孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

成長大陸アフリカを代表するナイジェリアの原油略奪と「赤ちゃん工場」

2013-05-31 22:53:55 | アフリカ

(パイプライン爆発現場で煤を払う男性 国際的な賞を受賞した有名な写真(Akintunde Akinleye, Reuters)です ナイジェリアでは盗賊などによってパイプラインから原油が頻繁に抜き取られます。そうした際におこぼれを求めて地域の住民がバケツや容器を手にして集まってきますが、初歩的な不注意による爆発事故も頻発しており、100人、200人といった死者が出ています。これも貧困が背景にあります。 “flickr”より By Alvaro http://www.flickr.com/photos/21582421@N08/4385169079/in/photolist-7Fv8Zr)

日本とアフリカの両国のためになる投資案件や手法を模索することが大切だ
明日から開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の関係で、アフリカ関連の話題を多く目にします。
安倍首相も来日した各国首脳と次々に、10~15分程度の「マラソン会談」をこなすそうです。

*****首相が「マラソン会談」、アフリカ首脳40人と*****
安倍首相は31日午前、6月1日に横浜市で開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)のために来日したアフリカ各国の首脳との「マラソン会談」に入った。
会議には約50か国が参加する。首相はこの日だけで10人と会談する予定で、最終的には大統領や首相ら約40人と個別に会談する。

首相は31日午前、首相官邸での閣議を終えた後、横浜市内のホテルに移動し、エチオピアのハイレマリアム首相やリベリアのサーリーフ大統領らと会談した。
各国首脳との会談では、各国の経済成長への支援や日本からの投資の進め方などが議題となる見通しだ。アフリカでは多額の援助や投資を行っている中国の影響力が強まっており、日本として個別会談などを通じて関係強化を図る考えだ。【5月31日 読売】
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今、アフリカに熱い視線が向けられるのは、将来的に巨大市場に成長することが見込まれているためです。

****アフリカ 10億人、最後の成長大陸*****
最後の「成長大陸」として世界の熱い視線を浴びるアフリカ。世界の国家の約4分の1に当たる54カ国がひしめき、地球上の全人口の約15%、10億人以上が暮らす。2050年には人口が20億人以上に倍増する見通しだ。さらに大規模な市場に育つ潜在力を秘める。

特にサハラ砂漠以南の国々の経済成長率はここ数年、5~6%の高水準で推移。1人当たりの国内総生産(GDP)も、00年の492ドル(約5万円)から10年には1189ドルと倍以上に増えた。

成長の原動力は豊富な地下資源開発だ。中国の巨額投資でテンポに弾みがついた。石油や石炭、ウランなどのエネルギーのほか、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)やダイヤモンド、金などが幅広く存在する。
アフリカ全体の名目GDPは01年の5710億ドル(約58兆5千億円)から、11年には1兆8299億ドルと3倍超に達した。世界に占める割合はまだ3%にも満たないが、成長の速度は高い。

一方で、3人に1人が飢えに苦しむ貧困や格差、脆弱(ぜいじゃく)な教育制度や保健衛生は依然深刻な問題だ。イスラム過激派の拡大で政情が不安定な国・地域もある。内紛や独裁、汚職の蔓延(まんえん)などの問題も少なくない。将来を見通す上での不安定材料となっている。【5月30日 産経】
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TICAD5をアフリカ進出の足掛かりにしたい日本政府も、アフリカ支援計画を拡大させています。

****政府、アフリカ投資基金を倍増…5000億円に****
政府は、日本企業のアフリカ進出を支援するため、国際協力銀行(JBIC)の「アフリカ投資倍増支援基金」を通じた金融支援を今後5年間で50億ドル(約5000億円)に倍増させる方針を固めた。
安倍首相が6月1日に横浜で開幕する第5回アフリカ開発会議(TICAD5)で表明する。

基金はアフリカで社会基盤整備などの事業展開を図る日本企業に出資や融資などを行うもので、2008年の前回会議で創設が決まった。08~13年までの5年間で25億ドル規模の数値目標を掲げ、これまでに南アフリカの送電施設整備などを支援し、目標を達成した。

アフリカは政情不安などの影響があり、開発が立ち遅れている国々が多い。日本企業が投資先として関心を強めていることを踏まえ、目標値を引き上げることにした。今後、基金の活用が想定される事業としては、〈1〉モザンビーク沖の天然ガス田開発〈2〉モザンビークの炭田開発〈3〉ケニアの地熱発電所施設整備――などがある。【5月31日 読売】
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アフリカに進出するためには、大きく先行する中国、旧宗主国英仏、さらには同じようにアフリカ市場に目を向ける新興国などとの競合を乗り越える必要があります。
特に、昨今の議論が“水をあけられた中国との競争”という側面が強調されがちなところは、やや気にかかるところでもあります。

5月27日ブログ「中国に水をあけられた日本の対アフリカ支援 出遅れの挽回は?」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130527)の表題も、そうした流れにのまれた感があります。
ただ、そこでも書いたように、中国や新興国と規模を争う“体力勝負”は今の日本には無理があります。

****意味のない中国との比較 日本は無限のリスクを負えない****
・・・・こうした現状に一部の報道では、「中国に投資競争で負けるな」と、まるで日本経済界を叱咤するような論調も見られる。日本経済新聞5月3日朝刊では、『アフリカ投資で遅れ、日本、中国の7分の1、巻き返しへ官民連携』と題した記事が掲載され、文中で『日本の出遅れが目立つ』とある。

しかし、中国と日本の投資額を比較して、日本が少ないから巻き返さなければならないことはない。中国との投資競争など、まったくナンセンスだ。
実際、「中国とは事情が違う。日本は日本なりの投資スタンスでアフリカと関わればいい。日本とアフリカの両国のためになる投資案件や手法を模索することが大切だ」と、あるJICA職員は冷静に話す。

そもそも、中国政府や中国の国有企業のように、湯水のように援助資金を投下することも、計り知れないリスクをすべて背負い込んで現地に進出することも、いまの日本政府と日本企業には無理だ。
前出の佐藤氏は「規律を守る、規則を守る、『和を以て貴しとなす』、当たり前のことをしっかりやり通すという日本人の姿勢は高く評価されている」と話す。日本の強みを再確認することが大切だろう。(後略)【5月31日 DIAMOND online】
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資源の呪い
成長するアフリカ、巨大市場アフリカを象徴するのが、アフリカ最大の人口1億6250万人、世界第10位の原油産出量を誇るナイジェリアです。

ナイジェリアが巨大市場に成長しつつあるのは事実ですが、そうした光の部分と同時に深刻な影の部分を併せ持っている点でも、今のアフリカを象徴していると言えます。

5月13日ブログ「ナイジェリア  拡大する消費 一方で、国民の7割が貧困層 増大するストリートチルドレン」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130513)では、貧富の格差とストリートチルドレンを、
5月24日ブログ「ナイジェリア  イスラム過激派「ボコ・ハラム」に対する大規模掃討作戦が進行」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130524)では、イスラム過激派によるテロの横行を取り上げました。

今日は、産油地帯や海域で石油を奪う反政府武装組織の話と、「赤ちゃん工場」の問題です。

****奪って精製、過激原油盗 ナイジェリア*****
アフリカ最大の産油国ナイジェリアで、海賊が横行している。狙うのは原油を満載したタンカー。奪った原油を独自に精製する工場があると聞き、現地に向かった。

南部の街ウォリから海に向かって数十キロ進むと、ジャングル地帯が広がる。
しばらく行くと、小さな村が現れ、若者がドラム缶を転がしていた。近くに違法な製油所があり、そこで軽油に精製しているのだという。

子供が道で遊んでいる。一見平和な村だ。だが製油所は海賊や外国人の誘拐を繰り返す武装組織と密接につながっているとされる。カメラを取り出そうとすると、運転手に制止された。「外国人と分かれば、襲撃される」

■海賊と一体、パイプライン破壊も
ナイジェリア南部に幅400キロにもわたって広がる大湿地帯「ナイジャーデルタ」。ニジェール川の支流が入り組んだ地域は「クリーク」と呼ばれる。川沿いの道路も複雑に交錯しており、舟でしか移動できない場所も多い。

クリークの「地の利」によって、違法な製油所はここで5年ほど前から増えたという。違法製油所で油を精製することを地元では「クッキング」と隠語で呼ぶ。この地域ではパーム油が生産されており、その技術が応用されているという。(中略)

産油国が並ぶギニア湾では2012年に少なくとも58件の海賊事件があり、その半数近い27件がナイジェリア沖だった。前年から3倍近く増加した。海賊行為に加え、パイプラインの破壊も相次いでおり、失われる原油は日に15万バレル以上で、年間約61億ドルの国家歳入が消えているとされる。

ナイジェリア政府は、空爆なども実施し、摘発を強化しているという。しかし、その徹底には疑問符が付く。記者が訪れた製油所からわずか1キロほどの所に警察の検問があった。自動小銃を持った警官は「油は積んでないのか。警察車両の給油のために買ってきてくれよ」と笑いながら声をかけてきた。地元記者によると、賄賂をもらったり、油を積んだ車からは通行料を取ったりすることもあるという。

石油メジャーの現地職員は「海賊と治安当局がどこまでつながっているかも分からない。『海賊を摘発した』と政府から聞いたが、確保したはずの原油を積んだ船が行方不明になったこともあった」と語った。

■「我々の資源、取り戻すのは自然」
デルタ州の拠点都市ウォリ一帯のイジョー族の首長ヨコレ・ママムさん(74)は「『違法製油』と言って欲しくない。『地元製油』だ」と言った。ママムさんの名刺には「産油地域オーナーズ代表」とある。権利はないが、資源は住民のものだと主張する。製油には関与していないという。

「欧米企業は強欲で我々から資源を奪い、空気や土壌、川を汚した。腐敗した政府の一部が潤ったが、神から与えられた資源の使い方を間違えている。地元では農業や漁業ができなくなった者がやむなく地元製油をやっている」と話した。

この地域では、欧米企業や政府への反発が強い。2006年1月ごろから「ナイジャーデルタ解放運動(MEND)」などによって武装闘争が激化した。MENDはナイジェリア政府と和解したが、今も多くの武装組織が存在する。

(中略)一方、中学校教師のアクポビゼさん(45)は「石油開発による大気や水質汚染は深刻だ。だが、違法製油の方が環境を破壊していると思う」と指摘した。

ナイジェリア・シェル石油開発会社の担当者は「パイプラインの老朽化などによる原油流出はごくわずか。漏れ出ている95%は、違法行為によるものだ。原油の盗難に伴う環境汚染は甚大だ」と話した。
アフリカでは、豊富な地下資源を狙って先進国がしのぎを削る。だが、富の分配をめぐる対立が絶えず、「資源の呪い」とさえ言われる。アフリカきっての資源大国ナイジェリアゆえ、その争いは深刻だ。【5月28日 朝日】
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赤ちゃん工場
女性を監禁して出産を強い、生まれた子供を売買する「赤ちゃん工場」については、2011年6月2日ブログ「ナイジェリア  「国際児童デー」の1日、子ども生産売買の「赤ちゃん工場」摘発」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110602)でも取り上げました。

****監禁、産ませて売る ナイジェリア、「赤ちゃん工場」摘発****
アフリカで子どもたちの人身売買が後を絶たない。「養子」として欧米などにも多く送られているという。「赤ちゃん工場」。現地でそう呼ばれる場所に女性を監禁し、出産を強いる事件も相次ぐ。

ナイジェリア南部イモ州都オウェリ近郊で5月上旬、14~22歳の女性22人が乳幼児4人とともに保護された。いずれも出産のため、監禁されていたという。知事公舎で女性たちに会えると聞き、訪ねた。(中略)

 ■1日1食、高い塀
女性たちは、数日前、警察に保護されたばかりだ。オウェリから数十キロのヤシの木に囲まれた小さな村に、その場所はあった。高い塀に囲まれ、表向きは「飲料水工場」。女性たちは、ゴザが敷かれただけの小さな四つの部屋に詰め込まれていたという。部屋には汚れたベビーベッドや粉ミルクが散乱していた。

女性たちが逃げられないように塀には、鋭利なガラスが無数に埋め込まれ、鉄のワイヤが張り巡らされていた。食事は1日に1回。外出は許されなかったという。

州警察は、女性たちを妊娠させていたとして、20代と50代の男を逮捕した。女性たちは、周辺の村から「仕事がある」とだまされて連れてこられた。妊娠中の未婚女性が、保護を装って巧みに引き入れられたケースもあるという。

 ■慈善家の女、裏の顔
この場所を運営していたのは、通称「マダム1000」と呼ばれていた女で、現在逃亡中だという。
地元の刑事は「マダム1000は、地元では孤児を養う慈善家として知られていた。少なくとも10年以上、人身売買をしていたとみている。これまで何人の子どもが売られたか分からない」と話した。女の組織の規模などは分かっていない。(中略)

生まれた子どもは、男児が80万ナイラ(約50万円)、女児が45万ナイラで売られていたという。子供がいない家庭や、男児や女児など特定の性別の子供を望む家庭に連れて行かれているとみられる。

イモ州のシネドゥ・オフォ情報局長は、こういった場所について「イモ州では掃討したが、国内のどこにでもある可能性がある。人身売買網は世界に張り巡らされている。売られた子供が国内か欧州などの海外にいるのか分からない」と話した。

ナイジェリアでは、人身売買が大きな問題になっており、2012年だけで400件が報告されている。女性を監禁する場所の摘発もここ数年続いている。子どもの人身売買事件はアフリカ各国で起きている。【5月31日 朝日】
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日本政府の資金援助、日本企業のアフリカ進出が、こうしたアフリカの影の部分の改善に資するのであれば歓迎すべきことです。
一番の問題は、「海賊と治安当局がどこまでつながっているかも分からない」といった政治の腐敗・不正です。そこが改善されないと、底の抜けたバケツで水をくむような話にもなります。
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オバマ大統領が無人機攻撃の厳格化を公表 その直後、パキスタンでTTP幹部を狙った攻撃

2013-05-30 22:16:18 | アフガン・パキスタン

(MQ-1 プレデターよりも機体が大型化され、性能が大幅に向上しているMQ-9 リーパー 写真は29日の攻撃とは直接の関係はありません。 “flickr”より DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6686934855/)

【「無人機の使用は厳しく制限される」】
アメリカ、特にオバマ政権以降のアメリカは、自軍兵士の犠牲を出すことなく効率的に相手を抹殺できる手法として、無人機による攻撃をパキスタンにおける対イスラム過激派との戦闘などに多用しています。

無人機攻撃の抱える問題については、これまでも何回か取り上げてきました。
“テロ容疑者の暗殺”が法律的に許されるのか?
特に、相手がアメリカ国籍を有する場合、アメリカ市民の暗殺が許されるのか?
なぜ軍でなく、CIAが中心的に運用しているのか?
無人機操縦に民間人が参加していることに問題はないのか?
民間人の巻き添えが多発していることをどのように考えるのか?
現場の危険を回避し、血を見ることもないことから、“ゲーム感覚”的にもなりがちな懸念は?

