孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  頻発するテロ 今後の状況はアフガニスタン情勢とも連動

2012-12-31 22:32:23 | アフガン・パキスタン

(パキスタンでのポリオワクチン接種 こうした活動もテロの標的になっています。“flickr”より By UNICEF Pakistan http://www.flickr.com/photos/unicefpakistan/5590758055/

頻発するパキスタン・タリバン運動(TTP)のテロ
パキスタン北西部のペシャワル周辺のエリアを中心に、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」のテロ活動が頻発しているのは今に始まった話ではありませんが、特に最近はそのテロ関連記事が目につきます。
今年10月に女子教育の重要性を訴えていた14歳少女を銃撃した事件でもTTPが犯行を表明していますが、私が目にした記事で、ここ半月ほどのTTPが犯行声明を出しているとされるものだけでも、以下のとおりです。

****タリバンが空港襲撃、6人死亡=パキスタン*****
パキスタン北西部ペシャワルで15日夜、武装勢力がロケット砲などで国際空港を襲撃し、地元報道によれば少なくとも6人が死亡、40人以上が負傷した。反政府勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が犯行声明を出した。
少なくとも5発の砲撃で空港の外壁や周辺の住宅街に被害が出た。武装勢力は空港敷地内への侵入を図ったが治安部隊に制圧されたという。【12月16日 時事】 
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****車爆弾で16人死亡=パキスタン北西部****
パキスタン北西部の部族地域カイバル地区で17日、小型車に仕掛けられた爆弾がさく裂し、AFP通信によれば16人が死亡、71人が負傷した。
現場はアフガニスタンとの国境から数十キロの町ジャムルードの市場。付近のバス停にいた人たちが犠牲になった。(中略)反政府勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」が犯行声明を出した。【12月17日 時事】
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****パキスタンで自爆テロ、州副首相ら9人が死亡****
パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクア州の州都ペシャワルで22日夜、政治集会を狙った自爆テロがあり、地元メディアによると、同州のビロウル副首相ら9人が死亡、17人が負傷した。
イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)が地元メディアに犯行を認めた。

集会は、ビロウル氏が所属する同州の最大与党「アワミ民族党」(ANP)が開いていたもので、同氏を含む同党幹部が多数出席していた。自爆犯は集会の終了後、会場を離れる同氏を狙った模様だ。
ビロウル氏は、TTPをはじめとするイスラム過激派に対する強硬姿勢で知られ、これまでも同氏を狙った暗殺未遂事件が何度も起きていた。【12月23日 読売】
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****タリバン運動、パキスタン兵21人殺害****
パキスタン北西部のペシャワル近郊で30日未明、パキスタン兵21人の遺体が見つかった。イスラム武装勢力パキスタンのタリバン運動(TTP)が犯行を認めた。今月20日に武装勢力に拉致された23人のうちの一部という。1人は脱出し、1人は重体。兵士らはTTPメンバーと同じパシュトゥン人出身で、政府側についたために殺害されたとみられる。【12月31日 産経】
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このほかにも、TTPとの関連はよくわかりませんが、シーア派を標的にしたテロも頻発しています。
****パキスタンでテロ相次ぐ、市民ら29人死亡****
パキスタン南西部クエッタ近郊で30日、イスラム教シーア派の巡礼者を乗せたバスが爆弾テロに遭い、19人が死亡、25人が負傷した。巡礼者は隣国イランに向かっていた。
また、クエッタ市内では29日、警察車両が何者かに銃撃され、警官4人が死亡。南部カラチ中心部では同日、停車中のバスが爆発し、乗客や通行人ら少なくとも6人が死亡、50人が負傷した。【12月30日 読売】
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ポリオ根絶プログラムにも影響
このうちのひとつでも日本で起きれば大騒動ですが、パキスタンでは文字どおり日常茶飯事です。
こうした治安悪化の影響は、ポリオワクチン接種という保健業務にも支障をもたらしています。

****パキスタン小児350万人、ポリオワクチン接種できず WHO****
パキスタンでは今月17日以降、小児350万人以上がポリオワクチンの接種を受ける機会を逃した――世界保健機関(WHO)の関係者が21日、AFPに語った。

感染すれば短時間のうちに手足が弛緩してまひする残酷な病気から子どもたちを守るため、パキスタンでは国連の支援の下でポリオ撲滅計画が実施されている。しかし17日に始まった接種プログラムの最初の週にシンド州の州都カラチと同国北西部でワクチン接種プログラムに従事していた9人が相次いで殺害されたことからプログラムに遅延が生じている。

パキスタンにおけるポリオ撲滅計画のWHOの上級調整官エリアス・デューリー博士は、「ワクチン接種が必要な小児は1850万人だが、実際に接種を受けたのは1490万人。350万人以上がワクチンを受けられなかったことになる」と説明した。

反政府イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」はこれまでにもワクチン接種チームを脅迫しており、今年6月にはスパイ活動を隠すためにワクチン接種が行われているとして北西部族地域のワジリスタンで接種を禁止した。ただし、先週相次いだ襲撃についてTTPは関与を否定している。

一方、数年前からパキスタンの人々の間でワクチンへの疑念が広がっており、ポリオ根絶プログラムにも影響が出ている。十分な教育を受けておらず他者の影響を受けやすい親の中には、ワクチンに関する「荒唐無稽な陰謀説」を信じ込んでワクチンに拒否感を持つ人も多い。

人口約1億8000万人、イスラム教徒が大半を占めるパキスタンは、感染力が強く、まひの原因となるポリオがいまだに流行するわずか3か国のうちの1つ。2005年には28人だった感染者は、昨年には約200人に急増した。【12月27日 AFP】
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「パキスタン・タリバン運動(TTP)」がポリオワクチン接種に反対しているのは、米軍による国際テロ組織アルカイダ指導者オサマ・ビンラディン容疑者の殺害作戦に先立ち、同容疑者の潜伏先を確認する目的で、米中央情報局(CIA)が肝炎の予防接種を装って家族らのDNAを採取したことがあるためです。
なお、今年5月、アメリカ当局に協力したとの理由で、この計画に携わったパキスタン人の男性医師に国家反逆罪で禁錮33年が言い渡されています。

TTP:アメリカと絶縁すれば政府との交渉も
長年“テロ地獄”の様相を呈しているパキスタンで、その中心に位置している「パキスタン・タリバン運動(TTP)」ですが、政府側との交渉に応じる用意があることを表明しています。ただし、パキスタン政府がアメリカと絶縁すれば・・・との条件付きですが。

****米国との絶縁、政府に要求=パキスタンのタリバン****
パキスタンの反政府勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の指導者ハキムッラー・メフスード容疑者は28日、ビデオ声明で、パキスタン政府に対し「米国の奴隷をやめるなら交渉に応じる用意がある」と米政府との絶縁を要求した。米政府は、メフスード容疑者に500万ドル(約4億3000万円)の懸賞金を用意して行方を追っている。【12月29日 時事】
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これに対し、パキスタン政府高官は、「TTP指導部のこうした要求を、真面目に受け入れる事などできない。彼らは組織体ではなく、どの政府も彼らと交渉をすることはできない。彼らは犯罪集団であり、アフガニスタンの『タリバン』とは違う。彼らの要求は、馬鹿げている。」と拒否しているとか。【12月28日 The Voice of Russiaより】

言うまでもなく、パキスタンは核保有国であり、宿敵とみなす核保有国インドと長年の対立を続けています。(インドの方は、最近ではパキスタンより中国の台頭が気になるようでもありますが)
テロが頻発する状況でどのような核管理が行われているのか・・・世界が懸念するところです。

パキスタンが裏切れば、TTPと手を組み当局に脅威を
また、パキスタンがアメリカに協力する姿勢を表向き取りながら、その一方で隣国アフガニスタンのイスラム武装勢力タリバンを支援してきたことは周知のところです。
14年末のアフガニスタンからの外国部隊撤収を控えて、アフガニスタン情勢がどうなるかは、パキスタンの動きに大きく左右されます。
もし、パキスタン政府がタリバンを見捨てれば、タリバン側はTTPと連携してパキスタンでのテロ活動を更に激化させる・・・という話もあるようです。

****今後はパキスタン次第****
・・・・最大の皮肉は、この国の運命がアフガン人自身ではなく、隣国パキスタンの動向で決まる可能性が大きいことだ。
タリバンはパキスタン軍、特に情報機関の軍統合情報局(ISI)の操り人形にすぎないという見方は、一般のアフガン人だけでなくタリバンのメンバーにも広まっている。タリバンが戦い続けられるのは隣国パキスタンから提供される「安全地帯」と援助のおかげであり、それを通じてパキスタン軍は大きな影響力を行使している。

そのためタリバン側には、パキスタンが自国の利害のために裏切りに走るのではないかという不安がある。「13年の最大の懸念は、政府軍でも米軍でもない。01年のようにパキスタンに背後から剌されることだ」と、前出の有力な情報担当者は話す。
パキスタン政府は9・11テロの後、アメリカの圧力を受けて当時のオマル政権をいきなり見捨てた。タリバンはそのことを忘れていない。

タリバンが何より恐れているのは、話し合いによる和平をパキスタンに強要される事態だ。既にタリバンの内部では、戦闘の続行か和平かをめぐり深刻な分裂が生じている。
カタールで始まったアメリカとの和平交渉は、12年3月にタリバンが話し合いを拒否してから停滞している。それでも少人数のタリバン代表団が現地にとどまり指示を待っていると、前出の元閣僚は言う。
「彼らは孤立し、居心地の悪い状態に置かれている。何らかの成果を挙げるか、さもなければ交渉を打ち切るしかない」。いずれにせよパキスタンの許可が出るまでは、代表団にできることは何もない。

ただし、タリバンは完全にパキスタンの言いなりになっているわけではない。それどころか、もしパキスタンが再び裏切った場合は報復に出る姿勢を明確にしていると、前出の有力な情報担当者は言う。
「01年のようにパキスタンが支援を止めても、運動が崩壊することはない。われわれは当時よりずっと強い。(パキスタンの部族地域で治安部隊と戦っている武装勢力)パキスタン・タリバン運動(TTP)と手を組み、パキスタン当局に大きな脅威を与えることもできる」

ただでさえパキスタン政府は多くの懸念材料を抱えている。過去数年間に3000人以上の治安部隊を殺害したTTPに加え、国民は絶望的な貧困と金融危機、慢性的なエネルギーと水の不足にも悩まされている。

権力闘争は5月まで続く
パキスタンの3人の最高実力者、アシフ・アリ・ザルダリ大統領、アシュファク・キヤニ陸軍参謀長、イフティカール・ムハンマド・チョードリー最高裁長官は、いずれも1年以内に退任する見込みだ。しかも前の2人は、既にチョードリーに首根っこを押さえられている。
ザルダリには20年以上前から続く汚職疑惑があり、キヤニも再任の正当性が問われている。

これまで軍とISIは事実上の「治外法権」状態にあり、国家の脅威と見なした人物を自由に逮捕・拘束し、場合によっては抹殺してきた。だが現在では多数の訴訟を起こされている。例えば軍の元弁護士イナム・ウル・ラヒームが提起した訴訟は、既に定年の60歳に達しているキヤニが参謀長ポストにとどまることの是非が争点だ。
軍は自らの権力と特権に対する外部の口出しを好まない。ラヒームは先日、正体不明の男たちにひどい暴行を受けた(軍は関与を否定している)。

パキスタンの政治的混乱によってタリバンは一時的な猶予を与えられ、13年の最初の数カ月を乗り切れるかもしれない。5月に予定されているパスキタン総選挙では、ひどく不人気な与党パキスタン人民党に対し、ザルダリの長年の宿敵ナワズ・シャリフと政治的には未知数な元クリケットの人気選手イムラン・カーンが挑む形になる。

シャリフもカーンも、アメリカのアフガニスタン政策や対テロ作戦をあまり評価していない。オバマ政権が部族地域で無人機による攻撃をエスカレートさせていることには、2人とも公然と反対している。
それでも、パキスタンの次期大統領が決まる前からアメリカの無人機はかつてないほど忙しくなりそうだ。パキスタンの街頭では抗議行動が激化し、部族地域では武装勢力に加わる若者が急増するだろう。しばらくは静かに成り行きを見守るしかなさそうだ。【1月2日号 Newsweek日本版】
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【「ブットを何人殺そうとも、新しいブットはどの家からでも誕生するのだ」】
“ひどく不人気”で、かつ権力基盤の脆弱な(その割には驚くほど長続きしてはいますが)ザルダリ大統領が今の地位にあるのは、暗殺されたブット元首相の夫であることから、ブット家の“家業”的なパキスタン人民党のトップにいるためです。
この不人気な父親を補佐すべく、現在父親とともに人民党共同総裁の地位にある息子のビラワル・ブット・ザルダリ氏(24歳)が本格的な政界進出を表明しています。

“元首相の命日である27日、シンド州ガリ・コダー・バクシュにあるブット家の墓所には、その死を悼む20万人以上の支持者らが集まった。警官1万5000人、治安部隊500人による厳重な警備体制の中、3代連続の政界入りを目指すビラワル氏は初めての大々的な演説を行い、貧しい人々のために「反民主主義勢力」と戦っていくと述べた。”【12月28日 AFP】
よくわかりませんが、「ブットとは、ある1つの感情──愛なのだ」とも。

ただし、“パキスタンの被選挙権は満25歳以上に限られているため、来年4月に行われる次の総選挙には立候補できないが、不人気の父親に代わってPPPの選挙戦を率いると目されている。”【同上】とのことです。

パキスタンの状況も、アフガニスタンの情勢も、動き出すのは来年の総選挙以降のようです。
当分はパキスタンのテロ地獄も続きそうです。
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中国  終末論・新興宗教の広がりを生む貧富の格差、汚職・腐敗の蔓延

2012-12-30 22:30:34 | 中国

(「全能神」の集会のようです。 写真は【12月19日 Recrd China】http://www.recordchina.co.jp/gallery.php?gid=67607&type=0&p=1&s=no#tより
教団では迫害に備えて、身元が分かる本名で呼び合うのではなくというコードネーム(ニックネーム)を使用しているそうで、革命前の中国共産党にも似ているとか。(写真では参加者の顔は消してあるようにも見えます) 終末論は大ヒットした映画「2012」から取ったものだそうです。今のところは、そんな大きな組織のようにも思えませんが、信者が迫害を神の試練とみなしているため、弾圧を受けるとますます強固に教団を信じるようになるとも。【12月21日 NewSphereより】)

【「世界終末日」騒動
「12年12月21日に世界が滅びる」というマヤ暦の終末論なるものが流布され、世界各地で騒ぎがありましたが、特に大きな混乱が見られたのがロシアと中国でした。

“終末論が騒ぎになる中ロ両国には、一向に改まらない政府の腐敗や広がる貧富の格差、抑圧的な独裁体制という共通点がある。国民が希望を持てない国家の深刻な「病」と、荒唐無稽な終末論の広がりは決して無縁ではないだろう”【1月2日号 Newsweek日本版】

****マヤ暦「世界終末日」へ、中国で騒ぎ広がる****
古代中米で栄えたマヤ文明の暦に基づき、今月21日が「世界終末日」になるとのうわさが中国でも広がり、買い占め騒ぎなどが起きている。
国営メディアが「ただのデマだ」と市民に平静を求め、天文学者が異常気象の出現を否定する声明を出すなど当局は打ち消しに躍起だ。

今月に入り、インターネットや口コミで「地球に別の星が衝突する」「地球は闇に包まれる」といった話が拡大。浙江省では「中に入っていれば大災害に耐えられる」というふれこみで、直径約5メートルのカーボン繊維製の球体が売り出された。「ノアの方舟」と名付けられ500万元(約6600万円)するが注文が殺到しているという。河北省でも農民男性が180万元(約2400万円)を投じ、直径約4メートルの球体を作った。

ネット上では懐中電灯や非常食などが入った「終末日避難セット」が大人気。「暗闇対策」で住民がろうそくやマッチの買い占めに走る騒ぎも起きた。

こうした事態を受け、北京天文台の館長は10日、ラジオ番組で「21日は、ごくありふれた一日になる」と強調。中央テレビは14日、「デマに惑わされないように」と呼びかけた。【12月14日 読売】
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国連の名称とロゴマーク入りの「ノアの箱舟 乗船券」なるものも出回ったようですが、額面が100億元(約1350億円)で、中国のオークションサイトでは10元(約135円)前後で大量に売られているというでしたので、こちらはお遊び・ジョークの類でしょう。

【“邪教”弾圧 「江沢民時代の再来」】
その中国では、「全能神」と呼ばれるキリスト教系の新興宗教が終末論を煽ったとされています。
習近平政権は共産党支配に刃向う姿勢を見せる「全能神」を“邪教”に指定し、取り締まりを強化しています。

****全能神」を大量拘束 新興宗教への弾圧強める中国指導部****
11月中旬に発足した中国の習近平(しゅうきんぺい)指導部は、新興宗教への弾圧を強め、27日までに内陸部を中心に活動するキリスト教系組織「全能神」の関係者1300人以上を拘束した。中国国営新華社通信などが伝えた。
拘束理由は「世界終末論を流布し、社会秩序を乱した」としているが、貧困層を中心に組織の影響力が拡大することに対し、共産党政権が危機感を持ち始めたのが原因と指摘する声もある。

「全能神」を大量拘束
12月になってから、国営中央テレビ(CCTV)などの官製メディアは、青海省、福建省、重慶市、内モンゴル自治区など全国各地で全能神の拠点が次々と摘発され、公安当局が布教活動のための横断幕、パンフレット、書籍を大量に押収、教団幹部を拘束したニュースを大きく伝えている。

同時に、政府系インターネットのニュースサイトなども特集を組み、「全能神の教祖は精神疾患の患者」「教団内部の男女関係は大変乱れている」「多くの詐欺事件に関与した」などと喧伝し、全能神のネガティブキャンペーンを展開している。

