孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「核なき世界」の理想と現実世界のはざまで それでも敢えて理想を掲げて

2009-10-31 20:18:39 | 国際情勢

(“flickr”より By eelviss
http://www.flickr.com/photos/elvis1967/31938032/)

【過去最多の共同提案国、賛成国】
日本が国連の場で毎年提案している核兵器全廃を目指す決議案「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」が29日、過去最多の170カ国の賛成で採択されました。
共同提案国も70か国を超え、過去最多だった昨年の58か国を大幅に上回り、オバマ米大統領による「核兵器のない世界」提唱など核軍縮機運の高まりを示すものと見られています。
 
*****「核兵器全廃」決議:最多170カ国の賛成で採択 国連委*****
国連総会第1委員会(軍縮・安全保障)は29日、日本が作成し米国などとともに提出した核兵器全廃を目指す決議案を過去最多の170カ国の賛成で採択した。同種の決議案採択は94年から16年連続。共同提案国は87カ国で過去最多。米国は初めて共同提案国となった。12月の国連総会で採択される見込み。これで、核実験全面禁止条約(CTBT)の発効や来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に弾みがつくとみられる。

米国の賛成は00年以来9年ぶり。英露など核保有国も賛成した。賛成は最も多かった06年の169カ国を超えた。反対はインド、北朝鮮の2カ国で昨年から2カ国減った。中国や、昨年賛成だったフランス、昨年反対だったイスラエルなど計8カ国が棄権した。

決議は前文で、NPTが核不拡散体制に決定的に重要としたうえで、▽米露の政治的主導で世界的な核軍縮機運が高まっている▽9月の国連安保理首脳会合で「核兵器のない世界」への道筋が確認された--ことに言及、オバマ米大統領が目指す「核なき世界」への動きを歓迎している。
さらに主文は▽核保有国に核兵器削減を要請▽CTBTの署名・批准を呼び掛け▽CTBT発効までの間、核実験の一時停止の重要性を強調▽兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)交渉の即時開始を要求▽核テロ防止の重要性を強調--する内容となっている。
 
日本は細部を変えながらも94年から毎年、同趣旨の決議案を作成、採択させてきた。
中国は核実験一時停止を求めていることに反発し棄権したと考えられている。
国連総会決議は安保理決議と違い拘束力はないが、国際社会の政治的意思を示す効果がある。【10月30日 毎日】
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【「核なき世界」に浮かれる日本】
こうした取り組みが現実世界にどのような影響を持ちうるのかという点では疑問もあります。
また、昨今の“オバマ米大統領が目指す「核なき世界」への動き”についても同様です。
「核なき世界」とか、オバマ米大統領のノーベル平和賞受賞などを大きく取り上げる日本の風潮への批判もあります。

*****「核なき世界」なき?世界******
朝、席に着く。机脇には朝刊各紙が置いてある。それに素早く目を通す。一日の始まりである。
その日はしかし、いつもと違った。ページをめくろうとする手が1面ではたと止まってしまう。
その日、9月25日付の産経、読売、朝日、毎日、日経、東京の6紙は判で押したように、「核なき世界」という文言入りの主見出しを1面に躍らせていた。記事は、国連安全保障理事会首脳会合がオバマ米政権提出の核軍縮・不拡散決議を採択したと告げていた。
6紙そろい踏みは10月10日付でも起きた。今度は、そのオバマ大統領へのノーベル平和賞授賞決定で、である。主な授賞理由として1面で一斉に打たれた見出しは、またも、「核なき世界」だった。

2つの出来事は米英主要紙も日本と同じ日付で報じた。米4紙と英5紙の見出しを拾ってみる。
9月25日付米紙で日本各紙と同様の主見出しを付けたのは、「国連、核廃絶を支持」としたロサンゼルス・タイムズだけである。ウォールストリート・ジャーナルは「国連、反核決議を採択」という主見出しを「安保理の標的は技術の軍事利用」と袖見出しで補足。ニューヨーク・タイムズは主見出しに「拡散歯止め狙い」と盛り込み、ワシントン・ポストは安保理での論争を主見出しに据えた。
英紙では、ガーディアンのみが「オバマ、世界から核兵器をなくす歴史的決議に喝采(かっさい)」との主見出しを掲げた。フィナンシャル・タイムズは「国連、核管理でオバマ支持」とし、タイムズ、デーリー・テレグラフ、インディペンデントは、より切迫したイラン核問題を中心に主見出しを取っている。
10月10日付では米英とも、「核なき世界」的な見出しは消えて、ニューヨーク・タイムズは「対話拡大」、インディペンデントは「世界政治の環境を刷新」と別の授賞理由を見出しにうたっている。

「核なき世界」は、唯一の被爆国、日本が希求する理想であり、日本特有の視点や力点も確かに国際報道に欠かせない。だが、それ一色になっては、提唱したオバマ氏自身、「多分、私の存命中はない」とも認める核廃絶に関し誤った認識を持たれないか心配だ。
彼我の見出しの違いに接して、報道とは、きれいごとより、厳しく、時に醜い現実を知らせることにある、との思いを新たにした。
「『核なき世界』の理想より 不拡散の現実」という見出しの安保理決議の解説が載ったのは、9日26日付の本紙国際面である。【10月31日 産経】
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【そうではあるにしても、やはり・・・】
確かに現実世界での動きは、きれいごとの「核なき世界」ではなく、現在の“核大国”のもとでいかに有効に核管理し、核保有が不適切とみられる国家への、あるいはテロリストの手への核拡散を防ぐかという観点からのものであると思われます。
また、核の抑止力こそが、第2次大戦後の長年にわたる大規模戦争がない“平和”を支えてきたとの考えもあります。

しかし、日本での「核なき世界」やオバマ米大統領のノーベル平和賞受賞に対する関心の高さに、上記産経記事とは逆に、個人的には「やはり日本が拠って立つところは、こうした平和主義・核なき世界の理想しかないのではないか・・・」という思いを強く持ちました。
国民の声がこれほど一致できることは、ほかにそうありません。
それは、唯一の被爆国としても経験、(実態がどうかという問題は別にして)非核三原則を掲げてきた戦後日本の歴史があってのものです。

「核なき世界」の理想を語ることを嗤うのは、いかにも容易です。
しかし、敢えてそこにこだわって、“日本特有の視点や力点”に立ったメッセージを世界に向けて発し続けることが日本外交の根幹なのではないか・・・と感じた次第です。

“報道とは、きれいごとより、厳しく、時に醜い現実を知らせることにある”というのは正論ですが、それは理想への取り組みを冷笑するような視点からではなく、現実世界への働きかけが一歩でも前に進むようにサポートする視点からあって欲しいものです。

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パキスタン  報復テロ激化で“国内は戦場と似た治安状況”

2009-10-30 21:44:53 | 国際情勢

(10月28日におきたパキスタン北西部ペシャワルの市場での爆弾テロ “flickr”より By بابا جان
http://www.flickr.com/photos/hratari/4054807311/

【TTP掃討作戦と報復テロ】
パキスタン軍が今月17日、イスラム過激派反政府武装勢力の連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の拠点である北西部の部族支配地域「南ワジリスタン管区」への本格攻撃に着手したことは、10月18日ブログ「パキスタン軍  南ワジリスタン地区でのイスラム武装勢力への本格攻撃開始」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091018)で取り上げたところです。

そのとき、この作戦が泥沼化しつつあるアフガニスタン・パキスタン情勢にとって、ひとつの転機となりうる可能性がある掃討作戦でもあること、ただ、報復テロ激化による国内治安悪化、および、多くの難民の発生という、パキスタンにとって大きな負担が強いられる戦いでもあることを書きました。

実際、28日にはアフガニスタン国境に近いパキスタン北西部ペシャワルの市場で爆弾テロとみられる爆発があり、死者は105名に達したと報じられています。
この事件直前にはクリントン米国務長官がパキスタン入りしており、アメリカ政府を威嚇する狙いも込められているようだとも。

“爆発があったのは、日用品としては地域最大規模のキサハニ市場で、駐車中の車が爆発。市場を縦貫する道路は、崩落した建物のがれきで完全に埋まった。救助活動は難航しており、死者はさらに増加する恐れがある。
武装勢力によるテロ攻撃は、今月中旬に政府軍が部族支配地域、南ワジリスタンでアフガンのタリバンと共闘関係にある武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)への本格攻撃を開始して以降、急増している。28日現在で市民350人以上が死亡するなど、国内は戦場と似た治安状況に陥っている。”【10月28日 毎日】

【「まもなく復讐を開始する」】
こうしたTTPの激しいテロ活動については、指導者交代の影響があると報じられています。
****パキスタン:タリバン組織の指導者交代し過激化*****
90人以上が死亡したパキスタン北西部ペシャワルの28日のテロで、関与が疑われている武装勢力連携組織「パキスタン・タリバン運動」(TTP)は、指導者が“残忍”として名高い司令官に交代してから過激化したことがわかった。パキスタン政府軍は現在、TTPへの本格攻撃に取り組んでおり、今後、TTP側がさらなる無差別テロで反撃に出る可能性もある。