オバマ大統領は、こうした疑念・批判にも一定に配慮する形で、無人機攻撃の厳格化を明確にしています。

****オバマ米大統領:テロ容疑者暗殺、無人攻撃機使用を厳格化****
オバマ米大統領は23日、ワシントン市内の国防大学で政権2期目の対テロ戦略について演説し、テロ容疑者を暗殺するための無人攻撃機の運用規定を厳格化することを明らかにした。

無人機による攻撃を「米国民に対する差し迫った脅威」が存在する場合などに限定し、テロ容疑者の暗殺という手法から、身柄拘束や聴取といった刑事手続きを重視する方針に転換する。

オバマ大統領は演説で「無人機の使用は厳しく制限される」と言明。「テロリストを拘束できる時には無人機で攻撃しない。米国は拘束、聴取、起訴の手続きを志向する」と述べた。

また、大統領は「民間人を死傷させないことに関する確信に近い最高水準の基準が必要とされる」とも述べ、一般市民を巻き添えにしないことが確実な場合に限り、無人機による暗殺を実行する考えも表明した。

ホワイトハウスによると、無人機はこれまで中央情報局(CIA)が運用してきたが、今後は米軍に所管を移す。暗殺作戦を承認する特別裁判所や独立監視委員会を設置するなどして監督体制も強化するという。

米シンクタンク・新アメリカ財団によると、ブッシュ前政権下の2004〜08年の5年間に計47件だったパキスタンでの米無人機の攻撃は、オバマ政権下の09年から現在までの約4年で計308件に急増し、巻き添えの民間人死者は推定で最大307人に及ぶ。国連が今年1月から実態調査を開始するなど国際的な批判が高まっており、オバマ政権は対応を迫られていた。

一方、オバマ大統領は「アフガニスタンとパキスタンのアルカイダの中枢は敗北しつつある」として、米本土を標的にした大規模テロの可能性が低くなったと指摘した。
その一方で、大統領は、中東や北アフリカのアルカイダ系組織や、先月15日に米国のボストン・マラソンを狙った爆弾テロのような「ホームグロウン・テロ(国産型テロ)」が今後の脅威になるとの認識を強調。11年6月策定の「対テロ国家戦略」に盛り込んだ「標的を絞り込んだテロ対策」を加速する考えを表明した。【5月24日 毎日】
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このオバマ大統領の演説に先立つ22日には、ホルダー米司法長官が、国際テロ組織アルカイダや関連組織の幹部を狙った無人攻撃機による暗殺作戦の結果、2009年以降、国外でアメリカ国民4人を殺害したと議会に通知しています。

“米政府が無人機を使った作戦で、自国民を殺害した事実を公式に認めたのは初めて。米国内では、自国民を標的にした暗殺の合法性をめぐり議論が再燃しており、オバマ大統領は23日に行うテロ対策をテーマにした演説で無人機の運用について説明し、国民に理解を求める方針だ。”【5月23日 時事】という流れを受けてのオバマ大統領の演説でした。

【「罪のない人々の命を犠牲にし、主権を侵害している」】
無人機攻撃の舞台となっているパキスタンでは、表立ったアメリカへの抗議にもかかわらず「密約」でアメリカの無人機攻撃を認めているとも言われていますが、民間人犠牲も増大しています。

“米国はタリバンなど武装勢力掃討のため、パキスタンやアフガニスタン、イエメンなどで無人機攻撃を行ってきた。英国の非営利団体「調査報道局」によると、米中央情報局(CIA)による無人機攻撃で、パキスタン国内では2004年以降に最大約3500人が死亡。うち884人は民間人とみられるという。”【5月24日 時事】

こうした状況に、国民世論には強いアメリカ批判があります。
先の総選挙でも、アメリカの無人機攻撃を事実上許している政権与党への強い批判が、与党「パキスタン人民党」敗北の一因ともなっています。

この選挙では、野党「正義のための運動」のカーン氏など野党勢力は、アメリカの無人機を撃墜せよという主張も行っていました。
選挙に勝利した「パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派」(PML―N)のシャリフ元首相もアメリカ批判を行っていますが、さすがに政権獲得後のことも考慮してか、“撃墜”云々といった過激な主張は行っていません。

現在はまだ新政権は発足しておらず、従来の人民党政権ですが、そのパキスタン政府は23日のオバマ演説について、無人機攻撃反対の姿勢を変えていません。

****パキスタン:米の無人機空爆を批判 運用厳格化方針にも*****
パキスタン外務省は24日、テロ組織メンバーの暗殺に使用している無人攻撃機の運用規定を厳格化する方針をオバマ米大統領が示したことについて、「無人機空爆は逆効果だというのがパキスタン政府の一貫した立場だ。罪のない人々の命を犠牲にし、主権を侵害している」と批判する声明を出した。

パキスタンでは、無人機空爆で多数の民間人が犠牲になったことから強い反米感情を巻き起こしている。外務省声明は、こうした国民感情を考慮した反応とみられる。国内の軍事専門家の間では「無人機はテロ対策で効果的」との観測が強い。

パキスタンでの米無人機空爆は2004年に始まったが、当時のムシャラフ大統領が米側の圧力を受けて承諾したといわれ、後任のザルダリ大統領も事実上黙認していた。11日の下院選で勝利し、次期首相就任が確実視されるナワズ・シャリフ元首相は選挙期間中、「無人機は不要」との立場を示した。だが、就任後は米国との摩擦を避けるため、「即時使用禁止」などの要求は掲げないとみられている。

パキスタンの治安問題アナリスト、ラヒムラー・ユスフザイ氏は「米国の無人機空爆で国際テロ組織アルカイダなどの活動は確実に低下している。運用を全くやめるのは危険だ」と指摘している。

米シンクタンク・新アメリカ財団の推定では、パキスタンでの無人機攻撃は04年以降、355件あり、テロ容疑者や民間人を合わせて最大3336人が殺害された。【5月24日 毎日】
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TTPナンバー2のラフマン副司令殺害か?】
このようにアメリカ・パキスタン両国が無人機攻撃の是非を注視しているなかで、29日、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)幹部を標的にした無人機攻撃が再度行われました。

*****米無人機の攻撃で7人死亡…パキスタン北西部*****
ロイター通信によると、パキスタン北西部の部族地域北ワジリスタン地区で29日、武装勢力を標的にした米国の無人機によるミサイル攻撃があり、7人が死亡した。

同通信は、パキスタン治安当局筋の話として、死者にイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)ナンバー2のワリ・ウル・ラフマン副司令官が含まれると報じた。一方、地元テレビ「ジオ」によると、TTP側は同副司令官の死亡を否定した。
副司令官は、現指導者のハキムラ・メスード司令官の後継者と目されている。

11日の総選挙で最大野党を率いて勝利し、次期首相就任が確実視されるナワズ・シャリフ元首相は、現政権が行ってきたTTP掃討作戦に反対し、和平交渉を進める考えを示している。

オバマ米大統領は23日、対テロ作戦で無人機の使用を縮小する方針を表明し、パキスタン外務省は歓迎する声明を出したばかり。シャリフ政権発足を控えたこの時期に米国が無人機攻撃に踏み切ったことで、今後の両国関係に影響が及ぶ可能性もある。【5月29日 読売】
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シャリフ新政権の対応は?】
無人機攻撃の厳格化を大統領自身がアピールしたばかりで、また、パキスタンでは従来政権よりアメリカ批判が強いシャリフ元首相の組閣直前という、オバマ政権にとっては具合の悪い時期ではありますが、TTPナンバー2の殺害チャンスを逃す訳にはいかない・・・というところでしょう。
もっとも、新政権発足直後よりは、発足前の現在の方が、パキスタンとの関係を考えるとまだベターと見ることもできます。

無人機攻撃は、“ラフマンはTTPの指導者ハキムラ・メフスードに次ぐ地位。死亡が確認されれば、その死はイスラム法施行をめぐり軍人・民間人に何千ものの死者を出してきた内乱に大きな打撃を与えることになる。”【5月30日 Newsweek】という絶大な効果をもたらします。なかなか止められないでしょう。
ラフマンにはかねてからアメリカ政府が500万ドル(約5億円)の懸賞金を懸けていました。

しかし、“水曜日の無人機攻撃では他にも3人の子供も負傷したと報じられている”【同上】とも。
ただし、治安当局筋によると、他の死亡者は地方指揮官2人を含むTTP 幹部で、民間人が犠牲になったとの報告はないとのことです。【5月30日 AFP】

撃墜せよとは言っていませんが、“6月から政権を担うシャリフは無人機攻撃をパキスタンの主権への「挑戦」と呼んでいる”【同上】なかで、シャリフ新政権が無人機攻撃やイスラム過激派掃討作戦にどのような対応をとるのかが注目されます。
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シリア 攻勢を強めるアサド政権 EUぼ反体制派への武器供与容認 6月に和平国際会議

2013-05-29 23:44:42 | 中東情勢

(盟友関係にあるヒズボラ(ハサン・ナスラッラー師)、シリア(アサド大統領)、イラン(アフマディネジャド大統領) “flickr”より By Pan-African News Wire File Ph... http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4398795305/)

【「今はアサドが勝っている」】
2011年3月以来のシリアでの内戦状態は未だ出口が見えません。

****死者8万人超す 市民は3万4千人****
シリア人権監視団(英国)は12日、内戦中のシリアでの死者が8万人を超えたと明らかにした。反政府デモが本格化した2011年3月以降の死者数としている。

そのうち一般市民は3万4473人で、4788人の子どもと3048人の女性が含まれる。行方不明者などは含まれず、実際の死者数はさらに上回るとみられる。
国連は2月、シリア内戦での死者が計7万人に達したとの集計を明らかにしている。【5月12日 共同】
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また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は5月17日、シリアから近隣国に逃れた難民数が150万人を突破したと発表しています。

犠牲者の数だけが増え続けるなかで、シリア国内からの情報が制限されているため戦況がどうなっているのかよくわかりません。

昨年末にはアサド政権の後ろ盾となっているロシアから、「われわれはアサド大統領の行く末は気に掛けていない」(プーチン大統領)、「アサド政権は国土に対する統制をますます失っている」(ボグダノフ外務次官)といった、アサド政権の将来に悲観的な見方が出たりして、アサド政権の崩壊は時間の問題か・・・といった雰囲気もありました。

しかし、ここにきて戦況はむしろアサド政権側に有利に転換しているとのことです。
その背景には、全土を掌握する「反乱の鎮圧」という認識から、「内戦」において戦略拠点を確保するという認識にアサド政権が変化したことがあると指摘されています。

****アサドを蘇らせた方向転換****
シリア 内戦が長引くなかで反政府勢力からの全土奪還を諦め、戦略的拠点に力を集中させる作戦で政府軍が息を吹き返した

出口が見つからないかに思えたシリア内戦に、意外な展開が訪れている。バシヤル・アサド大統領の政府軍が大きく優位に立ったとみられるのだ。

バラク・オバマ米大統領は5月半ば、「外交・軍事両面での次の選択肢」は残っていると宣言したが、諸外国がシリア内戦に介入することは当面なさそうだ。そんななか政府軍が立て続けに成功を収めたことで、政権側か優位になったという観測が強まっている。
ジョン・マケイン米上院議員(共和党)は先頃、「今はアサドが勝っている」と言い切った。

ここ数力月の間に政府軍は戦略的拠点の支配権を取り戻し、北部と南部の補給ラインを再開した。首都ダマスカスと沿岸部を結ぶルートで極めて重要な西部の都市ホムスでも攻勢に出ている。さらにダマスカスや各地の拠点を強化し、反乱軍による首都攻撃をかわしている。

昨年夏に反政府勢力がダマスカスと商業の中心都市アレッポで攻勢を強めて以来、アサド政権は早期に崩壊すると国内外でみられていた。ところが今は予想外に勢いづいている。デービッド・キャメロン英首相も5月半ば、反政府勢力が武力で紛争を終わらせることは「期待できない」と発言した。

(中略)専門家は、アサドが反撃に成功しているのは目標を縮小したためではないかと考えている。シリア全土を奪還することから、長引く内戦の中で有利なバランスを保つことに狙いを切り替えたというのだ。

紛争への認識を変えた
軍事研究所(ワシントン)の研究員で米陸軍の情報将校だったジョセフ・ホリデーによれば、アサド側はこの紛争ついての認識を「反乱の鎮圧」から「内戦を戦っている」という理解に変えた。アサドは反政府勢力を完全に壊滅させることを諦め、生き残りに欠かせない戦線に専念しているという。
「大統領側は一部の地域で反政府勢力に対抗することを放棄し、戦略的に重要な地域に兵力を集中させるようになった」と、ホリデーは言う。

こうなるとアサド側に有利かもしれない。弱体化したとはいえ、まだ軍事拠点を確保する力は残っており、兵器でも反政府勢力を上回る。アサドに協力するイラン政府とレバノンの武装勢カヒズボラから、十分な武器の供給も受けている。
ヒズボラはホムスなどの拠点に兵士を派遣しており、イランはシリアで軍事訓練を行っていると伝えられる。政府軍は民兵組織も取り入れ、兵力を強化している。

一方の反政府勢力は内部分裂に苦しみ、サウジアラビアやカタール、個人の支持者からの支援も十分とは言えない。「政府軍がイランから毎日受けている支援に比べると、継続性がなく不安定だ」と、ホリデーは言う。(中略)

大統領選出馬も視野に
ワイスにょれば、アサドが失ったとみられる地域は少なくない。アレッポのほか、トルコ国境に接し、反乱軍の重要な供給ルートになっている北西部のイドリブ県などだ。
「シリア全土で勝利できなくても、ダマスカスからホムスを経由して沿岸部につながる地域は取り戻せる」とワイスは言う。
「これで、レバノンのヒズボラからダマスカスヘの供給路と、ロシアやイランから補給を受ける港と空港は確保できる」

米オバマ政権は、交渉による解決が最も望ましいと主張している。反乱が始まってからアサド側を支援してきたロシアもアメリカと共に、問もなくジュネーブで開かれる予定の和平会議の実現に協調姿勢を示した(和平を目指す国際会議は昨年も聞かれたが、当時の和平案は無視されている)。

反政府側は、交渉によるいかなる決着もアサドの退陣が前提になると強く主張している。だが米オハイオ州ショーーニー州立大学の助教でシリア政府の顧問も務めたアムル・アル・アズムは、アサドはあくまで政権を担う覚悟で、来年に予定される大統領選への出馬も考えているようだと言う。

「半年前には、政府軍の目標は反政府勢力を完全に粉砕することだった」と、アズムは言う。「だが今の目標は、アサドが来年まで生き延びることだろう」【6月4日号 Newsweek日本版】
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アサド政権側が攻勢を強めているという見方は、下記の記事も同様です。

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シリアの内戦は2年以上続いているが、アサド政権は今にも崩壊するとの予想を裏切り、最近は反政府勢力への攻勢を強めている。

シリア政府軍は先週、イランの支持を受けているレバノンのヒズボラと協力して、クサイル奪還を目指して徹底的な軍事作戦を開始した。クサイルはシリア西部の町で、シリア政府が支配する地中海沿岸部やレバノンへの道路を確保する上で極めて重要な拠点である。

政府軍はさらに、ダマスカス郊外で反政府軍が占拠する地域に対して多方面から攻撃を進めた。政府は4月以降、この地域への供給ルートを断つことに成功している。”【5月28日 The Wall Street Journal】
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【周辺国・関係国を巻き込んで拡大するシリア内戦の渦】
アサド政権の攻勢を支えているひとつの要素が隣国レバノンのシーア派武装組織ヒズボラのシリア内戦への本格参戦です。(5月20日ブログ「シリアで強まる周辺国を巻き込む宗派対立 イラク国内の宗派対立激化にも影響」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130520)

*****過激派対決」の様相=ヒズボラ対アルカイダ―死者9万人超・シリア内戦*****
シリア内戦は、アサド政権を支えるため本格参戦したレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラが、反政府側のスンニ派アルカイダ系勢力と交戦し、過激派同士の戦いという側面が強まってきた。在英のシリア人権監視団によると、内戦の犠牲者は少なくとも9万4000人に達しており、さらに泥沼化が進む事態を避けられそうにない情勢だ。

シリアからの情報によると、レバノン国境に近い町クセイルでは19日以降、アルカイダ系組織「ヌスラ戦線」のメンバーを含む反体制派部隊と、アサド政権側の部隊に加わった数百人規模のヒズボラ戦闘員らが連日激しく交戦し、26日までに双方合わせて120人以上が死亡した。

レバノンのジャーナリスト、ラドワン・アキル氏は、ヒズボラの介入について「ヒズボラにとって多数の犠牲は避けられず、間違った選択かもしれない。しかし、シーア派と敵対するスンニ派過激派が各国から隣国シリアに集結する事態を看過できなかったのだろう」と分析する。【5月27日 時事】 
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一方、ヒズボラと敵対するイスラエルは、ヒズボラにイラン製武器が流れることを強く警戒しており、シリアでの内戦は周辺国・関係国を巻き込んで次第に大きな渦になりつつあります。

****シリア内戦:中東波及も イスラエルとヒズボラ緊張高まる*****
シリアのアサド政権を支援する隣国レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラと、イスラエルの緊張が高まっている。26日夜には、レバノンからイスラエル側にロケット弾が発射されたと伝えられた。シリア情勢の悪化が中東地域全体に波及する事態も懸念されるが、双方とも「全面対決」は回避したいのが本音のようだ。

レバノン国営通信によると26日夜、レバノン南部マルジャユーンからイスラエルに向けロケット弾1発が発射された。けが人はいない模様。イスラエル軍は「確認中」としているが、着弾地点付近の住民が爆発音を聞いているという。

イスラエルは今月に入って2度、シリアの首都ダマスカス近郊を空爆。イスラエル軍は公式にはコメントしていないが、シリア情勢の混乱に乗じて、イランからヒズボラにミサイルなどが供与されるのを防ぐための攻撃だったとされる。

ただ、イスラエルは現時点でシリアやヒズボラとの全面対決を望んでいるわけではないようだ。
警戒するのは、ヒズボラやイスラム過激派に対し、シリア政府軍の保有する化学兵器や最新鋭のミサイルが流出したり、アサド政権を支援するイランから大量の武器が供与され、イスラエル攻撃に転用される事態だ。

今月中旬、英紙タイムズは匿名のイスラエル政府幹部の言葉として、イスラエルにとっての「最悪のシナリオ」をこう伝えた。「シリアが崩壊して混沌(こんとん)状態に陥り、アラブ諸国の過激派がシリアにのさばるような悪夢を見るぐらいなら、(アサド政権という)なじみの悪魔のほうがまだまし」。イスラエルの地元メディアも最近は「アサド政権の崩壊より存続を望む」というイスラエル政府関係者の言葉を匿名で伝えている。

ヒズボラはすでに、イラン製の地対地弾道ミサイル「ファテフ110」(射程250キロ)などを数百基保有し、イスラエルのほぼ全土を攻撃可能な戦力を持つ。ネタニヤフ首相は19日、政府内の会議で「ヒズボラや他のテロリストの手に兵器が渡る事態があってはならない」と強調、混乱の拡大阻止が急務だとの認識を示した。

