孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット  大地震災害でも「祈り」などダライ・ラマ14世の関与を徹底排除する中国政府

2025-01-13 21:55:23 | 中国

(中国・チベット自治区、震源(シガツェ)【1月9日 西日本】)

【チベットで同化政策を推し進める中国政府 言語・文化喪失の危険も】
中国・チベットに関しては新疆ウイグル自治区や内モンゴル同様に、民族的アイデンティーの破壊や人権弾圧等の批判があります。

昨年中はチベットでの大きな衝突などのニュースは目にしませんでしたが、中国政府による同化政策が着々と進んでいるようです。

****急速に進むチベット族の同化政策、教育から言語・文化を排除…暴動16年で強まる統制****
中国チベット自治区で2008年3月に起きたチベット暴動から14日で16年が過ぎた。習近平シージンピン政権は、少数民族チベット族の居住区域での締め付けを強めており、国際社会の人権批判をはねつけながら同化政策を徹底する構えだ。

四川省成都市内に、チベット仏教の仏具やチベット語書籍を扱う商店が並ぶ地域がある。2月中旬に訪れると、重装備の警官らが交差点の四方を固めるように警戒し、チベット族の僧侶や住民らに目を光らせていた。監視カメラも多い。

仏具店内では、チベット語より中国語表記が目立つ。買い物に訪れた僧侶の男性は、「我々が信仰と文化を守らなければならない」と小声で語った。

中国には約700万人のチベット族がいるが、同化政策は急速に進む。国連人権理事会の昨年の報告によれば、子供向けの寄宿学校では、中国語のみの授業が大半で、チベット語や文化の教育が排除されている。

米政府系のラジオ自由アジアは今年1月、子供らがチベット文化や宗教を学ぶための課外活動への参加が禁じられていると伝えた。

先に閉幕した全国人民代表大会(国会)で採択された政府活動報告でも、習政権は「宗教が社会主義社会に適応するよう積極的に導く」と明記した。信仰より共産党への忠誠を優先させる「宗教の中国化」を進める方針も示した。

国際社会は非難を強めている。ロイター通信によると、ボルカー・ターク国連人権高等弁務官は今月4日、自治区などでの人権侵害の是正勧告をしたが、中国外務省報道官は「一部の西側の国がデマを流している」と反発した。

習政権が人権状況の改善に応じることはなさそうだ。昨秋公表したチベットに関する白書の英語版の地名表記では、従来の「チベット」ではなく、中国語「西蔵」の発音にあたる「シーザン」を使った。中国の一部であると強調し、米欧の「干渉」を排除する構えだ。

◆チベット暴動=2008年3月14日、区都ラサで、中国の統治や信仰の自由への抑圧に不満を持つ僧侶や市民が政府機関などに放火、破壊した。四川、甘粛省などのチベット族居住地域に拡大し、当局の鎮圧には軍も動員された。インドのチベット亡命政府によると、死者は200人以上。【2024年3月14日】
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同化政策の中核は教育現場におけるチベット語の排除でしょう。言語が失われれば文化も消えていきます。

****中国政府による漢族との同化政策 「チベット寄宿学校」で何が? 「チベット語の授業がなくなっていく」****
中国政府はここ数年、チベット族の子どもを寄宿学校に入れ、同化政策を行っていると国際社会から非難を浴びています。寄宿学校で何が起きているのか、取材しました。

ここは中国南西部にあるチベット族が多く住む地域。今、子どもの教育をめぐり、ある問題が浮上しています。
中国政府がチベット族の子どもたちを強制的に寄宿学校に送り、中国語を学ばせるなど、漢族との同化政策を強いているのではないかというのです。

アメリカのブリンケン国務長官は去年8月、寄宿学校に送られた子どもは100万人を超えると非難しました。

私たちは学校を訪ねてみることにしました。ここは「寄宿学校」とされる学校の一つです。近所の人に聞いてみると…

近所の人
「生徒は全員、町の外からきたチベットの子どもです。中の様子はよくわかりません。ここは閉ざされた学校なんです。(Q.学生は多いんですか?)わかりません。何人生徒がいるのかもわからないし、普段は外に出てこられないように封鎖されているんです」

中の様子がわからず、近所の人が不気味だという学校。チベット族の一人はこう話しました。

チベット族
「(寄宿学校で)チベット語の授業は少しありますが、生徒たちはうまくしゃべれません。ここ数年の変化です。このままいくと、チベット語の授業はなくなり、すべて中国語になるでしょう」
いつか、自分たちの言葉と文化を失ってしまうのではと恐怖を感じているといいます。

チベット族
「私たちチベット族はなんといっていいか、ちょっと怖いです。無力感を感じます。どうしようもないことです。こういう話をあなたたちにすること自体も危険だと思います」

「チベットの言葉や文化を消し去ろうとしているのではないか」。国際社会の指摘に対し、中国政府は…

中国外務省 汪文斌 報道官
「寄宿学校に対する攻撃と中傷キャンペーンはチベットの子どもたちの教育を受ける権利に対する冒とくと侵害であり、チベットの人権に対する干渉と破壊だ」

しかし、子どもたちには変化が起きていました。

チベット族
「小学校1年生から中国語を勉強しています。(Q.チベット語と中国語どっちが話しやすい?)中国語です。(Q.家族と話すときはチベット語ですか?)(うなずく)(Q.でも、中国語の方が話しやすいんだ?)中国語の方が話しやすい」

インドにあるチベット亡命政府のツェリン首相は、次のような懸念を示しました。

チベット亡命政府 ペンパ・ツェリン首相
「中国が行っている教育システムが人々の心や考え方、生き方のすべてを変えることを目的にしているのであれば、それは文化的ジェノサイドに等しいと思います」

寄宿学校をめぐり、アメリカは中国当局者のビザ発給を制限するなど圧力を強めており、今後、米中の新たな火種となる可能性もあります。【2024年3月19日 TBS NEWS DIG】
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中国政府は「チベット」という呼称もなくしてしまいたいようで、英文でも中国語「西蔵」の発音に当たる「シーザン(XIZANG)」という呼称を使用しています。

****地震被災地をチベットと記さず 中国政府の英文発信に批判****
中国の政府やメディアは9日までに、チベット自治区で7日起きた地震について英文で発信する際、被災地の地名を「チベット(TIBET)」ではなく、チベットの中国語「西蔵」の発音に当たる「シーザン(XIZANG)」と表記した。

チベットの「中国化」を進める政策の一環とみられ、チベットを支援する団体からは「地図からチベットを消そうとしている」と批判する声が上がっている。

自治区で2008年に中国統治に反発して大規模暴動が発生したことを受け、中国はチベット族に対する中国語や共産党思想の教育を徹底。近年は地名の英語表記にチベットを使わなくなっている。

9日付の国営英字紙チャイナ・デーリーや共産党機関紙、人民日報系の環球時報英語版は1面にチベット地震の記事を掲載。自治区をシーザンと表記し「被災者らが救援隊に感謝している」と支援の成果をアピールした。国営通信新華社の英文記事や国営中央テレビの英語放送、中国政府や在米中国大使館のX(旧ツイッター)への投稿もシーザンと表記した。【1月9日 共同】
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また、チベット族の人々の生活基盤そのものを変えてしまうことにもつながる施策も。

****チベット族を14万人強制移住か 「中国政府」と国際人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは21日、中国政府が国内のチベット族を事実上、強制的に移住させているとする報告書を公表した。16年以降、14万人以上が住んでいた計500の村が移転対象になり、住民で移住を避けられた人は確認できなかったとしている。

報告書は、中国政府が「生活向上」や「環境保護」を名目に、チベット族に移住を促す「全村移転」や「個別世帯移転」などの計画を推し進めていると指摘する。

移住に消極的な住民も、役人による説得で全面的に同意したと中国政府は説明しているが、行政罰や刑事罰をほのめかしたり、住民に同調圧力をかけたりして脅していると分析した。【2024年5月22日 共同】
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チベットは山奥にあっては車での移動が困難といった想像を絶するような自然環境にありますので、そうした自然のなかで少人数ずつ分断されて暮らすよりは一定の場所に集中して暮らす方が、水道や電気などを考えても生活の質を向上させる施策が有効に機能するという考えはあるでしょう。

日本でも、限界集落のあり方は問題になっていますし、今後更に深刻化するでしょう。

そうした「移住」の考え自体は一概に否定しませんが、問題はそのやり方、強制かどうかというあたりでしょう。

【1月7日に大地震 救助活動や犠牲者数で疑義も】
前出記事にもあるように、そうした厳しい自然環境のチベットで1月7日、大規模地震が発生し、多くの犠牲者が出ています。

****死者は126人、負傷者は188人 中国チベット自治区・シガツェ市でM6.8の地震 倒壊家屋は3600棟以上****
中国のチベット自治区で7日午前、マグニチュード6.8の地震があり、死者は126人に上っています。

中国国営の新華社通信によりますと、7日午前9時5分、チベット自治区のシガツェ市でマグニチュード6.8の地震がありました。震源の深さは10キロです。

シガツェ市はネパールやブータンの国境に近く、人口はおよそ80万人で、震源地の20キロ圏内にはおよそ6900人が暮らしています。

日本時間の午後11時現在、死者は126人、負傷者は188人、倒壊家屋は3600棟以上に上っています。また、一部地域では電気と水道が止まっているということです。

習近平国家主席は、全力で捜索と救助を行うよう指示を出しており、1500人態勢で救援活動が行われています。【1月7日 TBS NEWS DIG】
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地図で見ると、震源地はエベレスト山も近いあたりと言った方が分かりやすいかも。

習近平国家主席の指示で救出活動は懸命に行われたのでしょうが、被害の大きさに比べ、救出活動の終了が早かったという印象も。

****チベット地震「大規模な救出活動終了」…72時間を前に中国当局発表、チベット族に動揺広がる****
中国内陸部のチベット自治区で7日に起きたマグニチュード(M)6・8の地震で、中国当局は9日、大規模な救出活動の終了を発表した。

安全に救助できる可能性が高いとされる発生から72時間以内を前にしたもので、米政府系メディアのラジオ自由アジア(RFA)は、少数民族チベット族らに動揺が広がっていると伝えた。

自治区政府の幹部は9日夕の記者会見で「大規模な救助活動はほぼ終了した」と述べた。避難所の生活レベル向上に力を尽くすとした。中国中央テレビは10日、仮設住宅の設置や温かい汁物が配布される避難所の様子を繰り返し報道し、生活再建への動きを強調した。

RFAは9日、チベット族らが当局の発表に困惑し、独自の救助活動を続けていると報じた。当局は126人が死亡したとしているが、RFAは200人以上が亡くなった可能性が高いと指摘した。【1月10日 読売】
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政治的に敏感な地域ですから、ある意味「政府当局」の恩恵をアピールする絶好の機会でもあり、手を抜くようなことはないと思うのですが・・・現地事情が分かりませんのでなんとも。

犠牲者数についても、インド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府から疑義がしめされています。

****チベットの地震死者数に疑義 亡命政府、中国は反発****
中国チベット自治区で7日起きた地震についてインド北部ダラムサラにあるチベット亡命政府は12日「中国政府の情報統制が死傷者数の正確性を検証する上で課題となっている」とする声明を発表し、中国政府が公表した死傷者数に疑義を唱えた。

中国外務省の郭嘉昆副報道局長は13日の記者会見で「亡命政府は分裂主義の政治集団だ」と主張。チベット地震で中国は「一分一秒を争って救助し、死傷者を最少に抑えた」と述べ、反発した。

中国当局は地震で126人が死亡し、337人が負傷したと公表。新華社は地震発生当日に126人が死亡したと報じ、その後増えていない。【1月13日 共同】
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地震発生当日の犠牲者数が増えていないというのは、こういう災害にあっては不思議な話です。

【ダライ・ラマ14世の関与を徹底排除する中国政府】
中国政府は今回地震へのチベット亡命政府、もっと具体的にはダライ・ラマ14世の関与を極度に嫌っています。

****チベット地震「深い悲しみ」 ダライ・ラマ****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世は7日、中国チベット自治区で起きた地震による被害に「深い悲しみを覚える。亡くなられた方々の冥福と負傷者の速やかな回復を心よりお祈りする」との声明を出した。

ダライ・ラマは中国の弾圧から逃れるため1959年にチベットのラサを脱出して以来、インド北部ダラムサラを拠点に亡命生活を続けている。【1月7日 時事】
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****ダライ・ラマの祈り「警戒」=中国外務省****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が、中国チベット自治区の地震による死者の冥福を祈る声明を出したことについて、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は8日の記者会見で「非常に警戒している」と述べた。

郭氏は「共産党中央の指導の下、被災地の人民は災害に打ち勝つ。われわれはダライ・ラマの分離(主義)的本質と政治的意図を理解している」とも強調した。【1月8日 時事】
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ダライ・ラマ14世は、9日、インド南部カルナタカ州の寺院で、地震の犠牲者を悼み、負傷者の回復を願う法要を行いました。法要にはインドに亡命したチベット人など、およそ1万2000人が参列し、祈りをささげました。

中国政府としては、とにかくダライ・ラマの関与は政治的分裂を画策するものだ・・・という認識になるようです。
そのダライ・ラマ14世も高齢(89歳)となり、昨年6月にはひざの治療のためにアメリカを訪れています。
問題はその後継者。

“ダライ・ラマ14世については、その後継者選びが世界的な注目を集めていますが、ことし7月にみずからが90歳になったとき、後継者選びをめぐる重要な判断を行うとしています。 これに対し、中国は後継者を選ぶ権限は中国側にあると主張し、チベット亡命政権側が反発しています。”【1月10日 NHK】

本来は宗教に否定的な中国政府が宗教的「転生」を根拠に独自の後継者を選ぼうとするのに対し、ダライ・ラマ側は必ずしも「転生」に拘らないとして中国政府の関与を拒絶しようとする・・・という逆転の構図になっています。
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中国  急速に進行する少子高齢化 結婚・出産を個人へ「強制」するような対応には若者は反発

2025-01-05 22:11:57 | 中国

(“愛が出会う街”湖南省長沙市【1月5日 日テレNEWS】)

【出生数は7年間で半減 60歳以上の高齢者の比率は20%超 増加する「空巣老人」】
中国の2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年からの7年間で約半分に減少しています。

****中国の出生数が「7年間で半分」に急減 その根底にある根深い「不信感」とは****
中国の昨年2023年の出生人口は902万人。今世紀以降のピークだった2016年の1786万人から、わずか7年間で約半分に減った。

この事実が与える影響は甚大だ。中国社会ではこれから数十年かけて幼稚園から小・中学校、高校・大学への進学、新卒就職、結婚・出産など、人の生活にかかわる、さまざまなイベントが順番に「7年で半分」のペースで縮小していくことになる。

出生数急減の背景には、出産や子育て、進学などの費用の高さに加え、子供を育てやすい社会・労働環境の不足などの問題がある。

しかし、それ以上に大きいのは、政府の人口政策に対する庶民の不信感だ。ついこの間まで非人道的と思われるまでの措置を講じて子供の数を減らしてきたのに、いつの間にか「出生数の減少は国家的危機」と、多産奨励の方向に転じた。

国策としての「計画生育」は破綻したのに、政策の過ちを認める様子もない。過去に泣く泣く出産を断念した親たちの思いは複雑だ。

一部の知識人たちの間からは「出産、生育の自由を国家から庶民の手に取り戻すべきだ」との主張も出てきている。

中国は伝統的に「家」や「家族」のつながりを重視し、子供を大切にする社会である。それだけにこの問題の社会的影響は大きい。(後略)【2024年5月17日 田中信彦氏 NECwisdom】
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少子化と同時に高齢化も進行。
“若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。”【2024年11月15日 東洋経済online】

少子高齢化の急速な進行によって、独居または配偶者のみと生活する高齢者の増加が問題となっています。

****中国の高齢者「独居または夫婦で生活」が6割に接近 少子化で家族介護は限界、政策的支援が急務に****
中国社会の少子高齢化の趨勢がますます鮮明になりつつある。10月21日に公表された最新の調査データによれば、中国の60歳以上の高齢者のうち独居または配偶者のみと生活している(子供や親族などの同居人がいない)比率が、2021年時点で全体の6割近くに達したことがわかった。(中略)

独居または配偶者のみと生活している高齢者は、中国では「空巣老人」(訳注:雛鳥が巣立って親鳥が取り残された状態にたとえた比喩)と呼ばれる。今回の調査によれば、高齢者全体に占める空巣老人の比率は59.7%に上り、2010年と比べて10.4ポイント上昇した。 ■

介護の担い手が不足  
その内訳を見ると、独居者は高齢者全体の14.2%、配偶者のみと生活する高齢者は同45.5%を占めた。一方、子供と同居している高齢者は全体の33.5%、その他の親族などと暮らす高齢者は同6.8%だった。

空巣老人がますます増加する中、子供の数は逆に減少の一途をたどっている。(年老いた親の介護を子供が担う)伝統的な「家族介護モデル」を維持するのはもはや難しいのが実態だ。  

「少子化の加速が家族介護のキャパシティを低下させている。客観的に見て、家族介護への政策的サポートや(施設介護などの)社会的な介護サービス体系の整備を急ぐ必要がある」  中国の高齢者政策の諮問機関である中国老齢協会は、今回の調査の解説文でそう提言した。

今回の調査によれば、自己申告ベースで「自立した生活を送っている」と回答した高齢者は全体の88.4%、「自立生活が部分的に困難」な高齢者は7.1%、「自立生活が(完全に)困難」な高齢者は同4.5%だった。  

同じく自己申告ベースで、調査対象の高齢者の13.2%が「日常生活で他者による介助が必要」と回答し、そのうち83%が「実際に介助を受けている」と答えた。言い換えれば、介助の必要を自覚している高齢者のうち、17%は十分な支援が得られていないということだ。

介護費用の負担能力も不足  
家族介護に頼れない高齢者は、老人ホームなどの介護施設に入居する選択肢がある。しかし今回の調査からは、高齢者の費用負担能力が不足している現実が浮かび上がった。  

介護施設への入居を希望する高齢者に負担可能な費用を質問した結果は、月額1000元(約2万1049円)未満が46.1%と半分近くを占め、同1000~2999元(約2万1049~6万3125円)が38.2%、同3000元(約6万3146円)以上が15.8%だった。

