(【2018年11月8日 望月 優大 現代ビジネス】)
【オーストラリア 移民・難民政策に厳しい保守党が政権維持】
5月18日に行われたオーストラリア総選挙では、事前の「野党・労働党有利」の予想に反して政権与党・保守党が勝利しました。
この結果は、南シナ海で中国に対峙する日米豪の協調にも関係してきますが、そのあたりの話は今回はパス。
「移民の国」オーストラリアにあって、保守党は基本的には移民・難民政策には厳しい対応をとっています。
ただ、移民増加の影響にネガティブな世論を前に、野党側にも表立っての反対はないようです。
****移民の国、豪州のジレンマ 政権、年3万人受け入れ減へ****
4人に1人以上が外国生まれのオーストラリアで、与党・保守連合政権が18日の総選挙を前に、移民受け入れ抑制策を打ち出した。大都市の人口過密化が理由だが、多様性を大事にしてきた社会に矛盾するような動きには批判も出ている。
■都市部で人口増、住宅が高騰
シドニー中心部から西に電車で30分の住宅地、ストラスフィールド地区で駅前を行き交う人々は、アジア系や中東系が目立つ。
「この国のルールを守れるなら移民を受け入れるべきだ。人は人でしょ」
トルコ出身で、豪州に住んで10年になるマット・イルマズさん(34)は新たな移民抑制策に不満げだ。
政府は3月、2012年から設けてきた永住権を与える移民の受け入れ枠を、年19万人から16万人に減らすと発表した。モリソン首相は「都市部の人口増による混雑の問題に取り組む」と説明した。
政府の統計局が17年6月までの1年間で分析したシドニーの人口増加要因は、83・9%が移民。人口約4万人のストラスフィールドでも豪州生まれは37%にすぎず、インドや中国、韓国など外国生まれが多数を占める。
人口増は住宅価格に影響する。不動産情報サイト「ドメイン」によると、シドニーの戸建て住宅の平均価格(3月)は約102万8千豪ドル(約7800万円)で、5年間で20万豪ドル上がった。(中略)
政府は地方に住んで働くことを条件にする就労ビザの創設も3月に発表した。このビザだと、永住権申請は地方に3年以上住むことが条件。「永住したいなら、しばらく地方に住みなさい」という制度だ。(中略)
中国系移民2世の大学生ヘレナさん(17)は「なぜ移民だけが地方に行かなければならないのか。誰もが地方に行きたくなる政策にするべきだ」と話した。
■人手足りない、地方では歓迎
地方が人手不足に悩む現実もある。(中略)
■選挙目前、野党もダンマリ
豪州は1970年代に白人を優先する白豪主義を廃止。非白人の移民や難民を受け入れてきた。多文化社会づくりに逆行するような移民抑制策には経済界が反対の声を上げた。
豪商工会議所のジェームズ・ピアソン最高経営責任者は「失望している。必要な技能を持った人材を探すのがさらに難しくなる」との談話を発表した。昨年12月に同会議所が出した報告書は「移民受け入れは我が国のDNA。多様性は革新を生み、生活を豊かにする」と強調。若い移民の労働力が経済成長率を押し上げるとも主張した。
移民政策に詳しいシドニー大のアンナ・バウチャー准教授も「移民のせいにするのは簡単だが、都市インフラが貧弱な状況には交通政策など様々な要因がある。永住権付与を年3万人減らして解決するわけではない」と批判する。
ただ、生活環境の悪化を感じる世論を前に、最大野党労働党も移民受け入れ枠削減に反対せず、与野党とも新たなインフラ計画を競って打ち出している。人口増への対応の遅れを問う議論は聞こえてこない。【5月17日 朝日】
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【パプアニューギニアに放置された難民 自殺者が相次ぐ】
上記の正規の手続きを踏む移民の話ですが、密航船などでやってくる不法移民・難民に関しては、“オーストラリア版グアンタナモ”と呼ばれるほど環境が悪い本土外の劣悪な条件の施設送りにする対応をとっており、人権上の問題からの批判も絶えません。(2017年2月27日ブログ“オーストラリアの難民収容施設問題 国際刑事裁判所(ICC)の捜査を要求する動きも”など)
そうした収容施設に置き去りにされている人々は、移民・難民政策に厳しい保守党が政権を維持したことは「ショック」でもあったようです。
****パプアニューギニアで難民が「日常的」に自殺未遂、民兵投入へ****
南太平洋パプアニューギニアのマヌス島にある難民キャンプで自殺未遂が「日常的」に発生していることから、警察は高まる緊張に対応するために民兵を警官隊として派遣した。地元警察が31日、AFPに明らかにした。
パプアニューギニアの民兵は暴力的な取り締まり手法で悪名高い。
マヌスでは、オーストラリアを目指しながら豪政府がとる強硬な難民政策のため送られてきた移民や難民たちがキャンプ生活を強いられている。マヌスやナウルに送還された移民や難民たちは、行き場を失ったまま何年も放置状態にある。
