(基地に出発するため、家族と別れを告げるロシア予備兵。彼を待つ運命は……(9月28日)【10月1日 Newsweek】 戦地に向かう兵士というのは、いつの時代でも、どこでも切ない)
【東・南部4州のロシア編入を強行するも、戦局は一層苦境に】
ウクライナ南部ヘルソン州とザポロジエ州の「独立」を問う「住民投票」なるものが行われ、その結果として「独立」をロシアが承認、更に東部ドネツク、ルガンスク両州を併せた東・南部4州の「独立国」からの要請を受けてロシアに編入・・・という一連のプーチン政権の暴走は周知のところです。
プーチン政権はもともと、ロシアへの編入を問う住民投票は棚上げする方針だったとも指摘されています。
戦況で苦戦する中、住民投票を実施して併合に踏み切っても、占領地の安定を保てないと判断していたためというのがその背景。
住民投票の実施を強く求めていたのは、プーチン政権ではなく占領地の親ロシア派だったとも。
ウクライナ軍のハリコフ州での反転攻勢を受けて親ロ派は、プーチン政権が占領地を見捨てないことの証しを求めた・・・ということです。
プーチン政権は占領地の親ロ派の動揺を抑えた上で、国民の愛国心をかき立て、兵力不足が露呈している戦況を立て直すための動員体制への口実を作る必要に駆られたという側面もあります。【10月1日 日系メディアより】
21日には部分動員令を発令して、約30万人の予備役を動員する措置を推し進めています。
しかし、ウクライナの戦況は上記のロシア側の動きに逆行するかのように、ロシアにとって更に悪化しています。
****東部要衝リマン奪還を宣言 ゼレンスキー大統領****
ロシアによるウクライナ侵略で、露国防省が1日に東部ドネツク州の鉄道交通の要衝リマンから露軍部隊を「より有利な防衛線」まで撤退させると発表したことを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領は同日のビデオ声明で、リマンの事実上の奪還を宣言した。
同氏は「この1週間でドンバスにひるがえるウクライナ国旗が増えた。次の1週間でさらに増えるだろう」と述べ、反攻を加速させる意思を表明した。
リマンはウクライナ軍が1日までに包囲をほぼ完了したと発表していた。露軍は東部ハリコフ州に続き、全域の制圧を目指す東部ドンバス地域(ドネツク、ルガンスク両州)でも後退に追い込まれた形で、苦境が改めて顕著となった。(中略)
(英国防省は)戦略上の要衝であるリマンの喪失で、露軍は目標達成がいっそう困難になると予測した。
英国防省はさらに、リマンはプーチン露大統領がロシア編入を宣言したウクライナ4州のうちの一つであるドネツク州に位置するとし、直後のリマンの喪失は「ロシアにとって政治的にも大きな後退だ」とした。【10月2日 産経】
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【杜撰・強引な動員で混乱拡大 プーチン大統領の国内評価も下がる】
一方の、ロシアの動員はかなり強引に行われ、多くの混乱、徴兵忌避者の大量国外脱出を引き起こしていることは多くの報道のとおりです。 プーチン大統領も“過ち”を認める事態に。
****対象外の人も招集 露プーチン大統領、動員に“過ち”で修正指示「今後あってはならない」****
戦闘への部分的な動員をめぐり、プーチン大統領は、対象外の人が招集されるなど過ちがあると指摘し、修正するよう指示しました。
プーチン大統領は、29日に開かれた安全保障会議で動員の対象とすべきではない人が招集されていると指摘し、「多くの疑問が生まれている。過ちは修正すべきだ」と述べたということです。さらに、「今後このようことがあってはならない」と述べたうえで、詳細を調査するよう指示したということです。
混乱が広がっていることに、歯止めをかけたい思惑があるとみられます。
部分的な動員をめぐっては、ロシアの独立系世論調査機関が29日に公表した調査で、ロシア国民の47%が「不安」や「恐怖」だと受け止めているとしたほか、「怒り」を示す人が13%だとしています。
動員令の発表以降、ロシアから周辺国に脱出する人は今もあとをたたず、CNNはすでに20万人以上が出国したと伝えています。
ロシアと国境を接するフィンランドは、30日からロシア人の観光目的での入国を禁止するなど、流入を大幅に制限する措置に乗り出しています。【9月30日 日テレNEWS】
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プーチン大統領に対するロシア国内の評価にも変化が見られます。
