孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

映画「アバター」大ヒット 脛に傷ある中国・アメリカの反応 ロシアは・・・

2010-01-31 19:16:27 | 身辺雑記・その他

(“flickr”より By rxau
http://www.flickr.com/photos/a3696467/4082315400/in/set-72157622549368687/)

昨日から、タイ北部のチェンライを旅行中です。
こちらの衛星TVだかケーブルTVだかの英語放送を流していると(全く理解できませんので“流している”だけですが)、一番頻繁に取り上げられているのが、アメリカの台湾へのパトリオットなどの武器譲渡に関する米中関係の話題です。

今日は、それとは無関係に、映画「アバター」に関する米中、そしてロシアの反応の話題。
3Dで話題の「アバター」は、私はまだ見ていませんが、興奮のあまりの(?)死人まで出るほどの世界的大ヒットになっています。

【中国:住宅地の強制収用を連想させる】
面白いのは、この映画に対する各国の反応です。
先ず中国。
****中国で「アバター」上映縮小、「孔子」に切り替え*****
中国の国際問題専門紙「環球時報」(英語版)は21日、世界的に大ヒット中の米SF映画「アバター」の上映規模が中国で大幅縮小され、22日以降は国産映画「孔子」に切り替えられる、と報じた。
共産党が文化宣伝に利用する思想家・孔子を描く愛国的な国策映画を優先しようと、中国当局の意向が働いたとみられる。

中国で1月4日に上映が始まった「アバター」は、これまで5億元(約70億円)を超える興行収入を記録。計2500か所の映画館で2月末まで上映予定だった。しかし、当局に監督される映画配給各社は「客足が順調なのは3D(立体)版のみ」として、全体の3分の2に及ぶ通常版の21日上映打ち切りを決めたという。
同紙は「配給を突然変更するのは異例」とする配給会社幹部の見解を紹介。地方都市では3D版の上映がない映画館も多いため、不満を抱く市民がネットで「孔子ボイコット」を呼びかけた、と伝えている。

「アバター」は鉱物資源獲得を狙う地球人の侵略に異星人が抵抗するという物語。「中国各地で頻発する住宅地の強制収用を連想させ、反発をあおるのではないか、と当局が懸念している」という指摘も出ている。【1月21日 読売】
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アメリカ・インターネット検索大手グーグルが中国からの撤退検討を表明したため、「米国に対する仕返しではないか」との指摘もあるとか。【1月20日 共同より】

個人的に感心が持たれるのは、「アバター」公開中止になった理由よりも、差し替えられた映画「孔子」の方です。
文化大革命では否定された孔子の教えですが、現在の中国でどのような位置づけなのか?
モラルなき拝金主義が横行する現代中国社会にあって、孔子の説く礼節が尊重されるのであれば、大変喜ばしいことです。「アバター」など全部中止してもいいぐらい・・・と言うと、言い過ぎでしょうか。

以前、中国の映画産業における熾烈な競争を扱ったTV番組でも映画「孔子」は取り上げられていましたが、映画資本と結託した一部政府権力者の意向などもあるのでは・・・とも邪推されます。孔子の世界とは全く異なりますが。

【米:反米・反軍映画】
次にアメリカの反応。
****「アバターは反米・反軍映画」保守派いら立ち****
世界興行収入の記録を更新中の米映画「アバター」(ジェームズ・キャメロン監督)について、米国の保守層などから「反米、反軍の映画だ」といった批判が相次いでいる。
3D(立体)技術を駆使した娯楽大作が思わぬ論争を巻き起こした底流には、アフガニスタンやイラクでの長引く戦争に対する米国民の 厭戦 ( えんせん ) 気分と、それに対する保守派のいら立ちがある。

映画の舞台は22世紀の星パンドラ。希少鉱物を狙う人間たちは、美しい自然と共生する先住民ナヴィと戦う。元米海兵隊員ら軍服の人間は、圧倒的な軍事力で自然破壊をいとわない悪役として登場、「先制攻撃が必要だ」「衝撃と 畏怖 ( いふ ) を与える」などと、ブッシュ前政権の戦略そのままのセリフを口にする。
保守派の論客ジョン・ポドホレッツ氏は自身のサイトで「観客は米兵の敗北に声援を送るようになる。強烈な反米的内容だ」と非難。現役海兵隊員のブライアン・サラス大佐は隊員向け新聞に「軍の未熟さや凶暴さが異常に強調され、誤解を与える。ひどい仕打ちだ」と記した。
保守派らの反発には、長期化する戦争から民意が離れている現状への焦りが読み取れる。CBSテレビなどの昨年末の世論調査では、アフガニスタンでの戦況が「良くない」と感じる人は60%に達した。

◆教会からも
自然の中に神が宿るという、キリスト教などの一神教とは相いれない信仰をナヴィが持っている点にも批判が出ている。
保守派コラムニスト、ロス・ドーサット氏はニューヨーク・タイムズ紙で、「映画は、神と世界が同一という汎神論的な考えに共鳴するキャメロン監督の長い弁明」と指摘。カトリック教会の一部からも汎神論の思想が広まることへの懸念の声が出ている。

◆監督は反論
近年のハリウッドの大ヒット作は、ヒーローが活躍する単純な作品が多かった。これに対し、アバターが戦争、宗教、環境など米国の国論を二分するようなテーマを含んでいるのは事実だ。
映画の脚本も担当したキャメロン監督は、ロサンゼルス・タイムズ紙のインタビューで、「この映画は我々が戦っている戦争を反映している。兵士は不当に戦場に送られている。この映画で目覚めてほしい」と語り、ふたつの戦争に反対するメッセージを込めたことは認めた。一方で、米軍批判との指摘には、「心外だ。私の弟は海兵隊員だが、彼らを心から尊敬している」とテレビ番組で反論した。
同紙の映画評論家、ケネス・トゥーラン氏は、「かえって映画の宣伝になり、キャメロン監督の思うつぼではないか」と皮肉っている。【1月31日 読売】
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強権政治批判とか反戦思想とか、中国にしても、アメリカにしても、自分の脛の傷が気になるようです。

【露:舞台芸術に取って代わることはない】
そんな中で、格調高く論評しているのが、ロシアのメドベージェフ大統領です。
****メドベージェフ大統領「『アバター』はチェーホフの代わりにはなれない」****
ロシアで29日、作家のアントン・チェーホフ生誕150周年を祝うイベントが開かれ、読書家として知られるドミトリー・メドベージェフロシア大統領は、「(大ヒット映画)『アバター(Avatar)』は、チェーホフの代わりにはなれない」と語った。

チェーホフは1860年1月29日、ロシア南部の港湾都市タガンログに生まれた。生誕150周年を記念して同市を訪問したメドベージェフ大統領は、ロシアを代表する舞台演出家らとの会合に出席。この模様はテレビで中継された。
メドベージェフ大統領は、「新技術を駆使した『アバター』はとても美しく緻密で、高額な予算がつぎ込まれた映画だ。しかし、決して舞台芸術に取って代わることはない」と述べた。
メドベージェフ氏は、舞台芸術がロシアで重要な役割を果たしていると指摘し、「舞台芸術は多くの困難に見舞われているが、いまもなお不滅なのだ」と語った。ロシア国内には600もの劇場があり、毎年計3000万人が足を運んでいる。
また、メドベージェフ氏は、チェーホフのファンであることを告白。10代の初めに強い関心を持つようになり、チェーホフの全著作を読破したと語った。
メドベージェフ氏は、チェーホフの誕生日が、自らの人生について考えるきっかけになった様子で、「きょう、チェーホフの人生の長さについて考え、わたし自身のことも考えた。チェーホフは44歳で死去した。(44歳までに)チェーホフは不朽の作品群を生みだし、人生を完成させたのだ。そしてわたしも今、44歳なのだ」と語った。【1月30日 AFP】
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メドベージェフ大統領は、彼の写真がプーチン首相の絵より高値で売れたということでも先日話題になりましたが、なかなかの芸術愛好家のようです。
それにしても、メドベージェフ大統領は44歳の若さだったのですね・・・知りませんでした。
その若い感性を、日本との関係改善にも生かしてもらいたいものです。取り巻きの頭が硬そうですが。


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脱北者 タイ経由ルート

2010-01-30 19:02:45 | 国際情勢

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/49/6fcc1e9f697849c47eb213a371cf3195.jpg

(メコンで隔てられたタイ・ラオス国境のチェンセーン 左岸がタイ、中州・右岸がラオスです
脱北者は中国を経てラオスに入り、ボートに隠れてメコンを下ってきます。
“flickr”より By Stewie1980
http://www.flickr.com/photos/stewie1980/3671130611/)

