孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

AIの軍事利用 ウクライナのドローン イスラエルのガザ攻撃では民間人犠牲拡大の一因とも

2024-05-08 23:37:02 | 軍事・兵器

(【4月25日 NHK】)

【ウクライナ ドローンにAI利用】
先ほど夕食をとりながらTVをチラ見していたら、NHKのクローズアップ現代でAIの軍事利用を取り上げていました。

****“AI兵器”が戦場に 第3の軍事革命・その先に何が****
AIの軍事利用が急速に進み、これまでの概念を覆す兵器が次々登場している。

実戦への導入も始まり、ロシアを相手に劣勢のウクライナは戦局打開のために国を挙げてAI兵器の開発を進める。イスラエルのガザ地区への攻撃でもAIシステムが利用され、民間人の犠牲者増加につながっている可能性も。

人間が関与せず攻撃まで遂行する“究極のAI兵器”の誕生も現実味を帯びている。戦場でいま何が?開発に歯止めはかけられるのか?【5月8日 NHK クローズアップ現代】
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“第3の軍事革命”・・・第1が火薬、第2が核兵器、そして第3がAI

ウクライナのAI利用として取り上げていたのがドローンへのAI利用です。
ロシアに対し物量で劣るウクライナがその劣勢を幾分補うべく活用していたのがドローンですが、そのドローンもロシア側も大量に使用するようになっただけでなく、妨害電波で操縦不能になるという弱点も表面化しています。

そこでドローンにAIを組み込み、妨害電波にあっても自力で攻撃目標に到達・攻撃できるようにしているとのこと。

ウクライナが戦場で使用しているAIドローンとはややレベルが異なりますが、アメリカなどが開発しているAI自律飛行機は有人戦闘機と模擬空中戦を行えるほどに進歩しているようです。

****AI試験機とF16戦闘機が初の模擬戦 米空軍「飛躍的進歩」****
米空軍と国防高等研究計画局(DARPA)は、人工知能(AI)による自律飛行試験機が2023年9月にF16戦闘機との空中近接戦闘(ドッグファイト)の模擬戦を初めて実施したと発表した。

事故を起こさずに無事に模擬戦は終了。勝敗は明らかにされていないが、米軍は「良いパフォーマンスを見せ、航空宇宙分野の飛躍的進歩となった」と評価した。

米メディアによると、試験機はF16をベースに改良されたもので、性能を確かめたり、緊急時に操縦を代わったりするために2人が搭乗していた。有人のF16との1対1の模擬戦は2週間にわたって実施。試験機は最高時速1920キロで、垂直方向への飛行も行い、搭乗員に操縦を交代する場面もなかった。

米空軍は、F22ステルス戦闘機の後継機開発を含む「次世代航空優勢(NGAD)」計画を進めている。主力の有人戦闘機は、センサーやミサイル発射の機能を担う多数の無人戦闘機とネットワーク化して運用する構想を描いている。AI自律飛行機の試験成果も、無人機開発に生かされる見通しだ。【4月23日 毎日】
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ドローンにAIを組み込んだものではなく、もともとの有人戦闘機をAIで自律飛行させるもののようです。それなら機体の飛行性能も有人戦闘機と変わりませんので、あとは人間とAIのどっちが操縦の腕が優れているかという話になります。

AIはベテラン操縦士の技量を数か月でマスターしたとか。状況分析・反応の早さ・能力については人間はAIに到底及ばないでしょう。

【「AIが2年で人間を超える」(イーロン・マスク氏)】
話が軍事利用からそれますが、以前から議論されているAIは人間の能力を超えるのか、それはいつなのかという議論について・・・・

****「AIが2年で人間を超える」 イーロン・マスク氏が予測****
米企業家のイーロン・マスク氏は8日、人工知能(AI)が2年以内には人間よりも賢くなるとの予測を述べた。X(旧ツイッター)の音声サービス「スペース」で行われたインタビューで答えた。

マスク氏は、最も賢い人間よりも賢いAIの登場は「恐らく来年か、2年以内だろう」と述べた。マスク氏はAIの危険性と規制の必要性を唱える一方で、自身も生成AIを開発する企業「x(エックス)AI」を立ち上げている。

AIを巡っては、開発に適している米エヌビディア製の半導体の争奪戦が企業間で生じている。【4月9日 共同】
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訪中したマスク氏は“マスク氏はSNSでことし、AI開発に100億ドル、日本円でおよそ1兆5800億円を費やす方針であると明らかにしました。 自動運転技術などを念頭に置いているとみられ、マスク氏は「このレベルで支出できない企業は競争できない」と強調しています。”【4月29日 TBS NEWS DIG】

AIの“賢さ”の意味合いはよくわかりませんが、巨大企業が開発するAIが人間の能力を超え、やがて社会全般をコントロールする日も近いのかも・・・ターミネーターの世界の幕開けです。

【イスラエル ガザ攻撃での民間人犠牲者拡大の背景にAI利用の人物標的攻撃があるとの調査報告】
イスラエルのガザ攻撃では、ガザ保健当局発表で3万人を超える民間人犠牲者が出ているとのこと(2月29日時点)ですが、これほどの多大な民間人犠牲者が出ている一因にイスラエル軍によるAI利用があるとも指摘されています。

イスラエル軍はハマス戦闘員の特定、追尾・探索にAIを利用しているが、当該人物への攻撃は人間の判断でやっているとしています。

しかし、どういう情報をもとに戦闘員と特定するのか、人間の判断で攻撃というのは形式的なもので、実際にはAIの指示どおりに動いているだけではないのかという疑問、攻撃の際の民間人被害をどのように考慮しているのかという疑問などもあります。

AIが“標的”を探索特定してから人間がその者への攻撃を判断する時間的余裕は20秒とのことで、ゴム印を書類に次々に押すようにAI指示どおりの攻撃をしているのが実態であるとも。

****ガザの3万7千人を標的化:AIマシーン「ラベンダー」の存在明らかに イスラエル独立メディアが調査報道****
イスラエルの独立系ネットメディア「+972マガジン」とローカル・コールは共同取材チームでイスラエル軍がガザ攻撃で使用している人工頭脳(AI)マシン「ラベンダー(Lavender)」についての長文の調査報道を公開した。(中略)

取材はイスラエル軍情報部門に属し、今回のガザ攻撃に参加し、ハマスやイスラム聖戦の工作員・戦闘員の暗殺作戦のために標的を生成するAIマシンの使用に直接関与していた6人の将兵にインタビューをし、情報源としているという。

■AIの指示を『あたかもそれが人間の決定のように』
情報関係者への取材に基づいて、記事では「ラベンダーは、特にガザ戦争初期段階において、前例のないパレスチナ爆撃で中心的な役割を果たしてきた。実際、情報源によると、軍事作戦に対するAIマシンの影響は、彼らは本質的にAI マシンの指示を『あたかもそれが人間の決定であるかのように 』処理した」と書いている。

ラベンダー・AIマシンは、ハマスとイスラム聖戦の軍事部門に所属している疑いのある、すべての工作員を潜在的な「人物標的」としてマークするように設計されている。調査報道に証言した4人の軍情報部兵士によると、「下位の工作員まで含む37000人を工作員リストとして標的にした」という。

私(川上)がガザの取材を通して知る限りでは、37000人を工作員リスト というのは、想像できない数字である。ハマスの戦闘員の名簿は公開されているわけではなく、戦闘員は自分が戦闘員であることを家族や隣人にも言っていないのが普通である。つまり、ラベンダー・マシーンがマークする「暗殺リスト」は、上級の幹部など既に知られたメンバー以外は、様々な情報を重ね合わせて推定されたものでしかない。

■ラベンダーを動かす軍情報部エリート部隊「8200」
この記事は、ラベンダーがどのように工作員の標的を生成するかについても書いている。ラベンダーを動かしている軍情報部のエリート情報部隊「8200」の司令官が、匿名で書いたAI関連の著作が紹介され、その中でラベンダーと同様の「標的生成」マシンを構築するための短いガイドが出ているという。

このガイドには、個々の人物の危険評価を行う「数百、数千の特徴」から、既に知られている戦闘員の通信ソフト「Whatsapp」のグループに入っているとか、数か月ごとに携帯電話を変更するとか、頻繁に住所を変更するなど、 いくつかの特徴を示している。

「視覚情報、携帯電話情報、ソーシャルメディア接続、戦場の情報、電話連絡先、写真」など特徴となる条件を人間が選び、AIマシンが与えられた膨大な住民データを特徴をもとに独自に分類する。

■AIで「ガザの住民を1 から 100 までの危険評価」
+972マガジン に証言した兵士は次のように語っている。
「ラベンダー・システムはガザのほぼすべての人物に 1 から 100 までの危険評価を与え、彼らが戦闘員である可能性がどれほど高いかを示している。ラベンダーは、訓練データとして機械に情報が供給された既知のハマスとイスラム聖戦の工作員の特徴を学習する。そして、これらの同じ特徴を一般の集団の中で見つけ、いくつかの特徴を持っていると判明された個人は高い危険評価に達し、自動的に殺害の潜在的な標的になる」

■イスラエル軍の230 万ガザ住民の大量監視システムが基に
このようなAI標的評価システムが機能するためには、対象となるガザ住民の包括的なデータが必要となるが、それはイスラエル軍が「230 万人のガザ住民のほとんどの情報を収集する大量監視システム」で集められた個人データが、ラベンダーシステムに入力されることになる。

つまり、既に確認されているハマスの工作員・戦闘員についての特徴が徹底的に分析され、その人物とSNSなどで連絡をとっている人々や、その人物と似た情報の特徴を持つ人々が、危険人物評価にかけられるということだ。

一見合理的に思えるかもしれないが、ハマスの工作員・戦闘員という認定は、推測でしかない。推定をいくら重ねても、ハマスの工作員・戦闘員を完全に割り出すことはできない。(後略)【4月9日 川上泰徳氏 YAHOO!ニュース】
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230 万ガザ住民の大量監視システムをもとに様々な個人情報による推測・推定・・・当然“誤り”も生じます。
誤りの割合は10%とも。

****「10%の誤り」知りながらAI活用か ガザ、民間人被害が拡大 イスラエルのネット雑誌報じる****
イスラエルがパレスチナ自治区ガザで行ったイスラム原理主義組織ハマスへの攻撃で、「10%」の誤った標的を選定する恐れがある人工知能(AI)を活用したとの観測が出ている。ガザでは民間人の犠牲が急増し、米欧がイスラエルに標的を絞って精密攻撃を行うよう求めた経緯がある。(中略)

AIはハマスの奇襲を受けた昨年10月7日からの数週間で、住民3万7千人とその自宅を攻撃対象候補に選定した。うち数百件を無作為抽出して人間の手で確認したところ、90%はハマスと関係があったことが判明し、軍はAIに依存するようになったとしている。

証言によると、AIは対象人物が帰宅した時点で通知する仕組みで、同居する妻子らに多数の犠牲者が出た。国連は2月、ガザの死者の70%は女性と子供だと推計している。AIが帰宅を確認した標的が数時間後の爆撃時、別の場所に移っていたこともあった。

AIがハマス戦闘員と同じ氏名の人や、戦闘員が以前使った携帯を持っていた人を誤って攻撃対象候補に挙げた事例もあった。ある情報機関員は「(AIの対象選定は)現実と結びついていない」と証言した。

軍はハマス幹部1人を殺害するのに百人以上の民間人が犠牲になる攻撃も許可した。「幹部は病的な興奮状態」で「もっと標的(の情報)をよこせ」と要求したとの証言もあった。

軍は同誌に対し、AIは標的選定の「補助用具」に過ぎず、依存していないと主張した。(後略)【5月7日 産経】
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【確認作業なしにAIが特定した者を「ゴム印押す」ように人間が実行、家族の家を爆撃する方がはるかに簡単、重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくないから“愚かな”爆弾使用】
“誤り”を犯すのはAIでも人間でも同じです。 NHKクロ現では、イスラエルのAI開発関係者は、AIを使わなければもっと犠牲者は増加したはず・・・とも主張していました。

問題はAIシステムの運用の仕方にあったように思えます。

なぜAIの曖昧な推定をもとに、民間人犠牲が生じる攻撃がなされるようになったのか・・・以前は「上位の軍事工作員」だけが人物標的にされており、そのような危険人物については、攻撃時に家族など民間人犠牲が生じても止むを得ないという判断がありました。逆に言えば、軍事的に重要ではない「下位の工作員」を殺害するのに空爆することはできないという判断にもなります。

しかし、昨年10月7日以降、イスラエル軍は「ハマスでの階級や軍事的重要性に関係なく、軍事部門のすべての工作員を人物目標として指定することを決定した」とのこと。

標的の範囲がいきなり広がったために、以前は、一人の人物標的(「上位の軍事工作員」)の殺害を許可するために、軍情報部が行っていた確認のための作業ができなくなりました。

