(パイプライン爆発現場で煤を払う男性 国際的な賞を受賞した有名な写真(Akintunde Akinleye, Reuters)です ナイジェリアでは盗賊などによってパイプラインから原油が頻繁に抜き取られます。そうした際におこぼれを求めて地域の住民がバケツや容器を手にして集まってきますが、初歩的な不注意による爆発事故も頻発しており、100人、200人といった死者が出ています。これも貧困が背景にあります。 “flickr”より By Alvaro http://www.flickr.com/photos/21582421@N08/4385169079/in/photolist-7Fv8Zr)
【日本とアフリカの両国のためになる投資案件や手法を模索することが大切だ】
明日から開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の関係で、アフリカ関連の話題を多く目にします。
安倍首相も来日した各国首脳と次々に、10~15分程度の「マラソン会談」をこなすそうです。
*****首相が「マラソン会談」、アフリカ首脳40人と*****
安倍首相は31日午前、6月1日に横浜市で開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)のために来日したアフリカ各国の首脳との「マラソン会談」に入った。
会議には約50か国が参加する。首相はこの日だけで10人と会談する予定で、最終的には大統領や首相ら約40人と個別に会談する。
首相は31日午前、首相官邸での閣議を終えた後、横浜市内のホテルに移動し、エチオピアのハイレマリアム首相やリベリアのサーリーフ大統領らと会談した。
各国首脳との会談では、各国の経済成長への支援や日本からの投資の進め方などが議題となる見通しだ。アフリカでは多額の援助や投資を行っている中国の影響力が強まっており、日本として個別会談などを通じて関係強化を図る考えだ。【5月31日 読売】
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今、アフリカに熱い視線が向けられるのは、将来的に巨大市場に成長することが見込まれているためです。
****アフリカ 10億人、最後の成長大陸*****
最後の「成長大陸」として世界の熱い視線を浴びるアフリカ。世界の国家の約4分の1に当たる54カ国がひしめき、地球上の全人口の約15%、10億人以上が暮らす。2050年には人口が20億人以上に倍増する見通しだ。さらに大規模な市場に育つ潜在力を秘める。
特にサハラ砂漠以南の国々の経済成長率はここ数年、5~6%の高水準で推移。1人当たりの国内総生産(GDP)も、00年の492ドル(約5万円)から10年には1189ドルと倍以上に増えた。
成長の原動力は豊富な地下資源開発だ。中国の巨額投資でテンポに弾みがついた。石油や石炭、ウランなどのエネルギーのほか、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)やダイヤモンド、金などが幅広く存在する。
アフリカ全体の名目GDPは01年の5710億ドル(約58兆5千億円)から、11年には1兆8299億ドルと3倍超に達した。世界に占める割合はまだ3%にも満たないが、成長の速度は高い。
一方で、3人に1人が飢えに苦しむ貧困や格差、脆弱(ぜいじゃく)な教育制度や保健衛生は依然深刻な問題だ。イスラム過激派の拡大で政情が不安定な国・地域もある。内紛や独裁、汚職の蔓延(まんえん)などの問題も少なくない。将来を見通す上での不安定材料となっている。【5月30日 産経】
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TICAD5をアフリカ進出の足掛かりにしたい日本政府も、アフリカ支援計画を拡大させています。
****政府、アフリカ投資基金を倍増…5000億円に****
政府は、日本企業のアフリカ進出を支援するため、国際協力銀行(JBIC)の「アフリカ投資倍増支援基金」を通じた金融支援を今後5年間で50億ドル(約5000億円)に倍増させる方針を固めた。
安倍首相が6月1日に横浜で開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)で表明する。
基金はアフリカで社会基盤整備などの事業展開を図る日本企業に出資や融資などを行うもので、2008年の前回会議で創設が決まった。08~13年までの5年間で25億ドル規模の数値目標を掲げ、これまでに南アフリカの送電施設整備などを支援し、目標を達成した。
アフリカは政情不安などの影響があり、開発が立ち遅れている国々が多い。日本企業が投資先として関心を強めていることを踏まえ、目標値を引き上げることにした。今後、基金の活用が想定される事業としては、〈1〉モザンビーク沖の天然ガス田開発〈2〉モザンビークの炭田開発〈3〉ケニアの地熱発電所施設整備――などがある。【5月31日 読売】
