孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン 史上最長の戦争を終えたアメリカ 融和路線の現実性に疑念も多いタリバン支配

2021-08-31 22:25:09 | アフガン・パキスタン
(アフガニスタンからの米軍撤退で、輸送機に乗り込む最後の1人となった米兵の画像【8月31日 CNN】)

【「民主主義と専制主義の競争」においてアフガニスタンの位置は?】
アメリカの20年に及ぶ最も長い戦争が終わりました。この間、多くの兵士・民間人の命が犠牲となり、そして膨大な資金が注ぎ込まれました。

****アフガン民間人の犠牲は4万人以上****
国連アフガニスタン支援団によりますと、2009年からことし6月までの間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は合わせて4万218人にのぼり、けがをした人は、7万5000人を超えています。

20年間の米軍の死傷者と戦費
アメリカ国防総省によりますと、軍事作戦を開始した2001年10月からこれまでにアフガニスタンで死亡したアメリカ兵は2461人で、2万人以上がけがをしました。

また、アフガニスタンの復興状況を調べているアメリカ政府の監察官の報告書によりますと、この20年間、アフガニスタンでの戦費は、合わせておよそ8370億ドル、日本円でおよそ92兆円に上ります。

ただ、アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が、国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り、日本円でおよそ253兆円に上るとしています。【8月31日 NHK】
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国外脱出を必至に望みながらもかなわず、現地に残れた協力者など、この戦争の“後始末”はまだ終わっていません。

権力を掌握したタリバンがどういう統治を行うのかもまだ不明です。

従って、この戦いの総括にはまだ時間を要します。その前提で今敢えて言えば、中国に対抗して改めて「民主主義」の価値観を掲げているアメリカ・バイデン政権がアフガニスタンの民主主義を見捨てたという感は否めません。

もちろん、アメリカの目的は民主的国家の建設ではなかった、アフガニスタンに民主主義を受け入れる土壌がなかった、アフガニスタン政府が機能しなかった・・・・等々、多くの留意点があるにしても。

****タリバン復権、揺らいだバイデン氏の民主主義論 アフガン撤退****
アフガニスタン駐留米軍が30日、完全撤収した。2001年の米同時多発テロに端を発し、米史上最長の戦争となった米国の「テロとの戦い」の幕引きを古本陽荘・北米総局長が読み解く。

 ◇「トランプ氏の姿勢と大差ない」か
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが8月15日にカブールを制圧した後、バイデン米大統領は「アフガンでの米国の任務は、民主主義国家を作ることではなかった」と断言した。民主化を望んできたアフガンの人たち、特に女性は、この言葉をどう受け止めただろうか。
 
20年にわたるアフガン戦争の間、アフガンでの女性の教育機会は徐々に広がり、専門的知識を習得して社会で活躍する女性も増えた。民主主義の基盤となる市民社会が芽生えていた。こうした社会が拡大し、安定することこそが、過激思想への対抗策になると考えられてきた。
 
アフガン安定化がなかなか進まないことに米国人が不満を持つのは理解できる。しかしタリバンの復権で、アフガンの民主化がついえたのはほぼ確実だろう。

中国を念頭にバイデン氏は、「民主主義と専制主義の競争に勝ち抜く」と語ってきた。アフガンの民主化をあっさりと断念したいま、バイデン氏のこうした民主主義論は、説得力を失ったのではないか。「民主主義を本当に重視しているのか」という疑念は簡単には拭えないだろう。
 
交通事故で妻と娘を亡くし、脳腫瘍を患った長男にも先立たれたバイデン氏は、苦境にある人々の気持ちを理解し、寄り添う「共感力」が売りだった。新型コロナウイルスの感染が拡大し、多数の死者が出るなか、バイデン氏の支持率が比較的安定していたのも、この共感力によるところが大きかった。
 
しかし、民主化を希求するアフガンの人々への共感の言葉はバイデン氏から発せられなかった。共感の対象が米国人限定であるのであれば、排外主義的な「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ前大統領の姿勢と大差はない。
 
第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序を維持するため「米国の復活」を宣言したバイデン氏だったが、アフガン戦争の幕引きは、米国の国際的指導力の低下を印象づけた。日本を含めた同盟国が、これまで以上に米国を補完する強い意志を持たなければ、国際社会の安定化は望めないだろう。【8月31日 毎日】
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【「音楽は禁止はしないが、演奏などをしないように説得する」 現実には歌手殺害か】
アフガニスタン情勢に関して取り上げるべき事項は多々あり、整理がつかないぐらいですが、先ずタリバン統治の今後について。まだよくわかりませんが、表向きの融和的姿勢にもかかわらず、「やはり旧政権時代と大差ないかも・・・」という疑念・不安が払拭できません。

****タリバン融和路線に強まる疑念****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンがアピールする融和路線への疑念が急速に広がっている。

タリバンは報道の自由を尊重すると主張するが弾圧の懸念は強まり、既に約100の民間メディアが運営を停止した。著名な音楽家がタリバンに殺害される事件も起きた。恐怖政治の足音が聞こえる中、アフガンは31日、治安維持の重しだった米軍撤収の期限を迎える。

「脅しの言葉はなく、『これから長い付き合いになる』とだけ言われた。生きた心地がしなかった」。アフガン南部に住むジャーナリストの男性は地域を制圧したタリバン戦闘員が家を訪れたときのことを話した。男性は脱出を検討しているが、タリバンが国境管理を強化し、身動きが取れないという。

旧タリバン政権(1996〜2001年)は国内の報道を規制し、インターネットの使用も禁止した。タリバンは今月15日の首都カブール制圧後に記者会見で「メディアの活動を保障する」との考えを示したが弾圧の兆しは見える。

ドイツの放送局に所属するジャーナリストの家族がタリバンの戦闘員に殺害され、26日には地元民放「トロTV」記者が取材中にタリバン戦闘員に暴行を受けた。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、運営を停止したメディアは100近く、特にタリバンの支配力が強い地方都市に多いという。国内ジャーナリストの脱出も相次ぎ、カブール制圧後にタリバン幹部にインタビューした女性テレビキャスターも国外退避したもようだ。

旧タリバン政権で禁止された音楽について、タリバン報道官は25日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「音楽はイスラム教では禁止されているが、圧力ではなく、(演奏などを)しないように説得する」と融和的姿勢を示した。

だが、30日までに北部で民族音楽の歌手、アンダラビ氏がタリバン戦闘員に殺害された。指導部が穏健な姿勢でも組織の末端が従わない可能性もある。

脱出したアフガン人が到着している米首都ワシントン近郊のダレス空港で取材に応じたジョワドさん(35)は「既にSNS(会員制交流サイト)を通じてタリバンの暴力をとらえた動画が多く出回っている。世界はすぐにタリバンが変わっておらず、どれほど暴力的かを知るだろう」と話した。【8月30日 産経】
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まあ、タリバンが本気で「メディアの活動を保障する」とは到底思えませんので、メディア統制については別段驚きもしませんが、音楽の禁止については、旧タリバン政権当時の「暗い時代」を思い出さずにはいられません。

****タリバンがアフガン人歌手を殺害か 国際社会から懸念の声****
アフガニスタン北部バグラン州で先週、地元出身の歌手ファワド・アンダラビさんがイスラム主義勢力タリバンに殺害されたとの報道を受け、国際社会から懸念の声が上がっている。

AP通信が息子ジャワドさんの話として伝えたところによると、ファワドさんは27日、同州北部のアンダラブ渓谷にある自宅の農場で頭を撃たれた。ジャワドさんは「父に罪はない。歌手として人々を楽しませていただけ」と訴えた。(中略)

1996〜2001年の旧タリバン政権下では、音楽が宗教的な意味を持つ場合を除き、「非イスラム的」だとして禁止されていた。

タリバンの報道官は先週、米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「イスラム教では音楽が禁止されている」と述べた。アフガンでは公共の場での音楽がまた禁止されるのかという質問に対しては、「国民に圧力をかけるのではなく、そんなことをしないよう説得できるだろう」と答えていた。

国連の文化的権利に関する特別報告者、カリマ・ベノウネ氏は28日のツイートで、ファワドさん殺害の情報にユネスコ親善大使のディーヤ・カーン氏とともに「重大な懸念」を表明すると述べ、各国政府がタリバンにアーティストの人権尊重を求めるよう呼び掛けた。【8月31日 CNN】
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「イスラム教では音楽が禁止されている」・・・多くのイスラム国家で、普通に音楽やダンスが楽しまれている現実とそぐわないのですが、本当に「禁止」されているのでしょうか?

****イスラム教で禁止されていることは?****
(中略)
音楽は?
コーランには明確に音楽を禁止する規定はありません。

ただハディースには預言者ムハンマドが「音楽が聞こえてきたときにムハンマドが両方の耳を指で塞いだ」とあり禁止とまではいかなくても、推奨はできないものとされています。(「イスラムと音楽」)

しかし実際には音楽はイスラム社会の日常に溶け込んでいます。
結婚式には歌や踊りがつきものですし、エジプトの有名な女性歌手ウンム・クルスームは「永遠の歌姫」と言われ、今でもアルバムがアラブ世界で売れ続けています。

イスラム世界でも日本や欧米と全く変わらず音楽が生まれ、人々に愛されているのです。(後略)【「イスラム世界を知るメディア」】
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上記記事にあるはディースとは“ハディースは、イスラム教の預言者ムハンマドの言行録。クルアーン(コーラン)がムハンマドへの啓示というかたちで天使を通して神が語った言葉とされるのに対して、ハディースはムハンマド自身が日常生活の中で語った言葉やその行動についての証言をまとめたものである。クルアーンが第一聖典であり、ハディースが第二聖典とされる。【ウィキペディア】”とのこと

イスラム世界で普通に楽しまれている音楽を禁じる、あるいは“そんなことをしないよう説得する”・・・このあたりが多くのイスラム国家と違って、タリバンが“原理主義”として、あるいは独特のイスラム主義としてなかなか国際社会に受容されない所以でもあります。

ついでに言えば、旧タリバン政権では音楽だけでなく、ほとんど全てのエンタテイメント・レクリアーションが禁止され、テレビ・映画あるいは凧あげ・チェスも禁止されました。

【兵士が女性尊重の「訓練受けていない」ので女性は自宅待機】
そのような生活全般に対する重苦しい統制と並んでタリバン支配で懸念されるのが女性の権利。

****タリバン、女性医療従事者に職場復帰求める****
アフガニスタンの実権を握ったイスラム主義組織タリバンの報道官は27日、全ての女性医療従事者に職場に復帰するよう求めたことを明らかにした。教育や訓練を受けたアフガン人の多くが国外に退避する中、現地では公共サービスの人手が足りなくなりつつある。

タリバンのムジャヒド報道官は「イスラム首長国の公衆衛生省は中央および州の全ての女性職員に対し、定期的に勤務するよう勧める」と表明。「イスラム首長国によって職務遂行を妨げられることはない」と強調した。

現地では女性が職場から追い返されるケースなども出ており、2001年までの旧タリバン政権と同様に女性の就労が再び禁止されるとの懸念が高まっていた。

だが、脆弱な医療システムで人手不足が生じているという不満の高まりを受けて職場復帰を促したとみられる。【8月30日 ロイター】
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上記の医療従事者は社会的必要性をタリバンとしても認めざるを得なかったケースですが、その他の情勢は?

****タリバン、女性に出勤控えるよう指示 兵士が女性尊重の「訓練受けていない」と説明****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンは24日、働く女性に対して自宅に待機するように指示した。タリバンの兵士がいる環境下では安全ではないためと説明している。

タリバンは前回政権時より女性に寛容になると国際社会に訴えていたが、その主張を損なうものとなる。同日には世界銀行が女性の安全に関する懸念から支援を停止し、国連も人権侵害の報告に関する調査を求めている。

タリバンのムジャヒド報道官は記者会見で、自宅待機の指針は一時的なもので、女性が無礼な方法で扱われないようにする方法を探すための猶予をタリバンに与えるとしている。この措置が必要となったのは、タリバンの兵士が「変化を続けていて、訓練されていない」ためだとも認めた。

「状況が通常の秩序に戻り、女性関連の手続きが整うまで仕事を休むように求めている」とも述べ、対応が発表され次第職場復帰は可能だとしている。

1996~2001年の前回のタリバン政権では女性の就業が禁止された。女性は外出時に同行者が必要とされ、全身を覆うことも求められた。

タリバンは今回はもっと穏健になると主張するが、その指導層は女性の権利が剥奪(はくだつ)されないとの保証をしていない。

24日には有名なロボット工学チームの女性5人が、人道ビザ(査証)の発給を受けてメキシコに到着した。

タリバンが勢力を回復する中で、女性は社会からの孤立化が進み、嫌がらせや攻撃の対象になってきている。今年3月には3人の女性ジャーナリストが殺害された。ロイター通信によれば、7月には南部カンダハルの銀行のオフィスに侵入した武装勢力が9人の女性行員に職場を去るように命じている。【8月26日 CNN】
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“兵士が女性尊重の「訓練受けていない」”のであれば、自宅待機すべきは女性ではなくタリバン兵士の方です。
そうした道理を言っても仕方ありませんが・・・。

【女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止する】
女性の職業と並んで注目されるのが教育。

****タリバン 女性の大学進学容認も、男女共学は禁止****
アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンの教育担当責任者は29日、女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止するとの方針を明らかにした。
 
欧米が支援するアシュラフ・ガニ政権を崩壊させて今月中旬に権力を掌握したタリバンは、女子教育を禁じた1990年代のタリバンの統治との違いを強調し、厳格なイスラム法の解釈に基づきつつ女性の権利の発展を尊重すると約束している。
 
タリバンで高等教育相代行を務めるアブドゥル・バキ・ハッカニ氏は29日、首都カブールで開いた各地の首長や長老らによる「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」で、「アフガニスタンの人々は、シャリア(イスラム法)に照らして安全に、男女が同席しない環境で高等教育を受け続けることになる」と述べた。
 
ハッカニ氏はさらに、タリバンが望むのは「われわれのイスラム的、国家的、歴史的な価値観に沿った合理的なイスラム的カリキュラムを作成しつつ、他国と競争できるようになること」だと説明した。
 
小中等教育でも男女共学は禁じられるが、これは極めて保守的なアフガニスタンでは現在も一般的に行われている。
 
今回のロヤ・ジルガには、タリバン幹部を含めて女性の参加者は一人もいなかった。
 
ガニ政権下で市立大学の講師を務めていた女性は、「タリバンの高等教育省は大学の機能を再開するに当たり、男性の教員や学生の意見しか求めなかった」と批判。これは「意思決定への女性の参加に対する組織的な妨害」であり、「タリバンの公約と行動のずれ」を示していると指摘した。
 
アフガニスタンでは、この20年間で大学進学率が上がり、特に女性の進学が増加。女子学生は、これまでは男子学生と並んで授業を受け、男性教授のゼミを受講することもできた。 【8月30日 AFP】
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男女共学は禁止となると、現実には高いハードルも。

****女性、男性と同じ教室で学んではいけない タリバン幹部が言及 アフガン、教育機会奪われる恐れ****
(中略)同国ではタリバン政権が崩壊した01年以降、都市部で女性の進学率が伸びた。首都の国立カブール大学や西部の国立ヘラート大学は、学生の5割以上が女性。

カブール大の経済学部の女性(20)は電話取材に「1室に100人以上を詰め込んできた状況で、男女を分けると教室や教員が足りなくなる。結果的に講義が減るのは目に見えている」と語る。

同大で政治学などを学ぶ男性(20)は「性別や人種を超えて、色々な立場の人たちと議論する機会が奪われる」と憤る。「女性だけでなく、立場の弱い人たちを隅に追いやる動きが広がるのではないか」
 
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、18年時点で高等教育を受けた女性の割合は4・9%で、男性の14・2%に比べ低迷している。農村部では今でも女児の進学を良しとしない習わしが根強く残る。【8月31日 朝日】
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何より、報道官や教育担当責任者のような国際社会の目も意識する「幹部」の発言が、字を読めない者も多い一般のタリバン兵士にどこまで徹底されるのか? はなはだ疑問・不透明な点も多く、先行きが心配されます。
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韓国  批判を許さない言論統制的な動き

2021-08-30 23:26:56 | 東アジア
(25日未明、「言論仲裁法」改正案をめぐる韓国国会・法制司法委員会の審議で、最大野党「国民の力」の議員が欠席するなか単独採決に踏み切って可決を祝う与党「共に民主党」の議員ら=2021年8月25日【8月27日 朝日】)

【いわゆる「尹美香保護法」は撤回】
昨日ブログでは北朝鮮における韓流文化など文化、更に社会・経済生活の様々面での「締め付け」政策を扱いましたが、今日は韓国での批判を許さない言論統制的な動きに関する話題。

最初は、旧日本軍の慰安婦被害者や関連団体に対する名誉毀損を禁止する内容を盛り込んだ慰安婦被害者法改正案。

*****「尹美香保護法」が論争に 与党「党として議論していない」=韓国****
韓国与党「共に民主党」の一部議員が発議した、旧日本軍の慰安婦被害者や関連団体に対する名誉毀損(きそん)を禁止する内容を盛り込んだ慰安婦被害者法改正案と関連し、同党は24日、党として成立を目指している法案ではないとの立場を明らかにした。

所属議員が発議した法案について、党の方針をメディアに向けて説明するのは異例。

改正案を巡っては、慰安婦被害者支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」への寄付金を流用した罪などで起訴された同団体前理事長で国会議員(無所属)の尹美香(ユン・ミヒャン)被告を保護するものとする批判が野党側から出ている。

また、共に民主党がメディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案の成立を目指していることもあり、与党が言論統制を進めているとの批判が野党を中心に強まっていることから、火消しに走ったものとみられる。

共に民主党の李素永(イ・ソヨン)報道官は「該当の改正案は個別の議員レベルで発議された法案」とし、党レベルで推進する法案と報じた一部記事は事実ではないと指摘した。また、「党として公式に議論していない」と述べた。

同改正案は共に民主党所属の印在謹(イン・ジェグン)議員が13日に発議。被害者や遺族を誹謗(ひぼう)することを目的とした慰安婦被害者に関する事実の指摘、虚偽事実の流布による被害者、遺族、慰安婦関連団体の名誉の毀損などを禁止する条項が盛り込まれた。

被害者や遺族だけでなく慰安婦関連団体に対する事実の指摘を禁止していることに加え、尹氏が共同発議者として名を連ねていることで論議を呼んでいる。【8月24日 聯合ニュース】
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同案には「被害者や遺族を誹謗する目的で日本軍慰安婦被害者に関する事実を摘示したり、虚偽の事実を流布したりして被害者、遺族または日本軍慰安婦関連団体の名誉を毀損してはならない」との条項が盛り込まれており、虚偽事実を流布した場合は5年以下の懲役または5000万ウォン(約470万円)以下の罰金に処し、新聞や雑誌、放送、討論会、記者会見などにおける発言も処罰対象に含まれていました。

これに関しては、「尹美香保護法だ」との批判があり、また、元慰安婦の女性も批判していることもあって撤回に追い込まれています。

****慰安婦“批判”禁止法案撤回、当事者らの反発受け****
韓国の与党「共に民主党」議員が、国会に提出していた元慰安婦への名誉棄損(きそん)を禁じる法案を撤回したことが26日、分かった。複数の韓国メディアが報じた。

法案は、元慰安婦支援団体も保護の対象とし、団体前トップで寄付金などを流用した罪で起訴された尹美香(ユン・ミヒャン)議員も共同提案者になっていたことから「尹美香保護法だ」との批判が噴出し、元慰安婦の女性も批判に加わっていた。