TTPの指導者はハキムラ・メスード総司令官(30)。治安関係者からは「パキスタンのザルカウィ」と呼ばれている。「イラクの聖戦アルカイダ組織」を率い、イラクで残忍な無差別テロを行っていたザルカウィ容疑者(06年の米軍の空爆で死亡)に匹敵する過激さで知られているためだ。
ハキムラ・メスード総司令官は、今年8月にアフガニスタン駐留米軍のミサイル攻撃で死んだベイトラ・メスード総司令官の側近で、全司令官の一致で後任に決まった。
しかし、治安関係者によると、ベイトラ総司令官がムシャラフ前政権時代に政府と和平を結ぶなど政治家としての顔も見せたのに対し、ハキムラ総司令官は、ベイトラ総司令官に代わってTTPの軍事部門を指揮。アフガニスタンの北大西洋条約機構(NATO)軍の補給路攻撃や外国人拉致・暗殺を首謀するなど、その過激さで組織内の地歩を固めた。
今月初め、ハキムラ総司令官は、北西部の南ワジリスタン管区で同じ部族出身の地元記者3人だけを潜伏先に呼んで記者会見し、「我々はかつてないほど強力になった。まもなく復讐(ふくしゅう)を開始する」と政府軍への徹底抗戦を宣言した。
ハキムラ総司令官を直接取材したナシル記者は、「政府とTTPとの対話など期待できなくなった。パキスタンは、血で血を洗う抗争に突入した」とハキムラ総司令官就任後のTTPの変容ぶりを指摘する。実際、今月に入ってTTPが起こしたテロ攻撃の死者は350人にのぼる異常事態となった。
またTTPのナンバー2にはハキムラ総司令官のいとこ、カリ・フセイン氏が就任。自爆攻撃を計画立案し実行犯を養成しており、この2人が過激さを増幅させているとみられている。【10月29日 毎日】
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「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の過激化するテロ活動は、イスラム主義・反米的なパキスタン国民のイスラム過激派からの離反を招き、記事にもある“政府とTTPとの対話など期待できなくなった”状況と合わせて、パキスタン政府・軍の過激派への対決姿勢を後押しすることになり、これまでとかく曖昧な関係にあった両者が力と力でぶつかる結果、過激派勢力が大きな打撃を受ける結果も考えられなくはない・・・という気もします。

【テロ警戒 全土で休校】
ただ、南ワジリスタンではTTPは山岳地帯にこもり、冬の積雪を待って持久戦に持ち込もうとする動きもありますし、イスラム過激派の影響は南ワジリスタンなど北西部だけでなく、パキスタン南部へも拡大しつつあります。

***パキスタン:タリバンの勢力、南部でも拡大 当局は警戒感*****
パキスタン北西部の部族支配地域を拠点とする反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の影響力が、同国中部のパンジャブ州南部に広がっている。TTP掃討作戦を続けるパキスタン軍・治安当局は、同州が武装勢力による治安かく乱の新たな震源となる恐れがあるとして警戒を強めている。(中略)
パンジャブ州でのTTPの影響力増大を懸念する治安当局は、武装戦力メンバーの摘発を強化。今月16日には同州南部の最大都市ムルタンで、衣服に爆弾を仕込んだ男を潜伏先の民家で取り押さえた。ただ、地元記者は「行き過ぎた捜査や誤認逮捕も少なくない」と語り、捜査活動が逆に反政府感情を高めかねない問題点を指摘。テロ対策の難しさを浮き彫りにした。【10月26日 毎日】
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首都イスラマバードの「イスラム国際大学」で20日に起きた3人死亡の連続自爆テロを受け、パキスタン政府は同日夜、ほぼ全域の小学校や高校、大学などの学校を少なくとも1週間は休校にするよう命じています。
全国の都市部では、自爆犯らを発見するための検問所の新設が急増しており、全土で無差別テロへの警戒感が高まっています。28日のペシャワルでの爆弾テロはそうしたなかでの事件でした。
“こうしたテロの脅威について、北部ラワルピンディの小学校教諭、アシュファクさん(42)は、「パキスタン全土が戦場のようだ。子供たちを守るための休校は仕方ないが、掃討作戦がテロリストたちを追い込み、逆にテロを増産しているようにも見える」と不安を募らせた。”【10月21日 毎日】といった声も国民にはあります。

“国内は戦場と似た治安状況に陥っている”“血で血を洗う抗争に突入した”・・・という状況で、イスラム過激派の力をそぐところまで追い込めるのか、パキスタン社会がそこまで耐えられるのか・・・厳しい情勢になっています。

【いらだつクリントン米国務長官】
そんなパキスタンを“叱咤激励”すべく乗り込んだのがクリントン米国務長官でした。
****クリントン米国務長官、パキスタンのアルカイダへの対処のまずさなど厳しく指摘*****
パキスタンを訪問中のヒラリー・クリントン米国務長官は29日、同国の文化の中心地ラホールで新聞社の編集幹部や企業幹部らとの対話集会に出席した。このなかでクリントン長官は、パキスタンの国際テロ組織アルカイダへの対処のまずさや経済政策の改善について厳しく指摘した。

クリントン長官は28日から、アルカイダとの戦いの前線にある同盟国パキスタンを訪問している。同国政府を励まし、高まる反米感情を緩和することが目的だが、「過去に誤りはあったが、両国関係の新たなページを開きたい」とのメッセージを伝えた後、いらだちを隠せない様子でまくし立てた。
バラク・オバマ米大統領がパキスタンをアルカイダとの戦いの中心地と位置づけてから同国を訪れる最高位の米政府当局者であるクリントン長官は、アルカイダ指導者はパキスタン国内にいないとする同国政府の考えに異議を唱えた。
2002年以降、アルカイダはパキスタンに隠れ家を持っています」「(パキスタン政府が)本当にアルカイダを捕まえたいと思っているのにパキスタン政府の誰も彼らの所在を知らず、捕まえられないというのは信じがたいことです。本当に彼らを捕まえられないのかも知れませんが、私には分かりません・・・しかしわれわれが知る限り、彼らはパキスタンにいます」

さらに、75億ドル(約6900億円)に上る米国の対パキスタン非軍事援助にパキスタンの軍や野党からパキスタンの主権侵害だとの批判があがっていることにもいらだちを示した。
「失礼だとお感じになるかもしれませんが、パキスタンは国内の公共サービスや事業機会にもっと投資すべきです」「(パキスタンの)国内総生産(GDP)に対する税金の割合は世界でも最低水準です。米国では動産、不動産を問わずあらゆるものに課税していますが、パキスタンではそうなっていません」「パキスタンの人口は1億8000万人で、将来3億人になると予測されています。今すぐに計画を始めずに、このような課題にどう対処するというのでしょうか」などと厳しく批判した。【10月30日 AFP】
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アメリカ・クリントン長官の苛立ちが伝わる記事です。
“同国政府を励まし、高まる反米感情を緩和することが目的”だそうですが、テロとの戦いの最前線で大きな犠牲を払っているパキスタンにすれば、非常に耳障りな発言かも。

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スーダン  アメリカの新政策 部族衝突と干ばつ 失われる子供の命

2009-10-29 21:54:18 | 国際情勢

(コンゴとの国境が近いEzo難民キャンプであくびする赤ちゃん “flickr”より By bbcworldservice
http://www.flickr.com/photos/bbcworldservice/3255470246/

【圧力と見返り】
このブログでも再三取り上げたように、アフリカのスーダンは西部のダルフール地方におけるアラブ系中央政府による黒人住民への無差別襲撃、北部の中央政府と南部のスーダン人民解放軍の間の南北包括和平合意が履行されるか・・・という大きなふたつの政治問題を抱えています。

特に、「史上最悪の人道危機」と呼ばれるダルフール紛争では、国連推計で約30万人が死亡、250万人が難民・国内避難民となっており、国際的批判を浴びているバシル大統領に対して、今年3月には国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪などでの捕状を発行しています。
また、イラン、キューバ、シリアとともに、アメリカからは「テロ支援国家」に指定されて制裁対象となっています。

オバマ政権は、従来の強硬路線から、イラン・北朝鮮・ミャンマーなど「敵国」との対話をも重視する方向に政策転換していますが、スーダンについても「圧力と見返り」を基本とする路線に転換をはかっています。

****米国:対スーダン新政策、強硬姿勢を転換 圧力と見返り*****
オバマ米政権は19日、新たなスーダン政策を発表した。
西部のダルフール紛争を抱えるスーダン政府に対し、オバマ大統領は昨年の大統領選当時、「真の圧力を加えるべきだ」として、ブッシュ前政権より強硬な姿勢を取ると主張。だが新政策は「圧力と見返り」が基本で、スーダンのバシル政権への関与を深める内容になった。

クリントン国務長官は同日、記者会見し、新政策は「三つの主な目的がある」と言及。▽ダルフール紛争での大量虐殺と人権侵害の終結▽北部の中央政府と南部のスーダン人民解放軍(SPLA)が05年に署名した南北包括和平合意の履行▽スーダンをテロ組織の避難場所にしないこと--を挙げた。
オバマ大統領は同日発表した声明で、今週後半に対スーダン制裁を更新するとし、「和平を推進すれば見返りがあり、しなければ米国や国際社会の圧力がある」と指摘した。「見返り」についてクリントン長官は「政治的、経済的なメニューがある」とだけ述べ、詳細な説明を避けた。米メディアによると、テロ支援国家の指定解除も検討対象という。

オバマ政権内ではスーダン政策を巡り、ライス国連大使ら強硬派と、「バシル政権への関与なしにスーダンに和平はない」と主張するスーダン担当特使のグレーション氏が対立。両者の折衷案がとられることになった。ダルフール紛争に関連し、国際刑事裁判所(ICC)は今年3月、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でバシル大統領に逮捕状を発行。米政府高官は「バシル氏個人と協力するつもりはない」と語る一方、「他の政権高官との関係を深め、政策の達成は可能」と強調した。(後略)【10月20日 毎日】
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アメリカの新政策は、ICCのバシル大統領への逮捕状に関する国際社会の足並みの乱れを更に複雑化させそうだとの観測もなされています。

