孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルメニア  ロシア「同盟国」ながら、アゼルバイジャンとの紛争に手をうたないロシアから離反進む

2023-04-17 23:36:45 | ロシア

(色が着いたエリアをアルメニアが実効支配していましたが、2020年の紛争で色の薄い部分をアゼルバイジャンが奪還し、アルメニア支配は色の濃い部分だけになっています。そのアルメニア支配の濃い部分がアルメニアと繋がっているのが「ラチン回廊」)

【アルメニア 機能しないロシア平和維持部隊に強い不満】
ともに旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフをめぐって争いを続けているのは周知のところです。

ナゴルノ・カラバフは住民の大半がアルメニア人という地域で、ソ連時代にはアゼルバイジャン共和国の自治州でしたが、1990年代の「第1次紛争」でアルメニアの実効支配下に入りました。

しかし、2020年、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンは「第2次紛争」でその相当部分を奪還しています。

その後も両国の衝突は絶えず、昨年9月には双方の兵士合わせて200人以上が死亡する大規模な衝突が再発、12月にはアルメニア領内からナゴルノ・カラバフに向かう唯一の道路をアゼルバイジャンの自称市民団体が封鎖し、ナゴルノ・カラバフでは食料や医薬品が入らなくなるという事態にもなりました。

ロシアの同盟国アルメニアは、ロシアがこの紛争・衝突に対し実力行使しないこと不満を強めています。
昨年11月にアルメニアの首都エレバンで開催されたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議では、アルメニアは共同宣言への署名を拒否、首相の言動にもロシアへの不満が強くあらわれていました。

****プーチンが近づくのを露骨に嫌がる...ロシア「同盟国」アルメニア首相の行動が話題****
<プーチンの貴重な「味方」であるはずのアルメニアだが、アゼルバイジャンとの紛争でロシアの支援がなかったことに不満を募らせている>

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で、アルメニアのニコル・パシニャン首相が写真撮影の際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からあからさまに距離を置こうとしている様子が収められた動画が公開された。パシニャンは、同会議で共同宣言への署名を拒否するなど、ロシアへの不満をあらわにしている。(中略)

(動画を投稿した米議会の欧州安全保障協力委員会(CSCE)の)ニシャノフは「アルメニアのパシニャン首相は、プーチンからできるだけ離れたところに立とうとしている。そしてプーチンもそれに気づいている。ロシアが主導しているはずの安全保障圏の会合で侮辱されるとは」と述べた。

パシニャンは首脳会議の共同宣言について、自国の領土保全に対する「侵略」を行った隣国アゼルバイジャンについての記述がないことを非難し、署名を拒否していた。

東欧メディアのNEXTAが公開した首脳会議の別の映像では、パシニャンが共同宣言に署名をせずに、会議の閉会を宣言する様子が捉えられている。各国首脳と共に会議のテーブルを囲んだパシニャンは、「閉会します。ありがとうございました」と言い、同席していたプーチンやベラルーシのアレクサドル・ルカシェンコ大統領は、狼狽するような素振りを見せた。

CSTOは、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ロシアの6カ国で構成されている。

9月に起きた紛争へのロシアの対応に不満
パシニャンは(2022年11月)23日、「アルメニアがCSTOに加盟していながら、アゼルバイジャンの侵略行為を防げなかったことは憂慮すべきことだ」と発言。

「今日までに、アゼルバイジャンのアルメニア侵略に対するCSTOの対応について決定に至っていない。これらの事実は、我が国内外のCSTOのイメージを大きく損ねている。これはCSTO議長国としてのアルメニアの重大な失敗と考えている」と述べた。

アルメニアとアゼルバイジャンの間では、9月に紛争が発生し、双方の兵士合わせて200人以上が死亡。2020年に6000人以上が死亡して以来、最悪の衝突となった。

44日間にわたった2020年の紛争では、アゼルバイジャンが領土を奪還した。アルメニア政府は当時、CSTOに支援を要請したが、CSTOはオブザーバーの派遣を約束するにとどまった。

パシニャンとプーチンは23日に会談も行っている。パニシャンは、アルメニアとアゼルバイジャンが署名し、ロシアが支援する3国間協定についても協議したと明らかにした。「これらは非常に重要な問題だ。この地域の長期的な平和を確保するための問題について協議するべきだ」とパシニャンは述べた。

なおプーチンは、CSTO首脳会議について「すべての問題で合意に達することは稀だが、全体として非常に集中的で有益だった」と述べた。【2022年11月26日 Newsweek】
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アルメニアは、ロシア・プーチン大統領に事態の収拾(有体に言えば、アゼルバイジャンを力で抑え込む対応)を強く求めています。

昨年12月に開催されたロシア主導の独立国家共同体(CIS)非公式首脳会でも、アルメニアのパシニャン首相は、係争地ナゴルノ・カラバフ周辺に展開したロシアの平和維持部隊が「機能していない」として、プーチン大統領に苦言を呈しています。

****アルメニア首相、ロシア平和維持部隊の役割に疑問符****
アルメニアのニコル・パシニャン首相は(2022年12月)27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフに展開したロシア平和維持部隊の役割に疑問を呈した。

人口約12万人のナゴルノカラバフでは今月中旬から、アゼルバイジャンの活動家らが違法採掘に抗議するとしてナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路、ラチン回廊を封鎖。その結果、ナゴルノカラバフでは食料、医薬品、燃料などの搬入が止まっている。

この抗議行動について、アゼルバイジャン側は自然発生的なものだと主張しているが、アルメニア側は同国にナゴルノカラバフを放棄させるためにアゼルバイジャンが仕組んだものだと非難している。

パシニャン氏は独立国家共同体非公式首脳会議が開かれたロシア・サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。ラチン回廊は「ナゴルノカラバフに駐留するロシア平和維持部隊が責任を負うべき地域である」にもかかわらず、「管理されていない」と指摘した。 【2022年12月28日 AFP】
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アルメニアはロシアとの軍事演習も拒否。

****アルメニア、ロシア主導の軍事演習拒否=係争地巡る不満で****
アルメニアのパシニャン首相は10日、同国で今年予定されているロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の軍事演習を拒否する考えを示した。タス通信によると、記者会見で「現状で演習を行うことは不適切だとアルメニア国防省がCSTOに書面で通知した」と述べた。(後略)【1月10日 時事】
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【米仲介の首脳会談も】
2月にはアルメニア・アゼルバイジャン両国首脳の会談が行われましたが、「口論」に終わっています。

****ナゴルノ問題協議も対立、アルメニアとアゼル首脳会談****
アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は18日、ドイツで開かれた国際会議「ミュンヘン安全保障会議」に出席した際、係争地ナゴルノカラバフ地域について会談したが口論を繰り広げ、溝が鮮明になった。

両氏が直接顔を合わせるのは昨年10月以来。会談はブリンケン米国務長官の仲介で行われ、和平に向けた進展があったと双方が発表した。

しかしその後開かれたパネルディスカッションでアリエフ氏が、アルメニアは30年近くアゼルバイジャンの領土を占拠していると非難し、ナゴルノカラバフ分離派の高官を批判。

一方のパシニャン氏は「アゼルバイジャンは報復政策をとっている」と主張。この会議を使って「不寛容、憎悪、攻撃的な言い回しをあおり立てる」のか、事態の改善を図るつもりなのかと詰め寄り、対立が露わになった。

ナゴルノカラバフは国際的にアゼルバイジャンの領土と認められているが、住民はアルメニア人が大半を占めている。【2月20日 ロイター】
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「口論」は予想される展開ですが、ブリンケン米国務長官の仲介というのが興味深いところ。
ロシアが手をこまねいている状況で、アメリカの影響力を強めようという意図でしょうか。

【「手が回らない」ロシア アゼルバイジャン・トルコを刺激したくない思惑も】
現地では3月にも銃撃戦があったようです。
ロシアは自制を呼び掛けており、衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したとも。

****ロシア、ナゴルノカラバフ銃撃戦「深刻に懸念」 自制呼びかけ****
ロシア外務省のザハロワ報道官は6日、係争地ナゴルノカラバフ地域の緊張の高まりに「深刻な懸念」を表明し、自制を呼びかけた。

旧ソ連アルメニアとアゼルバイジャンの間の係争地ナゴルノカラバフで5日、銃撃戦が発生し5人が死亡。ロシア国防省によると、アゼルバイジャン軍が地元の法執行官が乗った車両に向けて発砲し、3人が死亡、1人が負傷した。これを受け、親アルメニア派がアゼルバイジャン兵士2人を殺害したという。

ザハロワ報道官は声明で「今回の事件でアゼルバイジャンとアルメニアができるだけ早期に協議を再開する必要性が改めて確認された」とし、「双方が自制し、緊張緩和のための措置を講じるよう呼びかける」とした。

ロシア国防省は、5日の衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したと明らかにし、衝突の実態を解明するためにアゼルバイジャンとアルメニア両国の当局者と協力していると明らかにした。

アルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ支配権を巡る紛争は約35年間続いており、ロシアは2020年に数千人規模の平和維持軍をこの地域に派遣。

ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、ナゴルノカラバフで新たな衝突が発生したことは、ロシアの南コーカサス地域での影響力への重要な試練とみられている。【3月7日 ロイター】
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ただ、素人でも容易に想像できるように、ウクライナで手一杯のロシアはとてもナゴルノ・カラバフどころではないでしょう。ナゴルノ・カラバフの平和維持軍もウクライナに投入したいところでしょう。

4月に入ってからも衝突は発生しています。

****「そこまでは手が回らない」──旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ****
<ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で両国軍の兵士が発砲し、死者が出る事態に。ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、そこまで対応できないという見方が>

旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。

今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。

衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。

双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。

ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。【4月17日 Newsweek】
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「手が回らない」だけでなく、ロシアには友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたいという事情もあります。

【米との軍事演習、プーチン逮捕の可能性もあるICC加盟も視野に・・・進むアルメニアのロシア離れ】
有効な手が打てないロシアに対し、アルメニアのロシア離れが進んでいます。

アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断。もし加盟ということになると、ICCはプーチン大統領に逮捕状を出していますので、アルメニアを訪問したプーチン大統領をアルメニアが逮捕・・・ということも「理屈の上では」成立します。

アルメニア側の判断は、そうしたこを念頭に置いた、ロシアへの抗議でしょう。
ロシアはアルメニアに「警告」しています。

****露、アルメニアに警告 ICC加盟でプーチン氏拘束を危惧****
ロシアと軍事同盟を結ぶ南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC、本部=オランダ・ハーグ)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断した。

今後、アルメニア議会がICC加盟の是非を検討する。これに対し、露外務省は27日までに「プーチン大統領に逮捕状を出したICCの管轄権をアルメニアが認めることは容認できず、両国関係に重大な結果をもたらす」とアルメニアに警告した。露外務省筋の話としてタス通信や国営ロシア通信が伝えた。

ロシアはアルメニアがICCに加盟した場合、同国訪問時などにプーチン氏が拘束される可能性があるとみて、同国のICC加盟を阻止する思惑だとみられる。ICCは17日、ウクライナの子供の連れ去りに関与した疑いでプーチン氏に逮捕状を出した。

タス通信によると、アルメニア政府は、係争地「ナゴルノカラバフ自治州」を巡って2020年に大規模紛争が起きた隣国アゼルバイジャンの戦争犯罪を追及する目的で、ICCへの加盟を検討。

昨年末、アルメニア政府はICC加盟の合憲性に関する審査を同国憲法裁に求めた。憲法裁は今月24日、ICC加盟は合憲だと判断。憲法裁の判断は取り消し不可能だという。

今回の憲法裁の判断には、ロシアに対するアルメニアの不満が反映された可能性がある。

20年の紛争で、アルメニアとアゼルバイジャンはロシアの仲介で停戦に合意。ただ、アルメニアは同自治州の実効支配地域の多くを失う形となり、以降、ロシアへの不満をたびたび表明してきた。アゼルバイジャンとの間で昨年9月に再び衝突が発生した際も、アルメニアは自身が加盟する露主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に介入を求めたが、CSTOは事実上拒否した。

ロシアはウクライナ侵略で余力がないことに加え、友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたとの見方が強い。(後略)【3月29日 産経】
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更にアルメニアは米軍主導の軍事演習にも参加するとのこと。

****アルメニア、米軍と演習へ ロシア反発も****
アルメニア国防省は7日、欧州地域で今年実施される米国主導の軍事演習に参加すると明らかにした。タス通信が報じた。

アルメニアは旧ソ連6カ国でつくるロシア主導の「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟しているが、係争地ナゴルノカラバフを巡る隣国アゼルバイジャンとの紛争に関する対応を不満として、今年は自国領内でのCSTO合同演習を受け入れない方針。米軍との演習への参加はロシアの反発を招くとみられる。

ロシア大統領府によると、プーチン大統領は同日にパシニャン・アルメニア首相と電話会談し、ナゴルノカラバフ問題を協議した。発表は軍事演習参加問題には触れていない。【4月7日 共同】
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ここまでくると、アルメニアとロシアの「同盟関係」が大きく揺らぎます。

****旧ソ連・アルメニアがロシア離れ? ナゴルノカラバフ巡り不満か****
親露国家とみられてきた旧ソ連のアルメニアが、米軍主導の演習に参加を発表するなど対露姿勢に変化が生じている。ウクライナ情勢を巡ってプーチン露大統領に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)への加盟検討も進めており、ロシアは反発を強めている。

◇米主導演習参加、ICC加盟の動き
(中略)アルメニアはロシアが主導する軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に加盟するが、ナゴルノカラバフ情勢への対応の不満から、今年は自国領内での演習を受け入れない方針を表明した。米軍主導の演習に参加すれば、ロシアとの関係が悪化する可能性もある。(中略)

ICC加盟に向けた動きも、背景にあるのはナゴルノカラバフ情勢だ。(中略)

両国の関係がもつれる中、ロシアは3月末、アルメニアからの乳製品の輸入を禁じると発表した。衛生上の理由だとしているが、ICCへの加盟を巡り、アルメニアに圧力をかける意図もあるとみられる。【4月9日 毎日】
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ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアは自国軍事力の実態を世界に曝し、経済の長期的悪化を余儀なくされ、中立だったフィンランド・スウェーデンをNATO加盟に向かわせ、その混乱の余波でアルメニアにも十分な対応ができずに離反を招く・・・中央アジアの旧ソ連構成国でもロシア離れが進んでいます。

プーチン大統領の「失敗」のつけはロシアにとって極めて大きなものになりそうです。
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ロシア  部分的動員で拡大する混乱 新兵は訓練もないまま“大砲の餌食”の運命か? 核使用は?

2022-10-02 22:59:56 | ロシア
(基地に出発するため、家族と別れを告げるロシア予備兵。彼を待つ運命は……(9月28日)【10月1日 Newsweek】 戦地に向かう兵士というのは、いつの時代でも、どこでも切ない)

【東・南部4州のロシア編入を強行するも、戦局は一層苦境に】
ウクライナ南部ヘルソン州とザポロジエ州の「独立」を問う「住民投票」なるものが行われ、その結果として「独立」をロシアが承認、更に東部ドネツク、ルガンスク両州を併せた東・南部4州の「独立国」からの要請を受けてロシアに編入・・・という一連のプーチン政権の暴走は周知のところです。

プーチン政権はもともと、ロシアへの編入を問う住民投票は棚上げする方針だったとも指摘されています。
戦況で苦戦する中、住民投票を実施して併合に踏み切っても、占領地の安定を保てないと判断していたためというのがその背景。

住民投票の実施を強く求めていたのは、プーチン政権ではなく占領地の親ロシア派だったとも。
ウクライナ軍のハリコフ州での反転攻勢を受けて親ロ派は、プーチン政権が占領地を見捨てないことの証しを求めた・・・ということです。

プーチン政権は占領地の親ロ派の動揺を抑えた上で、国民の愛国心をかき立て、兵力不足が露呈している戦況を立て直すための動員体制への口実を作る必要に駆られたという側面もあります。【10月1日 日系メディアより】

21日には部分動員令を発令して、約30万人の予備役を動員する措置を推し進めています。

しかし、ウクライナの戦況は上記のロシア側の動きに逆行するかのように、ロシアにとって更に悪化しています。

****東部要衝リマン奪還を宣言 ゼレンスキー大統領****
ロシアによるウクライナ侵略で、露国防省が1日に東部ドネツク州の鉄道交通の要衝リマンから露軍部隊を「より有利な防衛線」まで撤退させると発表したことを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は同日のビデオ声明で、リマンの事実上の奪還を宣言した。

同氏は「この1週間でドンバスにひるがえるウクライナ国旗が増えた。次の1週間でさらに増えるだろう」と述べ、反攻を加速させる意思を表明した。

リマンはウクライナ軍が1日までに包囲をほぼ完了したと発表していた。露軍は東部ハリコフ州に続き、全域の制圧を目指す東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)でも後退に追い込まれた形で、苦境が改めて顕著となった。(中略)

