【今も続くアルシャバーブのテロ活動】
最近、あまり見かけなくなったアフリカ東部ソマリアにおけるイスラム過激派「アルシャバーブ」のテロ活動に関する報道ですが、なくなった訳でもないようです。
****ソマリア首都で自爆攻撃、13人死亡 アルシャバーブが犯行声明****
ソマリアの首都モガディシオで26日、国連(UN)とアフリカ連合(AU)の拠点近くで2回の爆発があり、少なくとも13人が死亡した。警察当局が発表した。国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織アルシャバーブが自爆攻撃と認める犯行声明を出した。
アルシャバーブは国際社会が支援するソマリア政府を打倒すべく戦闘を続けており、ソマリア国内や隣国のケニヤで残忍な攻撃を繰り返している。(中略)
現場近くのモガディシオの空港は普段から厳重な警備が敷かれており、ソマリア中央政府を支援している「アフリカ連合ソマリア・ミッション(AMISOM)」が首都内に置く主要基地に隣接する。AMISOMはアルシャバーブとの戦闘でソマリア政府を支援するため2007年に派遣され、兵士ら2万2000人で構成されている。【7月27日 AFP】
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****爆発で20人死亡=イスラム過激派が犯行声明―ソマリア****
ソマリアからの報道によると、中部ガルカイヨで21日、自動車を使った爆弾テロが発生し、ロイター通信が現地の医療関係者の話として伝えたところでは、20人以上が死亡した。死者はさらに増える恐れがある。
AFP通信によれば、イスラム過激派アルシャバーブは通信アプリ「テレグラム」を通じ、「軍人や背教者を少なくとも30人殺害した」と主張した。現場はアルシャバーブが近年活発化している半独立地域プントランドにある。(後略)【8月22日 時事】
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その後も、ソマリアの首都モガディシオで8月25日夜、レストランが銃で武装した男らに襲われ、市民ら少なくとも7人が死亡、 8月30日には首都モガディシオの大統領公邸の前で爆発物を積んだ車が爆発し、市民や政府軍の兵士など10人が死亡、10月1日には首都モガディシオでレストランの前に止まっていた自動車が爆発し、少なくとも3人が死亡・・・・といった報道がなさています。
こうして並べると、ニュース的にあまり大きく扱われないだけで、結構頻繁にテロは起きているようです。
【2014年以降、ほぼ終息したソマリア沖の海賊】
一方で、報道だけでなく、実際にもなくなったのが“ソマリア海賊”の活動です。
****東南アジア、アフリカに代わり海賊事件の最多発地域に****
2016年9月19日、環球時報によると、米紙ニューヨーク・タイムズは18日、東南アジアがアフリカに代わり海賊事件の最多発地域になっていると伝えた。
国際海事局(IMB)によると、昨年、東南アジアでは178件の海賊事件が発生したが、かつて同種の事件が頻発していたアデン湾とソマリア付近の海域では、多国籍部隊の活動により1件も起きていない。
東南アジアで起きる海賊事件の多くはフィリピンの過激派組織アブサヤフによるものだ。同組織は身代金目的の誘拐をしている。【9月20日 Record china】
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外務省のサイトで「ソマリア沖・アデン湾における海賊問題の現状と取組 」http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/africa.htmlを見ると、2009年~2011年には220~240件程度発生していた海賊事案は2014年は11件、2015年は0件、2016年は1軒と激減しています。
乗っ取られた船舶数も、2009年、2010年頃は年間50件弱あったのが、2014年以降は発生していません。
2010年には1000名を超えた拘束された乗員数も、2014年以降はゼロとなっています。
この海域に展開された多国籍部隊の活動の成果でもありましす、アルシャバーブがモガディシオなど都市部から地方やケニアなどに追われ、国内統治がやや安定してきたこと(実際のところ、どういう状態なのかは知りませんが)の結果でしょう。
ソマリア沖の多国籍部隊には日本も艦船・人員を派遣しており、派遣当時は国内でもいろいろ議論があったところです。(2009年には海賊対処法が成立し、海上保安官を同乗させた海上自衛隊の護衛艦が派遣されています。)
