(アフガニスタンからの米軍撤退で、輸送機に乗り込む最後の1人となった米兵の画像【8月31日 CNN】)
【「民主主義と専制主義の競争」においてアフガニスタンの位置は?】
アメリカの20年に及ぶ最も長い戦争が終わりました。この間、多くの兵士・民間人の命が犠牲となり、そして膨大な資金が注ぎ込まれました。
****アフガン民間人の犠牲は4万人以上****
国連アフガニスタン支援団によりますと、2009年からことし6月までの間に戦闘やテロに巻き込まれて死亡した民間人は合わせて4万218人にのぼり、けがをした人は、7万5000人を超えています。
20年間の米軍の死傷者と戦費
アメリカ国防総省によりますと、軍事作戦を開始した2001年10月からこれまでにアフガニスタンで死亡したアメリカ兵は2461人で、2万人以上がけがをしました。
また、アフガニスタンの復興状況を調べているアメリカ政府の監察官の報告書によりますと、この20年間、アフガニスタンでの戦費は、合わせておよそ8370億ドル、日本円でおよそ92兆円に上ります。
ただ、アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が、国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り、日本円でおよそ253兆円に上るとしています。【8月31日 NHK】
また、アフガニスタンの復興状況を調べているアメリカ政府の監察官の報告書によりますと、この20年間、アフガニスタンでの戦費は、合わせておよそ8370億ドル、日本円でおよそ92兆円に上ります。
ただ、アメリカ・ブラウン大学のワトソン国際問題研究所が、国債の利子などを含めて試算したところ、実際にはその3倍近い2兆3000億ドル余り、日本円でおよそ253兆円に上るとしています。【8月31日 NHK】
***********************
国外脱出を必至に望みながらもかなわず、現地に残れた協力者など、この戦争の“後始末”はまだ終わっていません。
権力を掌握したタリバンがどういう統治を行うのかもまだ不明です。
従って、この戦いの総括にはまだ時間を要します。その前提で今敢えて言えば、中国に対抗して改めて「民主主義」の価値観を掲げているアメリカ・バイデン政権がアフガニスタンの民主主義を見捨てたという感は否めません。
もちろん、アメリカの目的は民主的国家の建設ではなかった、アフガニスタンに民主主義を受け入れる土壌がなかった、アフガニスタン政府が機能しなかった・・・・等々、多くの留意点があるにしても。
****タリバン復権、揺らいだバイデン氏の民主主義論 アフガン撤退****
アフガニスタン駐留米軍が30日、完全撤収した。2001年の米同時多発テロに端を発し、米史上最長の戦争となった米国の「テロとの戦い」の幕引きを古本陽荘・北米総局長が読み解く。
◇「トランプ氏の姿勢と大差ない」か
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが8月15日にカブールを制圧した後、バイデン米大統領は「アフガンでの米国の任務は、民主主義国家を作ることではなかった」と断言した。民主化を望んできたアフガンの人たち、特に女性は、この言葉をどう受け止めただろうか。
20年にわたるアフガン戦争の間、アフガンでの女性の教育機会は徐々に広がり、専門的知識を習得して社会で活躍する女性も増えた。民主主義の基盤となる市民社会が芽生えていた。こうした社会が拡大し、安定することこそが、過激思想への対抗策になると考えられてきた。
アフガン安定化がなかなか進まないことに米国人が不満を持つのは理解できる。しかしタリバンの復権で、アフガンの民主化がついえたのはほぼ確実だろう。
中国を念頭にバイデン氏は、「民主主義と専制主義の競争に勝ち抜く」と語ってきた。アフガンの民主化をあっさりと断念したいま、バイデン氏のこうした民主主義論は、説得力を失ったのではないか。「民主主義を本当に重視しているのか」という疑念は簡単には拭えないだろう。
交通事故で妻と娘を亡くし、脳腫瘍を患った長男にも先立たれたバイデン氏は、苦境にある人々の気持ちを理解し、寄り添う「共感力」が売りだった。新型コロナウイルスの感染が拡大し、多数の死者が出るなか、バイデン氏の支持率が比較的安定していたのも、この共感力によるところが大きかった。
しかし、民主化を希求するアフガンの人々への共感の言葉はバイデン氏から発せられなかった。共感の対象が米国人限定であるのであれば、排外主義的な「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ前大統領の姿勢と大差はない。
第二次世界大戦後のリベラルな国際秩序を維持するため「米国の復活」を宣言したバイデン氏だったが、アフガン戦争の幕引きは、米国の国際的指導力の低下を印象づけた。日本を含めた同盟国が、これまで以上に米国を補完する強い意志を持たなければ、国際社会の安定化は望めないだろう。【8月31日 毎日】
