アシアナ航空の機内食を体験するイベントを実施した。機内食を食べるだけという約1時間のイベントだったが、100人の募集に対して2000人近い応募があったという。

参加者たちが搭乗券を使って入場し、機内と同じように並べられた座席に着くと、客室乗務員がカートを押しながらビビンバやコチュジャン、韓国のりなどの機内食を提供した。

ニュースを見た韓国人は「自分は日本旅行の禁断症状が出ている」「韓国人と日本人は互いの文化が大好きなのに、政界が紛乱をあおっている」「互いの文化を理解し合えるのは良いことだ」「文政権の5年間の反日扇動で得たものは何だったのか」などと投稿した。

いまだノージャパンを叫ぶ人たちがいる一方で、若者たちは日本料理店や日本テーマパークで日本擬似体験を楽しんでおり、反日と日本好きの二極化が進んでいる。【11月29日 佐々木和義氏 Newsweek】
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あの「反日」の強い韓国で日本テーマパークを営業して大丈夫なのか?と他人事ながら心配にもなりますが、盛況のようです。

「にじもりスタジオ」のような日本街テーマパークは中国にも多くありますが、やはり「反日」が無視できない国柄ですから、中国・大連のそうした施設は営業停止状態にあります。

そうした中国から韓国「にじもりスタジオ」を見ると・・・

****韓国にもある「日本風情街」、中国人の反応「我が国の日本風情街のほうが立派だ!」****
中国の大連市にオープンした「日本風情街」は、批判の声が殺到したこともあってほどなく営業停止となった。それだけ中国では反日感情が強いと言えるが、同じころに韓国にも「日本風情街」がオープンしていた。中国メディアの騰訊はこのほど、韓国の「日本風情街」について紹介する記事を掲載した。

記事の中国人筆者が紹介したのは。韓国のソウル近郊・東豆川市にある「にじもりスタジオ」だ。ドラマ撮影のセットを活用した施設で、江戸時代の日本を再現しており、飲食店や土産物店、さらには旅館まであるという。

写真を見ると、施設内には鳥居があって石畳の道路の両側には日本の温泉街のような街並みが続いているのが分かる。記事によると、入場料は日本円にして約2000円で、多くの若者が訪れているという。

見たところよくできていると言えそうだが、中国人筆者は「大連の日本風情街の方が立派な感じがする」と主張した。「やっぱり大連の日本風情街は最高だ」としている。しかし、残念ながら大連の日本風情街は営業再開の見込みはまだないようだ。

そのうえで中国人筆者は、現在の日中関係はそれほど良いとは言えないものの、文化交流を続けることは必要だと主張した。中国では「日本による文化侵略だ」などの批判の声が多いものの、中国は日本と文化交流することを恐れる必要はないとしている。むしろ心を大きくして、もっと日本から多くを学ぶべきだと主張した。

韓国も反日感情が強いと言われているが、韓国版の「日本風情街」は好評を博していて中国のように営業停止に追い込まれるとの動きは今のところないようだ。

中国人筆者としては、大連の日本風情街の再開を心待ちにしているようであり、そのような中国人も少なくないのかもしれない。【11月29日 Searchina】
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【韓国で「反日」超えた「嫌中」との調査結果も 何とも微妙な日中韓の関係】
中国が出てきたついでに言えば、韓国と中国の間には、日韓の反目以上に強い嫌悪感があるとの調査もあるようです。

****韓国で「反日」超えた「嫌中」 中国映画の配給中止も****
韓国では、朝鮮戦争での中国人民志願軍の活躍を美化した中国映画への拒否感が強い。9月には、中国兵の活躍を描いた「長津湖」と同種の中国映画が市民団体などの強い反発に遭って配給中止に追い込まれた。

韓国で物議を醸したのは、1953年の中国側と米軍などとの激戦を描いた「1953金城(クムソン)大戦闘」(原題「金剛川」、邦題「バトル・オブ・ザ・リバー 金剛川決戦」)。

韓国での上映を前に、予備役軍人の団体などが「中国や北朝鮮の視点から描いた政治宣伝物だ」と上映許可の取り消しを要求。映画輸入会社が契約撤回を表明し、国民に謝罪した。

中国で韓流ドラマや韓国人歌手が人気を集めた裏で、キムチやチマ・チョゴリといった韓国文化に関し「中国発祥」とする見方が横行していることへの韓国側の不満も高まっている。

昨年10月には、世界的人気の韓国男性グループ「BTS(防弾少年団)」が朝鮮戦争での米韓の連帯に触れた発言を中国のネットユーザーが攻撃し、韓国人ファンの強い反感を買った。

最近発表された日韓共同での世論調査によると、韓国で中国への印象が良くないとの回答は前年より15%近く上昇して約74%に上り、日本への否定的印象(約63%)を上回った。

一方、北朝鮮は「最近、中国で朝中が米国の侵略に打ち勝った戦争の映画が多く作られ、大人気となっている」と外務省ホームページで好意的に伝えている。【11月26日 産経】
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韓国における「反日」と「嫌中」を単に数字だけで同じレベルで考えていいのかは考慮する必要はあろうかと思いますが、いずれにしても何とも微妙な日本、韓国そして中国の関係です。
まるで愛憎がもつれあう男女関係みたい。
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スウェーデン  移民・難民増加で変わる意識 極右政党の台頭 「寛容さの限界」

2021-11-28 23:26:33 | 難民・移民
(首都ストックホルム郊外のフレンにある受け入れ施設【11月25日 Newsweek】

【初の女性首相 選出から数時間後に辞任 背景に極右政党の台頭】
北欧スウェーデンで、同国初の女性首相が誕生したものの、政府予算案が議会で否決されたことを受けて、連立が崩壊し、首相選出からわずか数時間で首相を辞任するという「珍事」とも言えるような混乱が起きました。

****スウェーデン次期首相が辞任 選出から数時間後****
スウェーデン議会により次期首相に選出された社会民主労働党のマグダレナ・アンデション党首は24日、予算案の否決と緑の党の連立政権離脱を受け、選出からわずか数時間後に辞任した。
 
アンデション氏は記者会見で、「連立政権は、政党が離脱した場合には辞任するという憲法上の慣例がある」と説明。「正統性が疑問視されるような政府を率いる意思はない」と述べ、社会民主労働党のみの少数与党政権を率いる次期首相に後日改めて選出されることを望むと述べた。
 
アンデション氏は、年金支給額の引き上げに応じることで左翼党の支持を取り付け、女性で初めて同国の次期首相に選出された。

しかし、少数政党の中央党は、左翼党への譲歩に反発してアンデション氏の予算案への支持を撤回。議会は、保守の穏健党とキリスト教民主党、極右のスウェーデン民主党の野党3党が提出した代替予算案を可決した。
 
緑の党のペール・ボルンド党首は、「極右と共同で起草された初の歴史的予算案」は受け入れられないとし、連立解消を表明。これが決定打となり、アンデション氏は辞任に追い込まれた。 【11月25日 AFP】
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さして長くない記事の中に、多数の政党名が入り乱れることで、スウェーデン政治に馴染みがない私にはわかりにくい記事ですが、先ずアンデション党首の社会民主労働党はスウェーデン政治を牽引してきた老舗の中道左派政党です。

政府予算案が否決され、野党提出予算案が可決されたことに、連立与党の緑の党が激しく反発したのは、野党案が極右のスウェーデン民主党が加わる形で起草されていたため。

“社会民主労働党は議会第1党だが、過半数の議席を保有しておらず、同国では不安定な政権運営が続いている。ただ、緑の党などはアンデション氏の首相就任への支持を維持しており、同氏が再び首相に選出される可能性もある。”【11月25日 産経】とは言うものの、これだけ多くの党がが入り乱れるような複雑な政治状況にあっては、辞任したアンデション氏率いる社会民主労働党が緑の党を欠いた少数与党で政権運営するのは極めて困難とも思われます。

緑の党が激しく反発するスウェーデン民主党は右翼政党ですが、しばしば「極右」とも表記される政党です。

****スウェーデン民主党*****
スウェーデン民主党(SD)は、1988年に設立されたスウェーデンの右翼政党である。同党は自身を国家主義を根底に持つ社会保守主義者であるとしている。 同党は、外部から、右翼、右翼ポピュリスト、国家保守、反移民と見なされている。(中略)

同党はスウェーデンのファシズムに根ざしており、起源は1990年代初頭の白人至上主義運動であった。(中略)

 現在、スウェーデン民主党は正式にファシズムとナチズムの両方を拒否している。(中略)

2010年現在、党首はイィミー・オーケソン(31歳)である。オーケソンは年金の受給に訪れたスウェーデン人の老女をイスラム系移民の女性が押しのける映像を政見放送で流し、高齢者、若者層に支持を広げた。また、「税金を納めない移民のただ乗りを認めれば社会福祉制度は崩壊する」と訴えている。

2010年総選挙で初めて国政に進出。以降、2014年総選挙(英語版)では49議席、2018年総選挙(英語版)では63議席と着実に勢力を伸ばしている。【ウィキペディア】
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上記説明でわかるように、反移民・反イスラムの排外主義的傾向の強い政党ですが、近年急速にその勢力を強めています。

【移民増加で変わるスウェーデン社会 「寛容さの限界」】
この極右スウェーデン民主党の台頭の背景には、スウェーデンに置ける移民の増加、それに伴う社会的摩擦の拡大、国民の不満の増大があります。

後出記事のようにスウェーデン社会の治安は悪化していますが、3月にはアフガニスタン出身者による刺殺事件もありました。

****スウェーデン刺傷事件、容疑者は22歳のアフガン人 報道****
スウェーデン南部で7人が刺され負傷した襲撃事件で、現地メディアは4日、容疑者は2018年に同国入りした22歳のアフガニスタン人と報じた。
 
事件は3日午後、人口1万3000人のベトランダで発生。警察はテロ容疑で捜査を進めている。負傷者数は当初8人とされていたが、4日朝の警察発表で7人に訂正された。
 
容疑者の男は警察に脚を撃たれ、病院に搬送された。警察はAFPの取材に対し、容疑者は「鋭器」を使用したと説明。現地メディアは男が刃物を所持していたと伝えている。
 
警察は当初、「殺人未遂」事件としていたが、後に「テロの動機に基づく犯罪の可能性」もあると発表。これ以上の詳細は明かされていない。
 
警察は容疑者の国籍には言及していないが、複数のメディアが、アフガニスタン出身で2018年にスウェーデンに入国したと報じている。
 
負傷者が治療を受けている病院があるヨンシェピングの保健当局によると、うち3人は命にかかわる傷を負っており、別の2人も深刻な容体となっている。 【3月4日】AFPBB News
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移民・難民の増加、それに伴う社会的摩擦の拡大は、移民・難民に対し寛容だったスウェーデン社会を変容させています。

****多数の難民を受け入れたスウェーデンがいま、痛感している「寛容さの限界」****
<人道的見地から難民・移民を受け入れてきたスウェーデン社会が、財政負担と治安の悪化で右傾化へ舵を切る>

スウェーデンの与党・社会民主労働党は先日、マグダレナ・アンデション財務相を新党首に選出した。長く首相を務めてきたステファン・ロベーンは近く退任する意向で、アンデションはスウェーデン初の女性首相となる見通しだ。 

その彼女が新党首として初めて行った演説は新自由主義に対する福祉国家スウェーデンの勝利を祝う言葉で始まった。 ──と、ここまではお約束どおりだが、筋金入りの党員を驚かせたのは次の言葉だ。

アンデションは国内の200万人強の難民・移民に直接呼び掛けた。「あなた方が若いなら、高校卒業資格を得て就職するか、進学しなさい」 さらに、国から経済的支援を受けている人は「スウェーデン語を学んで週何時間かでも働いて」と訴え、こう続けた。「この国では男女共に働いて社会に貢献している」 

2015年、国民はシリア、イラク、アフガニスタンなどの難民16万3000人を受け入れるという自国の決定を大いに誇りに思った。「私の知るヨーロッパは難民を受け入れる」と、当時ロベーンは語った。「私のヨーロッパは国境に壁を建てない」 

今のスウェーデンには、こんな演説をする政治家はまずいない。当時は保守政党・スウェーデン民主党の極右分子だけが唱えていた排外主義的な主張を、今では与党も唱えている。 

■「地球上で最も寛容な国家の死」
(中略)かつてのスウェーデンは戦火や専制支配から逃れてきた人々を大量に受け入れた。ドイツのように過去の罪を償うためではない。人類共通の道義的責務を果たすためだ。 

改めて指摘するまでもなく、15年当時の現実のヨーロッパは国境に見えない壁を建てた。そして、ドイツやスウェーデンに、当時私が「共有されない理想主義」と呼んだもののツケを押し付けた。 

筋金入りの社会民主主義者たちは、読み書きが満足にできないアフガニスタンの子供たちや宗教に凝り固まったシリア人を受け入れる自国の懐の深さを誇りに思うばかりか、過大評価していた。「強い国は(国外の問題にも)対処する」と、当時スウェーデン左翼党の党首は胸を張っていた。

もはや難民を歓迎する国ではない
その後スウェーデン人は学んだ。最も慈悲深い国でさえ、人助けには限度があることを。

ここ数年、この国は犯罪の急増に頭を抱えている。スウェーデン国家犯罪防止評議会の報告書によれば、この国では過去20年で銃による殺傷事件の発生率がヨーロッパ最低レベルから最高レベルに増え、今ではイタリアや東ヨーロッパ諸国より高くなっている。 

北アフリカからの移民2世が中心メンバーのギャング団が密輸などで手広く稼ぐようにもなった。 今や犯罪対策がスウェーデン政府の最重要課題だ。

アンデションは演説で移民政策に触れる前に、ロベーン政権の成果として警察官の増員や刑務所の増設、刑法改正の草案作りなど治安強化を挙げた。 

教育レベルや所得などあらゆる指標で、新参者が一般の国民に後れを取っているのは無理からぬことだが、驚くのは両者の差の大きさだ。 

クルド系経済学者のティノ・サナンダジは著書で、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」だと指摘している。さらに「スウェーデンの子供の貧困の77%は外国にルーツを持つ世帯に起因し、公共の場での銃撃事件の容疑者の90%は移民系」だという。 

こうした数字は今ではよく知られている。スウェーデンで15年に行われた世論調査では移民の増加を歓迎する人が58%に上ったが、今は40%だ。 

スウェーデンはもはや難民を歓迎する国ではなく、そのように思われることも望んでいない。

16年6月には長年の方針を転換して、難民の恒久的な庇護を停止。EUのルールに基づき13カ月または3年の一時滞在許可が与えられることになった。 

これは15年秋に国内の受け入れ施設が物理的に足りなくなったことを受けた時限立法だったが、適用期間が延長されている。20年に受け入れた難民は、過去30年で最も少ない1万3000人だった。 

スウェーデンの移民庁の高官は最近の論文で、難民の受け入れに冷ややかなノルウェーとデンマークが「難民や国際的な移民にどう対処するべきかという好例と見なされるようになった」と書いている。 

右傾化しているのは、中道左派の社会民主労働党だけではない。中道右派の穏健党は、移民問題では保守のスウェーデン民主党と歩調を合わせている。(中略)

かつての「過激」が主流に
6年前に話を聞いたとき、(穏健派の外交官で元政府高官の)ヤンセはスウェーデン民主党にあまり好意的ではなかった。同党の支持率は20%前後で推移している。中道の諸政党が移民問題に関してスウェーデン民主党の主張を取り入れていなければ、この数字はほぼ確実に伸びていただろう。 

「2015年には過激とされていたものが、今は主流になっている」と、ヤンセは言う。 古い理想の放棄は、スウェーデンの進歩派を深く失望させている。

ストックホルムのシンクタンク、アレーナ・イデーのリサ・ペリング研究主任は、大規模な難民の流れを食い止めるために「何かをする必要があった」ことは認めるが(15年に話を聞いたときは認めていなかった)、落ち着いた後は規制を撤回するべきだったと考えている。

とはいえ、スウェーデン人の寛容さも限界かもしれない。16年度は難民のために、国家予算の5%以上に当たる60億ドルを費やしている。 (中略)

もちろん、スウェーデンは今も非常に豊かで、それなりに平等主義的で、とても安全な国だ。しかし、この20年で、いにしえから続いてきた同質の文化が、事前の意思表示も公の議論もなしに、驚異的な規模で人口動態の変化にさらされた。 