だが、介護施設の実際の費用はほとんどの高齢者の負担能力を上回っている。2023年に北京市で実施された調査によれば、重度の認知症など要介護度が高い高齢者の場合、介護サービス費用はおおむね月額7000元(約14万7340円)を超える。【2024年11月8日 東洋経済online】
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【少子高齢化対策にあの手この手】
少子高齢化は個々のレベルでは上記のような介護の問題を惹起していますが、国家全体では労働力減少や年金制度の維持困難をもたらします。(日本も同じ)そのため、中国では今年から段階的な定年延長がスタートします。

****中国 今年から定年を延長 少子高齢化に伴う労働人口減に対応****
中国はきょう(1月1日)から定年を段階的に延長します。急速に進む少子高齢化に伴う労働力の減少に歯止めをかけたい考えです。

中国はきょうから15年かけて定年を段階的に延長します。1978年に今の定年制度が始まって以来、見直しは初めてのことで、男性は60歳から63歳に、女性は、幹部は55歳から58歳に、その他の職員は50歳から55歳に引き上げるということです。

少子高齢化が急速に進む中国では2035年ごろまでに60歳以上が4億人を超え、労働人口が大幅に減少すると予測されており、定年の引き上げはこうした問題に対処するためとみられています。

ただ、都市部の若者の失業率が17%を超えるなど、若者の就業問題が大きな課題になっており、定年の延長は若者の雇用機会を奪うのではないかという懸念も広がっています。

また、定年の見直しに伴い年金のルールも変更され、年金を受け取るための保険料を支払う期間は現在の15年から20年に段階的に延長されるということです。【1月1日 TBS NEWS DIG)】
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高齢化自体は“すでに起きた事実の結果”であり自動的に進行しますので、そのことを政策的にどうこうすることはできません。できるのは対策です。
少子化の方は“これからの問題”ですから、婚姻や出産への政策的関与によって動かすことも一応“可能”ではあります。

****中国政府、「少子高齢化」の歯止めにあの手この手****
産休・育休制度や保育サービスの充実打ち出す

中国は今、少子高齢化の加速という社会的課題に直面している。そんな中、中国政府が新たな少子化対策を打ち出した。国務院弁公庁が10月28日に発表した「出産支援政策の改善の加速により子育てにやさしい社会の建設を促進する措置」がそれだ。

2023年の中国の出生数は902万人にとどまり、1949年の(中華人民共和国)建国以来の最低記録を更新した。それに伴う若年人口の減少は、中国社会の高齢化率の上昇につながる。中国民政省などの推計によれば、総人口に占める60歳以上の高齢者の比率は2023年末までに20%を超えた。

育児費用の所得税控除も
国務院弁公庁の新対策には、出生数の健全な増加を促す一連の措置が盛り込まれた。
例えば、女性の出産前後の支援に関しては、産休・育休制度の改善を進める。具体的には中国各地の地方政府に対して、法に定められた産休・育休を(母親と父親が)確実に取得できるよう、産休・育休制度の充実と実施状況の監督強化を指示した。

さらに、育児助成金などの制度を整備し、地方政府が積極的かつ着実に実施することも求めた。その中には、3歳以下の乳幼児の育児や教育にかかる費用を、個人所得税の特別控除の対象にする案などが含まれている。

幼児期の子育て支援に関しては、保育サービスの供給増加を打ち出した。その実現に向け、地方政府が託児所や保育園に対して運営補助金を支給することや、保育サービスに対する税金や公共料金の減免、保育業界向けの人材育成プログラムの策定などを求めている。

また、少子化の要因になっている子供の教育費や住宅価格の高さ、女性の職場復帰などの問題に関しては、質の高い教育サービスの供給増加、住宅支援対策の充実、労働者の権利保障の強化などを提起した。

子供が複数なら支援手厚く
さらに小中学校期の支援については、学校での学童保育サービスや体験活動プログラムを積極的に展開し、児童・生徒の多様な学習ニーズに応えるとともに、保護者の送迎の負担を軽減するとしている。

国務院弁公庁の新対策は、複数の子供をもうけた世帯が住宅を購入する場合の支援拡充にも踏み込んだ。地方政府に対して、公的住宅基金の貸付限度額の増額などを検討するよう指示した。

企業などに対して、出産後の女性の再雇用を促す政策の強化も打ち出した。とりわけ妊娠中や出産後の女性労働者への支援を手厚くし、出勤・退勤時間の弾力的な運用や在宅勤務などのサポートを法に基づき提供するよう、雇用主への働きかけを強める。【2024年11月15日 東洋経済online】
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【個人の意識・選択に踏み込む当局対応 若者は反発】
習近平国家主席は、さらなる取り組みが必要との認識を示しています。

****中国少子化対策、さらなる取り組み必要=習国家主席****
中国の習近平国家主席は、出生率の低下と人口規模の縮小を食い止めるためにさらなる取り組みが必要との認識を示した。国営新華社通信が15日に報じた。

16日に中国共産党の機関誌に掲載される記事の中で、習氏は人口動態を改善するために、人口と生殖に関する法制度を強化すべきと指摘した。

中国の出生率は昨年、過去最低を記録し、人口規模でインドに抜かれた。高齢化は中国の年金制度に負担をかけており、2015年に「一人っ子政策」を撤廃したものの、出生率を高めるのに苦慮している。

習氏は長期的にバランスの取れた人口増加を促進するために、出生支援政策を確立・改善し、労働力供給を増やすために、人材育成を強化する必要があるとの見解を示した。

さらに、「人口の安全保障」を確保するために、人口と経済、資源の間の調整も改善すべきと訴えた。【2024年11月15日 ロイター】
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出産・育児補助に関する制度的な対応の面では中国も日本もそう大きな差異はありませんが、「一人っ子政策」を国民に強制したような国家ですから、少子化対策においても、さすがに「強制」とはいきませんが、個人の意識・選択にかなり踏み込んだ政策をとる体質があります。

中国は低迷する出生率を押し上げるため、大学に対し結婚、恋愛、出産、家族に対する肯定的な考え方を強調する「愛の教育」を提供するよう促しているとも。【2024年11月15日 ロイター】

そうした意識変革のモデルタウンみたいなものが湖南省長沙市にあるとか。

****「中国式の恐怖」国から“押しつけられる”結婚と出産 著しい少子化を背景に…****
「これは中国式の恐怖だ」中国で最近、作られた結婚を推奨する施設に、SNSで寄せられたコメントだ。どうして結婚が恐怖なのだろうか。施設を取材すると、見えてきたのはトップダウンで結婚や出産を強烈に勧める強引な施策の実態だった。

■“愛が出会う街”の目的は…
2024年11月、中国南部の湖南省長沙市を訪れると、まず目についたのは商店街の入り口に掲げられた「愛がこの街と出会う」という大きな看板だ。さらに、ハートや花のモチーフと共に「長沙の恋は超甘い」などと、見ていて恥ずかしくなるようなメッセージが並ぶ。

これらの飾り付けの目的は、若者の結婚や出産を後押しすること。地元政府らが整備し「婚育文化街」と名づけられたこの街だが、訪れる人の姿はまばらだった。

■「結婚学校」の過激な主張に冷ややかな若者
特に目玉とされていたのが「結婚学校」と呼ばれる、若者向けに結婚や出産にまつわる情報を発信する施設だ。日本のメディアとして初めて内部を取材すると、さっそく出迎えてくれたスタッフは「前向きに報道してほしい。国が重視する重要な宣伝だ」と口にした。

その言葉を裏付けるように、施設に入るとすぐ習近平国家主席による“重要記述”と題した文章が掲げられていた。人口を増やすことの重要性を説いた上で、国の政策として「子づくりの社会的価値を尊重する」「年齢に応じた結婚と子育てを推奨する」などの言葉と列挙されている。

奥へ進むと、国の政策に関するクイズや主張が並んでいた。「20代は精子と卵子の黄金活躍期だ。この年齢で生まれた子供は他の段階より脳や体の発育が一層、優れている」「高齢化と少子化が加速しているので、国は3人産むことを提唱している」などと主張していて、結婚の素晴らしさを説く訳ではなく、早く子供を産むよう強く促す展示が続いていた。

長沙市民はこうした取り組みに冷ややかだ。ある30代の女性は結婚を推奨する主張自体は認めつつも、「少子化を女性だけの責任にしようとしている」と反発した。また10代の女性は「ここに結婚学校があると、みんな早く結婚しろという意味合いが出て逆効果だ。気分が悪くなる」と不快感をあらわにした。

施設を紹介したSNSにも批判が殺到し、「これは中国式の恐怖だ」などのコメントが寄せられた。取材を終え私たちが施設を去る際にもスタッフが「SNSで批判されているから顔は隠してほしい」と申し出るなど、彼らもこの取り組みが市民から支持されていないことを自覚しているようだった。

■背景には著しい“少子化”が…
どうしてこのような“押しつけがましい”政策が行われているのか。背景には、中国で深刻な「結婚件数の減少」と「出生率の低下」がある。

中国・民政省が発表した2024年1月から9月の結婚件数は約475万組と、前年の同じ時期より100万組近く減少し、初めて500万組を割って史上最低になった。さらに去年生まれた子供の数は902万人と、7年間で約半分にまで落ち込んだ。2016年に「一人っ子政策」を撤廃した後も少子化に歯止めはかからず、「子供を増やすこと」が国家目標になっているのだ。

習主席は「若者の恋愛や結婚、出産、家族観への指導を強化する」よう指示していて、それを受けた地元政府などが「結婚学校」などの取り組みを進めている。

「結婚学校」が作られた長沙市以外に、北京市内の公園でも「適切な年齢で結婚し子育てをしよう」と呼びかける看板が掲げられ、その下には家族の人形が並んでいる。そこにいる子供の人形の数は、国が提唱する「3人」だった。街中にある小さな公園にいたるまで、習主席の号令実現に向けたスローガンを人々にすり込むための場になっている。

■「個人の意思が尊重されるべきだ」
しかし、結婚や出産をめぐる問題を中国の若者に聞くと、聞こえてきたのは様々な“圧力”だった。「結納金が高い」「経済不況だけど教育費が高い。子供を良い学校に入れなければ競争を勝ち抜けないから仕方ない」など、金銭面を心配する声が聞かれた。

一方、複数の女性が口にしたのは、結婚や出産に対して個人の考えがないがしろにされているという不満だった。ある10代の女性は「自分が楽しいと思えれば結婚する。人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」と話した。

妊娠中の女性にも話を聞くと、彼女は少し考え込んだ末にきっぱりと答えた。
「これは個人の意思の問題だ。国の政策が良いか悪いかは分からない。でも、人々の結婚や出産への考え方も環境もそれぞれだから、もっと個人の意思を尊重すべきだ」【1月5日 日テレNEWS】
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習近平氏も「人それぞれ自分の生き方がある。他人から考え方を強制されるべきではない」といった意識が強まる国民を相手にして、昔みたいな共産党的手法は難しくなっています。この少子化問題に限らず。

****中国、トップダウンの少子化対策に限界 若者は冷ややかな反応****
中国中南部の都市・長沙で開催されたブライダル産業フェアで、鮮やかなピンクのネオンサインが「子どもは3人がベスト」と語りかける。来場者には婚活のヒントも配布されるし、男性が腹部に装置を装着して陣痛の痛みを疑似体験することもできる。

こうした結婚をテーマにしたイベントが行われる背景には、中国が人口減少に歯止めをかけるべく結婚や出産の推進を試みているという事情がある。

だが、来場者は少ない。時代に逆行している、女性軽視である、むしろ結婚への意欲を削いでいるという批判も出ており、政府の狙いが裏目に出た形だ。

ソーシャルメディアのユーザーからは、「家事って最高」「子育てに最適」「宿題を教えるのに最適」といったイベントでのスローガンは、固定的なジェンダー観を補強するものだという声が上がる。

中国の短文投稿サイト微博(ウェイボ)で「Jianguo」というハンドルネームを名乗るユーザーは、「どれも女性に向けたスローガンだ。やるべきことは家事の分担のはずなのに」と投稿した。【2024年11月9日 ロイター】
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中国  政治体制などネガティブな面はともかく、新技術の開発・利用は貪欲なまでに加速

2025-01-01 23:45:42 | 中国


(【1月1日 新華社】中国山東省にある泰山の山道で12月30日 物資輸送やごみ収集・運搬について行われた、ロボット犬を使った2回目のテスト 真ん中が産業用 両脇の赤い小さいものが消費者向け 頭なしは不気味なので、かわいい頭をつけたら?)

【社会不安の拡散に神経をつかう中国当局】
中国では昨年、無差別に市民らを殺傷する事件が相次いで発生しました。
その中には6月に中国東部 江蘇省の蘇州で起きた、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われた事件、9月に南部の深センで日本人学校に通う男子児童が男に刃物で襲われ死亡した事件も含まれています。

それらの背景については、単に反日感情というだけでなく、経済不調や政治的閉塞感による社会不安などもあげられていますが、そういう話に繋がっていくと社会の安定を第一とする政権にとっては由々しき事態でもあり、当局は影響が拡散しないように幕引きを急いでいます。

****また“スピード判決” 中国・広東省珠海市で先月発生した35人死亡の暴走事件 男に死刑判決****
中国南部の広東省珠海市で先月、運動中の市民らに車が突っ込み35人が死亡した事件で、中国の裁判所は運転していた男に死刑を言い渡しました。

先月11日、広東省珠海市の体育施設の周辺で、車が運動中の市民らを次々とはね、35人が死亡、43人が負傷し、運転していた樊維秋被告が、その場で身柄を拘束されました。

中国の国営メディアによりますと、裁判所は動機について、樊被告が離婚による財産分与の結果に不満を抱いたことだと認定。「残忍な犯行で深刻な結果をもたらし、社会に及ぼした危害も大きい」として死刑を言い渡しました。

この事件をうけ、習近平国家主席は事件の真相を解明するとともに、犯人を厳しく処罰するよう「重要指示」を出していました。

中国では無差別に市民らを殺傷する事件が相次いで発生しましたが、先月19日に湖南省で車が児童らをはねた事件も、発生からわずか1か月程度で執行猶予付きの死刑判決が言い渡されています。【12月27日 TBS NEWS DIG】
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人が多く集まる正月のイベントにも異変が。

****中国各地で相次いで年末年始イベントが中止に 無差別襲撃事件の再発警戒か****
中国各地で大勢の人が集まる年末年始のイベントなどが相次いで中止されている。中国当局が、各地で頻発している無差別襲撃事件を警戒し、再発を防ごうと躍起になっているとみられる。

中国南部、広東省広州市の地元当局は今月24日、人気観光地の広州タワーなどの公共の場で、クリスマスや年越しの際に人が集まるイベントを開催しないと通知した。理由は明らかにしていないが、11月に同省珠海市で35人が死亡した自動車暴走事件が起きている。

珠海市では来年1月に開催予定だったマラソン大会の中止が12月24日に決まった。元々は8日に開催予定だったが、事件後に1月12日に延期されていた。

江蘇省南京市や湖南省長沙市でも年越しカウントダウンイベントを行わないことが決まった。11月に江蘇省無錫市の専門学校で8人が死亡した切り付け事件が、湖南省常徳市の小学校前で多数の児童らがはねられて負傷した事件が起きた。

中国国営新華社通信は25日、中国共産党と政府が2025年の元日と春節(旧正月)に関する通知で、繁華街や観光地、公共交通機関などで安全対策を強化し、「極端な事件の発生を厳重に防ぐ」ことなどを求めたと伝えた。【12月30日 産経】
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「心の相談ホットライン」の整備拡充といったものも。

****中国、全国統一の心の相談ホットライン開設へ****
中国国家衛生健康委員会は25日、心の問題や悩みがある時にメンタルヘルスに関する相談ができるホットラインの開設を発表した。全国統一の電話番号は12356。2025年5月1日午前0時までに各地の既存ホットラインを一本化する。【12月26日 新華社】
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中国のような政治体制の国で、悩み事を相談して個人情報が保護されるのか・・・個人的には懸念されますが。

【驚異的な新技術の進歩 今後様変わりする世界最大の温室効果ガス排出国】
中国の政治において民主化を求める人々への過酷な人権侵害があること、経済は相変わらず不安要素を抱えており、今年のトランプ大統領の対応次第では大荒れになることも予想されること、社会・人心にも上記のような不安定さが漂っていること・・・等々、中国のネガティブな面をあげればきりがありません。

しかし、今回取り上げたかったのはそういう話ではなく、新たな技術への対応といった面では貪欲なまでに先へ先へと進もうとしていること、停滞感が強い日本からすると驚異的にも思えるといったあたりの話です。(極めてスピード感が強い社会なので、その進展から取り残された人々では不安感も・・・と言う話もあるのかも)

従来から中国は石炭火力が多く世界最大の温室効果ガス排出国として批判もされていますが、一方で、再生可能エネルギー分野でも世界トップの変化を続けています。

****中国、再生可能エネルギー利用が急拡大 2050年には88%に****
温室効果ガス(GHG)を世界で最も排出しているのは中国(33%)で、次いで米国(15%)だ。ほんの数年前には、中国の温室効果ガス排出量が増え続け、さらには多くの石炭火力発電所を新設する計画であるのに、米国が自国の排出量を数%削減したところで何になるのかという議論があった。中国がまず自国の排出量を減らすべきではないか。

そうした主張に対して中国は、温室効果ガス排出は産業の成長によるもので、米国に追いつこうとしていただけと答えていた。そして、温室効果ガス排出を正味ゼロにする取り組みについて、2015年のパリ協定に基づいて多くの国々が2050年までの達成を約束したが、中国は2060年としたことに対して西側諸国から批判があった。

まるで中国が取り組みを先延ばししているかのようだった。だが今、状況は急速に変わりつつある。

中国は180度転換し始めている。国際エネルギーコンサルのDNVは中国のエネルギー転換計画を分析している。それによると、DNVは中国の発電総量における再生可能エネルギー電力の割合は現在の30%から2035年までに55%、2050年には88%に拡大すると予測。

2022年に世界で設置された太陽光と風力の発電施設の約40%が中国のものだった。中国では2050年まで再エネ施設設置の動きが続くとDNVは見込んでいる。

電源構成に関する中国の計画と進捗には大きな変化が見られる。中国の一次エネルギー供給は、2030年から2050年にかけて太陽光と風力の割合が7%から41%へと大幅に増える。同期間に化石燃料は83%から44%へとほぼ半減する。