オーストラリアで今月18日に実施された総選挙では、難民受け入れに前向きな野党の勝利が期待されていたが、予想に反して対移民強硬派のスコット・モリソン首相率いる保守連合が勝利し、マヌスでは絶望した難民らの自殺が急増している。
世界的な人権賞を受賞したスーダン人難民活動家のアブドルアジズ・アダム氏も、オーストラリアでの総選挙以後、マヌスでは少なくとも31人が自殺を図ったとツイッターで訴えている。
マヌス州警察のデービッド・ヤプ署長によると、これまでに難民らの間で起きた深刻な自殺未遂は10数件だが、軽度の自殺未遂はほぼ毎日発生している。ヤプ所長は、こうした事態を受けて重武装した民兵を警官隊として難民キャンプに派遣したと明らかにした。派遣期間は3か月間だという。
だが、この民兵組織は過去にレイプや殺人などで非難されていることから、今後マヌス島における緊張の増大が懸念される。 【5月31日 AFP】
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【長期化する日本の入管施設でも】
将来を悲観した施設入所者が自殺・・・という話は、日本の入管施設でも耳にする話です。
もちろん、施設の条件・待遇は日本とマヌスやナウルでは比べようもないぐらいの差はあるでしょうが、将来の見通しがないまま長期間拘束状態が続き、絶望するという基本構図には共通するものがあります。
5月20日ブログの“外国人材”問題でも取り上げたように、経済難民を排除する政策変更で難民申請は半減し、一方で難民認定数は年間42人に倍増しています。
“倍増”はしましたが、42人ということで、“ほとんど難民申請が認められない”という事態は変わっていません。
申請が認められない者は退去命令により帰国することになりますが、中にはいろんな事情で帰るに帰れない人がおり、不法滞在として入管施設に収容されることになります。
****「インド戻れば殺される」入管に長期収容、命絶った男性*****
不法滞在の外国人の収容の長期化は、収容者が自殺する事態にもなった。法務省は「気の毒な境遇の収容者もいるが、ルールはルール」との立場だが、専門家からは、難民申請者らに対する日本の姿勢の問題を指摘する声も出ている。
茨城県牛久市郊外にある法務省の東日本入国管理センターには7月末の時点で、収容期間が6カ月以上になる男性が約330人暮らす。出身は約40カ国。全員が、日本政府から退去を命じられている。
インド北西部パンジャブ州出身のディーパク・クマールさん(当時31)もその一人だった。だが、4月13日、シャワー室で自殺した。
極貧家庭の5人きょうだいの末っ子。家族らによると、インドでは靴職人として働いたが、月収は家族7人で計7千~8千ルピー(1万2千円程度)。同州の1人あたりの平均月収すら下回る。家計を助けるため金融会社でも働いたところ、借金を肩代わりする羽目になった。「殺す」と脅され、身を守るために2017年4月、「安全」と聞いた日本へやってきた。
だが、ビザは短期滞在しか認められない「乗り継ぎ」名目。不法滞在を理由に17年7月、東京入管に収容された。「インドに戻れば殺される」と、帰国は拒否。難民認定を申請したが、結果は不認定。センターの外に出られる仮放免の申請も認められなかった。
命を絶ったのは、仮放免不許可を知った翌日。収容者仲間は「絶望した」と推し量り、インドに住む兄のサンジブさん(35)は「弟は重罪を犯したわけではないのになぜ、死に追い込まれたのか」と悔しがる。
センターでは5月中旬にも40代の日系ブラジル人、30代のカメルーン人、20代のクルド系トルコ人が相次いで自殺未遂をした。支援団体「牛久入管収容所問題を考える会」の田中喜美子代表は「いずれも将来を悲観してのこと。20年以上面会を続けているが、これだけ短期間に自殺未遂が続くのは初めてだ」と話す。
収容者が不満を抱く理由の一つは、生活の制約の多さだ。同センターは1日のうち約18時間を、最大5人がいる部屋で過ごさなければならず、プライバシーがない。6時間弱の「自由時間」は卓球をしたり、部屋と部屋とを行き来したりできるが、敷地内の運動場で過ごせるのは40分だけ。外部との面会、連絡も限られた時間しか許されない。
「オリに入れられて、自由を奪われて。犬と一緒。精神的におかしくなる」
こう話すトルコ国籍のクルド人男性(23)は12歳のとき、両親に連れられて来日した。「望んで日本にきたわけじゃない。日本のごはんを食べて、日本の慣習で育った。トルコに知り合いは誰もおらず、うまれた街の名前しかわからない」
一度は仮放免が認められたが、無許可で居住県外に出たとして16年5月に収容された。その後、仮放免を10回申請しているが、すべて退けられている。
別のトルコ国籍のクルド人男性(23)も「ここの生活には将来がない。不安で頭がいっぱいになる」と話す。民族を理由にトルコで集団暴行を受けたことがあると主張し、16歳の時、親戚のいる日本にやってきたという。