議員関係者は、メディアの取材に「被害者のおばあさん方の反発を考慮した」と法案撤回を認めた上で「再提出する計画も今のところはない」と説明した。【8月26日 産経】
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****批判続出の”元慰安婦保護法”が撤回、発議した韓国議員は「残念だ」と落胆=韓国ネット「面の皮が厚い」****
(中略)これに対し野党からは「尹美香セルフ保護法だ」「いっそのこと犯罪者保護法、恐喝犯優待法をつくったほうが底意に合致する」「元慰安婦と遺族を守るふりして関連団体を守っている」などと批判の声が上がっていた(尹議員は現在、正義連をめぐる寄付金流用事件で、補助金管理法違反や詐欺、業務上横領などの罪で起訴され裁判中)。

さらに、尹議員をめぐる疑惑を告発した元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんも「私が真実を話したことも罪になるのか」と反発していた。

同案が撤回されたことについて、尹議員は26日、自身のSNSで「残念だ」と述べた。

また「法的な保護は、虚偽によりおとしめられた弱者が頼れる最終手段だ」とし、「歴史と事実を歪曲(わいきょく)し、被害者の名誉を傷つける行為を傍観していてはいけない」と訴えた。その上で「韓国の法体系が歴史的事実を守るためにどんな努力をしたか、いつか歴史が評価するだろう」とし、「慰安婦問題解決に向けより一層精進していく」との考えを示したという。

これに対し、韓国のネットユーザーからは「面の皮が厚い」「慰安婦被害者が反対する慰安被害者保護法なんておかしい」「こんな人が国会議員をしていることを歴史はどう評価するのか」「いつか歴史が評価する前に、国民が今すぐ尹議員を断罪する」「まずは慰安婦被害者の利用を阻止する法律からつくってほしい」など、尹議員への批判的な声が数多く上がっている。【8月27日 レコードチャイナ】
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【メディアの虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案 採決は9月以降】
「尹美香保護法」は断念されましたが、「言論統制」の中核は前出【聯合ニュース】に“「共に民主党」がメディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案の成立を目指している”ともある「言論仲裁法」改正案です。

25日に国会法制司法委員会で強行採決されました。

****韓国で「言論懲罰法」可決 誤報認定されれば、5倍の賠償請求も「民主主義国家じゃない」の声***
日本のお隣、韓国で「言論の自由」を巡り、大きな騒動が巻き起こっている。韓国与党・共に民主党が8月25日午前4時前に、「言論仲裁法改正案」を国会法制司法委員会で強行採決した。野党・国民の力が反発して議場を退場後、共に民主党が単独で法案を可決した。

同法案は故意と重過失による虚偽、歪曲された報道で不利益を受けた場合、メディアに最大で損害額の5倍の賠償請求ができるようになることが明記されている。また、誤報には訂正報道を義務付け、誤りがあった報道と同じ時間や分量を割いて訂正する必要があるという。問題となった報道が閲覧できないように請求できる権利も盛り込まれている。

与党の共に民主党は「被害者をフェイクニュースから保護する」と意義を強調しているが、野党側やメディアは「表現の自由が損なわれる」と反発。

韓国紙・中央日報によると、野党の大統領候補・尹錫悦前検察総長が自身のフェイスブックで「政権延長のために言論の自由を後退させた」と批判した上で、「改正案は本当に国民のためのことか、それとも一部の権力者と与党のための『憂さ晴らし法案』か。問わざるを得ない」と糾弾したという。

「今、韓国国内ではこの話題で一色です。文政権は有力な政治家がスキャンダルや不正をメディアに糾弾されて失脚しています。政権批判を封じ込め、次期大統領選を見据えた法案なのではないかと揶揄されています。今回の『言論懲罰法』により、SNS上では『もはや民主主義国家ではない』、『北朝鮮のような社会主義国家になるつもりか』など批判の声が上がっています。強行採決したことでさらに風当たりが強くなっています」(韓国に駐在する通信員)

日本にとっても決して対岸の火事ではないという。

「この法律はフェイクニュースの線引きがあいまいなんです。韓国は日本と違ってその時の国民感情を配慮して法律は運用されるケースが多い。その時の政権や韓国国民に渦巻く日本への感情で、日本を擁護するような記事が『フェイクニュース』と適用される恐れがある。メディアが政府に異論を唱えられない状況になり、独裁政権になる可能性もゼロではありません」(同前)

例えば、19年7月に韓国で発売され、「反日種族主義」は日本の朝鮮統治時代について、韓国で流布していた「植民地として搾取された」という通念を真っ向から否定し、ベストセラーになった本だ。

慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを実証的な歴史研究に基づいて論証し、「韓国にはびこる嘘の歴史」と指摘して大きな反響を呼んだ。

文政権で法務大臣を務めた曺国氏は自身のフェイスブックで痛烈に批判した。

「日帝植民支配期間に強制動員と食糧収奪、 慰安婦性奴隷化等反人権的、反人倫的蛮行はなかったと主張している」として、「へどが出る本」と酷評した。著者の1人である韓国・落星台経済研究所の李宇衍研究委員がソウルの日本大使館近くで集会を開いていたところ、サングラスの男に襲われた事件も起きた。

言論仲裁法改正案が政府に恣意的に運用されれば、こうした政府の意にそぐわない異論が「フェイクニュース」と抹殺される危険がある。法案は可決されたが、反発の声は高まっている。騒動はしばらく続きそうだ。【8月27日 AERAdot.】
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この「言論仲裁法」改正案(「言論懲罰法」とも、あるいは「メディア懲罰法案」とも)強行採決に関しては、大統領周辺にも慎重論があるようです。ただ、明確な賛否は明らかにしていません。

****韓国大統領府「メディア懲罰法案」に沈黙 与党の採決強行には懸念****
韓国青瓦台(大統領府)内部で、メディアに対する懲罰的な損害賠償を可能にする「言論仲裁法」改正案の与党「共に民主党」による国会採決強行に懸念の声が上がっていることが、27日分かった。

言論仲裁法の改正案はメディアの故意・重過失による虚偽・ねつ造報道に対し、損害賠償を請求できると定めている。これに対し、最大野党「国民の力」などは権力維持を目的とした言論封殺だとして強く反対している。

青瓦台はこれまでこの問題に対して「国会で議論する事案」として静観の構えを示していたが、与党単独での採決強行は文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期終盤の国政運営に負担になりかねないとして、水面下で慎重論が広がっている。

青瓦台関係者は聯合ニュースの取材に対し、「法案の是非について青瓦台が言及するのは適切でない」としながらも、「通常国会が始まろうとしている時期にこの問題で国会が空転し、政局が混迷することが懸念されるのは事実だ」と述べた。

別の関係者も「青瓦台としての立場はない」と距離を置きつつ、「昨日、共に民主党のワークショップで反対意見がかなり出たと聞いた。今後の議論を左右する可能性があるのではないか」と指摘した。

青瓦台でのこうした動きは、非公式に与党議員らにも伝えられたという。(後略)【8月27日 聯合ニュース】
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同法案のメディアには「外国メディアも含まれる」(与党「共に民主党」のメディア革新特別委員会の金容民(キム・ヨンミン)委員長)とのこと。【8月27日 聯合ニュースより】

野党側の徹底抗戦姿勢もあって、本会議の採決は9月以降とのこと。

****韓国「言論統制法」採決9月以降に****
誤報やフェイクニュースへの罰則を強化する韓国の「メディア仲裁法」改正案について、最大野党「国民の力」は30日までに、法案が上程されれば長時間の演説で議事進行を遅らせる「フィリバスター」を行う方針を表明した。同日に予定されていた国会本会議での採決は、9月以降に延期される見通しとなった。

韓国国会法の規定により、フィリバスターは臨時国会が閉会する31日に期限を迎え、9月1日の通常国会開会後は議席の約6割を占める与党「共に民主党」側による強行採決が可能となる。

一方、国内外で「言論統制」法案に対する非難が強まる中、与党内でも強行採決への懸念を示す声が上がっており、同党は30日、議員総会を開催し今後の方針を協議した。

報道による人権侵害の救済策などを定めた「メディア仲裁法」の改正案は、「故意や重過失」による虚偽・捏造(ねつぞう)報道に対し、損害額の最大5倍の賠償を報道機関に命じるなどと規定。故意性や過失の定義が抽象的で、「恣意(しい)的な判断が下されるおそれがある」との懸念が広がっている。【8月30日 産経】
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【日米などからも批判が】
日本からすれば、いささか熱しやすい情緒不安定にも見える韓国社会でこの種の誤報やフェイクニュースへの罰則強化は、記事にもあるように「恣意的」な運用が強く懸念されます。

****韓国のメディア法改正案 言論統制につながる恐れ****
韓国の与党がメディア関連法の改正を進めようとしている。フェイクニュースによる被害の救済が目的だと主張するが、言論統制につながる恐れがある。
 
メディアへの懲罰的な措置を盛り込んだ「言論仲裁法」改正案だ。故意や重大な過失による報道で名誉を毀損(きそん)された人が、多額の損害賠償を請求できるようにする。

問題は、故意や過失の有無を判断する基準があいまいなことだ。しかも、メディア側に厳しい立証責任を負わせている。
 
賠償額の算定に当たっては、訴えられた企業の売上高なども考慮される。来年3月の大統領選を控え、政権に批判的な大手報道機関をけん制しようという意図が読み取れる。

法曹界や市民団体などは「民主主義の根幹を脅かす」と批判している。だが、与党は採決を強行する構えだ。
 
メディア規制の動きは各国で強まっている。権威主義的な国ではフェイクニュース対策を名目にした抑圧的な動きが目につく。

しかし言論の自由は最大限に尊重されなければならない。民主主義国家である韓国では、当然守られるべき基本的人権のはずだ。
 
軍事独裁時代、韓国メディアは厳しい検閲を受けていた。国による言論統制を批判し、民主化を求めて戦ってきた人々が、文在寅(ムンジェイン)政権の中枢を占めている。

にもかかわらず、現政権は自らへの批判には不寛容だ。大統領批判のビラを配ったことを理由に侮辱罪で告訴された男性もいる。
 
昨年春の総選挙で与党が圧勝してからは、言論の自由をないがしろにするような法律の制定が相次いでいる。
 
金正恩(キムジョンウン)体制を批判するビラを北朝鮮に向けて散布することを禁じた。1980年に起きた民主化運動の光州事件に関する「虚偽情報」の流布を罰する法律も作った。いずれも、野党の反対を押し切って成立させた。
 
文氏は言論仲裁法改正案について沈黙を続け、野党やメディアから批判されている。
 
人権派弁護士出身の文氏はこれまで、言論の自由が大切だと繰り返してきた。それならば、改正案を撤回するよう与党に働きかけるべきである。【8月29日 毎日】
******************

アメリカやフランスからも批判が

****米記者協会「韓国の言論仲裁法に極めて失望」…「こういう法律は非独裁の民主国家では初めて」****
(中略)
米国記者協会(SPJ)国際コミュニティーのダン・キュービスケ共同議長は29日、チャンネルAのインタビューに対し、「民主主義国家でこんなことをする初の事例になるだろう。独裁国家はよくやることだ。極めて失望感を覚える」と述べた。

キュービスケ議長は韓国の言論仲裁法改正案が成立すれば、「周辺国家がまず影響を受けるが、全世界が影響を受けることになる。香港がそういう法律の制定を検討していると聞いている」と懸念した。  

キュービスケ議長は「こうした法律は記者に自己検閲をさせることになる。一般的に政治家はメッセージのコントロールを望み、これがそうした方法だ」と批判した。また、「米国では(メディアに対する)訴訟のハードルがとても高く、法律の文言はとても具体的だ。ところが、(韓国の)この法案は具体的ではない。それがとても恐ろしい」と語った。  

仏日刊紙ル・モンドは27日、韓国の言論仲裁法改正推進を伝え、「行き過ぎた法律の制定で多数党である民主党への信頼を脅かしている」と評した。(後略)【8月30日 朝鮮日報】
********************

韓国は情報量としてはアメリカ・中国の次に多いのですが、“反日”“嫌韓”みたいなものには関わり合いたくないので、普段あまり韓国の話題はとりあげません。
珍しく今回韓国を取り上げたところ、もう少し書きたいことも。ただ、長くなるので、別機会に。
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北朝鮮  絶糧世帯の困窮 体制を揺るがしかねない「前代未聞の難関」に強硬な引き締め策

2021-08-29 23:28:04 | 東アジア
(北朝鮮・平壌の金日成広場で行われた「青年節」の祝賀行事に参加する若者ら(2021年8月28日撮影)【8月29日 AFP】)

【前代未聞の難関】
北朝鮮が極度の食糧難に陥っていることは、7月29日ブログ“北朝鮮  以前からの農業生産性の低さに加えて、制裁とコロナ禍の混乱、干ばつで極度の食糧難に”でお取り上げました。

「もうダメだ。打つ手がない」食糧難の北朝鮮、幹部会で絶望の声【7月16日 Daily NK】
北朝鮮で「覆面の武装集団」が富裕層を次々襲撃…食糧難で混乱【7月27日 Daily NK】
「泥炭入りパンを作れ」食糧難の北朝鮮が断末魔の呼びかけ【7月29日 Daily NK】

金正恩(キムジョンウン)総書記は、6月の朝鮮労働党中央委員会第8期第3回総会で、食糧難に喘ぐ国民に軍糧米を配給せよ、との特別命令を出していますが、それも有償配給のため、貧困層には手が出ないようです。

「鳥のエサを食えと言うのか」金正恩の特別配給に庶民の不満爆発【7月19日 Daily NK】
北朝鮮国民、コメの有償配給に不満…「恩知らず」当局が批判文書【7月19日 Daily NK】

そうしたなか、28日は青年同盟の結成記念日「青年節」を迎え、平壌では全国から招かれた若者らが参加して祝賀行事が開かれました。

(青年節でたいまつ行進 平壌、政治標語の人文字も【8月30日 KyodoNews】 こんなことに費やすカネ・時間・労力があるなら他のことに・・・というのは日本的常識ですが、おそらく北朝鮮の多くの国民もそのように思っているのでは・・・)

その「青年節」に寄せた祝賀文で、金正恩総書記は「前代未聞の難関」を不屈の精神力で突破する結束を強調しています。

****「前代未聞の難関、不屈の精神力で突破」 金正恩総書記が強調****
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は28日、国家事業などへの参加を志願した若者に祝賀文を送り、「我々は今、建国以来、最も厳しい局面に立っており、前代未聞の難関を不屈の精神力で突破している」と強調した。北朝鮮国営の朝鮮中央通信が29日、伝えた。
 
金総書記は、米国などによる経済制裁を念頭に「悪辣(あくらつ)な制裁や圧力、執拗(しつよう)な思想的・文化的浸透の動きによって、青年たちを変質させようとする帝国主義者のたくらみは水泡に帰した」とも述べた。

北朝鮮は長引く経済制裁や水害、新型コロナウイルス対策による国境封鎖などで物資や食糧不足が深刻化している。一連の発言を通じて、国内の結束を図る狙いがあるとみられる。
 
28日は北朝鮮で青年同盟が結成された記念日にあたる「青年節」。全国各地で若者たちを集めた祝賀行事が開かれていた。【8月29日 毎日】
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【危機感から単なる韓流取り締まりにとどまらない「引き締め」】
“結束を図る”と言えば聞こえがいいですが、国民が単に食糧難に喘いでいるだけでなく、北朝鮮の若者には韓国文化が浸透し、精神的にも体制が揺らぐような危機感を指導部を抱いているようで、強権による「引き締め」を行っています。

****北朝鮮、若者の「韓国化」取り締まり…髪型や言葉づかい禁止・ドラマ拡散で「死刑」も****
北朝鮮当局が、韓国式の言葉遣いやファッションを好む若者らの取り締まりを強化している。金正恩キムジョンウン政権は、もともと忠誠心が薄いとされる若者世代が韓国の自由な文化に染まれば、将来の体制の動揺につながると真剣に恐れているようだ。
 
韓国の情報機関・国家情報院の8日の国会報告によると、北朝鮮は最近、韓国風の言い回しなどが「非社会主義で革命の敵」だとして使用を禁じた。夫を「オッパ」(お兄ちゃん)、交際男性を「ナムチン」(彼氏)と呼ぶ言葉遣いなどで、韓国の若者らが好む表現だ。
 
髪形などの「乱れ」も摘発対象だ。韓国在住の脱北者の30歳代男性によると、北朝鮮の最近の若者は、男性は側頭部を短く刈り上げる「ツーブロック」、女性はロングヘアを好む。だが、男性の場合は「軍人のような短髪でない」こと、女性は「女性らしさを強調しすぎ」だとして禁止された。
 
北朝鮮当局は昨年12月、韓国ドラマなどを広めた場合、最高で死刑となる法律を制定した。韓国の言葉遣いを罰する条項もあり、該当すれば2年以下の労働教化刑となる。国家情報院の報告は、法制定を受けた摘発の徹底ぶりを示すものだ。
 
北朝鮮で韓国ドラマを隠れて見ること自体は、かねて常態化してきた。北朝鮮内部と連絡を取る韓国の専門家によれば、日本で話題を呼んだドラマ「愛の不時着」も人気という。
 
韓国式の言葉やしぐさまでが禁じられた昨年末からの状況は、韓国文化の浸透ぶりを示すと言える。この専門家によると、携帯電話のメッセージを抜き打ちでチェックされ、韓国で使われる略語やスラングの使用を当局が確認するケースも出てきているという。
 
北朝鮮の警戒の高まりは、金正恩朝鮮労働党総書記の公式発言からもうかがえる。正恩氏は6月20日、平壌ピョンヤンで開かれた女性団体の大会に寄せた書簡で、「女性の組織は服装や言葉遣いなどのおかしな傾向に警鐘を鳴らし、徹底的に芽を摘まなければならない」と強調した。
 
高麗大の柳浩烈ユホヨル名誉教授(北朝鮮政治)は、こうした締め付けを「体制の揺らぎにつながる若者の反乱の兆候を早めに摘む」ことが狙いと見る。新型コロナ対策で中朝国境を封鎖したことで、北朝鮮に外部情報が流入しにくくなっており、柳氏は「この機に『韓流ブーム』を全てなくしてしまおうとしているようだ」と話す。【7月18日 読売】
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「韓国に染まると、社会主義が危なくなる。瀬戸際で食い止めないと収拾がつかないという危機感があるのだろう」(龍谷大の李相哲教授)とも。

その引き締め策は“単なる韓流取り締まりにとどまらず、北朝鮮国民の生活を、身動きがとれないほどにがんじがらめにする”もののようです。これまで賄賂などで「骨抜き」にされていた規制も改めて厳しく取り締まるもののようですが、それでは社会が回らなくなってします。

****北朝鮮国民の生活を縛る「反動的思想・文化排撃法」のヤバさ****
(中略)、昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会で採択された「反動的思想・文化排撃法」、いわゆる韓流取締法については、(中略)単なる韓流取り締まりにとどまらず、北朝鮮国民の生活を、身動きがとれないほどにがんじがらめにするものだった。(中略)

(細部処罰条項に関する)文書がまず重点を置いているのは、一般人民の間で広範に起きている非社会主義現象――つまりは当局の考えるところの社会主義にそぐわず風紀を乱す行為だが、この根絶に関するところだ。

通りや公園、遊園地などで公衆道徳を守らない行為、革命歌謡の歌詞を歪曲して歌う行為、朝鮮式でない服を着て結婚式を上げる行為、カネや穀物を貸して高い利子を取り、返済に行き詰まったら家や財産を奪う行為など、様々な行為が非社会主義行為として列挙されている。

また、一般住民が輪転機材(自動車、オートバイ、トラクター)を購入し、人からカネを取って乗せたり、農作業に利用する行為、共同農場の営農設備や機材、資材を盗んだり破壊したりして農作業に支障を与える行為、山林資源や動物を取ってカネ儲けをする行為ななどが反社会主義的行為の事例として挙げられている。

各所にワイロを支払って許可を取り付け、個人の所有が禁じられている車両を、国営企業、機関などの名義を借りて所有し、人や物を運んで営業する「ソビ車」は、進展する北朝鮮の市場経済の物流を底支えしてきたが、このような行為も許されないということだ。

