孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  ハマス、ヒズボラとの緊張たかまる

2008-02-29 17:09:58 | 身辺雑記・その他
イスラエルとガザ地区のハマス等武装勢力の間の攻撃の連鎖がこのところ一段と激しくなっています。

イスラエル軍は27日朝、ガザ南部でハマスのメンバーが乗った車を空爆し、5人を殺害。

これに対する報復としてハマスは、ガザ境界に近いイスラエルの町スデロトやその近郊に約40発のロケット弾を撃ち込み、イスラエルの男性市民1名が犠牲になりました。
ガザからのロケット弾によるイスラエル人の死亡は昨年5月以来。

イスラエル軍はその報復として、空からガザへのミサイル攻撃を繰り返し、ハマスの内務省ビルなどを空爆。
近くの住宅にいた生後半年の乳児1人を含む市民5人とハマスなどの戦闘員6人を殺害しました。

更にイスラエル軍は28日、ガザ地区を空爆。
少年4人を含む計12人のパレスチナ人が死亡したと伝えられています。

おりしも、以前イスラエルがロケット弾発射場所を狙った誤射事件に関してのニュースも入っています。
****イスラエル軍:ガザの民家砲撃、過失なしと結論****
06年11月、イスラエル軍の砲弾が民家を直撃しパレスチナ市民21人が死亡した事件で、軍当局は26日、砲弾の制御装置に不具合があったためと判断、砲兵隊の過失ではないとして法的責任は問わないと結論づけた。
 軍当局は、パレスチナ武装勢力がイスラエル領に撃ち込むロケット弾の発射場所を狙ったと説明。「信ぴょう性のある具体的な情報に基づいて実行した」と述べ、砲撃の決定自体に誤りはなかったとの姿勢を強調した。【2月27日 毎日】
********************************
来日中のオルメルト首相は武装勢力への空爆、ガザ経済封鎖による住民生活の困窮を問われ、「イスラエル国民を守る義務がある」と反論、「イスラエル側だけがロケット弾攻撃の脅威に苦しまなければならないのは道理にかなわない」と述べ、報復措置を正当化したとのこと。

一方、ガザ地区の武装勢力については、こんな報道も。
****「反占領」の大義と、報復の巻き添えになる恐怖の板挟み 攻撃拠点の住民***
パレスチナ自治区ガザ地区北部のベイトラヒヤ。
空き地の一角にパレスチナ武装勢力がイスラエル領にロケット弾を撃ち込む発射拠点がある。
ロケット弾攻撃はイスラエル軍の報復を呼ぶ。「つけ」を払わされるのは地元住民だ。
住民は「反占領」の大義と、報復の巻き添えになる恐怖の板挟みの中で暮らしている。
ベイトラヒヤで食堂を経営するアブビラルさん(26)、客が帰っても深夜まで店を開け、空き地を監視する。
武装勢力が来たら、追い払うためだ。
「イスラエル軍の報復を受けたら補償してくれるのか」。アブビラルさんの父アブシディクさん(53)は、ロケット弾に抱きついて攻撃を止めたこともあるという。
だが、アブシディクさんは「反対して『裏切り者』扱いされても困る」と胸の内を明かす。【】
*******************************
イスラエル軍によると、今年に入って、ガザから撃ち込まれたロケット弾や迫撃弾は既に800発以上。
イスラム原理主義組織イスラム聖戦メンバーは「イスラエルの『占領』が先にある。ロケット弾はその反動だ」と主張、攻撃の手を緩める様子はないとのこと。

百年河清を待つような水掛け論の繰り返し。
イスラエル、武装勢力の自己主張のかげで犠牲になるのはいつも住民たちです。
ロケット弾に抱きついて攻撃を止めようとする住民の気持ちが切ないです。

緊張しているのはガザ地区だけでなく、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラとイスラエルの関係もかなり危なくなっています。
きっかけとなったのは、ヒズボラの民兵組織指揮官の1人、イマド・ムグニエ容疑者がシリアの首都ダマスカスで12日夜、自動車爆弾による爆発で死亡した事件。
ヒズボラ側はイスラエルの攻撃による死だと非難しています。

ムグニエ容疑者はヒズボラの特殊作戦部隊の指揮官で、1992年にアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで死者29人を出したイスラエル大使館爆破事件を含む数多くの攻撃に関与したとして指名手配されていました。
西側諸国の情報筋は、ムグニエ容疑者がイラン情報当局のために直接動いている可能性も疑っており、米国務省が作成した指名手配中の容疑者リストにも含まれていました。

イスラエル政府は「われわれがこのような事件に関与したとするテロ活動家の主張は受け入れられない」と異例(肯定にしろ否定にしろ、この種の事件に関する公式声明をイスラエル政府は通常ださないそうです。)の声明を発表。
なお、マコーマック米国務省報道官は「この男は各地で大量殺りくを繰り返したテロリストだ」と記者団に述べ、殺害を事実上歓迎したとか。【2月14日 時事】
イスラエル政府は否定していますが、テロ専門家の間では対外特務機関モサドによる暗殺との見方が根強いそうです。【2月15日 共同】

なお、レバノンでは親欧米の与党連合と、親シリアのヒズボラ率いる野党勢力の対立から大統領選出ができず膠着状態に陥っており、議会での大統領選挙の15回目(!)の延期が報じられています。

14日行われたムグニエ容疑者の葬儀で、ヒズボラの指導者ナスララ師は、同容疑者の殺害がイスラエルによるものだと非難し、イスラエルとの「開戦」を宣言しました。
ナスララ師は「シオニストが戦争を望むなら、望みをかなえよう」と述べるとともに、2006年のヒズボラとイスラエルとの武力衝突はまだ終わっておらず、ヒズボラは戦闘再開の準備ができているとも語っています。

一方、イスラエル軍のアシュケナジ参謀総長は、ヒズボラからの非難を受け、「事態の推移に注目しており、必要があれば適切な措置をとる」と語り、レバノンとの国境防衛のために全軍に対し警戒態勢に入るよう命令を下しました。【2月15日 AFP】

イスラエル軍はすでにレバノンとの国境付近に追加の陸軍部隊を派遣し、さらにパトリオットミサイルも新たに国境付近の都市ハイファに配備して、ヒズボラとの開戦に備え始めたそうです。
またレバノンでは親シリア・イランのヒズボラとそれに対抗するドルーズ派やスンニ派、マロン派キリスト教徒などとの間でも緊張が高まりつつあるとか。

06年のレバノン侵攻ではヒズボラをたたくことができず、ヒズボラに実質的勝利宣言を許す形になって忸怩たる思いのイスラエルとしては「やるならやろうじゃないか」といったところでは。
イスラエルとヒズボラがレバノンで衝突すれば、恐らくガザ地区でも連動してハマス等との衝突が本格化するでしょう。
先の“壁”の破壊時に、大量の武器がガザ地区に持ち込まれたとイスラエルは主張しています。
シリア、イランはどうするのでしょうか。

犠牲になる住民のことを考えると「なんとか、そういう事態にならないように・・・」と思うところですが、頭の片隅で「こういう形でしか、現状を打開することは実際のところできないんだろうな・・・」と考える自分がいて、なんとも・・・・。

それにしても、ガザ地区からロケット弾が飛んでくる、レバノンではヒズボラとの緊張が高まる・・・この現状で首相が日本くんだりを外遊中というのは、イスラエルという国も“凄い”というか、こんな事態など日常茶飯事にすぎない国のようです。
おそらくものごとの発想も、日本みたいな国とは全く異なるのでは。
それとも、“のんびり外遊”は陽動作戦で、帰国後は一気に電撃作戦でしょうか。


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アメリカ  移民を呑み込むのか、呑み込まれるのか

2008-02-28 18:11:01 | 世相
アメリカで白人に多いプロテスタントの比率が51%と過半数割れ目前まで低下しているそうです。
宗教離れの傾向のほか、カトリックの多いヒスパニック系移民の増加が原因とか。【2月27日 共同】

最近、似たような記事を見た覚えがあったので探すと、アメリカの人口推移の記事でした。

****白人人口、50年には過半数割れ=ヒスパニックが急増-米予測 ****
米国は移民の急増で2050年には白人人口が過半数を割り、ヒスパニック(中南米系)が約3割に急上昇-。米民間調査機関ピュー・リサーチ・センターが12日までに発表した人口動態予測で、米国の移民国家化が今後、一段と加速するという将来像が浮かび上がった。
それによると、全人口は05年の2億9600万人から、50年には4億3800万人と約48%増加。人種構成比では、ヒスパニックが14%から29%に急上昇し、アジア系も5%から9%に増える。一方、黒人は13%とほぼ横ばいで、白人は67%から47%に低下すると予想している。 【2月13日 時事】
********************

