孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  女性の大学教育無期限停止に続き、NGOでの女性の就労も禁止に 抵抗する人々も

2022-12-31 23:17:03 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタン首都のカブール大学前で、大学での女子教育禁止に一人で抗議するマルワさん(2022年12月25日撮影)【12月27日 AFP】 おそろしく勇敢な女性ですが、後に続く同調者が出ないところが悲しい現実。)

【タリバン NGOでの女性の就労を禁じる NGO活動の多くが実質的に停止に】
世界には「どうして?」という腹立たしいニュースが溢れていますが、その中でもこの1年、個人的に苛立たしさが募ったのがアフガニスタンの状況。

****アフガンの子栄養失調急増 ウクライナ侵攻で小麦高騰****
赤十字国際委員会(ICRC)は25日までに、アフガニスタンで同委員会が支援する全国33の病院で、今年の子どもの栄養失調患者数が、昨年1年間と比べて既に90%増加していると発表した。ロシアによるウクライナ侵攻などで経済危機が深まり、小麦や食用油の価格が高騰していると指摘した。

各地で干ばつや洪水も相次ぎ農作物に被害が出た。人々の収入減も相まって、食料難が深刻化している。子どもの栄養失調患者数は昨年3万3千人だったが、今年は6万3千人を超えている。【11月25日 共同】
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イスラム原理主義組織タリバンが統治するアフガニスタンでは深刻な食糧不足が起きおり、国際支援を必要としていますが、一方で、タリバンは女性教育の制限を強化するなど人権無視の姿勢を強めており、アフガニスタン支援が結果的にタリバンを利することになりかねない状況で、国際支援もなかなか進んでいません。

タリバンが女性の大学教育を無期限停止した件は、12月25日ブログ“アフガニスタン 女子大学教育無期限停止を命じたタリバン 圧政で行き場を失う人々の暮らし”でも取り上げましたし、国際的にも強い批判が起きています。

加えて、「タリバンが小学校に対しも、女子生徒の受け入れ禁止を命じた」との情報が。
“タリバン政権、小学校~大学まで女学生追放 学校で教育を受ける女性の権利をはく奪”【12月26日 The News Lens】 The News Lensは台湾を中心とする情報サイトのようです。

タリバンの中に「女性は10代で結婚し、家事や育児をするのが役割だ」「女子教育は小学校だけで十分だ」とする考えがあることは周知のところですが、更に進んで小学校も・・・

ただ、この件は重大な事柄であるにも関らず、他のメディアによる報道は目にしていませんので、誤報の可能性も大きいようにも思えます。

小学校の話はともかく、この1年でアフガニスタンにおける女性の教育・権利が大きく後退したことはまぎれもない事実です。

男女の区分が厳格に行われているアフガニスタンでは、医療現場などで女性への対応は女性専門職でないと出来ないという面もありますので、女子教育が停止され、女性専門職の育成が止まるということは、女性全般の福祉・社会サービスが危機に瀕するということでもあります。

女性の大学教育無期限停止に続いて発表された「NGOへの女性出勤停止」もNGO活動を事実上停止に追い込むものとして国連なども強く反発しています。

****タリバンのNGO女性職員勤務禁止令、国連が撤回要請****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が、国内で活動する非政府組織(NGO)における女性職員の勤務を禁じたことについて、国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は撤回を求めた。

UNAMAは声明で「アフガンでは数百万人が人道支援を必要としており、障壁を取り除くことが不可欠だ」と主張。UNAMAのラミズ・アラクバロフ代表代行がハニフ経済相と面会したことを明らかにした。

経済省は24日、タリバンの解釈によるイスラム教の服装規定に一部女性が従っていないことを理由に、NGOに女性職員を働かせないよう命令。命令は国連には直接適用されないが、国連のプログラムの多くはNGOが実行している。

各NGOは女性職員がいなければプログラムを運営できないとしており、世界の4大NGOなどが既に活動停止を発表した。支援機関によると、アフガンでは人口の半分以上が人道支援に頼っており、特に冬場は基本的支援が不可欠になる。

経済が崩壊したアフガンにおいて、NGOは女性を中心に重要な働き口ともなっている。【12月27日 ロイター】
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****女性排除「約束反する」=タリバン非難声明―安保理****
国連安保理は27日、大学での女子教育やNGOでの女性の就労を禁じたアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権に対し、「アフガンの人々に誓った約束に反している」と非難する報道機関向け声明を発表した。

安保理は声明で、大学からの女性排除について「危機感を募らせている」と表明。既に禁じられている女子の中等教育学校への通学と併せ、人権と基本的自由の尊重がさらに失われているとして「学校の再開とこうした政策の早急な廃止」を要請した。【12月28日 時事】
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****タリバンによるNGOへの女性出勤停止で国連担当者が交渉へ****
(中略)国連では29日、アフガニスタン問題を担当するラミズ・アラクバロフ氏が記者会見し、人道問題を担当するグリフィス事務次長が近くアフガニスタンを訪問してタリバン側と協議に臨むことを明らかにしました。(中略)

アラクバロフ氏によりますと、国連がアフガニスタンで行う活動のおよそ7割はNGOなどと共同で実施され、支援に携わる職員の3割は女性だということで、「女性を排除することは決してできない」と強調しました。【12月30日 TBS NEWS DIG】
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単に人員が足りなくなるというだけでなく、女性でないと対応できないサービスが出来なくなるということでもあります。

【タリバンの目を盗んで女子教育を続ける人々 しかし、タリバンの規制強化で「地下学校」が次々に閉鎖に】
こうした厳しい状況にあっても、タリバンの目を盗んで女子教育を続ける人々・組織も存在します。

****アフガニスタン「秘密の学校」タリバンの脅迫にも屈しない…抑圧される女性を教育で支援する現場の苦闘****
(中略)
社会や家庭で弱い立場にいる女性たちは、貧困や食料不足などの影響を受けやすい。女児が男児より軽視されるような価値観が残る国も多く、人身取引まがいの児童婚や強制労働の増加が懸念されている。

こうした中、途上国の女性を支援する団体は、教育機会の確保を重視。昨年8月にイスラム主義組織タリバンが復権したアフガニスタンでは、現地NGO「ガフワラ」が日本の中高生にあたる女性を対象にした「シークレット・スクール(秘密の学校)」を始めた。タリバンが女性の権利を抑圧し、女子中等教育ができなくなっているためだ。

ガフワラ代表のザビーフ・マハディさん(33)はオンライン取材に「教育こそが未来を変える」と訴える。(中略)代表のザビーフ・マハディさん(33)らは、タリバンに見つかる危険を覚悟の上で、学校を懸命に運営している。

◆「裁縫教室」に偽装した民家で
アフガン国内に2カ所ある学校は、机や椅子のない一般住宅の部屋を教室に使い、対面とオンラインの授業を無料で提供する。日本の中高校生に相当する女子生徒約30人が物理や化学、歴史などを学ぶ。

マハディさんによると、学校は電子メールで脅迫を受けたこともあり、そのたびに休校や教室の場所を変えてきた。生徒らは通学時、タリバン兵に行き先を尋ねられた際には「裁縫教室に行く」と答えて逃れているという。実際に「裁縫教室」と記した看板を掲げていたが、何者かに壊されてしまった。

◆「脅迫に負けない」学びへの思い
「ガフワラ」はアフガンの公用語の一つダリー語で「ゆりかご」の意味だ。以前は幼稚園や学校などに絵本を寄贈し、子どもたちへの読み聞かせの活動などをしていた。しかし、タリバン復権後は安全への配慮から大半の活動を中断。こうした状況を打開するため、昨年10月ごろに始めたのが「秘密の学校」だった。

私たちの将来や社会、人々のためにも、子どもたちは学び、私たちは教育しないといけない」。教師の女性は決意を話してくれた。女子中等教育が認められない現状は「受け入れられない。誰もが教育を受ける基本的な権利があるはずです」と訴えた。

生徒たちも取材に「脅迫に負けずに勉強を続ける」「勉強すれば自分たちの将来のためになる。医者や教師にもなれる」と口々に思いを語った。

◆「未来を変える唯一の方法」
(中略)マハディさんは「できることを続ける。教育こそ未来を変える唯一の方法だと信じている」と話す。アフガンへの国際的な関心が薄れているとして、「再びテロや過激主義の温床になってからでは遅すぎる。アフガンは『時限爆弾』のように、いつ爆発するか分からない」と憂慮する。

教育を含む女性の権利抑圧は、国際社会によるタリバン政権承認への障害の一つ。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は9月、声明で「少女やアフガンの未来にとって大きな損害だ」と非難した。【10月2日 東京】
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タリバンの目を盗んで行われる女子教育には、まったくの秘密裏におこなわれるものと、表向きは女性が編み物や刺繍、コーランなどを学ぶ学校という形でタリバンの「承認」を得ているものの2タイプがあるとか。

****アフガニスタン 日本人記者が「地下学校」に潜入取材 タリバンの女子教育禁止に広がる抵抗****
(中略)タリバンによる政権奪取以降、アフガニスタン国内でも市民たちによる抵抗が広がっているが、その一つの形が学校に通えない少女たちがひそかに勉強を教わる「地下学校」だ。厳しい取材規制のなか、首都カブールで女子教育をめぐる最新事情を追った。

この日、向かったのは市内の住宅街の一画、1階が商店、2階以上がアパートの小さなビルだった。人に見られぬよう車から降り、地下へと続く階段を下りる。ここは「地下学校」という女子向けの非合法の施設だという。

地下には、日本の学校のクラス二つ分ほどの広さのホールがあり、風船で飾り付けられたステージが作られていた。何かのお祝いがあるらしい。そこに別の部屋から、ヒジャブと長衣をまとった少女たちが次々に入ってきてホールは満杯になった。その数100人以上。

これほどの数の生徒たちが集まった「地下学校」の映像はメディアでも見たことがない。この「学校」は6カ月が1学期で、きょう行われるのは学期末の修了式だという。

「地下学校」には大きく二つの種類がある。一つは、個人の自宅などでひっそりと少人数を集めて勉強を教えるもので、存在自体が秘密にされている。

一方、この日修了式を取材した「地下学校」は、タリバン政権の教育省から「専門学校」の認可を得ている。表向きは女性が編み物や刺繍、コーランなどを学ぶ学校ということになっているのだが、それは「隠れ蓑」で、女子が学ぶことを禁止されている英語や数学、物理、歴史など中等教育の教科も教えているのだ。

式典で生徒一人ひとりに修了証を手渡すのは40歳代の女性の校長先生。記念撮影をしたあとは、大きな書物の形をしたケーキにナイフを入れ、校長が生徒たちの口に小さく切ったケーキを放り込んで、厳かななかに笑い声がもれる楽しい会となった。

修了生を代表して一人の女子生徒が英語でスピーチを行った。テーマは「女性について」。
「コーランによれば、女性は男性と同じく社会の重要な役割を果たすべきである。また、知識を求めることはすべてのムスリムの義務である。私たちはタリバンに女子の学校を開くよう、女子が科学を勉強することを禁じることをやめるよう要求する」

慣れない英語でたどたどしく、しかし堂々と仲間に語りかける。あどけなさの残る真剣な表情を見ながら、これほど自立心旺盛な女性をアフガン社会は生み出したのだな、と感慨深いものがあった。

校長はこの「地下学校」を去年10月、たった一人で立ち上げた。学校の教員だった彼女は、女性に差別的なタリバンの施策を見て辞職。

「学校に行けなくなったと絶望して泣く少女たちを見て、いてもたってもいられなくなりました。他人事ではありません。私にももう少しで中等教育の年齢になる女の子がいるのです」という。

またタリバンが再び権力を奪ったときに国を出た友人もいたが、「みんなが逃げたら、誰がこの国の女性たちのために立ち上がるのでしょう。私は残って闘うことに決めました」と悲壮な決意を語る。

タリバンからの弾圧、妨害
いま校長を悩ませているのは「学校」の運営資金が行き詰っていることだ。経済制裁の影響もあって暮しが厳しいなか少女たちに負担をかけたくないと、授業料は無料とした。家賃、教師への謝礼などの維持経費は膨らみ続ける。

彼女はネットによる語学講義で収入を得、それを「学校」の運営費に回しているがとても追いつかない。他には親しい友人たちからのわずかなカンパがあるだけで、月末のたびに資金繰りで四苦八苦するという。
 
タリバンからの弾圧、妨害にも気をつかう。行政による立ち入り調査に備え、生徒も教師もヒジャブと長衣で体を覆っているよう細心の注意をし、つねにコーランを持ち歩いている。

実際にタリバンの役人が教室に入ってきたことがあったが、授業をさっとコーランの朗読に切り替えて彼らの目をごまかすことができたという。

この校長、修了式の訓示では「みなさん、私たちの挑戦は今日が最後ではありません」と言ったきり、感極まって言葉を続けられなくなった。この事業を運営・維持する苦労、重圧の大きさを思う。

いま、この「学校」の人気が高まって参加希望者が急増しており、12月6日にはカブール市内に三つ目の分校ができた。これで生徒総数はおよそ1000人を超えるという。こうした「地下学校」はここだけでなく、各地で自然発生的に生まれ、静かに広がっているという。

実はタリバンの子弟も…
強面一辺倒にみえるタリバンの女子教育をめぐる施策だが、実は原則があいまいで揺れ動いており、政策の施行にも統一性を欠く。

去年12月、タリバン政権のムッタキ外相は、全土34州のうち10州で女子の中等教育機関が開かれていると語った。タリバンは決して一枚岩ではなく、現在も内部で大きな亀裂と激しい駆け引きがつづく。

それが国民の目にも明らかになったのが、今年の新学期での女子教育再開の取り消しだった。政府は以前から、3月23日に始まる新学年度から女子の学校が再開されると公式に発表していた。当日、1年ぶりの授業再開を待ちわびて登校した女生徒たちは、学校に着いてから突如帰宅せよと告げられたという。

ニュースでは学校の入り口でショックのあまり泣き出す少女の映像が流れた。教師も寝耳に水で、教育省高官すら当日朝になって授業再開の取り消しを知った。

この土壇場での方針転換は、指導部内での暗闘の激しさを物語る。

タリバン内にも女子教育を認める声は少なくない。実は取材した「地下学校」にはタリバンの子弟も通ってきていると校長がそっと教えてくれた。

治安当局はここで中学高校のカリキュラムを教えている実態をつかんでいたはずだが、女子教育を求める市民の声の大きさ、そしてタリバン内の女子教育容認派の存在も相まって、規制しにくい状況にあったと思われる。

しかし今回、女子の大学教育まで否定する通知が出たことは、タリバン内で強硬な保守派の影響力が強まったことを示している。

アフガニスタンでは小学校でも男女別学であり、女子児童は女性教師にしか教わることができないし、女性の患者は女医にのみ診てもらうことができる。だから、女性教師や女医など一定数の女性専門職は不可欠である。

タリバンは政権内に高等教育省を置き、男女の教室を別にするなどの条件の下で、女子が大学で学ぶことを認めてきた。この「地下学校」には、大学進学を目指して勉強に励んでいた生徒が多い。今年10月に行われた大学入試では、この学校から25人の合格者を出したばかりだった。

来春からの大学生活を楽しみにしていた少女たちの顔が思い浮かぶ。どんなにか悲しみ、怒っていることだろう。カブールでは今回の通知に対する女性たちの抗議デモが起き逮捕者が出た。また筆者には、通知が出た直後から市内の「地下学校」が次々に閉鎖に追い込まれているとの情報も届いている。

女子教育をめぐるタリバンと市民のせめぎあいは一気に緊迫の度を増している。【12月29日 高世仁氏 デイリー新潮】
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【たった一人の抵抗】
一人でタリバンに立ち向かう女性も。

****アフガン18歳女子学生、大学教育禁止に単独で抗議*****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義組織タリバンが先週、女子の大学教育を禁止したことを受け、女子学生が25日、単独で抗議活動を行った。
 
抗議を行ったマルワさんはAFPに対し、「私は人生で初めて誇りを抱き、強さを感じた。タリバンに立ち向かい、神がわれわれに与えた権利を要求することができたのだから」と語った。
 
タリバン復権後、特に今年初めに中心的な活動家が拘束されて以降は、女性主導のデモが減少している。デモに参加すれば、逮捕されたり暴力を受けたりする危険があり、社会的な汚名を着せられる恐れもある。
 
今回のタリバンの決定に対し抗議を試みた女性もいたが、デモは即座に解散させられていた。だが、マルワさんの意志は固かった。タリバン警備員が配置されているカブール大学正門前で25日、アラビア語で「イクラー(読め)」と記したプラカードを無言で掲げた。

「本当にひどい言葉を浴びせられたが、私は冷静さを失わなかった。アフガンの一人の女性の力を、たった一人でも抑圧に立ち向かえるのだということを見せたかった」とマルワさん。他の女性たちも自身の行動に続いてくれることを願っている。
 
タリバンは昨年8月に復権した後、以前よりも穏健な統治を約束したものの、女性に対しては厳しい制限を適用している。タリバン暫定政権は24日、アフガニスタンで活動する国内外の全ての支援団体に対し、女性の出勤停止を命じた。これ以前にも、女性たちは公園やスポーツジム、公衆浴場への立ち入りを禁じられている。
 
タリバンはこうした女性に対する厳しい規制について、女性たちが頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」の着用などイスラム法の厳格な服装規定を順守しないことが原因だと説明している。
 
画家になるのが夢だというマルワさんは、アフガンは女性にとって刑務所のような場所になってしまったと嘆く。「捕らわれの身にはなりたくない。私には実現したい大きな夢がある。だから抗議すると決めた」と話した。
【12月27日 AFP】
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来年が上記マルワさんにとって、アフガニスタン女性にとって、アフガニスタン国民にとって、良い年でありますように。
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台湾  防衛強化の取り組み 中国からの情報戦への懸念も 経済の中国依存という基本問題も

2022-12-30 22:18:51 | 東アジア
(蔡英文総統が視察に訪れた澎湖諸島馬公市の基地で演習を行う兵士たち=30日【12月30日 共同】)

【緊張が高まる台湾海峡】
この1年で国際面での最大の出来事はロシア軍のウクライナ侵攻でしたが、ウクライナ状況によって国際社会は大きく揺さぶられた1年でもありました。

ウクライナと同様な事態が台湾でも・・・・という懸念から「台湾有事」への危機感が高まり、それに伴う中国とアメリカのせめぎあいも激しさをましています。

****中国、米の台湾安保支援強化に「断固反対」 国防権限法成立で****
 中国は24日、23日に米国で成立した国防権限法(NDAA)に台湾 への軍事支援強化が盛り込まれたことに「強い不満と断固反対」を表明した。一方、台湾は安全保障の強化に寄与すると歓迎の意を示した。

バイデン大統領は23日、2023会計年度(22年10月─23年9月)の国防予算の大枠を定めた国防権限法案に署名した。国防予算は総額8580億ドル。

台湾向けには安全保障面の支援と迅速な武器調達に向けて最大100億ドルの予算を計上した。これについて、中国外務省は「台湾海峡の平和と安定に深刻な打撃を与える」条項が含まれていると指摘した。

また、中国メーカーの半導体を使用した製品を米国政府が調達するのを制限する条項が含まれていることについて「事実を無視して『中国の脅威』を誇張し、中国の内政に不当に干渉し、中国共産党を攻撃し中傷しており、深刻な政治的挑発だ」と非難した。【12月25日 ロイター】
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中国は、台湾周辺の空海域で統合軍事演習、更には過去最多の71機の中国軍機の台湾防空識別圏への侵入という形で、アメリカを牽制しています。

****台湾周辺で統合演習=米軍事支援に「対抗」―中国軍****
中国軍東部戦区の施毅報道官は25日、台湾周辺の空海域で統合軍事演習を同日行ったと発表した。「米台結託による挑発が強まっていることへの断固たる対抗策」と説明しており、米国で成立した2023会計年度国防権限法に対する反発とみられる。(中略)
 
同法は、27年までに台湾向けに最高100億ドル(約1兆3300億円)の軍事資金援助を認めるとともに、中国の武力侵攻に備えて台湾の重要物資確保を支援することも盛り込んだ。