アメリカは1924年に外国生まれの市民が人口の約15%に達した時点で、移民に対して事実上、門を閉ざした。スウェーデンでは現在、移民が全人口の20%を占め、労働移住や家族の呼び寄せで年間約10万人(人口の約1%)のペースで増え続けている。 

彼らの大多数は、スウェーデンと全く異なる社会──より教育水準が低く、より世俗的ではない社会──から来た。

こうした変化に対し、スウェーデンは「死」を選ばず、生き残るために大切な価値観を変えたのだ。 

EUは15年夏の終わりから100万人以上の移民・難民が押し寄せたことを受けて、16年にトルコと合意を締結。トルコが移民の欧州流入を抑制する代わりに、EUがトルコに資金援助をすることなどを取り決めた。これは根本的な人道的危機に対処することなく、問題を政治的に解決しようとするものだった。 

現在、EUの東の端で続いているにらみ合いは、それぞれの思惑を暴露している。ベラルーシは中東などからの移民をポーランドやリトアニアに送り込み、ヨーロッパを脅かそうとしている。

欧州は難民庇護の聖域にならない
EUの指導者は、ベラルーシの国境近くの森で何千人もの無力な人々が凍える寒さにさらされていても、ポーランドの冷徹な対応を全面的に支持している。さらに数万人の人々が押し寄せることを恐れているからだ。 

ヨーロッパが、世界の7000万人の難民や強制移住者を庇護する聖域になることはないだろう。彼らの大多数は祖国に近い場所に定住せざるを得ない。

ただし、富裕国は、彼らに人並みの生活を提供する費用のほとんどを負担するべきだろう。 

民主主義社会の基盤は、建国文書に記された抽象的な原則ではない。アメリカ人が苦しみながら身をもって学んできたように、国民の集合的な信念に依拠するのだ。

生々しい経験は、聖域とされた価値観からも人々を解き放つ。 国のリーダーは、人々にそうした価値観を思い出させるべきだ。そして、民主主義の原則を最も深く脅かす力を抑え込みつつ、その価値観を生かしながら再生すべきだ。【11月25日 Newsweek】
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なお、スウェーデン社
8008
会の移民・難民への対応の変化は、2015年の大量移民に始まる訳ではなく、それ以前から着実に進んでいたようにも思えます。

同国の代表的警察小説にヘニング・マンケルによるクルト・ヴァランダー警部シリーズがありますが、90年代前肺に発表されたこのシリーズでは移民・難民に対する排斥がしばしば取り上げられており、作中の主人公が「この国はいったいどうしてこんなことになったのか?自分の知っているかつてのスウェーデンではなくなった」とつぶやくシーンが多く登場します。
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欧州  常に「同盟国は仲間」ではないその関係 仏伊は新たな協力関係 英仏は対立を深める

2021-11-27 23:41:37 | 欧州情勢
(イタリア・ローマで、仏伊協力条約を締結したエマニュエル・マクロン仏大統領(左)とマリオ・ドラギ伊首相(2021年11月26日撮影)【11月26日 AFP】 
マクロン大統領の背後には“勝手に国民にも知らせず”コバルトブルーかネイビーブルーへと変更したとされるフランス国旗も。なお、地元メディアによると、大統領は国旗の色の濃さを変更する権限があるとのこと。)

【仏伊 一時は大使召還 協力関係を明文化する新たな条約を締結】
日本は周辺国と歴史的あるいは政治・経済的な多くの問題を抱えており、その関係に苦慮するところもありますが、価値観をほぼ同じくし、政治・経済・社会的に密接な関係を持つ欧州各国も歴史を遡れば「戦争の歴史」であり、現在も様々な利害対立を抱えています。

例えばフランスとイタリアは、移民問題、財政赤字を巡るEUルールの問題、更にリビア内戦を巡って激しく対立し、2019年2月にはフランス政府がイタリアの「内政干渉」に対して駐イタリア大使を召還する事態ともなりました。

なお、当時のイタリアのサルヴィーニ副首相は極右であり、フランス国内の反マクロンの極右ルペン氏と連携していたという政治事情もあります。

****リビア内戦めぐりフランスとイタリアが対立──NATO加盟国同士が戦う局面も?****
(中略)これら各国は表面上、国連の承認を得た(西の)統一政府を支持しながらも(東のハフタル将軍率いる)リビア国民軍に肩入れし、新政権樹立を通じてリビアを自分たちの勢力圏に収めようとしているとみられるのだが、そうした国のなかには先進国も含まれ、とりわけフランスによる不透明な関与はしばしば指摘されている。

リビアで緊張が高まっていた2017年7月、フランスのマクロン大統領は(西のリビア統一政府)シラージュ首相、(東の)ハフタル将軍と三者会談をもち、緊張緩和を演出したが、そのシラージュ首相は今月に入って(ハフタル将軍率いる)リビア国民軍が進撃を開始した直後、「フランス政府がハフタル将軍を支援している」と批判し、これをやめさせるよう各国に呼びかけている。

NATOの分裂
フランスの動向に最も神経をとがらせているのが、かつてリビアを植民地支配し、現在では統一政府の主な支援者でもあるイタリアだ。

イタリアのサルヴィーニ副首相は「フランスはリビアの安定に関心がない。それは恐らく石油のためで、これはイタリアの利益に全く反する」と名指しで批判している。

2011年から続く戦闘で生産が停滞しているものの、リビアは潜在的には世界屈指の産油国で、2015年段階の確認埋蔵量484億バレルはアフリカ大陸第1位だ(BP)。

歴史的な関係を反映してイタリアはリビアの油田開発で有利な立場にあり、IMFの統計によると2018年段階でリビアの輸出額(ほとんどが石油)に占めるイタリアの割合は19.9パーセントで第1位だった。ちなみに、フランスのそれは12.3パーセントだった。

つまり、サルヴィーニ副首相はフランスがリビアでの権益を拡大させるため、反政府勢力を支援し、政権を入れ替えようとしているというのだ。

フランスとイタリアはいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、G7メンバーでもあり、こうした発言は異例とも映るが、両国関係はすでに第二次世界大戦後の最悪レベルといわれるほど悪化している。

2月には、イタリアのディマイオ副首相が昨年末からフランスで毎週デモを行っているイエロー・ベスト運動の指導者らと会談し、支援を約束した直後、フランス政府がこの「内政干渉」に対してイタリア大使を国外退去させる事態となった。

サルヴィーニ副首相の批判はこうした外交関係の悪化を背景に出たものだ。これに関してフランス政府から公式の声明は出ていないが、リビア内戦がこの同盟国間の外交対立に拍車をかけていることは間違いない。

イタリアの抜けがけ
ただし、自国の利益のためには抜けがけも辞さないのはフランスの専売特許ではなく、この点ではイタリアも変わらない。イタリアがリビアで大きな権益を握ってきたこと自体、これを如実に物語る。(中略)

同盟国という名のライバル
国際政治に抜けがけは付き物で、その意味ではフランスやイタリアの行動は珍しいものではない。リビア情勢は「同盟国は仲間」という考え方が一種の神話に過ぎないことを改めて示している。

ただし、フランスが支援するリビア国民軍が統一政府を支援するイタリア軍と対峙すれば、間接的とはいえNATO加盟国同士が戦火を交えることになる。

NATOは冷戦時代、ソ連という共通の脅威を前に組織されたが、現代の対立の構図は複雑化しており、ロシアや中国との距離感はヨーロッパ諸国の間でも差がある。

もともと同盟関係は永久不変ではなく、冷戦期以前は定期的に組み替えが発生していた。リビア内戦は「アラブの春」第二幕の一部であると同時に、第二次世界大戦後の秩序が揺らぎつつあることの一つの象徴といえるだろう。【2019年4月19日 六辻彰二氏 Newsweek】
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その仏伊両国が“近年の緊張に区切りをつけ、協力関係を明文化する新たな条約を締結”したとのこと。

****仏伊、「歴史的」協力条約を締結****
フランスとイタリアは26日、近年の緊張に区切りをつけ、協力関係を明文化する新たな条約を締結した。
 
エマニュエル・マクロン仏大統領は同日、イタリアの首都ローマを訪問。セルジョ・マッタレッラ伊大統領のクイリナーレ宮(大統領官邸)で、マリオ・ドラギ伊首相と共に署名式に臨んだ。
 
この通称「クイリナーレ条約」には、経済、産業、文化、教育、安全保障、外交など幅広い分野における両国の協力内容が盛り込まれている。
 
ドラギ氏は記者会見で「欧州統合の前進に貢献し、加速させる」ことを目指す同条約の締結を「歴史的瞬間」と評した。
 
またマクロン氏は「深い友情を確認する」条約であり、「欧州連合創立メンバーである両国は、より強く結束し、より民主的でより独立した欧州を支持する」と述べた。
 
欧州は今、過渡期を迎えている。英国が離脱し、加盟国間の摩擦を抱えるEUは、東側の近隣諸国の動きにも神経をとがらせている。事実上の指導者だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は、ついに引退の日を迎えようとしている。
 
マクロン氏は、仏伊には「困難な時もあった」と認めた。これは2019年、当時のイタリアのポピュリスト政権がマクロン氏を公然と批判し、外交危機に発展した時期に言及したものとみられる。ドラギ政権の発足後に、両国関係は大きく改善した。
 
北アフリカから毎年何万人もの移民が到着するイタリア国内には、問題の対応が自国のみに押し付けられているという、欧州の同盟諸国に対する不満もくすぶっている。
 
ドラギ氏は、移民・難民政策ではEU内の協調が必要だとする考えで両国が一致したと述べた。 【11月26日 AFP】
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【英仏 移民対応で対立 漁業問題も】

(【2020年6月19日 CNN】2020年6月 ロンドンを訪れ、ジョンソン英首相とともに第2次大戦を記念する式典に参加したマクロン大統領
両者が距離をとっているのは決して“不仲”のせいではなく、コロナ対応です。)

一方、フランスとイギリスの関係は、イギリスのEU離脱もあって、刺々しさを増しています。

歴史を遡ればナポレオンの時代からでしょうが、最近ではイギリスを目指す移民・難民をフランスが十分に制御していないとのイギリス側の不満、それに対するフランス側の反発がありますが、大規模な移民船遭難事故で一気に表面化しています。

****英仏海峡で簡易ボート遭難 移民ら27人死亡 過去最悪の規模****
英仏海峡で24日、フランスから英国を目指した簡易ボートが遭難し、AFP通信によると、移民ら27人が死亡した。同海峡は危険を冒して英国へ渡る人々の主要ルートとなっており、同海峡での移民・難民の遭難としては過去最悪と伝えられている。
 
同通信などによると、同日午後2時ごろ、仏北部カレーの沖合で複数の遺体が浮かんでいるのを漁師が発見した。
 
同日カレーに駆けつけたダルマナン内相は、犠牲者には5人の女性、1人の少女が含まれていると記者団に明らかにした。2人を救助したものの、1人が行方不明とみられるという。国籍はわかっていない。
 
遭難を受け、フランスのマクロン大統領は英国のジョンソン首相と電話会談。英首相官邸によると、両者は「命がけの渡航を阻止するための取り組みを強化する」ことで合意した。
 
マクロン仏大統領は欧州の内相らによる緊急会合の開催を求めた上で、「フランスは英仏海峡を墓場にすることはない」との声明を出した。ただ、英スカイニュースは10月、移民らがボートで英国へ向かうのを、仏当局が現場の沿岸で黙認する様子を報じていた。
 
カレーは中東などから英国を目指す移民や難民が最後に滞在する欧州の一大沿岸拠点。仏政府は沿岸の警備強化に必要な費用を負担するよう英国に求めてきた一方、英国は一定の支払いに応じつつも仏政府の対策が不十分だと指摘するなど、両国間の火種になっている。【11月25日 朝日】
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犠牲者については“男性17人、女性7人(うち1人は妊婦)、子ども3人が溺死”【11月26日 BBC】とも。

こうした悲劇を防がねばならないと言う点では英仏は依存はありませんが、その具体的対応となると相手方への不満があります。

****仏英、密航防止へ欧州全体の協調呼び掛け***
フランス北部沖で、イギリス海峡を渡り英国への入国を試みた移民少なくとも27人が死亡した事故を受け、英仏両国は25日、他の欧州諸国に対し、密航防止に向けた協調対応を呼び掛けた。
 
仏政府は、難民をめぐる緊急閣僚会合を今週末開くことを他の欧州諸国に提案。ただ、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)後も英仏間の対立は解消されておらず、協調対応に影響を及ぼす恐れがある。(中略)

エマニュエル・マクロン仏大統領は事故を受け、同海峡を「墓地」にはさせないと表明。同大統領はボリス・ジョンソン英首相と電話で協議した。
 
英首相官邸によると、両首脳は、命懸けの密航を防ぐためには協調行動の強化が急務であり、密航組織の活動を阻止するため「あらゆる選択肢を排除しないことが重要」との考えで一致した。
 
しかし、ジョンソン氏は地元メディアに対し、英政府としては、状況に適した解決策を模索する中で、一部のパートナー国、特にフランスの説得に手を焼いていると漏らした。
 
一方、仏大統領府は、マクロン氏がジョンソン氏に対し、両国には「共通の責任」があると訴えるとともに、「英国が全面的に協力し、悲劇的な状況の政治利用を控えることを期待する」と伝えた、とする短い声明を出した。
 
英PA通信によると、今年これまでに2万5700人以上がイギリス海峡を小型ボートで渡っており、すでに昨年1年間の3倍に上っている。 【11月26日 AFP】
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ジョンソン英首相は対応策に関してマクロン大統領に書簡を送り、これをツイッターで全文公開。この公開書簡というやり方はマクロン大統領をいたく不快にさせたようです。

****ジョンソン英首相、移民を「連れ戻す」ようフランスに要求****
イギリスのボリス・ジョンソン首相は25日、フランスに対し、英仏海峡を渡ってイギリスに来る人たちを「連れ戻す」ことに同意するよう求めた。

ジョンソン首相はフランスのエマニュエル・マクロン大統領に書簡を送り、英仏海峡で27人が死亡した24日の悲劇が繰り返されないよう、「さらに本格的かつ迅速に動く」ための5つのステップを提示したと述べた。

そして、英仏海峡を渡る人を対象とした返還協定について、「直ちに多大な効果」を発揮するだろうと話した。
これに先立ち政府関係者は、英仏両国の首脳が「前向きな」会談をしたと述べた。

5つのステップを提示
(中略)
ジョンソン氏は、以下の5つのステップを提示したとツイートした。
・フランス沿岸からボートが出発するのを防ぐため、共同パトロールを実施する
・センサーやレーダーなど、より進んだ技術を活用する
・双方の領海を相互にパトロールし、上空からも監視する
・両国の情報当局の共同チームが機能を深める
・フランスと返還協定について直ちに協議するとともに、欧州連合(EU)との間でも返還協定について話し合う
(後略)【11月26日 BBC】
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****英首相は「真剣でない」 仏大統領が批判、移民問題で対立激化****
エマニュエル・マクロン仏大統領は26日、英仏間のイギリス海峡を横断中に移民27人が水死した事故を受け記した書簡をツイッターに投稿したボリス・ジョンソン英首相を、「真剣でない」と批判した。

ジョンソン氏は25日夜、移民密航阻止策を五つ提案する書簡をマクロン氏に送付した上で、その全文を自身のツイッターで公開。フランスの怒りを買った。

ジョンソン氏は書簡で、英治安部隊をフランスに派遣して共同パトロールを行うという、マクロン氏にとって微妙な問題となっている案を再度提示。さらにフランスに対し、英国に到着した移民全員の受け入れを直ちに開始するよう要請した。

マクロン氏は訪問先のイタリア・ローマで開いた記者会見で、「真剣でないやり方には驚かされる。首脳はこのような問題について、ツイッターや公開書簡で他国の首脳と意思疎通をしないものだ」と苦言を呈した。

両国の関係は、英国の欧州連合離脱(ブレグジット)をめぐる一連のあつれきにより、過去数十年で最も緊迫しているが、マクロン氏によるジョンソン氏個人に対する批判によって対立はさらに激化した。

26日には、イギリス海峡での英国の新規漁業権付与に抗議するフランスの漁師が、フェリーと列車の同海峡通行を一時妨害する事態も起きている。

専門家は、両国間の信頼と友好関係の欠如により、英仏海峡を横断する移民の増加への対処における協調がより困難になると指摘している。

フランスのジェラルド・ダルマナン内相はジョンソン氏の書簡への抗議として、プリティ・パテル英内相に対し、28日に仏カレーで欧州諸国が開く会合への招待を取り消すと伝えた。 【11月27日 AFP】
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上記記事にもあるように、両国は移民対応以外にも、ブレグジットでも問題になった漁業問題を抱えています。