【厳しくなる取り締まり】
個人的な事情でここ1カ月ほど時間が自由になることとなり、今日から10日ほどタイ北部のチェンライに旅行することにします。ミャンマーやラオス国境も近いところです。
もちろん、100%物見遊山の旅ですが、国際ニュースとの関わりで言えば、このエリアは北朝鮮からの脱北者が多いところです。
脱北者の環境については近年厳しくなっていることが伝えられています。

****中国国内の脱北者が急減、取り締まり強化で*****
難民問題を研究する米ジョンズ・ホプキンズ大学のロビンソン教授は7日、「北朝鮮離脱住民の健康」をテーマに開催された学会で、1998年には5万~13万人に達していた中国国内の脱北者が、2002年に3万~7万人に減り、2007年には6000~1万6000人まで急減したと発表した。
調査は、1998年から延辺朝鮮族自治州の都市と農村数十カ所を「観測地点」と定め、現地調査員らが把握した脱北者数の変化を人口統計学モデルに組み込み、中国全体の脱北者数を算出したもの。こうした急減は、2002年に北京のスペイン大使館を通じて脱北者25人が集団脱出して以降、中国当局の脱北者取り締まりが大幅に強化され、北朝鮮の国境管理も厳しくなったためと分析される。【1月7日 聯合ニュース】
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また、韓国の情報機関、国家情報院(NIS)は1月25日、北朝鮮が最近、脱北者に対する処罰を強化し、処刑数も増加していることを明らかにしています。
韓国の北朝鮮専門インターネット新聞「デーリーNK
は、中国筋の情報として、脱北後に送還された30代の脱北者の夫婦と協力した友人の3人が処刑されたと報じています。
この中国筋は、脱北者に対する処罰は通常、強制収容所での7~15年の刑だが、「反社会主義分子の駆逐を目指した取り締まり」の一環で処刑が行われたと話しているとのことで、デーリーNKは、北朝鮮では社会秩序の回復を目指す「50日戦闘」が実施されており、処刑された家族はこの方針の犠牲者だと報じています。【1月25日 AFPより】

【増加するタイ北部ルート】
こうした情勢にあって、脱北者のルートとして最近増加しているのが、中国・ラオスを経由してタイに脱出するルートです。タイで収容所等に収容された後、最終的には韓国に送られます。
下記は若干古い記事ですが、昨日あたり同様内容をTVでもやっていましたので、事情は現在もあまり変わっていないようです。

****脱北者のタイ流入急増、五輪後に中国から毎月80人*****
北朝鮮から中国などを経てタイに流入する脱出住民(脱北者)が、昨年8月の北京五輪前の激減状態から一転、毎月平均80人と急増していることが、タイ警察当局や支援団体の調べで分かった。
五輪で厳戒態勢にあった中国国内の警備が緩み、潜伏していた脱北者の移動が活発化したとみられる。最大の脱北ルートとして定着しつつあるタイは、滞留する脱北者への対応に苦慮している。
警察当局などによると、脱北者の身柄拘束数は昨年1~8月で約140人にとどまり、年間1000人を超えたとされる2006年、07年を大きく下回ると見られていた。
だが、08年9~11月にミャンマーやラオスとの国境沿いのタイ北部・東北部14県で計約250人の脱北者が拘束され、特にチェンライ県(114人)とパヤオ県(94人)で突出。チェンライ県の関係者は「毎週20人単位で現れ、過去にないペース。拘束を逃れるケースも多く、実数は倍以上」と話す。
昨年12月と今年1月の拘束数は不明だが、中国の旧正月(1月26日)前に人の移動が盛んとなった影響から増加しているといい、年間1000人超のペースに戻ったものとみられる。

脱北者は主に、北朝鮮から中朝国境を越え、雲南省からラオスの山岳地帯を抜け、メコン川を渡ってタイ北部に入るルートをたどる。タイは脱北者の第三国出国を容認しており、脱北者は最終的に首都バンコクの入国管理局収容所や支援者の隠れ家などに入り、韓国政府の受け入れを待つ。
在タイ韓国人支援者によると、タイから韓国へは毎週30~40人が出国していたが、昨夏、韓国側の受け入れ施設が飽和状態となり、出国者数が激減。バンコクの収容所は一時、五輪後の流入増の影響もあり、定員200人の2倍を超える400人以上が詰め込まれる劣悪な状態となった。支援者は「脱北者の間で寝床スペースが500ドルで売買されるほど。環境改善が急務」と訴える。
タイ政府関係者によると、政府は07年ごろ、増加する脱北者だけを収容する「難民センター」の設置を秘密裏に検討し、韓国政府に協力を要請。韓国側の全面資金協力でバンコク近郊に建設する方向で話が進んだとされる。だが、昨年10月に韓国メディアが報じた際は、両国政府とも否定し、計画は頓挫した格好だ。
タイの実情に詳しい脱北支援者は「タイ政府は、受け入れ施設拡大の公然化が脱北者増につながることや、ルート上で脱北者の取り締まりを徹底する中国に『脱北支援に積極的』と見なされて関係がこじれることを懸念している」との見方を示している。【09年2月4日 読売】
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タイ経由ルートが多く利用されるようになったのは、タイは脱北者の第三国出国を容認しており北朝鮮への送還がないこと、韓国へ移されるまでの収容所での期間(約2か月)が短いことのほか、タイ警察の対応が温和であることもあるとのことです。

そのあたりの雰囲気は、脱北者支援団体の北朝鮮難民救援基金のサイトに掲載された報告などからも窺えます。
下記はチェンセーン警察署への脱北者用支援物資の寄贈を行った際のものです。
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・・・・前日到着した8人も含めて40人もの脱北者が収監されており、大半が20代・30代と思える女性で、男性はわずか3人、子どもが2人(中国人との間に生まれた子どもだとのこと)でした。ただし、監房の扉は開けっ放しにしてあり、数人は監房の外に座っていたりして、留置所といえども緊迫した雰囲気が無かったのが救いでした。署長さんのおっしゃるには、脱北者は犯罪者ではないし、そもそも保護を求めて自ら出頭してくるので署から逃げ出そうとする脱北者はまずいないからだとの説明に納得。(中略)
中国からタイへ脱出するための費用が一人当たり約15万バーツ(約41万円)かかるが、脱北女性は大半が、中国で売春などにより脱出費用を稼ぐケースが多いとのこと。脱北者は殆どが船で来るが、メコン川のどこで降りて同警察署に行けばよいのかを中国人の付添い人(たぶんブローカー)が詳しく事前におしえるので迷うこともなく、チェンセーン警察署に来るとのことでした。・・・・
(http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/topics091025.htm)
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比較的最近のタイ経由ルートを使った脱北者の記事としては次のようなものも。
****ボート乗り国境越え、タイで脱北者42人拘束*****
タイ・ラオス国境のタイ北部チェンライ県で今月、北朝鮮からの脱出住民(脱北者)42人が、不法滞在の疑いでタイ当局に身柄を拘束されていたことが24日、分かった。

最大の脱北ルートのタイで、一度の拘束人数としては今年最多。当局は、ルート上の中国が取り締まりを徹底し、潜伏中の脱北者が耐えきれずに集団でタイへ脱出するケースが出てきたとみている。
タイ警察関係者によると、脱北者は21日、ボート3隻に分乗し、メコン川をラオスからタイに渡ったところを警察に拘束された。
同県では、1~9月の身柄拘束数190人に対し10月だけで計60人と急増。脱北支援関係者は「中国で足止めされた脱北者が、危険を承知でタイ行きを敢行している」との見方を示した。【09年10月25日 読売】
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【ブローカーへの支払いは売春で】
実際、中国・ラオスを経てタイへやってくる脱北者を取材したルポが「PAN ASIA NEWS」のサイトにあります。(http://panews.rakurakuhp.net/i_142317%2Csi_17359.htm など)

ルポでは、ブローカーへ支払う金をつくるため売春などで働く様子などが語られています。
ただ、バンコクの韓国大使館へ行って政治亡命を認めてもらいたいと言う、タイ・メーサイのカラオケクラブで客をとっているという脱北者女性が、なぜ警察に出頭して韓国への移送を受けないのか・・・そのあたりの事情はよくわかりませんでした。
なお、タイ警官の職権乱用の話などもあって、先述のチェンセーン警察署の対応とはまた違うようです。

【「肉が具のスープ」】
それにしても、地図を見ればわかるように、北朝鮮から中国・ラオス、さらにタイ・・・脱北者にとっては気の遠くなるような遠くて危険な道のりです。

北朝鮮の金正日総書記が、国民はいまだ「肉が具のスープ」を食べられないなど、同国が満足できる生活水準に至っていないことを認める発言をしたと、9日の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が伝えています。
「永遠の主席(金日成氏)は、人民が白米と肉の入った汁を食べ、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにならなければいけないと言った。しかし、わが国はまだこの目標を達成できていない。できる限り短期間のうちにこの問題を解決し、永遠の主席の遺志を実現したい」とも述べたそうですが、本気でそう思っているならこんな脱北者も出ないだろうに・・・と思わざるをえません。