****プーチン大統領の仕事への肯定的評価、侵攻後初めて80%下回る****
ロシアの独立系世論調査機関は28日、プーチン大統領の仕事に対する肯定的な評価が、ウクライナ侵攻後初めて80%を下回ったと発表しました。部分的動員令の影響と分析しています。
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」の発表によりますと、プーチン大統領の仕事に対する9月の肯定的な評価は、前の月から6ポイント下がり、77%でした。
ウクライナ侵攻後の3月から、肯定的評価は毎月82%〜83%で推移してきましたが、ここに来て変化があらわれた形です。
一方、否定的な評価は6ポイント上昇して21%となり、侵攻後初めて20%を超えました。(後略)【9月30日 日テレNEWS】
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減少したとは言え、77%とまだまだ高い肯定評価ですが、今後この数字がどのように動いていくのか注目されます。
【泥縄の動員実態 銃創の止血にはタンポン、それも自己調達】
それにしても、ロシアの動員対応には“泥縄”的な混乱ぶりが目立ちます。
銃創(銃による傷)には、妻や彼女、母親からもらったタンポン(生理用品)を詰めろというのは・・・・「タンポン詰めるにしても、軍が支給しろよ!」という感も。
****銃創の止血にはタンポン、兵舎はまるで収容所、戦わずして死にそうなロシア徴集兵****
<予想もしない突然の招集に加えてこれほど悲惨な扱いで、戦える人間がいるのだろうか>
新たに戦闘に動員されたロシア兵たちがいかに厳しい状況に置かれているかを示すさまざまな動画が拡散されている。食料や備品も不足するなか、銃弾で負傷した兵士が、止血にタンポンを使えと指示される有様だ。
Ukraine Reporterがツイッターに投稿した動画では、1人の徴集兵が、自分たちの状況に不満を訴えた動画のせいで、所属部隊が罰を受けていると語っている。
2日前に撮った「不満」動画のあとに起きたことを報告する内容だ。「状況はさらに悪くなる、と警告された。今日は、トイレの使用が制限された」。食料と水も与えられていない、と兵士は続けた。「まるでどんどん膨張する強制収容所のような様相だ」
また別の動画では、シベリア南部のアルタイ地方にいる部隊の女性上官が徴集兵たちに向かって、薬や止血帯を含めたあらゆるものを買っておけと話している。上官は言う。「防護具と軍服は支給されるが、それ以外は何もない」
撃たれた傷の治療には、女性用タンポンを使えとも話している。「銃弾による傷を負った場合は、(タンポンを)傷口にじかに詰めれば、(タンポンが)膨らみ始める」「必ず安いタンポンを買うように」と上官は言う。「自分の身は自分で守れ」
ベラルーシの報道機関ネクスタがツイートした「徴集兵の冒険パート1」というタイトルの動画は、兵士やバックパックなどの荷物でほぼ立錐の余地もない兵舎での、スペース争いを垣間見ることができる。
ウクライナ軍の反転攻勢でロシア軍が膨大な損失を被った後、ウラジーミル・プーチン大統領は9月21日、深刻な人員不足を補うための予備役の「部分的動員」を発表。事実上は誰が招集されるかもわからないことも相まって、ロシア国内では怒りと衝撃が広がっている。
ロシア政府は予備役30万人を召集する予定だと発表したが、ここ数日の動画からは、動員現場は混乱を極めており、酔っぱらいの徴集兵を映した動画も拡散されている。
プーチンの動員発表後、男性たちが召集を逃れようとしたことから、ロシアとジョージアの国境には、長さ6マイル(約9.7キロ)におよぶ車列ができた。
ウクライナレポーターが9月25日にツイートした動画には、コーカサス地方で起きた騒動の様子がとらえられている。「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」という説明が添えられている。
「秩序回復のために(プーチン直属の武装部隊)ロシア国家親衛隊が派遣されたが、抗議活動は勢いを増しつつある、と地元の情報筋は伝えている」とツイートには書かれている。【9月28日 Newsweek】
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20万人以上が出国したという状況に対しては、強引に止めると暴動に発展する危険があるため国境封鎖出来ないとも。 “予備役逃れ殺到、国境封鎖できず=招集令状撤回の動きも―ロシア”【9月29日 時事】
(なお、かつてロシアと戦火を交えた受入れ側のジョージアには強い反ロシア感情がありますので事態は複雑ですが、今回はパスします)