****フランス漁業者、英仏海峡トンネル封鎖を計画 英との漁業権問題で****
英国とフランスの漁業権を巡る対立が長期化する中、フランスの漁業団体は英国の欧州連合(EU)離脱後に英国領海での漁船操業が一部認められなかったことに抗議するため、両国間の鉄道貨物輸送に使われる英仏海峡トンネルと仏北部カレー港の封鎖を計画している。

仏漁業養殖業委員会が25日にオンラインで記者会見を開き、計画を明らかにした。英仏海峡トンネルには多数の車両を結集させるとした。

英領海での仏漁船の操業についてフランス側は、英国がこれまでに交付を認めた免許の数が十分ではないと反発しているが、英国はブレグジット(EU離脱)後の取り決めを尊重した結果だと主張している。

仏漁業養殖業委の幹部は、仏漁業者に対する英国の「挑発的で見下したような態度」に対して団結できることを示すと述べた。

ジョンソン英首相の報道官は同日、「抗議の脅しに失望している」とコメント。フランス政府は違法な活動や貿易への悪影響がないよう図る責任があると述べた。【11月26日 ロイター】
*********************

ブレグジットを主導したジョンソン英首相、「ポスト・メルケル」のEU盟主を目指すマクロン仏大統領ともに「協調・調整型」というよりは、強く自己主張するタイプの政治リーダーですので、最近の英仏関係の緊張はそうしたリーダーの性格を反映したもののようにも見えます。
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中国女子プロテニス選手の安否 「証拠」公開でも払拭されない中国政府への疑念 

2021-11-26 22:38:23 | 中国
(女子プロテニス選手の彭帥さん(左、ロイター共同)と張高麗元副首相【11月4日 毎日】)

【中国政府と利害を同じくするIOC 「人権より中国との関係を重んじた」との批判も】
女子テニスのトッププレーヤーである中国の彭帥(ポン・シュアイ)氏(35)が11月2日、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)に、中国共産党の元中央政治局常務委員だった張高麗氏に性的関係を強要されて不倫関係の「愛人」となった経緯や、張氏の妻から受けた圧力などを暴露する内容を投稿したこと、その後消息不明となったことは周知のとおりです。

相手の張高麗氏については、“彼女が名指ししたのは張高麗(75)。2012年の第18回中国共産党大会で党中央政治局常務委員に就任。翌13年に習近平(68)が政権を握ると、張は副首相に就いている。それほどの重要人物だ。現在は引退したとされているが、最高幹部のひとりだったことは間違いない。”【11月23日 デイリー新潮】という重要人物。それだけに国際的波紋も大きく、中国政府も対応に苦慮しているようにも見えます。

中国政府の事態鎮静化の思惑を反映したものか、ここ1週間ほど、彼女のメールや写真なども公開されてはいますが、疑惑を深める感も。

****不倫暴露後に消息不明の中国テニス選手、国営メディア“自筆メール”公表も「不審なカーソル」で捏造疑惑が浮上****
(中略)このことが世界的に報じられたことに焦った中国当局は、中国国営英語放送「CGTN」を通じて、彭氏が女子テニス協会(WTA)のスティーブン・サイモン会長とWTA幹部に送ったとされるe-mailのスクショをツイッターに投稿しました。

ところが、その中身は「(微博による告発は)真実ではない」「今は自宅で休んでいる、問題ない」というものでした。この、にわかには信じがたい本人「自筆メール」に、サイモン会長をはじめ、世界中のネットユーザーが疑いの目を向けています。(中略)

さらに、台湾メディア蘋果日報(りんご日報、アップルデイリー)は、CGTNの公表した彭氏のメールスクショ画像に「カーソル」が映り込んだままだったことを指摘。届いたメールにカーソルが映り込むはずはなく、「メール画像に捏造の疑いがある」と報じています。(後略)【11月18日 MAG2NEWS】
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20日に友人との夕食会、21日に北京で開催された子ども向けテニス大会に姿を見せたとする写真や動画を中国国営メディア記者や大会主催者が公開していますが、懸念を払拭するには至っていません。

中国側からすれば鎮静化への切り札とも思われる、IOCバッハ会長と彭氏がテレビ電話で会話したという件も。本人の肉声は公表されておらず、疑念払拭には至っていません。

****IOC 中国選手“無事確認#も...肉声なし 現地放送は強制中断****
中国共産党元最高幹部との不倫関係を告白した、中国の女子テニス選手について、IOC(国際オリンピック委員会)は日本時間の22日未明、バッハ会長とテレビ電話をして、無事を確認したと発表した。

しかし、女子選手の肉声が聞かれないことに対し、アメリカメディアから疑問の声が上がっている。

IOCは21日、女子テニスの彭帥選手とバッハ会長が、およそ30分間にわたり、ビデオ通話をしたと発表し、画像を公開した。

彭選手は、北京の自宅で無事に過ごしているものの、今はプライバシーを尊重してほしいと説明、バッハ会長と2022年1月に、中国で夕食の約束をしたとしている。

中国国内では、彭帥さんがSNS上で、元最高指導部メンバーとの不倫を告白した直後から、ネット上でも情報統制を行っていて、22日朝のNHKの衛星放送も、彭選手のニュースに入ったところで、映像と音声が中断した。

アメリカのニューヨークタイムズは、「ビデオ通話にあたり、彭選手の友人が英語を手伝ったというが、彼女は語学が堪能なはずだ」として、彭選手の肉声が聞かれなかったことに、疑問を投げかけている。【11月22日 FNNプライムオンライン】
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そもそも北京五輪を控えて、中国当局とIOCは利害を共通する関係にあるとも指摘されており、批判の矛先はIOCにも向けられています。

“通話の場には中国出身のIOC委員も同席しており、彭さんの言動に影響した可能性もある。

テレビ電話がどのような経緯で実現したかは不明だが、中国当局には、彭さんの安否を巡る国際社会の懸念を打ち消す狙いがある。IOCにも、北京冬季五輪開催に影響しかねない不安定要素を取り除いておきたい思惑があったとみられる。
 
ロイター通信によると、女子テニス協会(WTA)の報道担当者は、「彭さんが検閲や強制なしにコミュニケーションできるかどうかという懸念を解消させるものではない」との見解を示した。”【11月22日 読売】

****米下院議員、IOCは「中国共産党の彭帥さん虐待に積極的加担」「選手より経済的関係に関心」****
(中略)米国務省のネッド・プライス報道官は22日の記者会見で、「彭さんを巡る状況を注視している」と述べた。北京冬季五輪への影響については明言を避けた。
 
国際オリンピック委員会(IOC)は21日、トーマス・バッハ会長と彭さんがテレビ電話で会話したと発表した。彭さんの発言が強制されたものだったかどうかについては「公表できる評価はない」と述べた。一般論として性的暴行について訴え、説明責任を求めることを支持するとし、中国における「言論の自由を擁護し続ける」と強調した。
 
一方、下院外交委員会の共和党トップ、マイケル・マコール議員は22日、「中国共産党による彭さんの虐待に積極的に加担した」とIOCを非難する声明を発表した。「IOCは五輪選手を守ることよりも、中国との経済的関係に関心があるのは明白だ」と主張した。【11月23日 読売】
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****「中国のプロパガンダの宣伝をするな」テニスの彭選手を巡り、人権団体がIOCのスポーツウォッシングを批判****
中国の前副首相から性的関係を迫られたなどと告発した女子プロテニスの彭帥(ほう・すい)選手について、「元気で安全だった」と発表した国際オリンピック委員会(IOC)に、批判が起きている。

人権団体ヒューマンライツウォッチ(HRW)は11月22日、「オリンピック:中国のプロパガンダの宣伝をするな」という声明を発表。

IOCに対し、スポーツを利用して人権など不都合な事実から目を背けさせるようとする「スポーツウォッシング」を止めるように求めた。

「人権より中国との関係を重んじた」と批判
IOCは11月21日に、トーマス・バッハ会長らが彭選手とテレビ電話で話したと発表した。
そして「彭選手は安全で元気に北京の自宅で暮らしていたが、今は自分のプライバシーを尊重してほしいと述べ、友人や家族と過ごすことを希望していた」と説明した。

その一方で、IOCはテレビ電話が行われた経緯は明かさなかった。この発表の背景には、2022年2月に北京オリンピックの開幕を控え、国際社会の疑念をいったん沈静化させたいというIOCの思惑があったとみられている。

しかし、このIOCの声明について、HRWは「中国当局と協力して彭選手が無事だと伝えたことで、IOCはアスリートの権利と安全を含む、自身が表明してきた人権への貢献を台無しにした」と述べている。

さらにHRWのシニア中国研究者の王亚秋氏は「IOCはオリンピック選手の人権と安全より、重大な人権侵害者との関係を重んじた」と強く批判した。(後略)【11月24日 HUFFPOST】
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IOCとは異なり中国批判を続ける女子テニス協会(WTA)ですが、そのWTAを“友人男性”が批判しているとも。背後に中国政府の思惑がある何かの陰謀なのか、真実なのかは知りません。

****中国テニス選手のメール、「WTAは無視した」 友人名乗る男性が非難****
中国のテニス選手、彭帥さん(35)の安否が気遣われている問題で、彭さんの関係者だという男性が女子テニス協会(WTA)について、彭さんのメールを無視したと非難した。

WTAを批判している男性は、丁力さん。スポーツ大会の開催や選手のマネージメントをする会社の重役だと報じられているが、詳細はわかっていない。彭さんの友人だと自ら説明しているが、そうした関係性も不透明だ。

丁さんは、彭さんがWTAのスティーヴ・サイモン最高経営責任者(CEO)にメールを送っていたと主張。スクリーンショットをツイッターに投稿した。
そのメールには、「現時点では気持ちを乱されたくない。特に、私の個人的なことを大げさにしないでもらいたい。静かに暮らしたい。あなたの気遣いに感謝する」と書いてあった。

丁さんはBBCのメール取材に対して、サイモンCEOは彭さんのメールを受信したのに、彼女を「避けた」と説明した。

また、サイモン氏は彭さんの連絡先を、テニス選手とメディア関係者ら10人以上に知らせたとした。そのため彭さんには電話が次々とかかってくるようになり、「困ってしまった」と主張した。
そしてそのことが、彭さんがサイモン氏と話をしなかった「とても大きな要因」になったと述べた。

国営メディアと同じ説明
(中略)丁さんは彭さんについて、北京におり、「移動の自由」があると説明した。また、「監視や圧力は皆無で、罰もまったくなかった」と主張した。

BBC記者が彭さんと話をしたいと求めると、「彼女は自宅で独りゆっくり休むことだけを希望している」と返答。彭さんが公の場に姿を見せないことについて、国営メディアと同じ言葉で説明した。

ただ、WTAや国連、米政府など多くの機関が、そうした説明を疑問視している。セリーナ・ウィリアムズ、大坂なおみ、ノヴァク・ジョコヴィッチの各トップテニス選手たちも、彭さんの居所に関する情報を出すよう求めている。

「当局は調査していない」
中国で有力政治指導者に対し、性暴力の訴えがなされたのは初めて。中国の#MeToo運動としては、最も注目を集める事案となっている。

しかし丁さんは、彭さんの告発について、当局が調査などの対応を一切していないと述べた。その理由として、彼女がWTAへのメールで「性的暴行はなかった」と書いたからだとした。

だが、彭さんが今月2日にウェイボーに投稿した際には、張前副首相にセックスを強要されたとはっきり書いていた。

中国政府は、彭さんに注目が集まることに反発している。特に、国営メディア側が彼女の無事を表すものとして写真や動画を公表したにもかかわらず、その信ぴょう性を疑われたことに不快感を示している。

WTAは最近公表された動画について、「彼女の健康と、検閲や圧力のない状態で連絡を取り合うことができるのかについて、WTAは懸念を抱いているが、それを和らげも解消もしない」とした。(後略)【11月26日 BBC】
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ワイドショー的には面白い展開ですが、真相はわかりません。
彭氏が外国メディアの前に出てきて自由に語れば、疑問の多くは解消するはずですが・・・。

中国政府は、最高幹部のひとりだった者のスキャンダルということで、政権の権威失墜を恐れているのでしょうか。

そういう閉鎖性がスキャンダル云々よりはるかに中国への国際的信頼感を損ねていると思うのですが。

なお、今回騒動を中国政権細部の権力闘争と結びつける見方もあるようです。

張高麗は、第5代国家主席を務めた江沢民(95)を筆頭とする、いわゆる“上海閥”に属しており、彭氏は習近平一派の後ろ盾を得て告発した・・・といった内容です。 深読みに過ぎるような感がありますが、どうでしょうか。

【女性からのセクハラ告発に大きな壁 党幹部が政治闘争で失脚すると性的不品行も明らかにされ、被害者女性たちは、失脚した人物の悪評の証拠として利用される】
彭氏の件の真相はわかりませんが、中国における「#MeToo」運動は強く抑圧されている現状があります。

****検閲、男性中心社会、原告に不利な司法…中国の「#MeToo」運動の壁****
中国でも広がっているセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)告発運動「#MeToo(私も)」が、つまずきを見せている。インターネットに投稿しても検閲ですぐに削除され、男性中心社会や原告に大きな負担を強いる司法制度も立ちはだかっている。

中国テニス界のスター選手、彭帥さんが今月、張高麗副首相から性的関係を強要されたと衝撃的な告発をした。こうした告発が中国共産党の上層部に向けられたのは初めてだった。
 
だが、彭さんの訴えはすぐに中国のネット上から削除された。
 
世界中に広がった「#MeToo」運動が中国でも2018年に芽生えると、大学教授から受けた性的被害を明らかにする女性が相次いだ。
 
すると当局は、運動が大きく発展し制御できなくなることを恐れ、直ちにソーシャルメディア上で関連するハッシュタグやキーワードを検閲対象とした。「#MeToo」というフレーズは、今でも中国では検索できない。
 
著名なフェミニストが警察に嫌がらせを受けたり、勾留されたりするケースも多い。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、活動家の黄雪琴氏もその一人。今年9月、「国家転覆を扇動」したとして拘束された。
 
習近平国家主席は、女性は「社会の発展と進歩を促す重要な力」とうたうが、党の指導部は男性中心で、トップ25人の中央政治局委員のうち女性は1人しかいない。

■「否定しさえすれば、無実を証明する必要もない」
中国では昨年、セクハラの定義を成文化した新法が可決された。だが、被害を告発する側は今なお大きな障害にぶつかっている。

「自分がうそをついていないことと(中略)訴えが売名行為ではないことを延々と証明し続けなければならないのです」。性的被害を訴えたことのある女性は、嫌がらせを受けることを恐れて匿名でAFPの取材に応じ、こう説明した。
 
だが、告発された男性側は「とても簡単」だ。「自分はやっていないと否定しさえすれば、無実を証明する必要もないのです」と女性は話した。
 
世界自然保護基金の職員、王琪さんは、上司から無理やりキスされ、繰り返し嫌がらせを受けていたとネットで訴えた。だが2018年、相手から報復的に名誉毀損(きそん)で訴えられた。
 
裁判所は、王さんの訴えは証拠不十分だと判断し、「うそを広めた」として男性に謝罪するよう命じた。
 
過去に国営テレビ局でインターンをしていた周暁●(●はおうへんに旋)さんは、司会者の朱軍氏に体を触られるなどの被害を受けたと訴訟を起こしたが、北京の裁判所は今年、証拠不十分として棄却した。逆に周さんは朱氏に名誉毀損(きそん)で訴えられた。
 
米エール大学法科大学院が5月に発表した研究結果によると、裁判所は原告に対して、訴えられた側よりもはるかに強力な証拠を提出するよう求める一方で、友人や同僚など原告に近い人々を証人として認めないことが多い。

■性的不品行が明るみに出るのは政府に都合が良い場合
中国政府は、セクハラの訴えが政府にとって都合が良い場合には、もみ消しを図ることはない。
 
今夏、中国の電子商取引大手アリババ(阿里巴巴)の女性社員が、出張中に上司や取引先相手から性的暴行を受けたと訴えた。この事件は、国内メディアで広く取り上げられた。
 
規制当局から強い圧力を受けていたアリババは、問題の上司を解雇。「あしき」社風を一掃することを約束した。
だが、ほとぼりが冷めると、警察はこの事件を不問とした。
 
汚職で除名処分を受けた共産党幹部は、性的不品行でも告発されることが多い。政治闘争で失脚すると、こうした行為が犯していた罪の一部として初めて明らかにされるのだと、中国のフェミニスト、呂頻氏はエッセーで指摘している。

「その場合、(性的被害を訴えた)女性たちは、失脚した人物の悪評の証拠として利用される」 【11月24日 AFP】******************

新疆ウイグル自治区やチベットの問題しかり、彭氏を初めとする女性問題しかり、こうした中国政府の希薄な人権意識に対し、北京オリンピックの外交的ボイコットも動きも表面化し、中国政府は神経を尖らせていますが、その件は長くなるので、また別機会に。
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原油価格高騰 米バイデン政権は日本など消費国と強調して石油備蓄放出へ 効果は?