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ハイチ大地震  孤児の国際養子縁組に感じる欧米と日本の差異

2010-01-29 11:42:11 | 世相

(“flickr”より By IFRC http://www.flickr.com/photos/ifrc/4298150392/)

【混乱の中の養子縁組の危険】
ハイチの首都ポルトープランスでは、おなかをすかせて住む家もなく路上をさまよう子どもの姿は日常的な光景となっているようです。
そこでよく目にするのが、震災で孤児となった子供の国際養子縁組の話題です。
多いのは、国際養子縁組の形を借りた誘拐・孤児連れ去り・人身売買の危険を訴えるものです。

*****欧米でハイチ被災児の縁組拡大…人身売買恐れも*****
ハイチ大地震で被災した児童を、養子縁組の形で引き取る動きが欧米諸国で広がっている。
被災地の厳しい環境から救う人道目的だが、一歩間違えば本人や家族の意思に反する一家離散につながりかねない。組織的な人身売買に利用される恐れも指摘される。

オランダ南部アイントホーフェンの軍用空港に21日、ハイチで被災した子供106人を乗せたチャーター機が着陸した。国際的な養子縁組を支援する複数の民間団体とオランダ外務省が手配した。子供はオランダとルクセンブルクの里親に引き取られる。
米欧メディアによると、これまでに米国が53人、フランスが33人の子供を受け入れた。いずれも震災前から準備されていた縁組予定を前倒ししたケースで、5歳以下の幼児が中心という。
ハイチにはもともと約38万人の孤児がおり、今回の地震で両親を失った児童は数万人に上るとされる。被災して運営を続けられない孤児施設もある。養子縁組はこうした児童の救済が目的だ。米国やオランダは通常の査証発給要件を緩和した。子供の受け入れは今後、加速するとみられる。

問題は、震災後の混乱の中で、子供の身元確認が十分にできないことだ。米国の国際児童奉仕連合評議会は、今の状況下での養子縁組は「不正、虐待、人身売買に道を開く」と警告する。
欧米で国外からの養子縁組は珍しくない。英ニューカッスル大学のピーター・セルマン社会学教授によると、米国は2001~08年に16万4294人、フランスは2万9265人を受け入れた。多くは、政府の認可を受けた民間の専門機関が仲介した。だが、養子を送り出す国のチェック体制が不備だと、犯罪組織が仲介団体を装って、子供を国外に連れ出す恐れが大きくなる。臓器売買や児童売春目的の国際的な人身売買ネットワークが摘発された例もある。
震災で心に傷を負った子供にとり、慣れ親しんだ土地を離れるストレスは大きい。国連児童基金(ユニセフ)のベネマン事務局長は19日、声明で、「子供を家族と再会させる努力を尽くし、それが困難と判明したときだけ、養子縁組が検討されるべきだ」と訴えた。【1月23日 読売】
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“ユニセフのケント・ページ広報官は、「子どもがさらわれ国外に連れ去られているという報告が増えており非常に懸念している」と語った。また、たとえ合法的な救援団体でも、行方不明の親を探す努力を尽くさずに養子縁組で海外へ送り出してしまったケースも心配されており、ハイチ政府は先週、こうした養子縁組の中止を決定した。”【1月26日 ロイター】とも報じられています。

2007年12月に起きた、スーダン・ダルフール地方の孤児だとしてチャドの子ども103人を フランスに密出国させようとしたとして、チャドの裁判所から誘拐未遂罪で重労働 8年が言い渡されたフランス援助団体「ゾエの箱舟(Arche de Zoe)」の事件も記憶に新しいところです。

【キリスト教の寛容、慈悲、共和国の自由・・・・】
ただ、困窮する孤児を養子という形で引き取り育てる行為自体は素晴らしいことです。
****ハイチの孤児、養子で救え*****
・・・・そんな中、明るいニュースとして伝えられているのが、孤児を養子に迎えるという話題だ。フランスではキリスト教の寛容、慈悲、共和国の自由、平等、博愛の精神からか、孤児などを養子にするという伝統がある。シラク前大統領はボート・ピープルのベトナム人少女を養女にし、知人の独身女性記者もやはりベトナム人を養子にしている。
子供が授からないとか、実子の子育てが終わったからなどと理由はさまざまながら、肌の色が異なる子供を養子にすることにも、何ら抵抗がないようだ。
2008年にもハリケーンで500人以上が死亡したハイチでは孤児も多い。フランスには、今回の大地震の前の時点で、養子縁組の法的手続きを終えていない養父や養母がすでに約700人いた。地震を機に、米国や欧州諸国は養子の入国手続きを緩和中で、フランスも130人を早急に受け入れる予定だという。
ただ、クシュネル仏外相は「子供を救うという良い理由のためでも、誘拐と非難されることはあってはならない」と忠告している。07年には、戦火のアフリカ中部チャドでNGO(非政府組織)が孤児でない子供を含め約100人を国外に連れ出そうとして、チャド当局に拘束されている。
緒方貞子氏は国連難民高等弁務官時代、「援助とは援助される人のそばにいることだ」という至言を吐いたが、孤児を養子にすることはまさに、その具現化だと思う。だが、なかなかできることではないので、私としてはささやかな寄付をするほかないのである。【1月27日 山口昌子 産経】
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こうした欧米の国際養子縁組に対する姿勢が、キリスト教を含めた欧米の文化的土壌とどう関わるのか、そこに何か問題はないのか・・・そのあたりはよくわかりませんが、日本では国際養子縁組はほとんど見かけません。
同じアジアの国々の子供ですら難しいでしょう。
まして肌の色が黒い子供を養子に・・・という人はなかなか。

これもまた、いろいろ日本の文化的土壌があるのでしょうが、やはり日本社会の閉鎖性は指摘せざるを得ないところでしょう。
孤児の養子縁組だけでなく、難民や移民の受け入れにも通じる問題です。
日本には、“キリスト教の寛容、慈悲、共和国の自由・・・”に相当するものはないのか?

孤児の問題、難民・移民の問題は、それぞれ多くの問題に関わり、社会的に大きな負担を強いる面もあるでしょう。ただ、そうしたことを論じる際に、根底に日本社会の閉鎖性があるのではないかという自問、それをどう考えるのかという問いかけは必要なことかと思われます。
ハイチの孤児のニュースを見聞きして、そんなことを感じた次第です。

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パキスタン  反米感情の高まり、NATO軍からタリバンへの資金提供、中国への期待

2010-01-28 15:49:16 | 国際情勢

(1月26日毎日新聞より)

【バルチスタンへの拡大はパンドラの箱】
昨年12月4日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、ホワイトハウスが、米中央情報局(CIA)による無人偵察機(プレデター)を使ったパキスタン北西部での武装勢力掃討作戦を同国南西部バルチスタン州に拡大することを許可したと報じています。
これにより、アメリカに協力的なザルダリ大統領と、攻撃に反発する軍トップのキヤニ陸軍参謀長との対立が決定的となる一方、バルチスタン州での反米、反政府蜂起が確実視されることから、パキスタンでは「事実なら国家分裂の危機に直面する」という懸念が高まっていることは、以前のブログでも取り上げたところです。

また、パキスタン軍広報官は21日、「今後半年から1年間、新たな武装勢力掃討作戦に着手しない」と述べ、ゲーツ米国防長官のパキスタン訪問に合わせ、アメリカに協力的なザルダリ政権に先手を打つ形で、作戦拡大を否定しています。

バルチスタン州の位置づけについては、毎日新聞は次のように報じています。
****対米闘争の火薬庫*****
タリバンは、バルチスタンにいたアフガン難民の神学生らが94年に旗揚げし、パキスタン当局も深くかかわったとされる。米国が、バルチスタンをタリバンの“子宮”とみなし、オマル師を頂点とする最高評議会(シューラ)があるとみる根拠につながっている。
「アフガンの安定にはパキスタンの協力が不可欠」とするオバマ米政権は、パキスタン北西部に続いてバルチスタンでも無人機による攻撃拡大を計画。アフガンに増派予定の米兵3万人以上もバルチスタンとの国境付近に集中投入される。