15年8月から8カ月収容された後に仮放免されたが、その間に働いたり、許可なく居住県外に出たりしたとして、17年4月に再収容された。日本人女性と結婚して、わずか1週間後のことだった。
「パパはいつ戻るの」。月に1度の面会で娘にそう聞かれても、ことばに詰まる。男性は吐き捨てるように言った。
「刑期のわかっている刑務所の方がまだマシなんじゃないか」
得られない在留許可「異常な事態」
現在、長期収容者の6割以上は難民申請中だ。難民は条約で「人種や宗教、政治的意見などを理由に迫害を受ける恐れがある人」と定義されている。日本も条約に加入しているが、運用は厳格で、昨年は1万9628人が難民申請をしたのに対し、認められたのは20人だけだった。「人道的な配慮」で特別に在留が許可されたのも45人だった。
難民とは別に、家族状況や素行などを考慮し、法相が裁量で決める「在留特別許可」もある。外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は、長期収容者の状況を精査すれば、この対象になる人が多い可能性があると指摘する。ただ、ここ数年は日本人の配偶者や子どもがいても、許可が出ないケースが相次いでいるという。
法務省の担当者は「在留特別許可はガイドラインにのっとっており、厳しくも甘くもしていない」と話すが、17年に許可を得たのは1255人で、12年の2割程度。現在、在留資格のない約50人を担当しているという指宿弁護士は「多くが従前なら認められていたが、全く許可が出なくなっている。異常な事態だ」と語った。【2018年9月23日 朝日】
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【「帰るに帰れない人々」を精神的に追い詰める現行制度・運用】
****追い込まれる長期収容外国人…「帰るに帰れない人々」をどう捉えるか****
外国人労働者の受け入れ拡大を目指す政府の入管難民法改定案。今週から国会での審議が始まるとされ、注目度が高まっている。
その一方で、近年法務省・入国管理局の施設に長期間(6ヵ月以上)収容される外国人の数が増えていることをご存知だろうか。2016年末は313人だったそれが、わずか1年半後の18年7月末には709人へと2倍以上に増加した。
収容外国人全体に占める長期収容者の割合も同期間に28%から54%へとほぼ倍増している(朝日新聞)。
日数に上限のない収容、度重なる自殺や自殺未遂、職員による暴行、不十分な医療アクセス、シャワー室への監視カメラの設置、退去強制による家族の分断――これらのショッキングな報道に接し、この問題をどう捉えるべきか困惑している方も多いのではないか。つい昨日のことだが、6人部屋に17人を監禁し、そのまま24時間以上施錠という報道もなされた。(中略)
これ(冒頭グラフ)を見ると明確に分かる通り、長期の被収容者が全体に占める割合が目に見えて増えているのは昨年、つまり2017年からだ。(中略)
このデータに現れる変化は指宿弁護士の現場感覚とも符合していた。
「3年前くらいまでは私の感覚だと原則7〜8ヵ月で仮放免されるというのが一般的な形でした。(中略)それが今は7〜8ヵ月なんてありえない。1年もありえない。私の依頼者で最長2年半です。仲間の弁護士が大阪で国賠訴訟やっている件だと、こないだやっと仮放免されましたけど3年半ですよ」
やはり数年前から入管の収容に関する運用のルールが変わり、結果として収容が長期化しているということのようだ。
多くの人は帰る
ここで「収容」とはそもそも何なのか、その位置付けを簡単に確認しておきたい。
入管施設に収容されるのは、日本に滞在する正規の資格(在留資格)を持っていなかったり、持っている在留資格では認められていない活動(就労など)をしたために、「退去強制」の対象であると入管に認定された(およびその認定の審査中の)外国人である。
つまり、収容の位置付けは、退去強制という行政措置の前段階、準備段階ということになる。したがって、「入管施設への収容」と「刑務所への収容」は、その見た目は似ていても意味が全く違う。後者は罪に対する罰であるが、収容は罰ではないのだ。
では、退去強制を命じられた外国人たちは実際どうしているのか。ここまでの文章の流れ上少し驚かれるかもしれないが、実はその多くはすぐに出国をしている。しかも「強制」退去と言いながら自費での出国が95%以上だ。(中略)
長期化する収容の多くは、過酷な収容という仕打ちを受けてもなお「帰れない」人々の問題であるということだ。指宿弁護士もこう語る。
「退去強制令書が出たら多くの人は帰るんですよ。例えば“旅行のビザで入ってきてちょっと働いてやろう”という人は、捕まって収容されて強制退去ということになったら普通は帰ります。(逆に)帰れない人っていうのはそれなりの理由があるんですよね」
入管から「帰れ」と言われて「帰れる人」と「帰れない人」がいる。では帰れない人々は一体なぜ帰れないのだろうか?
