孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  銃規制強化を求める法案提出 提案どおりの成立は疑問

2013-01-31 20:59:32 | アメリカ

(1月26日、ワシントンでの銃規制強化を求めるデモに参加した、銃乱射事件が起きたコネティカット州(CT)Newtown市の市民 “Sandy Hook”は事件の起きた小学校 “flickr”より By rwreinhard http://www.flickr.com/photos/31283743@N00/8417320555/

【「何とかしなければならない。その時は今だ」】
コネティカット州の小学校銃乱射事件を受けた、「銃社会」アメリカにおける銃規制の動きについては、昨年末12月28日ブログ「アメリカ 動き出した銃規制論議」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121228)でも取り上げましたが、銃を使用した凶行が依然として多く報じられています。

****米シカゴの公園で発砲、少女が死亡 大統領就任式で演奏のバンドに所属****
米イリノイ州シカゴで29日、公園にいた子供たちを狙った発砲事件があり、15歳の少女が死亡したほか、少年2人が負傷した。地元警察が30日、発表した。

死亡したハイディヤ・ペンドルトンさんは首都ワシントンD.C.で先週行われたバラク・オバマ米大統領の就任式で演奏を披露した高校マーチングバンドの鼓手を務めていた。親族によると「歩く天使」のような子だったという。(中略)シカゴ市警察は、銃撃犯が子供たちをギャングのメンバーと勘違いして発砲したとみている。

オバマ大統領はこれまで、シカゴなどの都市で死傷者を出し続ける発砲事件に対処する必要性を頻繁に述べてきている。今回の事件を受けホワイトハウスは30日、オバマ大統領はペンドルトンさんの家族のために祈りを捧げているとの声明を発表した。(後略)【1月31日 AFP】
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一方、銃規制法案の導入を巡る公聴会に、11年のアリゾナ州での銃乱射事件で頭部に銃弾を受け重傷を負ったギフォーズ元下院議員が出席、規制強化を求める証言したことも話題となっています。

****米上院:銃規制法案の公聴会 元議員が強化訴え****
米上院司法委員会は30日、銃規制法案の導入を巡る公聴会を開いた。11年の米アリゾナ州での銃乱射事件で頭部に銃弾を受け重傷を負ったギフォーズ元下院議員が証言し、「あまりに多くの子どもの命が失われている。何とかしなければならない。その時は今だ」と銃規制強化の必要性を訴えた。

元議員は言語障害が残っており、ゆっくりと紙を読み上げた。銃規制強化に反対している全米ライフル協会(NRA)のラピエール副会長は「家族を守るために何を購入できるかについて政府は介入すべきではない」と指摘。銃購入時の犯罪歴調査についても「犯罪者は(犯罪歴を)提出しない」と効果がないとの考えを強調した。

昨年12月の小学校銃乱射事件を受けた銃規制議論が議会でも本格化したが、法案成立への道筋はまだ見えていない。規制推進派は、司法委とは別に、高い殺傷力を持つ銃に焦点を当てた公聴会を開く方向で調整を始めた。【1月31日 毎日】
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【「市民社会に戦争で使う銃は必要ない」】
国民に銃への根強い支持があることや、全米ライフル協会(NRA)の強い政治力などで、銃規制について語ることは政治的には大きなリスクを負うことにもなり、オバマ大統領も選挙中は殆んど触れることもありませんでしたが、コネティカット州の小学校銃乱射事件後の規制強化を求める世論も高まったことを背景に、規制強化への動きを明らかにしています。

****オバマ米大統領、銃犯罪防止対策を発表****
バラク・オバマ米大統領は16日、銃を使った犯罪を抑制するための新たな対策を発表した。
オバマ大統領が打ち出した対策には、安全で責任ある銃の保有についての新たな全国キャンペーンの実施や、家庭における銃保管庫の安全基準の見直し、銃を使って襲撃された場合の訓練を学校に提供することが盛り込まれている。

また、米疾病対策センター(CDC)に銃を使った事件の原因と防止策について研究することを求めたほか、現在は個人間で銃の売買をする場合には免除されている銃購入者の背景調査を、全ての銃購入者に拡大することも求めた。
さらにオバマ大統領は議会に、攻撃用武器禁止措置の更新と、銃による大量殺害を防止するため弾倉に入る弾薬の数を10発以下に制限することも求めた。

オバマ大統領が求めた本格的な銃規制措置の多くは、議会が新しい法律を成立させることが必要になるが、銃所持を支持する団体や銃規制に消極的な民主、共和両党の保守系議員によって内容が弱められる可能性があるという見方もある。【1月17日 AFP】
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オバマ大統領の求めに呼応する形で、殺傷能力の高い銃を規制する法案が24日、上院に提出されています。
しかし、審議は難航することが予想されています。

****米国:銃規制の法案、上院に提出 成立は困難の見通し****
米上院のファインスタイン議員(民主)が中心となってまとめた殺傷能力の高い銃を規制する法案が24日、上院に提出された。昨年12月の東部コネティカット州の小学校銃乱射事件を受けた銃規制をめぐる論争が議会で本格化する。
与党の民主党内からも法律による銃規制には反対する声が上がっており、抜本的な銃規制法案が成立する見通しは立っていない。

法案は、オバマ大統領がすでに提案した内容に沿ったもので、半自動式ライフルや弾倉に10発を超える弾が装填(そうてん)できる銃など、157種類の銃について販売、製造を禁止する。また、銃の販売や移転に関し、購入希望者の調査を強化し、殺傷能力の高い銃の保有者については、安全管理の徹底を義務付ける。
過去に米国で施行された銃規制法よりも、厳しい内容で、提案者に名を連ねた議員は全員が民主党。

記者会見したファインスタイン氏は「20人の子どもが命を失ったことが、『市民社会に戦争で使う銃は必要ない』との警鐘でないとすれば、一体何だというのか」と述べ、銃規制の必要性を訴えた。

銃規制に反対する全米ライフル協会(NRA)は「銃規制が機能しないことは米国民がよく分かっている。ファインスタイン氏らの法案は議会によって否決されると確信する」などとした声明を発表。提案通りに法案が成立する可能性はかなり低いとみられる。【1月25日 毎日】
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現実政治の世界では、財政問題で対立する共和党から妥協を引き出す見返りに、銃規制法案の“緩和”といったようなこともあるのでしょうか。

【「心の奥深くにある感情や政治的分断をかき立てる複雑な問題」】
オバマ大統領は銃規制強化が国民の「心の奥深くにある感情や政治的分断をかき立てる複雑な問題」とした上で、「それが何もしないことの言い訳にはならない」「一つの命でも救えるのなら、われわれには努力する義務がある」とも強調しています。

****政治信念の違いが絡む銃規制****
「一つの命でも救えるのなら、われわれには努力する義務がある」
ホワイトハウスで1月16日、バラク・オバマ米大統領(51)が沈痛な面持ちで訴えた。
小学1年の児童ら26人が犠牲になったコネティカット州の銃乱射事件を受けて発表された包括的な銃犯罪対策。オバマ大統領は銃規制の是非で米世論が二分される中、子供の命を守る試みが「(国民の)分裂を生むようなことがあってはならない」と訴え、協力を呼びかけた。

銃使用の殺人、年1万件
「銃社会」と呼ばれる米国では、日本と比較すれば格段に銃が日常へと溶け込んでいる。一部の大型スーパーマーケットでは半自動小銃が手に入る。狩猟はワシントン郊外でも人気の高いレジャーの一つだ。
世論調査によると、米国で銃を保有している家庭は約47%。銃を使用した殺人事件は年間約1万件に達しており、先進国では突出した数字となっている。

こんな風に書き出すと、あたかも米国民が好戦的で、銃管理が実質的に野放しになっているようにも受け取れるだろう。だが、やや現実は異なる。
州によっても微妙に違うが、販売店で銃を購入するには犯歴などの身元調査が義務づけられ、年齢制限も科されている。自宅外で銃を携帯するには、別の許可証が必要なことも多い。
講習や保管、メンテナンスにもルールが存在するなど、すでにさまざまな規制があり、多くの国民は法律に従って銃を所持している。

大統領も「権利」は尊重
では、オバマ大統領が問題視しているのは、何なのか。今回提言されたのは、軍用並みに殺傷力が高い自動小銃の規制だ。

コネティカット州の乱射事件でも自動小銃が使われ、犠牲者は3~11発の銃撃を受けたという。あまりの威力のすさまじさに外形から身元の判別が困難な遺体も多かったとされる。オバマ大統領が「就任以来で最も悲惨な事件」と周囲に漏らしているのも無理はない。
また、昨年7月に映画館で12人が射殺されたコロラド州オーロラの銃乱射事件で使用されたのも自動小銃だった。

合衆国憲法「修正第2条」は国民が武器を所持し、携帯する権利を認めており、オバマ大統領も「その権利は尊重されなければならない」と訴える。
2年前にアリゾナ州の銃乱射事件で頭部を銃撃され、生死をさまよったガブリエル・ギフォーズ前下院議員(42)も拳銃の保有者であり、修正第2条の重要性を訴える一人だ。

だが、一般的な生活を送る国民に1秒間で数十発の連射が可能な自動小銃の保有が必要なのか。本当に護身の意味があるのか。「ノー」と答えるのが、オバマ大統領やギフォーズ前議員ら規制推進派の立場だ。

思想・信条の問題
他方、銃規制反対派は自動小銃での譲歩が、やがては拳銃や猟銃の規制にもつながりかねないとの疑いを抱いている。反対派には草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の支持者など、保守系の人脈も少なくない。政府が国民の権利に過剰介入することを何よりも嫌う彼らにとって、銃規制は政治信念や思想の問題なのだ。
さらには、あらゆる銃器が自分や家族の安全を守る「自己責任」の象徴であり、政府の強権発動に備える「対抗手段」とも捕らえている。
日本で護憲といえばリベラル派だが、米国の修正第2条をめぐる護憲論には、保守とリベラルが入り乱れているのも興味深い。

オバマ大統領は銃犯罪対策が国民の「心の奥深くにある感情や政治的分断をかき立てる複雑な問題」とした上で、「それが何もしないことの言い訳にはならない」と強調する。
規制に反対する全米ライフル協会(NRA)は、今回の銃規制を「世紀の戦い」と対決色をあらわにしており、国民的な議論を巻き起こすのは確実な情勢だ。【1月26日 産経】
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銃規制強化が“政府による国民の権利への過剰介入”とは思いませんが、銃が大量に存在する社会において銃保持が自分や家族の安全を守る拠り所ともなっている現状はわかります。
しかし、薬物依存症の患者が薬物を求める言い様にも聞こえます。
やはり「それが何もしないことの言い訳にはならない」というのが、事態改善のための正論でしょう。

今後の世論は・・・?】
ただ、今は銃規制強化を求める声もそれなりに大きくなっていますが、銃への依存が強いアメリカ社会ですので、今後の世論の風向きはわかりません。

****銃規制強化求め数千人がデモ=「銃ではなく子供守れ」―米首都****
米首都ワシントンで26日、銃規制強化を求める数千人規模のデモが行われた。デモにはダンカン教育長官や2012年12月の銃乱射事件で小学生20人が犠牲となったコネティカット州サンディフックの住民のほか、多くの子供も参加した。

デモ参加者は、銃で殺害された子供たちの写真や「銃ではなく、子供を守れ」などと書かれたプラカードを掲げ、連邦議会議事堂前からワシントン記念塔まで行進した。
ダンカン長官は、自らがシカゴ市の教育長を務めていた際、2週間に1人の割合で生徒が銃による暴力の犠牲になっていたとし、「(銃規制強化へ)今こそ行動しなければならない」と繰り返し訴えた。【1月27日 時事】 
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毎年6月に行われる同性愛者の権利を求めるゲイ・パレードでも、ニューヨークなどでは50万人規模で行われます。
“銃規制強化を求める数千人規模のデモ”・・・いささか心もとない感もしますが・・・・。
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「国家」という枠組み ボスニア・ヘルツェゴビナ、アメリカ、EU

2013-01-30 21:28:41 | 国際情勢

(ラスベガスで移民制度改革案を発表するオバマ大統領 【1月30日 ロイター】http://jp.reuters.com/article/jpUSpolitics/idJPTYE90T01020130130

国家の枠組みに関する最近の話題。
民族の分断で、国家の枠組み維持に苦慮するボスニア・ヘルツェゴビナ
不法移民の流入に悩みながらも、よりオープンな形で国家のアイデンティティを模索するアメリカ
国家の枠組みを超えて共同体を目指そうするEU

【「この国では個人の人権ではなく、『民族の一員』の人権しかない」】
ボスニア・ヘルツェゴビナでは、旧ユーゴスラビア連邦からの独立をめぐって1992年、イスラム教のモスレム人(ボシュニャク人)、カトリックのクロアチア人、セルビア正教のセルビア人の3勢力の間で紛争が勃発。
三つ巴の混乱に加えて、セルビア人勢力を支援するユーゴスラビア連邦軍の介入もあって戦況は泥沼化しました。
1995年には、イスラム教徒の男性約8000人が殺害された「スレブレニツァ虐殺事件」が発生するなど、「民族浄化」の言葉も生まれました。

1995年の「デイトン合意」で紛争は一応終結、ボスニア・ヘルツェゴビナとして独立したものの、ボシュニャク人とクロアチア人を中心としたボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人のセルビア人共和国に内部的に分断され、国家は3民族の不安定な均衡の上に成立しています。

中央政府の首相は事実上、3民族による輪番制になっていますが、2010年10月の総選挙後の組閣では、首相や閣僚ポスト配分を巡って難航し、新首相が決定するまで1年3カ月を要しています。
セルビア人からは分離を求める動きが絶えません。

分断は政治だけでなく、同じ小学校なのに民族・宗教ごとに教室や授業まで異なるといったように、教育・市民生活にまで及んでいます。

****国勢調査、対立の火種 ボスニア・ヘルツェゴビナ、また延期へ****
1992~95年の内戦後、正確な人口統計を持たないボスニア・ヘルツェゴビナで22年ぶりに決まった4月の国勢調査が、再び延期されそうだ。人口構成の変化が民族間の対立感情再燃というパンドラの箱を開きかねないからだ。