今回の細部処罰条項が、今まで当局が黙認または気を使わなかった些細な問題も処罰対象に含めたことで、人々は生活の隅々までがんじがらめにされ、ちょっとしたことで処罰されかねないというのが、この幹部の見立てだ。

一方、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の住民情報筋は、今回の細部処罰条項は、国境地域の住民により多大な影響を与えるだろうと見ている。最も厳しく取り締まるべき重大犯罪、反党・反国家行為として、地域でよく行われている、中国の携帯電話会社のデバイスを使って国外と連絡する行為が挙げられているからだ。

このような携帯電話は、密輸目的で中国の業者との連絡に使われたり、家族が韓国に住む脱北者からの送金目的で使われたりしている。当局がいくら摘発しても根絶できず、取り締まり側もワイロを受け取って見逃していた。

しかし、「反動的思想・文化排撃法」やそれに伴う取り締まりの強化で、送金ブローカーが徐々に姿を消し、脱北者家族も韓国に住む家族との連絡を行うのに相当のリスクを強いられることとなり、送金が途絶えたため、生活が苦しくなっているという。

ちなみに、いずれの情報筋も違反に対する具体的な量刑には触れていないが、労働教化刑、労働鍛錬隊(いずれも懲役刑)など、違反行為ごとに細かく決められているとのことだ。

北朝鮮の生活の現実を全く無視し、様々な生活、経済活動を禁じるこの法律だが、今までの流れなら施行当初は見せしめとして厳しい取り締まりが行われるものの、時が経つにつれワイロなどで骨抜きにされる。

ソビ車がなくなれば物流が滞り、脱北者の送金を止めれば国内に流入する外貨が減少する。だからといって、その穴埋めをするだけのものが国から与えられるわけでもない。

そんな「汝人民飢えて死ね」と言わんばかりの法律が、実効性を保ち続けられるかは非常に不透明と言わざるを得ない。【7月20日 Daily NK】
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北朝鮮で続く「違法携帯電話」の取り締まり…さらに80人逮捕【7月22日 Daily NK】
北で出回る禁断の地下出版物…高位幹部の「見せしめの刑」も【7月26日 Daily NK】

【「扇動隊」に駆り出され、栄養失調で倒れる女性・・・】
下記は、最近の北朝鮮事情を伝える“三面記事”的な情報。
政治問題を扱う硬い記事ではありませんが、むしろその“三面記事”的なものから北朝鮮の苦境が浮き上がってくるようにも思えます。

****北朝鮮のモノ不足が深刻…古紙・ゴム類の供出を国民に強制****
北朝鮮当局は、不足する物資を国民に強制的に供出させ、乗り切ろうとする「集中収売」を頻繁に行う。
代表的なものが、毎年正月に、肥料の代わりとして使う人糞を大量に供出させる「堆肥戦闘」だが、それ以外にも年がら年中、何らかの金品を供出させている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、今月1日から恵山(ヘサン)市内の人民班(町内会)で事業が行われていると伝えた。1世帯あたりのノルマは古紙500グラム、ゴム1キロだ。

それも「適当に出すふりをするのではなく、きちんと決められた量を正確に出せ」との注文付きだ。出せない場合には、道路補修工事に動員される。

紙ならともかく、ゴムの木が生えている熱帯の国ではないため、自宅にあるゴム製品を差し出すしかない。しかし度重なる供出で、もはやどの家庭も「在庫」が残り少なくなっている。結局は、市場で買って出すしかない。

供出を求められた人糞が集められず、市場で買い求めたり、人糞を納めたという偽の証明書を発行するブローカーが暗躍したりするのと同じような状況が、繰り広げられているものと思われる。上述の「ちゃんと出せ」という警告は、そういう実情を背景にしたものだろう。

通常時でも住民の激しい不評を買っているこのような供出事業だが、今はコロナ鎖国のもたらした極度の食糧難の真っ只中だ。

住民からは「くれると約束した食糧もまともにくれないのに、取り上げるものはこっちの事情も考慮せず強制するなんてがめつい」と不満の声が上がっている。

金正恩総書記が下したと伝えられる特別命令書に基づき、住民に軍糧米が有償で配給されることになっているのだが、うまく行き渡っていないのだ。【8月27日 Daily NK】
********************

****金正恩の「女性にぎやかし部隊」に駆り出された、ある主婦の受難****
北朝鮮の労働現場の映像を見ていると、ワゴン車に積まれたスピーカーから威勢のいい声で何かを叫びつつけている一団をよく見かける。現地で「扇動隊」と呼ばれているものだ。正式には「機動芸術宣伝隊」と呼ばれ、1961年に故金日成主席の指示に基づいて発足した。

工場、企業所、協同農場、建設現場を周り、朝鮮労働党の政策を宣伝し、歌って踊って労働意欲を高めるのが目的で、優秀な隊には賞が与えられる。

どんな効果があるのか甚だ疑問だが、今でも各地で続けられている。さて、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の災害被災地では、復旧作業に当たる人々を鼓舞するために扇動隊が動員されたのだが、鼓舞するどころか逆に倒れてしまう事件が起きたと、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

北朝鮮の各地、中でも北東部や北西部では、今月に入ってから降り続いた長雨により甚大な被害が発生したが、被災地の一つ、咸鏡北道の朝鮮労働党委員会は14日、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)に対して、現場で扇動隊の活動を行うよう緊急指示を下した。

指示に基づき、女盟のメンバーは災害復旧に当たる作業員の出勤、退勤時間に合わせて、朝夕2時間ずつ道端で、歌って踊ってシュプレヒコールを叫びながら、花束を振り続けた。

党委員会は、彼女らに扇動だけではなく、実際の復旧作業にも参加せよとの追加指示を下した。結局、彼女らは二手に分かれ、一方は復旧作業を、一方は扇動活動を続けた。

そんなある日、清津(チョンジン)市の女盟のメンバーが急に倒れた。現場にいた市人民委員長(市長)が自らの車に乗せて病院に搬送、診察を受けさせたところ、ひどい栄養失調と熱中症によるものだとの診断を受けた。

食糧難がひどくなる中、彼女は1日1杯の粥だけで糊口をしのぎ、水を飲んで空腹を満たしていたのだった。そんな窮状を知った人民委員長は、全住民の生活が苦しい中で、家庭の生計の責任を負う女性まで動員しなければならないのかと、党委員会にかけあった。

つまり、普段なら彼女らは市場で商売をして一家を経済的に支えているが、動員によりそれができなくなり、ただでさえ苦しい生活がより苦しくなっているということだ。

それに対して党委員会は、人民委員長の態度がなっていないと逆に批判し、「今の世の中で苦しんでいない人がどこにいるのか」「皆が苦しいのに、一部だけを大目に見るようでは、誰が建設現場や行事に行こうとするのか」などと激しく罵ったという。

さらには人民委員長に対し、彼女や他の絶糧世帯(食糧が底をついた世帯)の生活上の困難を解決し、積極的に扇動に動員せよと、住民に対する責任を丸投げする始末だ。

この話を聞いた住民の間からは当然のように、人民委員長に対する支持と共に、党委員会を非難する声が上がったという。

「人民委員長の考えが全く正しいのに、党は女性をどれだけ苦労させているのか知ろうともせず、生きようが死のうが現場に追いやっている」(情報筋が伝えた住民の声)
「党が行政をバカにして見下す現象を党(の上部)に報告してもむしろ問題視されるだけだ」(同)

なお、倒れて入院した女性は、高熱を出したため、2日目からは自主隔離を強いられているという。食糧配給などのないままで、自宅に閉じ込めるというのが北朝鮮式の自主隔離だ。もしかすると生きて家から出てこれないかもしれない。【8月27日 Daily NK】
*********************

溜息をつくしかないような状況ですが、党機関紙は相変わらず「軍事力こそ国力だ」と。

人民が飢えで倒れるような社会で“国力”も何もあったもんじゃない・・・と、日本的常識では考えるのですが。

****北朝鮮「軍事力こそ国力」 金正日氏記念日で党機関紙****
北朝鮮は25日、故金正日総書記が軍優先の「先軍政治」を始めたとされる日から61年の記念日を迎えた。朝鮮労働党機関紙、労働新聞は論説で金正日氏が同国を世界的な軍事強国の地位に押し上げたとたたえ、「軍事力こそ国力だ」と強調した。
 
平壌では故金日成主席と金正日氏の銅像が立つ万寿台の丘に軍人や市民らが献花に訪れたほか、市内の広場などで若者らによる舞踏会が行われた。
 
労働新聞は、金正日氏が党に絶対服従する軍をつくりあげ、国防工業は「どんな武器装備でも製造できる現代的で自立的な工業」に発展したと称賛した。核兵器やミサイルへの言及はなかった。【8月25日 共同】
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アフガニスタン  IS系テロ攻撃に対し、アメリカとタリバンが「協力」

2021-08-28 23:12:28 | アフガン・パキスタン
(26日、カブール空港周辺の爆発で負傷し治療を求めて病院に着いた女性【8月27日 時事】)

【米 IS系勢力に報復ドローン空爆、立案者殺害】
米兵13人を含む計180人以上が死亡、200人以上が負傷したアフガニスタン・カブールの空港でのIS系組織による自爆テロに対し、バイデン米大統領は“「今回の攻撃を行った者たちへ」として、「我々は許さない。我々は忘れない」と強調。「代償を払わせる」と語気を強めた。テロ攻撃を行った過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織の拠点や指導者に報復攻撃する作戦計画の策定を米軍に命じたことを明らかにした。ドローンなどを使った空爆攻撃を検討しているとみられる。”【8月27日 朝日】と報復を言明していましたが、その第1弾が実行されました。

****米、アフガンIS系勢力に空爆=報復で立案者殺害か―空港テロ、死者180人超に****
米中央軍は27日、アフガニスタン東部ナンガルハル州で、過激派組織「イスラム国」(IS)系武装勢力に対する無人機攻撃を実施したと発表した。同勢力は26日に首都カブールの空港で起きた自爆テロで犯行を認めており、空爆はその報復とみられる。
 
米中央軍は声明で「IS系勢力『イスラム国ホラサン州』(IS―K)の立案者に対する対テロ作戦を実施した」と説明。その上で「初期の分析によれば、標的を殺害した」と述べた。民間人の死傷者が出たとの情報はないとしている。
 
ロイター通信などによると、標的となった戦闘員は別のIS関係者と車に乗っているところを爆撃された。将来のテロ攻撃の計画・立案に関与していたとみられる。(中略)
 
一方、米政府は新たなテロが計画されている可能性が高いとみて、最高度の警戒態勢を維持している。
 
サキ大統領報道官は声明で「今後数日間が最も危険だ」と強調。国防総省のカービー報道官も記者会見で「攻撃があることを予想している」とし、「こうした脅威をリアルタイムで厳密に監視している」と述べた。【8月28日 時事】 
***********************

攻撃はドローンが使用されたとのこと。

アメリカは今後も引き続き、この種の攻撃を続けるのでしょうか。そうなると、対中国を重視した軍の再配備という戦略目標からはずれて、テロとの戦いに再び引き戻される懸念もあります。

【米・タリバンの共同作戦? 互いに関係を今後も必要とする両者】
今回の報復で感じたは、「また随分早かったな・・・」ということ。

以前から米軍は“IS系勢力『イスラム国ホラサン州』(IS―K)の立案者”なる人物を特定していたのでしょうか?それなら、どうして今まで野放しにしていたのか?

根拠も何もない私の全くの想像ですが、タリバン側から上記人物に対し何らかの情報提供がアメリカにあったのでは・・・その情報をもとに米軍がドローンで攻撃するという、タリバンと米軍の共同作戦だったのかも・・・・

今回の空港自爆テロではタリバン兵も28名ほど死亡するという大きな打撃を受けています。何より、アフガニスタンの治安は自分たちが担うとしていたタリバンは、敵対組織IS-Kによってメンツを潰された形にもなっており、アメリカだけでなくタリバンにも報復への強い動機がありますでの、その両者が手を組むというのはありうる話ではないでしょうか。

その根底には、アメリカもタリバンも、“ケンカ別れ”ではなく、今後に向けて互いに相手を利用しあう関係を望んでいることがあります。

タリバンとしては、今後の国家統治に国際的な承認が是非とも欲しいところで、なんだかんだ言っても国際社会をリードするアメリカとの関係は断ちたくないところでしょう。

****タリバン、アフガンの米大使館存続を望むと明確に表明=米国務省報道官****
米国務省のプライス報道官は27日、イスラム主義組織タリバンが米政府に対し、アフガニスタンの大使館の存続を望むと明確に示したと明らかにした。

プライス報道官はこのほか、米国はアフガニスタンの人々に対する人道支援を継続すると表明。ただタリバンの財源にならないようにすると述べた。【8月28日 ロイター】
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アメリカとしても、撤退後に残された協力者などの処遇といった「残務整理」でタリバン側に配慮を求めたいといということもありますし、今後のタリバン統治において女性の人権などで国際社会の価値観に合わない事態が表面化すれば、「米軍撤退はやはり間違いだったのでは」という議論にもなりますので、一定にタリバンに対し影響力を行使できる立場にありたいという希望もあるでしょう。

【米財務省 アフガニスタンへの人道支援を非公式許可】
上記記事にもある人道支援については、「非公式の許可」という扱いのようです。

****アフガン人道支援、米が非公式に許可 タリバン制裁で例外措置****
米財務省は人道支援組織に対し、アフガニスタンへの支援提供を許可した。事情に詳しい関係者が明らかにした。

イスラム主義組織タリバンがテロ組織として制裁対象になっていることが障害となり、アフガニスタンに食糧などの物資が届けられなくなるとの懸念が高まっていた。
 
援助団体や銀行からは、アフガニスタンへの人道支援や関連した金融取引を行っても罰せられない保証を求める声が高まっており、財務省は今週、プライベートの会話の中で許可を出した。

ただ、援助団体などは財務省に対して制裁からの正式な例外措置を求めており、今回の非公式な指針で懸念が払しょくされたどうかは明らかではない。
 
米国は2001年9月11日の同時多発テロ後、攻撃を実行したアルカイダ要員をかくまったとして、タリバンをテロ組織に指定した。これ以降、米国を拠点とする団体はタリバンにいかなる支援を行うことも法律で禁じられている。
 
タリバンは今月、政府機関や民間部門の大半を含め、アフガニスタンを全面的に掌握。このため、人道支援の取り組みに支障が出るとの懸念が高まった。
 
アフガニスタンでは治安が悪化し政府は崩壊したため、多くの国際援助団体が活動を停止。国際通貨基金(IMF)のエコノミストなどの専門家は、アフガニスタンは深刻な経済危機に陥る危険性があり、人道的危機が悪化する恐れがあると警告している。
 
開発援助・人道支援団体の主要ネットワークであるインターアクションとアライアンス・フォー・ピースビルディングはジャネット・イエレン米財務長官に対し、タリバン支配下のアフガニスタンへの人道支援に正式な許可を出すよう要請してきた。
 
インターアクションは「アフガニスタンの状況は悲惨であり、日々悪化している」としている。【8月27日 WSJ】
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アフガニスタンの食糧事情が極めて厳しい状況にあることは言うまでもありません。

****アフガン、深刻な飢餓に直面 WFPが警告****
国際赤十字社(IRC)は23日、アフガニスタンの人々が情勢不安定、食糧危機、コロナの感染拡大という3つの脅威に直面していると述べた。国連世界食糧計画(WFP)は19日までに緊急援助資金がなければ、同国は早ければ9月に食糧不足に直面するだろうと警告した。

IRCのグレゴリー・マシューズ氏は、アフガニスタンの政情不安、55万人の避難民、そして大干ばつ後の7月に政府が危機宣言を出したことで、食糧不足が高まっていると指摘した。さらに、コロナの感染拡大も、同国の医療システムを危機に陥入れている。世界保健機関(WHO)は23日、カブール空港が商業便の運航を停止しているため、重要な物資の輸送ができなくなっていると明かした。
 
WFPのアフガンの事務担当のアンドリュー・パターソン副局長は、「アフガン人口のほぼ半分であらる約1,850万人が援助に依存しており、今年の干ばつやコロナ禍による社会経済的影響で、作物の約4割が失われたため、多くの家庭が必要な食糧を入手できない状況にある」と述べた。
 
WFPによると、アフガンの3人に1人が飢えに苦しみ、子どもは200万人が栄養不良の状態にある。数十年にわたる紛争だけでなく、深刻な干ばつや新型コロナウイルスの感染拡大による貧困が原因だ。タリバンの進攻によって多くの人々が避難を余儀なくされ、食料不足に一段と拍車がかかる可能性がある。
 
WFPでは、2,000万人もの人々が食糧を必要とし、9月までに現在の備蓄が不足する可能性があるとしている。アフガニスタンの人々を12月末まで支援するためには、54,000トンの食糧が必要で、食糧の購入には約2億米ドル(約220億円)が必要である。
 
国際連合児童基金(UNICEF、ユニセフ)事務局長のヘンリエッタ・フォア氏も23日、アフガンでは約1,000万人の子供たちが人道的支援を必要としており、治療を受ける前に100万人が死亡する可能性があり、状況はさらに悪化すると予想されていると述べた。
 
WHOの地域緊急局長であるリチャード・ブレナン氏は、電子メールの声明で次のように書いた。「世界の目は今、避難者と飛行機に向けられており、残された人々を助けるための物資を送り込まなければならない」【8月26日 看中国】
********************

【アメリカ中央軍司令官 タリバンとの情報共有・共同でのテロ防止活動を認める】
話をアメリカとタリバンの対テロ協力に戻すと、アメリカ中央軍の司令官を務めるフランク・マッケンジー将軍がそのような協力が行われていることを発言しているようです。

****タリバンと米軍が「反テロ」で協力か──カブール空港テロと習近平のジレンマ****
中国はタリバンを支援する交換条件としてテロの撲滅を絶対条件とした。今般のテロでタリバン兵士28人が犠牲になっており、タリバンはアメリカと協力してテロ組織をつぶそうとしている。これは習近平に痛手か?(中略)

タリバンが米軍と協力して過激派ISISを打倒する
アメリカ中央軍の司令官を務めるフランク・マッケンジー将軍は、空港を標的としたロケット弾や車両爆弾の可能性を含め、ISISによるさらなる攻撃を警戒している」と述べ、「一部の情報はタリバンと共有している」とした上で、「タリバンによっていくつかのテロ攻撃が阻止された」と付け加えた。つまり、タリバンはテロ集団と戦っているということだ。

何よりも驚くべきは、マッケンジー将軍が「米軍の司令官はタリバンの司令官と協力してさらなる攻撃を防いでいる」と語ったことである。
つまり、「米軍がタリバンと協力してテロ活動を防いでいる」というのだ。

中国共産党が管轄する中国の中央テレビ局CCTVも8月27日正午のニュースでカブール空港テロ事件に関する特別番組を組んだのだが、そこで中国国際問題研究院の研究員である崔洪建氏が「米軍とタリバンが協力して共にテロと戦う」という可能性を排除できないと解説していた。

そうなると、アメリカがここに来て、初めて「反テロ」に向けてタリバンと共闘するという、前代未聞の事態が現れるということになる。(中略)

バイデン大統領は必ず米軍を8月31日までに撤収させると言っているのだから、米軍がタリバンと協力してテロ組織撲滅に従事することなどできないと思うのが常識的な反応だろう。

しかし、おそらくタリバンもピンポイント的に「テロ組織撲滅」という目的にのみ特化した部隊を残すことには賛同するだろうし、遠隔操作という方法もある。何らかの方法を考えるのではないかと推測される。(後略)【8月28日 遠藤誉氏 Newsweek】
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今回の「報復攻撃」がアメリカ・タリバンの共同作戦だったかどうかは知りませんが、今後の話で言えば、ドローンなら、タリバンからの情報提供に基づいて周辺国の基地から飛ばし、操縦などはアメリカ本土から行うということも可能です。