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アフリカに進出するためには、大きく先行する中国、旧宗主国英仏、さらには同じようにアフリカ市場に目を向ける新興国などとの競合を乗り越える必要があります。
特に、昨今の議論が“水をあけられた中国との競争”という側面が強調されがちなところは、やや気にかかるところでもあります。
5月27日ブログ「中国に水をあけられた日本の対アフリカ支援 出遅れの挽回は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130527)の表題も、そうした流れにのまれた感があります。
ただ、そこでも書いたように、中国や新興国と規模を争う“体力勝負”は今の日本には無理があります。
****意味のない中国との比較 日本は無限のリスクを負えない****
・・・・こうした現状に一部の報道では、「中国に投資競争で負けるな」と、まるで日本経済界を叱咤するような論調も見られる。日本経済新聞5月3日朝刊では、『アフリカ投資で遅れ、日本、中国の7分の1、巻き返しへ官民連携』と題した記事が掲載され、文中で『日本の出遅れが目立つ』とある。
しかし、中国と日本の投資額を比較して、日本が少ないから巻き返さなければならないことはない。中国との投資競争など、まったくナンセンスだ。
実際、「中国とは事情が違う。日本は日本なりの投資スタンスでアフリカと関わればいい。日本とアフリカの両国のためになる投資案件や手法を模索することが大切だ」と、あるJICA職員は冷静に話す。
そもそも、中国政府や中国の国有企業のように、湯水のように援助資金を投下することも、計り知れないリスクをすべて背負い込んで現地に進出することも、いまの日本政府と日本企業には無理だ。
前出の佐藤氏は「規律を守る、規則を守る、『和を以て貴しとなす』、当たり前のことをしっかりやり通すという日本人の姿勢は高く評価されている」と話す。日本の強みを再確認することが大切だろう。(後略)【5月31日 DIAMOND online】
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【資源の呪い】
成長するアフリカ、巨大市場アフリカを象徴するのが、アフリカ最大の人口1億6250万人、世界第10位の原油産出量を誇るナイジェリアです。
ナイジェリアが巨大市場に成長しつつあるのは事実ですが、そうした光の部分と同時に深刻な影の部分を併せ持っている点でも、今のアフリカを象徴していると言えます。
5月13日ブログ「ナイジェリア 拡大する消費 一方で、国民の7割が貧困層 増大するストリートチルドレン」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130513)では、貧富の格差とストリートチルドレンを、
5月24日ブログ「ナイジェリア イスラム過激派「ボコ・ハラム」に対する大規模掃討作戦が進行」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130524)では、イスラム過激派によるテロの横行を取り上げました。
今日は、産油地帯や海域で石油を奪う反政府武装組織の話と、「赤ちゃん工場」の問題です。
****奪って精製、過激原油盗 ナイジェリア*****
アフリカ最大の産油国ナイジェリアで、海賊が横行している。狙うのは原油を満載したタンカー。奪った原油を独自に精製する工場があると聞き、現地に向かった。
南部の街ウォリから海に向かって数十キロ進むと、ジャングル地帯が広がる。
しばらく行くと、小さな村が現れ、若者がドラム缶を転がしていた。近くに違法な製油所があり、そこで軽油に精製しているのだという。
子供が道で遊んでいる。一見平和な村だ。だが製油所は海賊や外国人の誘拐を繰り返す武装組織と密接につながっているとされる。カメラを取り出そうとすると、運転手に制止された。「外国人と分かれば、襲撃される」
■海賊と一体、パイプライン破壊も
ナイジェリア南部に幅400キロにもわたって広がる大湿地帯「ナイジャーデルタ」。ニジェール川の支流が入り組んだ地域は「クリーク」と呼ばれる。川沿いの道路も複雑に交錯しており、舟でしか移動できない場所も多い。
クリークの「地の利」によって、違法な製油所はここで5年ほど前から増えたという。違法製油所で油を精製することを地元では「クッキング」と隠語で呼ぶ。この地域ではパーム油が生産されており、その技術が応用されているという。(中略)
産油国が並ぶギニア湾では2012年に少なくとも58件の海賊事件があり、その半数近い27件がナイジェリア沖だった。前年から3倍近く増加した。海賊行為に加え、パイプラインの破壊も相次いでおり、失われる原油は日に15万バレル以上で、年間約61億ドルの国家歳入が消えているとされる。
ナイジェリア政府は、空爆なども実施し、摘発を強化しているという。しかし、その徹底には疑問符が付く。記者が訪れた製油所からわずか1キロほどの所に警察の検問があった。自動小銃を持った警官は「油は積んでないのか。警察車両の給油のために買ってきてくれよ」と笑いながら声をかけてきた。地元記者によると、賄賂をもらったり、油を積んだ車からは通行料を取ったりすることもあるという。