「帰るに帰れない」理由
指宿弁護士はこう続ける。
「日本人や永住者と結婚していたり、子どもが学校に通っていたりする人。20年、30年と日本に暮らしていて今さら帰る場所がない人。あるいは難民認定申請者で、難民認定は日本ではほとんどされないんだけど、帰ったら現実問題として命がどうなるかわからない人。あるいはそこまでいかなくても自分の国に帰っても生活ができない、ひどい目に遭うという人。色々な理由で帰れない人たちがたくさんいます」
「収容というのは送還の準備期間であって、送還のために圧力をかける手段ではないはずなんです。それが悪用されているんです。収容されて、追い詰められて、病気になってくる人が多い、精神的にも肉体的にも。1年を越えると何らかの病気を持っている人がほとんどだと思います。
そういう状況の中で追い詰めて帰国させようとしている。
本人たちにすれば、もう追い詰められると“帰るか死ぬかしかない”という気持ちになってしまうわけですよ。
だから自殺者や自殺未遂者が相次いでいるのは偶然じゃなくて、自殺する直前なのか自殺するところまでなのかわからないけれど入管がわざと追い詰めているんですよね。
もちろん自殺させることが目的ではないと思いますけど、ギリギリのところまで追い詰めて、それで自分でお金を払って帰ってもらうというのが目的なんでしょう」
退去強制を命じられても「帰るに帰れない人々」がいる。現在の入管政策が行っていることは「帰るに帰れない人々」にそれでもなお「帰れ」と言い、そして実際に帰る決心をするまでは無期限に閉じ込めるということだ。
あくまで出国の準備期間として作られた「収容」という制度が、被収容者をして最悪の場合には自死にまで追い込む装置になってしまう背景にはこういう構造が存在するのだ。(中略)
さらに問題なのが、(中略)退去強制決定後の収容に法定の上限期間が無いことだ。
(中略)「理屈の上では100年でも収容できるんですよ。だから、以前は入管なりの常識で7〜8ヵ月で仮放免されていたものが、入管のフリーハンドで2年3年収容してみようと思えばいくらでも収容できちゃう。ここに恐ろしいところがある。
刑務所はそんなことはできないじゃないですか。懲役1年だけど最近治安が悪いからこの人は2年入れておこう、そんなことをしたら憲法違反になりますよね。でも入管にはそれができてしまう。とにかく入管の裁量は大きく、ほとんどオールマイティです」(中略)
「帰るに帰れない人々」をどう捉えるか
(中略)在留資格を持たない非正規滞在者の中には、バブル期から平成の時代にかけて日本の労働力不足を補ったり、日本人がやりたがらない「3K労働」に従事したりしてきた最下層の外国人労働者たちも多く含まれる。
つまり、日本社会の側がかれらを必要としてきた側面もあるのであって、かれらが帰るに帰れなくなった理由は日本社会の側にもあるのだ。近年では技能実習の厳しい労働現場から逃げ出さざるを得なかった者も増えている。
しかし、現実には収容はどんどん長期化し、メディアが入管と一緒になって非正規滞在者をバッシングするかのような番組まで散見される。(中略)
収容政策の厳しさが注目を集めている今だからこそ、収容政策のあり方を見つめ直すだけに留まらず、その対象となっている非正規滞在者たち、「帰るに帰れない人々」が一体どんな人々なのか、改めて想像し直すことも必要ではないだろうか。【2018年11月8日 望月 優大 現代ビジネス】
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