台湾をめぐる軍事バランスが崩れる事態を警戒する中国側は24日、「台湾海峡を戦争の瀬戸際に追いやる」と米国を強く非難していた。

施報道官は「一切の必要な措置を講じ、国家主権と領土を断固守る」と強調。今回の演習の具体的な場所や内容には触れていないが、東部戦区は、台湾の山脈の空撮画像に加え、爆撃機の離陸や艦艇が航行している画像を発表文に添付した。

台湾では24年1月に総統選が行われ、中国は「台湾独立勢力」と見なす民進党政権の継続阻止を狙っている。中国が強く警戒する頼清徳副総統が民進党の最有力候補とされており、中国は向こう1年間、軍事的な威圧を強めると予想される。

中国軍は今年8月、ペロシ米下院議長の訪台に反発し、台湾を包囲する形で前例のない規模の演習を展開。日本の排他的経済水域(EEZ)内に弾道ミサイルが着弾するなどして緊張が高まった。【12月25日 時事】
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****台湾識別圏に中国機71機=米軍事支援に反発か****
台湾国防部(国防省)は26日、台湾の防空識別圏に同日午前6時(日本時間同7時)までの24時間で中国軍機延べ71機が一時進入したと発表した。米国で台湾への巨額の軍事支援を盛り込んだ2023会計年度国防権限法が成立したことへの反発とみられる。

国防部によると、71機中33機が台湾海峡の中間線を越えて台湾側を飛行。国防部は「厳密に監視、対応している」と説明した。

71機のうち多くは戦闘機だったが、早期警戒機や電子戦機、ドローンも含まれている。台湾近海で中国海軍の艦船7隻も探知したという。【12月26日 時事】 
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【防衛強化を図る台湾 住民の防衛意識は高い】
一方、こうした緊張の高まりを受けて、台湾では兵役義務延長などの防衛強化の取り組みがなされています。

****台湾、兵役義務を1年に延長 2024年から****
台湾の蔡英文総統は27日、兵役義務を4か月から1年に延長すると発表した。中国からの増大する脅威に備える必要があると説明している。

蔡氏は記者会見で「現行の4か月の兵役は、常時急変する状況に対応するのには不十分だ」として、「2024年から、1年間の兵役義務を復活させることを決定した」と述べた。

さらに同氏は、中国からの「台湾に対する威嚇と脅威はますます明白になりつつある。誰も戦争は望まないが、平和は空から降ってはこない」と訴えた。延長措置は、2005年1月1日以降生まれの男性が対象になるという。

台湾ではかつて兵役が極めて不人気で、前政権は軍を主に志願制へと移行させ、兵役義務も1年から4か月に短縮していた。

しかし最近の世論調査では、市民の4分の3以上が4か月では短過ぎると考えていることが明らかになった。また軍も、報酬の低さが原因で、志願兵の補充に苦慮していた。

蔡氏は今回の変更について、「次世代のため、民主主義的な生き方を守っていく上での苦渋の決断」だったと説明した。 【12月27日 AFP】AFPBB News
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対象となる若者を含め、台湾住民の多くは「兵役延長は仕方ない」と考えているようですが、その内容等については不満も多いようです。

****台湾で兵役延長 賛否両論渦巻く 訓練内容に不満強く****
台湾の蔡英文政権が2024年から、兵役義務期間を4カ月から1年に延長すると決定したことが台湾社会で波紋を広げている。

若者の政治参加を促進する団体、台湾青年民主協会の張育萌理事長は地元メディアに対し、「台湾を守るためなら兵役延長を支持するが、訓練の内容、実施方法などについて詳しく説明してほしい」と強調した。

台湾の若者の間では、入隊への抵抗はないが、ほふく前進、銃剣術など台湾軍が現在、行っている伝統的な訓練内容への不満が強く、「時間の無駄」として、訓練内容の改革を求める声が上がっていた。

一方、2年後に入隊する予定の16歳の長男を持つ台北市在住の主婦(50)は、「規則正しい集団生活を1年送ることは子供にとっていいことだと思っている。戦争は起きてほしくないけれど」と話す。

台湾住民の多くは、台湾海峡での軍事的緊張の高まりを受け「兵役延長は仕方ない」と考えているようだ。台湾の民間シンクタンク、台湾民意基金会が今月中旬実施した世論調査では、市民の73%が兵役延長に賛成しているという。

ただ、ある台湾の大手紙記者は「富裕層は今後、兵役から逃れるため、子供を高校から海外に留学させることが増えるだろう。社会の不公平感が高まる可能性がある」と指摘する。

台湾の最大野党、中国国民党の内部では、兵役延長について意見が割れているようだ。同党は27日、「兵役制度の改革を支持する」との声明を発表した。

しかし、同党の幹部で著名なニュースキャスター、趙少康氏は同日、フェイスブックで「兵役延長に反対する。国民党が政権を取れば、兵役を4カ月に戻す」と明言した。趙氏は同党の24年の総統選挙の有力候補の一人で、党内で一定の影響力を持っている。【12月28日 産経】
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「兵役延長は仕方ない」という意見が多いように、防衛意識自体は高いものがあるようです。

****中国武力侵攻なら「戦う」71% 台湾の世論調査****
台湾民主基金会は30日、台湾住民を対象とした世論調査の結果を発表し、中国が台湾統一のために武力侵攻した場合の対応として、71.9%が「台湾を守るために戦う」と回答した。台湾が独立宣言したことを理由に中国が武力侵攻した場合も63.8%が「戦う」と答えた。

調査時期は5月。ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、台湾人の高い防衛意識が反映された形だ。

台湾の民主主義の発展に関する問いには53.6%が「楽観的」とした。また、偽ニュースの拡散が台湾の民主主義に及ぼす影響については、90.5%が「害となる」と答え、中国による世論分断への警戒感の高さを示した。【12月30日 共同】
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【中国が仕掛ける“情報戦”】
上記記事にもあるように、直接の軍事的脅威のほかに、中国からは“偽ニュースの拡散”などの“情報戦”が仕掛けられています。

****中国、台湾に情報戦…「政権がTSMCを米国に売った」と揺さぶり*****
台湾企業が先端半導体の工場を米国に進出させることを巡り、半導体産業の「脱台湾化」といった不安をあおる主張が広がり、台湾当局は中国が仕掛けた情報戦とみて警戒を強めている。

ターゲットは、半導体受託製造の台湾積体電路製造(TSMC)だ。世界シェア(市場占有率)は5割を超え、先端半導体に限れば9割にも及び、その動向は世界的に注目される。

米アリゾナ州で建設を進める先端半導体の工場は、米台協力を象徴するプロジェクトになっているが、生産コストが高く、米国の求めに応じた政治的な背景のある進出という否定的な見方は台湾でもある。

偽情報を監視する台湾の民間団体「台湾民主実験室」によると、米メディアが10月、米国が台湾有事で優秀なエンジニアを避難させる可能性に言及した後、中国では、共産党機関紙傘下の環球時報などの官製メディアやSNSが「TSMCが米国の会社になる」「米国がTSMCをとろうとしている」との見方を広げた。11月下旬にTSMCが米工場を拡張する計画が明らかになると「民進党政権がTSMCを米国に売った」と沸騰した。

こうした主張は、台湾で中国寄りのメディアや政治家らに影響を与え、半導体産業の「脱台湾化」や米国への「懐疑論」が議論される流れをたどっている。11月26日に投開票された統一地方選前には、野党が民進党政権を批判する材料になった。

米工場が稼働しても、生産量はTSMC全体の4%にすぎない。王美花・経済部長(経済相)は今月9日、「脱台湾化」議論の広がりに「多くは中国メディアの誇張で、台米関係に影響を及ぼすのが狙いだ」と警戒感を示した。

中国メディアは当局の統制下にあり、意図的に世論を誘導しているとみられる。台湾民主実験室は、統一地方選前に域外からとみられる情報約2900件を分析した。台湾で議論になっている社会や教育問題を利用し、中国のメディアやSNSが誇張して影響を与えようとするケースが目立ったという。

情報戦を研究する沈伯洋・台北大副教授は「中国側は半年から1年をかけて台湾を分断する話題を準備し、徐々に誤った情報を信じ込ませている。当事者がどれほど釈明しても、すでに誤認している人には信じてもらえない。最大の目的は住民が政権や米国を疑うように仕向けることだ」と指摘し、巧妙化する手法に注意を呼びかけた。【12月18日 読売】
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一番のターゲットとなっているのが、SNSでのライブ配信や中国の動画投稿アプリ「ティックトック」を利用する機会が多い若者のようです。

****中国認知戦、ライブ配信が主戦場 台湾の若者標的に****
中国当局がインターネット上の偽情報によって台湾世論をコントロールする「認知戦」を仕掛けている。

最前線でフェイクニュースなどに対応する民間機関の責任者に現状を聞くと、台湾当局への不信感を増幅させて社会の分断を進めるとともに、米国や日本をおとしめて相対的に自国への評価を上げようとする中国側の思惑が浮かぶ。

中国発の偽情報を分析する研究機関「台湾民主実験室」理事長の沈伯洋(しんはくよう)・台北大副教授によると、大学内で実施したアンケートで、「海外から台湾に偽情報がもたらされている」と認識している学生は6割にとどまった。

しかも、うち2割の学生は米国や日本が偽情報を流していると認識。沈氏は「若者の間には中国に対し何の警戒感も抱かず、友好的だと感じている人たちすらいる」と指摘する。

こうした傾向に影響を与えているのがネットの情報だ。西側ソーシャルメディアは中国当局との関連が疑われるアカウントへの規制を強化しているが、〝抜け穴〟となっているのが各種交流サイト(SNS)でのライブ配信と中国の動画投稿アプリ「ティックトック」だという。

中国が利用しているのは台湾人のライブ配信者だ。配信者が台湾当局や米国、日本を批判すると視聴者数が伸び、「投げ銭」収入も増える。そのことに気付いた配信者は中国のサイトから同様の内容を探し出し、自分なりにアレンジして発信するようになるという。

沈氏は「中国の影響を受けている配信者は多く、主に人民解放軍の資金が使われているようだ。おそらく数万人おり若者への影響は非常に大きい」と危惧する。

またティックトックは中国企業のアプリであり、偽情報対策への協力は期待できない。主に15歳以下の子供が好んで使っており、その影響力は「5年後の大きな懸念材料」だ。

沈氏は中国の認知戦について「短期目標は、社会を分断して介入しやすくすること。みんなが政府やメディア、周囲の人々を信じなくなれば台湾の民主への信頼も喪失する」と語る。

認知戦の強度は中国の国内事情にも左右される。ネット上の噂や報道を調査し誤情報を公表する民間非営利団体(NPO)「台湾ファクトチェックセンター」の陳慧敏(ちんけいびん)編集長によると、2020年1月の総統選の直前、与党・民主進歩党の蔡英文陣営が開票作業で不正を行うとの偽情報が激増した。

選挙後も発信は続いたが、同月下旬に武漢でコロナ対策の都市封鎖が始まったとたん発信は消えたという。政権内部がコロナ対策に忙殺されたことが背景にあるとみられる。

陳氏は「不正選挙のデマは対立と憎しみを深めて民主的な社会を傷つける」と指摘。また、対外関係をめぐっては、米国が台湾有事を引き起こそうとしているとの陰謀論も発信され続けているという。

沈氏によると、今年11月の統一地方選では中国側の干渉は比較的少なかった。10月の中国共産党大会など国内で処理すべき多くの事柄があったことも影響したと分析。

ただ、24年の総統選では偽情報が必ず増加するとみる。沈氏は「中国は総統選に向けて、他国と比べても中国はそれほど悪くないという印象を台湾の若者に与えようとしている」と警鐘を鳴らしている。【12月17日 産経】
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【経済面で中国との切り離しに耐えられるのか・・・という基本問題も】
情報戦もさることながら、実際に中国との緊張が高まると“現実の問題”となるのが経済への中国の影響力です。
「中国側が台湾製品の輸入を完全に止めた場合、台湾の人々は耐えられるのか」というのは切実な問いです。

****「抗中保台」の代価は大、台湾の農産物は中国との切り離しに耐えられるのか―台湾メディア****
台湾メディアの風伝媒は12日、中国文化大学国家発展・中国大陸研究所の劉性仁(リウ・シンレン)副教授が記した「『抗中保台』の代価は大。台湾の農産物などは中国との切り離しに耐えられるのか」とする文章を掲載した。

文章はまず、台湾の蔡英文(ツァイ・インウエン)政権の「抗中保台」には一定の代価が伴っていると述べ、台湾の農産物や水産物、酒に対して中国がこれまで取った措置に言及。

「複数の食品加工工場が関連規定に違反しているとして中国はタチウオ、アジなどの輸入停止を宣言した。また、害虫がいたなどの理由でパイナップル、かんきつ類などの輸入を止めた」と伝え、近頃は中国税関総署が登録情報の問題を理由に、台湾ビール、金門コーリャン酒、炭酸飲料の黒松沙士などを輸入停止としたことを指摘した。

文章は今後さらに多くの台湾製品が禁輸となる可能性があるとの見方を示した他、蔡政権は中国当局の措置に多くの対策を打ち出してきたと説明。「中国側が台湾製品の輸入を完全に止めた場合、台湾の人々は耐えられるのか」とし、「コロナ禍で人々の苦しさが増す中、『抗中保台』の代価はあまりにも大きく、台湾の対中貿易への依存度が過小評価されている」とも訴えた。

文章は、中国税関総署が昨年4月に発表し、今年施行された「輸入食品域外生産企業登録管理規定」について台湾当局は企業をサポートすべきだとの認識を示した上で、「台湾が『抗中保台』を行うなら、願う以外に実力と代替案を備えねばならない」「両岸が基本的な問題について対話を再開させなければより多くの問題が出現しないことを保証するのは難しい。政治的操作は無益で、人々の生活はますます苦しくなる」と指摘した。【12月17日 レコードチャイナ】
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中国からすれば、このあたりの不安を更に大きく煽るというのが情報戦の“狙いどころ”でしょう。
台湾としては、まったくのフェイクとは言い切れない不安であり、不安と覚悟の間で心が揺れる問題です。

経済的に中国に依存しながら「抗中保台」というのも、虫がいい話のようにも。
台湾の独自性を主張するなら、軍事進攻をちらつかせる中国への経済依存を薄める、身を切る覚悟の改革が必要でしょう。その覚悟が台湾にあるのか、ないのか? ほふく前進、銃剣術の訓練などよりはるかに重大な問題です。
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繰り返す対立  コソボとセルビア アルメニアとアゼルバイジャン

2022-12-29 23:20:26 | 欧州情勢
(セルビアから独立を宣言したコソボの北部でバリケード近くを歩く住民=28日【12月29日 共同】)

【戦争の傷が癒えないセルビアとコソボ】
旧ユーゴスラビア解体の過程で、アルバニア系住民を主体とするコソボは2008年にセルビアからの分離独立を宣言。
激しい戦闘となりましたが、NATOがコソボを軍事支援したこともあって、コソボは実質的に独立、しかし、(欧米から“悪者”扱いされ、空爆までされた)セルビアはこれを承認していません。

世界約110カ国がコソボの独立を認めているものの、セルビアのほか、ロシアや中国、EU加盟国ではスペイン、ギリシャ、ルーマニア、スロバキア、キプロスが独立を認めておらず、コソボは国連にも加盟していません。
(国内に分離独立運動を抱えている国は、コソボの独立を容認できないという問題があります)

仇敵の関係にあるセルビアとコソボですが、ともにEU加盟を目指しており、加盟実現のためには関係正常化が条件となるということで、一応は矛を収めた形にはなっています。

****セルビアとコソボ、EU加盟「最優先」=関係正常化協議で確認****
旧ユーゴスラビア構成国セルビアのブチッチ大統領と、2008年に同国からの独立を宣言したコソボのホティ首相は7日、ブリュッセルで会談し、欧州連合(EU)の仲介による関係正常化の協議を続けた。会談前には共同声明で「EUへの統合(加盟)と、EUが支援する対話の継続を最優先する」と表明した。

両氏は米ワシントンで4日、トランプ大統領立ち会いの下、経済関係を正常化する合意文書に署名した。ただ、共同声明では、今後もEU主導の協議を続け、加盟条件を満たすために「包括的で法的拘束力のある関係正常化の合意」を目指すことを確認した。

双方は7月に約20カ月ぶりに協議を再開した。今回はコソボ内でのセルビア系住民の扱いなども議論。月内に再び首脳が会談することを決めた。【2020年8月8日 時事】
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【コソボ北部セルビア系住民が道路封鎖 セルビア・コソボの間で緊張が高まる】
しかし、コソボ領内北部には少数派としてセルビア系住民が暮らしており、対立の火種がくすぶり続けています。

今年夏にも、セルビアとコソボの関係が再び緊張しているとの報道がありました。直接の問題自体はささいなことがらのようですが、そうしたことがすぐに軍事的緊張につながりかねないあたりが、両国関係の不安定さを示しています。

****コソボとセルビアが軍事衝突の危機? その原因とは****
7月31日夜、コソボの状況は、急激にエスカレートした。その原因は、未承認国の警察が隣国セルビアとの国境の検問所を閉鎖し、8月1日以降、コソボ領内で、セルビア語で記された書類が禁止されることになったことにある。

このため、セルビア語表記の自動車のプレートが、強制的に撤去されるという事態が発生した。一体、何が起こっているのか。

状況は暴動に変わり、いくつかの場所では、銃撃へと発展した。この地域では民族紛争がさらに複雑化している(コソボの主な住民はアルバニア人だが、北コソボではセルビア人が過半数を占めている)。 

コソボ当局は特殊部隊を国境に結集させた。セルビア人は主要幹線道路に集まり、コソボ警察が制圧するのを妨害するためにバリケードを組み始めた。

セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領は、コソボでの緊張が緩和されることを期待し、そのために同国政府は出来るすべてのことを行うと表明した。

西側諸国が話し合いを呼び掛けたが、コソボ当局は、セルビア語のプレートと書類を使った入国禁止措置を9月1日まで1カ月延期した。(後略)【8月1日 SPUTNIK】
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この問題については11月23日、コソボ・セルビア両国は解決策で合意しました。
しかし、対立の基本構造はそのままですから、すぐに発火します。

コソボ北部セルビア系住民居住地域のセルビア系元警察官がコソボ警察に逮捕されたことをきっかけに、セルビア系住民が道路封鎖して抵抗するという事態が発生。

コソボは混乱の背後にセルビアがいると批判、これを否定するセルビアも軍事態勢を引き揚げ、緊張が高まりました。

****セルビア、軍準備態勢「最高」に引き上げ…敵コソボとの間に緊張高まる****
敵対視するコソボとの間で緊張が高まると、セルビア政府は26日(現地時間)、軍の戦闘準備態勢を最高等級に引き上げたとAFPやAP、ロイター通信が報じた。

セルビアのミロス・ブセビッチ国防相はこの日声明を出して「大統領が軍に最高等級の戦闘準備態勢を整えるよう命じた」とし「コソボにいるセルビア人を保護するためにすべての手段を動員する」と明らかにした。

ブセビッチ国防相はまた、アレクサンダル・ブチッチ大統領が特殊部隊兵力を従来の1500人から5000人に増員するよう指示したと伝えた。

今回の声明はブセビッチ国防相がミラン・モシロビッチ陸軍参謀総長と共に前日コソボと国境を接する南部都市ラスカを視察した後に発表された。ラスカはコソボとの国境から約10キロメートル離れたところで、セルビア陸軍兵力がここに駐留している。

セルビアは陸軍最高責任者であるモシロビッチ陸軍参謀総長を国境地帯に派遣したことに続き、最高等級の戦闘準備態勢に突入してコソボに再度軍事的脅威を加えた。

欧州連合(EU)と米国の仲裁で終結しそうにみえたコソボ北部地域の民族葛藤は、同地域の前職セルビア系警察官がコソボ警察に逮捕されたことをきっかけに再び深まっている。