【南部で激化する部族衝突】
そのスーダンの国内では、最近、南部における民族衝突が激しくなっています。
“AFP通信によると、20日朝、南部ジョングレイ州のドゥク・パディエト村が武装集団に襲われ、治安当局と戦闘になった。住民51人を含む100人以上が死亡、住宅2千軒が放火された。南部の主要民族ディンカの村だ。
武装集団は、ディンカと対立関係にある民族ロウヌエルの男たちとされる。ディンカが住む別の二つの村でも8月、襲撃で60人以上が死亡している。”【9月24日 朝日】

スーダン南部地域は、20年以上に及ぶ内戦後、05年の包括和平合意を受けて誕生した自治政府が管轄していますが、南部に集中する石油資源を巡り、自治政府と北部を拠点とする中央政府の対立は解消されていません。
10年4月に大統領選が、11年には南部スーダンの独立を問う住民投票が予定されていることもあって、南部の部族間抗争に乗じ、南部スーダンの不安定化を狙った北部・中央政府側の関与も指摘されています。
国連によると、今年だけで2千人以上が殺され、25万人が家を追われています。

【干ばつ】
こうした南部の部族衝突の背景には、南北間の政治対立だけでなく、南部を襲っている深刻な干ばつが各部族を生き残りをかけた戦いに駆り立てている側面があります。

****スーダン南部で深刻な干ばつ、150万人が草で飢えしのぐ*****
いまだ内戦の痛手からの回復途上にあるスーダン南部の農村地域では現在、初夏の深刻な干ばつが原因で作物が育たず、百万人以上が草を食べて飢えをしのぐ状況に陥っている。

東赤道州のLobira Boma村で、Latuka族の女性が食べ方を見せてくれた。すり鉢代わりの石のくぼみで草をすりつぶし、細かい粉にする。「これをこうやって水に浸して、それから食べるんだ。毎日これを食べているよ」
この地方では、農民はソルガム(モロコシ)や雑穀、ピーナツなどを育てているが、これらの作物の栽培はなによりも雨が頼りだ。今年は5~6月の大干ばつで作物がほぼ全滅してしまった。「収穫がなく、食べるものがない。市場で穀物を買わなくてはならないが、そんな金はわれわれにはない」と副村長。(中略)

世界食糧計画(WFP)によると、干ばつに加えて物価上昇や部族間抗争の増加で、南部スーダンに暮らす150万人の食糧事情が脅かされている。【10月12日 AFP】
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【戦車は20台あるのに救急車はたったの1台】
干ばつは単に気候の問題ではなく、国民の生活を守るべき政治が機能していないことによる結果です。
内戦、部族衝突、干ばつによる飢餓・・・そうした殆ど国家機能が麻痺した状況で、直接的な犠牲者以外にも、更に多くの命が失われています。

****予防可能な病気で死亡する子どもは年間30万人、紛争国スーダン*****
ダルフール紛争を抱えるスーダンでは、予防可能な病気により5歳未満で死亡する子どもの数が毎年30万人以上にのぼっており、うち3分の1は生後1か月以内に死亡している――。ユニセフ(UNICEF)が27日、このような統計を発表した。

ユニセフ・スーダン事務所のニルス・カストバーグ所長が明らかにしたもので、スーダンでは毎年、30万5000人の子どもが予防可能な病気により5歳未満で死亡しており、そのうちの11万人は生後28日以内に死亡しているという。
人口5億5000万人のラテンアメリカとカリブ海諸国で出産が原因で死亡する女性は1年に1万人未満だが、人口約4000万人にすぎないスーダンでは毎年約2万6000人の女性が出産が原因で死亡しているという。

カストバーグ所長は「優先順位を正しく付けて対処する必要がある。わたしが最近出向いたある街では、戦車は20台あるのに救急車はたったの1台というありさまだった」と話した。
同国は現在も紛争状態にある。北部と南部の間で20年間にわたり続いてきた内戦が03年のダルフール紛争の引き金となり、この紛争ではこれまでに推定30万人が死亡している。また、05年に自治領となった南部の一部地域では、現在も部族抗争が続いている。【10月28日 AFP】
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「史上最悪の人道危機」の責任者であり、ICCから逮捕状も出ているバシル大統領との対話には批判的な意見もありますが、単に制裁を課して放置するだけでは、上記のような干ばつによる飢餓や子供の犠牲者を救うことはできません。
“戦車は20台あるのに救急車はたったの1台”という現状を転換し、国民の救済に資する形での“対話”なり“見返り”となるように留意してもらいたいものです。


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日米関係に不協和音 北朝鮮「飼い犬が手をかんだ」と揶揄

2009-10-28 22:21:23 | 国際情勢

(米軍普天間飛行場上空 “flickr”より By boviate
http://www.flickr.com/photos/boviate/346637305/

【“米国に公然と反論するようになった風潮”】
鳩山民主党政権に変わって、インド洋での海上自衛隊による給油活動の問題、米海兵隊普天間飛行場の移転計画見直し、岡田外相の核先制不使用に関する対米協議への言及、更には鳩山首相の掲げる東アジア共同体構想など、日米関係に一石を投じるような事案が相次ぎ、アメリカからは日本の対応への不満も聞こえてきます。
アメリカ国務省高官からは、「今や、最もやっかいな国は中国でなく日本だ」との発言もあったとか。

****「最もやっかいな国は日本」鳩山政権に米懸念****
22日付の米紙ワシントン・ポストは、鳩山政権が米海兵隊普天間飛行場の移転計画見直しなど「日米同盟の再定義」に動いていることに、米政府が神経をとがらせている、とする記事を1面で掲載。
国務省高官の「今や、最もやっかいな国は中国でなく日本だ」という発言を伝えた。

記事は、オバマ政権がパキスタンやアフガニスタン、イラクなど多くの課題をかかえており、「アジアの最も緊密な同盟国とのトラブルは、事態をさらに複雑にする」という米側の事情を紹介した。
鳩山政権については、「新しい与党(民主党)は経験不足なのに、これまで舞台裏で国を運営してきた官僚でなく政治家主導でやろうとしている」とする同高官の分析を示した。さらに、民主党の政治家たちが「米国は、今や我々が与党であることを認識すべきだ」(犬塚直史参院議員)などと、米国に公然と反論するようになった風潮も伝えた。【10月23日 読売】
****************************

このほか、アメリカのメディアには日米同盟の行方を案ずる論調が目立っているそうです。
*****米主要紙、日米同盟の行方憂慮の論調******
沖縄の米海兵隊普天間飛行場移設問題に関する鳩山政権の姿勢などをめぐり、日米同盟の行方を案ずる論調が米主要紙で目立っている。

22日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、ブッシュ前政権で国家安全保障会議の拡散防止戦略部長を務めたカロリン・レディ氏の、「広がる日米安全保障のみぞ」と題した論文を掲載した。
レディ氏は、「鳩山政権の姿勢は東アジア安全保障の礎石である日米同盟を損なう恐れがある」と憂慮。岡田外相が「核の先制不使用」を議論したいと主張していることについて、日本のこれまでの政権が米国の「核の傘」の抑止力を維持するため、先制不使用の約束に反対してきたことを指摘し、「民主党の考えは意味をなさない」と切り捨てた。
東アジア共同体構想に関しては、「中国の増大する軍事力や北朝鮮の弾道ミサイルの脅威にどう対抗するのか」と疑問を投げかけた。日米の安保関係で、米国が財政的にも作戦的にも日本より多くを負担してきたと強調し、日米の対等な同盟関係を掲げる鳩山首相に対し、「この不平等な関係を是正したいなら、大衆迎合の政策より防衛に予算を回すことから始めるのがよい」と皮肉った。
同紙が26日に掲載した社説は、普天間飛行場の移設問題で「鳩山政権内に意見の不一致が見られる」と、閣内の混乱を懸念した。

ワシントン・ポストは22日掲載の記事で、「最もやっかいな国は中国でなく日本だ」とする国務省高官の発言を紹介。鳩山政権は中国の軍事力増強にしっかり対応していくことに関心が薄いと指摘した。
さらに、民主党の谷岡郁子参院議員が、普天間飛行場移設問題をめぐってワシントンで国務省高官と面会した際、米側が「計画は民主党幹部とも合意した」と述べたところ、「私は(話し合いに当たった)幹部より頭がいい」と反発した逸話を紹介。「『合意している』と言えば『ああそうですか』と納得してもらえる時代は終わった」という米国の元外交官の表現を取り上げ、米国側の戸惑いを示した。【10月27日 読売】
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こうした事態を、一番率直に表現しているのは、次の北朝鮮機関紙ではないでしょうか。
****「飼い犬が手をかんだ」北朝鮮紙、日米関係を論評*****
北朝鮮の党機関紙・労働新聞は28日、鳩山政権発足で日米関係に「亀裂が入りかねない傾向が現れている」「不協和音は今後、さらに大きくなる」とする論説を掲載した。
平壌放送の報道をラヂオプレス(RP)が伝えた。
論説では、米国と日本が「主人と手下の関係」にあったとした上で、鳩山政権が米海兵隊普天間飛行場の移設計画見直しなどを求めたため、「米国の不安を呼び起こしている」とした。「東アジア共同体」構想については、米国にとって「飼い犬に手をかまれるようなもの」と評した。【10月28日 読売】
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【自己主張と外交】
当然ながら、日本国民の多くが、今後とも日米同盟が日本の外交戦略の基本であるとの認識は疑っていません。
ただ、そうであるにしても、日本には日本の事情なり立場なりがあるのも、これまた当然の話です。
“米国に公然と反論するようになった風潮”・・・・日本の考えを率直に伝えるのは主権国家としては当たり前のことです。
“「『合意している』と言えば『ああそうですか』と納得してもらえる時代は終わった」”・・・・もし、そうであるなら、今まで方に問題があったのでしょう。

