孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

リトアニアの「台湾代表処」設置問題 リトアニア内部で対立も 支援するEUにできることは?

2022-01-31 23:15:48 | 欧州情勢
(リトアニア首都ビリニュスの台湾代表機関で20日撮影【1月26日 ロイター】)

【小国リトアニアの叛乱に苛立つ中国】
バルト三国のリトアニアが大使館に相当する「台湾代表処」の設置を決めたことを受けて、強烈に反発する中国が外交関係見直しに加え、事実上の貿易制限を行うなど「小国」リトアニアに強い圧力をかけているのは周知のところです。

****中国とリトアニアをめぐる動き**** 
<2021年7月> リトアニアが「台湾代表処」の設置を許可
<8月> 中国が駐リトアニア大使を召還
<9月> リトアニア外相が訪米、米側は支持表明
<11月> 中国がリトアニアとの外交関係を「代理大使級」に格下げ
<〃> リトアニアなどバルト3国の国会議員団が台湾を訪問
<12月> 中国がリトアニア製品の輸入を停止?
<〃> 中国が在中国リトアニア大使館員に身分証更新要求、全員帰国
<2022年1月> 台湾が中東欧向け投資基金設立を発表【下記 朝日】
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これまでも取り上げてきたように、リトアニアが中国の反発が想定されるなかで今回措置に踏み込んだのは、かつてソ連に抑圧された自国歴史と台湾の現状が重なるところがあり、シンパシーを感じるためとされています。

また、中国との取引がさほど多くないため、中国の経済的圧力を軽視していたこともあるのかも。
しかし、中国の圧力はリトアニアとの直接取引だけでなく、リトアニア製品を使用する欧州企業にも及んでおり、リトアニアは想定以上の圧力にさらされていると推測されます。

****リトアニア×中国、続く対立 自由・人権重視×「主権侵害」訴え 台湾が「大使館」、欧米巻き込む****
バルト3国の一つ、リトアニアと中国の関係悪化が深刻になっている。自由や人権を重んじて台湾への接近を図るリトアニアに対し、中国は主権の侵害を訴えて外交的・経済的な圧力を強める。対立は欧米を巻き込む事態に発展し、先行きは不透明だ。
 
対立が激しくなったきっかけは昨年7月、リトアニアが大使館に相当する「台湾代表処」の設置を決めたことだ。中国は駐リトアニア大使を召還し、外交関係を「代理大使級」へ格下げ。一方のリトアニアは12月、在中国大使館員を全員帰国させた。身分証を返還するよう「脅し」を受けたとするリトアニアに対し、中国は「外交関係の格下げに伴う更新手続きだ」と主張している。
 
影響は経済にも波及した。リトアニア産業界は昨年12月から「自国製品が中国の税関を通らない」と訴え始めた。対象はリトアニア製の部品を含むEU製品にも拡大しているとみられ、ロイター通信は独自動車部品大手「コンチネンタル」が、中国からリトアニア製部品の使用をやめるよう圧力を受けたと報じた。こうした動きのなか、台湾は今月、リトアニアを含む中東欧に対し半導体産業などに投資する2億ドル(約230億円)の基金設立を発表した。
 
リトアニアには、ロシア帝国やソ連の侵攻や支配を受けてきた歴史があり、人権侵害や覇権主義的な動きへの問題意識が高い。中国にも、経済関係の強化を目指す一方、安全保障の脅威として警戒を強めてきた。
 
2019年には、首都ビリニュスで開かれた香港民主派への連帯を示す集会に、中国国旗を持った中国人が乱入する騒ぎが起き、国民の対中感情が悪化。リトアニア外務省は、中国大使館の職員が関与したとして抗議し、翌年の政権交代後には、中国と中東欧との経済協力枠組み「17+1」から離脱するなど、対中政策が厳しさを増している。
 
人口270万人の小国リトアニアが中国との正面衝突も辞さない姿勢を示す背景には、常にロシアの脅威にさらされる自国や東欧地域に米国や欧州の関心を引く思惑もありそうだ。

リトアニアの輸出額に占める中国の割合は約1%と小さく、同国の巨大経済圏構想「一帯一路」の主要投資国ではないなど経済的な結びつきが薄いことも、リトアニアがこうした姿勢をとれる要因になっているようだ。

 ■譲れぬ中国、軟化待つ
一方、中国にとってリトアニアの言動は、中台関係において決して譲れない「一つの中国」原則への挑戦に映る。リトアニアを追い詰める姿勢からは、小国に振り回されることへのいら立ちも透けて見える。

外務省報道官は「最後は歴史のゴミ箱に投げ込まれる」と批判し、共産党機関紙・人民日報系の環球時報も「ゾウの足の裏にいるネズミかノミにすぎない」とののしった。
 
中国にはジレンマもある。昨年末、ニカラグアとの国交が回復し、台湾と外交関係を持つ国は過去最少の14カ国まで減った。リトアニアとの関係がどれほど悪化しても外交戦略上、断交は選択しづらい。対中警戒はスロバキアやチェコなどにも広がっている。リトアニアへの過剰な圧力が、10年間かけて築いた中東欧との経済協力枠組みからのさらなる離脱を招く不安もある。
 
中国は当面、対抗措置を維持しつつリトアニアの軟化を待つ構えだ。4日、ナウセーダ大統領が代表処の名称に「台北」ではなく中国が反発する「台湾」を用いた判断を「過ちだった」と表明すると、中国外務省の汪文斌副報道局長は翌日の会見で「誤りを認識するのは正しい一歩。より重要なのは行動だ」と求めた。【1月12日 朝日】
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【中国の圧力でリトアニア内部にも不協和音】
中国の圧力が強まるなかで、上記記事のナウセーダ大統領発言に見られるように、リトアニア内部の政治的対立も表面化しています。

****リトアニア、親台湾政策めぐり大統領と外相が対立****
バルト三国の一つ、リトアニアの政府内で親台湾外交をめぐる対立が起きている。

ナウセーダ大統領は4日、昨年11月に国内に設置された台湾当局の代表機関に「台湾代表処」の名称を認めたのは「過ちだった。私は関与しなかった」と主張。ランズベルギス外相は「すべて大統領とともに決めた」と反論した。内政バトルに中国と米国が「参戦」し、場外戦に発展している。

一連の発言は、リトアニア公共放送LRTなどが報じた。ナウセーダ大統領は、代表機関の設置自体は正しいとしながら、「名前が問題。対中関係に大きな打撃を与えた」と発言し、ランズベルギス外相に打開策を示すよう求めた。

これに対し、同外相は「リトアニアは悪いことをしていない。価値観に基づいて方針を決めたため、罰を受けている」と述べ、中国がリトアニアに「報復」として経済圧力を加えていることこそが問題と主張している。

大統領と外相の対立について、ビリニュス大のコンスタンチナス・アンドリヤウスカス准教授は「2人がライバル関係にあるのが原因」と指摘する。ナウセーダ大統領は、中央銀行の元理事で経済専門家。ランズベルギス外相は2020年の議会選で勝利した中道右派政党の党首で、かつて大統領選でナウセーダ氏の対立候補だったシモニテ現首相を擁立し、新政権を発足させた。

ナウセーダ大統領の発言を受け、中国外務省報道官は5日、「誤りを正すのは正しい方向への一歩。重要なのは行動だ」と述べ、台湾代表処の名称変更を促した。

これに対し、米通商代表部(USTR)のタイ代表はランズベルギス外相と電話で会談し、支持を表明。ツイッターで「リトアニアは中国の経済的威圧に直面している」と指摘した。

中国は台湾代表処の開設は「一つの中国」政策に反すると批判。リトアニアからの出荷品の通関を差し止める報復に出ている。中国は実施を認めていないが、欧州連合(EU)に影響が広がっており、欧州委員会は世界貿易機関(WTO)への提訴も辞さない構えを示している。

リトアニアは1990年、民主化運動の末にソ連から独立回復を宣言した歴史があり、中国の圧力を受ける台湾を支援してきた。昨年11月にはナウセーダ大統領が、バイデン米大統領と訪英中に会い、親台政策で「支持を得た」とも述べていた。

しかし、隣国ロシアの脅威が増す中、国内には対中関係悪化への不安も強く、最近の世論調査では41%が政府の政策に不支持を表明していた。【1月7日 産経】
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この名称問題、今も継続中です。

****リトアニア、「台湾」名称の変更検討 中国との対立回避=関係筋****
バルト3国の一つであるリトアニア政府は、昨年首都ビリニュスに開設した台湾の代表機関について、中国との対立を回避するため中国語の名称を変更するよう台湾に要請すべきか議論している。2人の関係者がロイターに語った。

リトアニアは、台湾の事実上の大使館となる代表機関を昨年11月に開設した。名称も欧州に置く代表機関で初めて「台北」ではなく「台湾」の表記の採用を認めた。

これに対して、台湾を自国領土の一部と主張する中国は猛反発し、リトアニアとの外交関係を格下げするなど、中国とリトアニアの関係は冷え込んでいる。

関係筋によると、リトアニアのランズベルギス外相は先週、ナウセーダ大統領に対して、中国との関係を修復する手段として代表機関の中国語表記を「台湾」から「台湾人」に変更することを提案した。この変更には台湾の同意が必要になる。

リトアニア大統領府はコメントを差し控えている。外務省はコメントの要請に応じていない。

シンクタンク、ビリニュス東欧研究センターの代表、リナス・コヤラ氏は、リトアニアがどんな行為を示したとしても中国の態度を変えることは不可能だと指摘した。

その上で「リトアニア政府はおそらく、代表機関が政治的実体としての台湾を代表しているのではく、リトアニアが文化や経済面での関係構築を望む台湾の人々を代表しているということを強調しようとしている」と説明した。

中国国営メディア「環球時報」は22日に掲載した論説で、リトアニアが中国との関係を修復するには、代表機関の名称変更だけでは不十分だとの見方を伝えた。【1月26日 ロイター】
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“政治的実体としての台湾”と“台湾の人々”の違い・・・微妙ですね。
まあ、「一つの中国」自体が極めて微妙ですから。

****リトアニア大統領が「台湾代表処」の名称変更を督促、中国外交部が反応****
2022年1月28日、環球時報は、リトアニアのナウセダ大統領が「台湾代表処」の変更を呼びかけたことについて、中国外交部のコメントを報じた。

記事は、中国本土から強い反発が出ているリトアニアの「台湾代表処」の名称問題について、26日に欧米メディアからリトアニア政府が名称変更を台湾側に要請するかどうかの議論を行っているとの報道が出たことに対し、リトアニア外務省と台湾外交部がそろって変更を否定したと伝えた。

一方で、ナウセダ大統領が27日にリトアニアの国営ラジオ局のインタビューに対し、英語やリトアニア語では「台湾人」となっている代表処の名称が、中国語では「台湾」と表記されていることについて「もしその名称が言語によっていささか異なれば、本来全く必要のない問題を引き起こすことになる」とし、名称問題がが中国本土との衝突を生む大きな要因になっているとの見方を示した上で、「リトアニア政府は名称決定の際に事前に協議をせず、政府も中国本土の反応を十分に評価しなかった。現在最も重要なのは、中国本土との関係の正常化であり、リトアニア企業が損失を受けないようにすることだ」と述べたことを紹介した。

そして、中国外交部の趙立堅(ジャオ・リージエン)報道官が28日の定例記者会見でこの件について質問を受けた際、「わが国は既にこの問題の本質について再三言明しており、リトアニアは問題の根本的な原因をよく分かっている。リトアニアが本当に中国との緊張を緩和したいのであれば、誠意を示し、実際の行動にて誤りを正し、一つの中国を堅持するという正しい軌道に戻すことだ。文字遊びによってうやむやのうちにやり過ごすことは許されない」とコメントしたことを伝えた。【1月31日 レコードチャイナ】
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“文字遊びによってうやむやのうちにやり過ごすことは許されない”というのは、“台湾人”に変更するだけではダメだということでしょうか。

【リトアニアを支援するEUだが、何ができるか・・・】
EUはリトアニアを支援する姿勢です。

****EU、3月末に中国と首脳会談=リトアニアへの圧力非難****
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は14日、フランス西部ブレストで行われたEUの外相会議終了後に記者会見し、「3月末に中国とEUの首脳会談が開催される」と明らかにした。外相会議は13日から2日間行われ、台湾の代表機関開設を認めたリトアニアに対して中国が貿易面で圧力を強めている問題の対応を協議した。
 
台湾は昨年11月、リトアニアの首都ビリニュスに、大使館に相当する「台湾代表処」を開設した。「一つの中国」原則を掲げる中国はこれに猛反発。リトアニアからの輸出品が中国の税関を通らなくなり、他のEU加盟国から中国への輸出にも影響が出ているとされる。
 
ボレル氏は、EU各国の外相が「域内市場への影響と、どのように緊張を緩和するかを話し合った」と説明。共同で記者会見したEU議長国フランスのルドリアン外相も「リトアニアへの完全な連帯を確認し、中国の威圧的な行動を非難した」と述べた。【1月15日 時事】 
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ただ、支援するとは言っても、中国の激しい怒りを前にしてEUに何ができるのか・・・難しいところです。

****EUの限界が試されるウクライナ危機とリトアニア問題****
1月17日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙外交問題コメンテーターのギデオン・ラックマンが、ウクライナ危機とリトアニアに対する中国の抑圧的な貿易措置が欧州連合(EU)の地政学上の力の限界をテストしていると論じている。(中略)

リトアニアの問題は性格を異にする。この一件にEUが外部の大国に小突き回される命運にあることの証左を見ようとするのは大袈裟に過ぎると思うが、ともかく、EUは結束してリトアニアを守らねばならない。しかし、これといった名案は見出し難い。

リトアニアが「台湾代表事務所」の開設を認めたことに憤激する中国はリトアニアとの間の直通の貨物列車の運行を停止し、両国間の貿易を停止した――リトアニアに工場を有するドイツの自動車部品大手Continentalの製品も対象となる。

更に、EUの他の加盟国企業がリトアニアでの投資と部品調達を控えるよう警告し、これら企業の中国でのオペレーションに報復することがあり得ることを警告したとも伝えられる。これはEU加盟国間に楔を打つ中国が得意とする手法と言い得よう。

EUは、12月8日に欧州委員会が提案した反抑圧法制(Anti-Coercion Instrument)を早期に実現し、その対象とすることによって中国に対抗することを考えるのかも知れないが、恐らく間に合わない。中国への対抗措置を講じ得たとしても、中国の抑圧が止むことは考えられず、その効果如何という問題がある。

問題はリトアニアがどれだけ耐えられるか
台湾はリトアニアを支援する意向を表明している――中国税関に拒否されたリトアニアの貨物を出来るだけ多く引き受け(2万4000本のラム酒を引き受けた)、2億ドルの基金を設けてリトアニアに投資するとしている。EUとしても、リトアニアの支援の方が有効であり、これを検討すべきではないかと思われる。

いずれにせよ、リトアニアが何時まで耐えられるかの問題がある。1月4日、リトアニアの大統領ギターナス・ナウセーダは台湾の代表事務所の開設自体ではないがその名称に(台北ではなく)「台湾」を使ったことは間違いだった、名称については自分に協議がなかったと述べた。

彼は「台湾」の名称の撤回までも求めた様子はないが、政府内部における本件のその後の取り扱いは詳らかにしない。

EUおよび加盟国にも名称の問題での騒動を不必要な騒動だと迷惑に思う向きがあるに違いない。かといって、中国に屈服する形になることは甚だしく望ましくない。

どうなるのか分からないが、FTの論説が指摘するような、リトアニア危機が「世界の場でその利益を守るEUの能力の飛躍を導くこともあり得る」ことにはなりそうにない。【1月31日 WEDGE Infinity】
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EUに何ができるか・・・というより、どこまで(大きな影響力を有する貿易・投資相手国である)中国相手に争う覚悟があるか・・・という問題でしょう。

別に揶揄する訳でなく、日本も中国との間で同様問題をかかえるところで、現実的対応は難しい問題です。
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イエメン  拡大する戦闘 石油施設も攻撃対象 更にはドバイ万博も

2022-01-30 22:53:21 | 中東情勢
(【1月18日 ANN】 17日のフーシ派によるUAE首都アブダビへの攻撃)

【国連、鎮静化要請 しかし、戦闘は拡大】
中東イエメン情勢については、1月22日ブログ“イエメン フーシ派のUAE攻撃にサウジなど連合軍報復 国際支援が更に困難になる懸念も”で取り上げたように、イランの支援を受ける反政府勢力フーシ派が17日 アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビの工業地帯や国際空港に対しドローンを使った攻撃を行い、これにサウジアラビア主導の連合軍が21日に空爆で報復、多くの死者が出ています。

多数の民間人を巻き込む戦闘激化に対し、国連は声明で事態の鎮静化を求めています。

****イエメン 空爆犠牲者91人に 国連が事態沈静化訴える****
内戦が続く中東のイエメンで、政権側を支援するサウジアラビアなどが先週、反政府勢力の支配地域で行った空爆の犠牲者は、さらに増えて91人となりました。

国連は双方の攻撃のエスカレートで民間人が巻き込まれ、人道危機がさらに深まっているとして事態の鎮静化を訴えました。

イエメンでは、サウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦が支援する政権側と、イランが支援する反政府勢力との間で6年以上にわたって内戦が続いています。

サウジアラビアなどが21日に北部サアダ県で行った空爆では拘束した人を収容する施設が破壊され、反政府勢力側は25日、犠牲者の数がさらに増えて91人となったと明らかにし、「民間人が標的になった」として反発を強めています。

空爆の翌日に現地で撮影された映像からは、人道支援団体などが救助活動を行う様子などが確認できます。

この空爆について国連は25日、声明を出し、「この3年間でもっとも多くの民間人が犠牲になった最悪の惨事だ」などと非難したうえで、反政府勢力側による攻撃でも民間人の犠牲が出ており、双方の攻撃のエスカレートで人道危機がさらに深まっているとして事態の鎮静化を訴えました。【1月26日 NHK】
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しかし、戦闘は収まらず、24日には再びフーシ派はUAE首都アブダビを攻撃しています。