江沢民(こうたくみん)時代の1999年に全国で展開する気功団体の「法輪功」が邪教と指定され、関係者が大量逮捕されたことがあったが、今回の全能神への弾圧は法輪功の時と非常に似ていると指摘する宗教関係者が多い。

今回の1300人を超える大量拘束者の中には、末端の信者も多く含まれるとみられる。「全員の犯罪証拠を固めたとは思えない。公安当局のやり方は中国の国内法に違反している可能性がある」と指摘する人権活動家もいる。

宗教を求める貧困層
全能神は80年代末に中国北東部の黒竜江省で生まれた新興宗教で、イエス・キリストを信仰するほか、共産党を「大紅竜(大きな赤い竜)」という隠語で表現し、「大紅竜を殺して全能神が統治する国家をつくろう」などと主張している。90年代に「邪教」に指定されたが、全能神の主要幹部らは2001年に米国へ亡命し、ニューヨークに本部を置いて中国国内向けの布教活動を続けている。

今秋以降、全能神は古代マヤ文明の暦から「12月21日に世界の終末日が訪れる」との噂が中国国内で広がっていることを利用し、「信教すれば助かる」などと布教活動を活発化させ、信者数を急速に増やしたという。
中国国内では、貧富の差の拡大や将来への不安などから貧困層を中心に宗教を信仰する人が急速に増えているが、政府の厳しい管理下にある仏教、キリスト教など伝統宗教への入信は制限が多いため、多くの新興宗教が生まれた。

江沢民時代の再来
無神論を唱道する共産党は宗教に対し非常に厳しい政策をとってきたため、中国における新興宗教はほとんど邪教と認定された。1989年から2002年まで13年間続いた江沢民政権は宗教弾圧に最も熱心で、10以上の宗教団体を邪教と指定し厳しく取り締まった。

その後に登場した胡錦濤(こきんとう)政権は、弾圧の手を若干緩めた。共産党関係者によれば、チベット自治区書記の経験を持つ胡錦濤氏(70)は「宗教は弾圧すればするほど、その影響力は逆に大きくなる恐れがある」との考えを持っているという。党総書記在任期間の10年間、胡氏はチベット仏教やイスラム教に対して厳しい政策をとり続けたが、新しい「邪教」の指定を見送り、大量逮捕もしなかった。

今回の全能神の全国一斉取り締まりは、習近平総書記(59)の指示によるものとみられる。共産党の求心力低下への危機感から、国民に対し思想教育を再び強化したいとされる習氏は、まず、共産党の教えと矛盾する「邪教」の一掃から着手したようだ。宗教関係者の間では「江沢民時代の再来」と危惧する声が出始めている。【12月30日 産経】
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貧困層の多くが好景気から取り残されている
終末論を煽る新興宗教が広がる背景に、改善されないどころか拡大する貧富の格差が存在することは、多くの識者が指摘しているところです。

****中国の貧富の差、世界最大水準に拡大****
中国国内の貧富の差は世界で最も大きい水準にまで拡大しており、貧困層の多くが好景気から取り残されているとの調査結果が、中国家庭金融調査研究センターにより発表された。

同センターによれば、所得格差を測るのに広く使われる「ジニ係数」は2010年の中国では0.61で、危険な水準との境界線とされる0.40を大きく上回った。ジニ係数は0から1のスケールで表され、0は完全な平等を、1は完全な不平等を示す。

国民の不満をかわすことに躍起な中国共産党にとって、貧富の格差拡大は大きな懸念事項だ。国民の不満が募れば13億人の人口を抱える同国での社会不安につながりかねない。中国政府は2000年にジニ係数を0.412と公表して以降、10年以上のあいだ同国全体の係数を発表していないことからも、格差拡大が政府にとって繊細な問題であることがうかがえる。

世界銀行がウェブサイトに掲載している各国のジニ係数を基にすると、中国は2010年の時点で貧富の差が大きい上位16か国に入ることになる。
中国家庭金融調査研究センターは、西南財経大学と中国人民銀行(中央銀行)運営の金融研究機関によって創設された学術研究機関。【12月11日 AFP】
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“ジニ係数は所得の定義や世帯人員数への依存度が大きいので注意が必要である”【ウィキペディア】ということで、単純な国際比較には注意を要しますが、厚生労働省は日本のジニ計数については、税や社会保障による再分配を考慮した後の数字として、0.32程度の値を公表しています

“社会騒乱多発の警戒ラインは、0.4である”【ウィキペディア】ということからすれば、今回発表された中国の“0.61”という数値かかなりの危険域にあると思われます。
むしろ、10年以上公表していなかった数字を、しかもかなり問題を呼びそうな数字をどうして今公表したのか・・・ということが訝しく思われます。単純に情報公開が進んだということでしょうか?しかし、中国ですから・・・・。

また、上海都市部と甘粛省農村部では、所得格差が9.3倍になっているとの数字も公表されています。
****所得格差、最大9.3倍=上海市都市部と甘粛省農村部―中国****
中国社会科学院は24日までに公表した「2013年社会情勢分析予測(社会青書)」で、全国31省・市・自治区の所得格差が11年時点で、最大9.3倍近くに達していたことを明らかにした。
青書によると、最高だったのは上海市の都市部で、11年の1人当たり平均可処分所得は3万6230元(約49万円)。一方、最低だったのは甘粛省の農村部で、1人当たり純収入は3909元にとどまった。【12月24日 時事】 
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【「公務員は皆汚職にかかわっている」】
貧富の格差と並んで国民の不満を高めているのが、汚職・腐敗の蔓延です。
こちらについては、習近平指導部は是正の姿勢を示してはいます。

ただ、“国営新華社通信などの中国メディアは今月に入ってから連日、汚職官僚摘発のニュースを大きく伝え、習近平・新指導部を「腐敗と真剣に戦っている」と持ち上げている。しかし、摘発された幹部の大半は胡錦濤国家主席が率いる共産主義青年団(共青団)派につながっている人物で、反腐敗の名を借りた新たな党内の主導権争いではないかとの見方も浮上している”【12月9日 産経】といった見方もあるようです。

それはともかく、汚職・腐敗の温床となる「無駄な慣例」廃止は、それなりに社会的影響を与えているとの報道もあります。

****中国:無駄廃止で「官」接待産業に打撃****
11月に発足した中国の習近平(しゅう・きんぺい)共産党指導部が、党や人民解放軍に「無駄な慣例」を廃止するよう通知したことを受け、これまで「官」相手に潤ってきた産業が打撃を受けている。党や政府の会議で議場に飾られる生花の売り上げが激減。贈答や宴会で使われる白酒メーカーの株価も下落した。中国メディアは「綱紀粛正で官界消費を断つべきだ」と促している。

中国では、党や政府の会議などで会場に花を飾ることが多い。特に年末は会議が多く、生花店には書き入れ時だ。だが、習指導部が今月4日に公表した無駄な慣例を減らすよう求めた通知の影響で、党や政府の注文が激減。中国メディアによると、広東省広州市では売り上げが例年の半分以下になった生花店も出ているという。

また、宴会や贈答で人気の白酒メーカーも影響を受けている。今月22日、軍の最高指導機関である党中央軍事委員会が無駄な宴会や接待を減らすよう通知。それを受け、証券市場ではトップブランドの「貴州芽台(マオタイ)」など5大メーカーの株価が軒並み3〜5%下落した。投資家の間で「軍などの公費を使った高級酒のまとめ買いがなくなれば業績への影響は避けられない」との見方が広まったためとみられる。

中国では(1)公費による外遊(2)公用車の使用(3)公費接待−−の「三公」消費が、中央政府だけで11年は93億6400万元(約1270億円)。地方政府などを含めるとさらに膨らむという。市民の間では公務員の浪費に対する不満が根強いうえ、生花店や白酒メーカーに対しても「このような消費に頼っていて良いのか?」(経済紙・第一財経日報)と批判の声も上がっている。【12月29日 毎日】
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しかし、「公務員は皆汚職にかかわっている」と言われる“汚職文化”の中国で、どの程度実効が上がるのか・・・疑問視もされているところです。

****汚職は文化!?:中国で地方幹部の不祥事が次々発覚****
中国で習近平(しゅう・きんぺい)新指導部の発足後、地方の共産党幹部による不祥事が次々に明らかになっているが、新たに深セン(しんせん)市や内モンゴル自治区などでも不祥事が発覚した。中国メディアは「公務員は皆汚職にかかわっている」と語る広東省の地方都市の元幹部の声を伝えており、中国社会に根ざす「汚職文化」の深刻さが改めて注目を集めている。

香港紙「星島日報」は23日、深セン市人民代表大会(市議会に相当)代表の陳醒光(ちん・せいこう)氏が1年間にマカオに63回通い、ギャンブルで7000万元(約9億5000万円)を使い込んだと伝えた。当局の調査で明らかになり、公職を解かれた。陳氏は主に買い物や休暇としてマカオに出かけ、毎回数万元(約数十万円)の現金を持参していたという。

また地方紙「鄭州晩報」は20日、内モンゴル自治区の温泉で有名な県の副県長が、年末に各地から現地視察に来る幹部の接待のため1日8回入浴を繰り返し、関係者が疲労していると伝えた。同紙は地元関係者の「党関係者の間ではどこでも存在することだ」との証言を紹介し、接待は文化だとする見方を伝えた。

中国共産党機関紙「人民日報」のニュースサイト「人民網」は24日、汚職が明らかになった広東省茂名市の元党委書記が「服やたばこ、時計で皆10万元(約135万円)はかける。私と同じレベルの官僚の中でわいろを受け取る人物は8割はいるだろう。村長から国のリーダーまで、一体誰が誰より潔白だというのか」と発言したと伝えた。【12月24日 毎日】
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共産党指導部の中では一番庶民的で清廉とされている温家宝首相一族の不正蓄財をニューヨク・タイムズが大きく報じて問題となったこともあります。そもそも、共産党幹部の給与がどうなっているのかは知りませんが、党幹部の子弟の多くが多額の支出を要する海外留学などしているところを見ると、汚職・不正は党指導部から地方末端に至るまで・・・という感はあります。

【“中華民族の偉大な復興”】
習近平総書記は就任にあたって、「私は、中華民族の偉大な復興こそ、中華民族が近代以来抱いてきた最も偉大な夢だと思う」「新中国成立から100年後(2049年)には、調和のとれた社会主義近代化の国家目標は必ず実現され、偉大な復興の夢は必ず実現されると信じる」と語っています。

中国が深刻な国内問題を抱えていることは皆が指摘するところですが、それで内部崩壊に至るのか、あるいは問題を抱えながらもアメリカに次ぐ大国として国際的影響力を更に高めるのか・・・そのあたりについては、いろんな意見があるところです。

個人的には、なんだかんだ言いつつも、現体制が当分続くのだろう・・・とは思っています。
しかし、絶望的な貧富の格差、蔓延する汚職・腐敗、広まる新興宗教、終末論に走る人々・・・と並べると、現代政治の話ではなく、後漢末期の太平道「黄巾の乱」、元末期の白蓮教徒「紅巾の乱」、清の「太平天国の乱」といった、千年前、数百年前の中国の話をしているような感じにもなってしまいます。
“中華民族の偉大な復興”とは、南シナ海や尖閣諸島に覇を唱えることなどではなく、中国社会の抱える問題を解消していくことであるはずです。
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南アフリカ  ズマ大統領、ANC議長に再選 深まる南アの混迷

2012-12-29 21:01:19 | アフリカ

(2010年1月 ズマ大統領(左)が故郷の村で行った5度目の結婚式 右女性は大統領より30歳若い新婦 こうした絵にちょっと引いてしまうのは人種的偏見でしょう。 日本の首相が浴衣で盆踊りを踊るのと大差ないことで、文化の問題です。 
ただ、人種的対立が根深い南アで、ことさらに伝統文化をアピールし、非黒人的なものを攻撃するという話になると、別の問題が起きます。“flickr”より By MEIPN EC 2010-2011 http://www.flickr.com/photos/51617613@N04/5674294230/)

マンデラ元大統領が退院
南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)闘争をリードしたネルソン・マンデラ元大統領(94歳)は体調を崩し入院していましたが、退院できるまでに回復しました。
27年の獄中生活を経験し、94歳という高齢ですが、その体力も並はずれたものがあるようようです。

****南アのマンデラ元大統領が退院、自宅療養へ****
南アフリカの反アパルトヘイト(人種隔離政策)運動の英雄で、肺の感染症のため約3週間にわたり入院していたネルソン・マンデラ氏(94)が26日、退院した。今後は自宅で療養するという。南ア大統領府が発表した。

南ア初の黒人大統領として多くの人に愛されているマンデラ氏は、肺の感染症が再発したため今月8日に同国南部クヌにある自宅から首都プレトリアの病院に入院した。また検査の結果、胆石が見つかったため、摘出手術が行われた。
今回の入院はマンデラ氏にとって、27年間の獄中生活から解放された1990年以降で最も長期のものとなった。【12月27日 AFP】
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マンデラ元大統領はノーベル平和賞も受賞し、その国際的評価は高いものがありますが、その卓越した指導力・人間性から、反アパルトヘイト闘争の相手側となった国内白人層からも一定の支持を得ています。

【「黒人が白人になろうとする憂慮すべき傾向の1つだ」】
一方、現在の南アフリカ大統領はジェイコブ・ズマ氏ですが、こちらは何かと物議を醸す言動が見られます。

****犬を飼うのは白人文化、南ア大統領の発言が物議****
南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領による「犬を飼うことは白人の文化でありアフリカ的ではない」との発言が、ペットの飼い主たちから批判を浴びている。

地元メディアの報道によると、ズマ大統領は犬を飼い、散歩に連れて行ったり獣医に通ったりするのは「白人文化に属すること」と発言。南アでペットを飼う人が増えていることについて「黒人が白人になろうとする憂慮すべき傾向の1つだ」と述べたという。

このコメントに対し、国内のペットオーナーたちからは批判が噴出した。マイクロブログのツイッターには、「犬を飼うのはアフリカ的ではないそうだ。確かに、ドイツ製の車やイタリア製スーツ、アイリッシュウイスキーを自慢する古臭いアフリカの伝統とは違うな」など、皮肉たっぷりの投稿が相次いだ。

大統領府は、ズマ氏のコメントについて「アフリカにおける精神の独立を目指したもの」と火消しに追われている。
マック・マハラジ大統領報道官は、大雨や非常に寒い日に外で働く使用人たちを尻目にペット犬と一緒にくつろいでいる人や、ペットの具合が悪くなると獣医に駆け込むのに使用人や同居する親族が病気になっても無視する人もいるとしながら、大統領の発言は「動物への愛情を人に対する愛情より優先する必要はないと強調しただけだ」と釈明した。【12月28日 AFP】
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大統領報道官が釈明したような“大雨や非常に寒い日に外で働く使用人たちを尻目にペット犬と一緒にくつろいでいる人や、ペットの具合が悪くなると獣医に駆け込むのに使用人や同居する親族が病気になっても無視する人もいる・・・”云々には一定に理解できるものはありますが、ことさらに“黒人対白人”の対立構造を持ちだすあたりに違和感と危ないものを感じます。

ズマ大統領は“奔放”な性格なようで、かつて汚職疑惑を原因に副大統領を罷免され、下院議員も失職した他、レイプ容疑で起訴されるが無罪判決を受けた経験もあります。
南アフリカ共和国では最大の民族集団であるズールー人の文化を尊重するズマ大統領は、今年4月には4人目の妻と結婚しています。
こうした“奔放さ”“庶民性”“親しみやすさ”が、これまで一般国民の高い支持を獲得してきた要因でもあるとされています。

なお“南アフリカで一夫多妻制は合法だが近代化が進み、また欧米風のライフスタイルが根付く中で、実際には少なくなりつつある。また2010年の統計によれば、南ア国民の4分の3近くが、一夫多妻に反対だと回答しており、女性では反対の割合は83%となっている” 【4月22日 AFP】とのことです。

12月に行われた与党アフリカ民族会議(ANC)の議長選に先だっては、12頭の牛をいけにえにした伝統儀式を行って話題となったこともあります。

****南ア大統領、再選願って先祖に祈とう 牛いけにえに****
南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領とその家族が、大統領の続投を祈願するために地元の村で行った伝統儀式で12頭の牛をいけにえにしたと、同国のメディアが26日に報じた。

現地紙タイムズによると、地元クワズール・ナタール州ヌカンドラ村の儀式では一族の長老が、12月に行われるアフリカ民族会議(ANC)の議長選においてライバル候補からズマ大統領を守り導くよう、先祖に祈とうしたという。また同国の日刊紙スターは、出席者には牛の丸焼きと伝統的な醸造酒が振る舞われたと伝えている。

タイムズ、スター両紙は1面に、ズマ大統領がヒョウ革でできたズールー戦士の装束を身にまとい、槍と盾を振り回している姿を掲載した。ANCの関係者はこの儀式には参加しなかった。

ANCの次期議長選が迫る中、ズマ大統領支持者の一部はこの数か月間、鞍替えしてカレマ・モトランテ副議長の支持にまわり、公然とズマ大統領の退陣を求めている。経済の停滞や高い失業率、汚職問題など喫緊の課題が目白押しの中、ズマ大統領はリーダーシップを問われて非難され、再選に向けて苦戦している。

また今回儀式が行われたズマ大統領の地元のンカンドラ村には、警備システムに2千800万ドル(約23億円)を投じたとされる大統領の自宅があり、議論を呼んでいる。

支持率の低迷にもかかわらず、政治評論家らはズマ大統領のANC議長再選を予想しており、また南アでは与党ANCが圧倒的優勢にあることから、2014年の大統領選でも必然的に再選されるだろうとみている。【11月27日 AFP】
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ネルソン・マンデラの独特の輝きが消えつつある
牛のいけにえが功を奏したのか、ANC議長選挙では圧勝しました。