該当の警察官の逮捕に反発したセルビア系住民は10日からコソボ北部の主要都市ミトロヴィツァなどで主要道路をトラックなどで封鎖し、コソボ警察と対立している。

デモ隊が主要道路を遮断したのは、コソボ警察を攻撃した容疑で逮捕されたセルビア系元警察官がコソボ首都プリシュティナに移送されるのを阻止するためだ。

これに先立って、現地セルビア系警察600人余りと市長、公務員、裁判官らはセルビア政府が発行した自動車ナンバープレートの使用を禁止しようとするコソボ政府の措置に抗議して先月集団辞職した。

このナンバープレート問題はEUと米国の仲裁で一旦は妥協に至ったが、コソボ政府が北部地域に警察を派遣して葛藤が再び深まった。

コソボ全体180万人口のうちアルバニア系は92%、セルビア系は6%程度だ。セルビア系住民の大多数はコソボ北部地域に住んでいる。

セルビア人が実質的な自治権を行使するコソボ北部地域にアルバニア系警察が派遣されるとセルビア系住民が集団で反発した。

デモ隊とコソボ警察が対立して各地で銃声や爆発音が聞こえたことに続き、25日には北大西洋条約機構(NATO)のコソボ治安維持部隊(KFOR)巡察車両の近くにも弾丸が打ち込まれた。

KFORは声明を出して自制を訴えたが、セルビアとコソボはともに一歩も譲らず対立している。

コソボ政府は声明を通じて「コソボは犯罪組織とは対話はできず、移動の自由は回復しなければならない」とし「いかなる道路も封鎖されてはならない」と明らかにした。【12月28日 中央日報】
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****コソボ、セルビアによる「不安定化」図る試みを批判****
コソボのスベクラ内相は27日、道路を封鎖して抗議活動を繰り広げている北部の少数派セルビア系住民を隣国セルビアが支援し、コソボの不安定化を図ろうと狙っていると批判した。

セルビアはこの見方を否定し、コソボのセルビア系住民を守りたいだけだと強調。ブチッチ大統領は27日に「引き続き歩み寄りによる解決を追求する」と述べた。(後略)【12月28日 ロイター】
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【自制を促す国際社会 セルビア系住民が封鎖解除で合意 しかし火種は消えず】
ただ、国際社会はウクライナで手一杯という状況にもあって、民族的にも、宗教・文化的にも近いセルビアを支援するロシア、独立当時からコソボを支援するEU・アメリカともに、事態の悪化は避けたいのが本音。

****ロシア、セルビア支持もコソボ不安定化煽らず=大統領報道官****
ロシア大統領府のペスコフ報道官は28日、コソボ北部の少数派セルビア系住民を支援するセルビアをロシアは支持しているとしながらも、ロシアがバルカン半島全体に混乱をもたらそうと緊張を煽っているとの非難は否定した。

コソボのスベクラ内相は27日、道路を封鎖して抗議活動を繰り広げている北部の少数派セルビア系住民を、ロシアの影響を受けているセルビアが支援し、不安定化を図ろうと狙っていると非難した。

これについてペスコフ報道官は「セルビアは主権国家であり、ロシアの影響力を受けていると考えるのは完全に誤っている」とした上で、「こうした困難な状況下でセルビア系住民の権利を保護し、権利が侵害された場合は厳しく反応する」と述べた。

その上で「ロシアはセルビアと極めて密接な同盟関係にあり、歴史的、精神的なつながりを持っているため、セルビア系住民の権利がどのように尊重されているか、緊密に注視している」とし、「ロシアはセルビアを支持している」と述べた。【12月29日 ロイター】
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****米・EU、コソボ情勢に懸念表明 NATOも対話呼びかけ****
欧州連合(EU)と米国は28日、コソボ北部での緊張の高まりに懸念を表明し、状況の緩和を呼びかける共同声明を発表した。

共同声明で「われわれは全ての人に最大限の自制を求め、無条件の状況緩和に向けた行動を直ちに実施し、挑発、脅迫、威嚇を控えるよう求める」と指摘。米国とEUはセルビアのブチッチ大統領およびコソボのクルティ首相と協力して、緊張状態を緩和するための政治的解決策を模索するとした。

これに先立ち、北大西洋条約機構(NATO)のコソボ治安維持部隊(KFOR)は、コソボ北部での緊張緩和に向け全ての当事者間の対話を支持すると発表。全ての当事者が挑発的な武力行使を控え、安全確保に向け最善の解決策を模索することを期待するとした。【12月29日 ロイター】
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セルビアもこれ以上ことが大きくなると、後に退けない状況にもなってしまいますので、事態収拾の方向で動いています。

****セルビア大統領、抗議停止を要請 コソボ北部、米EUも懸念****
2008年にセルビアからの独立を宣言したコソボの北部でセルビア系住民による抗議行動が激化し、セルビア当局者は28日、同国のブチッチ大統領が抗議行動を停止するよう要請したことを明らかにした。ロイター通信が伝えた。(後略)【12月29日 共同】
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こうしたセルビア大統領の動きに加え、問題の発端となった元警察官の拘束が解かれたことで、コソボ北部のセルビア系住民もバリケード撤去に合意した模様です。

*****コソボ北部のセルビア系住民、バリケードの撤去に同意****
コソボ北部で19日間にわたり道路を封鎖しているセルビア系住民は、緊張緩和を求める米国と欧州連合(EU)の要請に応じてバリケードを撤去することに同意した。

セルビアのブチッチ大統領はコソボ北部のセルビア系住民とセルビアのラスカで会談した後、バリケード撤去が29日朝から始まると明らかにした。「これは長いプロセスで、しばらく時間がかかる」と述べた。

米国、北大西洋条約機構(NATO)、EUはコソボ北部での対立を巡り最大限の自制を促してきた。バリケードの撤去はセルビアとコソボの間の緊張緩和につながるとみられる。

セルビア系の元警官が他の警官に暴行したとして10日に逮捕されたことが抗議行動につながった。釈放を求めるセルビア系住民が警察と銃撃戦を繰り広げ、道路に10カ所以上のバリケードを築いた。

コソボ首都プリシュティナの裁判所の報道官は、元警官が検察当局の要請により拘束を解かれ、自宅軟禁状態に置かれたとロイターに明らかにした。

この決定に対しコソボの政府関係者は反発。Haxhiu法相は「テロに関連するこのような重大な犯罪で起訴された人物が軟禁になるのは理解できない」と述べた。クルティ首相は自宅軟禁を要請した検察官と承認した裁判官が誰なのか非常に興味があると語った。【12月29日 ロイター】
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元警察官の拘束が解かれたことには、コソボ側は不満があるようです。

今回の緊張状態はいったん収まったとしても、今後何らかの問題で再び緊張が高まる事態になりうることは容易に想像できます。

【アゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノカラバフをめぐる対立も再燃】
繰り返す対立ということでは、9月に武力衝突したアゼルバイジャンとアルメニアのナゴルノカラバフ(アゼルバイジャン内にあるアルメニアの飛び地)をめぐる対立もまた不穏な状況になっています。

****ナゴルノ係争地、緊張再燃 アゼルバイジャン活動家が道路封鎖****
アルメニア人のルザン・ホバニシャンさんは、アゼルバイジャン内の係争地ナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の道路がアゼルバイジャン側に封鎖されたため、ナゴルノ在住の家族に会えないまま新年を迎えることになるのではないかと心配している。

アルメニア系住民が多数を占めるナゴルノは、ラチン回廊でアルメニアと結ばれている。しかし、アゼルバイジャンの活動家が今月12日、回廊を封鎖。ナゴルノの鉱山で「違法採掘」が行われており、環境が汚染されているというのがその理由だった。(中略)

同じくステパナケルトに住むアショット・グリゴリャンさんは、「店の棚はほぼ空だ。パンがあるのが救い」だと話した。ナゴルノの住人は約12万人。食料、医薬品、燃料不足に直面している。

アゼルバイジャンの活動家は「違法採掘」への抗議行動を続けている。同国政府は、抗議は住民が自発的に行っていると主張しているが、アルメニア政府は、アルメニア系住民に土地を放棄させることを狙ったものだと反発している。

同国のニコル・パシニャン首相は、ラチン回廊に配備されているロシアの平和維持軍が「違法な封鎖」を阻止しなかったと抗議している。

26日、現場に集まっていたアゼルバイジャンの活動家グループは、封鎖を否定した。取材に応じた一人は「われわれの要求は天然資源の違法利用をやめさせることだけだ」と強調。人道支援物資の輸送を阻止しているわけではないと語った。ただ、抗議開始以降、アルメニアとの間の物流が途絶えていることを認めた。

AFP記者は、ロシア軍車両が回廊を自由に移動しているのを目撃した。一方で、ステパナケルトから約15キロの地点にあるロシアが設けた検問所付近の道路は封鎖されていた。

道路封鎖を受け、ナゴルノには人道支援団体が物資を届けている。アルメニアの赤十字の広報担当者は同日、これまでに同国政府から支給された物資10トン分を送り届けたと話した。

アルメニア、アゼルバイジャン両国の間では、ナゴルノをめぐり1990年代と2020年に2度にわたって紛争が起きた。今年9月にも衝突があり、双方合わせて280人以上が死亡した。 【12月27日 AFP】
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【アルメニアは、アゼルバイジャンの行動を許している同盟国ロシアへ強い不信感】
アルメニア側には、平和維持部隊を派遣している(味方であるはずの同盟国)ロシアがアゼルバイジャンの行動を制御できていないとへの大きな不満があります。

9月の衝突で事実上敗北したアルメニアは、11月に開催されたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議でもその不満を明らかにしています。

****プーチンが近づくのを露骨に嫌がる...ロシア「同盟国」アルメニア首相の行動が話題****
<プーチンの貴重な「味方」であるはずのアルメニアだが、アゼルバイジャンとの紛争でロシアの支援がなかったことに不満を募らせている>

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で、アルメニアのニコル・パシニャン首相が写真撮影の際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からあからさまに距離を置こうとしている様子が収められた動画が公開された。パシニャンは、同会議で共同宣言への署名を拒否するなど、ロシアへの不満をあらわにしている。(後略)【11月26日 Newsweek】
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今回の問題についても、アルメニア首相はロシアの平和維持部隊が「機能していない」とプーチン大統領に苦言を呈しています。

****アルメニア首相、ロシア平和維持部隊の役割に疑問符****
アルメニアのニコル・パシニャン首相は27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフに展開したロシア平和維持部隊の役割に疑問を呈した。

人口約12万人のナゴルノカラバフでは今月中旬から、アゼルバイジャンの活動家らが違法採掘に抗議するとしてナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路、ラチン回廊を封鎖。その結果、ナゴルノカラバフでは食料、医薬品、燃料などの搬入が止まっている。

この抗議行動について、アゼルバイジャン側は自然発生的なものだと主張しているが、アルメニア側は同国にナゴルノカラバフを放棄させるためにアゼルバイジャンが仕組んだものだと非難している。

パシニャン氏は独立国家共同体非公式首脳会議が開かれたロシア・サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。ラチン回廊は「ナゴルノカラバフに駐留するロシア平和維持部隊が責任を負うべき地域である」にもかかわらず、「管理されていない」と指摘した。 【12月28日 AFP】
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ロシアも「それどころじゃない。自分たちで何とかしてくれ」といったところでしょう。ロシアのコントロールがきかない形で衝突が再発する危険も。
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ロヒンギャ難民  難民船の遭難は最悪の状況 多くの国は支援要請に応じていない

2022-12-28 23:20:40 | 難民・移民
(インドネシア・アチェ州の保護施設で点滴を受けるロヒンギャ難民(2022年12月26日撮影)。【翻訳編集】 AFPBB News(AFP=時事)【12月27日 AFP】)

【スー・チーの民主政権、現在の軍事政権と政府は変わっても少数民族への差別、弾圧、攻撃は変わらず続いている】
ミャンマー西部のラカイン州に暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャは、ミャンマー国軍の殺戮、レイプ、放火などの民族浄化的な暴力によって住む土地を追われ、隣国バングラデシュに難民として避難、その数は100万人とも。
今もラカイン州では国軍の圧力にさらされており、難民となる者は止まっていません。

一方、バングラデシュにおいても歓迎されざる客であり、難民キャンプは不衛生で、教育の機会もなく、ギャングなどが跋扈する状況にあります。

“八方ふさがり”の状況にもあるロヒンギャ難民は、キャンプから更に小舟で命がけの脱出をはかる事例が続いています。

そうしたロヒンギャ難民の状況は、9月21日ブログ“ミャンマーで弾圧を受けるロヒンギャの現状 ミャンマー国内では民主派・国軍戦闘で市民に犠牲も”でも取り上げたところです。

****ロヒンギャ難民船がインドネシアに相次ぎ漂着 ミャンマー脱出後各地で苦難続く****
<ミャンマーのクーデター、ウクライナ戦争の影で、ロヒンギャは今も流浪を続けて──>

(中略)
歴史的に差別を受けるロヒンギャ族
ロヒンギャ族はミャンマー西部のラカイン州に多く居住するが、仏教徒が多数派のミャンマーでイスラム教徒が多いロヒンギャ族は常に差別、迫害、人権侵害の対象だった。

それはアウン・サン・スー・チーの民主政権の時代も変わらず、政府はロヒンギャ族をそもそもバングラデシュからの違法移民だとしてロヒンギャという名称を避け「ベンガル人」を意味する「ベンガリ」と呼び、ミャンマー国籍も与えず、移動の自由も制限してきた。

2016年10月にラカイン州で武装勢力が警察署を襲撃、警察官9人が殺害される事件が起きた。ミャンマー軍は反撃して実行犯とされるロヒンギャ族8人を殺害するとともにロヒンギャ族の過激派組織が関与していたとして過激派掃討の名目でロヒンギャ族への攻撃を激化させた。

戦火を逃れるためロヒンギャ族の住民は国境を越えて隣国バングラデシュに避難を本格化させ、約70万人がバングラデシュ国内のコックスバザール周辺に点在する難民キャンプに収容された。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「ミャンマー国内でロヒンギャ族に対するジェノサイド(民族浄化)が行われている可能性がある」として国際的調査団の派遣を求めたが、スー・チー最高顧問兼外相は「民族浄化が行われているとは思わない」「ロヒンギャ族難民がミャンマーに戻ってくるなら危害を加えられることはない」として調査団の入国を拒否した。

しかしミャンマー軍の弾圧に苦しんだ経験や国籍が保障されないことなどからミャンマーへ帰還するロヒンギャ族難民はほとんどいなかった。

2017年8月にはバングラデシュとの国境に近いミャンマー治安組織の駐在所20カ所以上が襲撃され12人が死亡する事件が発生。ロヒンギャ族武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」が犯行声明をだした。

以後政府軍とARSAによる戦闘が激化する一方で、ロヒンギャ族難民は増加。バングラデシュに逃れた難民は約100万人に達する事態になった。

そして2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍によるクーデターでスー・チー率いる民主政府は転覆され、スー・チーら政府関係者は軍政によって逮捕、裁判の被告人として現在まで囚われの身となっている。

しかし、民主政権から軍政に変わってもロヒンギャ族そしてARSAへの弾圧や攻撃は継続され、ロヒンギャ族の厳しい立場は続いている。

さらに同じラカイン州で仏教徒が主体の少数民族ラカイン族の武装組織である「アラカン軍(AA)」も民主政府時代からの武装闘争を現在の軍政との間でも繰り広げている。

このようにスー・チーの民主政権、現在の軍事政権と政府は変わってもARSAやAAなど少数民族への差別、弾圧、攻撃は変わらず続いていることもミャンマーの治安悪化を招く要因となっている。(後略)【12月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【ロヒンギャ難民船の遭難、2013/14年以降で最悪 漂着できても海に追い返されることも多い】
当然のごとく、粗末な船での脱出は遭難の危険が伴います。
しかも、そうした遭難で死亡する者が今年はこれまでで最悪となっています。

****ロヒンギャ難民船の遭難、2013/14年以降で最悪=UNHCR***
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のババー・バロチ報道官は、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの難民を乗せたボートの遭難やボート上での難民の死亡が今年、2013/14年以降で最悪になっていると述べた。180人を乗せた難民船が行方不明となっている問題を受けた発言。

UNHCRは、この難民船に乗っていた180人全員が死亡したとみられると発表した。

UNHCRによると、11月末にバングラデシュとみられる沿岸を出航したこの難民船は、12月上旬に船体に亀裂が生じ、その後に行方不明となった。

バロチ氏は、今年に入り既に200人近いロヒンギャが海上で死亡もしくは行方不明となっていると話した。

アンダマン海とベンガル湾では2013年に900人、14年には700人のロヒンギャが死亡もしくは行方不明となっていた。【12月27日 ロイター】
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「命がけの脱出」の結果、難民船が運よくたどり着けたとしても、ロヒンギャ難民の粗末な船はマレーシアやインドネシアに漂着するケースが多く、両国では一応人道的見地や国連の要請に基づき難民を保護していますが、上陸後も収容施設で「軟禁」や「隔離」が続くなど厳しい状況が続いています。

「上陸」が許されず、海に追い返される事例も多々。

****さらなるロヒンギャ族難民船が漂着****
(中略)12月25日、インドネシア・スマトラ島最北部にあるアチェ州ラドング村の海岸沖を1隻の木造船が漂流しているのを同村の漁民が発見し、海岸に手繰り寄せて乗っていた男性ばかり57人を救出した。

(中略)今回アチェに漂着した難民は「マレーシアを目指していた」と証言したように多くのロヒンギャ族難民はイスラム教国であるマレーシアで新生活を始めることを希望している。

しかしマレーシア政府はコロナ感染防止やロヒンギャ難民の中にARSAなどの武装組織メンバーが混入している可能性があることなどから多くの難民船を食料や飲料水を与えたうえで国際海域に追い返していた。2020年には22隻の難民船を追い返したといわれている。

こうしたことからインドネシアの中でも唯一イスラム法適用が許され、厳しいイスラム教の戒律が順守されているアチェ州を目指す難民船も増えているという。

海流の影響とこうした理由が重なってアチェへのロヒンギャ族難民は増加しており、アチェ州では収容所を設置して飲料水や食料、医療品を支援して保護に努めている。(後略)12月27日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【UNHCRは各国に支援を求めるものの、多くの国は支援要請に応じていない】
インドネシアのアチェには26日にも185人を乗せた難民船が漂着しています。

****ロヒンギャ難民、さらに185人がインドネシア漂着 衰弱した子も****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの難民185人を乗せた木造船が26日、インドネシアに流れ着いた。ロヒンギャ難民が同国沿岸に漂着するのはここ数か月で4回目。

警察によると、船は午後5時半ごろ、インドネシア最西端のアチェ州の海岸に着いた。185人のうち32人は子どもだった。

難民は地元の施設に一時的に保護され、病人は治療を受けている。

AFPの記者によると、痩せ細り衰弱した様子の何人かは点滴を受けていた。保健当局の職員は「数人が重い脱水症状となっており、嘔吐(おうと)している子どももいる」と話した。 【12月27日 AFP】
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国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、こうしたロヒンギャ難民に対する支援を各国に要請していますが、これまでも各国からの反応は芳しくありません。

****UNHCR、海上漂流のロヒンギャ難民支援を各国に要請****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、海上を漂流中のイスラム教徒少数民族ロヒンギャに対する支援を各国に要請した。海上では少なくとも20人のロヒンギャが死亡したとされている。またインド洋を数週間にわたり漂流した後、インドネシアに上陸した数百人のロヒンギャへの支援も求めた。

UNHCRは声明で、過去6週間で500人近いロヒンギャがインドネシアに到着したが、多くの国は支援要請に応じていないと指摘した。

インドネシアのスマトラ島アチェ州の当局によると、174人のロヒンギャを乗せた船が26日に漂着。大半は数週間の漂流で脱水状態となって疲弊し、緊急の医療処置が必要だった。

生存者の話では、バングラデシュからインドネシアへの40日間にわたる漂流で20人以上が死亡、船内では食糧が少なくなり、水漏れが生じていた。

生存者の1人は「インドネシアの人々はわれわれに教育の機会を与えてくれるという希望を持って、バングラデシュ最大の難民キャンプからここに来た」と話した。【12月28日 ロイター】
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【アメリカでは、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に不法移民の子どもたちを置き去りに】
難民に対する対応が厳しいのはロヒンギャの事例だけでなく、欧州に向かうシリア・北アフリカらの難民、アメリカを目指してメキシコ国境に押し寄せる中南米からの難民などでも同じです。