●3民族の均衡危うく 「政争の代用品に」
 《35%が「ボスニア・ヘルツェゴビナ人」》
11月初旬、主要紙にそんな見出しが躍った。本番の国勢調査を模し、一部地域で行われた試験調査が終わった直後のことだ。
最後の国勢調査は内戦に陥る前で旧ユーゴスラビア連邦時代の91年。当時の民族構成は、今はボシュニャク人と呼ばれるモスレム人が44%、セルビア人31%、クロアチア人17%。「その他」に当たる回答をした人は8%に満たなかった。記事は、試験調査で3民族の一部を上回る数の人が「その他」を選び、「ボスニア・ヘルツェゴビナ人」と答えたという内容だった。

「誰かが何かの目的で流した(偽の)情報だと考えざるを得ない」。ズデンコ・ミリノビッチ政府統計局長は頭を抱える。試験調査は技術上の問題点を調べるためで、集計結果はまとめていない。そんな数字があるはずはないのだ。

内戦後、国勢調査は民族対立を理由に見送られてきた。2001年に予定された調査はボシュニャク人勢力が難民帰還を待つよう主張。11年を目指した法案も、民族や宗教を問う質問をどう扱うかで頓挫した。
91年の人口は440万人。内戦を経て政府推定は現在380万人だが、300万人程度との見方も。国民の年齢分布が不明で社会福祉政策も作れない。

だが、待望の調査実施を前にミリノビッチ統計局長は「あらゆる方向から政治的圧力を感じる」という。
95年和平合意の一部である現憲法は、「構成民族」と呼ばれる3民族の権力均衡が基本だ。国をボシュニャク人とクロアチア人を中心としたボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人共和国に分け、3民族から各1人の幹部会員が8カ月交代で国家元首を務める。議会も定数15の上院は5議席ずつ割り振られる。

このため、3民族の一部がその他民族を下回ると、その勢力は権力分割の正当性を問われかねない。
民族を問う質問に「回答を強制すべきではない」とする欧州連合(EU)などの求めで、「答えない」の選択肢が加わった。質問を外すことが検討されたが、セルビア人共和国が強い権限を持つことを望むセルビア人勢力が強硬にこだわった。

調査を監視する非政府組織(NGO)のティア・メニシェビッチ代表は「この質問で国勢調査が政治闘争の代用品に代わってしまった」と話す。EUなど国際監視機構は12月、政府に半年延期を勧告した。

●帰属意識に変化
すべてが「二度と民族紛争を起こさない」ために設計された今のボスニア・ヘルツェゴビナを、「人工国家」と揶揄(やゆ)する人もいる。

中央、連邦、セルビア人共和国のほか中立都市、連邦10州にそれぞれ「政府」があり、すべての議会、官庁で民族均衡の原則が働く。公共機関は民族構成比に配慮して職員を採用。ある国会議員は「冬タイヤの基準を決めるのも3民族合意」と自嘲的に語った。

ただ、民族への帰属意識は、突きつめれば個人の考え方の問題。国民の意識には変化も生まれている。地方と都市部の差はあるが、国連開発計画(UNDP)が07年の調査で3580人にそれぞれの民族と「ボスニア・ヘルツェゴビナ国民であること」のどちらにより帰属意識を感じるか聞くと、43%が後者を選んだ。
政治参加を促進するNGOを運営するダルコ・ブルカン氏(33)は「『ボスニア・ヘルツェゴビナ人』意識は言われているより広がっている」と話す。
「でも、政治は民族別だからそんな声を反映しない。政府は意思決定ができず、経済発展もない。私たちはいらだっている」

3民族の権力分割を定めた憲法は今、改正を求める国際圧力にさらされてもいる。欧州人権裁判所(ストラスブール)は09年、「幹部会や上院議員への立候補が認められないのは人権違反」とするユダヤ人のヤコブ・フィンチ元スイス大使の訴えを認めた。判決は権力分割が和平をもたらしたと認定する一方、少数民族の権利を認めるよう求めた。

フィンチ氏は「少数民族のために訴えたのではない。この国では個人の人権ではなく、『民族の一員』の人権しかないことを明らかにしたかった」と話す。
判決から3年。国勢調査が実現すれば、憲法改正が議会の最大の焦点になる。

ボシュニャク人の最大勢力、民主行動党のハビッド・ゲニャツ幹部会議長は「この国に権力分割は絶対必要だ。少数民族の権利の問題は『その他』民族を構成民族に加えれば解決できる」とする。一方で「すべてが市民ではなく、民族の問題になってしまうのは(民族分離が進む)地方の権限が強すぎるから」とセルビア人勢力への牽制(けんせい)も忘れなかった。 【1月30日 朝日】
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ボスニア・ヘルツェゴビナについては、憎しみ合う民族をひとつの国家の枠組みに縛りつけることの無意味さを以前のブログでも取り上げたことがありますが、ただ、分離したとしても話は簡単ではありません。
「『ボスニア・ヘルツェゴビナ人』意識は言われているより広がっている」・・・というのが事実なら、今後に希望が持てます。しかし、民族を超えて“市民”として国民和解に至るまでには、長い時間が必要とされるようにも思います。

【「アメリカ人の条件は血縁や出生地だけじゃない。国の基盤となる原則に忠実であることだ。」】
移民の国アメリカは、今も多くの不法移民を抱え、その扱いが政治的にも大きな問題となっています。
大統領選挙の勝利という“実績評価”を得て2期目に入ったオバマ大統領は、ここ1~2年が政治的には一番力を発揮できる時期ですが、やはり大きな政治課題である銃規制への取組と並んで、移民問題についても、よりオープンな国家枠組みを目指す方向で動きを見せています。

****もっとオープンになるオバマのアメリカ****
政権2期目の目玉として、オバマは不法滞在者1100万人に市民権を与えるなどの改革案を打ち出した

1月29日、ネバダ州ラスベガスのデルソル高校に意外な人物がやって来た。バラク・オバマ米大統領だ。
不法移民問題を政権2期目の重要課題として掲げるオバマはこの日、自らの包括的な移民制度改革案を発表する演説会場として、ヒスパニック系の生徒が半数以上を占めるデルソル高校を選んだ。

「アメリカは移民の国だ」と、大統領は聴衆に向かって語りかけた。「今こそ常識的で包括的な移民制度改革に取り組むべきだ」
この前日には、共和党のジョン・マケイン上院議員や民主党のチャック・シューマー上院議員ら超党派の有力議員たちが、包括的な移民法案の骨子で合意。オバマはこれを示唆しつつ、「長い年月を経て初めて、共和党と民主党がこの問題に一緒に取り組む気になったらしい」と期待を示した。

「アメリカ人の条件」を問い直す
しかし同時に、「とりとめのない論争のせいで、移民制度改革が滞ることは許されない」とけん制。意見対立が再燃して議会の調整がなかなかつかない事態となれば、自分の提案内容で法案成立を主導すると、強い姿勢を示した。すると、会場からは歓声が沸き上がった。

今回の改革案で、オバマは三つの大きな柱を打ち出した。1つ目は、国境警備や違法な就労の取り締まりの強化。2つ目は、1100万人に上る不法滞在者に市民権の付与を認める道を開き、具体的な申請の条件やプロセスを定めること。そして3つ目は、市民権を取得した住民が国外の家族を呼び寄せたり、外国人学生が卒業後にそのままアメリカで事業を始めたりしやすくなるよう、制度を改革することだ。

「この問題に力を入れるほど、感情的な論争が高まるだろう」とオバマは語った。「アメリカ国民である『我々』と、移民である『彼ら』。そんな感覚で議論が広がりがちだ。かつては『我々』も『彼ら』だったことは簡単に忘れてしまう。先住民でない限り、誰もがどこかからやって来たのに」
そして、こう訴えた。「アメリカ人の条件は血縁や出生地だけじゃない。国の基盤となる原則に忠実であることだ。これは単なる政策の議論ではなく、人間に関する議論なのだ」【1月30日 Newsweek】
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これまで移民対策について閉鎖的な対応を主張してきた共和党は、昨年の大統領選で移民の多くを占めるヒスパニック系の支持を得られなかったことが敗北要因の一つになりました。
今後、有権者に占めるヒスパニック系の比重はますます増大します。
このため共和党内部にも、党勢立て直しに移民制度改革での柔軟な対応が必要との見方があることが、財政問題など民主・共和両党の対立で身動きがとれないことが多いオバマ大統領にとっては追い風となっています。
もっとも、共和党は国境警備の強化が先決という立場でオバマ大統領とは異なっています。

【「グローバル化した世界で欧州の一国はごく小さいが、欧州がまとまれば指導的役割を果たせる。」】
既存の国家の枠組みを超えて、共同体として更に深化し「欧州合衆国」を目指すというのがEU。
イギリスのようにEU離脱が話題になる国が存在する状況で、どこまで現実味のある話なのかは知りませんが、“構想”として語られるだけでも驚きがあります。

****EU:20年までに「欧州合衆国」 欧州委副委員長、議会強化を提唱****
欧州連合(EU)の内閣にあたる欧州委員会のビビアン・レディング副委員長(司法担当)=ルクセンブルク=が毎日新聞のインタビューに応じ、20年までにEUの基本条約を改正し、「欧州合衆国」を作る構想を明らかにした。欧州議会を強化し、議会が選ぶ内閣を設置、各国首脳の会議が監視機能を果たす内容。欧州債務危機でEUへの不信感は高まっているが「だからこそ市民はEUの変化を求めている」と改革に自信を見せた。

キャメロン英首相がEU離脱の是非を問う国民投票を実施する方針を示したことについて「グローバル化した世界で欧州の一国はごく小さいが、欧州がまとまれば指導的役割を果たせる。一つの加盟国の一部のEU懐疑派にEUの将来を決めさせることは許さない」と厳しく批判。単独行動は「政治的に誤った方向だ」と指摘した。

EUは各国首脳で構成される欧州理事会が最高の権力機関。欧州委がその決定を執行する内閣にあたり、欧州議会が法律をチェックする。ただ、議会に立法権がなく、欧州委より各国首脳の欧州理事会の方が力が強い構造になっている。首脳間で政策が決定されることが多く、不信感を呼ぶと指摘されている。

副委員長は欧州委のナンバー2で、条約改正や将来構想に影響力を持つ。副委員長は、欧州債務危機で共通通貨ユーロや中央銀行の欧州中央銀行(ECB)はあるのに共通の財政・経済政策がない欠点が指摘されたことを念頭に「危機はもっとEUが統合すべきであることを示した」と主張し、政治・経済統合の重要性を指摘した。

副委員長構想によると、権力の「正統性を高める」ため欧州議会の権力を強化し、内閣は議会が選ぶ。各国首脳の会議が米上院のような役割を果たす2院制を導入する。
14年の欧州議会で是非を問う。その上で15年に各国政府、議会、欧州議会、欧州委が参加する「制憲会議」を発足させ、18年までに憲法にあたる新たな基本条約案を策定。各国の国民投票を経た後20年までに施行する。【1月29日 毎日】
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イラン  難航する核開発問題協議再開  制裁で疲弊する経済  「イスラムの価値」徹底の動きも

2013-01-29 23:41:25 | イラン

(イラン・テヘランの街角で見られる“腎臓売ります”の落書き “flckr”より By Kombizz http://www.flickr.com/photos/kombizz/5736845988/)

イラン核施設で爆発?】
真偽のほどは定かではありませんが、イランの核施設で大規模爆発があったとの報道が流れています。
かねてより、イスラエルはイラン核開発を実力で阻止する意向を示していますので、イスラエルの工作活動か・・・という憶測も出てきますが、アメリカが報道の信ぴょう性を疑問視していますので、恐らくはデマなのでしょう。

****イラン:「核施設爆発」報道相次ぐ…政府「事実無根*****
イラン中部にあるフォルドウ核施設で大規模な爆発があったとの報道が相次ぎ、イラン政府が「事実無根だ」と否定している。米欧諸国やイスラエルが最も警戒する地下核施設で、厳重な管理下にあるとされ、事故なのか、外国による工作活動か、情報の真偽を含めて臆測を呼んでいる。

 ◇米側も疑問視
米ニュースサイトWND上に24日、元イラン革命防衛隊員で米中央情報局(CIA)のスパイを自称する男性が記事を掲載。イラン情報省の元関係者からの話として、フォルドウ核施設で21日午前に大きな爆発があり、技術者ら240人が閉じ込められたとした。

英タイムズ紙(電子版)は28日、イスラエル情報筋が爆発があったことを確認したと伝えた。一方、米国のカーニー大統領報道官は28日、「(爆発の)報道が信ぴょう性があるとは思えない」と爆発を疑問視した。事実であれば、国際社会が懸念する核開発活動が一定後退する可能性もある。

イラン国営テレビによると、イラン原子力庁のバルブロウディ副長官は28日、「(核施設爆発は)全くのうそで、西側諸国の宣伝行為だ」と反論。イラン軍高官も「爆発は一切ない」と否定した。

フォルドウ核施設は09年9月に存在が発覚。地下深くに約2000台の遠心分離機が設置され、国際原子力機関(IAEA)の一定の監視下でウラン濃縮活動を行っている。米欧やイスラエルは施設の解体を要求しているが、イラン側は「平和的な核開発だ」と主張して応じていない。【1月29日 毎日】
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双方の信頼醸成には程遠い状況
オバマ大統領から政権2期目の国務長官に指名されたジョン・ケリー上院外交委員長は、就任の可否を判断する公聴会で、イランの核兵器開発について「大統領と私は問題の外交的解決を選ぶ」と述べ、制裁と交渉を組み合わせた外交的解決を追求する考えを明示しています。
アメリカ同様、経済制裁で経済が悪化しているイランとしても、交渉に何らかの道筋をつけたい思いもあります。
しかし、イランの核開発問題協議の再開は難航しています。

****核問題:協議再開、調整が難航…トルコ開催にイラン難色****
イランと、国連安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国との核開発問題協議の再開を巡り、調整が難航している。一時は今月末にもトルコで再開するとの観測が流れたが、イラン側が開催場所について異議をとなえ迷走している模様だ。

イラン核協議は昨年6月にモスクワで開かれたが、核の平和利用の権利を主張するイランと、ウラン濃縮停止や核施設の閉鎖をイランに迫る6カ国側との溝が埋まらず決裂した。その後、米欧諸国が経済制裁を強めたため、イラン経済は急速に弱体化。イランは協議を再開し、制裁解除につなげたい考えだ。