2021-11-25 23:06:32 | 経済・通貨
(原油先物(米WTI)の推移)

【1年半前は20ドル割れ 今年10月には80ドル超え】
周知のように、現在は原油価格が高騰し、ガソリン価格上昇など多くの価格水準を押し上げる要因となっていますが、当然ながら(すべての財・サービスと同様に)原油価格は需給状況を受けて上下します。

つい1年半前の2020年4月頃は、原油先物価格(米WTI)は現在の1バレル76ドルぐらいに対し、4分の1水準の20ドル付近まで落ち込みました。コロナ禍の需要減少が主因でした。

当時は主要産油国のサウジアラビアとロシアの足並みの乱れも目立ちました。

****中東大油田地帯、機能不全の危機  新型コロナ感染拡大で原油再び高騰か****
米WTI原油価格は1バレル=20ドル台半ばという18年振りの安値水準で推移している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)で世界の原油需要が2割(日量約2000万バレル)以上減少すると見込まれているからだ。

 ▽三大産油国、協調難しく
このような状態に慌てふためいているのは、世界の三大産油国である米国、ロシア、サウジアラビアである。

トランプ米大統領の呼び掛けで、サウジアラビアは4月2日「OPECプラス(OPEC加盟国とロシアなどの産油国)の緊急のテレビ会議を6日に開催する」と発表。新型コロナウイルス危機前の世界の原油需要の1割に当たる日量1000万バレル以上を減産する取り組みが始まった。
 
だがロシアのプーチン大統領が3日、原油価格の急落について「サウジアラビアが増産や値引きを発表したことが原因だ」と批判した。これに対し、サウジアラビアのファイサル外相が4日、「まったく真実と異なる」と反論するなど両国の対立は早くも表面化している。
 
加えて世界最大の原油生産国である米国がこの協調減産に参加することが不可欠だが、米国内では「協力する用意がある」との声が出始めている一方で、「法律上の制約から実現は困難である」との見方が一般的である。
 
史上最大規模の協調減産の枠組みが成立しなければ、原油価格は1バレル=20ドル割れとなる可能性が高い。このような低油価は今後も続くのだろうか。(後略)【2020年4月7日 47リポーターズ)】
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ついには“マイナス”価格も出て、話題にもなりました。

****NY原油価格、史上初のマイナス 新型ウイルスで供給過剰****
米ニューヨーク商業取引所で20日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の枯渇により、原油価格が史上初めてマイナスとなった。

マイナス価格は、貯蔵施設が5月に満杯になる恐れがある中で、生産者が買い手に代金を払って引き取ってもらう状態になっていることを意味している。

石油会社は余剰原油を貯蔵するためにタンカーのレンタルに頼っている。

アメリカの原油価格を示すウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物はこの日、1バレル当たりマイナス37.63ドルと、史上初のマイナス価格で取り引きを終えた。【2020年4月21日 BBC】
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もちろん、コロナ禍による需要減少が回復に転じれば、当然ながら価格も上昇に転じます。
ただ、最近の欧州における天然ガス価格高騰の影響もあって、一本調子に上げた原油価格は1バレル80ドルを超える水準にまで高騰しました。

****米原油先物、7年ぶり高値 エネルギー需給逼迫に鎮静化見えず****
米国時間の原油先物は、週間で約4%上昇。世界的なエネルギー需給の逼迫を背景に、米WTI原油先物は2014年10月31日以来、約7年ぶりの高水準を付けた。

WTIの清算値は1.05ドル(1.3%)高の79.35ドル。(中略)

バンク・オブ・アメリカのクリストファー・クプレント氏は「天然ガスや石炭など他のエネルギー価格が上昇を続けているため、原油市場でも価格上昇リスクが高まり始めている」と指摘。原油高の背景には、欧州でのガス価格の高騰により、電力会社が石油への切り替えを進めていることがある。

ANZのコモディティーアナリストも「ガスから石油への転換が加速すれば、北半球の冬に向けて発電用の原油需要が増加する可能性がある」との見方を示した。【10月9日 ロイター】
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アメリカや日本などは、産油国に増産を求めていましたが、産油国側は現在の高値水準を維持したいことから増産を見送っています。

****産油国 追加増産見送り OPECプラス閣僚会合****
OPEC(石油輸出国機構)などの産油国は、日本やアメリカが求めていた追加の増産を見送った。

サウジアラビアなどOPEC加盟国と、ロシアなどの産油国は4日、閣僚会合を開き、毎月、日量で40万バレルずつ増やすとしている今の計画を維持し、追加の増産を見送った。

原油価格は、世界的な需要の高まりにより高騰を続けていて、ガソリン価格などが上昇し、生活にも影響が出ていることから、日本などは増産を求めていた。

一方で、産油国側はイギリスなどで新型コロナが再拡大する中、原油の需要が本格的に回復するかが見通せず、追加の増産を見送ることで、現在の高値水準を維持する狙いもあるとみられる。(後略)【11月5日 FNNプライムオンライン】
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長期的な視野に立てば、過度に価格が上昇すれば、ただでさえ強まっている「脱化石燃料」の流れを更に加速させることにもなりますので、産油国にとっても警戒すべきところがありますが、差し当たっては高値維持で利益を確保したいというのも当然のところでしょう。

【アメリカ・バイデン大統領 消費国の協調的石油備蓄放出を主導 ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約】
こうした状況で原油価格が上昇し、それに伴ってガソリン価格など諸物価が上昇すると、日本でも大きな問題ですが、自動車社会のアメリカではガソリン価格上昇は死活的に重要な問題で政権基盤を直撃します。
支持率が下落しているバイデン政権としては、何もしない訳にはいかないといころでしょう。

アメリカは主要消費国と協調して石油備蓄の放出に踏み切りました。こうした協調放出は初めての試みとか。

****米、石油備蓄放出を発表 日本などと協調、価格抑制目指す****
ジョー・バイデン米大統領は23日、戦略石油備蓄5000万バレルの放出を指示したと発表した。日本などと協調して行い、高騰する燃料価格の抑制を目指す。
 
ホワイトハウスは今回の石油備蓄放出について、「中国やインド、日本、韓国、英国などの主要消費国と協調して行われる」と説明した。
 
ある政権高官は記者団に対し、他国と共にこのような措置を講じるのは今回が初めてと明かした。
 
新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行と、これに伴うロックダウン(都市封鎖)の影響から世界が回復に向かう中、急増する需要に生産が追いつかず、石油価格が上昇している。
 
米国では、これに関連するガソリン価格の上昇が、高インフレの主因の一つとなっている。 【11月23日 AFP】******************

バイデン米大統領は23日、高インフレとガソリン価格高騰に対する政権の国内外における取り組みを強調し、ガソリン価格は「間もなく」下落すると確約しました。「長期的にはクリーンエネルギーへの移行に伴い、石油への依存を減らす」とも。

****バイデン氏「取り組みは世界中に」備蓄放出****
世界的な原油価格の高騰を受け、アメリカ政府は、日本や中国などとともに石油備蓄の放出を行うと発表しました。各国が協調しての一斉放出は史上初めてです。

ホワイトハウスは23日、日本、中国、インド、韓国、イギリスなどとともに、石油備蓄の放出を行うと発表しました。市場への供給量を増やし、価格の引き下げを狙ったもので、バイデン政権が各国に働きかけていました。各国一斉の放出は、史上初めてとなります。

バイデン大統領「この取り組みは世界中に広がり、最終的には皆さんの街のガソリンスタンドまで届くだろう」

演説したバイデン大統領は、「ここ数週間、各国首脳らと連絡を取り合ってきた」と明かした上で、「ガソリン価格高騰の問題は、一夜にして解決できないが、中間層、労働者の家庭のために必要なことを行っていく」と強調しました。

備蓄の放出量は、アメリカが5000万バレルで、国内需要の3日分に相当します。日本政府としては、国家備蓄の放出は初めてで、24日、正式発表する予定です。【11月24日 日テレNEWS24】
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日本もアメリカとの協調を演出すべく、初めての国家備蓄放出する異例の対応に。量は「数百万バレル」とのこと。

****「最後のとりで」に異例の対応 石油の国家備蓄放出、政府の言い分は****
米バイデン政権が23日、日本や中国、インドなど主な消費国と協調して石油備蓄を放出することを表明した。日本政府も石油の国家備蓄を初めて放出する方針だ。具体的な放出量や時期などを示していない国もあり、原油価格を下げる効果は見通せない。

日本、初の石油備蓄放出へ 米に同調 価格引き下げ効果は不透明
日本の石油備蓄は国が所有する国家備蓄と、石油会社に法律で義務づけている民間備蓄などがある。国家備蓄は全国10カ所の基地などで国内需要の約90日分以上を貯蔵することとし、民間備蓄は70日分以上と定めている。
 
国家備蓄は9月末時点で145日分と目標を大きく上回っている。貯蔵している絶対量は1990年代後半からほぼ変わっていない。国内の石油消費量は省エネなどで減少傾向にあり、日数換算でみると増えている。政府はこの「余剰分」を放出するとみられる。
 
政府は国内の需要動向などをみながら、国家備蓄の原油の種類を少しずつ入れ替えている。そのたびに一部をアジアの石油市場で売却しているという。今回放出する場合は、同じように市場に売却できないか詰めている。売却の収入は、ガソリン価格抑制のために石油元売り各社へ出す補助金の財源にする案もある。
 
ただ、これまで備蓄を放出したのは、紛争や災害時で供給不足が心配されるときだ。レギュラーガソリンの平均価格が1リットルあたり185・1円と史上最高値を記録した2008年にも放出しなかった。
 
放出する場合でも、まずは民間備蓄で対応し、国家備蓄には手をつけなかった。なにかあれば民間分を先に出し、国家備蓄は「最後のとりで」として温存しておくためだ。民間備蓄は国内の石油元売り会社のタンクに貯蔵されており、放出分を国内のガソリンスタンドなどに届けやすいこともある。
 
政府は、余剰分の放出は目標量は満たしたままなので問題ないとしている。放出量も国内需要の数日分と限定的だ。米国との協調を演出するため、異例の対応に踏み出す。
 
だが、これまで国家備蓄量を増やすことはあっても、大きく減らすことはまずなかった。多額の税金を投入し備蓄基地をつくったのに、空きタンクができかねない。10月に閣議決定されたエネルギー基本計画も「引き続き石油備蓄水準を維持する」と明記している。国家備蓄に初めて手をつけるなら、政府には十分な説明が求められる。
各国、対応にばらつきも
 
米国は協調をアピールするが、各国の対応にはばらつきも出そうだ。英政府の広報担当者は23日、「コロナ禍から立ち直る経済を支えるため国際的パートナーと一緒に出来ることをする」と声明で述べた。日米などと歩調を合わせる姿勢だが、英国は企業備蓄の自発的な放出を促すだけで、政府備蓄を取り崩すことは想定していない。(中略)
 
放出の効果も疑問視される。日米など各国が放出しても、供給量が増えるのは一時的で、全体の需給に与える影響は限られる。(後略)【11月24日 朝日】
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イギリスは上記のように民間備蓄から150万バレルを放出することを許可。
韓国も、2011年に行った政府の備蓄総量の約4%、韓国内で5〜6日分の使用量に当たる量と同程度の放出を行うと見られています。(量・時期は改めて決定)
世界第3位の石油輸入国インドは、同国の石油消費量1日分に相当する500万バレルの備蓄石油を放出することを明らかにしています。【11月24日 産経より】

中国は微妙です。

****中国、米要請に応じるか明言控える 石油備蓄放出巡り****
中国は24日、戦略石油備蓄の放出について必要に応じて実施すると表明し、米国による協調放出の要請に従うかどうかについて明言を避けた。(中略)

米国は5000万バレルを放出する計画で、当事国では最も多い。ただ、中国との協調が実現しなければ、インパクトは弱まるとみられる。

中国外務省の趙立堅報道官は24日、米主導の備蓄放出に参加しているかコメントを避けた上で、「中国は実際の必要性に応じて国家備蓄からの原油放出を計画するだろう」と述べた。(後略)【11月25日 ロイター】
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【産油国側は大規模増産には消極姿勢】
消費国側のこうした動きに産油国側は「冷ややか」で、OPECプラスは次回の閣僚会合を12月2日に開く予定ですが、夏に決めた小幅増産ペースを維持したい意向と見られています。
消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっているとも。

****石油備蓄放出、産油国は冷ややか 来月2日に対応協議****
サウジアラビアなど石油輸出国機構(OPEC)加盟国およびロシアなど非加盟の産油国の連合体「OPECプラス」は、バイデン米政権による再三の増産要求にもかかわらず、大規模な増産を避けてきた。

OPECプラスは新型コロナウイルス感染拡大による石油需要の急減を受け、昨年5月に協調減産を開始しており、世界経済が本格的に回復するかを見極める狙いがうかがえる。

OPECプラスは12月2日、閣僚級会合を開いて石油需給の見通しを協議するが、協調減産幅を毎月日量40万バレルずつ縮小する現在の枠組みに大きな変化はないとの見方が多い。

欧州ではコロナ感染が拡大する気配をみせ、収束は見通せない。エネルギー需要が高まる冬場に入り、現在の高値を維持したい思惑があるとも指摘される。

ロイター通信は、OPECプラス当局者や専門家の間で、米中やインド、日本など消費国の石油備蓄放出は小規模にとどまったとの印象が広がっていると報じた。

アラブ首長国連邦(UAE)のエネルギー相は、来年第1四半期は余剰供給になるとのデータがあるとし、「増産する道理はない」と述べた。

備蓄の協調放出は産油国に対する警告のメッセージであり、政治的緊張が高まる恐れがあるとの見方もある。英BBC放送(電子版)は、消費国の動きを受けてOPECプラスが生産を抑制するようなら、備蓄の協調放出は「裏目に出るかもしれない」という識者の見方を伝えた。【11月24日 産経】
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【「脱化石燃料」の流れ中で増えないシェールオイル投資】
バイデン政権のお膝元、アメリカ国内のシェールオイルの増産も政府の要請どおりにはいかない様子です。

****米シェール業界の再投資鈍化、ガソリン値下げ目指す政権と足並みそろわず****
バイデン米政権がガソリン価格押し下げを狙って日本や中国などと共同で石油備蓄放出に踏み切った一方、シェール企業による増産に向けた再投資の動きは鈍化している。政府と米石油業界の溝が深まっていることが改めて示された格好だ。

ライスタッド・エナジーのデータによると、米シェール企業が事業で得た現金を原油・天然ガス掘削のために振り向ける比率は第3・四半期に46%と、長期平均の130%を大幅に下回って過去最低を記録した。これらの企業が配当や自社株買いを通じて株主への現金還元を優先している様子が見て取れる。専門家の話では、この再投資率は今後さらに低下する可能性もある。(中略)

米国石油協会(API)も、バイデン氏が新規パイプライン設置を認めず、連邦用地のリースを停止していることが、業界の投資抑制の原因だと批判。APIのチーフエコノミスト、ディーン・フォアマン氏は、政権が予見可能な将来に化石燃料の全廃を望んでいる以上、業界の資金繰りがより厳しくなると再投資に消極的な事情を説明した。【11月24日 ロイター】
********************

従来は原油価格が上昇するとアメリカのシェールオイルが増産され、原油価格上昇が抑制されるメカニズムが働いていましたが、「脱化石燃料」の流れのなかで、価格上昇でもシェールオイル増産への投資があまり増えない形になっているようです。

【結局は需給バランス次第】
オイルショック以前は、原油価格は少数の石油大手企業(国際石油資本 石油メジャー)が牛耳っていると見られていました。
オイルショックで価格決定権はOPEC石油産油国へ。
その後、ロシアやアメリカシェールオイルの比重が増大。
基本的には、他の商品同様に需給バランスで決まるものでしょう。

今回のアメリカ主導の協調備蓄放出がどの程度の効果をもたらすのか?
直接の放出量は「大海の1滴」に過ぎないでしょう。消費国側の強い姿勢を見せることで、それ以上のアナウンスメント効果的なものを期待できるか・・・・?