****AI使用した攻撃で、人間は「ゴム印押すだけの役割」****
取材源によると、以前の戦争では、一人の人物標的の殺害を許可するために、担当将校はその人物が確かにハマスの軍事部門の上位メンバーであったという証拠を照合し、彼がどこに住んでいたか、彼の連絡先情報を見つけ、最後には彼が家にいることをリアルタイムで確認する作業を行っていた。

しかし、今回のガザ攻撃の初期段階で、軍がラベンダー・システムが作成する殺害リストを採用することを承認したことで、「人間の職員はAIシステムの決定に対してゴム印を推すだけの役割を果たすことが多かった。通常、彼らは爆撃を許可する前にラベンダーのマークが付けられた標的が男性であることだけを確認して、一つの標的の確認に約 20 秒だけ使った」と情報関係者は証言した。

■標的を追跡し、帰宅を知らせる「父さんはどこ?」システム
さらに、イスラエル軍は標的となった人物が夜、家族全員と一緒にいるに時に攻撃するのが通例だったという。情報筋によると、「(軍事拠点を爆撃するよりも)家族の家を爆撃する方がはるかに簡単だからだ 」という。

さらに、標的が家に戻ったことを追跡する「父さんはどこ?(Where’s Daddy? ) 」と呼ばれるAI自動化システムが使用されたことも、今回の調査報道で初めて明らかになったという。

「父さんはどこ?」システムでは、ラベンダーによって標的とされた人物を継続的に監視下に置き、彼らが家に足を踏み入れたらアラートを出して知らせる。それによって、空爆が指令され、家を破壊する。

このシステムは、ラベンダーと組み合わせで、標的と一緒に家にいた家族全員が殺害する致命的な効果を上げたと、情報関係者は+972マガジンに語った。

■工作員一人の殺害に「10人の妻と子供」の巻き添え
このことについて、標的作戦室の士官は取材に対して、「例えば、ハマスの工作員一人に加えて、家の中の民間人10人を計算すれば、通常、それら 10人は女性と子供になる。ばかげているが、殺した人々のほとんどは女性と子供ということになる」と語った。

「父さんはどこ?」システムが夜、標的の人物が自宅に入ったとアラートが出ても、実際に空爆するのは未明になるなど、時間差があり、標的攻撃の直前に標的が実際にその場所にいるかどうかのリアルタイムの確認はないため、標的の人物は一時的に家に戻っただけで、その後、家を出て、空爆して死んだのは妻と子供だったり、または夜中に家族全員が別の家に移ったために、空爆して死んだのは、何も知らない周辺住民家族だけだったという例も実際にあったとしている。

■下位の戦闘員の標的は無誘導の“愚かな” 爆弾使用
さらに悪いことに、ラベンダーがマークした下位の戦闘員とされる人物を標的にする時には、軍は無誘導ミサイルを使用することを求めたという。

一般に無誘導ミサイル は衛星で誘導されピンポイントで標的を攻撃できる“賢い” 精密爆弾とは対照的に “愚かな” 爆弾として知られている。そのために、居住者が住む建物全体が破壊され、多くの死傷者が発生する可能性があった。

+972マガジンの取材に応じた情報将校は「重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくない。それは国家にとって非常に高価であり、精密爆弾は不足している」 と述べた。

別の情報関係者は、自らラベンダーがマークした若手工作員とされる数百の個人の家を爆撃することを許可したと述べた。それらの攻撃の多くは民間人と家族全員を殺害し、「巻き添え被害」となった。【前出 YAHOO!ニュース】
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確認作業なしにAIが特定した者を「ゴム印押す」ように人間が実行、家族の家を爆撃する方がはるかに簡単、重要でない人物に対して高価な爆弾を無駄にしたくないから“愚かな” 爆弾使用・・・なんともやりきれない戦争の実態です。民間人犠牲が膨らむのも当然でしょう。

****「10%誤り」認識なら人道法違反の可能性 防衛大学校・黒崎将広教授(国際法)****
報道が事実であれば、10%は間違える可能性があることを知りながらAIを使用したことになり、ジュネーブ諸条約や追加議定書などで構成される国際人道法に違反した可能性がある。

標的の評価を間違えて攻撃した場合、民間施設や民間人と区別して軍事目標を攻撃するよう定めた「区別原則」違反に問われる。

結果的に正しい標的を攻撃した場合でも、10%誤る可能性を防ぐ措置を取っていなければ、民間施設や民間人への誤った攻撃を防ぐ義務があると定めた「予防原則」違反となり得る。

イスラエルは追加議定書には不参加だが、この2つの原則は慣習法として順守する立場をとっている。

ハマスの司令官を攻撃する際、多数の民間人が巻き添えになってもよいとの命令をイスラエル軍が下していたとしても、ただちに違反にはならないが、標的を10%間違える可能性があると知っていて攻撃したのなら無視できない。

特に、敵対行為に直接参加していない民間人などの非軍事目標を直接攻撃する可能性を知っていたのであれば、故意の区別原則違反となり戦争犯罪に該当し、国際刑事裁判所(ICC)の訴追対象になると思う。

AIの軍事利用については規制の議論が進んでいる。人間の指揮命令系統の下で運用し、責任の所在を明確にすることが目的だ。米国が主導して作成された政治宣言には日本など50を超える国・地域が支持表明している。

昨年11月には米ニューヨークでこの宣言に関する初会合が開かれており、イスラエルとハマスの戦闘がAI規制の機運を醸成したことは間違いない。(談)【5月7日 産経】
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AIの軍事利用でも、もっとも議論になるのはAIが独自の判断で人間を殺す・・・自律型兵器システム(AIを使って人間の関与なしに敵を攻撃する兵器システム)ですが、アメリカ、ロシア、中国といった軍事大国の思惑もあって規制の議論が進みません。 そのあたりの話は長くなるので、また別機会に。
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“ドローン戦争”の様相を呈する現代の戦争 日本の対応は?

2023-08-16 22:16:44 | 軍事・兵器

(ウクライナ軍の水上ドローン【8月5日 BBC】 旧日本海軍も敗戦間際にベニヤ板で作ったボート『震洋』に250キロの爆薬を積み、アメリカの軍艦に特攻させました。その現代版ですね)

【ウクライナ 安価なドローンが大きな戦果「これが現代の戦争の形だ」】
無人機・・・ドローンは以前から米軍が中東やアフガニスタンで武装勢力の掃討などで多用してきましたが、大規模な戦争におけるドローンの有効性を一般に広く知らしめたのは、2020年のアルメニアが実効支配するアゼルバイジャン領内ナゴルノ・カラバフ地域をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの戦いでした。

この戦争でアゼルバイジャンが使用するトルコ製及びイラン製のドローンが戦局を決定づけるような影響をもたらし、戦争の形が変わったことを印象づけました。

状況は更に進み、ウクライナ情勢に関する報道を見ていると、連日のようにドローンを使用した戦闘が報じられています。

ウクライナ側が圧倒的に装備で優勢と思われているロシア相手にここまでの戦いをできているのも、兵士の士気なや欧米から供与された最新兵器などの話は別にして、ドローンを駆使した戦闘の影響も大きいように思われます。

一方のロシア側もドローンによる攻撃を多用しており、双方にとってドローンが重要な兵器となっています。

****「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシア「最新型」戦車を破壊する映像...ウクライナが公開****
<ウクライナが、安価なドローンの攻撃でロシア最新戦車を破壊したと動画付きで発表。戦場におけるドローンの重要性は高まり続けている>

ウクライナ政府は、ウクライナ軍のドローンがロシア軍の最新戦車T-90を攻撃し、さらにロシア軍による戦車の回収も阻止したと発表した。このときの模様としてウクライナ側はドローンがT-90戦車を攻撃する瞬間の映像を公開しており、安価なドローンが大きな戦果を上げていることについて「これが現代の戦争の形だ」とコメントしている。(中略)

ウクライナ国防省はツイッターに、「値段にして数千ドル相当のドローン2機で、300万ドル相当の戦車を破壊した」と投稿した。

ロシアは「画期的」T-90M戦車25台も失った
T-90戦車には幾つものモデルがあり、その値段を断言するのは難しい。最も高額なものは、1台あたり約450万ドルもするとされている。(中略)

検証可能な写真や動画を元にウクライナ軍とロシア軍の装備の損失を記録しているオランダの軍事ブログ「Oryx」によれば、ロシアは2022年2月の侵攻開始以降、T-90A戦車を35台、T-90AK戦車を1台、T-90S戦車を7台失っている。またこれに加え、「画期的な」戦車だと称するT-90M戦車25台も失っているという。

だがロシア軍の損失に関するこの推定は控えめな数字だと考えられており、実際にはもっと大きな損失が出ている可能性が高い。

「現代の戦争とはこういうものだ」と、ウクライナ国防省は12日に述べている。今回の戦争では、ロシア側にとってもウクライナ側にとっても、ドローンが戦闘で重要な役割を果たしている。ウクライナ内務省のアントン・ゲラシチェンコ顧問は2月に本誌に対して、ドローンは「今回の戦いにおいて、まさにスーパー兵器だ」と語っていた。
ドローンは戦場でさらに一般的な存在になる

ロシア軍はミサイル攻撃に代わる格安な攻撃手段としてドローン、とりわけイラン製の「シャヘド」無人航空機を使用しており、ウクライナ側はそれらを撃墜するために、より高額な防空システムを配備せざるを得ないことが多い。

ウクライナ軍参謀本部は12日、ロシア軍が夜間に「シャヘド」ドローン20機でウクライナ国内の複数の標的に向けて攻撃を行ったと明らかにした。(中略)

一方のウクライナ軍も「ドローン軍」に投資を行っており、専門家は、急速に発展しつつあるドローン技術が今後もさらに普及することを、ウクライナ軍は見越しているようだと指摘する。

イギリスにある西イングランド大学のスティーブ・ライト上級研究員(航空電子工学および航空機システム)は、ドローン戦争は「大いにエスカレート」していると指摘。彼は7月に入って本誌に対し、ドローンは今後、戦場においてこれまで以上に一般的に使われるようになっていくだろうと語っている。【7月16日 Newsweek】
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****ウクライナ、海上ドローン攻撃強化 露艦艇相次ぎ損傷 反攻支援狙う****
ウクライナが最近、黒海海域でロシア海軍の艦艇などを標的とした海上ドローン(無人艇)攻撃を強化している。

今月上旬には露軍艦と燃料タンカーを相次いで損傷させたほか、7月にはケルチ海峡にかかるクリミア橋も損傷させた。ウクライナの狙いは、露海軍の物資輸送能力やミサイル攻撃能力を低下させ、地上での反攻作戦を有利にすることだと分析されている。

露国防省は8月4日、黒海に面する南部クラスノダール地方ノボロシースクの軍港に対する海上ドローン2機によるウクライナの攻撃を撃退したと主張。同省は1、2日にも海上ドローン攻撃を阻止したと主張しており、当初は4日も損害がなかったかに思われた。

しかしその後、同軍港に停泊中の露大型揚陸艦「オレネゴルスキー・ゴルニャク」が損傷し、海上で傾いている映像がインターネット上で拡散。ウクライナメディアは、同国の情報機関「ウクライナ保安局(SBU)」当局者が同国海軍との共同作戦だったことを認めたと伝えた。海上ドローンにはTNT火薬450キロが積まれていたという。

英国防省は5日、同艦が重大な損傷を受けたのは確実だと分析。全長113メートルの同艦はクリミア橋が損傷した際、露領土と露実効支配下にあるウクライナ南部クリミア半島の間の兵員輸送などを担っていたとし、同艦の損傷は露海軍にとって大打撃だと指摘した。

さらにロシアは5日、ケルチ海峡付近で露燃料タンカー「シグ」の機関室に穴が開き、海上ドローン攻撃を受けたとみられると主張した。同艦は露軍の燃料補給に関与していたという。

7月17日には南部に展開する露軍の補給路となってきたクリミア橋が水上ドローン攻撃で損傷した。
SBUのマリュク長官は今月5日、一連の攻撃は「完全に合法だ」とし、ウクライナの関与を事実上認めた。

海軍力に乏しいウクライナはロシアの侵略後、水上ドローンに着目。水上ドローン製造のための募金サイトを作り、生産を進めてきた。ボート型の機体に爆薬を積んだ水上ドローンは軍艦に比べて安価な上、小型・高速で発見される可能性も低い。ウクライナの水上ドローンは1艇25万ドル(約3600万円)だという。

一連の攻撃に関し、米シンクタンク「戦争研究所」は5日、「反攻に有利な条件を作り出すための妨害作戦の一環である可能性が高い」と指摘。ウクライナが露軍の兵站(へいたん)と防衛能力を低下させる戦略に基づき、クリミアや周辺海域といった「後背地」への攻撃を強化していると分析した。