****UAE ミサイルの攻撃受け迎撃 イエメン反政府勢力 攻撃を発表****
中東のUAE=アラブ首長国連邦は24日、ミサイルによる攻撃を受け、迎撃したと発表しました。
UAEが軍事介入するイエメンの反政府勢力は、UAEの首都アブダビを標的に攻撃したと発表し、中東の国際都市も巻き込んだ応酬がエスカレートする事態となっています。

UAE政府の発表によりますと、24日午前、弾道ミサイル2発を迎撃し、ミサイルの破片が首都アブダビ周辺に落下したということです。(中略)

UAEが軍事介入するイエメンの反政府勢力「フーシ派」の報道官は、アブダビのアル・ダフラ空軍基地に向けてミサイルを発射したと発表し「作戦を拡大させる用意がある」と警告しました。

一方、攻撃を受けてUAE政府は、フーシ派が支配するイエメン北部ジャウフ県でミサイルの発射基地を空爆したと発表し、当時のものだとする映像も公開して、素早い対応を強調しています。(中略)

フーシ派は再び攻撃を行うことでUAEを標的とする姿勢を鮮明にしていて、中東の国際都市も巻き込んだ応酬がエスカレートする事態となっています。【1月24日 NHK】
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【フーシ派 ドローンとミサイルを組み合わせた攻撃、迎撃困難】
反政府勢力と言うと“ゲリラ戦”のイメージがありますが、フーシ派は無人機ドローンとミサイルを組み合わせた攻撃を行っているようです。

これに対し、UAEやサウジアラビアは高価なパトリオットなどの迎撃兵器で応戦していますが、経済的に割の合わない戦略であることは1月22日ブログでも取り上げたとおり。

また、ドローンとミサイルの複数攻撃となると、これを全て阻止することは技術的にも難しいようです。

****hothy軍のUAE攻撃****
hothy軍(フーシ派)が連続してUAEを攻撃したことは報告しましたが、al jazeera netはドローンによる攻撃は低価格の攻撃で(コストベネフィットが高い)かつ複数のドローンとミサイルで同時に攻撃すると、その防御は難しくなるとの記事を載せています。

米国務省が米国民にUAEへの渡航を見合わせるように警告したは、このような攻撃が今後ともあることを勘案してのものでしょうね。

記事の要点のみ
・hothy 軍は、マアレブでUAE空軍に支援された、親UAE民兵との戦闘で、大きな被害を出してから、1週間に2度もドローンとミサイルの複数同時攻撃で、アブダビ等を攻撃したが、これは低コストで、しかも迎撃の難しい極めて巧みな戦術である。

・hothy軍は複数のタイプのドローンを保有するが、中でも多いのがsumad 3型で、これは
   18㎏の爆薬を積み  射程1500㎞で  速度250kmの能力
で、GPSによって自動操縦され、低空で飛行する

・英国等の専門家によれば、UAEもサウディも米国製等の近代的対ミサイル迎撃網を有しているが(サウディはパトリオット、UAEは最近thud を米社と契約した由)これらのドローン等が複数で同時に発射されると、総てを迎撃するのは困難の由【1月28日 「中東の窓」】
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【攻撃対象となる石油施設 更にドバイ万博も】
イエメン情勢の悪化、特に石油施設が攻撃対象となる状況に、原油市場など世界経済も反応しています。
中東石油に依存する日本にとっても重大な影響が考えられます。

****ドローン攻撃でペルシャ湾一気に緊迫 中東への石油依存度9割を超す日本のリスクは****
日本では安全でリッチなイメージが強い中東UAEの首都アブダビで17日、国営石油会社の燃料貯蔵施設や国際空港の近くに攻撃用ドローンなどが着弾して火災が発生し、これまでにインドやパキスタン国籍の3人が犠牲となった。UAE外務省は同日、首都アブダビを攻撃したイエメンの親イラン武装組織フーシ派に対して報復を宣言した。

既に、UAEと連携するサウジアラビア主導の連合軍が21日までにイエメンにあるフーシ派の施設を攻撃し、60人が犠牲となった。

フーシ派は長年イエメン内戦に加担するサウジアラビアやUAEへの報復を示唆し、実際近年はサウジアラビア領内へのミサイルやドローンによる攻撃を繰り返している。

しかも標的となるのはサウジアラビア経済の心臓である石油施設が多い(首都リヤドに向けてミサイルが発射され、サウジアラビア軍がそれをリヤド上空で撃墜することもある)。

たとえば、2020年11月、フーシ派はサウジアラビア西部の第二の都市ジッダにある石油関連施設に向けてミサイルを発射し、国営石油会社サウジアラムコが所有する石油タンク1つが被害を受けた。

また、2021年3月には、首都リヤドにある石油精製施設が無人機6機によって攻撃を受けて火災が発生した、同石油精製施設への攻撃では人的被害が出なかったが、サウジアラビアのファイサル外相はその後、フーシ派からの攻撃が相次ぐことから、石油施設などへの攻撃を防止する対策を徹底すると明らかにした。

しかし、2019年8月、フーシ派がサウジアラビア南東部にあるシェイバ油田(Shaybah)をドローン10機で攻撃したことがあるが、シェイバ油田はイエメン北西部のフーシ派の支配地域から1000キロメートル以上も離れており、フーシ派の高性能な攻撃能力が今でも大きな脅威と言えよう。

米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は12月下旬、中東の安全保障についての報告書を公開し、フーシ派によるサウジアラビア領内への攻撃が2020年からほぼ倍増していると発表した。

同報告書によると、2021年1月から9月までのフーシ派による攻撃は月平均78回に上り、前年の月平均38回から大幅に増加し、また弾道ミサイルや巡航ミサイルだけでなく、安価な値段で製造可能な無人ドローンなど頻繁に使用しているという。

このような背景の中、フーシ派の報道官は1月22日までに声明を発表し、今後もUAE領内への攻撃を続けることから、UAEに展開する外国企業に対して撤退するよう警告した。

イラクやシリアで活動するイスラム国などのイスラム過激派に比べ、フーシ派はイエメンで一定の領域を支配し、より見える形で活動していることから、この警告はより具体性があろう。

また、今回の攻撃は国家間関係にも影響を及ぼしている。バイデン政権は1月19日、首都アブダビがフーシ派から攻撃された件で、フーシ派を国際テロ組織に再び指定するかを検討していると明らかにした。

フーシ派は資金的、軍事的支援をイランから受けるなど同国と密接な関係にあり、イラン核合意への復帰を目指すバイデン政権は発足直後にフーシ派のテロ組織指定を解除した。解除の背景にはイランへ歩み寄りを示す狙いもあっただろうが、フーシ派の強硬姿勢がバイデン政権の方向性を変えようとしている。仮に再指定となれば、米国とイランの関係は再び悪化する方向へ向かうだろう。

我が国の中東への石油依存度は今日9割を超えている。しかもサウジアラビアが1位、UAEが2位となっており、今後の情勢が大きく懸念される。

しかもフーシ派を巡る情勢は、サウジアラビアとイランの中東の地域大国間同士の緊張を高めるという潜在的リスクを内在しており。中東情勢の緊張悪化は日本のエネルギー安全保障を脅かす。石油輸入先の多角化など中東依存を下げる対策が今後必要だろう。【1月29日 治安太郎氏 まいどなニュース】
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“石油輸入先の多角化など中東依存を下げる対策”云々は、中東でことあるごとに繰り返し言われていることですが、あまり事態が改善されていないのは周知のとおり。

原油市場の方は“原油価格、7年ぶり高値 UAE攻撃で供給懸念”【1月18日 時事】ということですが、今のところは数ある懸念材料のひとつ。(懸念材料としては、新型コロナの状況やウクライナ情勢がより大きなものでしょう)

ただ、今後現実に石油施設で被害が出ると更に大きな影響をもたらすことになります。

また、UAEのドバイでは2021年10月1日から2022年3月31日まで万博が開催されていますが、フーシ派はドバイ万博攻撃の可能性も示唆しています。

****hothyのドバイ万博攻撃の可能性****
アラビア語メディアはUAEの支援育成したアマリカ軍団がシャブワ開放に引き続きマアレブでも奪還地域を拡大していて、またサウディ軍等アラブ連合空軍もサナアその他の地域で、戦略空爆を強化していると報じています。

これに対して、hothyグループ(フーシ派)幹部は、特にUAEを名指しで、UAEは2回もイエメンからの撤退を表明しながら、実際には介入を強化していると非難し、hothyグループとしてはUAEの深部の戦略的地域を攻撃することなると警告し、さらにドバイ万博もこのような状況では、その性格も変わってしまったとして、ドバイ万博攻撃の可能性を示唆したとのことです。(後略)【1月26日 「中東の窓」】
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アメリカ  バイデン大統領の老朽化インフラ改修アピール演説直前の橋崩落事故

2022-01-29 22:49:52 | アメリカ
(米ペンシルベニア州ピッツバーグで橋が崩落した現場を訪れた同市のエド・ゲイニー市長(右)とジョー・バイデン大統領(2022年1月28日撮影)【1月29日 AFP】)

【インフラ改修政策アピール直前の橋崩落事故】
実にタイミングが合った・・・と言うと不謹慎でしょうが、そんなアメリカの橋崩落事故。
事故当時、路線バスなど6台の車両が橋の上を通行中で、10人がけがをしたが命に別条はないとのことです。

****米ピッツバーグで橋崩落 バイデン氏のインフラ演説直前に*****
米東部ペンシルベニア州ピッツバーグで28日朝、道路橋が崩壊し、複数の負傷者が出た。ジョー・バイデン大統領はこの日、同市を訪問し、国内の老朽化したインフラを修復する1兆ドル(約115兆円)規模の投資計画について演説する予定で、事故はそのわずか数時間前に起きた。

崩壊した橋は、雪の積もる谷間に落下。ピッツバーグの公安当局はツイッターで、負傷者3人が病院に搬送されたと発表した。いずれも命に別条はないという。

バイデン氏は大統領専用機エアフォースワンで同市に到着すると、車で事故現場に直行。「ピッツバーグの橋の数は世界最多だ」とし、「私たちはそれをすべて修復する。冗談ではない。これは大きな変化になる。(橋は)全国で4万3000本あり、われわれは資金を投入する」と語った。

事故の被害は比較的小さかったものの、バイデン氏の訪問直前に起きたことから、即座に全米の注目を集めた。バイデン氏は同市での演説で、新型コロナウイルスの流行により打撃を受けた米経済の復興策として、歴史的な規模のインフラ投資などの取り組みをアピールする予定だ。 【1月29日 AFP】
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【老朽化するアメリカのインフラ 大型インフラ法案、超党派合意で成立】
アメリカのインフラ老朽化はここ10年来指摘され続けてきた大問題ですが、改善には先立つものが必要になるだけに手が着けられてきませんでした。

このブログでも1,2回取り上げたことがあると思いますが、下記は2013年12月1日、ニューヨーク市ブロンクスでメトロノース鉄道の列車が脱線し、多数の死傷者が出た事故を受けてのもの。


バイデン大統領はこのインフラ状況の改善を看板政策に掲げて取り組んできました。

****コラム:米政権のインフラ計画、民間が敬遠する設備への投資を****
米国内の老朽化したインフラは当然改修が不可欠とはいえ、バイデン大統領の念頭にある、そうしたインフラ施設全てが民間投資家にとって魅力を持つわけではない。

例えば、水道整備はその必要性と社会にもたらす恩恵はとても大きいが、資金の出し手が受け取るリターンは高くないかもしれない。公益の面で望ましいことが常に民間の観点から投資可能とは限らないが、双方の折り合いをつける余地はある。

アメリカン・ソサエティ・オブ・シビル・エンジニアズは、米国内のインフラに「Cマイナス」という極めて低い評価を下している。満足がいく水準に点数を引き上げるには、2029年までに2兆6000億ドルもの新たな投資が必要になると見積もっている。
そうした投資を怠れば、交通の乱れや信頼できない電力システムなどにより、39年までに10兆ドルのコストが生じてしまう。これほど大きなニーズがあり、リターンが得られる可能性もあるのだから、認められるだけのものを議会からしぼり出し、最大限の投資を実行することは重要だ。

民間企業は、リターンがすぐに得られ、その見通しも比較的確実で採算性が高い事業案件には喜んで投資するかもしれない。ただ、他の分野に関しては、政府の介入が必要だ。その典型的な領域は基礎研究だが、給水施設の改修も該当する。

環境保護局(EPA)によると、米国では地方自治体が運営する水道システムが国民の84%に水を提供している。ところが、人体に害がある鉛製の給水管を撤去する作業だけでも、貧困地域では一時的な巨額費用を負担する余裕が地元にはない。

そこで、バイデン氏は主に環境保護局経由で、各州が管理する融資用資金に連邦政府が計450億ドルを投入することを計画している。資金はそこから各地域社会に貸し出され、数十年かけて返済してもらう。各州もある程度の資金を追加的に拠出すれば、十分な規模が確保されるはずだ。

こうした水道改良事業は、社会貢献度も大きい。非営利団体の環境防衛基金は、鉛製の給水管930万本を撤去すれば、心疾患の減少などにより2050億ドル相当の付加価値を生み出せると試算する。1本当たりの撤去費用を5000ドルと想定すれば、リターンは約4倍だ。その上、これは極めて控えめな見積もりでもある。

子どもの鉛毒被害と、教育水準や知能指数の低下、犯罪率上昇の間には確固とした因果関係が成り立っている。コロンビア大学のピーター・ミュニッヒ教授は、鉛毒がもたらす社会的コストが現時点で子ども1人当たり5万ドルと推計する。

鉛製給水管の撤去は多額の資金がかかり、所有者たちが独力で進めることはできないかもしれない。メリットが完全に顕在化するには何十年もかかり、効果も社会全体に散らばる形になる。

だが、そうした点にこそ、政府が介入してこれらのプロジェクトを最優先事項に近い政策に位置づけるべき理由がある。バイデン氏がまず取り組まなければならないのは、民間投資家が敬遠しても必要価値の高いインフラの整備計画をあぶり出し、どんな形であっても確実に実行できるようにすることだ。【2021年4月6日 ロイター】
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こうしたインフラ改善の必要性は党派対立で機能マヒにも陥っている米議会においても一定に認識されており、財政規律の問題や、より大規模な社会福祉投資法案との兼ね合いなどで紆余曲折はあったものの、インフラ法案は与野党対決法案としては“珍しく”超党派の賛成を得て成立しました。

****米上院、超党派のインフラ法案を可決 130兆円規模****
米上院(定数100)で10日、老朽化が進む国内インフラの整備に1.2兆ドル(約130兆円)を投資する超党派の法案が採決にかけられ、賛成69、反対30の賛成多数で可決された。

法案は今後、下院で可決されれば、バイデン大統領の署名を経て成立する見通し。ただし、休会中の下院での採決がいつになるかは確定していない。

上院の採決では野党・共和党からも19人が賛成票を投じた。反対していた共和党議員の1人、マイク・ラウンズ議員はこの日、妻のがん治療に付き添うために欠席した。

法案は、連邦予算から今後5年間で新規に5500億ドルを支出する内容。
1100億ドルを道路や橋、660億ドルを旅客および貨物鉄道、650億ドルを電力供給網、同じく650億ドルを高速インターネット網、390億ドルを公共交通機関、75億ドルを電気自動車用充電設備の整備にそれぞれ投資する。鉛製水道管の交換など、水道施設の刷新にも550億ドルを充てる。

法案の支持者らによると、大規模な投資による経済成長や雇用創出の効果も期待できる。ホワイトハウスによれば、連邦政府による公共交通機関や上下水道、クリーンエネルギーの送電と電気自動車用インフラへの投資としては史上最大規模。災害や気候変動への対策強化、高速ネットサービスの農村部や低所得層への拡大も図る。

老朽化するインフラの再建は長年、民主、共和両党が支持する優先課題と位置付けられてきたが、超党派の合意には至っていなかった。上院では数カ月前から両党の議員グループとバイデン政権が調整を続けていた。

バイデン氏は10日、ホワイトハウスでハリス副大統領とともに法案の可決を歓迎し、共和党議員らの支持に感謝するとコメント。議員らに直接、電話で謝意を伝えたことを明らかにした。

インフラ法案が増税につながることはないとされるが、議会予算局は先週、今年から2031年までの間に財政赤字が2560億ドル上積みされるとの推計を示した。

与党・民主党は同法案と並行して、さらに3.5兆ドル規模に上る社会福祉投資法案の成立も目指してきた。民主党のペロシ下院議長はインフラ法案について、社会福祉投資法案が上院を通過するまで審議しない構えを示してきたが、共和党や民主党内穏健派はこの姿勢を批判している。【2021年8月11日 CNN】
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日本の2021年度予算の国の一般会計歳出が106.6兆円ですから、102兆ドル(約130兆円)というのはやはり大規模です。

難航も予想された下院も11月に可決。法案はバイデン大統領の署名をもって成立しました。

****米下院、1兆ドルのインフラ投資法案可決 大型歳出法案は先送り****
米議会下院は5日、バイデン政権の経済政策の柱の一つである5年間で総額1兆ドル(約113兆円)規模のインフラ投資法案を可決した。バイデン大統領の署名を経て成立する。

もう一つの柱である気候変動・社会保障対策に10年間で総額1・75兆ドルを投じる大型歳出法案は与党・民主党内の意見集約ができず、採決を11月後半に先送りした。
 
バイデン政権にとっては、3月に成立した1・9兆ドル規模の新型コロナ経済対策に続く大型経済対策となる。バイデン氏は声明で「今夜、我々は国家として記念すべき一歩を踏み出した。数百万人の雇用を創出し、21世紀の経済競争に打ち勝つ道筋をつける一世一代の法案だ」と強調した。(中略)
 
老朽化が進むインフラの刷新は米国の長年の課題だった。オバマ、トランプ政権もインフラ投資計画を策定はしたものの、党派対立などに阻まれ実現できずにいた。急速な物価上昇などで求心力が低下するバイデン政権はインフラ問題の解決に一定の道筋をつけたことを政治的な成果としてアピールしたい考えだ。
 