核協議は今月末にトルコ・イスタンブールで再開することで決まりかけた。しかし、シリアのアサド政権に批判的なトルコでの開催に、シリアの同盟国のイランが難色を示した。イランは新たな開催場所候補としてカイロを挙げたが、エジプト政府の了解は得られていない。イランとエジプトは長く国交を断絶していたが、11年2月にムバラク政権が崩壊して以降、関係修復が進みつつある。

イラン国営通信によると、他にカザフスタンやトルクメニスタン、スウェーデンなどが開催場所の提供に意欲的だとしているが、今月中の開催は困難な情勢だ。

6カ国側の窓口、アシュトン欧州連合外務・安全保障政策上級代表(外相)の報道官は23日、イランの姿勢を「開催場所を変更したり、返答を遅らせたり、態度を変えてばかりだ」と非難。これに対し、イラン側は「時間かせぎをしているのは6カ国側だ」と反発し、双方の信頼醸成には程遠い状況だ。【1月29日 毎日】
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NATO、トルコにパトリオット配備 警戒を強めるイラン
なお、シリア・アサド政権批判を鮮明にしているトルコには、NATOがシリア国境にパトリオットを配備しています。隣国トルコへのNATOのミサイル配備に、イランは警戒を強めています。

****NATO:迎撃ミサイル「パトリオット」、トルコで運用****
北大西洋条約機構(NATO)は26日、トルコのシリアとの国境線沿いに配備した地上配備型迎撃ミサイル「パトリオット」(PAC3)の運用を開始した。化学兵器を含むシリアからの弾道ミサイル攻撃などに備える。月末にはフル稼働する予定。
NATOによると、迎撃ミサイルを展開する加盟国の米、ドイツ、オランダのうち、まずオランダのミサイルがNATOの司令網と連結され、稼働可能となった。

トルコ・シリア国境は全長900キロにものぼり、すべての国境線の防衛は事実上、不可能。だがパトリオットの配備で、トルコの総人口7400万人の約半分にあたる3500万人を防衛できるようになるという。NATOは配備について、シリアに飛行禁止空域を設定するためではなく、あくまで「純粋な防衛」のためだと説明している。【1月27日 毎日】
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“こうした動きにシリアの同盟国イランは強く反発しており、メフマンパラスト外務報道官は6日、「ミサイル配備はイスラエルを守るためのものだ」と3カ国の動きをけん制した。イランはシリアのアサド政権を擁護すると同時に、トルコへのミサイル配備がNATOによる将来のイラン攻撃への布石にならないか懸念を強めている。”【1月7日 毎日】

【「制裁下のイランではろくな仕事がない」】
経済制裁で疲弊するイランでは、腎臓の闇売買が盛んになっているそうです。
もともとイランでは一定の条件下で腎臓売買が合法とされるというのも、驚きです。
イランは北朝鮮などと違って、選挙が一定に機能している国ですから、アフマディネジャド大統領など為政者としては、市民生活の困窮・不満の増大には当然ながら神経を使います。

****イラン:腎臓の闇売買が横行、違法手術も…借金苦背景に****
米欧諸国による相次ぐ経済制裁で打撃を受けるイランで、腎臓売買が盛んになっている。イランは一定の条件下で腎臓売買が合法とされる異例の国だが、借金苦などで規定以上の高額で腎臓を売る人が相次ぎ、闇売買、違法手術が横行しているという。首都テヘラン市内には、血液型や携帯電話の番号が殴り書きされた場所が数カ所あり、切羽詰まった人々の悲痛な思いが感じ取れる。(中略)

路上の落書きで「買い手」を誘うのは、高額の報酬を求める闇の腎臓提供者たちだ。テヘラン東部の電気修理業の男性(26)は、事業資金や昨夏開いた結婚式のため友人や親類から多額の借金を重ねた。しかし、核開発問題に対する米欧の経済制裁などによる物価高で借金が返せない。数カ月前に路上に腎臓提供の張り紙をした。1億2000万リヤル(約38万円)程度で提供したいが、希望者からの連絡はない。「制裁下のイランではろくな仕事がない。(腎臓提供以外に)借金を返す方法がない。妻には内緒だ」とため息をついた。(後略)【1月9日 毎日】
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ロケット技術向上に、アメリカやイスラエルが警戒感
核開発に話を戻すと、核兵器の使用には核兵器と並んで長距離弾道ミサイルの開発も必要になりますが、この方面でもイランは成果をあげているようです。

****イラン、サルの宇宙打ち上げに成功=ロケット技術向上に警戒も****
イランからの報道によると、イラン国防省は28日、サルを乗せたロケットを打ち上げ、高度120キロ超の宇宙空間に到達したと発表した。打ち上げ日時など詳細は明らかになっていないが、サルは生きたまま地上に戻り、回収されたという。今回の打ち上げは「有人宇宙飛行への準備」の一環としている。
イランは2011年にもサルの宇宙打ち上げを試みたが失敗している。

核兵器開発疑惑が浮上しているイランがロケット技術も向上させていることに、米国やイスラエルが警戒感を強めている。ロケットは核兵器の運搬手段の一つ、長距離弾道ミサイルに転用される恐れがある。
イランは核技術、ロケット技術ともに「平和利用」が目的だと主張している。【1月28日 時事】 
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保守化の動き、体制が思い描く価値観を徹底させる狙い
6月には大統領選挙が予定されているイラン国内の状況については、改革派抑え込みは相変わらずのようです。

****改革派系メディア一斉捜索、13人逮捕…イラン****
イランの治安当局は27日、不適当な海外メディアに協力したとして、改革派系の新聞など6社を一斉捜索し、計13人を逮捕した。
各社の一斉捜索・逮捕は異例。6月の大統領選を前に、イスラム体制側が、体制を批判する改革派勢力に「警告」を与えたとみられる。(後略)【1月29日 読売】
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学生ら若者の民主化運動への傾倒を警戒したものか、大学での取り締まり強化の動きも出ているようです。

****イランの大学、保守化 男女別授業・服装違反3回で退学****
イランの大学で男女別授業や服装の厳しい取り締まりが目立ち始めた。「イスラムの価値」に基づく男女のあり方を高等教育の場でも、というわけだが、性別による入学制限の動きすら出てきている。政府の狙いをいぶかしむ声もある。

 ●「イスラムの価値」徹底
首都テヘランの国立アラメ・タバタバイ大学。・・・・大学には約1万9千人が通う。昨年9月の新学期から一部の授業が男女別になった。ファリブーズ・ドルタージ副学長は「大事なのはここがイスラム社会だということ。男女別の方が感情的な問題も起きず、勉強に集中できる」と話した。・・・・イランには国立・私立あわせて444の大学がある。「男女別」の導入数は不明だが、地元メヘル通信によると、高等教育を所管するダネシュジュー科学技術相は「82%の親が男女別の授業に賛成している」と語り、広げていく意向を示している。

 ●反体制デモ契機か
髪はスカーフなどで覆い、体の線が出ないコートを着用する――。いわゆる「イスラム式服装規定」はイラン女性の義務だ。だが若い女性には、スカーフを浅くかぶり、前髪をのぞかせるスタイルがはやる。大学は神経をとがらせる。

テヘラン郊外の私立大学に通う男子学生(21)によると、昨秋から服装チェックが厳しさを増した。「女子は化粧やイヤリング、ネイルアートも禁止。男子も半袖が許されなくなった」。校門での服装検査に引っかかれば校内に入れず、違反3回で退学だという。

男女別の授業に、服装検査。「大学保守化」ともいえる一連の動きの理由を科学技術省はきちんと説明していない。だが、体制が思い描く価値観を徹底させる狙いがあるようだ。
きっかけは、2009年6月の大統領選後に起きた大規模な暴動にあるとみられる。学生がデモに加勢し、アフマディネジャド大統領の再選無効にとどまらず、イスラム体制の打倒まで叫んだ。国を統治する宗教指導者らが危機感を募らせたのは間違いない。

科学技術省高官は10年秋、大学の人文科学系の学問には「西洋で発達したものでイスラムの原理に合わない部分がある」と発言。イスラム色を強める必要性を唱え、各大学が教科書の見直しに着手した。
そして、この6月にはまた大統領選が控えている。

 ●性別で入学制限も
教育の機会を妨げる動きも出てきた。イランの大学・大学院生は、約450万人。うち約6割を女子が占める。だが昨年秋の入学者から女子を募集しない学部・学科が出はじめたのだ。(中略)
科学技術省幹部は「学生寮の問題や企業の求人を考慮して各大学が決めたことだ」と説明する。「国として男女を差別しているわけではない」といい、男子に制限をかける大学もある。

ただ、最高指導者ハメネイ師は「イスラムは女性が仕事を持つことに同意している」としつつ、「女性の仕事で何より重要なのは子どもの教育と夫の精神を支えること」と説く。イランの人口を1億5千万人にほぼ倍増させる構想にも何度か言及している。

イランの人権団体はウェブサイトで「女性の社会進出を認めず、家庭におしとどめようとするところに本当の目的がある」と批判。「女性差別の動きが大学から社会に広がりかねない」と懸念する。(後略)【1月10日 朝日】
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アジア「最後のフロンティア」ミャンマー  注目される「政治家」スー・チー氏の判断

2013-01-28 23:13:43 | ミャンマー

(国民民主連盟(NLD)が販売している“スー・チー”カレンダー グッズ販売は、旧軍事政権とつながりの深い政商からの資金提供とは違って、まっとうな政治資金調達です。 “flickr”より By nican45 http://www.flickr.com/photos/nican45/8337038653/

対外債務問題に道筋 ひとつの節目
テイン・セイン大統領のもとで民主化・改革に取り組むミャンマーはアジア「最後のフロンティア」とも呼ばれ、世界各国が経済進出を狙っていることは、これまでも取り上げてきたところです。

経済制裁の大半を解除したアメリカは、オバマ大統領が昨年11月にミャンマーを訪問し、今後2年間で1億7千万ドル(約138億円)の援助を行うことを表明しています。

日本も、野田前首相がASEAN関連首脳会議の際に行テイン・セイン大統領と会談、26年ぶりに500億円の円借款を行うことを約束しています。
今年に入ると、就任したばかりの麻生太郎財務相が国内問題を先送りする形でミャンマーを訪問、民主党前政権によって示された債務放棄や円借款の方針を改めて確認しています。
こうした取り組みは、ほとんど未開拓の市場であるミャンマーでの日本の役割を強固にすることを目指しています。

****5500億円の債務免除、債権国と合意 ミャンマー****
ミャンマーは28日、対外債務のうち約60億ドル(約5500億円)分を免除することで債権国と合意したと発表した。軍政からの迅速な民政移行を目指すミャンマーにとって1つの節目となる。

ミャンマー政府によると、25日に開催されたパリクラブ(債務国の返済軽減措置を決める債権国会合)で債務の半分を免除することで合意し、また残りの負債返済についても15年かけて見直すことが決まった。日本が放棄する債務額は30億ドル(約2700億円)、ノルウェーは5億3400万ドル(約485億円)だという。

さらにミャンマーは、日本の国際協力銀行(JBIC)からの融資で世界銀行とアジア開発銀行に対する延滞債務も解消。これを受け世銀とADBは数十年ぶりにミャンマー向け融資を再開。9億ドル(約820億円)超を融資した。【1月28日 AFP】
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この対外債務問題の整理は、昨年9月に日本政府の仲介により方針が決まっていたものです。
対外債務問題に道筋がついたことで、ミャンマーの経済改革、海外からの投資・進出に更に弾みがつきそうです。

新市場に潜むリスクも
ただ、テイン・セイン大統領の“民主化”が今後も進展するのか、制裁解除は早過ぎたのでは・・・といったそもそもの議論以外にも、ミャンマーの抱える問題点も多く存在しています。

****世界が熱視線を送る最後のフロンティア****
注目度の高い新市場に潜むこれだけのリスク
 
・・・・それまで人権弾圧などを理由に欧米諸国に経済制裁を科せられ、国際的に孤立してきたミャンマーだが、実は天然資源が豊富な推定人口6000万人以上の大市場。中国や他の東南アジア諸国に比べて人件費も安い。
新たな未開拓市場として期待が高まるのも当然だ。

新政権も、積極的に経済改革に取り組もうとしている。
例えば、公定レートと市中レートの2つのレートがあった二重為替制度を改めて管理変動相場制を導入する。
金融システムも、中銀行の役割や銀行制度を1から見直さなければならない。
外国企業を誘致するための法整備もまだ十分とは言えない。
いずれも、15年までに域内の関税を撤廃し、投資を自由化するASEAN(東南アジア諸国連合)統合を見据えた動きだ。

外国企業にとってミャンマーの最大の魅力は、人件費の安さと労働力の質の高さ。
かつて「世界の工場」と言われた中国は、賃金の高騰が激しく人材の確保が困難になっているのに対し、ミャンマーの賃金は中国の5分の1程度といわれる。
国連の統計によれば成人の識字率は約92%に達するとされ、単純労働者の質も高い。敬虔な仏教徒が多く、勤勉だとも言われる。

外国投資法も期待外れ
だが、問題も少なくない。電力供給などのインフラはまだ整備されておらず、国内最大の都市ヤンゴンでも停電は頻繁にある。インターネットの普及もこれからだ。

不動産の値上がりも激しい。オフィス不足で賃貸料は跳ね上がっている。あるヤンゴン在住者によれば、1年契約の住宅の賃貸料も昨年1年で倍以上になったという。

半面、購買力でみた国内市場はまだ小さい。労働者の月収は80ドル程度と言われ、金融制度が未発達のためカードやローンはほとんど利用できない。

市場開放には国内の抵抗もある。外国企業の投資を促すため新しい「外国投資法」が昨年11月に成立したが、外資の出資上限や最低資本金額などで、開放を目指す大統領と既得権益を守ろうとする軍政の生き残りが多
い議会との間で1年半以上もめた。結果、最低資本金額は「ミャンマー投資委員会が決める」との条文が法律に盛り込まれるなど、運用は不透明なままだ。

結局のところ、ミャンマーの市場開放から最大の恩恵を受けているのは、ミャンマーと約2000キロの国境を接し、軍政時代から関係の深かった中国だろう。ミャンマーのGDPの半分近い年間200億ドル以上の投資を約束し、代わりに油田や天然ガス田の開発を請け負っている。