22日76ドル付近だった原油先物WTIは、24,25日は78ドル付近で推移しています。
「より大きな状況は石油製品需要が引き続き堅調で、タイト化する市場にさらなる圧力となっていることだ」(市場関係者)
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ベラルーシ国境が鎮静化する一方で、ウクライナ東部は緊張が高まる ロシア側にはウクライナ暴走の警戒感

2021-11-24 23:02:40 | 欧州情勢
(11月19日、ウクライナ東部のドネツクで撮影【11月24日 Newsweek】 軍事演習参加の親ロシア派兵士でしょうか)

【鎮静化に向かうベラルーシ国境の移民・難民問題】
欧州から制裁措置を受けているベラルーシ・ルカシェンコ大統領がイラク・アフガニスタンなどからの移民・難民を意図的に集めてポーランド・リトアニアに「人間爆弾」として報復的に送り込んでいるのでは・・・ということで国境線で対立が激化し、板挟みなった移民・難民が「ピンポン玉」のようにベラルーシ・ポーランド双方から押し返され、寒さと飢えで生命の危機にさらされるという事態は、一応鎮静化の方向に進んでいます。

****ベラルーシ国境、緊張が一時緩和 難民ら2千人保護、人道支援強調****
欧州連合(EU)への入域を目指す中東からの難民・移民が押し寄せたベラルーシ西部のポーランド国境で続いた緊張は、一時緩和された。欧州メディアなどによると、国境沿いで野営していた難民ら約2千人のうち多くが保護された。ベラルーシは「人道支援」を強調。ただ、再び緊張が高まる可能性もある。
 
国営ベルタ通信は20日、ベラルーシ当局が用意したブルズギ・クジニツァ国境検問所近くの物流倉庫で毛布にくるまった難民らの写真を公開。食事が提供される様子も伝えた。新型コロナウイルスのワクチン接種も検討されているという。【11月21日 共同】
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ルカシェンコ大統領は、“誰かがドイツへ行きたい者の手助けをしたというのはありうる”いうスタンスで当局の「関与」の可能性を認めています。

****移民問題 ルカシェンコ大統領、関与認める****
中東などから多くの移民がポーランドとの国境に押し寄せている問題をめぐり、ベラルーシのルカシェンコ大統領は当局が手助けした可能性について「全くあり得る」と関与を認めました。

ルカシェンコ大統領は19日、イギリス・BBCのインタビューに応じ、移民がポーランド側に入ることをベラルーシ当局が手助けしているとの指摘について、「全くあり得ることだ」と述べ、当局による関与の可能性を認めました。その上で「我々スラブ人には良心がある。移民がドイツに行きたがっていることを知っている」としています。

EU=ヨーロッパ連合はベラルーシの関与を非難していますが、大統領は、「誰かが助けたのかもしれないが、自分で調べるつもりはない」「私が移民を招いたわけではない」と、自身の関与は否定しました。

国境付近は寒さも厳しくなっていて、AP通信によると、これまでに12人が死亡したということです。【11月21日 日テレNEWS24】
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もちろん、その対応は“我々スラブ人には良心がある”といったものではありませんでしたが・・・
一応、帰国も始まっていますが、大金を使ってここまでやってきた移民・難民の今後は帰国しても厳しいものでしょう。

****欧州移民めぐり緊張続く ベラルーシ当局が暴行****
欧州連合(EU)への移住を望む中東などの人々がベラルーシに入国し、ポーランド国境で立ち往生している問題は、帰国作業が始まるなど状況悪化に一定の歯止めがかかっている。

ただ、ベラルーシ当局による暴行の証言や、ベラルーシがEU側への不法越境を手助けしているとする情報が出るなど、緊張はなお続いている。

移住希望者の多くの出身地とされるイラクは18日、帰国便を編成。立ち往生していた推計2〜3千人のうち約400人が帰国した。残る人々もベラルーシが設置した臨時の避難所に収容されるなどしている。国営ベルタ通信によると、同国のルカシェンコ大統領は22日、新たな帰国便を準備すると発表した。

ただ、帰国したイラク国民は「ベラルーシ当局に暴行された」と証言。ロイター通信によると、ポーランドは19日、ベラルーシが避難所から人々を再び国境に連れ戻し、国境警備隊を妨害して強制的に越境させていると非難した。【11月22日 産経】
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一方、ポーランドなど欧州側は警戒を続けています。
“ポーランド首相、ベラルーシからの移民流入で事態悪化を警戒”【11月22日 ロイター】
“違法移民のEU入国、関与した運輸事業者に制裁案…ベラルーシ経由を抑制”【11月24日 読売】
“ベラルーシ経由の移民問題、協調対応必要 米英加とも協議=欧州委員長”【11月24日 ロイター】

【鎮静化の背後にロシア・プーチン大統領の怒り?】
流れが「鎮静化」の方向に動き出したのは、ルカシェンコ大統領の「われわれがガス移送を止めたらどうなるか、EU側は考えるべきだ」という欧州向け天然ガスを巡る発言に、後ろ盾ロシア・プーチン大統領が激怒して、ルカシェンコ大統領に事態収束を迫ったのではないか・・・と個人的には想像しています。

****プーチン氏、ベラルーシの「ガス停止」発言に警告か****
ロシアのペスコフ大統領報道官は15日、プーチン露大統領とベラルーシのルカシェンコ大統領が14日に協議を行ったと明らかにした。国営ロシア通信が伝えた。

ペスコフ氏は内容を明らかにしていないが、ベラルーシ経由で欧州連合(EU)入域を目指す中東などからの移民の急増問題をめぐりルカシェンコ氏が言及したロシア産天然ガスの欧州への移送停止について、プーチン氏は実行しないよう警告したとみられる。

これに先立ち、プーチン氏は14日に放映された露国営テレビ番組で「ガス通過国の大統領であるルカシェンコ氏が移送の停止を命じることは理論上は可能だろう」とした一方、「そうすればロシアとベラルーシの契約違反になる。両国関係の発展にも資さない」と述べ、ルカシェンコ氏を牽制(けんせい)。ペスコフ氏も12日、ルカシェンコ氏の発言は「ロシアと合意されたものではない」とし、同意できないとの立場を示していた。(中略)

ルカシェンコ氏は11日、EU側が移民流入対策として国境封鎖や新たな対ベラルーシ制裁を検討しているとした上で、「われわれがガス移送を止めたらどうなるか、EU側は考えるべきだ」などと述べていた。【11月16日 産経】
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ロシアにとって天然ガスは国家財政を支える根幹であり、欧州は最大の顧客です。そうでなくともガスの「政治利用」について欧州側から“あること、ないこと”言われているロシアは非常に敏感になっています。
そのガスを、あろうことか自分のものでもないルカシェンコ大統領が止めるのどうのと、露骨な政治利用発言したことには、おそらくプーチン大統領は激怒していると思います。

対欧州という構図で、また、国内反体制派を抑え込むということで、これまでベラルーシ・ルカシェンコ大統領を支援してきたプーチン大統領ですが、もとより両者の関係はよくなく、コントロールのきかないルカシェンコ大統領にプーチン大統領は“うんざり”しており、できれば首をすげ替えたいと考えていると言われていました。

****ベラルーシの移民、ウクライナ緊張にロシアは関与したのか****
(中略)この問題(移民・難民問題)にロシアは直接関与しないとの方針を採っていた。反米・反EUの立場で、彼らの対ベラルーシ批判への(結果的にはベラルーシ擁護となる)反駁を行なうのみだった。

だが、ルカシェンコが勝手に対欧ガス輸送問題にまで口を出す(欧州向けガスの通過輸送を止めたらどうなる、との発言)となれば放ってはおけなくなる。

欧州でのガス価格高騰に関連して、その主因が最大の売手となるロシアの策謀にある、といった話に一部のメディアやEUの政治家が騒いでおり、ロシアはそれを単なる雑音にして済ませたいところだった。

それをあえて燃え盛らせるようなルカシェンコ発言である。プーチンも、然様な話は有り得ないと否定宣言を出さざるを得なくなった。
ルカシェンコとの遣り取りで、移民・難民問題も早く片を付けるようプーチンは強く要求したのだろう。

その効き目が多少はあったのか、直近では対ポーランド国境に滞留した移民希望者の一部は、イラクなどへ送り返され始めている。

しかし、過去の20年間を振り返ると、プーチンはその大統領就任以来、ルカシェンコを盟友と思ったことはないように見える。

もしそうであるなら、それをルカシェンコも感じ取っていたはずだ。それゆえに、ガスや石油に始まる様々な経済問題や、ルカシェンコの過去の対西側接近策などで、両国にはしばしば微妙な空気が流れてきた。

2020年の大統領選と、それに発するベラルーシ国内の政権・反政権派の対立騒動で、ルカシェンコにはロシアに頼るしか方途がなくなったが、同国の新憲法制定作業も当初ロシアが勧告したような形では動いていない。

恐らく対ロ依存はルカシェンコにとって当面の方便の域を超えず、最終的にプーチンに服従する積りなどないのだろう。

要は、プーチンはルカシェンコを完全に抑え切れてはいない。
だが、ルカシェンコが西側に抱く強度の反感は、多くのロシア人にも共有されている類いに似る。

それは、ロシア国内の反西側論者・勢力から対外強硬論が噴出した際に、ルカシェンコの場合と同じように、プーチンでも抑え切れないという結果になり得ることを示唆している。(後略)【11月24日 JBpress】
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【緊張が高まるウクライナ東部】
鎮静化するベラルーシ国境の一方で、緊張が高まっているのがこれまで小康状態にあったウクライナ東部の問題です。後ろ盾の欧米・ロシアを巻き込んで軍事的衝突の危険も取り沙汰されています。

****ロシアとウクライナが軍事演習、緊張高まる****
ロシアとウクライナの緊張が高まる中、両国が軍事演習を実施している。
24日のインタファクス通信の報道によると、ロシア軍は黒海で海軍基地への空爆を想定した戦闘機や艦隊の演習を行った。

ウクライナも戦闘演習を実施。ウクライナと米国はロシアがウクライナに攻撃を仕掛ける可能性があるとの懸念を示しているが、ロシア側は事実ではないと否定している。

ウクライナはロシアが国境付近に軍隊を集結させていると非難しているほか、ベラルーシが国境地帯に難民を送り込む可能性があると主張しており、24日に国境警備を強化する作戦を開始。対戦車部隊や空挺部隊の演習を行っている。【11月24日 ロイター】
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****ウクライナ東部の親ロシア派が戦闘態勢強化、大規模演習実施****
ウクライナ国防省情報局は23日、ウクライナ東部の親ロシア派の軍隊が大規模な演習を実施し、戦闘態勢を強化していると明らかにした。

ウクライナ国防省は声明で、ロシアは「一時占領下にあるドネツクとルハンスクで戦闘態勢を強化している」とした。ウクライナ東部のドンバス地域にあるドネツクとルハンスクは2014年以来、親ロシア派が勢力を拡大。22日に開始された演習には予備兵も参加したとしている。

ウクライナ軍の情報部門トップは週末の間にミリタリー・タイムズに対し、ロシアはウクライナとの国境沿いに9万2000人を超える軍隊を集結させており、来年1月末か2月初めまでに攻撃を開始する準備を整えていると述べた。

ただ、米当局者はロイターに対し、ロシアのプーチン大統領が対応を決定したかは現時点では不明と指摘。危機に向かっている可能性があるとしながらも、ロシアが直ちに攻撃するとは予想していない。【11月24日 ロイター】
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****08年紛争前夜と「同じ」=ウクライナ情勢けん制―ロシア****
ロシア対外情報局(SVR)はウクライナ情勢をめぐり、米欧の「挑発的な政策」がウクライナを強気にさせているとして、2008年のジョージア(グルジア)での紛争(南オセチア紛争)直前にも「同じような状況を見た」と批判、米欧をけん制した。インタファクス通信が22日報じた。
 
SVRは声明を出し、ロシアとジョージアが軍事衝突した08年の紛争について、米欧があおり当時のサーカシビリ・ジョージア大統領が暴走したと主張した。また、ウクライナとの国境付近に関し、米メディアは10月末からたびたびロシア軍の集結情報を報じているが「全く誤った情報」と否定した。【11月23日 時事】 
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“米長官、ロシアに透明性要求=ウクライナ国境の軍備増強”【11月18日 時事】
“欧米諸国、ウクライナ巡り意図的に緊張高めている=ロシア政府”【11月22日 ロイター】

【国内外を十分に制御できないバイデン政権のもとで、ウクライナ・ゼレンスキー政権が暴走する・・・・ロシアの警戒感】
最近のウクライナ東部を巡る緊張の高まりをロシア側から見ると、ロシアがアメリカ・バイデン政権のコントロールに危うさを抱いていること、ウクライナ・ゼレンスキー政権が国内求心力維持のために対軍事衝突を起こそうとしているのでは・・・というロシア側の警戒感があるとの指摘も。

****ベラルーシの移民、ウクライナ緊張にロシアは関与したのか****
(中略)だが、指摘されているロシア軍の対ウクライナ国境への集結が事実なのか、そうだとしてその意図は何なのかは、しょせんは当事者以外には分らない話である。我々にできるのは、客観情勢の諸要素から見て、それが有り得るかどうかを占うことが精々である。

その精々を試みるにしても、なぜこの時点でロシアがウクライナ侵略に乗り出さねばならないのかの明確な理由は、西側の報道では明らかにされていない。プーチンの旧ソ連圏死守の覚悟は分かっても、ではこの時点でウクライナ内に攻め込む契機は何なのか、には触れられていない。

過去2〜3か月の一連の動きについては、逆にむしろロシア側から流れてくる諸解釈・解説の方が、納得の行く筋書きを語っているように思えてくる。それらを纏めるとおおよそ以下のようになるだろう。

●ウクライナのV.ゼレンスキー政権は、国内の経済・政治のいずれでも行き詰まっている。

●この状況で、ウクライナは西側の同国への関心が薄れることを極度に恐れている。西側の支援を失ったなら、今の極端な反ロ政策に同意しない国内の勢力が力を増し、マイダン以来の政権の正統性が失われかねないからだ。

●その恐れは、米のJ.バイデン大統領による「Nord Stream-2(ノルト・ストリーム2)」(独ロ・ガスパイプライン)建設・操業容認、米ロ首脳会談開催、アフガンからの米軍撤退により、いやが応にも強められた。

●米欧のウクライナへの関心を引き戻すためには、再度ウクライナ近辺でロシア軍との戦火を引き起こして、「ロシア=侵略者」を叩き潰す方向へと米国や西側諸国を誘導するしか手が残されていない。

●そのために、ロシアを挑発して彼らが先に攻撃に着手するよう仕向ける。

●反中政策に手一杯のバイデン政権主流派は、このようなウクライナの動きには必ずしも同調できない。

しかし、バイデンは政権内の反ロ派を統御できておらず、彼らはウクライナの意図を利用して(あるいは乗せられて)半ば勝手に対露強硬策を推進しようとしている。

もしプーチンやロシア政権がこのように考えているのであれば、「決してウクライナの挑発に乗ってはならない。だが、それが度を超してくる恐れがあるなら、抑止の手は打たねばならない」というものになるはずだろう。

ロシア軍が本当にウクライナ国境近辺に集結しているなら、それはウクライナが手を出したなら痛い目に遭うぞ、との示威行動になる。(中略)それでもウクライナがことを仕掛けてくる可能性は排除できない。

その可能性を左右するのは一にかかって米国の判断や動きとなる。しかし、その点で齢80に近付いたバイデンが統治能力を失いつつあるのではないか、との懸念がロシア側には巣食う。

(中略)反中政策優先で冷や飯を食いかねない立場に措かれた(アメリカ国内の)反ロ派や、アフガン撤退後の主要任務を対ロ抑止にしか見出せなくなったNATO(北大西洋条約機構)、さらには反ロ攻勢を中間選挙での勝ち点に結び付けたい民主党の一部の思惑などが絡まり合って、バイデンの意向によらず対露強硬策に走り出す可能性もある――。こうロシアは考える。