この海賊対策のために、アデン湾に面するジブチには拠点が設けられ、P-3C哨戒機も派遣されています。
2014年以降、海賊活動が殆どなくなった事態を受けて、派遣されている自衛隊がどうなるのか・・・8月15日に現地を訪れた稲田防衛相は、「今後も海賊対処を確実に実施することが必要不可欠だ」と述べ、自衛隊派遣を継続する考えを示しています。
****ジブチの自衛隊「今後も不可欠」 防衛相が部隊激励****
稲田朋美防衛相は十五日(日本時間同)、アフリカ東部ジブチを訪問し、同国を拠点にソマリア沖アデン湾で海賊対処活動を展開している自衛隊部隊を激励した。
訓示で「海上交通の安全は依然として予断を許さない。今後も海賊対処を確実に実施することが必要不可欠だ」と述べ、自衛隊派遣を継続する考えを示した。
訓示後、記者団に「(活動拠点は)非常に重要な役割を担っている。今後、一層の活用の在り方も検討したい」と述べ、機能強化を図りたいとの認識を示した。
稲田氏の外遊は防衛相就任後初めて。訓示で「皆さんの活動は各国から高く評価されている。強い信念と誇りを持ち、開かれ、安定した海洋を守る重要な課題に取り組んでほしい」と強調した。
この後、ジブチのゲレ大統領、バードン国防相とそれぞれ会談し、ジブチ軍の能力向上へ自衛隊が協力する考えを伝えた。海上自衛隊のP3C哨戒機に搭乗し、上空からの警戒監視や海自護衛艦の活動を視察。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣された自衛隊部隊の幹部から現地情勢の報告も受けた。
アデン湾は欧州・中東と東アジアを結ぶシーレーン(海上交通路)の要所。【8月16日 東京】
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ただ、さすがに海賊のいなくなったソマリア沖に艦船を張り付けておく余裕はないとのことで、艦船は縮小するようです。
****ソマリア沖の海自艦艇を減らし 北朝鮮の警戒任務など強化へ****
動画を再生する防衛省は、アフリカ・ソマリア沖で海賊の事件が減っていることから民間船の護衛などのため現地に派遣している海上自衛隊の艦艇を2隻から1隻に減らし、その分、北朝鮮の警戒任務などの態勢を強化する方向で最終的な調整を進めていることがわかりました。(中略)
防衛省は、年内にも実施したいとしていて、その後は残る護衛艦1隻と哨戒機2機の態勢で海賊の事件が再び増加しないよう対応を続けることにしています。【10月14日 NHK】
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【ジブチの拠点の機能を広げて影響力を拡大したい日本政府】
しかし、ジブチに設けた拠点はむしろ拡充の方向のようです。
****ジブチの自衛隊拠点、来年度に拡張へ 中国を意識=政府関係者****
防衛省は来年度、アフリカ東部ジブチにある自衛隊唯一の海外拠点を拡張する。紅海の出入り口に位置するジブチは海上交通の要衝で、南シナ海からインド洋、アフリカへと活動を広げる中国軍も基地を建設中。海賊対処活動に自衛隊を駐留させる日本は、拠点の機能を広げて影響力を拡大したい考え。
複数の政府関係者によると、日本は中東やアフリカでテロや災害に巻き込まれた日本人を保護するための拠点として、ジブチを利用することを検討している。今年7月に南スーダンで治安が悪化した際は、現地日本人の退避に備えてジブチに輸送機C−130を待機させたが、日本から派遣した自衛隊機の到着までには3日かかった。
拡張後は自衛隊の輸送機を駐機させることを想定している。避難する日本人の警護にあたる陸上自衛隊の部隊や輸送防護車を駐留させることも検討している。既存拠点の隣接地の借地料は年間1億円程度と見積もっているが、現時点ではジブチ側の要求と開きがあるという。
自衛隊は2009年、ソマリア沖で多発していた海賊対処の国際活動に参加するため部隊を派遣した。11年からはジブチ国際空港の隣に12ヘクタールの土地を借り、自衛隊員180人と哨戒機2機を駐留させてきた。
海賊の活動はすでに沈静化しているものの、南シナ海に進出する中国がインド洋やアフリカへも影響力を強めていることから、日本は派遣部隊を縮小せずにジブチの拠点を拡張したい考え。
昨年も、ジブチ軍の災害救援能力を支援する訓練場所を確保する名目で土地の追加借用を検討したが、予算の制約で実現しなかった。