ベテランのパキスタン人記者は「米国は、これまでタブー視されていたバルチスタンに手を突っ込み、パキスタンを揺さぶろうとしている」と指摘する。
クエッタ市内は今、極度に緊迫した雰囲気に包まれている。私服の治安要員があちこちで目を光らせる。外国人がスパイ容疑などで拘束される事件も起きている。米軍の無人機攻撃をけん制するように、街中に設置されたレプリカの対空砲がアフガン方面をにらむ。
クエッタの治安当局幹部は「シューラに属する28人全員がアフガン各地にいる。一部はアフガン政府内に潜り込んでいる」とタリバン本丸の存在を強く否定する。その一方で、「米軍部隊がアフガン国境からパキスタンへ侵攻したり、バルチスタンで無人機攻撃が始まれば、パンドラの箱が開く。かつてない規模の対米闘争が起こり、この地域が世界最大の反米拠点になりかねない」と語った。【1月26日 毎日】
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【米国の論理は「戦争失敗の責任転嫁」】
テロ増加、無人機爆撃による民間人犠牲の増加によって、パキスタン国民の非難の矛先はアメリカに向いています。
****アフガン・遠い安定:パキスタンのタブー/下 「米追随でテロ急増」国民不満****
「もう限界だ。いつまでこんな苦しみを押し付けられるのか」
パキスタン中部パンジャブ州の州都ラホールにある最大規模のムーン市場。昨年12月に45人が死亡した連続爆破テロで、経営する衣装店が全焼したラフィークさん(30)は、焼け跡を見ながら体を震わせ、激高した。
テロは卑劣だった。買い物客で混雑していた路上で最初の爆発があり、逃げ惑う人々を狙うように次の爆発が起きた。しかし、市民の怒りの矛先はザルダリ政権に向かう。汚職体質への批判から孤立するザルダリ氏は、米国の支援で政権維持を図っているとみられている。米国の戦争に協力的な政府の姿勢が、テロを急増させているとの不満だ。
「アフガン戦争開始後のテロは、市民の殺害に何の法的責任も取らない米国への反感に根ざしている。なのに、いつまで米国の言いなりでいるつもりなのか」。今回のテロで父親を失った大学生ウスマーンさん(21)の問いかけは重い。
「アフガンの安定にはパキスタンの協力が不可欠」という米国の論理は、パキスタンでは「戦争失敗の責任転嫁」と映る。人々は今、アフガン増派で戦闘をさらにエスカレートさせようとしている米国の真意に疑念を深める。【1月28日 毎日】
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アメリカがのめり込むほどに、そのアメリカへの敵意がパキスタン国内で高まる・・・という構図で、国民だけでなく軍部の協力も得られないザルダリ政権は、いよいよ厳しくなります。
最高裁が昨年12月16日、大統領と政府高官らの訴追を免除してきた2007年の国民和解令を無効とする決定を下した問題もありますので、政権が今も維持されていることの方が不思議なくらいです。

タリバン側はこうした反米感情に乗じる形で攻勢を続けています。
****タリバンがパキスタン部族民7人殺害、「米国のスパイ」とメモ*****
パキスタン北西部の北ワジリスタン地区で、武装勢力タリバンが地元の部族民7人を米国のスパイとして殺害したことが分かった。治安当局が24日、明らかにした。
当局者によると、同地区の主要都市ミランシャー郊外で、男性5人の射殺体が「米国のためにスパイをした者は同じ運命になる」と書かれたメモとともに発見された。また、別の場所で見つかった2遺体にも同様のメモが置かれていたという。
米国は、昨年末にアフガニスタン東部ホースト州の米中央情報局(CIA)軍事基地で7人が死亡した自爆攻撃以降、国境を挟んで同州と接する北ワジリスタンなどで、タリバンに対する無人爆撃を強化している。【1月25日 ロイター】
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【1日数千万円以上の大金がタリバン側に】
それにしても、戦争というのは奇妙なものだと思わせる記事が。
****物資輸送に安全保証料*****
「アフガニスタン国境までの安全保証料として、武装組織に1日約40万ルピー(約48万円)を払っている」
1月上旬。切り立つ岩峰に囲まれたパキスタン南西部バルチスタン州の州都クエッタ。アフガン駐留の北大西洋条約機構(NATO)軍から物資の輸送を受託している運送会社幹部が打ち明けた。
200メートル当たり200ルピー(約240円)の「保証料」を支払わなければ、運転手が殺される恐れが高まる。支払い拒否が原因とみられる同州での襲撃は半年間で10件に上った。
同州を通過する輸送車両は1日約50台。業者は「保証料」を通常の輸送費に上乗せして荷主に請求しており、NATO軍側から1日数千万円以上の大金がタリバン側に渡っている計算になる。【1月26日 毎日】
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“200メートル当たり200ルピー(約240円)”なら、400kmで“1日約40万ルピー(約48万円)”になります。1日50台なら、1日2000万円。
NATO軍がその物資を輸送するのに、敵対するタリバン側に1日2000万円を支払っている・・・俄かには信じがたい話ですが、確かに計算するとあり得る話でもあります。もちろん、タリバン側はその資金でNATO軍を攻撃する武器・弾薬を調達している訳で、なんとも奇妙な現実です。金さえ払えば軍事物資を通すというのも奇妙かも。

【責任ある大国か途上国か】
もっと確かな話としては、アメリカがパキスタン国民の矢面に立つ状況で、中国の影響力が増大しているということがあります。
****中国台頭への期待感*****
米国への新たな対抗軸として中国の台頭に期待感を高めている。
北部カシミール。首都イスラマバード郊外から中国へ抜ける幹線道路「カラコルム・ハイウエー」の拡幅工事が昨年以降、中国人技術者の指導の下、急ピッチで進む。中国貿易に携わるジャミールさん(43)は、「これで貿易量は3倍に増える。パキスタンで今、唯一の明るい話題だ」と言った。

南西部バルチスタン州。アラビア海に面した戦略的要所のグワダルには07年、中国の支援で大規模な港湾施設が完成した。中東などからの原油・天然ガスを中国に陸送するため、グワダルと新疆ウイグル自治区を結ぶ鉄道整備計画も進む。さらに州政府は昨年12月、ユダヤ人が幹部を務めるオーストラリア拠点の合弁企業との資源開発契約を打ち切り、中国企業との契約を決定。駐パキスタン米国大使が「懸念」を表明する騒動に発展した。
パキスタンの親中政策は元来、インドをけん制する文脈にあった。しかし、中国が急速に国力を増すなか、米中間の「パワーゲーム」をにらんだものへと変質しつつある。【1月28日 毎日】
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アフガニスタンでの戦いは、アメリカとNATOにとって厄介なだけではなく、戦争の余波がアフガニスタンと国境を接する中国に及べば、中国西部の新疆ウイグル自治区のイスラム教徒たちを刺激し、昨年7月のような暴動を引き起こしかねない側面もあります。
アメリカは、例えば、中国の武装警官がアフガニスタン警察の訓練を行うなど、中国に対してアジア地域でもっと大きな指導力を発揮してもらいたいという考えがあります。

****中国が見失うアイデンティティー******
しかし中国政府は、実質的な派兵に相当するあらゆる選択肢を避けている。清華大学(北京)の外交政策専門家である閻学通は、「アフガニスタンに派兵した国は、どこも失敗している。なぜ中国がその失敗国リストに名を連ねなければならないのか」と言う。ある中国人はインターネット上のチャットで、「NATOは中国に尻拭いをさせる気だ」と、さらに手厳しい意見を投稿した。

(米ブルッキングズ研究所の専門家)シャンボーによれば、中国政府内部では今後取るべき道について議論が高まっている。「責任ある大国」の役割を引き受けるべきなのか、それとも「時間稼ぎと能力隠しの裏で物事を進める」という、かつての最高指導者・ 小平の取った不明瞭な戦略を実践し続けるべきか、という議論だ。
中国政府の指導部のなかには、中国には国際社会で今よりはるかに大きな責任を担うだけの準備ができていない、と考えている者もいる。だが「中国に能力以上に背伸びをするよう望んでいる人々もいる。中国の成長を抑えたいからだ」と、清華大学の閻は言う。
シャンボーは「中国国内ではこうした問題をめぐって大きく意見が分かれている」と指摘。【09年12月2日号 Newsweek】
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“途上国”の殻に閉じこもり、利益だけをうまく拾おうとするのか、“責任ある大国”としての役割を果たすのか?