2030年には発電総量の51%強と見込まれる再生可能エネルギーによる電力は、2050年には78%に跳ね上がる。同期間に、化石燃料による電力は46%から24%へとこちらも半減する。電源構成と電力どちらでも石炭と石油は激減するが、天然ガスはほぼ変わらない。

これは米国に影響を及ぼす。米国は電気自動車(EV)の浸透で予想される原油の減少を相殺するのに、中国への輸出に期待することはできない。

中国のエネルギー供給量は2030年がピーク
DNVは2030年から2050年にかけて中国のエネルギー供給は20%減少すると予測している。これはまったく予想されていなかったことだ。

DNVの見立てでは、この減少は脱炭素化が飛躍的に進展し、エネルギー効率も改善、そして人口が1億人減少するためだ。2050年までに中国は世界で最も電化が進んだ国のひとつになると見込まれている。(後略)【2024年5月1日 Forbes】
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****中国の太陽光と風力建設、圧倒的1位…世界の容量の3分の2****
全世界で進められている太陽光発電や風力発電の設備の建設の3分の2近くが、中国で作られたものだ。
 
米国のシンクタンク「グローバル・エナジー・モニター(GEM)」が11日に公開した中国に関する報告書によると、中国は先月の時点で太陽光180ギガワット(GW)、風力159ギガワットの計339ギガワットの発電設備を建設中だ。

これは全世界の太陽光発電と風力発電の設備建設総量(約530ギガワット)の64%に達する規模だ。世界2位の米国(40ギガワット)の8倍以上で、3位のブラジル(13ギガワット)、4位の英国(10ギガワット)、5位のスペイン(9ギガワット)などを圧倒する。(後略)【2024年7月13日 ハンギョレ】
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CO2排出量実質ゼロを目指すうえで、水素エネルギーの最も理想的な応用形態とされる「グリーン水素」に関しても、進展が加速しています。

****中国の「グリーン水素」産業、発展加速****
再生可能エネルギーを使って水を電気分解して生産し、全過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない「グリーン水素」は、水素エネルギーの最も理想的な応用形態とされる。

グリーン水素はCO2排出量実質ゼロの実現に向けた将来のエネルギーシステムの重要な柱となり、中国でここ数年、発展が加速している。

統計によると、中国で現在、建設計画中のグリーン水素事業は400件を超え、計画生産能力は年間800万トン以上に上る。水素エネルギー企業は資金調達を加速させ、水素生産装置のコストは低下しつつあり、水素エネルギーの応用シーンも拡大している。

世界で開発計画中のグリーン水素生産能力のうち、約3分の1は過去1年の増加分である。中国が投資を決定したグリーン水素事業の生産能力は、世界全体の計画生産能力の40%以上を占める。国際エネルギー機関(IEA)は今年10月に発表した報告書で、クリーンエネルギー生産装置の大規模製造で強みを持つ中国は、世界の水電解装置の生産能力のうち、60%を保有していると指摘した。(後略)【12月26日 新華社】
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宇宙開発においても、ロケット打ち上げ失敗が目立った日本に対し、中国はこの分野でも将来的な月面基地建も視野に、開発を加速させています。

****中国、無人補給線「天舟8号」の打ち上げとドッキングに成功***** 
中国航天科技集団有限公司(CASC)は日本時間2024年11月16日に、長征7号ロケットによる無人補給船「天舟8号」の打ち上げを実施しました。CASCは天舟8号が予定の軌道へ投入した後、中国宇宙ステーション「天宮」へのドッキングに成功したことを報告しています。

CASCによると、天舟8号は4つの貯蔵タンクを持つ改良型の全密封構造を採用しており、軌道上での滞在に必要な消耗品、推進剤、実験装置、祝日を祝うアイテムなど、約6トンの物資を搭載したといいます。

また、月の土壌(レゴリス)を再現したレンガのサンプルも搭載されており、軌道上での船外曝露実験を実施する予定となっています。この実験データは、将来予定されている月面基地建設に役立てられるとのことです。【2024年11月16日 sorae】
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【停滞感が強い日本に比べ、進展が加速する中国技術】
人類の将来を大きく左右するとされるAI。問題も多い技術ですが、日本では例によって議論ばかりで、実際の取組がほとんど進みませんが、まずはやってみよう・・・というのが中国流。

****中国各地でAIの応用加速、スマート教育市場を活性化****
中国では教育分野における人工知能(AI)の応用が加速している。

中国の音声認識大手、科大訊飛(アイフライテック)の周佳峰(しゅう・かほう)副総裁はこのほどインタビューに応じ、同社の大規模AIモデルはすでに5万校以上の学校で試験的に導入され、スマート教育プラットフォーム「智慧課堂(スマート教室)」の利用者は全国1400万人の教師と学生に及ぶと明らかにした。
 
地方各地も教育分野におけるAIの応用を積極的に推進している。北京市は先ごろ、「北京市教育分野のAI応用活動プラン」を発表し、2025年までに100校をAI応用シーンのベンチマーク校とする目標を打ち出した。

河南省も「河南省『AI+(プラス)』推進行動計画」で、医療、教育など重点業界のAI応用の実証事業を行い、スマート化教育、スマート教育管理、スマート教育評価などの応用シーンを重点的に発展する方針を示した。 

政策が追い風となる中、AIと教育の融合は発展の勢いが盛んになりつつある。(後略)【12月9日 新華社】

かつては、ロボットと言えば日本のお家芸みたいなところもありましたが・・・・

****次のデブリ採取着手は2025年春 アーム使用見送りで「釣り竿」ロボット使用<福島第一原発>****
福島第一原子力発電所2号機での燃料デブリの試験的取り出しをめぐり、国と東京電力は12月26日、「2025年春頃に、前回と同じ釣り竿型ロボットで2回目の採取に着手する方針」と説明した。

福島第一原発2号機では11月7日、事故後初めてとなる燃料デブリの試験的取り出しが完了し、現在、茨城県の研究施設でX線などを使った分析が行われている。

試験的取り出しには、比較的狭い空間を通過できる「釣り竿型」のロボットが使用されたが、東京電力はこれまで、それよりも大型の「ロボットアーム」での採取に着手したい考えも示していた。

一方、ロボットアームについて東京電力は、経年劣化で一部のケーブルが断線しそれを交換したことを明らかにしていて、点検や修復の時間が今後の計画に与える影響は見通せていない。

1回目の採取を終えた段階で、原子力規制委員会などからは「釣り竿型」での採取継続を提案されていて、東京電力は「ロボットアームの前に釣り竿での採取を継続する可能性もある」としていた。

さらに12月20日、原発近隣の市町村や有識者で構成される「福島県原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」にて、市町村の担当者などに対し、「釣り竿型での2回目の採取も念頭に置いて計画を立てているところ」と説明した。

有識者からは「ロボットアームの計画が見えない中で、釣り竿型で少しでも状況がつかめるのであれば効果的に進めてほしい」などと声が上がっていた。【12月26日 福島テレビ】
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11月7日、事故後初めてとなる燃料デブリの試験的取り出しが完了・・・とは言っても、総量で880トンにのぼると推定される核燃料デブリのうち取り出せたのは大きさ5ミリ以下の数グラム程度。

すでに事故から13年以上が経過しています。
素人には理解できない困難な作業なんでしょうが、それにしても「遅い」というのが正直な感想。

****中国ロボット産業、政策と市場の「両輪駆動」で規模拡大進む*****
中国の地方各地でロボット産業の発展に関する政策が相次いで打ち出され、ロボットの応用が加速している。

浙江省杭州市はこのほど、「杭州市人型ロボット産業発展計画(2024〜29年)」を発表した。重慶市、江蘇省南京市、四川省天府新区などもロボット産業の発展促進に関する政策を発表し、それぞれの地域の産業発展の現状と優位性を踏まえ、ロボット産業のさらなる発展を推進している。

中国の市場調査会社、賽迪顧問(CCIDコンサルティング)の先進製造業研究センターの高超(こう・ちょう)副総経理は、第15次5カ年規画(十五五、2026〜30年)期間中、中国ロボット産業の規模が4千億元(1元=約22円)前後にまで拡大するとの見通しを示した。中でも産業用ロボットの普及率は大きく向上し、30年には市場規模が1052億6千万元に上ると予測した。

高氏によると、中国ロボット産業の企業数は23年時点で8万社近くに上り、うち上場会社は100社以上、ハイテク企業は4千社を超える。今後の展望としては、ロボット技術と人工知能(AI)、新素材、新型センサーなど最先端技術の融合が一層進むとみられる。【12月26日 新華社】
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下記の記事の動画などは笑えます。笑えますが、こういう試みの積み重ねで“ロボット技術と人工知能(AI)、新素材、新型センサーなど最先端技術の融合”が進んでいくのでしょう。

****中国・泰山でロボット犬のテスト再び 新たな実用例を探求****
中国山東省泰安市にある泰山の中天門付近の山道で12月30日、山内の施設管理を担う泰山文旅集団物業管理が物資輸送やごみ収集・運搬について、ロボット犬を使った2回目のテストを行った。

研究開発部門は昨年10月に行ったテスト結果をもとに、ロボット犬の知覚と運動制御のアルゴリズムを改良し、積載能力をさらに向上させた。

今回のテスト期間は3カ月。より長いサイクル、さまざまな気温と環境変化の下で多くのデータを収集し、ロボット犬の機能の改善につなげる。

前回のテストに使用された産業用のロボット犬B2に加え、今回は消費者向けロボット犬Go2も2匹導入された。2匹は環境保護に配慮した観光や安全な山巡りのための音声ガイドを流すだけでなく、観光客とさまざまな交流ができる。同社は2匹の投入で、文化観光分野におけるロボット技術の多様な実用例を探求するとしている。

泰山には毎年、国内外から100万人に上る観光客が訪れており、ごみの量も増加しつつある。泰山のごみ収集・運搬を担う泰山文旅集団物業は、科学技術を駆使した環境衛生業務の在り方を積極的に模索し、ロボット犬の運用により山岳型風景区のごみ収集・運搬という難題の新たな解決策を見出そうとしている。【1月1日 新華社】
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福島のデブリ取り出しと全くレベルが異なるにしても、両国の勢いの違いを感じます。

この手の話題は、他にも枚挙にいとまがありません。
“夜間運行の自動運転ミニバス路線が開通 中国・広州市”【12月30日 新華社】
“高速鉄道、時速400キロ営業へ 中国、世界最速車両を公開”【12月30日 時事】

中国の政治体制には全く同意しません・・・・が、その技術進展は目を見張るものがあります。
おそらく、アメリカを抜いて、世界を技術的にリードする立場にもなるのでは。そしてその技術は軍事面でも活用されるでしょう。

日本もそのことを充分に認識しておく必要があります。政治的に日中が相容れないということを前提にしたうえで、互いにメリットが大きい“付き合い方”もあるのでは。

新年早々、中国嫌いの人たちから反感を買う話だったかな・・・。
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マカオ返還25周年  一国二制度の「優等生」 激しい抵抗を生んだ香港との違いは?

2024-12-21 23:30:28 | 中国

(中国マカオ特別行政区で19日、祖国復帰25周年を祝う文芸公演が開かれた。【12月20日 新華社】)

【行政長官に初の本土出身者 本土との融合の象徴、「横琴島」開発】
*****マカオ返還25周年式典に習近平氏出席 「1国2制度」の成果強調****
マカオがポルトガルから中国に返還されて25年となった20日、マカオで記念式典が開かれ、中国の習近平国家主席が出席した。新華社通信によると、習氏は演説で「返還後にマカオが得た輝かしい成果は、『1国2制度』が強国建設と民族復興の偉業に資する良い制度だと示している」と述べ、中国が主導するマカオ統治の正当性を強調した。

1887年にポルトガルに割譲されたマカオは1999年12月20日に中国に返還され、特別行政区となった。英国から返還された香港同様、1国2制度を導入して50年間は高度な自治が約束された。

だが近年、香港とともに、中国による統制強化が進む。2021年の立法会(議会)選挙では民主派の立候補が禁じられたが、マカオ社会に民主主義を求める機運は乏しい。

習氏は演説で、香港やマカオの統治について「『1国』を基本として『2制度』の利点を生かすことや、高いレベルの安全を維持して質の高い発展を進めることが必要だ」と主張した。

20日にはマカオ政府トップの行政長官に岑浩輝(しんこうき)氏(62)が就任した。岑氏は中国南部・広東省出身で、マカオ終審法院院長(最高裁長官)を務めた。

返還後のこれまでの行政長官3人はいずれもマカオ生まれで、中国本土出身者は初めて。任期は5年。10月の選挙では他に立候補はなく、各界の代表で構成する選挙委員400人のうち394人の票を得た。

マカオメディアによると、岑氏は就任式で習氏に向かって宣誓し、「偉大な祖国の後ろ盾と住民の団結で、マカオという宝石はさらに輝けると信じる」と述べた。カジノ関連産業に依存する経済の改革が課題となる。”【12月20日 毎日】
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初の中国本土出身の行政長官をいただき、「新たな段階」に向かって中国との一体化が進むと思われます。

****マカオ返還から25年、一国二制度「新たな段階」に…習近平主席は強国建設への貢献を要求****
(中略)習近平国家主席が記念式典で演説し、マカオに適用される一国二制度は「新たな段階に入った」として強国建設への貢献を求めた。マカオは返還後50年は高度な自治を認められているが、その折り返しを迎える中、習政権は中国本土との一体化を加速させている。

習近平主席は「経済建設」に重点
習氏は一国二制度について、あくまでも「一国が原則」とし、「国家の主権、安全、発展の利益が何よりも優先される。中央(政府)の管轄権はいかなる時も揺るがない」と強調した。

習政権が米欧とは異なる独自の発展を目指す「中国式現代化」を推進していることにも触れ、「マカオの一国二制度の実践も新たな段階に入った」として発展への貢献を要求。マカオ政府に経済改革などを求めた。

習氏は、2019年のマカオ返還20年の記念式典の演説では、香港で反政府抗議運動が起きたことを受けて「国家安全」を強調したが、今回は中国の景気減速を受け、「経済建設」に重点を置いた模様だ。

行政長官に初の本土出身者
習氏は演説で「マカオ人によるマカオ統治」に言及したが、20日にマカオ政府トップに就任した岑浩輝しんこうき・行政長官は広東省出身で、初めて本土出身の行政長官となった。10月の行政長官選挙で岑氏が唯一の候補者だったのも、習政権の意向があった可能性がある。

マカオ経済はカジノ産業に依存し、コロナ禍で大打撃を受けた。改革の必要性は長年指摘されてきたが、これまでの行政長官は地元財界出身だったことから、「痛みを伴う改革ができなかった」との指摘もある。

習氏は、マカオ終審法院(最高裁)院長を25年間務め、地元財界との縁が薄い岑氏に「経済の適度な多元化」の実現を期待するが、「マカオ人による統治は崩れた」(外交筋)との声も上がる。

本土との融合の象徴、「横琴島」開発
演説で習氏がマカオと本土の融合を図る象徴として挙げたのが、マカオの西隣にある中国広東省珠海の横琴島の開発だ。21年、マカオと広東省が共同開発する区域に格上げされた。

開発の余地が限られる狭いマカオの3倍の面積がある横琴島で発展を促したい考えで、島内には昨年秋、マカオ住民のための27棟の高層マンションが完成した。

しかし、住民からは「マカオとの行き来が不便」といった声も上がり、全4000戸のうち売約済みは3割程度にとどまる。科学技術など先端企業の誘致を目指す産業区も人影はまばらだ。マカオ住民の意向を無視した、本土との「融合」ありきの開発が突き進んでいる。【12月21日 読売】
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【マカオってどんなところ?】
そもそも「マカオ」というのはどういうところなのか・・・国際金融都市で世界有数の観光都市でもある香港は馴染みも深く、また、これまでも民主化や中国当局の弾圧などで頻繁に取り上げられていますが、マカオというと「カジノがあるところ」ぐらいのイメージしかありません。 

ある意味、パレスチナ・スーダン・コンゴより馴染みがない・・・。アジア方面を頻繁に観光していますが、これまでマカオに行こうと思った事は一度もありません。「マカオって、カジノがある中国なんでしょ」って。

****「アジアのラスベガス」、マカオの住民の暮らしぶりとは****
マカオは中国の特別行政区(SAR)で、香港と比較されることが多い。また大中華圏でギャンブルが合法である唯一の場所であり、「アジアのラスベガス」として知られる。人口は香港の700万人に対し、わずか60万人ほどだ。

マカオは、北のマカオ本島と南のタイパ島の二つの島で構成されている。かつては2島間を船で移動していたが、1972年に二つの島を結ぶ最初の橋が完成した。現在は3本の橋が架かっており、4本目も建設中だ。

わずか40平方キロメートルの世界
世界の人々は、マカオといえばギャンブルを思い浮かべるかもしれないが、マカオの住民は必ずしもそうではない。
マカオで最も古い家族の出身で、8代目のマカオ人であるマリナ・フェルナンデスさんは、ポルトガル語と中国語が混ざったパトゥア語を話す。

フェルナンデスさんによると、地元の住民はめったにカジノには行かず、ギャンブルをしにカジノに行く人はごくわずかだという。また公務員はカジノへの立ち入りを禁止されており、ギャンブルは地元の住民向けというより、観光客向けの娯楽だとフェルナンデスさんは言う。

マカオの生活費の上昇により、カジノや高級店の従業員の中には、マカオに隣接する比較的物価の安い中国本土の都市、珠海(しゅかい)から通勤する人が増えており、それに伴い、広東語ではなく標準中国語を話す従業員も増えている。

マカオは特別行政区であるため、珠海・マカオ間の往来には国境検問所を通過する必要があるが、中国の身分証を保有するマカオの永住者と市民は専用のレーンがあり、審査が迅速に行われる。

2021年のマカオの国勢調査によると、マカオの総人口のおよそ6分の5は中国系で、ポルトガル系はわずか数千人しかいない。

ポルトガル語は現在もマカオの公用語であり、標識や政府文書はポルトガル語の使用が義務付けられている。しかし、多くの地元住民は、特に1999年のマカオ返還(マカオの主権がポルトガルから中国に返還された)に先立ち、ポルトガル語ではなく英語や標準中国語を学ぶ選択をした。

インフラの整備が課題
タイパ島東部にあるマカオの空港は、小規模でターミナルも一つしかないが、近代的で、空港内の移動も容易だ。周辺地域からのフライトが大半で、シンガポール、ジャカルタ、ハノイ、バンコク、北京などへの定期便があるが、北米や欧州への長距離便に乗るには近くの香港、深圳、広州に行く必要がある。

現在、中国は香港、マカオ、広東省の9都市を結ぶグレーターベイエリア(GBA)の接続・促進を目的とした多くのプロジェクトを進めており、2018年に完成した、香港・珠海・マカオを結ぶ世界最長の巨大な海上橋、港珠澳(こうじゅおう)大橋もその一つだ。

一方、マカオ内部のインフラは十分に整備されているとは言い難い。車を持たない地元住民は主に公共バスを利用している。

香港には効率的で、よく整備された地下鉄があるが、19年に開業したマカオ唯一の鉄道、マカオLRTは今のところ一路線しかない。また米配車サービス大手ウーバーは17年にマカオでのサービスを中止しており、市内を走るタクシーは現金払いのみだ。

外国人に厳しい労働政策
マカオはその規模の小ささゆえに、外国人に対して厳しい労働政策を実施している。

リスボン出身のリカルド・バロカスさんは、13年に欧州からマカオに移住して以来、さまざまな職に就いてきた。
バロカスさんのようにマカオに移住した外国人の大半は、マカオで7年間居住、労働、納税をした後に永住権を取得する資格を得る。永住権があれば、労働ビザやスポンサー企業がなくてもマカオに居住可能だ。

マカオ政府発行の身分証明書(IDカード)を持つ居住者は、特別行政区の医療サービスを利用できる。またマカオ市民と永住者には、特別行政区政府から年間1万パタカ(約20万円)の手当が支給される。

しかし、フィリピンなど、マカオよりも貧しい地域から来た労働者の多くには別のルールが適用される。多くのフィリピン人は、家政婦や警備員として働くためにマカオにやって来るが、彼らは地元住民と結婚しない限り、永住権や市民権の資格を得ることはできない。(中略)

バロカスさんは「本音を言うと、マカオに来た人たちにはぜひ、カジノから出てきて、街の中を探索してもらいたい」と述べ、「マカオには美しい美術館や街並みなど、探索すべき場所が山ほどある」と付け加えた。【7月6日 CNN】
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【香港との違いは? アイデンティティーの差か】
香港と同じような「一国二制度」を導入しながら、香港が激しい民主化運動を経験した(今では完全に封じ込まれましたが)のに対し、“一国二制度の優等生”マカオについては、そのような話をほとんど聞かない。その差はどうして?