****南アフリカ:ズマ大統領続投へ 与党議長選で勝利****
南アフリカの与党・アフリカ民族会議(ANC)は18日、ブルームフォンテーンで開催中の党大会で議長選を行い、現職のズマ大統領(70)がモトランテ副大統領(63)を破り再選した。任期は5年。議長再選でズマ氏は任期が切れる14年以降も大統領職を続投する可能性が高まった。

ズマ氏は再選後の演説で団結を呼び掛けた。ANCは今年で結成100年。反アパルトヘイト(人種隔離)闘争を率い、94年の全人種参加の初の国政選挙で圧勝、ネルソン・マンデラ議長が黒人初の大統領に就任した。民主化後の4回の下院選でいずれも6割以上の議席数を占め、安定与党として国政を主導してきた。

しかし、近年は度重なる党関係者の汚職に非難が集中。宗教指導者らがモラル低下歯止めを要請する異例の書簡を大統領に送った。経済格差は民主化以前より拡大したとの指摘もあり、今年夏から秋に主要産業の一つのプラチナや金の鉱山で賃上げ要求ストが続発した。党風や政策の刷新に本腰を入れられるかが喫緊の課題だ。【12月19日 毎日】
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マンデラ議長のもとで反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争を展開したアフリカ民族会議(ANC)は南アフリカにあっては今も他を寄せ付けない大きな力を有しています。
ただ、権力を長く維持している現在は、利権獲得のための装置となっている・・・といった批判も聞かれます。

南アフリカにおける経済格差、腐敗・汚職などの問題、プラチナ鉱山で賃上げ要求スト弾圧などについては、9月1日ブログ「南アフリカ 労働争議で警官隊発砲 検察は労働者側を起訴」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120901)でも取り上げました。

****マンデラ時代の輝きを失う南アフリカ****
ネルソン・マンデラの独特の輝きが消えつつある――。先週末、94歳の元南アフリカ大統領が肺感染症を再発し、妻のグラサ・マシェルさんはインタビューで悲嘆の表情を見せた。同様に、アパルトヘイト(人種隔離政策)後の南アフリカの輝きが色あせつつあることを多くの国民が嘆いている。

■最大の危機に直面する政権与党
政権与党のアフリカ民族会議(ANC)は今週末、党首選出のための会議を開く。ただ、党員にとって心を痛める出来事が2つ重なった。一つは国に勇気をもたらした偉大な指導者が死の床にあり、人種融和という遺産も危機にさらされていること。もう一つは、国内の不満が高まり、設立意義も崩壊しつつあるANCを率いるズマ大統領が、党首続投を狙っていることだ。

ANCは今や、支持層が新興実業家やリベラル層、大衆迎合的な過激派、労働組合などに分裂し、1994年に黒人政権に移行して以降、最大の危機に直面している。この結果、ズマに対抗してモトランテ副大統領も党首選への立候補を表明する事態になった。

ズマ大統領は強権的で、地方票を固めたことでほぼ勝利を確実にしている。にもかかわらず、党首選を実施すれば党内の亀裂を深める可能性が高く、国全体への悪影響も懸念される。

南アフリカは危機のさなかにある。教育制度は崩壊し、貧困と失業が増加。国の屋台骨を支えてきた資源産業は非合法的なストライキに苦しんでいる。
ズマ氏が党首選で勝利を収めれば、14年に実施される総選挙に出馬し大統領に再選される可能性が高い。そうなれば閣内の権力闘争や、理念よりも利権を重視する弱体政権がさらに7年続くことになる。

■ズマ氏勝利でANC分裂も
政治アナリストのオーブリー・マツィキ氏は「ANC内部が不安定なのだから、国力を高められる政治組織にはなれない。生活向上という観点では、誰が大統領になっても国民の期待に応えられないだろう」と話す。

同氏によれば、国民は日々、徐々に進行していた危機が急激に悪化するきっかけになる「ブラック・スワン」が起こる可能性を認識しているという。ズマ氏などが国全体のこうした雰囲気を無視しているように思えても、ANC内部には別の考え方をするグループもある。

こうしたグループは社会にまん延する不満の深刻さを認識し、ズマ氏が党首の座を維持すれば14年の(総選挙での)ANCの得票率は60%以下に落ち込むと予想する。これは94年に初めて全人種参加の選挙が実施されて以来、政権を維持してきた同党の優位を脅かす水準だ。

あるANC幹部は「(ズマ氏は)危機を認識していたとしても、解決策を持たない。南ア経済は低迷し、我々は仕事を失う。これを見過ごすわけにはいかない」と述べ、「独自に実施した調査では、党首が交代しなければANCは大きく支持を失うことが示されている」と明かした。

したがって、ズマ氏が勝利すればANCの内部分裂を招く可能性は、前回の選挙前の状況よりも高いかもしれない。白人を主な支持基盤とする野党の民主同盟の大躍進につながる可能性もある。ANCに反対する声が社会全体に広がっていることは、公共サービスに対するデモや今年相次いだストライキで顕在化している。【12月13日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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ANC議長再選で大統領再選も手中に
上記のような危機感にもかかわらずズマ大統領がANC議長に再選され、次期大統領選での再選もほぼ確実にした訳ですが、これによって南アフリカの混迷はまさます深まったとも言えます。

****ズマ大統領の続投濃厚 南ア、貧困対策が急務****
南アフリカ与党、アフリカ民族会議(ANC)議長(党首)に18日、現職のズマ大統領(70)が再選され、2014年以降の大統領続投の可能性がさらに高くなった。
白人支配体制が終結して18年が過ぎたが、人種間の格差は深刻なまま。黒人貧困層からもANCに批判が高まっており、ズマ氏には、悪化した経済の再建とともに貧困対策が急務となっている。

南アでは8月の警官隊による鉱山労働者34人の射殺事件後、貧困層の不満が噴出し、ストライキが鉱業分野から製造業、農業にまで拡大。スト頻発の影響で今年第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は、第2四半期の3.4%から1.2%へと大幅に減速した。

中部ブルームフォンテーンで開かれたANC全国大会で副議長に選ばれ、14年以降の副大統領最有力候補となったラマポーサ氏は、元ANC書記長の実業家。ズマ氏には、経済通を要職に起用することで経済対策を強化し、「海外の投資家らを安心させたい狙いがある」(地元記者)とみられている。

アフリカ最大の経済大国南アは1994年の民主化後、黒人優遇策がとられ、「ブラック・ダイヤモンド」と呼ばれる黒人中流層も生まれた。ただ貧富の差は極めて大きく、昨年の国勢調査によると、白人世帯の年間所得は平均で黒人世帯の約6倍。人口の約8割を黒人が占める南アの失業率は昨年、29.8%に達した。

頻発したストは元ANC青年同盟指導者のマレマ氏の呼び掛けで拡大した側面もある。ズマ氏と対立しANCを追放されたが、過激な主張で黒人貧困層の絶大な人気を誇る。労働者の多くはANCの支持基盤である南ア最大の労組団体、南ア労働組合会議の指示を無視し、ストを続けた。

貧困家庭出身のズマ氏も貧困層の強い支持を保ってきたが、故郷クワズールー・ナタール州の自宅周辺が多額の公金で改良された疑惑が大会前に発覚。幹部らの汚職問題に加え、激しい党内抗争もANC支持者の反発を招く要因だ。

現在、入院中のマンデラ元大統領(94)の指導でアパルトヘイト(人種隔離)と闘った歴史を持つANCに対抗できる政党は存在せず、14年の総選挙もANCの勝利は確実。ただズマ体制のまま臨めば、議席を減らすとの観測も出ている。【12月20日 日経】
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頻発したストを指導したとされる元ANC青年同盟指導者のマレマ氏というのも、ズマ氏以上に過激な黒人至上主義を煽る人物であり、南アフリカの将来を託すような人物ではありません。

これではマンデラ元大統領も安心して療養してはいわれません。奇跡的な病状回復も、そうした南アフリカの明日への不安感から実現したものかも。

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アメリカ  動き出した銃規制論議

2012-12-28 21:32:48 | アメリカ

(米コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件の犠牲者を悼む人々 “flickr”より By Law Center to Prevent Gun Violence http://www.flickr.com/photos/smartgunlaws/8288767190/

【「常識的な法案だ」】
児童ら26人が犠牲となった米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受け、さすがの“銃社会”アメリカにおいても、オバマ米大統領が新たな銃規制を目指す動きが出ています。

ただし、“武器保持の権利を保障した合衆国憲法修正第2条の撤廃を訴える声は少ない。米国に「銃なき世界」が訪れるなど、あり得ないというのが実感だ。むしろ今回の議論では、軍用に近い自動小銃を一般国民が所持する必要があるかが論じられている”【2月21日 産経】という、限定された枠組みでの話ですが。
それでも、銃規制を取り上げることの政治的リスクから、殆んど何も対策がとられてこなかった最近のアメリカ政治においてはこれまでにない動きです。

****米国:大統領が目指す新銃規制 過去の「妥協」許されず****
児童ら26人が犠牲となった米東部コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受けオバマ米大統領が新たな銃規制を目指す中、最大の抵抗勢力の全米ライフル協会(NRA)は21日の記者会見で銃規制には一切触れず、対決姿勢を鮮明にした。オバマ大統領は銃犯罪対策を2期目の「中心課題」とする構えだが、思惑通りに進むかは予断を許さない。

「大統領としての権限をすべて使う」。ホワイトハウスが21日から流し始めたビデオメッセージで、オバマ大統領は改めて銃犯罪対策の推進を強調した。

今回の事件では、殺傷能力の高い半自動式ライフルが使用され、弾倉は多数の弾薬が装填(そうてん)できるものだった。民主党のファインスタイン上院議員は来年1月の新議会で、こうした高性能の銃器や弾倉の販売・所持・譲渡を禁止する法案を提出する予定だ。大統領は「常識的な法案だ」として、早期審議を議会に求めている。

大統領はこれまで、銃乱射事件が起きても具体策を講じることはなく、銃規制推進団体から批判された。だが今回は児童20人の命が奪われるという深刻な事態となり、NRAの支持を受ける民主党の上院議員らも銃規制を求める立場に転じた。再選を決めたオバマ大統領はもはや「選挙の心配」をする必要もなく、規制強化に取り組む環境は整っている。

新たな規制法が導入されれば、クリントン政権時の94年以来となる。10年間の時限立法で04年に失効したが、19種類の半自動式銃器の製造・販売・保有を禁じた。米紙ニューヨーク・タイムズによると、当時も小学校での銃乱射事件が規制のきっかけになったという。

カリフォルニア州で89年、20代の男が半自動式ライフルを小学校で乱射し6〜9歳の児童5人が死亡、教師1人を含む30人が負傷した。NRAの支持を受ける民主党の上院議員が規制派に転じた状況も今と似ている。
だが、NRAとその意向を受けた他の多くの議員らの抵抗は激しく、法導入まで5年を要した。また、当時は上下両院とも民主党が多数派だったが、現在は上院が民主党、下院は共和党が多数派を占めるねじれ状態。議会での合意形成はさらに難しい情勢だ。【12月22日 毎日】
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【「銃規制強化で子供は守れない」】
銃規制反対派を代表する存在で、アメリカ政治に大きな影響力を有する全米ライフル協会(NRA)は、こうした銃規制論議の高まりに反撃を始めています。
その考えは、“凶悪事件を起こすのは銃そのものではなく、銃を使う悪人である。悪人に対抗するためには銃で武装した善人が必要である・・・”というもので、具体的には、学校の安全確保のため警察官や武装警備員を配置すべきだと主張しています。

****銃規制で子供守れない」=全米ライフル協会、沈黙破り反撃****
銃愛好家による有力圧力団体「全米ライフル協会(NRA)」が、コネティカット州の小学校で起きた乱射事件を受けた銃規制の強化を阻止するため、猛然と反撃を始めた。

NRAのキーン会長とラピエール副会長は23日、それぞれ米テレビに出演し、「銃規制強化で子供は守れない」と主張。学校の安全確保には警察官や武装警備員を配置すべきだとの持論を展開した。
乱射事件後、沈黙を保っていたNRAは事件から1週間となる21日、ラピエール副会長が質問を一切受け付けない「記者会見」を行い、議会に対して全米の学校に警察官や警備員を配置するのに必要な予算を付けるよう要請した。

NBCテレビに出演したラピエール副会長は、自らの発言に対して銃規制推進派を中心に強い反発が出ていることに関し「狂っていると言いたければ言うがいい。何もしないことこそ狂っている」と挑発。半自動小銃など「攻撃用銃器」禁止法(2004年失効)による銃規制下にあった1999年にコロラド州のコロンバイン高校乱射事件が起きたことを例に挙げ、銃規制の強化は「何の変化ももたらさない」との見解を示した。

キーン会長もCBSテレビで「例えば中国でおのや刃物が学校での大量殺害に使われたからといって、それらが禁止されることはない。銃の『誤用』は禁止の論拠とならない」と述べ、銃規制反対の姿勢を鮮明にした。【12月24日 時事】
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なお、1999年のコロラド州コロンバイン高校乱射事件では、高校に武装した保安官代理がいましたが、それでも事件は起きています。
それはともかく、身近に銃が存在すれば衝動的にその銃を使用した愚行に走るというのが人間であり、それを防止するためには広範な銃規制が必要と考えます。

“銃による殺人の大半は、こうした衝動的な犯行だ。オーストラリアでは、銃規制の強化で銃犯罪が大幅に減ったことが分かっている。コロンビアの首都ボゴタでは、一般人の銃所有を禁じた結果、銃による死亡者が58%も減ったという。手元に銃がなければ死者は減る。明白な事実だ。”【2013年1月2日号 Newsweek日本版】

すでに大量に銃器が社会に存在するアメリカでは、護身のための銃が必要だという話は一定にわかりますが、そこを乗り越えないと状況は全く変わりません。
学校を含めたあらゆる場所に武装警備員が配置され、市民の行動を監視する・・・そんな社会がまともな社会とは到底思われません。アメリカが信奉する自由とは全く異なる警察管理社会です。

【「今までと違うことをする必要がある」】
事件が起きたコネティカット州やロスアンゼルスでは、市民の保有する銃の買取イベントが行われています。

****自治体が銃買い取り、米コネティカット州****
米コネティカット州ニュータウンの小学校銃乱射事件を受けて、同州のブリッジポート(Bridgeport)では銃の買い取りイベントが行われている。
出回っている銃を回収する取り組みの一環で、同種のプログラムとしては同市で過去最大規模。拳銃は最高200ドル(約1万7000円)、ライフルは75ドル(約6000円)で買い取られる。「アサルト」型のライフルと認定されるものについてはより高額の買い取り価格が設定されている。【12月26日 AFP】
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****米銃乱射事件:ロス市警、銃と商品券交換****
米西部カリフォルニア州のロサンゼルス市警は26日、市民から不要になった銃やライフルを買い取るイベントを実施した。09年から毎年5月の母の日に行っていたが、東部コネティカット州の小学校での銃乱射事件を受け追加開催した。

拳銃は最高100ドル(約8600円)相当、ライフルは最高200ドル相当のスーパー商品券と交換した。回収を優先するため、銃の入手経路など詳細は聞かない。市中心部に近い会場では午前中だけで約500丁の銃が寄せられ、午後2時には商品券が品切れに。ロイター通信によると1300丁以上が回収された。会場に姿を見せたアントニオ・ビヤライゴーサ市長は「今までと違うことをする必要がある」と述べた。【12月28日 毎日】
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【「買い手はもはや(攻撃用ライフル)が手に入らなくなると心配している」】
一方で、規制が強化される前に購入しようという“駆け込み需要”も見られるとか。

****米の銃展示即売会、大盛況-規制強化前に駆け込み需要****
当地で開催された「ガン・アンド・ナイフ・ショー(銃やナイフなど武器の展示即売会)」は22日午前9時に始まった。午前10時半にはジョン・ウェード氏の大きなブースは約30丁あった軍事用自動小銃のストックが売り切れになった。

ウェード氏は「もう売り物がない」と残念がった。同氏はケンタッキー州ボーリンググリーンでシャーウッズ・ガンズという店を経営しているが、そこでもほぼ売り切れだという。同氏はこの店では「客が押し合いへし合いしている」と述べ、「買い手はもはや(攻撃用ライフル)が手に入らなくなると心配している」と語った。

連邦政府統計では、今月14日のコネティカット州のサンディフック小学校乱射事件前でさえ、火器販売は増加していた。連邦捜査局(FBI)のシステムを通じた銃購入のための身辺調査件数は11月に200万件を超え、過去最高に達した。銃規制をめぐる論議が全米で高まっている中で、銃砲店や「ガン・ショー」で買い手は、アダム・ランザ容疑者が小学校襲撃で使った攻撃用ライフルと同じ型にとりわけ関心を示している。

「ガン・ショー」の開催予定を掲載する主要ウェブサイト「gunshows-usa.com」によると、先週末、フロリダ州オカラからコロラド州キャッスルロックに至るまで、全米24カ所以上でガン・ショー開催が予定さていた。今週末は36カ所以上で予定されている。(後略)【12月26日 The Wall Street Journal】
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規制反対派の強い抵抗も
また、銃規制に賛成・反対する立場双方の感情的な対立も起きているようです。

****米国:英キャスター退去求め請願 銃規制反対派を罵倒****
米コネティカット州の小学校で子供ら26人が死亡した銃乱射事件を受け、米CNNテレビの番組で、銃規制反対派の男性を罵倒した英国人キャスター、ピアース・モーガン氏の国外退去を求める請願がホワイトハウスのウェブサイトに掲載され、26日深夜(日本時間27日午後)までに賛同者が8万人を超えた。
同サイトには、自動小銃などを禁じる法制定の阻止を求める請願も提起され、2万9000人超が賛同。合衆国憲法修正2条が保障する「武装の権利」を米市民が重視していることがうかがえる。【12月27日 毎日】
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“モーガン氏は番組で、自動小銃などの禁止を強く主張。銃所持推進派団体「ガンオーナーズ・オブ・アメリカ」のメンバーとの討論で、「信じられないほど間抜け」などと大声で怒鳴った。請願は「モーガン氏は憲法修正2条を激しく攻撃した」としている”【12月27日 共同】とのことです。