アメリカ最高裁は27日、近く失効予定だった新型コロナウイルス対策を名目とした陸路の移民流入制限措置について、法廷闘争が決着するまで継続を認める判断を示しています。

****米最高裁、コロナ禍の国境管理を維持****
米連邦最高裁判所は27日、新型コロナウイルス禍で導入された国境管理を維持する判断を下した。
ジョン・ロバーツ最高裁長官は19日、「タイトル42」と呼ばれる公衆衛生法の条項の期限を一時的に延長していた。

21日に予想されていた国境管理終了を前に、すでに国境通過者が増加し始めており、さらに少なくとも1万人が国境管理の撤廃を期待してメキシコ国境の都市に待機していた。

下級審では相反する判決が出ていた。ワシントンの連邦判事は11月、2020年春のコロナ流行に合わせて実施された国境管理は当初から違法だったとの判決を下した。これに対し、ルイジアナ州の連邦判事は、移民の入国や難民申請を阻止するために無期限に適用できると判断していた。

トランプ前政権は、伝染病から国を守るために設計された19世紀から続く公衆衛生法に基づき、連邦法の条項から名付けられたタイトル42を導入した。これにより、国境にいる移民は速やかにメキシコに送還され、3年近くは合法的に入国し難民申請することが事実上できなくなった【12月28日 WSJ】
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共和党優位の各州はより厳格な不法移民対応を求めており、テキサス州などは移民に対して寛容なニューヨーク・ワシントンなどに移民をバスで送り付けるといった“嫌がらせ”的なパフォーマンスも行っていますが、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に子どもたちを置き去りにするといった事例も。

****氷点下の移民移送、政権がテキサス州知事批判****
米ホワイトハウスの報道官は26日、テキサス州の国境地域から送られた移民を乗せたバスが首都ワシントンのハリス副大統領宅近くに極寒のクリスマスイブに到着した問題で、同州のアボット知事が人命を危険にさらしたと非難した。

共和党のアボット知事はバイデン民主党政権の移民政策を批判してきた。ただ、クリスマスイブの移民移送については関与を認めていない。

移民支援団体は25日、米国への難民申請を目指す推定110─130人の不法移民がテキサス州の当局者らによってバスに乗せられたと明らかにしていた。子どもも多くいた。

ホワイトハウスのハサン報道官は声明で「アボット知事は連邦政府や地元当局と一切調整することなく、クリスマスイブの氷点下の気温の中、道端に子どもたちを置き去りにした」と批判。「政治的な駆け引きをしても何も達成できず、人命を危険にさらすだけだ」とした。

テキサス州はこれまで、何千人もの移民をワシントン、ニューヨーク、シカゴにバスで移送してきた。アボット氏は以前、州は意図的に移民を、不法移民に寛容な聖域都市に移送していると述べている。【12月27日 ロイター】
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タイ  来年5月までに総選挙 タクシン次女の人気上昇 プラユット首相は現与党を離れて新党へ

2022-12-27 22:30:03 | 東南アジア
(タイのタクシン元首相の次女で野党・タイ貢献党幹部のペートンタン・シナワット氏(写真中央)が23日、バンコクのパフラット地区で開かれたヒンズー教の祭り「ディワリ」に民族衣装で登場。来場者の注目を集め、人気の高さをうかがわせた。【10月24日 東京】)

【憲法裁判所 職務一時停止となっていたプラユット首相の任期に関して続投を認める】
タイの情勢については9月10日ブログ“タイ 首相任期をめぐりプラユット首相の職務一時停止命令 ブランド効果で首相を狙うタクシン氏次女”で取り上げたところです。その内容は主に以下の2点。

8年前の軍事クーデターで暫定首相として実権を掌握し、その後の総選挙を経て首相に就任した元陸軍司令官のプラユット首相の任期の上限が過ぎたとして野党が憲法裁判所に訴えると、裁判所は結論が出るまでの間、職務停止を言い渡しました。

野党側の動きとして、政界参入後の日もまだ浅いタクシン元首相(妹のインラック前首相とともに海外亡命中)の次女ペートンタン氏が首相を狙うポジションに躍り出ています。

今回はその続きみいたいなところですが、先ずプラユット首相については予想されたように憲法裁判所は首相任期に関して続投を認める判断を下しています。

****タイ憲法裁、プラユット首相の続投認める 任期の起算点問題は解決するも抗議の声は収まらず****
<任期問題は解決するも、政情安定化は望めず?>

タイの憲法裁判所は9月30日、憲法の規定に基づくプラユット首相の任期に関して続投を認める判断を下した。これにより一時的に首相職を退き、兼務していた国防相の任務にだけ就いていたプラユット氏が首相職に復帰することが確定した。この期間首相代行を務めたプラウィット副首相は代行を解かれることになる。

プラユット首相としての任期に関して野党「タイ貢献党」などからは憲法で規定された「最長でも8年」という規定を盾に2014年5月のクーデターでインラック政権を倒し、同年8月24日に暫定首相に就任した時を任期の起算点として2022年8月末が任期切れであると主張。

このため野党側などは憲法裁に判断を求める訴えを起こし、これを受けて憲法裁は8月24日に「プラユット首相の首相としての職務の一時停止」を命じたのだった。(中略)

今回問題となった首相の任期8年の起算点には野党側の主張、与党側の認識とさらに別の解釈まで3つの考え方が存在し、混乱に輪をかけた状態だった。(中略)

そして今回、憲法裁はこの3つの解釈から新憲法施行の2017年を任期の起算点とする判断。野党の主張を退けた。このためプラユット首相の任期が2025年までであることが確定したことになった。

バンコクでは反対デモも
この憲法裁の決定を受けてバンコク市内では9月30日から10月1日にかけて反プラユット首相を訴える市民や学生によるデモが繰りげられた。

プラユット政権が「民主的」と喧伝する総選挙の洗礼を受けた現在の政権とはいえ、実質的には「軍事政権」の性格を随所に残しているのがプラユット首相だとする反対派の主張は根強い。

特にクーデターで倒されたインラック首相やその前のインラック首相の兄タクシン首相の支持が強いタイ東北部の農村地帯は依然として「反プラユット」の牙城といわれている。

憲法裁による判断が示されたとはいえ今後タイ政局は首相に戻るプラユット氏を中心とする「軍事政権的な性格を残す与党による専制政治」のさらなる強化、野党や民主化を要求する市民や学生らによる「反政府活動」が一層盛り上がり、社会不安、緊張が高まることも予想されている。(後略)【10月3日 大塚智彦氏(フリージャーナリスト) Newsweek】
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“タイの裁判所、裁判官は政府の強い影響下にあり、司法の独立は完全に確立されておらず、政権に配慮したり忖度したりという司法判断も散見するなど必ずしも公正、公平な裁判とは言えないのが実情とされている”【同上】ことから、野党主張が認められるとは思えませんでした。

そうしたなかで、“プラユット氏が首相に正式に就任した2019年6月を起算点”という与党主張ではなく、それまでの憲法を廃止して「首相任期最長8年」を盛り込んだ新憲法を施行した2017年4月7日を起算点としたこと、それにより、与党主張より2年早く期限が到来するあたりは、司法判断に若干の独自性もあった・・・ということでしょうか? あるいは、最初からそのあたりが落としどころとされていたのでしょうか?  あるいは与党内にあるいろんな思惑の反映でしょうか?

【来年5月までに総選挙 タクシン元首相次女ペートンタン氏の人気がうなぎ上り】
いずれにしても、選挙管理委員会によると、タイは来年5月までに選挙を行う必要があるとのことで、与野党ともに総選挙に向けて動き出しています。

総選挙・次期首相に向けたレースの先頭に立つのは前回ブログで取り上げたタクシン元首相(妹のインラック前首相とともに海外亡命中)の次女ペートンタン氏です。

****タイ、総選挙へ動き本格化 元首相娘「顔」に、新党も****
来年5月までに実施されるタイ総選挙に向け、各党の動きが本格化してきた。最大野党「タイ貢献党」は、タクシン元首相の次女ペートンタン氏(36)を「選挙の顔」にして大勝を期す。ただ妊娠が判明し、選挙戦に支障が出るとの声も上がる。

プラユット首相(68)は続投を目指し、新党に合流するとみられている。

タイ貢献党は今月6日の特別会合で、1日当たりの最低賃金を600バーツ(約2300円)に引き上げることを柱とした選挙公約を明らかにした。ペートンタン氏は「妊娠していることで強いエネルギーをもらっている」と語り、選挙戦を率いていく決意を示した。【12月17日 共同】
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上記記事にあるプラユット首相の件は、後ほど。
ペートンタン氏の出産予定次期が選挙の前なのか、後なのか・・・知りません。同氏の人気は上々のようです。

****タイ次期首相適任者調査、タクシン氏の末娘がリード広げる****
タイの国家開発管理研究所(NIDA)が実施した次期首相の適任者を問う世論調査で、タクシン・チナワット元首相の末娘のペートンタン氏(36)がリードを広げた。

調査は17─22日、有権者2000人を対象に実施した。それによると、34%が次期首相にふさわしい人物としてペートンタン氏を挙げた。9月調査の21.6%から大幅に上昇した。

現首相のプラユット・チャンオチャ氏を選んだのは14.05%。前回調査では10.1%だった。

選挙管理委員会によると、タイは来年5月までに選挙を行う必要がある。日程は未定だ。
ペートンタン氏はタイ貢献党の幹部。党はまだ、同氏を首相候補に指名していない。【12月27日 ロイター】
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タクシン“ブランド”は健在のようです。
タクシン元首相の政治には金権・バラマキ政治との批判もありますが、農民・都市貧困層に目を向けた政治は、王室や既得権層・エリート層に基盤を置いた従来のタイ政治とは一線を画し、今もその影響力が強いようです。

【プラユット首相 現与党第1党のパランプラチャーラット党(国民国家の力党)を離れて新党へ 選挙結果次第でいろんな展開の可能性も】
選挙戦をリードするタクシン支持野党「タイ貢献党」とペートンタン氏ですが、仮に野党「タイ貢献党」が勝利しそうな総選挙、あるいは大勝した総選挙を、軍を代表する現政権・与党がみすみす見逃すだろうか? という疑問も。

どこかの時点で介入してくるのでは(例えば、何らかの難くせをつけて解党に追い込むとか 今までもたびたびありましたので)・・・という懸念を感じていましたが、与党及びプラユット首相の側も一枚岩で野党叩きにあたるという状況ではないようです。

プラユット首相は与党と折り合いが悪く、親軍与党パランプラチャーラット党(国民国家の力党)を離れて新党に合流しています。

****タイ首相、続投の意向表明=総選挙で新党の候補に****
タイのプラユット首相(68)は23日、記者団に対し、来年5月までに実施される次期総選挙に、新党の首相候補として臨む考えを表明した。プラユット氏は「職務を続け、残された問題の解決に当たりたい」と強調した。
 
プラユット氏は2014年、陸軍司令官としてクーデターを起こし、軍事政権の暫定首相に就任。19年の民政移管後、親軍政党・国民国家の力党の支持を受けて首相となった。

国民国家の力党幹部は次期総選挙に当たり、プラユット氏の陸軍時代の上司で、副首相を務めるプラウィット党首を首相候補に擁立する方針を公表している。プラユット氏は自身の支持派が結党した「タイ団結国家建設党」に入党し、続投を目指す。【12月23日 時事】 
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このあたりの事情をもう少し詳しく解説したのが下記記事。

****プラユット首相、新党に参加 タクシン派野党支持率43%****
プラユット首相兼国防相(元タイ陸軍司令官、68)は23日、タイ首相府で記者団の質問に応え、側近らが設立した新党ルワムタイサーンチャート党(前記事の「タイ団結国家建設党」)に加わると明言した。
来年5月までに行われる議会下院(定数500、任期4年)選挙で同党が指名する首相候補になる見通し。

これまで支援を受けてきた与党第1党の親軍政党、パランプラチャーラット党(前記事の「国民国家の力党」)とはたもとを分かつ。(中略)

プラユット首相は陸軍司令官だった2014年5月にタクシン元首相派民選政権を軍事クーデターで倒して軍事政権を発足させた。

2019年3月に2011年以来初めての議会下院選挙を実施。自身は下院選に立候補しなかったが、国会での首相指名選挙で、パランプラチャーラット党やプラユット軍政が選任した非民選の議会上院(定数250、任期5年)の支持を受け、非議員のまま首相に再任された。パランプラチャーラット党に所属はしていない。

プラユット首相はパランプラチャーラット党と一定の距離をとり、自らの権威を高める戦略をとってきた。しかし、首相が持つ閣僚枠などをめぐり、パランプラチャーラット党と対立が深まり、同党は次期下院選で党首のプラウィット副首相を党の首相候補とする方針を固めていた。

■どうなる与党4党
パランプラチャーラット党(現与党の国民国家の力党)は2019年の下院選でプラユット首相を担ぐため急ごしらえで作られた政党で、王党派、地方の有力政治家、地方財閥などが雑居する。

結党を主導した王党派テクノクラートは下院選後、党から追放された。プラユット政権維持を目的とするため、王室、軍を中心とする政治経済体制を支持する、民主主義を重視しない、といった傾向が強かったが、党内の多数派である地方政治家・財閥の影響力が強まり、利益誘導、利権重視に傾いていった。

王党派市民から支持を受けるが、最近の政党支持率調査では、最大野党でタクシン派のプアタイ党、野党第2党でリベラル派のガウクライ党などの後塵を拝している。

ルワムタイサーンチャート党(プラユット首相支持者が結成した新党)には与党第3党の民主党などから保守王党派が流れ込んでいて、より純度の高い王党派政党となりそうだ。

プラユット首相の参加表明で支持率が上がれば、パランプラチャーラット党などから地方政治家が流入し、パランプラチャーラット党のコピーバージョンとなる可能性もある。(中略)

下院選後に行われる首相指名選挙では、下院のほか、実質的なプラユット与党である上院が投票するため、現在の与党陣営は、下院選で壊滅的な大敗を回避し、結束を維持できれば、政権維持が可能だ。

ただ、ルワムタイサーンチャート党が十分な議席を確保できない場合、与党陣営がアヌティン副首相兼保健相、もしくはプラウィット副首相を首相に推すケースもありそうだ。

野党陣営が大勝した場合、プームジャイタイ党(与党第2党で財閥、政治閥の集合体)、パランプラチャーラット党は野党側に付き、政権を発足させる可能性がある。

■政党支持率、タクシン派プアタイが圧倒
タイ国立開発行政研究院(NIDA)が17~22日に18歳以上のタイ人を対象に実施した世論調査(回答者2000人)で、政党支持率1位はプアタイ党(タイ貢献党)で43%だった。
 2位はガウクライ党で16.6%。
 3位はルワムタイサーンチャート党で7%。
 4位は民主党で5.4%。
 5位はプームジャイタイ党で5.3%。
 6位はパランプラチャーラット党で4%だった。
【12月26日 newsclip.be】
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選挙結果次第(もし、政治介入がなければペートンタン氏人気に乗るタクシン系野党「タイ貢献党」の圧勝でしょう)でいろんな展開がありそうな状況のようです。
それにしても、タクシン系野党「タイ貢献党」と親軍与党「パランプラチャーラット党」が組む可能性・・・想像しがたい世界です。

全くの想像ですが、権力維持のためなら仇敵とも組むかも・・・という与党「パランプラチャーラット党」の節操のなさ、志のなさが(その是非は別にして、彼なりの志を持ってクーデターを起こした)プラユット首相は気に入らなかったのでしょう。
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ウクライナ  続く激戦のなかでゼレンスキー、プーチン両氏が和平交渉・停戦への言及も 真意は?

2022-12-26 23:15:06 | 欧州情勢
(ウクライナのキーウ中央駅に設置されたクリスマスツリーの前で、兵士とタッチを交わす男の子=19日【12月24日 共同】 クリスマスプレゼントを買うお金を、今年は軍への寄付に充てる人が多いとのこと)

【東・南部の要衝で続く攻防 ウクライナ軍はロシア領内空軍基地への攻撃も】
ロシア軍のウクライナ侵攻から10カ月、ウクライナのゼレンスキー大統領は今月中旬、(本気度はわかりませんが)ロシア軍に対してクリスマスに合わせた一時休戦を呼びかけていましたが、ロシア軍は激しい攻撃を続けています。

特に、東部ドネツク州の要衝バフムトへのロシア軍の攻勢と南部ザポロジエ州メリトポリへのウクライナ軍の攻撃が激しさを増しており、今後の戦局を左右する戦いとして注目されます。

****ウクライナ東・南部の要衝で攻防 戦争の帰趨左右も 侵攻10カ月****
24日で10カ月が経過したロシアのウクライナ侵略は現在、露軍が東部の要衝奪取を狙って攻勢を強化する一方、ウクライナ軍は南部の要衝奪還を目指す構えを見せている。

2つの要衝を巡る攻防は戦争全体の帰趨(きすう)を左右する可能性がある。ミサイル攻撃を繰り返す露軍の拠点をウクライナ軍がドローン(無人機)で攻撃したともされ、空を巡る戦いも激化している。

ウクライナのゼレンスキー大統領は23日のビデオ演説で、露軍がクリスマスから新年の休暇にかけて攻撃を強める可能性があるとして、「空襲警報に注意してほしい」と国民に呼びかけた。一方、ペスコフ露大統領報道官は同日、「ウクライナの非軍事化はかなり進展した」とこれまでの成果を主張した。

侵攻から10カ月。露軍は現在、東部ドネツク州全域の制圧のため、同州の要衝バフムトの掌握を急ぐ。バフムトは同州の中心都市クラマトルスク方面に進出するために重要で、周辺では過去数カ月、激戦が繰り広げられてきた。

露軍はバフムト方面に招集兵や民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員も投入し、損害を出しつつも攻勢を維持しているとされる。これに対してゼレンスキー氏はウクライナ軍が防衛線を保持していると強調する。

一方、ウクライナは露軍をバフムト方面にくぎ付けにして、別方面で反攻の機会をうかがっているとの分析が出ている。

目下の奪還目標は南部ザポロジエ州メリトポリとの観測が強い。ここを奪還すれば、露軍が占拠する南部ヘルソン州のドニエプル川東岸地域や、南部クリミア半島への進出路を確保できる。ウクライナ軍は最近、メリトポリとその周辺の露軍拠点を立て続けに攻撃している。

ロシアは本土とクリミアを結ぶクリミア橋で10月に起きた爆発の「報復」を名目として、ウクライナの電力インフラへの攻撃を引き続き繰り返している。

こうした中で露西部のジャギレボ空軍基地と南西部のエンゲリス空軍基地で5日に爆発が発生。ウクライナは関与を認めていないが、露軍のミサイル攻撃能力を低下させるためにドローンで攻撃したとの見方が強い。

ウクライナは米国から地対空ミサイルシステム「パトリオット」を供与されることが決まり、防空能力を向上させつつある。一方、露軍の高精度ミサイルは枯渇しつつあるともいわれ、空を巡る主導権争いも今後の戦局の焦点となる。【12月24日 産経】
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ウクライナの市民生活を麻痺させるインフラ施設を標的にしたロシア軍のミサイル攻撃に対し、ウクライナ軍は、上記記事にもあるようにロシア領内空軍基地にドローンを使用した攻撃を行っています。

また、第1次大戦時の塹壕戦を思わせるような状況にもなっている前出の激戦地東部バフムトでは、ウクライナメディアによれば1日でロシア軍兵士90人以上が死亡したとも。
(ということは、発表はされていませんが、連日の激戦でウクライナ側にも同じような、あるいはそれ以上の犠牲が出ている可能性もあります)

****ロシア空軍基地にウクライナ軍ドローン接近 撃墜時の破片で3人死亡 ロシア国防省が発表****
ロシア国防省は空軍基地にウクライナ軍のドローンが接近し、撃ち落としたものの、落ちた破片で3人が死亡したと発表しました。

ロシア通信によりますと、ロシア国防省は26日、ウクライナから数百キロ離れたサラトフ州にある空軍基地にウクライナ軍のドローンが接近したと明らかにしました。ロシア軍が撃墜したものの、落下したドローンの破片で軍の技術スタッフ3人が死亡したということです。

一方で、基地にあった機体に損傷はなかったとしています。サラトフ州の知事は民間インフラへの被害はないとしています。

ロシア国防省によると、今月5日もこの基地を含めた2つの空軍基地にウクライナ軍のドローンが飛来していて、ロシア国内では「防空体制が疑問視される」などと批判する声が出ていました。

一方、ウクライナメディアは24日、ウクライナ軍の報道官の話として、東部ドネツク州の要衝バフムトにおいて、1日でロシア兵90人以上が死亡100人以上が負傷したと伝えました。

報道官は「ロシア軍は常にバフムトの戦線で我々の防衛を打ち破ろうとしている」と話し、大砲や戦車、多連装システムを使い、225回攻撃があったと指摘。「ロシア軍は常に損失を被っていて、あらゆる手段を使って戦線を突破しようとしているが、できていない」と話したということです。

一方、イギリス国防省は、ロシアは部分的動員により人員不足は緩和できたものの、弾薬が足りず、攻撃が制限されているとの分析を発表しました。巡航ミサイルが不足していることから、長距離ミサイルでのインフラ施設を狙った攻撃は週に1度程度に限られているとの見方を示しています。

また、「戦闘の前線を維持するだけでも毎日、かなりの砲弾やミサイルを消費するということがロシア軍の弱点だ」と指摘しました。【12月26日 TBS NEWS DIG】
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ウクライナ軍によるドローン攻撃があったサラトフ州エンゲリス空軍基地は国境からの距離が450キロ以上離れており、核兵器搭載可能な戦略爆撃機Tu95を配備するロシアの遠距離航空部隊の拠点で、米紙ニューヨーク・タイムズはウクライナ高官の話として、ドローンは同国の領内から発射されたと報じています。

素人的にも、軍事大国ロシアの防空体制はどうなっているのか?という感も。
あるいは、(日本も含めて)こういうドローン攻撃は防ぎきれないということでしょうか?