(英国防省は)戦略上の要衝であるリマンの喪失で、露軍は目標達成がいっそう困難になると予測した。
英国防省はさらに、リマンはプーチン露大統領がロシア編入を宣言したウクライナ4州のうちの一つであるドネツク州に位置するとし、直後のリマンの喪失は「ロシアにとって政治的にも大きな後退だ」とした。【10月2日 産経】
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【杜撰・強引な動員で混乱拡大 プーチン大統領の国内評価も下がる】
一方の、ロシアの動員はかなり強引に行われ、多くの混乱、徴兵忌避者の大量国外脱出を引き起こしていることは多くの報道のとおりです。 プーチン大統領も“過ち”を認める事態に。

****対象外の人も招集 露プーチン大統領、動員に“過ち”で修正指示「今後あってはならない」****
戦闘への部分的な動員をめぐり、プーチン大統領は、対象外の人が招集されるなど過ちがあると指摘し、修正するよう指示しました。

プーチン大統領は、29日に開かれた安全保障会議で動員の対象とすべきではない人が招集されていると指摘し、「多くの疑問が生まれている。過ちは修正すべきだ」と述べたということです。さらに、「今後このようことがあってはならない」と述べたうえで、詳細を調査するよう指示したということです。

混乱が広がっていることに、歯止めをかけたい思惑があるとみられます。

部分的な動員をめぐっては、ロシアの独立系世論調査機関が29日に公表した調査で、ロシア国民の47%が「不安」や「恐怖」だと受け止めているとしたほか、「怒り」を示す人が13%だとしています。

動員令の発表以降、ロシアから周辺国に脱出する人は今もあとをたたず、CNNはすでに20万人以上が出国したと伝えています。

ロシアと国境を接するフィンランドは、30日からロシア人の観光目的での入国を禁止するなど、流入を大幅に制限する措置に乗り出しています。【9月30日 日テレNEWS】
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プーチン大統領に対するロシア国内の評価にも変化が見られます。

****プーチン大統領の仕事への肯定的評価、侵攻後初めて80%下回る****
ロシアの独立系世論調査機関は28日、プーチン大統領の仕事に対する肯定的な評価が、ウクライナ侵攻後初めて80%を下回ったと発表しました。部分的動員令の影響と分析しています。

ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」の発表によりますと、プーチン大統領の仕事に対する9月の肯定的な評価は、前の月から6ポイント下がり、77%でした。

ウクライナ侵攻後の3月から、肯定的評価は毎月82%〜83%で推移してきましたが、ここに来て変化があらわれた形です。
一方、否定的な評価は6ポイント上昇して21%となり、侵攻後初めて20%を超えました。(後略)【9月30日 日テレNEWS】
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減少したとは言え、77%とまだまだ高い肯定評価ですが、今後この数字がどのように動いていくのか注目されます。

【泥縄の動員実態 銃創の止血にはタンポン、それも自己調達】
それにしても、ロシアの動員対応には“泥縄”的な混乱ぶりが目立ちます。
銃創(銃による傷)には、妻や彼女、母親からもらったタンポン(生理用品)を詰めろというのは・・・・「タンポン詰めるにしても、軍が支給しろよ!」という感も。

****銃創の止血にはタンポン、兵舎はまるで収容所、戦わずして死にそうなロシア徴集兵****
<予想もしない突然の招集に加えてこれほど悲惨な扱いで、戦える人間がいるのだろうか>

新たに戦闘に動員されたロシア兵たちがいかに厳しい状況に置かれているかを示すさまざまな動画が拡散されている。食料や備品も不足するなか、銃弾で負傷した兵士が、止血にタンポンを使えと指示される有様だ。

Ukraine Reporterがツイッターに投稿した動画では、1人の徴集兵が、自分たちの状況に不満を訴えた動画のせいで、所属部隊が罰を受けていると語っている。

2日前に撮った「不満」動画のあとに起きたことを報告する内容だ。「状況はさらに悪くなる、と警告された。今日は、トイレの使用が制限された」。食料と水も与えられていない、と兵士は続けた。「まるでどんどん膨張する強制収容所のような様相だ」

また別の動画では、シベリア南部のアルタイ地方にいる部隊の女性上官が徴集兵たちに向かって、薬や止血帯を含めたあらゆるものを買っておけと話している。上官は言う。「防護具と軍服は支給されるが、それ以外は何もない」

撃たれた傷の治療には、女性用タンポンを使えとも話している。「銃弾による傷を負った場合は、(タンポンを)傷口にじかに詰めれば、(タンポンが)膨らみ始める」「必ず安いタンポンを買うように」と上官は言う。「自分の身は自分で守れ」

ベラルーシの報道機関ネクスタがツイートした「徴集兵の冒険パート1」というタイトルの動画は、兵士やバックパックなどの荷物でほぼ立錐の余地もない兵舎での、スペース争いを垣間見ることができる。

ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が膨大な損失を被った後、ウラジーミル・プーチン大統領は9月21日、深刻な人員不足を補うための予備役の「部分的動員」を発表。事実上は誰が招集されるかもわからないことも相まって、ロシア国内では怒りと衝撃が広がっている。

ロシア政府は予備役30万人を召集する予定だと発表したが、ここ数日の動画からは、動員現場は混乱を極めており、酔っぱらいの徴集兵を映した動画も拡散されている。
プーチンの動員発表後、男性たちが召集を逃れようとしたことから、ロシアとジョージアの国境には、長さ6マイル(約9.7キロ)におよぶ車列ができた。

ウクライナレポーターが9月25日にツイートした動画には、コーカサス地方で起きた騒動の様子がとらえられている。「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」という説明が添えられている。

「秩序回復のために(プーチン直属の武装部隊)ロシア国家親衛隊が派遣されたが、抗議活動は勢いを増しつつある、と地元の情報筋は伝えている」とツイートには書かれている。【9月28日 Newsweek】
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20万人以上が出国したという状況に対しては、強引に止めると暴動に発展する危険があるため国境封鎖出来ないとも。 “予備役逃れ殺到、国境封鎖できず=招集令状撤回の動きも―ロシア”【9月29日 時事】
(なお、かつてロシアと戦火を交えた受入れ側のジョージアには強い反ロシア感情がありますので事態は複雑ですが、今回はパスします)

「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」に関しては、ロシア人マジョリティの反感を抑えるため、動員を少数民族に集中させる姑息な対応が反映しています。

****ロシア南部ダゲスタン共和国でデモ、「動員令」で少数民族狙い撃ちか****
プーチン大統領による部分的動員令を受け、ロシアの一部の少数民族地域では激しい抗議デモが発生している。活動家団体やウクライナ当局は、こうした少数民族が徴兵対象になるケースが偏って多いと指摘している。

CNNがイスラム教徒主体の南部ダゲスタン共和国で撮影されたものと確認した動画には、首都マハチカラの劇場前で女性が警官に懇願する様子が映っている。

動画では「なぜ私たちの子どもを連れていくのか。一体、誰が誰を攻撃したのか。ウクライナを攻撃したのはロシアだ」と訴える声が聞こえる。続けて女性の集団が「戦争反対」と連呼し始め、警官隊はその場から立ち去っている。

マハチカラで起きた別の衝突では、警官がデモ隊を押し返す姿が見られる。警察によって手荒に拘束される人もいれば、徒歩で逃げる人もいる。(中略)

マハチカラの市長は25日、平静を呼び掛け、「反国家活動に従事する者の挑発に屈しないよう」促した。

ダゲスタンの町エンディレイで撮影された別の動画には、警官が空に向かってライフル銃を発砲する様子が映っている。デモ隊を解散させる狙いとみられる。(中略)

ロシア当局は軍務経験を持つロシア人のみが対象になるとしているものの、動員令そのものはより幅広い条件を示しており、ロシア人の間では将来的に徴兵対象が拡大するのではないか、少数民族が影響を受けるのではないかとの懸念が広がっている。

ウクライナ当局によると、ロシアの実効支配下にあるクリミア半島では、動員令を受けて先住民族タタール人の男性が脱出した。

ウクライナ議会の関係者は25日、「占領下にあるクリミアでは、ロシアが動員の過程でクリミア・タタール人を狙っている」と説明。「現在、家族を含む数千人のクリミア・タタール人がロシア領経由でクリミアから脱出している。大半はウズベキスタンやカザフスタンに向かっている」と指摘した。【9月27日 CNN】
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【訓練もなく前線に送られる兵士を待つ“大砲の餌食”の運命】
話を“泥縄”動員に戻すと、ほとんど訓練もしないまま戦地に送り出す実態も。これで戦力の立て直しに役立つのか疑問も。

****ロシア軍、わずか1、2日訓練しただけの召集兵を前線に送り込んでいる****
ロシア陸軍は、わずか1日か2日訓練を受けただけの召集兵をウクライナの前線に送り込んでいる。なかにはまったく訓練を受けていない兵士もいる。

不幸で、適性がなく、装備も指導力も不足している召集兵たちは、南と東の両面から反撃を続けるウクライナ陸軍による砲撃の餌食になるくらいしかない。「1日か2日の訓練を受けただけの召集兵がロシアを強化するとは思えない」とワシントンD.C.のInstitute for the Study of War(戦争研究所)は説明した。(中略)

戦争研究所は、陸軍の第1戦車部隊に配属された召集兵が、ウクライナ南部ヘルソン州に送られる前に新たな訓練を受けていないことの不満を訴える動画を共有した。

「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない、すべてが失敗の要因だ」と元米国陸軍士官マーク・ハートリングはツイートした。「30万人を動員か。これはプーチンの軍隊による計画的殺人だ」

無神経さと絶望だけでは、準備不足の召集兵を配置するというロシアによるこの極めて無謀な行動は説明できない。ロシア軍は新しい部隊を訓練することが文字どおりできていない。

なぜなら、ロシアの慣行では、新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当するからだ。これに対して西側の軍隊では、兵士は数週間から数カ月専門の訓練基地で過ごした後、所属する部隊に送られ、そこで追加の訓練を受けた後配置される資格を得る。(後略)【9月30日 FORBES】
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ロシアの“新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当する”システムがウクライナの前線では崩壊しており、訓練なしで実戦配備されることになっています。この訓練システムを再構築するためには指導できる者を前線から後方に移す必要がありますが、そうする当面の戦局は急速に悪化する危険が。

しかし、このまま訓練していない者を配備していると、攻撃はともかく守備面では一定に役立っても、確実に犠牲者が増え続け、長期的にロシア軍を締め上げることにもなります。

****死ぬために動員されるロシア新兵たち...「現場」は違法行為が溢れる無秩序状態に****
軍の人手不足を補うため部分動員に踏み切ったプーチンだが、秩序も装備も訓練も補給も失われ、新兵たちには「大砲の餌食」になる「消耗品」としての運命が待つ(後略)【10月1日 Newsweek】
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「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない・・・・」

『キャノン・フアダー(大砲の餌食)』は無益な攻勢や露出した陣地の防衛のために死ぬ運命にある消耗品としての新兵のことを言うそうです。

“現在ではウクライナでの危険な戦いに駆り出される不幸なロシア兵を表現する言葉として使われる。プーチン氏が部分動員を発表するや否やツイッターに「#キャノン・フアダー」というハッシュタグが立った。動員の狙いは軍の慢性的な人手不足を解消することにある。しかしロシア軍は兵士を指導できる将校の大半を失ってしまったとフリードマン氏は指摘する。”【同上】

【戦術核兵器を使用するとすれば・・・・】
こうした苦境に追い込まれているプーチン大統領は、「核兵器」という禁じ手に出るのでは・・・という懸念が高まっていますが、スペース余裕もなくなってきたので、その件に関して「なるほどね・・・」と思った記事をひとつだけ。

「なるほどね・・・」というのは、もし使用するとすれば“ウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島”が考えられるという点です。

*****ロシアの核攻撃は黒海の島が標的になる可能性、専門家が警告****
ロシアのプーチン大統領は先日、核兵器の使用を含むあらゆる手段でロシアの領土を防衛すると宣言した。この発言を専門家は重く受け止め、世界中で核戦争への懸念が高まっている。

ロシアの核攻撃の具体的な内容を予測するのは難しいが、一部の専門家はロシアがウクライナ軍に対して、あるいは軍の拠点を破壊するために、短距離型の戦術核兵器を投入する可能性が最も高いと語っている。

戦術核兵器は、都市を破壊するために設計された戦略的な長距離弾頭よりもはるかに小さいが、それでも破壊的威力を持つとキングス・カレッジ・ロンドンのセキュリティ専門家ロッド・ソーントン博士は、フォーブスの取材に語った。大型の戦術核兵器の破壊力は、TNT換算で100キロトンに及ぶが、米国が広島に落とした核爆弾は15キロトンだった。

プーチンが、最初の攻撃でウクライナの都市を標的にする可能性は極めて低く、犠牲者を出すことを避けるだろう、とソーントン博士は述べている。ロシアが核攻撃を行う場合、彼らが本気で自衛する意思があることを示す象徴的な意味合いのものになるという。

その標的がどこになるかを予測するのは難しいが、プーチンは戦争の初期にロシアが占領し、その後奪還されてウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島を念頭に置いている可能性があると博士は指摘した。

核攻撃の影響は、兵器の種類や使用場所など、その時の状況によって大きく異なるが、たとえ小規模なものであっても、放射能が生存者に長期にわたる健康被害を与え、放射性降下物がヨーロッパやアジアに拡散するなど、広範囲に影響を及ぼすと考えられる。

さらに、放射性降下物がロシアの領土を覆った場合、プーチンは自国の国民を敵に回す可能性があるとソーントン博士は指摘し、ロシアはおそらく降下物を最小限に抑えるよう設計された核兵器を使うだろうと付け加えた。

「プーチンは多くのプレッシャーを受けている」と博士は言い、ウクライナからの反撃や、動員に対する国内での抗議が続いていることを指摘した。さらに、「プーチンが絶望的になり、追い込まれれば、核兵器が使われる可能性は高くなる」と付け加えた。

核兵器の使用を選択すれば、事態をエスカレートさせたくない軍部や他の重要人物からの反発を呼び起こし、プーチンは新たな問題に直面する可能性がある。また、NATOがウクライナへの直接支援に踏み切る可能性もあるとソーントン博士は指摘した。【9月30日 FORBES】
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ただ、実際に核を使用すれば、いよいよロシアにとって“終わりの始まり”となることが想像されます。
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西アフリカ・マリでの欧米の関与縮小の空白を埋めるロシアの民間軍事会社傭兵

2021-12-28 22:10:23 | ロシア
(ロシアのプーチン首相(左、当時)と実業家エブゲニー・プリゴジン氏=2010年9月、サンクトペテルブルク郊外(AFP時事)【12月14日 時事】) 

【イスラム過激派拡大などで治安状況が悪化する西アフリカ】
西アフリカでは、ナイジェリアを中心に女子生徒の大量拉致を繰り返すイスラム過激派「ボコ・ハラム」に代表されるように「イスラム国(IS)」系やアルカイダ系の過激派が活発化し、加えて、政情不安、部族抗争などで、不安定な状況が続いています。

“武装集団が工事現場襲撃、中国人ら5人拉致 マリ”【7月18日 AFP】
“ギニアでクーデター=特殊部隊が大統領拘束”【9月6日 時事】
“イスラム過激派攻撃で市民480人犠牲に 5〜8月で ブルキナファソ”【9月14日 AFP】
“逃げる人を次々に殺害、ナイジェリアの武装集団が住民を襲撃…民族対立背景か”【10月1日 読売】
“西アフリカ・ニジェール南西部で銃撃、町長含む69人死亡”【11月5日 AFP】

****アフリカでイスラム過激派拡大 自由貿易圏に影****
アフリカでイスラム過激派がテロ活動を活発化している。中東の過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダに関連する組織の犯行で、テロの主な舞台が中東から移っている。企業の活動や、1日に始動したアフリカの自由貿易圏にも懸念要素となる。

仏エネルギー大手のトタルは2020年末、アフリカ東部モザンビークで進める天然ガス開発事業から一部の従業員を退避させた。治安の悪化を受けた措置で、AFP通信によるとプロジェクト現場の近くで20年12月に少なくとも4回、武装集団の攻撃があった。

IS系組織の犯行とされるが、正体ははっきりしない。11月には北部のカボデルガド州で住民50人以上を斬首したと報じられた。同国政府は、過激派の台頭で住民57万人が家を追われたとしている。

西アフリカのナイジェリアでは12月、男子寄宿学校が襲撃され多数の生徒が拉致された。後に344人が解放されたが、イスラム過激派のボコ・ハラムが「非イスラム教的な行いをやめさせるためだ」と犯行を主張した。欧米式の教育を否定している。

サハラ砂漠の南の縁に当たるサヘル地域でもテロが相次ぐ。ニジェールでは21年1月2日、イスラム過激派が2つの村を襲い住民100人を殺害したと報じられた。マリ、ブルキナファソでも活動する「大サハラのイスラム国」(ISGS)の犯行との見方がある。

マリでは2日、過激派掃討の任務中のフランス兵2人が簡易爆発装置で殺害された。直前に仏兵3人が死亡した別のテロは、アルカイダ系組織が犯行を主張した。

イスラム過激派がアフリカで勢いを増したのは、中東で掃討され足場が縮小したのが大きな要因だ。「ISはシリアとイラクで敗北後、イデオロギーを広げる代替地とみたアフリカに向かった」とアラブ首長国連邦(UAE)のシンクタンク未来先端調査研究所は分析する。IS系とアルカイダ系がアフリカで勢力争いをしているとも指摘した。