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ベトナム  映画「季節の中で」 “太陽に祝福された人達”

2010-01-27 14:54:08 | 身辺雑記・その他

(映画「季節の中で」より)

【蓮の花と火焔樹】
映画の話。ベトナム映画、正確にはベトナム出身のアメリカ人監督がオール・ベトナム・ロケで撮ったベトナム人俳優によるアメリカ映画「季節の中で」。
1999年サンダンス映画祭審査員グランプリ、観客賞、撮影賞受賞ということなので、そこそこの評価は得た映画のようです。

ベトナム戦争中にベトナム女性との間に産まれた娘を探す元米兵、ガムや煙草を売りながら都会を生きるストリートチルドレン、ハンセン氏病に冒され世捨て人となった詩人と聡明な蓮摘みの少女、泥沼の現実から這い上がることを夢見る娼婦と彼女に心ひかれるシクロ運転手、という4つのエピソードが交錯しながら平行に描かれていく映画です。

監督のトニー・ブイは、1975年、サイゴン陥落のおり、2歳でボートピープルとして一家がアメリカに渡り、ベトナムを初めて訪れたのは19歳のときとか。

ストーリーについては、センチメンタルな純愛映画的な展開は陳腐にも思え、娼婦につきまとうシクロ乗りに至っては、「タクシー・ドライバー」を彷彿とさせる変態・ストカー的なところもあって、嫌いな人も多いでしょう。
ただ、池を埋める白い蓮の花、真っ赤な火焔樹の並木、大都会ホーチミン・シティーの暗闇・・・などの映像はとてもきれいです。大きな事件もないまま、淡々と流れる映像が心に残ります。

【「あそこはまるで別世界よ」】
そんな映画で、一番印象的だったのは娼婦とシクロ乗りの切ないラブ・ストーリー。
見染めた彼女の仕事が終わるのをホテル前で待つシクロ乗り。
娼婦「この仕事をずっと続けていく気はないわ。将来の夢があるの」
シクロ乗り「じゃ、ほかの仕事を?」
「どんな仕事を?母は家族のために必死に働いて死んだわ。二の舞はごめんよ・・・ホテルに泊まったことある?」
「いや」
「あそこはまるで別世界よ。住む人種が違うの。話し方も歩き方も違う。太陽に祝福された人達よ。私達は影の住人。ホテルが建つたびに影が大きくなるわ・・・よく見るといいわ、ホテルに出入りする人達を。別の人種よ。いつか私もあの世界に住むわ。お金持と結婚して夢を実現するの」
「それで幸せか?」
「シクロ乗りと結婚しろと言うの?」

ホーチミン・シティー(旧サイゴン)には行ったことがあります。映画の中にでてくるマジェスティックホテルは泊まったことがありませんが、リバーサイドホテルなら8年ほど前に泊まりました。
普段はもっと安宿を利用しますが、それでも大金を使って外国で遊ぶ“太陽に祝福された人達”のひとりでしょう。
娼婦やシクロ乗りから見た視線にヒリヒリするものを感じて、映像から目が離せなくなります。

夢を追う娼婦は、ある夜、客と口論となりタクシーから叩き出されます。彼女を助けるシクロ乗り。
シクロ乗りはシクロ・レースで得た賞金で、一晩50ドルの彼女を買います。
しかし、服をプレゼントし、彼女の寝姿を眺めるだけ・・・彼女は「エアコンの効いたホテルの部屋で朝を迎えたいの」といつか言っていた、そんな朝を迎えます。

再び彼女の自宅を訪れるシクロ乗りに、娼婦は心を閉ざします。
「返すわ、あなたにもらったお金よ。寝てないのにもらえないわ。これで貸し借りなしよ」
「いや、受け取ってくれ。金以上のことをしてくれた」
「なぜ、そんなに私にこだわるの?私は今までに大勢の男と寝たのよ」
「僕は彼らとは違う」
「目をよく開いて。目の前に立っている女は娼婦よ。あなたはただのシクロ乗りよ。でしょ?それだけの関係よ。お願いだから、私に理想を求めないで」

この後の展開は、興味ある方は映画をご覧ください。
日本の古い映画にも、貧困の中で生きる人々を扱ったものはありますが、それらを観るとき登場人物側の世界に身を置くことができます。
しかし、この映画では“別世界”の“別の人種”として観ることになります。

正月はスリランカで過ごしましたが、今月末、たまたま時間がとれてタイ北部、チェンライを旅行する予定です。
“太陽に祝福された人達”のひとりとして。

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フランス  サルコジ大統領の思惑がはずれた炭素税導入

2010-01-26 21:01:05 | 国際情勢

(08年7月13日 自らが主導した地中海サミットの公式晩さん会に出席したサルコジ大統領とカーラ夫人 この頃のサルコジ大統領は世界をリードする勢いでしたが・・・
“flickr”より By Ammar Abd Rabbo
http://www.flickr.com/photos/byammar/2701801499/)

【炭素税違憲判定に仕切り直し】
フランス・サルコジ大統領は、昨年来、化石燃料の消費によって家庭で排出される二酸化炭素1トンあたり17ユーロ(約2200円)課税する“炭素税”を今年1月から導入する方針を進めてきました。
しかし、法律の違憲性を判断する憲法評議会が年末12月29日、炭素税を「例外規定が多く不公平で違憲」とする裁定を発表、政府は新年度予算や税制改革は根本から練り直しを迫られていました。

法案では、電力業界を「CO2と無関係の原子力が主流」として対象外にし、また、欧州連合(EU)の排出量取引システム(EU―ETS)に参加する企業について排出量取引の過程でCO2排出量を厳格に制限されているなどとして課税を免除。この結果、製鉄、セメント、製油などCO2排出の多い千以上の事業所が例外扱いとなり、憲法裁判所から「気候変動と戦う目的に反する」「税金としての平等性も欠く」と指弾されたものです。

この憲法評議会の判断を受けて、政府は法案を修正し、7月1日の導入を目指す構えです。
****フランス、修正炭素税法案を閣議決定*****
フランス政府は20日、炭素税に関する法案を修正して閣議決定した。
炭素税は当初今月1日からの導入が予定されていたが、憲法会議は前月29日、免税対象が多すぎて税の平等原則に反し、二酸化炭素(CO2)削減の負担が少数の消費者に偏っているとして当初の法案は違憲との判断を下していた。
政府の発表によると、化石燃料の消費によって家庭で排出される二酸化炭素1トンあたり17ユーロ(約2200円)の課税を計画している。しかし一部の「エネルギーを大量消費する重要部門」には依然として特別な免税措置があり、農業・漁業は税率が25%に、陸運・海運業は65%に減免されることに加え、詳細は明らかにされていないが業種別に「競争力を保つための措置」がとられるという。
炭素税に反対する国民の声も強いが、ニコラ・サルコジ大統領は「革命的な」気候変動対策だとして2010年予算の目玉に位置づけている。
スウェーデン、デンマーク、フィンランドがすでに炭素税を導入している。フランスが導入すれば炭素税を持つ経済規模が最も大きな国になる。政府は修正法案を議会に送り、7月1日の導入を目指す方針だ。【1月22日 AFP】
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修正案は排出CO2、1トン当たり17ユーロ(約2200円)とされた税額など骨子は変わりませんが、EU―ETSに参加しているため当初法案で課税を免除されたCO2排出量の多い重工業界に協議を呼び掛け、より公正な負担を図るのが特徴だとか。【1月20日 共同】

【還付金交付で統一地方選乗り切りの思惑も破綻】
新税導入の場合、ガソリン1リットルの消費につき0.04ユーロ(約5.3円)の課税となるほか、石炭、ガスの消費にも課税されます。
昨年9月の世論調査では国民の3分の2が課税に反発していましたが、新税導入の見返りとして所得税減税などを通じて、全世帯へ家族構成に応じて一定額が還付金として交付されます。
エネルギー消費を抑制した家庭は、課税額は減少しますが、受け取る還付金は一定で、その分メリットを享受できる・・・という仕組みです。

サルコジ大統領の狙いは、3月に行われる統一地方選挙前の2月に還付金を交付して、国民の不満、反対派の批判を封じ込めようというものだったようですが、憲法会議の違憲判断と修正案づくりで、このスケジュールがご破算になってしまいました。【1月20日号 Newsweekより】

【不人気なサルコジ大統領】
サルコジ大統領は就任当初は、アメリカ・ブッシュ政権が死に体となって機能していなかったことや、08年7月からはEU議長国の立場にあったこともあって、グルジア紛争の仲介をはじめ、G20首脳会議(金融サミット)での世界経済危機への対応など、国際社会をリードするような勢いでした。

ただ、右も左も政権内にとりこんで、とにかく目立つような施策を強引に進める政治スタイルはいささか鼻につくところもあるのか、また、離婚・結婚、更に、大学生の次男を公共機関の要職に就けようとした事件などの私的な問題もあってか、国内的人気は下降気味です。
他の国同様に、景気後退・失業者増大という経済悪化が、国民の不満をさらに増大させており、昨年5月頃の世論調査では、65%が「失望した」との厳しい見方を示していました。
昨年11月調査でも不支持が6割超という結果でした。