下記記事は5年前の香港で民主化運動が行われていた頃のもの。

****香港と同じ一国二制度 マカオではなぜ反中デモが起きないのか**** 
マカオを訪問中の中国の習近平国家主席は19日、夕食会で演説し、中国への返還20周年を迎えるマカオが「愛国」を「民主、法治、人権、自由」より優先したと称賛した。

デモが続く香港を牽制した形だが、香港と同じ一国二制度を享受するマカオでなぜ「愛国」が進み、反中デモが起きないのか。一国二制度の優等生が誕生した背景を探った。

マカオと香港の違いはまず、それぞれの旧宗主国であるポルトガルと英国によって形成された。

マカオでは1966年に中国系住民による大規模な暴動が発生、中国系住民側に死者が出た。反発した中国政府は人民解放軍を国境に集結させ、謝罪と賠償を要求。譲歩を余儀なくされたポルトガル政府とマカオ政庁の権威は失墜した。

マカオ立法会(議会)の民主派議員、蘇嘉豪(そ・かごう)氏(28)は「以後、マカオは親中派に牛耳られた。返還前に英国が民主化を進めた香港とは違う」と話す。

こうした歴史的背景に加え、返還前夜の状況もマカオの中国化を加速させた。

マカオでは99年の返還が近づくにつれ、中国の体制下に入る前にカジノの利権を確保しようと暴力団の抗争が激化、治安が極度に悪化した。このため返還と同時に駐留を開始する人民解放軍に、治安回復への期待を寄せるマカオ市民が多かった。進駐を拍手で迎えた市民もいたほどだ。

「香港の若者が今、抗議の声を上げているのは閉塞感があるからだ。マカオの若者とは異なる」と経済的背景の違いを強調するのは立法会の民主派議員、区錦新(く・きんしん)氏(62)である。

返還後、カジノ市場を開放したマカオは、昨年までの19年間で域内総生産(GDP)が9倍に激増。平均給与も3倍以上に増えた。

「マカオの経済発展の最大の受益者は若者たちだ。生きる権利が脅かされていると感じている香港の若者たちとは異なる」という。

一方、マカオ大社会科学学院の楊鳴宇(よう・めいう)准教授(32)は、アイデンティティーの問題を指摘する。
「香港では自らを香港人と考える人が増えている。香港映画、香港音楽といった香港人意識を醸成するような文化もあるが、マカオにはない。自らを中国人と考える人が多い」

マカオには、マカオ人として結集する土壌がまだないというわけだ。

国家分裂や反乱の扇動、政権転覆を禁じた「国家安全法」(2009年制定、香港は未整備)がマカオ市民への無言の圧力となり、「自己規制が進んでいる」(蘇氏)との見方もある。

これらの違いは政治状況にも反映されている。
立法会における民主派議員は、香港で定数70のうち23人を占めているが、マカオでは定数33のうち4人にとどまっている。

ただ、マカオでデモが起きないわけではない。14年5月には、政府高官に巨額の退職金と年金を支給する法案への抗議デモが行われ、主催者発表で2万人が参加。法案を撤回させた。

「マカオ市民は香港のように自由や民主ではなく、政府の悪政に立ち上がる。黙っているわけではない」と蘇氏は話す。

こうした市民の声を政治に反映させようと、マカオの民主派は香港の民主派同様、行政長官選に普通選挙を導入するよう求める運動を続けている。【2019年12月19日 産経】
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旧宗主国の統治の違い、返還後の経済改善の度合い、返還後の政治体制の違い・・・などがあげられていますが、一番の違いはアイデンティティーの問題ではないでしょうか。

香港は国際金融都市、世界有数の観光都市として世界に胸をはれるものがあり、結果的に中国本土を「遅れた国」「民度の低い国」と見下すようなところもありました。中国と香港のネット社会で激しい罵り合いもありました。

そうした中で「香港人」としてのプライドやアイデンティティーも形成され、その政治的あらわれが中国的統治への拒否感・民主化運動でもありました。「自分たちは中国なしでもやっていける」という思いも。

一方のマカオにはカジノ以外にめぼしいものはなく、そのカジノも民衆には縁遠く、厄介なもの。中国の統治を受け入れるなかで生活は格段に向上・・・抗議が起こる土壌がなかったと言えます。

【香港 民主化運動の幕引き図る習近平政権】
しかし、民主化運動に挫折した香港も1周遅れでマカオと同じような軌跡に。
習近平政権は香港でも「仕上げ」にとりかかっています。

****「愛国者による統治」進める習近平政権、狙い通りの幕引き 香港民主派45人量刑****
香港で19日、45人の民主活動家に一斉に量刑が言い渡された。

罪となったのは民主主義に基づいて実施された予備選に関わったことで、香港国家安全維持法(国安法)による民主化運動の弾圧を象徴する判決だ。「愛国者治港(愛国者による香港統治)」を進める中国の習近平政権の狙い通りの幕引きとなった。

判決後に親指立て笑顔
「我愛香港(私は香港を愛している)。バイバイ!」。この日、法廷には45人の被告全員が出廷した。量刑の言い渡しが終わった後、著名な民主活動家で、禁錮4年8月の判決を受けた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(28)はこう叫んで、法廷を後にした。

黄氏は、国安法施行後も「中国の独裁政権に反対する」と公然と主張し続ける強硬派として知られた。予備選に出馬した民主活動家たちの中心的メンバーだった。

今回の裁判では刑の減軽などを図るため罪を認めたものの、他の被告のように情状酌量を求める文書を裁判所に提出することはなかった。

黄氏同様、予備選に出馬し、多くの市民から支持されたのが何桂藍氏(34)だ。ネットメディア「立場新聞」の元記者で、2019年の反香港政府・反中国共産党デモの最前線でネット中継を行い、若者たちから「立場姉ちゃん」と親しみを込めて呼ばれていた。

何氏は罪を認めず、法廷で起訴事実を争った。「香港人は、政権があらゆる面をコントロールする制度の下で生きることを望んでいない」などと主張、自らの情状酌量も求めなかった。

結果、この日の判決は禁錮7年という重刑となった。しかし何氏は言い渡しを受けた後、傍聴席に向かって親指を立てて笑顔を見せたという。

判決の影響、香港政府は考えるべき
香港では民主派が大量に検挙されて以降、選挙制度の見直しが進み、立法会選に民主派が出馬することさえ難しくなっている。愛国者、つまり香港よりも中国共産党を愛する親中派一色に染まってしまった観がある。

こうした中、量刑の言い渡しが行われた裁判所には19日朝、500人を超える市民が傍聴券を求めて詰めかけた。「法廷に入れなくても(45人を)応援する姿勢を示したい」と話す市民もいた。

民主派団体の元代表で、自身も無許可集会に参加した罪などで約1年半入獄した経験がある陳皓桓氏(28)は取材に対し、「今日の判決は予備選で投票した約61万人の市民に対する判決であり、市民への弾圧だ。判決の影響がどれだけ大きいのか香港政府は考えるべきだ」と語った。【11月19日 産経】
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中国の強靭・圧倒的な力はチベット・新疆を抑え、マカオ・香港を平らげ、残る目標は台湾
台湾では香港以上に「台湾人」としてのアイデンティティーが強く、香港のように本土の手足となって動く現地当局もありません。

中国にとって有効な方法は経済的つながりで揺さぶることでしょう。
台湾内で中国との経済的つながりを重視する勢力が増えれば、社会不安も増大。そうした揺れ動く状況で、親中国勢力の要請を受けたという形で軍事進攻・・・
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中国新疆の綿をめぐる米中対立で板挟みとなる企業 ユニクロも 

2024-12-06 22:50:42 | 中国

(新疆ウイグル自治区で 綿花を摘む労働者(ハミ市郊外、2010年11月3日)【21年4月12日 丸川知雄氏 Newsweek】)

【新疆ウイグル族対応をめぐる米中の対立 アメリカにとっては中国批判のカードにも】
中国新疆ウイグル自治区において、ウイグル族など少数民族への実質的収容所への大量移送などを含む中国当局の強権的同化政策が行われているとの批判はこれまでも取りあげてきたところです。

特にアメリカはこの人権侵害問題を対中国批判のカードとして利用していうる側面もあります。

****米、中国のウイグル弾圧非難 信教理由、1年間で1万人収監****
米国務省は26日、世界の信教の自由に関する2023年版報告書を発表した。中国政府がイスラム教徒の少数民族ウイグル族やチベット仏教徒らに対する弾圧を継続し、信教を理由に1年間で最大1万人以上を収監したと非難した。
 
ブリンケン国務長官は記者発表で、中国政府によるウイグル族への「ジェノサイド(民族大量虐殺)と人道に対する罪」を批判した。(後略)【6月27日 共同】
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また、新疆では徹底した監視が行われているとも報じられています。

****中国、ウイグル族の同化を加速 大規模暴動から15年、監視徹底****
中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチ市で少数民族ウイグル族による大規模暴動が起きてから5日で15年がたった。

習近平指導部は徹底した監視と取り締まりで治安を確保。脱イスラム教や中国語教育の強制でウイグル族の漢族社会への同化を加速させている。多くの住民は迫害を恐れ、不満を表すのも困難な状況だ。
 
指導部は経済振興が進んだと主張して統制を正当化。ただ欧米では人権抑圧を問題視する声が強い。ウイグル族に強制労働させているなどとの批判が絶えない。
 
2009年の暴動で激しい衝突があったウルムチ市の国際大バザールは、5日も武装警察などが厳重に警戒した。当局はモスク(イスラム教礼拝所)が共産党に不満を持つウイグル族の拠点になることを警戒。商店主は、10年代後半から「当局の圧力で大切な金曜日の集団礼拝に行けなくなった」と語った。
 
オーストラリアのシンクタンクは20年、ウイグル族など少数民族を収容する施設が自治区に380カ所以上あると報告。米国務省は21年、100万人以上が拘束されたと指摘した。【7月5日 共同】
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最近、取り上げられる機会が多いのがウイグル人への強制労働で、アメリカは22年6月に「ウイグル強制労働防止法」(UFLPA)を施行し、新疆での強制労働に関与しているとする企業への輸入禁止措置をとっています。

****米、新たに中国5社に輸入禁止措置 ウイグル強制労働関与で****
米政府は8日、新疆ウイグル自治区の少数民族の強制労働に関与し、人権を侵害しているとして、新たに中国企業5社からの輸入を禁止すると発表した。(中略)

指定企業はこれで70社を超え、綿衣料品や自動車部品、ビニール床材、太陽光パネルなど扱う企業が含まれる。

これに対し、在ワシントン中国大使館の報道官は「いわゆる『新疆での強制労働』は反中国勢力が拡散したひどい嘘であり、米国の政治家が新疆を不安定化し、中国の発展を阻止するための道具に過ぎない」と反発。「中国は中国企業の正当かつ合法的な権利と利益を今後もしっかりと保護する」と述べた。【8月9日 ロイター】
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上記記事にも中国側反論は下記のように。

****米国、新疆へのデマ製造に自国納税者の数百万ドル浪費****
中国北西部の新疆ウイグル自治区がまたにぎやかな観光シーズンを迎えている。(中略) 観光産業の活況は、新疆のエネルギッシュな社会・経済発展の一面にすぎない。

そんな新疆について荒唐無稽なデマをばらまいている国がある。米国だ。だが自国納税者の公金を使って激しい中傷キャンペーンを繰り広げても、その発展を止めることはできない。

コリン・パウエル元米国務長官の首席補佐官だったローレンス・ウィルカーソン氏は18年の講演で、新疆ウイグル自治区を利用して中国の不安定化を図ることを示唆した。これはワシントンの陰謀を暴露するものと広く受け止められている。

新疆の人々にとってはあまりにとっぴな計画だが、ワシントンは近年、中国封じ込めのための新疆利用に明らかに力を入れている。その最初の陰謀の一つが、この地区への狂ったような中傷キャンペーンだ。

強制労働、少数民族の弾圧、さらにはジェノサイド(民族大量虐殺)。根も葉もない告発は笑いぐさにすぎない。だがワシントンは見え透いた目的のため、これらの虚偽のストーリーに毎年途方もない額の税金を費やしてきた。

例えば、主に米議会から資金提供を受けている全米民主主義基金(NED)は、反中分離主義のウイグル族組織を支援するために毎年数百万ドル(1ドル=約146円)を提供している。(中略)
 
米国の人々が支払わされているのは、デマ製造装置にかかる費用だけではない。いわゆる「ウイグル強制労働防止法」(UFLPA)などに基づく米国の根拠のない制裁によって生じた多くの商品の価格上昇による代償も、米国人納税者が負っているのだ。
 
例えば、中国製ソーラーパネルは米国製より20〜40%安い。だが残念なことに、米国は中国のソーラーパネル企業からの輸入を妨害し、輸入業者のコスト上昇を招くと同時に、再生可能エネルギーの目標達成に向けた自国の努力をより複雑なものにしている。

UFLPA事業者リストに掲載された企業は、衣料品、農業、多結晶シリコン、プラスチック、化学、電池、家電など幅広い分野に及んでおり、米国の製造業者や消費者への全体的な影響は広範囲に及ぶとみられる。

その一方で、米国の制裁が新疆の社会・経済の発展に深刻な打撃を与えているという証拠はない。

21年末に制定されたUFLPAが22年6月に発効してから初の通年データとなる23年の同地区の域内総生産(GDP)は前年比6.8%増え、1人当たり可処分所得は前年比7%増の2万8947元に達した。
 
多くの外国人ビデオブロガーが新疆の各地を旅して発信している通り、現地社会は繁栄しており、安定的で調和が取れ、ウイグル族やその他の少数民族を含む人々はより良い生活を送れるようになっている。
 
制裁の対象になった企業は、輸出規制で多少の逆風にさらされたものの持ちこたえ、倒産はしていない。これらの企業の製品は中国の広大な国内市場で消費されるか、別の国に輸出されている。米国市場を失うことは残念かもしれないが、致命的ではない。

ワシントンが新疆に対する高くつく中傷キャンペーンを続けても、より多くの米国の税金が無駄な事業に浪費されるだけだろう。【8月31日 新華社】
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【コロナ禍以降は、かつてのウイグル族弾圧批判の急先鋒トルコも中国接近 その本音は・・・】
また、本来民族的に近いウイグル族に共感する立場にある中央アジアやトルコも、中国の立場を支持する方向に向かっています。

****中央アジアとトルコのメディア関係者、中国新疆の発展を称賛****
カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルコのメディア関係者がこのほど、設立70周年を迎えた中国新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州を4日間の日程で訪問し、イリの社会と経済の発展、人々の生活の改善、生態系の保護、文化の継承、対外開放などの状況について理解を深めた。
 
現地で開かれた中国メディアと海外メディアの交流座談会では、カザフスタン紙「シルクロード・トゥデイ」のフセイン・ダウロフ社長が、今回の訪問を通じて、新疆の多民族地域に住む全ての人々、全ての民族を気に配慮し、その文化と伝統を守ろうとする中国政府の姿勢を目にしたと振り返った。(中略)
 
トルコ「アイドゥンルク(AYDINLIK)」紙対外連絡部のオズグル・オトバス部長は訪問中、「新疆に来たのもイリに来たのも初めてだ。ここで多くの民族が平和に暮らし、互いの言語や文化を尊重し、互いに融合し、交流しているところを見た。これこそが本当の新疆だ。トルコに戻ったら、今回見聞きしたことを記事やドキュメンタリーにしてより多くの人に伝えたい」と語った。【9月19日 新華社】
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2009年の大規模暴動の際、当時首相だったトルコ・エルドアン氏は「ジェノサイド(大量虐殺)」と激しく非難し、トルコは中国のウイグル人弾圧批判の急先鋒でもありました。

しかし、コロナ禍で中国製ワクチンを受け入れるなど、中国批判は影をひそめるようにも。もっとも以下のようにも。

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新型コロナウイルス感染が拡大する中で、トルコが中国への依存を深めたことは確かである。