****銃所有者の実名・住所を地図にして公開、米紙に非難殺到****
小学校での銃乱射事件を受けて米国内で銃規制をめぐる議論が熱を帯びる中、ニューヨーク州の地方紙が26日、銃を所持する許可を得ている同州の住民3万人超の実名と住所を記載した地図を公開した。銃所有者らからは、プライバシーの侵害だなどと非難の声が上がっている。

米新聞大手ガネットがニューヨーク州ウェストチェスター郡で発行する地方紙「ジャーナル・ニューズ」は、州内2郡の当局から銃器所持許可を持つ3万3000人以上の実名と住所の情報を取得。双方向型の地図を作成し、「The Gun Owner Next Door(あなたの隣に住む銃所有者)」との見出しを掲げた記事と共に掲載した。
(中略)
掲載された情報は全て、申請すれば誰でも取得できる内容。ジャーナル・ニューズ紙は「情報自由法」に基づき合法に取得したものであり、読者は近隣に銃所有者が住んでいるかどうかを知る権利があるとして、掲載の正当性を主張している。

シンディー・ロイル同紙編集長兼副社長は、「このデータベースの公表が論争を招くことは分かっていたが、ニュータウンの銃乱射事件を受け、地元の銃所有状況について可能な限りの情報を共有することが重要だと考えた」「近所の誰が銃を持っていて、身近に何人の銃所有者がいるのか、人々は気に掛けている」などと説明した。所有する銃器の種類や数に関する情報も申請したが、こちらは拒否されたという。

この地図をめぐっては、銃所有者を危険にさらすとの批判が相次いでいる。同紙には、身の安全を心配する人やプライバシーを侵害されたと感じた人から電話が数百件あったという。交流サイト「フェイスブック」の同紙のページにも賛否両論が集まっており、中には同紙や編集者の個人情報をさらす書き込みもある。【12月27日 AFP】
*******************

銃規制に向けた一歩として、殺傷能力の高い半自動式ライフルなどの規制強化が実現することを期待しますが、銃への信奉が篤いアメリカ社会で、また、民主・共和両党の対立がことあるごとに表面化するアメリカ議会において、どうでしょうか・・・。

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ロシア  アメリカ向け養子縁組禁止法案 ロシア・日本の抱える人口問題

2012-12-27 22:19:45 | ロシア

(モスクワの孤児院 この子供たちの両親は亡くなったのではなくアルコール中毒です。 “flickr”より By Sally Van Natta http://www.flickr.com/photos/salvan/388002060/)

【「感情的だが、適切な措置」】
ロシアがアメリカに対し、人権問題を巡りいささか感情的とも言える反応を示しています。

****ロシア:米向け養子縁組「禁止」 人権巡り対抗*****
米政府が人権問題で新たにロシアへの制裁を発動し、対抗措置としてロシアで、人権問題を理由に自国の子供を米国へ養子に出すことを禁止する法律が来年1月にも成立する可能性が出てきた。だが外交上の駆け引きに子供の問題を持ち出す事態にロシア国内でも批判の声が上がっている。

ロシア議会が審議している法案は、米国に養子として引き取られたロシアの幼児が放置されて死亡した過去の事件を引き合いに、人権擁護の立場から米国民との養子縁組を禁じるもの。死亡した幼児の名前から「ジーマ・ヤコブレフ法案」と呼ばれている。下院は21日、賛成420、反対7で可決し、上院も26日に採決する見通し。プーチン大統領が年内に署名すれば来年1月1日から施行される。

この法案が急浮上した大きな理由が米国側の対露制裁措置だ。ロシアの動きに先立ち、オバマ米大統領は今月14日、74年から続けてきた対露通商規制条項(通称ジャクソン・バニク条項)を撤廃する法案に署名。
ロシアが8月に世界貿易機関(WTO)に加盟したことを受け、米企業の対露進出を促す措置だったが、同時にロシア人弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏が09年に獄中死した事件をめぐり、虐待に関与した疑いのあるロシア政府当局者の米国入国を禁じる条項も法案に盛り込んだ。
米議会の指導部が国内の対露批判に配慮したためだ。マグニツキー氏は当時、脱税に関与した容疑でロシア当局に逮捕され調べを受けていたが、逆にロシア政府当局の汚職も告発していた。

これに反発するロシア政府は今月、米国産食肉に対する事実上の輸入制限を始めた。養子縁組禁止の法案についても、プーチン大統領は「感情的だが、適切な措置」と理解を示し、署名へ含みを残している。

米国は99年から昨年までに約4万5000人のロシア人を養子として引き取り、最大の引受先となってきた。そのため養子縁組が禁止されれば、約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる。
ロシアでは法案の見直しを求める署名活動も行われ、約10万人が反対を表明。「米国との養子縁組協定を破棄すれば、海外に(恵まれない)子供を引き取ってもらう道を閉ざしてしまう」とラブロフ外相が指摘するなど、政府内の意見も割れる事態となっている。【12月26日 毎日】
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「ジーマ・ヤコブレフ法案」はロシア上院でも26日に全会一致で承認され、後はプーチン大統領の署名を待つだけの状態となっています。
なお、法案の名称になったのは、2009年にアメリカで真夏の炎天下に車内に置かれ熱中症で死亡したロシア人養子だそうです。

プーチン大統領は20日、4時間32分に及ぶ恒例長時間記者会見を行いましたが、その中でアメリカ人がロシア人の子どもを養子にすることを禁じる「ジーマ・ヤコブレフ法案」について「感情的対応ではあるが、適切だと考えている」と述べ、支持を表明しています。

****米国人による養子縁組を禁止、露新法案は「適切」とプーチン大統領****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は20日、同国議会で審議中の米国人がロシア人の子どもを養子にすることを禁じる法案について「適切だと考えている」と述べ、支持を表明した。(中略)

プーチン大統領は会見で、「ロシア議会による感情的な対応であることは理解しているが、(法案は)適切だと考えている」とコメント。これまでにロシア人の子どもたちが養子として米国人にひきとられた後で死亡した複数の事件の裁判で、米国人の里親たちが無罪となっていることに不快感を示した。

ロシア側の動きに先立ち米国では前週、人権侵害に関与したロシア人に対する制裁的な措置を盛り込んだ法案が、バラク・オバマ大統領の署名で成立した。この法律は、露当局者の不正を告発しながら逮捕され、拘束中だった2009年に死亡したロシア人弁護士セルゲイ・マグニツキー氏にちなんで「マグニツキー法」と呼ばれる。マグニツキー氏は「拷問に近い状況」に置かれていたとされる。

だが、プーチン大統領は「米国こそ問題だらけだ。これまでも指摘してきた(米兵によるイラク人収容者虐待があった)旧アブグレイブ刑務所や(キューバの)グアンタナモ米海軍基地がいい例だ」と述べ、ロシアの司法制度に口出しする倫理的な権利を米国は持たないとはねつけた。【12月20日 AFP】
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旧ソ連圏を再統合し、「ユーラシア連合」創設、“強いロシア”の復活を目指すプーチン大統領としては、人権問題というロシア政治の暗部をことさらにつつくアメリカに苛立っているのでしょう。

法案が成立すれば、“約70万人といわれるロシアの孤児にとって大きな打撃となる”訳ですが、そもそも何故アフリカの途上国でもないロシアからアメリカへ、“99年から昨年までに約4万5000人”という多数の海外養子が行われているのかよくわかりません。

連邦崩壊後20年で初めて人口増加に転じる可能性
これらの孤児が今後ロシア国内できちんと養育されれば、人口減少に悩むロシアにとって一助となる・・・かどうかはともかく、ロシアの人口問題にやや明るい話題も報じられています。

****ロシア、人口増? ソ連崩壊後初 ベビーブーム世代が出産****
ソ連崩壊後、年間約100万人が減少する人口動態危機に見舞われてきたロシアで、今年、連邦崩壊後20年で初めて人口増加に転じる可能性が出てきた。人口減少は高い死亡率と低い出生率に起因していたが、1月から10月までの統計で、出生数が死亡数を上回ったからだ。

少子化対策を進めてきたプーチン政権はその成果を強調するが、専門家は、1980年代後半のベビーブーム世代の出産が増えただけで、減少傾向は変わらないとも指摘している。

露国家統計局によると、10月までの出生数は前年比7%増の158万6900人。死亡数を差し引くと800人の自然増で、これに中央アジア方面などからの移民数を加味した総人口は1億4330万人となり、同24万6000人増えている。

ロシアは91年のソ連崩壊による経済の悪化と社会不安の増大に伴い、深刻な人口減少に見舞われた。過剰なストレスやアルコール被害から男性の平均寿命は50代後半にまで落ち込み、総人口は93年の1億4856万人をピークに減少幅は年間70万~100万人までに達した。国連は2050年までに1億783万人まで減少すると予測した。

しかし、ロシアはここ10年で高度経済成長を続け、プーチン前政権時代の06年に本格的な少子化対策を開始。2人以上の子供を持つ母親に対して、25万ルーブル(約70万円)を補助する「母親資本」制度の実施や育児手当を拡充したことから、出生率が向上しだした。一方、医療保険制度の改革も進め、死亡率も危機的な状況から改善されつつある。
今月の年次教書演説で、プーチン大統領は、人口対策の成果を強調。「3人の子供を持つ家族を増やすことはロシアのノルマだ」と追加政策の方針も示した。

だが、今年の人口増は、ソ連ペレストロイカ時代のベビーブームの子供たちが出産適齢期に達しただけだとの指摘がある。専門家は「長期的に見れば人口減少には歯止めがかからず、最も楽観的なシナリオでも年間40万人の自然減が予測される。この分を移民が穴埋めする」と話している。【12月27日 産経】
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出生率はヨーロッパ並みに低く、死亡率はアフリカ並みに高い
「母親資本」制度などの少子化対策が下支えにはなっているようですが、基本的減少傾向はいまだ続いているようです。
人口減少がこのペースで進むと、プーチン大統領の目指す“強いロシア”も根底から崩れてきます。

****ロシアを阻む人口減少の罠****
旧ソ連圏諸国を糾合して超大国の復活を期すプーチンの野望の前に立ちはだかる人口急減の厳しい現実

ロシアのウラジーミル・プーチン首相が、自国の壮大な未来ビジョンを描いてみせた。実現すれば世界の経済・軍事バランスが一変しかねない。
旧ソ連圏の諸国を糾合して「ユーラシア連合」を結成し、「現代世界の一極となり、かつまたヨーロッパとアジア太平洋地域の効果的な懸け橋となり得る強力な超国家的連合」に仕立てようというのだ。

だが、その夢の前には大いなる「不都合な真実」が立ちはだかっている。ロシアの人口が急激に減少しつつあり、今世紀半ば頃には兵士も労働者も足りなくなりそう、という現実だ。そんな状況は、まさしく国家存亡の危機。中国に対抗して超大国としての地位を取り戻すのは至難の業と言うしかない。

かつてのソ連は、中国との約4200キロにわたる国境沿いに新しい都市を築き、工場を建ててきた。独裁国家ゆえの強引さで、そうした辺境にロシア民族を送り込み、住まわせた。ロシア人が住む土地ならば主権を主張しやすかったからだ。
だがソ連崩壊後の20年でシベリアや極東に住むロシア民族の数は20%近く減少。若くて有能な人たちは、みんな成功の機会を求めて首都モスクワへ出て行った。

しかも、出生率はもう何十年も右肩下がりの状態にある。昨年の出生率は1.4人と、人口の維持に必要とされる2.1人に遠く及ばなかった。一方、過去20年で25〜45歳の男性の死亡率は急激に上昇し、新生児の数を上回る水準にある。結果、今のロシアは人口減と高齢化の二重苦に見舞われている。

ソ連崩壊の直後、ロシアの人口は1億5000万人弱だった。しかし米国勢調査局によれば、今では1億3900万人弱。25年頃には1億2800万人に、50年頃には1億900万人にまで減る見通しだ。
「ロシアの場合、出生率はヨーロッパ並みに低く、死亡率はアフリカ並みに高い」と、地域開発研究所(モスクワ)所長ユーリ・クルプノフは言う。「何しろ労働年齢の男性の死亡率はヨーロッパの5倍で、これがロシアの経済発展を阻害している」

過度な飲酒による早死に
若い男性の死亡率が異常に高いのは、ソ連崩壊後にさまざまな悪条件が重なったせいだ。環境汚染はひどくなり、医療制度は崩壊し、インフラの老朽化で事故が増え、社会不安ゆえの暴力も増えた。

しかし09年に国際的な医学誌ランセットに載った報告によれば、最大の原因はソ連崩壊後にアルコール依存症が急増したことらしい。もともと大酒飲みのロシア人の基準からしても過剰なアルコール摂取が原因で、毎年60万人が早死にしていると推定されている。

「このままだとロシア人は死に絶えてしまう」と危惧するのは、現状を憂える市民団体「国境なき善行」の代表スベトラーナ・ボシェロワだ。「このままでは20年までに学校が空っぽになり、次の10年で労働者や兵士が足りなくなる。50年までには『国』と呼べないくらいの人口になってしまう」【2011年12月16日 Newsweek】
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“過剰なアルコール摂取が原因”というのはいかにもロシア的ですが、プーチン大統領は来年から紙媒体と電子メディアのアルコール飲料広告を一切禁止する法律に署名しています。

22世紀には日本の人口は現在の3分の1に減る
人口減少・少子高齢化の問題を抱えているのは日本も同じであることは言うまでもありません。対策が遅れている点ではロシアより深刻かも。
22世紀には日本の人口は現在の1億2770万人の3分の1に減るとする調査報告もあります。

ここ数年、晩婚・高齢出産化した女性の出産する子供が数字に反映され始めた影響もあってやや持ち直し傾向も見られた日本の出生率は、2011年は前年と同じ1.39にとどまっています。

****出生率横ばい1.39 第1子出産30歳超え****
厚生労働省は5日、2011年の人口動態統計を公表した。将来の人口推計のもととなる合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと想定される子どもの数)は1.39で、前年と同じだった。出生数は記録が残る1899年以降で最少の105万698人、死亡数は震災の影響もあり戦後最多の125万3463人。この結果、人口の自然減は初めて20万人を超えた。

出生率は、05年に1.26と底を打ってから08年(1.37)まで急回復したが、ここに来て上昇ペースが鈍っている。30歳以上は引き続き上昇したが、30歳未満で下がった影響という。
また、女性人口が減っている影響で、出生数は前年から2万606人減った。女性が第1子を出産する平均年齢は今回30.1歳と、初めて30歳を超え、晩産化の傾向が進んでいる。(後略)【6月6日 朝日】
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一方で、最近いろんな調査で、女性の社会進出や結婚・家庭感に関して、回帰現象みたいなものがあります。

****妻は家庭」5割が賛成=初の増加、反対上回る-内閣府調査****
内閣府は15日、男女共同参画社会に関する世論調査結果を発表した。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方について、賛成は51.6%、反対は45.1%だった。この質問を始めた1992年から前回調査の2009年まで一貫して賛成が減り、反対は増える傾向が続いていたが、今回初めて反転。賛成が反対を上回るのは、97年の調査以来15年ぶりとなった。若者の就職難や、女性にとり仕事と育児の両立が難しい環境にあることなどが背景にあるとみられる。
調査は10月11~28日、全国の成人男女5000人を対象に個別面接方式で実施した。有効回収率は60.7%。【12月15日 時事】
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主に若い世代に見られるこうした回帰傾向が少子化などに歯止めをかける方向で影響するのか・・・どうでしょうか?
人口減少・少子高齢化が社会にどのように影響するかについては、多くの深刻な指摘が巷に溢れているところですので、今回はパスします。

少子高齢化・人口減少で「強い日本」でなくなっても、そうした現実に対応順能して社会が安定しているなら、それはそれで構わないとも言えます。
単純素朴な発想で、子供が減れば競争も少なくなり、社会からも大切にされ、その子供たちはラッキーじゃないか・・・とも思えるのですが、減少した若者が就職難に苦しむという現実があります。

****企業の雇う力自体に陰り****
・・・・労働政策研究所では、所長の浅尾裕さん(59)が「日本企業の雇用吸収力自体が低下し、正社員を解雇できない分、新卒採用を抑制して調整している面があります」と指摘した。
かつては不況期でも新卒採用はあまり減らさなかったが、1990年代半ばから景気との連動性が強まった。日本で、長期雇用のメリットが大きい製造業の比率が下がり、パートなどが中心のサービス業の比率が高まったことも影響したとみる。

浅尾さんは「今後、4~5年間は団塊世代が65歳を迎えて大量退職するので採用はあまり減らないでしょう。ただ、その後は採用数の増減が大きくなるかもしれません」と警告する。労働政策研究・研修機構の推計ではゼロ成長が続くと、30年の20~24歳の就業率は63%にとどまる見通しだ。

次に話を聞いた一橋大学准教授、川口大司さんも「低成長が続くなか、日本の雇用構造が変化しつつあるとみるべきでしょう」と指摘する。正社員だけ見ると、過去と比べ離職率はあまり変わっていないが、非正規労働者の比率が増え、社会全体では勤続年数も短くなった。

しかも「原因が低成長自体にあるので、労働政策として打てる手はミスマッチの解消などに限られます。ただ、実証研究が進み、限界も明らかになってきました」と川口さんは明かす。
例えば国が失業者に職業訓練をすれば新産業にスムーズに転職でき、失業率が下がると期待されてきた。しかし、能力が同程度の人を対象に職業訓練の有無と就職の関係を調べると、大きな差がなかった、という研究もあるという。今後の対策として「企業に雇用確保を優先してもらい、低所得者には国が別途、減税と現金給付などで支援するような制度も検討課題になっています」と川口さん。(中略)