一方、ヒズボラは既にシリア西部クサイル周辺に数千人規模で進駐させているのに加え、最高指導者のナスララ師は25日のテレビ演説で「数万人を送り込む」と述べ、シリア内戦に戦力を集中させる意向を示した。

しかし、ヒズボラ側も、現状ではイスラエルとの正面衝突は望んでいない。ナスララ師は「シリア反体制派は、イスラエルを支持する西側諸国に操られている」と説明。世論の支持を得やすい「反イスラエル闘争」と位置付けることで、シリア介入を正当化する材料に利用しようとしている。

26日夜の砲撃も「イスラエルとの戦い」を演出するためにヒズボラが仕掛けた可能性がある。
ただ砲撃は小規模で、犯行声明も出ていない。レバノン南部に拠点を置くパレスチナの過激派勢力による攻撃の可能性もある。【5月27日 毎日】
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イスラエルにとっては、アルカイダ系組織「ヌスラ戦線」とシーア派武装組織ヒズボラが互いに潰しあってくれること自体は歓迎すべきことではないでしょうか。

アサド政権を擁護するもうひとつの勢力、ロシアは2010年の契約に基づき、シリアへの最新鋭対空ミサイルシステム「S300」(アメリカのパトリオットに相当)の引き渡し準備を進めているとされていますが、EUは反体制派への武器供給を解禁することを決定してロシアをけん制しています。

****EU:シリアへの武器禁輸制裁限定解除 反体制派に供給へ****
欧州連合(EU)は27日、外相会議を開き、内戦状態のシリアへの武器禁輸制裁を限定解除し、反体制派へ武器を供給する方針を固めた。

武器供給の実施は猶予を設け、米露やシリアのアサド政権側も参加する6月の和平会議の成果を見たうえで、8月1日までに決める。EUが武器供給態勢を整えることでアサド政権への圧力を強める狙いがある。

EUが限定的にせよ武器供給を決めれば、アサド政権を支持するロシア、イランの反発は必至で、シリアを巡る国際情勢を複雑化させる恐れもある。

EU当局者によると、武器禁輸について限定的に解除する枠組みを決定。アサド大統領退陣など具体的な成果があるかどうかを見極め、8月1日までの猶予を設ける。また、武器供給の際、イスラム過激派への拡散を防ぐため、どの武器をだれに供給するのか、ルートを明確にする保障措置を取る。シリアの原油禁輸やアサド政権幹部の渡航禁止など経済・政治制裁は1年間延長する。

これまで、シリア問題に対するEU外交は、軍の教育訓練など平和構築の色彩が強かった。武器供給を認めれば、EU外交は攻撃的な介入へと新たな一歩を踏み出すことになる。

米露は和平を目指す国際会議を来月に開く予定で、アサド政権側も参加を表明したばかり。EU内には限定的な武器供給を決め、反体制派の立場を強める狙いもある。また、和平会議を承諾する一方、アサド政権への地対空ミサイル引き渡しを決めたロシアへのけん制の意味もある。
武器禁輸を含む対シリア制裁は今月末が期限切れだった。【5月28日 毎日】
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今回のEU決定はイギリス・フランスの意向を受けたものですが、EU内部には武器供給によってアサド政権を支援するロシアやイランの武器援助をかえって加速させ、内戦が激化する恐れを指摘する向きもあります。

また、アメリカとロシアは今月初め、アサド政権と反体制派が参加して和平を目指す国際会議を開くことで合意し、アサド政権は会議参加を表明していますが、今回のEU決定はアサド政権やロシアの反発を強め、会議の開催自体を危うくするとの懸念もあります。
更に、武器がイスラム過激派に流れる可能性もあります。

今のところ英仏以外は冷ややかで、「(武器供与を)検討しているのは(英仏)2カ国だけだ」(オランダのティマーマンス外相)という状況のようです。
イギリス・フランスにしても「あくまでも理論上の解除であり、実際には8月に入るまで武器供与の決定は行われないだろう」(フランスの政府高官)ということで、6月にジュネーブで開かれる和平国際会議までは実際の武器供与は行われない見通しです。

これについては、シリアの反体制派組織「国民連合」スポークスマンは28日、EUの反体制派に対する武器禁輸解除決定について「前向きなステップだ」と述べる一方で、「もっと前向きで、断固とした決断を望む」と指摘し、解除が8月以降になる見通しであることへの不満を示しています。【5月28日 時事より】 

ロシアはEUがシリア反体制派へ兵器を供与した場合、国連総会が4月に採択した通常兵器の取引を規制した武器貿易条約に抵触する恐れが出てくると指摘し、批判を強めています。一方で、自国による「S300」などのアサド政権向けの兵器輸出に関しては、国同士の取引として「合法な輸出」と主張します。

アメリカはEUの武器禁輸解除の決定を支持すると表明しています。しかし、アメリカ自身はこれまでに、過激派の手に武器がわたる危険があるとして、武器提供は行わないとしています。【5月29日 AFPより】

イスラエルは、もしロシアが実際にミサイル供与を行えば、対抗措置を講じると警告しています。
また、シリア北側の隣国トルコでは1月、北大西洋条約機構(NATO)が地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)の運用を開始していますが、シリアの南側隣国ヨルダンのモマニ情報相は26日、「パトリオット」をヨルダン国内に配備することを「友好国」と協議中だと明らかにしています。

更に、シリア隣国イラクではシリア内戦の影響もあって、国内のシーア派とスンニ派の宗派対立によるテロが拡大し治安が悪化しています。
レバノンでも、親シリア勢力と反シリア勢力の緊張が高まっています。

英仏・ロシア、さらにイスラエル・トルコ・ヨルダン・イラク・レバノンなどを巻き込んだシリア内戦の渦は次第に大きくなっています。

反体制派参加は「相当な難題」】
当面は、6月にジュネーブで開かれる和平国際会議の行方が注目されています。
今のところアサド政権側は参加を表明していますが、反政府勢力側は参加を明らかにしていません。
また、シリア・ヒズボラに強い影響力を持つイランの参加をアメリカはまだ認めていません。

****シリア和平会議:各国の外交工作活発化…スイスで6月開催****
6月にスイス・ジュネーブで開かれる予定のシリアに関する和平会議を巡り、米露・欧州とアサド政権側の外交工作が活発化している。

アサド政権側が反体制派への攻撃を強める一方、米露外相は27日、パリで詰めの協議を行った。欧州連合(EU)は同日、反体制派への限定的武器供給で合意、「真剣に交渉しろというアサド政権へのシグナル」(ヘイグ英外相)を発した。会議は6月10日開催案があるが、反体制派の参加は明確でなく曲折も予想される。

EU外交筋は「武器禁輸の限定的解除による武器供給には米国の賛意を得ていた」と明かす。国外での戦争から国内の経済再建へとかじを切っている米オバマ政権は、シリア反体制派への武器供給をためらっている。EUが反体制派の軍事的てこ入れに転じたことで、和平外交主導のオバマ政権と分業した形だ。

EUでは武器供給合意は外交圧力として有効とみなされており、ヘイグ英外相は「(アサド政権が)交渉を拒否すれば(反体制派への軍事支援を含む)すべての選択肢がありうる」と、アサド大統領退陣を含む真剣な対応を求めた。

ケリー米国務長官とラブロフ露外相は27日、和平会議開催へ「全力を傾ける」ことで合意した。米露外相と会談したフランスのファビウス外相は、仏独自の分析でアサド政権が化学兵器を使った疑いが強まっていることを示唆。化学兵器使用は「状況を一変させる」と、アサド政権の暴走にクギを刺した。

アサド政権側は会議参加を表明する一方、27日にレバノン国境付近やダマスカスなどで反体制派への攻撃を強化し、交渉の足場強化を図っている。
ただ、反体制派は会議参加を明言しておらず、ラブロフ氏も開催は「相当な難題」と認める。外交筋は「反体制派にとりアサド政権側との同席のリスクは大きい」と解説。裏切り者扱いされたり、政権側から暗殺の対象にされかねないからだ。

またアサド政権を支援するイランの参加をロシアは要求しているが、米国はためらっており、開催の障害になっている。【5月28日 毎日】
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ミャンマー  「ティラワ経済特区」を軸に進出拡大を狙う日本

2013-05-28 22:54:06 | ミャンマー

(ティラワ経済特区を視察する安倍首相 ティラワ港は水深が浅く、大型船舶が入港できないという問題もあるようです。 “flickr”より By Kevin Thant http://www.flickr.com/photos/95162959@N07/8851419145/)

【「ミャンマーの独立時から、日本とミャンマーは特別な立場にある」】
テイン・セイン大統領のもとでの民主化の進展とともに、欧米との関係を改善しつつあるミャンマーには経済進出を狙う各国政府・企業・投資家などから熱い視線が向けられており、その活況ぶりはさながら「ゴールドラッシュ」の様相を呈しているそうです。

****ミャンマーの「ゴールドラッシュ」、商機求めて外国人が集まる****
軍事政権による支配が終わり、欧米による経済制裁の緩和が進むミャンマーが「ゴールドラッシュ」の様相を呈している。経験豊かな投資家から急いで作った名刺と一獲千金の夢のほかは何も持っていないような新卒者まで、さまざまな人々が商機を得ようと海外から押し寄せている。かつては閑散としていた最大都市ヤンゴン西部では商業が活発化している。

ホテルはどこも満室で、ヤンゴンで契約をまとめようと来た人々の話し声は夜になってもやまない。ホテルのロビーは、パソコンに向かい、雇用に積極的な海外企業とスカイプで話す外国人客でいつもごった返している。

(中略)殺到する外国人は万人に歓迎されているわけではない。一部のミャンマーの年配者は、横柄なタイプの新参者は皆、ミャンマーについての知識もほとんどないのに、抜け目がなく、将来の非現実的な計画ばかり議論すると不満をもらす。

ただ、ミャンマーの人々の多くは外国の専門技術から学ぶのを喜ばしいと思っており、それが、停電や通信速度が遅いインターネット、高い家賃、融通の利かない官僚主義にもかかわらず多くの外国人がヤンゴンにとどまっている理由のようだ。【5月28日 AFP】
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以前観光で二度訪れたヤンゴンが“閑散としていた”とは思いませんが、現在の状況は“沸騰都市”のようです。

当然ながら、歴史的にも、経済的にもミャンマーとは深いつながりを持つ日本も進出の機会を狙っていますが、昨日取り上げたアフリカ同様に、ミャンマーにおいても経済制裁が行われていた軍事政権時代に中国が関係を強化し、日本は大きく水をあけられた状態にあります。

ただ、アフリカと異なり、ミャンマーでは政権が軸足を中国からアメリカに移しつつあり、民主化の機運も高まっていることから、日本も活路が見つけやすい状況ではあります。
遠いアフリカより、近くて関係が深いミャンマーの方が何かと手っ取り早いのも現実です。

ミャンマーを訪問した安倍首相は、すでに発表されていた510億円の円借款に400億円の無償資金・技術協力を上乗せして総額910億円のODAを今年度末までに供与することを明らかにしました。

****日・ミャンマー首脳会談:首相、ODA910億円供与表明*****
安倍晋三首相は26日午前(日本時間午後)、ミャンマーのテインセイン大統領と首都ネピドーの大統領官邸で会談した。首相はミャンマーの経済改革や民主化に向け、総額910億円の政府開発援助(ODA)を2013年度末までに供与し、電力などのインフラ整備を支援する方針を表明。
会談後、両首脳は「永続的な友好協力関係を築く」とする共同声明を発表した。

首相は首脳会談後の共同記者発表で、「ミャンマーの民主化、法の支配確立、国民和解を官民総動員で応援する」と強調。経済協力に限らず、防衛協力や文化・人的交流も進める考えを示した。

一方、テインセイン氏は「ミャンマーの独立時から、日本とミャンマーは特別な立場にある。36年ぶりの日本の首相の訪問で、両国間に新しいページを開くことができた」と述べた。

首脳会談は予定より40分長い約90分間行われ、首相は対日延滞債務の残額約2000億円を免除する方針を表明。日本企業が進出を図るヤンゴン近郊の「ティラワ経済特区」の15年開業に向け、一層の協力を図ることも伝えた。

ミャンマーに対する支援は、同国の経済発展を日本経済の再生に取り込むのが狙い。首脳会談で、テインセイン氏は「人材、技術を外国から導入したい」と語り、日本の技術支援や日本への農産物輸出に期待感を示した。首相も前向きに検討する考えを示した。(後略)【5月26日 毎日】
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中国への不信感・反発も
中国依存を薄めたい思惑があるミャンマー側の日本への反応も悪くはないようです。

****ミャンマー支援 日本への期待 背景に嫌中感****
ミャンマー政府は、安倍晋三首相が26日のテイン・セイン大統領との会談で表明した支援策を、「国づくりへの支援」と受け止め極めて高く評価している。「世界の支援が必要だ」とする大統領の、軍事政権時代から良好な関係にある日本に対する期待は、中国に反し高まるばかりだ。

欧米のミャンマーに対する経済制裁の下で、日本企業は投資などを手控え、この間に中国企業などの著しい進出を許した。
1989~2011年度までの累積投資認可額をみると、1位は中国(139億6100万ドル)、2位はタイ(103億6700万ドル)。日本は13位(2億2300万ドル)と後塵(こうじん)を拝している。ミャンマーにすれば、日本や欧米から投資などを呼び込む余地はそれだけ大きく、安倍首相の支援表明を高く評価しているゆえんだ。

国際通貨基金(IMF)は、ミャンマーの13年度の成長率を6・75%と予測している。ミャンマー側には、経済改革と成長をさらに加速させるうえで「最も安定した信頼できる支援国は日本だ」(政府筋)との認識がある。とりわけ、国民生活の向上と海外投資の拡大を図るうえで、インフラ整備への期待が強い。

大統領は4月に中国を訪問し習近平国家主席と会談するなど、中国との良好な関係もむろん、維持しようとしている。だが、民政移管後のミャンマーの振り子が、中国から米国へ振れるにつれ、「中国との要人の往来は質量ともに低下している」(消息筋)という。
中国企業はというと、通信サービス大手の中国移動(チャイナ・モバイル)が携帯電話事業免許の取得に動くなど依然、活発だ。

しかし、ミャンマーには「中国は資源を略奪するだけで、雇用創出や技術供与などの利益をもたらさない」との嫌中感が根強い。現に、ラカイン州と中国雲南省を結ぶガス・石油パイプラインの建設、カチン州における水力発電ダムの建設、ザガイン管区での銅鉱開発など、中国が出資する共同開発の多くが地元住民の反発に遭っている。

また、中国は最大の輸入相手国であり、対中貿易赤字はミャンマーも例外ではない。地元のエコノミスト、アウン・タン・セット氏は「安倍首相の支援は雇用創出などにつながる。中国の投資を低減させるために、品位がある日本の投資を増やすときだ」と指摘する。【5月27日 産経】
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高揚する住民の権利意識と軍政期を連想させる強引な行政手法がぶつかる
テイン・セイン大統領との会談に先立ち、安倍首相は日本企業進出の舞台となるティラワ経済特区を視察し、また、今後の民主化において中心的役割が期待されている最大野党指導者アウン・サン・スー・チー氏とも会談して関係強化を図っています。

****安倍首相がミャンマーの経済特区を視察、スー・チー氏と会談も****
ミャンマーを訪問中の安倍晋三首相は25日、軍事政権時代に停滞したミャンマー経済のてこ入れに向けてあらゆる支援を実施すると明言し、同国最大都市ヤンゴン近郊のティラワ(Thilawa)経済特区をミャンマー発展の象徴として称賛した。

日本企業がミャンマーの経済発展に寄与する可能性を強調している首相は、面積2400ヘクタールで、港湾と工業団地を備えた同経済特区を視察した。首相は今回の訪問で、インフラ建設を中心に日本企業の専門技術をミャンマーに売り込む。

一方のミャンマーは経済再生のための投資を切実に必要としている。ミャンマーのセッアウン国家計画・経済開発副大臣は「ティラワ経済特区は、官民両面で二国間関係の画期的な出来事だ」とコメントし、雇用や期待が高い技術支援の面で「ミャンマーと日本の企業関係者の短期的成功を創出するだろう」と付け加えた。同特区の環境影響評価は8月に完了する予定だとしている。

日本の首相のミャンマー訪問は、1977年以来36年ぶり。安倍首相の今回の訪問には日本の有力企業40社の幹部が同行している。  首相は25日にヤンゴン市内で、ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー(Aung San Suu Kyi)氏と会談した。26日には首都ネピドーでテイン・セイン大統領と首脳会談を行った。【5月26日 AFP】
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ヤンゴン郊外に開発が進む「ティラワ経済特区」には、日本政府が既に表明したミャンマーへのODA510億円のうち200億円がインフラ整備に投入され、9月には着工予定です。
ただ、民主化のなかで高まる住民の権利意識もあって、立ち退き補償問題を抱えているようです。