インフラ投資法案をめぐっては、バイデン氏と超党派議員の合意に基づき、8月10日に上院で可決していた。しかし、もう一つの柱である大型歳出法案の取りまとめが民主党内の意見対立で難航。同党内の大規模支出派と財政規律重視派の調整が長引き、インフラ投資法案の下院採決が大きく遅れていた。
 
巨額のインフラ投資に伴う財源は新型コロナ経済対策の未使用分や、インフラ投資をテコにした経済活性化に伴う税収増などでまかなう計画。ただし、増税に反発する野党・共和党に配慮して当初予定した法人増税は見送った。

この結果、支出に見合う財源が確保できなくなり、米議会予算局(CBO)の推計では同法施行で連邦政府の財政赤字は10年間で計2560億ドル増加する見通し。【2021年11月6日 毎日】
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上記のような経緯を経て成立したインフラ法案はバイデン大統領にとっては数少ない「実績」の目玉政策であり、そのアピール演説直前の今回橋崩落事故でした。
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北欧フィンランド、スウェーデン NATO加盟の議論表面化 自らの首を締めるプーチン大統領

2022-01-28 23:25:19 | 欧州情勢
((iStock.com/cthoman/Ivary/wissanu99)【2017年10月30日 WEDGE Infinity】)

【揺らぐ「北欧バランス」】
ロシア・プーチン大統領がウクライナに軍事的圧力をかけているのはウクライナ東部をロシア領にしたいという話ではなく、その最大の目的は東方拡大を進めてロシア国境に迫るアメリカ主導のNATOの動きを止めたいということにあるように思われます。

ロシアはアメリカに文書でNATOが東方拡大を止め、ウクライナのNATO加盟がないことを確約するように迫り、アメリカ、NATOが文書回答でこれを拒否するという形で現在綱引きが行われています。

NATO加盟は当事国の主権の問題であり、加盟させる・させない云々をロシアに確約するというのは、原則論からして応じられない話です。

ただアメリカ・NATOも、ロシアとの火種を抱えるウクライナの現時点でのNATO加盟を望んでいる訳でもありませんので、表向きの「拒否回答」とは別に、水面下で付随する様々な事柄に関する交渉が行われていると推測されます。

一方、北欧に目を転じると、“北欧には、NATO加盟国であるノルウェー、中立のスウェーデン、ソ連に近い国であるフィンランドが存在するという、「北欧バランス」といわれた安全保障体制というべきものが形成されてきた。”【1月28日 WEDGE】という状況でしたが、近年の、そして今回のロシアの露骨に軍事力を振りかざす姿勢によって、この「北欧バランズ」が崩れ始めています。それも、ロシアが避けたいと考えている方向へ。

【フィンランド 「NATO加盟を申請する選択肢を保持している」】
ウクライナのNATO加盟云々に引きずられるように表面化しているのがフィンランドのNATO加盟問題。

フィンランドでは、マリン首相が昨年12月31日に、ニーニスト大統領が1月1日に、それぞれ、フィンランドにはNATO加盟の選択肢がある旨、明言しています。

****フィンランド NATO加盟の権利主張 欧露間で緊張も****
北欧フィンランドが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を阻む隣国ロシアの意向に反し、「加盟する権利」を声高に訴えている。

ロシアによるウクライナ侵攻が警戒される中、フィンランドの安全保障政策にまで介入する姿勢を見せるロシアに対し、自国の政策を決める権利を主張した形だ。

ウクライナ情勢をめぐりロシアが今月、NATOや米国と協議するのを前に、欧露間で一段と緊張が高まる恐れがある。

フィンランドのニーニスト大統領は1日、年頭の声明で「フィンランドの戦略と選択の自由には、NATOへの加盟申請の可能性が含まれる」と述べた。マリン首相も昨年12月31日の声明で「自国の安全保障政策を決める権利」を主張。「(フィンランドは)NATO加盟を申請する選択肢を保持している」とした。

首脳陣が相次いでNATO加盟に言及する発端となったのが、ロシア側が12月下旬に発した警告だ。
露外務省のザハロワ報道官は同月24日の記者会見で、NATOに加盟していないフィンランドとスウェーデンが「NATOの大規模な演習にますます積極的に参加するようになっている」と非難。両国の非加盟が「北欧の重要な安定要因」とした上で、両国がNATOに加盟した場合は「軍事的、政治的に深刻な結果をもたらし、ロシア側に適切な対応が求められるだろう」と強調した。

この発言は「安全保障政策への介入」(フィンランドの外交問題専門家)と受け止められ、同国でロシアへの警戒が高まった。

欧州連合(EU)加盟国のフィンランドは大戦が勃発した1939年に旧ソ連の侵略を受けたが、独立を保った歴史がある。大戦後は「中立」を看板とし、西側の国としては唯一、旧ソ連と友好協力相互援助条約を結んだ。

一方、ソ連解体後も約1300キロメートルにわたり国境を接するロシアの軍事的脅威に対する警戒を続けた。2014年のロシアによるクリミア併合などを受け、NATOとの連携を強化してきたが、中立政策を掲げる立場からNATOに加盟していなかった。加盟に反対する国民も多く、申請の可能性は低いとみられる。

そうした中で、首脳陣がNATO加盟の申請について踏み込んだ発言をした背景には、ウクライナ情勢を緊張緩和に導く狙いもあるとされる。

フィンランド政府は、同じロシアの隣国であるウクライナの情勢が「フィンランドの安全保障にも関わる」(ニーニスト氏)として、ロシアの脅威の抑制が急務とみている。

エストニア外交政策研究所のレイク所長は現地メディアに「フィンランドはNATO加盟の申請をロシアとの(交渉の)カードに使った」と分析。ロシアが侵攻を止めなければ「(ロシアが懸念する)加盟を申請すると迫るメッセージをロシア側に送った」との見解を示した。

一方、フィンランドの対応は、北欧のEU加盟国、スウェーデンにも波及する可能性がある。英紙テレグラフなどによると、スウェーデンは今月1日、ロシアなどを念頭に情報操作やプロパガンダ(政治宣伝)、心理戦への対策を講じる新たな政府機関を設立した。

両国の強硬姿勢を受け「ロシアが反発を強める」(スウェーデンの外交問題専門家)事態が予想される。【1月6日 産経】
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アメリカ・バイデン大統領も、このフィンランド首脳のNATO加盟への言及に応じる形で、ロシアを牽制しています。

****NATO加盟申請「権利ある」 米大統領、フィンランドに保証****
バイデン米大統領は18日、フィンランドのニーニスト大統領とウクライナ情勢について電話協議した。ホワイトハウスによると、バイデン氏は「欧州各国は安全保障体制を独自に決める権利を持っている」と強調。ロシアの隣国フィンランドが、北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請する権利を「保証」した。(後略)【1月19日 毎日】
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ただ、フィンランドとしても自国の加盟問題が過度に焦点となるのは好まないところでしょうから、マリン首相は一定に議論をコントロールする姿勢も見せています。

****フィンランド、NATO加盟計画せず 対ロ制裁なら協調へ****
フィンランドのマリン首相は19日、同国が近い将来に北大西洋条約機構(NATO)に加盟する計画はないが、ロシアがウクライナを攻撃した場合は欧州の同盟国と米国に歩調を合わせて厳しい制裁を発動すると述べた。

首相はロイターとのインタビューで、「制裁はかなり実質的な影響をもたらし、極めて厳しいものとなる」と述べた。

一方、自身の任期中にフィンランドがNATO加盟を申請する公算は非常に小さいと述べた。(後略)【1月20日 ロイター】
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【スウェーデン 「ロシアの脅威」に対し軍事力を強化】
スウェーデンでは、中道左派の社民党政権がNATO加盟に懐疑的な態度を取り続けていますが、右派の野党はNATO加盟に積極的です。

そうした政治状況のなかで、近年の「ロシアの脅威」に対し、軍事力を強化する方向に舵を切っています。

****ロシアの脅威に北欧スウェーデンが選んだ軍拡の道****
10月19日付の英Economist誌が「スウェーデンは、数十年間で最大の軍事力増強に着手した。理由はロシアである」との解説記事を掲載している。

スウェーデンでは、10月14日に新国防法案が提出され、過去70年間で最大の軍拡を予定している。理由は、暗殺から侵略まで、ヨーロッパにおけるロシアの脅威が増し、スウェーデン人の対露警戒心が高まっているからである。
 
近年、スウェーデンは、ロシアが領空と領海を頻繁に侵犯したとして非難してきた。それでスウェーデンは、NATO(北大西洋条約機構、注:スウェーデンは非加盟国)や、米国、他の北欧諸国と、軍事的関係を深めてきた。 
 
新国防法案が成立すれば、国防予算を2021年~2025年の間に275億スウェーデン・クローネ(約31億ドル)増加することになる。これは、軍隊の50%増も賄う。軍隊は、正規兵の他、徴兵兵士、地元の予備役を含め9万人になる見通しである。
 
冷戦終結後、徴兵制は10年前に廃止されたが、ロシアの脅威の高まりによって2017年に男女ともに復活した。スウェーデンの議会や国民から大きな反対はなかった。18歳以上の男女が年間8千人、徴兵される。また、上陸部隊がスカンジナビア最大の港、ゴーテンブルグに再び置かれることになる。
 
民間防衛では、サイバーセキュリティ、電力網、および保健の分野のために、より多くの資金が投じられるだろう。
 
スウェーデンは中立国であるが、ロシアの脅威を強く認識するに至り、軍拡路線にかじを切ったという興味深いエコノミスト誌の解説記事である。国際情勢全般に与える影響は大きくないが、ご紹介する。
 
北欧は、ノルウェーがNATOの加盟国、フィンランドが親ロシア、そしてスウェーデンが中立国ということで微妙なバランスを保ちつつ、平和を維持してきた。

が、ロシアの最近の動きがスウェーデンを刺激し、スウェーデンが脅威に対応する必要を感じ、軍拡しているということである。国防費を一挙に40%増にするのは予算に飛躍はないという中でかなり強い対応である。スイス、スウェーデンは武装中立国であるが、周辺の国に脅威を与えることはほぼない。
 
ロシアは何の意図でスウェーデンの領海、領空を侵犯し、スウェーデンのような国の警戒心を高めているのか、理解できない。北方領土に軍を配備し、演習をして、日本から抗議されているのと同じような愚行ではないかと思われる。
 
ロシアの経済は、いまやIMF(国際通貨基金)のGDP統計で韓国以下であり、かつ石油価格は新型コロナ・ウィルス、温暖化対策等で今後回復しそうにもない。

プーチン大統領は国際的に大国として大きな役割を果たしているロシアを演出するために、シリアやリビアに進出し、ベネズエラに傭兵を出すなど、やりすぎている。こういうことは、ロシアの衰退につながると思われる。【2020年11月18日 WEDGE Infinity】
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【プーチン大統領 自らの言動でNATO拡大を招く】
ロシア・プーチン大統領が“こわもて”ぶりを発揮して、軍事大国として存在感を見せつけ、かつて世界を二分したソ連の残影を追い求めるほどに、周辺国はロシアの脅威を感じ取り、その脅威に備える方向に向かいます。

プーチン大統領はNATOの東方拡大を強く批判していますが、自らの言動がそうした事態を招き、助長していると言わざるを得ません。

****スウェーデン、フィンランドのNATO加盟論が再燃****
ウクライナをめぐる危機においてロシアのプーチン大統領は、北大西洋条約機構(NATO)はロシアの国境に向かって侵入するのをやめなければならないと主張している。だが、そのプーチン氏の要求が欧州大陸の北端で意図せぬ事態を招いている。フィンランド、スウェーデンのNATO加盟の是非をめぐる議論の再燃だ。

ウクライナ国境付近でのロシア軍の兵力増強に世界が注目するなか、北欧2国では政治指導者が党派の違いを超えて、いつでもNATO加盟申請という選択肢があると強調するようになっている。

「前例のない活発な議論だ。色々なことが起きている。次に起きることによって大きく左右される」と話すのは、フィンランドの野党第1党でNATO加盟を唱える中道右派「国民連合」の外交政策・欧州連合(EU)顧問、ヘンリ・バンハネン氏だ。

スウェーデン、フィンランドの両国外相は24日、ブリュッセルでNATOのストルテンベルグ事務総長と会談した。フィンランドのニーニスト大統領が米国、ロシアの両大統領と協議するなど、このところの一連の外交対話のさらなる進展だ。

「NATOの扉は開かれたまま」
「NATOの扉は開かれたままだ。スウェーデンとフィンランドは我々の最も緊密なパートナーだ」とストルテンベルグ氏は会談後に語った。

フィンランドのハービスト外相は「フィンランドはNATO加盟国ではないが、行動の余地と選択の自由を維持することはフィンランドの外交、安全保障、防衛政策の不可欠な一部分だ」と述べた。

EU加盟とその相互防衛条項のために長年の中立政策を放棄した両国は近年、NATOへの接近を強め、危機発生時や演習においてNATO軍部隊が領内を通過することを認めている。

ロシアは、バルト海沿岸の両国を含めてNATOがさらに拡大すれば、厳しい対応を取ると威嚇している。ロシア外務省は2021年12月、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟は「ロシア側の十分な対応を必要とする重大な軍事的、政治的結果を招く」と表明した。

米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのアンナ・ウィースランダー北欧部長は、ロシア自身の行動がスウェーデンとフィンランドをロシアにとって望ましくない出方の検討に動かしていると指摘する。

「私たちがスウェーデンで問題のない状態にあれば、私たちを安全保障政策の変更に動かす大きな力は生まれない。他にもっと重要な問題がある。外からの脅威という力が必要なのだが、それはロシアにとって逆効果となる」

スウェーデンのリンデ外相は、ロシアのウクライナに対する意図と「攻撃的な言辞」について「深く懸念」していると述べ、フィンランドとともにNATOと話し合ったのは重要だと強調した。

スウェーデンとフィンランドは最近、相互の防衛協力を強化。NATO加盟に関しては以前から、いかなる動きにおいても両国は足並みをそろえるものとみなされている。

識者は、NATO加盟をめぐる議論はフィンランドのほうが深いとみている。理由として、スウェーデンが徴兵制を廃止して軍を大幅に縮小したことがあるのに対し、フィンランドは防衛を緩めることなく大規模な国防支出と多数の予備役を維持していることが関係しているはずだという。

スウェーデンでは2010年代初頭、防衛力は国を1週間守れるだけで、首都ストックホルム爆撃を想定した軍事演習をロシアが行った際、ジェット戦闘機を緊急発進させられなかったことを国防軍司令官が認めた。このどん底の時期の後、スウェーデンは軍事支出を拡大して徴兵制を復活させた。

NATO加盟について、スウェーデンはフィンランドよりも政治的に分裂しているようだ。中道左派の与党・社会民主労働党がNATO加盟に強硬に反対する一方、中道右派の野党勢力は加盟推進で結束している。

フィンランドでは中道左派のマリン首相が先週、自身の在任中にフィンランドがNATO加盟を申請する「可能性は極めて低い」と語り、波紋を広げた。フィンランドは選択の余地を残しておくべきだとする野党の痛烈な批判を浴びた首相は、発言が「過剰に解釈された」と釈明した。

それでもフィンランドの首都ヘルシンキでは、NATO加盟まではあと「サウナ1回」だと冗談半分にささやかれている。サウナの中かどうかは別にして、状況次第で各政党の指導者と首相がすぐに加盟申請を決められるという意味だ。

手の内は明かさず
「フィンランドがNATO加盟について真剣に検討している場合、この時点で私たちがそれを知ることはないはずだ。事前に手の内を明かすのは賢明ではない」と国民連合顧問のバンハネン氏は言う。

同氏はさらに、フィンランドは戦略と計画を曖昧にしたまま公式発表を微妙な内容にすることで、NATO加盟の選択肢を外交政策上の「抑止力」として使っていると説明した。フィンランドは最近、軍の即応態勢を高めたが、詳細は明かしていない。

これに対し、スウェーデンは高速道路と貨客フェリーを使って軍用車両をゴットランド島に送り込んだ。同島はバルト海上の空母になぞらえられている。周辺海域を航行するロシア船舶の目に付く対応だ。

アトランティック・カウンシルのウィースランダー氏は「以前は、北欧最大の国であるスウェーデンが主導しなければならないだろうと思っていた。しかし、今の力学を踏まえると、ストックホルムよりヘルシンキのほうが早く動き始める可能性が高いと思う」と話す。

議論の焦点は、純粋にスウェーデンとフィンランドにとってNATO加盟は何を意味するかだけではない。欧州北部の戦略的要衝に位置する両国がNATOに何をもたらしうるのか、という点も絡んでいる。

バルト3国の一つ、エストニアのカラス首相はフィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、これはスウェーデンとフィンランドだけの決断であるとする一方、「両国がそうすると決めた場合、私たちはNATO内で両国を強く支援する」と語った。

カラス氏は、両国は強い軍事能力をもたらして「NATOの版図で半島のような」バルト3国を助けることになると指摘した。「間違いなく、この地の安全保障を高めることになる」
(2022年1月25日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)【1月26日 日経】
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プーチン大統領は「強いロシア」を復活させたということで国内的な支持を得てきましたが、個人的には誤った評価だと考えています。

プーチン大統領の「強いロシア」志向は周辺国の警戒心を強め、ロシアに対抗するNATO勢力を拡大させ、ロシアの孤立化・経済の低迷を招いています。ロシアは軍事力と資源だけが頼りの国家になろうとしています。

ウクライナに侵攻するのかどうか・・・そこは知りませんが、仮に侵攻した場合、軍事的にいくらかの得るものがあったにしても、ロシアは今の誤った道をこれまで以上のスピードで転げ落ちることにもなるでしょう。

後世の歴史家からは「プーチンがロシアを滅ぼした」と評されることにも。
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ミャンマー対応でASEAN内部に不和も 国軍支配から1年、2月1日に「沈黙の抵抗」の呼びかけ

2022-01-27 23:37:38 | ミャンマー
(26日、カンボジアの首都プノンペン郊外のタクマウで、オンライン会談に臨むフン・セン首相(左)とミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官=カンボジア政府提供(AFP)【1月27日 時事】)