もっとも、現地に情報機関要員がおらず、情報を全てタリバンに頼るというのは、非常に危険な側面もありますが。
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アフガニスタン空港テロ  窮地のバイデン大統領 今後の戦略にも影響 中国「テロの温床」を危惧

2021-08-27 22:54:01 | アフガン・パキスタン
(ホワイトハウスで26日、うつむきながら記者の質問を聞くバイデン米大統領【8月27日 朝日】
強い大統領を求めるアメリカでは、こういう姿は大きなマイナスでは・・・。ただでさえ、認知症の疑念を持たれていますので。
“最後には「みなさん、20年間の戦争を終わらせる時だったのです」と質問を打ち切り、会場をあとにした。”とのこと)

【アメリカとタリバンの限定的な協力関係を狙ったISによる「起こるべくして起きた」テロ攻撃】
カブールの空港付近での自爆テロは、タリバンの首都制圧以降の空港の混乱ぶりからすれば、誰しも予想した(何事もなければ、それが不思議なぐらいの)「起こるべくして起きた」テロ攻撃ではありますが、死者は100人を超え、アメリカにとっても兵士13人が死亡するという「最悪」の結果になっています。

****アフガンテロ、死者100人超 米大統領、IS報復を指示****
アフガニスタンの首都カブールの空港付近で起きた自爆テロで、AP通信などは27日、死者が100人を超えたと報じた。標的の一つは出国希望者らが集合するホテルだったことも判明した。

関与を主張した過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力のIS「ホラサン州」は、世界が注目する退避作戦を狙った攻撃で存在感を誇示し、アフガンの混迷が拡大。バイデン米大統領は報復を指示した。
 
ISはタリバンと敵対関係にある。米軍撤退完了の期限が31日に迫る中、アフガンが再びテロの温床となる恐れが高まった。米兵の1日当たりの死者数として13人は過去10年で最悪となった。【8月27日 共同】
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ISにしてみれば、アメリカに打撃を与え、同時にタリバン支配も揺さぶることができる、一石二鳥のテロです。

****アフガン自爆テロ IS―K、米タリバンの〝信頼なき協力〟標的****
アフガニスタンの首都カブールでの自爆テロは、仇敵である米国とイスラム原理主義勢力タリバンが、在留米国人らの退避プロセスで実質的な協力関係を結ぶ中で発生した。

実行したとみられるイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」傘下の「ホラサン州」(IS―K)には、対米ジハード(聖戦)の成果を誇示することで競合するタリバンの正統性をおとしめて混乱を助長するとともに、米国とタリバンの不信を増幅させる狙いがある。

アフガンでは、今月15日にタリバンがカブールを制圧して以降、米国人をはじめとする在留外国人や、タリバン支配を恐れるアフガン人らの退避が本格化。撤収期限の8月末が迫るなかで米国は、タリバンとの間で、外交団や軍のレベルで「日常的な連絡態勢」(国務省)を構築した。

背景には、「脱アフガン」を円滑に進めたい米国側と、外国勢力を国内から排除して早期に支配を確立したいタリバンとの利害の一致がある。タリバンとしては今後の政権運営をにらみ、米欧に恩を売る狙いもあるとみられる。タリバンがアフガン人の出国を認めないとするなど両者の隔たりは大きいとはいえ、限定的な協力関係が生まれているといえる。

これに対し、米国とタリバンの双方を敵視するIS―Kにとっては、今回のようなテロで混乱を長期化させることが利益になる。正統なジハード(聖戦)勢力とのイメージを強化し、タリバンの求心力低下も期待できるためだ。

今回のテロでは、自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない。

26日にオンラインで記者会見した米中央軍のマッケンジー司令官は、「タリバンを信用できるのか」との問いに、重要なのは「タリバンには、米国に(アフガンから)出ていってほしい理由があること」だと指摘し、「連携を継続する」と強調。米国は、無人機などを活用した上空からの監視態勢を強化する一方で、タリバンとの〝信頼なき協力〟に頼りつつ退避プロセスを進める構えだ。【8月27日 産経】
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【責任問題で窮地に立たされるバイデン大統領 再び「テロの戦い」に引きずり込まれる可能性も】
アメリカ国内では8月31日機嫌の徹種に拘って現地混乱を惹起したバイデン大統領の責任を追求する声が強くあります。

****米メディア、バイデン大統領の責任を追及****
アフガニスタンの首都カブールの国際空港で少なくとも13人の米兵が殺害された自爆テロについて、米メディアは26日、トップニュースとして被害状況や背景を詳報した。バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわったことが犠牲を招いたとの論調が目立った。

バイデン氏が26日に行った記者会見で、保守系FOXニュースの男性記者が厳しく追及する様子が注目を集めた。
記者が、撤収期限を設けたことが米兵の殺害につながったとし、「あなたは責任を負うのか」と問いただすと、バイデン氏は「起きたこと全てに基本的な責任を負う」と応じつつも、撤収はトランプ前政権とアフガンのイスラム原理主義勢力タリバンとの間で合意されたことであると強調した。一連のやり取りは経済誌フォーブスや議会紙ヒルが電子版で速報した。

有力紙では、ウォールストリート・ジャーナル(電子版)が社説で「誰もが恐れていたイスラム過激派のテロが起きた。大統領は安全な退避活動のために十分な兵力を出さなかった過失責任を逃れられない」と批判した。

ワシントン・ポスト紙(同)は「バイデン氏の『経験豊かで堅実な世界の指導者』という信認が損なわれた」と指摘。与党・民主党の一部議員も「自爆テロが起きた空港周辺の治安をタリバンに頼る国防総省の方針を疑問視している」と伝えた。

一方、ニューヨーク・タイムズ紙(同)は「混乱した撤収」としつつも、自爆テロに関するバイデン氏への批判は「政治的」であると分析。多くの米国人が「(米軍の)アフガン撤収を望んでいた」とし、「長期的にバイデン政権の打撃となるかどうかは不透明だ」と論じた。【8月27日 産経】
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****カブール爆発、トランプ氏や共和党議員がバイデン氏非難****
アフガニスタンの首都カブールで自爆攻撃によって米兵13人が死亡、18人が負傷したことを受けて、米国のドナルド・トランプ前大統領と複数の共和党議員は26日、ジョー・バイデン大統領を非難した。
 
バイデン氏のアフガン問題への対応を厳しく批判してきたトランプ氏は、自爆攻撃を「悲劇」と呼び、防げたはずだと述べた。「この悲劇は決して起こしてはならなかった」
 
複数の共和党議員は、バイデン氏は辞任するか弾劾されるべきだと批判した。
 
共和党のジョシュ・ホーリー上院議員(ミズーリ州選出)は、「ジョー・バイデン氏には責任がある」と述べた。「今や彼にリーダーとしての能力も意志もないことが明白となった。辞任しなければならない」
 
共和党下院ナンバー3のエリス・ステファニク議員は、「(米兵らの)死の責任はジョー・バイデン氏にある」とツイッターに投稿した。
 
ステファニク氏は、「この恐ろしい国家安全保障上および人道上の大惨事は、ジョー・バイデン氏がリーダーとして弱く、無能なことの帰結にほかならない。最高司令官にふさわしくない」と主張した。 【8月27日 AFP】
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“バイデン大統領が8月31日のアフガン駐留米軍の撤収期限にこだわった”とは言っても、現地を制圧しているタリバンが期限延長を認めない状況では、他の選択肢はなかったとも思われます。

そもそも米軍撤退はトラン前大統領のタリバンとの合意が前提となっており、タリバンの首都制圧も誰も予想しえなかった程の急展開でしたので、バイデン大統領一人が責められるのはやや理不尽なところはありますが、「撤収のやり方がまずかった」と言われれば、結果が全ての政治の世界で責任回避はできないでしょう。

そうした責任問題と同時に、アフガニスタン撤退によって対中国の軍展開を目指していた矢先のテロ攻撃によって、再び「テロとの戦い」に引き戻されるという点でも、バイデン政権にとっては大きな痛手となっています。

****バイデン政権、発足以来最大の窮地 再びテロとの戦いに突入か****
「テロリストは我々を邪魔することはできない。我々は退避作戦を継続する」
バイデン米大統領は26日の演説でこう力を込めた。バイデン氏は米軍高官たちと退避作戦を協議。高官たちは「(作戦の)任務を完了できるし、完了させなければいけない」と明確に答えたという。
 
バイデン氏はさらに「今回の攻撃を行った者たちへ」として、「我々は許さない。我々は忘れない」と強調。「代償を払わせる」と語気を強めた。テロ攻撃を行った過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織の拠点や指導者に報復攻撃する作戦計画の策定を米軍に命じたことを明らかにした。ドローンなどを使った空爆攻撃を検討しているとみられる。
 
ただ、政権肝いりの退避作戦で多数の米軍兵士が犠牲となったことは、バイデン政権発足以来最大の政治的窮地を迎えたと言ってもよい。

バイデン氏が米軍撤退を推し進めたのは「国益のためにならない」(同氏)戦争でこれ以上の若い米軍兵士の犠牲を防ぐという大義があった。

批判を受けても8月末の退避作戦完了にこだわったのも、空港周辺でテロ攻撃を画策しているという情報を米情報機関がつかんだことで、作戦が長期化すれば、米軍兵士がテロ攻撃にさらされるリスクが高まることを理由にあげていた。
 
今回の13人という米軍兵士の死者数は、2011年8月に米軍ヘリが撃墜されて30人の米軍兵士が死亡したのに次ぎ、アフガニスタンでの一日の死者数としては最も多い。サキ大統領報道官は「バイデン大統領の任期中で、最悪の出来事」と表現した。
 
今回のテロ攻撃をきっかけに、米国が再び中東周辺に足を取られていく恐れも出てきた。もともとバイデン政権はアフガニスタンから撤退することで、米国の軍事力を「唯一の競争相手」と位置づける中国に対して集中させるという狙いがあった。

しかし、報復宣言に見られるように、バイデン政権が再びテロとの戦いに引きずり込まれていく可能性もある。実際、バイデン氏は26日、「追加の派兵が必要であれば、私は認める」と語った。【8月27日 朝日】
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【タリバン「米軍が管轄する場所で起きた」】
今回テロをタリバンがどのようにとらえているかについてはあまり報じられていませんが、“タリバン報道担当のムジャヒド幹部は、ツイッターに「市民を狙った爆発を強く非難する」と投稿し、爆発は「米軍が管轄する場所で起きた」とした。”【8月27日 朝日】とのこと。

責任は米軍側にあるということでしょうか。ただ、前出記事にもあるように“自爆犯がタリバンによる検問をすり抜けて現場に接近していることから、タリバン兵にIS―Kの協力者がいる可能性も否定できない”という側面も。

【中国 「テロの温床」となって新疆ウイグル自治区へ影響することを懸念】
一方、中国にとってアフガニスタンに関する関心は、地下資源とか「一帯一路」の問題もありますが、一番はアフガニスタンの混乱がテロの温床となって、“敏感な”新疆ウイグル自治区の情勢に影響を与えないことでしょう。

****アフガンのタリバン政権と中国****
(中略)ところで、中国はタリバンに対して如何なるアプローチを取っているのか。

アフガンが大混乱に陥る直前の7月28日、王毅・中国外相は、天津市でタリバンの幹部と会談し、アフガニスタン和平などについて意見交換を行った。中国外務省の発表によると、同外相はタリバンについて「アフガンの和平、和解、復興プロセスで、重要な役割を発揮することが見込まれる」と述べたという。

また、今月8月19日、王毅外相は、ラーブ英外相とアフガニスタン情勢について電話会談した際、国際社会はタリバン政権に対し「圧力よりも支援を」と強調している。

翌20日、タリバンの報道官は、CCTVの取材を受け、中国について「偉大な隣国だ」とした上で、「同国はアフガニスタンの平和と和解のため建設的な役割を果たしてきた」と評価した。

中国共産党としては、タリバン政権と友好な関係を構築したいのではないか。周知の如く、新疆ウイグル自治区では、ウイグル人収容所があり、タリバンはイスラム教スンニ派である。場合によっては、タリバンが中国国内の一部のスンニ派ウイグル人と手を結び、テロによって習近平政権を脅かさないとも限らない。

また、アフガンには大量の資源(主に銅とリチウムで、一説には3兆米ドルにのぼるという)が眠る。中国共産党は、何とかアフガンの資源を手中に収めたいだろう。同時に、中東(例えば、トルクメニスタン等)と中国を結ぶアフガンの石油・天然ガスパイプライン敷設も重要課題である。北京は、是非とも、そのパイプラインを稼働させたいのではないだろうか。

更に、習近平政権としては「一帯一路」構想を実現する上で、アフガンの安定は不可欠である。もし、アフガン情勢が混迷化すると、同構想は頓挫するかもしれない。

一方、タリバン政権としても、今後、米国やEU等からの支援を得づらいので、中国との友好関係を深めたいのではないか。特に、アフガンではケシの栽培が行われている。世界のアヘンの9割はアフガン産と言われるが、そのアヘンを主に中国が買い取っているという。

ただし、よく知られているように、部族国家のアフガンでは、歴史的に、大国の英国、(旧)ソ連、米国が泥沼に嵌まっている。ひょっとすると、中国も同じ轍を踏む可能性がないとは言い切れまい。【8月25日 澁谷司氏 Japna In-depth】
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****中ロ首脳、アフガン安定化へ協調=テロの温床を警戒****
中国外務省によると、習近平国家主席は25日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、アフガニスタン情勢の安定化に向け協調することで一致した。両首脳はアフガンがテロ組織の温床になることに強い警戒感を示した。
 
習氏は、ロシアをはじめ国際社会の各国と意思疎通や協調を強化したいと説明。さらに「アフガンの各派が開放的・包括的な政治的枠組みを話し合って築き、穏健な内外政策を実施し、テロ組織と徹底的に(関係が)切れるよう奨励したい」と訴えた。【8月25日 時事】 
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そうした(支配者はタリバンでも誰でもいいので)アフガニスタンの安定によって「テロの温床」となることを防ぐことを重視する中国にとっても、今回の事件は今後の「テロの温床」を懸念させるものになっていると思われます。

****カブール空港テロ、中国も非難 「テロ拠点化防ぐ」****
中国外務省の趙立堅副報道局長は27日の定例会見で、アフガニスタンの首都カブールのにある国際空港付近で発生した爆破テロ事件について「中国はあらゆるテロに断固反対し、強く非難する。国際社会と共にテロの脅威に対応し、アフガニスタンがテロの拠点になることを防いでいきたい」と語った。
 
趙氏は「多数の死傷者が出たことに衝撃を受けている」としたうえで、「事件はアフガニスタンの治安状況が依然として厳しいことを物語っている」との認識を示した。
 
中国が最も警戒するのは、アフガニスタンの不安定化が新疆ウイグル自治区の独立を目指す東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の活動につながることだ。趙氏は「タリバンはいかなる勢力も中国に危害を加えることは許さないと明確に述べた。約束を着実に実行してほしい」とタリバン側に役割を果たすよう求めた。
 
一方、米国はETIMについてトランプ政権が昨年、「活動存続の確証がない」としてテロ組織指定を解除している。趙氏は「米国はテロに反対すると言いつつダブルスタンダードだ。中米の反テロ協力に何の利益にもならない」と批判した。【8月27日 朝日】
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退避希望者が空港に入れず、これまで進捗していない日本の退避作戦は、今回のテロで更に難しくなると予想されますが、その点では韓国はテロ発生前にうまく処理したようです。

****韓国、アフガンから390人脱出成功 特殊部隊「ミラクル」作戦****
韓国政府は27日までに、アフガニスタンで韓国政府に協力していた現地スタッフとその家族390人を脱出させ、韓国で難民ではなく「特別功労者」として受け入れた。作戦名は「ミラクル」(奇跡)。

首都カブールの国際空港への接近が難しい状況下で、在アフガニスタン韓国大使館職員以外に60人余の特殊任務部隊を編成し、希望者全員を脱出させることに成功したという。
 
「とても危険な作戦で、我々は幸運だった」。青瓦台(大統領府)の朴洙賢(パクスヒョン)国民疎通首席秘書官は26日、ラジオのインタビューでこう振り返った。
 
青瓦台や国防省などによると、救出作戦を遂行するため空軍などで構成する66人の特殊任務部隊を緊急編成し、23日に軍輸送機3機を派遣。当初は退避希望者が自力で空港に集合した後に空輸する予定だったが、タリバンが空港に至る道に検問所を設置して市民を追い返していたため、24日に空港までたどり着いたのは26人だけだった。
 
そのため、作戦を変更し、米国が現地で契約するバスを6台確保した。タリバンと米国は事前に指定したバスは空港に入れることで合意していたからだ。
 
大使館の連絡網を通じて、市内に散らばって待機させたバスの位置と集合時間を退避希望者に伝え、全員をバスに収容。さらに米軍兵に同乗してもらうことで、タリバンの検問を通過し、25日に空港に到着した。パキスタンの首都イスラマバードで待機中の輸送機をカブールに急派し、同日中にイスラマバードへ退避させた。
 
脱出したのは在アフガニスタン韓国大使館や韓国政府が運営する病院、職業訓練施設などで勤務していたスタッフとその家族390人。全員が27日までに新型コロナウイルスの検査を受けた後、政府施設に滞在する予定だ。「特別功労者」は短期ビザのため、今後、就職が可能な長期ビザへの切り替えを可能にする法整備も進める方針だ。
 
韓国外務省は今年6月、アフガニスタンに滞在する国民に撤収を要請。カブール陥落後に残っていた国民1人も8月17日に大使館員と共に脱出したため、すでに現地に残っている国民はいない。【8月27日 毎日】
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中国  習近平指導部の富裕層・企業家をターゲットとする流れとシンクロする格差に苦しむ若い世代

2021-08-26 22:49:01 | 中国
(「チベット解放70周年」記念式典に登場した習近平国家主席の巨大肖像【8月19日 朝日】)

【加速する習近平国家主席への個人崇拝の流れ】
中国・習近平国家主席が共産党結党100周年の節目の年にあたり、党・国家による政治・経済・社会全般に対する統制・指導を強める方向で、その権威を高めようとしていることは、これまでも取り上げてきました。


“党・国家による”というのは、言い換えれば“核心”たる“習近平主席による”ということであり、その個人崇拝とも思えるような流れは、統制・指導を強める方向とあいまって、まさに個人崇拝の対象だった毛沢東時代への“原点回帰”のようにも。そして社会の流れは“文化大革命”を想起させるようなものも。

****チベットに習近平氏の巨大肖像 「解放」70年の式典で****
中国共産党政権は19日、チベット自治区ラサで、「チベット解放70周年」の記念式典を開いた。チベットの象徴ともいえるポタラ宮前に設けられた特設会場には、習近平(シーチンピン)国家主席の巨大な肖像が登場。党指導部人事が行われる党大会を1年後に控え、習氏の権威づけも進みそうな気配だ。(中略)
 
先月、チベットを視察したばかりの習氏は式典に出席しなかったが、会場には2〜3階建てのビルほどもある習氏の巨大な肖像が飾られ、会場を埋めた地元幹部らを見下ろした。
 
毛沢東への個人崇拝が強まり中国全土を大混乱に陥れた文化大革命(1966~76年)の反省から、共産党政権は長らく、指導者の偶像化につながる動きを戒めてきた。習氏の胸元から上が大写しになった巨大な肖像は、そうした伝統が薄らいでいることを印象づける。
 
来年秋に迫る5年に1度の党大会では、強い権力を握った習氏が、最高指導者のポストにとどまるかが焦点になる。ただ、2期10年で引退してきた過去2代の総書記の先例を破るには、党内外の世論や環境を整え、習氏の権威をさらに高める必要もありそうだ。
 