何も、アメリカと意見の相違を煽り立てるつもりもありませんし、日本のおかれている現実を見るとき、最終的にはアメリカの主張をのむ形でまとめざるを得ないケースも多々あるでしょう。
それは現実外交ではやむを得ないことです。

しかし、自国の利害について主張し、議論の場にあげることは当然あってしかるべきことです。
それを“不愉快”と思うのであれば、その関係はまさしく北朝鮮機関紙の言うような、“手下”だか“飼い犬”だかと“主人”の関係になってしまいます。

昨今の日米関係の変化は、政権交代のもたらした良い影響のひとつかと考えます。
ただ、立場が異なる二国間の外交にあっては、いたずらに自己主張すればいいものでもなく、どこかでまとめなければならないものですから、そうした議論が有益になされるためには、国民世論やメディアにあっても、“弱腰”とか“アメリカに屈した”とか、あるいは“最初の言い分と違う、ブレた”いった類のレッテル張りは慎むべきかとも思います。
自己主張がとおらないことが安易に批判されることになると、結局、議論自体を水面下に隠してしまう、これまでのような対応にもどってしまいます。

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中国  急激な経済成長が生む社会的ひずみ

2009-10-27 22:13:05 | 世相

(中国の死刑執行件数の多さを人権侵害として批判するアムネスティのポスター。そうした厳罰主義で臨まないと社会が収まらないということもあるのでしょうが、より根本的には、そうした犯罪等を生み出す社会の抱える問題にメスを入れることが必要です。 “flickr”より  By Foraggio Fotographic
http://www.flickr.com/photos/foraggio/2715130223/

【拡大を続ける中国経済】
中国が好きか嫌いかという話とは別に、また、いろんな問題を抱えつつも、中国が経済的に急速に拡大していることは事実であり、その経済力を背景に政治・軍事面でも存在感を増していることも否定できないところです。
世界同時不況に関しても、世界に先駆けて回復傾向を示しています。

****中国8・9%成長 V字回復鮮明に 7~9月*****
中国国家統計局は22日、2009年第3四半期(7~9月)の国内総生産(GDP)実質成長率が前年同期比8・9%増だったと発表した。第2四半期(4~6月)の同7・9%を1ポイント上回った。
金融危機への緊急対応策として中国政府が昨年11月に打ち出した総額4兆元(約52兆円)の景気対策が内需を押し上げ、着実に「V字回復」を実現しているとの印象を内外に与えた。中国政府が3月に掲げた通年で「8%前後」との成長目標を達成する可能性も高まった。
中国のGDP成長率は金融危機の影響を受けた08年第3四半期に2けたを割り込み、今年第1四半期(1~3月期)に6・1%に落ち込んだ。欧米向け輸出急減が背景にある。
ただ、中国のGDP統計をめぐっては、地方政府の発表を合算した数字と国家統計局発表に大きな差が生じていることが発覚し、信頼性に疑問符がついている。【10月22日 産経】
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こうした経済成長は膨大な中間層を生みつつあり、今後この中間層が国内消費を牽引すれば、現在の輸出依存型の経済構造も変化することが予想されます。
そのひとつの表れが車への需要拡大でしょう。

****中国:新車販売、米抜き再び世界一 9月133万台超*****
中国自動車工業協会は13日、9月の国内新車販売台数が前年同月比77.9%増の133万1800台だったと発表した。月間販売台数としては過去最高。米国の月間新車販売台数(9月は約74万6000台)を2カ月ぶりに上回り、単月で再び世界一となった。
同協会は、新車販売は「爆発的に増加している」と指摘しており、足取りのおぼつかない米景気と比べ、中国の内需の力強さを示した形だ。(後略)【10月13日 毎日】
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【ひずみも顕在化】
ただ、いわゆる“嫌中”の人だけでなく、すべての人が認めるように、公害・環境問題や汚職の横行など急激な経済成長が生んだひずみも顕在化しています。
最大の問題は、都市と農村、沿海部と内陸部などの経済格差の拡大だと言われています。
少数民族問題も、ある意味、格差問題であり、チベット、ウイグルなどの政治的不安定さを招いています。
また、経済成長とともに急速に進行する都市化は、社会的不安定さを助長しています。

****中国、急速に「都市化」 暴動誘発要因も 研究所予測****
中国の北京国際都市発展研究院はこのほど、中国の都市に人口が集中する「都市化」現象が猛烈な勢いで進むとの調査結果をまとめた。2015年末に都市化率は50%に達するといい、都市人口は農村人口を上回る勢いだ。経済発展に伴う急速な都市化は、深刻な貧富の格差拡大や環境汚染を生むだけでなく、暴動など不測の事態を誘発する要因にもなりかねない。(中略)
中国の都市化は、サービス業などの第3次産業を拡大させ、内需拡大をもたらすとみられている。国家統計局の専門家の予測では、建国100周年の49年には、1人あたりのGDP(国内総生産)は2万5000ドルにも達するという。

ただ、中国社会科学院が6月に公表した都市青書は、「政治的安定」「社会保障の充実」「環境汚染改善」などが都市化の成否を握ると指摘する。周生賢・環境保護相は深刻化する環境汚染の実態を踏まえ、「急速な都市化の中で、経済社会の発展と環境保護との矛盾がますます突出している」と懸念している。
都市への人口集中は、住民のストレスや住居環境の悪化にもつながるといわれる。また、ガン患者が増えるなど、「現代病」に苦しむ人々が増加するとも予想されている。
報告をまとめた北京国際都市発展研究院の連玉明院長は、「(2010年~15年は)中国発展のカギとなる時期だ。経済発展過程で累積した矛盾が極めて爆発しやすい。その矛盾の程度は、これまでのどの時期よりも深刻なものになる可能性がある」と警告している。【10月21日 産経】
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【カネと力の社会】
“暴動”といった社会爆発を憂慮しないといけないのは、ひとつには一党支配体制による国民と政治の断絶がありますが、現在の中国社会が“カネさえあれば”あるいは“権力さえあれば”何をしてもまかりとおるという、“モラル”とか“規範”がないがしろにされがちな社会になっていることによる部分も大きいと思われます。
日本も犯罪には事欠きませんが、中国の社会面の記事には、あまりにも“法を無視した”、あるいは“法の有無に関わらず、人としてやっていいことと悪いことをわきまえない”そんな出来事が溢れています。

*****児童保護者らが書籍販売員を殺害、人身売買グループと勘違い 中国*****
中国・浙江省玉環郡の小学校で26日、パンフレットを届けに来た書籍販売業者5人が、彼らは人身売買グループだとのうわさを信じた児童の保護者らに襲われ、1人が死亡、4人が負傷した。国営新華社通信が、地元警察当局者の話として報じた。
新華社によると、一部の保護者が犯罪者グループが児童をだまして連れ去ろうとしているとのうわさを聞いたことが発端だという。襲撃を受けた5人は警察によって救出され地元の病院に搬送されたが、1人が死亡し、4人は現在も入院中だという。
中国では女性や子どもの人身売買が頻繁に起こっており、国営メディアが8月に報じたところによると、警察当局は4月に人身売買取り締まりを開始して以来、800人以上の人身売買の容疑者を逮捕し、約3400人の女性や子どもを救出したという。【10月27日 AFP】
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“4月に人身売買取り締まりを開始して以来、800人以上の人身売買の容疑者を逮捕し、約3400人の女性や子どもを救出した”という人身売買、あるいは“誘拐・かどわかし”が横行しているのも当然大問題ですが、一般住民が襲い掛かって殺してしまう・・・というのも、法治主義も何もあったものじゃないという感があります。

そこには、中国の治安当局も司法関係者も、カネと力でねじ曲げられている現実が反映しているのかも。
****「黒社会」と結託 中国司法の不正 裁判官・弁護士…わいろ蔓延*****
22日付中国各紙によると、地元権力と結託した「黒社会」(暴力団組織)への捜査が進む重慶市で21日、黒社会幹部ら6人に死刑判決が言い渡された。この事件では、公安幹部や司法関係者を含む600人以上が逮捕され、裁判所幹部や弁護士が裁判を金でねじ曲げる実態が明るみに出た。悪質なその手法は司法にも広がる不正・腐敗の実情を示す“縮図”となっている。
 
中国紙によると、重慶市検察院の元検察官で、通称“解決屋”といわれた男性弁護士は、250万元(1元約13円)もの報酬を受け取って公安関係者にわいろを送り、ある「重大案件」を「軽犯罪事件」に変更させた。
重慶市の「10大弁護士」に選ばれたこともある女性弁護士は、裁判官の愛人となり、2人は共同で数億元規模の民事案件に不正介入し、弁護士は4000万元を受け取った。
この裁判官はまた、裁判所幹部と共同で土地売買案件に絡んで暴力団と結託、市場価格1億元という土地を約3700万で落札させ、不正に得た5500万元を暴力団と山分けにしていた。
中国紙によると、中国では弁護士が、暴力団幹部に対する刑事裁判で、裁判官に対するわいろ工作を行い、1審で懲役20年だった判決を2審で同5年に変えさせたという事例もある。中国紙はこうした裁判官へのわいろは数百万元に上るケースがあると伝えている。
逮捕された同市元公安局副局長ら公安幹部4人の場合、殺人や強盗、誘拐などの凶悪事件を長年にわたって放置し、6つの暴力団を保護下に置いていたことなども判明している。同市トップの薄煕来書記(党政治局員)は大規模摘発による腐敗の浄化に踏みきり、拘束者はこれまでに1500人を超えたという。【10月23日 産経】
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“「西洋人が400年かけて経験してきた天と地ほどの差のあるふたつの時代を、中国人はたった40年で経験してしまった」。文化大革命期と改革・開放の時代を舞台に生きる人々の姿を描き、中国でベストセラーとなった小説「兄弟」(文芸春秋)。著者の余華氏はあとがきで、文革期をヨーロッパの中世になぞらえ、現代とのギャップをこう表現した。”【10月1日 毎日】
 