【国軍支配のもとで続く武装勢力との戦闘、民主派への弾圧】
ミャンマー情勢については、1月11日ブログ“ミャンマー  国軍との交渉でこれまでのところ大きな成果を出せていないASEAN・日本外交”で、カンボジアのフン・セン首相がミャンマーを訪問し、ミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官と会談したあたりのところまで取り上げました。

その後もミャンマー情勢は好転していません。

****ミャンマー東部で戦闘激化 僧侶も避難****
ミャンマー東部で、国軍と武装勢力の戦闘が激化しており、多数の避難民が出ている。目撃者によると、16日には主要2都市から僧侶数百人も退避した。

国軍は昨年2月、アウンサンスーチー氏率いる政権をクーデターで追放し、実権を掌握した。大規模な反クーデターデモが繰り広げられたが、国軍はこれを弾圧、これまでに1400人以上が死亡した。
 
東部カヤ州ロイコーでは先週、激しい戦闘が起き、国連は約9万人が避難したと推計している。地元NGOは、避難民は17万人に上るとしている。
 
約5000人は東部シャン州に逃れた。避難に加わった一人の僧侶はAFPに対し、30前後の寺院から僧侶が退避したと語った。ミャンマーでは僧侶は尊敬の対象で、寺院は安全な避難場所とされており、僧侶が退避するのは異例だ。
 
この僧侶によると、ロイコー近くの街デモソにある12の寺院からも僧侶が避難した。
シャン州タウンジーの地元指導者は、少なくとも30人の僧侶が先週、避難してきたと述べた。
 
匿名で取材に応じた警官は、ロイコーでは武力勢力が教会や民家を乗っ取ったり、刑務所を襲撃したりしており、「街はまるで墓場のようになった」と語った。毎日約600台の車がロイコーから避難してきているという。
 
国連によれば、ロイコーとデモソは武力勢力の拠点となっており、昨年12月以降戦闘が激化している。 【1月17日 AFP】
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暴力が武装勢力によるものか、国軍によるものか、双方によるものか・・・そのあたりはわかりません。

****スーチー氏にまた汚職容疑 ミャンマー当局、5件訴追****
国軍がクーデターで全権を握ったミャンマーの当局は14日、ヘリコプター購入などを巡り汚職を働いたとして、軟禁下にあるアウンサンスーチー氏を新たに5件の汚職容疑で訴追した。関係者が明らかにした。別の汚職や国家機密漏えいなどでも訴追されており、これで計17件となった。
 
一部で既に有罪判決が出ており、計6年の禁錮刑が言い渡されている。これまでの訴追容疑が全て有罪になると計100年超の禁錮刑が科される可能性があり、国軍はスーチー氏を徹底排除する姿勢を崩していない。
 
大統領だったウィンミン氏も14日、同様にヘリ購入を巡る汚職容疑で訴追された。【1月14日 共同】
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****スーチー氏政党の元議員、テロ罪で死刑 ミャンマー****
ミャンマーの軍事裁判所は21日、国家顧問だったアウンサンスーチー氏率いる政党「国民民主連盟」のピョーゼヤトー元議員に対し、テロ関連の罪で死刑判決を言い渡した。(中略)
 
軍事政権の発表によると、11月に逮捕されたピョーゼヤトー氏は、「ジミー」の通称で知られる著名民主活動家チョーミンユ氏とともに、反テロ法に基づき死刑を言い渡れた。

同政権はこれまで多数の反クーデター活動家に死刑を宣告しているが、ミャンマーではここ数十年間、死刑が執行されたことはない。 【1月22日 AFP】
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【フン・セン首相の“スタンドプレー”との批判も ASEAN内部でのミャンマー対応に溝】
“ミャンマー情勢を巡りASEANでは、クーデターを批判するマレーシアやインドネシアに対し、カンボジアやタイは「国内問題」と不干渉を決め込んできた。”【1月15日 読売】と温度差があるASEANですが、国際社会の批判が高まる中で、昨年10月に関連首脳会議へのミャンマー国軍関係者の出席拒否で一致しました。

そうした状況にあってのASEAN議長国であるカンボジアのフン・セン首相のミャンマー訪問・国軍司令官との会談は、ASEANの総意に基づくものではなく、フン・セン首相の“スタンドプレー”との批判もASEAN内部あり、カンボジアで18日から開催予定だった対面での外相会議は(コロナ対応を理由に)延期される事態となっています。

****ASEAN、ミャンマー巡り相違解消せず 会議延期で不和露わに****
東南アジア諸国連合(ASEAN)が今週予定していた外相会議が延期される中、外交筋や政府筋はミャンマーの軍事政権への対応に関する意見の相違が解消せず、加盟国間の不和をもたらしていると明らかにした。

ミャンマーでの軍事クーデターやデモ隊への弾圧行為を受けて、ASEANは昨年、同国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官を首脳会議から排除する異例の措置を決定。ASEAN内ではミャンマー問題が懸案となっている。

インドネシア外務省アジア・太平洋・アフリカ総局長のアブドゥル・カディール・ジャイラニ氏は、ミャンマーがASEANのイベントに参加するという厄介な問題はまだ解決されていないと説明。記者団に対し、「意見を統一するにはまだ時間が必要であることを認めざるを得ない」と述べた。

一方、新型コロナウイルスのオミクロン変異株が依然として脅威であることから、カンボジアが議長国になって初の会議となるはずだった今週の外相会議を延期したことは理解できると付け加えた。

ASEAN議長国のカンボジア政府は12日、同国で18─19日に予定していた外相会議を延期したと明らかにした。一部の外相から出席が「困難」との通知があったためとしている。

2人の外交筋がロイターに語ったところによると、カンボジアはミャンマーの軍事政権に関与する意向を示しており、会議に同国の「外相」で退役大佐のワナ・マウン・ルウィン氏を招待していた。

ここ数日、マレーシアのサイフディン外相とシンガポールのリー・シェンロン首相は、ミャンマー危機の解決に向けて合意された5項目のASEAN「コンセンサス」に何の進展もなかったことから、軍事政権を招くことに反対している。

リー首相は14日、カンボジアのフン・セン首相に対し、ミャンマー政策の変更は「新しい事実に基づかなければならない」と述べた。

こうした意見の相違は、ASEANにとって今年が困難な年であることを示しており、国際的に支持されているミャンマー和平への取り組みが頓挫する中、ASEAN内部の亀裂がさらに露呈し、ASEANの信頼性が損なわれる恐れがある。

<「外相」招待が問題に>
外交筋によると、カンボジアがミャンマー軍事政権のトップ外交官であるワナ・マウン・ルウィン氏を招待したことが問題となっており、複数の加盟国が最近の動きに反対しているという。

同筋は「インドネシアとマレーシアは、フン・セン氏のミャンマー訪問の結果、特にミャンマーに関するASEANの5項目のコンセンサスと軍事政権の5項目のロードマップが結び付くことに満足していなかった」と述べた。

軍事政権がクーデター以来宣伝しているロードマップはASEANの合意とは大きく異なっている。

フィリピンのロクシン外相は、ASEANのコンセンサスは「いかなるロードマップにも縛られてはならない」と強調している。

また、別の外交筋は、会議延期にはオミクロン変異株のリスクと、ミャンマー、特にワナ・マウン・ルウィン氏の招待に関する意見の相違が影響していると説明。「この問題に関しては一部が態度を硬化」していたと語り、カンボジアは予定されていたイベントの一部をオンラインで開催することを提案していたと語った。【1月18日 ロイター】
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フン・セン首相はミャンマー情勢の事態打開に独自の判断で臨む姿勢を崩しておらず、ミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官との再度の会談をオンライン形式で行っています。

ASEAN内部の国軍支配に対する厳しい見方が存在する現状、“ミャンマー政策の変更は「新しい事実に基づかなければならない」”といった声も踏まえて、ミャンマー側に何らかの譲歩を求めたのでは・・・との観測も。

****カンボジア首相、ミャンマー軍トップと会談 情勢打開へ譲歩求めたか****
カンボジアのフン・セン首相は26日、ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官と会談した。

カンボジアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国として、今月中旬の外相会議にミャンマー国軍の外相を招く意向だったが、一部の加盟国が反発。会議の延期を余儀なくされた。情勢を打開するため、フン・セン氏はミャンマー国軍側に譲歩を求めたとみられる。
 
両者の会談は7日にミャンマーの首都ネピドーで対面で実施されて以来、今月2回目。この日はオンライン方式で実施された。
 
会談の詳細は明らかになっていないが、フン・セン氏はミャンマー側に対して、ASEANとミャンマー国軍が昨年4月に交わした「暴力の即時停止」など5項目の合意事項の履行を求めたとみられる。
 
フン・セン氏は当初、今年のASEAN議長国の首脳として、関連会議へのミャンマーの復帰に積極的だった。しかし、フン・セン氏のミャンマー訪問後も、拘束中のアウンサンスーチー氏に有罪判決が出るなど状況は改善していない。
 
インドネシアやマレーシア、シンガポールは合意の履行に大きな進展がない限り、ASEANがミャンマー側に譲歩すべきではないとの立場で、国軍寄りのフン・セン氏の姿勢は加盟国の反発を招いた。

18、19日にカンボジアで予定されていた年初のASEAN外相会議は直前になって延期が決まり、新たな日程が決められないままになっている。【1月26日 朝日】
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上記の“譲歩”に関連するものかどうかはわかりませんが下記のような動きも。

*****スーチー氏の政党は解党せず****
ミャンマー国軍のゾーミントゥン報道官は26日、共同通信の取材に応じ、軟禁中のアウンサンスーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)について、国軍に解党する意図はないと明らかにした。【1月26日 共同】
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解党はしなくても、反国軍的言動は一切許さず、当然スー・チー氏ら幹部は拘束したままで、国際批判を避けるために形だけ残しておく・・・といった類でしょう。

【2月1日 「沈黙の抵抗」の呼び掛け】
2月1日で国軍クーデターから1年が経過するということで、2月1日は出勤や外出を一切控え、商店も店を閉じて自宅に留まり、静かに抵抗の姿勢を一斉に示そうという「沈黙の抵抗」の呼び掛けも行われているようです。

****ミャンマー、間もなくクーデターから1年 民主派リーダー「2月1日、沈黙の抵抗を」****
<突然の政変が起きた国は今も軍政と民主派の対立が続いたまま、もうすぐ1年に>

ミャンマーで反軍政の立場をとる民主派のリーダーが軍による2021年のクーデター発生から1年となる2月1日に、軍政への抵抗を示すために自宅に留まる「沈黙の抵抗」を国民に呼びかけている。

ミャンマーの反軍政の立場をとる独立系メディア「ミッズィマ」などによると、この呼びかけは2月1日は出勤や外出を一切控え、商店も店を閉じて午前10時から午後4時までの間自宅に留まり、静かに抵抗の姿勢を一斉に示そうというもので、「沈黙の抵抗」と名付けられている。

呼び掛けでは同日午後4時には各自が自宅で一斉に拍手をして抵抗運動を終えようと求めている。

インターネットのSNSで「沈黙の抵抗」を呼びかけているのは民主派のコー・タイ・ザー・サン氏で治安当局による捜索を逃れて現在地下に潜伏中といわれている。

SNSで国民に広く呼びかけ
SNSを通じて同氏は「クーデター発生日であり、我々の抵抗運動"春の革命"がスタートした日でもある2月1日に我々は世界に対して抵抗精神は強く、軍政の支配に決して屈することなく、戦いを恐れることがないことを示す」として賛同を求めており、このメッセージは急速に拡散、共感や支持が広がっているという。

この呼びかけには「ミャンマー一般労働者同盟(FGWM)」も呼応して傘下の組合、組合員にも「沈黙の抵抗」への参加を促し、連帯を示すよう求めている。

FGWMの報道官は「2022年は人々による革命が成就する年となることを確信している。我々の強い信念と闘争心で今年は人々による統治の復活を成し遂げよう」と表明。「世界は2月1日にミャンマー国民が軍政に屈することなく何をしようとしているか注目している」と強い決意を示している。

ミャンマーの反軍政市民による「沈黙の抵抗」は2021年12月10日の「国際人権デー」に合わせて行われたときに続き2回目となる。人権デーに合わせた運動ではミャンマー市民の民主政権復活への思いを国際社会に伝えることができたとしている。

市民の抵抗運動、穏健路線から武装へ
ミャンマーの軍政に抵抗する市民運動はクーデター後はしばらくの間、自宅などで鍋窯を叩いて反軍政を表現したり、男性がその下を通ると不幸が起きるといわれる女性用のロンジー(伝統衣装)を街頭に吊り下げたりするなど、穏健な運動を展開していた。

各地で拡大した反軍政のデモや集会では軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官の写真を踏みつけたり、バツ印をつけて反発を示していたが、治安当局による弾圧が強まった。

反軍政の市民も「不服従運動(CDM)」に共鳴して職場からの離脱、職務放棄で抵抗を示し、公立病院などで多数の医師や医療従事者が現場を離れた。軍政はこうしたCDMに参加した医療関係者に対して法的責任を追及する構えを見せており、今後さらに混迷が深まるものとみられている。

軍政によるデモや集会への対応はその後実弾発砲を含む強権弾圧となり、それが止むことはなく、クーデター後に組織された民主派組織「国民民主連盟(NLD)」と関係が深いとされる武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」が組織され、各地で軍や警察など治安部隊と銃撃戦などの武装闘争を続けている。

こうした反軍政の市民による武装抵抗運動に長年軍政と対立してきた国境周辺の少数民族武装勢力も呼応。PDFの市民への軍事訓練、武器供与、共同作戦実施などで戦闘が激化している。

武装市民組織は「テロ組織」と軍政
ミン・アウン・フライン国軍司令官は1月20日に軍政を支える最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」で武装市民組織であるPDFを「テロ組織」として徹底的に武力で弾圧する方針を改めて表明したと国営紙が伝えた。

これは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国であるカンボジアのフン・セン首相が1月7、8日にミャンマーを訪問し、ミン・アウン・フライン国軍司令官と会談した席で少数民族武装勢力と停戦する方針を明らかにした一方で、武装市民勢力とは徹底抗戦する方針を再度確認したことになる。

この時の少数民族武装勢力との停戦はあくまで軍政による一方的なもので、その後もチン州のチンランド防衛隊(CDF)、カヤ州の「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」、カレン民族同盟(KNU)、ラカイン州のアラカン軍(AA)などと軍との戦闘は続いており、停戦があくまで軍政のポーズに過ぎないことを示している。

フン・セン首相のカンボジア訪問もASEANのコンセンサスを得たものでなく、加盟国内からは厳しい批判がでており、フン・セン首相の「スタンドプレー」への警戒も強まっている。

こうした状況の中で2月1日を迎えるミャンマーで市民は「沈黙の抵抗」で軍政への反発を示そうとしている。【1月26日 大塚智彦氏 Newsweek】
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中国・ロシア・イランの「反米枢軸」 “蜜月”中ロの関係も、立ち位置は大きく変化

2022-01-26 23:36:25 | 国際情勢
(昨年12月に行われたプーチン大統領と習近平国家主席のオンライン会談【1月26日 WEDGE】)

【1950年代を彷彿とさせる“中国の同志”】
北京オリンピック開催を控えて神経を尖らせる中国、バブル方式の新型コロナ対策や国内「ゼロコロナ」対策の徹底ぶりはしきりに報じられていますが、国際的にも開催期間中のトラブル・紛争を避けたいと考えるのは自然なことでしょう。

折しも、ウクライナではロシアの軍事進攻があるのか、ないのか・・・あるとしたら、オリンピック直後ではないか・・・いろいろ憶測されていますので、中国がロシアにオリンピック開催期間中の穏便な対応を要求しても不思議ではありませんが、そういう事実はないそうです。

****「北京五輪中のウクライナ侵攻はやめて」と中国が要求? 米報道を中露がそろって否定―米華字メディア****
ウクライナ情勢が緊迫する中、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席がロシアのプーチン大統領に「北京五輪開催中にはウクライナに侵攻しないでほしい」と要求したと報じられたが、中露はそろってこれを否定した。米華字メディア・多維新聞が伝えた。

米ブルームバーグは先日、消息筋の話として上記の内容を伝えていたが、ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は24日、「これはヒステリックな偽情報の入ったかごに捨てることができる。中国の同志はすでにこれに反応している」と述べ、偽情報であるとの見解を示した。

中国外交部も同日の会見で「全くのでたらめだ。この報道は中露関係に対する中傷と挑発であるだけでなく、北京冬季五輪に対する意図的な妨害と破壊でもある」と指摘。「このような卑劣な手口で国際社会をだますことはできない」と厳しく非難した。【1月25日 レコードチャイナ】
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上述のように、また、世の中には「オリンピック停戦」というものも存在しますので、別に中国がそのような趣旨の要求だか依頼だかしても何ら不思議ではなく、ないことの方が不自然にも思えますが、「ない」というのであればそれはそれで。

それにしても、ロシアも中国も、どうして「ヒステリックな偽情報」とか「このような卑劣な手口で・・・」とか激しく反発するのか・・・そこらあたりの方が不思議な感じも。

ロシアとしては「軍事進攻などしない」という建前にたっていますので、“侵攻ありき”で中ロが謀議しているようにとられることへの反発でしょうか?