内容は以前から想定されていることで特に目新しさはありませんが、世の中は変わっていくものだとあらためて感じます。
現在、大統領選挙で、やれ黒人票が誰に行くとか、ヒスパニック系が誰を支持しているとか話題になりますが、あと数十年後には確実に非白人がアメリカの政治中枢を決定する時代がやってきます。

大体、先進国の人口が軒並み減少が予測されるなかで、人口が48%も増えるというのがすごいです。
移民については、欧米各国大きな問題になっていますが、アメリカの場合も、もともと存在する白人・黒人間の根深い対立に加え、急増する移民の引き起こす社会的問題はとてつもなく大きなものがあります。
移民問題が大統領選挙の大きな争点にもなっています。

しかし一方で、“移民の国”として、人種・民族を超えて“ひとつのアメリカ”に統合していこうとするパワーが存在することも感じさせる国です。
オバマ候補の04年民主党大会での「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ。ブラックのアメリカもホワイトのアメリカもラティーノのアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ」というスピーチが、(現状がどうかという問題は別にして)人々を熱狂させる底流も存在しています。

今後、アメリカ社会が移民を呑み込んで更に大きなパワーを得ていくのか、移民の奔流にアメリカ社会が呑み込まれていくのか興味深いところです。
アメリカ以外の先進国は、今後人口の減少、高齢化が予想(人口推計の場合、ほぼ確実な予想ですが)されており、単純に考えると社会の活力・パワー・ダイナミズムも低下していくと思われます。
(もちろん、高齢化した人口減少社会でも、成熟社会の良さがあり、その活力を引き出していく方策もある・・・というのは、それはそうでしょう。)

少子化の流れをなんとか食い止めようとする試みは各国でとられています。
シンガポールでは、04年、05年に女性1人当たりの出生率は1.24人と、人口維持に必要な2.1人を大きく下回る歴史的な低水準を記録したそうです。
このような事態を受け、出生率の低さが国の存続を脅かすとの懸念から、政府は子どもに対する助成を手厚くしたり、外国人に市民権取得を促したり、それまではタブー視されていたセックスなどの問題に対して寛容になるなどの変化を見せているとか。
シンガポールの独身者はお金を稼ぐのに忙しくて愛を営む時間もないそうで、独身者のための交際相手紹介所を支援する基金なども政府が設立しています。

先日のバレンタインデーには政府がロマンスや結婚を促進する「ロマンシング・シンガポール」キャンペーンを強化し、政府が恋のキューピッド役を買って出ました。
具体的には「オープンしたての世界最大の観覧車、シンガポール・フライヤーでのバレンタインデー当日夜のデートをお膳立てするものから、映画のはしご、金曜夜のショッピングなどがあり、・・・」【2月13日 AFP】

まあ、効果のほどは分かりませんが、意気込み、問題意識はあるようです。
ヨーロッパの中で特に手厚い少子化対策をとっており、かつ、その成果が出ていることで有名なのがフランス。

***フランス出生率が欧州1位、非嫡出子が半数超える****
2007年のフランスの出生率が、アイルランドを超えて欧州1位となった。
一方、結婚していない両親から生まれた子ども(非嫡出子)が半数を超えたことも分かった。フランス国立統計経済研究所が15日、発表した。
2007年のフランスの出生率は1.98で、アイルランドの1.90を上回った。
EU諸国全体の平均出生率は1.52だった。
一方、1965年にはわずか5.9%に過ぎなかった非嫡出子の割合は、2007年には50.5%と、前年の48.4%から増加し、誕生した子どもの半数を超えた。【1月16日 AFP】
***************************

日本の出生率は1971年の2.16から、2006年には約4割減の1.32になっています。
この数字に比べたらフランスの1.98は驚異的です。
“女性が家庭で子供を育てる”という伝統的家族観にこだわる限りは、人口減少の途しかないのでしょう。
1.98という数字は、嫡出・非嫡出にこだわらず、女性が子供を産みやすい社会環境を整えてきた結果です。
これを成果とみるか、非嫡出子が半数を超えるなんて社会崩壊だと見るか、価値観の問題でもあります。

最近みかけたもうひとつの出生数関連のニュースはロシア。

****ロシアの出生数回復、少子化問題に解決の兆し*****
プーチン大統領が最重要課題として対策を講じてきた少子化問題に、解決の兆しが出てきた。
2007年にモスクワでは10万人が出生、ソ連崩壊に伴い人口が急激に減少する前の1989年の水準まで回復した。
プーチン大統領は2年前、少子化問題を「最も深刻な問題」として、今世紀半ばまでに人口が半減するおそれがあると警告していた。 
91年のソ連崩壊以降、ロシアの人口は1億4900万人から1億4200万人まで減少。政府によると、07年だけで、約50万人減少した。【2月25日 AFP】
***********************

ロシアの人口減少は、プーチン大統領が心配するように日本以上に劇的で深刻です。
当然、いろんな出産・育児支援措置がとられている訳ですが、なかには変わった対策もあるようです。
ウリヤノフスク州知事は、「受精日」を制定し、制定から9か月後の、ロシア独立記念日(6月12日)に出産した母親に賞品を贈与したとか。

「受精日」はともかく、ロシアで出生数が増加した背景にはやはり経済的条件の向上があると思われます。
プーチン大統領についてはいろいろ好き嫌いはあるところですが、ロシア社会を安定させた成果は認めざるを得ないところです。

日本は・・・というと、特に何もやっていませんので特にコメントすることもありません。
ただ、出生動向基本調査などでみると、若干これまでの推移とは異なる動向が見られます。
“結婚・家庭を重視する伝統的価値観への回帰”とも言えそうな動きです。
(07年6月8日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070608
このような価値観の変化がひょっとすると出生率にも影響してくるのかもしれません。

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ボスニア・ヘルツェゴビナ  コソボ独立はパンドラの箱をあけたのか?

2008-02-27 15:34:27 | 国際情勢

(サラエボの街角 なにか特別な祝日のようです。 サラエボはエルサレムと同じように、ひとつの区画にイスラムモスク、カトリック教会、セルビア正教会、シナゴーグが見られる街だそうです。それだけに、難しい問題も・・・ “flickr”より By lnboz http://www.flickr.com/photos/lnboz/538073387/in/set-72157606205918686

コソボ独立については、その“連鎖反応”が危惧され、キプロスの外相は“パンドラの箱を開ける行為”と批判していましたが、確かに実際やってみるとなかなか大変なものはあります。
一番影響を受けるのが隣接するボスニア・ヘルツェゴビナとマケドニアでしょう。

特に、ボスニア・ヘルツェゴビナはユーゴスラビア解体の動きのなかで、激しい内戦の結果できたガラス細工のような危うさのある国ですので、影響もひとしおです。
92年に独立宣言、独立を支持するクロアチア人17%・ボシュニャク人(ムスリム)44%に対し、33%を占める独立反対のセルビア人が激しく対立、内戦状態へ。
セルビア人を支援するミロシェヴィッチ率いるユーゴスラビア連邦軍が介入、更にNATO軍の制裁空爆、隣国クロアチアのクロアチア人支援等、クロアチア人とボシュニャク人の対立など、事態は混迷。

当時、かつてオリンピックが開催された美しい都市サラエボを包囲するセルビア人勢力のスパイナーが、小高い丘から市街にむけて狙撃を繰り返すシーンなどをTVで見た記憶があります。
激しい戦闘に伴って、虐殺・集団連行・レイプなどの痛ましい非人道的行為があったと言われています。
当初国際社会の関心をひくこともなく、セルビア人勢力に対し劣勢にたたされたボスニア政府側は、アメリカPR企業と組んで「民族浄化(エスニック・クレンジング)」という言葉を造り出しました。
(“ホロコースト”という言葉の使用にはユダヤ人が反発する、“ジェノサイド”を公的に認めると国際条約上の対応措置を取ることが必要になる・・・そういった背景でうまれた造語とか。)

このナチス・ドイツのホロコーストを思い起こさせる言葉、更に強制収容所を写したとされた写真などは欧米社会の関心を強くひきつけ、“セルビア=悪”のイメージを確立、NATOのセルビア制裁へ至る結果になりました。
ただ、よく言われるように、非人道的行為はひとりセルビア人側だけでなく、戦闘を行っているクロアチア人、ボシュニャク人側にも同様のものはあったようです。
ミロシェヴィッチの国際世論に対する配慮のなさが、自分の首を絞めることになったとも言えます。