新型コロナウイルスの流行を利用している可能性もある。「パンデミック(世界的大流行)で過激派組織がサヘル地域で支持を広げている」とデンマーク移民統合省は昨年の報告書で指摘した。行政サービスが届かない地域で医療を提供し、住民を取り込んでいるという。

テロの発生は局所的だが、治安の悪化は経済活動や企業進出に影を落とす。1日には大陸全体の共通市場化を目指すアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)が始動した。5年以内に9割の関税を撤廃する目標を掲げている。物流インフラの不足がかねての課題だが、過激派の暗躍も経済統合を遅らせる恐れがある。【1月19日 日経】
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【フランスの関与縮小の空白を埋めるロシア民間軍事会社の傭兵】
アフリカにあまり関与したがらないアメリカに代わって、この地域へ関与してきたのは旧宗主国でもあり、権益も多く持つフランス。

マリを中心に軍事介入してきましたが、いつになっても改善しない状況に「これ以上は・・・」という感もあるのでしょう、“派兵を「再構成」する”という形で、事実上関与を減らしていく方針です。

****仏、アフリカ派兵2千人超削減へ 対テロ作戦を見直し****
フランスのマクロン大統領は9日、同国がアフリカ・サハラ砂漠南部のサヘル地域で2013年以降続ける対テロ作戦の見直しで、来年初めまでに西アフリカ・マリの複数の拠点を閉鎖し、軍の派遣要員を現在の5100人から2500〜3千人に減らす方針を発表した。ニジェールやマリなど地域5カ国の首脳とのオンライン会合後に記者会見した。
 
マクロン氏は、国際テロ組織アルカイダなどイスラム過激派による戦略が「支配地域の確保から脅威の拡散」に変化したことに対応し、派兵を「再構成」すると説明。過激派の司令部壊滅と地元部隊の能力強化支援を主要任務とするとした。【7月10日 共同】
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アメリカ・フランスの関与が低下して「空白地帯」が生じれば、そこに入り込もうとする勢力も。
経済的にはアフリカへの中国進出は著しいものがありますが、軍事的にはロシア。
それも、国際的に問題となる正規軍ではなく、民間の軍事会社による「傭兵」の展開。

欧米諸国はロシアの「傭兵」派遣が地域を不安定化させると非難しています。

****英仏伊など「マリにロシア民間軍事会社ワグネル・グループが展開」と非難****
イギリス・フランスなどは西アフリカ・マリにロシアの民間軍事会社が展開しているとして、非難する声明を出しました。

イギリス・フランス・イタリア・カナダなど16か国は23日、共同で出した声明で、ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループがマリに展開しているとして、「西アフリカの安全保障状況をさらに不安定化させる行為だ」と非難しました。

その上で、「マリの暫定政府が、もともと乏しい公的予算をマリ政府軍や公的サービスに使うのではなく、外国の傭兵部隊に支払う選択をしたことに対して、深い遺憾の意を示す」と述べ、ロシアに対しては「ワグネル・グループのマリでの展開をロシア政府が支援していることは認識している。ロシアに対して、この地域での責任ある建設的な振る舞いに立ち戻るよう呼び掛ける」としています。

ワグネル・グループはロシアの外交政策に連動する形でシリアやリビア、ウクライナ東部の紛争に関与してきたほか、ダイヤモンドなど天然資源の豊富な中央アフリカ共和国でも活動しているとされ、EUは13日、「暴力を煽り、天然資源を奪い、市民を威嚇している」などとしてワグネル・グループと関連する個人らを制裁対象に指定しました。

一方で、マリ北部など、いわゆるサヘル地域ではフランスが8年前からイスラム過激派武装勢力の掃討作戦を行い、リーダーを殺害するなどしてきましたが、武装勢力はニジェールやブルキナ・ファソなどにも拡大するなど、作戦は全体としては成功しているとは言えません。

マクロン大統領は今年7月、サヘル地域におけるフランス軍の段階的縮小を宣言、これについて、去年と今年、二度のクーデターの末に樹立されたマリ暫定政府の首相は9月の国連総会で「一方的な決定だ」と批判、「安全保障のために他のパートナーを探さざるをえない」と述べていました。

今回のワグネル・グループの展開とヨーロッパ各国の反発は中東やアフリカを舞台に関与が弱まりつつある欧米と、そこに入り込もうとするロシアとのせめぎ合いの一つと見ることができます。【12月25日 TBS NEWS】
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マリ暫定政府としては、フランスが支援してくれないならロシアに・・・というところ。

****ロシア民間軍事会社に制裁=紛争地帯で破壊活動―EU****
欧州連合(EU)は13日の外相理事会で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関連3企業、創設者ら8人に対する制裁措置に合意した。ウクライナやアフリカなど各地の紛争地帯に傭兵(ようへい)を送り込み、人権侵害や破壊活動を行ったとして、域内の資産を凍結しEUへの渡航も禁じる。
 
制裁は即日発動された。ワグネルはロシアのプーチン大統領に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏が黒幕とされ、政権とのつながりが指摘されている。制裁で活動の押さえ込みを図る。【12月14日 時事】
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【ロシアは関係を否定するも「ハイブリッド」戦争の一翼を担う傭兵 ウクライナでも】
ロシアは民間軍事会社との関係を否定していますが、上記記事に“ワグネルはロシアのプーチン大統領に近い実業家エブゲニー・プリゴジン氏が黒幕”とあるように、プーチン政権の意向を受けての傭兵展開でしょう。

****ロシアの傭兵、アフリカで勢力拡大 欧米の隙突く****
欧州各国の政府によると、ロシアの傭兵(ようへい)がアフリカのマリ共和国に派遣されている。ロシア政府がウクライナ周辺に軍を集結させる中、西側と対立する新たな前線になっているという。

傭兵派遣は、マリのトンブクトゥにある基地に駐留していたフランス軍部隊が今月になって撤退した後のこと。この撤退はイスラム系武装勢力の制圧に苦労した末の軍縮の一環だ。

アフリカでの国際テロ組織アルカイダとの戦いを支援してきたフランス率いる欧州諸国のグループは12月23日、「(ロシアの傭兵は)西アフリカの治安状況を一段と悪化させるだけだ」と述べた。

英国、ドイツ、イタリアを含む欧州諸国は、傭兵派遣の物資を支援しているとしてロシア政府を非難、「西アフリカで責任ある建設的な行動に戻る」よう求めている。

ロシア大統領府は、自国の軍事企業がマリで活動していることについて何も把握していないとし、そうした企業とのつながりを否定している。

西側の当局者によると、ロシアの民間軍事企業ワグナー・グループは、マリ政府と月間1000万ドル(約11億円)で傭兵派遣契約を結んでいる。ロシア政府が自ら手を下さずにアフリカに影響力を拡大させる試みの一環だとみられている。

米国によると、ワグナーはロシアのウラジーミル・プーチン大統領に近い実業家が経営しているとみられ、中央アフリカ共和国からシリアに至るまで傭兵を派遣している。同時に、天然ガスやダイヤモンドなどの資源を開発する契約を現地で結んで利益を得ようとしている。

西側諸国がアフガニスタンや中東、アフリカの一部で起きている紛争から撤退もしくはそれらを回避する中で、マリでのこうした状況は困難な問題を浮き彫りにしている。その問題とは、イスラム急進派などの武装勢力からぜい弱な政府を守るために、特にロシアからの傭兵が介入を一段と強めていることだ。

「自然は真空を嫌うものだ。ロシアはそれを埋めようとしている」。こう話すのは、かつてイラクとアフガニスタンへの派遣で米軍と契約していた米民間軍事企業ブラックウォーターの創業者、エリック・プリンス氏だ。

中国やロシアに対抗するために、米国と同盟諸国が空母や潜水艦、高性能ミサイルといった先端技術に注力する一方、傭兵やドローンなどの安価な機材は、今後の紛争においてローテクな攻撃手段を担うとみられる。

米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのシニアフェロー、ショーン・マクフェイト氏は「辺境での戦いはワグナーのような集団を使ったものになるだろう」と指摘する。

欧米諸国はワグナーの所有者をエフゲニー・プリゴジン氏と特定している。西側の治安当局者によると、この人物は今年夏、マリの首都バマコに使者を送った。フランスが同地域で展開する軍の規模を縮小すると発表した後のことだ。

それからまもなくしてワグナーと関係のある地質学者の一行もマリを訪問。アルカイダの拠点であるマリ中央部の都市モプティにある金鉱を訪れた。最初に派遣されたロシアの傭兵の数は約300人に上るという。

プリゴジン氏はワグナーとのつながりを繰り返し否定している。マリへの派遣団に関する質問に対し、同氏は自身の持ち株会社の広報を通じて次のように答えた。「質問は、いわゆる西洋世界の政府機関に見受けられる慢性的な統合失調症を物語っている」(中略)

2014年、ロシア政府に近い実業家らがウクライナに派遣した傭兵は(親ロシア派の)ウクライナ軍との戦いを支援し、同国東部で2つの共和国創設を宣言するのを後押しした。

欧州の治安当局者によると、ワグナーは政府とのケータリング契約のほか、プリゴジン氏とつながる企業との契約から資金を得ていた。同社はその後、シリアに傭兵を派遣し、アフリカへと進出していった。

フランスが2016年に中央アフリカ共和国から軍を撤退させた後、ワグナーの傘下企業は軍事支援と引き換えに、中央アフリカ共和国政府から鉱業権を与えられたと、前出の欧州治安当局者は話す。一時は同国でダイヤモンドの密輸にも関与し、税関収入の半分を手にしていたという。【12月27日 WSJ】
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欧州において緊張が高まっているウクライナについても、ロシア民間軍事会社を傭兵を派遣しています。

****モスクワと西の緊張が高まる:ウクライナ東部に配備されたロシアの傭兵、シリアでの戦争を経験***
ロシアの傭兵はここ数週間、ロシア政府と西側の間の緊張が高まる中、ウクライナ政府軍に対する防衛を強化するために、分離主義者が保有するウクライナ東部に配備されている、と4人の情報筋がロイターに語った。(中略)

これとは別に、ロシア政府は、その作戦が国と関係のないボランティアと説明された民間のロシアの軍事請負業者とは何の関係もないと述べた。

「このことを聞いたのは初めてで、この声明がどれほど信頼できるのか分からない」とクレムリンのスポークスマン、ドミトリー・ペスコフは言った。(中略)

情報筋の一人で、海外でロシアの作戦に参加し、ウクライナ東部に到着した請負業者は、配備は防衛目的であると述べた。最初の傭兵も同じことを言った。

これとは別に、別の情報筋は、彼は配備に直接関与していないが、特別な訓練を受けていた地上の人々と連絡を取っていると言いました。彼は、配備の目的は、彼がウクライナの安定を損なうために破壊活動と呼ばれるものであると言いました。(後略)【12月24日 VOI】
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民間軍事会社の傭兵は、ロシア連邦軍が公式には介入していない状況で、特殊部隊や民兵、サイバー戦争、プロパガンダ工作などを組み合わせて展開される(クリミア併合で一躍注目されるようになった)「ハイブリッド戦争」に従事しているとみなされています。

民間軍事会社による戦争の下請けはロシアだけでなく、アメリカもイラクやアフガニスタンで大規模に行ってきました。

結果、民間人殺害などの弊害も。

マリについても、フランスならよくてロシアはダメ・・・とは一概に言えないところで、その関与の中身次第ですが、民間傭兵の場合、往々にしてその活動は「水面下」の隠れたものになりがちで、ときに国家責任が明確でないところでの「汚い仕事」も多くなりがちなところが懸念されるところです。
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ベラルーシ  民衆蜂起での政権崩壊は絶対に阻止したいロシア ただし、ルカシェンコ個人にはうんざり

2021-01-06 23:06:13 | ロシア

(ミンスクで(12月)20日、隠し持っていた赤と白の旧国旗を取り出し、住宅地を行進する反政権派のデモ隊。当局の摘発を逃れるため、数十カ所に分かれて小規模な集団で集まっていた。【12月27日 朝日】)

 

【同時多発デモにも徹底した弾圧】

周知のように、ベラルーシでは「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領の圧勝と発表された昨年8月9日の大統領選以降、選挙は不正だったとして同氏の退任を求める反体制派勢力や民衆の抗議デモが続いています。

 

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大統領選の投票終了直後に発表されたルカシェンコ氏の得票率は「80%の圧勝」だった。

 

選挙戦ではルカシェンコ氏に挑む有力候補らの拘束が続いた末、反政権派の統一候補になった主婦スベトラナ・チハノフスカヤ氏が旋風を起こしていた。26年間の強権体制下で以前は考えられなかった接戦への期待が高まっていただけに、国民の反発は大きかった。

 

複数の開票所職員が、得票のすり替えなど不正行為を強要されたと独立系メディアに告白し、国民の怒りが爆発した。【12月27日 朝日】

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しかし、政権側は徹底的に抗議行動を抑え込んでいます。

大規模デモは困難な情勢で、同時多発ゲリラ的な少人数デモが行われていますが、これも厳しい取締りに直面しています。外国メディアへの圧力も強まっています。

 

****「大統領得票8割」、デモ点火 ベラルーシ、一日1000人超拘束も*****

ベラルーシでは、8月の大統領選でルカシェンコ氏の圧勝が発表された。だが、人々は選挙結果が操作されたとし、抗議デモが全国に広がった。同国の人口は約950万人。200万人弱のミンスクで、日曜ごとに数万から十数万人のデモが数カ月続いた。

 

異例の事態に、政権のデモ弾圧も激しさを増した。治安部隊を大量動員して通りを封鎖。デモ隊に放水や音響閃光(せんこう)弾を浴びせ、11月には全国の日曜デモで拘束者が1日千人を超える日が続いた。デモを取材するジャーナリストも標的にされ、無差別に拘束された。

 

反政権派は同月末、都心での大規模デモ呼びかけをやめ、数十~数百人規模のデモを同時多発的に行う方針に変えた。当局の注意を分散させ、抗議が力で抑えられるのを防ぐためだ。

 

記者は20日にミンスク市内の数十カ所で行われたとみられるデモの一つを目撃した。参加者どうしの面識はなく、暗号化されたチャットで場所と時間を知り集まった。「ルカシェンコは辞めろ」。デモ隊がスローガンを唱え住宅街を練り歩くうち、参加者は300人ほどに膨れあがった。

 

だが、出発から約20分後、当局がデモ制圧の手を緩めていないことを見せつけられることになった。突然、小型バスが乗り付けて、先頭付近で急停止した。飛び出してきたヘルメットをかぶった多数の警官隊が一斉に参加者に襲いかかった。

 

人々はバラバラになって逃げ出した。記者のいる方向に走ってきた男性は警官に追いつかれ、地面にたたきつけられて、あっという間に連れ去られた。(中略) 

 

政権に抗議する環境は厳しい。人権団体「ビャスナ」によると、(12月)20日のデモでは警官隊に拘束された人が全国で140人を超えた。大規模行進から数十~数百人の同時多発型にデモの戦術は変わっても、警官隊は場所を特定し、ピンポイントで急襲する。治安当局との攻防は情報戦の様相も呈してきた。

 

拘束されれば通常は「当局の許可を受けないデモに加わった」とされ、行政法上の違反として留置は最大で25日。しかし本格的な刑事犯罪として起訴されるケースも急増している。「ビャスナ」のパーベル・ソペルコ法律顧問は「ベラルーシには集会の自由も表現の自由もない」と憤る。

 

政権は報道にも神経をとがらせる。ベラルーシ外務省は10月、規則変更を理由に全外国人記者の登録を無効にし、外国メディアの報道が困難になった。

 

また、取材する記者は「デモ参加者」として扱われ、当局の標的となる。ドブロボリスキー記者は10月に現場での拘束は逃れたが、監視カメラの映像に姿が映っていた。後日、自宅から連行され、15日間留置された。

 

ただ、留置先で出会った参加者は暴力を振るわれ、狭い場所に閉じ込められても、皆むしろ政権に抗議を続ける意思を固めていたという。「当局の脅しの手法は全く機能していない」と語った。(後略)【12月27日 朝日】

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【政権を支えるロシア ベラルーシ問題はほぼ「ロシアの国内問題」】

ルカシェンコ大統領の強気の背景にはロシア・プーチン大統領の支援があります。

 

ロシアとしては、ウクライナに続いてベラルーシを失うわけにいかないということですが、ただ、ロシアの意に反して独自の行動をとることが少なくないルカシェンコ氏個人に対しては、ロシア・プーチン大統領も以前から、いささかうんざりしていると言っていいような思いがあります。

 

****政権は強硬、ロシア支援に自信****

ベラルーシの政治学者ワレリー・カルバレビッチ氏は「今起きているのは政権と反政権派の闘いではなく、政権とベラルーシ社会の闘いだ」と話す。

 

国外に逃れたチハノフスカヤ氏ら反政権派はルカシェンコ氏の退陣と再選挙の実施を要求するが、ルカシェンコ氏は対話を拒み続ける。欧州連合(EU)は対話を促すため、制裁対象を閣僚らにとどめていたが、11月にはルカシェンコ氏への制裁発動に踏み切った。

 