<外国ではもっと深刻? 一括採用、失業を押さえる面も>
実は若者の就職難は日本だけの現象ではない。国際労働機関(ILO)の推計では、15~24歳の失業率は世界全体で12.7%。先進国は欧州債務問題の影響もあり17.5%で、日本の約7%よりも高い。
海外に比べ日本の若年失業率が低いのは新卒者を一括採用しているためだ。最近は「既卒になると就職できない」と評判が悪いが、こうした仕組みがない国々では、新卒者でも経験を積んだ労働者と競いながら職を探さなければならず、なかなか職に就けない。(後略)【12月22日 日経プラスワン】
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低成長が続き、高度経済成長期に確立した日本の労働慣行が崩れていけば、若者の就職難は今後ますます厳しくなるのかも。
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インド  性犯罪罰則強化を求める抗議活動 不評の国民会議派シン政権 政権交代の可能性も

2012-12-26 23:13:28 | 南アジア(インド)

(2002年、イスラム教徒を中心に1000人以上(2000人との見解も)の死者を出したグジャラート暴動 右は次期首相候補として注目を集めているグジャラート州政府のモディ首相 
“本人は強く否定しているものの、2002年の暴動の際、モディ首相はイスラム教徒虐殺を止めようとせず、むしろ密かに暴動を煽っていたと非難されている。当時、モディ政権の閣僚だったMaya Kodnani氏は、ヒンズー教徒に凶器を渡し、イスラム教徒攻撃をそそのかしたとして、禁固28年の刑を受けている”【10月30日 ロイター】
写真は“flickr”より By TwoCircles.net http://www.flickr.com/photos/94592664@N00/6140179948/)

カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害は反響を呼ぶこともなく泣き寝入り
インドでは、16日夜にニューデリーのバス車内で起きた女子大生レイプ事件をきっかけにして、性犯罪に対する抗議行動が広がり大きな国内問題となっています。

****インド レイプ多発 「女性守れ」各地で抗議****
 ■不十分な捜査/処罰わずか26%
インドで、頻発するレイプ犯罪に対する抗議運動が各地で起きている。22、23日には、首都ニューデリーのインド門広場でデモ隊と警官隊が衝突し、印メディアによると双方の100人以上が負傷した。高まる市民の怒りに、政府はレイプ犯に対する最高刑を終身刑から死刑に引き上げる法改正の検討を始めた。

 ◆年間2万件以上
「レイプ犯をつるせ」「デリーに治安を」
プラカードなどを手に学生主体の約1万人のデモ隊は22日、インド門広場で警察が設置したバリケードを突破し、大統領府に向かおうとして警官隊と衝突した。警察は催涙ガスや放水でデモ隊を排除した。23日も、双方は再び衝突した。

抗議運動のきっかけは、16日夜にニューデリーで起きたレイプ事件だ。女子学生(23)が友人男性と私営乗り合いバスに乗ったところ、別の男に「こんな時間に何をしている」といいがかりをつけられた。その後、酒に酔った6人にレイプされ、鉄パイプで暴行を受けたうえ車外にほうり出された。女性は重体で腸を摘出する手術を受けた。犯人は全員逮捕された。

インドでレイプ犯罪は多発しており、幼児が被害者となるケースもある。インド紙ヒンドゥスタン・タイムズによると、2010年は報告分だけでも2万2千件あり20年間で倍増した。

インドでは伝統的に、女性は家にとどまることを求められてきたが、最近は女性の社会進出に伴い、夜間に繁華街を出歩く姿も増えた。こうした行動への根強い偏見や反発に加え、もともとある女性の人権を軽視する風潮もあり、女性が性犯罪に遭うリスクは高まっているようだ。

レイプ事件の捜査が不十分なことも犯罪を助長しているとされる。同紙によれば、犯人が処罰されたケースは20年間で44%から26%に減った。背景には、被害者側が裁判に持ち込むまで警官に賄賂を要求されたり、取り調べで嫌がらせを受けたりするため、手続きを断念せざるを得ないことがある。

 ◆法改正の動きも
今回の抗議デモでは、レイプ犯の量刑が軽いことが犯罪を誘発していると政府の対応を批判している。シンデ内相は22日、「極めてまれなケースになるが、効果的な処罰をするため、法改正に向けた迅速な対応を取る」と述べ、レイプ犯に極刑を科す法改正を行うことを示唆した。

今回の抗議行動がここまで拡大したのは、被害者が中間層の女子学生で現場がデリー中心部だったため、社会問題に敏感で活動的な学生らの怒りに火がついたからだ。ただし、カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害はこうした反響を呼ぶこともほとんどなく、相当数が泣き寝入りしているとみられる。【12月24日 産経】
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女性の社会的地位が低いインド社会で性犯罪が多いことは想像に難くありませんが、“今回の抗議行動がここまで拡大したのは、被害者が中間層の女子学生で現場がデリー中心部だったため、社会問題に敏感で活動的な学生らの怒りに火がついたからだ。ただし、カースト下位層など社会的に弱い立場の女性の被害はこうした反響を呼ぶこともほとんどなく、相当数が泣き寝入りしているとみられる”との指摘が、インド社会の抱える女性問題とは別の問題の存在を示しています。

不人気なシン政権
この性犯罪に対する罰則強化を求める抗議行動に対しては、シン首相の「失言」のおまけがついています。

****性犯罪抗議演説でインド首相「失言」…批判殺到****
性犯罪の罰則強化を求める抗議活動が暴徒化したインドで、シン首相が24日の国民向けテレビ演説の収録後、録画担当者に「これでいいか」と確認した部分が編集されずに全国放送された。
国民に確認を求めたと一部で受け取られ、簡易投稿サイト「ツイッター」などで「『演説してやった』ということ?」「不誠実」と批判が殺到している。

シン首相は演説で、抗議のきっかけとなったニューデリーの女性(23)暴行事件について、「国民の怒りは当然。娘3人の父として同じ気持ちだ」と述べ、「すべての女性の安全のため努力する」と誓っていた。ツイッターでは「最後の一言で、演説に心がこもっていないとわかった」などの意見が相次いだ。【12月25日 読売】
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まあ、他愛もない話ではありますが、最近のシン首相の不人気ぶりを象徴しているとも言えます。

シーク教徒で経済学者出身のシン首相は、“2004年のインド総選挙で国民会議派がインド人民党を破って第一党となると、国民会議総裁であるソニア・ガンディーがそのまま首相に就任するかと思われたが、ソニアは自身が首相となるのを固辞し、代わりにシンを首相に指名した。この裁定により、シンはインド独立以来ヒンドゥー教徒以外では初めてとなる首相に就任する”【ウィキペディア】というように、イタリア出身のソニア・ガンジーの代役、あるいは、ソニアの息子であるラフル・ガンジーへの“つなぎ”とも見られていましたが、インド政界にあっては珍しい清廉な人柄もあって、1期目は非常に評価も高いものがありました。

2009年の総選挙で国民会議派中心の政党連合である統一進歩同盟が勝利したため、シン首相は2期目を継続することになりますが、政府の腐敗・汚職疑惑問題や、物価高、最近の経済自由化政策への批判などで、評判がよくありません。

次期首相候補のガンジー家御曹司
今年10月の内閣改造では、ネール・ガンジー王朝の本命ラフル・ガンジー氏が入閣するのでは・・・とも思われていましたが、ラフル氏は入閣を固辞したと報じられています。

****インド内閣改造 ガンジー家“御曹司”入閣固辞 党勢固め、影響力強化優先****
インドで数々の政治指導者を生んできた「ネール・ガンジー家」の御曹司で最大与党、国民会議派幹事長のラフル・ガンジー氏(42)が、28日にシン首相(80)が行った内閣改造で新閣僚に加わることを固辞した。国民会議派の次期首相候補と目されるラフル氏は、2014年の総選挙を閣僚経験のないまま迎える可能性が高まっている。

ラフル氏の曽祖父は、インド独立後、初代首相を務めたジャワハルラル・ネール氏。祖母インディラ・ガンジー氏と父ラジブ・ガンジー氏も首相を歴任し、いずれも暗殺されている。母ソニア・ガンジー氏(65)は国民会議派の総裁と、ラフル氏の政治家としての毛並みは抜群だ。

今回の内閣改造では、クリシュナ外相(80)の後任にクルシード法相(59)を横滑りさせるなど、「若手とベテランの組み合わせ」(シン首相)を重視した布陣となった。
新顔の登用で、相次ぐ汚職疑惑で傷ついた内閣のイメージの刷新を図ったとみられる。
ラフル氏の入閣について、シン首相は「何度も要請しているが、ラフル氏の意向は、党勢強化にある」と述べ、ラフル氏が受諾しなかったことを明らかにした。

理由の一つは、今年初めに行われた地方選挙での国民会議派の惨敗だ。総選挙の前哨戦とされた北部ウッタルプラデシュ州の州議会選挙で、ラフル氏は陣頭指揮を執ったが敗北、「ラフル氏は当時のショックから、立ち直れていない」(観測筋)とされる。入閣により、ラフル氏が政府の“汚職にまみれた印象”に引きずられるのを嫌ったとの見方もある。

いずれにしても、母親のソニア・ガンジー総裁はラフル氏以外の人物を自身の後継者に据える考えはないとされる。インド・メディアは、ラフル氏が近く、党内でより重要なポストに格上げされるとの見方を伝えている。
内閣改造では、閣外相にラフル氏に近い若手も抜擢(ばってき)され、「ラフル氏が、内閣についてシン首相と議論することに無関心だった状態から脱却したのは初めて」(タイムズ・オブ・インディア紙)という。
ラフル氏は党勢の立て直しを優先するとともに、党内での自身の影響力を強めることにも腐心しているようだ。【10月30日 産経】
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政権交代の可能性も
最近のシン政権の不人気ぶりから、2014年の総選挙での国民会議派の敗北・政権交代の見方も出てきています。

****国民会議派が大敗する****
現地テレビ局NDTVが8月に行った視聴者3万人を対象にした世論調査では、国民が与党へ向ける視線は想像以上に厳しいことが判明したのだ。その内容は、「(2014年予定の)次回総選挙で改選議席543議席中、インド人民党(BJP)が143議席(現在は116議席)、国民会議派は127議席(206議席)と与党が激減し、BJPが第一党になる」というものだった。「潮目」は明らかに変化している。(後略)【12月号 選択】
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注目されるインド人民党のモディ氏
そうした中で次期首相の可能性もあるとされているのが、中道右派の最大野党インド人民党(BJP)幹部で、インド西部グジャラート州首相のナレンドラ・モディ氏です。
モディ氏は、2001年にグジャラート州の州首相となり、中道路線でひたすら経済成長に邁進し、同州経済を成功させてきた実績があります。

しかし、かつての同氏には「極右」のイメージが強くあります。
“グジャラート暴動-2002年、ヒンドゥー至上主義者たちが乗った列車をイスラム教徒が放火し、59人が焼死するテロ事件が発生、さらにこの復讐としてヒンドゥー教徒がイスラム教徒を襲撃、双方の死者が一千人以上に上った、あの忌まわしき惨事だ。この事件に際し、州首相として適切な措置を講じなかったという「道義的責任」がそれだ。事件への「関与」も取り沙汰され、最高裁が指名する特別調査委員会によれば、ようやく今年2月に「刑事訴追不可」との見解を発表したが、異議を唱える参考人もおり、グレーの印象はいまだ拭いきれていない。謝罪を一切しないモディは同事件を負い目とは感じていないようだが、「国際社会の除け者」であるという事実がこれまで同氏の台頭を抑えてきた面はある”【同上】

インド人民党は、政教分離やカースト解消などには基本的に賛成しているとのことですが、本質的にはヒンドゥー至上主義政党です。
問題の多い国民会議派ですが、ヒンドゥー至上主義の保守政党であるインド人民党が政権に復帰した場合、伝統的インド社会に根差した女性の社会的地位の問題、カースト制などの人権問題、イスラム教徒との融和、更には政界の腐敗・汚職の問題が、現在より好転するとはなかなか思えません。
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カンボジアの過去・現在・未来

2012-12-25 21:36:54 | 東南アジア

(ポル・ポト時代に“反革命分子”とみなされた人々を収容するために使用されたトゥール・スレンに展示されている収容者(=処刑者)の写真 
ひざに乳飲み子をかかえた女性です。背筋を伸ばし正面を見つめるその姿は、自らとわが子に襲い掛かる不条理のなかで、絶望を見つめているかのように思えました。女性の目元を伝うものがあります。涙でしょうか。女性は当時の外務副大臣の妻だそうです。カンボジアと聞くと、この写真が思い起こされます。
「カンボジア2008 ①狂気の記憶(前編)・・・トゥール・スレン」http://4travel.jp/traveler/azianokaze/album/10209621/

新たな国際空港建設 高速道路で直結させれば問題はない
カンボジアには10年前にアンコールワット遺跡、5年前に首都プノンペンを観光したことがありますが、プノンペンの空港がどんな所だったかは記憶がありません。
他のアジア各国の主要空港と同じように、プノンペンの空港も移転拡充する計画があるようです。

****カンボジア、観光客増加見込み 首都近郊に新空港****
カンボジアは首都近郊に、新たな空の玄関となる国際空港を建設する。今後予想される外国人観光客の増加に対応するのが目的だ。同国のフン・セン首相は、新国際空港を首都プノンペンから90キロに位置するコンポンチュナンに建設すると言明。2025年の運用開始を目指すと述べた。現地紙プノンペン・ポストが報じた。

新空港の建設は現在、同国空軍が利用中の空港滑走路を民事転用する形で進められ、敷地面積は768万平方メートルとプノンペン国際空港(450万平方メートル)の約1.7倍になるという。
政府関係者は首都中心部から90キロという立地について、首都中心部から70キロ離れているマレーシアのクアラルンプール国際空港を引き合いに出し、高速道路で直結させれば問題はないという認識を示した。

カンボジア政府は現在、外国人観光客の呼び込みに注力しており、11年の280万人から20年までに700万人に増加させる目標をたてている。これにともない、首都のプノンペン国際空港が手狭になると予想されることから、首都に年間1000万人を受け入れ可能な新空港を建設すると発表していた。【12月25日 SankeiBiz】
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“首都プノンペンから90キロ”で“高速道路で直結させれば問題はない”・・・・本当でしょうか?
早朝の便など、遠い空港は何かと不便です。

五ツ星高級ホテルが並び建つシェムリアップ
それはともかく、東南アジア観光については、最近は民主化が進行しているミャンマーが脚光を浴びていますが、カンボジア観光の目玉であるアンコール遺跡群への外国人観光客も順調に増加しているようです。

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カンボジアの観光業を支える「ドル箱」、北西部シェムリアップ州にあるアンコール遺跡群が、順調に訪問観光客数を伸ばしている。
アンコールワット、アンコールトムなどの有名寺院を抱える遺跡群は、なみいる世界遺産の中でも、常に「行ってみたい世界遺産」ランキングの上位に挙がる壮大で華麗な建造物だ。
シェムリアップの中心部は小ぢんまりとした街だが、それでも五ツ星の高級ホテルが並び建ち、乾季の観光シーズンを迎えるこれからはますます華やかさを増す。

シェムリアップ州観光当局によれば、ここには2012年1月から8月までの8カ月で少なくとも100万人の外国人観光客が訪れた。シェムリアップ空港にこの期間、降り立った外国人は約136万5000人。前年同期の104万8000人より約3割も増えていて、「このうち少なくとも85%が遺跡群を訪れている」というのが、当局の見立てだ。

最も多いのは、国境を接する隣国ベトナム、企業進出もめざましい韓国や中国からの観光客。順位は多少入れ替わるが、日本人観光客は、だいたいその3カ国の次点につけている。それだけでなく、国境にあるもう一つの世界遺産「プレアビヒア」をめぐり武力衝突まで発生したタイとの関係が改善されてからは、タイ人観光客が急増している。

また、経済力を増してきたラオスからも多くが訪れるようになった。シェムリアップだけでなくカンボジア全土の統計になるが、タイ、ラオスから同国を訪れた人の数は、2012年上半期でそれぞれ9万2000人、10万7000人。どちらも前年同期の2倍近い人が訪れている。(後略)【12月4日 DIAMONDonline】
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歴史的にカンボジアとの民族感情がよくないベトナムからの観光客が最も多いというのは意外です。(敵対感情を持っているのは主に支配を受けることの多かったカンボジア側で、ベトナム側にはあまりないのかも)
また、海外観光とは縁遠い“貧困”といったマイナスイメージがあるラオスからも多くの観光客が訪れているというのも。地理的には隣国ですから、当然と言えば当然ですが。
東南アジア世界も時々刻々変化しているのでしょう。

隣接する村では栄養不良の子どもたち
国際的観光地アンコール遺跡群の観光客で賑わうシェムリアップに隣接する村に、栄養不良の子どもたちがいて、中学校すらない・・・というのも、カンボジアの今の現実です。

****100万人が訪れる世界遺産のすぐ隣にある貧困 観光産業の光と影****
・・・・500世帯ほどが暮らすクラウ村は、住民の6割近くが遺跡の保全修復や監視員などとして働く「遺跡を支える村」だ。だが、世界中から競うように援助資金や人材が集まる世界遺産の遺跡群とは対照的に、彼らの暮らしは貧しいままだった。

破壊された人々の暮らしをゼロから作り直すチアさんの活動
村には壊れた木造の橋しかなく、雨季には人々は泳いで川を渡った。安全な道路もなかった。子どもたちは、みな小柄。13歳の子どもたちの身長と体重を測ったら、日本の同年の子どもの平均より身長は20センチ低く、体重は20キロも少なかった。クラウ村の小学校には毎年約200人が入学するが、6年生まで学校に残るのはそのうち60人余り。あとは働き手となるため、小学校を辞めてしまう。