3年半に及んだ内戦は、NATOの強力な対セルビア介入もあって、95年“デイトン合意”によって終結しました。
合意により、クロアチア人・ボシュニャク人がボスニア・ヘルツェゴビナ連邦、セルビア人がスルプスカ共和国というそれぞれ独立性を持つ国家体制を形成し、この二つが国内で並立する国家連合として外形上は一国と成すこととなりました。
“スルプスカ”というのは現地の言葉で“セルビア人の”といった意味だそうです。
領土配分は、スルプスカ共和国が約51%、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦が約49%とされ、両国はそれぞれの主体が独自の警察や軍を有するなど高度に分権化されました。
国会や行政府は両勢力の共同運営で、議会議員も両勢力の各議会から選出され、内閣は3民族代表で構成する幹部会により指名されるかたちになっています。

その後、軍は統合された他、警察制度についても改革が議論されていましたが【ウィキペディアより】、コソボ独立という事態を受けて、流れは分裂の危機をはらんできました。
スルプスカ共和国議会は22日、国連とEUの加盟国の多くがコソボ独立を承認した場合、スルプスカ共和国も「住民投票によって共和国の国家としての地位を見直す権利を有する」との決議を、圧倒的賛成多数で採択しました。

ボスニアの人口380万人の31%を占めるスルプスカ共和国で住民投票が実施された場合、セルビア系住民の圧倒的多数が、独立に賛成すると見込まれています。
また、住民は独立後、最終的にはセルビアとの併合を望んでいるそうです。
アメリカはこのような動きに対し、すべてはデイトン合意で解決済みとして批判しているそうです。

一方、コソボに隣接するマケドニアの場合は、ユーゴ解体のなかで91年に独立した国家ですが、マケドニア人64%に対し、コソボと同じアルバニア人が25%を占めています。
コソボ紛争による50万人とも言われるアルバニア人難民が押し寄せるなかで、アルバニア人の民族意識が高揚し、2001年にはアルバニア系武装組織NLAが蜂起し、マケドニア紛争が勃発しました。

一時はコソボ自治州の武装組織の介入もありましたが、NATOの介入もあって、アルバニア人の権利拡大を認める和平合意が締結されました。
その後は散発的なテロ・衝突はあったものの、比較的落ち着いてきたと見られています。

しかし、これも今後、ボスニアからのセルビア人の独立、セルビアとの併合というような流れが出てくると、コソボ、マケドニアのアルバニア人、そしてアルバニア本国を含めた“大アルバニア”の動きも刺激されるのではないかと危惧されます。

ボスニア・ヘルツェゴビナの紛争後、セルビア人難民が発生し、セルビアは彼らをコソボ自治州に入植させました。
これがコソボのアルバニア人を刺激する結果にもなり、現在のコソボ独立に至っています。
さらにコソボ独立がボスニア・ヘルツェゴビナの分裂、セルビア人の独立・併合を招くと、それはマケドニアの分裂、アルバニア人統合に・・・と、“玉突き”です。

コソボ独立がOKで、ボスニアのセルビア人独立がなぜだめなのか・・・なかなか説明がつきません。
“国家とは何か”というover my headな難しい問いかけにもなってきますが、それが及ぼす各方面の影響という現実的な問題を棚上げにして敢えて言えば、「一緒に暮らすのがいやな住民が、なにも無理してひとつの国家にこだわることもないのでは・・・、所詮国家は個人が生きやすいようにいくらでも作り変えればいい」と考えてしまいます。

もちろん、別れればいいというものでもないでしょうし、そもそも、かつては一緒に暮らしていた異なる民族間の対立を煽り、諸問題の原因を民族問題にすりかえるような偏狭な民族主義は、宗教的不寛容と並んで世の中の諸悪の根源だと思っています。
しかし、その経緯はともかく一旦憎しみあい、恐れあうようになった人々を従来の“国家”の枠組みに閉じ込めておいても混乱しか生まれてこないのでは。
ましてや、別れようとする動きを力で抑え込んでも憎しみを増幅させるだけです。

もっと“いい加減”に考えて、別れたければ別れて暮らし、お隣同士ですからその後の関係修復に努め、再統合の機運が出ればその時点で統合すればよし、地域連合的な関係が作られればそれもよし・・・ぐらいに柔軟に考えたほうが、国家・民族による戦争の犠牲者という本末転倒の悲劇を出さずにすむのではないでしょうか。

現実の諸問題を考えるとそんな簡単にはいかないし、第一、別れるといっても、両者が混在している地域をどうするのか、結局どこまで分割しても国家の中心的存在と相容れない少数派というのは出てしまうのではないか・・・ということもあります。
そのような少数派と共存できるように、偏狭な民族主義を超える努力は常に求められます。
かつての国家内で権利を抑圧されていたと感じる人々が分裂独立し、自分たちのなかに少数派を抱える立場に転じ、より冷静に事態を把握することでかつて別れた人々との関係についても修復の機運がうまれ・・・なんていかないか。

パンドラの箱の話も、最後に何が残ったのか、あるいは飛び出したのか、また、その解釈についても、諸説あるみたいです。
コソボ独立も、どう考えるかは人それぞれといったところでしょうか。
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スーダン南部  日本政府、PKO参加検討

2008-02-26 15:52:24 | 国際情勢
「アフリカのスーダン南部での国連平和維持活動(PKO)に参加するため、国連スーダン派遣団(UNMIS)への陸上自衛隊部隊派遣が可能かどうか日本政府が検討に入った」というニュースが今月中頃にありましたが、その続報。

****高村外相がスーダンPKO参加に意欲示す、英紙インタビューで****
高村正彦外相は、25日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズに掲載されたインタビューで、日本の国際平和維持活動(PKO)の一環でスーダンに要員を派遣することを検討していると語った。
高村外相は「国力と比較し、わが国の国際貢献にはまだ努力の余地がある」とし、国連がスーダンで展開するPKOを参加候補の1つに挙げた。
一方で、派遣先は和平合意に達した南北内戦の地方とし、紛争が続く西部ダルフール地方は含まないとも強調した。 高村外相は、PKO拡大については「方向付けを確認している段階」だとしつつ、「資源の少ない島国である日本の繁栄には、平和で安定した国際情勢が不可欠だ」と述べ、日本の国際貢献拡大に向け努力する意向を示した。【2月25日 AFP】
************

先発の記事によれば、5月に横浜で開催されるアフリカ開発会議(TICAD)や7月の北海道洞爺湖サミットを控え、アフリカでの平和構築に向けた日本の貢献を示す狙いがあるそうです。

チャドとの国境付近のスーダン西部ダルフール地方では、反政府活動に対し、スーダン政府の支援を受けていると言われるアラブ系民兵組織・ジャンジャウィードがアフリカ系黒人を襲撃。
隣国チャドも巻き込んで、20万人とも言われる死者(スーダン政府は認めていません)、200万人以上の大量の難民が発生しています。
国際的には“民族浄化”の事例と見られており、国連はこれを「世界最悪の人道危機」とよんでいます。

国際社会のスーダン政府への圧力で、昨年末に「国連・アフリカ連合ダルフールミッション」(UNAMID)がようやく発足しましたが、構成国をめぐって国連と欧米の介入を避けたいスーダン政府が対立。
2.6万人規模の予定に対し、先月末時点でまだ9000人しか派遣が完了していません。

昨年11月6日、福田内閣は国連難民高等弁務官事務所からの要請に応じダルフール地域に、毛布とスリーピングマット各1万枚、給水容器1万個などの救援物資を提供することを閣議決定しました。
なお、民主党の小沢代表は「(私が政権を取った場合)国連決議に基づき、国際治安支援部隊へ参加をしたい」と、ダルフール紛争への部隊派遣についても意欲を示しているそうです。

今回のPKO自衛隊派遣が検討されているのは、この紛争が続くダルフール地方ではなく、スーダン南部とのことですが、この地域も相当に厄介な地域です。(PKOが実施されているぐらいですから、当たり前ですが。)

もともとスーダンでの内戦は、北部アラブ系イスラム教徒と南部の黒人を主とする非アラブ系の争いで、1955年から72年の第一次内戦、83年から2005年までの第二次内戦が繰り広げられました。
約190万人が死亡、400万人以上が家を追われたと言われています。

政治的実権を握る北部アラブ系と、これに反発する南部黒人という構図のほかに、南部に産出する石油利権をめぐる争いでもあります。
この石油に関心を持つアメリカの仲介等もあって、2005年にバシール大統領とスーダン人民解放軍(SPLA)の間で暫定政権樹立の包括和平合意(CPA合意)が成立しました。

主な合意内容としては、1)自治権を有する南部スーダン政府の成立、2)南部スーダンの帰属を問う住民投票の実施(2011年実施予定)、3)南部の宗教的自由(イスラム法の不適用)、4)南部スーダンで産出される石油収入の南北原則均等配分などがあります。
2005年7月9日、バシールを大統領、SPLAのガラン最高司令官を第一副大統領とする暫定政府が発足しました。