****サルコジ氏、不支持が6割超=任期半ばの歴代大統領で最悪-仏*****
22日付の仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュが掲載した世論調査で、サルコジ大統領の不支持率が6割を超え、任期の半分を迎えた時点としては、第5共和制下の歴代大統領の中で最も反感を買っていることが分かった。大学生の次男を公共機関の要職に就けようとして、「縁故主義」と批判された問題などが痛手になったようだ。
調査は11月12~20日、1850人を対象に行われた。16日で任期5年の半分を終えた同大統領に「不満」との回答が63%だったのに対し、「満足」は36%。「不満」の比率は、これまで故ミッテラン大統領の1期目、2期目の半ばがいずれも57%で最悪だったが、それを大きく上回った。【09年11月22日 時事】
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【現代民主主義の困難】
今回の炭素税導入のつまづきが3月の統一地方選挙に影響すれば、サルコジ大統領の苦境は更に深まりそうです。
ただ、困難な政権運営を強いられているのはサルコジ大統領だけではありません。
アメリカ・オバマ大統領の命運を左右する医療保険改革も、さきのマサチューセッツ州での上院補選敗北で非常に危うくなっています。日本の鳩山首相も危険信号が点滅し始めています。

一般に、メディアによる政権批判がオープンで、国民が自由にもの言う風潮が定着している民主義国家で、世界経済危機のような取り巻く状況が悪いときに政権が人気を維持するのは至難な業です。
昔のように、一部の政界関係者を黙らせておけばすむ時代なら可能だった施策実行も、政権バッシングのような批判の嵐がすぐにまきおこる現代では困難です。
こういう時代に、昔ながらの“民主主義”が果たして機能するのか?と疑問に感じることも少なくありません。

ただ、フランス・サルコジ大統領は、今回の炭素税とか、物議を醸している「フランス人とは何か」の議論とか、何かやろうとしての困難です(その善し悪しは別として)。オバマ大統領も然り。
鳩山首相の場合、過去のスキャンダルと対応を決定できないことによる困難であり、そこがやや残念なところです。

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スリランカ  少数派タミル人との共存社会に向けて、明日大統領選挙

2010-01-25 20:42:22 | 世相

(右上はラジャパクサ大統領の選挙用の看板 正月に私が旅行した南部は彼の地元ということもあってか、この類のおびただしい数の選挙用看板が道路沿いに設置されていました。
写真は北部のジャフナのようです。ながくLTTE支配の拠点ともなっていたタミル人社会ですが、タミル人の投票が今回選挙のカギになっているとか。
LTTEとの戦いを進めた大統領と前政府軍参謀長、どちらを選択するのでしょうか?
“flickr”より By rajith_tennakoon
http://www.flickr.com/photos/27681766@N04/4276355138/)

スリランカの大統領選挙は、明日投票となります。
この正月たまたまスリランカを旅行していたこともあって、1月2日ブログ「スリランカ  聖地カタラガマで 民族共存や大統領選挙のことなど」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100102)でも取り上げたところですが、現職のラジャパクサ大統領と前政府軍参謀長フォンセカ氏の争いとなっています。

昨年5月に反政府勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)との内戦を終結させた“功績”を持って任期途中の選挙に打って出たラジャパクサ大統領ですが、同じく内戦終結の功労者フォンセカ氏が野党統一候補として急浮上して、激しい競り合いとなっています。

ラジャパクサ大統領側の大量の選挙用看板や国民への一斉メール配信などの選挙運動については、1月2日ブログで触れたところです。
ガイド氏は、選挙予測については微妙な情勢との判断でしたが、メディアの予測も似たり寄ったりのようです。

****内戦終結の両雄、過熱 スリランカ大統領選26日投開票****
スリランカで26日、大統領選が投開票される。反政府勢力タミル・イーラム解放の虎(LTTE)との四半世紀に及んだ内戦を終結させたラジャパクサ大統領(64)と、軍事作戦を指揮したフォンセカ前政府軍参謀長(59)の事実上の一騎打ち。分断国家を統一した指導者と立役者だった2人の接戦は、運動員への銃撃事件で死者が相次ぐなど不穏な空気が流れている。

「私への反対票は祖国への反対票。祖国を分断し、LTTEの復活を試みる陰謀を勢いづかせることになる」。選挙戦最終盤の22日、中心都市コロンボ近郊で演説した大統領は声を張り上げた。
 昨年5月にLTTEを壊滅させて以来、自ら率いる与党・統一人民自由連合が地方選挙で連勝。余勢を駆って2011年末の任期切れを待たずに大統領選を2年前倒しすると決めた。当初は圧勝が予想されたが、内戦終結の立役者として人気が高いフォンセカ氏との不仲が表面化し、雲行きが怪しくなった。
野党各党は、親欧米自由主義路線の統一国民党から左翼民族主義の人民解放戦線まで、思想信条はバラバラだったが、「反大統領」の一点で結集。統一候補として同氏擁立で足並みをそろえた。

ラジャパクサ政権は、内戦時の戦争犯罪の疑いで国連から調査を求められているほか、政権に批判的な報道関係者を弾圧するなどして国際社会から批判を浴びてきた。フォンセカ氏自身も政府軍のトップとして、こうした政権の「暗部」と無縁ではないはずだが、立候補後は態度を一変。「腐敗した独裁政権と決別し、民主主義を確立しよう」と訴え始めた。
多数派シンハラ人同士が競い合う中、鍵を握るのは少数派タミル人だ。大統領は、内戦終結後も軍が監視する避難民キャンプに留め置いていた最大30万人のタミル人の帰還を加速させ、支持の拡大を狙った。しかし、最大の民族政党タミル国民連合はフォンセカ氏支持を決定。「彼が好ましいとは誰も思わないが、タミル人を冷遇した大統領を倒すために決断した」(タミル語紙の幹部)という。

タミル人の懐柔が難しい状況になると、大統領陣営はフォンセカ陣営がタミル人と結託してLTTEが復活すると訴え、シンハラ人の不安をあおる戦術に転換。政府系メディアは連日、フォンセカ氏への批判を展開。最高裁は15日、政府系メディアに「バランスのとれた報道をするように」と異例の命令を出した。
大統領に批判的な新聞社を武装した警官隊が家宅捜索するなど、言論への締め付けも続く。内戦終結から半年以上たっても非常事態宣言が解除されておらず、令状なしに逮捕や捜索ができる権限が警察に与えられている。
選挙に絡んだ暴力事件も相次ぐ。候補者の遊説先へ向かう運動員のバスが銃撃され、閣僚宅に爆弾も投げ込まれた。双方の陣営で計4人が死亡した。20日には「フォンセカ氏の遊説先に爆弾が仕掛けられた」といううわさが携帯メールを通じて広がり、集会が中止に追い込まれた。
24日付地元紙によると、約1400万人の有権者のうち約100万人分の投票所入場券が未発送で、投票の際に必要な身分証の略奪が相次ぐなど、各地で混乱が起きている。結果確定後に敗れた陣営が反発し、暴動が起きる可能性も指摘されている。【1月24日 朝日】
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これまでも権力中枢にいたフォンセカ氏が豹変して独裁との決別・民主主義の確立を訴えるさまや、内戦で抑圧してきたタミル人の票を狙って両者が争うさまなど、いささか滑稽でもあります。
それにしても、大統領陣営の、“フォンセカ陣営がタミル人と結託してLTTEが復活すると訴え、シンハラ人の不安をあおる戦術”というのは禁じ手です。

内戦を克服して多数派シンハラ人と少数派タミル人の共存できる社会をつくるという大切な時期に、あってはならない行為です。
この一点を持ってしても、ラジャパクサ大統領の再選には疑念を禁じえません。
ただ、判断するのはスリランカ国民です。

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パキスタン 対米協力を渋る軍部にアメリカは無人機供与

2010-01-24 20:59:32 | 国際情勢

(模型飛行機を楽しむ人々・・・ではなく、カタパルトにセットされた無人偵察機RQ-7(shadow)、国家の戦略すら変える先端軍事技術のひとつです。“”より By cbane
http://www.flickr.com/photos/cbane/2644568157/

【パキスタンに掃討作戦拡大を要請するアメリカ】
アフガニスタンに米兵3万人以上を増派する一方で、11年から駐留部隊の撤退を開始すると発表しているアメリカ・オバマ政権は、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯がアフガニスタンのタリバンの「聖域」となっており、この地域を抑えられるかどうかが戦略成否のカギとなると判断しており、パキスタンに対しては国境地帯でのイスラム過激派「パキスタンタリバン運動(TTP)」やアルカイダ系武装組織の掃討作戦を強く要請しています。

****「武装勢力の聖域を壊滅すべき」、米国防長官が警告****
ゲーツ米国防長官は2日間の日程でパキスタンを訪問中だが、その初日にあたる21日のパキスタン紙ニュースへの寄稿で、パキスタンに対する米政府の関与を強調すると同時に、パキスタン国内で活動するタリバン系イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」に対する最近の軍事作戦を評価した。