「中国はインフラ整備に資金を投じるなど、ジブチで存在感を高めている」と、政府関係者の1人は言う。今年2月からは海賊対処活動の参加部隊の補給施設として基地の建設に乗り出しており「日本も影響力を広げる必要がある」と、拠点拡張の狙いを説明する。
稲田朋美防衛相は8月にジブチの自衛隊部隊を視察した際、記者団に対し「(拠点の)今後一層の活用の在り方についても、しっかりと検討していきたいと思っている」と述べていた。
防衛省は、ロイターの取材に対し「既存拠点の東側隣接地を取得する方向で、ジブチ政府と交渉をしている」と回答。隣の土地を他者に確保されると、安全面で支障が出るためとしている。来年度は概算要求に土地の借地料のほか、壁の建設費を計上した。【10月13日 ロイター】
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日本が強く意識する中国の動向については、以下のようにも。
****中国がジブチに海軍基地 「中東に軍事プレゼンス狙う」?欧米安全保障への“挑戦”と警戒論も****
中国がアフリカ東部ジブチで建設を進める中国海軍の「補給施設」について、欧米諸国が人民解放軍初の海外基地として警戒を強めている。南シナ海で軍事拠点化を進める中国が、「ジブチを足がかりに中東周辺でも軍事プレゼンスの展開を狙っている」と一部の専門家は分析している。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは22日、中国がジブチで「90エーカーの敷地に初の海外軍事基地を建設している」とし、「大国として台頭する中で歴史的な一歩だ」と指摘した。来年に完成予定の基地は「武器庫や艦艇・ヘリの整備施設、海軍陸戦隊(海兵隊)や特殊部隊の拠点」として使用されるとの専門家の見方を紹介。こうした動きは「大戦後の世界秩序を支えてきた欧米の安全保障体制への挑戦となるかもしれない」と警戒感を示した。
中国国防省は2月、ジブチの基地について「すでに基礎工事が始まった」と建設を認めた際に、「ソマリア沖アデン湾で海賊対策にあたる部隊や(アフリカの一部地域に派遣している)国連平和維持活動(PKO)部隊の休息や燃料補給」が目的だと説明した。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(英語版)も今月23日、「米国のように世界中に基地を置き、他国に向けて力を誇示するためではない」との専門家のコメントを掲載し、警戒感の解消に躍起だ。
ただ今回の基地建設は、欧州までの経済圏を構築する「一帯一路」構想の一環だと指摘する声もある。ある中国軍事研究者は中国側の目標について「一帯一路の要衝となる中東で軍事プレゼンスを展開し、中国の経済活動の保護と自国に有利なルールづくりを可能にすること」と分析する。
さらに今年1月に中東のサウジアラビアがイランと断交したことが、こうした動きを急がせたという。「軍事衝突が起きれば中東は米露のゲームで動くことになる。この地域における軍事力の必要性を中国に再認識させた」
ジブチは紅海の入り口にある戦略的要衝で、米国がテロリスト掃討を目的に基地を置いているほか、ジブチ防衛のための旧宗主国フランスの基地や、アデン湾で海賊対処活動を行う自衛隊の拠点もある。現地の外交筋は「ジブチに基地や拠点を置く各国の立場はそれぞれ違うが、中国が大規模な基地をつくる目的が明確でないため、懸念を共有している」と話した。【8月23日 産経】
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各国に基地・拠点を提供するジブチの方針も独特です。
中国に対抗して云々はどうでしょうか?中国に対抗して自衛隊基地を海外につくるような国民合意は得られていないと思います。
“中東やアフリカでテロや災害に巻き込まれた日本人を保護するため・・・・”というのは話としてはわかります。
特に、今後、南スーダンでのPKOに「駆け付け警護」も付与され、現地情勢も安定しないという状況にあっては、遠く離れた日本と現地をつなぐ拠点としてジブチも必要になろうかとは思います。
ただ、本来の筋論で言えば、ソマリア沖の海賊対策として設けられた拠点であり、その海賊が殆どいなくなったということであれば、少なくとも国会等にその旨を報告・総括し、今後のジブチ活用について議論すべきものでしょう。
いつのまにか国民もあまり意識しないうちに、自衛隊の海外基地が恒常化され、拡充される・・・というのは、政治の在り方としてはやはりよろしくなく、ジブチ拠点の今後の活用については“なし崩し”ではなく、しっかりと議論されるべき問題でしょう。(すでに国会できちんと議論されているということであれば結構ですが)