ロシア軍の弾薬不足・兵員不足は以前からの話ですが、兵員の方は分動員令で凌ぎつつあるようですが、弾薬の方は相変わらずのようです。

****ロシア軍の弾薬不足続く インフラ攻撃限定と英分析****
英国防省は25日までの戦況分析で、9月に部分動員を発令したロシアは10月以降に数万人の予備役をウクライナに投入し、兵員不足は改善されつつあるが、弾薬不足が依然として要因となり、攻撃は限定的になっている可能性があるとの見方を示した。

ロシア軍は巡航ミサイルが不足し、ウクライナへのインフラ攻撃を週1回前後に限定しているとみられると分析。前線での防衛作戦を維持するだけでも、かなりの砲弾やロケット弾を消費していることが「ロシア軍の弱点」と指摘した。(後略)【12月26日 共同】
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“北朝鮮がロシアに砲弾を輸出 「ワグネル」の戦闘員が使用か”【12月23日 TBS NEWS DIG】といった、北朝鮮からの輸入のも取り沙汰されています。北朝鮮は否定しています。

【ゼレンスキー大統領が来年2月「和平案」提示か アメリカの要請?】
こうした激しい戦闘の一方で、これまで和平交渉を否定してきたウクライナ・ゼレンスキー大統領が侵攻から1年となる来年2月24日に合わせて和平案を提示する計画だとの報道が。

****来年2月「和平案」提示か 米紙報道、ゼレンスキー氏****
米紙ウォールストリート・ジャーナル電子版は23日までに、ウクライナのゼレンスキー政権がロシアによる侵攻から1年となる来年2月24日に合わせて和平案を提示する計画だと報じた。外交筋の話としている。

ゼレンスキー大統領はこれまで和平に向けた10項目としてロシア軍の撤退や食料安全保障の実現などを提案。21日の米議会での演説でバイデン米大統領から支持を得たと述べた。

和平案はこれらを具体化させるが、ロシアに大きな譲歩を強いる内容になるため、同紙は戦況が実現性を左右するとの見方を伝えた。(後略)【12月24日 産経】
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徹底抗戦、あるいは「プーチンを相手にしない」というウクライナ・ゼレンスキー大統領に対し、アメリカが和平交渉に入るように圧力をかけているという話は以前からあります。

今回の話も、そういう流れでしょうか?和平交渉が具体化するかどうかは、冬場の戦況次第でしょう。

“当初ウクライナ側は、少なくともプーチン大統領がいる限り、あるいはプーチン大統領とは一切交渉しないということを公然と主張していました。 そうなると何の話し合いも成立しないことになってしまうので、アメリカとしては「仮にそうした協議を始めるのであれば、例えば『以上の5つの条件は決して譲れない』といったような形で、方針を明示して欲しい」という圧力ないし要望をウクライナ側に求めた、ということは漏れ伝え聞いております。(元航空自衛官で評論家の潮匡人氏)”【12月26日 ニッポン放送NEWS ONLINE】

【プーチン大統領も停戦に言及 ウクライナ・アメリカは見せかけにすぎないと批判】
和平交渉については、ロシア・プーチン大統領からの発言もあります。

****プーチン露大統領、停戦への意向示唆 ウクライナや米国は懐疑****
ロシアのプーチン大統領は、25日に放映された国営テレビのインタビューで、ウクライナ侵略に関し、ウクライナや同国を支援する米欧と「結論を妥結する用意ができている」と述べ、停戦への意向を示唆した。プーチン氏は22日にも停戦に言及していた。

ただ、プーチン氏はロシアの要求を認めさせる形での停戦を念頭に置いているとみられ、ウクライナや米国は懐疑的な見方を崩していない。

プーチン氏は、ウクライナとの停戦交渉や、ウクライナ侵攻に先立って北大西洋条約機構(NATO)に提案した相互安全保障体制の確立について「ロシアには全ての当事者と交渉する用意がある」としつつ、「彼らが交渉を拒否している」と主張した。

プーチン氏は22日の記者会見でも「全ての紛争は交渉で終わる。彼らがこの認識に達するのが早ければ早いほどよい」と指摘。一方で「設定した全ての目標は達成する」と述べ、作戦続行の意思も示していた。

ロシアはこれまで、一方的に併合を宣言したウクライナ4州の「帰属変更」や、ウクライナの「非軍事化」などをウクライナが受け入れることが停戦の前提だと主張している。

ロシアは、停戦をちらつかせることで米欧のウクライナ支援態勢を揺さぶり、戦況の好転を狙っているとも指摘されている。

ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は25日、露軍の攻撃や民間人殺害が続いていると指摘し、停戦への意欲は見せかけにすぎないと批判した。

ロイター通信によると、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官は今月、「ロシアは本当の意味での交渉に真剣に臨もうとしていない」とする分析を公表。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官も22日、ロシアが停戦に前向きだとする観測について「全く逆だ。ロシアは戦争を激化させようとしている」と指摘した。【12月26日 産経】
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【プーチン大統領をめぐる“面白過ぎる”話】
なお、ロシア国内のプーチン大統領をめぐる状況については、“面白過ぎる”話も。 映画・ドラマ向きの話ではありますが、“一片の事実もあるかも”ということで。

****ウクライナ核攻撃でプーチン大統領を悪者に「画策する強硬派がいる」専門家が解説****
ロシア政治が専門の筑波大学名誉教授、中村逸郎氏が12月26日、ニッポン放送「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」に出演し、辛坊と対談。長引くロシアによるウクライナ侵攻が今後、どのような展開を見せるかについて解説した。

ロシアのプーチン大統領が22日、10カ月にわたって続くウクライナ侵攻について、「我々はこの戦争を終わらせることを目標としている。早ければ早いほどいい」などと戦争の終結を望んでいることを明かした。来年1〜2月に首都キーウ(キエフ)への総攻撃もささやかれる中、このタイミングでのプーチン大統領の発言にはどんな思惑があるのか。(中略)

中村)プーチン大統領は壁にぶち当たっています。そのはけ口がどんどんウクライナへ向いています。そんな中、ロシア国内には「プーチン大統領にもっと悪いことをさせてやろう」とあおる強硬派の人たちがいるんですよ。

つまり、今回の戦争の責任を全てプーチン大統領のせいにして、「自分が戦争を止めてやる」と画策する人たちです。(中略)

1人は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創始者として知られ、「プーチン大統領の料理人」とも呼ばれているプリゴジン氏です。

プリゴジン氏は、プーチン大統領に近い新興財閥オリガルヒの1人でもあります。プリゴジン氏は、できるだけウクライナに攻撃を仕掛けさせ、最終的にはキーウを狙って戦術核兵器を使わせるつもりだと思います。

そうなれば、ロシア国内でもプーチン大統領に対する批判の声は大きくなるでしょうから、プーチン大統領を悪者にできるわけです。それで、この戦争は終わりです。

そのうえで、プーチン大統領を南米ベネズエラへ送る計画があるという噂もあります。なぜ、ベネズエラかというと、ロシアとベネズエラは非常に仲がいいとされているからです。また、ベネズエラはアメリカから経済制裁を受けているからです。

そのような状況下のベネズエラであれば、プーチン大統領を喜んで受け入れてくれます。ただし、その後どうなるかというと、ベネズエラはプーチン大統領をアメリカへ差し出すでしょう。そして、ベネズエラは経済制裁を解いてもらうというシナリオがささやかれています。(中略)

実は、プリゴジン氏は次期政権を狙っているんですよ。

辛坊)それは、いつ頃から顕在化しますか。

中村)来年1月末頃からだと思います。しかし、既にロシア国内では公然の話です。プーチン大統領を悪者にしようと画策するオリガルヒは、もう1人います。プリゴジン氏と同じオリガルヒの1人で、「プーチン大統領の金庫番」と呼ばれるコヴァリチュク氏です。

コヴァリチュク氏はプリゴジン氏のスポンサーになっているという話があります。ロシアでは2024年3月に大統領選が予定されていますが、プリゴジン氏は自分の保守政党をつくるとしています。この政党の資金を提供するのがコヴァリチュク氏です。

辛坊)そうした状況が顕在化する中、キーウに戦術核兵器が使用されることを何とか止められないものでしょうか。

中村)今、最も現実味があるのは、アメリカがウクライナへ供与する地対空ミサイル「パトリオット」による核ミサイルの迎撃です。ただ、自衛隊幹部に直接聞いたところ、核ミサイルを大気中で迎撃したことは人類史上なく、何が起きるかは読めないそうです。

辛坊)核物質の飛散も懸念されますよね。

中村)そうです。また、爆発するかもしれません。自衛隊幹部によると、ただ言えることは、キーウに落下するよりは被害が少ないのではないかという予測だけだそうです。

辛坊)だから、パトリオットなんですね。そう言われてみれば、いろいろなことの整合性が取れます。

中村)ロシアが年明けにもキーウを狙って核ミサイルを撃ちそうだということを前提に、ウクライナのゼレンスキー大統領が先日、慌ててアメリカを訪問し、パトリオットをキーウに配備してもらうことを依頼したのだと思います。パトリオットを運用するためには、ウクライナ兵の訓練も必要です。そうしたことを考慮すると、アメリカ訪問は実はぎりぎりのタイミングだったといえます。(後略)【12月26日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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プーチン大統領について一般的に言われているのは、周辺にはプーチン氏のご機嫌を忖度する人間ばかりが配置され、正確な情報も入手できず、“孤立したリーダー”となっているということ。

****孤立し不信抱くプーチン氏、頼るは強硬派顧問****
聞きたい情報ばかり提供する権力構造、ウクライナ戦争で露大統領の誤算を助長

ロシア軍がウクライナ東部の小都市リマンの戦闘で敗北しつつあった9月下旬、モスクワから暗号化された回線を通じて前線の司令官に電話がかかってきた。電話はロシアのウラジーミル・プーチン大統領からで、兵士たちに退却しないよう命じるものだった。

当時のやりとりについて概要の説明を受けた欧米の現・元当局者らやロシア情報当局の元高官によると、プーチン大統領は実際の戦況をあまり理解していなかったようだ。欧米が提供した大砲の援護を受けて前進するウクライナ軍は、装備の不十分なロシアの前線部隊を包囲していた。プーチン氏は、自身の指揮下にある将校たちの命令を覆す形で、兵士たちに陣地を死守するよう指示したという。

ウクライナ軍の不意打ち攻撃は続き、ロシア軍兵士は10月1日、何十体もの遺体と大砲を置き去りにして撤退を急いだ。残された大砲はウクライナ軍の武器貯蔵庫補充に使われることになった。

プーチン氏は、ウクライナ戦争が迅速なもので、国民の支持を得て確実に勝利を収められると考えていた。それどころか戦争は費用のかさむ泥沼と化し、同氏は何カ月もの間、その現実と折り合いをつけるのに苦労するとともに、自身の好戦的な世界観を強化し、悲観的なニュースから彼を守るよう設計された権力構造の頂点で孤立し、不信感を抱いていた。

(中略)だが、同氏の周りにいるのは依然として、人的・経済的な犠牲が増大しているにもかかわらず、ロシアは成功するという彼の確信に応える政府高官らだという。(中略)

この記事は、現旧のロシア当局者や大統領府に近い人々に行った数カ月にわたる取材に基づく。その証言が描き出したのは、おおむね、ウクライナが成功裏に抵抗することを信じられないか、信じようとしない孤立したリーダー像だ。彼らは大統領が22年をかけて自身にこびへつらうためのシステムを構築してしまったと述べ、周囲の人々は彼を落胆させるデータを伏せたり、取り繕ったりしたと指摘した。(後略)【12月26日 WSJ】
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期待した成果を出せない軍への不信感の一方で、プーチン氏の信頼が増しているのが前出の民間軍事会社「ワグネル」の創始者プリゴジン氏でしょう。プリゴジン氏が前出のようなシナリオで次期政権を狙っているのかどうかは知りません。
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アフガニスタン  女子大学教育無期限停止を命じたタリバン 圧政で行き場を失う人々の暮らし

2022-12-25 23:07:48 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンの首都カブールで、女子の大学教育禁止に抗議する女性たち(2022年12月22日撮影 【12月23日 AFP】)

【イスラム主義的動きを強めるタリバン政権】
これまでにも取り上げてきたように、アフガニスタンを支配するイスラム原理主義勢力タリバンは、復権当初の国際社会への一見宥和的な言動も取下げて、本来の価値観であるイスラム主義を前面に押し出しつつあります。

****タリバン、イスラム法の完全執行命令 アフガン****
アフガニスタンの実権を掌握するイスラム主義組織タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は、同国の裁判官に対し、公開処刑や石打ち、むち打ち、窃盗犯の手足の切断など、シャリア(イスラム法)のすべての側面を完全に執行するよう命じた。ザビフラ・ムジャヒド報道官が13日夜、発表した。(中略)

タリバンは1996〜2001年に政権を握った際、抑圧的な支配体制を敷き、競技場でのむち打ちや公開処刑などを定期的に行っていた。昨年の政権掌握時にはより穏健な統治を約束していたが、徐々に国民の自由と権利の締め付けを強化している。(後略)【11月15日 AFP】
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上記方針に沿って、実際に公開むち打ち刑の執行相次いでいるようです。

****「シャリーアに基づき」タリバン暫定政権、公開むち打ち刑の執行相次ぐ…少年少女にも****
アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバン暫定政権が、犯罪などに対する刑罰にシャリーア(イスラム法)の解釈を適用する姿勢を強め、むち打ち刑の執行が相次いでいる。

1996〜2001年の旧政権時代に国際社会などで問題視されていた公開処刑や身体刑などが復活しつつあるとして、懸念が強まっている。

最高裁は19日に出した声明で、北東部タハール州で11日、州裁判所の命令に基づき女性9人を含む19人に公開のむち打ち刑を執行したと明かした。19人は姦通や窃盗などの疑いで逮捕され、「シャリーアに基づく調査後、39回のむち打ちが言い渡された」という。

タリバン指導部の意向を反映したものであるのは明らかだ。暫定政権の報道官は13日、ツイッターで、最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師がタリバンの判事との会談で、公開処刑やむち打ちなどの身体刑を含むシャリーアに沿った刑罰の完全実施を指示していたと明かしていた。

中部バーミヤン州の関係者によると、指示があったと公表された後、同州で違法行為をしたとされる少年と少女へむち打ち刑が執行された。東部ロガール州でも23日、男女14人に対して執り行われた。いずれも裁判所が命じたという。

タリバンは昨年8月の復権後、戦闘員らが罪を犯したとされる人に裁判を経ずにむち打ちする様子が、SNSなどに度々投稿されていた。国民に対する抑圧を次第に強めている暫定政権が厳しい刑罰の実施を拡大させていく可能性が高い。【11月26日 読売】
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公開むち打ち刑の執行以外にも、イスラム主義強化の動きが報じられています。

****タリバン、アフガン首都に屋外スピーカー400個新設 礼拝呼び掛けで****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は24日、礼拝への参加を促すため、首都カブールに屋外スピーカーを400個新設したと発表した。

勧善懲悪省はさらに、誰もが集団礼拝に参加できるよう、市内の空き店舗や使われていない建物数百軒をモスク(イスラム礼拝所)に改装したと明らかにした。

同省は「前政権下で一部の屋外スピーカーが撤去され、アザーン(礼拝の呼び掛け)を聞けなくなっていた」とツイッターに投稿した。同時にアザーンを聞くことができるよう、新しいスピーカーは市内各地に設置されるという。

現地メディアは同日、勧善懲悪省がカブールの特定地域の商店に対し、最も重要とされる金曜礼拝の際には店を閉めるよう命じたと報じている。(後略)【11月24日 AFP】
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“礼拝の際には店を閉めさせる”というのは、以前、マレーシア観光中に、イスラム原理主義勢力PAS(全マレーシア・イスラーム党)が実権を握る地域で目にしたことがありますが、拡声器を手にした男性の指示で突然市場の屋台がクローズされ、ひと気が消えるという異様な光景でした。

“米政府系ラジオ、一部で禁止=国営のイスラム法専門局設立―アフガン”【12月5日 時事】といったメディア対応も。

タリバンの政策で国際的に最も評判の悪い女性の権利侵害に関しても、悪化が進んでいます。

****女性へのSIMカード販売禁止=タリバン、新たな行動制限か―アフガン南部****
アフガニスタン南部ウルズガン州で、携帯電話の通信に必要となるSIMカードの女性への販売が禁じられた。地元民放トロTVが23日、伝えた。

イスラム主義組織タリバン暫定政権の影響下にある州当局者は、女性の販売員がいないことが理由と説明したという。
暫定政権は今月に入り、女性が公園や公衆浴場、ジムなどに立ち入ることを全土で禁止した。女性の行動制限を一層強めており、今回の措置もその一環の可能性がある。【11月24日 時事】
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【女子大学教育無期限停止で女子教育は小学校のみに】
そうした状況で、「?? タリバンも軟化したのかな?」と思ったのが、タリバンが示した“善意”

****タリバン、アフガンで拘束の米国人2人を解放=米国務省****
米国務省のプライス報道官は、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が拘束していた米国人2人を解放したと発表した。囚人交換や金銭が絡む取引ではないとし、善意を示す狙いがあるようだと説明した。(中略)

「少なくともタリバン側の説明に沿えば、善意のしるしだとわれわれは理解している」と語った。(後略)。【12月21日 ロイター】
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タリバンにも“善意”があったのか・・・とも意外に思ったのですが、やっぱり幻想だったようで、同日のニュースで周知の女子大学教育無期限停止が報じられました。国連・欧米は激しく反発しています。

****タリバン、アフガン女子の大学教育を停止 米英や国連が批判****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の高等教育省は20日、公立と私立の大学に対し、女子教育を直ちに停止するよう命じた。別途通知があるまでとして期限を設けておらず、米英や国連からは強い非難の声が上がった。