ウクライナは今後も水上ドローン攻撃を続ける構えだ。同国は今月、ノボロシースクやソチなど露南部6つの港の周辺海域を「戦争危険区域」に指定。攻撃を警告した形だ。

ウクライナのゼレンスキー大統領も最近、中南米メディアとのインタビューで、露軍が黒海を封鎖してミサイル攻撃を続ければ、「戦争終結までにロシアは一隻の艦艇も持たなくなるかもしれない」と攻撃継続を示唆した。【8月11日 産経】
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1艇25万ドル(約3600万円)の水上ドローンで大型艦船を使用不能にできるなら、ロシアが誇る黒海艦隊も意味をなさなくなります。

ロシア首都モスクワへのドローンによる攻撃も続いています。

****モスクワで爆発や火災続発、60人以上が死傷 無人機攻撃も続く****
ロシアの首都モスクワでは9日から10日にかけて、工場の爆発や幹線道路沿いの火災、無人機(ドローン)攻撃が相次いで伝えられた。工場の爆発では60人以上が死傷する被害を出している。爆発や火災が隣国ウクライナで続く「特別軍事作戦」と関係しているのかは不明だが、相次ぐドローン攻撃と合わせて、首都と近郊の生活に影を落としている。(後略)【8月10日 毎日】
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攻撃による直接の被害というより、モスクワも戦火に無縁でないことを市民に知らしめ、戦争遂行に関する国民世論に揺さぶりをかける狙いでしょう。

【中国 ドローン輸出規制】
ドローン技術は民生用を軍事転用することが容易で、民生用ドローンの世界シェアの7割以上を握っている中国は輸出規制に乗り出しています。

****中国がドローン輸出規制、「安全保障」理由に****
中国商務省は31日、一部のドローン(無人機)や関連機器の輸出を規制すると発表した。「国家の安全保障と利益を守る」ことが狙いとしている。

一部のドローンのエンジン、レーザー、通信機器、対ドローンシステムを含む機器の輸出規制を9月1日から導入する。

同省の報道官は、輸出規制が一部の消費者向けドローンにも影響するとし、いかなる民生用ドローンも軍事目的で輸出することはできないと強調。

「ドローン規制の範囲を小幅に拡大したのは、責任ある大国としての姿勢を示し、国際的な安全保障の取り組みを実施し、世界平和を維持するための重要な措置だ」と述べた。

米政府は半導体製造技術などの対中輸出を制限。中国政府は一部の半導体素材の輸出制限を発表している。
中国はドローンの生産が盛んで、米国など複数の国にドローンを輸出しており、米議員によると、米国で販売されているドローンの50%以上は中国のDJI社製。(中略)

中国商務省は4月、ウクライナの戦場に中国がドローンを輸出しているとの「根拠のない非難」を米欧のメディアが広め、中国企業を「中傷」しようとしていると批判。中国はドローンの輸出規制を引き続き強化していくと述べていた。【7月31日 ロイター】
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【例によって“ドローン戦争”への対応が遅れる日本】
こうした“ドローン戦争”が一般化する世界で、日本の防衛がついていけてるのか・・・・非常に不安です。
コロナ禍で日本のIT活用の遅れが露呈したことでもわかるように、最近の日本は新技術への対応が極めて遅れ、途上国並みあるいはそれ以下の状況。

新技術採用に伴う些細なミスも認めず「安心・安全」をひたすら唱える“安心・安全教”がはびこる日本社会にあって、責任回避のために、これまでと同じことを繰り返し、新しい技術を敬遠する風潮が蔓延しているようにも。

軍事的知識は皆無ですが、そんな日本のことですから、急速な“ドローン戦争”化の流れにも乗り遅れているのでは・・・との(確信に近い)懸念を感じます。

日本が誇る実質的空母の「いずも」や、イージス艦によるミサイル防衛システムにしても、雲霞のように押し寄せる安価なドローン大群にどう対応するのか? 恰好の餌食になるだけでは? かつて巨大戦艦「大和」が米軍の航空戦力の標的となったように・・・といった不安も。

****“ドローン戦争”の様相呈するウクライナ侵略…サイバー防衛の整備が遅れる日本の危機****
ウクライナ・ロシア両国がドローンによる攻撃を活用し、情勢はドローン戦争の様相を呈している。(中略)

ドローン戦ではウクライナが先を行き、ロシアが追う状況
(中略)

クライナとスペースX 民間企業が国の安全保障を左右する時代
(中略)

中国のドローン制御技術は脅威 日本はどう対処するのか
長野美郷キャスター:
日本の2023年度の防衛白書には「ドローン等への対処を含む統合防空ミサイル防衛能力の向上」「ドローン・スウォーム(群)の経空脅威に対する技術獲得と早期装備化」が盛り込まれた。

高橋杉雄 防衛研究所 防衛政策研究室長:
ドローンの使用についてのある種のイノベーションが戦場で起こっている。これを見ていくこと。数十のドローンが同時に展開して群れをなすように攻撃してくる「スウォーミング」は、この戦争でまだ起こっていないが対処は重要。中国はこの制御技術が非常に高い。

大澤淳 笹川平和財団 特別研究員:
中国の技術は脅威。高エネルギーの電磁波を面で全てのターゲットに当てることはできず、ドローンが集団で360度から襲ってくると対処不能になる可能性が高い。

佐藤正久 元外務副大臣:
スウォームは非常に防ぐのが難しく、しかもAIが搭載されて自律型となる時代が来る。また中国は、水中を泳ぐ魚型のドローンも作っている。多様化しており非常に頭が痛い。

反町理キャスター: 逆に、日本が攻撃する方法についての検討は。
佐藤正久 元外務副大臣:
攻撃型ドローンも研究項目にはあるが、偵察のため、またマイクロ波やレーザーによるドローンに対する守りの部分がメイン。ただウクライナ情勢を踏まえ、ドローンの価値は高くなっている。

反町理キャスター: 専守防衛という観点からは障害はないか。
佐藤正久 元外務副大臣:
ドローンについては反撃能力レベルまでなら大丈夫。だが、連動するサイバーディフェンスの問題がある。宇宙、サイバー、電磁波、AIなどとドローンは一体のものとして考えなければならない。その意味で乗り越えるべき法律の壁があるのは間違いない。

世界に遅れる日本のサイバー防衛 一刻も早い法整備を
(後略)(BSフジLIVE「プライムニュース」8月11日放送)【8月16日 FNNプライムオンライン】
*********************


****「コスト9万円」中国ドローンを「コスト700万円」F15戦闘機で迎撃する日本 〜軍事ドローン開発に遅れた日本の「現実」*****
(中略)
最新軍事ドローン事情
ロシアとウクライナの戦争で注目を浴びている軍事用ドローンだが、ストックホルム国際平和研究所によると、中国は過去10年間で282機の軍用ドローンを17ヵ国に納入し、世界トップの販売国になっている。一方、アメリカではドローン部隊創設の話題が出ている。

政治がリーダーシップを持ってドローンを十分使えるようにするべき 〜中国は新しいデジタル産業のために新しい周波数帯を用意してきた

飯田)ドローンにおける周波数帯ですが、官僚の皆さんは電波法に従わなければならない部分があるのでしょうか?
部谷(安全保障アナリストで慶應義塾大学SFC研究所上席所員の部谷直亮氏))そうなのですよね。だから官僚の方々を責めてはいけない。総務省も仕方なく規制しているところがあります。でも中国はそのために新しい周波数帯を用意してきたわけです。(中略)

新しいデジタル産業のために。日本では、それを進めてこなかったツケが官僚に回されています。官僚に「責任を取らなくていいよ」と政治がリーダーシップを持って対応することが大事なのだと思います。(中略)

(電波法で出力が規制されているため)4キロ飛ぶことができるドローンでも、1キロ〜数100メートルまで性能が低下するわけです。(中略)パラボラアンテナで100Wの電波を送れば、100キロ飛ばすこともできます。でもそれを日本でやると、電波法に引っかかるので許可が必要になるのです。(中略)

9万円のコストのドローンに350万円のコストのF15戦闘機2機で迎撃する日本
飯田)「軍用もの」と言うと「専門につくる」というイメージがあったけれど、そうではない。
部谷)完全に民生と軍事が対等になったわけではありませんが、再びもとに戻ってきている。「近代とはこうやって終わっていくのだな」と感じます。

飯田)中国軍やアメリカ軍などでも、民生品を組み合わせるような研究は進んでいるのですか?
部谷)すごく意識されています。例えば習近平氏は「小型ドローンが次の戦争の鍵だ」というような趣旨の発言をしています。(中略)

中国軍の軍人は「ドローン産業を軍事利用できるのがうちの国の強みだ」と言っています。実際、中国軍では多くの民生ドローンをフルスペックで使っています。日本の自衛隊のように「小型ドローンが1キロしか飛ばない」というようなことはありません。(中略)「防災用だからこれでいいのだ」と自衛隊は言いますが、「戦争で使う気がないのですね」という感想しかありません。(中略)

公表されているだけでも、毎日のように無人機が尖閣諸島に来ているわけです。台湾には毎日来ています。米国防総省がデータを出していますが、映画『シン・ゴジラ』でゴジラを攻撃した「リーパー」というドローンがあります。あのコストがだいたい1時間あたり9万円です。中国が南西諸島に侵入させるドローンもほぼ同じ大きさなので約9万円、もしくはさらに安い可能性もあります。(中略)

自衛隊のF15は通常2機出ますが、1機あたり1時間で350万円のコストが掛かります。9万円に対して700万円で迎撃するのですか、ということです。(中略)

これがすべてですよね。向こうは安く、人間も疲弊しない。こちらは整備兵もパイロットもみんな疲れてしまう。(中略)

他国の多くはドローン前提の軍隊です。米軍もドローン部隊をつくっています。(中略)

無人機を前面に出し、人間はうしろに下がる
飯田)空母から無人機が発艦するようなイメージですか?
部谷)あとは水上ドローンですよね。無人艦、または通常の軍艦から飛んでいくドローンなど。

飯田)長い滑走路は必要ないですものね。
部谷)各国を見ても軍艦がいて、水中ドローンと航空ドローンと自爆ドローンなど、無人兵器を前に出している。航空機も有人機の前に無人機がいて、その無人機から無人機を出すという。(後略)【3月30日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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自衛隊のドローンは防災用? 一体いつの時代の話でしょうか。
「コスト9万円」中国ドローンを「コスト700万円」F15戦闘機で迎撃・・・それでも迎撃できればいいですが、雲霞のようなドローン大群を迎撃できるのでしょうか?
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イラン製ドローンの部品のほぼ3分の1が日本製 難しい軍事転用防止の輸出管理

2022-11-19 23:03:36 | 軍事・兵器
(【11月17日 WSJ】 ウクライナは相次ぐドローン攻撃について、ロシアに供給されたイラン製ドローンによるものだと主張していますが、そのイラン製ドローンの部品の3分の1が日本製だとの報告が)

【イラン製ドローンの部品のほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた】
ウクライナ攻撃でロシア軍がイラン製ドローンを使用していること、イランは当初ロシアへの供与を否定していましたが、その後「少数の無人機を侵攻前に供与した」と限定的に認めたものの、ウクライナ・ゼレンスキー大統領はロシア軍が大量使用している実態と異なるとして「イランはまだ嘘をついている」と批判していること・・・などは、11月7日ブログ“イラン バイデン米大統領は「解放する」とは言うものの熾烈な当局のデモ弾圧 対露ドローン供与問題”でも取り上げました。

そのイラン製ドローンに日本製部品が多数使用されている(確認部品のほぼ3分の1)とのことです。

****イラン製ドローン、部品の大半は西側製 ウクライナ分析****
ウクライナの情報当局が同国で墜落した複数のイラン製ドローン(無人機)を分析した結果、部品の大半は米欧など同志国の企業によって製造されていたことが分かった。

事情に詳しい関係者やウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した資料によると、西側当局者らはこの問題に対し懸念を強めており、米政府は調査に乗り出している。

ウクライナ情報当局はWSJが確認した資料の中で、墜落したイラン製ドローンの部品のうち、4分の3は米国製との推定を示した。ウクライナ軍は複数のドローンを撃墜したほか、イラン製「モハジェル6」1機は当局が飛行中にハッキングし無傷で着陸させたという。

部品の詳細はウクライナの軍情報部が特定し、首都キーウ(キエフ)を拠点とする非営利団体「独立反汚職委員会(NAKO)」が確認した。NAKOの報告書をWSJは閲覧した。

この報告書によると、ウクライナ当局が特定した200個以上のドローン部品のうち、半分ほどは米国に拠点を置く企業によって、ほぼ3分の1は日本企業によって製造されていた。