しかし、CPAに規定された諸事項のうち、南北境界線からの南北スーダン両軍の撤退、石油産出地帯であるアビエ地域の帰属問題などといった重要事項については一向に進展が見られないことから、昨年10月中旬に、南部スーダンの主要勢力であるSPLMが連立政権を担っていた中央政府からの一時離脱を宣言するなどの政治対立が表面化、一時はスーダン内戦への回帰も懸念されました。
その後の南北間の協議の結果、両者は再びCPAの履行に努めることで合意し、昨年末にはSPLM出身の閣僚が中央政府に職務復帰したことで、危機は一応収束ました。【外務省HPより抜粋】

スーダン南部については、PKO参加を検討する日本政府と歩調をそろえて、国際協力機構(JICA)の緒方貞子理事長も17日、アフリカのスーダン南部の治安改善が確認されたとして、JICAが同地の復興支援を行う方針を明らかにしています。

JICAは前月、スーダン政府との和解に応じ統一内閣に復帰した旧反政府勢力の招きを受けて同地に調査団を派遣し、治安状況を調べたそうです。
その結果、現地の治安状況はJICA職員が活動を行うのに支障のないレベルだと確認されたとしています。【2月18日 AFP】

個人的には、PKO参加は自衛隊派遣も含めて行うべきだと考えています。
それで、現地の治安が維持され、復興につながるのであれば結構なことだと思っています。

しかし、“南部スーダンの帰属を問う住民投票の実施”はどうするのでしょうか?
2009年に大統領選挙及び南北での中央・地方総選挙の実施、2010年末を目処に南部独立を問う住民投票の実施が決まっています。(外務省HPより。上記外務省HPでは“2011年実施予定”とあり、詳細不明)
どう考えても、バシール大統領がすんなり住民投票を行って、素直にその結果に従うなんて想像できません。
南側が本気でこの問題にこだわれば、内戦状態の再現も十分にありえるのでは。
誰も本気には考えていないのでしょうか?

イラクのキルクークのクルド人自治区への帰属に関する住民投票も“準備が整わない”と延期されています。
クルド側が実施を強行に求めると、相当な混乱が予想されます。
かつて日本がPKO参加した東チモールでは、インドネシア帰属をめぐる住民投票で住民が“反対”の意思表示を示したことに、インドネシア併合派民兵がインドネシア国軍の支援を受けて破壊・殺戮の限りをつくす事態もありました。
国際社会が介入できたのは、大方の破壊行動がすんでしまった後でしかありませんでした。

このように、“帰属をめぐる住民投票”がすんなりと進むとは思えませんが、もし現地が混乱したら?
派遣PKO参加部隊は問題ないでしょう。
“停戦合意が破れた場合には業務を中断、撤収することができる”等のいわゆるPKO参加5原則という前提がありますので、大きな被害なくすみやかに撤収することと思われます。

問題はその後です。
日本が撤収したあと、現地では血で血を洗う惨劇が行われるかもしれません。
いささか悪意を持った言い方をすれば、日本が、日本国民が見捨てた惨劇です。

もちろんそのような事態にならないことを願いますし、そのために日本を含め国際社会は努力する必要があります。
ただ、万一、そのような事態に立ち至った場合、日本の国際貢献とか、安全保障上の問題とか、そいうことはどうでもいいのですが、現地の惨劇を見捨てて日本だけの平和をもとめることがどういう意味があるのか?、多くの命を救うためにどうしても必要とされる実力行使というものは?、何故ひとり日本がそれを避ける合理的理由があるのか?・・・そういう議論があってしかるべきかと考えます。
今の段階でどうこう言う話ではありませんが。

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アメリカ  のしかかるイラク・アフガンの重圧、変革への希望

2008-02-25 14:47:24 | 世相
アフガニスタンへの欧州各国の増派が進まず、業を煮やした感のカナダは2011年の撤退を表明、そんななかでアメリカでは先月15日に発表された海兵隊3200人増派(2200人がISAF指揮下で南部に展開、1000人がアフガン治安部隊の訓練業務)に向けて特訓中とのことです。

雪解けとともにタリバンの攻撃が増加すると予測されるため、その前に派遣される予定。
タリバンは戦略や地形の利用の仕方で、イラクの武装勢力とは大きく異なるとか。
海兵隊所属偵察部隊大尉:「イラクでは敵は簡易爆発物(IED)を多用し、戦闘員は隠れていた。一方、アフガニスタンのタリバンは近付いて銃撃するので銃撃戦になるだろう。イラクではあまりなかったことだ」
それに併せた調整・訓練が行われています。

また、軍事訓練に加え隊員は、現地で話されているパシュトゥー語とダリー語の研修も受けます。
ある若い隊員:「語学の授業では『これからあなたの家を捜索します』などの表現を学ぶ」【2月24日 AFP】
緊迫した場面でうまく通じるといいのですが。

この増派でアメリカのアフガニスタン駐留が2万9200人になります。
イラクが16万人、昨年増派した3万人を7月までに撤退させ13万人規模へ縮小。
その後年末までには10万人規模まで更に縮小の予定でしたが、今月11日、ゲーツ長官は「アルカイダ系武装勢力の暴力は劇的に減っているものの、イラク情勢は依然として不安定」と語り、13万人以下への縮小を一時停止する意向をあきらかにしています。

イラクに執念を燃やすブッシュ大統領と、13万もの大部隊の長期イラク派遣は絶対に放置できないとする軍のトップの間で、ゲーツ長官は板ばさみになっているとの報道も。【2月20日 IPS】

イラクではトルコがPKK掃討の地上軍越境攻撃を開始。
規模はトルコのTV放送は1万人規模と報じていますが、イラク政府報道官は千人未満の限定的作戦としています。
いずれにせよ、雪解け後の本格的作戦に向けてますますトルコの圧力は強まると思われますが、クルド自治区側の反応いかんではイラク情勢は大荒れになります。
コソボ独立もクルド人の意識に影響を与えるのでは。
そんな事態になると、アメリカの撤退計画もそれどころではないことになります。

唯一、アメリカにとって追い風になったのは、シーア派のサドル師が22日、配下の民兵組織マハディ軍の活動停止を更に半年延長すると発表したことでしょうか。
サドル氏の意向はわかりませんが、水面下でアメリカの強力な働きかけがあったのでは・・・。
アメリカとしては、多少の政治的・経済的取引をしてでもマハディ軍にはおとなしくしていてもらいたいところでしょうから。(全くの邪推ですが。)

アメリカのイラク・アフガニスタンにおける軍事行動に賛成するか、反対するかといった議論とは別に、「アメリカもよくここまでやるよな・・・」という感じがします。
十数万人規模の軍隊を派遣して、日々多くの犠牲者を出して・・・よくこれで国内が維持できるものだと感心してしまいます。
財政的負担ひとつとっても莫大なものがあるでしょう。

アメリカ社会は大丈夫なのでしょうか?・・・多分、大丈夫ではないのでは。
日本でもそうですが、市場重視の社会で所得格差が拡大し、貧困層が増加する・・・そんな傾向はアメリカでも著しいと思われます。
更に、サブプライムローン問題も低所得層の生活を圧迫します。
恐らく、莫大な軍事費の何分の一かでもこうした問題への対策に投じれば事態はまた違ってくるのでしょうが。

社会にはそんな不満が強まっているのではないでしょうか。
そんな不満が、大統領選挙で“変革”を掲げるオバマ候補と共鳴して、大きなうねりになりつつあるのではないかと思ったりします。

開戦当初からイラク戦争に反対していたオバマ候補(当時はまだ一介のイリノイ州議会議員でしたが)には、従来のワシントン政治とは違うものを期待させるところがあります。
(以前のブログでも触れたように、追い込まれたヒラリーには同情を感じますが・・・)
20002年10月2日のオバマ氏の演説。
http://www.barackobama.com/2002/10/02/remarks_of_illinois_state_sen.php

**************
私はすべての戦争に反対しているのではない。
今日ここにいる皆さんを見ていると、愛国者や愛国心に満ちあふれていることがわかる。
私が反対しているのは「Dumb War / 馬鹿げた戦争」だ。
急いた戦争。しっかりした理由のない、感情に支配された道義に沿わず、政治的な理由での戦争に反対なのだ。

はっきりさせておこう。私はサダム・フセインの幻覚に惑わされているのではない。
彼は非道な人間だ。残酷な人間だ。自らの権力を守るために、自分の民を虐殺する人間だ。
しかし、サダムが米国に対して、直接切迫した脅威ではないことも知っている。
国際社会の協力があれば、彼を抑制することが出来る。他の独裁者たちが辿ったように。歴史のゴミ箱の中に落ちて行くまで。

もし対イラク戦が成功しても、無期限の米国による占領が要求される。無制限の出費と無制限の影響。
明確な理論的根拠と国際協力のないイラク攻略は中東の火に油を注ぐだけなのはわかっている。
良い事態を招くのではなく、悪を鼓舞し、アラブ世界を興奮させ、アル・カイダの武力を増強させるだけだ。