********************
【「音楽は禁止はしないが、演奏などをしないように説得する」 現実には歌手殺害か】
アフガニスタン情勢に関して取り上げるべき事項は多々あり、整理がつかないぐらいですが、先ずタリバン統治の今後について。まだよくわかりませんが、表向きの融和的姿勢にもかかわらず、「やはり旧政権時代と大差ないかも・・・」という疑念・不安が払拭できません。
****タリバン融和路線に強まる疑念****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンがアピールする融和路線への疑念が急速に広がっている。
タリバンは報道の自由を尊重すると主張するが弾圧の懸念は強まり、既に約100の民間メディアが運営を停止した。著名な音楽家がタリバンに殺害される事件も起きた。恐怖政治の足音が聞こえる中、アフガンは31日、治安維持の重しだった米軍撤収の期限を迎える。
「脅しの言葉はなく、『これから長い付き合いになる』とだけ言われた。生きた心地がしなかった」。アフガン南部に住むジャーナリストの男性は地域を制圧したタリバン戦闘員が家を訪れたときのことを話した。男性は脱出を検討しているが、タリバンが国境管理を強化し、身動きが取れないという。
旧タリバン政権(1996〜2001年)は国内の報道を規制し、インターネットの使用も禁止した。タリバンは今月15日の首都カブール制圧後に記者会見で「メディアの活動を保障する」との考えを示したが弾圧の兆しは見える。
ドイツの放送局に所属するジャーナリストの家族がタリバンの戦闘員に殺害され、26日には地元民放「トロTV」記者が取材中にタリバン戦闘員に暴行を受けた。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、運営を停止したメディアは100近く、特にタリバンの支配力が強い地方都市に多いという。国内ジャーナリストの脱出も相次ぎ、カブール制圧後にタリバン幹部にインタビューした女性テレビキャスターも国外退避したもようだ。
旧タリバン政権で禁止された音楽について、タリバン報道官は25日付の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに「音楽はイスラム教では禁止されているが、圧力ではなく、(演奏などを)しないように説得する」と融和的姿勢を示した。
だが、30日までに北部で民族音楽の歌手、アンダラビ氏がタリバン戦闘員に殺害された。指導部が穏健な姿勢でも組織の末端が従わない可能性もある。
脱出したアフガン人が到着している米首都ワシントン近郊のダレス空港で取材に応じたジョワドさん(35)は「既にSNS(会員制交流サイト)を通じてタリバンの暴力をとらえた動画が多く出回っている。世界はすぐにタリバンが変わっておらず、どれほど暴力的かを知るだろう」と話した。【8月30日 産経】
*******************
まあ、タリバンが本気で「メディアの活動を保障する」とは到底思えませんので、メディア統制については別段驚きもしませんが、音楽の禁止については、旧タリバン政権当時の「暗い時代」を思い出さずにはいられません。
****タリバンがアフガン人歌手を殺害か 国際社会から懸念の声****
アフガニスタン北部バグラン州で先週、地元出身の歌手ファワド・アンダラビさんがイスラム主義勢力タリバンに殺害されたとの報道を受け、国際社会から懸念の声が上がっている。
AP通信が息子ジャワドさんの話として伝えたところによると、ファワドさんは27日、同州北部のアンダラブ渓谷にある自宅の農場で頭を撃たれた。ジャワドさんは「父に罪はない。歌手として人々を楽しませていただけ」と訴えた。(中略)
1996〜2001年の旧タリバン政権下では、音楽が宗教的な意味を持つ場合を除き、「非イスラム的」だとして禁止されていた。
タリバンの報道官は先週、米紙ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「イスラム教では音楽が禁止されている」と述べた。アフガンでは公共の場での音楽がまた禁止されるのかという質問に対しては、「国民に圧力をかけるのではなく、そんなことをしないよう説得できるだろう」と答えていた。
国連の文化的権利に関する特別報告者、カリマ・ベノウネ氏は28日のツイートで、ファワドさん殺害の情報にユネスコ親善大使のディーヤ・カーン氏とともに「重大な懸念」を表明すると述べ、各国政府がタリバンにアーティストの人権尊重を求めるよう呼び掛けた。【8月31日 CNN】
*****************
「イスラム教では音楽が禁止されている」・・・多くのイスラム国家で、普通に音楽やダンスが楽しまれている現実とそぐわないのですが、本当に「禁止」されているのでしょうか?