ただし、コロナ禍を契機にAKP政権のウイグル問題に対する姿勢が変わったわけではない。中国との関係構築を重視するAKP政権は、時には国内向けに中国批判をするものの、実際にはウイグル問題が中国との外交問題にならないよう以前から苦心していたのである。

コロナ禍で明らかになったのは、トルコの対ウイグル政策の転換ではなく、表向きはウイグル問題で中国を批判しつつも、本音では中国との関係を優先したいトルコ側のこれまでの姿勢だと言えよう。【2021年9月15日 柿崎正樹氏(テンプル大学ジャパンキャンパス上級准教授) 「コロナ禍とトルコ・中国関係:トルコの「変節」は本当か」 日本国際問題研究所】
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【新疆製の綿花をめぐる政治情勢で米中の板挟みとなる企業】
そうした状況で、最近問題になっているのは新疆製の綿花。

****カルバン・クラインも「敵対的」調査対象に...「罪状」は新疆ウイグル産の綿花ボイコット****
<新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した「疑い」...有名ブランドが矢面に>

「罪状」は、新疆ウイグル自治区で生産される綿花のボイコット──。
中国商務省が9月24日、ファッションブランドのカルバン・クラインやトミー・ヒルフィガーを展開する米企業PVHに対して、調査を始めたと発表した。

調査の根拠は「信頼性を欠く事業体リスト」だ。2020年9月に発効した同リストは、中国の市場規則や契約上の義務に違反したとされる外国企業・外国人を指定し、貿易取引を禁止。場合によっては、中国への入国や投資も禁じられる。

PVHは「新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した」疑いがあるという。

中国は「(新疆での政策に)そぐわない行動をする欧米企業を敵対的と見なす」と、英ロンドン大学東洋アフリカ学院・中国研究所のスティーブ・ツァン所長は本誌に語る。

中国では21年、新疆の少数民族ウイグル人の強制労働への懸念を表明したナイキやH&Mの不買運動が起きた。PVHの運命はどうなる?【9月30日 Newsweek】
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本当に綿花栽培で強制労働が行われているのかどうか・・・定かではありません。疑いがはれない理由の一つは外国人の調査を入れない中国側の秘密主義にもあります。
強制労働説に懐疑的な指摘としては、“新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?”【21年4月12日 丸川知雄氏 Newsweek】も。

いずれにしても新疆綿をめぐる政治情勢から、企業は中国新疆の綿花を使っていると言えば欧米の市場を失い、使っていないと言えば「新疆綿やその他の製品を独断でボイコットし、市場取引の原則に違反した」として中国の市場を失う・・・という板挟み。

ユニクロもそういう板挟み状態にあって、これまで新疆産の綿花をめぐる問題について「政治的な質問にはノーコメント」としてきましたが、このほど「使っていない」と。

****「ユニクロは出ていけ」 柳井会長「新疆ウイグル自治区産の綿花使っていない」発言に中国で批判殺到****
イギリス公共放送・BBCは28日、ファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長がユニクロ製品に「中国・新疆ウイグル自治区の綿花は使っていない」と発言したと報じました。中国ではSNS上で不買運動を呼びかけるなど批判の声があがっています。

柳井会長はこれまで、新疆産の綿花をめぐる問題について「政治的な質問にはノーコメント」としていましたが、今回初めて新疆産の綿花を使っていないことを明言した形です。

この発言に対し、中国のSNS上では、「もう買わない」「ユニクロは倒産しろ」「中国市場から出ていけ」など、非難するコメントが殺到していて、関連記事の閲覧数はすでに1億回に達しています。(中略)

北京市民
「ユニクロの品質は良いと思いますが、新疆の綿花を使わない以上、これからはあまり選びません」
「(ユニクロが)新疆の綿花を使わないなら、もう着ません。国産ブランドを支持します」

新疆ウイグル自治区産の綿花をめぐっては、ウイグル族に対し、綿花畑や工場などで強制労働をさせるなどの人権侵害が行われていると指摘されており、アメリカ政府は2021年から新疆ウイグル自治区で生産されたすべての綿製品の輸入を禁止しています。【11月29日 TBS NEWS DIG】
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中国当局もユニクロの対応に言及。

****中国外交部「企業の独立した判断望む」 ユニクロの新疆綿不使用発言巡り****
中国外交部の毛寧(もう・ねい)報道官は29日の記者会見で、衣料品ブランドのユニクロを運営するファーストリテイリングの会長兼社長が同ブランドで新疆ウイグル自治区産の綿花を使用していないと述べたことに関し、新疆綿は世界最高品質の綿花の一つであるとした上で、関係企業が政治的な圧力や不当な干渉を排除し、自らの利益に合致する独立した商業判断を下すよう望むと表明した。【11月29日 新華社】
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【漢族の新疆・ウイグル族に対する感じ方・本音】
ただ、中国人の本音として“中国の北京や上海などの大都市に住む人々にとって、新疆ウイグル自治区は距離的、心理的に遠いところで、「海外の人からよくウイグルの人権問題について指摘されますが、正直にいえば、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません」との声もあるようです。

****<不買運動は本当か?>ユニクロ・柳井氏のウイグル綿「使っていない」発言の背景、見え隠れする中国人の本音*****
(中略)中国のSNS上では「もうユニクロには行かない」など不買運動ともいえる反発の声が上がっているが、実際はどうなのか。SNSを見ると、日本ではあまり報道されていない「意外な意見」も散見されている。

飛び交う辛辣なコメント
(中略)中国のウェイボーなどのSNSでは、早速ユニクロをボイコットする声が上がっている。また、この件に関して、中国国内でさまざまな議論が沸き上がっており、12月2日現在、ウェイボー上では「熱捜」(多くの人がさかんに検索している状況)のマークがついており、ユニクロ関連の検索センテンス、ハッシュタグには「人民網が報じるユニクロ事件」「ユニクロの業績は下降している」「中国はユニクロ最大の生産基地」「若者はユニクロを見捨て始めた」などが多数ある。
 
筆者もウェイボーを見てみたが、同様に、ユニクロが新疆綿を使用していないことを批判する声は多数あった。たとえば、以下のような辛辣なコメントだ。

「新疆綿を使わないなら、もうユニクロには行かない」「これからは買わない。中国(国内)ブランドの衣料品を買う」「(2020年に新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引を停止したことから不買運動が起こり、客離れが進んだスウェーデンの衣料品大手である)H&Mのあの一件を覚えているか」「若者はユニクロを見捨て始めた」「ユニクロは中国市場から出ていけ」

「実はユニクロの服を何枚か持っている」
だが、よく見ると、以下のようなコメントも少なくなかった。それは「どのような綿を使っていても構わない。消費者にとっては品質のよさ、安全性がいちばんだ」「関係ない。ただ安く売って、多くの人が買えるようにしてほしい」「ユニクロの商品はやはり品質がいいんだよね。実はユニクロの服を何枚か持っている」
 
具体的に新疆の少数民族問題に言及している意見は少なく、報道を見て、感情的に「もう買わない」とする短いコメントが多かったが、それに対しても「冷静になってみよう」といった呼びかけもあり、烈火のごとく怒っているといった感じではない。少なくとも、こうした声に端を発して、大規模な不買運動につながるような動きがあるようには感じられなかった。

というのも、筆者が見たところ、中国の北京や上海などの大都市に住む人々にとって、新疆ウイグル自治区は距離的、心理的に遠いところである。普段は、それほど深い関心を寄せている地域ではない、ということがある。

筆者が2022年に出版した『いま中国人は中国をこう見る』(日経プレミアシリーズ)では、中国人が今の中国の体制や社会について、本音ではどう思っているのか、について取材している。その中で、中国の大都市に住む女性がウイグル問題について、次のようにコメントしていたのが印象的だった。

「海外の人からよくウイグルの人権問題について指摘されますが、正直にいえば、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません」(後略)【12月3日 WEDGE】
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関心はなくても欧米の中国批判に、中国ナショナリズムの反発に火が付くことはあるでしょう。

また、一般の中国人はその問題にはほとんど興味がありません・・・・とりようによっては「ウイグル族がどのような境遇(例えば弾圧されるとか)にあろうと関心はありません」とも。

私は以前に新疆・ウルムチでパスポートもおカネも航空券も全てが入ったバッグを置き引きにあいましたが、その件を別機会に北京の漢族ガイドに話すと、「連中は教育も受けておらず、悪いことをするやつらだ」みたいな蔑視発言があり、漢族のウイグル族に対する本音をみたような感じでとても印象的でした。もちろん、単にこの漢族ガイド個人の発言であり、それ以上のものではありませんが。

綿花に続いてトマトも

****英国のイタリアトマト、新疆産か BBC報道、中国反発****
英BBC放送は5日までに、英国のスーパーで売られている複数のトマトピューレの商品が、イタリア産と称しながら実際には中国新疆ウイグル自治区産のトマトを使っている可能性があると報じた。新疆のトマトは強制労働によって生産されているとも伝えた。

これに対し、中国外務省の林剣副報道局長は5日の記者会見で「新疆に強制労働は存在しない」とし、報道は「事実確認を経ていない先入観による妄言だ」と強く否定した。新疆トマトは「世界に誇る優れた品質だ。現地を訪れてぜひ味わってほしい」とも述べた。【12月5日 共同】
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中国  世論調査で中国側の日本への評価が劇的に悪化

2024-12-02 23:46:08 | 中国
(相手国に対する印書 【12月2日 産経】)

【日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化】
今日のニュースで驚いたのは、各メディアが報じている日中の世論調査結果。

“日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった”ということで、中国側の日本に対する評価が劇的に悪化しています。その他の日本に関する評価も大きく悪化しています。

これまでは、日本側の中国に対する印象は高止まりしているのに対し、中国側の日本に対する印象は(日本側に比べると)比較的良い・・・という状態でしたが、一変しました。

もちろん尖閣諸島に関する問題や歴史認識に対する問題で常日頃から日中が対立する事案はありますが、それは以前からのもので、ここ1年それらが劇的に悪化したという印象はありませんでしたので、今回調査結果には「どうして?本当?」と驚きました。

****中国側、日中関係「悪い」76%で増加 処理水放出影響か 世論調査****
非営利団体「言論NPO」(東京都)と中国国際伝播集団は2日、第20回日中共同世論調査結果を発表した。

中国側の回答で、現在の日中関係を「悪い」(「どちらかといえば」を含む、以下同)とした人は前年比34・8ポイント増の76・0%と大幅に増加して過去3番目に高く、「良い」は同21・1ポイント減の8・6%だった。

日本の印象を「良くない」とした人も同24・8ポイント増の87・7%と過去2番目に高かった。

日中関係の発展を阻害する問題(複数回答)に東京電力福島第1原発処理水の海洋放出問題を挙げる人が中国側で前年比29・7ポイント増の35・5%と最多となっており、放出問題が影響を与えた可能性がある。

中国の習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認したが、中国側は難しいかじ取りを迫られそうだ。

相手国の重要度に差
また、中国側の回答で、日中関係を自国にとって「重要ではない」とした人の割合は前年比40・5ポイント増の59・6%となり過去最高を記録。「重要」とした人の割合も同33・8ポイント減の26・3%で過去最低となった。

一方、日本側の回答で、日中関係を「重要ではない」とした人は前年比2・5ポイント減の5・0%、「重要」は同2・0ポイント増の67・1%だった。相手国の重要度に関する認識に日中で大きく差が出ている。

現在の日中関係について日本側の回答では、「悪い」が前年比15・5ポイント減の52・9%、「良い」が同1・5ポイント増の2・3%。中国の印象を「良くない」とした人は同3・2ポイント減の89・0%、「良い」は同2・8ポイント増の10・6%で、いずれも改善傾向だった。

共同世論調査は2005年から毎年実施。今年は10月18日〜11月10日、日中両国で18歳以上の男女を対象に行った。日本は調査票を渡し回収する方式で1000人が、中国は調査員による面接方式で1500人がそれぞれ回答した。【12月2日 毎日】
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【福島第一原発の処理水放出や「スパイ」行為による中国での日本人拘束が影響】
日本側の中国評価ががわずかながらも改善傾向にあるのに対し、中国側の日本評価が劇的に悪化・・・“言論NPOは「ここまで中国の対日意識が全面的に悪化したのは過去20年の調査で初めて」と分析しています”【12月2日 テレ朝news】

いったい何があったのか?

****中国人の日本への印象、大幅に悪化 共同世論調査****
(中略)中国で「日本の印象について「良くない」などと答えた人の割合は、去年から25ポイント近くも増え87.7%にのぼりました。

理由については、尖閣諸島や台湾問題に関する日本側の対応が最も多くあげられています。
また、両国の関係発展を妨げる要因については「福島第一原発の処理水放出」と答えた人が最も多かったということです。

また、中国で、「日中関係について重要」などと答えた人の割合が、去年から半分以下にまで低下し「日本に行きたくない」などと答えた人の割合も大幅にふえています。

背景について調査団体の代表はSNSでの情報収集が増える中、日本に渡航経験がない人々が過激な書き込みなどにふれた影響がでているとの見方を示しています。

そのうえで日本に渡航できる経済力のある人とそうではない人との意識の差が鮮明になったと指摘しています。【12月2日 日テレNEWS】
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尖閣や台湾の問題は以前からのものですから、この1年で変化のあった事実関係としては「福島第一原発の処理水放出」があります。

正確には放出が始まったのは2023年8月で、前回調査は中国側では8月18日から9月1日に行われていますので、放出開始とほぼ同時期。

ですから前回調査にも「福島第一原発の処理水放出」に関する中国側の(放出前の中国政府のネガティブな情報による)反応が一応反映はされていますが、今回調査では、実際に放出がなされ、中国側の意識としては「魚が汚染されている」という不安が強く調査結果に反映していると思われます。

中国政府によるネガティブな情報提供というか世論誘導、更にその情報がSNSで増幅され、中国国内では今でも、不安がって魚を食べない人が多いという、日本側では想像できない状況があります。

相手国への良くない印象の理由としては、尖閣・台湾以外に「スパイ」行為による中国での日本人拘束が日中双方で理由に挙がっています。

日本側の印象は「スパイ」にでっち上げられるという不安ですが、中国側の印象は実際に多くの日本人が「スパイ」として動き回っている、日本人学校はスパイの養成所だというもの。

そうした反日的情報はSNSで増幅されますが、中国政府はこれらの多くを放置しています。いわゆる国民の抱える不満の「ガス抜き」に使っているとも。

****中国のSNSにあふれる反日投稿 蔑称や過激な文言、当局が黙認か****
中国の交流サイト(SNS)は反日感情をあらわにした投稿であふれている。

日本人の蔑称「日本鬼子」や、危害を加えることを宣言する過激な文言も。経済低迷で閉塞感が漂う中、中国当局が対日批判を黙認しガス抜きを図っている可能性がある。

広東省深センで9月18日、日本人学校に通う邦人男児(10)が中国人の男に刺殺される事件が発生。事件後、多くの住民らが学校に献花に訪れ、涙する姿も見られた。

一方でSNSでは日本人学校を「スパイ養成拠点」と見なし「日本の子どもは反中勢力になる」などと根拠のない主張をする書き込みが相次いだ。【12月2日 共同】
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【今回調査対象では最終学歴が「中学校以下」が急増 SNS情報の影響】
中国側で調査に答えた1500人は、75%が中国のニュースメディアから情報を得ており(複数回答可)、このうち「スマホ」経由が昨年の25.8%から55%に上昇、さらに、53.9%はTikTokの中国版「抖音(トウイン)」や微博などのSNSから情報を得ていたとのことで、SNSにおける情報が極めて大きな影響力を持ちます。

SNSでの情報拡散は、日本の兵庫県知事選挙や、ルーマニア大統領選挙第1回投票で、泡沫候補だった極右候補がSNS戦術を駆使して一躍トップに躍り出た・・・といった事案でも注目されています。

更に今回調査では、最終学歴が「中学校以下」が25%と、22年の8%、23年の14%から大幅に比率が上がっているということで、比較的SNS情報を無批判的に受け入れるような傾向があったのかも。

今回調査に限らず、中国ネットユーザーの学歴をみると、“中卒が40.5%、高卒(中等専門学校、技工学校を含む)が21.5%、大卒(短大を含む)以上が18.8%だった。小学校卒業以下も多く、19.2%に達した。”【2020年10月1日 人民網】ということで、SNSにおける情報の受け手は圧倒的に低学歴層が多く、その情報の受け止め方に懸念もあります。

****日中関係改善へ「関係在り方問われる」 世論調査実施のNPO代表****
日中共同世論調査の結果について言論NPOの工藤泰志代表に聞いた。【聞き手・畠山哲郎】
 
今回、中国側の対日意識は全面的に悪化したが、大きなショックを受けたのは、この20年間の調査で一度も6割台が崩れなかった、日中関係を「重要」と思う人が、今回初めて約2割まで落ち込んだことだ。

中国の調査手法は昨年までと全く変わらず、ここまでの意識の悪化は世論構造の修正を意味している。調査を分析すると、日本への渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。

中国は米国の大統領選を意識し、米中対立の原因を「米国」だとする人が昨年から倍増した。その米国と日本が連携し、経済安全保障を強め、独自に軍事力を強めているとみている中国国民に「日本が重要ではない」という人が膨らんでいる。SNS(ネット交流サービス)上でこうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い。

ただ、日中平和友好条約を機能させるため状況を改善しようという声は中国に多く、日中が決裂に向かっているわけではない。

ロシアのウクライナ侵略に対する考え方が日中で大差がないことも調査で判明した。世界が分断に進む中、日中が連携してどのような外交を展開していくのか、日中関係の在り方が問われているのではないか。【10月2日 毎日】
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【渡航歴の有無で分断】
上記で言論NPO代表が指摘しているように、“SNS(ネット交流サービス)上で(日本軽視の)こうしたニュースが繰り返され、世論に影響を与えた可能性は高い”といったSNSによる情報増幅に加え、“渡航歴がある人とそうでない人との意識は断絶し、渡航経験のない人は年代を問わず日本に対する認識が総崩れしている。”という点もあります。