好むと好まざるとにかかわらず、日本はこの巨大な隣人と深く関係していかなくてはなりません。
急速な経済成長が生んだ、あるいは、放置されたままになっている多くの歪が是正されて、普通につきあえる隣人となってくれることを願います。

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ASEAN ミャンマー批判を弱め、アメリカの関与を見守る姿勢

2009-10-26 20:42:55 | 国際情勢

(8月15日 自宅軟禁下の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんと面会したアメリカ上院議員のジェームズ・ウェッブ外交委員会東アジア太平洋小委員会委員長(民主党)。“flickr”より By Senator Webb
http://www.flickr.com/photos/senatorwebb/3931748023/

タイのホアヒンで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会議は、25日の東アジアサミットで全日程を終え閉幕しまた。

ミャンマーのテイン・セイン首相は24日、東南アジア諸国連合・日中韓(ASEANプラス3)首脳会議で、「スー・チー(さん)の態度が軟化していると感じている。今の態度を続ければ、現在の措置を緩和することは可能」【10月25日 読売】と、自宅軟禁下に置く民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんに対する措置を緩和する可能性があると発言したそうです。 

こうしたミャンマー・軍事政権側の“柔軟な対応”のほか、オバマ米政権が従来の制裁一辺倒ではなく、対話によるミャンマー問題への関与方針を示しているなかで、米国の政策転換による事態の変化を見守ろうとの空気が広がったこともあって、今回はミャンマー軍事政権への批判はほとんど聞かれず、各国は来年の総選挙実施に向けた動きを見守る姿勢に終始したと報じられています。

****ASEAN会議:閉幕 ミャンマー情勢静観****
タイのフアヒンで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会議は、25日の東アジアサミットで全日程を終え閉幕した。ASEANでは会議のたびにミャンマーの民主化問題が焦点となってきたが、今回は同国軍事政権への批判はほとんど聞かれず、各国は来年の総選挙実施に向けた動きを見守る姿勢に終始した。

会議に出席したミャンマーのテイン・セイン首相は来年予定する20年ぶりの総選挙について「すべての当事者の参加に向け準備を進めている」と説明。自宅軟禁が続く民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさん(64)に関しては「外国の代表などとの面会も可能になっている」と政権側の柔軟姿勢をアピールした。

今回、ミャンマーに対する批判が出なかった背景には、今年8月以降のオバマ米政権による軍事政権との対話の動きがある。ASEANはこれまで「欧米による対ミャンマー経済制裁は軍事政権を孤立させるばかりで、事態の改善に結びつかない」として対話の重要性を訴えてきただけに、米国の政策転換を歓迎し、今後の成り行きを見守ろうとの雰囲気が強い。ASEANとASEANプラス3(日中韓)両首脳会議や東アジアサミットで採択された議長声明には、スー・チーさんの解放を求める文言は盛り込まれなかった。

だが総選挙がどこまで「自由・公正」に行われるかも軍事政権次第だ。総選挙後に誕生するミャンマー新政権下で一定の民主化が実現しない場合、「内政不干渉」原則などから加盟国に強い姿勢を打ち出せないASEANの限界を露呈する結果になりかねない。【10月25日 毎日】
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上記朝日記事では、冒頭の軟禁緩和の発言は触れられていません。
軍事政権がスー・チーさんの処遇をどのようにするつもりかは定かではありません。
ミャンマーは国際批判をかわすためスー・チーさんの処遇緩和を期待させる“スー・チー・カード”を切ることは、これまでも常套手段でしたので、今回もその類なのか、あるいは、アメリカとの対話もあって実質的な変化が見られるのか・・・?

今後、アメリカとの対話のなかで制裁解除を求めるのと引き換えに、あるいは来年選挙で誕生する“民政”をアピールするために、これからも“スー・チー・カード”を見せる事態も考えられます。
ただ、いずれにしても、来年選挙においてスー・チーさんが野党の先頭にたって政治活動を行うようなことは考えられません。仮に軟禁緩和があったとしても、政治活動は禁止という条件付ではないでしょうか。

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パレスチナ  ハマスの和解案留保にアッバス議長“揺さぶり”、事態は混迷

2009-10-25 17:38:26 | 国際情勢

(ガザ地区の密輸トンネルの多くがイスラエルの攻撃で破壊されましたが、その後再建されたものも多いようです。封鎖されたガザ住民の生活を支える生命線でもあり、ハマス等の武器密輸ルートでもあります。
“flickr”より By smallislander
http://www.flickr.com/photos/28722516@N02/3219329769/)

【エジプト政府の和解仲介】
アッバス・パレスチナ自治政府議長率いるファタハが支配するヨルダン川西岸地区と、イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区に分裂した状態が続くパレスチナにあって、両者の和解をエジプト政府が仲介していましたが、自治政府議長選挙と評議会(国会に相当)選挙の実施時期をめぐって対立が激しくなっており、先行きは微妙な情勢になっています。

エジプト政府の仲介は、07年6月の武力衝突以来分裂状態が続いているアッバス議長・ファタハとハマスの和解がパレスチナ地域の安定に不可欠との考えによる、地域大国としての取り組みですが、イスラエルによる境界封鎖で物資不足に陥ったガザでは、08年1月に南部ラファとエジプトの境界にある壁の一部が爆破され、多数のガザ住民がエジプト側に越境する事態が発生、また現在も境界線をまたいで掘られた密輸トンネルを通じてエジプト側とガザ地区の間で人や物の出入りが続いているなど、ガザ地区封鎖の一翼を担う形になっているエジプト政府にとっても早急に改善を必要とする状況にあることが、仲介の直接的理由でしょう。

****パレスチナ和解へ選挙半年先送り案 ハマス受け入れ留保****
(エジプト仲介の)和解案によれば、任期切れに伴い来年1月に予定されるパレスチナ自治評議会(国会)選挙と自治政府議長(大統領)選挙を6月に延期する。自治区の外に住む難民たちも含めた、全パレスチナ人を代表する最高意思決定機関「パレスチナ民族評議会」の選挙も同時に実施する、としている。
選挙までは、ファタハとハマスが8人ずつ指名した計16人でつくる合同委員会が事実上、自治政府にかわって統治に当たる。委員会はファタハを率いるアッバス自治政府議長がまとめ役となる。ほかの非主流各派はハマス指名の形で委員会に加わるものとみられる。選挙まで半年の時間を稼ぎ、選挙後に想定される挙国一致内閣に向けて両組織の信頼醸成を進めるのが狙いだ。

ハマスの政治部門最高指導者メシャール氏は2日に亡命先のダマスカスで演説し「和解と統一以外の選択肢はない」と前向きな姿勢を見せていた。このためエジプトのアブルゲイト外相は5日に「カイロで25日に和解協議を開き、26日には合意署名する」と発表。ファタハはすでに和解案受け入れを決め、15日にエジプト政府に通知した。
ところが、国連人権理事会でのガザ攻撃に対するイスラエル非難決議案をめぐり、パレスチナ側が米国の働きかけに応じる形で採択延期を受け入れたためハマスが反発、和解への態度を硬化させた。
ハマスは声明を出し「イスラエルによる占領に抵抗する権利を明記しない限り、応じない」と留保を付けて、猶予を求めた。【10月19日 朝日】
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【イスラエル非難決議案での迷走】
上記記事にある“国連人権理事会でのガザ攻撃に対するイスラエル非難決議案”は、イスラエル軍、パレスチナ武装勢力の双方を「戦争犯罪」と糾弾しており、国連安全保障理事会が公正な独自調査を求め、6カ月以内に結果が示されない場合には、国際刑事裁判所に付託すべきだと提言しています。
今期から国連人権理事会理事国になったアメリカは、イスラエルを支持する立場から、報告書内容が「バランスを欠く」と強く抵抗、「中東和平交渉に悪影響を与えかねない」とパレスチナ側・アッバス議長を説得して、いったんは来年3月の次回会期に先送りにしました。

しかし、イスラエル非難を延期することに手を貸した形となったアッバス議長は、ハマスだけでなく、アッバス議長の出身母体ファタハからも「イスラエル追及を自制した」との非難が噴出。
アッバス議長側は「報告書へのさらなる支持獲得のための延期」と釈明していましたが、議長側近が「(延期に同意したのは)間違いだった」と釈明する事態に追い込まれ、結局、自治政府は「早期採択」へ翻意し、16日に決議案は賛成多数で採択されました。

47理事国による投票結果は、アラブ・アフリカ諸国などの賛成25、アメリカなどの反対6。日本を含む11カ国は棄権、英仏など5カ国は投票しませんでした。
なお、イスラエル・アメリカが“反対”を働きかけたイギリスが“反対”に回らなかったのは、「パレスチナ自治政府のアッバス議長に深刻な打撃を与える」(ミリバンド英外相)との理由とか。
“米国は失望感を示しており、報告書が安保理に持ち込まれれば拒否権を発動するのは必至だ。また、ガザ攻撃を「正当防衛」と主張するイスラエルは、報告書の指摘に「テロを正当化する内容だ」と猛反発しており、中東和平交渉がさらに停滞する可能性もある。”【10月16日 毎日】

そんなアッバス議長サイドの迷走があって、また、ハマスは傘下の武装組織の扱いなどを不満としていることもあって、“選挙の6月先送り”というエジプト仲介案について、当初“26日には合意署名”とも見られていたのが、ハマス側が反発・留保することになっていました。