「ダゲスタン共和国で起きた、ロシアの動員に対する激しい抗議」に関しては、ロシア人マジョリティの反感を抑えるため、動員を少数民族に集中させる姑息な対応が反映しています。
****ロシア南部ダゲスタン共和国でデモ、「動員令」で少数民族狙い撃ちか****
プーチン大統領による部分的動員令を受け、ロシアの一部の少数民族地域では激しい抗議デモが発生している。活動家団体やウクライナ当局は、こうした少数民族が徴兵対象になるケースが偏って多いと指摘している。
CNNがイスラム教徒主体の南部ダゲスタン共和国で撮影されたものと確認した動画には、首都マハチカラの劇場前で女性が警官に懇願する様子が映っている。
動画では「なぜ私たちの子どもを連れていくのか。一体、誰が誰を攻撃したのか。ウクライナを攻撃したのはロシアだ」と訴える声が聞こえる。続けて女性の集団が「戦争反対」と連呼し始め、警官隊はその場から立ち去っている。
マハチカラで起きた別の衝突では、警官がデモ隊を押し返す姿が見られる。警察によって手荒に拘束される人もいれば、徒歩で逃げる人もいる。(中略)
マハチカラの市長は25日、平静を呼び掛け、「反国家活動に従事する者の挑発に屈しないよう」促した。
ダゲスタンの町エンディレイで撮影された別の動画には、警官が空に向かってライフル銃を発砲する様子が映っている。デモ隊を解散させる狙いとみられる。(中略)
ロシア当局は軍務経験を持つロシア人のみが対象になるとしているものの、動員令そのものはより幅広い条件を示しており、ロシア人の間では将来的に徴兵対象が拡大するのではないか、少数民族が影響を受けるのではないかとの懸念が広がっている。
ウクライナ当局によると、ロシアの実効支配下にあるクリミア半島では、動員令を受けて先住民族タタール人の男性が脱出した。
ウクライナ議会の関係者は25日、「占領下にあるクリミアでは、ロシアが動員の過程でクリミア・タタール人を狙っている」と説明。「現在、家族を含む数千人のクリミア・タタール人がロシア領経由でクリミアから脱出している。大半はウズベキスタンやカザフスタンに向かっている」と指摘した。【9月27日 CNN】
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【訓練もなく前線に送られる兵士を待つ“大砲の餌食”の運命】
話を“泥縄”動員に戻すと、ほとんど訓練もしないまま戦地に送り出す実態も。これで戦力の立て直しに役立つのか疑問も。
****ロシア軍、わずか1、2日訓練しただけの召集兵を前線に送り込んでいる****
ロシア陸軍は、わずか1日か2日訓練を受けただけの召集兵をウクライナの前線に送り込んでいる。なかにはまったく訓練を受けていない兵士もいる。
不幸で、適性がなく、装備も指導力も不足している召集兵たちは、南と東の両面から反撃を続けるウクライナ陸軍による砲撃の餌食になるくらいしかない。「1日か2日の訓練を受けただけの召集兵がロシアを強化するとは思えない」とワシントンD.C.のInstitute for the Study of War(戦争研究所)は説明した。(中略)
戦争研究所は、陸軍の第1戦車部隊に配属された召集兵が、ウクライナ南部ヘルソン州に送られる前に新たな訓練を受けていないことの不満を訴える動画を共有した。
「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない、すべてが失敗の要因だ」と元米国陸軍士官マーク・ハートリングはツイートした。「30万人を動員か。これはプーチンの軍隊による計画的殺人だ」
無神経さと絶望だけでは、準備不足の召集兵を配置するというロシアによるこの極めて無謀な行動は説明できない。ロシア軍は新しい部隊を訓練することが文字どおりできていない。
なぜなら、ロシアの慣行では、新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当するからだ。これに対して西側の軍隊では、兵士は数週間から数カ月専門の訓練基地で過ごした後、所属する部隊に送られ、そこで追加の訓練を受けた後配置される資格を得る。(後略)【9月30日 FORBES】
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ロシアの“新兵の訓練のほとんどを前線旅団が担当する”システムがウクライナの前線では崩壊しており、訓練なしで実戦配備されることになっています。この訓練システムを再構築するためには指導できる者を前線から後方に移す必要がありますが、そうする当面の戦局は急速に悪化する危険が。