米国で輸出規制を担当する当局者と部品の製造元とされた企業はWSJの取材に対し、部品の出所を確認できなかったか、あるいはコメントの要請に応じなかった。

イランの国連代表部は西側製の部品の使用についての質問には答えなかったが「技術専門家のレベルでウクライナと会談し、ドローンや部品の出所を巡る主張について調査する用意がある」と述べた。

米シンクタンクの科学国際安全保障研究所(ISIS)を創設したデービッド・オルブライト氏は、イランのドローンに外国製部品が組み込まれた経緯を突き止めることが重要との認識を示した。

ISISは先月、イラン製ドローンに関する独自の分析を発表。その中で、中国企業がイランに対し、ドローン生産向けに西側製の模造品を供給していることを示唆する証拠もあると指摘していた。

米商務省で輸出管理を担う産業安全保障局(BIS)は西側で製造された部品を巡り調査を開始したと関係者は語る。
商務省高官は具体的な問題に対するコメントは避けつつ、「ウクライナの人々への攻撃を目的とした武器がウクライナに流入する」事態への対処は「最優先事項」との認識を示し、これに関連した不正輸出があれば調査する方針を示した。

ロシアはイラン製ドローンを使い、ウクライナの主要インフラを攻撃してきた。
こうした西側製の部品は、イラン製ドローンの拡散を食い止めようとする当局が直面する困難を浮き彫りにしている。

問題となっている部品の多くは輸出規制の対象になっていないと安全保障関係者らは指摘する。インターネットで購入し、他国を経由して目立たずにイランに送ることは容易だという。

ウクライナ情報当局の資料とNAKOの報告書によると、モハジェル6に搭載されたサーボモーターは日本企業の利根川精工によって製造された。同社はコメントの要請に応じなかった。

日本の経済産業省は昨年、無許可でサーボモーターを中国に輸出しようとした疑いで利根川精工を告発した。国連の調査で、イラン製ドローンに同社製の部品が使われていることが見つかっていた。利根川精工は日本のメディアに対し、軍事ドローンに使われるとは知らなかったと説明した。

NAKOの報告書などによると、半導体大手2社、独インフィニオン・テクノロジーズと米マイクロチップ・テクノロジーの関連会社は、イラン製ドローンに搭載された電子部品を製造していた。

在米日本大使館の広報担当者は、日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行うと述べた。【11月17日 WSJ】
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【軍事転用取引の現場 「利根川精工」のケース】
“日本の製品や技術の軍事転用防止に向けて引き続き外国為替及び外国貿易法に基づく厳格な輸出管理を行う”・・・ただ、「国益を考えない生産者が中国など外国勢力と結託して・・・」といったイメージと実際は異なり、当事者には購入者が何に使用するかよくわからないことも。

上記記事にもある利根川精工は社長、取締役、従業員2人の計4人の零細町工場で、書類送検当時90歳の社長は「まさかうちのモーターが…」と語っています。

****軍用ドローンに転用可能「高性能モーター」を輸出…都内業者が中国・イエメンに****
軍用ドローンなどに転用可能な高性能モーターを中国企業に無許可で輸出しようとしたとして、警視庁公安部は、東京都大田区の精密機械メーカー「利根川精工」と男性社長(90)を外為法違反(無許可輸出未遂)容疑で近く書類送検する方針を固めた。モーターは実際に中国や内戦が続く中東イエメンに輸出されており、公安部が実態を調べる。

外為法違反容疑で書類送検へ
捜査関係者によると、利根川精工は昨年6月、経済産業省の許可を得ず、軍事転用可能なモーター150個(計約500万円相当)を中国の企業に輸出しようとした疑いがある。東京税関の検査で発覚した。

モーターは電子信号を受信してドローンなどの動きを制御する仕組みで、優れた防水・防じん性能も備える。中国では農薬散布用の無人ヘリコプターに搭載される予定だったという。

UAEで押収されたモーター(国連専門家パネルの報告書から) 一方、国連の専門家パネルが昨年1月に公表した報告書によると、利根川精工は2018年11月、イエメンの企業にモーター60個を輸出したが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で押収された。

同じモーターは16年にアフガニスタンで墜落したイランの無人機の残骸からも見つかっていた。専門家パネルは、モーターがイランと関係の深いイエメンの反政府武装勢力「フーシ」の支配地域に出荷され、爆発物を積む軍用ドローンや、軍用ボートに使われる予定だったと分析した。【21年7月6日 読売】
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“モーターは輸出先のメーカーを経由して別の中国企業に送られる予定だった。この企業の親会社は中国人民解放軍と取引があったとみられる。”【21年7月6日 nippon.com】

****「なぜ中国人がうちに…」外事警察に摘発された90歳社長の告白****
賛否両論が渦巻くオリンピック一色の東京で、小さな町工場を経営する90歳の老社長が頭を抱えていた。中国に自社製のモーターを輸出しようとしたところ、外為法違反容疑で警視庁に書類送検されたのだ。中国では軍事転用される危険があったとされる。

「まさかうちのモーターが…」。零細企業の技術を中国側が求めた理由は何だったのか。立件から6日で1カ月。事件の背景を追った。

従業員2人の町工場
警視庁に書類送検された「利根川精工」は東京都大田区の住宅街の一角にあった。建物は3階建てで自宅も兼ねている。1962年創業。従業員はずっと数人しかおらず、現在も社長、取締役、従業員2人の計4人という有限会社だ。

会社を訪ねると、社長が室内に招き入れてくれた。事務所は6畳もないようなスペースでパソコンやプリンター、本棚が所狭しと並ぶ。取材中、会社の電話が複数回鳴った。「あんたは国賊だ」。警視庁の発表後、無言や嫌がらせ電話が相次いでいるという。

「なぜうちが中国に着目されたか分からない」。当惑しながら、社長は中国企業からアプローチがあった時のことを語り始めた。

“中国商社員”の飛び込み営業
3年ほど前のことだった。外出先から会社に戻ると、見慣れない男性が、連れてきた通訳を通じて従業員と話し込んでいた。「農薬散布用ヘリコプターに使うので、モーターを売ってほしい」。男性は中国の商社社員を名乗り、日本語でモーターの回転角度など細かい性能についても注文をつけたという。

名刺を受け取った記憶はない。男性は「妻」という女性と4~5歳くらいの子どもを連れていた。(後略)
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この利根川精工社長は不起訴となっています。

****不正輸出未遂疑い不起訴 東京地検、軍用ドローン部品****
東京地検は25日までに、軍用ドローンの部品に使われる恐れがあるモーターを中国企業に不正輸出しようとしたとして、外為法違反(無許可の貨物輸出未遂)の疑いで書類送検された東京都大田区の機械製造会社「利根川精工」の社長(91)を不起訴とした。22日付。会社の関係者は会社も不起訴になったと明らかにした。【7月25日 共同】
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「利根川精工」側にどの程度の認識があったのかを含め、上記記事以上の情報は知りません。

【当局の強引な捜査が“冤罪”を生むことも 噴霧乾燥装置製造の「大川原化工機」のケース】
軍事転用が可能かどうかは微妙で、“冤罪”を生む取り締まる側の強引な手法が問題視されるケースも。
生物兵器の開発に転用可能とされる液体を粉状に噴霧乾燥させる機械をめぐる「大川原化工機」の案件。

****初公判4日前に起訴取り消し 不正輸出事件で異例の判断****
生物兵器などに転用が可能な噴霧乾燥装置「スプレードライヤ」を中国と韓国に不正に輸出したとして、外為法違反(無許可輸出)罪などで起訴された精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)と同社社長の大川原正明氏(72)、元取締役の島田順司氏(68)について、東京地検は30日、いずれも起訴を取り消した。両氏の初公判期日は8月3日に指定されていたが、4日前に起訴を取り消す異例の判断となった。

両氏は昨年3月に警視庁公安部に逮捕されて以降、今年2月に保釈されるまで1年近くにわたって勾留された。両氏とともに逮捕された同社顧問の男性は体調の悪化により勾留の執行が停止され、その後死亡したため東京地裁が公訴棄却を決定していた。

地検公判部によると、起訴後に被告側の弁護人からの主張を踏まえて再捜査した結果、装置が貨物の輸出規制を定めた省令に該当しない可能性が浮上。「定置した状態で内部の滅菌または殺菌をすることができる」という要件を満たすかどうかに疑問が生じ、追加の立証には相当の期間を要するため、被告側の刑事裁判の負担を考えて起訴の取り消しを決めたという。

大川原化工機の広報担当者は30日、産経新聞の取材に対し「当初から無罪を主張しており、社員としても無罪を信じていた。当然の結果だと思う」とコメントした。【2021年7月30日 産経】
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****中国への不正輸出容疑で逮捕、その後起訴取り消し…分断招く経済安保、国民生活にも影響****
◆全く身に覚えなく…勾留11カ月、取引先失う
横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長(73)は2020年3月、生物兵器の製造に転用可能な噴霧乾燥装置を中国に不正輸出したとして逮捕、起訴された。全く身に覚えのない話だった。

兵器製造に転用できる性能はないと独自の実験を重ねて反論。初公判直前に起訴は取り消されたが、勾留は11カ月間に及び、取引先を失った。「売り上げは減少し、有罪にされたら会社を畳むしかなかった」

当時は米中対立の激化を背景に、日本でも先端技術の流出を防ぐ「経済安全保障」の必要性が叫ばれていた時期。大川原さんは、捜査当局が法整備を見据えて「実績として摘発したかったのでは」と推し量った。

先の通常国会で成立した経済安全保障推進法は、半導体をはじめとする「重要物資」の供給網から中国などを切り離すことにもつながる内容だ。規制違反への罰則もあるが、その対象などは法律で具体的に示されず、政省令で決められる内容は138項目もある。何が対象になるか不透明で、企業の自由な経済活動を萎縮させかねない。

今後、国際的なモノのやりとりに一定の制約がかけられる。その範囲が広がるほど、戦前のようなブロック経済に近づく。自由貿易の恩恵を受けてきた私たちのくらしへの影響は避けられない。【6月20日 東京】
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****起訴取り消し、1130万円補償へ 「無罪受けるべき理由」―東京地裁****
生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥機を不正輸出したとして外為法違反罪などで起訴され、その後起訴を取り消された化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の大川原正明社長(72)らによる刑事補償請求で、東京地裁が長期の勾留に対し計1130万円の支払いを決定したことが9日、同社長らの代理人弁護士への取材で分かった。

決定は7日付。平出喜一裁判長は「起訴事実が審理されれば、無罪判決を受けるべき十分な理由がある」と判断したという。

大川原社長と元役員の島田順司さん(68)は昨年3月に警視庁に逮捕され、起訴後も勾留が継続。今年2月に保釈されるまで332日間にわたり身柄拘束された。同様に逮捕、起訴された元顧問の男性は胃がんが判明し、昨年11月に勾留停止となるまで240日間拘束された。元顧問はその後、死亡した。

地裁は刑事補償法上の上限である1日1万2500円の支払いを決定。大川原社長と島田さんがそれぞれ415万円、元顧問は300万円となる。(後略)【2021年12月09日 時事】
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なお、「大川原化工機」の大川原正明社長(72)らは、「捜査機関から謝罪がないことは本当に残念」と語っており、捜査当局による違法な逮捕・勾留などで損害を受けたとして、国と東京都に慰謝料など計約5億6千万円の国家賠償を求めて東京地裁に提訴しています。

以上、「利根川精工」のケース、「大川原化工機」のケースなど、“軍事転用防止に向けてた厳格な輸出管理”というのは容易ではありません。
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中東でのタンカー攻撃が示す「影の戦争」 ドローン攻撃がもたらす戦術面の新局面

2021-08-09 23:04:02 | 軍事・兵器
(【8月3日 Croatia News】 ドローン攻撃を受けたとされる石油タンカー「マーサー・ストリート」にあいた穴)

【イラン・イスラエルの「布告なき衝突」、あるいは「影の戦争」】
7月29日と8月3日、中東オマーン沖でイランの関与が疑われるタンカー襲撃が相次ぎました。

****先週のタンカー攻撃、イランがドローン使用の可能性 英が国連に報告****
英国とルーマニア、リベリアは3日、国連安全保障理事会に宛てた書簡で、中東オマーン沖で先週起きたタンカー攻撃はイランが1機かそれ以上のドローンを使って行った可能性が「極めて高い」と指摘した。

ロイターが確認した書簡によると、3カ国は今回の攻撃は「国際海運の安全を脅かすもので、明らかな国際法違反だ」とし、国際社会から糾弾されるべきだと訴えた。また、英国とリベリアは関係国とともに今回の攻撃を徹底的に調査しており、結果を安保理に報告するとした。

先月29日、日本企業が所有し、英国が拠点のイスラエル系運航企業ゾディアック・マリタイムが管理する石油タンカー「マーサー・ストリート」がオマーン沖で攻撃を受け、英国人とルーマニア人の乗組員2人が死亡した。