ルカシェンコ氏が強硬姿勢を保てるのは、ロシアのプーチン政権からの支援に自信を深めているからだ。カルバレビッチ氏は「ルカシェンコ氏は、ロシアが自分を必要としていることを知っている」と指摘した。

 

ベラルーシはロシアと国家連合を組む。ルカシェンコ氏は、14年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合して国際的非難を浴びると一時欧米に接近した。その欧米が今回の大統領選後の危機で批判を強めると再びロシアを頼った。

 

ルカシェンコ氏はもともとは自らの権限が奪われるのを嫌い、ロシアのプーチン大統領が求める国家連合の深化には消極的だ。ロシアにとって、世論の離反を招き、政治基盤が弱体化するルカシェンコ氏は理想のパートナーではない。

 

一方で、ロシアは欧米との「緩衝国」としてベラルーシを自国の勢力圏に置き続けることを最重要視する。プーチン氏は欧米が反政権派を通じてベラルーシに影響力を広げるのを強く警戒してきた。ベラルーシの世論を敵に回してでも、当面はルカシェンコ氏の後ろ盾の立場を維持し、危機の沈静化を待つ方針とみられる。【同上】

**************************

 

ジョージア、ウクライナに続いて、昨年はベラルーシ、キルギス、アルメニア、モルドバと、旧ソ連圏での政治混乱が続いており、ロシアの影響力に陰りも見えますが、そうしたなかにあってもベラルーシはロシアのとって「別格」の存在でしょう。

 

********************

もう一つ、ロシアと近隣諸国の関係性には、当然のことながら、具体的な相手国によって濃淡があります。

 

ロシアにとって、国境も接しておらず、住民がムスリム系のタジキスタンなどは、遠い存在です。ジョージアやアルメニアあたりは、同じキリスト教系といっても、ロシアの思い入れはそれほど強くないでしょう。

 

それに対し、歴史・言語・宗教などの紐帯で結ばれた東スラブ系のウクライナおよびベラルーシは、そう簡単に未練を断ち切れる相手ではありません。

 

実際のところ、クレムリンの感覚では、ベラルーシ問題はほぼ「ロシアの国内問題」なのではないでしょうか。だからこそ、プーチンは欧米諸国に対して、「ベラルーシに介入することは許されない」と警告しました。

 

プーチン政権は、ウクライナで手痛い後退を強いられただけに、ベラルーシだけは自国の勢力圏として死守しなければならないと考えているはずです。【1月5日 GLOBE+】

*********************

 

【遅かれ早かれ、限界が来るとの指摘も 一方で、ベネズエラ・マドゥロ政権のような事例も】

では、このままルカシェンコ政権が国民の抵抗を力で押さえきれるか・・・という点に関しては不透明です。

(「そうあってはならない」という思いもこめて)「いずれ限界が来る」との指摘も。

 

****ベラルーシ危機は越年*****

昨年8月の大統領選挙をきっかけに、ベラルーシで発生した政治危機に関しては、当時我が国でも大きく報道されましたし、この連載でも数回取り上げました。その後、ベラルーシに関する報道量はかなり少なくなり、一般の関心も薄れているのではないかと思います。「ベラルーシは安定した」などとおっしゃる方もいます。

 

しかし、問題は何一つ解決しておらず、「安定した」というのは違うと思います。確かに、官憲の徹底的な弾圧を受け、夏から秋口にかけてのような数万人規模の反政府デモなどは、見られなくなりました。

 

それでも、「我々はこの暴力支配を許さない」という決意は、引き続き多くの国民によって共有されています。A.エリセエフという専門家は、「ベラルーシにとって、2020年の最大の出来事は、多数派がルカシェンコを支持しているという神話が、最終的かつ不可逆的に崩壊したことだ」とコメントしており、まさにそのとおりでしょう。

 

暴力(ルカシェンコ体制)VS非暴力(市民)という構図なので、すぐに体制が崩れるということはありません。まだしばらく、ルカシェンコ側が実力を行使して、権力の座にしがみつくこと自体は、可能なのかもしれません。

 

ただ、国民の多数派が現体制に拒絶反応を示し、国際的にも孤立する中で、ルカシェンコが正常な意味で国を統治することは、もはや困難です。遅かれ早かれ、限界が来るはずです。【同上】

*********************

 

ただ、暴力も厭わぬ権力を突き崩すことが困難な事例も多々あります。

そのひとつが南米・ベネズエラのマドゥロ政権。

 

一時はいつ倒れてもおかしくないような状況でしたが、民兵組織の暴力などもあって、権力は維持。

野党勢力は権力奪取の道筋を描けず、野党がボイコットした議会選挙を経て、マドゥロ政権は当面は権力基盤をむしろ強化したように見えます。

 

****マドゥロ大統領、三権完全掌握=新国会発足、独裁完成―ベネズエラ****

南米ベネズエラで5日、新国会が発足した。

 

これまで多数派だった主要野党が昨年12月に行われた総選挙を「自由、公正さが担保されていない」としてボイコットしたため、統一社会党(PSUV)など反米左派与党連合が議席の9割を独占。マドゥロ大統領が三権を完全掌握し、これにより確固とした独裁体制が完成したことになる。

 

野党に牛耳られていた国会を「目の上のたんこぶ」と見なし攻撃してきたマドゥロ氏は、ツイッターで「祖国に希望の道を開く歴史的な日だ」と称賛。「(破綻状態にある)経済の回復と国民和解、国家平和の防衛に向け、共に飛躍しよう」と呼び掛けた。

 

一方、新国会の正統性を否定して1年間の任期延長を宣言している主要野党はこの日、独自の国会を開き、欧米の支援を受けて「暫定大統領」を名乗るグアイド議長の続投を決定した。

 

グアイド氏は「(マドゥロ政権は)民主勢力を滅ぼそうとしているが、われわれはベネズエラを差し出しはしない」と述べ、徹底抗戦を誓った。【1月6日 時事】 

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今後のマドゥロ政権の持続可能性を左右する要因は、アメリカ・バイデン新政権の対応と財政の根幹をなす石油価格の動向でしょう。

 

【「煮ても焼いても食えない」ルカシェンコへの今後のロシアの対応は?】

一方、ベラルーシ・ルカシェンコ政権の命運を左右するのはロシア。

 

****ロシアは本当に「帝国」から脱皮できるのか?****

(中略)それでは、一時期窮地に陥っていたルカシェンコに、救いの手を差し伸べたロシアのプーチン政権は、ベラルーシ問題をどうしようとしているのでしょうか? 

 

大前提として、ロシアの息のかかった国で、民衆蜂起により既存の政治体制が転覆されるというシナリオ(クレムリンの世界観によればそこでは必ず欧米が糸を引いている)は、プーチン政権にとって許容できないものです。したがって、ルカシェンコが革命で倒れるという事態は阻止するというのが、プーチンの基本姿勢です。

 

しかし、ルカシェンコという人物については、ロシアもほとほと手を焼いています。昨年8月の大統領選直後こそ、完全にロシアに恭順するかのような姿勢を示していたルカシェンコでしたが、結局それは「死んだふり」にすぎませんでした。

 

その後、態勢を立て直すと、ルカシェンコはロシアに課せられていた宿題をこなさないばかりか、再びロシアと一定の距離を置き多元外交に乗り出そうとしています。

 

プーチンも、「やはりルカシェンコという男は煮ても焼いても食えない」と、改めて思い知っているところでしょう。クレムリンは、ルカシェンコに取って代わる別の親ロシア派の擁立を水面下で画策しているとも伝えられます。

 

プーチンがルカシェンコに求めていたのは、憲法改革および早期の大統領選挙を実施すること、国民との対話を進めること、それによって情勢を沈静化させることでした。

 

しかし、実際にルカシェンコがやろうとしているのは、憲法を変えて、自らが大統領とは別の形で絶対権力者に留まり続けることです。こんなまやかしの政治改革は、反ルカシェンコ派の市民にとっては論外ですし、プーチンも納得はしないでしょう。

 

ベラルーシ情勢で次の節目となるのが、2月11〜12日の開催が決まった「第6回全ベラルーシ国民大会」です。これはかつてのソ連共産党大会を思わせるような一大政治セレモニーであり、5年に一度、ルカシェンコの新たな大統領任期に合わせて開催されているもの。

 

果たしてこの場でルカシェンコはどのような構想を示すのか、そしてベラルーシ国民とクレムリンがどのような反応を見せるのかが注目されます。(後略)【1月5日 GLOBE+】

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抗議行動で政権が倒れるのは絶対に阻止したいが、“ルカシェンコは煮ても焼いても喰えない”ということで、今後の成り行き次第では、ロシア・プーチン大統領はルカシェンコ大統領を見限って、“首のすげ替え”を図る・・・ということもあり得るでしょう。

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ロシア  極東ハバロフスクで続く「地方の反乱」

2020-08-01 22:18:43 | ロシア

(7月25日、ロシア極東のハバロフスク地方でフルガル知事の逮捕に抗議する大規模なデモが行われた。デモは3週末連続で行われている。写真は7月25日、ハバロフスクで撮影【7月27日 ロイター】)

 

【「デモの主な動機は知事の逮捕以上に、地方の運命がモスクワで決定されていることへのいらだちだ」】

憲法改正を成功させ、大統領再選への道を切り開いた・・・かのようにも見えるロシア・プーチン大統領ですが、極東ハバロフスク地方において約15年前の殺人容疑で現職知事(体制内野党所属)が逮捕されたことをきっかけに、中央に対する地方の不満が噴出。

 

抗議デモは「反プーチン」の性格を帯び、知事の逮捕から3週間余りたった今も続いており長期化しています。

 

****露極東で大規模デモ 知事逮捕に住民反発 中央集権のほころび露呈****

ロシア極東ハバロフスク地方で今月中旬以降、反プーチン政権デモが続いている。殺人容疑で現職知事が逮捕されたことをきっかけに、中央による地方軽視への不満が噴出した。

 

近年のロシアでは別の地域でも同様のデモが発生。プーチン政権下で構築された強固な中央集権システムの“ほころび”が表面化しつつあるとの見方も出ている。

 

逮捕されたのはハバロフスクのフルガル知事。2004〜05年に極東地方で起きた複数の殺害事件などに関与した疑いで、9日に露治安当局に身柄を拘束された。フルガル氏は容疑を否認。プーチン大統領はフルガル氏を解任した。

 

地元実業家出身のフルガル氏は18年の知事選でプーチン政権の与党「統一ロシア」候補に圧勝し、知事に就任した。自ら報酬を削減するなど市民に近い姿勢で地元では人気が高く、プーチン政権とは一線を画して独自の政治基盤を構築してきた。

 

そのため地元では逮捕が「地方自治への圧力」と受け止められ、フルガル氏が所属する自由民主党のジリノフスキー党首は「政治事件だ」と反発。

 

ハバロフスク市では11日、逮捕への抗議デモが発生し、その後も拡大。露経済紙ベドモスチによると、18日には同市の人口の約10%に相当する5万人以上が参加した。

 

デモではフルガル氏釈放の要求とともに、「モスクワは私たちを放っておけ!」などと、中央政府への批判もスローガンに掲げられた。同紙は「デモの主な動機は知事の逮捕以上に、地方の運命がモスクワで決定されていることへのいらだちだ」と指摘した。

 

実際、石油価格下落などで財政難が続くプーチン政権は近年、限られた資本をモスクワなど大都市に集中的に投資。政権が掲げる極東などの大規模開発計画は予算不足でかけ声だけで終わっている。

 

露専門家の間では、デモ以前から「地方では『中央に搾取されている』との不満が強まり、自治意識が高まっている」と分析されていた。

 

“反中央”とも呼べるデモは近年、別の地方でも起きている。露北西部アルハンゲリスク州では18年、プーチン政権派の知事が住民への説明もなくモスクワのごみの受け入れを決め、大規模な抗議デモが発生。知事は解任されたが、抗議活動は現在も続いている。

 

プーチン氏は20日、ハバロフスクの知事代行に自民党のデクチャリョフ下院議員を任命。同党から知事を選ぶことで沈静化を図ったとみられるが、同氏は地元とのつながりを持たず、反発が収まるかは不透明。ベドモスチは「今の粗雑なモスクワの中央集権主義では国家の一体性が揺らぐ可能性がある」と指摘した。【7月22日 産経】

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“デモ隊は「プーチン大統領は辞任せよ」などと叫びながら行進。取り調べのためモスクワに移送されたフルガル知事について、ハバロフスクに送還して地元で裁判を行うよう要求した”【7月27日 ロイター】とも。

 

【「クレムリンに盾突く知事は許さない」見せしめ国策捜査 中央に反発する極東のメンタリティ】

ワイルド資本主義のロシアのことですから、フルガル氏が実際に商売敵の殺人に関与したとしても驚きではありませんが、今になってその件が表面化したことには「国策操作」の政治的思惑が強く感じられます。

 

****プーチンの国策捜査に反旗を翻すハバロフスク ロシア極東は燃えているか****

国策捜査の匂いがプンプン

7月9日に大事件がありました。ロシア極東のハバロフスク地方で、フルガル知事が殺人容疑で逮捕されたのです。

 

フルガル知事は、2018年9月の知事選挙で、体制派の現職候補を破って当選した、野党「ロシア自由民主党」の政治家です。その当選自体がセンセーショナルだった上、知事就任後もプーチン政権の意に沿わない行動を続け、クレムリンからにらまれていました。

 

9日の逮捕の模様は、捜査当局によって撮影され、知事が係官によって押さえ付けられ車で護送されていく様子が、ニュース番組やネットで広く拡散されました。いかにも「見せしめ」の雰囲気が漂い、「クレムリンに盾突く知事は許さない」という警告を国全体に発しているとしか思えませんでした。

 

もちろん、フルガルが実際に殺人に関与していたのだとしたら、とんでもないことであり、法で裁かれてしかるべきです。まあ、確かに、地元で剛腕の実業家として頭角を現した人物であり、ロシアのワイルド資本主義の中では、商売敵を消してしまうようなことも、実際にあったのかもしれません。

 

しかし、容疑は2004年から2005年にかけてのものであり、今頃になって逮捕されるのは不自然です。

 

翻って、与党「統一ロシア」に所属する体制派の知事たちには、やましいことは一つもないのでしょうか? やはり、この状況下でフルガル知事が狙い撃ちにされたのは、国策捜査の疑いが濃厚であると、考えざるをえません。7月1日の改憲国民投票という山を越えたタイミングでの逮捕というのも、いかにも露骨です。

 

フルガル人気を読み解く

日本からも至近の極東エリアは、ロシアの中でも、最も反プーチン政権感情が強いところです。ハバロフスク地方では、フルガル知事はプーチン大統領よりもはるかに人気があるなどとも言われていました。

 

フルガル逮捕の一報を受け、地元民はハバロフスク中心部での抗議デモに馳せ参じ、7月11日には2万〜3万人程度が集結したということです。

 

ロシア連邦政府で、極東政策の責任者になっているのが、トルトネフ副首相・極東連邦管区大統領全権代表です。フルガル逮捕を受け、現地入りしたトルトネフ副首相は、「ハバロフスク地方行政府の仕事振りは、芳しくなかった」とコメントしました。(中略)

 

フルガルの場合は、むしろプーチン体制の既存の秩序に挑戦することで、異彩を放っていました。確かに、就任してからの1年数ヵ月で、ハバロフスク地方の経済・社会生活を改善できたわけではなく、支持率も低下傾向にはありました。

 

それでも、クレムリンを向こうに回してでも地元の利益を守ろうとするその姿勢は、住民から評価されていました。だからこそ、知事の逮捕に反発し、多くの住民が自発的にデモに参加したのです。

 

また、ポピュリズムと言ってしまえばそれまでですが、フルガルは知事就任後、自らの報酬を削減したり、以前の知事が国費で購入した高価なヨットを売却したりと、住民受けする措置を打ち出しました。エリートではなく、庶民の代表という立ち位置を明確にしたのです。

 

この点も、地元民の感情にアピールした点だったと思います。普通、庶民はお偉いさんが逮捕されたりすると喜ぶものですが、ハバロフスク地方に限っては違っていました。

 

自由民主党=極右は表層的

ここで、フルガルの所属するロシア自由民主党の位置付けについて解説しておきます。かつてジリノフスキー党首が日本との領土問題で過激な発言をしたりしたため、我が国でも、ロシア自由民主党は極右政党と呼ばれることがあります。

 

しかし、実際には自由民主党の過激な主張は国民を楽しませるためのエンターテインメントという側面が強く、ジリノフスキー党首も道化としての自分の役割を自覚しているフシがあります。

 

プーチン体制のロシアでは、「統一ロシア」が与党ですが、自由民主党、共産党、「公正ロシア」は「体制内野党」と呼ばれ、プーチン政権から無害なものとして(あるいは複数政党制を演出するためのものとして)その存在を認められています。ジリノフスキー率いる自由民主党は、あくまでもその枠内で党勢を拡大したり、金銭的な利益を追求したりすることを目的としているわけです。

 

2018年9月のハバロフスク地方知事選挙で、与党候補を勝たせられなかったのは、クレムリンの失態でした。ただ、自由民主党の知事が誕生したことは、必ずしも破局的な事態ではありませんでした。同党は反体制野党ではないからです。