米国を含む諸外国はこれまで、タリバン暫定政権が女子教育に関する方針を転換しない限り、政権の正式承認を検討することはないとしてきた。

米国務省のプライス報道官は大学の女子教育停止は「許容できないもので、タリバンに重大な結果をもたらし、国際社会からのさらなる孤立を招く」と強調した。

米国のウッド国連次席大使はこの日開かれたアフガン情勢を巡る安全保障理事会の会合で、「タリバンが全てのアフガン人の権利、とりわけ女性の人権や基本的自由を尊重するまでは国際社会の正当な一員にはなれない」と強調した。

ウッドワード英国連大使は大学教育停止は「女性の権利を一層ひどく制限し、女子学生一人一人に深い失望を与えるものだ」と批判。

タリバン暫定政権は3月に日本の中学・高校に当たる中等教育の女子通学を延期しており、国内外の批判を招いていた。

国連のドゥジャリク事務総長報道官は大学の女子教育停止で「タリバンは再び約束を破った」と非難し、「非常に憂慮すべき動きだ」と語った。【12月21日 ロイター】
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昨年8月に権力を握り返したタリバンは、中高生年代の少女の通学を1年以上にわたって禁止する一方で、小学校や大学の再開は認めてきました。今回の措置で女子が通えるのは小学校だけになりました。

理由については、いろいろ報じられています。
“暫定政権の幹部は取材に対し、「タリバンを支持する地方の有力者の中には、女性は10代で結婚し、家事や育児をするのが役割だと考える人が少なくない」として、女性の教育を制限する理由を打ち明ける。”【日系メディア】

“今年2月に公立大が再開した際に暫定政権が男女別授業を条件としたため男子の授業時間が減少し、高等教育省が問題視したことがきっかけとなったことが21日、同省幹部らへの取材で分かった。”【12月21日 共同】

公式見解としては「服装規定違反」があげられています。

****女子大学教育の禁止、理由は「服装規定違反」 タリバン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のネダ・モハマド・ナディーム高等教育相は22日、大学での女子教育を禁止した理由として、女子学生が服装規定などの指示に従っていなかったと主張した。
 
ディーム氏は20日、国内の全大学に対し女子教育の停止を命じ、国際社会の反発を呼んだ。同氏は国営テレビのインタビューで、女子学生たちが頭髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」着用の指示にも従わず、「結婚式にでも行くような服装をしていた」と述べた。

タリバンは昨年の政権掌握以降、女性の権利に対する締め付けを強化。大半の地域では、日本の中学・高校に当たる中等教育の女子通学も1年以上にわたって停止されている。タリバンはこれを一時的な措置だとしつつも、さまざまな理由をつけて再開を拒んでいる。 【12月23日 AFP】
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「服装規定違反」も“さまざまな理由”のひとつで、要するに“女性は10代で結婚し、家事や育児をするのが役割だ”という考えのあらわれでしょう。

【女性の抗議、男子学生の連帯、有名人や他のイスラム教国からの批判はあるものの、事態を動かす力とはなっていない】
“カブールで女性らが抗議デモ タリバンが女子教育停止受け”【12月22日 日テレNEWS】といった動きもありますが、数十人規模と小規模で、タリバンは女性らをムチで打つなどしてデモを解散させたということです。

“男子学生の間でも衝撃が広がっており、東部ジャララバードでは一部の学生が抗議として試験をボイコットした”【12月22日 AFP】といった男子学生の連帯や、下記のような用名人や他のイスラム教国からの批判もありますが、事態を改善する力とはなっていません。

****タリバンの女性大学教育停止へ抗議 クリケット選手も「連帯」****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが女性の大学教育を停止したことを受け、国内外で抗議の動きが広がっている。

女子学生が大学前で抗議を続けているだけでなく、国民的スポーツのクリケットの選手たちが非難の声を上げる動きもある。他のイスラム教国からも方針撤回を求める声明が相次ぎ、タリバンは国際的に孤立を深めている。

「私たちの社会と国は、女性の教育を切実に求めていることを認めないといけない。明るい国の未来は(男性と女性)双方の教育と努力によって保証されるからだ」。クリケットでアフガン代表チームの主将を務めたモハンマド・ナビ選手は、フェイスブックでこう訴えた。

他のクリケット選手たちもツイッターに「#LetAfghanGirlsLearn(アフガンの少女たちに教育を)」のハッシュタグ(検索目印)を付けて、「アフガンの姉妹や娘たちに連帯して立ち上がる」などと投稿した。

報道によると、22日も首都カブールなどで女子大学生が教育停止の撤回を求めて抗議した。また、抗議の意思を示すために試験をボイコットする男子学生や、辞表を提出する教職員も出ている。

タリバン暫定政権は昨年9月に、事前に当局の許可を得ていないデモを禁止する通達を出している。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の報告書によると、タリバンの政策に反対するデモの参加者が拘束される事例が相次ぎ、抗議活動は減少していた。

ソーシャルメディア上では、今回のデモ参加者の一部が拘束されたとする投稿もあり、抗議の広がりが実際にタリバンの方針に影響を与えるかは不透明だ。

一方、イスラム教国からも非難が相次いでいる。AP通信によると、トルコのチャブシオール外相は22日、女性の大学教育の停止について「イスラム教的でも人道的でもない」と述べ、タリバンに再考を求めた。サウジアラビア、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)の外務省も方針の撤回を要求している。(後略)【12月23日 毎日】
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【タリバン政権下で抑圧される人々、困窮する市民生活】
下記は、女子大学教育無期限停止以前のものです。今は事態は更に悪化しています。

****将来への不安で精神を病む若者急増、女子校の閉鎖400日超に タリバン支配下で今、起きていること―安井浩美のアフガニスタン便り****
アフガニスタンでイスラム主義組織、タリバン政権が復権して2年目の年を迎えようとしている。昨年8月の大混乱がうそのように、街は落ち着いて見える。しかし、人々のタリバンに対する不信感がなくなったわけではない。「諦め」に近い状態に人々は陥っているのかもしれない。

12月になって首都カブールを含めアフガニスタン各地で雪が積もりだした。マイナス20度にもなる厳寒の冬を乗り切るための冬支度に忙しいのが普通だが、経済破綻でままならない。日雇い仕事もほとんどなく、職に就けない若者はもんもんとした日々を過ごす。

中学や高校で勉強するはずだった女子学生も「学校閉鎖」が長引き「もう疲れた」という言葉が聞かれるようになっている。

今が繁忙期であるはずの薪や石炭ストーブを売る店主は、売り上げが激減し悲鳴を上げている。例年の2割程度の売り上げでこのままだと店を畳んで別の商売をするしか生きる道はないと話す。一方、消費者は、食料を買うお金もままならず薪や石炭を買う余裕はないというのが本音だ。

急増する精神を病む若者
「若者の8割は、精神を病んでいる」という言葉をテレビのニュースを初めとして最近いろんなところで聞く。人と会うのがおっくうで元気がなく、うつ気味で一日中考え込むなど精神を病む若者が増えている。アフガン保健省は「一人で考え込まないように、先生や両親、友人など信頼できる人に相談しましょう」とテレビコマーシャルを通じて若者の精神ケアについて啓発し始めた。自殺する若者も出ている。アフガニスタンでは家庭内の問題に干渉しない傾向が強いが、それだけ精神的に追い詰められた人が多いということになる。(中略)

▽拍車が掛かる女性への圧力
タリバン政権下では、女子教育が事実上認められなくなった。タリバン復権後まもなく、日本の中高等教育にあたる7年生から12年生の女子校が閉鎖され、400日以上が過ぎている。国際社会、イスラム聖職者からの要請にも応じないタリバン。勧善懲悪省のハナフィ大臣は「女子教育は、ムダだ」とまで言い出している。

一方で、タリバン内部でもスタナクザイ外務副大臣のように「女子教育は女性の権利であり、教育を受けることは重要だ」と言う人もいる。タリバン内に穏健派がいるということはせめてもの救いだが、あるタリバン関係者によると、政権内の9割が女子校の再開を望んでも、事態は変わらない可能性が高いという。閉鎖が続く理由ははっきり分からないが、タリバン最高指導者のハイバトゥラ師からの許可待ちという見方もある。

 人権活動家のマフブバ・セラジさん(74)は「タリバン政権下で女性のおかれる状況は最悪だ。女性の存在自体がアフガニスタンには、ないのも同じだ」と声を荒らげる。 タリバン復権後1年以上が過ぎた今の状況を「アフガニスタンの将来がどうなるのか誰にも予測できない。ただ次に起こる事態を待つ以外に何もできない」と嘆いた。(中略)

▽危ぶまれる伝統工芸
アフガニスタンの伝統工芸といえば、手織りのじゅうたんが挙げられる。世界有数の手織りじゅうたん技術が存続の危機に直面している。(中略)

タリバン復権後は、海外へのじゅうたんの輸出がほとんどなくなり、外国から買い付け人も来なくなった。そのしわ寄せはじゅうたん織りを行う貧しい村をもろに直撃した。(中略)

じゅうたん織りで生計が立たなくなった今、別の仕事を見つけるにしても地元では難しい。残る手段は故郷を捨て、街に出て仕事を見つけることだが、アフガニスタン全体で経済が破綻しており、都市部の状況は地方よりも厳しいともいえる。(中略)

国内で一番貧困率の高いファリヤブ州の州都マイマナ市にある子ども病院では、タリバン政権後1年以上たった今も早産での未熟児や栄養失調児の子どもたちが多数入院していた。国連の報告によると、人口の半数以上が食糧支援を必要としている。(中略)

赤十字国際委員会(ICRC)の最近の報告では、支援する国内33か所の病院で栄養失調の子どもが昨年と比べ90%増えているといい、5歳未満の肺炎発症率は昨年より55%増加している。厳冬で栄養不足の子供たちが肺炎を発症し命を落とす羽目にならないことを願っている。【12月10日 47リポーターズ】
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今回の女子大学教育無期限停止で電話取材を受けた女子学生は、“タリバンによる通学停止の決定をSNSで知り、涙が止まらなくなった。何かの間違いであって欲しいと願って翌朝に大学に向かったが、銃を持ったタリバンの戦闘員たちに止められ、校内に入ることはできなかった。”と語っています。

更に「大学生活は、私たち女性にとって唯一の希望だった。タリバンは私たちの息の根を止めようとしている」と涙ながらに語り、「国際社会にはこの決定を覆すよう、私たちを支援して欲しい。このままだと、夢も希望も持てない」と訴えたとのこと。【日系メディアより】

こうした悲痛な叫びに応えられない国際社会の無力さが残念です。

【タリバンは女性の権利制限を加速】
タリバンの強硬姿勢は更に明らかになっています。

****タリバン NGO女性職員の出勤停止 人道支援への影響懸念****
アフガニスタンのイスラム主義組織、タリバンは、国内で女性がNGO=非政府組織で働くことを認めないと発表しました。女性の権利をめぐっては、大学教育が停止されたばかりで締め付けが強まっています。

ロイター通信などによりますと、タリバンの経済省は、24日、アフガニスタンで活動する国内外のNGOに対し「追って通知があるまで」女性を働かせないよう命じました。「イスラム法の解釈に基づく服装の規定を守らない人がいたため」と主張していて、従わない場合は「活動の許可を取り消す」としています。

タリバンによる実権掌握以降、アフガニスタンでは制裁などの影響で貧困が拡大。ロイター通信は人道援助に携わる人の話として、男性職員が女性に対する支援を行うことは「規定や文化的な慣習」から難しいことが多く、NGOにおいて女性職員は不可欠だと伝えていて、今回の命令による影響が懸念されます。

タリバンは、20日にも全国の大学に対し女性が通うことを認めないよう命じ、国内外から非難が殺到。24日には西部の都市ヘラートで「教育は私たちの権利だ」と声をあげて抗議する女性たちに対し治安部隊が放水するなど、女性の権利に対する抑圧はいっそう強まっています。【12月25日 TBS NEWS DIG】
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中国  新型コロナの感染爆発  政府からは「自己責任論」も 一方で、“ゆるい”国民の対応も

2022-12-24 23:30:53 | 中国
(中国 コロナ感染で点滴をしながら、麻雀卓を囲む人【12月23日 FNNプライムオンライン】)

【加速する感染爆発 感染者推計2.4億人 今後更に拡大】
事実上「ゼロコロナ」を放棄した中国で、火葬場に長蛇の列ができるような猛烈な感染爆発が起きているのは周知のとおり。

「ゼロコロナ」を放棄したので感染爆発したというより、オミクロン株による感染爆発が起きたので「ゼロコロナ」を維持できなくなり、住民不満の爆発もあって放棄した、その結果、状況は一気に加速していると言うべきでしょう。

中国政府が詳しい感染情報の把握もあきらめてしまったので、推測に頼るしかありませんが、12月だけで感染者は2億4800万人になっていると言う情報も。

*****中国コロナ感染者推計2・4億人…内部資料流出か、公式発表は28万人****
香港紙・明報は23日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込む「ゼロコロナ」政策の大幅緩和に踏み切った中国本土で、今月の累計感染者数が2億4800万人に上った可能性があるとの推計を報じた。国家衛生健康委員会の21日の内部資料が流出したとしている。

同委員会の公式発表では1〜22日の感染者数を計約28万4700人としており、大幅な食い違いが生じている。

中国では、厳しい移動制限や感染者を洗い出して隔離する大規模PCR検査を7日に取りやめて以降、感染が急拡大している。中国の人口は約14億人で、報道が引用した内部資料によると、累計感染率は17・56%に達した。特に感染が広がっているのが、北京市と四川省で、累計感染率が50%を超えたとしている。

英医療調査会社エアフィニティは21日、中国で1日あたり5000人超の死者が出ているとの推計を公表した。同委員会は1日あたりの死者数を0〜5人と発表しており、隔たりがある。

中国のSNSでは、火葬場に長蛇の列ができ、手が回らない多数の遺体が葬儀場の駐車場に置かれている様子を撮影した写真が拡散している。

松野官房長官は23日の記者会見で、中国で新型コロナの陽性が確認された邦人1人が死亡したと明らかにした。政府関係者によると重慶市の40歳代男性という。重慶市の日本総領事館が19日に確認した。【12月24日 読売】
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国家衛生健康委員会議事録では、“最新の1日あたり新規感染者が約3700万人に及ぶと推計。感染ペースはさらに加速しているとした上で、「中小都市や農村への感染拡大はこれからで、ピークに対応する医療対応の強化を急がなければならない」との認識を示した”とも。【12月24日 日系メディアより】

素人的には疑問も。“1日あたり新規感染者が約3700万人”となると、3日で1億人、1か月ほどで中国全人口14億人すべてが感染する(もちろん、実際には何らかの理由で感染しない者もいるでしょうし、増加は直線的に推移する訳でもありませんが)という話にもなりますが、本当でしょうか?

英医療調査会社エアフィニティの推計は“1日当たりの感染者数は100万人以上”と、もう少し控え目です。

****中国の新型コロナ死者1日当たり5000人以上、英調査会社が試算****
英国の医療関連調査会社エアフィニティーは、中国での新型コロナウイルスによる死者が1日当たり5000人以上との試算を示した。中国当局が公表しているデータをはるかに上回る。

中国の地域データに基づくモデリングを用いて試算した。その結果、1日当たりの感染者数は100万人以上となったという。

同社はこの推定値が、過去1週間の死亡者が7人という公式データと大きく異なると述べた。

中国国家衛生健康委員会は、ロイターのコメント要請に応じていない。22日発表した21日の新規有症状感染者は2966人、死者はゼロだった。無症状感染者数の公表はすでにやめている。

エアフィニティーの死亡リスク分析によると、現在の流行局面で130万─210万人が死亡する可能性がある。他のモデルグループの分析でも210万人の死亡が予測されている。

エアフィニティーは、感染のピークは2回あると予想。現在感染者が増加している地域では1月中旬に370万人(1日当たり)、その他の地域で3月に同420万人がピークとの見方を示した。【12月22日 ロイター】
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日本でも1日の新規感染者は177662人、死者は339人(12月24日)ですから、人口が10倍以上の中国で、“1日当たりの感染者数は100万人以上”“1日あたり5000人超の死者”というのは“まだまだ爆発の入口”でこれから格段に増加すると推測されます。

【「自己責任論」を説き始めた中国政府】
中国政府はこれまでと打って変わって「自己責任論」に言及しており、基本的に感染抑止はあきらめてしまったようです。

****広がる感染拡大、中国政府は「体調不良でも仕事に行け…****
<ゼロコロナ政策を廃止し、今度は「自己責任論」を説き始めた中国政府。デモと感染の拡大に習近平は動揺している可能性が高く、今のところ打つ手はない>

中国が「ゼロコロナ政策」を事実上廃止してからまだ間がないというのに、北京などの主要都市では新型コロナウイルスの感染が急拡大している。SNSには感染の報告が次々と投稿され、従業員の9割が感染しているという企業もある。

それでも中国のメディアは、感染拡大をほとんど報じていない。夜のテレビニュース番組でも、新型コロナについては「全て適切に対処されている」と短く扱われる程度だ。

政府は「自己責任論」も説き始めた。最近のスローガンは「健康は自分で管理」。これまでゼロコロナは自分たちの功績だと吹聴してきたのに、今はその失敗の責任を負いたくないと考えている。

皮肉な話だが、政府が各種規制を緩和している今も、北京市民は以前からの厳しい制限を守っている。
人々が感染を恐れて自宅に引き籠もっているために街は閑散としており、食料品店の棚は買いだめのせいで空っぽだ。

公式発表の感染者数は、もはや現実を反映していない。制限緩和後の1週間、政府発表の数字は減少の一途をたどった。

これについて政府は、一斉検査を廃止したために無症状の感染者数が報告されなくなったことを、減少の要因として認めている(中国の定義では入院に至らない軽症者も無症状者に含まれる)。(中略)

政府の発表によれば制限緩和以降、新型コロナによる死者は1人も出ていないという。政府の公衆衛生専門家は、新型コロナが深刻なウイルスではないことを強調している。(後略)【12月19日 Newsweek】
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政府発表の死者数については、「私の周りでも5人を超えている」「政府が発表した5人、全員知っています」と政府発表を揶揄するSNS書き込みも。

政府発表の死者数は「陽性を理由に、他の病気で亡くなった人すべてをコロナ死として申告することはできない」と、基礎疾患の悪化を含んでいません。

【首都の医療崩壊阻止に地方から動員 懸念される地方への拡散】
“感染抑止を諦めた”とは言え、“「この点滴、役に立つのか」病院入れず“路上”で点滴…中国で2億4800万人感染のデータも”【12月23日 TBS NEWS DIG】といった状況で医療崩壊瀬戸際にあり、医療崩壊すると社会不安が急拡大しますので、中国政府としてはなんとかそこは避けたいところ。

****中国、首都へ医師ら数百人 コロナ対応、地方から動員****
中国当局が数百人の医師や看護婦を地方都市から動員し、新型コロナウイルスの感染が急拡大している北京に派遣したと香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが23日伝えた。地方も感染拡大で医療従事者が不足しているが、当局は共産党・政府の機能が集中する首都の防衛を優先したようだ。

中国政府は各地の病院に対して重症者の集中治療ができる医師や看護師、PCR検査の従事者らを北京に派遣するよう文書で要請。山東省から医師や看護師ら少なくとも500人、江蘇省から数十人が北京に送り込まれたという。【12月23日 共同】
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しかし、今後、中央政府がブレーキをかけるか移動禁止令を出さない限り「春節」の民族大移動で感染は地方に拡散すると思われますので、“首都防衛”策は地方の状況を更に悪化させる懸念もあります。

【政府の理不尽な“手のひら返し”を受け入れるしかない中国人民 “ゆるい”様相も】
そうした感染爆発の状況で必至に病院・薬剤を求めている人、不安から自宅にこもっている人も多いのでしょうが、一方で“ゆるい”と思われるような様相もあるようです。生真面目な日本とは異なる「中国流」でしょうか。

****【陽性4人で“点滴マージャン”】コロナ拡大の中国で40代日本人死亡…薬不足で工場に大行列 “中国流”ウィズコロナの現状****
新型コロナの感染拡大が続く中国で、SNSに最近投稿された動画。大きな建物を取り囲むように長蛇の列ができている。

動画の音声:みな“薬工場”に鎮痛剤を買いに来ている!これはものすごく異常だ!