チアさんはまず、村に安全なコンクリートの橋を造ることから始めた。こつこつと自分の人脈で寄付金を募り、自ら作業場に足を運ぶチアさんの姿は、遺跡修復事業に携わる日本人たちの心を動かし、2005年には彼らも参加するJSTが発足した。

チアさんたちJSTの事業は、内戦で根こそぎ破壊された社会をゼロから作り直しているかのようだ。橋、道路、学校、食料。教育を建て直し、経済を生み出し、文化を根付かせる。チアさん自身が、奪われた半生を取り戻すかのようにもみえる。

ポル・ポト時代を知らない30代以下が国民の7割を占めるようになったカンボジアだが、社会と経済を再建しようとする原動力は、やはりポル・ポト時代と内戦の体験ではないかと私は思う。この国の40代以上の人々は、心のどこかに「生き残った者の責任感」を抱える。それが生きることへの執着と情熱となって新生カンボジアの骨を形づくっているように、私には見える。カンボジアの人々と共に歩むのであれば、日々肉づきのよくなる身体ではなく、この見えない骨を理解しなくてはならない。

今、クラウ村では中学校の建設が始まっている。クラウ村を含む周辺5村には中学校がない。小学校さえ満足に通わないのは、卒業しても通う中学校がないからだ。チアさんは自身が所有する土地を提供し、JSTが資金を集め、中学校の建設にこぎつけた。いつかこの施設を高校や専門学校にも発展させたいと考えている。【12月4日 DIAMONDonline】
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内戦とポル・ポト時代の混乱
上記記事に登場する“チアさん”とは、下記のようなポル・ポト政権下の厳しい困難を経験した人物ですが、総人口800万足らずのこの小さな国で、200万から300万近くの人間が虐殺されたと言われるカンボジアにあっては、その経験は極めて一般的なものです。

****ポル・ポト政権下でチアさんが味わった苦難*****
チアさんは1966年、シェムリアップ州に生まれた。父親は州立病院の外科医で、比較的豊かな暮らしをしていたが、内戦とポル・ポト時代の混乱で、チアさん一家は散り散りになった。

1975年にポル・ポト派が政権をとって間もなく、一家は父親が医師であることを隠して移住したが、職業がばれて父親だけが連行され、ポル・ポト派に殺害された。当時、前政権下で医師や教師をしていた知識層は、「スパイ」などの疑惑をかけられ、多くが殺害された。

チアさんも、子どもたちを集めた収容所で強制労働をさせられた。灌漑用の堀の造成、田植え、牛の世話。学校へ行くこともなく、十分な食糧も与えられず、朝3時半から夜まで働き続けた。少しでも不満をもらせば「裏切り者」と密告され、殺されるのが当たり前だったから、ため息をつくことさえはばかられた。

暗黒の時代は、10歳そこそこの子どもに生き延びる知恵を授けた。チアさんは出自を聞かれれば「農家」と答えた。文字も読めないふりをした。共同体の中の「だれ」に気を配るべきかを敏感に悟った。農作業中に大けがをして医者に行けなくても、自分の尿をかけ、タバコの葉で傷口をおさえるすべを身につけた。

だがどんなに注意深く息を潜めて生きても、ポル・ポト派の粛清は罪のない国民にまで刃を向けるようになっていた。チアさんの兄2人も、スパイとみなされ、同派に拷問されて殺された。兄弟のなかでたった一人生き延びたチアさんは、タイ国境の難民キャンプへ三日三晩歩いてたどり着き、1980年、14歳のときに日本へと渡った。(後略)【同上】
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カンボジア特別法廷 運営資金が「火の車」】
ポル・ポト派(クメール・ルージュ)の行った虐殺の理由を明確にし、その責任を問う“過去の清算”がカンボジア特別法廷で行われています。
カンボジアが明日に向かって前進するためには、“あの時代は何だったのか?”という“過去の清算”が必要なステップと思われます。

カンボジア特別法廷が難航していることは、このブログでもしばしば取り上げています。
(2月25日ブログ「カンボジア特別法廷  裁かれるポル・ポト政権の狂気」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120225
元ポト派幹部である被告の高齢化のため、時間との勝負になっていますが、財政的にも厳しい状況にあります。

“過去の清算”が必要・・・とは言いましたが、一方で、“あまり過去を蒸し返したくない”という気持ちが国民の一部にあるのも容易に推測されます。加害者側にいた人間は特にそうでしょう。
かつて自身がクメール・ルージュに属していたこともあるフン・セン首相なども、現在規模以上の法廷の拡大は望んでいません。

国際的な資金拠出(日本が約半分を負担)が滞っているということですが、カンボジア側の支出も抑制的なようです。
“そんな過去の詮索に金をかけるより、新しい空港でも作った方が将来のカンボジアのためになる”・・・といったところでしょうか。

****ポル・ポト裁判 財政危機 被告高齢化も真相究明の壁****
資金は援助国頼み/判事・職員給与ストップ
旧ポル・ポト政権(1975~79年)の大量虐殺を裁くカンボジア特別法廷が、慢性的な財政危機に陥っている。各国からの安定的な拠出金を確保できずにいるためで、判事や職員らの給与をはじめ、運営資金が「火の車」という台所事情は、元ポト派幹部である被告の高齢化とともに、真相を究明するうえでの障害となっている。

特別法廷は、国際スタッフとカンボジア人スタッフとで構成される「混合法廷」。協定上は諸外国から選ばれた判事、検察官、職員、弁護士の給与などは国連が、またカンボジア人の判事、職員の給与などはカンボジア政府がそれぞれ負担することになっている。

内訳をみると、国連負担分では日本が最大の49%を拠出しており、以下オーストラリア12%、米国9%、ドイツとフランスが各6%の順。一方、カンボジア負担分では、カンボジア政府が実際に拠出しているのは18%のみで、日本(38%)など他の援助国に資金を依存しているのが実情だ。

2006年に始動した特別法廷は、これまでに約1億8680万ドル(約157億円)を支出し、カンボジアを含む各国からの拠出は約1億7030万ドル(約143億円)にのぼる(いずれも今年10月末現在)。特別法廷は年間予算を国連などに提示するが、総じて各国とも苦しい財政事情を背景に拠出を渋り、予算は恒常的に不足している。

特別法廷は「カンボジア人スタッフ約300人の12月分給与の支払いが遅れ、来年も払えない状況にある。国連の拠出も来年3月以降はメドがついておらず、懸念は深刻だ」と指摘している。
財政難で職員の空席補充もできず、職員の数は減少している。このため特別法廷は、公判の頻度を減らすという苦肉の策もとってきており、裁判の長期化の要因ともなっている。【12月25日 産経】
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移り行く時代
今年10月には、「カンボジアはシアヌークそのものだ」と言われていたシアヌーク前国王が療養先の中国・北京で亡くなりました。
何かをする、しないに関わらず、時代は変化していきます。

****シアヌーク前国王死去 激動のカンボジア現代史を体現****
「カンボジアはシアヌークそのものだ」と言われる。フランスからの独立、クーデター、内戦、ポル・ポト政権下における暗黒の時代、そして和平と再生…。彼の生涯はまさに、激動のカンボジア現代史を体現している。

シアヌーク前国王が即位したのは1941年。前国王は「王の十字軍運動」と称してフランス、米国などを歴訪し、フランスとの交渉や、国際社会への働きかけに尽力した。その末に完全独立を果たしたのが、53年11月のことだ。

前国王が国家元首に就任して以降の60年代初頭、カンボジアは近隣諸国が政情不安な中にあって、「平和の島」と言われ、現在でも「サンクム・チャ」(旧社会)といえば、この時代を指す。東西冷戦構造のまっただ中にあって、前国王は中立政策をとり、東西両陣営から援助を引き出した。

その後、反米、中国へと傾斜していく。
カンボジアは65年以降、隣国のベトナムで燃えさかるベトナム戦争の戦火に引きずり込まれていった。ベトナム戦争における米軍の空爆はやがて、カンボジア領内におよび、国内では左派の勢力が台頭し、後に「ポル・ポト」と名乗るサロト・サルも活動を始める。シアヌーク前国王は、この勢力を「クメール・ルージュ」(赤いクメール)と呼び軽蔑した。

70年代、東西冷戦がデタント(緊張緩和)の時代にあって、カンボジアの政治体制は、70年のクーデターによる親米のロン・ノル政権、75年からのポル・ポト政権、79年からのベトナム指導型の社会主義政権であるヘン・サムリン政権と、大きく動いた。
とりわけ、共産主義社会を急進的に建設しようとしたポル・ポト政権時代は、鎖国状態にあり宗教、伝統文化、学校教育などあらゆるものが根本から否定、破壊され、国民が大量に虐殺された「暗黒の時代」と言われている。

ロン・ノル将軍にクーデターで国を追われたシアヌーク前国王は、北京で「カンボジア民族統一戦線」を結成し、「反ロン・ノル」を掲げポル・ポト派と手を結んだ。それもポル・ポト政権が誕生すると幽閉され、彼の子供たちなどは虐殺されている。
また、親ベトナムのヘン・サムリン政権に対抗しポル・ポト派と再び組み、ソン・サン派と3派連合政府も樹立した。

シアヌーク前国王がポル・ポト派を軽蔑し、またその犠牲者でありながら彼らの側に立ったことは、カンボジア現代史の大きな矛盾の一つといえるだろう。【10月16日 産経】
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変革の動きに揺れるアラブ世界と、「アラブの春」のその後

2012-12-24 22:50:19 | 中東情勢

(バーレーンの首都マナーマ 12月16日 デモを解散させるため、治安当局は催涙ガス・空砲を使用 “12月17日 Iran Japanese Radio” http://japanese.irib.ir/news/latest-news/item/33943

変革は2年前の焼身自殺から
中東・北アフリカのアラブ世界で広がっている既存の政治的枠組みへの人々の抵抗運動、いわゆる「アラブの春」が始まったのは、約2年前のチュニジアの街かどで起きた事件でした。

“2010年12月17日、チュニジア中部シディ・ブジド(スィディ・ブーズィード)にて失業中だった26歳の男性モハメド・ブアジジ(ムハンマド・ブーアズィーズィー)が果物や野菜を街頭で販売し始めたところ、販売の許可がないとして警察が商品を没収。これに抗議するためにガソリン(もしくはシンナー)をかぶり火をつけ、焼身自殺を図った”【ウィキペディア】

以来、チュニジアのベンアリ大統領、エジプトのムバラク大統領、リビアのカダフィ大佐、イエメンのサレハ大統領・・・と、それまで独裁権力を握っていた指導者がその地位から退くことを余儀なくされています。
今現在は、内戦状態にあるシリアのアサド大統領の動向が注目されていることは周知のところです。

オマーン 政府の民主化アピール
そうした体制崩壊に至らないものの、変革を求める人々の声で社会がザワザワと揺れている国もいくつかあります。クウェート、バーレーン、オマール、ヨルダンなどです。

当然ながら、各国の宗教的・政治的事情によって、その構図は様々です。体制側の対応も様々です。
共通するのは、従来抑え込まれていた変革を求める声が大きく叫ばれるようになり、体制側もそれを無視できなくなっていることでしょう。

クウェートでは、首長家主導の政府とイスラム系野党勢力が対立を深めており、12月1日にイスラム系(スンニ派)野党勢力がボイコットするなかで議会選挙が行われました。
(12月2日ブログ「クウェート 野党側がボイコットするなかで議会選挙 今後に残る火種」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121202

日本のメディアで取り上げられる機会はあまり多くありませんが、アラビア半島の先端に位置しているオマーン“カブース現国王(スルターン)は絶対君主制を維持しつつも、諮問議会(政治的実権を持たない)設置や毎年の地方巡幸を通じて民心の掌握に努め、その政権の基盤は安定している”【ウィキペディア】にも変革の波が押し寄せています。

****オマーン:初の地方選挙 民主化第一歩評価も実効性疑問も****
アラビア半島東端のオマーンで22日、地方議員を選ぶ初の地方評議会選が投開票された。中東での民主化運動「アラブの春」を受け、国民の声を地方行政に届きやすくするとして実施された。「民主化への第一歩」との評価がある一方、実効性を疑問視する指摘もある。

10年末からの「アラブの春」は政情の安定した同国にも波及し、賃上げなどを求める大規模デモが発生。内閣改造や雇用創出策に着手したカブース国王は地方評議会選実施も決めた。
選挙には定員192人に対し1475人(うち女性46人)が立候補。内務省によると、当日有権者数は44万7551人で、即日開票の結果、全議席が決まった。

首都マスカットの会社員、ワッサム・ムーサ・アルナジャールさん(39)は投票後、「インフラ整備や教育と福祉の充実など、地域の発展に住民の意思が反映される」と評価。北部サマイル州の無職、カウラ・ハッサン・アルアームリさん(23)は「女性の地位向上につながってほしい」と期待を寄せた。

ただ地方評議会は各州に助言を行うだけで、立法権はない。専門家は「政府の民主化アピールという見方もできる。ただ18世紀から王朝が続くオマーンでは国民も民主化は求めても体制変換までは望んでいない。急な民主化はかえって危険」と指摘している。【12月24日 毎日】
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体制側の変革要求予防策としての地方評議会選のようです。
従ってその権限は限定的ですが、今後の更なる権利要求に繋がっていく可能性もあります。

バーレーン サウジが介入 欧米も黙殺
スンニ派中心国でもある地域大国サウジアラビアの対岸に位置するペルシャ湾の小さな島国バーレーンでは、少数派スンニ派王家が多数派シーア派国民を治めるという形にあり、2011年の春という早い段階で多数派シーア派住民の権利拡大要求が表面化しました。
これに対し、王家を支援するサウジアラビアを中心とする湾岸協力会議(GCC)が軍事介入して、反体制活動を力で徹底的に抑え込む対応となっています。

ペルシャ湾の反対側対岸はシーア派中心国である地域大国イランです。イランは当然ながらバーレーンの多数派であるシーア派住民の運動を支援しています。
軍事介入したのがサウジアラビアではなくイランだったら欧米諸国は声高にその非をなじったところですが、サウジアラビアの介入はあまり国際的には大きな問題とはなっていません。

バーレーンの抵抗運動は現在も続いているようですが、あまりメディアで目にする機会がありません。
イランのメディアは次のように伝えています。

****バーレーン各地で、反体制デモ実施 ****
プレスTVの報道によりますと、バーレーンの複数の集落で21日金曜、人々が抗議デモを行い、ハマド国王に反対するスローガンを叫んだということです。
デモ参加者の一部は、車両タイヤに放火し、道路を閉鎖しました。
デモ参加者はまた、デモを弾圧しようとした治安部隊に向け、火炎瓶を投げつけています。

バーレーンでは、昨年2月中旬から国民による抗議運動が始まっており、同国の人々は独裁政権の打倒を求めています。
バーレーンでは、これまでに抗議デモが弾圧される中で、数十名の人々が死亡しており、また政治活動家や医師、看護士などを含めた数百名の人々が治安部隊によって身柄を拘束されています。【12月22日 IRAN JAPANESE RADIO】
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バーレーンにはアメリカの第5艦隊司令部が置かれていることから、周辺スンニ派諸国同様に、“民主化運動の守護神”アメリカもバーレーンの混乱は望んでいません。
結局は自国の利害にどのように関わるか・・・という点で対応が決まるのは、当然と言えば極めて当然な現実です。
ただ、当局側の強硬策には苦言を呈してはいるようです。

****欧米冷ややか 隣国は飛び火懸念*****
「アラブの春」で民衆を支持した欧米諸国も、今回は反政府側に冷ややかだ。
同じスンニ派王室が統治するサウジアラビアなど湾岸諸国はバーレーン王室を支持し、昨年3月にはサウジ軍を中心とした約1500人を進駐させた。バーレーンでシーア派が伸長すれば、自国のシーア派や民主化を求める勢力を刺激しかねないためだ。

また、米第5艦隊司令部がある戦略拠点バーレーンの政治的混乱を避けたい点で欧米諸国と湾岸諸国の利害は一致する。

孤立感を深める反政府側は「二重基準」として不満の矛先を米国にも向け始めている。ただ、米国は最近、治安部隊の強行策に繰り返し懸念を表明しており、王室は米国への不満を強めているという。【5月2日 朝日】
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ヨルダン 変革を求めるムスリム同胞団
立憲君主制のヨルダンではイスラム主義勢力のムスリム同胞団を中心に政治経済改革を求めるデモが断続的に発生。アブドラ国王は「政治改革」をアピールするため10月に下院を解散し来年1月23日の総選挙を行う方針ですが、同胞団はボイコットを決めています。【12月24日 毎日より】

****ヨルダン:改革訴え最大級デモ 国王批判も*****
立憲君主制のヨルダンの首都アンマンで、中東の民主化要求運動「アラブの春」に触発された、政治・経済改革を求めるデモが昨年から、毎週のように続いている。

アブドラ国王が下院議会の解散を命じた翌日の(10月)5日のデモは、穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団など野党勢力が呼びかけ、これまでで最大規模となった。国王が打つ手を誤れば、国民の不信が一気に高まりそうな不安定な政治状況だ。
AP通信によると5日のデモには約1万5000人が参加。平和的に行われたが、参加者からは「我々が欲しいのは自由であり、王室の好意ではない」などと、珍しく国王を批判する声も上がった。

アンマンでは昨年1月、食料高騰や高失業率への抗議デモが発生。今年も5%近いインフレが続き、デモは毎週のように数百人規模で行われてきた。国家元首の国王は先月、政府の決めたガソリン値上げを凍結するなど対応に追われている。