 

しかし、知事の座に就いたフルガルは、既存のゲームのルールを尊重しようとせず、クレムリンを苛立たせます。殺人容疑での今回の逮捕は、その帰結であると考えるのが自然でしょう。

 

(中略)ジリノフスキー率いる自民党の本部はハバロフスクのデモには関与していない模様であり、同党としては当地における党の利益が守られるなら、事を荒立てないものと見られます。

 

プーチン改憲への支持も低調

前々回のコラムで取り上げたとおり、ロシアでは7月1日に改憲の是非を問う国民投票が実施され、有権者の53.0%が賛成票を投じたと発表されました。(中略)公式発表を鵜呑みにしていいのかという疑問は残るものの、一定の傾向は読み取ることができるはずです。

 

(中略)極東では(人口の少ないチュクチ自治管区、ユダヤ自治州を除いて)ほぼすべての地域で、改憲への支持が全国平均を下回りました。極東全体では支持は40.8%に留まり、今回フォーカスしているハバロフスク地方に至っては27.6%と全国屈指の低さです。

 

極東の中でも、経済面で比較的潤っているサハリン州や沿海地方では、全国平均に近い賛成票が投じられました。特に、沿海地方とハバロフスク地方のコントラストは、注目に値します。

 

以前、「『ロシア極東の首都』の座を明け渡したハバロフスク」の回で述べたとおり、2018年12月にハバロフスクは極東の首都という地位を沿海地方のウラジオストクに奪われてしまったのです。「沿海地方に比べて、我々は冷遇されている」というハバロフスク地方住民の不満が、国民投票の結果にも表れているような気がします。

 

それにしても、皮肉な状況です。プーチン政権は、極東のことを決して軽視しているわけではないのです。

いやむしろ、2012年のAPECサミットに向けウラジオストクを大開発しただけでなく、新型特区など様々な政策手段を駆使して、極東経済の底上げを図ってきました。

 

欧米との関係が冷え込む中で、中国との協力を軸とした「東方シフト」の重要性が増し、極東はその窓口と位置付けられています。プーチン大統領は、毎年9月にウラジオストクで開催している「東方経済フォーラム」を主宰し、アジア太平洋の繁栄をロシア極東の発展に繋げるべく、努力を重ねてきました。

 

極東の特殊なメンタリティ

このように、プーチン政権としてはそれなりに極東を重視してきたはずなのに、地元民が拒絶反応を示しているのは、なぜなのでしょうか?(中略)

 

果たして、今回のハバロフスク地方の反乱が、極東の他の地域にも飛び火したり、さらにはロシア全体を揺るがすようなことはあるのでしょうか? 今年秋の統一地方選挙、来年の連邦議会下院選挙の動向に注目したいと思います。【7月21日 GLOBE+】

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極東ハバロフスクにおける強い反中央感情については、

中央との経済・生活水準格差、極東発展のためとされる事業に地元民が関与しておらず、その恩恵を享受できてないこと、

“極東においては、自分たちは帝国の辺境、国境地帯に生きているという感覚が生々しく残っており、そこでは従順は美徳ではない”といったメンタリティ、

多くが帝政期やソ連時代に当地に流刑されたりした人々の子孫であり、自分で何とかするというメンタリティ

などが挙げられています。

 

ハバロフスクでの抗議デモは、全ロシア的にも一定に支持されているようです。

 

****ロシア極東デモ、45%が支持 世論調査、国民の政権不満裏付け****

ロシア極東ハバロフスクで続く地元知事の拘束・解任への抗議デモについて、ロシア国民の45%が支持していることが28日、独立系調査機関「レバダ・センター」が発表した世論調査で分かった。

 

デモは「地方のモスクワに対する反乱」と受け止められ、プーチン政権は各地への飛び火を警戒している。調査は国民の半数近くが政権への不満を共有している状況を裏付けた。(後略)【7月29日 共同】

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【政権は静観の構え】

プーチン政権は、いまのところはあまり事を荒立てず沈静化を待つ方針のようです。

 

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支持率が低迷する中でプーチン氏の続投を可能にする憲法改正が全国投票で成立したばかりだ。

 

反政権派の無許可デモは厳しく抑え込むプーチン政権が、今回のデモにほぼ静観を続ける。警官はほとんど参加者を拘束していない。

 

9月に統一地方選、来年に下院選を控え、中央への反発が他の地方にも拡大するのを恐れているとみられる。【7月21日 朝日】

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ロシアのもうひとつの特殊な地域チェチェンについても書くつもりでしたが、長くなったので、チェチェンについてはまた別機会に。

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ロシア  統計数字の信頼性や感染拡大中の規制緩和は他国でもある話、相次ぐ医師の転落死はロシア特有

2020-05-14 23:16:05 | ロシア

(新型コロナウイルスの感染が急激に広がり、病院の前には救急車の列ができた=ロシア・サンクトペテルブルク、2020年4月27日【5月12日 GLOBE+】)

【新型コロナ死者統計の信頼性への疑念】
ロシア政府発表の新型コロナ感染者数は14日現在、25万2245人で米国に次ぎ世界2位ですが、死者数は2305人と感染者数の規模の割に少なく、統計の正確さに疑問が出ています。

ニューヨーク・タイムズなど米英の有力2紙が相次いで、ロシアの死者数は約70%も少なく申告されているとの疑惑を報道、これに対しロシア外務省は13日、記事は偽情報だとして両紙に訂正を要求しています。

ロシア・モスクワ市は、コロナ感染者が死亡した場合、きちんと検死して死因を特定している、その結果、死亡した感染者のうち6割以上の死因がコロナ感染ではなく、もともとの持病の悪化などによるものだったことが判明しているので、その分はコロナ死亡者には含めていないと説明しています。

****モスクワ市、新型コロナ死者統計の不正否定 検視で6割が他の死因****
ロシアの首都モスクワ市の当局は13日、4月に市内で死亡した新型コロナ感染者のうち、6割以上の死因を新型コロナ以外として統計上処理したと明らかにした。当局は、検視によって「極めて正確」に死因の特定をしたとし、統計の不正を否定した。(中略)

モスクワ市保健局は13日の声明で、4月の死者数(1万1846人)は前年同月より1841人多く、増加数は新型コロナウイルス感染症による死者数のほぼ3倍だったと認めた。しかし、新型コロナ死者数の過少報告の疑惑はきっぱりと否定した。

モスクワ市保健局は、他の多くの国々とは異なり、ロシア政府とモスクワの当局は新型コロナが主な死因である疑いがある遺体全ての検視を実施したと説明、「それ故、モスクワでの検視と死因特定は極めて正確で、死亡統計は完全に透明だ」と強調。

死亡した新型コロナ感染者の6割強は、心臓発作やステージ4の悪性腫瘍など、新型コロナ以外の原因で死亡したのが明白だったとした。新型コロナ感染症が直接の原因だった4月のモスクワの死者は639人だったという。【5月14日 ロイター】
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ただ、どうして4月に死亡者が急増しているのか?という疑問は依然として残ります。

もっとも、例えば検査を受けずに自宅や介護施設で亡くなった者などが含まれていないなど、公表死者数が実態を反映していないのでは?との指摘はアメリカでも欧州でもありますので、統計数字の信頼性の問題はロシアだけの話ではありません。意図的に隠蔽操作しているという話なら、また別ですが。

【感染に歯止めがかからない中での規制緩和】
感染者数が非常に膨らんでいることに関しては、ロシア側は、検査数が多いことも一因だとしています。

しかし、4月末以降、ミシュスチン首相ら閣僚3人の感染が判明したのに続き、12日にはプーチン大統領の側近、ペスコフ大統領報道官の感染も明らかになったというように、感染拡大が止まらない状況にあるのは間違いありません。

そうした厳しい感染状況の一方で、これ以上経済活動を止めると国民不満が拡大して政権の基盤を揺るがしかねないという面もあり、ロシアは12日から段階的規制機序に踏み切っています。

****コロナ禍ロシア、規制を緩和 感染連日1万人増、でも経済失速懸念 市民不満、迫られ企業再開****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3月末から全国で企業活動を制限していたロシアが12日、段階的な規制の解除を始めた。国内の感染拡大の勢いは衰えておらず感染者数は米国に次いで多い23万人台だが、経済失速への強い懸念から、対応を迫られた形だ。
 
ロシア政府の12日午前(日本時間夕)の発表によると、国内の累計感染者は23万2243人。1カ月前の約15倍で、今月3日以降は新たな感染者が連日、1万人以上のペースで増えている。
 
そんななか、プーチン大統領は11日、民間企業の休業措置を12日から解除し、建設業や資源採掘などの基幹産業の運営を同日から再開すると発表。「これらの業種は雇用が非常に多い」と述べ、再開することで労働者が給与を得られ、家族の幸せにもつながる、とした。優先させる業種の基準として「消費者と接触する必要がなく、リスクが低い」ことも挙げた。
 
解除の背景には、経済への危機感がある。コロナ禍と原油安で、今年の経済成長率はマイナス7~8%に落ち込むとの見方が出ている。また、長引く規制で生活が困窮した市民は不満を募らせており、プーチン氏の支持率が過去最低の59%に落ち込んだとする世論調査結果もある。
 
ただ、企業活動の再開や外出規制などの解除は、地域の実情に委ねられている。感染者の集中するモスクワでは、国による規制が緩和されても、市長の判断によって多くの業種は再開が認められない。市内の飲食店やショッピングモールなどの休業や、外出規制は5月末まで続く見通しだ。
 
感染をいかに抑えるかも、問われている。急激な伸びについて、政府は「検査数を大幅に増やしたことも一因だ」と説明する。

1日の検査数は現在17万件前後で、英オックスフォード大の研究者グループのまとめによると、人口あたりの検査件数は世界トップクラスだ。

しかし、経済活動を抑制しているなかでも感染者が増えていただけに、緩和するとさらに加速する懸念がある。
 
また、ロシア政府が発表する新型コロナの死者数は約2千人で、同じ規模で感染が広がる他国と比べても死亡率が低い。ロシアのノーバヤ・ガゼータ紙は、死因の分類方法が国によって異なることや、モスクワ市の死者数などから「新型コロナによる死者数は、公式発表の3倍近い可能性がある」としている。(後略)【5月13日 朝日】
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【“大きな賭けに出た”プーチン大統領 憲法改正案国民投票の成否は視界不良】
盤石の政権基盤を誇ってきたさしものプーチン大統領も、厳しい局面に立たされています。

*****露、企業の活動制限を段階的解除 プーチン氏、求心力低下を危惧****
(中略)これまで2回にわたり延長してきた活動制限を再び延長すれば、プーチン氏の判断の甘さを露呈することになり、低下傾向が続く自身の支持率がさらに低下するとの懸念もありそうだ。
 
実際、プーチン氏は新型コロナの具体的な収束対策は実質的に各自治体に任せてきた。これについて露メディアからは「(自身の終身大統領化も可能になる)改憲の国民投票を控え、感染拡大の責任が自身に及ぶことを避ける思惑がある」との分析も出ていた。
 
ただ、制限解除後も感染状況が悪化すれば、不満がプーチン氏に集まるのは避けられない。プーチン氏は大きな賭けに出た形だ。【5月12日 産経】
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もっとも、感染が抑制しきれに状況での経済活動再開はロシアだけでなく、アメリカやインドなども同様です。
日本を含めた各国が、そのバランスには悩むところです。

政治的に“大きな賭けに出た”というあたりも、再選戦略から規制緩和に前のめりになっているトランプ大統領と似たような立場にあります。

プーチン大統領の今後を左右する憲法改正案国民投票に見通しついては、“予断を許さない”状況とも。

****先行き不透明なプーチンの任期延長****
ロシアでは3月に、プーチンの大統領任期を2024年から後12年間延長する憲法改正案が議会で可決されている。プーチンはそれを憲法の規定に従って国民投票にかけなければならない。

この国民投票は本年4月22日に行われる予定であったが、新型コロナウイルス感染者が増えている状況の中で、プーチンは国民投票を延期する決定をした。いつ行うかは決まっていない。
 
憲法改正案が国民投票で承認されるためには、投票率が50%以上、かつ、賛成票が投票の50%以上である必要がある。ロシア国民が、このプーチン任期を延長するための投票に行き、投票率50%を超えられるか、投票者の50%が賛成票を投じるか、予断を許さないように思われる。
 
これについて、ロシアの民主活動家ウラジーミル・カラムーザがワシントン・ポストに4月14日付で‘Vladimir Putin has a popularity problem — and the Kremlin knows it’(プーチンは人気の問題を抱えており、かつクレムリンはそのことを知っている)と題する論説を寄稿しており、参考になる。

カラムーザは、プーチンの任期延長、大統領の年齢制限についての最近のレバダ社による世論調査の結果を紹介している。

それによれば、プーチンの任期延長については、賛成48%、反対47%、大統領の年齢上限については58%が「元首は70歳より高齢であるべきではない」と回答した由である。

カラムーザは、権威主義国家では世論調査で政権寄りの結果が出る傾向にある、いわゆる「権威主義バイアス」がある中でこういう結果が出たことは驚きである、と指摘する。
 
カラムーザは、さらに、ロシア政府は正規の国民投票ではなく超法規的な「人民投票」を目指しているようだが、問題はその後で、ロシアの社会の大部分は、プーチンが任期延長はないと繰り返し約束したにもかかわらず任期を延長しようとしていることを信頼の裏切りとみなしているとして、プーチンの前途が明るくないことを示唆している。
 
カラムーザはロシアの民主化を願望している人であり、ネムツォフ関係財団に関与している人であるので、上記の分析は、彼の希望的観測である可能性があるが、彼の言うような結果になる可能性も十分にあるように思われる。
 
ロシアの経済は、原油価格の低下で苦境にあることに加え、新型コロナウイルス感染拡大によってさらに下押しされることはほぼ確実である。

サウジアラビアとロシアが減産合意に失敗した後、原油価格が急激に下がり、サウジもロシアも苦境に陥り、減産合意に改めて合意したが、新型コロナウイルスで世界経済は不況入りしており、需要が減産以上に減っている。プーチンが最初減産を拒否したのは間違いであったと言える。経済困難は国民の不満につながり、プーチンの人気は当然下降する。
 
プーチンは2024年から12年間大統領に留まることを目指しているが、そうなると引退時には83歳になる。ロシアでは男性の平均寿命が70歳にもならない中で、83歳というのは大変な高齢者との印象がロシア人にはあるだろう。
 
投票率、開票の操作などは当然予測できるが、プーチン政権が今後も盤石であるとの前提で対応することは難しいと思われる。【5月11日 WEDGE】
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これまでのロシアの投票事例からすれば、ハードルが高いのは賛成票の割合よりも、“投票率が50%以上”の方でしょう。

【当局に不都合な医師が相次いで窓から転落死】
以上見てきたように、ロシアの統計数字の信頼性とか、感染拡大が収まりきらないなかでの制限緩和といった話は、ロシア特有の話でもありませんが、当局に不都合な医師などが相次いで転落死する・・・という話になると、ロシア特有の話にもなります。

これまでも、ロシアでは政権に不都合なジャーナリストや政敵などが暗殺などの方法で“消されてしまう”という事例が多々あります。(他の国でも、無い訳でもないのでしょうが)今回の医師転落死もそういった類では・・・・という疑惑がぬぐえません。

****窓から転落死する医師、ロシアで続々…脆弱な医療態勢を公表しないよう圧力か****
新型コロナウイルスの感染が拡大しているロシアで4月下旬以降、医師の転落死が相次いでいる。ロシアでは脆弱な医療態勢を公表しないよう当局が病院や医師に圧力をかけていると指摘されており、背景に関心が集まっている。
 
露インターネットメディア「メドゥーザ」などによると、東シベリアのクラスノヤルスク地方で4月下旬、病院5階の窓から転落した院長代理の女性医師が今月1日に死亡した。女性医師はテレビ会議で、当局からの感染症患者受け入れ要請を、態勢不備を理由に拒否していたという。
 
また今月2日には、南西部ボロネジ州の男性救急医が窓から落ち、重体となった。救急医は4月下旬、自身の感染確認後も勤務を続けるよう求められていたと公表していた。
 
このほか、モスクワ郊外の病院の救急医療責任者だった女性医師も4月24日に、窓から落下して死亡した。勤務先の病院で集団感染が起きた責任を問われ、自殺したとの見方が出ている。【5月10日 読売】
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(これらの事件が、ロシア当局が関与した殺害であるとすれば)新型コロナ感染以上に怖い話のようにも思えます。

イギリスで起きたロシア二重スパイ・リトビネンコ氏暗殺事件では、放射性物質ポロニウム210が使用されるといった手の込んだ方法がとられたようですが、一番足がつきにくい殺害方法は“窓から突き落とす”といった単純な方法でしょう。

南西部ボロネジの病院で窓から転落し重傷を負った男性医師は、投稿した動画で、新型コロナに感染した後も勤務を続けていたことや防護具の不足を訴えていましたが、その後この発言を撤回。地元当局が何らかの圧力をかけた可能性が取り沙汰されています。【5月12日 毎日】