私はすべての戦争に反対しているのではない。馬鹿げた戦争に反対しているのだ。
ブッシュ大統領、闘いたいのなら、ビン・ラディンとアル・カイダを攻撃しよう。
ブッシュ大統領、闘いたいのなら、エクソンやモービルの利益に貢献するためではないエネルギー政策で、我々が中東の石油から乳離れするために闘おう。
それらの闘いが我々には必要なのだ。それらの闘いになら、我々は心から望んで参加する。
無知や偏狭との闘い。荒廃や強欲との闘い、貧困や絶望との闘い。

戦争から生じるものは恐怖だ。犠牲は測り知れない。
人生には何度もこんな時がある。我々の自由を守るために立ち上がらなければならない時が。戦争という代価を払わなければならない時が。
しかし決してしてはならない、やめようではないか。盲目的に地獄への道を進むことは。
*************

思わず全文を引用しましたが、なかなか引き込まれるスピーチです。
魅力的ですが、非常に特徴的でもあります。
イラク戦争を「Dumb War / 馬鹿げた戦争」と断じる一方で、“Let’s finish the fight with Bin Laden and al-Qaeda.”(かたをつけようじゃないか)とアフガンについては攻撃的な姿勢です。

昨年オバマ候補は、アフガンのタリバン勢力の温床となっているパキスタン・トライバルエリアについて、アメリカ“単独主義”の攻撃を主張し、「そんなことをしたら、反米運動を燃え立たせ、せっかくアメリカの立場でなんとか乗り切ろうとしているムシャラフの足を引っ張り、ひいては核保有のイスラム反米国家をつくりかねない」といった趣旨の揶揄・批判をヒラリー等世間から浴びました。

しかし、ここにきて、アメリカに協力的だったブット元首相を失い、ムシャラフ大統領は辞任のカウントダウン状態。
3月9日に予定されているチョードリー元最高裁長官が停職を命じられた1周年の大規模デモがXデーとか、あるいは“数日中”とか。
人民党とシャリフ派の連立はどうみても無理やりくっついた感じ。
人民党にリーダーはなく、シャリフ元首相はイスラム武装勢力掃討の即時停止を主張。
アメリカにとって、“もはや遠慮なく行動できる”環境になりつつあるとも言えて、案外現実味を帯びてきたのかも。

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バングラデシュ  グラミン銀行の物乞い自立支援プログラム

2008-02-24 10:58:07 | 世相

(正月に旅行したカンボジアのプノンペン 川沿いの小さな祠で法事みたいなものを営むかなりの地位と思われる男性(写真右の青いシャツ)と祠の廻りで施しを待つ人々)

昨日に引き続き、バングラデシュで女性の貧困からの脱出、地位向上のために小口事業資金の融資を行っているグラミン銀行の話。
なお、昨日同様、「グラミン銀行に見る借り手の持続的発展の可能性」(慶應義塾大学 経済学部 高梨和紘研究会 第25期 http://image02.wiki.livedoor.jp/t/5/takanashi25/77fa6198a2b9e4b1.pdf)を参考にして、主なポイントを紹介します。
関心のある方は、上記レポートを直接ご覧ください。(四十数ページで少し長いですが。)

2002年に貸付制度変更が行われたグラミン銀行の融資は、一般的貧困女性を対象にした“Basic Loan”(初回融資は大体1万円未満、主な用途は牛の飼育、雑貨店、脱穀作業、米売買など)を中心に、より多額の貸付を行う“Micro-enterprise Loan”(3万円程度 主な用途は雑貨店、乳牛飼育、Village Phoneなど)、最貧層の物乞いを対象とした“物乞い自立支援プログラムStruggling (Beggar) Members Program”に分かれています。

バングラデシュはイスラム教徒が80%を占める国です。
イスラム世界ではザガート(喜捨)の教えがあり、弱いものに何かをするのは義務であり、してもらう方は一種の権利であるという考えがあります。

その為、イスラム世界では物乞いは比較的多くを受けることができ、一般的な日雇い労働者よりも稼ぎが多いとも言われています。
しかし、このザガードは男性だけを念頭に置いており、女性が「物乞い」することに対しては社会的了承も、宗教的役割も得られていないとか。

イスラム社会では女性が外で顔を出して働くことが許されないことから、配偶者を失った女性は働く場がなく、物乞いになってしまうケースが多くあります。
グラミン銀行の創始者ユヌス氏は、慈善では貧困は救えないという考えで、「施すという行為は物乞いの尊厳、および自活の意欲を奪うことになり、長期的にも短期的にも現実的な解決方法にはならない」と自著で述べています。
このような主に女性の物乞いの経済的自立を促すプログラムが“物乞い自立支援プログラムStruggling (Beggar) Members Program”です。

バングラデシュ最大のNGOであるBRACも、政府と世界食料計画(WFP)との共同計画により最貧困層のなかでももっとも脆弱な女性へ期限付きの小麦粉支給プログラムという生活保護と職業訓練を与え、彼女たちの組織化を図っていますが、グラミン銀行はあくまで物乞いそのものがターゲットグループであり、さらに慈善の対象ではないという意味でBRACと違う意味を持っています。

グラミン銀行の一般的融資制度Basic Loanは地域の顔見知りの間で借り手5人のチームをつくることから始まりますが、物乞いにはチームを作れるほどの横のつながりはなく、仮に融資をうけられたとしても全く資力のない彼女らは融資後1週間目から即座に返済がはじまるBasic Loanには対応できません。
このため、物乞いを対象にした別枠のプログラムが必要とされ、このプログラムが2003年後半からスタートしました。

物乞い自立支援プログラムに参加した物乞いは、まず本人の顔写真入り身分証明書を発行されます。
これは公的機関であるグラミン銀行がバックについていることを示し、商品の仕入れ等で物乞いの信用力を高める効果があります。
(商品の代金はたとえ儲けがなくともグラミン銀行が肩代わりすることになっているとか。)

融資額は無利子、無担保で約600円~4000円程度(米の値段が1キロ30円あまり(2004年))。
返済期間の定めはありません。
また、掛け金無しで自動的に生命保険に加入できます。
メンバーは物乞いをやめることを要求されませんが、物乞い以外の方法による収入獲得を促されます。

グラミン銀行の目的は、物乞いの経済力を高めるだけでなく自尊心を高めることにあります。
たとえ日雇いと同程度の収入があっても、物乞いには自尊心・誇りがないため最低生活水準から抜け出せません。
グラミン銀行では、借りたお金で毛布、ショール、蚊帳、傘など人間らしい生活をするのに必要な道具を購入することを勧めているそうです。
また、ミーティング等での他のメンバーとのつながりを持てることが、物乞いの境遇からの脱出の手助けにもなります。

2006年には73,388人がこのプログラムに参加し、物乞いをやめた人数は1,850人、Basic Loanに移行した人数は1,057人にのぼるそうです。

******************************

日本国内では現在、物乞いに接する機会は少なくなりましたが、海外を旅行するとごく普通に出会います。
もちろん、一介の旅行者ですので、できることはその場限りの幾ばくかの施しをするか否かということだけです。
先日カンボジアのプノンペンを旅行したときの出来事が記憶に残っています。

昼食をとっている路上に近くに並べたテーブルに物売りの子供達などがやってきます。
車椅子に乗った男の子を別の男の子が押している二人連れがいました。
食べている最中で、テーブル越しだったこともあって、“どうしようかな。少しあげたほうがいいかな・・・”と考えているうちに、何も言わずに去って行きました。

それまでテーブルで隠れてよく見えなかったのですが、車椅子の子供の両手両足がないことにそのとき気づきました。
わざわざこちらから声をかける場面でもないので、立ち去る様子を見ながら“またこちらに来たら少し施しでも・・・”とは思ったのですが、彼らはそのまま行ってしまいました。

もちろん、このような境遇の人はどんな国でも大勢います。
いつの旅行でも彼らを殆ど無視しています。
結局はお金を出すことが惜しいからに他なりませんが、彼らに同情していたらいくらお金があってもたりません。
世界中の不幸にひとり立ち向かうドン・キホーテです。
ひとりに施せば、大勢が集まってきて収拾が付かなくこともあります。
彼らが実際どのような暮らしをしているのかもわかりません。
そもそも、施しの行為がどのような意味を持つのかもいろいろ意見があるところでしょう。(グラミン銀行のユヌス氏のように)

それはそうではありますが、そのときいつになくすっきりしないものが心に残りました。
そのうち、別の大人の二人連れが近づいてきました。
やはり同じように車椅子です。
彼らにこちらから小額のお金を渡しました。
本当はさっきの子供達に渡したかったのですが、それでも少し気持ちが軽くなったような気がしました。
ささやかな免罪符でしょうか。
食事を終えて、観光を続けます。
それだけの話です・・・。