*****ミャンマー経済特区:立ち退き要求に住民反発「補償を*****
ミャンマーの最大都市ヤンゴン近郊で日本が官民を挙げて主導する「ティラワ経済特別区」の開発を巡り、住民が立ち退き補償を求めてミャンマー政府と対立している。

日本の「ミャンマー支援」を象徴する大規模プロジェクトの現場を舞台に、高揚する住民の権利意識と軍政期を連想させる強引な行政手法がぶつかり合った格好だ。2015年の一部開業を目指す計画に影響する可能性も出ている。

ヤンゴンの南東25キロ。ティラワ港の後背地に水田地帯が広がる。造成予定地はその一角の6000エーカー(約24平方キロ)で東京ドーム510個分だ。今は熱帯モンスーンの雨期に入り、例年なら耕作風景が見られるはずだが、水田は土色の地肌をさらしている。

「『工業団地ができるので今年はコメを作らないように』と政府から言われたんです」。東京ドームの面積に近い11エーカー(約440アール)の土地を持つ農民のブレサミさん(41)が言った。この国の土地はすべて国有で、農民が持つのは使用権だ。
今は豪雨に備え、ニッパヤシの屋根のふき替えを終えている時期でもある。だが「家は捨てるのだから」と放置していたところ、補償金額も移転先も決まりそうになく急ぎ補修の準備を始めた。

予定地住民の大半は農民だ。補償金を求める381世帯の代表、ミャーラインさん(67)を自宅に訪ね、「要求額が法外ではないか」と問い掛けた。
予定地に隣接して政府分譲の工場用地があり、最近1エーカー当たり2億7000万チャット(約3000万円)で取引された。ミャンマーの土地高騰の一事例として不動産誌も紹介。彼はこれを引き合いに、「補償金は農地法に基づき現在の相場で算出するよう訴えている」と聞いたからだ。10エーカーを持つ彼の場合、満額だと3億円。国の公務員の月給は1万円ほどだ。

実は、軍政期の1997年、予定地一帯で当時の住民を対象に工業団地造成に伴う土地収用の補償として代替地あるいは1エーカー当たり1万〜2万チャットが支給された。補償金は今の貨幣価値で3万〜6万円に相当する。

ティラワ一帯は軍政期に権勢を誇ったキンニュン元首相のお膝元。何の補償もない住民の強制移住など日常茶飯事だった当時としては「まともな扱いだった」(地元関係者)。だが、当時の造成計画は宙に浮く。当局は収用した農地について、補償金を受け取った農民や新たに入植した農民に5年期限で貸し出し、農民は使用料をコメで物納した。満期後、農民は1エーカー当たり1円にも満たない使用料を当局に納め、耕作を続けてきた。

こうした経緯から、ミャーラインさんは「以前の土地収用は無効」と主張し、「補償金の二重取り」ではないと否定する。予定地内の立て看板にはこう記した。「この土地は国家に税金を納めてきた農民の土地であり、当局が追い出す権利はない」と。農民で不動産業も営むセインタンさん(64)は「私たちは欲張りではありません。近辺の農地売買の相場1エーカー4000万チャット(約440万円)ほどでいい」と言った。

予定地近くでは今、外国人向けの高級アパートや住宅が建設中だ。しかも特区開発を主導するのは日本。開業の遅れを避けるため「当局は譲歩せざるを得ない」と踏んでいるのかもしれない。「言論の自由」が保障されたインターネットが普及し、検閲が廃止されて住民の後ろ盾になってくれそうなメディア、市民団体も存在する。

だが経緯を調べると、当局の手荒な退去命令に行き着く。当局は日本側に「立ち退き問題はない」と説明。一方で昨年末に両国政府が特区開発の協力覚書を交わした直後、住民を「不法占拠者」扱いし、文書で「2週間以内に退去せよ。従わなければ30日間、刑務所に拘留する」と通告した。住民の移転先も用意していない。

その後、当局は退去命令を「延期」。ティラワ特区開発委員会のセッアウン委員長(副国家計画・経済開発相)は補償金について「受け取るべき者は受け取るべきだ」と述べた。ただ、97年の補償金支給後に住民が一部入れ替わるなどしており、対象者の絞り込みは容易でない。

経済開発に伴い「ティラワ」のような事例が頻発する可能性があり、経済発展を進める立場からは足かせになる。「民主化」のコストなのだろう。【5月25日 毎日】
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住民と政府の交渉がこじれると、中国による開発事業で紛糾したダム建設や銅山開発と似たような話にもなってきます。

中国の巻き返しも
その中国も日本や欧米の攻勢を座視している訳ではなく、“巻き返し”に出ているというようなことが今朝のTVで報じられていました。
スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)の大会に中国の代表が出席し、多額の資金援助を行うそうです。

これまでもスー・チー氏は中国との関係を否定はしていません。中国と民主化運動という異色の組み合わせではありますが、将来に保険をかけたい中国、中国の影響力を無視できないスー・チー氏側、双方の思惑があっての接近のようです。
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中国に水をあけられた日本の対アフリカ支援 出遅れの挽回は?

2013-05-27 23:11:48 | アフリカ

(第5回アフリカ開発会議(TICAD5)に向けた外務省作成パンフレット)

【「最後の巨大市場」への日本企業の直接投資額は中国の7分の1
アフリカ支援をテーマに6月1日から横浜市で第5回アフリカ開発会議(TICAD5)が開催されます。

“世界で最も夢と希望にあふれた大陸”(岸田文雄外相:東京都内での在日アフリカ諸国大使らとの懇親会で)アフリカは今後急速な拡大が期待されている巨大市場ですが、歴史的に大きな権益・強い関係を有する旧宗主国のイギリス・フランス、近年飛躍的にアフリカとの経済関係を強め、支援規模も他国を圧倒している中国に比べ、日本はアフリカ市場への出遅れが指摘されています。

アフリカ開発会議を前に、出遅れを取り戻すべく日本政府もアフリカへの資金支援を拡大していくことを発表しています。

****アフリカ資源開発に2000億円=15カ国担当相と会合―政府*****
政府は18日、日本企業によるアフリカの資源開発に5年間で総額20億ドル(約2000億円)の資金を支援する方針を発表した。

東京都内で開いた日本とアフリカ15カ国の資源相会合で、茂木敏充経済産業相が「日アフリカ資源開発促進イニシアティブ」として表明した。日本は技術・資金支援体制を拡充し、アフリカ諸国と資源開発での連携を強化する。

資源開発促進イニシアティブでは、日本が石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じ、アフリカでの資源開発に対し5年間で20億ドルの投融資などを行う方針を明記。アフリカの資源産業の基盤を強化するため、資源探査や開発の専門家を5年間で1000人育成し、技術面の協力体制も整えるとした。
また、開発の前提となる電力、上下水道、港湾などのインフラを整備し、経済発展を後押しする方針も盛り込んだ。【5月18日 時事】 
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第5回アフリカ開発会議にはアフリカから約50か国が参加する予定で、安倍首相は各国首脳と個別の「マラソン会談」を行うそうです。
“10~15分程度ずつ”のマラソン会談で、“きめ細かい対応のアピール”が可能かどうかは疑問ですが、会議をてこに水をあけられた中国との差をなんとか縮めたいとの思惑です。
出遅れは否めないものの、日本企業のアフリカ進出も加速しており、政府としてはこれを後押ししたいところです。

****アフリカ:日本企業の進出加速 中国先行に焦り****
6月1日から横浜市で第5回アフリカ開発会議(TICAD5)が開催される。アフリカは豊富な天然資源を背景に経済成長が見込まれており、資源獲得に加えインフラ事業受注などを目指し日本企業が進出を加速させている。

ただ、積極的に投資を行ってきた中国や欧州に比べ日本の出遅れ感は否めない。政府は安倍晋三首相がTICAD5で日本をアピールし、企業進出を後押しする構えだ。

アフリカは2000年代に入って石油や天然ガス、鉄鉱石、貴金属など豊富な資源を背景に急成長し、特にサハラ砂漠以南の実質経済成長率は5.8%まで拡大した。人口も現在の11億人が50年には20億人超になる見込みで、「最後の巨大市場」(経済産業省)との期待が高まっている。
日本企業は資源だけでなく、インフラ需要や今後増大する消費の取り込みも狙い事業展開を急いでいる。(中略)

ただ、日本企業の直接投資額は08年に15億1800万ドルを記録した後、リーマン・ショックの影響で撤退が相次ぎ09年にはマイナスに転じた。
11年に4億6400万ドルまで戻したが中国の7分の1に過ぎず、投資残高でも中国の2分の1。さらに旧宗主国が多い欧州も積極的に投資を続けており、「巻き返しは簡単ではない」(経産省)のが実情だ。

中国などに大きく水をあけられた状況に、政府も危機感を募らせ、18日のアフリカ15カ国との資源相会合で企業の資源開発に5年間で20億ドルを支援する考えを表明し、茂木敏充経産相は「ウィンウィンの関係を構築したい」とアピール。TICAD5でも安倍首相が各国首脳との会談でインフラ整備や医療、農業、環境面などで支援を表明し、信頼を得たい考えだ。【5月20日 毎日】
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すでに、日本には中国と正面から競い合う体力はない
中国は伝統的にアフリカ重視政策をとっており、アフリカ支援は「タンザニア鉄道」以来の歴史があります。
中国の対外支援で常に指摘されるのは、「基本的人権の尊重」とか「民主化の進展」などの条件を付けず、無条件に独裁政権を支援する“無節操さ”ですが、そこに日本が食い込んでいくのは非常に難しいことでもあります。

****日本のアフリカ支援、他国とは違う」岸田外相****
■岸田文雄外相 
特にアフリカにおいて中国の存在感が盛んに最近、指摘されている。しかし日本は、パートナーシップとオーナーシップ、アフリカの自主性、そして対等の立場という基本的な独自の理念を掲げて、アフリカ開発会議(TICAD)をしている。

間違いなく他の国とは違う、しっかりとウィンウィンの関係を築ける(ODA〈政府の途上国援助〉などによる)支援、投資だったと思っている。ぜひアピールしたい。(インターネット番組での山本一太沖縄・北方相との対談で)【5月27日 朝日】
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とは言うものの“アフリカで日本は中国の攻勢に苦戦している。支援を申し出て、断られるケースもある。中国がより良い条件を出すためだ。”【5月27日 朝日】というのが現実です。

****中国ケタ違い 支援、日本は苦戦 施設建設着々、経済特区売り込み****
・・・・アフリカでの日本と中国の立場の格差も開く一方だ。対アフリカの貿易輸出入額は中国の約1300億ドルに対し、日本は約250億ドルに過ぎない。対アフリカ投資額は約14億ドル対約5億ドル、在留自国民は約82万人対約8千人、大使館があるアフリカの国は49カ国対32カ国といった具合だ。すでに、日本には中国と正面から競い合う体力はない、と指摘する専門家もいる。(後略)【同上】
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【「民主化勢力」、その背後で支援する英仏との協調
結局、現地独裁政権を相手にしていては中国と競争することはできない、“アフリカ諸国の「民主化勢力」や英仏、国際機関が取り組んでいる「民主化支援」との協調を模索する”なかで民主化支援における日本の優位性をアピールするのが賢明な方向だとの指摘もあります。

****日本が今からアフリカに進出する余地はあるか 旧宗主国・英仏の既得権益すら脅かす「中国の壁****
中国とアフリカの長くて深い付き合い
中国とアフリカの関係は長くて深く、実は1960年代に始まっている。この時期、アフリカ諸国は次々と独立した。アフリカの指導者の多くは、欧米列強による植民地支配から脱するために、社会主義の統治システムを導入し、中国・旧ソ連との関係を強化したのだ。また、中国のアフリカへの援助もこの時期に始まった。タンザニアとザンビア間を結ぶタンザン鉄道建設への援助が、その代表例である。

90年代以降、「改革開放政策」が軌道に乗った中国は、急激な高度経済成長による国内のエネルギー消費量増加に対応するため、海外での石油とガスの権益確保を国家戦略とした。スーダンやナイジェリアなどアフリカ主要産油国に対して、原油、天然ガス、レアメタルなど希少資源獲得のための経済支援を始めたのである。

そして2000年代以降、中国とアフリカの関係は資源に留まらず、より深く幅広いものになった。中国からアフリカへの輸出高は、2002年の50億ドルから2008年の500億ドルと10倍に増加した。いまや中国は、アフリカ諸国全体との貿易量においては米国を抜いて世界最大である。また中国は、アフリカでのインフラ整備にも積極的に投資している。

アフリカ諸国に対する中国の政治的影響力の増大:選挙における「英仏VS中国」の対立構図
中国は、アフリカ諸国への政治的影響力の強化にも務めてきた。まず、アフリカ諸国への援助の増加である。援助の累積額としては、まだ米、英、仏、日本などに及ばない。しかし、近年の援助額は欧米や日本を抜いたと推定されている。また中国は、アフリカで行われているさまざまな国連PKO活動にも積極的に参加し、1500人の兵士と警察官を派遣している。

中国がアフリカ諸国に対する政治的影響力の強化を目指す理由は、基本的には(1)国連やWTOなど、国際会議の場において、アフリカの友人たちからの政治的支持を確保すること、(2)アフリカの台湾承認国を中国承認へと転換させること、であるとされてきた。
中国は日本の国連安保理常任理事国入りの阻止に成功している。また、54ヵ国のアフリカ諸国のうち、中国承認国が50ヵ国であるのに対し、台湾承認国はわずか4ヵ国となった。実際に中国は、アフリカ諸国の政治的支持獲得に成功してきたといえる。

だが近年、中国は国際舞台での支持獲得だけでなく、アフリカ諸国の国内政治にも積極的に関与する動きを見せている。そして、これまで遠慮気味であった旧宗主国である英仏の利権にも手を突っ込み始めているようだ。

具体的には、アフリカ諸国で行われる選挙に対する中国の関与が強まっていることが挙げられる。前述の通り、アフリカでは60年代前後に各国が独立した。そして、軍事独裁政権を経て、90年代以降多くの国が一党独裁から複数政党制へと転換した。現在、アフリカの54ヵ国中、40ヵ国以上で民主的な大統領選挙や総選挙が行われるようになっている。だが近年、多くの国の選挙で中国が独裁政権を支援し、英仏など旧宗主国が支援する民主化候補との対立構図となり、最終的に中国が支持する候補が勝利する事例が増えているという。

英仏など旧宗主国は、アフリカ諸国に援助する際、「基本的人権の尊重」や「民主化の進展」という条件を付ける。独裁政権はほとんど条件を満たしていないので、英仏と対立することになる。
一方、中国は援助に際して、これらの条件をまったく重視しない。

だから、独裁政権と良好な関係を築くことができる。そして、この良好な関係を生かして、英仏がアフリカ諸国内に持つ「既得権」を徐々に奪っていこうとする。この英仏と中国の「既得権」を巡る暗闘が、選挙という舞台であからさまに表面化するようになっているのである。

日本がアフリカに進出するためには英仏との関係強化により、民主化に協力すべき
要するに、中国はアフリカに政治的・経済的に長く深い関係を築き、その勢いは、旧宗主国である英仏の権益をも脅かすものになっているということだ。今から日本が、アフリカに進出する余地があるのだろうか。

以前論じたように、日本からの援助・投資が増えれば、アフリカ諸国に遠慮なく受け取ってもらえる。「感謝」はしてくれるだろう。しかし、例えば国連という舞台で「日本への支持」に応じるかといったら、「もっと援助してくれたらねえ」「中国さんとのお付き合いもあるので」と、ノラリクラリとかわしてくるのは間違いない。「アフリカ人」とは、実にしたたかな人たちなのである。

日本の援助策の特有の「長期的アプローチ」は、アフリカ諸国にとって魅力があるはずだという意見があるのはわかる。世界的に見て、技術支援や長期的投資に意欲的であり、なにより誠実であるという日本の評判は確かに高い。アジアの開発支援に深く関与してきた経験もある。しかし、それは権力固守だけが目的の独裁政権にとっては、どうでもいいことだろう。

つまり、日本がアフリカ諸国に対して、愚直に長期的な観点から資金援助、人的支援、技術支援を行っても評価されそうにない。独裁政権は「ありがとう」と言ってはくれるだろうが、それ以上なんの展開も期待できないのだ。

むしろ、日本を高く評価してくれるとしたら、それは国家の長期的な発展を考える「民主化勢力」であり、その背後で支援する英仏ではないだろうか。従って、日本がアフリカに対する政治的・経済的影響力を強化したいなら、まず英仏と協力関係を築くべきである。日本がゼロからアフリカに進出しようとしても、とても中国にはかなわない。むしろ旧宗主国の人脈・政治力を生かして進出した方が効果的である。

具体的には、日本がアフリカに対する政治的・経済的影響力を強化したいなら、アフリカ諸国の「民主化勢力」や英仏、国際機関が取り組んでいる「民主化支援」との協調を模索することだろう。そして民主化支援における日本の優位性をアピールするのだ。そこで初めて、日本の長期的アプローチやこれまでの支援の経験が生きてくるのである。(後略)【5月24日 DIAMOND online】
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ただ、民主化支援自体は結構なことですが、英仏もしたたかですので、英仏と組んだ民主化支援で日本がどれだけのものを得られるかはやや疑問でもあります。あまり成果を期待すると当てが外れることもありそうです。