動画に映っている建物は、薬の製造工場。薬不足の深刻化を受け、人々は薬局だけでなく、薬の製造工場にまで直接並ぶようになったのだという。(中略)

感染者は100万人以上?表面上は戻った日常生活
コロナ政策の大転換から約半月。
(中略)23日に向かったのは、北京にあるフードコート。14日に同じ場所で撮影した時の様子と比べてみると、人出は戻っているように見える。

北京市民:もう「陽性を経て健康」です。以後はもう大丈夫だと。回りの友達もほとんど「陽性を経て健康」か、「陽性中」でも症状はみんな重くないです。

表面上は元に戻りつつある日常生活。
さらにSNSには、中国流の“ウィズコロナ術”ともいうべき変わった光景が投稿されていた。
ぶら下げられた4つの点滴。見れば、その点滴をした4人が麻雀卓を囲んでいる。別の動画でも点滴をしながら、麻雀卓を囲む人の姿が。この動画のタイトルはずばり「陽性が4人 ちょうどマージャンができる!」。(中略)

明治大学 齋藤孝教授:
政府の発表に対する不信感は増しているような感じがしますね。実態とかけ離れた発表をしている、そのことに国民が気付き始めている。政府の発表自体がもう信頼できないんじゃないかって流れですよね。

集団心理でいうと、やっぱり正しい情報が与えられないと混乱していく。疑心暗鬼を生ずるってことが起きてるんじゃないかと思いますね。(後略)【12月23日 FNNプライムオンライン】
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“点滴マージャン”・・・・個人的には、そのくらいの“ゆるさ”が好きです。「ウィズコロナ」の世界では“生真面目さ”だけでなく、そんな“ゆるさ”も必要なように思うのですが・・・。

****2億4800万人コロナ感染?それでも中国人が“ゆるい”わけ****
(中略)
さらに、中国人の〝ゆるさ〟も感染超爆発を信じる要因になっているという。

「在宅勤務OKと言われたけど、どうせいつかは感染するのだから気にせず出社している」「コロナに感染したっぽいけど、仕事がたまっているので出勤してくるわ」「熱が引いたので予定通り旅行に行きます。一回かかったから安心して旅行できる」

中国の知人から届くメッセージやソーシャルメディアの書き込みを見ていると、こうしたノーガード戦法を貫く人も少なくない。もちろんすべての人が〝ゆるい〟わけではないが、そこら中に感染者が歩き回っているかと思えば、もはや予防しようがないとあきらめている人も多いようだ。

中国政府も〝ゆるさ〟を推奨しているようだ。専門家からは「毒性はインフルエンザ以下。後遺症? 今のところ確認されていない」といったメッセージが出ているほか、重慶市など一部の地方政府は「感染しても軽症ならば出勤してよし」という通達も出している。

1年前の東京五輪では、中国選手団は防護服を着込んで日本に来ていたほどウイルスを恐れていたのに、その変わりっぷりには驚くしかない。

一気に変わった人民日報でのメッセージ
中国はこの3年間、いわゆるゼロコロナ対策を採り続けてきた。中国全土で感染者が拡大し、すでにゼロコロナ破綻が明らかになっていた時点でも、中国共産党の機関紙「人民日報」には「ゼロコロナ対策は堅持する」の文言がほぼ毎日掲載されていた。(中略)

連日発表される評論の内容は似たり寄ったりで読むのも億劫になるほどだが、「感染拡大が続いてもゼロコロナは堅持する、勘違いするな」と日々釘を刺していたわけだ。

大見得切っている以上、しばらくゼロコロナは続くのではないか。対策の中身は骨抜きにして実質的なウィズコロナに転換するにしても、ゼロコロナ堅持の看板は下げないのではないか。これが筆者を含めて、衆目の一致するところであった。

ところが、11月30日を転換点としてすべてが変わる。

この日に掲載された仲音の評論「コロナ対策ガイドライン第9版を堅持し、20カ条の新規定を着実に実行せよ」を最後に、仲音の評論から「ゼロコロナ」の文字が消える。代わりに「誰もが自分の健康の責任者」という、自己責任を強調するフレーズが登場するようになる。11月30日にはコロナ対策の前線指揮を執る孫春蘭副首相が専門家との座談会に出席し、「中国のコロナ対策は新情勢新任務に直面した」と発言したことが伝えられた。

つまりは11月末時点で決断したということなのだろう。こうして12月7日にゼロコロナ対策を実質的に放棄する「10カ条の措置」が発表される。

中国は「コロナに勝った」と強調
それにしても、あんなにゼロコロナを堅持すると連呼していたのに、急になかったことにするのはアリなのか? 習近平総書記と中国共産党の権威を傷つけることにならないのかが気になっていたのだが、どうやらそのあたりの理論武装もバッチリらしい。(中略)

感染爆発によって企業活動がままならない状況が広がるなか、なんとわれわれはコロナに打ち勝ったという勝利宣言をしている。そのロジックはこうだ。これまでのゼロコロナ対策は人々の命を守るために必要なものであり、ウイルスが弱毒化するまでの時間を稼いだのだ、と。(中略)

ちなみにもはやどうでもいいような話ではあるが、中国のゼロコロナ対策はいまだに撤回されたわけではない。というのも、現行のコロナ対策は「コロナ対策ガイドライン第9版」に準拠しており、そのガイドラインには「動態的ゼロコロナを全面的かつ着実に実施する」との文言があるからだ。20日間で2億4800万人が感染するゼロコロナ、というなんとも不可思議な状況に陥っている。

もっとも、これを不可思議と思うのはごくごく少数で、中国人民の多くは手のひら返しをすんなりと受け止めている。長年にわたり一党独裁が続く国で生きる知恵というべきか。この理不尽な転換も仕方がないと受け止める力が備わっているようだ。

不透明となるコロナ情報
このまま感染が拡大し集団免疫獲得でコロナ終了、が中国共産党の新たなシナリオだろうが、果たして順調に進むかは疑問がある。

感染者のほとんどが軽症、または無症状とはいえ、数億人の感染が社会経済に与えるダメージがどの程度のレベルになるかは不透明だ。いわゆるコロナ後遺症の多発など、想定外の問題が起きる可能性は否めない。

また、数十万から100万人を超える数の死者が出ることは免れられないだろう。死者の多くは基礎疾患を持つ高齢者とはいえ、多くの人が身近な人間の死を経験することで、政府批判に矛先が向かう可能性はある。

政府発表では現在の死者は1日数人、時にはゼロという低レベルだが、実態から乖離していることは間違いない。情報は以前にもまして不透明となった。

ほんの1カ月前には今の中国の状況はまったく予測できなかったわけだが、1カ月後の中国がどうなっているのかも予測しがたい。2023年に入っても不安定な状況が続くだろう。【12月24日 高口康太氏 WEDGE】
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予測しがたい状況ですが、今後について「1つの可能性としては、またゼロコロナ政策に逆戻りすることも考えられる。逆に言えば、今の感染拡大はこれまでのゼロコロナ政策の正しさを証明しているからだ。ただ、ジレンマもあって、11月の輸出、消費の数字がマイナス成長になった。経済沈没に拍車をかけてきたのがゼロコロナ政策であって、逆戻りすればさらなる経済の悪化は避けられない。人の命をとるか、経済をとるのか、決心がついていない状況だ」(評論家の石平氏)【12月24日 ABEMA TIMES】といった声も。

中国経済が混乱すれば、その影響は日本にも及びます。
感染爆発がどこまで進むのか、医療崩壊がどのように起こるのか、地方の状況がそうなるのか・・・今後の展開から目が離せません。
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南シナ海近況  中国へ対抗するベトナム 親米姿勢、中国牽制を強めるフィリピン

2022-12-23 23:42:01 | 南シナ海
(アメリカ・フィリピンの共同水陸両用演習(2022年03月31日)【12月23日 Japan In-depth】)

【南シナ海で領土拡張に励むベトナム】
世間の関心には“波”があるので、ひところ連日のように報じられていた南シナ海における中国の進出についても、最近はあまりニュースを目にしなくなりましたが、状況が大きく変わった訳でもないでしょう。

南シナ海の海域は豊かな海洋資源があるとされ、海上交通の要衝でもあります。中国は南シナ海のほぼ全域を囲む「9段線」を独自に設定し、管轄権を主張。人工島を造り、軍事拠点化を進めてきました。

海域の南沙(スプラトリー)、西沙(パラセル)、東沙(プラタス)、中沙諸島には多数の島や岩礁があり、中国以外にも、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどの周辺国が領有権を主張しています。

中でもベトナムは中国に強硬な姿勢を取ってきました。これまでに激しい衝突を繰り返してきた歴史もあります。

1973年に当時の南ベトナムが南沙諸島の六つの島や岩礁を占領。74年に西沙諸島を中部ダナン市に編入し、軍艦を派遣。これに対して中国も軍艦を送り、両海軍が衝突。両国に多数の死傷者が出た末に、中国海軍が諸島全域を武力で制圧しました。

1988年には、南沙諸島のジョンソン南礁周辺で衝突が発生。中国海軍はフリゲート艦でベトナム海軍の輸送船を沈没させ、ベトナム側によると64人が犠牲になりました。

2012年にはベトナムが南沙、西沙諸島を自国領とする海洋法を成立させ、中国も両諸島を含む「三沙市」を設置するなど、駆け引きを繰り広げています。【12月23日 日系メディアより】

南シナ海では強硬姿勢が目立つベトナムですが、上記のような一触即発の状況、衝突の歴史があるだけに、ベトナムの対中国戦略は単純ではなく、強硬な対抗姿勢と同時に、過剰に、あるいは不用意に中国を刺激しないという抑制的な側面もあり、硬軟両面でコントロールしています。

そのベトナムは最近でも活発な動きを見せています。

****中国を相手に真っ向対決の姿勢...南シナ海、ベトナムの強気な「領土」拡張作戦****
<中国が急ピッチで人工島の造成を進めるなど、周辺国の領有権争いが過熱する南シナ海で、ベトナムの強気な姿勢がひときわ目を引いている>

領有権をめぐって周辺各国がにらみ合う南シナ海で、ベトナムが攻勢を強めている。

米ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所の報告書によれば、ベトナムは2022年後半、中国などが領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島の複数の前哨基地で拡張工事を行い、新たに170ヘクタール分の埋め立てを完了。これで過去10年間に造成した「領土」は220ヘクタールに上る。

13~16年にかけてこの地域に計1300ヘクタールの人工島を建設した中国には及ばないとはいえ、ベトナムの強気の姿勢は南シナ海の領有権争いの新たな火種となるかもしれない。【12月20日 Newsweek】
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【中国の南シナ海進出を警戒するアメリカ】
一方、アメリカも中国の動きに警戒感を強めています。

米海軍第7艦隊は「航行の自由作戦」として、今年11月にミサイル巡洋艦チャンセラーズビルが南沙諸島付近を航行したと発表しました。

アメリカは声明で、この「航行の自由作戦」が国際法に沿ったものだと強調。中国が南シナ海で不法な海洋権益の主張をしているとし、「航行や飛行の自由、自由貿易、通商、沿岸諸国の経済的利益など、海上の自由への深刻な脅威となっている」と批判しています。【12月23日 日系メディアより】

また、11月末にフィリピンを訪問したハリス副大統領は、中国が人工島を建設し、軍事拠点化を進めてきた南沙(スプラトリー)諸島に近いパラワン島を訪問して中国の動きを牽制しています。

****米・ハリス副大統領が南シナ海のフィリピン・パラワン島を訪問 中国をけん制****
アメリカのハリス副大統領は22日、南シナ海に面するフィリピンのパラワン島を訪問し、国際的なルールを守る必要性を強調して海洋進出を強める中国をけん制しました。 

南シナ海をめぐっては、中国が人工島を造るなどして軍事拠点化を進めていて、フィリピンなど沿岸国と領有権を争っています。 

こうした中、アメリカのハリス副大統領は南シナ海に面するフィリピンのパラワン島で沿岸警備隊などを視察し、覇権主義的な動きを強める中国をけん制しました。 

ハリス副大統領「我々は違法かつ無責任な行動に対して同盟国などと連携を続ける。国際ルールに基づく秩序がどこかで脅かされれば、あらゆる場所が脅かされることにつながる」 

ハリス副大統領は、海上監視や違法漁業を取り締まるフィリピンの海洋当局に対し、日本円で10億円あまりの追加支援も発表しました。【11月23日 日テレNEWS】
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【アメリカに寄り添い、中国を牽制する姿勢を示すフィリピン・マルコス大統領】
万事について明確な姿勢がないとも言えるフィリピンのマルコス大統領はアメリカと中国の対立のはざまでバランスをとる姿勢でしたが、中国の南シナ海進出が止まない状況、また、中国の強引な姿勢に、中国への警戒感を強めている様子です。

そうした状況で「米国側は(6月に就任したフェルディナンド・マルコス大統領が)非常に親米だと予測し、良い機会であるとして積極的に乗り出した」(元駐フィリピン大使の石川和秀氏)【11月24日 読売】とも。ハリス副大統領のフィリピン訪問はその流れの中で行われました。

****南シナ海でわが物顔の中国を警戒、米比が防衛協力拡大で合意****
<フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収したが、中国海警局の船に強奪された。翌日、ハリス米副大統領が到着した>

11月20日、フィリピンと中国が領有権を争っている南シナ海の島の沖合で、両国の軍による小競り合いが勃発した。翌21日には、カマラ・ハリス米副大統領が、アジアで最も古いアメリカの同盟国であるフィリピンを訪問し、防衛協力を拡大することで合意した。

フィリピン海軍のアルベルト・カルロス中将は、中国軍との一件について声明を発表。スプラトリー(南沙)諸島のうち、フィリピンが実効支配するパグアサ島の近くで、フィリピン海軍が海面に漂う不審な金属片を回収して持ち帰ろうとしたところ、中国海警局の船がそれを妨害して浮遊物を強奪したと主張した。

カルロスによれば、フィリピン海軍は20日、パグアサ島(中国名は中業島)から約800メートル沖合の海面に浮遊物があるのを発見。回収するためにゴムボートにロープでくくりつけて、島まで曳航していた。

すると「5203」の番号が記された中国海警局の船がゴムボートに接近してきて、「2回にわたって進路を妨害」。中国側もゴムボートを出してフィリピン側のボートに近づくと、「ロープを切って強引に浮遊物を奪い去った」。カルロスによれば、この件で怪我人は報告されていない。

浮遊物は中国が発射したロケットの残骸か
フィリピン軍西部司令部のシェリル・ティンドン報道官は、海面に浮遊していた金属片について、最近フィリピンの領海で相次いで発見された中国製ロケットの残骸によく似ていると述べた。(中略)

中国は南シナ海で、いわゆる「九段線」内の全ての島や礁、砂堆の領有権を主張している。オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は2016年、この九段線には法的根拠がなく無効だと認定した。

フィリピンと中国が争ったこの裁判の判決を受けて、アメリカをはじめとする複数の国がフィリピンへの支持を表明したが、中国は判決を全面的に拒否した。

昨年11月には、フィリピンが実効支配しているセカンド・トーマス礁に向かう補給線を中国海警局の船舶が妨害する問題も発生した。

フィリピン政府はこれまでのところ、国際仲裁裁判所による2016年の判決を中国側に守らせることができておらず、中国側に繰り返し抗議を行っているものの、ほとんど成果は出ていない。フィリピン外務省は今回の一件について、再調査を行った上で次なる措置を検討すると述べた。

これとは別にフィリピン・デイリー・インクワイアラー紙は、パグアサ島の住民たちが今回の浮遊物強奪問題の数時間前、中国が占拠している近くのスービ礁から「大砲のような」大きな衝撃音を何度か聞いたと報告したと伝えた。

中国は、フィリピンでサモラと呼ばれるスービ(中国名:渚碧)礁を含むスプラトリー(南沙)諸島の3つの礁を完全に軍事化している。(中略)

相互防衛条約の下での協力を改めて確認
こうしたなか、ハリス米副大統領が20日夜にフィリピンに到着した。ハリスはジョー・バイデン米政権の一員としてフィリピンを訪問した最高レベルの米政府高官となり、このことは、6月末にフィリピン大統領に就任したばかりのフェルディナンド・マルコスJr.新大統領が、前任者のロドリゴ・ドゥテルテ前大統領よりもアメリカとの同盟関係を重視していることを示している。

マルコスは、17日にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議に出席するため訪問していたタイのバンコクで、中国の習近平国家主席と初会談。21日にはハリスと会談を行い、「アメリカを含まないフィリピンの未来はないと思う」と述べた。

この会談に先立ち、ハリスはフィリピンに対して、1951年に締結された米比相互防衛条約の下での協力を改めて確認した。ドナルド・トランプ米政権以降、南シナ海でのフィリピンに対する攻撃も、米比相互防衛条約の適用対象となっている。

ハリスは「南シナ海に関する国際ルールと規範を守るため、我々はフィリピンと共にある」と述べた。「南シナ海において、フィリピン軍や公用船舶、航空機が武力攻撃を受けた場合、アメリカの相互防衛の約束が発動されることになる。これがアメリカの揺るぎない決意だ」(中略)

ハリスの今回の訪問では、貿易やサイバーセキュリティをはじめとする数多くの分野で二国間協力の強化が期待されている。フィリピンにおける米軍の活動拠点拡大についても前向きだ。

アメリカ軍は現在、フィリピン国内の5つの拠点が使用可能だ。フィリピン軍のバルトロメ・バカロ参謀総長は先週、アメリカがパラワン島を含めてさらに5カ所を増やすことを提案してきたと述べていた。

米ホワイトハウスの概要報告書によれば、ハリスは既存の5つの拠点について、軍事インフラや備蓄施設などの新設・改修プロジェクト(計21件)に8200万ドルを投じる予定。同報告書は、これにより「アメリカとフィリピンが恒久的な安全保障インフラを築いて長期的な近代化を推し進め、信頼できる相互防衛態勢を構築し、人道支援および災害救助能力を維持し、同盟を強化する」ことができるとしている。【11月22日 Newsweek】
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2016年の国際仲裁裁判所判断については、アメリカ嫌いのドゥテルテ前大統領がこれを事実上棚上げし、中国との関係を強化してきました。それだけに、マルコス大統領の中国への対応が注目されています。

一方、フィリピンと中国の間で進められてきた南シナ海の資源の共同開発を巡る協議は行き詰まっており、マルコス大統領は“交渉以外の方法”の可能性にも言及しています。

****南シナ海の資源共同開発、フィリピン大統領「中国政府と交渉以外の方法あるかも」****
フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領は1日、南シナ海の資源の共同開発を巡る中国との協議が行き詰まっていることについて、中国との対話以外の方法を探る意向を明らかにした。中国に対し、自国の権益を譲らない姿勢を示したとみられるが、具体的な方法については言及しなかった。

両国は2018年、南シナ海で石油・天然ガスの共同探査・開発を行うことで合意し、協議を進めていたが、今年6月、ロドリゴ・ドゥテルテ前政権が協議の打ち切りを発表。マルコス政権は協議を再開する意向を示したが、中比のどちらの法律に基づいて開発を進めるかが問題となっていた。

マルコス氏は、南シナ海における中国の領有権主張が、「共同開発の障害であり、解決は難しい。中国政府との交渉以外の方法があるかもしれない」と述べた。【12月1日 読売】
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上記のように、フィリピン・マルコス政権は中国への厳しい姿勢を見せ始めています。

****フィリピンが懸念表明、中国が南沙4カ所埋め立てと報道****
フィリピン外務省は21日、中国が南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島のエルダド礁やランキアム礁など4カ所で埋め立て作業を行っているとの報道について、深刻な懸念を表明した。

中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)が2002年に出した、領有権争いを悪化させる行動の自制を定めた「南シナ海行動宣言」に違反すると批判した。

ブルームバーグは、西側の当局者の話として、中国の海上民兵がエルダド礁やランキアム礁などの埋め立てを行っていると報じていた。中国の在フィリピン大使館はこの報道を「フェイク(偽)ニュース」と一蹴。