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バングラデシュのグラミン銀行、アメリカに進出

2008-02-23 14:31:53 | 世相
バングラデシュの貧しい女性を主に対象としたマイクロクレジット“グラミン銀行”については、これまでも紹介してきました。
(昨年6月5日「グラミン銀行 貧困脱出と女性の地位向上」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070605

グラミン銀行は2006年にノーベル平和賞を受賞したユヌス氏が進めてきた事業です。
牛を飼うとか、雑貨販売や手仕事の元手にするとか、貸し電話用の携帯電話を購入するとか・・・小額の事業資金を女性達に貸し出すことで、その自助努力をサポートして経済的地位の向上をはかる事業です。

667万人の借り手の97%が貧困女性であること、無担保貸付にもかかわらず貸付金の返済率が98%にもなるという際立った特長があります。
そして、女性達の貧困からの脱出の契機となるだけでなく、経済的自立は社会的あるいは家庭内での地位の向上につながり、融資を通じたサポート活動で生活意識の改善にも貢献しているといった成果を着実にあげつつあります。

その“グラミン銀行”が、世界金融の中心アメリカに進出するとのことです。

****グラミン銀行がアメリカ進出*****
貧困救済に努め、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのグラミン銀行がサブプライム住宅ローン問題に揺れる米国に進出、移民らを対象としたマイクロクレジット(無担保小口融資)に乗り出した。同行が先進国で事業を展開するのは初めて。16日の英紙フィナンシャル・タイムズ(アジア版)が報じた。
 同紙によると、米国では約2800万人の移民らが銀行口座を持てず、口座があっても信用が不十分で融資を受けにくい層は約4500万人に上る。サブプライム問題の影響で貸し渋りが目立つ中、同行は米国でも貧困層支援が必要と判断。第一歩としてニューヨークの移民女性グループに5万ドル(約540万円)を貸し付けた。
 同行創設者の経済学者ムハマド・ユヌス氏は「米金融システムが万全でないことが明白になった今が進出の好機だ」としており、今後5年間に融資規模を約1億8000万ドルに増やし、全米各地に事業を広げる。
 ユヌス氏は農村女性の自立促進に向け、農機具などを買う資金を無担保融資する事業を1976年に始めた。(共同) 【2月16日 スポーツ報知】
*********************

サブプライムローン問題の影響があるにせよ、世界最強・最富裕国の国民を、世界最貧国の貧困者救済専門銀行が助けるという構図は、驚きと言うか、面白いと言うか、笑えると言うか・・・。
もっとも、記事で紹介されているような“移民女性グループに5万ドル”という金額はバングラデシュ国内の事業とは全く桁違いの金額であり、提供サービスは“アメリカ仕様”になっているようです。
(バングラデシュ国内のグラミン銀行の標準的融資の場合、大体が初回融資額は1万円未満です。返済状況などを見ながらその後の追加融資はありますが。)

また、近年グラミン銀行の融資制度が変更され、ややハイリスクな比較的多額(それでも3万円程度ですが)の融資が増加していること、貯蓄受け入れが増加し利払いのための手当てが必要になっていることなど、アメリカ進出にはグラミン銀行側の財務的理由もあるのではないかと推察されます。

グラミン銀行の理念みたいものを紹介した言葉として次のようなものがあります。
「通常の銀行では、“クレジット(信用、信頼)”という言葉を使いながらも、実際には人を信用しないことを前提に制度を作ってきた。しかしグラミンでは、クレジットという意味をその名のとおり“信頼”を意味する。グラミンは法的な契約で借り手を縛るのではなく、人間的なつながりによって資金を回収する。グラミンでは担保も貸付契約書も取らない(連帯責任的な相互監視システムはあるが)。
 貸し出しにおいて法的な契約は存在せず、握手を交わしてお金を貸すだけである。そもそも小口の融資の取立てに弁護士費用をかけたら完全にペイしないからだ。それでもグラミンの回収率は99%を超えるという。契約の代わりに、お金を返済することはとても大切なことであるということを事前に伝えるのである。」
(Business Media 誠 山口揚平 性善説は貧困を救えるのか 
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0707/10/news031.html

“連帯責任的な相互監視システムはあるが”ということを若干捕捉します。
なお、グラミン銀行については「グラミン銀行に見る借り手の持続的発展の可能性」(慶應義塾大学 経済学部 高梨和紘研究会 第25期 http://image02.wiki.livedoor.jp/t/5/takanashi25/77fa6198a2b9e4b1.pdf)に詳しく紹介されています。
以下の紹介も上記レポートに基づいています。

「グラミン銀行の融資では借り手5人を一つのチームとして組織し、各人のローンは5人の連帯責任で返済する形式を取っている」といわれてきました。(私も昨年6月5日のブログでそのような説明をしています。)
この相互監視・連帯責任制によってチーム内の規律が緩まないので返済率が高いとも言われてきました。
しかし、グラミン銀行のユヌス総裁自らが「連帯責任制など一度も採用してこなかった」と否定しています。

従来(2002年以前)の融資制度については、微妙なところがあります。
なにぶん契約書などは存在しない世界ですので、明確な連帯責任制というものは事前に明示されていなかったのかもしれません。
ただ、実際の運用にあたっては、毎週のミーティングで延滞者を含むチームメンバーに解決を促す過程で、結果的・実質的に連帯責任に近い内容が行われたのではないでしょうか。

グラミン銀行の融資制度は2002年に抜本的に変更・整理されました。
新制度において、従来の融資制度を引き継ぐメインとなるローンがBasic Loanと呼ばれる制度です。
このBasic Loanにおいては、従来同様借り手は5人のチームを形成しますが、返済義務はあくまで個人にあって、返済不能に陥ったメンバーの借金の肩代わりをする必要はないことが明示されています。
メンバーの役割は、返済不能となった問題を解決するために協力することにあるとされています。

もちろん、チームメンバーにはそのような情報提供・助け合いの側面はあるのですが、新制度においてもやはり“チームの集団責任”的な側面もあります。
例えば、個人としては返済・貯蓄(一定の貯蓄が義務付けられています)状況も完璧であるが、チームの他メンバーの返済または貯蓄が十分でない、あるいはミーティングへの出席率が悪いといった場合、その程度に応じ、チームメンバー全員の融資限度額引き上げが小幅になる、あるいは引下げられるということがあります。

従って、返済義務はあくまでも個人にあるとは言いつつも、チームの他のメンバーが返済を滞った場合、自分の融資条件を守るために肩代わりして支払う(後に延滞メンバーから返してもらうという前提で)こともあるでしょう。
また、このようなメンバー相互関係が存在するので、村の知人同士でチームを最初に作る際にはお金にだらしない人間、将来問題を起こしそうな人間は自然にチームから排除される・・・その結果、不良債務者が自然に排除されてグラミン銀行にとっては貸し倒れリスクが低下するという面があります。

“信頼・信用・人間的つながりによる貸し借り”と同時に、もうひとつグラミン銀行、と言うか創始者ユヌス氏の理念・信念をあらわす考え方が、「チャリティ(慈善)で貧困をなくすことはできない。貧困を克服するのは、一過性のチャリティではなく循環的なシステムである。返済を伴わない援助は貧困に対して無力である、慈善は貧困を救えない。」というものです。

昨年12月1日のブログ(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20071201)でも紹介したように、サイクロン“Sidr”で被害を受けたグラミン銀行債務者に関してユヌス氏は、「いま債務を取り消せば、人々は何かが起こるたび、たとえば家が火事になったなどの場合にも、債務取り消しを求めるようになってしまう」と語り、債務取り消しを行いませんでした。
そのかわり、「債務者には、返済できるときに返済すれば構わないと言っている。必要なだけ期限は延期する」と、返済について極力弾力化する考えを明らかにしています。

いささか厳しいと言えば厳しいのですが、貧困から抜け出す自助努力を引き出すためには必要なのかもしれません。
2002年の融資制度変更では、自然災害・世帯主の死亡その他の理由で返済が困難になった場合の返済条件を見直し返済可能なプランに変更し、必要に応じ新たな融資も行うという“Flexible Loan”制度が設けられらました。
Basic Loanの返済が困難になった場合は、Flexible Loanに移行し、後日可能な段階でBasic Loanに復帰するという仕組みです。

長くなったので今日は一旦ここで締めます。
グラミン銀行のマイクロクレジットは個人的には興味が尽きないところがあって、あれもこれも紹介もしたいのですが、特に「物乞い自立支援プログラムStruggling (Beggar) Members Programme」だけでも明日紹介したいと思っています。

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アメリカ  SM3で衛星爆破 新たな軍拡競争激化か?