ブリンケン米国務長官は2日、この攻撃はイランの犯行だと確信していると述べ、「集団的対応」が行われるとの見方を示した。

イラン政府は攻撃への関与を否定している。

外交筋によると、英国はこの事案を数日中に安保理の非公式会議で取り上げる見込みだ。

これとは別に、イスラエルも安保理に対し、国民を守るためにあらゆる措置を講じ続けると表明している。【8月4日 ロイター】
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****タンカー「乗っ取りの可能性」 親イラン勢力が関与か****
英国の海事機関UKMTOは3日、中東アラブ首長国連邦(UAE)沖のオマーン湾を航行していたタンカーが「乗っ取られた可能性がある」と発表した。

ロイター通信は、イランの支援を受けた勢力が関与している可能性が高いと伝えている。

現場はUAE東部フジャイラの東方沖。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡にも近く、同機関は航行する船舶に厳重な警戒を呼びかけている。
 
AP通信によると、乗っ取られたとみられているのはパナマ船籍のアスファルト運搬船「アスファルト・プリンセス号」。ホルムズ海峡に向かう海域を航行中だった。ロイター通信は英当局者の話として、「イランの支援を受けた勢力がタンカーを乗っ取った模様だ」と伝えている。
 
一方、イラン外務省のハティブザデ報道官はツイッターで「報道されている事案は非常に疑わしい」と関与を否定。米ホワイトハウスのサキ報道官は「状況を注視し、英国などと緊密に連携していく」と述べている。
 
オマーン沖では先月29日、日本企業が所有し、イスラエル系企業が運航していた石油タンカーが攻撃される事件が起き、乗組員2人が死亡した。イスラエル政府などが「イランによるドローン攻撃だ」と非難したが、イラン側は否定していた。【8月4日 朝日】
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上記「乗っ取り」に関しては、UKMTOは4日、何者かに乗っ取られた可能性があるとされたタンカーが解放されたと明らかにしています。タンカーは拿捕(だほ)された後、イランに向かうよう指示されたと一部で報じられていましたが、真相はわかりません。

7月29日の「攻撃」はイスラエル系運航企業ということで、「イラン対イスラエル」という構図が浮かびあがりますが、こうした事件は頻発しており「布告なき衝突」とか「影の戦争」とも称されています。

****船舶攻撃急増、2年で20件=イラン・イスラエル、布告なき衝突****
中東海域でイランとイスラエルが相手国の関連船舶を攻撃する事件が急増し、2019年以降、石油タンカーなど双方の商船少なくとも20隻が機雷やドローン、武装したグループによる襲撃を受けたと8日付の英日曜紙サンデー・テレグラフが報じた。
 
イランやサウジアラビア当局筋などの話を基に独自の分析として伝えた。海運や治安関係者は、イランとイスラエルによる布告のない衝突がエスカレートし、海上交通の要衝を抱える同海域が不安定化することに懸念を強めている。【8月9日 時事】 
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この地域の安定は、原油輸入の9割を中東に依存する日本にとっては死活的に重要な問題です。

****イスラエルVSイラン 海上での“影の戦争”*****
(中略)米国のトランプ政権(当時)が18年にイラン核合意から離脱し、対イラン包囲網を築く中で、米・イラン関係は再び悪化した。ホルムズ海峡周辺では軍事的な緊張が高まり、トランプがイランを攻撃することを検討していたことも報じられている。

一方、バイデン政権は核合意への復帰を目指し、欧州連合(EU)の仲介でイランとの交渉を行ってきたが、先に制裁解除を求めるイラン側とウラン濃縮の停止を求める米側で立場の違いがみられる。

イスラエルはバイデン政権がイランとの対話姿勢を示していることに苛立ちを隠しておらず、イランで穏健派のロウハニ大統領から保守強硬派のライシ新大統領に政権が移ったことも不確実性を高めている。

シリアへの原油輸出で続く海での緊張関係
原油輸入の9割を中東に依存する日本にとって、中東海域における航行の安全は極めて重要である。ペルシャ湾とオマーン湾・アラビア海を結ぶホルムズ海峡を通行する日本関係船舶は年間約1700隻、1日平均4〜5隻といわれる。

米国とイランの間で緊張が高まっていた19年6月にも、日本企業の保有するタンカーがオマーン湾でイランによるものとみられる攻撃を受けているが、海上におけるイスラエルとイランの“影の戦争”は、新たな地政学リスクとして世界経済の先行きへの不安を高めている。
 
海上での“影の戦争”は、米欧の制裁に違反してイランがシリアに原油を輸出することをイスラエルが妨害したことをきっかけに始まった。

当時のトランプ政権の制裁によりイランの原油輸出量は19年以降大幅に落ち込んだが、シリアのアサド政権はイランからの原油の輸入を続けている。

イスラエルは、イランがこの原油取引で得た利益をヒズボラなどの支援に回しているとみており、これまでに少なくとも12隻のイラン船舶に対して、紅海やシリア沖の地中海で攻撃を行った。

攻撃には主に吸着機雷が使われたが、喫水線より上に付けられたため、沈没には至ってはいない。攻撃された船はシリア向けの原油だけではなく、ヒズボラに提供する武器を運んでいたとみられる。
 
近年イスラエルが海軍力を増強し、地中海や紅海でイランに対して優位に立つ中、イランは海上においてイスラエルに報復する手段を欠いていた。

しかし、21年2月以降、イランによるものと思われるイスラエル関係船舶への攻撃が始まり、「マーサー・ストリート」に対するものを含めて、これまで少なくとも5回の攻撃が確認されている。

攻撃には吸着機雷か、対艦ミサイルまたはドローンが使われている。20年夏のアブラハム合意でイスラエルと湾岸地域の海上貿易が増加するため、イランはイスラエル関係船舶を自国領土に近いオマーン湾やアラビア海で攻撃することで、イスラエルに対する牽制を強めていると考えられる。
 
イスラエルもイランもこれらの攻撃への関与を公式には認めていないが、双方とも全面的な紛争へ拡大するのを避けるため、人的な被害を出さない方法で報復の応酬を繰り返してきた。

しかし、「マーサー・ストリート」に対する攻撃ではドローンが船橋に命中して人的被害が出ており、意図的に船橋を狙ったとすれば事態の拡大は避けられない。今後イスラエルが行う報復内容によって、中東海域の緊張がさらに高まる可能性もある。

また、トランプ政権は情報提供などを通じてイスラエルを間接的に支援してきたと伝えられている。バイデン政権も、イスラエルが行う革命防衛隊に関係する船舶への攻撃を事前に知っており、少なくとも攻撃に反対する姿勢は示していない。【8月5日 WEDGE】
**********************

【ドローン攻撃が変える戦いの様相】
上記記事にあるように、これまでは“双方とも全面的な紛争へ拡大するのを避けるため、人的な被害を出さない方法”でやりあってきたのに対し(五輪空手で話題になった“寸止め”みたいなものか)、今回は意図的に人のいる船橋を狙ったようにも思われること、結果的に死者が出たことで大きな違いがあります。(空手なら、寸止めではなく、蹴りが命中してダメージを相手に与えたら「コントロール出来ていない技」として反則負け・・・)

最初から“コントロール”する気などなかった・・・・のかどうかという点が、ドローン襲撃という方法と併せて今後の大きな問題となります。“コントロール”する気がなく、ドローンを駆使すれば、これまでにない打撃を相手に与えることが可能になり、戦い方の様相を変えてしまう可能性もあります。

****日本企業所有タンカーにドローンが自爆攻撃 死者2名にとどまらない衝撃とは****
(中略)今回の攻撃では艦橋に自爆ドローンが命中して、船長を死亡させた。つまり、意図的に命中個所を選んだ可能性が高い。これは今後のシーレーン防衛を考える上で頭の痛い問題だ。

注視すべきは攻撃のやり方
今回の攻撃について、中東エリアを管轄する米中央軍司令部はドローン攻撃と認定した。マスメディアの取材に応じた米政府関係者は、「自爆ドローンによる攻撃であり、他のドローン(おそらくは偵察用)も参加していた」と述べた。
 
米海軍のこの地域を管轄する第5艦隊も、記者会見にて爆発物の専門家が「マーサー・ストリート」に乗り込んで調査した上でドローン攻撃と認定し、自爆ドローンによる攻撃だったと事実上認めた。
 
また公開された「マーサー・ストリート」の被弾した画像からも、自爆ドローンであったことが破壊の程度や独特の破孔から推察される。
 
今回の事件を受けてイスラエル政府や英国政府は即座にイランによる攻撃と断定しているが、注視すべきは今回の攻撃のやり方だ。
 
AP通信が報じたところによれば、米政府関係者は「ドローンによる攻撃は、タンカーの艦橋(ブリッジ)の上部から突入し、船長らを殺害した」と匿名を条件に話したという。つまり、自爆ドローンはタンカーのもっとも重要かつ少量の爆薬でも効果が見込める艦橋を意図的に狙った可能性が高い。
 
自爆ドローン自体にもカメラが付属するタイプも多いこと、偵察ドローンも現場にいたこと、イランの支援するフーシ派が民間用の衛星通信を使って自爆ドローンを誘導していた実績があることからも、現実味を帯びている。また、近くに別の船舶がいたとの情報もあり、これが誘導や操作をしていた可能性があることにも注目すべきだ。
 
ドローンによるタンカー攻撃とおぼしき事例は、これまでもこの地域で幾つか散見されていた。しかし、いずれも未遂であったり、被害の程度として船体や甲板が燃えただけであった。さらに、ドローン攻撃であったと断定する証拠に乏しい「未確認情報」にすぎなかった。

安価で確実にシーレーンを攻撃
それでは今回の事件の意味するところは何か。
 
第1に、シーレーン攻撃に安価で確実な手段が増えたということだ。今回の攻撃はイランの関与が疑われているが、どのような自爆ドローンで実施されたかは不明だ。しかし基本的に自爆ドローンはミサイルよりも安価だ。例えばイスラエル製無人攻撃機「ハーピー」は、アメリカの空対地ミサイル「ヘルファイアミサイル」の7割のコストで製造できる。
 
しかも民生部品で構成されているために足が付きにくいことから、サイバー攻撃と同様に政治的にも安価だ。
 
手段としても今回の件で確実性を増したといってよい。とうとう海上目標の特定箇所に命中させる段階まで進んだ可能性が高いからだ。
 
民間船舶の艦橋に向かって自爆ドローンが次々と飛来する事態になれば、運航に支障をきたしてしまう。今回、船長とともに警備員が亡くなったように、この海域では海賊に対抗するための武装した傭兵を乗船させることが一般的になっているが、対ドローンレーダーに加えて対空火器をタンカーに載せることは法的にもコスト的にも難しいだろう。
 
しかも軍艦で護衛しようにも、その数は限られており、あまりに海域は広く、船舶は多い。よしんば護衛できていたとしても、たかが8機のドローンでも迎撃は困難であると米海軍大学院の研究で証明されている。
 
安価で確実にシーレーンを妨害できるようになり、今後の大きな課題になることは間違いない。早急な対策が必要だ。

ドローン対処はイージス艦でも難しい
第2は、軍事的にも大きな問題になる可能性がある。
 
実はイージス艦であってもドローン対処は難しい。例えば、2012年の米海軍大学院における研究「UAVのスウォーム攻撃:駆逐艦の防護システムの選択肢(UAV swarm attack: protection system alternatives for Destroyers)」を見てみよう。

(中略)(対空砲である)CIWSの増設がもっとも効果的であり効率的だと結論付けているが、それでも完全な防御からは程遠いのが実情だ。
 
また、「イージス艦の戦闘システムは高速、レーダー断面の大きい目標と交戦することに特化しており、UAVのような低速、レーダー断面の小さい目標に対しては脆弱である」「レーザーは連射が効かないことから自爆UAVが複数襲来する状況では問題になる」とも指摘している。
 
船体のどうでもよい部位に激突したのであれば、30kg程度の炸薬の自爆ドローンは大した影響はないだろう。しかし、レーダーや発射したミサイルを誘導するイルミネーターに命中すれば、その戦闘能力は喪失してしまう。今回のように艦橋に命中すれば、CICがあるにせよ航行に支障をきたすだろう。

「物理的な破壊だけが小型ドローンのもたらす脅威ではない」
本研究が発表されたのは2012年であり、その後さまざまな対抗手段も発展した。しかし、この9年間でドローン技術はさらに飛躍的に発展している。それは先のアゼルバイジャンとアルメニアの戦争を持ち出すまでもない。
 