【アッバス議長サイドの“賭け”】
この事態に、アッバス議長サイドは、評議会の4年の任期満了に合わせて来年1月24日に選挙を強行する構えを示しています。この動きは、“ハマスに揺さぶりをかけ、譲歩を迫る狙い”とも多くのメディアは報じていますが、ハマス側も態度を硬化させており、先行きは不透明です。
なお、自治政府議長については、今年1月に本来の任期4年を終えていますが、次の議長選は選挙法の例外規定で「評議会選との同時実施」となっています。このことも議長令に同意していないハマスからすれば、アッバス議長の無効な“居座り”ということになります。アッバス議長は次期選挙で再選を目指しています。

****パレスチナ:「来年1月、同日選」 ハマスに和解迫る--自治政府発表****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、議長選挙と評議会(国会に相当)選挙を2010年1月24日に同時実施すると発表した。基本法(憲法に相当)上の選挙実施に向けた手続きの一環。イスラム原理主義組織ハマスがガザ地区を実効支配する現状では事実上、自治区全体での選挙実施は不可能であり、選挙敢行の構えを突きつけることで、ハマスに「和解」への譲歩を迫る狙いがあるとみられる。
パレスチナ解放通信などによると、議長はヨルダン川西岸およびガザの両自治区と、イスラエルが占領・併合する東エルサレムで両選挙を実施すると発表した。議長は出身母体ファタハの候補として再選を目指す模様。(中略)

ハマスが07年6月にガザを武力制圧して以来、議長はガザに足がかりがなく、現状ではガザでの選挙実施は不可能だ。ガザを除外して敢行すれば分断の固定化につながる。ファタハとハマスを仲介するエジプトは、10年6月までの選挙延期などを盛り込んだ和解案を提示。アブルゲイト同国外相は当初、25日にも合意できるとの見通しを示していたが、ハマスは応じていない。
ロイター通信によると、ハマス幹部は議長の発表について「分断を長期化させる」と非難。同じ10年1月24日にハマス主導でガザ独自の選挙を実施する可能性も検討している。【10月24日 毎日】
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ハマスに和解を迫る“揺さぶり”という見方は、“ロイター通信はアッバス氏側近の話として、両派が今後の交渉で合意すれば、選挙を先送りする可能性があると伝えた”【10月24日 朝日】というあたりもあってのものです。
また、“(6月先送りのエジプト仲介案を)ファタハは既に受け入れの意向を示したが、自治区内での支持が低下傾向にあるハマスは難色を示していた。議長はこれを逆手に取り、選挙期日を一方的にエジプト案より前に設定、ハマス側に揺さぶりを掛けた形だ。”【10月24日 時事】とも。

イスラエルのガザ侵攻を傍観する形になり、更に、先述の国連人権理事会でのガザ攻撃に対するイスラエル非難決議案に対する“迷走”などで、アッバス議長・ファタハの支持が低下しているものと思っていましたが、“自治区内での支持が低下傾向にあるハマス”というのは初耳です。
ハマスの頑なな姿勢に対するパレスチナ住民の不満も強いのでしょうか。

いずれにせよ、“ハマス拒否のまま議長が西岸だけで選挙に踏み切れば、パレスチナ分裂がさらに深刻化するのは必至。議長自身の権威も傷つきかねず、議長は大きな賭けに出たといえる。”【10月25日 産経】といった状況です。

【捨て置かれた現実】
ところで、ヨルダンでの貧困者の違法腎臓密売の増加を伝える記事が【10月24日 AFP】にありましたが、“最近、政府が実施した腎臓の売買事例130件に関する調査によると、提供者の80%近くが、首都アンマン北西のバカー出身のパレスチナ人だという。同地には国内最大のパレスチナ人難民キャンプがある。大半が極端な貧困にあえぐ31歳以下の若者だった”とのことです。

こうしたパレスチナ難民の困窮を救うためには、ファタハとハマスの和解を前提にイスラエルとの和平交渉を進めることが必要なのですが、残念ながら現実は互いの足の引っ張り合いに終始しているように見えます。

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地球温暖化  どちらに“賭ける”のが合理的か?

2009-10-24 15:05:31 | 環境

(夏の降雪で氷河が形成されるヒマラヤでは、わずかな気温上昇で雪が雨に変わり、氷河が縮小します。
中国、東南アジア、インドの大河はヒマラヤ氷河を源流としていますので、すでに急速に進行している氷河縮小はアジア全域に甚大な影響を与えます。 “”より By Paul A. Fagan
http://www.flickr.com/photos/paulfagan/1269554429/in/set-72157601750590390/

【温暖化は本当か?】
地球温暖化にどのように取り組むべきかは、非常に難しい問題です。
国家レベルでの難しい取り組みの成否は、私たち一人ひとりが温暖化の問題をどのように認識しているかという点にかかっている訳ですが、アメリカでの世論調査では懐疑的な見方が増えているそうです。

****地球温暖化:米国民「深刻」65%…昨年から8ポイント減*****
地球が温暖化しているとの明確な科学的証拠があると考えている米国民が昨年の71%から57%へと大幅に低下したことが22日、米世論調査機関「ピュー・リサーチセンター」の調査で分かった。温暖化が産業活動や車の排ガスなど人為的な原因によると見る割合も昨年の47%から36%に下がった。
調査は9月30日~10月4日の間、全米の1500人を対象に行われた。温暖化を「深刻な問題」ととらえる米国民は65%と半数を超えているが、07年の77%、昨年の73%から落ち込んだ。意識が大きく変わった要因として、無党派層と共和党支持者の間で温暖化に懐疑的な見方が増えたことがあげられる。
温暖化に「科学的証拠がある」と答えた無党派層と共和党支持者は昨年の調査でそれぞれ75%、49%だったが、今年は53%、35%に下がった。一方、民主党支持者は75%で昨年比8ポイント減にとどまった。国民の関心が雇用情勢の悪化や医療保険改革に移ったことに加えて温暖化対策に反対する保守系のキャンペーンも影響しているとみられる。【10月23日 毎日】
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自然はゆっくりと、ときに激しく変動するもので、その変動は暖かくなったり寒くなったり、一様ではありません。
本当に世間で言われているような温暖化が、人為的な原因で進行しているのか・・・私も疑わしく思うことがあります。
また、問題が深刻化するのは、もう少し先のことであり、どのような影響が実際あるのかもクリアではありません。
一方で、今現在困っている問題は山積しています。
将来の、原因も明白ではない危機、どんな影響がでるかも定かでない危機に対して、今大きな負担をおって取り組むというのは、一種の賭けのようにも思えます。

上記調査でも“全体的に温暖化問題に疑問を持つ人の割合が増えているが、CO2排出削減を目指す政策は大多数の国民から支持されており、この政策に反対しているのは39%だった。”【10月24日 AFP】ということで、多くの人が気にはなっていることは間違いのですが、大きな痛みを伴うような判断はできれば先延ばしにしたい・・・という気持ちでしょう。

【合理的な賭け方は】
しかし、現在可能な限りの科学的検証の総意としては、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が取りまとめたように、人為的原因で温暖化が進んでいるというのが結論です。
しかも今行動しないと、将来に大きな禍根を残すことになるという、待ったなしの状況にあるというのがその判断です。

****「CO2排出は2015年までにピーク迎えるべき」、IPCC議長*****
2009年10月16日 10:40 発信地:パリ/フランス
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長は15日、パリで開かれた国際エネルギー機関(IEA)の閣僚理事会で、気温上昇抑制の目標を達成するためには厳しい中期目標を設定し、2015年までに二酸化炭素(CO2)の排出ピークを迎える必要があると警告した。

パチャウリ議長は「強力、緊急かつ効果的な行動」が必要だと訴え、12月にデンマーク・コペンハーゲンで開かれる気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)では、「2050年の野心的な目標を設定するだけでは不十分で、2020年までに実際にCO2排出を削減する目標を設定することが極めて重要だ」と主張した。

主要8か国(G8)を中心とする各国は、産業革命以来の気温上昇幅を2度以内に抑えるという目標を支持している。パチャウリ議長はこの目標は「かなり重大な影響なしには達成できない」とした上で、「気温上昇幅をわたしが言及した水準(2度)に抑えることを確実にするためには、世界のCO2排出量は2015年までにピークを迎えなければならない」と述べた。【10月16日 AFP】
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今知りうる結論がそういうことであれば、特段の根拠もなく「本当かな・・・」「そんなことはないのでは・・・」と懐疑的になるより、その提言の方向で行動することに“賭ける”というのが“合理的”でしょう。
自分のほうがIPCCより将来についてわかっている・・・と信じるのでない限り。

【オバマ頼み】
しかし、国際社会にはまだためらいがあるようです。
****COP15:議定書採択を先送り 「政治合意」の見通し*****
京都議定書に定めのない13年以降の地球温暖化対策の枠組みを決める12月の「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議」(COP15)で、関係国が法的拘束力を持つ「ポスト京都」議定書の採択を来年に先送りし、法的文書でない「政治合意文書」を採択する見通しが濃厚となった。欧州の複数の交渉担当者が明らかにした。
交渉担当者は、政治合意文書に温室効果ガス排出削減の目標値や行程表などを盛り込み、事実上の拘束力を持たせることを目指している。

欧州連合(EU)など関係国は当初、COP15で京都議定書に代わる議定書の採択を目指してきた。だが、米国の温暖化対策法案の成立が来年にずれ込む見通しが強まったことに加え、COP15に向けた交渉が遅れており、新議定書の採択は困難な情勢となった。(中略)
途上国は先進国にだけ温室効果ガスの排出削減を義務付けた京都議定書を温存し、新議定書を策定するよう主張している。EUは米国の参加していない京都議定書の枠組みには限界があるとして、京都議定書の要素を取り込んだ単一議定書の採択を目指している。(中略)