中国政治に詳しい改革派知識人は「地方の高官ほど、中央の覚えを良くしようと指導者をたたえようとする。チベットがやったならと、ほかの地方が追随する可能性もある」と話す。【8月19日 朝日】
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もちろん、公式には「(習氏への称賛は)個人崇拝ではない」とされています。

****習氏は「別格の指導者」=中国共産党、個人崇拝を否定****
中国共産党中央宣伝部は26日、習近平党総書記(国家主席)の「核心」の地位について「大きな党と大国のかじ取りという重大な職責を負っている」とする文書を発表し、習氏が「別格の指導者」であることを強調した。しかし、文書は「(習氏への称賛は)個人崇拝ではない」という見解も示した。
 
習氏は2016年10月に「党の核心」の地位を獲得した。これについて、文書は建国の父、毛沢東が「核心」となった後、党が危機を脱したと指摘。その上で「習同志を党中央の核心に確立したことにより、党、国家、人民、軍隊、中華民族にかつてない変化をもたらした」と絶賛した。
 
一方で、文書は党が個人崇拝を禁じていることに触れ、「核心の擁護は決して低俗な『個人崇拝』ではない。核心は無限の権力を意味しない」と訴えた。【8月26日 時事】 
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なんだか詭弁と言うか、言葉の遊びのような感も。

【「共同富裕」「三次分配」は富裕層・企業家らをターゲットにした階級闘争の再来か?】
本来“平等”が重視されるはずの社会主義国・中国は、鄧小平「先富論」によって急速な経済成長を実現しましたが、その結果、資本主義国・日本以上の格差社会ともなっています。

そこで“原点回帰”を進める習近平政権が打ち出しているのが「三次分配(三度分配)」による「共同富裕(みんなが豊かな社会)の実現」という方向性。

「共同富裕」論自体は、鄧小平の「豊かになれる者から先に豊かになる」という「先富論」の時代は終わり、今後の習近平新時代は、先に儲けた者が富を社会に還元させる時代、という社会主義の本質に回帰を示すものです。

注目されるのは、大企業・富裕層からの社会への寄付・慈善事業という方法で「共同富裕」を実現しようという方法で、“富裕層に向けられる大衆の敵意がより煽動され、最悪、文革のような階級闘争時代が帰ってくるかもしれない。”との指摘も。

****「みんなで豊かに」習近平提唱の新目標に怯える大企業と富裕層****
8月17日の中国共産党中央財経委員会・第10回会議で習近平が強く打ち出した「三次分配(三度分配)」が、中国の富裕層、大企業幹部らを狼狽させている。
 
この会議は「共同富裕実現の研究」と「重大金融リスクの予防緩和」の2つのテーマが議題となったが、「三次分配」は共同富裕実現の方法として提唱された。
 
共同富裕という目標は2017年10月の第19回党大会で強く掲げられていた。だが、今回の会議の中身が翌日に新華社通信などで公表されると、実は、共同富裕とは「みんなで豊かになる」のではなく「富裕層から富を収奪する」ことであり、これはひょっとすると、かつて地主や富農から土地や財産を奪った土地革命や、ブルジョア・知識人を打倒した文化大革命のように、富裕層・企業家らをターゲットにした階級闘争の再来なのではないか? という不安が、富裕層や資本家、投資家らの間で広まってきたのだ。

問題は格差是正のやり方
習近平は7月1日の建党100周年記念の大会で、「小康社会の全面的実現」(そこそこ豊かな社会=絶対貧困のない社会)の目標がすでに達成された、と宣言。次の100年目標(建国100周年の2049年に向けた目標)として、「共同富裕(みんなが豊かな社会)の実現」を強く打ち出した。

「共同富裕」論はこれまでも何度も繰り返されている。(中略)これはいわば、鄧小平の「豊かになれる者から先に豊かになる」という「先富論」の時代は終わった、という宣言でもあり、今後の習近平新時代は、先に儲けた者が富を社会に還元させる時代、という社会主義の本質に回帰することを打ち出したとみられていた。
 
たしかに中国の貧富の格差は米国に勝るとも劣らない。(中略)中国人の生活水準は大幅に向上しているが、格差を示すジニ指数は近年0.46〜0.47で、社会騒乱多発の警戒ライン0.4を大きく超えている。

この格差は過酷なゼロ・コロナ政策によってさらに加速度的に拡大する傾向にある、という。社会の人流や物流を大きく制限され、消費が激減するゼロ・コロナ政策では、末端で働く低所得層ほど働く場を失い収入が圧迫される。
 
こうした格差の是正が中国社会の安定に欠かせないことは、中国の政策担当者の共通の認識である。だが、問題はやり方だ。(中略)

富裕層、大企業に求める「三次分配」
8月17日の会議では、習近平は「共同富裕は社会主義の本質的要求であり、中国式現代化の重要な特徴である」とし、「質の高い発展の中で共同富裕を促進していかねばならない」と訴えた。そして初めて「高すぎる収入は合理的に調整し、高収入層と企業にさらに多くの社会に報いることを奨励する」と、寄付・慈善事業などの富の分配方法に言及した。

そして、低所得層の収入を増加させ、高所得層を合理的に調節し、違法収入を取り締まり、中間層を拡大して、低所得と高所得を減らしてラグビーボール型の分配構造を構成することを打ち出し、社会の公正正義を促進する、とした。
 
ここで富裕層たちの肝を寒からしめたのは、高所得層と企業がより多く社会に報いるべきだ、として、寄付や社会貢献が求められている点だ。
 
会議では共同富裕を実施する手段として「一次分配(市場メカニズムによる分配)、再分配(税制、社会保障による分配)、三次分配(寄付、慈善事業)を協調させて、基礎的な制度を準備する」と表現。
 
三次分配である寄付、慈善事業は「道徳の力の作用」のもと、富裕層・大企業が自ら進んで行うことが求められている。だが、今の習近平体制の中で、富裕層・大企業に本当の意味での自由意志が認められているだろうか。
 
この会議直後、大手インターネットプラットフォーム企業、騰訊(テンセント)は500億人民元を拠出して「共同富裕専門プロジェクト」を立ち上げ、農村振興、低所得者への扶助、農村医療改革などの領域に資金を投じることを発表した。どう見ても、道徳の力による自主的な慈善事業というよりは、共産党からの制裁を恐れて慈善事業をやらされた感が伝わるではないか。

中国で富の再分配は機能するのか
「三次分配」という言葉は、今回初めて出てきた言葉ではない。
 
著名エコノミストの厲以寧も、市場経済のもとでの収入分配としての三次分配を提唱してきた。三次分配という言葉が中央の政策の中で出現したのは、2019年10月の第十九回四中全会(秋の中央委員会総会)席上だった。この時、三次分配が収入分配制度における重要な要素だと明確に言及され、中国経済と社会発展の中で慈善公益事業に重要な地位を確立させるべきだ、とされた。
 
ただ問題は、ではこの拠出された寄付金を、必要とする人々のもとに誰が公平かつ公正に届けるのか、企業がたとえ慈善事業基金を設立しても、それをどういう形で運用し、うまく分配するシステムを構築するのか、そのノウハウが中国にあるのか、という点である。
 
欧米では慈善家による寄付が社会の再分配機能の中で大きな役割を担ってきた歴史があるが、そこにはキリスト教文化が背景にあり、財産は福音であり企業は主導的に社会的責任を負うものであるという価値観があり、これが貧富の格差、階級矛盾を激化させない作用をもっていた。

企業や篤志家からの寄付を庶民のために活用し庶民に届ける役割は古くは教会が担っていた。

こうした思想があるからこそ、NGOやボランティア組織が多く存在し、社会的富の分配メカニズムとしてうまく機能することができたのだと思う。
 
しかし、今の中国に、慈善事業をうまく機能させるメカニズムはない。(中略)
 
待ち受けるのは「共同貧困」時代?
ニューヨーク市立大学政治学部の夏明教授が米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」にこう語っている。「西側国家において企業が行う慈善活動方式と違い、中国では、企業が社会において柔軟な影響力を発揮することを最終的に抑制する方向にある。というのも中国は、企業と公民運動が結びつき、1つの公民社会パワーになることを恐れているからだ」。

有能なNGO人材、ボランティア人材は、中国政府の恐れる「人民のリーダー」になり、習近平の敵となりうる。
 
だから、習近平政権が打ち出す「三次分配」政策とは、早い話が、富裕層や大企業から堂々と党が私有財産を収奪する口実に過ぎないのではないか、と富裕層たちが怯えるのは無理もない。
 
一部アナリストは、「市場経済に対する国家の干渉とコントロールがますます強まり、民衆の貧富拡大に対する不満、グローバル化への不信、米中関係の緊張が高まる中で、中国企業や富裕層がスケープゴートにされようとしている」と分析している。
 
このスケープゴートにされようとしている企業が、習近平が政敵とみなす政治派閥、たとえば上海閥などの利権に絡む企業であったとしら、この三次分配は、嫌いな企業をいじめる新たな武器にすぎず、彼らの富を、ひょっとすると習近平が作る新たな利権構造に移動させるだけになるかもしれない。
 
だとすれば、「共同富裕」どころか、いじめられた民営企業がモチベーションを失い、経済のパイが縮小し、一部の富裕層は富を失うかもしれないが中間層はさらに富を失い、貧困層はより貧しくなる「共同貧困」時代が来るかもしれない。

いや、富裕層に向けられる大衆の敵意がより煽動され、最悪、文革のような階級闘争時代が帰ってくるかもしれない。【8月26日 福島 香織氏 JBpress】
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以下は、「共同富裕」「三次分配」は富裕層を抹殺するものではない党の公式見解。

****「共同富裕」、富裕層の抹殺を意味せず=中国共産党****
中国共産党中央財経委員会の韓文秀氏は26日、習近平国家主席が掲げる格差是正のスローガン「共同富裕」について、「貧困層を助けるために富裕層を抹殺する」ものではないと説明した。

同氏は会見で「福祉国家の罠に陥らないよう注意が必要だ」とし、「先に豊かになった人」が貧困層を助けるべきだが、勤勉が奨励されると発言。

「支援を待っていることはできない。他人の支援に頼り、支援を乞うことはできない。怠け者を支援することはできない」と述べた。(中略)

韓氏は、税制を通じて慈善活動としての寄付を促し、「分配構造」を改善することが可能だと指摘。寄付は「強制ではない」と述べた。

最近のインターネットプラットフォームに対する規制強化については、不正行為の是正が目的であり、民間企業や外国企業を標的にしたものでは「絶対に」ないとの認識を示した。【8月26日 ロイター】
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富裕層・大企業をターゲットにしたような習近平指導部の方向性は、格差に苦しむ若者らの「気分」ともシンクロしています。

中国社会に置ける格差の象徴は「住宅」 “富裕層は投資目的でいくつものマンションを所有しており、その多くが空室になっている。一方で、住むところに困り会社の寮や安アパートに友人と一緒に暮らす若者が多数存在する。”【下記記事】

【格差に苦しむ若い世代に蔓延する毛沢東礼賛の気分】
そうしたなかで、“毛沢東を礼賛する気分が若い世代に蔓延している”とも。

****中国選手が五輪で付けた毛沢東バッジ、中国激動の前触れか?****
東京オリンピックにおいて中国の女子自転車競技選手2人が毛沢東バッジをつけて表彰台に登った。IOC(国際オリンピック委員会)はこの行為がオリンピックの政治利用を禁止した憲章に抵触する恐れがあるとして調査すると発表した。それを受けて中国オリンピック委員会は二度とこのような行為はさせないと約束した。
 
この一連の流れに対して中国のネット世論は大いに盛り上がった。最初は毛沢東バッジを付けて表彰台に立った選手を真の愛国者として大いに礼賛した。次にそれを憲章違反としたIOCに対して反中国的、反毛沢東主義的集団などといったレッテルを貼って、一斉に攻撃した。

その矛先は中国オリンピック委員会や毛沢東バッジの部分を修正して放映したテレビ局にも向かった。IOCに対する対応を弱腰と非難したのだ。

文化大革命で荒れ狂った若者たち
中国のある知人は、このネット世論に不吉な予感を持ったと言う。それは中国国内の気分が文化大革命時代に似てきたからだ。(中略)

若者が富裕層の所有マンションを占拠する悪夢
中国のネット世論を形成する人々は、それなりの教育を受けた都市に住む若者である。そんな若者が本稿の冒頭に書いたような、IOCや中国のテレビ局を批判する書き込みを行っている。彼らは住宅に困っている。
 
2人の選手が毛沢東バッジをつけて表彰台に登った真意は分からないが、毛沢東を礼賛する気分が若い世代に蔓延していることだけは確かと見てよい。それは愛国主義と言うよりも、心の中の不満の表現である。
 
中国では住宅をめぐって第2の文化大革命が始まる可能性がある。現在の中国は二分されている。勝ち組は北京、上海、深圳、広東にマンションを持ち、かつ自分の息子にもマンションを用意できる人々である。彼らは上級国民であり、その総数は全人口の1%以下でしかない。南京や杭州、武漢、成都などの一級都市に住む人々にまで拡大してみても、その割合は全人口の5%以下と見てよいだろう。大都市と地方の格差が激しい中国では、それ以外の圧倒的多数は負け組である。
 
中国はそれなりに豊かになったが、多くの若者は鬱々としている。中国の富裕層は、そんな若者を恐れている。富裕層が恐れなければならないのは台湾人や日本人ではないのだ。
 
政府は若者の不満を米中対立や台湾や尖閣諸島の問題に向けさせようとしているが、長い期間にわたって愛国で若者を騙し続けることは容易ではない。
 
中国の富裕層は若者の身近に存在する。いつ何時、若者の不満が投資用マンションを何件も持つ富裕層に向かうか分からない。

アリババの創業者、ジャック・マーの消息が分からなくなった昨年(2020年)の秋頃から、中国の富裕層はとにかく目立つことを避けるようになった。それは習近平政権に怯えるというよりも、民衆の怨嗟に怯えているといった方がよいだろう。
 
中国の上級国民はマンションを巡る混乱が第2の文化大革命に発展する可能性を皮膚感覚で感じ取っている。若者が富裕層の所有する投資目的の空きマンションに乱入して「これは俺たちのものだ」と叫ぶ悪夢が頭をよぎる。(中略)
 
それほど思想的背景があるとも思えない若い五輪選手がなにげなく胸に付けた毛沢東バッジは、中国が激動し始める予兆なのかも知れない。【8月20日 川島 博之氏 JBpress】
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習近平指導部の「共同富裕」「三次分配」と格差に苦しむ若者の不満・気分がシンクロした先にあるのは、かつて若者らが紅衛兵として荒れ狂った文化大革命の再現か・・・・という懸念のようです。

まあ、そこまでのことはないにしても、若者らの不満を背景に“原点回帰”が更に進み、その過程で習近平主席の“政敵”が権力闘争で追い落とされるということは十分にありうるシナリオでしょう。

****中国、教育課程に「習近平思想」採用へ 教育省が新たな指針****
中国は、国内の若者の間に「マルクス主義の信念」を確立するため、「習近平思想」を国家の教育課程に取り入れる方針という。教育省が25日、新たな指針を発表した。

それによると、習近平国家主席の「新時代の中国の特色ある社会主義思想」について、小学校から大学までの教育課程で教えていく。(後略)【8月25日 ロイター】
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イギリスの「ウイズコロナ」へ向けた取り組みの現況  フランスでは「ワクチン接種証明書」への抗議行動

2021-08-25 23:02:23 | 疾病・保健衛生
(英中部リバプールで、マスクもソーシャルディスタンスもなしで音楽ライブに熱狂する観客。イベント開催の在り方を検証する政府の実験の一環【8月23日 ニッポン放送】)

【「ウィズコロナ」のもとでの“普通の生活”に向けて踏み出したイギリス】
イギリス(人口は日本の約半分)が1日5万人ほど(日本で言えば10万人ほど)の新型コロナ新規感染者がありながら、ワクチン接種の進展によって死者数などは一定に抑制されているとして、今後は国家が個人の生活に介入するという“異常事態”から脱し、リスクは個人の責任で判断することを前提に、大半の行動規制を撤廃して「ウィズコロナ」のもとでの“普通の生活”に向けて踏み出したことはこれまでも取り上げてきました。


****イギリス 規制撤廃で“ウィズコロナ”模索 死者数割合 日本の5分の1****
感染対策が叫ばれる日本とは対照的に、イギリス政府は、新型コロナウイルス対策の規制を全面的に撤廃した。

感染者数が増える中でのジョンソン首相の決断。
2020年から続いたロックダウンで、小売店や飲食店からは悲鳴が上がっており、大規模緩和の実行は、ジョンソン首相にとって最重要課題の1つだった。

イギリスの1日あたりの感染者数はおよそ4万5,000人、日本の15倍ほどと桁違いの中、大規模な緩和を可能にしたのが、順調に進むワクチン計画。

すでに成人の70%近くが2回目の接種を受けているイギリスでは、感染者数に対する死者数の割合は0.1%未満と、日本の5分の1程度に抑えられている。

こうしたワクチン効果を武器に、「コロナとともに生きていく」という新しい時代を作ることがジョンソン首相の狙い。

ただ、経済活動の再開を歓迎するムードがある一方で、世論調査では66%の人が「何らかの規制は残すべき」と答えている。ウィズコロナの新しい生活様式の模索は始まったばかりと言える。【7月20日 FNNプライムオンライン】
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行動規制撤廃から1か月後の段階では「急拡大は見られない」との評価で、社会・経済の正常化が続けられています。

****感染高止まりの英、コロナ対策さらに緩和…社会・経済の正常化急ぐがリスクも****
ロンドンなど英国のイングランド全域で、新型コロナウイルス感染対策の規制がほぼ撤廃されてから19日で1か月となる。

インド由来の変異ウイルス「デルタ株」の影響で感染は高止まりしているものの、英政府はさらに規制を緩和し、社会・経済の正常化を急いでいる。

イングランドでマスク着用義務などの規制が取り払われる直前の7月中旬、英国全体の1日の新規感染者数は5万人を超えた。8月は3万人前後で推移する。免疫学が専門の英キングス・カレッジ・ロンドンのティム・スペクター教授はデルタ株感染者が増えている現状に警鐘を鳴らしつつ「急拡大は見られない」と言う。イングランドを見習い、ウェールズやスコットランドも大半の規制を撤廃した。

感染が予想されたほど急拡大していないのは、人同士がじかに交わる交流が減ったためだ。ロンドン大学の衛生・熱帯医学大学院によるイングランドでの調査では、1人が接触する1日当たりの平均的な人数は、7月中旬は「3・7人」だったのに対し、8月上旬は「3・1人」に減った。感染対策が個人に委ねられる形となって、外出を控えるなどの対策に自発的に取り組む人が増えたとみられる。

学校が夏休みに入って子供同士の接触が減ったほか、7月中旬にサッカー欧州選手権が閉幕し、街中で若者らの大騒ぎが減ったことも影響しているようだ。

英国ではワクチン接種を2回終えた成人が77%に上る。専門家は「集団免疫の獲得に近づいている」と述べる。

英政府は、残る規制も次々と撤廃している。16日からは、2回接種を完了していれば、濃厚接触者に認定されても10日間の自主隔離が免除されている。海外渡航から帰ってきた時の隔離要件も大幅に緩和された。

ただ、デルタ株は侮れない。ワクチン接種完了者でも感染する例が少なくないからだ。秋には職場や学校が再開され、人の交流が活発化する。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授は、9、10月に「感染の巨大な波が来る可能性がある」と注意を呼びかける。【8月18日 読売】
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上記記事から1週間経過して、感染者は増加傾向が続いています。死者数もさすがにひと頃よりは増えています。

8月22日の新規感染者は約3万2千人、死者は49人。
再びこのまま増加するのか・・・それでも死者数の抑制が続くのか・・・。

【大規模イベント開催で実証実験】
リスクばかりに注目して、すぐに責任追及に走りがちな日本の世論・風潮からは考えにくいところもありますが、イギリス政府は敢えて人流が集中する大規模イベントを許可することで、その影響を客観的に観察・実証しようと試みています。

****イギリスの「新型コロナ実証実験」が示すこと ~サッカーヨーロッパ選手権で6400人の感染が判明****
ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月23日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が出演。イギリスで行われたサッカーの試合などでの新型コロナウイルスの実証実験について解説した。

イギリス、新型コロナ実証実験
イギリス政府が6月から7月にかけて行った新型コロナウイルスの実証実験で、サッカーのヨーロッパ選手権8試合に入場した観客合計35万人のうち、およそ6400人の感染が明らかになった。 

飯田)イギリス政府が8月20日に発表した報告書で明らかになっています。大規模イベントの再開に向けて実態を調べるという名目でありました。こういうことができてしまうのですね。 

細谷)最初に聞いたときは驚きました。ある意味、人体実験ですよね。実際にどのくらい感染が拡大するかということを、わざと大規模なイベントで確認する。この結果を受けて、これから対策を練るということだと思うのですが、イギリスらしいという気がします。 

飯田)テニスのウィンブルドン選手権でもやっていたということです。 

細谷)イギリスはコロナ禍が始まったときに、ジョンソン首相が、何も対策をせずに感染拡大しても、約7割が免疫を獲得すれば止まるだろうという「集団免疫戦略」をやろうとしたのですが、医療崩壊するということで、急遽、転換しました。イギリスは常に斬新な、さまざまな方法を用いて、失敗しながら修正しているという感じがします。(中略)

飯田)イギリスでは2回ワクチン接種をした方が大半にのぼるということもあって、この実験ができるということもあったのでしょうか? 