【「中国への愛から目を覚ませ」】
なお、中国のアフリカ支援についても、近年批判もあるのも事実です。
中国がこれまでのようなアフリカ支援を続けられるかは不透明です。

****習政権が直面する 中国・アフリカ間の問題****
・・・・習政権が直面する中国とアフリカ諸国との間の問題点は何か。
 1)中国とアフリカの貿易拡大につれ、両者の摩擦が増大している。例えば、タンザニアでは、2009年、外国人が首都において商店を所有することを禁じたが、これは、中国人を狙ったものである。中国の貿易商たちは中国商品を安価に売るため、現地製品は太刀打ちが出来ない。
 2)アフリカ諸国の側から見れば、特に、資源・エネルギーに乏しい国々にとっては、中国との貿易は赤字の極端な不均衡を生み出している。
 3)資源・エネルギーの豊富な国々との関係では、中国人労働者の移入とともに、環境問題、企業の社会的責任、労働者の安全、地域の労働規則の順守などの面で、中国内部に存在する弱点がそのままアフリカに持ち込まれている。
 4)中国人が直面する危険は、アフリカでは増大しつつある。ナイジェリアでは数十人の中国人が誘拐され、スーダンでは十数人の建設労働者が殺害され、エチオピアでもエネルギー関係者9人が殺害された。

アフリカで、これまで西側諸国が経験したようなことを、中国も体験しつつある。習近平政権下の対アフリカ政策は、今後は、ますます難問に直面するに違いない、と論じています。

(中略)
習近平のアフリカ訪問の時期に合わせて、3月12日付英フィナンシャル・タイムズ紙は、ナイジェリアのサヌシ中央銀行総裁の寄稿文「中国への愛から目を覚ませ」を一面に掲載しました。その中で、サヌシ総裁は、「中国はアフリカから一次産品を奪い、工業製品を我々に売りつけている。これはまさに植民地主義の本質の一つである」、「中国はパートナーであるとともにライバルで、植民地主義の宗主国と同様の搾取を行う能力をもつ国とみるべきである」、「中国はもはや同じ“途上国”ではない」など痛烈な批判を行っています。
アフリカの指導層の中から、中国に対して、このような率直な見解が表明されたのは、おそらく初めてではないでしょうか。

中国としては、世界の「大国」であると同時に、「途上国」であるとの両面を使い分け、アフリカとの連帯意識を強調したいところです。しかし、透明性、説明責任、法治主義を欠いた硬直化した国内体制の反映でもある対外活動を、目に見える形で改善して行くことは、アフリカにおいても容易ではないでしょう。最近のアフリカ諸国の中国を見る目は、一段と厳しくなっています。【4月30日 WEDGE】
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新興国によるアフリカ進出も
なお、アフリカには中国・英仏だけでなく、多くの新興国が進出を目指しています。

****インド、トルコ…新興国も続々****
日本が懸念を深めるのは中国だけではない。インドや韓国、トルコなど新興国によるアフリカ進出も目立って増えている。それぞれがアフリカ支援のための枠組みを構築。「3年間で50億ドルの借款」(インド)、「08年から12年までに対アフリカODA(政府の途上国援助)を倍増」(韓国)、「サハラ砂漠以南の地域に15の大使館を新設」(トルコ)など、競い合っている。

対アフリカ貿易輸出入総額でみると、韓国約140億ドル、トルコ約200億ドル、インド約340億ドルと、日本と競う水準にまで達している。それでも、日本政府関係者は「民間企業は今後10年で、アフリカが魅力的な市場になるとみている。将来、民間企業がアフリカに進出しやすい環境を作りたい」と力説する。【5月27日 朝日】
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対アフリカ支援に限らず、日本は中国や新興国との規模だけを争う“体力勝負”ではなく、日本の独自性をアピールする施策への転換を図る時期に来ているのではないでしょうか。
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ニジェール  イスラム過激派が仏ウラン加工施設攻撃 拡散するテロ組織の背景に砂漠化進行と食糧難

2013-05-26 22:11:30 | アフリカ

(国際人道支援機関Acción contra el Hambre によるニジェールでの砂漠緑化事業 “flickr”より By Acción contra el Hambre http://www.flickr.com/photos/accioncontraelhambre/7499862928/)

マリ:都市部からはイスラム過激派を駆逐
西アフリカのマリでは、北部を制圧して南進の動きを見せたアルカイダ系イスラム過激派「アンサル・ディーン」などの反政府勢力に対し、25年1月、西アフリカ一帯に大きな権益を有する旧宗主国フランスがマリ政府を支援して軍事介入、都市部からイスラム過激派を駆逐し、すでに4月からは撤収を始めています。

今後については、7月には大統領選挙が予定されており、国連安全保障理事会は4月25日、マリの安定化を目指し、平和維持活動(PKO)部隊を創設する決議案を全会一致で採択しています。

しかし、“国内外への避難民・難民は40万人以上とみられる上、北部の都市部で過激派の攻撃が散発的に発生しており、選挙時の混乱も予想される。また、イスラム過激派が放逐された後、北部キダルを事実上管理下に置いた遊牧民トゥアレグ人の世俗主義反政府組織「アザワド解放民族運動(MNLA)」は、選挙前の武装解除というフランスの要請を拒否した。”【4月26日 毎日】という不透明な情勢が続いています。

フランスの戦争にニジェールが協力したことへの報復
そのマリの隣国、ニジェールで、フランスの重要ウラン加工施設がテロ攻撃を受けています。
犯行声明では、マリにおけるフランス軍にニジェールが協力したことへの報復とされています。

*****ニジェールの仏ウラン加工施設などに爆弾攻撃、マリ武装勢力が犯行声明****
西アフリカのニジェール北部で23日、仏原子力大手アレバのウラン加工施設とニジェール軍の基地がほぼ同時刻に相次いで車爆弾攻撃を受け、同国内務省の発表によると兵士18人と民間人1人、自爆犯4人が死亡した。また、容疑者の1人が訓練兵数人を人質に取って施設内に立てこもっているという。

この攻撃について、隣国マリのイスラム武装勢力「西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)」が犯行声明を出した。MUJAO報道官はAFPに対し、攻撃は「シャリーア(イスラム法)に反したフランスの戦争にニジェールが協力したことへの報復」だと述べた。ニジェール軍はマリ北部でのフランス主導のイスラム勢力掃討作戦に部隊を派遣している。

これより先、西側情報筋はAFPの取材に、北部の主要都市アガデスにある軍基地を狙った攻撃で少なくとも10人が死亡したと明かしていた。また、カリジョ・マハマドゥ国防相は、攻撃してきたのは遊牧民族トゥアレグ人かアラブ系の勢力で「既に無力化された」と語っていた。

一方、アガデスから北に250キロメートルほど離れたアルリットにあるアレバのウラン鉱山と加工施設を狙った攻撃は、同社によると4輪駆動車による自爆攻撃で、自爆犯が死亡したほかニジェール人作業員13人が負傷したという。【5月23日 AFP】
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「西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)」のほか、アルジェリアで1月に起きた人質死亡事件を起こしたイスラム武装勢力「覆面旅団」司令官のモフタル・ベルモフタル最高幹部も犯行声明を出しており、MUJAOとの共同作戦だったとも言われています。

****アルジェリア事件首謀の司令官、生存説も 別のテロで声明****
アルジェリアで1月に起きた人質死亡事件を首謀したとされるイスラム武装勢力「覆面旅団」司令官のモフタル・ベルモフタル最高幹部は生きているのか。3月にマリ北部で死亡したとされてきたが、同幹部を名乗る新たなテロの犯行声明が24日に出されたからだ。

声明が出たのは、23日にニジェール北部のウラン鉱山施設などで20人以上が死亡した連続爆破テロ。「ニジェールの大統領が、マリでの聖戦兵士を駆逐したと宣言したことへの我々の反応だ。(仏など)十字軍が成功したのは軍事作戦ではなくメディア作戦だ」と主張。「我々はさらなる作戦を続ける」とし、テロの継続を宣言した。

声明に加え、覆面旅団の下部組織「血盟団」もモーリタニアの通信社に、「(ニジェールの爆破は)ベルモフタル幹部自身が指揮した」と健在ぶりをアピールした。覆面旅団の声明とは別に、「MUJAO(西アフリカ統一聖戦運動)」がテロ当日に犯行声明を出していたが、血盟団は、MUJAOとの共同作戦だったとしている。

ただ、一連の声明にはベルモフタル幹部の映像や肉声などはない。声明に付けられた署名の真偽も不明だ。マリでの拠点を奪われた武装勢力が、求心力を高めるためにカリスマ的な存在の同幹部の名前を使っている可能性もある。

ベルモフタル幹部はマリ北部を拠点とし、幾たびも各国の諜報(ちょうほう)機関を翻弄(ほんろう)。「アンタッチャブル」と言われたが、チャド政府が3月、同幹部の殺害を確認したと発表した。遺体は現地に埋葬されたとの情報はあるが見つかっていない。

ただ、今回のテロはベルモフタル幹部の生死を別にしても、武装勢力側に国境を超えて大きな作戦遂行能力があることを示した。ニジェールでは国内で無数の軍の検問所を設置するなど厳戒態勢にあり、外国人の自由な移動を制限していた。
特にウラン鉱山は、仏の原発燃料の一大供給地で仏のアフリカにおける最重要利権であり、厳重な警備下にあった。広大な砂漠地帯でテロを防ぐことの限界が露呈された。【5月26日 朝日】
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仏のアフリカにおける最重要利権
今回のニジェールでのテロ攻撃は、マリでフランス軍がイスラム過激派を都市部からは放逐したものの、追われたイスラム武装勢力は国境を越えて勢力を温存していることも窺わせます。
また、攻撃対象となったウラン加工施設は、原発大国フランスにとっては重要権益にあたると見られています。

*****ニジェール:自爆テロは隣国マリの報復 イスラム過激派****
西アフリカ・ニジェールのウラン鉱山などで23日に相次いだ自爆テロで、犯行声明を出したイスラム過激派は、隣国マリでのフランス軍などによる過激派掃討作戦への報復であることを明らかにした。

マリでは都市部から放逐された過激派が、国境を越えて各国政府の支配の及びにくい地域に移動し、勢力を温存している可能性がある。マリから波及した過激派が周辺国でテロ攻撃を本格化させる恐れが出てきた。

自爆テロが起きたのはニジェール中部アガデスの政府軍基地と、北部アーリットにある仏原子力大手アレバ社などのウラン鉱山。鉱山では1人が死亡し、爆発による損傷で操業が停止している。(中略)

標的となったニジェールは世界第4位のウラン産出国。電力の75%を原子力に依存するフランスにとって、ウラン鉱山は極めて大きな権益だ。マリへの仏軍介入の遠因にも、フランスが権益を持つニジェールへの過激派拡大を阻止したい思惑があったとみられる。

一方、過激派は2010年にもアーリットでフランス人らウラン鉱山関係者を誘拐。今回のテロも仏権益に打撃を与える狙いがあったと考えられる。

ニジェールのバズーム外相は今月、マリから逃げ出した過激派がリビア南部に根拠地を作っていると懸念を表明。今回のテロ実行犯はリビア南部から入国したとの報道もあり、事実なら、カダフィ政権崩壊後のリビアの混乱に乗じて過激派がこの地域一帯で勢力圏を形成している懸念を裏付けたことになる。

ニジェール軍は仏軍とともにマリに軍事介入。また、ニジェールには軍事介入後、過激派の情報収集などの目的で米軍が無人機の基地を設置し、「テロとの戦い」の新たな拠点となっている。【5月25日 毎日】
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フランスは重要権益が攻撃されたことで、特殊部隊を投入しています。

****仏、ニジェールに特殊部隊投入=武装組織は攻撃継続を警告****
フランスのルドリアン国防相は24日の仏テレビで、西アフリカ・ニジェールで23日起きた連続爆弾テロに関し、標的となった同国軍基地がある北部の主要都市アガデズに仏軍特殊部隊を投入したと明らかにした。これに関連して仏国防省筋はAFP通信に対し、24日未明に仏部隊がテロリスト2人を殺害したと述べた。

ルドリアン国防相はテレビで「情勢は落ち着いている。とりわけ仏特殊部隊がニジェール軍支援のため介入したアガデズではそうだ」と語った。

一方、連続テロの犯行を認めた1月のアルジェリア人質事件の首謀者、ベルモフタール司令官が率いる武装組織「血盟旅団」は24日、イスラム系サイトを通じ声明を発表。ニジェールが隣接するマリでのイスラム武装勢力掃討のため投入した部隊を撤収させない限り、ニジェールで「さらなる攻撃を実行する」と警告した。【5月24日 時事】
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【「食べるものがなくて、戦えばくれると言われれば、死ぬかもしれなくても参加するだろう」】
テロとの戦いは、大規模軍事作戦で短期間に収束させることは困難です。テロを生む背景にメスが入らない限りモグラ叩き状態が続くことが考えられます。
犯行の舞台となったニジェールに関しては、深刻な食糧難が報じられたばかりです。

****ニジェールで深刻な食料危機 80万人に影響****
国連人道問題調整事務所(OCHA)は12日、アフリカ中部ニジェールで80万人が食料危機に直面しており、うち約8万4000人が緊急支援を必要としていると発表した。

干ばつの影響で収穫量が激減したことから備蓄食料が底をつきつつあり、9月の収穫期までの6~8月に深刻な食料不足に陥る恐れがあると警告している。
OCHAによると、食糧難は、東部ティラベリ州とタウア州、中南部ザンデール州で特に深刻で、木や草の葉や野イチゴを食べて飢えをしのいだり、家畜の牛や農具を売却する人も出ているという。

欧州連合(EU)によれば、ニジェールのあるアフリカ・サヘル(Sahel)地域では今年、1030万人が食料危機に直面している。【5月13日 AFP】
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サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域「サヘル」では、砂漠化が進行しており、食糧難・貧困を深刻化させています。
そして、食糧難・貧困が、“食べるために”テロに加わる若者を供給しているという実態があります。

****砂漠化がテロを生む 消える村、流れる若者****
うすい黄色の砂地が地平線まで続く。風に乗った細かい砂粒が、目や鼻に入り込み、息苦しくなる。気温は45度。点在する木々の多くが立ち枯れている。枝に触ると簡単に折れ、白い粉が舞った。

西アフリカ・ニジェール南東部のメイネ・ソロア県。一帯はサハラ砂漠からやってくる砂に埋もれそうになっていた。以前はゾウなどの野生動物も生息していたというが、今は想像するのさえ難しい。
ヤシの林が数キロごとに点在する。元々はアカシアなども生い茂り、緑地がつながっていたという。サハラ砂漠の南縁に延びる「サヘル(アラビア語で岸辺の意味)」だ。

「ここも今年中になくなるだろう」。ニジェール政府のゲロ・ママンさん(49)が、数百メートル四方に広がるヤシの林の前で、つぶやいた。周囲にあったという池や井戸は砂に埋もれ、跡形もない。
1975年にこの県を調査した際、一帯で70ヘクタールに過ぎなかった砂漠は2003年に18万5千ヘクタールに膨らみ、32%以上を占めるようになった。今も毎年1万2千ヘクタールずつ増えている。

四方を砂の丘に囲まれた小さな村グーデラムを訪ねた。農家のスーレさん(65)は飼っていた牛とヤギの9割を干ばつでなくした。残るのは牛2頭とヤギ10頭。「生活しているのではなく、生き残っているんだ。井戸が枯れたら村を去るほかない」。スーレさんはそう話した。

砂漠の拡大は、ニジェールにとどまらない。周辺各国共通の問題だ。干ばつは30年前には10年に1回だったが、5年に1回、2年に1回と頻度を増してきた。昨年は8カ国で1500万人以上が食糧難に陥った。
この一帯で、武装勢力が生活に困った若者たちをリクルートしている。そんな話を聞いた。(中略)

 ■信仰じゃない、食べるために
サヘルの若者が武装勢力に加わっているというのは、本当なのか。取材を重ねていると、国際テロ組織アルカイダ系のイスラム武装組織「MUJAO(西アフリカ統一聖戦運動)」の元メンバーら2人に会うことができた。

MUJAOは、ニジェールに隣接するマリ北部のガオに拠点を置いていた。同国北部は昨春、無政府状態となり、複数の武装組織が入り込んだ。アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス生産施設で、日本人も犠牲になった人質事件の首謀者モフタル・ベルモフタル司令官もガオを拠点にMUJAOとも共闘していた。今年1月にフランスが軍事介入し、武装勢力を主要都市からは一掃したが、一部はゲリラ攻撃を繰り返す。

「メンバーには食うのに困った農民や牧畜民がたくさんいた。近年の大干ばつで多くの人が家畜や生活の糧を失った。大半が宗教心から加わったわけではなく、家族を養うためだ」。2人はそう証言した。

サヘル地域では、一昨年のリビアのカダフィ政権の崩壊に伴う混乱で、大量の武器が周辺国の武装組織にも流出した。彼らが組織から手渡されたのは最新の機関銃だったという。

2人のうちの1人、イドリサさん(44)によると、戦闘員にはチャドやマリ、ニジェールなどサヘル地域出身が多かった。ほとんどが銃を持ったことがない者だった。一緒に寝泊まりし、早朝から夕方まで、走り込みや射撃訓練を受けた。上官はエジプトやリビアなどのアラブ諸国の出身で、訓練の教官も務めていた。戦闘任務前には、メンバーの多くがコカインを吸引しているのを見たという。

