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(イスラエル軍が境界付近のパレスチナ人のデモ参加者に催涙ガスを発射=30日【3月31日 CNN】)
【イスラエル軍は実弾や催涙弾を使用し戦車による砲撃を加え、死者17人、負傷者1400人超】
各メディアが報じているように、パレスチナ・ガザ地区で、かつて住む土地を奪われたパルスチナ人とイスラエル軍との間で、17人が死亡(16人とする報道も)、1400人超が負傷者するという大規模な衝突が起きています。
ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの大規模戦闘が起きた2014年以降、衝突による1日のパレスチナ人の死者は最多とされています。
****ガザで大規模デモ、イスラエル軍と衝突 17人死亡、1400人超負傷****
パレスチナ自治区ガザの対イスラエル境界沿いで30日、「帰還の行進」と呼ばれる抗議デモが行われ、パレスチナのリヤド・マンスール国連代表によると、イスラエル軍との衝突で少なくとも17人が死亡、1400人超が負傷した。
デモは1948年のイスラエル建国の翌日に当たる5月15日まで、6週間にわたり続く見通し。
デモ隊はガザとイスラエルを分けるフェンスに向かって行進。フェンス沿いでは数万人のパレスチナ人が行進したほか、ヨルダン川西岸やイスラエルでも少人数の集団が街頭に繰り出した。
CNN取材班はガザ北部で、30分間に少なくとも二十数人が救急車で搬送されていくのを目撃した。負傷の要因はイスラエル軍が発射したゴム弾や催涙ガス、実弾など多岐にわたる。
パレスチナ保健省によると、負傷者は1416人に上る。うち758人は実弾、148人はゴム弾による負傷で、頭部や腹部、背中に重傷を負った例もあると明かした。
イスラエル国防軍(IDF)は声明で、数千人のパレスチナ人がガザ地区全域で「暴動」を起こし、タイヤを燃やしたり投石を行ったりしたと言及。暴徒鎮圧のための手法で応じ、主要な扇動者に対しては発砲したとしている。
デモは1976年のイスラエルにおけるパレスチナ人所有地の収用を記憶する「土地の日」に合わせて行われた。土地収用に対する当時の抗議ではパレスチナ人市民6人が死亡している。
デモは5月15日まで続く見通し。5月15日はイスラエル建国の翌日に当たり、パレスチナ側では「ナクバ(大惨事)」と呼んでいる。
第1次中東戦争の期間中にはパレスチナ人およそ70万人が住む場所を追われた。
イスラエル建国70年に当たる今年5月14日前後には、米大使館のエルサレム移転も行われる予定。トランプ大統領が下したこの決断で、パレスチナ人のイスラエルに対する抗議運動は激化している。【8月31日 CNN】
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死者数もさることながら、“負傷者は1416人に上る。うち758人は実弾”ということに驚きました。
パレスチナ側の被害を大きくアピールしたい誘因もあるかと思われるパレスチナ保健省の発表ということで、どこまで実態を正確に示すものかはわかりませんが、もし実態がこの数字に近いのであれば、数百名が実弾で撃たれるという、にわかにには信じ難いような事態です。
“ロイター通信は、イスラエル軍はガザとの境界線沿いに部隊を配置して実弾や催涙弾を使用し戦車による砲撃を加え、ハマスの拠点にも砲撃や空爆を実施したとしている。”【3月31日 毎日】
境界フェンスに押し寄せる群衆に、戦車で砲撃したのでしょうか?もちろん威嚇でしょうが・・・。
【トランプ大統領のエルサレム首都認定で高まる緊張】
今回衝突の危険は、ある程度は予測されてはいました。
****ガザの緊張****
明日はland dayとかで、ガザではハマスが境界線に向けて、大規模な平和的行進を呼びかけていて、これに対してIDF(イスラエル国防軍)は、境界線付近で衝突が生じる可能性があるとして、最大の警戒態勢を敷いているようです。
Ynet newsは、IDFが100人の狙撃兵を配置したと報じていますが、IDF参謀長は生命が危険にさらされる可能性が生じれば、発砲しても良い、と指示してあると語った由。
いずれにしても、このところガザ境界線で緊張は確実に高まっており、先日ナイフ等を持ったパレスチナ人3名が、フェンスを乗り越えてイスラエルに進入したばかりですが、27日にもフェンス近くで、若者二人がIDFの資材に放火しようとしたというので、IDFは戦車砲で、ハマスの監視所2か所を砲撃したとのことです。(後略)【3月29日 「中東の窓」】
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さらにさかのぼれば、トランプ大統領のエルサレム首都認定で、大規模な混乱には至らなかったものの、パレスチナ全域で緊張状態が続いていました。
****パレスチナ・ガザ地区で、シオニスト政権軍とパレスチナ人が衝突****
パレスチナ・ガザ地区で、シオニスト政権イスラエル軍との衝突で少なくとも8人のパレスチナ人が負傷しました。
IRIB通信によりますと、パレスチナ保健省報道官は、「聖地ベイトルモガッダス・エルサレムのシオニスト政権イスラエルの首都認定という、アメリカのトランプ大統領の決定に抗議するパレスチナ人のデモ隊が、23日金曜夜もガザ地区とイスラエルとの国境連絡線の近隣で実施された」と述べています。