細谷)イギリスは現実主義的ですから、少なくとも、いまは感染者数をほとんど気にせずに、あくまで重症化率、致死率などを見て対策を練っていると思います。確実に言えることは、2回接種した場合は、ほとんど重症化や死者が出ていないということです。それによって、次にどういう対策を練るかと。

日本はその一歩手前、とにかく感染者を拡大させないというところで止まっていますので、なかなか次のもう一歩が進めない状況だという気がします。 

飯田)今回の実験でも、準決勝と決勝で感染した人がほとんどだったということで、密な状況、大声で叫ぶ人も多かったという分析もされているようです。逆に言うと、望むべき行動も炙り出されて来るわけですね。 

細谷)そうですね。やはりマスクをつけて大声を出さない、密にならないという行動変容と、人流抑制です。これに効果がないということではないと、もうわかっているわけです。 

飯田)あとはデルタ株のような感染力の強いものが入って来ると、また変わって来るということになるのでしょうか? 

細谷)さらに変異が起きるだろうと言われていますから、これから苦しい対応が続いて行くのだと思います。

 飯田)結局、クリアカットな正解というより、常に経済とのバランスを取りながら微修正という形になって来るのですか? 

細谷)そうですね。特にイギリスの場合、ちょうどEU離脱とも重なっていまして、数百年に1度の経済状況の悪化が指摘されています。そういうこともあって、日本よりもはるかに経済への配慮をせざるを得ない状況にある。経済へ配慮したときに、感染を完全に止めるのではなく、ある程度、それを許容しながら両立させる方法を模索していると思います。【8月23日 ニッポン放送】
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こうした“実証実験”によって、イギリス政府は大規模イベントは安全と評価しています。

****大規模イベントは安全と英政府=感染リスク、会場外と変わらず****
英政府は20日、スポーツなど大規模イベントでの新型コロナウイルス感染リスクの調査結果を公表した。延べ35万人以上が訪れた7月の自動車F1シリーズ英国グランプリ(GP)をはじめ、調査対象の37イベントについて、開催中の会場外の地域感染率とおおむね同水準か、それを下回った。ダウデン文化・スポーツ相は「大規模なスポーツ・文化イベントを安全に再実施できることが示された」と述べた。
 
ただ、ダウデン氏は「ファンの人々にはワクチンの接種を強く求める。それがイベントを再び全面再開する最も確実な方法だ」と指摘し、注意を怠らないよう訴えた。
 
英政府は過去数カ月間にわたり、GPのほか、延べ約30万人が観戦したテニスのウィンブルドン選手権(6〜7月)、サッカーやゴルフの国際試合、クリケット、ビジネスイベントといった大規模な催しについて感染状況などを調べた。【8月21日 時事】 
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「安全」と言うのは「感染者が出ない」ということではありません。

****イギリスの音楽フェスで4700人感染の可能性****
新型コロナ規制がほぼ撤廃されたイギリスで、今月中旬に行われた音楽フェスティバルに関連して4700人が感染した可能性があることが明らかになりました。

地元メディアによりますと、イギリスで新型コロナ陽性が確認された人のうちおよそ4700人が、今月11日から15日にかけて南西部コーンウォール地方で行われた音楽フェスティバル「ブロードマスターズ・フェスティバル」に参加していたということです。うち4分の3は16歳から21歳で、また4000人近くがコーンウォール地方の外からきた観客でした。

開催場所を含むイングランドでは先月19日に新型コロナ関連の規制がほぼ撤廃されていましたが、フェスティバル主催者は入場者に対して二度のワクチン接種を完了していることの証明、あるいは簡易検査で陰性となった証明を求めていました。

主催者と協議しながら感染対策を立案してきた地元保健当局は、国のガイドラインを超える対策をとってきたとしつつ、感染例が出るのは「予想されていたこと」と述べています。

ブロードマスターズ・フェスティバルは、サーフィンの名所、ニューキーで行われ、ゴリラズやフォールズなど人気バンドが出演、5万人の観客を集めました。【8月24日 TBS NEWS】
******************

ワクチン接種完了、あるいは陰性証明を前提にしても5万人ほどが密集すれば4700人の感染者が出る・・・そのあたりを「予想されていたこと」とする冷静さが日本とは全く異なります。

別のイベントでも。

****英で野外フェス参加者1000人が後に陽性 参加条件はワクチン接種か陰性証明****
イギリスで7月に開催された野外フェスに参加した人のうち、1000人以上が後に新型コロナウイルス陽性となったことが、政府統計で明らかになった。
政府のCOVID-19対策の実験イベントの一つとして開催された「ラティチュード・フェスティバル」には、7月21〜24日の開催期間中、1日当たり約3万7000人が訪れた。

参加者は全員、ワクチン接種を完了しているか、検査での陰性証明が必要だった。しかし、政府の最新発表によると、フェス参加者のうち432人がフェスの時点でおそらく、他人にウイルスをうつし得る状態だったとみられている。(中略)

(開催地サフォークの公衆衛生局の)キーブル氏は、「サフォークがロックダウンを解除し、大勢が混雑するイベントや娯楽施設へ行くようになった中、他人を気づかってマスクを着用したり、適切に距離を取る施策を続けることが大切だ」と話した。

また、大半の人がワクチン接種を完了している状態でも、「感染後のその人が非常に具合が悪くならないという保証はない」と述べた。

オリヴァー・ダウデン文化相は、政府の実験イベントの結果、「大規模なスポーツや文化イベントを安全に再開できることが分かった」と述べた。「しかし、混雑した場所に入る際には、引き続き慎重になってもらうことが重要だ」【8月25日 BBC】
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「感染後のその人が非常に具合が悪くならないという保証はない」・・・問題視されているのは感染者の数ではなく、重症化事例のようです。

“日本とは違う”という点では、日本では感染者2万数千人レベルで「医療崩壊」と大騒ぎしていますが、国営医療サービスNHSを基盤とするイギリスでは“「一日の感染者5万人」でも英国が「医療崩壊の心配ゼロ」の理由”【8月22日 JBpress】という医療体制の違いもあります。そのあたりは長くなるので、また別機会に。

【日本でもワクチン接種前提の有観客の試みも】
オリンピックも、昨日から始まったパラリンピックも原則無観客となっていますが、日本でもワクチン接種などを条件に観客を入れる試みも始まっています。

****ワクチン2度接種かPCR陰性でソフトバンク戦チケット発売 無観客予定4試合****
ソフトバンクは25日、観戦日までに新型コロナウイルスワクチンを2度接種した人や、観戦日1週間以内のPCR検査の結果が陰性の人に限定した観戦チケットを発売すると発表した。球団によると、ワクチン接種など限定のプロスポーツ興行は日本初という。
 
対象試合は9月2日の楽天戦、同3~5日のオリックス戦の計4試合で、会場はいずれもペイペイドーム。いずれの試合も動員上限は5000人。またチケット購入者のPCR検査については、希望者には無料で球団が提供するとした。
 
これまでと同様にマスク着用などの観戦スタイルついての変更はない。
 
球団では福岡県などに9月12日まで発令されている緊急事態宣言中に、ペイペイドームで開催する試合などについては、原則無観客で開催するとしていた。(後略)【8月25日 西日本スポーツ】
******************

「ウィズコロナ」社会では、今後はこうした対応が増加するものと思われます。

【フランス ワクチン接種証明書前提の生活への抗議行動】
フランスではワクチン接種証明書提示が飲食店や病院などの利用にも拡大され、実質的なワクチン接種の強制だとして激しい反対運動も起きています。

****仏、反ワクチンデモに17万人 「打たない自由認めて」****
新型コロナウイルスのワクチン接種が進むよう、外食や通院の際に接種証明か陰性証明の提示を義務づけているフランスで、「自由の侵害だ」として反発するデモが収まらない。

マクロン大統領は未接種者を「エゴイストだ」と断じて義務化を正当化しているが、ワクチンへの拒否感は政府不信も一因なだけに、両者の溝は深まる一方だ。
 
フランスでは21日、全国200カ所以上でデモが行われ、約17万6千人(内務省推計)が参加した。前週に比べて約4万人減ったものの、デモはバカンスシーズンにもかかわらず6週続いている。
 
パリで参加したグラフィックデザイナーのエルベ・ゴチエさん(53)は「金持ちや大企業を優先する政権に不信を持っている。ワクチンはまだ実験段階なのに強制するとは無責任だ。お年寄りでない限り、コロナはインフルエンザのようなもの」と憤る。

劇場照明係のエマニュエル・エダンさん(23)は「私は健康で持病もない。コロナより交通事故で死亡する確率の方が高い。政府はワクチンがなぜ必要か、きちんと説得もせず強制している。こんなやり方はおかしい」と訴える。デモ参加者には接種済みの市民も多く、「打たない自由は認めるべきだ」と訴えている。
 
フランスでは9月15日から医療や介護施設で働く全職員に接種が義務づけられるほか、今月9日からは映画館や美術館に加え、飲食店や病院の利用(緊急時をのぞく)でも、接種や陰性結果を記録した「衛生パス」の提示が義務づけられた。

23日に公表された世論調査では、34%がデモを支持し、54%が不支持だった。若い世代ほど、「衛生パス」への反発が強い傾向にある。
 
フランスの1日の感染者数は1週間平均で約2万人。仏政府の分析では、5月31日〜7月11日に国内で感染して死亡した926人のうち、78%にあたる720人が未接種だった。
 
来年4月に大統領選を控えるマクロン氏にとっては、感染の制御は再選戦略の一環でもある。10月からはPCR検査を有料に切り替え、さらに接種圧力をかける方針だ。【8月25日 朝日】
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“お年寄りでない限り、コロナはインフルエンザのようなもの”かどうか。インフルエンザの致死率は約0.1%程度と言われています。

*******************
その根底には、ワクチン接種率が上がるにつれて致死率がインフルエンザ並みに落ちているという分析の存在がある。(中略)

だがその一方で、新型コロナはインフルエンザの比較対象ではないという反論もある。新型コロナはインフルエンザとは異なり、完治後もさまざまな後遺症がある上、インフルエンザは感染者1人が1.4人を感染させるのに比べ、デルタ変異株は5人を感染させるほど感染力が強い。

「ウィズ・コロナ」時代に入った英国で感染者が再び増え、致死率が0.15%から0.35%に上昇していることも不安要素だ。【8月23日 朝鮮日報】
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数字はワクチン接種者と非接種者で分けて見る必要もあるでしょう。
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アフガニスタン  国際的孤立の中、タリバンが直面する経済・市民生活の再建という難題

2021-08-24 22:40:12 | アフガン・パキスタン
(露店でメロンやスイカを買い求める人たち。権力を握ったイスラム主義勢力タリバンを恐れていても、人々は生活のために街に出る=8月23日、カブール【8月24日 朝日】
一見、普段どおりの生活が営まれているようですが・・・)

【物価上昇、ATM停止、給料未払い・・・困窮する市民生活】
外国人、外国軍への協力者、女性活動家などタリバン支配による脅威にさらされている人々などのアフガニスタン国外退避とその混乱、進捗の遅れが世界の注目を集めているなかで、これからのアフガニスタン再建に関するニュースが。

****タリバン、アフガン中銀総裁代行を任命 経済再建に着手****
アフガニスタンの全権を掌握したイスラム主義組織タリバンは23日、アフガニスタン中央銀行総裁代行にハッジ・モハンマド・イドリス氏を任命したと発表した。

タリバン幹部によると、イドリス氏は北部ジョージアン州出身で、2016年にドローン(小型無人機)による攻撃で殺害されたタリバンの前最高指導者マンスール師の下で長らく財務を担当していた。

別の幹部は、イドリス氏はタリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されていると述べた。

タリバンのザビフラ・ムジャヒド報道官は声明で、イドリス氏は各機関を整備し、アフガニスタン国民が直面している経済問題に対処すると表明。ただ政府職員の給与支払いが滞り、多くの企業が営業を停止する中、食料品や家庭で利用する燃料などの生活必需品の価格に上昇圧力がかかっており、困難が予想される。【8月24日 ロイター】
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困難を極めることが予想されるアフガニスタン経済、市民生活の再建の中心になるべき人事ですが、“タリバン以外で役職に就いたことはなく、金融に関する高等教育も受けていないが、タリバンの財務部門を率い、手腕は評価されている”という人物で可能なのか? という素朴な疑問も。

タリバンの金庫番と、一国の経済のかじ取りはまた別物のようにも思うのですが・・・・

一部の国外退避する人々以外の大多数の人々は、今後ともアフガニスタンの地で生活していかねばなりませんが、その生活は今、政治の空白、国家機能の停止によって日増しに苦しさを増しています。

物価は高騰し、銀行ATMは停止し、公務員給与は止まっています。
そうしたなかでも人々は食糧を手に入れ、生きていかねばなりません。

****タリバン、アフガニスタン首都掌握から1週間 食品高騰で市民は困窮、銀行は閉鎖****
イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。

数千人の群衆が空港の入り口に押し寄せ、カブールを脱出するための席を確保しようと争う光景は、西側を後ろ盾とした政権が崩壊した後の混乱ぶりを何より鮮明に印象付けた。

しかし日がたつにつれ、食糧や家賃といった日々の心配事が見通しの暗さに輪を掛けるようになっている。この国のぜい弱な経済は国際支援の消滅によって打ちのめされた。

「途方に暮れている。何を真っ先に考えるべきなのか分からない。自分の身を安全にして生き延びることか、それとも子どもと家族を食べさせることなのか」と語るのは元警察官だ。妻と4人の子どもを養っていた260ドル(約2万8600円)の月給を失い、今は身を隠している。男性はこの2カ月間、給与を受け取っていない。下位の公務員の多くがそうした状態だ。

「私が住んでいるのは賃貸アパート。この3カ月間、大家に家賃を納めていない」と語る。
この1週間は妻の指輪とイヤリングを売ろうと試みたが、他の多くのビジネスと同様に金市場も閉鎖されており、買い手は見つけられない。「お手上げだ。どうすれば良いのか分からない」とため息をつく。

タリバンがカブールを制圧した15日より前から状況は悪化していた。タリバンが地方都市を急スピードで進攻したことで通貨アフガニはドルに対して急落し、基本的な食料品の価格をさらに押し上げた。

小麦粉、食用油、米などの価格は数日間で10―20%も上がり、銀行が閉まっているため多くの人々は貯蓄を引き出すこともできない。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたので、海外からの送金も途絶えた。
捕まるのを恐れて身を隠している元政府職員は「すべてはドルの状況のせいだ。中には店を開けている食料品店もあるが、市場は空っぽだ」と嘆く。

隣国パキスタンとの主要な国境沿いで交通は再開したものの、国全体が厳しい日照り続きで、多くの人々の困窮に追い打ちを掛ける。テントや仮設シェルターで生き延びようと、数千人の人々が都市を目指している。

複数の国際支援団体は22日、アフガン向けの商業航空便が停止されたため医薬品その他の支援物資を届ける手段がないと訴えた。

地方の窮状は日増しに都市部にも波及するようになり、下位中間層を直撃している。この層は前回のタリバン政権が終わってからの20年間、生活水準の向上を経験してきた。

「何もかも終わった。倒れたのは政府だけではない。私のように1万5000アフガニ(200ドル)前後の月給に頼って暮らしていた数千人も同じだ」と、別の元政府職員は語る。

「この2カ月間というもの政府が給料を払ってくれず、私たちは既に借金を背負っている。高齢の母は病気で薬が必要だ。子どもと家族は食べ物が必要だ。神様お助け下さい」と悲痛な声を上げた。【8月24日 Newsweek】
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麦価で唯一下がっているのは家賃。また、経済停止によって電力需給も改善しているとか。
ただ、それらはアフガニスタン経済が直面して困難を物語ってもいます。

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物価のうち唯一下落しているのが家賃だ。カブールの両替商、パイマン氏は「非常に大勢の人々が町を去った」と語る。同氏によれば、「住宅が空き家だった場合、タリバンが接収する可能性があることを恐れ、一部の家主はテナントに無料でも居続けるよう頼んでいる」という。
 
住民らによると、改善された点の一つは全国を通じて以前に比べて電力供給がより安定したことだ。これは、政府オフィスや多くのビジネスが依然として閉鎖状態にあるため電力需要が減少したことや、主要送電網の途中にある鉄塔をタリバンが爆破するのをやめたことなどを反映している。【8月24日 Newsweek】
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【国際支援も停止】
これまでアフガニスタン経済を支えてきた国外からの支援も停止しています。

****アフガン、経済混乱 閉まった銀行、物価は急騰****
イスラム主義勢力タリバンが権力を掌握したアフガニスタンで、国内経済の混乱が続いている。米国による資産凍結などで現金が不足し、銀行は営業を停止。物価が急騰し、市民の生活は苦しくなる一方だ。
 
「タリバンは軍事的には勝利した。しかし、これからは国家運営が必要になる。簡単ではない」。アフガン中央銀行のトップだったアジュマル・アフマディ氏は18日、脱出先の国外からツイッターで経済の逼迫(ひっぱく)ぶりを説明した。
 
アフマディ氏によると、アフガン中銀は政権崩壊前の時点で海外に約90億ドル(約9900億円)の資産を持っていた。その大半が米ドルや債券、金などの形で米国に預けられていたが、米バイデン政権が凍結。新政権ができても「タリバンが使える資産は、おそらく0・1~0・2%しかない」という。
 
国際通貨基金(IMF)のゲリー・ライス報道官は18日、タリバンが支配するアフガニスタンが「国際社会の承認を得ていない」として経済支援の送金を止めると発表した。
 
すでにアフガン国内は現金不足に陥っている。治安悪化で外貨の持ち込みが止まり、アフガン中銀は国内の銀行に現金を渡せなくなった。銀行の店舗は閉まったままで、街中のATM(現金自動出入機)への現金の補充はほぼない。
 
住民によると、1リットル50アフガニ(約70円)ほどだったガソリンはここ数日で5割上昇。小麦粉や砂糖なども1~2割高くなった。公務員への給料の支払いは止まっている。露天商アシフさん(24)は「みんな手持ちの金がなく、買い物もできない。国外脱出を願う若者が多いのも当然だ」と語った。
 