もっとも、中国も国境付近の情勢不安には警戒を強めている。ミャンマー政府は少数民族が作る多くの反政府勢力と停戦に合意したが、北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」との交渉は難航中。昨年末には空爆して犠牲者を出し、爆弾の一部は中国国内にも着弾した。

欧米では経済制裁の解除が時期尚早だったのではないか、という声も上がっている。仮にそうだとしても、今更ミャンマーを開放前に引き戻すのは難しいだろう。【1月29日号 Newsweek日本版】
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「外国投資法」をめぐっては、「外国企業への開放、経済改革」を目指す大統領側と、既得権益を守ろうとする議会との間で激しい綱引きが行われたことが報じられていました。結果、“妥協の産物”ともなっており、今後の運用次第といったところです。

国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざま
軍政時代に権益を拡大した中国については、ミャンマー中部モンユワで国軍関連企業が中国と進める銅山開発の動向が注目されています。
土地収用などに抗議していた住民や僧侶らを当局側が強制排除し、数十人が負傷した件については、12年11月30日ブログ「ミャンマー  銅山開発抗議の住民を強制排除、負傷者多数 民主化・開発について思うこと」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20121130)でも取り上げました。

事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長には、“民主化運動指導者”であるアウン・サン・スー・チー氏が選任されており、“政治家”スー・チー氏がどのような判断を下すのかという点でも興味深いところです。

****政治家」スー・チー氏に試練 銅鉱山開発の是非判断へ ****
ミャンマーで中国企業による銅鉱山開発に地元住民らが反対しているのを受け、政府は事業継続の是非を判断する調査委員会の委員長にアウン・サン・スー・チー氏を起用した。
「中止」と判断すれば対中関係悪化を招き、「継続」なら国民の失望を買いかねない。国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」のはざまで、難しい決断を迫られる。(中略)

ミャンマー中部の「レパダウン銅山」。スー・チー氏が視察で現地入りする直前の11月29日未明、開発中止を求めて居座るデモ隊のキャンプを警官隊が急襲した。催涙ガスや放水で強制排除に乗り出し、参加していた僧侶を含む数十人が負傷。政府が「やり過ぎた」と謝罪する事態を招いた。

それでも現場に到着したスー・チー氏は、強制排除への非難は口にせず、開発の今後も「国際的な信用にも配慮しないと」「私の判断が皆さんを喜ばせるとは限らない」と慎重に言葉を選んだ。

銅鉱山は2010年に国軍系のミャンマー連邦経済持ち株会社と中国の万宝鉱産公司が共同開発に合意した。ただ環境汚染や土地の強制収用があったとして、今年6月に反対派が現場周辺を包囲し、工事が一時停止に追い込まれた。先月下旬には2度目の大規模な抗議デモが起き、政府も対応策へ重い腰を上げた。

スー・チー氏が調査委員会を任せられたのは、下院の法順守委員長であり、また国会でこの問題を提起したのが同氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)の所属議員だったからのようだ。
スー・チー氏の歯切れの悪さの背景には隣国との外交関係の悪化懸念がある。中国企業が手掛け、中止に追い込まれた事業には、イラワジ川上流の大規模発電事業「ミッソンダム」がある。昨年9月、「国民の意思」としてテイン・セイン大統領が開発中止を決め、国内外から喝采を浴びた。

ただ旧軍事政権時代の契約とはいえ、両国合意の計画を一方的に破棄するのは異例。中国側は不快感を示しつつ静観したが「2度目」となれば巨額の違約金請求など強硬手段に出る公算が大きい。
今回も国民感情は「中止」に傾く。「中国と国軍。2つのキーワードを国民は嫌悪する」。外交筋はこう分析しつつも「もし開発中止となれば今後の外資誘致に影を落としかねない」とみる。

一方で国民人気がよりどころのスー・チー氏は「民意」も袖にはしにくい。苦い経験もある。今年5月、西部で激化した仏教徒とイスラム教徒の民族・宗教対立で、イスラム教徒側に配慮する発言が仏教徒が大多数を占める国内で非難を浴びた。その後はこの問題に口を閉ざすが、今度は国内外から「逃げ腰」と批判され、対応に苦慮する。

調査委員会の中間報告書の大統領への提出期限は来年1月末。限られた時間で政治家としての能力と決断力が試される。【12年12月11日 日経】
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経済や軍事、政治の面で大国化した中国に対する反感はアジア近隣諸国で高まっていますが、中国の進出が著しいミャンマーでは、その分、中国への反発も大きくなっています。

****アジア諸国で高まる反中国感情****
ミャンマーの歌手リンリンさんはコンサートで、愛や環境、自由をテーマにした曲を歌っている。だが、ファンがいつも求めてくる曲は、そうした曲ではなく、中国人移民に乗っ取られた故郷を嘆いた作品だという。

「この都市に住みついた彼らは誰だ?/北東の国からここにたどり着いた隣人/僕は恥ずかしさのあまり耳をふさぐしかない/異邦人にめちゃくちゃにされてしまったのだ/愛するマンダレーは死んだ」。リンリンさんはアコースティックギターで穏やかなフォーク・ロック調の曲を弾き語る。

リンリンさんによると、過去10年の間に大勢の中国商人がマンダレーに押し寄せ、地元の企業を買い漁ったり、住民を市外に追い出したりしたという。この「マンダレーの死」という曲を歌う彼の姿はファンの1人によって撮影され、インターネット上に公開された。それ以来、数十万人がその動画を見た。

「どの公演でも、必ずこの曲がリクエストされる」と語るリンリンさん。中国文化や勤勉な多くの中国人は尊敬するが、彼らとの取引では得られるものより奪われるもののほうが多いと不満を口にした。(後略)【1月16日 The Wall Street Journal】
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“政治家”スー・チー氏については、こんな話題も。
****汚れたカネ」に開き直るスー・チー****
ミャンマー(ビルマ)の最大野党、国民民主連盟(NLD)の党首アウン・サン・スー・チーの清廉なイメージに傷が付いた。旧軍事政権とつながりの深い政商から、NLDが金を受け取っていたことが分かったのだ。
彼ら政商は約50年にわたり国を支配した軍事政権の取り巻きで、その立場を利用して富を築いてきた。国内でも悪評は高い。

NLDも献金の事実を認めており、教育・医療対策のために実業家テー・ザから8万2353ドル、チョー・ウィンから15万8824ドルを受け取ったという。
テー・ザは武器密輸の疑いがあり、チョー・ウィンは最近南部カレン州で起きた強制土地収用に関係している人物だ。やはりNLDに献金したゾー・ゾーが所有する財閥マックス・ミャンマーは今も、欧米からの制裁を受けている。

イラワジ誌によれば、スー・チーはNLDの行動を擁護し、こう語った。「軍事政権の取り巻きだったとされる人々は、NLDなどの社会活動を支援してきた。そのどこが悪いのか?目的もなく金を使う代わりに、彼らは支援するべきことを支援した。それはいいことだ」【1月29日号 Newsweek日本版】
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詳しい事情はわかりませんが、随分と踏み込んだ発言のように思えます。
“国民人気に支えられた「民主化指導者」と冷徹な「政治家」”をどのように両立させていくのか、難しい立場にあります。

北部カチン州の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」の関係については、長くなるの比較的最近目にした記事だけ。

****カチン攻撃を停止=大統領府が声明―ミャンマー****
ミャンマー大統領府は18日夜、北部のカチン州で続く少数民族武装勢力カチン独立軍(KIA)との戦闘について19日朝以降、攻撃を停止すると発表した。国軍がヘリコプターなどによる空爆を行い多数の死傷者や難民が出たため、国際社会から非難の声が上がっていた。【1月19日 時事】
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日々大量に廃棄され続ける食料 求められる消費者の意識改革

2013-01-27 21:13:02 | 世相

(食べ残し100gあたり15RM(約450円)の罰金を徴収する旨の、マレーシア・クアラルンプールのレストランの表示 “flickr”より By Bhakti - Amsterdam  http://www.flickr.com/photos/bhaktiamsterdam/3351203591/

世界中の各地で飢えに苦しむ人々が多く存在し、ときに飢餓と呼ばれるような生命に関わる事態が発生することは事実ですが、恐らく世界全体で見れば、食糧は不足しているのではなく、むしろ過剰なほどに存在していると思われます。

食糧不足・飢えの問題は、内戦などの混乱や天候不順などでも特定地域で一過性に引き起こされますが、全体的には、購買力のある一部の階層、一部の国が多量に消費する関係で価格が上昇し、購買力のない一部の階層、一部の国では食糧を買えない・・・という国内的、国際的な富の偏在が根底にあるように思われます。
最近では、投機的な動きによって価格上昇が増幅されることで、より深刻な問題を引き起こしています。

食糧不足が世界に存在する一方で、多くの国では大量の食糧が日々無駄に廃棄されています。
冷蔵庫の中に食べ残しの食品がずっとしまわれており、結局ゴミ箱へ・・・というのは、個人的にもよく経験することです。
深夜、閉店時間のドーナツ店で、売れ残った商品を大きなゴミ袋にトレイからザバッ、ザバッと廃棄している光景を見た際には、さすがに“何かおかしいのでは・・・”とも思いました。毎日、日本中・世界中の食品販売店・スーパー・レストランなどで行われている行為でしょう。

****世界の食料の最大半分がごみに、英団体が警鐘****
英国の機械技術者協会は10日、世界で生産される食料のうち、最大で約半分に当たる20億トンもの量が廃棄されているとの報告書を発表した。

報告書「Global Food; Waste Not, Want Not(世界の食料:廃棄を減らし、欲するのをやめよう)」によると、世界で年間40億トン生産される食料のうち、3~5割が消費されずに捨てられている。
廃棄の原因は発展途上国でのインフラや貯蔵施設の不足、先進国での「1個買えばもう1個無料」キャンペーンや消費者のこだわりにあるという。

廃棄量が最も多い国の1つは英国で、生産される野菜の約3割が「形が悪い」ためスーパーが買い取らないという理由で収穫されていない。また、欧州と米国の消費者が購入する食料のうち半分が捨てられているという。

同協会のエネルギー・環境部門を率いるティム・フォックス氏は「これ(廃棄食料)は増加を続ける世界人口を支えたり、飢餓に苦しむ人々に与えたりできるはずの食料だ」と述べるとともに、食料の生産・加工・配送といった過程で使われる土地や水、エネルギー資源が無駄になっていることも指摘した。【1月11日 AFP】
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別に目新しい議論でもなく、皆が普段感じているところでもあるでしょう。
食糧廃棄量の数字については推計により様々ですが、言わんとするところは同じです。

****欧米の食料廃棄量も多い****
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の富裕国で廃棄される食料の量は年間およそ2億2200万トンで、サハラ以南のアフリカで生産される食料の総量(2億3000万トン)に匹敵する。
さらに詳しくみると、欧州と北米の消費者は1人当たり年間95~100キログラムの食料を廃棄している。対照的に、サハラ以南アフリカと南アジア、東南アジアの人びとの食料廃棄量は、1人当たり年間わずか6~11キログラムだ。(後略)【12年12月5日 AFP】
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消費者の鮮度や賞味期限、あるいは食品形状に対する過度のこだわりが、こうした現象の根幹にあることは言うまでもないところで、その意識改革が求められています。ただ、具体策となると・・・。

****減らせ「食品ロス」=事業・消費者の意識改革へ****
まだ食べることができるのに廃棄される「食品ロス」を減らす取り組みが、官民やNGOなど幅広い関係者の連携で始まった。日本ではコメの年間収穫量に匹敵する最大800万トン程度の食品ロスが毎年出ていると推計されており、流通段階も含めた事業者と家庭から半分ずつ発生しているとみられる。消費者の鮮度を求める志向やそれに合わせた商習慣なども一因とされ、事業者、消費者双方の意識改革も課題となっている。

「日本をはじめとする先進国では、商習慣や消費者の行動が食品ロスにつながりやすい」(国連食糧農業機関=FAO=日本事務所の大軒恵美子企画官)。FAOやNGO、食品生産・加工に携わる企業、自治体などで2012年12月に発足した「フードロス・チャレンジ・プロジェクト」が1月23日、初めて都内でシンポジウムを開催し、食品ロスの現状や削減に向けた取り組みが紹介された。

この中で、流通段階ではより新鮮な商品を店頭に並べようとして、賞味期限前の食べられる商品が店頭から除かれたりしている事例が報告された。こうした商習慣は「消費者が鮮度を求め、賞味期限の長い商品を望む限り、変えるのは難しい」(小売業界)のが現状だ。【1月27日 時事】 
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事業者は消費者の求めに対応してだけですから、基本的には消費者の意識の問題でしょう。

節約には縁遠いように思われる“飽食の国”ドバイでも、食べ残しを減らすため、量り売りレストランが登場したそうです。

****ドバイに「量り売りレストラン」開店、食料廃棄問題に注意喚起****
ぜいたくなビュッフェなどでの飽食で知られるアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、浪費をしない節度ある食事を推奨するべく、量り売りを導入したレストランが登場した。

トレンド情報サイト「スプリングワイズ」によると、ドバイ市内に多数あるぜいたくなビュッフェ形式のレストランでは食べ残しが多く、本来なら何の問題もない食料が廃棄されている。これに対抗して、ホテルチェーン「アルジャウハラ」を所有する企業ルータハ・ホテルマネジメントは新レストラン「グラモ」をオープンした。

量り売りレストランは決して目新しいものではない。ブラジルではサンパウロ市内を中心に、ランチ客が自分の食べたい分だけを皿に取るという量り売りモデルを採用するレストランが増えている。

■イスラム教特有の食料廃棄問題
だが、食料廃棄の問題はUAEでとりわけ深刻だ。イスラム教の断食月「ラマダン」の祝日などでは特に、主人のもてなしの手厚さがゲストにふるまわれる食事の豪華さによって測られるためだ。

例えば、アブダビではラマダン中に1日当たり推計500トン、隣のドバイでは1850トンの食料が廃棄されている。アブダビの環境当局はこの問題への対応策として、国民に調理する食事の量を減らし、日没後の食事「イフタール」のビュッフェではよく考えてから皿に食事を盛るよう呼び掛けてきた。(中略)