イドリサさんが言う。「畑に砂が積もる故郷で、何ができるのだ。政府は助けてくれない。貧困と社会不平等がなくならない限り、また新たな組織ができるだろう。食べるものがなくて、戦えばくれると言われれば、死ぬかもしれなくても参加するだろう」

マリ国境から約60キロに位置するニジェールのマンゲゼ難民キャンプには毎週、数十家族が押し寄せる。干ばつとともに紛争に苦しむ人々だ。マリ北部メナカから来た牧畜農家アボドーさん(60)は「イスラム過激派は市民に30万セーファーフラン(約6万円)を提示して勧誘していた」と明かした。難民組織リーダーのハマドゥーさん(60)も「干ばつなどで生活の糧をすべて失い、希望がなくなった者が加入している例が複数あった」と話した。

 ■緑の壁、自立の芽育む
国際社会がサヘルの問題を見過ごしていたわけではない。
前回2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD4)でも取り上げられ、日本は国連開発計画(UNDP)を通じ、砂漠化を含めた気候変動の脅威への対応に9210万ドルの拠出を表明。さらに6月の第5回会議を控え、サヘル地域などの平和と安定のため、5・5億ドルの支援を明らかにしている。

東はジブチから西はセネガルまで、全長約8千キロにわたって植樹するという「アフリカ緑の壁プロジェクト」構想も持ち上がっている。

ニジェール南東部では10年から緑地帯の周りにヤシの樹皮を何重にも張り巡らせ、砂漠の拡大を食い止める試みが続いている。農地を失った地元住民らが作業に当たり、賃金が支払われている。
メイネ・ソロア県と周辺では計3600ヘクタール分の囲いを作り、120万本を植林したという。ニジェール政府の担当者は「小さな活動だが住民が参加することで持続可能な土地の利用を促すことができる」と話す。

ただ、サヘル地域の治安の悪化によって活動の停止に追い込まれている場所も少なくない。マリでは国際NGOなどによる100以上のプロジェクトがあったが、昨年からの紛争によって北部ではほぼすべて活動が停止しているという。

それでもマリ政府の環境衛生省のスーマナ・タンボ局長補佐は「砂漠化によってコントロールができなくなる地域が増えることは過激派の活動を助長する。さらに生活の糧を失った人々が過激派の提示する金になびく可能性がある」と緑化事業継続の必要性を訴えた。

ブルキナファソなどで20年以上、環境活動をしている日本のNGO「緑のサヘル」(岡本敏樹代表)は、植林に加え果樹栽培や養蜂技術の支援などで地域住民が現金収入を得られるよう、自立のための活動も展開している。
【5月26日 朝日】
**********************

砂漠化・食糧難・貧困が治安の悪化を招き、治安の悪化が緑化防止活動を阻害し、更に砂漠化が進行する・・・・という悪循環にあるようです。しかし、国際社会が軍事介入・権益保護と同程度の本気でこの地域の緑化事業などに取り組めば、この連鎖も断ち切れるはずでは・・・とも思います。
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ベネズエラ  トイレットペーパー騒動が示すチャベス体制維持の危うさ

2013-05-25 22:49:25 | ラテンアメリカ

(スーパーマーケットでトイレットペーパーを買い急ぐ人々 “flickr”より El Mundo Economía & Negocios  http://www.flickr.com/photos/apoyopublicacion/8747839355/)

50.66%対49.07%
チャベス前大統領の死去に伴い4月14日に行われたベネズエラ大統領選挙では、チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領が野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事をやぶり初当選を果たしました。

チャベス氏の“弔い合戦”を前面に押し出し、国営テレビを独占して選挙利用するなかでの予測された勝利でしたが、マドゥロ氏の得票率は50.66%、カプリレス氏は49.07%という意外な僅差でのかろうじての勝利でもありました。

この“僅差の勝利”は、チャベス体制への国民の批判が根深いこと、マドゥロ氏が課された“チャベスなきチャベス体制維持”の十字架がかなり重いものであることを示しているとも言えます。

****ベネズエラ大統領、僅差で“後継”マドゥロ氏 続チャベス路線、多難****
 ■先細る石油、インフレ30%超
南米ベネズエラの反米左翼チャベス前大統領の死去に伴う大統領選の投開票が14日行われた。
全国選挙評議会の発表によれば、チャベス氏の後継者であるマドゥロ暫定大統領(50)が野党統一候補のカプリレス・ミランダ州知事(40)をやぶり初当選を果たした。
マドゥロ氏は、貧困対策を重視するとともに、反米主義を推し進めた“チャベス路線”を継承する方針だが、手腕は未知数で、安定した政権運営ができるか不透明だ。
                   ◇
評議会の発表(開票率99・12%)によれば、マドゥロ氏の得票率は50・66%、カプリレス氏は49・07%。
マドゥロ氏は当選後、大統領府で「チャベス氏の政策を引き継ぎ、社会主義を達成する」と勝利演説した。就任式は19日に行うとした。
                 ■ ■ ■
マドゥロ氏にはチャベス氏のようなカリスマ性はなく、チャベス氏の“弔い合戦”の様相を呈した今選挙ではかろうじて同情票を得て辛勝した。

マドゥロ氏はチャベス氏の死去直前まで、その容体に関して楽観的な情報を流し、相手方の選挙準備を遅らせたほか、服喪期間を延長して“追悼ムード”を1カ月以上作り続けた。また、チャベス氏に後継者として指名された光景を国営テレビで何度も放映するなど政権支持者の票固めに努めてきた。

元バス運転手、労働組合幹部を経て政界入りした“たたき上げ”のマドゥロ氏は、「21世紀の社会主義」のスローガンを掲げたチャベス路線を継承し、300万世帯に対して2018年までに無償住宅を与えるほか教育や医療の無料化を続ける方針だ。
                 ■ ■ ■
ただ、課題は多い。国有石油会社(PDVSA)の昨年の生産量は、施設老朽化に伴う爆発事故や運営の非効率性などで、1999年のチャベス政権発足時の約3分の2の250万バレル(日量)まで低下している。
シェールガス開発を進める米国がベネズエラ産原油輸入を減らす可能性もある。全輸出額の94%を占める石油の輸出が低下すれば、貧困対策実施に大きな影響が出るのは必至だ。

ベネズエラは今年、世界で3カ国だけという30%超の高インフレに見舞われると予想される。薬品など物資不足も目立ち、日常生活への影響は深刻だ。
また、昨年の殺人発生率が南米諸国で最悪(2万1692件、民間団体調べ)を記録するなど治安対策も待ったなしの状況だ。

多くの社会問題を抱える中、「熱しやすく冷めやすい国民」(外交筋)がマドゥロ氏を支持し続けるかは不透明で、安定した政権運営を続けられる保証はない。
                 ■ ■ ■
貧困対策への不満を募らせる中間・富裕層は一斉にカプリレス氏支持に回り、国は二分化が顕著だ。カプリレス氏は開票に不正があると主張、「一票一票確認するまでは結果を認めない」としている。政治・経済不安が重なれば、暴動が発生する可能性も否めない。

外交面で、マドゥロ氏は日量10万バレルの石油を特恵価格で輸出してきたキューバとの関係を継続する。また、核開発を進めるイランや、シリア、ベラルーシとの関係も堅持する方針。

対米関係で緊張が続く状況に変わりはないとみられるが、「テロや麻薬対策で米国と歩調を合わせる」(米紙マイアミ・ヘラルド)など、表向き反米を唱えながらも「現実的に米国に対処する」(南カリフォルニア大のジェラルド・ムンク教授)との観測も一部である。【4月16日 産経】
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短期的には消費者に有益な政策かもしれないが、長期的には損失をもたらす価格統制
“薬品など物資不足も目立ち、日常生活への影響は深刻”という経済状態を端的に表す、店頭からトイレットペーパーなどが消えるという異常事態が話題となっています。
政府は借金で緊急輸入することで、なんとかこの事態をしのぐ方針のようです。

****消費財不足のベネズエラ、借金でトイレットペーパー購入へ****
南米ベネズエラの国民議会は21日、トイレットペーパーをはじめとする個人衛生用品の不足を解消するための輸入用資金7900万ドル(約80億円)の借り入れを承認した。
借入金はトイレットペーパー3900万ロールと生理用ナプキン5000万個、せっけん1000万個、紙おむつ1700万個、チューブ入り歯磨き粉300万本の購入に充てられる。

石油輸出国機構(OPEC)に加盟する同国は、世界最多の石油の確認埋蔵量を誇る。しかし、故ウゴ・チャベス大統領の社会主義政権が2003年に価格統制を導入して以降、一部の消費財が定期的に不足する状況が続いている。

これについて同国政府は、チャベス氏が推進してきた「社会革命」を台無しにしようとしているとして、中道右派の野党と米国を批判してきた。
チャベス氏が後継者に指名していたニコラス・マドゥロ氏が僅差で大統領選に勝利して以来、野党は与党側の不正を訴え続けており、ベネズエラ社会は二分されている。

また、ベネズエラは現在も散発的な電力不足やインフレに苦しんでいる。昨年のインフレ率は20%に達し、公的債務は国内総生産(GDP)の約半分に当たる約1500億ドル(約15兆3000億円)に上っている。【5月25日 AFP】
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日本でも狂乱物価の際にはトイレットペーパー買いだめ騒動が起きましたが、トイレットペーパーは社会の不安感を敏感に反映する商品のようです。
マドゥロ政権は、野党勢力などが不安を煽っているせいだとしていますが、ベネズエラ経済の問題が露呈した結果と言うべきでしょう。

****トイレットペーパーがペネズエラから消えた****
ベネズエラからトイレットペーパーが消えようとしている。
政府がついに先週、5000万ロールの輸入を決定したほどだ。

なぜ突然、そんな事態に陥ったのか。マドゥロ政権は、野党とメディアが不安をあおり、人々をトイレットペーパーの「買いだめ」に走らせたと非難。
だが真の原因は、この国の立ち行かなくなった経済政策だ。

ベネズエラ経済は、お世辞にも健全とは言えない。チャベス前政権は資本逃避を防ぐために厳しい通貨統制を行った。このため自国通貨で外国製品を購入したり、外国と取引することが困難になった。チャベスが貧困層の支持を得るために、食用油やトイレットペーパーなど生活必需品の価格を長年にわたり厳しく統制したことも悪かった。

こうした政策がトイレットペーパー不足を招いた。消費者にとって短期的には有益な政策かもしれないが、長期的には損失をもたらし得る。
販売価格が生産コストより低く設定されれば、生産する意欲はそがれる。
政府はトイレットペーパー1個の値段を50セントに設定したが、生産コストが52セントだとしたら?
生産者は作るのをやめるか、より高値で買ってくれる近隣諸国に輸出するか、闇市場で取引しようとするだろう。その結果、国内では不足することになる。

理論的には国内で商品が不足した場合、輸入で補うことができる。だがこれも通貨統制のせいでままならない。
利益が上がらなければ、商品を市場に出す気にはならないだろう。至極当たり前の話だ。【5月28日号 Newsweek日本版】
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最も危険な国
経済と並んで治安悪化も問題となっています。
“殺人発生率が南米諸国で最悪”とのことですが、治安の悪いことでは世界トップレベルの南米で最悪ということは、世界最悪レベルと言ってもいいでしょう。

****世界一危険な国はベネズエラ ギャラップ社、134カ国・地域調査****
世界で最も危険を感じる国はベネズエラ――。米ギャラップ社が市民の体感治安を調べたところ、こんな結果が明らかになった。

134カ国・地域で昨年末までに実施された調査で、「夜道を一人で安心して歩けますか」との問いに対し、ベネズエラでは74%が「いいえ」と答え、アフガニスタンなどの紛争地域を抑えてトップとなった。

NGO「ベネズエラ暴力監視団」は昨年末、同国で人口10万人あたり73人が殺害されていると発表しており、誘拐や強盗などの犯罪も頻発している。
マドゥロ大統領は、警察駐在所の設置や国軍の展開を相次いで打ち出すなど、治安対策のアピールに必死だ。

一方、最も安全と感じる国はカタール。日本は27位だった。
 
 ■最も危険な国・地域
 1位 ベネズエラ
 2位 南アフリカ
 3位 チャド
 4位 ボツワナ
 5位 ガボン
 ■最も安全な国・地域
 1位 カタール
 2位 グルジア
 3位 インドネシア
 4位 ミャンマー
 5位 香港
 :
27位 日本
 :
34位 米国
 (ギャラップ社の調査による)【5月22日 朝日】
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安全な国として、グルジアやインドネシアが2位、3位、香港が5位で、日本が27位というのは納得しがたいものがありますが、「夜道を一人で安心して歩けますか」というあくまでも主観的な判断ですから、こんな結果にもなるのでしょう。
インドネシアの人々がこれほど安心感を抱いているというのは、それはそれで興味深い数字ではあります。
また、カタールのようなイスラム国家では、そもそも女性が夜道を一人で歩くこと自体がないのではないでしょうか。

それはともかく、危険な国・地域の上位に並んだ国の顔ぶれは、さもありなんといったところです。
以前ブログでも取り上げたことがありますが、ベネズエラでは犯罪者が多すぎて刑務所がパンク状態にあり、“国内に30カ所以上ある刑務所は規定を超える収容者と暴力に悩まされており、2012年だけで600人近い囚人が命を落とした。NGOによると、ベネズエラの刑務所には、定員1万6500人に対して、3倍の4万8000人が収監されているという。実に、囚人の1%以上が毎年、刑務所内で殺害されている計算だ。”【4月7日 産経】といった刑務所の混乱状態も起きています。

カリスマを持ったチャベスを欠いたチャベス体制維持は、早晩限界に直面すると思われます
ベネズエラの憲法では、大統領不信任に関する拘束力がある国民投票は政権半ば以降に行えるとされているようですので、今回選挙で惜敗した野党陣営は、今後そのあたりを睨んだ動きとなるのではないでしょうか。
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ナイジェリア  イスラム過激派「ボコ・ハラム」に対する大規模掃討作戦が進行

2013-05-24 23:02:46 | アフリカ

(4月30日 ナイジェリア北東部ボルノ州バガの町中を巡回する同国軍の兵士 【5月19日 AFP】)

【「奴らのテロ行為を終わらせるために必要な軍事的措置をすべて動員する」】
西アフリカの地域大国ナイジェリアの光と影については、比較的最近の5月13日ブログ「ナイジェリア  拡大する消費 一方で、国民の7割が貧困層 増大するストリートチルドレン」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130513)で取り上げたところですが、そこでも触れたように、南部にキリスト教徒、北部にイスラム教徒が暮らすナイジェリアではイスラム過激派「ボコ・ハラム」の対キリスト教徒・外国人に対するテロが頻発しています。

“ボコ・ハラム(Boko Haram )とは「西洋の教育は罪」という意味となる。ナイジェリア北部の各州にシャリーアの導入を目指して武装闘争を展開している。「ナイジェリアのターリバーン」と呼ばれる。ボコ・ハラムは西洋式教育だけでなく西洋文明、現代科学、特にダーウィン主義を攻撃している。”【ウィキペディア】

凶悪なテロ活動を繰り返す「ボコ・ハラム」に対する政府・治安当局の対応はどうなっているのか疑問にも感じていたのですが、グッドラック・ジョンソン大統領は5月14日夜のTV演説で、北東部のアダマワ、ヨベ、ボルノの3州に非常事態を宣言すると共に、ボルノ州の一部が「ボコ・ハラム」に占拠されていることを明らかにしました。そして、ナイジェリア政府はこれまでにない大規模な掃討作戦に乗り出し、激しい戦闘が行われています。

****ナイジェリアが泥沼の内戦に****
「奴らのテロ行為を終わらせるために必要な軍事的措置をすべて動員する」--ナイジェリアのジョナサン大統領は先週、イスラム武装組織ボコ・ハラムの掃討を目的として、非常事態宣言を発令。ボコ・ハラムの拠点となっている北東部3州に、約8000人から成る前例のない規模の軍隊の増派を命じた。

ポルノ州では、ボコ・ハラムの巣窟となっているサンビサ動物保護区で急襲作戦が展開された。軍は「国家の領土と治安を守るために総力戦で戦う」としており、戦闘機や武装ヘリコプターが投入される可能性も高い。

キリスト教徒が多い南部とイスラム教徒が多い北部が対立するこの国で、ボコ・ハラムがイスラム国家の建設を目指して反政府闘争を始めたのは09年頃。
以来、政府機関を狙ったテロ攻撃や外国人の誘拐などを繰り返し、北部の一部を実効支配するまでに勢力を拡大してきた。

ボコ・ハラムの暴力行為は、特にこの1年で激しさを増している。今月初めにもポルノ州で警察署などが組織的に襲撃される事件が起き、55入が死亡した。
人権団体によれば、09年以降の犠牲者数は約3600人に上る。