そんななか、ドイツ政府は17日、今年予定されていた約560億円相当の支援を一時停止すると発表。これに先立ち、マース外相は「タリバンが完全に支配すれば1セントたりともアフガニスタンには送らない」と語っていた。ドイツは主要援助国の一つで、他の国の判断にも影響しそうだ。国家予算の約5割を国際援助に頼ってきたアフガニスタンにとって打撃は大きい。
 
タリバンは1996~2001年の旧政権時代、極端なイスラム教の解釈が国際的な批判を浴び、経済が行き詰まった。タリバンは17日の会見で「天然資源で経済を立て直す」と主張したが、天然資源を運び出すための鉄道網は未整備で、実現は容易ではない。
 
タリバンが今後、これまで資金源にしてきた麻薬ビジネスを活発化させる恐れがある。【8月24日 朝日】
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かつて旧タリバン政権が実験を掌握したときと、今では状況が大きく異なります。

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現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。【8月24日 WSJ】
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【経済再建、国際支援復活のために妥協するのか あるいは恐怖支配か】
タリバンは、内戦によって廃墟状態にあった1996年と異なり、曲がりなりにも現代生活を享受していた国民の要求に向き合うことになります。

これまでのゲリラ戦で銃を撃ち、敵を倒すこととは、全く異なる能力が要求されています。

国民生活を維持していくためには国際支援が必要となりますが、そのためには国際社会の人権・自由に関する要求に一定に応える必要があります。(だからこそ、今現在、実態はともかく、公式見解として比較的融和的な姿勢を打ち出しているのでしょう)

****アフガン経済崩壊、交渉迫られるタリバン****
銀行閉鎖で現金が不足 ドルも外国の援助も届かず

アフガニスタンの新たな支配者となったタリバンは、本格的な軍事的抵抗がなくなった今、経済の破綻という新たな脅威と格闘している。経済問題はタリバンの統治に向けた新たな課題として深刻化する可能性があり、すでに権力の共有を迫る圧力となっている。
 
アシュラフ・ガニ大統領と大半の閣僚が8月15日に首都カブールを脱出して以来、アフガンに正式な政府は存在しない。それから8日目を迎えても銀行や両替所は閉まったままで、生活必需品の価格は急騰、経済活動は急停止した。
 
「人々はお金を持っているが、それは銀行に預けてある。つまり彼らの手元にはもうお金がない。現金を手に入れるのは困難だ」と、カブール在住で建設会社の経理を担当していたバヒール氏は話す。「そのため、カブールではすべての商売が停止状態になっている」

1990年代には、タリバンによる権力奪取がアフガン経済を再活性化させた。敵対し合う軍閥間の争いが終息し、交易のための道路が再開されたからだ。

その当時、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の3カ国がアフガンのタリバン政権と国交を結んだ。こうした進展がもたらした安定は、タリバンに対する評価を高めた。

しかし今回は、カブールを掌握した新政権を承認した国はまだ一つもない。こうした苦況による経済的打撃で、対立する政治勢力を取り込んだ融和的で――そして穏健な――政府の構築を、タリバンが迫られる可能性もある。
 
アフガンの元財務相、オマール・ザヒルワル氏は今週、タリバンと権力共有の協議を行うためカブールに戻ってきた。同氏は「政治的安定の回復が早ければ早いほど、現在生じつつある深刻な経済的打撃からアフガンを救い出すのも早くなる。われわれはタリバンと協力して、銀行やオフィス、省庁の再開などカブールの日常を取り戻そうとしている」と語った。
 
同氏はまた、現在の政治空白状態では、国外に脱出した経済組織の高官の後任として、現職の公務員を昇格させることが「知識のない者や国際社会から認知されていない者を新たに高官に任命するより有益だ」と付言した。
 
しかしタリバンは今のところ、こうした主張に影響されてはいないようだ。タリバンは23日、現職の公務員を昇格させるのではなく、タリバン幹部として反政府活動に長年かかわってきたハジ・モハマド・イドリス(Hajji Mohammad Idris)氏をアフガンの中央銀行の新総裁に任命した。これまで中央銀行の総裁代行だったアジマル・アフマディ氏は、8月15日に他のアフガン市民らととも脱出を図り、米軍のC17輸送機の後方スペースに逃げ込んだ。

タリバンは23日に初の経済的な命令を出し、金属スクラップの輸出を禁じた。タリバンはまた、政府職員の給与支払いを続けることと、銀行業務が「近い将来」に再開されることを発表した。(中略)
 
タリバンが国際的な制裁対象であるため、米国は既にアフガンへの送金や支援金の支払いを停止している。アフガン人の国外移住者が多く利用している2大送金事業者の米ウエスタンユニオンと米マネーグラム・インターナショナルは21日に同国への送金を停止した。送金を継続すると、米国の制裁に違反する恐れがあるからだ。
 
国際通貨基金(IMF)は先週、「現在、国際社会でアフガン政府の認知に関する透明性が欠如している」ため、同国はもはやIMFの資源にアクセスできないとの見方を示した。
 
アフガニスタンは8月23日にIMFから4億4000万ドル(約484億円)相当の特別引き出し権(SDR)を受け取る予定だった。前出のアフマディ氏によると、タリバンによる政権奪取前の時点でアフガン中銀が保有していた90億ドルの外貨準備のうち、アフガン国内で保有されているものはほとんどないという。海外支援や海外にいるアフガン人からの送金が、同国経済の主要な部分を占めている。

現在のカブールは、1996年にタリバンが占拠したときに廃虚だったのと違い、600万人が住む洗練された都市となっている。住民の多くは、銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する。
 
住民によると、カブールでは銀行と大半の店舗が休業しているため、携帯電話のアカウントの利用可能残高を増やすために使うスクラッチカード(プリペイドカード)が人気商品になっている。通信ネットワークの多くは部分的に海外の大手企業が保有しているが、現段階でサービスが継続されているため、同カードは額面金額をはるかに上回る価格で売れているという。
 
現在でも稼働している現金自動預払機(ATM)からの1日当たりの預金引き出し上限額は1万アフガニ(約116ドル)で、従来の3万アフガニから引き下げられていると、アフガン北部バルフ州マザリシャリフの住民、バリヤライ氏は話す。バリヤライ氏は「銀行は1カ所も開いていない。銀行は現在、ATMに現金を補充しておらず、誰も現金を得ることができない」と語った。
 
住民らによれば、小麦粉、食用油、ガスなど生活必需品の価格は50%も上昇している。依然として営業している数少ない町の両替商の交換レートによれば、アフガニは対ドルで約10%下落しており、ドルを入手するのはますます困難になっている。また、一部輸入商品は商店の棚から消えている。
 
人々はたとえお金を持っていても使おうとしない。カブール在住の政府職員、トルヤライ氏は、「人々は将来を懸念しており、資金を残しておきたいと思っている」と指摘、「彼らは今後の困難な時期のために備えておきたいと考えており、手持ちの資金を国外脱出に使うつもりだ」と語った。(中略)

カブールでは一部のレストランやコーヒーショップが営業を再開したが、ビジネスは低調だ。タリバンによる政権掌握から2日後にカブール西部で人気コーヒーショップを再開したある事業者によれば、1日当たりの客数はわずか5~10人程度だという。
 
この人物は、「店の近くの検問所の責任者であるタリバンの指揮官が店に来て、ケーキを食べ、カプチーノを飲んだ。彼は私のコーヒーを気に入っていた」と語った。
 
この事業主は「町は消滅し、人々は希望を失っている」と付け加えた。【8月24日 WSJ】
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“銀行口座で給与を受け取るのが普通であるほか、スマートフォンを使用し、ケーブルテレビを見て、インターネットを閲覧する”人々の要求にタリバンはどのように対応するのか?

そういう要求をイスラムに反するとして否定するとき、あるいは要求を満足させることができなかったとき、タリバンがとる方策は力と恐怖による支配でしょう。


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台湾  国産ワクチンの使用開始 緊急使用認可に批判も 日本の開発状況 早ければ年内??

2021-08-23 22:09:43 | 疾病・保健衛生
(メディジェン社の国産ワクチンを受ける蔡英文総統【8月23日 BBC】)

【台湾 緊急使用認可で国産ワクチンの使用開始】
台湾は従来新型コロナ感染をほぼ抑えてコロナ対策の「優等生」とみなされていましたが、今年5月中旬から市中感染が拡大、5月末には1日に新規感染者が500人を超える状況に急激に悪化しました。

この時期、確保・接種が遅れていたワクチンに関し、中国からの中国製ワクチン供与の“揺さぶり”もあり、これに対抗する形で、日本からの緊急供与も行われことも記憶に新しいところです。

その後、外食全面禁止などの厳しい規制により抑え込みに成功、6,7月は減少局面に入り、8月20日は9人(!)と、現在は再び封じ込んだ状態になっています。
(ロイター COVID-19 TRACKER )
ただ、デルタ株の感染が拡大し、ワクチン接種が遅れていることから、全土で4段階のうち厳しい方から3番目の警戒レベルを当面継続する方針です。

こうした状況で、不安材料はやはりワクチン確保でしたが、蔡英文政権は日本などの支援も受けつつ、自国開発を目指してきました。

その自国開発ワクチンの使用が、蔡英文総統が最初に接種する形で始まっています。
ただ、野党からは急ぎ過ぎの開発に批判も出ています。

****台湾、自主開発ワクチンの接種開始 批判の声も****
台湾で23日、自主開発した新型コロナウイルスワクチンの接種が始まった。このワクチンをめぐっては、認可手続きが簡略化されたとして批判も集まっている。

保健当局は7月、臨床試験がまだ終わっていないにもかかわらず、医薬品メーカー「メディジェン(高端疫苗生物製剤)」が開発したワクチンの緊急使用を承認した。

台湾では供給の遅れや市民の忌避感情から、ワクチン接種事業が滞っている。
蔡英文総統はこの日、メディジェンのワクチンを接種し、市民にも接種を呼びかけた。

台湾では米モデルナ製と英アストラゼネカ製のワクチンが承認されているが、蔡総統はメディジェン製が完成するまで接種を待っていた。

蔡総統の接種の様子はフェイスブックで配信された。不安かと聞かれた総統は「いいえ」と答えた。
同ワクチンは28日の間隔を空けて2回の接種が必要。これまでに70万人が接種を予約している。

「皆さんに保証できる」
メディジェンのワクチンは緊急使用が許可された際、臨床試験の第3相が終了していなかった。
これについてメディジェンは、大きな安全性への懸念はなく、生成される抗体も英アストラゼネカ・オックスフォード製ワクチンと「遜色ない」ものだと説明していた。

今年後半にはパラグアイでの治験の最終段階が完了する予定だ。

メディジェン製ワクチンは、米ノヴァヴァックス製と同じ組み換えたんぱく質ワクチン。

ノヴァヴァックスのワクチンは、免疫系を刺激するため、ウイルスのスパイクたんぱく質の一部を再生成するという、より伝統的な手法で作られている。

陳燦堅最高経営責任者(CEO)はロイター通信の取材で、「我々は多くの実験を行い、誰もがこのワクチンの安全性を確認している。副反応は少なく、熱もほとんど出ない。皆さんに保証できると思う」と話した。

しかし、このワクチンには批判も集まっており、接種事業の先行きは不透明だ。最大野党・中国国民党は、このワクチンは安全ではなく、流通が急がれたと非難している。

同党の著名議員2人は、試験結果不足を理由に、緊急使用の認可を取り消すよう裁判所に要請。うち1人は、台湾市民を「研究所のマウス」のように扱う必要はないと訴えた。

接種完了は5%
台湾では現在、1日10人程度の新規感染が報告されている。COVID-19抑制に成功した国のひとつとされている。
しかし5月に起きたアウトブレイク以降、感染力の高いデルタ株の侵入が懸念されている。

人口2350万人に対し、政府は500万回分のワクチンを発注している一方、ワクチン接種を強制することはないとしている。

これまでにワクチンを1回接種した市民は約40%で、接種が完了した市民は5%に満たない。【8月23日 BBC】
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「組み換えたんぱく質ワクチン」は、
“ウイルスを構成する成分のうち、感染にかかわる部分のみを培養細胞などを使って増やしたのち、精製したものを接種する方法です。生ワクチンや不活化ワクチンに比べ、ウイルスそのものを使用しないので、副反応が起こりにくいとされています。

一方、精製されたワクチン成分の免疫を起こす力が弱いことが多く、ヒトの免疫システムがうまく働かない、変異したウイルスには効果を示さなくなるなどの問題点もあります。百日咳ワクチンや破傷風トキソイドで実用化されています。”【福山市医師会HP】

第3相臨床試験(フェイズⅢ)とは、少人数で安全性を確かめる第1相、比較的少人数で効果・副作用などを確かめる第2相に対し、数百から数万という大きな規模の患者さんを対象に、実際の治療での使用に近い形で治験薬を投与して、第Ⅱ相試験よりも詳細な情報を収集し、治験薬の有効性・安全性を調査するものです。

この第3相試験の段階で予期せぬ副作用などが見つかって、開発が断念されるケースも珍しくありません。
台湾のワクチンは、この第3相をパラグアイで行うようですが、結果はまだ出ていません。

パラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を結んでいる国ですが、ワクチン供給を巡って中国との間でトラブルも報じられていました。

****ワクチン供給「中国が破棄」 台湾との外交理由か―パラグアイ****
南米パラグアイのボルバ保健相は、アラブ首長国連邦にある中国医薬集団(シノファーム)子会社が、パラグアイへの100万回分の新型コロナウイルスワクチン供給契約を一方的に破棄したと明らかにした。1日付の地元紙ウルティマオラなどが伝えた。パラグアイは南米で唯一、台湾と外交関係を結んでいる。

同紙によると、ボルバ氏は7月31日の地元テレビのインタビューで「不可解な理由で、われわれは(ワクチン供給)契約の一方的取り消しを通告された」と説明。

その上で「(契約破棄はシノファーム側の)生産能力とは全く無関係だ」と述べ、国交問題が絡んでいることを強く示唆した。契約は4月に結ばれ、5月下旬に25万回分が到着。破棄分の代金は返却されたという。
 
保健省は、シノファーム製ワクチンの半分は2回目のために取り分けてあるため、接種計画に大きな影響はないとしている。
 
パラグアイでは3月、中国関係者を名乗る業者がワクチン提供の条件として台湾との断交を要求したと報じられた。その後、台湾はパラグアイのワクチン獲得を後押ししている。
 
南米ではブラジルでも、右派のボルソナロ大統領が5月に反中国的な発言をした直後、中国がワクチン原料の出荷を突然停止。現地での生産・供給が一時混乱した。【8月3日 時事】
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【日本の国産ワクチン・治療薬開発状況】
台湾製ワクチンの有効性・安全性に関しては上記のような一般的情報しか知りませんが、こういう話を聞くと、「日本はどうなってるの?」という疑問も。

****ヤマ場迎えた新型コロナウイルス「国産ワクチン」 第一三共など最終治験へ=前田雄樹****
新型コロナウイルスに対する「国産ワクチン」の開発がヤマ場に差し掛かっている。

第一三共や塩野義製薬が最終段階の治験に入る準備を進めているほか、武田薬品工業は米ノババックスが開発したワクチンを国内で製造し、年内の供給開始を目指している。

日本は現在、国内で使用するワクチンのほとんどを輸入に頼っているが、今後、国内で製造されたワクチンが選択肢として順次加わってくる見込みだ。  

現在、日本で主に公的接種に使われているワクチンは、米国のファイザーとモデルナが開発した二つのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。国内メーカーが開発した「純国産ワクチン」はまだない。

英アストラゼネカのウイルスベクターワクチンは、原液の製造をJCRファーマが、バイアル充填(じゅうてん)などの製剤化を第一三共と明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクスが、それぞれ国内で行っており、8月から40歳以上を対象に公的接種での使用が可能になった。

コロナ禍が長期化し、変異株の脅威が高まる中、国産ワクチンを望む声は根強い。 

◇武田は年内供給へ  
国内では現在、アンジェス、塩野義製薬、第一三共、KMバイオロジクス、武田薬品工業──が国産ワクチンの治験を進めている。このうち、現段階で実用化に最も近い位置にいるのが武田だ。

同社が開発しているのは米ノババックスが創製した「組み換えたんぱくワクチン」と呼ばれるタイプで、遺伝子組み換え技術を使って作ったコロナウイルスのスパイクたんぱく質をワクチンとして接種する。武田はノババックスから製造技術の移転を受け、山口県光市の自社工場で年間2億5000万回分の生産を計画している。  

ノババックスが米国などで行った最終治験では、変異株を含む新型コロナウイルスに対して90%を超える有効性が確認された。日本では2月から武田が成人200人を対象に初期の治験を行っており、海外治験のデータとあわせて承認申請を行う方針。通常の冷蔵庫の温度で保存でき、扱いやすさの点からも期待が大きい。
 
武田に続くのが、塩野義、第一三共、KMバイオロジクスの3社だ。塩野義は昨年12月から、第一三共とKMバイオロジクスは今年3月から、国内で初期の治験を行っている。

塩野義が開発しているのは、2019年に買収したUMNファーマが持つ昆虫細胞を使ってたんぱく質を作る技術を活用した組み換えたんぱくワクチン。製造は協力会社のUNIGENに委託し、年内に年間6000万人分の生産体制が整うとの見通しを明らかにしている。

 第一三共はmRNAワクチンを開発しており、年内にも最終治験に入る方針だ。

毒性をなくしたウイルスを使う「不活化ワクチン」を開発中のKMバイオロジクスも、年内の最終治験開始を目指すとともに、並行して半年で3500万回分を生産できる体制を整備。

創薬ベンチャーのアンジェスや、医薬品開発支援のアイロムグループの子会社IDファーマも開発を進めている。

◇塩野義、最速で年度内  
先行するファイザーやモデルナのワクチンが普及する中、国内メーカーは大規模治験の実施という困難に直面している。

接種が進んだことで未接種の治験参加者を集めるのが難しくなっている上、すでに有効なワクチンが使えるのにプラセボ(偽薬)を接種することには倫理的な問題もある。  

こうした課題をクリアするため、プラセボを使わない臨床試験の方法が各国で議論されており、すでに実用化されたワクチンと中和抗体の量を比較して有効性が劣らないことを確認する「非劣勢試験」などが検討されている。

ファイザーやモデルナはプラセボを使った数万人規模の治験で発症予防効果を確認したが、中和抗体を指標とする比劣性試験なら数千人規模の治験で承認への道が開かれる見込みだ。

塩野義や第一三共は、この方法で承認取得を目指しており、塩野義は最速で21年度中、第一三共は22年中の実用化を目標にしている。  

国産ワクチンの開発を巡っては製薬企業から、一定の要件を満たした医薬品に認められる「条件付き早期承認制度」の対象をワクチンにも広げるよう求める声も上がっている。

同制度は、重篤かつ有効な治療法が乏しく、患者数が少ない疾患に対する医薬品を対象とした特例的な制度。適用された場合、中間段階までの治験で一定の有効性・安全性が確認されれば、市販後の調査でそれらを再確認することを条件に早期に承認を得ることができる。この制度がワクチンにも適用されれば、最終治験と並行して使用を始めることも可能になる。

◇安全保障面で重要な国内生産  
海外頼みの供給にはリスクがあり、安全保障の観点から国内でワクチンを生産できるようにしておくことは重要だ。コロナワクチンの開発を通じて新技術を蓄積しておけば、いつ起こるかわからない将来のパンデミックへの備えにもなる。

しかし、最終治験の結果を待たずに承認を可能とするような動きには、医療従事者を中心に疑問の声も上がる。高い有効性と安全性が確認されたワクチンが使用可能な状況で、特例を使ってまで国産ワクチンの承認を急ぐ必要があるのか、という指摘だ。(中略)

◇軽症用治療薬を初承認
コロナを克服して日常を取り戻すためにはワクチンだけでなく、治療薬も欠かせない。これまでは主に、ほかの疾患で承認されている既存薬を転用する形で開発が行われてきたが、最初から新型コロナへの効果を狙った新薬の開発も進んでいる。