****イスラム教で禁止されていることは?****
(中略)
音楽は?
コーランには明確に音楽を禁止する規定はありません。
ただハディースには預言者ムハンマドが「音楽が聞こえてきたときにムハンマドが両方の耳を指で塞いだ」とあり禁止とまではいかなくても、推奨はできないものとされています。(「イスラムと音楽」)
しかし実際には音楽はイスラム社会の日常に溶け込んでいます。
結婚式には歌や踊りがつきものですし、エジプトの有名な女性歌手ウンム・クルスームは「永遠の歌姫」と言われ、今でもアルバムがアラブ世界で売れ続けています。
イスラム世界でも日本や欧米と全く変わらず音楽が生まれ、人々に愛されているのです。(後略)【「イスラム世界を知るメディア」】
*********************
上記記事にあるはディースとは“ハディースは、イスラム教の預言者ムハンマドの言行録。クルアーン(コーラン)がムハンマドへの啓示というかたちで天使を通して神が語った言葉とされるのに対して、ハディースはムハンマド自身が日常生活の中で語った言葉やその行動についての証言をまとめたものである。クルアーンが第一聖典であり、ハディースが第二聖典とされる。【ウィキペディア】”とのこと
イスラム世界で普通に楽しまれている音楽を禁じる、あるいは“そんなことをしないよう説得する”・・・このあたりが多くのイスラム国家と違って、タリバンが“原理主義”として、あるいは独特のイスラム主義としてなかなか国際社会に受容されない所以でもあります。
ついでに言えば、旧タリバン政権では音楽だけでなく、ほとんど全てのエンタテイメント・レクリアーションが禁止され、テレビ・映画あるいは凧あげ・チェスも禁止されました。
【兵士が女性尊重の「訓練受けていない」ので女性は自宅待機】
そのような生活全般に対する重苦しい統制と並んでタリバン支配で懸念されるのが女性の権利。
****タリバン、女性医療従事者に職場復帰求める****
アフガニスタンの実権を握ったイスラム主義組織タリバンの報道官は27日、全ての女性医療従事者に職場に復帰するよう求めたことを明らかにした。教育や訓練を受けたアフガン人の多くが国外に退避する中、現地では公共サービスの人手が足りなくなりつつある。
タリバンのムジャヒド報道官は「イスラム首長国の公衆衛生省は中央および州の全ての女性職員に対し、定期的に勤務するよう勧める」と表明。「イスラム首長国によって職務遂行を妨げられることはない」と強調した。
現地では女性が職場から追い返されるケースなども出ており、2001年までの旧タリバン政権と同様に女性の就労が再び禁止されるとの懸念が高まっていた。
だが、脆弱な医療システムで人手不足が生じているという不満の高まりを受けて職場復帰を促したとみられる。【8月30日 ロイター】
タリバンのムジャヒド報道官は「イスラム首長国の公衆衛生省は中央および州の全ての女性職員に対し、定期的に勤務するよう勧める」と表明。「イスラム首長国によって職務遂行を妨げられることはない」と強調した。
現地では女性が職場から追い返されるケースなども出ており、2001年までの旧タリバン政権と同様に女性の就労が再び禁止されるとの懸念が高まっていた。
だが、脆弱な医療システムで人手不足が生じているという不満の高まりを受けて職場復帰を促したとみられる。【8月30日 ロイター】
************************
上記の医療従事者は社会的必要性をタリバンとしても認めざるを得なかったケースですが、その他の情勢は?