2008-02-22 17:39:15 | 国際情勢
アメリカは20日夜、ハワイ沖のイージス艦から発射された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)により、制御不能で地球に衝突する危険が高まっていた米軍事偵察衛星(有毒物質「ヒドラジン」約450kgを搭載)を大気圏外で破壊することに成功しました。
衛星破壊を決断した米側の目的は、(1)墜落被害の回避(2)軍事機密の保護(3)迎撃ミサイルによる衛星攻撃能力の検証と見られています。
今回アメリカは「人的被害を避ける安全上の措置であり、軍事的意図はない」と強調していますが、ミサイル防衛(MD)システムを転用することで、衛星攻撃が可能となる実力を初めて実証したかたちになりました。【2月22日 産経】

中国は昨年1月、衛星攻撃兵器(ASAT)の実験を行い、無数の危険な破壊された衛星の破片(デブリ)を発生させたとして米国などから非難を浴びました。
その米国が今回ASATを事実上使用したことに、中国は強く反発しており、「宇宙空間の安全と他国に損害を与える可能性を追跡調査している」と述べるとともに、「状況と関連データ」を速やかに国際社会に公開するよう米国に要求しています。
なお、今回アメリカ国防総省は「デブリは、大半が48時間以内に大気圏に再突入して燃え尽きる。」と説明しています。

また、アメリカが東欧で進めるMDシステム配備計画に猛烈に反対しているロシアも、今回の衛星破壊に強い関心を寄せており、ロシア国防省は「ミサイル防衛(MD)の兵器で衛星を破壊する必然性について十分な説明がない。失敗した場合の評価もない」と指摘、「(他国の)衛星を破壊する新型戦略兵器の開発実験である可能性がある」との懸念を表明しています。

「他人には言いたい放題言っていたくせに、自分達は何やっているんだ!」という中国の言い分もわからないではないです。
それ以前の問題として、「そんな危ないもの(偵察衛星)を勝手に頭上に打ち上げることはどうよ?」という疑問がスジ論のはずですが、宇宙を制する国だけが軍事的主導権を掌握することができるという国際政治・軍拡競争の現実の前ではそんな青臭い声など全くないようです。

なお、先日ジュネーブの軍縮会議でロシアは中国と共同して、宇宙空間でのいかなる兵器の配備、宇宙空間の物体に対する武力行使および武力による威嚇を禁止する宇宙軍拡防止条約案を提案し、12日にアメリカがこれを拒否したばかりでした。
ロシア・中国の狙いは、アメリカのMDシステム建設への反発と伝えられています。
アメリカは現在、2012年までにポーランドでミサイル防衛基地10か所の建設、チェコにレーダー基地の建設を予定しており、両国政府との交渉を続けています。

アメリカのペリノ報道官は「競合国間の疑念を取り除くべく、互いの行動の透明性を確保し、信頼構築に向けた対話を促進することが、宇宙における軍拡競争の最良の防止措置だ」と語ったそうです。
是非ともその対話を促進し、疑念を取り除いてもらいたいものです。

昨年末から新たな軍拡競争、冷戦の再現を思わせるような事態が続いています。
昨年11月には米空母キティホークを含め3回にわたりアメリカ艦船が香港への寄港を拒否され、キティホークは帰途に台湾海峡を通過。(台湾海峡通過は96年3月の「中台危機」以来) 
これを中国海軍のミサイル駆逐艦「深セン」と宋級潜水艦が追尾、28時間にわたり対峙(たいじ)したと報じられました。【1月15日 毎日】
アメリカはその後この報道を否定し、報道官が「台湾海峡は国際的な海域であり、キティホークは通常のコースを通っただけだ。いかなる問題も発生していない」と語っています。

ロシアは昨年12月12日、欧州通常戦力(CFE)条約の履行を一時停止し、ロシア外務省は「今後、国内の通常戦力(戦車や攻撃ヘリなど)の配備状況について北大西洋条約機構(NATO)への情報提供や査察を拒否する」との声明を発表しました。
上述の東欧へのミサイル防衛(MD)システム配備計画などを巡り、欧米に反発してきたプーチン政権の対西側強硬路線の一環です。

その後も、プーチン大統領は2月8日、NATOの東方拡大や、MDシステムを改めて批判し、「世界で新しい軍拡競争が始まっている」と警告。
新軍拡競争」について「我々のせいではない」と述べ、西側諸国が一方的に対露の軍事力増強を図っているとの認識を示しました。

また14日にも「チェコとポーランドの施設はロシアのミサイルの迎撃を念頭に置いている。そうした施設が建設されれば、ロシアの核戦力は無力化され、力のバランスは崩れる。ロシアは、対抗措置をとらざるを得ない」と説明、ロシアはこれらの施設に攻撃用ミサイルの照準を合わせることになると再度警告しました。
「冷戦を再開したいとは思わない。西側との対立も望んではいないが、国益は追求する」と強調しています。

また、ロシア軍のバルエフスキー参謀総長は19日、モスクワ市内で開かれた軍事技術者の会議で演説し、「(他国を)攻撃する意思はないが、ロシアとその同盟国の防衛に必要ならば、核兵器を含む武力の先制使用が行われるだろう」と述べています。

アメリカ国防当局者によると、ロシア空軍のツポレフ(TU)95爆撃機が伊豆諸島南部の日本領空を侵犯した9日、侵犯機と同型の別の2機が、西太平洋を日本に向けて航行していた米空母ニミッツの飛行甲板上空を、高度約600メートルの超低空で飛行する挑発行動を取っていたそうです
ロシア機の接近を探知したニミッツから艦載機のFA18ホーネット4機が緊急発進するなど、一時は緊迫したとかで、AP通信は、「こうしたロシア機の飛行は冷戦以後ではまれ」と伝えています。
しかし、アメリカはその後、「爆撃機2機による9日の低空飛行時に敵対行為は見られなかったことから応戦態勢は命令しておらず、ロシア政府に説明を求める考えもない」と、問題視しない姿勢を明らかにしています。

最近のロシアの一連の動きは、プーチン大統領が、国際政治における主要なプレーヤーとしてのロシアの地位に自信を深めていることの表れのようにも思えますが、専門家は必ずしもそう考えていないとの記事もあります。
「プーチン大統領は、新たな軍拡競争を警告し、軍の復興を約束している。しかし、ロシアの軍事費は米国の20分の1にすぎず、兵器のほとんどが時代遅れだ。」
「軍事的に言えば現在のロシアは主要なプレーヤーとはいえない。彼らがやっていることは広報活動に過ぎない」

プーチン大統領は「過去の屈辱」を払拭したいと考えているが、ロシアの第一の戦略的目標は、エネルギー輸出に基づいた経済大国化だと指摘する意見も。【2月17日 AFP】

SM3による衛星爆破と聞くと、80年代、レーガン政権が発表した戦略防衛構想 (Strategic Defense Initiative, SDI 通称スターウォーズ計画)を連想します。
衛星軌道上にミサイル衛星やレーザー衛星、早期警戒衛星などを配備、それらと地上の迎撃システムが連携して敵国の大陸間弾道弾を各飛翔段階で迎撃、撃墜し、アメリカ本土への被害を最小限に留めることを目的にした軍事構想でした。
(現在のミサイル防衛システムは、SDIが財政的・技術的に破綻した後、より現実的対応として出てきた考え方だそうです。)

当然ソ連はSDIに猛反発しましたが、当時のソ連に軍拡競争を行う余力はなく、結局、アンドロポフ及びゴルバチョフ両書記長は“平和攻勢”という外交手段で事態を打開しようとしました。
SDIがソ連の軍縮、冷戦の終結、ひいてはソ連崩壊をもたらした・・・という見方も少なくないそうです。【ウィキペディア】

最近のアメリカ・ロシア・中国の間に漂う新たな軍拡競争の始まりのような空気は、今後どのような方向に世界を持っていくのでしょうか?
80年代と違って、ロシアも中国も“元気”なのが気になりますが。


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パレスチナ  進展しない交渉、独立宣言にNATO軍展開・・・?