ロシアでは昔から権力に盾突く者には、その存在を抹殺しようとする情報機関等の「長い手」がどこまでも追ってくるという話があります。

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第2次大戦から75年 歴史認識で「孤立」するロシア 国内で「終戦」認識の不一致があるドイツ

2020-05-09 23:08:05 | ロシア

(9日、クレムリンのスパスカヤ塔の上空を、ロシア国旗の3色の煙を出して飛行するスホイ25攻撃機=モスクワ(タス=共同)【5月9日 共同】)

【ロシア コロナ禍で対ナチス・ドイツ戦勝75年記念軍事パレードは中止】
欧州各国が新型コロナからの「出口」を探るなかで、ロシアは依然として感染拡大が続いており(モスクワ市長の見解では、感染者数増加は検査増加によるもの)、外出制限も延長されています。

****モスクワ、外出制限を5月末まで延長 マスク・手袋も義務化****
新型コロナウイルスの収束気配が見えないロシアで、首都モスクワ市のソビャーニン市長は7日、当初は11日までとしていた外出制限を31日まで延長すると自身のブログで表明した。

12日からは食料品店や公共交通機関など公の場所でのマスクと手袋の着用を義務付けることも発表した。
 
ロシアの7日時点の感染者数は17万7160人、死者は1625人。モスクワ市の感染者数は9万2676人で、全体の過半数を占めている。流行初期の感染者の隔離が不十分だったことが感染拡大の背景にあるとみられている。
 
一方、ソビャーニン氏はブログで「モスクワでの毎日の新規感染数はなお非常に多いが、これは検査の増加によるもので、実際に感染が拡大しているわけではない」との認識を示した。
 
ロシアではプーチン大統領が3月末、全国で自主隔離態勢を導入すると表明。モスクワなど各自治体はより厳しい外出制限を実施してきた。

しかし最近も毎日数千人〜1万人規模で感染が拡大するなど、目立った効果は出ていない。これまでにミシュスチン首相のほか、閣僚2人の感染も確認されている。【5月8日 産経】
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****ロシア全土のコロナ感染者が前日比1万817人増 計20万人に迫る****
ロシア全国の過去24時間におけるコロナウイルス新規感染者が1万817人確認され、合わせて19万8676人となりました。

全国コロナウイルス感染拡大対策本部の発表によりますと、新規感染者のうち40.7%は症状などが見られなかったということです。

また、過去24時間で104人がコロナウイルス感染により死亡しました。(中略)

5月9日、ロシアは大祖国戦争勝利75周年を迎えていますが、コロナウイルス感染拡大の影響により航空パレードを除く軍事パレードが無期限延期となりました。【5月9日 ParsToday】
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こうした厳しい情勢を受けて、「大祖国戦争勝利75周年」の軍事パレードを中止せざるを得ない状況にもなっています。

*****ロシア、対独戦勝75年祝う 「欧州解放」史観で孤立****
ロシアは9日、第2次大戦の対ナチス・ドイツ戦勝75年を祝う記念日を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大で、首都モスクワの赤の広場で毎年行われる恒例の軍事パレードは中止された。外出禁止令下の市民は自宅でプーチン大統領のテレビ演説を聞いた。
 
プーチン氏は演説で、ソ連が約2700万人の犠牲を出して対独戦に勝利し「欧州を解放した」ことは「われわれの誇り、歴史だ」と強調した。

しかし欧州は「ドイツとソ連がポーランドに侵攻、第2次大戦が始まった」と批判を強めており、「欧州解放」史観を国是とするソ連の継承国ロシアは歴史認識を巡り孤立を深めている。【5月9日 共同】
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航空パレードは実施されています。
“国防省によると、戦勝75周年にちなんで軍用ヘリコプターや爆撃機、戦闘機など75機が飛行。最新鋭ステルス戦闘機のスホイ57も登場した。”【5月9日 時事】 

話が横道にそれますが、新型コロナを全く気にしていない旧ソ連ベラルーシ・ルカシェンコ大統領は軍事パレードを大々的に実施し、「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ」と胸をはっています。

****ベラルーシは軍事パレード挙行 WHOが自制勧告も、戦勝75年****
旧ソ連諸国が対ドイツ戦勝75年の記念日を迎えた9日、ベラルーシの首都ミンスクでは恒例の軍事パレードが挙行され、ルカシェンコ大統領も臨席した。

新型コロナウイルス対策でWHOが多数の人が集まるイベントを開かないよう勧告し、隣国ロシアが大規模パレードを中止する中で、対照的な対応となった。
 
ベラルーシでは、四半世紀に及ぶ強権統治を続けるルカシェンコ氏の考えから近隣諸国が軒並み導入した外出禁止措置は現在も取られていない。ルカシェンコ氏は「旧ソ連の国々で唯一のパレードだ。ファシズムから世界を解放した全てのソ連兵に敬意を示すものだ」と意義を強調した。【5月9日 共同】
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「欧州最後の独裁者」の異名を持つルカシェンコ大統領ですが、新型コロナに関しては「ウオッカが効く」「ここにウイルスはいない」といった発言を繰り返し、制限措置は取られていません。WHOは「急速に感染者が増加している」として対策強化を呼び掛けています。【4月22日 共同より】

経済活動規制に反対しているブラジルのボルソナロ大統領もハイリスク者への対応は認めていますので、コロナ無視では、ベラルーシのルカシェンコ大統領とアフリカ・タンザニアのマグフリ大統領あたりが最右翼でしょうか。

【米・中東欧:旧ソ連の戦争勃発への責任、戦後の共産主義押し付けに関しロシアは「歴史を歪曲」】
話をロシアに戻します。
軍事パレード云々はともかく、問題は【5月9日 共同】の最後にもあるように、ロシアが歴史認識をめぐって「孤立」の道を歩んでいることでしょう。

****米と中東欧諸国、ロシアによる歴史「歪曲」を非難 戦後75年を控え****
マイク・ポンぺオ米国務長官と北大西洋条約機構に加盟する中東欧の外相らは7日、第2次世界大戦の終結から75年を迎えるに当たり、ロシアによる「歴史を歪曲(わいきょく)しようとする試みに遺憾の意」を表す共同声明を発表して同国を非難した。
 
同長官とブルガリア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロバキアの外相による共同声明は戦争による犠牲者と「ナチス・ドイツを敗北させるために戦った全ての兵士ら」を顕彰するために発表されたもの。
 
だが各国はこの機会に、旧ソ連が東欧諸国に押し付けた共産主義の統治により、「1945年の5月、欧州の全域に自由がもたらされはしなかった」との見解を改めて示した。
 
同長官との9か国の外相らは、「かつてバルト三国は、ソ連に違法に占領され併合された。影響下に置いた他の国々に対する鉄の支配は、圧倒的な軍事力、抑圧、思イデオロギー統制を用いるソ連によって遂行された」と主張し、

「ソ連が第2次世界大戦と、戦争直後に生じた欧州の分断につながる歴史的な出来事を改ざんすることは、歴史を歪曲する遺憾な試みだ」と述べた。
 
ウラジーミル・プーチン大統領やロシアの政府高官らは最近、ポーランドに戦争勃発の部分的な責任があると非難したが、ポーランド政府と西側の同盟諸国はこれを誤った修正主義の主張だとして一蹴していた。
 
ロシア政府はこれまでも複数回にわたり、ソ連とナチス・ドイツが欧州を分割すべく、第2次世界大戦勃発前の1939年に密かに結んだ協定を過小評価しようと試みてきた。
 
ロシア政府はまた、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト三国を1944年から45年にかけて併合したことを占領とは認めておらず、謝罪や賠償もこれまで一切していない。 【翻訳編集】AFPBB News
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もちろん、ロシアにはロシアの言い分があるでしょう。

加害者側と被害者側が歴史認識で一致することは非常に困難です。日本だけの話ではありません。
認識を一にしたうえで、関係改善を・・・というのが、あるべき姿なのでしょうが、なかなか・・・。

一致しない部分は棚上げにしたうえで、関係を深め、信頼を醸成していく・・・というのが現実的なようにも思います。

【ドイツ:分かれる「終戦」の評価】
日本と同様に敗戦国の立場のドイツでも、「終戦」の評価については国内的に異論があるようです。

****ドイツの終戦、「降伏」か「解放」か 75年、式典 祝日化、求める声も****
第2次世界大戦でナチス・ドイツが連合国側に敗れて欧州での戦争が終わり、8日で75年を迎えた。ベルリン市は今年に限り、祝日とした。

ドイツでは人種や宗教などによる差別が絶えないなか、「ファシズムからの解放の日」として恒久的な国民の祝日にしようとの声も上がっている。

ベルリンの戦争犠牲者の追悼施設では式典があり、メルケル首相らが出席した。シュタインマイヤー大統領は演説で、戦後の平和の歩みを振り返るとともに「不名誉なのは、責任を認めることではなく否定することだ」と述べ、加害の歴史を思い起こすことの大切さを訴えた。
 
当初、ナチスの犠牲になった国の若者らを多数招き、市民の「解放」を祝うはずだった。だが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、人数を限定した式となった。
 
この日には、10年ごとの節目などに記念の催しを開いてきた。だが毎年、大規模行事をしているわけではない。連合国側のソ連の後継・ロシアが毎年、翌9日を「対独戦勝記念」として、国威発揚の機会としているのとは対照的だ。
 
戦後の一定期間、旧東ドイツが解放の日として8日を祝った一方、旧西ドイツでは降伏の日として、屈辱感や罪悪感が意識される風潮があったという。
 
それが戦後40年の1985年5月8日、ワイツゼッカー大統領が「ナチスの非人道的な暴力と迫害から私たちが解放された」と強調し、改めて注目された。「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる」と述べた有名な議会演説だ。
 
90年の東西ドイツ統一を経て、この日が過去を見つめ直す共通の機会になった。だが必ずしも「解放の日」として幅広く受け入れられているわけではない。
 
ここ数年、労組やユダヤ系団体などが「人種差別や排除に反対する日にしよう」と主張、祝日化を訴えてきた。だが、保守政党などは「過去を振り返る日は他にもある」などとして反対。ベルリン市政府は妥協の末、75周年の今年だけ祝日にした。他の州でも記念日にはしていても、祝日にはしていない。
 
ドイツでは、極右思想の人物が特定の人種や宗教を差別し襲撃するといった犯罪が後を絶たない。歴史記念館を運営するブランデンブルク記念財団のアクセル・ドレコル理事長は「ナチス時代を絶え間なく批判的にみることで、今の価値観や民主主義が支えられている。10年前よりも重要な日になった」と述べ、祝日化を支持している。【5月9日 朝日】
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ロシア  続く感染拡大 高まる国民不満 対応できていないプーチン大統領の権力基盤に揺らぎも

2020-04-26 23:00:29 | ロシア

(19日、官邸でロシア正教のイースターのお祝いメッセージを述べるプーチン大統領。【4月25日 ロイター】
安倍首相よりはくつろいだ表情にも。ただ、現状は余裕がある事態でもなさそうです)

【感染拡大が続くロシア 長引く外出制限】
欧州では新型コロナ感染拡大がピークを迎える国も出る中で、ロシアにおけ感染拡大は依然として高いレベルにあります。

****ロシア前日比5966人増 コロナ感染者****
過去24時間、ロシア全国で新たなコロナウイルス感染者が約6000人確認された。感染者の最多数はモスクワ市。ロシア・コロナウイルス感染拡大対策本部が発表した。

現時点でロシア全国のコロナウイルス感染者数は計7万4588人。死者は過去24時間で66人増え、681人となった。新たな感染者の48.9%に何の症状もみられなかった。

モスクワ市では過去24時間で新たに2612人の感染が確認された。(中略)感染者の伸び率を前日と比較すると、緩やかな増加傾向にある。4月24日には前日23日から2957人増え、25日には前日24日から2612人増えている。

モスクワ市長は4月21日、コロナウイルス感染者だけではなく、他の急性呼吸器ウイルス感染症の症状をもつ患者の居場所を電子的に追跡するよう指示した。(後略)【4月25日 Sputnik】
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プーチン大統領は新規感染者が4千人台前半とひと頃より減少した20日、当局者らとのテレビ会議で、措置実施にもかかわらずモスクワから80地域以上に感染が拡大したと指摘。感染拡大のペースを鈍らせたことを評価しつつも、「罹患率のピークはまだ来ていない」と警鐘を鳴らしていました。

上記Sputnikによれば、再び6千人ほどに戻っているようです。

****ロシアで感染5万人超、外出制限の延長判断へ *****
ロシア政府は21日、新型コロナウイルスの感染者数が5万人を超えたと発表した。

3月下旬から続く外出制限下でも感染拡大に歯止めがかからず、モスクワ市は同日、急性呼吸器感染症の症状がある市民を自宅隔離の対象にすると決定した。政権は4月末までとしている外出制限の延長を近く判断するとみられる。(後略)【4月22日 日経】
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【強まる国民不満 当局は抑え込みを図る】
長引く外出制限に国民の不満も高まっており、一部に混乱も出ています。

****長引く外出禁止反対デモ、ロシア 北オセチア共和国、約70人拘束****
ロシア南部の北オセチア共和国で23日までに、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためにロシア政府が今月末まで導入している外出禁止措置に反対するデモがあり、人権擁護監視サイト「OVDインフォ」によると69人が治安当局に拘束された。10人以上の治安当局者が負傷したという。
 
デモは共和国首都ウラジカフカスの政府庁舎前などで20日に発生。参加者は地元当局発表では約200人だが、2千人に達したとの情報もあり、外出禁止措置の撤廃や共和国トップのビタロフ首長の辞任を求めた。
 
ビタロフ氏はデモ主導者と面会、感染拡大防止のための自宅待機に理解を求めたという。【4月23日 共同】
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ロシア当局は、こうした抗議の封じ込めに新技術を用いるなど躍起になっていますが、国民の側も・・・。

****新型コロナ 露政権と住民がハイテク攻防 監視カメラで摘発強化 “仮想デモ”で抗議****
新型コロナウイルスの感染拡大により各地で外出制限が導入されているロシアで、政権側が監視カメラと顔認識システムを使った違反者の摘発を強化している。

これに対し、仕事の減少などで収入減に直面している住民らは、インターネット上で政権に抗議する「バーチャル(仮想)デモ」を実施。政権と住民の間でハイテクを駆使した攻防が繰り広げられている。

新型コロナ対策としてロシアは3月末、全国で自主隔離を導入。飲食店は店内営業を中止し、企業も在宅勤務に入った。感染者の過半数を占めるモスクワ市はより厳しい外出制限を発動し、違反者に罰金を科してきた。

しかし感染ペースは加速しており、最近は毎日数千人単位で感染が拡大。4月25日時点で感染者は7万4588人、死者は681人に上っている。
 
収束気配が見えない中、モスクワ市は15日、自家用車やタクシー、地下鉄など乗り物での外出時に許可証の携帯を義務化。許可証の取得には、車のナンバーや外出目的、外出先などを市に届け出る必要がある。
 
こうした状況下で、違反者のあぶり出しに活用されているのが、防犯を名目に街角や車道に多数設置されている監視カメラだ。街角の監視カメラはモスクワだけでも18万台あるとされる。

ロシアはこのカメラ網と最新の顔認識システムを活用し、新型コロナ感染者と接触したり、感染拡大地域から帰国したりして一定期間の外出禁止を義務付けられた住民の動向を監視。違反者は摘発している。
 
これに加え、モスクワ市は4月22日、車道に設置された2500台以上のカメラで、通行する車が許可証を取得しているか自動識別するシステムをスタートさせた。イタル・タス通信によると、この日だけで23万件の違反を確認。違反者は5千ルーブル(約7200円)の罰金が科せられるという。
 
先端技術を使って住民の行動を制限している政権側に対し、住民側もITを利用した抗議を始めた。
 
4月20日夕、露大手カーナビアプリの地図上で、露大統領府周辺が無数の丸印で取り囲まれる事態が起きた。このアプリには、利用者が地図上の特定地点を指定してコメントを書き込むと、そこに丸印が表示される機能がある。

本来は事故情報などを共有するための機能だが、この日は政権を批判するコメントが多数書き込まれた。数千人が大統領府を取り囲んだかのような様子を、露メディアは「前代未聞のバーチャルデモ」と報道。デモは自然発生したとみられている。
 
露政権の新型コロナ対策をめぐっては、企業や国民への経済支援が不十分だとの批判がある。書き込まれたコメントも「小規模ビジネスを支援しろ」「仕事に行かせてくれ」「公共料金を払い戻せ」といった切実なものが多かった。

アプリ運営側は目的外使用だとして同日夜までにコメントを削除。しかしその後も「言論の自由を封じるな」などとのコメントが相次いだ。【4月26日 産経】
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こうした厳しい状況で「善意」の取り組みも報じられています。

****困窮者を助けよう…露で「善意の棚」広がる****
新型コロナウイルスの感染が拡大しているロシアでは、仕事を失うなどして生活に困っている人たちを助けようというある取り組みが広がっています。

新型ウイルスに7万人以上が感染し、事実上の外出制限から1か月近くがたったロシア。食料品店など生活に必要不可欠な店以外は営業禁止が続いています。

ある店では、「善意の棚」と呼ばれる棚を設置。店側が、食料品など生活必需品を置いています。(中略)