****タリバン、女性に出勤控えるよう指示 兵士が女性尊重の「訓練受けていない」と説明****
アフガニスタンで実権を掌握したイスラム主義勢力タリバンは24日、働く女性に対して自宅に待機するように指示した。タリバンの兵士がいる環境下では安全ではないためと説明している。
タリバンは前回政権時より女性に寛容になると国際社会に訴えていたが、その主張を損なうものとなる。同日には世界銀行が女性の安全に関する懸念から支援を停止し、国連も人権侵害の報告に関する調査を求めている。
タリバンのムジャヒド報道官は記者会見で、自宅待機の指針は一時的なもので、女性が無礼な方法で扱われないようにする方法を探すための猶予をタリバンに与えるとしている。この措置が必要となったのは、タリバンの兵士が「変化を続けていて、訓練されていない」ためだとも認めた。
「状況が通常の秩序に戻り、女性関連の手続きが整うまで仕事を休むように求めている」とも述べ、対応が発表され次第職場復帰は可能だとしている。
1996~2001年の前回のタリバン政権では女性の就業が禁止された。女性は外出時に同行者が必要とされ、全身を覆うことも求められた。
タリバンは今回はもっと穏健になると主張するが、その指導層は女性の権利が剥奪(はくだつ)されないとの保証をしていない。
24日には有名なロボット工学チームの女性5人が、人道ビザ(査証)の発給を受けてメキシコに到着した。
タリバンが勢力を回復する中で、女性は社会からの孤立化が進み、嫌がらせや攻撃の対象になってきている。今年3月には3人の女性ジャーナリストが殺害された。ロイター通信によれば、7月には南部カンダハルの銀行のオフィスに侵入した武装勢力が9人の女性行員に職場を去るように命じている。【8月26日 CNN】
*******************
“兵士が女性尊重の「訓練受けていない」”のであれば、自宅待機すべきは女性ではなくタリバン兵士の方です。
そうした道理を言っても仕方ありませんが・・・。
【女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止する】
女性の職業と並んで注目されるのが教育。
****タリバン 女性の大学進学容認も、男女共学は禁止****
アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンの教育担当責任者は29日、女性が大学で学ぶことは許されるが、男女が同じ教室で授業を受けることは禁止するとの方針を明らかにした。
欧米が支援するアシュラフ・ガニ政権を崩壊させて今月中旬に権力を掌握したタリバンは、女子教育を禁じた1990年代のタリバンの統治との違いを強調し、厳格なイスラム法の解釈に基づきつつ女性の権利の発展を尊重すると約束している。
タリバンで高等教育相代行を務めるアブドゥル・バキ・ハッカニ氏は29日、首都カブールで開いた各地の首長や長老らによる「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」で、「アフガニスタンの人々は、シャリア(イスラム法)に照らして安全に、男女が同席しない環境で高等教育を受け続けることになる」と述べた。
ハッカニ氏はさらに、タリバンが望むのは「われわれのイスラム的、国家的、歴史的な価値観に沿った合理的なイスラム的カリキュラムを作成しつつ、他国と競争できるようになること」だと説明した。
小中等教育でも男女共学は禁じられるが、これは極めて保守的なアフガニスタンでは現在も一般的に行われている。
今回のロヤ・ジルガには、タリバン幹部を含めて女性の参加者は一人もいなかった。
ガニ政権下で市立大学の講師を務めていた女性は、「タリバンの高等教育省は大学の機能を再開するに当たり、男性の教員や学生の意見しか求めなかった」と批判。これは「意思決定への女性の参加に対する組織的な妨害」であり、「タリバンの公約と行動のずれ」を示していると指摘した。
アフガニスタンでは、この20年間で大学進学率が上がり、特に女性の進学が増加。女子学生は、これまでは男子学生と並んで授業を受け、男性教授のゼミを受講することもできた。 【8月30日 AFP】
********************
男女共学は禁止となると、現実には高いハードルも。
****女性、男性と同じ教室で学んではいけない タリバン幹部が言及 アフガン、教育機会奪われる恐れ****
(中略)同国ではタリバン政権が崩壊した01年以降、都市部で女性の進学率が伸びた。首都の国立カブール大学や西部の国立ヘラート大学は、学生の5割以上が女性。
カブール大の経済学部の女性(20)は電話取材に「1室に100人以上を詰め込んできた状況で、男女を分けると教室や教員が足りなくなる。結果的に講義が減るのは目に見えている」と語る。
同大で政治学などを学ぶ男性(20)は「性別や人種を超えて、色々な立場の人たちと議論する機会が奪われる」と憤る。「女性だけでなく、立場の弱い人たちを隅に追いやる動きが広がるのではないか」
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、18年時点で高等教育を受けた女性の割合は4・9%で、男性の14・2%に比べ低迷している。農村部では今でも女児の進学を良しとしない習わしが根強く残る。【8月31日 朝日】
*****************
何より、報道官や教育担当責任者のような国際社会の目も意識する「幹部」の発言が、字を読めない者も多い一般のタリバン兵士にどこまで徹底されるのか? はなはだ疑問・不透明な点も多く、先行きが心配されます。