「グラモ」では、メニューから注文する形式と、ビュッフェ形式を選択することが可能だ。アラブの伝統料理のほか、世界各国の料理も提供している。
スプリングワイズによると、ルータハ・ホテルマネジメントは、このレストランが成功した暁には同じモデルを採用したレストランをさらに増やしていきたいとしている。【12月5日 AFP】
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“ふるまわれる食事の豪華さや量”が重視される風潮は、別にイスラム国家だけのものでもありません。
過度な豪華さや量へのこだわりは、貧困や飢えに苦しんだ時代に刻み込まれた意識のなせる業のようにも思えます。

意識改革には地道な取り組みが必要でしょうが、テレビなどメディアに溢れているグルメ番組や多食をゲーム的に扱うような番組もなんとかならないものでしょうか。
食欲は人間の欲望の根幹であると言えば、それまでですが・・・。
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グルジア  修復に動きだした対ロシア関係

2013-01-26 22:35:28 | ロシア

(昨年10月の議会選挙後の写真 勝利した野党連合を率いたロシアともつながりの深いイワニシュビリ氏(右)と、敗北した反ロシア・親欧米派のサーカシビリ大統領(左) 実権は首相に就任したイワニシュビリ氏に移行しつつあります。 “flickr”より By MIKHEIL SAAKASHVILI http://www.flickr.com/photos/saakashvilimikheil/8073867803/

【“罠にはまった”グルジア
グルジアはカフカス山脈の南麓、黒海の東岸にあたり、北側にロシア、南側にトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと隣接する国で、旧ソ連のひとつです。

2008年8月、グルジアからの分離独立を求める親ロシアの南オセチア自治州をめぐり、ロシアとグルジアが軍事衝突、ロシア側の圧勝に終わったグルジア紛争は、まだ記憶に新しいところです。
この紛争後、南オセチアやアブハジア自治共和国が独立を宣言、ロシアや南米ベネズエラなどが「国家」として承認していますが、欧米諸国はグルジアの領土保全を優先し、独立を認めていません。

グルジアの親欧米派サーカシビリ大統領は、ロシア側の侵攻が軍事衝突のきっかけだったとしていますが、グルジア側の南オセチアへの軍事攻撃が先で、それにロシア側が報復した・・・という構図の方が実態に近いのではとも見られています。

“紛争は8月8日、グルジアが北部の親露派地域、南オセチア自治州に軍事進攻し、ロシアが報復に出た構図。グルジアのヤコバシビリ国務相(再統合問題担当)は「ロシアが戦争をしたがっていると知り自衛せざるを得なかった」と述べ、ロシア軍戦車150両が7日にロシアから南オセチアに抜けるトンネルを通ったことを根拠に挙げる。
これに対し、グルジアの専門家、ザカレイシビリ氏は「グルジアは(戦争をしたがっていた)ロシアのわなにはまった」と指摘する。ロシアは1990年代からグルジア独立派地域のアブハジア自治共和国や南オセチアの住民に市民権を付与し、「自国民保護」の口実を作った。南オセチアからグルジアへの攻撃は8月に入り激しさを増しており、サーカシビリ政権はロシア側の“挑発”に乗ってしまったとの見方だ。“ 【08年9月1日 産経】

満を持していたロシア側の“罠にはまった”感があるグルジア・サーカシビリ政権ですが、当時、ロシアのメドヴェージェフ大統領は休暇中、プーチン首相は北京オリンピックの開会式に出席しており不在であったこと、アメリカの支援で増強されていた自国軍事力へのサーカシビリ大統領の過信なども、グルジアが攻撃に踏み切った背景にあるとも指摘されています。

権限移行で進む対ロシア関係修復
グルジアでは昨年10月に議会選挙が行われ、サーカシビリ大統領率いる与党と、ロシアでの事業で財をなした資産家、イワニシュビリ氏が反政府勢力を糾合する形で立ち上げた野党「グルジアの夢」が対決、結果、野党が勝利し、イワニシュビリ氏が首相に就任しています。

グルジアでは今年10月の大統領選後、首相と議会中心の体制へ移行することになっています。サーカシビリ大統領が3選禁止で退任が決まっていることから、首相へ転出することで実権を維持しようとする思惑からの変更とも見られていましたが、結果的にはその首相の座をイワニシュビリ氏に奪われる形となっています。
なお、イワニシュビリ首相は、グルジアの国内総生産(GDP)の約半分にあたる64億ドル(約4987億円、フォーブス誌推計)の資産を有し、各地に病院や教会を建設する篤志家としても知られる人物だそうです。

サーカシビリ大統領・与党敗北の背景としては、“かつて欧米諸国が「民主化の旗手」と持ち上げたサーカシビリ氏の政権運営は次第に権威主義に傾斜し、近年は民主化の後退が国内外で批判されている。失業率が公式統計でも14%にのぼるなど経済の実態は芳しくなく、08年のグルジア紛争をめぐっても政権の責任を問う声がくすぶっている”【2012年9月30日 産経】とも報じられています。

いつものことながら前置きが長くなってしまいましたが、08年に戦争を行ったグルジアとロシアの関係が、イワニシュビリ首相のもとで急速に改善しています。

****グルジア総主教が訪ロ=紛争後初、プーチン大統領と会談****
グルジア正教会のイリヤ総主教がロシアを訪問し、23日、モスクワ郊外でプーチン大統領と会談した。総主教訪ロは、2008年に南オセチアの独立をめぐって両国が衝突したグルジア紛争後初で、対ロ関係改善の象徴と受け止められている。

国交正常化が模索される中、イリヤ総主教は事実上のグルジア政府「特使」。会談で、イワニシビリ首相から託されたメッセージを伝えた上で、「首相は関係改善に必要かつ可能なことは全て取り組む」と語った。【1月24日 時事】 
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****ロシア:グルジアとの関係修復へ 首脳、要人接触相次ぐ****
08年に軍事衝突したロシアとグルジアの首脳や要人が今月下旬に相次いで接触しており、両国は関係修復に乗り出している。グルジアで昨秋に就任したイワニシビリ首相が歩み寄りを主導する一方で、ロシア政府も同国でサーカシビリ大統領の影響力が排除される動きを歓迎している。

ロシアのプーチン大統領は23日にモスクワ近郊で、グルジア正教会の最高指導者イリヤ2世(総主教)と会談した。イリヤ2世はイワニシビリ首相のメッセージを伝え、この中で、イワニシビリ首相は関係改善に臨む姿勢を鮮明にした。

スイスで開かれている世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席したイワニシビリ首相は24日、「ロシアとの関係を復興するために最善を尽くす」と言明。首相は23日にメドベージェフ露首相と接触しており、将来的な首脳間の協議に意欲を示す。

ロシアは以前から親欧米路線を敷くサーカシビリ政権と対立してきた。両国は08年に軍事衝突をきっかけに国交を断絶したが、昨年12月に2国間協議を再開。近く2回目の協議を開く。ロシアは関係改善策の一環として、禁輸としているグルジア産ワインや飲料水の解禁を検討中。2月初旬にグルジアと専門家協議を予定するなど、政府間の接触も活発になってきた。

グルジアでは昨年10月の議会選で、イワニシビリ氏が率いる野党連合が勝利したことを受け、サーカシビリ大統領の求心力が急落。首都トビリシでは今月20日、大統領に退陣を求める集会が開かれた。新政府も昨秋以来、サーカシビリ派高官を人権弾圧の疑いで相次いで逮捕し、大統領への圧力を強めている。【1月26日 毎日】
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“ロシアでの事業で財をなした資産家”というイワニシュビリ首相の登場で、ロシアとグルジアの対話は昨年12月から報じられていました。

****ロシア:グルジアと4年ぶりの2国間協議へ****
08年のグルジア紛争で衝突したロシアとグルジアは14日、ジュネーブで4年ぶりの2国間対話を行う。対露関係の改善を唱え10月の議会選の野党勝利を受けてイワニシビリ氏がグルジアの首相に就任したことで、両国は関係修復に乗り出した。(中略)

ロシアとグルジアは当面、経済分野を中心に関係改善に取り組む見通し。ロシアは禁輸対象のグルジア産ワインや飲料水について、輸入再開を検討する考えを示している。一方、グルジアからの独立承認を求めているアブハジアと南オセチアの処遇を巡り、ロシアとグルジアの立場がかけ離れており、外交面の難問が残されている。

ロシアはグルジア紛争直後、アブハジアと南オセチアを国家承認し、グルジアと国交を断絶。親欧米の立場を取るグルジアのサーカシビリ大統領を敵対視してきた。しかしロシアと関係の深いイワニシビリ氏が首相として実権を握ったことから、両国間で対話再開の機運が生まれていた。【2012年12月14日 毎日】
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今年に入ると、イワニシュビリ首相のもとで親ロシア政治犯への恩赦が行われ、対ロシア交渉への地ならしが行われています。

****親ロシア政治犯ら、グルジアで恩赦に 親欧米の大統領は批判****
旧ソ連グルジアで13日、政治犯190人が国会決議による恩赦で釈放された。親欧米・反ロシア路線を強権的に進めたサアカシュビリ大統領の政権下で拘束されたが、昨秋の国会総選挙で野党連合が大統領与党を破って政権を事実上奪取し、恩赦が実現した。サアカシュビリ大統領は「ロシアのスパイや工作員も釈放するのか」と反発している。

昨年10月の総選挙では、反大統領派の野党連合「グルジアの夢」が国会(定数150)の過半数を制し、リーダーで富豪のイワニシビリ氏が首相に就任。ロシアで事業経験のある同氏は欧米との関係維持とともにロシアとの現実的な関係修復を打ち出していた。

国会は昨年12月に恩赦を決議したが、サアカシュビリ大統領は署名を拒否。しかし、国会は再度、賛成多数で恩赦を決議し、今月12日に国会議長が署名して発効した。今後も恩赦は続く見通しだ。

現地からの報道では、イワニシビリ首相は地元テレビでのインタビューで「欧米からの圧力を乗り越えることができた」と発言。これに対し、サアカシュビリ大統領は「(新政権の行為は)グルジアの対外路線を破壊するたくらみだ」と批判した。東西冷戦終結から20年以上たっても、グルジアでは東西の対立路線が今も尾を引いている。

サアカシュビリ氏は今月20日で大統領就任から任期満了の5年を迎えるが、今秋の大統領選までポストにとどまる意向。反大統領勢力は早期辞任を求めてデモ活動を繰り返している。(モスクワ=副島英樹)【1月15日 朝日】
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“恩赦措置は、「グルジアの夢」などが選挙公約として掲げていた。内閣発足後、立法手続きに入り、サーカシビリ大統領が実権を握っていた04年から12年までに収容された「政治犯」をリスト化。今後、3千人を釈放し、約1万4千人の刑期を短縮することを決めた。”【1月16日 産経】とのことで、19日の「190人」はその第1陣です。

グルジアにとっては、主要輸出品であるワインや果物が現在ロシア市場から締め出されており、輸出禁止が解かれれば経済再生への一助となります。
一方、ロシアにとっては“グルジアに隣接する南部ソチで14年に冬季五輪を開催するロシアにとってもグルジアとの関係修復は、五輪の安全確保を図る上でメリットがある”【同上】とのことです。

旧ソ連圏のウクライナ、ベラルーシの現状
グルジアと同様にカラー革命で親欧米政権が樹立され、その後親ロシア政権への揺り戻しが起きている旧ソ連のウクライナでは、対ロシア関係で国論が二分されている状況です。

****ロシア訪問、急きょ中止=ウクライナ大統領****
ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、18日に予定していたロシア訪問を急きょ中止した。プーチン大統領との首脳会談に向けた事前調整が不調で、大きな成果が望めないためとみられる。

ヤヌコビッチ大統領はロシア、ベラルーシ、カザフスタンでつくる関税同盟へのウクライナの参加など経済問題を中心に協議する予定だった。ウクライナ大統領府は「合意にはさらなる協議が必要」と、訪問中止の理由を説明した。

10月に行われたウクライナ最高会議(議会)選挙の結果、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領の与党・地域党は第1党を維持したものの、欧州連合(EU)との関係を重視する親欧米派の新党などが台頭。対ロ関係で国論が二分している。【2012年12月18日 時事】
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また、旧ソ連のベラルーシは、依然として「欧州最後の独裁者」とも呼ばれるルカシェンコ大統領の強権支配が続いており、独自の外交政策を採っています。
ひところはロシアと欧米を天秤にかけるような対応でしたが、欧米諸国からの人権弾圧・野党弾圧批判は弱まっていません。
結果、ロシアに傾く流れです。

ロシアのプーチン大統領は就任直後にアメリカで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)を欠席、2012年5月末、就任後初めての外遊としてベラルーシを訪問しています。
これは、旧ソ連圏の結束を最重視する姿勢を鮮明にしたものと見られています。

ロシアは、ベラルーシ、カザフスタンの両国とスタートさせた関税同盟と統一経済圏を核に、旧ソ連圏での「ユーラシア経済同盟」に拡充深化させていきたい意向で、プーチン大統領はルカシェンコ大統領と会談し「ユーラシア経済同盟」の創設で協力すること、その見返りとしての融資の約束などで合意しています。
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中国  法治に反する「労働教養制度」は廃止されるのか?