渡航歴の有無による相手国への印象の違いは日本でも同様でしょうが、日本側については、4年8カ月ぶりに短期ビザ免除が再開されることの効果が期待できます。

中国側の印象改善(それは中国当局の意思決定にも影響します)を促すためには、なんだかんだ言ってるより、航空会社・宿泊施設に補助金でも出して日中間の航空運賃、日本でお宿泊費を格安に設定し、どんどん日本に来てもらえばいい。来てもらったら、その多くの印象は大幅に改善し、帰国後にその情報が拡散される・・・と、個人的には考えていれうのですが。

多分、「日本人の血税を中国人の観光旅行のために使うのはけしからん」と怒られるのでしょう。

【今後については、政府間の関係改善の動きの反映に注目】
最近、中国当局もトランプ氏復権を意識して、日中関係改善の方向にあります。習近平国家主席と石破茂首相は11月の会談で海洋放出を巡る日本産水産物の輸入再開について今後着実に実施していくことを確認しています。

そうしたことの影響が注目されます。ただ、中国ではこれまでの政府による情報誘導によって「御鮮魚が怖い」といった放出批判が出来上がっていますので、中国当局の輸入再開に向けた対応は難しいものもあります。

【国際関係では国際協調重視の傾向】
日本関係以外で興味深いところでは、ロシアの侵略への批判も。

****ロシアの侵略に批判も****
一方、世界の紛争や緊張の原因について、中国人では「他国を侵略し核威嚇を行う国連安保理常任理事国を世界が止められないこと」が41%と1位。

ロシアのウクライナ侵略にも「どんな理由であれ他国の領土主権侵略に反対すべきだ」が同25ポイント増の41・3%となった。対日感情の悪化とともに、ロシアの侵略にも批判的な結果となった。【12月2日 産経】
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中国世論について、“国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった”とのこと。

****中国世論、ロシアや北朝鮮を警戒 国際協調に傾斜も日本は軽視****
ロシアや北朝鮮は危険で、日米連携は不快、国際秩序の安定化へ中国が指導力を発揮すべきだ―。日中共同世論調査の結果から、中国人の意識がロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核開発を警戒し、国際協調重視に傾いている現状が浮かび上がった。そうした中で日本の存在感は薄れている。

ロシアの侵攻は「国連憲章や国際法に反する」として反対する中国人は前年比25ポイント増の41.3%に上った。ロシアへの警戒感が日本より中国の方が高いことを示唆する回答もあった。

中国側で、東アジアで軍事紛争が起こり得る地域は南シナ海と朝鮮半島と答えた人がいずれも増えた。北朝鮮の核開発が核戦争のリスクを高めていると考える人は14.7%と微増。

中国政府はロシアや北朝鮮と友好関係を維持しているが、世論は両国に不信感を募らせているようだ。

また中国側回答では軍事的脅威を感じる国について日米を挙げた人が大幅に増えた。8割以上が米中対立の原因は米側にあるとし、6割近くが国際協調が必要とした。【12月2日 共同】
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中国  結婚・出産に関する価値観の変化 横行する代理出産の“闇ビジネス”も

2024-10-09 22:16:40 | 中国

(病院のベッドで眠る新生児=2月、中国甘粛省蘭州市【10月9日 共同】)

【結婚と出産の奨励に躍起になる当局】
中国では1人の女性が生涯に産む子どもの平均的な人数を示す「合計特殊出生率」が2022年に1.09に下がったと報じられています。少子化・人口減少が大問題となっている日本の同数値が1.30(2021年)ですから、中国の深刻な状況がわかります。

出生数の基盤になる婚姻件数も減少傾向にあること、当局は離婚を難しくしようとしていることなどは、8月25日ブログ“中国  止まらない人口減少・婚姻数減少 当局は離婚申請厳格化も 背景に若者の就労環境の悪化”でも取り上げました。

中国当局は結婚と出産の奨励に躍起になっています。

****中国衛生当局、「適齢」での結婚・出産を奨励へ****
中国の国家衛生健康委員会(NHC)は、少子化が進み、人口減少に歯止めがかからない中、「適切な年齢」での結婚と出産を奨励することに注力する。中国共産党系メディアの環球時報が12日、NHCの高官の話として伝えた。

NHCは若者を「結婚、出産、家族に対する前向きな視点」に導くため、子育ての分担も呼びかける。NHC高官は、それが「結婚と出産を巡る新しい文化」を育むのに役立つとの見方を示した。

中国の法律では、男性は22歳以降、女性は20歳以降でなければ結婚できない。

中国では2023年に人口が2年連続で減少し、出生数が記録的な低水準に落ち込んだため、政府はより多くの女性に出産を奨励している。

多くの女性は、高い育児費用や、結婚したくない、キャリアを中断したくないなどの理由から、子どもを持たないことを選択している。伝統的な社会では、女性はいまだに育児や介護の主な担い手と見なされ、男女差別が蔓延している。

公式データによると、今年上半期の婚姻件数は13年以来の最低水準に落ち込んだ。

中国の人口減少の主な原因は1980年から2015年にかけて実施された一人っ子政策と高額な教育費だ。【9月13日 ロイター】
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【結婚・出産に関する価値観の変化】
こうした少子化の背景には、高額な教育費や高い失業率に見られる現在の若者の経済的苦境などももちろんありますが、そもそも結婚や出産に関する価値観が大きく変わってきていることも重要な要素です。

****「子どもをひとりで育てる経済的余裕があるなら、夫はなぜ必要?」婚姻数が1980年以降“最低”の中国 結婚しない道を選んだ女性たちの本音****
今年、建国75年を迎えた中国。もっとも変わったのは、女性の生き方かもしれません。
「結婚はしたくないけど子どもは欲しい」。
自ら進んでシングルマザーの道を選んだ女性たちを取材しました。

結婚しないのは「男性に対する失望感」
北京市内で暮らすナナさん(仮名)。デザイナーをしながら7歳の長女を育てています。父親にあたる男性とは、あえて結婚しませんでした。

ナナさん(仮名・30代)
「結婚しないのはまだ人生を一緒に過ごしたいと思う相手が見つかっていないからかもしれません。経済的に自立した女性が増え、男性に対する失望感もあり、結婚せずに子どもを育てる女性はこれから増えていくでしょう」
「男性に対する失望感」。

いったいどんなことなんでしょう? 
ナナさん(仮名・30代)  
「育児に関わらない父親は私の周りにもたくさんいます。もし、家事を手伝ったり、子どもの面倒を見てくれないのであれば、(夫の存在は)もう一人手のかかる子どもがいるようなもので、それならば結婚しても意味がないと思うのです。私は自分の子どもをひとりで育てる経済的余裕がある。ひとりでできるならなぜ夫が必要なのか、と思うのです」

長らく女性は早く結婚し、後継ぎの男の子を産むことや夫の両親の面倒を見ることなどが求められていました。しかし今、その家族観に変化が起きています。

中国メディアによりますと今年の婚姻数は1980年以降、最低となる見通しです。

なぜ中国の若者は結婚しないのか?子育てにかかる費用が高いことに加え女性の高学歴化とともに、経済的に自立し、自由な生き方を選ぶ女性が増えていることが背景にあるとみられます。

ナナさん(仮名・30代)
「以前は女性は子どもを育て、義理の両親に孝行しなくてはならないと考えられていました。25歳を過ぎて独身だと、親や近所の人から『あの子は結婚できないのかしら』という視線を浴び、プレッシャーをうけたでしょう。しかし今の若者は個人主義的で、自由を追求したいのです」

代理出産で双子の母に…37歳女性の選択
ユエさんは結婚せず、代理出産で子どもを持つ、という道を選びました。

ユエさん(仮名・37)     
「37歳の今になるまで、子どもが欲しいかどうかわからなかったんです。でも歳をとると(子育てが)難しくなるかもしれない。それと、妊娠している間、自分のできることが制限されてしまうかもしれない。そのストレスを考えたら代理出産の方が楽だと思ったのです。あと、子どもを持つこととパートナーを持つことは別だと考えているのもありますね」

代理出産にかかった費用はおよそ2000万円。しかし、キャリアを犠牲にすることもなく、支払った金額に見合う幸せを得たといいます。

ユエさん(仮名・37)
「昔は女性は経済的に自立していませんでしたから、男性に依存せざるを得ませんでした。しかし今は男性より稼ぐ女性もいますので男性に依存する必要もないし、結婚しないという選択肢も選べるようになったのです」

ある調査では、結婚の予定はないと答えた女性は44%に上るといいます(中国共青団調査・2021年)。

ユエさんの祖父母はお見合い結婚。両親は恋愛結婚。しかし今は女性が多様な生き方を選べる、新たな時代になったと考えています。

ユエさん(仮名・37)
「私たちの世代は結婚するのかしないのか、どんな人生を送りたいのかを自分で選ぶのであって「どうすべきか」ではない。これが一番大きな変化だと思います。私たちの時代は、より自己実現が追求できるようになったと思います」

今回取材に応じてくれた2人の女性。いずれも匿名での取材になりました。まだまだ自由な生き方を公言するのがはばかられるのもまた現実です。

女性たちの変化は、今後中国をどのように変えていくのでしょうか。【10月9日 TBS NEWS DIG】
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【代理出産の“闇ビジネス”】
価値観の変化はともかく、“代理出産にかかった費用はおよそ2000万円”・・・これだけのカネが動く、しかも規制が厳しいとなると、闇ビジネスも生まれます。

****中国、代理出産の業者調査 闇ビジネスが横行****
中国山東省青島市のバイオ企業が国内法令で禁じられている代理出産をひそかにビジネスとして展開し、不正に利益を上げていた疑惑を中国メディアが報じた。地元当局は9日までに調査に乗り出した。

子ども1人当たりの出産費用は75万元(約1500万円)で、20万元上乗せすれば性別を選べたという。

中国では少子高齢化が加速する一方で、不妊に悩む夫婦や富裕層を相手に代理出産の闇ビジネスが横行している。高額な収入を目当てに代理母になる若い女性も多いとされ、倫理上の問題に加え、女性の搾取につながるとの批判もある。

バイオ企業は青島市内の産婦人科医らと結託して代理出産ビジネスを展開。子どもの戸籍登録に必要な出生証明は約5万元で販売していたとされ、地元当局は8月下旬に調査チームの結成を発表した。

中国保健当局は2001年に「生殖技術の安全を守る」ことを目的とした管理規定を施行し、医療機関が代理出産を手がけることを禁じた。報道によると、違反した医療機関やその関係者は罰金などの処罰を受けるが、代理母や依頼者は刑事責任を問われない。【10月9日 共同】
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「管理規則」では「配偶子、受精卵、胎の売買は、いかなる形式であれ禁止する。 医療機関および医療従事者は、あらゆる形式での代理出産技術も実施してはならない」と規定されています。


しかし、需要があるところには・・・ということで“闇ビジネス”が生じますが、“闇”であるかぎり、安全性や契約面で様々な問題も生じます。

中国だけでなく日本も少子化の現実は同じであり、また、価値観の変化も同様です。
国内での“闇”が難しければ、規制が緩い海外での代理出産ということも。

「結婚も夫もいらない、でも子供は欲しい」といった価値観の変化、あるいは同性婚の増加といった現実の変化を踏まえて、従来の価値観に引きずられるのではなく、改めて、何が許されるのか、何が許されないのか、一から検討する必要があるように思えます。
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スリランカ・カンボジア  中国による港湾軍事拠点化の現況

2024-09-21 22:09:27 | 中国

(2024年5月に撮影された衛星写真で、リアム海軍基地に中国のコルベット艦2隻が停泊している様子が確認できる【9月18日 毎日】)

【スリランカ 中印の「冷戦」状態のハンバントタ港】
中国の「一帯一路」を議論する際に、“債務の罠”の代表事例として必ず言及されるのがスリランカのハンバントタ港です。

債務返済できなくなったスリランカ政府が2017年に運営権を中国に事実上譲渡したハンバントタ港の現況がどうなっているのかを示したのが下記記事。

中国と、中国に対抗するインドの間で“相互監視”状態にあるようです。インドは港に近いマッタラ・ラジャパクサ国際空港の運営権を獲得するようで、ハンバントタ港の中国による軍事利用を牽制する効果があるとか。

同空港運営にはロシアも参加するとのことで、スリランカからすれば、ロシアも含めることで中印の対立が先鋭化するのを抑制したい狙いのようです。

****「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態****
スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。

中国と間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。

現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。

「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。

セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。

ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。

同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。
スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。

同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。

中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。

中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。

このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。
ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。

「旅客便が最近到着したのが5月11日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。

同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。

中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。

スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。
スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。

現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。
現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。

また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。【9月21日 産経】
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その大統領選挙は今日投票が行われ、先ほどから開票が始まっています。事前の世論調査では野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首がリードしています。

****スリランカ大統領選挙 きょう投票 日本主導の債務再編に影響も****
深刻な経済危機の影響で、2022年、事実上のデフォルト=債務不履行に陥ったスリランカで21日、大統領選挙の投票が行われます。

経済の立て直しに向け、現政権が推し進めてきた緊縮政策に対しては、国民の反発も強く、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

インド洋の島国スリランカは、前の政権による財政政策の失敗や、新型コロナの影響などでおととし深刻な外貨不足に陥り、急激な通貨安やインフレに見舞われました。

21日投票が行われる大統領選挙には▼現職の大統領のウィクラマシンハ氏、▼野党「統一人民戦線」の党首プレマダーサ氏、▼野党の左派勢力「国民の力」を率いるディサナヤケ氏の事実上3人で争われる構図となっています。

このうち、経済危機後に大統領に就任したウィクラマシンハ氏は、IMF=国際通貨基金から4年間でおよそ30億ドルの金融支援を取り付けた上で増税や国有企業の改革などに取り組み、経済の立て直しに道筋をつけたとして実績を訴えています。

一方で、こうした緊縮政策に対して国民からの反発は強く、野党の2人の候補者は見直しを訴えて支持の拡大を図っています。

現地の研究機関が今週公表した最新の世論調査では▼ディサナヤケ氏が48%と支持を伸ばす一方、▼プレマダーサ氏は25%、▼ウィクラマシンハ氏は20%と伸び悩んでいて、選挙の結果次第では、日本が主導してきた債務再編にも影響が及ぶ可能性があります。

投票は日本時間の午後7時半に締め切られたあと、開票される予定です。【9月21日 NHK】
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日本なら出口調査ですぐにおおよその結果がわかるのですが、スリランカですので、この記事のアップ時点ではまだ傾向は判明していません。

【カンボジア リアム海軍基地の中国側の動向に神経を尖らせるアメリカ】
中国の軍事拠点化ということでは、もう1箇所注目されるのが中国と緊密な関係にあるカンボジアのリアム海軍基地。

****中国艦船、新たに2隻入港 カンボジア基地、拠点化か****
中国の支援を受けて拡張工事が進むカンボジア南西部のリアム海軍基地で、昨年12月ごろから寄港していた中国海軍の艦船が帰国し、別の中国艦2隻が新たに入港したことが27日、複数のカンボジア軍関係者への取材で分かった。中国軍の海外拠点化に向けた新たな布石とみられ、今後の動向が注目される。

カンボジア軍関係者らによると、中国艦はローテーションを組んでリアム海軍基地への停泊を一定期間続ける予定だ。中国の影響力拡大に米国は懸念を強めている。

カンボジアと中国は5月30日までの合同軍事演習で初めて海上演習を実施した。【6月27日 共同】
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上記中国艦船はコルベット艦(フリゲート艦より小さい規模の航洋艦)とのこと。

そしてカンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにしています。
カンボジアが艦船を欲しがるのは、隣国タイとの国境問題などがあるためのようです。

中国によるリアム海軍基地の軍事拠点化については、アメリカが神経を尖らせています。

****中国のカンボジア「軍事拠点化」を懸念 艦船供与「見返り」で 米国****
カンボジアと中国の軍事協力が深化している。カンボジア国防省は9月上旬、中国から艦船2隻の供与を受けると明らかにした。

中国の支援で拡張工事が進む南西部のリアム海軍基地には、昨年末から中国海軍の艦船が停泊を続けているとされる。米国などは支援の「見返り」として、中国の海外拠点化が進むことを警戒する。

英字紙クメール・タイムズによると、供与はカンボジアの要請に基づくもので、新造のコルベット艦2隻が早ければ来年にも引き渡される。隣国タイとの国境問題がくすぶるカンボジアにとって、沿岸警備のためにも軍備の増強が課題だった。

リアム海軍基地の拡張工事も近代化の一環で、中国の支援を受けて2022年に着工した。基地は南シナ海に近いタイ湾に面し、マラッカ海峡からインド洋につながる要衝にあることから、これまでも臆測を呼んできた。

19年には米メディアがカンボジアと中国の間で独占使用の合意があると報じ、当時首相だったフン・セン氏が「憲法は自国内に外国の基地を設けることを認めていない」と強く否定する一幕があった。

ところが、今年4月に米戦略国際問題研究所の「アジア海洋透明性イニシアチブ」が、中国海軍の艦船2隻が23年12月から基地に停泊していることを衛星写真の分析で確認したと発表。

6月には米国のオースティン国防長官がプノンペンを訪問し、フン・マネット首相や国防相らと会談した。停泊理由を訓練のためと説明するカンボジア側にくぎを刺したとみられる。

カンボジアは国際空港や高速道路などのインフラ整備を中国からの投資や援助に頼り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも特に中国寄りとされる。中国が領有権を主張する南シナ海問題でも、当事国のフィリピンやベトナムなどから距離を置いてきた。

中国との軍事協力について、王立プノンペン大東南アジア研究センターのチャイ・リム客員研究員は「カンボジアが軍備の近代化を進めるには他国の支援が欠かせない。だが、人権状況を問題視する米国の支援は期待できず(内政不干渉の)中国に頼らざるをえない状況だ」と解説する。

一方で、フン・マネット氏は昨年8月の就任後、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む。

欧米で教育を受けた経歴を強みに欧州や日本などの首脳らと会談を重ね、経済や安全保障分野での協力を協議してきた。

政敵の弾圧といった人権問題を脇に置いて外交関係を広げたいカンボジアが譲歩を引き出せるのか、基地の工事完了後に中国以外の国の艦船の寄港を許可するのかが焦点になりそうだ。【9月18日 毎日】
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フン・マネット首相が、父親のフン・セン氏から引き継いだ親中路線を維持しながら、西側諸国との関係強化に取り組む・・・・そうした西側との関係強化の事例に関するニュースはまだ目にしていませんが、中国との更なる関係強化に関するものなら・・・。