軍がボコ・ハラムつぶしに失敗すれば、待っているのはもっと悲惨な内戦だ。【5月13日 Newsweek】
********************

ただ、ナイジェリア政府軍について懸念する向きもあります。
“今回の軍事作戦をめぐっては、多数の民間人死者が出る可能性があるとの懸念が広く広がっている。ナイジェリア軍はこれまでにも、民間人への無差別攻撃を含む重大な人権侵害を行ったとして非難されている。”【5月18日 AFP】


アメリカもナイジェリア軍の行動にはくぎを刺しています。
  
****ナイジェリアの戦闘に「深い懸念」=米****
ケリー米国務長官は17日声明を出し、ナイジェリア北東部で続く同国軍とイスラム過激派の戦闘に「深い懸念」を表明した。
声明は同国北東部を制圧したイスラム過激派「ボコ・ハラム」のテロ攻撃を非難するとともに、ナイジェリア軍に対しても人権と法の支配を順守するよう促した。【5月18日 時事】 
*********************

“パリの開発調査研究所のナイジェリア専門家であるマルク・アントニー・ペルーズ・デ・モントクロ氏は「鞭だけで(ボコハラムの)動きを止められるとは思わない。人参との併用であれば何かを達成できよう」(AFP通信 2013年5月19日)と論評している。”【5月21日 「最近の中東・エネルギー情勢から」】というように、大規模掃討作戦の効果に懐疑的な見方もあります。

5月16日にブリュッセルで開かれたナイジェリア・EU閣僚会合で、EU側は「大規模軍事作戦は非生産的」との警告を行っています。

5月19日には、ナイジェリア軍のクリス・オルコラデ准将・報道官が記者会見で、拠点を追われた「ボコハラム」がバラバラになっていると説明、掃討作戦の成果をアピールしていますが、実際のところはまだよくわかりません。
ネット情報によれば、政府軍は更に増員して攻撃を継続しているようです。

****ナイジェリア:ボコ・ハラムに対して攻撃を継続****
ナイジェリア軍は20日月曜日、Borno州にあるイスラム主義者の5つの拠点を奪還し、1000人の援軍を派兵することを決定したと発表した。
この地域でイスラム過激派ボコ・ハラムへの攻撃を開始して6日目のことだ。

ナイジェリア軍は「New Marte、Hausari、Krenoa、Wulgo、そしてChikun Ngualoにあるテロリスト拠点をすべて破壊し、これらの地域の安全を確保した。現在は住民の保護し自由を保障している」と軍スポークスマンのOlukolade将軍は話している。これらの地域はすべてカメルーンの国境付近にあり、イスラム過激集団の勢力範囲と見なされていた。(後略)【5月21日 「フランス語ニュース」http://novellefrancaise.blog.fc2.com/blog-entry-118.html
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犯行理由は英国兵士によるイスラム教徒殺害
一方、ナイジェリア関連のテロ事件が思わぬところ、ロンドンで発生しています。
「ボコ・ハラム」との直接の関連は報じられていませんが、激しい欧米への憎悪という点では共通の土壌に根差しているように見えます。

****英国:新たなテロ、衝撃大きく 英兵殺害****
ロンドン南東部ウーリッチの路上で22日、英兵が男2人に殺害された事件で、容疑者の1人はキリスト教から改宗したイスラム教徒で、イスラム過激派団体と交流があったと英メディアが23日報じた。

英当局は事件前から両容疑者の存在を知っていたが、テロ関与の可能性を察知していたかは不明だという。英国は2001年の米同時多発テロ後、国内のイスラム過激派組織の壊滅作戦で一定の成果を収めていただけに、今回の事件の社会への衝撃は大きい。

BBC(電子版)によると、警官に撃たれ入院中の容疑者2人のうち、1人はナイジェリア系英国人で28歳。01年以降に改宗した。英軍兵士を殺害した後、犯行理由は英国兵士によるイスラム教徒殺害だと語ったという。
英国はイスラム国であるアフガニスタンに派兵している。ロイター通信によると、別の1人もナイジェリアとの関連が疑われている。
ナイジェリアではイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」のキリスト教徒や欧米人への攻撃が激化している。

事件から一夜明けた23日、キャメロン英首相は緊急治安対策会議を招集。ロンドン警視庁のホーガンホウ警視総監や国内情報機関MI5幹部も出席し対応を協議した。会議後、首相は「英国はテロに屈しない」と語った。
ホーガンホウ警視総監は対テロ特殊班が捜査を始めたことを明らかにし、「人々が平穏な生活を送る大通りで衝撃的でおぞましい事件が発生することを理解するのは難しい」とその衝撃の大きさを語った。事件を受け、英警察はロンドン市内で警官1200人を増員するなどして警備態勢を強化した。

一方、英国イスラム評議会は「イスラムの考えとは相いれない野蛮な行為だ」と事件への非難声明を出した。【5月23日 毎日】
********************

今回の大規模掃討作戦の成果はまだよくわかりませんが、基本的には、5月13日ブログで取り上げたようなナイジェリアの影の部分、石油を牽引とする成長から取り残された多くの国民が貧困のなかでの暮らしを余儀なくされている現状の改善が必要なのでしょう。軍事作戦だけでは“もぐら叩き”に終わることが懸念されます。
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世界の食糧難を救う「昆虫食」と「3Dプリンター」 銃も3Dプリンターで自宅製造

2013-05-23 22:49:13 | 世相

(3Dプリンターで作った食べ物 いかにも“宇宙食”といった無機質な感じですが、もっと食欲のわくような形状も可能なのではないでしょうか。 【5月23日 Gingazine  http://gigazine.net/news/20130523-3d-printed-food/】)

世界の飢餓撲滅のために、家庭でもレストランでも昆虫を積極的に食べよう!】
昆虫食の話。
タイなどではよく食べるようで、市場や屋台でよく見かけるとか。私は旅行中はそういうものは見ないようにしているので、よく知りませんが。(確認のためにネット検索していて、ちょっと胃がムカムカしてきました)
もちろん昆虫食は世界各地で行われていますし、日本でも内陸部では貴重なタンパク源となっています。

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いなごの佃煮(いなごのつくだに)とは、バッタの仲間であるイナゴを利用した佃煮。
山形県の内陸部、群馬県、長野県、福島県など、海産物が少ない山間部を中心に多く食用とされる。
他にも蜂の子やざざむし、ゲンゴロウなどを佃煮として食べる地方がある(長野県伊那谷地方など)。また、イナゴを炒めた「なご炒り」という料理もある(長野県大町地方など)。【ウィキペディア】
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将来的な人口増加・食糧難が予測されている中で、国連が「世界の飢餓撲滅のために、家庭でもレストランでも昆虫を積極的に食べよう!」と呼びかけているそうです。

****国連のおすすめは栄養満点の昆虫食****
世界の飢餓撲滅のために、家庭でもレストランでも昆虫を積極的に食べよう! 国連がそう呼び掛けている。

国連食糧農業機関(FAO)が先週発表した報告書によれば、世界人目の約3分の1に当たる20億人以上が日常的に昆虫を食べている。栄養価が高くて、おいしいからだ。
しかし多くの欧米諸国では、「人々の嫌悪感」が昆虫食の普及を妨げている。

FAO林業局のエバーミューラー林業経済政策・林産品部長は報告書の発表会見で、「昆虫は豊富に存在し、貴重なタンパク源でありミネラル源」と述べた。昆虫レシピを開発したりレストランのメニューに取り入れるなどして、食品業界を挙げて「昆虫の地位向上」に取り組んでほしいと訴える。
「ヨーロッパの大都市のレストランでは、カブトムシやバッタなどを使った料理が出され始めている」

国連の報告書によれば「昆虫はどこにでもいて、繁殖スピードが速い」ので「環境への負荷が少ない」。良質な脂質を含み、カルシウムや銅、鉄分、マグネシウム、マンガン、リン、セレン、亜鉛の豊富なものが多く、食物繊維まで取れる栄養食だ。
昆虫が、牛や豚に代わって食卓に上る日も近いかも?【5月28日号 Newsweek日本版】
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世界で食べられている昆虫料理は、検索すればいくらでも画像が出てきますので、興味のある方はどうぞ。
ただ、個人的にはアウトです。

未来の食べ物として既存の食事に置き換わる可能性
「話はわかるけど、昆虫は・・・・」という方に、おすすめは3Dプリンターの話題。

****3Dプリンター食品」が食糧難を救う*****
NASAが3D食品プリンターに開発費を供与、世界と宇宙の食料事情が変わる?

未来の食品?
クリック一回で食べ物を「プリントアウト」できる日が来る?
SF映画のような話だが、そんな話が近く現実になる可能性がある。NASA(米航空宇宙局)が世界初の3Dフードプリンターの研究に資金を投入すると発表したからだ。

機械工学エンジニアのアンジャン・コントラクターが発案したこの新しい技術を使えば、数年間の宇宙ミッションに出る宇宙飛行士の「調理」に使えるだけでなく、アレルギー向けなどの特別食を「プログラム」することも可能になるという触れ込みだ。

さらに重要なのは、世界の食糧難を解決する可能性もあるということ。
「現在の食糧供給体制では、将来120億人に増える人口を十分に食べさせることはできないと、多くの経済学者は考えている」と、コントラクターは言う。「最終的には、何を食べ物とみなすかという考え方を変えるしかないだろう」

第一弾は「ピザ」プリンター
コントラクターが勤めるシステムズ・マテリアルズ・リサーチ・コーポレーション(SMRC)社は、この計画を進めるためにNASAから6カ月分の開発費12万5000ドルを提供されることになった。

この3Dプリンターは、たんぱく質や炭水化物、砂糖などの原料を使い、既存の3Dプリンターと同じような手法で、層を何枚も噴射して重ねていくことで栄養のある食べ物を作り出す。
最初の試作品は、3D「ピザ」プリンターになる予定。コントラクターによれば、今後数週間で組み立てを開始したいとしている。【5月23日 Newsweek】
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こちらは昆虫食と違って抵抗はさほどありませんが、正直なところ「プリンターで食べ物をつくる?なんのこっちゃ?」と、話についていけません。

そもそも「3Dプリンター」とは、“コンピュータ上で作った3Dデータを設計図として、断面形状を積層していくことで立体物を作成する。液状の樹脂に紫外線などを照射し少しずつ硬化させていく、熱で融解した樹脂を少しずつ積み重ねていく、粉末の樹脂に接着剤を吹きつけていく、などの方法がある。”【ウィキペディア】というもので、“製造分野では製品や部品などの「デザイン検討」「機能検証」などの試作やモックアップとして、建築分野ではコンペやプレゼン用の「建築模型」として、医療分野ではコンピュータ断層撮影や核磁気共鳴画像法などのデータを元にした「術前検討用モデル」として”【同上】として使用されているそうです。

その「3Dプリンター」を使用した食品製造に関しては、「3Dプリンターで食べ物を印刷へ、既存の食事を置き換える可能性もあり」【5月23日 Gingazine  http://gigazine.net/news/20130523-3d-printed-food/】に、もう少し詳しく紹介されています。

【5月23日 Newsweek】にもあるように、“たんぱく質や炭水化物、砂糖などの原料を使い、既存の3Dプリンターと同じような手法で、層を何枚も噴射して重ねていくことで栄養のある食べ物を作り出す”訳ですが、“30年は保存のきくパウダー状の材料から作られるため、食べ物のムダをなくすことが可能。パウダーには砂糖や炭水化物・プロテインといった成分から構成され、それを水や油と混ぜて3Dプリンターで出力する仕様で、未来の食べ物として既存の食事に置き換わる可能性を秘めています。”【5月23日 Gingazine】とのことです。

年配の男性なら炭水化物は少なめ、スポーツマンは反対に炭水化物が大めでカルシウムが少なめ、 妊娠中の女性はオメガ3脂肪酸を十分にとって……ということがパウダーの配合で簡単に調整できるようになるそうです。
火星探査など、長期にわたって宇宙を旅する際の食事手段としても利用される予定です。

“(開発者の)Contractorさんは「もしジェットエンジンや美術品を作成する機械と同じものから作られた食べ物に抵抗があるならば、それはあなた食べ物に困っていないからです」と語ります。多くの経済学者が言うように、現在の食料システムは120億人という人口を支えるには不十分であり、私たちが食物と見なすものの認識を変える必要があるとのこと。”【5月23日 Gingazine】

私はさほど抵抗はありませんが(美味しそうとは思いませんが)、グルメの方などは「昆虫食の方が、自然でおいしい」と思うかも。そこは個人の自由です。
まあ、昆虫由来のパウダーを3Dプリンターで調理・・・という方法もあります。

ピザが具体化の候補になっているのは、“ピザは個々のレイヤーに分けてプリントできるため、作りやすいのが理由で、生地はプリントと同時に熱したプレートで焼かれ、その後、トマトのベースの作成に入ります。そして最後にピザのトップに牛乳や動植物から作られた液体を使ったプロテインレイヤーを乗せたら完成。”【同上】とのことです。
ピザなら、本物に近い食感のものができそうな感じもします。

なお、将来的には“ソフトウェアを使ってレシピを入力し、水や油に溶かしたパウダーをセットすれば、好きな料理を作ることも可能になります”とのことです。

家にいながら銃を「プリントアウト」】
「3Dプリンター」に関しては、銃の製造方法がネット上に掲載され、誰でもダウンロードできる状態になったことが議論を呼んでいます。

*****3Dプリンターは銃社会をどう変えるか*****
世界初の「プリントアウト銃」がもたらすのは銃拡散の悲劇、ではなくそれを使う者の悲劇だろう

先週、アメリカの大学生コディー・ウィルソンが、世界で初めてとされる「3Dプリンターで作った銃の使用」に成功した。

ウィルソンが「リベレーター(解放者)」と名付けたこのプラスチック銃は、銃規制に風穴を開けかねない技術として、銃支持派と反対派の双方に論争を巻き起こしている。
ウィルソンが立ち上げたNPO法人ディフェンス・ディストリビューテッドのウェブサイトでは、この銃の製造方法が掲載されていて誰でもダウンロードできる。つまり、家にいながら銃を「プリントアウト」することができるのだ。

警察官など治安を守る側にとってやっかいなのは、プラスチック銃は金属探知機に反応しないこと。セキュリティーが厳しい建物への持ち込みも考えられる。
ただ実際は、銃全体が3Dプリンターで作られているわけではない、とウィルソンは言う。アメリカの連邦法は、金属探知機に反応しない銃器を禁止しているため、ウィルソンはあえて何の機能も果たさない金属を銃に取り付けている。もちろん自宅の3Dプリンターで銃を作る時には省くこともできるが、その銃はあくまで違法だ。

また近年は空港のセキュリティーチェックでも金属探知機よりもX線スキャナーを使うことが多く、純プラスチック製だったとしても金属製の銃と同じように形でバレてしまうだろう。

それに、3Dプリンターでは製造できない部品がもう1つある。火薬を起爆させるために必要な部品である撃針だ。「いろいろな種類のプラスチックで試したけどね」とウィルソンは言う。「どれも柔らかすぎて雷管に当たった衝撃で変形してしまう」

銃を自宅で作る選択肢
だがウィルソンにとってそんなことは問題ではない。彼の目的は、金属探知機に反応しない銃を作る事ではない。「この銃はたまたまプラスチック製だったというだけ」とウィルソンは言う。「(自宅の3Dプリンターで)金属製の銃を作ることができたら、同じように興奮するね」

だが、このリベレーターを使って犯罪を犯すのは考えものだ。うまく発射しないのだ。IT系のブログサイト、テッククランチのジョン・ビグスはこう説明する。「この銃はピストルというより単純な手製の銃だ」。自分の面前で暴発することなく何度も撃てるピストルに比べれば、粗雑で信頼もおけない単発銃だと言う。

それでもウィルソンが使った3Dプリンターはeベイで10000万ドルもする。もっと安いメーカーボット社のもあるが、暴発リスクをお忘れなく。

ウィルソンは、銃を自宅で作る選択肢をもたらした。彼はウェブサイトを通じて3Dプリンター製の銃を広めようとしている。
幸い、「自家製の銃」が現実的な武装オプションになる日はまだ遠い。その前に、この銃を使って犯罪を犯そうとする人は、おそらく彼自身が最初の犠牲者になっしまうだろう。【5月8日 Newsweek】
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暴発リスク云々については、改良を重ねればおそらくすぐに克服されるのではないでしょうか。
また、銃の心臓部にあたる「ロアレシーバー」と呼ばれる部分(アメリカでも売買が規制されており、一般に販売するのであれば銃器製造業の免許が必要)のみを「3Dプリンター」で作成した銃では、600発以上の連射も可能とか。【3月8日 Gingazine】

すでに、この銃コピー方法は世界中に広まっているようです。
“団体がデータを公開した直後、米政府は武器管理規則に違反する恐れがあるとして公開の中止を命令。団体は応じたが、その間に、団体のウェブサイトにはスペイン、ドイツ、英国、ブラジルなど世界中からアクセスがあり、設計データは10万回以上ダウンロードされたとみられる。スウェーデンのサイトが設計データを転載するなど、インターネット空間に広く出回る事態となっている。”【5月18日 読売】