実際、今年の初夏にも米海軍は、実験船にドローン探知及び迎撃システムを搭載し、複数のドローンによる同時攻撃に対処する実験を行っている。

そして、この件を軍事専門誌で報じたブレット・ティングリー氏は、「小さなドローンは艦船を沈めることはできないが、重要な箇所を攻撃することで無力化(mission kill)することができる。それが複数やってくればなおさら脅威となる」「物理的な破壊だけが小型ドローンのもたらす脅威ではない。小型ドローンをおとりとして使ったり、防空システムや通信を妨害できる。小型ドローンで集めた情報を元に、他のプラットフォームから攻撃することができる」とも指摘している。
 
今回の事件は非武装かつ対空レーダーもない無防備なタンカーだった。一概に比較することはできないが、今後の海上戦闘においても自爆タイプを含めたドローンの活用が飛躍的に進んでいくことは間違いない。
 
特にドローンを正しく認識することが難しいのは、1年後、数年後、10年後、20年後、30年後の技術の時間軸の把握が必要でありながら、その時間軸がイノベーションによって入れ替わるということだ。極論すれば、10年後の技術が明日実現し、1年後の技術が数年遅れたりもするのだ。

日本は自爆ドローンや攻撃ドローンを未だに1機も保有していない
日本にとっても決して無関係な話ではない。最新技術を絶えず、実際に運用することでノウハウや知見を蓄積し、新たな作戦構想や産業政策を描いていくことが求められている。

日本の防衛省は、最新版の防衛白書にて、ようやくドローンが正規戦においても有効であることを認めた。しかし、自爆ドローンや攻撃ドローンを未だに1機も保有していない現状は変わらない。リースでもかまわないのでまずは調達した上で、早急に検証を行うべきだ。
 
自衛隊のガラパゴス化は疑いようのない事実である。例えば、インドネシアは攻撃用ドローンを開発し、今年初飛行の予定となっている。ハーピーの後継タイプであるハロップは、対艦用タイプが開発されているがアジア某国にすでに販売されたとの報道もされている。
 
日中間で不幸にして戦争が生起した際に、緒戦で水上に遊弋する貨物船や沿岸部に紛れ込んだ工作員が自爆ドローンを放ち、護衛艦隊が半壊状態もしくは対空弾薬を射耗したところに中国艦隊が侵攻してきたのでは防衛はままならない。
 
かつて、米海軍は英軍が航空攻撃によって停泊中の戦艦を撃沈及び大破せしめたタラント空襲の戦訓を軽視し、日本海軍による真珠湾攻撃で大損害を蒙った。その愚行を近い将来に今度は被害者として繰り返してはならない。【8月4日 文春オンライン】
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AIを備えたドローンの戦術的革新性については、7月24日ブログ「ドローンが変える戦争の歴史 AIによる完全自律型、更には互いに連携するドローンの“群れ”も」でも取り上げました。

日本はイージス艦やいずも型空母に執心していますが、かつて巨大戦艦が雲霞のように押し寄せる戦闘機の格好の餌食になった轍を踏まなければいいのですが。

コロナ禍のいろんな場面で露呈したように、かつては最先端技術を誇った日本は、今やIT利用において世界の流れから“周回遅れ”状態にありますので。


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ドローンが変える戦争の歴史 AIによる完全自律型、更には互いに連携するドローンの“群れ”も

2021-07-24 23:27:27 | 軍事・兵器
(今後の戦場にあっては、AIで自己判断し、役割分担してチームプレーするような大量のドローンの群れが押し寄せる・・・ということにも。)

【戦争の歴史を変えるAIドローン】
昨日の東京オリンピックの開会式を見ていたところ、1824台のドローン群が空中に大会エンブレムや地球儀を描き出すパフォーマンスが。これは米インテルの技術のようですが、こうした「群れ」制御技術は戦場でも威力を発揮するのでは・・・なんて考えてしまいました。

無人飛行機ドローンの登場で戦争の様相は大きく変わりつつあることは多くの識者が指摘するところですが、その「実力」を見せつけたのがナゴルノ・カラバフ州を巡る紛争でのアゼルバイジャンの勝利でした。

この戦いで、ロシア製兵器を有するアルメニアを、アゼルバイジャンはトルコ製ドローンを駆使して叩き勝利しました。

****AIドローン兵器が勝敗を決したナゴルノ・カラバフ紛争の衝撃****
(中略)このアゼルバイジャンが、世界の軍事関係者を震撼させている。AIを搭載したドローンによって、30年来にわたる係争地として知られるナゴルノ・カラバフ州を巡るアルメニアの紛争をアゼルバイジャンが勝利に導き、同州の領土の一部を奪還することに成功したからだ。
 
AIドローンは、アルメニア側の兵士や戦車の存在を見つけ出し攻撃する。これまで洞穴の中などに隠れている兵士は上空から判別できなかったが、AIドローンは、兵士の持っている電子機器などの存在から兵士の存在を発見し、攻撃するのだ。不意の攻撃を受け続けたアルメニア側は修羅場と化したであろう。
 
なぜ、アゼルバイジャンという軍事大国とも科学技術大国とも言い難い国が、AIドローンという最新兵器を使って軍事的勝利を収めることができたのか。それは、同地域の大国トルコによるAIドローンの提供があったからだ。
 
トルコは、ナゴルノ・カラバフ紛争において、同じトルコ系でイスラム教徒が多いアゼルバイジャンを軍事的に支援してきたが、今回はAIドローンという隠し玉で勝敗の帰趨を決める役割を果たした。(中略)
 
火薬や核兵器など、兵器は世界史を大きく変えてきた。今回のAIドローンは、軍事史を変えるくらいのインパクトのあるものだ。(後略)【7月22日 山中 俊之氏 JBpress】
*******************

ただ、ナゴルノ・カラバフ紛争で使用されたトルコ製ドローンはAI技術を活用したものではありますが、地上管制所の人員によって監視・制御されており、AIを搭載し人間の判断を全く受けずに自らの判断で人命を奪う「完全自律型の致死性兵器(LAWS:Lethal Autonomous Weapon Systems)」ではありません。

【すでに「完全自律型の致死性兵器(LAWS)」投入の可能性も】
今、国際社会が懸念しているのは、アーノルド・シュワルツェネッガー演じるスーパーロボットが、人間の標的を追い回して殺そうとする映画「ターミネーター」を現実のものとする「完全自律型の致死性兵器(LAWS)」です。

そして、このLAWもすでにリビアにおいて実戦で使用された「可能性」が報告されており、それもまたトルコ製ドローン(Kargu-2)です。

****空飛ぶ殺人ロボット、戦場で使用か AI兵器、世界初?****
北アフリカ・リビアの内戦で軍用の無人小型機(ドローン)が、人間から制御されない状態で攻撃をした可能性があることが、国連の安全保障理事会の専門家パネルによる報告書で指摘されていたことが分かった。

人工知能(AI)を用いて、自動的に相手を攻撃する兵器が戦場で用いられたとしたら、世界初のケースになるとみられる。
 
専門家パネルの報告書は、今年3月にまとめられた。報告書は、リビア暫定政権が昨年3月に軍事組織を攻撃した際、トルコ企業が開発した「自律型致死兵器システム(LAWS)」と呼ばれる無人小型機によって追尾攻撃が行われたと指摘した。このLAWSについて「操縦者とつながっていなくても、標的を攻撃するようプログラミングされていた」としており、AIが攻撃を行った可能性を示唆している。情報源や、死傷者が出たかについては記されていない。
 
米国の専門誌「原子力科学者会報」は5月、この報告書について「空を飛ぶ殺人ロボットが使われたかもしれない」と報道。「死者が出ていた場合、AIを用いた自律型兵器が殺害に用いられた、歴史上最初の出来事になる可能性が高い」と位置づけた。
 
一方、拓殖大の佐藤丙午教授(安全保障論)は「LAWSとは、指揮管制システムから攻撃、その評価までの全体を指す。その中で顔認証などで標的を定め、追跡、攻撃するという機能を規制しようというのが国際社会の流れだ。報告書によると、ドローンのような無人兵器が戦場に現れ、脅威を与えたことは事実かもしれないが、具体的な行動は書かれておらず、LAWSではなかったのでは、という印象だ」という。
 
ただ、佐藤氏は「小型ドローンが勝手にターゲットを認識し、追いかけて殺害する、という可能性のある兵器が戦場に出てきたという点は、LAWSへの懸念そのものの構図に当てはまる」と指摘。「兵器開発を止めることは難しくても、拡散や使用をいかに防ぐかが重要で、軍備管理・軍縮の枠組みで取り組むしか道はない」と語る。
 
LAWSをめぐっては、地雷など非人道的な兵器を規制する特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠組みで国際的な規制が模索されてきた。「コロナ禍で2年近く止まっている議論を加速するべきだ」とした。
 
米ニューヨーク・タイムズも原子力科学者会報の記事の筆者の見方を紹介しながらも、「報告書では、ドローンがどれだけ独立して行動し、人間がどれだけ監視・制御していたか分からない」として、評価に慎重な別の専門家の見方も紹介した。ただ、この専門家も「自律型兵器システムについては議論をすべきか? 当然だ」としている。【6月24日 朝日】
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当該報告書はリビア北部で墜落した無人機の残骸の写真を掲載しており、安保理専門家パネルは回収した残骸を分析したもようです。

トルコは中東における地域大国ではありますが、米中露に比べて世界の軍事大国とは言えない国です。しかし、アゼルバイジャンを含めて、6カ国にAIドローンを提供しているとの報道もあります。また、テロリストやテロ支援国家が、AI兵器を活用することで一気に軍事大国化する懸念も消えません。【前出 山中俊之氏 JBpress記事より】

****ドローンが「知性」を持ち始めた。止めるなら今だ****
(中略)
国連安全保障理事会は3月に発表した報告書の中で、2020年3月のリビアでの戦闘でKargu-2が人間の標的を追跡して攻撃したと指摘した。報告書によれば、Kargu-2は撤退していく後方支援部隊や軍用車両を追跡し、「操縦者とのデータ接続を必要とせずに攻撃を行った」可能性があるという。

以前よりも入手しやすくなり、機能も急速に向上しているドローンは、人類全体に幾つもの差し迫った課題を突きつけている。

戦闘能力に新たな「非対称」をもたらす
国際社会がその開発や売買の中止に合意しなければ、ならず者国家から小規模な犯罪組織、さらにはサイコパス的な単独犯に至るまで、誰でもKargu-2のような自律型殺人ドローンを入手し、使えるようになる日も近いだろう。

殺人ドローンが大量に出回れば、技術的に進んでいる国々が開発した対テロ防衛技術が意味をなさなくなる。

それに戦争に新たな力の不均衡を生み出すことで、自律型殺人ドローンが、数多くの地域の平和を不必要に乱すことになりかねない。手頃な価格のドローンが広まりつつあることで、安定している地域を簡単に戦闘地域へと一変させることができるようになるのだ。

殺人ドローンの誕生と急速な広まりはしかし、何ら驚くことではない。何十年も前から、軍による最新技術の導入を上回るペースで消費者技術の開発が進められてきた。

ドローンは基本的に「回転翼のついたスマートフォン」であり、現在入手可能な消費者向けドローンは、スマートフォン技術の急速な発展の副産物だと言える。消費者向けドローンは3次元へのアクセスを可能にし、食料品や医薬品の配達など新たな商業機会を生み出している。

だがドローンに(たとえば急速に進歩している顔認識機能とAIを組み合わせることで)人間並みの認知能力を与えれば、さほどの大物ではない独裁者やテロリスト、凶暴な10代の若者などが、米軍が使用しているような高価なドローンの何分の一かの値段で、強力な兵器を手にすることができるようになる。

そのようなドローンの開発に対抗するための具体的な措置を今すぐ取らなければ、安価なドローンを自律型の殺人兵器にする方法が、近いうちにインターネット上で公開されることになるだろう。

これまで、AIを使ってモノや人の顔を正確に識別することは難しかった。画像に文字を追加してわずかに変更するだけで、アルゴリズムに混乱が生じやすいためだ。(中略)そのため現在の開発レベルならば、ドローンに対する防御として、比較的簡単な対策で認識システムを混乱させることができるかもしれない。

だが巻き添え被害や罪のない犠牲者を出すことをなんとも思っていない者たちにとって、システムの精度はさほど大きな問題ではない。彼らが飛ばすドローンは、どのみち標的(とおぼしき対象)を殺害するようにプログラムされている可能性がある。

911同時テロさえ色褪せるような被害
それに、個々の標的に狙いを定めるドローンに対してどんな防御策を取ったところで、ドローンが新たな大量破壊兵器として配備されるのを阻止できるわけではない。


爆発物を搭載したドローンの大群がスポーツイベントや都市部の人口密集地域に突っ込んで爆発すれば、多くの死者が出ることになるし、それを阻止するのは難しいだろう。

現在複数の企業が、危険な飛行物体やドローンに対抗するシステムを販売しており、進歩的な軍では既に、ドローンの制御システムを妨害する対抗措置を導入している。

だが今はまだ、ドローン1機を撃墜するのも難しい状況だ。
イスラエルが最近、ドローンを航空機から破壊できるレーザー兵器の実験に成功したが、ドローンの大群をまるごと撃墜するのは、まだ非常に難しい。