中国外務省の毛寧報道官は定例記者会見で、領有権を主張する国や地域の間で、岩礁や無人島を開発しないことを含む「厳粛な合意」が成立していると改めて指摘。

「中国は常にこの合意を厳格に守ってきた。現在、中国とフィリピンの関係は発展の良い機運があり、双方は友好的な協議を通じて海洋問題に適切な対処を続ける見通し」と述べた。【12月22日 ロイター】
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****比、南シナ海での軍事プレゼンス強化へ 中国の「活動」受け****
フィリピン国防省は22日、自国軍に対し、係争海域となっている南シナ海の駐屯地に対する「脅威」があるとして、軍事プレゼンスを強化するよう命じた。前日には近くの海域での中国の「活動」が報じられていた。

米メディアは20日、中国政府が南沙諸島(スプラトリー諸島)で埋め立てを行い、新たな土地が出現していると報じた。

国防省は、「西フィリピン海(南シナ海のフィリピン名)のいかなる侵犯も同海域内の岩礁の埋め立ても、 パグアサ島(中国名:中業島)の安全保障に対する脅威である」との見解を示した。

同省は、軍に対して「パグアサ島近くで確認された中国の活動を受け、西フィリピン海におけるプレゼンスを強化する」よう指示したと明らかにした。

ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は中国批判を避けてきたが、現職のフェルディナンド・マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている。 【12月22日 AFP】AFPBB News
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ただ、“マルコス大統領は中国の領海侵犯に対して強硬姿勢を貫いている”と言えるかどうか・・・。前述のように万事について柔軟というか、信念を持って事に当たるタイプの政治家ではないようですから、中国側の今後の恫喝あるいは懐柔次第では、また流れが変わることもあるかも。来年1月にはマルコス大統領が訪中します。

ここのところは、中国側もフィリピンへの圧力を強めているようです。

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フィリピンはこのところEEZ内などでの中国海警局船舶の活動が活発化しているほか、漁船の集結などでフィリピンへの圧力を強めていることに警戒感を強めている。

1月に予定されるマルコス大統領の就任後初の訪中では習近平国家主席との首脳会談が予定され南シナ海問題の協議は不可避とされているが、訪中を前にフィリピン側の強硬姿勢を牽制するとの狙いが中国側にあるとの見方が有力だ。

経済的に中国への依存度が高いフィリピンが南シナ海問題でどこまで持論を主張できるか、マルコス大統領の手腕が問われている。【12月23日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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ペルー  大統領罷免・拘束と混乱 その政変を批判するメキシコ大統領の反民主主義的動き

2022-12-22 22:41:17 | ラテンアメリカ
(15日、リマで、カスティジョ前ペルー大統領を支持する反政府デモ【12月16日 時事】)

【議会が大統領を弾劾罷免、警察が拘束 支持者の抗議行動で混乱、非常事態宣言】
南米ペルーに対する日本の一般的関心と言えば、マチュピチュやナスカの地上絵などの観光、政治の面では収監されながら入退院を繰り返している日系のフジモリ元大統領、そして大統領を目指すもいつもあと一歩及ばない長女のケイコ・フジモリ氏の動向・・・といったところでしょうか。

そのペルーで今月7日、急進左派のカスティジョ大統領の弾劾決議案が賛成多数で可決され、大統領は罷免され、亡命途上で身柄を拘束されるという政変が起きました。

****ペルー大統領罷免 議会の解散宣言を無視され…身柄も拘束****
南米ペルーの議会は7日、急進左派のカスティジョ大統領の弾劾決議案を賛成多数で可決し、同氏を罷免した。議会で野党勢力が過半数を占める「ねじれ」の状況で苦しい政権運営を強いられていたうえに、汚職疑惑などで求心力が低下していた。

ボルアルテ副大統領が同日、大統領に昇格した。ボルアルテ氏は同国史上初の女性大統領。

カスティジョ氏は弾劾の採決に先立ち、罷免を免れるため一時的な議会の解散と臨時政府の樹立を宣言したが、議会は採決に踏み切った。

国家警察は同日、カスティジョ氏の行為が「憲法に違反する」として身柄を拘束した。ペルー憲法の規定は、議会が2度にわたり内閣不信任決議をすると大統領が議会を解散できるとしており、要件を満たさずに議会解散を試みたことを違憲とみなしたとみられる。検察当局は同日、国家と憲法秩序に反逆した疑いで、予備的捜査を開始すると明らかにした。

元小学校教師のカスティジョ氏は労組の活動家も務め、2021年大統領選では格差是正を訴えて貧困層を中心に支持を集めた。同年6月の決選投票で、日系2世のアルベルト・フジモリ元大統領の長女で中道右派の野党党首、ケイコ・フジモリ氏を僅差で破り初当選。翌7月に5年ぶりの左派大統領として就任した。任期は5年だった。

だが、就任後すぐに中道、右派の野党勢力が過半数を占める国会との対立が激化し、5回にわたり内閣改造を余儀なくされた。今年6月末には方向性の違いで対立していた急進左派の与党から離党。自身の汚職疑惑にも見舞われ支持率は20%台に低迷していた。弾劾決議案は今回を含め3度出されていた。

ペルーでは16年以降、汚職疑惑などで大統領の交代が相次いでいる。ボルアルテ氏の就任で約6年で6人目の大統領となった。

カスティジョ氏の行為について、ペルー・カトリカ大のカセリン・セガラ教授(政治学)は、1992年に少数与党で政権運営に行き詰まっていたフジモリ氏が憲法を停止して議会を閉鎖した「『自主クーデター』のような意図があった」と指摘。

ただ、閣僚のほか、軍や警察が反発したことで「試みは無効化された」との見方を示した。今後の見通しについては「各政党間の対立が続くペルーでは連立を組むことが難しい」とした上で「混乱がすぐに収まるかは不透明だ」と述べた。

ペルーの議会は1院制で定数は130。今回の弾劾決議案は「道徳的に(大統領として)適任ではない」ことを理由とし、1日に審議に向けた手続きを開始。可決には定数の3分の2に当たる87票以上の賛成が必要で、地元メディアによると、採決では賛成が101票、反対が6票、棄権が10票だった。【12月8日 毎日】
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カスティジョ氏は家族と共に大統領宮殿を離れ、車でリマ市内のメキシコ大使館に向かったものの、その途上で国家警察に拘束され、カスティジョ氏はその後警察施設に連行、現在はアルベルト・フジモリ元大統領が服役する施設に身柄があるとのことです。

カスティジョ大統領支持者はこの政変を認めず、街頭での抗議行動が激化。ボルアルテ新大統領は大統領選挙を2年前倒しすることを示しています。

****抗議デモ激化のペルー 大統領選2年前倒しで2024年実施へ****
罷免された前大統領の支持者らによる抗議デモが激化する南米ペルーで12日、ボルアルテ大統領が大統領選を2年前倒しして実施する方針を示しました。

ペルーでは7日、前大統領のカスティジョ氏が罷免された直後に憲法秩序を乱したとして拘束され、支持者らによる抗議デモが激化しています。ロイター通信などによりますと、抗議デモはカスティジョ氏の地盤の農村部で特に激しく、これまでに少なくとも3人が死亡しました。

こうした事態を受けボルアルテ大統領は12日、大統領選を2年前倒しし、2024年4月に行う方針を示しました。

ペルーの大統領選は5年に1度で、ボルアルテ氏の任期は2026年7月までですが、抗議デモの参加者が主張する大統領選の早期実施に応じることで事態の収拾につなげたい考えがあるものとみられます。【12月13日 TBS NEWS DIG】
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その後も抗議行動は続き、古都クスコと世界遺産マチュピチュ遺跡を結ぶ鉄道も運行を中止、クスコ空港にデモ隊が乱入するなどの混乱で、日本人観光客を20名を含む多くの外国人観光客が足止めされる事態に。

さすがに18日には軍関係者から「抗議行動の激しさは収まってきた」との見方が出る状況になっています。外国人観光客の出国も可能になったようです。なお、デモ関連死者はその後の情報では26人に増えています。

****反政府デモで足止めの4500人、出国開始 ペルー****
ペドロ・カスティジョ前大統領の罷免と拘束を受けて反政府デモが広がった南米ペルーで、内陸部の観光地に足止めされていた外国人観光客が17日、クスコの国際空港に次々と到着し、出国便に乗り込んだ。デモの勢いが弱まる中、ディナ・ボルアルテ大統領は改めて辞任を拒否した。

人気観光地マチュピチュ遺跡への玄関口となっているクスコの空港は、デモ隊が12日にターミナルに侵入しようとしたことから閉鎖され、欧州と北米からの観光客をはじめとする約4500人の利用客が立ち往生していた。

空港は16日に再開され、出国便への搭乗が始まった。マチュピチュ村に取り残されていた約200人は、列車で移動を開始できたものの、途中で線路が巨石にふさがれていたため、そこから2キロ歩き、待機していた車でクスコへ向かったという。

ルイス・フェルナンド・エルグエロ貿易・観光相は、「遅くとも18日中には、足止めされていた観光客全員が出国できるだろう」と、国営アンデス通信に語った。(中略)

一方、アルベルト・オタロラ国防相と軍トップは、抗議行動の激しさは収まってきたとの見方を示した。マヌエル・ゴメス・デ・ラ・トーレ参謀長は、「道路や空港、都市部では徐々に平常を取り戻しつつある」と述べた。

一方、7日にカスティジョ氏が罷免されたのを受けて大統領に就任したボルアルテ氏は、「私が辞任したところで何が解決するのか」と述べ、議会が選挙の前倒しを決定するまで退陣しないと言明。デモは自然発生したものではなく、組織的かつ暴力的だと非難した。【12月18日 AFP】
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【ますます深刻な機能不全に陥る一歩になるのかも・・・】
とりあえずの混乱が収まっても、今後のペルー政治がますます深刻な機能不全に陥る危険性を指摘する声もあります。

****前大統領追放は悪夢の入り口、3人のポピュリストが次を狙う(ペルー)****
<カスティジョ大統領の弾劾から、各地に抗議デモが広がったペルー。新大統領は次の大統領選を前倒しすると表明したが、それで混乱が収束するどころか、7万人が死んだ80~90年代の再来になりかねない>

(中略)カスティジョ(失職後、警察に拘束された)は、確かに弾劾・罷免に値する。同政権がペルーにもたらしたダメージはあまりに大きい。

ペルー国債の信用格付けは下落し続けているし、国民の半分以上が十分な食料を安定的に確保できていない。新型コロナのパンデミックによる打撃に苦しむ国民も多い。ペルーの新型コロナによる死亡率は世界最悪だ。

問題は、カスティジョが政権を去っても、政治的混乱に終止符が打たれるわけではないという点だ。政治的対立と政治の機能不全がますます深刻化する可能性が高い。

最悪の場合は、(規模はもっと小さいにしても)毛沢東主義者の左翼ゲリラと治安部隊の激しい戦闘が続いた80~90年代の再来になりかねない。このときは、7万人近い命が奪われたと言われている。

既に混乱が広がっている。ペルー各地で、大統領弾劾に反発する人々の激しい抗議活動が始まっているのだ。
特に貧困層の中には、社会に根を張る不平等と不公正を打ち壊すと訴えてきたカスティジョのポピュリスト的主張に魅力を感じていた人も多い。

カスティジョに代わって副大統領から昇格したディナ・ボルアルテ新大統領は、非常事態を宣言。2026年に予定されていた大統領選を2023年12月に前倒しすることを表明した。

大統領選の現時点での有力候補は3人。いずれもポピュリスト的な傾向が強く、ペルーの民主政治をさらに混乱させ、厳しい経済状況に追い打ちをかける可能性がある。

有力候補の1人はアンタウロ・ウマラ。2011~16年に大統領を務めた中道左派のオジャンタ・ウマラの弟で、過激な主張で知られる人物だ。もう1人はラファエル・ロペスアリアガ。現在、首都リマの市長を務めている超保守派政治家である。

そしてもう1人の有力候補がケイコ・フジモリだ。90年代に大統領として強権的な政治を行い、のちに禁錮刑判決を言い渡されたアルベルト・フジモリの娘である。

2021年大統領選では大接戦の末にカスティジョに敗れたものの、これまで連続して3度の大統領選に出馬し、いずれも決選投票に進出して僅差の勝負に持ち込んでいる。フジモリには、今も強固な支持基盤があるとされている。
しかし、フジモリも汚職事件で裁判を待つ身だ。

マネーロンダリング(不正資金の洗浄)と、それに関連して自身の党内で犯罪組織を率いていた疑いが持たれている。大統領に就任して免責特権を得なければ、数十年の刑を言い渡されることもあり得る。

ペルーの政界では、十数もの小政党が林立している。そのため、大統領選では初回の投票で得票率が2桁台に乗れば、上位2人による決選投票に進める可能性がある。その結果として、有権者はしばしば、決選投票で「より小さな悪」を選ぶほかなくなる。

カスティジョの弾劾・罷免は、ペルーの混乱の当然の結果だ。しかし長い目で見ると、この国の政治がますます深刻な機能不全に陥る一歩になるのかもしれない。【12月19日 Newsweek】
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政情はまだ揺れているようです。

****発足12日目で内閣総辞職=反政府デモで混乱―ペルー***
カスティジョ前大統領の罷免と拘束をきっかけとした反政府デモに揺れる南米ペルーで21日、アングロ首相を首班とする内閣が総辞職した。内閣はボルアルテ大統領就任に伴い、今月10日に発足したばかりだった。

組閣に追い込まれたボルアルテ氏は、後任の首相にオタロラ国防相を任命した。【12月22日 時事】
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【前大統領を擁護するメキシコのロペスオブラドール大統領 権限強化で民主主義を弱める動きも】
一方、左派政権が多い南米近隣国は今回政変を批判しています。
メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ボリビア各政府の中南米4カ国の左派政権は12日、失脚したペルーの急進左派カスティジョ前大統領の復権と人権擁護を求める共同声明を発表しています。

とりわけ政変に批判的なのが、カスティジョ前大統領が亡命しようとしたメキシコ。
そのメキシコとペルーの間では外交上の報復の応酬が起きています。

****ペルーがメキシコ大使追放 大統領の政権批判に報復か****
南米ペルーの外務省は20日、メキシコの駐ペルー大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外追放すると発表した。

メキシコの左派、ロペスオブラドール大統領は、今月上旬にペルーのカスティジョ前大統領が議会に罷免され、反逆容疑などで拘束された問題を受けて、ペルー政府を繰り返し批判していた。今回の措置は、これに対する報復とみられる。

ペルー外務省は声明で、「ペルーの政治状況に関するロペスオブラドール氏の再三にわたる言動は内政への干渉で、容認できない」とした。

(中略)メキシコ政府は20日、同氏の妻と子どもの亡命を認めた。ペルー外務省が大使の国外追放を発表したのは、その数時間後だった。(後略)【12月21日 毎日】
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一方、ペルー政変を批判し、カスティジョ前大統領を擁護するメキシコのロペス・オブラドール大統領に対しても、大統領権限を強化し、民主主義を弱めようとしているとの批判があります。

****メキシコの「民主主義の危機」 次のベネズエラになるのか****
メキシコのロペス・オブラドール(AMLO)大統領は、国家選挙機関(INE)を改組し選挙に関する大統領権限を強化する法案を議会に提出し、INEの機能を大幅に制限しようとしている。

これに反対する大規模な街頭デモが行われている。11月13日には国内50都市で抗議デモが行われ、メキシコシティーだけで15〜20万人が参加したと報じられている。

ニューヨーク・タイムズ紙コラムニストのブレット・スティーヴンスは、11月22日付けの同紙に‘Will Mexico Be the Next Venezuela ?’と題する論説を書き、メキシコがベネズエラ化に向かう恐れがあると警告している。要旨は次の通り。

国の資金で運営されながら独立した公的機関であるINEは、30年以上にわたり、一党支配から選挙により政権が交代する競争的民主主義に移行する上で不可欠な存在であった。

AMLOは、大統領の権力をチェックする組織(最高裁判所、国の規制機関、人権団体など)を弱体化し、排除し、無力化して、70年代の大統領の過剰な権力を再現しようとしてきた。INEは、大統領による支配から比較的自由であり続けた数少ない組織であった。

もし、AMLOの思い通りになるとしたら、どうなるか?2024年に6年間の大統領任期が切れ、彼が正式に大統領にとどまることはないだろうが、裏から支配することになろう。これは、3つの重要な点で、より深刻な悪化を意味する。

 第一に、AMLOの下で軍の役割が拡大し続けている。第二に、メキシコ政府は麻薬カルテルに事実上屈服している。麻薬カルテルは国土の3分の1を支配していると言われている。

第三に、AMLOの新しい国家主義は、古い国家主義よりもさらに悪い働きをする。
医療制度の見直しが試みられた結果、壊滅的な薬不足が発生した。国営石油会社PEMEXに多額の投資を行ったが、PEMEXは記録的な石油価格の上昇にもかかわらず、いまだに、赤字が続いている。

福祉支出は前政権より20%増加しているが、子供を学校に通わせることに援助を結びつけるプログラムを廃止した。

AMLO政権下でメキシコ人がますます直面するのは、経済的な福祉の喪失、個人の安全と政治的自由の侵害、そして法の支配に対する攻撃である。もしメキシコ人が用心深くなければ、これはベネズエラへの道となるだろう。
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AMLOの法案によれば、独立機関であった国家選挙機関の委員は、選挙で選ばれることになり、予算は削減され、有権者名簿の管理は政府に委ねられ、下院の比例代表の議席は廃止され、選挙区ごとではなく政党の候補者リストから選ぶ方式となり、州レベルの選挙管理当局は廃止されるという。

AMLOは、これまでに最高裁判事の人事に介入し、各種規制機関を廃止し、人権団体等NGOへの政府資金の供与を廃止するなど、民主制のチェック・アンド・バランス機能を弱体化させてきたと批判されてきたが、選挙管理制度への介入は、反民主主義的動きとして、野党のみならず市民団体などから強い反発を受けている。

メキシコでは、任期6年の大統領の再選は憲法上禁止され、政治的にも歴史的タブーであるので、さすがにAMLOはそこまでチャレンジはしないと見られているが、この制度変更により自らの息のかかった後継者や議員を当選させ事実上の院政を敷こうとしているのではないかと疑われる。

低所得者層からの厚い支持
AMLOは、「第4の変革」として、経済社会面でナショナリズムに基づく国家介入主義を主張しているが、電力供給の国家管理や石油産業の全面的国有化などは、憲法改正が必要で、後2年の任期内での実現は覚束ないので、退任後も影響力と事実上の権力を維持したいのであろう。しかし、その先には、権力維持が目的化した独裁化への道があると懸念される。(中略)

AMLOは、就任後、前政権が進めていた国際空港の建設計画の取りやめや元大統領を汚職容疑で捜査するかどうか、更には自らの信任投票など、国民の声を聴くとして法律上の根拠のない国民投票を再三行った。

野党側がボイコットするため低投票率にも拘らず、提案の支持率は高くなり、これにより国民の支持を得たと主張するなど、法の支配や民主的なガバナンスの観点から疑問とされる行為を繰り返してきた。

更に、大統領令により軍を建設事業などさまざまな目的に活用し、また軍人を優遇する一方で、麻薬組織は健在で治安状況はむしろ悪化しており、コロナ対策や経済再生策も十分とは言えない。

これらの数々のネガティブな側面にも関わらず、AMLOの支持率は、いまだに60%近い。これは、種々の給付金配布や最低賃金を毎年引き上げるなどの施策が人口の5割を超える低所得層の心をつかんでいることを示している。
そしてパンデミックにより、就任時より低所得層は、6%以上増加し全人口の6割を超えたとみられている。

このような最低賃金引き上げにもかかわらず、依然として人件費は米国よりかなり低く企業活動は堅調なので、国際投資や経済成長に顕著な影響は出ていない。

野党勢力は、次回大統領選挙で、民主主義の危機に絞って争点にできるかが課題である。【12月16日 WEDGE】
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オブラドール大統領がペルーのカスティジョ前大統領を擁護するのは、思想的に両者は非常に近いものがあるせいのようです。
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