****カンボジアに「習近平大通り」 経済・安保、取り込み加速****
カンボジアのフン・マネット首相は28日、首都プノンペンや近郊を通る主要道路を中国の習近平国家主席の名前を冠し「習近平大通り」と命名すると表明した。

中国は国際的な影響力を強化するため経済支援で途上国の取り込みを加速し、カンボジアとは外交・安全保障を含む、あらゆる分野で関係が緊密化している。

中国国営通信新華社は29日、カンボジアの発展に対する習氏の「歴史的貢献」が感謝されたと報じた。

カンボジアメディアによると、習近平大通りは全長約50キロ。首都から地方都市に延びる複数の国道をつなぐ重要な道路で、中国企業が建設工事を請け負った。【5月29日 共同】
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中国  深セン日本人児童刺殺事件への中国政府・世論の反応

2024-09-20 23:23:55 | 中国

(中国人らが次々と献花に訪れた深圳日本人学校(20日、中国・深圳で)=大原一郎撮影【9月20日 読売】)

【中国政府「単独犯の偶発的事件」 日本との関係悪化や社会の不安定化を回避する意図】
周知のように、6月に江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡した事件に続いて、18日には広東省深セン市で日本人学校に登校中だった日本人男児(父親が日本人、母親が中国人)が、学校から200メートルほどの位置で男(44)に刺され亡くなりました。

相次ぐ日本人学校・日本人が標的となる事件が起きたこと、事件発生の9月18日が満州事変につながった柳条湖事件が起きた「国辱の日」であったことなどから、「反日」を背景にした日本人を狙った犯行ではないかとの憶測がある一方で、中国政府は微妙な日中関係への影響を最小限に留め、社会不安を抑止する意図があるようで、事件の背景には言及しない形で「単独犯の偶発的事件」として処理する姿勢です。

*****「単独犯の偶発的事件」=中国深センの日本人男児襲撃を地元紙詳報―当局、社会不安警戒****
中国南部・広東省深セン市で日本人男児が刺されて死亡した事件で、地元有力紙・深セン特区報は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」とSNSで伝えた。44歳の男による単独の犯行で、容疑を認めているという。日本政府の情報提供要請を受け、中国当局が同紙を通じて事件の詳細を公表した形だ。

中国では6月、東部の江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子が男に刃物で襲われ負傷し、案内係の中国人女性が死亡する事件が発生。その時も中国当局は「偶発的事件だった」と説明した。

同紙によると、容疑者の男は定職に就いていない。2015年に公共の通信設備を壊して警察沙汰になったほか、19年には公共の秩序を乱したとして深センの警察に拘束された。

日本人を狙った犯行なのかや殺意があったのかを含め、動機は不明。同紙は容疑者について「刃物で児童を傷つけた行為を認めている」とし、「さらに調べが進められている」と報じた。

中国当局は今回の事件によって、経済を中心に日本との関係が悪化する事態を望んでいない。類似の事件が相次いで中国社会が不安定化することも警戒している。同紙はSNSで論評記事も配信し、「犯行を強く非難する」と表明。「この容疑者の暴力行為は一般の中国人の素養を代表するものでは決してなく、社会全体の状況を反映するものでもない」と強調した。(後略)【9月20日 時事】
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44歳の容疑者の男は定職についておらず、2015年には電信設備の破壊、2019年にはデマで公共秩序を乱したとして拘束されていたようです。

中国の主要メディアは沈黙を貫いており、中国国内での報道は規制されているようです。
SNS上では多くの事件を批判し、被害者への哀悼の意を示す多くのメッセージがよせられる一方で、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの反日感情を露わにする声もあります。

****深圳の日本人男児殺害、中国主要メディア沈黙 SNSは「批判」と「反日」が混在****
中国広東省深圳(しんせん)市で日本人学校の日本人男子児童(10)が男に刺殺された事件で、中国の主要メディアは沈黙を貫いている。当局から情報統制が敷かれているもようだ。

情報が飛び交う交流サイト(SNS)には「国の恥だ」と批判する声も多いが、事件の遠因が「日本にある」との〝異常〟な意見もあり、度を越えた「反日分子」の存在が浮き彫りとなっている。

「心から謝罪」「日本に原因」
地元紙「深圳特区報」は20日、警察から得た情報として「偶発的事件だった」と伝えた。男は容疑を認めている。日本政府の要請を受け、当局が同紙を通じて詳細を公表したとみられる。

ただ他のメディアの記事は皆無だ。18日に一報を伝えたメディアの記事は現在、削除されている。模倣犯の発生や政権批判への転化を避けたい狙いとみられる。

事件が発生した18日以降、中国の短文投稿サイト、微博(ウェイボ)には多くのコメントが書き込まれた。「深圳人として心から謝罪する」「子供は無実。あらゆる暴力行為を非難する」などと事件を批判する書き込みも少なくない。

満州事変につながった柳条湖事件の9月18日に事件が起きたことに反応するコメントも数多かった。「国恥の日に子供を殺した男は国の恥だ」との見方もある一方、日本の歴史認識や対中姿勢が事件を引き起こしたとの声も散見された。

悲劇悼む動きも
NHKラジオ国際放送で尖閣諸島を「中国の領土」と発言するなどして解雇され、帰国した中国人男性とされるアカウントも事件に反応。

在中日本人や在日中国人の生活を揺るがす元凶は「安倍晋三政権が推進してきた歴史修正主義路線だ」とし、日本が一方的な姿勢を続ければ「両国で非理性的な傷害事件を引き起こすことになる」などと警告した。

事件の背景に反日教育が関係している可能性もゼロではないが、「抗日教育を中傷する者は犯人と同じく卑劣な人間だ」との投稿も。

在中国日本大使館のアカウントには中国人から多数の謝罪や追悼が寄せられるが、中国人が日本で犯罪に遭った際に同様の光景を「見たことがない」として、「中国人の命は日本人よりも軽いのか」とする書き込みもあった。

一方、X(旧ツイッター)には、男児が通っていた日本人学校前に献花に訪れた男性が「(中国の)長期にわたる憎悪教育が招いた結果だ」と話す動画が拡散。19日には東京都内で在日中国人有志が追悼集会を開くなど、悲劇を悼む動きも広がっている。【9月20日 産経】
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【「亜人事件」など、根深い反日感情も】
中国社会に反日感情が根深いのは事実でしょう。最近話題になった事件としては・・・

****円明園で日本人観光客らが難癖付けられる、警備員まで「小鬼子」と加勢する異常事態―中国****
中国・北京市の円明園で日本人観光客らが中国人インフルエンサーから難癖をつけられる動画が中国のSNS上に投稿され、反響を呼んでいる。

報道によると、騒動は今月7日に起きたとみられる。日本人観光客の男女と中国人通訳が円明園で記念撮影をしていたところに男性インフルエンサーが現れた。撮影していた通訳が「フレームに入ってしまうから」と男性インフルエンサーに移動を頼むと、男性インフルエンサーは「日本人か?」などと確認。「そう、日本人だよ」と言われると、「円明園というこの場所で、日本人のためにどけというのか」などと怒り、難癖をつけ始めた。

通訳が「どこの国かは関係ない」と言うと、男性インフルエンサーは「俺は関係あると思うぞ」と応じ、さらにまくしたてる。話が通じないと思った通訳は「あなたが関係あると思うならもういい」とあしらい、日本人観光客2人と共にその場を後にするが、男性インフルエンサーは後を追い回して撮影。

それに気づいた日本人観光客の男性が「通報するぞ」と言うと、男性インフルエンサーは「日本人が中国で警察に通報するのか」「俺は日本人のために場所を譲る気はない」などと個人的な主張を続け、通訳に対しても「日本人を守るのか」などと罵声を浴びせた。

その後、警備員がやってきたが、警備員は「日本人と聞いたが。はっきり言えば(日本人を円明園に)入れることはない」と説明。通訳が「それは管理所としての意見ですか?それはちょっと違うでしょう」と反論すると、警備員は「去年も日本のツアー客は入れなかった」とした。

通訳が「チケットは購入しているし、管理所は(彼らを)中に入れた。あなたは管理所の意見を代表しているのですか?」と質問すると、警備員は「(管理所を)代表してはいないが、あなたはわれわれを尊重しなければならない!」と語気を強め、日本人の蔑称である「小鬼子」という単語を交えてまくし立て、男性インフルエンサーの言動に賛同する意思を示した。

あまりにも理不尽な言いがかりに中国のネットユーザーからは「このインフルエンサーが故意に難癖をつけているように感じる」「単なる言いがかり」「日本人観光客に何か落ち度があったようには思えない。もしわれわれが日本に旅行に行ってこのようなことをされたら?」「そもそも円明園が日本人と何の関係があるんだ」「円明園を焼き討ちし、略奪したのは英仏軍だろう」「そんなことなら、なぜ日本人を入国させたんだと中国の税関に文句を言えよ」といった声が上がり、「彼はどうすればトラフィックが稼げるか理解している」「今のインフルエンサーはみんな愛国を掲げて金を稼いでいるが、実際は国に泥を塗っているだけ」といった声も寄せられた。(後略)【9月9日 レコードチャイナ】
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このインフルエンサーは「亜人(アジアンマン)」の名で活動する中国のインフルエンサーで、中国政府は「いかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」としています。

****円明園で日本人観光客らに難癖、中国外交部「われわれは特定の国を差別しない」****
(中略)9日の外交部定例会見で騒動について聞かれた毛寧(マオ・ニン)報道官は「具体的な状況については把握していない。個人の言動については論評しない」としつつ、「中国はオープンで包容的な国。われわれはいかなる特定の国に対しても、差別的な方法を取ることはない」と強調した。

中国のネット上では「亜人」と見られる人物が2019年に米国で性的暴行や脅迫の容疑で逮捕されていたとの情報が流れており、靖国神社に落書きをして最近中国の警察当局に別件で拘束されたインフルエンサーのアイアンヘッド(鉄頭)こと董光明(ドン・グアンミン)容疑者と同類だとの批判が寄せられている。【9月10日 レコードチャイナ】
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【中国世論の多くは事件を批判 特に子供を狙った犯行には反発】
日本人としては、この種の反日に凝り固まった言動に接すると気分も悪くなりますが、一方で多くの中国人はそうした「反日」的なものとは一線を画しています。

特に、子供を対象とした犯行には批判の声が多いようです。

****中国SNSに書き込まれた“異例の反応”とは? 「日本人学校10歳男児刺殺事件」に猛反発の声****
(中略)
「この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」
 6月に蘇州で日本人学校バス襲撃事件が発生した際、「デイリー新潮」は中国SNSにあふれる「日本人学校に物申す」系動画の存在を報じた。旧知の通り、中国SNSでの「反日」は再生数稼ぎに最適のテーマであり、日本人学校も数年前からその1つとなった。

ただし、靖国神社動画のような破壊行為でなく、「学校の数が多すぎる」「中国人が入学できないのはおかしい」「なぜ警備が厳重なのか」といった“疑問”を提起するスタイルが大半だ。

配信者が校門前でお決まりの“疑問”を繰り返し、時には守衛と言い争うが、そもそもその“疑問”は中国国内でもネット検索で答えが得られる内容ばかりだ。

そうしたお手軽な「愛国」動画が登録なしで確認できる中国SNSとして、TikTokの中国版・ドウインがある。今回の事件についてもいち早く動画が公開され、様々なコメントが飛び交った。容疑者の動機に対する関心が深いのは日本と同様だが、これまで公開された「反日」動画の影響からか、多くのユーザーは「愛国」が動機だと考えているようだ。

「彼らが宣伝した悪がついに花開いた」 「我々の同胞の多くが日本にもいるという事実を考えてほしい」 「少しの前の亜人事件も然り、この種の『愛国心』は国に混乱をもたらす」 「法に基づいて厳罰に処すべきであり、この風潮が傲慢になりすぎてはならない」

「亜人事件」とは今月7日、北京の名所・円明園でインフルエンサー「亜人」が日本人観光客2人とガイドに執拗に絡み、暴言を吐いた事件を指す。この件も議論を呼び、「良い愛国」と「悪い愛国」の線引きを進めたようだ。香港メディアのオピニオン記事によれば、亜人を支持したのは一部の「脳なしの愛国主義者」だけだったという。

「このままでは中国が孤立する」
深圳の事件に戻ると、SNSコメントからはもう1つ猛烈な反発を招いている要素が浮かび上がる。「子供を狙った」という点だ。

「容赦のない厳罰を」 「子供は無実。暴力反対」 「何があっても子供を攻撃してはならない」 「とても理不尽。子供たちと何の関係がある?」

「事件の全体像がわからないと何とも判断できない」という声には「10歳の子供のどこに非があるのか?」というレスがついている。近年は薄れてきているとはいえ、家族や一族の絆を重要視する中国の一般家庭では「子供と老人」に配慮する傾向がある。

もちろん、事件を非難する声ばかりではない。中国ポータルサイト大手・捜狐(ソウコ)のアカウントが日本のニュースを引用し、「憎しみから弱者を攻撃するのは愛国心ではない。行き過ぎた感情は中国に孤立をもたらすだけだ」と訴えた動画には、「捜狐はどこの会社ですか?」というレスがついた。

だが、「このままでは中国が孤立する」という声は他ユーザーからもこのように寄せられている。
「歴史を念頭に置くと、より重要なのは自らを強くして、国家の自信を高めること。肉切り包丁を手に取って同じことをすれば、世界はあなたから離れていく」【9月20日 デイリー新潮】
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****日本人学校に千束超える献花 中国人ら男子児童に哀悼の意****
中国広東省深センで日本人の男子児童が刺殺された事件で、男児が通っていた日本人学校に20日までに計千以上の花束が贈られたと学校側が明らかにした。ほとんどは現地の中国人が贈ったもので、哀悼の意を示す人が後を絶たない。

「天国で安らかに」などとメッセージが添えられたものもある。インターネット上では事件を巡り反日的な書き込みも少なくないが、市民は子どもが犠牲となった事件に衝撃を受けている。(後略)【9月20日 共同】
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【「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」】
今回のような日中関係に影響する事件で、国内にある反日的な意向を意識する中国政府が表だって「偶発的事件」云々以上に踏み込むことは困難に思えますが、そうした表の話とは別に、現在ネット上で垂れ流されている虚偽も多く含んだ反日的な情報に対し、これまで以上に厳しい対応をとるように働きかけることが今後の日中関係を改善していく上で重要だと考えます。

****3カ月で2度の日本人襲撃事件、「個別事案で国の発展を阻害してはならない」と香港メディア****
2024年9月19日、香港メディア・香港01は、中国で3カ月以内に2度発生した日本人襲撃事件について「極端な個別事案で国の健全な発展を阻害してはならない」とする記事を掲載した。

(中略)「国辱を忘れないことと、今回の日本人小学生に対する暴行事件は、まったく別問題であることをはっきりさせておかなければならない」と主張した。(中略)

3カ月前の6月24日に蘇州のバス停で起きた日本人親子襲撃事件にも言及しつつ「2つの事件はそれぞれ個別の事案であり、日本人を標的にした一連の事件であることを示す決定的な証拠はなく、事件の背景を民族憎悪のレベルにまで昇華させることはできない」と主張。

その一方で、ネット世論では近ごろ排外主義や外国人排斥を主張する書き込みが確かに多いと指摘し、「中国は国を発展する中で狂乱的なポピュリズム(大衆迎合主義)が入り込む余地を与えないよう警戒する必要がある」と指摘している。

そして、民族国家を競争単位とする国際秩序において、適度なナショナリズムは正常な現象であるものの、「他者を誹謗(ひぼう)中傷したり、悪意を持って攻撃するような行動に発展したり、アクセス数や利益を稼ぐために過激な言動をすることは国と国民を誤った方向に導く行為だ」とも指摘。「偏狭で過激なポピュリズムやナショナリズムの高まりは、社会の正常な発展や交流・協力、国民の幸福にとって有害だ」と断じた。

記事は、蘇州と深センで発生した事件について再三「個別事案」であることを強調した上で、「個別事案が中国のイメージと日中関係に悪影響を及ぼすのを防ぐために、中国社会は有力な措置を講じて悲劇の再現を防ぎ、狂乱的なポピュリズムとは一線を画すとともに、さらなる改革開放の中で世界に向けて『狂乱的なポピュリズムは中国社会を代表するものではない』ということを示すべきだ」と結んでいる。【9月20日 レコードチャイナ】
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こういう事件に対しては、日本国内でも「正論」を主張する強気の大きな声が表に出てきがちですが、日本政府も日本の声はしっかりと中国側に伝えつつも、中国政府の状況・立場も踏まえた賢明な対応をとってほしいと思います。いたずらに相手を硬化させるだけの対応は、自己満足にはなっても、事態を悪化させるだけかも。

****中国の危険情報「レベル0」維持 外務省「見直しは検討していない」子供連れには注意喚起****
中国・広東省深圳市の日本人学校に通う男子児童(10)が刺殺された事件を受け、外務省が出す渡航・滞在の「危険情報」が注目されている。

中国の危険度は、新疆ウイグル、チベット両自治区を除き「レベルゼロ」。インドは全土がレベル1以上、ロシアはレベル2だ。外務省は「現段階では見直しの検討はしていないが、中長期的な観点から総合的に判断する」としている。

中国では6月にも江蘇省蘇州市でスクールバスを待っていた日本人母子が刃物で切りつけられる事件が発生。日本国内でも靖国神社での落書き事件など「反日」が理由とみられる事件が続いており、日本政府が具体的な行動を取らないかぎり邦人の安全は守れないとの指摘も出ている。

一方で、外務省は男児が死亡した19日、日本人の安全に関わる重要な事件が発生した際に速報する「スポット情報」で「凶悪犯罪に対する注意喚起」を出し、「特にお子さん連れの方は、十分注意して行動してください」などと呼びかけた。(後略)【9月20日 産経】
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【日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意】
なお、日中間では懸案事項であった日本の水産物の輸入について段階的に再開することで合意したことが明らかになっています。

****中国、日本の水産物輸入を段階的に再開へ=中国ネット民の反応は…****
中国が日本の水産物の輸入を段階的に再開することで合意したことが分かった。日中のメディアが20日に報じた。

報道によると、岸田文雄首相は同日、中国側が安全基準に合致した日本産水産物の輸入を再開することで、日中両国が合意したと明らかにした。国際原子力機関(IAEA)の枠組みの中で行われている処理水のモニタリングを拡充し、中国を含む各国の専門家による水のサンプリング採取や分析機関による比較などを追加で行い、その結果をもって輸入再開が決定されるという。