しかし米側は、同国領内に進入しているアフガニスタンのタリバン勢力や、北西部の部族地域で攻撃を計画し、仕掛けてくる国際テロ組織アルカイダ系の武装勢力などについても、パキスタン政府が攻撃を徹底するよう明確に、強く要請してきた。
ゲーツ長官は「パキスタンのタリバン運動は、アフガニスタン領内のタリバン、アルカイダの両方と結託して動いている点を忘れてはならない。これらの集団を個別にすることは不可能だ」と記し、「歴史に従うならば、国境の両側にある両方のタリバンにとっての聖域は長期間のうちに、現在よりももっと致命的な、もっとふてぶてしい攻撃につながるだろう」と警戒を呼びかけた。
またさまざまな原理主義勢力をひとつひとつ個々のものとして区別することは「非生産的」だとも述べ、「アフガニスタンとパキスタン国境の両側からこれらの勢力すべてに圧力をかけ、両国内外でテロ行為を広める者たちを破滅させてこそ、両国ともこの災いから逃れられる」と主張した。【1月21日 AFP】
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【パキスタン「新たな地域で作戦を実施できない」】
アメリカ自体も無人機を使った空爆を強化していますが、空爆は民間人犠牲者も増加させ、イスラム過激派側の報復テロの連鎖を招き、パキスタン国民の反米感情を高めています。

パキスタン国軍は、米軍に協力する形で部族支配地域掃討作戦を続けていますが、タリバンやイスラム過激派との繋がりも指摘される軍部はもともとあまり積極的とは言えず、ゲーツ米国防長官のパキスタン訪問に合わせて、対米協力拡大を拒否する姿勢を示しています。

****パキスタン:軍が掃討拡大に反対 親米政権に先手****
パキスタン軍のアッバス広報官は21日、イスラマバードで記者団に「今後半年から1年間、新たな武装勢力掃討作戦に着手しない」と述べた。パキスタンに掃討作戦の拡大を強く求めている米国のゲーツ国防長官がイスラマバードを訪問中で、ザルダリ大統領との会談を予定。軍部が、米国に協力的な政権に先手を打つ形で、作戦拡大に「ノー」を突きつけた格好だ。
現地からの報道によると、広報官は「(昨年10月に開始した部族支配地域)南ワジリスタンでの掃討作戦を完遂するまで、新たな地域で作戦を実施できない」と明言した。
オバマ米大統領は昨年12月、アフガニスタンに米兵3万人以上を増派する一方で、11年から駐留部隊の撤退を開始すると発表。増派部隊はパキスタン国境に集中投入される予定で、軍部などは強く反発している。
これに対し、汚職体質などで政治危機にあるザルダリ氏は、米国のアフガン戦略に賛同することで政権維持を図っており、軍部などとの緊張が高まっている。
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【米:無人偵察機12機をパキスタンに提供】
パキスタン国軍をなだめるためか、ゲーツ米国防長官はパキスタンに非武装の無人偵察機を提供する準備があることを明らかにしています。

****パキスタン:無人偵察機12機を提供 米国防長官が表明*****
ゲーツ米国防長官は22日、米陸軍が保有する無人偵察機12機をパキスタンに提供する方針を示した。同国とアフガニスタンとの国境付近では、米中央情報局(CIA)が無人偵察機による空爆を拡大。パキスタン側は、情報の共有化や同様の無人機の提供を求めていた。米国側は今後、国境付近における戦闘への一層の協力を求める。
パキスタンを訪問中のゲーツ長官が、地元メディアの取材に明らかにした。米軍は、CIAが使用しているとされる大型の爆撃機能を持つ無人機(プレデター)ではなく、小型で空爆機能のないタイプ(シャドー)を提供するという。さらに米国は、アフガニスタンとの国境沿いの部族支配地域に使用を限定するよう求める方針。
パキスタン側はCIAによる空爆で民間人の被害が拡大していると批判。自国軍でより正確な攻撃をするとして無人機の提供などを求めていたが、米国側は、情報の漏えいやパキスタンが隣国インドに対して使用することを警戒し、応じていなかった。
オバマ大統領は昨年末、CIAによる空爆を従来の部族支配地域に加え、さらに南方のバルチスタン州にも拡大するよう指示。戦闘はさらに激化しているが、パキスタン陸軍幹部は「戦闘の長期化で部隊が疲弊している。今後少なくとも半年から1年は、大きな戦闘は行わない」と公言するなど、米軍への協力をしぶる姿勢を示していた。【1月23日 毎日】
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アメリカCIAに代わってパキスタン国軍が無人機を使って“より正確な攻撃”できるとは思えません。
技術的な問題もありますし、パキスタン国軍がアメリカより民間人への配慮において勝っているとは考えられないからです。
“小型で空爆機能のないタイプ(シャドー)”でパキスタン国軍側が満足するかどうかは不明です。
なお、RQ-7 シャドーは、専用のカタパルトから射出する形で離陸し、全長は3.41m、翼幅3.87m。

【先端軍事技術拡散】
戦場の無人化・ロボット化は急速に進行しており、米軍の使っている無人機、陸上軍用ロボットについては「米国の無人兵器、空・陸で導入」【1月15日 AFP】(http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2683088/5170500)に紹介されています。

どの国も無人機技術を欲しがっており、ロシアがイスラエルからの無人機偵察機を供与してもらうという“事実上のわいろ”の見返りに、従来ロシアが支援してきたイランに対してロシアが対空ミサイルS300を売却しないという“取引”も報じられています。
パキスタンが無人機を手にすれば、インドが「我が国にも・・・」という話にもなるのでは。
核拡散同様の先端軍事技術の懸念も。

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スーダン  南部独立を問う2011年住民投票に向けて分裂加速

2010-01-23 20:11:00 | 国際情勢

(南スーダンのスーダン人民解放軍(SPLA)兵士  日本も自衛官を派遣しているPKO、国際連合スーダン派遣団の活動として武装解除が行われているはずですが、SPLAの武装がどういう扱いなのかはよくわかりません。武器を手放すと、敵対組織によってすぐに殺される・・・という風土とも聞きますので、武装解除とは言っても難しいものがあるかとは思います。
 “flickr”より By Stein Ove Korneliussen http://www.flickr.com/photos/steinove/3981022729/ )

【ナイジェリア、そしてスーダン】
昨日のブログでは、混乱が続くアフリカの地域大国、ナイジェリアを取り上げましたが、今日はもうひとつの問題国スーダン。
なお、ナイジェリアのヤラドゥア大統領はここ2か月ほど病気治療のため国内にいないとか。

****大統領の職務遂行可否を判断へ=内閣が2週間以内に-ナイジェリア*****
ナイジェリアからの報道によると、同国連邦裁判所は22日、サウジアラビアで約2カ月にわたり病気療養を続けているヤラドゥア大統領に関し、2週間以内に職務遂行能力の有無を判断するよう内閣に命じた。
ヤラドゥア氏は昨年11月中旬に心臓疾患の治療のためサウジに渡ったまま。ジョナサン副大統領への正式な権限委譲は行われておらず、統治権限の所在をめぐって混乱が発生している。このため、野党活動家が「権限委譲のないまま(大統領職を)不在にするのは憲法違反」として、大統領辞任を求める訴えを起こしていた。【1月23日 時事】
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イスラム・キリスト教の宗教衝突で200人を超える死者が出ている混乱時期に大統領不在で統治権限がはっきりしないというのは、やはりまずいでしょう。
さて、スーダンの方はバシル大統領がしっかり統治していますが、国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を発行しているバシル大統領が存在していること自体が国内混乱の一因かも。

【大統領選への期待が消えて、住民投票へ加速】
スーダンは北のアラブ系が主導する政府に対する南の非アラブ系住民の抵抗・対立が続き、1983年から第二次スーダン内戦が勃発。約190万人が死亡し(大半は市民で、飢餓と旱魃によるもの)、400万人以上が家を逐われる【ウィキペディア】という犠牲を出し、ようやく2005年1月9日に、バシル政権とスーダン人民解放軍(SPLA)との間で「南北包括和平合意(CPA)」が結ばれました。
2011年には、南部独立の是非を問う住民投票が行われるスケジュールとなっています。

1月10日ブログ“スーダン 「南北包括和平合意(CPA)」から22年 新たな内戦の懸念も”
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20100110)では、南部での部族対立が激化しており新たな内戦が懸念されていることや、南部独立後の石油利権をにらんだ中国の動きなどを取り上げました。

2011年の住民投票について、南北分裂の動きが加速していることを報じる記事がありました。
****スーダン、分裂の動き加速 南部が大統領選を軽視*****
アフリカ最大の国スーダンが、南部独立の是非を問う2011年の住民投票を機に分裂する可能性が高まっている。独立を求める声が強い南部は、住民投票に先立って4月に予定される大統領選を軽視するかのように、格下候補を擁立した。独立後をにらんだ動きと受け止められている。