それにしても“中国の同志”ね・・・ペスコフ大統領報道官が実際にどういう言葉を使ったのかは知りませんが、まるで中ソ対立以前のソ連・中国の蜜月時代を彷彿とさせるような印象。
ちなみに、スターリン批判を受けて中ソ対立が表面化したのは1950年代後半のフルシチョフ・毛沢東時代です。

【中ロ・イランの「反米枢軸」VS.「米国連合」】
ロシアはウクライナ問題、中国は台湾問題というそれぞれ破滅的規模の大問題を抱えて欧米諸国、いわゆる西側と対立を深める両国は、同じような立場にあることから共通の敵・欧米に対抗して互いの協力関係を深めています。

ウクライナ問題と台湾問題を抱えるロシア・中国、そこにもう一つ付け加えるなら、同じような欧米と敵対する境遇にあるのが核合意交渉で欧米と対立するイランでしょう。

****イランと中国 ロシアがインド洋北部で合同軍事演習****
イランは、インド洋北部で中国、ロシアと合同軍事演習を行い、両国との緊密な関係をアピールしました。核合意をめぐるアメリカとの協議が難航し対立が続く中、イランは大国の中国・ロシアと関係強化を推し進める姿勢を鮮明にしています。

イラン、中国、ロシアの3か国は21日、インド洋北部で合同軍事演習を行い、駆逐艦など各国の艦船が参加する形で、乗っ取られた船の解放や海上救助などの訓練を行いました。

演習が行われたインド洋北部は、原油や天然ガスの主要な海上輸送路であるホルムズ海峡につながる海域で、イラン側は演習の目的を「国際的な海上貿易の安全性を高めるため」と説明しています。

イラン軍の報道官は「演習は、イランがこの地域や世界で孤立していないという証しだ」と述べ、中ロ両国との緊密な関係をアピールしました。

イランは現在、敵対するアメリカによる制裁の解除を求めて、核合意の立て直しを目指す協議を進めているものの話し合いは難航しています。

アメリカとの対立が続く中、イランはライシ大統領が今月19日に就任後初めてロシアを訪れてプーチン大統領と会談したほか、14日にはアブドラヒアン外相が中国で王毅外相と会談するなど、このところ大国の中国・ロシアと関係強化を推し進める姿勢を鮮明にしています。【1月22日 NHK】
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この中国・ロシア・イランの接近という現象は、今後の国際関係における大きな“軸”となるもので、この三国を“反米枢軸”とも呼ぶようです。

****中露イランの急接近 これから世界で起きる3つの危機****
イランのライシ大統領がこのほどロシアを訪問し、プーチン大統領と会談したほか、外国の首脳として下院で異例の演説を行った。ライシ師は米欧を激しく非難、ウクライナ問題で米欧と対決するプーチン氏にエールを送った。

今回の訪問で米国と敵対する中露とイランによる3国枢軸が一段と鮮明に。「敵(米国)の敵は味方」という古典的な国際関係の構図が浮き彫りになった。

最新鋭戦闘機と地対空ミサイルを売却か
両首脳の会談は1月19日に行われた。訪問に当たってはイランの最高指導者ハメネイ師がプーチン氏に書簡を送り、お膳立てをしたとされる。(中略)

ライシ師は20日にはロシア下院で演説、「北大西洋条約機構(NATO)がさまざまな口実を使って独立国家に侵入を図っている」と米欧を非難し、ウクライナ侵攻も辞さないとするプーチン氏を援護射撃した。外国の首脳が下院で演説するのは極めて異例。プーチン氏がライシ大統領を歓迎し、厚遇した証と受け取られている。
 
首脳会談での具体的な合意については公式的には発表されていないが、今年で期限切れとなる「経済・安全保障協力協定」の枠組みを更新することで一致したという。特に安全保障面では、ロシアがイランに対し100億ドルに上る兵器売却で合意したとされ、イランが強く求めていた最新鋭戦闘機SU35や地対空ミサイルS400も含まれている模様。

イランは核協議が不首尾に終わった場合、不倶戴天の敵であるイスラエルが核施設などに軍事攻撃を仕掛けてくると警戒しており、SU35、S400ともイスラエルに対する強力な抑止力になると見られている。イスラエルはロシアと良好な関係を維持しており、今後、イランへの兵器売却を思いとどまるようロシア側に働きかけることになるだろう。
 
新協定のモデルになったのはイランが昨年3月に中国と締結した戦略協定だ。
中国がイランのエネルギー、通信、交通などの分野に総額4000億ドル(約44兆円)を投資するのと引き換えに、イラン原油を安価で安定調達するというのが骨子。制裁で苦しむイランにとっては国益にかなう協定だ。

イランはロシアからの兵器購入費約100億ドルの支払いについては、中国からの石油代金の未回収分でまかなうのではないかと観測されている。

世界の対立軸が収れん
イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつある。

とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立つ。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたが、これもそうした動きの一環だ。(中略)
 
こうした「反米枢軸」に対し、同盟国に相応の役割分担を求めるバイデン政権も「米国連合」の構築にまい進してきた。中国の勢力拡大に対抗するため昨年9月、米英豪の3カ国による新たな安保枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設。さらに日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」を活性化、米英豪加ニュージーランドの英語圏5カ国による機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」の結びつきを強めた。
 
バイデン政権が同盟国との関係を強化しているのは米単独で「反米枢軸」と対峙していくのは財政的に耐え切れなくなり、応分の負担を要求せざるを得ない、というのが実情。特に日本は対中、対ロシアの最前線に位置し、同政権にとっての日本の存在価値は格段に上がった。今後も日本が米戦略にさらに組み込まれていくだろう。(後略)【1月25日佐々木伸 氏(星槎大学大学院教授) WEDGE Infinity】
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【蜜月ぶりを深める中ロ、ただしその関係は中国優位に大きく変化】
中国とロシアの関係に絞って見ると、正式な防衛同盟はなく、そのような同盟に縛られることも望んでいませんが、合同軍事演習や技術協力でアメリカの力を抑制する“共通の利益”をもとに、その関係を強めています。

****中ロの軍事的接近、米の覇権に新たな挑戦****
合同軍事演習や技術協力で米国の力を抑制する狙いか

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と中国の習近平国家主席は昨年夏、中国で行われた大規模な合同軍事演習を見守った。両国は航空機や潜水艦、極超音速兵器に関する技術で協力しているとも報じられており、防衛面での連携は強固になりつつあると軍事専門家はみている。
 
米当局者や軍事専門家によると、中ロは情報統制が厳しいため、両国の連携の程度を知ることは難しい。だが欧米の当局者や軍事専門家は、最近の経済協力や軍事演習、防衛分野の共同開発、政府指導者の数少ない公式声明から、両国関係の緊密化について確信を深めている。
 
米当局者は長年、中ロが一丸となる脅威について懐疑的だったが、そうした見方に変化が表れつつある。米国家情報長官室の報告によれば、両国の関係は過去60年のどの時期よりも密接だという。
 
米バイデン政権関係者は状況を注視しているものの、完全な軍事同盟に発展しそうもない行動を深読みし過ぎることには慎重だとしている。
 
約4000キロの国境を共有する中国とロシアは、中央アジアやインド、北極圏で利害が対立しており、完全に連携できる状況にはない。また、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国とは異なり、中ロの防衛システムにはあまり互換性がなく、共同作戦の有効性は限定的だ。
 
とはいえ、米国による封じ込めの動きが両国を「便宜上の結婚」へと駆り立て、共通の敵に対して資源と情報を集結させる動機を与えていると、専門家や米当局者は指摘する。専門家によると、中ロは団結することで、米国の軍事力や経済力、影響力を抑え込みたい考えだという。

中国の王毅外相は昨年6月、中ロ関係について「より大規模で、より広範囲にわたり、より深いレベル」に達する用意が整っていると述べた。一方、ロシアのプーチン大統領は対中関係が歴史的に見て最高なレベルにあると語った。
 
米国がアフガニスタン崩壊に対処する中、中国とロシアの両軍部隊は昨年8月、中国北西部で合同軍事演習を行った。寧夏回族自治区に約1万3000人の兵士のほか、数百に及ぶ航空機やドローン、大砲や高射砲、装甲車両が集結した。中国の魏鳳和国防相はこれらの軍事演習について「両国軍関係の高度な進展」を示すものだと述べた。10月には、ロシアの極東沖で海軍による合同演習も実施した。
 
米国の圧力を受けた中ロが接近し始めたのは2014年。ロシアによるクリミア併合およびウクライナ東部の反体制派への扇動に対し、米国と同盟諸国が制裁を科した年だ。(中略)
 
一方の中国は、語気を強める米国側の発言や中東・アフリカで中国が交わした防衛協定を巡る緊張、米英とオーストラリアとの原子力潜水艦に関する取引などを受け、米国との覇権争いが本格化した。中国が台湾や南シナ海の一部の領有を主張していることも緊張を高める要因となっており、米国を巻き込んだ軍事衝突が起きる可能性がある。

ロシアはこれまで台湾に関してあいまいな態度を取ってきたが、セルゲイ・ラブロフ外相は昨年10月、ロシアは台湾を中国の一部とみなしていると語った。
 
中ロは、貿易やテクノロジー、エネルギーといった分野でも関係を深めることの利点を見いだしている。プーチン氏と習氏は、この6年で30回以上も会談している。

二人三脚
(中略)プーチン氏は2019年、ロシアと中国が、中国のミサイル早期警戒システムを共同開発していると語った。翌年にはロシアが中国の軍を技術面で支援しているが、機密性が高過ぎて話せないと述べた。ロシアの国営メディアはその後、両国が極秘で潜水艦を開発していると伝えた。
 
一方、中国による高性能コンピューターチップ開発により、ロシアは欧米の制裁で絶たれた軍事技術を手に入れる手段を得た。

中ロの合同軍事演習は2000年代半ばに始まった。それ以来、頻度を増し、より複雑化していき、高官レベルの交流や技術協力が定期的に行われるようになった。(中略)

「基本的な手段」
ロシアの公式データによると、中ロの二国間貿易は2021年1~9月、1000億ドル(約11兆5780億円)を超えた。これは2020年全体の規模にほぼ匹敵する。プーチン氏は、昨年11月にその額は1230億ドルに達したと述べた。
 
昨年8月には、シベリアのアムール川を渡る二国間初の鉄道橋の建設が完了した。2019年に稼働を始めた約3000キロに及ぶパイプライン「シベリアの力」は、2025年までに1兆3000億立法フィートものロシア産天然ガスを中国に輸送する見通しだ。
 
専門家によると、中ロには正式な防衛同盟はなく、同盟に必要とされる軍事的・政治的なコミットメントによって自主性を手放すつもりはなさそうだ。たとえそうだとしても、両国の強まる絆は米国との関係に影響を及ぼすには十分とみられる。
 
「ロシアとの関係改善は、中国が取り得る基本的な手段だ」と南京大学国際関係研究院長の朱鋒氏は語る。「米国の中国封じ込めに対応する手段の一つだ」

米ロの緊張は中国にとって追い風になると指摘するのは、モスクワにある国立研究大学高等経済学院の軍事専門家で中国専門家でもあるバシリー・カシン氏だ。「米国は、自国の資源の全てを太平洋に投入しなければ勝利を期待することはできない。ロシアは、イランと共に、そうした集中的な投入をほぼ不可能にしている」
 
中国とロシアには足並みがそろわない分野があり、米国は両国間にくさびを打ち込める可能性があるとの淡い期待を抱いていると、専門家はみている。
 
中国は、ロシアの利害に反するウクライナとの実務関係を維持している。ロシアは昨年10月、NATOとの関係を終わらせたが、欧州で「一帯一路」構想を今後も進めたい考えの中国はNATOとの協力を続けている。
 
ロシアは中国のライバルであるベトナムと韓国との関係を維持する一方、中国の長年のライバルで、同じくロシアから地対空ミサイルシステム「S400」を購入しているインドにとっての主な武器供給国である。
 
中ロを分断させる一つの手は、米国がロシアに対する姿勢を和らげ、ロシアを中国から引き離すことだ。だが専門家によると、そのような戦略はまだ機が熟していない。特に、習氏との関係を弱めるようプーチン氏を促すような政治的・経済的なインセンティブを米国が提供しそうな状況ではない。
 
それに現在はウクライナ国境にロシア軍部隊が集結し、米ロの緊張が高まっているため、ロシアに中国離れを促そうとする試みは実を結びそうにない。(後略)【1月5日 WSJ】
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北京冬季オリンピック・パラリンピックは中国とロシアの結束ぶりを国際社会に示す舞台となりそうですが、両国の力関係は大きく変化し、ロシアの中国依存度が増しています。

****やせ細るロシア、肥える中国 2つの五輪が示す関係変化****
(中略)(ソチオリンピックの開催された)14年と22年時点の両国関係を詳しく比較すると、両国の蜜月ぶりも一様ではなく、ロシアの中国依存度がさらに増していることがわかる。
 
1人当たり名目国内総生産(GDP)も立場は逆転。かつての社会主義国体制では兄貴分だったロシアは弟分の中国にもうすっかり背丈が抜かれてしまったが、資源を売って生きる兄は欧州というお得意先を失ってやせ細り、一方で、肥えて、威勢のいい弟の付き合いなしでは生活が立ち行かなくなる情勢に陥っている。

ソチ大会時と関係性は変化
(中略)それでも、ロシアにとって中国は14年ソチ大会前までは、歩調を合わせながらも諸問題で国益がぶつかることがあり、隙間風が吹いていた。「一帯一路」戦略でロシアの裏庭である中央アジア諸国との関係を深める中国とは不協和音があり、中国よりも経済パートナーとして関係が深かった欧州諸国との友好維持に神経をとがらせていた。
 
しかし、決定的に状況が変わったのはソチ大会直後に起こったウクライナ危機だ。ロシアはウクライナ国内情勢の混乱に乗じて、南部クリミア半島を併合。ウクライナ東部の武装親露勢力を支援して、国土を蹂躙し、欧州の人々にロシアの恐怖感をよみがえらせた。  

このことに端を発して、欧米諸国はロシアに経済制裁を発動した。このころから同時に世界的な原油安となって、資源取引に頼るロシア経済に国家収入の減少とルーブル安というダブルパンチをもたらした。

数字が物語る中露の立ち位置
(中略)ロシア連邦税関庁のデータによると、ソチ大会前の13年の貿易高は約8440億ドルに対して、うち欧州連合(EU)諸国との取引は全体の約49.4%の4175億ドル。20年には全体の貿易高は5690億ドルに対して、EU諸国相手の取引は全体の38.4%の2190億ドルにまで落ち込んだ。  

これに対して、存在感を強めているのは中国だ。13年に貿易高は888億ドルと全体の10.5%だったが、20年には1041億ドルと全体の17.8%にまで比重が高まっている。(中略)

ウクライナ危機と台湾情勢との関係は?
名目GDPを見ると、10年時点で中国は6兆338億ドル、ロシアは1兆6331億ドル。その後、中国は右肩上がりで成長線を歩んでいるが、ロシアは停滞し、成長さえ果たしていない。  

20年には中国が14兆8867億ドル、ロシアは1兆4785億ドルと、その差は4倍から10倍にまで膨らんでいる。コロナ禍の20年には1人当たりGDPでもロシアは中国にとうとう抜かれてしまい、どちらがシニアパートナーで、どちらがジュニアパートナーかは火を見るより明らかだ。(後略)【1月26日 WEDGE】
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なお、ロシアは台湾と関係が深く、一方、中国はウクライナと関係が深い・・・といった、台湾・ウクライナに関する両国の立場には微妙なものもあるようです。

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ウクライナ ロシアへの対抗姿勢を強めるアメリカ ロシアは「欧米はヒステリー状態 責任は欧米に」

2022-01-25 23:50:58 | 欧州情勢
(18日、ロシアが実効支配するウクライナ南部クリミア半島を移動するロシア軍の装甲車両の列【1月23日 東京】)

【アメリカの大使館職員家族退避命令に慌てるウクライナ外務省 ロシア「欧米はヒステリー状態」】
緊張が高まるウクライナ情勢に関するここ数日の“山ほどある”報道のなかで、一番興味深かったのが、アメリカの大使館職員家族への出国命令に対するウクライナ側の「いや、いや。ちょっと待って」といった反応。

****米大使館の退避措置は「時期尚早」=ウクライナ外務省****
ウクライナ外務省は、ロシアが軍事行動を取る恐れがあるとして、米政府が在ウクライナ大使館職員の家族に出国を命じたことについて「時期尚早で過剰な警戒」との見解を示した。

ウクライナ外務省は声明で「実際のところ、安全保障面で最近の状況に根本的な変化はない。ロシアの新たな侵攻の脅威は2014年から常にある。国境付近へのロシア軍増派は昨年4月に始まった」と述べた。

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は24日、ウクライナに駐在する外交官の家族に退避命令を出すことは現時点で計画していないと述べた。【1月24日 ロイター】
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ウクライナ国境に10万人規模の軍を集結させ、いつでも侵攻が可能な状況を作り出しているのはロシアですが、そのロシアは当然ながら侵攻の意思はないことを主張し、危機をつくり出しているのは欧米の方だとしています。

****ウクライナ緊迫化は米欧に責任=「ヒステリー」とロシア****
ロシアのペスコフ大統領報道官は24日、ウクライナ情勢の緊迫化は「米国や北大西洋条約機構(NATO)の情報活動や具体的行動」を通じて引き起こされていると述べ、「情報のヒステリー」が起きていると批判した。インタファクス通信が報じた。
 
ペスコフ氏は、大量の偽情報やうそによって「ヒステリー」状態となっていると指摘。NATOが東欧の防衛力増強を発表したことも緊張を高めていると非難し、「ロシアの行動が原因ではない」と述べた。【1月24日 時事】 
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一方で、ウクライナ・欧米はロシアの侵攻の可能性を声高に主張してきました。

****ロシア、ウクライナ東部ハリコフ占領の恐れ=ゼレンスキー大統領****
ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、ロシアがウクライナを侵攻すれば東部の都市ハリコフを占領する可能性があり、これをきっかけに「大規模な戦争」が勃発する恐れがあるとの考えを示した。

ゼレンスキー大統領は米紙ワシントン・ポストに対し「ロシアが一段のエスカレーションに動けば、伝統的にロシアとのつながりのある人々が暮らしている地域に対する行動を起こす」との見方を示し、「ハリコフはウクライナ政府の統治下にあるが、ロシアはロシア語を話す住民の保護を口実に占領する可能性がある」と述べた。

その上で、2014年のロシアによるクリミア併合を踏まえると、こうしたシナリオは現実味があるとし、「単なる占領ではなく、大規模な戦争のきっかけになる」との懸念を示した。

ハリコフはロシアとの国境から42キロの地点にあるウクライナ第2の都市。ソ連時代の1919年から1933年までウクライナの首都だった。人口は約140万人で、戦車やトラクター、電子機器などの製造業が集積している。【1月22日 ロイター】
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ウクライナはことあるごとにロシアの脅威を煽ることで、自国ウクライナの存在を欧米にアピールしてきた・・・という評価もありますが、それはともかく、上記ゼレンスキー大統領の発言と2.3日後のウクライナ外務省の「実際のところ、安全保障面で最近の状況に根本的な変化はない。ロシアの新たな侵攻の脅威は2014年から常にある。国境付近へのロシア軍増派は昨年4月に始まった」という声明にはギャップがありすぎる感も。

これまでは本当に戦争になるとは思っていなかったけど、過度に緊張が高まり、このままでは本当に戦争に突き進んでいってしまうような恐怖を感じて・・・・というところでしょうか?