しかし、このまま訓練していない者を配備していると、攻撃はともかく守備面では一定に役立っても、確実に犠牲者が増え続け、長期的にロシア軍を締め上げることにもなります。
****死ぬために動員されるロシア新兵たち...「現場」は違法行為が溢れる無秩序状態に****
軍の人手不足を補うため部分動員に踏み切ったプーチンだが、秩序も装備も訓練も補給も失われ、新兵たちには「大砲の餌食」になる「消耗品」としての運命が待つ(後略)【10月1日 Newsweek】
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「個人として準備ができていない、チームの一部ではない、指導者への信頼が欠如している、大義を信じられない、生還の見込みがほとんどない、市民からの支援がない・・・・」
『キャノン・フアダー(大砲の餌食)』は無益な攻勢や露出した陣地の防衛のために死ぬ運命にある消耗品としての新兵のことを言うそうです。
“現在ではウクライナでの危険な戦いに駆り出される不幸なロシア兵を表現する言葉として使われる。プーチン氏が部分動員を発表するや否やツイッターに「#キャノン・フアダー」というハッシュタグが立った。動員の狙いは軍の慢性的な人手不足を解消することにある。しかしロシア軍は兵士を指導できる将校の大半を失ってしまったとフリードマン氏は指摘する。”【同上】
【戦術核兵器を使用するとすれば・・・・】
こうした苦境に追い込まれているプーチン大統領は、「核兵器」という禁じ手に出るのでは・・・という懸念が高まっていますが、スペース余裕もなくなってきたので、その件に関して「なるほどね・・・」と思った記事をひとつだけ。
「なるほどね・・・」というのは、もし使用するとすれば“ウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島”が考えられるという点です。
*****ロシアの核攻撃は黒海の島が標的になる可能性、専門家が警告****
ロシアのプーチン大統領は先日、核兵器の使用を含むあらゆる手段でロシアの領土を防衛すると宣言した。この発言を専門家は重く受け止め、世界中で核戦争への懸念が高まっている。
ロシアの核攻撃の具体的な内容を予測するのは難しいが、一部の専門家はロシアがウクライナ軍に対して、あるいは軍の拠点を破壊するために、短距離型の戦術核兵器を投入する可能性が最も高いと語っている。
戦術核兵器は、都市を破壊するために設計された戦略的な長距離弾頭よりもはるかに小さいが、それでも破壊的威力を持つとキングス・カレッジ・ロンドンのセキュリティ専門家ロッド・ソーントン博士は、フォーブスの取材に語った。大型の戦術核兵器の破壊力は、TNT換算で100キロトンに及ぶが、米国が広島に落とした核爆弾は15キロトンだった。
プーチンが、最初の攻撃でウクライナの都市を標的にする可能性は極めて低く、犠牲者を出すことを避けるだろう、とソーントン博士は述べている。ロシアが核攻撃を行う場合、彼らが本気で自衛する意思があることを示す象徴的な意味合いのものになるという。
その標的がどこになるかを予測するのは難しいが、プーチンは戦争の初期にロシアが占領し、その後奪還されてウクライナの抵抗の象徴となった黒海に浮かぶスネーク島を念頭に置いている可能性があると博士は指摘した。
核攻撃の影響は、兵器の種類や使用場所など、その時の状況によって大きく異なるが、たとえ小規模なものであっても、放射能が生存者に長期にわたる健康被害を与え、放射性降下物がヨーロッパやアジアに拡散するなど、広範囲に影響を及ぼすと考えられる。
さらに、放射性降下物がロシアの領土を覆った場合、プーチンは自国の国民を敵に回す可能性があるとソーントン博士は指摘し、ロシアはおそらく降下物を最小限に抑えるよう設計された核兵器を使うだろうと付け加えた。
「プーチンは多くのプレッシャーを受けている」と博士は言い、ウクライナからの反撃や、動員に対する国内での抗議が続いていることを指摘した。さらに、「プーチンが絶望的になり、追い込まれれば、核兵器が使われる可能性は高くなる」と付け加えた。
核兵器の使用を選択すれば、事態をエスカレートさせたくない軍部や他の重要人物からの反発を呼び起こし、プーチンは新たな問題に直面する可能性がある。また、NATOがウクライナへの直接支援に踏み切る可能性もあるとソーントン博士は指摘した。【9月30日 FORBES】
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ただ、実際に核を使用すれば、いよいよロシアにとって“終わりの始まり”となることが想像されます。