米第6艦隊旗艦が黒海に入り、NATO戦略爆撃機がロシアとの国境20キロまでの近接飛行を実施し、ウクライナへは西側から武器の供与が続けられる――最近の自国の外交官たちとの会合でこれ等を指摘しながら、プーチンは危機感を露わにした。

10月には米国防総相がウクライナを訪問し、同国とNATOの関係強化を力説する。互いの要員追放合戦から、ロシアはそのNATOへの派遣代表を引き上げ、意思疎通のパイプを大きく細らせた。

その一方で、9月には黒海、10月には陸上で米・ウクライナの合同軍事演習が行なわれている。露紙によれば、2021年だけでウクライナ領内で8回のNATOを中心とする外国軍を加えての軍事演習が行なわれる結果になった。  

そして、ウクライナ東部では、ウクライナ政府軍と反政府軍のどちらが先に手を出しているのかは不明だが、前者がトルコ製のドローン兵器を前線に投入した。アゼルバイジャンの対アルメニア戦勝利の最大の貢献者とされる兵器であるから、当然ながらこれはロシアの神経を大いに尖らせる。

東部地域での和平を目指したミンスク合意は、政府側・反政府側双方の約束未履行で、実現の目処は立っていない。(中略)

緊張が高まっても、あるいはそれだからこそか、ロシアにウクライナとの直接対話を行なう意欲は見られない。(中略)

確かに、ウクライナの内情を垣間見れば、2019年に大統領に就任したゼレンスキーへの支持率は、2020年に早くも50%割れとなって以来下がり続け、直近の今月上旬の国内世論調査では22%へ落ちている。(中略)同じ世論調査で、彼が率いる大統領府の仕事ぶりに72%が不満足と回答している。

経済でも、比較的平穏な時期だった2016〜2019年で見ても成長率は年2〜3%の水準にとどまり、ロシアの頸木から脱して自由な経済の発展を遂げている、と賞賛するには躊躇される実績でしかない。

この沈滞の打破も狙ったのか、ゼレンスキーは国内の財閥との闘争に踏み切り、法的にその政治的影響力を弱めるべく動いた。だが、ウクライナの過去の大統領は、財閥と対立することでその地位を失ったケースが大部分で、危険な賭に踏み切っただけ、との指摘もなされている。

どうにも、ウクライナ政権が安定しているとは言い難いようだ。それだけに、外交分野でのヒットを飛ばしたいという欲求も出てくるのだろう。

ロシアが「相手にしない」と言うならで、ゼレンスキーもミンスク合意を御破算にすることも辞さず、としてこの合意枠組とは別のクリミア奪回に向けた国際会議を招聘した。問題解決の行方は益々不透明さを増している。(後略)【11月24日 JBpress】
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アメリカ 流産女性が薬物摂取を理由に胎児を殺したとして故殺罪に問われる宗教原理主義的欺瞞

2021-11-23 22:23:36 | アメリカ
(【10月19日 読売】)

今年5月20日ブログ“アメリカ 人工中絶禁止の最高裁判断の現実味 司法を舞台にしたトランプ氏の「リベンジ」幕開けか”で、中米エルサルバドルにおける“たとえ流産であっても女性に禁錮刑が科される”という中絶禁止法絡みの裁判に関する記事を紹介しました。

****レイプ被害で妊娠、死産して収監された女性に逆転無罪判決。エルサルバドルで続く「中絶禁止法」とは****
人権団体はこの無罪判決を「画期的」と評価。一方、中絶禁止法によりいまだに約20人の女性が流産によって刑に服しているという。

中米のエルサルバドルで、「中絶禁止法」によって収監されていた女性に対し、逆転無罪の判決が言い渡され、世界から注目を浴びている。

AFP通信などによると、エルサルバドルの控訴裁判所は8月19日、レイプ被害によって妊娠し、胎児が8カ月の時に死産したエベリン・エルナンデスさん(21)に対し、無罪を言い渡した。

エルナンデスさんは、当初、中絶をしたとして殺人罪で禁錮30年の判決を受け、2年9カ月もの間、収監されていた。(中略)

エルナンデスさんは18歳だった2016年4月、妊娠8カ月のときにクスカトラン県にある自宅のトイレで子どもを出産。彼女は出産するまで妊娠に気が付いていなかったという。

エルナンデスさんはトイレで腹痛を覚え、出産したものの胎児は死産していたと主張していた。
だが検察側は彼女が出産前のケアを受けることを怠ったとして有罪を求めていた。裁判所は2017年、エルナンデスさんに対し殺人罪で禁錮30年の判決を言い渡した。

エルナンデスさんが妊娠したのは、レイプ被害を受けたためだった。しかし、家族が脅迫されていたために恐怖を感じ、警察には被害届を出せなかったという。

控訴審で弁護側は、一審では胎児が出産前に死亡していたとする法医学的証拠が見逃されていたと主張。検察側は一審判決より重い禁固40年を求刑していた。
検察側が期限である8月29日までに上告するかが注目されている。

エルサルバドルで問題となっている「中絶禁止法」とは
カトリック教徒の多いエルサルバドルでは1998年以来、あらゆる状況で中絶を禁じている。
中絶禁止法と呼ばれるこの法制度では、違反した場合に禁固2~8年となるが、さらに重罪である加重殺人で有罪となる場合が多く、最大で刑罰は禁錮50年となる。

2013年には、出産直後に死亡する可能性の高い胎児を妊娠しており、自らも難病を抱え、妊娠の継続が困難だった女性が特例的な堕胎許可を求めていたが、裁判所が不許可とした。

当時の保健相も、裁判所に中絶の特例許可と、堕胎手術を行う医師に対する刑事免責を求めていた。女性は妊娠27週で帝王切開し、女児は数時間後に死亡した。

1992年の内戦終結後、内政不安のなかでカトリック教会がキャンペーンを開始し、そのなかで中絶禁止が盛り込まれた法律が1998年に成立。

2016年には、野党が最大禁固8年としている中絶禁止罪の刑罰を50年に引き上げるよう法改正を提案している。

AFP通信によると、2019年3月には、流産したことで加重殺人で有罪となり、禁錮30年の刑となり収監されていた女性3人が釈放された。しかし、同様の罪で約20人の女性が今も刑に服しているという。

米州人権委員会はエルサルバドル政府に対し、中絶によって女性に対し実刑判決を下す制度について見直しを求める報告を、2019年1月に公表している。【2019年08月21日  Shino Tanaka氏 HUFFPOST】
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エルサルバドルの事例も中絶禁止法に基づくものですが、中絶禁止法がアメリカで社会を分断する対立軸となっていることを5月20日ブログで取り上げました。

エルサルバドルを含めてカトリックの影響が強い中南米は、人工妊娠中絶がほぼ認められていない国が多い地域です。

ただ、エルサルバドルの上記のような対応については、社会の根本的問題を放置しながらの“欺瞞・偽善”であるちょうに思います。

“人工中絶に対する考え方はいろいろあるとは思いますが、上記エルサルバドルの中絶禁止法が「欺瞞」「偽善」に思われるのは、ギャングの横行によって同国が世界でも最も殺人が多い、「世界一治安の悪い国」としてランキングされることがしばしばあるからです。”【5月20日ブログ】

一方、アメリカでもエルサルバドル同様に、“流産して刑務所に入れられる”ということが実際に起きていると聞き、非常に驚きました。

妊娠中の薬物接種が胎児虐待・故殺と解釈されたようです。
こういう事例は珍しくなく、「氷山の一角」とも。

非常に興味深い記事なので、長いですが全文を引用します。

****流産して刑務所に入れられる女性たち アメリカ****
米オクラホマ州の先住民の女性(21)が流産した後、故殺罪に問われ裁判で有罪となった。人々から怒りの声が上がったが、そうした経験をしたことがある女性は彼女だけではなかった。

ブリトニー・プーロー被告は、妊娠して4カ月ほどだった昨年1月、病院でおなかの中の胎児を失った。
その後、誕生しなかった息子に対する第1級故殺罪に問われ、今年10月に禁錮4年の有罪判決を受けた。

流産で苦しんだ彼女が、一体どういういきさつで、胎児を殺したとして収監されることになったのか――。そのことが、インターネットやメディアで大きな話題になった。

彼女に有罪判決が出たのは、アメリカにおける妊娠喪失に関する啓発月間の最中だったと、ソーシャルメディアでは指摘された。空恐ろしい近未来を描いたマーガレット・アトウッドさんの小説「侍女の物語」の世界に近づいたと述べる人もいた。

氷山の一角
プーロー被告は治療を受けるために病院を訪れた際、妊娠中に違法薬物を使ったと明かした。
流産後の胎児の検視報告書では、肝臓と脳から微量のメタンフェタミン(覚醒剤)が検出されたとされた。BBCはこの報告書を入手している。

検視官は胎児の死因を特定しなかった。遺伝子の異常、胎盤の早期剥離、母親によるメタンフェタミン使用が要因となった可能性があると記した。

プーロー被告の弁護士は、有罪判決について控訴するとしている。検察側は、手続きが進行中だとしてコメント取材に応じていない。

中絶の権利を支持する全国団体「妊娠女性の擁護者」(NAPW)のダナ・サスマン事務局次長は、プーロー被告の事案について、氷山の一角に過ぎないと話す。

「ブリトニーのケースは本当に腹立たしいものだった」。ただ、「みんなが思っているほど珍しくはない」。

逮捕の大半は薬物絡み
プーロー被告の控訴を支援しているNAPWは、アメリカの妊娠女性に対する逮捕や「強制介入」を追跡している。
そうした件数は1973〜2020年に計1600件に上っている。うち1200件は、過去15年間に起きたものだという。

逮捕された女性には、「意図的な転倒」や「自宅での出産」が逮捕理由となっていた人もいた。だが、大多数は薬物絡みで、有色人種の比率が高かった。

刑事事件が最近急増しているのは、「麻薬戦争」と、胎児を人と認めるパーソンフッド運動が交差する「アメリカ独特の現象」だと、サスマンさんは話した。

人間とは何か
胎児が薬物にさらされる問題は、1980年代に文化をめぐる議論において注目されるようになった。麻薬中毒の母親から生まれた子どもを指す「クラック・ベビー」という言葉が使われ出した頃だった。

妊娠中の薬物使用は、流産や死産のリスク上昇など、多くの負の結果につながることがわかっている。ただ、実際の影響は胎児によって差が大きい。コカイン中毒の母親の子どもは相当の発育不全がみられるとした1980年代の研究は、のちに誤りとされた。

以来、メタンフェタミン使用からオピオイド危機(鎮痛薬の過剰摂取)まで、麻薬の使用は広がりをみせ、常に問題となってきた。

同時にいくつかの州は、中絶を難しくする法律を成立させた。中絶に反対する理由はさまざまで、道徳や宗教が絡むことが多い。そうした中、議論の一部として、パーソンフッドの概念に焦点が当てられるようになった。

「パーソンフッドの概念は実はとても単純だ」と、中絶反対派団体パーソンフッド・アライアンス・エデュケーションのサラ・クエイル会長は話した。

「パーソンフッドは、人間が人間であることと、私たちの平等性は人間性に基づいていることをうたうものだ。私たちはまさに最初から最後まで生物学的に人間であるという科学的事実は、変えられるものではない。それゆえ、人間として、私たちは法の下で平等な保護に値する。生まれながらにして自然権をもっているからだ」

パーソンフッド運動は、中絶を規制するだけでなく、その先を行くような法律を推進することや、胎児に対してまるで州民のような権利と保護を与えることに、一役買ってきた。

パーソンフッド・アライアンス・エデュケーションは、薬物による安楽死や、胎児を破壊する研究、人身売買などにも反対している。

同団体は、薬物を使用する母親を司法が訴追すべきかどうかについて考えを示していない。しかしクエイル会長は、「生まれる前の子どもを、母親が妊娠中に薬物を使うことで起きる害悪から守る」措置を、個人として支持すると述べた。

「ただ、私たちの法制度は、責任と説明義務の問題を考えるだけではいけない。薬物中毒者の回復にも焦点を当てる必要がある」

目的は保護か危害か
中絶支持派の研究機関グットマーカー研究所によると、妊娠中の薬物使用は23の州で、子どもの福祉に関する法律によって児童虐待とみなされている。

アメリカの半数の州では、妊娠している女性の薬物使用を疑った医療従事者に報告を義務付けている。
アラバマ州は2006年、「化学物質で危険にさらす」法を制定。子どもを「規制薬物や化学物質、薬物の道具にさらしたり摂取や吸入させたりする」ことを重大な犯罪とした。米メディアのプロパブリカの調査では、同法の制定後の10年で、女性500人以上が訴追されたことがわかった。

テネシー州も後に続こうと、2014年に同様の法律を成立させた。しかし2年後に期限切れとなり、以来、更新されていない。

カリフォルニア州のある郡では、女性2人が共に赤ちゃんを殺したとして収監された。女性たちは死産を経験した後、違法薬物の検査で陽性判定が出ていた。

その1人、チェルシー・ベッカーさんに対する殺人罪での起訴は今年、取り下げとなった。だがそれまでの1年半、保釈金200万ドル(約2億2800万円)が支払えなかったため、刑務所で過ごした。

もう1人のアドラ・ペレズ受刑者は、11年の刑期の3分の1ほどを終えるところだ。故殺罪で起訴され、より罪の重い殺人罪による訴追を回避するため、有罪を認めた。現在、控訴しようとしている。

2人とも「胎児暴行法」として知られる法律に基づいて起訴された。同法は少なくとも38州で存在している。
それらの法律は、妊娠中の女性を虐待する薬物乱用者を処罰しやすくするのが目的だった。妊娠していたレイシー・ピーターソンさんが夫に殺害された事件を受け、2004年に連邦法が成立。それが、多くの州の法律制定を後押しした。

だが、それらの法律の多くはあいまいだ。流産や死産につながったかもしれない行動を取った女性を訴追するかどうかは、検察官の判断に委ねられている。

いくつかの州は、胎児に生存能力があるかを考えるうえで基準となる、妊娠週数を明確にしている。しかし、そうしていない州もある。多くの医師は20〜24週くらいを基準としている。

プーロー被告が流産したのは、妊娠16〜17週ごろだった。NAPWのサスマン事務局次長によると、アメリカで死産を受けて訴追された女性の妊娠週数としては、おそらく最も早期だという。

この先はさらに過酷?
もしプーロー被告が流産せず、中絶手術を受けていたら、彼女は何の訴追もされなかったかもしれない。オクラホマ州では中絶は合法だ。

アメリカでは近く、テキサス州の最高裁が、同州におけるほぼ全面的な中絶禁止の合法性について判断を示す予定がある。他のいくつかの州でも、中絶に対する規制が強まっている。そうした環境で、中絶の権利を支持する人たちは、これから状況が一段と厳しくなっていくのではないかと心配している。

中絶が非合法の国では、女性たちが流産をしたことで逮捕され、殺人罪で訴追されている。そうした国の当局は、妊娠を意図的に終わらせたとして、女性たちの責任を問うことが可能だ。

中米エルサルヴァドルは、世界で最も厳格に中絶を禁じている国の1つだ。その国で提起されたある裁判は、米州人権裁判所まで争いが続いている。年内に判決が出されるとみられている。

マヌエラさんは流産した後、治療を受けるために病院に行った。その後、殺人罪で禁錮30年の有罪判決を受けた。2010年に刑務所内で死亡した。

エルサルヴァドルの法律は、中絶をしたと疑われる女性に遭遇した医師に対し通報を義務付けており、怠った場合は医師が収監される可能性がある。マヌエラさんの弁護団は、こうした法律が国際人権法に違反すると主張している。

依存症は「犯罪ではなく病気」
こうした事件の根底には、女性はいったん妊娠したら何があろうと胎児を優先すべきだという発想があると、英ダラム大学で教えるジェンダーと犯罪に関する法律学者のエマ・ミルンさんは話した。

だが現実はずっと複雑だと、ミルンさんは言った。妊娠した女性は往々にして必死で、精神的にもろく、支援が必要だとした。「妊娠中や妊娠前の女性に国が支援を提供できていないのは、国の過失だ」

2012年の調査によると、アメリカの妊娠女性の約6%が違法薬物を使ったと認めている。飲酒については8.5%、喫煙は16%だった。

アメリカの医師団体は、妊娠中の薬物使用を児童虐待に分類することに反対している。そして、依存症の女性に必要なのは禁錮刑ではなく、治療だと主張している。

「薬物依存症は犯罪的な行動というより、治療できる病気だ」と、アメリカの医師たちを代表する米医師会は主張する。

母親の権利より優先されるのか
医療倫理の専門家で、米ハーヴァード大学法科大学院のI・グレン・コーエン副学部長は、胎児に対して法的に同等な権利を与えることについて、単純な問題ではないと話した。