それとも、欧米大使館職員・家族の退避が進んで、これまで以上にロシアが侵攻しやすくなる状況を恐れてでしょうか?

あるいは、(アフガニスタンのように)欧米から見捨てられるような恐怖でしょうか?

そのあたりはよくわかりませんが、ウクライナがロシアとの戦争を恐れるのは当然のことです。アメリカ・欧州はことあるごとにウクライナを支援するとは言ってくれますが、NATO加盟国でもないウクライナに直接軍を投入してロシアと戦火を交えてはくれません。ロシア軍と対峙するのはあくまでもウクライナです。

【“侵攻ありき”でロシアへの警戒態勢を強化するアメリカ・NATO】
欧米、特にアメリカ・バイデン大統領はロシア侵攻を既定事実とするかのようにヒートアップしています。

****バイデン氏「露はウクライナ侵攻するだろう」 就任1年で記者会見****
バイデン米大統領は19日、就任から20日で1年となるのを前にホワイトハウスで記者会見し、緊迫化するウクライナ情勢について、プーチン露大統領がウクライナ侵攻に踏み切るだろうとの見方を示した。

また、プーチン氏は同国での「全面戦争は望んでいない」とし、首脳会談の可能性を含めた外交的協議による危機回避を図る考えを強調した。

バイデン氏は、ウクライナ防衛をめぐり、プーチン氏が「米国と北大西洋条約機構(NATO)を試そうとしている」と指摘し、「私の推測ではプーチン氏は侵攻すると思う」と語った。また同氏はその場合、「深刻な代償を払って後悔することになるだろう」として、軍事侵攻に対しては強力な制裁を発動すると警告した。

一方でバイデン氏は、ウクライナ国境付近に集結している10万人規模のロシア軍の動きは「プーチン氏1人の決定次第だ」とし、侵攻の最終決断は「下されていないだろう」とも述べた。【1月20日 産経】
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このバイデン発言には、「小規模な侵攻」であれば、代償も小規模にとどまる可能性を示唆した部分があり、ウクライナが「侵攻に小規模も大規模もない。すべて侵攻だ。」と反発、バイデン米大統領は20日、「いかなるロシア軍部隊でもウクライナに越境すれば侵攻だ」と修正することにも。

その後、冒頭のウクライナ外務省声明にもなった米大使館員家族に退避命令。
これについては欧州側は認識の違いを見せています。

****EU、駐ウクライナ外交官家族の退避計画せず****
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は、ウクライナに駐在する外交官の家族に退避命令を出すことは現時点で計画していないと述べた。

これに先立ち、米国務省は23日、ロシアが軍事行動を取る恐れがあるとして、在ウクライナ大使館職員の家族に出国を命じたと発表した。

ボレル氏は記者団に「具体的な理由がわからないため、同じ措置は講じない。ブリンケン(米国務)長官から説明があるだろう」と述べた。この日開催されるEU外相理事会にはブリンケン長官もオンラインで参加する見通し。

ボレル氏は「交渉は続く」とし「ブリンケン長官が(国外退避を)正当化する情報を提供しない限り」退避命令を出す理由はないと述べた。【1月24日 ロイター】
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日本政府は、“ウクライナ全土の危険情報をレベル3の渡航中止勧告に引き上げました。これまでは大半の地域を十分な注意を求めるレベル1としていました。アメリカやイギリスは、すでに渡航中止にしています。”【1月25日 テレ朝NEWS】

更に、今日各メディアが取り上げている、米軍派遣準備。
北大西洋条約機構(NATO)の即応部隊の出動が決まった際に同部隊に加わる米軍の準備です。

****米欧首脳、ロシア対応で「結束」=米軍8500人の派遣準備****
バイデン米大統領は24日、ウクライナ情勢の緊迫化を受けて欧州の首脳らとオンライン会合を開き、ロシアが侵攻した際の対応策や東欧の防衛力増強などで「結束」を確認した。米国防総省は8500人規模の地上部隊に警戒態勢を強化するよう命令。北大西洋条約機構(NATO)と連動し、欧州に米軍を増派する方針を示した。
 
ホワイトハウスによると、米欧首脳の会合にはジョンソン英首相やフランスのマクロン大統領、ドイツのショルツ首相のほか、ストルテンベルグNATO事務総長や欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長らが出席。ロシアによるウクライナ侵攻を抑止するための協力や、侵攻には強力な制裁で対抗する方針などを話し合った。
 
バイデン氏は会合後、ロシアへの対応で「完全に一致した」と記者団に述べ、「非常に良い会合だった」と強調。AFP通信によれば、英首相府も「ロシアの敵対行為がエスカレートする中、国際的結束の重要性で合意した」と表明した。【1月25日 時事】
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なお、カービー米国防総省報道官は、NATO加盟国ではないウクライナに米軍が派遣される可能性については否定しています。直接アメリカがロシアと交戦する事態は避ける構えです。

欧州はこれまでもウクライナ支援を強めています。
“EU、ウクライナへ緊急支援 約1500億円”【1月24日 共同】

****東欧の防衛力増強=ロシア警戒、戦闘機や軍艦派遣―NATO各国****
北大西洋条約機構(NATO)は24日、ロシア軍による侵攻への警戒が高まるウクライナ情勢をめぐって声明を出し、東欧の防衛力増強のために加盟各国が戦闘機や軍艦、部隊の派遣を進めていると表明した。
 
ストルテンベルグ事務総長は、加盟各国の動きを歓迎し「NATOは東方の強化を含め、加盟国を防衛するために必要なあらゆる措置を講じ続ける」と強調した。【1月24日 時事】
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また、アメリカは直接ウクライナへの部隊派遣はしないものの、すでにバルト三国・イギリスに対し、米国製のミサイルなどをウクライナに移動することを許可しています。

****米、バルト三国にウクライナへのミサイル移動を承認****
複数の関係筋によると、米国務省はバルト三国に対し、米国製のミサイルなどをウクライナに移動することを許可した。

バイデン米大統領は19日、ロシアによるウクライナ侵攻を予測した上で、本格的に軍事侵攻すれば大きな代償を払うことになると語った。

米国から購入した武器を第三国に移す場合、輸出管理規制により、米国務省の承認が必要となる。

関係筋によると、今回の承認により、エストニアは対戦車ミサイル「ジャベリン」を、リトアニアは「スティンガー」ミサイルをウクライナに移すことが可能になる。

米国務省報道官も、エストニア、ラトビア、リトアニア、英国に対し、米国製の装備をウクライナに移すことを認めたと明らかにした。(後略)【1月20日 ロイター】
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2014年当時、ロシアがウクライナ東部に攻勢を仕掛け、クリミアを併合した際には、その直前までウクライナは親ロシア政権であり、欧米はロシアの介入を批判するものの基本的にはウクライナとロシアの揉め事という枠組みでした。しかし、クリミア併合で状況は変わりました。

プーチン大統領が武力で国境線を変更したことで、単にウクライナの問題ではなくなり、その後の欧米側のウクライナ支援の強化もあって、「ロシアの脅威に対する欧州」、あるいはプーチン大統領がしきりにNATOの東方拡大を問題にしているように、「アメリカ主導のNATOとロシアの対立」に枠組みは変化しています。

上記はそういう認識を前提にしてのアメリカ・欧州のロシア侵攻に対抗した措置ですが、こういう状況では(アメリカと直接戦火を交えることはないにしても)ロシア・プーチン大統領にとって侵攻のハードルはクリミア併合当時より格段に高くなっています。

****米軍派遣準備に「大きな懸念」=ロシア報道官****
ロシアのペスコフ大統領報道官は25日、ウクライナ情勢の緊迫化を受け、米国防総省が8500人規模の地上部隊に警戒態勢の強化を命令したことを踏まえ、「米国の行動を大きな懸念を持って注視している」と語り、米国が緊張を高めているとの認識を示した。タス通信が報じた。
 
ペスコフ氏は、北大西洋条約機構(NATO)不拡大などのロシアの要求に米欧が今週書面で回答することを「期待している」と語った。プーチン大統領とフランスのマクロン大統領がウクライナ情勢をめぐり、今週に電話会談することも明らかにした。【1月25日 時事】 
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アフガニスタン  困窮する市民生活 問題が多いタリバン支配 今後に向けて欧米諸国との協議開始

2022-01-24 21:53:37 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンの首都カブールにある虐待被害を受けた女性向けのシェルターで祈る女性(2021年12月11日撮影)【1月22日 AFP】)

【困窮する市民生活 栄養失調で死亡 わが子を売らなければ生きられない】
アフガニスタンではイスラム原理主義勢力タリバンによる支配のもとで社会・経済は混乱し、女性の人権を認めないなどその統治に問題が多いタリバンに対する欧米諸国の経済制裁によって、市民生活は困窮を極めています。

****今年、栄養失調で子供75人死亡=アフガン南部の病院****
アフガニスタンのメディアは17日、南部カンダハルの病院関係者の話として、この病院で今年に入り、子供少なくとも75人が栄養失調で死亡したと報じた。

アフガンでは、イスラム主義組織タリバン暫定政権への制裁などで経済が混乱。0度前後の気温下で人々が十分な食料を得られず、国際機関などが支援を急いでいる。
 
複数の地元報道によると、この病院関係者は、今年に入り子供約1900人が栄養失調で搬送されてきたと証言した。世界食糧計画(WFP)は昨年、アフガン人の95%が十分な食料を得られていないと警告している。【1月17日 時事】
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*****「わが子売れば…」タリバン下で生活困窮 追い詰められるアフガン市民****
アフガニスタンで、イスラム原理主義勢力・タリバンが実権を掌握して5カ月がたった。
人々の生活は厳しさを増し、わが子を売らなければ生きられないほど、追い詰められた家族もいる。

2021年8月、タリバンがアフガニスタンで実権を掌握し、かつての恐怖政治の記憶から、国内は混乱した状況になった。
今も人権侵害などへの懸念から、国際社会は、タリバンによる統治を承認せず、経済制裁を科していて、市民の生活は厳しさを増している。
市民「状況は最悪で、みんな仕事がない」

カブール近郊の町で暮らす、ナーザニンさん(12)。4人姉妹の長女として、家事を手伝うなど、シングルマザーである母親を支えている。
ナーザニンさん「勉強したいができない。生活のために、水や油が必要」

しかし、病気を抱えながら清掃の仕事と子育てをしてきた母親は、雇い主の経済状況が悪化し、職を失った。
誰からも助けを得られず、生きるために、母親は、ナーザニンさんを売ることを決めた。
母・マルジエさん「何もできることがなかった。1人を売れば、自分も病気の治療ができて、3人の子どもを餓死から守れる」

その金額は、日本円でおよそ11万円。ナーザニンさんがその後、どうなるのか、母親は「何も知らない」と答えた。
しかし取材後、支援団体から援助を受けることができたとの報告が。ナーザニンさんは、今も家族と生活することができているという。

アフガニスタン情勢にくわしい東京外国語大学の講師・登利谷正人さんは、「現地では、子どもを売らなければ食べていけない人が増えている。“タリバン政権”を承認できるかは、ひとまず棚上げにしてでも、命を守るため行動しなければならない」と話している。【1月18日 FNNプライムオンライン】
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****アフガン 仕事失った人たちの食糧難深刻化****
イスラム主義勢力タリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは、本格的な冬を迎え、仕事を失った人たちの食糧難が深刻化しています。

17日のアフガンの首都カブールの映像には、雪がしんしんと降る中、路上に座っている人がいます。仕事を失い、物乞いをするほか生活のすべがない人たちです。

カブール市民「子どもたちのためのお金をもらうため、ここに座っているしかありません。油、コメ、小麦粉が必要です。できるなら助けてください」

カブール市民「夫が亡くなって30年、私は一人です。この服は人からもらったものです。お茶もパンもなく、神様の助けがなければ食べ物が見つかるまで歩き続けなければなりません」

男性は、雪の寒さを防ぐためか、ビニールをまとっています。

カブール市民「仕事が見つかる日があっても、その後は仕事がありません。私のような労働者はたくさんいます。1日の稼ぎは90円ほどです。それで我慢しなければならないのです」

国連機関によりますと、アフガンでは現在、人口の半数以上にあたる2440万人が人道支援を必要としています。【1月18日 日テレNEWS24】
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【懸念を深める情報が多いタリバン支配の実情】
“タリバン政権を承認できるかは、ひとまず棚上げにしてでも、命を守るため行動しなければならない”・・・それはそうです。実際、国際支援も動いてはいます。

しかし、タリバン支配が容認できるものかどうかで疑念がある状態では支援もフル稼働とはいかないのが現実でしょう。

現地から伝えられる情報は、タリバン支配への疑念を深めるものがほとんどという状況です。

****女性の遠出、男性伴わねば禁止 タリバン****
アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバン暫定政権は26日、近親男性が同伴しない限り女性の遠出を禁止すると発表した。勧善懲悪省がソーシャルメディアに新指針を投稿した。
 
タリバンはさらに、全ての車両所有者に対し、髪をスカーフなどで覆っていない女性の乗車を拒否するよう求めた。車内で音楽をかけることも禁止される。
 
勧善懲悪省の報道官はAFPに対し「女性が45マイル(約72キロ)以上移動する場合、近親者が同伴しなければならない」と説明した。近親者は男性に限るという。女性が移動する場合、「ヒジャブ」の着用が求められるとも述べた。
 
タリバンは8月15日に実権を掌握すると、公的部門で働いていた女性の復職を禁じた。また、大半の女子生徒が中等教育を依然受けられていない。 【12月27日 AFP】
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****タリバン、女性にヒジャブ着用命じるポスター掲示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は今週、女性にヒジャブ(頭と首を覆うスカーフ)の着用を命じるポスターを首都カブール各地に掲示した。同省報道官が7日、明らかにした。
 
タリバンは昨年8月に政権に返り咲いて以来、シャリア(イスラム法)の厳格な解釈に基づく統治を強化。特に女性や少女の自由を厳しく制限している。
 
ポスターはカフェなどに張り出された。「シャリアに従い、ムスリム女性はヒジャブを着用しなければならない」と書かれているほか、ブルカ(全身を覆う衣服)も描かれている。
 
宗教警察の役割を担う勧善懲悪省の報道官は7日、同省が命じたとAFPに認めた。「たとえ従わなかったとしても、罰を受けたり殴打されたりするわけではない。ムスリム女性にシャリアに従うよう促しているにすぎない」と述べた。
 
カブールの女性は既に、ヘッドスカーフで髪を覆っている。カブール以外では、タリバンが1990年代の第1次政権時代に着用を義務付けていたブルカが一般的となっている。 【1月8日 AFP】
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ブルカ強制ではなくヒジャブであれば、イスラム諸国においては程度の差こそあれ着用が要請されていますので、タリバンがヒジャブ着用命じること自体は驚きではありません。

「ヒジャブでもなんでも着けるから、生きていくための食べ物が手に入るようにしてくれ!」というのがアフガニスタン女性の現在の叫びでしょう。

上記記事で問題なのは「たとえ従わなかったとしても、罰を受けたり殴打されたりするわけではない。ムスリム女性にシャリアに従うよう促しているにすぎない」という言葉が全く信用できないところです。ムチで人々を抑圧した旧政権時代の勧善懲悪省の姿が蘇ります。

タリバン支配のもとでは、タリバンのやり方に異を唱えることは許されません。

****タリバン批判の教授拘束 アフガン、言論弾圧に市民抗議****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は9日までに、会員制交流サイト(SNS)でタリバンを批判したとして、大学教授の男性を拘束したと明らかにした。首都カブールでは9日、言論弾圧を懸念する市民らが「教授の声は人々の声だ」と抗議し、釈放を求めた。
 
地元メディアによると、男性はカブール大のファイズラ・ジャラル氏。8日にカブールで治安当局に拘束された。テレビの討論番組にたびたび出演し、圧政や食料不足などを非難してきた。【1月9日 共同】
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【最大のポイントは女性の権利保護】
いろいろ問題があるなかで、食料問題は現実的には国際援助がない限りタリバンに改善能力はないので、そうした国際援助が受けられるようにするための「女性への対応」がポイントでしょう。

欧米諸国が求めるものとタリバン支配の現実には大きな溝があります。

****タリバン政権下で消える女性シェルター 虐待受けても行き場なし****
フェテマさんは7歳の時、曽祖父ほどの年齢の男性と結婚させられた。レイプされ、殴る蹴るの暴行を受け、飢えにも耐え忍んだ末、ついに自らの命を絶とうとした。
10歳の時には壁にたたき付けられたと言う。「頭が釘にぶつかって(中略)もう少しで死ぬところでした」
 
フェテマさんが身を寄せているのは、虐待された女性のためのシェルターだ。イスラム主義組織タリバンが昨年8月に実権を掌握したアフガニスタンで今もなお、女性たちを受け入れている数少ないシェルターの一つだ。だがフェテマさんは、いつここを追われるかもしれないとおびえている。
 
シェルターが閉鎖されれば、フェテマさんには行き場がない。実家との連絡は途絶えているし、嫁ぎ先の家族は名誉を汚したと言って、フェテマさんを殺すと明言している。
 
アフガニスタンでは、フェテマさんのような経験をしている女性が何百万人もいる。家父長制を伝統とするこの国では、貧困と教育の欠如により、女性たちが何十年にもわたって権利を奪われてきた。
 