2013-01-25 21:40:32 | 中国

(北京近郊の「労働教養制度」の収容施設(1986年6月12日撮影)【1月21日 AFP】http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2922392/10143710

裁判所の判断を経ずに最長4年間の身柄拘束と強制労働
中国社会には、日本や欧米の基準から考えると容認できない問題が多々あり、ひとつひとつ取り上げているときりがないほどですが、その大きな問題のひとつに「人権侵害の温床」とも言われる「労働教養制度」があります。

****裁判なしで「懲役刑*****
中国の悪名高い「労働教養制度」・・・・は、警察などの行政機関が政治犯や軽犯罪の容疑者らを対象に、裁判所の判断を経ずに最長4年間の身柄拘束と強制労働を科すことができる。
・・・・1957年に始まった同制度は、警察が実質的な「懲役刑」を科すことができるもので、工場や農場を併設した労働教養施設に収容される。中国紙によると、麻薬常習者をのぞく収容者は多い時で約30万人、2012年で約6万人に上っている。処分の基準が明確でないため、人権侵害や警察権力の暴走を招くとして、中国内でも見直しを求める声が高まっていた。・・・・【1月8日 朝日】
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つまり、強制労働による再教育制度ですが、法律・裁判によらず警察だけの判断で執行できる点が、非常に怖い制度です。
不服申し立ての陳情者など、地方政府や警察当局の意に沿わない行動をする者なども、よく対象とされるようです。

****陳情女性、強制労働のうえ遺体置き場に3年放置 中国****
中国で、当局に拘束された夫が受けた扱いに苦情を申し立てた女性が強制労働処分を受けたうえ、刑期後も3年にわたって未使用の遺体置き場に身柄を拘束されていたことが分かった。国営環球時報が25日、報じた。

報道によると、この女性は陳慶霞さん。苦難の発端は2003年、当時流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の検疫を逃れようとしたとして、陳さんの夫が「労働による再教育」の刑を科せられたことだった。
刑期を終えて釈放された夫の体はあざだらけで、精神も衰弱していたことから、陳さんは夫が受けた扱いを直接、中央政府高官に訴えようと北京へ赴いた。ところが、その結果、陳さん自身も1年半の「労働による再教育刑」を科せられてしまった。

陳情者を労働再教育施設送りにするのは中国ではよくあることだが、陳さんは刑期が終わった後も、黒竜江省の遺体置き場に3年間、留め置かれていたという。遺体置き場では、複数の清掃作業員が警備に当たっていたという。

環球時報によると、陳さんは現在、車椅子生活を余儀なくされ健康状態も著しく悪化している。陳さんの夫も、統合失調症と診断され病院の精神科に入院しているという。
地元政府は陳さんへの賠償を約束したと同紙は伝えている。

労働による再教育制度は、初代国家主席だった毛沢東が導入したもの。警察当局の判断のみで裁判なしに最高4年まで市民を拘束できる。
だが、政府を批判した人や陳情者を黙らせる目的で用いられているとの批判が高まっており、中国メディアは法務当局高官の話として21日、同制度は年内にも廃止される方針だと報じていた。【1月25日 AFP】
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【「現在の中国には安定した法制度がある」】
“中国メディアは法務当局高官の話として21日、同制度は年内にも廃止される方針だと報じていた”という件に関しては、以下のとおりです。

****裁判無しで拘束、中国が労働教養制度を廃止へ 国営メディア****
中国国営メディアは21日、法務当局高官の話として、「再教育」を施すための労働教養制度とその収容所を年内に廃止すると伝えた。

「再教育」を目的とするこの制度では、警察当局の判断で、最高4年間市民を拘束することができる。裁判手続きを踏まない半ば強引な手法には広く批判が集まっていた。この高官の発言に先立ち、中国共産党の新指導者、習近平党総書記も同制度を問題と認識していると発言していた。だが今年初め、この「労働教養制度、労教」が廃止されるとの報道が流れた際には、直後に「改革が実施される可能性がある」との報道に置き換えられたこともある。

中国法学会の陳冀平副会長は国営英字紙チャイナ・デーリーに対し、3月に開かれる全国人民代表大会(全人代=国会)でこの制度を廃止するまでの期間、制度の使用を厳しく制限することについて会議で合意したことを明らかにした。

労働教養制度について陳氏は、「中国共産党が国をまとめ、社会秩序を正す時代に貢献した制度だが、現在の中国には安定した法制度がある」と述べている。当局者によれば、労働施設には現在およそ6万人が収容されている。大半は6か月から1年ほどの収容だという。
現在、労教制度の下で処分を受けた者は、農場や工場などで労働を強制されている。【1月21日 AFP】
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指導部内にも意見の対立か?】
上記記事にもあるように、1月初旬に、警察・司法機関を総括する共産党中央政法委員会トップの孟建柱書記が幹部会議で「労働矯正制度」を今年中に停止すると表明したことが中国国内メディアで報じられました。
この方針については、“習近平(シーチンピン)体制は、党の直面する課題に「法治」実現を掲げており、「人権侵害の温床」(中国の人権活動家)とも言われながら温存されてきた同制度の廃止を通じ、憲法が定めた権利の実現に向けた強い姿勢を示そうとしているとみられる”【1月8日 朝日】とも見られています。

しかし、その後「廃止ではない」とか「制度改革を推進」とか、トーンダウンさせた報道が流れていました。

****中国、労働矯正制度の見直しへ…「改革」強調も「年内停止」は微妙****
中国各メディアは7日、中国共産党で公安・司法部門を担当する孟建柱・中央政法委員会書記が同日、軽微な違法行為者を裁判なしに強制労働に従事させる「労働教養(労働矯正)制度」の「年内停止」を発表したと伝えた。ただしその後の報道では「廃止」ではないと強調、8日の報道では「制度改革を今年推進」と表現がトーンダウンしている。

中国国営メディアの新華網や央視網は7日午後、公式ブログで「労働教養(労教)制度停止」のニュースを伝えた。記事によると、「孟書記は同日午前に北京で開かれた全国政法工作会議で、労働教養など4項目の制度について今年は一歩進んだ改革を推進すると述べた。会議上、孟書記はさらに、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に報告して承認されれば、党中央は労教制度の年内停止を検討していると明らかにした」という。(中略)

しかし人民日報系のニュースサイト、人民網は央視網の記事を「労教制度の『年内停止』は『廃止』とは違う」との見出しで転載。「廃止」ではないことを強調した。
また当初、「年内停止」と伝えた中国各メディアの記事も、その後ネット上から次々に削除された。8日の報道では、「今年、労教制度改革を推進」(8日付京華時報)などと表現がトーンダウンしている。【1月8日 Searchina】
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共産党指導部内部での意見の対立も窺わせるような展開ですが、【1月21日 AFP】が報じているところは、「廃止」で決着したということでしょうか?
これまでの経緯を見ると、国営とは言いながら、英字紙での発言ということで、どこまでオーソライズされた見解なのか疑念が残ります。
【1月25日 AFP】にあるように、人民日報の国際版である環球時報が制度の被害者を取り上げたという点では、期待もできますが・・・。

なお、労働矯正制度が廃止されても、“薄熙来・元重慶市書記を批判する詩をネット上で公開したとして11年に1年間の労働教養処分を受けた元公務員の方洪氏(46)は「政府を批判する人間を精神病患者として病院に送り込むなど、弾圧の手段は多く残っている」と警戒を解いていない” 【1月8日 朝日】といった指摘 もあります。

上記のような問題はあるにせよ、労働矯正制度が廃止されれば中国における人権問題の前進として歓迎すべきことでしょうが、評価は3月の全人代を待った方がよさそうな感があります。
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インドネシア  ポスト中国「東南アジアの時代」をリード 労働争議、イスラム主義などの問題も

2013-01-24 22:42:15 | 東南アジア

(インドネシアだけでなく東南アジア各国で普通に見られる光景ですが、アチェ州のある都市では女性の後部座席へのまたがり座りが“シャリアに反する”と禁止されるそうです。イスラムの教えに反するかどうかはともかく、横座りは恐ろしく危険です。 “flickr”より By jahat http://www.flickr.com/photos/jahat/3308930680/

東南アジア諸国の成長に期待が集まる
中国の昨年のGDP伸び率は7.5%にとどまり、今後数年の伸びも同程度、もしくはそれ以下の数字になると予測されている。
日本からすれば“とどまる”というレベルではありませんが、10%前後の伸び率でここ10年ほどの世界経済を牽引してきた勢いは陰りを見せているようです。
種々の問題に加え、長期的に見ても、一人っ子政策によって歪みを持った人口構成が急速に高齢化することから、経済的には重い足かせがあるように思われます。(その点では日本も同じ問題を抱えていますが)

中国に変わって成長の中心になるのでは・・・と期待されているのが東南アジア・ASEAN諸国です。
“域内の人口は6億人を超えており、約5億人の人口を抱える欧州連合(EU)より多い。2010年の加盟国の合計のGDPは1兆8000億ドル(約145兆円)であり、日本のGDPの約30%の規模である”【ウィキペディア】という現状ですが、今後域内の関係が深まれば更に大きな経済圏に拡大する可能性を秘めています。

****東南アジアの時代がやって来る*****
賃金上昇や差別的な慣行で中国リスクが高まるなか、新たな自由貿易圈の構築に向かう東南アジア諸国の成長に期待が集まる   ブライアン・クライン(元米国務省中国経済担当官)

大きく膨らむ中流層、世界不況を尻目にした堅実な成長、資源豊かな海と川、整備が進むインフラ・・・これらの言葉はかつて中国に対する褒め言葉だったが、今は違う。中国は自らの繁栄の重圧で成長に陰りを見せている。

一方、アジアの有望市場であるASEAN(東南アジア諸国連合)の10カ国では発展が止まらない。東アジアの影に隠れていた東南アジアが、ついに自立の時を迎えようとしている。
今やASEANのGDP(購買力平価換算)は約3兆ドルと、中国経済の約3分の1の規模になる。
貿易や投資の促進政策のおかげで域内の絆も強まった。いずれは中国との競合や軍事的な対立もあり得るため、嫌でも協力強化に向かう必要がある。

多国新企業は既に気付いている。知的財産権の侵害が心配なら、生産拠点を中国の深川ではなく、インドネシアに置いたほうがいい。貿易の自由化が進んでいるから、中国には関税なしで輸出できるはずだ。
人件費の高騰で悩むなら、国際的な港湾や航路にアクセスしやすく、かつ人件費が安いベトナムやインドネシア、バングラデシュ、カンボジアに生産工場を移したらどうか。高い技術を必要としない労働力なら、こうした国には山ほどある。

東南アジアの台頭はしっかりした基盤に支えられている。これら諸国の大半は、既に農業からサービス業へと比重を移している。これは経済が円熟した証拠だ。アジア開発銀行によると、資源が豊かなフィリピンやベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシアでも、過去10年で農業への依存度が24~50%も減少。GDPに占めるサーービス業の割合は、3分の1~4分の3近くになっている。

域内の結束も深まっている。15年の構築を目指すASEAN経済共同体は、東南アジア全域を自由貿易圏にするのが目的。トラック部品をタイから関税なしでインドネシアに運び、現地の工場で組み立てるようにすれば、ASEAN全体で工業技術の水準が上がるだろう。(後略)【1月29日号 Newsweek日本版】
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東南アジアの経済成長の牽引役
もちろん今後の課題は多く、上記記事でも後半はその指摘にもなる訳ですが、その話は今回はさておき、ASEAN諸国のなかでも最大規模の経済を持つインドネシアを取り上げます。

****インドネシア 消費ブームに乗った「稼ぎ頭*****
外国メーカーを引き付ける市場の魅力と課題

世界最大のイスラム国家、1万数千の島々、エキソチックなバリ島……。今のインドネシアを表現するにはそんなイメージよりも、「東南アジアの経済成長の牽引役」というほうがふさわしいかもしれない。
先進国が景気後退や緊縮財政、デフォルト(債務不履行)危機や成長率の低迷に苦しむなか、インドネシアは不況とは無縁だ。
GDPは過去10年間で2倍になった。12年の成長率は11年の6・5%から6・3%に「低下」したが、辛うじて2%の伸びを達成したアメリカから見れば羨ましい限りだ。

「インドネシアはASEAN全体のGDPの50%近くを占める。ある意味、東南アジアの稼ぎ頭だ」とオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の東南アジア担当エコノミスト、アニンダ・ミトラは言う。
経済規模は1兆ドルに迫る勢いだ。既に東南アジア最大で20カ国・地域(G20)でも16位だが、経営コンサルティング会社マッキンゼーの予測では30年までにイギリスやドイツを抜き、消費人口は9000万人増加する。

人口2億4200万人のインドネシアが快進撃を続ける理由はどこにあるのか。
慎重な金融政策と通貨安によって対外債務が減少した結果、民間部門も政府部門も収支が改善。投資はパームオイル、石炭、鉱物資源などさまざまな産業の追い風になっている。
経済成長の牽引役は堅調な国内需要で、製造業や輸出に比べて国外の状況の変化に左右されにくい。若い労働力や中間層の成長も、消費の堅調な仲びに貢献する。(中略)

政府もこの機を逃すまいと必死だ。13年は経済発展が外交政策の重要な要素になるとマルティ・ネタレガワ外相は語った。具体的には貿易、投資、観光、食糧・エネルギー安全保障の分野で戦略的パートナー国と2国間関係を改善することが優先課題だ。「各国の潜在力および可能性を踏まえて、どの分野での協力を優先するか微調整する」

職業訓練にも熱心で、昨年11月のASEAN技能コンテストでは自動車やIT(情報技術)関連の部門で勝利し、ベトナムやタイを抑えてトップになった。
PR力も向上した。昨年夏にロサンゼルスで開催した「第1回在外インドネシア人会議」には20を超える国から2000人以上が集まった。

とはいえ政府の目標は中国並みの年7%成長だ。達成するためにはさまざまな障害を速やかに排除する必要がある。肥大した官僚主義、インフラの不備、資本調達の困難さ、もちろん腐敗も、だ。
労働問題という火種も(中略)

労働者の不満も芽のうちに摘み取らなければならない。昨年12月には自動車部品大手のミツバとトヨタの現地法人が1300人を解雇したのを受けて、ジャカルタの日本大使館前で大規模な抗議デモが行われた。
インドネシア労働力・移住省によれば正規雇用は労働者全体の30%止まり。企業は競争力を維持するにはアウトソーシングが必要だと主張している。(中略)
重要なのは労働問題を速やかに解決できるかどうかだ。企業と労組の溝が広がれば国の成長を阻害するばかりか、悪くすれば暴動に発展しかねない。

初等教育でインドネシア語と「愛国心」を重視し、英語などの授業を減らす方針も成長の足かせになる可能性がある。英語力が依然として国際競争力を高める鍵の1つだということが分かっていないようだ。【1月29日号 Newsweek日本版】
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“インドネシアの富豪の数は日本より多い。東南アジア最大の経済を誇るこの国では、拡大する中流層が世界経済の減速をよそに消費し、新たなモノやサービスを売る企業の価値を押し上げている。
フォーブス誌インドネシア版が今週発表した富豪リストに、過去最多の32人(一族)が登場。日本の28人を上回り、昨年の26人から増加した。”【12月5日 The Wall Street Journal】といった話も、インドネシア経済の好調さを物語るものでしょう。

一般に、安い労働力に支えられた経済成長は長続きせず、技能開発が進まないと付加価値の高い製品の製造と賃金上昇が見込めない「中所得国の罠」が存在しますが、インドネシアの場合、“職業訓練にも熱心で、昨年11月のASEAN技能コンテストでは自動車やIT(情報技術)関連の部門で勝利し、ベトナムやタイを抑えてトップになった”とのことで、将来的に“罠”を抜けることも期待できます。