また、「シオニスト政権軍は23日、ガザ地区の東部と北部で、パレスチナ人青年2人を銃撃し、怪我を負わせた」としました。
シオニスト政権軍はまた、ガザ地区の町ハーンユーノス東部と難民キャンプ・アルベリージで抗議するパレスチナ人に向かって発砲し、少なくとも6人のパレスチナ人に怪我を負わせました。
昨年12月6日以来、パレスチナでは聖地のイスラエル首都認定というアメリカのトランプ大統領の決定により、パレスチナ人とイスラエル軍の衝突が多発し、数十人のパレスチナ人が殉教しています。【3月24日 Pars Today】
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【過酷な封鎖が続く「天井のない監獄」の閉塞感】
大規模な混乱の背景には、最近の緊張状態や住む土地を奪われたことへの抗議のほかに、「天井のない監獄」とも称される、厳しい封鎖が続くガザ地区の過酷な閉塞状況もあります。
「ガザ地区は幅10km、長さ40km程度の小さな土地に人口190万人もが暮らす地域。四方を他国や海に囲まれているが、イスラエルによって封鎖され、人や物の出入りが極端に制限されている状況がずっと続いている。人道支援団体は辛うじて出入りを許可されているが、それでも厳しい検問を越えていく必要がある。現地の一般の人が外へ自由に出入りすることは、さらに不可能な状態」(「ガザ地区」に3年に及び滞在し、支援にあたった中村哲也氏)
****「天井のない監獄」、パレスチナ・ガザ地区の過酷な現状****
(中略)
■外界との流通の一切の遮断が、失業率や自殺率の増加に加担
外界との流通の一切が遮断されることはすなわち、この地区だけで賄うことのできない水や食料、エネルギーなど、生活に必要な物資の不足に陥ることを意味します。
「食料難やガソリンや重油などの燃料不足、停電、それに伴って上下水道のインフラが止まったりと、生活の上に様々な影が落とされている。電気は一日のうち4時間ほどしか使えず、医療機関でも停電がある。経済は停滞し、人口の8割の人が支援に頼らざるを得ない状況にある」
度重なるイスラエル軍の空爆により、工場や農地など働き口となる場所が破壊されています。さらに封鎖によって、これらを修復するための建築資材も手に入りにくい状況で、再建への目処が立たない状況の所も多いと中村さんは話します。
封鎖により、地区への物資の輸入だけでなく輸出もすべて制限されるため、産業が停滞し、ガザ地区の若者の失業率は60%を超えているといいます。
「大学を出ても就職できず、ガザの中では将来に希望を見いだせないと感じている若者が多く、近年では、若者の自殺も増加している。ガザの人たちが人間らしい生活を取り戻すための復興への道筋が破壊されて見通しが立たないという現状がある」(後略)【3月26日 オルタナS】
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この状況を改善するためには、イスラエルやアメリカの協力のほか、ハマスとファタハの和解協議が進展する必要があります。しかし、両者の政治対話は停滞しています。住民の苦しみは二の次のようです。
【内向き志向のアメリカ:国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金支払いを半分以上凍結】
今回の事態に対し、国連安保理では緊急の会合が開かれましたが、例によってイスラエルを支援するアメリカの反対で、イスラエル非難声明はまとまりませんでした。
****難民デモにイスラエル軍が発砲 非難声明まとまらず 安保理****
パレスチナ暫定自治区のガザ地区でパレスチナ難民の抗議デモにイスラエル軍が発砲して多数の死傷者が出たことを受けて、国連の安全保障理事会で緊急の会合が開かれ、イスラエルの発砲に対して懸念する発言が相次ぎましたが、イスラエルを非難する声明は、アメリカの反対でまとまりませんでした。
パレスチナ暫定自治区のガザ地区では30日、1万人以上の難民がイスラエルへの抗議デモを行い、一部がイスラエルとの境界付近に近づいたところ、イスラエル軍が実弾を発射して少なくとも15人が死亡し、1400人以上がけがをしました。
この事態を受けて、国連の安全保障理事会では30日、メンバー国のクウェートの要請で緊急の会合が公開で開かれ、国連のゼリホウン事務次長補は「発砲は最後の手段であり、経緯を調査すべきだ」と述べて、国連として、イスラエル軍の行為を独立した機関によって調査すべきだという考えを示しました。
また、イギリスやフランス、ロシアからイスラエル軍の発砲に対して懸念する発言が相次ぎ、スウェーデンの代表は厳しく非難しましたが、イスラエルの後ろ盾のアメリカの代表は「悪い集団が抗議を隠れみのにして暴力を振るっている」と述べて、抗議デモの側に問題があったと示唆し、イスラエルを非難する声明はまとまりませんでした。
安保理では引き続きこの問題を協議するとしていますが、事態の沈静化に向けた具体的な行動を迅速に打ち出せるかは見通せない状況です。【3月31日 NHK】
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“アメリカ国務省のナウアート報道官は30日、ツイッターで「ガザで多数の死者が出たことに深く悲しんでいる。国際社会はパレスチナの生活向上に焦点をあて、和平案の策定に取り組んでいる」と表明し、自制を促した。”【3月31日 毎日】とも。
“自制を促した”相手はイスラエルでしょうか?パレスチナでしょうか?