国連によるとアフガン女性の87%が、何らかの形で肉体的・性的・精神的な暴力を体験したことがある。
 
にもかかわらず、人口3800万人のこの国で、タリバン復権以前に運営されていた女性保護専門のシェルターは、わずか24か所だった。そのほぼすべてが国際組織の資金によるもので、国内では多くの人から冷ややかな目で見られていた。
 
タリバンはイスラム教の聖典コーランの厳格な解釈に基づき、女性の権利を認め保護していると主張するが、現実には公的な場から徐々に女性が締め出されている。

■タリバンの視察
だが、ほのかな希望の光もある。
 
タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月初め、強制結婚を非難する立場を表明した。
またタリバン暫定政権が国連大使に指名したスハイル・シャヒーン氏は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルに対し、暴力の被害を受けた女性は裁判所に訴えることができると語った。
 
タリバン政権はシェルターの今後について何ら公式に発表していない。だがその存在が見過ごされているわけではない。
 
フェテマさん他約20人が身を寄せるシェルターの職員によると、タリバンの戦闘員や幹部が数回にわたりシェルターを訪れた。

「彼らは入って来て各部屋を見て、男性がいないことを確かめていました」とある職員は言う。「そして、女性にとってここは安全な場所ではない、女性の居場所は家庭だと言いました」
 
それでも、希望を感じた女性もいた。職員は「(タリバンの訪問は)思っていたよりもずっと良かったのです」と語った。

■頼る先がない
タリバンが政権を掌握する前でさえ、家庭で虐待されている多数の女性が頼れる先はほとんどなかった。
殺してやると義父に脅されたザキアさんは女性問題省(現在はタリバンによって閉鎖)に問い合わせ、家を逃れる方法について助言を求めた。だが、ザキアさんの状況はそれほど悪くないと言われ、「話も聞いてもらえませんでした」。
 
ミーナさんも7年前、虐待する叔父の元から妹と一緒に逃げ出し、女性問題省に駆け込んだが、同じような扱いを受けた。そして「私が話す内容にうそがあると非難されたのです」。
 
アフガン女性の権利を訴えて長年活動し、シェルターを運営しているマブバ・サラジャさんにとって心配なのは、家庭で虐待を受けていながら、他に行き場のない女性たちだと言う。
 
ザキアさんには、少なくとも今のところシェルターがある。だが、いつまでここにいられるだろう。「実の父にも、おまえのことなんかどうでもいいと言われたのですから」 【1月22日 AFP】
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家庭内での暴力から逃れてきた女性に「女性にとってここは安全な場所ではない、女性の居場所は家庭だ」というのは“悪い冗談”です。

ただ、“女性保護専門のシェルターは、わずか24か所だった。そのほぼすべてが国際組織の資金によるもので、国内では多くの人から冷ややかな目で見られていた。”“タリバンが政権を掌握する前でさえ、家庭で虐待されている多数の女性が頼れる先はほとんどなかった”ということに見られるように、女性の権利を重視しない風潮はタリバンだけでなくアフガニスタン社会全般の問題である点は踏まえて置く必要があります。

そうしたなかにあって、若干の改善も。

****女子中等教育も「解禁」=3月下旬に再開か―タリバン****
フガニスタンの民放トロTVは23日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が、3月下旬から中等教育課程以上の学校を女子についても再開するよう指示したと報じた。現在、タリバンは一部を除き女子は初等教育までしか認めておらず、国内外から批判を浴びている。
 
タリバンはこれまで、独自のイスラム法解釈に基づいて女子教育を抑圧してきた経緯があり、実際に再開されるかは不透明だ。【1月24日 時事】 
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【欧米諸国とタリバンの協議開始】
今後に向けて、タリバンと欧米諸国の協議が始まるようです。

****タリバン、オスロで欧米諸国と協議開始 人権や人道危機など焦点****
アフガニスタンを支配する武装勢力タリバンと、欧米各国との対面協議が23日、ノルウェーの首都オスロで始まった。昨年8月にタリバンがアフガニスタンの政権を奪還して以来、代表団が欧州で欧米政府と協議するのは初めて。

一方、タリバンと協議することに反対する抗議集会も、週末にかけて欧州各地で開かれた。

非公開の協議は3日間続く予定で、アフガニスタン国内の人権や人道危機の状況も検討する。
最も重要とされる24日には、タリバンは欧米各国に対して、アメリカの銀行で凍結されている数十億ドルの出金を認めるよう要請する見通し。

タリバン代表団のシャフィウラ・アザム氏はAP通信に対して、「アフガン資産の凍結を解除し、政治対話を理由に一般のアフガニスタンを苦しめることがないよう(欧米に)求める」と話した。
「今は厳しい冬で、飢えが広がっている。国際社会はそろそろ、政治的対立を理由にアフガニスタン人を罰するのではなく、アフガニスタン人を支えるべき時期だと思う」とも、アザム代表は述べた。

タリバンの復権以来、アフガニスタンでは失業と食料価格が急騰する一方、通貨の価値は急落し、金融機関は現金引き出しに上限を設けている。

国連によると、アフガニスタン国民の95%が十分な食事をとれていない。人口の55%が飢えの危険にさらされている状態という。

タリバン代表団は22日夜にオスロに到着。23日には、代表団の一部が人権活動家と面談したものの、話し合った内容は公表されていない。

女性の権利活動家のジャミラ・アフガニさんはAFP通信に対して、代表団は「好意的」な態度だったと述べ、「発言をもとに、実際にどう行動するかを見てみよう」と話した。

「タリバン承認ではない」
欧米側はタリバン代表団に対して、人権尊重と包摂性の高い政権作りを強く求める見通し。

昨年8月の政権奪還以来、タリバンはほとんどの女性について外で働くことを禁止。中学・高校には男子生徒と男性教師しか通うことができなくなった。こうした権利抑圧に抗議する女性たちへの取り締まりも厳しくなり、活動家の中には行方不明になった人たちもいるが、タリバンは関与を否定している。
人権活動家やジャーナリストに対するタリバンの攻撃も悪化している。

これまでのところ、タリバン政権を正統なアフガニスタン政府と承認した国はない。
ノルウェーのアンニケン・ウィットフェルト外相は21日、協議の開催を発表するにあたり、代表団と協議するからといって「タリバンを正当化するわけでも承認するわけでもない」と述べた。
「それでも、国の事実上の当局とは話をしなくてはならない」とも外相は話した。

今回の協議について、国外のアフガニスタン人の意見も割れている。BBCのリーズ・ドゥセット特派員によると、タリバンと関わるのは大事だと指摘する人もいれば、本国で人権侵害を繰り返すタリバンを欧州の首都に招いてはならないという意見もある。

オスロでの協議に反対する人たちが週末にかけて、欧州各地で抗議集会を開いた。オスロで抗議した1人はAFP通信に対して、家族を失ったアフガニスタン人を「面と向かって笑い飛ばす」ようなものだと協議を批判。「テロリストと話し合ってはならない」と述べた。【1月24日 BBC】
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新型コロナ  新たな戦略で態勢を立て直すべきとき

2022-01-23 21:52:40 | 疾病・保健衛生
(パリで20日、「ブランケール(教育相)はバカンスに、教員はレジスタンス(抗議)に」などとつづった垂れ幕を掲げる教員のデモ参加者=AP。学校の感染対策で批判を受けたブランケール氏は、新学期前日までひそかに地中海のリゾート地で過ごしていたことがわかり、非難を浴びている。【1月23日 朝日】)

【感染急増で社会機能維持重視へ】
土曜日に3回目の追加接種を受けたせいか、体調がイマイチ。(決定的に悪化して寝込むようなことはありませんが)

高熱ではないものの、37.1(朝)~37.9℃(夕方)の微熱 そんなにひどい痛みではないものの、全身の神経がピリピリする感じ  異様な倦怠感という訳ではないが、なんとなく根気が続かず横になりたい  食欲が「ない」とは言わないが、そんなにお腹すかない・・・

手元に解熱剤がなく、雨が降る中買いに行くのも面倒  まあ、明日にはおちつくだろう・・・と希望的観測。

日本でも新型コロナウイルスはほとんどが感染力の強いオミクロン株に置き換わり、全国各地で爆発的な感染増加を見せていることは、耳タコです。

世界各地でもその対応に苦慮しています。
中国のような「ゼロコロナ」に固執する国以外では総じて、感染防止から「社会機能域」に力点を移しつつあります。

****感染急増、人手不足を懸念 社会機能維持、各国が対策 新型コロナ****
新型コロナウイルスの「オミクロン株」による感染者の急増により、各国で社会機能の維持が深刻な課題となっている。病院や学校などでの人手不足を緩和しようと、隔離措置を緩和するなど様々な対策を打ち出しているが、感染拡大の勢いは衰えず、先行きへの不安も高まっている。

 ■米、無症状なら隔離短縮
米国では新型コロナの入院患者数が11日、保健福祉省の集計で約14万6千人と過去最多になり、医療崩壊の危機に直面している。
 
病床に加えて不足が懸念されるのが医療関係者だ。米疾病対策センター(CDC)は昨年12月下旬、医療関係の感染者が無症状なら隔離期間を10日から7日に短縮し、陰性と確認できれば職場復帰できるようにした。
 
連邦政府はスタッフの不足した病院に対し、医師らでつくる約60の支援チームを送る態勢を整えた。カリフォルニア州保健当局も2月1日までの期間限定で、感染したり、濃厚接触者となったりしたが無症状の医療スタッフは、隔離も検査もなしで職場に復帰できることにした。
 
航空業界からも隔離期間の短縮を求める声が続いた。米デルタ航空は昨年12月21日、「10日間の隔離は当社の業務に大きな影響を与える可能性がある」との書簡をCDCに送った。
 
米ユナイテッド航空の従業員約3千人が感染するなど、もともと深刻だった人手不足に拍車がかかった。AP通信によると、航空便の欠航数はクリスマス前は1日あたり数百便だったが、感染者数の増加で、一時は1日1千便を超えた。
 
CDCは12月末、医療スタッフでない感染者についても、無症状なら検査なしで隔離期間を5日にすると、指針を見直した。ただ、米客室乗務員組合は昨年末、体調が回復する前に早期の職場復帰を迫られる可能性があることに対し、懸念を表明している。

 ■仏、軽症医師ら勤務継続
連日30万人以上の感染者が出ているフランスでも今月、隔離規制が緩和され、感染しても軽症や無症状なら医師や看護師らは働き続けることが可能になった。
 
入院患者が増え続けて病院の負担が大きくなる一方、療養や隔離で欠勤するスタッフが多くなっているためで、医療崩壊を防ぐための非常手段と言える。
 
学校では、休校を避けるために政府が設けたルールが大きな混乱を招いた。
 
クラスで感染者が出た場合、すぐに学級全員が薬局などで検査し、陰性なら授業に戻れるとした。しかし新学期が始まると、子どもが感染するたびに全ての親が呼び出され、子どもを薬局に連れていく事態が続出。教員にも感染が広がり学級閉鎖が相次いでいる。
 
11日には新規感染者が過去最悪の約36万8千人に達した。社会機能のマヒを防ごうと対策を緩めては、感染拡大する悪循環に陥っている面もある。
 
オーストラリアでは、最大都市シドニーがあるニューサウスウェールズ州が昨年12月末、ワクチン接種済みの濃厚接触者を対象に7日間の自主隔離の規制を緩和。医療関係者は無症状なら出勤できるようにした。12月までは国内の新規感染を1日2千~3千人に抑えてきたが、今年に入り同10万人を突破。病院では看護師不足が懸念されていた。
 
さらに、農業や物流、小売りなどでも欠勤者が相次ぎ、物不足が深刻になる恐れが出てきた。そのため同州は、こうした分野で働く濃厚接触者は、短時間で判明する迅速抗原検査で陰性なら出勤できるように改め、国も全国的な規制緩和を決めた。
 
英国も1日あたりの新規感染が10万人を超える水準で推移し、人手不足の懸念が強まっている。
BBCによると、今月7日時点で、イングランド全体の8分の1にあたる16の医療機関が「緊急事態」を宣言した。救急医療などで通常通りの対応ができなくなる可能性があるため、他の地域から支援を受けたり、スタッフの配置転換が容易になったりする。軍も先週から人手不足が深刻化するロンドンの病院に軍人200人を派遣している。
 
また、ガーディアン紙によると、教員組合の調査に応じた、イングランドの学校の9%で新学期の初日に2割以上の教員が欠勤したことが判明したという。(後略)【1月14日 朝日】
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【フランス 学校での混乱】
ただなかなか感染防止はあきらめて・・・とは言えないので、現場では感染防止対策の検査・隔離なども行われていますが、感染力の強いオミクロン株相手では、できないことを国民に要求し、現場の混乱・疲弊を招く結果になっているようにも。

フランスの学校対策の「右往左往」などはその事例でしょう。

****登校ボイコット、教員はスト コロナ不安で混乱 欧米の学校現場****
新型コロナウイルスのオミクロン株が猛威を振るう欧米で、学校現場が混乱している。感染者増による学級閉鎖や休校だけでなく、感染の不安から生徒が学校をボイコットする動きも。フランスでは教員によるストライキまで起きている。

「授業計画立てられない」嘆く仏の教員
パリの公立小の女性教員(27)は4日朝、男子児童がコロナに感染して欠席すると連絡を受けた。
9時半ごろだった。女性は授業を中断し、残りの26人の児童の親への電話にとりかかった。校長と手分けし「今すぐ迎えに来て下さい」と携帯電話で伝えた。

フランス政府が定めた規則では、クラスに感染者が出たら、学級全員がただちに薬局などで抗原検査を受けると定めていた。それで陰性なら教室に戻れる決まりだ。すぐに休校にせず、「学校はなるべく開け続ける」という政府方針に沿ったルールだった。
 
だが、女性が電話をかけ始めると、職場に着いたばかりの親もいれば、連絡がつかない親もいた。
その日、女性の携帯は親からの折り返し着信音が何度も鳴り響いた。「とても授業どころではなかった」
 
結局、迎えに来られた親は20人ほど。都合がつかない親もいて、4、5人は検査を受けられないまま教室で過ごした。そして、翌日も児童に感染者が出た。
 
政府のマニュアルは、感染者が出た2日後と4日後にも、学級全員が自宅で検査することを求めていた。
ただ、全土で感染が急拡大し、薬局では検査キット不足に。「検査できないから休ませる」と連絡する親もいた。
女性は「こんな調子では授業計画が立てられない」と嘆く。
 
急に呼び出される親にも不満が広がった。各地で学級閉鎖や休校が相次ぎ、13日には全土で教員がストライキに踏み切った。
 
政府はマニュアルの変更に追い込まれ、日中に親は呼び出さず、帰宅後の自宅検査で代用させることにした。
 
教員によるストとデモは20日にも行われ、カステックス首相は同日、「マニュアルが変わり、親や教員に困難をもたらした」と釈明した。マニュアルを担った教育相がひそかに新学期の前日まで地中海のリゾート地イビサ島(スペイン)で過ごしていたことがメディアに暴かれ、野党が辞任を求める騒ぎに発展している。
 
ただ、基準を緩めれば、感染が学校で広がりやすくなるリスクも生む。
教員の労組は、教室に感染者が出たら学級閉鎖、とシンプルな運用にするよう求めている。(後略)【1月23日 朝日】
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【防衛ラインを下げる戦略転換を明示し、態勢を立て直すべき時期】
日本でも、従来のような検査、患者・濃厚接触者の隔離といった対応は破綻しつつあります。

****検査や外来、逼迫に危機感 軽症者急増「戦略変わった」 オミクロン拡大、専門家提言****
オミクロン株による新型コロナウイルス感染が今後さらに拡大した場合、基礎疾患がない若者らは、医療機関を受診して検査を受けるという現在必須の「入り口」部分を必ずしも必要としない、と専門家が政府に提言した。そのまま自宅で療養することになる。

 ■政府「今ではない」
転換を図った背景には、早晩、検査や外来診療がパンクする危機感がある。感染力が高いが軽症者が多いオミクロン株によって、まず若年層を中心に軽症者が急増する。検査や外来に殺到すれば、重症化しやすい患者の診断が遅れ、治療が遅れる。これまでのように重症者で病床が埋まる逼迫(ひっぱく)とは異なる課題だ。
 
一方で、軽症者が多いなら、社会経済を回すことと感染対策を両立できる可能性もある。専門家の一人は「これまでとは戦略が変わった」と話す。専門家たちは感染拡大が先行する沖縄県の状況を分析しながら、検査や外来への負荷を減らす方法を検討してきた。提言案の段階では、時間がかかる検査を省いて逼迫を避け優先度の高い人の治療ルートを守るために「検査をせずに臨床症状のみで診断」と踏み込んだ。

ただ、専門家の間で「特定の症状だけでの診断は難しい」などの意見が出て削除になった。
 
ただ、急変する人が出るおそれは否定できない。政府高官は「検査を受けるなとはいえない。提言は、少なくとも今やるということではない」と強調する。実現の難しさは専門家も承知の上。専門家の一人は「医療が破綻(はたん)するレベルまでいかないと、この提言は通らないかもしれない。それでもそれから議論したのでは遅い」と語気を強める。

今回の議論は厳格な患者の管理が求められる感染症法上の新型コロナの位置づけを事実上緩めることにもつながる。検査を受けなければ陽性者として数えられず、全ての陽性者を保健所に報告する現行の対応からは外れるからだ。

療養期間やその間の行動規制をどうするのかといった課題は残る。行動制限の緩和も修正した。案段階では、政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らの主導で、基本的対処方針に明記された人流抑制や県をまたぐ移動制限の必要性は否定した。全国知事会などの反発もあり提言では従来の規制も選択肢としうる方向に修正した。
 
ただ、行政側も揺れている。21日の全国知事会の役員会議では一転、国の基本的対処方針がオミクロン対応に更新されていないことへの批判が相次いだ。オミクロン株の特性を踏まえた感染対策に見直すよう国に申し入れる。
 
首都圏でもすでに発熱外来に患者があふれ始めている。東京都と千葉県内の計三つのクリニックで発熱外来を開く東京ビジネスクリニックでは、患者数は2週間で3倍近くなり、陽性率が30%を超える日もある。内藤祥理事長は「来週には未知の状況に入る」と危機感を募らせる。
 