2008-02-21 13:15:22 | 国際情勢
ブッシュ大統領の仲介で再開した中東和平交渉ですが、大方の予想どおりなかなか進展しません。
そんななかで、パレスチナ側からはこんな発言も。

***パレスチナ:「一方的な独立宣言を検討」と警告*****
パレスチナ自治政府のアッバス議長の側近は20日、イスラエルとの和平交渉で具体的な進展がなければ、「パレスチナ国家」の一方的な独立宣言を検討すると警告した。和平交渉は昨年11月の米国での中東和平国際会議を機に再開されたが、双方の立場に隔たりは大きく、パレスチナ側には交渉遅滞への警戒感が広がっている。17日にセルビアからの独立を宣言したコソボを念頭に、イスラエル側をけん制する狙いがあるとみられる。【2月20日 毎日】
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今パレスチナが独立したからと言って、“穴あきチーズ”状態の支配地、パレスチナ難民の帰還問題、エルサレム帰属問題、ガザ地区の問題・・・それらがどうなる訳でもなく、パレスチナだけでは事態が動かせないので国際交渉に委ねられている訳ですから、苛立ちまぎれの発言・・・といったところでしょう。
ただ、話を混乱させることにもなりますので、イスラエルは「コソボ独立を承認すればパレスチナ問題に影響しかねない」と、コソボについての態度を留保しているそうです。

アメリカからはこんな提案も。

****イスラエル西岸撤退後にNATO軍展開=米特使が構想―地元紙*****
20日付のイスラエル紙エルサレム・ポストは、米国のジェームズ・ジョーンズ中東治安担当特使が、イスラエルが最終的にヨルダン川西岸から撤退した後、パレスチナ自治政府が完全に治安を掌握するまでの間、北大西洋条約機構(NATO)軍を展開させる案を検討していると報じた。
この案についてイスラエルのバラク国防相が説明を受けたものの、見解は示さなかったという。イスラエルは従来、外国部隊の展開に否定的な考えを示している。【2月20日 AFP】
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イスラエル側が懸念するのは、具体的には、もしパレスチナの武装勢力がイスラエルに向けてロケット弾を撃ち込むような状況が生じた際に、イスラエル軍はそれに応戦できるのか、もしくは駐留する外国部隊に頼らなければならないのかというような問題だそうです。

こちらもまだ“アイデアの段階”ですが、それにしても万一実現の方向で・・・なんてなったら、NATO加盟諸国も大変です。
イラクで戦い、泥沼化するアフガンではアメリカから「人を守るために戦っている国と、そうでない国に同盟国が二層化されることを懸念する」、「欧州の人々は、アフガンの安定が欧州にとっていかに重要か理解していない」と恫喝され、コソボでは緊張が高まり、さらにホットスポットのパレスチナ。
いささか疲弊して不満を口にする国も出てくるのでは。

世界の紛争地域の安定については、本来であれば国連主導で、もし実在するなら国連軍で・・・というところですが、現実には国連は十分に機能せず、国連軍なんてものもありません。
そのような状態で、あるいはそのような状態を望んで、アメリカ主導でNATO軍の展開というケースも増える訳ですが、エネルギッシュなアメリカにつきあうのは大変です。

やがては日本など参加していない国への呼びかけも強まるでしょうし、そういうことがなくても、同時代を生きる人間の立場で日本として考えるべき問題はあります。
現実問題として比較的関係の薄いアジア地域からの派遣が望まれるケースもあるでしょう。

しかし、特定国の影響で際限なくあちこちに引っ張り出される、あるいは納得しがたい事案に引きずり込まれるような事態はもちろん避けなければならないので、そのための国内外に通用する“ブレーキ装置”は必要でしょう。

何を言いたいのかわからないような与太話は止めにして、今日はおしまい。


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パキスタン  一部地域で女性投票中止、野党勝利が向かう先は?

2008-02-20 15:04:26 | 世相
パキスタンの総選挙は以前から報じられていたように、与党の惨敗、野党勝利という結果になりました。
昨夜段階の選管発表によると、定数342議席のうち比例70議席と候補者死亡などにより後日補欠選挙が行われる4選挙区を除く268選挙区について257議席が確定、主要政党では、人民党86議席▽シャリフ派67議席▽クアイディアザム派38議席--となっています。

女性(60議席)・非イスラム教徒(10議席)に割り当てられる70議席は一般議席獲得数に応じて配分されます。、この結果、第1党となった人民党も単独過半数の172議席には届きませんので、今後は連立工作が焦点となります。
心配されていた選挙の不正操作、あるいはイスラム過激派による選挙妨害については、目だったものはなかったようです。

今回選挙に関する個人的感想をいくつか列挙すると
・ ブット元首相暗殺による同情票が予想された人民党ですが、“地すべり的勝利”とまでは行かなかったようです。
・ そのブット元首相の影にかくれた存在ですが、シャリフ元首相は現地ではブット元首相以上に国民の支持があると言われていました。人民党に迫る選挙結果はさすがにその強い支持をうかがわせます。

・ シャリフ元首相帰国時に協力関係を示したイスラム原理主義政党「統一行動評議会」(MMA)。今回の選挙では改選前の56議席を激減させ、政党としての存続の危機に直面することが確実になったようです。多発した過激派による自爆テロに対する国民の反発であり、パキスタン社会が理解不能な社会ではないと少し安心しました。

今後の連立については、すでにシャリフ元首相が19日記者会見し、選挙で第1党が確実となった人民党に対し、電話で連携を呼び掛けたことを明らかにしています。
元首相は「独裁者とはおさらばだ」と述べ、ムシャラフ大統領との連携の可能性を否定したそうです。

人民党のザルダリ共同総裁も、シャリフ派など諸政党と議会・内閣で大連立を組む「国民政府」を樹立したいとの考えを明らかにしています。
シャリフ元首相はこの国民政府構想に賛意を示した上で、「ムシャラフは国民に求められれば辞任すると言った。国民の意思は既に示された」と事実上の退陣要求を突き付けています。
(大統領報道官は即座に拒否していますが。) 
なお、反ムシャラフ勢力が下院の3分の2を超えた場合は憲法の規定で大統領弾劾決議が可能になり、大統領は失職しますが、今回、人民党とシャリフ派でこの3分の2をクリアするのかどうかはよくわかりません。

ムシャラフ大統領は、人民党とシャリフ派の連立阻止に動くと報じられています。
ムシャラフ大統領の働きかけで、人民党と敗北した与党の連携が模索されるという報道もありますが、勢いを失ったムシャラフ大統領、与党にその力があるでしょうか?
変な言い様ではありますが、大きな不正操作もなく(与党に有利な不公正な選挙活動は多々みられたようですが)野党有利の選挙を進めたあたり、ムシャラフ大統領はもはや政権にあまり執着しないような、“燃え尽きたのかな・・・”という感もあります。
特に、ブット元首相暗殺のあたりから、“淡々としたもの”を感じますが・・・。

いずれにしても、今後ムシャラフ大統領の求心力は低下し、現野党を軸に政治が動いていくことになるのでしょうが、人民党の中心にいるザルダリ氏というのはどうでしょうか?
ブット元首相の旦那ですが、かつて“ミスター10%”と呼ばれたように賄賂まみれの噂しか聞きません。
シャリフ氏が首相になって逮捕され服役したわけですが、その両者の今後の関係は?

ブット元首相というカリスマを失った人民党に対し、シャリフ元首相(イスラム教徒連盟シャリフ派)の存在感が大きくなるようにも思えます。
イスラム主義政党とも近い関係を保っていましたが、元来イスラム主義的な人物で首相在任中には、イスラム法を絶対的規範に法体系を見直す憲法改正案を国会に提出したこともあるそうです。
また、98年にはアメリカの制止を振り切って初の核実験にも踏み切った人物でもあります。
国民的人気は高い政治家ですが、今後国内のイスラム過激勢力にどのように対処していくのでしょうか。

今回の選挙で一番印象的だったのは次の記事です。
****パキスタン総選挙、一部地域で女性の投票中止*****
【2月18日 AFP】下院選と州議会選挙の投票が行われたパキスタンで18日、アフガニスタン国境に近い北西部の部族地域の長老たちが女性は投票すべきでないと決めたことから、同地域に設けられた女性用投票所の一部で受け付けが中止された。現地警察や自治体当局が明らかにした。
市長によると、北西辺境州の長老たちは、「自分たちの文化に反する行為」だとして女性の投票中止を決めたという。この決定について市長は「彼らの伝統であって、われわれにはどうすることもできない」と話した。
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日本的価値観からすれば、参政権は基本的人権の重要な要素であり、それを“長老”が剥奪し、市長が“どうすることできない”というのは、どうにも受け入れ難いところです。
これが、パキスタン、特にトライバルエリアと呼ばれる一帯の実情であり、政治を困難にしているところでもあります。
アメリカから、“アルカイダが潜み、テロの温床となっている”と非難されても中央政府が手が出せない・・・そんな社会でもあります。

強権的に社会をコントロールしてきたムシャラフ大統領が失脚して、あるいは、影響力をなくして、どのようにこのパキスタン社会を導くのか?
イスラム過激勢力の力が拡大するのか、低下するのか?
核保有国でもあり、アフガン戦略の要でもあるパキスタンの今後の動向が注目されます。

しかし、ザルダリ氏を逮捕したのがシャリフ元首相、シャリフ元首相が解任しようとしたのがムシャラフ陸軍参謀長、そのムシャラフに逆に追放されたシャリフ元首相が今また政局の中心に・・・因果はめぐる世界です。

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