「胎児が人類の仲間であることは議論の余地がない。(問題は)それが(法的に)人間なのか、そうではないのかだ」
仮に法律が胎児についてパーソンフッドを認めるとして、そのパーソンフッドは母親の自己決定権より優先されるものなのか。

「整理すべきことは多い。だが、政治や裁判の点では、ほぼまったく整理されていない」とコーエンさんは言った。
女性の人権を擁護する人々は、この問題が妊娠女性から自律性を奪うことにつながりかねない「滑りやすい坂道」だと懸念を示している。

薬物使用を理由に、胎児に危害を加えたとして女性が逮捕されるのであれば、ビールを飲んだ場合はどうなるのか。車を運転中にスピード違反をしたらどうなるのか。
「薬物でそうなるなら、次は何なのか」と、法律学者のミルンさんは疑問を口にした。【11月23日 BBC】
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胎児の人権を主張するパーソンフッドの概念から出発すれば、胎児に危険をもたらす妊娠中の薬物摂取は殺人的行為ということになるのでしょう。

しかし、中絶を社会的に受入れている日本などの常識からすれば、意図的な中絶が認められているのに、意図せざる薬物摂取などの結果(どこまで薬物摂取が胎児死亡に影響したかも定かではありませんが)が罪に問われるというのは原理主義的非現実性を感じます。

また、記事最後にもあるように、こういう薬物摂取を胎児故殺として問題視するなら、ビールは?酒は?車の運転は?転びやすい高いヒールの靴は?・・・・等々、際限なく範囲は拡大します。結局、妊娠した女性は家でじっと過ごすしかないということにも。(それも運動不足で胎児を死の危険にさらすとして糾弾されるのかも)

アラバマ州では妊娠中にけんかになった別の女から銃で腹部を撃たれ流産した被害者女性が胎児を死亡させたとして過失致死罪で起訴された事件もありました。(その後検察は起訴を取下げましたが)。
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欧州  再び感染拡大 各国で規制強化、ワクチン接種義務化の動きも 反発も高まる、暴徒化も

2021-11-22 22:56:06 | 欧州情勢
(オランダ・ロッテルダムで19日夜、新型コロナウイルス対策の規制強化に反発する市民が抗議活動を行い、暴動に発展した。【11月21日 BBC】)

【緊急対策が取られなければ、死者は来年3月までにさらに50万人以上増える可能性】
一定にワクチン接種が進んでいる欧州の感染が再拡大し、WHOも懸念する状況になっています。
理由として、ワクチン未接種者がいることで接種率が十分なレベルには達していないこと、感染力の強いデルタ変異株の拡大が指摘されています。

****欧州の感染拡大、「非常に心配」とWHO 各国で規制に抗議****
世界保健機関(WHO)は20日、新型コロナウイルスの新たな感染の波がヨーロッパで拡大していることについて、「非常に心配している」と表明した。

WHOのハンス・クルーゲ欧州地域事務局長はBBCに対し、緊急対策が取られなければ、新型ウイルスによる死者は来年3月までにさらに50万人以上増える可能性があると述べた。
また、マスク着用を増やせば、すぐに効果が出るだろうとした。

ヨーロッパではいくつかの国で、感染率が過去最高となっている。全面または部分的なロックダウンを実施する国も出ている。

クルーゲ氏は、季節が冬になったことや、ワクチン接種率が十分なレベルに達していないこと、より感染力が強いデルタ変異株が広がっている地域があることなどが背景にあるとしている。

そのうえで、感染拡大を抑えるためにはワクチン接種の増加、基本的な公衆衛生対策の実施、新たな治療法の導入が必要だと主張した。

「(新型ウイルス感染症の)COVID-19は改めて、この地域の死因の1位になっている」
「何をしなくてはらないか、みんながわかっている」

ワクチン義務化については
クルーゲ氏はワクチン接種の義務化について、「最後の手段」であるべきだとの見解を示した。
ただ、義務化について「法的および社会的な議論」をすることは「まさしく時宜にかなっている」だろうとした。

「その前に、COVIDパスなど他の方法がある」
「(それらは)自由を縛るものではない。むしろ個々の自由を守るための道具だ」(後略)【11月21日 BBC】
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【各国で制限措置強化やワクチン追加接種加速】
こうした感染拡大を受けて、欧州各国は制限措置を強化し、ワクチン追加接種を加速させています。

****欧州でコロナ感染悪化、制限措置厳格化や追加接種拡大の動き相次ぐ****
欧州諸国で新型コロナウイルス感染状況が悪化している。感染者数が急増する中、感染拡大抑制に向けた措置の厳格化やワクチンの追加接種(ブースター接種)の対象を拡大する動きが広がっている。

ドイツのメルケル首相は18日に感染第4波の抑制に向けた措置を巡り各州の首相との合意を目指す。ロイターが入手した閣議向けの文書草案によると、公共交通機関や職場でのワクチン証明書もしくはコロナ検査での陰性証明の提示義務付けのほか、レジャー関連を対象とした制限措置の厳格化などが盛り込まれている。

17日の新規感染者数は5万2800人強と、1週間前から30%超急増し、過去最多を更新した。ドイツでワクチン接種を完了した人は人口の68%と、西欧諸国の平均を下回る。追加接種を受けた人も人口の5%程度にとどまっている。

新型コロナ感染の第5波に見舞われているフランスでは、1日当たりの新規感染者数が2万人を超え、8月25日以来の最多に達した。

スペインのサンチェス首相は、これまで70歳以上を対象としていたワクチンの追加接種を60歳以上に拡大すると発表した。

スペインでは人口の79%がワクチン接種を完了しているものの、新型コロナ感染率は10月終盤から着実に上昇している。

17日時点の10万人当たりの感染者数は96人と、前日の約89人から増加。しかし、オランダの同900人超、オーストリアの同1400人超と比較すると依然低水準にとどまっている。

ベルギーは感染の第4波に対応するため、感染抑制策を厳格化すると発表した。20日から10歳以上を対象に、カフェやレストランなどの屋内では着席時以外のマスク着用が義務付けられる。

また、12月半ばまでは少なくとも週4回、その後は週3回の在宅勤務を国民に義務付ける。【11月18日 ロイター】
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欧州各国の接種状況については以下のようにも。ワクチンを拒否する者が一定に存在することで接種率は頭打ち状態となっており、出遅れた日本にも追い抜かれています。

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欧州では昨年末、日本に先駆けてワクチン接種を始めたが、接種への拒否運動も根強く、各国で接種率は頭打ちになっている。

欧州連合(EU)の欧州疾病予防管理センターによると、ワクチン接種を終えた人の割合はドイツで68%、イタリアで73%、フランスで69%。いずれも日本の76%を下回る。接種率の低い国では、気温低下に伴って流行の再拡大が目立つ。

特に東欧では、チェコが58%、スロバキアが45%、ルーマニアが36%と低く、感染も深刻化する。18日にはチェコやスロバキア、ギリシャ各政府が相次いで、非接種者を対象に行動制限や入場規制を導入する計画を発表した。【11月19日 産経】
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感染者の過去最多を更新しているドイツでは、ワクチン接種義務化も議論されていますが、そのことは現在協議されているポスト・メルケルの連立交渉にも影響します。

***独、ワクチン義務化の議論活発化 コロナ第4波受け****
ドイツの政治家の間で新型コロナウイルスワクチン接種の義務化を巡る議論が活発化している。国内のコロナ感染者が急増する一方で、ワクチン接種ペースが低迷している現状が背景にある。

メルケル首相が属する保守、キリスト教民主同盟(CDU)の複数の党員は21日、現在68%にとどまっている接種率押し上げに向けたこれまでの取り組みが成果を出していないため、連邦・州政府はすぐにワクチンを義務化すべきだと主張。

CDUの青年組織の代表は独紙ウェルトへの寄稿で、「ワクチン義務化とワクチン未接種者を対象とするロックダウン(封鎖措置)が必要だと明確に表明する局面に達した」と指摘した。

過去7日間の新規感染者は21日現在、ドイツ全体で10万人当たり372.7人と、14日連続で過去最高を更新した。一部の地域では1000人を超え、病院の集中治療室が逼迫しつつある。

バイエルン州首相はワクチン義務化を早期に決断するよう呼び掛け、シュレスウィヒ・ホルシュタイン州首相は未接種者に圧力をかけるために、義務化を少なくとも検討する必要があるとの見方を示した。

新たな連立政権樹立を交渉している3党の1つである環境政党「緑の党」の有力者も、現在の局面でワクチン義務化を排除するのは誤りだとの見解を示した。同党と第1党である社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)の連立交渉は最終局面にあり、合意がまとまれば、SPDのショルツ財務相が12月に首相に就任するとみられる。

ショルツ氏はこれまで、医療従事者および高齢者介護職員のワクチン接種義務化について議論したいと表明しているが、FDPはワクチン義務化に反対している。【11月22日 ロイター】
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なお、やはり感染が拡大しているイギリスは新たなロックダウンは予定にないとしています。

****イングランド地方で新たなロックダウンを実施する計画はない*****
イギリスの1日あたりの感染者数は19日、4万4242人に上った。

英政府は、イングランド地方で新たなロックダウンを実施する計画はないとしている。ただ、プランBと呼ばれる追加対策については、国民保健サービス(NHS)を機能させ続けるために導入するかもしれないとしている。

追加対策には、特定の屋内施設においてCOVIDパスポート提示やマスク着用を義務付けたり、在宅勤務を奨励したりすることなどが含まれる。【11月21日 BBC】
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【ワクチン非接種者への圧力】
高まるワクチン接種義務化の論議のように、未接種者に対する政策的圧力が強化されています。
オーストリアでは未接種は原則として外出禁止に。(22日からは外出制限が全国民対象に拡大されています)

****外出禁止に規制強化…欧州、ワクチン非接種者に圧力****
新型コロナウイルス感染が再拡大する欧州で、各国がワクチン接種拒否者への圧力を強めている。

オーストリアは、非接種者に対象を限定した外出制限を導入。接種証明の提示義務を広げる国も相次ぐ。クリスマス商戦を迎え、都市封鎖の再導入を回避したい狙いがある。

オーストリアでは15日以降、ワクチン接種証明を持っていない人は必需品の買い物や家族介護、通院などの場合を除き、原則として外出できないことになった。12歳未満の子供、医療上の理由で接種できない人は対象外となる。

国内では今月、1日当たりの新規感染者数が連日のように過去最多を記録しており、シャレンベルク首相は「ワクチンを接種していない人に接種してもらうための措置だ」と訴えた。違反者には罰金を科す方針で、地元テレビは警察官が街頭で通行人の接種証明をチェックしている様子を報じた。

オーストリアで現在、2度の接種を終えた人の割合は64%。国民の約3割を対象とした規制には「横暴だ」と抗議デモを呼びかける動きもある。

ドイツでも感染者数の最多更新を繰り返し、18日の発表では1日当たり6万5000人を超えた。

政府は18日、各州代表と対策会議を開催。感染が悪化する地域では、飲食店やスポーツイベントなどへの立ち入りをワクチン証明保有者、あるいはコロナに感染して治癒した人に限定する方針で合意した。

メルケル首相は「多くの措置は、ワクチンを接種していれば避けられた。今からでも、接種するのに遅くはない」と国民に訴えた。

欧州では昨年末、日本に先駆けてワクチン接種を始めたが、接種への拒否運動も根強く、各国で接種率は頭打ちになっている。(中略)

欧州は昨年末、新型コロナ流行でクリスマス市が各地で中止され、都市封鎖も相次いだ。2年連続で経済的打撃を受けるのを避けるため、各国は接種拡大で重症患者の増加を食い止めながら、移動の自由を維持したい構えだ。【11月19日 産経】
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オーストリアの人口は日本の14分の1。 そのオーストリアの21日の新規感染者は1万4千人。 日本で言えば1日20万人弱のペース。 何らかの強い対策が必要にもなります。

なお、すでに「衛生パス」(ワクチンパスポート 健康パス)を実施しているフランス・マクロン大統領は、他の欧州各国のようにワクチン未接種者に対する制限措置を導入する必要はないとしています。

****仏、ワクチン未接種者への制限措置必要なし=マクロン大統領****
 フランスのマクロン大統領は、フランスは新型コロナウイルスワクチンの接種などを証明する「健康パス」によって感染拡大が抑制されているため、他の欧州各国のようにワクチン未接種者に対する制限措置を導入する必要はないと述べた。

18日付けの地元紙のインタビューで「ワクチン未接種者を封じ込めている国々は(健康)パスを導入していない国々だ。したがって、このような(封じ込め)措置はフランスでは必要ない」とした。

ドイツのメルケル首相は18日、新型コロナ感染症の患者で病床が逼迫している地域のワクチン未接種者に対し公共での生活を制限すると発表。オーストリアでもワクチン未接種者に対する制限措置が実施されている。【11月19日 ロイター】
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ただ、フランスも最近感染者が急拡大して1日2万人に近づいていますので、今後の対応強化が必要になるかも。
(規制強化は後述のように激しい抵抗を伴いますので、特に自由制限への抵抗感が強いフランスでの規制強化はマクロン大統領としても避けたい思いでしょう)

【広がる規制強化への反発も】
ワクチン接種の義務化などの規制強化に対し、強い抗議行動も各地に広がっています。

****欧州各地で大規模デモ 新型ウイルスの規制強化に反発****
ヨーロッパで、新型コロナウイルス関連の規制強化への反発が広がっている。ベルギーでは21日、数万人規模の抗議デモが起きた。

ベルギーの首都ブリュッセルであった抗議デモでは、警官隊が催涙ガスや放水銃を使って対応。デモ参加者の一部は警官隊に花火を投げつけた。

参加者らは主に、ワクチン未接種者に対してレストランやバーへの入店を禁じるCOVIDパスの制度に抗議している。

同国ではマスクに関するルールが強化され、レストランなどでの着用が求められている。来月中旬までは国民のほとんどが、週4日の在宅勤務が義務付けられる。医療従事者らのワクチン接種を義務化する計画もある。

オランダでは警官隊が発砲
規制強化に対する抗議デモは、オランダ各地でも2日続けて発生した。
20日にはハーグで、デモ参加者の一部が機動隊に向けて花火を投げたり、自転車に火をつけたりした。機動隊は馬や犬、警棒などを使って、群衆を散らそうとした。

当局によると、少なくとも7人が拘束された。警官5人が負傷し、うち1人は膝のけがで救急車で搬送された。
現地メディアは、南部ローゼンダールで小学校が放火され、警察は少なくとも15人を拘束したと伝えた。東部エンスヘーデでは夜間の外出を防ぐため、緊急命令が出された。

同国ではこのほか、サッカーのトップリーグの2試合が一時中断された。サポーターらが競技場に入り込み、ピッチ上で走ったためだった。競技場への入場は現在、新型ウイルス対策で禁止されている。

19日夜には同国ロッテルダムで、デモ参加者の一部が暴徒化。警官隊が発砲し、少なくとも4人のデモ参加者が負傷して病院で治療を受けている。

警察の報道官はロイター通信に、「生命が脅かされる状況だった」と説明した。当局はこの件について捜査を開始した。
オランダは新型ウイルス感染者の急増を受け、先週末から3週間の部分的ロックダウンを実施している。バーやレストランは午後8時に閉店となり、スポーツ大会は無観客で開催されている。

その他の国々でも
オーストリア、クロアチア、イタリア、デンマークでも、新たな行動制限をめぐって国民の間で怒りが高まっており、路上で大規模な抗議デモが繰り広げられた。

オーストリアの首都ウィーンでは、新たな全土ロックダウンの実施や、来年2月にワクチン接種を義務化する計画などに抗議する大型デモが起きた。

ロックダウンは22日から20日間の予定。生活に不可欠な商店以外は閉鎖され、在宅勤務が命じられる。
参加者たちは国旗や「自由」と書かれた旗を振り、「抵抗!」と声を張り上げた。警官隊にはブーイングを浴びせた。