【「警察官に賄賂を渡すのは、普通の行為」】
問題点として挙げられている、社会全体にはびこる“腐敗”は、経済問題は別にしてもインドネシアが今後優先的に取り組むべき課題です。

****インドネシア:警官に賄賂「当たり前」が3割…意識調査に****
「汚職大国」とやゆされることもあるインドネシアの中央統計局は4日までに、汚職に関する国民の意識調査の結果を公表、回答者の32%が「警察官に賄賂を渡すのは、普通の行為」と答えるなど社会生活の隅々に汚職体質が染み込んでいる実態が明らかになった。

ユドヨノ政権は汚職撲滅を最優先課題としているが、昨年は与党元幹部が汚職で逮捕され、現職大臣が収賄疑惑で辞任に追い込まれるなど改善の兆しは一向に見えない。好調な経済を支える外国からの投資への悪影響も懸念されており、対策が急務となっている。
昨年10月の調査は全国各地の1万世帯を対象とし回答率89%。【1月4日 毎日】
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労使間の深い溝
頻発する労働争議の背景には、経営サイドからは「いったん正規雇用したら基本的に自主退社以外は認められない」現行労働法の問題、労組サイドからは、派遣など外部委託によって雇用者の賃金が低く据え置かれている現状が指摘されています。

****インドネシア:労働者の待遇改善求めるデモ頻発****
日本企業の進出が加速するインドネシアで、待遇改善を求める労働者の動きが活発化している。
日系工場が集中する首都ジャカルタ近郊の工業団地では賃上げや正社員化を求めるデモや妨害行為が頻発。労働組合に弱腰な政府に反発する経営者側は、工場などを一時封鎖するロックアウトで対抗する構えを見せ、投資環境の悪化が懸念されている。

インドネシアでは所得格差が広がり労働者の不満が高まり、労組は最低賃金の引き上げや派遣労働など外部委託廃止と派遣労働者の正社員化を要求。先月の全国規模のゼネストは全国21の県・市で200万人(労組発表)が参加した。

その後もデモや就業中の労働者を工場外に連れ出してデモ参加を強要する「スウィーピング」と呼ばれる妨害行為が続いている。社員を脅迫して外部委託廃止の「誓約書」に署名を強要する事件も多発しているが、警察の積極的な取り締まりは行われていない。
 
◇日系企業も標的
日系企業も標的となっている。トヨタ自動車の現地法人が「派遣社員を違法に解雇した」として労組メンバーら約500人が先月18日、ジャカルタの日本大使館前で抗議デモを展開。トヨタ側は「違法な点はない」と反論している。日系企業約500社が加盟する「ジャカルタ・ジャパン・クラブ」(JJC)によると6月以降、約50社がスウィーピングなどの被害を受けた。(後略)【2012年11月22日 毎日】
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【「愛国心や国民性を傷つける」】
【1月29日号 Newsweek日本版】記事のラストにある英語教育後退の話の背景には、イスラム主義の高まりという深刻な問題もあるように見えます。

****英語のみで授業行うコースは違憲…インドネシア****
インドネシア憲法裁判所は、一部の学校で英語のみによる授業を行う「国際コース」制度は違憲だとする判断を下した。

国際コース制度は2006年度から導入され、公私立合わせて全国約18万の小・中・高校の中から指定を受けた約1300校で英語による授業が行われている。授業料は通常課程より高額となる。このコースについて、市民活動家らが「教育の機会均等を妨げる」として違憲審査を求めていた。

8日の判決は、国際コース制度が児童・生徒の差別的待遇を助長するとして活動家らの主張を認めるとともに、外国語のみの授業は「愛国心や国民性を傷つける」と指摘した。

裁判長のマーフッド憲法裁長官は、清廉な人物として国民的人気が高く、14年の大統領選出馬も取りざたされているが、ナショナリスト的傾向も指摘されている。昨年11月には、国の石油・ガス事業監督機関が「外資寄りで汚職の疑惑が絶えない」とするイスラム主義団体の主張を認めて同機関の設置法に違憲判断を下した。同機関は即刻廃止された。【1月10日 読売】
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上記の“愛国心や国民性”にもかかわりますが、【1月29日号 Newsweek日本版】で指摘されていないインドネシアの抱える大きな問題が、イスラム主義の今後の動向ではないでしょうか。

【「女性がまたがる姿はアチェ文化とシャリアに反する」】
下記記事は、イスラム国家インドネシアでもイスラム色の強いスマトラ島アチェ州の話題です。

****インドネシア:またがり座り規制に「女性差別」の声****
女性の権利に厳格なイスラム法(シャリア)の施行が認められているインドネシア・スマトラ島アチェ州で、女性がバイクの後部座席にまたがって座ることを禁止する規則が導入されることになり、波紋が広がっている。
足をそろえた「横座り」以外は罰則の対象で、人権団体は「明確な女性差別で、危険でもある」と批判。フェイスブックなどネット上では「正しい乗り方」と新規則を皮肉る写真も登場している。

女性の「またがり座り禁止」を導入するのは同州北部ロクスマウェ市。「女性がまたがる姿はアチェ文化とシャリアに反する」とのイスラム聖職者団体の提言を受けた市長が2日、規則を定めた文章に署名した。数カ月の試行期間を経て施行される予定で、施行後は足をそろえた「横座り」以外の座り方は罰則の対象になる。

地元人権団体の責任者は「(イスラム教の聖典)コーランに女性の座り方の規則などない」と市当局の対応を批判。「(市は)貧困撲滅など、もっと優先度の高い問題に取り組むべきだ」と訴えている。

インドネシア北西端のアチェ州は同国で最も早くイスラム教が普及した地域の一つで厳格な信者が多い。特別自治法に基づきシャリア施行が認められている。
州内では近年、女性のスカート着用が義務付けられ、パンク音楽ファンの若者が宗教警察に頭を丸刈りにされる事件も起きている。人権団体によると、「シャリアに反する」との理由で起きた暴力事件は昨年だけで50件に上り、増加傾向にある。【1月5日 毎日】
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拡散する小規模テロ
インドネシアのイスラム原理主義と言えば、イスラム地下組織ジェマ・イスラミアが想起されますが、現在ではその分派・残党による小規模テロが拡散している状況のようです。

****インドネシア:小規模テロ頻発 警察やキリスト教会標的に*****
10年前のバリ島爆弾テロ事件以来、毎年のように大規模無差別テロが続いたインドネシアで、イスラム武装組織による小規模テロが頻発している。標的は警察やキリスト教会で、テロ事件を専門とする弁護士は「復讐(ふくしゅう)が新たな目的」と指摘する。過去にイスラム教徒とキリスト教徒の衝突が起きた地域では宗教紛争を再燃させようという動きもある。

90年代末にイスラム教徒とキリスト教徒の大規模な武力衝突が起きた中スラウェシ州ポソでは9月以降、警官襲撃や教会放火が相次ぎ、7日には警察がテロ組織の訓練基地と見られる施設を摘発。15日には地元警察署長の自宅が銃撃を受けた。(中略)

02年以降の一連の大規模テロを主導したイスラム地下組織ジェマ・イスラミア(JI)は、イスラム国家建設という理想を掲げ、アフガニスタンやパレスチナでイスラム教徒を弾圧したと主張し、米国や豪州を激しく憎悪した。その結果、米系高級ホテルや豪州大使館、外国人が集まるバリ島の歓楽街を爆弾テロの標的とした。

だが、JIはその後、治安当局による掃討作戦で弱体化。過去10年間に逮捕されたメンバーは800人を超え、約60人が殺害されたとされる。09年7月にジャカルタの米系高級ホテルで起きた爆弾テロ以降、大規模テロにかわって、警察を狙った小規模のテロが続発する。

バリ島爆弾テロの主犯格や、最近の警官襲撃事件の実行犯など100人以上のテロ犯の弁護を担当したアヒヤル弁護士は「聖戦を続けるイスラム過激派の主目標が、警察への復讐と宗教紛争への準備に変わった」と話す。AP通信も「10年に複数のイスラム過激派の宗教指導者が(テロ対象を)西洋人から国内の標的に変えるよう呼びかけた」と報じており、テロの形態が変化していると見られる。

アヒヤル弁護士は新たな組織の特徴について、JIやその分派組織の残党らが各地で結成▽規模は5人前後の少人数▽自前で爆弾を製造し独自に活動−−と分析。また、JIに近いテロリストが、ポソやアンボンでの宗教紛争に備えて軍事訓練をしていたという。【2012年11月23日 毎日】
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こうしたイスラム主義の拡大、イスラム過激派テロの増大は、外国企業のインドネシア進出をも阻害しますが、それ以上に、インドネシア国民の生活を大きく制約するものとなります。
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独仏友好条約(エリゼ条約)の締結から50周年

2013-01-23 21:19:27 | 欧州情勢

(フランス・オランド大統領とドイツ・メルケル首相 【1月23日 Broomberg.co.jp】http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MH23JY6K50XZ01.html

イギリス:EU残留の是非を問う国民投票という賭け
イギリスで高まるEU脱退を求める動きについては、1月20日ブログ「イギリス  強まるEU脱退への動き 対応に苦慮するキャメロン首相」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130120)で取り上げたところですが、キャメロン首相は23日、EUからの離脱を問う国民投票の実施について明らかにしました。

****国民投票、次回総選挙後に実施=EU残留の是非問う―キャメロン英首相****
キャメロン英首相は23日朝、ロンドンで演説し、2015年の次回総選挙以降に、英国が欧州連合(EU)に残留するか離脱するかを問う国民投票の実施を目指す意向を明らかにした。

英国とEUの経済的な結び付きは深く、EUにとどまることが「国益」であるとはキャメロン首相も認める。ただ、債務危機をきっかけにユーロ圏諸国は統合深化にかじを切る一方、英与党保守党や国内世論の反EU感情も根強い。こうした中、首相はあえてEU残留の是非を問う国民投票という賭けに出た。【1月23日 時事】 
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大陸とは一定の距離を保ちながらもEUの単一市場がもたらす経済的利益を重視してきたイギリスと、「不戦の誓い」を出発点に欧州統合を主導してきたドイツやフランスの立ち位置には差があることは、前回ブログでも触れたとおりです。

メルケル独首相「変革への勇気があれば難題を克服できる」】
EU離脱を求める与党・世論の動きに苦慮するイギリスとは対照的に、1月22日は戦後のドイツとフランスの和解の土台となった独仏友好条約(エリゼ条約)の締結から50周年にあたり、独仏両国では記念式典が行われ欧州統合へ向けた姿勢を改めて確認しています。

****独仏友好条約:「勇気あれば難題克服」…50周年記念式典****
戦後のドイツとフランスの和解の土台となった独仏友好条約(エリゼ条約)の締結から50周年を迎えた22日、ベルリンで記念式典が開かれた。

メルケル独首相は「変革への勇気があれば難題を克服できる。両国はこの50年でそれを学んだ」と述べ、憎悪を乗り越えた両国の半世紀の歩みを称賛。オランド仏大統領も「欧州統合というとてつもない冒険を、若者たちのために続けよう」と語った。この日はフランスの閣僚や国会議員ら約400人もベルリンを訪れ、独連邦議会の合同会議などに出席した。

条約は63年1月22日、当時のドゴール仏大統領とアデナウアー西独首相がパリのエリゼ宮で調印。20世紀に2度の大戦を経験した反省に立ち、首脳・閣僚の定期的会談や青少年交流など「人的交流」に重点を置く方針を盛り込んだ。

一方、式典後の記者会見では西アフリカ・マリに軍事介入した仏軍への「協力」について、輸送機2機のみの派遣を決めたメルケル首相は「(戦闘行為参加は)考えていない」と独軍の参戦を改めて否定した。オランド大統領は「ドイツの連帯に感謝する」と述べるにとどめた。【1月23日 毎日】
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現実の課題への対応においては、独仏両国は必ずしも一致している訳ではありません。
財政危機に揺れるユーロ圏経済、その渦中にあるフランスの問題についても、“危機への対応策をめぐり両首脳は合意の取りまとめに苦しんでいる。オランド大統領がドイツの規律重視の財政政策に抵抗する一方で、ドイツ国内では仏雇用市場の抜本的な改革を進めるよう同大統領により迅速に行動するよう求める声が上がっている。”【1月23日 Broomberg.co.jp】とも指摘されています。

ただ、「変革への勇気があれば難題を克服できる」というメルケル首相の信念が、今の独仏関係・ユーロ圏・EUをリードしているように見えます。それを支えるのが、欧州統合という理念の共有でしょう。

【「意見や利害の違いを軍事力で解決するという方法は、もはや考えられない」】
駐日独仏大使は、“対立がもたらす代償がいかに大きく、和解から得られる利点がいかに大きいかを、歴史の教訓から知ったから”こそ、“両国は欧州統合のエンジンとなったし、そうあり続ける”との寄稿文を【1月18日 朝日】に寄せています。

****独仏協力(エリゼ)条約-隣国との和解が互いの利益****
駐日ドイツ大使 フォルカー・シュタンツェル
駐日フランス大使 クリスチャン・マセ

2013年1月22日、ドイツとフランスは「独仏協力条約(エリゼ条約)」の調印から50周年を迎える。戦後の仏独両国の和解の土台となった文書である。

隣国同士の歴史的関係は複雑になりがちで、独仏も例外ではなかった。西暦800年ごろ、シャルルマーニュ皇帝(カール大帝)は、後に仏独国民になる人びとの「故郷」をつくり、共存の基礎とした。大帝は人びとの交流が着実に拡大すると願っていただろう。だが彼の帝国から生まれた二つの国は悲惨な戦争を繰り返し、第一次、第二次の両世界大戦で破滅と苦難を経験した。

ナチ体制による熱狂と苦痛に満ちた戦争体験の後、両国が和解するためには、シューマン元仏外相、ドゴール元仏大統領、アデナウアー元独首相のような、勇気と長期的視野、さらに雅量を備えた政治家が必要だった。彼らは両国は宿敵ではなく、平和と繁栄を生み出す運命にあると考えていた。

63年に署名されたエリゼ条約も、その後の両国民の誠意と努力がなければ、各国の史料館に所蔵されたままの外交文書になっただろう。友情は宣言では生まれない。幅広い草の根交流や互いの言語の習得が不可欠になる。
両国政府は仏独青少年事務所を63年に創設、750万人の若者が隣の国を知った。言語を学ぶ組織も数多くでき、90年に仏独二カ国語放送局、97年には独仏180の大学が参加する「独仏大学」が設立された。欧州の統治と行政に関する独仏共同修士課程プログラムも今年から始まる。