この棚は、仕事を失った外国人労働者や年金生活者など厳しい生活を強いられている人たち向けに設置されたもので、食料品などを無料で持ち帰ることができます。(中略)

この棚には、市民の人たちも協力しています。
支援者「我々が支援を受けるべき一人一人の家まで行けません。少しでもサポートしたくて、自分のお金で少し食料品を買って置いています」

閉店前には空になるという「善意の棚」。外出禁止が長引き経済への影響が深刻化する中、モスクワ市内では設置する店が増えているということです。【4月26日 日テレNEWS24】
*******************

事態の悪化はプーチン大統領の求心力にも大きく影響しますが、政権側は批判を封じ込める方向で、なりふり構わぬ様相です。

****ロシア、医師に圧力 迫る医療崩壊、政権批判を警戒か 新型コロナ****
新型コロナウイルスの感染者が急増するロシアで、当局が、医療現場の窮状を訴える医師や支援団体への圧力を強めている。感染対策が後手に回っているという印象の拡大を避けたいためとみられる。

医療体制が崩壊する可能性も指摘されるなか、医師らは厳しい立場に追いやられている。

 ■物資不足の訴え、警察取り調べ
モスクワの内科医は19日、朝日新聞の取材に「検査をしていない肺炎患者も来るが、病院には医療用の防護マスクがない。業者も在庫不足で、私たちは自らの身すら守れない状態だ」と訴え、こう続けた。「でも、勤務先の院長はそれを公には話せない。言えばキャリアが終わるためだ」
 
ロシアメディアによると、国内各地で現場の窮状を訴えた医師らが当局の圧力を受けている。

ベドモスチ紙は、ロシア南西部カラチナドヌーの公立病院の医師が、人工呼吸器の不足をネット動画で訴えたところ、警察から「偽情報を流した」として取り調べを受けたと報じた。病院上層部が医師の行為を警察に通報したうえ、物資の不足も否定したという。
 
医師の労組「医師連合」の広報担当者は同院の対応について「病院の窮状は政権に都合の悪い情報だ。病院や政府の官僚は自分が責められるのを恐れている」と解説した。

同連合には各地の医療機関から防護マスクなどの補給要請が来るが、実際に届けようとすると、外出禁止令違反などの理由で警察に妨害されるケースが相次いでいるという。
 
政府によると、国内には4万台以上の人工呼吸器がある。ただ、使用中や故障中のものも多いとされる。医療従事者の感染も深刻で、インタファクス通信は、サンクトペテルブルクの感染症病院で医師や看護師ら131人が感染し、うち3人が重症で人工呼吸器を使っていると伝えている。

 ■感染者が急増、国内全土に
医療従事者からの批判に対する当局の圧力は、急速な流行への対応が追いつかぬなか、世論の反発の増幅を懸念しているためだ。
 
プーチン大統領は3月後半にあった経済界との会合で、「2、3カ月で終息するかも」と楽観論を述べていたが、今月20日の政府対策本部とのビデオ会議では一転して「状況は厳しい」と深刻な表情で訴えた。
 
国内の22日の感染者は累計5万7999人で、1日の約21倍まで急増。極東のカムチャツカ半島から北極圏の地方都市まで全土に広がる。すでに一部地域で、収入の途絶えた市民らから外出制限の緩和や休業補償を求める声もあがっている。
 
プーチン氏は感染の拡大を受け、政府や地方の知事らに対策の加速を求め、たびたびビデオ会議を開催。4月末までに10万床のコロナ患者専用の病床を整備する政府方針の進捗(しんちょく)を閣僚らに確認し、「対策が期日に間に合わなければ、犯罪的な怠惰と見なす」とまで迫っている。
 
ロシアでは22日、プーチン氏の次期大統領選への再出馬を可能にする憲法改正について、事実上の国民投票が予定されていたが、感染拡大で延期された。コロナ禍による経済の失速も避けられず、感染拡大をめぐる対応を誤れば、プーチン体制の維持に向けた道筋も狂ってくる可能性がある。【4月23日 朝日】
********************

このあたりの対応が、ロシア・プーチン政権の「強権支配」的な限界を示すものです。

【事態に有効にコントロールできていないプーチン大統領 原油価格暴落の経済苦境も重なって求心力低下も】
そうした「強権支配」体制にあっては、頂点に立つ者の判断が決定的に重要となってきます。
かつては国民から大きな信頼を寄せられていたプーチン大統領ですが、このところの憲法改正問題、暴落した原油価格問題、更に新型コロナ対応では明確な戦略が見えず、一貫性を欠くようにも見えます。

「安定の保証者だったプーチン氏こそが今やロシアのリスク要因」との声も。

****ちぐはぐコロナ対応、プーチン氏いまやロシアのリスク?****
最大2036年までの任期延長に向けて着々と動き出し、盤石に見えたロシアのプーチン大統領。その権力基盤が、急速に揺らぎ始めている。

20年もの間、権力の頂点に君臨するうちに現実感覚が薄れ、新型コロナウイルスの猛威を前に、不適切な判断や行動を繰り返しているという指摘も出ている。

さらに、これまでのプーチン政権下では経験したことのない経済的苦境に陥っている。安定の保証者だったプーチン氏こそが今やロシアのリスク要因、との見立てすら出てきている。

求心力の低下は、北方領土問題の今後にも影響を及ぼしそうだ。

権限強化、任期延長に道を開いたが、、
プーチン氏は当初、憲法改正に関して、大統領の3選禁止や首相選任などでの議会の役割を強化する方向を示唆した。

だが、3月にまとまった改正案は、むしろ下院の解散や憲法裁判所判事の解任などで大統領権限が強化された。プーチン氏の4期に及ぶ大統領任期がカウントされず、36年までの在任を可能にする改正案も最後に加えられた。

プーチン氏が合計36年もの間、実質的な最高権力者に居座り続けられる憲法改正案だった。

この憲法改正案は、今月22日に設定した「全ロシア投票」で賛成を得て成立するはずだった。プーチン氏は、大統領権限を強化する憲法改正を短期間で終え、圧倒的な政治力を見せつけつつ、自らのさらなる求心力の強化につなげることを意図したとみられる。

新型コロナ、原油暴落で暗転
だが、新型コロナウイルス感染症の急拡大により、プーチン氏が3月25日に全ロシア投票の無期限延期を決めざるをえなくなって、すべてが暗転した。

ロシアの有力紙「コメルサント」は「(プーチン氏の)20年間の統治で初めて自分のシナリオ通りでなく、状況に振り回される事態となった」と評した。
 
原油価格の急落も追い打ちをかけた。プーチン氏はサウジアラビアとの対立により、石油輸出国機構(OPEC)との原油の協調減産から抜ける決断をした。

ところが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、原油の需要が急減。原油価格は、プーチン氏が大統領に就任した20年前の水準まで下がり、ロシアはかつてない経済的な苦境に陥っている。

新型コロナウイルス対策をめぐっては、政権内の足並みの乱れも目立つ。
 
たとえば、ソビャニン・モスクワ市長は、地方構成体の長らでつくる国家評議会を足場に、外出制限に基づく隔離策を強力に推し進めている。

一方、ミシュスチン首相は隔離策が経済に与える悪影響を恐れ、生産や社会のシステムを一定程度保つことを重視し、対立が続いているといわれる。
 
ところが、プーチン氏は両者を調整する労をほとんど取らずにいるという。(中略)

5月9日に予定されたモスクワでの対独戦勝記念式典でも、1万3千人もの軍人が密集して行進する軍事パレードなどの実施にこだわり、今月16日まで延期を決めなかった。

「プーチン氏は側近の経営する石油会社の救済のため、業界全体の反対を押し切って原油の増産に踏み切った。憲法改正も自らの利益のために始めた。現実感覚を失って突発的に行動し、制度の基盤を損なうことも辞さない。今や、リスクの源と化している」
 
ロシアの政治を長く追ってきたジャーナリスト、アンドレイ・ペルツェフ氏は、現状をこう分析する。(後略)【4月26日 朝日】
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プーチン大統領の判断にかつてのような切れがなくなっているとしても、容易に「ポスト・プーチン」の展望が描けないというあたりが、強権支配体制の欠陥のひとつです。

原油価格暴落も大問題です。

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ロシア経済の命綱である石油の価格は、過去約20年で最低の水準に落ち込んだ。ルーブルは現在、世界で最も下落している通貨の1つだ。

ロシア最大手行の予想では、原油価格が1バレル=10ドルを割り込むと同国の国内総生産(GDP)は15%下押しされる恐れがある。(中略)アレクセイ・クドリン元財務相は、失業者数が年内に3倍以上に増え、800万人に達すると予想した。(中略)

ロシア国立研究大学経済高等学院のセルゲイ・メドベージェフ教授は「あらゆる要素が相まって、プーチン氏は執政20年間で最大の試練に見舞われている」と言う。 

「景色が一変した。安定が損なわれ、プーチン氏の権威はがた落ちとなり、(政界・財界の)エリート層は造反を画策しているかもしれない。今後1年間、政権は生き残りモードに入る」 (後略) 【4月25日 ロイター】
******************

充分な野党勢力がないロシアでは直ちに政権の危機にはつながらないでしょうが、経済的な苦境と新型コロナ対応への不満はプ-7チン大統領への国民支持低下を招き、政権の求心力低下をまねくことが予想されます。

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ロシア  急速に進む新型コロナの感染拡大 外出時のQRコード義務化 自宅での検査 帰国難民も

2020-04-16 22:55:22 | ロシア

(道路を消毒する車両。モスクワで撮影【4月13日 NHK】)


【「事態は制御下にある」から一転、対策に追われる】
世界各地で感染拡大が続く新型コロナはロシアでも。

****ロシアで新たに3448人感染 計2万7938人に 新型コロナ****
ロシアでは過去24時間で新たに3448人が新型コロナウイルスに感染した。これでロシアの感染者数は計2万7938人となった。16日、新型コロナウイルス緊急対策本部が発表した。

新たな感染者はロシアの78地域で確認された。最も多かったのはモスクワ(1308人)、モスクワ州(467人)、サンクトペテルブルク(154人)。死者数は計232人、回復した人の数は2304人。

なお、ロシア保健省は、すべての予防策が遵守された場合の感染者数が減少する時期については、モスクワで6~7月、流行のピーク時期については、4月末から5月上旬に訪れるかもしれないとの見方を示している。【4月16日 SPUTNIK】
*******************

ロシアでの感染拡大を推測させるのが、ロシアから中国への帰国者の状況です。

****中国のコロナ新規感染89人=79人はロシアから黒竜江省へ****
中国政府は14日、新型コロナウイルスの有症感染者の累計が同日午前0時(日本時間同1時)時点で前日比89人増の8万2249人になったと発表した。

増加分は広東省内での感染が確認された3人以外は海外からの入国者で、このうちロシアから黒竜江省に陸路で入った帰国者が79人を占めた。
 
黒竜江省政府によると、入国者の感染確認は累計326人となった。ロシアからの感染者帰国が相次いでおり、中国政府や同省は警戒を強めている。【4月14日 時事】 
******************

ロシアは3月末頃までは、「事態は制御下にある」(プーチン大統領)としていました。

****感染防止へ…ライオン500頭を街中に?露****
ロイター通信が掲載したSNSの画像が物議を醸しています。
街中を歩いているライオンと「速報」の文字。なんと、「プーチン大統領が500頭のライオンを街に放った」と書かれています。

その理由は、「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためライオンを放ち、人々に外出をとどまらせるため」だというのです。

SNSでは「なんてこと」「隔離措置が終わったあとはどうなるんだ?」など驚きの声。
しかし、ロイター通信によりますと、(中略)完全に嘘のニュースだったのです。

このフェイクニュースにロシアのザハロワ報道官は、「大統領がライオンを放ったという冗談は面白いがロシアには普通にクマがいるので大丈夫です」とコメント。普段から街にクマが出るのでライオンを放つ必要はないと一蹴しました。【3月30日 日テレNEWS24】
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上記ザハロワ報道官の対応など、まだ余裕が見られました。
“ロシア、米に医療機器・防護用品を空輸へ…プーチン氏が提案”【4月1日 読売】といった対応にも余裕が感じられました。

しかし、水面下で事態悪化が進行し、モスクワ市長が公式発表数字より事態は深刻であることをプーチン大統領に示す異例の対応も。

****モスクワの新型コロナ感染は見かけよりはるかに深刻=市長****
モスクワのソビャニン市長は24日、病院の視察に訪れたプーチン・ロシア大統領に対し、市内の新型コロナウイルス感染者数は公式発表をはるかに上回っているとの認識を示した。

市長は大統領の側近。広大なロシア国内で新型コロナがどの程度拡大しているか完全に把握できていない現状が浮き彫りとなった。

これまでにロシアで確認された感染者は495人、死者は1人で、西欧主要国の死者・感染者をはるかに下回っている。

大統領は先に事態は制御下にあると発言したが、一部の医師は公式発表がどの程度現実を反映しているかを疑問視している。

政府は24日、拡大抑制策としてナイトクラブ、映画館、児童向け娯楽施設を閉鎖した。
ソビャニン市長は大統領との会談で、「深刻な事態が進行している」と発言。感染の実数は不明だが、急速に増加しつつあると述べた。【3月25日 ロイター】
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その後の推移を見出しでなぞると

“モスクワ市も外出禁止拡大 30日以降、全市民対象 新型コロナ”【3月30日 毎日】
“ロシア、新型コロナで国家非常事態宣言を検討=関係筋”【4月2日 ロイター】
“ロシアが市民監視強化 コロナ対策、目的外利用の懸念 位置情報や顔認証カメラ”【4月2日 毎日】
“プーチン氏、非労働期間を延長 ロシアでコロナ感染者急増”【4月3日 AFP】
“ロシア、新型コロナ感染者が1万人突破 新規の判定が過去最多に”【4月10日 ロイター】
“モスクワが正教会の復活祭礼拝を規制、新型コロナ感染拡大で”【4月13日 ロイター】
“ロシアの新型コロナ状況悪化、対応に軍隊動員検討=大統領”【4月14日 ロイター】
“モスクワ市、数週間以内に病床不足の恐れと警告”【4月15日 ロイター】

【外出時のQRコード原則義務化は初日は混乱】
そうした事態が切迫するなかでの対応の一つが外出時のQRコード義務化。

****露モスクワ 外出にQRコード原則義務化へ****
ロシアのモスクワでは、新型コロナウイルスの感染拡大をうけ、外出禁止措置が強化されることになり、外出の際には原則、事前にQRコードを入手することが義務づけられることになりました。

QRコードは電子通行証に表示されるもので、13日から始まった申し込みでは、スマホやパソコンを使って、外出の理由のほか、電話番号、年金番号といった個人情報など必要な情報を登録します。外出時にQRコードのある通行証がなければ、罰金を科せられる可能性があるということです。

新型コロナウイルスのロシアでの感染者数は1万8000人を超え、そのうち約6割がモスクワ市に集中しています。事態を重くみたモスクワ市が外出禁止措置の強化に踏み切った形で、QRコードの携帯は15日から原則義務化されます。【4月14日 日テレNEWS24】
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でもって、15日から実施したところ・・・・

****モスクワの地下鉄駅に利用者が密集…外出許可の確認作業が追い付かず****
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、外出が原則禁止されているロシアの首都モスクワ市で15日朝、地下鉄駅に長蛇の列ができるなど混乱が起きた。
 
モスクワ市は15日、やむを得ない理由で地下鉄やバス、車を利用する人に「外出許可証」としてQRコードを配信し、警察官がチェックする制度を開始した。

しかし、利用者の多さに確認作業が追い付かず、露有力紙ベドモスチ(電子版)によると、複数の地下鉄入り口で大勢が密集する状況が生じ、駅構内に入るのに30〜40分かかったケースもあったという。
 
ソビャニン・モスクワ市長は15日、ツイッターに「非常に危機的な状況」と書き込み、改善策を講じると強調した。

市中心部に向かう幹線道路でもこの日、QRコードをチェックする検問待ちで数十キロ規模の渋滞が発生したという。【4月16日 読売】
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QRコードチェックで大密集ができたら本末転倒です。
おそらく、次第に運用も改善されていくのでしょう。

【看護師派遣で自宅で検査 検査件数は大幅増加】
韓国を筆頭に各国が検査態勢を拡充している中で、なぜか一向に検査態勢が改善しない(あるいは、改善する気がない)日本ですが、ロシアでは自宅への看護師派遣・検体の自己採取で検査数を大幅に増やしているとか。

****ロシアが新型コロナ訪問検査、自分で採取→看護師が持ち帰り****


新型コロナウイルスの感染者が急増しているロシアでは、感染の有無を診断する自宅訪問検査が始まりました。
 
新型コロナウイルスの感染者数が1万8000人を超えているロシア。首都モスクワで6日からロシア政府の研究機関が希望者に対し、看護師を派遣する形で新型コロナウイルスの訪問検査を始めました。
 
TBSのモスクワ支局がインターネットを通じて検査を申し込みました。 感染防止のため、看護師は検査キットを訪問先の扉にかけ、手渡しはしません。
 
「さて、この袋の中に試験管の入った小さい袋、それと別の袋に綿棒があります」(訪問検査に訪れた看護師)
 診断用の検体採取も看護師ではなく、申込者本人がめん棒で、のどの奥をこすります。検体が付着しためん棒の先端を試験管に入れ、それをビニール袋で三重にして密封します。
 