この情報は中国メディアも速報した。鳳凰網は「日本政府は福島原発の汚染水の海への排出を一方的に開始した。中国は利害関係国の一つとして、この無責任なやり方に断固反対している」と強調する一方、「同時に、われわれは日本側に国内外の懸念に真剣に応え、自らの責任を確実に履行し、効果的かつ長期的な国際モニタリングに全面的に協力するよう、また中国側の独立したモニタリングに同意するよう促してきた」と説明した上で、日本側と4点の共通認識に達したと報じた。(後略)
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“鳳凰網の投稿には多数のコメントが寄せられているが、反発の声が大きいためかコメント閲覧ができない状態になっている。”【同上】と、ネット世論では批判が多いようです。

中国外務省は記者会見で、「日本による一方的な海への放出には断固反対していて、この立場に変わりはない」「中国がただちに日本の水産物の輸入を全面的に再開するわけではない」とも。苦渋の決断のようです。
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中国  中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催 変化するアフリカ向け融資

2024-09-03 23:47:08 | 中国

(中国の中国のアフリカ諸国向け融資 【9月3日 Bloomberg】 灰色部分はパンデミック期)

【4日から北京で中国・アフリカ協力フォーラムサミット開催】
9月4日から北京で開催される中国・アフリカ協力フォーラムサミットに向けて、アフリカ各国首脳が続々と北京入りしています。

****中国・アフリカ協力フォーラムサミットが間もなく開催、各国首脳が続々と北京に到着****
2024年中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)サミットが4日から6日まで北京で開催されます。同サミットに出席する各国首脳が1日と2日に相次いで北京に到着しました。

南アフリカのラマポーザ大統領は2日、北京に到着しました。中国と南アフリカの貿易額は2023年、556億ドル(約8兆1300億円)に達し、中国は15年連続で南アフリカ最大の貿易相手国となり、南アフリカも14年連続でアフリカにおける中国最大の貿易相手国となっています。

赤道ギニアのオビアン・ンゲマ大統領は1日、北京に到着しました。同大統領が今年5月に中国を公式訪問した際、両国首脳は全面的な戦略的パートナーシップの構築を発表しました。

セーシェルのラムカラワン大統領は1日、北京に到着しました。中国とセーシェルの貿易額は2023年、前年同期比14.1%増の1億400万ドル(約152億円)に達しました。

コンゴ(DRC)のチセケディ大統領は1日、北京に到着しました。中国はコンゴにとって最大の貿易パートナーであり、最大の投資国です。

ジブチのゲレ大統領は2日、北京に到着しました。ジブチは中国・アフリカ協力フォーラム、中国・アラブ協力フォーラムのメンバーであり、「一帯一路」の共同建設に積極的に参加しています。

レソトのマテカネ首相は2日、北京に到着しました。中国が支援した太陽光発電プロジェクト、病院、道路プロジェクトなどはすべて竣工(しゅんこう)し、引き渡されました。

今回のサミットは2018年以来のもので、中国とアフリカ諸国ファミリーのもう一つの対面交流であり、中国で6年ぶりに開催される規模が最も大きく、外国指導者の出席者数が最も多い外交イベントでもあります。【9月2日 レコードチャイナ】
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中国・アフリカ協力フォーラムは2000年に創設され、3年ごとにアフリカと北京で交互に開催されています。

前回は2021年のコロナ禍のなか、セネガルの首都ダカールで閣僚会合が開催され、コロナ支援が中心議題となりました。また、初めての長期目標である「中国・アフリカ協力ビジョン2035」が採択されました。

どのくらいの参加国があるのか・・・気になりますが、何故か私が目にした中国メディアはそれについて触れていません。そういう数字が大好きな国のはずですが。

思ったほど増えなかった、あるいは前回から減少したのか、ドタキャンなどもあるので開催日にならないと確定しないのか・・・わかりません。

【毛沢東時代からの中国のアフリカ重視】
中国は毛沢東時代からアフリカ諸国との関係強化・開発支援を外交の柱として取り組んできました。単に革命の理念だけでなく、国連など国際社会においての中国支持を期待してのことでもありますが、そういう面では最近の国際政治における“グローバルサウス”重視の数歩先を行っていたとも言えます。

毛沢東の大躍進政策の失敗で、国内的には中国は1959年から1961年にかけて、1600万から2700万人とも言われる餓死者がでる状況でしたが・・・

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自分たちと同じように第2次大戦後に独立したアフリカ諸国に対する支援を、中国政府は「南南協力」と名づけた。

従来の開発途上国(南)に対する支援が、先進国(北)からの垂直型プロジェクトだったのに対して、中国は同じ開発途上国同士(南+南)の協力関係を提唱したのだ

今日の視点からは慧眼というべきだが、当時、独立直後の中国も国連非加盟(71年、中華民国に代わって代表権を得た)で世界の外交コミュニティからは外れたポジションにあった。【2022年8月23日 小林邦宏氏  President Online】
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【「一帯一路」で拡大したアフリカへの投融資】
近年の「一帯一路」の枠組みのなかでのアフリカとの関係について、中国メディアは以下のように自賛しています。

中国はアフリカ52ヶ国及びアフリカ連合(AU)と「一帯一路」共同建設協力に関する覚書に調印しています。

****中国企業のアフリカでの工事請負契約額、7千億ドル超す****
中国商務部の唐文弘(とう・ぶんこう)部長助理(次官補)は20日、国務院新聞(報道)弁公室の記者会見で、中国の各部門、各地方、各企業は交流と協力を深め、アフリカとの経済・貿易協力の推進で豊かな成果を得ていると語った。

中国とアフリカの貿易額は過去最高の更新を繰り返し、2023年は2821億ドル(1ドル=約146円)に上り、21年より11%近く増え、2年連続で記録を更新し、高い強靭(きょうじん)性を示した。中国と約半数のアフリカ諸国の貿易額は2桁以上の伸びとなり、貿易の高い活力を示した。

投資協力が着実に拡大した。中国の対アフリカ直接投資残高は23年末時点で400億ドルを超え、アフリカの主要な投資元国となった。中国企業は過去3年に、現地で110万人以上の雇用を創出したほか、農業、加工・製造、商業・貿易・物流などの業種をカバーする経済貿易協力区を建設し、千社以上の企業を呼び込み、現地の税収や収入の拡大、輸出による外貨獲得に大きく貢献している。

インフラ協力の効果が顕著である。アフリカは中国第2の海外工事請負市場となっている。中国企業の過去10年間のアフリカにおける工事請負契約額は合計7千億ドル以上、完成工事高は4千億ドル以上に上り、交通、エネルギー、電力、住宅、民生などの分野でプロジェクトを実施し、経済・社会の発展を大きく促した。

新興分野における協力の推進エネルギーが蓄積しつつある。中国は航空・宇宙分野で、アルジェリアやエチオピアなど向けに気象衛星や通信衛星を打ち上げた。

電子商取引(EC)分野ではアフリカと連携して「シルクロードEC」(「一帯一路」構想に基づくEC分野の国際協力推進に向けた取り組み)を拡大するとともに、アフリカ良品ネット通販フェスティバルを開催した。

ルワンダの駐中国大使が出席したライブコマースでは、同国産のコーヒー3千袋が瞬く間に完売した。中国のEC企業はケニア市場を深く開拓し、現地で1万人近い若者に雇用機会を創出している。

公衆衛生・健康分野では、中国企業がマリ、ウガンダ、カメルーンなどで医薬投資を行い、現地の医薬品へのアクセスを改善している。【8月23日 新華社】
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【従来のバラマキ型かた収益性重視に変化】
ここ数年は従来のバラマキの見直しに加え、新型コロナの影響もあってアフリカとの関係は数字上は縮小していましたが、昨年のアフリカ諸国向け融資は、2016年以来初めて年間で増加したとのこと。

****中国のアフリカ諸国向け融資、昨年は16年以来初の増加****
中国の昨年のアフリカ諸国向け融資(承認ベース)は総額46億1000万ドルと前年から3倍余りも急増し、2016年以来初めて年間で増加したことが、ボストン大学グローバル開発政策センターが29日公表した研究報告で明らかになった。

中国は習近平国家主席が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」政策の下、アフリカ諸国向け融資が2012─18年に年間100億ドルを上回る水準を維持していたが、20年に新型コロナウイルスの感染拡大が始まると規模が縮小した。

報告によると、昨年の融資は半分強に相当する25億9000万ドルがアフリカ地域や各国の金融機関を対象としていた。「アフリカの金融機関に焦点を当てているのは、アフリカ諸国の債務問題に巻き込まれるのを避けるリスク軽減戦略である可能性が高い」という。

また、昨年は融資の10%が太陽光と水力発電の3つのプロジェクト向けとなっており、中国が融資対象を石炭火力発電から再生可能エネルギーへと切り替えようとしている様子も読み取れるという。

2000─23年の融資総額は1822億8000万ドルで、大半がエネルギー、運輸、ICT(情報通信技術)向けだった。【8月29日 ロイター】
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コロナパンデミックで大幅減少したのは間違いないですが、すでにパンデミック以前から減少傾向はあらわれていました。そのあたりの話はあとでまた取り上げます。

アフリカ支援で毛沢東以来の伝統を感じさせるものとしては・・・

****中国が掘った数千の井戸、アフリカ大陸を潤す****
西アフリカの玄関口と呼ばれるセネガルから東アフリカのケニア、「サイザル麻とライラックの国」タンザニアから「千の丘の国」ルワンダまで、中国はアフリカ各地で何千もの「幸福の井戸」を掘り、数百万人に安全な水を届け、希望に満ちた大陸を潤してきた。

習近平国家主席は2015年12月に開かれた中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)ヨハネスブルグサミットで、中国とアフリカが共同で「十大協力計画」を実施すると発表した。中国が長年にわたりアフリカの農村で続けてきた井戸掘削プロジェクトは、計画遂行に向けた重要な措置となっている。

幸福の井戸は人々の日常生活を改善し、生産と開発を力強く支えるとともに、中国とアフリカの実務協力を促進する役割を果たしており、共同発展に向けた協力の象徴でもある。【9月2日 新華社】
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前出記事で中国のアフリカ諸国向け融資が昨年は16年以来初の増加だったとありますが、基本的には最近の中国の対外融資は従来のバラマキ型から収益性を重視したものに変化してきています。

****中国、「ばらまき」から収益性重視か-曲がり角の対アフリカ融資****
中国の習近平国家主席がアフリカ各国の首脳を北京に今週迎える際、習氏はアフリカ側への貸し付け規模を縮小し、中国が引き換えに何を求めているのかをより明確に示すとみられる。つまり、リターンの向上とトラブルの減少だ。

アンゴラやジブチを含むアフリカ各国に対し、中国は10年以上にわたり巨大経済圏構想「一帯一路」を通じ1200億ドル(約17兆6000億円)を超える政府支援融資を投じ、アフリカ大陸全域に水力発電所や道路、鉄道を建設してきた。

こうした関係は、中国がエネルギーや鉱物へのアクセスを確保するのに役立つと同時に、国内にたまっていた生産・建設容量のはけ口を提供することにもなった。

しかし、こういったインフラ整備と外交には「債務のわな」や搾取、汚職といった批判がつきまとい、ここ数年、債務苦境の波がアフリカを襲い、3カ国がデフォルト(債務不履行)に陥り、長期にわたる再編が始まったことで、その非難はさらに強まった。

ケニアでの38億ドル規模の鉄道のように、未完成で何もない大地のまま終わるプロジェクトもあり、こうしたアフリカでの事業は一帯一路に絡む空約束を象徴しているかのようだ。

だが、そうした問題にもかかわらず、4日から始まる第9回中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)に出席するため各国首脳が北京に続々と到着しているのは、中国がアフリカ大陸の経済において外国勢として支配的な役割を担っていることを浮き彫りにしている。

今回の会合にはナイジェリアのティヌブ大統領やルワンダのカガメ大統領、南アフリカ共和国のラマポーザ大統領らが参加する予定だ。

FOCACに向け、双方は中国の「ばらまき」型の政策によって築かれた緊密な関係が継続することを期待している。ただ、国内経済低迷への対応に追われる習氏は、対アフリカ支援の軸足をより間接的な官民パートナーシップにシフトさせようとしている。

ノートルダム大学で中国・アフリカ関係を研究しているジョシュア・アイゼンマン教授は「大口融資に沸き立った時代は終わった。次にやって来るのは、以前ほど大規模でも壮大でもないファイナンスだろう。より収益性の高いものになる」との見方を示した。

タンザン鉄道
ボストン大学のグローバル開発政策センターによると、中国の政策銀行を通じたアフリカへの貸し付けは、2000年の9870万ドルから爆発的に増加し、16年には最高額の288億ドルに達した。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期には急減したが、昨年は46億ドルまで持ち直した。

この間、中国は商業銀行を通じても貸し付けを行ってきた。そのバランスは今後数年で、利益を生み出す融資に向け大きく傾きそうだ。

中国の新しいアプローチを代表するプロジェクトには、ギニアでの200億ドルの鉄鉱石鉱山・鉄道やウガンダとタンザニアでの50億ドルの石油パイプライン、軍事政権が「国を運営する」ために必要だというニジェールでの4億ドルの石油関連融資などがある。

ザンビア外務省は先週、ヒチレマ大統領が北京を訪れ、タンザニアとザンビアを結ぶ全長1160マイル(約1870キロメートル)の「タンザン鉄道」を活性化させる投資契約に調印すると発表した。

両国の当局者は、10億ドル規模のこの契約がどのような構成かについてほとんど語っていないが、官民パートナーシップに基づくものになると予想されている。

タンザン鉄道はもともと、中国が1970年代に資金を提供し建設。中国によるアフリカに対する初の主要支援プロジェクトの一部だった。

アフリカ各国が2000年代に中国を頼ったのは、アフリカ勢が切実に必要としていた大規模なインフラ整備のための資金を得る選択肢がほとんどなかったことが一因だ。世界銀行や国際通貨基金(IMF)などが課してきた環境や人権といった条件なしに融資が受けられることも、対中依存を強める結果となった。

しかし、膨れ上がった債務はすぐに各国の財政に打撃を与え始めた。中国が支援したプロジェクトの多くは期待に応えられず、パンデミックによって状況は一段と悪化。20年にザンビアがデフォルトに陥った危機をきっかけに、対アフリカ融資における中国の役割に新たな監視の目が向かった。

その後、ガーナもデフォルトし、他の十数カ国が高い債務リスクにさらされている。特にアンゴラは現在、対外債務の3分の1超える約170億ドルの借入金を中国に負っている。【9月3日 Bloomberg
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【現地権力者のニーズに対応する中国支援 「パンとサーカス」】
中国が1970年代に資金提供し建設した全長1860キロメートルのタンザン鉄道は、その後荒廃し、当初の計画から大幅に縮小し運営されています。

****国連の経済封鎖で窮地に陥ったタンザニアに手を差し伸べた中国****
タンザニアのダルエスサラームとザンビアのカプリムポシ間を「タンザン鉄道(タンザニア・ザンビア鉄道)」が走っている。

現在のタンザニア・ザンビア地域(ザンビアはかつての英領北ローデシア)が植民地支配から独立したのは60年代に入ってからのこと。北ローデシアは銅鉱石の産地で、植民地時代には南ローデシア(現ジンバブエ)を経由して南アフリカ共和国の港湾から輸出していた。
しかし65年、南ローデシアの自治政府が一方的に独立を宣言し、しかも当時の南アフリカ共和国と同様のアパルトヘイト(人種隔離政策)を実施するとしたために国連が南ローデシアを経済封鎖してしまったのだ。

こうなると、ザンビアは銅鉱石を輸出できなくなってしまう。南ローデシアを経由せずに、ザンビア産の銅鉱石をインド洋岸の港湾まで運ぶための新たな鉄道建設の必要性が一気に浮上してきたのだ。

このタイミングでタンザニアの初代大統領ジュリウス・ニエレレは中国を訪問した。そこで中国当局からタンザン鉄道の建設を提案され、70年に中国・タンザニア・ザンビアの3者間で契約が締結されたのである。それに先立つ67年からタンザニア・ザンビアの両国では社会主義化政策が進められていった。

両国の中国への恭順は、大統領をはじめとする政治指導者たちの服装にも表れていった。植民地時代からの旧宗主国の文化であるスーツ姿から、タンザニア・スーツと呼ばれる人民服風のものを着て公式の場に現れるようになったのだ。

4億ドル超の借款と2万人以上の中国人労働者を派遣
工事に際して中国はタンザニア・ザンビアの両国に合計4億320万ドルの借款を与え、約2万人の中国人労働者が現地に派遣されて、約3万人の現地人労働者とともに働いた。そして76年、中国は完成したタンザン鉄道をタンザニア・ザンビアの両国に引き渡す。これによって、両国は経済の屋台骨を支える資源・銅鉱石を輸出するルートを獲得したのである。

このケースは他のアフリカ諸国からも注目されたはずだ。国連の制裁は対南ローデシアであったが、それによって窮地に立たされたタンザニア・ザンビアを、中国が独自の支援で救った。アフリカで中国の存在感が一気に高まったのは間違いない。【2022年8月23日 小林邦宏氏  President Online】
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中国人労働者の人海戦術による鉄道建設の様子などを昔写真で見た記憶があるような・・・

上記記事は「アフリカの権力者がよだれを垂らして欲しがる」という鉄道建設とセットのスタジアム建設の話につながり、その理由は「パンとサーカス」 

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かつてのローマ帝国では、統治のための2大ツールとして「パンとサーカス」が掲げられていた。パンというのは、国民の腹を満たすこと。

中国からの支援による鉄道の建設・復旧で経済が活性化すれば国民の腹も満たされるはずだから、鉄道はパン。

そして、サーカスは娯楽を与えることだった。つまり、飢えをなくし、ストレス発散につながる娯楽を提供できれば、国民は多少の汚職があっても文句はいわない、という考えだ。【同上】
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中国の良くも悪くも現地政権のニーズに対応した支援の在り方を象徴する話です。現在ではアフリカの40以上の国々で、中国からの支援によって建設されたスタジアムが威容を誇っているそうですが、このスタジアム、抵抗運動などが起きると、抵抗者を集めての虐殺場所にも変わります。南米チリ・アジェンデ政権崩壊時のサッカー場のように。
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