大統領選は、20年以上続いた南北内戦を終結させた05年包括和平合意の一環。北部拠点の与党・国民会議党(NCP)は現職バシル氏が立候補を表明した。これに対し、南部で内戦を戦ったスーダン人民解放運動(SPLM)は、アルマン副事務局長を擁立した。全土での知名度はバシル氏に及ばず、当選の可能性は低いとされる。
当初、南部はSPLM議長で、現在同国の第1副大統領を務めるキール氏を擁立するとみられていた。しかし、議長は、同時にある南部スーダン自治政府の大統領選に立候補することに。キール氏は独立後、南部の初代大統領に横滑りするとの見方が強い。
和平合意の一環として11年1月に南部住民を対象に予定されている住民投票で、独立が認められるのは確実な情勢だ。当初、住民投票をめぐって厳しい独立認定基準を主張していたNCPが折れ、「投票率60%、賛成51%」で昨年12月、南北双方が参加する議会に承認されたためだ。
南部が独立を望むのは、北部への根強い不信感のためだ。南部が産出する石油の収入均等配分など、和平合意を北部が破っているとSPLMは主張。南部で絶えない民族衝突の背後に北部が介在しているとも、非難している。
また、大統領選投票の基礎になる人口調査や有権者登録手続きでもNCPが不正を企て、北部が有利な状況にあるとの見方が南部には強い。和平合意の際に南北和解の象徴とされた大統領選への期待は、南部ではもはや消えている。
一方で、北部には南部の独立阻止を求める声が強い。大統領選でバシル氏が再選を果たせば、住民投票に向け、さまざまな手を打ち、南北対立が再燃する可能性もある。【1月22日 朝日】
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【衝突必至の展開】
「投票率60%、賛成51%」という独立認定基準なら、まともに住民投票が行われれば独立賛成ということになるでしょう。
ただ、再選を果たしたバシル大統領がそんな住民投票を“まともに”実施して、その結果を受けて油田を抱える南部独立をすんなり認めるとは到底思えません。
バシル大統領がそんな政治家であれば、南北間の紛争も、西部のダルフール紛争も、今とは全く違う展開になっていたはずです。
ゆるい独立認定基準を与党・国民会議党(NCP)が認めたこと自体、はなから履行する意思がないのではとも勘ぐられます。

投票結果が出てからそれをひっくり返すのは国際社会の批判があってやりにくいので、おそらく住民投票実施をうやむやにしてしまうか、大規模な操作で結果をゆがめるか・・・どちらかでしょう。
そして、それは当然に南部の反発を招き、独立を求める武力衝突へと至るでしょう。
“南北対立が再燃する可能性もある”と記事にはありますが、素人考えでは、衝突が起こらないシナリオを想像するほうが困難なように思えます。
ただ、南部も部族抗争に石油利権が絡むと、政府の画策や内部分裂などで複雑な展開になるのかも。

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ナイジェリア  石油をめぐる争い、宗教対立、原理主義、警官の不正 資源大国の惨状

2010-01-22 22:11:39 | 世相

(ナイジェリア南部で石油施設破壊活動をする反政府武装組織 昨年10月に“休戦”が報じられていますが、ナイジェリアの抱える問題は他にも多数あるようです。
“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/3769874480/)

【原油に蝕まれる国】
西アフリカのナイジェリアは、アフリカ最大の人口(サハラ以南アフリカの約20%)及び最大の軍事力を有する地域大国であり、南部のニジェール川デルタでは豊富に石油を産出する資源大国(原油輸出量は04年で世界第5位、埋蔵量では07年末で世界第8位、アフリカ最大)でもあります。

しかし、この石油を巡って内戦や内紛が繰り返されるなど、国内対立の原因ともなっています。
“パイプラインから漏れ出た石油は、土壌や水を汚染し、石油利権はうまい汁を吸う政治家や軍人の手を汚す。目先のお金に目がくらんだ若者は、オイルマネーの分け前にあずかるためなら、銃撃、パイプラインの破壊、外国人の誘拐など手段を選ばない。”【ナショナルジオグラフィック07年2月号「豊かな原油に蝕まれるナイジェリア」】

【繰り返される宗教衝突】
南部の産油地帯で石油施設への攻撃を繰り返してきた主要武装勢力「ニジェールデルタ解放運動(MEND)」は09年10月25日、無期限の休戦を宣言しましたが、ナイジェリアは宗教対立でも大きな問題を抱えています。

ナイジェリアでは、北部にはキャラバン貿易を通じてイスラム教が広がったのに対し、アニミズム信仰の南部にはヨーロッパの影響でキリスト教が広がり、イスラム教とキリスト教は独立後頻繁に衝突を繰り返してきました。
08年11月には中部ジョスで、十数年ぶりに実施された地方選挙の結果発表が遅れたことから、キリスト教系の国民民主党(PDP)とイスラム教系の全ナイジェリア国民党(ANPP)支持者らが対立陣営の不正を疑い、銃などで武装して衝突、380人を超える死者を出しています。
(08年12月1日ブログ「ナイジェリア 選挙結果をめぐる宗教衝突で数百人が死亡」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20081201

最近、同様の宗教対立が起きています。場所も同じジョスです。
****ナイジェリア:200人死亡 イスラムとキリスト宗教衝突****
ナイジェリア中部プラトー州の州都ジョスで17日以降、イスラム教徒とキリスト教徒が衝突し、200人以上が死亡、多数の負傷者が出ている。AP通信によると20日、治安当局は24時間の外出禁止令を出したが、衝突は周辺にも拡大。事態は収束していない。
今回の衝突は、一昨年の宗教衝突の際に破壊された住宅の再建を巡り、イスラム教徒とキリスト教徒間で争いが生じたことが発端とされるが詳細は不明。一般民家や通行人への暴力に加え、イスラム教徒による教会への放火、キリスト教徒によるモスク(イスラム礼拝所)への焼き打ちなどが頻発し、緊張状態が続いている。
同国は主に北部中心にイスラム教徒、南部にキリスト教徒が住むが中間地点に位置するジョスは、両宗教間の衝突が繰り返されてきた。08年11月にも地方選挙後に両教徒の一部が暴徒化し、300人以上が死亡した。【1月21日 毎日】
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【イスラム過激派】
南部の石油をめぐる争い、南北間の宗教対立・・・まだ他にもあります。

****イスラム勢力と治安当局衝突、68人死亡 ナイジェリア****
ナイジェリアからの報道によると、北部の町バウチで12月28日、イスラム強硬派勢力の内部抗争が起き、鎮圧に当たった治安当局も巻き込んだ戦闘に発展した。AFP通信によると68人が死亡した。
欧米流の教育や医薬品、テレビ、ラジオを否定する勢力「カラ・カト」が内部分裂し、双方が敵対派指導者を重病に陥れようとしたと非難しあったこと が衝突の原因だという。イスラム教徒が集中する北部では、貧困や失政を背景にイスラム強硬派が勢力を拡大。昨年7月にはカラ・カトと同様の集団が警察と衝突し、約700人が死んだ。【09年12月31日 朝日】
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【腐敗する警察】
うした住民間の対立を抑え治安維持に当たるべき警察官自体が市民を超法規的に殺害しているという問題も指摘されています。

****薄給の警察官、市民数百人規模で殺害か ナイジェリア*****
ナイジェリアで、警官にわいろを払わなかったなどとして毎年、市民数百人が超法規的に殺害されていると、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が昨年末に出した報告書で指摘した。警官の薄給や訓練不足が原因だとして改善を求めている。
2007~09年の現地調査に基づいた報告書によると、09年5月、検問所の警官にわいろを渡さなかったバイクの運転手が「武装強盗」として射殺された。南部の遺体安置所には8~10月に、「身元不明の強盗犯の遺体」として約150体が警察から届いた。逮捕後に行方不明になる市民も多いが、違法行為で訴追される警官はまれだという。
警察統計によると毎年、警官100人以上が殉職する一方、03~08年には計3014人の容疑者が警官に殺害された。だが、警察幹部のひとりは別の国際NGOに「03年だけで約3100人の強盗を殺害した」と証言しており、死者数は統計よりはるかに多いとみられる。
警察職員の4割は過去7年間に採用され、満足な訓練ができていないという。ナイジェリアはアフリカ有数の産油国だが、警官の月給は安く、08年まで巡査は52ドル(約4700円)だった。【1月6日 朝日】
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石油資源に恵まれながら、それがあだとなって政治が腐敗、富は偏在して貧困が蔓延するなかで人々は相争う・・・悪い見本のような国と言ったら言い過ぎでしょうが、気が重くなる現状ではあります。

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