そして新世代の自律型ドローンに対抗するには、通信を遮断するだけでは不十分だ。無用の混乱や被害を回避するためには、これらのドローンを安全に着陸させるための方法を開発することが不可欠だ。

自律型ドローンは、大きな被害をもたらすことを重視している集団にまったく新しい可能性を開くものとなる。一日で100カ所に攻撃を行うことができれば、9・11同時テロさえ色褪せて見えるような被害がもたらされることになる。

殺人ドローンに攻撃されるリスクはどの国にもあるが、第一弾として最も被害に遭う可能性が高いのは、国境警備が甘く法執行機関が弱い、貧しい国々だ。殺人ドローンを使った戦いは、まずはアメリカよりもアフリカで展開される可能性が高く、犠牲者もより多くなる可能性が高い。

新たな自律型飛行兵器を製造している各企業は、自社製品を激しく売り込んでいる。アメリカと中国はこれまでのところ、完全自律型の兵器の開発および製造の禁止を支持していない。これらの兵器メーカーや新たな殺人ドローンを戦場に配備している各政府の正統性を、暗に認めているのと同じことだ。

このようなドローンが役に立つこともあるのも確かだ。自律型・半自律型ドローンは、戦闘地帯の情勢を変えるのに利用されてもいる。たとえばシリアでは、反政府勢力がドローンを使って(政府軍が使っている)ロシア製の装甲車両を攻撃。安価なドローンを使って、数百万ドルの戦車を破壊している。

しかし、ドローンを有利に使えることのメリットよりも、それが悪意ある者たちの手に落ちて、きわめて精度の低い大量破壊兵器として配備されることのリスクの方が、はるかに大きい。

私たちの行動が未来を変える
無人航空機をはじめ、あらゆる類の殺人ロボットの開発や販売を世界中で停止させるのに、遅すぎることはない。それを実現するためには、複数の超大国が戦略変更を求められることになる。

開発や販売の停止は攻撃システムのみを対象として、あらゆる類の対ドローン防衛システムの開発・販売は許可されるべきだ。そして禁止措置の一環として、裕福な国の政府は、より貧しい国による対ドローン防衛システム購入に資金援助を検討し、また彼らにドローンの大群を打ち負かす方法を教えていくべきだ。ドローン技術は、人類が一丸となって対処すべき、世界規模の問題なのだから。(後略)【7月6日 Newsweek】
***********************

上記記事にあるイスラエルのドローンを航空機から破壊できるレーザー兵器については、以下のようにも。

****イスラエルが航空機搭載のレーザー兵器でブレイクスルー****
<防空システム「アイアンドーム」を補完し、戦いを劇的に変革する迎撃システムの実験に成功>

イスラエルは、航空機からドローンを撃墜できる画期的なレーザー兵器の試験に成功した。この新たな兵器は、2021年5月にパレスチナのガザ地区から飛んでくる数千のロケット弾を迎撃した防空システム「アイアンドーム」の穴を補完するものだ。

イスラエル国防省の軍事研究開発部門の責任者ヤニフ・ロテム准将は、民生用のセスナ機に搭載した試作品のレーザー兵器でこの数日間に、地中海上のさまざまな地点でドローンを撃墜したと述べた。(中略)

<「ディフェンス・アップデート」のこの動画によれば、イスラエルのレーザー兵器は気象条件が変化するなかでも的を絞りレーザーを安定化させることに成功した。レーザー兵器は弾薬がいらず、弾を込める時間もいらず、コストが従来兵器に比べるとケタ違いに安い一発当たり3.5ドルで済む。航空機に搭載すれば移動も速いという>

今回の試験では、セスナ機から800メートルほど離れて飛行するドローンを撃墜した。将来的には、射程距離を伸ばしてロケット弾や迫撃砲弾、遠くのドローンも迎撃できるシステムにする計画だ。

熱線で瞬時に発火
このレーザー兵器は、短距離ロケットを標的とする「アイアンドーム」や、弾道ミサイルや敵の航空機、中長距離ロケットを担う広域防空兵器「ダビデのスリング」などと並び、イスラエルの重層的な防空システムの一部になれるだろう。(後略)【6月23日 Newsweek】
******************

【“群れ”で押し寄せるAIドローン群】
一方で、イスラエルはこうしたドローン防御を不可能にするようなドローン攻撃システムも開発。まさに「盾」と「矛」の話です。

****原爆級の破壊力を持つドローンの「群れ」作戦 “新たな大量破壊兵器”をイスラエルが初めて使用か****
「新たな大量破壊兵器」と言われるAI(人工知能)で制御するドローン(無人機)の「群れ」作戦を、イスラエルが世界で初めて実戦で実施したと伝えられた。

英国の科学誌「ニュー・サイエンティスト」電子版6月30日の記事で、それによるとイスラエル軍は5月中旬のガザ地区での紛争で小型のドローンを群れのように使い、ハマスの武装勢力を発見して確認、攻撃したという。同誌によれば、ドローンの「群れ」が実戦で使われたのはこれが初めて。

蜂などの大群がブンブン飛び交うように
ここで「群れ」としたのは、原語では「swarm」とあり、直訳すれば「蜂などの大群がブンブン飛び交うこと」だ。さまざまな機能を備えた小型ドローンを、昆虫の群れのように多数飛ばして敵の状況を詳細に把握し、最も効果的な手段を備えたドローンから攻撃する。

例えば偵察用のドローンには、可視光、赤外線、放射線などの探知を担当するものがあり、攻撃用ドローンには機銃やミサイルを搭載したものの他、目標に自爆攻撃するものもある。さらに「群れ」には、敵方の電波を撹乱するジャミング担当のドローンも同行することがある。

これらのドローンは、人間の兵士が離陸させた後はAIの指示で互いに情報を交換しながら行動し、AIの判断で攻撃を行う。その規模はさまざまで、インド軍は2021年1月ニューデリーで行った軍事パレードの際、75機のドローンの「群れ」を飛行させたが、将来的には1000機の「群れ」を目標にしているという(「フォーブス」電子版2021年1月19日)。

低空で飛行する小型のドローンは、レーダーなどで補足しにくく、建物内や洞窟内などにも入り込むことができる。また「群れ」の一機が撃墜されても同機能の別のドローンが代わりを務める。

コストの安さも強みだ。「群れ」で使われるドローンの機体部分は民生機とほぼ共通だ。農薬散布用で搭載能力10キロの民生用ドローンなら数千ドル(数十万円)前後なので、それに軍事用の装備を加えても、せいぜい1機数万ドル(数百万円)ぐらいだろう。

「ドローン39000機で原爆1発に匹敵」する破壊力
今回イスラエルがどのようにドローンの「群れ」を使ったかまでは「ニュー・サイエンティスト」は明らかにしていないが、担当したのはイスラエル軍8200部隊で、人家に紛れ込んでいるハマスのロケット基地を発見し、AIが効果的と判断した方法で攻撃、打撃を加えたとされる。

こうしたドローンは、高度の技術や高額な開発費用を必要としないので軍事大国以外でも開発が進められており、中でもトルコとイスラエルは、各種の小型ドローンと制御システムなどを積極的に輸出を始めている。

核戦争などによる人類の絶滅までの残り時間を示す「終末時計」を公表している「原子力科学者会報」は2021年4月5日、「ドローンの群れは新たな大量破壊兵器だ」とする論文を掲載した。その破壊力は、ドローン39000機で原爆1発に匹敵するとしている。

中国は2020年11月に、3051機のLEDドローンを飛ばして空中にアニメーションを描き、ギネス記録を更新しており、原爆級の「群れ」を制御するのは時間の問題だろう。

このため、ドローンの「群れ」作戦を含めた「自立型致死兵器(LAWS)」を規制する国際的なルール作りが求められるようになってきている。そうした中で日本は、LAWSそのものについて「安全保障と人道のバランスを追求する立場から開発しない」と先月加藤官房長官が言明しているが、せめて防御手段の研究はすべきではないのか。【7月12日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】
********************

ドローンの特徴は「安価」なこと。そのため上記のような「群れ」も容易に可能になります。

AIで自己判断する完全自律型LAWの群れ・・・もはや核兵器とか弾道ミサイルとかは無用の長物になるのかも。
そうした兵器をテロリストやならず者国家が容易に入手できる日も。

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リビアで中国とトルコのドローンが空中戦 変容する戦闘形態 リビア内戦への外国勢力介入

2020-07-15 23:03:02 | 軍事・兵器

(イラン製ドローン【2019年9月6日 NHK】 高価そうに見える写真のドローンと同種かどうかは知りませんが、民生の部品を使って作られた簡易な片道切符の自爆用ドローンなら200ドルでつくれるとか。)

 

【世界に拡散する「貧者の兵器」格安ドローン 日本は25年かけて巨額費用のF35戦闘機を購入】

今日目にした記事の中で一番印象的だったのが下記のドローンに関するもの。

 

****中国とトルコの無人機がリビアで対決、中国の「大勝」―仏メディア****

2020年7月13日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、中国製の無人機がリビア上空でトルコ製の無人機との「対決」に勝利したと報じた。

 

記事は、海外の軍事サイトが先日報じた内容として、今年上半期に内戦中のリビアにおいてトルコ製の「Bayraktar TB2」無人機が少なくとも17機、中国製の「翼龍」(WL-2)無人機8機が撃墜されたと紹介。ネットユーザーからは「リビアにおける中国製無人機とトルコ製無人機の勝負で、中国が大勝した」との声が出ているとした。

 

その上で、リビアでは現在二つの政府が内戦を展開しており、国連から承認されている国民合意政府(GNA)がトルコの支援を、リビア国民軍(LNA)がアラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ロシアの支援をそれぞれ得ているとし、中国製の無人機はUAEから提供されたものであると伝えた。

 

そして、これまでの両機の分析報告からは、「翼龍」が爆弾搭載量、衛星データ捕捉能力などの性能面で明らかにリードしていることがうかがえると紹介した。【7月15日 レコードチャイナ】

********************

 

この記事、二つの側面で注目されます。

ひとつは、ドローンの空中戦という戦闘形態が現実のものとなっているという点。その方面に詳しい人にとっては常識なのでしょうが、部外者からすると「そうなんだ・・・」という感じ。

 

もうひとつは、リビアを舞台にした外国勢力の介入という話。

 

前者の関連で言えば、日本はアメリカからのF35戦闘機購入で空軍力の強化を図っています。

ただ、これには莫大な費用がかかります。中国メディアも訝るほどの。

 

****F-35戦闘機を105機も!日本のどこにそんな金が?―中国メディア****

2020年7月14日、騰訊網は、「F-35戦闘機105機を購入する日本、いったいどこからそんな大金を出すのか」とする記事を掲載した。

記事は、米国が先日日本向けにF-35Aを63機、F-35Bを42機の計105機を売却することを認可したと紹介。総額は231億ドルに達するとし「日本は一体どこからそんな金を持ってくるのか」と疑問を呈した。

その上で、米メディアの報道としてF-35戦闘機の売却計画は「契約の署名から納品、技術支援・トレーニングなどに至るまで全部で25年の時間がかかる」と説明。「一括払いではなく25年間で231億ドルを分割払いすることになるとし、年間9億2400万ドルの支出は日本にとってもそこまで大きな負担にはならない」と解説した。

また、「日本は最終納品までの25年間に毎年4〜5機のF-35戦闘機を受け取ることになる」とし、「米国や中国、ロシアが次世代戦闘機の開発を鋭意進めている状況を考えれば、25年後にはF-35の脅威は大きく低下し、場合によっては『時代遅れ』になっている可能性もある」との見方を示している。

一方で、今回の購入分では空母に搭載可能なF-35Bが42機含まれていることに着目。護衛艦「いずも」の空母化について米国が黙認し、さらには支援を行う可能性さえある中、「F-35の納品ペースが予想よりも早くなることも考えられる」とし、そうなれば日本がアジア太平洋地域において「攻撃性の極めて高い軍事力を備えることになる」と伝えた。【7月15日 レコードチャイナ】

***********************

 

もちろん、中国メディアが日本のF35購入に関心を示すのは、日本の納税者のためではなく、護衛艦「いずも」の空母化など、中国にとって脅威となりかねないという話があってのことですが。

 

それはともかく、上記のF35戦闘機などに比べれば、タイプによってはドローンはけた違いに安い「貧者の兵器」でもあります。

 