発熱外来は3機関で19日には312人が受診し、104人が陽性と判明した。昨夏のピークと同じくらいの人数だ。現在は検査が必要とされた全員が抗原検査を受ける。

検査キットを仕入れる一部の会社からは「しばらく出荷数を制限する」と伝えられた。今後、検査に影響が出ることを懸念する。「まだ足りなくはないが、確保しづらい」
 
抗原検査で陰性だった人の一部が追加で受けるPCR検査の結果も遅れが出始めている。通常なら24時間以内に速報が届くが、現在は平均2日かかる。昨夏のピーク時には最大5日かかったこともある。診断が遅れれば治療に影響が出る。

内藤さんは、「来週以降はどこの医療機関も経験したことのないような状況になるだろう」とし、「重症の方だけ診断していくことが必要になるかもしれない」。厚労省によると、発熱外来に訪れた人は12月は多い日に3万~4万人程度だが、1月17日には10万3184人。第5波があった昨年8月を超える水準になってきた。【1月22日 朝日】
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“急変する人が出るおそれは否定できない。政府高官は「検査を受けるなとはいえない。提言は、少なくとも今やるということではない」”・・・要するに何かあったときの責任を追及されるのを避けたいという政治家・役人の発想です。

「混乱・トラブルの責任は全部私が持つので、一歩でも、二歩でも前に進むように」なって言ってくれる政治家は日本にはいないのか。ひたすらリスクばかり考える日本の昨今の「安心・安全」教の弊害でもあります。

「オミクロン株」の特性に鑑みた分類見直しの動きは世界規模でも。

****新型コロナ、インフルと同じ扱いに スペインなど働きかけ****
政府は新型コロナウイルスを、季節性インフルエンザなど他の呼吸器系ウイルスと同等に扱うべきだ──。こうした見方が、スペインを筆頭に一部の国で勢いを得ている。ただ世界保健機関は、このアプローチは時期尚早だと警鐘を鳴らす。

世界各国の政府や国民が新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)終息を切望する中、流行段階の分類を見直す時期についての議論が活発化している。

スペインのカロリーナ・ダリアス保健相は、「スペインはこの議論を率いたいと考えている。時宜にかなっていて、必要なことだからだ」と説明。スペインが欧州疾病予防管理センターに対し、コロナ対策の「新たな戦略を検討」するよう要請したことを明らかにした。

スペインは、こうした議論を先導しやすい立場にある。国内のワクチン接種率は12歳以上で90.5%と、世界最高水準だ。

だがこの議論は、日常回復を進めたい各国政府と、警戒を怠りたくない医学界との間で意見の相違を引き起こしている。

スペインの左派政権は、新型ウイルスをインフルエンザと同様、人類が共生可能な「エンデミック(一定の地域で一定の罹患〈りかん〉率や季節性を持って起きる流行)」の感染症に指定するよう積極的に働きかけている。

新型ウイルスの流行では現在、感染力の強い変異株「オミクロン株」により感染者が急増している一方で、死亡や入院の割合は減っている。多くの国は規制の解除を進め、隔離期間を短縮したり、入国規制を緩和したりしている。

だが、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は18日、パンデミックは「終息には程遠い」との見方を示し、新たな変異株が今後も出現する可能性が高いと警告した。

WHOはまた、エンデミックの深刻さを過小評価することにも警鐘を鳴らしている。

WHOで緊急事態対応を統括するマイケル・ライアン氏は、世界経済フォーラムが主催するオンライン会議「ダボス・アジェンダ」のワクチン公平性に関する円卓会議で、マラリアを例に挙げ、「エンデミックとはそれ自体が良いものではない。永遠にその地に存在することを意味するだけだ」と指摘した。

■「間違った希望」
スペインの疫学者で公衆衛生協会の広報担当を務めるフェルナンド・ガルシア氏も、現段階で新型コロナウイルス感染症をエンデミックの疾病に分類するという議論は「間違った希望を生む」と警告する。

欧州連合の欧州医薬品庁で予防接種戦略の責任者を務めるマルコ・カバレリ氏も、「新型ウイルスがエンデミックの方向に向かっているのは確かだが、すでにその状態に達しているとは言えない」と指摘する。

ウイルスが今後、弱毒性に進化するという見方も、確実な見通しではない。スイス・ジュネーブ大学グローバルヘルス研究所のアントワーヌ・フラオー所長はツイッターへの投稿で、「将来の重症度はまだ分からない。ウイルスの毒性が時間の経過とともに必ず弱まるという法則はない」と指摘。「毒性の進化を予測することは極めて困難だ」との見解を示した。 【1月22日 AFP】
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議論はいろいろありますが、個人的には、“オミクロン株、重症例8分の1 20年のウイルスと比較”【1月20日 共同】“追加接種で入院9割防止 対オミクロン株、米研究”【1月22日 共同】といったあたりに期待して、防衛ラインを「重傷者防止」へ下げることをもっと明確に打ち出す時期ではないか・・・と思っています。

感染予防のフィールドで従来のような対応を引きずっていたのでは、いたずらに混乱・疲弊を招くだけのようにも。

もちろん感染者増加でもろもろの問題、犠牲者増加はおきますが、そこは「仕方ない」「コロナに限らず多くのリスクが溢れる世の中というのはそういうものだ」という決断で。

感染者の推移については、これまでの世界・日本の動きを見ていると、乱暴な言い方をすれば、「感染が拡大するときは何をしても拡大する。やがてピークに達する。減り始めたら、何もしなくても減り続ける。」といった自律的なイメージも。

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イエメン  フーシ派のUAE攻撃にサウジなど連合軍報復 国際支援が更に困難になる懸念も

2022-01-22 22:46:03 | 中東情勢
(イエメン西部ホデイダのコーハ地区にあるキャンプで、食料などの支援物資を受け取った国内避難民(2022年1月14日撮影)【1月17日 AFP】 結構な量にも見えますが、これで家族何人がどれだけの期間、食つなぐことになるのか・・・)

【数百万人が避難を余儀なくされており、人口の約8割が援助を受けて生活】
中東イエメンでは、サウジアラビアが軍事介入して支援する暫定政権とイランが支援する反政府勢力フーシ派の内戦が続いており、数百万人もの避難民の発生と深刻な飢餓で、ここ数年「世界最悪の人道危機」と言われる状況が続いています。

主要港湾都市ホデイダが内戦の主戦場となっていることもあって、一時期国際支援も十分に届かない状況にもなっていましたが、同地域での部分的停戦で何とか支援物資が届くようにはなっているようです。

****世界最悪の人道危機、避難民に支援物資 イエメン内戦****
イエメン西部ホデイダのコーハ地区にある国内避難民キャンプに14日、食料や生活用品が届けられた。
 
国連はイエメン内戦による2021年末までの死者を37万7000人と推定している。この数字には戦闘の直接の犠牲者と、飢えや病気で亡くなった人が含まれている。
 
国連が世界最悪の人道危機と称しているイエメン内戦では、数百万人が自宅からの避難を強いられ、人道支援に頼って命をつないでいる。 【1月17日 AFP】
*******************

ただ、石油資源もないイエメンに対する国際的関心は低く、また、世界の主要国は新型コロナ対策に忙殺されている状況で、国際支援に必要な資金が不足しているのが現実です。

****国連食糧計画、イエメン支援「削減せざるを得ない」 資金難で****
国連の世界食糧計画は22日、資金難からイエメンへの支援を削減せざるを得ないと発表し、飢餓がさらに深刻化する恐れを警告した。
 
WFPは声明で「来年1月から、800万人に対する食糧配給を削減する。ただし、飢饉(ききん)に陥る恐れが切迫している500万人にはこれまで通りの配給を行う」との方針を示し、「資金が底を突きつつある」と説明した。
 
イエメンでは2014年から、サウジアラビアが支援する暫定政府とイランが支援する反政府武装勢力フーシ派との間で内戦が続いている。国土は荒廃し、数百万人が飢饉に陥る寸前となっている。数万人が戦闘で死亡、数百万人が避難を余儀なくされており、人口の約8割が援助を受けて生活している。
 
WEPは、イエメンで最も弱い立場にある人々を来年5月末まで支援するには8億1300万ドル(約930億円)、飢饉寸前の人々に来年末まで食糧を配給し続けるには19億7000万ドル(約2250億円)が必要だとして、支援を呼び掛けている。 【12月23日 AFP】
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【フーシ派のUAE攻撃】
内戦の戦闘の方は、フーシ派がイラン製と思われるドローンを駆使しており、パトリオットミサイルで迎撃するサウジアラビアも対応に苦しんでいる・・・ことは、昨年12月11日ブログ“サウジアラビア  関係国との関係改善の動きはあるものの、イエメンの「泥沼」 防衛戦略の限界も”でも取り上げました。

戦況は大きく変わっていないようですが、個人的に意外に思ったのはフーシ派がUAEを攻撃したこと。

****UAE首都に無人機攻撃か=イエメン武装組織が主張、3人死亡****
アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビの工業地帯や国際空港で17日、火災や爆発が相次いで発生し、インド人2人とパキスタン人1人の計3人が死亡、6人が負傷した。国営通信が伝えた。

警察当局は「火災は両方の現場に落ちていたドローン(無人機)とみられる小型機によって引き起こされた」としており、何者かの攻撃を受けた可能性が高い。
 
ロイター通信によると、アブダビ国営石油会社(ADNOC)の石油貯蔵施設近くで、タンクローリー3台が爆発したほか、アブダビ国際空港の建設現場で火災が起きた。現地からの映像では、現場周辺には濃い黒煙が立ち上り、一時騒然となった。警察は「いずれも大規模な被害には至らなかった」と説明したが、詳細な調査に着手した。
 
イエメンの武装組織フーシ派の報道官は17日、「UAEの深部に対する軍事作戦の詳細を間もなく発表する」と述べ、攻撃を行ったと主張。ドローン20機と弾道ミサイル10発による攻撃だったとの情報もある。

UAEは隣国サウジアラビアなどと共にイエメン内戦に介入し、イランの支援を受けるフーシ派と対立。同報道官は「UAEは最近、部隊や兵器を送るなどイエメン侵略を激化させている」と批判した。【1月17日 時事】 
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UAEはサウジアラビアともに「連合軍」としてイエメンに対し軍事介入していましたが、その支援相手はサウジアラビアが支援する暫定政権ではなく南部分離独立派であり、UAEとしての“利益を確定”したところで、サウジアラビアを残してさっさと一人イエメンから撤退した経緯があります。

****サウジがドバイに仕掛けた経済戦争の真意****
中東の経済覇権を狙うサウジの野望から見えるもの

(中略)サウジとUAEは戦略的同盟の枠組みの中で、つねによい関係を維持し、「イラン」からの脅威に対峙してきた。

「トルコとカタールがムスリム同胞団を支援して、湾岸諸国の安全保障を脅かしている」という認識をも共有してきた間柄だ。レベルの差はあれ、イスラエルとも国交を正常化すべきだとの認識さえ共有している。実際にUAEは2020年にイスラエルと国交を正常化している。

イエメン戦争で裏切りを感じたサウジ
だが、微妙なずれもあった。UAEがイエメン戦争に参戦した目的は、紅海のバブ・アル・マンデブ海峡の支配だ。海峡の入り口にあるぺリム島にUAE軍が上陸して、全島民を追放。島民の住宅を没収し、島民は半島の砂漠の難民キャンプでのテント暮らしを強いられている。

さらに海峡近くの都市ダバブを占領し、1万人にも及ぶ住民が砂漠の難民キャンプでのテント暮らしになっている。またモカ珈琲の発祥の地・モカの港も、UAE軍が支配して立ち入り禁止にした。(中略)

UAEは統一イエメンを再度南北に分けて、「南イエメン」を復活させようとしている。UAEに忠誠を誓う非政府武装勢力に資金援助をし、半島南部にぺリム島、ダバブ、モカの港を含んだ海岸線を支配させている。

つまり、UAEはサウジとフーシ派との戦いの間隙を突いて、ぺリム島や戦略的港湾をUAE軍支配下に置き、イエメン南部の独立派を支援した。

その目標が達成されるとイエメン戦争撤退を決意して、サウジに何の相談もなしにUAE軍をイエメンから完全撤退させてしまったというわけだ。

サウジはそのUAE撤退後もイエメン戦争を続けている。(中略)サウジはUAEに裏切られたと感じている。(中略)

サウジとUAEはなるべく不和を表に出さないようにしているが、両国間に生じた溝は深い。

現在のイエメンは、サウジがハディ暫定政権を、イランはシーア派武装組織フーシを、UAEは分離派「南部暫定評議会」(STC)を支援するという三つ巴の代理戦争が行われている状況だ。(後略)【2021年3月3日 東洋経済online】
*********************

撤退したUAEを何故今更?(UAEがイエメン撤退後、どのようにイエメン情勢に対応しているのかはよく知りません)

そのあたり、下記のようにも。

“今回hothy軍(フーシ派)が特にUAEを狙ったのは、最近南イエメン等で、政府軍に代わり、UAEの支援する南イエメン勢力軍がますます大きな勢力をなしていること、またサウディの南部等のドローン攻撃では、攻撃しても攻撃しても、サウディに甚大な打撃を与えていないことから、アブダビとドバイという重要な目標がそろっているUAE を指向したのかもしれない。”【1月18日 中東の窓「hothy軍のUAE攻撃」】

“最近、UAEがイエメンでの軍事行動を活発化させてきたことが攻撃の背景にあるとみられる。”【1月19日 毎日】

【サウジアラビア主導の連合軍の報復】
サウジアラビアとUAEの関係は“なるべく不和を表に出さないようにしている”ということですが、“(サウジの)ムハンマド・ビン・サルマン皇太子とアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子は今年(2021年)7月にリヤドで最後の会談を行った際、サウジアラビアとUAEの関係と戦略的協力を強化するための道筋を協議した。”、また、昨年12月には(サウジの)ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が湾岸協力会議(GCC)首脳会議に向けた湾岸諸国訪問の2番目の目的地であるアブダビ訪問するなど、協力関係維持発展がアピールされています。【12月8日 ARAB NEWSより】

ということで「連合軍」の枠組みは今も顕在のようで、フーシ派のUAE攻撃に対し、サウジアラビア主導の連合軍が直ちに報復攻撃を行っています。

****イエメン空爆、約20人死亡=UAE首都攻撃に報復か―サウジ連合軍****
イエメン内戦に軍事介入しているサウジアラビア主導の連合軍は17日夜、イエメンの親イラン武装組織フーシ派の首都サヌアにある拠点などを空爆し、ロイター通信はフーシ派高官の情報として約20人が死亡したと伝えた。

フーシ派は17日、連合軍の一角を占めるアラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに向けてドローン(無人機)やミサイルを使った攻撃を行ったと主張。その報復とみられる。
 
(中略)UAEの外務・国際協力省は声明で「国際法に反するテロ攻撃に対して反撃する権利がある」と報復を示唆していた。

フーシ派は「(UAE国内の)より重要な施設に攻撃対象を広げることもいとわない」と対決姿勢を強めており、イエメンをめぐる緊張が一段と激化する恐れもある。【1月18日 時事】 
*****************

こうした状況を受けて、原油価格は7年ぶりの高値に急騰しており、世界経済にも影響が出ています。

【民間人犠牲者が多いサウジの空爆】
なお、サウジアラビアはフーシ派への攻撃を続けていますが、サウジアラビアの空爆は民間人を巻き込むことが多いことでは「定評」があり、そのあたりは今回も。

****イエメン、反政府勢力支配の北部で空爆 子ども含む60人以上死亡か*****
内戦が続く中東のイエメンで21日、反政府勢力フーシが支配する北部の収容所が空爆され、子ども3人を含む60人以上が死亡したと、ロイター通信が国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の話として報じた。フーシと対立するサウジアラビア主導の有志連合軍による攻撃だという。
 
ロイター通信などによると、空爆されたのはフーシの根拠地がある北部サアダ県の収容所。AP通信は赤十字国際委員会の報道官の話として、死傷者が計100人以上にのぼるとの情報を伝えた。

この空爆より前に西部の港湾都市ホデイダでもサウジ主導の空爆があり、その後、イエメン中でインターネット回線が停止しているという。
 
サウジはイエメン南部を拠点とする暫定政権を支援し、2015年からアラブ首長国連邦(UAE)などと有志連合軍を組んでイランを後ろ盾とするフーシと内戦を続け、すでに6年以上が経過している。
 
今月17日にはUAEの首都アブダビの国営石油公社の敷地内にドローンとミサイルの攻撃があり、同公社の従業員の3人が死亡し、6人が負傷した。フーシ側が「UAE領内で軍事作戦を実行した」との犯行声明を出していた。【1月22日 朝日】
*******************

【アメリカ・バイデン政権はフーシ派を国際テロ組織として再度指定することを検討 再指定で国際支援は更に困難に】
また、フーシ派のUAE攻撃を受けて、アメリカ・バイデン政権は国際テロ組織として再度指定することを検討していると報じられています。

****米政権、フーシ派のテロ組織再指定を検討 UAE攻撃受け****
バイデン米大統領は19日、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がアラブ首長国連邦(UAE)を無人機(ドローン)やミサイルで攻撃したことを受け、フーシ派を国際テロ組織として再度指定することを検討していると述べた。(中略)

バイデン氏は、約1年前に国際テロ組織指定を解除されたフーシ派について再指定することを支持するかとの質問に対して「検討中だ」と答えた。

フーシ派と国際的に認められたイエメンの政府およびUAEも加わるサウジアラビア主導による連合軍との対立を終わらせることは「非常に難しい」との認識も示した。【1月20日 ロイター】
***********************

ただ、アメリカが1年前に(トランプ前政権が政権交代の前日にどさくさ紛れに指定した)テロ組織指定を解除したのは、深刻な飢餓の危機に対する国際支援を進めるためには、一定にフーシ派の協力が必要だったからであり、再指定ということになると、冒頭にも取り上げた国際支援は更に難しくなることが懸念されます。
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