ヨルダンでは、首相任命や議会解散などの権力が国王に集中し、首相や議会の実権は小さい。デモ隊は、より民主的な政治運営を要求しており、経済への不満が政治改革を求める声に広がっている。議会による首相指名や、国王支持派が多い非都市部の議席を減らすことなどを求めているが、王制廃止など急進的な改革は求めていない。

国王は昨年2月から首相を3度代え、議会選で比例代表制も導入するなどして「政治改革」をアピール。4日に議会解散を命じ、総選挙は今年末か来年初めに行われる見通しだ。
ムスリム同胞団は5日のデモで、改革が「不十分」だとして、10年の前回選挙に続きボイコットを呼びかけた。11月にも、大規模なデモを呼びかけると報道されている。【10月9日 毎日】
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エジプト 政策と行動力に勝るムスリム同胞団
エジプトなど体制変革を実現した国では、独裁権力が崩壊した結果、それまで政治的に抑圧されていたイスラム主義勢力が台頭する現象が起きています。
エジプトでは、新憲法制定をめぐり、政権を掌握して体制固めを図るムスリム同胞団と、「新たな独裁」としてこれに反発する勢力が激しく対立していることは連日報じられているところです。

****エジプト:新憲法案の国民投票 対立の根深さを露呈****
エジプト新憲法案は15、22両日の国民投票の結果、モルシ大統領の支持母体である穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団を支持する「改憲派」が、世俗派など野党勢力を推す「反対派」を抑え、承認が確実となった。

国論は大きく分裂し、「国民的合意」にはほど遠い結果で、対立の根深さを露呈した。一方、民主化要求運動「アラブの春」が広がった中東諸国でも穏健派イスラム系組織が勢いを増しそうだ。

地元メディアが報道した非公式集計によると、賛成は64%と6割台で、投票率も30%超にとどまった。民主化の今後を占う国民投票だが、大規模な市民によるデモが繰り返される政情不安が解消されるかは見通せない。

国民投票の結果は中東に波紋を広げそうだ。2年前に「アラブの春」の出発点となったチュニジアでは、ムスリム同胞団に近いアンナハダ党が憲法制定議会で議席の約4割を占める第1党。来年2月の憲法制定を目指しているが、エジプト同様シャリア(イスラム法)の位置づけや女性の権利などの規定が争点だ。
アンナハダのガンヌーシ党首側近のシュフーディ氏は23日、毎日新聞の取材に「新憲法案の承認は前向きな動きだ」と歓迎した。(中略)

チュニジアやエジプトなどでは、組織化されていなかった世俗派の若者がインターネットなどを活用してデモへの参加を呼びかけ民衆革命に発展。政権が崩壊すると、組織化されていたイスラム系組織が台頭した。エジプトでは反モルシ派が国民投票実施を「新たな独裁」として反発しており、民主化への道のりはなお険しい。【12月24日 毎日】
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エジプトにおけるムスリム同胞団と世俗リベラル派の主導権争い、政策と行動力に勝るムスリム同胞団について、川上泰徳氏は次のように論じています。

****エジプト新憲法案を読む(2) イスラム的国づくりと女性の権利 川上泰徳****
エジプトの新憲法案は、15日と22日の2回に分けて行われた国民投票で、現地紙などの非公式集計によると60%以上の賛成で承認される見込みだ。

エジプト革命後初めて行われた人民議会選挙や諮問評議会選挙で、ムスリム同胞団やイスラム厳格派のヌール(光)党などイスラム主義の議員が3分の2を占めた結果を反映して、憲法起草委員会もイスラム主義の政治家、法律家で占められていた。
結果的に、イスラム色の強い憲法案が出来たが、その憲法案が国民投票で60%以上の賛成で承認されるのは、この流れの中では順当なところといわざるをえない。

新憲法案の承認は、エジプト革命後の国が進む方向性を決める民主主義的な政治闘争でのムスリム同胞団が勝利を確実なものとし、逆に世俗リベラル派や革命継続派の敗北を決定づける。

強権を打倒した革命は世俗リベラル派が行ったが、その後、イスラム派に乗っ取られたという主張があるが、それは全く事実とは異なる。革命自体は、世俗リベラルであれ、同胞団であれ、ムバラク政権に抑えこまれていた既存の政治勢力が主導したものではなく、既存の政治勢力が予測もしない形で、若者たちが一斉にデモに繰り出すという「若者たちの反乱」状況が生まれたことで実現した。

ムバラク政権に批判的だったエルバラダイやアムル・ムーサら世俗リベラル派は、若者たちの動きに乗って表に出た。より慎重な同胞団は「同胞団の標語を表に出すな」という指導部の指令を受けて、若者たちの反乱を支えた。

エジプト革命での世俗リベラル派の功績は、欧米からの支持を革命に向けさせたことである。エジプト革命で連日、世界の注目があつまったタハリール広場のデモで、同胞団色やイスラム色が強く出ていたら、「イスラム革命を阻止する」という名目で、ムバラク政権が軍を使ってデモを鎮圧する口実を与えていただろう。

しかし、タハリール広場で広場に入るためのチェック体制や、広場周辺の野戦病院などを維持したのは同胞団の若者であり、医師たちだった。同胞団の政治力、組織力、大衆動員力がなければ、革命が成就しなかったことは、「4月6日運動」などタハリール広場に集まり、革命に参加した者たちにとっては自明のことである。

強権が倒れた後の国作りで、ムスリム同胞団と世俗リベラル派のどちらが主導権を握るかという政治的せめぎ合いが始まった。世俗リベラル派と言っても、保守派やアラブ民族主義派、左派、イスラム派など分裂していた。一方の同胞団も保守派とリベラル派に分裂した。

しかし、政治的な分裂というならば、世俗リベラル派には、ムバラク時代の野党勢力など既存の政治勢力と、革命継続派の若者たちとの間には大きな溝があった。
既存の政治勢力はムスリム同胞団に対抗するために軍を頼りにし、一方、4月6日運動や左派などの革命継続派の若者たちは「反軍政」を掲げて、より強硬なデモに出ようとした。
当初、革命継続派の若者たちに担がれていたエルバラダイが、大統領選を前にして、立候補しないことを宣言したことには、若者たちの暴走に荷担しているように見られることや、それでは民衆の支持が広がらないという計算があっただろう。

結果的には、独自のイスラム的な世直しを掲げて選挙プログラムを選挙に参加してきた同胞団は、革命後の民主主義的な政治闘争でも、ムバラク政権の下でも、国民に訴える政策と行動力があった。
世俗リベラル派はムバラク体制下では、常に強権に取り込まれがちで、プログラムも明確ではなかった。世俗リベラル派の主要な指導者の一人と見なされるハムディン・サバーヒ氏が率いるナセル主義(アラブ社会主義)のカラマ党は、人民議会選挙では、思想的にも全く異なる同胞団が主導する選挙リストに参加していた。
そのことは、世俗リベラル派が、革命後に独自の国作りのプログラムを国民に対して打ち出すことが出来なかったことを象徴している。(後略)【12月24日 朝日「中東マガジン」】
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なお、川上泰徳氏の上記レポートは表題にもあるように“女性の権利”に関するもので、大変参考になります。
ただ、話が長くなるので、その部分は明日以降にまた取り上げます。

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日本のPKO  ゴラン高原からの撤収決定 残るは南スーダン

2012-12-23 22:18:35 | スーダン

(南スーダン 12月4日 泥にはまった車を引っ張り上げるべく、ルワンダ軍兵士を助けるカナダ軍将校 “flickr”より By CF Operations / operations FC http://www.flickr.com/photos/cfoperations/8272390790/

【「活動を続けることは困難との判断に至った」】
イスラエル占領下のシリア・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき参加していた日本の自衛隊が、シリア国内の内戦状態の影響を受けて周辺の治安が悪化したことから撤収することが決定されました。

****自衛隊、ゴランPKO撤収=治安悪化、17年で幕****
政府は21日午前の閣議で、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づき、シリア南西部のゴラン高原に派遣している自衛隊を撤収させる方針を決めた。現地の治安情勢が急速に悪化、隊員の安全が確保できないと判断した。1996年2月から続く自衛隊の活動は約17年で幕を閉じる。

森本敏防衛相は同日の防衛会議で、「活動を続けることは困難との判断に至った」と述べ、ゴラン高原に派遣した自衛隊の業務終結を命令。自衛隊は直ちに撤収作業に入り、来年1月下旬までに帰国する見通し。

PKOに参加する自衛隊が、安全確保の困難を理由に撤収するのは初めて。日本のPKO参加5原則では、(1)停戦合意が存在(2)要件を満たさなくなれば中断・終了―などを定めているが、政府は今回の撤収について「5原則は崩れておらず、政策的な判断」としている。【12月21日 時事】
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周辺の治安状況については、“シリア側の宿営地で司令部要員3人と輸送部隊12人、イスラエル側の宿営地で輸送部隊32人の計47人が活動中だが、シリア軍と反体制派の戦闘が国境地帯にも拡大、宿営地近くの村でも砲撃が続いている。そのため「要員の安全を確保しつつ意義のある活動を行うことは困難」(藤村修官房長官)と判断した。”【12月22日 産経】とのことです。

日本は1996年から、17年間に延べ1500人が停戦監視活動に従事しました。シリア情勢の悪化を受けてUNDOFで部隊を撤収したのは、日本が初めてです。
ゴラン高原におけるUNDOF参加については、国際経験を持つ隊員が増えることでの他国の軍隊との連携・協力関係に役だった等の評価もあるようです。

****ゴラン高原撤収 意義深かった17年間のPKO****
最近は、あまり注目されていなかったが、自衛隊最長の17年間にも及ぶ国連平和維持活動(PKO)が果たした役割は大きかったと言える。

森本防衛相が、中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に派遣中の陸上自衛隊の輸送部隊に撤収を命令した。シリア内戦の激化で、隊員の安全確保と意義のある活動が両立しなくなったことが理由だ。
治安情勢の悪化で、今年3月に在シリア日本大使館が閉鎖され、6月からは輸送業務の一部を民間業者に委託するなど、陸自の活動が制限されていた。最近は、UNDOF要員への襲撃もあった。
撤収はやむを得ない判断だ。

シリア・イスラエル国境付近への陸自の派遣が決まったのは、1995年12月である。
シリアの首都ダマスカスと兵力引き離し地帯の間の生活物資輸送や、道路の補修、除雪などを担当した。半年ごとに部隊を入れ替えており、今は輸送部隊44人と司令部要員3人を派遣している。

ゴラン高原での陸自の活動は、中東和平の停戦監視の一翼を担うとともに、国際平和協力活動に参加する陸自の人材を養成する「PKOの学校」の役割があった。
PKOの知見を深め、他国の要員と交流することなどを通じて、より厳しい環境の国際協力活動にも対応できるようになる。17年間でゴラン高原に派遣された隊員は延べ約1500人に上る。
今年は日本のPKO初参加から20年になる。この間、延べ約9200人がPKOに参加している。国際経験を持つ隊員が増えることは、他国の軍隊との連携・協力関係が強まるうえ、自衛隊の対処能力の向上にもつながろう。(後略)【12月22日 読売】
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【「東ティモールはもうPKOを必要としていない」】
一方、東ティモールにおける国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)については、現地の情勢の改善によりPKOが必要なくなり、今年末で活動が終了します。
国連のこの方針を受けて、東ティモールでのPKOに参加していた陸上自衛隊の隊員2人が9月24日に帰国し、これをもって日本の活動も終了しました。

****東ティモールPKO、今年末で終了へ****
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長は15日、訪問先の東ティモールで、同国で展開する国連平和維持活動(PKO)をめぐり、「東ティモールはもうPKOを必要としていない」と述べ、撤退を望む考えを明らかにした。安全保障理事会も延長を決議しない方針で、同PKOは今年末で終了する。

潘氏は同日、首都ディリで記者会見し、今年実施された同国の大統領選挙と議会選挙について、「平和的で秩序があり、成功だった」と称賛。PKOは撤退し、国連は民生支援など新たな形での貢献を検討すべきだとした。
国連は1999年、独立派とインドネシア併合派の対立で騒乱状態となった東ティモールにPKOを派遣。2002年の独立を経て05年にいったん終了させたが、元兵士らの暴動が続いたため、治安維持のため06年夏から再び派遣していた。

国連PKO局によると、現在同国で展開するPKO、国連東ティモール統合支援団(UNMIT)は約30人の軍事要員らで構成。日本も陸上自衛隊から連絡要員2人が参加している。(ニューヨーク=春日芳晃) 【8月17日 朝日】
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【「われわれは“便利屋”じゃない」】
中米ハイチにおける大震災後の復旧を目指す国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)についても、日本としては来年1月中に撤収を終える方針です。

****ハイチPKO:防衛相が終結命令…12月から帰国****
森本敏防衛相は15日、防衛省で幹部との「防衛会議」を開き、中米・ハイチで国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊施設部隊などの業務終結命令を出した。現地に派遣されている要員約300人は12月下旬から順次帰国し、来年1月中に撤収を終える。政府は10年1月のハイチ大地震を受け、同年2月から復旧作業のため陸上自衛隊施設部隊など延べ約2200人を派遣。施設部隊のPKOへの派遣期間としては東ティモールの約2年4カ月を超え、過去最長となった。【10月15日 毎日】
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20万人以上が死亡した大震災からの復旧自体は一向に進展しておらず、未だ多くの被災者がテント暮らしをしています。
復興の遅れについては、復興事業をめぐる国内政治の対立・混乱が根底にありますが、MINUSTAHについても、震災後蔓延しているコレラが国連派遣団のネパール部隊からの感染が原因の可能性が高いとされ、国民の国連PKOへの不信感が高まったといった問題もありました。
復興が進まないハイチでは、今年11月にはアメリカ東部を襲ったハリケーン「サンディ」による追い打ち被害も出ています。

こうした混乱の状況のなかで、日本の自衛隊によるPKOについては、その任務内容について自衛隊内部・国内野党からの批判が出ていました。

****ハイチPKO 年度内撤収 出口戦略なき民主 防衛省内「遅きに失した****
ハイチの国連平和維持活動(PKO)に派遣している陸上自衛隊部隊の撤収方針決定には「遅きに失した」(防衛省幹部)との批判が渦巻く。
「どぶさらいをやらされている」「ゴミの移動ぐらいしか仕事がない」
陸自幹部によると、これが派遣開始から2年3カ月がたったハイチPKOの実情だという。

今年1月、野田佳彦首相が1年間の派遣延長を決めた際にも、防衛省内には撤収を求める声が出ていたが、黙殺された。揚げ句、施設部隊は民間ボランティアでもできるような仕事ばかり任され、現地に留め置かれている。
これは民主党政権がPKOの「出口戦略」を描けていない証しだ。「どの任務をどれだけ達成するかという『入り口戦略』を示して派遣するのが本来あるべき姿だ。それに照らせば出口はおのずと決まる」。外務省幹部はそう断じる。
民主党政権が入り口戦略を示した形跡はなく、出口戦略も持ち得ないのは自明だ。

戦略なきPKOはハイチに限ったことではない。昨年11月から開始した南スーダンPKOも同じだ。
野田内閣は南スーダンの国造りに向け5年間の派遣期間を想定するが、国際協力機構(JICA)とも連動させ、オールジャパンで国造りをどう主導していくのか道筋を示していない。このため早くも、「陸自部隊に5年間も道路補修だけをやらせるのか」(自民党国防関係議員)との批判があがっている。

藤村修官房長官と玄葉光一郎外相、田中直紀防衛相は10日、隣国スーダンとの軍事衝突が激化している南スーダンの現状について「軍事的緊張は限定的」との認識で一致し、6月までに2次隊(約330人)を派遣する方針を決めた。

「国際貢献」の名の下、国防を担う自衛隊員を海外に送り続ける民主党政権。「われわれは“便利屋”じゃない」。自衛隊幹部にはこんな不満がくすぶっている。【5月11日 産経】
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国防軍を目指す自衛隊としては、道路補修工事や、ましてや、どぶさらいやゴミ処理などやっていられない・・・といったところのようです。
国内的にかつては評価が分かれることもあった自衛隊が国民の信頼を獲得するうえで、迅速・効率的な災害復旧活動が最大の役割を果たしてきましたが、“国防を担う”ということで自衛隊内外の意識の変化も窺える感があります。

PKOヘリが誤射で撃墜
東ティモールが終了し、ゴラン高原・ハイチも撤収予定ということで、今後日本が継続する国連PKOは国連南スーダン派遣団(UNMISS)だけになります。
10月には活動の1年間延長が決定されています。

****南スーダンPKOへの陸自派遣、1年間延長****
政府は16日午前の閣議で、国連平和維持活動(PKO)協力法に基づいて「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」に派遣している陸上自衛隊の活動を2013年10月末まで1年間延長することを決めた。
国連安全保障理事会が7月、UNMISSの任務を13年7月まで1年間延長する決議を採択したことを踏まえた。

政府は昨年12月に南スーダンへのPKO派遣を閣議決定し、陸自部隊がジュバを拠点に道路や橋、空港の補修などのインフラ整備を行ってきた。現在、司令部要員3人、施設部隊など約350人が活動している。【10月16日 読売】
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自衛隊に道路補修ばかり押し付けることへの批判もありますが、そうした作業以外の任務になると、内容によっては安全性の問題も出てきます。
同じ道路工事にしても、現地ニーズとのミスマッチを指摘する声もあるようです。

****南スーダン援助「ミスマッチ」 朝日新聞ツイッタビュー****
南スーダンで援助活動を行っている国際NGO「ADRA Japan」の現地スタッフが29日、朝日新聞霞クラブのツイッター(@asahi_gaikou)取材に応じた。首都ジュバで自衛隊が行っている道路整備について「地方にこそ自衛隊にしかできないことがある」と語り、現地のニーズとのミスマッチを指摘した。