“国際社会はパレスチナの生活向上に焦点をあて、和平案の策定に取り組んでいる”とのことですが、最近のアメリカ・トランプ大統領の姿勢はあまりそのようには見えません。
****ホワイトハウスでガザ会合=中東和平案提示なし****
米ホワイトハウスは13日、パレスチナ自治区ガザ地区の人道危機解決について話し合う国際会合を開催した。
クシュナー大統領上級顧問らの主宰で、日本やアラブ諸国、イスラエルなど20カ国のほか、国連や欧州連合(EU)の代表らが「ガザが直面する課題への現実的で効果的な方法」を議論した。ホワイトハウスが14日発表した。
トランプ大統領が昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と宣言したことに反発するパレスチナは出席を拒否。外交筋によると、トランプ政権が検討している中東和平交渉の仲介案の提示はなかった。
ホワイトハウスは声明で「悪化するガザの人道状況を受け、緊急の対応が必要だ」と強調した。しかし、トランプ政権は1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金支払いを半分以上凍結すると発表し、批判を浴びている。【3月15日 時事】
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****トランプ氏拠出金凍結の国連機関、日本企業が寄付で協力****
トランプ米大統領が拠出金の半分以上を凍結させた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が、個人の寄付を含む世界的な資金調達キャンペーンを展開している。
これに賛同した日本の企業がインターネット上で寄付金を募り始めた。目標は1億円。国連機関を対象にしたクラウドファンディングは極めて異例だ。
最大の支援国・米国の拠出金凍結で未曽有の財政危機に陥ったUNRWAは1月下旬、5億ドル(約531億円)を目標とする資金調達キャンペーンを開始。これまで頼りにしてきた各国政府などだけでなく、個人にも寄付を要請した。
東京のファンド運営会社ミュージックセキュリティーズの小松真実(まさみ)社長(42)はUNRWA幹部から苦境を聞き、「日本の個人の思いのこもった資金をパレスチナ難民支援に役立ててほしい」と協力を申し出た。
同社は東日本大震災の被災地支援のファンドを作り、半額寄付・半額出資の形では3万人から11億円を集めた実績がある。UNRWAには全額を寄付する。
UNRWAは1949年に設立され、パレスチナ自治区や隣国ヨルダン、レバノンなどでパレスチナ難民530万人超に教育や医療、食料などの支援をしている。小松社長は「十分な教育が受けられなければ、子どもが夢を持てなくなる。日本は中間層が多く、一人ひとりが世界の問題に貢献できる」と話す。【3月16日 朝日】
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シリアからの撤退を表明したトランプ大統領は、アメリカが拠出を表明していた2億ドル(約212億円)を超える対シリア復興支援も凍結しました。
中東の“面倒ごと”から手を引き、アメリカ国内の支持層に受けがいい貿易戦争を仕掛ける・・・トランプ大統領の内向き姿勢は鮮明になっています。
確かにアメリカにとって中東への関与は大きな負担でしょうが、そうした関与でアメリカ主導の国際秩序を維持することで、アメリカは長期的に大きな利益も得てきたのではないでしょうか。
【トランプ大統領は大使館移転、“ナクバ”に向けて一段と緊張が高まることが懸念される】
パレスチナ人は、1948年5月14日にイスラエルが占領したパレスチナ領土で独立を宣言し、パレスチナ人が強制移住を余儀なくされたことにより、5月15日をナクバ(大惨事)として偲んでおり、例年抗議行動が行われます。
一方、イスラエル建国70年に当たる今年5月14日前後には、アメリカ大使館のエルサレム移転も行われる予定とされています。
ハマスは、自らの統治能力のなさを糊塗するために、イスラエル・アメリカへの敵対行動を扇動することも考えあれます。
こうした状況にあっても、トランプ大統領は大使館移転を強行するのでしょうか?周囲が止めてもやるのでしょう。(最近のホワイトハウス人事を見ると、止める人もすくなっています)
今回の“17人が死亡、1400人超が負傷”という混乱が序章にすぎなっかた・・・というような事態にならないことを強く希望します。(できることなら、大使館移転延期の決断を)