厚生労働省は7月19日、中外製薬が6月に申請していた新型コロナ治療薬の「抗体カクテル療法」(製品名・ロナプリーブ)を特例承認した。

中和抗体である「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を組み合わせて投与する治療法で、米リジェネロン・ファーマシューティカルズが開発した。中外は国内での販売を担う。  

海外で行われた臨床試験では、基礎疾患を持つなどリスクの高い軽症~中等症の患者に投与することで、入院や死亡のリスクを70%低下させた。在任中のトランプ前米大統領への治療に使われたことでも知られ、米国では昨年11月に緊急使用許可(EUA)が出されている。  

国内でコロナ治療薬として承認されている薬剤は四つとなったが、軽症・中等症の患者を対象とした薬剤は初めて。田村憲久厚生労働相は「治療法としては大きな前進」と話し、ワクチン接種が進み、軽症患者の増加が予想される中で新たな薬剤が使用可能となったことに期待を示した。  

コロナ向け抗体の開発はほかの企業も行っており、米イーライリリーは「バムラニビマブ」と「エテセビマブ」の二つの抗体を併用する治療法のEUAを米国で取得。

米バイオベンチャーのヴィル・バイオテクノロジーズと英グラクソ・スミスクラインが共同開発した「ソトロビマブ」にもEUAが出されている。

アストラゼネカも抗体カクテル療法「AZD7442」の最終治験を進める。  

抗体医薬はコロナ治療の新たな武器として期待されるが、基本的には重症化リスクの高い患者が対象で、日本では入院患者に使用が限られる。軽症者が自宅で服用できる飲み薬の開発は重要な課題だ。

米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと共同で、経口の抗ウイルス薬「モルヌピラビル」を開発中。日本を含む世界で最終治験に入っており、順調に進めば9~10月にデータを得られる見込みだという。米国などでは年内にも実用化される可能性があり、日本でも早期の承認が期待される。

スイス・ロシュも米アテアから開発権を取得した経口抗ウイルス薬「AT─527」を開発している。海外では近く最終治験に進む見通しで、日本では国内販売を担う中外が開発を進める。

ファイザーも経口抗ウイルス薬の開発を行っており、年内の実用化も視野に入れている。 

◇日本勢も経口薬を開発  
国内メーカーでは、塩野義製薬やバイオベンチャーのオンコリスバイオファーマが経口抗ウイルス薬を開発中で、塩野義は7月に日本で初期の治験を始めた。

ペプチドリームは富士通などと創薬ベンチャーのペプチエイドを設立し、アミノ酸が連なった「ペプチド」をコロナ治療薬として開発中。富士通のデジタル技術を活用することで開発期間を短縮し、早期の承認取得を狙う。  

既存薬の転用では、有効性や安全性を示せず開発が頓挫したものも少なくない。小野薬品工業は、抗ウイルス効果が期待された膵(すい)炎治療薬「フオイパン」について、国内で行った最終治験で有効性を証明できず開発を中止。

第一三共は、同「フサン」を新型コロナ向けに吸入製剤として開発していたが、安全性への懸念から開発を中止した。富士フイルム富山化学の新型インフルエンザ治療薬「アビガン」は、厚生労働省の審議会で承認が見送られ、現在、別の臨床試験で有効性の証明を試みている。 【8月16日 前田雄樹氏・AnswersNews編集長 エコノミストOnline】
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国産ワクチンに関しては、武田が「年内供給」とのことですが、製造技術を提供したノババックスが2021年中に米食品医薬品局に緊急使用許可を申請する見通しということのようですから【8月20日 M&AOnline】、武田のワクチンを日本で実際に使用できるのは、更にその先になるのでは・・・。

スピード感を持って処理して欲しいと個人的には思いますが、石橋を叩いて、叩いて、叩き壊してしまう日本ですから・・・というか、誰も責任・リスクをとりたがらず、責任逃れの「安心・安全」を呪文のように唱える国と言うべきか。

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アフガニスタン・カブールからの国外退避  「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つ」 残される人々

2021-08-22 23:03:32 | アフガン・パキスタン
(国外退避を希望してカブールの空港近くに集まったアフガニスタン人ら=20日【8月22日 時事】)

【バイデン大統領「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」「最終的な結果がどうなるかは約束できない」】
米軍撤退のあり方についてのバイデン大統領への批判は国内外で多々あり、バイデン大統領の支持率も低下しています。

そのことはしっかり議論する必要がありますが、そうした議論より先に今行うべきことは、出国を必要とする人々を速やかに出国させることです。

バイデン大統領が認めているように、予想よりはるかに早かった首都陥落で事態は困難を極めています。

アメリカ国務省は21日の記者説明で、これまでにアメリカ国民約2500人を含む1万7000人がカブール空港から出国したと説明していますが、現在も最大で約1万5千人のアメリカ人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しています。

*****バイデン氏、米国民ら退避は「史上最大かつ最もな困難な空輸作戦」*****
バイデン米大統領は20日、ホワイトハウスで記者会見し、アフガニスタン駐留米軍の撤収に伴い国外退避を求める人々が首都カブールの国際空港に殺到している問題で、米国民やアフガン人通訳などの現地協力者、女性や子供らの退避に「全ての力を動員する」と強調した。

ただ、現在も最大で約1万5千人の米国人が退避を待っているほか、6万人以上のアフガン人が国外脱出を希望しているとされ、混乱が続くのは必至とみられる。

バイデン氏はカブールの陥落が不可避となった14日以降、米軍機によって米国民やアフガン人ら計約1万3千人を国外に退避させたと明らかにした。これとは別に、米政府がチャーターした民間機で数千人が退避したとしている。

また、アフガンの実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンの標的となる恐れが高い、米メディアのために働いたアフガン人記者や助手ら計204人について、ウォールストリート・ジャーナルなど米紙各社との連携で今週前半までに米軍機で脱出させた。

バイデン氏は「米国とのつながりを理由に標的となるかもしれないアフガン人らを安全に退避させるために力を尽くす。帰国を希望する米国人も必ず祖国に帰す」と強調した。

同氏は一方で、カブールからの国外退避は「史上最大かつ最も困難な空輸作戦の一つだ」と指摘し、「作戦は困難な状況下で実施されており、人的損失の恐れも含め最終的な結果がどうなるかは約束できない」とも語った。

バイデン氏によると、カブール空港では現在、米軍部隊約6000人が展開して安全確保に当たっている。

バイデン氏はまた、性急な米軍撤収が混乱を招いたとの指摘が出ていることに関し「世界の同盟諸国からは米国の信頼性を疑う声は出ていない」と反論。先進7カ国(G7)や北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議の場でも、各国首脳がアフガンへの関与を同時に終了させることで合意したと強調した。

タリバンを正式政府として承認したり支援したりするかについては「米国が適用する条件は厳しい。タリバンが女性や少女、自国の市民らをどのように扱うか次第だ」と述べた。【8月21日 産経】
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【圧死者もでる空港周辺の混乱 テロの脅威も】
現地カブールの空港では押し寄せる群衆で押し潰される圧死者が出る混乱が続いています。
カブール空港は現在米軍が管理していますが、空港外には手が出せない状況となっています。

****アフガン首都、空港近くで大きな混乱 7人死亡****
英国防省は22日、アフガニスタンの首都カブールの空港近くで大きな混乱が発生し、アフガン人7人が死亡したと発表した。アフガニスタンではイスラム主義組織タリバンが権力を掌握して以降、多くの市民が国外退避を試みている。
 
英国防省報道官は、7人が「人混みの中で死亡した」と指摘。タリバンの権力掌握から1週間となる中、米国やその同盟国は、退避便への搭乗を試みる大勢の人の対応に追われている。
 
報道官は「依然として現場の状況は極めて厳しいが、あらゆる手を尽くしている」と強調した。
 
英スカイニューズは21日、白い防水シートで覆われた空港の外の3人の遺体を捉えた映像を放送した。
空港にいたスカイニューズのスチュアート・ラムゼイ記者は、集団の一部の前方にいた人々が「押しつぶされた」と報道。その他にも「脱水症状の人やおびえた人」がいたと伝えた。
 
ベン・ウォレス英国防相は大衆朝刊紙デーリー・メールに対し、米軍のアフガン撤退期限である今月31日より前に「全員を退避させることができる国はない」と語っている。 【8月22日 AFP】
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空港へ至るまでの検問所でのタリバンの妨害に加えて、タリバン敵対勢力(IS系)によるテロの危険も。

****ISIS系、カブール空港へのテロ攻撃を謀議か 米分析****
米国民らの国外退避が続くアフガニスタンの首都カブールの国際空港やその周辺で過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」系の組織によるテロ攻撃の脅威が高まり、米軍が空港へつながる新たな経路開設に動いていることが22日までにわかった。

米国防総省当局者はCNNの取材に、テロ攻撃の可能性は強いと指摘。カブールにいる上位の外交官はこの脅威の信用度は高いとしながらも差し迫った段階にはないと述べた。

代替の進入経路は国外避難を急ぐ米国人、外国人や資格要件を満たしたアフガン人に提供されるとした。
同省当局者によると、アフガンの実権を握ったイスラム主義勢力タリバンもこの代替経路の設定を把握し、米側と協力しているとした。アフガンで活動するISIS系組織はタリバンの仇敵(きゅうてき)ともされる。

米国防総省は国外退去のため人々が殺到するカブール空港周辺の状況を注視。ISIS系組織による攻撃は車爆弾、自爆攻撃や迫撃砲攻撃などの可能性があるとした。

代替経路の計画ではタリバンと協力し、人々の集まりを分散させ、大規模な群衆の出現を阻止するなどとしている。

このISIS系組織は「ISIS―K」と自称。「K」はアフガンやパキスタンなどの地域を含むとする「Khorasan(ホラサン)」を意味する。両組織はイデオロギーや戦術を共有するが、組織面や指揮系統、管理面でどの程度密接な関係にあるのかは全面的に解明されていない。

米情報機関当局者は以前、ISIS―Kの構成員にはシリアから来た経験豊富なジハード(聖戦)主義者らの少人数が含まれるとし、幹部級の工作員10〜15人を割り出したとCNNに明かしてもいた。【8月22日 CNN】
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【今月末までに全員を出国させるのは不可能との予測も】
こうした状況で、撤退期限の今月末までに希望者全員を出国させるのは「人数上、不可能だ」という認識も強まっています。

****全員退避は不可能との観測も****
カブール空港は現在、米軍が管理している。米軍は自国と他国の人々の退避を支援している。西側諸国の部隊のために働き、タリバン政権では安全が懸念されるアフガニスタン人も、支援の対象としている。

ただ、米政府は今月31日を米軍の撤退期限に定めている。その日以降に何が起こるかは不明だ。
北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、9月1日以降も退避の支援活動を継続できるよう、カブール空港を利用可能な状態のままにすることを、いくつかの加盟国が提案していると明らかにした。

BBCの取材では、イギリスもそうした国の1つで、数日間の延長を求めている。

各国がすべての自国民や、危険な状況にあるとみられるアフガニスタン人全員を退避させるのは不可能だとの見方も出ている。空港では行列する人たちの出国手続きに時間がかかっており、退避便の増便もうまく進んでいない。

欧州連合(EU)外務トップのジョセップ・ボレル氏はAFP通信に、アメリカが渡航許可証を持っているすべてのアフガニスタン人を今月末までに出国させるのは「人数上、不可能だ」と述べた。

また、アメリカの安全管理は厳し過ぎ、欧州諸国のために働いたアフガニスタン人が空港に入れていないと、EUとしてアメリカに「抗議した」と話した。

アメリカのジョー・バイデン大統領は20日、「帰国したいアメリカ人はすべて帰国させる」と宣言した。ただ、退避について、「損失のリスクは排除できない」とし、「史上最も大規模で困難な空輸」だとした。【8月22日 BBC】
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【ベルリン空輸当時の措置活用で民間機提供命令の検討も】
タリバンやテロの危険性もさることながら、退避が進まない根本原因は、限られた数の飛行機しか使えないという制約でしょう。

かつて第二大戦中、ドイツ軍に追い詰められた英仏軍はダンケルクの戦いで40万人の将兵をイギリスに向けて脱出させましたが、それが可能だったのは輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員することが出来たから。

内陸国アフガニスタンでは飛行機のみ。それもカブールの空港のみ。

そういう隘路を打開すべく、ベルリン大空輸当時の措置が蘇るようです。
商用民間機を提供させ、アフガニスタンからの退避者が足止めされている各国米軍基地からアメリカへの移送を行うもののようです。

****米、アフガン退避に民間機協力命令を検討****
バイデン米政権はアフガニスタンの首都カブールからの退避作戦を大幅に拡大するため、米国の主要航空会社に数万人の移送に協力させる準備を進めるとともに、アフガン人の退避者を収容できる米軍基地の数を増やす計画を立てている。
 
米政府関係者によるとホワイトハウスは、第2次世界大戦後のベルリン空輸を契機に1952年に創設された民間予備航空隊(CRAF)の制度を活用し、最大5社の航空会社に20機近くの商用ジェット機を提供させることを検討する見通し。これにより、アフガニスタンの基地からアフガン人を輸送する米軍の取り組みを助ける計画だという。
 
これらの民間機はカブールを発着することはない。民間航空会社のパイロットと乗組員がカタール、バーレーン、ドイツの米軍基地に足止めされている数千人のアフガン人などを運ぶ手助けをするという。カブールは15日、イスラム主義勢力タリバンの支配下に置かれた。
 
民間航空会社の参加は、アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減することになる。米軍と関わりを持つことでタリバンからの報復を受ける可能性のある数千人のアフガン人が、この1週間にカブールの空港に殺到。米国は空港からアフガン人を退避させる取り組みを拡大している。
 
米軍の一部である輸送軍は航空各社にCRAFの編成を指示する可能性があることを通知したと、米政府関係者は述べている。

ホワイトハウス、国防総省、商務省の関係者は、まだCRAFの使用について最終的な承認をしておらず、代替案が導入される可能性もあるという。CRAFの使用の可能性については、これまで報道されていなかった。
 
業界関係者によると、航空各社は20日夜にCRAFが発動される可能性があることを通知された。各社はまた、政府の空輸活動を支援するための自主的な取り組みについて議論しているという。(後略)【8月22日 WSJ】
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また、“アフガン人の退避者で急速に埋まりつつあるこれらの基地の圧力を軽減する”ということに関しては、避難民の収容で日本にある基地の利用もあり得るとか。

****米、カブール空港回避を勧告=避難民収容、日韓基地も候補か―有力紙*****
(中略)米メディアによると、バイデン政権や米軍は、民間機を活用した退避活動支援を視野に入れているほか、日本や韓国、ドイツなどにある米軍基地をアフガン人避難民の一時収容先候補として検討しているという。(中略)

避難民の収容に関しては、米東部ニュージャージー州の基地で仮設住宅の設営が進んでいる。同紙はこれに関し、バージニア、カリフォルニア両州などにある米本土の複数の基地に加え、日韓独やコソボ、バーレーン、イタリア各国内の米軍基地も一時収容先の候補として検討されていると報じた。(後略)【8月22日 時事】 
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【ひどく不安で不透明な未来を前にして、現地に取り残される多くの人々】
今対応に苦慮しているアメリカなど各国が自国民や協力者として認める者以外にも、身の不安を感じて出国しようと願う更に多くの人々がいます。

*****英旅券を振りかざし……脱出しようと必死の大混乱 カブール空港から****
「下がって! 下がって!」。イギリス兵士が叫ぶ。イギリス大使館が避難させた人たちが出国前に一時かくまわれた避難先の前で、集まった群衆に向かって。

兵士の前では大勢が必死の様子で、イギリスのパスポートを振りかざしていた。自分も中に入れてもらおうとして。しかしゴムホースを手にしたアフガニスタン人警備員の一団が、群衆を押し返そうとしていた。

ここに集まったほとんどの人は、自分がイギリス政府に退避させてもらえるという通知を、受け取ったわけではない。

それでも、アフガニスタンをなんとかして出国しようと必死の思いで、ここへやって来た。他方で、中には大使館からのメールでここへ集まるよう指示されてきた人たちもいる。ここへ来て、出国便の搭乗手続きを待つようにと。

その中の1人は、ヘルマンド・カーンさんだ。ロンドン西部に住むウーバーの運転手で、幼い子供たちと親類を訪れるために数カ月前にアフガニスタンに来たばかりだ。幼い息子2人が隣にいる。数冊のイギリス・パスポートを握りしめて、私に向かって突き出した。「もう3日前から、中に入ろうとしているんだ」と必死の面持ちで私に言う。

英陸軍の通訳だったハリドさんもいる。妻は2週間前に出産したばかりで、このような事態で生まれたばかりの赤ん坊が死んでしまうのではないかと、恐怖におののいている。「朝からずっとここにいる。ここへ来る途中にタリバンに、背中を鞭(むち)で打たれた」。

少し離れた場所には、この避難所への正面玄関がある。数千人がここへ来たがその大半は、本当に出国できる可能性は実際にはない人ばかりだった。イギリスの兵士たちは時折、群衆を鎮めるために空へ向かって発砲していた。

中へ入るには、なんとかして群衆をかき分けて進み、兵士たちに向かって書類を振りかざすしかない。どうにかして、入れてもらえますようにと願いながら。

米兵が警備を担当する空港のゲートは、さらに状況が混乱しているようだ。空港の、市民が使う正面玄関では、タリバンが空への発砲を繰り返し、中へなだれ込もうとする群衆を押し返している。(中略)

自分は国際的なバスケットボール選手なのだと、私に言う若い女性もいた。イギリス大使館との接触は何もないが、殺されてしまうかもしれないと恐怖にかられているという。いかにおびえているのか語ろうとして、喉が詰まり、涙声になってしまった。

タリバンは、政府と結びつきのある全員に恩赦を与えたと強調する。「包摂(ほうせつ)的」な政府を樹立するつもりだと言う。しかし、ここにいる大勢は将来を深く危惧(きぐ)している。

市内の別の場所に移動すると、情勢はもっと落ち着いている。まるで別の世界のようだ。店舗や飲食店は再開つつある。ただし、青果市場の露天商たちによると、出歩いている人たちは普段よりはるかに少ない。化粧品を売る男性は、とりわけ女性の姿がはるかに少ないと話す。通りを歩く女性は珍しくはないのだが。

他方でタリバンは至るところにいる。アフガン治安部隊から奪った車両に乗って、あちこちをパトロールして回っている。略奪や世情不安を防ぐために、市内でことさらに存在感を示しているのだとタリバンは言うし、確かにそのおかげで安心だと話す住民もいる。今や当のタリバンは、暗殺や爆弾攻撃を繰り広げていないだけに。

タリバン支配下の生活がどういうものになるのか、多くの人はまだ考えあぐねている最中だ。タクシー運転手の1人は、タリバン戦闘員の集団を市内の端から端まで乗せたという。その間、ずっと車内ステレオで音楽をかけながら。「何も言わなかったよ」と、運転手はにやりと笑顔で私に言う。「前みたいに厳しくない」。

しかし、決してそうではないという話も相次いでいる。複数の報道関係者や元政府関係者の自宅にタリバンが押し掛けて、尋問したなど。自分たちが標的にされ、攻撃されるのは時間の問題だと、大勢が恐れている。

空港近くに戻ると、英軍通訳だったハリドさんと家族は、赤ちゃん共々ついに避難施設内に入ることができた。

それでも、まだ大勢が中に入ろうとしている。1人のアフガニスタン系イギリス人が、私に協力してくれと訴えてきた。「この込み合う中を、子供たちを連れて通るわけにはいかない」のだと。

そして、イギリス政府による退避対象ではないものの、なんとしても出国しようと必死の大勢が、ここに残されることになる。ひどく不安で不透明な未来を前にして。【8月22日 BBC】
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