ドローンはこれまでもアフガニスタンや中東などで目指すターゲットをピンポイントで(もちろん誤爆もありますが)殺害・破壊するという高い有効性を示していましたが、改めてその攻撃能力が注目されたのは、昨年8月に起きた、(日本のミサイル防衛の要でもある)パトリオットなどの高価な対空防衛装備を誇るサウジアラビア石油施設への(アラブ最貧国の武装勢力にすぎない)イエメン・フーシ派によるドローン攻撃でした。

 

****拡散する“現代のカラシニコフ” 中東ドローン戦争****

シリアやイエメンの内戦、イスラエルによる周辺国への攻撃・・・日本では決して大きな注目を集めているとは言えないこうした出来事を追っていると、ここ数年で中東の紛争に大きな変化が起きていることがわかります。

 

軍事用ドローンが中心的な役割を担うようになっているのです。かつてアメリカやイスラエルなどが独占していた軍事用ドローンの技術は、敵対する国や勢力に急速に拡散し、紛争の潮流を変えつつあります。

 

1000キロ離れた標的を攻撃

8月17日、「サウジアラビアの油田が軍事用ドローン10機によって攻撃された」というニュースが駆け巡り、原油市場に衝撃が走りました。

 

被害を受けたサウジアラビア東部の「シェイバ油田」は、攻撃の起点となったとみられるイエメンの反政府勢力の拠点から1000キロ以上も離れています。距離を単純に比較すると、反政府勢力のドローンは羽田空港から鹿児島空港までの直線距離を飛行したことになります。

 

反政府勢力がこれまでに行ったドローン攻撃は、これまで半径150キロ範囲だったことを考えると、航行距離は飛躍的に伸びたことになります。

 

アッラーが遣わした鳥の部隊

攻撃に使われたドローンは、イランが開発した軍事用ドローン「アバビール」の改良型と見られています。

 

(中略)イランは今、「アバビール」の機体や設計技術を中東各地で支援する勢力に提供しています。隣国イラクのシーア派民兵組織、レバノンのシーア派組織ヒズボラ、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマス、そしてイエメンの反政府勢力フーシ派がこれにあたります。

 

イギリスのシンクタンク、ドローン・ウォーズ・UKが2018年に発表した報告書は、アメリカとイスラエルが10年以上にわたってドローン開発の分野をほぼ独占してきたことに触れた上で、今、“第2世代”が形成されていると指摘。9つの国と、「ノン・ステイト・アクター」、つまり国家ではない5つの勢力の名前を挙げています。その重要な一角を占めるのがイランなのです。

 

イランはこうして技術を手に入れた

(中略)

 

中東の紛争は新時代に突入した

イギリスに拠点を置く調査機関コンフリクト・アーマメント・リサーチのジョナ・レフ部長は、イエメンの反政府勢力と戦うUAE=アラブ首長国連邦などから依頼を受けてアバビールを実際に分解した専門家です。

 

そこからわかったのは、ドローンが民生の部品を使って作られた簡易なものだということ。それゆえに拡散を防ぐことは難しいと分析します。

 

「アマチュアが飛ばすドローンに爆弾が積まれているというイメージです。値段も弾道ミサイルなどに比べると圧倒的に格安に作ることができます。ドイツ、中国、それに日本からと、世界中からアマチュアでも使われる民生品を集めているので流通を規制するのは難しいです」(レフ氏)

 

偵察や攻撃を終えると基地へと戻るアメリカの高額なドローンとは異なり、低コストのアバビールは爆弾を搭載してそのまま目標に突っ込む。自爆攻撃用として使われています。

 

低コストで製造できる軍事用ドローンの技術が拡散していくことは、何を意味するのか。
専門家たちはアバビールの存在が、中東の空の戦闘の常識を覆そうとしていると語ります。

 

「これらのドローンはAK47のドローン版ということになるでしょう。敵に対して恐怖を植え付け、イランとその勢力はどこにでも攻撃ができると示すものなのです」(アメリカの軍事専門家ニコラス・ヘラス氏 NPR記事より)

 

「イラン陣営は200ドルでイスラエル上空にドローンを飛ばし、イスラエルは1発5万ドルの迎撃ミサイルで迎撃しなければならない。全く新しいアプローチです。中東はドローン戦争という新時代に突入したと言えます」(レバノンの軍事専門家エリアス・ハンナ氏)

 

イスラエルの危機感

イラン製ドローンの台頭に危機感を募らせているのがアメリカの同盟国、イスラエルです。(中略)

 

ドローン対策を急ぐイスラエル

(中略)小型の軍事用ドローンに対応するための切り札「ドローン・ドーム」。半径3キロ以内であれば無数のドローンが接近してきても、迎撃用の妨害電波を発射するだけでなく、強力なレーザー光線を照射して焼き落とします。

 

AI=人工知能を使った自動操作も可能で、まるでコンピュータゲームを見るかのような世界です。元祖ドローン大国イスラエルはアメリカとも連携し、ドローン対策兵器の配備を各地で進めています。

 

「貧者の兵器」拡散に歯止めは

アメリカやイスラエルは今でも軍事用ドローンの装備や技術では圧倒的優位に立っています。アメリカはアフガニスタンで繰り返し、ミサイルを搭載したドローンで攻撃を行い、数々の誤爆によって市民が犠牲になってきたと指摘されています。

 

また、パレスチナ暫定自治区のガザ地区やレバノンでは、イスラエルのドローンが上空を飛行する不気味な音が毎日のように確認できます。

 

複数の軍事評論家が指摘するように、後発組のイランは圧倒的な軍事力に対抗する「非対称の戦い」を戦うなかで、新たな切り札として「貧者の兵器」のドローンを手に入れ、拡散させています。

 

世界各地の軍事用ドローンの拡散をどうやって防ぐのか。前述のイギリスの軍事用ドローンに関する報告書は、輸出や使用に関する国際的な規制が必要だと指摘しています。

 

しかし国際社会での議論は進んでいません。むしろ逆行するかのように「アメリカ製の武器をもっと輸出してアメリカ経済を良くしよう」と公言してはばからないトランプ大統領のアメリカは、輸出に向けた規制を緩和する方向で検討を進めているとしています。

 

国際社会が有効な手立てを打てない現状が続けば、中東で先行する「ドローン戦争」が、世界各地の紛争地に広がる事態も時間の問題かもしれません。【2019年9月6日 NHK】

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なお、アメリカにおいても、空軍力の主役は戦闘機からドローンに移りつつあるとも言われています。(もちろん、それぞれの役割があるのは当然の話ですが)

 

下記は、もう2年以上前の記事です。

 

****米空軍「ドローン操縦士の求人」が、他のパイロット求人を上回る****

米空軍では現在、人が操縦するどの飛行機よりも、ドローン操縦士の求人のほうが多いと報道された。ただし、地球の裏側から攻撃を行うこうした操縦者たちは、ストレスによる離職も多いとされている。

 

(中略)米軍の軍用機のうち無人機が占める割合は、2005年には5パーセントだったが、12年には31パーセントにまで上昇していた

 

また、「RQ-4グローバルホーク」は、「1991年の湾岸戦争中に米軍全体が使った帯域幅」の500%を1機が使っているという。

 

一方、地球の裏側から攻撃を行う操縦者たちは、ストレスによる離職が多く、空軍は、年間1万5,000ドルのボーナスを支給するなどして引き止めを図っているとも報道されている【2017年3月18日 WIRED】

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1000キロ離れた目標を200ドルのドローンが攻撃し、ドローン同士の空中戦も行われるようになった時代、F35戦闘機を25年かけて購入するというのは・・・単に中国メディアが指摘するような次世代戦闘機の開発という面だけでなく、戦闘形態・防衛形態そのものの観点で「時代遅れ」になってしまう危険はないのだろうか?・・・と素人は考えてしまいます。

 

もちろん、軍事専門家が決定したことですから、そうした素人考えは的外れにすぎないのでしょうが。

 

【国連事務総長が「前代未聞の水準」と危惧するリビア内戦への外国勢力介入】

リビアでの中国対トルコのドローン空中戦の二つ目の観点、外国勢力の問題についてはグテレス国連事務総長が警鐘を鳴らしたばかりです。

 

****リビア内戦への外国勢力の介入、「前代未聞の水準」に 国連総長****

国連のアントニオ・グテレス事務総長は8日、リビア内戦への外国勢力の軍事介入が、高性能な装備や傭兵(ようへい)の投入により「前代未聞の水準」に達したと述べた。

 

グテレス氏は、国連安全保障理事会の閣僚級ビデオ会合で、西部にある首都トリポリと東のベンガジのほぼ中間に位置するシルト周辺に集結している軍事勢力について、特に懸念を示した。

 

グテレス氏は、「高性能な装備の供与や、戦闘に関与する傭兵の数を含め、外国勢力の介入が前代未聞の水準に達し、リビア内戦は新たな局面に入った」と述べた。

 

さらに、国連が承認している暫定政権「国民統一政府」側の勢力について、「国外から多大な支援を受けて東に向けて進軍を続けており」、現在シルトの西25キロ付近にいると説明した。

 

トルコの支援を受けるGNAは、エジプトとロシア、アラブ首長国連邦の支援を受ける元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル司令官が率いる有力軍事組織「リビア国民軍」と戦っている。

 

グテレス氏は、シルト周辺における驚くほどの軍備増強と、外国勢力のリビア内戦への直接介入が高い水準に達していることに深い懸念を示した。

 

外国勢力の直接介入は、国連の武器禁輸措置と安保理決議、今年1月にベルリンで加盟各国が確認した取り決めに違反に当たるという。しかし、具体的な国名には言及しなかった。 【7月9日 AFP】

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フランスもハフタル司令官側を支援しているとして、トルコと険悪な関係になっています。

 

トルコの積極的介入によって形成を逆転し攻勢を強める暫定政権「国民統一政府」側に対し、今度はロシア・フランス・エジプトがさらにハフタル司令官側への支援を強めて巻き返しを図る・・・結果、リビアはシリアのような外国勢力入り乱れての混戦模様に・・・という事態も懸念されます。

 

もっとも、ロシアはハフタル司令官側一辺倒というわけでもなく、勝ち馬に乗りたいような動きもあるようです。

 

****ロシアがリビアに送る戦闘員と紙幣、その思惑は****

ハフタル氏への支援を強化する一方で、他の重要人物とも接触

 

ロシアがリビアの軍事指導者ハリファ・ハフタル氏を支援するため援軍を送り込んでいる。ハフタル氏は国連が承認するリビア暫定政府の転覆に失敗し、守勢に立たされている。

 

欧州とリビアの関係者によると、ハフタル氏率いる軍事組織が先週、リビア最大の油田を制圧しようとした際に、ロシアから送り込まれた民間軍事会社の戦闘要員が協力した。こ

 

こ数週間、ロシアの貨物輸送機がシリア国内にあるロシアの空軍基地とリビアの間を定期的に往復している。米軍関係者によると、東部の拠点の防衛のため戦闘を続けるハフタル氏へのテコ入れを図る目的で、武器か兵力、またはその両方を輸送している可能性がある。

 

米軍関係者によると、ロシアは複数のミグ29戦闘機を派遣、最新のレーダーシステム1基も持ち込んだ。米アフリカ軍作戦部長を務めるブラッドフォード・ガーリング海兵隊准将は、経験不足の民間戦闘要員が戦闘機を操縦し、国際法を順守しない恐れがあると指摘した。

 

ロシア外務省に軍事支援についてコメントを求めたが回答はなかった。ロシア政府関係者は過去に、民間軍事会社はロシア政府を代表していないと述べたことがある。

 

ロシア製紙幣100トン

またリビアには何度も現金が持ち込まれており、ハフタル氏の活動の資金源となっている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がロシアの税関の記録を確認したところ、4月にはリビア東部にあるハフタル氏側の中央銀行宛てにロシア製のリビアの銀行券100トンが送付された。

 

ハフタル氏は長年、リビア内戦の主要勢力の一つを指揮してきた。ただ76歳のハフタル氏は今年、首都トリポリの攻略に失敗してから影響力に陰りが見えており、ロシア政府はハフタル氏に代わる存在も見つけようとしている。

 

ロシア外務省関係者とリビアの関係者によると、ロシアの外交官はリビア東部に拠点を置く政治指導者のアギーラ・サレハ氏や、暫定政府の高官とも接触している。

 

ロシアはこれまで、ハフタル氏のトリポリ攻撃を支援していた時でさえ、内戦の政治的解決を支持し、暫定政府との関係を維持してきた。アナリストによると、リビアの今後の政治と石油開発に対して発言権を確保することがロシアの狙いだという。

 

米国のリビア駐在武官を務め、現在はアナリストとしてカーネギー国際平和財団に所属するフレデリック・ウェーリー氏は「ロシアはハフタルに全く執着していなかった」と話す。「ロシアは政治的な結果がどうであれ、影響力を行使するのに十分なルートを確保できるようにうまく立ち回ろうとしている」(後略)【6月30日 WSJ】

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