新議定書採択は先送りされる可能性が強まり、各国首脳級の会議参加によって、政治合意にどれだけの「重み」を持たせられるかが焦点に浮上している。(中略)
COP15の成否のカギを握るのは、(1)先進国の温室効果ガス排出量の削減目標(2)排出量削減を含む途上国の温暖化対策(3)途上国への資金支援--について、政治合意にどこまで盛り込むことができるかだ。国連気候変動枠組み条約事務局の担当者は「政治合意に数値を入れるのは可能だし、入れるべきだ」と主張する。
政治合意とはいえ、各国を事実上縛ることになる数値目標の盛り込みには首脳レベルでの決断が必要となる。ブラウン英首相が各国首脳にコペンハーゲン入りを呼びかけており、サルコジ仏大統領、メルケル独首相は参加の意向を伝えているという。
動向が注目されるのはオバマ大統領だ。米政府はCOP15までに上院の温暖化対策法案の委員会可決まではこぎつけたい考えとされる。オバマ大統領は12月10日にオスロで開かれるノーベル平和賞授賞式には出席の予定だが、「コペンハーゲンは閣僚レベルと考えている」(米政府筋)とされ、COP15への参加は未定だ。
1997年12月に採択された京都議定書の場合、ゴア米副大統領(当時)が土壇場で京都に乗り込み、交渉をまとめた経緯がある。【10月24日 毎日】
***********************

ノーベル平和賞受賞では批判が多いオバマ大統領ですが、やはり世界が彼に期待しているのも現実です。
それから、「90年比25%」を国際公約に掲げた鳩山由紀夫首相も。

【最初の影響はアジア大旱魃】
温暖化対策が成功するかどうかは“やる気次第”でもあります。
スウェーデン第3の都市マルメは、一時基幹企業が撤退し、失業率は22%にまでなったそうですが、風力や太陽光発電を利用して環境に配慮した町作りを進め、地球温暖化が国際的な共通課題となる中で国際的にも注目を集め、投資や人口流入をも促しているそうです。【10月22日 産経】
“マルメには、欧州各国、さらに中国や北朝鮮などから年間計4000人の視察者があるという。”
北朝鮮も関心があるのでしょうか?

一方で、現状を警告するものとしては、世界自然保護基金(WWF)は22日、1分間にサッカー競技場36個分に相当する森林が世界各地で失われているとの報告書を発表しています。【10月23日 AFP】
また、インド・カシミール地方にあるヒマラヤ山脈の氷河が、冬季の気温上昇により「驚くべき」速度で縮小し、インドとパキスタンの広い地域への水の供給が脅かされているとの報告もあります。【10月14日 AFP】

温度上昇の影響を受けやすく急速に縮小するヒマラヤの氷河は、中国・インド・パキスタン・バングラデシュ・ミャンマーの9つの大河に水を供給していますので、地球温暖化の“目に見える”最初の世界規模の影響は“アジア大旱魃”ではないでしょうか。
温暖化への対応では、人類の英知が試されています。
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インド・中国のチベット関連紛争地をダライ・ラマ14世が訪問予定

2009-10-23 22:58:03 | 国際情勢

(今年4月、アルナチャル・プラデシュ州タワンのチベット僧院を訪問し、歓迎をうけるインド大統領(プラティバ・デーヴィーシン・パティル) “flickr”より By ahinsajain
http://www.flickr.com/photos/ahinsajain/3420757008/

【インドで高まる中国脅威論】
インドとパキスタンが建国以来犬猿の仲で、カシミール地方の帰属をめぐって三度に及ぶ戦火を交えていること、現在でも事あるたびに核保有国同士の印パ関係が緊張することは周知のところですが、インドは中国とも国境紛争を抱えています。

インド統治下の北東部山岳地帯(アルナチャル・プラデシュ州)はかつてチベットの領土あるいは支配下にあった土地も多く、チベットは中国の一部という位置づけから、中国はこうした地域に対する領有権を主張しています。
62年には両国間で大規模な軍事衝突が起こり、このときは中国側が圧倒的勝利を収めました。
このときの停戦ラインが、現在「実効支配線(LAC)」と呼ばれる事実上の国境線になっています。【10月28日号 Newsweek日本版より】

ただ、正式な国境ではなく、互いに相手が自国領土を不当に支配していると考えていますので、「国境侵犯」(他方から見れば本来の自国領土に対する通常の「国境警備活動」になります)が多発しています。
特に、08年の中国による「国境侵犯」は過去最多の270回におよび、07年の2倍近く、06年の3倍以上になっているそうです。【同上】

こうした情勢を受けて、インドのマスメディアに中国脅威論がにわかに高まっていること、しかし、一方で中国はいまやインドにとって最大の貿易相手国でもあることや、国際社会にあっては“新興国”して両国は利害を共有することもあって、両国政府は事態の沈静化を図っている・・・という話は、9月22日ブログ「インド マスメディアで高まる「中国脅威論」」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090922)でも取り上げました。

両国は、ビザ発給でも強硬な姿勢を見せており、緊張が更に高まっています。
****中印、ビザで応酬 カシミール、領土からみ新たな緊張*****
国境問題でインド国内の反中国感情が高まるなか、今度はビザ(査証)の発給をめぐって両国間に新たな緊張が生じている。
在印中国大使館が、今年の夏以降、北部ジャム・カシミール州の住民に発給したビザを、パスポートと別の紙に張(は)り付けていたことが明らかになったためだ。これは、同州をインド領と認めない行為に等しいことから、インド政府は1日、中国政府に抗議した。インドは最近、中国人労働者向けのビザ発給を厳格化しており、中国側の措置はこれへの報復との見方も出ている。(中略)
中国側は、今回の対応の根拠を、同州が“紛争地”である点に置く。中国は、インドと国境問題を抱える北東部アルナチャル・プラデシュ州の住民へのビザ発給でも、数年前から同様の対応を取っている。インドはこれについても不満だが、ジャム・カシミール州はパキスタンとの領有権争いも絡むだけに、中国の対応を見過ごすことはできない。
ジャム・カシミール州の住民を対象にした中国の対応は、インド政府による中国人労働者向けのビザ発給の厳格化と無関係ではなさそうだ。
インドでは、インフラ建設、電力、鉄鋼などの分野でインド企業と合弁した中国企業が自国から連れてくる中国人労働者の大量流入が問題化。インド人労働者の雇用の機会が奪われているとして、国内では「インドにも非熟練・半熟練労働者はたくさんいる」と強い反発が噴出した。
このため、政府は夏に中国人労働者へのビザ発給を厳格化した。具体的には、商用ビザで国内に滞在する2万5000人の中国人労働者に、9月末までに労働ビザへ切り替えるよう求めた。しかし、実際に切り替えができたのはわずかだった。インド政府は中国側の要請を受け、切り替えの期限を10月末まで延長したものの、大半の労働者は帰国せざるを得ない事態になっている。
11月にはチベット仏教最高指導者、ダライ・ラマ14世のアルナチャル・プラデシュ州への訪問も予定されており、両国関係は微妙な時期にある。【10月6日 産経】
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【中印領土問題はチベット問題】
そこで、問題はダライ・ラマです。
9月22日ブログも、上記産経記事も、ダライ・ラマ14世のアルナチャル・プラデシュ州への訪問への懸念で締めくくられています。
台湾訪問では馬英九政権を中国との板ばさみ状態にし、アメリカ訪問では大統領との会談がセットされなかったことでオバマ大統領への国内批判を高めるなど、行く先々で問題を巻き起こしている(別に彼が悪い訳ではありませんが)ダライ・ラマですが、今度のインドのアルナチャル・プラデシュ州訪問は更に厄介です。

インドと中国が領土で揉めているのは、その地域がかつてのチベットと一体になった土地だったことが根幹にあります。
また、最近中国の「国境侵犯」が増加しているのも、08年春のチベット暴動を受けてのことです。
中国にとっては、インドとの領土問題は、領土拡張主義云々というより、“チベットは中国の一部”というチベット問題です。チベットを譲れば、新彊のウイグルや、更にはモンゴルにも波及し、国家の解体にもつながるという危機意識が中国側にはあります。

実際、国境地帯のチベット仏教僧院は、チベット人の反中国運動の拠点ともなっています。
また、若い亡命チベット人の間では、ダライ・ラマの自治権拡大に不満足な、完全独立を目指す戦闘的武闘派が増加しています。

その、チベット関連の紛争地に、チベット指導者のダライ・ラマ14世が足を踏み入れるという訳ですから、中国にとっては座視できない問題です。

【妥協を困難にする世論】
****ダライ・ラマが中印国境訪問計画 両国間の火種に*****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が、中国が領有を主張するインド北東部の国境地域への訪問を計画し、両国間の火種となっている。ロイター通信は22日、ダライ・ラマ側近の話として、来月8日から訪問すると伝えた。インドは訪問を認める構えだが、中国は強く反発している。

ダライ・ラマが訪問を計画しているのは、チベット仏教寺院があるアルナチャル・プラデシュ州タワン。59年のチベット動乱でダライ・ラマがインドへ亡命する際、最初に立ち寄った町として知られる。
同地域では、インドを植民地支配していた英国と中国併合前のチベットが20世紀初頭に国境として定めたマクマホン・ラインを、インド側は国境線として主張。中国はこれを認めず、62年の中印国境紛争では中国軍が同ラインを越え、タワンを含む同州全域を一時占領し、兵を引いた現在も領有を主張している。