なお、上記読売記事によれば、プリンターの価格については、“数十万円相当で購入できる3Dプリンターにデータを入力すれば、製造できることになる”とのことです。

本物の銃が安価で手に入るという現実世界で、テロ・犯罪目的の特殊なプラスチック銃以外に、あえて「3Dプリンター」で銃をつくる意味がどこにあるのか・・・という話はありますが、そうした情報を嬉々として公開し悪びれる様子もない無邪気さに怖いものを感じます。
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カンボジア・タイ:国境を超える資本と労働力  日本:漢字に馴染みやすい中国人看護師が増加

2013-05-22 22:34:16 | 難民・移民

(先輩の指導を受けながら、看護記録をつける中国人看護師 【5月21日 朝日】http://digital.asahi.com/articles/OSK201305200192.html?ref=comkiji_redirect)

カンボジアの労働コストはタイの3分の1
経済のグローバル化にともない、世界中の多くの企業同様、日本の企業も安い労働力・消費市場を求めて中国やタイなどに以前から進出していますが、最近では中国やタイは労働コストが上昇しており、また、チャイナリスクもあって、さらにミャンマー、カンボジア、ベトナムなどに進出先を求めていることは、よく耳にするところです。
下記記事もそうした事例のひとつです。

****超国家企業と雇用:5 「タイ、もう割に合わない*****
遠ざかる製造現場 カンボジアに工場進出
カンボジアの首都プノンペンから西へ車で6時間。延々と続く山道をタイ国境近くまで走ると、森林の中に突然、広大な平地が広がる。高床式の住居が点在する寒村に、7年前にできた工業団地だ。

「経済特別区」と書かれた門をくぐり、トラックが次々と団地から出ていく。荷台いっぱいに乗っているのは、自動車部品の大手メーカー、矢崎総業の工場で働く女性たち。自宅がある周辺の農村に帰る。

矢崎総業がここに工場を立ち上げたのは昨年末のことだった。約700人を雇い、ワイヤハーネスとよばれる自動車用の電線をつくる。大半は18~25歳の女性で、工場勤めが初めての人も多い。リエム・チャンパンさん(20)は「同級生もたくさん就職し、村の生活は格段に良くなった。ずっとここで働きたい」という。工場でリーダー役を務め、両親と兄弟の家族5人の生活を支える。

日本企業のグローバル化の最前線に立つ矢崎総業は世界に約440の拠点をもち、従業員約23万人の9割強が外国人だ。その中でもカンボジアは最新の大規模工場で、従業員の賃金はアジアで最低水準だという。
隣国のタイで40年以上も操業を続けてきたが、その一部をここに移した。タイの月平均の賃金は日本円で3万~4万円で、この10年間で倍増した。カンボジアでは、その3分の1程度ですむ。
「タイではもう割に合わなくなった」。カンボジア工場を仕切るゼネラルマネジャーの植松賢二氏はいう。人件費と光熱費を合わせた経費をタイ工場の6割以下に抑える。

工場でつくった部品は、タイに工場をもつトヨタ自動車や三菱自動車に運ぶ。トラックに積んで国境を抜け、バンコク郊外の拠点に届ける。わずか3~4時間ほどの距離だが、国境を越えるだけで従業員の賃金がぐんと下がる。

トヨタなどの大工場に先駆けてカンボジアに出てきた。いまは割高な電力をタイから買わなければならないが、いずれインフラが整えば、ほかの日本企業も追いかけてくるはずだ。輸入関税の減免などカンボジア政府の優遇策も手厚い。
「カンボジアは、日本企業が最も参入しやすいアジアのフロンティア(開拓地)だ」。現地への進出を支援するジェトロプノンペンの林憲忠氏は話す。(後略)【5月20日 朝日】
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止まらないカンボジア人労働者のタイへの流出
グローバル社会にあっては、移動するのは企業・資本だけではなく、労働力もまた、よりよい雇用機会を求めて移動します。
安い労働コストを求めて企業がタイからカンボジアに移動する一方で、高い賃金を求めてカンボジア人労働者がタイへ移動しています。

*****カンボジア、建設労働者が不足 賃金高いタイなどへ流出*****
建築ブームにわくカンボジアで、建設労働者が不足している。好景気で不動産セクターが回復、建築物件が増えていると同時に、より賃金の高い隣国タイなどへ労働力が流出していることが理由とされる。

カンボジア政府によると、国内の建設セクターは2012年に21億ドル(約2078億円)規模となり、前年比で72%の伸びを示した。また、国内で登録されている建設・デザイン関係の会社数も年々増加し、12年には1200社を超えた。

特に首都プノンペンで建築ラッシュが続いている。目抜き通り沿いや町の中心部に、大型商業ビルが建設され、家具などが備え付けられてホテル機能も持ち合わせたサービスアパートなどの集合住宅も相次いで建っている。
世界銀行のデータによると、12年にカンボジア全土で認可された建築プロジェクトの総額は前年比で36%の伸びとなったが、プノンペンだけでみると前年の3倍に膨らんだ。

一方、現場で働く建設労働者は不足が目立ち、建設計画に影響を及ぼすほどになっている。
「200人の労働者を確保しようと思ったら、2カ月はかかる。以前はすぐに見つかったのに」。カンボジアの大手建築会社の担当者は、地元紙にそう語った。また、別の建設会社の担当者は「現在50人の労働者を雇っているが、本当に必要なのはその倍以上の人数だ」と話す。

労働者不足の原因として指摘されるのが、タイなど外国への「出稼ぎ」だ。
タイは今年1月、労働者の最低賃金を一律1日300バーツ(約1000円)に引き上げた。それまでもバンコクなど都市部ではすでに300バーツに引き上げられていたが、全国一律となったことでさらにカンボジア人労働者の流出が加速したもようだ。

カンボジアの最低賃金は、3月下旬、他セクターの基準となる縫製・製靴業で月80ドルに引き上げられたが、それまでは月61ドルだった。月20日余り働いたとして、1日の賃金は3ドル前後。タイの3分の1程度だ。

地元労働者を確保するため、カンボジア国内の建設会社は賃金引き上げを迫られている。現在、建設労働者の1日の賃金は4ドル50セント程度といわれ、この1年で1.5倍に跳ね上がった。さらに現場に寝泊まりできる簡易宿舎を用意するなど、労働者争奪戦は激しさを増しているという。

それでも、「1日で10ドル稼げる」とされるタイへの流出は止まらない。タイ国内には現在、合法と違法を含め、約30万人のカンボジア人が移民労働者として暮らしているとされる。建設労働者に限らず、工場労働者やメイドとして外国で働くことを選ぶカンボジア人は増えており、国内の労働市場は軒並み労働者不足にあえいでいる。たとえば縫製業界では約70万人が働いているが、「さらに5万人の労働者が必要」(カンボジア縫製業協会)という。

フン・セン首相も、労働力流出が経済発展を妨げることを懸念し、国内経済界に対して賃金引き上げなど労働環境の向上に努めるよう、たびたび訴えている。【5月8日 フジサンケイビジネスアイ】
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カンボジアで労働力不足が進んでいるというのは意外でしたが、国境という障害を越えて資本・労働力が移動する社会にあっては、ある意味当然の現象ともいえます。
こうした移動の結果、長期的には各国の賃金・所得は平準化される方向に進む・・・というのは、あまりにも単純化した言い様ではありますが、基本的方向としてそういう流れがあるとは言えるでしょう。

中国人らの国家試験の合格率は70~90%と、日本人に迫る
日本国内については、人の流れについては高い制度的障壁が存在しており、これまでのところは極端な労働力の流入といった現象は生じていません。

しかし、少子高齢化社会を迎えて労働力が不足する分野がすでに出てきているのも現実で、そうした問題が著しい医療・介護の分野では経済連携協定(EPA)によって制度的障壁を下げることで、インドネシア・フィリピンから看護師・介護士を呼び込もうとしています。

もっとも、制度的障壁を下げたとは言いても、日本の場合は日本語という非制度的障壁があり、短期間でこれをクリアすることを求める現行制度はあまりうまく機能していない現実があることもしばしば報じられています。

興味深かったのは、この日本語(漢字)という非制度的障壁を比較的超えやすい国があるという話です。
漢字の国、中国です。
もちろん、日本と中国では字体が異なり、発音は全く別物ですが、それでもインドネシアやフィリピンの人に比べれば格段に順応しやすいでしょう。

****中国人看護師が急増 NPOが病院紹介 語学で優位、EPAの倍*****
中国を中心に少なくとも217人の外国人の若者が日本の看護師国家試験に合格し、民間の病院で働いていることが朝日新聞の調査でわかった。
深刻な看護師不足を背景に、国内のNPO法人が中国の大学などと病院側の橋渡し役になり、3年ほど前から急増。経済連携協定(EPA)で来日したインドネシア、フィリピン人看護師(96人)の2倍を超えた。

国籍別では、中国183人、ベトナム30人、韓国4人。勤務先の病院は、大半が首都圏か関西だ。
NPOは、朝日新聞が確認できただけで首都圏に3、関西に1。この4法人が217人のうち212人を病院側に紹介した。残り5人は病院側が独自に探し、雇用していた。
4法人のうち3法人(東京都、京都府、埼玉県)は2006~09年に設立され、中国からの受け入れを本格化させた。

NPOが中国を主な対象にするのは現地大学からの要請があり、同じ漢字圏で日本語を習得しやすいからだ。NPOは病院からの寄付などで運営されている。
NPOが紹介した中国人らの国家試験の合格率は70~90%と、日本人に迫る。
一方、EPA枠では、08年から今春までにインドネシアとフィリピンから629人が来日したが、合格率は10%前後と低迷している。

NPOの仕組みで共通するのは、手厚い日本語学習支援だ。現地の医科系大学と提携し、大学に日本語講座を設け、優秀な学生の中から来日候補生を選別。来日後は、受け入れ予定の病院が日本語学校に通う費用を援助する。看護助手として雇用するなどし、生活面でも支える。
ただし、EPA枠の候補生より厳しく、国家試験の2年以内の合格が求められており、受験前に「日本語能力試験」(国際交流基金など主催)の最上位の「N1」に合格しなければならない。

一方、EPA枠では、来日前後に1年間の日本語研修(10年度までは来日後、半年)が義務づけられているだけで、日本語能力試験を受験する必要もない。日本語学習の経費など、国の支援態勢も十分とはいえず、日本語力の不足が指摘されている。

厚生労働省看護課は中国人看護師が増えていることについて、「良いとも悪いともいえない。日本の国家試験に合格しているので、日本人看護師と分け隔てることはしない。医療現場でのトラブルも報告されていないので、実態調査は考えていない」としている。

 ◆キーワード
<日本の看護師不足とEPA>
厚生労働省の調査では、看護師や准看護師、助産師ら看護職員は2011年時点で、全国で約149万5600人。一方、全国の医療機関からの聞き取りでは、約154万1千人が必要で、約4万5千人不足している。

しかし国は、EPA枠(インドネシア、フィリピン)以外の外国人看護師確保に力を入れる予定はいまのところないという。この両国は自国での実務経験などをもとに、日本に渡る看護師候補生を選抜。日本語能力は考慮されていない。候補生は病院で働きながら研修を受けるが、日本の国家試験に合格できず帰国する人が相次いでいる。【5月21日 朝日】
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****看護師、海越え独自養成 中国人急増 現地で日本語講座・月給3倍****
中国人の若者らが日本の医療現場で看護師としての第一歩を踏み出している。中国の大学は送り出しに積極的で、日本の看護師不足を背景に、今後ますます増えそうだ。
厚生労働省は実態調査を考えていないが、外国人の手を借りずにやっていけるのかどうか国は検討を始めるべきだ、との指摘もある。

「人見知りするので、(配属先の)病棟に慣れることができるか心配」。京都市伏見区の武田総合病院(500床)で4月上旬にあった中国人看護師の新人研修。今春、国家試験に合格したばかりの江蘇省出身の姚紅偉(ようこうい)さん(25)は、先輩の中国人看護師らに打ち明けた。
「言葉の壁があり、難しいこともあるかもしれない。でも、笑顔を忘れずに頑張って」。看護師2年目の劉菁(りゅうせい)さん(26)が励ました。

同病院には日本人を含め379人の看護師がいる。中国人は10人で、うち新人は姚さんら2人。研修には、系列病院からも4人の中国人の新人が参加した。
姚さんの配属先の内科病棟には、約50人の入院患者がいる。「いち、に、いち、に、って声に出して」「しんどくない?」。脳疾患で1人で歩くのが難しい高齢男性の歩行練習につき添う。男性は「話をよく聞いてくれる。日本人と何ら変わらない」とほめる。(中略)

 ■報酬改定で争奪激化、在留期限撤廃も背景
中国からの看護師候補生の受け入れが急増する背景には、日本の診療報酬制度の改定と外国人医療従事者の在留資格の撤廃がある。

厚労省は2006年、医療の高度化と高齢化対策などのために、入院患者7人に看護師1人とする「7対1」の配置基準を新設。手厚く配置する病院ほど診療報酬が増えるため、それまでの「10対1」から切り替える病院が相次いだ。看護師の引き抜きや取り合いが激しくなり、深刻な看護師不足に陥った。

その一方で法務省は10年に、出入国管理法の省令を改正し、外国人医療従事者の在留期間を7年以内とする制限を撤廃した。一定期間ごとに更新すれば長期就労が可能になった。

厚労省は看護師不足対策として、子育てなどで職を離れた「潜在看護師」の復職支援や、離職を防ぐための病院内保育所の開設などに、都道府県を通じて補助。当面は約55万~65万人いるとされる潜在看護師の掘り起こしに努め、EPA枠以外の外国人の確保に力を入れる予定はないという。

岐阜県内の公立病院の元看護部長は「電子カルテ化が進み、医療機器も日進月歩で変わっている。現場復帰が難しいのは、体力的な問題以外にも気後れがある」と指摘する。
長崎大大学院の平野裕子教授(保健医療社会学)は「少子化で看護の若い担い手は減るが、高齢化によって看護を必要とする人は逆に増える。外国人看護師の手を借りずにやっていけるのかどうか、国は検討を始めるべきだ」と話す。

中国からの看護師候補生の来日はますます増える可能性が高い。漢字の素養があるうえ、EPA枠のインドネシア、フィリピン人に比べて日本語学習への支援が手厚いからだ。NPO法人「国際医療福祉人材育成機構」は中国の23大学と提携。06年から現地で日本語講座を開き、受講する学生は当初の数十人から300人ほどに増えた。13年には、76人が来日するという。

中国・大連市の大連医科大学は日本語講座を受講する学生を現在の40人から160人に増やす計画だ。国際交流責任者の韓記紅さん(45)は「中国でも高齢化が加速度的に進む。日本の先進看護を学び、中国に戻ってきて欲しい」と語る。【5月21日 朝日】
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ジリ貧の閉鎖社会
「中国でも高齢化が加速度的に進む」とあるように、今後は中国国内において医療スタッフがこれまで以上に求められることになるでしょう。
そうした社会の変化を考えると、長期的に人材が供給される保障はありませんが、漢字になじみやすく、外見的にも日本人と差異がほとんどなく違和感もない中国の人を日本に呼び込むのは現実的対応のひとつと思われます。
中国を毛嫌いする一部の人々は「とんでもない!」と激怒することでしょうが。

もっと言えば、漢字という点から見れば、日本人は中国語を学びやすい条件を有しているとも言えます。
現在のような日中の緊張状態が緩和されれば、中国語を学んだ日本人がもっと中国へ進出してもいいのではないでしょうか。
そうした相互の人的移動によって、両国の関係が長期的に強められれば、両国にとって素晴らしいことです。

もちろん、外国人労働者の流入が経済的・社会的・文化的摩擦をもたらすことは間違いないところで、ドイツやイギリスでも移民の増加にともなって反移民的な政治活動も表面化しています。
日本でも今ですらヘイトスピーチが街で聞かれるような状況ですから、外国人、特に中国・韓国の人が増加すれば更に社会的問題を惹起します。

しかし、問題点をあげつらって人の移動を制約し、狭い世界に閉じこもってしまうよりは、問題点への対応に苦慮しながらも、それをなんとかクリアして関係強化を図っていく方向のほうが、より将来的展望があるように思えます。

なお、中国の看護師・介護士の現状については、“中国では正規の専門学校を卒業したにもかかわらず、就職口が見つからない介護士が、山東省だけでも6万人近くいるという。王主任は「中国では医者を重視する一方で、看護師や介護士は冷遇されており、その役割の重要性が正しく認識されていない。看護師は高い収益性を見込めないと、雇用に積極的な病院も少ない。そのため、就職できない看護師たちは海外への派遣を選ぶより他にないのだ」と指摘した。”【1月20日 Record China】ということす。

この人材に着目した医療スタッフが不足しているドイツは“ドイツ労働局と中国商務部が管轄する各関連機関は2012年末、中国の看護師をドイツの高齢者介護施設に派遣することに関する協議書に署名した。看護師派遣の第一陣は既に山東省の海外派遣看護師訓練施設でドイツ語の学習を始めているという。”【同上】とのことです。
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