独仏の学校は最もつらい時期を含め全歴史を描いた共通の教科書を使用する。姉妹都市提携数は2200以上にのぼる。防衛分野では89年に独仏合同旅団が創設され、6千人の軍人が活動。いまや欧州合同軍の必須の部隊である。
両国を隔てるより結びつける要素が多くなったのは史上初めてだ。意見や利害の違いを軍事力で解決するという方法は、もはや考えられない。

この50年を振り返ると、仏独ともに将来に向けた責務を一層感じるとともに勇気づけられもする。両国は欧州統合のエンジンとなったし、そうあり続ける。国境の撤廃、共通の通貨、居住の自由など今日の欧州市民が享受している恩恵は、独仏の協働なしには考えられない。
独仏両国民は今後もこの道を歩んでいく。対立がもたらす代償がいかに大きく、和解から得られる利点がいかに大きいかを、歴史の教訓から知ったからである。
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2002年の単一通貨ユーロ流通開始後はユーロ圏に加わらず、域内の自由移動を認めるシェンゲン協定も一部を除き参加していないイギリスと、“国境の撤廃、共通の通貨、居住の自由など今日の欧州市民が享受している恩恵は、独仏の協働なしには考えられない”とするドイツ・フランスでは、その歩む道が大きく異なってきています。
ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣とフランスのローラン・ファビウス外務大臣が、エリゼ条約調印50周年に際し、1月22日付仏『ル・モンド』紙と独『FAZ』紙に共同で寄稿した文書には、以下のようにも述べられています。

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ヨーロッパはかつてないほど我々の協力の中心です。単一市場から、人とモノの自由な移動、共通通貨に至るEUの成功は、両国の意志と共同行動がなければ考えられませんでした。我々は今後も独仏友好をこの計画に資するようにしたいと考えるとともに、希望する国々には我々に合流するよう呼びかけます。ワイマール三角連合の枠内で、ポーランドは我々の側に立ってヨーロッパ統合のために全面的に取り組みました。
意欲ある国々の最初の集まりが有意義な形で形成できるでしょうが、一部の国が義務を遵守せずにEUの特権を要求するような「四分五裂」状態のヨーロッパは、考えられる選択肢ではありません。
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“義務を遵守せずにEUの特権を要求する”云々は、これまでのイギリスの対応への批判のようにも思えます。

壁が立ちはだかる東アジア
尖閣諸島をめぐり軍事衝突の可能性すら俎上に上る日中関係、竹島や従軍慰安婦問題などで対立を繰り返すに関関係・・・など、日本をとりまく東アジア情勢を考えると、“意見や利害の違いを軍事力で解決するという方法は、もはや考えられない”とする独仏の関係は羨ましくもあります。

日本にとっては、中国・韓国との歴史認識の違いの問題、人権や民主主義といった基本的価値観に関する日中間の違いなど、関係改善には大きな壁が立ちはだかっています。
ただ、現在の不協和のみに目を奪われ、壁を乗り越える努力を放棄し、内向きの姿勢に転じるのでは、事態の改善は永久に望めないでしょう。

“63年に署名されたエリゼ条約も、その後の両国民の誠意と努力がなければ、各国の史料館に所蔵されたままの外交文書になっただろう。友情は宣言では生まれない。幅広い草の根交流や互いの言語の習得が不可欠になる。”
関係国指導者の大局的見地からの決断が望まれると同時に、20年後、50年後を見据えた地道で息の長い取り組みも必要です。
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西アフリカ・マリ  フランスの軍事加入をエジプト・モルシ大統領が批判

2013-01-23 12:34:16 | アフリカ

(フランス軍を歓迎するマリの住民 立場によっては、新たな植民地支配を目指す侵略といった批判もあります“flickr”より By Pan-African News Wire File Photos http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/8390335149/

世界遺産の都市トンブクトゥに向かって北上
アルジェリアの天然ガス施設人質事件の犯行動機としても挙げられている、西アフリカ・マリ北部を実効支配し、更に南進の動きを見せているイスラム過激派に対するフランスの軍事介入は、地上部隊を展開する形で続けられています。

****マリ:フランス軍などが中部の二つの町を新たに奪還****
西アフリカ・マリに軍事介入したフランス軍とマリ政府軍は21日、イスラム過激派が制圧していた中部の二つの町を新たに奪還した。一方、北部では、仏軍の空爆により過激派がいったん撤退した主要都市トンブクトゥに再び過激派が進入しているとの情報もある。

イスラム過激派が14日に制圧した中部ディアバルでは仏地上部隊が展開。激しい戦闘の末、仏軍とマリ軍が管理下に置いた。さらに過激派が昨年9月以降占拠していた中部ドゥエンザにも仏軍とマリ軍が入った。仏軍側はすでに中部の要衝コンナを奪還しており、攻勢をかけている。

ただ、過激派の戦闘員は激しい攻撃を受けて劣勢になると一般市民の中に紛れ込む戦術をとっていると指摘されている。北部の世界遺産都市トンブクトゥでは、仏軍の空爆を受けて過激派は撤退したものの、ロイター通信は21日、町中に再び過激派が姿を見せているとの地元住民情報を報じている。

また、地元紙「レゼコー」によると、首都バマコや中部セバレといった政府管理下の都市で、イスラム過激派と疑われる人物が拘束されたとの情報を報じており、予断は許さない状況だ。【1月22日 毎日】
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****仏軍、制圧地広げ北進**** 
・・・・ディアバルの21日の制圧で、仏軍はイスラム武装勢力が今月に入って支配下に置いた地域すべてを取り戻した。仏軍はさらに同日、武装勢力の支配下にある世界遺産の都市トンブクトゥに向かって北上を始め、トンブクトゥ南方の町ドゥワンザも制圧した。トンブクトゥ住民の家族によると、武装勢力の数は数日前から激減しているという。武装勢力は北部の主要都市ガオに集結して、戦闘に備えているという情報もある。・・・・【1月23日 朝日】
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フランス軍兵士はすでに2150人投入されていますが、今後のフランスの方針として、イスラム過激派の南進を食い止めるだけでなく、マリから完全掃討することを明らかにしています。

****目的はマリ再統一=軍事介入、完全掃討目指す―仏国防相****
フランスのルドリアン国防相は20日、テレビ出演し、アフリカ西部マリへの仏軍介入は「(マリ)国土の完全な再統一が目的だ。(抵抗を続ける)余地は残さない」と強調した。南下したイスラム武装勢力を、既に1年近く占領中のマリ北部へ押し戻すだけでなく、マリから完全掃討する考えを明確にした。【1月21日 時事】
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ただ、フランス軍はイスラム過激派の激しい抵抗にあっていることも報じられています。
リビア・カダフィ政権崩壊で流入した武器などによって、イスラム過激派の装備が予想以上に充実しており、また、住民の中に紛れるゲリラ戦術を採り始めていることが、仏軍・マリ軍苦戦の要因とも言われています。【1月19日 毎日より】

欧州各国は輸送機派遣や医療、後方支援
欧州各国は、イスラム過激派の聖地となりつつあるマリ北部の状況を改善するため、フランスの軍事介入を支持し、イギリス、ドイツ、イタリア、スペインなどが輸送機派遣や医療、後方支援でフランスに協力を表明しています。
ただ、軍部隊を派遣して戦闘行為に直接参加する考えはないようです。

****EU、戦闘活動行わず=仏介入のマリで****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)の報道官は14日、イスラム武装勢力が攻勢を強める西アフリカのマリにフランスが軍事介入したことについて、EUがフランスとともに戦闘活動を行う可能性はないと述べた。
北大西洋条約機構(NATO)の当局者も、NATOはフランスの行動を支持するが、マリへの介入は議論になっていないと語った。【1月14日 時事】
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なお、EUは、マリ政府軍を訓練する250人規模の部隊を今秋派遣することを予定していましたが、フランスの軍事介入を受けて、450人規模に倍増し、派遣時期も2月中旬以降に前倒しする方針が伝えられています。

費用問題を抱える西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の部隊派遣
こうした状況で、フランスとしても新たな植民地主義との批判も受けかねない軍事介入を実質的に単独で進める現状は早急に回避したいところで、周辺アフリカ諸国からなる西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の早期の部隊派遣を望んでいると思われます。
しかし、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の部隊派遣は経済的な負担の面で困難も抱えています。

****アルジェリアの隣国マリ 安定化、国際支援カギ 莫大費用/不十分な装備****
マリ北部を実効支配するイスラム過激派武装勢力掃討に向け、フランスやマリ周辺国が態勢構築を急いでいる。隣国アルジェリアの外国人拘束事件は、北・西アフリカに巣くうテロリストの脅威を世界に突きつけた。
ただ、軍事作戦を担う周辺国には限界があり、マリの「テロの拠点化」を防ぐには、後方支援をはじめとした国際社会の関与が欠かせない。

マリに部隊を送る西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は19日、コートジボワールで緊急の首脳会議を開き、軍事作戦遂行のため、財政支援などを国際社会に求めた。同国のワタラ大統領は「さらなる国や機関がフランスやアフリカへ連帯を示すときがきた」と強調した。

フランスの軍事介入を受け、マリ周辺国の部隊派遣準備は加速。その規模も、ECOWAS非加盟のチャドの2千人派遣などで、当初計画の3300人から5千人超に拡大する見通し。欧米は輸送支援に乗り出して部隊編成を急ぎ、ロシアも協力を申し出た。

ただ、部隊運用費用は年間2億ドル(約180億円)に上ると試算され、どう工面するかが課題だ。ECOWASだけでは難しく、作戦の主導権を早く譲り渡したいフランスも、29日にエチオピアで開かれる支援国会合の成果に期待する。

作戦遂行のための装備の不十分さも懸案となっている。ロイター通信は、セネガルでは武器弾薬の不足で部隊の派遣準備が遅れていると伝えた。武装勢力掃討で想定される砂漠地帯での戦闘も、チャド以外は装備・経験面で不足しているとされる。部隊の指揮に必要な通信システムも異なるため、関連装備提供の必要性が指摘されている。

武装勢力掃討に成功しても、長期的にはマリ自身が国内の安定を維持できなければ、再び過激派の標的になりかねない。そのため、軍だけでなく政治や財政、司法分野などの支援も必要となる。英国の国際戦略研究所(IISS)は「周辺国の部隊が(マリに)配置されても、幅広い国際社会の関与は重要であり続けるだろう」としている。【1月21日 産経】
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【「全国民が仏軍の介入を喜んでいる」】
マリの混乱は多くの難民を発生させています。
****マリ避難民、70万人超へ=軍事衝突で数カ月内に―UNHCR****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は18日、フランスが軍事介入したアフリカ西部マリ情勢に関し、今後数カ月でマリの国内避難民と周辺国へ逃れる難民が計70万7000人に達するとの予測を明らかにした。
UNHCRによると、軍事衝突後にマリを逃れた難民は、処刑や手足が切断された事例を目撃したと証言。また武装勢力は政府軍と戦うよう市民に多額の金銭を配っているという。【1月18日 時事】
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フランスが介入した現地からは、介入を歓迎する住民の声が報じられています。
****市民「ずっと介入を祈っていた」 仏軍歓迎、はためく国旗 マリ****
アルジェリアの人質事件で、犯人グループはフランス軍のマリからの撤退を要求していた。そのマリ国内では、仏軍を歓迎する声が圧倒的で、人々は人質事件の犯人への怒りを口にした。
首都バマコ市内では、至るところでフランス国旗が売られ、バイクの後ろに国旗を立てて走る人も多い。
バマコに住むヤヤさん(51)は「全国民が仏軍の介入を喜んでいる」と話す。昨年4月に北部が無政府化した後、なかなか介入の気配がないフランスに「北部を見捨てるな」と不満の声ばかりが聞こえたのとは一転した。 (後略)【1月19日 朝日】
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モルシ大統領「マリへの軍事介入は容認しない」】
欧米各国がフランスの軍事介入を支援し、周辺アフリカ諸国も経済的な問題は抱えながらも部隊派遣を急いでいる、また、現地でもフランス軍の過激派掃討を歓迎する声が多い・・・という状況で、フランスの介入に反対を表明しているのが「アラブの春」で誕生したエジプト・モルシ政権です。

****マリへの軍事介入批判=エジプト大統領****
エジプトのモルシ大統領は21日、サウジアラビアで開催された会議で、イスラム武装勢力が支配したマリ北部へのフランスの軍事介入について、「地域の紛争の火に油を注ぐことになるため、マリへの軍事介入は容認しない」と述べた。【1月22日 時事】
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詳細はわかりませんが、やはりイスラム主義穏健派のムスリム同胞団を母体とするモルシ政権と欧米諸国では、イスラム過激派・武装勢力に対する対応も異なってくるようです。

「アラブの春」によって各地にイスラム勢力が主導する政権が誕生したことが、過激派がアフリカで活発に活動しやすい下地になっているとの指摘については、1月20日ブログ「アフリカで拡大するイスラム過激派勢力 アルカイダ「聖戦」を触媒に連携を強化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130120)で取り上げたところです。

“「アラブの春」が起きて以来、各地で抑圧されていたイスラム勢力は選挙で躍進を果たした。エジプトやチュニジアでは、“穏健派”とされるイスラム原理主義組織、ムスリム同胞団系の政権の誕生に結びついた。
これらの政権は表向き、過激なイスラム勢力とは一線を画す姿勢を示している。しかし、シャリーア(イスラム法)による統治というイデオロギーは共有しており、政権の支持基盤を維持する上でも、強硬な態度に出にくいのが実情だ。治安機関の取り締まりや国境の管理が緩み、国をまたいで過激派の連携が広がっているとも指摘される。”【1月18日 産経】

もちろん、モルシ政権が武装勢力のテロ行為を容認している訳ではなく、エジプト自身もシナイ半島でも武装勢力の跋扈を抑え込もうとしているところですが・・・
ただ、エジプトなどでは、ムスリム同胞団より更に厳格なイスラム主義を求めるサラフィー主義も台頭しています。
こうしたイスラム主義の台頭が、イスラム過激派助長につながらないのか・・・という懸念はやはり残ります。

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