タワン訪問計画は昨年も浮上したが、中国の反発にインド側が配慮し、実現しなかった経緯がある。今年9月に再び計画が報じられると、中国外務省の姜瑜副報道局長が「訪問に断固反対する。ダライ集団の反中・分裂の本質を暴露するものだ」と激しく批判した。
一方、インドのクリシュナ外相は地元テレビに「同州はインドの一部であり、ダライ・ラマは国内どこへでも行くことができる」と述べ、容認する考えを示していた。【10月23日 朝日】
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中国とのトラブルを避けたいインド政府は、本音としてはダライ・ラマのタワン訪問を差し止めたいところでしょうが、マスメディアで中国脅威論が高まっている昨今、インド政府も曖昧な対応は難しい状況です。
問題が表面化するほど、妥協の余地が少なくなって、国内世論向けに強硬な姿勢をとらざるを得なくなります。
どういう形になるにせよ、「誰かがどこかで冷静さを失い間違った方向に向かうかもしれない」なんてことのないように、冷静さ保ってほしいものです。

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「中国型新植民地主義」  現地事情・国際規範を無視した中国企業の海外進出

2009-10-22 21:27:51 | 国際情勢

(礼節や信用などモラル向上を訴える、上海万博に向けたスローガンのようです。
“flickr”より By Jakob Montrasio
http://www.flickr.com/photos/yakobusan/261299198/)

【なりふり構わない自国利益優先主義】
一昔以上前は、中国を旅行していると、切符を買ったり、バスに乗ったりする際に、“並ばない、割り込む”とか“われ先に殺到する”とか、マナー・公衆道徳の面での問題が目に付きました。また、公衆トイレなど公共の場の汚さなどもひどいものがありました。
さすがに、経済発展とともに最近はあまりそういうことは目立たなくなりつつあるようにも感じます。

しかし、TVなどで散見する都市中間層の人々の言動には、“カネさえあればなんでもできる”というような露骨な拝金主義みたいな臭いも感じます。
国家レベルでも、いろんな国際関係の場で、民主主義といった理念とは無関係に、“自国の利益になることであればなんでもする”という対応を見ることが多くあります。
ひとことで言えば、大国にふさわしいモラルに欠ける印象です。

そうしたなりふり構わない自国利益優先主義で、欧米や日本が躊躇する場面でも積極的な拡大政策を採っている中国ですが、やはりそうした中国の対応への批判は一定にあるようです。

****海外進出の中国石油・鉱山企業 現地法律や習慣、軽視 米機関報告****
ワシントンの大手国際問題研究機関の「ウッドローウィルソン国際学術センター」はこのほど中国の石油企業や鉱山企業の世界規模での活動を分析した調査報告書を発表した。報告書によると、資源開発を外国で進める中国企業は外国の習慣や法律を重視せず、社会的責任や透明性にも欠けるため、現地で紛争を起こすことが多いという。

「中国の石油と鉱山の企業と資源資産の統治」と題する報告書は、ワシントンに拠点を置き、開発途上国でのエネルギー資源開発を専門に研究するジル・シャンクルマン氏らによって作成された。
報告書は、グローバルな石油取得活動を展開する中国国有企業の中国石油天然ガス集団(CNPC)、中国石油化工集団(SINOPEC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)、中国中化集団(SINOCHEM)や、その他の鉱山資源を開発する中国冶金(やきん)科工集団公司、中国金属建設会社など官民の企業の実態を調べている。
報告書は、これら中国企業が欧米や日本の同種企業にくらべ、「環境保護、企業統治、企業の社会的責任などについて企業内の体制も幹部の意識からみても重視していない」とし、「経済協力開発機構」(OECD)が作成した「採掘産業透明性構想」が自然資源の国際規範となっているにもかかわらず、中国企業はそれに加わっていないことを批判的に指摘した。
石油以外の鉱山資源の開発について、中国企業が石油分野よりも小規模なことなどから、相手国の実情への配慮も欠いているとしている。その結果、起きた衝突などの実例(別表)を報告書は挙げている。
「この種の事件が起きたのは、中国企業側の幹部たちの配慮や知識の不足からの地元社会の文化、民族、社会、宗教などの実情に十分な注意を払わなかったことが主要因となった」と報告書は結論づけ、中国企業に活動先の外国の実態をよく知る努力を強めるとともに、企業の社会的責任や透明性を増すことを勧告している。
                   ◇
 ■中国企業の海外での衝突例
 ▼コンゴ共和国で各種の鉱山資源の開発を続けていた一連の中国企業群が今年3月、生産や投資を突然、停止し、現地従業員の給料も未払いのまま撤退してしまった。その結果、両国間の対立となった。
 ▼パプアニューギニアでニッケルの開発を続けていた中国金属建設会社(MCC)が現地住民から環境破壊の抗議を受け、現地労働者の扱い方にも不満を浴びて、今年5月、大規模な暴動の被害を受けた。
 ▼ペルーの各種鉱山資源の開発を続けてきた中国首鋼集団が現地労働者の扱いを不当だと非難され、今年春、暴動的な抗議の被害を受けた。
 ▼ガボンの鉄鉱石資源を開発してきた中国機械設備輸出入会社(CMEC)は現地での活動に地元住民を雇わず、中国人のみを使ったことなどを非難され、ここ数年、大規模な抗議の標的となった。
 ▼スーダンやエチオピアで石油その他の資源を開発する中国企業の技師、労働者はここ数年、地元社会の慣習を無視したなどとされ、拉致や殺人という一連の暴力行為の被害者となってきた。【10月22日 産経】
****************

【アメリカの苛立ち】
アフガニスタン・カルザイ政権が「新生アフガン最大の経済プロジェクト」として採掘権の国際入札に乗り出した世界有数の銅鉱脈であるアイナク銅鉱山を、中国政府系の中国冶金科工集団公司など2社が昨年、投資総額約44億ドルで落札したことについて、“中国は豊富な資金力を背景に、本体事業に加えて発電所や輸送インフラ、モスク(イスラム教礼拝所)の建設など、「政府援助に相当する付帯条件」をパッケージとして提示。アフガン高官へのリベートについては直接的な言及を避けながらも、関係する高官との深い人脈形成を挙げ、「海外事業展開について、米国内と同等の公正なルール厳守が定められている米国企業では太刀打ちできない」と指摘した。”【10月19日 産経】といった記事もありました。

アイナク周辺では、今年2月に米軍が新たな防衛拠点を構築するなど、死傷者が増大する米国が中国の投資を「保護」する状態となっていると、同記事は指摘しています。
冒頭記事にある報告書は、こうした国際規範を無視した中国のやり方へのアメリカの苛立ちを現すものでもあるのでしょう。

【アフリカからの懸念】
中国からの投資を受ける国々からも、中国のやり方に対する懸念が指摘されています。

****アフリカ、新たな「中国型新植民地主義」に懸念の声*****
アフリカにおいて近年増大しつつある中国の影響力は、当初は熱狂的に受け入れられたものの、懸念する声が出始めている。「中国型新植民地主義」の危険性を指摘する専門家もいる。
アフリカ連合(AU)の経済部門の専門家は、「アフリカは、新植民地主義の一種から別の中国型新植民地主義へとやみくもに飛び移ってはいけない」と話す。
こうした態度は、2000年に中国・北京で第1回中国アフリカ協力フォーラムが開かれたころの熱狂とは対照的だ。フォーラムで、中国はほかの多くの国々とは異なり、資金源を多様化する手段として民主改革への条件は付けない支援を約束した。
アフリカには、中国からの輸入品の質が悪い、中国企業はアフリカへの技術移転をほとんどしない、中国は原油以外にはほとんど輸入していないためにアフリカ・中国間の貿易が不均衡、などの不満がある。(中略)

■慈悲深い中国、は幻想
南アフリカの研究者、Tsidiso Disenyana氏は、中国のアフリカに対する巨大インフラ建設計画は、地元経済に直接には利益を与えていないと指摘する。創出されるお金が国内経済には流通しないからだという。「中国は、自国の技術者や労働者を送り込んでくる。この国には熟練者、特に技術者が慢性的に不足していることは分かっているが、われわれは、地元の労働者に技術移転や訓練を実施するといった内容の条項を付け加える必要がある」(Disenyana氏)
一方、AUの中国大使は、中国政府はアフリカの債務を帳消しにする、アフリカ大陸への直接支援を倍増、関税を免除するなど、中国アフリカ協力フォーラムで合意された条項の大半を履行していると主張する。

一部の専門家は、アフリカの短絡的な発想を戒めている。ベナンのあるエコノミストは、「中国が必要な資源を探し求めるのは普通のことだ。しかし、その原材料を切望する様子に直面すると、人々は資源が無尽蔵ではないことを忘れているかのごとく、やみくもに熱中しているように見える。この場所を好きだからだとかわれわれが貧困状態を訴え続けてきたのでこの慈悲深い大国がやってきた、という幻想をアフリカ人はやめるべきだ。今日は中国でも、明日はインドやブラジルがやってくるかもしれない。彼らもまたアフリカの資源を狙っている」と話した。【10月6日 AFP】
***********************

“慈悲深い中国”なんて幻想があることすら驚愕ですが、中国も“大国”として国際社会で振舞うのであれば、これまでのような“なりふり構わない自国利益優先主義” を脱して、相手国への影響・国際社会との協調という面にもっと目をむけるべきでしょう。

もっとも、その中国が相手国に“モラル”を要求する場面もありました。
13日に訪中したプーチン・ロシア首相との会談で、“ロシア当局が、中国人の出稼ぎ商人が集まるモスクワの市場を閉鎖し、密輸の疑いで数千億円相当の商品を押収した問題では、中国側はわいろで不法通関させるロシア税関の腐敗を指摘している。これに対し、両国は通関手続きの透明化を図るなど監督を強化する覚書に調印した。”【10月13日 朝日】とのことです。
モラルに欠けるのは中国だけではありません。
リベートを求めるアフガニスタンやアフリカ諸国も同様です。

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