「私は離れますが、ドアノブに袋をかけてください」(訪問検査に訪れた看護師)
 
看護師が検体を持ち帰るまで訪問時間は5分、費用はおよそ2800円。検査結果は後日、メールで送られてきます。 
 
6日に検査受け付け開始以降、すでに1万6000件の申し込みがあり、135人の看護師がフル稼働で、モスクワで1日最大2500人を訪問するといいます。(中略) 

ロシアでは、こうした訪問検査も含め日本が2月中旬以降行ったPCR検査数のおよそ10倍の、およそ130万件の検査がすでに行われています。

感染者を特定して早期に隔離措置をとるため、ロシア政府は、誰でも簡単に受けられる、この訪問検査を積極的に活用したい考えです。【4月14日 TBS】
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【羽田にロシア人帰国難民】
先述のロシアからの中国への帰国者がウイルスを持ち込むことに中国側が警戒を強めている話、中国メディアでは「帰ってくるな」とも。

****中国、ロシア国境で新型コロナ対策強化 渡航者からの感染封じ込め****
(中略)共産党機関紙・人民日報傘下の有力紙「環球時報」は社説で、ロシアから渡航した感染者は計409人と、海外から持ち込まれた感染例で最多となっていると指摘。同国に滞在中の中国人は帰国すべきでないと論じた。

また「ロシアは海外から持ち込まれる感染の封じ込め失敗を示す新たな例として警鐘を鳴らすものだ」とし、「中国は感染者の流入を厳しく阻止し、感染第2波を防ぐ必要がある」と強調した。(後略)【4月14日 ロイター】
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「帰ってくるな」は中国だけでなく、ロシアも同様のようです。羽田には帰国できないロシア人が1週間空港内で寝泊まりする状態になっているとか。

****国際線運休 羽田空港にロシア人25人が1週間足止め *****


新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日本各地とロシアを結ぶすべての国際線が運休している影響で、羽田空港には仕事で訪れていたロシア人25人が1週間にわたって足止めとなっています。

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて羽田空港では、モスクワやロシア東部のウラジオストクなどと結ぶ定期便が今月8日以降、すべて運休しています。

このため、8日以降のウラジオストク行きの便に搭乗する予定だったロシア人、合わせて25人が出国できなくなり、羽田空港の第3ターミナルで足止めとなっています。

25人はターミナルのロビーで寝泊まりしていて、これまでのところ体調不良を訴える人などはいないということです。

国土交通省によりますと、国内からは羽田や成田、それに新千歳などからロシア各地への定期便が運航されていますが、これまでにすべて運休となり、再開の見通しはたっていないということです。

ウラジオストクの貿易会社から出張で大阪府を訪れていた39歳の男性は、「ロシアにいる家族も心配して航空会社に問い合わせてくれていますが、対応してもらえません。ここには糖尿病の持病がある仲間もいるので体調が心配です」と話していました。

ほとんどが仕事で訪日した極東の人たち
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ロシア政府は先月27日から国際線の定期便の運航を停止しています。

これを受けてロシア政府は、仕事や観光で国外に滞在しているロシア人を帰国させるため、各国にチャーター機を派遣していて、12日には羽田空港から首都モスクワに向けて運航されたチャーター便で、ロシア人観光客などおよそ180人が帰国しました。

しかし、このチャーター便に乗ることが許可されたのは、モスクワやその周辺に自宅などがある人のみで、座席の数にもかぎりがあることから、東京にあるロシア大使館によりますと、現在もおよそ400人が帰国のめどが立たず、都内周辺のホテルなどに滞在しているということです。

羽田空港のロビーで寝泊まりしているのはロシア極東の人たちで、ほとんどが仕事で日本を訪れ、今月9日にロシアの航空会社が運航する便で、ウラジオストクに帰る予定でしたが、直前に欠航となり、所持金もほとんどないことから、空港にとどまり続けているということです。

現在は日本に住むロシア人が、ボランティアで食料を届けて支援しているということです。

自動車輸入関連の仕事でウラジオストクから訪れ、今月9日から羽田空港に滞在している、マクシム・トゥマノフさん(31)は「泊まっていたホステルが閉鎖され、ホテルも高くて泊まれないので空港にとどまるしかありません。家族も心配しています。早く帰りたいです」と話していました。

トゥマノフさんたちは13日、手書きの請願書をロシア大使館に提出し、早期の帰国を求めていて、大使館では宿泊先の提供や医療面の支援などを進めたいとしています。【4月14日 NHK】
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ロシア  実際の感染は公式発表をはるかに上回る? そのなかで改憲国民投票強行の姿勢だったが・・・

2020-03-25 23:18:51 | ロシア

(病院を訪問したプーチン大統領【3月25日 ロイター】 もっとも、プーチン大統領は過去に“影武者”計画があったことを認めていますので(実際には使ってはいないそうですが)、ひょっとしたら影武者かも)


【モスクワ市長、市内の感染者数は公式発表をはるかに上回っているとの認識】
世界各地で猛威をふるう新型コロナ、これまで感染爆発はなんとか持ちこたえてきた日本も、今日東京で新たに40人の感染者とか聞くと、この先の不安も感じます。

そうしたなかで“不思議に”感染者が少ないのがロシア。
これまで感染者495人、死者1人とか・・・本当かね? トルコメディアは以下のようにも。

****【新型コロナウイルス】 ロシアで事実隠ぺいか****
ロシアで新型コロナウイルス感染症の真の次元が隠蔽されており、症例が「肺炎」と記録されていると主張された。
 
ロシア医師組合連合のアナスタシア・ワシリエワ会長は映像を公表し、同国の新型コロナウイルス感染症に関する状況に見解を述べた。

新型コロナウイルスの真の次元が隠蔽されていると主張したワシリエワ会長は、医師たちは実際の状況を隠ぺいし、保護具が不足していることに関して沈黙を強いられている。我が国が危険にさらされている。これは当局の愚行である」と述べた。

医師たちは保護具を身に着けずに患者の治療に当たることを余儀なくされていると主張したワシリエワ会長は、
「医師にウイルスに対して全世界で使用されている保護具が配布されていないことは、国民に対する犯罪である」と見解を述べた。【3月23日 TRT】
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医師組合連合の会長の発言以上に重みがあるのが、下記のモスクワ市長のプーチン大統領への発言

****モスクワの新型コロナ感染は見かけよりはるかに深刻=市長****
モスクワのソビャニン市長は24日、病院の視察に訪れたプーチン・ロシア大統領に対し、市内の新型コロナウイルス感染者数は公式発表をはるかに上回っているとの認識を示した。

市長は大統領の側近。広大なロシア国内で新型コロナがどの程度拡大しているか完全に把握できていない現状が浮き彫りとなった。

これまでにロシアで確認された感染者は495人、死者は1人で、西欧主要国の死者・感染者をはるかに下回っている。

大統領は先に事態は制御下にあると発言したが、一部の医師は公式発表がどの程度現実を反映しているかを疑問視している。

政府は24日、拡大抑制策としてナイトクラブ、映画館、児童向け娯楽施設を閉鎖した。

ソビャニン市長は大統領との会談で、「深刻な事態が進行している」と発言。感染の実数は不明だが、急速に増加しつつあると述べた。【3月25日 ロイター】
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市長が公式発表数字を否定するというのも珍しい話ですが、上記記事の印象ではモスクワでは相当な感染拡大が懸念される状況にあるようにも思えます。

ただ、ロシアメディアによると、モスクワ市長は“感染者数は500人に達する恐れがある”としていると報じており、そのくらいの数字なら現在の世界の状況からすれば“制御下にある”と言えるレベルかも。

****ロシア 全土で新たに57人が感染****
ロシア全土の14の地域で24日はこれまでのところ新たに57人の新型コロナウイルス(COVID-19)の感染例が確認されている。ウイルス対策緊急本部が発表した。

これにより、ロシアで確認された感染者数は495人にのぼった。また24日にかけての一昼夜で22人が完治し、退院している。

中でも最も感染拡大が進んでいるのは首都モスクワ。同市のソビャニン市長は感染者数は500人に達する恐れがあるとし、感染者の大多数は外国から入国した市民でウイルス検査を受けようとはせず、帰国後、そのまま自宅ないしは郊外のセカンドハウスで自主的に隔離状態にあるとの見方を示している。

ソビャニン市長はプーチン大統領に健康問題について報告した中で、今週末までにモスクワでは1日あたり1万3千件のウイルス検査を実施することをあきらかにした。【3月25日 SPUTNIK】
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【プーチン政権 求心力が低下する前に、改憲国民投票強行 プーチン氏の5選も可能に】
実際のところ、どの程度感染が拡大しているかはわかりません。

そうした状況で、政権は憲法改正の是非を問う国民投票を予定通り4月22日に実施するようです。
例の、プーチン大統領の5選も可能にする改憲です。

次期は憲法上立候補できないプーチン大統領が、憲法改正で大統領権限を弱め、別の役職について院政をしくのでは・・・と、当初は見られていましたが、急にテレシコワ下院議員(懐かしい女性ですね。人類初の女性宇宙飛行士です)の追加改憲案で、プーチン大統領の5選も可能とされています。

テレシコワ議員が突然勝手に提案することはありませんので、当然にプーチン大統領のシナリオに沿った提案でしょう。

改憲後、実際にプーチン大統領が次期大統領選に出馬するかどうかは明らかにされていません。

****露政権、コロナ横目に改憲国民投票強行へ 求心力低下に危惧****
ロシアのプーチン政権は、国内で新型コロナウイルス感染が広がりつつある中でも、憲法改正の是非を問う国民投票を予定通り4月22日に実施する構えだ。

政権にとって現状での投票実施は投票所で感染が拡大して批判を招いたり、投票率が低下したりするリスクとなる。

それでも政権が国民投票を急ぐ背景には、露経済が今後さらに悪化するとの観測も出ている中、求心力を失う前に手続きを済ませ、改憲の正当化と既成事実化を図る狙いがある。
 
1月にプーチン大統領が提出した改憲法案は既に議会で可決され、国民投票で投票者の過半数が支持すれば発効する。政権側は改憲の正当性を示すために有権者の「6割投票・7割支持」を目標にしているとされる。
 
一方、新型コロナウイルスの感染者数はロシアでも増大。3月16日は100人以下だったが、22日には400人を超えた。検査精度の低さや検査態勢の不備も指摘され、実際の感染者数はもっと多いとみられる。
 
政権側は感染予防対策として大規模イベントを禁止するなどしてきた。それにもかかわらずプーチン氏は17日、国民投票を4月22日に行うとする大統領令に署名。

プーチン氏は「(実施は)状況が許せばだ」と延期の可能性も示唆する一方、「投票所の各記入台の距離を取るなどの予防措置を講じる」とし、予定通り実施したい考えを示した。
 
現在の状況で国民投票を実施した場合、感染を恐れる有権者が投票を控えることが想定され、高い投票率での新憲法成立を望む政権にとっては痛手となる。
 
それでも政権が国民投票を急ぐ背景には、プーチン氏の5選を可能にする改憲への批判的世論が強まる前に改憲を既成事実化する思惑があるとみられている。
 
さらに今月、原油協調減産をめぐる露・サウジアラビア間の協議が決裂し、露通貨ルーブルは1米ドル=60ルーブル台から約80ルーブルに急落。今後、経済状況や家計が悪化して国民からの求心力が弱まるとの危機感も政権を焦らせる要因となっている。
 
露経済紙ベドモスチは19日付の社説で、4月22日の国民投票実施を決めた政権を「ロシアでは政治が人々の安全より重要だということを示した」と揶揄(やゆ)した。
 
ただ、感染がさらに拡大した場合、国民投票が延期される可能性も残っている。露中央選挙管理委員会は3月末にも実施か延期かを最終判断する方針だ。【3月25日 産経】
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「6割投票・7割支持」・・・投票する者はおそらく多くが支持するでしょうから7割支持は問題ないでしょう。
問題は6割投票です。

これまでの選挙でも、政権はこの投票率を上げることに躍起になっていましたので、新型コロナ蔓延となると・・・・どうでしょうか、政権としても判断が難しいところでしょう。

【政権側、ニセ野党演出で反政権票分散を目論む?】
ロシアでは、今年9月には統一地方選、来年9月には下院選が予定されています。

政権側は、過去の選挙でもわざわざ(政権側を脅かすようなものにはならない)対立候補擁立を後押しして、国民の選挙への関心を高め、いかにもまっとうな選挙戦が行われたような形を演出するといったことをやってきましたが、今後の選挙においても似たような疑似野党をつくるようです。反政権票分散の目論見とも。


****ロシアで新党乱立、ニセ野党か 「反政権票分散」の見方****
ロシアで新たな政党をつくろうとする動きが相次ぎ、この半年での届け出が30件を超えた。地元有力メディアは、新党を乱立させて「反政権票を分散させる」とする大統領府関係者の発言を報道。来年9月に下院選を控え、政権側による選挙戦略ではないかとの見方が広がっている。
 
モスクワで10日、環境政党「緑の選択」の設立総会があった。党首に選ばれたルスラン・フボストフ氏(35)は、地球温暖化の抑止などを掲げ「下院選で議席をとり、環境問題で波を巻き起こす」と訴えた。夏までに政党の認可を受け、今年9月の統一地方選にも候補者を擁立するという。
 
同党は、環境保護を前面に打ち出して欧州で存在感を増す「緑の党」を連想させる。だが、ロシアの主要独立系メディアは「緑の党のイミテーション(偽物)」と呼び、政権の支援を受ける官製野党の一つだと伝えている。
 
ロシアでは、政権による野党勢力への締め付けが続いており、新党設置には高いハードルが課されている。モスクワの選挙監視団体「ゴロス」のアルカジー・リュバレフ氏は「新党設立には最低でも8カ月はかかる」と指摘。9月の統一地方選までに認可された場合は、政権の関与があった疑いが強いとみる。
 
有力紙ベドモスチ紙は、「大統領府は多数の新党を設立し、反政権票を分散させようとしている」と語る大統領府関係者の発言を報道。

他の大手紙も「緑の選択」を含む複数の新党の名前を挙げ、政権に批判的な都市部の中間層をひき付け、既存野党の得票を減らす狙いがあるとしている。
 
プーチン大統領は、大統領任期を2期までとした憲法改正案で、自身は任期が終わる2024年以降も大統領選に出馬できる例外規定を設けた。去就は「国民の気持ち次第」と含みを持たせているが、何らかの形で権力を維持するためにも、議会での与党の過半数維持が必須になっている。【3月22日 朝日】
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政権側が関与するのは、政権を脅かすような存在にはならない「野党」であって、アレクセイ・ナワリヌイ氏のような脅威となる可能性がある存在は徹底した封じ込めが行われます。

****反プーチン運動再燃も  ロシア改憲案、大統領5選可能に*****
(中略)「反プーチン運動」の指導者の一人で15年2月に殺害されたネムツォフ元第1副首相を追悼する行進が今年2月29日にモスクワであった。

2万人以上に達した参加者からは今回の憲法改正案について「一人の権力者が勝手に変えてよいのか」との批判の声が上がった。

モスクワでは10日、新型コロナウイルスの感染拡大を警戒して、大規模な集会の開催が禁じられた。

だが、政権の長期化が経済の停滞や欧米との対立を招いたとの不満は都市部の有権者を中心に根強く、市民が「反プーチン運動」に再び動く可能性はある。

参加者と治安部隊の衝突が繰り返される事態が再現されれば、プーチン氏が24年に向けて最も重視する「安定」も損なわれかねない。【3月13日 日経】
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反プーチン運動再燃についていえば、新型コロナは政権側に集会禁止の理由を与え、感染の不安が参加者をひるませるということで、香港の反中国デモ同様に、政権側に“吉”となっています。

もちろん対応に失敗して感染が拡大すれば、“凶”に転じることも。

 

【追加】

ブログをアップしてニュースを確認したところ、改憲国民投票を延期したとの記事がありました。

ときどき、アップ直後に状況が変わっているということがあります。

 

****露、新型コロナで改憲国民投票延期 政権批判リスク考慮****
ロシアのプーチン大統領は25日、国営テレビで演説し、新型コロナウイルス対策を理由に、憲法改正の是非を問う国民投票を予定日だった4月22日から延期する必要があると表明した。ロシア経済の悪化観測が出ている中、プーチン政権は求心力が低下する前に国民投票を済ませて改憲を果たす構えだった。しかし国民投票を通じて感染が拡大した場合、政権批判の強まりを招くなど、政権にとってより痛手になると判断したもようだ。
 

プーチン氏は「最優先されるのは国民の健康だ」とし、国民投票の延期の必要性を強調。新たな期日は専門家の見解や感染状況に応じて決定されるとも述べた。露中央選挙管理委員会も延期に同意した。(中略)


露政権は改憲の正当性を示すため、国民投票では「有権者の6割投票、7割支持」を目指してきたとされる。しかし国民が感染拡大に神経質となっている中で国民投票を強行した場合、投票率や支持率が低下する恐れがあり、プーチン氏はそうしたリスクを考慮したとみられる。【3月25日 産経】

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