クロアチアの首都ザグレブでも、公的部門で働く人たちを対象にワクチン接種を義務化することに抗議する数千人が行進した。

イタリアでは、職場や公共交通機関などで証明書「グリーンパス」の提示が求められることに反対する数千人が、首都ローマの古代競技場遺跡チルコマッシモに集まった。

デンマークの首都コペンハーゲンでも、1000人近くが公的部門職員に対するワクチン接種義務化の計画に抗議するデモがあった。

カリブ海の仏領グアドループでは、医療関係者を対象としたワクチン接種の義務化や、燃料価格の高騰などへの抗議が暴動となった。商店で強奪が発生し、事業所が放火されるなどした。
報道によると、38人ほどが拘束された。これを受け、フランス当局は21日、警察の特殊部隊を派遣した。(後略)【11月22日 BBC】
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こういう激しい抵抗は、仮に感染状況が悪化して強い措置がとられても日本では起きにくい事態でしょう。
国民性の違いなのか、個人と国家の関係に対する認識の違いなのか・・・。
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パレスチナ  イスラエル・パレスチナ双方とも住民の生命・生活を尊重せず、対立の構図を維持

2021-11-21 23:14:47 | パレスチナ
(イスラエルでの働き口を求めて集まる人々(ガザ地区)【11月16日 Newsweek】)

【エルサレム旧市街でパレスチナ人の男が銃を乱射 ハマス「英雄的作戦」】
物事の全てと同様に国際的紛争も、国際世論の関心をひきつけていられる時間(「賞味期限」と言ったら不謹慎でしょうが)には限りがあります。

次から次に起こる事件・紛争・衝突のなかで、あのアフガニスタンのタリバン復権すら、すでにメディアの関心は薄れているようにも。

ましてやイスラエル独立時の1948年第1次中東戦争からすでに70年以上(ユダヤ人がパレスチナから追われ流浪の民となった時期からすれば2000年以上)続くイスラエル・パレスチナの紛争には(パレスチナを支援してきたアラブ世界を含めた)国際世論もメディアも関心が薄れているのが正直なところでしょう。

そうした状況では、テロも“忘れ去られない”ための“英雄的作戦”という見方にもなるようです。

****聖地「神殿の丘」近くで銃乱射、民間人死亡…ハマス「英雄的作戦」と称賛****
イスラエル当局によると、エルサレム旧市街で21日、パレスチナ人の男が銃を乱射し、1人が死亡、3人が重軽傷を負った。男はその場で警察官に射殺された。
 
現場はユダヤ、イスラム両教の聖地がある「神殿の丘」の入り口付近。警察官2人と民間人2人が銃撃に巻き込まれ、うち民間人男性が死亡した。
 
イスラエル主要紙ハアレツは当局者の話として、乱射した男は東エルサレムの住民で、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスのメンバーだと伝えた。ハマスは21日、メンバーの犯行だと認め、「英雄的作戦」と称賛した。
 
エルサレム旧市街では17日にもパレスチナ人が警察官を襲撃する事件が起きた。治安悪化を受け、ナフタリ・ベネット首相は21日、エルサレムの警備強化を指示した。【11月21日 読売】
********************

17日の事件は、東エルサレムに住むパレスチナ人の少年(16)がナイフで治安部隊を襲い、2人が負傷した事件です。

こうした「英雄的作戦」は対立を激しくし、事態を悪化させ、パレスチナ住民の生活を苦しくするだけだと思いますが・・・・ハマスには聞く耳はないようです。

【双方ともに住民の命を尊重せず】
パレスチナでの両者の対立はイスラエルとパレスチナ、双方に言い分はあるのでしょうが、軍事的に圧倒的優位にあるイスラエルの基本姿勢は「やられたら、倍返しどころではなく、10倍返し・20倍返しにして徹底的に叩く」というもの。

その頑なさとともに、双方犠牲者においてパレスチナ側の犠牲が格段に大きい非対称性が、国際社会におけるイスラエルのイメージを悪くしている大きな理由です。

単に犠牲者数の非対称性だけでなく、民間人犠牲を厭わないあたりも。

****イスラエル軍によるガザ空爆、死者6割超が非戦闘員 59人が子ども****
今年5月にパレスチナ自治区ガザ地区で起きた武装勢力とイスラエル軍の軍事衝突で、イスラエル軍の空爆による死者240人のうち、6割超の151人が非戦闘員だったことがパレスチナの人権NGOの調べでわかった。ほとんどが自宅での被害で、イスラエル軍から空爆前の事前の通告がなく、民間人の犠牲が増えた、としている。
 
5月10日、イスラエル軍は、ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがロケット弾を発射したことへの報復として空爆を開始。11日間の武力衝突に発展した。イスラエル側は子ども2人を含む12人が死亡した。
 
パレスチナ人権センター、メザン人権センター、アルハックの3団体が合同で現地調査を行い、ガザ地区の被害を分析した。ガザ地区内で武装勢力のロケット弾により死亡した十数人は、調査対象から除外したという。近く調査結果を公表する。
 
調査によると、空爆で死亡した非戦闘員151人のうち59人が子ども、女性は38人だった。死者の大半はガザ市やガザ北部に集中していた。自宅で亡くなったのは132人に上った。
 
イスラエル軍はこれまで、ガザ地区への空爆について「民間人の死者を最小限に抑える努力をした。ハマスが市民を人間の盾にしている」と主張。攻撃前に、対象の建物に住む市民に電話やテキストメッセージなどで警告した、などと説明してきた。

これに対しパレスチナ人権センターのハムディ・シャクラ副所長は「事前の通告を受けて避難できた建物も一部にはあったが、多くの場合は通告なく激しい空爆に遭い、市民の死者数が増えた。イスラエル軍の攻撃は国際法に違反し、正当化することはできない」と指摘する。

思いもしなかった爆撃、崩れた自宅
ガザ市中心部のワヘダ通りでは5月16日未明、激しい空爆で三棟の住居用ビルに住む40人以上が犠牲となった。今月訪れると、がれきの山は撤去され、住宅の跡形もなく、茶色い更地となっていた。
 
通りに面する住居用ビルの3階に住んでいたアザム・コラクさん(42)は就寝中、爆音に続いて大きな揺れを感じた。次に最も強い爆撃がビルを直撃し、ビルは崩れ落ちた。
 
イスラエル軍から事前の通告は何も受けなかったという。「ガザでも安全な場所」とされてきたこの地域が狙われるとは、家族の誰もが思いもしなかった。(中略)
 
1階と2階に住む兄やその子どもら8人は死亡した。隣の建物では親族14人も犠牲になった。その日は、がれきの上で夜を明かした。全員が発見されるまで、約12時間がかかったという。
 
イスラエル軍はこの地域への攻撃について「地下トンネルを狙った」などと説明してきたが、アザムさんの弟で医師のアミールさん(30)は「イスラエルは今まで何の証拠も示していない」と訴える。親族を亡くして、もうじき半年が経つ。「ここで起きた悪夢が、今でも信じられない」【11月6日 朝日】
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パレスチナ・ハマス側も、敢えて居住区域内に軍事施設を隠すなど、パレスチナ住民を「人間の縦」を利用するような戦術、また、“ガザ地区内で武装勢力のロケット弾により死亡した十数人”ということに示されるように、パレスチナ住民の命を尊重しているようには思えません。

【平和的解決にも関心なし】
また、イスラエル・パレスチナ双方とも問題の平和的解決には関心がないようにも見えます

****イスラエル、パレスチナ入植拡大 米の「懸念」配慮せず****
イスラエル政府は(10月)27日、占領するヨルダン川西岸でユダヤ人入植者の住宅計約3100軒を新たに建設する計画を承認した。入植活動に反対し「深い懸念」を前日に示したバイデン米政権の意向を無視した形で、米国との摩擦の火種になりそうだ。

イスラエル建設・住宅省はこの計画とは別に24日、1300軒以上のユダヤ人住宅の建設計画を発表した。米国務省のプライス報道官が26日の記者会見で「緊張緩和の努力に全く一致しない入植地拡大に強く反対する」と明言していた。米ニュースサイトのアクシオスは、ブリンケン米国務長官が同日、イスラエルのガンツ国防相に電話で抗議したと伝えた。

パレスチナ自治政府は27日「パレスチナ人の土地を盗み緊張をもたらす措置で、すべての人に悪影響を及ぼす」とイスラエルを非難する声明を出した。国際社会は入植活動を国際法違反とみなしている。

トランプ前米政権は入植活動を事実上容認したが、バイデン政権はイスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する「2国家解決」を支持する立場で、自制を促してきた。入植を推進したイスラエルのネタニヤフ前政権とは隙間風が吹いていた。

6月のベネット政権発足を受け両国は関係改善を目指してきたが、入植活動を巡る対立が重荷になりそうだ。イスラエルは22日にパレスチナの6つの人権団体をテロ組織に指定し、国際社会の反発を招いたばかりだった。

右派与党を率いるベネット首相の連立政権は、入植を推進する右派から反対する左派まで加わる寄り合い所帯だ。今回の動きは閣内でも不協和音をうむが、イスラエル紙ハーレツはベネット氏にとって「政治的得点」だとの見方を紹介した。米国の反対を押し切ったことで国内右派にアピールできると指摘し、仮に今後の入植地拡大が難しくなっても批判する米国に責任を負わせられると指摘した。【10月29日 日経】
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****イスラエル、パレスチナNGOを「テロ組織」指定 逮捕も可能に****
イスラエルが、パレスチナの人権NGOの6団体を「テロ組織」に指定し、国内外で波紋を呼んでいる。イスラエルは「テロ組織の資金源になっている」と主張するが、国際的に著名な人権団体が対象となり、批判の声が上がっている。
 
イスラエルのガンツ国防相は10月22日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区ラマラにある人権団体「アルハック」など6団体を「テロ組織」と指定した。さらに、イスラエル軍は今月7日、6団体をテロ組織であると決定。決定に基づく逮捕などを可能とした。
 
イスラエルは今回の6団体について、テロ組織と指定するパレスチナ解放人民戦線(PFLP)と関係があると主張する。ガンツ国防相は10日、声明で「人権団体の活動には今後も敬意を表するが、テロリズムには対処を続ける。PFLPはテロ活動の資金を集めるため、『人道的な』組織のネットワークを運営している」と主張した。

ただ、イスラエルメディアも団体とPFLPとのつながりについて「政府は具体的な証拠を示していない」と指摘している。(中略)

国内外で、イスラエルの決定には批判の声も上がっている。イスラエルの人権活動家らは先月27日、政府の決定に抗議するため、パレスチナ西岸地区ラマラで「テロ組織」と指定されたNGOと面会した。

国連機関などは今月9日、「パレスチナ人への必要不可欠なサービスを提供してきた6団体の活動を著しく制限するもので、市民と人権に対するさらなる侵害だ」とする声明を出した。
 
一方、イスラエルは最大の同盟国である米国の理解を得ようとしている。イスラエルの治安機関「シンベト」は10月末、訪米して米政府高官と会談した。米国務省のプライス報道官は今月4日の会見で、「イスラエル政府から詳細な情報を受け取った」とした上で、米国の対応については「提供された情報を見直している」と述べるにとどめた。【11月11日 朝日】
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関係改善を目指すより、相手に対し強硬な姿勢をとることで、国内支持を固めることの方が優先するようにも見えます。

【対立の構図が存在意義を高め そこから利益も】
イスラエル保守強硬派やハマスにとっては、対立・戦闘を続けることで自らの存在意義を高められるという思惑もあります。

厳しい言い方をすれば、そうした対立の構図を維持することで、そこから「甘い汁」を吸っているとも。

****19歳パレスチナ女性の未来を奪ったのは、イスラエルでなくハマスだった****
<パレスチナのあらゆる悲劇をイスラエルのせいと主張するメディアは多いが、実際に住民たちが感じていることとは大きな隔たりがある>

パレスチナのガザ地区に住む19歳の女性アファフは、トルコの大学で学ぶための奨学金を獲得し、必要な書類を全てそろえた。だが、ガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスの定めた「後見人ルール」に反していたためエジプト国境で追い返され、ガザから脱出することができなかった──。
AP通信は11月、このような記事を配信した。

「後見人ルール」は、イスラム教徒女性は後見人たる男性親族の付き添いなしに外出してはならない、というイスラム法の規定に由来する。ハマスはこれに基づき、女性がガザ領外に出るには後見人の許可を得ていなければならないとか、後見人は被後見人女性がガザ領外に出るのを止めることができるといったルールを適用してきた。

アファフは「正直、心が折れた」とAP通信に語った。彼女の未来を奪い、彼女をガザに閉じ込めたのはイスラエルではない。ハマスだ。

日本を含む世界中のメディアが、今もパレスチナのあらゆる悲劇はイスラエルのせいだと主張し続け、現実をその「鋳型」に閉じ込める報道に終始する傾向にある。しかしパレスチナでは今、アファフの事例のように、その鋳型では説明のつかない数々の事態が発生している。

イスラエル当局は今年9月、ガザ地区から7000人の労働者を受け入れると発表し、ガザの商工会議所にはイスラエルでの労働許可証を求め数万人が殺到した。

彼らがイスラエルでの仕事を求めるのはガザに仕事がないからである。
ガザの経済状況は深刻だ。2021年の夏時点で失業者数は21万2000人に達し、失業率は約45%となった。サウジアラビアのテレビ局のインタビューに応じたガザ住民たちは、この15年間仕事も収入もない、生活が成り立たないと口々に語った。

支援金で贅沢な暮らしを送る
この現状はパレスチナを支配する自治政府とハマスの無策・無責任を露呈させている。彼らは国際社会から巨額の支援金を受け取っているにもかかわらず、人々の生活改善や雇用促進には全く無関心である一方、自らはカタールやトルコで贅沢な暮らしを送っている。

生活インフラを建設する代わりにイスラエルを攻撃するためのトンネルを掘り、ロケットランチャーを設置し、学校では和平や共存の代わりに武装闘争こそが正義だと教えている。彼らは悲劇の全てをイスラエルのせいにすれば、責任回避できると高をくくっているのだ。

忘れてはならないのは、彼らに渡る支援金の一部は日本国民の税金だという事実だ。日本政府は1993年のオスロ合意以降、パレスチナに対し21億ドルを超える支援を行っている。日本が支援目標として掲げる「自立可能なパレスチナ国家建設」が全く実現されていないのは明らかだが、日本政府はパレスチナ指導部の腐敗について見て見ぬふりを決め込んでいる。

パレスチナ政策調査研究センターが10月に実施した世論調査では、西岸地区をパレスチナ自治政府が、ガザをハマスが支配している現状について「悪い」と回答した人が「よい」と回答した人を20ポイント以上上回った。

人々にとっての優先事項は第1に西岸とガザの統一(29%)、第2に経済状況の改善(25%)、第3に汚職の撲滅(15%)だ。対イスラエルについても、和平合意を望む人が36%超と、武装闘争を望む人(34%)の割合を上回った。【11月16日 飯山 陽氏 Newsweek】
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【先細る国際支援】
“国際社会から巨額の支援金”・・・・国際社会の関心が薄れ、アラブ諸国は“アラブの大義”を捨ててイスラエルに接近するようにもなっていますので、いつまで続くか。

すでに国連機関は、特にパレスチナ支援に非協力的だったトランプ前政権以降、財政的に行き詰まっています。

****職員の給与支払いも難しく パレスチナ支援の国連機関、財政難****
国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が、各国の支援の減少により財政難に陥っている。16日、ブリュッセルで支援国による国際会議が開かれたが、今年の予算の不足分を埋めることはできなかった。支援事業にも影響が出かねない状況だ。
 
スウェーデンとヨルダンが主催した国際会議では、各国から新たに計3800万ドルの拠出が表明された。だがUNRWAによると、今年の予算のうち6千万ドルがいまだ不足している。

AFP通信などによると、UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は、職員の給与支払いも難しくなっているとして、「解決策を見つけなければ、組織は崩壊の危機にある」と訴えた。
 
UNRWAは、パレスチナ自治区や隣国ヨルダン、レバノンなどで暮らすパレスチナ難民に食料や医療、教育などの支援を提供しているが、近年、たびたび財政難に苦しんでいる。
 
ラザリーニ事務局長は16日、「活動を脅かす政治的な攻撃が増えている」とも懸念を示した。

イスラエルは、UNRWAを「政治的な組織」として批判し、各国に拠出をしないよう呼びかけている。

米国は長年、最大の支援国だったが、トランプ前政権は2018年、拠出金を完全停止。当時は欧州連合(EU)などの追加支援でしのいだ。

バイデン米政権は今年、拠出を再開する方針を示したが、資金不足は解消されていない。昨年は2800万ドルを拠出したサウジアラビアなど湾岸諸国が今年の支援を縮小しており、財政難の原因になっているという。【11月17日 朝日】
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コメント (1)
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