(年明けには救済が不可避とも見られているポルトガルで、緊縮財政政策に抗議するデモ “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/5205596659/ )
【ギリシャ、ポルトガルそしてハンガリー】
巨大な経済力を背景にした中国の世界戦略の一環でしょうか、財政に苦しむ欧州各国の国債購入という形での欧州経済への関与を伝えるニュースがいくつか報じられています。
****中国がハンガリーへの支援を検討、国債買い入れの可能性も=ハンガリー国家開発相*****
ハンガリーのタマーシュ国家開発相は29日、中国がハンガリーの各種プロジェクトへの出資を検討していることを明らかにした。中国人民銀行(中央銀行)がハンガリー国債を買い入れる可能性もあるとしている。
中国人民銀行は同国家開発相の発言に対するコメントは控えている。
タマーシュ国家開発相はハンガリーのニュースサイトindex.huに対し、ハンガリーのオルバン首相が中国の温家宝首相と10月末に上海で会談した際「財政における戦略的な協力関係について検討することで合意した」ことを明らかにした。協議は中国の代表団が1月にハンガリーを訪問する際に続けられるとしている。
そのうえで「中国がハンガリーの財政に関わることを決定すれば、プロジェクト・ファイナンスから国債への出資に至るまで、形式、手段、規模の面から多岐にわたる可能性がある」とし、中国人民銀行がハンガリー政府が実施する入札を通してハンガリー国債を買い入れることも選択肢の1つとの考えを示した。
財政面での協力関係を提案したのは温首相で、オルバン首相はこれに賛同したとしている。
ハンガリーと国際通貨基金(IMF)との支援をめぐる協議は決裂しており、タマーシュ国家開発相は、ハンガリー政府は市場から資金を調達する意向を持っていると強調した。
ハンガリーの公的債務の国内総生産(GDP)に対する比率は約80%と、中欧諸国の中では最も高い。【12月30日 ロイター】
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中国の温家宝首相は、10月2日のギリシャ訪問時にも、財政再建に苦しむギリシャが将来国債発行を再開した場合、中国が購入する意向を示しています。
また、欧州経済危機の次のターゲットともされるポルトガルについても、中国がポルトガル国債購入の用意があることが報じられています。
****中国、40億─50億ユーロのポルトガル国債を購入する用意=報道*****
ポルトガルの日刊紙Jornal de Negociosは22日、中国が40億ユーロ(52億6000万ドル)─50億ユーロのポルトガル国債を購入する用意があると報じた。
同紙は情報源を明示せず、両国政府間の合意により、中国は2011年第1・四半期に入札もしくは流通市場でポルトガル債を購入すると伝えた。
ポルトガルのテイシェイラ・ドスサントス財務相は先週、中国を訪問した際、謝旭人財政相および中国人民銀行(中央銀行)総裁と会談している。
またポルトガルの当局者らは、政府が国債保有者の多様化に取り組んでおり、中国との金融面での関係強化が「戦略的な優先事項」であるとの見解を示していた。
中国の胡錦濤国家主席は先月ポルトガルを訪問した際、金融危機の後遺症に苦しむポルトガルに支援を行う方針を表明したが、ポルトガル国債の購入には言及しなかった。【12月22日 ロイター】
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中国人民銀行(中央銀行)はこの報道について、コメントを拒否しています。
こうした財政に苦しむ欧州国家のスポンサーとなる中国の行動について、欧州の対中国対応の分断を狙うものとの指摘もあります。
“中国は政治的にも抜け目ない。EU各国と2国間で契約を交わすことによって、各国が異なる利害を持つことになり、EU全体の対中国政策はまとまりにくくなる。EUが結束して中国に圧力をかける事態を避けられるというわけだ。”【10月15日 Newsweek】
【EUとの交渉において新たな切り札】
中国も単にカネを出すだけでなく、資金提供することで、当然ながら欧州経済に対する発言権を強めています。
****中国が欧州債務問題に懸念表明、EUに具体的な行動要請*****
北京で21日開幕した中国・欧州連合(EU)ハイレベル経済貿易対話で中国政府高官は、欧州の債務問題を収束させるために、欧州当局はこれまでに示してきた厳しい態度を行動に移す必要があるとの考えを示した。
中国側は、債務問題に対する欧州当局の対応を支持する姿勢を示しながらも、対応策が一層効果を発揮することに対し期待を示した。
陳徳銘商務相はハイレベル経済貿易対話の席上「中国は、欧州債務危機が収束できるのか懸念している」と発言。「EUがソブリン債危機のリスクを管理できるか、合意を実際の行動につなげ、欧州が早期に金融危機から回復できるか確かめたい」と述べた。
王岐山副首相は会合の冒頭で「EUは債務危機に対応するために積極的な措置を取ってきた。できるだけ早い時期にこうした措置の効果が出始めることを希望している」と述べた。
同副首相はまた、欧州が見舞われている問題の緩和に中国は一定の役割を果たしたとの認識を示し、欧州を取り巻く状況の転換点は近いとの見通しを示した。
ただ、世界的に需要は弱く、世界経済も依然としてぜい弱である上、金融市場では流動性が高まるなか不安定な取引が続いているため、依然として多くのリスクが存在するとの考えを示した。
こうした中、中国は自国経済の堅調な成長を持続するため、慎重な金融政策運営と積極的な財政政策を追求すると述べた。
アナリストは、欧州債務危機に対する中国高官の発言の背景には、経済的、政治的な要素があるとみている。
中国招商銀行のアナリストXu Biao氏は、世界最大の外貨保有国として中国はユーロに対する影響力を持っていると指摘。欧州債務危機により、中国はEUとの交渉において新たな切り札を得たとの考えを示した。
同氏は「中国の支援が重要になればなるほど、中国の力は大きくなる」とし「これほど多額の外貨準備を保有している場合、戦略的な目標達成の手段となる」と述べた。【12月22日 ロイター】
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チャイナマネーに頼る欧州と中国の関係は、次第に中国に有利な方向に動いていくものと思われます。
上記記事の“戦略的な目標達成”のひとつでしょうか、EUが中国に対する武器禁輸措置を解除する可能性も報じられています。
****EU:来年前半にも対中武器禁輸解除か 仏紙報道*****
30日付仏紙フィガロは欧州連合(EU、加盟27カ国)が来年前半、中国に対する武器禁輸措置を解除する可能性があると報じた。EUは89年の天安門事件以来、禁輸を継続しており、中国から再三、解除要請を受けてきた。
EUのアシュトン外務・安全保障政策上級代表(外相)は17日のEU首脳会議に提出した外交方針文書で、武器禁輸について「外交・安保でEUと中国の協力を強化する上で主要な障害になっている」と指摘、解除の検討を提案していた。
フィガロ紙はアシュトン氏側近の話として、禁輸解除が「迅速に進む可能性がある」と伝えた。解除にはEUの全加盟国の同意が必要。EUは来春にも外相会議で対中政策を討議する予定だ。
フィガロ紙によると、対中関係強化の観点から早期解除が望ましいと考えるスペイン、フランスに対し、英国、オランダ、ドイツなどが異を唱えてきたが、反対論は次第に弱まりつつあるという。
中国は最近、財政再建下にあるギリシャの国債を購入する用意を表明するなど、ユーロ安定を支援する姿勢を打ち出し、EUに対する影響力を強めている。【12月30日 毎日】
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2010年も今日で終わります。
中国の経済・政治・軍事的パワーの拡大・増強が顕著な一年でしたが、来年もその傾向は変わらないようです。