野田政権は今年2月から、自衛隊施設部隊を国連平和維持活動(PKO)でジュバに派遣している。ADRAジュバ事務所の鈴木崇浩さん(31)は「ジュバの道路整備には多くの外国企業が参入しており、労働力の一部を現地で調達するため雇用を生んでいる」と強調。自前で作業を完結する自衛隊の手法だと雇用創出の効果が薄いため、「人材を育てることを視野に入れるべきだ」と語った。

エチオピアとの国境の村パガックで活動する幸村真希さん(27)は「地方は政府による公共事業も行われていないし、民間の参入もない」と語り、自己完結型の自衛隊は地方の道路整備などで役割を果たして欲しいと訴えた。【5月29日 朝日】
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ただ、“地方”となると、その場所にもよりますが、スーダンとの国境に近付くと治安の問題が出てきます。
犠牲者が出て国内的に大きな問題となることは絶対に避けたい・・・とする、これまでの安全第一の政府方針としては難しいところです。
21日にも、UNMISSのヘリコプターが南スーダン軍に誤って撃墜される事件も起きています。

****国連ヘリ撃墜、4人死亡=国軍誤射、自衛隊に被害なし―南スーダン****
南スーダン東部のジョングレイ州で21日、国連南スーダン派遣団(UNMISS)のヘリコプターが南スーダン国軍によって撃墜され、ロシア人の乗組員4人全員が死亡した。ヘリは新たな飛行場設営に適した場所を探すために飛行中だった。
国軍スポークスマンはロイター通信に、隣接するスーダンのヘリが南スーダンの反政府勢力に武器を供給していると誤って判断し、攻撃したとしている。

同州の南方にある首都ジュバには、UNMISSに参加する陸上自衛隊の施設部隊が駐留しているが、防衛省によると、部隊に被害はなかった。【12月22日 時事】
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個々の案件は地域ごとに事情が大きく異なりますが、一般論としては、世界が安定・復興のための人員派遣を必要としているとき、日本も応分の役割を果たすのが国際社会における責務だと考えます。そのような地域の治安などの問題から自衛隊派遣となることが多いでしょう。
日本国内の事情でひきこもることや、お金だけで済ますことは、なかなか国際的には理解してもらえないことかと思います。

治安の上で問題が多い地域であれば、それに対応した装備もやはり必要でしょう。
紛争地域であれば、紛争に巻き込まれる危険、犠牲者が出る危険も覚悟する必要があります。
また、状況によっては現地の紛争にどのように対応するのかという方針も必要とされることもあるでしょう。何もしない、介入しないという決定も、場合によっては人道上の惨劇を見捨てるという重大な決定となることもあります。
いずれにしても、腹をくくった覚悟が必要です。

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シリア  目立ち始めたアサド政権崩壊に関する発言 懸念される化学兵器・サリン

2012-12-22 23:15:56 | 中東情勢

(シリア・アレッポ 政権側の集会でも、反体制派の集会でもなく、パン屋の前に群がる市民です。長引く混乱のなかで市民生活の困窮は深まっています。“flickr”より By Michal Przedlacki http://www.flickr.com/photos/dziadek/8270879356/

プーチン大統領「(シリアに)変化は必要だ」】
内戦状態が続くシリアの戦況については、“反体制派の武装組織、自由シリア軍は、湾岸諸国などから軍事支援を受け、地対空ミサイルで政権軍のヘリや航空機を撃墜するなどして攻勢。ダマスカス空港と首都を結ぶルートも押さえ、政権を孤立させた。これまで比較的安定していた首都でも政府施設や治安機関などへの爆弾攻撃が相次いでいる。アルカイダ系のイスラム過激派組織「ヌスラ戦線」が爆弾テロなどを仕掛け、自由シリア軍と連携する形で政権打倒に加担している。”【12月15日 朝日】と、反体制派有利に傾いているように報じられています。

シリア・アサド政権の最大の後ろ盾であるロシアにも、こうした状況を受けて変化が見られます。

****アサド政権を擁護せず=ロシア大統領****
ロシアのプーチン大統領は20日、モスクワでの内外記者会見で、内戦が続くシリア問題に言及し、「われわれはアサド大統領の行く末は気に掛けていない」と突き放した上で、「アサド一族は40年も権力の座にある。(シリアに)変化は必要だ」との認識を示した。【12月21日 時事】 
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このプーチン大統領の発言に先立ち、ロシア外務次官がアサド政権敗北の可能性に言及し、国際的に注目されていました。

****アサド政権、統制失っている…露外務次官が認識****
タス通信によると、ロシアのボグダノフ外務次官は13日、内戦状態にあるシリア情勢について「アサド政権は国土に対する統制をますます失っている」と述べ、アサド大統領派が反体制派に敗れる可能性があるとの認識を示した。
アサド政権を擁護してきたロシア政府が、支配地域を拡大する反体制派の攻勢を前に危機感を強めていることが明らかになった。
同次官は「(シリアにいる)ロシア国民の退避が必要となる事態に備え対応を検討している」とも述べた。【12月13日 読売】
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アメリカ国務省の報道官は、「われわれはロシア政府がようやく現実に目覚め、シリアの現政権に残された日々は多くないということを認識したことをたたえたい」と述べ、ロシア政府の方針転換の可能性を評価しています。
ロシアがアサド政権を見限れば、アサド政権の終末は著しく加速されます。

アサド政権崩壊に関する発言は、ロシア以外からも多く聞かれるようになっています。
****アサド政権終焉近い」 仏外相、崩壊へ言及****
フランス通信(AFP)によると、フランスのファビウス外相は16日、内戦が続くシリア情勢について、「アサド大統領の終焉(しゅうえん)が近づいている」との認識を示した。アサド政権寄りのロシアも反体制派勝利の可能性を指摘するなど、関係国でアサド政権崩壊への言及が目立ち始めている。

ファビウス外相は仏メディアで、アサド政権崩壊の可能性について「ロシアですら考えている」と強調した。一方、政権が16日に首都ダマスカスのパレスチナ難民キャンプを空爆したことを「状況をあおるもの」と強く非難した。

アサド政権崩壊については、北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も13日に「時間の問題でしかない」と強調した。
ロイター通信によると、14日に訪露した別のNATO幹部は、「政権崩壊の場合、化学兵器は誰が管理するのか」と述べ、アサド政権による化学兵器使用への懸念の一方、政権崩壊後にはその取り扱いが課題となるとの認識を示した。【12月18日 産経】
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シリア副大統領「反体制派との妥協が望ましい」】
アサド政権内部のシャラ副大統領も、軍事的勝利を諦め、反体制派との交渉に託す旨の発言を行っています。
このシャラ副大統領発言については、どこまでアサド大統領の了解を得たものかはわかりません。
スンニ派という立場もあって、これまで公の場に姿を見せる機会が少なかった同副大統領が、この時期こうした発言をすることは、反体制派と宗教的基盤が同じ同副大統領を通じて、今後に関する政権側の意向を示した(あるいは、交渉の可能性を探った)・・・と、とれなくもありません。

****軍事決着よりも対話が望ましい」、シリア副大統領****
シリアのファルーク・シャラ副大統領(74)はレバノン紙アルアハバルとのインタビューで、シリア問題の解決はバッシャール・アサド大統領が進める反体制派との武力対決よりも話し合いによる方が望ましいと語った。
シリア政権寄りのアルアハバルは17日の紙面に、シリアの首都ダマスカスの副大統領執務室で前週行ったシャラ副大統領のインタビューを掲載した。

シャラ副大統領は事態の打開をめぐる意見の相違は政権上層部にまで達していると指摘し、「彼(アサド大統領)は最終的な勝利まで戦闘を続行する強い意欲を見せており、その後でも政治的対話は可能だと(アサド大統領は信じている)」と語った。

シリア全体では少数派のイスラム教アラウィ派が多数を占めるアサド政権にあって、同国多数派のスンニ派としては最高位の高官であるシャラ副大統領は、戦闘を続けても政権側、反体制派側のいずれも決定的な軍事的勝利を手にすることは不可能だという見方を示すとともに、自身は反体制派との妥協が望ましいと考えていると述べた。
またシャラ副大統領は、アラブの主要国や国連安全保障理事会理事国などの支援の下で、反体制派勢力各派が「歴史的な和解」をするよう呼びかけた。

■政権側の思惑は?
シリア政権の高官が大統領と異なる見解を公に述べたのは今回が初めて。シリアのような独裁的な国で高官が率直に意見を述べるには政権からのお墨付きが必要だ。
シャラ副大統領に関しては、トルコのアフメト・ダウトオール外相が10月、シリアの内戦を止められる「理性ある男」と評し、シリアの暫定政府トップにふさわしい人物に挙げている。

シャラ副大統領はアサド大統領の父親、故ハフェズ・アサド前大統領の時代から数十年にわたって政権の要職を歴任してきたが、反体制派の蜂起が始まった前年3月以降は、数回しか公の場に姿を見せていなかった。【12月18日 AFP】
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【「我々(反体制派)は対話による解決を望んでいる」】
国際的に「国民を代表する唯一の組織」と認定されている反体制派の代表組織「シリア国民連合」のハティブ議長は、米ロと国連がアサド大統領の国外脱出を保証すれば、アサド政権との対話に応じる旨を明らかにしています。

****近くカイロに暫定政府」 シリア国民連合議長****
シリア反体制派の代表組織「シリア国民連合」のアフマドモアズ・ハティブ議長(52)が13日、朝日新聞の単独会見に応じ、エジプト・カイロで近く暫定政府を発足させると表明した。アサド大統領の出国が国際的に保証されれば、現政権側との対話に応じると語った。

12日にモロッコで開かれた「シリアの友人会合」閣僚級会議で同連合が「国民を代表する唯一の組織」と認定されたばかり。暫定政府の樹立は、アサド後を視野に政権枠組みづくりが本格化することを意味する。

モロッコからカイロへの機中でインタビューに応じたハティブ氏は「暫定政府の拠点はカイロになる。シリア国内に支配地域を持つことも必要だ。容易な作業ではないが、早く実現したい」と語った。予算のめどが立ち次第、数週間以内の樹立を目指すという。

暫定政府の大統領について「自分がなる必要は必ずしもない」と述べ、実務専門家(テクノクラート)を中心に構成する意向を示した。政権崩壊の時期については「政権は事実上すでに崩壊し、統治できなくなった」との認識を示した。「アサド氏が国内に残ることを認めるものはいない。まず出国の意思を明言し、国際的にそれが保証されれば、交渉の席につく」と述べた。
ハティブ氏はダマスカス出身の穏健イスラム法学者。政権批判で投獄された後、今年7月に出国。11月に設立された国民連合の初代議長に選ばれた。 (中略)
 
「すでに政権は崩壊した」というハティブ氏だけでなく、米政府も「崩壊は時間の問題」(フォード米駐シリア大使)と認識している。「アサド後」の枠組みが固まらないまま、政権が崩壊すれば、軍閥が群雄割拠したアフガニスタンのような無政府状態になりかねない。

■過激派の扱い焦点
一方で、寄り合い所帯の国民連合が暫定政府を樹立するには課題も多い。政府機能を維持する予算の確保、シリア国内の支配地域の確立に加え、焦点は「ヌスラ戦線」の扱いだ。
友人会合の直前、同戦線を「テロ組織」に認定した米国は「イラクのアルカイダの前線組織で、革命をハイジャックしようとする過激派」(バーンズ次官)とみる。

これに対し、国民連合は自由シリア軍との共闘関係を容認。「彼らの思想ではなく、行動で判断すべきだ。シリアのためになるなら、問題ではない」(ハティブ氏)との立場を取る。
反体制派がヌスラ戦線と距離を置くためには、関係国からの軍事支援を必要とするが、米国、フランスは軍事支援には踏み切らない立場を維持したままだ。

一方、ハティブ氏が、条件付きながら、アサド政権側との対話に応じる姿勢を見せたことは興味深い。
友人会合に先立って、クリントン米国務長官、ラブロフ・ロシア外相、ブラヒミ氏(国連とアラブ連盟の合同特別代表)が6日、ダブリンで会合したが内容は一切、報じられていない。ハティブ氏はクリントン氏に代わって友人会合に出席したバーンズ氏に「我々(反体制派)は対話による解決を望んでいる」と伝えたと語った。アサド氏に国外脱出を説得できるのはロシアだけ。米ロと国連がアサド氏の国外脱出を保証すれば、対話に応じるとのシグナルといえる。

ハティブ氏は「最小限の流血で政権が滅ぶなら、我々は歓迎する。政権維持の時間稼ぎのための対話には応じない」と語った。 【12月15日 朝日】
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政権崩壊の混乱で、サリン使用・流出の懸念
アサド政権崩壊の現実味が増してきた今、懸念されている大きな問題にシリアが大量に保有する化学兵器・サリンの扱いがあります。
アサド政権が崩壊前に苦し紛れに使用する可能性だけでなく、政権崩壊の混乱のなかでイスラム過激派の手に渡ることも危惧されています。
アメリカなどは、そうしたことから、大きな混乱なく反体制派への政権移行が行われることを望んでいます。
化学兵器の使用・流出を懸念する点ではロシアもアメリカと同じ立場です。

****泥沼化シリア内戦で高まるサリン使用の現実味****
アサド政権が自国民に化学兵器を使用する その悪夢を防ぐために国際社会が取れる対策はあるのか

化学兵器の使用は「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越す行為だ-オバマ米大統領は、シリア政府に警告を発し続けてきた。
もっとも、犠牲者の数が約4万人に達している内戦で、シリアのバシャル・アサド大統領は既に通常兵器で多くの自国民の命を奪うなど、凶悪な行為を重ねている。オバマや世界の国々の指導者たちはなぜ、今頃化学兵器にことさら神経質になるのか。そして、もしシリアがその「ライン」を踏み越えた場合、どう対応するのか。

見落とせないのは、いくつかの点で化学兵器が旧来型の兵器と性格が異なるという点だ。
米NBCテレビは先週、シリア軍が化学兵器の一種であるサリンの原料物質を爆弾に搭載したと報じた。その爆弾を戦闘爆撃機に載せれば、標的の上空から投下できる。

サリンは、ごく微量で人を死に至らせる場合もある極めて致死性の高い神経ガスだ。アサド政権はこの原料となる物質をおよそ500トン蓄えているとされる。アサドがその気になれば、いくつもの都市を滅ばせることになる。(中略)

もっとも、オバマが厳しい姿勢を取る理由はほかにもある。そこには、アメリカの安全保障上の打算も働いている。
軍事強国の指導者はみな、化学兵器に警戒心、もっと言えば恐怖心を抱く。化学兵器は、軍事的強者と弱者の力の差を狭める効果が大きいからだ。極めて小さな国でも化学兵器を保有していれば、大国が脅して屈服ざせたり、政権を倒したりすることが難しくなる。

さらに小国にとっては、化学兵器は核兵器より優れた点がある。核兵器を保有するには、ウラン濃縮施設やミサイル、ロケット発射センターなど、高度な施設や装備が必要だ。核兵器や関連施設は基本的に所在場所が固定されているので、発見・破壊される恐れもある。化学兵器は、そういうデメリットが核兵器よりずっと少ない。

カギを握るのはロシア?
化学兵器は、戦闘員や軍備だけでなく、敵方の民間人を大量殺戮する兵器だ。テロリストや狂人、権力にしがみつこうとする独裁者のための兵器なのだ。
イラン・イラク戦争末期の88年には、イラクの独裁者サダム・フセインが北部の少数民族であるクルド人に化学兵器を使用した。ハラブジャという町で1日に5000人の命を奪ったことは有名だ。

このような事態を避けるために、オバマは「レッドライン」という言葉を使ってシリア政府を牽制している。しかし、化学兵器を使用すればどういう措置を講じると、オバマはシリアに警告しているのか。
91年の湾岸戦争当時、イラクは化学兵器をスカッドミサイルに載せてイスラエルに撃ち込む可能性があった。当時のジェームズ・ベーカー米国務長官は、イスラエルヘの化学兵器攻撃は米本土への核攻撃と同一視すると宣言した。
フセインは、この警告を受け止めたようだ。イラクはイスラエルに大量のスカッドミサイルを発射したが、化学兵器を搭載したものは1発もなかった。

今回、オバマは当時のベーカーほど強硬な姿勢は打ち出していないが、それは賢明な判断だと言っていい。いま世界の国々は、シリアの主要な同盟国の1つであるイランに対して、核兵器開発計画を停止するよう圧力をかけている最中だからだ。

それに、シリアの化学兵器をたたくという選択肢も合理的でない。そもそも、どこに貯蔵されているのか完全に判明していないし、貯蔵施設を爆破すれば、有毒なガスが近隣一帯に流れ出し、罪のない市民が大勢犠牲になりかねない。

対応策として極めて明快な選択肢の1つは、アサドや政権の高官を抹殺するというものだ(潜伏場所を把握することが前提だが)。そのほかには、例えばロシアがシリアに圧力をかけるという選択肢もありうる。
ロシアはシリアの最大の後ろ盾である半面、アメリカ政府以上に、大量破壊兵器の拡散に神経をとがらせてきた。もし、ロシアが武力攻撃の脅しをかけるなり、援助や物資供給の停止をちらつかせるなりしてシリアに圧力をかければ、アメリカの圧力以上に効果的だろう。

内戦での化学兵器使用に輪を掛けて大きな不安材料もある。それは、アサド政権が崩壊したり、内戦末期に混乱状態に陥った場合に大量のサリンがどうなるのかという点だ。
アメリカの専門家が既に現地入りして、化学兵器施設の安全を確保する方法を反政府勢力に指導しているという話もある。

これは賢明な行動ではあるが、効果は限られている。
米国防総省は、シリアの化学兵器を確保しようと思えば7万5000人の兵力が必要だと試算しているという。いくぶん誇張された数字だとしても、難しい課題であることは確かだ。

シリアの化学兵器問題に関しては、1本のレッドラインがはっきりと引かれているというより、踏んではならないラインがあちこちに潜んでいるというべきなのかもしれない。【12月19日 Newsweek日本版】
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