石油メジャーの現地職員は「海賊と治安当局がどこまでつながっているかも分からない。『海賊を摘発した』と政府から聞いたが、確保したはずの原油を積んだ船が行方不明になったこともあった」と語った。
■「我々の資源、取り戻すのは自然」
デルタ州の拠点都市ウォリ一帯のイジョー族の首長ヨコレ・ママムさん(74)は「『違法製油』と言って欲しくない。『地元製油』だ」と言った。ママムさんの名刺には「産油地域オーナーズ代表」とある。権利はないが、資源は住民のものだと主張する。製油には関与していないという。
「欧米企業は強欲で我々から資源を奪い、空気や土壌、川を汚した。腐敗した政府の一部が潤ったが、神から与えられた資源の使い方を間違えている。地元では農業や漁業ができなくなった者がやむなく地元製油をやっている」と話した。
この地域では、欧米企業や政府への反発が強い。2006年1月ごろから「ナイジャーデルタ解放運動(MEND)」などによって武装闘争が激化した。MENDはナイジェリア政府と和解したが、今も多くの武装組織が存在する。
(中略)一方、中学校教師のアクポビゼさん(45)は「石油開発による大気や水質汚染は深刻だ。だが、違法製油の方が環境を破壊していると思う」と指摘した。
ナイジェリア・シェル石油開発会社の担当者は「パイプラインの老朽化などによる原油流出はごくわずか。漏れ出ている95%は、違法行為によるものだ。原油の盗難に伴う環境汚染は甚大だ」と話した。
アフリカでは、豊富な地下資源を狙って先進国がしのぎを削る。だが、富の分配をめぐる対立が絶えず、「資源の呪い」とさえ言われる。アフリカきっての資源大国ナイジェリアゆえ、その争いは深刻だ。【5月28日 朝日】
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【赤ちゃん工場】
女性を監禁して出産を強い、生まれた子供を売買する「赤ちゃん工場」については、2011年6月2日ブログ「ナイジェリア 「国際児童デー」の1日、子ども生産売買の「赤ちゃん工場」摘発」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110602)でも取り上げました。
****監禁、産ませて売る ナイジェリア、「赤ちゃん工場」摘発****
アフリカで子どもたちの人身売買が後を絶たない。「養子」として欧米などにも多く送られているという。「赤ちゃん工場」。現地でそう呼ばれる場所に女性を監禁し、出産を強いる事件も相次ぐ。
ナイジェリア南部イモ州都オウェリ近郊で5月上旬、14~22歳の女性22人が乳幼児4人とともに保護された。いずれも出産のため、監禁されていたという。知事公舎で女性たちに会えると聞き、訪ねた。(中略)
■1日1食、高い塀
女性たちは、数日前、警察に保護されたばかりだ。オウェリから数十キロのヤシの木に囲まれた小さな村に、その場所はあった。高い塀に囲まれ、表向きは「飲料水工場」。女性たちは、ゴザが敷かれただけの小さな四つの部屋に詰め込まれていたという。部屋には汚れたベビーベッドや粉ミルクが散乱していた。
女性たちが逃げられないように塀には、鋭利なガラスが無数に埋め込まれ、鉄のワイヤが張り巡らされていた。食事は1日に1回。外出は許されなかったという。
州警察は、女性たちを妊娠させていたとして、20代と50代の男を逮捕した。女性たちは、周辺の村から「仕事がある」とだまされて連れてこられた。妊娠中の未婚女性が、保護を装って巧みに引き入れられたケースもあるという。
■慈善家の女、裏の顔
この場所を運営していたのは、通称「マダム1000」と呼ばれていた女で、現在逃亡中だという。
地元の刑事は「マダム1000は、地元では孤児を養う慈善家として知られていた。少なくとも10年以上、人身売買をしていたとみている。これまで何人の子どもが売られたか分からない」と話した。女の組織の規模などは分かっていない。(中略)
生まれた子どもは、男児が80万ナイラ(約50万円)、女児が45万ナイラで売られていたという。子供がいない家庭や、男児や女児など特定の性別の子供を望む家庭に連れて行かれているとみられる。
イモ州のシネドゥ・オフォ情報局長は、こういった場所について「イモ州では掃討したが、国内のどこにでもある可能性がある。人身売買網は世界に張り巡らされている。売られた子供が国内か欧州などの海外にいるのか分からない」と話した。
ナイジェリアでは、人身売買が大きな問題になっており、2012年だけで400件が報告されている。女性を監禁する場所の摘発もここ数年続いている。子どもの人身売買事件はアフリカ各国で起きている。【5月31日 朝日】
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日本政府の資金援助、日本企業のアフリカ進出が、こうしたアフリカの影の部分の改善に資するのであれば歓迎すべきことです。
一番の問題は、「海賊と治安当局がどこまでつながっているかも分からない」といった政治の腐敗・不正です。そこが改善されないと、底の抜けたバケツで水をくむような話にもなります。